キャビティ量子電気力学(QED)現象を示すフォトニック結晶マイクロキャビティを用いて、高効率発光ダイオード、低閾値レーザ、およびシングル・フォトン(単光子)源などの光デバイスを作製することができる。固体マイクロキャビティの成長プロセスの間に、単一の狭線幅放射源(量子ドット)をデバイス内に埋め込むことによって、キャビティ電界と量子ドットとの相互作用が可能になる。量子ドットとキャビティ内の電界とが結合することによって、量子ドットの放射遷移レートが高まる。結合は、量子ドットに位置する強い電界強度によって増大する。また結合は、キャビティ内の基本電磁モードの体積が小さいと増加する。このように、マイクロキャビティの多くの用途に対して、マイクロキャビティは、Qファクタ(Q)が高く、また基本モードに対するモード体積(V)が小さいことが望ましい。言い換えれば、Q/V比が大きいことが望ましい。たとえばQ/Vを大きくすることによって、レーザ閾値を小さくすることができる。またQ/Vを制御することは、シングル・フォトン源において、対象とする出力モードに対するドットの結合効率をあげることに有用である。
標準的なマイクロキャビティは、図1aに示すような、円筒型マイクロポストの設計(デザイン)である。マイクロポスト・マイクロキャビティは、2つの誘電体ミラー、すなわち上部ミラー110と下部ミラー120との間に位置するスペーサ領域100を有している。1つもしくは複数の量子ドット、または1つもしくは複数の量子井戸180が、スペーサ領域100の中心に埋め込まれている。誘電体ミラー110および120は、高屈折率(nh )材料130と低屈折率(nl )材料140とから交互になる1/4波長厚み層を積層させることによって作製される分布ブラッグ反射器(DBR)である。デバイスを作製する際に、高および低屈折率1/4波長層を交互に堆積させ、高屈折率層の厚みを全波長(λ/nh )まで増加させることによってスペーサ領域100を作製する。現在使用される量子ドットまたは量子井戸材料は、高屈折率材料内に埋め込む必要がある(たとえばInx Ga1-x As量子ドットもしくはGaAs内に埋め込まれた量子井戸で、放射波長が通常900nm〜980nmであるもの、またはGaAs内に埋め込まれたInx Ga1-x Asy N1-y 量子井戸で、放射波長が1300nm〜1550nmであるもの)。このように、スペーサ領域100は高屈折率材料であることが好ましい。Qファクタを最大にするために、スペーサは、厚みが一波長(λ/nh )となるように設計されるのが普通である。長手(垂直)方向の分布ブラッグ反射と横(水平)方向の全反射とを組み合わせることによって、デバイス動作波長λにおける光を構造に閉じ込める。対象とする電磁モードは、基本(HE11)モードである。
図1bは、図1aに示すデバイスの長手方向の長さに沿っての屈折率および対応する電界強度を示すグラフである。電界強度は、高屈折率スペーサ領域150の中心において最大160となる。したがってこのデバイスでは、高屈折率スペーサと、活性層(量子ドットまたは量子井戸)が配置されるスペーサ中心で電界強度が最大であることとが兼ね備えられていて、有利である。しかしこの設計の場合にはQファクタは高いが、不都合な点としては、波長厚みスペーサ領域が原因でモード体積Vが大きく、この大きなモード体積によって高いQファクタが相殺されてしまうといった点があげられる。
モード体積を小さくするために、図2aに示すような代替的なマイクロポスト・マイクロキャビティを設計することができる。図2aのマイクロポストは、厚みが半波長の高屈折率スペーサ領域200を有する。たとえば量子ドットまたは量子井戸を含む活性領域280が、スペーサ領域200内に埋め込まれている。図1aのデバイスの場合と同様に、スペーサ領域200は、高屈折率材料230と低屈折率材料240とから交互になる1/4波長積層物から形成される上部210および下部220のDBRミラー間に挟み込まれている。図2bは、図2aの設計においての屈折率および対応する電界強度を示すグラフである。グラフに例示したように、電界強度は、高屈折率領域250の中心で最小260である。したがってこの設計の方がモード体積は小さいが、電界強度は、活性層が配置される場所で最小である。電界が活性層と相互作用しないため、この設計は有用ではない。さらに、電界最大値が低屈折率材料内にあるために、電界最大値に合わせて活性層を再配置することができない。
半波長スペーサ内で最大となる電界を得るために、図3aに示すような代替的なマイクロポストを設計することができる。この設計では、図2aの設計と同様に、半波長スペーサ300が、高屈折率330および低屈折率340材料からなる1/4波長積層物で形成されるDBRミラー310および320の間に挟み込まれている。しかしこの設計でのスペーサ300は、低屈折率材料で形成されている。その結果、図3bに示すように、電界は低屈折率領域350の中心で最大360である。この設計では半波長スペーサの中心で電界が最大であるが、スペーサ材料は低屈折率である。前述したように、高屈折率材料中に活性層(たとえば量子ドットまたは量子井戸)を埋め込む必要があるため、この設計は有用ではない。
図4aに、本発明によるマイクロポスト・マイクロキャビティの一実施形態を示す。直径が有限であるデバイスが、所定の動作波長λop<λで動作するように設計されている。ここでλは、キャビティ直径が無限のとき(平坦なキャビティの場合)に、自由空間で測定されるキャビティ・モード波長に等しい所定の設計波長である。スペーサ領域400が、2つの誘電体ミラー410と420との間に挟み込まれている。デバイスは、従来の作製プロセスを用いて基板層425上に作製しても良い。誘電体ミラー410、420は、分布ブラッグ反射器(DBR)であり、高屈折率層430と低屈折率層440とを互いの上に交互に積層することによって構成される。低屈折率層440は屈折率nlの材料からなり、一方で高屈折率層430は屈折率nh の材料からなり、nl <nh である。交互の低屈折率層と高屈折率層とは、交互の1/4波長厚みλ/4nlとλ/4nh とをそれぞれ有する。ミラーは、実際の動作波長に対してではなく、平坦な場合に対して最適化されている。
当該技術分野において良く知られているように、好適なDBRミラーを作製するために多くの材料系を用いることができる。好ましくは、DBRミラーを構成するためにGaAs/AlAs材料系を用いる。すなわち高屈折率材料430はGaAsであり、低屈折率材料440はAlAsである。と言うのは、この材料系によって、高いQファクタと小さなモード体積とが、少ない数のミラー対を用いて得られるからである。この場合、低屈折率および高屈折率領域の屈折率は、AlAsおよびGaAsに対応して、それぞれnl =2.94およびnh =3.57である。たとえば、波長λ=999.6nmでは、GaAsおよびAlAsミラー層430および440の厚さは、平坦なキャビティ内の1/4波長積層物に対応して、それぞれ70nmおよび85nmである。上部および下部のミラー対の数は、たとえば、それぞれ15および30であっても良い。本発明の他の実施形態においては、他の種々の材料系を用いても良い。たとえば、DBRミラーおよびサブスペーサに用いる高屈折率材料はGaAsであっても良く、一方でミラーおよびスペーサに用いる低屈折率材料はAlx Ga1-x As(0<x<1)である(これには、x=1のときの特別な場合として、AlAsが含まれる。通常はx>0.9)。活性層(量子ドットまたは量子井戸)は、GaAs中に埋め込まれたIny Ga1-y As(0<y<1)からなっていても良い。他の実施形態においては、DBRミラーおよびサブスペーサに対する高屈折率材料は、この場合もやはりGaAsであっても良く、一方でミラーおよびスペーサに用いる低屈折率材料はAlOx (酸化アルミニウム)である。活性層は、GaAs中に埋め込まれたIny Ga1-y As(0<y<1)であっても良い。さらに他の材料系では、DBRミラーおよびサブスペーサに用いる高屈折率材料は、この場合もやはりGaAsであり、一方でミラーおよびスペーサに用いる低屈折率材料は、Alx Ga1-x As(0<x<1)である(これには、x=1のときの特別な場合として、AlAsが含まれる。通常はx>0.9)。この場合の活性層は、GaAs中に埋め込まれたInx Ga1-x Asy N1-y 量子井戸(0<x<1、0<y<1)であっても良い。これらの材料系は、通常約900nm〜1000nmの波長での放射が、または1300nm〜1550nmの波長(電気通信の用途の場合)での放射が得られるように、部分的に選択しても良い。
好ましくはサブスペーサの厚みは、1/4波長λ/(4nh )の0.57〜0.86である。好ましくはスペーサの厚みは、約1/2波長であり、ここでの説明では、0.4λ/nl 〜0.6λ/nl となるように規定する。より好ましくはスペーサは、1/2波長よりもわずかに薄く、最も好ましくはスペーサ厚みは、0.44λ/nl である。この厚みは、λ/4nl +λ/4nh にほぼ等しく、すなわち1つのDBRミラー対の厚みに等しい(ここでの発明者らの例では、DBRミラー対の厚みは70+85=155nmであり、最適な低屈折率スペーサ厚みは150nmである)。
上部および下部のミラー用に用いられるミラー対の数は、標準的なVCSEL設計の場合と同様に選択される。下部のミラー対の方が数が多いため、光は上部に出て行く(すなわちレーザが上部に放射される)。非対称性(asymmetry)がまったくなかったら、光は、上部および下部で等しく放射することになり、望ましくない。良好な結果が得られる典型的な数は、15および30層である。当業者であれば、他の数を用いても良いことが理解される。
スペーサ400は、屈折率nl の低屈折率材料とその中心に含まれる屈折率nhの高屈折率材料のサブスペーサ層470とから形成される。スペーサは、ほぼ半波長の厚みsL =λ/2nl (たとえば、半波長よりもわずかに小さい最適な値)であり、サブスペーサ層は厚みがsH <λ/4nh である。スペーサの全厚みがλ/2nl であり、高屈折率サブスペーサの厚みはλ/4nh を下回るので、スペーサの2つの低屈折率層の全厚みは少なくともλ/2nl −λ/4nh である。サブスペーサを中心に配置すれば、2つの低屈折率層は厚みが等しくなって、この全厚みの半分であるか、または少なくとも(λ/2nl −λ/4nh )/2=λ/4nl −λ/8nh である。GaAs/AlAs材料系を用いた場合には、サブスペーサ層470はGaAsからなり、スペーサの残りの部分はAlAsからなる。スペーサの中心にサブスペーサ層を設けたものは、次のようにして作製しても良い。すなわち、低屈折率材料の第1の部分を堆積させ、高屈折率材料のサブスペーサ層を堆積させ、そして低屈折率材料の第2の部分を堆積させる。GaAsサブスペーサ層中には、活性領域480が埋め込まれており、それはたとえばInAsもしくはInGaAs量子ドットもしくは量子井戸であり、またはInGaAsN量子井戸である。活性領域(たとえば量子ドットまたは量子井戸を含む)を、高屈折率サブスペーサ層内に配置する。活性層はたとえば、単一層量子ドット、単一量子井戸、または多重量子井戸を含んでいても良い。
従来のマイクロポストおよびVCSELを作製するために用いられる標準的な手順を用いて、本発明のデバイスを作製しても良い。たとえば、同じ分子線エピタキシ(MBE)プロセスを用いて、全体の構造を垂直な方向に成長させても良い(DBRミラー層、スペーサ下部、サブスペーサ下部、活性領域、サブスペーサ上部、スペーサ上部、DBRミラー層)。こうすることによって、平坦なマイクロキャビティ構造が得られる。このような構造の表面上で行うリソグラフィ・プロセスを用いて、有限な直径のポストの位置とその断面を規定する(すなわちエッチング・マスクを規定する)。次にすでに規定したエッチング・マスクを用いて、ドライ・エッチングによってポストを作製する。当該技術分野において良く知られているように、電気的に励起(ポンピング)される構造の場合には、コンタクトを規定するために追加の作製ステップが必要となる。
マイクロポストの直径は、ミクロンの何分の1〜数ミクロンとすることができる。シングル・フォトン源の場合、主として関心があるのは、より小さな直径であり、0.4μm〜0.5μmである。VCSELは通常、より大きな直径で作製されるが、より小さな直径で作製することもできる。
マイクロポスト・マイクロキャビティ・デバイスは、その垂直軸の周りに回転対称であっても良いし、または別個の回転もしくは鏡映対称性を有していても良い(たとえば、四角形または楕円形の断面を有していても良い)。光の閉じ込めは、長手方向(図4aの垂直軸に沿って)の分布ブラッグ反射(DBR)と、横方向(図4aの水平軸に沿って)の全内部反射(TIR)とを組み合わせた作用によって実現される。
図4bは、図4aのマイクロポスト・マイクロキャビティの長さに沿っての屈折率および関連する電界強度を示すグラフである。高屈折率サブスペーサ層480は厚みが1/4波長を下回るため、デバイス内の電界強度は、まるでスペーサ450が完全に低屈折率材料からなるように振舞う。その結果、電界強度は、半波長厚みのスペーサ450の中心において最大460となり、高屈折率サブスペーサ480内で最大が生じる。したがってこのデバイスでは、モード体積が小さく、高屈折率領域内で電界強度が最大になる。
本発明により作製されるデバイスが享受する利点を例示するために、一例として、動作波長λop=880nmのGaAsおよびAlAsミラー層(厚みが70nmおよび85nm)を有し、ポスト直径D=0.4μmである円筒型マイクロポスト・マイクロキャビティを考える(ポスト直径が0.4μmと有限であるために動作波長はブルー・シフトする、すなわち直径が無限である構造の動作波長、すなわち約1000nmのλから小さくなる)。図1aに示す従来のデバイスでは、Q/V比は、高屈折率スペーサ100の厚みが一光学波長(λ/nh =280nm)に正確に等しいときに、最大になる。このパラメータの組の場合、10,000のQファクタとともに、高屈折率材料中の光波長の3乗の1.6倍のモード体積〔すなわちV=1.6(λ/nh )3 〕を、実現することができる。対照的に今度は、図4aに示すような、本発明の原理によって設計されるデバイスを考える。この場合の高屈折率スペーサ層470は、厚みが70nmを下回り、厚みが半波長150nmをわずかに下回る低屈折率スペーサ層400の中心に配置されている。このデバイスでは、2倍を超えるQ/V値の増加が、同じマイクロポスト直径(D=0.4μm)および同じ数のミラー対に対して得られる(構造的構成のために、上部のミラー対の数は今度は15.5に等しい。これは最終の最上部層がGaAsだからである)。新しい設計の結果、20,000もの高さのQファクタとともに、1.5(λ/nh )3 のモード体積を得ることができる。モード体積の減少はキャビティ・サイズの減少(1波長から半波長へ)の結果であり、一方でQファクタの増加は、より良好なモード閉じ込め(主に横方向での)に由来するものである。新しいキャビティの設計では、ディフェクト・モードが、誘電体バンドからバンド・ギャップ内へ引き入れられ、それによって、より多くの電界エネルギーが高屈折率領域に集中される、これは、モードがエアー・バンドからバンド・ギャップ内に引き入れられる一波長キャビティとは反対である。この結果、横方向への閉じ込めがより良好になる。
さらに、新しい設計は頑強であり、GaAsサブスペーサの厚みの小さな変化には影響されない。たとえば、前述の説明を例として用いると、高屈折率サブスペーサの厚みが40nmから60nmへ増加しても、Qファクタは著しくは低下しない。電界がその最大値に到達するのは、活性層を配置することができるGaAsサブスペーサの中心においてである。
本発明のマイクロキャビティには、多くの有用な用途がある。改善されたマイクロキャビティを従来のマイクロキャビティの代わりに用いて、性能を向上させても良い。また改善されたマイクロキャビティを、従来のマイクロキャビティでは不適当であることが分かっていた用途に用いても良い。本発明のデバイスを用いて、シングル・フォトン源、単一ドット・レーザ、または単一量子ドットとキャビティ電界との間の強結合用のデバイス(光集積回路、量子コンピュータ、量子ネットワーク、または量子暗号システムの部品として用いることができる)を構成しても良い。本発明のデバイスは、VCSELタイプ・レーザを形成することにも有用である。このような新しいVCSELは、図4aに示したのと同じDBRマイクロポスト・タイプの構造を有する。従来のVCSELは通常、一波長厚みの高屈折率スペーサ領域と、その中心に埋め込まれた量子井戸とを有する。たとえば980nmで放射するVCSELは従来、InGaAs量子井戸を一波長厚みの高屈折率GaAsスペーサ内へ埋め込むことによって作製され、スペーサ自体は、従来のマイクロポストの設計の場合と同様にGaAsミラーとAlAsミラーとの間に挟み込まれている。同様に、1300nm〜1550nmで放射するVCSELは従来、InGaAsN量子井戸を一波長厚みの高屈折率GaAsスペーサ内へ埋め込むことによって作製され、スペーサ自体は、従来のマイクロポストの設計の場合と同様にGaAsミラーとAlAsミラーとの間に挟み込まれている。本発明の新しいキャビティの設計を用いて、これらの従来のVCSELの何れも改善することができ、それらの閾値を下げる。Qファクタが増加し、同時にモード体積が減少するために、電界と活性領域(この場合は量子井戸)との間に存在する相互作用がより強くなる。