本発明は、歯牙の硬組織の状態、即ち、エナメル質、象牙質或いはセメント質のう蝕(虫歯)、変色、歯垢、歯石、組成の差異或いはバイオフィルム等を光学的に診断する歯科用診断装置に関する。
従来、う蝕の診断方法としては、探針とデンタルミラーを用いて行う視覚的診断が主に採用されている。この方法の場合、欠損を伴ったう蝕の検出は比較的容易になされ、客観的評価も可能であるが、初期う蝕においては脱灰の程度を客観的に評価することはできなかった。また、X線により機械的に検出する方法も採用されているが、この方法の場合も初期う蝕の検出が難しい上に、X線被爆の問題があって、その使用上の制約があった。更に、歯牙の電気抵抗値を測定する方法も知られているが、測定の仕方によってばらつきが大きく、実用上の問題点が残されていた。その為、最近では光学的に診断する装置も開発され、一部実用化されるようにもなった。
う蝕を含む歯牙若しくは周辺組織の状態を光学的に検出する装置としては、特許文献1〜4に開示されたものが挙げられる。特許文献1の歯科用診断装置(虫歯検出装置)は、準単色(準単波長)光を歯牙に照射し、虫歯と非虫歯の領域から放射される光(蛍光等のルミネッセンスと解される)の強度の差や比を測定することにより、虫歯を検出せんとするものであり、その基本原理は、虫歯と非虫歯の領域から放射される光(同上)の可視スペクトルが実質的に異なることを応用したものである。
特許文献2に開示された歯科用診断装置(歯の光学特性を測定するための装置)は、歯牙にハロゲン光源からの光を照射し、歯牙表面からの散乱反射光の強度を比較することにより歯牙の色を測定するものであり、この測定データに基づき好適な義歯を作成することを主に意図している。特許文献3に開示された歯科用診断装置(光診断装置)は、歯髄及び/若しくは歯周の診断のための装置であって、異なる波長のレーザー光を歯牙に照射し、正常部位と異常部位における透過光若しくは散乱反射光による出力信号の直流成分の差分値を診断用信号として出力するものである。また、特許文献4に開示された歯科用診断装置(虫歯検出装置)は、歯牙にレーザー光を照射し、照射面からの散乱反射光の検出データ若しくは照射面の表面温度検出データと、照射部以外の歯面からの透過光の検出データとの組合わせにより虫歯を検出せんとするものである。
特開昭56−40137号公報
特表2000−503117号公報
特許第2848857号公報
特公平3−70968号公報
上記特許文献に開示された装置は、いずれもX線装置による場合のように、被爆が問題となることがなく、しかも、光学的な検出データに基づくものであるからばらつきが少なく、更に、患者に恐怖感を与えるものでもないから、その実用価値が高く評価されるに至っているが、個々には以下のような問題点もなお残存していた。
即ち、特許文献1の装置は、1種類の波長の光を照射し、歯牙から放射されるルミネッセンスの強度を検出して虫歯と非虫歯領域を定量的に検出するものであるが、照射光の種類が1種類だけであるから、虫歯領域の波長特性に応じた多様な検出ができないために虫歯の状態や虫歯の程度(深さ等)に応じた的確な客観的評価もできなかった。また、特許文献2の装置は、歯牙表面で反射する光を検出することにより歯の色を測定するものであり、虫歯検出を意図したものではなく、ましてや虫歯の深さに応じた定量的データを得ることを意図したものでもない。
また、特許文献3の装置は、歯髄及び/若しくは歯周、即ち血液が関係する軟組織を診断する為のものであって、歯牙のエナメル質、象牙質或いはセメント質のような硬組織の状態を診断するものではなく、しかも上記同様虫歯の深さに応じた定量的データを得ることを意図したものでもない。更に、特許文献4の装置は、照射面からの反射光の検出データ若しくは照射面の表面温度検出データと、照射部以外の歯面からの透過光の検出データとの組合わせにより虫歯を検出するものであるが、照射される光の波長は1種類であるから、上記同様虫歯の状態や虫歯の程度(深さ等)に応じた的確な客観的評価もできなかった。このように、特許文献1〜4に開示された技術は、いずれも虫歯の状態に応じた的確なデータの提供と言う観点からは未だ十分ではなく、従って、精度の高い歯科診療を行う上では、よりきめ細かなデータの得られる歯科用診断装置が待望されるところであった。
本発明は、虫歯に限らず、歯牙の硬組織における様々な状態を的確に検出し、有用なデータとして出力することができる新規な光学的歯科用診断装置を提供するものである。ここでの硬組織とは、上記の通り、エナメル質、象牙質或いはセメント質部分を指すが、う蝕等によってこれらが軟化しても、本発明装置の診断対象としての硬組織に含まれるものとする。
請求項1の発明に係る歯科用診断装置は、歯牙の硬組織を診断する為の歯科用診断装置であって、先端部を歯牙の表面に向け操作される光学プローブと、該光学プローブに内蔵され照射端が上記先端部に及ぶ照射用導光体と、該光学プローブに内蔵され受光端が上記先端部に及ぶ受光用導光体と、上記照射用導光体を介して光学プローブ先端部の照射端へ波長の異なる2種以上の光を選択的に導光させる為の光源手段と、上記受光端により受光し且つ上記受光用導光体により導光された上記照射端からの照射に基づく歯牙による散乱反射光(照射光と同じ波長の光)の強度を検出する光強度検出手段とを備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、上記光強度検出手段による検出光強度を比較する比較手段を更に備えたことを特徴とし、この比較手段は、波長の異なる2種以上の光の照射に伴う散乱反射光毎の強度を相互に比較するものとすること(請求項3)が望ましく、更に、この散乱反射光毎の強度の比較は、強度の比若しくは差を算出することにより行われるもの(請求項4)とすることができる。
更に、請求項5の発明は、上記比較手段による比較結果を報知させるための報知手段を更に備えたことを特徴とし、請求項6の発明は、歯牙切削等の歯科治療手段を付設し、上記比較手段による比較結果に基づきこの歯科治療手段を駆動制御させるようにしたことを特徴とする。ここでの報知手段としては、ディスプレイのような表示手段に、検出データを数値やグラフで表示し、或いは、小スピーカーからブザー音を発する(例えば、しきい値より大きい時と小さい時とで音質を変える)等の手段が採用される。また、付設される歯科治療手段としては、レーザー切削手段が有効であり、上記プローブ内に切削用レーザー光の導光体を設け、これに切削用レーザー光の照射手段を設けることにより可能とされる。もちろん歯科治療手段として、レーザー切削手段に限定するものでなく、モーターハンドピースやスケーラーなどの切削装置の駆動制御が可能であることはいうまでも無い。
請求項7の発明は、上記照射端と受光端との間隔が、歯牙内部の診断対象部位の深さに応じて設定されることを特徴とする。この間隔としては、0.3〜0.5mmが適当とされ、この間隔が異なる複数種のプローブを用意しておき、診断目的に応じて適宜使い分けるようにすることができる。因みに、反射部位の位置が深い程、散乱反射光の広がりが大きくなるから、診断対象部位が深いと判断される場合は、この間隔の大きなものを用いる。また照射端と受光端との間隔を調整可能な構造とすることも望ましく採用される。
請求項8の発明は、上記光源手段から出力される光は、単波長乃至は準単波長のビーム光であることを特徴とし、これら2種以上の光は、少なくとも歯牙に対して直進性の強い波長の光と、歯牙に対して散乱性の強い波長の光との組合せからなる(請求項9)ものとすることが望ましく、更に上記光源手段としては、赤色から赤外領域の光を発する半導体レーザー等のレーザー発生装置又はLED(請求項10)が望ましく採用される。そして、波長の異なる2種以上の光は、照射端から時分割で照射される(請求項11)よう制御されることが望ましい。
請求項1の発明によれば、照射端から波長の異なる2種以上の光が歯牙に対して選択的に照射され、この照射に基づく歯牙による散乱反射光の強度が光強度検出手段により検出されるようになされているから、歯牙の状態に応じた照射光の波長特性(直進性や散乱性)が光強度検出手段の検出値により同定され、これにより歯牙の状態を判定するのに極めて有効なデータが得られる。そして、請求項2の発明のように、検出光強度を比較する比較手段を設ければ、既知のデータに基づくしきい値と比較したり、健全歯或いは健全部のデータと比較したり、或いは請求項3の発明のように波長の異なる照射光毎の散乱反射光の強度と相互に比較するようにすれば、よりきめ細かな状態判定の為のデータ情報を提供することができる。この場合の比較を、請求項4の発明のように、強度の比若しくは差を算出することにより行うようにすれば、例えば健全歯或いは健全部との相関関係がより的確に把握されると共に光強度のばらつき等の誤差原因がキャンセルされ、診断情報としての信頼性が高められる。また予め健全部或いは健全歯のデータを測定しておき、測定されたデータとの比較を行うことも可能である。この場合、散乱反射光強度の段階で比較してもよいし、健全部あるいは健全歯のデータを加味して強度を比較してもよい。
更に、請求項5の発明のように、上記比較結果を報知する報知手段を設ければ、術者は、この報知手段の報知情報に基づき歯牙の状態を円滑に把握することができると共に、採るべき治療の的確な判断をすることができる。そして、請求項6の発明のように、上記比較結果に基づき、付設された歯科治療手段を駆動制御するようにすれば、診断結果に応じた適正な治療を実施できると共に、診断から治療への円滑な流れが確立し、診断・治療の効率化が図られる。
請求項7の発明においては、照射端と受光端との間隔が、歯牙内部の診断対象部位の深さに応じて設定されるから、目的とする診断対象(例えば、う蝕の深さや進行度合い)に応じて、この間隔が適正なものを選択使用することにより、より確度の高い診断を実施することができる。
請求項8の発明のように、光源手段から出力される光を、単波長乃至は準単波長のビーム光とすれば、歯牙の状態による波長特性が顕著となり、散乱反射光の強度の差が歯牙の状態によって明確になるから、その差や比を比較することによって、健全部(歯)やう蝕部(歯)の特定やう蝕の程度の定量的な同定が的確になされる。特に、請求項9の発明のように、光源手段から出力される2種以上の光を、少なくとも歯牙に対して直進性の強い波長の光と、歯牙に対して散乱性の強い波長の光との組合せからなるものとすれば、例えば、健全部位とう蝕部位とにおいて、このような波長特性の異なる照射光に基づく散乱反射光の強度差が顕著となり、上記う蝕歯の診断がより的確になされる。また、請求項10の発明のように、光源手段が赤色から赤外領域の光を発する半導体レーザー等のレーザー発生装置又はLEDとすれば、この種の光は汎用性が高いものであるから、市販の音楽CD再生用の赤色LEDやレーザポインターに使用されている安価な半導体赤色レーザー装置の光源手段をそのまま充当することができ、コストの高騰を来たすことなく、実現することができる。
更に、請求項11の発明のように、上記のような波長の異なる2種以上の光を、照射端から時分割で照射するよう制御すれば、各時間における散乱反射光強度の平均値或いは積分値を求めることにより、より信頼性の高い診断データを得ることができる。
以下に本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の歯科用診断装置の一例を示す部分切欠き斜視図、図2は図1におけるX−X線矢視拡大端面図、図3は同装置におけるブロック回路図、図4は本発明の原理を説明する図、図5は他の実施例の図3と同様図である。
図1において、1は術者によって手持ち操作されるハンドピースであり、その先側には光学プローブ2が装着されている。光学プローブ2は、その先端部2aが歯牙の表面に接触或いは1〜2mm離れた位置で操作されるものであり、診断対象部位の状態に応じて適正なものに交換し得るよう、或いは個々に消毒し得るよう、ハンドピース1の胴部に対して着脱自在とされている。2bは、光学プローブ2を着脱操作する為のリングナットである。3は診断装置本体であり、そのケーシング内には、後記するレーザー光の光源手段7やその制御回路が内蔵され、またその盤面には操作スイッチ3a、各種調整摘み3b、外部入力用コネクタ3c、更には後記する表示部13等が設けられている。光学プローブ2は、歯牙に光を照射し易く、また散乱反射光を受光し易いよう、その先側が図1に示すように屈曲されている形状が望ましいが、これに限られるものではない。また、その材質は、照射光及び散乱反射光を後記する両導光体5、6をして的確に導光し得るものであれば、剛体でも良く或いは指先で任意に曲げられるような可撓性のあるものでもよい。
上記診断装置本体3の側部からは、上記光源手段7に連接されたケーブル4が導出され、ハンドピース1に接続されている。該ケーブル4には光ファイバーからなる照射用導光体5及び受光用導光体6が内装され、この照射用導光体5及び受光用導光体6は、ハンドピース1内を経て、光学プローブ2の先端部2aに及ぶ。光学プローブ2は、上記のようにハンドピース1の胴部に対して着脱自在とされているから、照射用導光体5及び受光用導光体6も、この着脱機構部において、夫々のコネクタ手段(不図示)によって、導光機能を損なうことなく連接し得るよう構成されるべきことは言うまでもない。光学プローブ2の先端部2aには、図2に示すように、照射用導光体5の照射端5a及び受光用導光体6の受光端6aが、所定の間隔(中心間距離)Dを隔て露見するよう配設されている。
図3において、波長が635nm(±30nm)、780nm(±30nm)及び830nm(±30nm)の3種類の赤色レーザー光を発するレーザーダイオード7a、7b、7cが併設され、これらレーザーダイオード7a、7b、7cは、レーザー駆動回路7dによって選択的に発振駆動される。このレーザー駆動回路7d及びレーザーダイオード7a、7b、7cによって光源手段7が構成される。各レーザーダイオード7a、7b、7cから発せられたレーザー光は、光カプラ5b、光コネクター5cを経て照射用導光体5を導光され、光学プローブ2の先端部2aに臨む照射端5aより歯牙に照射される。レーザー駆動回路7dは、レーザーダイオード7a、7b、7cを選択的に発振駆動させるが、レーザー駆動回路7dには更に照射タイミング回路8が接続され、この照射タイミング回路8は、各レーザーダイオード7a、7b、7cを、時分割に(例えば,100ミリ秒毎に)、順次繰返し発振駆動させるべく機能する。尚、3種類のレーザーダイオード7a、7b、7cの内、例えば、波長が635nmのレーザーダイオード7a及び780nmのレーザーダイオード7bのみを発振駆動させるよう、或いは635nmのレーザーダイオード7a及び830nmのレーザーダイオード7cのみを発振駆動させるよう、設定することも可能である。
光学プローブ2は、その先端部2aが歯牙表面に近接(接触も含む)するよう操作され、同時に照射端5aから上記所望のレーザー光が所定のタイミングで照射され、その散乱反射光は逐次受光端6aに受光される。受光された散乱反射光は受光用導光体6を経て導光され、フォトダイオード9aにおいて電流値として検出され、更に、電流/電圧変換器9bで電圧値に変換される。このフォトダイオード9a及び電流/電圧変換器9bによって、光強度検出手段9が構成される。電圧変換された散乱反射光強度値は、増幅器10で増幅され、A/Dコンバータ11によってデジタル化された後主制御部(CPU)12に入力される。
CPU12は、上記タイミング回路8及びレーザー駆動回路7dをして、レーザーダイオード7a、7b、7cを発振駆動制御すると共に、上記A/Dコンバータ11によって入力された散乱反射光の強度データを、後記する種々の態様で比較し、その比較結果を表示部(報知手段)13に表示させる。この表示部13は、上記比較結果を数値や棒グラフで表示して、術者にそれを知らしめるものである。13aは、表示部13で棒グラフのようなアナログデータで表示させる為のD/Aコンバータである。14はスイッチコントローラであり、CPU12は、これらに加えて装置として必要とされる全ての制御を司る。尚、報知手段としては、表示部13に限らず、上記比較結果に応じて音質を変えることができるブザー等の音発声手段であっても良い。
ここで、歯牙に光照射した場合の光学特性について、図4の原理図を参照して説明する。図4(a)は、エナメル質t1と象牙質t2との境界が明瞭な健全歯であることを示し、図4(b)は、う蝕部t3が象牙質t2に深く及んだ状態のう蝕歯であることを示す。一般に、波長の長い光は直進性が強く、波長の短い光は散乱性が強い。図4(a)のように、健全歯にレーザー光Lを照射すると、エナメル質t1と象牙質t2との屈折率の相違で、照射された光はエナメル質t1内を散乱して広がるが、この広がり方は波長によって異なる。例えば、波長が635nmと780nmの2種類のレーザー光Lを照射すると、波長の短い635nmの光は図4(a)の1点鎖線で示すようにエナメル質t1内を強く散乱して広がるが、波長の長い780nmの光は同実線で示すように余り広がらず、直進する。
一方、図4(b)に示すようなう蝕歯では、う蝕部t3においてエナメル質t1と象牙質t2との境界がない為、また象牙質t2の光学特性から、照射された光Lは、その波長の長短に拘わらず、図4(b)のように直進する。従って、照射点(上記照射端5aに相当)からわずかに離れた点(上記受光端6aに相当)で散乱光(散乱反射光)を受光し、波長が635nmの光と780nmの光による散乱反射光の受光強度を比較すれば、健全歯とう蝕歯の診断が的確になされる。即ち、(780nmのレーザー光の照射に基づく散乱反射光強度)/(635nmのレーザー光の照射に基づく散乱反射光強度)が小さい場合は健全歯であり、(780nmのレーザー光の照射に基づく散乱反射光強度)/(635nmのレーザー光の照射に基づく強度散乱反射光)が大きい場合はう蝕歯であると言った診断が可能である。
また、両測定値の差の大小によってこのような診断を行うようになすことも可能である。更に、635nm及び780nmのレーザー光に対する健全部(歯)における上記散乱反射光強度データを事前に取得しておき、(635nmのレーザー光の照射に基づく検出散乱反射光強度−635nmにおける健全部(歯)データ)/(780nmのレーザー光の照射に基づく検出散乱反射光強度−780nmにおける健全部(歯)データ)を算出するようにすれば、歯牙の状態を多面的に診断判定し得る情報として提供することができる。このような比或いは差の算出はCPU12によってなされる。従って、CPU12は散乱反射光毎の強度を相互に比較する比較手段を構成する。
上記表示部13では、上記比較結果を、単に数値で表したり、棒グラフで表したり、更には、予めしきい値を設定しておき、しきい値より大きい場合は「う蝕(歯)」、小さい場合は「健全(歯)」と言った文字表示や点滅表示或いは色表示によって報知させるようになすことも可能である。また、上記のように表示部13に代え、音によってこれをなすこともでき、これらは使用者のニーズに応じて適宜選択採用されるものである。
上記散乱反射光の強度は、う蝕部t3の大きさや深さによって異なるから、散乱反射光強度の測定結果及び上記比較結果により、う蝕の程度も定量的に診断することができる。また、う蝕部t3の大きさや深さによって、散乱反射光の広がり度合いが異なるから、上記照射端5a及び受光端6aの間隔D(図2参照)が異なる複数の光学プローブ2を準備しておき、予め想定されるう蝕部t3の程度に応じて、適正な間隔Dの光学プローブ2を選択使用するようにすれば、より精度の高い診断が可能とされる。ここで、照射端5aの径(照射用導光体5の径)及び受光端6aの径(受光用導光体6の径)を0.1mmとすれば、上記Dは0.3〜0.5mmが適切とされる。因みに、Dが0.3mm未満の場合、散乱光の多くが受光できなくなる傾向となる為、散乱反射光の強度検出による診断の信頼性が乏しくなる。また、0.5mmを超える場合は、歯牙の一般的な大きさからして不必要な領域に検出範囲が広がってしまうことになる。但し、Dの大きさは上記に限定されるものではなく、診断対象の性状(光学特性)に応じてその適性範囲が変わり得ることは言うまでもない。
上記のように、波長の異なる2種のレーザー光による散乱反射光の強度比を算出するようにすれば、照射光の強度のばらつき、吸収度合い差異、汚れ等の誤差原因がキャンセルされ、信頼性の高い診断情報が得られる。また、タイミング回路8によって、2種のレーザー光を短い時間間隔の時分割で順次繰返し照射するようにすれば、各時間における散乱反射光強度の検出値からその平均値を得ることができ、一層信頼性の高い診断情報が得られる。
尚、上記では照射光として、波長が635nmのレーザー光と780nmのレーザー光とを組合わせた例を示しているが、635nmのレーザー光と830nmのレーザー光とを組合わせて同様に散乱反射光の強度を検出することも可能である。また、う蝕歯の診断だけではなく、歯垢、歯石、歯の色、バイオフィルム、歯の組成、粗さ、或いは境界の有無等、光の波長に対する特性の違いに基づき、照射光の波長を適宜選択使用することにより、これらの歯牙の状態を総合的に診断・判定することができる。更に、赤色レーザー光を用いた例を示しているが、LEDを光源とすることも可能であり、また上記複数種の光の混合光をフィルタで分離して、時分割で所定の波長を順次照射するようになすことも可能である。
図5は他の実施例の図3と同様図であり、診断用の光源手段7が2種のレーザーダイオード7a、7bと、そのレーザー駆動回路7dとよりなり、レーザーダイオード7aからは波長が635nm(±30nm)レーザー光が、レーザーダイオード7bからは波長が780nm(±30nm)のレーザー光が、夫々発振されるようになされている。従って、この2種のレーザーダイオード7a、7bから発振されるレーザー光の照射に基づく散乱反射光の受光及び光強度検出により、歯牙の状態診断・判定を行い得る点は上記実施例1と同様である。本実施例では、歯牙の切削等の歯科治療手段15が付設されており、この歯科治療手段15が上記散乱反射光強度の検出比較結果に基づき駆動制御されるようになされている点で、実施例1と相違する。
即ち、歯科治療手段15は、歯牙の切削等に適した波長のレーザー光を発振するレーザーダイオード15aと、該レーザーダイオード15aを発振駆動させる為のレーザー駆動回路15bとからなる。レーザーダイオード15aから発振されるレーザー光は、上記同様光カプラ5b、光コネクタ5cを経て照射用導光体5を導光され、照射端5aより歯牙の目的部位(う蝕部等)に照射される。この照射に伴うレーザー光のエネルギーによりう蝕部等が切削される。レーザー駆動回路15bは、CPU12によって制御されるが、例えば、上記散乱反射光強度の比較値が予め定められたしきい値を超えた場合に、自動的にこの歯科治療手段15を駆動させるよう制御プログラムを組んでおけば、術者は歯牙の状態診断作業に引続き、特定された要治療部位の治療作業を的確に実施することができ、診断から治療への一連の診療作業が極めて効率的になされる。
尚、上記の場合、歯科治療手段15が駆動されている間は、光源手段7や光強度検出手段9等は、駆動が停止されるよう制御されるが、駆動を停止せずに治療中もう蝕部であるか、健全部であるかをモニターしながら制御することも望ましい。う蝕部を切削すると、健全部になるとはいいがたいが、う蝕部がなくなるため、健全部と同様のデータになるから、常にモニターしながら切削して、しきい値以下になれば切削をストップするという制御は有効である。また、歯科治療手段15としてレーザー光によるものを例示したが、その他公知の歯科用治療手段をこれに充当させることも可能である。その他の構成は実施例1と同様であるので共通部分に同一の符号を付し、ここではその説明を割愛する。
上記の通り、照射端5aと受光端6aとの間隔Dを可変とすることが望ましいが、この可変機構の例について図6〜8を参照して述べる。図6の例では、光学プローブ2の先端側部分を着脱交換自在な3種類のアタッチメント2c、2d、2eとし、これらアタッチメント2c、2d、2eには、照射用導光体5及び受光用導光体6に夫々対合される照射用導光体の先端側部分5b、5c、5d及び受光用導光体の先端側部分6b、6c、6dが保持されている。これら照射用導光体の先端側部分5b、5c、5d及び受光用導光体の先端側部分6b、6c、6dにおける上記間隔Dは、図のように大中小の関係になるよう設定されている。従って、診断対象の状態に応じてこれらアタッチメント2c、2d、2eを着脱交換することにより、より的確な診断・判定を行うことができる。
図7に示す例は、光学プローブの先端側部分が分離可能な半割部材2f、2gとされ、この半割部材2f、2gの対合面には、導光体保持用の半円弧溝16a、16b、17a、17b、18a、18bが凹設されている。半割部材2f、2gを対合させた時には、これら半円弧溝は、16aと6b、17aと17b、18aと18bが夫々対応して円孔を形成するよう構成されており、形成された円孔のいずれか2箇所で、照射用導光体5及び受光用導光体6が保持される。従って、半円弧溝を図のように形成することにより、上記間隔Dが大中小となるような位置関係で照射用導光体5及び受光用導光体6を保持することができる。
図8に示す例では、中空の光学プローブ2内に照射用導光体5及び受光用導光体6を保持する為の1対のアーム19、20が組み込まれ、このアーム19、20はピン21を支点として開閉可能とされている。また、光学プローブ2には、手指によって操作可能な回動操作ノブ22が一部露出するよう内装され、ピン22aによって回動可能に支持されている。該回動操作ノブ22には、同心的にギヤ22bが一体化され、このギヤ22bには、ピニオンギヤ23が噛合するよう設けられている。また、このピニオンギヤ23の盤面には、径方向の対向位置に一対のピン23a、23bが立設され、該ピン23a、23bは、上記アーム19、20にその長手方向に沿って形成された長孔19a、20a内に摺動可能に嵌挿されている。
而して、手指によって操作ノブ22の露出部分を操作して操作ノブ22を回動させると、その回動がギヤ22bを介しピニオンギヤ23に伝達され、ピニオンギヤ23の回動に伴うピン23a、23b及び長孔19a、20aの相互の規制作用により、アーム19、20がピン21を支点として開閉する。従って、このアーム19、20に保持された照射用導光体5及び受光用導光体6の先側が相互に離反接近することになり、照射端5aと受光端6aとの間隔Dが任意に変更可能とされる。間隔Dの可変手段はこれらの例に限定されるものではなく、他の機構も採用可能であることは言うまでもない。
本発明の歯科用診断装置の一例を示す部分切欠き斜視図である。
図1におけるX−X線矢視拡大端面図である。
同装置におけるブロック回路図である。
本発明の原理を説明する図である。
他の実施例の図3と同様図である。
照射端と受光端との間隔可変手段の一例を示す図であり、着脱自在なアタッチメントによる例を示す断面図である。
同複数の保持溝による図2と同様図である。
同操作ノブによる部分断面図である。
符号の説明
2 光学プローブ
2a 先端部
5 照射用導光体
5a 照射端
6 受光用導光体
6a 受光端
7 光源手段
9 光強度検出手段
12 CPU(比較手段)
13 表示部(報知手段)
15 歯科治療手段
D 照射端と受光端との間隔