本発明は、走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルおよびその製造方法に係り、さらに詳しくは、試料面の状態を測定する際の測定基準となる走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルおよびその製造方法に関する。
近年、原子構造を解明するための原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope )では、先端部に探針(Tip)が設けられたカンチレバーを走査プローブとして利用し、被測定面となる試料表面に対して探針を走査させると、試料表面と探針との間に原子間力に基づく引力または斥力が発生し、その原子間力をカンチレバーの撓み量などで検出することにより、試料表面の凹凸形状を原子レベルで観察することができる。
このような走査型プローブ顕微鏡には、上記した原子間力顕微鏡(以下、AFM)の応用によって開発された被測定面の磁気力を検出する走査型磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscope )、あるいは被測定面の電位や静電気力などを検出する走査型マックスウェルフォース顕微鏡(SMM:Scanning Maxwell Stress Microscope)、走査型ケルビンフォース顕微鏡(KFM:Kelvin Probe Force Microscope )などがあって、被測定面の凹凸情報からは得られない力検出を可能にしている。また、これらの走査型磁気力顕微鏡(以下、MFM)、走査型マックスウェルフォース顕微鏡(以下、SMM)、走査型ケルビンフォース顕微鏡(以下、KFM)は、AFMと同様に被測定面の凹凸情報を高分解能で得ることができる上、例えば、MFMであれば凹凸情報と磁気像情報とを同一領域で同時に観察することが可能である。
従って、上記したMFM、SMM、KFMなどは、従来の測定・観察手法と比較すると、高分解能、表面形状同時観察可能、情報取得の容易性などの多くの特徴を有しているため、磁気メディア(媒体)のドメイン(領域)解析、磁気材料の解析、半導体の電気的特性や故障解析、あるいは材料の仕事関数の見積もりなどにその応用分野が広がりつつある。
しかしながら、このような従来の走査型プローブ顕微鏡にあっては、観察を主目的としているため、各力の相対的な比較像(例えば、磁気力であればN極やS極など)を得ることは可能であったが、基準となるものが無かったため絶対強度(例えば、磁気強度)などを得ることができないという問題があった。
そこで、AFMでは、最近、高さ基準の標準サンプルを用意することにより、観測だけでなく絶対計測も行えるようになりつつあるが、その基準が1種類しかなく、そのサンプルを基準として被測定面を計測していたため、顕微鏡やサンプルが変わる度に計測値も異なってくるという問題があった。
また、上記AFM以外の走査型プローブ顕微鏡であるMFM、SMM、KFMなどでは、現在でも基準となる力の標準サンプルが用意されていない。その理由として、これらの顕微鏡を用いて被測定面の力を正確に検出するには、被測定面と探針との距離を常に一定に保った状態で計測する必要があるが、仮に標準サンプルを作成しても表面に凹凸があると測定結果にその凹凸の影響が出てしまい、純粋な標準サンプルの力分布のみを検出することが困難だからである。例えば、シリコンやガラス基板表面に一定の基準となる力(例えば、磁気力)を発生する対象物(磁性体など)を配置して標準サンプルとし、これを高密度磁気記録媒体の測定基準となる標準サンプルとした場合、サンプルの対象物部分が高くなっているため、探針とサンプル表面との距離が一定となるように探針を上下させながら測定しようとしても距離を正確に一定にすることは難しく、純粋にサンプルの力分布のみを正確に計測することができなかった。
これに対して、標準サンプルの凹凸情報を先に取得しておき、その凹凸情報に基づいてサンプル表面の力測定の結果を修正することも考えられているが、このようなキャンセル方式による力測定は未だ十分に実用化されておらず、正確な測定値を得るまでに至っていない。
本発明は、かかる従来技術の有する不都合に鑑みてなされたもので、第1の目的は、表面の凹凸情報に影響されることなく基準となる各力の検出を正確に行い、それによって顕微鏡を校正して、測定時における各力の強度の値付け(絶対測定)を行うことができる走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルおよびその製造方法を目的としている。
本発明の第2の目的は、凹凸情報に基づいて絶対計測を正確に行うことのできる走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルおよびその製造方法を提供することにある。
上記の目的を達成するために、本発明は、試料面の状態を測定する走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルであって、サンプルとなる基板の面内方向に基板材料と異なる物性値を有する材料が一定の厚さで埋め込まれた異物性領域が設けられ、前記基板の表面が平坦性を有しているものである。
これによれば、サンプル基板の面内方向に異なる物性値を有する材料が一定の厚さで埋め込まれた異物性領域が形成されていて、その基板表面が平坦化されているため、サンプルの凹凸情報に影響されることなく、基準となる各力の検出が純粋かつ正確に行えるようになり、各種走査型プローブ顕微鏡において絶対測定が可能となる。ここで、基板材料と異なる物性値を有する材料とは、例えば、MFMの場合、基準となる磁気強度を発生する磁性体であったり、SMMやKFMの場合、基準となる電位や静電気力を発生する材料などをいう。そして、これらの材料を(基板内に)一定の厚さで埋め込んだのは、埋め込む材料の厚さが薄いと力検出が不十分となるおそれがあるので、材料に応じて力検出に十分な厚さが得られるようにするためである。
また、本発明は、試料面の状態を測定する走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルの製造方法であって、サンプルとなる基板の所定領域に基板表面に対して垂直な壁面を有する一定の深さの穴を形成する工程と、前記工程で形成された穴に前記基板の材料と異なる物性値を有する材料を埋め込む工程と、前記物性値の異なる材料が埋め込まれた領域の表面と前記基板の表面とを平坦化する工程と、を含むものである。
これによれば、基板の所定領域に基板表面に対して垂直な壁面を有する一定の深さの穴が形成され、その穴に基板の材料と異なる物性値を有する材料が埋め込まれ、その埋め込まれた領域の表面と基板表面とが平坦化されるようにする。このため、サンプルの凹凸情報に影響されることなく、基準となる各力の検出が純粋かつ正確に行うことができ、各種走査型プローブ顕微鏡において絶対測定が可能となる。
また、本発明は、試料面の状態を測定する走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルであって、サンプルとなる基板の面内方向に複数の異なる高さ基準や複数の異なる幅基準となる少なくとも一方の領域が設けられているものである。
これによれば、基板の面内方向に複数の異なる高さ基準か、複数の異なる幅基準となる少なくとも一方の領域が設けられているため、同一サンプル上に形成された複数の異なる基準(高さまたは幅)同士を比較した結果に基づいて絶対計測を行うことができるため、サンプルや装置が変わっても計測値が変わる心配がなくなる。このように、凹凸情報から成る高さ基準や幅基準を同一サンプル上に複数設けることにより、正確な絶対計測を行うことができる。ここで、高さ基準や幅基準となる領域とは、例えば、基板の面内方向に寸法精度の高い穴や突起部を設け、これらの底面や上面、あるいは側面間の距離を基準として利用することができる。
また、本発明は、試料面の状態を測定する走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルの製造方法であって、サンプルとなる基板の所定位置に第1の高さ基準または第1の幅基準となる少なくとも一方の領域を形成する工程と、前記工程で形成された領域とは異なる基板位置に第2の高さ基準または第2の幅基準となる少なくとも一方の領域を形成する工程と、を含むものである。
これによれば、基板の所定位置に第1の高さ基準または第1の幅基準となる少なくとも一方の領域が形成され、その領域とは異なる基板位置に第2の高さ基準または第2の幅基準となる少なくとも一方の領域が形成される。このように、複数の基準を別の工程で形成するようにしたため、前の工程で形成された基準が後の工程で影響を受けることなく、複数の基準をそれぞれ正確に形成することができる。
また、本発明は、試料面の状態を測定する走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルであって、サンプルとなる基板の面内方向に基板材料と異なる物性値を有する材料が一定の厚さで埋め込まれた異物性領域と、前記異物性領域とは異なる基板位置に設けられ、高さ基準や幅基準となる少なくとも一方の領域と、が設けられている。
これによれば、基板の面内方向に基板材料と異なる物性値を有する材料が一定の厚さで埋め込まれた異物性領域と、これとは異なる基板位置に高さ基準や幅基準となる少なくとも一方の領域とが設けられているため、1つのサンプルで基準となる物性値と、高さ基準や幅基準の少なくとも一方とを同時に基準値として取り込むことができる。
また、本発明は、試料面の状態を測定する走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルの製造方法であって、サンプルとなる基板の所定領域に基板表面に対して垂直な壁面を有する一定の深さの穴を形成する工程と、前記工程で形成された穴とは異なる基板位置に高さ基準や幅基準となる少なくとも一方の穴を形成する工程と、前記垂直な壁面を有する穴に対して選択的に前記基板の材料と異なる物性値を有する材料を埋め込む工程と、前記物性値の異なる材料が埋め込まれた領域の表面と前記基板の表面とを平坦化する工程と、を含むものである。
これによれば、基板の所定領域に基板表面と垂直な壁面を有する一定の深さの穴が形成され、この穴と異なる基板位置に高さ基準や幅基準となる少なくとも一方の穴が形成され、垂直な壁面を有する穴に対して基板と異なる物性値を有する材料を埋め込み、その物性値の異なる材料が埋め込まれた領域の表面と基板の表面とを平坦化するようにする。このため、1つのサンプル上に基準となる物性値と高さ基準や幅基準の少なくとも一方とを設けることが可能となり、これらを同時に基準値として取り込むことができる。
また、本発明は、上記の走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルにおいて、前記形成された標準サンプルの表面にさらに表面耐磨耗性のあるコーティング膜が形成されている。
これによれば、さらに標準サンプルの表面に表面耐磨耗性のあるコーティング膜を形成したため、基板材料や異物性領域の材質の違いによる摩擦力の違いや酸化、腐蝕、サンプル表面のチャージアップ(帯電)、そのチャージアップによるゴミの付着、探針などによる表面の傷や片減りから保護されて、平坦性を維持することができる。
また、本発明は、上記の走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルの製造方法において、前記形成された標準サンプルの表面にさらに表面耐磨耗性のあるコーティング膜を形成する工程を含んでいる。
これによれば、さらに標準サンプルの表面に表面耐磨耗性のあるコーティング膜を形成する工程を加えたため、基板材料や異物性領域の材質の違いによる摩擦力の違いや酸化、腐蝕、サンプル表面のチャージアップ、そのチャージアップによるゴミの付着、探針などによる表面の傷や片減りから保護されて、平坦性を維持することができる。
さらに、本発明は、試料面の状態を測定する走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルであって、サンプルとなる基板面内の一定区間の基板中に設けられた電気抵抗体と、前記基板表面において前記電気抵抗体と接続され、該電気抵抗体に電流を通電するための電極と、を備えているものである。
これによれば、基板面内の一定区間に基板表面から一定の深さに電気抵抗体が設けられ、その電気抵抗体と基板表面で接続されて電流を通電する電極が設けられているため、電極を介して流される電流量に応じて電気抵抗体の発熱量を制御することができる。従って、熱と像との相互作用を観察するための局所加熱が可能な標準サンプルとすることができる。
さらに、本発明は、試料面の状態を測定する走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルの製造方法であって、半導体から成る基板表面の一定区間以外をイオン注入マスクで覆い、不純物イオンを基板内の一定領域に注入して一定区間内に電気抵抗体を形成する工程と、前記基板表面で前記電気抵抗体と接続される少なくとも2ヶ所のコンタクト部に電極材料を形成する工程と、を含んでいる。
これによれば、基板表面の一定区間以外をイオン注入マスクで覆い、不純物イオンがその一定区間の基板内に注入されて電気抵抗体を形成し、その電気抵抗体と電極材料とを少なくとも2ヶ所のコンタクト部で接続するようにしたため、電極から電気抵抗体に流される電流量に応じて発熱量が制御可能となり、熱と像との相互作用を観察するための局所加熱可能な標準サンプルとすることができる。
本発明によれば、サンプルの凹凸情報に影響されることなく、基準となる各力の検出を純粋かつ正確に行うことができ、各種走査型プローブ顕微鏡において絶対測定を行うことができる。
また、本発明によれば、凹凸情報から成る高さ基準や幅基準を同一サンプル上に複数形成したので、より正確に絶対計測を行うことができる。
また、本発明によれば、1つのサンプル上に基準となる物性値や高さ基準と幅基準の少なくとも一方を設けたため、これらを基準値として同時に取り込むことができる。
また、本発明によれば、サンプル表面にコーティング膜を形成したので、サンプル表面において摩擦力の違いによる影響を受けなくなり、酸化、腐蝕、サンプル表面の帯電、帯電によるゴミの付着、探針による表面の傷や片減りなどから保護され、平坦性を維持することができる。
さらに、本発明によれば、発熱量が制御可能であって、熱と像との相互作用を観察するための局所加熱が可能な標準サンプルとすることができる。
以下、この発明に係る走査型プローブ顕微鏡の標準サンプルおよびその製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2には、本実施例1に係る基準となる各力を検出するための標準サンプルの製造方法を説明する工程断面図が示されている。この実施例1の標準サンプルは、MFM、KFM、SMMなどにより磁気力・静電気力・表面電位を測定する際の基準となるものである。
まず、図1(a)に示されるシリコン基板(Si)10の表面に対して、図1(b)のように所定膜厚のフォトレジスト膜12を塗布し、フォトリソグラフィ工程によりシリコン基板10をエッチング除去する部分以外をフォトレジスト膜(以下、レジストマスクともいう)12で覆うようにパターニングする(図1(c))。
次いで、シリコン基板10上のレジストマスク12をエッチングマスクとし、反応性イオンエッチングによる異方性エッチングが行われると、図1(d)に示されるように、シリコン基板10に形成された窪み部の壁面のエッチングプロファイル(側面)が垂直に削られる。この窪み部の深さは、エッチング時間によって精度良く制御することができる。この場合のエッチングの条件は、エッチャントに(SF6+O2)ガスを使用し、ガス圧力を10paとし、エッチングイオン出力を100Wとして行なっている。
次いで、図2(e)に示されるように、レジストマスク12を残したままで多元同時電子ビーム蒸着によりメタル14をデポジションする。このメタル14の材料には、Co、Nbの他、(Fe−Ni)や(Pt−Co−Cr)のような合金などを用いることができる。もちろん、これ以外の材料を用いることもできる。例えば、上記したCo、Nbのように、単一の金属のみを蒸着するのであれば通常用いられている抵抗加熱蒸着であっても良いが、ここで採用している多元同時電子ビーム蒸着であれば合金の蒸着も可能となる。
また、MFMにより磁気力を検出する場合に、例えば(Fe−Ni)膜を20nm程度の厚さで全面コーティングしただけでは膜厚が薄すぎて磁気力検出が不可能であった。この点、本実施例1では、図1(d)のように、異方性エッチングにより窪み部を形成することによって、図2(e)のように、メタル14を厚くデポジションし、その断面形状を長方形としたため、形状磁気異方性の効果を利用して検出可能な感度を取得することが可能になった。また、このメタル14の縦横被(アスペクト比)や厚みを変えることにより、その強度を変えることが可能である。
なお、上記した多元金属成膜には、通常はスパッタを用いていたが、スパッタは壁面などへの回り込みがあって、次工程でリフトオフ法を用いて余分な金属膜を除去する際に、エッジ部にバリが出やすくなるため、ここではあえて蒸着プロセスを採用している。この蒸着プロセスは、蒸着源からみて影になる部分には成膜されない(シャドー効果)という特徴を持っているため、このシャドー効果を利用することによりシリコン基板12の窪み部にのみメタルをデポジションすることができる。そして、次工程のリフトオフ後であってもエッジにバリが出ることが無くなる。
次いで、図2(e)の状態からリフトオフプロセスにより、レジストマスク12より上のメタル14を除去することが可能となり、図2(f)に示されるように、シリコン基板10の窪み部にメタル14が埋め込まれた標準サンプルを形成することができる。
さらに、本実施例1では、図2(g)に示されるように、その表面保護膜として、摩擦係数が低く、耐磨耗性があって、薄いコートが可能なダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜16をCVD(Chemical Vapour Deposition)法等を用いて5nm〜10nm程度の膜厚で表面コートする。このDLC膜16のコートは、標準サンプルの表面を非常に平滑にすることができ、凹凸の無いサンプルを形成することができる。また、シリコン基板10とメタル14のように表面を構成する材質が異なっていても、摩擦力の違いによる影響が無くなるとともに、酸化、腐蝕、サンプル表面のチャージアップ(帯電)、あるいはそのチャージアップによるゴミの付着などからサンプルを保護することができる利点がある。
なお、実施例1では、図2(f)においてデポジットした余分なメタル14をリフトオフプロセスにより除去したが、これ以外の手法として、図1(d)においてレジストマスク12を除去してからメタル14をデポジションした後、シリコン基板10より上の余分なメタル14を化学研磨や機械研磨により除去することにより、図2(f)と同様のサンプルを形成するようにしても良い。そして、この場合ももちろん、図2(g)のように、DLC膜16を表面コートしても良い。
このように、実施例1によれば、MFM、KFM、SMMなどの磁気力・静電気力・表面電位を測定する際の基準となる表面が平滑な標準サンプルとすることができる。そして、基板に埋め込んで各力を発生させる異物性の材料としては、Co、Nbのような単一の金属はもちろん、(Fe−Ni)、(Pt−Co−Cr)のような合金など種々の材料を用いることが可能な上、埋め込む異物性材料の形状を任意に変えられるので、検出可能な感度や強度を容易に得ることができるという利点がある。さらに、標準サンプルの表面保護膜として、DLC膜などを表面コートすることにより、サンプル表面が異なる材質で構成されていても非常に平滑となり、摩擦力の違いによる影響を無くすことができる。その上、酸化、腐蝕、サンプル表面の帯電、あるいはその帯電によるゴミの付着などからサンプルを保護することができる。
図3には、本実施例2に係る基準となる高さおよび幅を検出するための標準サンプルの製造方法を説明する工程断面図が示されている。この実施例2の標準サンプルは、AFMによる高さや幅などを測定する際の基準となるものである。なお、図3(e)の前の製造工程は、上記した図1(a)〜(d)で説明したものと同じであるため、図示及びその説明を省略するものとする。
すなわち、図1(d)のシリコン基板10中に形成されている窪み部が第1の高さ及び幅の基準となるサンプルである。そして、図1(d)に示されるシリコン基板10上のレジストマスク12を一旦取り除いた後、再度フォトレジストを基板全面に塗布し、フォトリソグラフィ技術により基板表面を一部を除いて覆うレジストマスク18を図3(e)のようにパターニングする。
そして、このレジストマスク18をエッチングマスクとし、反応性イオンエッチングによる異方性エッチングを行うことにより、図3(f)に示されるように、第2の高さ及び幅の基準となる窪み部22を作成する。この窪み部22の壁面のエッチングプロファイル(側面)も窪み部20と同様に垂直に削られており、エッチング時間を変えることで窪み部22の深さを精度良く制御することができる。この場合のエッチングの条件は、ここでは、窪み部20を形成する場合と同様に、エッチャントに(SF6+O2)ガスを使用し、ガス圧力を10paとし、エッチングイオン出力を100Wとし、エッチング時間のみを変えて、高さの違うサンプルを同一サンプル上に正確に形成している。
また、窪み部20と22は、異なる幅のサンプルを同時に提供するものであって、それらの幅はエッチングマスクの大きさを変えることで任意に決めることができる。
このように、実施例2によれば、AFMによる高さや幅などを測定する際の基準を備えた標準サンプルを形成することができる。そして、この標準サンプルは、1つのサンプルに異なる高さ基準と幅基準とを持っているため、同一サンプルを同一条件で計測した複数の基準を比較するので、その比較結果に基づいてより正確に絶対計測を行うことが可能となり、サンプルや装置が変わっても計測結果に違いが生じ難くなる。
図4には、本実施例3に係る基準となる各力と高さあるいは幅とを検出するための標準サンプルの製造方法を説明する工程断面図が示されている。この実施例3の標準サンプルは、MFM、KFM、SMMなどにより磁気力・静電気力・表面電位を測定する際の基準となるものである。なお、図4(e)より前の製造工程は、上記した図1(a)〜(d)で説明したものと同じであるので、図示及びその説明を省略するものとする。
まず、図1(d)に示されるシリコン基板10上のレジストマスク12を一旦取り除いた後、再度フォトレジストを基板全面に塗布し、フォトリソグラフィ技術により基板表面を一部を除いて覆うレジストマスク18を図4(e)のようにパターニングする。
そして、このレジストマスク18をエッチングマスクとし、反応性イオンエッチングによる異方性エッチングを行った後、レジストマスク18を除去することにより、図4(f)に示されるように、物性値の異なる材料を埋め込む窪み部20と高さ基準となる窪み部22とを形成する。この窪み部20、22の壁面のエッチングプロファイル(側面)は、垂直に削られていて、窪み部の深さはエッチング時間を変えることで精度良く制御することができる。この場合のエッチングの条件は、窪み部20を形成する場合と同様に、エッチャントに(SF6+O2)ガスを使用し、ガス圧力を10paとし、エッチングイオン出力を100Wとしたものである。
次いで、図4(g)に示されるように、全面にフォトレジストを塗布した後、フォトリソグラフィ技術により窪み部20を除くシリコン基板10の表面にリフトオフプロセス用のレジスト膜23をパターニングする。
次いで、図2(h)に示されるように、レジスト膜23の上から多元同時電子ビーム蒸着によりメタル24をデポジションする。このメタル14の材料も、例えばCo、Nbの他、(Fe−Ni)や(Pt−Co−Cr)のような合金などを用いることができる。上記のように、窪み部20に対して物性値の異なる材料(メタル24)を埋め込む際に蒸着プロセスを採用したため、壁面などへの回り込みが殆ど無く、次の工程でリフトオフプロセスを用いてレジスト膜23より上のメタルを除去してもエッジ部にバリが出ないようにすることができる。
次いで、図4(h)の状態からレジスト膜23を溶融させて、レジスト膜23より上のメタル24を除去するリフトオフプロセスを用いることにより、図4(i)に示されるように、シリコン基板10の窪み部20にメタル24が埋め込まれ、かつ高さ基準となる窪み部22が同時に形成された標準サンプルを形成することができる。
さらに、本実施例3では、図4(j)に示されるように、その表面保護膜としてのDLC膜26をCVD法等により5nm〜10nm程度の膜厚で表面コートを行っている。このため、標準サンプルの表面を非常に平滑にすることができ、シリコン基板10とメタル24のように表面を構成する材質が異なっていても、摩擦力の違いによる影響が無くなるとともに、酸化、腐蝕、サンプル表面の帯電や帯電によるゴミの付着などからサンプルを保護することができる。
なお、本実施例3では、上記実施例1と同様に、リフトオフプロセスの代わりに化学研磨や機械研磨を用いて余分なメタル24等を除去するようにしても良い。
このように、実施例3によれば、MFM、KFM、SMMなどの磁気力・静電気力・表面電位を測定する際の基準となる標準サンプルと、AFMなどの高さ基準となる標準サンプルを併せ持つ複合サンプルを形成することができる。そして、基板に埋め込んで各力を発生させる異物性の材料としては、Co、Nbのような単一の金属はもちろん、(Fe−Ni)、(Pt−Co−Cr)のような合金など種々の材料を用いることが可能な上、埋め込む異物性材料の形状を任意に変えられるので、検出可能な感度や強度が容易に得られるという利点がある。さらに、サンプル表面を摩擦係数の低いDLC膜などの薄い保護膜でコートしたため、表面が非常に平滑となり、摩擦力の違いによる影響を無くすことができる上、酸化、腐蝕、サンプル表面の帯電、あるいはその帯電によるゴミの付着などから複合サンプルを保護することができる。
図5〜図16には、本実施例4に係る熱と像の相互作用を観察するための局所加熱が可能な標準サンプルの製造方法を説明する工程図が示されている。そのうち、図5〜図7は、工程断面図であり、図8〜図16は、図5〜図7の中の主要工程断面図における平面図をそれぞれ示したものである。この実施例4の標準サンプルは、全ての測定モードにおいて、熱と像の相互作用を観察するための局所加熱を可能としたものである。
まず、図5(a)に示されるシリコン基板(Si)10の表面を熱酸化することにより、図5(b)のように数百オングストローム程度の膜厚から成る酸化膜(SiO2)30が成膜される。この酸化膜30は、後述するイオン注入工程でシリコン基板10の表面が荒れるのを防止する目的で設けられたものである。
さらに、図5(c)では、酸化膜(SiO2)30上にフォトレジスト膜32を塗布し、フォトリソグラフィ工程により後の工程でシリコン基板10内に発熱用の抵抗体を形成する部分以外がレジストマスク32で覆われるようにパターニングする(図5(d))。従って、このレジストマスク32は、イオン注入マスクである。そして、図8は、この図5(d)におけるレジストマスク32のパターニング形状を上から見た平面図であり、白く抜けた部分がレジストマスク32で覆われていない部分を示している。
次いで、図6(e)は、B(ボロン)やP(リン)などの不純物イオンを用いてシリコン基板10に対してイオンを注入する工程である。このイオン注入工程は、半導体であるシリコン基板中に上記不純物を微量に添加することにより、導電性を有する領域(ここでは、ヒーター部の抵抗体)を形成するためのものである。形成された導電性領域の電気抵抗は、注入するイオン濃度に応じて調節することができる。ここでは、注入するイオンをB(ボロン)とし、そのイオン濃度を15E15atm/cm2 として実施したが、イオンの種類や濃度についてはこれに限定されるものではない。図6(e)に示されるように、注入されたB(ボロン)イオンは、シリコン基板10の表面付近に留まってイオン注入部34を形成する。このイオン注入部34は、アニール等を行って活性化することにより、一定の抵抗値を持った抵抗体とすることができる。図9は、図6(e)におけるイオン注入部34の形状を上から見た平面図である。
次いで、図6(f)に示されるように、レジストマスク32を一旦除去し、その後、全面にフォトレジスト膜36を塗布し、フォトリソグラフィ工程により抵抗体34に電流を流すための電極を形成するコンタクト部以外をレジストマスク36で覆われているようにパターニングしたものである(図6(g))。図10は、この図6(g)においてコンタクト部が開口したレジストマスク36の形状を上から見た平面図である。
次いで、図6(h)に示されるように、レジストマスク36を用いて緩衝フッ酸溶液(6:1のBHF)を用いて酸化膜34をエッチングすることにより、コンタクト部の酸化膜34のみが除去されて、イオン注入部34の一部を露出させることができる。図11は、この図6(h)においてコンタクト部の酸化膜30が除去された状態を上から見た平面図である。
そして、図7(i)では、レジストマスク36が除去され、露出しているイオン注入部34に対して、図7(j)で配線を引き出す引き出し電極用のアルミニウムパット38をコンタクト部上にパターニングする。
このアルミニウムパッド38のパターニング工程は、全面にアルミニウム膜を約1μm程度の厚さに成膜し、その上にフォトレジスト膜をコートし、フォトリソグラフィ工程によりアルミニウムを残したい部分にのみレジストマスクをパターニングする。そして、このレジストマスクをエッチングマスクとしてアルミニウムをエッチングして、レジストマスクを除去することにより、図7(j)に示されるようなアルミニウムパッド38を形成することができる。図13は、この図7(j)でコンタクト部上にアルミニウムパッド38が形成された状態を上から見た平面図である。
次いで、図7(k)では、上記の図7(j)で形成された局所加熱可能な標準サンプルをボンディング用基板40上に固定したもので、図14は、この図7(k)の平面図を示したものである。図14に示されるように、ボンディング用基板40上には、標準サンプルに加熱用の電流を供給する電極42がそれぞれ配置されている。
そして、図7(l)では、上記の図7(k)でボンディング用基板40上に固定された標準サンプルのアルミニウムパッド38とボンディング用基板40上の電極42とを金線等のワイヤ44をボンディングすることにより接続したもので、図15は、この図7(l)の平面図を示したものである。
このように、図15に示される標準サンプルは、ボンディング用基板40の電極42から供給される電流をワイヤ44及びアルミニウムパッド38を介してシリコン基板10中の抵抗体34に流すことにより、電流量に応じた熱量を発生させることができる。
また、図16は、シリコン基板中に不純物イオンを注入して形成された抵抗体34の上にヒートシンク金属パッド46を形成した例を示したものである。このヒートシンク金属パッド46は、抵抗体34が発生する熱効率を高めるためのものである。ところで、図16では、抵抗体34が形成されていない紙面右側の領域(非加熱領域)にもヒートシンク金属パッド47を形成している。ヒートシンク金属パッド47を形成した理由は、標準サンプル表面の加熱領域と非加熱領域とを同一条件(材料)で構成することにより、加熱されている状態と加熱されていない状態とを正確に比較できるようにするためである。
上記したヒートシンク金属パッド46,47は、図7(j)及び図13で説明したアルミニウムパッド38と同じアルミニウム膜を使い、同じ膜厚で形成することができるため、アルミニウムパッド38の工程と同時に作製することができる。
このように、本実施例4によれば、熱と像の相互作用を観察するためにサ
ンプルの局所加熱が可能な標準サンプルとすることができる。そして、基板中に設けた抵抗体に流す電流量を調節することにより、所望の発熱量を制御することができる。また、抵抗体を形成する際に、基板に注入する不純物イオン濃度を変えることによって、形成される抵抗体の抵抗値を変化させ、発熱量を変えることもできる。さらに、この標準サンプルにおける昇温温度は、数百度まで可能である。
なお、上記実施例4では、サンプル自体の発熱状態を観察するための標準サンプルとして作製したが、これ以外の用途として、この局所加熱可能な標準サンプルの上に他のサンプルを載せることにより、非常にコンパクトな加熱ホルダーに転用することも可能である。
実施例1に係る基準となる各力を検出するための標準サンプルの製造方法を説明する工程断面図である。
実施例1に係る基準となる各力を検出するための標準サンプルの製造方法を説明する工程断面図である。
実施例2に係る基準となる高さおよび幅を検出するための標準サンプルの製造方法を説明する工程断面図である。
実施例3に係る基準となる各力と高さあるいは幅とを検出するための標準サンプルの製造方法を説明する工程断面図である。
実施例4に係る熱と像の相互作用を観察するための局所加熱が可能な標準サンプルの製造方法を説明する工程断面図である。
実施例4に係る熱と像の相互作用を観察するための局所加熱が可能な標準サンプルの製造方法を説明する工程断面図である。
実施例4に係る熱と像の相互作用を観察するための局所加熱が可能な標準サンプルの製造方法を説明する工程断面図である。
図5(d)の平面図である。
図6(e)の平面図である。
図6(g)の平面図である。
図6(h)の平面図である。
図7(i)の平面図である。
図7(j)の平面図である。
図7(k)の平面図である。
図7(l)の平面図である。
図15の標準サンプルの表面にヒートシンク金属パッドが形成された例を示す平面である。
符号の説明
10 シリコン基板
12 フォトレジスト膜(レジストマスク)
14 メタル
16 ダイアモンドライクカーボン膜(DLC膜)
18 フォトレジスト膜(レジストマスク)
20,22 窪み部
23 フォトレジスト膜(レジストマスク)
24 メタル
26 ダイアモンドライクカーボン膜(DLC膜)
30 酸化膜
32 フォトレジスト膜(レジストマスク)
34 イオン注入部(抵抗体)
36 フォトレジスト膜(レジストマスク)
38 アルミニウムパッド