JP2005130853A - リン脂質の特異的検出方法および検出のための分子プローブ並びにタンパク質、それをコードする遺伝子 - Google Patents
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Abstract
【課題】 各種ホスホイノシチド、特にホスファチジルイノシトール−4−リン酸を特異的に検出する方法を提供する。
【解決手段】 リン脂質を特異的に検出する方法であって、リン脂質に特異的に結合するタンパク質ドメイン構造を持つ分子プローブを用いて検出することを特徴とするリン脂質を特異的に検出する方法。
リン脂質を特異的に検出するための分子プローブであって、リン脂質に特異的に結合するタンパク質ドメイン構造を持つことを特徴とする分子プローブ
【解決手段】 リン脂質を特異的に検出する方法であって、リン脂質に特異的に結合するタンパク質ドメイン構造を持つ分子プローブを用いて検出することを特徴とするリン脂質を特異的に検出する方法。
リン脂質を特異的に検出するための分子プローブであって、リン脂質に特異的に結合するタンパク質ドメイン構造を持つことを特徴とする分子プローブ
Description
本発明は、リン脂質に特異的に結合する性質をもつ分子プローブを用いてリン脂質を検出する方法に関する。また本発明は、リン脂質に特異的に結合する性質をもつ分子プローブおよびタンパク質、遺伝子に関する。
生命体の最小単位である細胞は、生体膜とよばれる構造体で細胞内部と外界との境界、あるいは細胞内の構造体の境界が形成されている。このうち特に、細胞の外周を取り巻く生体膜は、形質膜、あるいは細胞膜と呼ばれ、この他に各種の細胞内構造体を取り巻く生体膜も存在する。いずれも基本的な構造は同じであるが、特に真核細胞では、各種の細胞内構造体の機能を行うため、生体膜は各組織ごとに構造的、構成成分的に分化している。生体膜の主成分は極性脂質および膜タンパク質であり、両親媒性の極性脂質は、疎水部分を内側に配位した脂質二重層を形成し、その中に膜タンパク質の疎水部分が陥入するという構造をとっている。生体膜を構成している極性脂質の大部分はリン脂質である。リン脂質は、その疎水部分がグリセロールからなるグリセロリン脂質と、スフィンゴシンからなるスフィンゴリン脂質に大別され、前者にはホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールなどがあり、また後者にはスフィンゴミエリンなどがある。
このように、生体膜はさまざまなリン脂質から構成されているが、膜の構成成分という機能の他に、それぞれのリン脂質がどのような役割を果たしているかといったことには、関心を持たれることはあまり多くはなかった。しかしながら近年、脂質がシグナル伝達系や膜輸送系において重要な役割を果たしていることが次第に明らかになり、急速にその重要性が見なおされてきた。前述のリン脂質のうち、特に重要な役割に深く関わっているとされるのが、ホスファチジルイノシトールである。
ホスファチジルイノシトール(PI)は、イノシトール環をもつグリセロリン脂質であり、生体膜における存在比率は、生物種により開きがあるが、おおよそ2%〜30%程度を占めているとされる。PIは、それ自身が持つイノシトール環の3,4,5位の水酸基が可逆的にリン酸化されることで、ホスホイノシチドと総称されるリン酸化代謝物が派生する。ホスホイノシチドには、リン酸化された位置と数により、以下のような種類があり、即ちホスファチジルイノシトール−3−リン酸(PI3P)、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸(PI4P)、ホスファチジルイノシトール−5−リン酸(PI5P)、ホスファチジルイノシトール−3,4−ビスリン酸(PI(3,4)P2)、ホスファチジル−3,5−ビスリン酸(PI(3,5)P2)、ホスファチジル−4,5−ビスリン酸(PI(4,5)P2)、ホスファチジル−3,4,5−トリスリン酸(PI(3,4,5)P3)がある。PI自体はリン脂質全体に占める割合は比較的多いが、その他のホスホイノシチドの含有量は、PI4P、PI4,5P2が0.1%〜1%と少なく、さらにその他については非常にわずかな量しか存在しない。
ホスホイノシチドは、現在までの知見において、大別して以下の2つの役割を果たしていると考えられている。一つ目は、ホスホリパーゼの分解基質としての役割で、その分解産物であるイノシトールリン酸とジアシルグリセロールは、いずれもシグナル伝達系における二次メッセンジャーとなる。二つ目は、リン脂質それ自身が生理活性を持つ役割であり、具体的には細胞内のタンパク質との相互作用相手としてや、細胞骨格系の調節、酵素活性の制御、膜輸送系への関与などが知られている。
ホスホリパーゼの分解基質としての役割の例としては、ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスリン酸(PI(4,5)P2)のホスホリパーゼC(PLC)による分解系が挙げられる。PLCは、Gプロテイン共役系またはチロシンキナーゼ共役系という二つの経路により活性化され、PI(4,5)P2を分解する働きを持つ。分解されたPI(4,5)P2からは、分解産物としてイノシトール−3,4,5−トリスリン酸(IP3)およびジアシルグリセロール(DG)が生成すし、これらはいずれも二次メッセンジャーとして機能する。具体的には、IP3は小胞体上のIP3受容体と結合して小胞体中のカルシウムイオンを細胞質内に放出、さまざまな細胞内のカルシウム依存性経路を活性化する働きを持ち、またDGはプロテインキナーゼC(PKC)を活性化する因子として働く。
一方で、ホスホイノシチド自身が生理活性を持つ役割は、前述の二次メッセンジャー産生基質としての役割よりもさらに後年になって見出されたものである。その中で特に関心を持たれているのが、ホスホイノシチドの膜輸送への関与である。その一例として、PI(4,5)P2は細胞外への小胞輸送(エクソサイトーシス)に必須であることが知られている。しかしながら、その作用機構は未だ正確には明らかになっていない。
このような細胞内での様々な機能の局在を知る上で、さらにはそれぞれの反応系の詳細を解析する上で、種々のリン脂質の細胞内での局在を知ることは非常に重要であるといえる。
一方、細胞内において、細胞内小器官(オルガネラ)を選択的にリソソームまたは液胞へ融合させて分解する反応(オートファジー)においても、ホスホイノシチドが重要な役割を果たしているのではないかといったことが示唆されている。中でも、ペルオキシソームに対して選択的に起こるオートファジーは、特にペキソファジーと呼ばれ、現在最も精力的に研究が進められている分野のひとつである。ペキソファジーには、Pazタンパク質と呼ばれる一連のタンパク質群が反応の各ステップにおいて重要な役割を果たしていることがわかっている。そのうちのひとつであるPaz4タンパク質は、ペキソファジーの一形態であるミクロペキソファジーにおいて、その反応のステージ1後期からステージ2への進行に関与しているタンパク質であり、paz4遺伝子を欠失した細胞株は、ミクロペキソファジーがステージ1後期で停止することが知られている。Paz4タンパク質には、前述した脂質結合ドメインであるPHドメインとともに、GRAMドメインと呼ばれる構造が含まれている。GRAMドメインは当初、様々なタンパク質の構造中に存在が確認されていたが、その機能はこれまでよくわかっていなかった。
このようにホスホイノシチドは生体にとって重要な役割を果たしていると予想されているが、それぞれのホスホイノシチドが、生体内のどの部位に局在するかの情報を検出する技術が、その解析に必要不可欠であると考えられる。
また、種々のタンパク質においてさまざまな脂質結合ドメインが見出されている。具体的には、PH(pleckstrin homorogy)ドメイン、PX(phox)ドメイン、C2−CaLB(Ca2+ lipid binding)ドメイン、FYVEドメイン、FERMドメイン、ENTH(epsin N−terminal homology)ドメイン、TBCドメイン、START(steroidgenic acute regulatory protein−related lipid transfer)ドメインなどが挙げられる。これらはいずれも、一種または複数種のリン脂質に特異的に結合する性質を持っている。言い換えれば、各リン脂質の構造の違いが、上記のようなドメイン構造を持つそれぞれのタンパク質が関与する一連の反応に影響を与えうるということであり、いくつかのホスホイノシチドに関しては、前述の脂質結合ドメインがそれぞれ特異的に結合することが知られているが、PI4Pのみに特異的に結合する脂質結合ドメインはこれまで知られていなかった。
また、種々のタンパク質においてさまざまな脂質結合ドメインが見出されている。具体的には、PH(pleckstrin homorogy)ドメイン、PX(phox)ドメイン、C2−CaLB(Ca2+ lipid binding)ドメイン、FYVEドメイン、FERMドメイン、ENTH(epsin N−terminal homology)ドメイン、TBCドメイン、START(steroidgenic acute regulatory protein−related lipid transfer)ドメインなどが挙げられる。これらはいずれも、一種または複数種のリン脂質に特異的に結合する性質を持っている。言い換えれば、各リン脂質の構造の違いが、上記のようなドメイン構造を持つそれぞれのタンパク質が関与する一連の反応に影響を与えうるということであり、いくつかのホスホイノシチドに関しては、前述の脂質結合ドメインがそれぞれ特異的に結合することが知られているが、PI4Pのみに特異的に結合する脂質結合ドメインはこれまで知られていなかった。
上記のような理由から、各種ホスホイノシチド、特にホスファチジルイノシトール−4−リン酸を特異的に検出する方法が求められていた。すなわち本発明の目的は、各種ホスホイノシチド、特にホスファチジルイノシトール−4−リン酸を特異的に検出する方法を提供することにある。また本発明の目的は、各種ホスホイノシチド、特にホスファチジルイノシトール−4−リン酸を特異的に検出する分子プローブを提供することにある。
前述の目的を達成するために、本発明者らは鋭意検討重ね、上記のリン脂質に特異的に結合するドメインを持つタンパク質に蛍光を発するドメインを結合させることにより、リン脂質の存在位置を検出することができることを見出し、さらにはGRAMドメインがホスファチジルイノシトール−4−リン酸に特異的に結合する性質を持つことを見出し、さらに蛍光標識したタンパク質ドメイン、特にGRAMドメインを含む分子プローブによりリン脂質、特にホスファチジルイノシトール−4−リン酸を特異的に検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は以下の項目からなる。
(1) リン脂質を特異的に検出する方法であって、リン脂質に特異的に結合するタンパク質ドメイン構造を持つ分子プローブを用いて検出することを特徴とするリン脂質を特異的に検出する方法。
(2) タンパク質ドメイン構造が、野生型タンパク質由来のタンパク質ドメインもしくはそれに類似する配列を含むことを特徴とする(1)に記載の方法。
(3) 野生型タンパク質が、酵母由来であることを特徴とする(1)〜(2)に記載の方法。
(4) 酵母が、Pichia pastorisであることを特徴とする、(1)〜(3)に記載の方法。
(5) タンパク質ドメイン構造が、GRAMドメインであることを特徴とする(1)〜(4)に記載の方法。
(6) リン脂質が、ホスファチジルイノシトールまたはホスファチジルイノシトール−3−リン酸、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸、ホスファチジルイノシトール−5−リン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4,5−トリスリン酸から選択されるいずれかのホスホイノシチドであることを特徴とする(1)〜(5)に記載の方法。
(7) リン脂質が、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸であることを特徴とする(1)〜(6)に記載の方法。
(8) 分子プローブが、蛍光物質が付加されていることを特徴とする(1)〜(7)に記載の方法。
(9) 蛍光物質が、蛍光色素または蛍光タンパク質であることを特徴とする(1)〜(8)に記載の方法。
(10) 蛍光物質が、GFP、YFP、CFP、BFP、Venusなどのオワンクラゲ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体、ウミシイタケ由来蛍光タンパク質およびその類似体、DsRed、HcRed、AsRed、ZsGreen、ZsYellow、AmCyan、AcGFP、Kaedeなどのサンゴ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体から選択されるいずれかの蛍光タンパク質であることを特徴とする(1)〜(9)に記載の方法。
(11) リン脂質を特異的に検出するための分子プローブであって、リン脂質に特異的に結合するタンパク質ドメイン構造を持つことを特徴とする分子プローブ
(12) タンパク質ドメイン構造が、野生型タンパク質由来のタンパク質ドメインもしくはそれに類似する配列を含むことを特徴とする(11)に記載の分子プローブ。
(13) 野生型タンパク質が、酵母由来であることを特徴とする(11)〜(12)に記載の分子プローブ。
(14) 酵母が、Pichia pastorisであることを特徴とする、(11)〜(13)に記載の分子プローブ。
(15) タンパク質ドメイン構造が、GRAMドメインであることを特徴とする(11)〜(14)に記載の分子プローブ。
(16) リン脂質が、ホスファチジルイノシトールまたはホスファチジルイノシトール−3−リン酸、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸、ホスファチジルイノシトール−5−リン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4,5−トリスリン酸から選択されるいずれかのホスホイノシチドであることを特徴とする(11)〜(15)に記載の分子プローブ。
(17) リン脂質が、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸であることを特徴とする(1)〜(16)に記載の分子プローブ。
(18) 分子プローブが、蛍光物質が付加されていることを特徴とする(11)〜(17)に記載の分子プローブ。
(19) 蛍光物質が、蛍光色素または蛍光タンパク質であることを特徴とする(11)〜(18)に記載の分子プローブ。
(20) 蛍光物質が、GFP、YFP、CFP、BFP、Venusなどのオワンクラゲ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体、ウミシイタケ由来蛍光タンパク質およびその類似体、DsRed、HcRed、AsRed、ZsGreen、ZsYellow、AmCyan、AcGFP、Kaedeなどのサンゴ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体から選択されるいずれかの蛍光タンパク質であることを特徴とする(11)〜(19)に記載の分子プローブ。
(21)リン脂質と特異的に結合する部位および蛍光を発する部位とを含有することを特徴とするタンパク質。
(22)リン脂質と特異的に結合する部位が、酵母由来もしくはそれに類似する構造であることを特徴とする(21)に記載のタンパク質。
(23) 酵母が、Pichia pastorisであることを特徴とする、(22)に記載のタンパク質。
(24)リン脂質と特異的に結合する部位が、GRAMドメインであることを特徴とする(21)〜(23)のいずれかに記載のタンパク質。
(25)リン脂質が、ホスファチジルイノシトールまたはホスファチジルイノシトール−3−リン酸、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸、ホスファチジルイノシトール−5−リン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4,5−トリスリン酸から選択されるいずれかのホスホイノシチドであることを特徴とする(21)〜(24)のいずれかに記載のタンパク質。
(26)蛍光を発する部位が、蛍光色素または蛍光タンパク質であることを特徴とする(21)〜(25)のいずれかに記載のタンパク質。
(27)蛍光を発する部位が、GFP、YFP、CFP、BFP、Venusなどのオワンクラゲ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体、ウミシイタケ由来蛍光タンパク質およびその類似体、DsRed、HcRed、AsRed、ZsGreen、ZsYellow、AmCyan、AcGFP、Kaedeなどのサンゴ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体から選択されるいずれかの蛍光タンパク質であることを特徴とする(21)〜(26)のいずれかに記載のタンパク質。
(28)上記(21)〜(27)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子。
本発明により、今まで困難であった生体内のホスファチジルイノシトール−4−リン酸の局在部位が容易にかつ短時間で検出可能となった。
まず本発明は、分子プローブを用いてリン脂質を特異的に検出する方法である。また本発明はその分子プローブである。さらにはリン脂質を特異的に検出できるプローブとして好適に用いられるタンパク質であり、このタンパク質をコードする遺伝子である。
ここでいう分子プローブとは、一分子または数個の分子の集合体で、何らかの対象を検出する機能を持つ分子を指し、その構造は特に限定されないが、タンパク質や核酸などの高分子が好ましく、特に一分子のタンパク質であることが好ましい。さらに具体的には、リン脂質を特異的に結合する性質を持つタンパク質ドメイン構造および蛍光物質を構造中に含有する分子プローブであることが好ましい。
タンパク質ドメイン構造は、野生型タンパク質由来のタンパク質ドメインもしくはそれに類似する配列を含むことが好ましい。なお本発明で述べる類似する構造及び類似体とは、ドメイン構造等の機能を失わない程度で改変されていても良いという意味であり、具体的には、ドメイン構造等の好ましくは10%以内、より好ましくは7%以内、さらに好ましくは5%以内、特に好ましくは3%以内、最も好ましくは2%以内のタンパク質が置換、欠失、付加されていても良い。
また、ここでいうリン脂質とは、どのようなものであっても良いが、機能的に特徴の多いとされるホスファチジルイノシトールやそのリン酸化代謝物であるホスホイノシチド、具体的にはホスファチジルイノシトール−3−リン酸、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸、ホスファチジルイノシトール−5−リン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4,5−トリスリン酸であることが好ましく、さらに具体的にはホスファチジルイノシトール−4−リン酸であることが好ましい。
また、ここでいうリン脂質を特異的に結合する性質を持つタンパク質ドメイン構造とは、どのようなものであっても良いが、天然タンパク質中に存在するPH(pleckstrin homorogy)ドメイン、PX(phox)ドメイン、C2−CaLB(Ca2+ lipid binding)ドメイン、FYVEドメイン、FERMドメイン、ENTH(epsin N−terminal homology)ドメイン、TBCドメイン、START(steroidgenic acute regulatory protein−related lipid transfer)ドメイン、GRAMドメインなどもしくはそれに類似する構造をもつ構造が好適に使用され、特にGRAMドメインが好適に用いられる。またここでいう天然タンパク質とは、その由来は特に限定されないが、酵母などが好適に用いられる。
また、ここでいう蛍光物質とは、各種蛍光色素や、各種蛍光タンパク質を指すが、細胞内で発現させるという目的においては、蛍光タンパク質を用いることが好ましい。具体的には、GFP、YFP、CFP、BFPなどのオワンクラゲ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体、ウミシイタケ由来蛍光タンパク質およびその類似体、DsRed、HcRed、AsRed、ZsGreen、ZsYellow、AmCyan、AcGFP、Kaedeなどのサンゴ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体等の各種蛍光タンパク質を用いることが好ましい。
上記のように、プローブとして好適に用いることができる、リン脂質と特異的に結合する部位と蛍光を発する部位とを合わせ持つタンパク質は、それぞれの部位を別に作製した後に結合させる手も良いが、好ましくはタンパク質をコードする遺伝子DNA、またはRNAとして細胞内に組み込み、細胞内で合成することが好ましい。
細胞への遺伝子DNAあるいはRNAの導入法は、いかなる方法を用いてもよいが、一般的に多用されるエレクトロポレーション法や、陽イオンリポソーム法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、ウィルス感染法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法、活性型デンドリマー法、非リポソーム系脂質法などが好適に使用される。また本発明における遺伝子DNAあるいはRNAを導入した細胞については、一過性にDNAあるいはRNAが導入された細胞(トランジエントトランスフォーマント)であってもよいし、安定的にDNAが導入された細胞(ステーブルトランスフォーマント)であってもよい。
また、本発明のタンパク質は、タンパク質をコードする遺伝子DNAをプラスミドに組み込み、これを酵母や大腸菌等の菌類等に形質転換して発現させることが好ましい。
なお、生体細胞内での合成にとどまらず、無細胞タンパク合成系で合成しても良い。
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
GRAMプローブの精製
酵母ピキアパストリス(Pichia pastoris) のPaz4タンパク質をコードする遺伝子UGT51B1 のGRAMドメインに相当する部位を、合成ヌクレオチドGRAM−N1(配列番号1)とGRAM−C1(配列番号2)をプライマーとして宝バイオ社製Pyrobest(R)DNA ポリメラーゼを用いたPCR法により増幅した。増幅された遺伝子断片を黄色蛍光タンパク質(YFP)をコードする遺伝子と共にアマシャムバイオサイエンス社製プラスミドDNA pGEX6P−1にクローニングし、GRAMドメインをグルタチオンS−トランスフェラーゼ、YFPとの融合タンパク質として発現させるための発現プラスミドを構築した。またセミインタクト細胞系に使用するプローブ作成のため、先述GRAMドメインの相当部位を合成ヌクレオチドGRAM−N2(配列番号3)とGRAM−C2 (配列番号4)をプライマーとして宝バイオ社製Pyrobest(R) DNA ポリメラーゼを用いたPCR法により増幅し、クロンテック社製プラスミドpECFP−N1にクローニングした。得られたプラスミドpCG1からGRAMドメイン−CFPをコードする遺伝子部分をアマシャムバイオサイエンス社製プラスミドDNA pGEX6P−1にクローニングし、GRAMドメインをグルタチオンS−トランスフェラーゼ、CFPとの融合タンパク質として発現させるための発現プラスミドを構築した。以上の方法により作成されたプラスミドpGYG1(グルタチオンS−トランスフェラーゼ−YFP−GRAMドメインをコードするプラスミド)、およびプラスミドpGGC1(グルタチオンS−トランスフェラーゼ−GRAMドメイン−CFPをコードするプラスミド)を、それぞれノバジェン社製大腸菌Rosetta(R) DE3コンピテントセルおよびRosetta(R) DE3pLysコンピテントセルに導入し、それぞれ大腸菌株GYG1、GGC1を得た。本株を0.2mM のイソプロピルチオガラクトピラノシド(IPTG)添加後20℃で16時間浸とうし回収した。回収菌体を超音波破砕した後遠心により上澄みだけを回収し、アマシャムバイオサイエンス社製グルタチオンセファロース(R) 4B樹脂と混合した。樹脂に吸着したプローブを10mMの還元型グルタチオンを含む溶液で溶出させ、セルロース膜を介した透析で還元型グルタチオンを除去したものを精製品として使用した。
GRAMプローブの精製
酵母ピキアパストリス(Pichia pastoris) のPaz4タンパク質をコードする遺伝子UGT51B1 のGRAMドメインに相当する部位を、合成ヌクレオチドGRAM−N1(配列番号1)とGRAM−C1(配列番号2)をプライマーとして宝バイオ社製Pyrobest(R)DNA ポリメラーゼを用いたPCR法により増幅した。増幅された遺伝子断片を黄色蛍光タンパク質(YFP)をコードする遺伝子と共にアマシャムバイオサイエンス社製プラスミドDNA pGEX6P−1にクローニングし、GRAMドメインをグルタチオンS−トランスフェラーゼ、YFPとの融合タンパク質として発現させるための発現プラスミドを構築した。またセミインタクト細胞系に使用するプローブ作成のため、先述GRAMドメインの相当部位を合成ヌクレオチドGRAM−N2(配列番号3)とGRAM−C2 (配列番号4)をプライマーとして宝バイオ社製Pyrobest(R) DNA ポリメラーゼを用いたPCR法により増幅し、クロンテック社製プラスミドpECFP−N1にクローニングした。得られたプラスミドpCG1からGRAMドメイン−CFPをコードする遺伝子部分をアマシャムバイオサイエンス社製プラスミドDNA pGEX6P−1にクローニングし、GRAMドメインをグルタチオンS−トランスフェラーゼ、CFPとの融合タンパク質として発現させるための発現プラスミドを構築した。以上の方法により作成されたプラスミドpGYG1(グルタチオンS−トランスフェラーゼ−YFP−GRAMドメインをコードするプラスミド)、およびプラスミドpGGC1(グルタチオンS−トランスフェラーゼ−GRAMドメイン−CFPをコードするプラスミド)を、それぞれノバジェン社製大腸菌Rosetta(R) DE3コンピテントセルおよびRosetta(R) DE3pLysコンピテントセルに導入し、それぞれ大腸菌株GYG1、GGC1を得た。本株を0.2mM のイソプロピルチオガラクトピラノシド(IPTG)添加後20℃で16時間浸とうし回収した。回収菌体を超音波破砕した後遠心により上澄みだけを回収し、アマシャムバイオサイエンス社製グルタチオンセファロース(R) 4B樹脂と混合した。樹脂に吸着したプローブを10mMの還元型グルタチオンを含む溶液で溶出させ、セルロース膜を介した透析で還元型グルタチオンを除去したものを精製品として使用した。
実施例2
GRAMプローブによるリポソームとの結合実験
シグマ社製のフォスファチジルイノシトールとフォスファチジルセリンとを等量混合し、そこにシグマ社製各種リン酸化フォスファチジルイノシトール(PIP)をモル比で1%分加えた。この脂質を25mg/mlとなるように生理食塩水に懸濁し、氷冷しながら超音波をかけリポソームを作成した。リポソームは脂質量にして1mg/mlとなるよう生理食塩水で希釈し、以下の実験に用いた。
1mlの生理食塩水に対し、2.5μgの精製プローブと、脂質量にして0.25mg相当のリポソームを加えて懸濁し、10分間室温に置いた。この懸濁液を10,000gで15分間遠心し、リポソームに結合したプローブを共沈させた。その後島津製作所製蛍光光度計RF−5300PCでリポソームに結合せず上清画分に残留したYFPの蛍光強度を測定した。
その結果を図1に示す。各種PIPを含むリポソームと混合したサンプルから得た蛍光強度と、PIPを含まないリポソームと混合したサンプルから得た蛍光強度の差から、各種PIPに特異的に結合したプローブの量を算出した。精製GRAMプローブが各種PIPの中でもフォスファチジルイノシトール4リン酸に対し特異的な結合活性をもつことが明らかとなった。
GRAMプローブによるリポソームとの結合実験
シグマ社製のフォスファチジルイノシトールとフォスファチジルセリンとを等量混合し、そこにシグマ社製各種リン酸化フォスファチジルイノシトール(PIP)をモル比で1%分加えた。この脂質を25mg/mlとなるように生理食塩水に懸濁し、氷冷しながら超音波をかけリポソームを作成した。リポソームは脂質量にして1mg/mlとなるよう生理食塩水で希釈し、以下の実験に用いた。
1mlの生理食塩水に対し、2.5μgの精製プローブと、脂質量にして0.25mg相当のリポソームを加えて懸濁し、10分間室温に置いた。この懸濁液を10,000gで15分間遠心し、リポソームに結合したプローブを共沈させた。その後島津製作所製蛍光光度計RF−5300PCでリポソームに結合せず上清画分に残留したYFPの蛍光強度を測定した。
その結果を図1に示す。各種PIPを含むリポソームと混合したサンプルから得た蛍光強度と、PIPを含まないリポソームと混合したサンプルから得た蛍光強度の差から、各種PIPに特異的に結合したプローブの量を算出した。精製GRAMプローブが各種PIPの中でもフォスファチジルイノシトール4リン酸に対し特異的な結合活性をもつことが明らかとなった。
実施例3
脂質吸着膜に対するGRAMプローブの結合実験
各種脂質をスポット上に吸着させたニトロセルロース膜であるPIP−Strips(R)は、エケロン社より購入した。本膜を重量比3%の脂肪酸無含ウシ血清アルブミンと体積比0.05%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを含む溶液中で1μg/mlの精製プローブと混合し4℃で14時間攪拌した。その後モレキュラープローブス社製抗緑色蛍光タンパク質抗体およびアマシャムバイオサイエンス社製の西洋わさびパーオキシダーゼ標識抗ウサギイミュノグロブリン抗体と順次室温で1時間ずつ混合し、パーキンエルマーライフサイエンス社製Western Lightning(R)キットにより膜に結合したプローブを可視化した。
その結果を図2に示す。図2AはPIP−Strips(R)に結合したプローブを可視化したものである。黒い円状のパターンを図2Bに図示した吸着脂質のパターンと比較しても分かるように、本精製プローブはアッセイした脂質の中でも特にフォスファチジルイノシトール4リン酸にのみ強い結合を示すことが明らかとなった。
脂質吸着膜に対するGRAMプローブの結合実験
各種脂質をスポット上に吸着させたニトロセルロース膜であるPIP−Strips(R)は、エケロン社より購入した。本膜を重量比3%の脂肪酸無含ウシ血清アルブミンと体積比0.05%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを含む溶液中で1μg/mlの精製プローブと混合し4℃で14時間攪拌した。その後モレキュラープローブス社製抗緑色蛍光タンパク質抗体およびアマシャムバイオサイエンス社製の西洋わさびパーオキシダーゼ標識抗ウサギイミュノグロブリン抗体と順次室温で1時間ずつ混合し、パーキンエルマーライフサイエンス社製Western Lightning(R)キットにより膜に結合したプローブを可視化した。
その結果を図2に示す。図2AはPIP−Strips(R)に結合したプローブを可視化したものである。黒い円状のパターンを図2Bに図示した吸着脂質のパターンと比較しても分かるように、本精製プローブはアッセイした脂質の中でも特にフォスファチジルイノシトール4リン酸にのみ強い結合を示すことが明らかとなった。
実施例4
GRAMプローブの酵母細胞内での発現とその細胞内局在の可視化
GRAMプローブ精製のために作成したプラスミドpGYG1より、YFP−GRAMに相当する遺伝子をタカラバイオ社製制限酵素Bam HIとXho Iにより切り出し、酵母発現用ベクターpIB4(NCBI accession number AF027961)にライゲーションさせた。得られたプラスミドpYPG1をタカラバイオ社製制限酵素Stu Iで切断後、酵母ピキアパストリス野生株PPY12に導入し、YPG1株を得た。YPG1株はグルコース含有培地で増殖させた後、プローブの大量発現のためにメタノールを炭素源とする培地に移され、28℃で15時間振とう培養された。この培地変換と同時に細胞内小器官である液胞を標識するためにモレキュラープローブス社製蛍光色素FM(R) 4―64を7.5μM添加した。その後YPG1株を再びグルコース含有培地に移して1時間培養したものを観察標本とした。観察はオリンパス光学工業社製蛍光顕微鏡IX 70を用いて行われた。
その結果を図3に示す。プラスミドpYPG1内部のアルコールオキシダーゼプロモーターにより、メタノール存在条件で多量に転写・翻訳されたプローブは、図3で示すような細胞内の粒状のパターンを示した。これら粒状パターンのうちのいくつかは、蛍光色素FM(R) 4―64で標識された液胞膜の局在と重なって存在した。
GRAMプローブの酵母細胞内での発現とその細胞内局在の可視化
GRAMプローブ精製のために作成したプラスミドpGYG1より、YFP−GRAMに相当する遺伝子をタカラバイオ社製制限酵素Bam HIとXho Iにより切り出し、酵母発現用ベクターpIB4(NCBI accession number AF027961)にライゲーションさせた。得られたプラスミドpYPG1をタカラバイオ社製制限酵素Stu Iで切断後、酵母ピキアパストリス野生株PPY12に導入し、YPG1株を得た。YPG1株はグルコース含有培地で増殖させた後、プローブの大量発現のためにメタノールを炭素源とする培地に移され、28℃で15時間振とう培養された。この培地変換と同時に細胞内小器官である液胞を標識するためにモレキュラープローブス社製蛍光色素FM(R) 4―64を7.5μM添加した。その後YPG1株を再びグルコース含有培地に移して1時間培養したものを観察標本とした。観察はオリンパス光学工業社製蛍光顕微鏡IX 70を用いて行われた。
その結果を図3に示す。プラスミドpYPG1内部のアルコールオキシダーゼプロモーターにより、メタノール存在条件で多量に転写・翻訳されたプローブは、図3で示すような細胞内の粒状のパターンを示した。これら粒状パターンのうちのいくつかは、蛍光色素FM(R) 4―64で標識された液胞膜の局在と重なって存在した。
実施例5
GRAMプローブの哺乳類培養細胞内での発現とその細胞内局在の可視化
GRAMプローブ精製のために作成したプラスミドpGYG1より、YFP−GRAMに相当する遺伝子をタカラバイオ社製制限酵素Bam HIとXho Iにより切り出し、クロンテック社製哺乳類発現用ベクターpTRE2hygにライゲーションした。得られたプラスミドpTYG1をクロンテック社製CLONfectin(R)を用いてクロンテック社製CHO(Chinese Hamster Ovary)培養細胞株であるBD(R) Tet−on細胞株に導入した。 抗生物質ハイグロマイシンへの耐性を指標にして選抜された細胞を、0.1%ポリ−L−リジンでコートされたガラスボトム培養皿上で培養した。細胞が先述培養皿に接着した後、培養液にドキシコリンを1μg/ml添加してYFP−GRAMプローブの発現を誘導した。誘導48時間後、培養液をハンクス平衡塩溶液と交換し、モレキュラープローブス社製BODIPY(R) TR−セラミド を100倍希釈となるよう加えた。37℃で1時間静置した後、カールツァイス社製の共焦点レーザー顕微鏡LSM 510 METAにより観察した。
その結果を図4に示す。ドキシコリン添加によりBD(R) Tet−on細胞株中で多量に転写・翻訳されたプローブは、図4に示すように細胞内の多数の点状パターンとして可視化された。特に集中的にプローブが局在する細胞内の部位には、ゴルジ体標識試薬であるBODIPY(R) TR−セラミドによるシグナルも局在していた。
GRAMプローブの哺乳類培養細胞内での発現とその細胞内局在の可視化
GRAMプローブ精製のために作成したプラスミドpGYG1より、YFP−GRAMに相当する遺伝子をタカラバイオ社製制限酵素Bam HIとXho Iにより切り出し、クロンテック社製哺乳類発現用ベクターpTRE2hygにライゲーションした。得られたプラスミドpTYG1をクロンテック社製CLONfectin(R)を用いてクロンテック社製CHO(Chinese Hamster Ovary)培養細胞株であるBD(R) Tet−on細胞株に導入した。 抗生物質ハイグロマイシンへの耐性を指標にして選抜された細胞を、0.1%ポリ−L−リジンでコートされたガラスボトム培養皿上で培養した。細胞が先述培養皿に接着した後、培養液にドキシコリンを1μg/ml添加してYFP−GRAMプローブの発現を誘導した。誘導48時間後、培養液をハンクス平衡塩溶液と交換し、モレキュラープローブス社製BODIPY(R) TR−セラミド を100倍希釈となるよう加えた。37℃で1時間静置した後、カールツァイス社製の共焦点レーザー顕微鏡LSM 510 METAにより観察した。
その結果を図4に示す。ドキシコリン添加によりBD(R) Tet−on細胞株中で多量に転写・翻訳されたプローブは、図4に示すように細胞内の多数の点状パターンとして可視化された。特に集中的にプローブが局在する細胞内の部位には、ゴルジ体標識試薬であるBODIPY(R) TR−セラミドによるシグナルも局在していた。
実施例6
GRAMプローブの酵母セミインタクト細胞内局在の可視化
酵母セミインタクト細胞は、酵母Pichia pastorisの野生株をグルコース培地で培養後、0.75%のメタノールを含む培地で15時間培養したものより作成した。培養した酵母細胞を1%のメルカプトエタノールで処理後、0.1Mのグルコースと1mg/mlの生化学工業社製Zymolyase 100Tを含む溶液に移して45分間しんとうさせ細胞壁の消化を行った。 次に0.6Mのソルビトールを含む塩溶液に細胞を移し、液体窒素の入った容器中に吊り下げて凍結させた。 常温の0.5Mおよび0.25Mソルビトールを含む塩溶液に凍結細胞を順に移して急速融解させることにより、細胞表面に小孔を作りセミインタクト細胞系を構築した。ここに前述のGRAMプローブ発現株GGC1株より精製したGRAMプローブを最終濃度1.3mg/mlとなるよう加え、30分間常温で静置した。その後、セミインタクト細胞を塩溶液に置換し、オリンパス光学工業社製蛍光顕微鏡IX 70を用いて観察した。
その結果を図5に示す。観察視野中のいくつかの細胞において、図5に示すとおりGRAMプローブによるCFPシグナルの局在が観察された。 特にGRAMプローブが帯状の局在を示す細胞においては、細胞内膜移行タンパク質PpAtg8の融合タンパク質の示す蛍光シグナルと一致したことから、GRAMプローブがセミインタクト細胞における特定膜の標識に用いることが可能であることが判明した。
GRAMプローブの酵母セミインタクト細胞内局在の可視化
酵母セミインタクト細胞は、酵母Pichia pastorisの野生株をグルコース培地で培養後、0.75%のメタノールを含む培地で15時間培養したものより作成した。培養した酵母細胞を1%のメルカプトエタノールで処理後、0.1Mのグルコースと1mg/mlの生化学工業社製Zymolyase 100Tを含む溶液に移して45分間しんとうさせ細胞壁の消化を行った。 次に0.6Mのソルビトールを含む塩溶液に細胞を移し、液体窒素の入った容器中に吊り下げて凍結させた。 常温の0.5Mおよび0.25Mソルビトールを含む塩溶液に凍結細胞を順に移して急速融解させることにより、細胞表面に小孔を作りセミインタクト細胞系を構築した。ここに前述のGRAMプローブ発現株GGC1株より精製したGRAMプローブを最終濃度1.3mg/mlとなるよう加え、30分間常温で静置した。その後、セミインタクト細胞を塩溶液に置換し、オリンパス光学工業社製蛍光顕微鏡IX 70を用いて観察した。
その結果を図5に示す。観察視野中のいくつかの細胞において、図5に示すとおりGRAMプローブによるCFPシグナルの局在が観察された。 特にGRAMプローブが帯状の局在を示す細胞においては、細胞内膜移行タンパク質PpAtg8の融合タンパク質の示す蛍光シグナルと一致したことから、GRAMプローブがセミインタクト細胞における特定膜の標識に用いることが可能であることが判明した。
本発明により、今まで困難であった生体内のリン脂質の存在場所が容易にかつ短時間で検出可能となり、生体内の伝達系や輸送系、反応系の解明に大きな貢献ができるため、産業界に寄与すること大である。
Claims (28)
- リン脂質を特異的に検出する方法であって、リン脂質に特異的に結合するタンパク質ドメイン構造を持つ分子プローブを用いて検出することを特徴とするリン脂質を特異的に検出する方法。
- タンパク質ドメイン構造が、野生型タンパク質由来のタンパク質ドメインもしくはそれに類似する配列を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 野生型タンパク質が、酵母由来であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
- 酵母が、Pichia pastorisであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- タンパク質ドメイン構造が、GRAMドメインであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- リン脂質が、ホスファチジルイノシトールまたはホスファチジルイノシトール−3−リン酸、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸、ホスファチジルイノシトール−5−リン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4,5−トリスリン酸から選択されるいずれかのホスホイノシチドであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
- リン脂質が、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- 分子プローブが、蛍光物質が付加されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
- 蛍光物質が、蛍光色素または蛍光タンパク質であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
- 蛍光物質が、GFP、YFP、CFP、BFP、Venusなどのオワンクラゲ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体、ウミシイタケ由来蛍光タンパク質およびその類似体、DsRed、HcRed、AsRed、ZsGreen、ZsYellow、AmCyan、AcGFP、Kaedeなどのサンゴ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体から選択されるいずれかの蛍光タンパク質であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
- リン脂質を特異的に検出するための分子プローブであって、リン脂質に特異的に結合するタンパク質ドメイン構造を持つことを特徴とする分子プローブ。
- タンパク質ドメイン構造が、野生型タンパク質由来のタンパク質ドメインもしくはそれに類似する配列を含むことを特徴とする請求項11に記載の分子プローブ。
- 野生型タンパク質が、酵母由来であることを特徴とする請求項11〜12のいずれかに記載の分子プローブ。
- 酵母が、Pichia pastorisであることを特徴とする、請求項11〜13のいずれかに記載の分子プローブ。
- タンパク質ドメイン構造が、GRAMドメインであることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の分子プローブ。
- リン脂質が、ホスファチジルイノシトールまたはホスファチジルイノシトール−3−リン酸、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸、ホスファチジルイノシトール−5−リン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4,5−トリスリン酸から選択されるいずれかのホスホイノシチドであることを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載の分子プローブ。
- リン脂質が、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸であることを特徴とする請求項11〜16のいずれかに記載の分子プローブ。
- 分子プローブが、蛍光物質が付加されていることを特徴とする請求項11〜17のいずれかに記載の分子プローブ。
- 蛍光物質が、蛍光色素または蛍光タンパク質であることを特徴とする請求項11〜18のいずれかに記載の分子プローブ。
- 蛍光物質が、GFP、YFP、CFP、BFP、Venusなどのオワンクラゲ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体、ウミシイタケ由来蛍光タンパク質およびその類似体、DsRed、HcRed、AsRed、ZsGreen、ZsYellow、AmCyan、AcGFP、Kaedeなどのサンゴ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体から選択されるいずれかの蛍光タンパク質であることを特徴とする請求項11〜19のいずれかに記載の分子プローブ。
- リン脂質と特異的に結合する部位および蛍光を発する部位とを含有することを特徴とするタンパク質。
- リン脂質と特異的に結合する部位が、酵母由来もしくはそれに類似する構造であることを特徴とする請求項21に記載のタンパク質。
- 酵母が、Pichia pastorisであることを特徴とする、請求項22に記載のタンパク質。
- リン脂質と特異的に結合する部位が、GRAMドメインであることを特徴とする請求項21〜23のいずれかに記載のタンパク質。
- リン脂質が、ホスファチジルイノシトールまたはホスファチジルイノシトール−3−リン酸、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸、ホスファチジルイノシトール−5−リン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール−3,4,5−トリスリン酸から選択されるいずれかのホスホイノシチドであることを特徴とする請求項21〜24のいずれかに記載のタンパク質。
- 蛍光を発する部位が、蛍光色素または蛍光タンパク質であることを特徴とする請求項21〜25のいずれかに記載のタンパク質。
- 蛍光を発する部位が、GFP、YFP、CFP、BFP、Venusなどのオワンクラゲ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体、ウミシイタケ由来蛍光タンパク質およびその類似体、DsRed、HcRed、AsRed、ZsGreen、ZsYellow、AmCyan、AcGFP、Kaedeなどのサンゴ由来蛍光タンパク質およびそれらの類似体から選択されるいずれかの蛍光タンパク質であることを特徴とする請求項21〜26のいずれかに記載のタンパク質。
- 請求項21〜27のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2004283832A JP2005130853A (ja) | 2003-10-07 | 2004-09-29 | リン脂質の特異的検出方法および検出のための分子プローブ並びにタンパク質、それをコードする遺伝子 |
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JP2003348668 | 2003-10-07 | ||
JP2004283832A JP2005130853A (ja) | 2003-10-07 | 2004-09-29 | リン脂質の特異的検出方法および検出のための分子プローブ並びにタンパク質、それをコードする遺伝子 |
Publications (1)
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JP2005130853A true JP2005130853A (ja) | 2005-05-26 |
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JP2004283832A Pending JP2005130853A (ja) | 2003-10-07 | 2004-09-29 | リン脂質の特異的検出方法および検出のための分子プローブ並びにタンパク質、それをコードする遺伝子 |
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2009294201A (ja) * | 2008-05-09 | 2009-12-17 | Pola Chem Ind Inc | 多角的皮膚バリア機能改善素材のスクリーニング法 |
-
2004
- 2004-09-29 JP JP2004283832A patent/JP2005130853A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2009294201A (ja) * | 2008-05-09 | 2009-12-17 | Pola Chem Ind Inc | 多角的皮膚バリア機能改善素材のスクリーニング法 |
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