JP2004357502A - 核酸分子を使用した情報処理方法 - Google Patents

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明 陶山
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    • B82YSPECIFIC USES OR APPLICATIONS OF NANOSTRUCTURES; MEASUREMENT OR ANALYSIS OF NANOSTRUCTURES; MANUFACTURE OR TREATMENT OF NANOSTRUCTURES
    • B82Y10/00Nanotechnology for information processing, storage or transmission, e.g. quantum computing or single electron logic

Abstract

【課題】本発明は、自律的に稼働することができる核酸分子を使用した情報処理方法および該方法によって演算を行うための分子コンピュータを提供することを目的とする。
【解決手段】上記の課題は、以下の方法により実現される。すなわち、本発明は、分子の化学反応により、引数を受け取り戻り値を返す関数による演算を行う情報処理方法であって、(a)分解可能な第1の一本鎖核酸に対応付けて定義された第1の符号化核酸を引数として入力し、(b)前記引数に基づき、演算用核酸の化学反応に対応付けて定義された関数による演算を行い、(c)第2の一本鎖核酸に対応付けて定義された第2の符号化核酸を戻り値として得ることを特徴とする情報処理方法を提供する。また、該方法に基づいて設計された分子コンピュータを提供する。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
生体分子が持つ性質を利用する非常にユニークな試みとして、DNAコンピュータが知られている。DNAコンピュータとは、DNAの配列上に入力値や計算プログラムなどを人為的に組み込んでやり、そのDNA分子に対して様々な反応、たとえばDNA修飾酵素や制限酵素などの酵素反応や核酸同士のハイブリッド形成反応などをうまく組み合わせることによって計算を実行するものである。
【0002】
DNAコンピュータの歴史は、1994年にAdlemanがDNAを使用した実験系で数学的な問題を解くことが可能であると実証したことにより始まった(非特許文献1)。この研究でAdlemanは、有向ハミルトン経路問題という数学的な問題を、DNA分子などを使用した実験系で解いたのである。またその翌年には、LiptonがDNAコンピュータを使用した充足可能性問題の解法を報告した(非特許文献2)。DNAコンピュータの計算アルゴリズムはその後にも多くの種類のものが考案され、単一DNA分子上での伸長反応を利用した技術(非特許文献3、非特許文献4)や一本鎖DNA分子上のヘアピン構造を利用したもの(非特許文献4)、DNAをメモリーとして利用し固相上で適切な解を探し出す技術や(非特許文献5、非特許文献6)プラスミドへの2本鎖DNAの挿入・切出しを利用する方法など多様な方法が考えられている。また、その他でもDNAではなくRNAを使用した分子コンピュータや(非特許文献7)、DNAの自己組織化によるナノ構造を利用した技術(非特許文献8)なども報告されており、DNAコンピュータが包括する範囲は広がりつつあるといえる。
【0003】
Adlemanの研究を始めとする従来の多くのDNAコンピュータ技術は、特定配列のDNA分子などを入力データとして扱い、その後の生物化学的な操作ステップのプロトコルでプログラムを規定している。最近ではロボットを使用した各種反応の自動化技術による大規模計算実現の研究も行なわれている(特許文献1、非特許文献9、非特許文献10)。これとは異なる方向性として、自律的に動作する分子コンピュータも研究されている。これはプログラムを進める上で反応液に対して外から操作を加える必要がなく、入力データおよび計算プログラムをDNA分子として反応液中に与えると、一定条件下で自律的に動作して計算結果を出力するものであり、チューリングマシンをモデルに開発された分子コンピュータ技術が発表された(非特許文献11)。自律的に稼動する分子コンピュータは、生体細胞内など従来のコンピュータでは不可能であった環境で計算を実行するポテンシャルを有することから注目を集めている。
【0004】
これらDNAコンピュータ研究の目的は、主に大規模な並列計算を実現するということにある。すなわち、試験管の中には非常に多数のDNA分子が存在可能であり、そのDNA分子一つ一つに計算の初期値や計算プログラム自身等をあらかじめ組み込んでおき、それらDNA分子の集合体に対して一斉に計算のプロセスとなる化学反応を行なうことによって、非常に多岐にわたる初期値ないし計算プログラムによる計算を一度に並列して行なうことができるというアイデアである。このように、DNAコンピュータの系が持つ特長である並列性を利用して並列計算などの数学的計算を効率的に行なう系を開発する目的で研究が行なわれてきた。
【0005】
生体反応を数学的目的で応用する研究は、そのユニークな発想とポテンシャルから広く関心を集めるものの、具体的な応用技術となると研究は未発達であり、その将来性は未知数であるというのが現状である。特に電気信号による従来型のコンピュータの処理能力は年々拡大しており、これと比べて分子コンピュータが処理能力や正確性などの面で上回ることは非常に困難であると考えられる。従来型のコンピュータとは異なる、分子コンピュータの有用性を発揮できる適応分野が開拓されることが望まれる。そのような中で、最近ではDNAコンピュータを遺伝子の発現解析やSNPs解析に役立てようとする研究の動きが出ている(非特許文献12、非特許文献13)。これは生体分子を直接入力データとして扱える分子コンピュータ特有の性質を生かした応用分野として有望である。しかしながら生体の解析に応用可能な分子コンピュータとして従来提案されてきたものは自律的に稼動するものではなく、その応用範囲も限られていた。
【0006】
核酸分子が含有する情報にアクセスする手段として核酸同士のハイブリダイゼーション反応が利用されるが、一度情報にアクセスするとその部位に核酸同士の安定なハイブリッドが形成されることからそのままでは再びアクセスできなくなる。しかしながら、核酸が含有する情報を利用した分子コンピュータを構成する際には繰り返し連鎖的に情報にアクセスできることが望ましい。そのためには、ひとたび二本鎖となってアクセス不能となった核酸分子上の情報を、再びアクセス可能にするプロセスが必要となる。従来の多くのDNAコンピュータは、熱を加えて核酸を変性させることによりこのプロセスを実現している。しかしこの方法では外部からの温度コントロールが必須となり、自律型分子コンピュータは実現しない。自律型分子コンピュータを実現するためには、二本鎖の核酸に閉じ込められた情報を、酵素などの分子反応などを活用することで再びアクセス可能とすることが鍵となる。Shapiroらの分子コンピュータ (非特許文献14)は、制限酵素の切断で二本鎖DNAから一本鎖DNAの切断面を露出させることにより、自律型分子コンピュータの実現を成功させた例がある。
【0007】
【従来の技術】
【0008】
【特許文献1】
特開特開2002−318992号公報
【0009】
【特許文献2】
特開特開2002−181813号公報
【0010】
【非特許文献1】
Adleman LM、Molecular computation of solutions to combinatorial problems.、“Science”、(USA)、1994年、266(5187)巻、p.1021−4
【0011】
【非特許文献2】
Lipton RJ、DNA solution of hard computational problems.、“Science”、(USA)、1995年、268(5210)巻、p.542−5
【0012】
【非特許文献3】
Sakamoto K, Gouzu H, Komiya K, Kiga D, Yokoyama S, Yokomori T, Hagiya M、Molecular computation by DNA hairpin formation.、“Science”、(USA)、2000年、288(5469)巻、p.1223−6
【0013】
【非特許文献4】
akamoto K, Kiga D, Komiya K, Gouzu H, Yokoyama S, Ikeda S, Sugiyama H, Hagiya M、State transitions by molecules.、“Biosystems”、1999年、52(1−3)巻、p.81−91
【0014】
【非特許文献5】
Liu Q, Wang L, Frutos AG, Condon AE, Corn RM, Smith LM
DNA computing on surfaces.、“Nature”、(英)、2000年、403(6766)巻、p.175−9
【0015】
【非特許文献6】
Wang L, Hall JG, Lu M, Liu Q, Smith LM
A DNA computing readout operation based on structure−specific cleavage.、“Nat Biotechnol”、(英)、2001年、19(11)巻、p.1053−9
【0016】
【非特許文献7】
Faulhammer D, Cukras AR, Lipton RJ, Landweber LF
Molecular computation: RNA solutions to chess problems.、“Proc Natl Acad Sci”、(USA)、2000年、97(4)巻、p.1385−9
【0017】
【非特許文献8】
Mao C, LaBean TH, Relf JH, Seeman NC、Logical computation using algorithmic self−assembly of DNA triple−crossover molecules.、“Nature”(英)、2000年、407(6803)巻、p.493−6
【0018】
【非特許文献9】
Morimoto N, Kiyohara H, Sugimura N, Karaki S, Nakajima T, Makino T, Nishida N, Suyama A、Automated processing system for gene expression profiling based on DNA computing technologies.、“Eighth International Meeting on DNA Based Computers”、(Japan)、2002年、Hokkaido University
【0019】
【非特許文献10】
Suyama A、Programmable DNA computer with application to mathematical and biological problems.、“Eighth International Meeting on DNA Based Computers”、(Japan)、2002年、Hokkaido University
【0020】
【非特許文献11】
Benenson Y, Paz−Elizur T, Adar R, Keinan E, Livneh Z, Shapiro E、Programmable and autonomous computing machine made of biomolecules.、“Nature”、(英)、2001年、414(6862)巻、p.430−4
【0021】
【非特許文献12】
Nishida N, Wakui M, Tokunaga K, Suyama A、Highly specific and quantitative gene expression profiling based on DNA computing.、“Genome Informatics”、2001年、(12)巻、p.259−260
【0022】
【非特許文献13】
Mills AP Jr、Gene expression profiling diagnosis through DNA molecular computation.、“Trends Biotechnol”、2002年、20(4)巻、p.137−40
【0023】
【非特許文献14】
Y. Benenson et al、DNA molecule provides a computing machine with both data and fuel、“Proc. Natl. Acad. Sci.”、2003年、100巻、p.2191−6
【0024】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような状況に鑑み、本発明は、自律的に稼働することができる核酸分子を使用した情報処理方法および該方法によって演算を行うための分子コンピュータを提供することを目的とする。
【0025】
【課題を解決するための手段】
上記の課題は、たとえば以下の方法により実現される。すなわち、本発明は、分子の化学反応により、引数を受け取り戻り値を返す関数による演算を行う情報処理方法であって、
(a)分解可能な第1の一本鎖核酸に対応付けて定義された第1の符号化核酸を引数として入力し、
(b)前記引数に基づき、演算用核酸の化学反応に対応付けて定義された関数による演算を行い、
(c)第2の一本鎖核酸に対応付けて定義された第2の符号化核酸を戻り値として得ること、
を特徴とする情報処理方法を提供する。
【0026】
また、本発明は、上記情報処理方法であって、第2の一本鎖核酸は、分解可能な核酸である方法を提供する。
【0027】
さらに、本発明は、上記情報処理方法であって、上記(c)で得られた第2の符号化核酸を、さらなる関数における第1の符号化核酸として使用して演算を行い、さらなる第2の符号化核酸を戻り値として得ることを含む情報処理方法を提供する。
【0028】
さらに、本発明は、上記情報処理方法であって、関数による演算を複数機能させることにより、戻り値としての第2の符号化核酸を得ることを含む情報処理方法を提供する。
【0029】
さらに、本発明は、上記情報処理方法を使用して、関数、引数および戻り値の組合せにより記述されたプログラムに従って、複数の関数による演算を行うことによりプログラムの計算結果を導出する情報処理方法を提供する。
【0030】
さらに、本発明は、上記情報処理方法であって、
(a)の入力は、第1の一本鎖核酸を、演算用核酸と適切な酵素を含む反応液中に添加することであり、
(b)の演算は、演算用核酸と適切な酵素と前記第1の一本鎖核酸を化学反応させることであり、
(c)の戻り値は、化学反応の反応産物として得られること、
を特徴とする情報処理方法を提供する。
【0031】
さらに、本発明は、上記情報処理方法であって、
第1の一本鎖核酸および第2の一本鎖核酸はRNAであり、
化学反応は、合成反応、増幅反応、逆転写反応、転写反応、分解反応であり、それぞれDNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による合成反応または増幅反応、RNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による逆転写反応、およびDNA依存RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による転写反応、およびRNaseHによる分解反応である情報処理方法を提供する。
【0032】
さらに、本発明は、上記情報処理方法であって、演算用核酸は、前記第1の一本鎖核酸に対してプライマーとして作用する配列、プロモータ配列および任意の核酸のプライマーとして作用する配列から選択される一以上の配列を有することを特徴とする情報処理方法を提供する。
【0033】
また、本発明は、上記情報処理を行うためのキットであって、所望の関数による演算を行うための演算用核酸を含むことを特徴とするキットを提供する。
【0034】
さらに、本発明は、上記キットであって、演算用核酸は、第1の一本鎖核酸に対してプライマーとして作用する配列、プロモータ配列および任意の核酸のプライマーとして作用する配列から選択される一以上の配列を有する核酸であるキットを提供する。
【0035】
さらに、本発明は、上記キットであって、さらに適切な反応液と、適切な酵素とを含むことを特徴とするキットを提供する。
【0036】
さらに、本発明は、上記キットであって、前記適切な反応液は、合成反応、増幅反応、逆転写反応、転写反応および分解反応に適したバッファーであり、前記適切な酵素は、DNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、RNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、DNA依存RNAポリメラーゼ活性を有する酵素およびRNaseHであるキットを提供する。
【0037】
また、本発明は、上記情報処理方法によって演算を行うための分子コンピュータであって、所望の関数による演算を行うための演算用核酸と、適切な反応液と、適切な酵素とを含む容器からなることを特徴とする分子コンピュータを提供する。
【0038】
さらに、本発明は、上記分子コンピュータであって、演算用核酸は、第1の一本鎖核酸に対してプライマーとして作用する配列、プロモータ配列および任意の核酸のプライマーとして作用する配列から選択される一以上の配列を有する核酸であり、適切な反応液は、合成反応、増幅反応、逆転写反応、転写反応および分解反応に適したバッファーであり、適切な酵素は、DNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、RNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、DNA依存RNAポリメラーゼ活性を有する酵素およびRNaseHである分子コンピュータを提供する。
【0039】
【発明の実施の形態】
上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、以下の思想に基づいて本発明を完成するに至った。
【0040】
RNAゲノムを有するウイルスの一種であるレトロウイルスは、宿主細胞内にてゲノム複製を行なうことが知られている(図1)。RNAゲノムの複製は、逆転写酵素のRNA依存DNAポリメラーゼ活性によりRNAをcDNAへと逆転写することによって開始する。これは細胞内のtRNAがゲノム上のprimer binding site (PBS)に特異的に結合してプライマーとして働くことによって開始される。ここから逆転写反応が開始され、一度ゲノムの3’末端までcDNAが合成された後、さらにゲノム5’末端への鎖の転移とそれに続く逆転写反応が行なわれる。その結果、全長ゲノムの第1鎖cDNAが形成される(Mak et al. Primer tRNAs for reverse transcription. J Virol 1997 Nov;71(11):8087−95)。形成されたDNA−RNAハイブリッドのうちのRNA鎖は逆転写酵素のRNaseH活性により除去される。残された一本鎖DNAは、さらにDNA依存DNAポリメラーゼ活性により二本鎖DNAとなり、これがゲノムに組み込まれてプロモータ部位からゲノム配列が転写される。その結果、もとのゲノムと同一の配列を有するゲノムRNAが生成される。なお、細胞内に存在するlong terminal repeat (LTR) レトロトランスポゾンなども同等の機構により配列を複製することが知られており、2本鎖DNA上の配列を1本鎖RNAへと転写した後、再び逆転写およびDNA2本鎖化がなされて複製される(Wilhelm Reverse transcription of retroviruses and LTR retrotransposons. Cell Mol Life Sci 2001 Aug;58(9):1246−62)。
【0041】
上記レトロウイルスのゲノム複製は、4つの特徴的な反応により構成されている。第1は、RNA依存DNAポリメラーゼ活性による逆転写反応である。第2は、DNA依存DNAポリメラーゼ活性によるDNA2本鎖化反応である。第3は、DNA依存RNAポリメラーゼ活性による転写反応である。また、逆転写反応およびDNA2本鎖化反応の際に、RNaseH活性によりDNA−RNAハイブリッドのRNA鎖が除去されることも完全長ゲノムを複製する上で重要な役割を有する。この4種の反応の組み合わせにより、ゲノム増幅は実現している。このような一連のシステムを一種のコンピュータと捉えると、レトロウイルスは、宿主細胞というハードウェア内における上記4種の反応活性を活用して、自らのゲノムRNAという入力に対して、複製された同一配列のRNAを返すというプログラムを実行していると見なすことができる。
【0042】
また、上記4つの反応を巧みに組み合わせることにより、レトロウイルスの自己ゲノム複製プログラムとは異なったプログラムを実行させることも可能であると考えられる。そこで、本発明は、これら4つの反応によって構成される分子コンピュータの設計を試みた。ここで設計した分子コンピュータは、RNA依存DNAポリメラーゼ活性、DNA依存DNAポリメラーゼ活性、DNA依存RNAポリメラーゼ活性およびRNaseH活性を同時に実現する反応液をハードウェアとして使用する。この中に入力データとしてのRNAサンプルを与え、RNA分子を引数および戻り値とする「関数」による演算を行う。本発明では、このハードウェア中で動作する基本的な関数として、いくつかの例を定義した。さらに、これらの関数を適宜組み合わせることにより、プログラムを構成することが可能となり、遺伝子発現解析などにも応用できる。このような分子コンピュータは、導入するプログラムにより異なる効果を示すことができる。したがって、プログラム可能な汎用分子コンピュータであるといえる。
【0043】
また、レトロウイルスのゲノム増幅システムは逆転写反応活性、DNA二本鎖化反応活性、転写反応活性およびRNaseH活性より構成されるが、この機構を自律的な分子コンピュータに応用するにあたり最も特徴的な反応として、転写反応活性とRNaseH活性を挙げることができる。レトロウイルス型の分子コンピュータでは、二本鎖DNA分子から一本鎖RNAを精製する転写反応活性と、DNA−RNAハイブリッドからRNA鎖のみを取り除いて一本鎖DNAを残すRNaseH活性とが、分子コンピュータを自律型に稼動させるための鍵となる。
【0044】
上述の思想から、本発明は、DNA依存DNAポリメラーゼ活性、RNA依存DNAポリメラーゼ活性およびDNA依存RNAポリメラーゼ活性などのポリメラーゼ活性およびRNaseH活性等を有する酵素による分子の化学反応を利用して、自律的な反応の実行を実現し、引数を受け取り戻り値を返す関数による演算を行う情報処理方法を開発した。
【0045】
ここで、「自律的」な反応とは、分子の化学反応を行う際に、外部から核酸の分離、精製等の操作を行わずに反応産物を得ることができることを意味する。すなわち、外部からの操作を必要とせずに、入力した引数に対する戻り値を出力する関数の演算が可能であることをいう。
【0046】
また、本明細書において使用する「核酸」とは、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、mRNA、全RNA、hnRNAおよび合成RNAを含む全てのDNAおよびRNA、並びにペプチド核酸、モルホリノ核酸、メチルフォスフォネート核酸およびS−オリゴ核酸などの人工合成核酸を含む。また、本明細書において「核酸」、「核酸分子」および「分子」とは交換可能に使用され得る。
【0047】
本明細書において使用される「塩基配列」および「配列」の語は共に、特定の核酸を構成する塩基の並びを示すものである。
【0048】
以下、図面を参照しながら発明の実施形態を説明する。
【0049】
本発明の好ましい態様に従うと、核酸を使用した情報処理方法が提供される。本発明は、核酸分子を用いて計算を実施することにより、データの処理や遺伝子解析を自律的に実行可能な方法を開示する。また、核酸分子によりデータやプログラムを表現し、そのプログラムで定義された演算を分子反応に置き換えて自律的な反応の実行を実現する。
【0050】
まず最初に、本発明の情報処理方法の開発に当たり、実行する演算の内容を分子の化学反応として実行可能なデータ形式に変更しておく。具体的には、分子の化学反応による演算を実施する前に、情報を、予め分子を特定の符号に結びつけた符号化核酸に変換する。そして、その変換規則を使用して演算における変数および定数などのデータを符号化核酸に変換しておく。次いで、これらの符号化核酸による演算処理を行い、符号化核酸による出力を得る。得られた符号化核酸を、予め結びつけた情報に変換することにより、演算が実行される。
【0051】
本発明の第1の態様の方法について、基本的な処理を図2および3の処理フローに従って説明する。
【0052】
図2および3は、引数を受け取り戻り値を返す関数による演算を行う情報処理の工程を示す。
【0053】
(S1)引数11の入力を行う工程である。具体的には、分解可能な一本鎖核酸21に対応付けて定義された符号化核酸を引数として入力する。
【0054】
(S2)関数12による演算を行う工程である。具体的には、引数21に基づき、演算用核酸の化学反応22に対応付けて定義された関数12による演算を行う。「演算用核酸」は、入力した一本鎖核酸21等と反応し、所定の反応を経て特定の反応産物が産生されるように設計された種々の核酸である。すなわち、関数としての化学反応を進行させるために必要な配列を有する核酸であり、たとえば、プライマーおよびプロモータとして作用する。演算用核酸は複数であってもよく、1つの関数による演算を行うために複数の演算用核酸を使用することができる。
【0055】
(S3)関数の戻り値13を得る工程である。具体的には、一本鎖核酸23に対応付けて定義された符号化核酸13を得ることである。
【0056】
ここで、上記「対応づけて定義された」とは、核酸の化学反応における操作が、情報処理上のどのような操作に該当しているかを表している。すなわち、情報処理上の符号化核酸(引数)11が、化学反応に使用される分解可能な一本鎖核酸22に該当し、情報処理上の関数12による演算が、化学反応における演算用核酸および分解可能な一本鎖核酸などによる化学反応22に該当し、情報処理上の戻り値13が、化学反応の反応産物である一本鎖核酸23に、それぞれ該当することを表している。
【0057】
また、(S1)における引数の入力は、必ずしも分解可能な一本鎖核酸21に対応づけて定義された符号化核酸を引数とする必要はなく、分解可能な一本鎖核酸そのものを直接引数として入力することもできる。この場合、分解可能な一本鎖核酸自体による演算処理を行い、符号化核酸による出力を得る。さらに、(S3)において得られる関数の戻り値は、第2の一本鎖核酸23に対応付けて定義された符号化核酸13を得るだけでなく、第2の一本鎖核酸を直接戻り値として得てもよい。ただし、情報処理方法として関数による演算を行う場合、引数または戻り値のいずれか一方は、予め分子を特定の符号に結びつけた符号化核酸である。
【0058】
本発明に使用する化学反応の例を図4Aに示す。
【0059】
本発明の方法は、「入力」を分解可能な一本鎖核酸(たとえば、RNA分子)により与える。情報処理上の「引数の入力」は、分解可能な一本鎖核酸を反応液に添加することに対応する。以下、分解可能な一本鎖核酸としてRNAを使用した場合を例に説明する。
【0060】
入力したRNA分子に対する演算用核酸(図4Aに示したプライマー)が存在すると、逆転写反応が引き起こされて入力が読み取られる。ここで、逆転写反応によって形成されたDNA−RNAハイブリッドのRNA鎖は、RNaseH活性によって分解されることとなる。このRNaseHによる分解は、従来の情報処理における入力情報の消去に該当する。
【0061】
従来のDNA分子を使用した情報処理方法では、入力したDNAを読み取った後、入力したDNAが分解されずに反応系に残ったままであった。したがって、その後の反応において該DNAが不要な場合は、該DNAを除去するために分離操作などの煩雑な操作が必要であった。このような分離操作には、外部からの一連の操作が必要であり、自律的に稼働させることは困難であった。たとえば、分離操作を自動処理するには、ロボットによる分離操作等が必要であった。しかし、分解可能な核酸分子を使用することにより、たとえばRNA分子であれば、RNaseHの酵素活性により容易に入力したRNA分子のみを消去することができ、反応系において自律的に反応を実行できる。本発明では、分解可能な一本鎖核酸としてRNA分子を使用したが、その他の分解可能な核酸分子を使用することもできる。
【0062】
本明細書において、「分解可能」とは、所定の反応により「分解可能な一本鎖核酸」のみが分解され、その他の核酸は分解されないことをいう。特に、演算用核酸が分解されないような条件下で「分解可能な一本鎖核酸」のみが選択的に分解されることを意味する。たとえば、「演算用核酸」としてDNAを使用した場合、RNAは、RNaseHによって選択的に分解されることから「分解可能」であるといえる。また、「演算用核酸」がRNAである場合に純粋なDNA分解酵素を用いると、DNAのみを選択的に分解することができ、このような条件下においてはDNAが「分解可能」な核酸ということになる。すなわち、「分解可能」とは相対的な概念といえる。
【0063】
「分解可能」な核酸のその他の例として、演算用分子がDNAである場合におけるウラシル含有DNA(A RACHITT for our toolbox, Nature Biotechnology, April 2001 Volume 19 Number 4 pp 314 − 315、DNA shuffling method for generating highly recombined genes and evolved enzymes, Nature Biotechnology, April 2001 Volume 19 Number 4 pp 354 − 359)、および演算用分子がPeptide Nucleic Acidである場合におけるDNAやRNAなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
また、本発明の方法において、引数として入力する核酸は、一本鎖の核酸である。核酸による情報処理方法では、核酸配列上の情報にアクセスするためにハイブリダイゼーション反応を利用している。したがって、入力に2本鎖DNAを使用する従来の技術では、該2本鎖DNAに演算用核酸などをハイブリダイズさせるために、2本鎖DNAを一本鎖にする反応が必要である。しかし、このような反応は、通常温度の制御が必要であり、外部から一連の操作を行わなければならなかった。このため、上記分離操作と同様に、自律的に反応を実行させることが困難であった。
【0065】
また、核酸が分解可能でない場合、ハイブリダイズした核酸が二本鎖を形成したままとなるため、一本鎖にするために温度制御等が必要となる。
【0066】
しかし、本発明の方法では、分解可能な一本鎖核酸を使用するため、該核酸は、ハイブリッドを形成した後に分解される。したがって、自律的な演算が可能となる。すなわち、一定温度のままでも演算用核酸の化学反応を行うことが可能であり、自律的な分解反応が実行される。たとえば、以下の実施例において検討したとおり、50℃の一定温度において自律的な反応を行うことができる。
【0067】
一方、RNAとして入力した情報は、RNaseHによって分解されて消去されると共に、より安定な核酸分子(たとえばDNA分子)に逆転写されることにより、より安定な状態で記憶・保存することもできる。また、残された一本鎖DNAは、さらに別のRNAに対するプライマーとして働く、すなわち、演算用核酸として繰り返し機能することもできる。したがって、該DNAからさらに伸長反応が進行することも考えられる(図4B)。本明細書において、図4Bのように配列aのプライマーが1つ以上のRNA鎖上を逆転写することによって生じた配列を「配列aで開始したRNA上の経路」と呼ぶ。得られた一本鎖DNAは、さらに該一本鎖DNAに相補的なプライマー(これも演算用核酸の一つである)の存在のもとで二本鎖DNAとなる。この二本鎖DNAから転写されたRNA分子を、関数による演算の出力として得ることができる(図4A)。
【0068】
T7 RNAポリメラーゼなどの転写酵素の転写活性が誘導されるためには、プロモータ部位が2本鎖DNAである必要があることが知られている(Milligan et al. Oligoribonucleotide synthesis using T7 RNA polymerase and synthetic DNA templates. Nucleic Acids Res 1987 Nov 11;15(21):8783−98)。本発明では、この性質を利用して出力をコントロールする(図4C)。たとえば、演算用核酸として使用するプライマー上にプロモータ配列をあらかじめ組み込んでおき、該核酸が一本鎖DNAのままではプロモータ配列からRNAの転写が生じないが、二本鎖になったときにプロモータ配列が酵素に認識され、転写活性の起点として機能することを利用する。
【0069】
本発明の情報処理方法は、RNAによる入力を受け付け、各種反応が生じた結果としてRNAによる出力を返す一連のシステム全体が1つのコンポーネントとなっている。上述したとおり、このようなコンポーネントを、RNAによる「引数」を受け取りRNAによる「戻り値」を返す「関数」と呼ぶ(図5A)。
【0070】
本発明の情報処理方法では、戻り値を一本鎖核酸として得ているため、この戻り値に再アクセスすることも容易である。また、各関数は引数および戻り値が同じ分子(共に分解可能な核酸分子であるRNA)であることから、ある関数の戻り値が他の関数の引数となることが可能である。すなわち、ある関数によって得られた戻り値をさらなる関数の引数として使用し、さらなる戻り値を得ることができる。また、1つの関数における引数は一つとは限られず、複数の引数をとることも可能である。このとき、複数の関数の戻り値を引数として、さらなる戻り値を得る関数を定義することもできる。このような関数を複数組み合わせて、所定の戻り値を得ることもでき、関数、引数および戻り値の組合せにより記述されたプログラムに従って複数の関数による演算を行うことにより、該プログラムの計算結果を戻り値として導出することもできる。
【0071】
また、上記一連のシステム全体を分子コンピュータであるとすると、所望の関数による演算を行うための演算用核酸、適切な反応液および適切な酵素で構成される反応液は、この関数による演算を実現するためのコンピュータの「ハードウェア」に該当する。DNA(もしくはRNA)プライマーなどの演算用核酸によって「プログラム」が定義され、実際に引き起こされる反応が決定されることとなる(図5B)。本発明の情報処理方法を使用することにより、RNAによる入力を受けてハードウエアとしての反応液中で反応を行い、結果をRNAにより出力することが可能な分子コンピュータ実現される(図5B)。
【0072】
(各種基本関数の設計)
次に、上述した関数による演算の具体例を以下に示す。
【0073】
本発明の情報処理方法で実現される関数は、演算用核酸によって定義される。演算用核酸は、たとえば、一本鎖核酸に対してプライマーとして作用する配列、プロモータ配列および任意の核酸のプライマーとして作用する配列から選択される一以上の配列を有するプライマーであることが好ましい。分解可能な核酸分子としてRNA分子を引数とする場合、本発明による関数の演算には、この一本鎖RNAにプライミングしてDNAの伸長反応を引き起して第1鎖cDNAを形成させる第1プライマー(P1)と、第1鎖cDNAにハイブリダイズする第2プライマー(P2)との2種類の演算用核酸が必要である。これらのプライマー上のいずれかの位置にプロモータ配列を組み込むことにより、そのプライマーが二本鎖DNAとなったときに転写活性が誘起される。その結果、特定のRNAが出力される。上記関数の例として、プロモータ配列を配置する際の位置および向きにより、たとえば以下に示す4通りの関数が考えられる(図6A,B,C,D)。また、引数をとらない関数も考えられる(図6E)。その他、当業者であれば、上記関数に基づいて種々の関数を定義することが可能であろう。
【0074】
以下、上記5つの関数について詳細に解説する。
【0075】
基本関数A: Path (a −> b) => X
配列aより始まり配列bを通過するRNA上の経路が存在する場合に、指定した配列XのRNAを返す関数である。
【0076】
P1は、5’末端方向のプロモータ配列と、その下流にXの逆相補鎖配列と、その3’末端にaの相補鎖配列とを有するプライマーであり、プライマーP2の塩基配列は、bである(図6A)。このように設計したP1、P2を含む反応液中に配列aを有するRNA分子が存在すると、P1から逆転写反応が起こる。この反応の際に、図4Bに示したように複数のRNA分子上を辿る反応が生じてもよい。具体的には、プライマーより逆転写反応が起こった際に生成された一本鎖cDNAの3’末端が他のRNAと結合してプライマーとして働き、再び逆転写反応が開始する場合が含まれる。このとき、逆転写反応が辿った塩基配列 (図4Bの場合a→b→c→d)を、特に「配列aより開始したRNA上の経路」と呼ぶこととする。またその経路を構成するRNA分子上の配列(この場合a→b, b→c及び c→d)を「経路素子」と呼ぶ。
【0077】
次に、P1からの逆転写反応によって形成された一本鎖DNA上に配列Bと相補的な配列が存在すると、プライマーP2が結合して第2鎖DNAの合成が開始される。これにより、P1上のプロモータ配列が二本鎖化されて転写が誘発されて、プロモータの下流に配置された配列XのRNA分子が出力される。すなわち、本反応は、配列aより開始したRNA上の経路が配列bを通過する場合に配列XのRNAを返す関数となる。
【0078】
基本関数B: Path (a−# b [; b’ ; b’’ … ]) => X
配列aより始まり配列bで終結するRNA上の経路が存在する場合に、指定した配列XのRNAを返す関数である。なお、終結条件は、「bもしくはb’、b’’…」のように、並列的に拡張することもできる。
【0079】
P1は、aの相補鎖配列を有するプライマーであり、P2は、5’末端方向のプロモータ配列と、その下流に配列Xと、その3’末端側に配列bとを有するプライマーである(図6B)。ここに配列aを有するRNA分子が入力されると、そこからRNA上の経路に沿って逆転写反応が起こる。その経路が配列bの相補鎖で終結した場合、その末端の配列はP2の配列Bと結合してプライマーとして機能し、その結果二本鎖となったプロモータ配列の下流に配置された配列Xが転写される。なお、P2上には、プライマーが結合する配列がb、b’、b’’…というように複数配置されていてもよい。この場合は、経路の終結条件がb、b’、b’’…と並列的に拡張される。また、この関数ではP2そのものは伸長反応を起こす必要がない。したがって、P2の3’末端に特殊な修飾や塩基配列を付加しておくこともできる。
【0080】
基本関数C: Amplify (a −# b [−−add5 P] [−−add3 Q])
配列aより始まり配列bで終結するRNA上の経路が存在する場合に、その配列のRNAを増幅する関数である。また、増幅配列の3’末端または5’末端に、任意の配列PまたはQが付加されたRNAを増幅するすることもできる。
【0081】
P1は、aの相補鎖配列を有するプライマーであり、P2は、3’末端方向のプロモータ配列と、3’末端の配列bとから構成される(図6D)。ここに配列aに相補的な配列を有するRNA分子が入力されると、RNA上の経路に沿って逆転写反応が起こる。この経路がbの相補鎖配列で終結した場合、その末端配列がP2の配列bと結合してプライマーとして機能し、その結果二本鎖となったプロモータ配列の下流に配置されたaからbまでの経路の相補鎖(もとの入力RNAと同一の鎖)の配列を有するRNAが転写される。さらにこの関数の戻り値は再帰して同一関数の引数となるため、ループを形成して遺伝子配列の増幅を引き起こす。また、必要に応じてP1、P2各プライマーに配列P、およびQの相補鎖配列を組み込むことにより、出力されるRNA分子の5’末端または3’末端に任意の配列PまたはQを付加することができる。
【0082】
基本関数D: RevAmplify (a −> b [−−add5 P] [−−add3 Q])
配列aより始まり配列bを通過するRNA上の経路が存在する場合に、その逆相補鎖配列のRNAを増幅する。また、増幅配列の3’末端または5’末端に、任意の配列P,Qを付加することもできる。
【0083】
P1は、3’末端方向のプロモータ配列と、3’末端の配列a相補鎖とから構成され、P2は、配列bを有する(図6D)。ここに配列aを有するRNAが入力されると、RNA上の経路に沿って逆転写される。さらにその経路が配列bの相補鎖配列を通過すると、P2が該配列に結合してプライマーとして機能し、DNA2本鎖化反応を誘起する。その結果、P1上のプロモータ配列も二本鎖DNAとなり、配列aからbまでの経路配列(もとの入力RNAの逆相補鎖配列)のRNAを転写する。なお、出力された逆相補鎖RNAには、さらにP2が結合して逆転写反応が行わる。転写されたDNAには、P1が結合してDNA二本鎖化反応が生じ、再び同一のRNAが出力される。この反応は、本関数を実装するプライマーP1およびP2の役割が入れ替わることにより、もとのプライマーが逆相補鎖RNAを引数とする基本関数C: Amplify (b −# a)として機能すると表現することもできる。この関数も、基本関数Cと同様に、出力されるRNA分子の5’末端または3’末端に任意の配列PまたはQを加えることができる。
【0084】
基本関数E: Output () RNA X
引数を必要とせず、常に配列XのRNAを出力する。
【0085】
基本関数Eは、引数としてのRNA分子を必要とせず、常に配列XのRNAを転写するように設計してある。この関数は、プロモータ配列とその下流に続く配列Xからなる二本鎖のDNA分子によって実現される。
【0086】
(基本関数の組み合わせによるプログラム構築)
上記基本関数を組み合わせることにより、高次な関数を構築することことができる。さらに、上記関数、引数および戻り値を組み合わせてプログラムを構築することこともできる。しかし、図5に示したようなプログラムを化学反応により実行する際に、特に演算用核酸の設計に注意する必要がある。上記基本関数A、B、CおよびDは、最初に逆転写反応を引き起こす演算用核酸をプライマーP1とし、続くDNA二本鎖化反応を引き起こす演算用核酸をプライマーP2として分類している。しかし、関数の実体として反応液中に加えられるプライマーは、基本関数AとBとでは同等であり、またCとDとで同等である。たとえば、基本関数A : Path (a −> b) => Xを実装するプライマー・ペアは、プライマーP2が第1プライマーとして機能してしまえば、基本関数B: path (b −# a) => Xとして働く。あるいは、プライマーP1が第1、第2プライマーとして機能すれば、path (a −> a) => Xなる出力を与えることも考えられる。
【0087】
あるいは、プライマーがダイマーを形成することでプロモータ配列が二本鎖となり、誤った戻り値を返してしまう可能性も考えられる。さらに複数の関数を単一の反応液中にて同時に実行する場合、相互作用を起こしうるプライマーの組み合わせは、関数の種類に応じて増大し、副反応の可能性がさらに広がる。副反応の影響を受けずに、狙った関数反応を効果的に実行するプログラムを実装するために、プログラムを組む際に副反応が発生し難いと考える関数の組み合わせを使用することや、反応に用いるプライマーの配列を特に注意して設計することなどといった配慮が特に重要である。
【0088】
たとえば、演算用核酸として、正規直交化配列を含む核酸を使用することができる。「正規直交化配列」における「正規」の語は、複数の配列において熱的性質の正規性を維持すること、即ち、融解温度が一定の範囲内で揃っていることを示す。熱的性質の正規性を維持することによって、たとえば、多くの配列を纏めて使用して反応を行うことが有利に実行される。「正規直交化配列」における「直交化」の語は、配列に直交性を持たせることであり、1つの直交化配列群に含まれる全ての配列は、夫々独立して反応する、すなわち、1つの正規直交化配列群に含まれる配列は、所望の組み合わせ以外の配列間および自己配列内において反応が生じ難いか、または反応が生じない。言い換えれば、1つの直交化配列群に含まれる配列は、配列間でのクロスハイブリダイゼーションや、自己配列内での望まないハイブリダイゼーションが従来よりも生じ難いか、生じない。
【0089】
上記のような正規直交化配列は、H. Yshida and A. Suyama, ”Solution to 3−SAT by breadth first search”, DIMACS Vol.54 9−20(2000)および特願2003−108126に詳細が記載されている。これらの文献に記載の方法を使用して正規直交化配列を設計することができる。簡単には、予め無作為に塩基配列を複数作出することと、それらの融解温度の平均値を求めることと、その平均値の±t℃で制限される閾値を基に候補配列を得ることと、独立して反応する配列であるか否かを指標に得られた候補配列から正規直交化配列群を得ることを具備する方法によって作製することができる。
【0090】
正規直交化配列である核酸群は、そこに含まれる夫々の塩基配列または核酸の融解温度がほぼ均一であり、互いにクロスハイブリダイゼーションを起こし難く、その自己二次構造が安定ではない。正規直交化配列は、たとえば、以下の実施例にコード配列として示す核酸にも使用することができる。
【0091】
また、本発明の符号化核酸も、上記正規直交化配列であることが好ましい。しかし、たとえば、細胞から精製した総RNAなどを直接第1の符号化核酸として使用することもできる。すなわち、予め結びつけた情報を符号化核酸に変換して演算を行うのではなく、得られた核酸(たとえば、総RNAのような、符号化されていない分解可能な核酸など)自体を情報として、そのまま符号化核酸として使用することもできる。たとえば、以下に示した遺伝子発現解析において本発明の方法を使用する場合などである。また、演算によって得られる第2の符号化核酸にさらなる演算を適用して、符号化していない一本鎖核酸を戻り値として直接得ることもできる。この核酸は、mRNAであってもよいし、タンパク質に結合するアプタマー核酸であってもよい。さらに、特定の遺伝子mRNAにハイブリダイズするアンチセンスRNAであってもよい。たとえば、以下に示した細胞内分子コンピューティングにおいて本発明の方法を使用する場合などである。
【0092】
このような場合、入力に使用したRNAは、たとえば以下に示したように、一旦上記正規直交化配列を有する符号化核酸に変換してから、さらなる反応を行うことが好ましい。
【0093】
(遺伝子発現解析プログラム)
以下に、上記基本関数の組み合わせによるプログラムの一例として、遺伝子発現解析に応用した例について記述する。
【0094】
(遺伝子のコード化)
DNAマイクロアレイ等による遺伝子解析において、ハイブリッド形成を的確にコントロールすることを目的として、特定の遺伝子を対応するジップ・コードまたは内部コードに置き換える技術が開発されている(Gerry et al. Universal DNA microarray method for multiplex detection of low abundance point mutations. J Mol Biol 1999 Sep 17;292(2):251−62、 Nishida et al. Highly specific and quantitative gene expression profiling based on DNA computing. Genome Informatics 2001 (12) 259−260、Wharam et al.Specific detection of DNA and RNA targets using a novel isothermal nucleic acid amplification assay based on the formation of a three−way junction structure. Nucleic Acids Res 2001 Jun 1;29(11):E54−4)。
【0095】
本プログラムでは、基本関数A( path (a −> b) => X )を使用する(図7A)。ターゲット遺伝子のRNAを特異的に認識するプライマー・ペア配列として、配列aおよび配列bを使用する。これらの配列を演算用核酸の3’末端に組み込む。また、出力されるRNAの配列Xとして、対応させたいコード配列をプロモータの下流に組み込んでプライマーを設計する。このようなプライマー・ペアを使用することにより、ターゲット遺伝子RNAを入力すると対応するコード配列RNAに変換される関数を作成することが可能である。また、基本関数C(Amplify)や基本関数D(RevAmplify)を使用することにより、ターゲット遺伝子の部分配列の5’末端または3’末端にラベルのための配列を付加することも可能である。
【0096】
本プログラムを使用することにより、遺伝子のコード化が自律的な反応条件で実現される。たとえば、DNAマイクロアレイ等による遺伝子検出に応用することもできる。さらに、コード配列RNAを他の関数による演算プログラムの入力として使用して、たとえば遺伝子発現解析プログラムを構築することもできる。
【0097】
(各遺伝子の経路素子への変換と論理演算による遺伝子発現解析)
ここでは、各遺伝子を経路の素子にコード化することにより遺伝子発現解析を行う方法について説明する。図7Bに、遺伝子Aと遺伝子Bとが存在する場合に遺伝子Xを返すプログラム例を示す。
【0098】
本プログラムは、遺伝子AおよびBのRNAをコード配列へ変換する関数と、経路を認識して遺伝子Xを返す関数よりなる。すなわち、遺伝子RNAをコード化し、該コード化配列による演算を行なう。第一に、基本関数Aを使用して、遺伝子Aが存在する場合にコード配列Code[2,1]を返すというコード化関数を考える。ここで、Code[2,1]は、各々5’末端から3’末端に向かってコード配列Code[2]、Code[1]が並んだ配列を有する。同様に、遺伝子Bが存在する場合にCode[3]、Code[2]を並べた配列を有するCode[3,2]を返す関数を加える。なお、Code[1]、[2]および[3]は、任意の配列であってよい。しかし、反応液の条件でミス・プライミングなどを起こしにくく、プライミング効率が均一な配列を有することが好ましい。すなわち、上述した正規直交化配列であることが好ましい。
【0099】
上記関数を組み合わせることにより、遺伝子Aが存在する場合にのみ経路素子Code[1]→Code[2]が形成され、遺伝子Bが存在する場合にのみ経路素子Code[2]→Code[3]が形成される。したがって、遺伝子Aと遺伝子Bの両方が存在している場合に限り、Code[1]より始まりCode[3]で終結するというRNA上の経路が形成される(図7B)。ここで、基本関数B(もしくは基本関数A)を使用して、該経路が存在する場合にRNA Xを返す関数をさらに加える。その結果、両遺伝子が存在する場合に限り遺伝子Xを返すプログラムが実現する。
【0100】
本方法の本質は、各遺伝子を、コード配列によって構成された仮想的な経路(この場合1→2→3なる経路)を構成する各経路素子(1→2および2→3)に変換し、その経路の存在を検出することによって遺伝子の解析を行うことである。経路の規模や対応付けを行なう遺伝子の種類を増加させれば、より複雑な演算を行うことができる(図7C)。あるいは、出力される配列XのRNAをさらに別の経路への入力とすることにより、経路を多重に重ねることもできる。
【0101】
(ニューラル・ネットワークによる遺伝子発現解析)
論理演算による遺伝子発現解析では、あらかじめ遺伝子の発現パターンが既知である必要がある。また、基本的に遺伝子の有無のみを解析するものであり、濃度の情報を評価できない。ここでは、未知の遺伝子発現パターンについて遺伝子の濃度情報をも評価することができる方法として、本発明の情報処理方法を使用して構築したニューラル・ネットワークの例を示す。
【0102】
遺伝子の発現解析において、DNAコンピュータによって構成されたニューラル・ネットワークを応用するアイデアは以前にもあった(Mills Gene expression profiling diagnosis through DNA molecular computation. Trends Biotechnol 2002 Apr;20(4):137−40)。しかし、従来のアイデアは、中間層を持たない一層の単純パーセプトロンのモデルであり、複雑な解析は原理的に困難であった。さらに、複数ステップの操作が必要とした。一方、本発明の情報処理方法を使用することにより、複雑な解析を実行しうる多層パーセプトロンを自律的に稼動する反応系にて実現することができる(図8A)。
【0103】
遺伝子の解析を行なうために、まず遺伝子のコード化を行なう。コード化関数によりRNA Aが存在する場合に、Code[a1,ST]が出力されるようにする。これは経路ST→a1に対応付けられる。RNA B,C,Dについても同様のコード化関数を設定し、各々経路ST→a2,a3,a4へと置き換えるようにする。これらのコード化関数により、各遺伝子RNAの存在に応じてニューラル・ネットワークへの入力が行なわれる。パーセプトロンの中間層を結ぶ経路ユニット: a1→b1, a1→b2, a1→b3, …, b4→c4およびc1→X, c1→Y, c2→X, …, c4→Yは、全て基本関数E: Output() を使用して、対応するRNAを出力させることにより形成することができる。さらに、基本関数Bを使用して、経路ST→Xの存在に応じてxを返す関数( path ( ST −# X ) x )および経路ST→Yの存在に応じてyを返す関数( Path ( ST −# Y ) y )を導入したプログラムを構築する。その結果、入力RNAに応じて出力xとyの割合が変化するニューラル・ネットワークが形成される(図8A)。 入力層、中間層および出力層の数は、適宜変更することができる。さらに、各RNA経路ユニットの強度は、対応するOutput()関数の濃度を調整することによって制御することができる。
【0104】
図8Bに示す方法を使用することにより、ニューラル・ネットワークに対する学習プロセスが実行できる。具体的には、第一に、入力および中間層を結ぶ経路に係る関数とSTプライマーとを含む反応液に、入力としてサンプルA群およびB群のRNAを与えて、STプライマーの伸長反応を実行させる。各反応液中では、与えられた入力RNAおよび中間層経路の状況に応じて、STより開始しXまたはYで終結する各経路が逆転写されて、対応するcDNAが合成される(▲1▼)。ここで、得られたSTプライマー伸長産物の末端配列がXのときと、Yのときに分けて経路の解析を行なう。A, B群における各中間経路ユニット(a1→b1, a1→b2, … )の濃度比較を行なう(▲2▼)。この作業は、たとえば、複合する経路を含んだサンプルを使用して、リアルタイムPCR法やDNAマイクロアレイ法などによって行なうことが想定される。この結果をもとに、望ましい経路が増強されるようOutput()関数の濃度を調製する(▲3▼)。たとえば、A群を出力xに、B群を出力yに対応付けたい場合には、A群サンプル−X終結経路およびB群サンプル−Y終結経路と、A群サンプル−Y終結経路およびB群サンプル−X終結経路との比較を行ない、前者に特異的な経路ユニットを増加して後者に特異的な経路を減少させる。このサイクル▲1▼→▲2▼→▲3▼を繰り返すことにより、学習させることができる。
【0105】
この分子コンピュータのニューラル・ネットワークによる遺伝子発現解析技術を利用して、新規な遺伝子診断技術を実現することもできる(図8C)。たとえば、上記反応を行うために必要な演算用核酸を含む反応液を準備する。次いで、反応液に臨床サンプルより得られたRNAを添加して反応を進行させる。所定の遺伝子が所定の組合せで発現している場合に、所定の出力が得られるようにプログラムを構築しておけば、遺伝子がどのようなパターンおよび発現量で発現しているのか容易に解析することができる。
【0106】
(関数の拡張)
本発明に使用する関数は、上記5つの関数に限定されない。種々の演算用核酸を使用して、多様な関数を定義することができる。
【0107】
たとえば、上記基本関数は、全て、P1が逆転写反応を引き起こし、そこで形成されたcDNAにP2がハイブリダイズするという構造としているが、P2をRNAに対するプライマーとして機能させることもできる。このとき、伸長反応に従ってP2の3’末端配列が変化している。この変化は、3’末端配列の変化につれて関数の内容が変化しているととらえられる。このような変化を利用することにより、関数の概念を拡張することができる。その他にも、ハードウェアの反応液中で以下に例示するような化学反応を実現することにより、5つの基本関数以外にもプログラムに利用可能な関数の定義を拡張することが可能であろう。
【0108】
また、コンピュータとしてプログラムの結果を返すためには、一連の関数反応の結果得られた出力を検出する必要がある。上記基本関数は、全てRNAを戻り値とするため、基本関数のみで構成されたプログラムの最終出力もRNA分子となる。この出力RNAは、分子生物学的手法により精製することが可能である。またRT−PCRやノーザン・ブロット、DNAマイクロアレイ等などの技術を使えば出力RNAを検出することも可能である。しかし、本発明の分子コンピュータの特長は、自律的コンピューティングが可能である点であり、結果の検出までのステップを単一反応液内にて同時に行なえればより効果的である。したがって、コンピューティング反応液内で出力されたRNA分子を直接検出することが望ましい。たとえば、RNA分子を直接検出のために、Fluorescence Resonance Energy Transfer (FRET)技術を応用することができる。FRET技術は、蛍光を外部から検出して情報を取り出すことが可能であり、非常に有用である。蛍光標識したDNAプローブを用いることにより、FRET技術をリアルタイムPCR法などにも応用した例がある(Didenko, DNA probes using fluorescence resonance energy transfer (FRET): designs and applications. Biotechniques 2001 Nov;31(5):1106−16, 1118, 1120−1)。たとえば、図9Aに示すFRETプローブを使用すれば、蛍光出力関数として分子コンピュータの出力に応用可能である。Adjacent hybridization probesおよびMolecular beacon probeは、特定のターゲット配列が存在する場合に蛍光を返す特性を有するため、そのまま分子コンピュータの出力検出関数として利用することができるであろう(図9A−a, b)。また、Hairpin probeは、DNA伸長反応によりプライマーが二本鎖化した際に蛍光を発することから(図9A−c)、基本関数AのプライマーP1もしくは基本関数BのプライマーP2の代替としてこの構造のプライマーを使用することにより、該当する経路が存在する場合にのみ蛍光を返す関数を構成することが可能である。
【0109】
これらの蛍光出力関数を用いれば、出力の検出までを単一ステップで行なうことが可能な遺伝子診断プログラムなども設計することができる。たとえば、図8Cについて、ニューラル・ネットワークによる遺伝子発現解析の結果は、xおよびyの濃度を比較することにより行なわれるが、xおよびyの各々を認識する蛍光プローブを異なる蛍光色素を用いて形成することにより出力の検出が可能となる。 あるいは、「経路ST→Xが存在すればxを返す関数」などの変わりにヘアピン・プローブを使用した蛍光出力関数「経路ST→Xが存在すれば蛍光を返す関数」などを構築することも考えられる。最終の出力ごとに異なる蛍光を割り当てれば、その蛍光強度を比較することによって出力の検出が可能となる。
【0110】
その他の反応として、たとえばWharamらが2001年に発表した3−way junction (3WJ)構造を利用したプライマーを使用してもよい(図9B)。これは、ターゲット配列が存在する場合に、指定した配列のRNAを発現するというプライマーである。DNA依存DNAポリメラーゼ活性とDNA依存RNAポリメラーゼ活性が存在すれば反応が実現することから、本発明の情報処理方法に応用することもできる。特に、遺伝子のコード化反応などに使用することができる。
【0111】
また、関数の拡張の例として、ある関数により出力されたRNAを関数による演算に使用することもできる。たとえば、各関数により出力されるRNA分子自体もプライマーとして機能することができるので、これ自体を関数による演算の演算用核酸として機能させることもできる。
【0112】
さらに、リボザイムを分子コンピュータの素子として利用する研究もある(Wickiser et al. Oligonucleotide Sensitive Hammerhead Ribozymes As Logic Gates. Eighth International Meeting on DNA Based Computers, 2002 June 10−13; Hokkaido University, Japan)。リボザイムは、酵素活性を有するRNA分子として知られている。このようなリボザイムを使用すれば、関数の出力として生成されたRNA分子自体がリボザイムとして働き、その出力RNAが直接新たな関数機能を発揮することができる。本発明の情報処理方法に使用する関数として、このようなリボザイムを使用することもできる。
【0113】
以上に例示した基本関数以外の反応を本分子コンピュータのハードウェア中で実行することにより、コンピュータの機能がさらに拡張されるであろう。
【0114】
上述したように、レトロウイルスがゲノム増幅に用いる反応活性として重要なRNA依存DNAポリメラーゼ活性、DNA依存DNAポリメラーゼ活性、DNA依存RNAポリメラーゼ活性およびRNaseH活性の4種の反応を組み合わせて、自律的に稼動するプログラム可能な分子コンピュータを実現することができる。
【0115】
具体的には、上記情報処理方法によって演算を行うための分子コンピュータとして、所望の関数による演算を行うための演算用核酸と、適切な反応液と、適切な酵素とを含む容器からなることを特徴とする分子コンピュータが提供される。分子コンピュータ上でプログラムを構成する要素となる関数として、便宜上5つの基本関数を定義したが、より一般化すると、プログラムとして分子コンピュータのハードウェア中に加えられるのは3種類のオリゴ核酸、即ち5’方向に配置されたプロモータを含む核酸と、3’方向に配置されたプロモータを含む核酸と、プロモータ配列を含まない核酸である。これらのオリゴ核酸が含まれる反応系に対してRNAによる入力を与えると、オリゴ核酸の伸長反応が適宜進行し、ある点でプロモータ配列が二本鎖DNAとなるとその下流の配列がRNAとして返されるというシステムであるともいえる。
【0116】
一方、分子コンピュータに使用する容器としては、たとえば核酸の反応において通常使用されるサンプルチューブ、試験管、微細流路を使用することができる。また、使用する容器は、単一の容器であればよいが、複数の容器を使用してもよい。
【0117】
また、容器として、細胞または組織などを使用すれば、生体細胞内において遺伝子の発現量およびパターンを自律的に検出し、その結果に応じて所望の遺伝子の転写を制御することもできる。したがって、生体細胞内でRNAの出力をコントロールすることが可能であり、新たな細胞コントロール機序を実現することができるであろう。たとえば、特定の発現パターンをもつ細胞のみで特定の遺伝子を発現させることが可能であり、癌細胞などターゲットとした細胞のみで細胞を正常化させるための遺伝子を発現させるにこともできる。このような技術は、遺伝子治療などの技術に応用可能である。
【0118】
また、本発明の情報処理方法により情報処理を行うために、必要な演算用核酸をキットとして提供することもできる。該キットには、所望の関数による演算を行うための演算用核酸が含まれる。演算用核酸としては、第1の一本鎖核酸に対してプライマーとして作用する配列、プロモータ配列および任意の核酸のプライマーとして作用する配列から選択される一以上の配列を有する核酸が含まれることが好ましい。
【0119】
また、該キットには、演算用核酸だけでなく、適切な反応液と、適切な酵素とが含まれていてもよい。適切な反応液としては、たとえば、合成反応、増幅反応、逆転写反応、転写反応および分解反応に適したバッファーであり、適切な酵素は、たとえば、DNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、RNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、DNA依存RNAポリメラーゼ活性を有する酵素およびRNaseHである。
【0120】
上記キットは、たとえば上記(遺伝子発現プログラム)の節に記載したような遺伝子発現解析のためのキットであれば、コード化に必要な演算用核酸、DNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、RNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、DNA依存RNAポリメラーゼ活性を有する酵素およびRNaseH、並びに適切な反応液として40mM Tris−HCl (pH 8.0)、50mM NaCl、8mM MgCl、5mM DTTを含む。上記酵素は、予め反応液に添加されていてもよい。該キットは、たとえば50℃にて全ての酵素を含むバッファー液にRNAサンプルを添加し、よく混ぜた後に、50℃でインキュベートして使用すればよい。たとえば、試験管1本あたり酵素バッファーを3μl添加して反応液の総液量を25μlとし、反応時間は30分である。
【0121】
また、プログラムの実行に必要な反応はレトロウイルスやレトロトランスポゾンが生体細胞内にて実際に行なっている反応と本質的に同一であることから、本システムによる分子コンピュータが生体細胞内にて実現する可能性もある。この細胞内分子コンピューティングが実現すると、たとえば生体細胞内での遺伝子発現解析プログラムと蛍光出力関数との組み合わせにより、生きた細胞内の遺伝子発現パターンを外部から非破壊的にモニターする技術にも応用できる。
【0122】
あるいは、細胞の活動をコントロールする遺伝子のRNAを出力することにより、遺伝子パターンに応じて細胞の活動をコントロールするプログラムを実現することもできる。たとえば、癌などの疾患マーカー遺伝子を入力とすることで、問題のある細胞内のみで導入した特定遺伝子を発現させるといった遺伝子治療を実現することもできる。
【0123】
【発明の効果】
本発明の情報処理方法を使用することにより、プログラム可能な自律型分子コンピュータを作製することができる。このようなコンピュータは、同一ハードウェアを用いて異なるプログラムを実行できる汎用性を有する。特に、今後必要性がますます拡大すると考えられる遺伝子の機能解析に関する研究開発や遺伝子診断などの用途に応用することができる。
【0124】
論理演算による遺伝子発現解析またはニューラル・ネットワークによる遺伝子発現解析を実行するプログラムを蛍光出力関数と組み合わせることにより、遺伝子の計測・解析および結果の出力を全て自律的に行なうことが可能となる。また、上記ニューラル・ネットワークによる方法を使用すれば、遺伝子の発現パターンとフェノタイプとの関係が明らかでない場合でも、原理的に遺伝子発現解析が可能である。さらに、遺伝子発現の濃度情報も評価することもできる。
【0125】
【実施例】
(材料と方法)
(機器および試薬)
2本鎖DNA分子は、ゲル電気泳動を行った後、Agilent 2100 bioanalyzer (Agilent Technologies) によって検出した。また、本方法の実施に使用した試薬は、DNA 500 LabChip kitsまたはDNA 7500 LabChip kitsである。リアルタイムPCRは、LightCyclerTMクイックシステム330 (ロッシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を使用して行なった。該PCRのための試薬は、同社より購入したLightCyclerTM FastStart DNA Master SYBR Green Iを使用した。試薬の調整および機械の操作方法については、生産者のプロトコルに準じて行なった。
【0126】
(遺伝子特異的配列の設計)
TGTP遺伝子およびVitronectin遺伝子を特異的に認識するプライマーは、三島隆らが開発した特異的プライマー設計プログラム(大規模遺伝子発現計測のためのプローブ及びプライマー配列設計法に関する研究、東京大学大学院理学系研究科修士論文 2001年度)およびプライマー設計ソフトウェアとして公開されているPrimer3 (Rozen and Skaletsky、Primer3 on the WWW for general users and for biologist programmers. Methods Mol Biol 2000;132:365−86)などを使用して設計し、作製したプライマーから適当なものを選んで使用した。使用したTGTP遺伝子およびVitronectin遺伝子に特異的な配列を以下にまとめる。(なお、カッコ内の数字は、TGTP, Vitronectin両遺伝子RNA分子上のプライマーの位置を表す。またSはセンス鎖配列、Aはアンチセンス鎖配列であることを示す。
【0127】
Figure 2004357502
必要に応じて、これらの配列の5’末端にプロモータ配列およびコード配列などを追加したものをプライマーDNAとして使用した。なお、原則として30塩基長未満のプライマーDNAの合成は、プロリゴ・ジャパン株式会社にE@sy Oligos として委託合成した。それ以上の長さのプライマーは、HPLC精製品もしくはPAGE精製品として株式会社サワディー・テクノロジーに合成依頼した。
【0128】
(コード配列の設計)
本実施例では、人為的に作成された「コード配列」を含むオリゴDNAを使用した。ここで、コード配列とは、nearest−neighbor法による計算(SantaLucia A unified view of polymer, dumbbell, and oligonucleotide DNA nearest−neighbor thermodynamics. Proc Natl Acad Sci U S A 1998 Feb 17;95(4):1460−5)により2本鎖DNAの融解温度が均一に揃えられていること、安定した二次構造やミスハイブリッドの形成を起こしにくいように計算されていること等の特徴を有するように設計された同一塩基長の配列の組を指す(Yoshida et al ”Solution to 3−SAT by breadth first search. DIMACS Series in Discrete Mathematics and Theoretical Computer Science, 2000 54: 9−22, American Mathematical Society)。ここでは、以下に示す5つの25塩基長の配列を使用した。
【0129】
Figure 2004357502
(コンピューティング反応に使用したプライマー配列)
コンピューティング反応には、遺伝子特異的配列およびコード配列、T7プロモータ配列などを組み合わせた特殊なオリゴDNAを使用した。それらの名称、構造および配列を以下に列挙する。(「構造」の項目で、[ ]は遺伝子特異的配列の配列名、< >はコード配列配列名、{T7}はT7プロモータ配列を表す。Tgは6塩基長の配列5’−GGGAGA−3’、Tcは9塩基長の配列5’−ATAGGGAGA−3’のことである。またこれらの頭に`a’が付いているものは逆相補鎖配列を示す。Sはその他の配列。
【0130】
Figure 2004357502
コメント:TGTP−T21プライマーの5’末端側と相補的な配列。
【0131】
Figure 2004357502
コメント:Vitronectin−T32プライマーの5’末端側と相補的な配列。
【0132】
Figure 2004357502
コメント:TGTP遺伝子をインビトロ合成する際に使用したプライマー。3’末端の20塩基は合成したTGTPのRNA分子の5’末端と同一の配列である。
【0133】
Figure 2004357502
コメント:Vitronectin遺伝子をインビトロ合成する際に使用したプライマー。3’末端の20塩基は合成したVitronectinのRNA分子の5’末端と同一の配列である。
【0134】
Figure 2004357502
コメント:Code[1] 配列の5’末端側20塩基配列で、コンピューティング反応液中でのTm値が48℃程度となっている。
【0135】
Figure 2004357502
コメント:aC3−T45の5’末端側と相補的な配列。
【0136】
Figure 2004357502
コメント:aC3−T465の5’末端側と相補的な配列。
【0137】
(RNAサンプルの調整)
コンピューティング反応に使用したTGTP遺伝子およびVitronectin遺伝子のRNA分子、並びにCode[2,1]およびCode[3,2] RNA分子は、インビトロ転写法によって調整した。
【0138】
TGTP遺伝子およびVitronectin遺伝子は、以下の手順で調製した。BALB/cマウスに、C57/BL10マウス由来脾臓細胞を移植することにより移植片対宿主反応(GVHR)を誘発する。C57/BL10マウス由来脾臓細胞は、東京大学医学部の徳永勝士教授らより譲り受けた。次いで、移植後2日目の肝臓からtotal RNAを精製する。なお、このサンプルと同等のものがTGTP遺伝子およびVitronectin遺伝子のRNAを含むことは半定量リアルタイムPCR法により確認されている(Wakui et al. 2001)。次いで、Total RNAをテンプレートとして逆転写反応を行い、TGTP遺伝子およびVitronectin遺伝子のcDNAを作成した。逆転写反応のプライマーとして、TGTP遺伝子についてはTGTP−PEを、Vitronectin遺伝子ではVitronectin−PEを使用した。逆転写反応の反応液は、50mM Tris−HCl (pH 8.3)、4mM DDT、10mM MgCl、100mM KCl、0.5mM dNTPs、800nMの各プライマーおよび0.3 Units/μlのAMV Reverse Transcriptase XL (タカラバイオ株式会社)を使用し、これにtotal RNAを加えて反応を行った。なお、反応は、ホット・スタート法で行なった。具体的には、酵素を除く反応液9.5μlを65℃で5分間インキュベートした後、50℃にて酵素を含む3μlの溶液を加えた。酵素を添加後、50℃で60分間インキュベートした後に0.5μlのRibonuclease H (2U/l; Invitrogen)を添加し、37℃で20分間反応した。次いで、得られたcDNAをテンプレートとしてPCR反応を個別に行なった。TGTPについてはTGTP−PEおよびTGTP−PTを、VitronectinについてはVitronectin−PEおよびVnct−PTを各々プライマー・ペアとして添加して反応を行った。ここで、TGTP−PTおよびVitronectin−PTプライマーは、遺伝子特異的配列のTGTP−PSおよびVitronectin−PSの 5’末端に、それぞれ6塩基長のクランプ配列(5’−GATGCA−3’(配列番号26))および23塩基長のT7プロモータ配列(5’− TAATACGACTCACTATAGGGAG A−3’(配列番号27))を付加したオリゴDNAである。PCR反応にはTaKaRa Ex TaqTM (タカラバイオ株式会社)を使用した。操作は、添付のプロトコル(Cool Start法)に準じて行なった。簡単には、25μlの反応バッファー中に0.8μlMの各プライマーDNAと、0.2mMの各dNTP、40 U/mlの酵素と、1μlのcDNAサンプルとを加えて調整した溶液を、94℃−30秒、60℃−90秒、72℃−60秒を31サイクル繰り返した後、さらに72℃で10分間反応させた。なお、この反応により、TGTPについては831塩基の2本鎖DNAが得られ、Vitronectinについては846塩基の2本鎖DNAが得られるものと期待されるが、実際に得られたPCR産物を電気泳動により検出したところ、期待される塩基長のシグナルが各々シングル・バンドで確認された(data not shown)。
【0139】
上記PCR反応により得られたT7プロモータ配列を含有するTGTP、Vitronectin両遺伝子の2本鎖DNAを使用したインビトロ転写を各々行ない、両遺伝子のRNA分子を作成した。反応は各遺伝子について100μlの反応液を4つの試験管に分けて行ない、各々について、40mM Tris−HCl (pH8.0)、8mM MgCl、2mM Spermidine−(HCl)、25mM NaCl、5mM DDT、0.4mM NTPsよりなる反応バッファーに500U/ml T7 RNA Polymerase (Invitrogen)および1μlの2本鎖DNAテンプレートを加えた。37℃で1時間インキュベートした後に1U/μlのDeoxyribonuclease I (Amplification Grade; Invitrogen)を2.5μl添加し、さらに37℃で15分間インキュベートした。得られた反応物はエタノール沈殿法により精製した。なおエタノール沈殿の際にはPellet Paint(R) Co−Precipitant (Novagen)を用い、製品に添付の使用説明に添って実験操作を行なった。得られた沈殿物はDEPC処理水に溶解したものを−20℃で保存して使用した。
【0140】
Code[2,1]およびCode[3,2] RNA分子は、合成委託したオリゴDNAのTGTP−T21およびVitronectin−T32を用いてインビトロ合成した。各々について、オリゴDNAの3’末端に相補的な20塩基長のプライマーとをPCR反応液に混入し、94℃で5分インキュベートした後に80℃にて酵素を含むバッファーを投与、その後60℃で5分、72℃で60分間インキュベートした。ここで得られたT7プロモータ配列を含む二本鎖DNAを使用したインビトロ転写反応によりコードRNAを生成した。なお、転写反応、Deoxyribonuclease I処理およびエタノール沈殿法の方法は、TGTP遺伝子およびVitronectin遺伝子の場合と同様である。
【0141】
(コンピューティング反応)
DNAプライマーによる各種関数反応を実現するコンピューティング反応は、単一バッファー内にRNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、DNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素およびDNA依存RNAポリメラーゼ活性を有する酵素を共存させ、同時に活性を持たせることにより実現されるものである。反応液の組成は40mM Tris−HCl (pH 8.0)、50mM NaCl、8mM MgCl、5mM DTTおよび0.3 U/μl AMV Reverse Transcriptase XL (タカラバイオ株式会社)、0.04 U/μl Ex TaqTM (タカラバイオ株式会社)、3.2 U/μl Thermo T7 RNA Polymerase (TOYOBO)より成る。この反応液に適宜、DNAプライマーおよびRNAテンプレートを添加する。なお、特に断りがない限り、DNAプライマーは各々最終濃度1nMで添加している。本反応はホット・スタート法で行ない、酵素を除いた反応液を65℃で5分間インキュベートした。続いて50℃にて全ての酵素を含むバッファー液を添加し、よく混ぜた後に、50℃でインキュベートした。なお特に断りがない限り、試験管1本あたり添加した酵素バッファーは3μlであり、反応液の総液量を25μlとし、反応時間は30分である。反応後速やかに、転写酵素等の活性を失わせる目的で、85℃で10分間インキュベートした。
【0142】
(コンピューティン反応後のRNA産物の検出)
コンピューティング反応後のRNA生成物は、DNAを酵素で分解した後に逆転写−PCRを行なうことで検出した。
【0143】
DNAの酵素分解に先立ち、DNAに結合することで酵素分解を妨げると考えられるTaqポリメラーゼなどの酵素類を除去する目的でカラムによる精製を行なった。コンピューティング反応液にDEPC処理水を加えて液量を50 mlとしたサンプルを、分画分子量100,000のカラムMICROCON YM−100 (Millipore)にのせて、4℃, 12000rcfで10分間遠心した。カラムを通過した溶液を回収し、さらに、MICROCON YM−10 (Millipore, 分画分子量10,000)にのせて4℃, 12000RCFで50分間遠心した後、カラムを新しい試験管に逆さに乗せて4℃, 12000RCFで10分間遠心し、カラムの上部に残った濃縮液を回収した。
【0144】
DNAの分解は、20mM Tris−HCl (pH 8.4)、2mM MgCl、50mM KClおよび0.1U/μl Deoxyribonuclease I (Amplification Grade; Invitrogen)に上で回収されたサンプルを各々1μl添加した10μlの反応液中で、室温で15分間反応させることにより行なった。反応後、25mMのEDTAを1μl加えた後に65℃で10分間インキュベートした。
【0145】
逆転写反応は50mM Tris−HCl (pH 8.3)、4mM DDT、10mM MgCl、100mM KCl、0.5mM dNTPsおよび0.3 Units/μlのAMV Reverse Transcriptase XL (タカラバイオ株式会社)よりなる溶液に、最終濃度600nMのプライマーDNAと上で得られたDNase I反応物を1μl加えた、試験管1本あたり12.5μlの反応液中で行なった。なお反応はホット・スタート法で行ない、酵素を除いた組成物よりなる溶液を65℃で5分間インキュベートした後に、バッファーに酵素を加えた溶液を加えた3μlの溶液を50℃にて添加した。その後50℃で1時間反応させたのち、94℃で10分間インキュベートした。
【0146】
得られたcDNAはリアルタイムPCR法により定量分析した。生産者のプロトコルに添って調整した20μlの反応液に逆転写反応産物を1μl加えて、94℃で10分間インキュベートした後にPCR反応を実行した。PCR反応は、コード配列および300塩基長未満の遺伝子配列を増幅する際には94℃−3秒, 60℃−10秒, 72℃−5秒のサイクルを40回繰り返すものとし、300塩基長以上の遺伝子配列については94℃−25秒, 60℃−10秒, 72℃−25秒のサイクルを40回繰り返すものとした。なお、濃度の定量解析の際には、最終濃度が0.1nM、0.03nM、0.01nMとなるように調整した一本鎖DNAを同時に反応させ、PCR増幅曲線を機械に付属のソフトウェアを用いて比較することにより行なった。また、PCR増幅産物をゲル電気泳動にて検出する際には、PCR反応を適当な時点で停止し、その増幅途中の産物をAgilent 2100 bioanalyzer (Agilent Technologies)を用いて検出、解析した。
【0147】
(コンピューティン反応の中間DNA産物の検出)
コンピューティング反応の進行を確認するため、反応液中にて生成される一本鎖および二本鎖DNAよりなる中間産物の検出を行なった。
【0148】
逆転写反応により生成される一本鎖もしくは二本鎖DNAの検出の際には、サンプルを精製後にPCR反応で増幅することにより行なった。コンピューティング反応液にDEPC処理水を加えて液量を50μlとしたサンプルを、分画分子量100,000のカラムMICROCON YM−100 (Millipore)にのせて、4℃, 12000rcfで10分間遠心した。カラムを通過した溶液を回収し、さらに、MICROCON YM−100 (Millipore, 分画分子量10,000)にのせて4℃, 12000RCFで50分間遠心した後、カラムを新しい試験管に逆さに乗せて4℃, 12000RCFで10分間遠心し、カラムの上部に残った濃縮液を回収した。ここで得られた液に対して、適当なプライマーおよびEx Taq(R) (タカラバイオ株式会社)をバッファーに添加した反応液中でPCR反応を行ない、一本鎖DNAの増幅を行なった。増幅はcool start法で行ない、94℃−30秒, 60℃−60秒, 72℃−60秒のサイクル31回の後に、さらに72℃で10分間インキュベートした。得られた増幅産物はゲル電気泳動により検出した。
【0149】
DNA二本鎖反応により形成される二本鎖DNAの検出の際には、Agilent 2100 bioanalyzer (Agilent Technologies)によるゲル電気泳動を行なった。二本鎖DNAの塩基長および濃度の計測は、装置のプロトコルに準じて行なった。
【0150】
結果
(ハードウェアの開発)
レトロウイルスのゲノム増幅システムにおける反応を模した分子コンピュータを実際に試験管内にて実現するために、第一に分子コンピュータの実現に必要となる化学反応を全て実現する反応液の条件検討を行なった。この反応液は、分子コンピュータを構成するハードウェアとなる重要なものである。
【0151】
ここで用いるハードウェアは、DNA依存DNAポリメラーゼ活性、RNA依存DNAポリメラーゼ活性およびDNA依存RNAポリメラーゼ活性と、さらにRNaseH活性とが、一定温度に保たれた単一試験管内にて同時に実現する必要がある。同様な反応液は核酸増幅技術である3SR (Guatelli et al. Isothermal, in vitro amplification of nucleic acids by a multienzyme reaction modeled after retroviral replication. Proc Natl Acad Sci U S A 1990 Oct;87(19):7797)において実現されていたので、この反応条件に沿って実験を行なった。しかしながら3SRやこれに類似する技術での反応条件は37℃から42℃という、PCR反応におけるアニーリング温度などと比較すると低い温度設定となっており、実際にこの条件で実験したところ、逆転写反応およびDNA二本鎖化反応に用いるプライマーDNAの特異性を確保することが困難であり、特にターゲットが存在しないプライマーがダイマーを形成しやすいほか、非特異的な反応が期待される反応を抑制することが明らかとなった(data not shown)。
【0152】
本分子コンピュータではプライマーDNAによりプログラムを入力するため、このような性質はハードウェアとしては不適当であることから、プライミングの特異性を上げるために反応温度を高く設定することを考えた。3SRでは酵素としてAMV逆転写酵素、T7 RNAポリメラーゼおよびRNaseH用いるが、T7 RNAポリメラーゼとRNaseHは反応温度を高く設定すると活性を失う。そのため、高い反応温度条件下でDNA依存RNAポリメラーゼ活性を示す酵素としてThermo T7 RNA Polymerase (TT7; TOYOBO)を、またRNaseH活性を示す酵素としてThermus thermophilus RibonucleaseH (Tth RNaseH; TOYOBO)を用いて検討を行なった。酵素が活性を持つと確認されている反応温度は、AMV逆転写酵素が65℃以下、TT7は50℃以下、Tth RNase Hは90℃以下であった。いずれも低温度では37℃程度まで活性が確認されており、ここではより高温での反応条件が望まれたことから、反応条件の検討は50℃以上にて行なった。
【0153】
50℃から62℃の各反応温度において、耐熱性酵素を使用した反応条件下で各反応活性のアッセイを行なったところ、RNA依存DNAポリメラー活性は50℃〜58℃ではほぼ一定しているが(図10)、DNA依存RNAポリメラー活性は50℃より温度が上がるに従って急激に活性が低下することが明らかとなり(図11)、反応温度を50℃以上に設定するのは困難であると考えられた。さらにDNA依存DNAポリメラーゼ活性も温度に応じて低下するが、これはTaq DNAポリメラーゼを添加することにより改善されることが実験的に示された(図12)。ところで、AMV逆転写酵素は、一本鎖のRNA鎖あるいはDNA鎖を鋳型としたDNAポリメラーゼ活性をもつほか、DNA−RNAハイブリッドからRNA鎖を除去するRNase H活性も有することが知られており(Baltimore et al. 1972, Champoux et al. 1984, Verma 1977)、さらにTaq DNAポリメラーゼはエキソヌクレアーゼ活性を持つことが知られている。これらの酵素を用いる際にはRNaseHは特に無くても反応が進行することが、実験的にも明らかとなった(data not shown)。
【0154】
以上の検討結果をもとに、ハードウェアとしてはAMV逆転写酵素およびTT7 RNAポリメラーゼ、Taq DNAポリメラーゼにより構成される反応液を用い、50℃の一定温度に保たれた反応条件においてコンピューティング反応を行なうものとした。
【0155】
(プライマー伸長反応の特異性評価)
コンピューティング反応では、RNAおよびDNAを鋳型としたプライマー伸長反応によってデータの入力や演算などを行なう。そのためプライミングの特異性が確保されていることは非常に重要である。ここでは、移植片対宿主反応 (GVHR)が引き起こされる際に遺伝子発現が上昇することが知られているTGTP/Mg21遺伝子(以下、TGTP遺伝子と表記)およびVitronectin遺伝子について、インビトロ合成した両遺伝子断片をターゲットとして、特異的に設計されたプライマーの逆転写反応におけるプライマー伸長反応の活性および特異性を評価する実験を行なった。
【0156】
TGTP−P1は、TGTP遺伝子を特異的な配列TGTP−P1を3’末端に持のプライマーである。このプライマーの伸長活性および特異性を評価するために、このプライマーとTGTP遺伝子とを混和して15,30および45分間のコンピューティング反応を実行し、さらにそこで形成されたプライマー伸長産物をPCR反応で増幅(図13−(a))した際の反応生成物をゲル電気泳動で確認したところ、期待される842bpの位置にバンドが確認された(図14, レーン1〜3)。同様な実験を、TGTP遺伝子の変わりにVitronectin遺伝子を用いて行なったところ(図13−(b))、バンドは確認されなかった。なお、PCR反応による増幅の際には、伸長させたプライマーと、鋳型として加えた両RNA分子の5’末端を含むプライマー(TGTP−PTおよびVitronectin−PT)とをプライマー・ペアとして加えた(A)。このため、ミス・プライミングにより伸長して精製されたcDNAもこの方法で検出されると考えられる。この結果から、プライマーTGTP−P1は、少なくともTGTP遺伝子およびVitronectin遺伝子の中においては、TGTP遺伝子上のターゲット部位に特異的に結合して伸長反応を引き起こすことが確認された。
【0157】
同等な実験をVitronectin遺伝子RNAに特異的なプライマーであるVitronectin −P1を用いて行なったところ、Vitroenctin遺伝子が存在する場合にのみ、期待される792bpにピークが認められた(レーン7〜12)。これより、このプライマーもターゲット部位とのみ特異的にプライミングを起こすことが確認される。ただし一部にスメア状のシグナルも確認されることから、若干非特異的な反応も起きているものと考えられる。
【0158】
以上の結果より、TGTP−P1およびVitronectin−P1プライマーは、本ハードウェア中で特異的プライマーとして利用できることが確認された。また、同等な実験を37℃の反応条件で行なった際には、プライマー・ダイマーと考えられるバンドや非特異的なスメアが強く検出されていたことから(data not shown)、ここで開発した50℃の反応条件がより適当であることが改めて示された。
【0159】
(コード化関数の実行)
コード化関数とは、特定のRNA分子が存在する場合に対応するコードRNAを生成するものである。遺伝子発現解析プログラムを実現する際に、まず重要となるのがこのコード化関数の実行である。ここではTGTP遺伝子およびVitronectin遺伝子RNAに対するコード化関数を設計し、それを使用した実験を行なった。
【0160】
TGTPコード化関数の構造を図2−5Aに示す。これは基本関数A (図6A参照)を元として、引数としてTGTP遺伝子上の配列のaTGTP−S1 (TGTP−S1の相補鎖配列)およびTGTP−S2を、戻り値としてCode[2,1]配列を設定したものとなっている( Path ( aTGTP−S1 −> TGTP−S2) => Code[2,1] )。すなわち、第1鎖cDNA合成に関わるプライマー(P1)は配列TGTP−S1のほかT7プロモータ配列およびコード配列を含み、第2鎖cDNA合成に関与するプライマー(P2)は配列TGTP−S2よりなる。TGTP遺伝子RNAが存在するとP1が逆転写反応を起こし、さらにS2による第2鎖合成反応が起きてT7プロモータ配列が二本鎖DNAとなることによりCode[2,1]配列RNA(Code[2] とCode[1]配列とがTg配列を挟んで並んだもの)が転写されるものと期待される。なお、T7転写酵素の転写開始点はプロモータ配列中にあり、出力されるコードRNAの5’末端にはTg配列(5’−GGGAGA−3’)が常に付加されると考えられる。また、P1の5’末端の配列が一本鎖DNAの状態だと、出力されたコードRNAが未反応のP1と結合してDNA−RNAハイブリッドを形成しRNaseH活性により分解されてしまう可能性が考えられ、また実際にP1を一本鎖のままで反応させると出力RNAが検出されなかったことから(data not shown)、P1の5’末端配列(コード配列の相補鎖部分およびプロモータ配列の一部)に相補的なオリゴDNAをあらかじめハイブリダイズさせて二本鎖DNAとしておくことが効果的であると考えられた。
【0161】
ここで示したTGTP遺伝子コード化関数を実行するため、P1としてTGTP−T21およびaT21オリゴDNAのハイブリッドを、P2としてTGTP−S2を用いてコンピューティング反応液中で実行し、出力されたコード配列Code[2,1]のRNAを定量する実験を行なった(図16)。コード配列RNAは、コンピューティング反応産物をDNaseI処理した後に逆転写反応、リアルタイムPCR反応することで検出した。TGTPを投与した場合(白丸)にはコード配列RNAの増加が確認されるのに対し、TGTPが存在しない場合(斜線丸)では時間を追っても変化が見られなかった。なお、検出反応でのDNaseI処理が不十分だとP1上のコード配列が検出されてしまう可能性も考えられたため逆転写反応時に酵素を添加しない実験も行なったが(白四角および黒四角)、その場合はほとんどコード配列は検出されず、バックグラウンドは十分に低いといえる。以上より、TGTP遺伝子コード化関数が本コンピューティング反応液中で確かに活性を有することが確認された。なお、コード配列RNAは反応時間40分程度をピークとしてその後は徐々に減少しているが、その理由としては時間の経過に伴ってRNA合成反応活性が低下し、RNA分解反応がこれを上回ってしまうことが考えられる。ここで入力したTGTP遺伝子RNAの濃度は0.17nMであり、またこの定量結果をもとにコンピューティング反応液中のコード配列RNA産物濃度を計算すると、反応時間36分産物で1.58nMとなった。同等な実験を複数回行なったところ(data not shown)、30分から60分のコンピューティング反応で、コード配列RNAの出力はTGTP遺伝子の一倍から数十倍程度得られた。
【0162】
さらにコード化関数の反応特異性を評価する実験を行なった。TGTP遺伝子コード化関数に対して、TGTP遺伝子RNA、Vitronectin遺伝子RNAおよびネガティブ・コントロールとして同量の水(N.C.)を加えて30分間コンピューティング反応を実行し、その産物として得られたコード配列RNAの濃度を測定した(図17C)。この結果としてはTGTP遺伝子サンプルが与えられた時のみコード配列の出力が得られることが期待されるが、ここではVitronectin遺伝子を投与した場合でもコード配列のシグナルが認められた。また、同様な実験をVitronectin遺伝子コード化関数についても行なったところ、こちらでも特異性は認められなかった(図17D)。
【0163】
(複数RNA分子にまたがる経路の逆転写反応と演算反応)
本分子コンピュータ上で論理演算やニューラル・ネットワークによる遺伝子発現解析プログラムなどを実行する際には、複数のRNA分子で構成される経路を逆転写する反応が必須となる。複数のRNAで構成される経路の逆転写反応とは、プライマーが第1のRNA分子にプライミングして逆転写反応を起こし、そこで形成されたcDNAの3’末端がさらに第2のRNA分子にプライミングする、というプロセスであり、この実行にはRNaseH活性による第1のRNA分子の除去が重要となる。
【0164】
ここでは、図18に示すようにインビトロ合成したCode[2,1]およびCode[3,2] RNA分子、およびCode[1]配列と相補的な20/aCode[1]プライマーを用いることで、2つのRNA分子にまたがるCode[1]→Code[2] →Code[3]なるRNA上の経路を逆転写する反応の評価を行なった。コンピューティング反応液に20/aCode[1]プライマーとRNAサンプルを投与して0分、15分および30分間反応させ、形成されたcDNA産物をPCR増幅してゲル電気泳動にて確認したところ、Code[2,1]およびCode[3,2] RNA分子を投与して15分以上反応させた場合に、期待されるcDNAの形成が確認された(図19)。
【0165】
複数のRNA分子上をたどる逆転写反応が実現することが確認されたことから、この経路を引数とする関数として基本関数Bより「Path ( Code[1] −# Code[3] ) => Code[4,5]」なる関数を構築した (図20)。この関数は、TGTP遺伝子を引数としてCode[2,1]を返す関数、およびVitronectin遺伝子を引数としてCode[3,2]を返す関数と組み合わせることにより、TGTP遺伝子とVitronectin遺伝子が共に存在する場合にのみCode[4,5]を返す、「TGTP ∧ Vitronectin ⇒ code[4,5]」なる論理演算プログラムが実現することが期待された(図7参照)。ここでは図19の実験で使用したRNAサンプルを用いて、Code[2,1]およびCode[3,2] RNA分子が共に存在する場合にのみCode[1]で開始しCode[3]で終結する経路が実現されてCode[4,5] RNA分子を返す反応を評価する実験を行なった。関数には、P1に図19の実験と同様に20/aCode[1]を、P2にはaC3−T45とaT45とをハイブリダイズさせたものを使用した。その結果、Code[2,1]、Code[3,2] RNA分子を両方投与した場合においてもCode[4,5]の有意な発現は認められなかった(図21)。コード配列RNA分子と20/aCode[1]プライマーの代わりにCode[3]の相補鎖配列オリゴDNAを直接投入する実験を別途行なったところCode[4,5]の発現が認められたことから(data not shown)、反応効率や特異性に問題があったものと考えられる。
【0166】
(センス鎖RNA増幅関数の実行)
基本関数C: Amplify (a −# b) を用いて、TGTP遺伝子の配列を増幅する関数を設計し、実験により反応の確認を行なった。
【0167】
TGTP−PTはTGTP遺伝子RNAをインビトロ合成した際に使用したプライマーであるためこのプライマーの3’末端に配置された配列TGTP−PSはTGTP遺伝子RNAの5’末端と同一であり、さらにその5’末端側にT7プロモータ配列を含む。また、TGTP−ARプライマーは、インビトロ合成TGTP遺伝子RNAの538塩基より始まる26塩基長の部分の逆相補鎖配列よりなる。これらTGTP−PTおよびTGTP−AR両プライマーを組み合わせると「Amplify (aTGTP−AR −# TGTP−PS)」なる、TGTP遺伝子を引数とする遺伝子増幅関数が構成され、これにTGTP遺伝子RNAが渡されると配列TGTP−PSおよびTGTP−ARで囲まれた部分のセンス鎖RNA配列が増幅されると期待された(図22)。
【0168】
このTGTP遺伝子センス鎖RNA増幅関数に対して、インビトロ合成したTGTP遺伝子あるいはVitronectin遺伝子を与えた場合と同量の水を与えた場合(N.C.)について0, 15および30分のコンピューティング反応を実行し、そのRNA産物を検出する実験を行なった。検出は、コンピューティング反応産物をDNaseI処理することでプライマーDNAや反応中間体DNAを除去した後に、TGTP−ARプライマーを使用した逆転写反応とそれに続くTGTP−AR, TGTP−PT両プライマーを使用したPCR反応で増幅し、ゲル電気泳動することにより行なった(図23, レーンM:マーカー)。この方法により、TGTP−ARおよびTGTP−PTの非特異的な反応により生成されたRNA分子も検出されると考えられた。TGTP遺伝子RNAの増幅産物が存在する場合はこのRT−PCRにより592塩基長の二本鎖DNAが検出されると期待されるが、そのバンドは反応時間に従って増加しており、Aの反応でターゲットとしたRNA分子が増幅されていることが確認された(レーン1〜3)。ただしポジティブ・コントロール(レーンP)と比較すると592bpのバンドの下にスメア状のシグナルが検出されていることから、若干ではあるが非特異的な反応も起きている可能性もある。またVitronectin遺伝子RNAを加えた場合や(図23レーン4〜6)、等量の水のみを与えた場合(N.C.;図23レーン7〜9)については、全くシグナルが検出されていない。100bp未満に見られるスメア状のシグナルはPCR反応時にサンプルの変わりに等量の水を加えた場合(レーンN)にも認められていることから、PCR反応において形成されたプライマー・ダイマーであると考えられる。
【0169】
考察
レトロウイルスのゲノム増幅反応を模した分子コンピュータをin vitroの反応系で実装する目的で研究を行なった。この分子コンピュータのハードウェアとしては、DNA依存DNAポリメラーゼ活性、RNA依存DNAポリメラーゼ活性およびDNA依存RNAポリメラーゼ活性と、さらにRNaseH活性とが共存することが必要であり、さらに正確にコンピューティング反応が実行されるために各反応について特異性が十分に確保されていることが必須となった。ここではその条件を満たす反応条件を新規に開発し、これをハードウェアとして採用して実験を行なった。
【0170】
このハードウェアを用いて遺伝子コード化反応を行なったところ、単一温度条件下で30〜40分程度という短時間反応させることで、確かにコード配列RNAの生成が確認された。これは非常に簡便な遺伝子コード化技術として遺伝子発現計測への活用が考えられるほか、遺伝子発現解析などさらに高次な分子コンピュータのプログラムへの入力として利用できると考えられた。TGTP遺伝子およびVitronectin遺伝子のコード化関数で使用した第一プライマー(P1)の遺伝子特異的配列部位は、いずれも図2−4でプライマー伸長の特異性を確認したものであることから、そのプライミングのターゲット特異性に問題があるとは考えにくい。さらにAmplify関数でもターゲット特異性に問題は見られなかった。遺伝子コード化反応について十分な特異性が得られない理由としては、プライマー・ダイマーの形成や遺伝子RNAとの非特異的な反応が影響している可能性が高いと考えられる。ここで使用したコード化関数は、プロモータ部位が二本鎖化されるとターゲット遺伝子を認識した場合と同一のコード配列RNAを出力してしまうため、何らかの非特異的反応によりP1上のプロモータ配列が二本鎖化されると、本来の出力と区別できないRNAを誤って転写してしまう可能性が内在するのである。
【0171】
そこで、両コード化関数のプライマーおよび遺伝子RNAが形成するハイブリッドの構造および安定性を計算したところ、両コード化関数のP1について、プロモータP2および遺伝子RNAがP1のプロモータ配列と安定なハイブリッドを形成したり、遺伝子RNA断片が非特異的プライマーとして機能したりする可能性が示された(data not shown)。コード化関数で用いるプライマーは、ターゲット特異的配列にT7プロモータ配列を加えた長い一本鎖DNA部分が含まれるため非特異的なハイブリッドが起こりやすい上に、プライマー・ダイマーなどの形成によりプモータ配列が二本鎖化されると誤ってコード配列RNAを出力してしまうため、配列の設計には特に注意を払う必要があると考えられる。さらに、ここで報告したレトロウイルス型分子コンピュータに用いる関数は添加されるオリゴDNAで定義されるもので、同一反応液中に複数のプライマーを添加することにより原理的に複数の関数を同時に実行することが可能となる。これにより遺伝子の発現解析などより複雑なプログラムが実現しうるが、同一反応液中に多数の関数を共存させると反応液中に加えるオリゴDNAの種類もそれに応じて増大し、非特異的な反応の問題はさらに大きくなる。そのため、高度なプログラムを構築する際には適切な核酸の配列設計する技術の開発が望ましい。たとえば、上述した正規直交化配列とすることが好ましい。
【0172】
本研究により、レトロウイルス型分子コンピュータを実装するために必要となる反応がin vitroにて実現しうることが示された。さらに、本研究でターゲットとしたTGTP遺伝子およびVitronectin遺伝子は、移植手術後に移植片対宿主反応(GVHR)の遺伝子診断を行なうためのマーカー遺伝子として利用が期待されるものである。今回はこれらの遺伝子を引数とするコード化関数と、その出力を受け取って演算関数を実行する関数で構成される遺伝子発現解析プログラムを設計し、さらにこの反応の一部が確かに実行されることが実験的に示された。この分子コンピュータのシステムを用いることにより、単一試験管内で一定温度条件下での反応を実行させる操作を行なうだけで、試験管内の各分子が自律的に複数遺伝子の発現パターンを解析してその結果を出力する技術が確立されると期待され、簡便で正確な遺伝子診断技術としての応用が期待される。さらに将来的には、生体細胞内にて同様の分子コンピュータ・システムを実行するための研究へと発展することも期待され、本研究成果により分子コンピュータ研究に新たな方向性が示されたといえる。
【0173】
(複数の関数の多層化)
本分子コンピュータでは、ある関数の戻り値を他の関数の引数とすることが考えられる。ここでは、Vitronectin遺伝子が存在する場合にCode[3,2]配列RNAを出力するコード化関数と、その関数の戻り値が存在する場合にCode[4,6,5]配列RNAを出力する関数とにより構成されるプログラムが、単一のコンピューティング反応液中にて動作することを確認する実験を行なった。ここでの反応の概略を図24に示す。本実験では、このプログラムに対する入力としてVitronectin遺伝子を加えた場合(Vitronectin +)と、Vitronectin遺伝子は加えずに同量の水のみを加えた場合(Vitronectin −)とについてコンピューティング反応を実行し、結果として得られたRNA産物を検出した。検出は、Code[4,6,5]配列を、Code[4] ,Code[5]に対するプライマーペアを用いたリアルタイムPCR法により行なった。その結果を図25に示す。RNA産物検出時において、逆転写反応時に通常濃度の酵素を添加したサンプル(RT+;白棒)と、酵素は添加しなかったサンプル(RT−;黒棒)とに分けて実験したところ、Vitronectin RNAを入力として与えた場合ではRT+のサンプルはRT−と比較して非常に高いレベルで出力が検出されたが(Vitronectin +)、入力を与えなかった場合にはRT+とRT−とではほとんど出力のレベルに変化はなかった(Vitronectin −)。ここでRT−サンプルより得られた出力は実験上のバックグラウンドであり、RT+とRT−とにおける検出結果の差が出力として得られたRNA分子の量を反映するものと考えられる。また、上の反応産物について、図24に示すプログラムの中間産物であるCode[3,2]RNAについても同様に検出反応を行なったところ、Vitronectinを与えたときに確かにCode[3,2]の濃度も上昇していることが確かめられた(図26,白棒:RNA+,黒棒:RNA−)。
【0174】
以上の結果から、図24に示した2種類の関数よりなるプログラムは確かに実行され、複数の関数を単一のコンピューティン反応液中にて組み合わせて実行することが可能であることが示された。関数を多層に重ねることにより複雑なプログラムが実現することも考えられることから、このように関数の戻り値が実際に他の関数の引数となることは重要である。
【0175】
【配列表】
Figure 2004357502
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【図面の簡単な説明】
【図1】レトロウイルスのゲノム複製サイクルと示す模式図。
【図2】本発明の方法の基本的な処理を示す処理フロー図。
【図3】本発明の方法の基本的な処理を示す処理フロー図。
【図4】分子コンピュータに使用する反応を示す模式図。
【図5】本発明の情報処理方法の概念図。
【図6】各種基本関数の模式図。
【図7】遺伝子のコード化と論理演算による遺伝子解析方法を示す模式図。
【図8】ニューラル・ネットワークによる遺伝子解析方法の概略図。
【図9】FRETによる検出のための演算用核酸を示す図。
【図10】高温反応条件におけるRNA依存DNAポリメラーゼ活性の測定結果を示す図。
【図11】高温反応条件におけるDNA依存RNAポリメラーゼ活性の測定結果を示す図。
【図12】高温反応条件におけるDNA依存DNAポリメラーゼ活性の測定結果を示す図。
【図13】本発明の方法において使用したTGTP−P1プライマーの概略図。
【図14】TGTP−P1プライマーを使用した伸長の活性と特異性を示す電気泳動写真。
【図15】TGTP遺伝子の発現を検出するための遺伝子のコード化関数を示す概略図。
【図16】TGTP遺伝子の発現を検出するための関数による演算の出力結果を示す図。
【図17】TGTP遺伝子の発現を検出するための関数による演算の出力結果を示す図。
【図18】複数のRNA分子にまたがる経路の逆転写反応に使用した符号化核酸の概略図。
【図19】複数のRNA分子にまたがる経路の逆転写反応の反応産物を示す電気泳動写真。
【図20】論理演算反応のための演算用核酸の概略図。
【図21】論理演算反応の結果を示す図。
【図22】TGTP遺伝子のセンス鎖RNAを増幅するためのAmplify関数に使用する演算用核酸を示す図。
【図23】TGTP遺伝子のセンス鎖RNAを増幅するためのAmplify関数による演算結果を示す電気泳動写真。
【図24】関数を多層に重ねた場合の反応の一例を示す図。
【図25】反応産物中のCode[4,5,6]RNAの検出結果を示す図。
【図26】反応産物中のCode[3,2]RNAの検出結果を示す図。
【符号の説明】
11 引数
12 関数
13 戻り値
21 第1の一本鎖核酸
22 化学反応
23 第2の一本鎖核酸

Claims (20)

  1. 分子の化学反応により、引数を受け取り戻り値を返す関数による演算を行う情報処理方法であって、
    (a)分解可能な第1の一本鎖核酸に対応付けて定義された第1の符号化核酸を引数として入力し、
    (b)前記引数に基づき、演算用核酸の化学反応に対応付けて定義された関数による演算を行い、
    (c)第2の一本鎖核酸に対応付けて定義された第2の符号化核酸を戻り値として得ること、
    を特徴とする情報処理方法。
  2. 請求項1に記載の情報処理方法であって、前記第2の一本鎖核酸は、分解可能な核酸である方法。
  3. 請求項2に記載の情報処理方法であって、前記(c)で得られた第2の符号化核酸を、さらなる関数における第1の符号化核酸として使用して演算を行い、さらなる第2の符号化核酸を戻り値として得ることを含む情報処理方法。
  4. 請求項2または3に記載の情報処理方法であって、前記関数による演算を複数機能させることにより、戻り値としての第2の符号化核酸を得ることを含む情報処理方法。
  5. 請求項4に記載の情報処理方法を使用して、前記関数、引数および戻り値の組合せにより記述されたプログラムに従って、複数の関数による演算を行うことにより前記プログラムの計算結果を導出する情報処理方法。
  6. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の情報処理方法であって、
    前記(a)の入力は、前記第1の一本鎖核酸を、前記演算用核酸と適切な酵素を含む反応液中に添加することであり、
    前記(b)の演算は、前記演算用核酸と前記適切な酵素と前記第1の一本鎖核酸を化学反応させることであり、
    前記(c)の戻り値は、前記化学反応の反応産物として得られること、
    を特徴とする情報処理方法。
  7. 請求項6に記載の情報処理方法であって、
    前記第1の一本鎖核酸および第2の一本鎖核酸はRNAであり、
    前記化学反応は、合成反応、増幅反応、逆転写反応、転写反応、分解反応であり、それぞれDNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による合成反応または増幅反応、RNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による逆転写反応、およびDNA依存RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による転写反応、およびRNaseHによる分解反応である情報処理方法。
  8. 請求項7に記載の情報処理方法であって、前記演算用核酸は、前記第1の一本鎖核酸に対してプライマーとして作用する配列、プロモータ配列および任意の核酸のプライマーとして作用する配列から選択される一以上の配列を有することを特徴とする情報処理方法。
  9. 請求項8に記載の情報処理方法であって、
    前記関数は、配列aより始まり配列bを通過する経路を有するRNAを引数として入力したときに、指定した配列xのRNAを戻り値として返す関数であり、
    前記演算用核酸は、5’末端方向のプロモータ配列と、その下流にxの逆相補配列と、その3’末端側にaの相補配列とを有する第1の演算用核酸、並びに配列bを有する第2の演算用核酸の2つであり、
    前記化学反応は、前記第1の演算用核酸のaの相補配列から前記RNAの逆転写反応が起こり、次いで、逆転写された一本鎖DNAに前記第2の演算用核酸の配列bが結合して該第2の演算用核酸の3’末端から第2鎖DNAの合成反応が起こり、次いで、該第2鎖DNAと前記第1の演算用核酸のプロモータ配列が二本鎖化されることにより、該プロモータ配列の下流に配置された配列xの転写反応が起こり、反応産物として配列xのRNA分子が合成される反応である情報処理方法。
  10. 請求項8に記載の情報処理方法であって、
    前記関数は、配列aより始まり配列bで終結する経路を有するRNAを引数として入力したときに、指定した配列xのRNAを戻り値として返す関数であり、
    前記演算用核酸は、配列aを有する第1の演算用核酸、並びに5’末端方向のプロモータ配列と、その下流に配列xと、その3’末端側に配列bとを有する第2の演算用核酸の2つであり、
    前記化学反応は、前記第1の演算用核酸の配列aから前記RNAの逆転写反応が起こり、次いで、逆転写された一本鎖DNAに前記第2の演算用核酸の配列bが結合して該一本鎖DNAの3’末端からさらなる合成反応が起こり、次いで、前記第2の演算用核酸のプロモータ配列が二本鎖化されることにより、該プロモータ配列の下流に配置された配列xの転写反応が起こり、反応産物として配列xのRNA分子が合成される反応である情報処理方法。
  11. 請求項8に記載の情報処理方法であって、
    前記関数は、配列aより始まり配列bを通過するRNAを引数として入力したときに、該RNAまたは該RNAに任意の配列が付加されたRNAを戻り値として返す関数であり、
    前記演算用核酸は、aの相補配列と、任意に配列qの相補配列とを有する第1の演算用核酸、並びに3’末端方向のプロモータ配列と、任意にその3’末端側に配列pと、その3’末端に配列bとを有する第2の演算用核酸の2つであり、
    前記化学反応は、前記第1の演算用核酸のaの相補配列から前記RNAの逆転写反応が起こり、次いで、逆転写された一本鎖DNAに前記第2の演算用核酸の配列bが結合して該一本鎖DNAの3’末端からさらなる合成反応が起こり、次いで、前記第2の演算用核酸のプロモータ配列が二本鎖化されることにより、該プロモータ配列の下流に配置された配列の転写反応が起こり、反応産物として前記RNA分子または任意に配列pもしくは配列qが付加された前記RNA分子が合成される反応である情報処理方法。
  12. 請求項8に記載の情報処理方法であって、
    前記関数は、配列aより始まり配列bを通過する経路を有するRNAを引数として入力したときに、該RNAの逆相補配列を有するRNAまたは該RNAの逆相補配列に任意の配列が付加されたRNAを戻り値として返す関数であり、
    前記演算用核酸は、3’末端方向のプロモータ配列と、任意にその3’末端側に配列pと、その3’末端にaの相補配列とを有する第1の演算用核酸、並びに配列bと、任意にその3’末端に配列qとを有する第2の演算用核酸の2つであり、
    前記化学反応は、前記第1の演算用核酸のaの相補配列から前記RNAの逆転写反応が起こり、次いで、逆転写された一本鎖DNAに前記第2の演算用核酸の配列bが結合して該第2の演算用核酸の3’末端から合成反応が起こり、次いで、該DNAと前記第1の演算用核酸のプロモータ配列が二本鎖化されることにより、該プロモータ配列の下流に配置された配列xの転写反応が起こり、反応産物として前記RNAの逆相補配列を有するRNA分子または任意に配列pもしくは配列qが付加された前記RNAの逆相補配列を有するRNA分子が合成される反応である情報処理方法。
  13. 請求項8に記載の情報処理方法であって、
    前記関数は、引数としてのRNAを必要とせず、常に配列xのRNAを戻り値として返す関数であり、
    前記演算用核酸は、3’末端方向のプロモータ配列と、その下流に配列xとを有する第1の演算用核酸、および5’末端方向のプロモータ配列と、その下流にxの相補配列とを有する第2の演算用核酸であり、
    前記化学反応は、前記第1の演算用核酸と前記第2の演算用核酸が結合することにより、該プロモータ配列の下流に配置された配列xの転写反応が起こり、反応産物として配列xのRNA分子が合成される反応である情報処理方法。
  14. 前記請求項9〜13に記載の関数、引数および戻り値の組合せによって記載されたプログラムに従って複数の関数による演算を行うことにより前記プログラムの計算結果を導出する情報処理方法。
  15. 核酸分子を使用して情報処理を行うためのキットであって、所望の関数による演算を行うための演算用核酸を含むことを特徴とするキット。
  16. 請求項15に記載のキットであって、前記演算用核酸は、前記第1の一本鎖核酸に対してプライマーとして作用する配列、プロモータ配列および任意の核酸のプライマーとして作用する配列から選択される一以上の配列を有する核酸であるキット。
  17. 請求項15または16に記載のキットであって、さらに適切な反応液と、適切な酵素とを含むことを特徴とするキット。
  18. 請求項17に記載のキットであって、前記適切な反応液は、合成反応、増幅反応、逆転写反応、転写反応および分解反応に適したバッファーであり、前記適切な酵素は、DNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、RNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、DNA依存RNAポリメラーゼ活性を有する酵素およびRNaseHであるキット。
  19. 請求項1〜14のいずれか一項に記載の情報処理方法によって演算を行うための分子コンピュータであって、所望の関数による演算を行うための演算用核酸と、適切な反応液と、適切な酵素とを含む容器からなることを特徴とする分子コンピュータ。
  20. 請求項19に記載の分子コンピュータであって、前記演算用核酸は、前記第1の一本鎖核酸に対してプライマーとして作用する配列、プロモータ配列および任意の核酸のプライマーとして作用する配列から選択される一以上の配列を有する核酸であり、前記適切な反応液は、合成反応、増幅反応、逆転写反応、転写反応および分解反応に適したバッファーであり、前記適切な酵素は、DNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、RNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、DNA依存RNAポリメラーゼ活性を有する酵素およびRNaseHである分子コンピュータ。
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