JP2004236602A - 細菌の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質のスクリーニング方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】細胞分裂に関わる因子をターゲットとする新規な作用メカニズムに基づく阻害物質を簡便かつ迅速に検出するスクリーニング方法の提供。
【解決手段】lacZ遺伝子およびlacUV5プロモーターを組み込んでなる低コピープラスミドで、lacY遺伝子を欠失しているラクトースオペロンを有する宿主細胞を形質転換することによって得られる形質転換体を指示菌として使用し、当該指示菌と被検物質とを接触させ、無核細胞形成の有無を判定することを含む、細菌の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質のスクリーニング方法。
【選択図】 なし
【解決手段】lacZ遺伝子およびlacUV5プロモーターを組み込んでなる低コピープラスミドで、lacY遺伝子を欠失しているラクトースオペロンを有する宿主細胞を形質転換することによって得られる形質転換体を指示菌として使用し、当該指示菌と被検物質とを接触させ、無核細胞形成の有無を判定することを含む、細菌の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質のスクリーニング方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、細菌の細胞分裂に関わる因子、例えば染色体分離蛋白質であるDNAトポイソメラーゼIV,DNAジャイレース、染色体分配蛋白質であるMukB,MukE,MukF、細胞壁合成酵素であるPBP1,PBP2,PBP3,MurA等、形態形成蛋白質であるMreB、および隔壁合成蛋白質であるFtsZ,FtsA等の阻害作用の有無を検出するために有用なプラスミド,該プラスミドで形質転換された宿主細胞,および該宿主細胞を用いて上記の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質をスクリーニングする方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
化学療法の著しい進歩により、細菌感染症は完全に征服されたかの如く思われた。ところが最近、抗菌剤の汎用により薬剤耐性菌が増加し医療現場で大きな問題になっている。特に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,ペニシリン耐性肺炎球菌,バンコマイシン耐性腸球菌等の多剤耐性を示す細菌による感染症が社会的な問題となっている。これらの耐性菌対策として、β−ラクタム系抗生物質,キノロン系抗菌薬,マクロライド系抗生物質,アミノ配糖体抗生物質等の既存の母核構造について化学修飾がなされ、構造−活性相関に基づいて世界中で多くの誘導体が合成されてきたが、未だ満足すべき結果は得られていない。このような状況を克服するためには、従来とは全く異なる作用メカニズムに基づいた抗菌剤の開発が必要である。
【0003】
生物が生存するための不可欠な機構として細胞分裂があり、細胞は細胞分裂によって母細胞の遺伝情報を正確に娘細胞に伝える。このような基盤的な仕組みである細胞分裂では、先ず染色体複製に始まり、次に染色体分配が起こるが、その過程と同調して細胞伸長ならびに形態形成たとえば細胞壁合成が進行し、最終的に隔壁合成を経て細胞分裂が正しく起こらなければならない。
【0004】
現在、染色体分配機構は二つの過程に分けて考えられている。一つは染色体複製完了時に、二つの染色体の絡みを分離するという脱連環作用(染色体の分離機能)であり、この役割はDNAトポイソメラーゼIVやDNAジャイレース等のII型トポイソメラーゼにより行われている。
【0005】
DNAジャイレースは、1976年、Gellertらにより発見された酵素である(例えば非特許文献1参照)。この酵素は、2本鎖DNAを一時的に切断し再結合するII型トポイソメラーゼで、DNAスーパーコイリング反応等を触媒することにより、DNAの高次構造を変換する(例えば非特許文献2参照)。
大腸菌のDNAジャイレースは、gyrA遺伝子[染色体地図上48分に位置](例えば非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5参照)がコードするGyrAサブユニット(875アミノ酸、分子量97kDa)2分子と、gyrB遺伝子[染色体地図上83分に位置](例えば非特許文献6、非特許文献7参照)がコードするGyrBサブユニット(804アミノ酸、分子量90kDa)2分子からなる4量体である(例えば非特許文献8参照)。GyrAサブユニットのN末端側59kDaのドメインが、DNAの切断と再結合活性を担っており、GyrBサブユニットのN末端側43kDaのドメインは、ATP加水分解活性を有している(例えば非特許文献9、非特許文献10参照)。DNAジャイレースは、DNA複製、転写、組換えという重要な機能に関係しており、細菌が生存するために必須の酵素である。
【0006】
DNAトポイソメラーゼIVは、1990年、加藤らにより見出された新しいII型トポイソメラーゼである(例えば非特許文献11参照)。大腸菌のDNAトポイソメラーゼIVは、DNAジャイレースと同様にデカテネーション活性ならびにリラクシング活性を有しており、デカテネーション活性は、DNAジャイレースよりも強いことが知られている。しかし、DNAジャイレースとは異なり、スーパーコイリング活性を保持していない。大腸菌のDNAトポイソメラーゼIVは、parC遺伝子(染色体地図上約65分に位置)がコードするParCサブユニット(752アミノ酸、分子量84kDa)2分子とparE遺伝子[染色体地図上約65分に位置]がコードするParEサブユニット(630アミノ酸、分子量70kDa)2分子から構成される4量体で、ジャイレースと相同性が高い(例えば非特許文献11、非特許文献12参照)。ParC蛋白は、GyrAと36%、ParEはGyrBと49%のアミノ酸配列が同一である。DNAトポイソメラーゼIVは、DNA複製終了直後の娘DNAをデカテネートして分離させるという重要な機能をもっており、細菌が生存するために必須の酵素である(例えば非特許文献13参照)。最近DNAトポイソメラーゼIVもDNAジャイレースと協調してDNA複製に重要な役割を担っていることが明らかになった(例えば非特許文献14参照)。以上のように、DNAジャイレースやDNAトポイソメラーゼIV等のDNAの高次構造変換に関わるII型トポイソメラーゼは、全ての細菌が生存するために必須の酵素であり、真核生物にも類似した酵素は存在するものの、細菌に特有の酵素のため、抗菌剤の優れたターゲットと考えられる(例えば非特許文献15参照)。
【0007】
現在、II型トポイソメラーゼ阻害剤は、作用機序の面からナリジクス酸やスパルフロキサシン等のキノロン薬とノボビオシンやクーママイシン等のクマリン系化合物の2つのグループに分類される。キノロン薬はDNAジャイレースとDNAとの共有結合によって生じるキノロンポケットと結合し、DNAジャイレースの機能を失活させることが知られている。クマリン系化合物はDNAジャイレースのGyrBサブユニットのATP加水分解活性を競合的に阻害することにより、DNAジャイレースの機能を失活させることが知られている。この様に、2つのグループの化合物の作用機序は分子レベルで大きく異なっており、お互いにそれぞれの耐性菌と交差耐性を示さないことが明らかになっている。また、キノロン薬は現在臨床の場で多く使用されているが、ノボビオシンやクーママイシンは副作用の点で問題があり臨床で使用されていない。
【0008】
一方、二つ目の過程である分離した染色体の分配機構については長い間不明のままであったが、近年、この過程で重要な役割を演じている蛋白質としてMukB,MukEおよびMukFが見出された。平賀らは染色体分配が阻害されると染色体を持たない細胞、すなわち無核細胞が生じる現象に着目し、大腸菌から無核細胞を高頻度に放出するmuk変異株(mukaku:「無核」を表す)を検出する巧妙な遺伝学的スクリーニング法を考え出した(例えば非特許文献16参照)。このスクリーニング法を用いて染色体分配に関与する新規遺伝子を見出し、その遺伝子をmukB遺伝子と名付けて塩基配列を決定した(例えば非特許文献17、非特許文献18参照)。このmukB遺伝子は染色体分配に関与する蛋白質(170kDa)をコードする遺伝子であること(例えば非特許文献19参照)、および該蛋白質のN末端側とC末端側は球状ドメインを形成し、その中央部はコイルドコイル構造を持つホモダイマーであることを解明した(例えば非特許文献16、非特許文献20参照)。このような特徴的な構造は真核生物のキネシンやミオシン等のモーター蛋白質(例えば非特許文献21参照)と類似している。また、生化学的な解析により、MukB蛋白質のN末端側の球状ドメインはATP/GTP結合能およびATPase/GTPase活性を有し、C末端側の球状ドメインはDNA結合能を持つことが報告されている(例えば非特許文献19、非特許文献22、非特許文献23、非特許文献24参照)。MukB蛋白質は染色体分配に必須であること、モーター蛋白様構造を持つこと、およびATP/GTP結合能を有することから、MukB蛋白質は染色体分配の際に駆動力を与えると推測された(例えば非特許文献25参照)。
【0009】
更に平賀らは、mukB遺伝子の染色体上流領域に、2つの新規な遺伝子であるmukFおよびmukE遺伝子を見い出した。これらの遺伝子はmukB遺伝子と共にオペロンを形成し、mukF−mukE−mukBの順に配列していた(例えば非特許文献17参照)。mukF遺伝子はその中央部にロイシンジッパーモチーフを、C末端側近傍に酸性アミノ酸クラスタードメインを有する51kDaの蛋白質をコードしており、一方、mukE遺伝子は27kDaの蛋白質をコードしている。mukFおよびmukE遺伝子のいずれかの遺伝子が破壊された変異株はmukB遺伝子が破壊された場合と同様に、30℃以上の高温では生育できず、無核細胞を放出し、染色体の分配異常を引き起こすことを証明した(例えば非特許文献17参照)。最近、MukF,MukEおよびMukB蛋白質は複合体を形成し、C末端側の球状ドメインがこの複合体形成に重要であることが明らかになった(例えば非特許文献23参照)。また、大腸菌のMukB蛋白質のN末端側の球状ドメインの三次元構造が報告され、更にMukB蛋白質は逆平行型のホモダイマーからなる対称的構造を示していることが報告された(例えば非特許文献26参照)。このように、MukB蛋白質は両末端でMukF蛋白質やMukE蛋白質と共に複合体を形成すると共に、ATPの入り得るポケットやDNA結合部位も両末端に存在するというモデルが提案されている。mukB,mukEおよびmukF遺伝子は、大腸菌のみならず、コレラ菌,サルモネラ菌,ペスト菌,インフルエンザ菌,パステウラ菌,アクチノバチラス菌,クレブシラ菌等にも存在することが明らかになっている(例えば非特許文献27参照)。現在のところ、MukB,MukEおよびMukFの阻害剤は見つかっていない。
【0010】
細菌では、染色体の複製が進行するに伴い、何らかのシグナルにより巧妙に同調された細胞壁の合成が始まり細胞の伸長化が起こると考えられている。またこの過程で、重要な役割を演じているのは細胞壁ペプチドグリカン構造である。この構造の形成が動的に機能して細胞の伸長・分裂を導き、主として細胞の形態を決めている。
【0011】
ペプチドグリカン生合成は複雑な代謝経路で行われる。すなわち、細胞質膜の内側にある細胞質内で合成されたN−アセチルグルコサミンとN−アセチルムラミン酸がβ−1,4結合し、N−アセチルムラミン酸にペンタペプチドが結びついたもの、すなわちペプチドグリカンユニットがリピト担体により運ばれ細胞質膜の外に出る。そこでペニシリン結合蛋白質(penicillin−binding proteins,PBPs)に捕らえられ、ペプチドグリカンに組み込まれていくと考えられている(例えば非特許文献28参照)。すなわち、PBPsはペプチドグリカン生合成系の最終過程の架橋形成反応を行う重要な酵素群である。PBPsはアミノ酸ホモロジーからクラスAとクラスBの2つのグループに分けることが出来る(例えば非特許文献29参照)。そのうちクラスAのPBP1は、糖鎖伸長のトランスグリコシラーゼと架橋形成のトランスペプチダーゼの2つの活性を持つが、クラスBのPBP2やPBP3はトランスペプチダーゼ活性のみを持っている。大腸菌の高分子量PBPsには4種類あって、分子量順に番号が付いており、PBP1A(94.5kDa),PBP1B(94.3kDa),PBP2(70.8kDa),PBP3(63.9kDa)である。
これらは何れも細胞の伸長と分裂に必須の蛋白質であり、PBP2は細胞の中央部で側壁伸長反応を行うことにより細胞の桿菌形態の決定に働き、PBP3は隔壁ペプチドグリカンの合成に関係していることが知られている(例えば非特許文献28参照)。
【0012】
細胞壁合成阻害剤としては、ペニシリン等のβ−ラクタム系抗生物質やバンコマイシン等のグリコペプチド系抗生物質が開発され、広く臨床現場で使用されている。両グループの薬剤ともペプチドグリカンの最終過程であるトランスペプチダーゼ反応を阻害するが、その作用メカニズムは全く異なっている。β−ラクタム系抗生物質は、ペンタペプチド末端のD−Ala−D−Alaとの構造類似性からmimicとしてPBPsに作用するが、グリコペプチド系抗生物質はD−Ala−D−Alaに直接に結合し、PBPsの作用を阻害することが明らかになっている。
【0013】
近年、ペプチドグリカン前駆体の代謝経路に関わる酵素群についても詳細に検討されている(例えば非特許文献30参照)。例えば、MurAはUDP−GlcNAc(uridyl diphosphate N−acetylglucosamine)からUDP−GlcNAc−enolpyruvateへ触媒する酵素である。この酵素は、細菌の生存に必須の酵素であると共に、多くの病原微生物で保存されている(例えば非特許文献31参照)。MurA阻害抗菌剤としてフォスホマイシンが知られている(例えば非特許文献32参照)。その他のペプチドグリカン前駆体の代謝経路に関わる酵素として、GlmU,MurB,MurC,MraYなどが見出されている(例えば非特許文献33参照)。細胞壁は人などの真核生物に存在しないことから、この系統の薬剤は明らかな質的選択毒性を示すと想定され、魅力的な抗菌剤のカテゴリーとして考えられている(例えば非特許文献33参照)。
【0014】
細胞壁ペプチドグリカン構造以外に、細胞の形態形成に関わる蛋白質としてMreBが知られている。MreBは当初、細胞伸長や細胞分裂の調節に関与している蛋白質として見出された(例えば非特許文献34、非特許文献35参照)。
MreBはアクチンと類似したATPaseドメインを持っていることが知られており、アクチン様細胞骨格様蛋白質としての可能性が示された(例えば非特許文献36参照)。最近、MreBの三次元構造が明らかになり、立体構造的にアクチンと非常に類似していることが判明した(例えば非特許文献37参照)。MreBは細菌の生存に必須の蛋白質であり、多くの病原微生物に存在することが知られている(例えば非特許文献38参照)。現在のところ、MreBの阻害化合物は報告されていない。
【0015】
細胞伸長の時期では染色体、ペプチドグリカン、酵素、細胞質膜およびその他の多くの細胞成分が複製される。やがて、細胞が元の母細胞の2倍に近づくと、隔壁が形成される。隔壁合成の開始では、FtsZが隔壁を形成し始め、種々のFts蛋白が協調的に作用して隔壁合成を終結させる。最終的には細胞質を2個の部分に区切っていく。ペプチドグリカンの合成に関わるPBP3(FtsIとも呼ばれている)は、これらFtsZ等による区切りの進行と共に隔壁形成のためのペプチドグリカンを合成していく。やがてこの隔壁に沿って外膜が合成されれば2個の娘細胞は分離して細胞分裂は完結する。
【0016】
隔壁合成開始の詳しいメカニズムは不明であるが、セルサイクルを通してFtsZの存在位置を追跡することにより、FtsZが隔壁形成の開始の際に重要な役割を果たすことが予測された。つまり隔壁形成の前にはFtsZは細胞全体に分布しているが、隔壁形成の開始時には隔壁の形成される部位に集まってきてリングを形成する。そしてリングが収縮する間、FtsZはその収縮環に存在していることが観察された(例えば非特許文献39参照)。FtsZはGTPase活性を持っており(例えば非特許文献40参照)、さらにそのGTP結合部位配列は、真核生物のチューブリンと類似していることが明らかになった(例えば非特許文献41参照)。FtsZはGTPの存在下、in vitroで重合し、プロトフィラメントやリング状などの構造を構築することが知られている(例えば非特許文献42)。以上のことから、FtsZは真核生物の分裂を引き起こすアクトミオシンリングのような収縮環の構成成分の一つとして考えられている(例えば非特許文献43)。最近、FtsZの三次元構造が明らかになり、立体構造的にもチューブリンと非常に類似していることが判明した(例えば非特許文献44)。長い間、細菌の細胞骨格蛋白質は存在するのかどうか不明であったが、現在ではアクチン様蛋白質としてMreBが、チューブリン様蛋白質としてFtsZが存在することが明らかになっている。FtsZの阻害化合物としてbis−ANSとSRI7614が報告されている(例えば非特許文献45、非特許文献46参照)。
【0017】
FtsZ以外に細胞分裂の時期に重要な蛋白質としてFtsAがある(例えば非特許文献47、非特許文献48参照)。FtsAは隔壁合成の後期に必須の蛋白質であり(例えば非特許文献49、非特許文献50参照)、アクチンと類似したATPaseドメインを持っている(例えば非特許文献36参照)。FtsAも細菌の生存に必須の蛋白質であり、多くの病原微生物に存在することが知られている(例えば非特許文献38参照)。FtsA阻害化合物は報告されていない。その他の細胞分裂に関わる蛋白質として、FtsK,FtsL,FtsN,FtsQ,FtsW,ZipAなどが見出されている(例えば非特許文献30参照)。
【0018】
従って、細菌の染色体分離に関わる蛋白質であるDNAトポイソメラーゼIV,DNAジャイレースや染色体分配に関わる蛋白質であるMukB,MukE,MukF等と、それら染色体の分離分配と密接に同調している細胞伸長・形態形成に関わる蛋白質、例えばPBP1,PBP2,PBP3,MurA等の細胞壁合成蛋白質やMreB等の形態形成蛋白質、FtsZ,FtsA等の隔壁合成蛋白質についての上記の数多くの研究成果から、少なくともこれらの蛋白質が細胞分裂の主要な機能を担っている因子であり、いずれの因子が欠損しても細菌の正常な細胞分裂が進まず、その結果として細菌は死滅すると考えられる。
【0019】
【非特許文献1】
ゲラートら(Gellert et al.)著,「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ ユーエスエー(Proceedings of the National Academy of Sciences USA)」,(米国),1976年,第73巻,p.3872−3876
【非特許文献2】
ワング(Wang)著,「アニューアル レビュー オブ バイオケミストリー(Annual Review of Biochemistry)」,(米国),1996年,第65巻,p.635−692
【非特許文献3】
スワンベルグら(Swanberg et al.)著,「ジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー(Journal of Molecular Biology)」,(英国),1987年,第197巻,p.729−736
【非特許文献4】
フサインら(Hussain et al.)著,「モレキュラー マイクロバイオロジー(Molecular Microbiology)」,(英国),1987年,第1巻,p.259−273
【非特許文献5】
ヨシダら(Yoshida et al.)著,「モレキュラー アンド ジェネラル ジェネティクス(Molecular & General Genetics)」(ドイツ国),1988年,第211巻,p.1−7
【非特許文献6】
ヤマギシら(Yamagishi et al.)著,「モレキュラー アンド ジェネラル ジェネティクス(Molecular & General Genetics)」(ドイツ国),1986年,第204巻,p.367−373
【非特許文献7】
アダチら(Adachi et al.)著,「ヌクレイック アシッド リサーチ(Nucleic Acids Research)」,(英国),1987年,第15巻,p.771−784
【非特許文献8】
クレバンら(Klevan et al.)著,「バイオケミストリー(Biochemistry)」,(米国),1980年,第19巻,p.5229−5234
【非特許文献9】
スギノら(Sugino et al.)著,「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」,(米国),1980年,第255巻,p.6299−6306
【非特許文献10】
マクスウェルら(Maxwell et al.)著,「アドバンシィズ イン プロテイン ケミストリー(Advances in Protein Chemistry)」,(米国),1986年,第38巻,p.69−107
【非特許文献11】
カトウら(Kato et al.)著,「セル(Cell)」,(米国),1990年,第63巻,p.393−404
【非特許文献12】
ペングら(Peng et al)著,「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」(米国),1993年,第268巻,p.24481−24490
【非特許文献13】
アダムスら(Adams et al.)著,「セル(Cell)」,(米国),1992年,第71巻,p.277−288
【非特許文献14】
コドルスキーら(Khodursky et al.)著,「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ ユーエスエー(Proceedings of the National Academy of Sciences USA)」,(米国),2000年,第97巻,p.9419−9424
【非特許文献15】
ハング ダブリュー エム(Huang. W. M.)著,「アニューアル レビュー オブ ジェネティクス(Annual Review of Genetics)」,(米国),1996年,第30巻,p.79−107
【非特許文献16】
ヒラガら(Hiraga et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1989年,第171巻,p.1496−1505
【非特許文献17】
ニキら(Niki et al.)著,「ザ エンボ ジャーナル(The EMBO Journal)」,(英国),1991年,第10巻,p.183−193
【非特許文献18】
ヤマナカら(Yamanaka et al.)著,「モレキュラー アンド ジェネラル ジェネティクス(Molecular & General Genetics)」,(ドイツ国),1996年,第250巻,p.241−251
【非特許文献19】
ヤマナカら(Yamanaka et al.)著,「フェムス マイクロバイオロジー レターズ(FEMS Microbiology Letters)」,(オランダ国),1994年,第123巻,p.27−31
【非特許文献20】
ニキら(Niki et al.)著,「ザ エンボ ジャーナル(The EMBO Journal)」,(英国),1992年,第11巻,p.5101−5109
【非特許文献21】
実験医学,1999年,第17巻,p.436−480
【非特許文献22】
サレーら(Saleh et al.)著,「フェムス マイクロバイオロジー レターズ(FEMS Microbiology Letters)」,(オランダ国),1996年,第143巻,p.211−216
【非特許文献23】
ロックハルトら(Lockhart et al.)著,「フェブス レターズ(FEBS Letters)」,(オランダ国),1998年,第430巻,p.278−282
【非特許文献24】
ヤマゾエら(Yamazoe et al.)著,「ザ エンボ ジャーナル(The EMBO Journal)」,(英国),1999年,第18巻,p.5873−5884
【非特許文献25】
ヒラガ(Hiraga)著,「アニューアル レビュー オブ バイオケミストリー(Annual Review of Biochemistry)」,(米国),1992年,第61巻,p.283−306
【非特許文献26】
ファン デン エント エフら(van den Ent F. et al.)著,「ストラクチャー ウィズ フォールディング アンド デザイン(Structure with Folding and Design)」,(米国),1999年,第7巻,p.1181−1187
【非特許文献27】
ヒラガら(Hiraga et al)著,「ジーンズ トゥー セルズ(Genes to Cells)」,(英国),2000年,第5巻,p.327−341
【非特許文献28】
ヨアヒム−フォルカー(Joachim−Volker)著,「マイクロバイオロジー アンドモレキュラー バイオロジー レビューズ(Microbiology and Molecular Biology Reviews)」,(米国),1998年,第62巻,p.181−203
【非特許文献29】
コレット ゴフィンら(Colette Goffin et al.)著,「マイクロバイオロジー アンド モレキュラー バイオロジー レビューズ(Microbiology and Molecular Biology Reviews)」,(米国),1998年,第62巻,p.1079−1093
【非特許文献30】
ナニンハ(Nanninga)著,「マイクロバイオロジー アンド モレキュラー バイオロジー レビューズ(Microbiology and Molecular Biology Reviews)」,(米国),1998年,第62巻,p.110−129
【非特許文献31】
ブラウンら(Brown et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1995年,第177巻,p.4194−4197
【非特許文献32】
マーコートら(Marquardt et al.)著,「バイオケミストリー(Biochemistry)」,(米国),1994年,第33巻,p.10646−10651
【非特許文献33】
デヴィッド ダブリュー グリーン(David W Green)著,「エキスパート オピニオン オン テラピューティック ターゲッツ(Expert Opinion on Therapeutic Targets),2002年,第6巻,p.1−19
【非特許文献34】
ドイら(Doi et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1988年,第170巻,p.4619−4624
【非特許文献35】
ワチら(Wachi et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1989年,第171巻,p.3123−3127
【非特許文献36】
ボルクら(Bork et al.)著,「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ ユーエスエー(Proceedings of the NationalAcademy of Sciences USA)」,(米国),1992年,第89巻,p.7290−7294
【非特許文献37】
ファン デン エント エフら(Van den Ent F. et al.)著,「ネイチャー(Nature)」,(英国),2001年,第413巻,p.39−44
【非特許文献38】
ウイリアム マルゴリン(William Margolin)著,「フェムス マイクロバイオロジー レビューズ(FEMS Microbiology Reviews)」,(オランダ国),2000年,第24巻,p.531−548
【非特許文献39】
エルフェイ バイら(Erfei Bi et al.)著,「ネイチャー(Nature)」,(英国),1991年,第354巻,p.161−164
【非特許文献40】
デ ボエルら(De Boer et al.)著,「ネイチャー(Nature)」,(英国),1992年,第359巻,p.254−256
【非特許文献41】
ウイリアム マルゴリンら(William Margolin et al)著,「ジャーナル オブバクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1996年,第178巻,p.1320−1327
【非特許文献42】
エリクソンら(Erickson et al.,)著,「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ ユーエスエー(Proceedings of the National Academy of Sciences USA)」,(米国),1996年,第93巻,p.519−523
【非特許文献43】
ビセンテら(Vicente et al.)著, 「モレキュラー マイクロバイオロジー(Molecular Microbiology)」,(英国),1996年,第20巻,p.1−7
【非特許文献44】
ロウら(Lowe et al.)著, 「ネイチャー(Nature)」,(英国),1998年,第391巻,p.203−206
【非特許文献45】
スアン−チュウアン ユーら(Xuan−Chuan Yu et al.)著,「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」(米国),1998年,第273巻,p.10216−10222
【非特許文献46】
イー. ルシル ホワイトら(E. Lucile White et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),2000年,第182巻,p.4028−4034
【非特許文献47】
ノリスら(Norris et al.)著,「ジャーナル オブ テオリティカル バイオロジー(Journal of theoretical Biology)」,(米国),1994年,第168巻,p.227−230
【非特許文献48】
ダニエル ビネラら(Daniel Vinella et al.)著,「バイオエッセイズ(BioEssays)」,(英国),1995年,第17巻,p.527−536
【非特許文献49】
ドナキーら(Donachie et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1979年,第140巻,p.388−394
【非特許文献50】
プラら(Pla et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1990年,第172巻,p.5097−5102
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
以上のことから、本発明者らは、既存の薬物とは異なる新規な作用メカニズムに基づく有用な抗菌剤として、細菌の細胞分裂に関わる因子、例えば染色体分離蛋白質であるDNAトポイソメラーゼIV,DNAジャイレース、染色体分配蛋白質であるMukB,MukE,MukF、細胞壁合成酵素であるPBP1,PBP2,PBP3,MurA等、形態形成蛋白質であるMreB等、および隔壁合成蛋白質FtsZ,FtsA等を阻害する物質が極めて有望であると考えるに至った。本発明の目的は、細菌の生存に不可欠である細胞分裂に関わる因子をターゲットとする新規な作用メカニズムに基づく阻害物質を簡便かつ迅速に検出するスクリーニング方法を提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、平賀らにより考案された無核細胞の出現を指標としたmuk変異株を分離する方法に注目した(例えば非特許文献16参照)。この方法は、プラスミドのコピー数を制御する遺伝子repAとレポーター遺伝子であるβ−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子lacZが組み込まれたプラスミドpXX747で形質転換された大腸菌株(SH3208/pXX747)を親株として用いる。正常な染色体分配を行っている場合、pXX747プラスミド上のrepAとlacZ遺伝子の発現は、宿主細胞の染色体上のcI遺伝子およびlacI遺伝子により生じるリプレッサーにより抑えられる。しかし、無核細胞が生じると、プラスミドはランダムに無核細胞にも分配されるので、宿主染色体上の遺伝子による制御を受けなくなる。すなわち、repA遺伝子が発現し、プラスミドのコピー数が増加し、またlacZ遺伝子も発現する。したがってβ−ガラクトシダーゼの発現量が増加し、培地中にX−galが存在すると、コロニーは青呈色を示すことになる。以上の原理に基づき、親株の染色体に何らかの手段でランダム変異を導入し青呈色を示すコロニーを選択することにより、muk変異株を分離することができる。
【0022】
本発明者らは、無核細胞の出現は正常な染色体分配が阻害された結果として起こる現象であり、上記の菌株(E.coli SH3208/pXX747)を指示菌としたバイオアッセイ法により、染色体分配に関わる蛋白質に対する阻害物質をスクリーニングすることができると考えた。そこで、作用メカニズムが明らかになっている各種市販抗菌薬を用いて検討したところ、キノロン薬(DNA合成阻害作用)およびβ−ラクタム薬(細胞壁合成阻害作用)は陽性(青呈色)を示し、ゲンタマイシン等のアミノ配糖体やテトラサイクリン、クロラムフェニコール等の蛋白合成阻害作用を示す抗生物質は何れも陰性であり、青呈色は認められなかった。以上のことから、本発明者らは、無核細胞の出現は染色体の分配阻害のみならず、染色体の分離や染色体の分配過程に同調している細胞伸長や形態形成の阻害によっても誘導されること、即ち無核細胞の出現の有無によって、染色体の分離・分配やそれに同調している細胞伸長・形態形成に関わる蛋白質(細胞壁合成や形態形成および隔壁合成に関わる蛋白質)の阻害物質をも見出すことができると推察した。
【0023】
次のステップとして、実際に上記のバイオアッセイ法を用いて、小規模レベルの合成化合物ライブラリーや放線菌等の生理活性物質ライブラリーのランダムスクリーニングを行ったところ、指示菌を含むバイオアッセイ用培地が青呈色を示し、すなわちバックグランドが高くなり、多数のサンプルで判定が不可能であった。また、放線菌等の生理活性物質ライブラリーの場合、サンプル中に培養液中に含まれるラクトース等の糖類が混入していることが多く、指示菌によるβ−ガラクトシダーゼの制御が行われなくなり青呈色を示すため、疑陽性の結果となった。以上のことから、この指示菌を用いたバイオアッセイ法は、活性の弱い化合物を含むことが予想されるライブラリーやラクトース等が含まれると考えられる放線菌等の生理活性物質ライブラリーのランダムスクリーニングには実用面を考えると不適切であることが判明した。
【0024】
この様な問題点を解決するために、指示菌の改良ならびに培養条件の工夫等種々の創意工夫を行った。
バイオアッセイ用培地が青呈色を示すのは、lacZの発現が厳密に制御されていないことが理由として考えられた。そこで、菌体内のlacI repressorの枯渇を原因として考え、温度感受性高コピープラスミドから低コピープラスミドにベクターを変更した。更に、グルコースによるカタボライトリプレッションにより、宿主細胞のクロモゾーム上のlacZの発現が抑制される様に、プラスミド上のlacZプロモーターにグルコース効果の起こらない変異を導入した。次に、ラクトースによりlacZの発現抑制が解除されないように、宿主細胞内へのラクトースの輸送が阻害されている変異株(lacY変異株)を用いた。指示菌として上記の様な改良を加えたものを用いることによって、所望の効果が確認できる一方で、バックグラウンドが抑制されたアッセイ法を得ることに成功した。
【0025】
以上の研究を重ねた結果、ノンキノロン・ジャイレース阻害薬やノンβ−ラクタム・細胞壁合成阻害薬だけでなく、染色体の分離・分配やそれに同調している細胞伸長、形態形成および隔壁合成に関する蛋白質の阻害物質を簡便かつ迅速にスクリーニングする方法を確立し、本発明を完成した。
【0026】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)レポーター遺伝子および変異型lacプロモーターを組み込んでなるプラスミドであって、該変異型lacプロモーターがグルコースの存在下においても活性を有するものであることを特徴とする、プラスミド。
(2)レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である、上記(1)記載のプラスミド。
(3)低コピープラスミドである、上記(1)または(2)記載のプラスミド。
(4)変異型lacプロモーターがlacUV5プロモーターである、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のプラスミド。
(5)染色体上にラクトースオペロンを有する宿主細胞を、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のプラスミドで形質転換することによって得られる形質転換体であって、該宿主細胞のラクトースオペロンがlacY遺伝子を欠失していることを特徴とする、形質転換体。
(6)宿主細胞が大腸菌である、上記(5)記載の形質転換体。
(7)少なくとも以下の工程を含む、細菌の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質をスクリーニングする方法:
(i)指示菌と被検物質とを接触させる工程、および
(ii)工程(i)を経て得られた指示菌について、無核細胞の有無を判定する工程。
(8)無核細胞の有無を判定する工程が、レポーター遺伝子の発現の有無を観察することによって実施されるものである、上記(7)記載の方法。
(9)少なくとも以下の工程を含む、細菌の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質をスクリーニングする方法:
(i)上記(5)または(6)記載の形質転換体と被検物質とを接触させる工程、および
(ii)レポーター遺伝子の発現を観察し、レポーター遺伝子の発現の有無によって無核細胞を生じているか否かを判定する工程。
(10)形質転換体と被検物質との接触が、グルコース存在下で行われることを特徴とする、上記(9)記載の方法。
【0027】
(11)細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で染色体の分離機能に関わる蛋白質である、上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(12)細胞内で染色体の分離機能に関わる蛋白質が、DNAトポイソメラーゼIVおよびDNAジャイレースからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(11)記載の方法。
(13)細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で染色体の分配機能に関わる蛋白質である、上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(14)細胞内で染色体の分配機能に関わる蛋白質が、MukB、MukEおよびMukFからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(13)記載の方法。
(15)細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で細胞壁合成に関わる蛋白質である、上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(16)細胞内で細胞壁合成に関わる蛋白質が、PBP1、PBP2、PBP3およびMurAからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(15)記載の方法。
(17)細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で形態形成に関わる蛋白質である、上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(18)細胞内で形態形成に関わる蛋白質がMreBである、上記(17)記載の方法。
(19)細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で隔壁合成に関わる蛋白質である、上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(20)細胞内で隔壁合成に関わる蛋白質がFtsZおよびFtsAからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(19)記載の方法。
【0028】
本発明は、細菌の細胞分裂に関わる因子、例えば染色体分離蛋白質であるDNAトポイソメラーゼIV,DNAジャイレース、染色体分配蛋白質であるMukB,MukE,MukF、細胞壁合成酵素であるPBP1,PBP2,PBP3,MurA等、形態形成蛋白質であるMreB、および隔壁合成蛋白質であるFtsZ,FtsA等に対する阻害作用を検出するための有用なプラスミド、該プラスミドで形質転換された宿主細胞(形質転換体)、および該形質転換体を用いて上記の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質をスクリーニングする方法に関するものである。
【0029】
本方法は、細菌の細胞分裂を阻害することにより、無核細胞が出現し、その有無をレポーター遺伝子の発現の有無によって検出し得る、という上記知見に基づいて達成されたものである。具体的には、後述の本発明のプラスミドを用いて、好ましくはレポーター遺伝子および変異型lacプロモーターを組み込んでなるプラスミドで形質転換された宿主細胞(形質転換体)を指示菌として用いる。
【0030】
例えば、(1)指示菌と被検物質とを接触させる工程、と(2)工程(1)を経て得られた指示菌について、無核細胞の有無を判定する工程とを少なくとも含む、細菌の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質をスクリーニングする方法が例示される。
【0031】
ここで指示菌とは、本発明のスクリーニング方法を実施するのに用いる細菌であって、使用するレポーター遺伝子に応じて適宜設定される。好ましくは後述する本発明のプラスミドで形質転換された宿主細胞である。当該指示菌としては、例えば、lacY遺伝子が欠損した大腸菌K−12由来のCSH7にlacUV5プロモーターの制御下にlacZ遺伝子を有する低コピープラスミドpMA1を導入してなる大腸菌、E.coli CSH7 lacY /pMA1が挙げられる。
【0032】
被検物質としては、新規、既知を問わず、細菌の細胞分裂に関わる因子に対して阻害作用を有するか否かを調べることが目的とされる物質であれば任意の物質が用いられる。化合物であっても、また組成物であってもよい。化学的に合成されるものであっても、天然から単離されるものであっても構わない。
【0033】
無核細胞の有無を判定する工程は、好ましくは、レポーター遺伝子の発現の有無によって検出する。詳細は実施例等に後述するが、無核細胞となった場合にレポーター遺伝子が発現し視覚化されるような系を構築することによって行われる。
【0034】
指示菌と被検物質との接触の条件は(温度や時間、具体的な手順)は、用いる指示菌や被検物質によって適宜設定される。簡便には培地中の指示菌上に、被検物質を含浸させたろ紙等を載せることによって行なわれる。通常、25〜45℃、好ましくは30〜37℃で一晩〜48時間、好ましくは16〜24時間接触させる。
接触後、指示菌上での阻止円の形成ならびにレポーター遺伝子の発現を観察する。
【0035】
スクリーニングの際に用いられる培地も、当分野で通常用いられているものが好適に使用でき、特に限定されないが、ポリペプトンを含有する培地が好ましく、例えばポリペプトン−Sを用いた場合、より明白な青呈色が認められる。
また、特にlacUV5プロモーター等のグルコース存在下でも活性を阻害されない変異型lacプロモーターを用いた場合には、指示菌と被検物質の接触はグルコースの存在下で行なわれることが好ましい。具体的にはグルコースを含む培地中で、該指示菌と被検物質との接触が実施される。lacUV5プロモーター等のグルコース存在下でも活性を阻害されない変異型lacプロモーターは、グルコース効果を受けないので、グルコースによるlacZ遺伝子発現の制御が期待できるためである。培地へのグルコースの添加量は、グルコースによるlacZ遺伝子発現の制御が期待される量であれば特に限定されないが、通常0.1%〜1%程度である。
【0036】
本発明において用いられるレポーター遺伝子としては、当分野で通常用いられているものが挙げられ、使用する指示菌に応じて適宜設定される。好ましくは変異型lacプロモーターによってその発現が制御されるものであって、例えば、β−ガラクトシダーゼをコードするlacZ遺伝子が好適に用いられる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子の場合は指示菌上で青呈色を示す。所望の効果が得られる限り、当該レポーター遺伝子は1乃至数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加等が施された変異型であってもよい。種々のレポーター遺伝子が商業的に入手可能であり、又、文献にて報告されている。
【0037】
本発明で用いられる変異型lacプロモーター遺伝子は、グルコースの存在下においても活性を有する、即ちカタボライト抑制を受けないような変異を有するものであって、たとえば野生型lacプロモーターの−10配列を2塩基置換(TATGTT→TATAAT)した改良型プロモーターである(lacUV5)。lacUV5は、野生型lacプロモーターと同一の強いプロモーター活性を有している。lacUV5は転写活性化にCAP−cAMPを必要とせず、グルコースの存在下においても活性を有するのが特徴である。lacUV5プロモーターはlacUV5変異を持つプラスミド、例えばプラスミドpMW219から制限酵素による消化等の常套手段を用いて単離することができる。又、該プロモーターを有する菌からの単離、精製も可能である。
【0038】
本発明のプラスミドおよび本発明のスクリーニング方法で用いられるプラスミドは低コピーであることが好ましく、少なくとも1つの制限酵素認識部位があれば任意のプラスミドが用いられる。ここで「低コピープラスミド」とは、複製が厳格に制御されているプラスミドであって、細菌あたり数コピーのプラスミドが複製される。該プラスミドの塩基配列中に、その箇所でのみ切断するユニークな制限部位を含む場合はより好ましい。更に、形質転換された細胞の選択のための薬剤耐性遺伝子〔テトラサイクリン耐性遺伝子(tet),アンピシリン耐性遺伝子(amp),カナマイシン耐性遺伝子(kan)等〕を含有していることが好ましい。
【0039】
本発明で用いられる宿主細胞としては、前記のプラスミドに適合し、形質転換され得るものであって、染色体上にラクトースオペロンを有する(ここでラクトースオペロンはlacY遺伝子を欠損していることが好ましい)ものであれば特に限定されず、生来的にラクトースオペロン(好ましくは当該ラクトースオペロンはlacY遺伝子を欠損している)を有している宿主細胞に加え、遺伝子工学的手法によりラクトースオペロン(好ましくは当該ラクトースオペロンはlacY遺伝子を欠損している)を担持するように操作された宿主細胞もまた、本発明において好適に用いることができる。具体的には本発明の技術分野において通常使用される細菌、例えば大腸菌,サルモネラ菌等が挙げられる。好ましくは大腸菌である。
lacY遺伝子が欠損している宿主細胞を用いることによって、宿主細胞内へのラクトースの輸送が阻害され、ラクトース存在下によるlacZ遺伝子の誘導が起こらなくなる。このことによって、バックグラウンドとして現れていた青呈色を回避することが可能となる。
【0040】
プラスミドの宿主細菌への導入は従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、本発明のように細菌の場合は、Cohenらの方法(Proc. Natl. Acad.Sci. USA., 1972, 69, 2110),プロトプラスト法(Mol. Gen. Genet., 1979, 168, 111),コンピテント法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209)等によって形質転換することができる。
【0041】
本発明において使用される培地は宿主細胞の増殖に必要な炭素源,無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えば、グルコース,デキストリン,可溶性デンプン,ショ糖等が挙げられ、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類,硝酸塩類,アミノ酸,コーンスチープ・リカー,ペプトン,カゼイン,肉エキス,大豆粕,バレイショ抽出液等が挙げられる。また、必要に応じ他の栄養素〔例えば、無機塩(塩化カルシウム,リン酸二水素ナトリウム,塩化マグネシウム等),ビタミン類,抗生物質(テトラサイクリン,アンピシリン,カナマイシン等)等〕を含んでいてもよい。
【0042】
宿主細胞、あるいは形質転換体の培養は当該技術分野において知られている方法により行われる。下記に宿主が細菌である場合に用いられる具体的な培地および培養条件を例示するが、本発明における培養条件はこれらに何ら限定されない。例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜8である培地であるが、宿主が大腸菌の場合、好ましい培地としてLB培地,M9培地(Miller, J.M., 1972, Experiments in molecular genetics. Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York),L培地(Hiraga et al., J. Bacteriol., 1989, 171, 1496−1505)等が挙げられる。培養は、必要により通気・攪拌をしながら、通常、25〜45℃、好ましくは30〜37℃で一晩〜48時間、好ましくは16〜24時間行うことができる。
【0043】
本発明において、「細菌の細胞分裂に関わる因子」としては、細胞内で染色体の分離機能に関わる蛋白質(具体的には、DNAトポイソメラーゼIV、DNAジャイレース等)、細胞内で染色体の分配機能に関わる蛋白質(具体的にはMukB、MukE、MukF等)、細胞内で細胞壁合成に関わる蛋白質(PBP1,PBP2、PBP3、MurA等)、細胞内での形態形成に関わる蛋白質(MreB等)、細胞内で隔壁合成に関わる蛋白質(FtsZ、FtsA等)が挙げられる。
【0044】
本発明のスクリーニング方法において、レポーター遺伝子の発現の有無を確認する方法は、使用するレポーター遺伝子に応じて適宜設定されるが、例えばレポーター遺伝子としてlacZ遺伝子を用いる場合、培地中に添加したX−Galが発現したlacZ遺伝子産物、つまりβ−ガラクトシダーゼの基質となり、加水分解されることにより青呈色を示すことから検出できる。具体的には以下の手順が用いられる。
【0045】
【実施例】
以下、本発明の一例として実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術分野における通常の変更ができることは言うまでもない。
【0046】
本発明のプラスミド作製のために、ニッポンジーン(株)から購入したプラスミドpMW219(Bernardi,A. and Bernardi, F. Nucleic Acids Res., 1984, 12, 9415−9426)を使用した。宿主細胞としては、大腸菌株CSH7(Miller, J. H., 1972, Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory)を使用した。
【0047】
なお、下記実施例において、各操作は特に明示がない限り、Molecular Cloning, A Laboratory Manual Second Edition(Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989)に記載の方法により行った。例えば制限酵素を用いたDNA消化,アガロース電気泳動法,アガロースゲルからのDNA断片の抽出法,プラスミド抽出のためのアルカリ−SDS法等である。また、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って使用した。例えばPCRを用いたDNA増幅法やDNA断片の結合は、TaKaRa PCR Amplification Kit(TaKaRa社製)やDNA Ligation Kit Ver.1 or 2(TaKaRa社製)を用いた。その他、遺伝子導入はDowerら(Nucleic Acids Res., 1988, 16,6127−6145)の方法に従い、Gene Pulser II System(日本バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)を用いて実施した。
【0048】
実施例1:β−ガラクトシダーゼをコードするlacZ遺伝子およびプロモーター変異遺伝子(lacUV5)が組み込まれた低コピープラスミド(pMA1)の作製とスクリーニングに用いる宿主細胞の作製
図1に示す様に、約3.0KbのlacZ遺伝子を得るために、大腸菌株KL−16より単離した染色体DNAを鋳型とし、HindIII認識部位を含む5’末端側のプライマー(プライマー1)として5’−ccaagcttgaattcactggccgtcgtttta−3’(配列番号1)とBamHI認識部位を含む3’末端側のプライマー(プライマー2)として5’−gaagtaggatcccatggataaaaaag−3’(配列番号2)を用いたポリメラーゼ連鎖反応法(Polymerase chain reaction:PCR)により目的のDNAを増幅した。このDNAを制限酵素HindIIIとBamHIで消化して、約3.0KbのlacZ断片を単離した。このDNA配列は、日本データバンク(DNA Data Bank of Japan : DDBJ,http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.html)のアクセッション番号(accession No.)J01636の塩基番号1300〜4482に相当する。
【0049】
一方、約3.9KbのlacUV5変異を持つプロモーター変異遺伝子を有する低コピープラスミドを得るために、プラスミドpMW219DNAを鋳型とし、HindIII認識部位を含む5’末端側のプライマー(プライマー3)として5’−caggcatgcaagcttggcgtaatca−3’(配列番号3)とBamHI認識部位を含む3’末端側のプライマー(プライマー4)として5’−ggcgtcactggatcccgtgttgtcg−3’(配列番号4)を用いたPCRにより目的のDNAを増幅した。このDNAを制限酵素HindIIIとBamHIで消化して、約3.9KbのlacUV5変異を持つプロモーター変異遺伝子を有する低コピープラスミド断片を単離した。
このDNA配列は、日本データバンクのアクセッション番号(accession No.)AB005478の塩基番号1〜2081および2333〜3901に相当する。
以上のように、PCR法により調製した約3.0KbのlacZ遺伝子を、約3.9Kbのプロモーター変異遺伝子を有するベクターと結合させて、プラスミドpMA1を作製した。最終目的のプラスミドであることは、当該遺伝子領域の塩基配列を決定することにより確認した。
【0050】
次に、染色体上のラクトースパーミアーゼをコードするlacY遺伝子が欠損した大腸菌K−12の誘導体CSH7を用いて、通常の方法によりプラスミドpMA1で形質転換させ、宿主細胞(E.coli CSH7/pMA1)を作製した。
【0051】
実施例2:大腸菌株CSH7/pMA1の細胞分裂に関わる因子の阻害を検出する方法および該検出方法を用いて該蛋白質を阻害する物質をスクリーニングする方法
実施例1で作製した大腸菌株CSH7/pMA1を20μg/mlのカナマイシンおよび0.2%グルコースを含むL培地を用いて、37℃、16〜24時間、振とう培養した。次に50〜60℃に保温したP寒天培地(1.0% ポリペプトン−S[日本製薬],0.5% NaCl[ナカライテスク],1.4% bacto agar [ベクトンディツキンソン],pH7.4)に、0.2%グルコースおよび0.1% X−gal(5−bromo−4−chloro−3−indolyl−β−D−galactoside)を添加した後、更に上記の前培養液が0.01%になるように加えた。この調製菌液をプレートに分注し、培地が固まってから、更に安全キャビネットの中で30分程度、乾燥させた。次に、被検物質を10〜100μg/disc含む直径6mmのろ紙を上記培地上に1プレートあたり100枚程度、適宜間隔を置いて配置する。37℃で16〜24時間、静置培養した後、プレートを観察する。被検物質が、染色体の分離・分配および細胞伸長・形態形成に関与する蛋白質の阻害物質である場合は、図2のAのように、指示菌が増殖しない領域(阻止円)の周辺に無核細胞の出現により生じる青呈色のリングを観察できる。また、染色体の分離・分配および細胞伸長に関与する蛋白質の阻害作用がなく、他のメカニズムにより殺菌作用を示す場合は、図2のBのように、阻止円の周辺に青呈色を示さない。更に、全く何の作用もない場合は図2のCのようになる。したがって、図2のAのように阻止円を示しかつ青呈色を示す物質が、無核細胞を生じさせる物質、即ち、細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質である。また、被検物質の阻害作用の強さに応じ、阻止円の大きさならびに青呈色の濃さの程度が異なる。阻止円の直径(mm)を測定すると共に、青呈色の程度は++、+および−の三段階のスコアに判定した。「+」は、ポジティブコントロールであるスパルフロキサシン(10μg/disc)と同様の青呈色を観察できた場合を、「++」はポジティブコントロールより強い場合を、「−」は明白に観察できない場合を表すことにした。
【0052】
参考例1:染色体の分離機能の関わる蛋白質、例えばDNAジャイレースGyrBに対する阻害物質の二次スクリーニング
実施例2のスクリーニング方法により得られたヒット化合物(A119)について、以下に示す公知の方法を用いて、DNAジャイレースのGyrBを阻害する物質を見つけることが出来る。▲1▼核形態の観察、▲2▼キノロン耐性菌に対する抗菌力の測定、▲3▼DNAジャイレースのスーパーコイリング活性測定、▲4▼DNAジャイレースのATP加水分解活性測定等である。もし被検物質がDNAジャイレースのGyrB阻害物質ならば、核様体が細胞中央部に認められ、キノロン耐性菌と交叉耐性を示さず、DNAジャイレース酵素の阻害作用を示すという特徴が認められる。表1に一例を挙げる。
【0053】
【表1】
【0054】
参考例2:細胞伸長・形態形成に関わる蛋白質に対するβラクタム薬以外の阻害物質の二次スクリーニング
実施例2のスクリーニング方法により得られたヒット化合物(A22)について、以下に示す公知の方法を用いて、細胞伸長・形態形成に関わる蛋白質を阻害する物質を見つけることが出来る。▲1▼形態観察、▲2▼β−ラクタム感受性株(ponB/mrcB欠損株)に対する抗菌力の測定、▲3▼β−ラクタマーゼ生産菌に対する抗菌力の測定、▲4▼ペニシリン結合蛋白質に対する競合阻害実験等である。もし被検物質が細胞伸長・形態形成に関わる蛋白質に対するβラクタム薬以外の阻害物質ならば、球状化、バルジ化あるいはフィラメント化した異常形態が認められ、β−ラクタム感受性株に対し感受性を示し、β−ラクタマーゼ生産菌に対し非生産菌と同一の抗菌力を示す。更にペニシリン結合蛋白質に対する競合阻害が起こらない。表2に一例を挙げる
【0055】
【表2】
【0056】
参考例3:市販抗菌薬のスクリーニング
実施例2のスクリーニング方法を用いて、各種市販抗菌剤つまりDNA合成阻害剤であるナリジクス酸,スパルフロキサシン,ノボビオシン、蛋白合成阻害剤であるクロラムフェニコール,テトラサイクリン,ゲンタマイシン、および細胞壁合成阻害剤であるアンピシリン,メシリナム,フォスホマイシンについて検討した。表3に結果を示す。
【0057】
【表3】
【0058】
【発明の効果】
本発明のスクリーニング方法によれば、細菌の細胞分裂つまり染色体分離・分配ならびに細胞伸長、形態形成および隔壁合成に関わる因子の阻害物質を簡便かつ効率的にスクリーニングすることが可能であり、従来の抗菌剤にない新しい作用メカニズムによる抗菌剤を見出すことができ、また、従来の抗菌剤の耐性菌にも有効な抗菌剤の開発が可能となる。
【0059】
【配列表フリーテキスト】
配列番号1:lacZ遺伝子増幅の為の5’末端プライマーとして作用すべく設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号2:lacZ遺伝子増幅の為の3’末端プライマーとして作用すべく設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号3:lacUV5プロモーターを有する低コピープラスミドの断片の増幅の為の5’末端プライマーとして作用すべく設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号4:lacUV5プロモーターを有する低コピープラスミドの断片の増幅の為の3’末端プライマーとして作用すべく設計されたオリゴヌクレオチド
【0060】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】β−ガラクトシダーゼをコードするlacZ遺伝子およびプロモーター変異遺伝子(lacUV5)が組み込まれた低コピープラスミド(pMA1)の作製方法とスクリーニングに用いる宿主細胞の作製方法を示す。
【図2】当該スクリーニング方法による染色体の分離・分配および細胞伸長・形態形成に対する阻害様式を示した図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、細菌の細胞分裂に関わる因子、例えば染色体分離蛋白質であるDNAトポイソメラーゼIV,DNAジャイレース、染色体分配蛋白質であるMukB,MukE,MukF、細胞壁合成酵素であるPBP1,PBP2,PBP3,MurA等、形態形成蛋白質であるMreB、および隔壁合成蛋白質であるFtsZ,FtsA等の阻害作用の有無を検出するために有用なプラスミド,該プラスミドで形質転換された宿主細胞,および該宿主細胞を用いて上記の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質をスクリーニングする方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
化学療法の著しい進歩により、細菌感染症は完全に征服されたかの如く思われた。ところが最近、抗菌剤の汎用により薬剤耐性菌が増加し医療現場で大きな問題になっている。特に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,ペニシリン耐性肺炎球菌,バンコマイシン耐性腸球菌等の多剤耐性を示す細菌による感染症が社会的な問題となっている。これらの耐性菌対策として、β−ラクタム系抗生物質,キノロン系抗菌薬,マクロライド系抗生物質,アミノ配糖体抗生物質等の既存の母核構造について化学修飾がなされ、構造−活性相関に基づいて世界中で多くの誘導体が合成されてきたが、未だ満足すべき結果は得られていない。このような状況を克服するためには、従来とは全く異なる作用メカニズムに基づいた抗菌剤の開発が必要である。
【0003】
生物が生存するための不可欠な機構として細胞分裂があり、細胞は細胞分裂によって母細胞の遺伝情報を正確に娘細胞に伝える。このような基盤的な仕組みである細胞分裂では、先ず染色体複製に始まり、次に染色体分配が起こるが、その過程と同調して細胞伸長ならびに形態形成たとえば細胞壁合成が進行し、最終的に隔壁合成を経て細胞分裂が正しく起こらなければならない。
【0004】
現在、染色体分配機構は二つの過程に分けて考えられている。一つは染色体複製完了時に、二つの染色体の絡みを分離するという脱連環作用(染色体の分離機能)であり、この役割はDNAトポイソメラーゼIVやDNAジャイレース等のII型トポイソメラーゼにより行われている。
【0005】
DNAジャイレースは、1976年、Gellertらにより発見された酵素である(例えば非特許文献1参照)。この酵素は、2本鎖DNAを一時的に切断し再結合するII型トポイソメラーゼで、DNAスーパーコイリング反応等を触媒することにより、DNAの高次構造を変換する(例えば非特許文献2参照)。
大腸菌のDNAジャイレースは、gyrA遺伝子[染色体地図上48分に位置](例えば非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5参照)がコードするGyrAサブユニット(875アミノ酸、分子量97kDa)2分子と、gyrB遺伝子[染色体地図上83分に位置](例えば非特許文献6、非特許文献7参照)がコードするGyrBサブユニット(804アミノ酸、分子量90kDa)2分子からなる4量体である(例えば非特許文献8参照)。GyrAサブユニットのN末端側59kDaのドメインが、DNAの切断と再結合活性を担っており、GyrBサブユニットのN末端側43kDaのドメインは、ATP加水分解活性を有している(例えば非特許文献9、非特許文献10参照)。DNAジャイレースは、DNA複製、転写、組換えという重要な機能に関係しており、細菌が生存するために必須の酵素である。
【0006】
DNAトポイソメラーゼIVは、1990年、加藤らにより見出された新しいII型トポイソメラーゼである(例えば非特許文献11参照)。大腸菌のDNAトポイソメラーゼIVは、DNAジャイレースと同様にデカテネーション活性ならびにリラクシング活性を有しており、デカテネーション活性は、DNAジャイレースよりも強いことが知られている。しかし、DNAジャイレースとは異なり、スーパーコイリング活性を保持していない。大腸菌のDNAトポイソメラーゼIVは、parC遺伝子(染色体地図上約65分に位置)がコードするParCサブユニット(752アミノ酸、分子量84kDa)2分子とparE遺伝子[染色体地図上約65分に位置]がコードするParEサブユニット(630アミノ酸、分子量70kDa)2分子から構成される4量体で、ジャイレースと相同性が高い(例えば非特許文献11、非特許文献12参照)。ParC蛋白は、GyrAと36%、ParEはGyrBと49%のアミノ酸配列が同一である。DNAトポイソメラーゼIVは、DNA複製終了直後の娘DNAをデカテネートして分離させるという重要な機能をもっており、細菌が生存するために必須の酵素である(例えば非特許文献13参照)。最近DNAトポイソメラーゼIVもDNAジャイレースと協調してDNA複製に重要な役割を担っていることが明らかになった(例えば非特許文献14参照)。以上のように、DNAジャイレースやDNAトポイソメラーゼIV等のDNAの高次構造変換に関わるII型トポイソメラーゼは、全ての細菌が生存するために必須の酵素であり、真核生物にも類似した酵素は存在するものの、細菌に特有の酵素のため、抗菌剤の優れたターゲットと考えられる(例えば非特許文献15参照)。
【0007】
現在、II型トポイソメラーゼ阻害剤は、作用機序の面からナリジクス酸やスパルフロキサシン等のキノロン薬とノボビオシンやクーママイシン等のクマリン系化合物の2つのグループに分類される。キノロン薬はDNAジャイレースとDNAとの共有結合によって生じるキノロンポケットと結合し、DNAジャイレースの機能を失活させることが知られている。クマリン系化合物はDNAジャイレースのGyrBサブユニットのATP加水分解活性を競合的に阻害することにより、DNAジャイレースの機能を失活させることが知られている。この様に、2つのグループの化合物の作用機序は分子レベルで大きく異なっており、お互いにそれぞれの耐性菌と交差耐性を示さないことが明らかになっている。また、キノロン薬は現在臨床の場で多く使用されているが、ノボビオシンやクーママイシンは副作用の点で問題があり臨床で使用されていない。
【0008】
一方、二つ目の過程である分離した染色体の分配機構については長い間不明のままであったが、近年、この過程で重要な役割を演じている蛋白質としてMukB,MukEおよびMukFが見出された。平賀らは染色体分配が阻害されると染色体を持たない細胞、すなわち無核細胞が生じる現象に着目し、大腸菌から無核細胞を高頻度に放出するmuk変異株(mukaku:「無核」を表す)を検出する巧妙な遺伝学的スクリーニング法を考え出した(例えば非特許文献16参照)。このスクリーニング法を用いて染色体分配に関与する新規遺伝子を見出し、その遺伝子をmukB遺伝子と名付けて塩基配列を決定した(例えば非特許文献17、非特許文献18参照)。このmukB遺伝子は染色体分配に関与する蛋白質(170kDa)をコードする遺伝子であること(例えば非特許文献19参照)、および該蛋白質のN末端側とC末端側は球状ドメインを形成し、その中央部はコイルドコイル構造を持つホモダイマーであることを解明した(例えば非特許文献16、非特許文献20参照)。このような特徴的な構造は真核生物のキネシンやミオシン等のモーター蛋白質(例えば非特許文献21参照)と類似している。また、生化学的な解析により、MukB蛋白質のN末端側の球状ドメインはATP/GTP結合能およびATPase/GTPase活性を有し、C末端側の球状ドメインはDNA結合能を持つことが報告されている(例えば非特許文献19、非特許文献22、非特許文献23、非特許文献24参照)。MukB蛋白質は染色体分配に必須であること、モーター蛋白様構造を持つこと、およびATP/GTP結合能を有することから、MukB蛋白質は染色体分配の際に駆動力を与えると推測された(例えば非特許文献25参照)。
【0009】
更に平賀らは、mukB遺伝子の染色体上流領域に、2つの新規な遺伝子であるmukFおよびmukE遺伝子を見い出した。これらの遺伝子はmukB遺伝子と共にオペロンを形成し、mukF−mukE−mukBの順に配列していた(例えば非特許文献17参照)。mukF遺伝子はその中央部にロイシンジッパーモチーフを、C末端側近傍に酸性アミノ酸クラスタードメインを有する51kDaの蛋白質をコードしており、一方、mukE遺伝子は27kDaの蛋白質をコードしている。mukFおよびmukE遺伝子のいずれかの遺伝子が破壊された変異株はmukB遺伝子が破壊された場合と同様に、30℃以上の高温では生育できず、無核細胞を放出し、染色体の分配異常を引き起こすことを証明した(例えば非特許文献17参照)。最近、MukF,MukEおよびMukB蛋白質は複合体を形成し、C末端側の球状ドメインがこの複合体形成に重要であることが明らかになった(例えば非特許文献23参照)。また、大腸菌のMukB蛋白質のN末端側の球状ドメインの三次元構造が報告され、更にMukB蛋白質は逆平行型のホモダイマーからなる対称的構造を示していることが報告された(例えば非特許文献26参照)。このように、MukB蛋白質は両末端でMukF蛋白質やMukE蛋白質と共に複合体を形成すると共に、ATPの入り得るポケットやDNA結合部位も両末端に存在するというモデルが提案されている。mukB,mukEおよびmukF遺伝子は、大腸菌のみならず、コレラ菌,サルモネラ菌,ペスト菌,インフルエンザ菌,パステウラ菌,アクチノバチラス菌,クレブシラ菌等にも存在することが明らかになっている(例えば非特許文献27参照)。現在のところ、MukB,MukEおよびMukFの阻害剤は見つかっていない。
【0010】
細菌では、染色体の複製が進行するに伴い、何らかのシグナルにより巧妙に同調された細胞壁の合成が始まり細胞の伸長化が起こると考えられている。またこの過程で、重要な役割を演じているのは細胞壁ペプチドグリカン構造である。この構造の形成が動的に機能して細胞の伸長・分裂を導き、主として細胞の形態を決めている。
【0011】
ペプチドグリカン生合成は複雑な代謝経路で行われる。すなわち、細胞質膜の内側にある細胞質内で合成されたN−アセチルグルコサミンとN−アセチルムラミン酸がβ−1,4結合し、N−アセチルムラミン酸にペンタペプチドが結びついたもの、すなわちペプチドグリカンユニットがリピト担体により運ばれ細胞質膜の外に出る。そこでペニシリン結合蛋白質(penicillin−binding proteins,PBPs)に捕らえられ、ペプチドグリカンに組み込まれていくと考えられている(例えば非特許文献28参照)。すなわち、PBPsはペプチドグリカン生合成系の最終過程の架橋形成反応を行う重要な酵素群である。PBPsはアミノ酸ホモロジーからクラスAとクラスBの2つのグループに分けることが出来る(例えば非特許文献29参照)。そのうちクラスAのPBP1は、糖鎖伸長のトランスグリコシラーゼと架橋形成のトランスペプチダーゼの2つの活性を持つが、クラスBのPBP2やPBP3はトランスペプチダーゼ活性のみを持っている。大腸菌の高分子量PBPsには4種類あって、分子量順に番号が付いており、PBP1A(94.5kDa),PBP1B(94.3kDa),PBP2(70.8kDa),PBP3(63.9kDa)である。
これらは何れも細胞の伸長と分裂に必須の蛋白質であり、PBP2は細胞の中央部で側壁伸長反応を行うことにより細胞の桿菌形態の決定に働き、PBP3は隔壁ペプチドグリカンの合成に関係していることが知られている(例えば非特許文献28参照)。
【0012】
細胞壁合成阻害剤としては、ペニシリン等のβ−ラクタム系抗生物質やバンコマイシン等のグリコペプチド系抗生物質が開発され、広く臨床現場で使用されている。両グループの薬剤ともペプチドグリカンの最終過程であるトランスペプチダーゼ反応を阻害するが、その作用メカニズムは全く異なっている。β−ラクタム系抗生物質は、ペンタペプチド末端のD−Ala−D−Alaとの構造類似性からmimicとしてPBPsに作用するが、グリコペプチド系抗生物質はD−Ala−D−Alaに直接に結合し、PBPsの作用を阻害することが明らかになっている。
【0013】
近年、ペプチドグリカン前駆体の代謝経路に関わる酵素群についても詳細に検討されている(例えば非特許文献30参照)。例えば、MurAはUDP−GlcNAc(uridyl diphosphate N−acetylglucosamine)からUDP−GlcNAc−enolpyruvateへ触媒する酵素である。この酵素は、細菌の生存に必須の酵素であると共に、多くの病原微生物で保存されている(例えば非特許文献31参照)。MurA阻害抗菌剤としてフォスホマイシンが知られている(例えば非特許文献32参照)。その他のペプチドグリカン前駆体の代謝経路に関わる酵素として、GlmU,MurB,MurC,MraYなどが見出されている(例えば非特許文献33参照)。細胞壁は人などの真核生物に存在しないことから、この系統の薬剤は明らかな質的選択毒性を示すと想定され、魅力的な抗菌剤のカテゴリーとして考えられている(例えば非特許文献33参照)。
【0014】
細胞壁ペプチドグリカン構造以外に、細胞の形態形成に関わる蛋白質としてMreBが知られている。MreBは当初、細胞伸長や細胞分裂の調節に関与している蛋白質として見出された(例えば非特許文献34、非特許文献35参照)。
MreBはアクチンと類似したATPaseドメインを持っていることが知られており、アクチン様細胞骨格様蛋白質としての可能性が示された(例えば非特許文献36参照)。最近、MreBの三次元構造が明らかになり、立体構造的にアクチンと非常に類似していることが判明した(例えば非特許文献37参照)。MreBは細菌の生存に必須の蛋白質であり、多くの病原微生物に存在することが知られている(例えば非特許文献38参照)。現在のところ、MreBの阻害化合物は報告されていない。
【0015】
細胞伸長の時期では染色体、ペプチドグリカン、酵素、細胞質膜およびその他の多くの細胞成分が複製される。やがて、細胞が元の母細胞の2倍に近づくと、隔壁が形成される。隔壁合成の開始では、FtsZが隔壁を形成し始め、種々のFts蛋白が協調的に作用して隔壁合成を終結させる。最終的には細胞質を2個の部分に区切っていく。ペプチドグリカンの合成に関わるPBP3(FtsIとも呼ばれている)は、これらFtsZ等による区切りの進行と共に隔壁形成のためのペプチドグリカンを合成していく。やがてこの隔壁に沿って外膜が合成されれば2個の娘細胞は分離して細胞分裂は完結する。
【0016】
隔壁合成開始の詳しいメカニズムは不明であるが、セルサイクルを通してFtsZの存在位置を追跡することにより、FtsZが隔壁形成の開始の際に重要な役割を果たすことが予測された。つまり隔壁形成の前にはFtsZは細胞全体に分布しているが、隔壁形成の開始時には隔壁の形成される部位に集まってきてリングを形成する。そしてリングが収縮する間、FtsZはその収縮環に存在していることが観察された(例えば非特許文献39参照)。FtsZはGTPase活性を持っており(例えば非特許文献40参照)、さらにそのGTP結合部位配列は、真核生物のチューブリンと類似していることが明らかになった(例えば非特許文献41参照)。FtsZはGTPの存在下、in vitroで重合し、プロトフィラメントやリング状などの構造を構築することが知られている(例えば非特許文献42)。以上のことから、FtsZは真核生物の分裂を引き起こすアクトミオシンリングのような収縮環の構成成分の一つとして考えられている(例えば非特許文献43)。最近、FtsZの三次元構造が明らかになり、立体構造的にもチューブリンと非常に類似していることが判明した(例えば非特許文献44)。長い間、細菌の細胞骨格蛋白質は存在するのかどうか不明であったが、現在ではアクチン様蛋白質としてMreBが、チューブリン様蛋白質としてFtsZが存在することが明らかになっている。FtsZの阻害化合物としてbis−ANSとSRI7614が報告されている(例えば非特許文献45、非特許文献46参照)。
【0017】
FtsZ以外に細胞分裂の時期に重要な蛋白質としてFtsAがある(例えば非特許文献47、非特許文献48参照)。FtsAは隔壁合成の後期に必須の蛋白質であり(例えば非特許文献49、非特許文献50参照)、アクチンと類似したATPaseドメインを持っている(例えば非特許文献36参照)。FtsAも細菌の生存に必須の蛋白質であり、多くの病原微生物に存在することが知られている(例えば非特許文献38参照)。FtsA阻害化合物は報告されていない。その他の細胞分裂に関わる蛋白質として、FtsK,FtsL,FtsN,FtsQ,FtsW,ZipAなどが見出されている(例えば非特許文献30参照)。
【0018】
従って、細菌の染色体分離に関わる蛋白質であるDNAトポイソメラーゼIV,DNAジャイレースや染色体分配に関わる蛋白質であるMukB,MukE,MukF等と、それら染色体の分離分配と密接に同調している細胞伸長・形態形成に関わる蛋白質、例えばPBP1,PBP2,PBP3,MurA等の細胞壁合成蛋白質やMreB等の形態形成蛋白質、FtsZ,FtsA等の隔壁合成蛋白質についての上記の数多くの研究成果から、少なくともこれらの蛋白質が細胞分裂の主要な機能を担っている因子であり、いずれの因子が欠損しても細菌の正常な細胞分裂が進まず、その結果として細菌は死滅すると考えられる。
【0019】
【非特許文献1】
ゲラートら(Gellert et al.)著,「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ ユーエスエー(Proceedings of the National Academy of Sciences USA)」,(米国),1976年,第73巻,p.3872−3876
【非特許文献2】
ワング(Wang)著,「アニューアル レビュー オブ バイオケミストリー(Annual Review of Biochemistry)」,(米国),1996年,第65巻,p.635−692
【非特許文献3】
スワンベルグら(Swanberg et al.)著,「ジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー(Journal of Molecular Biology)」,(英国),1987年,第197巻,p.729−736
【非特許文献4】
フサインら(Hussain et al.)著,「モレキュラー マイクロバイオロジー(Molecular Microbiology)」,(英国),1987年,第1巻,p.259−273
【非特許文献5】
ヨシダら(Yoshida et al.)著,「モレキュラー アンド ジェネラル ジェネティクス(Molecular & General Genetics)」(ドイツ国),1988年,第211巻,p.1−7
【非特許文献6】
ヤマギシら(Yamagishi et al.)著,「モレキュラー アンド ジェネラル ジェネティクス(Molecular & General Genetics)」(ドイツ国),1986年,第204巻,p.367−373
【非特許文献7】
アダチら(Adachi et al.)著,「ヌクレイック アシッド リサーチ(Nucleic Acids Research)」,(英国),1987年,第15巻,p.771−784
【非特許文献8】
クレバンら(Klevan et al.)著,「バイオケミストリー(Biochemistry)」,(米国),1980年,第19巻,p.5229−5234
【非特許文献9】
スギノら(Sugino et al.)著,「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」,(米国),1980年,第255巻,p.6299−6306
【非特許文献10】
マクスウェルら(Maxwell et al.)著,「アドバンシィズ イン プロテイン ケミストリー(Advances in Protein Chemistry)」,(米国),1986年,第38巻,p.69−107
【非特許文献11】
カトウら(Kato et al.)著,「セル(Cell)」,(米国),1990年,第63巻,p.393−404
【非特許文献12】
ペングら(Peng et al)著,「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」(米国),1993年,第268巻,p.24481−24490
【非特許文献13】
アダムスら(Adams et al.)著,「セル(Cell)」,(米国),1992年,第71巻,p.277−288
【非特許文献14】
コドルスキーら(Khodursky et al.)著,「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ ユーエスエー(Proceedings of the National Academy of Sciences USA)」,(米国),2000年,第97巻,p.9419−9424
【非特許文献15】
ハング ダブリュー エム(Huang. W. M.)著,「アニューアル レビュー オブ ジェネティクス(Annual Review of Genetics)」,(米国),1996年,第30巻,p.79−107
【非特許文献16】
ヒラガら(Hiraga et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1989年,第171巻,p.1496−1505
【非特許文献17】
ニキら(Niki et al.)著,「ザ エンボ ジャーナル(The EMBO Journal)」,(英国),1991年,第10巻,p.183−193
【非特許文献18】
ヤマナカら(Yamanaka et al.)著,「モレキュラー アンド ジェネラル ジェネティクス(Molecular & General Genetics)」,(ドイツ国),1996年,第250巻,p.241−251
【非特許文献19】
ヤマナカら(Yamanaka et al.)著,「フェムス マイクロバイオロジー レターズ(FEMS Microbiology Letters)」,(オランダ国),1994年,第123巻,p.27−31
【非特許文献20】
ニキら(Niki et al.)著,「ザ エンボ ジャーナル(The EMBO Journal)」,(英国),1992年,第11巻,p.5101−5109
【非特許文献21】
実験医学,1999年,第17巻,p.436−480
【非特許文献22】
サレーら(Saleh et al.)著,「フェムス マイクロバイオロジー レターズ(FEMS Microbiology Letters)」,(オランダ国),1996年,第143巻,p.211−216
【非特許文献23】
ロックハルトら(Lockhart et al.)著,「フェブス レターズ(FEBS Letters)」,(オランダ国),1998年,第430巻,p.278−282
【非特許文献24】
ヤマゾエら(Yamazoe et al.)著,「ザ エンボ ジャーナル(The EMBO Journal)」,(英国),1999年,第18巻,p.5873−5884
【非特許文献25】
ヒラガ(Hiraga)著,「アニューアル レビュー オブ バイオケミストリー(Annual Review of Biochemistry)」,(米国),1992年,第61巻,p.283−306
【非特許文献26】
ファン デン エント エフら(van den Ent F. et al.)著,「ストラクチャー ウィズ フォールディング アンド デザイン(Structure with Folding and Design)」,(米国),1999年,第7巻,p.1181−1187
【非特許文献27】
ヒラガら(Hiraga et al)著,「ジーンズ トゥー セルズ(Genes to Cells)」,(英国),2000年,第5巻,p.327−341
【非特許文献28】
ヨアヒム−フォルカー(Joachim−Volker)著,「マイクロバイオロジー アンドモレキュラー バイオロジー レビューズ(Microbiology and Molecular Biology Reviews)」,(米国),1998年,第62巻,p.181−203
【非特許文献29】
コレット ゴフィンら(Colette Goffin et al.)著,「マイクロバイオロジー アンド モレキュラー バイオロジー レビューズ(Microbiology and Molecular Biology Reviews)」,(米国),1998年,第62巻,p.1079−1093
【非特許文献30】
ナニンハ(Nanninga)著,「マイクロバイオロジー アンド モレキュラー バイオロジー レビューズ(Microbiology and Molecular Biology Reviews)」,(米国),1998年,第62巻,p.110−129
【非特許文献31】
ブラウンら(Brown et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1995年,第177巻,p.4194−4197
【非特許文献32】
マーコートら(Marquardt et al.)著,「バイオケミストリー(Biochemistry)」,(米国),1994年,第33巻,p.10646−10651
【非特許文献33】
デヴィッド ダブリュー グリーン(David W Green)著,「エキスパート オピニオン オン テラピューティック ターゲッツ(Expert Opinion on Therapeutic Targets),2002年,第6巻,p.1−19
【非特許文献34】
ドイら(Doi et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1988年,第170巻,p.4619−4624
【非特許文献35】
ワチら(Wachi et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1989年,第171巻,p.3123−3127
【非特許文献36】
ボルクら(Bork et al.)著,「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ ユーエスエー(Proceedings of the NationalAcademy of Sciences USA)」,(米国),1992年,第89巻,p.7290−7294
【非特許文献37】
ファン デン エント エフら(Van den Ent F. et al.)著,「ネイチャー(Nature)」,(英国),2001年,第413巻,p.39−44
【非特許文献38】
ウイリアム マルゴリン(William Margolin)著,「フェムス マイクロバイオロジー レビューズ(FEMS Microbiology Reviews)」,(オランダ国),2000年,第24巻,p.531−548
【非特許文献39】
エルフェイ バイら(Erfei Bi et al.)著,「ネイチャー(Nature)」,(英国),1991年,第354巻,p.161−164
【非特許文献40】
デ ボエルら(De Boer et al.)著,「ネイチャー(Nature)」,(英国),1992年,第359巻,p.254−256
【非特許文献41】
ウイリアム マルゴリンら(William Margolin et al)著,「ジャーナル オブバクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1996年,第178巻,p.1320−1327
【非特許文献42】
エリクソンら(Erickson et al.,)著,「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ ユーエスエー(Proceedings of the National Academy of Sciences USA)」,(米国),1996年,第93巻,p.519−523
【非特許文献43】
ビセンテら(Vicente et al.)著, 「モレキュラー マイクロバイオロジー(Molecular Microbiology)」,(英国),1996年,第20巻,p.1−7
【非特許文献44】
ロウら(Lowe et al.)著, 「ネイチャー(Nature)」,(英国),1998年,第391巻,p.203−206
【非特許文献45】
スアン−チュウアン ユーら(Xuan−Chuan Yu et al.)著,「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」(米国),1998年,第273巻,p.10216−10222
【非特許文献46】
イー. ルシル ホワイトら(E. Lucile White et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),2000年,第182巻,p.4028−4034
【非特許文献47】
ノリスら(Norris et al.)著,「ジャーナル オブ テオリティカル バイオロジー(Journal of theoretical Biology)」,(米国),1994年,第168巻,p.227−230
【非特許文献48】
ダニエル ビネラら(Daniel Vinella et al.)著,「バイオエッセイズ(BioEssays)」,(英国),1995年,第17巻,p.527−536
【非特許文献49】
ドナキーら(Donachie et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1979年,第140巻,p.388−394
【非特許文献50】
プラら(Pla et al.)著,「ジャーナル オブ バクテリオロジ−(Journal of Bacteriology)」,(米国),1990年,第172巻,p.5097−5102
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
以上のことから、本発明者らは、既存の薬物とは異なる新規な作用メカニズムに基づく有用な抗菌剤として、細菌の細胞分裂に関わる因子、例えば染色体分離蛋白質であるDNAトポイソメラーゼIV,DNAジャイレース、染色体分配蛋白質であるMukB,MukE,MukF、細胞壁合成酵素であるPBP1,PBP2,PBP3,MurA等、形態形成蛋白質であるMreB等、および隔壁合成蛋白質FtsZ,FtsA等を阻害する物質が極めて有望であると考えるに至った。本発明の目的は、細菌の生存に不可欠である細胞分裂に関わる因子をターゲットとする新規な作用メカニズムに基づく阻害物質を簡便かつ迅速に検出するスクリーニング方法を提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、平賀らにより考案された無核細胞の出現を指標としたmuk変異株を分離する方法に注目した(例えば非特許文献16参照)。この方法は、プラスミドのコピー数を制御する遺伝子repAとレポーター遺伝子であるβ−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子lacZが組み込まれたプラスミドpXX747で形質転換された大腸菌株(SH3208/pXX747)を親株として用いる。正常な染色体分配を行っている場合、pXX747プラスミド上のrepAとlacZ遺伝子の発現は、宿主細胞の染色体上のcI遺伝子およびlacI遺伝子により生じるリプレッサーにより抑えられる。しかし、無核細胞が生じると、プラスミドはランダムに無核細胞にも分配されるので、宿主染色体上の遺伝子による制御を受けなくなる。すなわち、repA遺伝子が発現し、プラスミドのコピー数が増加し、またlacZ遺伝子も発現する。したがってβ−ガラクトシダーゼの発現量が増加し、培地中にX−galが存在すると、コロニーは青呈色を示すことになる。以上の原理に基づき、親株の染色体に何らかの手段でランダム変異を導入し青呈色を示すコロニーを選択することにより、muk変異株を分離することができる。
【0022】
本発明者らは、無核細胞の出現は正常な染色体分配が阻害された結果として起こる現象であり、上記の菌株(E.coli SH3208/pXX747)を指示菌としたバイオアッセイ法により、染色体分配に関わる蛋白質に対する阻害物質をスクリーニングすることができると考えた。そこで、作用メカニズムが明らかになっている各種市販抗菌薬を用いて検討したところ、キノロン薬(DNA合成阻害作用)およびβ−ラクタム薬(細胞壁合成阻害作用)は陽性(青呈色)を示し、ゲンタマイシン等のアミノ配糖体やテトラサイクリン、クロラムフェニコール等の蛋白合成阻害作用を示す抗生物質は何れも陰性であり、青呈色は認められなかった。以上のことから、本発明者らは、無核細胞の出現は染色体の分配阻害のみならず、染色体の分離や染色体の分配過程に同調している細胞伸長や形態形成の阻害によっても誘導されること、即ち無核細胞の出現の有無によって、染色体の分離・分配やそれに同調している細胞伸長・形態形成に関わる蛋白質(細胞壁合成や形態形成および隔壁合成に関わる蛋白質)の阻害物質をも見出すことができると推察した。
【0023】
次のステップとして、実際に上記のバイオアッセイ法を用いて、小規模レベルの合成化合物ライブラリーや放線菌等の生理活性物質ライブラリーのランダムスクリーニングを行ったところ、指示菌を含むバイオアッセイ用培地が青呈色を示し、すなわちバックグランドが高くなり、多数のサンプルで判定が不可能であった。また、放線菌等の生理活性物質ライブラリーの場合、サンプル中に培養液中に含まれるラクトース等の糖類が混入していることが多く、指示菌によるβ−ガラクトシダーゼの制御が行われなくなり青呈色を示すため、疑陽性の結果となった。以上のことから、この指示菌を用いたバイオアッセイ法は、活性の弱い化合物を含むことが予想されるライブラリーやラクトース等が含まれると考えられる放線菌等の生理活性物質ライブラリーのランダムスクリーニングには実用面を考えると不適切であることが判明した。
【0024】
この様な問題点を解決するために、指示菌の改良ならびに培養条件の工夫等種々の創意工夫を行った。
バイオアッセイ用培地が青呈色を示すのは、lacZの発現が厳密に制御されていないことが理由として考えられた。そこで、菌体内のlacI repressorの枯渇を原因として考え、温度感受性高コピープラスミドから低コピープラスミドにベクターを変更した。更に、グルコースによるカタボライトリプレッションにより、宿主細胞のクロモゾーム上のlacZの発現が抑制される様に、プラスミド上のlacZプロモーターにグルコース効果の起こらない変異を導入した。次に、ラクトースによりlacZの発現抑制が解除されないように、宿主細胞内へのラクトースの輸送が阻害されている変異株(lacY変異株)を用いた。指示菌として上記の様な改良を加えたものを用いることによって、所望の効果が確認できる一方で、バックグラウンドが抑制されたアッセイ法を得ることに成功した。
【0025】
以上の研究を重ねた結果、ノンキノロン・ジャイレース阻害薬やノンβ−ラクタム・細胞壁合成阻害薬だけでなく、染色体の分離・分配やそれに同調している細胞伸長、形態形成および隔壁合成に関する蛋白質の阻害物質を簡便かつ迅速にスクリーニングする方法を確立し、本発明を完成した。
【0026】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)レポーター遺伝子および変異型lacプロモーターを組み込んでなるプラスミドであって、該変異型lacプロモーターがグルコースの存在下においても活性を有するものであることを特徴とする、プラスミド。
(2)レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である、上記(1)記載のプラスミド。
(3)低コピープラスミドである、上記(1)または(2)記載のプラスミド。
(4)変異型lacプロモーターがlacUV5プロモーターである、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のプラスミド。
(5)染色体上にラクトースオペロンを有する宿主細胞を、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のプラスミドで形質転換することによって得られる形質転換体であって、該宿主細胞のラクトースオペロンがlacY遺伝子を欠失していることを特徴とする、形質転換体。
(6)宿主細胞が大腸菌である、上記(5)記載の形質転換体。
(7)少なくとも以下の工程を含む、細菌の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質をスクリーニングする方法:
(i)指示菌と被検物質とを接触させる工程、および
(ii)工程(i)を経て得られた指示菌について、無核細胞の有無を判定する工程。
(8)無核細胞の有無を判定する工程が、レポーター遺伝子の発現の有無を観察することによって実施されるものである、上記(7)記載の方法。
(9)少なくとも以下の工程を含む、細菌の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質をスクリーニングする方法:
(i)上記(5)または(6)記載の形質転換体と被検物質とを接触させる工程、および
(ii)レポーター遺伝子の発現を観察し、レポーター遺伝子の発現の有無によって無核細胞を生じているか否かを判定する工程。
(10)形質転換体と被検物質との接触が、グルコース存在下で行われることを特徴とする、上記(9)記載の方法。
【0027】
(11)細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で染色体の分離機能に関わる蛋白質である、上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(12)細胞内で染色体の分離機能に関わる蛋白質が、DNAトポイソメラーゼIVおよびDNAジャイレースからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(11)記載の方法。
(13)細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で染色体の分配機能に関わる蛋白質である、上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(14)細胞内で染色体の分配機能に関わる蛋白質が、MukB、MukEおよびMukFからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(13)記載の方法。
(15)細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で細胞壁合成に関わる蛋白質である、上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(16)細胞内で細胞壁合成に関わる蛋白質が、PBP1、PBP2、PBP3およびMurAからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(15)記載の方法。
(17)細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で形態形成に関わる蛋白質である、上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(18)細胞内で形態形成に関わる蛋白質がMreBである、上記(17)記載の方法。
(19)細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で隔壁合成に関わる蛋白質である、上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(20)細胞内で隔壁合成に関わる蛋白質がFtsZおよびFtsAからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(19)記載の方法。
【0028】
本発明は、細菌の細胞分裂に関わる因子、例えば染色体分離蛋白質であるDNAトポイソメラーゼIV,DNAジャイレース、染色体分配蛋白質であるMukB,MukE,MukF、細胞壁合成酵素であるPBP1,PBP2,PBP3,MurA等、形態形成蛋白質であるMreB、および隔壁合成蛋白質であるFtsZ,FtsA等に対する阻害作用を検出するための有用なプラスミド、該プラスミドで形質転換された宿主細胞(形質転換体)、および該形質転換体を用いて上記の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質をスクリーニングする方法に関するものである。
【0029】
本方法は、細菌の細胞分裂を阻害することにより、無核細胞が出現し、その有無をレポーター遺伝子の発現の有無によって検出し得る、という上記知見に基づいて達成されたものである。具体的には、後述の本発明のプラスミドを用いて、好ましくはレポーター遺伝子および変異型lacプロモーターを組み込んでなるプラスミドで形質転換された宿主細胞(形質転換体)を指示菌として用いる。
【0030】
例えば、(1)指示菌と被検物質とを接触させる工程、と(2)工程(1)を経て得られた指示菌について、無核細胞の有無を判定する工程とを少なくとも含む、細菌の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質をスクリーニングする方法が例示される。
【0031】
ここで指示菌とは、本発明のスクリーニング方法を実施するのに用いる細菌であって、使用するレポーター遺伝子に応じて適宜設定される。好ましくは後述する本発明のプラスミドで形質転換された宿主細胞である。当該指示菌としては、例えば、lacY遺伝子が欠損した大腸菌K−12由来のCSH7にlacUV5プロモーターの制御下にlacZ遺伝子を有する低コピープラスミドpMA1を導入してなる大腸菌、E.coli CSH7 lacY /pMA1が挙げられる。
【0032】
被検物質としては、新規、既知を問わず、細菌の細胞分裂に関わる因子に対して阻害作用を有するか否かを調べることが目的とされる物質であれば任意の物質が用いられる。化合物であっても、また組成物であってもよい。化学的に合成されるものであっても、天然から単離されるものであっても構わない。
【0033】
無核細胞の有無を判定する工程は、好ましくは、レポーター遺伝子の発現の有無によって検出する。詳細は実施例等に後述するが、無核細胞となった場合にレポーター遺伝子が発現し視覚化されるような系を構築することによって行われる。
【0034】
指示菌と被検物質との接触の条件は(温度や時間、具体的な手順)は、用いる指示菌や被検物質によって適宜設定される。簡便には培地中の指示菌上に、被検物質を含浸させたろ紙等を載せることによって行なわれる。通常、25〜45℃、好ましくは30〜37℃で一晩〜48時間、好ましくは16〜24時間接触させる。
接触後、指示菌上での阻止円の形成ならびにレポーター遺伝子の発現を観察する。
【0035】
スクリーニングの際に用いられる培地も、当分野で通常用いられているものが好適に使用でき、特に限定されないが、ポリペプトンを含有する培地が好ましく、例えばポリペプトン−Sを用いた場合、より明白な青呈色が認められる。
また、特にlacUV5プロモーター等のグルコース存在下でも活性を阻害されない変異型lacプロモーターを用いた場合には、指示菌と被検物質の接触はグルコースの存在下で行なわれることが好ましい。具体的にはグルコースを含む培地中で、該指示菌と被検物質との接触が実施される。lacUV5プロモーター等のグルコース存在下でも活性を阻害されない変異型lacプロモーターは、グルコース効果を受けないので、グルコースによるlacZ遺伝子発現の制御が期待できるためである。培地へのグルコースの添加量は、グルコースによるlacZ遺伝子発現の制御が期待される量であれば特に限定されないが、通常0.1%〜1%程度である。
【0036】
本発明において用いられるレポーター遺伝子としては、当分野で通常用いられているものが挙げられ、使用する指示菌に応じて適宜設定される。好ましくは変異型lacプロモーターによってその発現が制御されるものであって、例えば、β−ガラクトシダーゼをコードするlacZ遺伝子が好適に用いられる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子の場合は指示菌上で青呈色を示す。所望の効果が得られる限り、当該レポーター遺伝子は1乃至数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加等が施された変異型であってもよい。種々のレポーター遺伝子が商業的に入手可能であり、又、文献にて報告されている。
【0037】
本発明で用いられる変異型lacプロモーター遺伝子は、グルコースの存在下においても活性を有する、即ちカタボライト抑制を受けないような変異を有するものであって、たとえば野生型lacプロモーターの−10配列を2塩基置換(TATGTT→TATAAT)した改良型プロモーターである(lacUV5)。lacUV5は、野生型lacプロモーターと同一の強いプロモーター活性を有している。lacUV5は転写活性化にCAP−cAMPを必要とせず、グルコースの存在下においても活性を有するのが特徴である。lacUV5プロモーターはlacUV5変異を持つプラスミド、例えばプラスミドpMW219から制限酵素による消化等の常套手段を用いて単離することができる。又、該プロモーターを有する菌からの単離、精製も可能である。
【0038】
本発明のプラスミドおよび本発明のスクリーニング方法で用いられるプラスミドは低コピーであることが好ましく、少なくとも1つの制限酵素認識部位があれば任意のプラスミドが用いられる。ここで「低コピープラスミド」とは、複製が厳格に制御されているプラスミドであって、細菌あたり数コピーのプラスミドが複製される。該プラスミドの塩基配列中に、その箇所でのみ切断するユニークな制限部位を含む場合はより好ましい。更に、形質転換された細胞の選択のための薬剤耐性遺伝子〔テトラサイクリン耐性遺伝子(tet),アンピシリン耐性遺伝子(amp),カナマイシン耐性遺伝子(kan)等〕を含有していることが好ましい。
【0039】
本発明で用いられる宿主細胞としては、前記のプラスミドに適合し、形質転換され得るものであって、染色体上にラクトースオペロンを有する(ここでラクトースオペロンはlacY遺伝子を欠損していることが好ましい)ものであれば特に限定されず、生来的にラクトースオペロン(好ましくは当該ラクトースオペロンはlacY遺伝子を欠損している)を有している宿主細胞に加え、遺伝子工学的手法によりラクトースオペロン(好ましくは当該ラクトースオペロンはlacY遺伝子を欠損している)を担持するように操作された宿主細胞もまた、本発明において好適に用いることができる。具体的には本発明の技術分野において通常使用される細菌、例えば大腸菌,サルモネラ菌等が挙げられる。好ましくは大腸菌である。
lacY遺伝子が欠損している宿主細胞を用いることによって、宿主細胞内へのラクトースの輸送が阻害され、ラクトース存在下によるlacZ遺伝子の誘導が起こらなくなる。このことによって、バックグラウンドとして現れていた青呈色を回避することが可能となる。
【0040】
プラスミドの宿主細菌への導入は従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、本発明のように細菌の場合は、Cohenらの方法(Proc. Natl. Acad.Sci. USA., 1972, 69, 2110),プロトプラスト法(Mol. Gen. Genet., 1979, 168, 111),コンピテント法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209)等によって形質転換することができる。
【0041】
本発明において使用される培地は宿主細胞の増殖に必要な炭素源,無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えば、グルコース,デキストリン,可溶性デンプン,ショ糖等が挙げられ、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類,硝酸塩類,アミノ酸,コーンスチープ・リカー,ペプトン,カゼイン,肉エキス,大豆粕,バレイショ抽出液等が挙げられる。また、必要に応じ他の栄養素〔例えば、無機塩(塩化カルシウム,リン酸二水素ナトリウム,塩化マグネシウム等),ビタミン類,抗生物質(テトラサイクリン,アンピシリン,カナマイシン等)等〕を含んでいてもよい。
【0042】
宿主細胞、あるいは形質転換体の培養は当該技術分野において知られている方法により行われる。下記に宿主が細菌である場合に用いられる具体的な培地および培養条件を例示するが、本発明における培養条件はこれらに何ら限定されない。例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜8である培地であるが、宿主が大腸菌の場合、好ましい培地としてLB培地,M9培地(Miller, J.M., 1972, Experiments in molecular genetics. Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York),L培地(Hiraga et al., J. Bacteriol., 1989, 171, 1496−1505)等が挙げられる。培養は、必要により通気・攪拌をしながら、通常、25〜45℃、好ましくは30〜37℃で一晩〜48時間、好ましくは16〜24時間行うことができる。
【0043】
本発明において、「細菌の細胞分裂に関わる因子」としては、細胞内で染色体の分離機能に関わる蛋白質(具体的には、DNAトポイソメラーゼIV、DNAジャイレース等)、細胞内で染色体の分配機能に関わる蛋白質(具体的にはMukB、MukE、MukF等)、細胞内で細胞壁合成に関わる蛋白質(PBP1,PBP2、PBP3、MurA等)、細胞内での形態形成に関わる蛋白質(MreB等)、細胞内で隔壁合成に関わる蛋白質(FtsZ、FtsA等)が挙げられる。
【0044】
本発明のスクリーニング方法において、レポーター遺伝子の発現の有無を確認する方法は、使用するレポーター遺伝子に応じて適宜設定されるが、例えばレポーター遺伝子としてlacZ遺伝子を用いる場合、培地中に添加したX−Galが発現したlacZ遺伝子産物、つまりβ−ガラクトシダーゼの基質となり、加水分解されることにより青呈色を示すことから検出できる。具体的には以下の手順が用いられる。
【0045】
【実施例】
以下、本発明の一例として実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術分野における通常の変更ができることは言うまでもない。
【0046】
本発明のプラスミド作製のために、ニッポンジーン(株)から購入したプラスミドpMW219(Bernardi,A. and Bernardi, F. Nucleic Acids Res., 1984, 12, 9415−9426)を使用した。宿主細胞としては、大腸菌株CSH7(Miller, J. H., 1972, Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory)を使用した。
【0047】
なお、下記実施例において、各操作は特に明示がない限り、Molecular Cloning, A Laboratory Manual Second Edition(Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989)に記載の方法により行った。例えば制限酵素を用いたDNA消化,アガロース電気泳動法,アガロースゲルからのDNA断片の抽出法,プラスミド抽出のためのアルカリ−SDS法等である。また、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って使用した。例えばPCRを用いたDNA増幅法やDNA断片の結合は、TaKaRa PCR Amplification Kit(TaKaRa社製)やDNA Ligation Kit Ver.1 or 2(TaKaRa社製)を用いた。その他、遺伝子導入はDowerら(Nucleic Acids Res., 1988, 16,6127−6145)の方法に従い、Gene Pulser II System(日本バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)を用いて実施した。
【0048】
実施例1:β−ガラクトシダーゼをコードするlacZ遺伝子およびプロモーター変異遺伝子(lacUV5)が組み込まれた低コピープラスミド(pMA1)の作製とスクリーニングに用いる宿主細胞の作製
図1に示す様に、約3.0KbのlacZ遺伝子を得るために、大腸菌株KL−16より単離した染色体DNAを鋳型とし、HindIII認識部位を含む5’末端側のプライマー(プライマー1)として5’−ccaagcttgaattcactggccgtcgtttta−3’(配列番号1)とBamHI認識部位を含む3’末端側のプライマー(プライマー2)として5’−gaagtaggatcccatggataaaaaag−3’(配列番号2)を用いたポリメラーゼ連鎖反応法(Polymerase chain reaction:PCR)により目的のDNAを増幅した。このDNAを制限酵素HindIIIとBamHIで消化して、約3.0KbのlacZ断片を単離した。このDNA配列は、日本データバンク(DNA Data Bank of Japan : DDBJ,http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.html)のアクセッション番号(accession No.)J01636の塩基番号1300〜4482に相当する。
【0049】
一方、約3.9KbのlacUV5変異を持つプロモーター変異遺伝子を有する低コピープラスミドを得るために、プラスミドpMW219DNAを鋳型とし、HindIII認識部位を含む5’末端側のプライマー(プライマー3)として5’−caggcatgcaagcttggcgtaatca−3’(配列番号3)とBamHI認識部位を含む3’末端側のプライマー(プライマー4)として5’−ggcgtcactggatcccgtgttgtcg−3’(配列番号4)を用いたPCRにより目的のDNAを増幅した。このDNAを制限酵素HindIIIとBamHIで消化して、約3.9KbのlacUV5変異を持つプロモーター変異遺伝子を有する低コピープラスミド断片を単離した。
このDNA配列は、日本データバンクのアクセッション番号(accession No.)AB005478の塩基番号1〜2081および2333〜3901に相当する。
以上のように、PCR法により調製した約3.0KbのlacZ遺伝子を、約3.9Kbのプロモーター変異遺伝子を有するベクターと結合させて、プラスミドpMA1を作製した。最終目的のプラスミドであることは、当該遺伝子領域の塩基配列を決定することにより確認した。
【0050】
次に、染色体上のラクトースパーミアーゼをコードするlacY遺伝子が欠損した大腸菌K−12の誘導体CSH7を用いて、通常の方法によりプラスミドpMA1で形質転換させ、宿主細胞(E.coli CSH7/pMA1)を作製した。
【0051】
実施例2:大腸菌株CSH7/pMA1の細胞分裂に関わる因子の阻害を検出する方法および該検出方法を用いて該蛋白質を阻害する物質をスクリーニングする方法
実施例1で作製した大腸菌株CSH7/pMA1を20μg/mlのカナマイシンおよび0.2%グルコースを含むL培地を用いて、37℃、16〜24時間、振とう培養した。次に50〜60℃に保温したP寒天培地(1.0% ポリペプトン−S[日本製薬],0.5% NaCl[ナカライテスク],1.4% bacto agar [ベクトンディツキンソン],pH7.4)に、0.2%グルコースおよび0.1% X−gal(5−bromo−4−chloro−3−indolyl−β−D−galactoside)を添加した後、更に上記の前培養液が0.01%になるように加えた。この調製菌液をプレートに分注し、培地が固まってから、更に安全キャビネットの中で30分程度、乾燥させた。次に、被検物質を10〜100μg/disc含む直径6mmのろ紙を上記培地上に1プレートあたり100枚程度、適宜間隔を置いて配置する。37℃で16〜24時間、静置培養した後、プレートを観察する。被検物質が、染色体の分離・分配および細胞伸長・形態形成に関与する蛋白質の阻害物質である場合は、図2のAのように、指示菌が増殖しない領域(阻止円)の周辺に無核細胞の出現により生じる青呈色のリングを観察できる。また、染色体の分離・分配および細胞伸長に関与する蛋白質の阻害作用がなく、他のメカニズムにより殺菌作用を示す場合は、図2のBのように、阻止円の周辺に青呈色を示さない。更に、全く何の作用もない場合は図2のCのようになる。したがって、図2のAのように阻止円を示しかつ青呈色を示す物質が、無核細胞を生じさせる物質、即ち、細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質である。また、被検物質の阻害作用の強さに応じ、阻止円の大きさならびに青呈色の濃さの程度が異なる。阻止円の直径(mm)を測定すると共に、青呈色の程度は++、+および−の三段階のスコアに判定した。「+」は、ポジティブコントロールであるスパルフロキサシン(10μg/disc)と同様の青呈色を観察できた場合を、「++」はポジティブコントロールより強い場合を、「−」は明白に観察できない場合を表すことにした。
【0052】
参考例1:染色体の分離機能の関わる蛋白質、例えばDNAジャイレースGyrBに対する阻害物質の二次スクリーニング
実施例2のスクリーニング方法により得られたヒット化合物(A119)について、以下に示す公知の方法を用いて、DNAジャイレースのGyrBを阻害する物質を見つけることが出来る。▲1▼核形態の観察、▲2▼キノロン耐性菌に対する抗菌力の測定、▲3▼DNAジャイレースのスーパーコイリング活性測定、▲4▼DNAジャイレースのATP加水分解活性測定等である。もし被検物質がDNAジャイレースのGyrB阻害物質ならば、核様体が細胞中央部に認められ、キノロン耐性菌と交叉耐性を示さず、DNAジャイレース酵素の阻害作用を示すという特徴が認められる。表1に一例を挙げる。
【0053】
【表1】
【0054】
参考例2:細胞伸長・形態形成に関わる蛋白質に対するβラクタム薬以外の阻害物質の二次スクリーニング
実施例2のスクリーニング方法により得られたヒット化合物(A22)について、以下に示す公知の方法を用いて、細胞伸長・形態形成に関わる蛋白質を阻害する物質を見つけることが出来る。▲1▼形態観察、▲2▼β−ラクタム感受性株(ponB/mrcB欠損株)に対する抗菌力の測定、▲3▼β−ラクタマーゼ生産菌に対する抗菌力の測定、▲4▼ペニシリン結合蛋白質に対する競合阻害実験等である。もし被検物質が細胞伸長・形態形成に関わる蛋白質に対するβラクタム薬以外の阻害物質ならば、球状化、バルジ化あるいはフィラメント化した異常形態が認められ、β−ラクタム感受性株に対し感受性を示し、β−ラクタマーゼ生産菌に対し非生産菌と同一の抗菌力を示す。更にペニシリン結合蛋白質に対する競合阻害が起こらない。表2に一例を挙げる
【0055】
【表2】
【0056】
参考例3:市販抗菌薬のスクリーニング
実施例2のスクリーニング方法を用いて、各種市販抗菌剤つまりDNA合成阻害剤であるナリジクス酸,スパルフロキサシン,ノボビオシン、蛋白合成阻害剤であるクロラムフェニコール,テトラサイクリン,ゲンタマイシン、および細胞壁合成阻害剤であるアンピシリン,メシリナム,フォスホマイシンについて検討した。表3に結果を示す。
【0057】
【表3】
【0058】
【発明の効果】
本発明のスクリーニング方法によれば、細菌の細胞分裂つまり染色体分離・分配ならびに細胞伸長、形態形成および隔壁合成に関わる因子の阻害物質を簡便かつ効率的にスクリーニングすることが可能であり、従来の抗菌剤にない新しい作用メカニズムによる抗菌剤を見出すことができ、また、従来の抗菌剤の耐性菌にも有効な抗菌剤の開発が可能となる。
【0059】
【配列表フリーテキスト】
配列番号1:lacZ遺伝子増幅の為の5’末端プライマーとして作用すべく設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号2:lacZ遺伝子増幅の為の3’末端プライマーとして作用すべく設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号3:lacUV5プロモーターを有する低コピープラスミドの断片の増幅の為の5’末端プライマーとして作用すべく設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号4:lacUV5プロモーターを有する低コピープラスミドの断片の増幅の為の3’末端プライマーとして作用すべく設計されたオリゴヌクレオチド
【0060】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】β−ガラクトシダーゼをコードするlacZ遺伝子およびプロモーター変異遺伝子(lacUV5)が組み込まれた低コピープラスミド(pMA1)の作製方法とスクリーニングに用いる宿主細胞の作製方法を示す。
【図2】当該スクリーニング方法による染色体の分離・分配および細胞伸長・形態形成に対する阻害様式を示した図である。
Claims (20)
- レポーター遺伝子および変異型lacプロモーターを組み込んでなるプラスミドであって、該変異型lacプロモーターがグルコースの存在下においても活性を有するものであることを特徴とする、プラスミド。
- レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である、請求項1記載のプラスミド。
- 低コピープラスミドである、請求項1または2記載のプラスミド。
- 変異型lacプロモーターがlacUV5プロモーターである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラスミド。
- 染色体上にラクトースオペロンを有する宿主細胞を、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラスミドで形質転換することによって得られる形質転換体であって、該宿主細胞のラクトースオペロンがlacY遺伝子を欠失していることを特徴とする、形質転換体。
- 宿主細胞が大腸菌である、請求項5記載の形質転換体。
- 少なくとも以下の工程を含む、細菌の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質をスクリーニングする方法:
(1)指示菌と被検物質とを接触させる工程、および
(2)工程(1)を経て得られた指示菌について、無核細胞の有無を判定する工程。 - 無核細胞の有無を判定する工程が、レポーター遺伝子の発現の有無を観察することによって実施されるものである、請求項7記載の方法。
- 少なくとも以下の工程を含む、細菌の細胞分裂に関わる因子に対する阻害物質をスクリーニングする方法:
(1)請求項5または6記載の形質転換体と被検物質とを接触させる工程、および
(2)レポーター遺伝子の発現を観察し、レポーター遺伝子の発現の有無によって無核細胞を生じているか否かを判定する工程。 - 形質転換体と被検物質との接触が、グルコース存在下で行われることを特徴とする、請求項9記載の方法。
- 細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で染色体の分離機能に関わる蛋白質である、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
- 細胞内で染色体の分離機能に関わる蛋白質が、DNAトポイソメラーゼIVおよびDNAジャイレースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項11記載の方法。
- 細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で染色体の分配機能に関わる蛋白質である、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
- 細胞内で染色体の分配機能に関わる蛋白質が、MukB、MukEおよびMukFからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項13記載の方法。
- 細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で細胞壁合成に関わる蛋白質である、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
- 細胞内で細胞壁合成に関わる蛋白質が、PBP1、PBP2、PBP3およびMurAからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項15記載の方法。
- 細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で形態形成に関わる蛋白質である、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
- 細胞内で形態形成に関わる蛋白質がMreBである、請求項17記載の方法。
- 細菌の細胞分裂に関わる因子が、細胞内で隔壁合成に関わる蛋白質である、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
- 細胞内で隔壁合成に関わる蛋白質がFtsZおよびFtsAからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項19記載の方法。
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JP2014126364A (ja) * | 2012-12-25 | 2014-07-07 | Shionogi & Co Ltd | 抗菌剤のスクリーニング方法 |
JP2016515518A (ja) * | 2013-03-15 | 2016-05-30 | テチュロン インコーポレイテッド | 黄色ブドウ球菌感染の治療のためのアンチセンス分子 |
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2003
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