JP2004248575A - 膵癌検出用マーカー - Google Patents

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Abstract

【課題】膵癌検出用マーカー、及び該マーカーを用いた膵癌の検出又は診断方法、更には該膵癌の検出方法を用いた膵癌予防又は治療用の抗膵癌物質のスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】膵臓において正常細胞には発現せず、他方癌細胞においては、各種癌細胞において顕著に発現するKCCR13Lの遺伝子、及び該遺伝子がコードするポリペプチドを膵癌検出用マーカーとして用いる。本発明により、この遺伝子に対する検出用プローブ及び該遺伝子がコードするポリペプチドに対する抗体を作製することにより、膵癌検出用マーカーを検出し、膵癌の検出又は診断を広範囲にかつ確実に行うことができる。更に、本発明は、該膵癌の検出方法を用いることにより、抗膵癌物質のスクリーニングを行い、膵癌予防薬或いは治療薬の開発を行うことができる。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、膵癌検出用マーカー、特に、膵臓において膵癌に特異的に発現する遺伝子及びポリペプチドからなる膵癌検出用マーカー、及び該マーカーを用いた膵癌の検出又は診断方法、更には抗膵癌物質のスクリーニング方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
膵癌の発生は、年々増加の傾向を辿っており、日本での発生率は、1960年には10万人中1.8人であったのが、1985年には10万人中5.2人まで増加した。更に、1995年には、膵癌による死亡数は、10万人中14.7人となり、男性の癌による死因の第5位、女性の第7位を占めている(厚生統計協会:国民衛生の動向1997年)。米国においても、膵癌の発生、死亡率は高く、米国での癌死亡の第4位に位置している(CA Cancer J. Clin., 46, 5−27)。
【0003】
膵癌は非常に悪性であり、離れた部位(特に、肝臓等)への転移が、疾患の経過の初期に起きる。したがって、多くの患者は、遠隔転移を起こし、既に治療切除等の可能性を過ぎた進行期に診断される。膵癌にかかった個体に対する生存期間の中央値は、診断時から6ヶ月であり、患者の約10%は1年の生存であり、5年間の生存率は1〜2%であると報告されている(Harrison Principles of Internal Medicine, New York, 11, pg.1381−1384)。そこで、膵癌を早期に検出、同定できれば、効果的な治療も可能となり生存率を改善することも期待できる。膵癌の治療には、合併療法(5−フルオロウラシル及び放射線)を併用した手術が行われるが、既に、切除不可能な癌の場合は、複数の薬剤を使用したとしても、薬剤の治療は効果が薄いことが報告されている。したがって、膵癌の治療が成功するか否かは、ひとえに、初期の検出、診断に成功するか否かに依存しており、この初期の検出、診断を可能とする手段を開発することが何よりも重要となる。
【0004】
従来、膵癌の診断には、臨床的にはコンピューター断層撮影(CT)スキャンや、超音波診断が行われている。しかし、該臨床診断は、疾患の後期になることが多い。また、標準的な胃腸のX写真により、膵癌の診断が行われる場合がある。この方法により、膵頭の癌の存在を発見することが可能であるが、このタイプの癌にかかる全患者の50%のみが、異常と診断されるに過ぎないことが報告されている。更に、膵癌の診断方法として、血清アミラーゼ及びリパーゼ値を測定する方法が行われている。しかし、この方法による値は、全ての膵癌の場合の10%のみしか異常を示さないことが確認されている。
【0005】
また、膵癌等の腫瘍の検出のために、腫瘍マーカーの開発も行われている。該マーカーとしては、例えば、CA19−9(Somatic Cell Genet., 5, 957−972、1979)、Dupan−2(Cancer Res., 42, 601, 1982)、CA−50(Int. Arch. Allergy Appl. Immunol., 71, 178−181, 1983)、Span−1(日外誌, 87, 236, 1986)などが挙げられる。しかし、これらの腫瘍マーカーは、慢性膵炎や、慢性肝炎、肝硬変などの肝良性疾患にも陽性となり、その特異性の点で問題があったり,或いは特定の膵癌に対しては陰性のものがあったりして、膵癌を特異的にかつ確実に検出する腫瘍マーカーとしては問題があった。したがって、従来の方法では、広範囲の膵癌に対して、早期に、確実に、癌の存在を検出、確認することは難しかった。
【0006】
近年、膵癌の診断のために、診断用プローブやマーカーを用いて、膵癌の検出や診断を行う方法が、いくつか特許公報で開示されている。特表2000−502902号公報には、膵臓腺癌から得られる細胞株において示唆的に発現しているPANCIA及びPANCIBと呼ばれるポリヌクレオチド配列を膵癌等の検出のための診断用組成物として用いて、膵癌の診断を行う方法について、特開2001−17169号公報には、膵癌の細胞の染色体には、特異的な部位にDNAの増幅や欠失があることを明らかにして、該膵癌に特異的な染色体部位の増幅や欠失を検出することによって、膵癌を診断する方法が開示されており、具体的には、染色体に、第1標識で標識化した患者由来の癌細胞のDNAと、第2標識で標識化した正常細胞のDNAとを競合的にハイブリダイズさせ、癌細胞のDNAがハイブリダイズした染色体部位が第1標識によって観察され、正常細胞のDNAがハイブリダイズした染色体部位が第2標識によって観察され、両者がハイブリダイズした染色体部位が第1標識と第2標識が混合して観察されるようにして、それぞれの部位の標識を識別することによって、前記増幅又は欠失を検出する診断方法が示されている。
【0007】
また、特開2001−340081号公報には、膵癌細胞株から得られたmRNAを用いてRT−PCR法によりcDNAを作製し、このcDNAをλファージベクターに導入して大腸菌に感染させることによって作製した膵癌細胞cDNAライブラリーのλファージcDNAクローンを、進行膵癌患者血清IgGを用いてスクリーニングすることにより、膵癌患者血清のみに反応し、健常人血清とは反応せず、膵癌細胞に選択的に発現する膵癌抗原KU−PAN−1を単離し、該抗原タンパク質や該タンパク質をコードする遺伝子をマーカーとして、膵癌等の診断を行う方法が開示されており、特表2001−514507号公報には、膵癌において高度に発現される新規遺伝子CaSmがコードする133個のアミノ酸からなるタンパク質を検出又は測定して膵癌の診断を行う方法が開示されている。
【0008】
更に、特開2003−4748号公報には、Sialyl Lewis a基とSialyl Lewis c基の両方を認識するモノクローナル抗体と、MUC−1抗原を認識するモノクローナル抗体とを組み合わせ、膵癌と慢性膵炎や肝良性疾患(慢性肝炎、肝硬変)との鑑別を可能にした膵癌診断薬について開示されている。しかし、これらはいずれもまだ開発段階のものであり、今後の実用化への検証が期待されるものである。
【0009】
他方で、PCT出願の国際公表公報WO 01/16334 A2には、天然に発現する多くのアミノ酸配列及びポリヌクレオチドについて公表されている。しかし、該公報には該アミノ酸配列及びポリヌクレオチドについて、一般的な機能が羅列されているだけで、それらのアミノ酸配列及びポリヌクレオチドの個々の機能を特定できる資料については何も記載されていない。
【0010】
【特許文献1】
特表2000−502902号公報。
【特許文献2】
特表2001−17169号公報。
【特許文献3】
特開2001−340081号公報。
【特許文献4】
特表2001−514507号公報。
【特許文献5】
特開2003−4748号公報。
【特許文献6】
WO 01/16334 A2。
【非特許文献1】
Somatic Cell Genet., 5, 957−972, 1979。
【非特許文献2】
Cancer Res., 42, 601, 1982。
【非特許文献3】
Int. Arch. Allergy Appl. Immunol., 71, 178−181, 1983。
【非特許文献4】
日外誌, 87, 236, 1986。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、膵癌検出用マーカー、特に、膵臓において膵癌に特異的に発現する遺伝子及びポリペプチドからなる膵癌検出用マーカー、及び該マーカーを用いた膵癌の検出又は診断方法、更には該膵癌の検出方法を用いた膵癌予防又は治療用の抗膵癌物質のスクリーニング方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、本発明者が単離した上皮細胞の老化とともに発現が増加する遺伝子KCCR13L(又はC13L)(配列表の配列番号1に示される塩基配列)のヒト正常組織及び癌(腫瘍)組織における発現を調べていくうちに、該遺伝子が膵臓においては、癌細胞特異的に発現することをつきとめ、該遺伝子が膵癌検出用マーカーとして用いることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。この遺伝子は、膵臓において正常細胞には発現せず、他方癌細胞においては、各種癌細胞において顕著に発現し、したがって、膵癌検出用マーカーとして、広範囲の膵癌に対して確実な検出用マーカーとして用いることが可能である。
【0013】
本発明においては、この遺伝子に対する検出用プローブを作製することにより、或いは、該遺伝子がコードするポリペプチド(配列表の配列番号2)に対する抗体を作製することにより、膵癌遺伝子マーカー或いは膵癌ポリペプチドマーカーを検出し、膵癌の検出又は診断を広範囲にかつ確実に行うことができる。更に、本発明は、該膵癌の検出方法を用いることにより、抗膵癌物質のスクリーニングを行い、膵癌予防薬或いは治療薬の開発を行うことができる。
【0014】
すなわち本発明は、配列表の配列番号1に示されるDNA配列を有することを特徴とする膵癌検出用遺伝子マーカー(請求項1)や、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを有することを特徴とする膵癌検出用ポリペプチドマーカー(請求項2)や、請求項1記載の膵癌検出用マーカー遺伝子のDNA配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有する膵癌マーカー遺伝子検出用プローブ(請求項3)や、請求項1記載の塩基配列のアンチセンス鎖の全部又は一部からなる請求項3記載の膵癌マーカー遺伝子検出用プローブ(請求項4)や、請求項3又は4記載のDNAの少なくとも1つ以上を固定化させたことを特徴とする膵癌マーカー遺伝子検出用マイクロアレイ又はDNAチップ(請求項5)や、請求項2記載のポリペプチドを用いて誘導され、該ポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする抗体(請求項6)や、抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項6記載の抗体(請求項7)や、抗体が、ポリクローナル抗体であることを特徴とする請求項6記載の抗体(請求項8)からなる。
【0015】
また本発明は、請求項3〜5のいずれか記載の検出用プローブを用いて、被検細胞における膵癌マーカー遺伝子の発現を検出することを特徴とする膵癌の検出方法(請求項9)や、請求項6〜8のいずれか記載の抗体を用いて、被検細胞における膵癌マーカーポリペプチドの発現を検出することを特徴とする膵癌の検出方法(請求項10)や、請求項6〜8のいずれか記載の抗体を用いた蛍光抗体法により被検細胞中における膵癌細胞を標識化し、該標識化した膵癌細胞を検出することを特徴とする請求項10記載の膵癌の検出方法(請求項11)や、膵癌を発症する非ヒト動物又は膵癌細胞に、被検物質を作用させ、該非ヒト動物又は膵癌細胞における膵癌の有無を、請求項1記載の膵癌検出用遺伝子マーカー及び/又は請求項2記載の膵癌検出用ポリペプチドマーカーにより検出することを特徴とする抗膵癌物質のスクリーニング方法(請求項12)や、請求項3〜5のいずれか記載の検出用プローブ及び/又は請求項6〜8のいずれか記載の抗体を装備してなる膵癌の検出又は診断用キット(請求項13)からなる。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明は、本発明者が単離した上皮細胞の老化とともに発現が増加する遺伝子KCCR13L(又はC13L)の遺伝子、及びKCCR13Lタンパク質(ポリペプチド)を、膵癌検出用マーカーとして用いて、膵癌の検出、診断を行うことよりなる。本発明のKCCR13L遺伝子からなる膵癌検出用遺伝子マーカーの遺伝子のDNA配列は、配列表の配列番号1に示されており、該DNA配列情報は、NCBIの遺伝子データーベースにおいて、それぞれアクセッションナンバーAF450090によりアプローチすることができる。また、本発明のKCCR13Lタンパク質からなる膵癌検出用ポリペプチドマーカーのアミノ酸配列は、配列表の配列番号2に示されており、該配列情報は、NCBIの遺伝子データーベースにおいて、同じくアクセッションナンバーAF450090によりアプローチすることができる。
【0017】
本発明のKCCR13L遺伝子からなる膵癌検出用遺伝子マーカー及び膵癌検出用ポリペプチドマーカーは、膵臓において、癌細胞特異的に発現しており、広範囲の膵癌検出用マーカーとして用いることができる。
本発明のKCCR13L遺伝子及びKCCR13Lタンパク質(ポリペプチド)は、公知の遺伝子操作の手法により、取得することができる。すなわち、該遺伝子を取得するには、膵癌細胞からcDNA遺伝子ライブラリーを作製し、配列表の配列番号1に示された塩基配列を用いてプローブを作製し、該プローブを用いてKCCR13L遺伝子を取得する。また、KCCR13Lタンパク質を取得するには、KCCR13L遺伝子を適宜の発現ベクターに組込み、これを宿主細胞に導入して、発現させることにより、取得することができる。更に、本発明においては、該タンパク質から、該タンパク質に特異的に結合する抗体を作製し、膵癌検出用ポリペプチドマーカーの検出に用いることできる。
【0018】
本発明の遺伝子マーカーにより、膵癌細胞を検出するためには、それ自体公知の方法を用いて適宜実施することができる。すなわち、KCCR13L遺伝子の塩基配列(配列表の配列番号1)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAプローブを作製し、このプローブを用いて検出する。該プローブを用いて膵癌細胞を検出するには、例えば、配列表に示した遺伝子マーカーのDNA配列から適宜の長さのDNAプローブを作製し、適宜蛍光標識等の標識を付与しておき、これを被検体とハイブリダイズすることにより、マーカー遺伝子の発現の有無を検出し、膵癌の発生を検出する。該DNAプローブとしては、配列表に示された本発明の遺伝子マーカーの塩基配列のアンチセンス鎖の全部又は一部からなる膵癌検出用マーカー遺伝子のプローブを用いることができる。また、本発明のプローブを用いた遺伝子マーカーの検出には、該プローブを、少なくとも1つ以上を固定化させたマーカー遺伝子検出用のマイクロアレイ又はDNAチップの形で用いることもできる。
【0019】
なお、上記DNAプローブの作製に際して、本発明の塩基配列において、「KCCR13L遺伝子のDNA配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」条件としては、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション、及び1×SSC(0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム)、0.1%のSDS(Sodium dodecyl sulfate)を含む緩衝液による42℃での洗浄処理を挙げることができ、65℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理をより好ましく挙げることができる。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば種々の要素を組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0020】
更に、本発明においては、本発明のKCCR13Lタンパク質のポリペプチドマーカーの検出に際して、該タンパク質のポリペプチドによって誘導され、該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を用いることができる。該抗体としては、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を挙げることができる。該抗体の作製は、本発明のポリペプチドマーカーを抗原として、常法により作製することができる。本発明の抗体を用いて、被検細胞における膵癌検出用マーカーポリペプチドの発現を検出するには、公知の抗体を用いた免疫学的測定法を用いて実施することができる。該免疫学的測定法としては、例えばRIA法、ELISA法、蛍光抗体法等の公知の免疫学的測定法を挙げることができる。
【0021】
本発明においては、本発明の診断用プローブ及び/又は本発明の抗体を用いて、被検細胞における膵癌検出用マーカー遺伝子及び/又は膵癌検出用マーカーポリペプチドの発現を検出し、膵癌の発症の有無を検出することができる。
例えば、本発明の抗体を用いて蛍光抗体法を用いて膵癌細胞を、検出するには、公知の方法により本発明の膵癌検出用ポリペプチドマーカーを特異的に認識する抗体を標識化し、標識化した抗体を用いて免疫学的測定法により実施する。すなわち、まず蛍光抗体法により本発明の抗体を蛍光標識し、これを抗原を発現している被検細胞に結合させて、膵癌を発症している細胞を標識化し(直接蛍光抗体法)、検出する。或いは、抗原を発現している被検細胞に、未標識の本発明の特異抗体を結合させた後に、標識化した二次抗体(抗免疫グロブリン抗体)を結合させて膵癌を発症している細胞を標識化し(間接蛍光抗体法)、該標識化した細胞を検出する。
【0022】
本発明の膵癌検出用遺伝子マーカー及び膵癌検出用ポリペプチドマーカーは、膵癌の予防、治療薬を開発するための抗膵癌物質のスクリーニングに用いることができる。すなわち、本発明の膵癌検出用マーカーを用いて抗膵癌物質のスクリーニングを行うには、膵癌を発症する非ヒト動物又は膵癌細胞に、被検物質を作用させ、該非ヒト動物又は膵癌細胞における膵癌の有無を、該膵癌検出用マーカーにより検出することにより、行うことができる。
また、本発明において、本発明の方法を用いて膵癌の検出を実施するために、該検出に用いる材料を、本発明の検出用プローブ及び/又は本発明の検出用抗体を装備した膵癌の検出又は診断用キットとして調製しておくこともできる。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例[材料及び方法]
(培養細胞株)
培養細胞株としては表1に示されるものを用いた。ヒト膵管上皮不死化細胞株は発明者により樹立されたものである。これらの細胞株は10%牛胎児血清と0.3%グルタミンを含むRPMI1640、DMEM(Dulbecco Modified Eagle Medium)あるいはMCDB153培地で維持し、37℃、5%CO存在下で培養した。
【0024】
【表1】
Figure 2004248575
【0025】
(KCCR13LのcDNAクローニング)
まず上皮細胞における細胞老化の機構を解明する手段として、ヒト子宮外頚部由来の上皮細胞を2週間培養したものと、3ヶ月間長期培養したいわゆる細胞老化の形質を持ったもの(形態の変化、テロメア長の短縮、老化に伴うβ−ガラクトシダーゼ(SA−β−GAL)の誘導)より、各々の全RNAを用いてdifferential display法(Science, 257, 967−971, 1992)により、両者の間で発現の差のある遺伝子を探索する過程において、すなわち細胞老化の過程でその発現が上昇する新規の遺伝子の候補の一つとして取られてきたクローンが、KCCR13Lである。このクローンは3´側の一部しか持っていなかったため、全長及びより長いcDNAクローンの取得を目指し、ヒト胎盤由来のcDNAライブラリーをスクリーニングした。さらにSMART RACE amplification kit(BD Clontech)に提示されたプロコトールに基づき、5´RACE(Rapid Amplification of cDNA ends)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85,8998−9002)反応を行った。得られたPCR断片及びcDNAは塩基配列の決定を行い、最終的に全長cDNA(2863bp)を得た。
【0026】
(DNAシークエンスとホモロジー検索)
プラスミドDNAはQuiagenカラムで精製した後、サイクルシークエンスの鋳型として用いて、染色(Dye)ターミネーター法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74, 5463−5465, 1977)を行い、蛍光シークエンサー(BECKMAN COULTER CEQ2000)を用いて塩基配列の決定を行い、公表されているデータベースに対してシークエンスの相同性を調べた。
【0027】
(ウエスタンブロット)
細胞溶解液として、TNEバッファー(10mM Tris−HCl(pH7.8)、1% NP40、150mM NaCl、1mM EDTA、0.5mM PMSF、10mg/ml Aprotinin、10mg/ml Leupeptin)を用いて調製し、8%SDS−PAGEにて分離し、PVDF膜(Millipore)に転写した。抗フラッグ(Flag)モノクローナル抗体(M2:Sigma)及びペルオキシダーゼ標識抗マウスイムノグロブリン(Amersham pharmacia biotech)をそれぞれ一次抗体、二次抗体として使用した。シグナルの検出はECLシステム(Amersham pharmacia biotech)によって行った。
【0028】
(RNA分離)
グアニジウムイソチオシアネート酸性フェノールクロロホルム法(Anal.Biochem. 162, 156−159, 1987)により又はSV Total RNA Isolation システム(Promega)を用いて、細胞株及び腫瘍サンプルから全RNAを分離精製した。正常組織RNAはすべてBD Clontech及びCELL Applications, Inc.より購入した。
(ノーザンブロット)
Sambrook. J, Fritsch EF, Maniatis T. Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Press, New York等の公知の方法に準じてノーザンブロット解析を行った。なお、プローブとして、KCCR13L cDNA(配列表の配列番号1)の2289〜2812の部分を用いた。ハイブリダイゼーションをExpressHyb溶液内で68℃で1時間行った。フィルターメンブレンを次第により高いストリンジェンシーにて順次洗浄した。最終的には0.1×SSC、0.1%SDS、50℃で洗浄し、シグナルをSTORM860(Amersham pharmacia biotech)により検出した。
(RT−PCR)
1μgの全RNAをSuperscript II RNaseH−reverse transcriptase(Invitrogen)を用いてcDNAに逆転写した。PCRには0.1μg cDNA及び500pMの各特異的プライマーと0.5unitのTaqポリメラーゼを用い、10mM Tris−HCl、1.5mM MgCl、50mM KCl、0.2mM dNTPミックス含有pH8.3のバッファー中で行った。
なお、RT−PCRプライマーとして、KCCR13Lのセンスプライマーとして、F404プライマー:5’− CTTTACATCCGCCTGGCGCTGTT− 3’(配列表の配列番号3)、アンチセンスプライマーとしてR2169プライマー:5’ −GAGTCCATCGTTCCTGGGACAGTTTCC −3’(配列表の配列番号4)、XBP−1のセンスプライマーとして、5’− GAGTAGCAGCTCAGACTGCC −3’(配列表の配列番号5)、アンチセンスプライマーとして、5’ − GTAGACCTCTGGGAGCTCCT −3’(配列表の配列番号6)、及びCEACAM6のセンスプライマーとして、5’− CCTGCAGATTGCATGTCCCC −3’(配列表の配列番号7)、アンチセンスプライマーとして、5’− GTCCTATTGAGGCCAGTGGC −3’(配列表の配列番号8)を用いた。
【0029】
実施例[結果]
(KCCR13Lの同定とクローニング)
前記実施例A−3に記載されているように、本遺伝子を単離しGenBank/EMBL/DDBJのデータベースに対して相同性検索を行った当初は、KCCR13Lと高い相同性を示すタンパク質は認められなかったので、塩基配列とタンパク質を上記データベースに機能未知遺伝子及びタンパク質として登録(AF450090とAAL47020)をした。その後米国国立バイオテクノロジー情報センターNCBIにHs.131899として統合整理されている。一方KCCR13Lタンパク質と高い相同性を示すタンパク質として本遺伝子のマウスホモログをコードするBC016105(79%)やフグのホモログである148896(56%)が挙げられた。
また高いホモロジーは示さないものの、線虫のF42G9.6やショウジョウバエCG11102と相同性を有していた(図1)。すなわちKCCR13Lは進化の過程でよく保存されており、細胞の普遍的な機能に関与していることが考えられた。KCCR13Lタンパク質の機能ドメインに関しては、アミノ末端のシグナルペプチドや中央からカルボキシル末端に向かう部分にかけて加水分解酵素リパーゼのセリン活性部位にホモロジーが見られた。又アミノ末端側にトランスメンブレンドメインを持つ膜タンパク質の可能性を有した(表2)。
【0030】
【表2】
Figure 2004248575
【0031】
次にKCCR13LcDNA内のORFは672アミノ酸をコードする。このタンパク質についてインビボにおける発現を調べた。KCCR13Lタンパク質のカルボキシル末端にFLAGタグとしての8アミノ酸DYKDDDDKを付加したKCCR13Lタンパク質を発現するプラスミドを、リポフェクタミン(Invitogen社製)を用いてヒト羊膜上皮細胞株HAELT細胞に導入した。48時間後にHAELT細胞抽出液を調製し、上記に記載されているように抗FLAG抗体を用いてウェスタンブロットを行った。結果を図2に示す。Vectorはベクターのみを細胞にトランスフェクトしたものKCCR13Ltagは上記のKCCR13Lを発現するプラスミドをトランスフェクトしたものを表わす。矢印はKCCR13Lタンパク質に対応する分子量で、約69Kdを示すバンドが検出された。タグ付き本件タンパク質の推定分子量74.7Kdとの差異は翻訳後の修飾の可能性を示している。
【0032】
(正常ヒト組織におけるKCCR13Lの発現)
正常ヒト組織におけるKCCR13L遺伝子の発現について、まずノーザンブロット法によって調べた。ヒトマルチプルティシューノーザンブロット(MTNBlot:BD Clontech社製)に対してノーザンブロット法を行った結果を図3に示した。KCCR13L mRNAの高い発現が脳や胎盤において、約2.9Kbの転写産物が認められた。また骨格筋、腎臓などで、その発現が認められた。約2.9Kbの転写産物の大きさは最終的に得られたcDNAの大きさ(2863bp)と一致する。なお同じメンブレンからプローブを除き、β−アクチンのプローブでハイブリダイズしたところすべての組織に発現することを確認した。さらに詳しい遺伝子のプロファイルを調べる為に、KCCR13L cDNA(配列表の配列番号1)の1540〜2169の部分をプローブとして用い、ヒトマルチプルティシューエクスプレッションアレイ(MTE Array)を利用し解析した。その結果、脳、胎盤、副腎でまた胎児組織で一様に比較的に高い発現が認められた(図4)。
【0033】
(癌細胞株と原発癌におけるKCCR13Lの発現)
癌細胞におけるKCCR13L遺伝子の発現を解析した。まず上記のヒトマルチプルティシューエクスプレッションアレイ(MTE Array)における結果をみると図4に見られるように子宮頚癌HeLa、慢性骨髄性白血病細胞K562、大腸癌細胞株SW480、肺癌細胞株A549などで発現がみられた。ここで注目すべきは、正常の大腸組織に比べて大腸癌細胞株SW480で、有意にその発現が上昇していることであり、本遺伝子が特に消化器系の癌で発現が上昇している可能性が示唆された。次に本遺伝子が大腸癌細胞株で発現が上昇しているかを調べるために5例の大腸癌の細胞株(WiDr、SW837、DLD−1、CoLO320DM、LoVo)を調べたところ発現の差がわずかに認められたが、正常大腸組織との差は2倍以下であった。次にヒト膵癌培養細胞株6例(SOJ、H−PC−5F、H−PC−6H、TRG、AsPC−1、Panc−1)での発現を調べて見たところ、正常膵臓に比べて6例全てにおいて有意なKCCR13L遺伝子の発現の上昇がみられた(図5)。さらにこれらの現象が膵癌の原発腫瘍でもおきているかどうか検討したところ3例全てにおいて、同一患者の非癌部に比べて癌部において本遺伝子の発現上昇が認められた(図6)。さらに膵管上皮の不死化細胞株でもその発現の上昇が認められた(図7)。この事実はまだ完全に膵癌細胞になる前の段階の膵管上皮の過形成又は前癌病変等でも本遺伝子が上昇しうることを示唆するものである。これらの結果により本遺伝子が膵癌での腫瘍マーカーになりうることが考えられる。
【0034】
【発明の効果】
本発明のKCCR13Lの遺伝子及びポリペプチドは、膵臓において正常細胞には発現せず、他方、癌細胞においては、各種癌細胞において顕著に発現し、したがって、本発明の膵癌検出用マーカーは、広範囲の膵癌に対して、確実な検出用マーカーとして用いることが可能である。更に、本発明は、該膵癌の検出方法を用いることにより、抗膵癌物質のスクリーニングを行い、膵癌予防薬或いは治療薬の開発に役立てることができる。
【0035】
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例における、ヒトKCCR13Lタンパク質がマウス、フグ、線虫、及びショウジョウバエタンパク質と相同性があることを示す図である。
【図2】本発明の実施例における、KCCR13Lタンパク質のイン ビボにおける発現を示す図である。
【図3】本発明の実施例において、ヒト正常組織におけるKCCR13L遺伝子の発現をノーザンブロット法により解析した結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例において、ヒト正常組織におけるKCCR13L遺伝子の発現をマルチプルティシューエクスプレッションアレイ(MTE Array)を用い、解析した結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例において、ヒト膵癌細胞株におけるKCCR13L遺伝子及びCEACAM6遺伝子の発現をRT−PCR法により解析した結果を示す図である。なお、XBP−1は内部標準として用いた。
【図6】本発明の実施例において、ヒト膵癌原発巣におけるKCCR13L遺伝子の発現をRT−PCR法により解析した結果を示す図である。なお、XBP−1は内部標準として用いた。また、Nは非癌部、Tは癌部をそれぞれ示す。
【図7】本発明の実施例において、ヒト膵管上皮不死化細胞株におけるKCCR13L遺伝子及びCEACAM6遺伝子の発現をRT−PCR法により解析した結果を示す図である。なお、XBP−1は内部標準として用いた。

Claims (13)

  1. 配列表の配列番号1に示されるDNA配列を有することを特徴とする膵癌検出用遺伝子マーカー。
  2. 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを有することを特徴とする膵癌検出用ポリペプチドマーカー。
  3. 請求項1記載の膵癌検出用マーカー遺伝子のDNA配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有する膵癌マーカー遺伝子検出用プローブ。
  4. 請求項1記載の塩基配列のアンチセンス鎖の全部又は一部からなる請求項3記載の膵癌マーカー遺伝子検出用プローブ。
  5. 請求項3又は4記載のDNAの少なくとも1つ以上を固定化させたことを特徴とする膵癌マーカー遺伝子検出用マイクロアレイ又はDNAチップ。
  6. 請求項2記載のポリペプチドを用いて誘導され、該ポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする抗体。
  7. 抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項6記載の抗体。
  8. 抗体が、ポリクローナル抗体であることを特徴とする請求項6記載の抗体。
  9. 請求項3〜5のいずれか記載の検出用プローブを用いて、被検細胞における膵癌マーカー遺伝子の発現を検出することを特徴とする膵癌の検出方法。
  10. 請求項6〜8のいずれか記載の抗体を用いて、被検細胞における膵癌マーカーポリペプチドの発現を検出することを特徴とする膵癌の検出方法。
  11. 請求項6〜8のいずれか記載の抗体を用いた蛍光抗体法により被検細胞中における膵癌細胞を標識化し、該標識化した膵癌細胞を検出することを特徴とする請求項10記載の膵癌の検出方法。
  12. 膵癌を発症する非ヒト動物又は膵癌細胞に、被検物質を作用させ、該非ヒト動物又は膵癌細胞における膵癌の有無を、請求項1記載の膵癌検出用遺伝子マーカー及び/又は請求項2記載の膵癌検出用ポリペプチドマーカーにより検出することを特徴とする抗膵癌物質のスクリーニング方法。
  13. 請求項3〜5のいずれか記載の検出用プローブ及び/又は請求項6〜8のいずれか記載の抗体を装備してなる膵癌の検出又は診断用キット。
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