JP2004244545A - ポリシラン及びそれを用いた高分子液晶材料 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明のポリシランは、剛直棒状構造を有し、光学不活性である高分子化合物である。このポリシランを用いた高分子液晶材料は、温度変化及び濃度変化のうちの少なくとも一方に応じて相構造が、カラムナー液晶相、スメクチック液晶相、ネマチック液晶相に変化する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶ポリマーとして用いられるポリシラン及びそれを用いた高分子液晶材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
液晶は、液晶ディスプレイや液晶プロジェクタ等の液晶表示材料として広く用いられている。従来より、液晶性を示す化合物が多数見出され、その中には、液晶性を示す高分子化合物も知られている。液晶性を示す高分子化合物を含んでなる液晶は、高分子液晶と称され、液晶の性質と高分子化合物の性質とを利用して種々の用途に用いることができると考えられている。例えば、高分子液晶は、その配向特性を利用すれば、より優れた強度や耐熱性、成型加工性等を有する高性能プラスチック材料として用いることができる。このように、高分子液晶は、液晶表示材料としての用途だけではなく、高性能プラスチック材料等、幅広い分野で応用されることが期待されている。
【0003】
ところで、液晶は、分子の配列状態に応じた液晶相を有しているが、液晶分子の種類によっては、1種類の液晶相だけでなく、相転移によって複数の液晶相を示す液晶が存在する。例えば、このような複数の液晶相を示す高分子液晶として、DNA等の生体物質を用いた高分子液晶(例えば、非特許文献1・2)や、ポリシランを用いた高分子液晶(例えば、非特許文献3)等がこれまでに報告されている。
【0004】
上記生体物質を用いた高分子液晶では、相転移により、カラムナー液晶相やコレステリック液晶相を示すことが見出されている。具体的には、上記非特許文献1・2には、DNAの濃厚水溶液からなる高分子液晶が、DNAの濃度に応じて、コレステリック液晶相又はカラムナー液晶相を示すことが記載されている。
【0005】
また、上記非特許文献3には、相転移によって、カラムナー液晶相、スメクチック液晶相、コレステリック液晶相を示すポリシランからなる高分子液晶が記載されている。
【0006】
【非特許文献1】
Strzelecka,T.E.等、「Multiple liquid crystal phase of DNA at high concentrations」、Nature、331巻、p.457−460、1988年
【0007】
【非特許文献2】
Livolant,F.等、「The highly concentrated liquid crystalline phase of DNA is columnar hexagonal」、Nature、339巻、p.724−726、1989年
【0008】
【非特許文献3】
Okoshi,K.等、「Well−Defined Phase Sequence Including Cholesteric, Smectic A, and Columnar Phases Observed in a Thermotropic LC System of Simple Rigid−Rod Helical Polysilane」、Macromolecules、35巻、p.4556−4559、2002年
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の生体物質を用いた高分子液晶では、DNAを用いているため、高分子液晶に含まれる高分子化合物の骨格(主鎖構造)が、実質的にDNAを形成する塩基配列に限定されてしまうという問題を有している。
【0010】
すなわち、上記非特許文献1・2に記載の高分子液晶では、DNAの塩基配列以外の骨格を有する高分子化合物を得ることは困難となっている。一般に、高分子化合物の物性は、該高分子化合物の主鎖構造やコンホメーションに依存するが、DNA等の生体物質を用いると主鎖構造がDNAの塩基配列等に限定されるので、種々の物性を有する高分子液晶を提供することが困難となる。また、DNAの複製等の遺伝子工学的手法は、多大な時間が必要であるとともに大量生産に適していないという問題もあり、DNAを液晶材料として工業的に応用するためには多くの課題が残されている。
【0011】
一方、上記非特許文献3には、カラムナー液晶相、スメクチック液晶相、コレステリック液晶相の相転移を示すポリシランからなる高分子液晶が報告されている。コレステリック液晶相では、ネマチック液晶相の相構造を示す複数の層が、各層に含まれる分子の配向方向が螺旋状にねじれるように積層している。そのため、螺旋軸方向からコレステリック液晶相を観察した場合、分子の配向方向に異方性はない。従って、この螺旋軸方向での屈折率や誘電率、導電率等の諸物性が等方的となってしまい、光学素子等に応用した場合に利用が困難となる問題を有している。すなわち、コレステリック液晶相は、その方向に応じて等方性あるいは異方性を示すため、光学素子等に応用する場合に、該コレステリック液晶相が形成する上記螺旋軸の軸方向を考慮する必要があり、光学素子等を簡単に設計することが困難となっている。
【0012】
また、上記非特許文献3に記載の高分子液晶では、コレステリック液晶相を得るために、光学活性物質を原料として用いている。光学活性物質は、一般に高価であり、また合成する場合にもその操作が煩雑であるため、原料の低コスト化を実現することが難しい。原料の低コスト化を実現することができなければ、高分子液晶の低コスト化を実現することも困難となってしまう。
【0013】
さらに、低分子化合物を用いた液晶材料では、光学不活性物質を用いることによって、コレステリック液晶相をネマチック液晶相に変化させることができる。しかしながら、高分子化合物を用いた液晶材料の場合、光学不活性な高分子化合物を用いると、該高分子化合物が、例えばα−へリックス構造といった棒状構造以外の立体構造を有することになる。一般に、高分子化合物が液晶性を示すためには、高分子化合物が棒状構造を有していなければならないが、上記のようにα−へリックス構造を有する高分子化合物の場合、液晶性を示さないので、液晶材料として利用することができない。
【0014】
また、互いにキラリティーが異なる2種類の光学活性物質を等量含むラセミ体からなる高分子化合物を液晶材料として用いた場合、上記2種類の光学活性物質の重量平均分子量や分子量分布を互いに等しくする必要があり、液晶材料として利用することは困難となっている。
【0015】
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、温度変化や濃度変化により、相転移が生じて複数の液晶相を示し、異方性を有することにより光学素子等へ応用して利用することができる高分子液晶を、簡便かつ容易に、また安価に提供し得る、ポリシラン及びそれを用いた高分子液晶材料を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、剛直棒状構造を有し、かつ光学不活性であるポリシランを用いることにより、相構造が、カラムナー液晶相、スメクチック液晶相、ネマチック液晶相に変化し得る液晶構造を有するサーモトロピック液晶又はリオトロピック液晶を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明のポリシランは、上記課題を解決するために、一般式(1)
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、側鎖R1及び側鎖R2はそれぞれ独立して、炭素数が2以上22以下のアルキル基又は炭素数が8以上28以下のフェニルアルキル基であり、側鎖R3はβ位置に分岐構造を有するβ位分岐アルキル基であり、m,nはそれぞれ正数であり、pは自然数である)にて表される一次構造を有するとともに、二次構造は剛直棒状構造であり、かつ、光学不活性であることを特徴としている。
【0020】
上記の構成によれば、上記ポリシランは、剛直棒状構造を有している。この剛直棒状構造を有することにより、上記ポリシランは、温度変化によって液晶構造を形成するサーモトロピック液晶、又は、濃度変化によって液晶構造を形成するリオトロピック液晶として利用することができる。
【0021】
また、本発明の高分子液晶材料は、上記課題を解決するために、ポリシランを含んでなる高分子液晶材料において、温度変化及び濃度変化のうちの少なくとも一方に応じて相構造が変化する液晶相を有し、上記液晶相の相構造には、カラムナー液晶相と、スメクチック液晶相と、ネマチック液晶相とが含まれていることを特徴としている。
【0022】
上記高分子液晶材料に含まれるポリシランは、上記一般式(1)にて表されるポリシランであることが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、上記高分子液晶材料は、温度変化や、高分子液晶材料に含まれるポリシランの濃度変化によって、相構造が、カラムナー液晶相、スメクチック液晶相、ネマチック液晶相に変化する。すなわち、上記高分子液晶材料は、上記温度変化や濃度変化に応じて、ポリシランが自己組織化することによって、自発的に上記した各液晶相に相構造が変化する。このような相構造の変化は、計算機シミュレーションによって理論的には予測されていたが、これまで実際には確認されておらず、本発明者等によって初めて見出されたものである。
【0024】
上記液晶相の相構造の変化は、ナノメートルスケールで生じることから、この性質を用いれば、上記高分子液晶材料は、高速光スイッチ、リタデーション可変位相差板、化学物質認識センサ、大容量記憶デバイス等の光学素子や分子素子等に利用できる可能性がある。
【0025】
また、上記高分子液晶材料が示す相構造には、コレステリック液晶相は含まれていないので、コレステリック液晶相が形成する螺旋軸の軸方向を考慮して、上記光学素子や分子素子等を設計するといった煩雑な操作が不要になり、より簡便にこれらの光学素子や分子素子を製造することができる。さらに、上記高分子液晶材料は、光学活性な物質を用いる必要がないので、製造コストを低減することが可能になる。
【0026】
また、上記ポリシランは、重量平均分子量が10,000以上100,000以下であることが好ましい。
【0027】
さらに、上記ポリシランは、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比で表される分子量分散Mw/Mnが1.50以下であることが好ましい。
【0028】
上記のように、重量平均分子量や分子量分散を制御することによって、スメクチック液晶相を形成することができる。それゆえ、カラムナー液晶相、スメクチック液晶相、ネマチック液晶相の3つ液晶相を含む相系列を有する高分子液晶材料を提供することができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。
【0030】
本発明のポリシランは、一般式(1)
【0031】
【化4】
【0032】
(式中、側鎖R1及び側鎖R2はそれぞれ独立して、炭素数が2以上22以下のアルキル基又は炭素数が8以上28以下のフェニルアルキル基であり、側鎖R3はβ位置に分岐構造を有するβ位分岐アルキル基であり、m,nはそれぞれ正数であり、pは自然数である)にて表される一次構造を有するとともに、二次構造は剛直棒状構造であり、かつ、光学不活性であるものである。
【0033】
ここで、側鎖R1及び側鎖R2はそれぞれ独立して、炭素数が2以上22以下のアルキル基、又は、該鎖状のアルキル基にフェニル基が導入されてなる炭素数が8以上28以下のフェニルアルキル基であることが好ましい。側鎖R1及び側鎖R2は、互いに同一であってもよく、また互いに異なっていてもよい。具体的には、アルキル基として、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル等の直鎖アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基等の分岐鎖を有する分岐鎖アルキル基等を挙げることができる。また、フェニルアルキル基としては、これらアルキル基に1つ以上のフェニル基が導入されていればよく、アルキル基の末端にフェニル基が導入されていることが特に好ましい。
【0034】
また、側鎖R3は、β位置に分岐構造を有するアルキル基であるβ位分岐アルキル基であれば特に限定されず、さらに、側鎖R3の炭素数も限定されない。このβ位分岐アルキル基としては、例えば、2−メチルブチル基を挙げることができる。
【0035】
上記側鎖R1〜R3には、上記フェニル基以外の種々の官能基が導入されていてもよい。官能基としては、特に限定されないが、極性を示さない無極性官能基であることが好ましい。このような無極性官能基を有することにより、本発明のポリシランは、主鎖がケイ素からなり、側鎖に水素や炭素等を含む無極性官能基を有する無極性高分子となる。
【0036】
なお、側鎖R1〜R3は、上記ポリシランが光学不活性となるようなキラリティーを有していることが好ましい。光学不活性なポリシランを得るためには、側鎖R1〜R3がいずれもアキラルな側鎖(光学不活性基)であることが好ましい。
【0037】
あるいは、ポリシランの繰り返し構造を単位とし、この単位毎にキラリティーを異ならせることによってポリシラン全体として光学不活性となるように、各側鎖R1〜R3が光学活性を有していてもよい。具体的には、例えば、側鎖R3に不斉原子が含まれる場合、上記一般式(1)にて表される2つの側鎖R3のキラリティーを互いに異ならせることにより、ポリシラン全体として光学不活性を実現することができる。また、一般式(1)にて表される繰り返し構造を一つの単位とすれば、一つの繰り返し構造毎に、各側鎖R1〜R3のキラリティーを異ならせることによっても、全体としてポリシランを光学不活性とすることができる。
【0038】
また、上記m,nは、それぞれ正数であれば特に限定されないが、n/(m+n)≧0.01であることが好ましい。さらに、上記pは、自然数であれば特に限定されない。
【0039】
さらに、上記ポリシランは、二次構造が剛直棒状構造であることが好ましい。ポリシランの二次構造が剛直棒状構造となるのは、7/3へリックスと称されるコンホメーションを有する場合である。すなわち、上記ポリシランが剛直棒状構造を有する場合、該ポリシランのへリックス構造の中心軸が直線的であって、この直線状の中心軸の周囲を、上記一般式(1)にて表されるケイ素連鎖からなる主鎖が螺旋状に取り囲むコンホメーションとなっている。
【0040】
一般に、へリックス構造を有する分子は、螺旋(へリックス)構造の周期(ヘリカルピッチ)に応じた光学的性質を有していることが知られている。具体的には、上記7/3へリックスの構造を有する場合、文献(ACS Polym.Prepr.,vol.37,No.2,p.454−455,1996年;Macromol.Rapid.Commun.,vol.22,p.539−563,2001年)に記載されているように、320nm近傍の波長の紫外線を吸収する現象が見られる。従って、本発明のポリシランを適当な溶媒に溶解させ、紫外可視吸収スペクトル測定を行った場合に、320nm付近の波長で光吸収が生じていれば、本発明のポリシランが剛直棒状構造であることを確認することができる。
【0041】
このように、上記ポリシランは、剛直棒状構造を有することによって、温度変化に依存して液晶性を示すサーモトロピック液晶としての性質や、ポリシランの濃度に依存して液晶性を示すリオトロピック液晶としての性質を示すので、高分子液晶材料として利用することができる。上記ポリシランを含む高分子液晶材料では、温度変化や濃度変化に伴って、カラムナー液晶相、スメクチック液晶相、ネマチック液晶相の3つの相構造に転移する液晶性が見られる。
【0042】
それゆえ、上記温度変化や濃度変化に伴って生じる自発的な液晶の相転移を利用すれば、高速光スイッチ、メモリデバイス、リタデーション可変位相差板、化学物質認識センサ等の光学素子や分子素子として利用することができる可能性がある。なお、温度変化や濃度変化に伴う液晶の相構造の変化の順序は、用いるポリシランの構造に応じて異なると考えられる。そのため、上記光学素子や分子素子として、上記高分子液晶材料を用いる場合には、目的とする順序で相構造が変化するポリシランを選択すればよい。
【0043】
上記のように、ポリシランを高分子液晶材料として用いる場合には、ポリシランの重量平均分子量Mwの下限値が10,000以上であることが好ましい。また、ポリシランの重量平均分子量Mwの上限値は、100,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましい。上記重量平均分子量Mwが10,000未満である場合、等方性液体となって好ましくない。また、重量平均分子量Mwが100,000を超えると、蝋状となって緩和時間が長くなるためにガラス化し、スメクチック液晶相の相構造が出現しなくなる。その結果、カラムナー液晶相及びネマチック液晶相の相構造のみが得られることになる。
【0044】
また、上記ポリシランを高分子液晶材料として用いる場合には、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比で表される分子量分散(分子量分布)Mw/Mnが1.50以下であることが好ましく、1.25以下であることがより好ましい。分子量分散(分子量分布)Mw/Mnが1.50を超えると、スメクチック液晶相が見られなくなり、カラムナー液晶相及びネマチック液晶相の相構造のみが現れる。
【0045】
次に、本発明のポリシランの製造方法について説明する。
【0046】
上記一般式(1)にて表される構造を有するポリシランを合成するためには、従来公知の方法を用いればよく、その合成方法は特に限定されない。例えば、後述する実施例のように、上記ポリシランの側鎖R1を有するケイ素化合物及び/又は側鎖R2を有するケイ素化合物と、側鎖R3を有する金属化合物であるグリニヤル試薬とを反応させてモノマーを得、該モノマーを重合させれば、本発明のポリシランを得ることができる。
【0047】
また、上記モノマーを重合させて得られるポリシランの分子量分布(分子量分散Mw/Mn)を1.20以下とするためには、得られたポリシランを沈殿分画法によって回収することが好ましい。すなわち、本発明のポリシランは、上記したように、極性基を分子内に有していない無極性高分子である。そのため、良溶媒にポリシランを溶解したポリシラン溶液に、少量ずつ貧溶媒を添加して、生じた沈殿を逐次回収する沈殿分画法によって、分子量分散が小さい高分子液晶材料を得ることができる。
【0048】
上記良溶媒及び貧溶媒は、ポリシランの構造に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、良溶媒としては、トルエン、イソオクタン、n−デカン等の無極性溶媒を挙げることができる。また、貧溶媒としては、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、水等の極性溶媒を挙げることができる。なお、ポリシランの良溶媒溶液に添加する貧溶媒を2種以上用いてもよい。すなわち、極性の異なる貧溶媒を用いれば、沈殿するポリシランの重量平均分子量も異なる。そのため、目的とする重量平均分子量のポリシランを得るためには、所望する重量平均分子量を有するポリシランの沈殿が得られるように、貧溶媒を選択することが好ましい。このような沈殿分画法を用いれば、大規模な製造設備を必要とすることなく、また、簡便かつ安価に、大量のポリシランを製造することができる。
【0049】
【実施例】
以下、図1ないし図4を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
〔原料モノマーの合成〕
本発明のポリシランを得るためのモノマーとして、n−デシル−(RS)−2−メチルブチルジクロロシランを、以下の手順で合成した。
【0051】
乾燥した300mLの三口フラスコにマグネシウム3.9g(0.16mol)を入れ、該三口フラスコ内をアルゴンで置換した。次いで、この三口フラスコに、THF(テトラヒドロフラン)50mLを注入し、70℃に加熱した後、ジブロモブタンを少量加えて撹拌し、マグネシウム表面を活性化した。続いて、滴下ロートから、1−クロロ−(RS)−2−メチルブタン14.3g(0.13mol)を滴下して2時間撹拌した後、室温まで冷却し、グリニヤル試薬を得た。
【0052】
次に、上記とは別の乾燥した300mLの三口フラスコに、THF50mLと、n−デシルトリクロロシラン44.25g(0.16mol)とを入れ、60℃まで加熱し、上記にて得たグリニヤル試薬のTHF溶液をゆっくり滴下し、得られた反応生成物を加圧濾過して、33.26gの粗生成物を得た。この粗生成物を減圧蒸留器(0.8mHg)を用い、沸点の違いを利用して、n−デシル−(RS)−2−メチルブチルジクロロシラン(沸点100℃(0.8mHg))と、上記n−デシルトリクロロシラン(沸点130℃(0.8mHg))とを蒸留分別し、原料モノマーを得た。
【0053】
〔ポリシランの合成〕
500mLの三口フラスコの容器内を十分に脱気し、アルゴンガスで置換した。このアルゴン置換された三口フラスコに、18−クラウンエーテル−6(34.0mg)を入れ、油浴上で120℃に加熱した。続いて、金属ナトリウム0.3g(12.84mmol)と、脱水トルエン50mLとを加え撹拌しながら、上記にて得られた原料モノマーをゆっくり滴下した。粘度が高くなり過ぎないように、適宜、脱水トルエンを加えて2時間撹拌した後、反応混合溶液を加圧濾過した。得られたポリマーの重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(LC−10ADvp、Shimadzu社製)によって調べた結果、約800,000と約50,000にピークを有していることが分かった。
【0054】
次に、上記ポリマーをトルエンに加え、このトルエン溶液に少量のイソプロピルアルコールを添加して、高分子量を有するポリマーを沈殿させた。得られた沈殿物を遠心分離した後、加圧濾過して濾別し、真空乾燥を行い、分別サンプルとした。上記沈殿物を除去した残りの溶液についても、同様の操作を繰り返して分別サンプルを得、分子量の大きいポリマーから順次分別した。なお、上記トルエン溶液に添加する溶媒は、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、水の順に切り換えた。
【0055】
得られた分別サンプルの重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分散Mw/Mnを表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示されるように、トルエン溶液に添加する溶媒を切り換えて沈殿を得ることにより、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分散Mw/Mnが徐々に小さくなることが分かる。これにより、各分別サンプル毎に重量平均分子量Mwを揃え、分子量分散Mw/Mnの小さい分別サンプルが得られたことが分かる。
【0058】
上記表1に示す分別サンプルのうち、Fr.26を重水素化クロロホルム(CDCl3)に溶解させて1H−NMRスペクトル測定を行った結果、各スペクトルピークは、表2に示すように帰属された。なお、表2に示す各化学シフトは、トリメチルシラン(TMS)を基準として決定したものである。
【0059】
【表2】
【0060】
上記表2より、Fr.26に含まれるポリマーは、一般式(2)にて表される構造を有しているポリシランであることが分かった。
【0061】
【化5】
【0062】
また、Fr.26をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて、紫外可視吸収スペクトルを測定した。その結果を図1に示す。図1に示されるように、320nm付近に吸収ピークが見られ、Fr.26のポリシランは、剛直棒状のへリックス構造を有していることが分かった。
【0063】
〔液晶相の確認〕
上記表1に示す分別サンプルのうち、Fr.30について、R−Axis IV(リガク電機社製)を用いて、温度を変えながら、広角X線回折実験を行った。その結果を図2に示す。図2に示されるように、低温(40℃〜100℃)では、結晶に近い秩序性を示すカラムナー液晶相に特徴的なピークが3つ確認された。この3つのピークは、120℃になると完全に消失してブロードなピークとなり、分子間の液体に近いパッキング状態(スメクチック液晶相やネマチック液晶相)へと相構造が変化していることが分かる。
【0064】
また、上記Fr.30について、上記R−Axis IVを用いて、温度を変えながら、小角X線散乱実験を行った。その結果を図3に示す。図3に示されるように、スメクチック液晶相の相間隔に由来するレイヤーリフレクションを示すピークが温度の上昇とともに小さくなっていることが分かる。また、このピークは、140℃〜150℃付近でほぼ消失していることから、この温度付近で、スメクチック液晶相がネマチック液晶相へと相転移していることが分かる。
【0065】
さらに、110℃及び160℃の温度条件下で、偏光顕微鏡を用いて上記Fr.30を観察した。その結果を図4(a)(b)に示す。図4(a)に示すように、110℃の温度条件下では、スメクチック液晶相に特徴的なファンシェイプテクスチャーが明瞭に観察された。また、図4(b)に示すように、160℃の温度条件下では、ネマチック液晶相に特徴的なシュリーレンテクスチャーが観察された。
【0066】
以上の結果から、本実施例にて得られたポリシランは、温度の上昇に伴って、カラムナー液晶相、スメクチック液晶相、ネマチック液晶相の順に相構造が変化するサーモトロピック液晶であることが分かる。
【0067】
なお、上記と同様の実験結果が、上記表1に示すFr.9〜Fr.32でも得られた。
【0068】
【発明の効果】
本発明のポリシランは、以上のように、上記一般式(1)にて表される構造を有するとともに、剛直棒状構造を有し、かつ、光学不活性であるものである。このポリシランを用いた高分子液晶材料は、温度変化及び濃度変化のうちの少なくとも一方に応じて、相構造が、カラムナー液晶相、スメクチック液晶相、ネマチック液晶相に変化する。
【0069】
上記のような液晶相の相構造変化を利用すれば、上記高分子液晶材料は、高速光スイッチ、リタデーション可変位相差板、化学物質認識センサ、大容量記憶デバイス等の光学素子や分子素子等に応用できる可能性がある。
【0070】
また、上記高分子液晶材料が示す相構造には、コレステリック液晶相ではなく、ネマチック液晶相である。そのため、コレステリック液晶相が形成する螺旋軸の軸方向を考慮して、上記光学素子や分子素子等を設計するといった煩雑な操作が不要になり、より簡便にこれらの光学素子や分子素子を製造することができる。さらに、上記高分子液晶材料は、光学活性な物質を用いる必要がないので、製造コストを低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のポリシランの紫外可視吸収スペクトルである。
【図2】本発明のポリシランの広角X線回折プロファイルの温度依存性を示すグラフである。
【図3】本発明のポリシランの小角X線散乱プロファイルの温度依存性を示すグラフである。
【図4】(a)は、本発明のポリシランの110℃における偏光顕微鏡画像であり、(b)は本発明のポリシランの160℃における偏光顕微鏡画像である。
Claims (5)
- ポリシランを含んでなる高分子液晶材料において、
温度変化及び濃度変化のうちの少なくとも一方に応じて相構造が変化する液晶相を有し、
上記液晶相の相構造には、カラムナー液晶相と、スメクチック液晶相と、ネマチック液晶相とが含まれていることを特徴とする高分子液晶材料。 - 上記ポリシランは、重量平均分子量が10,000以上100,000以下であることを特徴とする請求項3記載の高分子液晶材料。
- 上記ポリシランは、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比で表される分子量分散Mw/Mnが1.50以下であることを特徴とする請求項3又は4記載の高分子液晶材料。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2003037039A JP3730225B2 (ja) | 2003-02-14 | 2003-02-14 | ポリシランを用いた高分子液晶材料 |
Applications Claiming Priority (1)
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