JP2005253462A - レシピエント細胞の形質転換方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】目的のDNAを含むドナー細胞から、目的DNAをいったん回収・精製することなく、簡便にレシピエント細胞を形質転換する方法を提供すること。
【解決手段】 目的DNAを含むドナー細胞の一部が溶菌し、かつレシピエント細胞がコンピテントな状態で維持される条件下で、ドナー細胞とレシピエント細胞とを混合培養することを特徴とするレシピエント細胞の形質転換方法。およびシロイヌナズナミトコンドリアDNAの部分断片を含む枯草菌ライブラリーを提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、レシピエント細胞の形質転換方法に関し、さらに詳しくは、ドナー細胞とレシピエント細胞とを混合培養することによってレシピエント細胞の形質転換を行う方法に関する。
近年盛んに行われているDNA操作の技術の中で、遺伝子(DNA)をクローニングする技術は、大腸菌等を宿主として用いる宿主ベクター系ではほぼ確立されつつある。しかし、例えば第1の宿主として大腸菌にクローニングしたDNAに改変等を加え、これをさらに第2の宿主に移動させる技術に関しては、未だ確立されているとは言い難い。その方法は宿主毎に異なるため、形質転換系、ファージを経由する形質導入、接合伝達等の複数の方法の中から、必要に応じて選択、適用されているのが現状である。
例えば、第2の宿主としてDNA組換え実験で汎用される大腸菌、酵母、枯草菌等を用い、これらにDNAを移動させる(形質転換する)ために、シャトルプラスミドベクターを用いて第1の宿主中で調製されたDNAをいったん回収し、精製してから用いる方法が汎用されている。シャトルプラスミドベクターは、2種以上の宿主内で複製が可能なクローニング・ベクターの総称であり、遺伝子の複製や発現の機構が異なる遠縁の宿主でも機能するよう設計されたベクターである。
しかし、この方法では、第1の宿主中のDNAを回収し、精製する工程が必須である。そのためには、多数の操作と時間が必要になる。また、大きなDNAを扱う場合には、一般にDNAの回収・精製が非常に困難になることが知られており、目的のDNAを完全に回収できないこともままある。シャトルプラスミドベクターについては、回収法が自動化され、自動調製機も市販される等、多数の検体を扱うための改良が次第に進みつつあるが、そのためには市販のキットや装置が必要になるというデメリットもある。
これらの複数の問題から、DNAを精製しなくても第2の宿主へ導入することのできる方法があれば、DNAの回収・精製のステップを省略化でき、さらなる迅速化が達成できると考えられている。また、回収・精製が困難な大きなDNAであっても簡便に取り扱うことができるようになると期待されている。
DNAを第2の宿主に移動する際に、第1の宿主からDNAを回収・精製する必要がない手法としては、例えば、第1の宿主をプロトプラストにする方法がある。しかし、この方法では、プロトプラストにする操作が微妙な制御を必要とするため、誰にでも簡便に行える手法ではなく、一般的とは言えない(例えば、非特許文献1参照)。また、例えば、2種の宿主を単純に混合するだけでDNAを移動させることのできる接合伝達系を利用する方法(例えば、非特許文献2参照)も知られているが、宿主域が非常に限定されるために扱いづらく、接合伝達に関与する多数の遺伝子を厳密に制御する必要もあり、一般的に汎用される手法とはなり得ない。
特に最近では、DNA操作のために多数のサンプルが一度に扱われることが多くなってきている。そこで、そのような多数サンプルを扱う場合にも適用できるような、特別に複雑な制御を必要とせずに簡便で、誰にでも安定的に操作を行うことのできる形質転換方法が強く望まれている。
Akamatsu T., et al., Biosci.Biotechnol.Biochem., 65(4), 823-829 (2001) Grohmann E., et al., Microbiology and Molecular Biology Reviews, June, 277-301 (2003)
本発明は、目的のDNAを含むドナー細胞から、目的DNAをいったん回収・精製することなく、簡便にレシピエント細胞を形質転換する方法を提供するためになされたものである。
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、目的DNAを含むドナー細胞と、形質転換されるレシピエント細胞とをある特定の条件下で混合培養すれば、目的DNAを回収・精製することなく簡便に形質転換を行えることを見出した。
すなわち、特定の温度範囲で増殖する大腸菌バクテリオファージの一種ラムダの変異体(λcI857)が溶原化している大腸菌に目的DNAとしてプラスミドを導入してこれをドナー細胞とし、該細胞の生育温度を変化させてその一部を溶菌させ、保持しているプラスミドを培養液中に放出させると、同時に培養液中に存在しているレシピエント細胞(枯草菌)に該プラスミドが取り込まれて、簡便に形質転換体が得られることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
すなわち本発明によれば、
(1)目的DNAを含むドナー細胞の一部が溶菌し、かつレシピエント細胞がコンピテントな状態で維持される条件下で、ドナー細胞とレシピエント細胞とを混合培養することを特徴とするレシピエント細胞の形質転換方法
が提供される。
また、この発明の好ましい態様によれば、
(2)レシピエント細胞がBacillus属細菌又は高度好熱菌であることを特徴とする上記(1)に記載の方法、
(3)ドナー細胞が温度感受性細胞であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の方法、
(4)ドナー細胞が、温度感受性のプロファージが溶原化している溶原菌であることを特徴とする上記(3)に記載の方法、
(5)目的DNAが10kb以上であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法、
(6)目的DNAがBACクローンDNAであることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法、
(7)目的DNAを含み、かつλcI857が溶原化している大腸菌と、コンピテントな状態の枯草菌とを37℃で培養することを特徴とする上記(1)に記載の方法
が提供される。
また、本発明の別の態様によれば、
(8)シロイヌナズナミトコンドリアDNAの部分断片を含む枯草菌ライブラリー
が提供される。
本発明により、ドナー細胞中に含まれる目的DNAを、非常に簡便な操作によってレシピエント細胞に導入することのできる画期的な形質転換方法が提供される。
産業上重要な遺伝子等を遺伝子組換え操作の可能な宿主に導入することができれば、有用な形質を付加した微生物株の育種や、微生物の生産する物質の改変等に広く利用することができる。本発明は、その最初の工程を簡略化、迅速化するものであって、また、従来扱うのが困難であった大きなDNAが取り扱いやすくなるという大きな効果をも有する。
以下、本発明を更に詳細に説明するが、以下の構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容のみに特定されるものではない。
本発明の形質転換方法は、目的DNAを含むドナー細胞の一部が溶菌し、かつレシピエント細胞がコンピテントな状態で維持される条件下で、ドナー細胞とレシピエント細胞とを混合培養することを特徴としている。
すなわち、ある特定の条件下で培養されることによって溶菌した一部のドナー細胞から、該細胞中に含まれていた目的DNAが培養液中に流出することを利用して、同じ培養液中でコンピテントな状態のレシピエント細胞を混合培養することによって該目的DNAをレシピエント細胞に取り込ませ、形質転換を行う方法である。
従来、DNA操作の技術等で汎用される宿主微生物等をドナー細胞とし、これらを溶菌させれば、該細胞中に含まれるDNAが他の細胞成分等と一緒に培養液中に流出することは容易に想到可能な現象であった。しかし、通常細胞には、核酸分解酵素等が多く存在することから、溶菌により流出したDNAはすぐにこれらの酵素等によって分解されてしまうと考えられていた。また、大量の培養液中にDNAが流出してしまうため、これを回収・精製しなければ、形質転換等に用いることはできないと考えられていた。
ところが、本発明者らによる検討の結果、驚くべきことに、溶菌により培養液中に流出したDNAは、第2の宿主微生物(レシピエント細胞)に導入されて形質転換を生じるのに十分な安定性を有していることがわかった。しかも、レシピエント細胞としてコンピテントな状態で維持されている枯草菌等の細胞を用いると、これをドナー細胞と混合培養するだけで該レシピエント細胞が培養液中から前記目的DNAを取り込み、形質転換が行われることもわかった。また、この混合培養の条件を最適化することによって、形質転換の効率が高まることも確認された。本発明の形質転換方法は、これらの知見により成し遂げられたものである。
すなわち、本発明は、目的DNAをドナー細胞から回収・精製することなくレシピエント細胞に導入できる方法であって、実際の操作としてはある特定の条件下でドナー細胞とレシピエント細胞とを混合培養するのみという非常に簡便な方法である。
(1)ドナー細胞
本発明において用いられるドナー細胞とは、目的DNAを含むものであって、ある特定の条件下で培養されるときにその一部が溶菌し得るものであればいかなるものでもよい。
目的DNAとは、レシピエント細胞に導入されるべきDNAであって、プラスミドDNA、ファージミドDNA、コスミドDNA、ゲノムDNA、合成DNA等、レシピエント細胞に導入され得るものであればいずれのものでもよい。好ましくは、プラスミドDNAが用いられる。特に好ましくは、任意の有用な遺伝子等のDNA(以下、これを「遺伝子DNA」と称することがある)を保持しているプラスミドDNAである。それらの中でも、2種以上の宿主において複製可能であるという点で、シャトルプラスミドベクターDNAを用いることが好ましい。
また、大きなサイズのDNAをインサートとして保持できる点で、プラスミドDNAの一つであるBACクローンDNAを用いることは有用である。BAC(Bacterial artificial chromosome)は、大腸菌由来の人工染色体であって、巨大なDNA断片を保持できるベクターであることから、例えばヒトゲノムDNAの断片を含むクローン等が数多く調製され、多くのライブラリーが市販されている。このようなライブラリーを利用すれば、例えば、ヒトゲノムDNAの断片等を適当なレシピエント細胞中に導入し、これに遺伝子改変を加えたり、複数の断片を集積してさらに大きなDNAを再構成したりといった操作が可能である。
前記のとおり、本発明においては目的DNA中に任意の有用な遺伝子DNAが保持されたプラスミドDNA等を用いることが好ましい。そのような遺伝子DNAの生物種としては、具体的には、例えば、哺乳動物、植物等が挙げられ、哺乳動物としては、ヒト等の哺乳類、マウス、ラット等の齧歯類等が挙げられる。また、該DNAは、例えば、産業上有用な各種の遺伝子等を含み、有用な形質を付加した微生物株の育種、有用蛋白質の生産等に関わるもの等であることが好ましい。具体的には、例えば、癌、免疫、代謝異常、成長、耐寒、耐乾燥、二次代謝等に関連する遺伝子を構成するゲノムDNA等が好ましく用いられる。また、遺伝子改変動物作製用のDNA等も好ましい。例えば、トランスジェニック動物作製用のトランスジーン等の調製にも、本発明の方法を利用することができる。
目的DNAは、溶菌したドナー細胞から培養液中に流出した際に安定で、かつ、レシピエント細胞に導入され得る大きさであればいかなる大きさのものでもよい。しかし、本発明の方法は、目的DNAの回収・精製が不要であることを特徴の一つとしているので、一般的に回収・精製が困難であるとされる大きなサイズのDNAを取り扱う場合にも適している。具体的には、例えば、通常10kb以上、好ましくは50kb以上、より好ましくは100kb以上の大きさのDNAに好適に用いられる。
特に、例えば、プラスミドDNA等の中に保持されている遺伝子等のDNAが大きなサイズのものであるときには、本発明の方法は有効である。中でも、前記BACクローンDNAを利用し、100kb以上、200kb以上といった大きなDNA断片をインサートとして保持しているものを用いることは特に好ましい。取り扱うDNAの大きさの上限は、特に制限はないが、例えばプラスミドDNAの場合には、該プラスミドDNA中に保持可能な大きさであればよい。
また、目的DNAは、ドナー細胞中に少なくとも1コピー含まれていればよいが、形質転換の効率を上げるために、好ましくは2コピー以上、より好ましくは10コピー以上含まれているものを用いる。
このような目的DNAを含むドナー細胞としては、ある特定の条件下で培養されたときにその一部が溶菌し得るものであればいかなるものでもよいが、例えば、大腸菌等が好ましく用いられる。また、例えば、後述するようなファージの性質を利用する方法によりその条件を制御する場合には、用いるファージが感染し得る菌を選択して用いればよい。
また、このドナー細胞から流出する核酸分解酵素等が、目的DNAの安定性を低下させ、形質転換の効率を低下させることがあるので、このような酵素の欠損株等を用いることもできる。
(2)混合培養
上記(1)に詳述したような目的DNAを含むドナー細胞は、ある特定の条件下で培養を行った場合に、その一部が溶菌し得るものである。「一部が溶菌する」とは、例えば液体培地中で該ドナー細胞を培養したときに、培養液中に含まれる全ドナー細胞のうち一部のもののみが溶菌し、残り大部分のドナー細胞は通常の細胞としての機能を維持している状態を意味する。残り大部分のドナー細胞は、増殖を続けている状態であることが好ましい。このことは、例えば、それ自体公知の方法を用いて細胞の増殖状態を解析し、増殖曲線を作成する等の方法で確認することができる。
このような状態のドナー細胞を用いることにより、一部の溶菌したドナー細胞中に含まれていた目的DNAが培養液中に流出する。残りの大部分のドナー細胞は通常どおり細胞としての機能を維持して、増殖を続けているので、培養液中には適度に、かつ連続的に目的DNAが供給される。ここでもし、培養液中に存在するドナー細胞の大部分が溶菌するような条件下で培養を行うと、目的DNAが適度に、かつ連続的に培養液中に供給されることがないばかりか、溶菌した多数の細胞から核酸と相互作用する物質が多量に流出するため、これらが形質転換を阻害して効率を低下させてしまう。核酸と相互作用する物質とは、例えば、DNase等の核酸分解酵素、DNAヘリカーゼ、DNA結合蛋白質、金属イオン等である。
このような性質を利用して、目的DNAを含むドナー細胞の一部が溶菌し、かつレシピエント細胞がコンピテントな状態で維持される条件下で混合培養が行われる。各細胞をこのような状態に制御可能な条件であれば、細胞のどのような性質を用いるものでもよい。その性質としては、例えば、温度感受性、pH感受性、塩濃度(浸透圧)感受性、炭素源や重金属のような栄養素要求性等が挙げられる。
具体的には、例えば、温度感受性を利用する場合には、培養温度を、目的DNAを含むドナー細胞の一部が溶菌し、かつレシピエント細胞がコンピテントな状態で維持される温度に設定すればよい。pH感受性、塩濃度(浸透圧)感受性、炭素源や重金属のような栄養素要求性等についても、それぞれの性質に応じて、目的DNAを含むドナー細胞の一部が溶菌し、かつレシピエント細胞がコンピテントな状態で維持されるような条件に液体培地組成等を調整すればよい。なお、このとき、培養温度や液体培地組成等は、培養液中に流出した目的DNAが安定的に維持される範囲内であることが好ましい。
より具体的には、例えば、温度感受性を利用する場合には、例えば、温度感受性の溶原性プロファージの性質を利用する方法等が挙げられる。
溶原性ファージは、大腸菌等の細菌に感染する性質を持ち、感染したファージの一部が細菌ゲノムの導入部位に組み込まれて、溶原性プロファージになり安定化し、該細菌はファージ保持菌(溶原菌)となる。溶原化したファージを何らかの誘因により誘発させると、該溶原菌は溶菌して大量の子孫ファージを生成し、死滅する。すなわち、このような溶原性プロファージの性質を利用すれば、任意の時点で溶菌を誘発することができる。
温度感受性の溶原性ファージとしては、例えば、λcI857等が挙げられる。λcI857は、ラムダファージの誘発に必要なcI repressor遺伝子に変異が導入された変異ファージである(Young R.A. and Davis R.W., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 80, 1194-1198 (1983))。この変異ファージλcI857が溶原化した大腸菌は、cI repressor遺伝子の遺伝子産物であるcI repressor蛋白質が安定な30℃では、野生型のラムダファージ溶原菌と何ら変わりはない。しかし、この変異cI repressor蛋白質は高温になると活性を失うので、該溶原菌を高温(42℃)下で培養すると、変異ファージが誘発されて大量の子孫ファージを生成し、大腸菌が死滅する。一方、この中間の温度では、cI repressor蛋白質が不安定ではあるが一部活性を保持して、一部の菌だけが溶菌するという中間の状態になる。すなわち、この変異ファージλcI857が溶原化した大腸菌は、cI repressor蛋白質が安定な30℃と、失活する42℃との中間の温度では、一部の菌が溶菌して子孫ファージを放出しながらも、残りの大部分の菌は溶原菌のままで増殖を続ける状態になっている。このような状態を維持できる温度で前記混合培養を行えば、本発明の方法を行うことができる。
このようなファージを用いる方法の場合は、プロファージが溶原化している溶原菌に目的DNAを導入してこれをドナー細胞としてもよいし、目的DNAを予め含む細胞にファージを感染させ、溶原化したものをドナー細胞としてもよい。このようなファージは、用いるドナー細胞に感染可能なものの中から適宜選択すればよい。
また、例えば、温度感受性に限らず、各ドナー細胞に特異的に感染し得る各種のファージを利用することもできる。例えば、感染させるファージの量、感染させるタイミング等の条件を制御することによって、一部のドナー細胞が溶菌し、かつレシピエント細胞がコンピテントな状態で維持される条件を選択できるものであれば用い得る。感染させるファージの量や、感染させるタイミング等は、用いるファージの感染力、溶原化の有無等の性質を鑑みて決定すればよい。
これらの各性質を利用する場合において、好ましい条件の範囲は、例えば、実際にドナー細胞とレシピエント細胞とを混合培養して形質転換を生じることを確認する方法、形質転換の効率を確認する方法、培養液中に流出したプラスミドを直接確認する方法等により決定すればよい。
例えば、前述した、溶原性プロファージの性質を利用する方法を用いて条件を決定する場合には、溶原性プロファージを含む溶原菌に目的DNAとしてプラスミドDNA等を導入したものをドナー細胞とし、適当なレシピエント細胞を選択して、これらを混合培養する。このとき、培養温度のみを変えて複数サンプルの培養を同時に行い、最も多くの形質転換体が得られた温度を選択すればよい。形質転換体が得られたことの確認は、例えば、培養後の培養液を必要に応じて濃縮し、適当な選択的固体培地等にまいて、コロニー形成の有無又は数を観察すればよい。
例えば、前記λcI857が溶原化している溶原菌をドナー細胞とし、レシピエント細胞として枯草菌を用いた場合には、培養温度は35〜40℃、好ましくは36〜40℃、より好ましくは37〜40℃、特に好ましくは37℃である。
また、混合培養を行う場合には、ドナー細胞及びレシピエント細胞は、いずれも十分な細胞数まで予め培養し、その培養液を用いて混合することが好ましい。十分な細胞数とは、細胞の種類により異なるが、例えば、各細胞ごとに増殖曲線を作成し、確認すればよい。
このように十分な細胞数になるまで培養された培養液を混合して、混合培養を行う場合のドナー細胞とレシピエント細胞の混合比率は、例えば、レシピエント細胞培養液に対してドナー細胞培養液を1〜2倍用いればよい。
また、混合培養は、予め十分な細胞数まで培養しておいたドナー細胞とレシピエント細胞の培養液を混合し、これを、ドナー細胞の一部が溶菌し、かつレシピエント細胞がコンピテントな状態で維持される条件下で培養することにより行ってもよいが、予め十分な細胞数までドナー細胞とレシピエント細胞とを培養した後に、ドナー細胞についてはこの一部が溶菌する条件下でさらに培養を行って、これをレシピエント細胞と混合し、培養することが好ましい。
さらに、混合培養を行うときには、溶菌したドナー細胞から目的DNAとともに流出してくる核酸と相互作用する物質が形質転換を阻害する可能性があるので、これらを阻害する物質を添加しておくこともできる。例えば、核酸分解酵素等の阻害剤を添加すれば、目的DNAの分解を抑制し、安定性を向上させるので、形質転換の効率を上げることができる。具体的には、例えば、核酸分解酵素の一つであるDNase阻害剤であるオーリントリカルボン酸等が用いられる。
(3)レシピエント細胞
本発明の方法において用いられるレシピエント細胞は、上記(1)において詳述したドナー細胞と共にある特定の条件下で混合培養されるときに、コンピテントな状態が維持されるものであればいかなるものでも用い得る。ここで、本明細書においては、細胞が外部のDNAを取り込むことができる状態になっていることを「コンピテントな状態」という。
本発明において用いられるレシピエント細胞としては、通常の培養を行うことにより培養液中に存在する目的DNAを自ら取り込む能力を有する細胞が好ましく用いられる。このような能力を有する細胞としては、例えば、Bacillus属細菌、高度好熱菌等が挙げられる。通常、大腸菌等の細胞では、表面電化や細胞壁の状態を調整することによってコンピテントな状態に調整する工程が必要であるが、これらの細胞は予めDNAを取り込む性質を有しているので、本発明のレシピエント細胞として好適である。これらの中でも、本発明においてはBacillus属細菌が好ましく、さらにその中でも、枯草菌(Bacillus subtilis)が特に好ましく用いられる。枯草菌(Bacillus subtilis)はバチルス属に分類される土壌細菌であり、ゲノム工学の各種操作を簡便に行える点で有用である。
本発明において用いられるレシピエント細胞は、前記のとおり、上記(1)において詳述したドナー細胞を、その一部のみが溶菌する条件下で培養されるときに、同じ条件下でコンピテントな状態が維持される細胞であればよい。該レシピエント細胞のコンピテントな状態が維持されていることは、例えば、公知の手法によりコンピテントな状態に調製したレシピエント細胞を用いて上記(2)に詳述した混合培養を行った場合に、目的の形質転換を生じたこと(コロニーを形成したこと)等で確認することができる。
(4)本発明の形質転換方法
本発明の形質転換方法を、λcI857が溶原化している溶原菌に目的DNAを導入してこれをドナー細胞として用い、レシピエント細胞として枯草菌を用いた場合を例に挙げて、さらに具体的に詳述する。
λcI857は、前記のとおり、ラムダファージの誘発に必要なcI repressor遺伝子に変異が導入された変異ファージである。この変異ファージλcI857が溶原化した大腸菌は、cI repressor遺伝子の遺伝子産物であるcI repressor蛋白質が安定な30℃では、野生型のラムダ溶原菌と何ら変わりはない。しかし、この変異cI repressor蛋白質は高温になると活性を失うので、該溶原菌を高温(42℃)下で培養すると、変異ファージが誘発されて大量の子孫ファージを生成し、大腸菌が死滅する。一方、この中間の温度である37℃付近では、cI repressor蛋白質が不安定ではあるが一部活性を保持して、一部の菌だけが溶菌し、残る大部分の菌は通常どおり溶原菌のまま増殖する。
このλcI857が溶原化している溶原菌に任意の目的DNAを導入し、ドナー細胞とする。これを公知の一般的方法に従って30℃で液体培養し、十分に細胞数が増えたところで、培養温度を37℃に上昇させる。この操作によって、該溶原菌の一部は溶菌し、培養液中に先に導入した目的DNAが流出する。ただし、残る大部分の菌は通常どおり溶原菌のまま増殖するので、目的DNAは適度に、継続的に培養液中に供給されることになる。
一方、レシピエント細胞としては、枯草菌を用いる。培養によってコンピテントな状態に誘導され得る枯草菌は、培養液中に存在するDNAを自ら取り込む能力を有する。枯草菌は、ある特定の培養液で培養を行い、十分に細胞数が増えるまで培養を行うと、コンピテントな状態に誘導される。培養液としては、例えば、TF・I(1.4% K2HPO4, 0.6% KH2PO4,0.2% (NH4)2SO4, 0.1% Na-Citrate, 0.5% glucose, 0.02% MgSO4・7H2O, 0.05mg/ml Trp, 0.05mg/ml Arg, 0.05mg/ml Leu, 0.05mg/ml Thr)が用いられる。
次に、ドナー細胞培養液とレシピエント細胞培養液をそれぞれ分取し、これらを混合する。混合比率は、例えば、1:1である。このドナー細胞培養液とレシピエント細胞培養液を混合した培養液を、引き続き37℃で培養する。このとき、新たな液体培地等を加えてもよい。
次いで、培養後の培養液を遠心分離し、形質転換体を含む沈殿を得る。この沈殿を新しい液体培地に懸濁し、この懸濁液を、適当なプレート(固体培地)にまく。固体培地には、適当な抗生物質を加え、形質転換体を薬剤耐性により選択できるようにしておくことが好ましい。プレートを一晩培養し、コロニー形成の有無及び数を観察する。
また、液体培地に代わって、通常の固体培地よりも薄い濃度の寒天(アガー)を添加してゲル状に調製されたトップアガーを用いることもできる。トップアガーを用いると、固体培地上に形質転換体を含む培地の層を形成させることができ、液体培地を用いる場合よりも多くの形質転換体をまくことができるので、より多くのコロニーを効率よく得ることができる。このような公知の手法も、必要に応じて応用することができる。
以上のような工程の結果、コロニーが形成した場合に、形質転換が生じたことが確認される。コロニー数が多いほど形質転換の効率は高いことがわかる。
(5)本発明の形質転換方法の利用
ドナー細胞に含まれる目的のDNAを、DNA操作等が可能であったり、また保存安定性に優れている等の性質を有する第2の宿主(レシピエント細胞)に移す(導入する)ことは、遺伝子工学上、非常に重要である。DNA操作が簡便に行える細胞に導入できれば、遺伝子改変や遺伝子集積等を簡便に行うことができる。
例えば、レシピエント細胞として枯草菌を用いる場合、該菌に目的DNAが導入されると、枯草菌ゲノムベクターを用いるゲノム工学のシステムを適用することができ(板谷光泰、「自然に学んだ枯草菌ゲノムベクター」、バイオサイエンスとインダストリー、vol. 57,NO. 8, 540-543 (1999))、多方面への応用展開が可能である。本発明は、その最初の工程を簡略化、迅速化するものであって、また、従来扱うのが困難であった大きなDNAも取り扱いやすくなるという大きな効果を有する。また、操作としては通常どおりの培養を行うのみという簡便なものであるので、大量のサンプルの調製等も簡単である。
培養容器やスケールについても、目的に合わせて任意に選択でき、通常の培養操作が可能なものであればいかなる容器、装置であっても用いることができる。例えば、大量のサンプルの調製を行う場合には、通常のサンプルチューブ等の容器を多数用いて行ってもよいし、多数のウェルを有するマルチウェルプレート等を用いることにより、さらに簡便に多数のサンプルを取り扱うことができる。このようにして、容易にハイスループット化を実現することができる。
枯草菌は、そのゲノム中で外来の巨大DNAを取扱うことができるので、例えば、予め枯草菌中に大腸菌プラスミドであるBACのベクター配列を導入した株をレシピエント細胞として使用し、BACクローンDNAを有するドナー細胞と混合培養を行えば、形質転換により枯草菌のゲノム中にBACクローン中に保持されていたDNA断片(インサート)が導入される。BACは、前記のとおりヒトゲノムのDNA断片等の各種ライブラリーが入手可能なベクターであるので、枯草菌中に複数のBACクローンに保持されていたDNA断片を導入し、これらを枯草菌中で改変したり、集積したりすることにより、有用遺伝子を再構成したり、改変したりすることができる。従来はBACクローンDNAに含まれるような大きなDNAは、これを回収・精製することが非常に困難であったため、宿主を変換することも困難であったが、本法を用いれば、これらのDNA断片の枯草菌への導入をハイスループット化することができる。
このような手法を利用することにより、有用な形質を付加した微生物株の育種や、微生物の生産する物質の改変、遺伝子改変動物の作製に用いるDNAの調製等、産業上有用なDNA操作を簡便に行うことができる。
かくして用いられるDNAの具体例として、例えば、独自のゲノムDNAを有することが知られているミトコンドリアゲノムDNA等が挙げられる。例えば、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のミトコンドリアゲノムは、その全配列が解析され(Klein M., et al., The Plant Journal, 6, 447-455 (1994)、Unseld M., et al., Nature Genetics, 15, 57-61 (1997))、その部分断片をインサートとして含む各種のBACクローンやライブラリーが報告されている(例えば、Mozo, T., et al., Molecular and General Genetics, 258, 562-570 (1998))。このようなBACライブラリーを用いれば、シロイヌナズナのミトコンドリアゲノムを含む枯草菌ライブラリーの構築等も簡便に行うことができる。枯草菌ゲノム中ではDNA操作が簡便に行えるので、該枯草菌ライブラリーを利用して複数の前記BACクローン由来のシロイヌナズナのミトコンドリアゲノムの部分断片を集積させたり、改変することにより、任意の大きさや機能のDNAを再構成することができる。
また、枯草菌は胞子を形成するので、枯草菌に導入したDNAは胞子の状態で長期保存できる。胞子は乾燥、高温、放射線等に抵抗性を示すので、凍結、凍結乾燥、穿孔法等の特別な保存法や施設は不要である。すなわち、現在大腸菌等を宿主としてクローン化されているDNAを本法により枯草菌に導入すれば、遺伝子資源としてより安定的に保存することができる。例えば、多種類のDNAを含む微生物細胞より成るライブラリー等は、用いた細胞によっては維持管理が煩雑となる場合があるが、例えば、前記したような枯草菌ライブラリーでは、構築後の維持・保存を非常に簡便かつ安定的に行うことができる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
また、DNA操作等に関する一般的な技術については、特に記載のない限り、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed.(Sambrook, J. et al., 1989)等に記載の公知の手法に従って行うことができる。
実験材料
(1)菌株の調製
ラムダファージは大腸菌に感染する性質を持ち、感染したラムダファージの一部が大腸菌ゲノムの導入部位に組み込まれて、溶原性プロファージになり安定化し、大腸菌はファージ保持菌(溶原菌)となる。溶原化したラムダファージを何らかの誘因により誘発させると、該溶原菌は溶菌して大量の子孫ファージを生成して死滅する(「バクテリアとファージの遺伝学」、Edward A. Birge著、シュプリンガー・フェアラーク東京(株)発行、2002年)。
λcI857は、ラムダファージの誘発に必要なcI repressor遺伝子に変異が導入された変異ファージである(Young R.A. and Davis R.W., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 80, 1194-1198 (1983))。この変異ファージλcI857が溶原化した大腸菌は、cI repressor遺伝子の遺伝子産物であるcI repressor蛋白質が安定な30℃では、野生型のラムダ溶原菌と何ら変わりはない。しかし、この変異cI repressor蛋白質は高温になると活性を失うので、該溶原菌を高温(42℃)下で培養すると、変異ファージが誘発されて大量の子孫ファージを生成し、大腸菌は死滅する。一方、この中間の温度では、cI repressor蛋白質が不安定ではあるが一部活性を保持して、一部の菌だけが溶菌すると考えられた。すなわち、この変異ファージλcI857が溶原化した大腸菌は、cI repressor蛋白質が安定な30℃と、失活する42℃との中間の温度では、一部の菌が溶菌して子孫ファージを放出しながらも、残りの大多数の菌は溶原菌のままで増殖を続ける状態だと考えられた。
そこで、この変異ファージλcI857が溶原化した大腸菌を本発明の形質転換方法の実験に用いることとした。
ドナー細胞となる大腸菌としては、LE392株(F-supE44 supF58 lacY1 or del(lacIZY)6 trpR55galK2 galT22 metB1hsdR14(rK- mK+))を用いた(Itaya M. and Crouch R.T., Mol.Gen.Genet., 227, 433-437 (1991))。このLE392株にλcI857(Young R.A. and DavisR.W., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 80, 1194-1198 (1983); Takara社製λgt11(cI857)を購入)を当該論文に記載の手法に従って溶原化させ、MIC128株を得た。MIC128株は、30℃ではLE392株と変わらない性質を有しているが、42℃では溶菌してしまうためにコロニーを形成しない。
このMIC128株に、pGETSGFPuvプラスミド(Ohashi Y. et al., FEMS Microbiol.Lett., 221(1), 125-130 (2003))を導入し、Gfp128株を得た。pGETSGFPuvプラスミドは、大腸菌、枯草菌の両方で複製可能なシャトルプラスミドベクターである。導入は、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed.(Sambrook, J. et al., 1989)等に記載の一般的手法により行い、形質転換体はアンピシリン(50μg/ml)に対する薬剤耐性で選択した。なお、同プラスミドが導入された枯草菌の形質転換体はテトラサイクリン (10μg/ml) に対する耐性で選択できる。
pGETSGFPuvプラスミドにはgfp遺伝子が組み込まれているので、通常、該プラスミドが導入された形質転換体は紫外線照射により緑色の蛍光を発する。しかし、このプラスミドに含まれるgfp遺伝子のプロモーター(Prプロモーター)はcI repressor蛋白質により制御されているが、MIC128株に由来する大腸菌Gfp128株(pGETSGFPuv/MIC128)は変異の入ったcI repressor遺伝子(cI857)を持つので、30℃ではgfp遺伝子の転写が抑えられ、蛍光を発しない。
一方、レシピエント細胞となる枯草菌としては、168trpC2株を用いた。該枯草菌株はcI repressor遺伝子を持たないので、この株にpGETSGFPuvが導入されるとgfp遺伝子のPrプロモーターが常に働いている状態となり、gfp蛋白質が発現して、コロニーは紫外線照射により緑色の蛍光を発する。従って、形質転換によりpGETSGFPuvが枯草菌に導入されれば、コロニーがテトラサイクリン耐性を示すと同時に、紫外線照射により緑色の蛍光を発することを指標にして確認することができる。
上記枯草菌168trpC2株は、Bacillus Genetic Stock Center(BGSC、Ohaio, USA)から入手した。生化学的、遺伝学的に解析がなされた実験室株であり、遺伝子工学的な取り扱いも柔軟に行える株である。
(2)試薬
ネオマイシン、クロラムフェニコール、スペクチノマイシン、テトラサイクリン(Tc)、アンピシリン(Amp)等の抗生物質は、シグマ社から購入した。
EcoRI、BamHI、HindIII等の制限酵素は、東洋紡社から購入した。
他のすべての試薬は、シグマ社製又は和光純薬社製のものを使用した。
大腸菌Gfp128株と枯草菌168trpC2株の混合培養
(1)各菌株の培養
<枯草菌168trpC2株>
LB(Luria-Bertani)プレート上に形成した新鮮なコロニーを爪楊枝でつつき、15mlのFalcon tubeに分注したLB2mlに植菌し、37℃で17時間回転培養した。培養後、枯草菌168trpC2株の終夜培養液をvortexでよく攪拌した後に10μl分取し、新鮮なTF・I 2ml+2%カザミノ酸160μlに植菌後、37℃で培養を開始した(この時を「培養開始0分」とする)。TF・Iの組成は、1.4% K2HPO4, 0.6% KH2PO4, 0.2% (NH4)2SO4, 0.1% Na-Citrate, 0.5% glucose, 0.02% MgSO4・7H2O, 0.05mg/ml Trp, 0.05mg/ml Arg, 0.05mg/ml Leu, 0.05mg/ml Thr である。
<大腸菌Gfp128株>
LB+Ampプレート上に形成した新鮮なコロニーを爪楊枝でつつき、15mlのFalcon tubeに分注したLB+Amp 2mlに植菌し、30℃で17時間回転培養した。培養後、大腸菌Gfp128株の終夜培養液をvortexでよく攪拌した後に10μl分取し、新鮮なLB+Amp 2mlに植菌後、30℃で回転培養を開始した(この時を「培養開始0分」とする)。
(2)混合培養
枯草菌168trpC2株は、通常の形質転換方法に用いられた際に、終夜培養液から植菌して37℃で培養開始後、360〜420分で最も良く形質転換体が得られることがわかっている。そこで、この時期に大腸菌Gfp128株が一部溶菌し、菌体から溶出してくるプラスミド量が最大になるように条件を検討することとした。
検討は、以下の手順で行った。
a)上記(1)で培養をしておいた大腸菌Gfp128株については、培養開始から300分後、培養温度を30℃から37℃に上昇させ、さらに60分間ないし120分間培養した。この間も、枯草菌168trpC2株は37℃で培養を続けた。
b)両菌株を培養開始してから、360分後及び420分後に、それぞれ以下のI及びIIの組成で菌液を分取し、これらを混合して混合培養に用いた。
I .168trpC2株:Gfp128株=1ml:1ml
II.168trpC2株=1ml (大腸菌Gfp128株を混合しないコントロール)
c)上記bで調製したIは、5種類の設定温度(30、35、37、40、42℃)で1時間混合培養した。IIについては、コントロールとして37℃で培養を行った。
d)Iを培養した培養液からは各1ml、IIを培養した培養液からは0.5mlをそれぞれマイクロチューブ (1.5ml)に分取した。これらを、16000rpmで3分間遠心分離し、得られた沈殿物にLB液体培地を150μlずつ加えた。それぞれLB+Tcプレートにまき、30℃インキュベーター中で一晩培養した。
e)培養後、形成したコロニー数を数えた。結果は、混合培養した培養液1mlあたりの形質転換体数に換算し、図1に示した。
その結果、上記I由来のプレートでは、培養後360分及び420分のいずれの条件において分取した培養液を用いても、再現性よく緑の蛍光を発するテトラサイクリン耐性の枯草菌のコロニーを得ることができた(図1)。一方、上記II由来のプレートでは、コロニーは得られなかった。
また、培養温度については、得られた形質転換体の個数(コロニー数)から、37℃が最も好ましいことがわかった(図1)。37℃は、大腸菌Gfp128株の一部のみが溶菌し、残りの多くの細胞は変異ファージが溶原化した溶原菌のまま増殖していると予想された温度である。30℃及び35℃でも形質転換体は得られたが、数が少なかった。これは、最初に上記(a)の工程において37℃で60分間ないし120分間培養していたときに一部溶菌した大腸菌から流出したプラスミドが導入されて若干の形質転換体が得られたものの、混合培養を該大腸菌の一部が溶菌し得る適切な温度で行わなかったために、プラスミドDNAが連続的に供給されず形質転換の効率が低下したと考えられた。一方、42℃では、該大腸菌のほとんどが溶菌してしまう温度であるため、プラスミドDNAが適度に、かつ連続的に供給されず、また、DNase等による分解も受けるために、形質転換体が得られないと考えられた。
これらの結果から、上記Iを加えた培養液では、枯草菌が形質転換され、大腸菌Gfp128株由来のgfp蛋白質が発現していることがわかった。また、ドナー細胞として用いる大腸菌Gfp128株の一部のみが溶菌している温度で混合培養を行うと、最も形質転換の効率がよいことがわかった。
形質転換体の解析
上記実施例2において形成されたコロニーが、pGETSGFPuvが枯草菌168trpC2株に導入された形質転換体であることを確かめるために、形質転換体からプラスミドを精製して確認することとした。
まず、上記実施例2において得られたコロニーから任意に12個を選び、前記した方法と同様にしてこれらをそれぞれ液体培養し、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed.(Sambrook, J. et al., 1989)に記載の一般的手法によりプラスミドを精製した。次に、得られたプラスミドを制限酵素EcoRV、HindIIIで消化して切断し、その結果得られるDNA断片を解析した。
その結果、調べた12個のコロニーから精製されたプラスミドは、得られたDNA断片から、全てpGETSGFPuv由来と確認された。このことは、枯草菌への移動過程でプラスミドに欠失等の構造変化は生じず、大腸菌Gfp128株由来のものがそのまま導入されたことを示している。
培養液中におけるプラスミドの確認
枯草菌168trpC2株に導入されたプラスミドpGETSGFPuvが、大腸菌Gfp128株の溶菌によっていったん培養液中に放出されたものであることを確認するために、上記実施例2と同じ大腸菌Gfp128株の一部のみが溶菌する条件下で混合培養を行う際に、培養液中にDNase Iを添加する実験を行った。培養液中にDNase Iを添加することで、培養液中に実際にプラスミドが放出されていればこれが分解されることになり、その結果、該プラスミドの枯草菌168trpC2株への導入が阻害されるはずである。
まず、大腸菌Gfp128株を上記実施例2と同様にして培養し、培養開始後300分後に、培養温度を30℃から37℃に上昇させて大腸菌Gfp128株の一部を溶菌させた。次に、この培養液から4mlを15ml Falcon tubeに分取し、これに136μlのDNase I(100μg/ml:シグマ社製)を添加した。また、別のtubeにDNase Iを添加しないコントロールも調製した。次に、調製された各培養液をそれぞれ枯草菌168trpC2株と1:1で混合し、上記実施例2と同様に37℃で培養した。培養後、同様にプレートにまいてコロニーの形成を観察した。方法は全て上記実施例2と同様にして行った。
その結果、DNase Iを加えなかった大腸菌Gfp128株培養液と枯草菌168trpC2株との混合培養では、360分培養後の培養液を用いた場合には75個、420分培養後の培養液を用いた場合には237個の枯草菌形質転換体(コロニー)が得られた。これに対して、DNase Iを加えた大腸菌Gfp128株培養液と枯草菌168trpC2株との混合培養では、形質転換体が全く得られなかった。従って、大腸菌由来のプラスミドDNAは確かに培地中に存在し、これが枯草菌168trpC2株に導入されることが示された。
大腸菌Gfp128株培養液の上清からのプラスミドの精製
上記実施例2及び4において行った大腸菌Gfp128株の一部が溶菌する条件下での培養において、培養液中に確かにプラスミドが存在することをさらに確認するため、培養液の上清から直接プラスミドの精製を試みた。
LB+Ampプレート上に形成した大腸菌Gfp128株の新鮮なコロニーを爪楊枝でつつき、15mlのFalcon tubeに分注したLB+Amp 2mlに植菌し、30℃で17時間回転培養した。培養後、vortexでよく攪拌した大腸菌Gfp128株の終夜培養液から50μlを分取し、LB+Amp 10mlに加えて、30℃で回転培養を開始した。
培養を開始してから240分後に培養温度を37℃に上昇させ、さらに培養を続けた。300分後及び420分後の2点で、以下の操作を行った。
まず、各時点において培養液を2ml分取し、1mlずつマイクロチューブ (1.5ml) に分注した。これらを遠心分離 (16000rpm、3分間) し、得られた上清を500μlずつ新しいマイクロチューブ (1.5ml) に移した。これに、ブタノール500μlを加えて混合した後、遠心分離 (16000rpm、5分間) を行った。分離後、下層を新しいマイクロチューブ (1.5ml) に移した。このブタノールによる抽出操作を全量が200μlになるまで繰り返した(ブタノール濃縮)。
得られた溶液を1本のマイクロチューブ (1.5ml) に集め、これにフェノール・クロロホルム混合液を400μl加えて混合した後、遠心分離 (16000rpm、5分間) した。分離後、上層を新しいマイクロチューブ (1.5ml) に移し、Sol III(Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed.(Sambrook, J. et al., 1989))を40μl、100%エタノールを1ml加え、−80℃で10分間静置した。静置後、遠心分離 (16000rpm、20分間) した。
次に、遠心分離によって得られた沈殿物に、70%エタノール 800μl加え、さらに遠心分離 (16000rpm、5分間) を行った。分離後、エタノールを除去し、沈殿にTE(10mM Tris-HCl(pH8.0), 1mM EDTA)を50μl加えて溶解した。得られたDNA溶液を、枯草菌のコンピテント細胞に一般的な方法で形質転換した(Spizizen J., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 44, 1072-1078 (1958))。
その結果、培養開始後300分及び420分の時点で得られたいずれの培養液を用いた場合でも、2個ずつの形質転換体(コロニー)が得られた。
この結果より、上記実施例4で行ったDNase Iを用いた実験から強く示唆された、培養液中のプラスミドの存在が確認された。すなわち、上記実施例2で行った大腸菌Gfp128株培養液と枯草菌168trpC2株との混合培養では、大腸菌Gfp128株の一部が溶菌する条件下で培養を行うことによってプラスミドpGETSGFPuvが培養液中に流出し、これが枯草菌168trpC2株に取り込まれて、形質転換が達成されたことが確認された。これにより、ある特定の条件を選択することにより、2種の宿主を混合して培養するだけで形質転換を行うことができるという非常に簡便な新規の形質転換方法が確立された。
枯草菌ゲノムへのプラスミドDNAの導入
(1)ドナー細胞
混合培養によりドナー細胞から移行したDNAがレシピエント細胞のゲノム中に組み込まれるかどうかを検証するため、gfp遺伝子を有する実施例2とは別のプラスミドpSHINE2121を使用した。
該プラスミドはpBR322をもとに構築されたプラスミドであり、その構造は、Ohashi, Y. et al., FEMS Microbiology Letters, 221,125-130(2003)に開示されている。該プラスミドは大腸菌でのみ複製可能な領域を有し、枯草菌ではプラスミドとして維持されない(すなわち、シャトルベクターではない)。また、gfp遺伝子を有しており、実施例2と同様に該プラスミドを有する枯草菌が紫外線照射で緑色の蛍光を発することにより形質転換を確認できる。選択マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子を有する。
該プラスミドを、前記実施例1で用いた大腸菌MIC128株に形質転換によって導入し、これをドナー細胞(大腸菌MEC5754株)として使用した。これにより該大腸菌株は前記大腸菌Gfp128株と同様に30℃で通常増殖し、37℃で部分溶菌、42℃で完全溶菌する性質を有する。
(2)レシピエント細胞
ドナー細胞に含まれるプラスミドDNAが組み込まれるゲノムを有するレシピエント細胞として、前記枯草菌168trpC2株由来のBEST9279株を使用した。
BEST9279株は、特開2004-180679号公報に開示されているBEST310株をもとに構築されている。BEST310株はゲノム中のproB領域にpBR322配列、BACベクター配列、選択マーカーのスペクチノマイシン耐性遺伝子及びcI repressor遺伝子を有しており、BEST9279株は、BEST310株のゲノム中のleuB領域にもう一つの選択マーカーとしてテトラサイクリン耐性遺伝子を組み込んだゲノム構造を有している。従って、BEST9279株は、テトラサイクリン耐性、スペクチノマイシン耐性、クロラムフェニコール感受性を示す。
(3)混合培養によるプラスミドDNAのレシピエント細胞のゲノムへの導入
大腸菌MEC5754株(ドナー細胞)と枯草菌BEST9279株(レシピエント細胞)の混合培養は、前記実施例2と同様の手法で行った。
すなわち、大腸菌MEC5754株については、アンピシリン50μg/mlを含むLB培地による終夜培養液から同組成の新たな培養液に一部を植菌し、30℃で300分培養してから培養温度を37℃に上昇させ、60分ないし120分間培養した後、枯草菌BEST9279株との混合培養を開始した。一方、枯草菌BEST9279株は、常法に従いTF・I 2ml + 2%カザミノ酸160μlの培地に植菌後、大腸菌MEC5754株と混合培養を開始するまで360分ないし420分の間37℃で培養を行ったものを用いた。混合比は、
大腸菌MEC5754株:枯草菌BEST9279株=1:1
で行い、混合培養開始からそれぞれ1時間後に遠心分離により集菌し、枯草菌の形質転換体を得るためのテトラサイクリン(10μg/ml)とクロラムフェニコール(5μg/ml)を含むLBプレートにまき、30℃インキュベーター中で一晩培養した。
ドナー細胞に含まれるプラスミドDNA pSHINE2121は、枯草菌中で複製可能な領域を有していないため、枯草菌BEST9279株に取り込まれた後、pBR322配列における相同組み換えにより枯草菌ゲノム中へ組み込まれない限り、枯草菌中で安定に維持されることはない。また、該プラスミドDNAが枯草菌BEST9279株のゲノム中に組み込まれた形質転換体は新たにクロラムフェニコール耐性遺伝子を有するため、テトラサイクリン耐性かつクロラムフェニコール耐性のコロニーを形成することを指標に選択可能である。
混合培養の結果、MEC5754株を60分間37℃にて培養してから用いた方からは16個のコロニーが得られ、120分間培養してから用いた方からは188個のコロニーが得られた。これらのコロニーは全て紫外線照射により緑色の蛍光を発し、プラスミドDNA pSHINE2121がgfp遺伝子ともども枯草菌BEST9279株のゲノム中に組み込まれたことが確認された。
また、ドナーDNAの移行について上記実施例4と同様にDNaseIによる阻害実験も行ったところ、これによって完全に阻害されることも示された。
以上の結果から、ドナー細胞(大腸菌)が保持するプラスミドが混合培養によってレシピエント細胞(枯草菌)へ移行され、本法に用いるプラスミドは前記実施例1〜5で用いたようなシャトルベクターに限られるものではないことが確認された。また、枯草菌ゲノム中の配列と相同組換えを生じるように構成すれば、枯草菌ゲノム中へ導入することも可能であることが実証された。
本発明の方法による巨大DNAの導入
(1)ドナー細胞
100kb以上という大きなサイズを持つ目的DNAとして、全長約116kbのBACクローン(pGETS1021)を用いた。該BACクローンは、IGF BACライブラリー(Mozo T., et al., Molecular and General Genetics, 258, 562-570 (1998))中のBACクローンF1O22をもとに構築された。該BACクローンは、インサートDNAとしてF1O22由来の101kbのシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のミトコンドリアゲノムを有し、ベクター領域にはF1O22由来の大腸菌で複製可能な領域と選択マーカーであるカナマイシン耐性遺伝子、さらに、新たに枯草菌で複製可能な領域と枯草菌の選択マーカーであるテトラサイクリン耐性遺伝子を組み込んだ構造を有している。通常このような大きなサイズのDNAは、回収、精製するのが非常に困難であることが知られている。
該BACクローンを前記MIC128株にエレクトロポーレーションによって導入した大腸菌MEC5768株をドナー細胞として使用した。該大腸菌株は、前記BACクローンに由来するカナマイシン耐性、テトラサイクリン耐性を示し、また実施例2及び6で用いたドナー細胞と同様に、30℃では通常増殖するが、37℃で部分溶菌、42℃で完全溶菌する性質を有している。
(2)レシピエント細胞
レシピエント細胞としては、枯草菌168trpC2株由来のBEST6606株を使用した。該枯草菌株は、前記実施例6で用いたBEST9279株と同様に、ゲノム中のproB領域にBACベクター配列と選択マーカーのスペクチノマイシン耐性遺伝子及びcI repressor遺伝子を有するBEST310株をもとに構築され、同ゲノム中のleuB領域にさらに別の選択マーカーとしてクロラムフェニコール耐性遺伝子が組み込まれたゲノム構造を有している。従って、BEST6606株は、スペクチノマイシン耐性、クロラムフェニコール耐性、テトラサイクリン感受性を示す。
(3)混合培養によるBACクローンのレシピエント細胞への導入
大腸菌MEC5768株(ドナー細胞)と枯草菌BEST6606株(レシピエント細胞)との混合培養は、前記実施例2及び6と同様の手法で行った。
大腸菌MEC5768株については、カナマイシン25μg/mlを含むLB培地による終夜培養液から、同組成の新たな培養液に一部を植菌して30℃で300分培養し、培養温度を37℃に上昇させてさらに60分ないし120分間培養した後、枯草菌BEST6606株との混合培養を開始した。一方、枯草菌BEST6606株も、TF・I 2ml + 2%カザミノ酸160μlの培地に植菌後、大腸菌MEC5768株と混合培養を開始するまで360分ないし420分間、37℃で培養を行った。混合比は、
大腸菌MEC5768株:枯草菌BEST6606株=1:1
で行い、混合培養開始1時間後にそれぞれ遠心分離により集菌し、枯草菌の形質転換体を得るため、テトラサイクリン(10μg/ml)とクロラムフェニコール(5μg/ml)を含むLBプレートにまき、30℃インキュベーター中で一晩培養した。
混合培養によって得られた形質転換体は、枯草菌ゲノム中のクロラムフェニコール耐性遺伝子に加え、BACクローン中に含まれるテトラサイクリン耐性遺伝子を有することから、クロラムフェニコール及びテトラサイクリンを含むプレートを用いて選択することが可能である。MEC5768株とBEST6606株の混合培養の結果、MEC5768株を37℃にて60分間培養してから用いた方からは54個のコロニーが得られ、120分間培養してから用いた方からは49個のコロニーが得られた。混合培養によって移行したBACクローンは、枯草菌でも複製可能な領域を持つことから環状DNAとして存在していると考えられ、これを裏付けるように、得られたコロニーはいずれもテトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性の他、スペクチノマイシン耐性、ネオマイシン感受性を示した。すなわち、枯草菌中のBACベクター配列との相同組換えにより、インサートDNAのみが枯草菌ゲノム中に導入されたのではなく、環状のBACクローンのままで存在していることが示された。
また、得られた形質転換体の中から無作為に抽出した6株について菌体内のDNAを精製し、パルスフィールド電気泳動によってDNAの構造を解析したところ、大腸菌MEC5768株に含まれていたBACクローンが形質転換体中で環状のBACクローンとして存在していることが確認された。
以上の結果から、本発明の混合培養によるドナー細胞からレシピエント細胞へのDNAの移行は、100kbを越える巨大なサイズのDNAであっても小さなサイズのDNAと同様に簡便に行えることが示された。該方法を繰り返せば、公知のBACクローンライブラリー等を利用し、このような大きなDNAを有する枯草菌ライブラリー等の構築を簡便に行うことができる。
(4)BACクローンのインサートDNAの枯草菌ゲノムへの導入
レシピエント細胞である枯草菌BEST6606株は、上記(2)に記載のとおり、BEST310株をもとにして構築されているため、ゲノム中のyvfc-yveP(3516.219kb-3522.452kb)の領域にPrプロモーターにより発現が制御されているネオマイシン耐性遺伝子(Pr-neo)を有している。該株では、通常状態ではcI repressor遺伝子を有しているためPrプロモーターによってネオマイシン耐性遺伝子の発現が抑制されており、形質転換体はスペクチノマイシン耐性、ネオマイシン感受性を示す。該形質転換体を抗生物質非存在下のLB培養液で一晩培養し、BACクローンのベクター領域と枯草菌ゲノム中に組み込まれているBACベクター配列との間で相同組み換えを生じさせると、BACベクター中のインサートDNAが枯草菌ゲノム中に導入された形質転換体が得られる。この形質転換体は、相同組換えによりcI repressorが失われてネオマイシン耐性を示し、また、スペクチノマイシン耐性遺伝子が失われることによりスペクチノマイシン感受性となる。
上記(3)において混合培養で得られたBACクローン(pGETS1021)を有する形質転換体を、抗生物質非存在下のLB培養液で一晩培養した後に10-2に希釈し、これをネオマイシンプレートにまいてさらに培養した。その結果、40個のネオマイシン耐性コロニーが得られ、これらはスペクチノマイシン感受性であることが示された。またこれらは全てテトラサイクリン感受性であったことから、枯草菌中でプラスミドとして存在していたBACクローンが枯草菌のゲノム中へ組み込まれた株であることが示唆された。
さらに、該コロニーの中から5株を選び、ゲノムDNAを精製し、ゲノム中にBACクローン由来のインサートDNAが組み込まれているかどうかをパルスフィールド電気泳動により確認したところ、いずれも101kbに相当するシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のミトコンドリアゲノム由来のバンドを確認することが出来た。
以上の結果により、混合培養によってドナー細胞からレシピエント細胞に取り込まれた巨大ドナーDNAは、予め相同組換えを生じるように構成しておくことにより、レシピエント細胞(枯草菌)のゲノムへも導入できることが示された。
本発明により、ドナー細胞中に含まれる目的DNAを、非常に簡便な操作によってレシピエント細胞に導入することのできる画期的な形質転換方法が提供される。
産業上重要な遺伝子を遺伝子組換え操作の可能な宿主に導入することができれば、有用な形質を付加した微生物株の育種や、微生物の生産する物質の改変等に広く利用することができる。その成果は基礎生物学的研究に限らず、医療、環境改善、病気診断、食品保存、犯罪捜査等、DNA産業の多くの分野におよぶものである。
例えば、第2の宿主(レシピエント細胞)として枯草菌を用いて、これに簡便に目的のDNAを導入することができれば、枯草菌ゲノムベクターを用いるゲノム工学システムを適用することができ(板谷光泰、「自然に学んだ枯草菌ゲノムベクター」、バイオサイエンスとインダストリー、vol. 57,NO. 8, 540-543 (1999))、さらに簡便に多方面への応用展開を行うことができる。本発明は、その最初の工程を簡略化、迅速化するものであって、また、従来扱うのが困難であった大きなDNAが取り扱いやすくなるという大きな効果をも有する。
本発明の方法を用いて、ドナー細胞である大腸菌Gfp128株と、レシピエント細胞である枯草菌168trpC2株を混合培養したときに得られる形質転換体数を示すグラフである。縦軸は形質転換体数、横軸は混合培養時の培養温度である。大腸菌Gfp128株及び枯草菌168trpC2株を予め360分培養してから混合培養を行った場合の結果を三角、420分培養してから混合培養を行った場合の結果を四角で示した。

Claims (8)

  1. 目的DNAを含むドナー細胞の一部が溶菌し、かつレシピエント細胞がコンピテントな状態で維持される条件下で、ドナー細胞とレシピエント細胞とを混合培養することを特徴とするレシピエント細胞の形質転換方法。
  2. レシピエント細胞がBacillus属細菌又は高度好熱菌であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. ドナー細胞が温度感受性細胞であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
  4. ドナー細胞が、温度感受性のプロファージが溶原化している溶原菌であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
  5. 目的DNAが10kb以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 目的DNAがBACクローンDNAであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 目的DNAを含み、かつλcI857が溶原化している大腸菌と、コンピテントな状態の枯草菌とを37℃で培養することを特徴とする請求項1に記載の方法。
  8. シロイヌナズナミトコンドリアDNAの部分断片を含む枯草菌ライブラリー。
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