JP2004352988A - 触媒、およびポリマーの製造方法 - Google Patents

触媒、およびポリマーの製造方法 Download PDF

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祐二 芝崎
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Ryuhei Ishimaru
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Abstract

【課題】 本発明は、新規な触媒を提供し、さらにその触媒を用いるポリマーの新規な製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の触媒は、メソポーラスシリカに銅(II)化合物を担持する触媒である。ここで、銅(II)化合物をジアミンに配位させることができる。また、本発明の触媒は、銅(I)化合物を出発原料に用い、メソポーラスシリカに銅化合物を担持するものである。ここで、銅化合物をジアミンに配位させることができる。また、本発明の触媒は、メソポーラスシリカにジアミンを結合させ、このジアミンに銅化合物を配位させたものである。本発明のポリマーの製造方法は、メソポーラスシリカに銅化合物を担持する触媒を用い、フェノール類モノマーを酸化カップリング重合させる方法である。ここで、反応に際してアミンを添加することができる。また、雰囲気を酸素存在下として重合させることができる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、触媒に関する。
また、本発明は、この触媒を用いる、ポリマーの製造方法に関する。
エンジニアリングプラスチックとして知られるポリ(2,6−ジメチルフェノール)は2,6−ジメチルフェノールをモノマーとし、トルエン、ニトロベンゼン、クロロベンゼンなどの芳香族有機溶媒中、触媒量の塩化銅(I)、ピリジン存在、酸素気流下、酸化カップリング重合にて工業的に合成されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
近年、環境調和問題から触媒のリサイクルが注目されており、固相担持型触媒の開発が望まれている。ゼオライトに担持した触媒を用いる有機合成は古くから研究されているがゼオライトの細孔径は数オングストローム程度であり、ポリマー合成には適さない。
近年、ゼオライトより大きな細孔径を有するメソポーラス材料が開発された。これにジルコニウム、モリブデン、ランタノイド等を担持させたビニルモノマー、環状エステル、ジアセチレン、ジエン類の重合が行われており、触媒のリサイクルが重合反応でも可能となった。
しかし、ビニルモノマー、ジアセチレンモノマーを除いて、固相担持型である以外にメソポーラス空間で重合を行うメリットはほとんどの場合、得られていない。チタノセンをメソポーラスシリカ内に担持したエチレンの重合では、高結晶性の超高分子量ポリマーが得られている(例えば、非特許文献1参照。)。また、ジアセチレンの酸化重合では重合場がメソポーラス空間に制御されるために延びきり鎖構造の結晶性の高いポリマーが得られている(例えば、非特許文献2参照。)。
なお、発明者は、本発明に関連する技術内容を開示している(例えば、非特許文献3、非特許文献4参照。)。
A. S. Hay, U. S. Patent 3306875, 1967 A. S. Hay, U. S. Patent 3306874, 1967 K. Kageyama, J. Tamazawa, T. Aida, Science 285, 2113, 1999 V. S.-Y. L. Lin, D. R. Radu, M-K. Han, W. Deng, S. Kuroki, B. H. Shanks, M. Pruski, J. Am. Chem. Soc. 124, 9040, 2002 芝崎 祐二、福原 敏明、戸木田 雅俊、上田 充、第52回高分子討論会 IIIPe021、2003 Y. Shibasaki, J. N. Kondo, R. Ishimaru, K. Domen, M. Ueda, Polymer Preprints (American Chemical Society, Division of Polymer Chemistry) (2003), 44(2), 709-710.
フェノール類の酸化カップリング重合ではフェノール性水酸基のオルト位、パラ位の両方が重合点となるために分岐あるいは架橋ポリマーを生成し、ポリマーの成形加工が困難となる。そのため、水酸基のオルト位にメチルなどの置換基を導入する必要がある。
すなわち、フェノール類の重合では、触媒のリサイクルに加え、触媒のさらなる高活性化、およびモノマーの位置選択的もしくは位置優先的な重合を行える触媒の開発が強く望まれている。前述のジアセチレンの重合ではメソポーラス空間に銅(II)―アミン担持触媒を用いており、フェノール類の重合への応用が期待される。しかし、そのアミンには活性プロトンが存在するため、フェノール類の重合に適用するためにはこの活性プロトンを無くした新たな触媒を設計する必要がある。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な触媒を提供することを目的とする。
また、本発明は、ポリマーの新規な製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の触媒は、メソポーラスシリカに銅(II)化合物を担持する触媒であり、フェノール類モノマーの酸化カップリング重合に用いるものである。
ここで、銅(II)化合物をジアミンに配位させることができる。
本発明の触媒は、銅(I)化合物を出発原料に用い、メソポーラスシリカに銅化合物を担持するものである。
ここで、銅化合物をジアミンに配位させることができる。
本発明のポリマーの製造方法は、メソポーラスシリカに銅化合物を担持する触媒を用い、フェノール類モノマーを酸化カップリング重合させる方法である。
ここで、銅化合物をジアミンに配位させることができる。また、反応に際してアミンを添加することができる。また、雰囲気を酸素存在下として重合させることができる。
本発明の触媒は、メソポーラスシリカにジアミンを結合させ、このジアミンに銅化合物を配位させたものである。
ここで、ジアミンに対する銅イオンのモル比を、0.8〜1.1の範囲にすることができる。
本発明のポリマーの製造方法は、メソポーラスシリカにジアミンを結合させ、このジアミンに銅化合物を配位させた触媒を用い、フェノール類モノマーを酸化カップリング重合させる方法である。
ここで、反応に際してアミンを添加することができる。また、雰囲気を酸素存在下として重合させることができる。
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
メソポーラスシリカに銅(II)化合物を担持する触媒であり、フェノール類モノマーの酸化カップリング重合に用いることにより、または、銅(I)化合物を出発原料に用い、メソポーラスシリカに銅化合物を担持することにより、新規な触媒を提供することができる。
メソポーラスシリカに銅化合物を担持する触媒を用い、フェノール類モノマーを酸化カップリング重合させることにより、ポリマーの新規な製造方法を提供することができる。
メソポーラスシリカにジアミンを結合させ、このジアミンに銅化合物を配位させることにより、新規な触媒を提供することができる。
メソポーラスシリカにジアミンを結合させ、このジアミンに銅化合物を配位させた触媒を用い、フェノール類モノマーを酸化カップリング重合させることにより、ポリマーの新規な製造方法を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
まず、触媒にかかる発明の実施の形態について説明する。
本発明の触媒は、担体としてメソポーラスシリカを採用する。メソポーラスシリカの細孔径は、10〜500オングストロームの範囲にあることが好ましい。細孔径が10オングストローム以上であると、ポリマーのような大きな分子でも分子運動が比較的に容易になる。すなわち、重合反応点へのモノマーやオリゴマーの分子運動が阻害されないため重合速度の低下を防ぐことができる。一方、生成したポリマーを細孔から取り出すことが容易となるという利点がある。細孔径が500オングストローム以下であると、好ましくない枝分かれ構造を持つポリマーや架橋ポリマーの生成を抑えられるという利点があると考えられる。
担体の材質は、ケイ素と酸素の無機架橋ポリマーであるシリカからなっている。
本発明の触媒は、メソポーラスシリカに銅(II)化合物を担持するものである。ここで、銅(II)化合物としては、臭化銅(II)を挙げることができる。銅(II)化合物は、この臭化銅(II)に限定されない。このほか、塩化銅(II)、ヨウ化銅(II)、酢酸銅(II)などを採用することができる。
銅(II)化合物はジアミンに配位させることができる。ジアミンとしては、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシランを採用することができる。ジアミンは、これに限定されない。このほか、3−(2−アミノエチルアミノ)エチルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)ブチルトリメトキシシランなどを採用することができる。
本発明の触媒は、化1に示されるように、メソポーラスシリカの壁からプロピル基をスぺーサーとしてエチレンジアミンを配位子に用い,ハロゲン化銅を担持した構造体である。
Figure 2004352988
ここで、X :Cl,Br,またはI
2:酸素とケイ素の繰り返し単位からなるシリカ無機高分子体
二価のハロゲン化銅イオンはジアミンに配位する。この二価の銅イオンはそれ以上酸化されないので二価の銅イオンから調製した触媒には二価の銅イオンのみが配位していることになると考えられる。
本発明の触媒は、銅(I)化合物を出発原料に用い、メソポーラスシリカに銅化合物を担持するものである。
出発原料である銅(I)化合物としては、塩化銅(I)を用いることができる。銅(I)化合物は、塩化銅(I)に限定されない。このほか臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)などを採用することができる。
本発明の触媒においては、銅化合物がジアミンに配位している。
ジアミンとしては、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N,N,N’−トリメチル−N’−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンを用いることができる。ジアミンはこれらに限定されない。このほか、3−(2−アミノエチルアミノ)エチルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)ブチルトリメトキシシランなどが採用できる。
一価のハロゲン化銅から出発した場合には配位中に銅イオンは空気酸化されて一価と二価の混合物になる。この時生成する二価の銅イオンは非常に活性が高く一価に戻りやすい(還元されやすい)。すなわち、もともと二価であった銅イオンと比べて格段に酸化力が高い。これは二価出発の銅イオンには元々ハロゲン化物イオンが二分子存在し、共有結合で結合しているのに対して、一価から生成した銅イオンにはハロゲン化物イオンが一分子しか存在せず、残りの空いた配位場には水酸化物イオンなどの非常に弱い結合の分子が空間を埋めているにすぎないからであると考えられる。
以上のことから、本実施の形態によれば、メソポーラスシリカに銅(II)化合物を担持する触媒であり、フェノール類モノマーの酸化カップリング重合に用いることにより、または、銅(I)化合物を出発原料に用い、メソポーラスシリカに銅化合物を担持することにより、フェノール類モノマーの酸化カップリング重合に向けて、メソポーラス材料を利用する新規な触媒を提供することができる。
本発明の触媒は、メソポーラスシリカにジアミンを結合させ、このジアミンに銅化合物を配位させたものである。
銅化合物としては、塩化銅(I)を用いることができる。銅化合物は、塩化銅(I)に限定されない。このほか臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、酢酸銅(I)、硫酸銅(I)などを採用することができる。
ジアミンとしては、N,N,N’−トリメチル−N’−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンを用いることができる。ジアミンはこれに限定されない。このほか、N,N,N’−トリメチル−N’−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N,N’−トリエチル−N’−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N,N’−トリプロピル−N’−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)エチルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)ブチルトリメトキシシラン、などが採用できる。
本発明の触媒は、ジアミンに対する銅イオンのモル比が、0.8〜1.1の範囲内にあることが好ましい。モル比が0.8以上であると、メソポーラス中の銅イオンの濃度が十分であるために重合速度が向上するという利点がある。モル比が1.1以下であると、ジアミンに配位していない余分な銅イオンをほぼ無視することができ、メソポーラス中からの銅イオンの溶け出しを避けることができるという利点がある。
以上のことから、本実施の形態によれば、メソポーラスシリカにジアミンを結合させ、このジアミンに銅化合物を配位させることにより、フェノール類モノマーの酸化カップリング重合に向けて、メソポーラス材料を利用する新規な触媒を提供することができる。
つぎに、ポリマーの製造方法にかかる発明の実施の形態について説明する。
本発明のポリマーの製造方法は、メソポーラスシリカに銅化合物を担持する触媒を用い、フェノール類モノマーを酸化カップリング重合させる方法である。
メソポーラスシリカに銅化合物を担持する触媒としては、上述した本発明の触媒を使用できる。すなわち、メソポーラスシリカに銅(II)化合物を担持するもの、ならびに、銅(I)化合物を出発原料に用い、メソポーラスシリカに銅化合物を担持するもの、ならびに、メソポーラスシリカにジアミンを結合させ、このジアミンに銅化合物を配位させたものである。
フェノール類モノマーとしては、2,6−ジメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノール、2,6−ジフェニルフェノールを用いることができる。フェノール類モノマーはこれらに限定されない。このほか、2,6−ジエチルフェノール、2−メチル−6−エチルフェノール、2−メチル−6−イソプロピルフェノール、2−メチル−6−フェニルフェノール、2−メチル−6−メトキシフェノール、2−クロロ−6−メチルフェノールなどを採用することができる。
本発明のポリマーの製造方法においては、重合反応に際してアミンを添加する。アミンとしては、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)もしくはピリジンを使用することができる。アミンはこれらに限定されない。このほか、ジエチルアミン、ジブチルアミン、N,N’−ジ−tert−ブチルエチレンジアミン、2−メチルピリジン、2−プロピルピリジン、2−フェニルピリジンなどを採用することができる。
重合反応は、酸素存在下で行う。本発明は銅アミンを触媒として用いているために酸素が存在する雰囲気が必要である。すなわち、反応機構が、系中の二価の銅イオンからフェノールへの一電子酸化、フェノールラジカル同士のカップリングによりポリマーが、一方、還元され生成した一価の銅イオンは酸素により二価の状態に復帰するためである。
酸素が存在する雰囲気としては、純酸素の雰囲気が使用できる。このほか、空気下などを採用することができる。
重合反応の温度は、30〜120℃の範囲内にあることが好ましい。温度が30℃以上であると、重合速度が大きくなるという利点があり、温度が120℃以下であると、ジフェノキノン誘導体の副生を抑制することができる。2,5−ジメチルフェノールの位置選択的重合によるポリマーは高結晶性であると予測されており、実際にこれまでに分子量4千程度のオリゴマーが得られているが、高結晶性であり高温でのみ溶剤可溶である。従って100℃以上で位置選択的な重合が行えれば、工業的に使用可能な十分な分子量を有するまったく新規なエンジニアリングプラスチックを開発することが可能である。従って、今回発明された手法は今後の応用を考慮した場合、大きな利点を有する。
以上のことから、本実施の形態によれば、メソポーラスシリカに銅化合物を担持する触媒を用い、フェノール類モノマーを酸化カップリング重合させることにより、フェノール類の酸化カップリング重合に向けて、メソポーラス材料を利用する新規な触媒を提供するとともに、狭いメソポーラス空間での重合場を有効に用いて高活性な触媒開発、位置選択もしくは位置優位的重合場の提供によるモノマーの適用範囲拡大、触媒のリサイクル化ができる。
なお、本発明は上述の実施の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
「参考例1」
まず、メソポーラスシリカMCM−41担持型の銅アミン触媒として既知のものを合成した。すなわち、セチルトリメチルアンモニウムブロミド2g(5.48mmol)を純水960mLに溶かし、0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液14mL(7mmol)を加え、80℃に設定した。ここに、臭化銅(II)500mg(2.6mmol)、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン0.98mL(4.5mmol)、テトラエチルオルソシリケート10mL(51.4mmol)のメタノール溶液(30mL)を滴下した。滴下終了後、このままの温度で3時間攪拌し、得られた青色不均一溶液を吸引濾過し、界面活性剤であるセチルトリメチルアンモニウムブロミドの入ったメソポーラスシリカを得た。続いてこれを0.1mol/Lの塩酸メタノール溶液に分散させ12時間還流することで界面活性剤を除去した。この処理で一部の銅イオンが外れてしまうため、得られた青色の固体を臭化銅(II)3.8g(20mmol)のエタノール分散液200mLに投入し室温で12時間攪拌した。余分な臭化銅(II)を熱エタノールで溶かし、青色固体を回収した。これを熱エタノール、ピリジン、最後にエタノールにて洗浄し、120℃で12時間乾燥させ目的とするメソポーラスシリカ担持型銅アミン触媒1を合成した。
粉末X線回折により得られたパターンから、合成したメソポーラスシリカの細孔径は48.5オングストロームであった。アミンはメソポーラスシリカを合成するときに同時にシリカ壁に固定しているため、均一に分布しているものと考えられる。よって、アミンに配位する銅イオンも均一にシリカに分布していると考えられる。以降の触媒についても同様のことが言える。
「実施例1」
次に、臭化銅の代わりに塩化銅(I)担持型MCM−41触媒の合成を行った。セチルトリメチルアンモニウムブロミド2g(5.48mmol)、蒸留水960mL、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液14mLを加え溶解させた。この溶液を80℃に加熱し、ここに、テトラエチルオルソシリケート10mL(51.4mmol)、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン0.98mL(4.5mmol)、塩化銅(I)(2.3mmol)の2−メトキシエタノール溶液30mLを滴下した。さらに3時間攪拌を続けて得られた緑色の不均一溶液にテトラヒドロフランを加え、ゲルの沈殿を促進させ吸引濾過を行った。得られたメソポーラスシリカから界面活性剤を取り除くため、この緑色のゲルを0.1mol%の塩酸メタノール溶液で12時間還流した。この処理で一部の銅イオンが外れてしまうため、得られた緑色の固体を塩化銅(I)2g(20mmol)の2−メトキシエタノール分散液200mLに投入し室温で12時間攪拌した。固体を回収し熱エタノール、ピリジン、最後にエタノールで洗浄、120℃、12時間減圧乾燥することで緑色の固体触媒2を得た。
粉末X線回折により得られたパターンから、合成したメソポーラスシリカMCM−41の細孔径は42.1オングストロームであった。
「実施例2」
次に、メソポーラスシリカMCM−41中のジアミンの活性プロトンをメチル基に変えた触媒3の合成を行った。ジアミンにN,N,N’−トリメチル−N’−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン1.2g(4.5mmol)を用いたこと以外は実施例2と同様である。
粉末X線回折により得られたパターンから、合成したメソポーラスシリカMCM−41の細孔径は44オングストロームであった。
「実施例3」
得られたMCM−41触媒を用いてフェノール類の酸化カップリング重合を行った。酸素雰囲気下、フラスコに触媒1を0.6g(0.3mmol)入れ、トルエン5mL、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)0.3mmolを加え40℃で5分間攪拌した。ここに2,6−ジメチルフェノール0.366g(3mmol)を加え、重合を開始した。24時間後、得られた溶液をトルエンで希釈し濾過後、濃塩酸を含むメタノールに再沈澱、固形物をメタノールで洗浄、減圧乾燥することでポリ(2,6−ジメチルフェノール)を得た。
「比較例1」
添加剤としてのテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)を加えないこと、重合時間を12時間としたこと以外は実施例3と同様である。
「比較例2」
特許文献1,2に従い合成した。すなわち、酸素雰囲気下、フラスコに臭化銅(II)0.3mmol、TMEDA0.3mmol、を入れ、トルエン5mLを加え40℃で5分間、攪拌した。ここに2,6−ジメチルフェノール0.366g(3mmol)を加え、重合を開始した。12時間後、クロロホルムで希釈し、1mLの濃塩酸を含む300mLのメタノールに反応混合物を加え、析出した黄色繊維状物質を回収した。これをメタノール、ついで、1mLの濃塩酸を含む25mLのメタノールで洗浄し、最後に25mLのメタノールで洗浄した。ポリマーをクロロホルムに溶かしこの溶液を濾過、再度1mLの濃塩酸を含む400mLのメタノールで再沈殿させた。これをメタノールで洗浄後、減圧乾燥することでポリ(2,6−ジメチルフェノール)を得た。
実施例3、比較例1〜2をまとめたものが表1である。
Figure 2004352988
合成した触媒1のメソポーラス空間内には銅を担持するためにすでにアミンが埋め込まれている。しかし、触媒1のみでは重合が進行しなかった(比較例1)。一方、この系にアミンとしてTMEDAを加えたところ、高収率でポリマーが得られることが分かった。これは銅に配位していない自由なTMEDAがフェノールのプロトンを引き抜き、フェノールの酸化電位を下げたためであると考えられる。
実施例1における収率、分子量は既知の臭化銅(II)−アミン触媒(比較例2)と同等であった。
「実施例4」
新規に合成した触媒2を用いてフェノール類の重合の検討を行った。酸素雰囲気下、フラスコに触媒2を0.14g(0.07mmol)入れ、ピリジン1mL、ついでトルエン5mLを加え40℃で5分間、攪拌した。ここに2,6−ジメチルフェノール0.366g(3mmol)を加え、重合を開始した。24時間後、得られた溶液をトルエンで希釈し濾過後、濃塩酸を含むメタノールに再沈澱させ、固形物をメタノールにて洗浄、減圧乾燥することでポリ(2,6−ジメチルフェノール)を得た。
「比較例3」
触媒に塩化銅(I)0.2mmol、重合時間を30分としたこと以外は比較例2と同様である。
「実施例5」
モノマーに2,5−ジメチルフェノールを用いたこと以外は実施例4と同様である。
「比較例4」
酸素雰囲気下、フラスコに塩化銅(I)0.2mmolを入れ、トルエン5mLを加え40℃で5分間、攪拌した。ここに2,5−ジメチルフェノール0.366g(3mmol)を加え、重合を開始した。1時間後、クロロホルムで希釈し、これを1mLの濃塩酸を含む300mLのメタノールに加えて洗浄した。さらにメタノール、ついで、1mLの濃塩酸を含む25mLのメタノールで洗浄し、最後に25mLのメタノールで洗浄、減圧乾燥することでポリ(2,5−ジメチルフェノール)を得た。
実施例4〜5、比較例3〜4をまとめたのが表2である。
Figure 2004352988
新規に合成したメソポーラスシリカ担持型触媒2を用いて2,6―ジメチルフェノールの酸化重合を検討した結果、24時間でほぼ定量的に数平均分子量で5万近くのポリマーが得られることが分かった(実施例4)。これは従来の工業ラインで使用される触媒系に匹敵する分子量である(比較例3)。
また、2,5−ジメチルフェノールの重合では従来型の均一系触媒が架橋物(比較例4)を与え、加工成形が困難となるのに対して、溶媒に可溶なポリマー(実施例5)を与える。前述の通り、2,5−ジメチルフェノールには反応可能点が3つ存在する。すなわち、フェノール酸素と、ヒドロキシル基の4位、及び6位である。従って、従来の触媒系では直鎖状高分子ではなく、枝分かれ、もしくは架橋高分子(ゲル)を与え、溶媒不溶になる。一方で、今回用いた触媒2で可溶性ポリマーを与えたのは、重合場が狭いメソ空間に限定されたため、分岐構造高分子は生成するものの、高分子鎖同士の反応が著しく抑制され架橋ポリマーを与えなかったためであると考えられる。
2,6−ジメチルフェノールの重合で触媒2は触媒1に比べてより高分子量体を与えることが分かった(実施例3と実施例4)。これは前述の通り、二価から出発した銅イオンに比べて一価から出発した銅イオン触媒の方が活性が高いためであると考えられる。
「実施例6」
新規に合成した触媒3を用いて2,6−ジメチルフェノールの重合を行った。酸素雰囲気下、フラスコに触媒3を0.1g(0.05mmol)入れ、ピリジン1mL、ついでトルエン5mLを加え40℃で5分間、攪拌した。ここに2,6−ジメチルフェノール0.366g(3mmol)を加え、重合を開始した。3時間後、得られた溶液をトルエンで希釈し濾過後、濃塩酸を含むメタノールに再沈澱させ固形物をメタノールで洗浄、減圧乾燥することでポリ(2,6−ジメチルフェノール)を得た。
「実施例7」
触媒3の量を0.025mmol用いたこと以外は実施例6と同様である。
「実施例8」
触媒3の量を0.010mmol用いたこと以外は実施例6と同様である。
「実施例9」
触媒3の量を0.005mmol用いたこと以外は実施例6と同様である。
「実施例10」
触媒3の量を0.0025mmol用いたこと以外は実施例6と同様である。
「比較例5」
触媒に塩化銅(I)0.2mmol用いたこと以外は比較例2と同様である。
「比較例6」
触媒に塩化銅(I)0.02mmol用いたこと以外は比較例2と同様である。
「比較例7」
触媒に塩化銅(I)0.005mmol用いたこと以外は比較例2と同様である。
実施例6〜10、比較例5〜7をまとめたのが表3である。
Figure 2004352988
新規に合成したメソポーラスシリカ担持型触媒3が2,6―ジメチルフェノールの酸化カップリング重合に有効であることが分かる(3時間で数平均分子量Mnで4〜8万のポリマーが高収率で得られている)。さらに、従来型触媒ではモノマーに対して触媒濃度を0.17mol%まで下げると重合活性が極端に落ちるのに対して(比較例7)、担持型触媒3では同濃度で依然として高分子量のポリマーを定量的に与えることができる(実施例9)。さらに低濃度、0.083mol%でも重量平均で10万を超えるポリマーを定量的に与え、重合活性を維持している(実施例10)。
これは、二つの理由で説明できる。一つは、従来の均一系触媒は、見た目は溶けているものの実際に金属はクラスター状態で存在する。そのため、重合に寄与する銅イオン濃度は実際の銅の添加量よりも低い。一方、メソポーラス材料担持型触媒では、アミンがメソポーラス空間に均等に分布するため、銅イオンは集合体であるクラスターを構成することはできず、結果として、添加した銅イオンがすべて重合触媒として機能するようになる。
二つ目の理由を述べる。重合機構上、モノマーであるフェノール類はピリジンにより親水性のフェノラートになる。反応溶媒は親油性のトルエンであり、メソポーラスシリカ内にはシラノール基が多数存在するため親水性である。従って、均一に溶液中に溶けているモノマーは積極的にメソ空間に引き込まれ、メソ空間内のモノマー濃度が上昇し、重合が前述の均一系触媒に比べて速やかに進む。以上、二つの理由により、本発明で合成された触媒3は従来型に比べて著しく高活性であることがわかる。
また、同様の分子量(Mnで4.9万)を持つ2,6−ジメチルフェノールのポリマーを与えるのに触媒2では24時間を要するのに対して触媒3では3時間で十分である。これは触媒3が触媒2に比べ圧倒的に高活性であることを示している(実施例4と6)。
これは活性プロトンのない三級アミンが銅イオンへ配位したことで、電子的に銅イオンを活性化し、さらに二級よりも三級アミンの方が立体的にかさ高いため、二価の状態になった銅イオンから配位した水酸化物イオンなどを容易に取り除くことができ、モノマーの接近を促進させるためであると考えられる。
次に、新規に合成した触媒3を用いてフェノール類の酸化カップリング重合を行った。
「実施例11」
酸素雰囲気下、フラスコに触媒3を0.05g(0.025mmol)、ピリジン1mL、ついでトルエン5mLを加え40℃で5分間、攪拌した。ここに2,5−ジメチルフェノール0.366g(3mmol)を加え、重合を開始した。12時間後、得られた溶液をトルエンで希釈し濾過後、メタノールに再沈澱、減圧乾燥することでポリ(2,5−ジメチルフェノール)を得た。
「実施例12」
ピリジンの代わりに2−ピコリン、重合時間を24時間としたこと以外は実施例11と同様である。
「実施例13」
酸素雰囲気下、フラスコに触媒3を0.05g(0.025mmol)、ピリジンを1mL、ついでトルエンを5mL加え60℃で5分間、攪拌した。ここに2,6−ジフェニルフェノール0.739g(3mmol)を加え、重合を開始した。3時間後、得られた溶液をトルエンで希釈し、濾過、メタノールに再沈澱させ、減圧乾燥することでポリ(2,6−ジフェニルフェノール)を得た。
「比較例8」
触媒に塩化銅(I)、モノマーに2,6−ジフェニルフェノール、温度60℃、重合時間3時間としたこと以外は比較例2と同様である。
実施例11〜13、比較例8をまとめたのが表4である。
Figure 2004352988
新規に合成したメソポーラスシリカ担持型触媒3が2,6―ジメチルフェノール以外にも2,5―ジメチルフェノール、2,6―ジフェニルフェノールの酸化重合に有効であることが分かる。特に、2,5―ジメチルフェノールの重合では従来型触媒では架橋ポリマー(ゲル)しか与えない(比較例4)のに対して、溶媒に可溶な数平均分子量1万を超えるポリマーを与えることができる。実施例11の結果は触媒2を用いた結果(実施例5)よりも優れている。この理由は、実施例4と実施例6のところで説明した、触媒3が触媒2より高活性である理由と同様であると考えられる。
今回ポリマー合成に用いた触媒は固相担持型であるため、得られるポリマーとの分離が従来型に比べてより容易であると期待される。そこで銅イオンの付着の有無を確認するため単離したポリマーの色を比較した。
「比較例9」
得られるポリマーの色を比較するために、比較例8における重合後の処理を実施例8と同様に行った。その結果、本比較例で得られたポリマーは黄色であり、実施例8で得られるほぼ白色のポリマーと明らかに異なることが分かった。ポリマーに色が付くと言うことは、不純物が混じっていることを意味している。不純物としてはジフェノキノン、アミン、銅イオンが考えられる。これら、不純物はポリマーから完全に取り除く必要がある。すなわち、これらはポリマーの分解剤となり、製品の性能を著しく低下させると考えられる。
これにより、本発明で合成した固体担持型触媒は従来の均一系触媒と異なり、非常に簡便に触媒残さをポリマーから除けることが分かった。
次に、新規に合成した触媒3を用いた2,6−ジメチルフェノールの重合で触媒のリサイクルを行った。
「実施例14」
酸素雰囲気下、フラスコに触媒3を0.05g(0.025mmol)、ピリジンを1mL、ついでトルエンを5mL加え40℃で5分間攪拌した。ここに2,6−ジメチルフェノール0.366g(3mmol)を加え、重合を開始した。3時間後、得られた溶液をメタノールに再沈澱させた。フラスコに残った固体触媒をトルエン、ついでクロロホルムで十分洗浄し、これを乾燥させ再び重合に用いた。この操作を5回繰り返した。5度目の重合の結果、収率93%で高分子量(Mw/Mn=286、000/56、000)ポリマーを得た。従って、従来の銅アミン触媒と異なり、本発明で開発した新規触媒は重合後に非常に簡便に回収可能で、2,6−ジメチルフェノールの重合に再利用可能であることがわかる。またその活性は5回の再利用でまったく落ちないことから、銅イオンがしっかりと固定化されており、重合中に溶け出ていないことが分かった。
以上のことから、本実施例によれば、新規な固相担持型触媒によりフェノール類の酸化カップリング重合を進行させることができる。触媒活性は1、2、3の順に向上し、新規な触媒3は、2,6−ジメチルフェノールの重合では、従来型触媒より高い重合活性を示し、2,5−ジメチルフェノールの重合では従来型が溶媒不溶の架橋ポリマーを与えるのに対して溶媒可溶な数平均分子量1万を超えるポリマーを与えることができる。さらに、2,6−ジフェニルフェノールの重合に対しても従来系の触媒能に匹敵している。これらの触媒による重合では、得られたポリマーからの触媒残差の除去が極めて容易にできる。また、回収した触媒の再利用が可能であり、2,6−ジメチルフェノールの重合で5回再利用を行ってもまったく触媒活性が落ちずに高分子量ポリマーを与えることが分かった。このことからも、銅イオンが固体中にしっかりと担持されており、溶け出てきていないことが分かる。
「実施例15」
MCM−41以外のメソポーラス材料としてSBA−15に着目した。P123として知られるポリ(エチレンオキシド)―b−ポリ(プロピレンオキシド)−b−ポリ(エチレンオキシド)トリブロックコポリマー(数平均分子量5800)2gを水45g、4規定塩酸30gに分散させ、テトラメチルオルソシリケート2gをシリカ源として加え40℃で20時間攪拌した。ついで80℃で24時攪拌せずに加温した。析出した固体を回収し、550℃で6時間焼成することで鋳型として用いたP123を除き、目的とするメソポーラスシリカ(SBA−15)を得た。これをトルエン40mLに分散させ、N,N,N’−トリメチル−N’−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン2gを加え、窒素雰囲気下12時間、加熱還流を行った。固体をろ別、乾燥し、ジアミンで修飾されたSBA−15を得た。このジアミン固定化SBA−15を、2−メトキシエタノールの飽和塩化銅(I)溶液10mLに投入し暫く攪拌した。その後、粉末をろ別し、同様の操作を2度繰り返した。得られた水色の粉末を減圧乾燥し、目的とする触媒4を合成した。
窒素の吸着実験、X線回折実験より、銅イオンを固定化したSBA−15の細孔径は60オングストロームであり、孔径の分布は非常に狭いことを確認した。図1に、SBA−15とSBA−15をジアミンで修飾したものの窒素の吸脱着曲線(図の中ほど右肩)と、これより得られる細孔径分布を示す。合成したSBA−15は、表面積813m2/gで8.2nmの細孔系を有する穴のサイズの揃ったシリカであることが分かる((a)の曲線)。これをジアミンで修飾すると表面積が344m2/gで穴の平均孔径が6.0nmに縮まる((b)の曲線)。ここで、細孔径の分布は修飾以前と比較できるほど十分に狭く、このことは、SBA−15のすべての内壁に均一にジアミンが修飾されており、完全に明確で均一な構造を有するシリカゲル材料の構築が可能であることを示している。
元素分析、及びICP発光分析から、銅イオン:ジアミン:シリカのモル比は1:1:13であることが分かった。窒素の吸脱着曲線の結果と考え合わせれば、銅イオンがジアミンに当量配位しているということは、銅イオンがメソポーラスシリカの内部まで均等に配置されていることを意味しており、均一な触媒の構築に成功したことが示唆される。
次に、新規に合成した触媒4を用いて2,6−ジメチルフェノールの酸化カップリング重合を行った。
「実施例16」
酸素雰囲気下、フラスコに触媒4を0.05g(0.025mmol)、ピリジン1mL、ついでトルエン5mLを加え40℃で5分間、攪拌した。ここに2,6−ジメチルフェノール0.366g(3mmol)を加え、重合を開始した。3時間後、得られた溶液をトルエンで希釈し濾過後、メタノールに再沈澱、減圧乾燥することでポリ(2,6−ジメチルフェノール)を得た。
「実施例17」
添加剤としてさらに硫酸マグネシウム0.05g加えたこと、および重合時間を30分にしたこと以外は実施例16と同様である。
「実施例18」
添加剤としてさらに硫酸マグネシウム0.05g加えたこと以外は実施例16と同様である。
「実施例19」
添加剤としてさらに、孔径の揃っていない市販されているポーラスシリカ(シリカゲル、平均孔径60オングストローム、アルドリッチ社製)0.05g加えたこと以外は実施例16と同様である。
「比較例10」
触媒に塩化銅(I)0.025mmolを用いたこと、重合時間を30分としたこと以外は実施例16と同様である。
「比較例11」
触媒に塩化銅(I)0.025mmolを用いたこと以外は実施例16と同様である。
実施例16〜19、および比較例10,11をまとめたものが表5である。
Figure 2004352988
従来の塩化銅(I)−ピリジン触媒系では高分子量のポリマーが得られるものの分子量分布は8前後と大きくなる(比較例10)。重合時間を3時間まで延ばすと、この傾向は顕著になり、分子量分布は10まで広がる(比較例11)。
一方、触媒4を用いて重合を行うと、分子量分布の比較的狭い(およそ2)ポリマーが得られる(実施例16)。同様の実験をポーラスシリカ触媒を用いて行うと生成するポリマーの狭い分子量分布は実現できないため、メソ孔の中に銅イオンが規則正しく存在する触媒が重合の規制に効果的であることが伺える。硫酸マグネシウム(MgSO)やシリカゲル(Si60)の添加は30分の重合では分子量分布の値を抑えるという意味で効果的である。しかし、重合時間を3時間に延ばすと、この効果はなくなる(実施例17〜19)。
逐次重合ではポリマーの分子量分布は理論的に2に近づくことが知られている。一般に、分子量分布の増大は直線状ポリマーに分岐構造が生じていることを示しており、例えば、高分岐型のハイパーブランチポリマーでは分子量分布は無限大になる。従って、従来系で分子量分布が異常に増大する理由として、重合中に生成する水が触媒構造を変え、一部に活性な種ができるためである。あるいは、酸化重合がラジカルを経由するために生じる連鎖移動反応のためであると考えられる。メソポーラス中で重合を行うことで、重合方向以外の空間が制限され、そのような副反応が抑制できたのではないかと説明することができる。
次に、新規に合成した触媒4を用いて2,5−ジメチルフェノールの酸化カップリング重合を行った。
「実施例20」
酸素雰囲気下、フラスコに触媒4を0.05g(0.025mmol)、ピリジン1mL、ついで1,2−ジクロロベンゼン5mLを加え40℃で5分間、攪拌した。ここに2,5−ジメチルフェノール0.366g(3mmol)を加え、70℃にて重合を開始した。12時間後、得られた溶液をトルエンで希釈し濾過後、メタノールに再沈澱、減圧乾燥することでポリ(2,5−ジメチルフェノール)を得た。
「実施例21」
ピリジンの代わりに2−プロピルピリジン1mLを用いたこと以外は実施例20と同様である。
「実施例22」
重合温度を90℃にしたこと以外は実施例21と同様である。
「実施例23」
重合温度を110℃にしたこと以外は実施例21と同様である。
「実施例24」
比較のために、メソポーラス触媒3を用いて2,5-ジメチルでフェノールの重合を行った。触媒に3を、重合温度を90℃にしたこと以外は、実施例20と同様である。
「比較例12」
触媒に塩化銅(I)(0.09mmol)を用いたこと以外は実施例21と同様である。
「比較例13」
触媒にポーラスシリカ触媒を、重合温度を110℃としたこと以外は実施例21と同様である。
なお、ポーラスシリカ触媒は、次のように作製した。
メソポーラスシリカとの比較として、孔径の揃っていない市販されているポーラスシリカ(シリカゲル、平均孔径60オングストローム、アルドリッチ社製)を用いて触媒を合成した。すなわち、このポーラスシリカ2gにN,N,N’−トリメチル−N’−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン2gを加え、窒素雰囲気下12時間、加熱還流を行った。固体をろ別、乾燥し、2−メトキシエタノールの飽和塩化銅(I)溶液10mLに投入し暫く攪拌した。その後、粉末をろ別し、同様の操作を2度繰り返した。得られた水色の粉末を減圧乾燥し、ポーラスシリカ触媒を合成した。
実施例20〜23、および比較例12,13をまとめたのが表6である。実施例22〜24、および比較例12,13の結果得られたポリマーの水素核の核磁気共鳴結果が図2のそれぞれ(c)(d)(e)(a)(b)である。
Figure 2004352988
SBA−15触媒4を用いて70℃にて重合したところ収率54%で溶媒可溶なポリマーを得た(実施例20)。ピリジンの代わりに2−プロピルピリジンを用いたところ、白色に近いポリマーを得ることができた(実施例21)。これを水素核の核磁気共鳴装置により分析したところ、カップリング位置が高度に規制されたポリフェニレンエーテルであることが分かった。
重合温度を90℃(実施例22,図2のc)、110℃(実施例23,図2のd)と上昇させたところ、いずれの場合にも白色に近いポリマーを得ることができた。同様の水素核の核磁気共鳴装置(1H NMR)により分析したところ、これらポリマーは選択的に1,4−位でのみカップリングして得られたポリマーであることが分かった。すなわち、触媒4から得られるポリマーの1H NMRスペクトルは図2のcとdであり、2ppmと6.5ppm付近のシグナルが非常に鋭くなっている。以上のことから、触媒4を用いると、2,5−ジメチルフェノールの重合では位置選択的なカップリングが可能であることがわかる。
従来の触媒にて2,5−ジメチルフェノールの重合を室温にて行うと、高度に分岐したポリマーが生成し、比較例12で示したように、70℃にて重合を行うとゲル化する。また、比較例13で示したようにポーラスシリカ触媒を用いるとゲル化をある程度抑制することができるものの、110℃という高温ではやはりゲル化する。一方、触媒4を用いると高温でのゲル化を避けられるばかりではなく、実施例22,23で示したように完全に1,4位でのみカップリングしている。このオリゴマーが合成されており、高結晶性であるために1,2−ジクロロベンゼンにのみ100℃で溶解すると報告されている。従って、分岐のない位置選択性の完全なポリマーを得るには、100℃以上の高温が必要であり、触媒4はこの要求に合致している。
70℃で従来の均一系触媒を用いて重合を行ったところ、溶媒不溶なゲルが生成した(比較例12)。クロロホルム可溶部のH NMRを図2のaに示すが、2ppmと6.5ppm付近のシグナルが非常に幅広くなっている。ポリマーの構造を考えると、もし規則正しく1,4位でのみカップリングしていればその構造は線対称なのでシグナルがシャープになるはずである。実際のシグナルがこれほど幅広いということは、似た環境にある水素核が複数存在するということを意味しており、すなわち、重合時にカップリングが選択的に起こっていないことを示唆している。また、孔の大きさの揃っていないポーラスシリカを用いて110℃にて重合を検討したところ、ゲルが得られることが分かった(比較例13,図2のb)。
また、メソポーラス触媒3を用いて90℃にて重合を行ったところ、明確な位置選択性を得ることができず、従来の均一系触媒と比べてなんら規則性の向上は見られなかった(実施例24)。すなわち、図2のeに示すように、H NMRスペクトルにおいて、孔径の揃っていないポーラスシリカ触媒を用いて重合を行うと、得られるポリマーの各プロトンに由来するシグナルは幅広である。
以上の結果より、メソポーラス材料を構築した後に銅イオンを担持した触媒4はフェノール類の重合で、より高度な規制が可能であり、特に2,5−ジメチルフェノールの重合では、触媒3を含むこれまでの触媒がせいぜい溶媒可溶なポリマーしか与えなかったのに対して、1,4−位で選択的にカップリングしたポリマーを与える非常に有用な触媒であることが分かった。これは、触媒3では銅イオンをメソポーラス構造の構築時に同時に加えていたことによる構造欠陥が大きかったこと、銅イオンがジアミンに対して過剰に吸着していたことなどが原因として考えられる。一方、触媒4では構造の明確なメソポーラスシリカを合成した後にジアミンを固定、銅イオンを担持しており、余分な銅イオンの吸着はない。ジアミンと銅イオンはメソポーラスシリカ内に均一に分布しており(窒素の吸脱着実験結果とX線回折)、重合が細孔の中でのみ起きていると予測される。この完全に規則正しい構造を有する触媒により、2,5−ジメチルフェノールの位置選択的な酸化カップリング重合が進行している図を説明したのが図3である。細孔径はモノマーの大きさに比べると断然大きいものの、重縮合ではポリマー間の反応が必要であり、その意味で、今回使用したメソポーラスシリカ程度の細孔径は必要である。重合は細孔の内部でのみ起きており、銅イオン周りの立体障害により、高度な位置選択性が実現されている。
メソポーラスシリカSBA−15の内壁修飾前後における窒素ガスを吸脱着したときの圧力変化の図(右上)、および、SBA−15の細孔サイズの分布を示す図である。 ポリマーの水素核の核磁気共鳴結果を示す図である。 メソポーラス材料の細孔内での反応をモデル的に示す図である。

Claims (15)

  1. メソポーラスシリカに銅(II)化合物を担持する触媒であり、フェノール類モノマーの酸化カップリング重合に用いる触媒。
  2. 銅(II)化合物はジアミンに配位する、請求項1記載の触媒。
  3. 銅(I)化合物を出発原料に用い、メソポーラスシリカに銅化合物を担持する触媒。
  4. 銅化合物はジアミンに配位する、請求項3記載の触媒。
  5. メソポーラスシリカに銅化合物を担持する触媒を用い、
    フェノール類モノマーを酸化カップリング重合させる、ポリマーの製造方法。
  6. アミンを添加する、請求項5記載のポリマーの製造方法。
  7. 酸素存在下で重合させる、請求項6記載のポリマーの製造方法。
  8. 銅化合物はジアミンに配位する、請求項5記載のポリマーの製造方法。
  9. アミンを添加する、請求項8記載のポリマーの製造方法。
  10. 酸素存在下で重合させる、請求項9記載のポリマーの製造方法。
  11. メソポーラスシリカにジアミンを結合させ、このジアミンに銅化合物を配位させた触媒。
  12. ジアミンに対する銅イオンのモル比が、0.8〜1.1の範囲にある、請求項11記載の触媒。
  13. メソポーラスシリカにジアミンを結合させ、このジアミンに銅化合物を配位させた触媒を用い、
    フェノール類モノマーを酸化カップリング重合させる、ポリマーの製造方法。
  14. アミンを添加する、請求項13記載のポリマーの製造方法。
  15. 酸素存在下で重合させる、請求項14記載のポリマーの製造方法。
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