JP2004300032A - 有害プランクトン防除製剤、その製造方法および用途 - Google Patents
有害プランクトン防除製剤、その製造方法および用途 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004300032A JP2004300032A JP2003091709A JP2003091709A JP2004300032A JP 2004300032 A JP2004300032 A JP 2004300032A JP 2003091709 A JP2003091709 A JP 2003091709A JP 2003091709 A JP2003091709 A JP 2003091709A JP 2004300032 A JP2004300032 A JP 2004300032A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- control
- harmful plankton
- plankton
- harmful
- planktons
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Images
Classifications
-
- Y—GENERAL TAGGING OF NEW TECHNOLOGICAL DEVELOPMENTS; GENERAL TAGGING OF CROSS-SECTIONAL TECHNOLOGIES SPANNING OVER SEVERAL SECTIONS OF THE IPC; TECHNICAL SUBJECTS COVERED BY FORMER USPC CROSS-REFERENCE ART COLLECTIONS [XRACs] AND DIGESTS
- Y02—TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE
- Y02A—TECHNOLOGIES FOR ADAPTATION TO CLIMATE CHANGE
- Y02A40/00—Adaptation technologies in agriculture, forestry, livestock or agroalimentary production
- Y02A40/80—Adaptation technologies in agriculture, forestry, livestock or agroalimentary production in fisheries management
- Y02A40/81—Aquaculture, e.g. of fish
Landscapes
- Agricultural Chemicals And Associated Chemicals (AREA)
- Farming Of Fish And Shellfish (AREA)
Abstract
【解決手段】本発明の有害プランクトン防除製剤は、有害プランクトン防除能を有する微生物が、ゲル状物質に固定化されてなることを特徴としている。このような有害プランクトン防除製剤は、有害プランクトン防除能を有する微生物が、細菌またはウィルスであることが好ましく、有害プランクトンを宿主とする微生物であることも好ましい。
【効果】本発明によれば、赤潮原因藻などの有害プランクトン類に防除能を有する有用微生物を、吸水性樹脂または増粘剤などのゲル形成成分により包埋して、有害プランクトン防除能力を有したままで固定化し、施用環境に適した組成で製剤化した、有用微生物を赤潮形成藻類などの有害プランクトンの防除に実用的に施用できる製剤、製剤化方法、および該微生物製剤を用いて有害プランクトンを防除する技術を提供することができる。
【選択図】 なし
【効果】本発明によれば、赤潮原因藻などの有害プランクトン類に防除能を有する有用微生物を、吸水性樹脂または増粘剤などのゲル形成成分により包埋して、有害プランクトン防除能力を有したままで固定化し、施用環境に適した組成で製剤化した、有用微生物を赤潮形成藻類などの有害プランクトンの防除に実用的に施用できる製剤、製剤化方法、および該微生物製剤を用いて有害プランクトンを防除する技術を提供することができる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、有害プランクトンを殺滅または抑制するか、有害プランクトンの大量増殖を予防する、防除製剤、その製造方法および用途に関する。詳しくは、本発明は、赤潮プランクトンなどの有害プランクトンを殺滅、抑制するため、あるいは該プランクトンの大量増殖を予防するために用いることができる、有害プランクトン防除能を有する微生物が、ゲル状物に固定された有害プランクトン防除製剤、その製造方法および用途に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
プランクトンは生態系に不可欠な水中浮遊生物であって、魚類などのよいエサとなる。しかしながらプランクトンは、大量発生して赤潮を形成したり、有毒物質を生成したりするなど、海洋の生態系に悪影響を与える有害プランクトンとして作用する場合がある。特に、海域での赤潮の発生は、その海域に生息する海洋生物、養殖魚介類、ノリなどの正常な生育を妨げ、該海域の生物および該海域での魚介類の養殖などの漁業に甚大な被害を与える。
【0003】
わが国の海面養殖業は、国内漁業生産額全体の約1/4を占めている。この振興にあたっては、とくに養殖漁場の環境保全を図ることは不可欠であり、なかでも深刻な被害を引き起こす赤潮に対する有効な対策の推進が極めて重要である。
【0004】
日本に生息する潜在的赤潮原因種は約200種類にものぼると言われており、その中で、わが国において過去に赤潮を形成した種類は、渦鞭毛藻類では、ヘテロカプサ(Heterocapsa)属、ギムノディニウム(Gymnodinium)属、コクロディニウムCochlodinium属、プロロセントラム(Prorocentrum)属、ディノフィシス(Dinophysis)属、アンフィディニウム(Amphidinium)属、ジャイロディニウム(Gyrodinium)属、カトディニウム(Katodinium)属、フェオポリクリコス(Pheopolykrikos)属、ポリクリコス(Polykrikos)属、エントモシグマ(Entomosigma)属、オキシリス(Oxyrrhis)属、ノクチルカ(Noctiluca)属、セラチウム(Ceratium)属、アレクサンドリウム(Alexandrium)属、ゴニオラックス(Gonyaulax)属、リングロディニウム(Lingulodinium)属、プロトケラチウム(Protoceratium)属、オストレオプシス(Osteropsis)属、クーリア(Coolia)属、ガンビエディスクス(Gambierdiscus)属、スクリプシエラ(Scrippsiella)属、ペリディニウム(Peridinium)属、ラフィド藻類ではシャトネラ(Chattonella)属、ヘテロシグマ(Heterosigma)属、フィブロカプサ(Fibrocapsa)属、珪藻類では、コシノディスカス(Coscinodiscus)属、ユーカンピア(Eucampia)属、リゾソレニア(Rhizosolenia)属、キートセロス(Chaetoceros)属、スクレトネマ(Skeletonema)属、デトヌラ(Detonula)属、タラシオシラ(Tharassiosira)属、ステファノピクシス(Stephanopyxis)属、ディティラム(Ditylum)属、アステリオネラ(Asterionella)属、ニッチア(Nitzchia)属などがあげられ、これらのなかでも、ヘテロカプサ属、ギムノディニウム属、コクロディニウム属、プロロセントラム属、ディノフィシス属、ゴニオラックス属、シャトネラ属、ヘテロシグマ属、フィブロカプサ属は国内の養殖漁業、二枚貝養殖場面における経済的被害を引き起こしている(非特許文献1参照)。また、リゾソレニア属、キートセロス属、ユーカンピア属、スクレトネマ属等の珪藻赤潮によるノリの色落ち被害は近年甚大な生産高の減少を引き起こしている。このように、その生物学的多様性も有害プランクトンの有効な防除手段の確立を困難なものとしている原因の一つである。
【0005】
一般に、養殖産業における赤潮被害への対抗策は、公的機関による赤潮・貝毒発生情報の早期広報を頼りに、経験的に知られている「餌止め」により養殖魚を絶食させ、斃死数を最小限に抑えたり、養殖筏を赤潮が発生していない海域へ船舶で牽引移動するという極めて消極的な回避方法が主流である。しかも、赤潮発生域からの筏の移動は、逆に移動先へ赤潮原因藻を移植してしまう危険性も孕んでいる。また、このような方法では、固定式の生簀の被害、岩ノリなどの移動不可能な海産物の被害、海域に天然に生息する生物の被害、増殖し死滅する赤潮形成プランクトンによる海洋汚染の被害などは何ら解決されない。
【0006】
このため、より積極的な赤潮プランクトン防除技術の開発が期待されており、これまでに化学的防除方法(硫酸銅、過酸化水素水、アクリノール、硫酸アルミニウムなどの直接散布)や物理的手法(多孔質粘土の散布、ウォーターハンマー、超音波処理、高電圧パルス)が提案されてきている。具体的には、たとえば、アルキル(アルケニル)エーテル硫酸エステル塩を有効成分とする界面活性剤組成物を赤潮プランクトン発生領域に散布する方法(特許文献1参照)、モンモリロナイト、ゼオライトなどの吸着剤に界面活性剤を吸着させて散布する方法(特許文献2参照)などが提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの化学的、物理的方法は、実場面での施用規模、コストの面で問題があるのはもちろん、自然海域への人為的異物投入による生態系への影響、安全性に対してそれ以上の懸念があったために、その多くは実用化には至っていない。
【0008】
近年、多孔質粘土を成分とした赤潮防除用資材が韓国にて実用化され、わが国においても、九州南部の一部で実際に使用され始めている。この方法は、大量の粘土を海流に乗せて養殖域へ流入させるため、海域に対し全くの異物を大量に投入することになり、たとえ短期的に養殖漁業への経済的効果をもたらしたとしても、長期的には海底環境、生態系への影響を考えねばならない等の問題点を抱えている。
【0009】
このような状況のもと、近年その実用化が期待されているのは、生物的防除技術である。自然界における赤潮の消滅過程においては、赤潮原因藻に対する殺藻細菌、ウィルス、捕食性生物、拮抗藻類の利用などが赤潮原因藻の密度推移に連動して高密度検出される事例が数多く報告されている。これらは自然海域にもともと生息するものであり、生物的防除素材として人為的に大量生産、施用、効果を発揮することができれば、環境への影響や安全性は極めて高い。
【0010】
たとえば赤潮原因藻に対する殺藻ウィルスについては、1990年以降精力的に研究が進められてきており、赤潮原因藻の実用的防除に利用可能と考えられるウィルスも多数発見されてきている。
【0011】
しかしながら、捕食性生物や拮抗微生物並びに殺藻細菌の利用は、赤潮原因藻に対するその作用性から、赤潮発生海域での実防除には膨大な施用量が必要となるために、海域への単純散布などでは、実用的利用が難しい(非特許文献2参照)。また殺藻ウィルスは、宿主プランクトンに感染した後の複製速度、増殖数が極めて大きいため、副次感染を引き起こし、初期投入量が少なくとも赤潮をいち早く現場海域から消滅させることが可能であると考えられているが、環境条件によっては容易に失活してしまうという問題がある(非特許文献3参照)。
【0012】
これらの有用微生物類を実用的赤潮防除技術として赤潮発生現場海域で十分な効果を発揮させるためには、上述した微生物素材特有の欠点を補う効果的な製剤技術が必須であり、なおかつ、赤潮発生現場海域において、赤潮原因藻と製剤化された殺藻微生物が効果的に遭遇できるような技術でなければならない。
【0013】
生物的防除素材である有用微生物類を用いる方法としては、たとえば、赤潮プランクトンのうちシャットネラを死滅させる攻撃細菌を、粘土状粒子に付着させた抑止剤を海底に散布することにより、海底の泥中で休眠しているシスト状態の赤潮プランクトンを抑止する方法(特許文献3参照)が提案されている。しかしながらこの方法は、赤潮プランクトンのシストが存在する可能性のある広範な海底に、くまなく抑止剤を散布する必要があり、現実的ではない。
【0014】
また、特許文献4には、殺藻活性を有するシュードモナス・スタッツェリに属する菌体またはその破壊物などを有効成分とする赤潮防除剤が、特許文献5には、ヘテロシグマ・アカシオを選択的に殺滅する、殺藻細菌カウロバクター・フィコキダエを赤潮発生海域に定住化、自然繁殖させるために固定化剤を用いて包埋する方法が記載されている。しかしながら、これらの細菌は、宿主となる赤潮原因藻に感染罹病して増殖するものではないため、実場面における赤潮防除のためには、最低でも宿主藻類と同程度の細菌密度が必要となるため、それだけの密度を保持または赤潮発生海域に放出させるためには、多くの技術的課題を克服する必要がある。
【0015】
一方、施用方法に関して、有害プランクトンが高密度存在する環境であれば、海面へ散布することで殺藻微生物が防除対象となる有害プランクトンと海中で遭遇するのは比較的容易であると思われるが、現実的には、広大な海洋環境への散布処理は難しく、更に、より実用的技術として確立されるためには、養殖漁場への被害が発生する以前の、有害プランクトンが低密度でしか存在していない環境下でも効果的に防除できる技術でなければならない。
【0016】
このため、有用微生物類を用いて、有害プランクトンを効果的に防除する実用的な手段の出現が強く求められていた。
【0017】
本発明者は、このような状況において鋭意研究した結果、有害プランクトンを防除しうる微生物をゲル状物質に安定的に固定化した製剤を用いた場合に、防除成分の過度の拡散によって効果を失うことなく、効率的に有害プランクトンを防除し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
【特許文献1】
特開平6−1703号公報
【特許文献2】
特開平9−154466号公報
【特許文献3】
特開平5−169088号公報
【特許文献4】
特開平5−112416号公報
【特許文献5】
特開平7−322875号公報
【非特許文献1】
赤潮の科学第2版、恒星社厚生閣、岡市友利編(1997)
【非特許文献2】
微生物利用の大展開、監修今中忠行、今井一郎(2002)
【非特許文献3】
月刊海洋、号外(21)および(23)、長崎慶三(2000)
【0019】
【発明の目的】
本発明は、有用微生物類を用いて、有害プランクトンを殺滅または抑制するか、有害プランクトンの大量増殖を予防する、有害プランクトン防除製剤を提供することを目的とする。
【0020】
【発明の概要】
本発明の有害プランクトン防除製剤は、有害プランクトン防除能を有する微生物が、ゲル状物質に固定化されてなることを特徴としている。
【0021】
このような本発明の有害プランクトン防除製剤は、有害プランクトン防除能を有する微生物が、細菌またはウィルスであることが好ましく、有害プランクトンを宿主とする微生物であることも好ましい。
【0022】
また、本発明の有害プランクトン防除製剤は、ゲル状物質が、樹脂、多糖類、たんぱく質よりなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましく、ゲル状物質がゼラチンを含有することがより好ましい。
【0023】
さらに、本発明の有害プランクトン防除製剤は、有害プランクトンが赤潮形成藻類であることが好ましく、赤潮形成藻類が、ヘテロカプサ属、ヘテロシグマ属またはリゾソレニア属の藻類であることがより好ましい。
【0024】
このような本発明の有害プランクトン防除製剤は、発光性物質を含有することも好ましい。
【0025】
本発明の有害プランクトン防除製剤の製造方法は、有害プランクトン防除能を有する微生物を、ゲル状物質に固定化することにより、上記本発明の有害プランクトン防除製剤を製造することを特徴としている。
【0026】
本発明の有害プランクトン防除方法は、上記本発明の有害プランクトン防除製剤を、海中に浸漬して用いることを特徴としている。
【0027】
このような本発明の有害プランクトン防除方法では、上記本発明の有害プランクトン防除製剤を、養殖器具に設置して用いることが好ましく、養殖器具が、牡蠣、真珠貝またはノリの養殖筏であることも好ましい。
【0028】
【発明の具体的説明】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0029】
本発明の有害プランクトン防除製剤は、有害プランクトン防除能を有する微生物が、ゲル状物質に固定化されてなる。
【0030】
本発明の防除製剤が防除目的とする有害プランクトンとしては、大量発生して赤潮を形成するプランクトン、大量発生により他の生態系あるいは環境に悪影響を与えるプランクトン、有毒物質を生成するプランクトン等が挙げられる。本発明で防除目的とする有害プランクトンは、植物プランクトンであっても動物プランクトンであってもよいが、本発明では特に、有害プランクトンが赤潮形成藻類であるのが望ましい。
【0031】
本発明に係る有害プランクトン防除能を有する微生物(以下、有用微生物ともいう)としては、有害プランクトンを殺滅する、有害プランクトンの活動を休止させる、有害プランクトンの増殖を防止する、有害プランクトンが忌避する、などの作用を有する微生物をいずれも用いることができ、たとえば、有害プランクトンを捕食する微生物、有害プランクトンと栄養競合する微生物、有害プランクトンを宿主とする微生物、有害プランクトンに対して毒性を有する微生物などが挙げられる。本発明では、これらの有用微生物のうち、有害プランクトンを宿主とする微生物が好ましく、有害プランクトンを宿主とし、宿主内で増殖して有害プランクトンを殺滅する細菌、糸状菌、放線菌およびウィルスなどの微生物がより好ましい。特に、本発明に係る有用微生物としては、赤潮形成藻類を宿主として殺滅する細菌、糸状菌、放線菌およびウィルスなどの殺藻微生物が好ましい。
【0032】
殺藻細菌としては、たとえば、アルテロモナス属、シュードアルテドモナス属、サイトファーガ属などの上述した非特許文献2記載の細菌;特許文献4記載のシュードモナス属細菌;特許文献5記載のカウロバクター属細菌;水産学シリーズ(恒星社厚生閣)134「有害・有毒藻類ブルームの予防と駆除」(広石伸互ら編、吉永郁生(2002))記載のフラボバクテリウム属およびサプロスピラ属細菌等が挙げられる。
【0033】
また、殺藻ウィルスとしては、赤潮形成藻類に感染性を有し、殺藻能を有するウィルスがいずれも用いられる。このようなウィルスとしては、特に限定されるものではないが、比較的大型で正20面体のカプシドを持ち、外膜構造を欠く2本鎖DNAウィルス(上述した非特許文献3参照)、および、小型で尾部構造および外膜構造を欠く1本鎖RNAウィルスの2タイプのウィルスが挙げられる。本発明で用いられる好ましい殺藻ウィルスとしては、たとえば、ヘテロシグマ・アカシオに感染性を有するHaV(Heterosigma akashiwo virus)、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに感染性を有するHcV(Heterocapsa circuralisquama virus)およびHcSV(Heterocapsa circuralisquama small virus)、珪藻リゾソレニア・セチゲラに感染性を有するRsV(Rizosorenia setigera virus)(特開平11−98979、特開2001−231550、特願2002−272413)などが挙げられる。
【0034】
本発明で用いる有用微生物は、上述のような公知の微生物であってもよく、また、未知または単離されていない微生物であってもよい。さらにこれらの有用微生物は、防除目的とする有害プランクトンの種類に応じて適宜選択して用いることができ、単独で用いてもよく、複数種組み合わせて用いてもよい。たとえば、防除目的とする有害プランクトンが赤潮を形成するリゾソレニア属の藻類である場合には、それに特異的に感染して増殖しうるウィルスであるRsVなどを選択して好ましく用いることができる。
【0035】
これらの有用微生物は、人工培地において、または、宿主となる防除対象の有害プランクトンに感染させて培養することにより、人為的に所望量に増殖させて用いることが可能である。有用微生物が、培地などに低濃度で分散した状態である場合には、遠心分離や限外濾過などの公知の方法により、適宜濃縮して本発明の防除製剤の調製に用いることができる。有用微生物を含有する原料が十分に濃縮されている場合には、得られる有害プランクトン防除製剤中の有用微生物を高密度にすることができ、防除特性、輸送、供給に優れた防除製剤とすることができるため好ましい。
【0036】
有害プランクトン防除能を有する微生物を固定化するゲル状物質は、高分子合成樹脂、多糖類またはたんぱく質など、保水性を有しゲルを形成しうる公知の固定化剤を含有する。本発明では、固定化剤として、食品添加物として利用可能なゲル化剤を選択して用いるのが好ましい。このような固定化剤を用いた場合には、生物に対する安全性が高く、海洋環境等で施用しても残留物の生態破壊の問題を生じず、また、有用微生物の殺藻活性の保護効果にも優れている。
【0037】
このような固定化剤としては、たとえば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロース、アラビアガム、アラビノガラクタン、エレミ樹脂、ガティガム、カラギナン、カラヤガム、カロブビーンガム、キサンタンガム、グアーガム、セルロース、タマリンドガム、トラガントガム、ファーセレラン、カードラン、デキストラン、プルラン、ペクチン、ゼラチン、寒天等が挙げられる。これらの固定化剤は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムが特に好ましく用いられる。
【0038】
本発明に係る防除製剤が防除目的とする有害プランクトンが、赤潮形成プランクトンなど海中のプランクトンである場合には、海水などの電解質を多く含む液に有用微生物を懸濁したものを固定化して有害プランクトン防除製剤を調製するのが通常であり、また、防除製剤を海水中に浸漬して使用するため、広範囲のイオン濃度およびpHにおいて、吸水性能、ゲル化性能およびゲル状態の保持に優れる固定化剤を選択して用いるのが好ましい。本発明に係る有害プランクトン防除製剤中におけるゲル化剤の濃度は、ゲル化剤の種類、微生物量、防除製剤の所望の微生物放出特性および硬度等にもよるが、通常1〜70重量%、好ましくは5〜50重量%であるのが望ましい。
【0039】
また、本発明では、ゲル状物質中にゼラチンを含有することが好ましい。ゼラチンは単独で固定化剤として用いてもよいが、ゼラチン以外の固定化剤とともに用いるのが好ましい。
【0040】
ゼラチンとしては、特に限定されることなく、所望の防除製剤の特性に応じて適宜選択して用いることができるが、牛骨、牛皮、豚皮などを原料としたゼラチンは入手が容易であり工業的に有利である。
【0041】
本発明の有害プランクトン防除製剤がゼラチンを含有すると、水中で該防除製剤を用いた場合に、高温では有用微生物を放出しやすく、低温では放出しにくいという温度感作性を示す。このため、ゼラチンを含有する防除製剤は、赤潮形成プランクトンの防除に使用する場合など、高温で大量発生を生じやすい有害プランクトンの防除に特に効果的に使用することができる。具体的には、施用水域の温度が20℃以上となる主要な有害プランクトンの生育が最も旺盛となる時期には、速攻的に溶解し、溶出効率を制御することで、有害プランクトンの発生状況に則して作用させることができる。また、低温時に予防的に水中に設置または散布し、高温時に作用させることもできる。
【0042】
本発明の有害プランクトン防除製剤中におけるゼラチン含有量は、特に限定されるものではないが、通常0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%程度であるのが望ましい。また本発明では、ゼラチンに代えて、ゼラチン以外の温度感作性を示す固定化剤を用いることも好ましい。
【0043】
また、本発明の有害プランクトン防除製剤は、発光塗料などの発光性物質を含有することも好ましい。防除製剤が発光性物質を含有すると、有害プランクトンが走光性を有する場合に、有害プランクトンが防除製剤付近に集中するため、より高い防除効果を達成することができる。また、防除製剤を発光体とともに使用することも好ましい。
【0044】
さらに、本発明の有害プランクトン防除製剤は、たとえばアミノ酸類や糖類など、防除目的とする有害プランクトンが走化性を示す物質を含有することも好ましい。また、防除製剤を走化性を示す物質とともに使用することも好ましい。
【0045】
本発明の有害プランクトン防除製剤が、上述の発光性物質または走化性物質など、有害プランクトン誘引手段を有する場合には、有害プランクトンが低密度で存在する場合にも、誘引により効果的に防除を行うことができ、防除製剤の予防的な使用にも有用である。このような有害プランクトンの誘引は、防除製剤の使用時に防除製剤を固定する耐水性ネット、袋、容器などにその誘引機能を付与することにより行うこともできる。
【0046】
本発明の有害プランクトン防除製剤は、有用微生物を、ゲル状物質に固定化することにより製造する。具体的には、有用微生物を含有する溶液などを必要に応じて濃縮し、上述の固定化剤または固定化剤溶液と、必要に応じて、発光性物質、走化性物質およびその他の成分と混合し、ゲル化することによりに製造することができる。有用微生物の殺藻活性を保持するため、固定化は過度の加熱を伴わずに行うことが好ましい。このようにして、有害プランクトンに対して、病原性、感染性などの防除作用を有した状態で、有用微生物をゲル状物質で固定化した有害プランクトン防除製剤を製造することができる。
【0047】
本発明の有害プランクトン防除製剤は、防除目的とする有害プランクトンの種類、製剤の使用環境などに応じて、所望の有害プランクトン防除能、有用微生物の放出特性、硬度、形状などを有するように設計することができ、それに応じて有用微生物、固定化剤、その他の成分の種類、量比などを調整して製造することができる。また、濃度勾配を有する防除製剤とすることにより、微生物を所望の時期に放出させることもできる。
【0048】
たとえば、本発明の有害プランクトン防除製剤を養殖海域において施用する場合、製剤成分を調整することによって、波浪による動きや温度環境、防除対象となる有害プランクトンの発生密度によって、製剤中から放出される細菌、ウィルス等の量を制御することができる。
【0049】
すなわち、海流が穏やかな養殖筏周辺での施用においては、容易に徐放されるような成分組成が望ましく、また、防除対象となる赤潮原因藻の発生密度が低い場合、殺藻性を有する有用微生物が高濃度で局所的に放出され、初期において確実に感染などの防除を達成できるように、有用微生物濃度の高い組成が好ましい。
【0050】
また、ある程度海流が強く、施用した製剤が波に晒されて洗われるような環境や、赤潮原因藻が極めて低密度で発生している場合に予防的施用を行う場合には、有用微生物の放出性を若干抑えて、徐々に活性ウィルスなどの有用微生物が放出されるような状態でなければ、瞬時に流失してしまい、十分な効果がみられない場合がある。したがって、施用する現場環境に合わせて、固定化成分組成を調節することで、殺藻ウィルスなどの有用微生物の実用的な利用が可能となる。
【0051】
有害プランクトン防除製剤の有用微生物放出特性は、固定化のための樹脂類とゼラチンの混合割合によって調整することができ、たとえば高温での放出性を高める場合には、ゼラチンの混合割合を高めることで、現場海域へ投入した場合に、その水温によって樹脂類単独製剤よりも早く溶出させることが可能となる。
【0052】
一般に、ヘテロシグマ・アカシオやヘテロカプサ・サーキュラリスカーマなどの養殖魚介類に甚大な影響及ぼす多くの有害プランクトンの増殖、生育は、20〜30℃で最も旺盛となるので、当該水温においてゼラチンは容易に溶解して有用微生物の放出性が高まるし、現場海域の温度が低い場合には、有害プランクトンの生育、増殖性が抑制され、防除製剤からの有用微生物放出も低減するので、流失によるロスが回避でき、効率的な施用を行うことができる。
【0053】
また、殺藻ウィルスなどの有用微生物を固定化した状態で、バーミキュライト、ホワイトカーボン、珪藻土などの微粉末成分を用いて水和剤状の製剤にすることで、マイクロカプセル状ゲルに包埋した粉末状の防除製剤とすることも可能である。このような粉末状の防除製剤であれば、現場海域での散布処理が可能な場合や海流に乗せて投入する場合などに、適宜現場海水で希釈して散布使用することもできる。
【0054】
このような方法で固定化、製剤化して得られた本発明の有害プランクトン防除製剤は、一般的な包装材等に封入することが可能となるため、製剤の輸送、頒布が簡便になる。さらに、環境要因(日光、紫外線、温度、乾燥)によって失活しやすい微生物素材については、遮光性の容器、袋などに封入し、保管や輸送を冷蔵条件とすることによって、生物製品としての保存安定性の向上を簡単な方法で実行することができる。
【0055】
このような本発明の有害プランクトン防除製剤は、有害プランクトンを殺滅あるいは抑制するために、淡水中および海水中のいずれでも用いることができるが、特に海水中で発生する赤潮形成プランクトンの殺滅、抑制、予防に好ましく使用できる。
【0056】
本発明の有害プランクトン防除製剤は、水中に散布または固定して用いることができる。たとえば、養殖海域における使用では、本発明の防除製剤を養殖器具に設置して用いることができる。養殖器具としては、筏、養殖網、海底設置構造物、養殖域で使用する小型船などどのようなものであってもよいが、海面付近に存在する赤潮形成プランクトンに対して有効であるため、養殖筏に設置するのが好ましい。養殖筏としては、牡蠣、真珠貝あるいはノリなどの養殖筏が挙げられる。
【0057】
養殖器具に本発明の有害プランクトン防除製剤を固定して有害プランクトンの防除を行う場合には、防除製剤を直接固定して用いてもよく、またたとえば、防除製剤中の有用微生物が所望の放出特性となるような大きさ・形状に成形あるいは切断した防除製剤を、溶出した有用微生物が水中に拡散できる袋、籠、網などに入れて固定して用いてもよい。本発明の有害プランクトン防除製剤を固定して用いた場合には、開放系である海域においても、防除を必要とする個所で集中的に有害プランクトンを防除することができ、散布を行う場合よりも少量の防除製剤で充分な防除効果を得ることができる。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、赤潮原因藻などの有害プランクトン類に防除能を有する有用微生物を、吸水性樹脂または増粘剤などのゲル形成成分により包埋して、有害プランクトン防除能力を有したままで固定化し、施用環境に適した組成で製剤化した、有用微生物を赤潮形成藻類などの有害プランクトンの防除に実用的に施用できる製剤、製剤化方法、および該微生物製剤を用いて有害プランクトンを防除する技術を提供することができる。
【0059】
また、本発明によれば、人為的に大量生産した有用微生物の培養液または濃縮溶液を高分子樹脂や天然多糖類を用いて高密度でゲル状に包埋・固定することにより、開放系である海域へも、有用微生物を生物的防除資材として効果的に投入することができ、かつ安定的に使用することができる。さらに、本発明の有害プランクトン防除製剤がゼラチンを含有する場合には、製剤の粘性を容易に制御でき、保存時や輸送時の安定性が向上することに加え、海域で使用した場合に波浪などによる流亡を制御したり、速効的に放出させるような組成として適宜設計した製剤とすることができる。またさらに、走行性または走化性を有する有害プランクトンに対しては、発光性物質またはアミノ酸や糖などの走化性物質を併用することにより、有害プランクトンを誘引し、有用微生物による感染、殺藻効率をさらに向上させることができる。
【0060】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
【実施例1】
HcV10 高密度含有液の調製
供試プランクトンHU9433−p株(高知県浦の内湾から分離されたヘテロカプササーキュラリスカーマの分離株)の培養液10Lにヘテロカプサウィルス分離株HcV10((独)水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所にて分離されたヘテロカプサウィルス株)を接種し、20±2℃の温度で、12時間明暗条件下で3日間培養を行った。得られた10LのHcV10株生産溶液を100mlに濃縮して、殺藻微生物原体であるHcV10高密度含有液を得た。
【0062】
アルギン酸ナトリウムによるヘテロカプサウィルス( HcV10 株)の固定化
まず、アルギン酸ナトリウム1グラムを25mlの蒸留水に溶解し、この溶液にHcV10株生産液の2倍濃度の人工海水25mlを添加して、アルギン酸ナトリウム2%人工海水溶液を作成した。次いで、上記HcV10高密度含有液を最終的に表1に示すウィルス封入量となるように人工海水を用いて希釈調製したHcV10株生産液50mlを、このアルギン酸ナトリウム人工海水溶液中に、撹拌しながら添加し混合した。得られた調製液を飽和塩化カルシウム水溶液へ滴下することにより、ウィルスを含有するゲル状の防除製剤A、B、Cをそれぞれ得た。
【0063】
徐放性の評価
容量5Lのアクリル製小型水槽に海水培地3Lを充填し、上記で得た防除製剤5グラムを、ナイロン製小袋にいれて浸漬した。製剤表面に付着し内包されていないウィルスが結果に影響しないように、滅菌した海水培地で十分に表面洗浄をした後に実験に供試した。
【0064】
その後、1、7および14日後に培地をサンプリングし、限界希釈法により試験溶液である培養液中に放出された活性ウィルスの力価(活性ウィルス数)を調査した。試験水槽の設置条件は、25±2℃、12時間日長条件とした。結果を表1に示す。
【0065】
【実施例2】
ポリアクリル酸ナトリウムによる HcV10 株の固定化
実施例1で調製したHcV10高密度含有液を最終的に表1に示すウィルス封入量となるようにそれぞれ人工海水を用いて希釈調製したHcV10株生産液50mlを、穏やかに撹拌しながら、滑らかなゲル状になるまでポリアクリル酸ナトリウム(PAS)粉末5グラムを徐々に添加し、ウィルスを含有するゲル状の防除製剤D、E、Fをそれぞれ得た。
【0066】
得られた各防除製剤について、実施例1と同様にして徐放性の評価を行った。結果を表1に併せて示す。
【0067】
【実施例3】
ポリアクリル酸ナトリウムおよびゼラチンによる HcV10 株の固定化
実施例1で調製したHcV10高密度含有液を最終的に表1に示すウィルス封入量となるようにそれぞれ人工海水を用いて希釈調製したHcV10株生産液50mlを、緩やかに撹拌しながら、ポリアクリル酸ナトリウム(PAS)粉末5グラムを添加した。
【0068】
別途ゼラチン10グラムをHcV10株生産液と同濃度の人工海水100mlに加熱溶解した後、30℃に冷却したゼラチン溶液50mlを、ウィルス溶液のPAS混合物50mlに添加・混合して、冷蔵固化し、ウィルス溶液のゲル状固定化物である防除製剤G、H、Iをそれぞれ得た。
【0069】
得られた防除製剤について、実施例1と同様にして徐放性の評価を行った。結果を表1に併せて示す。
【0070】
【比較例1】
実施例1で調製したHcV10高密度含有液を、表1に示す各防除製剤のウィルス封入量と同等になるように、人工海水でウイルス密度の調製を行いHcV10希釈溶液J、K、Lをそれぞれ得た。
【0071】
容量5Lのアクリル製小型水槽に充填した海水培地3Lの中に、得られたHcV10希釈溶液5mlを投入し、その後、1、7および14日後に培地をサンプリングし、限界希釈法により試験溶液である培地中のウィルス力価(活性ウィルス数)を調査した。試験水槽の設置条件は、25±2℃、16時間明期8時間暗期条件とした。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1より、ゲル状物質による固定化を行わない比較例1では、海水培地への投入処理後7日後にかけて検出されるウィルス量が漸減し、最終的には殆ど検出されないレベルとなった。これに対し、ゲル状物質にウィルスを固定化した実施例1〜3の製剤では、投入処理直後のウィルス検出量は少なかったものの、処理後14日後でも102〜103個/ml程度の活性ウィルスが検出され、固定したウィルスが徐放的に培養液中に放出されていることが確認された。また、固定化の方法によって、その徐放される程度に差が認められ、上記実施例の密度では、アルギン酸ナトリウムよりもポリアクリル酸ナトリウムの方が初期の放出性が高く、ポリアクリル酸ナトリウムにゼラチンを添加した場合には、さらに処理後初期の放出性が高いことがわかった。
【0074】
【実施例4】
保存安定性の評価
実施例2で得た防除製剤Fについて、遮光/低温(5℃)、遮光/常温(20℃)および、12時間日長条件/常温(20℃)の各条件下で保存を行い、製剤化処理後のウィルス力価(活性ウィルス数)の経時的変化を調査した。結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
この結果、12時間明暗(12時間日長)、常温条件下においては処理後7〜14日後までにほぼ失活したのに対し、同じ常温条件下でも遮光することによって、処理14日後まで初期値と同等の力価を保ち、処理28日後でも104units/グラム以上の活性が確認された。この高い保存安定性は遮光条件に加え、低温条件下におくことによってさらに向上し、処理28日後でも106units/グラム以上の活性ウィルスが確認され、製剤の長期保存が可能であることが確認された。
【0077】
【実施例5、実施例6】
ウイルスの密度が最終的に106units/グラムとなるように実施例1の方法で作製したアルギン酸ナトリウムによる防除製剤、または、実施例3の方法で作製したPAS+ゼラチンによる防除製剤を、赤潮形成プランクトンであるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ培養液5mlを分注した試験管に、表3に示す量で投入し、投入後の宿主(ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ)細胞の密度と試験培養液中のウィルス密度の経時的変化を調査した。ゲル状物質に固定化された防除製剤の投入にあたっては、ゲル表面に付着し内包されていないウィルスの影響を避けるため、防除製剤表面を滅菌した海水培地で十分に洗浄して用いた。なお、ウィルス密度は限界希釈法により測定した。結果を宿主細胞なしの培養液の場合とともに表3に示す。
【0078】
【比較例2】
ウイルス密度が106units/mlとなるように希釈調製したHcV10株溶液を、赤潮形成プランクトンであるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ培養液に、表3に示す量で投入し、投入後の宿主(ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ)細胞の密度と試験培養液中のウィルス密度の経時的変化を実施例5および6と同様に調査した。結果を宿主細胞なしの培養液の場合とともに表3に示す。また、防除製剤を投入しない場合(無処理)の、宿主細胞の密度の経時的変化を表3に併せて示す。
【0079】
【表3】
【0080】
表3に表される結果より、アルギン酸ナトリウムを固定化剤として用いた実施例5に比べ、ポリアクリル酸ナトリウムおよびゼラチンで固定した実施例6では、HcV10株ウィルスの方が宿主細胞密度の減少が早く、ウィルスの放出性が高かった。試験は常温(25℃)条件下での評価であり、培養液に投入した後ゼラチン部分は早期に溶解し、ウィルスを放出したために宿主細胞密度が速攻的に減少したものと考えられた。
【0081】
一方、固定化剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた実施例5の投入区では、初期的な殺藻効果は低いものの、処理7日後の培養液中のウィルス密度が103〜104にまで増殖していた。すなわち、遅効的ではあるものの、最終的には宿主細胞を殺滅し、長期的な効果発現に効果的であることが明らかとなった。
【0082】
ウイルスの希釈調製を用いた比較例2では、初期的な殺藻活性は高かったものの、7日後にはウィルスが検出されなくなり、長期的な効果を求める施用はできないことがわかった。
【0083】
【実施例7】
大型水槽での防除製剤の殺藻効果
ガラス製60L水槽に海水培地50Lを充填し、赤潮形成藻類であるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマを1mlあたり10細胞または1000細胞となるように添加した。
【0084】
この培養液に、実施例2と同様にポリアクリル酸ナトリウムにHcV10株を固定して得た防除製剤(図中、固定剤投入区PASと表記)または、実施例3と同様にポリアクリル酸ナトリウムおよびゼラチンにHcV10株を固定して得た防除製剤(図中、固定剤投入区PAS+ゼラチンと表記)を、それぞれ50グラム(HcV10ウィルス力価108units/グラム)をナイロンメッシュ製の袋に充填し培養液中に浸漬した。
【0085】
HcV10株を固定化した各防除製剤は、水槽の中央から、培養液中に完全に浸漬するように吊り下げた。また、効果比較の対照として、ウイルス力価108units/mlのウイルス希釈溶液50mlを、培養液表層に均一になるように散布した。防除製剤の投入処理後、16時間明期8時間暗期、25℃条件下において、毎日、宿主であるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ細胞密度の推移を調査した。また、無処理区には防除製剤を投入せず、同様の条件下に設置し、同様に宿主細胞密度を調査した。結果を図1に示す。
【0086】
図1に示されるように、HcV10ウィルス無添加区の宿主細胞が経時的に増加していったのに対し、防除製剤を投与したウィルス接種区では、いずれの条件でも宿主細胞密度が減少した。宿主の初期密度1000細胞/mlの時(図1上部参照)、対照であるウイルス希釈溶液を散布した場合と、ポリアクリル酸ナトリウム(PAS)単独で固定化した防除製剤を投与した区では、ほぼ同様の宿主密度の推移が認められ、ウィルスをPASおよびゼラチンに固定化した防除製剤の投与区ではこれらより若干早く密度低減が認められた。これは、ゲル状の防除製剤周辺でゼラチン溶解によってまとまった量のウィルスが徐放され、投与部分周辺で宿主細胞に対する確実な感染が速効的に発生し、ウィルスのスムーズな二次増殖が誘発されたことによると考えられた。
【0087】
一方、宿主細胞の初期密度が10細胞/mlの条件下では(図1下部参照)、調査期間中無処理区だけでなく、ウィルス散布区においても宿主細胞密度の経時的な増殖が見られた。
【0088】
これは、宿主細胞密度が低いために表面散布ではウィルスとの接触の機会が著しく低くなり、同時に散布したウィルスの光、温度による劣化が進み初期的な効果が殆ど発現できなかったことによると推測される。
【0089】
これに対し、ウィルスを固定化した防除製剤を投与した試験区では、調査期間中にほぼ完璧な殺藻活性が認められ、局所的に高密度のウィルスが放出される防除製剤を投入することによって、殺藻対象となる宿主が低密度で存在する環境下でも確実な殺藻活性が発現されることが確認された。
【0090】
特に、常温下での溶解性が高いゼラチンを含むゲル状物質(PAS+ゼラチン)にウィルスを固定化した防除製剤を用いた場合には、宿主細胞の密度が低い条件でも確実な初期感染およびそれに伴うウィルスの2次増殖によって、より速効的な効果を発現できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、各防除製剤の大型水槽中での殺藻効果を示す、実施例7の結果を表す。
【発明の技術分野】
本発明は、有害プランクトンを殺滅または抑制するか、有害プランクトンの大量増殖を予防する、防除製剤、その製造方法および用途に関する。詳しくは、本発明は、赤潮プランクトンなどの有害プランクトンを殺滅、抑制するため、あるいは該プランクトンの大量増殖を予防するために用いることができる、有害プランクトン防除能を有する微生物が、ゲル状物に固定された有害プランクトン防除製剤、その製造方法および用途に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
プランクトンは生態系に不可欠な水中浮遊生物であって、魚類などのよいエサとなる。しかしながらプランクトンは、大量発生して赤潮を形成したり、有毒物質を生成したりするなど、海洋の生態系に悪影響を与える有害プランクトンとして作用する場合がある。特に、海域での赤潮の発生は、その海域に生息する海洋生物、養殖魚介類、ノリなどの正常な生育を妨げ、該海域の生物および該海域での魚介類の養殖などの漁業に甚大な被害を与える。
【0003】
わが国の海面養殖業は、国内漁業生産額全体の約1/4を占めている。この振興にあたっては、とくに養殖漁場の環境保全を図ることは不可欠であり、なかでも深刻な被害を引き起こす赤潮に対する有効な対策の推進が極めて重要である。
【0004】
日本に生息する潜在的赤潮原因種は約200種類にものぼると言われており、その中で、わが国において過去に赤潮を形成した種類は、渦鞭毛藻類では、ヘテロカプサ(Heterocapsa)属、ギムノディニウム(Gymnodinium)属、コクロディニウムCochlodinium属、プロロセントラム(Prorocentrum)属、ディノフィシス(Dinophysis)属、アンフィディニウム(Amphidinium)属、ジャイロディニウム(Gyrodinium)属、カトディニウム(Katodinium)属、フェオポリクリコス(Pheopolykrikos)属、ポリクリコス(Polykrikos)属、エントモシグマ(Entomosigma)属、オキシリス(Oxyrrhis)属、ノクチルカ(Noctiluca)属、セラチウム(Ceratium)属、アレクサンドリウム(Alexandrium)属、ゴニオラックス(Gonyaulax)属、リングロディニウム(Lingulodinium)属、プロトケラチウム(Protoceratium)属、オストレオプシス(Osteropsis)属、クーリア(Coolia)属、ガンビエディスクス(Gambierdiscus)属、スクリプシエラ(Scrippsiella)属、ペリディニウム(Peridinium)属、ラフィド藻類ではシャトネラ(Chattonella)属、ヘテロシグマ(Heterosigma)属、フィブロカプサ(Fibrocapsa)属、珪藻類では、コシノディスカス(Coscinodiscus)属、ユーカンピア(Eucampia)属、リゾソレニア(Rhizosolenia)属、キートセロス(Chaetoceros)属、スクレトネマ(Skeletonema)属、デトヌラ(Detonula)属、タラシオシラ(Tharassiosira)属、ステファノピクシス(Stephanopyxis)属、ディティラム(Ditylum)属、アステリオネラ(Asterionella)属、ニッチア(Nitzchia)属などがあげられ、これらのなかでも、ヘテロカプサ属、ギムノディニウム属、コクロディニウム属、プロロセントラム属、ディノフィシス属、ゴニオラックス属、シャトネラ属、ヘテロシグマ属、フィブロカプサ属は国内の養殖漁業、二枚貝養殖場面における経済的被害を引き起こしている(非特許文献1参照)。また、リゾソレニア属、キートセロス属、ユーカンピア属、スクレトネマ属等の珪藻赤潮によるノリの色落ち被害は近年甚大な生産高の減少を引き起こしている。このように、その生物学的多様性も有害プランクトンの有効な防除手段の確立を困難なものとしている原因の一つである。
【0005】
一般に、養殖産業における赤潮被害への対抗策は、公的機関による赤潮・貝毒発生情報の早期広報を頼りに、経験的に知られている「餌止め」により養殖魚を絶食させ、斃死数を最小限に抑えたり、養殖筏を赤潮が発生していない海域へ船舶で牽引移動するという極めて消極的な回避方法が主流である。しかも、赤潮発生域からの筏の移動は、逆に移動先へ赤潮原因藻を移植してしまう危険性も孕んでいる。また、このような方法では、固定式の生簀の被害、岩ノリなどの移動不可能な海産物の被害、海域に天然に生息する生物の被害、増殖し死滅する赤潮形成プランクトンによる海洋汚染の被害などは何ら解決されない。
【0006】
このため、より積極的な赤潮プランクトン防除技術の開発が期待されており、これまでに化学的防除方法(硫酸銅、過酸化水素水、アクリノール、硫酸アルミニウムなどの直接散布)や物理的手法(多孔質粘土の散布、ウォーターハンマー、超音波処理、高電圧パルス)が提案されてきている。具体的には、たとえば、アルキル(アルケニル)エーテル硫酸エステル塩を有効成分とする界面活性剤組成物を赤潮プランクトン発生領域に散布する方法(特許文献1参照)、モンモリロナイト、ゼオライトなどの吸着剤に界面活性剤を吸着させて散布する方法(特許文献2参照)などが提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの化学的、物理的方法は、実場面での施用規模、コストの面で問題があるのはもちろん、自然海域への人為的異物投入による生態系への影響、安全性に対してそれ以上の懸念があったために、その多くは実用化には至っていない。
【0008】
近年、多孔質粘土を成分とした赤潮防除用資材が韓国にて実用化され、わが国においても、九州南部の一部で実際に使用され始めている。この方法は、大量の粘土を海流に乗せて養殖域へ流入させるため、海域に対し全くの異物を大量に投入することになり、たとえ短期的に養殖漁業への経済的効果をもたらしたとしても、長期的には海底環境、生態系への影響を考えねばならない等の問題点を抱えている。
【0009】
このような状況のもと、近年その実用化が期待されているのは、生物的防除技術である。自然界における赤潮の消滅過程においては、赤潮原因藻に対する殺藻細菌、ウィルス、捕食性生物、拮抗藻類の利用などが赤潮原因藻の密度推移に連動して高密度検出される事例が数多く報告されている。これらは自然海域にもともと生息するものであり、生物的防除素材として人為的に大量生産、施用、効果を発揮することができれば、環境への影響や安全性は極めて高い。
【0010】
たとえば赤潮原因藻に対する殺藻ウィルスについては、1990年以降精力的に研究が進められてきており、赤潮原因藻の実用的防除に利用可能と考えられるウィルスも多数発見されてきている。
【0011】
しかしながら、捕食性生物や拮抗微生物並びに殺藻細菌の利用は、赤潮原因藻に対するその作用性から、赤潮発生海域での実防除には膨大な施用量が必要となるために、海域への単純散布などでは、実用的利用が難しい(非特許文献2参照)。また殺藻ウィルスは、宿主プランクトンに感染した後の複製速度、増殖数が極めて大きいため、副次感染を引き起こし、初期投入量が少なくとも赤潮をいち早く現場海域から消滅させることが可能であると考えられているが、環境条件によっては容易に失活してしまうという問題がある(非特許文献3参照)。
【0012】
これらの有用微生物類を実用的赤潮防除技術として赤潮発生現場海域で十分な効果を発揮させるためには、上述した微生物素材特有の欠点を補う効果的な製剤技術が必須であり、なおかつ、赤潮発生現場海域において、赤潮原因藻と製剤化された殺藻微生物が効果的に遭遇できるような技術でなければならない。
【0013】
生物的防除素材である有用微生物類を用いる方法としては、たとえば、赤潮プランクトンのうちシャットネラを死滅させる攻撃細菌を、粘土状粒子に付着させた抑止剤を海底に散布することにより、海底の泥中で休眠しているシスト状態の赤潮プランクトンを抑止する方法(特許文献3参照)が提案されている。しかしながらこの方法は、赤潮プランクトンのシストが存在する可能性のある広範な海底に、くまなく抑止剤を散布する必要があり、現実的ではない。
【0014】
また、特許文献4には、殺藻活性を有するシュードモナス・スタッツェリに属する菌体またはその破壊物などを有効成分とする赤潮防除剤が、特許文献5には、ヘテロシグマ・アカシオを選択的に殺滅する、殺藻細菌カウロバクター・フィコキダエを赤潮発生海域に定住化、自然繁殖させるために固定化剤を用いて包埋する方法が記載されている。しかしながら、これらの細菌は、宿主となる赤潮原因藻に感染罹病して増殖するものではないため、実場面における赤潮防除のためには、最低でも宿主藻類と同程度の細菌密度が必要となるため、それだけの密度を保持または赤潮発生海域に放出させるためには、多くの技術的課題を克服する必要がある。
【0015】
一方、施用方法に関して、有害プランクトンが高密度存在する環境であれば、海面へ散布することで殺藻微生物が防除対象となる有害プランクトンと海中で遭遇するのは比較的容易であると思われるが、現実的には、広大な海洋環境への散布処理は難しく、更に、より実用的技術として確立されるためには、養殖漁場への被害が発生する以前の、有害プランクトンが低密度でしか存在していない環境下でも効果的に防除できる技術でなければならない。
【0016】
このため、有用微生物類を用いて、有害プランクトンを効果的に防除する実用的な手段の出現が強く求められていた。
【0017】
本発明者は、このような状況において鋭意研究した結果、有害プランクトンを防除しうる微生物をゲル状物質に安定的に固定化した製剤を用いた場合に、防除成分の過度の拡散によって効果を失うことなく、効率的に有害プランクトンを防除し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
【特許文献1】
特開平6−1703号公報
【特許文献2】
特開平9−154466号公報
【特許文献3】
特開平5−169088号公報
【特許文献4】
特開平5−112416号公報
【特許文献5】
特開平7−322875号公報
【非特許文献1】
赤潮の科学第2版、恒星社厚生閣、岡市友利編(1997)
【非特許文献2】
微生物利用の大展開、監修今中忠行、今井一郎(2002)
【非特許文献3】
月刊海洋、号外(21)および(23)、長崎慶三(2000)
【0019】
【発明の目的】
本発明は、有用微生物類を用いて、有害プランクトンを殺滅または抑制するか、有害プランクトンの大量増殖を予防する、有害プランクトン防除製剤を提供することを目的とする。
【0020】
【発明の概要】
本発明の有害プランクトン防除製剤は、有害プランクトン防除能を有する微生物が、ゲル状物質に固定化されてなることを特徴としている。
【0021】
このような本発明の有害プランクトン防除製剤は、有害プランクトン防除能を有する微生物が、細菌またはウィルスであることが好ましく、有害プランクトンを宿主とする微生物であることも好ましい。
【0022】
また、本発明の有害プランクトン防除製剤は、ゲル状物質が、樹脂、多糖類、たんぱく質よりなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましく、ゲル状物質がゼラチンを含有することがより好ましい。
【0023】
さらに、本発明の有害プランクトン防除製剤は、有害プランクトンが赤潮形成藻類であることが好ましく、赤潮形成藻類が、ヘテロカプサ属、ヘテロシグマ属またはリゾソレニア属の藻類であることがより好ましい。
【0024】
このような本発明の有害プランクトン防除製剤は、発光性物質を含有することも好ましい。
【0025】
本発明の有害プランクトン防除製剤の製造方法は、有害プランクトン防除能を有する微生物を、ゲル状物質に固定化することにより、上記本発明の有害プランクトン防除製剤を製造することを特徴としている。
【0026】
本発明の有害プランクトン防除方法は、上記本発明の有害プランクトン防除製剤を、海中に浸漬して用いることを特徴としている。
【0027】
このような本発明の有害プランクトン防除方法では、上記本発明の有害プランクトン防除製剤を、養殖器具に設置して用いることが好ましく、養殖器具が、牡蠣、真珠貝またはノリの養殖筏であることも好ましい。
【0028】
【発明の具体的説明】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0029】
本発明の有害プランクトン防除製剤は、有害プランクトン防除能を有する微生物が、ゲル状物質に固定化されてなる。
【0030】
本発明の防除製剤が防除目的とする有害プランクトンとしては、大量発生して赤潮を形成するプランクトン、大量発生により他の生態系あるいは環境に悪影響を与えるプランクトン、有毒物質を生成するプランクトン等が挙げられる。本発明で防除目的とする有害プランクトンは、植物プランクトンであっても動物プランクトンであってもよいが、本発明では特に、有害プランクトンが赤潮形成藻類であるのが望ましい。
【0031】
本発明に係る有害プランクトン防除能を有する微生物(以下、有用微生物ともいう)としては、有害プランクトンを殺滅する、有害プランクトンの活動を休止させる、有害プランクトンの増殖を防止する、有害プランクトンが忌避する、などの作用を有する微生物をいずれも用いることができ、たとえば、有害プランクトンを捕食する微生物、有害プランクトンと栄養競合する微生物、有害プランクトンを宿主とする微生物、有害プランクトンに対して毒性を有する微生物などが挙げられる。本発明では、これらの有用微生物のうち、有害プランクトンを宿主とする微生物が好ましく、有害プランクトンを宿主とし、宿主内で増殖して有害プランクトンを殺滅する細菌、糸状菌、放線菌およびウィルスなどの微生物がより好ましい。特に、本発明に係る有用微生物としては、赤潮形成藻類を宿主として殺滅する細菌、糸状菌、放線菌およびウィルスなどの殺藻微生物が好ましい。
【0032】
殺藻細菌としては、たとえば、アルテロモナス属、シュードアルテドモナス属、サイトファーガ属などの上述した非特許文献2記載の細菌;特許文献4記載のシュードモナス属細菌;特許文献5記載のカウロバクター属細菌;水産学シリーズ(恒星社厚生閣)134「有害・有毒藻類ブルームの予防と駆除」(広石伸互ら編、吉永郁生(2002))記載のフラボバクテリウム属およびサプロスピラ属細菌等が挙げられる。
【0033】
また、殺藻ウィルスとしては、赤潮形成藻類に感染性を有し、殺藻能を有するウィルスがいずれも用いられる。このようなウィルスとしては、特に限定されるものではないが、比較的大型で正20面体のカプシドを持ち、外膜構造を欠く2本鎖DNAウィルス(上述した非特許文献3参照)、および、小型で尾部構造および外膜構造を欠く1本鎖RNAウィルスの2タイプのウィルスが挙げられる。本発明で用いられる好ましい殺藻ウィルスとしては、たとえば、ヘテロシグマ・アカシオに感染性を有するHaV(Heterosigma akashiwo virus)、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに感染性を有するHcV(Heterocapsa circuralisquama virus)およびHcSV(Heterocapsa circuralisquama small virus)、珪藻リゾソレニア・セチゲラに感染性を有するRsV(Rizosorenia setigera virus)(特開平11−98979、特開2001−231550、特願2002−272413)などが挙げられる。
【0034】
本発明で用いる有用微生物は、上述のような公知の微生物であってもよく、また、未知または単離されていない微生物であってもよい。さらにこれらの有用微生物は、防除目的とする有害プランクトンの種類に応じて適宜選択して用いることができ、単独で用いてもよく、複数種組み合わせて用いてもよい。たとえば、防除目的とする有害プランクトンが赤潮を形成するリゾソレニア属の藻類である場合には、それに特異的に感染して増殖しうるウィルスであるRsVなどを選択して好ましく用いることができる。
【0035】
これらの有用微生物は、人工培地において、または、宿主となる防除対象の有害プランクトンに感染させて培養することにより、人為的に所望量に増殖させて用いることが可能である。有用微生物が、培地などに低濃度で分散した状態である場合には、遠心分離や限外濾過などの公知の方法により、適宜濃縮して本発明の防除製剤の調製に用いることができる。有用微生物を含有する原料が十分に濃縮されている場合には、得られる有害プランクトン防除製剤中の有用微生物を高密度にすることができ、防除特性、輸送、供給に優れた防除製剤とすることができるため好ましい。
【0036】
有害プランクトン防除能を有する微生物を固定化するゲル状物質は、高分子合成樹脂、多糖類またはたんぱく質など、保水性を有しゲルを形成しうる公知の固定化剤を含有する。本発明では、固定化剤として、食品添加物として利用可能なゲル化剤を選択して用いるのが好ましい。このような固定化剤を用いた場合には、生物に対する安全性が高く、海洋環境等で施用しても残留物の生態破壊の問題を生じず、また、有用微生物の殺藻活性の保護効果にも優れている。
【0037】
このような固定化剤としては、たとえば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロース、アラビアガム、アラビノガラクタン、エレミ樹脂、ガティガム、カラギナン、カラヤガム、カロブビーンガム、キサンタンガム、グアーガム、セルロース、タマリンドガム、トラガントガム、ファーセレラン、カードラン、デキストラン、プルラン、ペクチン、ゼラチン、寒天等が挙げられる。これらの固定化剤は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムが特に好ましく用いられる。
【0038】
本発明に係る防除製剤が防除目的とする有害プランクトンが、赤潮形成プランクトンなど海中のプランクトンである場合には、海水などの電解質を多く含む液に有用微生物を懸濁したものを固定化して有害プランクトン防除製剤を調製するのが通常であり、また、防除製剤を海水中に浸漬して使用するため、広範囲のイオン濃度およびpHにおいて、吸水性能、ゲル化性能およびゲル状態の保持に優れる固定化剤を選択して用いるのが好ましい。本発明に係る有害プランクトン防除製剤中におけるゲル化剤の濃度は、ゲル化剤の種類、微生物量、防除製剤の所望の微生物放出特性および硬度等にもよるが、通常1〜70重量%、好ましくは5〜50重量%であるのが望ましい。
【0039】
また、本発明では、ゲル状物質中にゼラチンを含有することが好ましい。ゼラチンは単独で固定化剤として用いてもよいが、ゼラチン以外の固定化剤とともに用いるのが好ましい。
【0040】
ゼラチンとしては、特に限定されることなく、所望の防除製剤の特性に応じて適宜選択して用いることができるが、牛骨、牛皮、豚皮などを原料としたゼラチンは入手が容易であり工業的に有利である。
【0041】
本発明の有害プランクトン防除製剤がゼラチンを含有すると、水中で該防除製剤を用いた場合に、高温では有用微生物を放出しやすく、低温では放出しにくいという温度感作性を示す。このため、ゼラチンを含有する防除製剤は、赤潮形成プランクトンの防除に使用する場合など、高温で大量発生を生じやすい有害プランクトンの防除に特に効果的に使用することができる。具体的には、施用水域の温度が20℃以上となる主要な有害プランクトンの生育が最も旺盛となる時期には、速攻的に溶解し、溶出効率を制御することで、有害プランクトンの発生状況に則して作用させることができる。また、低温時に予防的に水中に設置または散布し、高温時に作用させることもできる。
【0042】
本発明の有害プランクトン防除製剤中におけるゼラチン含有量は、特に限定されるものではないが、通常0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%程度であるのが望ましい。また本発明では、ゼラチンに代えて、ゼラチン以外の温度感作性を示す固定化剤を用いることも好ましい。
【0043】
また、本発明の有害プランクトン防除製剤は、発光塗料などの発光性物質を含有することも好ましい。防除製剤が発光性物質を含有すると、有害プランクトンが走光性を有する場合に、有害プランクトンが防除製剤付近に集中するため、より高い防除効果を達成することができる。また、防除製剤を発光体とともに使用することも好ましい。
【0044】
さらに、本発明の有害プランクトン防除製剤は、たとえばアミノ酸類や糖類など、防除目的とする有害プランクトンが走化性を示す物質を含有することも好ましい。また、防除製剤を走化性を示す物質とともに使用することも好ましい。
【0045】
本発明の有害プランクトン防除製剤が、上述の発光性物質または走化性物質など、有害プランクトン誘引手段を有する場合には、有害プランクトンが低密度で存在する場合にも、誘引により効果的に防除を行うことができ、防除製剤の予防的な使用にも有用である。このような有害プランクトンの誘引は、防除製剤の使用時に防除製剤を固定する耐水性ネット、袋、容器などにその誘引機能を付与することにより行うこともできる。
【0046】
本発明の有害プランクトン防除製剤は、有用微生物を、ゲル状物質に固定化することにより製造する。具体的には、有用微生物を含有する溶液などを必要に応じて濃縮し、上述の固定化剤または固定化剤溶液と、必要に応じて、発光性物質、走化性物質およびその他の成分と混合し、ゲル化することによりに製造することができる。有用微生物の殺藻活性を保持するため、固定化は過度の加熱を伴わずに行うことが好ましい。このようにして、有害プランクトンに対して、病原性、感染性などの防除作用を有した状態で、有用微生物をゲル状物質で固定化した有害プランクトン防除製剤を製造することができる。
【0047】
本発明の有害プランクトン防除製剤は、防除目的とする有害プランクトンの種類、製剤の使用環境などに応じて、所望の有害プランクトン防除能、有用微生物の放出特性、硬度、形状などを有するように設計することができ、それに応じて有用微生物、固定化剤、その他の成分の種類、量比などを調整して製造することができる。また、濃度勾配を有する防除製剤とすることにより、微生物を所望の時期に放出させることもできる。
【0048】
たとえば、本発明の有害プランクトン防除製剤を養殖海域において施用する場合、製剤成分を調整することによって、波浪による動きや温度環境、防除対象となる有害プランクトンの発生密度によって、製剤中から放出される細菌、ウィルス等の量を制御することができる。
【0049】
すなわち、海流が穏やかな養殖筏周辺での施用においては、容易に徐放されるような成分組成が望ましく、また、防除対象となる赤潮原因藻の発生密度が低い場合、殺藻性を有する有用微生物が高濃度で局所的に放出され、初期において確実に感染などの防除を達成できるように、有用微生物濃度の高い組成が好ましい。
【0050】
また、ある程度海流が強く、施用した製剤が波に晒されて洗われるような環境や、赤潮原因藻が極めて低密度で発生している場合に予防的施用を行う場合には、有用微生物の放出性を若干抑えて、徐々に活性ウィルスなどの有用微生物が放出されるような状態でなければ、瞬時に流失してしまい、十分な効果がみられない場合がある。したがって、施用する現場環境に合わせて、固定化成分組成を調節することで、殺藻ウィルスなどの有用微生物の実用的な利用が可能となる。
【0051】
有害プランクトン防除製剤の有用微生物放出特性は、固定化のための樹脂類とゼラチンの混合割合によって調整することができ、たとえば高温での放出性を高める場合には、ゼラチンの混合割合を高めることで、現場海域へ投入した場合に、その水温によって樹脂類単独製剤よりも早く溶出させることが可能となる。
【0052】
一般に、ヘテロシグマ・アカシオやヘテロカプサ・サーキュラリスカーマなどの養殖魚介類に甚大な影響及ぼす多くの有害プランクトンの増殖、生育は、20〜30℃で最も旺盛となるので、当該水温においてゼラチンは容易に溶解して有用微生物の放出性が高まるし、現場海域の温度が低い場合には、有害プランクトンの生育、増殖性が抑制され、防除製剤からの有用微生物放出も低減するので、流失によるロスが回避でき、効率的な施用を行うことができる。
【0053】
また、殺藻ウィルスなどの有用微生物を固定化した状態で、バーミキュライト、ホワイトカーボン、珪藻土などの微粉末成分を用いて水和剤状の製剤にすることで、マイクロカプセル状ゲルに包埋した粉末状の防除製剤とすることも可能である。このような粉末状の防除製剤であれば、現場海域での散布処理が可能な場合や海流に乗せて投入する場合などに、適宜現場海水で希釈して散布使用することもできる。
【0054】
このような方法で固定化、製剤化して得られた本発明の有害プランクトン防除製剤は、一般的な包装材等に封入することが可能となるため、製剤の輸送、頒布が簡便になる。さらに、環境要因(日光、紫外線、温度、乾燥)によって失活しやすい微生物素材については、遮光性の容器、袋などに封入し、保管や輸送を冷蔵条件とすることによって、生物製品としての保存安定性の向上を簡単な方法で実行することができる。
【0055】
このような本発明の有害プランクトン防除製剤は、有害プランクトンを殺滅あるいは抑制するために、淡水中および海水中のいずれでも用いることができるが、特に海水中で発生する赤潮形成プランクトンの殺滅、抑制、予防に好ましく使用できる。
【0056】
本発明の有害プランクトン防除製剤は、水中に散布または固定して用いることができる。たとえば、養殖海域における使用では、本発明の防除製剤を養殖器具に設置して用いることができる。養殖器具としては、筏、養殖網、海底設置構造物、養殖域で使用する小型船などどのようなものであってもよいが、海面付近に存在する赤潮形成プランクトンに対して有効であるため、養殖筏に設置するのが好ましい。養殖筏としては、牡蠣、真珠貝あるいはノリなどの養殖筏が挙げられる。
【0057】
養殖器具に本発明の有害プランクトン防除製剤を固定して有害プランクトンの防除を行う場合には、防除製剤を直接固定して用いてもよく、またたとえば、防除製剤中の有用微生物が所望の放出特性となるような大きさ・形状に成形あるいは切断した防除製剤を、溶出した有用微生物が水中に拡散できる袋、籠、網などに入れて固定して用いてもよい。本発明の有害プランクトン防除製剤を固定して用いた場合には、開放系である海域においても、防除を必要とする個所で集中的に有害プランクトンを防除することができ、散布を行う場合よりも少量の防除製剤で充分な防除効果を得ることができる。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、赤潮原因藻などの有害プランクトン類に防除能を有する有用微生物を、吸水性樹脂または増粘剤などのゲル形成成分により包埋して、有害プランクトン防除能力を有したままで固定化し、施用環境に適した組成で製剤化した、有用微生物を赤潮形成藻類などの有害プランクトンの防除に実用的に施用できる製剤、製剤化方法、および該微生物製剤を用いて有害プランクトンを防除する技術を提供することができる。
【0059】
また、本発明によれば、人為的に大量生産した有用微生物の培養液または濃縮溶液を高分子樹脂や天然多糖類を用いて高密度でゲル状に包埋・固定することにより、開放系である海域へも、有用微生物を生物的防除資材として効果的に投入することができ、かつ安定的に使用することができる。さらに、本発明の有害プランクトン防除製剤がゼラチンを含有する場合には、製剤の粘性を容易に制御でき、保存時や輸送時の安定性が向上することに加え、海域で使用した場合に波浪などによる流亡を制御したり、速効的に放出させるような組成として適宜設計した製剤とすることができる。またさらに、走行性または走化性を有する有害プランクトンに対しては、発光性物質またはアミノ酸や糖などの走化性物質を併用することにより、有害プランクトンを誘引し、有用微生物による感染、殺藻効率をさらに向上させることができる。
【0060】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
【実施例1】
HcV10 高密度含有液の調製
供試プランクトンHU9433−p株(高知県浦の内湾から分離されたヘテロカプササーキュラリスカーマの分離株)の培養液10Lにヘテロカプサウィルス分離株HcV10((独)水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所にて分離されたヘテロカプサウィルス株)を接種し、20±2℃の温度で、12時間明暗条件下で3日間培養を行った。得られた10LのHcV10株生産溶液を100mlに濃縮して、殺藻微生物原体であるHcV10高密度含有液を得た。
【0062】
アルギン酸ナトリウムによるヘテロカプサウィルス( HcV10 株)の固定化
まず、アルギン酸ナトリウム1グラムを25mlの蒸留水に溶解し、この溶液にHcV10株生産液の2倍濃度の人工海水25mlを添加して、アルギン酸ナトリウム2%人工海水溶液を作成した。次いで、上記HcV10高密度含有液を最終的に表1に示すウィルス封入量となるように人工海水を用いて希釈調製したHcV10株生産液50mlを、このアルギン酸ナトリウム人工海水溶液中に、撹拌しながら添加し混合した。得られた調製液を飽和塩化カルシウム水溶液へ滴下することにより、ウィルスを含有するゲル状の防除製剤A、B、Cをそれぞれ得た。
【0063】
徐放性の評価
容量5Lのアクリル製小型水槽に海水培地3Lを充填し、上記で得た防除製剤5グラムを、ナイロン製小袋にいれて浸漬した。製剤表面に付着し内包されていないウィルスが結果に影響しないように、滅菌した海水培地で十分に表面洗浄をした後に実験に供試した。
【0064】
その後、1、7および14日後に培地をサンプリングし、限界希釈法により試験溶液である培養液中に放出された活性ウィルスの力価(活性ウィルス数)を調査した。試験水槽の設置条件は、25±2℃、12時間日長条件とした。結果を表1に示す。
【0065】
【実施例2】
ポリアクリル酸ナトリウムによる HcV10 株の固定化
実施例1で調製したHcV10高密度含有液を最終的に表1に示すウィルス封入量となるようにそれぞれ人工海水を用いて希釈調製したHcV10株生産液50mlを、穏やかに撹拌しながら、滑らかなゲル状になるまでポリアクリル酸ナトリウム(PAS)粉末5グラムを徐々に添加し、ウィルスを含有するゲル状の防除製剤D、E、Fをそれぞれ得た。
【0066】
得られた各防除製剤について、実施例1と同様にして徐放性の評価を行った。結果を表1に併せて示す。
【0067】
【実施例3】
ポリアクリル酸ナトリウムおよびゼラチンによる HcV10 株の固定化
実施例1で調製したHcV10高密度含有液を最終的に表1に示すウィルス封入量となるようにそれぞれ人工海水を用いて希釈調製したHcV10株生産液50mlを、緩やかに撹拌しながら、ポリアクリル酸ナトリウム(PAS)粉末5グラムを添加した。
【0068】
別途ゼラチン10グラムをHcV10株生産液と同濃度の人工海水100mlに加熱溶解した後、30℃に冷却したゼラチン溶液50mlを、ウィルス溶液のPAS混合物50mlに添加・混合して、冷蔵固化し、ウィルス溶液のゲル状固定化物である防除製剤G、H、Iをそれぞれ得た。
【0069】
得られた防除製剤について、実施例1と同様にして徐放性の評価を行った。結果を表1に併せて示す。
【0070】
【比較例1】
実施例1で調製したHcV10高密度含有液を、表1に示す各防除製剤のウィルス封入量と同等になるように、人工海水でウイルス密度の調製を行いHcV10希釈溶液J、K、Lをそれぞれ得た。
【0071】
容量5Lのアクリル製小型水槽に充填した海水培地3Lの中に、得られたHcV10希釈溶液5mlを投入し、その後、1、7および14日後に培地をサンプリングし、限界希釈法により試験溶液である培地中のウィルス力価(活性ウィルス数)を調査した。試験水槽の設置条件は、25±2℃、16時間明期8時間暗期条件とした。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1より、ゲル状物質による固定化を行わない比較例1では、海水培地への投入処理後7日後にかけて検出されるウィルス量が漸減し、最終的には殆ど検出されないレベルとなった。これに対し、ゲル状物質にウィルスを固定化した実施例1〜3の製剤では、投入処理直後のウィルス検出量は少なかったものの、処理後14日後でも102〜103個/ml程度の活性ウィルスが検出され、固定したウィルスが徐放的に培養液中に放出されていることが確認された。また、固定化の方法によって、その徐放される程度に差が認められ、上記実施例の密度では、アルギン酸ナトリウムよりもポリアクリル酸ナトリウムの方が初期の放出性が高く、ポリアクリル酸ナトリウムにゼラチンを添加した場合には、さらに処理後初期の放出性が高いことがわかった。
【0074】
【実施例4】
保存安定性の評価
実施例2で得た防除製剤Fについて、遮光/低温(5℃)、遮光/常温(20℃)および、12時間日長条件/常温(20℃)の各条件下で保存を行い、製剤化処理後のウィルス力価(活性ウィルス数)の経時的変化を調査した。結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
この結果、12時間明暗(12時間日長)、常温条件下においては処理後7〜14日後までにほぼ失活したのに対し、同じ常温条件下でも遮光することによって、処理14日後まで初期値と同等の力価を保ち、処理28日後でも104units/グラム以上の活性が確認された。この高い保存安定性は遮光条件に加え、低温条件下におくことによってさらに向上し、処理28日後でも106units/グラム以上の活性ウィルスが確認され、製剤の長期保存が可能であることが確認された。
【0077】
【実施例5、実施例6】
ウイルスの密度が最終的に106units/グラムとなるように実施例1の方法で作製したアルギン酸ナトリウムによる防除製剤、または、実施例3の方法で作製したPAS+ゼラチンによる防除製剤を、赤潮形成プランクトンであるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ培養液5mlを分注した試験管に、表3に示す量で投入し、投入後の宿主(ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ)細胞の密度と試験培養液中のウィルス密度の経時的変化を調査した。ゲル状物質に固定化された防除製剤の投入にあたっては、ゲル表面に付着し内包されていないウィルスの影響を避けるため、防除製剤表面を滅菌した海水培地で十分に洗浄して用いた。なお、ウィルス密度は限界希釈法により測定した。結果を宿主細胞なしの培養液の場合とともに表3に示す。
【0078】
【比較例2】
ウイルス密度が106units/mlとなるように希釈調製したHcV10株溶液を、赤潮形成プランクトンであるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ培養液に、表3に示す量で投入し、投入後の宿主(ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ)細胞の密度と試験培養液中のウィルス密度の経時的変化を実施例5および6と同様に調査した。結果を宿主細胞なしの培養液の場合とともに表3に示す。また、防除製剤を投入しない場合(無処理)の、宿主細胞の密度の経時的変化を表3に併せて示す。
【0079】
【表3】
【0080】
表3に表される結果より、アルギン酸ナトリウムを固定化剤として用いた実施例5に比べ、ポリアクリル酸ナトリウムおよびゼラチンで固定した実施例6では、HcV10株ウィルスの方が宿主細胞密度の減少が早く、ウィルスの放出性が高かった。試験は常温(25℃)条件下での評価であり、培養液に投入した後ゼラチン部分は早期に溶解し、ウィルスを放出したために宿主細胞密度が速攻的に減少したものと考えられた。
【0081】
一方、固定化剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた実施例5の投入区では、初期的な殺藻効果は低いものの、処理7日後の培養液中のウィルス密度が103〜104にまで増殖していた。すなわち、遅効的ではあるものの、最終的には宿主細胞を殺滅し、長期的な効果発現に効果的であることが明らかとなった。
【0082】
ウイルスの希釈調製を用いた比較例2では、初期的な殺藻活性は高かったものの、7日後にはウィルスが検出されなくなり、長期的な効果を求める施用はできないことがわかった。
【0083】
【実施例7】
大型水槽での防除製剤の殺藻効果
ガラス製60L水槽に海水培地50Lを充填し、赤潮形成藻類であるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマを1mlあたり10細胞または1000細胞となるように添加した。
【0084】
この培養液に、実施例2と同様にポリアクリル酸ナトリウムにHcV10株を固定して得た防除製剤(図中、固定剤投入区PASと表記)または、実施例3と同様にポリアクリル酸ナトリウムおよびゼラチンにHcV10株を固定して得た防除製剤(図中、固定剤投入区PAS+ゼラチンと表記)を、それぞれ50グラム(HcV10ウィルス力価108units/グラム)をナイロンメッシュ製の袋に充填し培養液中に浸漬した。
【0085】
HcV10株を固定化した各防除製剤は、水槽の中央から、培養液中に完全に浸漬するように吊り下げた。また、効果比較の対照として、ウイルス力価108units/mlのウイルス希釈溶液50mlを、培養液表層に均一になるように散布した。防除製剤の投入処理後、16時間明期8時間暗期、25℃条件下において、毎日、宿主であるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ細胞密度の推移を調査した。また、無処理区には防除製剤を投入せず、同様の条件下に設置し、同様に宿主細胞密度を調査した。結果を図1に示す。
【0086】
図1に示されるように、HcV10ウィルス無添加区の宿主細胞が経時的に増加していったのに対し、防除製剤を投与したウィルス接種区では、いずれの条件でも宿主細胞密度が減少した。宿主の初期密度1000細胞/mlの時(図1上部参照)、対照であるウイルス希釈溶液を散布した場合と、ポリアクリル酸ナトリウム(PAS)単独で固定化した防除製剤を投与した区では、ほぼ同様の宿主密度の推移が認められ、ウィルスをPASおよびゼラチンに固定化した防除製剤の投与区ではこれらより若干早く密度低減が認められた。これは、ゲル状の防除製剤周辺でゼラチン溶解によってまとまった量のウィルスが徐放され、投与部分周辺で宿主細胞に対する確実な感染が速効的に発生し、ウィルスのスムーズな二次増殖が誘発されたことによると考えられた。
【0087】
一方、宿主細胞の初期密度が10細胞/mlの条件下では(図1下部参照)、調査期間中無処理区だけでなく、ウィルス散布区においても宿主細胞密度の経時的な増殖が見られた。
【0088】
これは、宿主細胞密度が低いために表面散布ではウィルスとの接触の機会が著しく低くなり、同時に散布したウィルスの光、温度による劣化が進み初期的な効果が殆ど発現できなかったことによると推測される。
【0089】
これに対し、ウィルスを固定化した防除製剤を投与した試験区では、調査期間中にほぼ完璧な殺藻活性が認められ、局所的に高密度のウィルスが放出される防除製剤を投入することによって、殺藻対象となる宿主が低密度で存在する環境下でも確実な殺藻活性が発現されることが確認された。
【0090】
特に、常温下での溶解性が高いゼラチンを含むゲル状物質(PAS+ゼラチン)にウィルスを固定化した防除製剤を用いた場合には、宿主細胞の密度が低い条件でも確実な初期感染およびそれに伴うウィルスの2次増殖によって、より速効的な効果を発現できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、各防除製剤の大型水槽中での殺藻効果を示す、実施例7の結果を表す。
Claims (12)
- 有害プランクトン防除能を有する微生物が、ゲル状物質に固定化されてなることを特徴とする有害プランクトン防除製剤。
- 有害プランクトン防除能を有する微生物が、細菌またはウィルスである、請求項1に記載の有害プランクトン防除製剤。
- 有害プランクトン防除能を有する微生物が、有害プランクトンを宿主とする微生物である、請求項1または2に記載の有害プランクトン防除製剤。
- ゲル状物質が、樹脂、多糖類、たんぱく質よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の有害プランクトン防除製剤。
- ゲル状物質がゼラチンを含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の有害プランクトン防除製剤。
- 有害プランクトンが赤潮形成藻類である、請求項1〜5のいずれかに記載の有害プランクトン防除製剤。
- 赤潮形成藻類が、ヘテロカプサ属、ヘテロシグマ属またはリゾソレニア属の藻類である、請求項6に記載の有害プランクトン防除製剤。
- 発光性物質を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有害プランクトン防除製剤。
- 有害プランクトン防除能を有する微生物を、ゲル状物質に固定化することにより、請求項1〜8のいずれかに記載の有害プランクトン防除製剤を製造することを特徴とする有害プランクトン防除製剤の製造方法。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の有害プランクトン防除製剤を、海中に浸漬して用いることを特徴とする有害プランクトンの防除方法。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の有害プランクトン防除製剤を、養殖器具に設置して用いることを特徴とする有害プランクトン防除方法。
- 養殖器具が、牡蠣、真珠貝またはノリの養殖筏であることを特徴とする請求項11に記載の有害プランクトンの防除方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003091709A JP2004300032A (ja) | 2003-03-28 | 2003-03-28 | 有害プランクトン防除製剤、その製造方法および用途 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003091709A JP2004300032A (ja) | 2003-03-28 | 2003-03-28 | 有害プランクトン防除製剤、その製造方法および用途 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004300032A true JP2004300032A (ja) | 2004-10-28 |
Family
ID=33405015
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003091709A Pending JP2004300032A (ja) | 2003-03-28 | 2003-03-28 | 有害プランクトン防除製剤、その製造方法および用途 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004300032A (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010522205A (ja) * | 2007-03-23 | 2010-07-01 | ノボザイムス バイオロジカルズ,インコーポレイティド | バイオフィルム形成及びプランクトン様増殖の予防及び低減 |
JP2012046516A (ja) * | 2010-08-24 | 2012-03-08 | Industry-Academic Cooperation Foundation Chosun Univ | バイオナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法 |
-
2003
- 2003-03-28 JP JP2003091709A patent/JP2004300032A/ja active Pending
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010522205A (ja) * | 2007-03-23 | 2010-07-01 | ノボザイムス バイオロジカルズ,インコーポレイティド | バイオフィルム形成及びプランクトン様増殖の予防及び低減 |
JP2012046516A (ja) * | 2010-08-24 | 2012-03-08 | Industry-Academic Cooperation Foundation Chosun Univ | バイオナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
Molina-Grima et al. | Pathogens and predators impacting commercial production of microalgae and cyanobacteria | |
Purcell et al. | Jellyfish as products and problems of aquaculture | |
Wotton | The utiquity and many roles of exopolymers (EPS) in aquatic systems | |
Ben-Horin et al. | Parasite transmission through suspension feeding | |
US4202905A (en) | Luminous material for use in fishery and method for the production thereof | |
Arora et al. | A delivery system for field application of paratransgenic control | |
CN101455436B (zh) | 贝银解毒除菌保鲜剂及其制造方法和应用 | |
US9693552B2 (en) | Compositions and methods for target delivering a bioactive agent to aquatic organisms | |
Sellner et al. | Prevention, control, and mitigation of harmful algal bloom impacts on fish, shellfish, and human consumers | |
CN107743397B (zh) | 水产养殖中细菌感染的治疗 | |
Prado et al. | Encapsulation of live marine bacteria for use in aquaculture facilities and process evaluation using response surface methodology | |
JP2004300032A (ja) | 有害プランクトン防除製剤、その製造方法および用途 | |
Bouchouicha-Smida et al. | Viability, growth and domoic acid toxicity of the diatom Nitzschia bizertensis following filtration by the mussel Mytilus sp. | |
Kett et al. | Solar UV radiation modulates animal health and pathogen prevalence in coastal habitats knowledge gaps and implications for bivalve aquaculture | |
CA3154130A1 (en) | Hydrogel compositions comprising protist cells | |
KR101830586B1 (ko) | 타카야마 속(Takayama genus) 미세조류를 포함하는 적조방제용 조성물 및 적조방제 방법 | |
Abimbola et al. | Applications of nanochitosan in the detection and control of aquatic diseases | |
CN100588622C (zh) | 抗菌防臭纤维织物在杀灭藻类中的用途 | |
CA2920768A1 (en) | Sea lice treatment | |
JP2007332039A (ja) | 赤潮の除藻剤および赤潮の除藻方法 | |
JP2955657B2 (ja) | 赤潮プランクトンに特異的に感染して増殖・溶藻しうるウイルス、該ウイルスを利用する赤潮防除方法および赤潮防除剤、並びに該ウイルスの保存方法 | |
Santhanam et al. | Biology of Marine Cnidarians [Phylum Cnidaria (= Coelenterata)] | |
CN113142101B (zh) | 茶皂素在制备夜光虫灭杀制剂中的应用 | |
JP3654522B2 (ja) | 赤潮プランクトンに特異的に感染して増殖・溶藻しうる小型ウイルス、該ウイルスを利用する赤潮防除方法および赤潮防除剤、並びに該ウイルスの単離方法、抽出方法、継代培養方法、保存方法、および濃縮方法 | |
JP2020029446A (ja) | ポリスリレンを主骨格とする微細粒子を利用した藻の増殖を抑制する方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20060327 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20090623 |
|
A02 | Decision of refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20091020 |