JP2006022351A - 析出硬化型窒化鋼部品及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】窒化処理温度を高めても、高い表面硬さを確保することができ、高温での処理によって処理時間の大幅短縮を可能とする窒化鋼部品及びその製造方法を提案すること。
【解決手段】C:0.02〜0.10%、Si:1.50%以下、Mn:1.00%以下、Cr:0.50〜1.50%、Al:0.040%以下、N:0.0100%以下、P:0.25〜0.45%、Ti:0.30〜1.00%を含有し、Ti−4×C−3.4N≧0.20を満足し、残部がFe及び不純物元素からなる鋼を窒化処理して用いられる鋼であって、窒化処理後において組織が焼もどしマルテンサイト組織からなり、かつ表面硬さがHv650以上であることを特徴とする窒化鋼部品である。
【選択図】なし
【解決手段】C:0.02〜0.10%、Si:1.50%以下、Mn:1.00%以下、Cr:0.50〜1.50%、Al:0.040%以下、N:0.0100%以下、P:0.25〜0.45%、Ti:0.30〜1.00%を含有し、Ti−4×C−3.4N≧0.20を満足し、残部がFe及び不純物元素からなる鋼を窒化処理して用いられる鋼であって、窒化処理後において組織が焼もどしマルテンサイト組織からなり、かつ表面硬さがHv650以上であることを特徴とする窒化鋼部品である。
【選択図】なし
Description
本発明は、例えば歯車部品といった自動車等で高面圧が負荷された状態で長時間使用される部位への使用に適し、高い表面硬さと深い硬化深さが得られ、かつ窒化処理時に析出硬化により高い内部硬さを得ることが可能な析出硬化型窒化鋼部品及びその製造方法に関する。
自動車等省エネへの要求が強い製品に対しては、従来から各構成部品の軽量化のための開発が活発に行われている。その中でも歯車等高い面圧が負荷された状態で長時間継続して使用される部品に対しては、耐摩耗性、耐ピッチング性等に加え、高い歯元強度が要求されるため、従来からCr鋼、Cr−Mo鋼等の合金鋼に浸炭焼入という表面硬化処理を施して、表面硬度を高めることで高面圧に耐え、かつ内部をマルテンサイト組織とすることで歯元の曲げ応力に耐える特性を確保している。これは、使用環境に耐えうる十分な表面硬度、硬化深さ及び内部硬さを確保するのに、浸炭処理が最も適した処理であるからである。
しかしながら、浸炭処理は従来から明らかなように大きな欠点がある。すなわち、浸炭処理は変態点を超えた温度での加熱が必須となるために、処理後に熱歪や変態歪の発生が避けられない。特に、歯車部品に適用した場合には、歯面形状が不均一となりノイズ発生の原因となるため、浸炭処理後の仕上加工作業が必要になったり、品質あるいは生産性の低下、コストアップを招く可能性がある。
この浸炭処理における歪の問題を解決するための表面硬化方法として、従来から窒化処理が検討されている。窒化法は浸炭処理と異なり変態温度以下(550〜580℃程度)の加熱で処理するため、歪については浸炭処理に比較して小さく抑えることができ、歪の問題を重視しなければならない部品に対しては、従来から積極的に利用されている。
しかしながら、通常広く行われている窒化処理方法であるガス窒化処理、ガス軟窒化処理は、浸炭処理に比較して歪を小さく抑えられるという利点がある一方で、その処理によって高い硬さの得られる範囲(Hv400以上の硬さが得られる範囲)は、化合物層及びその直下の非常にわずかな範囲に限られ、その深さは、表面からわずか0.15mm程度(ガス軟窒化処理で通常の処理温度である約570℃×4hrで処理した場合)と浸炭処理に比べかなり浅い。この硬化深さを深くするためには、窒化時間を長くするか、もしくは窒化温度を高温にする必要があるが、前者は生産性を阻害し、後者は表面硬さが低下するという問題が生じる。また、窒化処理自体は焼入を伴わないため、一般的に、その内部硬さは窒化処理前の硬さを維持するのみであり、高い曲げ応力が負荷される部品に対しては適用することが困難であった。従って、浸炭処理で歪が発生して問題となっている部品に対しても、簡単に浸炭処理から窒化処理に変更して問題を解決することができないでいた。
このように、浸炭処理から窒化処理に変更することよって、歪の問題を解決することを可能にするためには、表面硬さを低下させることなく、浸炭処理並の硬化深さを確保することが必要になるとともに、窒化処理中の加熱に伴う内部硬さの低下を抑制することが必要になる。
これに対しては、従来からCu、V等窒化処理温度(550〜580℃)での加熱によって鋼中に析出し、析出硬化により内部硬さの低下防止に効果のある元素を添加したことを特徴とする鋼の開発が盛んに進められている。例えば、特許文献1〜3等に示される窒化鋼が提案されている。
特許文献1〜3に記載の特許は、全てV添加を必須とする窒化鋼に関するものであり、窒化処理中の加熱時にV炭窒化物を析出させ、析出硬化によって内部硬さの向上を図るとともに、添加したVが窒化により侵入させたNと結合して表面硬さ、硬化深さを高めることにより、優れた窒化特性の確保を可能にすることを特徴とするものである。
しかしながら、前記した従来の発明には次の問題がある。
前記した特許文献1〜3等のように、Vの添加によって窒化特性(表面硬さ、硬化深さ)と内部硬さの向上を図ることにより、従来鋼に比べれば窒化特性を改善することができたが、軽量化に対する要求は非常に強く、より高い窒化特性を得るための一方法としては、浸炭処理の場合と同様に、処理温度を高くするという方法が注目されるようになった。すなわち、高い温度で処理することによって、Nの侵入、拡散反応を促進し、同じ処理時間でも深い硬化深さが得られるようになるからである。
前記した特許文献1〜3等のように、Vの添加によって窒化特性(表面硬さ、硬化深さ)と内部硬さの向上を図ることにより、従来鋼に比べれば窒化特性を改善することができたが、軽量化に対する要求は非常に強く、より高い窒化特性を得るための一方法としては、浸炭処理の場合と同様に、処理温度を高くするという方法が注目されるようになった。すなわち、高い温度で処理することによって、Nの侵入、拡散反応を促進し、同じ処理時間でも深い硬化深さが得られるようになるからである。
しかしながら、処理温度を高くすると硬化深さを深くする点で効果が大きいものの、生成される窒化物が通常温度での処理に比べ大きく成長し、粗大化するため、得られる表面硬さが低下するとともに、V炭窒化物の析出による内部硬さの向上効果が、析出硬化させる適正温度に比べ温度が高くなりすぎて、過時効の状態となり、通常温度で窒化処理した場合に比べて内部硬さが上昇しないという問題がある。
本発明は、通常の窒化処理に比べ高温で処理しても従来鋼に通常温度での窒化処理を行った場合と比較して同等以上の表面硬さを得ることができ、かつ高温で処理したことにより、処理時間を短縮することのできるとともに、高い窒化温度で処理しても、前記V添加鋼に通常温度で窒化処理した場合に比べて同等以上の内部硬さを得ることのできる析出硬化型窒化鋼部品及びその製造方法を新規に提案することを目的とする。
請求項1の発明は、質量%で、C:0.02〜0.10%、Si:1.50%以下、Mn:1.00%以下、Cr:0.50〜1.50%、Al:0.040%以下、N:0.0100%以下、P:0.25〜0.45%、Ti:0.30〜1.00%を含有し、かつTi−4×C−3.4N≧0.20を満足し、残部がFe及び不純物元素からなり、窒化処理後において、組織が焼もどしマルテンサイト組織からなり、かつ表面硬さがHv650以上であることを特徴とする析出硬化型窒化鋼部品である。
本発明は、下記の知見を得ることにより完成されたものである。
(1)窒化鋼に限らず、大部分のFe合金において不純物としてしか含有されていないPを積極添加(0.25〜0.45%)すると、窒化処理時の加熱によって、鋼中にFe3Pが析出し、その析出硬化により内部硬さが窒化処理前に比べ向上(約Hv50以上)する。
(2)従来の窒化鋼に比べTiを多量添加すると、窒化処理時に表面に硬いTiの窒化物が生成する。この窒化物の存在によって高温で窒化処理しても表面硬さの低下が抑制できる。
(1)窒化鋼に限らず、大部分のFe合金において不純物としてしか含有されていないPを積極添加(0.25〜0.45%)すると、窒化処理時の加熱によって、鋼中にFe3Pが析出し、その析出硬化により内部硬さが窒化処理前に比べ向上(約Hv50以上)する。
(2)従来の窒化鋼に比べTiを多量添加すると、窒化処理時に表面に硬いTiの窒化物が生成する。この窒化物の存在によって高温で窒化処理しても表面硬さの低下が抑制できる。
以下、この知見について詳細に説明する。
前記したように、窒化処理は、浸炭処理に比べ得られる硬化深さが浅く、浸炭処理に近い硬化深さを得ようとすると、多大な時間が必要であり、さらに加工性の問題から窒化処理前の硬さに制約が生じる場合もあった。一方、処理時間を短縮するために処理温度を高くするとより短時間で所定の硬化深さを得ることが可能になるが、従来鋼や前記した特許文献に記載の提案鋼に高温窒化処理を適用した場合、狙いとする表面硬さを得ることができなくなったり、Vの析出硬化が過時効状態となることで、内部硬さの向上効果が損なわれるという問題があった。
前記したように、窒化処理は、浸炭処理に比べ得られる硬化深さが浅く、浸炭処理に近い硬化深さを得ようとすると、多大な時間が必要であり、さらに加工性の問題から窒化処理前の硬さに制約が生じる場合もあった。一方、処理時間を短縮するために処理温度を高くするとより短時間で所定の硬化深さを得ることが可能になるが、従来鋼や前記した特許文献に記載の提案鋼に高温窒化処理を適用した場合、狙いとする表面硬さを得ることができなくなったり、Vの析出硬化が過時効状態となることで、内部硬さの向上効果が損なわれるという問題があった。
窒化処理温度を高くすると表面硬さが低下する理由は、処理温度を高くすると生成した窒化物が粗大化したり、析出した窒化物の周囲の応力が緩和される等、析出硬化を利用して高強度を得る鋼における析出処理温度を上げすぎた場合に起きる過時効現象と同様な現象が生じているものと推定される。また、VCによる析出硬化も同様であり、一般的に550℃付近で最も硬化能が高いが、温度を上昇させすぎると、前述した通り過時効状態となり、その効果が損なわれるものと推定される。
そこで、本発明者等は通常の窒化処理温度、さらにはそれ以上の温度においても期待するレベルの析出硬化能を得ることのできる成分系が存在しないかについて詳細に調査した。その結果、前述したように、通常の鋼では不純物としてしか存在していないPを一定量以上添加した場合には、通常の窒化処理温度に比べ高温である580〜630℃の処理温度でも、Fe3Pの析出により、十分な析出硬化能が得られ、さらに温度を上げて、630〜660℃とした場合でも、処理時間を3時間以内に限定した上で、さらに少し温度を下げて570〜630℃の温度で1時間以上窒化処理すれば、同様に十分な析出硬化能が得られることを見出したものである。但し、このような高い温度で処理すると、窒化後の表面硬さが通常温度で処理した場合に比べ低下するため、それを防止するために、高温でも窒化物の粗大化が生じにくく、硬さ低下の小さい窒化物を生成できる合金成分を調査した結果、前記したようなTiの添加が、表面硬さの低下防止に有効であることを見出したものである。
但し、本発明鋼の場合、Feとの化合物となって析出硬化に寄与するP、および窒化処理によって熱的安定度の高い窒化物を形成するTiは、圧延放冷、および熱間鍛造放冷状態では、PとTi、TiとCが結合してTi3P、TiCを形成し、それに伴いマトリックスの強化に効果を発揮するCが減少するとともに、PとTiも析出硬化に寄与しない化合物となってしまう。このような状態の鋼を窒化処理しても、前記したような十分な内部硬さ向上硬化を得ることができない。そこで、この問題を解決するために窒化処理前に焼入処理を行って、Ti、P、Cが均一に固溶したマルテンサイト組織とすることで、Ti3P、TiCの生成を防止し、それにより前記した析出硬化能を十分に得ることを可能にしたものである。
次に請求項1の発明における化学成分等の条件の限定理由について、以下に説明する。
C:0.02〜0.10%
Cは焼入後の硬さを上昇させ、強度確保のための内部硬さを得るために必要な元素であり、少なくとも0.02%以上の含有が必要である。しかしながら、窒化処理前の焼入処理により、一度固溶させたTiCは窒化処理時の加熱によって再析出するが、Cの含有率が高いと再析出量も増加し、それによってTiを消費してしまう。このTiCは表面硬化層の硬さ向上に全く寄与しないため、同一の表面硬さや硬化深さを得ようとすると多量のTiの添加が必要となってしまう。また、Cの含有率が増加すると、焼入前においてはTiCが増加し、焼入後においては硬さが上昇し過ぎて、ともに被削性が低下するので、含有率の上限を0.10%とした。
C:0.02〜0.10%
Cは焼入後の硬さを上昇させ、強度確保のための内部硬さを得るために必要な元素であり、少なくとも0.02%以上の含有が必要である。しかしながら、窒化処理前の焼入処理により、一度固溶させたTiCは窒化処理時の加熱によって再析出するが、Cの含有率が高いと再析出量も増加し、それによってTiを消費してしまう。このTiCは表面硬化層の硬さ向上に全く寄与しないため、同一の表面硬さや硬化深さを得ようとすると多量のTiの添加が必要となってしまう。また、Cの含有率が増加すると、焼入前においてはTiCが増加し、焼入後においては硬さが上昇し過ぎて、ともに被削性が低下するので、含有率の上限を0.10%とした。
Si:1.50%以下
Siは、本発明の特徴であるFe3Pの析出による内部硬さ向上を高める効果があり、その効果は、Si添加量が増加する程大きくなる。従って、Fe−P化合物による析出硬化を高めるためには、Siを増量する方が良いが、多く添加しすぎると、オーステナイト化温度が上昇して、焼入温度を高くする必要が生じるとともに、被削性が低下するため、上限を1.50%とした。望ましくは、0.70〜1.20%とするのが良い。
Siは、本発明の特徴であるFe3Pの析出による内部硬さ向上を高める効果があり、その効果は、Si添加量が増加する程大きくなる。従って、Fe−P化合物による析出硬化を高めるためには、Siを増量する方が良いが、多く添加しすぎると、オーステナイト化温度が上昇して、焼入温度を高くする必要が生じるとともに、被削性が低下するため、上限を1.50%とした。望ましくは、0.70〜1.20%とするのが良い。
Mn:1.00%以下
Mnは固溶強化により硬さ向上に寄与する元素であるとともに、靭性向上に効果のある元素である。従って、適量の添加であれば、本発明にとって有益な効果を及ぼす元素である。しかしながら、添加しすぎると被削性が劣化し、機械加工性が低下するとともに、窒化処理による硬化深さが低下する原因となるため、上限を1.00%とした。
Mnは固溶強化により硬さ向上に寄与する元素であるとともに、靭性向上に効果のある元素である。従って、適量の添加であれば、本発明にとって有益な効果を及ぼす元素である。しかしながら、添加しすぎると被削性が劣化し、機械加工性が低下するとともに、窒化処理による硬化深さが低下する原因となるため、上限を1.00%とした。
Cr:0.50〜1.50%
Crは窒化処理後の表面硬化層の硬さ向上に効果のある元素であり、0.50%以上の含有が必要である。しかしながら、多量の含有は窒素の拡散速度の低下につながり、表面硬さは上昇するが、硬化深さが低下して、窒化処理時間の短縮が難しくなるので、上限を1.50%とした。
Crは窒化処理後の表面硬化層の硬さ向上に効果のある元素であり、0.50%以上の含有が必要である。しかしながら、多量の含有は窒素の拡散速度の低下につながり、表面硬さは上昇するが、硬化深さが低下して、窒化処理時間の短縮が難しくなるので、上限を1.50%とした。
Al:0.040%以下
Alは鋼の精錬時に脱酸のために必要な元素である。しかし、Alを含有するとCrと同様に窒素の拡散速度の低下につながり、硬化深さが低下するとともに、アルミナ系介在物が増加して、鋼材製造時に割れ、表面疵等が発生しやすくなり、製造が難しくなる。従って、Alは前記製品不良発生の防止のために、脱酸に必要な最低限の含有量に抑制することが望ましく、上限を0.040%とした。
Alは鋼の精錬時に脱酸のために必要な元素である。しかし、Alを含有するとCrと同様に窒素の拡散速度の低下につながり、硬化深さが低下するとともに、アルミナ系介在物が増加して、鋼材製造時に割れ、表面疵等が発生しやすくなり、製造が難しくなる。従って、Alは前記製品不良発生の防止のために、脱酸に必要な最低限の含有量に抑制することが望ましく、上限を0.040%とした。
N:0.0100%以下
Nは、Tiと結合してTiNを形成し、これが介在物となって存在する。このTiNの大きな介在物が存在した場合、高面圧が負荷された環境で継続使用すると、破壊の起点となる可能性がある。また、窒化処理前の時点で存在するTiNは窒化処理によって形成されるTiNに比較して粗大であり、窒化層や内部硬さの向上にはほとんど寄与しない。従って、Nの存在による影響は、TiN介在物の生成により窒化後の表面硬さ向上に寄与するTi量を減少させ、かつ前記介在物の生成により疲労特性が低下するといった悪影響のみとなる。よって、このようなNはできるだけ低減することが好ましく、その上限を0.0100%とした。好ましくは、0.0080%以下とするのが良い。
Nは、Tiと結合してTiNを形成し、これが介在物となって存在する。このTiNの大きな介在物が存在した場合、高面圧が負荷された環境で継続使用すると、破壊の起点となる可能性がある。また、窒化処理前の時点で存在するTiNは窒化処理によって形成されるTiNに比較して粗大であり、窒化層や内部硬さの向上にはほとんど寄与しない。従って、Nの存在による影響は、TiN介在物の生成により窒化後の表面硬さ向上に寄与するTi量を減少させ、かつ前記介在物の生成により疲労特性が低下するといった悪影響のみとなる。よって、このようなNはできるだけ低減することが好ましく、その上限を0.0100%とした。好ましくは、0.0080%以下とするのが良い。
P:0.25〜0.45%
Pは焼入後の窒化処理による加熱処理によって、Feと結合して化合物(Fe3P)となって析出し、その結果大きな析出硬化能を出現するため、本発明にとって、内部硬さ確保のために最も重要な元素の1つである。その効果を十分に得るためには、窒化処理温度において固溶する以上の添加量である0.25%以上の含有が必要である。多量に添加するほど析出硬化能は高くなるが、鋼材製造時に割れ等の鋳造欠陥を生じ易くなるので上限を0.45%とした。
Pは焼入後の窒化処理による加熱処理によって、Feと結合して化合物(Fe3P)となって析出し、その結果大きな析出硬化能を出現するため、本発明にとって、内部硬さ確保のために最も重要な元素の1つである。その効果を十分に得るためには、窒化処理温度において固溶する以上の添加量である0.25%以上の含有が必要である。多量に添加するほど析出硬化能は高くなるが、鋼材製造時に割れ等の鋳造欠陥を生じ易くなるので上限を0.45%とした。
Ti:0.30〜1.00%
Tiは、通常よりも高温で窒化処理した場合の表面硬さの低下を防止するとともに、深い硬化深さを得るために必要な元素であり、本発明にとって最も重要な元素である。従って、これらの効果を十分に得るためには、ある程度多量に添加しないと達成されないため、含有率の下限を0.30%とした。但し、多量に添加しすぎると割れ等の鋳造欠陥が生じ易くなるとともに、コスト高となるため、上限を1.00%とした。
Tiは、通常よりも高温で窒化処理した場合の表面硬さの低下を防止するとともに、深い硬化深さを得るために必要な元素であり、本発明にとって最も重要な元素である。従って、これらの効果を十分に得るためには、ある程度多量に添加しないと達成されないため、含有率の下限を0.30%とした。但し、多量に添加しすぎると割れ等の鋳造欠陥が生じ易くなるとともに、コスト高となるため、上限を1.00%とした。
Ti(%)−4C(%)−3.4N(%)≧0.20(%)
Tiは鋼中のC、Nと結合してTiC、TiNを生成する。TiCは後述するように焼入処理によってTiCを固溶させたとしても、その後の窒化処理時の加熱によって鋼中に析出してくる。また、窒化処理前の時点で既に存在しているTiNは、前記した通り、マトリックスの強化に寄与しない。従って、優れた窒化特性を得るためには、このようなTiC、TiNの生成によって消費されるTiを除いた有効Ti量を一定量以上確保する必要がある。有効Ti量はTi(%)−4C(%)−3.4N(%)により求めることができ、最低でもこの値を0.20%以上とする必要がある。
以上説明した範囲に含有成分を調整することにより、高い表面硬さや深い硬化深さを確保するとともに、析出硬化による内部硬さを向上することのできる析出硬化型窒化鋼部品を得ることができる。
Tiは鋼中のC、Nと結合してTiC、TiNを生成する。TiCは後述するように焼入処理によってTiCを固溶させたとしても、その後の窒化処理時の加熱によって鋼中に析出してくる。また、窒化処理前の時点で既に存在しているTiNは、前記した通り、マトリックスの強化に寄与しない。従って、優れた窒化特性を得るためには、このようなTiC、TiNの生成によって消費されるTiを除いた有効Ti量を一定量以上確保する必要がある。有効Ti量はTi(%)−4C(%)−3.4N(%)により求めることができ、最低でもこの値を0.20%以上とする必要がある。
以上説明した範囲に含有成分を調整することにより、高い表面硬さや深い硬化深さを確保するとともに、析出硬化による内部硬さを向上することのできる析出硬化型窒化鋼部品を得ることができる。
次に、化学成分以外の限定理由について、以下に説明する。
本発明鋼は溶解し、所定の精錬を行い、熱間圧延したままかあるいはその後熱間鍛造し、放冷したままの状態では、多量のP,Tiを含有している影響から、鋼中Cの大部分がTiCとなって析出し、またPはTi3Pとなって析出しているため、マトリックスを強化する析出物やC濃度が0に近くなり、フェライト中にTiC、Ti3Pが析出した組織となる。このような組織では、得られる内部硬さは狙いとする硬さに比べ極端に低い(Hv100程度)ものとなり、かつ添加したPもかなりの割合がTiと結合していることから、窒化処理時のFe3Pの析出による内部硬さの向上も十分には期待できない。そこで、本発明では、TiとPの添加した効果が十分に得られるようにするため、熱間圧延し、熱間鍛造、冷間鍛造等によって所定形状に加工した後、オ−ステナイト域まで加熱してTiC,Ti3Pを十分に固溶させた後、焼入処理をし、C、Ti、Pが固溶したマルテンサイト組織からなる鋼を製造する。これによりTi、Pの添加効果を十分に得られる組織とすることができる。なお、焼入処理は、熱間鍛造後そのまま普通に冷却(空冷)することなく、直接焼入しても良い。
本発明鋼は溶解し、所定の精錬を行い、熱間圧延したままかあるいはその後熱間鍛造し、放冷したままの状態では、多量のP,Tiを含有している影響から、鋼中Cの大部分がTiCとなって析出し、またPはTi3Pとなって析出しているため、マトリックスを強化する析出物やC濃度が0に近くなり、フェライト中にTiC、Ti3Pが析出した組織となる。このような組織では、得られる内部硬さは狙いとする硬さに比べ極端に低い(Hv100程度)ものとなり、かつ添加したPもかなりの割合がTiと結合していることから、窒化処理時のFe3Pの析出による内部硬さの向上も十分には期待できない。そこで、本発明では、TiとPの添加した効果が十分に得られるようにするため、熱間圧延し、熱間鍛造、冷間鍛造等によって所定形状に加工した後、オ−ステナイト域まで加熱してTiC,Ti3Pを十分に固溶させた後、焼入処理をし、C、Ti、Pが固溶したマルテンサイト組織からなる鋼を製造する。これによりTi、Pの添加効果を十分に得られる組織とすることができる。なお、焼入処理は、熱間鍛造後そのまま普通に冷却(空冷)することなく、直接焼入しても良い。
本発明鋼は焼入を実施した後、さらに窒化処理される。ここで、窒化処理にはガス窒化、ガス軟窒化、イオン窒化、プラズマ窒化等の方法があり、いずれの方法も可能であるが、本発明で言う窒化処理とは、このうちガス窒化処理とガス軟窒化処理を意味する。これはこの2種類の窒化処理が大量生産するのに有利な方法であるからである。
そして、この窒化処理においては、本発明鋼は通常処理温度(550〜580℃)に比べ、高温(600℃以上)で行ったり、高温で窒化処理後にやや温度を下げた2段窒化処理を行うことで、比較的短時間の処理(4時間程度)にもかかわらずHv650以上の表面硬さと0.30mm程度の深い硬化深さを確保する。またこの処理によって、前記焼入処理により十分に固溶させておいたPがFe3Pとなって析出し、その結果高い析出硬化を得ることができるため、内部硬さは窒化処理前よりも高くする(約Hv50以上)ことができる。ここで、窒化処理前の硬さはC量や焼入温度によって、適宜、所望の硬さに調整可能である。なお、表面硬さ、硬化深さは、文献、特許によって定義が異なっているが、本特許では、表面硬さは、表面から0.05mmの位置における硬さ、硬化深さは硬さがHv400となる深さと定義する。
ここで、硬化深さの下限について特に限定していないのは、硬化深さは従来鋼でも処理時間を長時間とすることによって達成が可能であるからである。本発明は、従来鋼に比べ短時間(4時間程度)の窒化処理で、0.30mm以上、最適な条件で行った場合には、0.40mm程度の深い硬化深さを容易に得ることができる。他の請求項についても硬化深さを限定していないのは同様の理由によるものである。
次に請求項2に記載の発明は、請求項1の発明鋼に加えて、S:0.050%以下、Ni:1.00%以下、Mo:0.30%以下、V:0.40%以下のうちの1種又は2種以上をさらに含有させたことを特徴とするものである。これらの元素は、請求項1の鋼の特性をさらに向上させるために必要に応じて含有させることができる。以下それぞれの成分の添加量の限定理由について説明する。
S:0.050%以下
Sは被削性向上のために必要に応じて少量含有させることができる。本発明鋼は熱間圧延された後、熱間鍛造、冷間鍛造等の塑性加工によって所定の形状に加工されるが、さらに最終製品の寸法に精度良く仕上げるため、機械加工も当然行われる。従って、機械加工の内容によってはSを少量添加して被削性を向上させた鋼を使用することが望ましい。但し、多量の添加は硫化物系介在物を増加させ、高面圧負荷の環境において折損の原因となるため、上限を0.050%とした。
Sは被削性向上のために必要に応じて少量含有させることができる。本発明鋼は熱間圧延された後、熱間鍛造、冷間鍛造等の塑性加工によって所定の形状に加工されるが、さらに最終製品の寸法に精度良く仕上げるため、機械加工も当然行われる。従って、機械加工の内容によってはSを少量添加して被削性を向上させた鋼を使用することが望ましい。但し、多量の添加は硫化物系介在物を増加させ、高面圧負荷の環境において折損の原因となるため、上限を0.050%とした。
Ni:1.00%以下、Mo:0.30%以下
Ni、Moはマトリックスの強度向上と靭性の向上に効果のある元素であり、必要に応じて請求項1記載の鋼に加えて、さらに含有させることができる。しかし、どちらも高価の元素であって、添加するほどコストが増加するとともに、一定量以上の添加はコスト増に見合う効果が得られないため、その上限をNiが1.00%、Moは0.30%とした。
Ni、Moはマトリックスの強度向上と靭性の向上に効果のある元素であり、必要に応じて請求項1記載の鋼に加えて、さらに含有させることができる。しかし、どちらも高価の元素であって、添加するほどコストが増加するとともに、一定量以上の添加はコスト増に見合う効果が得られないため、その上限をNiが1.00%、Moは0.30%とした。
V:0.40%以下
VはTi、Crと同様に窒化処理後の表面硬化層の硬さ向上のために効果のある元素であり、必要に応じて含有させることのできる元素である。しかしながら、多量に含有させるとCrと同様に窒素の拡散の抵抗となり、表面硬さは向上するが、硬化深さが低下する原因となるとともに、コスト高となるので、上限を0.40%とした。
VはTi、Crと同様に窒化処理後の表面硬化層の硬さ向上のために効果のある元素であり、必要に応じて含有させることのできる元素である。しかしながら、多量に含有させるとCrと同様に窒素の拡散の抵抗となり、表面硬さは向上するが、硬化深さが低下する原因となるとともに、コスト高となるので、上限を0.40%とした。
次に、請求項3の発明は、請求項1または2に記載した窒化鋼部品の製造方法に関する発明である。化学成分の限定理由については既に説明した通りであるので、以下製造条件の限定理由について説明する。
請求項3では、窒化処理前の内部硬さを確保し、表面硬さ、硬化深さを得るために必要なTi,析出硬化に寄与するPが固溶した組織を得るため、熱間圧延後、所定形状に加工(熱間鍛造、冷間鍛造等による)後、焼入処理して、マルテンサイト組織からなる鋼材を製造する。
しかしながら、本発明鋼はTiとPの多量添加を必須としており、さらにPの析出硬化能向上のため、Siを通常のSCr、SCM等の合金鋼に比べ多量に添加する場合がある。このようなTi、P、Siが添加された鋼を焼入する場合、鋼中に存在するTiCやTi3Pを固溶させ、かつオ−ステナイト化するためには、高温(1100℃以上)での加熱が必要となる。従って、焼入処理は少なくとも1100℃以上に加熱した状態で行う必要がある。焼入温度は、Siの増量に伴うオーステナイト化温度の上昇と、TiCの固溶温度に合わせて調整する必要があるため、SiやTiの含有率を前記範囲の中の高い方に調整した場合には、それにあわせてさらに高めの温度とする必要がある。焼入温度を高くするほどTiCの固溶が進み、焼入後のマルテンサイト組織中の炭素含有率が増加し、Cの固溶強化による効果が大きくなるので、焼入硬さが上昇する。
なお、焼入処理前の加工を熱間鍛造によって行う場合には、熱間鍛造時の加熱を利用して、鍛造直後に焼入することも可能である。勿論熱間鍛造し冷却した後、再加熱してから焼入しても良い。また、加熱温度の上限は特に限定していないが、TiCが固溶しオ−ステナイト化できる温度の中で低目の温度に設定した方が省エネの点からも有利である。
また、焼入処理前に冷間鍛造を行う場合には、熱間圧延後に800〜900℃程度の温度で熱処理した後に冷間鍛造することが望ましい。この熱処理により圧延ままの状態で一部固溶しているTi、Cが加熱中に析出し、それにより冷鍛時の限界加工率が大きく改善されるからである。
本発明鋼は焼入処理し、マルテンサイト組織からなる鋼材を得た後、窒化処理される。但し、機械加工等の仕上げ加工が必要な場合には、窒化処理前に行っておくことが必要である。
本発明では熱間鍛造、冷間鍛造等の塑性加工及び必要に応じ機械加工等の仕上加工が行われた後、窒化処理を実施する。この窒化処理により、表面硬さがHv650以上であって、Fe3Pの析出により、内部硬さが窒化処理前よりも改善された焼もどしマルテンサイト組織からなる析出硬化型窒化鋼部品を得ることができる。
次に請求項4に記載の発明は、窒化処理温度を通常の窒化処理温度(約570℃)より高い580〜630℃の温度で実施することを特徴とするものである。本発明鋼は言うまでもなく、通常の温度で窒化処理したとしても、従来鋼と比較して同等以上の表面硬さ、硬化深さを得ることができる。しかし、本発明は窒化処理時間の短縮を大きな目的としており、そのためには高い温度での処理が不可欠となる。そこで、前記したように本発明鋼は高温で窒化処理しても表面硬さが劣化せず、通常よりも深い硬化深さを得られるとともに、Fe3Pの析出によって、窒化処理後に内部硬さを向上できる(約Hv50以上)ように成分設計されているのである。処理温度の下限を580℃としたのは、これより低い温度では従来と同じ処理条件となり、処理時間の短縮効果が得られなくなるとともに、Fe3P析出に必要な時間も長くなってしまうからである。また、上限を630℃としたのは、これ以上高い温度で処理すると、表面硬さを維持し、硬化深さを深くできるものの、Fe3Pの析出状態が過時効の状態となって効果が小さくなり、内部硬さの向上が十分に得られなくなるからである。従って、本発明鋼は、580〜630℃の範囲で窒化処理することにより、優れた表面硬さ、硬化深さ、内部硬さを得ることができる。
次に請求項5に記載の発明は、窒化処理温度を通常の窒化処理温度(約570℃)より高い630〜660℃で3hr以内の温度で実施し、その後、580〜630℃で窒化処理することを特徴とするものである。前項(請求項4)において、本発明鋼は630℃以上では、Fe3Pが過時効状態となることを説明し、処理温度が高いと内部硬さ向上効果が小さくなるという理由から、処理温度の上限を630℃とした。しかしながら、処理温度が高いほど短時間で深い硬化深さが得られるため、何らかの対策により処理温度を高めることが可能となるのであれば、その方が好ましいことは当然である。そこで、さらに検討を行った。その結果、請求項4に比べ処理温度を高めて630〜660℃とした場合でも、処理時間が3hr以内であればマトリックスの軟化を抑えられること、処理前に鋼中に固溶しているPが処理中に全て析出せず、この固溶Pの一部は処理温度が低くなると析出しやすいことから、前記高温度での処理の後に580〜630℃で1hr以上処理すると、請求項4で示した条件で処理した場合と同等以上の析出硬化が得られ、内部硬さを向上できることを見出したものである。
このような高温で処理した場合でも高い析出硬化能が得られるのは、600℃付近の温度域では温度が高くなるほどPの析出物が少なくなるため、630〜660℃の窒化処理後においても、析出硬化に寄与するPが固溶したままの状態で残存しているからである。しかしながら、630〜660℃での処理が3hrを超えて長くなったり、さらに温度が上昇すると、析出硬化にあまり寄与しないTi3Pが析出すること、その後の580〜630℃の窒化が1hr以内と短い場合には、Fe3Pの析出が十分ではなくなることから、十分な析出硬化能が得られなくなるので、前記範囲の条件に設定した。従って、本発明鋼は、630〜660℃で3hr以内の窒化処理後、580〜630℃で1hr以上の窒化処理によって表面硬さ、硬化深さ、内部硬さをともに満足できる鋼とすることができる。
なお、前半の処理温度と後半の処理温度の間は、どのような温度カーブで冷却しても構わない。そして、生産性に問題が生じなければ、前半の窒化処理を行った後、室温まで冷却し、再度580〜630℃まで加熱して窒化処理を行っても同等の効果を得ることができる。
また、前半の加熱処理と後半の加熱処理のいずれか一方のみで窒化処理を実施し、もう一方の加熱処理時には、窒化処理を実施せず、内部硬さ向上を目的とした時効処理のみを目的として処理を実施することも可能である。
次に、本発明鋼の特徴を比較例と対比して、実施例により説明する。表1に実施例として用いた供試鋼の化学成分を示す。なお、表中のCuは不純物であるとして、請求の範囲に記載していないが、不純物として含有していた量を記載したものであり、S、Ni、Mo、Vについても積極添加しているかどうかに関係なく、その含有率を示した。また、供試鋼は短時間に多数の成分の鋼の評価をするため、本発明鋼、比較鋼については、30kg真空誘導溶解炉によって溶解した鋼塊を用い、1200℃に加熱して直径15mmの丸棒に鍛伸することにより準備し、従来鋼については実際に生産された圧延鋼材から入手し、1200℃に加熱して同様に直径15mmの丸棒に鍛伸することにより準備したものである。なお、鍛伸後全ての供試材について、冷間加工性を向上させるために、900℃×1hrの条件で熱処理(A〜N鋼については、固溶しているTiCを析出させるため。またO鋼については焼ならし処理に相当)を行った。
表1において、A〜J鋼は本発明の成分範囲内の鋼であり、K〜N鋼はいずれかの成分又は有効Ti量が本発明で規定する範囲を外れている比較鋼であり、O鋼は従来鋼であるJISのSACM645である。
これら各供試鋼について、内部硬さ(900℃×1hrの熱処理後、焼入後、窒化処理後)及び窒化処理後の表面硬さ、硬化深さの測定を行った。以下に試験方法について説明する。
内部硬さは、前記した鍛伸材から直径12mm、高さ15mmの試験片を作製し、それぞれの熱処理直後に切断して、中心部における硬さを測定したものである。また、焼入処理は、Si添加によるオーステナイト化温度の上昇を考慮して、Siが1%超の鋼は1150℃、その他の鋼は1100℃に加熱し、水冷することにより実施した。この温度で加熱することにより、窒化特性向上のためのTiと、析出硬化により内部硬さ向上を図るためのPを十分に固溶させることができる。但し、従来鋼であるO鋼はTiやPを添加していないので、前記のような焼入処理の必要はないことから、焼入処理を行うことなく後述の窒化特性の評価を実施した。
内部硬さは、前記した鍛伸材から直径12mm、高さ15mmの試験片を作製し、それぞれの熱処理直後に切断して、中心部における硬さを測定したものである。また、焼入処理は、Si添加によるオーステナイト化温度の上昇を考慮して、Siが1%超の鋼は1150℃、その他の鋼は1100℃に加熱し、水冷することにより実施した。この温度で加熱することにより、窒化特性向上のためのTiと、析出硬化により内部硬さ向上を図るためのPを十分に固溶させることができる。但し、従来鋼であるO鋼はTiやPを添加していないので、前記のような焼入処理の必要はないことから、焼入処理を行うことなく後述の窒化特性の評価を実施した。
窒化特性は、前記した焼入処理を実施後、焼入温度を1100℃で行った試験片について、通常の窒化処理温度に近い温度である580℃と、通常の窒化処理温度よりも高い625℃、および650℃×2hr処理後に600℃で処理する3通りの条件で、トータルの処理時間を4時間としたガス軟窒化処理を行って、処理後の表面硬さ、硬化深さ、内部硬さを測定することにより評価した。なお、前記した定義に示す通り、測定した表面硬さは、表面から0.05mmの位置での値であり、硬化深さは、Hvが400となる深さで示したものである。結果を表2に示す。
表2から明らかなように、本発明鋼であるA〜J鋼は、いずれの窒化条件においても、表面硬さはHv650以上であり、硬化深さは580℃の窒化処理で0.25〜0.30mm、650℃及び600℃の2段窒化処理で0.30〜0.40mmと非常に優れていた。さらに、内部硬さもPの析出硬化による効果によって、窒化処理後においては窒化処理前に比べ向上する(約Hv50以上)ことが明らかとなった。
それに対し、比較鋼であるL鋼はCr含有率が低く、M、N鋼は有効Ti量が少ないため、特に窒化処理温度が高くなると表面硬さの低下が大きくなって、Hv650以上を確保できなくなるとともに、硬化深さを深くする効果も小さくなっている。また、K鋼はPの含有量が少ないため、析出硬化による内部硬さ向上効果が小さくなったものである。
次に、比較として、窒化前の焼入温度を1000℃と、低くした場合の窒化特性を調査した結果について説明する。焼入温度が低下すると、TiC、Ti3Pを十分に固溶させることができなくなること、焼入処理の加熱時において、完全にオーステナイト化しなくなるため、焼入後の組織が一部フェライトを含んだ不完全なマルテンサイト組織となる。この結果、窒化特性が大きく低下し、窒化処理後に得られる表面硬さが低下するとともに、析出硬化能が低下して高い内部硬さが得られなくなる。そこで、焼入温度が低くなった場合の影響の大きさを明確にするため、前記した表1に示す供試鋼のうち、A〜C、F、G、I鋼を用い、625℃×4hrの窒化条件で前記実験と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
表3の結果から明らかなように、前記した表2に示す625℃×4hrの窒化処理を行った場合と比較して、いずれの鋼も大きく窒化特性が低下していることがわかる。この結果から、本発明鋼では焼入温度を1100℃以上とすることが、優れた性能を得るために必要となることがわかる。
次に、優れた析出硬化能を確保可能な窒化温度の上限値を把握するための別の実施例を示す。実験は、実施例1と同じ条件で焼入したB〜G鋼を、後述の表4に示す通り、前記実施例よりも高温で熱処理し、その後内部硬さを測定するという方法で実施した。なお、本実験は前記した通り、優れた析出硬化能の得られる処理温度の上限値を把握することを大きな目的としており、窒化処理しなくてもその評価は可能であるため、実験を簡単にするために窒化処理は実施せず、電気炉により窒化処理時と同等の温度カーブで加熱処理して、処理後の内部硬さを測定するという方法で行った。結果を表4に示す。
表4から明らかなように、前記表2の結果に比べ析出硬化による内部硬さ向上効果が低下することが明らかとなった。この理由は、処理温度を高くしすぎると、Fe3Pが析出した後成長して粗大化しやすくなるため、いわゆる過時効の状態となって硬さ向上効果が低下したためと思われる。また、表4に示した二段窒化処理の結果を表2の結果と比較すると、最初の加熱温度が同じ650℃であっても明らかに内部硬さの向上効果が低下している。従って、この結果より少し温度を低くして後半の窒化処理を行う場合であっても、高温での前半での窒化処理時間が長すぎる場合には、狙いとする析出硬化能が得られなくなることがわかる。また、670℃まで温度を上げると、前半の処理時間を2hrと短くしても、優れた析出硬化能が得られなくなることがわかる。
以上説明した通り、本発明は、多量のTi、Pを添加した鋼を用い、Ti、Pを固溶させるため高温で加熱し、そのまま焼入してマルテンサイト組織とし、窒化処理を施すことを特徴とするものであり、それにより高い表面硬さと深い硬化深さを得つつ、Fe3Pの析出によって内部硬さの向上を図ることができる。特に本発明鋼は、Tiの多量添加により、通常の窒化処理温度に比べ高温で処理しても表面硬さが低下しにくいので、窒化温度の高温度化によって通常温度での処理に比べ短時間の処理で深い硬化深さを達成することができ、かつ、Pの添加によって、その高い窒化処理温度においても過時効とならず、析出硬化により高い内部硬さが得られるものである。従って、特に低歪が要求される部品に使用すると、従来の窒化鋼を用いて製造した場合に比べ、生産性を向上させ、また部品強度の向上を図ることができ、産業への貢献は極めて大きいものである。
Claims (5)
- 質量%で、C:0.02〜0.10%、Si:1.50%以下、Mn:1.00%以下、Cr:0.50〜1.50%、Al:0.040%以下、N:0.0100%以下、P:0.25〜0.45%、Ti:0.30〜1.00%を含有し、かつTi−4×C−3.4N≧0.20を満足し、残部がFe及び不純物元素からなり、窒化処理後における組織が焼もどしマルテンサイト組織からなり、かつ表面硬さがHv650以上であることを特徴とする析出硬化型窒化鋼部品。
- 請求項1記載の窒化鋼部品に加えて、質量%でS:0.050%以下、Ni:1.00%以下、Mo:0.30%以下、V:0.40%以下の1種又は2種以上をさらに含有させたことを特徴とする析出硬化型窒化鋼部品。
- 請求項1または2に記載の成分を含有する熱間圧延鋼材を所定の形状に加工した後、1100℃以上の温度から焼入処理することにより、マルテンサイト組織からなる鋼材を製造し、必要に応じて仕上加工を行った後、窒化処理を施すことにより、組織が焼もどしマルテンサイト組織であり、表面硬さがHv650以上とすることを特徴とする析出硬化型窒化鋼部品の製造方法。
- 窒化処理温度を580〜630℃とすることを特徴とする請求項3に記載の析出硬化型窒化鋼部品の製造方法。
- 窒化処理条件として、630〜660℃で3hr以内の窒化処理を行った後、さらに570〜630℃で1hr以上の窒化処理を行うことを特徴とする請求項3に記載の析出硬化型窒化鋼部品の製造方法
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