JP2004219187A - レーザー逆コンプトンガンマ線を用いた核異性体生成による高精度、高s/n、高効率での同位体分析法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】パルス化したレーザー逆コンプトンガンマ線を試料に照射することで、光吸収中性子放出(γ、n)反応により核異性体を生成し、核異性体崩壊時の遅延ガンマ線を測定することによって、高精度,高S/N、高効率で同位体を分析する方法。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザー逆コンプトンガンマ線を用いて(γ、n)反応によって放射性の核異性体を生成し、それからの放出ガンマ線の測定により核種の同定、および、同位体含有量の測定を行う放射化元素分析法に関するものである。
【0002】
前記レーザー逆コンプトンガンマ線とは、相対論的電子ビームとレーザー光との相互作用により生成される高エネルギーガンマ線であり、準単色であり、そのエネルギーが可変性である等の特徴を持っている。前記核異性体とは、原子核の励起状態で比較長い寿命をもつものであり、1ナノ(10−9)秒以上の寿命をもつ核励起状態にあるものが核異性体と呼ばれている。核異性体のガンマ崩壊では、質量数、原子番号は変化しない。前記寿命とは、放射性崩壊によって元々の1/eの量になるまでの時間であり、寿命の逆数は単位時間あたりの崩壊確率になる。
【0003】
【従来の技術】
従来の放射化分析法では、核反応で生成される原子核がべータ崩壊に対して安定な同位体については分析できない。ベータ崩壊とは、原子核の放射性崩壊の一種であり、電子又は陽電子が放出され、原子核の質量数は変わらないが、原子番号が1だけ増加、または、減少する崩壊である。同位体とは、同一元素に属する(すなわち同じ原子番号をもつ)原子の間で、質量数が異なる原子を互いに同位体であるといい、また放射性崩壊しない原子核は、安定同位体と呼ばれている。
【0004】
これに対して、(γ、n)反応を用いて核異性体を生成し、それからの放出ガンマ線を測定することにより、通常の放射化分析法では測定不可能な核種について放射化分析できる。この方法では、核異性体から放出されるガンマ線が、核種によって特有なエネルギー値を持つため、同位体の分析が可能である。
【0005】
しかしながら、これまで、照射ガンマ線として、電子加速器による制動放射光が使用されており、連続エネルギーで、かつ、低エネルギー部では指数関数的に光子数が増加するという制動放射光に特有の問題があるため、目的とする(γ、n)以外の反応である、核共鳴散乱や、(γ、2n)反応等が生じ、精度の良い分析ができないというデメリットがある。
【0006】
さらに、岩石等に含まれる微量元素の分析では、主成分であるシリコンや、ニッケルが(γ、n)反応を生じ、その反応生成核のベータ崩壊の際に放出されるガンマ線が大きなバックグランド計数を形成するデメリットもある。
【0007】
前記制動放射光とは、荷電粒子が減速を受けるときに放射する電磁波であり、又高エネルギー電子が物質中で滅速する際にも制動放射光が生じる。制動放射光は連続エネルギー分布を示し、低エネルギー部では光子数は指数関数的に増加する。また、光子の最大エネルギーは、電子エネルギーと等しくなる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従来の方法では、照射ガンマ線として、電子加速器による制動放射光を用いるため、目的とする核反応(γ、n)以外の反応が生じ、同位体含有量の精度の良い測定が困難であった。本発明は、パルス化したレーザー逆コンプトンガンマ線を用いることにより、この欠点を解消し、高精度、高S/N(低バックグランド)、高効率で同位体分析を行うことを目的とする。
【0009】
前記高S/N(低バックグランド)においては、ガンマ線ビームをパルス化し、ビーム照射の停止中に、遅延ガンマ線を測定し、即発ガンマ線によるバックグラウンドを取り除くことにより、目的とする核異性体からの放出ガンマ線の測定を高S/Nで行う。さらに、ガンマ線ビームの照射時間、及び測定時間を適切に選ぶことにより、高効率での分析を行う。
【0010】
【課題を解決するための手段】
光吸収による核反応には、エネルギー約8MeV以下のガンマ線が寄与する光共鳴散乱と、エネルギー約8MeV以上のガンマ線が寄与する光吸収中性子放出反応がある。光共鳴散乱では、原子核が光を吸収し励起状態が生成され、ガンマ線を放出し基底状態へと脱励起する。この反応では質量数、原子番号は変化しない。
【0011】
前記光吸収中性子放出反応とは、中性子放出に対するしきい値(約8MeV)よりもエネルギーの高いガンマ線を吸収し、中性子を放出する反応である。さらにこの光吸収中性子放出反応には、中性子を1つ放出する(γ、n)反応、中性子を2つ放出する(γ、2n)反応、中性子を3つ放出する(γ、3n)反応等がある。それぞれのしきい値エネルギーは、質量数約150以上の元素に対して、約8MeV、約16MeV、約24MeVである。したがって、従来の連続エネルギースペクトルをもつ制動放射光による光吸収反応では、目的とする核反応(γ、n)以外の複数の核反応により、核異性体が生成されるため、同位体の含有量を精度良く求めることは困難である。
【0012】
一方、本発明では、準単色性(数%のエネルギー幅)、エネルギー可変の長所をもつレーザー逆コンプトンガンマ線を用いて、選択的に(γ、n)反応のみを生じさせ、高精度で分析を行う。
【0013】
さらに、この方法では、一般的に、(γ、n)反応の高いしきい値エネルギーをもつ軽元素、例えば、シリコン28(しきい値エネルギー17MeV)や、ニッケル58(しきい値エネルギー12MeV)に対して、照射ガンマ線のエネルギーをこれらの元素のしきい値以下に選ぶことにより、これらの元素の(γ,n)反応を防ぐことができる。したがって、シリコンや、ニッケルが主成分である岩石等に含まれる微量な重元素の放射化分析も可能になる。鉄56も岩石中に多く含まれるが、(γ、n)反応で生成される鉄55が、ベータ崩壊の際にガンマ線を放出しないことから計測には影響を与えない。
【0014】
また、ガンマ線ビームをパルス化することにより、即発ガンマ線の影響を受けずに、核異性体からの遅延ガンマ線を高S/N(低バックグラウンド)で測定する。さらに、照射時間と測定時間を核異性体の寿命程度に選び、目的とする同位体の分析を高効率で行う。
【0015】
即発ガンマ線とは、核反応後、高励起状態から即発(ピコ秒、10−12秒以内)に放出されるガンマ線のことである。一方、核異性体から放出されるガンマ線は、その寿命によって時間的に遅く発生する確率が増加する。このようなガンマ線を遅延ガンマ線と呼ぶ。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の実施方法を図1に基づいて説明する。レーザー逆コンプトンガンマ線1を、試料2に照射する。試料中の原子核は、(γ、n)反応により質量数、中性子数がともに1つ少ない原子核へ変換される。この際、一定の確率で生成核の基底状態(原子核準位のうち最も励起エネルギーの低い状態)と核異性体が生成される。
【0017】
次に、核異性体からの崩壊ガンマ線3を、ゲルマニウム半導体検出器4で測定する。核異性体から放出されるガンマ線のエネルギーは、それぞれの原子核について、特有なエネルギー値をもっている。これらのガンマ線を高分解能のゲルマニウム半導体検出器を用いて測定し、核種の同定、ガンマ線強度から同位体の含有量を測定する。
【0018】
図2に、(γ、n)反応による核異性体生成法を具体的に示す。試料の照射、測定においては、ガンマ線ビームをパルス化し、適切な照射時間と測定時間を選び、目的とする核異性体からの崩壊ガンマ線を、高S/N(低バックグラウンド)で効率良く測定する。即ち、図2に示されるように、レーザー逆コンプトンガンマ線を試料に照射すると、試料中の安定な原子核(Z AXN)が中性子を放出し核異性体が生成される。その後、この核異性体からガンマ線が放出され、前記原子核に対して中性子数及び質量数がそれぞれ1つ少ない安定な同位体である(Z A−1XN−1)が生ずる。
【0019】
図3にパルス化ビームを用いた測定法の概念図を示す。 (γ、n)反応で放出されるガンマ線は、ほとんどが即発ガンマ線であるため、連続的にガンマ線ビームを照射した揚合、即発ガンマ線が大きなバックグラウンド計数となり、高精度での遅延ガンマ線の測定は極めて困難である。そこで、ガンマ線ビームをパルス化し、ビーム照射の停止中に、遅延ガンマ線を測定し、即発ガンマ線によるバックグラウンドを取り除く。さらに、照射時間、および、測定時間を適切に選び、目的とする核異性体からの放出ガンマ線の測定を効率的に行う。ある一定時間測定する場合、照射時間、測定時間ともに、核異性体の寿命程度とするともっとも時間効率が良い。
【0020】
【実施例】
陽子数、中性子数ともに偶数の核は、偶々核とよばれており、軽い核を除いて4〜10の同位体が存在する。このうち、質量数が1つ異なる原子核がべータ崩壊に対して安定な場合、従来の放射化法により同位体の分析を行うことができない。たとえば、原子番号が74のハフニウム(Hf)原子核には、質量数が174、176、177,178,179,180の6つの同位体が存在し、177、178,179の同位体は、質量数の1つ異なる原子核が安定同位体のため、放射化法による元素分析ができない。
【0021】
一方、これらの同位体から(γ、n)反応により生成される原子核(176Hf、177Hf、178Hf)には、核異性体(寿命は、それぞれ、14マイクロ秒、1.6秒、5.8秒)が存在し、(γ、n)反応において、一定の確率で生成される。これらの核異性体は、特定のガンマ線を放出し基底状態へ脱励起するため、そのガンマ線をゲルマニウム半導体検出器で測定することにより、核種の同定、および、含有量の分析を行う。この際、パルス化ビームを用いて、照射時間、および、測定時間を適切に選ぶ(たとえば、178Hf核異性体の測定では、6秒照射、6秒測定)ことにより、高S/N、かつ、高効率で測定を行う。
【0022】
【発明の効果】
従来の放射化分析法では困難であった同位体分析について、レーザー逆コンプトンガンマ線を用いて核異性体を生成し、その放出ガンマ線を測定することによって、同位体含有量の分析を高精度で行うことが可能となる。さらに、パルス化ビームを用いることで、高S/N比、高効率での分析が可能となる。その結果、たとえば、土中や、隕石等に含まれている微量な重元素の同位体含有量の分析を、複雑な化学処理なしで、容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す図である。
【図2】レーザー逆コンプトンガンマ線照射線を用いた本発明の実施例を示す図である。
【図3】パルス化ビームを用いた本発明の実施例を示す図である。
Claims (3)
- レーザー逆コンプトンガンマ線を試料に照射することで、光吸収中性子放出(γ、n)反応により核異性体を生成し、核異性体崩壊時の放出ガンマ線を測定することによって、高精度,高S/N、高効率で同位体を分析する方法。
- 前記ガンマ線ビームをパルス化して試料に照射し、その照射停止中に試料から放出される遅延ガンマ線を測定し、試料から放出される即発ガンマ線によるバックグランド計数を取り除くことにより、試料核種の同定、及び同位体含有量の測定を高S/Nで行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
- 前記パルス化したガンマ線を照射する際に、その照射時間及び測定時間を目的とする核異性体の寿命程度に設定することにより、高効率での測定を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の方法。
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