JP2004294302A - 肉厚測定方法及びこの方法を用いた鋼管の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】プローブコイルのリフトオフ変動の影響を低減し、高精度に肉厚を測定することができる肉厚測定方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る肉厚測定方法は、異なる実肉厚を有する複数の試料のそれぞれについて、プローブコイルの実リフトオフを適宜変更して信号Vx及び信号Vyを採取し(S1)、リフトオフと信号Vyとの関係を連続関数で表す第1の近似式(S2)と、補正前肉厚と信号Vxとの関係を連続関数で表す第2の近似式(S3)と、補正前肉厚及びリフトオフを変数として肉厚測定値を算出する連続関数で表された第3の近似式(S6)とを予め算出する校正ステップと、被測定対象物について採取した信号Vx及び信号Vyに前記第1〜第3の近似式を適用することによって被測定対象物の肉厚測定値を算出する測定ステップとを含むことを特徴とする。
【選択図】 図2
【解決手段】本発明に係る肉厚測定方法は、異なる実肉厚を有する複数の試料のそれぞれについて、プローブコイルの実リフトオフを適宜変更して信号Vx及び信号Vyを採取し(S1)、リフトオフと信号Vyとの関係を連続関数で表す第1の近似式(S2)と、補正前肉厚と信号Vxとの関係を連続関数で表す第2の近似式(S3)と、補正前肉厚及びリフトオフを変数として肉厚測定値を算出する連続関数で表された第3の近似式(S6)とを予め算出する校正ステップと、被測定対象物について採取した信号Vx及び信号Vyに前記第1〜第3の近似式を適用することによって被測定対象物の肉厚測定値を算出する測定ステップとを含むことを特徴とする。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、クラッド鋼管等の肉厚を電磁誘導現象を利用して測定する方法及びこの方法を用いた鋼管の製造方法に関し、特に、プローブコイルのリフトオフ変動の影響を低減し、高精度に肉厚を測定することができる肉厚測定方法及びこの方法を用いた鋼管の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
母材の外周又は内周にクラッド材を冶金的に接合した積層構造を有するクラッド鋼管は、用途に応じたクラッド材を選択することによって材料強度を維持することができ、特殊雰囲気下での耐酸性等に優れる他、管材コストを低減することができるものとして広く使用されている。斯かるクラッド材の肉厚は、クラッド鋼管の性能や寿命を保証する上で重要な管理項目であるため、従来より種々の肉厚測定技術が提案されている。
【0003】
従来、クラッド材の肉厚(以下、適宜クラッド厚という)を測定する方法としては、電磁誘導現象を利用してクラッド鋼管に対向配置されたプローブコイルのインピーダンス変化を検出し、当該検出信号に基づいて肉厚を算出する方法が知られている。より具体的には、前記検出信号を位相解析することによって、クラッド材の肉厚変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vxと、プローブコイルのリフトオフ変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vyとに分別した後、信号Vxを用いてクラッド材の肉厚を算出するものである。ここで、信号Vx(例えば電圧値)を用いてクラッド厚を算出する際には、互いに異なる既知のクラッド厚(実測値)を有する複数の試料に対して、プローブコイルのリフトオフ(実測値)を一定として信号Vxを採取し、採取した信号Vxとクラッド厚(実測値)とに基づき、例えば最小二乗法を適用して、クラッド厚(測定値)と信号Vxとの関係を示す近似式(例えば2次式)を予め算出しておく。次に、被測定対象であるクラッド管について、前記と同じリフトオフ(実測値)で信号Vxを採取し、採取した信号Vxに前記近似式を適用することによって、クラッド厚(測定値)を算出する。
【0004】
つまり、従来のクラッド厚測定方法は、既知のクラッド厚と信号Vxとの関係を示す近似式を予め算出しておき、信号Vxに前記近似式を適用して未知のクラッド厚を算出するというものである。斯かるクラッド厚測定方法は、プローブコイルをクラッド鋼管に密着させるためのローラー方式の追従機構を用いるため、プローブコイルのリフトオフが一定であることを前提としており、リフトオフが変動すれば、これに応じて測定値に誤差が生じるものである。しかしながら、クラッド鋼管製造工程等においてクラッド厚を測定する場合には、クラッド鋼管に存在する曲りや湾曲によってリフトオフは変動するため、プローブコイルのリフトオフを一定に保つことは実際上困難である。また、母材の内周にクラッド材を接合したクラッド鋼管を被測定対象とする場合には、長尺の竿状部材の先端に追従機構を設けてプローブコイルを内挿する方法が用いられるが、クラッド鋼管の回転に伴い竿状部材が横振れすることにより、プローブコイルのリフトオフが変化することになる。このように、上記した従来のクラッド厚測定方法では、リフトオフの変動に伴う測定誤差が生じるという問題がある。
【0005】
そこで、リフトオフの変動を考慮した補正値を前記測定値に加算することにより、測定誤差を低減する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上記特許文献1に開示されたクラッド厚測定方法は、インピーダンス変化の検出信号を位相解析することによって、クラッド材の肉厚変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vxと、プローブコイルのリフトオフ変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vyとに分別する点で、前述した従来技術と共通するものの、信号Vxのみならず信号Vyをも用いてクラッド材の肉厚を算出する点で相違する。
【0007】
具体的には、前述した従来技術と同様に、リフトオフ(実測値)一定の条件下で採取した信号Vxとクラッド厚(実測値)とに基づき、クラッド厚(測定値)と信号Vxとの関係を示す近似式を予め算出しておく。次に、被測定対象であるクラッド管について、リフトオフ(実測値)を適宜変更して信号Vx及び信号Vyを採取し、採取した信号Vxに前記近似式を適用することによって、クラッド厚(測定値)を算出する。なお、上記特許文献1では、以上のようにして算出されたクラッド厚が記号「d」で示されている。
【0008】
次に、以上のようにして算出したクラッド厚dとこれに対応するクラッド厚(実測値)とから測定誤差を算出し、当該測定誤差とこれに対応する信号Vyとに基づき、補正値Δdと信号Vyとの関係を示す近似式を算出する。
【0009】
上記特許文献1に開示されたクラッド厚測定方法は、以上のようにして算出した補正値を、上記信号Vxを用いて算出したクラッド厚に加算し、最終的なクラッド厚測定値(上記特許文献1では、記号「Dp2」で示されている)としている。このように、プローブコイルのリフトオフの変動を考慮した補正、つまり信号Vyを考慮した補正を行うため、リフトオフが一定であることを前提とした測定方法に比べて、リフトオフ変動に伴う測定誤差を低減し得ることが期待できる。
【0010】
【特許文献1】
特公平5−63722号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたクラッド厚測定方法では、リフトオフの変動を考慮した補正値Δdがクラッド厚に依存することに鑑み、クラッド厚を複数の領域に細分化し、各領域毎に算出された補正値Δdmと信号Vyとの近似式を用いて補正を行う構成としている。従って、各領域の境界における補正値の連続性は何ら考慮されておらず、僅かなクラッド厚dの差異によっても、異なる領域の近似式がそれぞれ適用される場合がある。その結果、各クラッド厚dに適用される補正値の差異が大きくなり、特に各領域の境界部において、最終的なクラッド厚測定値の誤差が大きくなる恐れがあるという問題がある。また、前記領域は、信号Vxを用いて算出したクラッド厚dで区画されており、算出されたクラッド厚d自体に既に誤差が内在しているため、本来であれば適用されるべき近似式とは異なる近似式が適用される結果、最終的なクラッド厚測定値の誤差が大きくなる恐れがあるという問題もある。
【0012】
以上では、クラッド鋼管を構成するクラッド材の肉厚を測定する場合を例に挙げて説明したが、電磁誘導現象を利用して被測定対象物に対向配置されたプローブコイルのインピーダンス変化を検出し、当該検出信号に基づいて肉厚を測定する測定方法全般に共通する問題点である。つまり、プローブコイルのリフトオフの変動に伴う測定誤差を低減するべく、特許文献1に開示されているようなリフトオフの変動を考慮した補正を行う方法が提案されているものの、十分な誤差の低減が図られていないという問題がある。
【0013】
本発明は、斯かる従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、電磁誘導現象を利用して被測定対象物に対向配置されたプローブコイルのインピーダンス変化を検出し、当該検出信号に基づいて肉厚を測定する方法において、プローブコイルのリフトオフ変動の影響を低減し、高精度に肉厚を測定することができる肉厚測定方法及びこの方法を用いた鋼管の製造方法を提供することを課題とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するべく、本発明は、請求項1に記載の如く、電磁誘導現象を利用して被測定対象物に対向配置されたプローブコイルのインピーダンス変化を検出し、当該検出信号を位相解析することによって、被測定対象物の肉厚変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vxと、プローブコイルのリフトオフ変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vyとに分別し、信号Vx及び信号Vyを用いて被測定対象物の肉厚を測定する方法であって、異なる実肉厚を有する複数の試料のそれぞれについて、プローブコイルの実リフトオフを適宜変更して信号Vx及び信号Vyを採取し、リフトオフと信号Vyとの関係を連続関数で表す第1の近似式と、補正前肉厚と信号Vxとの関係を連続関数で表す第2の近似式と、補正前肉厚及びリフトオフを変数として肉厚測定値を算出する連続関数で表された第3の近似式とを予め算出する校正ステップと、被測定対象物について採取した信号Vxに前記第2の近似式を適用することによって補正前肉厚を算出し、被測定対象物について採取した信号Vyに前記第1の近似式を適用することによってリフトオフを算出し、前記算出した補正前肉厚及びリフトオフに前記第3の近似式を適用することによって被測定対象物の肉厚測定値を算出する測定ステップとを含むことを特徴とする肉厚測定方法を提供するものである。
【0015】
本発明の発明者は、肉厚測定値に対するプローブコイルのリフトオフ変動の影響を鋭意検討した結果、測定値誤差(信号Vxに基づいて算出した補正前肉厚と実肉厚との差)が、実肉厚と実リフトオフとを変数とする連続関数で定式化できることを見出した。従って、前記連続関数を変形することにより、実肉厚は、補正前肉厚と実リフトオフとを変数とする他の連続関数で定式化できることになるため、補正前肉厚及び実リフトオフに定式化された前記他の連続関数を適用することにより、実肉厚(肉厚測定値)を算出することが可能である。
【0016】
請求項1に係る発明は、本発明の発明者が見出した前記知見に基づき完成したものであり、校正ステップにおいて、実肉厚及び実リフトオフが既知の試料に基づき、リフトオフと信号Vyとの関係を連続関数で表す第1の近似式と、補正前肉厚と信号Vxとの関係を連続関数で表す第2の近似式と、補正前肉厚及びリフトオフを変数として肉厚測定値を算出する連続関数で表された第3の近似式とを予め算出しておき、測定ステップにおいて、被測定対象物について採取した信号Vx及び信号Vyに、第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式を順次適用することにより、肉厚測定値を算出することが可能である。なお、第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式は、最小二乗法等の公知の近似式算出手法をそれぞれ適用して算出すればよい。第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式は、それぞれ連続関数で表されているため、前述した特許文献1に記載の方法等のように、補正前肉厚の属する領域に応じて異なる近似式が適用されることに起因した誤差が生じることはなく、高精度に肉厚を測定することが可能である。
【0017】
前記校正ステップは、より具体的には、請求項2に記載の如く、異なる実肉厚を有する複数の試料のそれぞれについて、プローブコイルの実リフトオフを適宜変更して信号Vx及び信号Vyを採取する第1ステップと、前記第1ステップで採取した信号Vx及び信号Vyについて、実肉厚一定の条件下での実リフトオフと信号Vyとに基づき、前記第1の近似式を算出すると共に、実リフトオフ一定の条件下での実肉厚と信号Vxとに基づき、前記第2の近似式を算出する第2ステップと、前記第1ステップで採取した信号Vxに前記第2の近似式を適用することによって補正前肉厚を算出し、当該算出した補正前肉厚の測定誤差を各実リフトオフ毎に実肉厚の1次式で近似する第3ステップと、前記実肉厚の1次式の傾き及び切片と実リフトオフとに基づき、前記傾き及び切片をそれぞれリフトオフの1次式で近似する第4ステップと、前記第3ステップで算出した実肉厚の1次式と、前記第4ステップで算出したリフトオフの1次式とに基づき、前記第3の近似式を算出する第5ステップとを含むのが好ましい。
【0018】
本発明は、請求項3に記載の如く、前記被測定対象物が、母材の外周又は内周にクラッド材を接合したクラッド鋼管とされ、当該クラッド鋼管のクラッド材の肉厚を測定するのに好適に用いられる。
【0019】
また、本発明は、請求項4に記載の如く、請求項1から3のいずれかに記載の方法を用いて肉厚を測定することを特徴とする鋼管の製造方法としても提供される。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、鋼管の製造過程において、高精度に肉厚の測定がなされるため、製造される鋼管について信頼性の高い品質管理を行うことが可能である。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について、クラッド鋼管の肉厚測定に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る肉厚測定方法を適用したクラッド鋼管用肉厚測定装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、クラッド鋼管用肉厚測定装置は、クラッド鋼管Pに対向配置された測定ヘッド部1と、超音波肉厚測定回路部2と、渦電流肉厚測定回路部3と、演算処理部4とを備えている。
【0023】
クラッド鋼管Pは、例えば、炭素鋼製の母材P1の外周に、オーステナイト系等のステンレス鋼製のクラッド材P2を冶金接合したものである。
【0024】
測定ヘッド部1は、ハウジング11と、ハウジング11に取り付けられた超音波受発信器12、第1コイル13及び第2コイル14とを備え、クラッド鋼管P表面と所定の間隔を隔てて対向配置されており、クラッド鋼管Pをスパイラル状に移動させることにより、連続的な肉厚の測定が可能とされている。
【0025】
ハウジング11は、その内部中央に上下方向に延びる水室11aと、水室11aの側部に連結された上下2本の給水管11bと、水室11aの下端に形成されクラッド鋼管Pに面して開口するノズル11cとを備えている。
【0026】
超音波受発信器12は、クラッド鋼管Pの全肉厚を測定するためのプローブであり、超音波の伝搬方向がノズル11cの中心を通ってクラッド鋼管Pの表面と直交するように、水室11aの上部壁に配設されている。
【0027】
第1コイル13は、クラッド鋼管Pのクラッド材P2の肉厚(クラッド厚)を測定するための電磁誘導用のプローブコイルであり、ノズル11cの外周にこれと同心状に配設されている。
【0028】
第2コイル14は、超音波の伝搬媒質である水の温度補正を行うための電磁誘導用のコイルであり、第1コイル13近傍の下側の給水管11bの外周にこれと同心状に配設されている。
【0029】
超音波肉厚測定回路部2は、超音波受発信器12に接続され、渦電流肉厚測定回路部3は、第1コイル13及び第2コイル14に接続されている。また、演算処理部4は、超音波肉厚測定回路部2及び渦電流肉厚測定回路部3に接続されている。以下、超音波肉厚測定回路部2、渦電流肉厚測定回路部3及び演算処理部4について、より具体的に説明する。
【0030】
(1)超音波肉厚測定回路部
超音波測定回路部2は、超音波受発信器12に発振信号を出力し、これにより、超音波受発信器12は、超音波を発生する。斯かる超音波は、水室11a内に形成された水柱内を伝搬し、クラッド鋼管Pのクラッド材P2表面の直径略1mmの領域内に直角に入射する。
【0031】
クラッド材P2に入射した超音波は、クラッド材P2の外面及び母材P1の内面においてそれぞれ一部が反射され、各反射波は、再び水室11a内の水柱を伝播して超音波受発信器12で受信される。
【0032】
超音波受発信器12で受信された反射波は、電気信号に変換されて、超音波測定回路部2に送信される。超音波測定回路部2は、クラッド材P2外面での反射波の立ち上がり時間と、母材P1内面での反射波の立ち上がり時間との時間差に相当する信号を生成し、これを演算処理部4に出力する。なお、超音波測定回路部2の具体的構成は、公知の一般的な超音波測定機器の回路構成と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0033】
(2)渦電流肉厚測定回路部
渦電流肉厚測定回路部3は、発振器31と、ブリッジ回路32と、増幅器33と、同期検波回路34と、位相回転器35と、A/D変換器36とを備えている。
【0034】
第1コイル13及び第2コイル14は、ブリッジ回路32における相隣する2辺に相互に直列状態となるように接続されており、発振器31から出力された発振信号は、ブリッジ回路32を介して、第1コイル13及び第2コイル14に入力される。第1コイル13に電流が通電すると、クラッド材P2の表面と直交する方向に磁界が形成され、これによってクラッド材P2の表面に渦電流が誘起される。また、第2コイル14に電流が通電すると、給水管11b内の水の流動方向と同じ方向に磁界が形成される。
【0035】
ここで、第1コイル13とクラッド材P2との距離であるリフトオフや、クラッド材P2の肉厚が変化すると、第1コイル13のインピーダンスが変化することになる。また、水温が変化すると、第1コイル13及び第2コイル14の温度が変化し、これらのインピーダンスが変化することになる。
【0036】
ブリッジ回路32の調整は、測定ヘッド部1の直前に設けたフォトセンサ等の検出器(図示せず)によってクラッド鋼管Pの先端を検出し、且つ、第1コイル13が空芯状態、すなわち、第1コイル13にクラッド鋼管Pが対向しない状態のときに、給水管11bに水を流してノズル11cから水を噴射させ、ブリッジ回路32が平衡状態となるように調整される。
【0037】
従って、ブリッジ回路32からは、第1コイル13及び第2コイル14の水温変化によるインピーダンス変化が相殺された信号、すなわち、超音波伝搬媒質である水の温度変化に影響されない信号のみが出力されることになる。換言すれば、第1コイル13にクラッド鋼管Pを対向させ、第1コイル13のインピーダンスが変化したときにのみブリッジ回路32は非平衡状態となり、第1コイル13のリフトオフとクラッド材P2の肉厚に応じた非平衡信号が出力されることになる。斯かる非平衡信号は、増幅器33を介して、同期検波回路34に入力される。
【0038】
同期検波回路34は、入力信号を位相解析して、X軸方向及びY軸方向の2つの信号に分別して、位相回転器35に出力する。位相回転器35は、予め基準片を用いて位相回転器35及び増幅器33を調整することにより、第1コイル13のリフトオフ変動によるインピーダンス変化によって得られる信号VyをY軸方向に、また、予め発振器31の周波数を調整して、クラッド材P2の肉厚変動によるインピーダンス変化によって得られる信号VxをX軸方向に、それぞれ表示するように設定されている。なお、信号Vx及び信号Vyは、クラッド厚が既知(例えば、1.8mm)のクラッド鋼管Pを用いて、リフトオフ一定(例えば、2mm)の条件下で得られる信号Vx及び信号Vyの電圧がそれぞれ所定値(例えば、Vx=0[V]、Vy=4[V])になるようにキャリブレーションされる。
【0039】
位相回転器35から出力された信号Vx及び信号Vyは、A/D変換器36でデジタル信号に変換された後、演算処理部4に入力される。
【0040】
(3)演算処理部
演算処理部4は、超音波測定回路部2からの入力信号に基づき、クラッド鋼管Pの全肉厚Dを算出する。より具体的には、前記入力信号(クラッド材P2外面での反射波の立ち上がり時間と、母材P1内面での反射波の立ち上がり時間との時間差に相当する信号)と伝搬媒質中の音速との積を演算し、これを全肉厚Dとして算出する。
【0041】
また、演算処理部4は、渦電流肉厚測定回路部3からの入力信号に基づき、クラッド材P2の肉厚DP2を算出する。さらに、全肉厚Dからクラッド材P2の肉厚DP2を減算して母材P1の肉厚DP1を算出し、これらを出力するように構成されている。以下、演算処理部4におけるクラッド材P2の肉厚DP2算出方法について、具体的に説明する。
【0042】
演算処理部4におけるクラッド厚DP2算出方法は、大別して(A)校正ステップと、(B)測定ステップとに大別される。以下、これら各ステップについて順次説明する。
【0043】
(A)校正ステップ
図2は、校正ステップにおける手順の概要を示すフロー図である。図2に示すように、本ステップでは、まず最初に、異なる実肉厚(クラッド厚の実測値)を有する複数の試料(被測定対象となるクラッド鋼管Pと同一種の鋼管)のそれぞれについて、第1コイル13の実リフトオフを適宜変更して信号Vx及び信号Vyを採取する(S1)。換言すれば、実肉厚の値、実リフトオフの値並びにこれら条件下での信号Vx及び信号Vyの電圧値がそれぞれデータ採取されて関連付けられる。図3は、データ採取結果の一例を示すグラフであり、(a)は種々の実リフトオフについて採取した実肉厚と信号Vx(電圧値)との関係を、(b)は種々の実リフトオフについて採取した実肉厚と信号Vy(電圧値)との関係をそれぞれ示す。図3に示す例では、実肉厚(グラフの横軸)として、およそ1.5mm〜3mmまでの試料を用意し、実リフトオフを1mm〜3mmまで変更してデータ採取している。
【0044】
次に、図2に示すように、前述のようにして採取した信号Vy(S1)について、実肉厚一定の条件下での実リフトオフと信号Vyとに基づき、リフトオフと信号Vyとの関係を示す第1の近似式を算出する(S2)。より具体的には、例えば、図3(b)において破線で囲った実肉厚値1.8mmの場合の実リフトオフ及び信号Vyのデータに基づき、リフトオフLと信号Vyとの関係を示す次式(1)で表される近似式を算出する。
L=a1(Vy)2+b1Vy+c1 ・・・・(1)
ここで、上記式(1)におけるVyは、信号Vyの電圧値を意味する。
【0045】
つまり、リフトオフLを式(1)に示すVyの2次式で近似するべく、図3(b)において破線で囲った実肉厚値1.8mmの実リフトオフ及び信号Vyのデータを用いて最小二乗法を適用することにより、上記近似式(1)の係数a1、b1及びc1を決定する。なお、本実施形態では、リフトオフLをVyの2次式で近似したが、本発明はこれに限るものではなく、より高次の近似式で近似することも可能である。
【0046】
次に、図2に示すように、前述のようにして採取した信号Vx(S1)について、実リフトオフ一定の条件下での実肉厚と信号Vxとに基づき、補正前肉厚と信号Vxとの関係を示す第2の近似式を算出する(S3)。より具体的には、例えば、図3(a)に示す実リフトオフ2mmの場合の実肉厚及び信号Vxのデータに基づき、補正前肉厚T1と信号Vxとの関係を示す次式(2)で表される近似式を算出する。
T1=a2(Vx)2+b2Vx+c2 ・・・・(2)
ここで、上記式(2)におけるVxは、信号Vxの電圧値を意味する。
【0047】
つまり、補正前肉厚T1を式(2)に示すVxの2次式で近似するべく、図3(a)に示す実リフトオフ2mmの実肉厚及び信号Vxのデータを用いて最小二乗法を適用することにより、近似式の係数a2、b2及びc2を決定する。なお、本実施形態では、補正前肉厚T1をVxの2次式で近似したが、本発明はこれに限るものではなく、より高次の近似式で近似することも可能である。また、本実施形態では、式(1)に示す第1の近似式を算出した後、式(2)に示す第2の近似式を算出する手順について説明したが、これらの順序を逆にすることも無論可能である。
【0048】
次に、前述のようにして採取した信号Vx(S1)に前記第2の近似式を適用することによって補正前肉厚T1を算出し、当該算出した補正前肉厚T1の測定誤差(=補正前肉厚T1−実肉厚)を算出する。図4は、図3に示すデータについて補正前肉厚T1の測定誤差を算出した結果を示すグラフである。ここで、前記第2の近似式は、特定の実リフトオフ(本実施形態では2mm)の場合の実肉厚及び信号Vxのデータを用いて算出したものであるため、図4に示すように、当該特定の実リフトオフ(2mm)における補正前肉厚T1の測定誤差は極めて小さくなるものの、他のリフトオフでは、誤差は大きくなってしまう。従って、リフトオフに依存する要因について補正を行う必要があることが分かる。ここで、図4に示すように、補正前肉厚T1の測定誤差は実肉厚の1次式で近似できることが分かる。そこで、本実施形態では、図2に示すように、補正前肉厚T1の測定誤差及び実肉厚に基づき、各実リフトオフのデータ毎に最小二乗法を適用して、補正前肉厚T1の測定誤差を実肉厚の1次式で近似するように構成している(S4)。つまり、測定誤差をG、実肉厚をT2とした場合に、次式(3)で表される近似式を算出する。
G=αT2+β ・・・・(3)
【0049】
上記式(3)におけるα及びβは、それぞれ実リフトオフに応じて異なることになる。例えば、図4において、実リフトオフが3mmの場合にαは最も小さくなり、実リフトオフが1mmの場合にαは最も大きくなるが如くである。ここで、上記式(3)におけるα及びβは、それぞれ実リフトオフの1次式で近似できることが分かった。そこで、本実施形態では、図2に示すように、前記のようにして算出した実肉厚の1次式の傾きα及び切片βの実データと実リフトオフとに基づき、最小二乗法を適用して、前記傾きα及び切片βをそれぞれ次式(4)及び次式(5)で表されるリフトオフLの1次式で近似するように構成している(S5)。
α=aL+b ・・・・(4)
β=cL+d ・・・・(5)
【0050】
つまり、傾きα及び切片βをそれぞれ式(4)及び式(5)に示すリフトオフLの1次式で近似するべく、各実リフトオフ毎に算出したα及びβのデータと、各α及びβに対応する実リフトオフのデータとを用いて最小二乗法を適用することにより、上記近似式(4)及び(5)における係数a、b、c及びdを決定する。なお、本実施形態では、傾きα及び切片βをリフトオフLの1次式で近似したが、本発明はこれに限るものではなく、より高次の近似式で近似することも可能である。
【0051】
以上の手順で算出した式(4)及び式(5)を式(3)に代入すれば、
が得られる。
また、G=T1−T2であるため、これを上記式(6)に代入すれば、
T1−T2=(aL+b)T2+cL+d
となり、これを変形すれば、
となり、さらにこれを変形すれば、
T2=(T1−(cL+d))/(aL+b+1) ・・・・(7)
が得られる。
【0052】
上記式(7)は、実肉厚T2と、補正前肉厚T1及びリフトオフLとの関係を示す近似式であるため、式(7)の右辺を計算し、これを最終的なクラッド材P2の肉厚測定値DP2とすることにより、実肉厚T2との誤差が少ない肉厚測定が可能となる。すなわち、補正前肉厚T1及びリフトオフLを変数として肉厚測定値DP2を算出する以下の第3の近似式(8)が得られる(図2のS6)。
DP2=(T1−(cL+d))/(aL+b+1) ・・・・(8)
【0053】
以上のようにして算出した第1の近似式(式(1))、第2の近似式(式(2))及び第3の近似式(式(8))は、演算処理部4に記憶保存され(S7)、以降に説明する測定ステップで使用される。なお、以上に説明した校正ステップの一連の手順の内、複数の試料についてデータを採取(S1)した後の手順(S2〜S8)は、人手を介して実施することができる他、予め演算処理部4に一連の手順(S2〜S8)をプログラミングしておくことにより、自動化することも可能である。
【0054】
(B)測定ステップ
本ステップでは、前記校正ステップによって予め算出され、記憶保存された第1〜第3の近似式を用いて、被測定対象となるクラッド鋼管Pのクラッド材P2の肉厚測定値DP2が自動的に算出される。つまり、被測定対象物たるクラッド鋼管Pについて採取した信号Vxに前記第2の近似式を適用することによって補正前肉厚T1を算出し、同じクラッド鋼管Pについて採取した信号Vyに前記第1の近似式を適用することによってリフトオフLを算出し、さらに、前記算出した補正前肉厚T1及びリフトオフLに前記第3の近似式を適用することによって、前記クラッド鋼管Pの肉厚測定値DP2を算出する。
【0055】
以上に説明したように、本実施形態に係る肉厚測定方法によれば、第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式が、それぞれ連続関数で表されているため、従来のように、補正前肉厚の属する領域に応じて異なる近似式が適用されることに起因した誤差が生じることはなく、高精度に肉厚を測定することが可能である。従って、本実施形態に係る肉厚測定方法を鋼管の製造過程に適用すれば、高精度に肉厚の測定がなされるため、製造される鋼管について信頼性の高い品質管理を行うことが可能である。
【0056】
図5は、図3に示す校正用試料について採取した信号Vx及びVyに、第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式を適用して算出した肉厚測定値DP2の測定誤差(=肉厚測定値DP2−実肉厚)を算出した結果を示すグラフである。図5に示すように、リフトオフ変動2±1mm、実肉厚の範囲1.5〜3.0mmにおいて、測定誤差は、σ=0.080mmであり、同じ試料について従来の肉厚測定方法(特許文献1参照)を適用した場合の測定誤差がσ=0.145mmであったのに対し、大幅に測定精度が向上することが分かった。
【0057】
なお、本実施形態では、本発明に係る肉厚測定方法をクラッド鋼管の肉厚(クラッド厚)測定に適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明は、無論これに限るものではなく、電磁誘導現象を利用して被測定対象物に対向配置されたプローブコイルのインピーダンス変化を検出し、当該検出信号に基づいて肉厚を測定する全ての方法に適用可能である。
【0058】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明に係る肉厚測定方法によれば、校正ステップにおいて、実肉厚及び実リフトオフが既知の試料に基づき、リフトオフと信号Vyとの関係を連続関数で表す第1の近似式と、補正前肉厚と信号Vxとの関係を連続関数で表す第2の近似式と、補正前肉厚及びリフトオフを変数として肉厚測定値を算出する連続関数で表された第3の近似式とを予め算出しておき、測定ステップにおいて、被測定対象物について採取した信号Vx及び信号Vyに、第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式を順次適用することにより、肉厚測定値を算出することが可能である。第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式は、それぞれ連続関数で表されているため、従来のように、補正前肉厚の属する領域に応じて異なる近似式が適用されることに起因した誤差が生じることはなく、高精度に肉厚を測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明に係る肉厚測定方法を適用したクラッド鋼管用肉厚測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、校正ステップにおける手順の概要を示すフロー図である。
【図3】図3は、校正ステップにおけるデータ採取結果の一例を示すグラフである。
【図4】図4は、図3に示すデータについて補正前肉厚の測定誤差を算出した結果を示すグラフである。
【図5】図5は、図3に示すデータについて肉厚測定値の測定誤差を算出した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1…測定ヘッド部 2…超音波肉厚測定回路部
3…渦電流肉厚測定回路部 4…演算処理部
【発明の属する技術分野】
本発明は、クラッド鋼管等の肉厚を電磁誘導現象を利用して測定する方法及びこの方法を用いた鋼管の製造方法に関し、特に、プローブコイルのリフトオフ変動の影響を低減し、高精度に肉厚を測定することができる肉厚測定方法及びこの方法を用いた鋼管の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
母材の外周又は内周にクラッド材を冶金的に接合した積層構造を有するクラッド鋼管は、用途に応じたクラッド材を選択することによって材料強度を維持することができ、特殊雰囲気下での耐酸性等に優れる他、管材コストを低減することができるものとして広く使用されている。斯かるクラッド材の肉厚は、クラッド鋼管の性能や寿命を保証する上で重要な管理項目であるため、従来より種々の肉厚測定技術が提案されている。
【0003】
従来、クラッド材の肉厚(以下、適宜クラッド厚という)を測定する方法としては、電磁誘導現象を利用してクラッド鋼管に対向配置されたプローブコイルのインピーダンス変化を検出し、当該検出信号に基づいて肉厚を算出する方法が知られている。より具体的には、前記検出信号を位相解析することによって、クラッド材の肉厚変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vxと、プローブコイルのリフトオフ変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vyとに分別した後、信号Vxを用いてクラッド材の肉厚を算出するものである。ここで、信号Vx(例えば電圧値)を用いてクラッド厚を算出する際には、互いに異なる既知のクラッド厚(実測値)を有する複数の試料に対して、プローブコイルのリフトオフ(実測値)を一定として信号Vxを採取し、採取した信号Vxとクラッド厚(実測値)とに基づき、例えば最小二乗法を適用して、クラッド厚(測定値)と信号Vxとの関係を示す近似式(例えば2次式)を予め算出しておく。次に、被測定対象であるクラッド管について、前記と同じリフトオフ(実測値)で信号Vxを採取し、採取した信号Vxに前記近似式を適用することによって、クラッド厚(測定値)を算出する。
【0004】
つまり、従来のクラッド厚測定方法は、既知のクラッド厚と信号Vxとの関係を示す近似式を予め算出しておき、信号Vxに前記近似式を適用して未知のクラッド厚を算出するというものである。斯かるクラッド厚測定方法は、プローブコイルをクラッド鋼管に密着させるためのローラー方式の追従機構を用いるため、プローブコイルのリフトオフが一定であることを前提としており、リフトオフが変動すれば、これに応じて測定値に誤差が生じるものである。しかしながら、クラッド鋼管製造工程等においてクラッド厚を測定する場合には、クラッド鋼管に存在する曲りや湾曲によってリフトオフは変動するため、プローブコイルのリフトオフを一定に保つことは実際上困難である。また、母材の内周にクラッド材を接合したクラッド鋼管を被測定対象とする場合には、長尺の竿状部材の先端に追従機構を設けてプローブコイルを内挿する方法が用いられるが、クラッド鋼管の回転に伴い竿状部材が横振れすることにより、プローブコイルのリフトオフが変化することになる。このように、上記した従来のクラッド厚測定方法では、リフトオフの変動に伴う測定誤差が生じるという問題がある。
【0005】
そこで、リフトオフの変動を考慮した補正値を前記測定値に加算することにより、測定誤差を低減する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上記特許文献1に開示されたクラッド厚測定方法は、インピーダンス変化の検出信号を位相解析することによって、クラッド材の肉厚変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vxと、プローブコイルのリフトオフ変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vyとに分別する点で、前述した従来技術と共通するものの、信号Vxのみならず信号Vyをも用いてクラッド材の肉厚を算出する点で相違する。
【0007】
具体的には、前述した従来技術と同様に、リフトオフ(実測値)一定の条件下で採取した信号Vxとクラッド厚(実測値)とに基づき、クラッド厚(測定値)と信号Vxとの関係を示す近似式を予め算出しておく。次に、被測定対象であるクラッド管について、リフトオフ(実測値)を適宜変更して信号Vx及び信号Vyを採取し、採取した信号Vxに前記近似式を適用することによって、クラッド厚(測定値)を算出する。なお、上記特許文献1では、以上のようにして算出されたクラッド厚が記号「d」で示されている。
【0008】
次に、以上のようにして算出したクラッド厚dとこれに対応するクラッド厚(実測値)とから測定誤差を算出し、当該測定誤差とこれに対応する信号Vyとに基づき、補正値Δdと信号Vyとの関係を示す近似式を算出する。
【0009】
上記特許文献1に開示されたクラッド厚測定方法は、以上のようにして算出した補正値を、上記信号Vxを用いて算出したクラッド厚に加算し、最終的なクラッド厚測定値(上記特許文献1では、記号「Dp2」で示されている)としている。このように、プローブコイルのリフトオフの変動を考慮した補正、つまり信号Vyを考慮した補正を行うため、リフトオフが一定であることを前提とした測定方法に比べて、リフトオフ変動に伴う測定誤差を低減し得ることが期待できる。
【0010】
【特許文献1】
特公平5−63722号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたクラッド厚測定方法では、リフトオフの変動を考慮した補正値Δdがクラッド厚に依存することに鑑み、クラッド厚を複数の領域に細分化し、各領域毎に算出された補正値Δdmと信号Vyとの近似式を用いて補正を行う構成としている。従って、各領域の境界における補正値の連続性は何ら考慮されておらず、僅かなクラッド厚dの差異によっても、異なる領域の近似式がそれぞれ適用される場合がある。その結果、各クラッド厚dに適用される補正値の差異が大きくなり、特に各領域の境界部において、最終的なクラッド厚測定値の誤差が大きくなる恐れがあるという問題がある。また、前記領域は、信号Vxを用いて算出したクラッド厚dで区画されており、算出されたクラッド厚d自体に既に誤差が内在しているため、本来であれば適用されるべき近似式とは異なる近似式が適用される結果、最終的なクラッド厚測定値の誤差が大きくなる恐れがあるという問題もある。
【0012】
以上では、クラッド鋼管を構成するクラッド材の肉厚を測定する場合を例に挙げて説明したが、電磁誘導現象を利用して被測定対象物に対向配置されたプローブコイルのインピーダンス変化を検出し、当該検出信号に基づいて肉厚を測定する測定方法全般に共通する問題点である。つまり、プローブコイルのリフトオフの変動に伴う測定誤差を低減するべく、特許文献1に開示されているようなリフトオフの変動を考慮した補正を行う方法が提案されているものの、十分な誤差の低減が図られていないという問題がある。
【0013】
本発明は、斯かる従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、電磁誘導現象を利用して被測定対象物に対向配置されたプローブコイルのインピーダンス変化を検出し、当該検出信号に基づいて肉厚を測定する方法において、プローブコイルのリフトオフ変動の影響を低減し、高精度に肉厚を測定することができる肉厚測定方法及びこの方法を用いた鋼管の製造方法を提供することを課題とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するべく、本発明は、請求項1に記載の如く、電磁誘導現象を利用して被測定対象物に対向配置されたプローブコイルのインピーダンス変化を検出し、当該検出信号を位相解析することによって、被測定対象物の肉厚変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vxと、プローブコイルのリフトオフ変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vyとに分別し、信号Vx及び信号Vyを用いて被測定対象物の肉厚を測定する方法であって、異なる実肉厚を有する複数の試料のそれぞれについて、プローブコイルの実リフトオフを適宜変更して信号Vx及び信号Vyを採取し、リフトオフと信号Vyとの関係を連続関数で表す第1の近似式と、補正前肉厚と信号Vxとの関係を連続関数で表す第2の近似式と、補正前肉厚及びリフトオフを変数として肉厚測定値を算出する連続関数で表された第3の近似式とを予め算出する校正ステップと、被測定対象物について採取した信号Vxに前記第2の近似式を適用することによって補正前肉厚を算出し、被測定対象物について採取した信号Vyに前記第1の近似式を適用することによってリフトオフを算出し、前記算出した補正前肉厚及びリフトオフに前記第3の近似式を適用することによって被測定対象物の肉厚測定値を算出する測定ステップとを含むことを特徴とする肉厚測定方法を提供するものである。
【0015】
本発明の発明者は、肉厚測定値に対するプローブコイルのリフトオフ変動の影響を鋭意検討した結果、測定値誤差(信号Vxに基づいて算出した補正前肉厚と実肉厚との差)が、実肉厚と実リフトオフとを変数とする連続関数で定式化できることを見出した。従って、前記連続関数を変形することにより、実肉厚は、補正前肉厚と実リフトオフとを変数とする他の連続関数で定式化できることになるため、補正前肉厚及び実リフトオフに定式化された前記他の連続関数を適用することにより、実肉厚(肉厚測定値)を算出することが可能である。
【0016】
請求項1に係る発明は、本発明の発明者が見出した前記知見に基づき完成したものであり、校正ステップにおいて、実肉厚及び実リフトオフが既知の試料に基づき、リフトオフと信号Vyとの関係を連続関数で表す第1の近似式と、補正前肉厚と信号Vxとの関係を連続関数で表す第2の近似式と、補正前肉厚及びリフトオフを変数として肉厚測定値を算出する連続関数で表された第3の近似式とを予め算出しておき、測定ステップにおいて、被測定対象物について採取した信号Vx及び信号Vyに、第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式を順次適用することにより、肉厚測定値を算出することが可能である。なお、第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式は、最小二乗法等の公知の近似式算出手法をそれぞれ適用して算出すればよい。第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式は、それぞれ連続関数で表されているため、前述した特許文献1に記載の方法等のように、補正前肉厚の属する領域に応じて異なる近似式が適用されることに起因した誤差が生じることはなく、高精度に肉厚を測定することが可能である。
【0017】
前記校正ステップは、より具体的には、請求項2に記載の如く、異なる実肉厚を有する複数の試料のそれぞれについて、プローブコイルの実リフトオフを適宜変更して信号Vx及び信号Vyを採取する第1ステップと、前記第1ステップで採取した信号Vx及び信号Vyについて、実肉厚一定の条件下での実リフトオフと信号Vyとに基づき、前記第1の近似式を算出すると共に、実リフトオフ一定の条件下での実肉厚と信号Vxとに基づき、前記第2の近似式を算出する第2ステップと、前記第1ステップで採取した信号Vxに前記第2の近似式を適用することによって補正前肉厚を算出し、当該算出した補正前肉厚の測定誤差を各実リフトオフ毎に実肉厚の1次式で近似する第3ステップと、前記実肉厚の1次式の傾き及び切片と実リフトオフとに基づき、前記傾き及び切片をそれぞれリフトオフの1次式で近似する第4ステップと、前記第3ステップで算出した実肉厚の1次式と、前記第4ステップで算出したリフトオフの1次式とに基づき、前記第3の近似式を算出する第5ステップとを含むのが好ましい。
【0018】
本発明は、請求項3に記載の如く、前記被測定対象物が、母材の外周又は内周にクラッド材を接合したクラッド鋼管とされ、当該クラッド鋼管のクラッド材の肉厚を測定するのに好適に用いられる。
【0019】
また、本発明は、請求項4に記載の如く、請求項1から3のいずれかに記載の方法を用いて肉厚を測定することを特徴とする鋼管の製造方法としても提供される。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、鋼管の製造過程において、高精度に肉厚の測定がなされるため、製造される鋼管について信頼性の高い品質管理を行うことが可能である。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について、クラッド鋼管の肉厚測定に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る肉厚測定方法を適用したクラッド鋼管用肉厚測定装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、クラッド鋼管用肉厚測定装置は、クラッド鋼管Pに対向配置された測定ヘッド部1と、超音波肉厚測定回路部2と、渦電流肉厚測定回路部3と、演算処理部4とを備えている。
【0023】
クラッド鋼管Pは、例えば、炭素鋼製の母材P1の外周に、オーステナイト系等のステンレス鋼製のクラッド材P2を冶金接合したものである。
【0024】
測定ヘッド部1は、ハウジング11と、ハウジング11に取り付けられた超音波受発信器12、第1コイル13及び第2コイル14とを備え、クラッド鋼管P表面と所定の間隔を隔てて対向配置されており、クラッド鋼管Pをスパイラル状に移動させることにより、連続的な肉厚の測定が可能とされている。
【0025】
ハウジング11は、その内部中央に上下方向に延びる水室11aと、水室11aの側部に連結された上下2本の給水管11bと、水室11aの下端に形成されクラッド鋼管Pに面して開口するノズル11cとを備えている。
【0026】
超音波受発信器12は、クラッド鋼管Pの全肉厚を測定するためのプローブであり、超音波の伝搬方向がノズル11cの中心を通ってクラッド鋼管Pの表面と直交するように、水室11aの上部壁に配設されている。
【0027】
第1コイル13は、クラッド鋼管Pのクラッド材P2の肉厚(クラッド厚)を測定するための電磁誘導用のプローブコイルであり、ノズル11cの外周にこれと同心状に配設されている。
【0028】
第2コイル14は、超音波の伝搬媒質である水の温度補正を行うための電磁誘導用のコイルであり、第1コイル13近傍の下側の給水管11bの外周にこれと同心状に配設されている。
【0029】
超音波肉厚測定回路部2は、超音波受発信器12に接続され、渦電流肉厚測定回路部3は、第1コイル13及び第2コイル14に接続されている。また、演算処理部4は、超音波肉厚測定回路部2及び渦電流肉厚測定回路部3に接続されている。以下、超音波肉厚測定回路部2、渦電流肉厚測定回路部3及び演算処理部4について、より具体的に説明する。
【0030】
(1)超音波肉厚測定回路部
超音波測定回路部2は、超音波受発信器12に発振信号を出力し、これにより、超音波受発信器12は、超音波を発生する。斯かる超音波は、水室11a内に形成された水柱内を伝搬し、クラッド鋼管Pのクラッド材P2表面の直径略1mmの領域内に直角に入射する。
【0031】
クラッド材P2に入射した超音波は、クラッド材P2の外面及び母材P1の内面においてそれぞれ一部が反射され、各反射波は、再び水室11a内の水柱を伝播して超音波受発信器12で受信される。
【0032】
超音波受発信器12で受信された反射波は、電気信号に変換されて、超音波測定回路部2に送信される。超音波測定回路部2は、クラッド材P2外面での反射波の立ち上がり時間と、母材P1内面での反射波の立ち上がり時間との時間差に相当する信号を生成し、これを演算処理部4に出力する。なお、超音波測定回路部2の具体的構成は、公知の一般的な超音波測定機器の回路構成と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0033】
(2)渦電流肉厚測定回路部
渦電流肉厚測定回路部3は、発振器31と、ブリッジ回路32と、増幅器33と、同期検波回路34と、位相回転器35と、A/D変換器36とを備えている。
【0034】
第1コイル13及び第2コイル14は、ブリッジ回路32における相隣する2辺に相互に直列状態となるように接続されており、発振器31から出力された発振信号は、ブリッジ回路32を介して、第1コイル13及び第2コイル14に入力される。第1コイル13に電流が通電すると、クラッド材P2の表面と直交する方向に磁界が形成され、これによってクラッド材P2の表面に渦電流が誘起される。また、第2コイル14に電流が通電すると、給水管11b内の水の流動方向と同じ方向に磁界が形成される。
【0035】
ここで、第1コイル13とクラッド材P2との距離であるリフトオフや、クラッド材P2の肉厚が変化すると、第1コイル13のインピーダンスが変化することになる。また、水温が変化すると、第1コイル13及び第2コイル14の温度が変化し、これらのインピーダンスが変化することになる。
【0036】
ブリッジ回路32の調整は、測定ヘッド部1の直前に設けたフォトセンサ等の検出器(図示せず)によってクラッド鋼管Pの先端を検出し、且つ、第1コイル13が空芯状態、すなわち、第1コイル13にクラッド鋼管Pが対向しない状態のときに、給水管11bに水を流してノズル11cから水を噴射させ、ブリッジ回路32が平衡状態となるように調整される。
【0037】
従って、ブリッジ回路32からは、第1コイル13及び第2コイル14の水温変化によるインピーダンス変化が相殺された信号、すなわち、超音波伝搬媒質である水の温度変化に影響されない信号のみが出力されることになる。換言すれば、第1コイル13にクラッド鋼管Pを対向させ、第1コイル13のインピーダンスが変化したときにのみブリッジ回路32は非平衡状態となり、第1コイル13のリフトオフとクラッド材P2の肉厚に応じた非平衡信号が出力されることになる。斯かる非平衡信号は、増幅器33を介して、同期検波回路34に入力される。
【0038】
同期検波回路34は、入力信号を位相解析して、X軸方向及びY軸方向の2つの信号に分別して、位相回転器35に出力する。位相回転器35は、予め基準片を用いて位相回転器35及び増幅器33を調整することにより、第1コイル13のリフトオフ変動によるインピーダンス変化によって得られる信号VyをY軸方向に、また、予め発振器31の周波数を調整して、クラッド材P2の肉厚変動によるインピーダンス変化によって得られる信号VxをX軸方向に、それぞれ表示するように設定されている。なお、信号Vx及び信号Vyは、クラッド厚が既知(例えば、1.8mm)のクラッド鋼管Pを用いて、リフトオフ一定(例えば、2mm)の条件下で得られる信号Vx及び信号Vyの電圧がそれぞれ所定値(例えば、Vx=0[V]、Vy=4[V])になるようにキャリブレーションされる。
【0039】
位相回転器35から出力された信号Vx及び信号Vyは、A/D変換器36でデジタル信号に変換された後、演算処理部4に入力される。
【0040】
(3)演算処理部
演算処理部4は、超音波測定回路部2からの入力信号に基づき、クラッド鋼管Pの全肉厚Dを算出する。より具体的には、前記入力信号(クラッド材P2外面での反射波の立ち上がり時間と、母材P1内面での反射波の立ち上がり時間との時間差に相当する信号)と伝搬媒質中の音速との積を演算し、これを全肉厚Dとして算出する。
【0041】
また、演算処理部4は、渦電流肉厚測定回路部3からの入力信号に基づき、クラッド材P2の肉厚DP2を算出する。さらに、全肉厚Dからクラッド材P2の肉厚DP2を減算して母材P1の肉厚DP1を算出し、これらを出力するように構成されている。以下、演算処理部4におけるクラッド材P2の肉厚DP2算出方法について、具体的に説明する。
【0042】
演算処理部4におけるクラッド厚DP2算出方法は、大別して(A)校正ステップと、(B)測定ステップとに大別される。以下、これら各ステップについて順次説明する。
【0043】
(A)校正ステップ
図2は、校正ステップにおける手順の概要を示すフロー図である。図2に示すように、本ステップでは、まず最初に、異なる実肉厚(クラッド厚の実測値)を有する複数の試料(被測定対象となるクラッド鋼管Pと同一種の鋼管)のそれぞれについて、第1コイル13の実リフトオフを適宜変更して信号Vx及び信号Vyを採取する(S1)。換言すれば、実肉厚の値、実リフトオフの値並びにこれら条件下での信号Vx及び信号Vyの電圧値がそれぞれデータ採取されて関連付けられる。図3は、データ採取結果の一例を示すグラフであり、(a)は種々の実リフトオフについて採取した実肉厚と信号Vx(電圧値)との関係を、(b)は種々の実リフトオフについて採取した実肉厚と信号Vy(電圧値)との関係をそれぞれ示す。図3に示す例では、実肉厚(グラフの横軸)として、およそ1.5mm〜3mmまでの試料を用意し、実リフトオフを1mm〜3mmまで変更してデータ採取している。
【0044】
次に、図2に示すように、前述のようにして採取した信号Vy(S1)について、実肉厚一定の条件下での実リフトオフと信号Vyとに基づき、リフトオフと信号Vyとの関係を示す第1の近似式を算出する(S2)。より具体的には、例えば、図3(b)において破線で囲った実肉厚値1.8mmの場合の実リフトオフ及び信号Vyのデータに基づき、リフトオフLと信号Vyとの関係を示す次式(1)で表される近似式を算出する。
L=a1(Vy)2+b1Vy+c1 ・・・・(1)
ここで、上記式(1)におけるVyは、信号Vyの電圧値を意味する。
【0045】
つまり、リフトオフLを式(1)に示すVyの2次式で近似するべく、図3(b)において破線で囲った実肉厚値1.8mmの実リフトオフ及び信号Vyのデータを用いて最小二乗法を適用することにより、上記近似式(1)の係数a1、b1及びc1を決定する。なお、本実施形態では、リフトオフLをVyの2次式で近似したが、本発明はこれに限るものではなく、より高次の近似式で近似することも可能である。
【0046】
次に、図2に示すように、前述のようにして採取した信号Vx(S1)について、実リフトオフ一定の条件下での実肉厚と信号Vxとに基づき、補正前肉厚と信号Vxとの関係を示す第2の近似式を算出する(S3)。より具体的には、例えば、図3(a)に示す実リフトオフ2mmの場合の実肉厚及び信号Vxのデータに基づき、補正前肉厚T1と信号Vxとの関係を示す次式(2)で表される近似式を算出する。
T1=a2(Vx)2+b2Vx+c2 ・・・・(2)
ここで、上記式(2)におけるVxは、信号Vxの電圧値を意味する。
【0047】
つまり、補正前肉厚T1を式(2)に示すVxの2次式で近似するべく、図3(a)に示す実リフトオフ2mmの実肉厚及び信号Vxのデータを用いて最小二乗法を適用することにより、近似式の係数a2、b2及びc2を決定する。なお、本実施形態では、補正前肉厚T1をVxの2次式で近似したが、本発明はこれに限るものではなく、より高次の近似式で近似することも可能である。また、本実施形態では、式(1)に示す第1の近似式を算出した後、式(2)に示す第2の近似式を算出する手順について説明したが、これらの順序を逆にすることも無論可能である。
【0048】
次に、前述のようにして採取した信号Vx(S1)に前記第2の近似式を適用することによって補正前肉厚T1を算出し、当該算出した補正前肉厚T1の測定誤差(=補正前肉厚T1−実肉厚)を算出する。図4は、図3に示すデータについて補正前肉厚T1の測定誤差を算出した結果を示すグラフである。ここで、前記第2の近似式は、特定の実リフトオフ(本実施形態では2mm)の場合の実肉厚及び信号Vxのデータを用いて算出したものであるため、図4に示すように、当該特定の実リフトオフ(2mm)における補正前肉厚T1の測定誤差は極めて小さくなるものの、他のリフトオフでは、誤差は大きくなってしまう。従って、リフトオフに依存する要因について補正を行う必要があることが分かる。ここで、図4に示すように、補正前肉厚T1の測定誤差は実肉厚の1次式で近似できることが分かる。そこで、本実施形態では、図2に示すように、補正前肉厚T1の測定誤差及び実肉厚に基づき、各実リフトオフのデータ毎に最小二乗法を適用して、補正前肉厚T1の測定誤差を実肉厚の1次式で近似するように構成している(S4)。つまり、測定誤差をG、実肉厚をT2とした場合に、次式(3)で表される近似式を算出する。
G=αT2+β ・・・・(3)
【0049】
上記式(3)におけるα及びβは、それぞれ実リフトオフに応じて異なることになる。例えば、図4において、実リフトオフが3mmの場合にαは最も小さくなり、実リフトオフが1mmの場合にαは最も大きくなるが如くである。ここで、上記式(3)におけるα及びβは、それぞれ実リフトオフの1次式で近似できることが分かった。そこで、本実施形態では、図2に示すように、前記のようにして算出した実肉厚の1次式の傾きα及び切片βの実データと実リフトオフとに基づき、最小二乗法を適用して、前記傾きα及び切片βをそれぞれ次式(4)及び次式(5)で表されるリフトオフLの1次式で近似するように構成している(S5)。
α=aL+b ・・・・(4)
β=cL+d ・・・・(5)
【0050】
つまり、傾きα及び切片βをそれぞれ式(4)及び式(5)に示すリフトオフLの1次式で近似するべく、各実リフトオフ毎に算出したα及びβのデータと、各α及びβに対応する実リフトオフのデータとを用いて最小二乗法を適用することにより、上記近似式(4)及び(5)における係数a、b、c及びdを決定する。なお、本実施形態では、傾きα及び切片βをリフトオフLの1次式で近似したが、本発明はこれに限るものではなく、より高次の近似式で近似することも可能である。
【0051】
以上の手順で算出した式(4)及び式(5)を式(3)に代入すれば、
が得られる。
また、G=T1−T2であるため、これを上記式(6)に代入すれば、
T1−T2=(aL+b)T2+cL+d
となり、これを変形すれば、
となり、さらにこれを変形すれば、
T2=(T1−(cL+d))/(aL+b+1) ・・・・(7)
が得られる。
【0052】
上記式(7)は、実肉厚T2と、補正前肉厚T1及びリフトオフLとの関係を示す近似式であるため、式(7)の右辺を計算し、これを最終的なクラッド材P2の肉厚測定値DP2とすることにより、実肉厚T2との誤差が少ない肉厚測定が可能となる。すなわち、補正前肉厚T1及びリフトオフLを変数として肉厚測定値DP2を算出する以下の第3の近似式(8)が得られる(図2のS6)。
DP2=(T1−(cL+d))/(aL+b+1) ・・・・(8)
【0053】
以上のようにして算出した第1の近似式(式(1))、第2の近似式(式(2))及び第3の近似式(式(8))は、演算処理部4に記憶保存され(S7)、以降に説明する測定ステップで使用される。なお、以上に説明した校正ステップの一連の手順の内、複数の試料についてデータを採取(S1)した後の手順(S2〜S8)は、人手を介して実施することができる他、予め演算処理部4に一連の手順(S2〜S8)をプログラミングしておくことにより、自動化することも可能である。
【0054】
(B)測定ステップ
本ステップでは、前記校正ステップによって予め算出され、記憶保存された第1〜第3の近似式を用いて、被測定対象となるクラッド鋼管Pのクラッド材P2の肉厚測定値DP2が自動的に算出される。つまり、被測定対象物たるクラッド鋼管Pについて採取した信号Vxに前記第2の近似式を適用することによって補正前肉厚T1を算出し、同じクラッド鋼管Pについて採取した信号Vyに前記第1の近似式を適用することによってリフトオフLを算出し、さらに、前記算出した補正前肉厚T1及びリフトオフLに前記第3の近似式を適用することによって、前記クラッド鋼管Pの肉厚測定値DP2を算出する。
【0055】
以上に説明したように、本実施形態に係る肉厚測定方法によれば、第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式が、それぞれ連続関数で表されているため、従来のように、補正前肉厚の属する領域に応じて異なる近似式が適用されることに起因した誤差が生じることはなく、高精度に肉厚を測定することが可能である。従って、本実施形態に係る肉厚測定方法を鋼管の製造過程に適用すれば、高精度に肉厚の測定がなされるため、製造される鋼管について信頼性の高い品質管理を行うことが可能である。
【0056】
図5は、図3に示す校正用試料について採取した信号Vx及びVyに、第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式を適用して算出した肉厚測定値DP2の測定誤差(=肉厚測定値DP2−実肉厚)を算出した結果を示すグラフである。図5に示すように、リフトオフ変動2±1mm、実肉厚の範囲1.5〜3.0mmにおいて、測定誤差は、σ=0.080mmであり、同じ試料について従来の肉厚測定方法(特許文献1参照)を適用した場合の測定誤差がσ=0.145mmであったのに対し、大幅に測定精度が向上することが分かった。
【0057】
なお、本実施形態では、本発明に係る肉厚測定方法をクラッド鋼管の肉厚(クラッド厚)測定に適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明は、無論これに限るものではなく、電磁誘導現象を利用して被測定対象物に対向配置されたプローブコイルのインピーダンス変化を検出し、当該検出信号に基づいて肉厚を測定する全ての方法に適用可能である。
【0058】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明に係る肉厚測定方法によれば、校正ステップにおいて、実肉厚及び実リフトオフが既知の試料に基づき、リフトオフと信号Vyとの関係を連続関数で表す第1の近似式と、補正前肉厚と信号Vxとの関係を連続関数で表す第2の近似式と、補正前肉厚及びリフトオフを変数として肉厚測定値を算出する連続関数で表された第3の近似式とを予め算出しておき、測定ステップにおいて、被測定対象物について採取した信号Vx及び信号Vyに、第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式を順次適用することにより、肉厚測定値を算出することが可能である。第1の近似式、第2の近似式及び第3の近似式は、それぞれ連続関数で表されているため、従来のように、補正前肉厚の属する領域に応じて異なる近似式が適用されることに起因した誤差が生じることはなく、高精度に肉厚を測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明に係る肉厚測定方法を適用したクラッド鋼管用肉厚測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、校正ステップにおける手順の概要を示すフロー図である。
【図3】図3は、校正ステップにおけるデータ採取結果の一例を示すグラフである。
【図4】図4は、図3に示すデータについて補正前肉厚の測定誤差を算出した結果を示すグラフである。
【図5】図5は、図3に示すデータについて肉厚測定値の測定誤差を算出した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1…測定ヘッド部 2…超音波肉厚測定回路部
3…渦電流肉厚測定回路部 4…演算処理部
Claims (4)
- 電磁誘導現象を利用して被測定対象物に対向配置されたプローブコイルのインピーダンス変化を検出し、当該検出信号を位相解析することによって、被測定対象物の肉厚変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vxと、プローブコイルのリフトオフ変動によるインピーダンス変化によって得られる信号Vyとに分別し、信号Vx及び信号Vyを用いて被測定対象物の肉厚を測定する方法であって、
異なる実肉厚を有する複数の試料のそれぞれについて、プローブコイルの実リフトオフを適宜変更して信号Vx及び信号Vyを採取し、リフトオフと信号Vyとの関係を連続関数で表す第1の近似式と、補正前肉厚と信号Vxとの関係を連続関数で表す第2の近似式と、補正前肉厚及びリフトオフを変数として肉厚測定値を算出する連続関数で表された第3の近似式とを予め算出する校正ステップと、
被測定対象物について採取した信号Vxに前記第2の近似式を適用することによって補正前肉厚を算出し、被測定対象物について採取した信号Vyに前記第1の近似式を適用することによってリフトオフを算出し、前記算出した補正前肉厚及びリフトオフに前記第3の近似式を適用することによって被測定対象物の肉厚測定値を算出する測定ステップとを含むことを特徴とする肉厚測定方法。 - 前記校正ステップは、
異なる実肉厚を有する複数の試料のそれぞれについて、プローブコイルの実リフトオフを適宜変更して信号Vx及び信号Vyを採取する第1ステップと、
前記第1ステップで採取した信号Vx及び信号Vyについて、実肉厚一定の条件下での実リフトオフと信号Vyとに基づき、前記第1の近似式を算出すると共に、実リフトオフ一定の条件下での実肉厚と信号Vxとに基づき、前記第2の近似式を算出する第2ステップと、
前記第1ステップで採取した信号Vxに前記第2の近似式を適用することによって補正前肉厚を算出し、当該算出した補正前肉厚の測定誤差を各実リフトオフ毎に実肉厚の1次式で近似する第3ステップと、
前記実肉厚の1次式の傾き及び切片と実リフトオフとに基づき、前記傾き及び切片をそれぞれリフトオフの1次式で近似する第4ステップと、
前記第3ステップで算出した実肉厚の1次式と、前記第4ステップで算出したリフトオフの1次式とに基づき、前記第3の近似式を算出する第5ステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載の肉厚測定方法。 - 前記被測定対象物は、母材の外周又は内周にクラッド材を接合したクラッド鋼管とされ、
当該クラッド鋼管のクラッド材の肉厚を測定することを特徴とする請求項1又は2に記載の肉厚測定方法。 - 請求項1から3のいずれかに記載の方法を用いて肉厚を測定することを特徴とする鋼管の製造方法。
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