JP2004526436A - Pgc−1を用いてグルコース新生を調節する方法及び組成物 - Google Patents

Pgc−1を用いてグルコース新生を調節する方法及び組成物 Download PDF

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Abstract

本発明は、PGC-1活性又は発現の調節を通してグルコース新生を調節するための新規な方法及び組成物を提供するものである。さらに、PGC-1活性又は発現の調節を通じてグルコース新生を調節する化合物を同定する方法や、PGC-1のPGC-1 標的分子との相互作用を調節する化合物を同定する方法も提供する。さらに、正常でないグルコース新生を特徴とする障害を治療する方法も提供する。

Description

【0001】
関連出願
本出願は、その内容全体を、この引用をもってここに援用することとする2001年2月5日出願の米国仮出願60/266,765号の利益を主張するものである。
【0002】
政府による助成
ここに解説する研究は、米国国立保健研究所による助成金5R01DK54477-03による援助を受けた。米国政府はこの発明における特定の権利を有する場合がある。
【0003】
発明の背景
哺乳動物細胞はすべて、主要なエネルギー源としてグルコースを用いる。神経細胞及び血球などのいくつかの細胞種は特にそれに依存している。従って、血糖レベルを狭い範囲内に保ち、長期間の絶食や食事摂取後の過度の高レベルから身体を防御するために、恒常性という機構がある。これらの目標は、主に、肝臓によるグルコースの生成と、骨格筋、脂肪、及び肝臓などの組織による末梢での取り込みによって、達成されている。
【0004】
肝臓はグリコーゲンを分解して(グリコーゲン分解)グルコースを生成し、また乳酸、ピルビン酸、グリセロール、及びアラニンなどのいくつかの前駆分子をグルコースに変えることができる(グルコース新生)。グリコーゲン分解はより短い時間枠で起き、ヒトでは食事後2乃至3時間以内に開始するが、グルコース新生は、肝臓のグリコーゲン貯蔵分が枯渇するにつれ、重要性を増す(Nordlie, R.C., and Foster, J.D. (1999) Annu. Rev. Nutr. 19:379-406; Pilkis, S.J. and Granner, D.K. (1992) Annu. Rev. Physiol. 54:885-909、及びその参考文献)。グリコーゲン分解の活性化は主にグリコーゲン・ホスホリラーゼが媒介するが、このグリコーゲン・ホスホリラーゼは、アロステリックに、cAMP依存的プロテインキナーゼの調節を受ける。グルコース新生の速度は、前駆物質が利用可能に供給されるか、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ、及びグルコース-6-ホスファターゼなど、この経路の多数の酵素の活性により、制御されている。これらの酵素は、場合によっては細胞内代謝産物によりアロステリックに調節されたり、また、細胞外ホルモンの酵素量レベルでも、調節される。ホルモンによるPEPCK遺伝子の転写制御は、特に研究されている一例である。
【0005】
ホルモンは、絶食及び食事に対する肝臓の応答を含め、身体が全身の糖代謝を調節する主要な手段である。食事後、血漿グルコースが上昇すると、膵β細胞によるインシュリン分泌が即座に増加して、末梢のグルコース取り込みが刺激されると共に肝臓のグルコース産生が抑制されることで、グルコースが減少する。他方、絶食状態では、インシュリンの分泌が低下し、グルカゴン分泌が上昇し、カテコールアミン及び糖質コルチコイドがインシュリンに対して相対的に増加する。グルカゴン及びカテコールアミンなどの対向調節ホルモンは、グルコース新生及びグリコーゲン分解の両方を刺激することで、肝臓によるグルコースの生成を高める。糖質コルチコイドもまた、グルコース新生を増加させる(こうしてその名称がある)。これらのホルモンの作用を注意深く調和させることが、肝臓によるグルコース生成レベルの微細な調節にとって重要であり、従って、全身の正常血糖を達成する上で必須な部分である。
【0006】
糖尿病は、大まかには、1型(インシュリン依存性又はIDDMとしても知られる)及び2型(非インシュリン依存性又はNIDDMとしても知られる)糖尿病に分類されている。前者はインシュリンの絶対的不足により起き、通常、膵β細胞に影響する自己免疫プロセスが原因であるが、後者は、インシュリン耐性及び相対的インシュリン不足を引き起こす遺伝因子及び環境因子の組合せで起きる。2型糖尿病は糖尿病人口のほぼ80%を占める。時折、特定の遺伝子変異を原因とする若年性成人発症型糖尿病(MODY)などの他の種類の糖尿病が、まとめて三番目のカテゴリーに分離される。
【0007】
2型糖尿病の原因となる代謝障害には、膵β細胞によるインシュリン分泌の障害、骨格筋及び脂肪組織によるインシュリン刺激性グルコース取り込みの減少、及び、肝臓のグルコース生成の増加、がある (DeFronzo, R.A. (1997) Diabetes Rev. 5(3):177-269、及びその参考文献)。何らかのグルコース不耐性が起きるよりずっと前に、インシュリン耐性及び代償性インシュリン過剰血症が長期間にわたって検出できるため、一律にではないが広く、末梢のインシュリン耐性がβ細胞の障害に先行して起きると考えられている。しかし残念ながら、これらのβ細胞は追い付くことができず、糖恒常性の悪化及び顕性糖尿病となる。インシュリン耐性が主に起きる場所は、栄養状態に左右される。絶食状態では、肝臓が高血糖の主な源である。他方、食事又はインシュリンで刺激を受けた状態では、筋肉及び脂肪によるグルコース取り込みの非効率と、肝臓によるグルコース生成(HGO)の抑制障害の両方が、食後高血糖に寄与する。肝臓はグリコーゲン分解又はグルコース新生のいずれでもグルコースを生成できるが、基準線より上のHGOの上昇分の約90%は、グルコース新生の加速に起因する(上記のDeFronzo (1997))。
【0008】
2型糖尿病が多遺伝子性疾患として広く認識されている一方で、インシュリン受容体(IR)、インシュリン受容体基質(IRS)、PI-3キナーゼのp85調節サブユニット、及び、Glut4トランスポータに関与するものなど、動物での部位指定遺伝子破壊から有用な病識が得られたきた。Cre/loxP 系を用いても、組織レベルでの遺伝子研究が可能であった。膵β細胞(BIRKO)でIR遺伝子を組織特異的に不活性化すると、2型糖尿病と同様な急性期グルコース刺激性インシュリン分泌の異常が起きることが示されている (Kulkarni, R.N. et al. (1999) Cell 96:329-339)。筋肉でIRが欠損 (MIRKO) しても、糖尿病に伴う脂肪代謝の変化が起きたことが示されたが、意外にも、全身のグルコース排出量は有意に変化しなかったことから、他の組織が代償している可能性が示唆された (Bruning, J.C. et al. (1998) Mol. Cell 2:559-569)。他方、肝臓特異的IRノックアウト (LIRKO) マウスでは、重篤なインシュリン耐性、グルコース不耐性が起き、インシュリンによるHGO抑制にも欠陥があった(Michael, M.D. et al. (2000) Mol. Cell 6:87-97)。
【0009】
驚くことではないが、2型糖尿病の治療に現在利用できる経口用薬物は、これらの罹患組織のいくつかを狙うものである。スルホニル尿素及びレパグリニドは前記β細胞に作用してインシュリン分泌を刺激し、TZD及びメトホルミンは筋肉及び/又は肝臓などの末梢組織のインシュリン感受性を向上させる (DeFronzo, R.A. (1999) Ann. Intern. Med. 31:281-303)。しかしながら、全身のグルコース恒常性の他方の主要なパラメータである肝臓のグルコース生成をターゲットとする、更なる治療上の選択肢が求められている。
【0010】
発明の概要
本発明は、PGC-1は、グルコース新生経路の多数の主要な酵素を活性化することにより、グルコース生成を刺激できるという発見に基づくものである。従って、本発明は、グルコース新生が調節されるよう、PGC-1発現又は活性を調節する作用物質に細胞(例えば初代肝細胞又はFaoヘパトーム細胞などの肝細胞)を接触させるステップを含む、グルコース新生を調節する方法を提供するものである。ある実施態様では、PGC-1の発現又は活性を上昇させることで、グルコース新生を増加させる。別の実施態様では、PGC-1の発現又は活性を低下させることで、グルコース新生を減少させる。本発明の方法はin vitro及びin vivoの両方で行ってよい。
【0011】
ある実施態様では、PGC-1の発現又は活性を調節するために用いる作用物質はPGC-1核酸分子である。配列番号4の核酸配列を含んで成るヒトPGC-1核酸分子、又は、配列番号1の核酸配列を含んで成るマウスPGC-1核酸分子を、用いてよい。ある実施態様では、配列番号1のヌクレオチド515-529が欠失している。別の実施態様では、配列番号4のヌクレオチド518-532が欠失している。さらに別の実施態様では、前記PGC-1核酸分子はアンチセンスPGC-1核酸分子である。別の実施態様では、前記PGC-1核酸分子は、ドミナント・ネガティブPGC-1ポリペプチドをコードするものである。
【0012】
ある実施態様では、前記ドミナント・ネガティブポリペプチドは変異型LXXLLモチーフを有するものであり、例えば、このLXXLLモチーフのロイシン残基のうちの少なくとも一つがアラニンなどの別のアミノ酸残基に置換されているなどである。ある好適な実施態様では、LXXLLモチーフの4番目の位置のロイシン残基がアラニンに置換されている。別の実施態様では、このLXXLLモチーフが欠失している。
【0013】
別の実施態様では、前記作用物質はPGC-1ポリペプチドである。ある実施態様では、配列番号5のポリペプチド配列を含んで成るヒトPGC-1ポリペプチドを用いる。この実施態様では、配列番号5のアミノ酸残基144-148 を欠失させてもよい。別の実施態様では、配列番号2のポリペプチド配列を含んで成るマウスPGC-1ポリペプチドを用いる。さらに別の実施態様では、配列番号2のアミノ酸残基142-146を欠失させてもよい。別の実施態様では、前記作用物質は、PGC-1に結合するポリペプチドである。
【0014】
別の実施態様では、前記PGC-1ポリペプチドは、ドミナント・ネガティブPGC-1 ポリペプチドである。ある実施態様では、前記ドミナント・ネガティブポリペプチドは変異型LXXLLモチーフを有するものであり、例えば、このLXXLLモチーフのロイシン残基のうちの少なくとも一つがアラニンなどの別のアミノ酸残基に置換されているなどである。ある好適な実施態様では、このLXXLLモチーフの4番目の位置のロイシン残基がアラニンに置換されている。別の実施態様では、このLXXLLモチーフが欠失している。
【0015】
別の実施態様では、本発明は、ある細胞(例えば初代肝細胞又はFaoヘパトーム細胞などの肝細胞)をある化合物に接触させるステップと、PGC-1の発現又は活性が調節されたかどうかを調べるステップとを含む、グルコース新生を調節可能な化合物を同定する方法を提供する。ある実施態様では、前記化合物は低分子である。
【0016】
さらに別の実施態様では、本発明は、ある化合物の、PGC-1の発現又は活性を調節する能力を検定することで、正常でないグルコース新生を特徴とする障害を治療することのできる化合物を同定するステップを含む、正常でないグルコース新生を特徴とする障害(例えば1型糖尿病、2型糖尿病、又は成人発症型若年性糖尿病などの糖尿病;肥満;又はグルコースの生成不足を特徴とする障害など)を治療することのできる化合物(例えば低分子)を同定する方法を提供するものである。
【0017】
ある実施態様では、前記化合物は、PGC-1の発現又は活性を上昇させる。このような化合物は、低血糖症につながる肝酵素異常など、グルコース生成の不足を特徴とする障害を治療する上で有用であろう。別の実施態様では、前記化合物は、PGC-1の発現又は活性を低下させる。このような化合物は、糖尿病(例えば1型糖尿病、2型糖尿病、又は若年性成人発症型糖尿病など)又は肥満など、グルコース生成の過剰を特徴とする障害を治療するために使用できよう。
【0018】
PGC-1の発現又は活性は、当業者に公知の方法により調べられることは理解されよう。例えば、ノーザン・ブロット法でPGC-1の発現を測定してもよい。加えて、グルコース新生酵素(例えばホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ、グルコース-6-ホスファターゼ、及び/又は、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ)の発現又は活性を、(ノーザン・ブロット法で調べても、又はホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ、グルコース-6-ホスファターゼ、又はフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ のプロモータ/エンハンサレポータ遺伝子の発現又は活性の測定により)調べてもよい。別の実施態様では、当該細胞からのグルコース生成を(例えば 比色グルコース検定キットを用いて培地中のグルコース濃度を測定するなどにより)測定する。
【0019】
さらに別の実施態様では、本発明は、標的分子(例えばHNF-4α、FKHR、又はホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼプロモータ)とのPGC-1タンパク質の相互作用を抑制する化合物を同定する方法であって、前記化合物の存在下で、PGC-1タンパク質及び標的分子を、前記標的分子がPGC-1タンパク質に結合して複合体を形成できる条件下で接触させるステップと、PGC-1タンパク質及び前記標的分子の複合体の形成を検出するステップとを含む方法を提供するものであり、この場合、前記化合物が、PGC-1タンパク質及び前記標的分子の間の相互作用を抑制する能力が、前記化合物の非存在下で形成される複合体量に比較したときの複合体形成の減少により示される。
【0020】
別の実施態様では、本発明は、正常でないグルコース新生を特徴とする障害が治療されるよう、PGC-1の発現又は活性を調節可能な作用物質を対象に投与するステップを含む、前記障害を有する対象(例えばヒト)を治療する方法を提供するものである。ある実施態様では、PGC-1の発現又は活性を上昇させて、グルコース新生を増加させる。従って、このような方法は、低血糖症につながる肝酵素異常など、グルコース生成の不足を特徴とする障害を有する対象を治療する上で、有用であろう。別の実施態様では、PGC-1の発現又は活性を低下させて、グルコース新生を減少させる。従ってこのような方法は、糖尿病(例えば1型糖尿病、2型糖尿病、又は成人発症型若年性糖尿病)又は肥満など、グルコース生成の過剰を特徴とする障害を有する対象を治療する上で、有用であろう。
【0021】
ある実施態様では、前記作用物質は、配列番号4の核酸配列を含んで成るPGC-1核酸分子(例えばヒトPGC-1核酸分子)である。ある実施態様では、配列番号1のヌクレオチド515-529が欠失している。別の実施態様では、配列番号4のヌクレオチド518-532が欠失している。
【0022】
別の実施態様では、前記PGC-1核酸分子は、ドミナント・ネガティブPGC-1ポリペプチドをコードするものである。ある実施態様では、前記ドミナント・ネガティブポリペプチドは変異型LXXLL モチーフを有するものであり、例えば前記LXXLLモチーフのロイシン残基のうちの少なくとも一つがアラニン残基などの別のアミノ酸残基に置換されているなどである。ある好適な実施態様では、LXXLLモチーフの4番目の位置のロイシン残基はアラニン残基に置換されている。別の実施態様では、LXXLLモチーフが欠失している。別の実施態様では、前記PGC-1核酸分子はアンチセンスPGC-1核酸分子である。
【0023】
PGC-1の発現又は活性を調節可能な当該作用物質は、PGC-1核酸分子であってもよい。このような実施態様では、前記核酸分子を対象にベクタを介して投与してもよい。ある好適な実施態様では、前記ベクタはアデノウィルスベクタである。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は、PGC-1は、グルコース新生経路の多数の主要な酵素を活性化することにより、肝細胞でのグルコース生成を刺激できるという発見に基づくものである。PGC-1レベルは肝細胞でcAMP及び糖質コルチコイドで誘導され、そのin vivoでの調節は、絶食時など、グルコース新生に有利なホルモン変化と一致する。これらの結果は、絶食への肝臓の応答においてPGC-1の調節的な役割を示し、PGC-1が肝グルコース新生の主要なホルモン調節性モジュレータであることを示唆している。さらにこの発見は、PGC-1が、別個の組の標的遺伝子を特定の組織環境及び生理に適応させることができ、厳密に制御を受けながらも、多数の組織の様々な代謝プロセスの多才な調節物質となっていることを示唆している。
【0025】
PGC-1は、最近解説された核受容体のコアクチベータであり、褐色脂肪及び骨格筋などの組織の細胞呼吸及び適応的熱発生において主要な役割を果たしていることが示された (Puigserver, P. et al. (1998) Cell 92:829-839; Wu, Z. et al. (1999) Cell 98:115-124)。本発明の発見は、PGC-1がグルコース新生の主要な調節物質であることを意味している。
【0026】
より具体的には、PGC-1の発現により、主要なグルコース新生遺伝子であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、グルコース-6-ホスファターゼ、及びフルクトース-1,6-ビスホスファテーゼ(原語:bisphosphatese)の発現が誘導されて、細胞におけるグルコース生成が増加することが見出された。PGC-1はまた、PEPCKプロモータや、HNF-4α及びFKHRという主要なグルコース新生転写因子と直接相互作用する。さらに、これらのグルコース新生遺伝子の誘導、そしてその結果のグルコース生成の増加が用量特異的であることも見出された。
【0027】
従って本発明は、PGC-1及びそのモジュレータを用いてグルコース新生を調節する方法及び組成物を提供するものである。よって、本発明の一局面は、特定の保存された構造及び機能上の特徴を有すると共に、グルコース新生関連活性で役割を果たす又は機能する分子の一ファミリーを包含する、ここでPGC-1核酸及びタンパク質分子と呼ばれるPGC-1分子に関する。本発明のタンパク質及び核酸分子を言及する場合の用語「ファミリ」とは、共通の構造ドメインを有し、かつ、ここに定義した通りの充分なアミノ酸もしくはヌクレオチド配列相同性を有する二種以上のタンパク質又は核酸分子を意味するものと、意図されている。このようなファミリ・メンバーは、天然型でもよく、また同じ種由来でも、異なる種由来でもよい。例えば、ある一ファミリに、ヒト由来の第一タンパク質や、ヒト由来の別個のタンパク質、又は代替的には、非ヒト由来の相同体を含めることができる。さらにある一つのファミリのメンバは、共通の機能上の特徴を有するであろう。
【0028】
本発明の別の局面は、正常でないもしくは異常なPGC-1核酸の発現及び/又はPGC-1タンパク質の活性を特徴とする(又は関連する)疾患又は障害を有するヒトなどの対象を治療する方法に関する。これらの方法は、治療が起きるよう、対象にPGC-1モジュレータを投与するステップを含む。文言「正常でない又は異常なPGC-1の発現」とは、非野生型のPGC-1タンパク質の発現、又は、PGC-1タンパク質の非野生型レベルの発現を言う。正常でない又は異常なPGC-1タンパク質活性とは、非野生型のPGC-1タンパク質活性又は非野生型レベルのPGC-1タンパク質活性を言う。PGC-1タンパク質は、グルコース新生に関与する経路などに関与しているため、正常でない又は異常なPGC-1タンパク質活性又は核酸発現は、正常なグルコース恒常性機能に干渉することとなる。正常でない又は異常なPGC-1タンパク質活性又は核酸発現を特徴とする又は関連する障害又は疾患(PGC-1関連障害とも呼ぶ)の非限定的な例には、1型糖尿病、2型糖尿病、及び若年性成人発症型糖尿病(MODY)などの糖尿病;及び低血糖に至る、肝酵素異常などのグルコース生成の不足を特徴とする障害;及び、他の疾患、障害、又は状態を原因とする二次性低血糖症などの低血糖症、がある。またPGC-1関連障害は、例えば肥満、悪液質、食欲不振などの体重障害など、グルコース恒常性の異常の影響を受ける障害又は状態であっても、又は、インシュリン活性の不足に関連する障害であってもよい。体重に関連する障害は、異常な体重又は体重の異常な制御に関連する障害である。ここで用いる言語「インシュリン活性の不足に関連する又は特徴とする疾患」には、異常なインシュリン機能を原因とする、グルコースの異常な利用率のある障害又は疾患が含まれる。異常なインシュリン機能には、細胞オルガネラを介した発現及び/又は輸送など、インシュリン生成の異常又は欠陥、例えばIDDM(1型糖尿病)におけるβ細胞消失などを原因とするインシュリン不足、インシュリン分泌の異常又は欠陥、例えばNIDDM(2型糖尿病)におけるインシュリン分泌応答の欠陥、一次、二次もしくは三次構造など、インシュリン分子自体の形の異常又は欠陥、標的細胞に対するインシュリンの作用の異常又は欠陥、例えば末梢組織などの身体組織でのインシュリン耐性や、インシュリンに対する標的細胞の応答の異常又は欠陥、が含まれる。IDDM及びNIDDM並びに他の形の糖尿病における異常なインシュリン活性のこれ以上の解説については、Braunwald, E. et al. eds. Harrison's Principles of Internal Medicine, Eleventh Edition (McGraw-Hill Book Company, New York, 1987) pp. 1778-1797; Robbins, S.L. et al. Pathologic Basis of Disease, 3rd Edition (W.B. Saunders Company, Philadelphia, 1984) p. 972を参照されたい。ここで用いる用語「治療する」又は「治療」とは、異常な又は正常でないPGC-1タンパク質活性又はPGC-1核酸発現を特徴とする又は関連する障害又は疾患など、ある障害又は疾患の悪影響又は症状の少なくとも一つの減少又は軽減を言う。
【0029】
ここで用いる場合のPGC-1モジュレータとは、PGC-1核酸発現及び/又はPGC-1タンパク質活性を調節可能な分子である。例えば、PGC-1モジュレータは、PGC-1核酸発現を、例えば上方調節(活性化)又は下方調節(抑制)するなど、調節することができる。別の例では、PGC-1モジュレータはPGC-1タンパク質活性を調節(例えば刺激又は抑制)することができる。正常でない又は異常な(非野生型の)PGC-1核酸発現及び/又はPGC-1タンパク質活性を特徴とする(又は関連する)障害又は疾患を、PGC-1核酸発現を抑制することで治療することが好ましい場合、PGC-1モジュレータを、ここで解説する通りの、リボザイムなどのアンチセンス分子とすることができる。PGC-1核酸発現を抑制するのに使用できるアンチセンス分子の例には、スタートコドンも含む、配列番号1もしくは配列番号4の5'末端非翻訳領域の一部に相補的なアンチセンス分子や、配列番号1もしくは配列番号4の3'末端非翻訳領域の一部に相補的なアンチセンス分子がある。
【0030】
PGC-1核酸発現を抑制するPGC-1モジュレータは、ここで解説するスクリーニング検定を用いて同定された低分子又は薬物など、PGC-1核酸発現を抑制する低分子又は他の薬物であってよい。このように本発明のPGC-1分子は、PGC-1活性を調節可能であるなどの分子をスクリーニングするための標的として用いることができる。
【0031】
正常でない又は異常な(非野生型の)PGC-1核酸発現及び/又はPGC-1タンパク質活性を特徴とする(又は関連する)疾患又は障害を、PGC-1核酸発現を刺激することで治療するのが好ましい場合、PGC-1モジュレータを、例えば、PGC-1をコードする核酸分子(例えば配列番号1又は配列番号4のヌクレオチド配列に相同なヌクレオチド配列を含んで成る核酸分子など)、又は、ここで解説するスクリーニング検定を用いて同定された低分子(ペプチド)又は薬物など、PGC-1核酸発現を刺激する低分子又は他の薬物とすることができる。
【0032】
代替的には、正常でない又は異常な(非野生型の)PGC-1核酸発現及び/又はPGC-1タンパク質活性を特徴とする(又は関連する)疾患又は障害を、PGC-1タンパク質活性を抑制することで治療するのが好ましい場合、PGC-1モジュレータは、抗PGC-1抗体、又は、ここで解説するスクリーニング検定を用いて同定された低分子もしくは薬物など、PGC-1タンパク質活性を抑制する低分子もしくは他の薬物であってもよい。ある好適な実施態様では、PGC-1 モジュレータは、PGC-1ドミナント・ネガティブであり、例えばLXXLLモチーフを欠失もしくは変異させたPGC-1ポリペプチドや、又は、LXXLLモチーフが欠失又は変異したPGC-1ポリペプチドをコードするPGC-1核酸分子などである。
【0033】
正常でない又は異常な(非野生型の)PGC-1核酸発現及び/又はPGC-1タンパク質活性を特徴とする(又は関連する)疾患又は障害を、PGC-1タンパク質活性を刺激することで治療するのが好ましい場合、PGC-1モジュレータを、活性PGC-1タンパク質もしくはその部分(例えば、配列番号2もしくは配列番号5又はその一部分のアミノ酸配列に相同なアミノ酸配列を有するPGC-1タンパク質もしくはその部分など)、又は、ここで解説するスクリーニング検定を用いて同定された低分子もしくは薬物など、PGC-1タンパク質活性を刺激する低分子もしくは他の薬物とすることができる。
【0034】
加えて、糖尿病など、グルコース恒常性の障害を有する対象に、治療ができるよう、PGC-1タンパク質もしくはその部分、又は、PGC-1もしくはその部分をコードする核酸を投与することにより、本発明に従って前記対象を治療することができる。同様に、インシュリン活性の不足が関連する障害を有する対象を、治療が起きるよう、PGC-1タンパク質もしくはその部分、又は、PGC-1タンパク質もしくはその部分をコードする核酸を前記対象に投与することにより、本発明に従って治療することができる。
【0035】
本発明の他の局面は、細胞関連活性を調節する方法に関する。これらの方法は、細胞関連活性が、当該作用物質の不存在下の当該細胞における細胞関連活性に比較して変化するように、PGC-1タンパク質活性又はPGC-1核酸発現を調節する作用物質(又は、有効量の作用物質を含有する組成物)に細胞を接触させるステップを含む。ここで用いる「細胞関連活性」とは、細胞の正常又は異常な活性又は機能を言う。細胞関連活性の例には、増殖、遊走、分化、タンパク質などの分子の産生もしくは分泌、細胞生存、及び熱発生、がある。ある好適な実施態様では、当該細胞関連活性はグルコース新生であり、そして当該細胞は肝細胞である。用語「変化する」とは、ここで用いる場合、細胞関連活性の、増加又は減少などの変化を言う。ある実施態様では、当該作用物質はPGC-1 タンパク質活性又はPGC-1核酸発現を刺激するものである。このような刺激性作用物質の例には、活性PGC-1タンパク質、細胞に導入された、PGC-1 をコードする核酸分子、及び、PGC-1タンパク質活性又はPGC-1核酸発現を刺激すると共に、ここで解説する薬物スクリーニング検定を用いて同定された調節作用物質、がある。別の実施態様では、当該作用物質はPGC-1タンパク質活性又はPGC-1核酸発現を抑制するものである。このような抑制作用物質の例には、ドミナント・ネガティブPGC-1タンパク質をコードする核酸分子、ドミナント・ネガティブPGC-1タンパク質、アンチセンスPGC-1核酸分子、抗PGC-1抗体、及び、PGC-1タンパク質活性又はPGC-1核酸発現を抑制すると共に、ここに解説する薬物スクリーニング検定を用いて同定された調節作用物質、がある。これらの調節法は、 in vitro(例えば細胞を当該作用物質と一緒に培養する)でも、又はその代わりに、in vivo(例えば当該作用物質を対象に投与する)でも行うことができる。ある好適な実施態様では、本調節法を、in vivoで行い、即ち当該細胞は、例えばヒトなどの哺乳動物などの対象内に存在し、この対象は、 異常な又は正常でない PGC-1タンパク質活性又はPGC-1核酸発現を特徴とする又は関連する障害又は疾患を有する。
【0036】
本治療法で用いる核酸分子、タンパク質、PGC-1モジュレータ、化合物等は、ここで解説する適した医薬組成物に導入したり、また、当該分子、タンパク質、モジュレータ、又は化合物等が、それに意図された機能を果たせるような経路で対象に投与することができる。投与経路の例もここに解説されている。
【0037】
マウスPGC-1 cDNAのヌクレオチド配列及びマウスPGC-1タンパク質の推定アミノ酸配列を、それぞれ配列番号1及び2に示す。ヒトPGC-1 cDNAのヌクレオチド配列及びヒトPGC-1タンパク質の推定アミノ酸配列を、それぞれ配列番号4 及び5に示す。ほぼ3066ヌクレオチド長のマウスPGC-1遺伝子は、分子量が約120kDで、約797アミノ酸長の完全長タンパク質をコードしている。ほぼ3023ヌクレオチド長のヒトPGC-1遺伝子は、分子量が約120 kDで約798アミノ酸残基長の完全長タンパク質をコードしている。PGC-1 ファミリ・メンバのタンパク質はいくつかのドメイン/モチーフを含有する。これらのドメイン/モチーフには:二つの推定チロシンリン酸化部位(配列番号2のアミノ酸残基204-212 及び378-385、並びに配列番号5のアミノ酸残基205-213 及び379-386)、三つの推定cAMPリン酸化部位(配列番号2のアミノ酸残基238-241、373-376、及び655-658 、並びに配列番号5の239-242、374-377、及び656-658)、セリン-アルギニン(SR)リッチなドメイン(配列番号2のアミノ酸残基562-600、及び配列番号5の563-601)、RNA結合モチーフ(配列番号2のアミノ酸残基656-709、及び配列番号5の657-710)、並びに、HNF-4α及び核受容体間の相互作用を媒介するLXXLLモチーフ(配列番号2のアミノ酸142-146、配列番号5の144-148;配列番号3)がある。ここで用いる、チロシンリン酸化部位とは、チロシンプロテインキナーゼでリン酸化可能な少なくとも一つのチロシン残基を含有するアミノ酸配列である。典型的には、チロシンリン酸化部位は、リン酸化するチロシンからN末端側の約7個目のリシン又はアルギニン残基を特徴とする。酸性の残基(アスパラギン又はグルタミン)がしばしば、チロシンからN末端側の3個目又は4個目の残基に見られる(Patschinsky, T. et al. (1982) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:973-977); Hunter, T. (1982) J. Biol. Chem. 257:4843-4848; Cooper, J.A. et al. (1984) J. Biol. Chem. 259:7835-7841)。
ここで用いる「cAMPリン酸化部位」とは、cAMP依存的プロテインキナーゼでリン酸化可能なセリン又はスレオニン残基を含有するアミノ酸配列である。典型的には、cAMPリン酸化部位は、セリン又はスレオニンのN末端側の少なくとも二つの連続する塩基性残基を特徴とする(Fremisco, J.R. et al. (1980) J. Biol. Chem. 255:4240-4245; Glass, D. B. and Smith, S.B. (1983) J. Biol. Chem. 258:14797-14803; Glass, D.B. et al. (1986) J. Biol. Chem. 261:2987-2993)。ここで用いる「セリン-アルギニンリッチなドメイン」又は「SRリッチなドメイン」とは、セリン及びアルギニン残基がリッチなアミノ酸配列である。典型的には、SRリッチドメインは、RNAポリメラーゼIIのCTDドメインと相互作用するか、又は、スプライシング機能に関与するドメインである。ここで用いる、「RNA結合モチーフ」とは、RNA分子又は一本鎖DNA分子に結合できるアミノ酸配列である。RNA結合モチーフは、Lodish, H., Darnell, J., and Baltimore, D. Molecular Cell Biology, 3rd ed. (W.H. Freeman and Company, New York, New York, 1995)に解説されている。ここで用いる「LXXLLモチーフ」(配列番号3)とは、Lがロイシンを表し、そしてXはいずれのアミノ酸でもよいモチーフを言い、核受容体とコアクチベータとの間の相互作用を媒介する(Heery et al. (1997) Nature 397:733-736; Torchia et al. (1997) Nature 387:677-684)。
【0038】
さらに本発明の方法は、マウス及び/又はヒトHNF-4α分子も利用する。マウスHNF-4αのヌクレオチド及び推定ポリペプチド配列は、それぞれGenBank登録番号NM 008261 及びNP 032287に記載されている。(さらにHata, S. et al. (1995) Biochim. Biophys. Acta. 1260:55-61 及びNakhei, H. et al. (1998) Nucleic Acids Res. 26:497-504に記載されている)。 ヒトHNF-4αのヌクレオチド及び推定ポリペプチド配列は、それぞれGenBank登録番号NM 000457及びNP 000448に記載されている(さらにDrewes, T. et al. (1996) Mol. Cell. Biol. 16:925-931; Winter, W.E. et al. (1999) Endocrinol. Metab. Clin. North Am. 28(4):765-785; Argyrokastritis, A. et al. (1997) Hum. Genet. 99:233-236; Yamagata, K. et al. (1996) Nature 384:458-460; Kritis, A.A. et al. (1996) Gene 173:275-280; Chartier, F.L. et al. (1994) Gene 147:269-272; 及びBell, G.I. et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:1484-1488に記載されている)。
【0039】
さらに本発明の方法は、マウス及び/又はヒトFKHR分子も利用する。マウスFKHRのヌクレオチド及び推定ポリペプチド配列は、それぞれ GenBank登録番号NM 019739及びNP 062713に記載されている。(さらにNakae, J. et al. (1999) J. Biol. Chem. 274:15982-15985 and Biggs, W.H. III et al. (2001) Mamm. Genome 12:416-425に記載されている)。ヒトFKHRのヌクレオチド及び推定ポリペプチド配列は、それぞれGenBank 登録番号NM 002015及びNP 002006に記載されている(さらにGalili, N. et al. (1993) Nat. Genet. 5:230-235、公開された正誤表と共に (1994) Nat. Genet. 6:214; Fredericks, W.J. et al. (1995) Mol. Cell. Biol. 15:1522-1535; Sublett, J.E. et al. (1995) Oncogene 11:545-552; Anderson, M.J. et al. (1998) Genomics 47:187-199;及びMedema, R.H. et al. (2000) Nature 404:782-787に記載されている)。
【0040】
従って本発明の方法では、1)ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、グルコース-6-ホスファターゼ、及び/又はフルクトース-1,6-ビスホスファターゼの発現を調節したり;2)PEPCKプロモータに結合させ及び/又はその活性を調節したり;3)HNF-4αに結合させ及び/又はその活性を調節したり;4)FKHRに結合させ及び/又はその活性を調節したり;5)細胞からのグルコース生成を調節したり;6)グルコース新生を調節したり;7)グルコース恒常性を調節したり;8)糖尿病又は肥満など、PGC-1発現又は活性の上昇を特徴とする疾患又は障害を治療したり;及び9)グルコース生成の不足を特徴とする疾患又は障害など、PGC-1発現又は活性の低下に関連する疾患又は障害を治療するために、PGC-1タンパク質又はその生物活性部分もしくはフラグメントを利用してもよい。
【0041】
本発明の多様な局面を、以下の小項でさらに詳細に解説する。
【0042】
I. 単離された核酸分子
本発明のある局面は、PGC-1又はその生物活性部分をコードする単離された核酸分子を用いる方法や、PGC-1をコードする核酸(例えばPGC-1 mRNA)を同定するためのハイブリダイゼーション・プローブとして用いるのに充分な核酸断片を用いる方法に関する。ここで用いる用語「核酸分子」は、DNA分子(例えばcDNA又はゲノムDNA)及びRNA分子(例えばmRNA)並びに、ヌクレオチド類似体を用いて作製されたDNAもしくはRNAの類似体を包含することを、意図している。当該核酸分子は、一本鎖でも、又は二本鎖でもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。「単離された」核酸分子とは、当該核酸の天然源中に存在する他の核酸分子から分離されたものである。好ましくは、「単離された」核酸は、当該核酸を得たもとの生物のゲノムDNAにおいて、当該核酸を天然でフランクする配列(即ち、当該核酸の5'末端及び3'末端に位置する配列)が除かれているとよい。例えば、多様な実施態様では、当該の単離されたPGC-1核酸分子に、当該核酸を得たもとの細胞(例えば褐色脂肪細胞)のゲノムDNAにおいて当該核酸分子を天然でフランクする約5 kb、4kb、3kb、2kb、1 kb、0.5 kb又は0.1 kb 未満のヌクレオチド配列を含めることができる。さらに、cDNA分子などの「単離された」核酸分子は、組換え技術で作製した場合には細胞物質又は培地が、あるいは化学合成した場合には化学的前駆物質又は他の化学物質が、実質的に除かれたものであろう。
【0043】
配列番号1、配列番号4のヌクレオチド配列を有する核酸分子、又は、配列番号1、配列番号4に示したヌクレオチド配列に対し、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上、相同なヌクレオチド配列又はその一部(例えば400、450、500又はそれ以上のヌクレオチド)など、本発明の核酸分子は、標準的な分子生物学の技術及びここに提供した配列情報を用いて、単離することができる。例えば、ヒトPGC-1 cDNAは、ヒトの肝臓、心臓、腎臓、又は脳細胞系(カリフォルニア州ラホーラのストラータジーン社、又は、カリフォルニア州パロ・アルトのクロンテック社から市販されているもの)から、配列番号1又は配列番号4の全部又は一部をハイブリダイゼーション・プローブとし、標準的なハイブリダイゼーション技術を用いて(例えばSambrook, J., Fritsh, E. F., and Maniatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に解説された通りに)単離することができる。さらに、配列番号1もしくは配列番号4の全部もしくは一部、又は、配列番号1もしくは配列番号4に示したヌクレオチド配列に対し、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上、相同なヌクレオチド配列、を包含する核酸分子は、ポリメラーゼ連鎖反応により、配列番号1もしくは配列番号4の配列又はその相同ヌクレオチド配列に基づいてデザインされたオリゴヌクレオチド・プライマを用いて、単離することができる。例えば、mRNAを、肝細胞、心臓細胞、腎細胞、脳細胞、又は褐色脂肪細胞から(例えばChirgwin et al. (1979) Biochemistry 18: 5294-5299のチオシアン酸グアニジウム抽出法により)単離することができ、cDNAを、逆転写酵素(例えばメリーランド州ベセズダのギブコ/BRL社から市販のモロニーMLV 逆転写酵素;又は、フロリダ州セント・ピーターズバーグ、セイカガク・アメリカ社から市販のAMV逆転写酵素)を用いて作製することができる。PCR増幅用の合成オリゴヌクレオチド・プライマは、配列番号1もしくは配列番号4に示したヌクレオチド配列又はその相同ヌクレオチド配列に基づいてデザインすることができる。本発明の核酸は、cDNA 又は代替的にゲノムDNAをテンプレートとして用い、そして適したオリゴヌクレオチド・プライマを用いて、標準的なPCR増幅技術に従って増幅することができる。このように増幅された核酸を適したベクタを用いてクローニングし、DNA配列決定解析で特徴付けることができる。さらに、PGC-1ヌクレオチド配列に対応するオリゴヌクレオチドは、自動DNA合成装置を用いるなど、標準的な合成技術により、作製が可能である。
【0044】
ある好適な実施態様では、本発明の単離された核酸分子は、配列番号1もしくは配列番号4 に示したヌクレオチド配列、又は、配列番号1もしくは配列番号4に示したヌクレオチド配列に対し、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上、相同なヌクレオチド配列を含んで成る。配列番号1の配列はマウスPGC-1 cDNAに相当する。このcDNA は、PGC-1タンパク質をコードする配列(即ち、ヌクレオチド92乃至2482の「コーディング領域」)や、5' 末端非翻訳配列(ヌクレオチド1 乃至91)及び 3'末端非翻訳配列 (ヌクレオチド2483乃至3066)を含んで成る。代替的には、前記核酸分子に、配列番号1のコーディング領域(例えばヌクレオチド92乃至2482)又はその相同ヌクレオチド配列のみを含めることができる。配列番号4の配列はヒトPGC-1 cDNAに相当する。このcDNA は、PGC-1タンパク質をコードする配列(即ち、ヌクレオチド89 乃至2482の「コーディング領域」)や、5' 末端非翻訳配列(ヌクレオチド 1 乃至88)及び3' 末端非翻訳配列(ヌクレオチド2513 乃至3023)を含んで成る。代替的には、前記核酸分子に、配列番号4のコーディング領域(例えばヌクレオチド89乃至2482)又はその相同ヌクレオチド配列のみを含めることができる。
【0045】
別の好適な実施態様では、本発明の単離された核酸分子は、配列番号1 又は配列番号4 に示したヌクレオチド配列、又は、配列番号1もしくは配列番号4に示したヌクレオチド配列に対し、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上、相同なヌクレオチド配列、の相補配列である核酸分子を含んで成る。配列番号1 もしくは配列番号4 に示したヌクレオチド配列、又は、配列番号1もしくは配列番号4に示したヌクレオチド配列に対し、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上、相同なヌクレオチド配列、に相補的な核酸分子とは、配列番号1もしくは配列番号4 に示したヌクレオチド配列に対し、又は、その相同配列に対し、充分相補的であるために、配列番号1もしくは配列番号4 に示したヌクレオチド配列、又は、その相同配列にハイブリダイズして安定な二本鎖を形成できるものである。
【0046】
さらに別の好適な実施態様では、本発明の単離された核酸分子は、配列番号1もしくは配列番号4に示したヌクレオチド配列又はこのヌクレオチド配列の一部分に対し、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上、相同なヌクレオチド配列を含んで成る。更なる好適な実施態様では、本発明の単離された核酸分子は、配列番号1もしくは配列番号4に示したヌクレオチド配列に対して、又は、配列番号1もしくは配列番号4に示したヌクレオチド配列に、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上、相同なヌクレオチド配列に対して、例えばストリンジェントな条件下でハイブリダイズするなど、ハイブリダイズするヌクレオチド配列を含んで成る。
【0047】
さらに、本発明の核酸分子は、配列番号1もしくは配列番号4 のコーディング領域の一部分のみ、又は、配列番号1もしくは配列番号4に示したヌクレオチド配列に、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上、相同なヌクレオチド配列のコーディング領域のみ、を含んで成っていてもよく、例えば、プローブもしくはプライマとして使用可能な断片、又は、PGC-1の生物活性部分をコードする断片などでもよい。マウス又はヒト由来のPGC-1遺伝子のクローニングで決定したヌクレオチド配列があると、他のPGC-1ファミリ・メンバや、他の組織由来など他の細胞種でのPGC-1相同体や、ラット又はサルなどの他の哺乳動物由来のPGC-1相同体を、同定及び/又はクローニングする際に用いるようデザインされたプローブ及びプライマの作製が可能である。前記プローブ/プライマは、典型的には、実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを含んで成る。前記オリゴヌクレオチドは典型的に、配列番号1もしくは配列番号4 センス、配列番号1もしくは配列番号4のアンチセンス配列、又は天然型のこれらの変異体のうちの少なくとも約12、好ましくは少なくとも約25、より好ましくは約40、50又は75の連続したヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする一領域のヌクレオチド配列を含んで成る。配列番号1もしくは配列番号4 のヌクレオチド配列に基づくプライマは、PGC-1相同体をクローンするためにPCR反応で用いることができる。
【0048】
ある例示的な実施態様では、本発明の核酸分子は、約100、好ましくは100乃至200、好ましくは200乃至300、より好ましくは300乃至400、そしてさらにより好ましくは400乃至487ヌクレオチド長であると共に、配列番号1もしくは配列番号4の核酸分子にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を含んで成る。
【0049】
PGC-1ヌクレオチド配列に基づくプローブは、当該タンパク質又は相同タンパク質をコードする転写産物又はゲノム配列を検出するために使用できる。好適な実施態様では、前記プローブはさらに、それに標識基を結合させて含み、例えば前記標識基は放射性同位元素、蛍光化合物、酵素、又は酵素コファクタであってよい。このようなプローブは、例えば PGC-1 mRNA レベルを検出したり、又は、ゲノムPGC-1遺伝子が変異又は欠失しているかどうかを調べるなどして、対象から採取した細胞試料中のPGC-1コーディング核酸のレベルを測定するなどにより、PGC-1タンパク質を誤発現する細胞又は組織を識別する診断検査キットの一部として、利用できる。
【0050】
ある実施態様では、本発明の核酸分子は、以下:1)ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、グルコース-6-ホスファターゼ、及び/又はフルクトース-1,6-ビスホスファターゼの発現を調節できる;2)PEPCKプロモータに結合及び/又はその活性を調節できる;3)HNF-4αに結合及び/又はその活性を調節できる;4)FKHRに結合及び/又はその活性を調節できる;5)細胞からのグルコース生成を調節できる;;6)グルコース新生を調節できる;7)グルコース恒常性を調節できる;8)糖尿病又は肥満など、PGC-1の発現又は活性の上昇を特徴とする疾患又は障害を治療できる;及び9)グルコース生成の不足を特徴とする疾患又は障害など、PGC-1発現又は活性の低下に関連する疾患又は障害を治療できる、といった生物活性のうちの一つ以上を維持しているように、配列番号2又は配列番号5 のアミノ酸配列に充分相同なアミノ酸配列を含有するタンパク質もしくはその部分をコードしている。
【0051】
ここで用いる文言「充分相同な」とは、当該タンパク質又はその部分が、以下:1)ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、グルコース-6-ホスファターゼ、及び/又はフルクトース-1,6-ビスホスファターゼの発現を調節できる;2)PEPCKプロモータに結合及び/又はその活性を調節できる;3)HNF-4αに結合及び/又はその活性を調節できる;4)FKHRに結合及び/又はその活性を調節できる;5)細胞からのグルコース生成を調節できる;;6)グルコース新生を調節できる;7)グルコース恒常性を調節できる;8)糖尿病又は肥満など、PGC-1の発現又は活性の上昇を特徴とする疾患又は障害を治療できる;及び9)グルコース生成の不足を特徴とする疾患又は障害など、PGC-1発現又は活性の低下に関連する疾患又は障害を治療できる、といった生物活性のうちの一つ以上を維持しているよう、配列番号2又は配列番号5 のアミノ酸配列に同一もしくは同等な(例えば配列番号2又は配列番号5のアミノ酸残基と同様な側鎖を有するアミノ酸残基)アミノ酸残基を最小限の数、含有するアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその部分を言う。
【0052】
別の実施態様では、前記タンパク質は、配列番号2又は配列番号5の全アミノ酸配列に対し、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上、相同である。
【0053】
本発明のPGC-1核酸分子がコードするタンパク質のうちの部分は、好ましくは当該PGC-1タンパク質の生物活性部分であるとよい。ここで用いる用語「PGC-1の生物活性部分」には、以下:1)ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、グルコース-6-ホスファターゼ、及び/又はフルクトース-1,6-ビスホスファターゼの発現を調節できる;2)PEPCKプロモータに結合及び/又はその活性を調節できる;3)HNF-4αに結合及び/又はその活性を調節できる;4)FKHRに結合及び/又はその活性を調節できる;5)細胞からのグルコース生成を調節できる;6)グルコース新生を調節できる;7)グルコース恒常性を調節できる;8)糖尿病又は肥満など、PGC-1の発現又は活性の上昇を特徴とする疾患又は障害を治療できる;及び9)グルコース生成の不足を特徴とする疾患又は障害など、PGC-1発現又は活性の低下に関連する疾患又は障害を治療できる、といった活性のうちの一つ以上を有する、ドメイン/モチーフなどのPGC-1の一部分が含まれることを意図している。
【0054】
免疫沈降法などの標準的結合検定や、ここに解説した通りの酵母ツーハイブリッドアッセイを行えば、あるPGC-1タンパク質又はその生物活性部分の、HNF-4α、FKHR、PEPCK プロモータ、PPARγ、C/EBPα、又は核ホルモン受容体との相互作用(例えば結合)能を調べることができる。あるPGC-1 ファミリ・メンバーがHNF-4α、FKHR、PEPCK プロモータ、PPARγ、C/EBPα、及び/又は核ホルモン受容体と相互作用することが判明した場合、それらは、HNF-4α、FKHR、PEPCKプロモータ、PPARγ、C/EBPα、及び核ホルモン受容体の活性のモジュレータである可能性が高い。
【0055】
本発明のあるPGC-1ファミリ・メンバがPEPCK、グルコース-6-ホスファターゼ、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ、及び/又はUCP発現を調節するかどうかを調べるには、in vitro 転写検定を行うことができる。このような検定を行うには、目的の遺伝子(例えばPEPCK、グルコース-6-ホスファターゼ、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ、又はUCP)の完全長プロモータ/エンハンサ 領域を、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT) 又はルシフェラーゼなどのレポータ遺伝子に連結し、宿主細胞(Faoヘパトーム細胞などの肝細胞、又はCOS細胞)に導入することができる。次に、同じ宿主細胞に、PGC-1分子をコードする核酸分子をトランスフェクトできる。いくつかの実施態様では、HNF-4α、FKHR、及び/又はPPARγ/RXRαをコードする核酸分子も、トランスフェクトできる。PGC-1分子の作用は、CAT又はルシフェラーゼ活性をテストし、当該PGC-1分子をコードする核酸を含有しない細胞中のCAT又はルシフェラーゼ活性にそれを比較することで、測定することができる。CAT又はルシフェラーゼ活性の上昇又は低下は、目的の遺伝子の発現調節の指標である。PEPCK、グルコース-6-ホスファターゼ及びフルクトース-1,6-ビスホスファターゼは、グルコース新生経路の重要な構成成分であることが知られているため、この検定で、当該PGC-1分子がグルコース新生を調節する能力を測定することもできる。別の実施態様では、UCP発現は、熱発生の上昇につながる事象のカスケードで重要な構成要素であることが知られているため、この検定で、当該PGC-1分子が、脂肪細胞での熱発生を調節する能力を測定できる。
【0056】
あるPGC-1分子がPEPCK、グルコース-6-ホスファターゼ及び/又はフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ発現を調節する能力をテストするための上述の検定は、さらに、PGC-1分子のグルコース新生調節能、例えば、グリコーゲン分解というグリコーゲンをグルコースに分解するグルコース生成ではなく、グルコースのde novo合成の調節能、をテストするために用いることもできる。あるPGC-1分子がPEPCK, グルコース-6-ホスファターゼ及び/又はフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ発現を調節できれば、それはグルコース新生を調節できる可能性が高い。代替的には、あるPGC-1分子がグルコース新生を調節する能力は、 PGC-1分子をFaoヘパトーム細胞などの肝細胞などの細胞に導入し、この細胞から培地に放出されるグルコースを、当該PGC-1分子を含有しないコントロール細胞から放出されるグルコース量に比較して測定することで、測定できる。
【0057】
あるPGC-1分子がUCP発現を調節する能力をテストするための上述の検定は、さらに、例えば、UCP発現は褐色脂肪組織に特異的であるため、白色脂肪組織の褐色脂肪組織への分化など、脂質生成を当該PGC-1分子が調節する能力をテストするために用いることもできる。あるPGC-1分子がUCP発現を調節できれば、それは白色脂肪組織の褐色脂肪組織への分化を調節できる可能性が高い。代替的には、あるPGC-1分子が白色脂肪組織の褐色脂肪組織への分化を調節する能力は、 PGC-1分子を白色脂肪細胞などの細胞に導入し、この細胞中のミトコンドリア数を、当該PGC-1分子を含有しないコントロール細胞中のミトコンドリア数に比較して測定することで、測定できる。褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞よりも実質的により多くの数のミトコンドリアを含有することが知られているため、コントロール細胞と比較したときの、テスト細胞におけるミトコンドリア数(又は、チトクロームc酸化酵素などのミトコンドリアマーカ)の増加又は減少は、当該PGC-1分子が白色脂肪組織の褐色脂肪組織への分化を調節できることの指標である。
【0058】
あるPGC-1分子の、細胞のインシュリン感受性を調節する能力は、筋細胞、肝細胞、又は脂肪細胞などの細胞を形質転換してPGC-1タンパク質を発現させ、放射性標識したグルコース(14Cグルコース)と一緒にインキュベートし、インシュリンで処置するといった検定を行うことにより、調べることができる。コントロール細胞に比較したときの、PGC-1を含有する細胞中のグルコースの増加又は減少は、当該PGC-1がその細胞のインシュリン感受性を調節できることの指標である。代替的には、PGC-1を含有する細胞を放射性標識したリン酸源(例えば[32P]ATP)と一緒にインキュベートし、インシュリン処理することができる。こうして、インシュリン受容体など、インシュリン経路中のタンパク質のリン酸化を測定できる。コントロール細胞に比較して、PGC-1を含有する細胞中で、インシュリン経路のタンパク質にリン酸化の増加又は減少があれば、それは当該PGC-1がその細胞のインシュリン感受性を調節できることの指標である。
【0059】
ある実施態様では、PGC-1の生物活性部分は少なくとも一つのドメイン又はモチーフを含んで成る。このようなドメイン/モチーフの例には、チロシンリン酸化部位、cAMP リン酸化部位、セリン-アルギニン(SR)リッチなドメイン、RNA結合モチーフ、及び、HNF-4αと核受容体との相互作用を媒介するLXXLL (配列番号3)モチーフ、がある。ある実施態様では、前記ドメイン又はモチーフを含有するタンパク質の生物活性部分は、白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞への分化、及び/又は、褐色脂肪細胞中の熱発生、を調節することができる。ある好適な実施態様では、前記ドメイン又はモチーフはグルコース新生を調節できるものである。これらのドメインをここに詳述する。PGC-1の生物活性部分をコードする更なる核酸断片は、配列番号1もしくは配列番号4又は相同ヌクレオチド配列の一部分を単離し、 コードされた部分のPGC-1タンパク質又はペプチド部分を(例えばin vitro組換え発現により)発現させ、コードされた部分のPGC-1タンパク質又はペプチドの活性を評価することにより、調製できる。
【0060】
別の実施態様では、PGC-1核酸分子は「ドミナント・ネガティブな」PGC-1タンパク質をコードするものである。ここで用いる「ドミナント・ネガティブ」とは、細胞内で発現させたときに、その野生型相同体(例えば内因性遺伝子又は外因的に提供された野生型相同体)の活性を阻害するようなタンパク質又はポリペプチド又はそれをコードする核酸分子を言う。例えば、ある好適な実施態様では、ドミナント・ネガティブPGC-1分子とは、細胞(例えば肝細胞)内で発現させたときに、野生型PGC-1遺伝子の(ここで解説した通りの)少なくとも一つ以上の活性を抑制するものである。ある好適な実施態様では、ドミナント・ネガティブPGC-1分子は、グルコース新生を部分的又は完全に、下方調節するものである。別の好適な実施態様では、ドミナント・ネガティブPGC-1分子は、HNF-4αには結合できないが、例えば一般的転写因子などの他の転写因子には結合することができる。このようなドミナント・ネガティブは、「スケルチング(原語:squelching)」を介して作用する。ここで用いる用語「スケルチング」とは、ドミナント・ネガティブ分子が、細胞内のいくつかの転写因子の大半に結合してしまい、野生型分子が結合できる相手がなくなり、野生型分子が事実上不活性となるようなレベルで発現するプロセスを言う。所望の下方調節の程度に応じて、野生型PGC-1活性を様々なレベルで阻害する様々なドミナント・ネガティブ型のPGC-1を作製することができる。ある好適な実施態様では、ドミナント・ネガティブPGC-1ポリペプチドは、配列番号2又は配列番号5の配列を含んで成り、但しこの場合、LXXLLモチーフ(配列番号3)は変異させてある。ある実施態様では、LXXLLモチーフのロイシン残基のうちの一つ以上を、代わりのアミノ酸残基(例えばアラニン)に置換して、変異後のLXXLLモチーフがもはや、HNF-4α又は核受容体への結合を媒介しないようにすることができる。ある好適な実施態様では、LXXLLモチーフの4番目の位置にあるロイシン残基をアラニンに置換する。別の実施態様では、LXXLLモチーフの少なくとも1、2、3、4、又は5個のアミノ酸残基を欠失させる。マウスLXXLLは、配列番号2のアミノ酸残基142-146(配列番号1のヌクレオチド 515-529 にコードされている )に見ることができ、他方、ヒトLXXLLモチーフは、配列番号5 のアミノ酸残基144-148(配列番号4のヌクレオチド518-532にコードされている)に見ることができる。好ましくは、変異もしくは欠失させたLXXLLモチーフを持つPGC-1ポリペプチドは、HNF-4αに結合できないとよい。(実施例の項を参照されたい)。
【0061】
さらに本発明は、遺伝暗号の縮重があるために配列番号1もしくは配列番号4に示すヌクレオチド配列がコードするものと同じPGC-1タンパク質をコードするような、配列番号1もしくは配列番号4(及びその一部分)に示すヌクレオチド配列とは異なる核酸分子も包含する。別の実施態様では、本発明の単離された核酸分子は、配列番号2又は配列番号5に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、又は、配列番号2又は配列番号5 のアミノ酸配列に少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上、相同なアミノ酸配列を有するタンパク質、をコードするヌクレオチド配列を有する。
【0062】
当業者であれば、配列番号1 及び 配列番号4に示すマウス及びヒトPGC-1ヌクレオチド配列に加え、PGC-1のアミノ酸配列の変化につながるDNA配列多型が、一集団内(例えばヒトの集団などの哺乳動物の集団など)に存在するであろうことは理解されよう。このようなPGC-1遺伝子の遺伝子多型が、天然のアレルのバリエーションがあるために、一集団内の個体間に存在するであろう。ここで用いる用語「遺伝子」及び「組換え遺伝子」とは、PGC-1タンパク質、好ましくはヒトなどの哺乳動物のPGC-1タンパク質、をコードするオープンリーディングフレームを含んで成る核酸分子を言う。このような天然のアレルのバリエーションの結果、典型的には、当該PGC-1遺伝子のヌクレオチド配列に1乃至5%の分散がある可能性がある。天然のアレルのバリエーションの結果であり、PGC-1の機能的活性を変えないような、このようなPGC-1のヌクレオチドのバリエーション及びその結果のアミノ酸多型はいかなるものも、本発明の範囲内にあると、意図されている。さらに、他の種由来のPGC-1タンパク質をコードし、従って配列番号1及び配列番号4のマウス又はヒト配列とは異なるヌクレオチド配列を有する核酸分子も、本発明の範囲内にあると意図されている。本発明のマウス又はヒト PGC-1 cDNAの天然のアレルバリアント及び相同体に相当する核酸分子は、ここに開示するマウス又はヒトPGC-1核酸配列に対するそれらの相同性に基づき、マウス又はヒトcDNA、又はその一部分をハイブリダイゼーション・プローブとして用いて、標準的なハイブリダイゼーション技術に従って、(ここに説明する)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、単離することができる。
【0063】
さらに、他のPGC-1ファミリ・メンバをコードし、従って配列番号1もしくは配列番号4 のPGC-1配列とは異なるヌクレオチド配列を有する核酸分子は、本発明の範囲内にあると意図されている。例えば、PGC-3 cDNA は、ヒトPGC-1又はマウスPGC-1のヌクレオチド配列に基づいて同定することができる。(PPARγコアクチベータ2、又はPGC-2と呼ばれる遺伝子が既に文献に解説されていることに留意されたい(Castillo, G. et al. (1999) EMBO J. 18(13):3676-87)。しかしながら、PGC-2 は構造上及び機能上の両方でPGC-1に無関係である。)さらに、異なる種を由来とするPGC-1タンパク質をコードし、従って配列番号1もしくは配列番号4のPGC-1配列とは異なるヌクレオチド配列を有する核酸分子は、本発明の範囲内にあると意図されている。例えば、ラット又はサルPGC-1 cDNAは、ヒトPGC-1のヌクレオチド配列に基づいて、同定することができる。
【0064】
従って、別の実施態様では、本発明の単離された核酸分子は、少なくとも15ヌクレオチド長であり、そして、配列番号1もしくは配列番号4 のヌクレオチド配列、又は、配列番号1もしくは配列番号4のヌクレオチド配列に対して約60%、好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上、相同なヌクレオチド配列、を含んで成る核酸分子にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。他の実施態様では、当該核酸は少なくとも30、50、100、250 又は500 ヌクレオチド長である。ここで用いる用語「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、相互に少なくとも60%相同なヌクレオチド配列が典型的に互いにハイブリダイズしたままであるような、ハイブリダイゼーション条件及び洗浄条件を記述するものと、意図している。好ましくは、この条件は、相互に少なくとも約65%、より好ましくは少なくとも約70%、そしてさらにより好ましくは少なくとも約75%又はそれ以上、相同な配列が典型的に互いにハイブリダイズしたままでいるものである。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であり、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に見ることができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好適な、非限定的な例は、約45℃の6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中でのハイブリダイゼーションの後、0.2×SSC、50乃至65℃の0.1% SDSで一回以上洗浄する条件である。好ましくは、ストリンジェントな条件下で配列番号1、配列番号4の配列にハイブリダイズする本発明の単離された核酸分子は、天然型核酸分子に相当するとよい。ここで用いる「天然型」核酸分子とは、天然で生じるヌクレオチド配列を有するRNA又はDNAを言う(例えば天然タンパク質をコードしているなど)。ある実施態様では、当該核酸は天然型ヒトPGC-1をコードしている。
【0065】
当業者であれば、集団中に存在するであろうPGC-1配列の天然型アレル・バリアントに加え、配列番号1もしくは配列番号4のヌクレオチド配列中に、突然変異により変化が導入され、その結果、コードされたPGC-1タンパク質のアミノ酸配列が、当該PGC-1タンパク質の機能が変わらずに変化する場合があることは、理解されよう。例えば、「必須でない」アミノ酸残基でのアミノ酸置換につながるヌクレオチド置換を、配列番号1もしくは配列番号4の配列中で行うことができる。「必須でない」アミノ酸残基とは、野生型配列のPGC-1(例えば配列番号2又は配列番号5の配列)から、PGC-1の活性を変えずに変更できる残基であり、他方、「必須な」アミノ酸残基はPGC-1活性に必要である。例えば、PGC-1対HNF-4αの相互作用に関与するアミノ酸残基(例えば、LXXLLモチーフに存在するもの)は、PGC-1の必須な残基である可能性が高い。しかし、他のアミノ酸残基(例えばマウス及びヒトの間で保存されていないか、又は、半保存されたに過ぎないもの)は活性にとって必須でないと思われ、従って、変更してもPGC-1活性は変化しないと思われる。さらに、熱発生及び/又は脂質生成に関係するPGC-1機能にとって必須であるが、グルコース新生に関係するPGC-1機能には必須でないアミノ酸残基は、変更してもよい可能性が高い。
【0066】
従って、本発明の別の局面は、PGC-1活性に必須でないアミノ酸残基に変更を含有するPGC-1タンパク質をコードする核酸分子に関する。このようなPGC-1タンパク質は、配列番号2又は配列番号5 とはアミノ酸配列が異なるが、ここに解説するPGC-1活性の少なくとも一つは保持している。ある実施態様では、本単離された核酸分子は、あるタンパク質をコードするヌクレオチドを含んで成り、但し前記タンパク質は、配列番号2又は配列番号5 のアミノ酸配列に少なくとも約60%相同なアミノ酸配列を含んで成ると共に、グルコース新生を調節できる。好ましくは、本核酸分子のコードするタンパク質が、配列番号2又は配列番号5 のアミノ酸配列に、少なくとも約70%相同、好ましくは少なくとも約80乃至85%相同、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%相同であるとよい。
【0067】
ここで用いる「配列の同一性又は相同性」とは、二つのポリペプチド分子間、又は、二つの核酸分子間での配列類似性を言う。比較する二つの配列の両方のある位置に、同じ塩基又はアミノ酸単量体サブユニットが来ている場合、例えば、二つのDNA分子のそれぞれのある位置にアデニンが来ている場合、これらの分子はその位置において相同又は配列上同一である。二つの配列間の相同性又は配列同一性のパーセントは、その二つの配列間で共通の対合又は相同な同一位置の数を、比較した位置の数で除算して100をかけた関数である。例えば、二つの配列中の10の位置のうち、6が同じであれば、これら二つの配列は60%相同であるか、又は、60%の配列同一性を有することとなる。例えば、DNA 配列ATTGCC 及びTATGGC間には50%の相同性又は配列同一性がある。一般に、相同性が最大となるように二つの配列をアライメントしてから、比較を行う。他に特に明示する場合を除き、例えば配列の一方に欠失又は挿入があるときに生じる「ループ・アウト領域」はミス対合と計数される。
【0068】
二つの配列間の配列の比較、及び、パーセント相同性の決定は数学的アルゴリズムを用いて行うことができる。好ましくはクラスタル法を用いてアライメントができるとよい。多くのアライメントパラメータには、ギャップ・ペナルティ=10、ギャップ長ペナルティ=10、が含まれる。DNAのアライメントの場合、対同士のアライメント・パラメータは、Htuple=2、ギャップ・ペナルティ=5、ウィンドウ=4、及び保存ダイアゴナル=4とすることができる。タンパク質のアライメントの場合、対同士のアライメント・パラメータは、Ktuple=1、ギャップ・ペナルティ=3、ウィンドウ5、及び保存ダイアゴナル=5とすることができる。
【0069】
ある好適な実施態様では、二つのアミノ酸配列間のパーセント同一性を、GCGソフトウェア・パッケージ(オンラインで入手できる)のGAPプログラムに組み込まれたニードルマン及びワンシュ(J. Mol. Biol. (48):444-453 (1970))のアルゴリズムを用い、Blossum 62 行列又はPAM250行列を用いて、ギャップ・ウェイトを16、14、12、10、8、6、又は4にし、レングス・ウェイトを1、2、3、4、5、又は6にして、決定する。さらに別の好適な実施態様では、二つのヌクレオチド配列間のパーセント同一性を、GCGソフトウェア・パッケージ(オンラインで入手できる)のGAPプログラムを用い、NWSgapdna.CMP 行列を用いて、ギャップ・ウェイトを40、50、60、70、又は80 にし、そしてレングス・ウェイトを1、2、3、4、5、又は6にして決定する。別の実施態様では、二つのアミノ酸又はヌクレオチド配列間のパーセント同一性を、ALIGNプログラム(バージョン2.0)(オンラインで入手できる)に組み込まれた E. マイヤース及びW. ミラーのアルゴリズム(CABIOS, 4:11-17(1989)) を用い、PAM120 ウェイト残基表を用いて、ギャップ・レングス・ペナルティを12、そしてギャップ・ペナルティを4にして、決定する。
【0070】
配列番号2又は配列番号5のタンパク質に相同なPGC-1タンパク質相同体をコードする単離された核酸分子は、配列番号1もしくは配列番号4 のヌクレオチド配列又は相同ヌクレオチド配列に、一箇所以上のヌクレオチド置換、追加又は欠失を導入することで、コードされたタンパク質に一箇所以上のアミノ酸置換、追加又は欠失が導入されるようにして、作製できる。部位指定変位誘発法及びPCR媒介変異誘発法など、標準的な技術により、配列番号1もしくは配列番号4 又はその相同ヌクレオチド配列に変異を導入することができる。好ましくは、保存的アミノ酸置換を一箇所以上の推定非必須アミノ酸残基で行うとよい。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基を同様の側鎖を有するアミノ酸残基に置換するものである。同様の側鎖を有するアミノ酸残基の仲間が当業で定義されている。これらの仲間には、塩基性の側鎖を持つアミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性の側鎖を持つアミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷の極性側鎖を持つアミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性の側鎖を持つアミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ-分岐側鎖を持つアミノ酸(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖を持つアミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、がある。このように、PGC-1の推定非必須アミノ酸残基は、 同じ側鎖の仲間の別のアミノ酸残基に置換されることが好ましい。代替的には、別の実施態様では、飽和変異誘発法などにより、PGC-1コーディング配列の全部又は一部に変異をランダムに導入し、生じた変異体を、ここで解説するPGC-1活性についてスクリーニングして、PGC-1活性の残った変異体を同定することができる。配列番号1もしくは配列番号4,の変異誘発後、コードされたタンパク質を、(ここで解説するように)組換えにより発現させることができ、そのタンパク質の活性を、ここで解説する検定などを用いて調べることができる。
【0071】
上に解説したPGC-1タンパク質をコードする核酸分子に加え、本発明の別の局面は、」それに対してアンチセンスな単離された核酸分子に関するものである。「アンチセンス」核酸は、例えば、二本鎖cDNA分子のコーディング鎖に相補的、又は、mRNA配列に対して相補的であるなど、あるタンパク質をコードする「センス」核酸に相補的なヌクレオチド配列を含んで成るものである。従って、アンチセンス核酸はセンス核酸に水素結合することができる。このアンチセンス核酸は、PGC-1コーディング鎖全体に相補的であっても、又は、その一部分にのみ相補的であってもよい。ある実施態様では、アンチセンス核酸分子は、PGC-1をコードするヌクレオチド配列のコーディング鎖の「コーディング領域」に対してアンチセンスである。用語「コーディング領域」とは、アミノ酸残基に翻訳されるコドンを含んで成るヌクレオチド配列領域を言い(例えば、配列番号1 のコーディング領域全体は、ヌクレオチド92 から2482までを含んで成り、配列番号4 のコーディング領域全体はヌクレオチド89から2482までを含んで成る)。別の実施態様では、前記アンチセンス核酸分子は、PGC-1をコードするヌクレオチド配列のコーディング鎖の「非コーディング領域」に対してアンチセンスである。用語「非コーディング領域」とは、コーディング領域をフランクする、アミノ酸に翻訳されない5' 末端側及び3' 末端側配列(即ち、5' 末端及び3' 末端非翻訳領域とも呼ばれる)を言う。
【0072】
ここに開示するPGC-1をコードするコーディング鎖配列(例えば配列番号1 及び 配列番号4)があることで、本発明のアンチセンス核酸は、ワトソン・クリックの塩基対の法則に従ってデザインすることができる。本アンチセンス核酸分子は、PGC-1 mRNAのコーディング領域全体に相補的であってもよいが、より好ましくは、PGC-1 mRNAのコーディングもしくは非コーディング領域の一部にのみ、アンチセンスであるオリゴヌクレオチドであるとよい。例えば、本アンチセンス・オリゴヌクレオチドは、PGC-1 mRNAの翻訳開始部位周囲の領域に対して相補的であってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45 又は50ヌクレオチド長であってよい。本発明のアンチセンス核酸は、当業で公知の手法を用いた化学合成及び酵素連結反応を用いて構築することができる。例えば、アンチセンス核酸(例えばアンチセンス・オリゴヌクレオチド)を、天然型ヌクレオチドを用いたり、又は、当該分子の生物学的安定性を高めるか、又は、当該アンチセンス及びセンス核酸間に形成される二本鎖の物理的安定性を高めるようにデザインされた様々に修飾されたヌクレオチドを用いて、化学合成することができ、例えばホスホロチオエート誘導体及びアクリジン置換ヌクレオチドを用いることができる。本アンチセンス核酸を作製するのに使用できる修飾されたヌクレオチドの例には、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、ベータ-D-ガラクトシルケオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、ベータ-D-マンノシルケオシン、5'-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸 (v)、ワイブトキソシン、プソイドウラシル、ケオシン, 2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸 (v)、5-メチル-2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、及び2,6-ジアミノプリン、がある。代替的には、本アンチセンス核酸は、核酸をアンチセンス方向でサブクローンしてある発現ベクタを用いて生物学的に作製することができる(即ち、挿入された核酸から転写されるRNAは、以下の小項でさらに解説する標的核酸に対してアンチセンス方向のものとなる)。
【0073】
本発明のアンチセンス核酸分子は、典型的には、PGC-1タンパク質をコードする細胞内mRNA及び/又はゲノムDNA にハイブリダイズ又は結合することで、転写及び/又は翻訳を阻害するなどにより、当該タンパク質の発現を抑制するようにに、対象に投与するか、又は in situ で生成させる。このハイブリダイゼーションは、安定な二本鎖を形成する従来のヌクレオチド相補性によるものでも、あるいは、例えばDNA二本鎖に結合するアンチセンス核酸分子の場合には、二重らせんの大溝との特異的相互作用によるものでもよい。本発明のアンチセンス核酸分子の投与経路の一例には、組織部位での直接の注射がある。代替的には、アンチセンス核酸分子を所定の細胞を狙うように修飾した後、全身投与することもできる。例えば、全身投与の場合、所定の細胞表面上に発現する抗原又は受容体に特異的に結合するように、細胞表面受容体又は抗原に結合するペプチド又は抗体にこのアンチセンス核酸分子を連結するなどにより、アンチセンス分子を修飾できる。さらに本アンチセンス核酸分子は、ここに解説するベクタを用いて細胞に送達することもできる。本アンチセンス分子の細胞内濃度を充分にするには、本アンチセンス核酸分子を強力なpol II又はpol IIIプロモータの制御下に置いたベクタ構築物が好適である。
【0074】
さらに別の実施態様では、本発明のアンチセンス核酸分子は、α-アノマー位核酸分子である。α-アノマー位核酸分子は、相補RNAと特異的な二本鎖ハイブリッドを形成するが、このとき、この二本鎖ハイブリッドは、通常のβ-ユニットとは対照的に、相互に平行に並ぶ(Gaultier et al. (1987) Nucleic Acids. Res. 15:6625-6641)。また本アンチセンス核酸分子は、2'-o-メチルリボヌクレオチド(Inoue et al. (1987) Nucleic Acids Res. 15:6131-6148)又はキメラRNA-DNA類似体を含んで成るものでもよい(Inoue et al. (1987) FEBS Lett. 215:327-330)。
【0075】
さらに別の実施態様では、本発明のアンチセンス核酸はリボザイムである。リボザイムは、リボヌクレアーゼ活性を持つ触媒性RNA分子であり、mRNAなど、相補領域を有する相手である一本鎖核酸を開裂することができる。このように、リボザイム(例えばHaseloff and Gerlach (1988) Nature 334:585-591に解説されているハンマーヘッドリボザイム)を用いると、PGC-1 mRNA転写産物を触媒作用により開裂させて、PGC-1 mRNAの翻訳を阻害することができる。PGC-1をコードする核酸に対して特異性を有するリボザイムは、ここに開示するPGC-1 cDNA(例えば配列番号1もしくは配列番号4)のヌクレオチド配列に基づいてデザインすることができる。例えば、活性部位のヌクレオチド配列が、PGC-1をコードするmRNA中で開裂させようとするヌクレオチド配列に相補的なテトラヒメナ(Tetrahymena) L-19 IVS RNA の誘導体を構築することができる。例えば Cech 氏らの米国特許第4,987,071号及びCech 氏らの米国特許第5,116,742号を参照されたい。代替的には、 PGC-1 mRNAを用いて、特異的リボヌクレアーゼ活性を有する触媒作用のあるRNAを、RNA分子の中のプールから選抜することができる。例えばBartel, D. and Szostak, J.W. (1993) Science 261:1411-1418を参照されたい。
【0076】
代替的には、PGC-1 の調節領域(例えばPGC-1プロモータ及び/又はエンハンサ)に相補的なヌクレオチド配列 をターゲティングして、PGC-1 遺伝子の標的細胞内での転写を妨げる三重らせん構造を形成させても、PGC-1遺伝子発現を阻害することができる。概略的には、Helene, C. (1991) Anticancer Drug Des. 6(6):569-84; Helene, C. et al. (1992) Ann. N.Y. Acad. Sci. 660:27-36; 及びMaher, L.J. (1992) Bioassays 14(12):807-15を参照されたい。
【0077】
II. 組換え発現ベクタ及び宿主細胞
本発明の別の局面は、PGC-1(又はその一部分)をコードする核酸を含有するベクタ、好ましくは発現ベクタ、の使用に関する。ここで用いる用語「ベクタ」とは、連結された先の別の核酸を輸送できる核酸分子を言う。ベクタの一種類は、追加のDNAセグメントを連結できる環状の二本鎖DNAループを言う「プラスミド」である。ベクタのもう一つの種類が、追加のDNAセグメントをウィルスゲノム中に連結できるウィルス・ベクタである。いくつかのベクタは、導入された先の宿主細胞内で自律的複製が可能である(例えば細菌性複製開始点を有する細菌ベクタ及びエピソーム哺乳動物ベクタなど)。他のベクタ(例えば非エピソーム哺乳動物ベクタ)は、宿主細胞に導入されるや、宿主細胞のゲノムに組み込まれ、宿主のゲノムと一緒に複製される。さらに、いくつかのベクタは、作動上連結された先の遺伝子の発現を命令することができる。このようなベクタをここでは「発現ベクタ」と呼ぶ。一般的に、組換えDNA技術で用いられる発現ベクタは、 しばしばプラスミドの形である。本明細書においては、プラスミドが最も普通に用いられている形のベクタであるため、「プラスミド」及び「ベクタ」を交換可能に用いている場合がある。しかしながら、本発明には、例えばウィルスベクタ(例えば複製欠陥レトロウィルス、アデノウィルス及びアデノ随伴ウィルス)など、同等の機能を果たす他の形の発現ベクタも含まれることを意図している。PGC-1核酸分子を含んで成るアデノウィルスベクタが好ましい。
【0078】
本発明の組換え発現ベクタは、宿主細胞内で核酸を発現させるのに適した形で本発明の核酸を含んで成るが、このことは、本組換え発現ベクタには、発現させようとする核酸配列に作動上連結させた、発現に用いる宿主細胞に基づいて選択された一種以上の調節配列を含有することを意味している。組換え発現ベクタ内で「作動上連結された」とは、当該のヌクレオチドの発現が(例えば、in vitro転写/翻訳系か、又は、宿主細胞にベクタを導入したときには宿主細胞内で)可能な態様で、当該のヌクレオチド配列が調節配列に連結されていることを意味するものと、意図されている。用語「調節配列」には、プロモータ、エンハンサ及び他の発現制御配列(例えばポリアデニレーション・シグナル)が含まれるものと、意図する。このような調節配列は、例えば、Goeddel; Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に解説されている。調節配列には、多種の宿主細胞でヌクレオチドの構成的発現を命令するもの、特定の宿主細胞でのみヌクレオチド配列の発現を命令するもの(例えば組織特異的調節配列)、がある。当業者であれば、発現ベクタのデザインは、形質転換しようとする宿主細胞の選択、所望のタンパク質発現レベル等のような因子に応じるであろうことは理解されよう。本発明の発現ベクタを宿主細胞に導入することで、ここに解説した通りの核酸にコードされた、(例えば PGC-1タンパク質、変異型のPGC-1、融合タンパク質等)融合タンパク質又はペプチドを含むタンパク質又はペプチドを作製することができる。
【0079】
本発明の組換え発現ベクタは、原核細胞又は真核細胞でPGC-1を発現するよう、デザインすることができる。例えば、PGC-1は、E.coliなどの細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウィルス発現ベクタを用いて)酵母細胞又は哺乳動物細胞内で発現させることができる。適した宿主細胞は、さらにGoeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に解説されている。代替的には、本組換え発現ベクタを、例えばT7プロモータ調節配列及びT7ポリメラーゼを用いて、in vitroで転写及び翻訳させることができる。
【0080】
原核生物のタンパク質の発現は、もっぱら、融合又は非融合タンパク質のいずれかの発現を命令する構成的もしくは誘導性プロモータを含有するベクタで、E. coli内で行われている。融合ベクタにより、多数のアミノ酸が、内部にコードされたタンパク質の、通常はその組換えタンパク質のアミノ末端に追加される。このような融合ベクタは典型的に三つの目的に役立つ。即ち、1)組換えタンパク質の発現を増加させる;2)組換えタンパク質の可溶性を増す;及び3)親和精製法においてリガンドとして作用することで、組換えタンパク質の精製に役立つ、である。しばしば、融合発現ベクタにおいては、タンパク質分解開裂部位を、融合部分と組換えタンパク質部分との接合部に導入して、融合タンパク質の精製後に、融合部分から組換えタンパク質を分離できるようにする。このような酵素、及びそれらのコグネイト認識配列には、ファクタ Xa、トロンビン及びエンテロキナーゼがある。典型的な融合発現ベクタには、それぞれグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質又はプロテインAを標的組換えタンパク質に融合するpGEX(ファルマシア・バイオテック社製;Smith, D.B. and Johnson, K.S. (1988) Gene 67:31-40)、pMAL (マサチューセッツ州ビバリー、ニューイングランド・バイオラブズ社製)及びpRIT5 (ニュージャージー州ピスカタウェイ、ファルマシア社製)、がある。ある実施態様では、PGC-1のコーディング配列をpGEX発現ベクタ内にクローンして、N末端からC末端にかけて、GST-トロンビン開裂部位-PGC-1を含んで成る融合タンパク質をコードするベクタを作製する。この融合タンパク質は、グルタチオン-アガロース樹脂を用いたアフィニティ・クロマトグラフィにより精製することができる。GSTに融合しなかった組換えPGC-1 は、トロンビンでこの融合タンパク質を開裂させると、回収できる。
【0081】
適した誘導性非融合E. coli 発現ベクタの例には、pTrc (Amann et al., (1988) Gene 69:301-315)及びpET 11d(Studier et al., Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 60-89)がある。pTrcベクタからの標的遺伝子発現は、ハイブリッドtrp-lac融合プロモータからの宿主RNAポリメラーゼ転写に依拠している。pET 11d ベクタからの標的遺伝子発現は、同時発現するウィルスRNAポリメラーゼ(T7 gn1)が媒介するT7 gn10-lac融合プロモータからの転写に依拠する。このウィルスポリメラーゼは、宿主株BL21(DE3) 又はHMS174(DE3) により、 lacUV 5プロモータの転写制御下にあるT7 gn 1遺伝子を持つ 定住λプロファージから提供される。
【0082】
組換えタンパク質の発現をE. coli内で最大にする戦略の一つは、この組換えタンパク質をタンパク質分解により開裂させる能力の損なわれた宿主細菌内でこのタンパク質を発現させることである(Gottesman, S., Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 119-128)。もう一つの戦略は、各アミノ酸の個々のコドンが、E. coli内で優先的に利用されるものになるように、発現ベクタ内に挿入する予定の核酸の核酸配列を変更することである(Wada et al. (1992) Nucleic Acids Res. 20:2111-2118)。本発明の核酸配列のこのような変更は、標準的なDNA合成技術により、行うことができる。
【0083】
別の実施態様では、PGC-1発現ベクタは酵母発現ベクタである。酵母S.セレビジエで発現させるためのベクタの例にはpYepSec1(Baldari, et al., (1987) EMBO J. 6:229-234)、pMFa(Kurjan and Herskowitz, (1982) Cell 30:933-943)、pJRY88 (Schultz et al., (1987) Gene 54:113-123)、及びpYES2(カリフォルニア州サンディエゴ、インビトロジェン・コーポレーション社製)がある。
【0084】
代替的には、バキュロウィルス発現ベクタを用いて昆虫細胞でPGC-1を発現させることができる。タンパク質を培養昆虫細胞(例えばSf 9細胞)で発現させるのに利用できるバキュロウィルスベクタには、pAc シリーズ(Smith et al. (1983) Mol. Cell Biol. 3:2156-2165)及びpVL シリーズ(Lucklow and Summers (1989) Virology 170:31-39)がある。
【0085】
さらに別の実施態様では、本発明の核酸を、哺乳動物発現ベクタを用いて哺乳動物細胞で発現させる。哺乳動物発現ベクタの例には、pCDM8(Seed, B. (1987) Nature 329:840)及びpMT2PC (Kaufman et al. (1987) EMBO J. 6:187-195)がある。哺乳動物細胞内で用いる場合、発現ベクタの制御機能は、しばしば、ウィルス調節配列に提供させる。例えば、通常用いられているプロモータは、ポリオーマ、アデノウィルス2、サイトメガロウィルス及びシミアン・ウィルス40由来である。原核及び真核細胞の両方で適した他の発現系については、Sambrook, J., Fritsh, E. F., and Maniatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989の第16章及び第17章を参照されたい。
【0086】
別の実施態様では、本組換え哺乳動物発現ベクタは、特定の細胞種で優先的に核酸を発現するよう命令することができる(例えば組織特異的調節配列を用いて核酸を発現させる)。組織特異的調節配列は当業で公知である。適した組織特異的プロモータの非限定的例には、アルブミンプロモータ(肝臓特異的;Pinkert et al. (1987) Genes Dev. 1:268-277)、リンパ球特異的プロモータ(Calame and Eaton (1988) Adv. Immunol. 43:235-275)、特にT細胞受容体のプロモータ(Winoto and Baltimore (1989) EMBO J. 8:729-733)及び免疫グロブリン(Banerji et al. (1983) Cell 33:729-740; Queen and Baltimore (1983) Cell 33:741-748)、神経細胞特異的プロモータ(例えば神経芽細胞プロモータ;Byrne and Ruddle (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:5473-5477)、膵臓特異的プロモータ(Edlund et al. (1985) Science 230:912-916)、及び乳腺特異的プロモータ(例えば乳清プロモータ;米国特許第4,873,316 号及びヨーロッパ特許公報第264,166号)がある。マウスホックスプロモータ(Kessel and Gruss (1990) Science 249:374-379)及びα-フェトタンパク質プロモータ(Campes and Tilghman (1989) Genes Dev. 3:537-546)など、発生上調節を受けるプロモータも包含するところである。
【0087】
さらに本発明は、本発明のDNA分子を発現ベクタ内にアンチセンス方向でクローンして含む組換え発現ベクタも提供する。即ち、このDNA分子は、PGC-1 mRNAに対してアンチセンスなRNA分子の発現(このDNA分子の転写による)が可能な態様で調節配列に作動上連結されている。アンチセンス方向でクローンさせた核酸に作動上連結した調節配列は、多種の細胞種でこのアンチセンスRNA分子の継続的発現を命令するものを選択することができ、例えば、アンチセンスRNAの構成的、組織特異的及び/又は細胞種特異的発現を命令するようなウィルス・プロモータ及び/又はエンハンサ、又は調節配列を選択することができる。アンチセンス発現ベクタは組換えプラスミド、ファージミド又は弱毒化ウィルスの形であってもよく、このときアンチセンス核酸は、効率の高い調節領域の制御下において作製し、その活性は、当該ベクタを導入する細胞種により決定することができる。アンチセンス遺伝子を用いた遺伝子発現の調節の考察については、Weintraub, H. et al., Antisense RNA as a molecular tool for genetic analysis, Reviews - Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986を参照されたい。
【0088】
本発明の別の局面は、本発明の組換え発現ベクタを導入してある宿主細胞に関するものである。用語「宿主細胞」及び「組換え宿主細胞」はここでは交換可能に用いられている。このような用語は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の後代又は潜在的後代も言うと、理解されている。突然変異又は環境による影響が原因で後の世代に何らかの改変が起きる場合があるため、このような後代は、実際には親細胞と同一でないかもしれないが、尚、ここで用いるこの用語の範囲に包含される。
【0089】
宿主細胞は原核細胞でも、又は真核細胞でもよい。例えば、PGC-1タンパク質は、E. coliなどの細菌細胞、昆虫細胞、酵母又は哺乳動物細胞(例えばFaoヘパトーム細胞、初代肝細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)又はCOS細胞))内で発現させることができる。他の適した宿主細胞は当業者に公知である。
【0090】
ベクタDNAは、原核細胞又は真核細胞に、従来の形質転換又はトランスフェクション技術を通じて導入することができる。ここで用いる用語「形質転換」及び「トランスフェクション」とは、 リン酸カルシウム又は塩化カルシウム同時沈殿法、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、又は電気穿孔法を含め、外来の核酸(例えばDNA)を宿主細胞に導入する様々な当業で公知の技術を言うものと、意図されている。宿主細胞を形質転換又はトランスフェクトするための適した方法は、 Sambrook, et al. (Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)、及び他の研究室用手引きに見ることができる。
【0091】
哺乳動物細胞への安定なトランスフェクションに関しては、用いる発現ベクタ及びトランスフェクション技術によっては、細胞のうちのごく僅かの部分しか、外来のDNAをそれらのゲノムに組み込まないことがあることが知られている。これらの組み込み体を同定及び選抜するためには、選択マーカ(例えば抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子を、目的の遺伝子と一緒に宿主細胞に導入するのが一般的である。好適な選択マーカには、G418、ヒグロマイシン及びメトトレキセートなどの薬物に対する耐性をもたらすものがある。選択マーカをコードする核酸は、宿主細胞に、PGC-1をコードするものと同じベクタに載せて導入することも、又は、別のベクタに載せて導入することもできる。導入された核酸が安定にトランスフェクトした細胞は、薬剤選択により同定できる(例えば選択マーカ遺伝子を取り込んだ細胞は生き残り、その他の細胞は死滅するなど)。
【0092】
培養原核もしくは真核宿主細胞などの本発明の宿主細胞を、PGC-1タンパク質を産生(即ち発現)させるために用いることができる。従って、さらに本発明は、本発明の宿主細胞を用いてPGC-1タンパク質を作製する方法も提供する。ある実施態様では、本方法は、PGC-1が産生されるまで、(PGC-1をコードする組換え発現ベクタを導入してある)本発明の宿主細胞を培養するステップを含む。別の実施態様では、さらに本方法は、PGC-1を培地又は宿主細胞から単離するステップも含む。
【0093】
本発明の宿主細胞は非ヒトトランスジェニック動物を作製するためにも使用できる。非ヒトトランスジェニック動物は、例えばグルコース恒常性障害、体重の異常、又は、インシュリン活性の不足に関連する異常など、所定の障害の有害な症状を軽減することができるものなど、薬物、医薬などの作用物質又は化合物を同定するようデザインされたスクリーニング検定で用いることができる。例えば、ある実施態様では、本発明の宿主細胞は、PGC-1をコードする配列を導入してある受精卵又は胚性幹細胞である。こうしてこのような宿主細胞を、外因性PGC-1配列がそれらのゲノムに導入された非ヒトトランスジェニック動物、又は、内因性PGC-1配列が変更された相同組換え動物を作製するために用いることができる。このような動物は、PGC-1の機能及び/又は活性を研究したり、そしてPGC-1 活性のモジュレータを同定及び/又は評価する上で有用である。ここで用いる「トランスジェニック動物」とは、当該動物の一個以上の細胞が導入遺伝子を含有する非ヒト動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはラット又はマウスなどのげっ歯類である。 トランスジェニック動物の他の例には、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ヤギ、ニワトリ、両生類、等がある。導入遺伝子とは、トランスジェニック動物が発生する元の細胞のゲノム中に組み込まれ、成体動物のゲノム内に留まって、コードされた遺伝子産物の発現をそのトランスジェニック動物の一種以上の細胞種又は組織で命令する外因性DNAである。ここで用いる「相同組換え動物」とは、動物の発生前に、内因性遺伝子と、その動物の胚細胞などの当該動物の細胞に導入された外因性DNAとの間に相同組換えが起きることで内因性PGC-1遺伝子が変更された非ヒト動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはマウス、である。
【0094】
本発明のトランスジェニック動物は、PGC-1をコードする核酸を、受精卵の雄性前核に、例えば顕微注射、レトロウィルス感染などにより導入して、この卵を偽妊娠のメスの仮親動物内で発生させることにより、作製できる。 ヒトPGC-1 cDNA配列を、非ヒト動物のゲノム内に導入遺伝子として導入できる。代替的には、ヒトPGC-1遺伝子(配列番号4)の非ヒト相同体、例えばマウスPGC-1遺伝子(配列番号1)など、を導入遺伝子として使用できる。導入遺伝子の発現効率を高めるために、イントロン配列及びポリアデニレーション・シグナルも導入遺伝子に含めることができる。組織特異的調節配列をPGC-1導入遺伝子に作動上連結すると、PGC-1タンパク質の発現を特定の細胞に方向付けることができる。胚の操作及び顕微注射を通じてトランスジェニック動物、特にマウスなどの動物、を作製する方法は、当業で常法となっており、例えば両者ともレダー氏らの米国特許第4,736,866号及び第4,870,009 号、ワグナー氏の米国特許第4,873,191号 及びHogan, B., Manipulating the Mouse Embryo, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1986)などに解説されている。同様な方法は、他のトランスジェニック動物の作製にも用いられている。トランスジェニック始祖動物は、そのゲノム中のPGC-1導入遺伝子の存在、及び/又は、当該動物の組織又は細胞におけるPGC-1 mRNAの発現、に基づいて同定できる。こうしてトランスジェニック始祖動物は、当該導入遺伝子を持つ更なる動物を育種するために、用いることができる。さらに、PGC-1をコードする導入遺伝子を持つトランスジェニック動物を、他の導入遺伝子を持つ他のトランスジェニック動物と交配することもできる。
【0095】
相同組換え動物を作製するには、欠失、追加又は置換を導入してPGC-1遺伝子を機能的に破壊するなど、変更してあるPGC-1遺伝子の少なくとも一部分を含有するベクタを作製する。PGC-1 遺伝子はヒト遺伝子であってもよいが(例えば、配列番号1のcDNAでスクリーニングしたヒトゲノムライブラリから単離されたヒトゲノムクローンなど)、より好ましくは、ヒトPGC-1遺伝子の非ヒト相同体である。例えば、マウスPGC-1遺伝子を用いると、マウスゲノム中の内因性PGC-1遺伝子を変更するのに適した相同組換えベクタを構築することができる。ある好適な実施態様では、相同組換えを起こしたときに、内因性PGC-1遺伝子が機能的に破壊されるように(即ち、機能タンパク質をもはやコードしていない;ここでは「ノックアウト」ベクタとも呼ばれる)、ベクタをデザインする。代替的には、相同組換えを起こしたときに、内因性のPGC-1遺伝子が変異又は変化はしているが、それでも尚、機能タンパク質をコードしているように(例えば上流の調節領域を変更して、内因性PGC-1タンパク質の発現を変化させることができる)、ベクタをデザインすることができる。この相同組換えベクタにおいては、PGC-1遺伝子のうちの変更部分を、その5'末端及び3'末端でPGC-1遺伝子の付加的な核酸でフランクすることで、相同組換えが、ベクタの持つ外因性PGC-1遺伝子と、胚性幹細胞中の内因性PGC-1遺伝子との間で起きるようにする。前記付加的なフランキングPGC-1核酸は、内因性遺伝子との相同組換えが成功する充分な長さのものである。典型的には、数キロベースのフランキングDNA(5' 末端及び3' 末端の両方で)をベクタに含める(相同組換えベクタの解説については例えばThomas, K.R. and Capecchi, M. R. (1987) Cell 51:503を参照されたい)。ベクタを胚性幹細胞株に(例えば電気穿孔法により)導入し、導入されたPGC-1 遺伝子が内因性PGC-1遺伝子と相同組換えした細胞を選抜する(例えば Li, E. et al. (1992) Cell 69:915を参照されたい)。次にこの選抜された細胞を動物(例えばマウス)の胚盤胞に注射して、凝集キメラを形成させる(例えば Bradley, A. in Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach, E.J. Robertson, ed. (IRL, Oxford, 1987) pp. 113-152を参照されたい)。こうして、キメラ胚を適した偽妊娠のメスの仮親動物に移植して、胚を産期に至らせることができる。相同組換えを起こしたDNAを生殖細胞に持つ後代を用いると、動物の全細胞が相同組換えを起こしたDNAを含有する動物を、導入遺伝子の生殖系伝播により育種することができる。相同組換えベクタ及び相同組換え動物の作製法はさらに Bradley, A. (1991) Current Opinion in Biotechnology 2:823-829 及びリ・ムーレック氏らのPCT国際公報 WO 90/11354 ;スミシーズ氏らの WO 91/01140;ジルストラ氏らの WO 92/0968 ;及びバーンズ氏らのWO 93/04169に解説されている。
【0096】
別の実施態様では、導入遺伝子の発現調節が可能なよう所定の系を含有するトランスジェニック非ヒト動物を作製することができる。このような系の一例はバクテリオファージP1のcre/loxP リコンビナーゼ系である。cre/loxP リコンビナーゼ系の解説については、例えばLakso et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:6232-6236を参照されたい。リコンビナーゼ系の別の例は、サッカロミセス−セレビジエのFLPリコンビナーゼ系である(O'Gorman et al. (1991) Science 251:1351-1355)。cre/loxP リコンビナーゼ系を導入遺伝子の発現を調節するために用いる場合は、Creリコンビナーゼ及び所定のタンパク質の両方をコードする導入遺伝子を含有する動物が必要である。このような動物は、一方が所定のタンパク質をコードする導入遺伝子を含有し、他方がリコンビナーゼをコードする導入遺伝子を含有するといった二匹のトランスジェニック動物を交配するなどにより、「二重の」トランスジェニック動物を作製することにより、作製できる。
【0097】
さらにここで解説する非ヒトトランスジェニック動物のクローンは、Wilmut, I. et al. (1997) Nature 385:810-813 及びPCT国際公報No. WO 97/07668 及びWO 97/07669に解説された方法に従っても、作製できる。簡単に説明すると、トランスジェニック動物の体細胞などの細胞を分離し、細胞周期から出てG0期に入るように誘発する。 この休止期細胞を次に、例えば電気パルスを使用するなどして、この休止期細胞を分離したのと同じ種の動物の除核卵母細胞に融合することができる。次に、この再構築した卵母細胞を、桑実胚又は胚盤胞になるまで培養した後、偽妊娠のメスの仮親動物に写す。このメスの仮親動物から生まれた仔は、体細胞などの細胞を分離したもとの動物のクローンとなるであろう。
【0098】
III. 単離された PGC-1 タンパク質及び抗 PGC-1 抗体
本発明の別の局面は、単離されたPGC-1タンパク質及びその生物活性部分や、抗PGC-1抗体を産生させる免疫原として用いるのに適したペプチド断片の使用に関するものである。「単離された」又は「精製された」タンパク質又はその生物活性部分とは、組換えDNA技術により作製された場合には細胞物質、あるいは化学合成された場合には化学的前駆体又は他の化学物質を概ね含まないものである。言語「細胞物質を実質的に含まない」には、当該タンパク質が天然もしくは組換えにより産生された細胞の細胞成分から当該タンパク質が分離されている、PGC-1タンパク質の製剤が含まれる。ある実施態様では、言語「細胞物質を実質的に含まない」は、非PGC-1タンパク質(ここでは「夾雑タンパク質」とも呼ぶ)を(乾燥重量で)約30%未満、より好ましくは非PGC-1タンパク質を約20%未満、さらにより好ましくは非PGC-1タンパク質を約10%未満、そして最も好ましくは非PGC-1タンパク質を約5%未満、有するPGC-1タンパク質の製剤を包含する。本PGC-1タンパク質又はその生物活性部分を組換えにより作製した場合、さらにそれが培地を実質的に含まないことが好ましく、即ち、培地が当該タンパク質製剤の体積の約20%未満、より好ましくは約10%未満、そして最も好ましくは約5%未満を占めるとよい。言語「化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない」は、当該タンパク質の合成に関与する化学的前駆体又は他の化学物質から当該タンパク質が分離されているPGC-1タンパク質の製剤を包含する。ある実施態様では、言語「化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない」は、化学的前駆体又は非PGC-1化学物質を(乾燥重量で)約30%未満、より好ましくは化学的前駆体又は非PGC-1化学物質を約20%未満、さらにより好ましくは化学的前駆体又は非PGC-1化学物質を約10%未満、そして最も好ましくは化学的前駆体又は非PGC-1化学物質を約5%未満、有するPGC-1タンパク質の製剤を包含する。好適な実施態様では、単離されたタンパク質又はその生物活性部分は、そのPGC-1タンパク質を得たのと同じ動物を由来とする夾雑タンパク質を欠くものである。典型的には、このようなタンパク質は、ヒトPGC-1タンパク質を非ヒト細胞内などで組換え発現させることで、生成される。
【0099】
本発明の単離されたPGC-1タンパク質又はその一部分は、以下:1)ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、グルコース-6-ホスファターゼ、及び/又はフルクトース-1,6-ビスホスファターゼの発現を調節できる;2)PEPCKプロモータに結合及び/又はその活性を調節できる;3)HNF-4αに結合及び/又はその活性を調節できる;4)FKHRに結合及び/又はその活性を調節できる;5)細胞からのグルコース生成を調節できる;;6)グルコース新生を調節できる;7)グルコース恒常性を調節できる;8)糖尿病又は肥満など、PGC-1の発現又は活性の上昇を特徴とする疾患又は障害を治療できる;及び9)グルコース生成の不足を特徴とする疾患又は障害など、PGC-1発現又は活性の低下に関連する疾患又は障害を治療できる、といった生物学的活性のうちの一つ以上を有する。
【0100】
好適な実施態様では、本タンパク質又はその部分は、本タンパク質又はその一部分がグルコース新生を調節する能力を維持しているように、配列番号2又は配列番号5 のアミノ酸配列に充分相同なアミノ酸配列を含んで成る。本タンパク質の前記一部分は、好ましくは、ここで解説するような生物活性部分であるとよい。別の好適な実施態様では、本PGC-1タンパク質(即ち、アミノ酸残基1-797 及びアミノ酸残基1-798)は、それぞれ、配列番号2又は配列番号5に示したアミノ酸配列か、又は、 配列番号2又は配列番号5に示したアミノ酸配列に、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上相同であるアミノ酸配列を有する。さらに別の好適な実施態様では、本PGC-1タンパク質は、配列番号1もしくは配列番号4のヌクレオチドに対し、又は、配列番号1もしくは配列番号4に示したヌクレオチド配列に少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上相同であるヌクレオチドに対し、例えばストリンジェントな条件下でハイブリダイズするなど、ハイブリダイズするヌクレオチドにコードされたアミノ酸配列を有するものである。本発明の好適なPGC-1タンパク質は、さらに、ここで解説するPGC-1生物活性のうちの少なくとも一つを持つとよい。例えば、本発明のある好適なPGC-1タンパク質は、配列番号1もしくは配列番号4 のヌクレオチド配列に、例えばストリンジェントな条件下でハイブリダイズするなど、ハイブリダイズすると共にグルコース新生を調節可能なヌクレオチド配列にコードされたアミノ酸配列を含有するものである。
【0101】
他の実施態様では、本PGC-1タンパク質は、配列番号2又は配列番号5のアミノ酸配列に実質的に相同であり、配列番号2又は配列番号5 のタンパク質の機能的活性を留めてはいるが、上の小項Iで解説したように、天然のアレルのバリエーション又は突然変異誘発が原因でアミノ酸が異なるものである。従って、別の実施態様では、本PGC-1タンパク質は、配列番号2、配列番号5のアミノ酸配列に少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%又はそれ以上相同であるアミノ酸配列を含んで成るタンパク質である。
【0102】
本PGC-1タンパク質の生物活性部分は、配列番号2又は配列番号5に示すアミノ酸配列、又は、本PGC-1タンパク質に相同な一タンパク質のアミノ酸配列、などの本PGC-1タンパク質のアミノ酸配列を由来とするアミノ酸配列であって、例えば、PGC-1タンパク質活性のうちの少なくとも一つを示す、本完全長PGC-1タンパク質よりも少ない数のアミノ酸を含有する一タンパク質、又は、本PGC-1タンパク質に相同な完全長タンパク質、のアミノ酸配列を含んで成るペプチドを包含するものである。典型的には、生物活性部分(ペプチド、例えば5、10、15、20、30、35、36、37、38、39、40、50、100又はそれ以上のアミノ酸長のペプチドなど)は、PGC-1タンパク質の少なくとも一つの活性を持つドメイン又はモチーフ、例えばチロシンリン酸化部位、cAMPリン酸化部位、セリン-アルギニン(SR)リッチなドメイン及び/又はRNA結合モチーフ、を含んで成る。ある好適な実施態様では、ここで解説するドメイン/モチーフを一つ以上含有するタンパク質の生物活性部分は、脂肪細胞の分化及び/又は褐色脂肪細胞での熱発生を調節することができる。さらに、組換え技術により、本タンパク質の他の領域を欠失させた他の生物活性部分を作製でき、ここに解説した活性の一つ以上について評価することができる。好ましくは、本PGC-1タンパク質の生物活性部分には、生物活性を有する一種以上の所定のドメイン/モチーフ又はその部分を含有するとよい。
【0103】
ある好適な実施態様では、本PGC-1ポリペプチドは、ここで解説するようにドミナント・ネガティブである。ある実施例では、ドミナント・ネガティブPGC-1ポリペプチドは、配列番号2又は配列番号5のアミノ酸配列を含んで成り、この場合LXXLLモチーフ(例えば 配列番号2 のアミノ酸残基142-146、又は 、配列番号5のアミノ酸残基144-148、配列番号3とも記載されている)が変異させてある。ある実施例では、変異後のLXXLLモチーフがもはやHNF-4α又は他の核受容体への結合を媒介しないように、LXXLLモチーフのロイシン残基のうちの一つ以上を、代わりのアミノ酸残基(例えばアラニン)に置換することができる。ある好適な実施態様では、LXXLLモチーフの4番目の位置にあるロイシン残基をアラニンに置換する。別の実施態様では、LXXLLモチーフのうちの少なくとも1、2、3、4、又は5個のアミノ酸残基を欠失させる。
【0104】
PGC-1タンパク質は、好ましくは組換えDNA技術により作製するとよい。例えば、本タンパク質をコードする核酸分子を、(ここで解説した)発現ベクタ内にクローンし、この発現ベクタを(ここで解説した)宿主細胞に導入し、本PGC-1タンパク質をこの宿主細胞内で発現させる。次に、このPGC-1タンパク質を、適した精製スキームにより、標準的なタンパク質精製技術を用いて細胞から単離することができる。組換え発現の代わりに、PGC-1タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドは、標準的なペプチド合成技術を用いて化学合成できる。さらに、天然,PGC-1タンパク質を細胞(例えば褐色脂肪細胞)から、例えば(下に詳述する)抗PGC-1抗体を用いて単離することができる。
【0105】
さらに本発明は、PGC-1キメラ又は融合タンパク質を提供するものである。ここで用いるPGC-1「キメラタンパク質」又は「融合タンパク質」は、非PGC-1ポリペプチドに作動上連結させたPGC-1ポリペプチドを含んで成る。「PGC-1ポリペプチド」とは、PGC-1に相当するアミノ酸配列を有するポリペプチドを言い、他方、「非PGC-1ポリペプチド」とは、PGC-1タンパク質に実質的に相同でないタンパク質、例えば、PGC-1タンパク質とは異なり、かつ同じ又は異なる生物を由来とするタンパク質など、に相当するアミノ酸配列を有するポリペプチド、を言う。融合タンパク質内で、用語「作動上連結した」とは、PGC-1ポリペプチド及び非PGC-1ポリペプチドがインフレームで互いに融合されていることを指すものと、意図されている。非PGC-1ポリペプチドは、PGC-1ポリペプチドのN末端にも、又はC末端にも融合させることができる。例えば、ある実施態様では、この融合タンパク質は、PGC-1配列がGST配列のC末端に融合されたGST-PGC-1融合タンパク質である。このような融合タンパク質では、組換えPGC-1の精製を容易に行うことができる。別の実施態様では、前記融合タンパク質は、異種シグナル配列をそのN末端に含有するPGC-1タンパク質である。特定の宿主細胞(例えば哺乳動物宿主細胞)では、PGC-1 の発現及び/又は分泌を、異種シグナル配列を用いて増加させることができる。
【0106】
好ましくは、本発明のPGC-1 キメラ又は融合タンパク質を、標準的な組換えDNA技術により、作製する。例えば、平滑末端及又は付着末端を連結に用いる、制限酵素消化を行って適した末端を得る。適宜付着末端を充填する、アルカリホスファターゼ処理を行って望ましくない接合を防ぐ、そして酵素連結を行うなどの常法に従って、異なるポリペプチド配列をコードするDNA断片を相互にインフレームで連結する。別の実施態様では、自動DNA合成装置を含む常法により、本融合遺伝子を合成できる。代替的には、二つの連続した遺伝子断片の間で相補的な突出末端を生じるアンカープライマを用いて、遺伝子断片のPCR増幅を行い、これらの連続した遺伝子断片をその後アニールし、再増幅すれば、キメラ遺伝子配列を作製できる(例えばCurrent Protocols in Molecular Biology, eds. Ausubel et al. John Wiley & Sons: 1992を参照されたい)。さらに、既に融合部分(例えばGSTポリペプチド)をコードしている多くの発現ベクタが市販されている。PGC-1をコードする核酸は、融合部分がインフレームでPGC-1タンパク質に連結しているように、このような発現ベクタ内にクローンすることができる。
【0107】
さらに本発明は、PGC-1 アゴニスト(ミメティック)又はPGC-1アンタゴニストとして働く、PGC-1タンパク質の相同体にも関する。ある好適な実施態様では、前記PGC-1アゴニスト及びアンタゴニストは、それぞれ、天然型のPGC-1タンパク質の生物活性のサブセットを刺激又は抑制する。このように、機能の限られた相同体で処置することにより、特定の生物学的効果を惹起することができる。ある実施態様では、天然型のタンパク質の生物活性のサブセットを有する相同体で対象を処置すると、天然型のPGC-1タンパク質で処置した場合に比較して、対象における副作用が少ない。
【0108】
PGC-1タンパク質の相同体は、 本PGC-1タンパク質の離散点変異又はトランケーションなどの変異誘発により、作製することができる。ここで用いる用語「相同体」とは、PGC-1タンパク質の活性のアゴニスト又はアンタゴニストとして作用するバリアント型のPGC-1タンパク質を言う。PGC-1タンパク質のアゴニストは、PGC-1タンパク質の生物活性と実質的に同じ、又はそのサブセットを保持していることができる。PGC-1タンパク質のアンタゴニストは、PGC-1タンパク質を含むPGC-1カスケードの下流もしくは上流のメンバーに競合的に結合するなどにより、天然型のPGC-1タンパク質の一つ以上の活性を抑制することができる。このように、本発明の哺乳動物PGC-1タンパク質及びその相同体は、例えば、脂肪細胞の分化及び/又は褐色脂肪細胞における熱発生の正もしくは負の調節物質になることができる。
【0109】
代替的な実施態様では、PGC-1タンパク質のトランケーション変異型などの変異型のコンビナトリアル・ライブラリを、PGC-1タンパク質アゴニスト又はアンタゴニストとしての活性についてスクリーニングすることで、PGC-1タンパク質の相同体を同定することができる。ある実施態様では、核酸レベルでコンビナトリアル変異誘発を行ってPGC-1バリアントの多彩なライブラリを作製し、多彩な遺伝子ライブラリにコードさせる。PGC-1バリアントの多彩なライブラリは、例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物を、縮重組の潜在的PGC-1配列が個々のポリペプチドとして発現可能であるか、又は代替的には、内部にPGC-1配列の組を含有する一組のより大型の(ファージ・ディスプレイ用などの)融合タンパク質として発現可能であるように、酵素連結して遺伝子配列にすることで、作製できる。縮重オリゴヌクレオチド配列から潜在的PGC-1相同体のライブラリを作製するために利用できる多種の方法がある。縮重遺伝子配列の化学合成は、自動DNA合成装置で行うことができ、次に、この合成遺伝子を適した発現ベクタ内に連結することができる。縮重組の遺伝子を用いることにより、一種類の混合液中に、所望の組の潜在的PGC-1配列をコードする配列のすべてを作製することができる。縮重オリゴヌクレオチドを合成する方法は当業で公知である(例えば Narang, S.A. (1983) Tetrahedron 39:3; Itakura et al. (1984) Annu. Rev. Biochem. 53:323; Itakura et al. (1984) Science 198:1056; Ike et al. (1983) Nucleic Acid Res. 11:477を参照されたい)。
【0110】
加えて、PGC-1タンパク質コーディングの断片のライブラリを用いると、スクリーニング用のPGC-1断片の多彩な集団を作製し、次に、あるPGC-1タンパク質の相同体を選抜することができる。ある実施態様では、ニックが1分子当たり約1回のみ起きるような条件下でPGC-1コーディング配列の二本鎖PCR断片をヌクレアーゼで処理し、この二本鎖DNAを変性させ、またこのDNAを復元させて、異なるニック産物由来のセンス/アンチセンス対を含むであろう二本鎖DNAを形成し、再形成された二本鎖から一本鎖部分をS1ヌクレアーゼ処理で除去し、出来た断片ライブラリを発現ベクタ内に連結することにより、コーディング配列断片のライブラリを作製できる。この方法では、様々な大きさのPGC-1タンパク質のN末端、C末端及びインターナル断片をコードする発現ライブラリを得ることができる。
【0111】
点変異又はトランケーションで作製したコンビナトリアル・ライブラリの遺伝子産物をスクリーニングしたり、また所定の性質を有する遺伝子産物について、cDNAライブラリをスクリーニングするための手法がいくつか、当業で公知である。このような手法は、PGC-1相同体のコンビナトリアル変異誘発で作製された遺伝子ライブラリの高速スクリーニングに適合させることができる。大型の遺伝子ライブラリをスクリーニングする手法で、高収量の解析に適した最も広く用いられているものには、典型的には、遺伝子ライブラリを複製可能な発現ベクタ内にクローンし、出来たベクタのライブラリで適した細胞を形質転換し、検出された産物の遺伝子をコードするベクタの単離が、所望の活性を検出すれば容易にできるような条件下で、このコンビナトリアル遺伝子を発現させる、といった手法がある。機能的な変異体がライブラリ中に現れる頻度を高める新しい技術であるリカーシブ・アンサンブル変異誘発法(REM)を、PGC-1相同体を同定するためのスクリーニング検定と組み合わせることができる(Arkin and Youvan (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:7811-7815; Delagrave et al. (1993) Protein Engineering 6(3):327-331)。
【0112】
単離されたPGC-1タンパク質、又はその一部分もしくはフラグメントを免疫原として用いると、ポリクローナル及びモノクローナル抗体の作製のための標準的な手法を用いて、PGC-1に結合する抗体を作製することができる。完全長PGC-1タンパク質を用いることができるが、又は代替的には、本発明は、免疫原として用いるための、PGC-1の抗原性ペプチドフラグメントを提供する。PGC-1のこの抗原性ペプチドは、配列番号2、配列番号5 に示すアミノ酸配列、又は、ここで解説した通りの相同なアミノ酸配列、の少なくとも8個のアミノ酸残基を含んで成り、当該ペプチドに対して生ずる抗体がPGC-1と特異的な免疫複合体を形成するように、PGC-1の抗原決定基を含む。好ましくは当該抗原性ペプチドが、少なくとも10個のアミノ酸残基、より好ましくは少なくとも15個のアミノ酸残基、さらにより好ましくは少なくとも20個のアミノ酸残基、そして最も好ましくは少なくとも30個のアミノ酸残基を含んで成ることが好ましい。当該抗原性ペプチドが含む好適な抗原決定基は、例えば親水性領域など、このタンパク質の表面上に位置するPGC-1の領域である。
【0113】
PGC-1免疫原は、典型的には、適した対象(例えばウサギ、ヤギ、マウス又は他の哺乳動物)を免疫原で免疫することで抗体を調製するのに用いられる。適した免疫原性製剤は、例えば、組換えにより発現させたPGC-1タンパク質、又は、化学合成されたPGC-1ペプチド、を含有するものであってもよい。当該製剤には、さらに、フロイント完全もしくは不完全アジュバントなどのアジュバント、又は、同様の免疫刺激剤を含めることもできる。免疫原性PGC-1製剤で適した対象を免疫すると、ポリクローナル抗PGC-1抗体応答が誘導される。
【0114】
従って、本発明の別の局面は、抗PGC-1抗体に関する。用語「抗体」とは、ここで用いる場合、免疫グロブリン分子や、免疫グロブリン分子の免疫活性部分、即ち、PGC-1などの抗原に特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を含有する分子、を言う。免疫グロブリン分子の免疫活性部分の例には、ペプシンなどの酵素でこの抗体を処理すると作製できるF(ab) 及びF(ab')2フラグメントがある。本発明はPGC-1に結合するポリクローナル及びモノクローナル抗体を提供する。用語「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」とは、ここで用いる場合、PGC-1の特定の抗原決定基と免疫反応できる抗原結合部位を一種のみ含有する一集団の抗体分子を言う。従って、モノクローナル抗体組成物は、典型的には、自らが免疫反応した特定のPGC-1タンパク質に対して単一の結合親和性を示す。
【0115】
ポリクローナル抗PGC-1抗体は、上述したように、適した対象をPGC-1免疫原で免疫することにより、調製できる。免疫後の対象の抗PGC-1抗体価は、固定PGC-1を用いた例えば酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)などの標準的な手法により、経時的に観察することができる。必要に応じ、PGC-1を指向する抗体分子を哺乳動物(の例えば血液)から分離し、プロテインAクロマトグラフィなどの公知の手法でさらに精製して、IgG画分を得ることができる。免疫から適当な時間が経過後、例えば抗PGC-1抗体価が最も高くなった時点で、抗体産生細胞を対象から得て、ケーラー及びミルスタインにより最初に解説されたハイブリドーマ技術(1975) Nature 256:495-497) (Brown et al. (1981) J. Immunol. 127:539-46; Brown et al. (1980) J. Biol. Chem. 255:4980-83; Yeh et al. (1976) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:2927-31; and Yeh et al. (1982) Int. J. Cancer 29:269-75も参照されたい)、より最近のヒトB細胞ハイブリドーマ技術 (Kozbor et al. (1983) Immunol. Today 4:72)、EBV-ハイブリドーマ技術 (Cole et al. (1985), Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96) 又はトリオーマ技術などの標準的な技術により、モノクローナル抗体を調製するために用いることができる。モノクローナル抗体ハイブリドーマの作製技術は公知である(概略的にはR. H. Kenneth, in Monoclonal Antibodies: A New Dimension In Biological Analyses, Plenum Publishing Corp., New York, New York (1980); E. A. Lerner (1981) Yale J. Biol. Med., 54:387-402; M. L. Gefter et al. (1977) Somatic Cell Genet. 3:231-36を参照されたい)。簡単に説明すると、上述したようにPGC-1免疫原で免疫した哺乳動物由来のリンパ球(典型的には脾細胞)に、不死細胞株(典型的には骨髄腫)を融合し、出来たハイブリドーマ細胞の培養上清をスクリーニングして、PGC-1に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定する。
【0116】
リンパ球及び不死化細胞株を融合するために用いる多くの公知のプロトコルのいずれも、抗PGC-1モノクローナル抗体を作製する目的で応用できる(例えばG. Galfre et al. (1977) Nature 266:55052; 上に引用したGefter et al. Somatic Cell Genet.;上に引用したLerner, Yale J. Biol. Med.;上に引用したKenneth, Monoclonal Antibodiesを参照されたい)。さらに、当業者であれば、このような方法の変更例でやはり有用なものが数多くあることは理解されよう。典型的には、不死細胞株(例えば骨髄腫細胞株)は、リンパ球と同じ哺乳動物種から得る。例えば、マウスハイブリドーマは、本発明の免疫原性製剤で免疫したマウス由来のリンパ球を不死化マウス細胞株に融合することにより、作製できる。好適な不死細胞株は、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含有する培地(「HAT培地」)に感受性あるマウス骨髄腫細胞株である。例えばP3-NS1/1-Ag4-1、P3-x63-Ag8.653 又はSp2/O-Ag14 骨髄腫株など、数多くある骨髄腫細胞株のいずれも、標準的な手法に従って融合相手として用いることができる。これらの骨髄腫株はATCCから入手できる。典型的には、HAT感受性マウス骨髄腫細胞をマウス脾細胞に、ポリエチレングリコール(「PEG」)を用いて融合する。次に、この融合で作製されたハイブリドーマ細胞に、未融合の細胞及び増殖能なく融合した骨髄腫細胞を死滅させるHAT培地で選択をする(未融合の脾細胞は形質転換していないために数日後に死滅する)。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、例えば標準的なELISA検定法を用いるなどしてPGC-1に結合する抗体についてハイブリドーマ培養上清をスクリーニングすると、検出される。
【0117】
モノクローナル抗体分泌性ハイブリドーマを調製する代わりに、組換えコンビナトリアル免疫グロブリン・ライブラリ(例えば抗体ファージ・ディスプレイ・ライブラリ)をPGC-1でスクリーニングして、PGC-1に結合する免疫グロブリン・ライブラリ・メンバを単離することで、モノクローナル抗PGC-1抗体を同定及び単離することができる。ファージ・ディスプレイ・ライブラリを作製及びスクリーニングするキットは市販されている(例えばファルマシア・リコンビナント・ファージ・抗体システム、カタログ番号27-9400-01;及びストラータジーン・SurfZAPTMファージ・ディスプレイ・キット、カタログ番号240612)。加えて、抗体ディスプレイ・ライブラリを作製及びスクリーニングする際に使用するのに特に適した方法及び試薬の例は、例えば、ラドナー氏の米国特許第5,223,409号;カン氏らのPCT国際公報WO 92/18619;ダワー氏らのPCT国際公報WO 91/17271;ウィンター氏らのPCT国際公報 WO 92/20791;マークランド氏らのPCT国際公報 WO 92/15679;ブレイトリング氏らのPCT国際公報WO 93/01288;マッカファーティ氏らのPCT国際公報WO 92/01047;ガラード氏らのPCT国際公報WO 92/09690;ラドナー氏らのPCT国際公報WO 90/02809; Fuchs et al. (1991) Bio/Technology 9:1370-1372; Hay et al. (1992) Hum. Antibod. Hybridomas 3:81-85; Huse et al. (1989) Science 246:1275-1281; Griffiths et al. (1993) EMBO J 12:725-734; Hawkins et al. (1992) J. Mol. Biol. 226:889-896; Clarkson et al. (1991) Nature 352:624-628; Gram et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:3576-3580; Garrard et al. (1991) Bio/Technology 9:1373-1377; Hoogenboom et al. (1991) Nuc. Acid Res. 19:4133-4137; Barbas et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7978-7982;及び McCafferty et al. Nature (1990) 348:552-554に見ることができる。
【0118】
さらに、標準的な組換えDNA技術を用いて作成可能な、ヒト部分及び非ヒト部分の両方を含んで成る、例えばキメラ及びヒト化モノクローナル抗体などの組換え抗PGC-1抗体は、本発明の範囲内である。このようなキメラ及びヒト化モノクローナル抗体は、例えばロビンソン氏らの国際出願 PCT/US86/02269;アキラ氏らのヨーロッパ特許出願第184,187号;タニグチ、M氏のヨーロッパ特許出願第171,496号;モリソン氏らのヨーロッパ特許出願第173,494号;ノイベルガー氏らのPCT国際公報WO 86/01533;キャビリー氏らの米国特許第4,816,567号;キャビリー氏らのヨーロッパ特許出願第125,023号;Better et al. (1988) Science 240:1041-1043; Liu et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439-3443; Liu et al. (1987) J. Immunol. 139:3521-3526; Sun et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:214-218; Nishimura et al. (1987) Canc. Res. 47:999-1005; Wood et al. (1985) Nature 314:446-449; and Shaw et al. (1988) J. Natl. Cancer Inst. 80:1553-1559); Morrison, S. L. (1985) Science 229:1202-1207; Oi et al. (1986) BioTechniques 4:214; Winter U.S. Patent 5,225,539; Jones et al. (1986) Nature 321:552-525; Verhoeyan et al. (1988) Science 239:1534; 及び Beidler et al. (1988) J. Immunol. 141:4053-4060に解説された方法を用いるなど、当業で公知の組換えDNA技術により作製できる。
【0119】
抗PGC-1抗体(例えばモノクローナル抗体)は、アフィニティ・クロマトグラフィ又は免疫沈降法などの標準的な技術によりPGC-1を単離するのに使用できる。抗PGC-1抗体により、細胞からの天然PGC-1の精製や、宿主細胞で発現させた組換えにより作製されたPGC-1の精製が簡便となる。さらに抗PGC-1抗体を用いると、PGC-1タンパク質の発現量及び発現パターンを評価するために、(例えば細胞ライセート又は細胞上清中の)PGC-1タンパク質を検出することができる。抗PGC-1抗体を診断目的に用いると、ある治療計画の効果を調べるためなど、臨床検査法の一部として組織中のタンパク質レベルを観察することができる。検出は、当該抗体を検出可能な物質に結合(即ち、物理的に連結)すると容易に行うことができる。検出可能な物質の例には、 多種の酵素、補欠分子団、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、及び放射性物質がある。適した酵素の例には、西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼがある。適した補欠分子団複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンがある。適した蛍光物質の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンジルクロリド又はフィコエリトリンがある。発光物質の例にはルミノールがある。生物発光物質の例には、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びエクオリンがある。そして適した放射性物質の例には、125I、131I、35S又は3Hがある。
【0120】
IV. 医薬組成物
本発明のPGC-1核酸分子、PGC-1タンパク質、PGC-1モジュレータ、及び抗PGC-1抗体(ここでは「活性化合物」とも呼ぶ)を、ヒトなどの対象への投与に適した医薬組成物に取り込むことができる。このような組成物は典型的には、本核酸分子、タンパク質、モジュレータ、又は抗体と、薬学的に許容可能な担体とを含んで成る。ここで用いる言語「薬学的に許容可能な担体」には、当該薬剤投与に適合性ある、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗カビ剤、等張剤及び吸収遅延剤等が含まれるものと、意図されている。薬学的に活性な物質のためのこのような媒質及び作用物質の使用は当業で公知である。何らかの従来の媒質又は作用物質が当該活性化合物に対して不適合である場合を除き、このような媒質を本発明の組成物中に用いることができる。補助的な活性化合物も、本組成物中に取り入れることができる。
【0121】
本発明の医薬組成物は、その意図された投与経路にとって適合性があるよう、調合される。投与経路の例には、非経口、例えば静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(局所)、経粘膜、及び直腸投与がある。非経口、皮内又は皮下塗布に用いる溶液又は懸濁液には、以下の成分:無菌の希釈剤、例えば注射用の水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒;:抗菌剤、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベン;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;緩衝剤、例えば酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩、及び、張度を調節する薬剤、例えば塩化ナトリウム又はデキストロース、がある。pH は、塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調節できる。非経口投与用製剤は、ガラス製もしくはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ又複数回用量用のバイアル内に封入することができる。
【0122】
注射での使用に適した医薬組成物には、無菌の水溶液(水溶性の場合)又は分散液や、無菌の注射用溶液又は分散液の即時調製用の無菌粉末がある。静脈内投与の場合、適した担体には、生理食塩水、静菌水、クレモフォールELTM(ニュージャージー州パーシパニー、BASF社製)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)がある。いずれの場合も、本組成物は無菌でなくてはならず、また注射筒への充填が容易な程度に流動性でなくてはならない。また製造及び保管条件下で安定でなければならず、さらに細菌及びカビなどの微生物の汚染作用から保護されていなければならない。当該担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、及びこれらの適した混合物、を含有する溶媒又は分散媒であってよい。適正な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングを用いたり、分散液の場合には必要な粒子の大きさを維持したり、そして界面活性剤を用いるなどして、維持できる。微生物の活動は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等の多種の抗菌剤及び抗カビ剤により、防ぐことができる。多くの場合、例えば糖類、マンニトールなどの多価アルコール、ソルビトール、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成中に含めることが好ましいであろう。注射用組成物の吸収を長引かせるには、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなど、吸収を遅らせる作用物質を組成中に含めると可能である。
【0123】
無菌の注入可能な溶液は、本活性化合物(例えばPGC-1タンパク質又は抗PGC-1抗体)を必要量、適した溶媒中に、必要に応じて上に列挙した成分の一つ又は組合せと一緒に取り入れた後、フィルタ滅菌して調製することができる。一般的には、分散液は、塩基性分散媒及び上に列挙したものの中の他の必要な成分を含有する無菌の賦形剤中に当該活性化合物を取り入れることで、調製される。無菌の注射用溶液の調製用の無菌粉末の場合、好適な調製法は真空乾燥及び凍結乾燥であり、その結果、活性成分と、前に無菌濾過されたその溶液から出る付加的な所望の成分との粉末が生じる。
【0124】
経口用組成物は、一般的に、不活性の希釈剤又は食用の担体を含有する。それらをゼラチンカプセル内に封入することも、又は圧縮して錠剤にすることもできる。経口による治療用投与を目的とした場合、活性化合物を医薬品添加物と一緒に取り入れ、錠剤、トローチ、又はカプセルの形で用いることができる。さらに経口用組成物は、口内洗浄剤として用いるために流動性の担体を用いて調製することもでき、この場合、この流動性担体中の化合物は経口投与され、素早く飲み込まれるか、又は喀出又は嚥下される。薬学的に適合性ある結合剤及び/又はアジュバント材料も、組成の一部として含めることができる。当該の錠剤、丸剤、カプセル、トローチ等には、以下の成分又は同様の性質の化合物のいずれをも含めることができる:微結晶セルロース、トラガカントゴム又はゼラチンなどの結合剤、;でんぷん又は乳糖などの医薬品添加物、アルギン酸、プリモゲル又はコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム又はステロートなどの潤滑剤;コロイド状二酸化珪素などの推進剤;ショ糖及びサッカリンなどの甘味料;又はペパーミント、サリチル酸メチル又はオレンジ香料などの香料。
【0125】
吸入による投与の場合、二酸化炭素などの気体など、適した推進剤を含有する加圧容器もしくはディスペンサ、又はネブライザからの噴霧スプレーの形で本化合物を送達する。
【0126】
全身投与はまた経粘膜又は経皮手段によることもできる。経粘膜又は経皮投与の場合、透過させようとする障壁に適した浸透剤を調合物中に用いる。このような浸透剤は当業で広く公知であり、例えば経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁酸塩、及びフシジン酸誘導体がこれに含まれる。経粘膜投与は鼻孔用スプレー又は座薬を用いることで、行うことができる。経皮投与の場合、当業で公知のように、当該活性化合物を軟膏、軟膏剤、ゲル、又はクリームに調合する。
【0127】
さらに本化合物を座薬(例えばココアバター及び他のグリセリドなどの従来の座薬用基材を用いて)又は直腸送達用の停留浣腸剤の形で調製することもできる。
【0128】
ある実施態様では、インプラント及びマイクロ封入送達系を含め、制御放出製剤など、化合物が身体から急速に失われないように保護する担体と一緒に活性化合物を調製する。例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸など、生分解性で生体適合性あるポリマを用いることができる。このような調合物の調製法は当業者には明白であろう。前記材料はまたアルザ・コーポレーション及びノバ・ファーマシューティカルズから市販のものを入手できる。(ウィルス抗原に対するモノクローナル抗体で感染細胞にターゲットを設定したリポソームを含む)リポソーム懸濁液も、薬学的に許容可能な担体として使用できる。これらは、例えば米国特許第 4,522,811号に解説されているように、当業者に公知の方法に従って調製することができる。
【0129】
投与が容易なよう、そして投薬量が均一になるよう、経口又は非経口用組成物を単位剤形で調合すると特に有利である。ここで用いる単位剤形とは、治療しようとする対象に単位投薬量として合わせられた物理的に別個の単位を言い、このとき各単位は、必要な薬学的担体との関係から所望の治療効果を生じるよう計算された所定量の活性化合物を含有する。本発明の単位剤形の詳細は、活性化合物の固有の特徴、達成しようとする特定の治療効果、及び個体を治療するためのこのような化合物を配合する際の当業に内在する制約、によって決定され、又はこれらに直接依存する。
【0130】
本発明の核酸分子をベクタ内に挿入し、遺伝子治療ベクタとして用いることができる。遺伝子治療ベクタは対象に対し、例えば静脈内注射、局所投与(米国特許第5,328,470号を参照されたい)又は定位注射(例えば Chen et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:3054-3057を参照されたい)によって、送達することができる。遺伝子治療ベクタの医薬製剤には、許容可能な希釈剤に入れた遺伝子治療ベクタを含めることができ、又は、遺伝子送達賦形剤が包埋された徐放マトリックスを含んで成るものとすることができる。代替的には、完全な遺伝子送達ベクタをレトロウィルスベクタなどの組換え細胞からインタクトで作製できる場合、この医薬製剤には、遺伝子送達系となる一個以上の細胞を含めることができる。
【0131】
ウィルスベクタには、例えば、組換えレトロウィルス、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス及び単純疱疹Iウィルスがある。レトロウィルスベクタ及びアデノ随伴ウィルスベクタが、一般には、外因性の遺伝子をin vivo、特にヒトに導入するのに選択される組換え遺伝子送達系であると、理解されている。具体的には、アデノウィルスは全身投与した場合に肝臓(例えばグルコース新生の主要な部位)を優先的にターゲットとする(90+%を越える;(Antinozzi et al. (1999) Annu. Rev. Nutr. 19:511-544)その理由は、おそらく、肝臓内のウィルス受容体の発現又は血管障壁のないことに関係するであろう)ため、本発明では特に好適である。代替的には、これらを、外因性遺伝子を培養肝細胞にex vivoで導入するためにも使用できる。これらのベクタは遺伝子を肝細胞に効率的に送達し、導入された核酸は宿主細胞の染色体DNAに安定に組み込まれる。
【0132】
ウィルスを用いる際の主要な必須条件は、それらの使用上の安全性、特に、細胞集団中に野生型ウィルスが広がる可能性に関する安全性を、確実にすることである。複製欠陥レトロウィルスしか生じない特化細胞株(「パッケージング細胞」と呼ばれる)が開発されたことで、レトロウィルスの遺伝子治療への実用性が増し、欠陥レトロウィルスは遺伝子治療を目的とした遺伝子移入での使用について、よく特徴付けされている (レビューはMiller, A.D. (1990) Blood 76:271を参照されたい)。このように、レトロウィルスコーディング配列の一部(gag、pol、env)が、目的の遺伝子に置換されているために、そのレトロウィルスが複製欠陥になっている組換えレトロウィルスを構築することができる。次に、この複製欠陥レトロウィルスをビリオンにパッケージすると、このビリオンを用いて、標準的な技術により、ヘルパウィルスの使用を通じて標的細胞を感染させることができる。組換えレトロウィルスを作製するプロトコルや、このようなウィルスに細胞をin vitro又はin vivoで感染させるプロトコルは、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, F.M. et al. (eds.) Greene Publishing Associates, (1989), Sections 9.10-9.14、及び他の標準的な研究室用マニュアルに見ることができる。適したレトロウィルスの例には、当業者に公知の pLJ、pZIP、pWE 及び pEMがある。環境栄養性及び両栄養性レトロウィルス系の両方を作製するのに適したパッケージングウィルス株の例には、ψCrip、ψCre、ψ2及びψAmがある。
【0133】
さらに、ウィルス粒子の表面上にあるウィルスパッケージングタンパク質を改変すれば、レトロウィルスの感染スペクトルや、結果的にはレトロウィルスベースのベクタの感染スペクトルを制限することが可能であることが示されている(例えばPCT公報 WO93/25234、及びWO94/06920を参照されたい)。例えば、レトロウィルスベクタの感染スペクトルを改変する戦略には、細胞表面抗原に特異的な抗体をウィルスenvタンパク質に連結する(Roux et al. (1989) PNAS 86:9079-9083; Julan et al. (1992) J. Gen Virol 73:3251-3255; 及び Goud et al. (1983) Virology 163:251-254);又は、細胞表面受容体のリガンドをウィルスenvタンパク質に連結する(Neda et al. (1991) J Biol Chem 266:14143-14146)といった戦略がある。連結は、タンパク質もしくは他の多種(例えばラクトースに連結してenvタンパク質をアシアロ糖タンパク質に転化させるなど)との化学的架橋の形でも、融合タンパク質(例えば一本鎖抗体/env融合タンパク質)の作製の形でもよい。このように、本発明のある具体的な実施態様では、目的の遺伝子を適した調節配列に作動上連結させて含有する核酸分子を含有するウィルス粒子を、例えば上述した方法に従って改変して、それらが肝細胞のうちのサブセットを特異的にターゲットできるようにする。例えば、特定の種類の肝細胞に特異的な表面分子に対する抗体で当該ウィルス粒子を被覆することができる。この方法は、肝細胞のうちの特定のサブセットのみをトランスフェクトしたいときに特に有用である。
【0134】
本発明で有用なもう一つのウィルス遺伝子送達系は、アデノウィルス由来のベクタを利用するものである。アデノウィルスのゲノムを操作して、目的の遺伝子産物をコードし、発現はするが、正常な溶解ウィルス生命周期でのその複製能という点で不活化されているようにすることができる。例えば Berkner et al. (1988) BioTechniques 6:616; Rosenfeld et al. (1991) Science 252:431-434; 及び Rosenfeld et al. (1992) Cell 68:143-155を参照されたい。アデノウィルス株Ad タイプ5 dl324 又は他のアデノウィルス株(例えば Ad2、Ad3、Ad7、等)を由来とする適したアデノウィルスベクタが当業者に公知である。組換えアデノウィルスは、非分裂性細胞に感染できないという点で、特定の状況で有利な場合がある。さらに、このウィルス粒子は比較的に安定であり、精製及び濃縮に適し、上述したように、感染スペクトルに影響を与えるよう、改変が可能である。さらに、導入されたアデノウィルスDNA(及びそこに含まれた外来のDNA)は宿主細胞のゲノムに組み込まれずに、エピソームのままで留まり、導入されたDNAが宿主ゲノム(例えばレトロウィルスDNA)に組み込まれて挿入的変異誘発が起きたときに発生しかねない潜在的問題を避けることができる。さらに、アデノウィルスゲノムが外来のDNAを運搬する能力は、他の遺伝子送達ベクタに比較して大きい(最高8キロベース)(上のBerkner et al.;Haj-Ahmand and Graham (1986) J. Virol. 57:267)。現在用いられており、本発明でも好適な大半の複製欠陥アデノウィルスベクタは、ウィルスE1及びE3遺伝子の全部又は一部を欠失させつつ、しかしアデノウィルス遺伝物質の80%をも保持したものである(例えば Jones et al. (1979) Cell 16:683; 上のBerkner et al.;及びGraham et al. in Methods in Molecular Biology, E.J. Murray, Ed. (Humana, Clifton, NJ, 1991) vol. 7. pp. 109-127を参照されたい)。核酸分子に取り込まれた目的の遺伝子の発現は、例えばE1Aプロモータ、主要後期プロモータ(MLP)及び関連するリーダ配列や、E3プロモータ、又は外から加えたプロモータ配列などの制御下に置くことができる。
【0135】
目的の遺伝子を含んで成る核酸分子の送達に有用なさらに別のウィルスベクタ系は、アデノ随伴ウィルス(AAV)である。アデノ随伴ウィルスは、天然で生じる欠陥ウィルスであり、効率的な複製及び増殖能ある生命周期のためには、アデノウィルス又は疱疹ウィルスなどの別のウィルスをヘルパウィルスとして必要とする。(レビューは Muzyczka et al. Curr. Topics in Micro. and Immunol. (1992) 158:97-129を参照されたい)。さらに、アデノ随伴ウィルスは安定な組み込みを高頻度で示す(例えばFlotte et al. (1992) Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol. 7:349-356; Samulski et al. (1989) J. Virol. 63:3822-3828; 及び McLaughlin et al. (1989) J. Virol. 62:1963-1973を参照されたい)。300塩基対程度の数のAAVを含有するベクタをパッケージし、組み込ませることができる。外因性DNAのためのスペースは 約4.5kbに限られている。Tratschin et al. (1985) Mol. Cell. Biol. 5:3251-3260 に解説されたものなどのAAVベクタを用いて、DNAをT細胞に導入することができる。多種の核酸が、様々な細胞種に、AAV ベクタを用いて導入されてきた(例えばHermonat et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6466-6470; Tratschin et al. (1985) Mol. Cell. Biol. 4:2072-2081; Wondisford et al. (1988) Mol. Endocrinol. 2:32-39; Tratschin et al. (1984) J. Virol. 51:611-619; 及び Flotte et al. (1993) J. Biol. Chem. 268:3781-3790を参照されたい)。遺伝子治療に用途があるであろう他のウィルスベクタ系が、疱疹ウィルス、ワクシニアウィルス、及びいくつかのRNAウィルスから得られてきた。遺伝子治療でのウィルスベクタの使用に関する他の方法は、例えばKay, M.A. (1997) Chest 111(6 Supp.):138S-142S; Ferry, N. and Heard, J. M. (1998) Hum. Gene Ther. 9:1975-81; Shiratory, Y. et al. (1999) Liver 19:265-74; Oka, K. et al. (2000) Curr. Opin. Lipidol. 11:179-86; Thule, P.M. and Liu, J.M. (2000) Gene Ther. 7:1744-52; Yang, N.S. (1992) Crit. Rev. Biotechnol. 12:335-56; Alt, M. (1995) J. Hepatol. 23:746-58; Brody, S. L. and Crystal, R. G. (1994) Ann. N.Y. Acad. Sci. 716:90-101; Strayer, D. S. (1999) Expert Opin. Invetig. Drugs 8:2159-2172; Smith-Arica, J. R. and Bartlett, J. S. (2001) Curr. Cardiol. Rep. 3:43-49; 及び Lee, H. C. et al. (2000) Nature 408:483-8に見ることができる。
【0136】
本医薬組成物は容器、パック又はディスペンサ内に、投与に関する指示と一緒に入れることができる。
【0137】
V.発明の用途及び方法
ここで解説する核酸分子、ポリペプチド、ポリペプチド相同体、モジュレータ、及び抗体は、以下の方法のうちの一つ以上で用いることができる:1)薬物スクリーニング検定;2)診断検定;及び3)治療法。本発明のPGC-1タンパク質 はここで解説する活性の一つ以上を有し、従って、例えば脂肪細胞の分化、褐色脂肪細胞における熱発生、及び筋細胞、肝細胞及び脂肪細胞などの多種の細胞におけるインシュリン感受性を調節するために用いることができる。本発明の単離された核酸分子は、以下に詳述するように、PGC-1タンパク質を(例えば遺伝子治療用途において宿主細胞中で組換え発現ベクタを介して)発現させたり、(例えば生物試料中の)PGC-1 mRNA 又はPGC-1 遺伝子の遺伝子損傷を検出したり、PGC-1 活性を調節するために、用いることができる。さらに、本PGC-1タンパク質を用いて、PGC-1タンパク質活性を調節する薬物又は化合物をスクリーニングしたり、PGC-1タンパク質の不充分過剰な産生、又は、野生型PGC-1タンパク質に比べて上昇もしくは低下した活性を有するPGC-1タンパク質型の産生、を特徴とする障害を治療することができる。さらに、本発明の抗PGC-1抗体は、PGC-1タンパク質を検出及び単離したり、PGC-1タンパク質活性を調節するために用いることができる。
【0138】
A. スクリーニング検定
本発明は、PGC-1タンパク質に結合する、PGC-1発現もしくはPGC-1活性などに対して刺激もしくは阻害作用を有する、又は、PGC-1標的分子の発現もしくは活性などに対して刺激もしくは阻害作用を有する、モジュレータ即ち候補又はテスト化合物又は作用物質(例えばペプチド、ペプチドミメティック、低分子又は他の薬物)を同定する方法(ここでは「スクリーニング検定」とも呼ぶ)を提供するものである。
【0139】
ある実施態様では、本発明は、PGC-1タンパク質又はポリペプチド又はその生物活性部分のターゲット分子である候補又はテスト化合物をスクリーニングする検定を提供する。別の実施態様では、本発明は、PGC-1タンパク質又はポリペプチド又はその生物活性部分に結合する又はその活性を調節する候補又はテスト化合物をスクリーニングする検定を提供する。本発明のテスト化合物は、生物学的ライブラリ;空間指定可能なパラレル固相もしくは液相ライブラリ;逆重畳積分を要する合成ライブラリ法;「ワン・ビーズ・ワン・コンパウンド」ライブラリ法;及びアフィニティ・クロマトグラフィ選抜法を用いた合成ライブラリ法を含め、当業で公知のコンビナトリアル・ライブラリ法の数多くのアプローチのいずれを用いても得ることができる。生物学的ライブラリのアプローチはペプチド・ライブラリに限られるが、他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマ又は低分子の化合物ライブラリに応用できる(Lam, K. S. (1997) Anticancer Drug Des. 12:45)。
【0140】
分子ライブラリの合成法の例は、例えばDeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422; Zuckermann et al. (1994). J. Med. Chem. 37:2678; Cho et al. (1993) Science 261:1303; Carrell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061;及びGallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37:1233に見ることができる。
【0141】
化合物のライブラリは溶液中(例えば Houghten (1992) Biotechniques 13:412-421)、又はビーズ上(Lam (1991) Nature 354:82-84)、チップ上(Fodor (1993) Nature 364:555-556)、細菌上(ラドナー氏の米国特許第5,223,409号)、胞子上(ラドナー氏の米国特許第'409号)、プラスミド上(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-1869)又はファージ上(Scott and Smith (1990) Science 249:386-390);(Devlin (1990) Science 249:404-406);(Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6378-6382);(Felici (1991) J. Mol. Biol. 222:301-310);(上のラドナー氏の文献)に作製してもよい。
【0142】
ある実施態様では、検定は細胞ベースの検定であり、この場合、PGC-1タンパク質又はその生物活性部分を発現する細胞をテスト化合物に接触させ、このテスト化合物がPGC-1 活性を調節する能力を調べる。テスト化合物のPGC-1活性を調節する能力は、例えば、PEPCK、グルコース-6-ホスファターゼ、及び/又はフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ 発現;及び/又はPGC-1を発現する細胞の培地中へのグルコース放出を観察することで調べることができる。当該細胞は、例えばFaoヘパトーム細胞など、哺乳動物由来とすることができる。
【0143】
テスト化合物が、PGC-1 の標的分子(例えばHNF-4α、FKHR、又はPEPCKプロモータ)への結合を調節する能力、又は、PGC-1へ結合する能力、を決定することもできる。PGC-1 の標的分子への結合をテスト化合物が調節する能力は、例えば、PGC-1 標的分子を放射性同位元素又は酵素標識に結合することで、標識されたPGC-1標的分子を複合体として検出すれば、PGC-1 標的分子のPGC-1への結合を判断できるようにすると、決定することができる。代替的には、PGC-1を放射性同位元素又は酵素標識に結合しても、PGC-1のPGC-1標的分子への、複合体を形成する結合を調節する上でのテスト化合物の能力を観察できるであろう。テスト化合物のPGC-1への結合能は、例えば、当該化合物を放射性同位元素又は酵素標識に結合して、標識されたPGC-1化合物を複合体として検出すれば当該化合物がPGC-1に結合したと判断できるようにしても、決定することができる。例えば、化合物(例えばPGC-1標的分子)を125I、35S、14C、又は3Hで直接又は間接的に標識し、この放射性同位元素を、放射線放出を直接計数したり、又はシンチレーション計数により、検出することができる。代替的には、化合物を、例えば西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、又はルシフェラーゼで酵素標識し、適した基質の生成物への転化を決定することで、この酵素標識を検出することができる。
【0144】
さらに、反応体のいずれも標識せずに、化合物(例えばHNF-4α又はFKHRなどのPGC-1標的分子)がPGC-1と相互作用する能力を決定することも、本発明の範囲内である。例えばマイクロフィジオメータを用いると、化合物又はPGC-1のいずれも標識せずに、化合物のPGC-1との相互作用を検出することができる。McConnell, H. M. et al. (1992) Science 257:1906-1912。ここで用いる「マイクロフィジオメータ」(例えばサイトセンサ)は、細胞がその環境を酸化する速度を、光指定可能な電位差センサ(LAPS)を用いて測定する分析装置である。この酸化速度の変化を、化合物とPGC-1との間の相互作用の指標として用いることができる。
【0145】
別の実施態様では、検定は、PGC-1標的分子(例えばHNF-4α、FKHR、又はPEPCKプロモータ・レポータコンストラクトなど)を発現する細胞をテスト化合物に接触させるステップと、前記PGC-1標的分子の活性を調節(例えば刺激又は阻害)する上でのこのテスト化合物の能力を決定するステップと、を含む細胞ベースの検定である。PGC-1標的分子の活性を調節する上でのテスト化合物の能力は、例えば、あるPGC-1タンパク質が、PGC-1標的分子(例えばHNF-4α、FKHR、又はPEPCKプロモータ)と結合又は相互作用する能力を決定したり、又は、あるPGC-1タンパク質が、PEPCKプロモータ・レポータコンストラクトからの発現を誘導する能力を決定することで、決定することができる。
【0146】
PGC-1タンパク質又はその生物活性フラグメントがPGC-1標的分子と結合又は相互作用する能力は、直接的な結合を決定することに関して上述した方法のうちの一つにより、決定することができる。ある好適な実施態様では、PGC-1タンパク質がPGC-1標的分子と結合又は相互作用する能力は、標的分子の活性を決定することで、決定することができる。例えば、標的分子の活性は、細胞応答の誘導を検出する、適した基質に標的分子が及ぼす触媒/酵素活性を検出する、(ルシフェラーゼなどの検出可能なマーカをコードする核酸に作動上連結した標的応答性の調節配列を含んで成る)レポータ遺伝子の誘導を検出する、又は、標的により調節を受ける細胞応答(即ちグルコース産生量)を検出する、ことにより、決定することができる。
【0147】
さらに別の実施態様では、本発明の検定は無細胞検定であり、この場合、PGC-1タンパク質又はその生物活性部分をテスト化合物に接触させ、PGC-1タンパク質又はその生物活性部分へのテスト化合物の結合能を決定する。本発明の検定で用いるのに好適なPGC-1タンパク質の生物活性部分には、HNF-4α、FKHR、又はPEPCKプロモータとの相互作用に参与するフラグメントがある。テスト化合物のPGC-1タンパク質への結合は、上述したように直接調べることも、又は間接的に決定することもできる。 ある好適な実施態様では、本検定は、PGC-1タンパク質又はその生物活性部分を、PGC-1に結合する既知の化合物に接触させて検定混合液を形成するステップと、前記検定混合液をテスト化合物に接触させるステップと、前記テスト化合物のPGC-1タンパク質との相互作用能を決定するステップであって、前記テスト化合物がPGC-1又はその生物活性部分に対し、前記既知の化合物に比較して優先的に結合する能力を決定するステップと、を含む。
【0148】
別の実施態様では、本検定は無細胞検定であり、この場合、PGC-1タンパク質又はその生物活性部分をテスト化合物に接触させ、前記テスト化合物の、PGC-1タンパク質又は その生物活性部分の活性を調節(例えば刺激又は阻害)する能力を決定する。PGC-1タンパク質 の活性を調節する上でのテスト化合物の能力は、例えば直接的な結合を決定することに関して上述した方法の一つで、PGC-1標的分子に対するPGC-1タンパク質の結合能を決定することにより、決定することができる。PGC-1タンパク質のPGC-1標的分子への結合能は、さらに、リアル−タイム・バイオモラキュラー・インターアクション・アナリシス(BIA)などの手法を用いても、決定することができる。Sjolander, S. and Urbaniczky, C. (1991) Anal. Chem. 63:2338-2345 and Szabo et al. (1995) Curr. Opin. Struct. Biol. 5:699-705. ここで用いる「BIA」とは、反応体のいずれをも標識せずに、生体特異的な相互作用をリアルタイムで研究する技術である(例えば BIAcore)。表面プラスモン共振(SPR)の光学的現象の変化を、生物分子間のリアルタイム反応の指標として用いることができる。
【0149】
代替的な実施態様では、PGC-1タンパク質の活性を調節する上でのテスト化合物の能力は、PGC-1タンパク質がさらにPGC-1標的分子の下流のエフェクタの活性を調節する上での能力を決定しても、決定することができる。例えば、当該エフェクタ分子の適した標的に対する活性を決定することもでき、又は、エフェクタの適した標的への結合を前述のように決定することもできる。
【0150】
別の実施態様では、前記無細胞検定は、PGC-1タンパク質又はその生物活性部分を、PGC-1タンパク質に結合する既知の化合物(例えば HNF-4α、FKHR、又はPEPCKプロモータ)に接触させて検定混合液を形成させるステップと、前記検定混合液をテスト化合物に接触させるステップと、テスト化合物のPGC-1タンパク質との相互作用能を決定するステップであって、当該 PGC-1タンパク質 がPGC-1 標的分子に優先的に結合する又はその活性を調節する能力を決定するステップ、とを含む。
【0151】
本発明の上記の検定法の二つ以上の実施態様では、PGC-1又はその標的分子のいずれかを固定すると、これらタンパク質の一方又は両方から、複合体形成した形を複合体形成していない形から容易に分離したり、検定の自動化を図るために、好ましい場合がある。テスト化合物のPGC-1タンパク質への結合、又は、PGC-1タンパク質と標的分子との相互作用を、候補化合物の存在下及び非存在下で行わせるには、反応体を含有するのに適していればいかなる容器内で行うこともできる。このような容器の例には、微量定量プレート、試験管及びマイクロ遠心管がある。ある実施態様では、当該タンパク質の一方又は両方がマトリックスに結合可能とするドメインを加えた融合タンパク質を提供することができる。例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ/PGC-1 融合タンパク質又はグルタチオン-S-トランスフェラーゼ/標的融合タンパク質をグルタチオン・セファロースビーズ(ミズーリ州セントルイス、シグマ・ケミカル社製)か又はグルタチオン誘導体化マイクロメータプレートに吸着させた後、これをテスト化合物か、又は、テスト化合物及び非吸着性標的タンパク質もしくは PGC-1タンパク質のいずれかに配合して、この混合液を、複合体形成を誘導するような条件下(例えば塩及びpHについて生理条件下)でインキュベートする。インキュベート後、このビーズ又は微量定量プレートのウェルを洗浄して結合していない成分を取り除き、ビーズの場合にはマトリックスを固定し、複合体を、上述した方法などにより直接又は間接的に決定する。代替的には、複合体をマトリックスから解離させ、PGC-1結合又は活性のレベルを標準的な手法を用いて決定することもできる。
【0152】
タンパク質をマトリックス上に固定する他の技術も、本発明のスクリーニング検定に使用できる。例えば、PGC-1タンパク質又はPGC-1標的分子のいずれかを、 ビオチン及びストレプトアビジンの結合を用いて固定することができる。ビオチン化PGC-1タンパク質又は標的分子を、ビオチン-NHS(N-ヒドロキシ-スクシンイミド)から、当業で公知の技術(例えばイリノイ州ロックフォード、ピアース・ケミカルズ社製のビオチニレーション・キット)を用いて調製し、ストレプトアビジンで被覆した96ウェルプレート(ピアース・ケミカル社製)のウェル内に固定することができる。代替的には、PGC-1タンパク質又は標的分子には反応性であるが、PGC-1タンパク質のその標的分子への結合には干渉しないような抗体をプレートのウェルに誘導体化して、結合しない標的又はPGC-1タンパク質を抗体結合によりウェル中に捕獲することもできる。このような複合体を検出する方法には、GST固定化複合体に関して上述したものに加え、PGC-1タンパク質又は標的分子に対して反応性の抗体を用いた複合体の免疫検出法や、PGC-1タンパク質又は標的分子に関連する酵素活性の検出に依拠する酵素結合検定法がある。
【0153】
別の実施態様では、細胞を候補化合物に接触させ、PGC-1 mRNA又はタンパク質のこの細胞での発現を調べるという方法で、PGC-1発現のモジュレータを同定する。候補化合物の存在下でのPGC-1 mRNA又はタンパク質の発現レベルを候補化合物の非存在下でのPGC-1 mRNA又はタンパク質の発現レベルと比較する。こうして、この比較に基づき、当該候補化合物をPGC-1発現のモジュレータとして同定することができる。例えば、候補化合物の存在下の方が、その非存在下でより、PGC-1 mRNA又はタンパク質の発現が多ければ(統計的に有意に多ければ)、その候補化合物を、PGC-1 mRNA又はタンパク質の発現の刺激物質として同定する。反対に、候補化合物の存在下の方が、その非存在下でより、PGC-1 mRNA 又はタンパク質の発現が少ない(統計的に有意に少ない)のであれば、その候補化合物を、PGC-1 mRNA又はタンパク質発現の阻害物質として同定する。PGC-1 mRNA又はタンパク質の細胞中の発現レベルは、PGC-1 mRNA 又はタンパク質を検出することに関してここで解説した方法により決定することができる。
【0154】
本発明のさらに別の局面では、本PGC-1タンパク質をツーハイブリッド検定又は三種ハイブリッド検定(例えば米国特許第5,283,317号;Zervos et al. (1993) Cell 72:223-232; Madura et al. (1993) J. Biol. Chem. 268:12046-12054; Bartel et al. (1993) Biotechniques 14:920-924; Iwabuchi et al. (1993) Oncogene 8:1693-1696; 及び Brent WO94/10300)の「ベイトタンパク質」として用いて、PGC-1と結合又は相互作用する(「PGC-1結合タンパク質」又は「PGC-1-bp」)と共に PGC-1活性に関与する他のタンパク質を同定することができる。このようなPGC-1結合タンパク質は、PGC-1が媒介するシグナリング経路の下流の要素などとして、PGC-1タンパク質又はPGC-1の標的によるシグナルの伝播に関与している可能性がある。反対に、このようなPGC-1結合タンパク質はPGC-1阻害物質であるかも知れない。
【0155】
ツーハイブリッド系は、分離可能なDNA結合ドメインと活性化ドメインとから成る大半の転写因子のモジュール性に基づいている。簡単に説明すると、当該検定は二種の異なるDNAコンストラクトを利用する。一方のコンストラクトでは、PGC-1タンパク質をコードする遺伝子が、ある既知の転写因子(例えばGAL-4)のDNA結合ドメインをコードする遺伝子に融合されている。他方のコンストラクトでは、未知のタンパク質(「プレイ」又は「試料」)をコードするDNA配列のライブラリから採った一DNA配列が、前記の既知の転写因子の活性化ドメインをコードする遺伝子に融合されている。これら「ベイト」及び「プレイ」タンパク質が in vivoで相互作用してPGC-1依存的複合体を形成できれば、この転写因子のDNA結合ドメイン及び活性化ドメインは近い位置にあることになる。このような近さにより、この転写因子に応答性の転写調節部位に作動上連結したレポータ遺伝子 (例えばLacZ)の転写を起こさせることができる。レポータ遺伝子の発現を検出し、機能的な転写因子を含有する細胞コロニを分離し、このコロニを用いて、PGC-1タンパク質と相互作用するタンパク質をコードするクローン遺伝子を得ることができる。
【0156】
別の局面では、本発明は、ここに解説する検定法の二つ以上の組合せに関する。例えば、 調節作用物質を細胞ベースもしくは無細胞の検定法を用いて同定することができ、この作用物質が PGC-1タンパク質の活性を調節する能力を、例えば糖尿病の動物モデルなどの動物でin vivoで確認することができる。このような動物は、実施例の項で解説するように、マウス又はラットをストレプトゾトシンで処置するなどにより、作製できる。
【0157】
さらに本発明は、上述のスクリーニング検定法で同定される新規な作用物質に関する。従って、ここで解説したように同定された作用物質を適した動物モデルで使用することも、本発明の範囲内である。例えば、ここで解説したように同定された作用物質(例えば PGC-1 調節作用物質、アンチセンスPGC-1核酸分子、PGC-1特異抗体、又はPGC-1結合相手)を動物モデルに用いて、このような作用物質を処置したときの効果、毒性又は副作用を決定することができる。代替的には、ここで解説したように同定された作用物質を動物モデルに用いて、このような作用物質の作用機序を決定することができる。本発明はさらに、上述のスクリーニング検定法で同定された新規な作用物質を、ここで解説する治療の目的で使用することにも関する。
【0158】
さらに別の実施態様では、本発明は、正常でないもしくは異常なPGC-1核酸発現又はPGC-1ポリペプチド 活性を特徴とする(又は関連する)障害の治療に使用できる化合物を同定する方法(例えばスクリーニング検定法)を提供するものである。この方法は、典型的には、当該化合物又は作用物質が PGC-1核酸の発現又はPGC-1タンパク質の活性を調節する能力を検定することで、正常でないもしくは異常なPGC-1核酸発現又はPGC-1ポリペプチド活性を特徴とする障害を治療するための化合物を同定するステップを含む。正常でないもしくは異常なPGC-1核酸発現 又はPGC-1タンパク質活性を特徴とする障害はここに解説されている。当該化合物又は作用物質が PGC-1核酸の発現又はPGC-1タンパク質の活性を調節する能力を検定する方法は、典型的には細胞ベースの検定である。例えば、 PGC-1の関与する経路を通じてシグナルを伝達するリガンドに感受性ある細胞を誘導して、候補化合物の存在下及び非存在下でPGC-1タンパク質を過剰発現させることができる。統計学的に有意な変化をPGC-1依存的応答(刺激又は阻害のいずれか)で引き起こす候補化合物を同定できる。ある実施態様では、PGC-1核酸の発現又はPGC-1タンパク質の活性を細胞中で調節させ、候補化合物が目的の読み取り値(例えば細胞増殖又は分化の速度)に及ぼす作用を測定する。例えば、PGC-1タンパク質依存的シグナルカスケードに応答して上方もしくは下方調節される遺伝子(例えばPEPCK、グルコース-6-ホスファターゼ、及び/又はフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ)の発現を検定することができる。 好適な実施態様では、このような遺伝子の調節領域、例えば5'末端フランキングプロモータ及びエンハンサ領域など、を、容易に検出できる遺伝子産物をコードする検出可能なマーカ(例えばルシフェラーゼ)に作動上、連結する。PGC-1又はPGC-1標的分子のリン酸化も、例えば免疫ブロット法により、測定できる。
【0159】
選択的には、PGC-1核酸発現のモジュレータ(例えば、正常でないもしくは異常なPGC-1核酸発現又はPGC-1タンパク質活性を特徴とする障害を治療するために使用できる化合物など)を、細胞を候補化合物に接触させ、この細胞中でのPGC-1 mRNA 又はタンパク質の発現を決定するといった方法で同定することができる。候補化合物の存在下でのPGC-1 mRNA又はタンパク質の発現レベルを、候補化合物の非存在下での PGC-1 mRNA 又はタンパク質の発現レベルに比較する。こうしてこの候補化合物を、この比較に基づいて、PGC-1核酸発現のモジュレータとして同定することができ、正常でないPGC-1核酸発現を特徴とする障害を治療するために用いることができる。例えば、PGC-1 mRNA 又はポリペプチドの発現が、候補化合物の存在下での方が、その非存在下でよりも多い(統計学的に有意に多い)場合、その候補化合物をPGC-1核酸発現の刺激物質として同定する。反対に、PGC-1核酸発現が、候補化合物の存在下での方が、その非存在下でよりも少ない(統計学的に有意に少ない)場合、その候補化合物をPGC-1核酸発現の阻害物質として同定する。PGC-1核酸発現の細胞中でのレベルは、PGC-1 mRNA又はタンパク質の検出に関してここで解説した方法により、決定することができる。
【0160】
これらの薬物スクリーニング検定に従って同定されたPGC-1タンパク質活性及び/又はPGC-1核酸発現のモジュレータは、例えば、グルコース恒常性異常、例えば糖尿病(1型糖尿病、2型糖尿病、及び成人発症型若粘性糖尿病(MODY))及び低血糖につながる肝酵素異常を治療するなどのために用いることができる。PGC-1タンパク質活性及び/又はPGC-1核酸発現 のモジュレータは、さらに、肥満などの体重の異常など、グルコース新生に無関係の他のPGC-1の機能に関係する異常を治療するために用いてもよい。これらの治療方法は、PGC-1タンパク質活性及び/又は核酸発現のモジュレータを、例えば上の小項IVで解説した医薬組成物などに含有させて、ここに解説した異常を持つ対象など、このような治療を必要とする対象に投与するステップを含む。
【0161】
B. 診断検定
さらに本発明は、PGC-1の存在を生物試料中で検出する方法も提供する。このような方法を、糖尿病など、正常でないもしくは異常なPGC-1核酸発現又はPGC-1タンパク質活性のある対象を特定するために用いてもよい。当該方法は、PGC-1の存在が生物試料中で検出されるように、PGC-1ポリペプチド又はmRNAを検出できる化合物又は作用物質に生物試料を接触させるステップを含む。PGC-1 mRNAを検出するのに好適な作用物質は、PGC-1 mRNAにハイブリダイズ可能な、標識されたもしくは標識可能な核酸プローブである。前記核酸プローブは、例えば配列番号1又は 4の完全長PGC-1 cDNA であっても、又は、例えば少なくとも15, 30, 50, 100, 250 又は500 ヌクレオチド長で、ストリンジェントな条件下でPGC-1 mRNAに特異的にハイブリダイズするのに充分なオリゴヌクレオチドなど、その一部分であってもよい。PGC-1タンパク質を検出するのに好適な作用物質は、PGC-1タンパク質に結合可能な、標識されたもしくは標識可能な抗体である。抗体はポリクローナルでもよいが、より好ましくはモノクローナルである。インタクト抗体、又はその一フラグメント(例えばFab又はF(ab')2)も使用できる。プローブ又は抗体に関する用語「標識されたもしくは標識可能な」とは、検出可能な物質をプローブ又は抗体に結合(即ち物理的に連結)させることによるプローブ又は抗体の直接的な標識付けや、直接標識された別の試薬との反応性によりプローブ又は抗体を間接的に標識することを包含するものと、意図されている。間接的な標識付けの例には、蛍光標識された二次抗体を用いた一次抗体の検出や、DNAプローブの末端をビオチンで標識して、蛍光標識してあるストレプトアビジンでそれを検出できるようにする方法がある。用語「生物試料」には、対象から分離された組織、細胞及び生物学的流体や、対象内にある組織、細胞及び流体が含まれるものと、意図されている。つまり、本発明の検出方法は、生物試料中のPGC-1 mRNA又はタンパク質を in vitro やin vivoで検出するために用いることができる。例えば、PGC-1 mRNAを検出するin vitro技術には、ノーザン・ハイブリダイゼーション及びin situ ハイブリダイゼーションがある。PGC-1タンパク質 を検出する in vitro技術には、酵素結合免疫吸着検定(ELISA)、ウェスタン・ブロット、免疫沈降及び免疫蛍光がある。代替的には、PGC-1タンパク質 は、標識された抗PGC-1抗体を対象内に導入することで、前記対象内でin vivo で検出することができる。例えば、対象内での存在及び位置を標準的な撮像技術により検出できる放射性マーカで抗体を標識することができる。
【0162】
さらに本発明は、PGC-1の存在を生物試料中で検出するためのキットも包含する。例えば、本キットは、PGC-1タンパク質 又は mRNAを生物試料中で検出可能な標識されたもしくは標識可能な化合物又は作用物質;試料中のPGC-1の量を決定する手段;及び、試料中のPGC-1の量を標準と比較する手段、を含んで成るものとすることができる。前記化合物又は作用物質は、適した容器内にパッケージすることができる。本キットには、さらにPGC-1 mRNA又はタンパク質を検出するために本キットを用いる際の指示を含めることもできる。
【0163】
また本発明の方法を用いて、PGC-1遺伝子の遺伝子異常を検出し、それにより、この異常のある遺伝子を持つ対象に、ここで定義した通りの正常でないもしくは異常なPGC-1核酸発現又はPGC-1タンパク質活性を特徴とする障害の危険性があるかどうかを決定することができる。好適な実施態様では、本方法は、対象の細胞試料中で、PGC-1タンパク質をコードする遺伝子の一体性に影響を与える変化、又は、PGC-1遺伝子の誤発現、の少なくとも一方を特徴とする遺伝子異常の存在又は非存在を検出するステップを含む。例えば、このような遺伝子異常は、1)PGC-1遺伝子からの一つ以上のヌクレオチドの欠失;2)PGC-1遺伝子への一つ以上のヌクレオチドの追加;3)PGC-1 遺伝子の一つ以上のヌクレオチドの置換;4)PGC-1 遺伝子の染色体再編成;5)PGC-1遺伝子のメッセンジャRNA転写産物のレベルの変化;6)PGC-1遺伝子の正常でない修飾、例えば、ゲノムDNAのメチル化パターンの正常でない修飾、7)PGC-1遺伝子のメッセンジャRNA転写産物の非野生型スプライシング・パターンの存在、8)PGC-1タンパク質の非野生型レベル、9)PGC-1遺伝子のアレル消失、及び10)PGC-1タンパク質の不適切な翻訳後修飾、のうちの少なくとも一つの存在を確認することにより、検出できる。ここで解説するように、PGC-1 遺伝子の異常を検出するのに使用できる数多くの検定技術が当業で公知である。
【0164】
いくつかの実施態様では、異常の検出は、プローブ/プライマをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(例えば米国特許第4,683,195号及び第4,683,202号を参照されたい)例えばアンカーPCR又は RACE PCR、又は代替的には、ライゲーション連鎖反応(LCR)(例えば., Landegran et al. (1988) Science 241:1077-1080;及び Nakazawa et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:360-364を参照されたい)で使用することを含み、後者は PGC-1遺伝子の点変異を検出する上で特に有用であろう(Abravaya et al. (1995) Nucleic Acids Res. 23:675-682を参照されたい)。この方法には、患者から細胞試料を採集するステップと、前記試料の細胞から核酸(例えばゲノム、mRNA又は両方)を分離するステップと、 前記核酸試料を、PGC-1遺伝子に特異的にハイブリダイズする一つ以上のプライマに、(存在する場合の)PGC-1遺伝子のハイブリダイゼーション及び増幅が起きるような条件下で接触させるステップと、増幅産物の存在又は非存在を検出する、又は、増幅産物の大きさを検出してコントロール試料にその長さを比較する、ステップと、を含めることができる。
【0165】
ある代替的な実施態様では、試料細胞からのPGC-1遺伝子の変異を、制限酵素開裂パターンの変化により、明らかにすることができる。例えば試料及びコントロールDNAを単離し、(選択的に)増幅し、一種以上の制限エンドヌクレアーゼで消化し、断片の長さを、ゲル電気泳動法で調べて比較する。試料及びコントロールDNAの間で断片長に違いがあれば、試料DNAに変異があることの指標である。さらに、配列特異的リボザイムの使用(例えば米国特許第5,498,531号を参照されたい)を用いると、リボザイム開裂部位の発生又は消失により、特定の変異の存在について採点することができる。
【0166】
さらに別の実施態様では、当業で公知の多種の配列決定反応のいずれかを用いて、PGC-1 遺伝子を直接配列決定し、試料PGC-1の配列を、対応する野生型(コントロール)配列と比較することで、変異を検出することができる。配列決定反応の例には、マキサム及びギルバートの開発した技術((1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74:560)又はサンガーの開発した技術((1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74:5463)に基づくものがある。本診断検定(Naeve et al. (1995) Biotechniques 19:448)を行う場合には、質量分析法(例えばPCT国際公報WO 94/16101; Cohen et al. (1996) Adv. Chromatogr. 36:127-162; 及び Griffin et al. (1993) Appl. Biochem. Biotechnol. 38:147-159を参照されたい)を含め、多種の自動配列決定法を利用することができる。
【0167】
PGC-1遺伝子の変異を検出する他の方法には、開裂剤からの保護を用いてミス対合のある塩基をRNA/RNA又はRNA/DNA二本鎖中で検出する方法(Myers et al. (1985) Science 230:1242); Cotton et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:4397; Saleeba et al. (1992) Methods Enzymol. 217:286-295)、変異型及び野生型の核酸の電気泳動度を比較する方法(Orita et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:2766; Cotton (1993) Mutat. Res. 285:125-144; 及び Hayashi (1992) Genet. Anal. Tech. Appl. 9:73-79)、及び、変性剤を勾配にして含有するポリアクリルアミドゲル中での変異型又は野生型断片の移動を、変性勾配ゲル電気泳動を用いて検定する方法(Myers et al (1985) Nature 313:495)、がある。点変異を検出する他の技術の例には、選択的オリゴヌクレオチド・ハイブリダイゼーション法、選択的増幅法、及び選択的プライマ伸長法、がある。
【0168】
以下の実施例で本発明をさらに解説するが、以下の実施例を限定的なものと捉えられては成らない。本出願全体を通じて引用された全参考文献、特許出願、特許、及び公開済み特許出願や、図面及び配列表の内容を、引用をもってここに援用することとする。
【0169】
実施例
材料及び方法
細胞培養
市販の初代ラット肝細胞を購入(インビトロ・テクノロジーズ社)し、10% ウシ胎児血清 (FBS)(ハイクローン社製)を加えたのダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)(セルグロ社製)中で 5% CO2内で培養した。ホルモン刺激実験では、細胞を無血清DMEM 中で一晩、インキュベートしてからホルモンを添加した。Faoラットヘパトーム細胞は10% FBS-ロズウェル・パーク・メモリアルインスティテュート1640培地(RPMI)(セルグロ社製)中で5% CO2内に維持した。
【0170】
動物実験
食餌実験のために、雄のマウスを、餌を自由に採れるようにするか、又は、24時間絶食させてから24時間後にと殺した。3番目の群は24時間絶食させた後、24時間は適宜食餌させてからと殺した。STZ-糖尿病マウス実験には、6-8週齢の雄のマウス(1群当たりn = 3 )に、クエン酸ナトリウム溶液又はストレプトゾトシン(1回の注射当たり100 mg/体重1g)を連続3日間、腹腔内注射した。動物を10日後にと殺したが、その時点では、STZ-処置群の平均血糖値は400 mg/dlを越えるまで上昇していた。LIRKOマウス実験のためには、2か月齢のメスのコントロール(lox/lox)又はLIRKOマウスを3つの群(それぞれn = 2 )に分けてから、上に解説した標準的な食餌プロトコルを行った。
【0171】
ノーザン分析
トリゾル(ライフ・テクノロジーズ社製)で細胞又は組織からメーカの指示に従って総RNAを調製した。10乃至20マイクログラムの総RNAを1% アガロース-ホルムアルデヒドゲルで画分し、ナイロンに移し、ランダム・プライムド・ラベリング(ベーリンガー・マンハイム社製)により[α-32P]-dCTPで標識したcDNAプローブに当業で公知の方法を用いてハイブリダイズした。
【0172】
アデノウィルス感染
プレートしてから48時間後の初代肝細胞に、緑色蛍光タンパク質(GFP)又は PGC-1のいずれかを発現するよう構築されたアデノウィルスを感染させた。感染後48乃至72時間後に、RNA又はタンパク質単離に向けて細胞を採集した。感染後48時間目にグルコース生成検定を行った。
【0173】
グルコース生成検定
初代肝細胞を、10% FBS-DMEM、又はホルモン治療の場合には、無血清DMEM、を入れた6ウェルプレート(1ウェル当たり140万個の細胞)で培養した。次にこの培地を、無グルコースDMEM (pH 7.4)から成り、フェノール・レッドは加えずに、20 mMの乳酸ナトリウム及び2 mMのピルビン酸ナトリウムを添加した1 mlのグルコース生成緩衝液に置き換えた。3時間のインキュベーション後、0.5 mlの培地を採集し、グルコース濃度を、比色グルコース検定キット(シグマ社製)を用いて測定した。次にその読み取り値を、全細胞ライセートから別に判断した総タンパク質含有量に対して正規化した。
【0174】
ウェスタン分析
100 mMのTris(pH 8.5)、250 mMのNaCl、1% NP-40、1 mMのEDTA、コンプリートTMプロテアーゼ阻害剤(ベーリンガー・マンハイム社製)、及び0.1% フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF社製)を含有する緩衝液に細胞を溶解させて、全細胞抽出物を調製し、14,000g で10分間遠心分離して細胞破壊片を取り除いた。この溶解緩衝液をポリトロン・ホモジナイザで均質化した後、遠心分離して粒状の物質を取り除いて組織抽出物を調製した。タンパク質をSDS-PAGEで分離し、イモビロンPメンブレン(ミリポア社製)に移し、PGC-1に対するポリクローナル抗血清でプローブした。
【0175】
一時的トランスフェクション及びレポータ検定
NIH 3T3 又はFaoヘパトーム細胞を10% FBS-RPMI中で培養し、70-90% コンフルエントになった時にフュージーン6(ロシュ社製)を用いてトランスフェクトした。DNA:フュージーンの比は1:2だった。培地を24時間後に取り替えた。トランスフェクションから48時間後に細胞を採集し、β-ガラクトシダーゼ及びルシフェラーゼ検定を行った。トランスフェクションは複式で行い、少なくとも2回、繰り返した。
【0176】
同時免疫沈降実験
Flagタグを付けたPGC-1及び/又はpCMV-HNF-4αをBOSC23細胞にフュージーン6を用いてトランスフェクトした。トランスフェクトから48時間後に全細胞ライセートを調製し、抗Flagモノクローナル抗体(シグマ社製)と一緒に2時間、4℃でインキュベートした後、プロテインA/Gセファロース・ビーズと一緒に一晩、インキュベートした。その免疫沈降物を溶解緩衝液でよく洗浄し、SDS-PAGEで分離し、PGC-1 及びHNF-4α(サンタ・クルズ社製)について免疫ブロットした。
【0177】
In vitroタンパク質相互作用検定
GST 融合タンパク質を E. coli で産生させ、グルタチオンを含有するビーズで精製した。[35S]-HNF-4αを、TNT網状赤血球ライセート in vitro転写/翻訳キット(プロメガ社製)で作製した。20 mM のHEPES (pH 7.7)、75 mM のKCl、0.1 mMのEDTA、2.5 mM MgCl2、0.05%のNP40、2 mMのDTT、及び10%のグリセロールを含有するin vitro 翻訳結合緩衝液5mlに、ほぼ1 mgの融合タンパク質を混合した。結合を1時間、室温で行わせ、次にビーズを前記結合緩衝液で4回、洗浄してから、SDS-PAGE 試料緩衝液に再懸濁させた。電気泳動後に、放射性標識のあるタンパク質をオートラジオグラフィで検出した。
【0178】
アデノウィルスの輸注及び代謝測定
雄のウィスター・ラット(チャールズ・リバー社製)に、標準的な実験食を給餌し、実験時の体重を300-350 g とした。25 mg/ml のキシラジン(フェニックス・サイエンティフィック社製)及び0.5mg/mlのアセプロマジン(フェルメンタ・アニマル・ヘルス社製)を含有する溶液を体重100g当たり0.1ml注射して動物を麻酔した。CMV-GFP 及びCMV-PGC-1アデノウィルスをCsCl 勾配遠心分離により、Becker, T. et al. (1994) Methods Cell Biol. 43:161-189に解説されているように精製した。純粋な組換えウィルス(1×1012プラーク形成単位)を0.5 ml のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁させ、麻酔したラットに尾の静脈を通じて注射した。動物を回復させ、適宜標準的食餌を与えた。アデノウィルスの輸注から5日後に、尾の静脈血を14:00時に採血して、グルコース濃度をβ-グルコースアナライザ(ヘモキューAB社製)を用いて測定した。測定後、動物をと殺した。血液試料を心臓から採取し、1300g で15分間、4℃で、50μlの0.4 M EDTAを入れた遠心分離試験管内で遠心分離し、-20℃で保存してからインシュリン濃度をラットインシュリン特異的ラジオイムノアッセイ・キット(リンコ・リサーチ社製)で測定した。肝試料を採取し、液体窒素で急速凍結させ、-80℃で保管した。凍結肝試料のアリクォートをノーザン・ブロット又は免疫ブロット分析用に処理した。
【0179】
実施例1: in vivo及び培養において肝細胞でのPGC-1遺伝子発現の調節が、グルコース新生ホルモンの上昇と一致する
この実施例では、肝臓での生理的変化によるPGC-1レベルの調節を解説する。雄のマウスを三つの実験群に分けた。最初の2つの群は、自由に食餌を与えるか、又は、24時間絶食させてから12時間後にと殺した。3番目の群は24時間絶食させた後、24時間、再度食餌を与えてからと殺した。プールした肝組織(1群当たりn=3)から抽出した10mgの総RNAをノーザン・ブロット法で分析した。予想通り、一晩の絶食により、グルコース産生タンパク質PEPCK及びグルコース-6-ホスファターゼのメッセンジャRNAの発現が誘導されていた。PEPCKの調節に関与していることが知られているHNF-4α(Hall, R.K. et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:412-416)も誘導されていた。ノーザン・ブロット法では、一晩絶食後の肝臓では、PGC-1 mRNA が3.7倍に増加していることも分かった。これらの誘導はすべて、再給餌により逆行した。
【0180】
PGC-1のmRNAの誘導とグルコース新生との間の時間的関係を時間経過的な絶食を行うことで調べた。雄のマウスを食餌実験群及び絶食実験群(夜間)に分け、2時間目、5時間目、及び16時間目にと殺した。一つの群当たり2-3匹の動物から肝RNAを抽出してプールし、ノーザン分析を行った。PGC-1 mRNA の増加がまず2時間後に観察され、絶食後5時間目にピークを迎えた。PEPCK mRNAの誘導も、まず2時間目の時点で検出され、5時間目及び16時間目の時点でも増加していた。このように、PGC-1 mRNA の誘導は比較的に初期の事象であり、グルコース新生遺伝子のコントロールでの役割と一致している。
【0181】
PGC-1が、絶食中の肝臓で増加することが知られている分子である cAMPにより肝臓で誘導されている可能性を調べるために、PGC-1の発現を、cAMPで処理した初代肝細胞で決定した。 ラットから分離した初代肝細胞を無血清DMEM中で培養し、1 mMの8-ブロモ cAMP、1 mM のデキサメタゾン、又は両者の組合せで処理した。処理の開始から6-8時間後に、総RNAを細胞から分離した。ノーザン分析の結果、デキサメタゾンで生じたPGC-1 mRNAの増加はかすかに検出可能な程度だったが、8-ブロモ cAMP処理では、より実質的な増加がPGC-1転写産物に起き、そしてcAMP及びデキサメタゾンを組み合わせた場合では、はるかに大きな効果があったことが判明し、これら二種のホルモンの間の相乗効果が実証された。これらの観察は、グルコース新生を含め、絶食に対する肝臓の応答に及ぼすこれらのホルモンの公知の作用を反映しており、絶食中のPGC-1の活性化がこれらのプロセスに寄与している可能性が示唆された。
【0182】
実施例2: in vivoにおけるPGC-1遺伝子発現の肝レベルは、インシュリン欠乏の動物モデルで上昇している
例えば食事後など、絶食とは反対の状況下では血漿グルカゴンレベルは急激に落ちるが、基礎レベルは、低速のグルコース新生を維持するにはまだ充分である(Shulman, G.I. et al. (1990) Am. J. Physiol. 259:E335; Radziuk, J. (1989) Am. J. Physiol. 257:E158-169)。しかしながら、インシュリンが同時に上昇すると、グリコーゲンシンターゼが刺激され、グリコーゲンホスホリラーゼが阻害されて、グルコース-6-ホスフェートがグルコースとして放出される代わりに、逸脱してグリコーゲンになる。インシュリンはまた、PEPCKなどのいくつかのグルコース新生酵素に対するグルカゴンの刺激作用に拮抗する。このように、同化の場合の主要なホルモンであるインシュリンは、肝臓によるグルコース生成の効果的な抑制物質であり、従ってPGC-1レベルが in vivo でインシュリンにより調節を受けているかどうかを決定した。
【0183】
肝臓特異的インシュリン受容体ノックアウト(LIRKO)マウスは、肝臓におけるインシュリン耐性の有用なモデルであり、重症糖尿病や、肝臓によるグルコース生成をインシュリンが抑制できない状態と関連づけられている(Michael, M.D. et al. (2000) Mol. Cell 6:87-97)。LIRKO マウスでは、肝臓におけるグルコース新生酵素、特にPEPCK及びグルコース-6-ホスファターゼのレベルが高いことが以前に報告されている。2月齢のメスのコントロール(lox/lox)又はLIRKO マウスに、適宜の給餌、24時間の絶食、又は24時間の絶食及び24時間の再給餌を行った。その後これらをと殺し、肝組織を摘出した。これらの動物の肝組織をPGC-1発現について評価すると、ヌル動物ではloxコントロール動物に比較して驚くほどの上昇が例外なく検出され、これらの動物に高レベルのグルコース新生酵素があることと良く相関していた。ノックアウトマウスとコントロールマウスとの間の違いは、食餌状態及び再食餌状態では最も明白であったが、絶食状態でも尚、明白であった。これらのデータは、PGC-1の発現は、グルコース新生自体と同様、インシュリン受容体の働きにより抑制されることを示している。
【0184】
1型糖尿病の最も普通に用いられている実験モデルであるストレプトゾトシン(STZ)糖尿病マウス(McNeill, J.H., ed. (1999) Experimental Models of Diabetes. Boca Raton, Fla.:CRC Press. pp. 3-18)の肝臓におけるPGC-1のレベルも調べた。6乃至8週齢の雄のマウスに、クエン酸ナトリウム溶液(コントロール群)又はストレプトゾトシン(100mg/体重1g)を連続3日間、毎日腹腔内注射した。10日後、これらの動物(1群当たりn = 3 )をと殺した。肝臓から分離した総RNAにノーザン分析を行うと、PGC-1はSTZ糖尿病マウスの肝臓ではおしなべて増加していることが分かった。STZは膵臓のβ細胞を選択的に標的として全身性インシュリン不足症を起こすため、この結果は、PGC-1が in vivoでインシュリンによる負の調節を受けるという解釈とも一致している。
【0185】
肥満(ob)遺伝子がホモ接合型になったマウスは肥満しており、重度にインシュリン耐性であり、2型糖尿病のモデルとして広く用いられている。3月齢の適宜給餌した雄のob/ob 又は痩せた同腹仔をと殺し、RNAをその肝臓から抽出した。PGC-1 mRNA は、痩せたコントロールに比較してob/ob マウスの肝臓では上昇している。
【0186】
実施例3: PGC-1が発現するとグルコース新生経路の複数の遺伝子が活性化されることで肝臓からのグルコース生成量が増加する
PGC-1が肝グルコース代謝の数々の局面を調節している可能性に対処するために、PGC-1を培養初代ラット肝細胞でアデノウィルスベクタを用いて発現させた。初代肝細胞を10% FBS-DMEM中に維持し、プレートしてから48時間後に、GFPを発現するコントロールアデノウィルスか、又は、GFP及びPGC-1の両方を発現するアデノウィルスベクタに、感染多重度(MOI)30で感染させた。初代細胞を選択したのは、これらはホルモン刺激への応答が良く、従って生理的調節の優れたモデルとなるからである。この力価は、GFP蛍光度で調べた場合の90%を越える感染率を達成するには充分であった。総RNAを感染から48時間後の細胞から単離し、ノーザン・ブロット法で分析した。このノーザン分析では、PGC-1の発現が、それぞれグルコース新生経路の一番目の専有ステップ及び最後のステップを触媒するPEPCK及びグルコース-6-ホスファターゼを含む、いくつかの鍵となるグルコース新生酵素のレベルを著しく上昇させたことが分かった。フルクトース-1,6-ビスホスファターゼも数倍に上昇していた。これら三つの酵素は、全体として、グルコース新生経路の三つの主要なコントロール点を成すのである(Nordlie, R.C. et al. (1999) Annu. Rev. Nutr. 19:379-406; Pilkis, S.J. and Granner, D.K. (1992) Annu. Rev. Physiol. 54:885-909; グルコース新生経路の概略図は図2を参照されたい)。さらに糖質コルチコイドも、PGC-1発現細胞においてグルコース新生遺伝子を誘導していた。
【0187】
次に初代肝細胞に、力価を次第に高くしたGFP又はPGC-1アデノウィルス(MOI = 0、5、10、30、60)を感染させ、 感染後48乃至72時間目に細胞のRNA又はタンパク質を回収した。総RNAをグルコース新生酵素(PEPCK及びG6Pase)の発現についてプローブし、総細胞タンパク質をPGC-1タンパク質発現について免疫ブロットした。これは、グルコース新生遺伝子の調節は用量依存的であることを示しており、肝細胞を相対的に低い感染多重度(MOI)で感染させたときにも、標的遺伝子に有意な増加を検出することができた。例えば、感染多重度が5 では、グルコース-6-ホスファターゼ転写産物に強力な増加が生じ、MOI を30では、PEPCKレベルが容易に上昇した。これらの遺伝子発現は感染多重度が60のときにプラトーに達した。これらのアデノウィルス力価の結果、生理的レベルのPGC-1タンパク質が生じ、MOIが60では、絶食肝で存在するレベルに達するがそれを越えないレベルのPGC-1が生じた。このように、細胞中のPGC-1発現量を滴定することにより、肝グルコース新生酵素を用量依存的に活性化させた。さらに、PGC-1が上昇すると、グルコース新生遺伝子の発現が、このコアクチベータの生理的範囲で刺激された。
【0188】
次に、PGC-1の発現が、肝細胞の生じる正味のグルコース生成量を高めることができるかどうかを決定した。初代肝細胞にGFP又はPGC-1発現アデノウィルスを感染させた後、無血清DMEM中で、1 mM のcAMP処理を施して又は施さずに培養した。感染から48時間後に細胞をリン酸緩衝生理食塩水で2回、洗浄し、グルコース生成緩衝液中で3時間、インキュベートし、その終了時に培地を採集してグルコース濃度を測定した。当初グルコース新生性の前駆物質は含有していたがグルコースは含有していなかった培地中へ放出されたグルコースを測定したところ、PGC-1 が過剰発現(MOI は 60)しさえすれば、外因性のホルモン刺激が何らなくとも基礎グルコース生成量が3倍に増加するのに充分であることが判明した(図3)。加えて、PGC-1の発現によりcAMP応答が大きく鈍り(8-ブロモ-cAMP を添加してもこの応答はそれ以上向上しなかった)、PGC-1の誘導はこのプロセスにおけるcAMP作用の主要な構成成分であることと一致した。これらのデータは、生理的濃度のPGC-1が、グルコース新生酵素の転写調節を通じて肝グルコース生成を増強するという能力を、直接実証するものである。
【0189】
実施例4: PGC-1はPEPCKプロモータをHNF-4αとの相互作用を通じて活性化する
グルコース新生酵素の活性化の基礎にある機序を調べるために、PEPCK遺伝子プロモータを用いた。PEPCKプロモータは広汎に研究されてきた(Hanson, R.W. and Reshef, L. (1997) Annu. Rev. Biochem. 66:581-611; 上のPilkis and Granner (1992))。この酵素の活性は、多くの研究者によりグルコース新生の速度制限段階を触媒するものだとと考えられており、またグルカゴン(cAMPを介して)、糖質コルチコイド、レチノイン酸、甲状腺ホルモン及びインシュリンを含め、数多くのホルモンにより転写レベルで主に調節を受ける。それに対応して、PEPCKプロモータのうちで推定上の転写因子結合部位として働く数多くの調節配列が、ヘパトーム細胞株での一時的トランスフェクション検定を用いて同定されてきた(Hall, R.K. et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:412-416; 上のHanson and Reshef (1997); Mitchell J. et al. (1994) Mol. Endocrinol. 8:585-594; Park, E.A. et al. (1999) J. Biol. Chem. 274(1):211-217; Roesler, W.J. et al. (1994) J. Biol. Chem. 269(19):14276-14283; Scott, D.K. et al. (1996) J. Biol. Chem. 271(50):31909-31904; Yeagley, D. et al. (1998) J. Biol. Chem. 273(30):18743-18750)。これらの機能解析に基づいて共通に想起されたモデルは、ホルモン応答単位と呼ばれる一組の複数のcis調節配列が、ある一定のホルモン刺激に対して至適な応答が起きるのに必要であり、異なる応答単位間で重複がしばしば見られる、というモデルである。例えば糖質コルチコイド応答単位は、少なくとも6つの個別の配列を含有し、その6つの中には、二つの比較的に弱い糖質コルチコイド受容体(GR)結合部位(GR1、GR2)と、cAMP応答配列 (CRE)と、AF1、AF2、及びAF3と呼ばれる三つの付属的な転写因子結合部位が含まれ、これら6つの部位がそれぞれ、完全な糖質コルチコイド応答には必要である(Sugiyama, T. et al. (2000) J. Biol. Chem. 275(5):3446-3454)。 しかしながら、AF1及び AF3はレチノイン酸応答単位にも属し、そしてAF3は、甲状腺ホルモン応答単位の一部でもある。従って、様々なホルモン応答間でクロストークが起きる機会が数多くあり、より生理的な意味での調節では、複数の環境刺激を受けたときにはこれらの応答単位の複雑かつ協調した統合が起きている可能性が高い。
【0190】
ヘパトーム細胞においてPGC-1がPEPCKプロモータを活性化する能力を(ルシフェラーゼレポータ遺伝子を用いて)調べた。Fao ラットヘパトーム細胞を10% FBS-RPMI 中に維持し、6ウェルフォーマット中で、1ウェル当たり200 ngのpPL32-PEPCK-ルシフェラーゼ(又はpGL3-PEPCK-ルシフェラーゼ)、100 ng CMV β-ガラクトシダーゼ、及び1 mgの pCMV又はpCMV-PGC-1をトランスフェクトした。トランスフェクトから48時間後に細胞を回収してルシフェラーゼ検定を行い、読み取り値をβ-ガラクトシダーゼ活性で正規化した。Fao細胞株は良好に分化したラットヘパトーム細胞株であり、比較的に活性なグルコース新生経路を持つ。この研究で用いたPEPCKプロモータの467塩基対の断片は、cAMP及び糖質コルチコイドを含む様々なホルモンに対して、完全長内因性PEPCKプロモータの応答に近い模倣をすることが示されている。上で解説した一時的トランスフェクション検定では、PGC-1は野生型PEPCKプロモータ-レポータ遺伝子をほぼ10倍に活性化した(図4)。
【0191】
PGC-1がこのプロモータに及ぼす作用を媒介している調節配列を同定するために、PEPCK-ルシフェラーゼレポータ・コンストラクト内の多種の調節配列を酵母Gal4 DNA結合配列に置換した変異コンストラクトを用いた(図1; Wang, J.C. et al. (1999) Mol. Endocrinol. 13:604-618)。前に報告されているように、AF配列など遠位の部位での変異は、基礎レポータ活性には影響しなかった。しかし、AF1 又はAF3 部位(又は両方)に変異があると、それぞれ、PGC-1媒介性活性化が50-60%減少した。AF1-乃至Gal4を置換し、更なるブロック変異をGR結合部位(GR1、GR2)に作った組合せでは、小幅ではあるが有意な減少がさらにあった。対照的に、 AF2 又はCRE 部位での変異では、活性化の規模にさほどの影響はなかった。cAMP及び甲状腺ホルモン応答単位に共通の配列であるP3 (I)部位をGal4 DNA 結合配列に置換したところ、中程度(25%)の減少が、PEPCKレポータのPGC-1 媒介性活性化に起きた。これらの結果は、PGC-1 と AF1 及びAF3 部位との間の相互作用が、この研究で調べた調節配列の中では、量的には最も重要であることを意味している。AF1 及びAF3配列は明らかに重複はしていないが、AF1/AF3 二重変異体はその一重変異体に比べて何ら大きな活性の減少がある訳ではないという事実から、これらは機能的に重複した作用を媒介していることを示唆している。さらに、PEPCKプロモータ上には他のまだ未知の調節配列があって、その調節配列を介して、PGC-1が部分的な活性化を生むことができるようである。
【0192】
AF1 及び AF3 部位は両方とも、いくつかの核受容体に結合することができるDR-1 型配列である。AF1配列は、両方ともオーファン核受容体である HNF-4α及びCOUP-TF, に結合できることが、肝細胞抽出物を用いて以前に示されている (上のHall et al. (1995);上の Sugiyama et al. (2000))。AF3配列もCOUP-TF結合に関連付けられている(上のScott et al (1996))。AF3 部位がHNF-4αの結合に関連づけられたことはないが、PGC-1は多量体(3×)したAF3 配列を通じて HNF-4αを同時活性化できることは、PGC-1が同時に存在すると、有意な結合が起きるのであろうことを示唆している。Gal4 DBD、Gal4 DBD-HNF-4α、又はGal4 DBD-COUP-TF 融合タンパク質をコードするベクタ(1ウェル当たり500 ng )に、Gal4 DBD内の特定の配列の置換を含有する変異型受容体を同時トランスフェクトして、これらがPGC-1活性をレスキューできるかどうかを調べた。HNF-4αのリガンド結合/トランス活性化ドメインに融合した形でGal4 DNA 結合ドメイン(DBD)を コードするGal4-HNF-4αコンストラクトに、AF1もしくはAF3変異型又は AF1/AF3 二重変異型 PEPCK コンストラクトを同時トランスフェクトしたところ、完全なPGC-1 活性が回復した(図5)。対照的に、Gal4-COUP-TFコンストラクトの同時トランスフェクションでは、部分的な回復しか生じず(HNF-4αで達成されるそれのほぼ20-30%)、Gal4 DBD のみの同時トランスフェクションでは、事実上、PGC-1 媒介性活性化には何ら影響がなかった。大変似た結果がAF3部位で得られた。これらのデータは、AF1配列(及びおそらくはAF3)を通じてPGC-1によりHNF-4αが同時活性化することが、このプロモータでの主要な調節機序を成していることを示唆している。
【0193】
AF1部位で起きるインタクト転写因子とのこのような機能的相互作用を調べるために、PGC-1、野生型HNF-4α及びCOUP-TFタンパク質と、多量体化AF1応答配列とを用いてレポータ遺伝子検定を行った。 内因性肝因子への干渉を避けるために、これらの実験はNIH 3T3 線維芽細胞で行った。トランスフェクションは図4について上述したように行った。HNF-4α、COUP-TF、又はPGC-1のいずれも、これらの標的配列を単独では活性化しない(図6)。 PGC-1 には COUP-TFを同時活性化する能力はないが、ホルモン又はHFN-4リガンドのいずれを添加することなく、HNF-4αを劇的に同時活性化する。
【0194】
PEPCKプロモータ内の糖質コルチコイド応答配列の役割も調べた。PGC-1はリガンド依存的態様で糖質コルチコイド受容体に結合し、同時活性化することが示されている (Knutti, D. et al. (2000) Mol. Cell. Biol. 20:2411-2422)。Fao ヘパトーム細胞を図4について上述したようにトランスフェクトした。デキサメタゾン(dex、1μM最終濃度)を最後の24時間添加した。PGC-1はPEPCKプロモータを糖質コルチコイド受容体を通じてやはりリガンド依存的態様で同時活性化する(図7)。この効果は、糖質コルチコイド受容体-1(GR-1)部位での変異により実質的に低下するが、GR-2部位では低下せず、GR-1部位には調節上、より重要な役割があることを示したデータと一致している (Scott, D.K., et al. (1996) J. Biol. Chem. 271:31909-31904)。
【0195】
PEPCK は組織限定の酵素であり、オキサロ酢酸からのホスホエノールピルビン酸の形成が関与する、グルコース新生の最初の専有ステップを触媒する。PEPCKがアロステリックな調節を受けることも、また共有結合による修飾を受けることも知られておらず、その活性は、主に、数多くのホルモン、特にグルカゴンにより(cAMPによって)転写レベルで制御されている。PEPCKの化学的阻害物質が、絶食動物において低血糖症を生じることが報告されており (DiTullio, N.W. et al. (1974) Biochem. J. 138:387-394)、PEPCKを過剰発現するトランスジェニック・マウスは、すべて2型糖尿病に似た特徴である高血糖、高インスリン血症及びグルコース耐性の低下を示す(Valvera, A., et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:9151-9154)。加えて、糖尿病のいくつかの動物モデルが、有意に高いレベルのPEPCK及び付随する肝グルコース生成の増加を伴っており、おそらくは PEPCK発現のホルモン調節欠陥を示すものである (Friedman, J.E. et al. (1997) J. Biol. Chem. 272(50):31475-31481; Noguchi, T. T. et al. (1993) FEBS Lett. 328:145-148; Shafrir, E. (1988) in Frontiers in diabetes research: Lessons learned from animal diabetes. (E. Shafrir and A.E. Reynolds, eds) 2nd ed. Pp. 304-315. John Libbey and Co.)。PEPCK遺伝子自体又はそのプロモータの領域のいずれでも、文献化された糖尿病の症例と関連づけられた遺伝子変異の例は全く知られていないが、臨床上の症候群は、プロモータ又はさらに上流(例えばPGC-1)に作用する調節タンパク質の機能不全が原因かもしれない。
【0196】
PEPCK遺伝子の調節には、 グルコース新生においてこのような重要性があり、またプロモータレベルで機械的アプローチを容易に採れるため、PEPCKプロモータの多種の変異型アレルを、PGC-1作用の媒介に関与している潜在的cis調節配列の位置を特定するために、調べた。HNF-4αが、既に同定されたAF1及びAF3部位へ結合することが、PEPCKプロモータの完全な活性化に必要であると決定された。HNF-4αは、膵臓のβ細胞のインシュリン分泌異常が原因である1型成人発症型若年性糖尿病(MODY)とのその関連の方がよく知られた、肝臓に豊富なオーファン核受容体である。HNF-4αは、肝臓内で肝細胞の分化や、複数の肝臓特異的遺伝子の調節に必要であることが示されている(Li, J. et al. (2000) Genes Dev. 14(4);464-474)。肝グルコース代謝におけるその関与が、それがAF1部位を通じて作用することで、PEPCK遺伝子の糖質コルチコイド媒介性誘導において補助的な因子として働くという事実により、強調されている(Hall, R.K. et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:412-416)。その遺伝子発現はグルコース新生の増加とも一致し、初代肝細胞では糖質コルチコイド及びグルカゴンで誘導され、インシュリンで抑制される(Oyadomari, S. et al. (2000) FEBS Lett. 478:141-146)。さらに、肝臓内でのHNF-4αレベルは、ストレプトゾトシン誘導性糖尿病ラットでは上昇し、インシュリンにより正常化することが見出された(上のOyadomari et al. (2000))。まとめると、これらのデータは、HNF-4αは肝臓内でPGC-1と協調しながら作用してグルコース新生の転写プログラムを実施する交流的調節因子であるという像を描き出すものである。
【0197】
PGC-1がPEPCKプロモータの調節物質として同定されたことは、このプロモータがこれまで、主に個別の調節配列という観点で研究されてきたという意味で、意義深い。生理条件下では、これら調節配列は、複雑かつ継続的に変化するホルモンミリューに応答するために協調的に働くため、個々の配列及び結合する転写因子の詳細な分析では、この様々な配列間の相互作用に関する情報は必ずしも提供されない。複数の転写アクチベータと共にタンパク質複合体を形成できる、例えばPGC-1などの生理的に調節を受けるコアクチベータは、プロモータで起きる重要なタンパク質間相互作用のいくつかに関して貴重な手がかりを提供するであろう。
【0198】
PGC-1のもう一つの主要な標的はグルコース-6-ホスファターゼ (G6Pase)という、やはり組織での分布の限られたグルコース新生酵素である。実際、G6Pase 遺伝子はPEPCKよりもPGC-1に対してより感受性が高いように思われる。なぜなら、大変低力価のPGC-1でも、驚くべきG6Paseの上昇を生むことができるからである。G6Paseは、ER膜に埋没した多サブユニット型の多機能酵素であると考えられており、最近までは、分子レベルでのこの酵素に関する情報不足が原因でその調節の理解が進んでいなかった(上のNordlie and Foster(1999))。触媒性のサブユニットのクローニングにより、cAMP及び糖質コルチコイドが、G6Pase遺伝子の転写(触媒性サブユニット)の正の調節物質として、そしてインシュリンが負の調節物質として、明らかになった(Argaud, D. et al. (1996) Diabetes 45(11):1563-1571)。初代肝細胞においては、デキサメタゾン又はcAMPの刺激作用は、両ホルモンを加えたときに最も容易に観察され(上のArgaud et al. (1996))、これはおそらくはPGC-1遺伝子の誘導を反映したものである。初代肝細胞において、アデノウィルスベクタを用いて G6Paseを過剰発現させると、グルコース新生及びグルコース-6-ホスフェート加水分解の速度が上昇し (Seoane, J. K. et al. (1997) J. Biol. Chem. 272: 26972-26977)、そしてG6Pase アデノウィルスを輸注した動物は高血糖及び高インシュリン血症、並びに軽度のグルコース不耐性を発症した(Trinh, K. et al. (1998) J. Biol. Chem. 273:31615-31620)。G6Pase mRNA及びin vivo活性は急性インシュリン不足性糖尿病では増加しているが、インシュリン処置により軽減する (Liu, Z. et al. (1994) Biochem. Biophys. Res. Comm. 205(1):680-686)。
【0199】
従って複数の系統の証拠が、過剰なレベルの PEPCK又はG6Pase などのグルコース新生酵素があると、それだけで、肝グルコース流出量を大きく増加させ、全身性高血糖を生じるには充分であることを示唆している。これらの観察と並行して、糖尿病の多種の動物モデルはしばしば、異常に高いレベルのこれらの酵素を示す。フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ遺伝子の発現も同様に、絶食ラット及び糖尿病ラットの肝臓では増加しており、インシュリン処置でそのmRNAが減少する (El-Maghrabi, M.R. et al. (1991) J. Biol. Chem. 266:2115-2120)。
【0200】
実施例5: PGC-1は HNF-4αをG6PASEプロモータで同時活性化する
PGC-1及び/又はHNF-4αをSV40形質転換させた肝細胞に同時トランスフェクトし、グルコース-6-ホスファターゼ (G6Pase)プロモータを同時活性化するその能力を、ルシフェラーゼレポータ遺伝子を用いて調べた。実験は二連で行った。図10に示すように、PGC-1又はHNF-4αを単独でトランスフェクトすると、G6Paseプロモータ-ルシフェラーゼレポータ・コンストラクトの活性化は何ら見られなかった。しかしながら、PGC-1及びHNF-4αを一緒に同時トランスフェクトすると、G6Paseプロモータの強力な同時活性化が起きた。ゲル泳動実験では、HNF-4αはG6Paseプロモータに直接結合することが示された。
【0201】
実施例6: HNF-4αとの物理的相互作用には、PGC-1のアミノ末端のLXXLLモチーフが必要である
PGC-1とHNF-4αとの間の直接的な物理的相互作用が、上述した機能的相互作用を担っているかどうかを調べるために、全細胞抽出物を用いて同時免疫沈降実験を行った。Flagタグを付けた完全長PGC-1発現コンストラクトと、CMV-作動性HNF-4αコンストラクトとを、BOSC23細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトから48時間後に全細胞抽出物を作製し、Flagタグに対するモノクローナル抗体との免疫沈降物を、 PGC-1又はHNF-4αに対するポリクローナル抗血清を用いたタンパク質免疫ブロットで分析した。抗Flag抗体との免疫沈降物が、ウェスタン分析での評価によると、有意な量のHNF-4αタンパク質を含有していたのは、PGC-1及び HNF-4αの両方をトランスフェクトした場合だけであった。このことは、トランスフェクトされた細胞においてPGC-1が実際にHNF-4αと複合体を形成できることを示している。
【0202】
PGC-1のうちでHNF-4α相互作用に関係するドメインの位置を特定するために、一連の in vitro 相互作用実験も行った。HNF-4αの[35S]-標識付きin vitro翻訳産物と、PGC-1のグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質を用いて、PGC-1のアミノ末端の 190 個のアミノ酸(配列番号2)があれば 、HNF-4αとの強力な相互作用を媒介するには充分であり、投入量の50%を越える量が回収されたことが判明した。この領域は以前、エストロゲン受容体α(ERα)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)、及び糖質コルチコイド受容体(GR)を含め、いくつかの核受容体の活性化機能2(AF2)ドメインとのリガンド依存的相互作用に関与していることが示されている(Tcherepanova, I., P. et al. (2000) J. Biol. Chem. 275(21):16302-16308; Knutti, D. et al. (2000) Mol. Cell Biol. 20(7): 2411-2422; Vega, R.B. et al. (2000) Mol. Cell Biol. 20(5):1868-1876)。対照的に、PGC-1は、 PGC-1(配列番号2)のPGC-1アミノ酸残基338-403 を介して、in vitroではリガンド非依存的な態様でPPARγと相互作用する(Puigserver, P. et al. (1998) Cell 92:829-839)。
【0203】
PGC-1(配列番号2)のアミノ酸残基142-146に位置するLXXLL配列 (配列番号3)は、PGC-1がERα及びPPARαに結合するのに必要であることが分かっているため、LXXLL 配列の4番目の位置のロイシン残基をアラニンに置換して変異させた、配列番号2のアミノ酸残基1-190の変異型コンストラクトもテストした。 in vitro翻訳により、[35S]-メチオニンで放射性標識されたHNF-4αタンパク質を作製し、グルタチオン・ビーズに固定したGSTコントロール、GST-PGC-1 (アミノ酸1-190 及び、Leu145をAlaに置換したアミノ酸1-190)又はGST-PGC-1(アミノ酸1-400) 融合タンパク質と一緒に結合緩衝液中でインキュベートした。このビーズをよく洗浄した後、[35S]で標識されたHNF-4αタンパク質を溶出させ、SDS-PAGEで分離し、オートラジオグラフィで検出した。この変異により、PGC-1のHNF-4αへの結合が大きく消失したことから、このモチーフが、PGC-1とHNF-4αとの物理的相互作用の重要な媒介体であることが明かとなった。LXXLL変異型の HNF-4αへの結合能の消失が特異的な効果なのか、それとも、適正なタンパク質折り畳みが全体的に失われたことが原因なのかを決定するために、この変異型がコアクチベータSRC-1と相互作用する能力を決定した。免疫沈降実験を、上述したように、 in vitro で翻訳されたSRC-1を用いて行った。この変異型ではSRC-1との相互作用能に変化はなく、PGC-1-HNF-4αの結合は、実際にLXXLLモチーフによって媒介されていることが示された。
【0204】
核受容体のコアクチベータのLXXLLモチーフは、これら受容体のカルボキシ末端AF-2ドメインと相互作用することが示されている。放射性標識した、C末端を欠失させてAF-2ドメインを欠いたHNF-4α遺伝子(N末端側の360個のアミノ酸残基)は 、PGC-1への結合能を持たない HNF-4αを発現した。このように、これらのデータは、PGC-1 とHNF-4αとの間の相互作用は、外因性のHNF-4αリガンドの添加を必要としない相互作用であるLXXLL対AF-2の相互作用により媒介されていることを強く示唆するものである。図8は、PGC-1 及び HNF-4αの相互作用ドメインの概略図を示す。
【0205】
興味深いことに、核コアクチベータのLXXLLモチーフはこれまで、核受容体とのリガンド依存的相互作用の関係でしか、記述されたことがなかった。なぜなら、受容体のAF2 ドメインにとって、LXXLLモチーフから形成される両親媒性αへリックスと相互作用するのに必要な適正なコンホメーションを、リガンド結合が採ることが必要だからである。HNF-4αは、外因性のリガンドがないとき、PGC-1内のLXXLLモチーフと相互作用できるということは、HNF-4αが、リガンドがなくとも、一時的トランスフェクション検定でトランス活性化できるという、よく文献化された観察とも一致する。
【0206】
実施例7: PGC-1がグルコース新生を刺激するにはHNF-4αが必要であるが、ケトン体形成又はベータ-酸化には必要としない
PGC-1が、グルコース新生遺伝子、ケトン体形成遺伝子、及びベータ-酸化遺伝子のmRNA発現を誘導する能力を、HNF-4α欠損細胞で調べた。コントロール(フロックスド(原語:floxed)又はHNF-4αヌル細胞(初代肝細胞)に、GFP(コントロール)又はPGC-1 を含有するアデノウィルスを感染させ、処理を施さないか、血清除去するか、又は、デキサメタゾン及びcAMPで処理した。PGC-1は、ケトン生成遺伝子HMG CoAリアーゼの発現を、HNF-4αの存在下及び非存在下の両方で同様なレベルまで誘導した。さらにPGC-1は、ベータ-酸化遺伝子カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ 1(CPT1)及び中鎖脂肪アシルCoAデヒドロゲナーゼ(MCAD)の発現を、HNF-4αの存在下及び非存在下の両方で同様なレベルまで誘導した。しかしながら、PGC-1 は、グルコース新生遺伝子であるグルコース-6-ホスファターゼ及びPEPCK を、HNF-4αの存在下では誘導できたが非存在下では誘導できなかったことは、HNF-4αが、PGC-1刺激性のグルコース新生には必要ではあるが、ケトン生成又はベータ酸化には必要でないことを示している。
【0207】
実施例8: インシュリンはPGC-1が媒介するグルコース新生をFKHRを介して下方調節する
この実施例では、インシュリンがPGC-1発現又は機能を直接抑制するよう作用しているかどうかを決定するようデザインされた実験を解説する。まずPGC-1 mRNA のレベルを、多種の組合せのインシュリン、フォルスコリン、及びデキサメタゾンで処理した細胞で調べた。グルコース新生遺伝子G6PaseのmRNAレベルはインシュリン処理では下方調節されたが、PGC-1 mRNA レベルは、インシュリン処理の存在下でも変化しなかった。これらの結果は、インシュリンで媒介されるグルコース新生の下方調節は、PGC-1 mRNAの下方調節を通じて作用するものではないことを示している。
【0208】
しかしながら、培養肝細胞において、PGC-1機能はインシュリンで負の調節を受ける。FKHR(ここでは代替的にFOXO1とも呼ばれる)は、インシュリンシグナリング経路の下流にあることが示されているウィング・へリックス転写因子ファミリーのメンバーである。FKHR はAktによりリン酸化を通じて直接調節される。インシュリンによる刺激を受け取るとAktが活性化し、ひいてはFKHRがリン酸化してFKHRを核から脱出させることでそれを不活性化する。インシュリン処理は、PGC-1がグルコース新生遺伝子PEPCK及びグルコース-6-ホスファターゼを誘導する能力を下方調節する。PGC-1で誘導されるこれら遺伝子の発現は、構成的に活性なFKHRを用いた場合は変わらなかったが、ドミナント・ネガティブなFKHRも、インシュリンの非存在下であっても、PGC-1 のこれらの遺伝子に対する誘導能を下方調節する。
【0209】
PGC-1がFKHRを同時活性化できるかどうかを決定するために、PGC-1を野生型もしくは変異型のFKHR 及び3×IRS (インシュリン応答配列)プロモータ-ルシフェラーゼ・レポータ・コンストラクトと一緒に同時トランスフェクトした。図11に示すように、PGC-1 は、FKHRをインシュリン応答プロモータで同時活性化することができる。構成的に活性なFKHR (3個のリン酸化可能なアミノ酸がアラニンに変化したもの)は、前記レポータの活性化の上昇を示した。ドミナント・ネガティブFKHRは、このレポータのPGC-1媒介性活性化をすべて、抑制した。
【0210】
PGC-1を野生型FKHR及びG6Pase プロモータ・レポータコンストラクトと一緒に同時トランスフェクトした場合、PGC-1 は FKHRも同時活性化した(図12A)。構成的に活性なFKHRはさらに、PGC-1が媒介する同時活性化を野生型G6Paseプロモータで増加させたが、変異型G6Pase プロモータ(インシュリン応答単位を欠く)を用いた場合には、同時活性化の増加は何ら見られなかった(図12B)。
【0211】
In vitro相互作用実験では、PGC-1及び FKHRはPGC-1のC末端ドメインを通じて物理的に相互作用することが実証された。PGC-1(配列番号2)の、残基1-190 又は 200-400 ではなくアミノ酸残基400-497の GST 融合コンストラクトはin vitroで翻訳されたFKHRと物理的に相互作用できた。
【0212】
実施例9: PGC-1はin vivoでグルコース新生を変化させる
アデノウィルスベクタを用いて、PGC-1レベルの上昇がin vivoでグルコース新生を活性化するかどうかを調べた。組換えアデノウィルスを尾の静脈を通じてラットに全身輸注すると、筋肉、脂肪、腎臓、又は脳などの末梢組織で発現が主に起きることが示されている (Trinh, K. et al. (1998) J. Biol. Chem. 273:31615-31620; O'Doherty, R.M. et al. (1999) Diabetes 48:2022-2027)。PGC-1 (CMV-PGC-1 アデノウィルス)又は緑色蛍光タンパク質(CMV-GFP アデノウィルス)をコードするcDNAを含有するウィルスを、正常なウィスター・ラットに輸注した。ウィルス投与から5日後に、適宜給餌されていたラットを、肝臓及び血液試料の採取日にと殺した。血中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性を検定したところ、これらの実験では何の肝毒性の証拠もないことが確認できた。免疫ブロット分析では、CMV-PGC-1 アデノウィルスを投与した動物では、 CMV-GFPを注入した動物に比べて、PGC-1タンパク質 が平均260%増加していることが判明した。これらの食餌ラットにおけるPGC-1レベルは、絶食動物で観察されたレベルとほぼ同等であった。
【0213】
CMV-GFPを注入したコントロールラットの血糖レベルは0.79 ± 0.06 mg/ml (平均±標準偏差)であり、インシュリンレベルは0.27 ± 0.03 ng/mlだった。対照的に、CMV-PGC-1アデノウィルスを投与したラットの血糖レベルは1.10 ± 0.03 mg/mlであり、39% 上昇して(P=0.00028)おり、そしてインシュリンレベルは0.43 ± 0.05 ng/ml で 66% 上昇していた(P= 0.0139)(図9)。グルコースの上昇及び補償的なインシュリンの増加は、非糖尿病動物の肝グルコース生成の増加の特徴である。これらのデータは、トランスジェニック法及びアデノウィルス法による正常げっ歯類の肝臓において、PEPCK(Valera, A. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:9151-9154)、又はグルコース-6-ホスファターゼの触媒性サブユニット(Seoane, J.K. et al. (1997) J. Biol. Chem. 272:26972-26977)を過剰発現させたときに観察されたこととよく合致する。
【0214】
肝臓での遺伝子発現の相関的変化を調べるために、mRNAレベルをノーザン・ブロット法で調べた。異所性のPGC-1発現の結果、グルコース-6-ホスファターゼのmRNAが劇的かつ均一に上昇し、絶食動物で観察されるそれに同等なレベルに達した。さらに、1匹のコントロールラットでもPEPCK mRNA の上昇があったが、PEPCK mRNAの発現も増加していた。まとめると、これらのデータは、生理的な範囲でPGC-1 レベルの調節があると、グルコース新生遺伝子の発現が促進され、グルコース恒常性の変化が起きることを示している。
【0215】
等価物
当業者であれば、日常的な実験によって、ここに解説した本発明の具体的な実施態様の等価物を数多く、認識し、又は確認できることであろう。このような等価物は以下の請求の範囲の包含するところと、意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0216】
【図1】図1は、レポータ検定で用いた、-467野生型ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ (PEPCK)プロモータ及びその変異型プロモータの概略図を示す。矢印は、特定の配列のGal4 DNA 結合部位との置換を示す。GR1 及びGR2 変異はブロック変異を含んだ。
【図2】図2は、グルコース新生経路の概略図を示す。フルクトース-1,6-P2 = フルクトース-1,6-ビスホスフェート。PFK = ホスホフルクトキナーゼ。PEP = ホスホエノールピルビン酸。OAA = オキサロ酢酸。PK = ピルビン酸キナーゼ。PEPCK = ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ。FP2ase = フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ。
【図3】図3は、GFP (コントロール)又はPGC-1のいずれかを発現するアデノウィルスを感染させた初代肝細胞の、cAMPの存在下又は非存在下でのグルコース生成検定の結果を示す。
【図4】図4は、PGC-1が、野生型(WT) PEPCK 遺伝子プロモータ及び多種の変異型コンストラクトを活性化する能力を比較した図である。多種の応答配列のPEPCKプロモータ内での位置を上部に示す。
【図5】図5は、AF1及びAF3 変異型プロモータによる完全PGC-1活性の、HNF-4αの同時トランスフェクションによる回復を示す。
【図6】図6は、AF1多量体化レポータ・コンストラクト中の、COUP-TFでなくHNF-4αのPGC-1との強力な同時活性化を示す。
【図7】図7は、PEPCKプロモータによる糖質コルチコイド受容体(GR)のPGC-1との同時活性化を示す。
【図8】図8は、PGC-1及びHNF-4αの相互作用ドメインの概略図を示す。
【図9】図9は、 PGC-1発現アデノウィルスに感染させたラットにおけるin vivoグルコース生成の活性化を示す。
【図10】図10は、PGC-1の、 G6PaseプロモータによるHNF-4αの同時活性化能を、 ルシフェラーゼレポータ遺伝子を用いて示す。複式実験の結果を示す。
【図11】図11は、PGC-1 の、インシュリン応答性プロモータ(3×IRSプロモータ-ルシフェラーゼ・レポータ・コンストラクト)によるFKHRの同時活性化能を示す。 wt = 野生型;FKHR 3A = 構成的に活性な変異型のFKHR; FKHR DM = ドミナント・ネガティブ変異型のFKHR。
【図12A−12B】図12A−12Bは、PGC-1の、グルコース-6-ホスファターゼ (G6Pase)プロモータによるFKHRの同時活性化能を示す。図12Aは、野生型FKHR、野生型G6Paseプロモータ、及びcAMP/デキサメタゾン又はcAMP/デキサメタゾン/インシュリンで処理した細胞、を用いた結果を示す。図12Bは、インシュリン応答単位を変異させてある構成的に活性な変異型のFKHR (「3A」)及び変異型G6Paseプロモータを用いた結果を示す。

Claims (77)

  1. グルコース新生が調節されるよう、PGC-1発現又は活性を調節する作用物質に細胞を接触させるステップを含む、グルコース新生を調節する方法。
  2. PGC-1の発現又は活性を上昇させる、請求項1に記載の方法。
  3. PGC-1の発現又は活性を低下させる、請求項1に記載の方法。
  4. グルコース新生を増加させる、請求項1に記載の方法。
  5. グルコース新生を減少させる、請求項1に記載の方法。
  6. 前記作用物質がPGC-1核酸分子である、請求項1に記載の方法。
  7. 前記PGC-1核酸分子がヒト由来である、請求項6に記載の方法。
  8. 前記PGC-1核酸分子が配列番号4の核酸配列を含んで成る、請求項7に記載の方法。
  9. 配列番号4のヌクレオチド518-532が欠失している、請求項8に記載の方法。
  10. 前記PGC-1核酸分子が、ドミナント・ネガティブPGC-1ポリペプチドをコードする、請求項6に記載の方法。
  11. 前記ドミナント・ネガティブPGC-1ポリペプチドが変異型LXXLLモチーフを有する、請求項10に記載の方法。
  12. 前記LXXLLモチーフのうちの少なくとも一つのアミノ酸残基が欠失している、請求項11に記載の方法。
  13. 前記LXXLLモチーフのロイシン残基のうちの少なくとも一つが別のアミノ酸残基に置換されている、請求項11に記載の方法。
  14. 前記LXXLLモチーフの4番目の位置のロイシン残基がアラニンに置換されている、請求項13に記載の方法。
  15. 前記PGC-1核酸分子がアンチセンスPGC-1核酸分子である、請求項6に記載の方法。
  16. 前記PGC-1核酸分子がベクタに含有させてある、請求項6に記載の方法。
  17. 前記ベクタがアデノウィルスベクタである、請求項16に記載の方法。
  18. 前記作用物質がPGC-1ポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
  19. 前記PGC-1ポリペプチドがヒト由来である、請求項18に記載の方法。
  20. 前記PGC-1ポリペプチドが配列番号5のアミノ酸配列を含んで成る、請求項19に記載の方法。
  21. 配列番号5の残基144-148 が欠失している、請求項20に記載の方法。
  22. 前記PGC-1ポリペプチドがドミナント・ネガティブPGC-1ポリペプチドである、請求項18に記載の方法。
  23. 前記ドミナント・ネガティブPGC-1ポリペプチドが変異型LXXLLモチーフを有する、請求項22に記載の方法。
  24. 前記LXXLLモチーフの少なくとも一つのアミノ酸残基が欠失している、請求項23に記載の方法。
  25. 前記LXXLLモチーフの少なくとも一つのロイシン残基が別のアミノ酸残基に置換されている、請求項23に記載の方法。
  26. 前記LXXLLモチーフの四番目の位置のロイシン残基がアラニンに置換されている、請求項25に記載の方法。
  27. 前記作用物質が、PGC-1に結合するポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
  28. 前記作用物質が低分子である、請求項1に記載の方法。
  29. PGC-1及びHNF-4α間の前記相互作用を減少させる、請求項1に記載の方法。
  30. 前記細胞が肝細胞である、請求項1に記載の方法。
  31. 前記肝細胞が初代肝細胞及びFaoヘパトーム細胞からなる群より選択される、請求項30に記載の方法。
  32. 前記方法がin vitroで行われる、請求項1に記載の方法。
  33. 前記方法がin vivoで行われる、請求項1に記載の方法。
  34. a)細胞を化合物に接触させるステップと、
    b)PGC-1発現又は活性が調節されたかどうかを決定するステップと
    を含む、グルコース新生を調節可能な化合物を同定する方法。
  35. PGC-1発現又は活性を上昇させる、請求項34に記載の方法。
  36. PGC-1発現又は活性を低下させる、請求項34に記載の方法。
  37. PGC-1発現をノーザン・ブロット法で測定する、請求項34に記載の方法。
  38. PGC-1活性が調節されたかどうかを決定するステップが、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ、グルコース-6-ホスファターゼ、及びフルクトース-1,6-ビスホスファターゼのうちの少なくとも一つの発現が調節されたかどうかを決定するステップを含む、請求項34に記載の方法。
  39. 発現をノーザン・ブロット法で測定する、請求項38に記載の方法。
  40. ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ、グルコース-6-ホスファターゼ、及びフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ遺伝子のうちの少なくとも一つからのプロモータ/エンハンサ領域を、レポータ遺伝子をコードする核酸分子に作動可能なように連結させて含むレポータ・コンストラクトの発現又は活性を測定することにより、発現を測定する、請求項38に記載の方法。
  41. PGC-1活性が調節されたかどうかを決定するステップが、前記細胞からのグルコース生成が調節されたかどうかを決定するステップを含む、請求項34に記載の方法。
  42. 前記細胞が肝細胞である、請求項34に記載の方法。
  43. 前記肝細胞が、初代肝細胞及びFaoヘパトーム細胞からなる群より選択される、請求項42に記載の方法。
  44. 正常でないグルコース新生を特徴とする障害を治療可能な化合物を同定する方法であって、PGC-1の発現又は活性を化合物が調節する能力を検定することで、正常でないグルコース新生を特徴とする障害を治療可能な化合物を同定するステップ、を含む、方法。
  45. 前記障害がグルコースの生産過剰を特徴とする障害である、請求項44に記載の方法。
  46. 前記障害が糖尿病である、請求項45に記載の方法。
  47. 前記糖尿病が、1型糖尿病、2型糖尿病、及び成人発症型若年性糖尿病、からなる群より選択される、請求項46に記載の方法。
  48. 前記障害が肥満である、請求項45に記載の方法。
  49. 前記障害が、グルコースの生産不足を特徴とする障害である、請求項44に記載の方法。
  50. PGC-1タンパク質の標的分子との相互作用を阻害する化合物を同定する方法であって、
    前記化合物の存在下で、前記標的分子が前記PGC-1タンパク質に結合して複合体を形成できるような条件下で、前記PGC-1タンパク質及び前記標的分子を接触させるステップと、
    前記PGC-1タンパク質及び前記標的分子の複合体の形成を検出するステップであって、前記PGC-1タンパク質及び前記標的分子の間の相互作用を阻害する上での前記化合物の能力が、前記化合物の非存在下で形成される複合体量に比較したときの、複合体形成の減少によって示される、ステップと
    を含む、方法。
  51. 前記標的分子がHNF-4αである、請求項50に記載の方法。
  52. 前記標的分子がホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼプロモータである、請求項50に記載の方法。
  53. 正常でないグルコース新生を特徴とする障害を有する対象を治療する方法であって、前記障害が治療されるように、PGC-1発現又は活性を調節可能な作用物質を前記対象に投与するステップを含む、方法。
  54. 前記障害が、グルコースの生産過剰を特徴とする障害である、請求項53に記載の方法。
  55. 前記障害が糖尿病である、請求項54に記載の方法。
  56. 前記糖尿病が、1型糖尿病、2型糖尿病、及び成人発症型若年性糖尿病、からなる群より選択される、請求項55に記載の方法。
  57. 前記障害が肥満である、請求項54に記載の方法。
  58. 前記障害が、グルコースの生産不足を特徴とする障害である、請求項53に記載の方法。
  59. PGC-1発現又は活性を低下させる、請求項54に記載の方法。
  60. PGC-1発現又は活性を上昇させる、請求項58に記載の方法。
  61. グルコース新生を減少させる、請求項54に記載の方法。
  62. グルコース新生を増加させる、請求項58に記載の方法。
  63. 前記作用物質がPGC-1核酸分子である、請求項53に記載の方法。
  64. 前記PGC-1核酸分子がヒトを由来とする、請求項63に記載の方法。
  65. 前記PGC-1核酸分子が配列番号4の核酸配列を含んで成る、請求項64に記載の方法。
  66. 配列番号4のヌクレオチド518-532が欠失している、請求項65に記載の方法。
  67. 前記PGC-1核酸分子がアンチセンスPGC-1核酸分子である、請求項63に記載の方法。
  68. 前記PGC-1核酸分子がドミナント・ネガティブPGC-1ポリペプチドをコードする、請求項63に記載の方法。
  69. 前記ドミナント・ネガティブPGC-1ポリペプチドが変異型LXXLLモチーフを有する、請求項68に記載の方法。
  70. 前記LXXLLモチーフのうちの少なくとも一つのアミノ酸残基が欠失している、請求項69に記載の方法。
  71. 前記LXXLLモチーフのうちの少なくとも一つのロイシン残基が別のアミノ酸残基に置換されている、請求項69に記載の方法。
  72. 前記LXXLLモチーフの四番目の位置のロイシン残基がアラニンに置換されている、請求項71に記載の方法。
  73. 前記PGC-1核酸分子がベクタ内に含有させてある、請求項63に記載の方法。
  74. 前記ベクタがアデノウィルスベクタである、請求項73に記載の方法。
  75. 請求項34に記載の方法により同定される化合物。
  76. 請求項44に記載の方法により同定される化合物。
  77. 請求項50に記載の方法により同定される化合物。
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