JP2004254655A - 軟骨の分化誘導方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】軟骨損傷治療のため、生体内および生体外での軟骨組織再生を可能にする三次元細胞結合体の製造を、産業化を前提に、より実用的にするためには、TGF−βのような蛋白性因子に替わる非蛋白性の軟骨誘導因子、特に軟骨組織創製促進を可能する非蛋白性の軟骨誘導因子を見つけだすことが重要な課題である。
【解決手段】in vitroで培養された間葉系幹細胞あるいは前駆細胞を、生体内、生体外においてFK506を含有する三次元培養環境下で軟骨細胞に分化誘導させる方法および同方法による生体内および生体外での軟骨組織再生用を可能にする三次元細胞結合体の製造方法を開発することにより、上記課題解決が可能となる。
【選択図】 なし
【解決手段】in vitroで培養された間葉系幹細胞あるいは前駆細胞を、生体内、生体外においてFK506を含有する三次元培養環境下で軟骨細胞に分化誘導させる方法および同方法による生体内および生体外での軟骨組織再生用を可能にする三次元細胞結合体の製造方法を開発することにより、上記課題解決が可能となる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、in vitroで培養された間葉系幹細胞を生体内、生体外における三次元培養環境下で軟骨細胞に分化誘導するための分化誘導因子およびこれを用いた生体内および生体外での軟骨組織再生用三次元細胞結合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
変形性関節症などの軟骨疾患は、老齢人口の増加とともに急速な増加傾向にあり、これに起因する社会的経済的コストは大きく、関節機能を回復できる有効な治療法が強く望まれている。
【0003】
従来、損傷関節面が適切な細胞外基質を再構築するとみられる自己由来細胞を移植することにより損傷関節面が修復されるという仮説に基づき、培養軟骨細胞を膝に導入することに伴う一つの研究が非常に有望であるものとして現れ、これの実用化、製品化もなされた(非特許文献1、非特許文献2)。しかしながらこの治療方法はスポーツ障害など小規模の軟骨欠損を対象としたもので患者数の多い重篤度の高い変形性膝関節症など大規模な軟骨欠損への適用は無理とされている。また小規模への適用においてもその効果に疑問が投げかけられているのが現実である(非特許文献3)。さらに関節由来軟骨細胞を用いた自家移植治療においては、患者自身の細胞を関節より採取する必要があることより侵襲性の問題が指摘されている。また治療のためには採取細胞を大幅に増幅させる必要があるが、分化した軟骨細胞は増幅させることにより、その本来の軟骨細胞の機能を失う脱分化の問題もある。このような状況の中、軟骨欠損治療において優れた治療成績を望むべく、高い分化能を保持したまま大幅増殖が可能とされる間葉系幹細胞の利用が期待され、この実用化が強く望まれている。間葉系幹細胞(MSCs)は脂肪、骨、軟骨、弾性、筋および線維などの結合組織を含む特殊な型の間葉あるいは結合組織に分化することのできる骨髄、血液、真皮、および骨膜に見出される形成多能芽細胞あるいは胚状細胞である。これらの細胞が入る特異的分化経路は機械的影響およびもしくは成長因子、サイトカインなどの内因性生物活性因子、およびもしくは宿主組織により確立された局所微環境条件からの各種の影響に依存する。これらの細胞は通常骨髄に非常に低い頻度で存在する。組織培養でこれらの細胞の集団を分離し、増幅させるプロセスは、フリーデンスタイン他により既に報告されている(非特許文献4、非特許文献5)。
【0004】
またMSCsの軟骨細胞への分化は既に数多く報告されている(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。生体内でのMSCsからの軟骨創製は、ウサギを用いて軟骨欠損治療実験を行ったWakitaniらの報告がある(非特許文献10)。また生体外での軟骨創製は、Johnstoneらのウサギ骨髄由来間葉系幹細胞を用いた軟骨創製に関する報告など(非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13)がある。
【0005】
以上の技術状況の中、このMSCsからの軟骨創製を産業化を前提とした実際の治療へ応用する研究が行われている。そのひとつは、治療により有効な性能を有する軟骨様組織の創製である。上記に述べた多くの方法ではMSCs細胞を三次元培養環境下におくために遠心操作等により細胞塊を形成させている。このような方法で形成させた細胞塊を培養することにより、軟骨様組織の形成は確認されているが、細胞塊全体にわたった軟骨形成ではないなどまだまだ不十分といわざるを得ない。また本手法ではかなり多くの細胞数を必要とし患者自身の細胞を用いるという自家移植治療においては侵襲性あるいは脱分化の点で問題点となる。細胞塊を形成させることなく軟骨創製を行う系として、Martinらによるポリグリコール酸支持体に幹細胞を播種したものを培養することによる軟骨創製の報告があるが(非特許文献14)、この報告でも大量な細胞数が必要とされ、実際の治療応用には現実的でない。
【0006】
そこで我々は以前の報告で、生分解ポリマーのPLGA(乳酸とグリコール酸の共重合体)で作製したユニークな構造を有する多孔質支持体を用いMSCs細胞を培養することにより、用いる細胞数をMartinらの方法の10分の1以下で正常軟骨様に支持体全体にわたり同細胞を均一に分布させ、さらに組織、生化学的にもまた力学的にも正常軟骨に近い性能の軟骨様組織を形成させることに成功し、MSCs細胞を用いた軟骨欠損治療を一歩実用化に近づけた(特願2002−263126)。
【0007】
【非特許文献1】
Brittbergら、The New England Journal of Medicine Vol.331,No.14、889−895、1994
【非特許文献2】
諸橋ら(培養自己軟骨移植法の米国における企業化事例)組織培養工学、vol.23、568−571
【非特許文献3】
Breinanら Orthopedics Vol.20:525−538、1997
【非特許文献4】
Friedenstein Hamatol Bluttransfus Vol.25、19−29、1980
【非特許文献5】
Friedensteinら Exp Hematol Vol.10、No.2、217−227、1982
【非特許文献6】
Grigoriadisら Journal of Cell Biology
Vol.106,2139,1988、
【非特許文献7】
Babら J. Cell Sci. Vol.84、139−151、1986
【非特許文献8】
Friedensteinら Bone Miner Res. Vol.7、243−272、1990
【非特許文献9】
Caplanら J. Orthop. Res. Vol.9、641−650、1991
【非特許文献10】
Journal of Bone Joint Surgery Am.、Vol.76A、579,1994
【非特許文献11】
Johnstoneら Trans. Orthop. Res. Soc. Vol.21、65、1996
【非特許文献12】
Johonstoneら Experimental Cell Research Vol.238、265−272、1998
【非特許文献13】
Mackayら Tissue Engineering Vol.4、No.4、415−428、1998
【非特許文献14】
Martinら Journal of Orthopaedic Research Vol.16、181−189、1998
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記の「従来の技術」の項で述べてきた作製方法では、すべて分化誘導因子としてトランスフォーミング成長因子(TGF−β)など蛋白性因子を用いている。産業化を前提とした場合、一般的にいって蛋白性因子を用いることはいくつかの理由で好ましくない。すなわち蛋白性因子の場合、まず一般的に言って低分子因子より高コストである。さらに蛋白性因子は一般的に活性的に不安定であり、その活性維持のための煩雑な操作性は体外培養された軟骨組織など実際に治療に用いる製品生産を行う上でも大きな負担となる。また現段階では、特に強い軟骨誘導活性が認められているTGF−βは医薬品として認可されておらず、実際に軟骨誘導因子として利用するにはまだ時間を要する。また用いるサンプル量を少なくすることでコスト面の改善を図り、さらに効果の面で効率化するためには、誘導因子自体を予め支持体に固定しておき、これに細胞を入れ培養することで体外での軟骨創製を行うこと、または誘導因子を固定した支持体あるいは同支持体/細胞混合物を直接移植に供することがひとつの手法として考えられる。このような使い方をする上でも滅菌安定性など誘導因子の安定性が重要であり、非蛋白性のものが望まれる。
【0009】
よってTGF−βのような蛋白性因子に替わる非蛋白性の軟骨誘導因子、特に軟骨組織創製促進を可能にする非蛋白性の軟骨誘導因子を見つけだすことがMSCsからの軟骨創製を産業レベルに導く上で重要な課題であると考えた。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、軟骨損傷治療のための生体内および生体外での軟骨組織再生用三次元細胞結合体の製造を、産業化を前提に、より実用的にするための手段を提供するものである。即ち、本発明は、in vitroで培養された間葉系幹細胞あるいは前駆細胞を、生体内、生体外において軟骨誘導作用を有する非蛋白性低分子化合物を含有する三次元培養環境下で軟骨細胞に分化誘導させる分化誘導方法である。
【0011】
我々は非蛋白性の軟骨誘導因子を探索し、結果として本発明で示したFK506が、MSCsを用いた軟骨創製系において、効果的な同組織形成促進因子であることを見いだすに至った。
【0012】
FK506(タクロリムス)は、1984年に発見されたマクロライド構造を有する化合物で、NFAT(Nuclear Factor of activated T cells)とFKBPs(FK506−binding proteins)の結合を阻害することにより、カルシニューリンを介したNFATの脱リン酸化を阻害し、結果、T細胞の活性化を選択的に阻害することによる強力な免疫抑制作用を発揮する。最近、NFATファミリーのひとつであるNFATpが軟骨創製のリプレッサーであるとの報告がなされた(Rangerら J.Exp.Med.Vol.191,9−21,2000)。さらにNishigakiらにより、FK506には幹細胞ラインからの軟骨細胞誘導を促進する効果があることが報告されている(Eur J Pharmacol 2002
22;437(3):123−128)。
【0013】
しかしながら実際の治療を前提としたFK506によるヒトMSCsからの軟骨細胞の誘導の可否についてはまだ明確ではない状況であった。この状況の中、我々は実際にヒトMSCsを用い、さらに軟骨組織形成に好ましい三次元培養環境を付与する我々のユニークな多孔質支持体を用いることにより、このFK506の軟骨細胞および軟骨組織形成誘導促進効果を検討し、結果として、このFK506が有効な軟骨組織形成促進作用を持つこと見出した。
【0014】
【発明の実施の形態】
軟骨への分化誘導効果を有するものとして、デキサメタゾンなどのグルココルチコイド、トランスフォーミング成長因子−βファミリーと呼ばれる因子、例えば骨形態形成タンパク質(望ましくはBMP−2あるいはBMP−4)、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、インヒビンAあるいは軟骨形成刺激活性因子(CSA)、I型コラーゲン(とりわけゲル形態にあるもの)などのコラーゲン性細胞外基質、およびレチノイン酸などのビタミンA類似体などがある。
【0015】
しかしながら現実的にはTGF−βなど蛋白性因子は軟骨創製において必須のものであるとされている。例えば、TGF−β1は軟骨形成の有力なプロモーターであるとして知られており、数多くの研究で軟骨の修復を実行するために使用されてきており、またTGF−β3は子宮平滑筋腫細胞に際立った効果を持つものとして発見され、オシリスのグループにより間葉系幹細胞の軟骨形成分化に対する作用が報告されている(Mackayら Tissue Engineering Vol.4、No.4、415−428、1998)。
【0016】
本発明の非蛋白性の軟骨分化因子探索では、上記の軟骨分化誘導活性を有する蛋白性因子を共存させることなく、単独でその効果を発揮し得るものを見出すことを目的としたものであり、以下に述べるFK506はこれを満たすものとして本発明でその活性が確認された。なお本発明で言うFK506様の軟骨誘導作用とは、FK506の作用経路に関連する物質に作用することによる軟骨細胞分化誘導を意味する。
【0017】
本発明においては、軟骨誘導作用を有する非蛋白性低分子化合物として、FK506又はFK506様の軟骨誘導作用を有する化合物が用いられる。FK506は、免疫抑制剤として市販されているもの(藤沢薬品製、プログラフ)を用いた。培養に添加する溶液は、同製品に付属する溶解液(無水エタノール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を含む溶液)にて凍結乾燥品を溶解したものを用いた。FK506濃度は少くとも約1ng/mlであり、望ましくは5−15ng/mlである。
【0018】
間葉系幹細胞(MSCs)は骨髄、血液(末梢血を含む)、骨膜および真皮、ならびに中胚葉起源を持つ他の組織などからウシまたはヒト血清環境あるいは合成無血清環境下の密度勾配分画などにより分離することができる。それら組織に含まれているMSCsは年齢と共に大幅に減少するが、とりわけ骨髄から分離することができ、分離された分画調製物は細胞の少くとも約90%、また望ましくは少くとも約95%がヒト間葉系幹細胞の細胞を含むであろうということが考えられる。
【0019】
さらに分画調製された同細胞は、ウシまたはヒト血清環境あるいは合成無血清環境下で培養増幅され、軟骨組織の形成はこれらの細胞を三次元形態、望ましくは三次元培養環境を付与する多孔質支持体との混合物(三次元細胞結合体と呼ぶ)として合成無血清環境下で培養することにより行われた。この三次元細胞結合体は体外および体内での軟骨形成に適用することができる。なお本発明で使用されたヒト間葉系幹細胞(hMSCs)は、市販のもの(Biowhittaker社製)である。
【0020】
本発明において三次元培養環境とは、間葉系幹細胞あるいは前駆細胞が三次元方向に増殖することができる培養環境を意味する。三次元培養環境を付与する多孔質支持体としては、これまでの我々の報告したものを用いた。以下、詳細を述べる。
すなわち紡錘状などの縦長形状の孔が並列に並んだ構造を有する。孔の孔径は10μm以上500μm以下であり、細胞を導入可能でかつ漏れにくい構造の確保の点から、好ましくは20μm以上150μm以下である。上記孔の孔長は50μm以上1cm以下であるが、支持体内の培地拡散性保持の点から、好ましくは50μm以上5mm以下である。
【0021】
本発明で使用される支持体は、並置された各孔間は孔径10μm以下の小孔で連通した構造となっている。「孔径10μm以下の小孔で連通した構造」とは、上記縦長形状の孔が、50%以上、好ましくは70%以上が孔径10μm以下である小孔で互いに連結された構造を意味する。この小孔は、培地等の溶液は通すが、細胞は通さないものである。
【0022】
本支持体においては、有孔率は70%以上であることが好ましいが、細胞密度確保の点から70〜95%のものがより好ましい。ここで有孔率とは、支持体における縦長形状の孔と小孔との合計の割合をいい、単位体積あたりの支持体材料の重量から算出したものである。また孔径及び孔長は、電顕観察で評価、算出した。
本発明でいうところの組織再生用とは、生体を構成する種々組織の再生用を意味する。
【0023】
本発明の多孔性支持体の構造としては、不織布、フォーム、スポンジ、織物構造などが考えられ、作製可能であるが、機械的強度を考慮してフォームまたはスポンジ構造のものが望ましい。
【0024】
この支持体では両方の面に10μm程度の孔径を有する孔が空いている形状のもので、培地通性は十分確保した上で細胞が通過しにくい構造を有している。これは支持体の中に導入された細胞が漏れ出ることを防ぐとともに、外部、特に軟骨下骨からの炎症性細胞の浸潤を防ぐために有効な構造である。また各孔間の横方向の連通性については、培地の移動は可能であるが、細胞の移動はできない孔径10μm以下のサイズの小孔で連通しており、細胞の生育性に良好な環境を与え、播種された細胞が横面から漏出することを防ぐ構造を有している。
【0025】
本発明で使用される支持体のより好ましい態様として、厚み方向に縦長な形状の孔が面方向に並列的に配置された概平板形状を有し、一方の面が開孔処理されている三次元多孔性支持体を挙げることができる。ここで、「厚み方向」とは縦長孔の縦長方向を意味し、「縦長な形状の孔が面方向に並列的に配置」とは縦長孔を同じ方向に並置することを意味する。また、「概平板形状」とは完全な平板形状はもちろんのこと、平板形状に近い形状であるものを全て含むものである。
【0026】
「開孔処理」とは孔径を拡大させることを意味し、例えば以下のような塩溶出法による開孔処理、剥離法による開孔処理などが挙げられる。
塩溶出法とは、支持体を作製する時に、片面の表層部についてのみリーチング法と呼ばれる塩溶出処理操作を組み合わせた方法である。これにより、片面を孔拡大することができ、さらにロート状の形状をとることにより孔への細胞導入を効率的に行うことができる。
【0027】
剥離法とは、凍結乾燥法で作製した支持体が、例えば紡錘状の縦長形状の孔の厚み方向の中央付近に広面と並行に空隙あるいは結晶境界を形成することを活用し、支持体を中心部あたりで縦に割く形で、つまり平板方向に剥離して作製する方法である。これにより、一方の面(剥離面)に50から150μm平均の細胞が容易に通過できる孔径を確保できる。
【0028】
本発明で使用される多孔性支持体の材質は特に限定されないが、生理学的条件下で体内に吸収される物質、つまり生体適合性材料が好ましく、これは天然のものでも合成物質でもよい。
【0029】
多孔性支持体を構成する生体適合性材料としては、天然物から得られるものと合成により得られるものが挙げられるが、加工性、滅菌性、感染性の点から、加水分解により分解し得る合成ポリマーが好ましく、特にαおよびβ−ヒドロキシカルボン酸の加水分解性ポリマーが好ましい。このような生体適合性材料の例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸/グリコール酸共重合体、ポリεカプロラクトン、乳酸/εカプロラクトン共重合体などが挙げられる。
【0030】
本発明で使用される乳酸とグリコール酸とのコポリマー(PLGA)としては、グリコール酸と乳酸との重量比が、99:1ないし1:99であるコポリマー、特に75:25ないし25:75の比のコポリマーが好ましい。また他の共重合体についても、乳酸以外のコモノマーと乳酸との重量比は、上述したグリコール酸と乳酸との重量比と同じ範囲にあることが好ましい。
【0031】
本発明で使用される支持体は、厚さを適宜設定し、患部を補填するために必要なサイズにすることができる。本発明の支持体の厚さは、好ましくは50μmから1cmである。なおヒトの膝あるいは股関節の治療に用いる場合には、1ないし3mmの厚さのものが実際上好ましい。
【0032】
また上記支持体の形状および面積については特に限定はなく、患部を補填するために十分なサイズのものを作製することができる。例えば、ヒトの膝あるいは股関節の治療に用いる場合には、好ましくは10ないし20mmの直径の円筒形のものである。
【0033】
次に本発明で使用される三次元多孔性支持体の製造法について説明する。本発明で使用される三次元多孔性支持体の製造法は、下記の工程からなることを特徴とする:
a)支持体材料を有機溶媒に溶解し、
b)調製した溶液を型枠に流し込んだあと5℃/分以上の冷却速度で凍結し、
c)凍結した溶液を真空乾燥して、有機溶媒を除去する。
凍結乾燥処理に先立ってこれら支持体材料を溶液状にするにあたり、溶媒としては通常種々の有機溶媒を用いることができるが、好ましくはクロロホルム、ジオキサン、ポリエチレングリコールである。
【0034】
また溶解させた支持体材料の溶液を流し込む型枠について、その材質は特に限定されるものではないが、凍結乾燥処理に耐える材質である金属、ガラス製が好ましい。
【0035】
また上記型枠の形状は特に限定されず、例えば軟骨損傷治療の場合には、軟骨の構造に類似する概平板形状を用いるなど、再生を目指す各組織の形状の構築を基本とするものであれば、各疾患の治療上有効な形状については、すべて使用することができる。
【0036】
凍結による固化は、少なくとも5℃/分の温度低下、つまり5℃/分以上の冷却速度となるように急速に凍結することが必要となる。例えば、超低温フリーザーや液体窒素を用いることにより、この温度低下(冷却速度)が可能となる。
この後、凍結した溶液を真空乾燥して、有機溶媒を除去することにより、三次元多孔性支持体を得ることができる。
【0037】
本発明で使用される支持体の好ましい態様である、厚み方向に縦長な形状の孔が面方向に並列的に配置された概平板形状を有する三次元多孔性支持体は、剥離法を用いた下記の工程から製造することができる:
a)支持体材料を有機溶媒に溶解し、
b)調製した溶液を、概平板形状になるような型枠に流し込んだ後、5℃/分以上の冷却速度で凍結し、
c)凍結した溶液を真空乾燥して、有機溶媒を除去し、
d)乾燥後の支持体を厚み方向の中心部で平板方向に剥離する。
本明細書において、「厚み方向の中心部で平板方向に剥離する」とは、支持体の厚み方向の中央付近で、平板の上下方向に剥離することを意味する。
【0038】
上記概平板形状を有する三次元多孔性支持体は、塩溶出法を用いた下記の工程から製造することもできる:
a)支持体材料を有機溶媒に溶解し、
b)概平板形状になるような型枠に粒状塩を分散させ、
c)調製した溶液を上記型枠に流し込んだ後、5℃/分以上の冷却速度で凍結し、
d)凍結した溶液を真空乾燥して、有機溶媒を除去し、
e)粒状塩を水洗により除去する。
【0039】
ここで、粒状塩とは粒子径500μm以下の結晶性物質を意味し、KCl、NaCl、CaCl2のような無機塩、各種アンモニウム塩、クエン酸三ナトリウムのような有機化合物の塩などが挙げられる。粒子径の点からクエン酸三ナトリウムが特に好ましい。
【0040】
塩溶出法を用いた本発明の方法で三次元多孔性支持体を作製した場合、厚みの1〜20%で塩溶出処理部による孔が形成され、残りの80%〜99%で上記縦長形状の孔が形成された構造となる。
【0041】
本発明の軟骨組織再生用三次元細胞結合体は、間葉系幹細胞あるいは組織由来の前駆細胞を本明細書記載の支持体に播種して、これを人工環境内および/または生体内で培養することで作製された軟骨組織およびその類似体をいう。ここで、前駆細胞とは未分化の細胞を意味する。
【0042】
本発明で用いる間葉系幹細胞又は組織由来の前駆細胞としては、骨髄、血液(末梢血、臍帯血)、真皮、骨膜および中胚葉起源を持つその他組織のものが好ましく用いられる。
【0043】
本発明の軟骨組織再生用三次元細胞結合体としては、塩溶出法を用いる本明細書記載の方法で作製した三次元多孔性支持体に、間葉系幹細胞あるいは組織由来の前駆細胞を人工環境内および/または生体内において培養することにより得られ、厚みの1〜20%相当の塩溶出処理部、すなわち開孔処理された構造部分が生体軟骨の1/10未満の圧縮弾性率、残りの80%〜99%の部分が生体軟骨の1/10以上の圧縮弾性率を有する三次元細胞結合体も挙げられる。このような本発明の三次元細胞結合体は生体軟骨の10%以上の圧縮弾性率を有することが好ましい。
【0044】
塩溶出法を用いる本明細書記載の支持体は、良好な細胞播種性の附与のみならず、良好な組織形成を可能にする。ゆえに塩溶出法を用いる本発明の方法で三次元細胞結合体を作製すれば、上記圧縮弾性率で示されるように、厚みの1〜20%にあたる開孔処理された構造部分(塩溶出処理部)が、残りの80〜99%の構造部分(非塩溶出処理部)に比べ、明らかに柔らかい性質の組織として作製できる。
【0045】
本発明における力学強度測定条件では、その圧縮弾性率は塩溶出された部分が2.5×10−3MPa〜1.5×10−1MPaの圧縮弾性率であり、その他の部分の1.5×10−1MPa〜2.0MPaに比べ、明らかに柔らかい構造であるといえる。このような性質は、本三次元細胞結合体を実際に患部に埋め込んだ際、反対側の軟骨組織を痛めることを回避する点で極めて有効な構造であるといえる。なお圧縮弾性率とは、圧縮時に受ける応力の歪みに対する変化率である。
【0046】
次に、本発明の軟骨再生用三次元細胞結合体の製造法について説明する。上記製造法は、本発明で使用される三次元多孔性支持体に、間葉系幹細胞あるいは前駆細胞を播種し、生体外および/または生体内で合成培地を用い三次元培養環境下で培養することを特徴とする。
【0047】
ここで使用される「合成培地」という用語は、この発明の組成物がとりわけこの発明の方法に従ってin vitroで軟骨形成を受けることができ、また最小必須培地、アスコルビン酸塩あるいはその類似体、鉄源等微量金属およびインスリンもしくはインスリン状成長因子を含むような維持、成長あるいは培養培地を意味する。なお、その他蛋白性因子としてヒトでの実績のあるウシアルブミンを用いることが好ましい。本実験では最小必須培地としてDMEM、鉄源等微量、インスリン、ウシアルブミンを別添加として用いた。
【0048】
上記製造法において、間葉系幹細胞あるいは前駆細胞の播種は公知の方法で行うことができるが、支持体1cm3あたり106〜108個の密度となるように間葉系幹細胞又は前駆細胞を播種することが好ましい。
【0049】
上記方法において、「生体外で培養」とは、試験管、培養器など人工環境内で培養することを意味する。静置または旋回でのバッチ培養、あるいは循環式の連続培養を行うことができ、望ましくは旋回バッチ培養あるいは循環式の連続培養である。また本発明で使用された三次元細胞結合体の製造法において、人工環境内の培養は、培養液を支持体に対し毎秒0.1cmから毎秒50cmの速度で移動させる条件で行われることが、三次元細胞結合体への新鮮な培地の供給の観点、また三次元細胞結合体からの老廃物の除去の観点より好ましい。
【0050】
上記方法において、「生体内で培養」とは、例えば、支持体あるいは支持体と細胞の混合物を生体組織内に設置して細胞を培養するような、生体組織内での培養を意味する。
【0051】
本発明で使用される支持体に間葉系幹細胞又は前駆細胞を播種し培養するにあたり、FK506以外の非蛋白性因子を共存させることができる。例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチンなどムコ多糖、さらにアスコルビン酸、トコフェロール、コーエンザイムQ10など各種ビタミン類である。これらは細胞全般の生育性の維持、向上に寄与するものである。
【0052】
【実施例】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)PLGA支持体を用いた培養軟骨の作製
Biowhittaker社製ヒト間葉系幹細胞7.5×105個を10%ウシ胎児血清を添加したGIBCO社製DMEM培地(50μg/ml アスコルビン酸2−リン酸、100μg/ml ピルビン酸ナトリウム、100nM デキサメタソン、40μg/mlプロリン、ITS−plus(collaborative Biomedical Products))を用いて培養し、一週間後、約10倍の細胞数に増幅した細胞を以下培養軟骨の作製に供した。なおここでいう培養軟骨は本明細書記載の軟骨再生用三次元細胞結合体を示す。
【0054】
25キログレイ(KGry)でγ線滅菌した明細書記載の塩溶出法で作製したPLGA支持体を前記培地中に置き、減圧下で脱気して支持体表面に培地をなじませた後、培養した間葉系幹細胞を支持体1cm3当り3×107個の密度となるように播種した。間葉系幹細胞を播種した支持体を培養シャーレに置き、10%ウシ胎児血清を添加したGIBCO社製DMEM培地を支持体が隠れる程度に加え、1晩静置培養した。この後、20mlのGIBCO社製DMEM培地がはいった直径10cmの培養シャーレに支持体を移し、1000ng/mlとなるようにFK506を添加した後に、水平円運動を行える振盪機を用いて30rpmの回転数で旋回培養を行った。旋回培養開始後14日目に支持体を取り出し、作製された培養軟骨を組織学的及び生化学的に評価した。このPLGA支持体を用いて作製された培養軟骨の組織像は、図1に示されたようにアルシアンブルーおよびサフラニンO染色陽性を呈した。さらに、これらの組織中に存在する軟骨細胞は繊維芽細胞様の形態ではなく、永久軟骨細胞と非常に似かよった形態を有していた。この培養軟骨の一部を4Mグアニジン塩酸溶液で可溶化し、DMMB(Dimethyl Methylene Blue)法と呼ばれる色素法により軟骨に特徴的なマトリクスであるアグレカンの検出を試みたところ、アグレカンの存在が認められた(表1)。また同じ培養軟骨の一部サンプルを用い、同じく軟骨特徴的マトリクスであるコラーゲンの産生(蛍光色素法(Sircol collagen assay(Biocolor社製))による全コラーゲン量、ELISA法にてコラーゲンタイプ1およびタイプ2の産生)を調べたところ、全コラーゲン産生とともにタイプ別のコラーゲンの有意な産生が確認された(表1)。
【0055】
【表1】
【0056】
表1中、DNA測定は抽出効率の違いによるバラツキを相殺するための内部標準として測定したものである。したがってアグレカン量は単位DNA量あたりの数字で示されている。A/Dはアグレカン/DNAを指す。またコラーゲンについては、タイプ2/タイプ1の比という形で示した。
【0057】
また明細書記載の剥離法で作製したPLGA支持体を用いた実験も同様に実施し、塩溶出法によるものと同等の結果であることが確認された。
【0058】
(実施例2)培養軟骨の力学強度測定
実施例1で作製された培養軟骨を、PBS溶液中25℃にて30分間平衡化後、ヘッドスピード0.1mm/秒で圧縮を加えた時に受ける応力を以下の方法で測定した。
【0059】
すなわち、応力値2.5×10−4MPaを呈する歪みをε0(サンプル表面)、応力値1.5×10−2MPaを呈する歪みをε15とし、その間を開孔処理された部分と認識した。また、圧縮弾性率は開孔処理された部分を除く部分(内部構造)で求めることとし、歪みがε15から0.10増加する間の圧縮応力の変化率にて算出した。その結果、圧縮弾性率において、支持体のみのものに比べ有意に強度が増していることが示唆された(図2)。
【0060】
なお、圧縮には、ASTM:D1621−94に準拠した「テクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製)」付属の制御解析ソフトTexture Expert Exceedを用い、そのマニュアルに従い圧縮解析を行った。図2中、「支持体」とは実施例1でPLGA支持体のみを培養軟骨創製と同条件で培養したもの、「培養軟骨」とは本発明の軟骨再生用三次元細胞結合体である。
【0061】
また剥離法で作製したPLGA支持体を用いた実験も同様に実施し、塩溶出法によるものと同等の結果であることが確認された。
【0062】
【発明の効果】
本発明は、軟骨損傷治療のための生体内および生体外での軟骨組織再生用三次元細胞結合体の製造を、産業化を前提に、より実用的にするための手段を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】hMSCsをPLGA多孔質支持体に播種、培養後、得られた培養軟骨について組織解析を行った結果を示す図である。(a)、(b)、(c)はそれぞれ以下の染色結果を示す。a;HE(ヘマトキシリンエオシン)、b;AB(アルシアンブルー)、c;SO(サフラニンO)。
【図2】14日間培養サンプルの力学強度測定結果を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、in vitroで培養された間葉系幹細胞を生体内、生体外における三次元培養環境下で軟骨細胞に分化誘導するための分化誘導因子およびこれを用いた生体内および生体外での軟骨組織再生用三次元細胞結合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
変形性関節症などの軟骨疾患は、老齢人口の増加とともに急速な増加傾向にあり、これに起因する社会的経済的コストは大きく、関節機能を回復できる有効な治療法が強く望まれている。
【0003】
従来、損傷関節面が適切な細胞外基質を再構築するとみられる自己由来細胞を移植することにより損傷関節面が修復されるという仮説に基づき、培養軟骨細胞を膝に導入することに伴う一つの研究が非常に有望であるものとして現れ、これの実用化、製品化もなされた(非特許文献1、非特許文献2)。しかしながらこの治療方法はスポーツ障害など小規模の軟骨欠損を対象としたもので患者数の多い重篤度の高い変形性膝関節症など大規模な軟骨欠損への適用は無理とされている。また小規模への適用においてもその効果に疑問が投げかけられているのが現実である(非特許文献3)。さらに関節由来軟骨細胞を用いた自家移植治療においては、患者自身の細胞を関節より採取する必要があることより侵襲性の問題が指摘されている。また治療のためには採取細胞を大幅に増幅させる必要があるが、分化した軟骨細胞は増幅させることにより、その本来の軟骨細胞の機能を失う脱分化の問題もある。このような状況の中、軟骨欠損治療において優れた治療成績を望むべく、高い分化能を保持したまま大幅増殖が可能とされる間葉系幹細胞の利用が期待され、この実用化が強く望まれている。間葉系幹細胞(MSCs)は脂肪、骨、軟骨、弾性、筋および線維などの結合組織を含む特殊な型の間葉あるいは結合組織に分化することのできる骨髄、血液、真皮、および骨膜に見出される形成多能芽細胞あるいは胚状細胞である。これらの細胞が入る特異的分化経路は機械的影響およびもしくは成長因子、サイトカインなどの内因性生物活性因子、およびもしくは宿主組織により確立された局所微環境条件からの各種の影響に依存する。これらの細胞は通常骨髄に非常に低い頻度で存在する。組織培養でこれらの細胞の集団を分離し、増幅させるプロセスは、フリーデンスタイン他により既に報告されている(非特許文献4、非特許文献5)。
【0004】
またMSCsの軟骨細胞への分化は既に数多く報告されている(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。生体内でのMSCsからの軟骨創製は、ウサギを用いて軟骨欠損治療実験を行ったWakitaniらの報告がある(非特許文献10)。また生体外での軟骨創製は、Johnstoneらのウサギ骨髄由来間葉系幹細胞を用いた軟骨創製に関する報告など(非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13)がある。
【0005】
以上の技術状況の中、このMSCsからの軟骨創製を産業化を前提とした実際の治療へ応用する研究が行われている。そのひとつは、治療により有効な性能を有する軟骨様組織の創製である。上記に述べた多くの方法ではMSCs細胞を三次元培養環境下におくために遠心操作等により細胞塊を形成させている。このような方法で形成させた細胞塊を培養することにより、軟骨様組織の形成は確認されているが、細胞塊全体にわたった軟骨形成ではないなどまだまだ不十分といわざるを得ない。また本手法ではかなり多くの細胞数を必要とし患者自身の細胞を用いるという自家移植治療においては侵襲性あるいは脱分化の点で問題点となる。細胞塊を形成させることなく軟骨創製を行う系として、Martinらによるポリグリコール酸支持体に幹細胞を播種したものを培養することによる軟骨創製の報告があるが(非特許文献14)、この報告でも大量な細胞数が必要とされ、実際の治療応用には現実的でない。
【0006】
そこで我々は以前の報告で、生分解ポリマーのPLGA(乳酸とグリコール酸の共重合体)で作製したユニークな構造を有する多孔質支持体を用いMSCs細胞を培養することにより、用いる細胞数をMartinらの方法の10分の1以下で正常軟骨様に支持体全体にわたり同細胞を均一に分布させ、さらに組織、生化学的にもまた力学的にも正常軟骨に近い性能の軟骨様組織を形成させることに成功し、MSCs細胞を用いた軟骨欠損治療を一歩実用化に近づけた(特願2002−263126)。
【0007】
【非特許文献1】
Brittbergら、The New England Journal of Medicine Vol.331,No.14、889−895、1994
【非特許文献2】
諸橋ら(培養自己軟骨移植法の米国における企業化事例)組織培養工学、vol.23、568−571
【非特許文献3】
Breinanら Orthopedics Vol.20:525−538、1997
【非特許文献4】
Friedenstein Hamatol Bluttransfus Vol.25、19−29、1980
【非特許文献5】
Friedensteinら Exp Hematol Vol.10、No.2、217−227、1982
【非特許文献6】
Grigoriadisら Journal of Cell Biology
Vol.106,2139,1988、
【非特許文献7】
Babら J. Cell Sci. Vol.84、139−151、1986
【非特許文献8】
Friedensteinら Bone Miner Res. Vol.7、243−272、1990
【非特許文献9】
Caplanら J. Orthop. Res. Vol.9、641−650、1991
【非特許文献10】
Journal of Bone Joint Surgery Am.、Vol.76A、579,1994
【非特許文献11】
Johnstoneら Trans. Orthop. Res. Soc. Vol.21、65、1996
【非特許文献12】
Johonstoneら Experimental Cell Research Vol.238、265−272、1998
【非特許文献13】
Mackayら Tissue Engineering Vol.4、No.4、415−428、1998
【非特許文献14】
Martinら Journal of Orthopaedic Research Vol.16、181−189、1998
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記の「従来の技術」の項で述べてきた作製方法では、すべて分化誘導因子としてトランスフォーミング成長因子(TGF−β)など蛋白性因子を用いている。産業化を前提とした場合、一般的にいって蛋白性因子を用いることはいくつかの理由で好ましくない。すなわち蛋白性因子の場合、まず一般的に言って低分子因子より高コストである。さらに蛋白性因子は一般的に活性的に不安定であり、その活性維持のための煩雑な操作性は体外培養された軟骨組織など実際に治療に用いる製品生産を行う上でも大きな負担となる。また現段階では、特に強い軟骨誘導活性が認められているTGF−βは医薬品として認可されておらず、実際に軟骨誘導因子として利用するにはまだ時間を要する。また用いるサンプル量を少なくすることでコスト面の改善を図り、さらに効果の面で効率化するためには、誘導因子自体を予め支持体に固定しておき、これに細胞を入れ培養することで体外での軟骨創製を行うこと、または誘導因子を固定した支持体あるいは同支持体/細胞混合物を直接移植に供することがひとつの手法として考えられる。このような使い方をする上でも滅菌安定性など誘導因子の安定性が重要であり、非蛋白性のものが望まれる。
【0009】
よってTGF−βのような蛋白性因子に替わる非蛋白性の軟骨誘導因子、特に軟骨組織創製促進を可能にする非蛋白性の軟骨誘導因子を見つけだすことがMSCsからの軟骨創製を産業レベルに導く上で重要な課題であると考えた。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、軟骨損傷治療のための生体内および生体外での軟骨組織再生用三次元細胞結合体の製造を、産業化を前提に、より実用的にするための手段を提供するものである。即ち、本発明は、in vitroで培養された間葉系幹細胞あるいは前駆細胞を、生体内、生体外において軟骨誘導作用を有する非蛋白性低分子化合物を含有する三次元培養環境下で軟骨細胞に分化誘導させる分化誘導方法である。
【0011】
我々は非蛋白性の軟骨誘導因子を探索し、結果として本発明で示したFK506が、MSCsを用いた軟骨創製系において、効果的な同組織形成促進因子であることを見いだすに至った。
【0012】
FK506(タクロリムス)は、1984年に発見されたマクロライド構造を有する化合物で、NFAT(Nuclear Factor of activated T cells)とFKBPs(FK506−binding proteins)の結合を阻害することにより、カルシニューリンを介したNFATの脱リン酸化を阻害し、結果、T細胞の活性化を選択的に阻害することによる強力な免疫抑制作用を発揮する。最近、NFATファミリーのひとつであるNFATpが軟骨創製のリプレッサーであるとの報告がなされた(Rangerら J.Exp.Med.Vol.191,9−21,2000)。さらにNishigakiらにより、FK506には幹細胞ラインからの軟骨細胞誘導を促進する効果があることが報告されている(Eur J Pharmacol 2002
22;437(3):123−128)。
【0013】
しかしながら実際の治療を前提としたFK506によるヒトMSCsからの軟骨細胞の誘導の可否についてはまだ明確ではない状況であった。この状況の中、我々は実際にヒトMSCsを用い、さらに軟骨組織形成に好ましい三次元培養環境を付与する我々のユニークな多孔質支持体を用いることにより、このFK506の軟骨細胞および軟骨組織形成誘導促進効果を検討し、結果として、このFK506が有効な軟骨組織形成促進作用を持つこと見出した。
【0014】
【発明の実施の形態】
軟骨への分化誘導効果を有するものとして、デキサメタゾンなどのグルココルチコイド、トランスフォーミング成長因子−βファミリーと呼ばれる因子、例えば骨形態形成タンパク質(望ましくはBMP−2あるいはBMP−4)、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、インヒビンAあるいは軟骨形成刺激活性因子(CSA)、I型コラーゲン(とりわけゲル形態にあるもの)などのコラーゲン性細胞外基質、およびレチノイン酸などのビタミンA類似体などがある。
【0015】
しかしながら現実的にはTGF−βなど蛋白性因子は軟骨創製において必須のものであるとされている。例えば、TGF−β1は軟骨形成の有力なプロモーターであるとして知られており、数多くの研究で軟骨の修復を実行するために使用されてきており、またTGF−β3は子宮平滑筋腫細胞に際立った効果を持つものとして発見され、オシリスのグループにより間葉系幹細胞の軟骨形成分化に対する作用が報告されている(Mackayら Tissue Engineering Vol.4、No.4、415−428、1998)。
【0016】
本発明の非蛋白性の軟骨分化因子探索では、上記の軟骨分化誘導活性を有する蛋白性因子を共存させることなく、単独でその効果を発揮し得るものを見出すことを目的としたものであり、以下に述べるFK506はこれを満たすものとして本発明でその活性が確認された。なお本発明で言うFK506様の軟骨誘導作用とは、FK506の作用経路に関連する物質に作用することによる軟骨細胞分化誘導を意味する。
【0017】
本発明においては、軟骨誘導作用を有する非蛋白性低分子化合物として、FK506又はFK506様の軟骨誘導作用を有する化合物が用いられる。FK506は、免疫抑制剤として市販されているもの(藤沢薬品製、プログラフ)を用いた。培養に添加する溶液は、同製品に付属する溶解液(無水エタノール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を含む溶液)にて凍結乾燥品を溶解したものを用いた。FK506濃度は少くとも約1ng/mlであり、望ましくは5−15ng/mlである。
【0018】
間葉系幹細胞(MSCs)は骨髄、血液(末梢血を含む)、骨膜および真皮、ならびに中胚葉起源を持つ他の組織などからウシまたはヒト血清環境あるいは合成無血清環境下の密度勾配分画などにより分離することができる。それら組織に含まれているMSCsは年齢と共に大幅に減少するが、とりわけ骨髄から分離することができ、分離された分画調製物は細胞の少くとも約90%、また望ましくは少くとも約95%がヒト間葉系幹細胞の細胞を含むであろうということが考えられる。
【0019】
さらに分画調製された同細胞は、ウシまたはヒト血清環境あるいは合成無血清環境下で培養増幅され、軟骨組織の形成はこれらの細胞を三次元形態、望ましくは三次元培養環境を付与する多孔質支持体との混合物(三次元細胞結合体と呼ぶ)として合成無血清環境下で培養することにより行われた。この三次元細胞結合体は体外および体内での軟骨形成に適用することができる。なお本発明で使用されたヒト間葉系幹細胞(hMSCs)は、市販のもの(Biowhittaker社製)である。
【0020】
本発明において三次元培養環境とは、間葉系幹細胞あるいは前駆細胞が三次元方向に増殖することができる培養環境を意味する。三次元培養環境を付与する多孔質支持体としては、これまでの我々の報告したものを用いた。以下、詳細を述べる。
すなわち紡錘状などの縦長形状の孔が並列に並んだ構造を有する。孔の孔径は10μm以上500μm以下であり、細胞を導入可能でかつ漏れにくい構造の確保の点から、好ましくは20μm以上150μm以下である。上記孔の孔長は50μm以上1cm以下であるが、支持体内の培地拡散性保持の点から、好ましくは50μm以上5mm以下である。
【0021】
本発明で使用される支持体は、並置された各孔間は孔径10μm以下の小孔で連通した構造となっている。「孔径10μm以下の小孔で連通した構造」とは、上記縦長形状の孔が、50%以上、好ましくは70%以上が孔径10μm以下である小孔で互いに連結された構造を意味する。この小孔は、培地等の溶液は通すが、細胞は通さないものである。
【0022】
本支持体においては、有孔率は70%以上であることが好ましいが、細胞密度確保の点から70〜95%のものがより好ましい。ここで有孔率とは、支持体における縦長形状の孔と小孔との合計の割合をいい、単位体積あたりの支持体材料の重量から算出したものである。また孔径及び孔長は、電顕観察で評価、算出した。
本発明でいうところの組織再生用とは、生体を構成する種々組織の再生用を意味する。
【0023】
本発明の多孔性支持体の構造としては、不織布、フォーム、スポンジ、織物構造などが考えられ、作製可能であるが、機械的強度を考慮してフォームまたはスポンジ構造のものが望ましい。
【0024】
この支持体では両方の面に10μm程度の孔径を有する孔が空いている形状のもので、培地通性は十分確保した上で細胞が通過しにくい構造を有している。これは支持体の中に導入された細胞が漏れ出ることを防ぐとともに、外部、特に軟骨下骨からの炎症性細胞の浸潤を防ぐために有効な構造である。また各孔間の横方向の連通性については、培地の移動は可能であるが、細胞の移動はできない孔径10μm以下のサイズの小孔で連通しており、細胞の生育性に良好な環境を与え、播種された細胞が横面から漏出することを防ぐ構造を有している。
【0025】
本発明で使用される支持体のより好ましい態様として、厚み方向に縦長な形状の孔が面方向に並列的に配置された概平板形状を有し、一方の面が開孔処理されている三次元多孔性支持体を挙げることができる。ここで、「厚み方向」とは縦長孔の縦長方向を意味し、「縦長な形状の孔が面方向に並列的に配置」とは縦長孔を同じ方向に並置することを意味する。また、「概平板形状」とは完全な平板形状はもちろんのこと、平板形状に近い形状であるものを全て含むものである。
【0026】
「開孔処理」とは孔径を拡大させることを意味し、例えば以下のような塩溶出法による開孔処理、剥離法による開孔処理などが挙げられる。
塩溶出法とは、支持体を作製する時に、片面の表層部についてのみリーチング法と呼ばれる塩溶出処理操作を組み合わせた方法である。これにより、片面を孔拡大することができ、さらにロート状の形状をとることにより孔への細胞導入を効率的に行うことができる。
【0027】
剥離法とは、凍結乾燥法で作製した支持体が、例えば紡錘状の縦長形状の孔の厚み方向の中央付近に広面と並行に空隙あるいは結晶境界を形成することを活用し、支持体を中心部あたりで縦に割く形で、つまり平板方向に剥離して作製する方法である。これにより、一方の面(剥離面)に50から150μm平均の細胞が容易に通過できる孔径を確保できる。
【0028】
本発明で使用される多孔性支持体の材質は特に限定されないが、生理学的条件下で体内に吸収される物質、つまり生体適合性材料が好ましく、これは天然のものでも合成物質でもよい。
【0029】
多孔性支持体を構成する生体適合性材料としては、天然物から得られるものと合成により得られるものが挙げられるが、加工性、滅菌性、感染性の点から、加水分解により分解し得る合成ポリマーが好ましく、特にαおよびβ−ヒドロキシカルボン酸の加水分解性ポリマーが好ましい。このような生体適合性材料の例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸/グリコール酸共重合体、ポリεカプロラクトン、乳酸/εカプロラクトン共重合体などが挙げられる。
【0030】
本発明で使用される乳酸とグリコール酸とのコポリマー(PLGA)としては、グリコール酸と乳酸との重量比が、99:1ないし1:99であるコポリマー、特に75:25ないし25:75の比のコポリマーが好ましい。また他の共重合体についても、乳酸以外のコモノマーと乳酸との重量比は、上述したグリコール酸と乳酸との重量比と同じ範囲にあることが好ましい。
【0031】
本発明で使用される支持体は、厚さを適宜設定し、患部を補填するために必要なサイズにすることができる。本発明の支持体の厚さは、好ましくは50μmから1cmである。なおヒトの膝あるいは股関節の治療に用いる場合には、1ないし3mmの厚さのものが実際上好ましい。
【0032】
また上記支持体の形状および面積については特に限定はなく、患部を補填するために十分なサイズのものを作製することができる。例えば、ヒトの膝あるいは股関節の治療に用いる場合には、好ましくは10ないし20mmの直径の円筒形のものである。
【0033】
次に本発明で使用される三次元多孔性支持体の製造法について説明する。本発明で使用される三次元多孔性支持体の製造法は、下記の工程からなることを特徴とする:
a)支持体材料を有機溶媒に溶解し、
b)調製した溶液を型枠に流し込んだあと5℃/分以上の冷却速度で凍結し、
c)凍結した溶液を真空乾燥して、有機溶媒を除去する。
凍結乾燥処理に先立ってこれら支持体材料を溶液状にするにあたり、溶媒としては通常種々の有機溶媒を用いることができるが、好ましくはクロロホルム、ジオキサン、ポリエチレングリコールである。
【0034】
また溶解させた支持体材料の溶液を流し込む型枠について、その材質は特に限定されるものではないが、凍結乾燥処理に耐える材質である金属、ガラス製が好ましい。
【0035】
また上記型枠の形状は特に限定されず、例えば軟骨損傷治療の場合には、軟骨の構造に類似する概平板形状を用いるなど、再生を目指す各組織の形状の構築を基本とするものであれば、各疾患の治療上有効な形状については、すべて使用することができる。
【0036】
凍結による固化は、少なくとも5℃/分の温度低下、つまり5℃/分以上の冷却速度となるように急速に凍結することが必要となる。例えば、超低温フリーザーや液体窒素を用いることにより、この温度低下(冷却速度)が可能となる。
この後、凍結した溶液を真空乾燥して、有機溶媒を除去することにより、三次元多孔性支持体を得ることができる。
【0037】
本発明で使用される支持体の好ましい態様である、厚み方向に縦長な形状の孔が面方向に並列的に配置された概平板形状を有する三次元多孔性支持体は、剥離法を用いた下記の工程から製造することができる:
a)支持体材料を有機溶媒に溶解し、
b)調製した溶液を、概平板形状になるような型枠に流し込んだ後、5℃/分以上の冷却速度で凍結し、
c)凍結した溶液を真空乾燥して、有機溶媒を除去し、
d)乾燥後の支持体を厚み方向の中心部で平板方向に剥離する。
本明細書において、「厚み方向の中心部で平板方向に剥離する」とは、支持体の厚み方向の中央付近で、平板の上下方向に剥離することを意味する。
【0038】
上記概平板形状を有する三次元多孔性支持体は、塩溶出法を用いた下記の工程から製造することもできる:
a)支持体材料を有機溶媒に溶解し、
b)概平板形状になるような型枠に粒状塩を分散させ、
c)調製した溶液を上記型枠に流し込んだ後、5℃/分以上の冷却速度で凍結し、
d)凍結した溶液を真空乾燥して、有機溶媒を除去し、
e)粒状塩を水洗により除去する。
【0039】
ここで、粒状塩とは粒子径500μm以下の結晶性物質を意味し、KCl、NaCl、CaCl2のような無機塩、各種アンモニウム塩、クエン酸三ナトリウムのような有機化合物の塩などが挙げられる。粒子径の点からクエン酸三ナトリウムが特に好ましい。
【0040】
塩溶出法を用いた本発明の方法で三次元多孔性支持体を作製した場合、厚みの1〜20%で塩溶出処理部による孔が形成され、残りの80%〜99%で上記縦長形状の孔が形成された構造となる。
【0041】
本発明の軟骨組織再生用三次元細胞結合体は、間葉系幹細胞あるいは組織由来の前駆細胞を本明細書記載の支持体に播種して、これを人工環境内および/または生体内で培養することで作製された軟骨組織およびその類似体をいう。ここで、前駆細胞とは未分化の細胞を意味する。
【0042】
本発明で用いる間葉系幹細胞又は組織由来の前駆細胞としては、骨髄、血液(末梢血、臍帯血)、真皮、骨膜および中胚葉起源を持つその他組織のものが好ましく用いられる。
【0043】
本発明の軟骨組織再生用三次元細胞結合体としては、塩溶出法を用いる本明細書記載の方法で作製した三次元多孔性支持体に、間葉系幹細胞あるいは組織由来の前駆細胞を人工環境内および/または生体内において培養することにより得られ、厚みの1〜20%相当の塩溶出処理部、すなわち開孔処理された構造部分が生体軟骨の1/10未満の圧縮弾性率、残りの80%〜99%の部分が生体軟骨の1/10以上の圧縮弾性率を有する三次元細胞結合体も挙げられる。このような本発明の三次元細胞結合体は生体軟骨の10%以上の圧縮弾性率を有することが好ましい。
【0044】
塩溶出法を用いる本明細書記載の支持体は、良好な細胞播種性の附与のみならず、良好な組織形成を可能にする。ゆえに塩溶出法を用いる本発明の方法で三次元細胞結合体を作製すれば、上記圧縮弾性率で示されるように、厚みの1〜20%にあたる開孔処理された構造部分(塩溶出処理部)が、残りの80〜99%の構造部分(非塩溶出処理部)に比べ、明らかに柔らかい性質の組織として作製できる。
【0045】
本発明における力学強度測定条件では、その圧縮弾性率は塩溶出された部分が2.5×10−3MPa〜1.5×10−1MPaの圧縮弾性率であり、その他の部分の1.5×10−1MPa〜2.0MPaに比べ、明らかに柔らかい構造であるといえる。このような性質は、本三次元細胞結合体を実際に患部に埋め込んだ際、反対側の軟骨組織を痛めることを回避する点で極めて有効な構造であるといえる。なお圧縮弾性率とは、圧縮時に受ける応力の歪みに対する変化率である。
【0046】
次に、本発明の軟骨再生用三次元細胞結合体の製造法について説明する。上記製造法は、本発明で使用される三次元多孔性支持体に、間葉系幹細胞あるいは前駆細胞を播種し、生体外および/または生体内で合成培地を用い三次元培養環境下で培養することを特徴とする。
【0047】
ここで使用される「合成培地」という用語は、この発明の組成物がとりわけこの発明の方法に従ってin vitroで軟骨形成を受けることができ、また最小必須培地、アスコルビン酸塩あるいはその類似体、鉄源等微量金属およびインスリンもしくはインスリン状成長因子を含むような維持、成長あるいは培養培地を意味する。なお、その他蛋白性因子としてヒトでの実績のあるウシアルブミンを用いることが好ましい。本実験では最小必須培地としてDMEM、鉄源等微量、インスリン、ウシアルブミンを別添加として用いた。
【0048】
上記製造法において、間葉系幹細胞あるいは前駆細胞の播種は公知の方法で行うことができるが、支持体1cm3あたり106〜108個の密度となるように間葉系幹細胞又は前駆細胞を播種することが好ましい。
【0049】
上記方法において、「生体外で培養」とは、試験管、培養器など人工環境内で培養することを意味する。静置または旋回でのバッチ培養、あるいは循環式の連続培養を行うことができ、望ましくは旋回バッチ培養あるいは循環式の連続培養である。また本発明で使用された三次元細胞結合体の製造法において、人工環境内の培養は、培養液を支持体に対し毎秒0.1cmから毎秒50cmの速度で移動させる条件で行われることが、三次元細胞結合体への新鮮な培地の供給の観点、また三次元細胞結合体からの老廃物の除去の観点より好ましい。
【0050】
上記方法において、「生体内で培養」とは、例えば、支持体あるいは支持体と細胞の混合物を生体組織内に設置して細胞を培養するような、生体組織内での培養を意味する。
【0051】
本発明で使用される支持体に間葉系幹細胞又は前駆細胞を播種し培養するにあたり、FK506以外の非蛋白性因子を共存させることができる。例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチンなどムコ多糖、さらにアスコルビン酸、トコフェロール、コーエンザイムQ10など各種ビタミン類である。これらは細胞全般の生育性の維持、向上に寄与するものである。
【0052】
【実施例】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)PLGA支持体を用いた培養軟骨の作製
Biowhittaker社製ヒト間葉系幹細胞7.5×105個を10%ウシ胎児血清を添加したGIBCO社製DMEM培地(50μg/ml アスコルビン酸2−リン酸、100μg/ml ピルビン酸ナトリウム、100nM デキサメタソン、40μg/mlプロリン、ITS−plus(collaborative Biomedical Products))を用いて培養し、一週間後、約10倍の細胞数に増幅した細胞を以下培養軟骨の作製に供した。なおここでいう培養軟骨は本明細書記載の軟骨再生用三次元細胞結合体を示す。
【0054】
25キログレイ(KGry)でγ線滅菌した明細書記載の塩溶出法で作製したPLGA支持体を前記培地中に置き、減圧下で脱気して支持体表面に培地をなじませた後、培養した間葉系幹細胞を支持体1cm3当り3×107個の密度となるように播種した。間葉系幹細胞を播種した支持体を培養シャーレに置き、10%ウシ胎児血清を添加したGIBCO社製DMEM培地を支持体が隠れる程度に加え、1晩静置培養した。この後、20mlのGIBCO社製DMEM培地がはいった直径10cmの培養シャーレに支持体を移し、1000ng/mlとなるようにFK506を添加した後に、水平円運動を行える振盪機を用いて30rpmの回転数で旋回培養を行った。旋回培養開始後14日目に支持体を取り出し、作製された培養軟骨を組織学的及び生化学的に評価した。このPLGA支持体を用いて作製された培養軟骨の組織像は、図1に示されたようにアルシアンブルーおよびサフラニンO染色陽性を呈した。さらに、これらの組織中に存在する軟骨細胞は繊維芽細胞様の形態ではなく、永久軟骨細胞と非常に似かよった形態を有していた。この培養軟骨の一部を4Mグアニジン塩酸溶液で可溶化し、DMMB(Dimethyl Methylene Blue)法と呼ばれる色素法により軟骨に特徴的なマトリクスであるアグレカンの検出を試みたところ、アグレカンの存在が認められた(表1)。また同じ培養軟骨の一部サンプルを用い、同じく軟骨特徴的マトリクスであるコラーゲンの産生(蛍光色素法(Sircol collagen assay(Biocolor社製))による全コラーゲン量、ELISA法にてコラーゲンタイプ1およびタイプ2の産生)を調べたところ、全コラーゲン産生とともにタイプ別のコラーゲンの有意な産生が確認された(表1)。
【0055】
【表1】
【0056】
表1中、DNA測定は抽出効率の違いによるバラツキを相殺するための内部標準として測定したものである。したがってアグレカン量は単位DNA量あたりの数字で示されている。A/Dはアグレカン/DNAを指す。またコラーゲンについては、タイプ2/タイプ1の比という形で示した。
【0057】
また明細書記載の剥離法で作製したPLGA支持体を用いた実験も同様に実施し、塩溶出法によるものと同等の結果であることが確認された。
【0058】
(実施例2)培養軟骨の力学強度測定
実施例1で作製された培養軟骨を、PBS溶液中25℃にて30分間平衡化後、ヘッドスピード0.1mm/秒で圧縮を加えた時に受ける応力を以下の方法で測定した。
【0059】
すなわち、応力値2.5×10−4MPaを呈する歪みをε0(サンプル表面)、応力値1.5×10−2MPaを呈する歪みをε15とし、その間を開孔処理された部分と認識した。また、圧縮弾性率は開孔処理された部分を除く部分(内部構造)で求めることとし、歪みがε15から0.10増加する間の圧縮応力の変化率にて算出した。その結果、圧縮弾性率において、支持体のみのものに比べ有意に強度が増していることが示唆された(図2)。
【0060】
なお、圧縮には、ASTM:D1621−94に準拠した「テクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製)」付属の制御解析ソフトTexture Expert Exceedを用い、そのマニュアルに従い圧縮解析を行った。図2中、「支持体」とは実施例1でPLGA支持体のみを培養軟骨創製と同条件で培養したもの、「培養軟骨」とは本発明の軟骨再生用三次元細胞結合体である。
【0061】
また剥離法で作製したPLGA支持体を用いた実験も同様に実施し、塩溶出法によるものと同等の結果であることが確認された。
【0062】
【発明の効果】
本発明は、軟骨損傷治療のための生体内および生体外での軟骨組織再生用三次元細胞結合体の製造を、産業化を前提に、より実用的にするための手段を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】hMSCsをPLGA多孔質支持体に播種、培養後、得られた培養軟骨について組織解析を行った結果を示す図である。(a)、(b)、(c)はそれぞれ以下の染色結果を示す。a;HE(ヘマトキシリンエオシン)、b;AB(アルシアンブルー)、c;SO(サフラニンO)。
【図2】14日間培養サンプルの力学強度測定結果を示す図である。
Claims (9)
- in vitroで培養された間葉系幹細胞あるいは前駆細胞を、生体内、生体外において軟骨誘導作用を有する非蛋白性低分子化合物を含有する三次元培養環境下で軟骨細胞に分化誘導させる分化誘導方法。
- 非蛋白性低分子化合物がFK506様の軟骨誘導作用を有することを特徴とする請求項1記載の分化誘導方法。
- 非蛋白性低分子化合物がFK506である請求項1記載の分化誘導方法。
- 前記三次元培養環境を附与するものが、孔径10μm以上500μm以下、孔長50μm以上1cm以下の縦長形状の孔が並列的に配置され、並置された各孔間は孔径10μm以下の小孔で連通した構造を有する組織再生用の三次元多孔性支持体である請求項1記載の分化誘導方法。
- 三次元多孔性支持体が、厚み方向に縦長な形状の孔が面方向に並列的に配置された概平板形状を有し、一方の面が開孔処理されているものである請求項4記載の分化誘導方法。
- 三次元多孔性支持体が生体適合性材料からなるものである請求項4記載の分化誘導方法。
- 生体適合性材料がポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸/グリコール酸共重合体、ポリεカプロラクトン、及び、乳酸/εカプロラクトン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでなる請求項6記載の三次元多孔性支持体。
- 請求項4記載の方法で製造された三次元細胞結合体。
- 三次元細胞結合体が2.5×10−3MPa〜1.5×10−1MPaの圧縮弾性率を有する部分と、1.5×10−1MPa〜2.0MPaの圧縮弾性率を有する部分とからなる請求項8記載の三次元細胞結合体。
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