JP2005502945A - タンパク質安定性のpH依存性のアンサンブルに基づく分析 - Google Patents
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Abstract
本発明は、タンパク質のpKa、pH安定性および静電相互作用を測定するために用いられる、コンピュータに基づくアルゴリズムに関する。
Description
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造生物学の分野に関する。より詳細には、タンパク質のpKa、タンパク質のpH安定性およびタンパク質の静電相互作用を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2001年8月30日に出願された米国仮出願60/316,083号についての優先権を主張する。
【0003】
本発明は、米国政府(国立科学財団。助成番号第9875689号および国立保健研究所)から得られた基金によって支援された。米国政府は本発明に関して一定の権利を持つことができる。
【0004】
タンパク質溶液の挙動は、それが水性溶媒中でとり得る種々の配座状態で配位しているその化学組成の直接の結果である。これらの状態およびそれらの自由エネルギーの差を列挙することで、安定性、結合性、アロステリック効果、協同的相互作用、および機能を、構造の点から解釈するために必要な情報が提供される(Hilserら、1996;Hilserら、1997;Woollら、2000;Hilserら、1998;Freire E.、1999;Panら、2000;Freireら、1978;およびFreire E.、1998)。
【0005】
「本来」の状態は、部分的に折りたたまれた配座異性体よりも圧倒的に大きく自由エネルギーにより支配されていることから、結晶学上の研究およびNMRの研究で観察される「本来」の構造以外の状態について、構造面およびエネルギー面から目録を作製することは、分かりにくく、かつ実験によって得ることが極めて困難であることが証明されている(Kimら、1990;Kuwajima、1989)。しかし、観察された多数のタンパク質の事象(すなわち中心となる動力学に関するNMRの研究;アミド・水素交換速度;結合性、安定性に与える突然変異の影響;および変性剤の安定性への依存)を、部分的に折りたたまれた状態の存在と容易な母集団化を前提とすること無しに理解することは困難である。
【0006】
プロトン滴定は、タンパク質の種々の領域の局所的な安定性を調べるための理想的な実験手法を提供する。プロトンの結合曲線の理論的な解釈は、特に参考になる。というのは、1)プロトンは非均一的にかつ明確に限定された部位に結合する、2)構造が与えられると、それぞれの結合部位のpKaを静電理論から直接計算することができる(Klapperら、1986;Warwicker, J.、1986;Antosiewiczら、1994;Jayaramら、1989;Tanfordら、1957;Matthewら、1986)、および3)プロトンの結合がアンサンブルの種々の配座状態間の自由エネルギーの差に与える影響を、結合理論から容易に確認することができる(Tanford, C.、1969;Tanford, C.、1962)からである。
【0007】
上記のプロトンの結合技術を用いる際の問題は、任意のpHの溶液において占めるアンサンブルの状態を測定することと、それらの構造と安定性を定量することである。本発明は、タンパク質の安定性のpH依存性に関する部分的に折りたたまれた状態の役割と、安定性への静電的な寄与が構造動力学とどれだけ密接に関係しているかについて取り組んだ最初のものである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、COREXのアルゴリズムを用いて、タンパク質の結晶構造に基づき、部分的に折りたたまれた状態のアンサンブルを作製する(Hilserら、1996)。
【0009】
より詳細には、本発明は、プロトン結合の協同性、安定性のpH依存性、安定性のpH依存性における特定の滴定可能な残基の役割、および静電相互作用の、タンパク質の全体的なエネルギー特性への寄与を捉えることによりpKa値を提供する。
【0010】
本発明の一つの態様は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;および上記各配座状態のpH依存性を計算する工程を含む、タンパク質の微視的pKaを計算する方法である。この方法は、方程式
【0011】
【数1】
を用いてすべての微視的状態の確率の比を決定する工程を含み、タンパク質のpH依存的安定性に対する、残基特異的な寄与を予測する工程をさらに含んでもよい。
【0012】
さらなる態様において、方程式
【0013】
【数2】
を用いて残基あたりの見かけの保護定数を計算する。
【0014】
具体的な態様において、作製工程は、タンパク質の全配列上にウィンドウブロックを置くこと、およびウィンドウブロックを一度に一残基ぶんスライドさせることによってタンパク質を折りたたみ単位に分割する工程を含む。
【0015】
さらに、別の具体的な態様において、決定する工程は、アンサンブル中の各配座状態の自由エネルギーを計算する工程;各状態のボルツマン重率[Ki=exp(−ΔGi/RT)]を決定する工程;および方程式
【0016】
【数3】
を用いて、各状態の確率を決定する工程を含む。
【0017】
別の態様において、計算する工程は、方程式
【0018】
【数4】
を用いてすべての微視的状態の安定性のpH依存性の連鎖関係を決定する工程を含む。
【0019】
さらなる態様において、pKaを用いてタンパク質の巨視的安定性を測定する。この方法には、方程式
【0020】
【数5】
を用いてプロトン結合のpH依存性を測定する工程が含まれる。
【0021】
別の態様において、pKaはタンパク質の溶解性を決定する。
【0022】
本発明の別の態様は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;上記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および上記の工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、安定性が高められたタンパク質薬剤を提供する工程を含む、安定性が高められたタンパク質薬剤を設計する方法を含む。
【0023】
具体的な態様において、タンパク質薬剤は塩基性条件で、高められた安定性を有する。さらに、タンパク質薬剤は酸性条件で、高められた安定性を有する。
【0024】
別の態様は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;上記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および上記の工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、リガンドに対する結合親和性が高められたタンパク質薬剤を提供する工程を含む、タンパク質薬剤とリガンドとの間の結合親和性が高められたタンパク質薬剤を設計する方法である。
【0025】
さらに別の態様は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;上記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および上記の工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、タンパク質薬剤の消化管内での吸着性を向上させる工程を含む、消化管内での吸着性が高められた経口用タンパク質薬剤を設計する方法である。
【0026】
さらなる態様としては、タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;およびアンサンブルのプロトン結合曲線を計算する工程を含む、タンパク質の巨視的pKaを計算する方法が挙げられる。具体的な態様においては、方程式
【0027】
【数6】
を用いてこの結合曲線を計算する。
【0028】
本発明の上記の態様は、コンピュータに基づくシステムとして簡単に実施してもよい。このようなコンピュータに基づくシステムの一つの態様としては、一種以上のタンパク質についての高解像度構造データの入力を受け取るコンピュータプログラムが挙げられる。コンピュータに基づくプログラムは、このデータを利用して、タンパク質のpKa、タンパク質安定性のpH依存性、およびタンパク質の静電相互作用を決定する。本発明によって得られるデータを、次いで、データベース内に保存することができる。このデータを用いて、安定性、溶解性および結合親和性が高められたタンパク質を設計することができる。
【0029】
一つの態様においては、コンピュータに基づくシステムは、上記データベースと一体化したソフトウェアプログラムを利用し、その結果、タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する手順;上記各配座状態の確率を決定する手順;および上記各配座状態のpH依存性を計算する手順が実行される。
【0030】
さらなる態様において、コンピュータ読み取り可能な媒体上にコンピュータが実行可能な命令として、本発明の方法を保存してもよい。
【0031】
上記の記述は、下記の発明の詳細な説明をさらに理解できるように、本発明の特徴および技術的利点をある程度広くまとめたものである。本発明のさらなる特徴および利点を、下記に説明する。そこでは、本発明の請求の範囲の主題が形成されている。当業者であれば、開示された概念および具体的な態様を、本発明と同一の目的を果たすためのその他の構造を修飾するかまたは設計するための単なる基礎として容易に利用できることを理解すべきである。当業者であれば、このような同等の構成が、添付された請求の範囲に述べられている、本発明の精神および範囲から決して逸脱していないことをも認識すべきである。添付の図面と関連付けて考慮すれば、本発明に固有なものと考えられる、その構成および操作方法の両者に関する新しい特徴は、さらなる対象および利点と共に以下の説明からさらに理解できるだろう。しかしながら、図解および解説の目的のためだけにそれぞれの図面が提供されること、ならびに本発明を制限する規定としての意図はないことは、明白に理解される。
【0032】
次の図面は本明細書の一部を形成し、そして本発明の特定の側面をさらに実証するために包含されている。本明細書に記載された具体的な態様の詳細な説明と共に、これらの図面の一つ以上を参照することによって、本発明をさらに理解できるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
当業者であれば、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、本出願にて開示された発明についての種々の態様および修飾をなし得ることは、極めて明白である。
【0034】
本明細書で用いられるように、「一つの(a or an)」とは、一またはそれを超えることを意味してもよい。単数(または複数)の請求項で用いられるように、「含む(comprising)」という用語と一緒に用いられる場合の「一つの(a or an)」という用語は、一または一を超えることを意味してもよい。本明細書で用いられるように、「別の」とは、少なくとも二番目またはそれ以降を意味してもよい。
【0035】
本明細書で用いられる凝集とは、通常は非特異的なタンパク質の相互作用という意味であり、共有結合していても、またはしていなくてもよい複合体が形成される。
【0036】
本明細書で用いられる別のとは、少なくとも二番目またはそれ以降のものという意味である。
【0037】
本明細書で用いられる自己タンパク質、自己ポリペプチドまたは自己ペプチドとは、一つの生物に由来するかまたは一つの生物から得られたタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドという意味である。
【0038】
本明細書で用いられる三次構造に基づくとは、オリジナル構造のバックボーン構造に類似した構造を有し、それに基づいていると言われる構造という意味である。
【0039】
本明細書で用いられる配置とは、同じキラリティーの原子を有するタンパク質分子の異なる配座のものという意味である。
【0040】
本明細書で用いられる配座とは、共有結合を切断することなく分子内で転換可能であって、種々の重なり合わない原子の三次元の配置という意味である。
【0041】
本明細書で用いられるコンピュータモデリングとは、生のデータを用いてパターンを構築するという意味であり、コンピュータを用いて対象または複数の対象の相互作用をシミュレートするためのものである。たとえば、特定の病気に関連する治療法を開発するために、コンピュータモデリングを用いて、特定の化合物の大きさ、形状、および相互作用を決定する。
【0042】
本明細書で用いられるコンピュータシミュレーションとは、任意のサイズのコンピュータ上で作動するソフトウェアプログラムであって、いくつかの事象に関する科学者の概念上の理解および数学的な理解に基づいてその事象をシミュレートすることを意図するソフトウェアプログラムという意味である。科学者の概念上の理解をアルゴリズム的ロジックまたは数学的ロジックに変換し、次いで多数のプログラミング言語のうちの一つでプログラムを行い、そしてコンパイルしてコンピュータ上で作動するバイナリコードを生成させる。さらに、コンピュータ上でこのようなコードを作動させる。
【0043】
本明細書で用いられるデータベースとは、タンパク質の実験データと分析データとの相関に関するあらゆる情報の収集物という意味である。用いられるデータベースは公共に利用できるものでもよく、市販品でもよく、または本発明者によって創作されたものでもよい。公共に利用できるデータベースの一例は、プロテイン・データ・バンク(Protein Data Bank)である。
【0044】
本明細書で用いられる作製するまたは作製することとは、一つ以上の操作を利用することによって、明確になるかまたは生じる活動という意味である。本発明を利用する当業者は、物またはデータそのものを創作してもよく、他の場所にある物またはデータを探し出してもよく、そして本発明の実践にそれを利用してもよい。当業者であれば、本発明におけるすべての試験データまたは実験データを、市販のものからまたは公のものから得てもよく、あるいは本明細書に規定した手法および技術によって作製してもよいことを認識する。「作製すること」および「得ること」という用語は、本明細書で用いられているように、互いに包括されている。
【0045】
本明細書で用いられるリガンドとは、タンパク質性または非タンパク質性の化合物という意味である。リガンドは、レセプター、酵素、補酵素、または非タンパク質性の化合物であってもよいが、これらに限定されるわけではない。
【0046】
本明細書で用いられるループとは、分子の表面で、ポリペプチド鎖の方向が逆転するポリペプチド鎖における旋回のことである。
【0047】
本明細書で用いられる巨視的とは、実験手法によって作製された状態という意味である。たとえば、タンパク質の巨視的安定性とは、実験手法によって作製されたタンパク質の安定性という意味であるが、これに限定されるものではない。実験手法は「ウェットサイエンス」とも称される。
【0048】
本明細書で用いられる微視的とは、構造に基づく計算から作製された状態という意味である。たとえば、タンパク質の微視的安定性とは、種々の技術を用いて−−しかしながら実験は行わずに−−三次元構造から計算されたタンパク質の安定性という意味であるが、これに限定されるものではない。構造に基づく計算は、「ドライサイエンス」とも称される。
【0049】
本明細書で用いられるペプチドとは、その物理学的特性がそのアミノ酸残基の全体から予想されるものであり、固定された三次元構造が存在しない一定の配列を有するアミノ酸の鎖という意味である。
【0050】
本明細書で用いられる製剤特性とは、結合親和性、凝集、溶解性、および免疫原性の効力という意味であるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
本明細書で用いられるタンパク質とは、通常は一定の配列、長さおよび三次元構造のアミノ酸残基の鎖という意味である。タンパク質を生じさせる重合反応の結果、それぞれのアミノ酸から一分子の水が失われ、多くの場合、タンパク質はアミノ酸残基から構成されていると言われることが多い。天然のタンパク質分子は20もの異なるタイプのアミノ酸残基を含み、アミノ酸残基のそれぞれは独特の側鎖を含む。タンパク質は多様なペプチドから形成されていてもよい。
【0052】
本明細書で用いられるタンパク質の折りたたみとは、個々のアミノ酸を、配列中のその他のアミノ酸に対して特定の位置に拘束する構造を形成するというタンパク質の組織化という意味である。当業者であれば、タンパク質のこのタイプの組織化には、二次構造、三次構造および四次構造が含まれることを承知している。
【0053】
本明細書で用いられる溶解性とは、所定の体積の溶媒に溶解することができるタンパク質の量という意味である。
【0054】
本明細書で用いられる変異体とは、所定のセットの単数(または複数)の突然変異を含んでいるタンパク質という意味である。
【0055】
当業者であれば、タンパク質の特性はそれらのポテンシャルエネルギー面に支配されることを認識している。タンパク質は、折りたたまれた秩序的な状態と、ほどかれた無秩序な状態との間の動的平衡状態にある。この平衡は、タンパク質の構造を安定化させる傾向があるアミノ酸残基の側鎖と、それとは反対に、分子の乱雑化を促進する傾向があるそれらの熱力学的力との間の相互作用を一部反映する。
【0056】
タンパク質の構造には階層性が存在する。一次構造は、タンパク質において特定のアミノ酸残基の配列を含有する共有結合構造であり、そして共有結合に任意の翻訳後修飾が生じてもよい。二次構造は、ポリペプチドのバックボーンの局所的な配座である。タンパク質の二次構造のヘリックス、シートおよびターンが互いに密集して、タンパク質の三次元構造が生じる。多数のタンパク質の三次元構造には、内面(タンパク質では普通に見られる水性環境から離れた向きである)および外面(水性環境に極めて近接している)を持つ点に特徴があるのかもしれない。多数の天然タンパク質の研究を通して、研究者は、疎水性残基(たとえばトリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、バリンまたはメチオニン)はタンパク質分子の内面で見られる頻度が最も高いことを発見した。対照的に、親水性残基(たとえばアスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、セリン、スレオニン、グリシン、およびプロリン)はタンパク質の外面上で見られる頻度が最も高い。アミノ酸のアラニン、グリシン、セリンおよびスレオニンとは、タンパク質の内面および外面の両方に、同程度の頻度で存在する。
【0057】
I.pKaの決定
本発明において、COREXのアルゴリズムを用いて、タンパク質の結晶構造に基づいて、部分的に折りたたまれた状態のアンサンブルを作製する(Hilserら、1996)。タンパク質の結晶構造またはNMR構造を、周知の、当業者が用いているデータベースから検索することができる。このようなデータベースの一つに、プロテイン・データ・バンクがある。
【0058】
本発明のpKa値は、プロトン結合の協同性、安定性のpH依存性、安定性のpH依存性における特定の滴定可能な残基の役割、および静電相互作用のタンパク質の全体的なエネルギー特性への寄与を捉えることによって提供される。完全に折りたたまれた配座異性体および完全にほどかれた配座異性体を含む、アンサンブルの中のそれぞれの状態のプロトンの結合特性を、線形化ポアソン−ボルツマン方程式の構造に基づいた定差分解に由来するpKa値を用いて計算した。溶媒が接近可能な表面積の計算を通して、それぞれの状態の固有エネルギー(ΔG、ΔHおよびΔS)を実験に基づいてパラメータ化することによって、アンサンブルの状態の母集団の平衡分布を決定した。pHによる母集団の平衡分布への影響を、状態間のプロトンの結合の差を計算することによる連鎖関係にて決定した。
【0059】
A.微視的挙動
具体的な態様において、タンパク質の微視的pKaを計算する方法は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;および上記各配座状態のpH依存性を計算する工程を含む。
【0060】
本発明は、方程式、
【0061】
【数7】
による、残基jが折りたたまれた配座の状態のアンサンブルにおけるすべての状態の確率の総和の、残基jがほどかれた配座の状態であるすべての状態の確率の総和に対する比から安定度定数を決定する工程を含む、コンピュータを利用する方法を利用する。
【0062】
所定の残基jが折りたたまれた配座となる確率であるPfolded jは、残基jが折りたたまれた領域に存在するタンパク質のすべての配座状態の確率の総和に等しい。同様に、残基jがほどかれている確率Punfolded jは、残基jがほどかれた領域に存在するタンパク質のすべての配座状態の確率の総和に等しい。したがって、残基あたりの見かけのフォールディング定数であるKfolded jは、残基jが折りたたまれているすべての状態の確率の、残基jが折りたたまれていない状態の確率に対する比として定義される。
【0063】
当業者であれば、本明細書で紹介された理論上のアプローチの重要な側面が、滴定可能な残基のそれぞれがタンパク質のpH依存的安定性に寄与しているかどうかを問い合わせる能力であることを認識する。したがって、すべての残基が、滴定の際の安定性に等しく影響を与えなくてもよい。いくつかの滴定可能な基が溶媒に対して完全に露出されており、したがってこの基は主に溶解性への関与により安定性に寄与していると考えられる。さらに、溶媒のイオン成分および極性成分によって、考えられるあらゆる分子内クーロン相互作用が減弱すると考えられる。さらに、その他の滴定可能な基は、実質的な分子内クーロン相互作用−−溶媒によってわずかに減弱する−−に関与してもよく、そしてこの基は、タンパク質の安定性の静電気成分およびプロトン結合成分に実質的に寄与していてもよい。
【0064】
さらに、残基あたりの見かけの保護定数であるKprotected jを、残基jの滴定可能な原子が溶媒から保護されているところのすべての状態の確率の総和の、残基jの滴定可能な原子が露出しているところのすべての状態の確率の総和に対する比として定義することができる。
【0065】
【数8】
折りたたまれている確率が極めて小さいタンパク質の領域に存在する残基は、たとえそれらがpKaexposedからシフトしたpKa値を有し、かつ完全に折りたたまれた状態で溶媒から十分に保護されていても、pH依存的安定性には寄与しないであろうと予想される。
【0066】
具体的な態様において、作製する工程は、タンパク質の配列の全体を覆う位置にウィンドウブロックを設置することによって、タンパク質を折りたたみ単位に分割する工程、およびウィンドウブロックを一度に一残基ぶんスライドさせる工程を含む。
【0067】
当業者であれば、タンパク質を所定の数の折りたたみ単位に分割することがパーティションであることを認識している。したがって、部分的に折りたたまれた状態の数を最大化するために、分析の際には複数の異なるパーティションが用いられる。タンパク質の配列の全体を覆う位置にウィンドウブロックを設置することによって、このパーティションを規定することができる。折りたたみ単位は、それらが特定の二次構造の要素と一致するかどうかとは関係なく、ウィンドウの位置によって規定される。ウィンドウブロックを一度に一残基ぶんスライドさせることによって、タンパク質の異なるパーティションを得る。二つの連続したパーティションについては、それぞれの折りたたみ単位の最初のアミノ酸と最後のアミノ酸が一残基ぶん移動する。パーティションのすべてのセットが使い果たされるまで、この手法を繰り返す。具体的な態様において、5アミノ酸残基または8アミノ酸残基のウィンドウが用いられる。当業者であれば、COREXのアルゴリズムを用いて約105の部分的に折りたたまれた配座を作製できることを認識している。ウィンドウサイズを増やすかまたは減らすことによって、そしてタンパク質の大きさを大きくするかまたは小さくすることによって、この値を変更することができる。
【0068】
当業者であれば、COREXのアルゴリズムによって、高解像度の結晶構造または高分解能NMR構造から、部分的に折りたたまれた状態の多数のタンパク質が作製されること(HilserおよびFreire、1996;HilserおよびFreire、1997ならびにHilserら、1997)を承知している。このアルゴリズムにおいては、テンプレートとして高解像度構造を用いて、タンパク質の部分的に折りたたまれた状態のアンサンブルを概算する。したがって、タンパク質は異なる折りたたみ単位から成るものであると考えられる。これらのユニットが考えられるすべての組み合わせにて折りたたまれ、ほどかれることによって、部分的に折りたたまれた状態が作製される。COREXのアルゴリズムに関しては二つの基本的な前提がある:(1)部分的に折りたたまれた状態の折りたたまれた領域は本来の状態に似ている;そして(2)ほどかれた領域は構造を欠いているまたは構造が足りないとみなす。熱力学的な数量、すなわちΔH、ΔS、ΔCp、およびΔG、分配関数ならびにそれぞれの状態の確率(Pi)の値を、エネルギー特性の実験に基づくパラメータ化を利用して求める(MurphyおよびFreire、1992;Gomezら、1995;Hilserら、1996;Leeら、1994;D’Aquinoら、1996;およびLuqueら、1996)。
【0069】
タンパク質の折りたたみを、最も基本的な分子の部分の一つとみなすことができる。当業者は、タンパク質の折りたたみに関する特性を二つの部分、内在性および外来性に分割できることを認識している。内在性の特性は、個別の折りたたみ、たとえば配列、三次元構造および機能に関係がある。外来性の特性は、その他のすべての折りたたみの状況下での折りたたみ、たとえば多数のゲノム内でのその発生およびその他の折りたたみに関する発現レベルに関係がある。
【0070】
さらなる態様において、測定する工程は、アンサンブル中のそれぞれの配座状態の自由エネルギーを計算する工程;それぞれの状態のボルツマン重率[Ki=exp(−ΔGi/RT)]を決定する工程;および方程式
【0071】
【数9】
を用いて、それぞれの状態の確率を決定する工程を含む。
【0072】
別の態様において、計算する工程は、方程式
【0073】
【数10】
を用いてすべての微視的状態の安定性のpH依存性の連鎖関係を測定する工程を含む。ΔGpH,iは、「天然」の結晶構造(N)に関する状態iの安定性のpH依存性であり、Rは気体定数であり、Tは温度であり、ΔνpH,iは状態iとpHの関数としてのNとの間のプロトンの結合の差であり、そしてΔGCOREX,iは、上記のような溶媒が接近可能な表面積の計算を通して、固有エネルギー(ΔG、ΔHおよびΔS)を実験に基づいてパラメータ化することによって決定される状態iの安定性である。当業者であれば、ΔGpH,i方程式が、プロトンについてより高い親和性を有するアンサンブルの状態がプロトンの濃度の上昇によって安定化するという効果を発揮することを示していることを理解する。このように、微視的挙動によって、タンパク質のpH依存的安定性に対するそれぞれの滴定可能な残基の寄与を決定する。
【0074】
したがって、当業者であれば、上記の方程式から、COREXのアルゴリズムを用いてタンパク質のpKaを測定できることを認識する。pKaがKaの対数に負号を付けたものであることは、当業者にとって周知である。
【0075】
Ka=[H+][A−]/[HA]
pKa=−logKa
さらに、当業者は、上記方程式の両辺の負の対数を取ることで、Henderson-Hasselbalchの方程式:
pH=pKa+log{[A−]/[HA]}
が得られることを承知している。
【0076】
したがって、物質のpHが[共役塩基]/[酸]の比と関係があることは周知である。さらに、Henderson-Hasselbalchの方程式を用いて、弱酸の滴定の経過を記述することもできる。
【0077】
さらに、当業者であれば、本発明を用いて、電荷がアンサンブルにおける状態の分布と、そしてタンパク質の巨視的安定性とにどのような影響を及ぼすのかについて決定することができることを認識している。
【0078】
当業者であれば、プロトン結合のpH依存性において、pHに誘導される、状態の母集団のアンサンブルの移行が見られることを認識している。アンサンブルのプロトン結合曲線を次の方程式:
【0079】
【数11】
によって求めることができる。
【0080】
Z(pH)iは、状態iに結合したプロトンの数であり、Piは方程式
【0081】
【数12】
に由来する。
【0082】
II.タンパク質の設計
本発明の別の態様は、タンパク質を設計してそのタンパク質の医薬用途または工業的用途を広げることである。たとえば、当業者はタンパク質の安定性が高められたタンパク質の生産を要望するかもしれない。このことは、貯蔵期間をより長くすること、そして最適にまで至らない条件下での活性を高めることと言い換えられる。
【0083】
したがって、具体的な態様において、本発明は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;上記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および上記の工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、安定性が高められたタンパク質薬剤を提供する工程を含む、安定性が高められたタンパク質薬剤を設計する方法を含む。安定性の増大として、タンパク質の溶解性の増大またはタンパク質の凝集の減少が挙げられる。
【0084】
別の態様は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;上記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および上記の工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、タンパク質薬剤の消化管内での吸着性を向上させる工程を含む、消化管内での吸着性が高められた経口用タンパク質薬剤を設計する方法である。
【0085】
さらに、本発明を用いて、酸性条件でより安定性が高いタンパク質を設計することができる。これによって、酸による変性に対するさらなる耐性をタンパク質に付与する。このことは、長期間の保存によって懸濁液および溶液の酸性化が高まってしまう医薬製剤に特に有用である。
【0086】
さらに、本発明を用いて、酸による変性条件により敏感なタンパク質を設計することができる。これによって、消化管の酸性条件下での膜吸着に対してさらに影響を受けやすくなる。
【0087】
タンパク質薬剤を設計する際に、本発明は、合理的な薬剤の設計を利用して、所望の特性を有するタンパク質薬剤の設計を行うことができる。合理的な薬剤の設計の目標は、生物学的に活性な化合物と構造が類似したものを生産することである。このような類似物を創作することによって、天然分子よりもさらに活性が高いかまたは安定な薬剤を創り出すことが可能となる。これは、改変に対する感受性が異なっているか、または種々のその他の分子の機能に影響を与えるかもしれない。一つのアプローチにおいて、タンパク質についての三次元構造またはその断片を作製した。このことは、X線結晶学、コンピュータモデリングによって、または両方のアプローチの組み合わせによって、完成することができた。別のアプローチとしては、タンパク質の全体における官能基を無作為に置換することが挙げられ、そして結果として生じる、機能に対する影響を決定した。
【0088】
タンパク質に特異的な抗体を単離し、機能アッセイによって選択し、次いでその結晶構造を解明することも可能である。原則として、このアプローチによって、次に続く薬剤設計の基礎となり得るファーマコアが得られる。機能的で薬理活性を持つ抗体に対する抗イディオタイプ抗体を作製することによって、タンパク質結晶学を完全に回避することが可能である。鏡像の鏡像として、抗イディオタイプの結合部位がオリジナルの抗原のアナログであると予想される。次いで、抗イディオタイプを用いて、化学的にまたは生物学的に生産されたペプチドのバンクからペプチドを特定し単離することができた。次いで、選択されたペプチドをファーマコアとする。抗体を抗原として用いて、抗イディオタイプを作製してもよい。
【0089】
したがって、タンパク質の最初の構造に関連する所定の条件についての生物活性が高められ、改善された薬剤を設計することもできる。さらに、これらの化合物の化学的特性についての知識によって、コンピュータを用いた構造と機能との相関を予測することが可能となる。
【0090】
構造が類似する化合物を計画して、ペプチドまたはポリペプチドの鍵となる部位を模倣できることも考えられる。このような化合物は、ペプチドの模倣物とは呼ばれない。タンパク質の二次構造および三次構造の要素を模倣する特定の模倣物が、Johnsonら、(1993)に記載されている。ペプチド模倣物を用いることの背後にある、内在する根本的な原因は、タンパク質のペプチドのバックボーンが主に、アミノ酸の側鎖が抗体および/または抗原などの分子の相互作用を促進するような方向に向くように存在していることである。したがって、ペプチドの模倣物を設計して、天然分子に類似する分子の相互作用を可能にする。
【0091】
ペプチドを模倣する概念のいくつかの成功した応用例は、タンパク質内のベータ−ターンの模倣に焦点を合わせたものであった。このものは抗原性が強いことが知られている。コンピュータに基づくアルゴリズムによって、ポリペプチド内の有望なベータ−ターン構造を予測することができる。一旦当該ターンの構成アミノ酸が決定されると、模倣物を構築して、アミノ酸側鎖の不可欠な要素の空間配向をそっくりなものにすることができる。
【0092】
その他のアプローチは、大きなタンパク質の結合部位を模倣する生物学的に活性な配座を生産するための、魅力的な構造テンプレートとしての、小さくて、複数のジスルフィドを含むタンパク質の使用に焦点を当てていた(Vitaら、1998)。進化の過程で特定の毒素内で保存されているような構造のモチーフは、小さく(30−40アミノ酸)、安定で、そして突然変異については極めて寛大である。このモチーフは、三つのジスルフィドにより内部のコア内で架橋されているベータシートおよびアルファヘリックスから構成されている。
【0093】
環状L−ペンタペプチドとD−アミノ酸を有する環状ペプチドを用いることで、ベータIIターンはうまく模倣されてきた。Weisshoffら、(1999)。さらに、Johannessonら、(1999)は、特性を誘導するリバースターンを有している二環式のトリペプチドについて報告している。
【0094】
特定の構造を作製する方法は、当該分野で開示されてきた。たとえば、アルファ−ヘリックスの模倣は、米国特許第5,446,128号;第5,710,245号;第5,840,833号;および第5,859,184号に開示されている。これらの構造はペプチドまたはタンパク質をより高温で安定にし、さらにタンパク質分解酵素による分解に対する耐性を高めている。六員環、七員環、十一員環、十二員環、十三員環および十四員環の構造が開示されている。
【0095】
立体配座により制限を受けているベータターンおよびベータバルジを作製する方法は、たとえば、米国特許第5,440,013号;第5,618,914号;および第5,670,155号に記載されている。ベータターンは、対応するバックボーンの配座を変化させることなく、変化した側置換を可能にし、そして標準的な合成方法によるペプチド内への組み込みのための適宜な末端を有する。その他のタイプの模倣のターンとしては、リバースターンおよびガンマターンが挙げられる。リバースターンの模倣は、米国特許第5,475,085号および第5,929,237号に開示されており、そしてガンマターンの模倣は、米国特許第5,672,681号および第5,674,976号に記載されている。
【0096】
A.溶解性が高められたタンパク質
別の態様において、本発明を用いて、電荷がアンサンブルにおける状態の分布に、よってタンパク質の溶解性にどのような影響を及ぼすのかについて決定することができる。したがって、本発明は、特に表面の荷電基の決定に特に有用である。電荷がアンサンブルの状態の分布にどのような影響を及ぼすのかについて決定するときにアミノ酸を置換して電荷を改変し、タンパク質の溶解性を増大させることによって、タンパク質薬剤を設計することができると考えられる。
【0097】
タンパク質の溶解性とは、所定の体積の溶媒に溶解することができるタンパク質の量である。この量よりも多い量のタンパク質が存在すると、タンパク質の凝集および沈殿が引き起こさる。その自由エネルギーに関連する水性溶媒で囲まれている場合、不定形または秩序的な固体の状態で、(存在している場合には)その他の任意の分子と相互作用する場合、あるいは膜内に浸透している場合、水へのタンパク質の溶解性は、その自由エネルギーによって決定される。あらゆる物質の溶解性についての因子は、その物質を適応させるための緩衝液を置き換えるのに必要なエネルギーの量である。緩衝液のイオン強度、pHおよび温度は、タンパク質の溶解性に影響を及ぼす。低い値の緩衝液のイオン強度を高めると、タンパク質の溶解性が上昇する傾向があり、一方、高い値のイオン強度を高めると、溶解性が低下する傾向がある。低イオン強度の緩衝液において、タンパク質は、タンパク質の正味の電荷と反対の電荷の余剰イオンに包囲される。このことは、タンパク質の静電的な自由エネルギーを低下させ、そして溶解性を高める。水性溶媒において、タンパク質の表面上の荷電基および極性基は都合よく水と相互作用する。有機溶媒は、タンパク質の溶解性を低下させる傾向がある。タンパク質の溶解性は、その等電点で最小になる。等電点よりも大きいpHでは、タンパク質からプロトンが除かれて可溶性となる。等電点よりも小さいpHでは、タンパク質がプロトン化されて可溶性となる。タンパク質上の正味の電荷が大きければ大きいほど、それらが溶液の状態に維持されやすい。このことは、分子間の静電反発力がより大きくなることによるものである。高温によって、タンパク質の変性が引き起こされる。その結果、凝集して溶解性が失われる。
【0098】
したがって、当業者であれば、アミノ酸側鎖の置換基、たとえば、疎水性、親水性、電荷、大きさ、および/またはその他のものなどに基づいて、アミノ酸置換を行えることを認識している。アミノ酸の側鎖の置換基の大きさ、形状および/またはタイプの分析から、アルギニン、リジンおよび/またはヒスチジンはすべて正に荷電している残基であり;アラニン、グリシンおよび/またはセリンはすべて類似の大きさであり;そして/あるいはフェニルアラニン、トリプトファンおよび/またはチロシンはすべて概して類似の形状を持つことが明らかである。
【0099】
さらに定量的な変化をもたらすために、アミノ酸のハイドロパシック・インデックスを考慮してもよい。それぞれのアミノ酸には、それらの疎水性および/または荷電特性に基づくハイドロパシック・インデックスが割り当てられており:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);および/またはアルギニン(−4.5)である。
【0100】
相互に作用する生物学的機能をタンパク質に付与する際のアミノ酸のハイドロパシック・インデックスの重要性は、当該分野で広く理解されている(KyteおよびDoolittle、1982、参照によって取り込まれる)。類似のハイドロパシック・インデックスおよび/またはスコアを有するおよび/またはなお類似の生物活性を維持しているその他のアミノ酸の代わりに、特定のアミノ酸を置換してもよいことが知られている。ハイドロパシック・インデックスに基づいて変更を行う際には、ハイドロパシック・インデックスが±2以内のアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のものが特に好ましく、および/または±0.5以内のものが極めて好ましい。
【0101】
親水性に基づいて、同様のアミノ酸の置換を効果的に行うことができることも当該分野で理解されている。参照によって本明細書に取り込まれる米国特許第4,554,101号には、それに隣接するアミノ酸の親水性によって支配されているようなタンパク質の最大の局所的な平均親水性が、その免疫原性および/または抗原性と関係があること、すなわちタンパク質の生物学的特性と関係があることが記載されている。
【0102】
米国特許第4,554,101号に詳述されているように、アミノ酸残基には次の親水性度が割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);トリプトファン(−3.4)。類似の親水性度に基づいて変更を行う場合、親水性度が±2以内のアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のものが特に好ましく、および/または±0.5以内のものが極めて好ましい。
【0103】
修飾を行う場合、アミノ酸残基の極性が考慮される場合もある。極性アミノ酸残基としては:リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、およびチロシンが挙げられる。非極性アミノ酸残基としては:アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、およびシステインが挙げられる(Albertsら、1994)。
【0104】
B.結合親和性が高められたタンパク質
さらなる態様において、本発明を用いて電荷がアンサンブルにおける状態の分布にどのように影響するかを決定することができ、したがって、結合が可能である状態を安定化させる追加的な手段として本発明を用いることができる。このことは、最終的に、想定される標的に対するタンパク質の親和性を高める結果となるだろう。
【0105】
したがって、本発明を用いて、タンパク質薬剤とリガンドとの間の結合親和性が高められたタンパク質薬剤を設計することができる。タンパク質薬剤を設計する方法は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;上記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および上記の工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、リガンドに対する結合親和性が高められたタンパク質薬剤を提供する工程を含んでもよい。
【0106】
結合親和性は、タンパク質とリガンドとの間の相互作用の全体的な自由エネルギーの指標である。親和性の大きさが、所定の条件の組み合わせの下で、特定の相互作用と関係するかどうかを決定する。リガンドについてのタンパク質のあらゆる特定の親和性が有意であるかどうかは、遭遇するタンパク質についての、存在するリガンドの濃度に依存する。結合親和性を決定するためのアッセイには、表面プラズモン共鳴、ウェスタンブロット、ELISA、DNアーゼフットプリンティング、およびゲル移動度シフトアッセイが挙げられるが、これらに限定されるものではない。リガンドはタンパク質でも非タンパク質でもよい。リガンドとしてはレセプター、補酵素、または非タンパク質性の化合物でもよいが、これらに限定されるものではない。タンパク質とリガンドとの間の結合親和性を、タンパク質とリガンドとの間の結合の結合定数または解離定数によって測定してもよい。リガンドと結合した状態のタンパク質と類似の構造を安定化することによって、タンパク質とリガンドとの間の結合のエントロピーは低下するかもしれない。タンパク質とリガンドとのファン・デル・ワールスの計算を行って、結合配座が立体的に許容されるかどうかを決定することができる。
【0107】
C.その他のタンパク質の設計
本発明を用いて、ヒトおよび動物の両方において、多型性の電荷のバリエーションによって引き起こされる機能変化の根本的な原因を研究することもできる。さらに、本発明を用いて、ヒトおよび動物の両方において、荷電残基に影響を与える多型性のバリエーションによって引き起こされる機能変化の根本的な原因を研究することもできる。
【0108】
当業者であれば、種のゲノムレベルでアミノ酸の変化を生じさせる多型性が生じてもよいことを認識している。たとえば、正に荷電したアミノ酸を、負に荷電したアミノ酸で置換してもよい。さらに、荷電していないアミノ酸または中性アミノ酸を荷電したアミノ酸で置換してもよい。したがって、当業者は、多型性によって、タンパク質全体の電荷が変化する場合があることを認識している。この多様なバリエーションは、タンパク質のバックボーンの中またはタンパク質の官能基の中に存在し得る。
【0109】
さらに、本発明を用いて、塩基性条件でさらに安定的なタンパク質を設計することができる。それによって、塩基による変性に対するさらなる耐性をタンパク質に付与する。このことは、プロテアーゼが配合される界面活性剤に特に有用である。
【0110】
さらに別の態様において、本発明を用いて、活性化のためのpH依存性の引き金として作用するウイルス上の機能的に重要な残基を特定することができる。
【0111】
別の態様において、pHおよび荷電/荷電相互作用が広範囲の生物物理学的特性に与える影響を研究するための価値のあるツールを研究者に与えるDELPHIのようなプログラムに盛り込まれた現在の静電気学のパッケージと一緒に、本発明を用いることができる。したがって、このアルゴリズムは現在の研究用ツールに有用性を追加する。
【0112】
本発明の上記の態様を、コンピュータに基づくシステムとして簡単に実施してもよい。このようなコンピュータに基づくシステムの一つの態様としては、一種以上のタンパク質についての高解像度構造データの入力を受け取るコンピュータプログラムが挙げられる。コンピュータに基づくプログラムは、このデータを利用して、タンパク質のpKa、タンパク質の安定性のpH依存性、およびタンパク質の静電相互作用を決定する。本発明によって得られるデータを、次いで、データベース内に保存することができる。このデータを用いて、安定性、溶解性および結合親和性が高められたタンパク質を設計することができる。
【0113】
一つの態様においては、コンピュータに基づくシステムは、上記データベースと一体化したソフトウェアプログラムを利用し、その結果、各タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する手順;上記各配座状態の確率を決定する手順;および上記各配座状態のそれぞれのpH依存性を計算する手順が実行される。
【0114】
さらなる態様においては、コンピュータ読み取り可能な媒体上にコンピュータが実行可能な命令として、本発明の方法を保存してもよい。
【0115】
IV.実施例
本発明のより好ましい態様を実証するために、以下の実施例を収録する。当業者であれば、後述の実施例中で開示される技術は、本発明者によって発見された、本発明を実施する際に十分に機能する技術の代表であること、そしてそれ故に、開示された技術によってその実施に好ましい様式が構成されるとみなされ得ることを理解すべきである。しかしながら、当業者であれば、本発明の開示を考慮して、開示された具体的な態様において多数の改変を実施できること、さらに本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似の結果が得られることを理解すべきである。
【実施例1】
【0116】
コンピュータを利用してのアンサンブルの詳細
テンプレートとしてタンパク質の結晶構造を用い、そしてCOREXのアルゴリズムを用いるコンピュータを利用して、部分的に折りたたまれた状態のアンサンブルを作製した。少なくとも5のウィンドウサイズを用いて、部分的に折りたたまれた状態を作製した。溶媒が接近可能な表面積の計算(Hilserら、1996;Murphyら、1992;D’Aquinoら、1996;Gomezら、1995;Xieら、1994)ならびに下記の方程式1および方程式2を通して、それぞれの状態の固有エネルギー(ΔG、ΔHおよびΔS)を実験に基づいてパラメータ化することによって、完全に折りたたまれた配座異性体および完全にほどかれた配座異性体を含む、このアンサンブルの状態の母集団の平衡分布を決定した。
【0117】
簡単に言えば、COREXによって、テンプレートとしてのタンパク質のそれぞれの高解像度構造を用いて、部分的にほどかれた微小状態のアンサンブルを作製した(HilserおよびFreire、1996)。折りたたみ単位のあらかじめ定められたセット(すなわち、残基1〜5は第一の折りたたみ単位中にあり、残基6〜10は第二の折りたたみ単位中にある、など)を組み合わせてほどくことによって、このことを容易に行うことができた。折りたたみ単位の境界をさらに変化させることによって、所定の折りたたみ単位の大きさについて、部分的にほどかれた種を網羅的に列挙することができた。
【0118】
前述の表面積に基づくパラメータ化(D’Aquino、1996;Gomez、1995;Xie、1994;Baldwin、1986;Lee、1994;Habermann、1996)から、アンサンブルにおけるそれぞれの微小状態iについてのギブスの自由エネルギーを計算した。それぞれの微小状態のボルツマン重率[すなわち、Ki=exp(−ΔGi/RT)]を用いて、その確率を計算した:
【0119】
【数13】
式中、分母における総和は微小状態の全体である。方程式1において計算される確率から、タンパク質におけるそれぞれの残基についての平衡の重要な統計上の記述子の値を求めた。κf,jを残基の安定度定数として定義すると、この量は、ある特定の残基jが折りたたまれた配座の状態であるところのアンサンブルにおけるすべての状態の確率の総和(ΣPf,j)の、残基jがほどかれた配座の状態であるところのすべての状態の確率の総和(ΣPnf,j)に対する比であった:
【0120】
【数14】
完全に折りたたまれた構造に関するそれぞれの微小状態iについてのギブスエネルギーを、以下の方程式:
ΔGi=ΔHi,溶媒和−T(ΔSi,溶媒和+WΔSi,配座) (3)
で計算した。
【0121】
式中、極性表面の暴露および無極性表面の暴露から、溶媒和のカロリメトリックエンタルピーおよびエントロピーをパラメータ化し、そして配座エントロピーを測定した(HilserおよびFreire、1996)。
【実施例2】
【0122】
プロトンの結合特性の予測
テンプレートとしてSNアーゼの結晶構造(1stn.pdb)を用い、そしてCOREXのアルゴリズム(Hilserら、1996)を用いるコンピュータを利用して、部分的に折りたたまれた状態のアンサンブルを作製した。8のウィンドウサイズを用いて、1179629の部分的に折りたたまれた状態を作製した。溶媒が接近可能な表面積の計算(Hilserら、1996)を通して、それぞれの状態の固有エネルギー(ΔG、ΔHおよびΔS)を実験に基づいてパラメータ化することによって、完全に折りたたまれた配座異性体および完全にほどかれた配座異性体を含む、このアンサンブルの状態の母集団の平衡分布を測定した。
【0123】
結晶構造に関する構造に基づくpKaの計算を利用して、アンサンブル内のそれぞれの状態のプロトンの結合特性を決定した。簡単に言えば、SNアーゼの結晶構造に関して、四種の異なる計算を用いた:1)線形ポアソン−ボルツマン(PB)方程式の解を用いる有限差分(FD)法(Antosiewiczら、1994)、2)非線形PB方程式の解を用いるFD法(Jayaramら、1989)、3)Tanford−Kirkwood(TK)法(Tanfordら、1957)、および4)残基の滴定可能な原子が溶媒に対して露出すると、その残基を、モデル化合物が暴露された溶媒と同一のpKaで滴定するという単純な公理的方法(すなわち、その原子は溶媒から保護される)。3pK単位ぶん移動(酸性残基については低下、塩基性残基については上昇)したpKaで残基を滴定すると、局所的な静電気の環境が荷電しやすいことの指標となった。これらの計算の結果を、以下に示す表1にて説明した。
【0124】
【表1A】
表1A:アンサンブルに基づく数値計算において用いたSNアーゼの個々の滴定可能な残基のpKa値。1pKa,protected値は、100mMのイオン強度の溶液を用いて、SNアーゼの結晶構造(1stn.pdb)に関して行われた線形ポアソン−ボルツマン方程式の定差分解によって計算した(Antosiewiczら、1994)。
2pKa,exposed値は、モデル化合物が暴露された溶媒に基づく(Schaeferら、1998;Matthewら、1985)。3pKa,GuHCl値は、6MのGuHCl中のモデル化合物が暴露された溶媒に基づく(Whittenら、2000;Roxbyら、1971;Nozakiら、1967)。
*−結晶構造において残基は見られず、よってアンサンブルのすべての状態が完全に露出していると仮定した。
【0125】
【表1B】
表1B:アンサンブルに基づく数値計算において用いたSNアーゼの個々の滴定可能な残基のpKa値。1pKa,protected値は、100mMのイオン強度の溶液を用いて、SNアーゼの結晶構造(1stn.pdb)に関して行われた線形ポアソン−ボルツマン方程式の定差分解によって計算した(Antosiewiczら、1994)。
2pKa,exposed値は、モデル化合物が暴露された溶媒に基づく(Schaeferら、1998;Matthewら、1985)。3pKa,GuHCl値は、6MのGuHCl中のモデル化合物が暴露された溶媒に基づく(Whittenら、2000;Roxbyら、1971;Nozakiら、1967)。
*−結晶構造において残基は見られず、よってアンサンブルのすべての状態が完全に露出していると仮定した。
【0126】
図2では、線形化PB方程式のFD解によって計算した結晶pKa値(すなわち、pKa,N値)を用いて滴定挙動を示した。非線形PB方程式のFD解によって計算したpKa,N値から、事実上同一のpKaが得られた。
【0127】
比較のために、SNアーゼの完全に折りたたまれた配座および完全にほどかれた配座のプロトン滴定についても、図2に示した。
【0128】
【数15】
によって、アンサンブルのプロトンの結合曲線を計算した。
【0129】
ここで、Z(pH)iは、pHの関数としての、状態iに結合したプロトンの数であり、そしてP(pH)iは、方程式
【0130】
【数16】
から得られる、状態iの母集団の確率であるPiのpHに依存した。
【0131】
したがって、完全に折りたたまれた状態および完全にほどかれた状態の数値的な滴定に加えて、この計算を図2Aに示した。図2から、中性のpH値の近傍では、アンサンブルは完全に折りたたまれた状態と実質的に同一のプロトンの結合特性を有することが明らかとなった。pHが低下するにつれて、アンサンブルのプロトンの結合挙動は急速にほどけた状態に移行した。図2Bから、SNアーゼが本来の特性からほどかれた特性に移行させるための実験によって見られたpHと見事に一致することが実証された。酸によって誘導されたSNアーゼのアンフォールディングの実験により観察されたpHの中間点は、3.71であった(Whittenら、2000)。比較のために、図2Aおよび図2Bの両方のプロットを通り抜けるように、pHのこの値の位置に一本の線を描いた。
【0132】
さらに、SNアーゼは、酸の誘導によりpH3.7でアンフォールディングされることが実験により観察されている(Whittenら、2000)。図2から、このコンピュータの技術は、このタンパク質の酸の誘導による本来の特性からほどかれた特性への移行を正確に捉えることが明らかとなった。
【実施例3】
【0133】
滴定挙動
A.滴定挙動の予測
滴定可能な原子が溶媒から保護されるかもしくは溶媒にさらされるか、またはそうでないかについて決定するために、リーおよびリチャーズのアルゴリズム(Hilserら、1996;Leeら、1971;Murphyら、1992)に基づいて、その原子の、溶媒が接近可能な表面積を計算した。
【0134】
簡単に言えば、次いで、この値を、この原子のタイプについての、溶媒が接近可能な最大表面積−−これは完全に露出したモデルに関する同一の計算によって測定される−−で割って、露出されたパーセントを得た。露出されたパーセントの値がしきい値のパーセントよりも大きい場合、この原子をモデルとして、そのpKa,exposed値で滴定したり、その他に、原子をそのpKa,protected値で滴定した。計算したプロトンの結合曲線と、実験により観察したプロトンの結合曲線とを比較することによって(図3)、しきい値のパーセントを測定した。グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基、リジン残基、アルギニン残基およびチロシン残基については、しきい値のパーセントとして0.31を用い;ヒスチジンについては0.45の値を用いた。グルタミン酸残基についてOE1原子およびOE2原子の溶媒接近性を平均化し、アスパラギン酸残基についてOD1原子およびOD2原子の溶媒接近性を平均化し、そしてアルギニンについてNH1およびNH2の溶媒接近性を平均化した。ヒスチジンについてはNE2原子の溶媒接近性を用い、リジンについてはNZを、そしてチロシンについてはOHを用いた。SNアーゼには、システイン残基は存在しなかった。
【0135】
B.滴定挙動実験
表1に記載したpKa値を用いることによって、6MのGuHClにおいて完全にほどかれたSNアーゼの滴定を計算した。SNアーゼのアンサンブルと、完全にほどかれたGuHClの状態との間のプロトンの結合の差を、二種の異なる方法によって実験的に測定した。最初に「連続的な差の曲線」によって、本来の条件(たとえば2mg/mLのSNアーゼ、100mMのKCl、298K)下で、およびアンフォールディング条件(たとえば2mg/mLのSNアーゼ、6MのGuHCl、100mMのKCl、298K)下でSNアーゼの電位差滴定を測定し、その後、二つの曲線間の差を決定した(Whittenら、2000)。第二に、「バッチ」技術によって、特定のpHにおけるアンサンブルと、完全にほどかれたGuHCl状態との間でのプロトンの結合の差を測定した(Whittenら、2000)。ここでは、特定のpHにおいて、濃縮されたGuHClを本来の条件下のSNアーゼ溶液に添加した。結合したプロトンの正味の数、またはアンサンブルからGuHClで誘導された完全にほどかれた状態への移行によりそのpHで放出されたプロトンの正味の数を、溶液のpHの変化を測定することによって計算した。
【0136】
図3によって、予測したアンサンブルの滴定挙動と実験での観察とが見事に一致することが実証された。さらに、図3は、このアンサンブルに基づくアプローチがさらに、酸によって誘導された、本来の特性からほどかれたアンサンブルの特性への移行の強い協同的な性質を捉えたこと、すなわち酸によって誘導されたアンフォールディングによって正味で約5つのプロトンが捉えられたことを示している。
【実施例4】
【0137】
アンサンブルの状態のpH依存性の計算
アンサンブルの母集団分布の状態のpH依存性を、連鎖関係(Wyman、1948および1964):
【0138】
【数17】
によって計算した。
【0139】
ここで、ΔGpH,iは、「本来」の結晶構造(N)に関する状態iの安定性のpH依存性であり、Rは気体定数であり、Tは温度であり、ΔνpH,iは状態iとNとの間のpHの関数としてのプロトンの結合の差であり、そしてΔGCOREX,iは、上記のような溶媒が接近可能な表面積の計算を通して、固有エネルギー(ΔG、ΔHおよびΔS)を実験に基づいてパラメータ化することによって測定される状態iの安定性であった。したがって、Asp21に関しては、pHが低下することによって、状態の平衡分布は、第一のサブアンサンブルにおける母集団の状態を犠牲にして、図1における第二のおよび第三のサブアンサンブルに移動した(すなわちAsp21は、サブアンサンブル1に関して、サブアンサンブル2およびサブアンサンブル3におけるプロトンについてより強い親和性を有した)。
【0140】
図1はさらに、COREXによって作製された三種のサブアンサンブルのそれぞれについて、10のより安定した状態を示した。白い矢印は、残基Asp21の位置を示した。折りたたまれた領域は濃い灰色によって表され、そして淡い灰色はほどけた領域を表す。
【0141】
第一のサブアンサンブルのすべての状態において、Asp21は折りたたまれ、溶媒から保護され、そしてその結晶pKaで滴定された(100mMのイオン強度と仮定してのFD/PB計算によるpKa,N=0.524)。
【0142】
第二のサブアンサンブルにおいて、Asp21は折りたたまれていたが、溶媒に露出しており、そして4.0のpKaで滴定された。第三のサブアンサンブルにおいて、Asp21はほどかれていたことから、溶媒に露出し、さらにこれらの状態で、4.0のpKaで滴定された。
【0143】
Asp21に限定してみれば、pHの低下によって、第一のサブアンサンブルの状態を犠牲にして、状態の母集団の平衡が第二および第三のサブアンサンブルに移行するということが示された。
【0144】
タンパク質の滴定可能な残基のそれぞれについて、同様の説明および議論がなされた。この推論にしたがって、アンサンブルの母集団において任意のpHにて誘導される移行の協同性を、図1で模倣される残基特異的なサブアンサンブルの重複と関連付けた。
【実施例5】
【0145】
特定の残基のpH依存性の計算
本発明によって、タンパク質のpH依存的安定性に対する残基特異的な寄与を予測した。
【0146】
すべての残基が、滴定に関する安定性に等しく影響を与えるわけではなかった;いくつかの滴定可能な基は溶媒に完全に露出しており、主にこの基は溶解性に関係していることによって安定性に寄与していた。そして溶媒のイオン成分および極性成分によって、考えられるあらゆる分子内クーロン相互作用が減弱した;その他の滴定可能な基は、実質的な分子内クーロン相互作用−−溶媒によってわずかに減弱する−−に関与し、そしてこの基は、タンパク質の安定性の静電気成分およびプロトン結合成分に実質的に寄与していた。
【0147】
特定の残基の滴定可能な原子がその状態において溶媒から保護されていた場合、アンサンブルの状態のそれぞれについて、その残基を結晶pKa値(pKa,N)で滴定した。その滴定可能な原子が溶媒に露出していた場合、モデル化合物が暴露された溶媒に基づいて、表1に示したpKa値でその残基を滴定した(Schaeferら、1998;Matthewら、1985)。
【0148】
図4Aでは、タンパク質のpH依存的安定性への、滴定可能な残基の寄与についての二つの鍵となる測定基準を示した。所定の残基jが折りたたまれた配座となる確率であるPfolded jは、残基jが折りたたまれた領域内に存在するタンパク質のすべての配座状態の確率の総和と同一であった。同様に、残基jがほどかれた確率であるPunfolded jは、残基jがほどかれた領域に存在するタンパク質のすべての配座状態の確率の総和と同一であった。したがって、残基あたりの見かけのフォールディング定数であるKfolded jを、残基jが折りたたまれているすべての状態の確率の、残基jが折りたたまれていない状態の確率に対する比として定義した。
【0149】
【数18】
同様に、残基あたりの見かけの保護定数であるKprotected jを、残基jの滴定可能な原子が溶媒から保護されているすべての状態の確率の総和の、残基jの滴定可能な原子が露出しているすべての状態の確率の総和に対する比として定義した。
【0150】
【数19】
図4Aでは、折りたたまれておりかつ溶媒から保護されている確率が高い残基を示した。したがって、これらの残基がSNアーゼのpH依存的安定性への主要な要因であると予想された。折りたたまれている確率が極めて小さいタンパク質の領域に存在する残基は、たとえそれらのpKaがpKa,exposed値から移行したものであり、かつ完全に折りたたまれた状態で溶媒から保護されていたとしても、pH依存的安定性には寄与しなかった。Glu52はこのような残基の一例である;これは、pKaが約2.5pK単位ぶん低下したことが理由で、結晶構造そのものによってSNアーゼのpH依存的安定性に顕著に寄与すると予想された残基である。同様に、溶媒から保護される確率が極めて小さい残基もまた、これらが折りたたまれている確率が高かろうとそうでなかろうと、pH依存的安定性には寄与しなかった;一例はGlu73である。
【0151】
図5Aから図5Dでも、他の残基のアンサンブルの滴定挙動の相違を示す。pH依存的なアンサンブルの平衡によって、すべてではないがいくつかの残基についてのプロトンの結合反応の協同性が劇的に上昇した。
【実施例6】
【0152】
SNアーゼの実験による分析
一つのアミノ酸の別のものへの置換による、タンパク質の安定性に与える影響を予測することは困難である;このことは、タンパク質の突然変異分析の主要な障害であった。しかしながら、図4Aでは、残基の滴定可能となる能力を除去することによって、SNアーゼのpH依存的エネルギー特性が顕著に変化すると予想された。
【0153】
この予想を試験するために、SNアーゼの点突然変異体ライブラリーを得た。それぞれの突然変異体において、SNアーゼ中のヒスチジン残基、グルタミン酸残基、およびアスパラギン酸残基をアラニンに置換した。これらの点突然変異の、安定性および酸によって誘導されるアンフォールディングのpHの中間点に与える影響を、図4Bに示した。
【0154】
Shortleら、1989の手法にしたがって、SNアーゼの野生型および突然変異体を発現させ、そして精製した。SDS−PAGEによってタンパク質の純度が98%を超えることを確認した。タンパク質の濃度を280nmにて測定し、光学密度を0.93として用いた。
【0155】
酸によって誘導されたSNアーゼのアンフォールディングを20℃で実施し、Trp−140の固有蛍光によってモニターして、アンフォールディングのpHの中間点が移行することを得た(Whittenら、2000)。
【0156】
SNアーゼの安定性−−野生型および突然変異体−−を、GuHClで誘導されたアンフォールディングによって決定した。pH7、20℃にて実施し、Trp−140の固有蛍光によってモニターした(Whittenら、2000)。野生型と各突然変異体との間の安定性の差であるΔΔG(pH7)を:
ΔΔG(pH7)=ΔG(pH7)mutant−ΔG(pH7)wt (8)
によって計算した。
【0157】
図4Bの点突然変異は、図4Aの残基に該当する。コンピュータを利用して、安定性の変化が与える、野生型のSNアーゼの酸による変性のpHの中間点への影響を、方程式4の初項によって、そして完全にほどかれた状態とアンサンブルとの間のプロトンの結合の差であるΔν(pH)iの値を用いて予測した。この計算の結果も図4Bに示した。この置換によって、SNアーゼのpH依存的安定性に寄与し、そしてその結果Δν(pH)iに寄与する残基の滴定は排除されると予測されたので、一つの残基をアラニンに置換するという突然変異は、図4Bの予測された曲線からは離れていた。図4Aと図4Bの相関性から、タンパク質のどの残基がそのpH依存的安定性に極めて重要であるかを正確に予測するというこの方法の能力が実証された。
明細書において言及されたすべての特許および刊行物は、当業者の水準を示す。引用することによって、すべての特許および刊行物は、個々の刊行物のそれぞれが具体的にかつ個々に示され、引用によって取り込まれるかのような程度と同程度をもって本明細書に取り込まれる。
【特許文献1】
米国特許第4,554,101号米国特許第5,446,128号米国特許第5,440,013号米国特許第5,475,085号米国特許第5,618,914号米国特許第5,635,377号米国特許第5,670,155号米国特許第5,672,681号米国特許第5,674,976号米国特許第5,710,245号米国特許第5,789,166号米国特許第5,840,833号米国特許第5,859,184号
【非特許文献1】
Albertsら(1994)Molecular Biology of the Cell p 57. Antosiewicz J.ら(1994)J. Mol. Biol.238 : 415. Bai Y.ら(1995)Science 269: 192. BaldwinR. L. 1986.Proc Natl Acad Sci USA83: 8069−8072. D'Aquino J. A.ら(1996)Proteins:Struct. Funct. Genet. 25: 143. Englander S. W.(2000)Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 29:213. Freire E.およびBiltonen R. L.(1978)Biopolymers 17: 463. Freire E.(1998)Adv. Protein Chem. 51: 255. Freire E.(1999)Proc. Nat. Acad. Sci. USA 96: 10118. Gomez J.およびFreire E.(1995)J. Mol. Biol. 252: 337. Gomez J.ら(1995)Proteins:Struct. Funct. Genet. 22: 404. Habermann S.M.およびMurphy K. P. 1996. Prot Sci 5 : 1229−1239. Hilser V. J.およびFreire E.(1996)J. Mol. Biol. 262: 756. Hilser V. J.ら(1998)Proc. Nat. Acad. Sci. USA 95: 9903. Hilser V. J.(1997)Biophys. Chem. 64: 69. Jayaram B.ら(1989)Biopolymers 28: 975. Johannessonら、1999, J. Med. Chem. 42:601−608. Johnson M. S.ら(1993)J Mol Biol. 231(3):735−52. Kim P. S.およびBaldwin R. L.(1990)Annu. Rev. Biochem. 59:631. Klapper I.ら(1986)Proteins 1: 47. Kuwajima K.(1989)Proteins :Struct. Funct. Genet. 6: 87. Lee B.およびRichards FM.(1971)J. Mol. Biol. 55: 379. Lee K. H.ら、1994. Proteins 20: 68−84. Matthew J. B.およびGurd F. R.(1986)Methods Enzymol. 130: 413. Matthew J. B.ら(1985)CRC Crit. Rev. Biochem. 18: 91. Mayne L.およびEnglander S. W.(2000)Protein Science 9: 1873. Milne J. S.ら(1999)J. Mol. Biol. 290: 811. Murphy K. P.ら(1992)J. Mol. Biol. 227: 293. Nozaki Y.およびTanford C.(1967)J. Am.Chem. Soc. 89: 736. Pan H.ら(2000)Proc. Nat. Acad. Sci. USA 97: 12020. Roxby R,およびTanford C.(1971)Biochemistry 10: 3348. Schaefer M.ら(1998)Adv. Protein Chem. 51: 1. Shortle D.およびMeeker A. K.(1989)Biochemistry 28: 936. Tanford C.(1962)Adv. Protein Chem. 27: 69. Tanford C.(1969)Adv. Protein Chem. 24: 1. Tanford C.およびKirkwood J. G.(1957)J. Am. Chem. Soc. 79: 5333. Vitaら、1998,Biopolymers 47: 93−100. Warwicker J.(1986)J. Theor. Biol. 121: 199. Weisshoffら、1999, Eur. J. Biochem. 259: 776−788. Whitten S. T.およびGarcia−Moreno E. B.(2000)Biochem. 39: 14292Wooll J.O.ら(2000)J. Mol. Biol. 301: 247. Xie D.およびFreire E.(1994)J. Mol. Biol. 242: 62. Xie D.およびFreire E.(1994)Proteins:Struct. Funct. Genet. 19: 291. 本発明およびその利点を詳細に説明してきたが、添付された請求の範囲によって規定された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の変更、置換および改変を実施することができることを理解すべきである。さらに、本出願の範囲は、本明細書に記載されたプロセス、装置、製品、物質の組成物、手段、方法および工程の特定の態様に限定されることを意図するものではない。当業者であれば、本発明の開示から、プロセス、装置、製品、物質の組成物、手段、方法、または工程を容易に認識できるので、実質的に同一の機能を発揮するか、または本明細書に記載された対応する態様と実質的に同一の結果を与えるような、現存するかまたは将来開発されるものを、本発明にしたがって利用できるだろう。したがって、添付された請求の範囲は、このようなプロセス、装置、製品、物質の組成物、手段、方法、または工程の範囲内のものを包含することを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】図1A〜図1Cは、SNアーゼのpH依存的安定性のAsp21滴定の影響に関する、アンサンブルの状態のサンプルを示す図である。白色の矢印は、残基Asp21の位置を示す。折りたたまれた領域を有するSNアーゼの範囲は灰色で示されている;ほどかれている領域は白色で示されている。第一のサブアンサンブル(図1A)は、折りたたまれかつ溶媒から保護されているタンパク質の領域内にAsp21が存在している状態のサンプルである。第二のサブアンサンブル(図1B)は、Asp21は折りたたまれているが溶媒に露出しているいくつかの状態から構成されている。第三のサブアンサンブル(図1C)は、Asp21がほどかれており、かつ溶媒に露出している状態の代表例である。
【図2】図2Aおよび図2Bは、SNアーゼのアンサンブルのプロトン滴定を示す図である。図2Aは、アンサンブル(実線);完全に折りたたまれた状態(長破線);そして完全にほどかれた状態(短破線)のプロトン滴定の数値計算を示す。図2Bは、Trp−140の固有蛍光のpH滴定にしたがうようにした、野生型のSNアーゼの酸によるアンフォールディングを示す(Whittenら、2000)。
【図3】図3は、アンサンブルの予測されたプロトンの結合特性の直接的な比較を示す図である。表1のpKa,GuHCl値を用いての完全にほどかれた状態から、pKa,protected値のみを用いての本来の状態を引いて観察されるプロトンの結合の差(短破線);pKa,GuHCl値を用いての完全にほどかれた状態から、アンサンブルを引いて観察されるプロトンの結合の差(長破線);そして、6MのGuHCl、100mMのKCl、20℃におけるSNアーゼと、100mMのKCl、20℃におけるSNアーゼとの間の、実験的に測定されたプロトンの結合の差(実線)(Whittenら、2000)。さらに、種々のpHにおける6MのGuHClにて誘導されたアンフォールディングによる、SNアーゼに結合したプロトンの正味の数の実験的なバッチ測定が示されている(黒丸)(Whittenら、2000)。
【図4A】図4Aは、Ln[Kf]およびLn[Kexp]ならびにΔΔGpH7を示す図である。図4Aは、Kfoldedの自然対数(黒色の線)およびKprotectedの自然対数(灰色の線)の残基依存性を示す。滴定不可能な残基には、Pprotected jの値として0を与えた。自然対数の計算が無限大となることを避けるために、Kfolded jを(1−Punfolded j)/Punfolded jとして;Kprotected jを(1−Pexposed j)/Pexposed jとして計算した。
【図4B】図4Bは、Ln[Kf]およびLn[Kexp]ならびにΔΔGpH7を示す図である。図4Bは、点突然変異による、pH7におけるSNアーゼの安定性への影響および酸によって変性したそのpHの中間点への影響を示す。さらに、安定性の変化による、酸によって変性した野生型のSNアーゼのpHの中間点への影響の予測が示されている(図4Bの実線)。
【図5A】図5Aは、残基Asp21のアンサンブルの滴定挙動の相違を示す。
【図5B】図5Bは、残基Asp19のアンサンブルの滴定挙動の相違を示す。
【図5C】図5Cは、残基Glu52のアンサンブルの滴定挙動の相違を示す。
【図5D】図5Dは、残基Glu52、残基Asp21および残基Asp19のアンサンブルの滴定挙動の相違を示す。
【0001】
本発明は、構造生物学の分野に関する。より詳細には、タンパク質のpKa、タンパク質のpH安定性およびタンパク質の静電相互作用を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2001年8月30日に出願された米国仮出願60/316,083号についての優先権を主張する。
【0003】
本発明は、米国政府(国立科学財団。助成番号第9875689号および国立保健研究所)から得られた基金によって支援された。米国政府は本発明に関して一定の権利を持つことができる。
【0004】
タンパク質溶液の挙動は、それが水性溶媒中でとり得る種々の配座状態で配位しているその化学組成の直接の結果である。これらの状態およびそれらの自由エネルギーの差を列挙することで、安定性、結合性、アロステリック効果、協同的相互作用、および機能を、構造の点から解釈するために必要な情報が提供される(Hilserら、1996;Hilserら、1997;Woollら、2000;Hilserら、1998;Freire E.、1999;Panら、2000;Freireら、1978;およびFreire E.、1998)。
【0005】
「本来」の状態は、部分的に折りたたまれた配座異性体よりも圧倒的に大きく自由エネルギーにより支配されていることから、結晶学上の研究およびNMRの研究で観察される「本来」の構造以外の状態について、構造面およびエネルギー面から目録を作製することは、分かりにくく、かつ実験によって得ることが極めて困難であることが証明されている(Kimら、1990;Kuwajima、1989)。しかし、観察された多数のタンパク質の事象(すなわち中心となる動力学に関するNMRの研究;アミド・水素交換速度;結合性、安定性に与える突然変異の影響;および変性剤の安定性への依存)を、部分的に折りたたまれた状態の存在と容易な母集団化を前提とすること無しに理解することは困難である。
【0006】
プロトン滴定は、タンパク質の種々の領域の局所的な安定性を調べるための理想的な実験手法を提供する。プロトンの結合曲線の理論的な解釈は、特に参考になる。というのは、1)プロトンは非均一的にかつ明確に限定された部位に結合する、2)構造が与えられると、それぞれの結合部位のpKaを静電理論から直接計算することができる(Klapperら、1986;Warwicker, J.、1986;Antosiewiczら、1994;Jayaramら、1989;Tanfordら、1957;Matthewら、1986)、および3)プロトンの結合がアンサンブルの種々の配座状態間の自由エネルギーの差に与える影響を、結合理論から容易に確認することができる(Tanford, C.、1969;Tanford, C.、1962)からである。
【0007】
上記のプロトンの結合技術を用いる際の問題は、任意のpHの溶液において占めるアンサンブルの状態を測定することと、それらの構造と安定性を定量することである。本発明は、タンパク質の安定性のpH依存性に関する部分的に折りたたまれた状態の役割と、安定性への静電的な寄与が構造動力学とどれだけ密接に関係しているかについて取り組んだ最初のものである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、COREXのアルゴリズムを用いて、タンパク質の結晶構造に基づき、部分的に折りたたまれた状態のアンサンブルを作製する(Hilserら、1996)。
【0009】
より詳細には、本発明は、プロトン結合の協同性、安定性のpH依存性、安定性のpH依存性における特定の滴定可能な残基の役割、および静電相互作用の、タンパク質の全体的なエネルギー特性への寄与を捉えることによりpKa値を提供する。
【0010】
本発明の一つの態様は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;および上記各配座状態のpH依存性を計算する工程を含む、タンパク質の微視的pKaを計算する方法である。この方法は、方程式
【0011】
【数1】
を用いてすべての微視的状態の確率の比を決定する工程を含み、タンパク質のpH依存的安定性に対する、残基特異的な寄与を予測する工程をさらに含んでもよい。
【0012】
さらなる態様において、方程式
【0013】
【数2】
を用いて残基あたりの見かけの保護定数を計算する。
【0014】
具体的な態様において、作製工程は、タンパク質の全配列上にウィンドウブロックを置くこと、およびウィンドウブロックを一度に一残基ぶんスライドさせることによってタンパク質を折りたたみ単位に分割する工程を含む。
【0015】
さらに、別の具体的な態様において、決定する工程は、アンサンブル中の各配座状態の自由エネルギーを計算する工程;各状態のボルツマン重率[Ki=exp(−ΔGi/RT)]を決定する工程;および方程式
【0016】
【数3】
を用いて、各状態の確率を決定する工程を含む。
【0017】
別の態様において、計算する工程は、方程式
【0018】
【数4】
を用いてすべての微視的状態の安定性のpH依存性の連鎖関係を決定する工程を含む。
【0019】
さらなる態様において、pKaを用いてタンパク質の巨視的安定性を測定する。この方法には、方程式
【0020】
【数5】
を用いてプロトン結合のpH依存性を測定する工程が含まれる。
【0021】
別の態様において、pKaはタンパク質の溶解性を決定する。
【0022】
本発明の別の態様は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;上記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および上記の工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、安定性が高められたタンパク質薬剤を提供する工程を含む、安定性が高められたタンパク質薬剤を設計する方法を含む。
【0023】
具体的な態様において、タンパク質薬剤は塩基性条件で、高められた安定性を有する。さらに、タンパク質薬剤は酸性条件で、高められた安定性を有する。
【0024】
別の態様は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;上記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および上記の工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、リガンドに対する結合親和性が高められたタンパク質薬剤を提供する工程を含む、タンパク質薬剤とリガンドとの間の結合親和性が高められたタンパク質薬剤を設計する方法である。
【0025】
さらに別の態様は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;上記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および上記の工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、タンパク質薬剤の消化管内での吸着性を向上させる工程を含む、消化管内での吸着性が高められた経口用タンパク質薬剤を設計する方法である。
【0026】
さらなる態様としては、タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;およびアンサンブルのプロトン結合曲線を計算する工程を含む、タンパク質の巨視的pKaを計算する方法が挙げられる。具体的な態様においては、方程式
【0027】
【数6】
を用いてこの結合曲線を計算する。
【0028】
本発明の上記の態様は、コンピュータに基づくシステムとして簡単に実施してもよい。このようなコンピュータに基づくシステムの一つの態様としては、一種以上のタンパク質についての高解像度構造データの入力を受け取るコンピュータプログラムが挙げられる。コンピュータに基づくプログラムは、このデータを利用して、タンパク質のpKa、タンパク質安定性のpH依存性、およびタンパク質の静電相互作用を決定する。本発明によって得られるデータを、次いで、データベース内に保存することができる。このデータを用いて、安定性、溶解性および結合親和性が高められたタンパク質を設計することができる。
【0029】
一つの態様においては、コンピュータに基づくシステムは、上記データベースと一体化したソフトウェアプログラムを利用し、その結果、タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する手順;上記各配座状態の確率を決定する手順;および上記各配座状態のpH依存性を計算する手順が実行される。
【0030】
さらなる態様において、コンピュータ読み取り可能な媒体上にコンピュータが実行可能な命令として、本発明の方法を保存してもよい。
【0031】
上記の記述は、下記の発明の詳細な説明をさらに理解できるように、本発明の特徴および技術的利点をある程度広くまとめたものである。本発明のさらなる特徴および利点を、下記に説明する。そこでは、本発明の請求の範囲の主題が形成されている。当業者であれば、開示された概念および具体的な態様を、本発明と同一の目的を果たすためのその他の構造を修飾するかまたは設計するための単なる基礎として容易に利用できることを理解すべきである。当業者であれば、このような同等の構成が、添付された請求の範囲に述べられている、本発明の精神および範囲から決して逸脱していないことをも認識すべきである。添付の図面と関連付けて考慮すれば、本発明に固有なものと考えられる、その構成および操作方法の両者に関する新しい特徴は、さらなる対象および利点と共に以下の説明からさらに理解できるだろう。しかしながら、図解および解説の目的のためだけにそれぞれの図面が提供されること、ならびに本発明を制限する規定としての意図はないことは、明白に理解される。
【0032】
次の図面は本明細書の一部を形成し、そして本発明の特定の側面をさらに実証するために包含されている。本明細書に記載された具体的な態様の詳細な説明と共に、これらの図面の一つ以上を参照することによって、本発明をさらに理解できるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
当業者であれば、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、本出願にて開示された発明についての種々の態様および修飾をなし得ることは、極めて明白である。
【0034】
本明細書で用いられるように、「一つの(a or an)」とは、一またはそれを超えることを意味してもよい。単数(または複数)の請求項で用いられるように、「含む(comprising)」という用語と一緒に用いられる場合の「一つの(a or an)」という用語は、一または一を超えることを意味してもよい。本明細書で用いられるように、「別の」とは、少なくとも二番目またはそれ以降を意味してもよい。
【0035】
本明細書で用いられる凝集とは、通常は非特異的なタンパク質の相互作用という意味であり、共有結合していても、またはしていなくてもよい複合体が形成される。
【0036】
本明細書で用いられる別のとは、少なくとも二番目またはそれ以降のものという意味である。
【0037】
本明細書で用いられる自己タンパク質、自己ポリペプチドまたは自己ペプチドとは、一つの生物に由来するかまたは一つの生物から得られたタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドという意味である。
【0038】
本明細書で用いられる三次構造に基づくとは、オリジナル構造のバックボーン構造に類似した構造を有し、それに基づいていると言われる構造という意味である。
【0039】
本明細書で用いられる配置とは、同じキラリティーの原子を有するタンパク質分子の異なる配座のものという意味である。
【0040】
本明細書で用いられる配座とは、共有結合を切断することなく分子内で転換可能であって、種々の重なり合わない原子の三次元の配置という意味である。
【0041】
本明細書で用いられるコンピュータモデリングとは、生のデータを用いてパターンを構築するという意味であり、コンピュータを用いて対象または複数の対象の相互作用をシミュレートするためのものである。たとえば、特定の病気に関連する治療法を開発するために、コンピュータモデリングを用いて、特定の化合物の大きさ、形状、および相互作用を決定する。
【0042】
本明細書で用いられるコンピュータシミュレーションとは、任意のサイズのコンピュータ上で作動するソフトウェアプログラムであって、いくつかの事象に関する科学者の概念上の理解および数学的な理解に基づいてその事象をシミュレートすることを意図するソフトウェアプログラムという意味である。科学者の概念上の理解をアルゴリズム的ロジックまたは数学的ロジックに変換し、次いで多数のプログラミング言語のうちの一つでプログラムを行い、そしてコンパイルしてコンピュータ上で作動するバイナリコードを生成させる。さらに、コンピュータ上でこのようなコードを作動させる。
【0043】
本明細書で用いられるデータベースとは、タンパク質の実験データと分析データとの相関に関するあらゆる情報の収集物という意味である。用いられるデータベースは公共に利用できるものでもよく、市販品でもよく、または本発明者によって創作されたものでもよい。公共に利用できるデータベースの一例は、プロテイン・データ・バンク(Protein Data Bank)である。
【0044】
本明細書で用いられる作製するまたは作製することとは、一つ以上の操作を利用することによって、明確になるかまたは生じる活動という意味である。本発明を利用する当業者は、物またはデータそのものを創作してもよく、他の場所にある物またはデータを探し出してもよく、そして本発明の実践にそれを利用してもよい。当業者であれば、本発明におけるすべての試験データまたは実験データを、市販のものからまたは公のものから得てもよく、あるいは本明細書に規定した手法および技術によって作製してもよいことを認識する。「作製すること」および「得ること」という用語は、本明細書で用いられているように、互いに包括されている。
【0045】
本明細書で用いられるリガンドとは、タンパク質性または非タンパク質性の化合物という意味である。リガンドは、レセプター、酵素、補酵素、または非タンパク質性の化合物であってもよいが、これらに限定されるわけではない。
【0046】
本明細書で用いられるループとは、分子の表面で、ポリペプチド鎖の方向が逆転するポリペプチド鎖における旋回のことである。
【0047】
本明細書で用いられる巨視的とは、実験手法によって作製された状態という意味である。たとえば、タンパク質の巨視的安定性とは、実験手法によって作製されたタンパク質の安定性という意味であるが、これに限定されるものではない。実験手法は「ウェットサイエンス」とも称される。
【0048】
本明細書で用いられる微視的とは、構造に基づく計算から作製された状態という意味である。たとえば、タンパク質の微視的安定性とは、種々の技術を用いて−−しかしながら実験は行わずに−−三次元構造から計算されたタンパク質の安定性という意味であるが、これに限定されるものではない。構造に基づく計算は、「ドライサイエンス」とも称される。
【0049】
本明細書で用いられるペプチドとは、その物理学的特性がそのアミノ酸残基の全体から予想されるものであり、固定された三次元構造が存在しない一定の配列を有するアミノ酸の鎖という意味である。
【0050】
本明細書で用いられる製剤特性とは、結合親和性、凝集、溶解性、および免疫原性の効力という意味であるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
本明細書で用いられるタンパク質とは、通常は一定の配列、長さおよび三次元構造のアミノ酸残基の鎖という意味である。タンパク質を生じさせる重合反応の結果、それぞれのアミノ酸から一分子の水が失われ、多くの場合、タンパク質はアミノ酸残基から構成されていると言われることが多い。天然のタンパク質分子は20もの異なるタイプのアミノ酸残基を含み、アミノ酸残基のそれぞれは独特の側鎖を含む。タンパク質は多様なペプチドから形成されていてもよい。
【0052】
本明細書で用いられるタンパク質の折りたたみとは、個々のアミノ酸を、配列中のその他のアミノ酸に対して特定の位置に拘束する構造を形成するというタンパク質の組織化という意味である。当業者であれば、タンパク質のこのタイプの組織化には、二次構造、三次構造および四次構造が含まれることを承知している。
【0053】
本明細書で用いられる溶解性とは、所定の体積の溶媒に溶解することができるタンパク質の量という意味である。
【0054】
本明細書で用いられる変異体とは、所定のセットの単数(または複数)の突然変異を含んでいるタンパク質という意味である。
【0055】
当業者であれば、タンパク質の特性はそれらのポテンシャルエネルギー面に支配されることを認識している。タンパク質は、折りたたまれた秩序的な状態と、ほどかれた無秩序な状態との間の動的平衡状態にある。この平衡は、タンパク質の構造を安定化させる傾向があるアミノ酸残基の側鎖と、それとは反対に、分子の乱雑化を促進する傾向があるそれらの熱力学的力との間の相互作用を一部反映する。
【0056】
タンパク質の構造には階層性が存在する。一次構造は、タンパク質において特定のアミノ酸残基の配列を含有する共有結合構造であり、そして共有結合に任意の翻訳後修飾が生じてもよい。二次構造は、ポリペプチドのバックボーンの局所的な配座である。タンパク質の二次構造のヘリックス、シートおよびターンが互いに密集して、タンパク質の三次元構造が生じる。多数のタンパク質の三次元構造には、内面(タンパク質では普通に見られる水性環境から離れた向きである)および外面(水性環境に極めて近接している)を持つ点に特徴があるのかもしれない。多数の天然タンパク質の研究を通して、研究者は、疎水性残基(たとえばトリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、バリンまたはメチオニン)はタンパク質分子の内面で見られる頻度が最も高いことを発見した。対照的に、親水性残基(たとえばアスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、セリン、スレオニン、グリシン、およびプロリン)はタンパク質の外面上で見られる頻度が最も高い。アミノ酸のアラニン、グリシン、セリンおよびスレオニンとは、タンパク質の内面および外面の両方に、同程度の頻度で存在する。
【0057】
I.pKaの決定
本発明において、COREXのアルゴリズムを用いて、タンパク質の結晶構造に基づいて、部分的に折りたたまれた状態のアンサンブルを作製する(Hilserら、1996)。タンパク質の結晶構造またはNMR構造を、周知の、当業者が用いているデータベースから検索することができる。このようなデータベースの一つに、プロテイン・データ・バンクがある。
【0058】
本発明のpKa値は、プロトン結合の協同性、安定性のpH依存性、安定性のpH依存性における特定の滴定可能な残基の役割、および静電相互作用のタンパク質の全体的なエネルギー特性への寄与を捉えることによって提供される。完全に折りたたまれた配座異性体および完全にほどかれた配座異性体を含む、アンサンブルの中のそれぞれの状態のプロトンの結合特性を、線形化ポアソン−ボルツマン方程式の構造に基づいた定差分解に由来するpKa値を用いて計算した。溶媒が接近可能な表面積の計算を通して、それぞれの状態の固有エネルギー(ΔG、ΔHおよびΔS)を実験に基づいてパラメータ化することによって、アンサンブルの状態の母集団の平衡分布を決定した。pHによる母集団の平衡分布への影響を、状態間のプロトンの結合の差を計算することによる連鎖関係にて決定した。
【0059】
A.微視的挙動
具体的な態様において、タンパク質の微視的pKaを計算する方法は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;および上記各配座状態のpH依存性を計算する工程を含む。
【0060】
本発明は、方程式、
【0061】
【数7】
による、残基jが折りたたまれた配座の状態のアンサンブルにおけるすべての状態の確率の総和の、残基jがほどかれた配座の状態であるすべての状態の確率の総和に対する比から安定度定数を決定する工程を含む、コンピュータを利用する方法を利用する。
【0062】
所定の残基jが折りたたまれた配座となる確率であるPfolded jは、残基jが折りたたまれた領域に存在するタンパク質のすべての配座状態の確率の総和に等しい。同様に、残基jがほどかれている確率Punfolded jは、残基jがほどかれた領域に存在するタンパク質のすべての配座状態の確率の総和に等しい。したがって、残基あたりの見かけのフォールディング定数であるKfolded jは、残基jが折りたたまれているすべての状態の確率の、残基jが折りたたまれていない状態の確率に対する比として定義される。
【0063】
当業者であれば、本明細書で紹介された理論上のアプローチの重要な側面が、滴定可能な残基のそれぞれがタンパク質のpH依存的安定性に寄与しているかどうかを問い合わせる能力であることを認識する。したがって、すべての残基が、滴定の際の安定性に等しく影響を与えなくてもよい。いくつかの滴定可能な基が溶媒に対して完全に露出されており、したがってこの基は主に溶解性への関与により安定性に寄与していると考えられる。さらに、溶媒のイオン成分および極性成分によって、考えられるあらゆる分子内クーロン相互作用が減弱すると考えられる。さらに、その他の滴定可能な基は、実質的な分子内クーロン相互作用−−溶媒によってわずかに減弱する−−に関与してもよく、そしてこの基は、タンパク質の安定性の静電気成分およびプロトン結合成分に実質的に寄与していてもよい。
【0064】
さらに、残基あたりの見かけの保護定数であるKprotected jを、残基jの滴定可能な原子が溶媒から保護されているところのすべての状態の確率の総和の、残基jの滴定可能な原子が露出しているところのすべての状態の確率の総和に対する比として定義することができる。
【0065】
【数8】
折りたたまれている確率が極めて小さいタンパク質の領域に存在する残基は、たとえそれらがpKaexposedからシフトしたpKa値を有し、かつ完全に折りたたまれた状態で溶媒から十分に保護されていても、pH依存的安定性には寄与しないであろうと予想される。
【0066】
具体的な態様において、作製する工程は、タンパク質の配列の全体を覆う位置にウィンドウブロックを設置することによって、タンパク質を折りたたみ単位に分割する工程、およびウィンドウブロックを一度に一残基ぶんスライドさせる工程を含む。
【0067】
当業者であれば、タンパク質を所定の数の折りたたみ単位に分割することがパーティションであることを認識している。したがって、部分的に折りたたまれた状態の数を最大化するために、分析の際には複数の異なるパーティションが用いられる。タンパク質の配列の全体を覆う位置にウィンドウブロックを設置することによって、このパーティションを規定することができる。折りたたみ単位は、それらが特定の二次構造の要素と一致するかどうかとは関係なく、ウィンドウの位置によって規定される。ウィンドウブロックを一度に一残基ぶんスライドさせることによって、タンパク質の異なるパーティションを得る。二つの連続したパーティションについては、それぞれの折りたたみ単位の最初のアミノ酸と最後のアミノ酸が一残基ぶん移動する。パーティションのすべてのセットが使い果たされるまで、この手法を繰り返す。具体的な態様において、5アミノ酸残基または8アミノ酸残基のウィンドウが用いられる。当業者であれば、COREXのアルゴリズムを用いて約105の部分的に折りたたまれた配座を作製できることを認識している。ウィンドウサイズを増やすかまたは減らすことによって、そしてタンパク質の大きさを大きくするかまたは小さくすることによって、この値を変更することができる。
【0068】
当業者であれば、COREXのアルゴリズムによって、高解像度の結晶構造または高分解能NMR構造から、部分的に折りたたまれた状態の多数のタンパク質が作製されること(HilserおよびFreire、1996;HilserおよびFreire、1997ならびにHilserら、1997)を承知している。このアルゴリズムにおいては、テンプレートとして高解像度構造を用いて、タンパク質の部分的に折りたたまれた状態のアンサンブルを概算する。したがって、タンパク質は異なる折りたたみ単位から成るものであると考えられる。これらのユニットが考えられるすべての組み合わせにて折りたたまれ、ほどかれることによって、部分的に折りたたまれた状態が作製される。COREXのアルゴリズムに関しては二つの基本的な前提がある:(1)部分的に折りたたまれた状態の折りたたまれた領域は本来の状態に似ている;そして(2)ほどかれた領域は構造を欠いているまたは構造が足りないとみなす。熱力学的な数量、すなわちΔH、ΔS、ΔCp、およびΔG、分配関数ならびにそれぞれの状態の確率(Pi)の値を、エネルギー特性の実験に基づくパラメータ化を利用して求める(MurphyおよびFreire、1992;Gomezら、1995;Hilserら、1996;Leeら、1994;D’Aquinoら、1996;およびLuqueら、1996)。
【0069】
タンパク質の折りたたみを、最も基本的な分子の部分の一つとみなすことができる。当業者は、タンパク質の折りたたみに関する特性を二つの部分、内在性および外来性に分割できることを認識している。内在性の特性は、個別の折りたたみ、たとえば配列、三次元構造および機能に関係がある。外来性の特性は、その他のすべての折りたたみの状況下での折りたたみ、たとえば多数のゲノム内でのその発生およびその他の折りたたみに関する発現レベルに関係がある。
【0070】
さらなる態様において、測定する工程は、アンサンブル中のそれぞれの配座状態の自由エネルギーを計算する工程;それぞれの状態のボルツマン重率[Ki=exp(−ΔGi/RT)]を決定する工程;および方程式
【0071】
【数9】
を用いて、それぞれの状態の確率を決定する工程を含む。
【0072】
別の態様において、計算する工程は、方程式
【0073】
【数10】
を用いてすべての微視的状態の安定性のpH依存性の連鎖関係を測定する工程を含む。ΔGpH,iは、「天然」の結晶構造(N)に関する状態iの安定性のpH依存性であり、Rは気体定数であり、Tは温度であり、ΔνpH,iは状態iとpHの関数としてのNとの間のプロトンの結合の差であり、そしてΔGCOREX,iは、上記のような溶媒が接近可能な表面積の計算を通して、固有エネルギー(ΔG、ΔHおよびΔS)を実験に基づいてパラメータ化することによって決定される状態iの安定性である。当業者であれば、ΔGpH,i方程式が、プロトンについてより高い親和性を有するアンサンブルの状態がプロトンの濃度の上昇によって安定化するという効果を発揮することを示していることを理解する。このように、微視的挙動によって、タンパク質のpH依存的安定性に対するそれぞれの滴定可能な残基の寄与を決定する。
【0074】
したがって、当業者であれば、上記の方程式から、COREXのアルゴリズムを用いてタンパク質のpKaを測定できることを認識する。pKaがKaの対数に負号を付けたものであることは、当業者にとって周知である。
【0075】
Ka=[H+][A−]/[HA]
pKa=−logKa
さらに、当業者は、上記方程式の両辺の負の対数を取ることで、Henderson-Hasselbalchの方程式:
pH=pKa+log{[A−]/[HA]}
が得られることを承知している。
【0076】
したがって、物質のpHが[共役塩基]/[酸]の比と関係があることは周知である。さらに、Henderson-Hasselbalchの方程式を用いて、弱酸の滴定の経過を記述することもできる。
【0077】
さらに、当業者であれば、本発明を用いて、電荷がアンサンブルにおける状態の分布と、そしてタンパク質の巨視的安定性とにどのような影響を及ぼすのかについて決定することができることを認識している。
【0078】
当業者であれば、プロトン結合のpH依存性において、pHに誘導される、状態の母集団のアンサンブルの移行が見られることを認識している。アンサンブルのプロトン結合曲線を次の方程式:
【0079】
【数11】
によって求めることができる。
【0080】
Z(pH)iは、状態iに結合したプロトンの数であり、Piは方程式
【0081】
【数12】
に由来する。
【0082】
II.タンパク質の設計
本発明の別の態様は、タンパク質を設計してそのタンパク質の医薬用途または工業的用途を広げることである。たとえば、当業者はタンパク質の安定性が高められたタンパク質の生産を要望するかもしれない。このことは、貯蔵期間をより長くすること、そして最適にまで至らない条件下での活性を高めることと言い換えられる。
【0083】
したがって、具体的な態様において、本発明は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;上記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および上記の工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、安定性が高められたタンパク質薬剤を提供する工程を含む、安定性が高められたタンパク質薬剤を設計する方法を含む。安定性の増大として、タンパク質の溶解性の増大またはタンパク質の凝集の減少が挙げられる。
【0084】
別の態様は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;上記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および上記の工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、タンパク質薬剤の消化管内での吸着性を向上させる工程を含む、消化管内での吸着性が高められた経口用タンパク質薬剤を設計する方法である。
【0085】
さらに、本発明を用いて、酸性条件でより安定性が高いタンパク質を設計することができる。これによって、酸による変性に対するさらなる耐性をタンパク質に付与する。このことは、長期間の保存によって懸濁液および溶液の酸性化が高まってしまう医薬製剤に特に有用である。
【0086】
さらに、本発明を用いて、酸による変性条件により敏感なタンパク質を設計することができる。これによって、消化管の酸性条件下での膜吸着に対してさらに影響を受けやすくなる。
【0087】
タンパク質薬剤を設計する際に、本発明は、合理的な薬剤の設計を利用して、所望の特性を有するタンパク質薬剤の設計を行うことができる。合理的な薬剤の設計の目標は、生物学的に活性な化合物と構造が類似したものを生産することである。このような類似物を創作することによって、天然分子よりもさらに活性が高いかまたは安定な薬剤を創り出すことが可能となる。これは、改変に対する感受性が異なっているか、または種々のその他の分子の機能に影響を与えるかもしれない。一つのアプローチにおいて、タンパク質についての三次元構造またはその断片を作製した。このことは、X線結晶学、コンピュータモデリングによって、または両方のアプローチの組み合わせによって、完成することができた。別のアプローチとしては、タンパク質の全体における官能基を無作為に置換することが挙げられ、そして結果として生じる、機能に対する影響を決定した。
【0088】
タンパク質に特異的な抗体を単離し、機能アッセイによって選択し、次いでその結晶構造を解明することも可能である。原則として、このアプローチによって、次に続く薬剤設計の基礎となり得るファーマコアが得られる。機能的で薬理活性を持つ抗体に対する抗イディオタイプ抗体を作製することによって、タンパク質結晶学を完全に回避することが可能である。鏡像の鏡像として、抗イディオタイプの結合部位がオリジナルの抗原のアナログであると予想される。次いで、抗イディオタイプを用いて、化学的にまたは生物学的に生産されたペプチドのバンクからペプチドを特定し単離することができた。次いで、選択されたペプチドをファーマコアとする。抗体を抗原として用いて、抗イディオタイプを作製してもよい。
【0089】
したがって、タンパク質の最初の構造に関連する所定の条件についての生物活性が高められ、改善された薬剤を設計することもできる。さらに、これらの化合物の化学的特性についての知識によって、コンピュータを用いた構造と機能との相関を予測することが可能となる。
【0090】
構造が類似する化合物を計画して、ペプチドまたはポリペプチドの鍵となる部位を模倣できることも考えられる。このような化合物は、ペプチドの模倣物とは呼ばれない。タンパク質の二次構造および三次構造の要素を模倣する特定の模倣物が、Johnsonら、(1993)に記載されている。ペプチド模倣物を用いることの背後にある、内在する根本的な原因は、タンパク質のペプチドのバックボーンが主に、アミノ酸の側鎖が抗体および/または抗原などの分子の相互作用を促進するような方向に向くように存在していることである。したがって、ペプチドの模倣物を設計して、天然分子に類似する分子の相互作用を可能にする。
【0091】
ペプチドを模倣する概念のいくつかの成功した応用例は、タンパク質内のベータ−ターンの模倣に焦点を合わせたものであった。このものは抗原性が強いことが知られている。コンピュータに基づくアルゴリズムによって、ポリペプチド内の有望なベータ−ターン構造を予測することができる。一旦当該ターンの構成アミノ酸が決定されると、模倣物を構築して、アミノ酸側鎖の不可欠な要素の空間配向をそっくりなものにすることができる。
【0092】
その他のアプローチは、大きなタンパク質の結合部位を模倣する生物学的に活性な配座を生産するための、魅力的な構造テンプレートとしての、小さくて、複数のジスルフィドを含むタンパク質の使用に焦点を当てていた(Vitaら、1998)。進化の過程で特定の毒素内で保存されているような構造のモチーフは、小さく(30−40アミノ酸)、安定で、そして突然変異については極めて寛大である。このモチーフは、三つのジスルフィドにより内部のコア内で架橋されているベータシートおよびアルファヘリックスから構成されている。
【0093】
環状L−ペンタペプチドとD−アミノ酸を有する環状ペプチドを用いることで、ベータIIターンはうまく模倣されてきた。Weisshoffら、(1999)。さらに、Johannessonら、(1999)は、特性を誘導するリバースターンを有している二環式のトリペプチドについて報告している。
【0094】
特定の構造を作製する方法は、当該分野で開示されてきた。たとえば、アルファ−ヘリックスの模倣は、米国特許第5,446,128号;第5,710,245号;第5,840,833号;および第5,859,184号に開示されている。これらの構造はペプチドまたはタンパク質をより高温で安定にし、さらにタンパク質分解酵素による分解に対する耐性を高めている。六員環、七員環、十一員環、十二員環、十三員環および十四員環の構造が開示されている。
【0095】
立体配座により制限を受けているベータターンおよびベータバルジを作製する方法は、たとえば、米国特許第5,440,013号;第5,618,914号;および第5,670,155号に記載されている。ベータターンは、対応するバックボーンの配座を変化させることなく、変化した側置換を可能にし、そして標準的な合成方法によるペプチド内への組み込みのための適宜な末端を有する。その他のタイプの模倣のターンとしては、リバースターンおよびガンマターンが挙げられる。リバースターンの模倣は、米国特許第5,475,085号および第5,929,237号に開示されており、そしてガンマターンの模倣は、米国特許第5,672,681号および第5,674,976号に記載されている。
【0096】
A.溶解性が高められたタンパク質
別の態様において、本発明を用いて、電荷がアンサンブルにおける状態の分布に、よってタンパク質の溶解性にどのような影響を及ぼすのかについて決定することができる。したがって、本発明は、特に表面の荷電基の決定に特に有用である。電荷がアンサンブルの状態の分布にどのような影響を及ぼすのかについて決定するときにアミノ酸を置換して電荷を改変し、タンパク質の溶解性を増大させることによって、タンパク質薬剤を設計することができると考えられる。
【0097】
タンパク質の溶解性とは、所定の体積の溶媒に溶解することができるタンパク質の量である。この量よりも多い量のタンパク質が存在すると、タンパク質の凝集および沈殿が引き起こさる。その自由エネルギーに関連する水性溶媒で囲まれている場合、不定形または秩序的な固体の状態で、(存在している場合には)その他の任意の分子と相互作用する場合、あるいは膜内に浸透している場合、水へのタンパク質の溶解性は、その自由エネルギーによって決定される。あらゆる物質の溶解性についての因子は、その物質を適応させるための緩衝液を置き換えるのに必要なエネルギーの量である。緩衝液のイオン強度、pHおよび温度は、タンパク質の溶解性に影響を及ぼす。低い値の緩衝液のイオン強度を高めると、タンパク質の溶解性が上昇する傾向があり、一方、高い値のイオン強度を高めると、溶解性が低下する傾向がある。低イオン強度の緩衝液において、タンパク質は、タンパク質の正味の電荷と反対の電荷の余剰イオンに包囲される。このことは、タンパク質の静電的な自由エネルギーを低下させ、そして溶解性を高める。水性溶媒において、タンパク質の表面上の荷電基および極性基は都合よく水と相互作用する。有機溶媒は、タンパク質の溶解性を低下させる傾向がある。タンパク質の溶解性は、その等電点で最小になる。等電点よりも大きいpHでは、タンパク質からプロトンが除かれて可溶性となる。等電点よりも小さいpHでは、タンパク質がプロトン化されて可溶性となる。タンパク質上の正味の電荷が大きければ大きいほど、それらが溶液の状態に維持されやすい。このことは、分子間の静電反発力がより大きくなることによるものである。高温によって、タンパク質の変性が引き起こされる。その結果、凝集して溶解性が失われる。
【0098】
したがって、当業者であれば、アミノ酸側鎖の置換基、たとえば、疎水性、親水性、電荷、大きさ、および/またはその他のものなどに基づいて、アミノ酸置換を行えることを認識している。アミノ酸の側鎖の置換基の大きさ、形状および/またはタイプの分析から、アルギニン、リジンおよび/またはヒスチジンはすべて正に荷電している残基であり;アラニン、グリシンおよび/またはセリンはすべて類似の大きさであり;そして/あるいはフェニルアラニン、トリプトファンおよび/またはチロシンはすべて概して類似の形状を持つことが明らかである。
【0099】
さらに定量的な変化をもたらすために、アミノ酸のハイドロパシック・インデックスを考慮してもよい。それぞれのアミノ酸には、それらの疎水性および/または荷電特性に基づくハイドロパシック・インデックスが割り当てられており:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);および/またはアルギニン(−4.5)である。
【0100】
相互に作用する生物学的機能をタンパク質に付与する際のアミノ酸のハイドロパシック・インデックスの重要性は、当該分野で広く理解されている(KyteおよびDoolittle、1982、参照によって取り込まれる)。類似のハイドロパシック・インデックスおよび/またはスコアを有するおよび/またはなお類似の生物活性を維持しているその他のアミノ酸の代わりに、特定のアミノ酸を置換してもよいことが知られている。ハイドロパシック・インデックスに基づいて変更を行う際には、ハイドロパシック・インデックスが±2以内のアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のものが特に好ましく、および/または±0.5以内のものが極めて好ましい。
【0101】
親水性に基づいて、同様のアミノ酸の置換を効果的に行うことができることも当該分野で理解されている。参照によって本明細書に取り込まれる米国特許第4,554,101号には、それに隣接するアミノ酸の親水性によって支配されているようなタンパク質の最大の局所的な平均親水性が、その免疫原性および/または抗原性と関係があること、すなわちタンパク質の生物学的特性と関係があることが記載されている。
【0102】
米国特許第4,554,101号に詳述されているように、アミノ酸残基には次の親水性度が割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);トリプトファン(−3.4)。類似の親水性度に基づいて変更を行う場合、親水性度が±2以内のアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のものが特に好ましく、および/または±0.5以内のものが極めて好ましい。
【0103】
修飾を行う場合、アミノ酸残基の極性が考慮される場合もある。極性アミノ酸残基としては:リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、およびチロシンが挙げられる。非極性アミノ酸残基としては:アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、およびシステインが挙げられる(Albertsら、1994)。
【0104】
B.結合親和性が高められたタンパク質
さらなる態様において、本発明を用いて電荷がアンサンブルにおける状態の分布にどのように影響するかを決定することができ、したがって、結合が可能である状態を安定化させる追加的な手段として本発明を用いることができる。このことは、最終的に、想定される標的に対するタンパク質の親和性を高める結果となるだろう。
【0105】
したがって、本発明を用いて、タンパク質薬剤とリガンドとの間の結合親和性が高められたタンパク質薬剤を設計することができる。タンパク質薬剤を設計する方法は、タンパク質の高解像度構造を入力する工程;タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;上記各配座状態の確率を決定する工程;上記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および上記の工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、リガンドに対する結合親和性が高められたタンパク質薬剤を提供する工程を含んでもよい。
【0106】
結合親和性は、タンパク質とリガンドとの間の相互作用の全体的な自由エネルギーの指標である。親和性の大きさが、所定の条件の組み合わせの下で、特定の相互作用と関係するかどうかを決定する。リガンドについてのタンパク質のあらゆる特定の親和性が有意であるかどうかは、遭遇するタンパク質についての、存在するリガンドの濃度に依存する。結合親和性を決定するためのアッセイには、表面プラズモン共鳴、ウェスタンブロット、ELISA、DNアーゼフットプリンティング、およびゲル移動度シフトアッセイが挙げられるが、これらに限定されるものではない。リガンドはタンパク質でも非タンパク質でもよい。リガンドとしてはレセプター、補酵素、または非タンパク質性の化合物でもよいが、これらに限定されるものではない。タンパク質とリガンドとの間の結合親和性を、タンパク質とリガンドとの間の結合の結合定数または解離定数によって測定してもよい。リガンドと結合した状態のタンパク質と類似の構造を安定化することによって、タンパク質とリガンドとの間の結合のエントロピーは低下するかもしれない。タンパク質とリガンドとのファン・デル・ワールスの計算を行って、結合配座が立体的に許容されるかどうかを決定することができる。
【0107】
C.その他のタンパク質の設計
本発明を用いて、ヒトおよび動物の両方において、多型性の電荷のバリエーションによって引き起こされる機能変化の根本的な原因を研究することもできる。さらに、本発明を用いて、ヒトおよび動物の両方において、荷電残基に影響を与える多型性のバリエーションによって引き起こされる機能変化の根本的な原因を研究することもできる。
【0108】
当業者であれば、種のゲノムレベルでアミノ酸の変化を生じさせる多型性が生じてもよいことを認識している。たとえば、正に荷電したアミノ酸を、負に荷電したアミノ酸で置換してもよい。さらに、荷電していないアミノ酸または中性アミノ酸を荷電したアミノ酸で置換してもよい。したがって、当業者は、多型性によって、タンパク質全体の電荷が変化する場合があることを認識している。この多様なバリエーションは、タンパク質のバックボーンの中またはタンパク質の官能基の中に存在し得る。
【0109】
さらに、本発明を用いて、塩基性条件でさらに安定的なタンパク質を設計することができる。それによって、塩基による変性に対するさらなる耐性をタンパク質に付与する。このことは、プロテアーゼが配合される界面活性剤に特に有用である。
【0110】
さらに別の態様において、本発明を用いて、活性化のためのpH依存性の引き金として作用するウイルス上の機能的に重要な残基を特定することができる。
【0111】
別の態様において、pHおよび荷電/荷電相互作用が広範囲の生物物理学的特性に与える影響を研究するための価値のあるツールを研究者に与えるDELPHIのようなプログラムに盛り込まれた現在の静電気学のパッケージと一緒に、本発明を用いることができる。したがって、このアルゴリズムは現在の研究用ツールに有用性を追加する。
【0112】
本発明の上記の態様を、コンピュータに基づくシステムとして簡単に実施してもよい。このようなコンピュータに基づくシステムの一つの態様としては、一種以上のタンパク質についての高解像度構造データの入力を受け取るコンピュータプログラムが挙げられる。コンピュータに基づくプログラムは、このデータを利用して、タンパク質のpKa、タンパク質の安定性のpH依存性、およびタンパク質の静電相互作用を決定する。本発明によって得られるデータを、次いで、データベース内に保存することができる。このデータを用いて、安定性、溶解性および結合親和性が高められたタンパク質を設計することができる。
【0113】
一つの態様においては、コンピュータに基づくシステムは、上記データベースと一体化したソフトウェアプログラムを利用し、その結果、各タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する手順;上記各配座状態の確率を決定する手順;および上記各配座状態のそれぞれのpH依存性を計算する手順が実行される。
【0114】
さらなる態様においては、コンピュータ読み取り可能な媒体上にコンピュータが実行可能な命令として、本発明の方法を保存してもよい。
【0115】
IV.実施例
本発明のより好ましい態様を実証するために、以下の実施例を収録する。当業者であれば、後述の実施例中で開示される技術は、本発明者によって発見された、本発明を実施する際に十分に機能する技術の代表であること、そしてそれ故に、開示された技術によってその実施に好ましい様式が構成されるとみなされ得ることを理解すべきである。しかしながら、当業者であれば、本発明の開示を考慮して、開示された具体的な態様において多数の改変を実施できること、さらに本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似の結果が得られることを理解すべきである。
【実施例1】
【0116】
コンピュータを利用してのアンサンブルの詳細
テンプレートとしてタンパク質の結晶構造を用い、そしてCOREXのアルゴリズムを用いるコンピュータを利用して、部分的に折りたたまれた状態のアンサンブルを作製した。少なくとも5のウィンドウサイズを用いて、部分的に折りたたまれた状態を作製した。溶媒が接近可能な表面積の計算(Hilserら、1996;Murphyら、1992;D’Aquinoら、1996;Gomezら、1995;Xieら、1994)ならびに下記の方程式1および方程式2を通して、それぞれの状態の固有エネルギー(ΔG、ΔHおよびΔS)を実験に基づいてパラメータ化することによって、完全に折りたたまれた配座異性体および完全にほどかれた配座異性体を含む、このアンサンブルの状態の母集団の平衡分布を決定した。
【0117】
簡単に言えば、COREXによって、テンプレートとしてのタンパク質のそれぞれの高解像度構造を用いて、部分的にほどかれた微小状態のアンサンブルを作製した(HilserおよびFreire、1996)。折りたたみ単位のあらかじめ定められたセット(すなわち、残基1〜5は第一の折りたたみ単位中にあり、残基6〜10は第二の折りたたみ単位中にある、など)を組み合わせてほどくことによって、このことを容易に行うことができた。折りたたみ単位の境界をさらに変化させることによって、所定の折りたたみ単位の大きさについて、部分的にほどかれた種を網羅的に列挙することができた。
【0118】
前述の表面積に基づくパラメータ化(D’Aquino、1996;Gomez、1995;Xie、1994;Baldwin、1986;Lee、1994;Habermann、1996)から、アンサンブルにおけるそれぞれの微小状態iについてのギブスの自由エネルギーを計算した。それぞれの微小状態のボルツマン重率[すなわち、Ki=exp(−ΔGi/RT)]を用いて、その確率を計算した:
【0119】
【数13】
式中、分母における総和は微小状態の全体である。方程式1において計算される確率から、タンパク質におけるそれぞれの残基についての平衡の重要な統計上の記述子の値を求めた。κf,jを残基の安定度定数として定義すると、この量は、ある特定の残基jが折りたたまれた配座の状態であるところのアンサンブルにおけるすべての状態の確率の総和(ΣPf,j)の、残基jがほどかれた配座の状態であるところのすべての状態の確率の総和(ΣPnf,j)に対する比であった:
【0120】
【数14】
完全に折りたたまれた構造に関するそれぞれの微小状態iについてのギブスエネルギーを、以下の方程式:
ΔGi=ΔHi,溶媒和−T(ΔSi,溶媒和+WΔSi,配座) (3)
で計算した。
【0121】
式中、極性表面の暴露および無極性表面の暴露から、溶媒和のカロリメトリックエンタルピーおよびエントロピーをパラメータ化し、そして配座エントロピーを測定した(HilserおよびFreire、1996)。
【実施例2】
【0122】
プロトンの結合特性の予測
テンプレートとしてSNアーゼの結晶構造(1stn.pdb)を用い、そしてCOREXのアルゴリズム(Hilserら、1996)を用いるコンピュータを利用して、部分的に折りたたまれた状態のアンサンブルを作製した。8のウィンドウサイズを用いて、1179629の部分的に折りたたまれた状態を作製した。溶媒が接近可能な表面積の計算(Hilserら、1996)を通して、それぞれの状態の固有エネルギー(ΔG、ΔHおよびΔS)を実験に基づいてパラメータ化することによって、完全に折りたたまれた配座異性体および完全にほどかれた配座異性体を含む、このアンサンブルの状態の母集団の平衡分布を測定した。
【0123】
結晶構造に関する構造に基づくpKaの計算を利用して、アンサンブル内のそれぞれの状態のプロトンの結合特性を決定した。簡単に言えば、SNアーゼの結晶構造に関して、四種の異なる計算を用いた:1)線形ポアソン−ボルツマン(PB)方程式の解を用いる有限差分(FD)法(Antosiewiczら、1994)、2)非線形PB方程式の解を用いるFD法(Jayaramら、1989)、3)Tanford−Kirkwood(TK)法(Tanfordら、1957)、および4)残基の滴定可能な原子が溶媒に対して露出すると、その残基を、モデル化合物が暴露された溶媒と同一のpKaで滴定するという単純な公理的方法(すなわち、その原子は溶媒から保護される)。3pK単位ぶん移動(酸性残基については低下、塩基性残基については上昇)したpKaで残基を滴定すると、局所的な静電気の環境が荷電しやすいことの指標となった。これらの計算の結果を、以下に示す表1にて説明した。
【0124】
【表1A】
表1A:アンサンブルに基づく数値計算において用いたSNアーゼの個々の滴定可能な残基のpKa値。1pKa,protected値は、100mMのイオン強度の溶液を用いて、SNアーゼの結晶構造(1stn.pdb)に関して行われた線形ポアソン−ボルツマン方程式の定差分解によって計算した(Antosiewiczら、1994)。
2pKa,exposed値は、モデル化合物が暴露された溶媒に基づく(Schaeferら、1998;Matthewら、1985)。3pKa,GuHCl値は、6MのGuHCl中のモデル化合物が暴露された溶媒に基づく(Whittenら、2000;Roxbyら、1971;Nozakiら、1967)。
*−結晶構造において残基は見られず、よってアンサンブルのすべての状態が完全に露出していると仮定した。
【0125】
【表1B】
表1B:アンサンブルに基づく数値計算において用いたSNアーゼの個々の滴定可能な残基のpKa値。1pKa,protected値は、100mMのイオン強度の溶液を用いて、SNアーゼの結晶構造(1stn.pdb)に関して行われた線形ポアソン−ボルツマン方程式の定差分解によって計算した(Antosiewiczら、1994)。
2pKa,exposed値は、モデル化合物が暴露された溶媒に基づく(Schaeferら、1998;Matthewら、1985)。3pKa,GuHCl値は、6MのGuHCl中のモデル化合物が暴露された溶媒に基づく(Whittenら、2000;Roxbyら、1971;Nozakiら、1967)。
*−結晶構造において残基は見られず、よってアンサンブルのすべての状態が完全に露出していると仮定した。
【0126】
図2では、線形化PB方程式のFD解によって計算した結晶pKa値(すなわち、pKa,N値)を用いて滴定挙動を示した。非線形PB方程式のFD解によって計算したpKa,N値から、事実上同一のpKaが得られた。
【0127】
比較のために、SNアーゼの完全に折りたたまれた配座および完全にほどかれた配座のプロトン滴定についても、図2に示した。
【0128】
【数15】
によって、アンサンブルのプロトンの結合曲線を計算した。
【0129】
ここで、Z(pH)iは、pHの関数としての、状態iに結合したプロトンの数であり、そしてP(pH)iは、方程式
【0130】
【数16】
から得られる、状態iの母集団の確率であるPiのpHに依存した。
【0131】
したがって、完全に折りたたまれた状態および完全にほどかれた状態の数値的な滴定に加えて、この計算を図2Aに示した。図2から、中性のpH値の近傍では、アンサンブルは完全に折りたたまれた状態と実質的に同一のプロトンの結合特性を有することが明らかとなった。pHが低下するにつれて、アンサンブルのプロトンの結合挙動は急速にほどけた状態に移行した。図2Bから、SNアーゼが本来の特性からほどかれた特性に移行させるための実験によって見られたpHと見事に一致することが実証された。酸によって誘導されたSNアーゼのアンフォールディングの実験により観察されたpHの中間点は、3.71であった(Whittenら、2000)。比較のために、図2Aおよび図2Bの両方のプロットを通り抜けるように、pHのこの値の位置に一本の線を描いた。
【0132】
さらに、SNアーゼは、酸の誘導によりpH3.7でアンフォールディングされることが実験により観察されている(Whittenら、2000)。図2から、このコンピュータの技術は、このタンパク質の酸の誘導による本来の特性からほどかれた特性への移行を正確に捉えることが明らかとなった。
【実施例3】
【0133】
滴定挙動
A.滴定挙動の予測
滴定可能な原子が溶媒から保護されるかもしくは溶媒にさらされるか、またはそうでないかについて決定するために、リーおよびリチャーズのアルゴリズム(Hilserら、1996;Leeら、1971;Murphyら、1992)に基づいて、その原子の、溶媒が接近可能な表面積を計算した。
【0134】
簡単に言えば、次いで、この値を、この原子のタイプについての、溶媒が接近可能な最大表面積−−これは完全に露出したモデルに関する同一の計算によって測定される−−で割って、露出されたパーセントを得た。露出されたパーセントの値がしきい値のパーセントよりも大きい場合、この原子をモデルとして、そのpKa,exposed値で滴定したり、その他に、原子をそのpKa,protected値で滴定した。計算したプロトンの結合曲線と、実験により観察したプロトンの結合曲線とを比較することによって(図3)、しきい値のパーセントを測定した。グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基、リジン残基、アルギニン残基およびチロシン残基については、しきい値のパーセントとして0.31を用い;ヒスチジンについては0.45の値を用いた。グルタミン酸残基についてOE1原子およびOE2原子の溶媒接近性を平均化し、アスパラギン酸残基についてOD1原子およびOD2原子の溶媒接近性を平均化し、そしてアルギニンについてNH1およびNH2の溶媒接近性を平均化した。ヒスチジンについてはNE2原子の溶媒接近性を用い、リジンについてはNZを、そしてチロシンについてはOHを用いた。SNアーゼには、システイン残基は存在しなかった。
【0135】
B.滴定挙動実験
表1に記載したpKa値を用いることによって、6MのGuHClにおいて完全にほどかれたSNアーゼの滴定を計算した。SNアーゼのアンサンブルと、完全にほどかれたGuHClの状態との間のプロトンの結合の差を、二種の異なる方法によって実験的に測定した。最初に「連続的な差の曲線」によって、本来の条件(たとえば2mg/mLのSNアーゼ、100mMのKCl、298K)下で、およびアンフォールディング条件(たとえば2mg/mLのSNアーゼ、6MのGuHCl、100mMのKCl、298K)下でSNアーゼの電位差滴定を測定し、その後、二つの曲線間の差を決定した(Whittenら、2000)。第二に、「バッチ」技術によって、特定のpHにおけるアンサンブルと、完全にほどかれたGuHCl状態との間でのプロトンの結合の差を測定した(Whittenら、2000)。ここでは、特定のpHにおいて、濃縮されたGuHClを本来の条件下のSNアーゼ溶液に添加した。結合したプロトンの正味の数、またはアンサンブルからGuHClで誘導された完全にほどかれた状態への移行によりそのpHで放出されたプロトンの正味の数を、溶液のpHの変化を測定することによって計算した。
【0136】
図3によって、予測したアンサンブルの滴定挙動と実験での観察とが見事に一致することが実証された。さらに、図3は、このアンサンブルに基づくアプローチがさらに、酸によって誘導された、本来の特性からほどかれたアンサンブルの特性への移行の強い協同的な性質を捉えたこと、すなわち酸によって誘導されたアンフォールディングによって正味で約5つのプロトンが捉えられたことを示している。
【実施例4】
【0137】
アンサンブルの状態のpH依存性の計算
アンサンブルの母集団分布の状態のpH依存性を、連鎖関係(Wyman、1948および1964):
【0138】
【数17】
によって計算した。
【0139】
ここで、ΔGpH,iは、「本来」の結晶構造(N)に関する状態iの安定性のpH依存性であり、Rは気体定数であり、Tは温度であり、ΔνpH,iは状態iとNとの間のpHの関数としてのプロトンの結合の差であり、そしてΔGCOREX,iは、上記のような溶媒が接近可能な表面積の計算を通して、固有エネルギー(ΔG、ΔHおよびΔS)を実験に基づいてパラメータ化することによって測定される状態iの安定性であった。したがって、Asp21に関しては、pHが低下することによって、状態の平衡分布は、第一のサブアンサンブルにおける母集団の状態を犠牲にして、図1における第二のおよび第三のサブアンサンブルに移動した(すなわちAsp21は、サブアンサンブル1に関して、サブアンサンブル2およびサブアンサンブル3におけるプロトンについてより強い親和性を有した)。
【0140】
図1はさらに、COREXによって作製された三種のサブアンサンブルのそれぞれについて、10のより安定した状態を示した。白い矢印は、残基Asp21の位置を示した。折りたたまれた領域は濃い灰色によって表され、そして淡い灰色はほどけた領域を表す。
【0141】
第一のサブアンサンブルのすべての状態において、Asp21は折りたたまれ、溶媒から保護され、そしてその結晶pKaで滴定された(100mMのイオン強度と仮定してのFD/PB計算によるpKa,N=0.524)。
【0142】
第二のサブアンサンブルにおいて、Asp21は折りたたまれていたが、溶媒に露出しており、そして4.0のpKaで滴定された。第三のサブアンサンブルにおいて、Asp21はほどかれていたことから、溶媒に露出し、さらにこれらの状態で、4.0のpKaで滴定された。
【0143】
Asp21に限定してみれば、pHの低下によって、第一のサブアンサンブルの状態を犠牲にして、状態の母集団の平衡が第二および第三のサブアンサンブルに移行するということが示された。
【0144】
タンパク質の滴定可能な残基のそれぞれについて、同様の説明および議論がなされた。この推論にしたがって、アンサンブルの母集団において任意のpHにて誘導される移行の協同性を、図1で模倣される残基特異的なサブアンサンブルの重複と関連付けた。
【実施例5】
【0145】
特定の残基のpH依存性の計算
本発明によって、タンパク質のpH依存的安定性に対する残基特異的な寄与を予測した。
【0146】
すべての残基が、滴定に関する安定性に等しく影響を与えるわけではなかった;いくつかの滴定可能な基は溶媒に完全に露出しており、主にこの基は溶解性に関係していることによって安定性に寄与していた。そして溶媒のイオン成分および極性成分によって、考えられるあらゆる分子内クーロン相互作用が減弱した;その他の滴定可能な基は、実質的な分子内クーロン相互作用−−溶媒によってわずかに減弱する−−に関与し、そしてこの基は、タンパク質の安定性の静電気成分およびプロトン結合成分に実質的に寄与していた。
【0147】
特定の残基の滴定可能な原子がその状態において溶媒から保護されていた場合、アンサンブルの状態のそれぞれについて、その残基を結晶pKa値(pKa,N)で滴定した。その滴定可能な原子が溶媒に露出していた場合、モデル化合物が暴露された溶媒に基づいて、表1に示したpKa値でその残基を滴定した(Schaeferら、1998;Matthewら、1985)。
【0148】
図4Aでは、タンパク質のpH依存的安定性への、滴定可能な残基の寄与についての二つの鍵となる測定基準を示した。所定の残基jが折りたたまれた配座となる確率であるPfolded jは、残基jが折りたたまれた領域内に存在するタンパク質のすべての配座状態の確率の総和と同一であった。同様に、残基jがほどかれた確率であるPunfolded jは、残基jがほどかれた領域に存在するタンパク質のすべての配座状態の確率の総和と同一であった。したがって、残基あたりの見かけのフォールディング定数であるKfolded jを、残基jが折りたたまれているすべての状態の確率の、残基jが折りたたまれていない状態の確率に対する比として定義した。
【0149】
【数18】
同様に、残基あたりの見かけの保護定数であるKprotected jを、残基jの滴定可能な原子が溶媒から保護されているすべての状態の確率の総和の、残基jの滴定可能な原子が露出しているすべての状態の確率の総和に対する比として定義した。
【0150】
【数19】
図4Aでは、折りたたまれておりかつ溶媒から保護されている確率が高い残基を示した。したがって、これらの残基がSNアーゼのpH依存的安定性への主要な要因であると予想された。折りたたまれている確率が極めて小さいタンパク質の領域に存在する残基は、たとえそれらのpKaがpKa,exposed値から移行したものであり、かつ完全に折りたたまれた状態で溶媒から保護されていたとしても、pH依存的安定性には寄与しなかった。Glu52はこのような残基の一例である;これは、pKaが約2.5pK単位ぶん低下したことが理由で、結晶構造そのものによってSNアーゼのpH依存的安定性に顕著に寄与すると予想された残基である。同様に、溶媒から保護される確率が極めて小さい残基もまた、これらが折りたたまれている確率が高かろうとそうでなかろうと、pH依存的安定性には寄与しなかった;一例はGlu73である。
【0151】
図5Aから図5Dでも、他の残基のアンサンブルの滴定挙動の相違を示す。pH依存的なアンサンブルの平衡によって、すべてではないがいくつかの残基についてのプロトンの結合反応の協同性が劇的に上昇した。
【実施例6】
【0152】
SNアーゼの実験による分析
一つのアミノ酸の別のものへの置換による、タンパク質の安定性に与える影響を予測することは困難である;このことは、タンパク質の突然変異分析の主要な障害であった。しかしながら、図4Aでは、残基の滴定可能となる能力を除去することによって、SNアーゼのpH依存的エネルギー特性が顕著に変化すると予想された。
【0153】
この予想を試験するために、SNアーゼの点突然変異体ライブラリーを得た。それぞれの突然変異体において、SNアーゼ中のヒスチジン残基、グルタミン酸残基、およびアスパラギン酸残基をアラニンに置換した。これらの点突然変異の、安定性および酸によって誘導されるアンフォールディングのpHの中間点に与える影響を、図4Bに示した。
【0154】
Shortleら、1989の手法にしたがって、SNアーゼの野生型および突然変異体を発現させ、そして精製した。SDS−PAGEによってタンパク質の純度が98%を超えることを確認した。タンパク質の濃度を280nmにて測定し、光学密度を0.93として用いた。
【0155】
酸によって誘導されたSNアーゼのアンフォールディングを20℃で実施し、Trp−140の固有蛍光によってモニターして、アンフォールディングのpHの中間点が移行することを得た(Whittenら、2000)。
【0156】
SNアーゼの安定性−−野生型および突然変異体−−を、GuHClで誘導されたアンフォールディングによって決定した。pH7、20℃にて実施し、Trp−140の固有蛍光によってモニターした(Whittenら、2000)。野生型と各突然変異体との間の安定性の差であるΔΔG(pH7)を:
ΔΔG(pH7)=ΔG(pH7)mutant−ΔG(pH7)wt (8)
によって計算した。
【0157】
図4Bの点突然変異は、図4Aの残基に該当する。コンピュータを利用して、安定性の変化が与える、野生型のSNアーゼの酸による変性のpHの中間点への影響を、方程式4の初項によって、そして完全にほどかれた状態とアンサンブルとの間のプロトンの結合の差であるΔν(pH)iの値を用いて予測した。この計算の結果も図4Bに示した。この置換によって、SNアーゼのpH依存的安定性に寄与し、そしてその結果Δν(pH)iに寄与する残基の滴定は排除されると予測されたので、一つの残基をアラニンに置換するという突然変異は、図4Bの予測された曲線からは離れていた。図4Aと図4Bの相関性から、タンパク質のどの残基がそのpH依存的安定性に極めて重要であるかを正確に予測するというこの方法の能力が実証された。
明細書において言及されたすべての特許および刊行物は、当業者の水準を示す。引用することによって、すべての特許および刊行物は、個々の刊行物のそれぞれが具体的にかつ個々に示され、引用によって取り込まれるかのような程度と同程度をもって本明細書に取り込まれる。
【特許文献1】
米国特許第4,554,101号米国特許第5,446,128号米国特許第5,440,013号米国特許第5,475,085号米国特許第5,618,914号米国特許第5,635,377号米国特許第5,670,155号米国特許第5,672,681号米国特許第5,674,976号米国特許第5,710,245号米国特許第5,789,166号米国特許第5,840,833号米国特許第5,859,184号
【非特許文献1】
Albertsら(1994)Molecular Biology of the Cell p 57. Antosiewicz J.ら(1994)J. Mol. Biol.238 : 415. Bai Y.ら(1995)Science 269: 192. BaldwinR. L. 1986.Proc Natl Acad Sci USA83: 8069−8072. D'Aquino J. A.ら(1996)Proteins:Struct. Funct. Genet. 25: 143. Englander S. W.(2000)Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 29:213. Freire E.およびBiltonen R. L.(1978)Biopolymers 17: 463. Freire E.(1998)Adv. Protein Chem. 51: 255. Freire E.(1999)Proc. Nat. Acad. Sci. USA 96: 10118. Gomez J.およびFreire E.(1995)J. Mol. Biol. 252: 337. Gomez J.ら(1995)Proteins:Struct. Funct. Genet. 22: 404. Habermann S.M.およびMurphy K. P. 1996. Prot Sci 5 : 1229−1239. Hilser V. J.およびFreire E.(1996)J. Mol. Biol. 262: 756. Hilser V. J.ら(1998)Proc. Nat. Acad. Sci. USA 95: 9903. Hilser V. J.(1997)Biophys. Chem. 64: 69. Jayaram B.ら(1989)Biopolymers 28: 975. Johannessonら、1999, J. Med. Chem. 42:601−608. Johnson M. S.ら(1993)J Mol Biol. 231(3):735−52. Kim P. S.およびBaldwin R. L.(1990)Annu. Rev. Biochem. 59:631. Klapper I.ら(1986)Proteins 1: 47. Kuwajima K.(1989)Proteins :Struct. Funct. Genet. 6: 87. Lee B.およびRichards FM.(1971)J. Mol. Biol. 55: 379. Lee K. H.ら、1994. Proteins 20: 68−84. Matthew J. B.およびGurd F. R.(1986)Methods Enzymol. 130: 413. Matthew J. B.ら(1985)CRC Crit. Rev. Biochem. 18: 91. Mayne L.およびEnglander S. W.(2000)Protein Science 9: 1873. Milne J. S.ら(1999)J. Mol. Biol. 290: 811. Murphy K. P.ら(1992)J. Mol. Biol. 227: 293. Nozaki Y.およびTanford C.(1967)J. Am.Chem. Soc. 89: 736. Pan H.ら(2000)Proc. Nat. Acad. Sci. USA 97: 12020. Roxby R,およびTanford C.(1971)Biochemistry 10: 3348. Schaefer M.ら(1998)Adv. Protein Chem. 51: 1. Shortle D.およびMeeker A. K.(1989)Biochemistry 28: 936. Tanford C.(1962)Adv. Protein Chem. 27: 69. Tanford C.(1969)Adv. Protein Chem. 24: 1. Tanford C.およびKirkwood J. G.(1957)J. Am. Chem. Soc. 79: 5333. Vitaら、1998,Biopolymers 47: 93−100. Warwicker J.(1986)J. Theor. Biol. 121: 199. Weisshoffら、1999, Eur. J. Biochem. 259: 776−788. Whitten S. T.およびGarcia−Moreno E. B.(2000)Biochem. 39: 14292Wooll J.O.ら(2000)J. Mol. Biol. 301: 247. Xie D.およびFreire E.(1994)J. Mol. Biol. 242: 62. Xie D.およびFreire E.(1994)Proteins:Struct. Funct. Genet. 19: 291. 本発明およびその利点を詳細に説明してきたが、添付された請求の範囲によって規定された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の変更、置換および改変を実施することができることを理解すべきである。さらに、本出願の範囲は、本明細書に記載されたプロセス、装置、製品、物質の組成物、手段、方法および工程の特定の態様に限定されることを意図するものではない。当業者であれば、本発明の開示から、プロセス、装置、製品、物質の組成物、手段、方法、または工程を容易に認識できるので、実質的に同一の機能を発揮するか、または本明細書に記載された対応する態様と実質的に同一の結果を与えるような、現存するかまたは将来開発されるものを、本発明にしたがって利用できるだろう。したがって、添付された請求の範囲は、このようなプロセス、装置、製品、物質の組成物、手段、方法、または工程の範囲内のものを包含することを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】図1A〜図1Cは、SNアーゼのpH依存的安定性のAsp21滴定の影響に関する、アンサンブルの状態のサンプルを示す図である。白色の矢印は、残基Asp21の位置を示す。折りたたまれた領域を有するSNアーゼの範囲は灰色で示されている;ほどかれている領域は白色で示されている。第一のサブアンサンブル(図1A)は、折りたたまれかつ溶媒から保護されているタンパク質の領域内にAsp21が存在している状態のサンプルである。第二のサブアンサンブル(図1B)は、Asp21は折りたたまれているが溶媒に露出しているいくつかの状態から構成されている。第三のサブアンサンブル(図1C)は、Asp21がほどかれており、かつ溶媒に露出している状態の代表例である。
【図2】図2Aおよび図2Bは、SNアーゼのアンサンブルのプロトン滴定を示す図である。図2Aは、アンサンブル(実線);完全に折りたたまれた状態(長破線);そして完全にほどかれた状態(短破線)のプロトン滴定の数値計算を示す。図2Bは、Trp−140の固有蛍光のpH滴定にしたがうようにした、野生型のSNアーゼの酸によるアンフォールディングを示す(Whittenら、2000)。
【図3】図3は、アンサンブルの予測されたプロトンの結合特性の直接的な比較を示す図である。表1のpKa,GuHCl値を用いての完全にほどかれた状態から、pKa,protected値のみを用いての本来の状態を引いて観察されるプロトンの結合の差(短破線);pKa,GuHCl値を用いての完全にほどかれた状態から、アンサンブルを引いて観察されるプロトンの結合の差(長破線);そして、6MのGuHCl、100mMのKCl、20℃におけるSNアーゼと、100mMのKCl、20℃におけるSNアーゼとの間の、実験的に測定されたプロトンの結合の差(実線)(Whittenら、2000)。さらに、種々のpHにおける6MのGuHClにて誘導されたアンフォールディングによる、SNアーゼに結合したプロトンの正味の数の実験的なバッチ測定が示されている(黒丸)(Whittenら、2000)。
【図4A】図4Aは、Ln[Kf]およびLn[Kexp]ならびにΔΔGpH7を示す図である。図4Aは、Kfoldedの自然対数(黒色の線)およびKprotectedの自然対数(灰色の線)の残基依存性を示す。滴定不可能な残基には、Pprotected jの値として0を与えた。自然対数の計算が無限大となることを避けるために、Kfolded jを(1−Punfolded j)/Punfolded jとして;Kprotected jを(1−Pexposed j)/Pexposed jとして計算した。
【図4B】図4Bは、Ln[Kf]およびLn[Kexp]ならびにΔΔGpH7を示す図である。図4Bは、点突然変異による、pH7におけるSNアーゼの安定性への影響および酸によって変性したそのpHの中間点への影響を示す。さらに、安定性の変化による、酸によって変性した野生型のSNアーゼのpHの中間点への影響の予測が示されている(図4Bの実線)。
【図5A】図5Aは、残基Asp21のアンサンブルの滴定挙動の相違を示す。
【図5B】図5Bは、残基Asp19のアンサンブルの滴定挙動の相違を示す。
【図5C】図5Cは、残基Glu52のアンサンブルの滴定挙動の相違を示す。
【図5D】図5Dは、残基Glu52、残基Asp21および残基Asp19のアンサンブルの滴定挙動の相違を示す。
Claims (36)
- 各タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;
前記各配座状態の確率を決定する工程;および
前記各配座状態のpH依存性を計算する工程
を含む、タンパク質の微視的pKaを計算する方法。 - 作製する工程が、タンパク質の全配列上にウィンドウブロックを置くことによって、タンパク質を折りたたみ単位に分割する工程、およびウィンドウブロックを一度に一残基ぶんスライドさせる工程を含む、請求項1に記載の方法。
- pKaがタンパク質の溶解性を決定する、請求項1に記載の方法。
- 各タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;
前記各配座状態の確率を決定する工程;
前記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および
前記工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、安定性が高められたタンパク質薬剤を提供する工程
を含む、安定性が高められたタンパク質薬剤を設計する方法。 - 作製する工程が、タンパク質の全配列上にウィンドウブロックを置くこと、およびウィンドウブロックを一度に一残基ぶんスライドさせることによってタンパク質を折りたたみ単位に分割する工程を含む、請求項9に記載の方法。
- 塩基性条件で、タンパク質薬剤が高められた安定性を有する、請求項9に記載の方法。
- 酸性条件で、タンパク質薬剤が高められた安定性を有する、請求項9に記載の方法。
- 各タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;
前記各配座状態の確率を決定する工程;
前記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および
前記工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、リガンドに対する結合親和性が高められたタンパク質薬剤を提供する工程
を含む、タンパク質薬剤とリガンドとの間の結合親和性が高められたタンパク質薬剤を設計する方法。 - 作製する工程が、タンパク質の全配列上にウィンドウブロックを置くこと、およびウィンドウブロックを一度に一残基ぶんスライドさせることによってタンパク質を折りたたみ単位に分割する工程を含む、請求項17に記載の方法。
- 各タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;
前記各配座状態の確率を決定する工程;
前記各配座状態のpH依存性を計算する工程;および
前記工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤を設計して、タンパク質薬剤の消化管内での吸着性を向上させる工程
を含む、消化管内での吸着性が高められた経口用タンパク質薬剤を設計する方法。 - タンパク質のpH依存性データを含むデータベース;および
前記データベースと一体となったソフトウェアプログラムであって
前記ソフトウェアプログラムは、各タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する手順;
前記各配座状態の確率を決定する手順;
前記各配座状態のpH依存性を計算する手順;および
前記工程によって見出された構造特性を有するタンパク質薬剤の構造を創作する手順
を実行するのに適合したソフトウェアプログラム
を含む、安定性が高められたタンパク質薬剤を設計するためのコンピュータシステム。 - 塩基性条件で、タンパク質薬剤が高められた安定性を有する、請求項24に記載のシステム。
- 酸性条件で、タンパク質薬剤が高められた安定性を有する、請求項24に記載のシステム。
- 請求項24に列挙された手順を実行するための、コンピュータが実行可能な命令を有する、コンピュータ読み取り可能な媒体。
- タンパク質のpH依存性のデータを含むデータベース;および
前記データベースと一体となったソフトウェアプログラムであって
前記ソフトウェアプログラムは、各タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する手順;
前記各配座状態の確率を決定する手順;および
前記各配座状態のpH依存性を計算する手順
を実行するのに適合したソフトウェアプログラム
を含む、タンパク質の微視的pKaを計算するためのコンピュータシステム。 - 各タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する工程;および
アンサンブルのプロトン結合曲線を計算する工程
を含む、タンパク質の巨視的pKaを計算する方法。 - タンパク質のpH依存性のデータを含むデータベース;および
前記データベースと一体となったソフトウェアプログラムであって
前記ソフトウェアプログラムは、各タンパク質のすべての可能な組み合わせにおいて、あらかじめ定められた1組の折りたたみ単位を非折りたたみと組み合わせることによって、徐々に異なる配座状態のアンサンブルを作製する手順;および
アンサンブルのプロトン結合曲線を計算する手順
を実行するのに適合したソフトウェアプログラム
を含む、タンパク質の巨視的pKaを計算するためのコンピュータシステム。 - 請求項28に列挙された手順を実行するための、コンピュータが実行可能な命令を有する、コンピュータ読み取り可能な媒体。
- 請求項29に列挙された手順を実行するための、コンピュータが実行可能な命令を有する、コンピュータ読み取り可能な媒体。
- 請求項31に列挙された手順を実行するための、コンピュータが実行可能な命令を有する、コンピュータ読み取り可能な媒体。
- 請求項1に列挙された手順を実行するための、コンピュータが実行可能な命令を有する、コンピュータ読み取り可能な媒体。
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