JP2005179273A - 種子消毒剤及び種子消毒方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 従来ほど環境に悪い影響を与えることなくイネの種子などを消毒することができる種子消毒剤及び種子消毒方法を提供しようとするもの。
【解決手段】 木酢液を有効成分とし、植物を浸漬処理するようにした。この種子消毒剤は天然由来の木酢液を有効成分としているが、例えばイネの種子などを浸漬処理することにより、これを消毒し病害などへの罹病を抑制することができる。また、イネ以外の植物種子へも使用することができる。
【選択図】 なし

Description

この発明は、イネの種子などの種子消毒剤及び種子消毒方法に関するものである。
播種密度が高い水稲の箱育苗では、育苗期に種子伝染による病害が発生しやすく、これらの病害に対する防除を怠ると移植前の苗に著しい被害が生じる。さらに、種子伝染性病害によって罹病した苗を本田に植え込むと、これが本田で伝染源となり病害の発生を増やすことが多い。したがって、水稲の安定生産には種子伝染性病害の防除は、欠くことができない(例えば、非特許文献1参照)。
これら種子伝染性の病原菌には、幼苗期にイネを犯すだけでなく、本田移植後の稲体に移り葉部、さらには籾を加害するものも多い。イネの種子伝染性病害の病原菌には大別して細菌と糸状菌とがある。細菌性病害は近年増加傾向にあり、発病状況によっては植え付け不能となるなど被害が大きい。細菌性病害の防除は主に薬剤によるが、薬剤防除効果不良事例が各地で見られ、その原因の一つとして薬剤耐性菌の発生がある。糸状菌性病害の種類も多く、なかにはいもち病菌のように水稲栽培で甚大な被害をもたらすものも含まれ、本田防除のほか種子消毒も広く行われている。健苗を確保し、さらに本田移植後収穫期にいたるまでのこれら病害による被害を抑制する必要があり、そのために種子消毒による初期防除は防除法全体の中でも極めて重要な位置を占めている。
表1に、わが国における水稲の種子伝染性病害の発生面積と防除面積(農林水産省統計)を示す。表中の苗立枯病とあるのは、苗立枯細菌病とその他の苗に生ずる細菌性の立枯病も含まれている。防除面積としては床土への農薬処理も含まれている。苗立枯病とばか苗病の防除面積は、育苗箱数を移植後の本田面積に換算して示してある。なお、同じ薬剤で複数の病害に有効なものが多く、実際にはいわゆる同時防除が行われているので、ここに示した防除面積は個々の病害に対する防除面積とはいえない場合もある。ここに示した以外の病害については、現状では種子消毒の規模を示す統計が存在せず、ここに示した数字は本田で殺菌剤を散布した面積である。
Figure 2005179273
前記表から、各病害は全栽培面積のほぼ1%から25%で発生が認められている。なかでもいもち病の発生面積率が高いが、このすべてが激しい発生に見舞われたわけではないことに留意すれば、農薬による防除効果があったものと判断できる。なかでも、もみ枯細菌病、苗立枯病、ばか苗病およびごま葉枯病の発生面積率は低く、苗立枯病(苗立枯細菌病)とばか苗病のように種子消毒が唯一の防除手段である病害の発生が極めて低く経過していることからも、種子消毒の有用性を見ることができる。
このように種子病害としてもみ枯細菌病、苗立枯細菌病、褐条病、いもち病、ごま葉枯病、ばか苗病などがあり、伝染性が高い多種のものによって育苗に被害が生じ、防除面積や発生面積から種子消毒の重要性を理解することができる。
ところで、各県の病害虫防除指針など農家への防除指導要項ではこれら病害防除のための種子消毒がかならず記載されていることから、ほとんどの農家は多種類の病害に対して種子消毒を行っていると考えられる。また、種苗生産組合など種子販売にあたってはあらかじめ消毒した水稲種子を配布していることも多いので、種子消毒はほぼ全国的に普及しているものとみてよい。
次に、表2に慣行的に使用されている薬剤を示す。
Figure 2005179273
化学農薬の場合は使用後の廃液処理の問題があり、各県指導機関は廃液を河川に流さないなどの指導を行っているとはいうものの、使用後の廃液処理などの点で環境保全上大きな問題があるものと考えられる。
JA北いわて農業協同組合 ホームページ、"水稲 基本防除体系"、[online]、2003年3月、 [2003/10/16検索]、インターネット<URL:http://www.jaiwate.or.jp/kita-iwate/einou/200303gatu/einou2.html>
そこでこの発明は、従来ほど環境に悪い影響を与えることなくイネの種子などを消毒することができる種子消毒剤及び種子消毒方法を提供しようとするものである。
前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。
(1)この発明の種子消毒剤は、木酢液を有効成分とし、植物の種子を浸漬処理するようにしたことを特徴とする。
この種子消毒剤は天然由来の木酢液を有効成分としているが、例えばイネの種子などを浸漬処理することにより、これを消毒し病害などへの罹病を抑制することができる。また、イネ以外の植物種子へも使用することができる。
すなわち、従来の化学薬品は合成化合物であり自然環境に対しては異物であり種子消毒した廃液をみだりに河川などに廃棄することはできず、所定の回収・分解処置が必要であったが、この発明の種子消毒剤は合成化学薬剤よりもはるかに環境に対して影響を与える可能性が低く、環境に対する影響を最低限度に抑えて種子消毒を行うことができる。
(2) 前記木酢液は、木質原料を乾留・静置して得た粗木酢液を蒸留してなる濃度の異なる複数の粗原料を混合して濃度及び成分調整したこととしてもよい。
このように構成すると、粗木酢液を蒸留精製して得られる個々の木酢液の(各含有木質成分の)濃度は木質原料の性状(天然産品であり幅がある)や炭化方法・木ガスの冷却条件などに左右されるものの、濃度の異なる複数の粗原料を混合して濃度及び成分調整することにより、酢酸と他の木質成分が所定の濃度でバランスよく含有されて安定した品質を有することとなり、植物に対する消毒作用をコンスタントに発揮することができる。すなわち、木酢液の含有木質成分のバランスが悪いと植物に対する有効な消毒作用が期待できない。
ここで、前記木質原料として樹木、竹、ヤシ、わら、もみがら等を例示することができる。また、前記濃度は含有されている酢酸やグアヤコール、4−メチルグアヤコールの濃度により評価することができる。すなわち、含有量が比較的に多い酢酸、グアヤコール、4−メチルグアヤコールの濃度によりその他全体の含有木質成分の濃度をほぼ比例的に評価することができる。
(3) この発明の種子消毒方法は、前記種子消毒剤に植物の種子を浸漬処理するようにしたことを特徴とする。
このように構成することにより、イネの種子などを消毒し、細菌性病害であるイネ苗立枯細菌病やもみ枯細菌病、褐条病、糸状菌性病害であるいもち病、ごま葉枯病、ばか苗病の水稲種子病害などへの罹病を抑制することができる。
(4)水稲種子病害を防除する種子消毒方法
(1)前記種子消毒剤として酢酸濃度が約5.5〜6.0%の木酢液を用い、約5〜40倍希釈してイネの種子を浸漬処理し、水稲種子病害を防除するようにしてもよい。
(2)前記種子消毒剤として酢酸濃度が約0.1375〜1.2%のものを用い、イネの種子を浸漬処理し、水稲種子病害を防除するようにしてもよい。
前記(1)や(2)のように構成すると、糸状菌性病害や細菌性病害などの水稲種子病害の防除に関して非常に有効であった。
特に、糸状菌性病害であるばか苗病、いもち病の水稲種子病害の防除に関して非常に有効であった。また、ばか苗病に対しては、20倍希釈液(酢酸濃度は0.0275〜0.030%)・24時間浸漬処理は非常に防除価が高く、特に好ましいものであった。
さらに、細菌性病害であるイネ苗立枯細菌病の水稲種子病害の防除に関しても満足がいく消毒効果が認められた。
(5)細菌性病害の水稲種子病害を防除する種子消毒方法
(1)前記種子消毒剤として酢酸濃度が約5.5〜6.0%の木酢液を用い、約10〜20倍希釈してイネの種子を浸漬処理し、細菌性病害を防除するようにしてもよい。
(2)前記種子消毒剤として酢酸濃度が約0.275〜0.60%のものを用い、イネの種子を浸漬処理し、細菌性病害を防除するようにしてもよい。
病害によって有効な処理条件に違いがあるが、前記(1)や(2)のように構成すると、細菌性病害であるイネ苗立枯細菌病の水稲種子病害の防除に関して非常に有効であった。またこの場合、浸漬時間が約1時間程度という短時間でも有効であった点で取り扱いに優れ、好ましいものであった。
(6)糸状菌性病害の水稲種子病害を防除する種子消毒方法
(1)前記種子消毒剤として酢酸濃度が約5.5〜6.0%の木酢液を用い、約20倍希釈してイネの種子を約24時間浸漬処理し、糸状菌性病害を防除するようにしてもよい。
(2)前記種子消毒剤として酢酸濃度が約0.275〜0.30%のものを用い、イネの種子を約24時間浸漬処理し、糸状菌性病害を防除するようにしてもよい。
病害によって有効な処理条件に違いがあるが、このように構成すると糸状菌性病害であるばか苗病、いもち病、ごま葉枯病の水稲種子病害の防除に関して、共通して有効であった。
この発明は上述のような構成であり、次の効果を有する。
天然由来の木酢液を有効成分とし病害などへの罹病を抑制することができるので、従来の化学薬品ほど環境に悪い影響を与えることなくイネの種子などを消毒することができる種子消毒剤及び種子消毒方法を提供することができる。
以下、この発明の実施の形態を説明する。
この実施形態の種子消毒剤は木酢液を有効成分とし、植物を一定時間浸漬処理するようにしている。前記植物として、イネの種子などを例示することができる。
前記木酢液は、木質原料を乾留・静置して得た粗木酢液を蒸留してなる濃度の異なる複数の粗原料を混合して濃度及び成分調整している。
具体的には、次のようにして製造した。すなわち木材を乾留して発生した木ガスを冷却すると、液状物が生ずる。この液状物を静置すると分離し、上層から粗木酢液が下層から木タールが得られる。前記粗木酢液を蒸留し、有害物質を除いて成る濃度の異なる粗原料を複数用意する。蒸留してできた粗原料として、濃度が濃淡色々なものができた。蒸留を何回か繰り返し、濃いグレードの粗原料を作っておいてもよい。
そして前記粗原料を混合ブレンドして、酢酸濃度が約4〜10%の木酢液とするようにしている。例えば酢酸等の濃度(ガスクロマトグラフィーで測定)が低めの粗原料には、前記酢酸の濃度が濃ゆめの粗原料をブレンドして前記の濃度となるようにする。
ここで、前記濃度は含有されている酢酸の他にグアヤコール、4−メチルグアヤコールの濃度により評価することができる。すなわち、含有量が比較的に多い酢酸、グアヤコール、4−メチルグアヤコールの濃度によりその他全体の含有木質成分の濃度をほぼ比例的に評価することができる。
次に、この実施形態の種子消毒剤の使用状態を説明する。
この種子消毒剤は天然由来の木酢液を有効成分としているが、例えばイネの種子などの植物を一定時間浸漬処理することにより、これを消毒しイネ苗立枯細菌病などへの罹病を抑制することができ、イネ等の種子などの植物を環境に優しく消毒することができるという利点がある。
またこの種子消毒方法は、前記種子消毒剤に植物を一定時間浸漬処理するようにしており、イネの種子などの植物を消毒しイネ苗立枯細菌病などへの罹病を抑制することができるという利点がある。
ところで前記木酢液は、木質原料を乾留・静置して得た粗木酢液を蒸留してなる濃度の異なる複数の粗原料を混合して濃度及び成分調整しており、粗木酢液を蒸留精製して得られる個々の木酢液の(各含有木質成分の)濃度は木質原料の性状(天然産品であり幅がある)や炭化方法・木ガスの冷却条件などに左右されるものの、濃度の異なる複数の粗原料を混合して濃度及び成分調整することにより、酢酸と他の木質成分が所定の濃度でバランスよく含有されて安定した品質を有することとなり、植物に対する消毒作用をコンスタントに発揮することができるという利点がある。すなわち、木酢液の含有木質成分のバランスが悪いと植物に対する有効な消毒作用が期待できない。
また一定品質の木酢液(種子消毒剤)が製造できるので、植物に対する消毒効果が製造ロットが相違しても変わらないという利点がある。
次に、この発明の構成をより具体的に説明する。
種子消毒剤を、次のようにして製造した。すなわち、木材を乾留して発生したガスを冷却すると、液状物が生ずる。この液状物を、第1の釜(ステンレス製蒸留釜)により液温100℃以下で減圧蒸留を行った。この粗蒸留液を更に10日以上静置する事により、軽質油層、水層、沈降タール層の三層に分離させ、酢酸が主成分の水層だけを粗木酢液として抜き出した。
次に、前記粗木酢液(水層部分)を第2の釜により液温約100℃で常圧蒸留を行った。この操作では粗木酢液を蒸留釜に入れて初留分を除去した。この蒸留により、メタノールやアセトン、アルデヒド類などの低沸点物を取り除き、これら低沸点物と共沸する可能性がある有害物質(ベンゾ(a) ピレンなど)を取り除いた。
第2の蒸留釜に入れた粗木酢液の初留分が除去され、さらに半量程度が蒸留されると蒸留を停止し、釜に残っている半量程度の粗木酢液は第3の釜へ移した。また、蒸留された半量程度は第2の釜に戻して再度蒸留した。これにより、第2の釜から低沸点物及びこれと共沸する可能性があるベンゾ(a) ピレン等をさらに念を入れて確実に取り除いた粗原料を得た。
低沸点物を取り除いた後に第2の釜に残っていた半量程度を第3の釜により液温約100〜120℃で常圧蒸留して、木酢液の主成分である酢酸を含む留分を効率的に回収した高純度蒸留精製木酢液を粗原料として得た。
このような方法で、濃度が色々な粗原料を複数用意した。これらの複数の粗原料を、木酢液100mlに含まれる重量が以下のような成分濃度となるように混合ブレンドした。
酢酸5915.1mg、アセトール925.4mg、プロピオン酸512.3mg、n−酪酸137.8mg、フルフラール144.1mg、フルフリルアルコール34.4mg、フェノール87.7mg、シクロテン62.7mg、o−クレゾール18.1mg、m−,p−クレゾール32.6mg、グアヤコール225.5mg、4−メチルグアヤコール70.5mg、4−エチルグアヤコール0.00mg、その他成分1114.8mg、水分92118.9mg(以上、木酢液100ml中に含まれる重量)。なお、前記水分の測定はカールフィッシャー法によった。
こうして酢酸濃度が5.5〜6.0%の木酢液を得、この木酢液を有効成分とする種子消毒剤を得た。
前記実施形態で得た種子消毒剤(酢酸濃度が5.5〜6.0%)を用い、イネ苗立枯細菌病に対する種子消毒効果試験を行った。
水稲(品種:日本晴)の健全籾に苗立枯細菌病の病原細菌汚染籾を4%の割合(1区あたり健全籾288粒、汚染籾12粒)で混入した種子試料を、その容量1に対して容量2の種子消毒剤の希釈液に浸漬し、液温15℃に保って所定時間保存して薬剤処理を行った。
処理後の種子は薬剤処理開始から6日後まで15℃の真水中に保った後水を切り、28℃に1日間保って催芽させ、育苗箱中の粒状培土に播種した。播種8日後に、発芽籾数、健全苗数、ならびに罹病苗数を罹病程度を白化と枯死に分けて計数した。
試験は播種籾1区300粒とし3反復で行った。罹病苗率とともに、罹病程度指数を、0(健全)、3(白化)、および5(枯死)として以下の式により炉病度と防除価を算出した。
試験対照薬剤としては、本病害防除のための種子消毒に汎用されている市販品オキソリニック酸20%水和剤(化学農薬)を供試した。なお、無処理対照区として汚染籾混入区(無処理区I)および健全籾のみを播種した区(無処理区II)を設けた。
罹病苗率(%)=(罹病苗数/調査苗数)×100
罹病度=〔{(白化苗数×3)+(枯死苗数×5)}/調査苗数×5〕×100
防除価=(処理区の罹病度/無処理区Iの罹病度)×100
前記計算式から算出した試験結果を、表3に示す。
Figure 2005179273
表3に示すように、木酢液を有効成分とする種子消毒剤の10倍希釈液(酢酸濃度は0.55〜0.60%)・1時間処理区は、他の処理区および無処理区Iよりも、明ら
かに罹病苗率(1.4%)および罹病度(0.8)ともに低く、苗立枯細菌病に対する種子消毒効果が極めて高かった(防除価98.9)。また、種子消毒剤の20倍希釈液(酢酸濃度は0.275〜0.30%)・1時間処理区でも対照薬剤であるオキソリニック酸20%水和剤(防除価69.9)よりも消毒効果が高かった(防除価86.1)。
前記試験結果から本種子消毒剤の10倍希釈液(酢酸濃度は0.55〜0.60%)及び20倍希釈液(酢酸濃度は0.275〜0.30%)の1時間種子浸漬処理による苗立枯細菌病防除は非常に実用性が高いものと判断できる。また、種子消毒剤の200倍希釈液(酢酸濃度は0.0275〜0.030%)・6日間処理区では防除価が53.8と、対照薬剤(防除価69.9)に迫る消毒効果が認められた。
イネばか苗病に対する種子消毒効果を、防除効果試験として一般的に行われている苗箱試験で実施した。水稲苗はそれ自体が商品として流通するため、ばか苗病は本病菌による従長苗の発生が1箱当たりたとえ僅かな本数であっても商品価値を著しく低下させるとして、水稲種子消毒試験の中で最も高い効果を要求される病害である。
種子消毒剤は、上記実施形態の酢酸濃度が5.5〜6.0%の木酢液を有効成分とするものである。供試汚染種子の品種は、ヒノヒカリ(開花期接種籾)である。1反復につき汚染籾100粒を供試し、3反復で実施した。
所定濃度に希釈(5倍、10倍、20倍、40倍)した種子消毒剤に、汚染籾を浸漬処理した。10分間、30分間及び1時間の短時間浸漬処理は、処理後、種子消毒剤から蒸留水に水交換した。24時間浸漬は、浸漬開始24時間後に種子消毒剤を蒸留水に交換した。無処理区は、蒸留水でそのまま浸種した。対照は、ヘルシードT水和剤である。全ての処理区は15℃の定温器内で翌日まで管理した。
浸漬処理を終えた種子は、通常の浸種の工程を省略して播種した。正規の育苗箱の十二分の一の大きさのプラスチックケースに、水稲用育苗培土を充填して播種した。播種後4日間は暗黒下28℃で出芽を促し、その後はガラス室内で通常の育苗管理を行った。そして、播種23日後に各処理区全ての苗を健全苗、従長苗、腐敗枯死苗に選別し、従長苗と腐敗枯死苗の合計を発病苗数とし、調査苗数に対する発病苗率を求めた。また、不発芽籾数を数え、播種籾数に対する不発芽籾率を算出した。表4に、試験結果を示す。
Figure 2005179273
表4に示すように、本剤の浸漬処理では20倍希釈液(酢酸濃度は0.275〜0.30%)・24時間浸漬処理が最も効果が高かった。防除価93.1という数値は十分に実用化を期待できる数値である。その他の処理〔5倍希釈液(酢酸濃度は1.1〜1.2%)・1時間浸漬、10倍希釈液(酢酸濃度は0.55〜0.60%)・1時間浸漬、40倍希釈液(酢酸濃度は0.1375〜0.15%)・24時間浸漬〕もいずれも防除価が80前後であり、ばか苗病の場合の実用化が十分に期待できるレベルであった。また、5倍希釈液(酢酸濃度は1.1〜1.2%)・30分間浸漬も防除価69.2であり、無処理区と比較すると大きな効果が認められた。
いもち病の汚染水稲種子に対する種子消毒効果を、ろ紙湿室法により検討した。
種子消毒剤は、上記実施形態の酢酸濃度が5.5〜6.0%の木酢液を有効成分とするものである。供試汚染種子の品種は、ナツミノリ(自然汚染種子)である。1反復につき汚染籾100粒(25粒×4シャーレ)を供試し、3反復で実施した。
所定濃度に希釈(5倍、10倍、20倍、40倍)した種子消毒剤に、汚染籾を浸漬処理した。10分間、30分間及び1時間の短時間浸漬処理は、処理後、種子消毒剤から蒸留水に水交換した。24時間浸漬は、浸漬開始24時間後に種子消毒剤を蒸留水に交換した。無処理区は、蒸留水でそのまま浸種した。対照は、ヘルシード水和剤である。全ての処理区は15℃の定温器内で翌日まで管理した。
プラスチックシャーレ(径9cm、深さ2cm)にろ紙3枚を重ねて敷き、滅菌水を注いでろ紙に水を十分含ませた後、余分の水を捨てた。前記処理を行った種籾を水切り後、1シャーレに25粒づつ置床し、25℃、BLBランプ照射(12時間/日)で3日間インキュベートした。各処理区全ての籾について、実体顕微鏡下でいもち病菌分生胞子の形成の有無を調査し、胞子形成籾率を算出した。表5に、試験結果を示す。
Figure 2005179273
表5に示すように、10倍希釈液(酢酸濃度は0.55〜0.60%)・1時間浸漬処理において僅かに1粒にいもち病菌の胞子形成が認められたが、その他の処理〔5倍希釈液(酢酸濃度は1.1〜1.2%)・30分間浸漬、5倍希釈液(酢酸濃度は1.1〜1.2%)・1時間浸漬、20倍希釈液(酢酸濃度は0.275〜0.30%)・24時間浸漬、40倍希釈液(酢酸濃度は0.1375〜0.15%)・24時間浸漬〕では全くいもち病菌の胞子形成は認められず、対照のヘルシード水和剤と同等の優れた効果を示した。これに対し、ろ紙湿室法による供試汚染種子(無処理区)のいもち病菌の胞子形成籾率は平均で47.0%であった。
ごま葉枯病汚染水稲種子に対する種子消毒効果を、凍結ろ紙湿室法により検討した。
種子消毒剤は、上記実施形態の酢酸濃度が5.5〜6.0%の木酢液を有効成分とするものである。供試汚染種子の品種は、コシヒカリ(自然汚染種子)である。1反復につき汚染籾100粒(25粒×4シャーレ)を供試し、3反復で実施した。
所定濃度に希釈(5倍、10倍、20倍、40倍)した種子消毒剤に、汚染籾を浸漬処理した。10分間、30分間及び1時間の短時間浸漬処理は、処理後、種子消毒剤から蒸留水に水交換した。24時間浸漬は、浸漬開始24時間後に種子消毒剤を蒸留水に交換した。無処理区は、蒸留水でそのまま浸種した。対照は、ベンレートT水和剤20である。全ての処理区は15℃の定温器内で翌日まで管理した。
プラスチックシャーレ(径9cm、深さ2cm)にろ紙3枚を重ねて敷き、滅菌水を注いでろ紙に水を十分含ませた後、余分の水を捨てた。前記処理を行った種籾を水切り後、1シャーレに25粒づつ置床し、25℃、BLBランプ照射(12時間/日)で1日半の間インキュベートした。その後、−20℃で12時間凍結処理し、再度2日間BLB照射した。各処理区全ての籾について、実体顕微鏡下でごま葉枯病菌分生胞子の形成の有無を調査し、胞子形成籾率を算出した。表6に、試験結果を示す。
Figure 2005179273
表6に示すように、本剤20倍希釈液(酢酸濃度は0.275〜0.30%)・24時間浸漬処理においては僅かにごま葉枯病の胞子形成が認められたものの、胞子形成阻止率が95.4%で対照のベンレートT水和剤と同等の高い効果が認められた。また、その他の処理〔5倍希釈液(酢酸濃度は1.1〜1.2%)・30分間浸漬、5倍希釈液(酢酸濃度は1.1〜1.2%)・1時間浸漬、10倍希釈液(酢酸濃度は0.55〜0.60%)・1時間浸漬、40倍希釈液(酢酸濃度は0.1375〜0.15%)・24時間浸漬〕も無処理区(胞子形成籾率は平均で58.7%)と比較すると胞子形成籾率が低下しており、胞子阻止効果が認められた。
(まとめ)
以上、実施例1〜4の各試験結果(苗立枯細菌病に対する防除価、ばか苗病に対する防除価、いもち病に対する胞子形成もみ率、ごま葉枯病に対する胞子形成阻止率)を、表7にまとめた。
Figure 2005179273
(1)苗立枯細菌病に対する防除価
表中No3では種子消毒剤について約10倍希釈(濃度)として約1時間浸漬処理(浸漬時間)したものの防除価は98.9であり、No4では処理の種子消毒剤について約20倍希釈として約1時間浸漬処理したものの防除価は86.1であり、非常に有効であった。また、約200倍希釈として約6日間浸漬処理したものの防除価も53.8と、十分な消毒効果が認められた。
(2)ばか苗病に対する防除価
表中No5では種子消毒剤について約20倍希釈として約24時間浸漬処理したものの防除価は93.1%であり、非常に有効であった。
(3)いもち病に対する胞子形成もみ率
表中No1では種子消毒剤について約5倍希釈として約30分浸漬処理したものの胞子形成もみ率は0%であり、No2では種子消毒剤について約5倍希釈として約1時間浸漬処理したものの胞子形成もみ率は0%であり、No3では種子消毒剤について約10倍希釈として約1時間浸漬処理したものの胞子形成もみ率は0.3%であり、No5では種子消毒剤について約20倍希釈として約24時間浸漬処理したものの胞子形成もみ率は0%であり、No6では種子消毒剤について約40倍希釈として約24時間浸漬処理したものの胞子形成もみ率は0%であり、非常に有効であった。これらは、いもち病に対する有効処理濃度といえるものである。
(4)ごま葉枯病に対する胞子形成阻止率
表中No5では種子消毒剤について約20倍希釈として約24時間浸漬処理したものの胞子形成阻止率は95.4%であり、非常に有効であった。
また、病害によって有効な処理条件に違いがあるが、糸状菌であるいもち病、ごま葉枯病、ばか苗病に対しては、種子消毒剤について約20倍希釈(濃度)として約24時間浸漬処理(浸漬時間)が共通して有効であった。
上記のように、表中の胞子形成もみ率、胞子形成阻止率、防除価の数値により病害菌の発育を抑制する効果が把握でき、種子消毒効果があることがわかる。
天然由来の木酢液を有効成分とし、細菌性病害(イネ苗立枯細菌病、もみ枯細菌病、褐条病)や糸状菌性病害(ばか苗病、いもち病、ごま葉枯病)などへの罹病を抑制することができるので、従来ほど環境に悪い影響を与えることなくイネの種子などを消毒することができる種子消毒剤及び種子消毒方法を提供することができるができ、植物の種子を消毒する種々の用途に適用することができる。

Claims (9)

  1. 木酢液を有効成分とし、植物を浸漬処理するようにしたことを特徴とする種子消毒剤。
  2. 前記木酢液は、木質原料を乾留・静置して得た粗木酢液を蒸留してなる濃度の異なる複数の粗原料を混合して濃度及び成分調整したものである請求項1記載の種子消毒剤。
  3. 請求項1又は2記載の種子消毒剤に植物を浸漬処理するようにしたことを特徴とする種子消毒方法。
  4. 請求項1又は2記載の種子消毒剤として酢酸濃度が約5.5〜6.0%の木酢液を用い、約5〜40倍希釈してイネの種子を浸漬処理し、水稲種子病害を防除するようにした請求項3記載の種子消毒方法。
  5. 請求項1又は2記載の種子消毒剤として酢酸濃度が約0.1375〜1.2%のものを用い、イネの種子を浸漬処理し、水稲種子病害を防除するようにした請求項3記載の種子消毒方法。
  6. 請求項1又は2記載の種子消毒剤として酢酸濃度が約5.5〜6.0%の木酢液を用い、約10〜20倍希釈してイネの種子を浸漬処理し、細菌性病害を防除するようにした請求項3記載の種子消毒方法。
  7. 請求項1又は2記載の種子消毒剤として酢酸濃度が約0.275〜0.60%のものを用い、イネの種子を浸漬処理し、細菌性病害を防除するようにした請求項3記載の種子消毒方法。
  8. 請求項1又は2記載の種子消毒剤として酢酸濃度が約5.5〜6.0%の木酢液を用い、約20倍希釈してイネの種子を約24時間浸漬処理し、糸状菌性病害を防除するようにした請求項3記載の種子消毒方法。
  9. 請求項1又は2記載の種子消毒剤として酢酸濃度が約0.275〜0.30%のものを用い、イネの種子を約24時間浸漬処理し、糸状菌性病害を防除するようにした請求項3記載の種子消毒方法。
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