JP2005304496A - 食道癌の検出方法、および、抗食道癌物質のスクリーニング方法 - Google Patents

食道癌の検出方法、および、抗食道癌物質のスクリーニング方法 Download PDF

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Abstract

【課題】食道癌を、その悪性度を含めて検出する手段を提供すること。
【解決手段】食道細胞におけるヒトLRP1B遺伝子の発現の不活性化(ヒトLRP1B遺伝子の欠失、当該遺伝子のCpGアイランドのメチル化、または、ヒストンH4蛋白質のアセチル化の抑制、に起因する)を指標として当該食道細胞の癌化を検出ことにより、上記の課題を解決し得ることを見いだした。また、本発明は、ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドのメチル化、または、ヒストンH4蛋白質のアセチル化の抑制、に起因してヒトLRP1B遺伝子の発現が抑制されている食道癌細胞株を用いる、抗腫瘍物質のスクリーニング方法を提供する発明である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、食道癌を初期に診断するために、さらには食道癌の悪性度を調べるために、ヒトLipoprotein Receptor-Related Protein 1B (ヒトLRP1B)遺伝子の不活性化を検出することに関する発明である。また、本発明は、このヒトLRP1B遺伝子と食道癌との関係についての知見を用いた、抗腫瘍物質のスクリーニング方法を提供する発明である。
食道癌(Esophageal squamous cell carcinoma: ESC)は日本では毎年10,000人以上が発症し、男女比は約6:1と男性に多く、男性では6番目に多い癌である。年間の死亡者数は日本で9,000-10,000人と全癌の3%を占める。従って、食道癌は最も一般的な癌の一つであるが、初期の診断が困難なために予後が極めて悪く、化学療法の奏効率が低い癌の一つである(Pisani,P., Parkin,D.M., Bray,F. & Ferlay, J.: Estimates of the worldwide mortality from 25 cancers in 1990. Int. J. Cancer 83, 18-29, 1999)。これまでの研究により、食道細胞は、細胞の分化と増殖の過程で、遺伝子の変化が連鎖的に起こり、その結果、癌化に至ると考えられている。しかし、どのような遺伝子の変化が、食道細胞の癌化を誘導するのかは、未だ明らかではない。従って、食道癌の検出方法並びに食道癌の悪性度の検査方法は存在しない状況である。
食道細胞の癌化についての遺伝子レベルでのメカニズムが解明されれば、遺伝子レベルにおける食道細胞の癌化の早期発見や食道癌の悪性度の診断を行うことが可能となり、さらに、当該メカニズムに基づく抗癌物質の選別を行うことも可能となるはずである。具体的には、食道癌の初期に特徴的な挙動を示す遺伝子を同定して、当該遺伝子を中心とした技術的検討を行うことにより、この課題を解決することができると考えられる。
Comparative Genomic Hybridization(CGH)は、ゲノム上での遺伝子の増幅を検出するためには、感度が高く効率の良い方法である。本発明者らは、このCGHアレイ法を用いて食道癌細胞で増幅する遺伝子群、すなわち、クロモソーム1q32で増幅しているATF3遺伝子とCENPF遺伝子、クロモソーム9p23-24で増幅するGASC1遺伝子、クロモソーム11q22で増幅するcIAP1遺伝子、クロモソーム3q26で増幅するZASC1遺伝子等を同定した(Pimkhaokaham,A., Shimada,Y., Fukuda,Y., Kurihara,N., Imoto, I., Yang, Z.Q., Imamura,M., Nakamura,Y., Amagasa,T., & Inazawa J.: Nonrandom chromosomal imbalances in esophageal squamous cell carcinoma cell lines: possible involvement of the ATF3 and CENPF
genes in the 1q32 amplicon. Japanese Journal of Cancer Research, 91, 1126-1133,
2000; Yang,Z.Q., Imoto,I., Fukuda,Y., Pimkhaokham,A., Imamura,M., Sugano,S., Nakamura,Y., & Inazawa J.: Identification of a novel gene, GASC1, within an amplicon at 9p23-24 frequently detected in esophageal cancer cell lines, Cancer Research, 60, 4735-4739, 2000; Imoto,I., Yang, X.Q., Pimkhaokham,A., Tsuda,H., Shimada,Y., Imamura,M., Ohki,M. & Inazawa,J: Identification of cIAP1 as a candidate target gene within an amplicon at 11q22 in esophageal squamous cell carcinomas, Cancer Research, 61, 6629-6634, 2001; Imoto,I., Yuki,Y., Sonoda,I., Ito,T., Shimada,Y., Imamura,M. & Inazawa J.: Identification of ZASC1 encoding a Kruppel-like zinc finger protein as a novel target for 3q26 amplification in esophageal squamous cell carcinomas, Cancer Research, 63, 5691-5696, 2003)。
一般的に癌化の遺伝子レベルでの機構として、上記のような複数遺伝子の増幅と共に癌
抑制遺伝子の欠失が報告されているが、特定の遺伝子の欠失の同定は、ポジショナルクローニング等の通常の方法を用いた場合、大変な時間と労力がかかり、目的とする遺伝子を見出すことは困難である。また、上記のCGH法においても、5−10Mbより小さいサイズのゲノムDNAの欠失は、通常のメタフェーズクロモソームを用いた方法では検出が困難であった(Bentz, M., Plesch, A., Stilgenbauer, S., Dohner, H. & Lichter, P.: Minimal sizes of deletions detected by comparative genomic hybridization, Genes Chromosomes Cancer, 21, 172-175, 1998; Kirchhoff, M., Gerdes, T., Maahr, J., Rose, H., Bentz, M., Dohner, H. & Lundsteen, C.: Deletions below 10 megabasepairs are detected in comparative genomic hybridization by standard reference intervas, Genes Chromosomes Cancer, 25, 410-413, 1999)。例えば、DPC4/SMAD4、RB1、PTEN、p16-INK4A、RASSF1等の癌抑制遺伝子は、染色体のマッピング法によりホモ接合体欠失領域を狭めて行き、最終的に目的とする癌抑制遺伝子が同定された。
本発明ではCGH法の感度と精度を上げ、High-throughputな方法を開発し、CGHアレイに搭載する800種類のBAC/PAC DNAを選別することにより、食道細胞の癌化を抑制する癌抑制遺伝子、すなわち、ヒトLipoprotein Receptor-Related Protein 1B (LRP1B)遺伝子(以下、ヒトLRP1B遺伝子ともいう)の同定に成功した。そして、食道細胞の癌化を惹き起こす、ヒトLRP1B遺伝子の不活性化の原因まで突っ込んだ解明を行い、当該遺伝子の不活性化が、1)当該遺伝子の欠失、2)当該遺伝子のCpGアイランドのメチル化、3)ヒストンH4蛋白質のアセチル化の抑制、により惹き起こされることを見いだした。
そして、かかる知見を用いて、食道細胞の癌化の検出手段と、当該癌化の抑制作用を有する抗腫瘍物質のスクリーニング方法を見いだすことに成功し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、食道細胞におけるヒトLRP1B遺伝子の不活性化を検出することにより、当該食道細胞の癌化を検出する、食道癌の検出方法(以下、本検出方法ともいう)を提供する発明である。
また、本発明は、ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドのメチル化に起因してヒトLRP1B遺伝子の発現が抑制されている食道癌細胞株、に対して被験物質を接触させて、ヒトLRP1B遺伝子の発現を検出し、当該遺伝子発現が当該被験物質を接触させない系よりも増加していた場合に、当該被験物質を、ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドの脱メチル化によりヒトLRP1B遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質として選別する、物質のスクリーニング方法(以下、本スクリーニング方法1ともいう)を提供し、さらに、ヒストンH4蛋白質のアセチル化の抑制に起因してヒトLRP1B遺伝子の発現が抑制されている食道癌細胞株、に対して被験物質を接触させて、ヒトLRP1B遺伝子の発現を検出し、当該遺伝子発現が当該被験物質を接触させない系よりも増加していた場合に、当該被験物質を、ヒストンH4蛋白質のアセチル化の促進によりヒトLRP1B遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質として選別する、物質のスクリーニング方法(以下、本スクリーニング方法2ともいう)を提供する発明である。
ヒトLRP1B遺伝子と、その転写産物は既に知られており(LRP1B遺伝子:NM_018557)、2q22.1染色体に存在する遺伝子である。ヒトLRP1B遺伝子がコードする蛋白質は、Low density lipoprotein (LDL) receptorと類似した蛋白質であり、その蛋白質産物はLDL receptorと類似し、約600kDaに及ぶサイズの大きい分子(配列番号1)である。本蛋白質は多機能を有する細胞膜受容体であり、そのリガンドはUrokinase plasminogen acitvator、Tissue-type plasminogen activator、及びPlasminogen activator inhibitor type-Iであることが知られている。それらのリガンドがLRP1B受容体に結合すると、Internalizationが起こり、LRP1BドメインIVミニリセプタ−(mLRP1B)の作用で分解に導かれる(Liu,C.X. ,L
i, Y., Obermoeller-McCormick,L.M., Schwartz,A.L. & Bu,G. : The putative tumor suppressor LRP1B, a novel member of the low density lipoprotein (LDL) receptor family, exhibits both overlapping and distinct properties with the LDL receptor-related protein, J. Biol. Chem., 276, 28889-28896, 2001 )。しかしながら、このヒトLRP1B遺伝子が、ヒト食道癌発症に関わる重要な癌抑制遺伝子であることは未だ知られていない。
A.本検出方法
上述したように、本検出方法は、食道細胞におけるヒトLRP1B遺伝子の不活性化を検出することを特徴とする方法である。
ヒトLRP1B遺伝子の不活性化を検出する対象となる食道細胞は、検体提供者の生検組織細胞が好適である。この検体組織細胞は、健常人の食道細胞か、食道癌患者の当該癌組織であるかを問わないが、現実的には、1)内視鏡検査等の結果、食道に癌化が疑われる病変部が認められた場合の当該病変組織、または、2)食道癌であることが確定しているが、その悪性度や進行度を判定する必要がある食道癌の組織、等が主な対象となり得る。
本検出方法により、「内視鏡検査等の結果、食道に癌化が疑われる病変部が認められた場合の当該病変組織」におけるヒトLRP1B遺伝子の不活性化が認められた場合には、当該病変組織は癌化に向かって進行しているか或いは既に癌化の状態であり、かつ、悪性度が高くなりつつあることが判明し、早急な本格的治療(手術等による病変部の除去、本格的な化学療法等)を行う必要性が示される。また、「食道癌であることが確定しているが、その悪性度や進行度を判定する必要がある食道癌の組織」におけるヒトLRP1B遺伝子の不活性化が認められた場合にも、当該癌組織の悪性度が高くなりつつあることが判明し、早急な本格的治療(手術等による病変部の除去、本格的な化学療法等)を行う必要性が示される。検体として採取された食道細胞組織は、必要な処理、例えば、採取された組織からのDNA或いはRNAの調製を行い、本検出方法を行う対象とすることができる。
本検出方法は、上述したように、食道細胞におけるヒトLRP1B遺伝子の不活性化を検出することにより、当該細胞の癌化(特に、癌化のイニシエーション)を特定することが可能である。このヒトLRP1B遺伝子の不活性化の態様としては、1)ヒトLRP1B遺伝子の欠失、または、2)ヒトLRP1B遺伝子が欠失していない場合における遺伝子の発現量の低下が挙げられる。
1)ヒトLRP1B遺伝子の欠失の検出
このヒトLRP1B遺伝子の欠失の検出を直接的に行うことができる代表的方法として、CGH(Comparative Genomic Hybridization)法とFISH法[蛍光in situ ハイブリダイゼーション(FISH: Fluorescence in situ hybridization):Yasui,K., Imoto,I., Fukuda,Y., Pimkahaokham,A., Yang,Z.Q., Naruto,T., Shimada,Y., Nakamura,Y., and Inazawa : Identification of target genes within an amplicon at 14q12-q13 in esophageal squamous cell carcinoma. Genes Chromosomes Cancer, 32, 112-118, 2001]を挙げることができる。この態様の本検出方法は、ヒトLRP1B遺伝子を有するBAC(Bacterial Artificial Chromosome )DNA、YAC(Yeast Artificial Chromosome)DNAまたはPAC(Phage Artificial Chromosome )DNA(以下、BAC DNA等ともいう)を標識し、FISHを行うと、ヒトLRP1B遺伝子の欠失部分を検出することができる。具体的に、ヒトLRP1B遺伝子を有するBAC DNAとしては、RP11-4C8、RP11-498P13、RP11-82P18、RP11-538A7、RP11-257N13、RP11-159P15、RP11-769M2、RP11-532L9、RP11-161A24、RP11-279M2、RP11-493I5、RP11-662P10、RP11-20E15、RP11-164E7、RP11-51L13、RP11-114B24、RP11-493I5等を挙げることができる。
上記の態様の方法は、ゲノムDNA定着基盤を用いて行うことが、好適であり、かつ、現実的である。
通常に得られるBAC DNA等は、ゲノムDNA定着基盤を多数製造して実用化するには少量であるので、当該DNAを遺伝子増幅産物として得る必要がある(この遺伝子増幅行程を「無尽蔵化」ともいう)。無尽蔵化においては、まずBAC DNA等を、4塩基認識酵素、例えば、RsaI、DpnI、HaeIII等で消化した後、アダプターを加えてライゲーションを行う。アダプターは10〜30塩基、好適には15〜25塩基からなるオリゴヌクレオチドで、2本鎖は相補的配列を有し、アニーリング後、平滑末端を形成する側の3‘−末端のオリゴヌクレオチドをリン酸化する必要がある。次に、アダプターの一方のオリゴヌクレオチドと同一配列部分を有するプライマーを用いて、PCR(Polymerase Chain Reaction)法により増幅し、無尽蔵化することができる。一方、各BAC DNA等に特徴的な50〜70塩基のアミノ化オリゴヌクレオチドを、検出用プローブとして用いることもできる。
このようにして無尽蔵化したBAC DNA等を基盤上、好適には固体基盤上に定着させることにより、所望するDNA定着基盤を製造することができる。固体基盤としては、ガラス、プラスチック、メンブレン、3次元アレイ等があげられ、スライドガラス等のガラス基板が好ましい。ガラス等の固体基盤は、ポリ-L-リジン、アミノシラン、金・アルミニウム等の凝着により基盤をコートすることがより好ましい。
上記の無尽蔵化したDNAを基盤上にスポットする濃度は、好ましくは10pg/μl〜5 μg/μl、より好ましくは1ng/μl〜200ng/μlである。スポットする量は好ましくは1nl〜1μl、より好ましくは10nl〜100nlである。また、基盤に定着させる個々のスポットの大きさ及び形状は、特に限定されないが、例えば、大きさは直径0.01〜1mmであり得、上面から見た形状は円形〜楕円形であり得る。乾燥スポットの厚みは、特に制限はないが、1〜100μmである。さらに、スポットの個数は、特に制限はないが、使用する基盤あたり10〜50,000個、より好ましくは100〜5,000個である。それぞれのDNAはSingularからQuadruplicateの範囲でスポットするが、Duplicate或いはTriplicateにスポットすることが好ましい。
乾燥スポットの調製は、例えば、スポッターを用いて無尽蔵化したBAC DNA等を基盤上にたらして、複数のスポットを形成した後、スポットを乾燥することにより製造することができる。スポッターとしてインクジェト式プリンター、ピンアレイ式プリンター、バブルジェット(登録商標)式プリンターが使用できるが、インクジェット式プリンターを使用することが好ましい。例えば、GENESHOT(日本ガイシ株式会社、名古屋)等を使用できる。
このようにして無尽蔵化したBAC DNA等を基盤上、好適には固体基盤上に定着させることにより、所望するDNA定着基盤を製造することができる。
また、このヒトLRP1B遺伝子の欠失を直接的に検出する手段の一つとしてサザンブロット法を挙げることができる。サザンブロット法は、検体から得られるゲノムDNAを分離して固定し、これと、ヒトLRP1B遺伝子とのハイブリダイズを検出することにより、検体中の当該遺伝子の存在を検出する方法である。
2)ヒトLRP1B遺伝子が欠失していない場合における遺伝子の発現量の低下の検出
この態様の方法は、ヒトLRP1B遺伝子(ゲノムDNA)を基とする、ポリヌクレオチド量またはヒトLRP1B蛋白質量を定量し、この定量値を指標にして、ヒトLRP1B遺伝子の発現の低下を検出することができる。上記ポリヌクレオチドとしては、ヒトLRP1B遺伝子から転写されたmRNA、これを鋳型として得られるcDNAを挙げることができる。
なお、常法によりヒトLRP1B蛋白質に対する抗体を調製する等して、これを用いて検体におけるヒトLRP1B蛋白質量を定量して、上記の定量値を求めることができるが、本検出方法における検出対象は、遺伝子の発現量の「低下」であり、このようなネガティブな検出における指標を蛋白質量とすることは、バックグラウンドの存在等の問題を解決しなければならず、効率的とはいえない面がある。よって、この態様の方法における検出手段としては、ヒトLRP1B遺伝子(ゲノムDNA)を基とする、ポリヌクレオチド量の検出方法を用いることが好適である。このポリヌクレオチド量の検出方法としては、例えば、下記の手段を例示することができる。
最も典型的な態様は、検体における、ヒトLRP1B蛋白質のmRNAを鋳型とするcDNAを検出することにより、間接的に検体において存在するmRNAを検出して、ヒトLRP1B遺伝子が発現している程度を把握する検出方法である(以下、この態様の検出手段を、LRP1BmRNA検出方法ともいう。この態様の検出方法には、上記のリアルタイムRT-PCR法が含まれる)。
LRP1BmRNA検出方法では、典型的には、公知の方法(例えば、オリゴdTを用いる方法)に従い、検体の全RNAから、mRNAを選別する。そして、得られたmRNAから、既知のヒトLRP1B遺伝子の塩基配列に対応するヌクレオチド鎖を、増幅用プライマーとして用いた耐熱性DNAポリメラーゼを用いる、mRNAを鋳型として遺伝子を増幅することが可能な遺伝子増幅法、例えば、RT−PCR法により、本ヒトLRP1B蛋白質をコードするcDNAを増幅し、かかる遺伝子増幅操作による増幅産物の有無や多少を検出することにより、検体におけるヒトLRP1B蛋白質のmRNAの存在を、好適にはリアルタイムに検出することができる。
なお、上記のようにして増幅されたヒトLRP1B蛋白質をコードするcDNAを鋳型として、さらにPCR法等の耐熱性DNAポリメラーゼを用いる遺伝子増幅操作を施し、これによる遺伝子増幅産物の有無や多少を検出することにより、検体におけるヒトLRP1B蛋白質のmRNAの存在を、一層正確に検出することができる(この2回目の遺伝子増幅操作において用いる遺伝子増幅用プライマーは、1回目の遺伝子増幅操作において用いられた遺伝子増幅用プライマーよりも、ヒトLRP1B遺伝子の内側に対応するヌクレオチド鎖を、遺伝子増幅用プライマーとして用いる必要がある)。
DNAチップ法は、検体細胞で発現しているmRNAを定量する方法の一つである。例えば、基盤(上述したCGH法で用いられ得る基盤と実質的に同一)上に、ヒトLRP1B遺伝子の特徴的な配列を有する合成オリゴヌクレオチドを固定し(cDNAを固定することもできる)、検体から調製したRNAをリバーストランスクリプターゼによりcDNAを合成する時に標識を行う。本標識cDNAと基盤上の合成オリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、結合した標識の量をスキャンすることによりmRNAの発現量を測定することができる。
ノーザンブロット法は、検体から得られるmRNAを、分離して固定し、これと、ヒトLRP1B遺伝子の特徴的な配列を有する合成オリゴヌクレオチド(cDNAを用いることもできる)とのハイブリダイズを検出することにより、検体中のヒトLRP1B遺伝子の発現を検出する方法である。
ヒトLRP1B遺伝子の欠失以外の原因で、当該遺伝子の発現量が減少する原因としては、a)ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドのメチル化による不活性化、b)ヒストン4B蛋白質のアセチル化の度合いの低下による不活性化、の2通りの要因に大別される。以下に、これらの2通りの要因について簡単に説明する。
a)ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドのメチル化による不活性化
CpGリッチプロモーター並びにエキソン領域を密にメチル化すると転写不活化がおこることが報告されている(Bird, A.P. & Wolffe, A.P.: Methylation-induced repression-belts, braces, and chromatin, Cell 99, 451-454, 1999)。癌細胞では、CpGアイランドはそれ以外の領域と比較すると高い頻度で密にメチル化されており、プロモーター領域のHypermethylationは、ヒト癌での癌抑制遺伝子の不活化に深く関与している(Ehrlich,
M., Jiang, G., Fiala, E., Dome, J.S., Yu, M.C., Long, T.I., Youn, B., Sohn, O.S., Widschwendter, M., Tomlinson, G.E., Chintagumpala, M., Champagne, M., Parham,
D., Liang, G., Malik, K. & Laird, P.W.: Hypomethylation and hypermethylation of
DNA in Wilms tumors, Oncogene, 21, 6694-6702, 2002)。
後述するように、実際、ヒトLRP1B遺伝子のエクソン1の一部とイントロン1領域に存在するCpGアイランドはプロモーター活性を有するが、in vitroでこの領域をメチル化するとプロモーター活性が消失することが判明した。また、このCpGアイランドのメチル化の度合いは、一部の食道癌細胞でのヒトLRP1B遺伝子発現の抑制と強く相関していた。そして、食道癌細胞を、脱メチル化試薬である5-アザデオキシシチジン(5-aza-dC)存在下で培養することにより、CpGアイランドを脱メチル化することができ、その結果、ヒトLRP1B遺伝子発現を回復させることができた。これらの結果より、CpGアイランドの高密度メチル化(Hypermethylation)が食道癌細胞における癌抑制遺伝子の発現抑制を高頻度でおこす原因の一つであることが判明した。
b)ヒストン4B蛋白質のアセチル化の度合いの低下による不活性化
ヒストン蛋白質の修飾がDNAのメチル化によって誘起される遺伝子発現の抑制に関与していることが知られている(Cameron, E.E., Bachman, K.E., Myohanen,S., Herman, J.G. & Baylin, S.B.: Synergy of demethylation and histone deacetylase inhibition in
the re-expression of genes silenced in cancer, Nat. Genet., 21, 103-107, 1999; Nguyen, C.T., Gonzales, F.A., & Jones, P.A.: Altered chromatin structure associated with methylation-induced gene silencing in cancer cells: correlation of accessibility, methylation, MeCP2 binding and acetylation, Nucleic Acids Res., 29, 4598-4606, 2001)。
トリコスタチンA (Trichostatin A:TSA)は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤であり、アセチル化と遺伝子発現との関係を解析するための重要なツールであるが、TSA存在下で、一部の食道癌細胞を培養するとヒトLRP1B遺伝子の発現が上昇した(後述する)。従って、TSA存在下で、細胞内でDNAと結合しているヒストンH4蛋白質のアセチル化の度合いが上昇するものと結論付けられる。さらに、ヒストンH4蛋白質のアセチル化によって誘導されるヒトLRP1B遺伝子発現の活性化は、食道癌細胞におけるCpGアイランドのメチル化に依存しないことも判明した。一方、食道癌細胞でのメチル化度の上昇は、ヒストンのアセチル化により誘導されるヒトLRP1B遺伝子の発現を抑制するためには不十分であることも判明した。
c)上述した手段により、ヒトLRP1B遺伝子が欠失していないにもかかわらず当該遺伝子の発現量が減少している検体細胞について、さらに、上記a)b)の2通りの不活性化の要因にタイプ分けすることは、当該検体提供者に対して最適の治療(投与すべき抗癌剤の選別)を行う上で非常に重要である。具体的には、上述した検出手段により、ヒトLRP1B遺伝子の発現量が減少していることが判明した検体細胞(癌組織に由来するプライマリー癌細胞)に対して、脱メチル化剤(5-アザデオキシシチジン:5-aza-dC等)、または、アセチル化促進剤(トリコスタチンA等)を作用させて、当該遺伝子発現量の回復を検討することにより、上記の要因のタイプ分けをすることができる。
すなわち、検体細胞に脱メチル化剤を作用させて、ヒトLRP1B遺伝子の発現量が回復す
る場合には、当該検体細胞における当該遺伝子の抑制要因は、CpGアイランドのメチル化であり、検体提供者に、脱メチル化作用を有する薬剤を投与することにより、相応の抗腫瘍効果が期待される。また、検体細胞にアセチル化促進剤を作用させて、ヒトLRP1B遺伝子の発現量が回復する場合には、当該検体細胞における当該遺伝子の抑制要因は、ヒストン4B蛋白質におけるアセチル化の抑制であり、検体提供者に、アセチル化促進作用を有する薬剤を投与することにより、相応の抗腫瘍効果が期待される。また、これらの両者の反応が認められる場合には、検体細胞におけるヒトLRP1B遺伝子の発現量の抑制原因は、上記のメチル化と、アセチル化の抑制にあると結論づけられ、脱メチル化剤とアセチル化促進剤の両者を投与することにより、相応の抗腫瘍効果が期待される。
B.本スクリーニング方法
上述したように、食道癌に関しては、ヒトLRP1B遺伝子の不活性化が大きな要因となっており、当該遺伝子の働きを正常化する薬剤は、食道癌に対する抗腫瘍剤として用いることが可能であると考えられる。
特に、この不活性化の要因が、ヒトLRP1B遺伝子の欠失(特に、ホモタイプの欠失の場合)ではなく、上述した当該遺伝子のCpGアイランドのメチル化、および/または、ヒストンH4蛋白質のアセチル化の抑制である場合には、これらの要因を解消・緩和することができる薬剤は、抗腫瘍剤として有用である。
そこで、本発明は、上述したように、脱メチル化作用を有する薬剤のスクリーニング方法である本スクリーニング方法1と、アセチル化促進作用を有する薬剤のスクリーニング方法である本スクリーニング方法2、を提供する発明である。
これらの本スクリーニング方法を行う前提として、検体細胞においてヒトLRP1B遺伝子の欠失(特に、ホモタイプの欠失)は認められないが、当該遺伝子の発現量が抑制されている食道癌細胞株を確保する必要がある。すなわち、本スクリーニング方法1においては、「ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドのメチル化に起因してヒトLRP1B遺伝子の発現が抑制されている食道癌細胞株」が、本スクリーニング方法2においては、「ヒストンH4蛋白質のアセチル化の抑制に起因してヒトLRP1B遺伝子の発現が抑制されている食道癌細胞株」が必要となる。これらの細胞株の確立法は、上述した知見に基づいた上で、常法に従い行うことができる。例えば、少なくとも、ヒトLRP1B遺伝子の欠失(好適にはホモタイプの欠失)が認められないことを、上述した方法、例えば、CGH法やFISH法で確認された食道癌細胞の中から、既存の脱メチル化試薬(例えば、5-アザデオキシシチジン)を作用させることにより、ヒトLRP1B遺伝子のレベルが回復する細胞を選択して、これを継代して、所望する「ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドのメチル化に起因してヒトLRP1B遺伝子の発現が抑制されている食道癌細胞株」(以下、メチル化癌細胞株ともいう)として確立することができる。また、少なくとも、ヒトLRP1B遺伝子の欠失(好適にはホモタイプの欠失)が認められないことが確認された食道癌細胞の中から、既存のアセチル化促進試薬(例えば、トリコスタチンA等)を作用させることにより、ヒトLRP1B遺伝子のレベルが回復する細胞を選択して、これを継代して、所望する「ヒストンH4蛋白質のアセチル化の抑制に起因してヒトLRP1B遺伝子の発現が抑制されている食道癌細胞株」(以下、脱アセチル化癌細胞株ともいう)として確立することができる。
本スクリーニング方法においては、上記のメチル化癌細胞株または脱アセチル化細胞株に対して被験物質を接触させることが必要である。この接触の態様は、特に限定されないが、当該メチル化細胞株の培養物に対して、被験物質を好適には適切な希釈倍率で希釈して添加して、引き続き培養を行うことにより行われる。そして、被験物質を添加する前のメチル化癌細胞株または脱アセチル化細胞株におけるヒトLRP1B遺伝子の発現量(前述した、リアルタイムRT-PCR法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、DNAチップ法等
、好適にはリアルタイムRT-PCR法により、mRNAとして検出する)と、添加後の当該遺伝子の発現量を、好適には経時的に定量し、定量前後の当該遺伝子の発現量の差を、当該被験物質を添加せずに同条件で培養された対照培養物と比較して、対照培養物よりも、当該被験物質を添加した培養物における当該遺伝子の発現量が増加している場合には、当該被験物質は、1)メチル化癌細胞株を用いた試験においては「ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドの脱メチル化によりヒトLRP1B遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質」(本スクリーニング方法1)として選別され、2)脱アセチル化癌細胞株を用いた試験においては「ヒストンH4蛋白質のアセチル化の促進によりヒトLRP1B遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質」(本スクリーニング方法2)、として選別される。
さらに、本スクリーニング方法を行って、所望の食道癌に対する抗腫瘍成分としてスクリーニングされた物質を、さらに、in vivoのスクリーニング、例えば、上記のメチル化癌細胞株、または、脱アセチル化細胞株を植え付けたヌードマウスでの当該食道癌細胞の増殖抑制効果と当該ヌードマウスの生存率の向上を指標とするスクリーニング方法にかけて、最終的な絞り込みを行うことが好適である。
本発明は、上述した本スクリーニング方法を行うためのスクリーニング用キットを提供する。当該キットは、最低限の構成要素として、メチル化癌細胞株、および/または、脱アセチル化細胞株を含むものである。さらに、その他の本スクリーニング方法を行うために必要な要素、例えば、リアルタイムRT-PCR法を行うための逆転写酵素、プライマーセット、耐熱性ポリメラーゼ、核酸塩基(4種類のdNTPミックス)、細胞の培養液、希釈用緩衝液等を加えることも可能である。
本発明により、食道細胞検体における癌化の兆候、癌の進行度や悪性度を的確に把握することが可能となった。また、特定の機序により、ヒトLRP1B遺伝子の発現が不活性化することにより発生する食道癌の治療剤のスクリーニングを行うことができる。
[実施例1]多数の癌関連遺伝子を搭載した高密度CGHアレイの作製
National Cancer for Biotechnology及びUniversity of California Santa Cruz Biotechnologyのゲノムデータベースウエブサイト並びに選択されたDNAのBLAST検索の結果から癌化並びに癌細胞の増殖に極めて重要な遺伝子或いはSequence Tagged Siteマーカーを有する800種類のBAC/PACクローンを選択した。
BAC及びPAC DNAをDpnI、RsaI、HaeIIIで消化し、その後アダプターDNAとのライゲーションを行った。次に、アダプターの配列を有するプライマーを用いてPCRを2回行った。2本のプライマーの一方には5’末端がアミノ化されている。このプロセスを無尽蔵化と言い、得られたDNAを無尽蔵化DNAと定義する。無尽蔵化DNAをインクジェットタイプのスポッター(GENESHOT、NGK Insulators、名古屋)を使用してDuplicateにオリゴDNAマイクロアレイ(マツナミガラス、大阪)に共有結合でプリントした。
[実施例2]食道癌細胞でのヒトLRP1B遺伝子の欠失
食道癌での新規なホモ接合体欠失を検出するために、44種類の食道癌細胞から調製したゲノムDNAを用いて、実施例1のCGFアレイを使用したCGHアレイ解析を行った。
なお、対照として男性の健常人ゲノムDNAを使用しCy5で標識した。被検DNAとして上記食道癌細胞から調製したゲノムDNAを使用しCy3で標識した。具体的には、DpnI消化したゲノムDNA(0.5μg)を、各々0.2mM dATP、0.2mM dTTP、0.2mM dGTP、0.1mM dCTP及び0.4mMCy3-dCTP(食道癌細胞)或いは0.4mMCy5-dCTP(正常細胞)存在下で、ニックトランスレーションにより標識した。Cy3並びにCy5標識dCTPはAmersham Biosciences(東京)より入手した。両標識ゲノムDNAをCot-1 DNA(Invitrogen社)存在下でエタノールを加えて沈殿させ、120μlのハイブリダイゼーション混合液(50%ホルムアミド、10%Dextran sulfate、2X SSC(1xSSC: 150mM NaCl/15mM Sodium Citrate)、4% sodium dodecyl sulfate、pH7)に溶解した。37℃で30分間インキュベーション後、ハイブリダイゼーションチャンバーにセットしたCGHアレイ上に加え、37℃で3rpm(round per minute)のスピードで振とうしながら48-72時間インキュベーションを行った。その後、CGHアレイを50%ホルムアミド/ 2x SSC(pH7.0)溶液中で50℃にて15分間洗浄し、次に2xSSC/0.1%SDS中で50℃にて15分間洗浄し、さらに、0.1%Nonidet P-40を含む0.1M燐酸緩衝液(pH8)を用いて室温で15分間洗浄した。風乾した後、CGHアレイをGenePix 4000Bスキャナー(Axon Instruments、CA、USA)を用いてCy3及びCy5に由来する蛍光をモニタリングした。得られた結果をGenePix Pro4.1イメージングソフトウエア(Axon Instruments)を用いて解析した。Cy3に由来する蛍光強度の平均とCy5に由来する蛍光強度の平均を同じ値に調整し、Cy3/Cy5のRatioを求めた。ゲノムに異常がない場合にはRatio値は1である。Ratio値が1.32以上の時にゲノムの増幅があり、4以上の時に顕著な増幅が認められると判定した。Ratio値が0.75以下の時にゲノムのヘテロ接合体欠失の可能性、0.25以下の時にホモ接合体欠失の可能性が極めて大きいと判定した。
その結果、食道癌(TE-6)細胞でクロモソーム2q22.1に存在するヒトLRP1Bの遺伝子が欠失していることが判った。このときのLog2Ratioは-2.7であった[図1A:被検細胞としてTE-6のゲノムDNAを用いて、実施例1に示したCGHアレイ上でCGH解析を行った時の代表的なアレイイメージである。クロモソーム2q22.1におけるヒトLRP1B遺伝子コピー数の減少は明確なシグナル(Log2Ratio=-2.7)で示される(右拡大図中の矢印で示す)。]。一方、18種類の食道癌細胞でLog2Ratioは-0.42から-2.0の範囲であった。この結果は2対の染色体中の1対でヒトLRP1B遺伝子が欠失していることを示している(Hemizygous deletionと言う)。TE-6細胞で検出されたヒトLRP1B遺伝子の欠失は、少なくともエキソン3からエキソン30の範囲まで及んでいた。
他の細胞種について検討を進めた所、44種類の食道癌細胞中で6細胞種[図1Bの*印で示す。図1Bは、食道癌細胞(TE細胞ラインとKYSE細胞ライン)におけるヒトLRP1B遺伝子エクソン1、5、7並びに10のホモ接合体欠失の検出を表している。星印はいずれかのエクソンにホモ接合体欠失を検出した細胞種を示す。Nは健常者由来のDNAを用いた結果を示す。GAPDH(Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)遺伝子のPCRは対照として用いた。]について、ヒトLRP1B遺伝子のホモ接合体欠失を見出した。検出頻度は13.7%である。さらに、Laser-captured microdissection(LCM)を行ったプライマリー食道癌では70サンプル中の30サンプル[図1Cの*印で示す。図1C は、Laser-captured microdissection (LCM)-処理プライマリー食道癌におけるヒトLRP1B遺伝子エクソン5、7或いは10のホモ接合体欠失を示している。星印はいずれかのエクソンにホモ接合体欠失を検出した細胞種を示す。GAPDH遺伝子のPCRは対照として用いた。]について、ヒトLRP1B遺伝子のホモ接合体欠失が検出された。頻度は42.9%と高頻度であった。
[実施例3]食道癌細胞におけるヒトLRP1B遺伝子発現の抑制に関する検討
食道癌細胞において、ヒトLRP1B遺伝子のうち高頻度で欠失している領域である、ヒトLRP1B遺伝子エキソン8-9とヒトLRP1B遺伝子の3’末端に近いエキソン91-92の配列から各々2種類のプライマーを設計し、両領域に由来するmRNAをRT-PCR法で検出した。
その結果、ホモ接合体欠失の起こっている6細胞株でエキソン91-92に由来するmRNAを検出できなかったが、エキソン8-9に由来するmRNAを検出した。さらに、ホモ接合体欠失の起こっていない38細胞株の中の14細胞株ではエキソン8-9とエキソン91-92に由来するRT-PCR産物を検出できなかった[図1D RT-PCR解析によって検出された食道癌細胞のヒトLRP1
Bエクソン8-9並びにエクソン91-92の発現を示している。図1Bに星印で表示したホモ接合体欠失を示す細胞種に同様に星印をつけた。ホモ接合体欠失を示さない38細胞種の中で14細胞種(TE-1, -5, -8, -9, -11及びKYSE30, 150, 170, 770, 790, 960, 1250, 2400, 2650)について、ヒトLRP1B mRNA発現が頻度36.8%で消失していた。]。この頻度は36.8%であった。従って、ヒトLRP1B mRNAを検出できない理由はゲノム上での遺伝子欠失に加えて他のメカニズムが考えられるので、さらにその検討を行った。
[実施例4]ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドのメチル化についての検討
CpGアイランドのメチル化は遺伝子発現を抑制するメカニズムの1つである。ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドをCpGPLOTを用いて解析した結果、ヒトLRP1B遺伝子のエキソン1の3’側一部とイントロン1の5’側を含む828bp断片を同定した。本領域中のCpG部位並びにCpG部位が密集して存在するCpGアイランドを表示した[図2A:ヒトLRP1B遺伝子のエクソン1とイントロン1を含む828bpから成るCpGアイランドの図解マップである。エクソン1を白抜きボックスで表示し、転写開始点を+1で示した。矢印は転写開始方向を示す。CpGアイランドはCpGPLOT(http://www.ebi.ac.uk/emboss/cpgplot/)により同定し、黒塗りバーで表示し、その拡大図にCpGの位置を縦線で示した。CpGアイランドはヒトLRP1B遺伝子の+718から+1545までから構成される。プロモーターアッセイにより解析した領域(Region1から5まで)、Bisulfite-PCR解析を行った領域、Bisulfiteシーケンスを行った領域を水平の線で示した。]。
ここで同定したヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドのプロモーター活性を調べるために、このCpGアイランドの周辺を含めて5つの断片(図2A Region 1-5)に分けそれらの断片をルシフェラーゼレポータープラスミド(pGL3-Basic vector: Promega, WI, USA)に挿入し、子宮頚癌(HeLa)細胞並びに食道癌(TE-4)細胞を、一過性にpRL-hTK内部標準ベクター(Promega)と共にコトランスフェクションした。36時間培養後、Dual-Luciferaseレポーターアッセイシステム(Promega)を用いて、マニュアルに従ってルシフェラーゼ活性を測定し、各Regionを有するpGL3 vectorに由来するホタルルシフェラーゼ活性を、pRL-hTK内部標準ベクターに由来するウミシイタケルシフェラーゼ活性で割り算した値、であるRLA(Relative luciferase activity)で表示した。その結果、Region1、2及び3がそれぞれ19、12-14、8-10 RLA活性を示したが、Region 4及び5は活性を示さなかった[図2AとB:図2Bは、ヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドのプロモーター活性とその領域をin vitroでメチル化することによるプロモーター活性の抑制を示している。ヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドのRegion1からRegion5までをS-adenosylmethionine(SAM)存在下及び不在下でSssI(CpG)メチラーゼによりin vitroでメチル化した。前者はCpGがメチル化される条件で、後者はメチル化されない条件である。ここで調製したRegion1−5の2セットのDNAをpGL3ベーシックベクターに挿入し、ホタルルシフェラーゼ発現プラスミドを構築した。これらの発現プラスミドをHela細胞とTE-4細胞にトランスフェクションし、培養後、両細胞抽出液についてインターナルコントロールであるウミシイタケルシフェラーゼで標準化することにより、目的とするホタルルシフェラーゼ活性を測定した。得られた結果は各々3回の実験の平均値±SEで表示した。]。従って、CpGアイランドを含む領域にプロモーター活性があり、この領域の上流の配列をより大きいサイズで含むほどプロモーター活性が高いことが判明した。
次に、CpGアイランドをSssI (CpG)メチラーゼ (New England Biolabs, MA, USA) を用いてS-adenosylmethionineを基質としてメチル化しプロモーター活性を検討した。メチル化がほぼ完全に起こっていることをメチレーション感受性制限酵素で消化されないことで確認した。Region 1、2及び3に由来するプラスミドをメチル化した場合に活性は消失した(図2AとB:上記)。 従って、ヒトLRP1B遺伝子が欠失していない場合でもCpGアイランドがメチル化されている時にはヒトLRP1B遺伝子発現がほぼ完全に抑制されることが判明した。
さらに、食道癌細胞で実際にヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドがメチル化されているかどうか検討した。EZ DNAメチレーションキット(ZYMO REAEARCH, CA, USA)を使用し、食道癌細胞に由来するゲノムDNA(2μg)をSodium bisulfite中50℃で1晩処理を行い、目的とするメチル化DNAを増幅するようにデザインしたプライマーを用いてPCRを行った。得られた増幅産物をTaqI制限酵素(New England BioLabs)で消化した。TaqIはメチル化されないSodium bisulfiteで修飾された配列は消化しないが、メチル化されたSodium bisulfiteで修飾されない配列を消化する性質を利用して、メチル化の度合いをモニタリングした。PCR断片を電気泳動後、メチル化された断片のバンドとメチル化されない断片のバンドの濃度比をMultiGauge2.0(フジフィルム、東京)を用いたデンシトメトリーにより測定し、メチル化された領域のメチル化度を%で表示した。20%以上メチル化されている場合には有意にプロモーター活性を抑制していると考えられる。この配列をTOPO TAクローニングベクター(Invitrogen)にサブクローニングし、塩基配列を決定した。
ヒトLRP1B遺伝子のホモ接合体欠失が検出されないが本遺伝子の発現が認められない食道癌細胞(KYSE170, 770, 790, 960 & TE-1, -8)のヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドのメチル化度を測定すると、異常にメチル化されていることが判明した[図2Cは、メチレーション感受性制限酵素TaqIで消化を行った食道癌細胞のヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドのBisulfite-PCR法を用いた解析の結果を示している。Mはメチル化されたCpGアイランドを鋳型に用いた時に得られるバンドを示し、%はメチル化されたパーセントを表示した。N1とN2は健常人由来のゲノムDNAを用いた場合の結果を示す。]。一方、本領域の有意なメチル化はヒトLRP1B遺伝子を発現している細胞(KYSE110, 1260, 70)或いは正常白血球細胞では検出されなかった。
ヒトLRP1B遺伝子CpGアイランド内の各CpGジヌクレオチドのメチル化度をBisulfiteシーケンス法により解析した。その結果、ホモ接合体欠失の認められない細胞(KYSE170, 770, 790, 980 & TE-1, -8)では、ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドは特に部位39-67でメチル化度が特に高く、ヒトLRP1B遺伝子を発現している細胞(KYSE110, 1260, 70)ではメチル化されていなかった[図2Dは、ヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドのBisulfiteゲノムシーケンスを示している。転写開始点を+1で表示するとCpGアイランドは+718から+1545までを占める。この領域には67ヶ所のCpG部位がありそれを升目で表した。白抜き升目はメチル化されていないCpG部位で、黒塗り升目はメチル化されたCpG部位である。升目は6列から9列まであるが、これらはゲノムシーケンスを行った数であり、各々の結果を示した。使用した細胞はヒトLRP1B遺伝子発現細胞(Expression (+)と表示)のKYSE110、KYSE1260及びKYSE70、並びにヒトLRP1B遺伝子を発現していない細胞(Expression (-)と表示)のKYSE170、KYSE770、KYSE790、KYSE960、TE-1及びTE-8である。]。従って、食道癌細胞でヒトLRP1B遺伝子のホモ接合体欠失のある場合と、ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドが高度にメチル化されている場合にはヒトLRP1B遺伝子発現は検出されないか或いは非常に低いことが判った。この2つのケースより、ヒトLRP1B遺伝子発現と食道細胞の癌化との関係が強く示唆される。
[実施例5]プライマリー食道癌でのヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドのメチル化
これまで、食道癌細胞でヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドのメチル化を解析してきたが、実際に食道癌組織でも同様な現象が起こっているかどうかを検討した。その結果、プライマリー食道癌34例中5例で、ヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドのメチル化が起こっていることが判明した[図2Eは、プライマリー食道癌のヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドをメチレーション感受性酵素TaqIで消化後のBisulfite-PCRによる解析を示している。Mはメチル化されたCpGアイランドを鋳型に用いた時に得られるバンドを示し、%はメチル化されたパーセントを表示した。]。その頻度は14.7%である。樹立した食道癌細胞と比較すると癌組織では、ヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドのメチル化の頻度が低いが、これは本解析では
ある程度の量のDNAを必要とするために、正常細胞が癌細胞試料に混入してしまうことがあげられる。以上の結果より、ヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドのメチル化による、ヒトLRP1B遺伝子の不活化は食道細胞の癌化に重要な役割を示すと推定される。
[実施例6]5-aza-dCを用いて脱メチル化したときのヒトLRP1B遺伝子の発現
食道癌細胞でヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドを脱メチル化したときのヒトLRP1B遺伝子発現を検討した。具体的には、食道癌細胞をメチル転移酵素阻害剤である各種濃度の5-aza-dC存在下で5日間処理したときのヒトLRP1B mRNA誘導能を測定した。その結果、ヒトLRP1B遺伝子欠失はないがヒトLRP1B mRNAが検出されない細胞では5-aza-dC処理を行なうことにより、ヒトLRP1B mRNA誘導能が見出された。ヒトLRP1B遺伝子のホモ接合体欠失を伴う細胞では、同様な処理でヒトLRP1B mRNA誘導能は検出されなかった[図2Fは、5-aza-dC存在下並びに不在下での食道癌細胞におけるヒトLRP1B遺伝子発現解析を示している。ヒトLRP1B遺伝子エクソン8-9を増幅するための2種類の特異的プライマーを用いてRT-PCRを行い、電気泳動の結果得られたバンドを示した。GAPDHは内部標準として使用した。鋳型に使用したゲノムはホモ接合体欠失の認められないヒトLRP1B遺伝子を発現しない細胞種(KYSE170, 770, 790, 960 & TE-1, -5, -8, -11)とホモ接合体欠失の検出された細胞種(TE-6)を5-aza-dC存在下並びに不在下で5日間培養した後に調製した。]。
[実施例7]CpGメチル化とヒストンアセチル化の関連の検討
CpGアイランドのメチル化に伴う遺伝子発現抑制はゲノムの染色体構造を変化させることに起因することが明らかになってきた。同様にゲノムと相互作用するヒストン蛋白質の低アセチル化もゲノム構造を変化させ、遺伝子発現に影響を与える。今回、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)とメチル基転移酵素阻害剤である5-aza-dCを用いてCpGメチル化とヒストンアセチル化の関連を検討した。
ヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドが密にメチル化されているKYSE170細胞を、TSA存在下でインキュベーションしたところ、5-aza-dCのみでインキュベーションしたときよりも高いヒトLRP1B遺伝子の発現を検出した[図2Gは、5-aza-dC及びTSA存在下で培養した後の、ヒトLRP1B遺伝子非発現食道癌細胞(KYSE170)におけるLRP1B mRNAの発現を示している。KYSE170細胞を5-aza-dC存在下で5日間、TSA存在下或いは5-aza-dCとTSA共存下で12時間培養した。それぞれの細胞から調製したゲノムDNAを鋳型とし、ヒトLRP1B遺伝子エクソン8-9を増幅するための2種類の特異的プライマーを用いてRT-PCRを行い、電気泳動の結果得られたバンドを示した。GAPDHは内部標準として使用した。]。KYSE170細胞を、TSAと5-aza-dC共在下でインキュベーションすると、さらに高いヒトLRP1B遺伝子の発現が認められた。
この結果は、CpGアイランドのメチル化と染色体高次構造の変化が複雑に関連し、ヒトLRP1B遺伝子の発現に影響を与えていることを示唆している。ヒストン蛋白質のアセチル化を定量的に解析するために、5種類の食道癌細胞(KYSE110, 1260, 70, 170, 960)について、ChIPアッセイを行った。ChIPアッセイはアセチル化ヒストンH4に対する抗体を用いてゲノムを免疫沈降させた後、それを約100分の1に希釈してPCRを行うことにより目的とするゲノム配列を増幅できる。PCR産物について3%アガロースゲル電気泳動を行い、アセチル化ヒストンと複合体を形成しているDNA量をモニタリングした。方法は、本キット(Upstate Biotechnology, NY, USA)のマニュアルに従って行った。その結果、ヒトLRP1B遺伝子を発現している細胞(KYSE110, 1260, 70)では、ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドが過剰のアセチル化ヒストンH4とコンプレックスを形成していることが判明した。一方、過剰にメチル化されているヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドを有する細胞(KYSE170, 960)では、過剰にアセチル化されたヒストンH4はわずかしか検出されなかった[図2Hは、食道癌細胞におけるヒトLRP1B遺伝子のヒストンアセチル化の状況を示している。ヒトLRP1B遺伝子発現細胞(KYSE110, 1260, 70)とヒトLRP1B遺伝子非発現細胞(KYSE170, 960)の
細胞抽出液をアセチル化ヒストンH4に対する抗体を用いたクロマチンChIPアッセイによる免疫沈降で得られたヒトLRP1B遺伝子の密にメチル化された領域(図2D)をPCRで増幅し検出した。免疫沈降前の試料をPCRにより増幅(Inputと表示)し、免疫沈降後の結果と比較した。さらに、免疫沈降後のDNAにおいて、GAPDH遺伝子の5’末端領域を増幅し、対照に用いた。得られたバンドをデンシトメーターでスキャンしLRP1Bバンドの値とGAPDHバンドの値の比を下欄に表示した。]。KYSE170細胞を、5-aza-dC、TSA、或いは5-aza-dC+TSA存在下でインキュベーションをし、ChIPアッセイにより、ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドのヒストンアセチル化の度合いをモニタリングしたところ、TSA+5-aza-dCは相乗的にヒストンアセチル化を増強させることが判明した[図2Iは、食道癌細胞におけるヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドにおけるヒストンH4蛋白質のアセチル化に及ぼす5-aza-dCとTSA処理の影響を示している。KTSE170細胞を5-aza-dC存在下で5日間、TSA存在下或いは5-aza-dCとTSA共存下で12時間培養した。図2Hと同様にアセチル化ヒストンH4に対する抗体を用いて免疫沈降を行った後にPCRを行い、アセチル化ヒストンのアセチル化度をモニタリングした。ChIP-PCRにより得られたバンドをデンシトメーターで定量し、ヒトLRP1B遺伝子から算出された値とGAPDH遺伝子から算出された値の比を下図に示した。培養時のTSAと5-aza-dC存在の有無を+、−で表示した。]。従って、ヒトLRP1B遺伝子CpGアイランドのヒストンアセチル化の度合いは、直接ヒトLRP1B mRNAの発現と正の相関を示しており、逆に本アイランドのメチル化の度合いは、ヒトLRP1B mRNAの発現と不の相関を示すことが明らかとなった。
[実施例8]ヒトLRP1B遺伝子発現が回復した後の食道癌細胞の増殖抑制
食道細胞の癌化における、ヒトLRP1B遺伝子の役割をさらに明らかにするために、本遺伝子発現を回復したときに、食道癌細胞の増殖が抑制されるかどうかを検討した。まず、ヒトLRP1B遺伝子のFLAGタッグミニリセプターを発現するプラスミド(pBICEP-CMV-2-mLRP1B)を構築した。これは全長を有するヒトLRP1B遺伝子の役割をモニタリングするために使用できる。本プラスミドは、RT-PCRにより増幅したヒトLRP1B cDNAをpBICEP-CMV-2発現ベクター(Sigma, MO, USA)にFLAGエピトープと翻訳フレームが合うように挿入して作成した。対照として、ヒトLRP1B遺伝子を挿入しない空ベクター(pBICEP-CMV2-mock)を使用した。これらの発現プラスミドを、トランスフェクション試薬であるFuGENE6(Roche Diagnostics、東京)と混合し、TE-8細胞並びにKYSE170細胞をトランスフェクションした。3週間後にネオマイシン系薬剤であるG418存在下で増殖する細胞を70%エタノールで固定し、クリスタルバイオレットで染色することによりカウントした。その結果、空ベクターでトランスフェクションした細胞と比較してpBICEP-CMV-2-mLRP1Bでトランスフェクションした細胞は顕著にコロニー数が減少した[図3は、食道癌細胞の増殖に及ぼすヒトLRP1B遺伝子発現回復の影響を示した図面である。(AとB):FLAGタッグLRP1Bのミニリセプターを有する発現プラスミド(pBICEP−CMV−2−mLRP1B)及び空ベクター(pBICEP-CMV-2-mock)を用いてKYSE170細胞(A)及びTE-8細胞(B)をトランスフェクションした。両細胞はヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドがメチル化されているために、ヒトLRP1B遺伝子発現が検出されない。トランスフェクションを行いG-415存在下で3週間培養後、6ウエルプレートに形成されたコロニーをミニリセプター発現プラスミド(mLRP1Bと表示)と空ベクター(Mockと表示)を使用した場合とを比較して図示した。ヒトLRP1B遺伝子が導入されることにより、形成されるコロニー数は激減した。(CとD):KYSE170細胞(C)とTE-8細胞(D)で生成したコロニー数の定量の結果を示している。上記AとBの実験で形成されたコロニー数をカウントしその結果を棒グラフで示した。2mmより大きいコロニーをカウントし、3回の実験結果を平均値±SEで表示した。]。対照として空ベクターをトランスフェクションしたTE-8細胞は生成したコロニー数がKYSE170細胞より著しく低いが、これは前者ではヒトLRP1B遺伝子発現が抑制されていることを反映している。この結果は明らかにヒトLRP1B遺伝子発現が、食道癌細胞の増殖を抑制することを示しており、癌抑制遺伝子として機能していると推定される。
食道癌細胞(TE-6)におけるヒトLRP1B遺伝子のホモ接合体欠失と本遺伝子の発現レベルを示した写真である。 食道癌細胞及びプライマリー食道癌におけるヒトLRP1B遺伝子 CpGアイランドのメチル化の度合いを示した図面の一方である。 食道癌細胞及びプライマリー食道癌におけるヒトLRP1B遺伝子 CpGアイランドのメチル化の度合いを示した図面の他方である。 食道癌細胞の増殖に及ぼすヒトLRP1B遺伝子発現回復の影響を示した写真である。

Claims (10)

  1. 食道細胞におけるヒトLRP1B遺伝子の不活性化を検出することにより、当該食道細胞の癌化を検出する、食道癌の検出方法。
  2. 前記遺伝子が、ゲノムDNA、cDNA、または、mRNAである、請求の範囲第1項記載の遺伝子の検出方法。
  3. ヒトLRP1B遺伝子の不活性化が、当該遺伝子の欠失による不活性化である、請求の範囲第1または2項記載の食道癌の検出方法。
  4. ヒトLRP1B遺伝子の欠失が、当該遺伝子のホモ接合体欠失である、請求の範囲第3項記載の食道癌の検出方法。
  5. ヒトLRP1B遺伝子の不活性化が、当該遺伝子のCpGアイランドのメチル化による不活性化である、請求の範囲第1項または第2項記載の食道癌の検出方法。
  6. ヒトLRP1B遺伝子の不活性化が、ヒストン4B蛋白質のアセチル化の度合いの低下による不活性化である、請求の範囲第1項または第2項記載の食道癌の検出方法。
  7. ヒトLRP1B遺伝子の不活性化の検出方法において、検体中の当該遺伝子を、DNAチップ法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、リアルタイムRT-PCR法、FISH法、または、CGH法を用いて検出する、請求の範囲第1項〜第6項のいずれかに記載の遺伝子の検出方法。
  8. ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドのメチル化に起因してヒトLRP1B遺伝子の発現が抑制されている食道癌細胞株、に対して被験物質を接触させて、ヒトLRP1B遺伝子の発現を検出し、当該遺伝子発現が当該被験物質を接触させない系よりも増加していた場合に、当該被験物質を、ヒトLRP1B遺伝子のCpGアイランドの脱メチル化によりヒトLRP1B遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質として選別する、物質のスクリーニング方法。
  9. ヒストンH4蛋白質のアセチル化の抑制に起因してヒトLRP1B遺伝子の発現が抑制されている食道癌細胞株、に対して被験物質を接触させて、ヒトLRP1B遺伝子の発現を検出し、当該遺伝子発現が当該被験物質を接触させない系よりも増加していた場合に、当該被験物質を、ヒストンH4蛋白質のアセチル化の促進によりヒトLRP1B遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質として選別する、物質のスクリーニング方法。
  10. ヒトLRP1B遺伝子の発現を、リアルタイムRT-PCR法によりmRNA量として検出する、請求の範囲第8項または第9項記載の物質のスクリーニング方法。
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