JP2004323869A - 酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】電磁弁のヨーク等、鉄鋼部材の耐酸化性及び他部材との絶縁性を、より安価に、より簡便に確保することができる酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法を提供する。
【解決手段】Feを主成分として含有し、添加元素成分として、Feよりも酸化傾向の強い、AlやSi等の元素を含有する鉄鋼部材を、Feに対しては還元性雰囲気となり、AlやSi等に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にさらして、鉄鋼部材の表面に前記元素の酸化物膜を生成させる。
【選択図】 図3
【解決手段】Feを主成分として含有し、添加元素成分として、Feよりも酸化傾向の強い、AlやSi等の元素を含有する鉄鋼部材を、Feに対しては還元性雰囲気となり、AlやSi等に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にさらして、鉄鋼部材の表面に前記元素の酸化物膜を生成させる。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄鋼部材の製造方法に関し、特に、他部材との絶縁性及び耐酸化性を向上させるために表面に酸化物膜が形成された酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄系磁性材料により構成される電磁弁のヨークは、電磁弁の使用環境によっては耐酸化性を要求されることがある。また、ヨーク外周に巻き回されるコイルワイヤーとの電気的絶縁性も要求される。ヨークに耐酸化性を付与する為に、従来は、鉄鋼部材をヨーク形状に形成し、その部材の表面に、耐酸化性の鍍金を施していた。また、コイルワイヤーとの絶縁性を確保する為に、ヨークの外周部にコイルワイヤーを巻き回した樹脂製のボビンを配備するようにしていた。
【0003】
しかしながら、電磁弁のヨークに関して言えば、ヨークの外周面に鍍金を施すのは工数が増大して効率的ではない。また、ヨークとコイルとの間の絶縁性を確保する為に、樹脂性のボビンを配備するとしても、ヨークのほかに樹脂製のボビンを別途配備する必要があり、電磁弁として組み合わせた部品数が多くなってしまう。
【0004】
一方で、下記特許文献1に開示されているように、Crステンレス鋼の耐酸化性や絶縁性を向上させるために、Cr含有フェライト系ステンレス鋼に、Alを含有させ、このステンレス鋼を熱処理することにより、ステンレス鋼の表面にAl2O3の皮膜を形成するようにした技術もあるが、特許文献1に開示されている技術は、Crステンレス鋼の耐酸化性及び絶縁性を向上させるものであり、電磁弁のヨークのように鉄鋼部材(特に純鉄系鉄鋼部材)の耐酸化性及び絶縁性の確保に関するものではない。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−331409号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、電磁弁のヨーク等、鉄鋼部材の耐酸化性及び他部材との絶縁性を、より安価に、より簡便に確保することができる酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
上記本発明の課題を解決する為に、本発明の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法の第一(第一発明)は、Feを主成分として含有し、5質量%以下のCrを含有し、さらに添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素を含有する鉄鋼部材を、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にさらして、前記鉄鋼部材の表面に前記添加元素成分の酸化物膜を生成させることを特徴とする。なお、本明細書において主成分とは、含有される元素のなかで最も含有量が多いものをいう。また、Crの含有量は、鉄鋼部材の低コスト化を図るためには、より低く抑えるのが望ましいが、鉄鋼部材の強度を向上させる目的で、5質量%以下の範囲で含有させることができる。また、鉄鋼部材として、電磁弁のヨーク等の磁性部材を用いる場合、Cr等の合金成分を含有させることにより、部材の磁気特性が劣化してしまうという問題もある。より望ましくは、Crの含有量は3.5質量%以下とすることができる。3.5質量%以下のCrを必須添加元素成分として含有する鉄鋼部材としては、SCr材、SCM材、SNCM材等のCr含有低合金鋼を例示することができる。さらに望ましくは、Crの含有量は1.5質量%以下とすることができる。なお、「5質量%以下のCrを含有し、」とは、Crを必須添加元素成分として含有していないものを当然含むものであり、例えば、磁気特性に特に重点を置く場合には、Crは必須添加元素成分として含有しないのがよい。
【0008】
このように、Feを主成分として含有する鉄鋼部材に、Feよりも酸化傾向の強い元素を添加元素成分として含有させ、そして、その鉄鋼部材を、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にさらすことで、鉄鋼部材の表面に前記元素の酸化物膜が生成する。したがって、この酸化物膜により、鉄鋼部材自体が酸化腐食されるのを抑制できるとともに、鉄鋼部材の外表面と鉄鋼部材内部との間で電気的絶縁性が確保されることになり、鉄鋼部材の耐酸化性と、他部材との絶縁性を向上させることができる。
【0009】
したがって、鉄鋼部材の耐酸化性を向上させるために、鉄鋼部材の表面に鍍金等を施す必要がないので製造工程を簡略でき、そのため、コストの削減に寄与する。さらに、他部材との絶縁性を確保するために、鉄鋼部材の表面に樹脂製部材等の絶縁部材を改めて配備する必要もない。
【0010】
さらに、本発明の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法においては、応力除去焼鈍、磁気焼鈍、焼入れ・焼き戻し等の熱処理工程を含み、前記熱処理工程中の雰囲気を前記処理雰囲気とするのがよい。通常、鉄鋼部材に対しては、上記に示すように、応力除去焼鈍や、磁気焼鈍や、焼き入れ・焼き戻し等の熱処理工程が、耐酸化性の向上や、他部材との絶縁性の確保とは別の目的で行われることがある。本発明においては、このように鉄鋼部材の製造方法において通常行われる熱処理工程を、前述したように、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記元素に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にて行うようにした。そのため、鉄鋼部材の耐酸化性及び他部材との絶縁性を確保することのみを目的とする熱処理工程を別途行わなくともよい。なお、前記熱処理工程を行う場合、前記熱処理工程の最終冷却過程において、前記鉄鋼部材を前記処理雰囲気にさらすのがよい。熱処理工程の最終冷却過程を、前記処理雰囲気で行っても、熱処理自体にはほとんど影響はない。そのため、前記熱処理工程で期待される効果を実現しつつ、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を生成させることができる。
【0011】
また、本発明の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法においては、前記鉄鋼部材の寸法加工を行った後に、前記鉄鋼部材を前記処理雰囲気にさらすのがよい。これによれば、寸法加工によって酸化物膜が除去されるという不具合がない。また、寸法加工を行った後では、鉄鋼部材内に応力集中や磁気歪等が生じることもあり、このような歪を除去するための、前述したような応力除去焼鈍や磁気焼鈍等の熱処理を、前記処理雰囲気にて行うことで、寸法加工により鉄鋼部材内に生じる不具合を矯正しつつ、鉄鋼部材の表面に、耐酸化性及び他部材に対する絶縁性を向上させる酸化物膜を生成することができる。なお、酸化物膜を鉄鋼部材の表面に生成させるのは、望ましくは鉄鋼部材の製造過程において、他の工程が全て完了した後に行うのがよい。
【0012】
さらに、前記鉄鋼部材は、粉末冶金法により作製されるものであって、異なる組成の領域を複数箇所形成するのがよい。
【0013】
また、本発明の課題を解決するための、本発明の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法の第二(第二発明)は、Feを主成分として含有し、添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素を含む原料粉末を成形体に成形する工程と、該成形体を焼結させる焼結工程とを有し、該焼結工程中に、前記成形体を、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にさらして、鉄鋼部材を形成するとともに、該鉄鋼部材の表面に前記添加元素成分の酸化物膜を生成させるようにしたことを特徴とする。なお、主成分とは、含有される元素のうち含有量の最も多いものをいうものとする。
【0014】
上記第二発明は、鉄鋼部材を粉末冶金法により作製する例である。このように、鉄鋼部材を粉末冶金法により作製する場合、原料粉末として、Feを主成分として含有し、添加元素成分として、Feよりも酸化傾向の強い元素を含むものを使用し、該原料粉末を部品形状に成形した成形体を焼結する焼結工程において、該成形体を、前記処理雰囲気中にさらすことにより、鉄鋼部材を形成するとともに、該鉄鋼部材の表面に酸化物膜を形成することができる。これにより、鉄鋼部材を形成する時点で該鉄鋼部材の表面に耐酸化性及び他部材との絶縁性に優れる酸化物膜を生成させることができ、耐酸化性及び他部材との絶縁性に優れる酸化物膜付鉄鋼部材を製造することができる。そのため、耐酸化性を向上させるために、鉄鋼部材の表面に鍍金等を形成したり、他部材との絶縁性を確保するために、樹脂製部材等の絶縁部材を配備する必要がない。さらに、鉄鋼部材を形成する焼結工程で、同時に酸化物膜を形成するようにしているので、より一層製造工程を削減することができる。また、前記処理雰囲気にさらされる成形体とは、原料粉末が部品形状に成形されているものを総称するものとし、原料粉末同士が焼結された焼結体も含むものとする。また、本明細書において、原料粉末としては、Feを主成分として含有する鉄鋼材料粉末と、添加元素成分として、Feよりも酸化傾向の強い元素を含む添加元素成分粉末とを混合した混合粉末を含むものとする。
【0015】
さらに、本発明の第二形態においては、前記焼結工程の前記成形体を冷却する冷却過程において、該成形体を前記処理雰囲気にさらすのがよい。焼結工程の冷却過程において、前記成形体を前記処理雰囲気にさらすようにすれば、原料粉末の焼結自体に影響をほとんど与えることなく、焼結工程において、焼結体(形成される鉄鋼部材)の表面に酸化物膜を形成することができる。
【0016】
なお、粉末冶金法により鉄鋼部材を製造する場合、ある程度の寸法精度で鉄鋼部材を形成することができるため、寸法加工が必要ない場合もあるので、鉄鋼部材を部品形状に形成すると同時に鉄鋼部材の表面に酸化物膜を生成させることが可能である。
【0017】
また、本発明の場合、溶製の鉄鋼部材は、添加元素を予め合金成分として含んでいるため、鉄鋼部材が硬くなりやすく、切削加工等により部品形状に加工する場合、切削性が低下するという問題があるが、鉄鋼部材の作製を粉末冶金法により行う場合は、前述の添加元素の添加による鉄鋼部材の切削性低下が、特に問題とならないという効果がある。
【0018】
具体的に、粉末冶金法により鉄鋼部材を作製する場合、金属粉末射出成形やプレス成形等により、鉄鋼部材を作製することができる。このとき、金属粉末射出成形やプレス成形が行われる雰囲気を前記処理雰囲気として、鉄鋼部材の形成と同時に、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を生成させることができる。
【0019】
さらに、本第二発明においては、前記鉄鋼部材は、異なる組成の領域を複数箇所形成するようにすることができる。
【0020】
以上、本発明の第一発明及び第二発明を述べたが、これら第一発明及び第二発明において、鉄鋼部材としては、電磁弁のヨークが適用できる。より具体的には、本発明(第一発明及び第二発明)の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法において、前記鉄鋼部材は電磁弁のヨークとして使用されるものであり、該ヨーク外周部にコイルワイヤーを巻き回すための溝が形成されているものとすることができる。前述にて説明したように、本発明の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法によれば、耐酸化性とともに、他部材との絶縁性も優れた電磁弁のヨークを作製することができる。そのため、電磁弁として組み立てるときに、ヨークとコイルワイヤーとの絶縁性を確保する為に、樹脂製のボビンを配備する必要がない。したがって、ヨーク自体にコイルワイヤーを巻き回すための溝を形成しておき、ヨークに直接コイルワイヤーを巻き回すことで電磁弁を組み立てることができ、結果として電磁弁の製造コスト低下並びに小型化に寄与する。
【0021】
また、鉄鋼部材として、電磁弁のヨークを適用する場合、前記鉄鋼部材は、粉末冶金法により前記ヨークの形状に形成されるものであり、かつ、磁性材料で構成された領域と非磁性材料で構成された領域とを含む複合体として作製されるものとすることができる。
【0022】
さらに、本発明(第一発明及び第二発明)においては、前記処理雰囲気は、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記元素に対しては酸化性雰囲気となるように、露点を制御したものとすることができる。
【0023】
また、本発明に使用される添加元素成分としての、Feよりも酸化傾向の強い元素としては、Ca、Mg、Al、Ti及びSiから選ばれる元素の1種又は2種以上とすることができる。また、添加元素成分は、Ca、Mg、Al、Ti及びSiから選ばれる1種又は2種以上を必須成分として含有し、かつ、Cr及びMnのうち少なくとも一つを含有するものとすることができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明において、電磁弁のヨークを製造する実施形態の場合について添付の図面を使用して説明する。図1は、本実施形態の方法により作製される電磁弁用ヨークの概略を示す断面図である。電磁弁のヨーク11は、円筒状に形成されており、外径の小さな小径部11Aと外径の大きな大径部11Bとを有す。小径部11Aには、組成の異なる領域が形成されている。具体的には、磁性を示す鉄鋼材料にて構成される第一領域11aと、非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼にてなる第二領域11bが形成されている。なお、領域11dは磁性を示す。さらに、このヨーク11には、添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素が添加されている。さらに、本発明により作製されたヨーク11は、その外周面に添加元素成分の酸化物膜12が形成されている。なお、添加元素成分は、ヨーク11の磁性を示す領域(第一領域11a、領域11d)にのみ添加されていてもよい。また、酸化物膜12は、ヨーク11の磁性を示す領域(第一領域11a、領域11d)の表面にのみ形成されていてもよい。
【0025】
このように、本発明により作製されたヨーク11は、その表面に添加元素成分の酸化物膜が形成されているので、耐酸化性に優れるとともに、他部材との絶縁性も良好である。そのため、図1に示すようにヨーク11の外周面に直接コイル13を巻き回して、ソレノイド14を構成することができる。
【0026】
このソレノイド14において、コイル13に電流を流すと、非磁性である第二領域11bには磁束が生じないので、図1のように磁力線Bが第二領域11bを避けるようにヨーク11の空洞部に生じ、ヨーク11の内部に配置される可動子15が移動する。この可動子15の移動により、図1にて左方に省略されている弁を開閉でき、電磁弁として使用することができるようになっている。なお、図1において、磁力線Bは、一方向に向くように図示されているが、コイル13に流れる電流は交流とすることもできるので、磁力線Bはどちらを向いていてもよい。
【0027】
また、ヨーク11のコイルワイヤー13が巻き回される小径部11Aの外周面には、図2に示すように、溝部11cが形成されている。この溝部11cによりコイルワイヤー13をヨーク11の小径部11Aに整然と巻き回すことができるようになっている。
【0028】
以下、上記のようなヨーク11の製造方法について説明する。
【0029】
(第一実施形態)
図3は、ヨーク11の第一実施形態の製造方法の流れを説明する図である。図3に示すように、第一実施形態は、粉末冶金法によりヨーク11を製造する例である。まず、図3に示すように、ヨーク11の構成材料となるFeを主成分として含有し、添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素を含有する原料粉末を用意する。この原料粉末は、Feを主成分として含有し、かつ添加元素成分を含有する合金粉末とすることもできるし、Feを主成分として含有する鉄鋼部材粉末と、添加元素成分にてなる添加元素成分粉末とが、所定量ずつ混合された混合粉末とすることもできる。添加元素成分としては、Ca、Mg、Al、Ti及びSiから選ばれる元素の1種又は2種以上とすることができる。また、これらの添加元素成分に加えて、Cr及びMnの少なくてもいずれかを含有するようにしてもよい。
【0030】
次に、原料粉末をヨーク11の形状に成形したあと、焼結させることにより、ヨーク11を作製する。このとき、本実施形態においては、焼結後の冷却過程における雰囲気の露点を制御して、Feに対しては還元性雰囲気となり、添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となるようにしている。そして、原料粉末を焼結させ、ヨーク11の形状に形成するとともに、ヨーク11の表面に添加元素成分の酸化物膜を形成する。
【0031】
原料粉末を焼結してヨーク11の形状に形成する方法としては、金属粉末射出成形や、プレス成形を採用することができる。金属粉末射出成形を採用する場合、原料粉末にバインダを混合して、その状態で射出成形機を用いて金型のキャビティに原料粉末とバインダとの混合物を射出する。このように、原料粉末を成形したのち、原料粉末の成形体を脱脂焼結させて、ヨーク11とすることができる。このとき、原料粉末の成形体を焼結させた後に冷却する雰囲気は、その露点を制御することによって、Feに対しては還元性雰囲気となり、添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気とする。これにより、ヨーク11を形成しつつのその表面に添加元素成分の酸化物膜を形成することができる。
【0032】
一方、プレス成形により原料粉末を焼結する場合、焼結助剤として、例えばステアリン酸亜鉛等を原料粉末に混合し、プレス金型のキャビティに原料粉末と焼結助剤との混合物を充填して、この混合物をプレス加圧して形成したのち、前記処理雰囲気において形成品を焼結させることにより、ヨーク11を形成するとともに、該ヨーク11の表面に添加元素成分の酸化物膜を形成することができる。これにより、酸化物膜が表面に形成されたヨーク11をより簡便に製造することができる。
【0033】
以上、本実施形態によれば、ヨーク11の表面に耐酸化性及び他部材との絶縁性に優れる酸化物膜12を形成することができるので、耐酸化性を向上させるためにヨーク11の表面に鍍金を別途形成したり、あるいは他部材(例えばコイルワイヤー13)との絶縁性を確保するために、樹脂製のボビン等を配備する必要がない。そのため、電磁弁に使用されるヨーク11をより安価により簡便に製造することができる。さらに、ヨーク11を焼結して形成する工程と同時に、ヨーク11の表面に酸化物膜12を形成することができるので、さらに製造工程を簡略することができる。
【0034】
(第二実施形態)
図4は、本発明の第二実施形態にかかる酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法を説明する図である。本第二実施形態においては、ヨーク11を鍛造あるいは切削等の機械加工により形成し、その形成品の鉄鋼部材に酸化物膜を生成するようにしたものである。まず、図4に示すように、機械加工によって、Feを主成分として含有し、Feよりも酸化傾向の強い添加元素成分を含有する鉄鋼部材をヨーク11の部品形状に加工する。添加元素成分としては、Ca、Mg、Al、Ti及びSiから選ばれる元素の1種又は2種以上とすることができる。さらに、上記添加元素成分に加えて、Cr及びMnの少なくともいずれかを含有するようにしてもよい。
【0035】
ついで、高精度の寸法加工を行って最終的なヨーク11の形状とする。このように、機械加工によりヨーク11を形成すると、ヨーク11を構成する鉄鋼部材の内部に応力集中や磁気歪等が生じてしまう。そのため、これらの歪を緩和する目的で、形成されたヨーク11に対して、応力除去焼鈍や磁気焼鈍等の焼鈍工程を行う。これにより、ヨーク11を構成する鉄鋼部材の内部の応力集中や磁気歪等が除去される。
【0036】
さらに、本第二実施形態においては、ヨーク11に対して焼鈍工程を行って、この焼鈍工程が行われる雰囲気を、Feに対しては還元性雰囲気となり、添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となるようにする。特に、前述のように焼鈍工程を前記処理雰囲気にて行う場合、焼鈍工程の最終冷却過程の雰囲気を前記処理雰囲気とすることができる。これにより、鉄鋼部材の製造において、通常行われる熱処理工程と同時に鉄鋼部材の表面に酸化物膜を形成する工程を行うことができるので、製造工程を簡略化することができる。
【0037】
これにより、ヨーク11の表面に耐酸化性及び他部材との絶縁性に優れる酸化物膜を形成することができるので、耐酸化性を向上させるためにヨーク11の表面に鍍金を別途施したり、あるいは他部材(例えばコイルワイヤー13)との絶縁性を確保するために、樹脂製のボビン等を配備する必要がない。そのため、電磁弁に使用されるヨーク11をより安価により簡便に製造することができる。また、製造される電磁弁の小型化にも寄与する。また、ヨーク11を製造する際に、通常行われる応力除去焼鈍や磁気焼鈍等の熱処理工程と同時にヨーク11の表面に酸化物膜11を形成することができるので、さらに製造工程を簡略することができる。
【0038】
なお、本第二実施形態においては、応力除去焼鈍や磁気焼鈍等の焼鈍工程において、雰囲気を前記処理雰囲気とすることにより、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を形成するようにしているが、本形態はこれに限られるものではなく、鉄鋼部材に対して焼き入れ・焼き戻し等の熱処理が行われる場合には、焼き入れ・焼き戻し等の熱処理工程において、雰囲気を前記処理雰囲気とし、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を形成するようにしてもよい。
【0039】
(第三実施形態)
図5は、本発明の第三実施形態にかかる酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法を説明するものである。図5に示す本実施形態は、粉末冶金法によりFeよりも酸化傾向の強い元素を含む鉄鋼部材を形成し、この鉄鋼部材を本発明にかかる前記処理雰囲気にさらすことで、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を作成するようにしたものである。まず、図5に示すように、Feを主成分として含有し、添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素を含有する原料粉末を用意する。この原料粉末は、Feを主成分として含有し、かつ添加元素成分を含有する合金粉末とすることもできるし、Feを主成分として含有する鉄鋼部材粉末と、添加元素成分にてなる添加元素成分粉末とが、所定量ずつ混合された混合粉末とすることもできる。添加元素成分としては、Ca、Mg、Al、Ti及びSiから選ばれる元素の1種又は2種以上とすることができる。さらに、上記添加元素成分に加えて、Cr及びMnの少なくともいずれかを含有するようにしてもよい。
【0040】
そして、この原料粉末をヨーク11の形状に成形するとともに、形成品を焼結することにより、ヨーク11として鉄鋼部材を作製する。ヨーク11の形状を形成する方法としては、金属粉末射出成形やプレス成形等を例示することができる。
【0041】
原料粉末の形成に金属粉末射出成形を採用する場合、原料粉末にバインダを混合して、射出成形機を用いて金型のキャビティに原料粉末をバインダとの混合物を射出する。このように、原料粉末を形成したのち、原料粉末の形成品を脱脂焼結させて、ヨーク11とすることができる。 一方、プレス成形により原料粉末を形成する場合、焼結助剤として、例えばステアリン酸亜鉛等を原料粉末に混合し、プレス金型のキャビティに原料粉末と焼結助剤との混合物を充填して、この混合物をプレス加圧して形成したのち、形成品を焼結させることにより、ヨーク11を作製することができる。
【0042】
上記のように粉末冶金法によりヨーク11を焼結したのち、ヨーク11に対して高精度の寸法加工を行う。粉末冶金法によりヨーク11の形状の鉄鋼部材を作製すれば、ヨークの寸法を精度良くすることが可能であるが、より寸法精度を向上させるために、原料粉末を焼結した後に、別途寸法加工を行うことができる。この寸法加工に起因して、鉄鋼部材内に応力集中や磁気歪等が形成されるので、応力除去焼鈍や磁気焼鈍等の焼鈍工程を行う。これにより、鉄鋼部材内に形成される応力集中や磁気歪等を除去することができる。さらに、これらの焼鈍工程の雰囲気を、Feに対しては還元性雰囲気で、添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となる前記処理雰囲気とすることにより、ヨーク11の内部の歪を除去すると同時に、ヨーク11の表面に添加元素成分の酸化物膜を形成することができる。
【0043】
これにより、ヨーク11の表面に耐酸化性及び他部材との絶縁性に優れる酸化物膜を形成することができるので、耐酸化性を向上させるためにヨーク11の表面に鍍金を別途形成施したり、あるいは他部材(例えばコイルワイヤー13)との絶縁性を確保するために、樹脂製のボビン等を配備する必要がない。そのため、電磁弁に使用されるヨーク11をより安価により簡便に製造することができる。また、製造される電磁弁の小型化にも寄与する。
【0044】
なお、本第三実施形態においては、応力除去焼鈍や磁気焼鈍等の焼鈍工程において、雰囲気を前記処理雰囲気とすることにより、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を形成するようにしているが、本形態はこれに限られるものではなく、鉄鋼部材に対して焼き入れ・焼き戻し等の熱処理が行われる場合には、焼き入れ・焼き戻し等の熱処理工程において、雰囲気を前記処理雰囲気とし、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を形成するようにしてもよい。
【0045】
また、本発明の形態(第一実施形態、第二実施形態、第三実施形態)においては、添加元素成分をヨーク11の該表面近傍のみに含有させるようにすることができる。これにより、酸化物膜形成に必要な部分のみに添加元素成分が含有されているので、鉄鋼部材全体が硬化しにくくなったり、鉄鋼部材の磁気特性が劣化しにくくなるのである。
【0046】
例えば、ヨーク11を粉末冶金法により作製する場合、上記のように、ヨーク11の表面近傍にのみ添加元素成分を含有させるには、エタノールやワックス等の溶媒中に、添加元素成分の粉末を溶かし、該添加元素成分が溶かされた溶媒中に成形体を浸漬させたり、溶液をハケや噴霧により成形体の表面に塗布して、その状態で脱脂焼結させることで実現することができる。
【0047】
【実施例】
本発明の効果を調べる為、以下のような実験を行った。まず、表1に示すような組成の試料を用意する。試料は、鉄鋼部材に元素としてAlあるいはSiを含有した板状鉄鋼部材である。さらに、このような板状鉄鋼部材をそれぞれ750℃のバッチ式炉にて2時間の磁気焼鈍を行った。この磁気焼鈍が行われる熱処理炉の処理雰囲気は、N2+3%H2として、Feに対しては還元性雰囲気となり、添加元素成分としてのAlやSiに対しては酸化性雰囲気となるように露点を−13℃とした。そして、磁気焼鈍処理後、試験片から3mm×2mm×12mmの直方体を切り出し、酸化物膜形成面の比抵抗を四端子法にて測定し、他部材との絶縁性について評価した。さらに、オージェ電子分光分析(AES)により、膜種類の同定及び膜厚の測定を行った。そして、上記処理雰囲気において処理を行った後の鉄鋼部材に対して、大気中40℃、湿度90%にて10日間保持し、鉄鋼部材の耐酸化性について目視にて評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
表1からわかるように、本発明のように、鉄鋼部材に添加元素成分としてAlあるいはSiを含有させ、該鉄鋼部材を本発明にかかる処理雰囲気にさらすことで、鉄鋼部材の表面に添加元素成分の酸化物膜を生成できることがわかる。さらに、このような本発明の方法で作製された酸化物膜付鉄鋼部材は、酸化物膜形成面における比抵抗が大きく、他部材との絶縁性に優れており、かつ、耐酸化性にも優れていることがわかる。
【0049】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法によれば、元素として、Feよりも酸化傾向の強い元素を1種又は2種以上含有する鉄鋼部材を、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記元素に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にさらして、前記鉄鋼部材の表面に前記元素の酸化物膜を生成させるようにしているので、耐酸化性及び他部材との絶縁性に優れる鉄鋼部材をより簡便に製造することができる。
【0050】
また、Feを主成分として含有し、添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素を含む原料粉末を用意し、該原料粉末を成形させたのち、得られる成形体を焼結させる焼結工程中に、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記元素に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気に前記成形体にさらすことにより、鉄鋼部材を作製するとともに、該鉄鋼部材の表面に前記元素の酸化物膜を生成させるようにすれば、鉄鋼部材を粉末冶金法により形成する際に、鉄鋼部材の原料粉末を焼結する焼結工程において、鉄鋼部材の表面に添加元素成分に起因する酸化物膜を形成することができる。そのため、別途酸化物膜を形成するための工程を設けなくてもよく、より簡便に酸化物膜付鉄鋼部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法により製造される電磁弁用ヨークの概略を説明する断面図。
【図2】電磁弁用ヨークの外周面を拡大して示す断面図。
【図3】本発明の鉄鋼部材の製造方法の一例を説明する図。
【図4】本発明の鉄鋼部材の製造方法の一例を説明する図。
【図5】本発明の鉄鋼部材の製造方法の一例を説明する図。
【符号の説明】
11 ヨーク(鉄鋼部材)
11c 溝部
12 酸化物膜
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄鋼部材の製造方法に関し、特に、他部材との絶縁性及び耐酸化性を向上させるために表面に酸化物膜が形成された酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄系磁性材料により構成される電磁弁のヨークは、電磁弁の使用環境によっては耐酸化性を要求されることがある。また、ヨーク外周に巻き回されるコイルワイヤーとの電気的絶縁性も要求される。ヨークに耐酸化性を付与する為に、従来は、鉄鋼部材をヨーク形状に形成し、その部材の表面に、耐酸化性の鍍金を施していた。また、コイルワイヤーとの絶縁性を確保する為に、ヨークの外周部にコイルワイヤーを巻き回した樹脂製のボビンを配備するようにしていた。
【0003】
しかしながら、電磁弁のヨークに関して言えば、ヨークの外周面に鍍金を施すのは工数が増大して効率的ではない。また、ヨークとコイルとの間の絶縁性を確保する為に、樹脂性のボビンを配備するとしても、ヨークのほかに樹脂製のボビンを別途配備する必要があり、電磁弁として組み合わせた部品数が多くなってしまう。
【0004】
一方で、下記特許文献1に開示されているように、Crステンレス鋼の耐酸化性や絶縁性を向上させるために、Cr含有フェライト系ステンレス鋼に、Alを含有させ、このステンレス鋼を熱処理することにより、ステンレス鋼の表面にAl2O3の皮膜を形成するようにした技術もあるが、特許文献1に開示されている技術は、Crステンレス鋼の耐酸化性及び絶縁性を向上させるものであり、電磁弁のヨークのように鉄鋼部材(特に純鉄系鉄鋼部材)の耐酸化性及び絶縁性の確保に関するものではない。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−331409号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、電磁弁のヨーク等、鉄鋼部材の耐酸化性及び他部材との絶縁性を、より安価に、より簡便に確保することができる酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
上記本発明の課題を解決する為に、本発明の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法の第一(第一発明)は、Feを主成分として含有し、5質量%以下のCrを含有し、さらに添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素を含有する鉄鋼部材を、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にさらして、前記鉄鋼部材の表面に前記添加元素成分の酸化物膜を生成させることを特徴とする。なお、本明細書において主成分とは、含有される元素のなかで最も含有量が多いものをいう。また、Crの含有量は、鉄鋼部材の低コスト化を図るためには、より低く抑えるのが望ましいが、鉄鋼部材の強度を向上させる目的で、5質量%以下の範囲で含有させることができる。また、鉄鋼部材として、電磁弁のヨーク等の磁性部材を用いる場合、Cr等の合金成分を含有させることにより、部材の磁気特性が劣化してしまうという問題もある。より望ましくは、Crの含有量は3.5質量%以下とすることができる。3.5質量%以下のCrを必須添加元素成分として含有する鉄鋼部材としては、SCr材、SCM材、SNCM材等のCr含有低合金鋼を例示することができる。さらに望ましくは、Crの含有量は1.5質量%以下とすることができる。なお、「5質量%以下のCrを含有し、」とは、Crを必須添加元素成分として含有していないものを当然含むものであり、例えば、磁気特性に特に重点を置く場合には、Crは必須添加元素成分として含有しないのがよい。
【0008】
このように、Feを主成分として含有する鉄鋼部材に、Feよりも酸化傾向の強い元素を添加元素成分として含有させ、そして、その鉄鋼部材を、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にさらすことで、鉄鋼部材の表面に前記元素の酸化物膜が生成する。したがって、この酸化物膜により、鉄鋼部材自体が酸化腐食されるのを抑制できるとともに、鉄鋼部材の外表面と鉄鋼部材内部との間で電気的絶縁性が確保されることになり、鉄鋼部材の耐酸化性と、他部材との絶縁性を向上させることができる。
【0009】
したがって、鉄鋼部材の耐酸化性を向上させるために、鉄鋼部材の表面に鍍金等を施す必要がないので製造工程を簡略でき、そのため、コストの削減に寄与する。さらに、他部材との絶縁性を確保するために、鉄鋼部材の表面に樹脂製部材等の絶縁部材を改めて配備する必要もない。
【0010】
さらに、本発明の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法においては、応力除去焼鈍、磁気焼鈍、焼入れ・焼き戻し等の熱処理工程を含み、前記熱処理工程中の雰囲気を前記処理雰囲気とするのがよい。通常、鉄鋼部材に対しては、上記に示すように、応力除去焼鈍や、磁気焼鈍や、焼き入れ・焼き戻し等の熱処理工程が、耐酸化性の向上や、他部材との絶縁性の確保とは別の目的で行われることがある。本発明においては、このように鉄鋼部材の製造方法において通常行われる熱処理工程を、前述したように、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記元素に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にて行うようにした。そのため、鉄鋼部材の耐酸化性及び他部材との絶縁性を確保することのみを目的とする熱処理工程を別途行わなくともよい。なお、前記熱処理工程を行う場合、前記熱処理工程の最終冷却過程において、前記鉄鋼部材を前記処理雰囲気にさらすのがよい。熱処理工程の最終冷却過程を、前記処理雰囲気で行っても、熱処理自体にはほとんど影響はない。そのため、前記熱処理工程で期待される効果を実現しつつ、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を生成させることができる。
【0011】
また、本発明の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法においては、前記鉄鋼部材の寸法加工を行った後に、前記鉄鋼部材を前記処理雰囲気にさらすのがよい。これによれば、寸法加工によって酸化物膜が除去されるという不具合がない。また、寸法加工を行った後では、鉄鋼部材内に応力集中や磁気歪等が生じることもあり、このような歪を除去するための、前述したような応力除去焼鈍や磁気焼鈍等の熱処理を、前記処理雰囲気にて行うことで、寸法加工により鉄鋼部材内に生じる不具合を矯正しつつ、鉄鋼部材の表面に、耐酸化性及び他部材に対する絶縁性を向上させる酸化物膜を生成することができる。なお、酸化物膜を鉄鋼部材の表面に生成させるのは、望ましくは鉄鋼部材の製造過程において、他の工程が全て完了した後に行うのがよい。
【0012】
さらに、前記鉄鋼部材は、粉末冶金法により作製されるものであって、異なる組成の領域を複数箇所形成するのがよい。
【0013】
また、本発明の課題を解決するための、本発明の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法の第二(第二発明)は、Feを主成分として含有し、添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素を含む原料粉末を成形体に成形する工程と、該成形体を焼結させる焼結工程とを有し、該焼結工程中に、前記成形体を、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にさらして、鉄鋼部材を形成するとともに、該鉄鋼部材の表面に前記添加元素成分の酸化物膜を生成させるようにしたことを特徴とする。なお、主成分とは、含有される元素のうち含有量の最も多いものをいうものとする。
【0014】
上記第二発明は、鉄鋼部材を粉末冶金法により作製する例である。このように、鉄鋼部材を粉末冶金法により作製する場合、原料粉末として、Feを主成分として含有し、添加元素成分として、Feよりも酸化傾向の強い元素を含むものを使用し、該原料粉末を部品形状に成形した成形体を焼結する焼結工程において、該成形体を、前記処理雰囲気中にさらすことにより、鉄鋼部材を形成するとともに、該鉄鋼部材の表面に酸化物膜を形成することができる。これにより、鉄鋼部材を形成する時点で該鉄鋼部材の表面に耐酸化性及び他部材との絶縁性に優れる酸化物膜を生成させることができ、耐酸化性及び他部材との絶縁性に優れる酸化物膜付鉄鋼部材を製造することができる。そのため、耐酸化性を向上させるために、鉄鋼部材の表面に鍍金等を形成したり、他部材との絶縁性を確保するために、樹脂製部材等の絶縁部材を配備する必要がない。さらに、鉄鋼部材を形成する焼結工程で、同時に酸化物膜を形成するようにしているので、より一層製造工程を削減することができる。また、前記処理雰囲気にさらされる成形体とは、原料粉末が部品形状に成形されているものを総称するものとし、原料粉末同士が焼結された焼結体も含むものとする。また、本明細書において、原料粉末としては、Feを主成分として含有する鉄鋼材料粉末と、添加元素成分として、Feよりも酸化傾向の強い元素を含む添加元素成分粉末とを混合した混合粉末を含むものとする。
【0015】
さらに、本発明の第二形態においては、前記焼結工程の前記成形体を冷却する冷却過程において、該成形体を前記処理雰囲気にさらすのがよい。焼結工程の冷却過程において、前記成形体を前記処理雰囲気にさらすようにすれば、原料粉末の焼結自体に影響をほとんど与えることなく、焼結工程において、焼結体(形成される鉄鋼部材)の表面に酸化物膜を形成することができる。
【0016】
なお、粉末冶金法により鉄鋼部材を製造する場合、ある程度の寸法精度で鉄鋼部材を形成することができるため、寸法加工が必要ない場合もあるので、鉄鋼部材を部品形状に形成すると同時に鉄鋼部材の表面に酸化物膜を生成させることが可能である。
【0017】
また、本発明の場合、溶製の鉄鋼部材は、添加元素を予め合金成分として含んでいるため、鉄鋼部材が硬くなりやすく、切削加工等により部品形状に加工する場合、切削性が低下するという問題があるが、鉄鋼部材の作製を粉末冶金法により行う場合は、前述の添加元素の添加による鉄鋼部材の切削性低下が、特に問題とならないという効果がある。
【0018】
具体的に、粉末冶金法により鉄鋼部材を作製する場合、金属粉末射出成形やプレス成形等により、鉄鋼部材を作製することができる。このとき、金属粉末射出成形やプレス成形が行われる雰囲気を前記処理雰囲気として、鉄鋼部材の形成と同時に、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を生成させることができる。
【0019】
さらに、本第二発明においては、前記鉄鋼部材は、異なる組成の領域を複数箇所形成するようにすることができる。
【0020】
以上、本発明の第一発明及び第二発明を述べたが、これら第一発明及び第二発明において、鉄鋼部材としては、電磁弁のヨークが適用できる。より具体的には、本発明(第一発明及び第二発明)の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法において、前記鉄鋼部材は電磁弁のヨークとして使用されるものであり、該ヨーク外周部にコイルワイヤーを巻き回すための溝が形成されているものとすることができる。前述にて説明したように、本発明の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法によれば、耐酸化性とともに、他部材との絶縁性も優れた電磁弁のヨークを作製することができる。そのため、電磁弁として組み立てるときに、ヨークとコイルワイヤーとの絶縁性を確保する為に、樹脂製のボビンを配備する必要がない。したがって、ヨーク自体にコイルワイヤーを巻き回すための溝を形成しておき、ヨークに直接コイルワイヤーを巻き回すことで電磁弁を組み立てることができ、結果として電磁弁の製造コスト低下並びに小型化に寄与する。
【0021】
また、鉄鋼部材として、電磁弁のヨークを適用する場合、前記鉄鋼部材は、粉末冶金法により前記ヨークの形状に形成されるものであり、かつ、磁性材料で構成された領域と非磁性材料で構成された領域とを含む複合体として作製されるものとすることができる。
【0022】
さらに、本発明(第一発明及び第二発明)においては、前記処理雰囲気は、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記元素に対しては酸化性雰囲気となるように、露点を制御したものとすることができる。
【0023】
また、本発明に使用される添加元素成分としての、Feよりも酸化傾向の強い元素としては、Ca、Mg、Al、Ti及びSiから選ばれる元素の1種又は2種以上とすることができる。また、添加元素成分は、Ca、Mg、Al、Ti及びSiから選ばれる1種又は2種以上を必須成分として含有し、かつ、Cr及びMnのうち少なくとも一つを含有するものとすることができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明において、電磁弁のヨークを製造する実施形態の場合について添付の図面を使用して説明する。図1は、本実施形態の方法により作製される電磁弁用ヨークの概略を示す断面図である。電磁弁のヨーク11は、円筒状に形成されており、外径の小さな小径部11Aと外径の大きな大径部11Bとを有す。小径部11Aには、組成の異なる領域が形成されている。具体的には、磁性を示す鉄鋼材料にて構成される第一領域11aと、非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼にてなる第二領域11bが形成されている。なお、領域11dは磁性を示す。さらに、このヨーク11には、添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素が添加されている。さらに、本発明により作製されたヨーク11は、その外周面に添加元素成分の酸化物膜12が形成されている。なお、添加元素成分は、ヨーク11の磁性を示す領域(第一領域11a、領域11d)にのみ添加されていてもよい。また、酸化物膜12は、ヨーク11の磁性を示す領域(第一領域11a、領域11d)の表面にのみ形成されていてもよい。
【0025】
このように、本発明により作製されたヨーク11は、その表面に添加元素成分の酸化物膜が形成されているので、耐酸化性に優れるとともに、他部材との絶縁性も良好である。そのため、図1に示すようにヨーク11の外周面に直接コイル13を巻き回して、ソレノイド14を構成することができる。
【0026】
このソレノイド14において、コイル13に電流を流すと、非磁性である第二領域11bには磁束が生じないので、図1のように磁力線Bが第二領域11bを避けるようにヨーク11の空洞部に生じ、ヨーク11の内部に配置される可動子15が移動する。この可動子15の移動により、図1にて左方に省略されている弁を開閉でき、電磁弁として使用することができるようになっている。なお、図1において、磁力線Bは、一方向に向くように図示されているが、コイル13に流れる電流は交流とすることもできるので、磁力線Bはどちらを向いていてもよい。
【0027】
また、ヨーク11のコイルワイヤー13が巻き回される小径部11Aの外周面には、図2に示すように、溝部11cが形成されている。この溝部11cによりコイルワイヤー13をヨーク11の小径部11Aに整然と巻き回すことができるようになっている。
【0028】
以下、上記のようなヨーク11の製造方法について説明する。
【0029】
(第一実施形態)
図3は、ヨーク11の第一実施形態の製造方法の流れを説明する図である。図3に示すように、第一実施形態は、粉末冶金法によりヨーク11を製造する例である。まず、図3に示すように、ヨーク11の構成材料となるFeを主成分として含有し、添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素を含有する原料粉末を用意する。この原料粉末は、Feを主成分として含有し、かつ添加元素成分を含有する合金粉末とすることもできるし、Feを主成分として含有する鉄鋼部材粉末と、添加元素成分にてなる添加元素成分粉末とが、所定量ずつ混合された混合粉末とすることもできる。添加元素成分としては、Ca、Mg、Al、Ti及びSiから選ばれる元素の1種又は2種以上とすることができる。また、これらの添加元素成分に加えて、Cr及びMnの少なくてもいずれかを含有するようにしてもよい。
【0030】
次に、原料粉末をヨーク11の形状に成形したあと、焼結させることにより、ヨーク11を作製する。このとき、本実施形態においては、焼結後の冷却過程における雰囲気の露点を制御して、Feに対しては還元性雰囲気となり、添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となるようにしている。そして、原料粉末を焼結させ、ヨーク11の形状に形成するとともに、ヨーク11の表面に添加元素成分の酸化物膜を形成する。
【0031】
原料粉末を焼結してヨーク11の形状に形成する方法としては、金属粉末射出成形や、プレス成形を採用することができる。金属粉末射出成形を採用する場合、原料粉末にバインダを混合して、その状態で射出成形機を用いて金型のキャビティに原料粉末とバインダとの混合物を射出する。このように、原料粉末を成形したのち、原料粉末の成形体を脱脂焼結させて、ヨーク11とすることができる。このとき、原料粉末の成形体を焼結させた後に冷却する雰囲気は、その露点を制御することによって、Feに対しては還元性雰囲気となり、添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気とする。これにより、ヨーク11を形成しつつのその表面に添加元素成分の酸化物膜を形成することができる。
【0032】
一方、プレス成形により原料粉末を焼結する場合、焼結助剤として、例えばステアリン酸亜鉛等を原料粉末に混合し、プレス金型のキャビティに原料粉末と焼結助剤との混合物を充填して、この混合物をプレス加圧して形成したのち、前記処理雰囲気において形成品を焼結させることにより、ヨーク11を形成するとともに、該ヨーク11の表面に添加元素成分の酸化物膜を形成することができる。これにより、酸化物膜が表面に形成されたヨーク11をより簡便に製造することができる。
【0033】
以上、本実施形態によれば、ヨーク11の表面に耐酸化性及び他部材との絶縁性に優れる酸化物膜12を形成することができるので、耐酸化性を向上させるためにヨーク11の表面に鍍金を別途形成したり、あるいは他部材(例えばコイルワイヤー13)との絶縁性を確保するために、樹脂製のボビン等を配備する必要がない。そのため、電磁弁に使用されるヨーク11をより安価により簡便に製造することができる。さらに、ヨーク11を焼結して形成する工程と同時に、ヨーク11の表面に酸化物膜12を形成することができるので、さらに製造工程を簡略することができる。
【0034】
(第二実施形態)
図4は、本発明の第二実施形態にかかる酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法を説明する図である。本第二実施形態においては、ヨーク11を鍛造あるいは切削等の機械加工により形成し、その形成品の鉄鋼部材に酸化物膜を生成するようにしたものである。まず、図4に示すように、機械加工によって、Feを主成分として含有し、Feよりも酸化傾向の強い添加元素成分を含有する鉄鋼部材をヨーク11の部品形状に加工する。添加元素成分としては、Ca、Mg、Al、Ti及びSiから選ばれる元素の1種又は2種以上とすることができる。さらに、上記添加元素成分に加えて、Cr及びMnの少なくともいずれかを含有するようにしてもよい。
【0035】
ついで、高精度の寸法加工を行って最終的なヨーク11の形状とする。このように、機械加工によりヨーク11を形成すると、ヨーク11を構成する鉄鋼部材の内部に応力集中や磁気歪等が生じてしまう。そのため、これらの歪を緩和する目的で、形成されたヨーク11に対して、応力除去焼鈍や磁気焼鈍等の焼鈍工程を行う。これにより、ヨーク11を構成する鉄鋼部材の内部の応力集中や磁気歪等が除去される。
【0036】
さらに、本第二実施形態においては、ヨーク11に対して焼鈍工程を行って、この焼鈍工程が行われる雰囲気を、Feに対しては還元性雰囲気となり、添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となるようにする。特に、前述のように焼鈍工程を前記処理雰囲気にて行う場合、焼鈍工程の最終冷却過程の雰囲気を前記処理雰囲気とすることができる。これにより、鉄鋼部材の製造において、通常行われる熱処理工程と同時に鉄鋼部材の表面に酸化物膜を形成する工程を行うことができるので、製造工程を簡略化することができる。
【0037】
これにより、ヨーク11の表面に耐酸化性及び他部材との絶縁性に優れる酸化物膜を形成することができるので、耐酸化性を向上させるためにヨーク11の表面に鍍金を別途施したり、あるいは他部材(例えばコイルワイヤー13)との絶縁性を確保するために、樹脂製のボビン等を配備する必要がない。そのため、電磁弁に使用されるヨーク11をより安価により簡便に製造することができる。また、製造される電磁弁の小型化にも寄与する。また、ヨーク11を製造する際に、通常行われる応力除去焼鈍や磁気焼鈍等の熱処理工程と同時にヨーク11の表面に酸化物膜11を形成することができるので、さらに製造工程を簡略することができる。
【0038】
なお、本第二実施形態においては、応力除去焼鈍や磁気焼鈍等の焼鈍工程において、雰囲気を前記処理雰囲気とすることにより、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を形成するようにしているが、本形態はこれに限られるものではなく、鉄鋼部材に対して焼き入れ・焼き戻し等の熱処理が行われる場合には、焼き入れ・焼き戻し等の熱処理工程において、雰囲気を前記処理雰囲気とし、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を形成するようにしてもよい。
【0039】
(第三実施形態)
図5は、本発明の第三実施形態にかかる酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法を説明するものである。図5に示す本実施形態は、粉末冶金法によりFeよりも酸化傾向の強い元素を含む鉄鋼部材を形成し、この鉄鋼部材を本発明にかかる前記処理雰囲気にさらすことで、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を作成するようにしたものである。まず、図5に示すように、Feを主成分として含有し、添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素を含有する原料粉末を用意する。この原料粉末は、Feを主成分として含有し、かつ添加元素成分を含有する合金粉末とすることもできるし、Feを主成分として含有する鉄鋼部材粉末と、添加元素成分にてなる添加元素成分粉末とが、所定量ずつ混合された混合粉末とすることもできる。添加元素成分としては、Ca、Mg、Al、Ti及びSiから選ばれる元素の1種又は2種以上とすることができる。さらに、上記添加元素成分に加えて、Cr及びMnの少なくともいずれかを含有するようにしてもよい。
【0040】
そして、この原料粉末をヨーク11の形状に成形するとともに、形成品を焼結することにより、ヨーク11として鉄鋼部材を作製する。ヨーク11の形状を形成する方法としては、金属粉末射出成形やプレス成形等を例示することができる。
【0041】
原料粉末の形成に金属粉末射出成形を採用する場合、原料粉末にバインダを混合して、射出成形機を用いて金型のキャビティに原料粉末をバインダとの混合物を射出する。このように、原料粉末を形成したのち、原料粉末の形成品を脱脂焼結させて、ヨーク11とすることができる。 一方、プレス成形により原料粉末を形成する場合、焼結助剤として、例えばステアリン酸亜鉛等を原料粉末に混合し、プレス金型のキャビティに原料粉末と焼結助剤との混合物を充填して、この混合物をプレス加圧して形成したのち、形成品を焼結させることにより、ヨーク11を作製することができる。
【0042】
上記のように粉末冶金法によりヨーク11を焼結したのち、ヨーク11に対して高精度の寸法加工を行う。粉末冶金法によりヨーク11の形状の鉄鋼部材を作製すれば、ヨークの寸法を精度良くすることが可能であるが、より寸法精度を向上させるために、原料粉末を焼結した後に、別途寸法加工を行うことができる。この寸法加工に起因して、鉄鋼部材内に応力集中や磁気歪等が形成されるので、応力除去焼鈍や磁気焼鈍等の焼鈍工程を行う。これにより、鉄鋼部材内に形成される応力集中や磁気歪等を除去することができる。さらに、これらの焼鈍工程の雰囲気を、Feに対しては還元性雰囲気で、添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となる前記処理雰囲気とすることにより、ヨーク11の内部の歪を除去すると同時に、ヨーク11の表面に添加元素成分の酸化物膜を形成することができる。
【0043】
これにより、ヨーク11の表面に耐酸化性及び他部材との絶縁性に優れる酸化物膜を形成することができるので、耐酸化性を向上させるためにヨーク11の表面に鍍金を別途形成施したり、あるいは他部材(例えばコイルワイヤー13)との絶縁性を確保するために、樹脂製のボビン等を配備する必要がない。そのため、電磁弁に使用されるヨーク11をより安価により簡便に製造することができる。また、製造される電磁弁の小型化にも寄与する。
【0044】
なお、本第三実施形態においては、応力除去焼鈍や磁気焼鈍等の焼鈍工程において、雰囲気を前記処理雰囲気とすることにより、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を形成するようにしているが、本形態はこれに限られるものではなく、鉄鋼部材に対して焼き入れ・焼き戻し等の熱処理が行われる場合には、焼き入れ・焼き戻し等の熱処理工程において、雰囲気を前記処理雰囲気とし、鉄鋼部材の表面に酸化物膜を形成するようにしてもよい。
【0045】
また、本発明の形態(第一実施形態、第二実施形態、第三実施形態)においては、添加元素成分をヨーク11の該表面近傍のみに含有させるようにすることができる。これにより、酸化物膜形成に必要な部分のみに添加元素成分が含有されているので、鉄鋼部材全体が硬化しにくくなったり、鉄鋼部材の磁気特性が劣化しにくくなるのである。
【0046】
例えば、ヨーク11を粉末冶金法により作製する場合、上記のように、ヨーク11の表面近傍にのみ添加元素成分を含有させるには、エタノールやワックス等の溶媒中に、添加元素成分の粉末を溶かし、該添加元素成分が溶かされた溶媒中に成形体を浸漬させたり、溶液をハケや噴霧により成形体の表面に塗布して、その状態で脱脂焼結させることで実現することができる。
【0047】
【実施例】
本発明の効果を調べる為、以下のような実験を行った。まず、表1に示すような組成の試料を用意する。試料は、鉄鋼部材に元素としてAlあるいはSiを含有した板状鉄鋼部材である。さらに、このような板状鉄鋼部材をそれぞれ750℃のバッチ式炉にて2時間の磁気焼鈍を行った。この磁気焼鈍が行われる熱処理炉の処理雰囲気は、N2+3%H2として、Feに対しては還元性雰囲気となり、添加元素成分としてのAlやSiに対しては酸化性雰囲気となるように露点を−13℃とした。そして、磁気焼鈍処理後、試験片から3mm×2mm×12mmの直方体を切り出し、酸化物膜形成面の比抵抗を四端子法にて測定し、他部材との絶縁性について評価した。さらに、オージェ電子分光分析(AES)により、膜種類の同定及び膜厚の測定を行った。そして、上記処理雰囲気において処理を行った後の鉄鋼部材に対して、大気中40℃、湿度90%にて10日間保持し、鉄鋼部材の耐酸化性について目視にて評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
表1からわかるように、本発明のように、鉄鋼部材に添加元素成分としてAlあるいはSiを含有させ、該鉄鋼部材を本発明にかかる処理雰囲気にさらすことで、鉄鋼部材の表面に添加元素成分の酸化物膜を生成できることがわかる。さらに、このような本発明の方法で作製された酸化物膜付鉄鋼部材は、酸化物膜形成面における比抵抗が大きく、他部材との絶縁性に優れており、かつ、耐酸化性にも優れていることがわかる。
【0049】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法によれば、元素として、Feよりも酸化傾向の強い元素を1種又は2種以上含有する鉄鋼部材を、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記元素に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にさらして、前記鉄鋼部材の表面に前記元素の酸化物膜を生成させるようにしているので、耐酸化性及び他部材との絶縁性に優れる鉄鋼部材をより簡便に製造することができる。
【0050】
また、Feを主成分として含有し、添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素を含む原料粉末を用意し、該原料粉末を成形させたのち、得られる成形体を焼結させる焼結工程中に、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記元素に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気に前記成形体にさらすことにより、鉄鋼部材を作製するとともに、該鉄鋼部材の表面に前記元素の酸化物膜を生成させるようにすれば、鉄鋼部材を粉末冶金法により形成する際に、鉄鋼部材の原料粉末を焼結する焼結工程において、鉄鋼部材の表面に添加元素成分に起因する酸化物膜を形成することができる。そのため、別途酸化物膜を形成するための工程を設けなくてもよく、より簡便に酸化物膜付鉄鋼部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法により製造される電磁弁用ヨークの概略を説明する断面図。
【図2】電磁弁用ヨークの外周面を拡大して示す断面図。
【図3】本発明の鉄鋼部材の製造方法の一例を説明する図。
【図4】本発明の鉄鋼部材の製造方法の一例を説明する図。
【図5】本発明の鉄鋼部材の製造方法の一例を説明する図。
【符号の説明】
11 ヨーク(鉄鋼部材)
11c 溝部
12 酸化物膜
Claims (11)
- Feを主成分として含有し、5質量%以下のCrを含有し、さらに添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素を含有する鉄鋼部材を、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にさらして、前記鉄鋼部材の表面に前記添加元素成分の酸化物膜を生成させることを特徴とする酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法。
- 応力除去焼鈍、磁気焼鈍、焼入れ・焼き戻し等の熱処理工程を含み、
前記熱処理工程中の雰囲気を前記処理雰囲気とすることを特徴とする請求項1に記載の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法。 - 前記熱処理工程の最終冷却過程において、前記鉄鋼部材を前記処理雰囲気にさらすようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法。
- 前記鉄鋼部材の寸法加工を行った後に、前記鉄鋼部材を前記処理雰囲気にさらすことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法。
- 前記鉄鋼部材は、粉末冶金法により作製されるものであって、異なる組成の領域を複数箇所形成するようにしたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法。
- Feを主成分として含有し、添加元素成分としてFeよりも酸化傾向の強い元素を含む原料粉末を成形体に成形する工程と、該成形体を焼結させる焼結工程とを有し、該焼結工程中に、前記成形体を、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記添加元素成分に対しては酸化性雰囲気となる処理雰囲気にさらして、鉄鋼部材を形成するとともに、該鉄鋼部材の表面に前記添加元素成分の酸化物膜を生成させるようにしたことを特徴とする酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法。
- 前記焼結工程の前記成形体を冷却する冷却過程において、該成形体を前記処理雰囲気にさらすことを特徴とする請求項6に記載の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法。
- 前記鉄鋼部材は、複数箇所の異なる組成の領域によって構成されることを特徴とする請求項6又は7に記載の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法。
- 前記鉄鋼部材は電磁弁のヨークとして使用されるものであり、該ヨーク外周部にコイルワイヤーを巻き回すための溝が形成されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法。
- 前記鉄鋼部材は、粉末冶金法により前記ヨークの形状に形成されるものであり、かつ、磁性材料で構成された領域と非磁性材料で構成された領域とを含む複合体として作製されるものであることを特徴とする請求項9に記載の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法。
- 前記処理雰囲気は、Feに対しては還元性雰囲気となり、前記元素に対しては酸化性雰囲気となるように、露点が制御されることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の酸化物膜付鉄鋼部材の製造方法。
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- 2003-04-21 JP JP2003115991A patent/JP2004323869A/ja active Pending
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