JP2004533229A - 生殖能力に不可欠なヒト遺伝子 - Google Patents

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Abstract

本明細書において、生殖能力に不可欠な新規核酸およびタンパク質配列が開示される。特に、ヒトMater ゲノム、cDNAおよびタンパク質配列が提供され、またそれらの断片および変異体が提供される。機能的なMATERは女性の生殖能力に必要であり、Materヌル卵母細胞から生ずる接合体は2細胞期より先に進行しない。Mater分子を不妊症および生殖能力低下の診断、予知、および治療に使用するための方法が記載され、またそのような方法に関連するキットが提供される。Materを避妊薬として用いる方法もまた提供される。本開示はまた、そのような方法に関係する化合物、およびそのような化合物の同定についても記載する。

Description

【技術分野】
【0001】
関連する出願への言及
この出願は2001年4月に提出されたPCT出願PCT/US01/10981号の一部継続出願であり、2000年10月18日に提出された米国仮出願第60/241,510号の恩典を主張するものであり、その両方の全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0002】
分野
本開示は一般に生殖能力に関し、それを制御する機序、そのような機序の異常から生ずる疾患、および生殖能力に影響を与える(阻害または促進)方法を含む。
【背景技術】
【0003】
背景
早発性卵巣機能不全(POF)は、女性の特定の型の不妊症を表すのに使用される用語である。米国の全女性の1%程度がPOFで悩むと考えられ、それは40歳未満の女性において不妊症を含む更年期型の症状として発現する。潜在的な染色体疾患(例えば、X染色体易損性)、化学療法、または放射線治療を含む多くの異なる疾患および条件によって、POFが引き起こされる可能性がある。自己免疫は確立された早発性卵巣機能不全の機序である(Yanら、J Womens Health Gend Based Med. 9:275-287、2000;KalantaridouおよびNelson、J Am Med Womens Assoc. 53:18-20、1998参照)。自己免疫性不妊症では、女性の卵巣は彼女自身の免疫機構の細胞により攻撃され、自己免疫性卵巣炎(卵巣の炎症)として知られる状態を招く。自己免疫疾患は、単一の誘発抗原への応答により発症し、その後広がって同じ臓器の他の抗原分子を含むに至る可能性がある(Kaufman、Nature 366:69〜72、1993)。従って、臓器特異性自己免疫疾患において、自己抗原の標的を同定することは、その病因論の理解に不可欠である。
【0004】
ヒトの自己免疫性卵巣炎の機序を洞察するために、実験動物(マウス)モデルが用いられてきた。新生期(約3日齢)のマウスの胸腺の除去(胸腺摘出)により、一部の系統のマウスに実験的自己免疫性卵巣炎が誘発される(Taguchiら、Clin Exp Immunol. 42:324-331、1980)。この実験的に誘発された状態は、卵胞の変性を伴う高レベルの抗卵質抗体産生および不妊に至る;この状態の進行はヒト自己免疫性卵巣炎と極めて類似すると思われる(KalantaridouおよびNelson、J Am Med Womans Assoc. 53:18-20、1998)。
【0005】
母性産物は、胚のゲノム活性化が起こるまで発生プログラムを制御する。初期の胚発生に重要な母性効果遺伝子については、ショウジョウバエおよびアフリカツメガエルにおいて多く記載されてきたが(MorisatoおよびAnderson、Annu. Rev. Genet. 29:371-399、1995;NewportおよびKirschner、Cell 30:687-696、1982)、哺乳類においてはその存在が推測されてきたにすぎない(Gardner、Hum. Reprod. Update 2:1-27、1999)。マウスでは、胚転写は後期1細胞接合体期に最初に検出され、2細胞期を超えて発達するために必要である(Schultz、Bioessays 15:531-538、1993;Flachら、EMBO J. 1:681-686、1982;Lanthamら、 Mol. Reprod. Dev. 35:140-150、1993)。母方から胚ゲノムへのこの遷移を支配する因子は知られていない。
【0006】
発生における重大な遷移は、卵に蓄えられたタンパク質への依存から胚ゲノムの活性化の結果生じるタンパク質への依存に転換するのに伴って生ずる。マウスの2細胞期に生ずるこの転換は母性因子に依存する。遺伝子の転写やタンパク質の翻訳はネズミ科の卵形成の間に活発であり、卵母細胞にRNAとタンパク質が蓄積する。しかしながら、生殖細胞は卵形成後期には転写が不活性になり、母性RNAの多くは成熟分裂及び卵が卵管へ排卵する間に分解する。従って、母性遺伝子産物で2細胞胚期を過ぎて存続するものは少なく、初期発生に影響することが直接証明されたものはない(Schultz、Bioessays 15:531-538、1993;Gardner、Hum. Reprod. Update 2、3-27、1996)。
【発明の開示】
【0007】
開示の概要
本明細書には、ヒトMATERタンパク質である、女性の生殖能力に必要な哺乳動物の卵母細胞で発現する約135kDa(予測推定分子量)の細胞質タンパク質が記載される。MATERヌル卵母細胞から発生する接合体は2細胞期より先に進行しない。
【0008】
いくつかの態様は、推定分子量約125kDaから約135kDa、いくつかの態様では、特に約134.2kDaと予想される単離されたヒトMATERタンパク質である。例えばこの推定分子量は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、および、例えばマウスMATERのC末端ペプチド(例えば配列番号:6における1093残基から1111残基)に対して産生された抗体を利用したウエスタンブロッティングによって得ることができる。MATERタンパク質は配列番号:2、4もしくは24に記載のアミノ酸配列、または配列番号:2、4もしくは24と少なくとも65%(例えば、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上)の配列同一性を有する配列を含む。そのようなタンパク質の一部の具体的な例では、一つまたは複数の保存的変異をそのような配列中に含む可能性がある。提供される特定のヒトMATERタンパク質は、例えばMaterヌル表現型を相補することができるという意味において、MATERタンパク質の生物学的活性を有する。
【0009】
従って、一つの具体的態様は、推定分子量約135kDaと予測される単離されたヒトMATERタンパク質であって、そのヒトMATERタンパク質は、配列番号:2、および/または配列番号:4、および/または配列番号:24に記載のアミノ酸配列を含み、自己免疫性不妊症と関連性のある卵母細胞の細胞質特異的な自己抗原であり、胚の2細胞期を超えた発達を可能にすることによりMaterヌル表現型を相補することができる。
【0010】
その他の態様は、野生型と比べ少なくとも一つの変異アミノ酸を有する変異MATERタンパク質である。そのような変異タンパク質の例には、少なくとも一つの変異アミノ酸が、そのタンパク質中の認識されたドメインまたは領域の中に存在するタンパク質が含まれる。その他の例においては、少なくとも一つの変異アミノ酸が、MATERタンパク質中の認識されたドメインまたは領域の外側に存在する。さらなる態様は、変異MATERタンパク質をコードする単離核酸分子、MATER核酸分子に機能的に連結したプロモーター配列を含む組換え核酸分子、およびそのような組換え核酸分子で形質転換した細胞である。
【0011】
被験者における異常なMater核酸、異常なMATER発現、またはMATERに対する自己免疫反応と関連性のある生物学的状態を検出する方法も提供される。そのような生物学的状態の例には、不妊症(例えば自己免疫性不妊症)もしくは生殖能力低下、または不妊症もしくは生殖能力低下に対する感受性の増加が含まれる。そのような方法に使用するためのキットもまた提供される。
【0012】
さらなる態様は、哺乳動物においてMATERを介する不妊症に影響を与えるのに役立つ化合物をスクリーニングする方法を含む。
【0013】
本発明の前述およびその他の特色および長所は、添付の図面を参照すると共に、続くいくつかの態様の詳細な記載からより明らかになると思われる。
【0014】
配列表
添付の配列表中の核酸およびアミノ酸配列は、37連邦規則集1.822において定められた定義のとおり、ヌクレオチド塩基においては標準的文字省略形で、アミノ酸においては3文字コードで示される。それぞれのヌクレオチド配列のうち一鎖のみが示されるが、示される鎖へのいずれの言及によっても、相補鎖が含まれるものと理解される。添付の配列表中において、
配列番号:1は、ヒトMater cDNA断片1の核酸配列を示す;
配列番号:2は、断片1(配列番号:1)によってコードされるヒトMATERペプチドのアミノ酸配列を示す;
配列番号:3は、ヒトMater cDNA断片2の核酸配列を示す;
配列番号:4は、断片2(配列番号:3)によってコードされるヒトMATERペプチドのアミノ酸配列を示す;
配列番号:5は、マウスMater cDNA(GenBankアクセッション番号NM_011860.1およびAF074018;個々のエキソンはAF143559〜AF143573にも記載されている)の核酸配列を示す;
配列番号:6は、マウスMATERタンパク質(GenBankアクセッション番号NP_035990)のアミノ酸配列を示す;
配列番号:7〜22は、プローブおよび/またはプライマーとして有用な、いくつかの合成オリゴヌクレオチドを示す;
配列番号:23は、ヒトMater cDNAの核酸配列、およびコードされたアミノ酸配列を示す;
配列番号:24は、ヒトMATERタンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号:25〜38は、ヒトMater遺伝子におけるイントロン-エキソン境界と一部重なるオリゴヌクレオチド配列である。本明細書でより完全に記載されるように、これらのオリゴヌクレオチドは順番に、エキソン1〜15を規定するスプライス・ジャンクションに対応する;
配列番号:39および40は、ヒトβアクチン特異的プライマーである。
配列番号:41および42は、ヒトMATER特異的プライマーである。
【0015】
開示の詳細な説明
I.略語
ES:胚性幹(embryonic stem)
Mater:胚が必要とする母性抗原(Maternal Antigen That Embryos Require)
OP1:卵質特異的タンパク質1(Ooplasm-specific Protein 1)
POF:早発性卵巣機能不全(Premature Ovarian Failure)
TRC:転写関連複合体(Transcription Related Complex)
ZP3:透明帯糖タンパク質3(zona pellucida glycoprotein 3)
【0016】
II.用語
別に記載がなければ、専門用語は従来の方法に従って用いられる。分子生物学の一般的な用語の定義は、Benjamin Lewin、「Genes V」、Oxford University Press、1994(国際標準図書番号0-19-854287-9);Kendrewら編、「The Encyclopedia of Molecular Biology」、Blackwell Science Ltd.、1994(国際標準図書番号0-632-02182-9);およびRobert A. Meyers編、「Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference」、VCH Publishers Inc.、1995(国際標準図書番号1-56081-569-8)に見いだすことができる。
【0017】
本発明の様々な態様の評価を容易にするために、特定の用語について以下に説明を提供する。
【0018】
異常:正常な特性からの逸脱。正常な特性は、対照、母集団における標準などに見出すことができる。例えば、異常な状態が自己免疫性不妊症のような自己免疫疾患状態である場合において、正常な特性の出所としては、自己免疫障害に罹患していない個体、この疾患に罹患していないと考えられる個体の母標準などを含んでもよい。
【0019】
いくつかの例では、異常とは、疾患と関連性のある状態を意味する。「と関連性のある」という用語は、疾患自体に加えて、疾患の発症に対する危険性の増大を含む。例えば、ある異常(例えばMater核酸、またはMATERタンパク質発現の異常)について、生殖能力の変化(例えば減少)および自己免疫性不妊症を発症する体質に基づく生物学的状態と関連性がある、というように記載することができる。
【0020】
異常なMater核酸などの異常な核酸とは、正常な(野生型)核酸とある様態において異なる核酸である。そのような異常には、それぞれ対照または標準との比較において、(1)核酸の突然変異(例えば点突然変異(例えば一塩基多型)またはいくつかのヌクレオチドにおける短い欠失または重複);(2)核酸の複製や発現を変化させるような核酸と関連性のある、対照配列中の突然変異(例えばプロモーターの機能的な不活化);(3)細胞またはその他の生物試料における核酸の量またはコピー数の減少(例えば、選択的遺伝子欠失または染色体のより広範な部分の欠失による核酸の欠失、またはmRNAの低発現);および(4)細胞または試料における核酸の量またはコピー数の増加(例えば、一部もしくは全ての核酸のゲノム増幅、またはmRNAの過剰発現)が含まれるが、必ずしもそれらに限定されることはない。これらの種類の異常は、同一核酸または同一細胞もしくは試料に共存するものと理解される;例えば、ゲノム増幅した核酸配列は、1つまたは複数の点突然変異も含む可能性がある。加えて、核酸の異常は、対応するタンパク質の発現の異常と関連し、実際にそれを生じさせる可能性があるものと理解される。
【0021】
異常なMATERタンパク質発現のような異常なタンパク質発現とは、正常な(野生型)状態におけるタンパク質の発現とある様態において異なるタンパク質の発現を言う。これには、それぞれ対照または標準との比較において、(1)1つまたは複数のアミノ酸残基が異なるような、タンパク質の突然変異;(2)タンパク質配列への、1つまたは数個のアミノ酸残基の短い欠失または挿入;(3)例えばタンパク質のドメインやサブドメイン全体が除去または追加されるような、アミノ酸残基のより広範な欠失または挿入;(4)対照または標準における量と比較して、増加した量のタンパク質発現;(5)対照または標準における量と比較して、減少した量のタンパク質発現;(6)タンパク質の細胞内の局在性または標的化の変化;(7)タンパク質の一過的に調節された発現の変化(例えば、タンパク質が通常は発現しないような時期に発現する、または通常は発現するような時期に発現しない);および(8)タンパク質の局在化された(例えば、臓器または組織特異的な)発現の変化(例えば、タンパク質が通常は発現するような場所に発現しない、または通常は発現しないような場所に発現する)が含まれるが、必ずしもそれらに限定されることはない。
【0022】
異常性を決定するために試料と比較するのに適切な対照または標準には、たとえ恣意的な集合である可能性があるにしても、研究室の評価の上では正常と考えられるものが含まれ、そのような評価が研究室ごとに異なる可能性があることに留意する。研究室の標準および評価は、既知のまたは測定された集団値に基づいて設定されたものであってもよく、測定され実験的に決定された値の簡単な比較を可能にするような、グラフや表の様式で提供されたものであってもよい。
【0023】
アンチセンス、センス、およびアンチジーン(antigene):二本鎖DNA(dsDNA)は、プラス鎖と呼ばれる5'→3'鎖、およびマイナス鎖と呼ばれる3'→5'鎖(逆相補)の二本の鎖を持つ。RNAポリメラーゼは核酸を5'→3'方向に追加するため、DNAのマイナス鎖は転写中にRNAの鋳型として作用する。従って、形成されたRNAは(TがUに置換されていることを除き)マイナス鎖と相補的で、プラス鎖と同一な配列を持つと考えられる。
【0024】
アンチセンス分子とは、RNAまたはDNAのプラス鎖のいずれかと特異的にハイブリダイズ可能な、または特異的に相補的な分子である。センス分子とは、DNAのマイナス鎖と特異的にハイブリダイズ可能な、または特異的に相補的な分子である。アンチジーン分子とは、dsDNAを標的とした、アンチセンスまたはセンスのいずれかの分子である。
【0025】
結合または安定した結合:十分量のオリゴヌクレオチドが塩基対を形成し、または標的の核酸にハイブリダイズして、その結合が検出可能になった場合、オリゴヌクレオチドは標的の核酸に結合または安定して結合する。結合は、標的:オリゴヌクレオチド複合体の物理的または機能的な性質により検出できる。標的とオリゴヌクレオチドの結合は、機能的および物理的な結合アッセイ法の両方を含む、当業者に知られた任意の方法により検出できる。結合が、遺伝子の発現、DNA複製、転写、翻訳等のような生合成過程に対して観察可能な効果を有するかどうかを決定することにより、結合を機能的に検出することができる。
【0026】
DNAまたはRNAの相補鎖の結合を物理的に検出する方法は、当技術分野において公知であり、例えばDNアーゼIまたは化学的フットプリント法、ゲルシフトおよびアフィニティー切断(affinity cleavage)アッセイ法、ノーザンブロッティング、ドット・ブロッティング、ならびに吸光度検出法などの方法が含まれる。例えば、容易かつ信頼性があるために広く用いられている方法として、温度を穏やかに上昇させながら、オリゴヌクレオチド(または類似体)および標的核酸を含む溶液において220nmから300nmでの吸光度の変化を観察することが含まれる。オリゴヌクレオチドまたは類似体がその標的に結合している場合に、オリゴヌクレオチド(または類似体)および標的が固有の温度において、互いに解離または融解するために、吸光度の急激な上昇がある。
【0027】
オリゴマーとその標的核酸の間の結合は、50%の標的配列が完全に一致するプローブまたは相補鎖とハイブリダイズした状態を維持する温度(Tm)によって、しばしば特徴づけられる。高い(Tm)は、低い(Tm)と比較して、より強いまたはより安定な複合体を意味する。
【0028】
cDNA(相補的DNA):内部に非コードセグメント(イントロン)および転写調節配列を欠失するDNA断片。cDNAはまた、対応するRNA分子の翻訳を制御する役割を持つ非翻訳領域(UTR)も含まれうる。cDNAは通常、研究室において、細胞から抽出したメッセンジャーRNAからの逆転写により合成される。
【0029】
DNA(デオキシリボ核酸):DNAは、ほとんどの生物の遺伝物質を構成する長いポリマー鎖である(いくつかのウイルスはリボ核酸(RNA)を含む遺伝子を有する)。DNAポリマーの反復単位は4つの異なるヌクレオチドであり、そのそれぞれは、リン酸基が付いたデオキシリボース糖に結合した、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、およびチミン(T)の4つの塩基のうちの一つを含む。ヌクレオチドのトリプレット(コドンと呼ぶ)は、ポリペプチド中のそれぞれのアミノ酸または終結シグナルをコードする。コドンという用語は、そのDNA配列から転写されたmRNAにおいて対応する(かつ相補的な)3つのヌクレオチド配列にも使用される。
【0030】
他に明記しない限り、DNA分子のいずれの言及も、そのDNA分子の逆相補鎖を含むことを意図する。本明細書の文面において一本鎖であることが要求される場面を除いて、DNA分子は、一本鎖のみを表すように記載されている場合であっても、二本鎖DNA分子の両方の鎖を包含する。従って、特定のタンパク質をコードする核酸分子またはその断片への言及は、センス鎖およびその逆相補鎖の双方を包含する。従って、例えば、開示された核酸分子の逆相補配列からプローブまたはプライマーを生成することも適当である。
【0031】
欠失:DNAの配列の除去であって、除去された配列のそれぞれの側にある領域が互いに結合されること。
【0032】
遺伝子増幅またはゲノム増幅:遺伝子、または遺伝子の断片もしくは領域、または関連した5'または3'領域のコピー数を、正常組織におけるコピー数と比較した場合のコピー数の増加。ゲノム増幅の例として、癌遺伝子のコピー数の増加がある。「遺伝子欠失」は、遺伝子配列に通常存在する一つまたは複数の核酸の欠失であり、極端な例では、遺伝子全体または染色体の一部の欠失さえ含むことがある。
【0033】
ハイブリダイゼーション:オリゴヌクレオチドおよびそれらの類似体は、相補的塩基間において、ワトソン・クリック型、フーグスティーン型、または逆フーグスティーン型水素結合を含む水素結合によりハイブリダイズする。一般に、核酸は含窒素塩基、すなわちピリミジン(シトシン(C)、ウラシル(U)、およびチミン(T))またはプリン(アデニン(A)およびグアニン(G))のいずれかで構成される。それらの含窒素塩基はピリミジンとプリンの間で水素結合を形成し、ピリミジンとプリンとの結合は「塩基の対合」と呼ばれる。より具体的には、AはTまたはUと水素結合し、GはCと結合する。「相補的」とは、二つの別個の核酸配列、または同一核酸配列中の二つの別個の領域の間に生ずる塩基の対合を指す。
【0034】
「特異的にハイブリダイズする」および「特異的に相補的」は、オリゴヌクレオチド(またはその類似体)とDNAまたはRNAの標的の間で安定で特異的な結合をするのに十分な程度の相補性を表す用語である。オリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド類似体は、特異的にハイブリダイズするためにその標的配列と100%相補的である必要はない。オリゴヌクレオチドまたは類似体と標的DNAまたはRNA分子との結合が、標的DNAまたはRNAの正常な機能を妨げ、例えばインビボのアッセイ法または系の場合の物理的条件のような特異的な結合が要求される状況下で、オリゴヌクレオチドまたは類似体が非標的配列へ非特異的に結合するのを妨げるのに十分な程度の相補性がある場合に、オリゴヌクレオチドまたは類似体が特異的にハイブリダイズすると言う。そのような結合を、特異的ハイブリダイゼーションと称する。
【0035】
特定の程度のストリンジェンシーを生ずるハイブリダイゼーション条件は、選択されるハイブリダイゼーション方法の特性、ならびにハイブリダイズする核酸配列の組成や長さによって異なると考えられる。一般に、ハイブリダイゼーションの温度およびハイブリダイゼーション緩衝液のイオン強度(特にNa+濃度)がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定するが、作業時間もストリンジェンシーに影響する。特定の程度のストリンジェンシーを得るために必要なハイブリダイゼーション条件に関する計算は、Sambrookら編、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」第2版1〜3巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Cold Spring Harbor、NY、1989、第9章および11章に論じられており、これは、参照として本明細書に組み入れられる。
【0036】
本目的のために、「ストリンジェントな条件」には、ハイブリダイゼーション分子と標的配列との間のミスマッチが25%未満の場合にのみハイブリダイゼーションを生ずるような条件が含まれる。より厳密な定義においては、「ストリンジェントな条件」は、特定レベルのストリンジェンシーに分類され得る。従って、本明細書で使用される「緩やかなストリンジェント」な条件とは、25%より多くの配列のミスマッチがある分子はハイブリダイズしないような条件である;また、「中程度のストリンジェント」な条件とは、15%より多くの配列のミスマッチがある分子はハイブリダイズしないような条件であり、「高ストリンジェント」な条件とは、10%より多くのミスマッチがある配列はハイブリダイズしないような条件である。「極めて高ストリンジェント」な条件とは、6%より多くのミスマッチがある配列はハイブリダイズしないような条件である。
【0037】
インビトロ増幅:試料または標本中の核酸分子のコピー数を増加させる手法。増幅の例にはポリメラーゼ連鎖反応があり、被験者から回収した生物試料を、一対のオリゴヌクレオチド・プライマーと、そのプライマーが試料中の鋳型核酸とハイブリダイゼーションすることを可能にする条件の下で接触させる。プライマーを適当な条件で伸長させ、鋳型から解離させて、次いで再びアニーリングして、伸長させ、解離して、核酸のコピー数を増幅させる。インビトロ増幅の生成物は、標準的手法を用いて、電気泳動、制限エンドヌクレアーゼ分解パターン、オリゴヌクレオチド・ハイブリダイゼーションもしくはライゲーション、および/または核酸配列決定により特徴を調べることができる。他のインビトロ増幅手法の例には、鎖置換増幅(米国特許第5,744,311号参照);転写フリー等温増幅(米国特許第6,033,881号参照);修復連鎖反応増幅(国際公開公報第90/01069号参照);リガーゼ連鎖反応増幅(欧州特許出願公開第320 308号参照);ギャップ補充性リガーゼ連鎖反応増幅(米国特許第5,427,930号参照);共役リガーゼ検出およびPCR(米国特許第6,027,889号参照);ならびにNASBA(商標)RNA転写フリー増幅(米国特許第6,025,134号参照)が含まれる。
【0038】
注入可能な組成物:少なくとも一つの活性成分を含む薬学的に許容される液体組成物。活性成分は、通常生理学的に許容される担体に溶解または懸濁されており、組成物は、1つまたは複数の少量の非毒性の補助物質、例えば乳化剤、防腐剤、pH緩衝剤等のを追加的に含んでいてよい。提供される核酸およびタンパク質と共に使用するのに有用であるそのような注入可能な組成物は慣例的に用いられており、その適切な製剤化は当技術分野で公知である。
【0039】
単離された:「単離された」生物成分(例えば核酸分子、タンパク質、または細胞小器官など)は、その生物成分が自然に存在する有機体の細胞中の他の生物成分、すなわち他の染色体、ならびに染色体外のDNAおよびRNA、タンパク質、および細胞小器官から実質的に分離または精製されたものである。「単離された」核酸およびタンパク質は、標準の精製方法により精製した核酸およびタンパク質を含む。この用語はまた、宿主細胞における組換え発現された核酸およびタンパク質、ならびに化学的合成により得られた核酸を包む。
【0040】
MATERタンパク質:約125kDaから約135kDa(ゲル移動度に基づく推定分子量)の女性の生殖能力に不可欠である細胞質局在性タンパク質(配列番号:24)。頭文字は、胚が必要とする母性抗原(Maternal Antigen That Embryos Require)を意味する。Materは、ヒト第19染色体上に見出された単一コピー遺伝子である。Materヌル(Mater-/-)卵母細胞から生じた接合体は2細胞期を超えて発達しない。従って、Materは、哺乳動物の胚の生存および初期発生に必要な新規の母性効果遺伝子を意味する。
【0041】
タンパク質は、それらの活性およびその他の物理的性質を、ヒトまたはマウスMATERタンパク質のような原型的なMATERタンパク質と比較することにより、MATERタンパク質として同定することができる。MATERタンパク質の生物学的活性は、タンパク質がMaterヌル変異体を相補する(失われた機能を実質的に置き換える)能力の点から評価できる。タンパク質がMater変異体を相補する能力は、そのタンパク質をコードする遺伝子を、標準的な方法によってMater変異動物系(本明細書に記載したMaterヌルマウスなど)に導入することにより容易に判別できる。コードされたタンパク質がMATERタンパク質の生物活性を有している場合、トランスジェニック子孫動物の一部が、Mater変異体に関連した特性(例えば、Materヌル卵母細胞が2細胞期を超えて発達できないことに由来するMaterヌルの雌の不妊症)において、相対的に野生型の表現型を持つことから明らかにされる。
【0042】
仮定的なMATERタンパク質を評価する場合に検討することができるその他のMATERタンパク質の物理的特性としては、タンパク質の分子量(約125kDa〜約135kDa、実施例1参照、但しこの値は種ごとにいくぶん変動する可能性がある)、タンパク質の細胞内局在性(ヒトMATERは卵母細胞内で発現し(実施例4)、マウスで起こっているように、細胞質に特異的に発現し核には含まれていないと予測される(実施例1参照))、ならびにmRNAの時間的および空間的な制御(Mater転写物は成熟中の卵母細胞で産生されている、実施例1および実施例3参照)が含まれる。一つのMATERタンパク質(例えばマウスMATER)を認識する抗体は、他種由来のMATERタンパク質(例えばヒトMATER)を認識する可能性がある(実施例4参照);従って、仮定的なMATERタンパク質は、他種由来のMATERタンパク質に対して産生された抗MATER抗体による認識に基づいて、さらに検討および同定をすることができる。従って、ヒトMATERタンパク質の同一性は、例えばマウスMATERタンパク質またはそのタンパク質のエピトープに対して産生された抗体を用いる免疫学的同定によって確認できる。
【0043】
ヌクレオチド:「ヌクレオチド」は、ピリミジン、プリンもしくはそれらの合成類似体のような糖と連結した塩基、またはペプチド核酸(PNA)のようなアミノ酸に連結した塩基を含むモノマーを含むが、それらに限定はされることはない。ヌクレオチドはポリヌクレオチド中の一つのモノマーである。ヌクレオチド配列とは、ポリヌクレオチドにおける塩基配列を指す。
【0044】
オリゴヌクレオチド:オリゴヌクレオチドは、固有のホスホジエステル結合により結合された複数個の連結したヌクレオチドであり、約6ヌクレオチドから約300ヌクレオチドの長さを有する。オリゴヌクレオチド類似体とは、オリゴヌクレオチドと同様に機能するが、自然に存在しない部分を指す。例えば、オリゴヌクレオチド類似体は、ホスホロチオエート・オリゴデオキシヌクレオチドのように、改変した糖部分または糖間の結合のような、自然に存在しない部分を含むことができる。自然に存在するポリヌクレオチドの機能的類似体は、RNAまたはDNAに結合でき、ペプチド核酸(PNA)分子を含む。
【0045】
特定のオリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド類似体は、約200ヌクレオチドの長さまでの直鎖配列を含んでよく、例えば、その配列(DNAまたはRNAなど)は、少なくとも6塩基、例えば少なくとも8塩基、10塩基、15塩基、20塩基、25塩基、30塩基、35塩基、40塩基、45塩基、50塩基、100塩基もしくはさらに200塩基の長さ、または約6塩基から約50塩基、例えば12塩基、15塩基、20塩基もしくは23塩基のような約10塩基〜約25塩基の長さである。
【0046】
機能的に連結:第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的な関係に位置する場合に、第1の核酸配列は第2の核酸配列と機能的に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、プロモーターはコード配列と機能的に連結している。一般に、機能的に連結したDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域を連結する必要がある場合に、同一のリーディングフレーム内にある。
【0047】
オープンリーディングフレーム:内部に終止コドンを持たない、アミノ酸をコードする一連のヌクレオチド・トリプレット(コドン)。これらの配列は、通常、ペプチドに翻訳可能である。
【0048】
オルソログ:2つの核酸またはアミノ酸配列が共通の祖先配列を共有し、且つその祖先配列を持つ種が2つの種に分かれるときにそれらが分岐したものである場合、それらは互いにオルソログである。オルソロガスな配列は相同な配列でもある。
【0049】
非経口:腸管外、例えば、消化管を介さない投与。一般に、非経口製剤とは、経口摂取以外の任意の可能な方法を介した投与によるものである。この用語は、特に、静脈内、髄腔内、筋肉内、腹腔内、または皮下などの注射による投与、ならびに例えば鼻腔内、皮内、および局所投与を含む様々な体表塗布を指す。
【0050】
ペプチド核酸(PNA):ペプチド結合で連結したアミノ酸モノマーのような、アミド(ペプチド)結合により連結したモノマーを含む骨格を有するオリゴヌクレオチド類似体。
【0051】
薬学的に許容される担体:本明細書で提供される組成物と共に有用な薬学的に許容される担体は、従来のものである。マーチン(Martin)らの「レミントンの医薬科学(Remington's Pharmaceutical Science)」、マーク出版(Mark Publishing Co.)、Easton, PA、第19版、1995において、本明細書で開示したヌクレオチドおよびタンパク質の薬物送達に適した組成物および製剤化が記載されている。
【0052】
一般に、担体の種類は、使用される特定の投与法に依存する。例えば、非経口製剤は、通常、媒体として、水、生理食塩水、平衡化された塩溶液、ブドウ糖水、グリセリン等のような、薬学的および生理学的に許容される液体を含む注射可能な液体を含む。固体組成物(例えば散剤、丸剤、錠剤、またはカプセル剤形)向けには、慣例的な非毒性の固体担体として、例えば医薬等級のマンニトール、乳糖、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムが含まれ得る。生物学的に中性な担体に加えて、投与される薬学的組成物は、例えば酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートなどの保湿または乳化剤、防腐剤、およびpH緩衝剤などのような少量の非毒性の補助物質を含み得る。
【0053】
多形:遺伝子配列中の変異。多形は、個体間、異なる人種集団間、地理的場所の間で一般的に見いだされる変異のように、異なるヌクレオチド配列を有していながら、機能的に等価な遺伝子産物を産生するような変異(ヌクレオチド配列の差異)でありうる。多形という用語は、機能が変化した遺伝子産物を産生する変異、即ち、機能的に等価でない遺伝子産物をもたらす遺伝子配列中の変異をも包含する。この用語は、遺伝子産物を産生しない変異、不活性な遺伝子産物または増加した遺伝子産物を産生する変異をも包含する。多形という用語は、文脈が明らかに別であると指示される場合を除き、対立形質または突然変異と互換的に使用される可能性がある。
【0054】
多形は、例えば、変異が存在するヌクレオチド部位、ヌクレオチド変異によって生じたアミノ酸配列中の変化、または変異と関連した核酸分子のその他の特性の変化(例えばステム・ループのような二次構造の変化、または、ポリメラーゼ、RNアーゼ等のような関連分子に対する核酸の結合親和性の変化)を意味しうる。
【0055】
プローブおよびプライマー:核酸プローブおよびプライマーは、疾患または疾患の進行の指標として提供される核酸分子に基づいて容易に調製できる。核酸分子の断片または部分に基づいてプローブおよびプライマーを生成することが適当である。5'領域または3'領域に対するプローブおよびプライマーに加えて、逆相補鎖に特異的なプローブおよびプライマーも適当である。
【0056】
プローブは、検出可能な標識またはその他のレポーター分子を付加した単離核酸を含む。典型的な標識には、放射性同位体、酵素基質、補助因子、リガンド、化学発光または蛍光物質、ハプテン、および酵素が含まれる。標識の方法、および様々な目的に適した標識の選択についての手引きは、例えば、Sambrookら(「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、CSHL、New York、1989)およびAusubelら(「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley and Sons、 New York、1998)において考察されている。
【0057】
プライマーは、例えばヌクレオチドが10個またはそれ以上の長さのDNAオリゴヌクレオチドのような、短い核酸分子である。より長いDNAオリゴヌクレオチドは、ヌクレオチドが約15個、20個、25個、30個、または50個またはそれ以上の長さであってもよい。プライマーは、核酸ハイブリダイゼーションによって、相補的な標的DNA鎖にアニーリングさせ、プライマーと標的DNA鎖の間でハイブリッドを形成することができ、次にプライマーは、DNAポリメラーゼ酵素によって標的DNA鎖に沿って伸長される。プライマー対は、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または当技術分野で知られている他のインビトロ核酸増幅法を用いて、核酸配列の増幅に使用されうる。
【0058】
核酸プローブおよびプライマーを調製および使用する方法は、例えばSambrookら(「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、CSHL、New York、1989)、Ausubelら編(「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley and Sons、 New York、1998)、およびInnisら(「PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications」、Academic Press Inc.、San Diego、CA、1990)に記載されている。増幅プライマー対(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応増幅に使用するための)は、本明細書で記載したMater配列のような既知の配列から、例えば、Primer(バージョン0.5、1991年著作権、ホワイトヘッド生物医学研究所(Whitehead Institute for Biomedical Research)、Chambridge、MA)のような、その目的向けのコンピューター・プログラムを使用して得ることができる。
【0059】
特定のプローブまたはプライマーの特異性が、その長さに従って増加することは、当業者に自明である。従って、例えばMATERタンパク質をコードするヌクレオチドのうちの30個の連続したヌクレオチドを含むプライマーは、15個のみのヌクレオチドの対応するプライマーと比較して、例えば指定されたMATERタンパク質の別の相同体のような標的配列に高い特異性でアニーリングする。従って、より大きい特異性を得るために、プローブおよびプライマーは、MATERタンパク質をコードするヌクレオチド配列のうちの少なくとも20個、23個、25個、30個、35個、40個、45、50個またはそれ以上の連続したヌクレオチドを含むように選択してもよい。
【0060】
また、開示されたMaterヌクレオチド配列のうちの特定の長さを含む単離核酸分子も提供される。そのような分子は、それらの配列またはそれより多くの配列のうちの少なくとも10個、15個、20個、23個、25個、30個、35個、40個、45個、50個またはそれ以上の連続したヌクレオチドを含んでもよく、また開示された配列のうちの任意の領域から得てもよい(例えば、Mater核酸は、配列の長さに基づき半分または4分の1に分割でき、単離核酸分子は半分にした分子の一つ目もしくは二つ目、または四半分にした分子の任意のものなどから得ることができる)。Mater cDNAまたはその他のコード配列は、同様な効果により、例えば約1/8、1/16、1/20、1/50などのより小領域に分けることもできる。
【0061】
他の分割の様式は、Mater遺伝子に関連した5'(上流)および/または3'(下流)領域を選択することである。
【0062】
核酸分子は、本明細書で記載したようなヒトMater核酸分子またはこの核酸分子の他の部分、および関連する隣接領域の中で任意のもののうち、少なくとも10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、50個、もしくは100個またはそれ以上の連続したヌクレオチドを含むように選択できる。従って、代表的な核酸分子は、配列番号:1および2に記載のヒトcDNA断片、または配列番号:24に記載の全ヒトMATER cDNA断片のうちの、少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含んでもよい。
【0063】
タンパク質:遺伝子または組換えもしくは合成のコード配列によって発現された生体分子であってアミノ酸から構成される分子。
【0064】
精製された:「精製された」という用語は絶対的な純度を要求するものではない;むしろ、それは相対的な用語として意図される。従って、例えば、精製されたタンパク質調製物とは、細胞内または(適当な場合には)産生反応チャンバの中の天然の環境におけるタンパク質よりも純粋であるようなタンパク質調製物である。
【0065】
組換え体:組換え核酸は、自然には存在しない配列、または配列中の別個の異なる2つのセグメントの人工的な組合せによって作製された配列を有する核酸である。この人工的な組合せは、化学合成、またはより一般的には、単離された核酸セグメントの人工的な操作、例えば遺伝子工学技術によって得ることができる。
【0066】
配列同一性:2つの核酸配列間の類似性、または2つのアミノ酸配列間の類似性は、特に配列同一性と呼ばない限り、配列間の類似性として表現される。配列同一性は、しばしば同一性%(または類似性%または相同性%)という点で評価される;百分率が高いほど、2つの配列はより類似している。ヒトMATERタンパク質の相同体またはオルソログ、および対応するcDNAまたは遺伝子配列は、標準的な方法を用いてアライメントすると比較的高い程度の配列同一性を保有すると考えられる。この相同性は、オルソロガスなタンパク質または遺伝子またはcDNAが、より遠縁の種の場合(例えばヒト配列とC.エレガンス(C. elegans)の配列)と比較して、より近縁な種に由来する場合(例えばヒト配列とチンパンジーの配列)に顕著である。
【0067】
比較のための配列のアラインメントの方法は、当技術分野で既知である。様々なプログラムやアラインメント・アルゴリズムは、SmithおよびWaterman、Adv. Appl. Math. 2:482、1981;NeedlemanおよびWunsch、J. Mol. Biol. 48:443、1970;PearsonおよびLipman、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444、1988;HigginsおよびSharp、Gene 73:237-244、1988;HigginsおよびSharp、CABIOS、5:151-153、1989;Corpetら、Nuc. Acids Res. 16:10881-90、1988;Huangら、Computer Appls. in the Biosciences 8:155-65、1992;ならびにPearsonら、Meth. Mol. Bio. 24、307-31、1994、に記載されている。Altschulら(J. Mol. Biol. 215:403-410、1990)は、配列アラインメントの手法および相同性の計算の詳細な検討を示している。
【0068】
NCBI Basic Local Alignment Search Tool (BLAST)(Altschulら、J. Mol. Biol. 215:403-410、1990)は、米国生命工学情報国立センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI、Bethesda、MD)およびインターネットを含むいくつかの供給元より入手でき、配列解析プログラムのblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastxと関連して用いられる。一例として、約30個より多いアミノ酸のアミノ酸配列比較のために、デフォルトBLOSUM62行列をデフォルト・パラメータに設定して用いるBlast2配列機能が使用される(ギャップ存在コストが11、および塩基毎ギャップコストが1)。短いペプチド(約30アミノ酸より少数)をアライメントする場合は、PAM30行列をデフォルト・パラメータに設定して用いるBlast2配列機能を使用したアラインメントを実行すべきである(開始ギャップ 9、伸長ギャップ 1ペナルティ)。
【0069】
2つの核酸分子が近縁関係にあることの別の指標は、2つの分子がストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすることである。ストリンジェント条件は配列に依存し、且つ異なる環境パラメータ下で異なる。一般に、ストリンジェント条件は、定められたイオン強度およびpHにおける特定配列の融解温度(Tm)より、約5℃から20℃低くなるように選択される。Tmは、標的配列の50%が、完全に一致するプローブまたは相補鎖とハイブリダイズを維持するような(定められたイオン強度およびpHにおける)温度である。核酸のハイブリダイゼーション条件およびストリンジェンシーの計算は、Sambrookら(「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、CSHL、New York、1989)およびTijssen(「Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-- Hybridization with Nucleic Acid Probes PartI」、第2章、Elsevier、New York、1993)に見出すことができる。ストリンジェント条件下でヒトMATERタンパク質コード配列とハイブリダイズする核酸分子は、通常、全ヒトMATERコード配列またはそのコード配列のいずれかのうちの選択された部分に基づいたプローブと、2×SSC、50℃の洗浄条件下でハイブリダイズする。
【0070】
高い程度の同一性を示さない核酸配列であっても、遺伝コードの縮重のために、なお類似したアミノ酸配列をコードする可能性がある。この縮重を利用し、全ての核酸分子が実質的に同一のタンパク質をコードするような多数の核酸分子を産生することによって、核酸配列を変化させることができると理解される。
【0071】
特異的結合因子:実質的に、定められた標的にのみ結合する因子。従ってタンパク質特異的結合因子は、実質的に特定のタンパク質にのみ結合する。一例として、本明細書で使用されるように、「MATERタンパク質特異的結合因子」という用語は、抗MATERタンパク質抗体(およびその機能的断片)ならびにその他の実質的にMATERタンパク質にのみ結合する因子(可溶性受容体など)を含む。
【0072】
抗MATERタンパク質抗体は、HarlowおよびLane(「Antibodies, A Laboratory Manual」、CSHL、New York、1988)を含む多くの教科書に記載される標準的な手段を用いて産生されうる。特定の因子が実質的に特定のタンパク質にのみ結合することの確認は、通常の手法を使用または応用することによって、容易に行うことができる。適切なインビトロアッセイ法として、ウエスタン・ブロッティング法を利用するものがある(HarlowおよびLane(「Antibodies, A Laboratory Manual」、CSHL、New York、1988)を含む多くの標準的教科書に記載されている)。ウエスタン・ブロッティングは、抗MATERタンパク質モノクローナル抗体のような所与のタンパク質結合因子が、実質的にMATERタンパク質にのみ結合することを確認するために用いることができる。
【0073】
抗体の短い断片も、特異的結合因子として作用する。例えば、特定のタンパク質に結合するFabs、Fvs、および一本鎖Fvs(SCFvs)は、特異的結合因子となり得る。これらの抗体断片は以下のように定義できる:(1)Fab、パパイン酵素による抗体全体の消化により、無傷の軽鎖および重鎖の一部分が生じることで産生された抗体分子の一価の抗原結合性断片を含む断片;(2)Fab'、ペプシンによる抗体全体の処理およびその後の還元により、無傷の軽鎖および重鎖の一部分が生じることで得られた抗体分子の断片;抗体分子あたり2つのFab'断片が得られる;(3)(Fab')2、抗体全体をその後の還元なしにペプシン酵素で処理することにより得られた抗体分子の断片;(4)F(ab')2、2つのジスルフィド結合により結合された2つのFab'断片の二量体;(5)Fv、二本鎖として発現させた、軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含む遺伝的に操作された断片;ならびに(6)一本鎖抗体(「SCA」)、遺伝子的に融合した一本鎖分子のように、適当なポリペプチド・リンカーにより連結した軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域を含む遺伝的に操作された分子。これらの断片を作製する方法は通常のものである。
【0074】
被験者:多細胞の脊椎生物であり、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物の両方を含むカテゴリー。
【0075】
標的配列:「標的配列」はssDNA、dsDNA、またはRNAの一部であり、治療的に有効なオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド類似体とのハイブリダイゼーションにより、発現の阻害を生ずるもの。例えば、治療的に有効なオリゴヌクレオチドとMater標的配列とのハイブリダイゼーションにより、MATER発現が阻害される。アンチセンス分子またはセンス分子のいずれかをdsDNAの一部を標的化するために用いることができるが、これは両方ともがdsDNAのその部分の発現を妨害するためである。アンチセンス分子はプラス鎖に結合でき、センス分子はマイナス鎖に結合できる。従って、ssDNA、dsDNA、およびRNAが標的配列になり得る。
【0076】
形質転換:形質転換した細胞とは、分子生物学の手法によって核酸分子を導入した細胞である。本明細書で使用されるように、形質転換という用語は、核酸分子がそのような細胞に導入されるであろう手法の全てを包含し、ウイルス・ベクターによるトランスフェクション、プラスミド・ベクターによる形質転換、ならびに電気穿孔法、リポフェクション、およびパーティクルガン法による裸のDNAの導入を含む。
【0077】
ベクター:宿主細胞に導入されることによって、形質転換した宿主細胞を生成するような核酸分子。ベクターは、複製起点などの、それが宿主細胞内で複製できるようにする核酸配列を含んでもよい。ベクターはまた、一つまたは複数の選択マーカー遺伝子、および当技術分野に知られたその他の遺伝的要素を含んでもよい。
【0078】
特に定義されない限り、本明細書で用いられる全ての技術および科学用語は、この発明の属する分野における当業者に一般に理解されるものと同様な意味をもつ。単数用語「1つの(a)」「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈において明白に他の意味を示さない限り複数の対象を含む。本発明の実施または試験において、本明細書に記載したものと類似または同等な方法および材料を使用することも可能であるが、以下に適適当な方法および材料を記載する。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照として本明細書に組み入れられる。矛盾がある場合は、用語の説明を含む本明細書が統制する。加えて、方法、材料および実施例は、説明的なものにすぎず、限定することを意図するものではない。
【0079】
III.いくつかの態様の概要
本明細書には、女性の生殖能力に必要な、哺乳動物の卵母細胞で発現する約135kDa(予測推定分子量)の細胞質タンパク質である、ヒトMATERタンパク質が記載される。MATERヌル卵母細胞から生ずる接合体は2細胞期より先に進行しない。
【0080】
記載される一つの態様は、配列番号:2、配列番号:4または配列番号:24と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、認識されたMATERタンパク質ドメインの中に少なくとも一つの変異アミノ酸を含む、単離された変異MATERタンパク質である。他の態様は、配列番号:2、配列番号:4または配列番号:24と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、認識されたMATERタンパク質ドメインの外側の領域の中に少なくとも一つの変異アミノ酸を含む、単離された変異MATERタンパク質である。さらなる他の態様は、配列番号:2、配列番号:4または配列番号:24と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、認識されたMATERタンパク質ドメインの中に少なくとも一つの変異アミノ酸を含み、認識されたMATERタンパク質ドメインの外側に少なくとも一つの変異アミノ酸を含む、単離された変異MATERタンパク質である。
【0081】
具体的な変異MATERタンパク質は、ロイシン・リッチ反復、PAAD_DAPINドメイン、aldo_ket_redドメイン、もしくはATP/GTP結合ドメイン、またはこれらの認識されたドメインのうちの任意の2つもしくはそれ以上の中に、少なくとも一つの変異アミノ酸を含む配列を有する。タンパク質配列が、認識されたMATERタンパク質ドメインの外側に少なくとも一つの変異アミノ酸を含む、単離された変異MATERタンパク質もまた提供される。
【0082】
その他の態様は、これらのタンパク質のうちの一つをコードする単離核酸分子、そのような核酸分子に機能的に連結したプロモーター配列を含む組換え核酸分子、およびそれらの組換え核酸分子の一つで形質転換した細胞である。
【0083】
他の態様は、異常MATER核酸と関連のある生物学的状態を被験者において検出する方法であり、その方法は、被験者からの臨床試料中の少なくとも一つのMATER核酸分子を、MATER特異的核酸結合因子を含む試薬と反応させて、MATER:因子複合体を形成し、その複合体を検出する段階を含む。この方法の具体的な例では、MATER特異的核酸結合因子は、例えばヒトMATERイントロン配列のうちの少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むような、MATERオリゴヌクレオチドである。一例として、そのMATERオリゴヌクレオチドの一部のものは、配列番号:25から38までの任意の一つに示される配列を含む。
【0084】
他の態様は、異常MATER核酸と関連性のある生物学的状態を被験者において検出する方法であって、MATER:因子複合体を定量し、そのMATER:因子複合体の量を参照試料(例えば、生物学的状態を有することまたは有しないことが知られている被験者のような、参照被験者から採取されたもの)において形成される、同等なMATER:因子複合体の量と比較する段階をさらに含む方法を提供する。
【0085】
これらの方法の一部の具体的な例では、臨床試料は生殖細胞を含む。
【0086】
異常MATER核酸と関連性のある生物学的状態を被験者において検出する、提供された方法の代表的な例は、異常Mater核酸の検出に先立つMATER核酸のインビトロの増幅をさらに含む。インビトロの増幅は、MATERタンパク質コード配列由来の、少なくとも一つのオリゴヌクレオチド・プライマーを使用してインビトロで行うことができる。オリゴヌクレオチド・プライマーの具体的な例は、例えば配列番号:25から38までの任意の一つに示される、ヒトMATERのイントロン-エキソン境界の配列を含む。その他の態様は、それらの方法のいずれかで用いられるヌクレオチド・プライマーである。
【0087】
記載されている方法の特定の例では、MATER:因子複合体をヌクレオチド・ハイブリダイゼーションによって検出する。記載されている方法のうちいくつかにおいて、MATER:因子複合体を形成するために用いる因子は、標識ヌクレオチド・プローブである。そのようなプローブの代表的な例は、配列番号:25から38までの任意の一つに示される配列を含む。その他の態様は、それらの方法のいずれかで用いられる標識ヌクレオチド・プローブである。
【0088】
さらなる態様は、核酸試料中の遺伝子変異を検出するキットである。そのようなキットの一つは、MATER核酸と特異的にハイブリダイズすることのできるオリゴヌクレオチドであって、ヒトMATERイントロン由来の少なくとも10の連続するヌクレオチドを含む配列を有するオリゴヌクレオチドを含む、第一の容器;およびそのオリゴヌクレオチドと完全に相補的な蛍光標識核酸プローブを含む第二の容器を含む。これらのキットの例では、蛍光標識核酸プローブは、5から500ヌクレオチドの間の長さを有する。本明細書に提供されるキットの具体的な例は、配列番号:25から38までの任意の一つに示される配列を含む、オリゴヌクレオチドを含む。
【0089】
IV.ヒトMATERタンパク質および核酸配列
態様は、cDNA配列を含むMATERタンパク質およびMater核酸分子を提供する。原型的なMater配列はマウス配列およびヒト配列であり、増加または減少したレベルのMATERタンパク質を有するトランスジェニック動物を産生するためのそれらの配列の使用法、およびMater発現またはMATERタンパク質産生の異常もしくは変化を検出する診断法を提供する。
【0090】
ヒトMaterの全長cDNA(配列番号:23)は3900塩基対長と決定され(これはマウスMater cDNAよりいくらか長い、GenBankアクセッション番号NM_011860.1、配列番号:5)、そのORFは1200アミノ酸のタンパク質をコードし、約135.2kDaの推定分子量および約6.08の予測pIを有する。ヒトMater cDNAは、配列番号:1および配列番号:3に記載の配列を含み、それらはそれぞれマウスMater配列のエキソン7およびエキソン11からエキソン15とほぼ一致すると考えられる。ヒトMater mRNAは、インサイチュー・ハイブリダイゼーション実験(実施例3)により示されるように、卵母細胞で発現する。
【0091】
免疫蛍光検査法によって、ヒトMATERタンパク質(配列番号:24)が、ヒト卵母細胞に特異的に局在化されていた(実施例4)。Mater cDNAのATG開始コドンは、脊椎動物の開始コドンと関連するANNATGモチーフ(Kozak、1991、J. Biol. Chem. 266:19867)の文脈中に位置する。ヒトMATERタンパク質は、本明細書に記載されるヒトMater cDNA配列(それぞれ配列番号:1および3)に対応する推定タンパク質配列(配列番号:2および4)を含む。それらのタンパク質断片はマウス由来のOP1/MATERタンパク質と、低いながら有意な配列相同性を有する(GenBank番号NP_035990、配列番号:6)。特に、配列番号:2はマウスMATER(配列番号:6)の257〜638残基と54%の同一性を有し、一方、配列番号:4はマウスMATERの854〜1111残基と64%の同一性を有する。ヒトMATERタンパク質配列(配列番号:24)は全体としてマウスMATERタンパク質配列(配列番号:6)と約50%の配列類似性を有する;関連する配列アラインメントは図9に示される。図示したヒトおよびマウスMATERタンパク質間の比較は、BLAST2配列プログラムを期待値10およびフィルターを閉じたパラメータ条件で使用して行った。
【0092】
ヒトMater cDNAの特定の領域は、ヒトHTGSの配列決定法により同定したが、それらの配列には以前に何の機能または同一性も割り当てられていなかった。例えば、GenBankアクセッション番号:AC024580(GI=770510、2000年5月4日公表);AC012107(GI=6088020、1999年10月20日公表、および更新されたGI=7329252、2000年3月28日公表);ならびにAC023887(GI=7631054、2000年4月21日公表)を参照のこと。これらの断片的で重複したヒト配列は、長さにおいて最大207ヌクレオチドであり、マウスMater cDNA配列の全体に渡り散在する。ヒトESTは、短い断続的な領域にわたり、個々に、マウスMater cDNAと最大89%の同一性を有する。開示されたオリゴヌクレオチドは、それらのESTを避けて選択することができる。全体としては、ヒトMaterの最初の75ヌクレオチド(1〜75)および対応する推定アミノ酸(1〜25)は、公表されたヒトゲノムDNA配列との比較によって決定し、残りのMater配列は、ヒト卵巣cDNAの直接的なクローニングおよび配列決定により決定された。
【0093】
クローン化ヒトMATER cDNAの配列を用いてヒトhgtsデータベース(オンラインでアクセス可能)をブラスト検索し、全DNA配列付きの単一ゲノムクローン(AC01740)がヒトMATERの完全な遺伝子座を包含することを明らかにした。
【0094】
Materは単一コピーの母性効果遺伝子であり、そのタンパク質産物は初期胚の生存に必要である。MATERタンパク質を欠失する卵は受精可能であるが、早ければ2細胞期には形態学的な変性の徴候が観察され、変異胚はその時期より先には進行できない。1200アミノ酸を有するヒトMATERタンパク質は、マウスMATERタンパク質(1111アミノ酸)に見られるような分子ドメインと同様なものを有すると推定される。Tongら(Mamm. Genome 11:281〜287、2000)に記載されるように、マウスMATERタンパク質は、そのN末端付近における5回の親水性反復(26〜27アミノ酸)、短いロイシン・ジッパー、およびそのカルボキシル末端付近における14回のロイシンリッチ反復(28〜29アミノ酸)を含む(Tongら、Mamm. Genome 11:281〜287、2000に記載のマウスMATERタンパク質との比較に基づく)。親水性反復は、細胞骨格タンパク質(神経フィラメント)と低い相同性を有し、本領域がMATERを細胞質にとどまらせる相互作用を媒介する可能性を提起する。いずれもタンパク質・タンパク質相互作用を媒介することが知られているモチーフである、ロイシンリッチ領域および短いロイシン・ジッパー(Kajava、J. Mol. Biol. 277、519〜527、1998; BuchananおよびGay、Prog. Biophys. Mol. Biol. 65、1〜44、1996)の存在は、細胞質において一つまたは複数がMATERに直接結合するような介在因子を通して、MATERが胚の進行に影響を及ぼしうることを示唆する。
【0095】
本発明者らは、マウスMATERペプチド(マウスMATER(配列番号:6)の第1093から第1111残基まで)に対する抗血清を用いて、ヒトMATERタンパク質がヒト卵巣切片中の卵母細胞に存在することを証明した(実施例4)。同様に、マウス由来のセンスおよびアンチセンス・ヌクレオチド・プローブをインサイチューハイブリダイゼーション実験に使用して、ヒト卵母細胞がMater mRNAを発現することを証明した(実施例3)。
【0096】
本明細書では、マウスMATERを、哺乳動物の胚形成における機能に関してさらに特徴づけた。このタンパク質は「母性」タンパク質であり、受精に先立ち卵母細胞で生成され、従って母性遺伝子によりコードされる。MATERは(タンパク質レベルで測定した場合)、胚発生における後期胚盤胞期まで存続するという点で特有である。機能的なMATERは雌の生殖能力に必要である;Materヌル卵母細胞から生じる接合体は2細胞期より先に進行しない;どのようなMater遺伝子型の雄が精子を産生したかに拘らず、このことは当てはまる。本タンパク質は細胞質性であり、明確に核から除外されている。
【0097】
以下の実施例は、ある特定の特徴および/または態様を説明すべく提供される。これらの実施例は、記載された特定の特徴または態様に発明を限定すると解釈すべきではない。
【0098】
実施例1
マウスMATERタンパク質の特徴づけ
本実施例は、哺乳動物の系におけるMATERタンパク質および核酸を調べるためのいくつかの方法を提供する;マウスの系が用いられた。
【0099】
方法:
卵母細胞、卵および胚の単離
全ての実験は、動物実験委員会(Animal Care and Use Committee)のガイドラインに準拠して、認可された動物研究プロトコールのもとで実施された。休止期、成長期、および成熟した卵母細胞は、1日齢、10日齢、および21日齢(d/o)マウス卵巣からそれぞれ解剖分離し、卵は、ゴナドトロピンで刺激した雌マウスから単離した(Tongら、J. Biol. Chem. 270:849-853、1995;ランキン(Rankin)ら、Development 125:2415-2424、1998)。胚はゴナドトロピンで刺激した雌マウスを雄と交配することにより得られ、1細胞接合体、2細胞胚、桑実胚、および胚盤胞は、hCGを投与した次の朝を1日目とカウントし、1日目、2日目、3日目、および4日目に卵管より洗い流した。胚は、M16培地で培養し(37℃、5%CO2)、1%パラホルムアルデヒドで固定してその後の共焦点顕微鏡検査に供するか、または-80℃で凍結し、RNAおよびタンパク質の解析に供した。卵巣を固定し(10%ホルマリン)、パラフィンに包埋した後、切片標本の作製し、ヘマトキシンおよびエオシンで染色した(American Histlabs、Gaithersburg、Maryland)。
【0100】
転写物およびタンパク質の検出
Mater、ZP3、β-アクチン、シクロフィリン、および28S-rRNAの転写物は、RPA IIキット(Ambion、Austin、TX)を用いて、既に記載されたように(TongおよびNelson、Endocrinology 140、3720-3746、1999; Tongら、J.Biol.Chem.270、849-853、1995)、RNアーゼ保護アッセイ法によって検出した。
【0101】
ウサギはKLHを結合したMATERペプチド(アミノ酸1093〜1111)によって免疫し、単一特異性抗血清を得た。免疫ブロットをMATER抗血清とインキュベート(1:1000、2時間、20℃)した後、抗体の結合はHRP結合ヤギ抗ウサギ抗体を用いてECLで検出した(アマシャムファルマシアバイオテク(Amersham Pharmacia Biotech)、Piscataway、NJ)。固定した卵母細胞、卵、または胚は、MATER抗血清とインキュベート(1:8000、4℃、16時間)し、Cy5結合ヤギ抗ウサギIgG(1:200)を用いて共焦点レーザー走査型顕微鏡(LSM5、ツァイス(Zeiss)、Thornwood、NY)で画像化した。
【0102】
タンパク質合成および免疫ブロッティング
胚は、L-35Sメチオニン(0.5Ci/ml、Amersham)を含む100μlのM16培地中で、37℃、4時間インキュベートした。放射性同位体による標識化の最後に、1細胞胚および2細胞胚を、hCG/交配後それぞれ26時間および48時間において回収した。1% BSAを含む10mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA、および140mM NaClで洗浄後、10個の胚を10μlの試料緩衝液に、(1)直接、または(2)2% Triton X-100/0.3M KClで処理してTRCおよびp35を抽出した後に、直接溶解した(Conoverら、Dev.Biol.144、392-404、1991)。既に報告されたようなSDS-PAGEおよびフルオログラフィー(Tongら、J.Biol.Chem.270:849-853、1995)の後、放射能の取り込みを、ホスホイメージャーおよびイメージクアント・ソフトウエア(ImageQuant software)(モレキュラーダイナミクス(Molecular Dynamics)、アマシャムファルマシアバイオテク(Amersham Pharmacia Biotech)、Piscataway、NJ)により判定した。
【0103】
Mater ヌル・マウスの産生
Materヌル・マウスを産生するのに用いる構築物を図2に示した。pPNT(Tybulewiczら、Cell 65、1153-1163、1991)において標的化ベクターを構築するため、マウスMaterの最初の2つのエキソンを含む1.5kbpのSacI-EcoRI DNA断片(Tongら、Mamm.Genome 11、281-287、2000)をPGK-NeoとPGK-TKカセットの間に挿入し、エキソン3および4を含む2kbpのEcoRI-BamHI断片をPCK-Neoの上流に挿入した。直鎖状にして、胚性幹(ES)細胞への電気穿孔法(レッドモンド(Redmond)ら、Nat.Genet.20、344-351、1998)の後、化学的に選別したクローンにおける変異対立遺伝子の存在を、5'および3'(またはNeo)プローブにより、それぞれ3.5kbpおよび4.0kbpのXbaI断片として検出した。その5'および3'プローブは、いずれも正常対立遺伝子を9.4kbのXbaI断片として検出する。別々に選別した5つのクローンに由来する8から12個のES細胞を、C57BL/6の胚盤胞に注入した。毛色キメラ動物を生じる2つの細胞系統をC57BL/6の雌と交配させ、生殖細胞系を通じてMater変異を伝達した。ホモ接合型ヌルの雌におけるMater転写物の欠如は、既に記載されるように、ノーザンブロット解析によって確認した(TongおよびNelson、Endocrinology 140、3720-3726、1999)。
【0104】
生殖の実行
6〜10週齢の雌マウスにおける4回またはそれ以上の発情周期を調べるため、毎日膣スミアを得た(ルフ(Rugh)、「マウス:生殖と発生(The Mouse:Its Reproduction and Develpoment)」 210、Oxford University Press、Oxford、1991)。稔性の雄との交配の翌朝、交尾行動は膣栓の存在により評価した。
【0105】
接合体遺伝子転写アッセイ法
基本的に既に記載されたとおりに(Bouniolら、Exp. Cell Res. 218、57-62、1995)、hCGおよび交配に続いて28時間(1細胞胚)および48時間(2細胞胚)で単離した胚の細胞質に、100mM BrUTP、140mM KCl、および2mM Pipes、pH7.4の5〜10plアリコートをマイクロインジェクションした。M16培地中で、5%CO2において37℃1時間インキュベーションした後、インジェクションを行った胚を1%パラホルムアルデヒドで固定した。
【0106】
RNAへのBrUTP取り込みは、マウス抗BrdUモノクローナル抗体(Sigma、1:1000、16時間、4℃)でアッセイした。3%BSAを含むPBSで洗浄後、FITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体を用いて、共焦点顕微鏡により胚を画像化した;蛍光は任意の単位で記録した。モノクローナル抗体が核小体にほとんど浸透しないため、リボゾームRNAへのBrUTP取り込み測定が不能であることから、本アッセイ法は主として新規のRNAポリメラーゼII活性を反映する(Wansinkら、J. Cell Biol 122、283-293、1993)。
【0107】
結果
Mater転写物およびタンパク質発現
Mater mRNAは、卵母細胞が成長期に入る時(30〜50μm)に最初に検出された(図1A)。Mater転写物は、完全に成長した卵母細胞(70〜85μm)において最も豊富であり、多くの卵母細胞転写物と同様に(Bachvarova、「Developmental Biology: Oogenesis」 1、453-524、Plenum Press、New York、1985; Epifanoら、Development 121、1947-1956、1995)、成熟分裂およびそれに続く排卵の間に分解した。Mater mRNAは初期胚では検出されなかった(図1A)が、初期胚由来のESTデータベースにこれが存在することは一部の転写物が分解を免れていた可能性を示唆する。
【0108】
卵形成の間におけるMATERタンパク質の最初の蓄積は、Mater転写物において観察されたものと同様であった(図1Aと図1Bを比較のこと)。しかしながら、転写物の実際の消失とは異なり、MATERタンパク質は、着床前の発生の間、後期胚盤胞期まで存続した(図1B)。共焦点顕微鏡によると、MATERタンパク質は成長中の卵母細胞の細胞質に局在し、核からは著しく除外されていた。MATERは、卵母細胞および初期胚(1および2細胞期)の皮質領域内に濃縮されており、この周辺性パターンは着床前発生の後期まで持続し、内側の胚盤胞細胞塊に比して外側の栄養外胚葉細胞でMATERが高濃度であった(図1C)。
【0109】
Materヌル動物
MATERタンパク質の機能を明らかにするために、ホモ接合型の雌がMater転写物またはタンパク質のいずれも発現しないようなMaterヌル・マウス系統を作出した。Materヌル・マウスは、期待されるメンデル比において、等しい性比率で産まれた。誕生から成獣期まで、表現型の異常は観察されなかった。
【0110】
Materヌル・マウスの卵巣および子宮は形態学的に正常であった(図6)。Materヌルの卵巣は、原始卵胞の正常必要量を有しており、卵胞発生の全ての期が正常に示された;自発排卵を経たことを示す黄体も存在した(図5)。
【0111】
Materを欠失した卵はインビボで正常に受精した(図1)。Materヌルの雌由来の接合体および2細胞胚の数および形態は、正常の雌由来のそれらと同様であった(図5)。しかしながら、交配から3日または4日後までに、Materヌルの雌由来の胚は、2細胞期にとどまるか、または変性し始めていた(図3Dおよび図3Gを、図3Eおよび図3Hと比較のこと)。従って、受精はMaterヌルの雌において正常であり、結果として生ずる接合体は最初の卵割を経て進行することができるが、それに続く発生は2細胞期において停止する。これは初期胚形成の停止が、Materヌルの雌における不妊の原因であることを示す。
【0112】
Materヌル変異を持つ2つのマウス系統(T54およびT85)を作出したが(図2Aおよび図2B)、ホモ接合型ヌルの雌において、Mater転写物(図2C)またはタンパク質(図2D)のいずれも検出されなかった。
【0113】
Materヌル動物の生殖表現型
ヘテロ接合体Materヌルの親の交配により平均数の同腹仔(8.5±1.9)が産まれ、子孫のヌル対立形質は正常なメンデル比および等しい性比率であった。ホモ接合型ヌル動物は正常な様相を呈し、雄は正常の同腹仔と同程度に稔性であった。しかしながら、ホモ接合型ヌルの雌は交配後5月後でも仔を産出せず(表1)、このことはMaterが母性効果遺伝子であることを示唆した。
【0114】
(表1)Mater変異を持つマウスの生殖能力およびメンデル対立遺伝子比
Figure 2004533229
*n、交配対の数、n.d.、行っていない、n.a.、当てはまらない。
【0115】
性的に成熟したMaterヌルの雌は、規則的な5.67±0.22日の発情周期を示し、正常の雌において観察された周期(5.40±0.23日)と同様であった。Materヌルの雌または正常の雌のいずれにおいても、稔性の雄への接触後に約70%で膣栓が出現したことから証明されるように、交配は正常に生じた。Materヌルの卵巣は、正常必要量の原始卵胞を有しており、自発排卵を経たことを示す黄体のみならず、卵胞発生の全ての段階が存在した(図5Aおよび図5B)。加えて、Materヌルの雌は、外因性のゴナドトロピンによる刺激の後、正常に排卵した。しかしながら、ホモ接合型ヌルの雌は、正常の雄との交配後5ヶ月目にも仔を産生せず、一方ホモ接合型ヌルの雄とヘテロ接合型ヌルの雌は、正常な生殖能力を有した。
【0116】
ヌルの雌から回収された排卵した卵の平均数(±標準誤差)(27.6±4.5、n=14)と、正常の雌から得られた平均数(27.7±4.3、n=12)とに統計的な差異はなかった(p>0.05)(図5D)。その2つの群の卵は形態学的に互いに区別がつかなかった(図5C)。
【0117】
Materヌル動物における受精と胚発生
インビボの受精および初期発生を評価するために、正常の雄と交配後1日目、2日目、3日目、および4日目に、正常およびMaterヌルの雌から胚を単離した。2つの前核の存在から証明されるように(矢印、図3Aおよび図3B)、MATERを欠失した卵において受精が生じた。Materヌルの雌からインビボで得られた1細胞接合体および2細胞胚の数および形態は、正常の雌から得られた数および形態と同様であったが、2細胞変異胚では、細胞質顆粒が表れ(図3A〜図3F)、健康状態が悪いように思われた。交配から3日または4日後のMaterヌルの雌から得られた胚は、依然として2細胞期に止まっていた(または変性を始めていた)が、一方で、正常マウス由来の胚は、それぞれ桑実胚または胚盤胞期まで発達していた。
【0118】
Materヌルおよび正常の雌由来で同じ割合%(〜70%)の受精1細胞接合体が、インビトロで2細胞期まで発達した。しかしながら、培養4日後では、MATERを欠失した胚は2細胞期で停止したままであった(大部分は変性されていた)(図3K);正常の雌からの胚は、同じ時期に胚盤胞期まで成長していた(図3J)。従って、受精は正常と思われ、MATERを欠失した接合体は最初の卵割を経て発達することができても、それに続く胚発生は2細胞期において停止する。
【0119】
Materヌル動物における転写の特徴づけ
Materヌル・マウスに見られる初期停止の表現型は、RNAポリメラーゼIIに結合してジヌクレオチドを超える転写伸長を抑制(VaisiusおよびWieland、Biochemistry 21、3097-3101、1982)するキノコ毒であるαアマニチン(Schultz、Bioessays 15:531-538、1993;Flachら、EMBO J. 1、681-686、1982)にマウス胚を曝露した後に生ずる、2細胞期における遮断を連想させる。正常な胚転写は1細胞接合体の後期において2細胞胚の転写の〜20%のレベルで最初に検出されるが(Aokiら、Dev. Biol. 181、296-307、1997)、それらの初期転写物は、全てであるにしても、不十分にしかタンパク質に翻訳されない(Nothiasら、EMBO J. 15、5715-5725、1996)。
【0120】
初期Materヌル胚の新規のRNAポリメラーゼII活性を評価するため、ブロモUTP(BrUTP)の取り込みを、本質的には既に記載されたように(Bouniolら、Exp.Cell.Res.218、57-62、1995)、BrUTP特異的なモノクローナル抗体により共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いてアッセイした(Bouniolら、Exp. Cell. Res. 218、57-62、1995)(図4A〜図4G)。交配後28時間(図4B)および48時間(図4D)において正常の胚の核内に検出されるBrGUPの量は、MATERを欠失した場合(図4Aおよび図4C)に比べ、形態学的に劇的な違いがあった。MATERを欠失した胚におけるBrUTPの取り込みは、非注入対照群(図4Eおよび図4F)より僅かに高く、新規の転写は、正常2細胞胚で観察された転写の5%未満であった(図4G)。
【0121】
Materヌル動物におけるTRCの特徴づけ
成熟分裂と排卵の間、正常マウスにおいては、母性RNAの50%より多くが失われる(Bachvarova、「発生生物学:卵形成(Developmental Biology: Oogenesis)」 1、453-524、Plenum Press、New York、1985)。この分解過程は、MATERを欠失した雌においても、リボゾームRNA(図4H)および少なくともいくつかのmRNA(βアクチン、ZP3、シクロフィリン、およびGAPDH)の損失が起こる。通常、それに続く2細胞期における胚ゲノムの活性化に先立ち、一部の遺伝子産物が一過性に転写および翻訳され、それらのうちいくつかは特徴的な転写関連複合体(Transcription Related Complex:TRC)を形成する(Boltonら、J. Embryol. Exp. Morphol. 79:139-163、1984;Nothiasら、EMBO J. 15:5715-5725、1996;Conoverら、Dev. Biol. 144:392-404、1991)。この複合体は、初期2細胞胚において最初に観察されるが、αアマニチンの存在下では形成されない。
【0122】
TRCをアッセイするために、正常の雄と交配したMaterヌルの雌に由来する1および2細胞胚を35Sメチオニンとインキュベートした。正常の1細胞接合体とMATERを欠失した1細胞接合体との比較では、35Sメチオニン取り込み量、またはタンパク質特性において、全体的な違いは認められなかった(図4I、左パネル)。MATERを欠失した胚で2細胞期にTRC複合体が検出されるが(図4I、中央パネルおよび右パネル)、それらはいくぶん欠乏し(正常の〜60%)、MATERを欠失した胚における異常なタンパク質合成を反映している可能性がある。このことは、MATERが、初期胚における全ての転写−翻訳装置の開始に絶対的に重要というわけではないことを示す。
【0123】
転写の著しい減少は、胚の全体的な病的状態を反映する可能性もあるが、全く健常に見える1細胞接合体において同様な減少があるほか、新規のタンパク質合成が同様な劇的減少を示さないこと(図4I)も、転写の減少がMATERの欠如に直接または間接的に起因することを示す。
【0124】
哺乳類MATERの機能
哺乳類のMATERタンパク質のロイシンリッチ反復ドメインとブタのリボヌクレアーゼ阻害因子との相同性は、MATERが細胞質RNアーゼの阻害因子として働く可能性を示す。このことが事実であれば、MATERを欠失した胚のRNAは、広範な分解を受ける可能性があり、おそらく初期胚における母系から接合体への遷移の間に生じるRNAの正常な代謝回転が強調されると思われる。転写に必要なタンパク質をコードするRNAを含むRNAの分解は、Materヌル胚で観察される表現型を説明するかもしれない。しかし、Materを欠失していても、変異胚は35Sメチオニンをタンパク質に取り込み、正常胚と比べてタンパク質特性に主要な違いが観察されないため、この可能性はありそうにない。これらの結果は、タンパク質合成に補助するのに十分なmRNA、tRNA、およびリボゾームRNAが変異胚に存在することを示すが、初期胚の生存に必要な一群の標的RNAの分解は阻害されないことを示す。
【0125】
2細胞胚における転写依存性のタンパク質合成は、2つの期において生じる:TRCタンパク質の出現により特徴づけられる初期の主要ではない活性化(最初の有糸分裂から2時間〜4時間後)、およびG2において生ずる後期の主要な活性化(最初の有糸分裂から8時間〜10時間後)。後者の活性化は、2細胞期を超えて発達するために必要な発生プログラムを開始する(Schultz、Bioessays 15、531〜538、1993)。MATERを欠失した胚で観察された胚転写の減少は、転写装置の変性、ゲノムDNAへのアクセスの低下、または核内のクロマチン鋳型における異常に起因する可能性がある。しかし、Materヌル動物におけるTRCタンパク質の存在は、MATERが2細胞胚における転写依存性タンパク質合成の初期局面を決定づけるものではないことを示唆する。それはさらに、転写装置および核DNAにアクセスする能力が、Materヌル胚においておおむね損なわれていないことを示唆する(転写が活発であるMaterヌル卵母細胞と同様)。
【0126】
初期の爆発的な転写の結果生じるTRCタンパク質は、核に関連する(Schultz、Bioessays 15、531-538、1993)。これらのタンパク質は、MATERを含む機序を介して、2細胞期を超えて発達するのに必要な後期転写抑制を解除する可能性がある。加えて、マウスの卵母細胞および1細胞胚は、2細胞胚におけるエンハンサー依存性転写に必要なコアクチベータを欠失していることが報告されている(Lawingerら、J. Biol. Chem. 274、8002-8011、1999)。それらのコアクチベータの性質については知られていない;それらは、以前から存在する母性タンパク質の修飾か、または2細胞胚における初期転写依存性のタンパク質合成によって生ずるのかもしれない。そのような過程に細胞質のMATERが関与するかもしれない。または、MATERは、2細胞期を超えた細胞周期の進行に必要な一つまたは複数の相互作用に関与するかもしれない。MATERと相互作用するタンパク質の同定および特徴づけをすることによって、胚の生存および初期発生の促進における母性タンパク質の役割に関する洞察が得られると考えられる。
【0127】
Materは、初期の哺乳類の発生において不可欠な役割を果たすことが証明された最初の母性効果遺伝子であり、観察された生殖不能の表現型は、同様な分子の欠如によってヒトの生殖不能が生じ得る可能性を提起する。
【0128】
実施例2
ヒトMATER cDNAの同定
ヒトMATER cDNAは、マウスMATER cDNA配列との相同性に基づき、NCBIおよび米国国立医学図書館(National Library of Medicine)によって維持されるヒトハイスループットゲノム(HTG)配列の収集情報を検索することにより同定した。本発明者らは、この検索によって単離された不連続なヌクレオチド断片を用いてオリゴヌクレオチドプライマー対を考案し(例えば、配列番号:7および8、19および20、21および22)、それらを用いて、標準的な手法の利用により、精製したヒト卵巣DNAまたはmRNA/cDNAからMATER配列を増幅し、さらにヒトcDNAライブラリーから部分的なcDNAクローンを単離した。
【0129】
ヒトMATER cDNAの二つの長さの断片配列を配列番号:1および3に示す。それらの二つの長いcDNA断片を合わせると、完全ヒトMATER cDNAのうちの2213ヌクレオチドを構成する。
【0130】
cDNA断片1(配列番号:1)および断片2(配列番号:3)がコードする推定ヒトMATERタンパク質部分は、それぞれ配列番号:2および4に示す。
【0131】
それらの配列を用いて、残りのヒトMater cDNAを同定した;全長cDNAの配列を、配列番号:23に示す。全体として、ヒトMATERの最初の75ヌクレオチド(1〜75)および対応する推定アミノ酸(1〜25)は、公表されたヒトゲノムDNA配列との比較により決定し、残りのMater配列は、ヒト卵巣cDNAの直接的なクローニングおよび配列決定により決定した。ヒトMATERタンパク質の完全配列を配列番号:24に示す。
【0132】
実施例3:
ヒト卵巣全RNAにおけるMater RNAの検出
本実施例はヒト卵巣全RNA中のMATER RNAを検出する一つの方法を提供する。
【0133】
IRB承認プロトコールに基づき、19歳女性からのヒト卵巣全RNAを得て(McGill大学、Montreal、カナダ)、その使用についてはNIHのヒト対象研究局(Office of Human Subjects Research)により承認を受けた。26歳女性からのヒト卵巣RNAはBioChain Inc.(Hayward、カリフォルニア州、米国)より購入した。ヒト卵巣全RNA(10μg)の分離は1%アガロース/ホルムアルデヒド・ゲル電気泳動により行った。RNAはニトロセルロース膜上に転写し、ノーザンブロットを調製した。ヒトMater cDNA(〜0.5kb)は、Ready-To-Go DNA dCTPビーズ(Pharmacia Inc、Piscataway、ニュージャージー州、米国)を用い、α-[32P]dCTP(3000 Ci/mmol;ICN、Costa Mesa、カリフォルニア州、米国)により標識した。ブロットはQuikHib液(Stratagene、La Jolla、カリフォルニア州、米国)中で32P標識cDNAプローブ(〜0.5kb)とハイブリダイズ(68℃、2時間)させた。ブロットを0.1×標準クエン酸含有生理食塩水/0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で65℃において洗浄後、ハイブリダイゼーション・シグナルをオートラジオグラフィーにより検出した。
【0134】
このノーザンブロット・ハイブリダイゼーションによって、ヒト卵巣全RNA中に単一の〜4.2kbのMATER転写物が存在することが示された(図8A)。ヒトMATER転写物はマウスMATER転写物(3.75kb)より大きいと思われる。19歳の女性からの卵巣RNA中に検出されたMATER mRNA(レーン1)の量が、26歳の女性からのRNA(レーン2)と比べて比較的多かったことは、より若い女性の卵巣に比較的より多数の卵が存在することを反映している可能性がある。
【0135】
実施例4:
ヒトMATER転写物のPCRによるインビトロ増幅
本実施例は、異なる組織からのRNA試料中のMATER転写物を検出する一つの方法を提供する。
【0136】
ヒトMATER転写物の発現が卵巣特異的かどうかを明らかにするため、24の異なる組織のヒトRNAに由来するcDNA(ヒトRapid-Scan遺伝子発現パネル)を用いて、インビトロ増幅(このケースにおいてはPCR増幅)反応を行った。
【0137】
基本的に製造業者の指示に従い、ヒト卵巣cDNA(Invitrogen;Origene)、ヒト卵巣cDNAライブラリー(Clonetech)、およびヒトRapid-Scan遺伝子発現パネル(Origene)をPCR反応の鋳型として用いた。1.5kbp以内と予想されるDNA産物を増幅するために、Taq DNAポリメラーゼ(Life Technologies、Rockville、メリーランド州、米国)をPCR反応の条件(95℃、1分;60℃、1分;72℃、2分;および更なる伸長のため72℃、10分)で用いた。DNA産物(2〜5kb)の増幅には、プラチナPCR SuperMix(Life Technologies)を用い、製品のマニュアルに従ってすべてのサイクルにおいて72℃で伸長時間を延長した。PCR産物は0.1%臭化エチジウムを含むアガロースゲルで電気泳動し、DNA配列決定のためTAクローニングベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。
【0138】
対照として、図8Bに示されるように、ヒトβアクチン特異的プライマー(5'-GCATGGGTCAGAAGGAT-3'/3'-GTCCAGTAGTGGTAACC-5';配列番号39および40)を用い、25の組織およびヒト卵巣(レーン1〜25)に由来する全てのcDNAにおいて、ヒトβアクチンのPCR産物(640塩基対)を増幅した。対照的に、ヒトMATER特異的プライマー(5'-TGACTTCTGATTGCTGTGAGG-3'/ 3'-CTACTGGCCATGACCACCTT -5';配列番号41および42)を用いて、卵巣RNAから合成されたcDNAにおいてのみPCR産物(280塩基対)が生成された(図8C、レーン17および25)。
【0139】
実施例5:
PCR増幅したMATER転写物に対するヒトMATER cDNAのサザンブロット・ハイブリダイゼーション
本実施例は、MATER特異的PCRプライマーを用いて増幅したDNAの同一性を確認する、一つの方法を提供する。
【0140】
放射性同位体標識したMATER cDNAでプローブをした、ヒトMATERプライマー増幅のPCR反応のサザンブロット・ハイブリダイゼーションによって、ヒトMATER転写物の卵巣特異的な発現がさらに証拠づけされる(図8D)。
【0141】
実施例5において得られたPCR産物を2%アガロースゲル電気泳動により分離し、ニトロセルロース膜に転写してサザンブロットを調製した。ヒトMATER cDNA(〜0.5kbp)はReady-To-Go DNA dCTPビーズ(Pharmacia Inc.、Piscataway、ニュージャージー州、米国)を用い、α-[32P]dCTP(3000 Ci/mmol;ICN、Costa Mesa、カリフォルニア州、米国)により標識した。ブロットはQuikHib液(Stratagene、La Jolla、カリフォルニア州、米国)中で32P標識cDNAプローブ(〜0.5kb)とハイブリダイズ(68℃、2時間)させた。ブロットを0.1×標準クエン酸含有生理食塩水/0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で65℃において洗浄後、ハイブリダイゼーション・シグナルをオートラジオグラフィーにより検出した。
【0142】
実施例6:
ヒトMATER転写物の局在性
本実施例は、ヒトMATER転写物の発現を検出するための方法を提供する。
【0143】
インサイチュー・ハイブリダイゼーション・プローブを産生するために、ヒトゲノムDNAを以下のプライマーを用いて増幅した:
Figure 2004533229
得られた増幅核酸分子産物の大きさは496bpであったが、マウスMATERエキソン−イントロン地図との比較に基づき、これはヒトMATER遺伝子のエキソン7中に含まれると予測される。この断片をDNA鋳型としてpBluscriptベクターにサブクローニングした。35S-UTP標識したセンス配列およびアンチセンス配列は、いずれもT3およびT7 RNAポリメラーゼを用いてインビトロ転写により合成した。
【0144】
インサイチュー・ハイブリダイゼーションは、本質的には既に記載したように行った(TongおよびNelson、Endocrinology 140:3720-3726、1999)。簡単に記すと、プローブはアルカリ加水分解により調製し、ヒト卵巣凍結切片と60℃で24時間ハイブリダイズした。スライドガラスは、Kodak NTB-2エマルジョンに浸した後、フィルムに2〜3日間露出してオートラジオグラフを現像した。
【0145】
ヒト卵巣凍結切片は、放射標識したセンスプローブ(図9Aおよび図9C)およびアンチセンスプローブ(BおよびD)とハイブリダイズさせた。スライドガラスは、ヘマトキシンおよびエオシンにより染色した。おのおののプローブにつき、明視野(AおよびB)および暗視野(CおよびD)の画像が示されている。MATER転写物は卵母細胞に局在化していた。
【0146】
実施例7:
MATERプローブによるインサイチュー・ハイブリダイゼーション
本実施例はヒトMATER転写物の発現を検出するための他の方法を提供する。
【0147】
[35S]UTP標識したセンスおよびアンチセンスの両プローブは、ヒトMATER cDNAを鋳型とし、T3/T7 RNA ポリメラーゼ(Ambion Inc、Austin、テキサス州、米国)を用いて、インビトロ転写により合成した。アルカリ加水分解した短いプローブ(〜300nt)は、全米疾病研究所(National Disease Research Institute:NDRI;Philadelphia、フィラデルフィア州、米国)から得たヒト卵巣の凍結切片(8μ)と60℃で24時間ハイブリダイズした。Kodak NTB-2エマルジョンに浸した後、スライドガラスはX線フィルム上に1週間露出し、Kodak D-19およびKodak固定液で現像した。最終的にスライドガラスはヘマトキシンおよびエオシンで染色し、明暗両視野において顕微鏡で調べた。
【0148】
インサイチュー・ハイブリダイゼーションによって、ヒトMATER転写物の卵母細胞特異的な発現が示された。図8Eに示されるように、合成ヒトMATERアンチセンス・プローブを使用したハイブリダイゼーション・シグナルは、卵母細胞内に存在したが、卵胞細胞の中には存在しなかった。対照のMATERセンス・プローブは、卵母細胞および卵巣細胞のいずれともハイブリダイズしなかった(図8F)。従って、卵母細胞に限定されたヒトMATER遺伝子の発現は、マウスMATER遺伝子の発現パターンと同様と思われた。
【0149】
実施例8:
ヒトMATERタンパク質の局在性
本実施例は、ヒトMATERタンパク質の局在性を検討するための方法を提供する。
【0150】
インサイチュー局在化は、基本的にマウス試料について記載されたように行った(TongおよびNelson、Endocrinology 140:3720-3726、1999年)。簡単に記すと、マウスMATERのC末端ペプチドに対するウサギポリクローナル抗体(配列番号:6の1093残基から1111残基まで)を、実施例18Cに記載のように調製した。ヒト卵巣凍結切片をこの抗血清(1:200)とインキュベートし、2次抗体としてFITC結合ヤギ抗ウサギIgG抗血清を用いて、卵母細胞中のヒトMATERタンパク質を検出した(図10A)。図10Bは、図10Aに示す試料に対応する位相差顕微鏡像を示す。
【0151】
実施例9:
ヒトMATERタンパク質の卵母細胞における発現
本実施例はヒトMATERタンパク質の局在を調べる一つの方法を提供する。
【0152】
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中10%の正常ヤギ血清でブロッキングした後、ヒト卵巣(NDRI)の凍結切片(8μ)をマウスMaterペプチドに特異的なウサギ抗血清(1:200)と25℃で2時間インキュベートした。スライドガラスはPBS中0.05% Tween-20で洗浄し、フルオレセインイソチオシアネートを結合したヤギ抗ウサギIgG抗体(1:300;Sigma Chemical Co、St Louis、ミズーリ州、米国)とインキュベートした。洗浄しグリセロールガラス・カバーをかけた後、スライドガラスを蛍光顕微鏡下で調べた。
【0153】
卵巣切片における体細胞中では、卵母細胞以外で蛍光は観察されなかった(図11Aおよび11B)。正常ウサギ血清では卵母細胞は染色されなかった。
【0154】
実施例10:
天然MATERタンパク質の大きさを測定するための免疫ブロッティング
本実施例は天然Materタンパク質の大きさを測定するための一つの方法を提供する。
【0155】
NIHのヒト試料研究局(Human Subjects Research)の同意および承認を得てから、臨床IVFプログラム(ロックビル生殖科学センター、Rockville、メリーランド州、米国)によって、本研究のためにヒト未成熟卵母細胞を調達した。免疫ブロッティングのために、ヒト卵母細胞タンパク質を3〜8%のトリス酢酸SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動上で分離した。ニトロセルロース膜に転写した後、ブロットにおける非特異的結合をブロックするため、PBS中5%の粉ミルクを用いた。続いて、ブロットをウサギ抗Materペプチド抗体(1:1000)と25℃で2時間インキュベートした。ブロットを洗浄後、増強化学発光システム(Amersham/Pharmacia Inc、Piscataway、ニュージャージー州、米国)を製造業者の指示に従って用い、1次抗体が結合したタンパク質を西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(1:1000)によって検出した。
【0156】
図11Cに示すように、抗マウスMATER抗体を用い、ヒト卵母細胞タンパク質の調製品からヒトMATERタンパク質(〜134kDa)を検出した。免疫ブロット中に2つの近接したMATERタンパク質のシグナルが存在することが確認された。このことは、ヒトMATERタンパク質の翻訳後修飾、またはポリペプチド鎖の合成における選択的開始点の可能性を反映するかもしれない。
【0157】
実施例11:
ヒトMATER cDNAを作製する方法
MATER cDNAを同定し取得した最初の方法は、先に記載されている。MATERタンパク質の大部分の配列(配列番号:2および4)およびコードする核酸分子(配列番号:1および3)の供給において、現在ではヌクレオチドの増幅(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)など)を、Mater cDNAを産生する簡単な手段として利用することができる。
【0158】
総RNAは、当業者に周知の様々な方法のうちいずれか一つによって、ヒト細胞から抽出される。Sambrookら(「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、CSHL、New York、1989)およびAusubelら(「Current Protocols in Molecular Biology」、Greene Publ. Assoc. and Wiley-Intersciences、1992)により、RNA単離の方法が記載されている。MATERは卵母細胞で発現するため、卵母細胞または卵巣由来のヒト細胞株は、そのようなRNAの供給源として使用できる。抽出されたRNAは次にcDNAの逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)増幅を行うための鋳型として用いられる。RT-PCRの方法と条件はKawasakiら(「PCR Protocols、A Guide to Methods and Applications」、Innisら編、21〜27頁、Academic Press Inc.、San Diego、California、1990)により記載されている。
【0159】
増幅プライマーの選択は増幅をするcDNAの部分に基づいてなされると考えられる。プライマーはcDNAのセグメント、またはcDNA分子全体を増幅するために選択することができる。異なる長さや組成のプライマーおよび単位複製配列に適応させるために、様々な増幅条件が必要とされる:そのような考察は当技術分野に周知であり、例えばInnisら(「PCR Protocols、A Guide to Methods and Applications」、Academic Press Inc.、San Diego、CA、1990)に記載されている。一例として、ヒトMATER cDNA分子のコード領域の大部分(約2.8kb)を、以下のプライマーの組合せにより増幅することができる:
5'-プライマー(エキソン7の一部)
Figure 2004533229
3'-プライマー(エキソン15の末端)
Figure 2004533229
当業者は、既知の技術を用いてcDNA全体を増幅するために用いることが可能なプライマーを考案するために、本明細書に提供される全長ヒトMATER cDNA配列(配列番号:23)を使用することができる。
【0160】
以下の4つのプライマーセットは、ヒトMATER cDNAの5'末端の〜950bpを増幅するために用いることができる。
【0161】
5'プライマーは、以下のような5'-RACE-PCRのための共通アダプター・プライマー(ADP)である(OriGene Thchnologies, Inc.、Rockville、MD):
Figure 2004533229
【0162】
3'プライマーは、以下のようなエキソン7内のヒトMATER cDNAの遺伝子特異的プライマー(GSP)である:
Figure 2004533229
【0163】
GSP1はヒト卵巣RNAの逆転写のためのプライマーとしてcDNAの合成に使用される。次に逆転写されたcDNAの5'末端にADP1プライマーを結合させ、ADP1およびGSP1プライマーを用いて1巡目のPCRの増幅を行う。1巡目のPCR産物を鋳型として、ADP2およびGSP2をプライマーとして用い、2巡目のPCR増幅を行う。
【0164】
ヒトMATER cDNA(配列番号:1)の断片1は、以下のプライマーの組合せを用いて増幅してもよい:
Figure 2004533229
【0165】
ヒトMATER cDNA分子の3'末端領域(本明細書ではヒトMATER cDNA断片2、配列番号:3とも呼ばれる)は、以下のプライマーの組合せを用いて増幅してもよい:
Figure 2004533229
【0166】
これらのプライマーは例示のためのものにすぎない;ヒトMATER cDNAの配列を完全にするためのみならず、MATER cDNAの特定の指定領域を増幅するために、多くの異なるプライマーを、提供されたDNA配列から導き出すことが可能なことが当業者に理解される。
【0167】
これらの増幅手段により得られたPCR産物は、再び配列決定することが推奨される;増幅した配列の確認が容易になり、この配列における異なる集団または種間での自然変異についての情報が得られるためである。提供されたMATER配列に由来するオリゴヌクレオチドは、そのような配列決定に使用することができる。
【0168】
ヒトMATERのオルソログを同様の方法でクローニングすることができ、この場合はヒト以外の種から得た細胞を含む出発材料を用いる。オルソログは、通常、開示されたヒトMATER cDNAと少なくとも80%の配列相同性を有する。ヒト以外の種がヒトとより近縁関係にある場合、一般に配列相同性はより高いと考えられる。近縁関係のオルソロガスなMATER分子は、開示されたヒトMATER cDNAと少なくとも82%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも93%、少なくとも95%、または少なくとも98%の配列相同性を有する可能性がある。
【0169】
ヒトMATER cDNA配列(配列番号:23)に由来するオリゴヌクレオチド、またはその断片(例えば配列番号:1および3など)は、本開示の範囲内に含まれる。好ましくは、そのようなオリゴヌクレオチド・プライマーは、Mater核酸配列の少なくとも23個の連続したヌクレオチドの配列を含む。増幅の特異性を高めるために、それらの配列の少なくとも25個、30個、35個、40個、45個、または50個の連続したヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチド・プライマーを用いることもできる。例えばそれらのプライマーは、開示された配列の任意の領域から得ることができる。一例として、ヒトMater cDNA、ORF、および遺伝子配列は、配列の長さに基づき半分または4分の1に分割でき、単離核酸分子(例えばオリゴヌクレオチド)はこの分子を半分にしたうちの一つ目もしくは二つ目、または四半分にしたうちの任意のものから得ることができる。このことを例示するために、配列番号:5に記載のマウスMATER cDNAを用いることができる。ヒトMATER cDNAは3447ヌクレオチド長であり、従って仮定上およそ半分(ヌクレオチド1〜1723、および1724〜3447)、あるいは約四半分(ヌクレオチド1〜862、863〜1723、1724〜2586、および2587〜3447)に分けることができる。ヒトcDNAは同様に分割することができ、または本明細書に提示した断片で表すことができる(例えば、断片1、マウスMaterのヌクレオチド約1700から約1950までに対応;およびヒトMater cDNAの断片2、マウスMater cDNAの3'末端領域、マウスMater cDNAのヌクレオチド約2500からポリA尾部までに対応)。
【0170】
本明細書にはまた、本明細書に記載の方法に使用するための、ヒトMATER遺伝子内に由来するオリゴヌクレオチドも含まれる。これらはヒトMATER遺伝子のイントロン-エキソン境界に及ぶ配列にまたがるか、またはこの配列を含むオリゴヌクレオチドを含むが、これらに限定されない(表2を参照)。
【0171】
核酸分子はヒトMATER cDNAまたは他の部分のうち任意の、少なくとも15個、20個、23個、25個、30個、35個、40個、50個、または100個の連続したヌクレオチドを含むように選択できる。従って、代表的な核酸分子は、ヒトMATER cDNA(配列番号:23)の少なくとも15個の連続したヌクレオチド、または開示されたヒトMaterコード配列の断片1もしくは断片2(それぞれ配列番号:1および3)を含む可能性がある。
【0172】
実施例12:
ヒトMATER cDNAの単離
本実施例は、ヒトMATER cDNAを作成する他の方法を提供する。
【0173】
ヒト卵巣cDNAおよびそれから産生されたライブラリーからPCRを用いて核酸を増幅するために、ヒトMATERオリゴヌクレオチド・プライマーを設計した(実施例4参照)。PCRでクローン化したcDNAをインサイチュー・ハイブリダイゼーションのプローブとして使用し、ヒト卵母細胞が対応する転写物を発現することを示した(実施例5参照)。DNA配列決定によって、これらのPCR産物がマウスMater cDNAに相同なヒトMATER cDNAであることが示された。
【0174】
コード領域の〜98%に及ぶヌクレオチド76位から3596位までのPCR産物を生成した。3'非コード領域の特定は、PCRでクローン化したcDNAをプローブとして使用して、ヒト卵巣cDNAライブラリーから単離したcDNAクローンの配列決定によった。5'末端の最初の75ntは、ゲノムクローンAC011470(http://www.ensemble.org)の予測cDNAに由来する。Mater cDNAの5'末端に存在する非コード領域は依然未決定である。ポリAテール(約150〜200nt)の存在を仮定すると、決定したヒトMATER cDNA、そのポリAテール、および5'未決定非コード領域を組み合わせたものは、ノーザン・ハイブリダイゼーションにおいて検出されたMATER転写物(4.2kb;実施例3)と、大きさの上で一致する。このことは、クローン化cDNAが全長コード領域に相当することを示唆する。
【0175】
図12に示されるように、クローン化cDNA(3885nt)のオープン・リーディング・フレーム(ヌクレオチド1位から3600位)は、1200アミノ酸から成るタンパク質をコードする。完全ポリペプチド鎖はI6.08および分子量134,235.76DAと予測され、それはマウスMaterペプチド特異的な抗血清によって認識されるヒト卵母細胞タンパク質の大きさに一致した。組換えタンパク質の発現により、クローン化cDNAがヒトMATERタンパク質をコードすることがさらに確認された。
【0176】
オープン・リーディング・フレーム(ORF)における最初のメチオニンをコードする開始コード(ATG)は、脊椎動物で翻訳開始において認識されるコンセンサス配列であるコンテクスト(ATCATGAAG)の中にあった。終止コドン(TGA)に続いて282ntの3'非コード配列があった。ポリアデニル化のシグナル配列(AATAAA)は、ポリ(A)テールのちょうど18nt上流に位置していた。GenBankに登録された既知の遺伝子およびタンパク質のいずれもヒトMATER遺伝子またはMATERタンパク質と有意な相同性を有していなかった。しかしながら、ヒトMATERペプチドのカルボキシル末端配列が、ヒトおよびブタのリボヌクレアーゼ阻害因子(457残基)と〜32%の相同性を有していた。従ってヒトMATERは、マウスで見出されるように、リボヌクレアーゼ阻害因子様ロイシンリッチ反復の構造ドメインをカルボキシル末端に含む。ヒトおよびマウスMATER cDNAは67%の相同性を有し、それらの推定ポリペプチド鎖は53%のアミノ酸同一性を有する。
【0177】
実施例13:
ヒトMATERポリペプチド鎖の解析
本実施例は、ヒトMATERタンパク質の構造ドメインを解析する一つの方法を提供する。
【0178】
NIHの米国生命工学情報国立センター(National Center for Biotechnology)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)、EMBL-EBI(http://www.ensemble.org)、サンガーセンター(Sanger Center)(http://www.sanger.ac.uk)、およびスイス・バイオインフォマティクス研究所(Swiss Institute for Bioinformatics)のExPASy分子生物学サーバー(http://www.expacy.ch)で利用可能なソフトウエアを用い、DNA配列および予測ペプチド配列のコンピュータ解析を行った。
【0179】
ヒトMATERタンパク質の構造的特性を検索するためコンピュータ解析を行った。ヒトMATERの完全ポリペプチド鎖をそれ自身と比較したところ、ドットプロット解析により、アミノ末端およびカルボキシル末端に繰返し構造モチーフの存在が示された。これらの反復は、マウスMATERタンパク質においても見られるように、それらの領域における一連の並行だが派生した線によって示される(図13A)。ヒトおよびマウスのMATERポリペプチド鎖間の比較によって、2者の構造モチーフおよび組成の類似性および相同性が示された(図13B)。
【0180】
疎水性プロット(図14A)によって、アミノ末端(32〜304残基)およびカルボキシル末端(1184〜1200残基)に親水性領域が存在することが示された。タンパク質分泌のペプチドシグナルまたは膜貫通ドメインのいずれの構造モチーフも見出されなかった。図14Bに示されるように、ペプチド鎖はいくつかの注目すべきモチーフを有していた。マウスMATERには見出されなかった核局在化シグナルが、517〜534残基(NLS_BP)に存在した。DNA結合に関しては認識できるペプチド・ドメインが存在しないようであった。ヒトMATERが核内に移行するかどうかを確認するためには、さらなる実験的証拠が必要である。
【0181】
ヒトMATERタンパク質は、いずれもタンパク質・タンパク質相互作用の構造的基礎として認識される、カルボキシル末端の6つのロイシンリッチ反復、およびPAAD_DAPIN領域(52〜148残基)を有していた。ヒトMATERがその他の卵母細胞タンパク質と相互作用してその機能を果たすことが、それらの存在によって暗示される。加えて、ヒトMATERタンパク質はアミノ末端にaldo_ket_redドメイン(71〜87)、および286〜293残基にATP/GTP結合ドメイン(Pループ)を有している。aldo_ket_redはオキシレダクターゼ活性を有するタンパク質に存在するドメインであり、Pループは細胞内シグナル伝達への関与において ATP/GTPに結合するための典型的なドメインである。
【0182】
実施例14:
ヒトMATER遺伝子座のゲノム組成
本実施例はMATERゲノム配列のエキソンおよびイントロンの大きさおよび数を決める方法を提供する。
【0183】
クローン化ヒトMATER cDNAの配列の使用により、ヒトゲノム・クローンの一つ(GenBankアクセッション番号AC011470)がヒトMATERの完全遺伝子座を保持することが明らかになった。
【0184】
クローン化ヒトMATER cDNAの配列を用いてヒトhgtsデータベース(例えばNCBIウェブサイトを介して、オンラインでアクセス可能)をブラスト検索したところ、全体が配列決定されていた単一のゲノムクローン(AC011740)がヒトMATERの完全な遺伝子座を包含することが明らかになった。
【0185】
エキソンおよびイントロンの大きさおよび数を決めるために、クローン化cDNAの配列を、ヒト第19染色体から単離したAC011740クローンの配列と比較した(図15AおよびB)。エキソンおよびイントロンの間のスプライシング部位を決めるため、AG-エキソン-GTルールを適用した(表2)。
【0186】
15のエキソンおよび14のイントロンが、〜63kb のDNA領域に渡ることが確認された。56bpから1597bpの大きさに渡るエキソンが、760kbから9327kbに渡る14のイントロンにより介在されていた(表2)。加えて、エキソン15の中に282ヌクレオチドの3'非コード領域が、エキソン1の中にヌクレオチド未決定の5'非コード領域が存在していた。各エキソンおよびイントロンを切り換える配列は、エキソン-イントロンのスプライス部位に対する境界コンセンサス配列(AG-GT)に適合することが確かめられた。従ってヒトMATER遺伝子座は、〜63kbのDNAに渡り、15のエキソンおよび14のイントロンから成る。
【0187】
(表2)ヒトMATERのエキソンおよびイントロン、ならびにスプライス・ジャンクションの配列
Figure 2004533229
【0188】
ヒトMATER遺伝子座およびマウスMater遺伝子座は同じ数のエキソンおよびイントロンを有していたが、ヒト遺伝子座はマウス遺伝子座(32kbp)より長かった。これは主に、ヒトのイントロンのサイズのほうが大きいことを反映する。対応するエキソンは同等であった。両方ともコード配列の〜50%に及ぶ大型のエキソン7を有し、エキソン8〜14は各々で同一数のヌクレオチドを有していた。しかしながら、ヒト遺伝子座における最初の6つのエキソン(1〜6)は56〜380ntの大きさに渡り、マウス遺伝子座におけるそれらの対応物は48〜78ntであった。ヒトMATER遺伝子座における、より大きなエキソン2(380nt)によって、ヒトMATER cDNAコード領域(3600nt)はマウスcDNAコード領域(3333nt)より若干長めになっていた。これらの構造的類似およびばらつきは、全てマウスMater遺伝子座およびヒトMATER遺伝子座の間の保存および進化を反映する。
【0189】
実施例15
Materゲノム配列(または遺伝子)のクローニング
上述のMATER cDNA配列および断片は、Mater遺伝子のイントロン、上流の転写プロモーターもしくは調節領域、または下流の転写調節領域を含まない。胚発生の異常、不妊、または生殖能力低下につながるMATER遺伝子の一部の変異は、cDNA内ではなく、MATER遺伝子の他の領域内に位置する可能性がある。MATERタンパク質をコードするオープン・リーディング・フレームの外部に位置する変異は、おそらくタンパク質の機能的活性に影響せず、むしろ細胞内のタンパク質レベルの変化をもたらすと思われる。例えば、MATER遺伝子のプロモーター領域内の変異は、遺伝子の転写を阻害し、その結果、細胞内のMATERタンパク質の完全な欠如をもたらす可能性がある。
【0190】
加えて、ゲノム遺伝子のイントロン配列内の変異もまたMATERタンパク質の発現を阻害する可能性がある。イントロンを含む遺伝子の転写に続き、イントロン配列は、RNA分子の翻訳に先立つスプライシングと呼ばれる過程でRNA分子から除かれ、その結果コードタンパク質が産生される。イントロンを除くためにRNA分子をスプライシングする場合に、スプライシング機能を行う細胞の酵素は、イントロンとエキソンの境界の周辺の配列を認識し、そのようにして適切なスプライシング部位を認識する。イントロンとエキソンの接合部に近いイントロン配列内に変異がある場合、酵素はその接合部を認識できない可能性があり、イントロンを除くことができない可能性がある。これが生じた場合に、コードタンパク質は異常を有する可能性があると考えられる。従って、MATER遺伝子のイントロン配列内部の変異(「スプライシング部位変異」と呼ばれる)もまた胚発生の異常の原因となる可能性がある。しかし、それらの異常性の分子的基盤を明確化するために、MATER遺伝子のエキソン構造およびイントロンのスプライシング部位の配列について知識が必要とされる。
【0191】
本明細書におけるMATER cDNA配列、およびMATER遺伝子の配列(現在AC011470に同定されている)の提供により、MATER遺伝子全体(プロモーターおよび他の調節領域ならびにイントロン配列を含む)のクローニングを可能にする。この情報が得られた場合、DNA分析に基づく生殖能力の異常に対する遺伝的素因の診断は、MATER遺伝子座における全ての可能性のある変異事象を包含すると考えられる。
【0192】
MATER遺伝子は、MATER配列を含む一つまたは複数のBACまたはPACクローンの直接配列決定を含む、一つまたは複数の慣例的な手順により単離できる。または、本明細書に提供される情報を用いて、特にGenBankアクセッション番号AC011470の中から完全遺伝子配列を決定することにより、MATER遺伝子の部分(または遺伝子全体)をインビトロ遺伝子増幅手法を用いてゲノムDNAから増幅できる。遺伝子の長い部分、または遺伝子全体に関して、長い配列の増幅に特化された手法を使用するのが有利かもしれない。そのような手法は当業者に公知である。
【0193】
ヒトMATER cDNAおよび遺伝子の配列が得られた場合、それらの配列に由来するプライマーを、患者のゲノムMATER遺伝子の任意の部分における変異の存在を判定するための診断検査(以下に記載)に用いることが可能である。そのようなプライマーは、MATER遺伝子配列の断片(イントロン配列、エキソン配列、またはイントロンとエキソンの境界にまたがる配列)を含むオリゴヌクレオチドであると考えられ、MATER cDNAまたは遺伝子の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含みうる。このようなオリゴヌクレオチドの特異的な例には、配列番号:25〜38に記載の配列を含むものが含まれる。より長いプライマーを使用することにより、より高い特異性が得られる可能性があることが理解されると思われる。従って、より一層の特異性を得るために、使用されるプライマーは、特にイントロン-エキソン境界に部分的に重なる、MATER cDNAまたは遺伝子の15個、17個、20個、23個、25個、30個、40個、またはさらに50個の連続したヌクレオチドを含むことができる。さらに、MATERイントロン配列情報の提供により、ミスマッチ化学切断(Cottonら、Proc. Natl. Acd. Sci. USA 85:4397-4401、1985;Montandonら、Nucleic. Acids Res. 9:3347-3358、1989)および1本鎖DNA高次構造多型解析(Oritaら、Genomics 5:874-879、1989)のような方法を使用して、大きな、未だ行われていない患者材料の供給源についての変異解析が現在可能である。
【0194】
MATER遺伝子に隣接する調節要素の同定および特徴づけをするために追加の実験を行ってもよい。推定調節領域のヌクレオチドを除き、その欠失の効果を一過的または長期的な発現解析実験により検討する欠失分析を含む標準的手法を用いて、それらの調節要素を特徴づけることができる。ゲノムMATER遺伝子に隣接した調節要素の同定および特徴づけは、一過的または長期的な発現解析による哺乳動物細胞の機能的実験(欠失分析など)によって実施することができる。
【0195】
ゲノムクローン、cDNA、またはそれらのクローンに由来する配列のいずれかが、Mater遺伝子発現の研究、MATERタンパク質機能の研究、MATERタンパク質に対する抗体の産生、胚発生の異常を防ぐかまたは治療するためのMATERが欠失または変異した患者の診断および治療を含むが、これらに限定されることはない応用分野に使用できることは当業者に明らかである。従って、MATER cDNAまたはその断片の用途を記述した応用例の記載は、ゲノムMATER遺伝子の使用を包含することを意図する。
【0196】
本遺伝子の相同体が、ラットまたはサルのような他種から、標準的なクローニング手法によってクローニングできることもまた、現在、当業者に明らかであると考えられる。そのような相同体は、自己免疫性不妊症の発症および進行、ならびに初期胚形成の動物モデルの産生に有用であると考えられる。一般的にそのようなオルソロガスなMATER分子は、本明細書に開示されるヒトMATER核酸と少なくとも70%の配列同一性を有する;より近縁関係のオルソロガスな配列は、この配列と、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%の配列同一性を有する。
【0197】
実施例16
Mater核酸およびアミノ酸配列の変異
本明細書におけるヒトMATERタンパク質断片および対応する核酸配列の提供により、それらの配列の変異を作製することが現在可能である。
【0198】
アミノ酸配列において、変異MATERタンパク質は、開示されたヒトMATER配列と異なるが、提供されるヒトMATERタンパク質と少なくとも65%のアミノ酸配列の相同性を有するタンパク質を含む。その他の変異は、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%のアミノ酸配列相同性を有すると考えられる。そのような変異を産生するために、例えば部位特異的突然変異誘発またはPCRを含む標準的手法を使用した、Materのヌクレオチド配列の操作を用いることができる。最も単純な改変としては、一つまたは複数のアミノ酸を同様な生化学的性質を有するアミノ酸と置換することが含まれる。これらのいわゆる保存的置換は、結果として得られるタンパク質の活性に最小限の影響を与えると思われる。タンパク質の元のアミノ酸から置換してもよく、保存的置換とみなされるアミノ酸を表3に示す。
【0199】
【表3】
Figure 2004533229
【0200】
酵素機能またはその他のタンパク質の特性のより実質的な変化は、表3に列挙したものより保存性の低いアミノ酸置換を選択することにより得られる。そのような変化は、ポリペプチド骨格構造(例えばシート構造またはヘリックス構造)、その標的部位における分子の電荷もしくは疎水性、または特異的側鎖のかさを維持する効果において、より著しく異なる残基への変化を含む。下記の置換は、一般的に、タンパク質の性質に最も大きな変化をもたらすことが期待される:(a)親水性残基(例えば、セリルまたはトレオニル)への(からの)疎水性残基(例えば、ロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリル、またはアラニル)の置換;(b)システインまたはプロリンへの(からの)その他の任意の残基の置換;(c)正電荷の側鎖を有する残基(例えば、リシル、アルギニル、またはヒスチジル)への(からの)負電荷の側鎖を有する残基(例えば、グルタミルまたはアスパルチル)の置換;または(d)かさ高い側鎖を有する残基(例えば、フェニルアラニン)への(からの)側鎖を欠失した残基(例えば、グリシン)の置換。
【0201】
変異MATERをコードする配列は、例えばM13プライマー突然変異誘発などの、標準的なDNA突然変異誘発技法を用いて産生することができる。それらの技法の詳細は、Sambrookら(「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、CSHL、New York、1989)、第15章に記載されている。そのような技法を用いることにより、開示されたヒトMATER配列と僅かに異なる変異を作製することができる。本明細書に具体的に開示されるものの誘導体であり、且つヌクレオチドの欠失、付加、または置換により開示されたものと異なるが、開示されたヒトMATERコード配列(配列番号:1および3)と依然として少なくとも82%の配列同一性を有するタンパク質をコードするDNA分子およびヌクレオチド配列が本開示に包含される。また、開示されたMater配列と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%のヌクレオチド配列相同性を有するより近縁関係の核酸分子も包含される。最も単純な形態においては、そのような変異は、その分子が導入される特定の生物におけるコドン使用の偏りに適合するようにコード領域が改変されていることにより、開示された配列と異なっていてもよい。全長ヒトMATER cDNA(配列番号:23)もまた、断片1(配列番号:1)および断片2(配列番号:3)の両方を含み、且つ記載される生理学的特徴および生物学的性質を有するヒトMATERタンパク質をコードする分子として本開示に包含される。
【0202】
または、遺伝コードの縮重を利用することにより、ヌクレオチド配列は実質的に変化するが、それにもかかわらず、開示されたヒトMATERタンパク質配列と実質的に同様のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするようにコード配列を改変することで、コード領域を改変してもよい。例えば、遺伝コードの縮重のため、4つのヌクレオチド・コドン・トリプレット(GCT、GCG、GCC、およびGCA)はアラニンをコードする。従って、ヒトMATERタンパク質におけるいかなる特定のアラニン残基のコード配列もコードタンパク質のアミノ酸組成または特性に影響を与えることなく、それらの代替的なコドンのうちの任意のコドンに変更され得る。上述のような標準的DNA突然変異誘発技法を用い、またはDNA配列の合成によって、本明細書に開示するcDNAおよび遺伝子配列から遺伝コードの縮重に基づき変異DNA分子を誘導することができる。従って本開示は、MATERタンパク質をコードするが、遺伝コードの縮重によって開示された核酸配列と異なる核酸配列も包含する。
【0203】
MATERタンパク質変異は、原型ヒトMATERタンパク質に対するそれらの配列同一性によって定義することもできる。上述のように、ヒトMATERタンパク質は、本明細書に開示するヒトMATERタンパク質(配列番号:24)または断片(配列番号:2および4など)と、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%のアミノ酸配列同一性を有する。そのようなタンパク質/断片をコードする核酸配列は、遺伝コードをMATERタンパク質または断片のアミノ酸配列に単純に適用することによって容易に決定することができ、そのような核酸分子は、配列の部分に対応するオリゴヌクレオチドを組み合わせることによって容易に産生することができる。
【0204】
変異MATERタンパク質は、一つまたは複数の変異アミノ酸(本明細書に提供される原型的な配列と異なるアミノ酸)を含む可能性がある。例えば特異的な変異MATERタンパク質は、原型的なMATER配列(配列番号:24)と比較して、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、またはさらに25個、30個、50個、100個またはそれ以上の変異アミノ酸を有する。
【0205】
特定の態様は、認識されたタンパク質ドメインまたは認識された機能的配列の中に少なくとも一つのアミノ酸配列変異がある、MATER変異タンパク質を含む。具体的な例には、カルボキシル末端のロイシン・リッチ反復の一つ、PAAD_DAPINドメイン(52〜148残基)、アミノ末端のaldo_ket_redドメイン(71〜87)、または286〜293残基のATP/GTP結合ドメイン(Pループ)の中の変異が含まれる。従って、特定の例においては、変異MATERタンパク質(またはこれをコードする核酸)は、ロイシン・リッチ反復の中またはPAAD_DAPINドメインの中に一つまたは複数の残基の変化を含むことになる;そのようなタンパク質例は、細胞中のその他のタンパク質と特異な相互作用をする可能性がある。この型の具体的な変異MATERタンパク質は相互作用を妨害し、細胞内でMATER機能に(たとえば阻害または増強するような)影響を及ぼし、また一つまたは複数のその他のMATERタンパク質活性に欠陥があるかもしれない。
【0206】
その他の態様では、変異MATERタンパク質(またはこれをコードする核酸)は、aldo_ket_redドメインの中に一つまたは複数の配列変異を有する。そのような変異の具体的な例は、タンパク質のオキシレダクターゼ活性を妨害し、また一つまたは複数のその他のMATERタンパク質活性に欠陥があるかもしれない。
【0207】
さらにその他の態様では、変異MATERタンパク質(またはこれをコードする核酸)は、ATP/GTP結合ドメイン(Pループ)の中に一つまたは複数の配列変異を有する。そのような変異タンパク質の例は、ATPおよび/またはGTP結合に障害があり、また一つまたは複数のその他のMATERタンパク質活性に欠陥があるかもしれない。
【0208】
いくつかの態様では、アミノ酸配列の変異が、そのような特定されたドメインの2つまたはそれ以上のそれぞれの中に存在する。
【0209】
さらにその他の態様では、タンパク質配列変異がこれらの特定されたドメインの外側に存在する。そのような変異の例には、例えば、149から285残基のうち任意の一つに存在する変異が含まれる。そのような変異タンパク質の具体的な例は、一つより多くの配列変異を含むことになる。
【0210】
開示されたヒトMATER cDNA核酸配列に由来する核酸配列は、開示された原型MATER核酸分子またはその断片に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする分子を含む。ストリンジェントな条件は、6×SSC、5×デンハルト(Denhardt)溶液、0.5%SDS、および100μg/mlの剪断サケ精巣DNA中、65℃にてハイブリダイゼーションを行った後、2×SSC、0.5%SDS、続いて1×SSC、0.5%SDS、最後に0.2×SSC、0.5%SDS中、65℃にて15〜30分間連続的に洗浄することである。
【0211】
(近縁関係のより低い相同体を検出するための)低ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、(ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件の両方を)50℃で行うことを除き、上述のように実施する;しかし、検出シグナルの強さにより、2×SSCの洗浄の後、洗浄段階を終了してもよい。
【0212】
ヒトMATER核酸コード分子(配列番号:23に記載のcDNA、配列番号:1および3に記載の断片、ならびにそれらの配列を含む核酸を含む)、ならびにそれらの配列のオルソログおよび相同体を、形質転換用または発現用のベクターに導入してもよい。
【0213】
実施例17
MATERタンパク質およびその変異体の発現
ヒトMATER cDNA配列断片、ならびに全長ヒトMATER cDNAの決定およびクローニングの方法の提供により、現在、標準的な実験室の手法によるMATERタンパク質の発現および精製が可能になった。精製したヒトMATERタンパク質は、機能解析、抗体産生、診断、および患者の治療に用いることができる。さらに、MATER cDNAのDNA配列は、遺伝子の発現およびその産物の機能を理解する研究において操作することができる。ヒトMATERの変異型は、本明細書に含まれる情報に基づいて単離することができ、相対量による発現パターン、細胞内局在性、組織特異性、およびコードされた変異MATERタンパク質の機能的性質の変化を検出するために調べることができる。被験者タンパク質をコードする部分的および全長cDNA配列は、細菌発現ベクターの中にライゲーションすることができる。大腸菌(Escherichia coli)に導入したクローニング遺伝子からタンパク質を大量発現させる方法は、タンパク質の精製、局在化、および機能解析のために活用できる。例えば、大腸菌lacZまたはtrpE遺伝子の一部によりコードされるアミノ末端ペプチドをMATERタンパク質に連結したものからなる融合タンパク質は、これらのタンパク質に対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を調製するために用いることができる。その後これらの抗体を、免疫アフィニティ・クロマトグラフィーによるタンパク質の精製、タンパク質レベルを定量する診断用アッセイ法、ならびに免疫蛍光法による組織および個々の細胞中におけるタンパク質の局在化のために使用することができる。そのような抗体は、同定および/または精製の目的で発現構築物に加えることができるエピトープ・タグに特異的でありうる。
【0214】
機能的研究のため、無傷の天然タンパク質もまた大腸菌において大量に産生させることができる。細菌で融合タンパク質および無傷の天然タンパク質を産生するための方法およびプラスミド・ベクターは、Sambrookら(Sambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第17章、CSHL、New York、1989)に記載されている。そのような融合タンパク質は大量に作製可能であり、精製が容易であり、抗体反応を誘発するのに用いることができる。クローニングした遺伝子の上流に、強力な調節プロモーターおよび有効なリボゾーム結合部位を配置することによって、天然タンパク質を細菌で産生させることができる。低レベルのタンパク質が産生される場合は、タンパク質産生を増加させるための追加的処置をとることができる;高レベルのタンパク質が産生される場合は、精製は比較的容易である。適当な方法はSambrookら(「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、CSHL、New York、1989)に記載されており、当業者に周知である。高レベルで発現したタンパク質は、しばしば、不溶性の封入体中に見出される。それらの凝集物からタンパク質を抽出する方法は、Sambrookら(「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第17章、CSHL、New York、1989)に記載されている。LacZ融合遺伝子の発現に適したベクター系には、pURシリーズのベクター(RutherおよびMuller-Hill、EMBO. J 2:1791、1983)、pEX1-3(StanleyおよびLuzio、EMBO.J 3:1429、1984)、およびpMR100(Grayら、Proc. Natl. Acad. Sci.USA 79:6598、1982)が含まれる。無傷の天然タンパク質の産生に適したベクターには、pKC30(ShimatakeおよびRosenberg、Nature 292:128、1981)、pKK177-3(AmannおよびBrosius、Gene 40:183、1985)、およびpET-3(StudiarおよびMoffatt、J. Mol. Biol. 189:113、1986)が含まれる。MATER融合タンパク質をタンパク質ゲルから単離し、凍結乾燥し、粉末に磨りつぶし、抗原として用いることができる。DNA配列は、既存の状況から、例えば他のプラスミド、バクテリオファージ、コスミド、動物ウイルス、および酵母人工染色体(YAC)(Burkeら、Science 236:806-812、1987)のような、他のクローニング媒体に移すこともまた可能である。これらのベクターは、次に体細胞、ならびに細菌、真菌(TimberlakeおよびMarshall、Science 244:1313-1317、1989)、無脊椎動物、植物、および動物(Purselら、Science 244:1281-1288、1989)のような単純または複雑な生物を含む様々な宿主に導入してもよく、それらの細胞または生物は、異種Mater cDNAの導入により、トランスジェニックとなる。
【0215】
哺乳動物細胞で発現させるために、cDNA配列は、例えばpSV2ベクター(MulliganおよびBerg、Proc. Natl. Acad. Sci.USA 78:2072-2076、1981)におけるシミアンウイルス(SV)40プロモーターのような、異種のプロモーターにライゲーションし、例えばサルCOS-1細胞(Gulzman、Cell 23:175-182、1981)のような細胞に導入して、一過的または長期的な発現を得ることができる。キメラ遺伝子構築物の安定した組み込みは、例えばネオマイシン(SouthernおよびBerg、J. Mol. Appl. Genet. 1:327-341、1982)およびミコフェノール酸(MulliganおよびBerg、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:2072-2076、1981)のような生化学的選択によって、哺乳動物細胞中に維持することができる。
【0216】
DNA配列は、例えば制限酵素消化、DNAポリメラーゼによる平滑末端化、エキソヌクレアーゼによる削除、ターミナル・デオキシヌクレオチド・トランスフェラーゼによる伸長、合成またはクローニングしたDNAのライゲーション、一本鎖バクテリオファージ中間体を介した、または特異的ヌクレオチドを核酸増幅と組み合わせて使用することによる特定部位の配列改変などの標準的手順により操作することができる。
【0217】
cDNA配列(もしくはそれに由来する部分)またはミニ遺伝子(イントロンおよび自らのプロモーターを持つcDNA)は、従来の方法を用いて真核生物の発現ベクターに導入することができる。これらのベクターは、cDNAの転写を開始し増加させ、その適切なスプライシングおよびポリアデニル化を確実にするような調節配列を含むことにより、真核細胞においてcDNAの転写を可能にするように設計されている。SV40のプロモーター領域およびエンハンサー領域またはラウス肉腫ウイルスの末端反復(LTR)、ならびにSV40由来のポリアデニル化シグナルおよびスプライシングシグナルを含むベクターを容易に入手することができる(Mulliganら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:1078-2076、1981;Gormanら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:6777-6781、1982)。この種のベクターは、異なる活性を有するプロモーターを使うことによるか(例えば、バキュロウイルスpAC373はS.フルギペルダ(S. frugiperda)細胞においてcDNAを高レベルで発現可能であり(SummersおよびSmith、「遺伝的改変ウイルスと環境(Genetically Altered Viruses and the Environment)」、Fieldsら編、22:319-328、CSHL Press、Cold Spring Harbor、New York、1985))、または、例えばマウス乳癌ウイルス由来の糖質コルチコイド応答性プロモーター(Leeら、Nature 294:228、1982)のような、調節されたプロモーターを含むベクターを使用することにより、cDNAの発現レベルを操作することができる。cDNAの発現は、導入後24時間から72時間に(一過的発現)受容細胞で観察することができる。
【0218】
加えて、一部のベクターは、細菌遺伝子のgpt(MulliganおよびBerg、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:2072-2076、1981)またはneo(SouthernおよびBerg、J. Mol. Appl. Genet. 1:327-341、1982)のような選択マーカーを含む。それらの選択マーカーは、ベクター(従ってcDNA)の安定で長期的な発現を示すトランスフェクション細胞の選択を可能にする。ベクターは、パピローマウイルス(Sarverら、Mol. Cell. Biol. 1:486-496、1981)またはエプスタイン・バーウイルス(Sugdenら、Mol. Cell. Biol. 5:410-413、1985)のような調節因子を用いることにより、エピソーム様の自由に複製する独立体として細胞中に維持することができる。または、ゲノムDNAにベクターが組み込まれた細胞株を作製することもまた可能である。これらの型の細胞株はいずれも継続的に遺伝子産物を産生する。また、高レベルの遺伝子産物を産生可能な細胞株を作製するために、ベクター(従ってcDNAも同様)のコピー数が増幅した細胞株を作製することもできる(Altら、J. Biol. Chem. 253:1357-1370、1978)。
【0219】
真核生物、とりわけヒトまたは他の哺乳動物の細胞へのDNAの導入は、現在では従来技術である。組換え発現ベクターは、例えば、リン酸カルシウム(Grahamおよびvan der Eb、Virology 52:466、1973)もしくはリン酸ストロンチウム(Brashら、Mol. Cell. Biol.7:2013、1987)との沈殿、電気穿孔法(Neumannら、EMBO J. 1:841、1982)、リポフェクション(Felgnerら、Proc. Natl. Acad. Sci USA 84:7413、1987)、DEAEデキストラン(McCuthanら、J. Natl. Cancer Inst. 41:351、1968)、マイクロインジェクション法(Muellerら、Cell 15:579、1978)、プロトプラスト融合(Schafner、Proc. Natl. Acad. Sci USA 77:2163-2167、1980)、または空気銃(Kleinら、Nature 327:70、1987)により、純粋なDNAとして受容細胞に導入(トランスフェクション)することができる。または、ウイルス・ベクターによる感染によって、cDNAまたはその断片を導入することができる。例えばレトロウイルス(Bernsteinら、Gen. Engr'g 7:235、1985)、アデノウイルス(Ahmadら、J.Virol.57:267、1986)、またはヘルペスウイルス(Spaeteら、Cell 30:295、1982)を使用する系が開発されている。長い転写物をパッケージングする有用な技術は、Kochanekら(Proc. Natl. Acad. Sci USA 93:5731-5739、1996)、Parksら(Proc. Natl. Acad. Sci USA 93:13565-13570、1996)、ならびにParksおよびGraham(J.Virol.71:3293-3298、1997)に見出せる。MATERをコードする配列は、非感染系、例えばリポソームを介してインビトロで標的細胞に送達することができる。
【0220】
これらの真核生物発現系は、MATERコード核酸およびそれらの分子の変異型、MATERタンパク質およびそのタンパク質の変異型の研究に用いることができる。そのような用途には、例えば、本明細書に含まれる情報を利用してヒトゲノムDNAライブラリーから単離することのできるゲノムクローン上にある、Mater遺伝子の5'領域内に位置する調節要素の同定が含まれる。真核生物発現系は、正常な完全タンパク質の機能、タンパク質の特異的部位、または自然に生じたもしくは人工的に産生した変異タンパク質の研究にも使用することができる。
【0221】
必要な場合には、上記の技術を使用して、MATER遺伝子配列もしくはcDNAを含む発現ベクター、またはそれらの断片もしくは変異または変異体を、ヒトの細胞、他種の哺乳動物細胞、または非哺乳動物細胞に導入することができる。細胞の選択は処理の目的によって判断される。例えば、高レベルのSV40 T抗原を産生してSV40の複製起点を含むベクターの複製を可能にするサルCOS細胞(グルツマン(Gulzman)、Cell 23:175-182、1981)を使用してもよい。同様に、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、マウスNIH3T3線維芽細胞、またはヒト線維芽細胞もしくはリンパ芽球(本明細書に記載のように)を使用してもよい。
【0222】
従って本明細書に記載の態様は、適当な宿主における発現のために、MATER遺伝子またはcDNAまたはそれらの変異のようなMATERコード配列の全てまたは一部を含む、組換えベクターを包含する。Mater cDNAは、MATERポリペプチドが発現できるように、ベクターにおいて組換えDNA分子の発現制御配列に機能的に連結されている。発現制御配列は、原核細胞または真核細胞、およびそれらのウイルスの遺伝子、ならびにそれらの組み合わせの発現を制御する配列からなる群より選択することができる。発現制御配列は、lac系、trp系、tac系、trc系、ファージ・ラムダの主要オペレーターおよびプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、SV40の初期および後期プロモーター、ポリオーマ、アデノウイルス、レトロウイルス、バキュロウイルス、およびシミアンウイルス由来のプロモーター、3-ホスホグリセリン酸キナーゼのプロモーター、酵母酸性ホスファターゼのプロモーター、酵母アルファ接合因子のプロモーター、ならびにそれらの組合せからなる群より特に選択することができる。
【0223】
ベクターでトランスフェクションされうる宿主細胞は、大腸菌(E. coli)、シュードモナス(Pseudomonas)、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、もしくはその他のバチルス属;その他の細菌;酵母;真菌;昆虫;マウスもしくはその他の動物;または植物の宿主;またはヒト組織細胞からなる群より選択することができる。
【0224】
突然変異体または変異MATER DNA配列については、同様な系が変異産物を発現し産生するために使用されることが理解される。
【0225】
実施例18
MATERタンパク質に対する抗体の産生
正常MATERタンパク質またはこのタンパク質の変異型のいずれかに対してモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を産生することができる。選択的には、MATERタンパク質に対して産生された抗体は、MATERタンパク質を特異的に検出すると考えられる。すなわちそのような抗体は、MATERタンパク質を認識して結合し、実質的にヒト細胞に見出されるその他のタンパク質を認識または結合しないと考えられる。ヒトMATERタンパク質の抗体は、マウスMATERのような他種のMATERを認識する可能性があり、その逆もまた同様である。
【0226】
抗体がMATERタンパク質を特異的に検出することは、多数の標準的な免疫アッセイ法のうち任意の方法、例えば、ウエスタン・ブロッティング法(Sambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、CSHL、New York、1989)によって判定される。所与の抗体調製品(例えばマウスで産生したもの)がウエスタン・ブロッティングで特異的にMATERタンパク質を検出することを確かめるために、全細胞タンパク質をヒト細胞(例えばリンパ球)から抽出し、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミド・ゲル上で電気泳動する。タンパク質は次にウエスタン・ブロッティングによって膜(例えば、ニトロセルロースまたはPVDF)に転写し、抗体調製品を膜とともにインキュベートする。膜を洗浄して非特異的に結合した抗体を除去した後、アルカリホスファターゼのような酵素を結合した抗マウス抗体(一例として)の利用により、特異的に結合した抗体の存在を検出する。アルカリホスファターゼ基質-5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート/ニトロブルーテトラゾリウムの使用の結果、濃青色の化合物が、免疫局在性アルカリホスファターゼによって生じる。MATERタンパク質を特異的に検出する抗体は、本方法により、MATERタンパク質のバンド(分子量によりゲル上の特定の位置に局在化され、マウスMATERについてはゲル移動度による推定に基づき約125kDaである)に結合することが示される。他のタンパク質と抗体との非特異的結合は、ウエスタン・ブロット上で弱いシグナルとして生じ、検出される可能性がある。特異的な抗体とMATERタンパク質との結合から生ずる強い一次シグナルとの比較におけるウエスタン・ブロット上で得られる弱いシグナルによって、この結合の非特異的な性質は当業者に認識されると思われる。
【0227】
特定の態様においては、MATERタンパク質のドメインまたは一部に対して特異的な抗体が作製される。
【0228】
免疫原として使用するのに適した実質的に純粋なMATERタンパク質は、上述のようにトランスフェクション細胞または形質転換細胞から単離される。最終調製品のタンパク質濃度は、例えば、Amicon(Millipore、Bedford、Massachusetts)または同様のフィルター装置による濃縮によって、数マイクログラム毎ミリリットルのレベルに調節する。タンパク質に対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体は、以下のように調製することができる。
【0229】
A. ハイブリドーマ融合によるモノクローナル抗体の産生
記載したように同定および単離したMATERタンパク質のエピトープに対するモノクローナル抗体は、マウスハイブリドーマから、KohlerおよびMilstein(Nature 256:495-497、1975)の古典的な方法またはその派生法に従って調製することができる。簡単には、マウスに数マイクログラムの選択したタンパク質を数週間に渡り繰り返し接種する。次に、マウスを屠殺し、脾臓の抗体産生細胞を単離する。脾臓細胞はポリエチレン・グリコールを用いてマウス・ミエローマ細胞と融合させ、過剰の非融合細胞を、系をアミノプテリンを含む選択培地(HAT培地)中で培養することにより死滅させる。融合に成功した細胞を希釈し、希釈液のアリコートをマイクロタイター・プレートのウエルに撒き、そこで培養物の成長を行う。抗体を産生するクローンは、例えばEngvall(Enzymol. 70(A):419-439、1980)によって最初に記載されたELISAおよびその派生法のような免疫アッセイ法よって、ウエルの上清液体中で抗体を検出することにより同定される。選択された陽性クローンを増幅し、それらのモノクローナル抗体産物を回収して使用することができる。モノクローナル抗体産生の詳細な手順は、HarlowおよびLane(「Antibodies, A Laboratory Manual」、CSHL、New York、1988)に記載されている。
【0230】
B. 免疫化によるポリクローナル抗体の産生
単一のタンパク質における異種のエピトープに対する抗体を含むポリクローナル抗血清は、発現タンパク質(任意で、免疫原性を高めるために修飾されていてもよい)により適当な動物を免疫化することによって調製することができる(実施例8)。抗原および宿主種の両方に関係した多くの要因が、効率的なポリクローナル抗体の産生に影響する。例えば、低分子は他のものより免疫原性が低い傾向にあり、担体およびアジュバント(その例は既知である)の使用を必要とする可能性がある。また、宿主動物は、接種の部位および用量に対する反応性が様々であり、不十分または過剰な用量の抗原では、低い力価の抗血清が生じる。少ない用量(ナノグラムレベル)の抗原を複数の皮下部位に連続的に投与することが最も確実であると思われる。ウサギの効果的な免疫化プロトコールは、Vaitukaitisら(J.Clin.Endocrinol.Metab 33:988-991、1971)に見出すことができる。
【0231】
ブースター注射は規則的な間隔で行うことができ(例えば、既知の濃度の抗体に対する寒天中での二倍免疫拡散法により)抗体力価が下がり始めて半量と測定されたときの抗血清を採取する。例としては、Ouchterlonyら(「Handbook of Experimental Immunology」、Wier D.編、第19章、Blackwell、1973)を参照のこと。血清中の抗体のプラトーな濃度は通常約0.1mg/mlから0.2mg/mlの範囲にある(約12μM)。抗血清の抗原に対する親和性は、例えばFisher(「Manual of Clinical Immunology」、第42章、1980)により記載されているように、結合競合曲線を作製することによって判定することができる。
【0232】
C. 合成ペプチドに対して産生された抗体
MATERタンパク質に対する抗体産生の第三の方法は、MATERタンパク質の推定アミノ酸配列に基づき、市販のペプチド合成機で合成した合成ペプチドの利用である。
【0233】
一例にすぎないが、マウスMATER C末端ペプチド(配列番号:6の1093位から1111位の残基)をKLHと結合させて、2週毎に雌ウサギ(2匹)を免疫化した。3回目の免疫化より、免疫化ウサギから少量(〜3ml)の血液の採取を開始し、抗ペプチド抗体の力価を、このペプチドを抗原としたELISA法を用いて調べた。抗体が最大力価に達成するまで免疫化を続け(これはおよそ十回の免疫化で生じた)、次いで血清を調製するためにウサギを屠殺し抜血した。得られた試料は、マウスMATER(実施例1)およびヒトMATER(実施例4)の両方を特徴づけるために使用した。
【0234】
D. MATERコード配列の注射により産生された抗体
マウスのような実験動物中でMATERタンパク質を発現する組換えDNAベクターを皮下注射することによって、MATERタンパク質に対する抗体を産生させることも可能である。組換えベクターの動物への送達は、タン(Tang)ら(Nature 356:152-154、1992)により記載されているように、携帯型の遺伝子銃システム(Sanfordら、Particulate Sci. Technol.5:27-37、1987)によって達成することができる。この目的に適した発現ベクターとしては、ヒトβアクチン・プロモーターまたはサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターのいずれかの転写制御のもとにMATERコード配列を発現するものが含まれる。
【0235】
抗体調製物はモノクローナルおよびポリクローナルの両方を含み、生物試料中の抗原性を有する物質の濃度を測定する定量的免疫アッセイ法に有用である;これらはまた、生物試料中の抗原の存在を半定量的または定量的に同定するために使用される。
【0236】
実施例19
DNAに基づく診断
本明細書に提示したMater配列情報は、欠失、重複、または突然変異などのMaterの異常が原因の自己免疫性不妊症のような、生殖能力低下または不妊症に対する病因素質を遺伝子検査する分野で使用することができる。イントロンとエキソンの境界を含むMater遺伝子の遺伝子配列(表2に記載)も、そのような診断方法に有用である。Mater遺伝子(またはその一部)に変異を有する個体、あるいはMater遺伝子の重複またはヘテロ接合性もしくはホモ接合性の欠失を有する個体は、様々な技法を用いてDNAレベルで検出することができる。そのような診断方法を行うため、被験者の生物試料(このような生物試料は被験者由来のDNAまたはRNAのいずれかを含む)はMater遺伝子の変異、重複、または欠失についてアッセイされる。適当な生物試料としては、例えば末梢血、尿、唾液、組織生検、外科試料、羊水穿刺試料、および検死材料に存在するもののような、体細胞から得られたゲノムDNAまたはRNAを含む試料が含まれる。変異Mater遺伝子、変異Mater RNA、あるいは重複しているかまたはホモ接合もしくはヘテロ接合性で欠失しているMater遺伝子のうちいずれかを生物試料において検出することは、多くの方法論によって行うことができ、その例を以下に記載する。
【0237】
未知の変異を同定するためのそのような検出技法の一つの態様は、被験者から単離されたRNAの逆転写増幅(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応)であり(RT-PCR)、その後、産物の直接的DNA配列決定を行う。得られた配列と原型Mater cDNA配列との間の1つまたは複数のヌクレオチドの相違、特にヌクレオチド配列のORF部分の相違の存在は、Mater遺伝子突然変異の可能性を示すものと理解される。
【0238】
または、生物試料から抽出されたDNAは直接増幅に用いることができる。ゲノムDNAからの直接的増幅は、オープン・リーディング・フレームの上流および下流に位置する調節配列またはイントロンとエキソンの境界(表2を参照)を含むMater遺伝子の全体を解析するために適当である。例として、イントロン-エキソン境界それ自体は、このような試料のインビトロ増幅において使用する、オリゴヌクレオチドプライマー(またはその一部)の配列として役立つ。このようなオリゴヌクレオチドの例は配列番号:25〜38に示す。直接的DNA診断についての総説は、Caskey(Science 236:1223-1228、1989)およびLandegrenら(Science 242:229-237、1989)によって記載されている。
【0239】
DNAまたはcDNAにより単位複製配列中の未知のものを検出するために適当な、その他の突然変異スキャニング技法も行うことができる。それらの技法には、直接配列決定法(配列決定を含まない)、ならびに1本鎖高次構造多型(SSCP)解析(例えば、Hongyoら、Nucleic Acids Res. 21:3637-3642、1993)、化学的切断法(HOT切断を含む)(Batemanら、Am. J. Med. Genet. 45:233-240、1993;Ellisらの総説、Hum. Mutat. 11:345-353、1998)、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、ライゲーション増幅ミスマッチ保護(LAMP)、および酵素的突然変異スキャニング(TaylorおよびDeeble、Genet. Anal. 14:181-186、1999)が含まれ、次いで、推定変異配列を有する単位複製配列の直接配列決定法が行われる。
【0240】
不妊症を呈する女性被験者、特に自己免疫性不妊症の被験者または彼女らの親族から単離されたMATER遺伝子のさらなる研究によって、その個体集団間で高頻度に生ずる特有の変異、ゲノム増幅、または欠失が明らかになる可能性がある。そのような場合、Mater遺伝子全体の配列決定を行うことなく、最も一般的または最も密接に疾患と関連したMATERの異常を特異的に検出するようなDNA診断法を設計することができる。
【0241】
特異的DNA変異の検出は、例えば対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)を利用したハイブリダイゼーション法(Wallaceら、CSHL Symp. Quant. Biol. 51:257-261、1986)、イントロン-エキソン境界に特異的なオリゴヌクレオチドの利用(例えば、配列番号:25〜38のいずれか一つ)、直接DNA配列決定法(ChurchおよびGilbert、Proc. Natl. Acad. Sci USA 81:1991-1995、1988)、制限酵素の使用(Flavellら、Cell 15:25-41、1978;Geeverら、1981)、変性試薬を用いたゲル中での電気泳動移動度に基づく識別法(MyersおよびManiatis、Cold Spring Harbor Symp. Quant.Biol.51:275-284、1986)、RNアーゼ保護法(Myersら、Science 230:1242-1246、1985)、化学的切断法(Cottonら、Proc. Natl. Acad. Sci USA 85:4397-4401、1985)、およびリガーゼを介した検出手法(Landegrenら、Science 241:1077-1080、1988)などの方法によって行うことができる。
【0242】
特定の態様では、被験試料(例えば被験者からの臨床試料)においてMATER配列およびMATER特異的オリゴヌクレオチドの間で形成される複合体の量を、対照または参照試料中で形成される複合体の量と比較する。選択されるオリゴヌクレオチドにより、複合体の形成の増加が異常MATER核酸と関連した生物学的状態の存在を示すことになる。別の状況では、複合体の形成の減少が異常MATER核酸と関連した生物学的状態の存在を示すことになる。一例として、いくつかの態様では、野生型オリゴヌクレオチドが使用され、複合体形成の低下は試料中の標的領域における突然変異を示す。その他の態様では、突然変異または変異オリゴヌクレオチド(たとえば、既知のSNPを含むもの)が使用され、複合体形成の増加が突然変異の存在を示す。これらの状況の逆を含む、その他の組み合わせが論理的に追従する。
【0243】
正常または変異配列に特異的なオリゴヌクレオチドは、市販の機械を使用して化学的に合成される。次にそれらのオリゴヌクレオチドは、同位体(32Pなど)を用いて放射性標識するか、またはビオチン(WardおよびLanger、Proc. Natl. Acad. Sci USA 78:6633-6657、1981)のようなタグを用いて非放射性標識して、ドットブロットまたは電気泳動後のゲルからの転写によって膜または他の固形の支持体に固定した個々のDNA試料にハイブリダイズさせる。それらの特異的配列は、オートラジオグラフィーまたは蛍光(Landegrenら、Science 242:229-237、1989)または比色反応(Gebeyehuら、Nuclic Acids Res.15:4513-4534、1987)のような方法によって視覚化される。正常対立遺伝子に特異的なASOを用いた場合、ハイブリダイゼーションの欠如は、遺伝子の特定領域における変異、またはMater遺伝子の欠失を示すと考えられる。一方、変異対立遺伝子に特異的なASOが臨床試料にハイブリダイズした場合、そのことはASOによって規定された領域における変異の存在を示すと思われる。
【0244】
MATER遺伝子の正常型と変異型の間の配列の相違はまた、ChurchおよびGilbert(Proc. Natl. Acad. Sci.USA 81:1991-1995、1988)の方法を用いた直接DNA配列決定によって明らかにすることができる。クローニングされたDNAセグメントは、特異的DNAセグメントを検出するプローブとして用いることができる。この方法の感度は、核酸増幅、例えばPCR(Wrichnikら、Nucleic Acids Res. 15:529-542、1987;Wongら、Nature 330:384-386、1987;Stofletら、Science 239:491-494、1988)と組み合わせた場合に著しく高まる。この手法では、増幅された配列内に位置する配列決定用プライマーが、改良されたPCRによって産生した2本鎖PCR産物または1本鎖鋳型と共に用いられる。配列決定は、放射性標識した核酸を用いた従来の方法または蛍光タグを用いた自動配列決定法により行う。
【0245】
配列の変化は、偶然の制限酵素認識部位を生じるか、または存在する制限酵素認識部位を欠失させる可能性がある。制限酵素認識部位の変化は、適当な酵素消化およびそれに続く慣例的なゲル・ブロット・ハイブリダイゼーションの使用により明らかになる(Southern、J. Mol. Biol. 98:503-517、1975)。制限酵素切断部位を有するDNA断片(正常または変異体のいずれか)は、大きさの減少または対応する制限酵素断片数の増加により検出される。ゲノムDNA試料も、適当な制限酵素による処理に先立ち、PCRで増幅することができる;次いで、異なる大きさの断片は、ゲル電気泳動後、臭化エチジウムの存在中でUV光下で可視化される。
【0246】
DNA配列の違いに基づく遺伝子検査は、変性試薬を含むかまたは含まないゲル中で、DNA断片の電気泳動移動度の変化を検出することによって行うことができる。高分解能ゲル電気泳動によって、小さい配列の欠失および挿入が可視化できる。例えば、小さい欠失を有するPCR産物は、8%非変性ポリアクリルアミドゲル上で、正常配列と明らかに区別することができる(国際公開公報第91/10734号;Nagamineら、Am. J. Hum. Genet. 45:337-339、1989)。異なる配列組成のDNA断片は、変性ホルムアミド勾配ゲル上で識別可能であり、そこでは、異なるDNA断片の移動度はそれらに特有な「部分融解」温度に従い、ゲル中の異なる位置で遅延する(Myersら、Science 230:1242-1246、1985)。または、単一塩基置換またはその他の小さい変化を含む変異を検出する方法が、PCRにおけるプライマーの長さの差に基づいてもよい。例えば、変異を有さないプライマーを、変異に対して特異的なプライマーに加えて用いてもよい。正常および変異遺伝子のPCR産物は、そのあとアクリルアミドゲルで区別して検出することができる。
【0247】
慣例的なゲル電気泳動法およびブロット・ハイブリダイゼーション法に加えて、個々のDNA試料が膜に固定されないような方法によってもDNA断片を可視化することができる。プローブおよび標的配列が共に溶液中にあってもよいし、プローブ配列が固定されていてもよい(Saikiら、Proc. Nat. Acad. Sci USA 86:6230-6234、1989)。放射性同位体、放射性崩壊の直接検出(発光の有無における)を含むオートラジオグラフィー、熱産生反応を含む分光測光、および蛍光発生反応を含む蛍光光度法のような様々な検出方法を、特異的な個体遺伝子型を同定するために用いることができる。例えば、以下の特許文書も参照されたい:国際公開公報第89/10977号;国際公開公報第97/27317号;国際公開公報第97/29212号;国際公開公報第98/28438号;国際公開公報第99/05320号;国際公開公報第99/47706号;国際公開公報第00/47767号;国際公開公報第00/56926号;国際公開公報第00/79006号;国際公開公報第01/83813号;米国特許第2002/0012930号;米国特許第5,700,637号;米国特許第6,228,575号;米国特許第6,300,063号;および米国特許第6,307,039号。
【0248】
MATER遺伝子に多数の変異が頻繁に生じる場合、そのような多数の変異の検出可能な系が望ましい可能性があると考えられる。例えば、全ての可能な変異を同時に同定するために、多数の特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびハイブリダイゼーション・プローブによる核酸増幅反応を使用してもよい(Chamberlainら、Nucl. Acids Res. 16:1141-1155、1988)。その方法は、固定された配列特異的オリゴヌクレオチド・プローブを含んでもよい(Saikiら、Proc. Natl. Acad. Sci USA 86:6230-6234、1989)。
【0249】
実施例20
MATERタンパク質の定量
Mater遺伝子の欠失、増幅、または変異を診断する代替法は、被験者の細胞中のMATERタンパク質レベルを定量することである。この診断ツールは、例えば全Mater遺伝子の欠失のみならず、Mater遺伝子のプロモーター領域の変異、または切断されたポリペプチド、非機能性ポリペプチドもしくは不安定なポリペプチドを産生する遺伝子のコード領域の変異に原因するMATERタンパク質レベルの減少を検出するのに有用であると考えられる。または、Mater遺伝子の重複は、本タンパク質の発現レベルの増加として検出される可能性がある。減少または増加したMATERタンパク質レベルの測定は、先に概説した方法によるMater遺伝子の欠失、重複、または変異の状況の直接的な判定に代替的な手法、または補足的な手法となると思われる。
【0250】
MATERタンパク質に特異的な抗体の入手可能性は当業者に周知であり、HarlowおよびLane(「Antibodies, A Laboratory Manual」、CSHL、New York、1988)に記載されている多数の免疫アッセイ法の一つにより、細胞MATERタンパク質の定量が可能になると考えられる。
【0251】
MATERタンパク質を定量する目的のために、細胞タンパク質を含む、被験者の生物試料が必要である。そのような生物試料は、末梢血、尿、唾液、組織生検、羊水穿刺試料、外科標本、および検死材料の中に存在するような体細胞から得ることができる。特に、女性の生殖細胞(例えば卵)または胚は適切な試料である。MATERタンパク質の定量は、免疫アッセイ法により行われ、健常細胞(例えば、生殖能力が低下していないことが分かっている女性の細胞)中に見出されるタンパク質レベルと比較される。正常ヒト細胞におけるMATERタンパク質の量と比較して、被験者の細胞におけるMATERタンパク質の量が著しく減少(例えば、10%またはそれ以上、例えば、20%、25%、30%、50%またはそれ以上が減少)していることは、著しく増加(例えば、10%またはそれ以上、例えば、20%、25%、30%、50%またはそれ以上が増加)していることが重複または変異の増加が生じたことを示すと考えられるのに対し、被験者がMater遺伝子座に欠失または変異を持っている可能性を示すものとして解釈されると考えられる。
【0252】
実施例21
MATERタンパク質に対する血清抗体の検出
MATERファミリーのタンパク質は、自己免疫性不妊症のある種の症例の病原性に関与する自己抗体として初めて同定された。本明細書におけるヒトMATERタンパク質配列およびコード核酸の提供により、現在、そのような生殖能力不全の検出および診断方法が可能になった。
【0253】
ヒトMATERタンパク質のエピトープを認識する自己抗体は、例えば血清またはその他の液体などの被験者に由来する試料中で、既知の免疫学的技法により検出することができる。そのような自己抗体(例えばMATERエピトープに特異的な循環自己抗体)の存在は、被験者がMATERを介する不妊症または生殖能力低下に罹患しているか、またはそれらの状態のうちの一つに罹患する感受性が増加していることを示す。
【0254】
抗原の検出および定量のための多くの方法が当技術分野に周知である。最も一般的には、精製した抗原を基質と結合させ、試料中の抗体がFab部分を介してその抗原と結合し、基質を洗浄した後に標識二次抗体を加え、それがアッセイ法の対象である抗体のFc部分と結合すると考えられる。標識二次抗体は種特異的、即ち、血清がヒト由来である場合に、標識二次抗体は抗ヒトIgG抗体となると考えられる。標本を洗浄した後、結合した標識二次抗体の量を標準的な方法により検出し定量する。
【0255】
浸漬片またはその他の固定されたアッセイ用の装置を使用した方法を含む、生物試料中の抗体を検出する方法の例は、例えば以下の特許において開示されている:米国特許第5,965,356号(単純ヘルペスウイルス・型特異的血清アッセイ法);同第6,114,179号(抗原および/または抗体を検出するための方法および検査キット);同第6,077,681号(抗体の検出による運動神経障害の診断);第6,057,097号(自己免疫反応および/または炎症性疾患を含む病状のマーカー);および同第5,552,285号(免疫アッセイ法、酸化DNA塩基に対する抗体の組成およびキット)。
【0256】
実施例22
MATER発現の抑制
トランスジェニック細胞中のMATERタンパク質発現の減少は、ヒトMater cDNAまたはその断片(例えば、配列番号:1および3に記載のcDNA断片)またはその遺伝子配列もしくはその隣接領域を含む、Materコード配列に基づくアンチセンス構築物を細胞に導入することにより達成されうる。アンチセンス抑制のために、MATERコード配列に由来するヌクレオチド配列、例えばMater cDNAまたは遺伝子の全てまたは一部を形質転換ベクターのプロモーター配列に関して逆方向に配置する。ベクターのその他の局面は先に記載したように選択することができる(実施例8)。
【0257】
導入された配列は完全長のヒトMater cDNA(配列番号:23)または遺伝子である必要はなく、形質転換された細胞型に見出される同等な配列と全く相同である必要もない。従って、マウスcDNA(配列番号:5)の一部または断片もまたヒトMater遺伝子の発現をノックアウトするために使用することができる。しかし、一般的に、導入された配列の長さが短い場合、効果的なアンチセンス抑制のために、天然のMater配列へのより高い相同性が必要とされると考えられる。導入されたベクター中のアンチセンス配列の長さは少なくとも30ヌクレオチドがよく、アンチセンス配列の長さが増せば、一般にアンチセンス抑制に改善がみられると考えられる。ベクター中のアンチセンス配列の長さは、100ヌクレオチドより長いほうが有利であり、ヒトMater cDNAまたは遺伝子のおよそ全長まで増加させることができる。Mater遺伝子自体を抑制するために、アンチセンス構築物の転写は、細胞の内因性Mater遺伝子から転写されたmRNA分子に逆相補性であるRNA分子の産生をもたらす。
【0258】
アンチセンスRNA分子が遺伝子発現に干渉する正確な機序は明らかになっていないが、アンチセンスRNA分子が内因性mRNA分子に結合することによって、内因性mRNAの翻訳を阻害すると考えられている。
【0259】
小さな阻害性RNA(siRNA)もまた、使用することができる。
【0260】
内因性MATER発現の抑制は、リボザイムを使用することによっても行うことができる。リボザイムは、特異性の高いエンドリボヌクレアーゼ活性を有する合成RNA分子である。リボザイムの産生および使用については、チェク(Cech)の米国特許第4,987,071号およびヘイセルホフ(Haselhoff)の米国特許第5,543,508号に開示されている。アンチセンスRNAに結合する内因性mRNA分子が切断されるように、アンチセンスRNAにリボザイムの配列を含ませてアンチセンスRNAにRNA切断活性を与えることが可能であり、その結果、内因性遺伝子の発現のアンチセンス抑制が増強される。
【0261】
最後に、内因性MATER活性を阻害するために、MATERのドミナントネガティブ変異型を用いることができる。
【0262】
実施例23
MATERノックアウトおよび過剰発現トランスジェニック動物
MATERタンパク質を低発現、または過剰発現する変異生物は、研究に有用である。そのような変異体は、健常および/または病的な生物におけるMATERの生理学的および/または病理学的な役割に知見を加えることを可能にする。それらの変異体は「遺伝子操作された」、即ち、ヌクレオチドの形の情報が、通常存在しないと思われる場所または組合せで変異体のゲノムに導入されている。このような方法で導入されたヌクレオチドは、「非天然」と呼ばれる。例えば、天然のMater遺伝子の上流に挿入された非Materのプロモーターは、非天然であると呼ばれる。細胞に形質転換されたプラスミド上のMater遺伝子またはその他のコード配列の追加的コピーは、追加的コピーが同じ種由来のMaterであっても、または異なる種のものであっても、非天然であると考えられる。
【0263】
変異体は、例えば、MATERタンパク質を過剰発現もしくは低発現するか、またはMATERを全く発現しない哺乳動物(マウスなど)から産生させることができる。過剰発現変異体は、生物中でMATERコード配列(遺伝子など)の数を増加させるか、またはマウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、または乳清酸性タンパク質(WAP)プロモーターもしくはメタロチオネインプロモーターのような、構成的もしくは誘導可能な、またはウイルスのプロモーターの制御下にあるMATERコード配列を生物に導入することにより作製される。MATERを低発現する変異体は、誘導可能もしくは抑制可能なプロモーターを用いることにより、またはMater遺伝子を欠失させることにより、または例えばトランスポゾン挿入による遺伝子の破壊によりMater遺伝子の機能を破壊もしくは制限することにより、作製することができる。
【0264】
実施例13において先に記載したように、MATERの発現を減少または阻害するため、構成的または誘導可能なプロモーターの下に、アンチセンス遺伝子を生物中に導入することができる。
【0265】
遺伝子工学を用いて、遺伝子発現を無視し得るレベルにまで打ち消すか、または減少させた場合に、遺伝子は「機能的に欠失」される。本出願において、変異体が、改変または機能的に欠失されたMater遺伝子を有すると言及された場合、これはMater遺伝子およびこの遺伝子の任意のオルソログを意味する。変異体が、「通常のコピー数より多く」の遺伝子を有すると言及された場合、これはその変異体が野生型の生物、例えば二倍体のマウスまたはヒトに見出される通常の数より多くの遺伝子を有することを意味する。
【0266】
MATERを過剰発現する突然変異体マウスは、マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーターまたは乳清酸性タンパク質(WAP)プロモーターのようなプロモーターによって誘導されるMater遺伝子を有するプラスミドを構築することによって作製することができる。プラスミドをマウス卵母細胞にマイクロインジェクションによって導入することができる。その卵母細胞は偽妊娠雌に移植し、同腹仔を導入遺伝子の挿入についてアッセイする。その後、導入遺伝子を含む多数の系統を研究のために利用することができる。
【0267】
WAPは、授乳期間の乳腺発現に極めて特異的であり、MMTVは乳腺、唾液腺、およびリンパ系組織を含む様々な組織に発現する。例えば、メタロチオネイン・プロモーターなどの他の多くのプロモーターを様々な発現パターンを得るために使用することができる。
【0268】
テトラサイクリンのようにマウスに与えることができる物質によって調節されるプロモーターにより、対象となる発現構築物が誘導されるような、誘導可能な系を作製することができる。そのような技術は当技術分野に周知である。
【0269】
Mater遺伝子が欠失されるか、そうでなければ不能になった変異ノックアウト動物(例えばマウス)は、Mater遺伝子のコード領域を胚性幹細胞から除去することで作製することができる。標的化ベクターを用いて欠失変異を作製する方法が記載されている(例えば、トーマス(Thomas)およびキャペック(Capecch)、Cell 51:503-512、1987を参照)。Materヌル・マウスを産生する一つの具体的な例は先の実施例1に記載されている。
【0270】
実施例24
遺伝子治療
被験者のMATERを介する生殖能力異常を治療するための遺伝子治療法、または被験者にMATERを介する不妊を生じさせるための遺伝子治療法が、現在可能となった。
【0271】
遺伝子治療における実験のために、高い効率での感染ならびに安定な組み込みおよび発現を伴うレトロウイルスが、好ましいベクターであると考えられている(Orkinら、Prog. Med. Genet. 7:130-142、1988)。全長のMATER遺伝子またはcDNAをレトロウイルスベクターにクローニングし、その内因性プロモーター、または例えばレトロウイルスのLTR(末端反復配列)から誘導させることができる。アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)(McLaughlinら、J. Virol 62:1963-1973、1988)、ワクシニアウイルス(Mossら、Annu. Rev. Immunol. 5:305-324、1987)、ウシパピローマウイルス(Rasmussenら、Methods Enzymol.139:642-654、1987)、またはエプスタイン-バーウイルス(Margolskeeら、Mol. Cell. Biol. 8:2837-2847、1988)のようなヘルペスウイルス群のメンバーを含むその他のウイルスのトランスフェクション系もこの種の方法に用いることができる。
【0272】
遺伝子治療技術の最近の発達には、Cole-Straussら(Science 273:1386-1389、1996)に記載のような、RNA-DNA混成オリゴヌクレオチドの使用が含まれる。この技術はクローニングされた配列の部位特異的な組込みを可能にし、それによって正確に標的化された遺伝子置換を可能にする。
【0273】
ウイルスベクターを用いたMaterの細胞への送達に加え、非感染法を送達に用いることが可能である。例えば、リピドおよびリポソームを介した遺伝子送達が、最近、様々な遺伝子のトランスフェクションに成功して利用されている(総説として、TempletonおよびLasic、Mol. Biotechnol. 11:175-180、1999;LeeおよびHuang、Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 14:173-206;およびCooper、Semin. Oncol. 23:172-187、1996を参照)。例えば、陽イオン性リポソームは単球性白血病細胞をトランスフェクトする能力につき解析されており、ウイルスベクターの使用に替わる実行可能な選択肢であることが示された(de Limaら、Mol. Membr. Biol. 16:103-109、1999)。そのような陽イオン性リポソームは、例えばモノクローナル抗体またはその他の適当な標的リガンドを含めることによって、特異的な細胞を標的化させることも可能である(Kaoら、Cancer Gene Ther.3:250-256、1996)。
【0274】
実施例25
治療化合物の同定
本明細書に開示したヒトMATER分子は、MATERの活性を遮断(阻害)する(従って、それによる生殖能力低下)か、またはMATER活性を増加させる(従って、それによる生殖能力増強)ことによって、哺乳動物におけるMATERを介した不妊症に影響を及ぼす有用な化合物を同定(選別)するのに用いることができる。
【0275】
そのような選別方法には、被験化合物がMATERタンパク質またはMATERタンパク質の変異または断片に直接結合するか、そうでなければ相互作用するかどうかを判別することを含みうる。そのような分子に結合するタンパク質は、さらなる特徴づけのために選択される。
【0276】
具体的態様において、活性を試験する化合物は、被検細胞(例えば、哺乳動物の発達中の卵母細胞または胚)のような細胞に適用される。次に、例えば卵母細胞または胚が2細胞期を超えて発達するかどうかを判別することにより、被検細胞におけるMATERタンパク質の活性が測定される。被験化合物の適用により2細胞期を超えて発達する胚の比率が変化した場合には、その化合物は可能性のある候補としてさらなる特徴づけのために選択される。特定の例において、例えばインビボで生殖能力が阻害されるかどうかを判定するために、物質を哺乳動物の雌の生殖系にインビボで曝露することによって、MATER活性を妨害または阻害する被験物質がさらなる研究のために選択される。そのように同定された化合物は避妊薬として有用な可能性がある。
【0277】
MATER活性を効率的に阻害し、それ故に避妊薬として有効である可能性を有する化合物の具体的な例には、MATERタンパク質のエピトープに特異的に向かう抗体が含まれる。免疫避妊薬の一般的な概念は記載されている(例えば透明帯のタンパク質に対する避妊用抗体が記載される米国特許第5,637,300号および同第6,027,727号を参照のこと;参照として本明細書に組み入れられる)。
【0278】
または、2細胞期を超えて発達する胚の比率を増加させる化合物(例えば、生殖能力に障害があるとして知られる動物系において)が、生殖能力を増加させる可能性のある物質としてさらなる研究のために選択される。例えばMaterヌル動物において、MATERタンパク質の活性を模倣する化合物を同定するために、同様な選別を用いることができる。
【0279】
加えて、MATERタンパク質は細胞質内で他の未知のタンパク質と相互作用することによってその機能を果たすことが示唆されている。そのような相互作用の物理的な妨害により、MATERの機能が阻害されることが期待される。そのような相互作用の候補は、酵母ツー・ハイブリッド系(FieldsおよびSongs、Nature 340:245、1989)における相互作用に基づいて同定される。タンパク質相互作用のための分子ドメインが分かれば、MATERタンパク質とそれら他のタンパク質との相相互作用を特異的に阻害するか、そうでなければ干渉することに基づいて分子を直接設計することができる。
【0280】
それらの方法を使用して選択した化合物は、本開示に包含される。
【0281】
実施例26
キット
書面による手引書に加えて、MATER遺伝子に特異的なプローブまたはプライマーのような、MATER遺伝子のコピー数を測定するために必要な試薬を含むキットが提供される。MATER mRNA(即ち、プローブを含む)またはMATERタンパク質(即ち、MATER特異的結合試薬)の異常な発現を判定するキットもまた提供される。診断キットにおいて提供される手引書には、決められた(例えば、実験的に測定された)値と比較するための検量線または図表を含めることができる。
【0282】
A. MATERゲノム配列を検出するキット
本明細書において開示されるヌクレオチド配列およびその断片を、MATERゲノム配列の検出および/または不妊症もしくは生殖能力低下の診断に用いるためのキットの形で供給することができる。そのようなキットでは、適当量の一つまたは複数のMATER特異的オリゴヌクレオチド・プライマー(例えば、本明細書に開示される特定のオリゴヌクレオチド)が、一つまたは複数の容器中に提供される。オリゴヌクレオチド・プライマーを、例えば水溶液に懸濁するか、またはフリーズドライもしくは凍結乾燥した粉末として供給することができる。オリゴヌクレオチドを供給する容器は、供給される形状を収容可能な任意の通常の容器、例えば微量遠心チューブ、アンプル、または瓶であってよい。一部の応用例では、別々の、典型的には使い捨てのチューブまたは同等の容器に、予め測定した一回分の使用量のプライマー対を供給することができる。そのような準備により、MATERゲノム増幅の存在または欠失について試験する試料を個々のチューブに加え、直接インビトロ増幅を行うことができる。
【0283】
キットで供給される各々のオリゴヌクレオチド・プライマーの量は、例えばその製品が向けられた市場に依存した、任意の適当な量でよい。例えば、キットが研究または臨床使用に適合させたものである場合、提供される各々のオリゴヌクレオチド・プライマーの量は、数回のインビトロ増幅反応を開始するのに十分な量であると思われる。当業者には、一回の増幅反応の使用に適当なオリゴヌクレオチド・プライマーの量が既知である。一般的な指針は、例えば、Innisら、(「PCRプロトコール、方法と応用へのガイド(PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications)」、Academic Press Inc.、San Diego、CA、1990)、Sambrookら(「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor、New York、1989)、およびAusubelら(「分子生物学の最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、John Wiley & Sons、 New York、1989)にあると思われる。
【0284】
キットは、MATER配列、例えばMATER遺伝子、遺伝子の特異的エキソンもしくはその他の部分(例えば、イントロン-エキソン境界を埋める部分)、またはその5'もしくは3'の隣接領域の、PCRのインビトロ増幅を容易にするため、二つより多くのプライマーを含んでもよい。
【0285】
一部の態様においては、キットは、PCR増幅のようなインビトロ増幅反応を行うのに必要な試薬(例えばDNA試料調製試薬、適当な緩衝液(例えばポリメラーゼ緩衝液)、塩(例えば塩化マグネシウム)、およびデオキシリボヌクレオチド(dNTP)を含む)を含んでもよい。書面による手引書も含んでもよい。
【0286】
キットはさらに、インビトロで増幅したMATER配列の検出に用いるため、標識または非標識のいずれかのオリゴヌクレオチド・プローブを含んでもよい。そのようなプローブとして適当な配列は、二つの提供されたオリゴヌクレオチド・プライマーのアニーリング部位間に位置する任意の配列となり、そのプローブに相補的な配列がインビトロ増幅反応中で増幅される。
【0287】
増幅反応で使用するために、一つまたは複数の対照配列もキットに提供されることは有用であると思われる。適当な陽性対照配列の設計は当業者に周知である。
【0288】
B. Mater mRNA発現を検出するキット
先に開示したものと同様なMATERゲノム配列を検出するためのキットを、MATER mRNA発現レベルを検出するために用いることができる。そのようなキットには、RNAで使用するための技術的に明らかな改良が加えられ、上記で提供されるものと同様な、逆転写増幅反応に使用するための適当量の一つまたは複数のオリゴヌクレオチド・プライマーを含んでもよい。
【0289】
一部の態様では、MATER mRNA発現レベルを検出するキットには、例えばRNA試料調製試薬(例えばRNアーゼ阻害剤を含む)、適当な緩衝液(例えば、ポリメラーゼ緩衝液)、塩(例えば、塩化マグネシウム)、およびデオキシリボヌクレオチド(dNTP)などの、RT-PCRインビトロ増幅反応を行うために必要な試薬を含んでもよい。書面による手引書も含んでもよい。
【0290】
キットはさらに、インビトロで増幅した標的配列の検出に用いるため、標識または非標識のいずれかのオリゴヌクレオチド・プローブを含んでもよい。そのようなプローブとして適当な配列は、二つの提供されたオリゴヌクレオチド・プライマーのアニーリング部位間に位置する任意の配列となり、そのプローブに相補的な配列がPCR反応または他のインビトロ増幅反応中で増幅される。
【0291】
RT-PCR反応で使用するために、一つまたは複数の対照配列もキットに提供されることは有用であると思われる。適当な陽性対照配列の設計は当業者に周知である。
【0292】
または、キットには、MATER mRNAの定量的または半定量的なノーザン解析を行うために必要な試薬も提供することができる。そのようなキットには、例えば、プローブとして用いるための少なくとも一つのMATER特異的オリゴヌクレオチドが含まれる。このオリゴヌクレオチドは、放射性同位体、酵素基質、補助因子、リガンド、化学発光もしくは蛍光試薬、ハプテン、または酵素を含む、選択された任意の従来法により標識することができる。
【0293】
C. MATERタンパク質またはペプチド発現を検出するキット
MATERタンパク質の発現を検出するキットは、例えば、少なくとも一つの標的(例えばMATER)タンパク質特異的結合因子(例えばポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体または抗体断片)および少なくとも一つの対照を含んでもよい。MATERタンパク質特異的結合因子および対照は、別個の容器に収容することができる。キットは、MATER:因子複合体を検出する手段を含んでもよく、例えばその因子は検出可能に標識されていてもよい。検出用の因子が標識されていない場合は、一部のキットにおいて一つまたは複数の別個の容器で提供される可能性のある例えば二次抗体またはプロテインAによって、それを検出することができる。そのような技術は周知である。
【0294】
一部のキットにおける補足的な構成要素には、アッセイ法を行うための手引書が含まれる。手引書は、MATERの発現レベルが例えば対照試料と比べて変化したかどうか判定することを試験者に可能にすると思われる。キットには、反応容器、および色素原、緩衝液、酵素等の補助的試薬も含むことができる。
【0295】
一例にすぎないが、非特異的抗卵巣抗体の検出について報告されているように(Wheatcroftら、Clin. Exp. Immunol. 96:122-128、1994;Wheatcroftら、Hum. Reprod. 12:2617-2622、1997)、酵素免疫吸着法のような効果的で簡便な免疫アッセイキットを、ヒト血清中の抗MATER抗体を試験するために構成することが可能である。細菌またはバキュロウイルスのいずれかにおいて組換えヒトMATERタンパク質を産生するために、発現ベクターをヒトMATER cDNAを用いて構築することができる(実施例8において記述のとおり)。アフィニティー精製によって、制限なく純粋組換えMATERタンパク質を産生することができる。
【0296】
アッセイキットは、酵素基質と共に、抗原として組換えタンパク質、および二次抗体として酵素結合ヤギ抗ヒトIgGを提供し得る。そのようなキットは、患者の血清がヒトMATERに対する抗体を含む場合の試験に使用することができる。
【0297】
本開示は、上述のヒトMater分子を含む、MATER核酸およびタンパク質を提供する。本開示はさらにそれらの分子を使用する方法を提供するものであって、女性の不妊症、生殖能力低下、または生殖不全を予測および/または診断する方法に加えて、そのような不妊症および生殖能力低下の治療法、ならびに避妊薬を含む。記載された分子および方法の正確な詳細には変化があること、または低発現もしくは過剰発現もまた考慮されていることが明らかになると思われる。そのようなキットは、記載された発明の精神を逸脱することなく改変されたものを含むと思われる。本発明者らは、特許請求の範囲の範囲および趣旨に含まれるそのような改変および変形の全ての権利を主張するものである。
【図面の簡単な説明】
【0298】
【図1】発生時におけるマウスMATERの発現を詳細に示す2枚のデジタル化ゲル、および一連のデジタル化顕微鏡写真を示す。 Aは、Mater転写物およびZP3転写物のRNアーゼ保護を示すノーザンブロットのデジタル画像である。RNアーゼ保護アッセイ法は、50個の卵母細胞、卵、または胚からの総RNAを用いて行った。32P標識したアンチセンス・プローブならびに保護されたMaterおよびZP3断片の長さは、それぞれ180/139ntおよび257/205ntである。 Bは、示されたマウス細胞型におけるMATERタンパク質(約125kD)の量を示す、ウエスタンブロットのデジタル画像である。MATERタンパク質は25個の卵母細胞、卵、または胚において、MATERに対する単一特異的な抗血清を用いた免疫ブロッティングによりアッセイした。 Cは、MATERタンパク質の細胞局在を示す一連のデジタル化顕微鏡写真である。タンパク質の局在は、蛍光標識抗体を用い、共焦点レーザー走査型顕微鏡単独で(上図)、またはノマルスキー画像に重ね合わせてから(下図)、卵母細胞、卵、または胚を画像化することにより決定した。スケールバーは50μm。
【図2】標的化によるMater遺伝子座破壊の特徴付けを示す。 Aは、正常マウスMater対立遺伝子(上)、標的化構築物(中央)、およびヌル対立遺伝子(下)の略図である。標的化を評価するのに用いた5'および3'プローブは、DNA相同性領域の外にある。 Bは、Materヌル対立遺伝子が、XbaIで消化したES細胞DNAにおいて、5'プローブ(左)により3.5kb断片として、または3'プローブ(中央)およびneoプローブ(右)により4.0kb断片として検出されたことを示す一連のデジタル化ノーザンブロットである。 Cは、Mater転写物は正常またはヘテロ接合体(正常の半分の量)においては検出されたが、ホモ接合体のヌル卵巣においては検出されなかったことを示す一対のデジタル化ノーザンブロットである(左パネル)。ZP3転写物(対照)は3つの遺伝子型の全てに存在していた(右パネル)。
【図3】Materヌルの雌マウスに由来する胚におけるインビボの発育異常を示す一連のデジタル化顕微鏡写真および対応する棒グラフである。 ゴナドトロピンにより誘導した排卵の後、雌マウスを正常の雄と交配し、正常(A、D、G、およびJ)またはMaterヌル(B、E、H、およびK)の雌由来の卵管を、1日(AおよびB)、2日(DおよびE)、3日(GおよびH)、ならびに4日(JおよびK)後に洗浄した。固定しない胚の写真をノマルスキー光学により撮影した。矢印は1細胞接合体の前核を指す(AおよびB)。スケールバーは50μm。 棒グラフは、交配後1日(C)、2日(F)、3日(I)、および4日(L)目のMaterヌル(黒四角)および正常(白四角)の雌に由来する、平均胚数の発生の進行を示す。それぞれのバーは4〜5回の実験の平均±標準誤差を示す。
【図4】Materを欠失したマウス胚において新規の転写および翻訳が生ずることを示す。 A〜Fは、マウス胚のデジタル化顕微鏡写真画像である。新規に合成されたRNAは、Materヌル(AおよびC)および正常(BおよびD)の雌に由来する1細胞(AおよびB)および2細胞(CおよびD)胚の核へのBrUTP取り込みにより、共焦点レーザー走査顕微鏡およびBrUTPに対するモノクローナル抗体を用いて測定した。 Gは、Materの存在下(+)および非存在下(-)における2細胞胚に取り込まれたBrUTPの量を、注入を行っていない対照群で得られる量で差し引いた後、任意の蛍光単位を用いて示した棒グラフである(EおよびF)。スケールバーは50μm。 Hは、Materの存在下(+)および非存在下(-)における雌に由来する50個の発達中の卵母細胞、卵、および2細胞胚からの総RNAを用いた、28SリボゾームRNAのRNアーゼ保護アッセイ法を示す一対のデジタル化ノーザンブロットである。32P標識したアンチセンスプローブと28S-rRNAにおける保護された断片の長さは、それぞれ153ntおよび115ntであった。 Iは、Materを含む(+)あるいは含まない(-)1細胞接合体(左パネル)および2細胞胚(中央パネルおよび右パネル)における新規のタンパク質合成を示す、一連のデジタル化フルオログラフィーである。それぞれの列は試料緩衝液に直接溶解した(左パネルおよび中間パネル)、またはTRC(65〜75kDa)およびp35を部分精製抽出後(右パネル)の10個の胚由来のタンパク質を含む。
【図5】Materヌルの雌由来の卵巣組織像、卵、および産生された卵の数を示す。排卵された卵の数、および成熟または変性を示すそれらの形態は、正常およびMaterヌルのマウスの間で顕著には異なってはいなかった。 AおよびBは、4週齢(A)および8週齢(B)のMaterヌルマウス由来の卵巣切片のデジタル化画像である。4週齢のMaterヌルの卵巣組織像(A)では卵形成における異なる期の正常の卵巣が見られ、正常の卵巣と組織学的に区別できない。8週齢の試料(B)では、野生型マウス卵巣の卵胞黄体形成と同様に、正常な自発的排卵を示唆する多数の黄体がある。 Cは、外因性のPMSGおよびhCGへの応答によってMaterヌルマウスより産生された、排卵された卵のデジタル化写真である。野生型マウス由来の排卵された卵と形態学的に同様であるように思われる。 Dは、Materヌルマウスおよび野生型マウス由来の、排卵した卵の数(平均±標準誤差)を示す棒グラフである。
【図6】正常マウスおよびMaterヌルマウスで、子宮および卵巣の全体の形態学的外見を比較するデジタル化画像である。Materヌルの雌マウスの卵巣および子宮(右)は野生型雌マウスの卵巣および子宮(左)と区別できなかった。
【図7】ヒトMATER(配列番号:24)およびマウスMATER(配列番号:6)タンパク質のアミノ酸配列のアラインメントである。同一アミノ酸が同定され、類似アミノ酸はプラス(+)記号で示す。
【図8】ヒトMATER mRNAおよびその卵母細胞特異的な発現を表す。 Aは、ヒトMATERのノーザン・ハイブリダイゼーションのデジタル化画像である。本明細書に記載のように、19歳(レーン1)および26歳(レーン2)の女性からヒト卵巣全RNAを調製した。それぞれのRNAの10マイクログラムをゲル電気泳動で分離し、ニトロセルロース膜に転写した。ブロットは32P標識したヒトMATER cDNAをプローブとして探索した。RNA分子量(kb)はパネルの左側に示す。 BおよびCは、表示される転写物のRT-PCRによる解析を示す、アガロースゲルのデジタル化画像である。ヒトRapid-Scan遺伝子発現パネル(Origene Inc)および特異的プライマーを利用して、100倍濃度のcDNAを用いてヒトβアクチンを増幅し(B)、一方1000倍濃度のcDNAを用いてヒトMATER を増幅した(C)。cDNAは、ヒト脳(レーン1)、心臓(2)、腎臓(3)、脾臓(4)、肝臓(5)、大腸(6)、肺(7)、小腸(8)、筋(9)、胃(10)、精巣(11)、胎盤(12)、唾液腺(13)、甲状腺(14)、副腎(15)、膵臓(16)、卵巣(17)、子宮(18)、前立腺(19)、皮膚(20)、血液白血球(21)、骨髄(22)、胎児脳(23)、胎児肝(24)のRNAから合成した。レーン25および26は、それぞれ陽性対照(ヒト卵巣cDNA、Invitrogen)および陰性対照(cDNAなし)である。PCR産物は2%アガロースゲル電気泳動により分離し、0.1%臭化エチジウムで可視化した。ヒトβアクチン(640bp)およびヒトMATER(280bp)のPCR産物の増幅を、それぞれの右側に示す。 Dは、CにおけるヒトMATER PCR産物を分離したアガロースゲルから調製し、32P標識したヒトMATER cDNAをプローブとして用いたサザン・ハイブリダイゼーション・ブロットの画像である。ハイブリダイゼーション・シグナルはオートラジオグラフィーにより検出した。矢印は、対照(レーン25)および卵巣(レーン17)試料におけるヒトMATER(280bp)のPCR産物のハイブリダイゼーションの位置を示す。 EおよびFは、MATER cDNAのインサイチュー・ハイブリダイゼーションを示す。35S標識したアンチセンスプローブおよびセンスプローブは、ヒトMater cDNAを鋳型として用い、インビトロ転写により合成した。ヒト卵巣凍結切片をアンチセンスプローブ(E)およびセンスプローブ(F)とハイブリダイズした。暗視野画像が表示され、矢印は卵母細胞の位置を示す。スケールバーは100μm。
【図9】ヒトにおけるMater転写物の卵母細胞特異的な発現を、インサイチュー・ハイブリダイゼーションによって示す、一連のデジタル化顕微鏡写真である。[35S]標識したアンチセンスプローブおよびセンスプローブは、いずれもクローニングされたヒトMater cDNAを鋳型として用い、インビトロ転写により合成した。ヒト卵巣凍結切片を、放射標識したセンスプローブ(AおよびC)およびアンチセンスプローブ(BおよびD)とハイブリダイズした。スライドガラスはヘマトキシンおよびエオシンにより染色した。各々のプローブにつき、明視野画像(AおよびB)および暗視野画像(CおよびD)を示す。
【図10】ヒトMATERタンパク質の卵母細胞特異的な発現を示す一対のデジタル化顕微鏡写真である。ヒト卵巣凍結切片を、マウスMATERタンパク質のC末端ぺプチドに対するウサギ抗血清(1:200)とインキュベートし、FITC結合ヤギ抗ウサギIgG抗血清を二次抗体として用いて、卵母細胞中のヒトMATERタンパク質を検出した(A)。対応する位相差画像をBに示す。
【図11】卵母細胞におけるヒトMATERタンパク質の発現を示す。 AおよびBは、卵巣切片におけるヒトMATERの免疫組織蛍光を示すデジタル化顕微鏡写真である。ヒト卵巣凍結切片はマウスMATERペプチドに対するウサギ抗血清(1:200)とインキュベートした。FITC結合ヤギ抗ウサギIgG抗体を、MATERタンパク質に結合した1次抗体を検出するために2次抗体として用いた。組織切片は蛍光顕微鏡によって可視化した(A)。対応する位相差像をBに示す。矢印は卵母細胞の位置を示す。スケールバー:100μm。 Cは、ヒトMATERのタンパク質免疫ブロットである。ヒト卵(レーン1、卵10個およびレーン2、卵15個)の可溶化タンパク質を3〜8%トリス酢酸SDS-PAGE電気泳動によって分離した。タンパク質ブロットはウサギ抗マウスMATERペプチド抗血清(1:1000)とインキュベートした。ブロットに結合した1次抗体を検出するために、ECL検出キットをHRP結合ヤギ抗ウサギIgG抗体と共に用いた。およそのタンパク質分子量(kDa)を左に示す。ヒトMATERタンパク質は〜134kDaのところに矢印で示される。
【図12】ヒトMATERのヌクレオチド配列(cDNA;配列番号:23)およびアミノ酸配列(配列番号:24)である。ヌクレオチド(3885nt)を5'から上列に表示し、それらの番号を右側に示す。開始コード(ATG)および終止コード(TGA)にそれぞれ下線(実線)が引かれている。ポリアデニル化シグナル(AATAAA)は破線が引かれている。5'末端非コード領域におけるヌクレオチドはまだ決定していない。推定アミノ酸配列(1200残基)はヌクレオチド配列の下にあり、右側に番号が付されている。タンパク質配列中のいくつかの構造モチーフは図14Bに示される。これらの配列データはアクセッション番号AY054986のもとに、GenBankに提出されている。
【図13】ヒトおよびマウスMATERアミノ酸配列のドットプロット解析である。 ヒトMATERアミノ酸配列をそれ自身(A)およびマウスMATERアミノ酸配列(B)と比較した。中心の対角線は、左から右に、アミノ末端からカルボキシル末端にかける同じタンパク質の2つの配列の直接的対応を表す。同一であることがドットで示される。カルボキシル末端、およびアミノ末端に近接した領域に、中心の対角線と並行する短い対角線が存在し、これらの領域に繰返されるアミノ酸配列を反映している。ドットおよび短い平行線の表示は、ヒトMATER(1200残基)およびマウスMATER(1111残基)の間のアミノ酸配列の類似性を示し、2つの種におけるMATERタンパク質の組成および構造の相同性を反映する。
【図14】ヒトMATER中の構造モチーフのコンピューター解析の結果である。 Aは、ヒトMATERアミノ酸配列のKyte & Doolittle疎水性親水性指標プロットである。アミノ末端における親水性反復(32〜304アミノ酸)は短い疎水性領域(104〜136アミノ酸)を含む。カルボキシル末端には、短い親水性領域(1184〜1200アミノ酸)がある。 Bは、ヒトMATERの構造モチーフの略図である。アミノ末端からカルボキシル末端への水平線は、ヒトMATER(1200残基)の全ペプチド鎖を表す。白四角は構造モチーフおよびペプチド鎖上のそれらの位置を表す。タンパク質は、PAAD_DAPINドメインをアミノ末端に、6つのロイシン・リッチ反復(LRR)ドメインをカルボキシル末端に含む。両分子ドメインは、タンパク質・タンパク質相互作用のためのものである。加えて、ATP/GTP結合(Pループ)、核移行(NLS_BP)、およびアルド/ケトレダクターゼ活性(aldo_ket_red)の可能性を有するモチーフが存在する。これらのモチーフの位置は特定のモチーフに付随する番号で示される。
【図15】ヒトMATER(A)およびマウスMater(B)のエキソン-イントロン・マップの一対の略図である。ヒトMATER(〜63kbp)のエキソン-イントロン・マップをマウスMater(〜32kbp)のエキソン-イントロン・マップ(Tongら、Mammal Genome 11:281、2000)と比較した。両遺伝子座は15エキソンを有し、それらはエキソンを表す垂直棒のそれぞれの上端にあるアラビア数字で示される。エキソン間にある水平の実線はイントロンを表し、5'末端にある水平の点線は両遺伝子座の未決定の5'末端を表す。ヒトMATERのマップの下にスケールバー(2kbp)を示す。

Claims (31)

  1. (a) 配列番号:2、配列番号:4、もしくは配列番号:24と少なくとも90%の配列同一性を有し、認識されたMATERタンパク質ドメインの中に少なくとも1つの変異アミノ酸を含む;または
    (b) 配列番号:2、配列番号:4、もしくは配列番号:24と少なくとも90%の配列同一性を有し、認識されたMATERタンパク質ドメインの外側の領域に少なくとも1つの変異アミノ酸を含む;または
    (c) 配列番号:2、配列番号:4、もしくは配列番号:24と少なくとも90%の配列同一性を有し、認識されたMATERタンパク質ドメインの中に少なくとも1つの変異アミノ酸、および認識されたMATERタンパク質ドメインの外側に少なくとも1つの変異アミノ酸を含む
    アミノ酸配列を含む、単離された変異MATERタンパク質。
  2. タンパク質の配列がロイシン・リッチ反復の中に少なくとも1つの変異アミノ酸を含む、請求項1記載の単離された変異MATERタンパク質。
  3. タンパク質の配列がPAAD-DAPINドメインの中に少なくとも1つの変異アミノ酸を含む、請求項1記載の単離された変異MATERタンパク質。
  4. タンパク質の配列がaldo_ket_redドメインの中に少なくとも1つの変異アミノ酸を含む、請求項1記載の単離された変異MATERタンパク質。
  5. タンパク質の配列がATP/GTP結合ドメインの中に少なくとも1つの変異アミノ酸を含む、請求項1記載の単離された変異MATERタンパク質。
  6. タンパク質の配列が認識されたMATERタンパク質ドメインの外側に少なくとも1つの変異アミノ酸を含む、請求項1記載の単離された変異MATERタンパク質。
  7. 請求項1記載のタンパク質をコードする単離核酸分子。
  8. 請求項7記載の核酸分子に機能的に連結したプロモーター配列を含む、組換え核酸分子。
  9. 請求項8記載の組換え核酸分子により形質転換した細胞。
  10. 異常MATER核酸と関連した生物学的状態を被験者において検出する方法であって、被験者からの臨床試料中の少なくとも1つのMATER核酸を、MATER特異的核酸結合因子を含む試薬と反応させてMATER:因子複合体を形成し、該複合体を検出する段階を含む方法。
  11. MATER特異的核酸結合因子が、MATERオリゴヌクレオチドである、請求項10記載の方法。
  12. MATERオリゴヌクレオチドが、ヒトMATERイントロン配列の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含む、請求項11記載の方法。
  13. MATERオリゴヌクレオチドが、配列番号:25から38までの任意の1つに示される配列を含む、請求項11記載の方法。
  14. MATER:因子複合体を定量し、該MATER:因子複合体の量を参照試料中に形成される同等なMATER:因子複合体の量と比較する段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
  15. 参照試料が、生物学的状態を有することが知られている参照被験者からの試料である、請求項14記載の方法。
  16. 参照試料が、生物学的状態を有しないことが知られている参照被験者からの試料である、請求項14記載の方法。
  17. 臨床標本が生殖細胞を含む、請求項10記載の方法。
  18. 不妊症もしくは生殖能力低下の素因を検出するため、または個体を不妊症もしくは生殖能力低下について前駆症状のスクリーニングをするために用いられる、請求項10記載の方法。
  19. 女性の不妊症の原因を評価する方法である、請求項10記載の方法。
  20. 異常Mater核酸を検出する前にMater核酸をインビトロ増幅する段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
  21. Mater核酸が、MATERタンパク質コード配列由来の、少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーを用いてインビトロ増幅される、請求項10記載の方法。
  22. オリゴヌクレオチドプライマーが、ヒトMATERのイントロン-エキソン境界を含む配列を含む、請求項10記載の方法。
  23. オリゴヌクレオチドプライマーが、配列番号:25から38までの任意の1つに示される配列を含む、請求項22記載の方法。
  24. 請求項22記載の方法において用いられるオリゴヌクレオチドプライマー。
  25. MATER:因子複合体がヌクレオチド・ハイブリダイゼーションによって検出される、請求項10記載の方法。
  26. 因子が標識ヌクレオチド・プローブである、請求項10記載の方法。
  27. ヌクレオチド・プローブが、配列番号:25から38までの任意の1つに示される配列を含む、請求項26記載の方法。
  28. 請求項26記載の方法において用いられる標識ヌクレオチド・プローブ。
  29. 核酸試料中の遺伝子突然変異を検出するためのキットであって、
    (a) MATER核酸と特異的にハイブリダイズすることのできるオリゴヌクレオチドであって、ヒトMATERイントロン由来の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含む配列を有するオリゴヌクレオチドを含む、第一の容器;および
    (b) 該オリゴヌクレオチドと完全に相補的な、蛍光標識核酸プローブを含む第二の容器
    を含むキット。
  30. 蛍光標識核酸プローブが、5から500ヌクレオチドの長さを有する、請求項29記載のキット。
  31. オリゴヌクレオチドが、配列番号:25から38までの任意の1つに示される配列を含む、請求項29記載のキット。
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