JP2005504520A - 治療用核酸の標的化発現の方法 - Google Patents
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Abstract
腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された治療用核酸を含む発現ベクターが提供される。その治療用核酸は、好ましくは、治療、例えば癌の治療のための治療用タンパク質をコードする遺伝子を含む。ここに記載される発現ベクターを利用した、治療用核酸の標的化発現の方法、及び癌を治療する方法も、提供される。ここに記載される発現ベクターにより形質転換された宿主細胞も提供される。
Description
【背景技術】
【0001】
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)により授与されたグラント番号R41 CA 77938-01の下に政府の支援により成された。政府は、本発明における一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、それぞれ2001年6月13日及び2002年3月1日出願の米国仮特許出願第60/297,831号及び第60/361,137号(いずれも、参照として完全に本明細書に組み込まれる)に基づく優先権を主張するものである。
【0003】
発明の背景
本発明は、一般に、治療用核酸の腫瘍及び/又は細胞型に標的化した発現のために使用され得る発現ベクターに関する。より具体的には、Tcf-4/β-カテニン転写エンハンサーと、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター・エレメントと、治療用核酸とを含む治療用核酸の標的化発現のための発現ベクターが、提供される。
【0004】
癌遺伝子治療戦略は、現行の腫瘍細胞への治療薬ターゲティングを改良し、所望の治療コースの制御的調節を増加させる可能性をもたらす。癌発生初期の治療工程において介入するための遺伝子を使用することにより、腫瘍に対する基本的な表現型を変化させ得る[Gomez-Navarro,J.ら(1999)Eur.J.Cancer,6,867-885]。全ての癌治療と同様に、そして特に転移性疾患に関して、重要な効率決定因子は、治療が、非腫瘍細胞の一般的毒性と比較して腫瘍細胞に対してどの程度特異的であるか、ということである。遺伝子治療の場合、これは、ベクターの腫瘍特異的ターゲティングにより、そして遺伝子の発現を腫瘍細胞にのみ特異的に制限することにより達成され得る。この後者のアプローチは、腫瘍特異的制御エレメントから治療用遺伝子を発現させることにより達成され得、癌遺伝子治療研究の急速に拡大しつつある分野である[Gomez-Navarro,J.ら(1999)Eur.J.Cancer,6,867-885;及びNettlebeck,D.M.ら(2000)Trends Genet.,16,174-181]。様々な腺癌における治療用遺伝子の腫瘍特異的発現に関して特徴決定されているプロモーターのいくつかの代表例としては、癌胎児性抗原(CEA)[Osaki,T.ら(1994)Cancer Res.,54,5258-5261;Brand,K.ら(1998)Gene Ther.,5,1363-1371;及びCao,G.ら(1999)Gene Ther.,6,83-90]、ムチン-1(MUC1/DF3)[Chen,L.ら(1995)J.Clin.Invest.,96,2775-2782;及びStackhouse,M.A.ら(1999)Cancer Gene Ther.,6,209-219]、並びにerbB2[Stackhouse,M.A.ら(1999)Cancer Gene Ther.,6,209-219;及びRing,C.J.ら(1996)Gene Ther.,3,1094-1103]が含まれる。一般に、これらの型の腫瘍特異的プロモーターは、単独では、基礎となる遺伝学的欠陥が標的腫瘍型において存在しないか又は不定である場合、活性及び特異性が欠如するという欠点を有し得る[Nettlebeck,D.M.ら(2000)Trends Genet.,16,174-181]。治療、例えば癌の治療のための治療用核酸の標的発現のための方法が、必要とされている。本発明は、この必要性に対処するものである。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
ベクターにおける選択されたエンハンサー配列の使用が、治療用核酸の腫瘍特異的及び/又は細胞型特異的な発現を指図するために利用され得ることが発見された。従って、例えば、癌を含む様々な疾患又は障害の治療法において有利に利用され得る、治療用核酸の標的化発現のための発現ベクターが提供される。
【0006】
一つの形態において、発現ベクターは、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された治療用核酸を含む。
【0007】
本発明のもう一つの面において、治療、例えば癌の治療のための治療用核酸の標的化発現のための方法が提供される。一つの態様において、方法は、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された核酸を含む治療用ベクターを、治療を必要とする哺乳動物へ投与することを含む。その予め選択された核酸は、好ましくは、治療用タンパク質をコードする遺伝子を含む。
【0008】
本発明のさらにもう一つの面において、例えば、所望のポリペプチド及びペプチドを含む所望の治療用タンパク質の産生において有益な宿主細胞が提供される。その細胞は、所望の治療用タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む。その遺伝子は、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結されている。好ましい腫瘍特異的プロモーターは、ヒトc-fosプロモーターである。
【0009】
本発明のさらにもう一つの面において、結腸癌のような上皮癌を含む癌を治療する方法が提供される。一つの態様において、方法は、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された核酸を含む治療用ベクターを、治療を必要とする哺乳動物へ投与することを含む。一つの形態において、その予め選択された核酸は、タンパク質をコードする遺伝子を含み、その方法は、そのタンパク質により活性化されて哺乳動物腫瘍細胞にとって毒性の産物となるプロドラッグを投与することをさらに含む。
【0010】
癌の治療のための治療用核酸の標的化発現の方法を提供することが、本発明の目的である。
【0011】
癌の治療又は所望のタンパク質の提供において使用するための発現ベクターを提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0012】
癌を治療する方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0013】
これら及びその他の本発明の目的及び利点は、本明細書の記載より明らかとなろう。
【0014】
好ましい態様の説明
本発明の原理の理解を促進する目的のために、好ましい態様について以下に言及し、それを記載するために特別な用語を使用するが、それらは、本発明の範囲を制限するためのものではなく、本発明が関係する分野の当業者に通常想到されるであろう、本明細書に例示されたような本発明の改変及びさらなる修飾、並びに本発明の原理のさらなる適用が企図されることが理解されよう。
【0015】
本発明は、例えば、所望の又は予め選択された治療用核酸の腫瘍及び/又は細胞型特異的な発現のため、有利に使用され得る発現ベクターに関する。本発明は、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーとの結合を通したTcf-4/β-カテニン複合体による遺伝子転写をアップレギュレートする、結腸癌及びその他の上皮癌を含む様々な癌におけるβ-カテニンの蓄積を活用する。本発明の発明者らは、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター、及び好ましくは所望の治療用タンパク質をコードする所望の治療用核酸に機能的に連結されたTcf-4/β-カテニン・エンハンサーを含むベクターが、核酸の腫瘍特異的又は細胞型特異的な発現を可能にすることを決定した。この発現の特異性によって、そのような治療を必要とする患者への治療用核酸の投与は、より柔軟性の高いものとなる。例えば、非腫瘍細胞又は非腫瘍組織などにおける治療用核酸の発現の懸念が最小限に抑えられるため、より高いベクター用量が送達され得る。哺乳動物における治療、例えば癌の治療のための治療用核酸の腫瘍及び/又は細胞特異的な発現の方法、並びに上皮癌のような癌を治療する方法も、提供される。所望のポリペプチドを産生する細胞系も、本発明において提供される。
【0016】
本発明の一つの面において、哺乳動物における所望の治療用核酸を発現するための発現ベクターが提供される。ベクターとは、本明細書において使用されるように、そして当技術分野において既知であるように、標的とされた細胞の形質転換を指図するよう設計された遺伝材料を含む構築物をさす。ベクターは、核酸カセット内の核酸がトランスフェクトされた細胞において転写され、所望の場合には翻訳され得るよう、他の必要な又は所望のエレメントに位置的かつ配列的に適応させられた、即ち機能的に連結された複数の遺伝エレメントを含有し得る。
【0017】
一つの形態において、発現ベクターは、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター、及び好ましくは少なくとも1個のTcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列に機能的に連結されたヌクレオチド配列を含む、所望の又は予め選択された治療用核酸を含む。本明細書において定義されるように、ヌクレオチド配列は、もう一つのヌクレオチド配列と機能的な関係に置かれている場合、もう一つのヌクレオチド配列に「機能的に連結」されている。例えば、コーディング配列がプロモーター配列に機能的に連結されている場合、これは、一般に、プロモーターがコーディング配列の転写を促進し得ることを意味する。機能的に連結された、とは、DNA配列が連結され、典型的には連続していること、そして2個のタンパク質コーディング領域を接続する必要がある場合には、連続しており、かつリーディング・フレーム内にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、数キロ塩基、プロモーターから隔離されていても機能する場合があり、イントロン配列は様々な長さであり得るため、ヌクレオチド配列は、機能的に連結されているが、連続していないという場合もあり得る。さらに、本明細書において定義されるように、ヌクレオチド配列とは、ヌクレオチド及び/又はヌクレオシド並びにそれらの誘導体の天然又は合成の直鎖状の連続的なアレイをさすものとする。「をコードする」及び「コーディング」という用語は、ヌクレオチド配列が、転写及び翻訳のメカニズムを通して、ポリペプチドを生成するよう一連のアミノ酸が特定のアミノ酸配列へと組み立てられるための情報を細胞に提供する過程をさす。
【0018】
本発明の好ましい形態において、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーは、配列番号:1に示されるようなヌクレオチド配列(5'AWCAAWGN3'[ここで、WはA又はT/Uであり、かつNはA、G、C、又はT、好ましくはGである])を有する。さらに、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーは、配列番号:2に示される配列番号:1の相補鎖も含む。配列番号:1に示されるエンハンサー配列は、5'→3'の方向で、配列番号:2に示されるその相補鎖と会合して、ベクター内に位置し得る。又は、配列番号:2に示されるエンハンサー配列が、5'→3'の方向で、配列番号:1に示されるその相補鎖と会合して、ベクター内に位置していてもよい。ベクターは、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列を、複数コピー、含んでいてもよい。例えば、ベクターは、約1個〜約20個のTcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列を含むことができ、好ましくは約3〜約4個の配列を含む。従って、ベクターは、配列番号:1又は配列番号:2に示されるようなヌクレオチド配列を、約1個、2個、3個、4個、又はそれ以上、含み得る。
【0019】
ベクター内に複数コピー存在する場合、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列は、少なくとも約7個のヌクレオチド、好ましくは約2〜約14個のヌクレオチドにより隔離される。本発明の好ましい形態において、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列は、配列番号:3及び配列番号:4に見られるような約7個のヌクレオチドにより隔離される。ベクターは、これらの16ヌクレオチド配列を約1〜約20個含むことができ、好ましくは約3〜4個含む。これらのスペーサー・ヌクレオチド配列は、エンハンサーを隔離するためのものであり、多様なヌクレオチド配列より選択され得る。好ましいスペーサー・ヌクレオチド配列は、配列番号:5のヌクレオチド35〜ヌクレオチド41に示されている。スペーサー・ヌクレオチド配列は、典型的には、腫瘍特異的及び/又は細胞特異的な遺伝子発現を実質的に妨害しないよう選択される。「実質的に妨害する」とは、本明細書において、核酸転写物産生が、配列番号:5のヌクレオチド35〜ヌクレオチド41に示されたスペーサー・ヌクレオチド配列を利用した転写物産生と比較して、約25%超、好ましくは約10%超、さらに好ましくは約2%超、低下しないであろうことを意味する。好ましいベクターは、前述のTcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列、本明細書に記載されるようなプロモーター、5'mRNAリーダー配列、翻訳開始部位、発現させるべき所望の配列を含む核酸カセット、3'非翻訳領域、及びポリアデニル化シグナルを含む。一つのさらなる例として、ベクターは、配列番号:5(ヌクレオチド27〜ヌクレオチド79に相当するTcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列の4個のリピート、ヌクレオチド98〜ヌクレオチド276に相当するc-fosプロモーター、ヌクレオチド277〜ヌクレオチド304の非特異的クローニング・アーティファクト配列、及びヌクレオチド305〜307に相当するATG開始部位を含む)、又は配列番号:6(ヌクレオチド27〜79に相当するTcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列の4個のリピート、ヌクレオチド98〜179に相当するc-fosプロモーター、ヌクレオチド180〜191に相当する非特異的クローニング・アーティファクト配列、及びヌクレオチド192〜ヌクレオチド194に相当するATG開始部位を含む)に示されたヌクレオチド配列を含み得る。
【0020】
組換え発現ベクターは、当業者に周知の方法に従い、例えばManiatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Springs Harbor Laboratory,Cold Springs Harbor,New York(1982)に記載されているようにして、前述のヌクレオチド配列をベクターに組み込むことにより構築され得る。分子生物学及び組み換えDNA技術を記載しているその他の参照は、例えばDNA Cloning:A Practical Approach、第I及びII巻(D.N.Glover編 1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編 1984);Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames&S.J.Higgins編(1985));Transcription and Translation(B.D.Hames&S.J.Higgins編(1984));Animal Cell Culture(R.I.Freshney編(1986));Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,(1986));及びB.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);並びに定期的に周期的に改訂されているCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編)、John Wiley&Sonsにおいてもさらに説明されている。本発明において有益である多様なベクターが既知である。適当なベクターには、プラスミド・ベクター、レトロウイルス・ベクター、アデノウイルス・ベクター、アデノ随伴ウイルス・ベクター、及びヘルペスウイルス・ベクターが含まれる。ベクターは、予め選択された核酸配列の効率的な発現にとって必要な又は望ましいその他の既知の遺伝エレメントを含んでいてもよい。
【0021】
配列番号:1又は配列番号:2に示されたTcf-4/β-カテニン・エンハンサー・ヌクレオチド配列は、さらに修飾され、所望の遺伝子の転写を効果的に促進するエンハンサーをもたらし得ることが理解される。所望の遺伝子からの転写を促進するよう機能し、本発明において有益であり得る、配列番号:1又は2に由来するその他のエンハンサー配列を決定するため、標準的手法が利用され得る。本発明は、本明細書に記載されるような所望の又は予め選択されたヌクレオチド配列の転写を促進し、かつ/又は増強するよう機能する、配列番号:1又は配列番号:2に示されたヌクレオチド配列との、少なくとも約60%の同一性、好ましくは少なくとも約70%の同一性、より好ましくは少なくとも約80%の同一性、さらに好ましくは少なくとも約90%の同一性を有する、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー・ヌクレオチド配列を包含する。同一率は、例えば、国立衛生研究所(National Institutes of Health)より入手可能なアドバンスド(advanced)BLASTコンピュータ・プログラム、バージョン2.0.8を使用して、配列情報を比較することにより決定され得る。BLASTプログラムは、Karlin及びAltschul、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-2268(1990)のアラインメント法に基づいており、Altschulら、J.Mol.Biol.215:403-410(1990);Karlin及びAltschul、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877(1993);並びにAltschulら、Nucleic Acids Res.25:3389-3402(1997)において考察されている。
【0022】
さらに、配列番号:1及び/又は配列番号:2に示された配列との実質的な類似性を有するTcf-4/β-カテニン・エンハンサー・ヌクレオチド配列が、提供される。「実質的な類似性」とは、本明細書において、ヌクレオチド配列が、中程度にストリンジェントな条件の下で参照ヌクレオチド配列とハイブリダイズするのに十分な程度に参照ヌクレオチド配列と類似していることを意味する。この類似性を決定する方法は、本発明が関係する技術分野において周知である。簡単に説明すると、中程度にストリンジェントな条件は、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、第1巻、101〜104頁、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)において定義されており、例えば、5×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム溶液)、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1.0mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(pH 8.0)の予備洗浄溶液の使用、並びに55℃、5×SSCというハイブリダイゼーション及び洗浄の条件を含む。Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー・ヌクレオチド配列のさらなる要件は、予め選択された治療用遺伝子をコードする本明細書のヌクレオチド配列のような、予め選択されたヌクレオチド配列の転写を増強することである。
【0023】
Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーは、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーターに機能的に連結される。「腫瘍特異的な」とは、本明細書において、プロモーターが、好ましくは腫瘍細胞において活性であり、従って正常細胞及び/又は正常組織(即ち、非腫瘍細胞及び/又は非腫瘍組織)に存在する場合には、機能的に連結されたヌクレオチド配列の転写を有意な量、促進しない、又は「サイレント(silent)」であることを意味する。そのような正常細胞は、例えば、特異的な正常細胞型の指標となる細胞表面マーカーを有することを特徴とし、軟寒天内を移動しない。しかしながら、腫瘍特異的プロモーターは、それらがサイレントである組織において、検出可能な量の「バックグラウンド」活性を有していてもよいことが理解されよう。プロモーターが標的組織において選択的に活性化される程度は、選択比(selectivity ratio)(標的組織における活性/対照組織における活性)として表され得る。これに関して、本発明の実施において有用な腫瘍特異的プロモーターは、典型的には、状況に応じて約2〜約1000、又はそれ以上の選択比を有する。好ましい選択比は、少なくとも約2であり、好ましくは少なくとも約10、さらに好ましくは少なくとも約50、より好ましくは少なくとも約100、さらに好ましくは少なくとも約500である。腫瘍特異的プロモーターは、正常細胞及び/又は正常組織において機能的に連結されたヌクレオチド配列の転写を全く促進しないことが、より好ましい。
【0024】
「細胞型特異的な」とは、本明細書において、プロモーターが、好ましくは特定の組織を形成するある細胞型(例えば、前立腺細胞)においてのみ活性であり、従って異なる細胞型(例えば、乳房細胞)に存在する場合には、機能的に連結されたヌクレオチド配列の転写を有意な量、促進しない、又は「サイレント」であることを意味する。細胞型特異的プロモーターは、その特定の細胞型以外の細胞型において機能的に連結されたヌクレオチド配列の転写を全く促進しないことが、より好ましい。多様なそのような腫瘍特異的及び細胞型特異的なプロモーターが選択され得る。例示的な腫瘍特異的プロモーターには、例えば、c-fos及びv-fosを含むfosプロモーター;サイクリンDプロモーター、cox-2プロモーター、c-myc及びv-mycを含むmycプロモーター、HER2/neuプロモーター又は癌胎児性抗原(CEA)プロモーターのような乳癌特異的プロモーター;癌胎児性抗原プロモーターのような肝細胞癌特異的プロモーター;並びにムチン-1(MUC1/DF3)プロモーター及びerbB2プロモーターのような腺癌特異的プロモーターが含まれる。例示的な細胞型特異的プロモーターには、例えばホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ・プロモーター及びアルブミン・プロモーターのような肝臓特異的プロモーター;IgGプロモーターのようなB細胞特異的プロモーター;エラスターゼ・プロモーターのような膵腺房細胞特異的プロモーターが含まれる。その他の腫瘍特異的及び細胞型特異的なプロモーターが、当業者により選択されてもよく、それらは、例えば米国特許第5,997,859号にさらに記載されている。
【0025】
ベクターは、所望の又は予め選択された治療用核酸を含む。本明細書において定義されるように、治療用核酸とは、発現させられた場合に、腫瘍の増殖及び/又は転移に対し負の効果を及ぼすであろう産物を産生するヌクレオチド配列を含むものである。その産物は、リボ核酸(RNA)、もしくはペプチド及びポリペプチドを含むタンパク質、又はそれらの組み合わせであり得る。本発明の好ましい形態において、治療用ヌクレオチド配列の発現産物は、腫瘍細胞を死滅させることを可能にするであろう。発現産物は腫瘍細胞に対し負の効果を及ぼすよう直接的に作用してもよいし、又はもう一つの薬剤を通して間接的に作用してもよい。例えば、予め選択された治療用ヌクレオチド配列は、プロドラッグのような基質を、腫瘍細胞死をもたらすか、又は増殖及び/もしくは転移に関して腫瘍に対し負の効果を及ぼすであろう活性型の薬物へと活性化することにより間接的に作用するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。本明細書において使用されるように、「プロドラッグ」という用語は、腫瘍細胞にとって毒性の(即ち、増殖及び/又は転移に対し負の効果を及ぼし、好ましくは腫瘍細胞死をもたらす)産物へと変換され得る、本発明の方法において有用な任意の化合物を意味する。プロドラッグは、本発明の方法において有用なベクター内の治療用核酸配列の遺伝子産物により、毒性産物へと変換される。そのようなプロドラッグの代表例には、HSV-チミジンキナーゼによりインビボで毒性化合物へと変換されるガンシクロビルが含まれる。プロドラッグのその他の代表例には、アシクロビル、1-(2-デオキシ-2-フルオロ-β-D-アラビノフラノシル)-5-ヨードウラシル(FIAU)、6-メトキシプリン・アラビノシド、及び5-フルオロシトシンが含まれる。例示的な治療用遺伝子には、単純ヘルペスウイルス・チミジンキナーゼ(例えばガンシクロビルを活性化する)、水痘帯状疱疹ウイルス・チミジンキナーゼ(例えば6-メトキシプリン・アラビノシドを活性化する)、及びシトシン・デアミナーゼ(5-フルオロシトシンを活性化する)をコードするものが含まれる。
【0026】
又は、予め選択された治療用核酸は、発癌過程に関与する遺伝子の転写及び/又は翻訳を直接的に防止し得るアンチセンス核酸配列をコードするものであってもよい。アンチセンス核酸は、例えば、癌遺伝子の転写を防止するために癌遺伝子の転写調節領域と結合するよう設計され得る。そのような癌遺伝子及びそれらのヌクレオチド配列の多くは、当技術分野において既知であり、例えばRas、Myc、Abl、Rel、Her-2、Raf、Fms、Fos、Jun、p53、及びSisを含む。そのような癌遺伝子は、例えば、改変型の増殖因子、受容体チロシンキナーゼ、膜会合非受容体チロシンキナーゼ、膜会合Gタンパク質、セリン/トレオニンキナーゼ、又は転写因子をコードする。アンチセンス・ヌクレオチド配列は、少なくとも約20ヌクレオチドの長さを有し得るが、約20〜約1000ヌクレオチド長の範囲であってもよく、又は遺伝子標的の全長であってもよい。当業者であれば、当技術分野において既知の、例えばMethods in Enzymology,Antisense Technology、パートA及びB(第313及び314巻)(M. Phillips編)、Academic Press(1999)に記載されたような標準的な手法により、容易に、適切な標的を選択し、所望の治療効果を得るためのアンチセンス核酸の適切な長さを選択することができる。
【0027】
本発明のさらに他の形態において、治療用核酸は、それ自体が特定の細胞にとって毒性であり、従って腫瘍細胞に対し負の効果を及ぼすよう直接的に作用するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。例えば、このカテゴリーの例示的な遺伝子には、ジフテリア毒素、リシン、シュードモナス外毒素、又はジフテリア毒素A鎖及びリシンA鎖を含む哺乳動物細胞にとって毒性のそれらの一部をコードするものが含まれる。そのような遺伝子、又は本発明において使用するのに適している他の遺伝子は、米国特許第6,057,299号にさらに具体的に記載されている。当技術分野において既知のその他の細菌又はその他の微生物の毒素も、利用され得る。
【0028】
本発明のさらに他の形態において、以下により完全に記載されるように、予め選択された治療用核酸は、哺乳動物にとっての他の何らかの利益を有するタンパク質産物をコードしてもよい。
【0029】
本発明のさらにもう一つの面において、有利には細胞系を形成し得る宿主細胞も、本明細書に提供される。その細胞は、前記のようなベクターを含む。そのようなベクターは、発現ベクターを含有し、目的のポリペプチドを産生するであろう細胞系を生成させるために、細胞培養物中の細胞をトランスフェクトするために利用され得る。本明細書に記載されるような細胞系において発現させられる場合、ベクターは、好ましくは、哺乳動物に何らかの利点を提供することができる治療用タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。例えば、そのタンパク質は、哺乳動物においてもはや産生されないもの、機能を発揮するために有効な十分な量で産生されないもの、又はもはや機能しないか、もしくは意図された機能にとって部分的にのみ活性であるよう変異もしくは改変させられたものであり得る。本明細書に記載された細胞系において有利に産生され得るタンパク質の例には、成長ホルモン、インスリン、アデノシンデアミナーゼ、サイトカイン、増殖因子、嚢胞性繊維症膜コンダクタンス制御因子(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)、及び低密度リポタンパク質受容体、又は例えば比較的高い収量で産生されることが望まれるその他の所望の産物が含まれる。さらに、好ましいベクターは、当技術分野において既知の選択可能マーカーをコードするもののような、その他のヌクレオチド配列を含むものである。例えば、選択可能マーカーには、ブレオマイシン、アデノシンデアミナーゼ、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ、又は当技術分野において既知のその他の哺乳動物選択可能マーカーをコードする遺伝子が含まれる。
【0030】
多様な細胞系が、そのベクターによりトランスフェクトされ得る。好ましい細胞系は、哺乳動物細胞系、好ましくはヒト細胞系である。好ましい細胞系は、例えば、所望のタンパク質又はその他の発現産物の転写を増強するための本明細書に記載されたエンハンサー配列との結合のために利用可能なTcf-4/B-カテニン複合体を高レベルに含むものである。例示的な細胞系には、HT-29、WiDr、SW620、SW480、HCT-8、Colo205、及びHCT-116のようなヒト結腸腫瘍細胞系が含まれる。
【0031】
本明細書に記載された細胞系から後に単離され得る特定のタンパク質を作製することが望まれる場合、ベクターは、本明細書に記載された細胞系において発現させられ得る所望のタンパク質の精製を支援し得るタンパク質をコードするもう一つのヌクレオチド配列インサートをさらに含んでいてもよい。融合タンパク質又はキメラ・タンパク質が得られるよう、付加的なヌクレオチド配列がベクター内に位置していてもよい。例えば、所望のタンパク質は、当技術分野において既知のように、他のタンパク質に接続されたリンカー・アミノ酸をC末端に有するよう作製され得る。付加的なヌクレオチド配列には、例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)をコードするヌクレオチド配列が含まれ得る。当業者に既知の精製法を実施した後、付加的なアミノ酸配列は、適切な酵素により切断され得る。例えば、付加的なアミノ酸配列がGSTのものである場合には、トロンビンが、GSTから所望のタンパク質を分離するために使用され得る。次いで、所望のタンパク質は、当技術分野において既知の方法により、他のタンパク質又はそれらの断片から単離され得る。
【0032】
本発明のさらにもう一つの面において、癌を治療する方法も提供される。一つの形態において、方法は、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4/β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された治療用核酸配列を含むベクターを、治療を必要とする哺乳動物へ投与することを含む。次いで、予め選択された治療用遺伝子のような所望の治療用ヌクレオチド配列は、特定の癌を治療するための発現産物が形成されるよう発現させられ得る。好ましい発現産物及びベクターは、本明細書に詳細に記載された。その治療は、腫瘍のサイズ、増殖、及び/又は転移を減少させ、好ましくは腫瘍を死滅させ得る。その方法は、例えば形成異常、前癌状態、及び癌を治療するために使用され得る。当技術分野において既知のように、癌という用語は、多様な細胞型に影響を与える疾患をさす。その疾患は、腫瘍の形態をとるかもしれない、細胞及び/又は組織の異常な増殖を特徴とする。癌細胞の特性は、当業者に周知であり、接触阻止の消失、侵入性、及び転移能の呈示を含む。
【0033】
多様な腫瘍が、本発明の方法に従い治療され得る。例示的な腫瘍は、例えば上皮癌及び腺癌を含む癌から発生したものである。そのような癌は、例えば結腸、前立腺、乳房、卵巣、食道、及び胃より選択された器官(それらに由来する組織及び細胞を含む)に影響を与え得る。
【0034】
ベクターは、多様な手段で哺乳動物へ投与され得る。一つの形態において、ベクターは、例えば目的の腫瘍への直接注射によりインビボ投与され得る。もう一つの形態において、ベクターは、エクスビボ戦略を使用して投与されてもよい。影響を受けた哺乳動物組織が、滅菌状態の下で採集され、培養され、多様な既知の方法によりベクターによりトランスフェクトされ得る。そのような方法は、当技術分野において既知であり、機械法、化学法、親油法、及び電気穿孔を含む。例示的な機械法には、例えば、マイクロインジェクション、及び例えば導入すべきDNAのための金粒子基質を含む遺伝子銃の使用が含まれる。例示的な化学法には、例えばリン酸カルシウム又はDEAE-デキストランの使用が含まれる。例示的な親油法には、脂質媒介トランスフェクションのためのリポソーム及びその他の陽イオン性薬剤の使用が含まれる。そのような方法は、当技術分野において周知であり、そのような方法の多くは、例えばGene Transfer Methods:Introducing DNA into Living Cells and Organisms(Norton及びSteel編)、Biotechniques Press(2000);及び定期的に周期的に改訂されているCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編)、John Wiley&Sonsに記載されている。
【0035】
ベクターは、腫瘍細胞のような所望の又は標的とされた細胞における治療用遺伝子の発現を可能にするのに十分な量、哺乳動物に投与される。この量は、治療用遺伝子の性質、ベクターの性質、疾患の程度及び性質、並びに細胞型に依って異なり、そのような量は、当業者により決定され得る。
【0036】
ベクターは、好ましくは、治療を必要とする哺乳動物へ投与される。多様な哺乳動物が、本発明の方法に従い治療され得る。例示的な哺乳動物には、ヒト、イヌ、ネコ、並びにウシ、ヒツジ、ヤギ、及びブタのような家畜、又はその他の所望の哺乳動物が含まれる。
【0037】
癌を治療する方法の好ましい形態において、治療用ヌクレオチド配列の転写を制御する転写制御薬剤を含む組成物が、前述の発現ベクターの投与に加えて投与され得る。その組成物は、予め選択されたヌクレオチド配列の転写活性化を増加又は減少させ得る転写制御薬剤を含み得る。ベクターが投与された後、そのような発現がいくつかの状況において望まれない場合には、予め選択されたヌクレオチド配列の転写活性化の減少が、発現の調節を可能にする。転写活性化を増加させる例示的な薬剤には、短鎖脂肪酸(それらの塩を含む);及びホルボールエステル、又はそれらの組み合わせが含まれる。「短鎖脂肪酸」とは、本明細書において、約12炭素原子以下、好ましくは約3〜約6炭素原子の炭素鎖長を有する脂肪酸を意味する。好ましい短鎖脂肪酸は、酪酸、好ましくは酪酸ナトリウムのようなそれらの塩である。転写活性化を減少させる例示的な薬剤には、ドキソルビシン、及びシス-レチノイン酸のようなレチノイドが含まれる。その薬剤は、ベクターの投与の前もしくは後に投与されてもよいし、又はベクターと共投与されてもよい。
【0038】
治療を必要とする哺乳動物は、好ましくは、希望通りに転写を制御する(例えば、増加又は減少させる)のに十分な量の転写制御薬剤を含む組成物により治療される。この量は、状況に依って異なり得る。例えば、結腸癌のような上皮癌を含む癌の治療において、利用される転写制御薬剤の量は、癌の性質及び程度、利用される治療用核酸の性質、並びに発現ベクターの性質に依存し得る。そのような量は、当業者により容易に決定され得る。
【0039】
本発明のさらにもう一つの面において、治療用核酸の標的化発現の方法が提供される。その方法は、有利には、治療用核酸の腫瘍特異的かつ/又は細胞特異的な発現を可能にする。一つの形態において、方法は、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4/β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された治療用核酸配列を含むベクターを、治療を必要とする哺乳動物へ投与することを含む。次いで、予め選択された遺伝子のような、予め選択されたヌクレオチド配列は、特定の疾患又はその他の障害を治療するための発現産物が形成されるよう発現させられ得る。発現産物及びベクターは、本明細書に詳細に記載された。
【0040】
前記のベクター、宿主細胞、及び方法を例示する具体例を、以下に言及する。実施例は、好ましい態様を例示するために提供されるのであって、本発明の範囲を制限するものではないことを理解されたい。
【0041】
実施例
本発明に従い、結腸腫瘍及びその他の上皮腫瘍に対する増加した特異性を有する遺伝子転写制御エレメントの独特の組み合わせを、癌治療用遺伝子の発現に関して試験した。より具体的には、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー/c-fosプロモーター・ルシフェラーゼ・レポーター・カセット(「pTCF/fos-Luc」)を、正常組織、ポリープ組織、及び腫瘍組織に由来する一連の初代ヒト結腸細胞及び樹立ヒト結腸細胞において試験した。治療用遺伝子の発現を調査するため、同TCF/fosエレメントを、単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子と連結した。プロドラッグ、ガンシクロビル(GCV)と組み合わせられたHSV-TKは、種々の癌の治療のため多くの前臨床研究及び臨床研究において利用されている[Freeman,S.M.(1996)Sem.Oncol.,23,31-45]。このアプローチの理論は、GCVを選択的にリン酸化し、最終的には、DNAへのGCV取り込み、並びに細胞周期停止及び未だ特徴決定されていないアポトーシス経路を介した細胞死をもたらすことができるHSV-TKの能力に基づいている[Drake,R.R.ら(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-37192;及びHalloran,P.J.ら(1998)Cancer Res.,58,3855-3865]。インビボで、GCVにより媒介される細胞死滅は、腫瘍に対する一次炎症様免疫応答を開始させ、それは長期的な二次腫瘍免疫応答へと至ることができる[Freeman,S.M.(1996)Sem.Oncol.,23,31-45;Freeman,S.ら(1997)Lancet,349,2-3;及びMelcher,A.ら(1998)Nature Med.,4,581-587]。
【0042】
Tcf-4/β-カテニンによるHSV-TKの特異的発現を特徴決定するため、ヒトの腫瘍結腸組織又は正常結腸組織に由来する一連のヒト結腸細胞系を使用した[Moyer,M.P.ら(1996)In Vitro Cell.Devel.Biol.:Animal,32,315-317]。これらの細胞系を、ルシフェラーゼ・レポーター遺伝子活性に関してスクリーニングし、次いでサブセットをHSV-TK発現及びGCV細胞死滅に関して特徴決定した。
【0043】
実施例のための材料及び方法
細胞系
ヒト結腸腫瘍細胞系HT-29、WiDr、SW620、SW480、HCT-8、COLO205、及びHCT-116は、ATCCから入手した。NCM460(正常結腸粘膜)細胞系及びNCM425細胞系は、非疾患結腸を有する患者からインセル社(INCELL Corp.)(San Antonio,TX)により開発された。CSC-1(結腸陰窩幹細胞)細胞系は、除去されたヒト腺癌の切除縁近傍の非罹患結腸粘膜組織に由来した[Moyer,M.P.ら(1996)In Vitro Cell.Devel.Biol.:Animal,32,315-317;及びStauffer,J.S.ら(1995)Amer.Jour.of Surgery,169,190-196]。特記しない限り、全ての細胞系を、M3:10培地(INCELL Corp.から入手)で維持した。3人のポリープ患者(COP)、6人の腫瘍患者(HCC)、及び4人の正常患者(NCM)の細胞に由来する上皮細胞のパネル(同一患者に由来する2セットの正常−腫瘍対(NCM218/HCC195;NCM625/HCC451)を含む)を、凍結保存から取り出し、M3:20(INCELL)で維持した。
【0044】
Tcf4/β-カテニン・ルシフェラーゼ構築物及びトランスフェクション
ルシフェラーゼ・レポーター・プラスミドpTCF/fos-Luc及びpFCT/fos-Lucは、Dr.Mark van der Wetering[Korinek,V.ら(1997)Science,275,1784-1787]より譲り受けた。pTCF/fos-Luc構築物は、ルシフェラーゼ遺伝子の発現を駆動するマウスc-fosプロモーター(194bp)の5'に、Tcf-4結合配列(ATCAAAGG、全部で82bp)の4個のタンデム・リピートを含む。pFCT/fos-Lucは、Tcf-4により認識されない改変されたリピート配列(GCCAAAGG)を含有している陰性対照プラスミドとして設計された[Korinek,V.ら(1997)Science,275,1784-1787]。Tcf-4エンハンサー欠失ベクター(pTOPLESS)は、82bpのエンハンサー配列を除去するためSalIによりpTCF/fos-Lucを消化することにより生成した。ゲル精製の後、SalI部位の再ライゲーションによりpTOPLESSプラスミドを生成させた。
【0045】
図2に報告されたデータに関しては、2×106個の細胞を、10□gのpTCF/fos-Luc又はpFCT/fos-Lucプラスミドによりトリプリケートで電気穿孔(1180ボルト/240抵抗;GIBCO/BRL)により一過性トランスフェクトした。インセル(INCELL)の上皮細胞系列に関しては、パーフェクト・リピッド・トランスフェクション(Perfect Lipid Transfection)キット(InVitrogen)内に供給された脂質のパネルを使用して、細胞をトランスフェクトした。各細胞系について、5×105個の細胞を、インセル社より提供されたM3:20培地で24穴プレート(Costar)に(トリプリケートで)播種した。翌日、脂質#2及び#6を、各脂質とレポーターDNAプラスミドとを6:6:2の比率(μg)で組み合わせて使用した。トランスフェクション効率のための内部対照として、最小HSV-TKプロモーターの転写調節下にあるウミシイタケ・ルシフェラーゼ・プラスミドpRL-TK(Promega)を、pTCF/fos-Luc又はpFCT/fos-Lucに対し10:1の比率で使用した。提示された他の全てのレポーター・アッセイについては、2μgのpTCF/fos-Luc、1μgのpRL-TK、及び8〜14μlのリポフェクチン試薬(GIBCO/BRL)による2×105個の細胞の一過性トランスフェクションを実施した。示されている場合には、トランスフェクション後24時間目に酪酸塩又は他の化合物を添加した。全てのルシフェラーゼ・レポーター・アッセイについて、トランスフェクション(又は電気穿孔)後48時間目に、ウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性に対するホタル・ルシフェラーゼ活性の比(相対光単位、RLU)として表されるルシフェラーゼ活性を決定するため、プロメガ(Promega)製の二重ルシフェラーゼ・レポーター(Dual-Luciferase Reporter)キット、及びターナー(Turner)TD-20eルミノメーターを使用した。
【0046】
pTcf-TK
pTOPFLASH内のTcf-4エンハンサー、c-fosプロモーター、及びルシフェラーゼ遺伝子開始部位を含む5'DNA配列を、配列決定した。5'-BglII部位及び3'-BamHI部位が組み込まれたTcf4/β-カテニン-c-fosエンハンサー/プロモーター配列を含む300bp断片に特異的なプライマーを設計した。表1に例示されるように、BglIIプライマーは、
であり、BamHIプライマーは、
であった。得られたPCR産物を精製し、BglII及びBamHIにより消化し、次いでpcDNA3(Promega)に由来するプラスミドpcDNA-TK内のBglII部位へライゲートさせた。pcDNA3のCMVプロモーター・エレメント及びマルチプル・クローニング・サイトの部分を、BglII及びBamHIによる消化により予め除去し、5'-BglII末端及び3'-BamHI末端を有する1.1kbのHSV-TK遺伝子をこの部位へライゲートさせた[Drake,R.R.ら(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-27192]。続いて、300bpのPCR産物を、pcDNA-TKベクターのBglII部位へライゲートさせた。
【0047】
第一のTcf/c-fos構築物(配列番号:5)のATG開始部位とc-fosプロモーターの3'末端との間の114bpを含有している、Tcf-4エンハンサー及びc-fosプロモーター・エレメントを含有している第二の(186bp)ベクター(配列番号:6)を構築した。この目的のため、新たなBamHIプライマー5'-
を3'末端のため設計した。186bpの産物を、5'BglIIプライマー(配列番号:7)及び第二のBamHIプライマー(配列番号:9)を使用してPCR増幅した。pTOPFLASHを、鋳型DNAとして使用した。増幅された産物を精製し、BglII/BamHIにより消化し、前記のようなBglIIにより消化されたpcDNA-TKとライゲートさせ、第二のpTcf-TK構築物(配列番号:5)を生成させた。
【0048】
Tcf-TKによる細胞系の一過性トランスフェクション:GCV代謝、細胞死滅、及びHSV-TKウエスタン・ブロッティング
標準的なトランスフェクション条件は、18時間インキュベートされた1.0mlのOPTIMEM培地中の細胞0.2×106個当たり1.75μgのプラスミドDNA及び11μlのリポフェクチン試薬(GIBCO/BRL)の使用であった。このプロトコルに対する改変が、適宜、示される。代謝標識実験に関しては、SW480、HCT8、SW620、及びNCM460細胞を、0.4×106個/ウェルで播種し、各条件についてトリプリケートで、11μlのリポフェクチン試薬+1.75μgのpcDNA-TK、1.75μgのpTcf-TK(配列番号:5)、又は1.75μgのpTcf-TK(配列番号:6を含む)により18時間トランスフェクトした。対照ウェルは、11μlリポフェクチン試薬単独と共にインキュベートした。次いで、細胞を、1μM[3H]GCVを含有している1mlの新鮮な培地の中で18時間インキュベートした。細胞を70%メタノールで抽出し、[Drake,R.R.ら(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-37192]に以前に記載されたようにして、リン酸化GCVのレベル及びDNAへのGCVの取り込みに関して評価した。GCVによる細胞死滅に関しては、SW480細胞を0.15×106個/ウェルで播種し、各条件についてトリプリケートで、11μlのリポフェクタミン単独、1.75μgのpcDNA-TK、又は1.75μgのpTcf-TKにより16時間トランスフェクトした。10μM GCVを含有している新鮮な培地(3ml)を、48時間、細胞に添加した。生存細胞数を、トリパンブルー色素排除及び自動細胞計数を使用して決定した。各細胞系のウエスタン・ブロット分析は、ポリクローナル・ウサギ抗HSV-TK抗体(Dr.Margaret Black, Washington State Universityから譲り受けた)を使用して行った[Drake,R.R.ら(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-37192]。Drake,R.R.ら[(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-2719]に以前に記載されたようにして、細胞数を1×106細胞/0.1mlゲル・ローディング緩衝液に対して規準化し、等価なタンパク質ローディングを定量した。ブロットされたHSV-1 TKタンパク質バンドを、ECL発色団試薬(Amersham)を使用して、フィルム上で可視化した。
【0049】
実施例1
結腸細胞系におけるTcf-4レポーター活性
結腸直腸癌におけるAPC及びβ-カテニンの高頻度の変異、並びにその結果として生じる、核局在Tcf-4/β-カテニン複合体による遺伝子制御の増加[Kinzler,K.W.ら(1996)Cell,87,159-170;Morin,P.J.ら(1997)Science,275,1787-1790;及びRubinfeld,B.ら(1997)Science,275,1790-1792]に基づき、プロモーターに連結されたTcf4/β-カテニン・エンハンサー・モチーフを、腫瘍特異的遺伝子発現エレメントとして、ここで試験した。治療用遺伝子の発現によるさらなる分析のための候補細胞系を同定するため、9個のヒト結腸腫瘍細胞系及び正常細胞系のパネルを、pTCF/fos-Luc(Dr.Marc van de Weteringから譲り受けたpTOPFLASHから得られたTcf-4/β-カテニン・エンハンサー/c-fosプロモーター−ルシフェラーゼ遺伝子構築物)及び不活性型pFCT/fos-Luc(FCTは、変異型の非機能性のTcf4エンハンサーである)(図1参照)を使用して、ルシフェラーゼ・レポーター遺伝子活性に関してスクリーニングした。スクリーニングは、高いTcf/β-カテニン依存性活性を有することが以前に報告された2個の細胞系、SW480及びSW620[He,T.C.ら(1998)Science,281,1509-1512;Crawford, H. C.ら(1999)Oncogene,18,2883-2891;及びKorinek,V.ら(1997)Science, 275,1784-1787]を含んでいた。各腫瘍系は、変異型APC遺伝子を有することが既知である[Ilyas,M.ら(1997)Proc.Nat.Acad.Sci.USA,94,10330-10334]。
【0050】
可能性のある陰性対照細胞系として使用するため、2個の非腫瘍結腸細胞系を試験した。NCM460細胞系及びNCM425細胞系(正常結腸粘膜)は、非疾患結腸を有する患者からインセル社(San Antonio,TX)により開発され、CSC-1(結腸陰窩幹細胞)細胞系は、インセル社から開発され、除去されたヒト腺癌の切除縁近傍の非罹患結腸粘膜組織に由来した[Moyer,M.P.ら(1996)In Vitro Cell.Devel.Biol.:Animal,32,315-317;及びStauffer,J.S.ら(1995)Amer.Jour. of Surgery,169,190-196]。これらの「正常」結腸細胞は、不死化されており、変異p53タンパク質を有することが免疫組織化学的に特徴決定されているが、それらは、正常結腸細胞の指標である大部分の細胞表面マーカーを有しており、ヌードマウスへ感染した場合に腫瘍を形成せず、軟寒天内を移動しない[Moyer,M.P.ら(1996)In Vitro Cell.Devel.Biol.:Animal,32,315-317;及びStauffer,J.S.ら(1995)Amer.Jour. of Surgery,169,190-196]。CSC-1系は、短縮型APCを発現することが示されているが、最小のTcf-4及びβ-カテニン・タンパク質発現を有する[Mann,B.ら(1999)Proc.Nat.Acad.Sci. USA, 96,1603-1608]。
【0051】
図2に示されるように、SW480細胞系、SW620細胞系、Colo320細胞系、及びHCT-8細胞系は、pTCF/fosルシフェラーゼ活性とpFCT/fosルシフェラーゼ活性との間の最も大きいTcf-4/β-カテニン依存性活性を示した。正常結腸に由来するNCM460細胞及びCSC-1細胞は、検出可能なTcf-4/β-カテニン・エンハンサー活性をほとんど有しておらず、従って良好な陰性対照であることと一致している。Tcf-4エンハンサー・エレメントを欠くルシフェラーゼ・レポーター・プラスミドpTOPLESS-Lucを使用した場合、HCT-8細胞、SW480細胞、HCT116細胞、及びNCM460細胞におけるルシフェラーゼ活性比は、pTCF/fosルシフェラーゼ活性よりそれぞれ57倍、15倍、7倍、及び9倍低かった(図3参照)。図3中のデータに関しては、示された細胞系を播種し(2×105個/ウェル)、1.5mlのOPTIMEM培地中で、リポフェクタミン(10μl/ウェル)、2μgのpTOPLESS-Luc、pGL3Basic、又はpTCF/fos-Lucプラスミド、及び1μgのウミシイタケ-TKプラスミドにより18時間トランスフェクトした。新鮮な培地を添加し、48時間後、細胞をルシフェラーゼ活性に関して分析した。さらに、pTCF-Luc、pTOPLESS、及び強力な構成性マウス・レトロウイルスLTR(long terminal repeat)プロモーターにより駆動されたルシフェラーゼ・プラスミド(pGL3-LTR)の活性の比較を、3個の正常結腸細胞系及びSW620細胞において調査した。それらの結果を、表2に示す。
【0052】
(表1)pTCF/fos-Luc、pTOPLESS、又はpGL3-LTRによりトランスフェクトされた選択された細胞系におけるホタル・ルシフェラーゼ活性及びウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性*
pGL3-LTR活性は正常細胞系及びSW620腫瘍系において一貫して高かったが(表1)、TCF-fos活性は正常細胞系において低かったため、これらの結果は、再び、TCF-fosエレメントの腫瘍特異的な応答性を強調している。
【0053】
実施例2
初代細胞/組織におけるTcf-4活性
多くの結腸癌細胞系が、結腸細胞制御及び悪性のいくつかの面に関する多くの情報を提供したが、正常細胞と前悪性細胞と悪性細胞との間の広範囲の比較ディファレンシャル分析は、主としてGI粘膜上皮に由来する培養物の短命性のために不可能であった[Stauffer,J.S.ら(1995)Amer.Jour.of Surgery,169,190-196]。最近、結腸疾患を有する患者及び疾患を有しない患者から新鮮に単離された組織に由来する一連の新たな連続GI細胞系が、濃縮培地における上皮細胞の選択的培養により開発された[Moyer,M.P.ら(1996)In Vitro Cell.Devel.Biol.:Animal,32,315-317;及びStauffer,J.S.ら(1995)Amer.Jour. of Surgery,169,190-196]。正常(NCM)、ポリープ(COP)、及び腫瘍(HCC)に由来する組織を代表するこれらの新たな細胞系のパネルを、pTCF/fos-Lucレポーター・プラスミドによるトランスフェクション研究のため使用した。(インセル社により開発された)図4に示された結腸細胞系を播種し(2×105個/ウェル)、1.0mlのOPTIMEM培地中で、リポフェクタミン(10μl/ウェル)、2μgのpTCF/fos-Lucプラスミド又はpFCT/fos-Lucプラスミド、及び1μgのウミシイタケ-TKプラスミドにより18時間トランスフェクトした。新鮮な培地を添加し、48時間後、細胞をルシフェラーゼ活性に関して分析した。新鮮な培地を添加した後24時間目に、播種された細胞の半分を、さらに24時間、酪酸塩(1.4mM)により処理した。
【0054】
図4に示されるように、試験されたNCM系は、全て、COP系及びHCC系に比べて最小のTcf-4/β-カテニン依存性活性を有していた。3個のポリープのうちの1個(COP14)が、NCMに対する2倍の増加を示し、6個の腫瘍系のうち5個が、NCM系と比較して2倍以上の活性の増加を有していた。各細胞カテゴリー内の平均ルシフェラーゼ活性を決定したところ、COP細胞及びHCC細胞は、NCM細胞と比べて2倍及び7倍を超える活性の増加を示した。
【0055】
実施例3
pTCF/fos-Luc活性及びpFCT/fos-Luc活性に対する酪酸塩の効果
短鎖脂肪酸である酪酸塩は、Tcf-4/β-カテニン応答性遺伝子の発現を増加させることが報告されている[Bordonaro,M.ら(1999)Cell Growth Diff.,10,713-20;及びBarshishat,M.ら(2000)British J.Cancer,82,195-203]。pTCF/fos-Luc及びpFCT/fos-Lucのルシフェラーゼ・レポーター活性に対する効果を査定するため、この薬物を、SW620細胞系、Colo320細胞系、HCT8細胞系、SW480細胞系、HT-29細胞系、NCM460、及びLoVo細胞系に添加した。細胞(8ウェル/細胞系)を、リポフェクタミン(細胞2×105個当たり12μl)及び2μgのpTCF/fos-Luc(又はpFCT/fos-Luc)プラスミド/1μgのpRL-TKプラスミドにより24時間トランスフェクトした後、24時間、通常培地において増殖させた。トランスフェクトされた細胞の半分に、最適化された用量の1.4mM酪酸塩をさらに24時間添加した後、ルシフェラーゼ活性を評価した。新鮮な培地を添加し、48時間後、細胞をルシフェラーゼ活性に関して分析した。新鮮な培地を添加した後24時間目に、播種された細胞の半分を、さらに24時間、酪酸塩(1.4mM)により処理した。
【0056】
図5に示されるように、酪酸塩の添加は、pTCF/fos-LucでトランスフェクトされたHCT-8細胞におけるRLU活性を4倍増加させ、Colo320、SW480、及びSW620のような他の高活性系においては、減少した活性比が観察された。NCM460細胞、HT-29細胞、及びLoVo細胞は、酪酸塩の存在下又は非存在下で最小のpTCF/fos-Luc活性を有していた。図5中の比率データから明らかでないことは、二つのルシフェラーゼ活性に対する効果である。これらの細胞系のいくつかに関する個々のホタル・ルシフェラーゼ数及びウミシイタケ・ルシフェラーゼ数を、表2に提示する。
【0057】
(表2)1.4mM酪酸塩(24時間処理)の存在下及び非存在下での、pTCF/fos-Luc及びpFCT/fos-Lucによりトランスフェクトされた選択された細胞系におけるホタル・ルシフェラーゼ活性及びウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性
【0058】
試験された各細胞系において、酪酸塩の存在により、弱応答細胞(HT-29、LoVo)においてはpTCF/fos-Lucレポーター活性が7倍増加し、そしてSW620細胞、Colo320細胞、及びHCT8細胞においてはそれぞれ14倍、32倍、及び108倍増加した。相応して、基本チミジンキナーゼ・プロモーターにより調節されたウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性の大きな増加も存在する。FCT/fosにより駆動されたルシフェラーゼ活性も、酪酸塩により増強されたが、pTCF/fosの正確なTcf4モチーフと同程度ではなかった。
【0059】
ドキソルビシン[Yang,S.Z.ら(1999)Int.J.Oncvol.,15,1109-1115]及び9-シス-レチノイン酸[Easwaran,V.ら(1999)Curr.Biol.,9,1415-1418]のような化合物は、Tcf-4/β-カテニン応答性遺伝子の発現を転写的に抑制することが報告されている。MDA435細胞系及びMDA231細胞系を播種し(2×105個/ウェル)、1.0mlのOPTIMEM培地中で、リポフェクタミン(11μl/ウェル)、2μgのpTCF/fos-Lucプラスミド、及び1μgのウミシイタケ-TKプラスミドにより18時間トランスフェクトした。新鮮な培地を添加し、48時間後、細胞をルシフェラーゼ活性に関して分析した。新鮮な培地の添加後24時間目に、播種された細胞の一部を、1μMドキソルビシン、2.5μM 9-シス-レチノイン酸、又は1.4mM酪酸塩によりさらに24時間処理した。図6に示されるように、pTCF/fos-Lucによりトランスフェクトされた2種類のヒト乳房腫瘍細胞系MDA-435及びMDA-231に24時間添加された1μMドキソルビシンは、未処理のトランスフェクトされた対照細胞と比較して、RLU活性を5〜10倍低下させた。類似条件下で、9-シス-レチノイン酸(2.5μM)の添加は、ほとんど効果を及ぼさなかった。表3に提示されるように、個々のホタル・ルシフェラーゼ活性及びウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性に対するドキソルビシン、9-シス-レチノイン酸、及び酪酸塩(1.4mM)の効果が示される。
【0060】
(表3)2.5μM 9-シス-レチノイン酸、1μMドキソルビシン、又は1.4mM酪酸塩(24時間処理)の存在下及び非存在下での、pTCF/fos-LucによりトランスフェクトされたMDA-231及びMDA-435乳房腫瘍細胞系におけるホタル・ルシフェラーゼ活性及びウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性
【0061】
増加した基本ウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性に基づき、ドキソルビシンは、酪酸塩と同様に、多くの転写調節因子の活性に影響を与えていると考えられる。しかしながら、ホタル・ルシフェラーゼに対するその効果は、酪酸塩で処理された細胞の活性化と比較して、抑制性である。
【0062】
実施例4
pTCF-TKの生成、及び細胞系における発現
本願の材料及び方法のセクションに記載されたようにして、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー及びc-fosプロモーター配列の二つのバージョンをPCR増幅し、プラスミドpcDNA-TKへ挿入した。Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー及びc-fosプロモーター配列が組み込まれた5'領域の配列は、配列番号:5及び6として配列表に示されている。ベクター内で反復され得るTcfエンハンサーを表す、配列番号:1及びその相補配列である配列番号:2も、配列表に示されている。複数コピーのリピートがプラスミド内に使用され得るが、好ましい数は3又は4コピーである。マウスc-fosプロモーター配列は、ヌクレオチド98〜179として配列番号:5及び6内に存在する。pTcf-TKと名付けられた2個の新たなプラスミドを、NCM460細胞系、HCT-8細胞系、SW480細胞系、及びSW620細胞系をトランスフェクトするために使用した。トランスフェクトされたHCT8細胞、SW480細胞、及びSW620細胞から、個々のG418耐性クローン又は細胞プールを単離することを試みた。利用された条件の下では、大多数の細胞が4日以内に死滅することが見出された。これらのトランスフェクションから、安定的なHSV-TK発現細胞を単離することはできなかった。NCM460細胞からG418耐性の安定的なトランスフェクタントを単離することは試みなかった。しかしながら、これらの細胞は、4日より長く、トランスフェクション手法後に生存していた。3個のトランスフェクトされた腫瘍細胞系について、これらの結果は、トランスフェクションにおいて使用されたプラスミド構築物及び脂質、又はプラスミドから生成したHSV-TKのレベルのいずれかが、GCVを添加しない場合ですら、これらの細胞にとって毒性であったことを示唆した。リポフェクタミン単独又はpcDNA-TKプラスミドによる細胞のトランスフェクションは、同レベルの細胞死をもたらさなかった(図9も参照のこと)。従って、1〜3日を期限とした一連のpTcf-TKトランスフェクション実験、並びに抗HSV-TK抗体の使用、GCV細胞毒性アッセイ、及び[3H]GCVを用いた代謝標識を、この毒性効果を評価するために行った。
【0063】
SW480細胞、HCT8細胞、SW620細胞、及びNCM460細胞を0.4×106個/ウェルで播種し、リポフェクタミン単独、1.75μgのプロモーターレスpcDNA-TK、1.75μgのpTcf-TK(配列番号:5を含む)、又は1.75μgのpTcf-TK(配列番号:6を含む)により18時間トランスフェクトした。新鮮な培地中で24時間増殖させた後、細胞タンパク質をSDS-ポリアクリルアミド・ゲル上での分離のために処理した。細胞抽出物を調製し、抗HSV-TK抗体を用いたウエスタン・ブロットにより評価した。Drake,R.R.ら[(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-37192]に以前に記載されたようにして、細胞数を1×106細胞/0.1mlゲル・ローディング緩衝液に対して規準化し、等価なタンパク質ローディングを定量した。ブロットされたHSV-1 TKタンパク質バンドを、ECL発色団試薬(Amersham)を使用して、フィルム上で可視化した。
【0064】
図7に示されるように、いずれかのpTcfTK構築物によりトランスフェクトされた3種類の腫瘍細胞系においては、HSV-TKタンパク質の有意な発現が存在した。対照的に、NCM460細胞においては、[pTcf-TK(配列番号:5)でトランスフェクトされた細胞においてのみ]極めて低いレベルのHSV-TKのみが検出された。pcDNA-TKベクターによりトランスフェクトされた細胞系のいずれにも、HSV-TKの明らかな漏出発現は存在しなかった(図7)。
【0065】
発現されたHSV-TKが機能性であるか否かを決定するため、同一のトランスフェクション・プロトコルを実施した[SW480細胞、HCT8細胞、SW620細胞、及びNCM460細胞を0.2×106個/ウェルで播種し、各条件についてトリプリケートで、リポフェクタミン単独、1.75μgのpcDNA-TK、1.75μgのpsTcf-TK(配列番号:6を含む)、又は1.75μgのpTcf-TK(配列番号:5を含む)のいずれかにより16時間トランスフェクトした。次いで、1μM[3H]GCVを含有している1mlの新鮮な培地中で、細胞を12時間インキュベートした。細胞を70%メタノールで抽出し、[Drake,R.R.ら(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-37192]に以前に記載されたようにして、リン酸化GCVのレベル及びDNAへのGCVの取り込みに関して評価した。トランスフェクション後24時間目に、1μM[3H]GCVを12時間添加したことを除き、脂質単独細胞に関して得られた値を、グラフ内の各条件について提示された値を規準化するために使用した。細胞を単離し、計数し、次いで70%メタノールで抽出した。可溶性上清及び不溶性DNAペレットを、シンチレーション計数により[3H]GCV取り込みのレベルに関して定量した。
【0066】
図8Aに示されるように、pTcf-TK又はpsTCF-TK構築物のいずれかによりトランスフェクトされた細胞のみが、有意なレベルの可溶性[3H]GCV代謝物を有していた。再び、NCM460細胞については、[3H]GCVの最小の代謝のみが見出された。pTcf-TK(配列番号:5を含む)試料のメタノール可溶性画分中の遊離GCVに対するリン酸化GCV代謝物の割合を評価するため、0.8M LiClで展開されたPEIセルロース・プレートを用いた薄層クロマトグラフィーを実施した。この分離から、(図8Aに提示されたような)未リン酸化GCVと比べた可溶性画分中に存在するリン酸化GCV代謝物の割合は、SW480においては62%、HCT8については70%、SW620については88%、及びNCM460においては55%であった(データは示していない)。これは、NCM460細胞における既に低いレベルの回収された代謝物の45%が遊離GCVを表すことを示しており、これは、pTcf-TKウエスタン・ブロットにおけるHSV-TKの極めて低い発現レベル(図7)と一致している。メタノール不溶性ペレット中の[3H]GCVレベルの分析は、細胞DNAへのGCV取り込みの指標となる。図8Bに提示されるように、DNAへ取り込まれた[3H]GCVのレベルは、NCM460細胞ではなくpTcf-TKトランスフェクト腫瘍細胞において最も高かった。
【0067】
GCV代謝が腫瘍細胞死滅を増加させたのか否かを調査するため、SW480細胞及びNCM460細胞を0.15×106個/ウェルで播種し、各条件についてトリプリケートで、リポフェクタミン単独、1.75μgのpcDNA-TK、又は1.75μgのpTcf-TK(配列番号:5を含む)のいずれかにより16時間トランスフェクトした。GCVを含有していない、又は10μM GCVを含有している新鮮な培地(3ml)を、48時間、細胞に添加した。生存細胞数を、トリパンブルー色素排除及び自動細胞計数を使用して決定した。2日後に、細胞をトリパンブルーにより染色し、自動計数により細胞数を決定した。図9Aに示されるように、Tcf-TK(配列番号:5を含む)でトランスフェクトされたSW480細胞においてのみ、GCV添加は有意な毒性効果を有し、同様に処理されたNCM460細胞においては、効果が観察されなかった(図9B)。図7〜9に提示された結果は、総合すると、pTCF-TKプラスミドを介して送達された機能的な腫瘍細胞特異的なHSV-TKの発現を示している。
【0068】
考察
本明細書中の実験アプローチは、その遺伝子又は制御性の大腸腺腫性ポリポーシス(adenomatous polyopsis coli)(APC)遺伝子の変異による、結腸腺腫におけるβ-カテニン局在の混乱に基づく。散発性結腸癌の分子的進行において、患者の80%が、APCの遺伝子変異及びβ-カテニンの高頻度の変異を有する[Kinzler,K.W.ら(1996)Cell,87,159-170;及びMorin,P.J.,ら(1997)Science,275,1787-1790]。APCとβ-カテニンとの間の生化学的関係、並びにいずれかのタンパク質の変異がシグナル伝達経路及び遺伝子制御に対して及ぼす効果は、複雑である。β-カテニンは、少なくとも二つの、正常な別個の細胞における役割を有する。原形質膜において、β-カテニンは、α-カテニンと複合体を形成し、カドヘリン細胞−細胞接着受容体へアクチン細胞骨格を連結するアドヘレン・ジャンクション(adheren junction)の主成分としてはたらいている[Ben-Zee'ev, A.ら(1998)Curr.Opin.Cell Biol.,10,629-639]。さらに、未結合のβ-カテニンは、核へ移行し[Molenaar,M.ら(1996)Cell,86,391-399;及びSimcha,I.ら(1998)J.Cell Biol.,141,1433-1448]、特異的な遺伝子発現の開始のため、(Tcf-4のような)LEF-1ファミリーの転写因子と複合体を形成することができる[Riese,J.ら(1997)Cell,88,777-787;及びvan de wetering,M.ら(1997)Curr.Opin.Genet.Dev.,7,459-466]。
【0069】
細胞内の遊離β-カテニンのレベルは、APC[Su,L.K.ら(1993)Science,262,1734-1737;及びRubinfeld,B.ら(1993)Science,262,1731-1734]、アキシン(axin)/コンダクチン(conductin)[Hart M.de los Santos,R.ら(1998)Curr.Biol.,8,573-581;及びBehrens,J.ら(1998)Science,280,596-599]、及びグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β[Rubinfeld,B.ら(1996)Science,272,1023-1026]からなる別のタンパク質複合体により原形質膜において制御されている。複合体内のGSK-3βによるβ-カテニンのリン酸化[Yost,C.ら(1996)Gene Dev.,10,1443-1454;及びIkeda,S.ら(1998)EMBO J.,17,1372-1384]は、ユビキチン−プロテオソーム系によるその分解をもたらす[Salomon,D.ら(1997)J.Cell Biol.,139,1325-1335;及びAberle,H.ら(1997)EMBO J.,16,37977-3804]。変異型のAPCタンパク質又はβ-カテニン・タンパク質を有する細胞においては、これらの分解複合体が形成されず、これが、ヒト癌において一般的に見出されるβ-カテニン・レベルの蓄積をもたらす[Kinzler,K.W.ら(1996)Cell,87,159-170;及びRubinfeld,B.ら(1997)Science,275,1790-1792]。上昇したβ-カテニン・レベルによって、β-カテニン/Tcf-4複合体による遺伝子転写はアップレギュレートされる[Ben-Zee'ev,A.ら(1998)Curr.Opin.Cell Biol.,10,629-639;及びGumbiner,B.M.(1997)Curr.Biol.,7,R443-R446]。さらに、遊離β-カテニンのレベルは、高度に保存されたWnt-1癌遺伝子及びそのシグナリング経路の相互作用を通して、APC−アキシン/コンダクチン−GSK3複合体を介して調整され得る[Li,Y.ら(1998)Mol.Cell.Biol.,18,7216-7224;及びHinck,L.ら(1994)J.Cell Biol.,124,729-741]。
【0070】
β-カテニンのレベル及び制御の改変は、結腸癌の進行に関連しているのみならず[Kinzler,K.W.ら(1996)Cell,87,159-170;Su,L.K.ら(1993)Association of the APC tumor suppressor protein with catenins.Science,262,1734-1737;Samoitz,W.S.ら(1999)Cancer Res.,59,1442-1444;及びHerter,P.ら(1999)J.Cancer Res.Clin.Onc.,125,297-304]、乳癌[Bukholm,I.K.ら(1998)J.Pathology,185,262-266]、肝臓癌[de La Coste,A.ら(1998)Proc.Nat.Acad.Sci USA,95,8847-8851]、膀胱癌[Giroldi,L.A.ら(1998)Int.J.Cancer,82,70-76]、卵巣/子宮癌[Kobayashi,K.ら(1999)Japan.J.Cancer Res.,90,55-59;及びFukuchi,T.ら(1998)Cancer Res.,58,3526-3528]、前立腺癌[Voeller,H.J.ら(1998)Cancer Res.,58,2520-2523]、食道癌[Kimura Y.ら(1999)Int.J.Cancer,84,174-178;及びSanders D.S.ら(1998)Int.J.Cancer,79,573-579]、鼻咽頭癌[Zheng,Z.ら(1999)Human Path.,30,458-466]、皮膚癌[Chan,E.F.ら(1999)Nature Genet.,21,410-413]、及び甲状腺癌[Garcia-Rostan G.ら(1999)Cancer Res.,59,1811-1815]を含む他の型の癌の進行への関与も示されている。変異型APC/β-カテニンと、β-カテニン/Tcf-4を介した遺伝子発現の増加との関連に加え、遊離β-カテニンの制御に関連している他のタンパク質及びシグナリング成分の欠陥が、Tcf-4応答性遺伝子転写における未だ特徴決定されていない役割を果たしている可能性が高い。
【0071】
APC及びβ-カテニンの変異により、これらの遺伝子内の特異的なエンハンサー・エレメントと結合するβ-カテニン/Tcf-4複合体による癌促進遺伝子の転写が活性化される。この複合体により活性化される遺伝子がいくつか同定されており、それらには、c-Myc[He,T.C.ら(1998)Science,281,1509-1512]、c-jun及びfra-1[Mann,B.ら(1999)Proc.Nat.Acad.Sci.USA,96,1603-1608]、サイクリンD[Shtutman M.ら(1999)Proc.Natl.Acad.Sci USA,96,5522-5527;及びTetsu,O.ら(1999)Nature,398,422-426]、並びにメタロプロテイナーゼ7(MMP7)[Crawford,H.C.ら(1999)Oncogene,18,2883-2891]が含まれる。転写因子のLEF-1ファミリー(Tcf-4はそのメンバーである)は、単独では転写に影響を与えないDNA結合足場タンパク質としての挙動を示すと考えられている[Roose,J.ら(1999)Biochim.Biophys.Acta,1424,M23-M27]。それらは、(β-カテニンのような)パートナー・タンパク質と相互作用しなけらばならず、この複合体が、基本転写機構との相互作用を介して遺伝子制御をもたらす[Hsu,S.C.ら(1998)Mol.Cell.Biol.,18,4807-4818]。β-カテニンはLef/Tcf結合との会合と無関係に核へ移行することが示されており[Prieve M.G.ら(1999)Mol.Cell.Biol.,19,4503-4515]、他の非DNA結合タンパク質が、β-カテニン及びTcf-4の相互作用の形成又は安定化に関与している可能性がある[Prieve M.G.ら(1999)Mol.Cell.Biol.,19,4503-4515]。
【0072】
本発明における治療用遺伝子の発現は、腺腫のAPC遺伝子及びβ-カテニン遺伝子の一般的な変異、並びに/又は腫瘍細胞における増加したβ-カテニンのレベルに基づいているため、大部分の正常細胞及び正常組織は、本発明の遺伝子構築物による遺伝子発現にとって必要な転写因子複合体を有していないであろう。従って、本発明における治療用遺伝子の発現は、改変されたβ-カテニン機能を有する腫瘍細胞に限定される。本明細書に報告された結果に基づき、その遺伝子構築物を含有している治療用ベクターは、多くの型の結腸癌における治療用遺伝子発現のため直ちに適用できる可能性を有する。β-カテニンの制御異常は、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、食道癌、胃癌のような他の型の癌とも関連しているため、その遺伝子構築物は、他の現行の遺伝子治療においても利用され得る。
【0073】
APC遺伝子及びβ-カテニン遺伝子の変異は、多くの型の癌に関する上皮癌進行としばしば関連しているため、これらの変異に対する細胞応答に関与しているTcf-4/β-カテニン転写エンハンサー・エレメントの有効性が、ヒト腫瘍結腸細胞系及び正常結腸細胞系のパネルにおいて、治療用遺伝子発現の腫瘍特異的な制御因子として機能する能力に関して評価された。結腸腫瘍細胞系の多くが、レポーター遺伝子アッセイを使用して、Tcf-4/β-カテニン応答性発現を有することが以前に特徴決定されている[Morin,P.J.ら(1997)Science,275,1787-1790;Crawford,H.C.ら(1999)Oncogene,18,2883-2891;及びKorinek,V.ら(1997)Science,275,1784-1787]。しかしながら、治療用遺伝子の十分な発現レベルを生成させるための、c-fosプロモーターに連結されたTcf-4/β-カテニン・エレメントは、従来評価されていなかった。GCVと組み合わせられたHSV-TK遺伝子を使用して、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー及びc-fosプロモーターが、GCVのリン酸化及び細胞死をもたらすHSV-TKの発現を効率的に指図することが証明された。GCVの非存在下ですら、Tcf/fosエレメント両方により指図されたHSV-TK発現は、細胞死をもたらすことが見出された。HSV-TK抗体を用いたウエスタン・ブロッティングにより決定されたような、応答性のトランスフェクトされた腫瘍細胞において見い出されたHSV-TKのレベルは、短い分析期間を考慮すると特に、極めて高かった。細胞がGCVの非存在下で死滅する理由は、不明である。これは、1)細胞を圧倒する程、過剰のHSV-TKが産生されるため;2)HSV-TKの高い発現レベルが、異常なチミジン・リン酸化をもたらし、正常なDNA複製過程にとって必要な正常なデオキシヌクレオチド・プールを混乱させるため、又は3)市販の骨格ベクターpcDNA3もしくはpcDNA-TK誘導体が細胞にとって毒性であるため、である可能性がある。
【0074】
腫瘍特異的な発現プロファイルを有することが以前に報告されている制御性構築物は、大半がプロモーター・エレメントであった[Gomez-Navarro,J.ら(1999)Cancer,6,867-885及びNettlebeck,D.M.ら(2000)Trends Genet.,16,174-181]。一つの注目すべき例外は、前立腺癌のための治療用遺伝子発現のための、PSAエンハンサー配列とPSAプロモーターとの併用であった[Latham,J.P.F.ら(2000)Cancer Res.,60,334-341;及びLee,S.E.ら(2000)Anticancer Res.,20,417-422]。PSAエンハンサー/プロモーターの組み合わせは、PSAプロモーター単独より高いレベルの遺伝子発現を提供することが立証されている。PSAアプローチの可能性のある臨床上の短所は、正常な前立腺細胞におけるこれらの構築物の活性及び毒性である[Nettlebeck,D.M.ら(2000)Trends Genet.,16,174-181]。
【0075】
Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーを用いた本発明においてとられたアプローチは、腫瘍表現型にのみ見い出される転写因子複合体に依存する転写活性を有する腫瘍特異的条件に基づいている。Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー及びc-fosプロモーターを、c-fosのみのpTCF/fos-Luc(c-fos only pTCF/fos-Luc)ベクターと比較したルシフェラーゼ・レポーターの結果は、遺伝子発現の主要決定因子としてのエンハンサー・エレメントの依存を強調している。さらに、c-myc、サイクリンD、c-jun、MMP-7、及びガストリン[He,T.C.ら(1998)Science,281,1509-1512;Crawford,H.C.ら(1999)Oncogene,18,2883-2891;及びKoh T.J.ら(2000)J.Clin.Invest.,106,533-539]を含め、Tcf-4/β-カテニン5'制御配列を有する遺伝子が、ますます多く同定されてきている。これらの遺伝子、及び未同定の他のものに由来するプロモーター配列は、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーとの使用のために操作され得る。
【0076】
Tcf-4/β-カテニン制御のもう一つの独特の面は、酪酸塩、ホルボールエステル、ドキソルビシン、及びレチノイドのような化学的修飾剤による応答性遺伝子の調整である。酪酸塩及びトリコスタチン(trichostatin)Aのような短鎖脂肪酸は、Tcf-4/β-カテニンにより媒介される遺伝子発現を増加させることが報告されている[Bordonaro,M.ら(1999)Cell Growth Diff.,10,713-20;及びBarshishat,M.ら(2000)British J.Cancer,82,195-203]。ホルボールエステルPMAの添加も、遺伝子発現を増加させることが報告されている[Baulida,J.ら(1999)Biochemical J.,344-565-570]。
【0077】
反対に、ドキソルビシン[Yang,S.Z.ら(1999)Int.J.Oncol.,15,1109-1115]又はレチノイド[Easwaran,V.ら(1999)Curr.Biol.,9,1415-1418]の添加は、Tcf-4/β-カテニンにより媒介される遺伝子発現を減少させることが報告されている。(図1に示されるような)異なる腫瘍細胞系におけるTcf-4/β-カテニン発現の転写制御の証明されている可変性のため、誘導可能な刺激剤の添加は、わずかに応答性の細胞において発現を増強し得る。反対に、ウイルスに基づく遺伝子治療に関しては、抑制剤オプションを有し得ることが重要であるかもしれない。従って、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーによって、薬物による誘導可能性(又は抑制)オプションが付与されるため、これは、可能性のある治療用遺伝子発現における臨床的使用のための重要なエレメントである。
【0078】
Tcf-4/β-カテニン発現の活性化をもたらす変異は、多くの型の上皮腺腫において一般的であるため、これらのカセットは、結腸及び乳房に関して本明細書に記載されたもの以外の腫瘍療法においても広範囲に有益であり得る。さらに、患者の腺癌の遺伝学的プロファイリングの利用可能性が高まってきているため、個々の腫瘍にマッチした腫瘍型特異的なプロモーター・エレメントを用いたTcf-4/β-カテニン・エンハンサーのカセット化(cassetted)されたアプローチが、治療用遺伝子発現を増加させるために使用され得る。これらの研究は、遺伝子治療のための可能性のある腫瘍特異的プロモーターとしてTcf-4/c-fosエレメントを使用することの実現可能性を証明した。それは、正常結腸細胞と比べて結腸腫瘍細胞においてより効果的に機能し、そして酪酸塩に対する転写応答の増加が存在する。明らかに、酪酸塩は、Tcf-4応答性遺伝子の他にも複数の転写経路を活性化し、これは、結腸腫瘍細胞における既知の分化活性と一致している[Mariadason,J.M.ら(2000)Cancer Res.,60,4561-4571]。酪酸塩により刺激され得る治療用遺伝子又は治療用ベクターの送達は二重の効果を有する可能性もあるため、これは、腫瘍療法にとって有利であるかもしれない。酪酸塩はアポトーシスを誘導することが既知であり、治療用遺伝子は、この効果を補足し、増強することができる。
【0079】
DNA送達のための多数の方法論が開発されている。現在利用可能な方法論には、ウイルス・ベクターによるトランスフェクション;脂質による融合;及び陽イオンにより支持されたDNA導入が含まれる。これらの技術は、各々、長所及び短所を有するため、投与又は送達の型の選択は特定の状況に依存するであろうが、以下の目的を達成するDNA移入法を利用することが望ましい。(1)特異的な標的細胞又は標的組織型(例えば、結腸癌細胞)へ治療用遺伝子を差し向けることができる。(2)標的細胞集団への治療用遺伝子の取り込みを媒介する効率が高い。(3)治療的適用のためのインビボの使用に適している。
【0080】
図面及び前述の説明において本発明を詳細に例示し記載したが、それらは制限的なものではなく例示的なものと見なされるべきであり、好ましい態様のみが示され記載されたこと、並びに本発明の本旨に含まれる全ての変化及び修飾が保護されることが望まれることを理解されたい。さらに、本明細書に引用された全ての参照は、当技術分野における技術のレベルを示すものであり、参照として完全に本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1A】細胞系におけるTcf-4活性を評価するために使用されたルシフェラーゼ・レポーター・プラスミドであるプラスミドpTCF/fos-Lucを示し、マウスc-fosプロモーターと共に、Tcf-4応答性エンハンサー・エレメントの4個のリピートを含む。
【図1B】再編成されたTcf-4リピート・エレメントを有する陰性対照プラスミドであるプラスミドpFCT/fos-Lucを示す(Dr. Marc van de Weteringから譲り受けたpFOPFLASHから得られた)。
【図1C】pTCF/fos-TKのエンハンサー/プロモーター/遺伝子の概略を示す。このプラスミドは、実施例4に記載されたような単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV-TK)の細胞系における発現のため使用された。
【図2】pTCF/fos-Luc及びpFCT/fos-Lucのいずれかによりトランスフェクトされた様々なヒト結腸細胞系におけるルシフェラーゼ・レポーター活性を示すグラフを示す。CSC-1細胞、NCM425細胞、及びNCM-460細胞は、実施例1にさらに記載されるように、正常組織に由来するヒト結腸細胞系である。試験されたその他の細胞系は全てヒト結腸腫瘍に由来する樹立系である。
【図3】実施例1にさらに記載されるように、pTOPLESS及びpGL3ルシフェラーゼ・レポーター・プラスミドによりトランスフェクトされた示された細胞系における基本転写と関連しているルシフェラーゼ活性を示すグラフを示す。灰色のバーはpGL3 Basic活性、黒色のバーはpTOPLESS-Luc活性を示し、括弧内の数字は、各細胞系についてのpTCF/fos-Luc活性である。HCT8、SW480、HCT116、Colo320、及びSW620はヒト結腸腫瘍細胞系であり;NCM460は正常結腸粘膜細胞系である。
【図4】pTCF/fos-Lucによりトランスフェクトされた初代ヒト結腸細胞におけるルシフェラーゼ・レポーター活性を示すグラフを示す。示した細胞系を、pTCF/fos-Lucレポーター・プラスミドにより一過的にトランスフェクトした。ルシフェラーゼ活性の結果は、実施例2にさらに記載されるように、別のウミシイタケ-ルシフェラーゼ対照アッセイに対して規準化した。HCCはヒト結腸腫瘍組織に由来し;COPは前癌結腸ポリープ組織に由来し;NCMは正常結腸組織に由来する。
【図5】実施例3にさらに記載されるように、pTCF/fos-Luc又はpFCT/fos-Lucによりトランスフェクトされた結腸細胞系におけるルシフェラーゼ・レポーター活性を示すグラフを示す。HCT8、SW480、HT29、Colo320、LoVo、及びSW620はヒト結腸腫瘍細胞系であり;NCM460は正常結腸粘膜細胞系である。pFCT/fos-Lucによりトランスフェクトされた細胞には「FCT」という表記が含まれ、pTCF/fos-Lucによりトランスフェクトされた細胞には「TCF」という表記が含まれる。
【図6】実施例3にさらに記載されるように、pTCF/fos-Lucによりトランスフェクトされ、ドキソルビシン、9-シス・レチノイン酸、又は酪酸塩により処理されたヒト乳房腫瘍細胞におけるルシフェラーゼ・レポーター活性を示すグラフを示す。MDA435及びMDA231はヒト乳房腫瘍細胞系である。
【図7】実施例4にさらに記載されるように、抗HSV-TK抗体を用いて決定された、pcDNA-TK、pTcf-TK(配列番号:5を含む)、又はpsTCF-TK(配列番号:6を含む)によりトランスフェクトされた細胞におけるHSV-TKの発現を示すウエスタン・ブロットを示す。SW620、SW480、HCT8はヒト結腸腫瘍細胞系であり;NCM460は正常結腸粘膜細胞系であり;HSV-TKは単純ヘルペスウイルス・チミジンキナーゼであり;pcDNA-TKはHSVチミジンキナーゼ遺伝子を含むpcDNA3.1プラスミドに由来するプロモーター欠失構築物であり;pTcf-TKはHSVチミジンキナーゼ遺伝子、1コピーのc-fosプロモーター(配列番号:5に示されたプロモーター配列)、及び4コピーのTcf-4/β-カテニン・エンハンサーを含み;psTcf-TKはHSVチミジンキナーゼ遺伝子、1コピーの短縮型c-fosプロモーター(配列番号:6)、及び4コピーのTcf-4/β-カテニンを含む。
【図8A】実施例4にさらに記載されるように、pTcf-TKによりトランスフェクトされた細胞系における可溶性の抽出されたリン酸化ガンシクロビル(GCV)代謝物のグラフを示す。
【図8B】実施例4にさらに記載されるように、pTcf-TKによりトランスフェクトされた細胞系におけるDNAへ取り込まれた[3H]GCVのグラフを示す。NCM460は正常結腸粘膜細胞系であり;SW480、SW620、HCT8はヒト結腸腫瘍細胞系である。
【図9A】pTcf-TKによりトランスフェクトされたSW480細胞(ヒト結腸腫瘍細胞系)をGCVで処理した場合に残存している細胞の量を示すグラフを示す。
【図9B】トランスフェクトされたNCM-460(正常結腸粘膜細胞系)細胞を使用した同様のグラフを示す。実験は実施例4に記載されたようにして実施された。
【0001】
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)により授与されたグラント番号R41 CA 77938-01の下に政府の支援により成された。政府は、本発明における一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、それぞれ2001年6月13日及び2002年3月1日出願の米国仮特許出願第60/297,831号及び第60/361,137号(いずれも、参照として完全に本明細書に組み込まれる)に基づく優先権を主張するものである。
【0003】
発明の背景
本発明は、一般に、治療用核酸の腫瘍及び/又は細胞型に標的化した発現のために使用され得る発現ベクターに関する。より具体的には、Tcf-4/β-カテニン転写エンハンサーと、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター・エレメントと、治療用核酸とを含む治療用核酸の標的化発現のための発現ベクターが、提供される。
【0004】
癌遺伝子治療戦略は、現行の腫瘍細胞への治療薬ターゲティングを改良し、所望の治療コースの制御的調節を増加させる可能性をもたらす。癌発生初期の治療工程において介入するための遺伝子を使用することにより、腫瘍に対する基本的な表現型を変化させ得る[Gomez-Navarro,J.ら(1999)Eur.J.Cancer,6,867-885]。全ての癌治療と同様に、そして特に転移性疾患に関して、重要な効率決定因子は、治療が、非腫瘍細胞の一般的毒性と比較して腫瘍細胞に対してどの程度特異的であるか、ということである。遺伝子治療の場合、これは、ベクターの腫瘍特異的ターゲティングにより、そして遺伝子の発現を腫瘍細胞にのみ特異的に制限することにより達成され得る。この後者のアプローチは、腫瘍特異的制御エレメントから治療用遺伝子を発現させることにより達成され得、癌遺伝子治療研究の急速に拡大しつつある分野である[Gomez-Navarro,J.ら(1999)Eur.J.Cancer,6,867-885;及びNettlebeck,D.M.ら(2000)Trends Genet.,16,174-181]。様々な腺癌における治療用遺伝子の腫瘍特異的発現に関して特徴決定されているプロモーターのいくつかの代表例としては、癌胎児性抗原(CEA)[Osaki,T.ら(1994)Cancer Res.,54,5258-5261;Brand,K.ら(1998)Gene Ther.,5,1363-1371;及びCao,G.ら(1999)Gene Ther.,6,83-90]、ムチン-1(MUC1/DF3)[Chen,L.ら(1995)J.Clin.Invest.,96,2775-2782;及びStackhouse,M.A.ら(1999)Cancer Gene Ther.,6,209-219]、並びにerbB2[Stackhouse,M.A.ら(1999)Cancer Gene Ther.,6,209-219;及びRing,C.J.ら(1996)Gene Ther.,3,1094-1103]が含まれる。一般に、これらの型の腫瘍特異的プロモーターは、単独では、基礎となる遺伝学的欠陥が標的腫瘍型において存在しないか又は不定である場合、活性及び特異性が欠如するという欠点を有し得る[Nettlebeck,D.M.ら(2000)Trends Genet.,16,174-181]。治療、例えば癌の治療のための治療用核酸の標的発現のための方法が、必要とされている。本発明は、この必要性に対処するものである。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
ベクターにおける選択されたエンハンサー配列の使用が、治療用核酸の腫瘍特異的及び/又は細胞型特異的な発現を指図するために利用され得ることが発見された。従って、例えば、癌を含む様々な疾患又は障害の治療法において有利に利用され得る、治療用核酸の標的化発現のための発現ベクターが提供される。
【0006】
一つの形態において、発現ベクターは、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された治療用核酸を含む。
【0007】
本発明のもう一つの面において、治療、例えば癌の治療のための治療用核酸の標的化発現のための方法が提供される。一つの態様において、方法は、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された核酸を含む治療用ベクターを、治療を必要とする哺乳動物へ投与することを含む。その予め選択された核酸は、好ましくは、治療用タンパク質をコードする遺伝子を含む。
【0008】
本発明のさらにもう一つの面において、例えば、所望のポリペプチド及びペプチドを含む所望の治療用タンパク質の産生において有益な宿主細胞が提供される。その細胞は、所望の治療用タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む。その遺伝子は、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結されている。好ましい腫瘍特異的プロモーターは、ヒトc-fosプロモーターである。
【0009】
本発明のさらにもう一つの面において、結腸癌のような上皮癌を含む癌を治療する方法が提供される。一つの態様において、方法は、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された核酸を含む治療用ベクターを、治療を必要とする哺乳動物へ投与することを含む。一つの形態において、その予め選択された核酸は、タンパク質をコードする遺伝子を含み、その方法は、そのタンパク質により活性化されて哺乳動物腫瘍細胞にとって毒性の産物となるプロドラッグを投与することをさらに含む。
【0010】
癌の治療のための治療用核酸の標的化発現の方法を提供することが、本発明の目的である。
【0011】
癌の治療又は所望のタンパク質の提供において使用するための発現ベクターを提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0012】
癌を治療する方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0013】
これら及びその他の本発明の目的及び利点は、本明細書の記載より明らかとなろう。
【0014】
好ましい態様の説明
本発明の原理の理解を促進する目的のために、好ましい態様について以下に言及し、それを記載するために特別な用語を使用するが、それらは、本発明の範囲を制限するためのものではなく、本発明が関係する分野の当業者に通常想到されるであろう、本明細書に例示されたような本発明の改変及びさらなる修飾、並びに本発明の原理のさらなる適用が企図されることが理解されよう。
【0015】
本発明は、例えば、所望の又は予め選択された治療用核酸の腫瘍及び/又は細胞型特異的な発現のため、有利に使用され得る発現ベクターに関する。本発明は、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーとの結合を通したTcf-4/β-カテニン複合体による遺伝子転写をアップレギュレートする、結腸癌及びその他の上皮癌を含む様々な癌におけるβ-カテニンの蓄積を活用する。本発明の発明者らは、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター、及び好ましくは所望の治療用タンパク質をコードする所望の治療用核酸に機能的に連結されたTcf-4/β-カテニン・エンハンサーを含むベクターが、核酸の腫瘍特異的又は細胞型特異的な発現を可能にすることを決定した。この発現の特異性によって、そのような治療を必要とする患者への治療用核酸の投与は、より柔軟性の高いものとなる。例えば、非腫瘍細胞又は非腫瘍組織などにおける治療用核酸の発現の懸念が最小限に抑えられるため、より高いベクター用量が送達され得る。哺乳動物における治療、例えば癌の治療のための治療用核酸の腫瘍及び/又は細胞特異的な発現の方法、並びに上皮癌のような癌を治療する方法も、提供される。所望のポリペプチドを産生する細胞系も、本発明において提供される。
【0016】
本発明の一つの面において、哺乳動物における所望の治療用核酸を発現するための発現ベクターが提供される。ベクターとは、本明細書において使用されるように、そして当技術分野において既知であるように、標的とされた細胞の形質転換を指図するよう設計された遺伝材料を含む構築物をさす。ベクターは、核酸カセット内の核酸がトランスフェクトされた細胞において転写され、所望の場合には翻訳され得るよう、他の必要な又は所望のエレメントに位置的かつ配列的に適応させられた、即ち機能的に連結された複数の遺伝エレメントを含有し得る。
【0017】
一つの形態において、発現ベクターは、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター、及び好ましくは少なくとも1個のTcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列に機能的に連結されたヌクレオチド配列を含む、所望の又は予め選択された治療用核酸を含む。本明細書において定義されるように、ヌクレオチド配列は、もう一つのヌクレオチド配列と機能的な関係に置かれている場合、もう一つのヌクレオチド配列に「機能的に連結」されている。例えば、コーディング配列がプロモーター配列に機能的に連結されている場合、これは、一般に、プロモーターがコーディング配列の転写を促進し得ることを意味する。機能的に連結された、とは、DNA配列が連結され、典型的には連続していること、そして2個のタンパク質コーディング領域を接続する必要がある場合には、連続しており、かつリーディング・フレーム内にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、数キロ塩基、プロモーターから隔離されていても機能する場合があり、イントロン配列は様々な長さであり得るため、ヌクレオチド配列は、機能的に連結されているが、連続していないという場合もあり得る。さらに、本明細書において定義されるように、ヌクレオチド配列とは、ヌクレオチド及び/又はヌクレオシド並びにそれらの誘導体の天然又は合成の直鎖状の連続的なアレイをさすものとする。「をコードする」及び「コーディング」という用語は、ヌクレオチド配列が、転写及び翻訳のメカニズムを通して、ポリペプチドを生成するよう一連のアミノ酸が特定のアミノ酸配列へと組み立てられるための情報を細胞に提供する過程をさす。
【0018】
本発明の好ましい形態において、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーは、配列番号:1に示されるようなヌクレオチド配列(5'AWCAAWGN3'[ここで、WはA又はT/Uであり、かつNはA、G、C、又はT、好ましくはGである])を有する。さらに、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーは、配列番号:2に示される配列番号:1の相補鎖も含む。配列番号:1に示されるエンハンサー配列は、5'→3'の方向で、配列番号:2に示されるその相補鎖と会合して、ベクター内に位置し得る。又は、配列番号:2に示されるエンハンサー配列が、5'→3'の方向で、配列番号:1に示されるその相補鎖と会合して、ベクター内に位置していてもよい。ベクターは、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列を、複数コピー、含んでいてもよい。例えば、ベクターは、約1個〜約20個のTcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列を含むことができ、好ましくは約3〜約4個の配列を含む。従って、ベクターは、配列番号:1又は配列番号:2に示されるようなヌクレオチド配列を、約1個、2個、3個、4個、又はそれ以上、含み得る。
【0019】
ベクター内に複数コピー存在する場合、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列は、少なくとも約7個のヌクレオチド、好ましくは約2〜約14個のヌクレオチドにより隔離される。本発明の好ましい形態において、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列は、配列番号:3及び配列番号:4に見られるような約7個のヌクレオチドにより隔離される。ベクターは、これらの16ヌクレオチド配列を約1〜約20個含むことができ、好ましくは約3〜4個含む。これらのスペーサー・ヌクレオチド配列は、エンハンサーを隔離するためのものであり、多様なヌクレオチド配列より選択され得る。好ましいスペーサー・ヌクレオチド配列は、配列番号:5のヌクレオチド35〜ヌクレオチド41に示されている。スペーサー・ヌクレオチド配列は、典型的には、腫瘍特異的及び/又は細胞特異的な遺伝子発現を実質的に妨害しないよう選択される。「実質的に妨害する」とは、本明細書において、核酸転写物産生が、配列番号:5のヌクレオチド35〜ヌクレオチド41に示されたスペーサー・ヌクレオチド配列を利用した転写物産生と比較して、約25%超、好ましくは約10%超、さらに好ましくは約2%超、低下しないであろうことを意味する。好ましいベクターは、前述のTcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列、本明細書に記載されるようなプロモーター、5'mRNAリーダー配列、翻訳開始部位、発現させるべき所望の配列を含む核酸カセット、3'非翻訳領域、及びポリアデニル化シグナルを含む。一つのさらなる例として、ベクターは、配列番号:5(ヌクレオチド27〜ヌクレオチド79に相当するTcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列の4個のリピート、ヌクレオチド98〜ヌクレオチド276に相当するc-fosプロモーター、ヌクレオチド277〜ヌクレオチド304の非特異的クローニング・アーティファクト配列、及びヌクレオチド305〜307に相当するATG開始部位を含む)、又は配列番号:6(ヌクレオチド27〜79に相当するTcf-4/β-カテニン・エンハンサー配列の4個のリピート、ヌクレオチド98〜179に相当するc-fosプロモーター、ヌクレオチド180〜191に相当する非特異的クローニング・アーティファクト配列、及びヌクレオチド192〜ヌクレオチド194に相当するATG開始部位を含む)に示されたヌクレオチド配列を含み得る。
【0020】
組換え発現ベクターは、当業者に周知の方法に従い、例えばManiatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Springs Harbor Laboratory,Cold Springs Harbor,New York(1982)に記載されているようにして、前述のヌクレオチド配列をベクターに組み込むことにより構築され得る。分子生物学及び組み換えDNA技術を記載しているその他の参照は、例えばDNA Cloning:A Practical Approach、第I及びII巻(D.N.Glover編 1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編 1984);Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames&S.J.Higgins編(1985));Transcription and Translation(B.D.Hames&S.J.Higgins編(1984));Animal Cell Culture(R.I.Freshney編(1986));Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,(1986));及びB.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);並びに定期的に周期的に改訂されているCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編)、John Wiley&Sonsにおいてもさらに説明されている。本発明において有益である多様なベクターが既知である。適当なベクターには、プラスミド・ベクター、レトロウイルス・ベクター、アデノウイルス・ベクター、アデノ随伴ウイルス・ベクター、及びヘルペスウイルス・ベクターが含まれる。ベクターは、予め選択された核酸配列の効率的な発現にとって必要な又は望ましいその他の既知の遺伝エレメントを含んでいてもよい。
【0021】
配列番号:1又は配列番号:2に示されたTcf-4/β-カテニン・エンハンサー・ヌクレオチド配列は、さらに修飾され、所望の遺伝子の転写を効果的に促進するエンハンサーをもたらし得ることが理解される。所望の遺伝子からの転写を促進するよう機能し、本発明において有益であり得る、配列番号:1又は2に由来するその他のエンハンサー配列を決定するため、標準的手法が利用され得る。本発明は、本明細書に記載されるような所望の又は予め選択されたヌクレオチド配列の転写を促進し、かつ/又は増強するよう機能する、配列番号:1又は配列番号:2に示されたヌクレオチド配列との、少なくとも約60%の同一性、好ましくは少なくとも約70%の同一性、より好ましくは少なくとも約80%の同一性、さらに好ましくは少なくとも約90%の同一性を有する、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー・ヌクレオチド配列を包含する。同一率は、例えば、国立衛生研究所(National Institutes of Health)より入手可能なアドバンスド(advanced)BLASTコンピュータ・プログラム、バージョン2.0.8を使用して、配列情報を比較することにより決定され得る。BLASTプログラムは、Karlin及びAltschul、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-2268(1990)のアラインメント法に基づいており、Altschulら、J.Mol.Biol.215:403-410(1990);Karlin及びAltschul、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877(1993);並びにAltschulら、Nucleic Acids Res.25:3389-3402(1997)において考察されている。
【0022】
さらに、配列番号:1及び/又は配列番号:2に示された配列との実質的な類似性を有するTcf-4/β-カテニン・エンハンサー・ヌクレオチド配列が、提供される。「実質的な類似性」とは、本明細書において、ヌクレオチド配列が、中程度にストリンジェントな条件の下で参照ヌクレオチド配列とハイブリダイズするのに十分な程度に参照ヌクレオチド配列と類似していることを意味する。この類似性を決定する方法は、本発明が関係する技術分野において周知である。簡単に説明すると、中程度にストリンジェントな条件は、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、第1巻、101〜104頁、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)において定義されており、例えば、5×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム溶液)、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1.0mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(pH 8.0)の予備洗浄溶液の使用、並びに55℃、5×SSCというハイブリダイゼーション及び洗浄の条件を含む。Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー・ヌクレオチド配列のさらなる要件は、予め選択された治療用遺伝子をコードする本明細書のヌクレオチド配列のような、予め選択されたヌクレオチド配列の転写を増強することである。
【0023】
Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーは、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーターに機能的に連結される。「腫瘍特異的な」とは、本明細書において、プロモーターが、好ましくは腫瘍細胞において活性であり、従って正常細胞及び/又は正常組織(即ち、非腫瘍細胞及び/又は非腫瘍組織)に存在する場合には、機能的に連結されたヌクレオチド配列の転写を有意な量、促進しない、又は「サイレント(silent)」であることを意味する。そのような正常細胞は、例えば、特異的な正常細胞型の指標となる細胞表面マーカーを有することを特徴とし、軟寒天内を移動しない。しかしながら、腫瘍特異的プロモーターは、それらがサイレントである組織において、検出可能な量の「バックグラウンド」活性を有していてもよいことが理解されよう。プロモーターが標的組織において選択的に活性化される程度は、選択比(selectivity ratio)(標的組織における活性/対照組織における活性)として表され得る。これに関して、本発明の実施において有用な腫瘍特異的プロモーターは、典型的には、状況に応じて約2〜約1000、又はそれ以上の選択比を有する。好ましい選択比は、少なくとも約2であり、好ましくは少なくとも約10、さらに好ましくは少なくとも約50、より好ましくは少なくとも約100、さらに好ましくは少なくとも約500である。腫瘍特異的プロモーターは、正常細胞及び/又は正常組織において機能的に連結されたヌクレオチド配列の転写を全く促進しないことが、より好ましい。
【0024】
「細胞型特異的な」とは、本明細書において、プロモーターが、好ましくは特定の組織を形成するある細胞型(例えば、前立腺細胞)においてのみ活性であり、従って異なる細胞型(例えば、乳房細胞)に存在する場合には、機能的に連結されたヌクレオチド配列の転写を有意な量、促進しない、又は「サイレント」であることを意味する。細胞型特異的プロモーターは、その特定の細胞型以外の細胞型において機能的に連結されたヌクレオチド配列の転写を全く促進しないことが、より好ましい。多様なそのような腫瘍特異的及び細胞型特異的なプロモーターが選択され得る。例示的な腫瘍特異的プロモーターには、例えば、c-fos及びv-fosを含むfosプロモーター;サイクリンDプロモーター、cox-2プロモーター、c-myc及びv-mycを含むmycプロモーター、HER2/neuプロモーター又は癌胎児性抗原(CEA)プロモーターのような乳癌特異的プロモーター;癌胎児性抗原プロモーターのような肝細胞癌特異的プロモーター;並びにムチン-1(MUC1/DF3)プロモーター及びerbB2プロモーターのような腺癌特異的プロモーターが含まれる。例示的な細胞型特異的プロモーターには、例えばホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ・プロモーター及びアルブミン・プロモーターのような肝臓特異的プロモーター;IgGプロモーターのようなB細胞特異的プロモーター;エラスターゼ・プロモーターのような膵腺房細胞特異的プロモーターが含まれる。その他の腫瘍特異的及び細胞型特異的なプロモーターが、当業者により選択されてもよく、それらは、例えば米国特許第5,997,859号にさらに記載されている。
【0025】
ベクターは、所望の又は予め選択された治療用核酸を含む。本明細書において定義されるように、治療用核酸とは、発現させられた場合に、腫瘍の増殖及び/又は転移に対し負の効果を及ぼすであろう産物を産生するヌクレオチド配列を含むものである。その産物は、リボ核酸(RNA)、もしくはペプチド及びポリペプチドを含むタンパク質、又はそれらの組み合わせであり得る。本発明の好ましい形態において、治療用ヌクレオチド配列の発現産物は、腫瘍細胞を死滅させることを可能にするであろう。発現産物は腫瘍細胞に対し負の効果を及ぼすよう直接的に作用してもよいし、又はもう一つの薬剤を通して間接的に作用してもよい。例えば、予め選択された治療用ヌクレオチド配列は、プロドラッグのような基質を、腫瘍細胞死をもたらすか、又は増殖及び/もしくは転移に関して腫瘍に対し負の効果を及ぼすであろう活性型の薬物へと活性化することにより間接的に作用するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。本明細書において使用されるように、「プロドラッグ」という用語は、腫瘍細胞にとって毒性の(即ち、増殖及び/又は転移に対し負の効果を及ぼし、好ましくは腫瘍細胞死をもたらす)産物へと変換され得る、本発明の方法において有用な任意の化合物を意味する。プロドラッグは、本発明の方法において有用なベクター内の治療用核酸配列の遺伝子産物により、毒性産物へと変換される。そのようなプロドラッグの代表例には、HSV-チミジンキナーゼによりインビボで毒性化合物へと変換されるガンシクロビルが含まれる。プロドラッグのその他の代表例には、アシクロビル、1-(2-デオキシ-2-フルオロ-β-D-アラビノフラノシル)-5-ヨードウラシル(FIAU)、6-メトキシプリン・アラビノシド、及び5-フルオロシトシンが含まれる。例示的な治療用遺伝子には、単純ヘルペスウイルス・チミジンキナーゼ(例えばガンシクロビルを活性化する)、水痘帯状疱疹ウイルス・チミジンキナーゼ(例えば6-メトキシプリン・アラビノシドを活性化する)、及びシトシン・デアミナーゼ(5-フルオロシトシンを活性化する)をコードするものが含まれる。
【0026】
又は、予め選択された治療用核酸は、発癌過程に関与する遺伝子の転写及び/又は翻訳を直接的に防止し得るアンチセンス核酸配列をコードするものであってもよい。アンチセンス核酸は、例えば、癌遺伝子の転写を防止するために癌遺伝子の転写調節領域と結合するよう設計され得る。そのような癌遺伝子及びそれらのヌクレオチド配列の多くは、当技術分野において既知であり、例えばRas、Myc、Abl、Rel、Her-2、Raf、Fms、Fos、Jun、p53、及びSisを含む。そのような癌遺伝子は、例えば、改変型の増殖因子、受容体チロシンキナーゼ、膜会合非受容体チロシンキナーゼ、膜会合Gタンパク質、セリン/トレオニンキナーゼ、又は転写因子をコードする。アンチセンス・ヌクレオチド配列は、少なくとも約20ヌクレオチドの長さを有し得るが、約20〜約1000ヌクレオチド長の範囲であってもよく、又は遺伝子標的の全長であってもよい。当業者であれば、当技術分野において既知の、例えばMethods in Enzymology,Antisense Technology、パートA及びB(第313及び314巻)(M. Phillips編)、Academic Press(1999)に記載されたような標準的な手法により、容易に、適切な標的を選択し、所望の治療効果を得るためのアンチセンス核酸の適切な長さを選択することができる。
【0027】
本発明のさらに他の形態において、治療用核酸は、それ自体が特定の細胞にとって毒性であり、従って腫瘍細胞に対し負の効果を及ぼすよう直接的に作用するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。例えば、このカテゴリーの例示的な遺伝子には、ジフテリア毒素、リシン、シュードモナス外毒素、又はジフテリア毒素A鎖及びリシンA鎖を含む哺乳動物細胞にとって毒性のそれらの一部をコードするものが含まれる。そのような遺伝子、又は本発明において使用するのに適している他の遺伝子は、米国特許第6,057,299号にさらに具体的に記載されている。当技術分野において既知のその他の細菌又はその他の微生物の毒素も、利用され得る。
【0028】
本発明のさらに他の形態において、以下により完全に記載されるように、予め選択された治療用核酸は、哺乳動物にとっての他の何らかの利益を有するタンパク質産物をコードしてもよい。
【0029】
本発明のさらにもう一つの面において、有利には細胞系を形成し得る宿主細胞も、本明細書に提供される。その細胞は、前記のようなベクターを含む。そのようなベクターは、発現ベクターを含有し、目的のポリペプチドを産生するであろう細胞系を生成させるために、細胞培養物中の細胞をトランスフェクトするために利用され得る。本明細書に記載されるような細胞系において発現させられる場合、ベクターは、好ましくは、哺乳動物に何らかの利点を提供することができる治療用タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。例えば、そのタンパク質は、哺乳動物においてもはや産生されないもの、機能を発揮するために有効な十分な量で産生されないもの、又はもはや機能しないか、もしくは意図された機能にとって部分的にのみ活性であるよう変異もしくは改変させられたものであり得る。本明細書に記載された細胞系において有利に産生され得るタンパク質の例には、成長ホルモン、インスリン、アデノシンデアミナーゼ、サイトカイン、増殖因子、嚢胞性繊維症膜コンダクタンス制御因子(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)、及び低密度リポタンパク質受容体、又は例えば比較的高い収量で産生されることが望まれるその他の所望の産物が含まれる。さらに、好ましいベクターは、当技術分野において既知の選択可能マーカーをコードするもののような、その他のヌクレオチド配列を含むものである。例えば、選択可能マーカーには、ブレオマイシン、アデノシンデアミナーゼ、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ、又は当技術分野において既知のその他の哺乳動物選択可能マーカーをコードする遺伝子が含まれる。
【0030】
多様な細胞系が、そのベクターによりトランスフェクトされ得る。好ましい細胞系は、哺乳動物細胞系、好ましくはヒト細胞系である。好ましい細胞系は、例えば、所望のタンパク質又はその他の発現産物の転写を増強するための本明細書に記載されたエンハンサー配列との結合のために利用可能なTcf-4/B-カテニン複合体を高レベルに含むものである。例示的な細胞系には、HT-29、WiDr、SW620、SW480、HCT-8、Colo205、及びHCT-116のようなヒト結腸腫瘍細胞系が含まれる。
【0031】
本明細書に記載された細胞系から後に単離され得る特定のタンパク質を作製することが望まれる場合、ベクターは、本明細書に記載された細胞系において発現させられ得る所望のタンパク質の精製を支援し得るタンパク質をコードするもう一つのヌクレオチド配列インサートをさらに含んでいてもよい。融合タンパク質又はキメラ・タンパク質が得られるよう、付加的なヌクレオチド配列がベクター内に位置していてもよい。例えば、所望のタンパク質は、当技術分野において既知のように、他のタンパク質に接続されたリンカー・アミノ酸をC末端に有するよう作製され得る。付加的なヌクレオチド配列には、例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)をコードするヌクレオチド配列が含まれ得る。当業者に既知の精製法を実施した後、付加的なアミノ酸配列は、適切な酵素により切断され得る。例えば、付加的なアミノ酸配列がGSTのものである場合には、トロンビンが、GSTから所望のタンパク質を分離するために使用され得る。次いで、所望のタンパク質は、当技術分野において既知の方法により、他のタンパク質又はそれらの断片から単離され得る。
【0032】
本発明のさらにもう一つの面において、癌を治療する方法も提供される。一つの形態において、方法は、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4/β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された治療用核酸配列を含むベクターを、治療を必要とする哺乳動物へ投与することを含む。次いで、予め選択された治療用遺伝子のような所望の治療用ヌクレオチド配列は、特定の癌を治療するための発現産物が形成されるよう発現させられ得る。好ましい発現産物及びベクターは、本明細書に詳細に記載された。その治療は、腫瘍のサイズ、増殖、及び/又は転移を減少させ、好ましくは腫瘍を死滅させ得る。その方法は、例えば形成異常、前癌状態、及び癌を治療するために使用され得る。当技術分野において既知のように、癌という用語は、多様な細胞型に影響を与える疾患をさす。その疾患は、腫瘍の形態をとるかもしれない、細胞及び/又は組織の異常な増殖を特徴とする。癌細胞の特性は、当業者に周知であり、接触阻止の消失、侵入性、及び転移能の呈示を含む。
【0033】
多様な腫瘍が、本発明の方法に従い治療され得る。例示的な腫瘍は、例えば上皮癌及び腺癌を含む癌から発生したものである。そのような癌は、例えば結腸、前立腺、乳房、卵巣、食道、及び胃より選択された器官(それらに由来する組織及び細胞を含む)に影響を与え得る。
【0034】
ベクターは、多様な手段で哺乳動物へ投与され得る。一つの形態において、ベクターは、例えば目的の腫瘍への直接注射によりインビボ投与され得る。もう一つの形態において、ベクターは、エクスビボ戦略を使用して投与されてもよい。影響を受けた哺乳動物組織が、滅菌状態の下で採集され、培養され、多様な既知の方法によりベクターによりトランスフェクトされ得る。そのような方法は、当技術分野において既知であり、機械法、化学法、親油法、及び電気穿孔を含む。例示的な機械法には、例えば、マイクロインジェクション、及び例えば導入すべきDNAのための金粒子基質を含む遺伝子銃の使用が含まれる。例示的な化学法には、例えばリン酸カルシウム又はDEAE-デキストランの使用が含まれる。例示的な親油法には、脂質媒介トランスフェクションのためのリポソーム及びその他の陽イオン性薬剤の使用が含まれる。そのような方法は、当技術分野において周知であり、そのような方法の多くは、例えばGene Transfer Methods:Introducing DNA into Living Cells and Organisms(Norton及びSteel編)、Biotechniques Press(2000);及び定期的に周期的に改訂されているCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編)、John Wiley&Sonsに記載されている。
【0035】
ベクターは、腫瘍細胞のような所望の又は標的とされた細胞における治療用遺伝子の発現を可能にするのに十分な量、哺乳動物に投与される。この量は、治療用遺伝子の性質、ベクターの性質、疾患の程度及び性質、並びに細胞型に依って異なり、そのような量は、当業者により決定され得る。
【0036】
ベクターは、好ましくは、治療を必要とする哺乳動物へ投与される。多様な哺乳動物が、本発明の方法に従い治療され得る。例示的な哺乳動物には、ヒト、イヌ、ネコ、並びにウシ、ヒツジ、ヤギ、及びブタのような家畜、又はその他の所望の哺乳動物が含まれる。
【0037】
癌を治療する方法の好ましい形態において、治療用ヌクレオチド配列の転写を制御する転写制御薬剤を含む組成物が、前述の発現ベクターの投与に加えて投与され得る。その組成物は、予め選択されたヌクレオチド配列の転写活性化を増加又は減少させ得る転写制御薬剤を含み得る。ベクターが投与された後、そのような発現がいくつかの状況において望まれない場合には、予め選択されたヌクレオチド配列の転写活性化の減少が、発現の調節を可能にする。転写活性化を増加させる例示的な薬剤には、短鎖脂肪酸(それらの塩を含む);及びホルボールエステル、又はそれらの組み合わせが含まれる。「短鎖脂肪酸」とは、本明細書において、約12炭素原子以下、好ましくは約3〜約6炭素原子の炭素鎖長を有する脂肪酸を意味する。好ましい短鎖脂肪酸は、酪酸、好ましくは酪酸ナトリウムのようなそれらの塩である。転写活性化を減少させる例示的な薬剤には、ドキソルビシン、及びシス-レチノイン酸のようなレチノイドが含まれる。その薬剤は、ベクターの投与の前もしくは後に投与されてもよいし、又はベクターと共投与されてもよい。
【0038】
治療を必要とする哺乳動物は、好ましくは、希望通りに転写を制御する(例えば、増加又は減少させる)のに十分な量の転写制御薬剤を含む組成物により治療される。この量は、状況に依って異なり得る。例えば、結腸癌のような上皮癌を含む癌の治療において、利用される転写制御薬剤の量は、癌の性質及び程度、利用される治療用核酸の性質、並びに発現ベクターの性質に依存し得る。そのような量は、当業者により容易に決定され得る。
【0039】
本発明のさらにもう一つの面において、治療用核酸の標的化発現の方法が提供される。その方法は、有利には、治療用核酸の腫瘍特異的かつ/又は細胞特異的な発現を可能にする。一つの形態において、方法は、腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4/β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された治療用核酸配列を含むベクターを、治療を必要とする哺乳動物へ投与することを含む。次いで、予め選択された遺伝子のような、予め選択されたヌクレオチド配列は、特定の疾患又はその他の障害を治療するための発現産物が形成されるよう発現させられ得る。発現産物及びベクターは、本明細書に詳細に記載された。
【0040】
前記のベクター、宿主細胞、及び方法を例示する具体例を、以下に言及する。実施例は、好ましい態様を例示するために提供されるのであって、本発明の範囲を制限するものではないことを理解されたい。
【0041】
実施例
本発明に従い、結腸腫瘍及びその他の上皮腫瘍に対する増加した特異性を有する遺伝子転写制御エレメントの独特の組み合わせを、癌治療用遺伝子の発現に関して試験した。より具体的には、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー/c-fosプロモーター・ルシフェラーゼ・レポーター・カセット(「pTCF/fos-Luc」)を、正常組織、ポリープ組織、及び腫瘍組織に由来する一連の初代ヒト結腸細胞及び樹立ヒト結腸細胞において試験した。治療用遺伝子の発現を調査するため、同TCF/fosエレメントを、単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子と連結した。プロドラッグ、ガンシクロビル(GCV)と組み合わせられたHSV-TKは、種々の癌の治療のため多くの前臨床研究及び臨床研究において利用されている[Freeman,S.M.(1996)Sem.Oncol.,23,31-45]。このアプローチの理論は、GCVを選択的にリン酸化し、最終的には、DNAへのGCV取り込み、並びに細胞周期停止及び未だ特徴決定されていないアポトーシス経路を介した細胞死をもたらすことができるHSV-TKの能力に基づいている[Drake,R.R.ら(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-37192;及びHalloran,P.J.ら(1998)Cancer Res.,58,3855-3865]。インビボで、GCVにより媒介される細胞死滅は、腫瘍に対する一次炎症様免疫応答を開始させ、それは長期的な二次腫瘍免疫応答へと至ることができる[Freeman,S.M.(1996)Sem.Oncol.,23,31-45;Freeman,S.ら(1997)Lancet,349,2-3;及びMelcher,A.ら(1998)Nature Med.,4,581-587]。
【0042】
Tcf-4/β-カテニンによるHSV-TKの特異的発現を特徴決定するため、ヒトの腫瘍結腸組織又は正常結腸組織に由来する一連のヒト結腸細胞系を使用した[Moyer,M.P.ら(1996)In Vitro Cell.Devel.Biol.:Animal,32,315-317]。これらの細胞系を、ルシフェラーゼ・レポーター遺伝子活性に関してスクリーニングし、次いでサブセットをHSV-TK発現及びGCV細胞死滅に関して特徴決定した。
【0043】
実施例のための材料及び方法
細胞系
ヒト結腸腫瘍細胞系HT-29、WiDr、SW620、SW480、HCT-8、COLO205、及びHCT-116は、ATCCから入手した。NCM460(正常結腸粘膜)細胞系及びNCM425細胞系は、非疾患結腸を有する患者からインセル社(INCELL Corp.)(San Antonio,TX)により開発された。CSC-1(結腸陰窩幹細胞)細胞系は、除去されたヒト腺癌の切除縁近傍の非罹患結腸粘膜組織に由来した[Moyer,M.P.ら(1996)In Vitro Cell.Devel.Biol.:Animal,32,315-317;及びStauffer,J.S.ら(1995)Amer.Jour.of Surgery,169,190-196]。特記しない限り、全ての細胞系を、M3:10培地(INCELL Corp.から入手)で維持した。3人のポリープ患者(COP)、6人の腫瘍患者(HCC)、及び4人の正常患者(NCM)の細胞に由来する上皮細胞のパネル(同一患者に由来する2セットの正常−腫瘍対(NCM218/HCC195;NCM625/HCC451)を含む)を、凍結保存から取り出し、M3:20(INCELL)で維持した。
【0044】
Tcf4/β-カテニン・ルシフェラーゼ構築物及びトランスフェクション
ルシフェラーゼ・レポーター・プラスミドpTCF/fos-Luc及びpFCT/fos-Lucは、Dr.Mark van der Wetering[Korinek,V.ら(1997)Science,275,1784-1787]より譲り受けた。pTCF/fos-Luc構築物は、ルシフェラーゼ遺伝子の発現を駆動するマウスc-fosプロモーター(194bp)の5'に、Tcf-4結合配列(ATCAAAGG、全部で82bp)の4個のタンデム・リピートを含む。pFCT/fos-Lucは、Tcf-4により認識されない改変されたリピート配列(GCCAAAGG)を含有している陰性対照プラスミドとして設計された[Korinek,V.ら(1997)Science,275,1784-1787]。Tcf-4エンハンサー欠失ベクター(pTOPLESS)は、82bpのエンハンサー配列を除去するためSalIによりpTCF/fos-Lucを消化することにより生成した。ゲル精製の後、SalI部位の再ライゲーションによりpTOPLESSプラスミドを生成させた。
【0045】
図2に報告されたデータに関しては、2×106個の細胞を、10□gのpTCF/fos-Luc又はpFCT/fos-Lucプラスミドによりトリプリケートで電気穿孔(1180ボルト/240抵抗;GIBCO/BRL)により一過性トランスフェクトした。インセル(INCELL)の上皮細胞系列に関しては、パーフェクト・リピッド・トランスフェクション(Perfect Lipid Transfection)キット(InVitrogen)内に供給された脂質のパネルを使用して、細胞をトランスフェクトした。各細胞系について、5×105個の細胞を、インセル社より提供されたM3:20培地で24穴プレート(Costar)に(トリプリケートで)播種した。翌日、脂質#2及び#6を、各脂質とレポーターDNAプラスミドとを6:6:2の比率(μg)で組み合わせて使用した。トランスフェクション効率のための内部対照として、最小HSV-TKプロモーターの転写調節下にあるウミシイタケ・ルシフェラーゼ・プラスミドpRL-TK(Promega)を、pTCF/fos-Luc又はpFCT/fos-Lucに対し10:1の比率で使用した。提示された他の全てのレポーター・アッセイについては、2μgのpTCF/fos-Luc、1μgのpRL-TK、及び8〜14μlのリポフェクチン試薬(GIBCO/BRL)による2×105個の細胞の一過性トランスフェクションを実施した。示されている場合には、トランスフェクション後24時間目に酪酸塩又は他の化合物を添加した。全てのルシフェラーゼ・レポーター・アッセイについて、トランスフェクション(又は電気穿孔)後48時間目に、ウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性に対するホタル・ルシフェラーゼ活性の比(相対光単位、RLU)として表されるルシフェラーゼ活性を決定するため、プロメガ(Promega)製の二重ルシフェラーゼ・レポーター(Dual-Luciferase Reporter)キット、及びターナー(Turner)TD-20eルミノメーターを使用した。
【0046】
pTcf-TK
pTOPFLASH内のTcf-4エンハンサー、c-fosプロモーター、及びルシフェラーゼ遺伝子開始部位を含む5'DNA配列を、配列決定した。5'-BglII部位及び3'-BamHI部位が組み込まれたTcf4/β-カテニン-c-fosエンハンサー/プロモーター配列を含む300bp断片に特異的なプライマーを設計した。表1に例示されるように、BglIIプライマーは、
であり、BamHIプライマーは、
であった。得られたPCR産物を精製し、BglII及びBamHIにより消化し、次いでpcDNA3(Promega)に由来するプラスミドpcDNA-TK内のBglII部位へライゲートさせた。pcDNA3のCMVプロモーター・エレメント及びマルチプル・クローニング・サイトの部分を、BglII及びBamHIによる消化により予め除去し、5'-BglII末端及び3'-BamHI末端を有する1.1kbのHSV-TK遺伝子をこの部位へライゲートさせた[Drake,R.R.ら(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-27192]。続いて、300bpのPCR産物を、pcDNA-TKベクターのBglII部位へライゲートさせた。
【0047】
第一のTcf/c-fos構築物(配列番号:5)のATG開始部位とc-fosプロモーターの3'末端との間の114bpを含有している、Tcf-4エンハンサー及びc-fosプロモーター・エレメントを含有している第二の(186bp)ベクター(配列番号:6)を構築した。この目的のため、新たなBamHIプライマー5'-
を3'末端のため設計した。186bpの産物を、5'BglIIプライマー(配列番号:7)及び第二のBamHIプライマー(配列番号:9)を使用してPCR増幅した。pTOPFLASHを、鋳型DNAとして使用した。増幅された産物を精製し、BglII/BamHIにより消化し、前記のようなBglIIにより消化されたpcDNA-TKとライゲートさせ、第二のpTcf-TK構築物(配列番号:5)を生成させた。
【0048】
Tcf-TKによる細胞系の一過性トランスフェクション:GCV代謝、細胞死滅、及びHSV-TKウエスタン・ブロッティング
標準的なトランスフェクション条件は、18時間インキュベートされた1.0mlのOPTIMEM培地中の細胞0.2×106個当たり1.75μgのプラスミドDNA及び11μlのリポフェクチン試薬(GIBCO/BRL)の使用であった。このプロトコルに対する改変が、適宜、示される。代謝標識実験に関しては、SW480、HCT8、SW620、及びNCM460細胞を、0.4×106個/ウェルで播種し、各条件についてトリプリケートで、11μlのリポフェクチン試薬+1.75μgのpcDNA-TK、1.75μgのpTcf-TK(配列番号:5)、又は1.75μgのpTcf-TK(配列番号:6を含む)により18時間トランスフェクトした。対照ウェルは、11μlリポフェクチン試薬単独と共にインキュベートした。次いで、細胞を、1μM[3H]GCVを含有している1mlの新鮮な培地の中で18時間インキュベートした。細胞を70%メタノールで抽出し、[Drake,R.R.ら(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-37192]に以前に記載されたようにして、リン酸化GCVのレベル及びDNAへのGCVの取り込みに関して評価した。GCVによる細胞死滅に関しては、SW480細胞を0.15×106個/ウェルで播種し、各条件についてトリプリケートで、11μlのリポフェクタミン単独、1.75μgのpcDNA-TK、又は1.75μgのpTcf-TKにより16時間トランスフェクトした。10μM GCVを含有している新鮮な培地(3ml)を、48時間、細胞に添加した。生存細胞数を、トリパンブルー色素排除及び自動細胞計数を使用して決定した。各細胞系のウエスタン・ブロット分析は、ポリクローナル・ウサギ抗HSV-TK抗体(Dr.Margaret Black, Washington State Universityから譲り受けた)を使用して行った[Drake,R.R.ら(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-37192]。Drake,R.R.ら[(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-2719]に以前に記載されたようにして、細胞数を1×106細胞/0.1mlゲル・ローディング緩衝液に対して規準化し、等価なタンパク質ローディングを定量した。ブロットされたHSV-1 TKタンパク質バンドを、ECL発色団試薬(Amersham)を使用して、フィルム上で可視化した。
【0049】
実施例1
結腸細胞系におけるTcf-4レポーター活性
結腸直腸癌におけるAPC及びβ-カテニンの高頻度の変異、並びにその結果として生じる、核局在Tcf-4/β-カテニン複合体による遺伝子制御の増加[Kinzler,K.W.ら(1996)Cell,87,159-170;Morin,P.J.ら(1997)Science,275,1787-1790;及びRubinfeld,B.ら(1997)Science,275,1790-1792]に基づき、プロモーターに連結されたTcf4/β-カテニン・エンハンサー・モチーフを、腫瘍特異的遺伝子発現エレメントとして、ここで試験した。治療用遺伝子の発現によるさらなる分析のための候補細胞系を同定するため、9個のヒト結腸腫瘍細胞系及び正常細胞系のパネルを、pTCF/fos-Luc(Dr.Marc van de Weteringから譲り受けたpTOPFLASHから得られたTcf-4/β-カテニン・エンハンサー/c-fosプロモーター−ルシフェラーゼ遺伝子構築物)及び不活性型pFCT/fos-Luc(FCTは、変異型の非機能性のTcf4エンハンサーである)(図1参照)を使用して、ルシフェラーゼ・レポーター遺伝子活性に関してスクリーニングした。スクリーニングは、高いTcf/β-カテニン依存性活性を有することが以前に報告された2個の細胞系、SW480及びSW620[He,T.C.ら(1998)Science,281,1509-1512;Crawford, H. C.ら(1999)Oncogene,18,2883-2891;及びKorinek,V.ら(1997)Science, 275,1784-1787]を含んでいた。各腫瘍系は、変異型APC遺伝子を有することが既知である[Ilyas,M.ら(1997)Proc.Nat.Acad.Sci.USA,94,10330-10334]。
【0050】
可能性のある陰性対照細胞系として使用するため、2個の非腫瘍結腸細胞系を試験した。NCM460細胞系及びNCM425細胞系(正常結腸粘膜)は、非疾患結腸を有する患者からインセル社(San Antonio,TX)により開発され、CSC-1(結腸陰窩幹細胞)細胞系は、インセル社から開発され、除去されたヒト腺癌の切除縁近傍の非罹患結腸粘膜組織に由来した[Moyer,M.P.ら(1996)In Vitro Cell.Devel.Biol.:Animal,32,315-317;及びStauffer,J.S.ら(1995)Amer.Jour. of Surgery,169,190-196]。これらの「正常」結腸細胞は、不死化されており、変異p53タンパク質を有することが免疫組織化学的に特徴決定されているが、それらは、正常結腸細胞の指標である大部分の細胞表面マーカーを有しており、ヌードマウスへ感染した場合に腫瘍を形成せず、軟寒天内を移動しない[Moyer,M.P.ら(1996)In Vitro Cell.Devel.Biol.:Animal,32,315-317;及びStauffer,J.S.ら(1995)Amer.Jour. of Surgery,169,190-196]。CSC-1系は、短縮型APCを発現することが示されているが、最小のTcf-4及びβ-カテニン・タンパク質発現を有する[Mann,B.ら(1999)Proc.Nat.Acad.Sci. USA, 96,1603-1608]。
【0051】
図2に示されるように、SW480細胞系、SW620細胞系、Colo320細胞系、及びHCT-8細胞系は、pTCF/fosルシフェラーゼ活性とpFCT/fosルシフェラーゼ活性との間の最も大きいTcf-4/β-カテニン依存性活性を示した。正常結腸に由来するNCM460細胞及びCSC-1細胞は、検出可能なTcf-4/β-カテニン・エンハンサー活性をほとんど有しておらず、従って良好な陰性対照であることと一致している。Tcf-4エンハンサー・エレメントを欠くルシフェラーゼ・レポーター・プラスミドpTOPLESS-Lucを使用した場合、HCT-8細胞、SW480細胞、HCT116細胞、及びNCM460細胞におけるルシフェラーゼ活性比は、pTCF/fosルシフェラーゼ活性よりそれぞれ57倍、15倍、7倍、及び9倍低かった(図3参照)。図3中のデータに関しては、示された細胞系を播種し(2×105個/ウェル)、1.5mlのOPTIMEM培地中で、リポフェクタミン(10μl/ウェル)、2μgのpTOPLESS-Luc、pGL3Basic、又はpTCF/fos-Lucプラスミド、及び1μgのウミシイタケ-TKプラスミドにより18時間トランスフェクトした。新鮮な培地を添加し、48時間後、細胞をルシフェラーゼ活性に関して分析した。さらに、pTCF-Luc、pTOPLESS、及び強力な構成性マウス・レトロウイルスLTR(long terminal repeat)プロモーターにより駆動されたルシフェラーゼ・プラスミド(pGL3-LTR)の活性の比較を、3個の正常結腸細胞系及びSW620細胞において調査した。それらの結果を、表2に示す。
【0052】
(表1)pTCF/fos-Luc、pTOPLESS、又はpGL3-LTRによりトランスフェクトされた選択された細胞系におけるホタル・ルシフェラーゼ活性及びウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性*
pGL3-LTR活性は正常細胞系及びSW620腫瘍系において一貫して高かったが(表1)、TCF-fos活性は正常細胞系において低かったため、これらの結果は、再び、TCF-fosエレメントの腫瘍特異的な応答性を強調している。
【0053】
実施例2
初代細胞/組織におけるTcf-4活性
多くの結腸癌細胞系が、結腸細胞制御及び悪性のいくつかの面に関する多くの情報を提供したが、正常細胞と前悪性細胞と悪性細胞との間の広範囲の比較ディファレンシャル分析は、主としてGI粘膜上皮に由来する培養物の短命性のために不可能であった[Stauffer,J.S.ら(1995)Amer.Jour.of Surgery,169,190-196]。最近、結腸疾患を有する患者及び疾患を有しない患者から新鮮に単離された組織に由来する一連の新たな連続GI細胞系が、濃縮培地における上皮細胞の選択的培養により開発された[Moyer,M.P.ら(1996)In Vitro Cell.Devel.Biol.:Animal,32,315-317;及びStauffer,J.S.ら(1995)Amer.Jour. of Surgery,169,190-196]。正常(NCM)、ポリープ(COP)、及び腫瘍(HCC)に由来する組織を代表するこれらの新たな細胞系のパネルを、pTCF/fos-Lucレポーター・プラスミドによるトランスフェクション研究のため使用した。(インセル社により開発された)図4に示された結腸細胞系を播種し(2×105個/ウェル)、1.0mlのOPTIMEM培地中で、リポフェクタミン(10μl/ウェル)、2μgのpTCF/fos-Lucプラスミド又はpFCT/fos-Lucプラスミド、及び1μgのウミシイタケ-TKプラスミドにより18時間トランスフェクトした。新鮮な培地を添加し、48時間後、細胞をルシフェラーゼ活性に関して分析した。新鮮な培地を添加した後24時間目に、播種された細胞の半分を、さらに24時間、酪酸塩(1.4mM)により処理した。
【0054】
図4に示されるように、試験されたNCM系は、全て、COP系及びHCC系に比べて最小のTcf-4/β-カテニン依存性活性を有していた。3個のポリープのうちの1個(COP14)が、NCMに対する2倍の増加を示し、6個の腫瘍系のうち5個が、NCM系と比較して2倍以上の活性の増加を有していた。各細胞カテゴリー内の平均ルシフェラーゼ活性を決定したところ、COP細胞及びHCC細胞は、NCM細胞と比べて2倍及び7倍を超える活性の増加を示した。
【0055】
実施例3
pTCF/fos-Luc活性及びpFCT/fos-Luc活性に対する酪酸塩の効果
短鎖脂肪酸である酪酸塩は、Tcf-4/β-カテニン応答性遺伝子の発現を増加させることが報告されている[Bordonaro,M.ら(1999)Cell Growth Diff.,10,713-20;及びBarshishat,M.ら(2000)British J.Cancer,82,195-203]。pTCF/fos-Luc及びpFCT/fos-Lucのルシフェラーゼ・レポーター活性に対する効果を査定するため、この薬物を、SW620細胞系、Colo320細胞系、HCT8細胞系、SW480細胞系、HT-29細胞系、NCM460、及びLoVo細胞系に添加した。細胞(8ウェル/細胞系)を、リポフェクタミン(細胞2×105個当たり12μl)及び2μgのpTCF/fos-Luc(又はpFCT/fos-Luc)プラスミド/1μgのpRL-TKプラスミドにより24時間トランスフェクトした後、24時間、通常培地において増殖させた。トランスフェクトされた細胞の半分に、最適化された用量の1.4mM酪酸塩をさらに24時間添加した後、ルシフェラーゼ活性を評価した。新鮮な培地を添加し、48時間後、細胞をルシフェラーゼ活性に関して分析した。新鮮な培地を添加した後24時間目に、播種された細胞の半分を、さらに24時間、酪酸塩(1.4mM)により処理した。
【0056】
図5に示されるように、酪酸塩の添加は、pTCF/fos-LucでトランスフェクトされたHCT-8細胞におけるRLU活性を4倍増加させ、Colo320、SW480、及びSW620のような他の高活性系においては、減少した活性比が観察された。NCM460細胞、HT-29細胞、及びLoVo細胞は、酪酸塩の存在下又は非存在下で最小のpTCF/fos-Luc活性を有していた。図5中の比率データから明らかでないことは、二つのルシフェラーゼ活性に対する効果である。これらの細胞系のいくつかに関する個々のホタル・ルシフェラーゼ数及びウミシイタケ・ルシフェラーゼ数を、表2に提示する。
【0057】
(表2)1.4mM酪酸塩(24時間処理)の存在下及び非存在下での、pTCF/fos-Luc及びpFCT/fos-Lucによりトランスフェクトされた選択された細胞系におけるホタル・ルシフェラーゼ活性及びウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性
【0058】
試験された各細胞系において、酪酸塩の存在により、弱応答細胞(HT-29、LoVo)においてはpTCF/fos-Lucレポーター活性が7倍増加し、そしてSW620細胞、Colo320細胞、及びHCT8細胞においてはそれぞれ14倍、32倍、及び108倍増加した。相応して、基本チミジンキナーゼ・プロモーターにより調節されたウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性の大きな増加も存在する。FCT/fosにより駆動されたルシフェラーゼ活性も、酪酸塩により増強されたが、pTCF/fosの正確なTcf4モチーフと同程度ではなかった。
【0059】
ドキソルビシン[Yang,S.Z.ら(1999)Int.J.Oncvol.,15,1109-1115]及び9-シス-レチノイン酸[Easwaran,V.ら(1999)Curr.Biol.,9,1415-1418]のような化合物は、Tcf-4/β-カテニン応答性遺伝子の発現を転写的に抑制することが報告されている。MDA435細胞系及びMDA231細胞系を播種し(2×105個/ウェル)、1.0mlのOPTIMEM培地中で、リポフェクタミン(11μl/ウェル)、2μgのpTCF/fos-Lucプラスミド、及び1μgのウミシイタケ-TKプラスミドにより18時間トランスフェクトした。新鮮な培地を添加し、48時間後、細胞をルシフェラーゼ活性に関して分析した。新鮮な培地の添加後24時間目に、播種された細胞の一部を、1μMドキソルビシン、2.5μM 9-シス-レチノイン酸、又は1.4mM酪酸塩によりさらに24時間処理した。図6に示されるように、pTCF/fos-Lucによりトランスフェクトされた2種類のヒト乳房腫瘍細胞系MDA-435及びMDA-231に24時間添加された1μMドキソルビシンは、未処理のトランスフェクトされた対照細胞と比較して、RLU活性を5〜10倍低下させた。類似条件下で、9-シス-レチノイン酸(2.5μM)の添加は、ほとんど効果を及ぼさなかった。表3に提示されるように、個々のホタル・ルシフェラーゼ活性及びウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性に対するドキソルビシン、9-シス-レチノイン酸、及び酪酸塩(1.4mM)の効果が示される。
【0060】
(表3)2.5μM 9-シス-レチノイン酸、1μMドキソルビシン、又は1.4mM酪酸塩(24時間処理)の存在下及び非存在下での、pTCF/fos-LucによりトランスフェクトされたMDA-231及びMDA-435乳房腫瘍細胞系におけるホタル・ルシフェラーゼ活性及びウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性
【0061】
増加した基本ウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性に基づき、ドキソルビシンは、酪酸塩と同様に、多くの転写調節因子の活性に影響を与えていると考えられる。しかしながら、ホタル・ルシフェラーゼに対するその効果は、酪酸塩で処理された細胞の活性化と比較して、抑制性である。
【0062】
実施例4
pTCF-TKの生成、及び細胞系における発現
本願の材料及び方法のセクションに記載されたようにして、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー及びc-fosプロモーター配列の二つのバージョンをPCR増幅し、プラスミドpcDNA-TKへ挿入した。Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー及びc-fosプロモーター配列が組み込まれた5'領域の配列は、配列番号:5及び6として配列表に示されている。ベクター内で反復され得るTcfエンハンサーを表す、配列番号:1及びその相補配列である配列番号:2も、配列表に示されている。複数コピーのリピートがプラスミド内に使用され得るが、好ましい数は3又は4コピーである。マウスc-fosプロモーター配列は、ヌクレオチド98〜179として配列番号:5及び6内に存在する。pTcf-TKと名付けられた2個の新たなプラスミドを、NCM460細胞系、HCT-8細胞系、SW480細胞系、及びSW620細胞系をトランスフェクトするために使用した。トランスフェクトされたHCT8細胞、SW480細胞、及びSW620細胞から、個々のG418耐性クローン又は細胞プールを単離することを試みた。利用された条件の下では、大多数の細胞が4日以内に死滅することが見出された。これらのトランスフェクションから、安定的なHSV-TK発現細胞を単離することはできなかった。NCM460細胞からG418耐性の安定的なトランスフェクタントを単離することは試みなかった。しかしながら、これらの細胞は、4日より長く、トランスフェクション手法後に生存していた。3個のトランスフェクトされた腫瘍細胞系について、これらの結果は、トランスフェクションにおいて使用されたプラスミド構築物及び脂質、又はプラスミドから生成したHSV-TKのレベルのいずれかが、GCVを添加しない場合ですら、これらの細胞にとって毒性であったことを示唆した。リポフェクタミン単独又はpcDNA-TKプラスミドによる細胞のトランスフェクションは、同レベルの細胞死をもたらさなかった(図9も参照のこと)。従って、1〜3日を期限とした一連のpTcf-TKトランスフェクション実験、並びに抗HSV-TK抗体の使用、GCV細胞毒性アッセイ、及び[3H]GCVを用いた代謝標識を、この毒性効果を評価するために行った。
【0063】
SW480細胞、HCT8細胞、SW620細胞、及びNCM460細胞を0.4×106個/ウェルで播種し、リポフェクタミン単独、1.75μgのプロモーターレスpcDNA-TK、1.75μgのpTcf-TK(配列番号:5を含む)、又は1.75μgのpTcf-TK(配列番号:6を含む)により18時間トランスフェクトした。新鮮な培地中で24時間増殖させた後、細胞タンパク質をSDS-ポリアクリルアミド・ゲル上での分離のために処理した。細胞抽出物を調製し、抗HSV-TK抗体を用いたウエスタン・ブロットにより評価した。Drake,R.R.ら[(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-37192]に以前に記載されたようにして、細胞数を1×106細胞/0.1mlゲル・ローディング緩衝液に対して規準化し、等価なタンパク質ローディングを定量した。ブロットされたHSV-1 TKタンパク質バンドを、ECL発色団試薬(Amersham)を使用して、フィルム上で可視化した。
【0064】
図7に示されるように、いずれかのpTcfTK構築物によりトランスフェクトされた3種類の腫瘍細胞系においては、HSV-TKタンパク質の有意な発現が存在した。対照的に、NCM460細胞においては、[pTcf-TK(配列番号:5)でトランスフェクトされた細胞においてのみ]極めて低いレベルのHSV-TKのみが検出された。pcDNA-TKベクターによりトランスフェクトされた細胞系のいずれにも、HSV-TKの明らかな漏出発現は存在しなかった(図7)。
【0065】
発現されたHSV-TKが機能性であるか否かを決定するため、同一のトランスフェクション・プロトコルを実施した[SW480細胞、HCT8細胞、SW620細胞、及びNCM460細胞を0.2×106個/ウェルで播種し、各条件についてトリプリケートで、リポフェクタミン単独、1.75μgのpcDNA-TK、1.75μgのpsTcf-TK(配列番号:6を含む)、又は1.75μgのpTcf-TK(配列番号:5を含む)のいずれかにより16時間トランスフェクトした。次いで、1μM[3H]GCVを含有している1mlの新鮮な培地中で、細胞を12時間インキュベートした。細胞を70%メタノールで抽出し、[Drake,R.R.ら(1999)J.Biol.Chem.,274,37186-37192]に以前に記載されたようにして、リン酸化GCVのレベル及びDNAへのGCVの取り込みに関して評価した。トランスフェクション後24時間目に、1μM[3H]GCVを12時間添加したことを除き、脂質単独細胞に関して得られた値を、グラフ内の各条件について提示された値を規準化するために使用した。細胞を単離し、計数し、次いで70%メタノールで抽出した。可溶性上清及び不溶性DNAペレットを、シンチレーション計数により[3H]GCV取り込みのレベルに関して定量した。
【0066】
図8Aに示されるように、pTcf-TK又はpsTCF-TK構築物のいずれかによりトランスフェクトされた細胞のみが、有意なレベルの可溶性[3H]GCV代謝物を有していた。再び、NCM460細胞については、[3H]GCVの最小の代謝のみが見出された。pTcf-TK(配列番号:5を含む)試料のメタノール可溶性画分中の遊離GCVに対するリン酸化GCV代謝物の割合を評価するため、0.8M LiClで展開されたPEIセルロース・プレートを用いた薄層クロマトグラフィーを実施した。この分離から、(図8Aに提示されたような)未リン酸化GCVと比べた可溶性画分中に存在するリン酸化GCV代謝物の割合は、SW480においては62%、HCT8については70%、SW620については88%、及びNCM460においては55%であった(データは示していない)。これは、NCM460細胞における既に低いレベルの回収された代謝物の45%が遊離GCVを表すことを示しており、これは、pTcf-TKウエスタン・ブロットにおけるHSV-TKの極めて低い発現レベル(図7)と一致している。メタノール不溶性ペレット中の[3H]GCVレベルの分析は、細胞DNAへのGCV取り込みの指標となる。図8Bに提示されるように、DNAへ取り込まれた[3H]GCVのレベルは、NCM460細胞ではなくpTcf-TKトランスフェクト腫瘍細胞において最も高かった。
【0067】
GCV代謝が腫瘍細胞死滅を増加させたのか否かを調査するため、SW480細胞及びNCM460細胞を0.15×106個/ウェルで播種し、各条件についてトリプリケートで、リポフェクタミン単独、1.75μgのpcDNA-TK、又は1.75μgのpTcf-TK(配列番号:5を含む)のいずれかにより16時間トランスフェクトした。GCVを含有していない、又は10μM GCVを含有している新鮮な培地(3ml)を、48時間、細胞に添加した。生存細胞数を、トリパンブルー色素排除及び自動細胞計数を使用して決定した。2日後に、細胞をトリパンブルーにより染色し、自動計数により細胞数を決定した。図9Aに示されるように、Tcf-TK(配列番号:5を含む)でトランスフェクトされたSW480細胞においてのみ、GCV添加は有意な毒性効果を有し、同様に処理されたNCM460細胞においては、効果が観察されなかった(図9B)。図7〜9に提示された結果は、総合すると、pTCF-TKプラスミドを介して送達された機能的な腫瘍細胞特異的なHSV-TKの発現を示している。
【0068】
考察
本明細書中の実験アプローチは、その遺伝子又は制御性の大腸腺腫性ポリポーシス(adenomatous polyopsis coli)(APC)遺伝子の変異による、結腸腺腫におけるβ-カテニン局在の混乱に基づく。散発性結腸癌の分子的進行において、患者の80%が、APCの遺伝子変異及びβ-カテニンの高頻度の変異を有する[Kinzler,K.W.ら(1996)Cell,87,159-170;及びMorin,P.J.,ら(1997)Science,275,1787-1790]。APCとβ-カテニンとの間の生化学的関係、並びにいずれかのタンパク質の変異がシグナル伝達経路及び遺伝子制御に対して及ぼす効果は、複雑である。β-カテニンは、少なくとも二つの、正常な別個の細胞における役割を有する。原形質膜において、β-カテニンは、α-カテニンと複合体を形成し、カドヘリン細胞−細胞接着受容体へアクチン細胞骨格を連結するアドヘレン・ジャンクション(adheren junction)の主成分としてはたらいている[Ben-Zee'ev, A.ら(1998)Curr.Opin.Cell Biol.,10,629-639]。さらに、未結合のβ-カテニンは、核へ移行し[Molenaar,M.ら(1996)Cell,86,391-399;及びSimcha,I.ら(1998)J.Cell Biol.,141,1433-1448]、特異的な遺伝子発現の開始のため、(Tcf-4のような)LEF-1ファミリーの転写因子と複合体を形成することができる[Riese,J.ら(1997)Cell,88,777-787;及びvan de wetering,M.ら(1997)Curr.Opin.Genet.Dev.,7,459-466]。
【0069】
細胞内の遊離β-カテニンのレベルは、APC[Su,L.K.ら(1993)Science,262,1734-1737;及びRubinfeld,B.ら(1993)Science,262,1731-1734]、アキシン(axin)/コンダクチン(conductin)[Hart M.de los Santos,R.ら(1998)Curr.Biol.,8,573-581;及びBehrens,J.ら(1998)Science,280,596-599]、及びグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β[Rubinfeld,B.ら(1996)Science,272,1023-1026]からなる別のタンパク質複合体により原形質膜において制御されている。複合体内のGSK-3βによるβ-カテニンのリン酸化[Yost,C.ら(1996)Gene Dev.,10,1443-1454;及びIkeda,S.ら(1998)EMBO J.,17,1372-1384]は、ユビキチン−プロテオソーム系によるその分解をもたらす[Salomon,D.ら(1997)J.Cell Biol.,139,1325-1335;及びAberle,H.ら(1997)EMBO J.,16,37977-3804]。変異型のAPCタンパク質又はβ-カテニン・タンパク質を有する細胞においては、これらの分解複合体が形成されず、これが、ヒト癌において一般的に見出されるβ-カテニン・レベルの蓄積をもたらす[Kinzler,K.W.ら(1996)Cell,87,159-170;及びRubinfeld,B.ら(1997)Science,275,1790-1792]。上昇したβ-カテニン・レベルによって、β-カテニン/Tcf-4複合体による遺伝子転写はアップレギュレートされる[Ben-Zee'ev,A.ら(1998)Curr.Opin.Cell Biol.,10,629-639;及びGumbiner,B.M.(1997)Curr.Biol.,7,R443-R446]。さらに、遊離β-カテニンのレベルは、高度に保存されたWnt-1癌遺伝子及びそのシグナリング経路の相互作用を通して、APC−アキシン/コンダクチン−GSK3複合体を介して調整され得る[Li,Y.ら(1998)Mol.Cell.Biol.,18,7216-7224;及びHinck,L.ら(1994)J.Cell Biol.,124,729-741]。
【0070】
β-カテニンのレベル及び制御の改変は、結腸癌の進行に関連しているのみならず[Kinzler,K.W.ら(1996)Cell,87,159-170;Su,L.K.ら(1993)Association of the APC tumor suppressor protein with catenins.Science,262,1734-1737;Samoitz,W.S.ら(1999)Cancer Res.,59,1442-1444;及びHerter,P.ら(1999)J.Cancer Res.Clin.Onc.,125,297-304]、乳癌[Bukholm,I.K.ら(1998)J.Pathology,185,262-266]、肝臓癌[de La Coste,A.ら(1998)Proc.Nat.Acad.Sci USA,95,8847-8851]、膀胱癌[Giroldi,L.A.ら(1998)Int.J.Cancer,82,70-76]、卵巣/子宮癌[Kobayashi,K.ら(1999)Japan.J.Cancer Res.,90,55-59;及びFukuchi,T.ら(1998)Cancer Res.,58,3526-3528]、前立腺癌[Voeller,H.J.ら(1998)Cancer Res.,58,2520-2523]、食道癌[Kimura Y.ら(1999)Int.J.Cancer,84,174-178;及びSanders D.S.ら(1998)Int.J.Cancer,79,573-579]、鼻咽頭癌[Zheng,Z.ら(1999)Human Path.,30,458-466]、皮膚癌[Chan,E.F.ら(1999)Nature Genet.,21,410-413]、及び甲状腺癌[Garcia-Rostan G.ら(1999)Cancer Res.,59,1811-1815]を含む他の型の癌の進行への関与も示されている。変異型APC/β-カテニンと、β-カテニン/Tcf-4を介した遺伝子発現の増加との関連に加え、遊離β-カテニンの制御に関連している他のタンパク質及びシグナリング成分の欠陥が、Tcf-4応答性遺伝子転写における未だ特徴決定されていない役割を果たしている可能性が高い。
【0071】
APC及びβ-カテニンの変異により、これらの遺伝子内の特異的なエンハンサー・エレメントと結合するβ-カテニン/Tcf-4複合体による癌促進遺伝子の転写が活性化される。この複合体により活性化される遺伝子がいくつか同定されており、それらには、c-Myc[He,T.C.ら(1998)Science,281,1509-1512]、c-jun及びfra-1[Mann,B.ら(1999)Proc.Nat.Acad.Sci.USA,96,1603-1608]、サイクリンD[Shtutman M.ら(1999)Proc.Natl.Acad.Sci USA,96,5522-5527;及びTetsu,O.ら(1999)Nature,398,422-426]、並びにメタロプロテイナーゼ7(MMP7)[Crawford,H.C.ら(1999)Oncogene,18,2883-2891]が含まれる。転写因子のLEF-1ファミリー(Tcf-4はそのメンバーである)は、単独では転写に影響を与えないDNA結合足場タンパク質としての挙動を示すと考えられている[Roose,J.ら(1999)Biochim.Biophys.Acta,1424,M23-M27]。それらは、(β-カテニンのような)パートナー・タンパク質と相互作用しなけらばならず、この複合体が、基本転写機構との相互作用を介して遺伝子制御をもたらす[Hsu,S.C.ら(1998)Mol.Cell.Biol.,18,4807-4818]。β-カテニンはLef/Tcf結合との会合と無関係に核へ移行することが示されており[Prieve M.G.ら(1999)Mol.Cell.Biol.,19,4503-4515]、他の非DNA結合タンパク質が、β-カテニン及びTcf-4の相互作用の形成又は安定化に関与している可能性がある[Prieve M.G.ら(1999)Mol.Cell.Biol.,19,4503-4515]。
【0072】
本発明における治療用遺伝子の発現は、腺腫のAPC遺伝子及びβ-カテニン遺伝子の一般的な変異、並びに/又は腫瘍細胞における増加したβ-カテニンのレベルに基づいているため、大部分の正常細胞及び正常組織は、本発明の遺伝子構築物による遺伝子発現にとって必要な転写因子複合体を有していないであろう。従って、本発明における治療用遺伝子の発現は、改変されたβ-カテニン機能を有する腫瘍細胞に限定される。本明細書に報告された結果に基づき、その遺伝子構築物を含有している治療用ベクターは、多くの型の結腸癌における治療用遺伝子発現のため直ちに適用できる可能性を有する。β-カテニンの制御異常は、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、食道癌、胃癌のような他の型の癌とも関連しているため、その遺伝子構築物は、他の現行の遺伝子治療においても利用され得る。
【0073】
APC遺伝子及びβ-カテニン遺伝子の変異は、多くの型の癌に関する上皮癌進行としばしば関連しているため、これらの変異に対する細胞応答に関与しているTcf-4/β-カテニン転写エンハンサー・エレメントの有効性が、ヒト腫瘍結腸細胞系及び正常結腸細胞系のパネルにおいて、治療用遺伝子発現の腫瘍特異的な制御因子として機能する能力に関して評価された。結腸腫瘍細胞系の多くが、レポーター遺伝子アッセイを使用して、Tcf-4/β-カテニン応答性発現を有することが以前に特徴決定されている[Morin,P.J.ら(1997)Science,275,1787-1790;Crawford,H.C.ら(1999)Oncogene,18,2883-2891;及びKorinek,V.ら(1997)Science,275,1784-1787]。しかしながら、治療用遺伝子の十分な発現レベルを生成させるための、c-fosプロモーターに連結されたTcf-4/β-カテニン・エレメントは、従来評価されていなかった。GCVと組み合わせられたHSV-TK遺伝子を使用して、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー及びc-fosプロモーターが、GCVのリン酸化及び細胞死をもたらすHSV-TKの発現を効率的に指図することが証明された。GCVの非存在下ですら、Tcf/fosエレメント両方により指図されたHSV-TK発現は、細胞死をもたらすことが見出された。HSV-TK抗体を用いたウエスタン・ブロッティングにより決定されたような、応答性のトランスフェクトされた腫瘍細胞において見い出されたHSV-TKのレベルは、短い分析期間を考慮すると特に、極めて高かった。細胞がGCVの非存在下で死滅する理由は、不明である。これは、1)細胞を圧倒する程、過剰のHSV-TKが産生されるため;2)HSV-TKの高い発現レベルが、異常なチミジン・リン酸化をもたらし、正常なDNA複製過程にとって必要な正常なデオキシヌクレオチド・プールを混乱させるため、又は3)市販の骨格ベクターpcDNA3もしくはpcDNA-TK誘導体が細胞にとって毒性であるため、である可能性がある。
【0074】
腫瘍特異的な発現プロファイルを有することが以前に報告されている制御性構築物は、大半がプロモーター・エレメントであった[Gomez-Navarro,J.ら(1999)Cancer,6,867-885及びNettlebeck,D.M.ら(2000)Trends Genet.,16,174-181]。一つの注目すべき例外は、前立腺癌のための治療用遺伝子発現のための、PSAエンハンサー配列とPSAプロモーターとの併用であった[Latham,J.P.F.ら(2000)Cancer Res.,60,334-341;及びLee,S.E.ら(2000)Anticancer Res.,20,417-422]。PSAエンハンサー/プロモーターの組み合わせは、PSAプロモーター単独より高いレベルの遺伝子発現を提供することが立証されている。PSAアプローチの可能性のある臨床上の短所は、正常な前立腺細胞におけるこれらの構築物の活性及び毒性である[Nettlebeck,D.M.ら(2000)Trends Genet.,16,174-181]。
【0075】
Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーを用いた本発明においてとられたアプローチは、腫瘍表現型にのみ見い出される転写因子複合体に依存する転写活性を有する腫瘍特異的条件に基づいている。Tcf-4/β-カテニン・エンハンサー及びc-fosプロモーターを、c-fosのみのpTCF/fos-Luc(c-fos only pTCF/fos-Luc)ベクターと比較したルシフェラーゼ・レポーターの結果は、遺伝子発現の主要決定因子としてのエンハンサー・エレメントの依存を強調している。さらに、c-myc、サイクリンD、c-jun、MMP-7、及びガストリン[He,T.C.ら(1998)Science,281,1509-1512;Crawford,H.C.ら(1999)Oncogene,18,2883-2891;及びKoh T.J.ら(2000)J.Clin.Invest.,106,533-539]を含め、Tcf-4/β-カテニン5'制御配列を有する遺伝子が、ますます多く同定されてきている。これらの遺伝子、及び未同定の他のものに由来するプロモーター配列は、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーとの使用のために操作され得る。
【0076】
Tcf-4/β-カテニン制御のもう一つの独特の面は、酪酸塩、ホルボールエステル、ドキソルビシン、及びレチノイドのような化学的修飾剤による応答性遺伝子の調整である。酪酸塩及びトリコスタチン(trichostatin)Aのような短鎖脂肪酸は、Tcf-4/β-カテニンにより媒介される遺伝子発現を増加させることが報告されている[Bordonaro,M.ら(1999)Cell Growth Diff.,10,713-20;及びBarshishat,M.ら(2000)British J.Cancer,82,195-203]。ホルボールエステルPMAの添加も、遺伝子発現を増加させることが報告されている[Baulida,J.ら(1999)Biochemical J.,344-565-570]。
【0077】
反対に、ドキソルビシン[Yang,S.Z.ら(1999)Int.J.Oncol.,15,1109-1115]又はレチノイド[Easwaran,V.ら(1999)Curr.Biol.,9,1415-1418]の添加は、Tcf-4/β-カテニンにより媒介される遺伝子発現を減少させることが報告されている。(図1に示されるような)異なる腫瘍細胞系におけるTcf-4/β-カテニン発現の転写制御の証明されている可変性のため、誘導可能な刺激剤の添加は、わずかに応答性の細胞において発現を増強し得る。反対に、ウイルスに基づく遺伝子治療に関しては、抑制剤オプションを有し得ることが重要であるかもしれない。従って、Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーによって、薬物による誘導可能性(又は抑制)オプションが付与されるため、これは、可能性のある治療用遺伝子発現における臨床的使用のための重要なエレメントである。
【0078】
Tcf-4/β-カテニン発現の活性化をもたらす変異は、多くの型の上皮腺腫において一般的であるため、これらのカセットは、結腸及び乳房に関して本明細書に記載されたもの以外の腫瘍療法においても広範囲に有益であり得る。さらに、患者の腺癌の遺伝学的プロファイリングの利用可能性が高まってきているため、個々の腫瘍にマッチした腫瘍型特異的なプロモーター・エレメントを用いたTcf-4/β-カテニン・エンハンサーのカセット化(cassetted)されたアプローチが、治療用遺伝子発現を増加させるために使用され得る。これらの研究は、遺伝子治療のための可能性のある腫瘍特異的プロモーターとしてTcf-4/c-fosエレメントを使用することの実現可能性を証明した。それは、正常結腸細胞と比べて結腸腫瘍細胞においてより効果的に機能し、そして酪酸塩に対する転写応答の増加が存在する。明らかに、酪酸塩は、Tcf-4応答性遺伝子の他にも複数の転写経路を活性化し、これは、結腸腫瘍細胞における既知の分化活性と一致している[Mariadason,J.M.ら(2000)Cancer Res.,60,4561-4571]。酪酸塩により刺激され得る治療用遺伝子又は治療用ベクターの送達は二重の効果を有する可能性もあるため、これは、腫瘍療法にとって有利であるかもしれない。酪酸塩はアポトーシスを誘導することが既知であり、治療用遺伝子は、この効果を補足し、増強することができる。
【0079】
DNA送達のための多数の方法論が開発されている。現在利用可能な方法論には、ウイルス・ベクターによるトランスフェクション;脂質による融合;及び陽イオンにより支持されたDNA導入が含まれる。これらの技術は、各々、長所及び短所を有するため、投与又は送達の型の選択は特定の状況に依存するであろうが、以下の目的を達成するDNA移入法を利用することが望ましい。(1)特異的な標的細胞又は標的組織型(例えば、結腸癌細胞)へ治療用遺伝子を差し向けることができる。(2)標的細胞集団への治療用遺伝子の取り込みを媒介する効率が高い。(3)治療的適用のためのインビボの使用に適している。
【0080】
図面及び前述の説明において本発明を詳細に例示し記載したが、それらは制限的なものではなく例示的なものと見なされるべきであり、好ましい態様のみが示され記載されたこと、並びに本発明の本旨に含まれる全ての変化及び修飾が保護されることが望まれることを理解されたい。さらに、本明細書に引用された全ての参照は、当技術分野における技術のレベルを示すものであり、参照として完全に本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1A】細胞系におけるTcf-4活性を評価するために使用されたルシフェラーゼ・レポーター・プラスミドであるプラスミドpTCF/fos-Lucを示し、マウスc-fosプロモーターと共に、Tcf-4応答性エンハンサー・エレメントの4個のリピートを含む。
【図1B】再編成されたTcf-4リピート・エレメントを有する陰性対照プラスミドであるプラスミドpFCT/fos-Lucを示す(Dr. Marc van de Weteringから譲り受けたpFOPFLASHから得られた)。
【図1C】pTCF/fos-TKのエンハンサー/プロモーター/遺伝子の概略を示す。このプラスミドは、実施例4に記載されたような単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV-TK)の細胞系における発現のため使用された。
【図2】pTCF/fos-Luc及びpFCT/fos-Lucのいずれかによりトランスフェクトされた様々なヒト結腸細胞系におけるルシフェラーゼ・レポーター活性を示すグラフを示す。CSC-1細胞、NCM425細胞、及びNCM-460細胞は、実施例1にさらに記載されるように、正常組織に由来するヒト結腸細胞系である。試験されたその他の細胞系は全てヒト結腸腫瘍に由来する樹立系である。
【図3】実施例1にさらに記載されるように、pTOPLESS及びpGL3ルシフェラーゼ・レポーター・プラスミドによりトランスフェクトされた示された細胞系における基本転写と関連しているルシフェラーゼ活性を示すグラフを示す。灰色のバーはpGL3 Basic活性、黒色のバーはpTOPLESS-Luc活性を示し、括弧内の数字は、各細胞系についてのpTCF/fos-Luc活性である。HCT8、SW480、HCT116、Colo320、及びSW620はヒト結腸腫瘍細胞系であり;NCM460は正常結腸粘膜細胞系である。
【図4】pTCF/fos-Lucによりトランスフェクトされた初代ヒト結腸細胞におけるルシフェラーゼ・レポーター活性を示すグラフを示す。示した細胞系を、pTCF/fos-Lucレポーター・プラスミドにより一過的にトランスフェクトした。ルシフェラーゼ活性の結果は、実施例2にさらに記載されるように、別のウミシイタケ-ルシフェラーゼ対照アッセイに対して規準化した。HCCはヒト結腸腫瘍組織に由来し;COPは前癌結腸ポリープ組織に由来し;NCMは正常結腸組織に由来する。
【図5】実施例3にさらに記載されるように、pTCF/fos-Luc又はpFCT/fos-Lucによりトランスフェクトされた結腸細胞系におけるルシフェラーゼ・レポーター活性を示すグラフを示す。HCT8、SW480、HT29、Colo320、LoVo、及びSW620はヒト結腸腫瘍細胞系であり;NCM460は正常結腸粘膜細胞系である。pFCT/fos-Lucによりトランスフェクトされた細胞には「FCT」という表記が含まれ、pTCF/fos-Lucによりトランスフェクトされた細胞には「TCF」という表記が含まれる。
【図6】実施例3にさらに記載されるように、pTCF/fos-Lucによりトランスフェクトされ、ドキソルビシン、9-シス・レチノイン酸、又は酪酸塩により処理されたヒト乳房腫瘍細胞におけるルシフェラーゼ・レポーター活性を示すグラフを示す。MDA435及びMDA231はヒト乳房腫瘍細胞系である。
【図7】実施例4にさらに記載されるように、抗HSV-TK抗体を用いて決定された、pcDNA-TK、pTcf-TK(配列番号:5を含む)、又はpsTCF-TK(配列番号:6を含む)によりトランスフェクトされた細胞におけるHSV-TKの発現を示すウエスタン・ブロットを示す。SW620、SW480、HCT8はヒト結腸腫瘍細胞系であり;NCM460は正常結腸粘膜細胞系であり;HSV-TKは単純ヘルペスウイルス・チミジンキナーゼであり;pcDNA-TKはHSVチミジンキナーゼ遺伝子を含むpcDNA3.1プラスミドに由来するプロモーター欠失構築物であり;pTcf-TKはHSVチミジンキナーゼ遺伝子、1コピーのc-fosプロモーター(配列番号:5に示されたプロモーター配列)、及び4コピーのTcf-4/β-カテニン・エンハンサーを含み;psTcf-TKはHSVチミジンキナーゼ遺伝子、1コピーの短縮型c-fosプロモーター(配列番号:6)、及び4コピーのTcf-4/β-カテニンを含む。
【図8A】実施例4にさらに記載されるように、pTcf-TKによりトランスフェクトされた細胞系における可溶性の抽出されたリン酸化ガンシクロビル(GCV)代謝物のグラフを示す。
【図8B】実施例4にさらに記載されるように、pTcf-TKによりトランスフェクトされた細胞系におけるDNAへ取り込まれた[3H]GCVのグラフを示す。NCM460は正常結腸粘膜細胞系であり;SW480、SW620、HCT8はヒト結腸腫瘍細胞系である。
【図9A】pTcf-TKによりトランスフェクトされたSW480細胞(ヒト結腸腫瘍細胞系)をGCVで処理した場合に残存している細胞の量を示すグラフを示す。
【図9B】トランスフェクトされたNCM-460(正常結腸粘膜細胞系)細胞を使用した同様のグラフを示す。実験は実施例4に記載されたようにして実施された。
Claims (42)
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4/β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された治療用核酸を含む発現ベクター。
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーターが哺乳動物プロモーターである、請求項1記載の発現ベクター。
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーターが、fosプロモーター、癌胎児性抗原プロモーター、サイクリンDプロモーター、cox-2プロモーター、及びmycプロモーターからなる群より選択される、請求項2記載の発現ベクター。
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーターが、c-fosプロモーターである、請求項2記載の発現ベクター。
- Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーが、配列番号:1又は配列番号:2に示されるようなヌクレオチド配列を有する、請求項1記載の発現ベクター。
- 治療用核酸がタンパク質をコードする、請求項1記載の発現ベクター。
- タンパク質が酵素である、請求項6記載の発現ベクター。
- 酵素が、ガンシクロビル及びその誘導体、アシクロビル及びその誘導体、5-フルオロシトシン、並びに6-メトキシプリン・アラビノシドからなる群より選択されるプロドラッグを活性化する、請求項7記載の発現ベクター。
- 予め選択された治療用核酸がアンチセンス・リボ核酸をコードする、請求項1記載の発現ベクター。
- 発現ベクターが、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、及び配列番号:6からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項1記載の発現ベクター。
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された治療用核酸を含む治療用ベクターを、治療を必要とする哺乳動物へ投与することを含む、癌の治療のための治療用核酸の標的化発現の方法。
- 予め選択された治療用核酸が遺伝子を含む、請求項11記載の方法。
- 遺伝子が、単純ヘルペスウイルス・チミジンキナーゼのプロドラッグ基質を活性化するタンパク質をコードする、請求項12記載の方法。
- 基質がガンシクロビル又はその誘導体である、請求項13記載の方法。
- 遺伝子が、ガンシクロビル及びその誘導体、アシクロビル及びその誘導体、5-フルオロシトシン、並びに6-メトキシプリン・アラビノシドからなる群より選択されるプロドラッグを活性化するタンパク質をコードする、請求項12記載の方法。
- 予め選択された治療用核酸がアンチセンス・リボ核酸をコードする、請求項11記載の方法。
- ベクターがウイルス又はプラスミドである、請求項11記載の方法。
- ウイルス又はプラスミドがpTcf-TKを含む、請求項17記載の方法。
- ウイルス又はプラスミドが、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、及び配列番号:6からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項17記載の方法。
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーターが哺乳動物プロモーターである、請求項11記載の方法。
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーターが、fosプロモーター、癌胎児性抗原プロモーター、サイクリンDプロモーター、cox-2プロモーター、及びmycプロモーターからなる群より選択される、請求項11記載の方法。
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーターがc-fosプロモーターである、請求項11記載の方法。
- 治療用ベクターが、標的とされた腫瘍細胞及び腫瘍組織における治療用遺伝子の発現を可能にするのに十分な量、哺乳動物へ投与される、請求項11記載の方法。
- 結腸、前立腺、乳房、卵巣、食道、及び胃からなる群より選択される器官において予め選択された治療用核酸を発現させることを含む、請求項11記載の方法。
- 哺乳動物がヒトである、請求項11記載の方法。
- 転写制御薬剤を含む組成物を投与することをさらに含む、請求項11記載の方法。
- 薬剤が、酪酸及びその塩、ホルボールエステル、ドキソルビシン、レチノイド、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項26記載の方法。
- 予め選択された治療用核酸が、哺乳動物細胞にとって毒性であるタンパク質をコードする、請求項11記載の方法。
- タンパク質が、ジフテリア毒素、リシン、及びシュードモナス外毒素からなる群より選択される、請求項28記載の方法。
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4/β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された、所望のポリペプチドをコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む宿主細胞。
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーターが哺乳動物プロモーターである、請求項30記載の細胞。
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーターが、fosプロモーター、癌胎児性抗原プロモーター、サイクリンDプロモーター、cox-2プロモーター、及びmycプロモーターからなる群より選択される、請求項30記載の細胞。
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター・エレメントがc-fosである、請求項31記載の細胞。
- Tcf-4/β-カテニン・エンハンサーが、配列番号:1又は配列番号:2に示されるようなヌクレオチド配列を有する、請求項30記載の細胞。
- 腫瘍特異的又は細胞型特異的なプロモーター及びTcf-4β-カテニン・エンハンサーに機能的に連結された予め選択された治療用核酸を含む治療用ベクターを、治療を必要とする哺乳動物へ投与することを含む、癌を治療する方法。
- 癌が上皮癌である、請求項35記載の方法。
- 上皮癌が、結腸、前立腺、乳房、卵巣、食道、及び胃からなる群より選択される器官に由来する組織に存在する、請求項36記載の方法。
- Tcf-4β-カテニン・エンハンサーが、配列番号:1又は配列番号:2に示されるようなヌクレオチド配列を有する、請求項35記載の方法。
- ベクターが、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、及び配列番号:6からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項35記載の方法。
- 予め選択された核酸がタンパク質をコードする遺伝子を含む、請求項35記載の方法において、該タンパク質により哺乳動物腫瘍細胞にとって毒性な産物へ活性化されるプロドラッグを投与することをさらに含む、請求項35記載の方法。
- 転写制御薬剤を含む組成物を投与することをさらに含む、請求項35記載の方法。
- 薬剤が、酪酸及びその塩、ホルボールエステル、ドキソルビシン、レチノイド、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項41記載の方法。
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