JP2005095986A - 高速重切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】 高速重切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具を提供する。
【解決手段】基体の表面に、AlとTiとBの複合窒化物硬質被覆層を1〜15μmの層厚で物理蒸着し、硬質被覆層を、(a)AlとTiの複合窒化物で構成された固溶体素地に、窒化硼素微粒が分散分布し、かつ窒化硼素微粒の含有割合をB成分の含有割合で示すと、AlおよびTi成分との合量に占める原子比で0.001〜0.05である組織を有し、(b)さらに、上記(a)の固溶体素地が、層厚方向にそって、Al最高含有点とTi最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ両点間でAlおよびTiの含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有すると共に、上記Al最高含有点が、特定の」組成式を満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とTi最高含有点の間隔が、0.01〜0.1μmである硬質被覆層で構成する。
【選択図】 図2
【解決手段】基体の表面に、AlとTiとBの複合窒化物硬質被覆層を1〜15μmの層厚で物理蒸着し、硬質被覆層を、(a)AlとTiの複合窒化物で構成された固溶体素地に、窒化硼素微粒が分散分布し、かつ窒化硼素微粒の含有割合をB成分の含有割合で示すと、AlおよびTi成分との合量に占める原子比で0.001〜0.05である組織を有し、(b)さらに、上記(a)の固溶体素地が、層厚方向にそって、Al最高含有点とTi最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ両点間でAlおよびTiの含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有すると共に、上記Al最高含有点が、特定の」組成式を満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とTi最高含有点の間隔が、0.01〜0.1μmである硬質被覆層で構成する。
【選択図】 図2
Description
この発明は、硬質被覆層がすぐれた高温硬さと耐熱性、さらに高強度を有し、したがって各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、特に高熱発生を伴う高速で、かつ高い機械的衝撃を伴う高切り込みや高送りなどの重切削条件で行なった場合に、硬質被覆層がチッピング(微小欠け)などの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具(以下、被覆サーメット工具という)に関するものである。
一般に、被覆サーメット工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
また、被覆サーメット工具として、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成されたサーメット基体の表面に、組成式:(Ti1-(E+F) AlE BF )N(ただし、原子比で、Eは0.40〜0.60、Fは0.001〜0.05を示す)を満足するTi(チタン)とAl(アルミニウム)とB(ボロン)の複合窒化物[以下、(Ti,Al,B)Nで示す]層からなる硬質被覆層を1〜15μmの層厚で物理蒸着してなる被覆サーメット工具が知られており、かつ前記被覆サーメット工具の硬質被覆層である(Ti,Al,B)N層が、構成成分であるAlによって高温硬さと耐熱性、同Tiによって強度を具備し、さらに同Bによる一段の高温硬さ向上効果と相俟って、これを各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削加工に用いた場合にすぐれた切削性能を発揮することも知られている。
さらに、上記の被覆サーメット工具が、例えば図2に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記のサーメット基体を装入し、以下一般的条件として、ヒータで装置内を400〜500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成を有するTi−Al−B合金がセットされたカソード電極(蒸発源)との間に、電流:80〜150A、電圧:−20〜−30Vの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、1〜10Paの反応雰囲気とし、一方上記サーメット基体には、−30〜−150Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記サーメット基体の表面に、上記(Ti,Al,B)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより製造されることも知られている。
特開平4−26756号公報
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求も強く、これに伴い、切削加工は高速化の傾向を深め、かつ高切り込みや高送りなどの重切削条件での切削加工が強く求められる傾向にあるが、上記の従来被覆サーメット工具においては、これを通常の切削加工条件で用いた場合には問題はないが、特に切削加工を高速で、かつ高い機械的衝撃を伴う高切り込みや高送りなどの重切削条件で行なった場合には、硬質被覆層の高温硬さおよび耐熱性が不足し、かつ強度も不十分であるために、硬質被覆層の摩耗進行が一段と促進し、かつチッピングも発生し易くなることから、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に高速重切削加工条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆サーメット工具を開発すべく、上記の従来被覆サーメット工具を構成する硬質被覆層に着目し、研究を行った結果、
(a)上記の図2に示されるアークイオンプレーティング装置を用いて形成された従来被覆サーメット工具を構成する(Ti,Al,B)N層は、層厚全体に亘って実質的に均一な組成を有し、したがって均質な高温硬さと耐熱性、さらに強度を有するが、例えば図1(a)に概略平面図で、同(b)に概略正面図で示される構造のアークイオンプレーティング装置、すなわち装置中央部にサーメット基体装着用回転テーブルを設け、前記回転テーブルを挟んで、一方側に相対的にAl含有量の高いAl−Ti−B合金、他方側に相対的にTi含有量の高いTi−Al−B合金をカソード電極(蒸発源)として対向配置したアークイオンプレーティング装置を用い、この装置の前記回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置にテーブル外周部に沿って複数のサーメット基体をリング状に装着し、この状態で装置内雰囲気を窒素雰囲気として前記回転テーブルを回転させると共に、蒸着形成される硬質被覆層の層厚均一化を図る目的でサーメット基体自体も自転させながら、前記サーメット基体に印加するバイアス電圧を、上記の従来(Ti,Al,B)N層の形成時に印加されるバイアス電圧、すなわち−30〜−150Vに比して相対的に低い−300〜−450Vとした条件(前記サーメット基体に印加されるバイアス電圧以外の条件は上記の一般的条件と同じ)で、両側のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、前記サーメット基体の表面にAlとTiとBの複合窒化物[以下、(Al−Ti,B)Nで示す]層を形成すると、この結果の(Al−Ti,B)N層においては、前記サーメット基体への低電圧印加(−300〜−450Vのバイアス電圧印加)によって前記カソード電極のAl−Ti−B合金およびTi−Al−B合金中に含有のB成分が独自に窒化硼素(以下、BNで示す)を形成し、これが微粒となってAlとTiの複合窒化物[以下、(Al,Ti)Nで示す]で構成された固溶体素地に均一に分散分布した組織を示すようになり、さらに、回転テーブル上にリング状に配置された前記サーメット基体が上記の一方側の相対的にAl含有量の高いAl−Ti−B合金のカソード電極(蒸発源)に最も接近した時点で前記(Al,Ti)Nの固溶体素地中にAl最高含有点が形成され、また前記サーメット基体が上記の他方側の相対的にTi含有量の高いTi−Al−B合金のカソード電極に最も接近した時点では前記固溶体素地中にTi最高含有点が形成され、この結果上記回転テーブルの回転によって前記固溶体素地中には層厚方向にそって前記Al最高含有点とTi最高含有点が所定間隔をもって交互に繰り返し現れると共に、前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTiの含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造が形成されるようになること。
(a)上記の図2に示されるアークイオンプレーティング装置を用いて形成された従来被覆サーメット工具を構成する(Ti,Al,B)N層は、層厚全体に亘って実質的に均一な組成を有し、したがって均質な高温硬さと耐熱性、さらに強度を有するが、例えば図1(a)に概略平面図で、同(b)に概略正面図で示される構造のアークイオンプレーティング装置、すなわち装置中央部にサーメット基体装着用回転テーブルを設け、前記回転テーブルを挟んで、一方側に相対的にAl含有量の高いAl−Ti−B合金、他方側に相対的にTi含有量の高いTi−Al−B合金をカソード電極(蒸発源)として対向配置したアークイオンプレーティング装置を用い、この装置の前記回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置にテーブル外周部に沿って複数のサーメット基体をリング状に装着し、この状態で装置内雰囲気を窒素雰囲気として前記回転テーブルを回転させると共に、蒸着形成される硬質被覆層の層厚均一化を図る目的でサーメット基体自体も自転させながら、前記サーメット基体に印加するバイアス電圧を、上記の従来(Ti,Al,B)N層の形成時に印加されるバイアス電圧、すなわち−30〜−150Vに比して相対的に低い−300〜−450Vとした条件(前記サーメット基体に印加されるバイアス電圧以外の条件は上記の一般的条件と同じ)で、両側のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、前記サーメット基体の表面にAlとTiとBの複合窒化物[以下、(Al−Ti,B)Nで示す]層を形成すると、この結果の(Al−Ti,B)N層においては、前記サーメット基体への低電圧印加(−300〜−450Vのバイアス電圧印加)によって前記カソード電極のAl−Ti−B合金およびTi−Al−B合金中に含有のB成分が独自に窒化硼素(以下、BNで示す)を形成し、これが微粒となってAlとTiの複合窒化物[以下、(Al,Ti)Nで示す]で構成された固溶体素地に均一に分散分布した組織を示すようになり、さらに、回転テーブル上にリング状に配置された前記サーメット基体が上記の一方側の相対的にAl含有量の高いAl−Ti−B合金のカソード電極(蒸発源)に最も接近した時点で前記(Al,Ti)Nの固溶体素地中にAl最高含有点が形成され、また前記サーメット基体が上記の他方側の相対的にTi含有量の高いTi−Al−B合金のカソード電極に最も接近した時点では前記固溶体素地中にTi最高含有点が形成され、この結果上記回転テーブルの回転によって前記固溶体素地中には層厚方向にそって前記Al最高含有点とTi最高含有点が所定間隔をもって交互に繰り返し現れると共に、前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTiの含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造が形成されるようになること。
(b)上記(a)の固溶体素地が繰り返し連続変化成分濃度分布構造を有する(Al−Ti,B)N層の形成において、対向配置の一方側のカソード電極(蒸発源)であるAl−Ti−B合金におけるAl含有量を上記の従来Ti−Al−B合金のAl含有量に比して相対的に高いものとし、かつ同他方側のカソード電極(蒸発源)であるTi−Al−B合金におけるAl含有量を上記の従来Ti−Al−B合金のAl含有量に比して相対的に低いものとする共に、これらカソード電極を構成する合金のB含有量も考慮し、さらにサーメット基体が装着されている回転テーブルの回転速度を制御して、
上記(Al,Ti)Nの固溶体素地に上記BN微粒が、B成分の含有割合で示して、AlおよびTi成分との合量に占める原子比で0.001〜0.05の割合で存在し、
かつ、上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.25を示す)、
上記Ti最高含有点が、組成式:(Ti1-Y AlY )N(ただし、原子比で、Yは0.05〜0.25を示す)、
をそれぞれ満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とTi最高含有点の厚さ方向の間隔を0.01〜0.1μmとすると、
上記Al最高含有点部分では、上記の従来(Ti,Al,B)N層に比してAl含有割合が相対的に高くなるので、より一段とすぐれた高温硬さと耐熱性を示し、一方上記Ti最高含有点部分では、前記従来(Ti,Al,B)N層に比してTi含有割合が相対的に高くなるので、一段と高い強度を具備し、かつこれらAl最高含有点とTi最高含有点の間隔をきわめて小さくしたことから、上記(Al,Ti)Nの固溶体素地に均一に分散分布する著しく硬質のBN微粒の存在と相俟って、層全体の特性として高強度を保持した状態で、すぐれた高温硬さと耐熱性を具備するようになり、したがって、硬質被覆層がかかる構成の(Al−Ti,B)N層からなる被覆サーメット工具は、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、特に高熱発生および高い機械的衝撃を伴う、高速重切削条件で行なった場合にも、硬質被覆層にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するようになること。
以上(a)および(b)に示される研究結果を得たのである。
上記(Al,Ti)Nの固溶体素地に上記BN微粒が、B成分の含有割合で示して、AlおよびTi成分との合量に占める原子比で0.001〜0.05の割合で存在し、
かつ、上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.25を示す)、
上記Ti最高含有点が、組成式:(Ti1-Y AlY )N(ただし、原子比で、Yは0.05〜0.25を示す)、
をそれぞれ満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とTi最高含有点の厚さ方向の間隔を0.01〜0.1μmとすると、
上記Al最高含有点部分では、上記の従来(Ti,Al,B)N層に比してAl含有割合が相対的に高くなるので、より一段とすぐれた高温硬さと耐熱性を示し、一方上記Ti最高含有点部分では、前記従来(Ti,Al,B)N層に比してTi含有割合が相対的に高くなるので、一段と高い強度を具備し、かつこれらAl最高含有点とTi最高含有点の間隔をきわめて小さくしたことから、上記(Al,Ti)Nの固溶体素地に均一に分散分布する著しく硬質のBN微粒の存在と相俟って、層全体の特性として高強度を保持した状態で、すぐれた高温硬さと耐熱性を具備するようになり、したがって、硬質被覆層がかかる構成の(Al−Ti,B)N層からなる被覆サーメット工具は、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、特に高熱発生および高い機械的衝撃を伴う、高速重切削条件で行なった場合にも、硬質被覆層にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するようになること。
以上(a)および(b)に示される研究結果を得たのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、サーメット基体の表面に、(Al−Ti,B)N層からなる硬質被覆層を1〜15μmの層厚で物理蒸着してなる被覆サーメット工具において、前記硬質被覆層が、
(a)(Al,Ti)Nで構成された固溶体素地に、BN微粒が分散分布し、かつ前記BN微粒の含有割合をB成分の含有割合で示すと、AlおよびTi成分との合量に占める原子比で0.001〜0.05である組織を有し、
(b)さらに、上記(a)の固溶体素地が、層厚方向にそって、Al最高含有点とTi最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTiの含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有すると共に、
上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.25を示す)、
上記Ti最高含有点が、組成式:(Ti1-Y AlY )N(ただし、原子比で、Yは0.05〜0.25を示す)、
を満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とTi最高含有点の間隔が、0.01〜0.1μmである、
高速重切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
(a)(Al,Ti)Nで構成された固溶体素地に、BN微粒が分散分布し、かつ前記BN微粒の含有割合をB成分の含有割合で示すと、AlおよびTi成分との合量に占める原子比で0.001〜0.05である組織を有し、
(b)さらに、上記(a)の固溶体素地が、層厚方向にそって、Al最高含有点とTi最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTiの含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有すると共に、
上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.25を示す)、
上記Ti最高含有点が、組成式:(Ti1-Y AlY )N(ただし、原子比で、Yは0.05〜0.25を示す)、
を満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とTi最高含有点の間隔が、0.01〜0.1μmである、
高速重切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆サーメット工具において、これを構成する硬質被覆層の構成を上記の通りに限定した理由を説明する。
(a)固溶体素地に分散分布するBN微粒の含有割合
BN微粒はきわめて硬質で、固溶体素地に分散分布して層自体の高温硬さを著しく向上させ、もって硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するものであるが、その含有割合が、B成分の含有割合に換算し、かつAlおよびTi成分との合量に占める原子比で0.001未満(この場合上記アークイオンプレーティング装置のカソード電極である対向配置の両合金のB含有量も同じく0.001未満となる)では、BN微粒の分散割合が少な過ぎて所望の高温硬さ向上効果が得られず、一方その含有割合が、同じく0.05を越える(同じく前記カソード電極である対向配置の両合金のB含有量も0.05を越える)と、B成分が固溶体素地に含有するようになり、硬質被覆層の強度が急激に低下し、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その含有割合をB成分の含有割合に換算し、かつAlおよびTi成分との合量に占める原子比で0.001〜0.05と定めた。
(a)固溶体素地に分散分布するBN微粒の含有割合
BN微粒はきわめて硬質で、固溶体素地に分散分布して層自体の高温硬さを著しく向上させ、もって硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するものであるが、その含有割合が、B成分の含有割合に換算し、かつAlおよびTi成分との合量に占める原子比で0.001未満(この場合上記アークイオンプレーティング装置のカソード電極である対向配置の両合金のB含有量も同じく0.001未満となる)では、BN微粒の分散割合が少な過ぎて所望の高温硬さ向上効果が得られず、一方その含有割合が、同じく0.05を越える(同じく前記カソード電極である対向配置の両合金のB含有量も0.05を越える)と、B成分が固溶体素地に含有するようになり、硬質被覆層の強度が急激に低下し、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その含有割合をB成分の含有割合に換算し、かつAlおよびTi成分との合量に占める原子比で0.001〜0.05と定めた。
(b)固溶体素地のAl最高含有点の組成
硬質被覆層の固溶体素地を構成する(Al,Ti)NのAl最高含有点におけるAl成分は、高温硬さと耐熱性を向上させ、同Ti成分は強度を向上させる作用があり、したがってAl成分の含有割合が高くなればなるほど高温硬さと耐熱性は向上し、高熱発生を伴う高速切削に適合したものになるが、Tiの割合を示すX値がAlとの合量に占める割合(原子比)で0.05未満になると、相対的にAlの割合が多くなり過ぎて、高強度を有するTi最高含有点が隣接して存在しても層自体の強度低下は避けられず、この結果チッピングなどが発生し易くなり、一方Ti成分の割合を示すX値が同0.25を越えると、相対的にAlの割合が少なくなることから、高温硬さと耐熱性の低下は避けられず、これが摩耗促進の原因となることから、X値を0.05〜0.25とそれぞれ定めた。
硬質被覆層の固溶体素地を構成する(Al,Ti)NのAl最高含有点におけるAl成分は、高温硬さと耐熱性を向上させ、同Ti成分は強度を向上させる作用があり、したがってAl成分の含有割合が高くなればなるほど高温硬さと耐熱性は向上し、高熱発生を伴う高速切削に適合したものになるが、Tiの割合を示すX値がAlとの合量に占める割合(原子比)で0.05未満になると、相対的にAlの割合が多くなり過ぎて、高強度を有するTi最高含有点が隣接して存在しても層自体の強度低下は避けられず、この結果チッピングなどが発生し易くなり、一方Ti成分の割合を示すX値が同0.25を越えると、相対的にAlの割合が少なくなることから、高温硬さと耐熱性の低下は避けられず、これが摩耗促進の原因となることから、X値を0.05〜0.25とそれぞれ定めた。
(c)固溶体素地のTi最高含有点の組成
上記の通り固溶体素地のAl最高含有点は高温硬さと耐熱性のすぐれたものであるが、反面強度の劣るものであるため、このAl最高含有点の強度不足を補う目的で、Ti含有割合が高く、これによって高強度を有するようになるTi最高含有点を厚さ方向に交互に介在させるものであり、したがってAlの割合を示すY値がTiとの合量に占める割合(原子比)で0.25を越えると、相対的にAlの割合が多くなり過ぎて、所望のすぐれた強度を確保することができず、一方同Y値が同じく0.05未満になると、相対的にTiの割合が多くなり過ぎて、Ti最高含有点における高温硬さと耐熱性が急激に低下し、これが摩耗促進の原因となることから、Y値を0.05〜0.25と定めた。
上記の通り固溶体素地のAl最高含有点は高温硬さと耐熱性のすぐれたものであるが、反面強度の劣るものであるため、このAl最高含有点の強度不足を補う目的で、Ti含有割合が高く、これによって高強度を有するようになるTi最高含有点を厚さ方向に交互に介在させるものであり、したがってAlの割合を示すY値がTiとの合量に占める割合(原子比)で0.25を越えると、相対的にAlの割合が多くなり過ぎて、所望のすぐれた強度を確保することができず、一方同Y値が同じく0.05未満になると、相対的にTiの割合が多くなり過ぎて、Ti最高含有点における高温硬さと耐熱性が急激に低下し、これが摩耗促進の原因となることから、Y値を0.05〜0.25と定めた。
(c)固溶体素地のAl最高含有点とTi最高含有点間の間隔
その間隔が0.01μm未満ではそれぞれの点を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果硬質被覆層に所望の高強度、さらに高温硬さと耐熱性を確保することができなくなり、またその間隔が0.1μmを越えるとそれぞれの点がもつ欠点、すなわちAl最高含有点であれば強度不足、Ti最高含有点であれば高温硬さおよび耐熱性不足が層内に局部的に現れ、これが原因で切刃にチッピングが発生し易くなったり、摩耗進行が促進されるようになることから、その間隔を0.01〜0.1μmと定めた。
その間隔が0.01μm未満ではそれぞれの点を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果硬質被覆層に所望の高強度、さらに高温硬さと耐熱性を確保することができなくなり、またその間隔が0.1μmを越えるとそれぞれの点がもつ欠点、すなわちAl最高含有点であれば強度不足、Ti最高含有点であれば高温硬さおよび耐熱性不足が層内に局部的に現れ、これが原因で切刃にチッピングが発生し易くなったり、摩耗進行が促進されるようになることから、その間隔を0.01〜0.1μmと定めた。
(d)硬質被覆層の層厚
その層厚が1μm未満では、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その層厚が15μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その層厚を1〜15μmと定めた。
その層厚が1μm未満では、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その層厚が15μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その層厚を1〜15μmと定めた。
この発明の被覆サーメット工具は、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、高温発生を伴う高速条件で、かつ高い機械的衝撃を伴う高切り込みや高送りなどの重切削条件で行なった場合にも、硬質被覆層にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮することができる。
つぎに、この発明の被覆サーメット工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 C2 粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製のサーメット基体A1〜A10を形成した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN系サーメット製のサーメット基体B1〜B6を形成した。
ついで、上記のサーメット基体A1〜A10およびB1〜B6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置にテーブル外周部にそってリング状に装着し、表3に示される組み合わせで、一方側のカソード電極(蒸発源)として、表3に示される成分組成をもった固溶体素地のTi最高含有点形成用Ti−Al−B合金、他方側のカソード電極(蒸発源)として、同じく表3に示される成分組成をもった固溶体素地のAl最高含有点形成用Al−Ti−B合金を前記回転テーブルを挟んで対向配置し、またボンバート洗浄用金属Tiも装着し、まず、装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転するサーメット基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記金属Tiとアノード電極との間に、電圧:25V、電流:100Aの条件でアーク放電を発生させ、もってサーメット基体表面をTiボンバート洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転するサーメット基体に−400Vの直流バイアス電圧を印加し、かつそれぞれのカソード電極(前記固溶体素地のTi最高含有点形成用Ti−Al−B合金および同Al最高含有点形成用Al−Ti−B合金)とアノード電極との間に、電圧:25V、電流:100Aの条件でアーク放電を発生させ、もって前記サーメット基体の表面に、オージェ分光分析装置およびX線光電子分光装置による測定で、(Al,Ti)Nの固溶体素地にBN微粒が表4に示される割合で分散分布し、かつ層厚方向に沿って、前記固溶体素地には表4に示される成分組成をもったTi最高含有点とAl最高含有点とが交互に同じく表4に示される間隔で繰り返し存在し、さらに前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTiの含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、同じく表4に示される層厚の硬質被覆層を蒸着することにより、本発明被覆サーメット工具としての本発明表面被覆サーメット製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、これらサーメット基体A1〜A10およびB1〜B6を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図2に示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、カソード電極(蒸発源)として種々の成分組成をもったTi−Al−B合金を装着し、さらにボンバート洗浄用金属Tiも装着し、まず、装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記サーメット基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記金属Tiとアノード電極との間に、電圧:25V、電流:100Aの条件でアーク放電を発生させ、もってサーメット基体表面をTiボンバート洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、サーメット基体に−100V(上記の本発明被覆チップ1〜16の硬質被覆層形成では−400V)の直流バイアス電圧を印加し、前記カソード電極のTi−Al−B合金とアノード電極との間に、電圧:25V、電流:100Aの条件でアーク放電を発生させ、もって前記サーメット基体A1〜A10およびB1〜B6のそれぞれの表面に、オージェ分光分析装置による測定で、表5に示される成分組成および層厚を有し、かつ層厚方向に沿って実質的に組成変化がなく、X線光電子分光装置による測定でもBN微粒の存在が認められない(Ti,Al,B)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより、従来被覆サーメット工具としての従来表面被覆サーメット製スローアウエイチップ(以下、従来被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
つぎに、上記の各種の被覆チップを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆チップ1〜10および従来被覆チップ1〜10については、
被削材:JIS・SNCM439の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:320m/min.、
切り込み:4.5mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件での合金鋼の乾式断続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.、同切り込みは2.5mm)、
被削材:JIS・S50Cの丸棒、
切削速度:450m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.6mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件での炭素鋼の乾式連続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度は250m/min.、同送りは0.3mm/rev.)、
被削材:JIS・FC250の丸棒、
切削速度:450m/min.、
切り込み:4.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:15分、
の条件での鋳鉄の乾式連続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度は250m/min.、同切り込みは2.5mm)を行なった。
被削材:JIS・SNCM439の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:320m/min.、
切り込み:4.5mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件での合金鋼の乾式断続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.、同切り込みは2.5mm)、
被削材:JIS・S50Cの丸棒、
切削速度:450m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.6mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件での炭素鋼の乾式連続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度は250m/min.、同送りは0.3mm/rev.)、
被削材:JIS・FC250の丸棒、
切削速度:450m/min.、
切り込み:4.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:15分、
の条件での鋳鉄の乾式連続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度は250m/min.、同切り込みは2.5mm)を行なった。
さらに、本発明被覆チップ11〜16および従来被覆チップ11〜16については、
被削材:JIS・SCM435の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min.、
切り込み:4mm、
送り:0.4mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件での合金鋼の乾式断続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.、同切り込みは2mm)、
被削材:JIS・S55Cの丸棒、
切削速度:400m/min.、
切り込み:2mm、
送り:0.7mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件での炭素鋼の乾式連続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.、同送りは0.3mm/rev.)、
被削材:JIS・FC300の丸棒、
切削速度:500m/min.、
切り込み:5mm、
送り:0.4mm/rev.、
切削時間:15分、
の条件での鋳鉄の乾式連続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度は250m/min.、同切り込みは2mm)を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
被削材:JIS・SCM435の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min.、
切り込み:4mm、
送り:0.4mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件での合金鋼の乾式断続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.、同切り込みは2mm)、
被削材:JIS・S55Cの丸棒、
切削速度:400m/min.、
切り込み:2mm、
送り:0.7mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件での炭素鋼の乾式連続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.、同送りは0.3mm/rev.)、
被削材:JIS・FC300の丸棒、
切削速度:500m/min.、
切り込み:5mm、
送り:0.4mm/rev.、
切削時間:15分、
の条件での鋳鉄の乾式連続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度は250m/min.、同切り込みは2mm)を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr3C2粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C(質量比でTiC/WC=50/50)粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表7に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mm、13mm、および26mmの3種のサーメット基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、表7に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法、並びにいずれもねじれ角30度の4枚刃スクエアの形状をもったサーメット基体(エンドミル)C−1〜C−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらのサーメット基体(エンドミル)C−1〜C−8を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、表8に示される組み合わせで、一方側のカソード電極(蒸発源)として、表8に示される成分組成をもった固溶体素地のTi最高含有点形成用Ti−Al−B合金、他方側のカソード電極(蒸発源)として、同じく表8に示される成分組成をもった固溶体素地のAl最高含有点形成用Al−Ti−B合金を前記回転テーブルを挟んで対向配置し、以下、上記実施例1と同一の条件で、前記サーメット基体の表面に、オージェ分光分析装置およびX線光電子分光装置による測定で、(Al,Ti)Nの固溶体素地にBN微粒が表9に示される割合で分散分布し、かつ層厚方向に沿って、前記固溶体素地には表9に示される成分組成をもったTi最高含有点とAl最高含有点とが交互に同じく表9に示される間隔で繰り返し存在し、さらに前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTiの含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、同じく表9に示される層厚の硬質被覆層を蒸着することにより、本発明被覆サーメット工具としての本発明表面被覆サーメット製エンドミル(以下、本発明被覆エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記のサーメット基体(エンドミル)C−1〜C−8を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、前記サーメット基体のそれぞれの表面に、オージェ分光分析装置による測定で、表10に示される成分組成および層厚を有し、かつ層厚方向に沿って実質的に組成変化がなく、X線光電子分光装置による測定でもBN微粒の存在が認められない(Ti,Al,B)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより、従来被覆サーメット工具としての従来表面被覆サーメット製エンドミル(以下、従来被覆エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆エンドミル1〜8および従来被覆エンドミル1〜8のうち、本発明被覆エンドミル1〜3および従来被覆エンドミル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM435の板材、
切削速度:250m/min.、
溝深さ(切り込み):1.5mm、
テーブル送り:1000mm/分、
の条件での合金鋼の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.、同テーブル送りは500mm/分)、本発明被覆エンドミル4〜6および従来被覆エンドミル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S45Cの板材、
切削速度:350m/min.、
溝深さ(切り込み):8mm、
テーブル送り:1200mm/分、
の条件での炭素鋼の乾式高速高切り込み溝切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.、同溝深さは4mm)、本発明被覆エンドミル7,8および従来被覆エンドミル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD61の板材、
切削速度:220m/min.、
溝深さ(切り込み):5mm、
テーブル送り:350mm/分、
の条件での工具鋼の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.、同テーブル送りは200mm/分)をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表9、10にそれぞれ示した。
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM435の板材、
切削速度:250m/min.、
溝深さ(切り込み):1.5mm、
テーブル送り:1000mm/分、
の条件での合金鋼の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.、同テーブル送りは500mm/分)、本発明被覆エンドミル4〜6および従来被覆エンドミル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S45Cの板材、
切削速度:350m/min.、
溝深さ(切り込み):8mm、
テーブル送り:1200mm/分、
の条件での炭素鋼の乾式高速高切り込み溝切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.、同溝深さは4mm)、本発明被覆エンドミル7,8および従来被覆エンドミル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD61の板材、
切削速度:220m/min.、
溝深さ(切り込み):5mm、
テーブル送り:350mm/分、
の条件での工具鋼の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.、同テーブル送りは200mm/分)をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表9、10にそれぞれ示した。
上記の実施例2で製造した直径が8mm(サーメット基体C−1〜C−3形成用)、13mm(サーメット基体C−4〜C−6形成用)、および26mm(サーメット基体C−7、C−8形成用)の3種の丸棒焼結体を用い、この3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ4mm×13mm(サーメット基体D−1〜D−3)、8mm×22mm(サーメット基体D−4〜D−6)、および16mm×45mm(サーメット基体D−7、D−8)の寸法、並びにいずれもねじれ角30度の2枚刃形状をもったサーメット基体(ドリル)D−1〜D−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらのサーメット基体(ドリル)D−1〜D−8の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、表11に示される組み合わせで、一方側のカソード電極(蒸発源)として、表11に示される成分組成をもった固溶体素地のTi最高含有点形成用Ti−Al−B合金、他方側のカソード電極(蒸発源)として、同じく表11に示される成分組成をもった固溶体素地のAl最高含有点形成用Al−Ti−B合金を前記回転テーブルを挟んで対向配置し、以下、上記実施例1と同一の条件で、前記サーメット基体の表面に、オージェ分光分析装置およびX線光電子分光装置による測定で、(Al,Ti)Nの固溶体素地にBN微粒が表12に示される割合で分散分布し、かつ層厚方向に沿って、前記固溶体素地には表12に示される成分組成をもったTi最高含有点とAl最高含有点とが交互に同じく表12に示される間隔で繰り返し存在し、さらに前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTiの含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、同じく表12に示される層厚の硬質被覆層を蒸着することにより、本発明被覆サーメット工具としての本発明表面被覆サーメット製ドリル(以下、本発明被覆ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記のサーメット基体(ドリル)D−1〜D−8の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、前記サーメット基体のそれぞれの表面に、オージェ分光分析装置による測定で、表13に示される成分組成および層厚を有し、かつ層厚方向に沿って実質的に組成変化がなく、X線光電子分光装置による測定でもBN微粒の存在が認められない(Ti,Al,B)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより、従来被覆サーメット工具としての従来表面被覆サーメット製ドリル(以下、従来被覆超硬ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆ドリル1〜8および従来被覆ドリル1〜8のうち、本発明被覆ドリル1〜3および従来被覆ドリル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度:200m/min.、
送り:0.3mm/rev、
穴深さ:8mm、
の条件での合金鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は100m/min.、同送りは0.1mm/rev)、本発明被覆ドリル4〜6および従来被覆ドリル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD61の板材、
切削速度:180m/min.、
送り:0.35mm/rev、
穴深さ:16mm、
の条件での工具鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は100m/min.、同送りは0.2mm/rev)、本発明被覆ドリル7,8および従来被覆ドリル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度:190m/min.、
送り:0.4mm/rev、
穴深さ:32mm、
の条件での炭素鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は100m/min.、同送りは0.2mm/rev)、をそれぞれ行い、いずれの湿式穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表12、13にそれぞれ示した。
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度:200m/min.、
送り:0.3mm/rev、
穴深さ:8mm、
の条件での合金鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は100m/min.、同送りは0.1mm/rev)、本発明被覆ドリル4〜6および従来被覆ドリル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD61の板材、
切削速度:180m/min.、
送り:0.35mm/rev、
穴深さ:16mm、
の条件での工具鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は100m/min.、同送りは0.2mm/rev)、本発明被覆ドリル7,8および従来被覆ドリル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度:190m/min.、
送り:0.4mm/rev、
穴深さ:32mm、
の条件での炭素鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は100m/min.、同送りは0.2mm/rev)、をそれぞれ行い、いずれの湿式穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表12、13にそれぞれ示した。
表3〜13に示される結果から、硬質被覆層が、(Al,Ti)Nの固溶体素地に著しく高い高温硬さをもったBN微粒が分散分布した組織を有し、かつ前記固溶体素地には、層厚方向に沿って、高強度を有するTi最高含有点とすぐれた高温硬さと耐熱性を有するAl最高含有点とが交互に所定間隔をおいて繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTi含有量がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有する本発明被覆サーメット工具は、いずれも各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、高温発生を伴う高速条件で、かつ高い機械的衝撃を伴う高切り込みや高送りなどの重切削条件で行なった場合にも、硬質被覆層にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層が層厚方向に沿って実質的に組成変化のない(Ti,Al,B)N層からなる従来被覆サーメット工具においては、前記の高速重切削条件では、前記硬質被覆層の高温硬さおよび耐熱性不足、並びに強度不足が原因で、摩耗進行が速く、かつチッピングも発生し易いことから、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆サーメット工具は、通常の条件での切削加工は勿論のこと、特に各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、高熱発生および高い機械的衝撃を伴う高速重切削条件で行なった場合にも、チッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するものであるから、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
上述のように、この発明の被覆サーメット工具は、通常の条件での切削加工は勿論のこと、特に各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、高熱発生および高い機械的衝撃を伴う高速重切削条件で行なった場合にも、チッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するものであるから、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン系サーメットで構成されたサーメット基体の表面に、Al(アルミニウム)とTi(チタン)とB(ボロン)の複合窒化物層からなる硬質被覆層を1〜15μmの層厚で物理蒸着してなる表面被覆サーメット製切削工具において、前記硬質被覆層が、
(a)AlとTiの複合窒化物で構成された固溶体素地に、窒化硼素微粒が分散分布し、かつ前記窒化硼素微粒の含有割合をB成分の含有割合で示すと、AlおよびTi成分との合量に占める原子比で0.001〜0.05である組織を有し、
(b)さらに、上記(a)の固溶体素地が、層厚方向にそって、Al最高含有点とTi最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTiの含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有すると共に、
上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.25を示す)、
上記Ti最高含有点が、組成式:(Ti1-Y AlY )N(ただし、原子比で、Yは0.05〜0.25を示す)、
を満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とTi最高含有点の間隔が、0.01〜0.1μmであること、
を特徴とする高速重切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具。
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JP (1) | JP2005095986A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN104789938A (zh) * | 2014-01-22 | 2015-07-22 | 三菱综合材料株式会社 | 硬质包覆层发挥优异的耐崩刀性的表面包覆切削工具 |
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2003
- 2003-09-03 JP JP2003311105A patent/JP2005095986A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN104789938A (zh) * | 2014-01-22 | 2015-07-22 | 三菱综合材料株式会社 | 硬质包覆层发挥优异的耐崩刀性的表面包覆切削工具 |
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