JP2004294125A - 試料調整器具、試料調整方法、元素分析方法 - Google Patents

試料調整器具、試料調整方法、元素分析方法 Download PDF

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康 川島
Takeru Suzuki
長 鈴木
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Abstract

【課題】耐久性が高く、構成材料の試料へ混入を著しく減少でき、かつ過去に使用した試料による影響を受けることが少ない試料調整器具、試料調整方法、及び高精度の元素分析方法を提供することできる。
【解決手段】
この試料調整器具1は、試料調整部2と試料保持部3とから構成され、試料調整部2は試料と接する試料調整領域4を、試料保持部3は試料と接する試料調整領域5を有する。前記試料調整領域4における前記試料調整部2の基体にはダイヤモンド状炭素膜6が、前記試料調整領域5における前記試料保持部3の基体にはダイヤモンド状炭素膜7が、それぞれ形成されている。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料調整器具、試料調整方法、元素分析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電磁波又は粒子線を利用する元素分析法、例えば、蛍光X線分析や電子線プローブマイクロアナライザ(EMPA)分析などにおいては、試料が均一に混合されていないため、分析結果に誤差が生じる場合があることが知られている(不均一効果)。また、試料の粒径がそろっていないことにより、精度よく分析を行うことができない場合があることも知られている(粒径効果)。この不均一効果や粒径効果などの影響を少なくするために、試料の混合又は破砕等の調整を行う場合がある。
【0003】
また、ICP発光分析法やICP質量分析法、原子吸光光度法などの分析法に供する試料についても、試料内偏析の防止や試料の溶解性の向上等を目的に、試料の混合や破砕等の調整を行う場合がある。
【0004】
更に、薬剤、化粧品等の製造に際しては、材料となる試料を均一に混合したり試料の粒径を揃える等の目的により、試料の混合や破砕等の調整を行う場合がある。
【0005】
このような、試料を調整する器具としては、攪拌層内面と、攪拌用ブレードの表面を、混合対象素材と同種の材料よりなる被服部材により被覆する混合装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、分析試料を調整する方法としては、分析対象元素を含有しない試料調整器具を使用する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】
実開平6−34731号公報
【非特許文献1】
高木誠司著「定量分析の実験と計算‐第一巻‐改訂版」共立出版、昭和56年2月10日、p83‐85
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、混合対象素材と同材質の部材で被覆した混合装置を用いて素材の混合を行った場合、混合装置を構成する材料の混入が生じ、材料の組成比の変動が生じる。
【0008】
また、このような混合装置により混合した試料を用いて元素分析を行うと、分析結果に影響を与えることとなる。
【0009】
例えば、メノウ乳鉢による混合を行った場合、数百〜数千ppmの二酸化珪素が試料中に混入するため、微量の珪素の定量は困難になり、当然組成比もその混入量に比例して影響を受ける。
【0010】
たとえ分析対象元素を含有しない試料調整器具を使用したとしても、分析対象ではない元素が混入することで、依然として試料の組成比が変動する。
【0011】
更に、ある試料を調整した後、新たな別の試料の調整を行うと、前回調整を行った試料が試料調整器具表面に残存し、新たに調整を行おうとする試料に混入する場合もある。
【0012】
本発明は、耐久性が高く、構成材料の試料へ混入を著しく減少でき、かつ過去に調整した試料による影響を受けることが少ない試料調整器具、試料調整方法、元素分析方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る試料調整器具は、各々試料調整領域を有した試料調整部及び試料保持部を含んで成り、前記試料調整領域における前記試料調整部及び前記試料保持部の基体にダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜が形成されているものである。
【0014】
ここで、試料調整領域とは、これら試料調整部、試料保持部において、試料調整時に試料が混合や粉砕がされる領域である。
【0015】
試料調整領域にダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜が形成されていることにより、試料調整時に試料が試料調整器具の本体である基体に直接接することが殆どない。したがって、試料調整器具の構成材料が、試料中へ混入する可能性が著しく低くなる。
【0016】
特にダイヤモンド状炭素膜は、非常に優れたトライポロジー特性を有し、試料の調整後の試料調整器具の洗浄で試料の残留が殆どない。
【0017】
なお、試料調整部又は試料保持部の一方の基体にはダイヤモンド膜が形成され、他法の基体にはダイヤモンド状炭素膜が形成されていてもよい。
【0018】
さらに、ダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜の膜厚は1nm〜10μmとすることが好適である。膜厚が1nm未満である場合は、保護膜が完全に試料調整部を覆いきれずにいわゆるピンホールが発生する可能性が高くなり、また、10μmを超えると、ダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜の密着性が低下するためである。
【0019】
また、試料調整部と試料保持部の少なくとも一方の基体におけるダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜が形成される表面は、それらと基体の密着性を高めることができる程度に平滑とすることがやはり好適である。これにより、ダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜の剥離を少なくすることができる。
【0020】
更に、試料調整部と試料保持部の少なくとも一方において、基体とダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜との間に中間膜を形成することが好適である。
この中間膜の形成により、ダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜と、試料調整器具の基体との密着性を高め、保護膜の剥離を少なくすることが可能となる。
【0021】
そしてこの中間膜が1層構造である場合は、シリコン(Si)、タングステン(W)、炭化チタン(TiC)、炭化珪素(SiC)、炭化クロム(CrC)のうち少なくとも一つを含むことが好ましい。1層構造の場合の中間膜の膜厚は1μm程度であることがより好適である。
【0022】
また、この中間膜を、試料調整器具の基体に近い方から第一の中間層、第二の中間層の二層構造とし、第一の中間層はクロム(Cr)又はチタン(Ti)のうち少なくとも一つを含み、第二の中間層は、シリコン(Si)又はゲルマニウム(Ge)のうち少なくとも一つを含むこととしてもやはり好適である。第一、第二の中間層の膜厚は、それぞれ0.5μm程度とすることがさらに好適である。
【0023】
中間膜を2層構造とした場合の他の例としては、第一の中間層は、チタン(Ti)を含み、第二の中間層は、タングステン(W)、炭化タングステン(WC)、炭化珪素(SiC)、又は炭化チタン(TiC)のうちいずれか一つを含むこととしても好適である。
【0024】
この場合においても、第一、第二の中間層の膜厚は、それぞれ0.5μm程度とすることが好適である。これにより上述の場合と同様、試料調整器具の基体の表面とダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜との密着性を得られる。
【0025】
更に、この中間膜を、試料調整器具の基体に近い方から第一の中間層、第二の中間層、第三の中間層の三層構造とした場合、第一の中間層は少なくともチタン(Ti)を含み、第二の中間層は炭化チタン(TiC)又は炭化珪素(SiC)のうち少なくとも一つを含み、第三の中間層は炭素(C)を含むことが好ましい。
第一、第二、第三の中間層の膜厚は、それぞれ0.5μm程度とすることがさらに好適である。
【0026】
なお、中間膜は、4層以上の構造とすることもできる。
【0027】
また、本発明に係る試料調整方法は、試料調整器具により、試料調整を行い、この試料調整器具の試料調整領域における基体にダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜が形成されており、この試料調整領域で試料を混合及び破砕の少なくとも一方を行うステップを有するものである。
【0028】
このような構成の、試料調整器具のダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜を有する部分で試料を混合や破砕をすることにより、試料調整器具の基体が直接試料に接触することが殆どなく、試料調整器具の構成材料が試料中に混入する可能性を著しく低くすることができる。
【0029】
また、上記目的を達成するための本発明の元素分析方法は、上述した試料を混合及び破砕の少なくとも一方を行うステップと、この試料を定性又は定量するステップとを有するものである。
【0030】
このような構成の、試料調整器具のダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜を有する部分で試料を混合、破砕することにより、試料調整器具の基体が直接試料に接触することが殆どなく、試料調整器具の構成材料が試料中に混入する可能性を著しく低くすることができ、その結果、より高精度の元素分析を行うことが可能となる。
【0031】
本発明は、元素分析方法であればいずれにも適用でき、限定されない。例えば、蛍光X線分析法、EMPA分析法、ICP発光分析法、ICP質量分析法、原子吸光光度法等に適用できる。好ましくは、ダイヤモンド状炭素膜又はダイヤモンド膜の構成元素を分析対象としない分析に適用できる。
【0032】
さらに、上記上記試料調整方法、試料分析方法には、それぞれ試料調整領域を備えた試料調整部と試料保持部とを有し、これら試料調整部と試料保持部の少なくとも一方の試料調整領域における基体にダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜が形成されている試料調整器具を用いることができる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。なお、各図は、理解の容易のために、そのスケール等に脚色を施してある。
【0034】
図1は、本発明の実施の形態による試料調整器具の斜視図である。試料調整器具1は、試料調整部2と試料保持部3とから構成され、試料調整部2は試料と接する試料調整領域4を、試料保持部3もやはり試料と接する試料調整領域5を有する。
【0035】
試料調整部2又は試料保持部3の基体の材料としては、例えば、メノウ(SiO)、アルミナ(Al)、炭化ほう素(BC)、炭化タングステン(WC)、窒化ほう素(BN)、SUS等のステンレス鋼、ジルコニア(ZrO)、鉄(Fe)、プラスチック、その他の試料調整器具の材料として採用可能な各種の材料を用いることができる。
【0036】
図2は、図1における試料調整部2と試料保持部3とを中心部で切ったII−II線での断面図である。
【0037】
試料調整部2は、例えばメノウ(SiO)からなる基体2aを主要骨格としている。試料調整部2の試料調整領域4における基体表面にはダイヤモンド状炭素膜6が形成されている。また、試料保持部3もやはり、例えば、メノウ(SiO)からなる基体3aを主要骨格としている。本実施の形態においては、試料保持部3の試料調整領域5における基体表面にもダイヤモンド状炭素膜7が、それぞれ形成されている。
【0038】
ここで、ダイヤモンド状炭素膜とは、DLC(Diamond Like Carbon)膜、ダイヤモンド状薄膜、硬質カーボン皮膜、水素アモルファス・カーボン膜、i−カーボン膜などとも称され、ダイヤモンドによく似た構造及び性質を持ち、水素と炭素を成分とする非晶質の薄膜である。
このようなダイヤモンド状炭素膜は、ビッカース硬度が2000kg/mm以上あり、硬度が高いため耐磨耗性が強く、かつ耐食性も高いという特性を持っている。
【0039】
従って、試料調整領域4、試料調整領域5の基体表面にそれぞれダイヤモンド状炭素膜6、ダイヤモンド状炭素膜7を有することで、試料調整器具の構成材料が試料中に混入することを防ぐことができ、かつ、試料調整器具の耐久性を高めることが可能となる。
【0040】
また、ダイヤモンド状炭素膜の一部が剥離し試料中に混入したとしても、ダイヤモンド状炭素膜の成分である水素と炭素は通常分析対象としない元素であるので、分析に影響を与える可能性は著しく低い。
【0041】
特に、ダイヤモンド状炭素膜は、優れたトライポロジー特性のため離型性がよく、試料が試料調整器具に付着しにくくなる。よって、前回に混合や粉砕を行った試料の残留が殆ど無く、いわゆるメモリー効果による汚染を防ぐことができ、試料調整器具の洗浄作業を簡易化することが可能となる。
【0042】
また、ダイヤモンド状炭素膜の代わりに、ダイヤモンド膜を用いることもできる。
ダイヤモンド膜は、炭素のみを成分とする多結晶膜である。硬度が高いため耐磨耗性が強く、かつ耐食性も高いという特性を有する。
【0043】
したがって、試料調整器具の試料調整を行う部分をダイヤモンド膜で被覆することにより、混合器具素体の構成材料が試料中に混入することを防ぎ、かつ試料調整器具の耐久性を高めることが可能である。
また、ダイヤモンド膜の一部が剥離し試料中に混入したとしても、ダイヤモンド状炭素膜における説明と同様、ダイヤモンド膜の成分である炭素は通常分析対象としない元素であるので、分析に影響を与える可能性は著しく低い。
【0044】
ダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜については、プラズマCVD法、イオン化蒸着法、スパッタリング等、各種の製膜方法により形成することができる。
【0045】
そして、これらダイヤモンド状炭素膜6、ダイヤモンド状炭素膜7の膜厚は、それぞれ1nm〜10μmであることが望ましい。膜厚が1nm未満である場合は、ピンホールが発生する可能性が高くなり、また、10μmを超えると、試料調整領域の表面との密着性が低下する。
【0046】
図3は、図2における試料保持部3の試料調整領域5における表面付近8の断面の拡大図である。図3において、試料保持部3における試料調整領域5の基体3aの表面上に、ダイヤモンド状炭素膜7が設けられている。
【0047】
試料調整領域4における基体3aの表面は、ダイヤモンド状炭素膜6、7との密着性を高めるよう、平滑であることが望ましい。試料調整領域4における基体3aの表面を平滑にする手段としては、例えば鏡面研磨加工等を採用することができる。このような加工により、表面のRa(算術平均粗さ)が数nm以上0.1μm以下であれば、ダイヤモンド状炭素膜6,7の密着性がより高まる。
【0048】
図4は、図3において説明をした例の変形例であり、図3と同様、図2における試料調整領域5の表面付近8の断面の拡大図である。なお、図3と共通する事項で、図3において説明した事項に関しては、同符号を用い、その詳細は省略する。
【0049】
試料保持部3における試料調整領域5の基体3aの表面とダイヤモンド状炭素膜7との間に1層の中間層9が設けられている。この中間層9は、シリコン(Si)、タングステン(W)、炭化チタン(TiC)、炭化珪素(SiC)、炭化クロム(CrC)等のうちいずれかを含むよう構成されている。
【0050】
このように試料中間膜を設けることにより、保護膜7の試料調整領域5における基体3aの表面への密着性を高めることが可能である。
【0051】
図5は、中間層9を2層構造とした場合の図2における試料調整領域5の表面付近8の断面の拡大図である。本例においても、図3と共通する事項で、図3において説明した事項に関しては、同符号を用い、その詳細は省略する。
【0052】
中間層9は、基体3aに近い方から第一の中間層10、第二の中間層11の二層構造となっている。第一の中間層10はクロム(Cr)又はチタン(Ti)のうち少なくとも一つを含み、第二の中間層11は、シリコン(Si)又はゲルマニウム(Ge)のうち少なくとも一つを含むよう構成されている。
【0053】
この場合、第一の中間層10のクロム又はチタンは、試料調整領域5における基体3aの表面と密着性よく形成することができる。
【0054】
さらに、第二の中間層11のシリコン又はゲルマニウムは、ダイヤモンド状炭素膜又はダイヤモンド膜とは周期律表で同じIVb族の元素であり、いずれもダイヤモンド構造を有する。したがって、第二の中間層11とダイヤモンド状炭素膜7とは、共有結合して高い密着力で結合する。
その上、第一の中間層10のクロム又はチタンと、第二の中間層11のシリコン又はゲルマニウムとは、良好な密着性を有する。
【0055】
よって、試料保持部3の基体3aとダイヤモンド状炭素膜7は、これらの中間層を介すことにより、強固な密着性を有することとなる。
【0056】
なお、本実施の形態においては、第一の中間層10、第二の中間層11の膜厚は、それぞれ5μmとしている。。
【0057】
この中間層9を2層構造とした場合の他の例としては、第一の中間層10をチタン(Ti)を含む層とし、第二の中間層11を、タングステン(W)、炭化タングステン(WC)、炭化珪素(SiC)、又は炭化チタン(TiO)のうち少なくとも一つを含む層とすることとしても良い。この場合においても、第一の中間層10、第二の中間層11の膜厚は、それぞれ5μmとする。
【0058】
なお、試料保持部3の基体3aが鋼材で構成されている場合、第一の中間層10のクロム又はチタンと第二の試料調整領域5における基体3aの表面とは特に密着性よく形成することができる。
【0059】
図6は、中間層を3層構造とした場合の図2における試料調整領域5の表面付近8の断面の拡大図である。本例においても、図3と共通する事項で、図3において説明した事項に関しては、同符号を用い、その詳細は省略する。
【0060】
中間膜9を、試料調整領域5における基体3aに近い方から第一の中間層10、第二の中間層11、第三の中間層12の三層構造としている。この場合、第一の中間層10はチタン(Ti)を含み、第二の中間層11は炭化チタン(TiC)又は炭化珪素(SiC)のうち少なくとも一つを含み、第三の中間層12は炭素(C)を含む構成となっている。そして、これら各層の膜厚は5μmとなっている。
【0061】
上述の中間膜9は、たとえば、スパッタリング等、各層の材料や膜厚に応じ、各種の製膜方法により形成すればよい。また、中間膜9は、4層以上の構造とすることもできる。
【0062】
なお、図3から図6の説明において、試料保持部3を例として、中間膜9の構成、製膜方法について説明したが、試料調整部2についても、同様の構成、製膜方法による中間膜を有する構成とすることができる。
更に、各中間層の膜厚を5μmとしたが、これに限るものではない。
【0063】
以下、本発明の実施の形態における試料調整方法、及び、本発明の実施の形態における調整方法により調整した試料について元素分析を行う方法を、図面を用いて説明する。なお、既に説明した事項と共通する事項に関しては、同符号を用い、その詳細は省略する。
【0064】
本実施の形態においては、ガラスビード法による蛍光X線分析を行う方法について説明する。
【0065】
ガラスビード法とは、元素分析における試料の前処理方法の一種であり、試料を融剤と混合したものを加熱・成形し、ガラスビードとするものである。ガラスビード法による試料の前処理により、試料の粒度、結晶構造による分析への影響を軽減することができる。
【0066】
蛍光X線分析法とは、試料にX線を照射することにより励起された蛍光X線を分析することにより、試料に含有される元素を定性、定量する元素分析方法である。
【0067】
試料の調整については、試料保持部3の試料調整領域5に置かれた試料を、試料調整部2の試料調整領域4により、混合又は粉砕することにより行う。
【0068】
更に、試料よりガラスビードを作成するため、混合した試料と融剤を加熱・成形することにより、ガラスビードとする。なお、融剤には、通常分析対象元素を含まない物質、例えば、Liを用いる。
【0069】
試料調整領域4及び試料調整領域5の基体表面上には、ダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜が形成されているため、試料中に試料調整部2又は試料保持部3の基体2a、3aを構成する材料が混入する可能性は著しく低い。
【0070】
次に、上記により調整したガラスビードの蛍光X線分析方法を、図を用いて説明する。
【0071】
図7は、本発明の実施の形態で使用する蛍光X線分析装置の構成図である。図7では、X線管13からX線14がガラスビード15に照射されることにより、ガラスビード15からガラスビード15中に含まれる元素に固有の蛍光X線16が励起される。励起された蛍光X線16は、結晶板17で反射され、検出器18に入射する。検出器18は、この蛍光X線16を検出する。この検出された蛍光X線の波長と強度を分析することにより、ガラスビード15に含有される元素の定性、定量を行う。
【0072】
なお、本発明は、蛍光X線分析方法に限定されるものではなく、元素分析方法であればいずれにも適用でき、特に限定されない。例えば、蛍光X線分析法、EMPA分析法、ICP発光分析法、ICP質量分析法、原子吸光光度法等に適用できる。好ましくは、ダイヤモンド状炭素膜又はダイヤモンド膜の構成元素を分析対象としない分析に適用できる。
【0073】
試料の混合又は破砕後、試料の定性又は定量前に、試料を加熱成形してガラスビードにする等、試料を加熱するステップを有する場合には、保護膜から剥離する可能性のある炭素、水素を除去することができるため、より高精度の分析を行うことが可能となる。
【0074】
図8は、本発明の他の実施の形態による試料調整器具である。なお、図3と共通する事項で、図3において説明した事項に関しては、同符号を用い、その詳細は省略する。
【0075】
試料調整器具1は、試料調整部2と、試料保持部3とを有し、試料調整部2は試料調整領域4を、試料保持部3は試料調整領域5をそれぞれ有する。試料調整領域4における基体2aの表面には、ダイヤモンド状炭素膜が、試料調整領域5における基体3aの表面には、ダイヤモンド状炭素膜が、それぞれ形成されている。このダイヤモンド状炭素膜の形成にあっては、図4から図6に示した層構造としても良い。
【0076】
試料調整器具1による試料の調整は、試料保持部3の試料調整領域5に置かれた試料を、試料調整部2の試料調整領域4により、混合又は粉砕することにより行う。
【0077】
図9、図10、図11は、本発明の他の実施の形態による試料調整器具である。図9は試料調整器具1の斜視図、図10は試料調整器具1の試料調整部2、試料保持部3の分解斜視図、図11は、図10における試料調整部2及び試料保持部3を中心で切ったXI−XI線による断面図である。
【0078】
図9に示したように、試料調整器具1は試料保持部3を有する。
図10に示したように、試料保持部3は、その内部には、ボール状の複数の試料調整部2を有する。
図11では、試料調整部2の試料調整領域4における基体2aの表面上に、ダイヤモンド状炭素膜が備えられ、試料保持部の試料調整領域5における基体3aの表面上にもダイヤモンド状炭素膜が備えられている。
【0079】
試料調整器具1による試料の調整は、以下の通りである。試料保持部3内に試料と試料調整部2を入れ、試料保持部3の一部である蓋体を図示せぬ機構により固定する。そして、試料調整器具1に装着する。その後、試料保持部3を回転や上下振動、あるいは、これらの一方をさせ、試料調整部2と試料とを試料保持部3内で衝突させ、試料を混合、粉砕する。
【0080】
また、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、高速回転する歯で試料を破砕する高速破砕機、気流に乗せた試料同士を衝突させて破砕するジェットミル等の試料調整器具にも用いることができる。
【0081】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。
【0082】
(実施例)
実施例では、試料保持部の基体として、ステンレスが用いられた乳鉢表面に鏡面研磨加工を施し研磨加工後にプラズマCVD処理によりDLC膜(厚さ5μm)を形成したものを、試料調整部として、ステンレス製試料調整部乳棒表面に鏡面研磨加工を施し研磨加工後にプラズマCVD処理によりDLC膜(厚さ5μm)を形成したものを、それぞれ用意し、試料調整器具とした。
この試料調整器具によりLiを10g混合、破砕した後、加熱成形しガラスビードとした。このガラスビードについて、理学電機製蛍光X線分析装置ZSX−100により、構成元素の定性及び定量を行った。
【0083】
(比較例1)
比較例1として、試料保持部として、表面に鏡面加工を施さずかつダイヤモンド状炭素膜による被膜処理を施さないステンレス製乳鉢を、試料調整部として、表面に鏡面加工を施さずかつダイヤモンド状炭素膜による被膜処理を施さないステンレス製乳棒を、それぞれ用意し、試料調整器具とした。
この試料調整器具によりLiを10gを混合した後、加熱成形しガラスビードとした。このガラスビードについて、理学電機製蛍光X線分析装置ZSX−100により、構成元素の定性及び定量を行った。
【0084】
(比較例2)
比較例2として、試料保持部として、表面に鏡面加工を施しかつダイヤモンド状炭素膜による被膜処理を施さないメノウ製乳鉢を、試料調整部として、表面に鏡面加工を施しかつダイヤモンド状炭素膜による被膜処理を施さないメノウ製乳棒を、それぞれ用意し、試料調整器具とした。この試料調整器具によりLiを10gを混合した後、加熱成形しガラスビードとした。
このガラスビードについて、理学電機製蛍光X線分析装置ZSX−100により、構成元素の定性及び定量を行った。
【0085】
実施例及び比較例による分析結果を表1に示す。
【表1】
Figure 2004294125
【0086】
実施例及び比較例で試料としたLiは、分析試料対象元素を含まない物質である。したがって、試料の調整過程において他の物質の混入がなければ、定性、定量を行ったとしても、本来分析する対象である試料以外のいかなる物質も検出されないこととなる。
【0087】
実施例における分析結果を見ると、本来分析する対象である試料以外のいかなる物質の検出も認められない。したがって、試料の調整過程において他の物質が混入しなかったといえる。
【0088】
一方、比較例1では、鉄やクロムが、比較例2では珪素が検出された。ここで検出された鉄やクロム、珪素は、試料調整器具を構成する物質である。これらの鉄やクロム、珪素は、それぞれ試料調整過程において混入したと考えられる。
【0089】
したがって、実施例における試料調整器具は、比較例における試料調整器具に比べ、混試料調整器具の基体を構成する材料の試料への混入が著しく少なく、その結果、より精度の高い定性及び定量を行うことができることが分かった。
【0090】
以上より、本発明の実施の形態によれば、耐久性が高く、構成材料の試料へ混入を著しく減少できる試料調整器具、試料調整器具の構成材料による影響を受けることが著しく少ない試料調整方法、及び、より精度の高い分析が可能である元素分析方法を提供することができた。
【0091】
なお、本発明を用いることができる試料調整器具は実施例で挙げたものに限定されない。また、いわゆる当業者であれば、上記説明に基づいて、技術的思想の範疇内において各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0092】
【発明の効果】
本発明の効果の一つとしては、耐久性が高く、構成材料の試料へ混入を著しく減少でき、また過去に使用した試料による影響を受けることがより少ない試料調整器具、試料調整方法を提供することが可能となる。また、本発明の他の効果としては、試料調整器具の構成材料による影響を受けることが著しく少ない、より精度の高い元素分析方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態による試料調整器具の斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態による試料調整部、試料保持部の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態による試料調整領域の表面付近の断面の拡大図である。
【図4】本発明の他の実施の形態による試料調整領域の表面付近の断面の拡大図である。
【図5】本発明の他の実施の形態による試料調整領域の表面付近の断面の拡大図である。
【図6】本発明の他の実施の形態による試料調整領域の表面付近の断面の拡大図である。
【図7】本発明の実施の形態に用いる蛍光X線分析装置の模式図である。
【図8】本発明の他の実施の形態による試料調整器具の斜視図である。
【図9】本発明の他の実施の形態による試料調整器具の斜視図である。
【図10】本発明の他の実施の形態による試料調整部、試料保持部の斜視図である。
【図11】本発明の他の実施の形態による試料調整部及び試料保持部の断面図である。
【符号の説明】
1 試料調整器具
2 試料調整部
2a 試料調整部における基体
3 試料保持部
3a 試料保持部における基体
4 第一の試料調整領域
5 第二の試料調整領域
6 第一のダイヤモンド状炭素膜
7 第二のダイヤモンド状炭素膜
8 第二の試料調整領域表面付近
9 試料保持部中間膜
10 第一の試料保持部中間層
11 第二の試料保持部中間層
12 第三の試料保持部中間層
13 X線管
14 X線
15 ガラスビード
16 蛍光X線
17 結晶板
18 検出器

Claims (11)

  1. 各々試料調整領域を有した試料調整部及び試料保持部を含んで成り、
    前記試料調整領域における前記試料調整部及び前記試料保持部の基体にダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜が形成されている試料調整器具。
  2. 前記試料調整部と前記試料保持部の少なくとも一方の前記基体におけるダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜が形成される表面が、平滑である請求項1に記載の試料調整器具。
  3. 前記試料調整部と前記試料保持部の少なくとも一方において、前記基体と前記ダイヤモンド膜又は前記ダイヤモンド状炭素膜との間に中間膜を有する請求項1又は2に記載の試料調整器具。
  4. 前記中間膜は、シリコン、タングステン、炭化チタン、炭化珪素、炭化クロムのうち少なくとも一つを含む請求項3記載の試料調整器具。
  5. 前記中間膜は、前記基体上に形成された第一の中間層と、この第一の中間層上に形成された第二の中間層とからなり、
    前記第一の中間層はクロム又はチタンのうち少なくとも一つを含み、
    前記第二の中間層はシリコン又はゲルマニウムのうち少なくとも一つを含む、請求項3に記載の試料調整器具。
  6. 前記中間膜は、前記試料調整領域の前記基体上に形成された第一の中間層と、この第一の中間層上に形成された第二の中間層とからなり、
    前記第一の中間層はチタンを含み、
    前記第二の中間層はタングステン、炭化タングステン、炭化珪素、炭化チタンのうち少なくとも一つを含む、
    請求項3に記載の試料調整器具。
  7. 前記中間膜は、前記試料調整領域の前記基体上に形成された第一の中間層と、この第一の中間層上に形成された第二の中間層と、この第二の中間層上に形成された第三の中間層とからなり、
    前記第一の中間層は少なくともチタンを含み、
    前記第二の中間層は炭化チタン又は炭化珪素のうち少なくとも一つを含み、
    前記第三の中間層は少なくとも炭素を含む、
    請求項3に記載の試料調整器具。
  8. 試料調整器具により、試料調整を行う試料調整方法であって、
    前記試料調整器具の試料調整領域における基体にダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜が形成されており、
    この試料調整領域で試料を混合及び破砕の少なくとも一方を行うステップを有する試料調整方法。
  9. 前記試料調整器具は、それぞれ試料調整領域を備えた試料調整部と試料保持部とを有し、これら試料調整部と試料保持部の少なくとも一方における前記基体にダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜が形成されている請求項8に記載の試料調整方法。
  10. 試料調整器具により、試料の調整及び分析を行う試料分析方法であって、
    前記試料調整器具の試料調整領域における基体にダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜が形成されており、
    この試料調整領域で試料を混合及び破砕の少なくとも一方を行うステップと、
    この試料調整された試料を定性又は定量するステップと、
    を有する試料分析方法。
  11. 前記試料調整器具は、それぞれ試料調整領域を備えた試料調整部と試料保持部とを有し、これら試料調整部と試料保持部の少なくとも一方における前記基体にダイヤモンド膜又はダイヤモンド状炭素膜が形成されている請求項10に記載の試料分析方法
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