JP2004226184A - 合成エバネッセント波暗視野励起による局所偏光顕微鏡分析・分光方法および装置とこれを応用した物質操作方法および装置 - Google Patents
合成エバネッセント波暗視野励起による局所偏光顕微鏡分析・分光方法および装置とこれを応用した物質操作方法および装置 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】微小物質の光学異性、回転依存性、円偏光励起蛍光、磁気光学特性、スピン依存性などを顕微分光できる合成エバネッセント波暗視野励起による局所偏光顕微鏡分析・分光方法および装置とこれを応用した物質操作方法および装置を提供する。
【解決手段】誘電体表面に発生するTEエバネッセント波を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせる手段と、これを同一周波数かつ一定位相差に保つとき生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質12の照明あるいは励起に用いる手段と、2次元方向に走査する微小開口14を有するプローブ13と、前記微小開口14を通じて前記微小物質12を選択し、一体化した安定な偏光分析系15,16,17,18,19,20と、この偏光分析系15,16,17,18,19,20を用いて前記微小物質12の偏光を分解し、測定する冷却CCD21とを具備する。
【選択図】 図1
【解決手段】誘電体表面に発生するTEエバネッセント波を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせる手段と、これを同一周波数かつ一定位相差に保つとき生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質12の照明あるいは励起に用いる手段と、2次元方向に走査する微小開口14を有するプローブ13と、前記微小開口14を通じて前記微小物質12を選択し、一体化した安定な偏光分析系15,16,17,18,19,20と、この偏光分析系15,16,17,18,19,20を用いて前記微小物質12の偏光を分解し、測定する冷却CCD21とを具備する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、合成エバネッセント波暗視野励起による局所偏光顕微鏡分析・分光方法および装置とこれを応用した物質操作方法および装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
プリズムなどの誘電体表面に、内側から臨界角を超える角度で平行光線を入射すると、全反射が起こる。このとき反射面の誘電体の外側にも、わずかに光が染み出した後、再び誘電体内に戻って全反射となる。この染み出した光はエバネッセント波と呼ばれ、誘電体表面に沿って伝わり、表面から遠ざかるにつれて指数関数的に減衰する光波となっている。染み出す深さは通常、照射光の1波長のオーダーである。顕微鏡観察において、ガラスプリズムの上に置かれた微小サンプル(微小物質)を、エバネッセント波を用いて照明すると、照明光は全反射するため、微小サンプルが散乱した光以外には、背景光が存在しないので、極めて微弱な散乱光でも検出でき、超高感度な顕微鏡観測ができる。このような照明方法は一般に、暗視野照明またはエバネッセント照明と呼ばれる。特に、照射エバネッセント光によって微小サンプルの内部エネルギー状態が励起され、その後蛍光を発する場合には、一つ一つの分子の化学反応過程まで顕微鏡観測できるほどの感度を持つ暗視野照明の蛍光顕微鏡となり、既にさまざまな分野で活躍している。
【0003】
このような分子、微小物体、あるいは微小生体サンプルの観測において、光学異方性が観測されるものも数多い。その原因は、サンプルを構成する分子や分子結晶が光を吸収放出、あるいは屈折させるときの異方性があるためである。例を挙げれば、磁気光学効果を持つKDP結晶、DNAなど螺旋構造を持つ分子や、その他光学異方性を持つさまざまな生体分子がある。このような光学異方性は、量子力学の言葉で言うと、分子内部の電子の角運動量選択性が現れたものであり、照明する光の偏光状態を変化させ、吸収率や散乱強度を調べることによって明らかにすることができる。光の偏光は通常、光の進む向きに対して垂直な平面内の光電場で決まる性質を持っており、進行方向に垂直な電場を持つ二種類の直線偏光か、進行方向に対して右回りあるいは左回りの電場を持つ二種類の円偏光のどちらかで表される。特に光学異方性の観測においては、右回り(時計回り)と左回り(反時計回り)の偏光に対する、光学的性質の差を観測することが有効である。しかし、右回り及び左回りの偏光は、光の進行方向に対してのみ作り得るので、これまでの光学異方性の観測ではサンプルを透過するような照明が行われ、おもに多数の分子などを含む平均的な性質として、光学異方性は観測されてきた。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−142417号公報 第2−3頁 図1
【非特許文献1】
大平泰生、堀裕和、「光近接場の局所的円偏極の観測」、第49回応用物理学関係連合講演会28a−R−8.
【非特許文献2】
大平泰生、河井誠、赤堀勝哉、井上哲也、堀裕和、「誘電体球プローブによる光近接場円偏極の観測」、2001.6.28 日本光学会近接場光学研究グループ第10回研究討論会予稿集 pp.109〜114
【非特許文献3】
T.Inoue and H.Hori,“Quantization ofevanescent electromagnetic waves based on detector mode”,Phys.Rev.A vol.63,no.6(2001.5)pp.063805−1−16.
【非特許文献4】
Y.Ohdaira,et al.,J.Microscopy,Vol.202,part 1,pp.255−260,April 2001.
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、顕微鏡におけるエバネッセント光を用いた暗視野照明の方法は、基板表面近傍のサンプルのみを励起し、そこから発する極めて微弱な蛍光などを観測する手段としてめざましい成果を上げ、広い分野にわたる応用が展開されているが、これまで暗視野照明で円偏光を発生させる方法がないため、サンプルの偏光依存特性を利用した顕微鏡観測はできなかった。
【0006】
しかし、最近、本発明者らは、プリズムなどの誘電体表面に全反射条件あるいは導波モードでレーザー光を入射したときに、誘電体表面に発生するエバネッセント波を二つ用い、表面に沿ったエバネッセント波の進行方向が互いに垂直になるように重ね合わせ、これを同じ周波数かつ相対関係の定まった位相に保つとき、進行方向とは垂直な誘電体表面の法線方向に対して右回りあるいは左回りに、電場が回転する、局所的な円偏光を生み出すことができることを理論的に予測し、その存在を実証することに成功した。この局所的円偏光は、エバネッセント波の波長に応じた周期で交互に右回り円偏光と左回り円偏光を繰り返す、格子状の局所偏光パターンをなすことが実験的に証明された。
【0007】
これは、微小誘電体球および光ファイバープローブによる散乱光の偏光特性解析と理論との比較により、初めて実験的に実証したものである(上記非特許文献1及び非特許文献2)。このようなエバネッセント光の重ね合わせで作られる局所的円偏極パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用いれば、散乱光の方向である基板表面の垂直方向に対する光学異方性を観測することができ、しかも照明光であるエバネッセント光は表面に沿って伝わるので、暗視野照明でありながら円偏光励起が可能な、一つ一つの分子や微小物体を識別し得る高いコントラストを持つ偏光顕微鏡を実現できる。
【0008】
このような局所円偏光パターンの存在を理論的に予測した段階で、量子力学的角運動量選択性によれば、これを用いて角運動量選択性を持つGaAs微結晶をスピン偏極できることを理論的に明らかにし、スピン偏極走査型トンネル顕微鏡のプローブを構成できることを、発明した。また、局所的な偏光の左右の向きは、二つのエバネッセント光を作っている照射レーザー光の相対的な位相差を変化させることによって、極めて高速に変調できることから、これを用いてスピン偏極を高速に変調し、スピン依存走査型トンネル顕微鏡像の感度を向上させる方法も同時に発明できた。
【0009】
本発明は、エバネッセント波の重ね合わせが作る局所円偏光パターンが、それ単独に、言い換えれば光学現象として、誘電体表面に発生していることを実験的に実証できたため、これを汎用性のある円偏光暗視野照明に利用した局所偏光顕微鏡分析・分光方法および装置を提供する。
【0010】
また、上記の照明(励起)により、微小物体が局所的円偏光を吸収したときには、微小物体は光から角運動量すなわち回転モーメントを受け取ったことになる。このことは、本発明者らが、物質系の電磁相互作用における擬角運動量保存則という観点から、理論的に明らかにしていることである。これを電磁相互作用の言葉で表現すれば、光と誘電体の結合モードであるエバネッセント波の重ね合わせが、擬角運動量を生み出すということになる。
【0011】
その素過程を詳細にたどれば、回転モーメントは、まず光の場から微小物質の電子の軌道角運動量へと移されるが、電子状態が一般に分子の回転運動と内部結合を持つため、励起波を分子の内部結合に対応する回転スペクトルに共鳴するようにとれば、分子そのものの回転運動を引き起こすことができる。
【0012】
したがって、光と誘電体の結合モードであるエバネッセント波の重ね合わせが生み出す擬角運動量を利用し、誘電体基盤表面に置かれた、目標とする微小物質の回転運動の励起と制御が可能になり、これをマイクロマシーンの動力として用いることができることになる。
【0013】
本発明は、上記状況に鑑みて、微小物質の光学異方性、回転依存性、円偏光励起蛍光、磁気光学特性、スピン依存性などを顕微分光できる合成エバネッセント波暗視野励起による局所偏光顕微鏡分析・分光方法および装置とこれを応用した物質操作方法および装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕局所偏光顕微鏡分析・分光方法であって、誘電体表面に発生する横電場モード(TE)エバネッセント波を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせ、これを同一周波数かつ一定位相差に保つとき生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用い、極微弱光を観測可能な暗視野照明でありながら円偏光励起が可能であり、かつ偏光変調も併用できる、高コントラストを有する。
【0015】
〔2〕物質操作方法であって、上記〔1〕記載の局所偏光顕微鏡分析・分光方法における、前記微小物質の照明あるいは励起により、光と誘電体の結合モードが持つ擬角運動量を利用し、局所的な回転運動の励起や制御などを行う、マイクロマシーンの動力として用いることを特徴とする。
【0016】
〔3〕局所偏光顕微鏡分析・分光装置であって、誘電体表面に発生する横電場モード(TE)エバネッセント波を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせる手段と、これを同一周波数かつ一定位相差に保つとき生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用いる手段と、極微弱光を観測可能な暗視野照明でありながら円偏光励起が可能であり、かつ偏光変調も併用できる、高コントラストな局所顕微鏡手段とを具備する。
【0017】
〔4〕局所偏光顕微鏡分析・分光装置であって、誘電体表面に発生する横電場モード(TE)エバネッセント波を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせる手段と、これを同一周波数かつ一定位相差に保つとき生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用いる手段と、2次元方向に走査する微小開口を有するプローブと、前記微小開口を通じて前記微小物質を選択する、一体化した安定な偏光分析系と、この偏光分析系を用いて前記微小物質の偏光を分解し、測定する超高感度受光器とを具備することを特徴とする。
【0018】
〔5〕上記〔3〕又は〔4〕記載の局所偏光顕微鏡分析・分光装置において、前記微小物質の照明あるいは励起により、光と誘電体の結合モードが持つ擬角運動量を利用し、局所的な回転運動の励起や制御などを行う、マイクロマシーンの動力として用いることを特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明は、
(a)合成エバネッセント波中に、光波長の1/4より小さい微小物質を置いて照明(励起)し、そこからの散乱光を集光およびコリメートし、1/4波長板および偏光ビームスプリッターにより偏光分析することによって、微小物質の円偏光に対する応答を顕微鏡分析・分光することができる。微小物質がない場合には散乱光が生じないため、極めてコントラストを高くとれる暗視野照明(励起)の顕微鏡分析・分光法であり、しかもこれまでできなかった偏光を選択できる新しい照明(励起)方法である。
9また、本発明による100ナノメーター以下の微小単一物体からのフェムトワットレベルの微小信号検出においても、円偏光分析性を維持できることを明らかにしたものである。さらに、局所偏光の切り替えは、二つのエバネッセント波間の位相差を、光路差の調整あるいは位相変調器により調整することで、極めて高速に変調できる特徴を持つ。
【0020】
(b)本発明の局所偏光顕微鏡分析装置は、希薄に散在させた微小物質からの局所的な偏光を分析する場合、2次元方向に走査する微小開口を通じて微小物質を選択し、一体化した安定な偏光分析系を用いて偏光を分解し、これを冷却CCDカメラなどの超高感度受光器で測定する。二つの偏光成分に対する測定結果I+ 、I− から偏極度P={I+ −I− }/{I+ +I− }を求めることにより、対象物質の偏光依存散乱特性が分析できる。背景散乱光が多い実験環境の場合は、照明光の偏光変調と位相敏感検出により、直接高感度で偏極度を求めることができる。
【0021】
(c)本発明の局所偏光顕微鏡分光装置は、物質が共鳴準位をもつ場合には、共鳴周波数近傍に同調されたレーザー光を用いれば、顕微分光装置となり、微小物質の偏光依存共鳴散乱特性が分析できる。さらにこのとき物質が、電子状態とのスピン軌道相互作用を有する場合には、局所円偏光による電子スピンの選択励起と、これを通じての電子スピン偏極が可能である(導波路モードを用いたスピン偏極走査型トンネル顕微鏡プローブについては、特許文献1参照)。
【0022】
また、超微細構造を持つ物質では、電子の全核運動量と原子核スピンの相互作用を通じて、同様な方法で原子核スピンの偏極が可能である。
【0023】
(d)この照明(励起)方法によって得られる局所円偏光状態は、光と誘電体の結合モードが擬角運動量を持つことを意味し、局所的な回転運動の励起や制御など、マイクロマシーンの動力としての応用も可能である。光と相互作用する微小物質の電子状態の角運動量が、物質を構成する分子の回転運動と結合を持つ場合には、局所円偏光により微小物体の回転運動を励起・制御できる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
図1は本発明にかかる合成エバネッセント波暗視野励起による局所偏光顕微鏡分析・分光システムの原理模式図である。
【0026】
この図において、1は誘電体、EV1は第1の横電場モード(TE)エバネッセント波、EV2は第2のTEエバネッセント波、反時計回りの円はσ+ 局所円偏光、時計回りの円はσ− 局所円偏光、両方向の矢印は局所直線偏光、2は合成波の伝搬方向(波長〜λ0 )である。
【0027】
図1に示すように、誘電体1の表面に発生するTEエバネッセント波EV1とEV2を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせ、これを同一周波数かつ一定位相差に保つとき生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用い、暗視野照明でありながら円偏光励起が可能であり、かつ偏光変調も併用できる、高コントラスト顕微鏡システムを構成することができる。
【0028】
光近接場と電子系との相互作用における角運動量移行の性質の解明は、ナノスピンデバイスの制御や光近接場磁気光学メモリーなどへの応用上極めて重要である。本発明者らは最も基本的な平坦誘電体表面近傍における、エバネッセント波の局所的円偏極を用いた原子スピン偏極実験を試みている〔上記非特許文献4参照〕。
【0029】
図2は本発明の実施例を示す局所偏光顕微鏡分析装置の構成図である。
【0030】
この図において、10は照射光としてのレーザー光(λ0 は任意)、11はプリズム、12はそのプリズム11上にセットされる微小物質、13はプローブ、14はそのプローブ13に形成される微小開口(ピンホール)、15は第1のレンズ(NA:0.65)であり、プローブ13と第1のレンズ15とは光学基板14Aで一体化されている。16はスリット板、17は第2のレンズ(f=25mm)、18は1/4波長板、19は偏光ビームスプリッターPBS1(σ+ 選択用)、20は偏光ビームスプリッターPBS2(σ− 選択用)、21は冷却CCDカメラ、22は微小物質12がセットされる空間23を形成するスペーサ(厚さ25μm)である。なお、因みに、プローブ13と第1のレンズ15との間隔は3mm、光学基板14Aとスリット板16との間隔は20mm、スリット板16と第2のレンズ17との間隔は25mmである。
【0031】
図2に示すように、2次元方向に走査するプローブ13の微小開口14を通じて微小物質12からの散乱光を選択し、一体化した安定な偏光分析系(第1のレンズ15、スリット板16、第2のレンズ17、1/4波長板18、偏光ビームスプリッター19、20からなる)を用いて偏光を分解し、これを冷却CCDカメラ21などの超高感度受光器で測定する。
【0032】
このとき、二つの偏光成分に対する冷却CCDカメラ21による測定結果I+ 、I− から偏極度P={I+ −I− }/{I+ +I− }を求めることにより、対象物質である微小物質12の偏光依存散乱特性が分析できる。背景散乱光が多い実験環境の場合は、照射光10の偏光変調と位相敏感検出により、直接高感度で偏極度を求めることができる。
【0033】
これらの局所偏光顕微鏡分析装置を使って同時に、微小物質の回転運動を操作および制御することが可能である。
【0034】
本発明は、
(A)図1に示した合成エバネッセント波中に、光波長の1/4より小さい微小物質12を置いて照明(励起)し、そこからの散乱光を集光およびコリメートし、1/4波長板18および偏光ビームスプリッター19,20により偏光分析することによって、微小物質12の円偏光に対する応答を顕微分析・分光することができる。微小物質12がない場合には散乱光が生じないため、極めてコントラストを高くとれる暗視野照明(励起)の顕微鏡分析・分光法であり、しかもこれまでできなかった偏光を選択できる新しい照明(励起)方法である。
【0035】
本発明による100ナノメーター以下の微小単一物体からのフェムトワットレベルの微小信号検出においても、円偏光分析性を維持できることを最近明らかにした。さらに、局所偏光の切り替えは、二つのエバネッセント波EV1、EV2間の位相差を、光路差の調整あるいは位相変調器により調整することで、極めて高速に変調できる特徴を持つ。
【0036】
(B)本発明の局所偏光顕微鏡分析装置は、希薄に散在させた微小物質12からの局所的な偏光を分析する場合、2次元方向に走査するプローブ13の微小開口14を通じて微小物質12を選択し、一体化した安定な偏光分析系を用いて偏光を分解し、これを冷却CCDカメラ21等の超高感度受光器で測定する。二つの偏光成分に対する測定結果I+ 、I− から偏極度P={I+ −I− }/{I+ +I− }を求めることにより、対象物質の偏光依存散乱特性が分析できる。背景散乱光が多い実験環境の場合は、照明光の偏光変調と位相敏感検出により、直接高感度で偏極度を求めることができる。
【0037】
(C)本発明の局所偏光顕微鏡分光装置は、微小物質12が共鳴準位をもつ場合には、共鳴周波数近傍に同調されたレーザー光10を用いれば、顕微分光装置となり、微小物質12の偏光依存共鳴散乱特性が分析できる。さらにこのとき微小物質12が、電子状態とのスピン軌道相互作用を有する場合には、局所円偏光による電子スピンの選択励起と、これを通じての電子スピン偏極が可能である(なお、導波路モードを用いたスピン偏極走査型トンネル顕微鏡プローブについては、特許文献1参照)。
【0038】
また、超微細構造を持つ物質では、電子の全核運動量と原子核スピンの相互作用を通じて、同様な方法で原子核スピンの偏極が可能である。
【0039】
(D)この照明(励起)方法によって得られる局所円偏光状態は、光と誘電体の結合モードが擬角運動量を持つことを意味し、局所的な回転運動の励起や制御など、マイクロマシーンの動力としての応用も可能である。光と相互作用する微小物質の電子状態の角運動量が、物質を構成する分子の回転運動と結合を持つ場合には、局所円偏光により微小物質の回転運動を励起・制御できる。
【0040】
上記したように、誘電体表面に発生するエバネッセント波を二つ用い、表面に沿ったTEエバネッセント波の進行方向が互いに垂直になるように重ね合わせ、これを同一の周波数かつ一定位相差に保持したとき、進行方向とは垂直な誘電体表面の法線方向に右回りあるいは左回りに電場が回転する。このようなエバネッセント光の重ね合わせで作られる局所的円偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用いれば、光学異方性を観測することができ、一つ一つの分子や微小物質を認識し得るコントラストのある偏光顕微鏡を実現できる。
【0041】
また、この重ね合わせエバネッセント光から発生する照明あるいは励起により、微小物質が局所的円偏光を吸収したときには、微小物質は光から角運動量すなわち回転モーメントを受け取ったことになる。
【0042】
以上のように二つのエバネッセント光を重ね合わせることにより、(1)円偏光光源を作り出し、(2)この円偏光を利用して微小物質の駆動源を作ることができる。
【0043】
本発明によれば、スピン走査トンネル顕微鏡などへの応用が期待される。そして、円偏光の駆動力は、マイクロマシンの動力にも利用できる。
【0044】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0045】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0046】
(A)極微弱光を観測可能な暗視野照明(励起)顕微鏡装置に局所的円偏光を用いることによって、微小物質の光学異性、回転依存性、円偏光励起蛍光、磁気光学特性、スピン依存性などを顕微分光できる。
【0047】
(B)2次元走査する微小開口と安定な偏光分析系を用いて偏光を分解し、冷却CCDカメラなど超高感度受光器で測定された二つの偏光成分に対する測定結果から、偏極度を求めることにより、対象物質の偏光依存散乱特性が分析できる。
【0048】
(C)物質の共鳴を用いれば、顕微分光装置となり、微小物質の偏光依存共鳴散乱特性が分析できる。
【0049】
(D)局所的な回転運動の励起や制御など、マイクロマシーンの動力としての応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる合成エバネッセント波暗視野励起による局所偏光顕微鏡分析・分光システムの原理模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す局所偏光顕微鏡分析装置の構成図である。
【符号の説明】
1 誘電体
EV1 第1のTEエバネッセント波
EV2 第2のTEエバネッセント波
反時計回りの円 σ+ 局所円偏光
時計回りの円 σ− 局所円偏光
両方向の矢印 局所直線偏光
2 合成波(波長〜λ0 )
10 照射光としてのレーザー光(λ0 は任意)
11 プリズム
12 微小物質
13 プローブ
14 微小開口(ピンホール)
14A 光学基板
15 第1のレンズ(NA:0.65)
16 スリット板
17 第2のレンズ(f=25mm)
18 1/4波長板
19 偏光ビームスプリッターPBS1(σ+ )
20 偏光ビームスプリッターPBS2(σ− )
21 冷却CCDカメラ
22 スペーサ
23 空間
【発明の属する技術分野】
本発明は、合成エバネッセント波暗視野励起による局所偏光顕微鏡分析・分光方法および装置とこれを応用した物質操作方法および装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
プリズムなどの誘電体表面に、内側から臨界角を超える角度で平行光線を入射すると、全反射が起こる。このとき反射面の誘電体の外側にも、わずかに光が染み出した後、再び誘電体内に戻って全反射となる。この染み出した光はエバネッセント波と呼ばれ、誘電体表面に沿って伝わり、表面から遠ざかるにつれて指数関数的に減衰する光波となっている。染み出す深さは通常、照射光の1波長のオーダーである。顕微鏡観察において、ガラスプリズムの上に置かれた微小サンプル(微小物質)を、エバネッセント波を用いて照明すると、照明光は全反射するため、微小サンプルが散乱した光以外には、背景光が存在しないので、極めて微弱な散乱光でも検出でき、超高感度な顕微鏡観測ができる。このような照明方法は一般に、暗視野照明またはエバネッセント照明と呼ばれる。特に、照射エバネッセント光によって微小サンプルの内部エネルギー状態が励起され、その後蛍光を発する場合には、一つ一つの分子の化学反応過程まで顕微鏡観測できるほどの感度を持つ暗視野照明の蛍光顕微鏡となり、既にさまざまな分野で活躍している。
【0003】
このような分子、微小物体、あるいは微小生体サンプルの観測において、光学異方性が観測されるものも数多い。その原因は、サンプルを構成する分子や分子結晶が光を吸収放出、あるいは屈折させるときの異方性があるためである。例を挙げれば、磁気光学効果を持つKDP結晶、DNAなど螺旋構造を持つ分子や、その他光学異方性を持つさまざまな生体分子がある。このような光学異方性は、量子力学の言葉で言うと、分子内部の電子の角運動量選択性が現れたものであり、照明する光の偏光状態を変化させ、吸収率や散乱強度を調べることによって明らかにすることができる。光の偏光は通常、光の進む向きに対して垂直な平面内の光電場で決まる性質を持っており、進行方向に垂直な電場を持つ二種類の直線偏光か、進行方向に対して右回りあるいは左回りの電場を持つ二種類の円偏光のどちらかで表される。特に光学異方性の観測においては、右回り(時計回り)と左回り(反時計回り)の偏光に対する、光学的性質の差を観測することが有効である。しかし、右回り及び左回りの偏光は、光の進行方向に対してのみ作り得るので、これまでの光学異方性の観測ではサンプルを透過するような照明が行われ、おもに多数の分子などを含む平均的な性質として、光学異方性は観測されてきた。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−142417号公報 第2−3頁 図1
【非特許文献1】
大平泰生、堀裕和、「光近接場の局所的円偏極の観測」、第49回応用物理学関係連合講演会28a−R−8.
【非特許文献2】
大平泰生、河井誠、赤堀勝哉、井上哲也、堀裕和、「誘電体球プローブによる光近接場円偏極の観測」、2001.6.28 日本光学会近接場光学研究グループ第10回研究討論会予稿集 pp.109〜114
【非特許文献3】
T.Inoue and H.Hori,“Quantization ofevanescent electromagnetic waves based on detector mode”,Phys.Rev.A vol.63,no.6(2001.5)pp.063805−1−16.
【非特許文献4】
Y.Ohdaira,et al.,J.Microscopy,Vol.202,part 1,pp.255−260,April 2001.
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、顕微鏡におけるエバネッセント光を用いた暗視野照明の方法は、基板表面近傍のサンプルのみを励起し、そこから発する極めて微弱な蛍光などを観測する手段としてめざましい成果を上げ、広い分野にわたる応用が展開されているが、これまで暗視野照明で円偏光を発生させる方法がないため、サンプルの偏光依存特性を利用した顕微鏡観測はできなかった。
【0006】
しかし、最近、本発明者らは、プリズムなどの誘電体表面に全反射条件あるいは導波モードでレーザー光を入射したときに、誘電体表面に発生するエバネッセント波を二つ用い、表面に沿ったエバネッセント波の進行方向が互いに垂直になるように重ね合わせ、これを同じ周波数かつ相対関係の定まった位相に保つとき、進行方向とは垂直な誘電体表面の法線方向に対して右回りあるいは左回りに、電場が回転する、局所的な円偏光を生み出すことができることを理論的に予測し、その存在を実証することに成功した。この局所的円偏光は、エバネッセント波の波長に応じた周期で交互に右回り円偏光と左回り円偏光を繰り返す、格子状の局所偏光パターンをなすことが実験的に証明された。
【0007】
これは、微小誘電体球および光ファイバープローブによる散乱光の偏光特性解析と理論との比較により、初めて実験的に実証したものである(上記非特許文献1及び非特許文献2)。このようなエバネッセント光の重ね合わせで作られる局所的円偏極パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用いれば、散乱光の方向である基板表面の垂直方向に対する光学異方性を観測することができ、しかも照明光であるエバネッセント光は表面に沿って伝わるので、暗視野照明でありながら円偏光励起が可能な、一つ一つの分子や微小物体を識別し得る高いコントラストを持つ偏光顕微鏡を実現できる。
【0008】
このような局所円偏光パターンの存在を理論的に予測した段階で、量子力学的角運動量選択性によれば、これを用いて角運動量選択性を持つGaAs微結晶をスピン偏極できることを理論的に明らかにし、スピン偏極走査型トンネル顕微鏡のプローブを構成できることを、発明した。また、局所的な偏光の左右の向きは、二つのエバネッセント光を作っている照射レーザー光の相対的な位相差を変化させることによって、極めて高速に変調できることから、これを用いてスピン偏極を高速に変調し、スピン依存走査型トンネル顕微鏡像の感度を向上させる方法も同時に発明できた。
【0009】
本発明は、エバネッセント波の重ね合わせが作る局所円偏光パターンが、それ単独に、言い換えれば光学現象として、誘電体表面に発生していることを実験的に実証できたため、これを汎用性のある円偏光暗視野照明に利用した局所偏光顕微鏡分析・分光方法および装置を提供する。
【0010】
また、上記の照明(励起)により、微小物体が局所的円偏光を吸収したときには、微小物体は光から角運動量すなわち回転モーメントを受け取ったことになる。このことは、本発明者らが、物質系の電磁相互作用における擬角運動量保存則という観点から、理論的に明らかにしていることである。これを電磁相互作用の言葉で表現すれば、光と誘電体の結合モードであるエバネッセント波の重ね合わせが、擬角運動量を生み出すということになる。
【0011】
その素過程を詳細にたどれば、回転モーメントは、まず光の場から微小物質の電子の軌道角運動量へと移されるが、電子状態が一般に分子の回転運動と内部結合を持つため、励起波を分子の内部結合に対応する回転スペクトルに共鳴するようにとれば、分子そのものの回転運動を引き起こすことができる。
【0012】
したがって、光と誘電体の結合モードであるエバネッセント波の重ね合わせが生み出す擬角運動量を利用し、誘電体基盤表面に置かれた、目標とする微小物質の回転運動の励起と制御が可能になり、これをマイクロマシーンの動力として用いることができることになる。
【0013】
本発明は、上記状況に鑑みて、微小物質の光学異方性、回転依存性、円偏光励起蛍光、磁気光学特性、スピン依存性などを顕微分光できる合成エバネッセント波暗視野励起による局所偏光顕微鏡分析・分光方法および装置とこれを応用した物質操作方法および装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕局所偏光顕微鏡分析・分光方法であって、誘電体表面に発生する横電場モード(TE)エバネッセント波を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせ、これを同一周波数かつ一定位相差に保つとき生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用い、極微弱光を観測可能な暗視野照明でありながら円偏光励起が可能であり、かつ偏光変調も併用できる、高コントラストを有する。
【0015】
〔2〕物質操作方法であって、上記〔1〕記載の局所偏光顕微鏡分析・分光方法における、前記微小物質の照明あるいは励起により、光と誘電体の結合モードが持つ擬角運動量を利用し、局所的な回転運動の励起や制御などを行う、マイクロマシーンの動力として用いることを特徴とする。
【0016】
〔3〕局所偏光顕微鏡分析・分光装置であって、誘電体表面に発生する横電場モード(TE)エバネッセント波を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせる手段と、これを同一周波数かつ一定位相差に保つとき生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用いる手段と、極微弱光を観測可能な暗視野照明でありながら円偏光励起が可能であり、かつ偏光変調も併用できる、高コントラストな局所顕微鏡手段とを具備する。
【0017】
〔4〕局所偏光顕微鏡分析・分光装置であって、誘電体表面に発生する横電場モード(TE)エバネッセント波を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせる手段と、これを同一周波数かつ一定位相差に保つとき生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用いる手段と、2次元方向に走査する微小開口を有するプローブと、前記微小開口を通じて前記微小物質を選択する、一体化した安定な偏光分析系と、この偏光分析系を用いて前記微小物質の偏光を分解し、測定する超高感度受光器とを具備することを特徴とする。
【0018】
〔5〕上記〔3〕又は〔4〕記載の局所偏光顕微鏡分析・分光装置において、前記微小物質の照明あるいは励起により、光と誘電体の結合モードが持つ擬角運動量を利用し、局所的な回転運動の励起や制御などを行う、マイクロマシーンの動力として用いることを特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明は、
(a)合成エバネッセント波中に、光波長の1/4より小さい微小物質を置いて照明(励起)し、そこからの散乱光を集光およびコリメートし、1/4波長板および偏光ビームスプリッターにより偏光分析することによって、微小物質の円偏光に対する応答を顕微鏡分析・分光することができる。微小物質がない場合には散乱光が生じないため、極めてコントラストを高くとれる暗視野照明(励起)の顕微鏡分析・分光法であり、しかもこれまでできなかった偏光を選択できる新しい照明(励起)方法である。
9また、本発明による100ナノメーター以下の微小単一物体からのフェムトワットレベルの微小信号検出においても、円偏光分析性を維持できることを明らかにしたものである。さらに、局所偏光の切り替えは、二つのエバネッセント波間の位相差を、光路差の調整あるいは位相変調器により調整することで、極めて高速に変調できる特徴を持つ。
【0020】
(b)本発明の局所偏光顕微鏡分析装置は、希薄に散在させた微小物質からの局所的な偏光を分析する場合、2次元方向に走査する微小開口を通じて微小物質を選択し、一体化した安定な偏光分析系を用いて偏光を分解し、これを冷却CCDカメラなどの超高感度受光器で測定する。二つの偏光成分に対する測定結果I+ 、I− から偏極度P={I+ −I− }/{I+ +I− }を求めることにより、対象物質の偏光依存散乱特性が分析できる。背景散乱光が多い実験環境の場合は、照明光の偏光変調と位相敏感検出により、直接高感度で偏極度を求めることができる。
【0021】
(c)本発明の局所偏光顕微鏡分光装置は、物質が共鳴準位をもつ場合には、共鳴周波数近傍に同調されたレーザー光を用いれば、顕微分光装置となり、微小物質の偏光依存共鳴散乱特性が分析できる。さらにこのとき物質が、電子状態とのスピン軌道相互作用を有する場合には、局所円偏光による電子スピンの選択励起と、これを通じての電子スピン偏極が可能である(導波路モードを用いたスピン偏極走査型トンネル顕微鏡プローブについては、特許文献1参照)。
【0022】
また、超微細構造を持つ物質では、電子の全核運動量と原子核スピンの相互作用を通じて、同様な方法で原子核スピンの偏極が可能である。
【0023】
(d)この照明(励起)方法によって得られる局所円偏光状態は、光と誘電体の結合モードが擬角運動量を持つことを意味し、局所的な回転運動の励起や制御など、マイクロマシーンの動力としての応用も可能である。光と相互作用する微小物質の電子状態の角運動量が、物質を構成する分子の回転運動と結合を持つ場合には、局所円偏光により微小物体の回転運動を励起・制御できる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
図1は本発明にかかる合成エバネッセント波暗視野励起による局所偏光顕微鏡分析・分光システムの原理模式図である。
【0026】
この図において、1は誘電体、EV1は第1の横電場モード(TE)エバネッセント波、EV2は第2のTEエバネッセント波、反時計回りの円はσ+ 局所円偏光、時計回りの円はσ− 局所円偏光、両方向の矢印は局所直線偏光、2は合成波の伝搬方向(波長〜λ0 )である。
【0027】
図1に示すように、誘電体1の表面に発生するTEエバネッセント波EV1とEV2を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせ、これを同一周波数かつ一定位相差に保つとき生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用い、暗視野照明でありながら円偏光励起が可能であり、かつ偏光変調も併用できる、高コントラスト顕微鏡システムを構成することができる。
【0028】
光近接場と電子系との相互作用における角運動量移行の性質の解明は、ナノスピンデバイスの制御や光近接場磁気光学メモリーなどへの応用上極めて重要である。本発明者らは最も基本的な平坦誘電体表面近傍における、エバネッセント波の局所的円偏極を用いた原子スピン偏極実験を試みている〔上記非特許文献4参照〕。
【0029】
図2は本発明の実施例を示す局所偏光顕微鏡分析装置の構成図である。
【0030】
この図において、10は照射光としてのレーザー光(λ0 は任意)、11はプリズム、12はそのプリズム11上にセットされる微小物質、13はプローブ、14はそのプローブ13に形成される微小開口(ピンホール)、15は第1のレンズ(NA:0.65)であり、プローブ13と第1のレンズ15とは光学基板14Aで一体化されている。16はスリット板、17は第2のレンズ(f=25mm)、18は1/4波長板、19は偏光ビームスプリッターPBS1(σ+ 選択用)、20は偏光ビームスプリッターPBS2(σ− 選択用)、21は冷却CCDカメラ、22は微小物質12がセットされる空間23を形成するスペーサ(厚さ25μm)である。なお、因みに、プローブ13と第1のレンズ15との間隔は3mm、光学基板14Aとスリット板16との間隔は20mm、スリット板16と第2のレンズ17との間隔は25mmである。
【0031】
図2に示すように、2次元方向に走査するプローブ13の微小開口14を通じて微小物質12からの散乱光を選択し、一体化した安定な偏光分析系(第1のレンズ15、スリット板16、第2のレンズ17、1/4波長板18、偏光ビームスプリッター19、20からなる)を用いて偏光を分解し、これを冷却CCDカメラ21などの超高感度受光器で測定する。
【0032】
このとき、二つの偏光成分に対する冷却CCDカメラ21による測定結果I+ 、I− から偏極度P={I+ −I− }/{I+ +I− }を求めることにより、対象物質である微小物質12の偏光依存散乱特性が分析できる。背景散乱光が多い実験環境の場合は、照射光10の偏光変調と位相敏感検出により、直接高感度で偏極度を求めることができる。
【0033】
これらの局所偏光顕微鏡分析装置を使って同時に、微小物質の回転運動を操作および制御することが可能である。
【0034】
本発明は、
(A)図1に示した合成エバネッセント波中に、光波長の1/4より小さい微小物質12を置いて照明(励起)し、そこからの散乱光を集光およびコリメートし、1/4波長板18および偏光ビームスプリッター19,20により偏光分析することによって、微小物質12の円偏光に対する応答を顕微分析・分光することができる。微小物質12がない場合には散乱光が生じないため、極めてコントラストを高くとれる暗視野照明(励起)の顕微鏡分析・分光法であり、しかもこれまでできなかった偏光を選択できる新しい照明(励起)方法である。
【0035】
本発明による100ナノメーター以下の微小単一物体からのフェムトワットレベルの微小信号検出においても、円偏光分析性を維持できることを最近明らかにした。さらに、局所偏光の切り替えは、二つのエバネッセント波EV1、EV2間の位相差を、光路差の調整あるいは位相変調器により調整することで、極めて高速に変調できる特徴を持つ。
【0036】
(B)本発明の局所偏光顕微鏡分析装置は、希薄に散在させた微小物質12からの局所的な偏光を分析する場合、2次元方向に走査するプローブ13の微小開口14を通じて微小物質12を選択し、一体化した安定な偏光分析系を用いて偏光を分解し、これを冷却CCDカメラ21等の超高感度受光器で測定する。二つの偏光成分に対する測定結果I+ 、I− から偏極度P={I+ −I− }/{I+ +I− }を求めることにより、対象物質の偏光依存散乱特性が分析できる。背景散乱光が多い実験環境の場合は、照明光の偏光変調と位相敏感検出により、直接高感度で偏極度を求めることができる。
【0037】
(C)本発明の局所偏光顕微鏡分光装置は、微小物質12が共鳴準位をもつ場合には、共鳴周波数近傍に同調されたレーザー光10を用いれば、顕微分光装置となり、微小物質12の偏光依存共鳴散乱特性が分析できる。さらにこのとき微小物質12が、電子状態とのスピン軌道相互作用を有する場合には、局所円偏光による電子スピンの選択励起と、これを通じての電子スピン偏極が可能である(なお、導波路モードを用いたスピン偏極走査型トンネル顕微鏡プローブについては、特許文献1参照)。
【0038】
また、超微細構造を持つ物質では、電子の全核運動量と原子核スピンの相互作用を通じて、同様な方法で原子核スピンの偏極が可能である。
【0039】
(D)この照明(励起)方法によって得られる局所円偏光状態は、光と誘電体の結合モードが擬角運動量を持つことを意味し、局所的な回転運動の励起や制御など、マイクロマシーンの動力としての応用も可能である。光と相互作用する微小物質の電子状態の角運動量が、物質を構成する分子の回転運動と結合を持つ場合には、局所円偏光により微小物質の回転運動を励起・制御できる。
【0040】
上記したように、誘電体表面に発生するエバネッセント波を二つ用い、表面に沿ったTEエバネッセント波の進行方向が互いに垂直になるように重ね合わせ、これを同一の周波数かつ一定位相差に保持したとき、進行方向とは垂直な誘電体表面の法線方向に右回りあるいは左回りに電場が回転する。このようなエバネッセント光の重ね合わせで作られる局所的円偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用いれば、光学異方性を観測することができ、一つ一つの分子や微小物質を認識し得るコントラストのある偏光顕微鏡を実現できる。
【0041】
また、この重ね合わせエバネッセント光から発生する照明あるいは励起により、微小物質が局所的円偏光を吸収したときには、微小物質は光から角運動量すなわち回転モーメントを受け取ったことになる。
【0042】
以上のように二つのエバネッセント光を重ね合わせることにより、(1)円偏光光源を作り出し、(2)この円偏光を利用して微小物質の駆動源を作ることができる。
【0043】
本発明によれば、スピン走査トンネル顕微鏡などへの応用が期待される。そして、円偏光の駆動力は、マイクロマシンの動力にも利用できる。
【0044】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0045】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0046】
(A)極微弱光を観測可能な暗視野照明(励起)顕微鏡装置に局所的円偏光を用いることによって、微小物質の光学異性、回転依存性、円偏光励起蛍光、磁気光学特性、スピン依存性などを顕微分光できる。
【0047】
(B)2次元走査する微小開口と安定な偏光分析系を用いて偏光を分解し、冷却CCDカメラなど超高感度受光器で測定された二つの偏光成分に対する測定結果から、偏極度を求めることにより、対象物質の偏光依存散乱特性が分析できる。
【0048】
(C)物質の共鳴を用いれば、顕微分光装置となり、微小物質の偏光依存共鳴散乱特性が分析できる。
【0049】
(D)局所的な回転運動の励起や制御など、マイクロマシーンの動力としての応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる合成エバネッセント波暗視野励起による局所偏光顕微鏡分析・分光システムの原理模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す局所偏光顕微鏡分析装置の構成図である。
【符号の説明】
1 誘電体
EV1 第1のTEエバネッセント波
EV2 第2のTEエバネッセント波
反時計回りの円 σ+ 局所円偏光
時計回りの円 σ− 局所円偏光
両方向の矢印 局所直線偏光
2 合成波(波長〜λ0 )
10 照射光としてのレーザー光(λ0 は任意)
11 プリズム
12 微小物質
13 プローブ
14 微小開口(ピンホール)
14A 光学基板
15 第1のレンズ(NA:0.65)
16 スリット板
17 第2のレンズ(f=25mm)
18 1/4波長板
19 偏光ビームスプリッターPBS1(σ+ )
20 偏光ビームスプリッターPBS2(σ− )
21 冷却CCDカメラ
22 スペーサ
23 空間
Claims (5)
- 誘電体表面に発生する横電場モード(TE)エバネッセント波を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせ、これを同一周波数かつ一定位相差に保つときに生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用い、極微弱光を観測可能な暗視野照明でありながら円偏光励起が可能であり、かつ偏光変調も併用できる、高コントラストを有する局所偏光顕微鏡分析・分光方法。
- 請求項1記載の局所偏光顕微鏡分析・分光方法において、前記微小物質の照明あるいは励起により、光と誘電体の結合モードが持つ擬角運動量を利用し、局所的な回転運動の励起や制御などを行う、マイクロマシーンの動力として用いることを特徴とする物質操作方法。
- (a)誘電体表面に発生する横電場モード(TE)エバネッセント波を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせる手段と、
(b)これを同一周波数かつ一定位相差に保つとき生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用いる手段と、
(c)極微弱光を観測可能な暗視野照明でありながら円偏光励起が可能であり、かつ偏光変調も併用できる、高コントラストな局所顕微鏡手段とを具備する局所偏光顕微鏡分析・分光装置。 - (a)誘電体表面に発生する横電場モード(TE)エバネッセント波を、その伝搬方向が直交するように二つ重ね合わせる手段と、
(b)これを同一周波数かつ一定位相差に保つとき生ずる、エバネッセント波の波長に応じた周期で繰り返す格子状の局所偏光パターンを、微小物質の照明あるいは励起に用いる手段と、
(c)2次元方向に走査する微小開口を有するプローブと、
(d)前記微小開口を通じて前記微小物質を選択する、一体化した安定な偏光分析系と、
(e)前記偏光分析系を用いて前記微小物質からの散乱光の偏光を分解し、測定する超高感度受光器とを具備することを特徴とする局所偏光顕微鏡分析・分光装置。 - 請求項3又は4記載の局所偏光顕微鏡分析・分光装置において、前記微小物質の照明あるいは励起により、光と誘電体の結合モードが持つ擬角運動量を利用し、局所的な回転運動の励起や制御などを行う、マイクロマシーンの動力として用いることを特徴とする物質操作装置。
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