JP2004196628A - 酸化タングステンナノ構造物とその複合体ならびにそれらの製造方法 - Google Patents

酸化タングステンナノ構造物とその複合体ならびにそれらの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】広範な応用の可能性を持ち、大面積を有するナノメートルサイズのロッド状物若しくはベルト状物である酸化タングステンナノ構造物を提供する。
【解決手段】酸化タングステン単結晶のナノメートルサイズのロッド状物若しくはベルト状物であり、長さが2μm以下で、ロッド状物は、幅が20nm〜100nmの範囲にある多角形状の横断面を有し、ベルト状物は、横断面の幅が200nm〜500nmの範囲で、厚みが30nm〜80nmの範囲にある。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、酸化タングステンナノ構造物とその複合体ならびにそれらの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、広範な応用の可能性を持ち、大面積を有するナノメートルサイズのロッド状物若しくはベルト状物である酸化タングステンナノ構造物とその複合物ならびにそれらの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
カーボンナノチューブの発見以来、一次元ナノ物質が注目され、多くのナノ物質が研究され、合成されている。
【0003】
酸化タングステン(WO3)は、バンドキャップの広い半導体であり、広範な価値ある応用の可能性を秘めており、エレクトロクロミズムの原理を利用した情報ディスプレイの電極材料として研究されている。また、酸化タングステン(WO3)は、再充電可能なリチウム電池のような電気化学デバイスにも高い潜在力を有している。
【0004】
しかしながら、これまでの研究は、専ら酸化タングステンの非晶質フィルムに集中している。だが、非晶質と結晶体の酸化タングステンフィルムの光電子伝導度の研究に関し、結晶体はバンド端及び長波長を超えた吸収の増加があり、非晶質に比べ光電導が改善されるという報告がある。また、多孔性のナノ結晶酸化タングステンは、500nm以上の波長に対して高い透過性と大きな電流変換効率を示すことから、ナノ結晶体の酸化タングステンフィルムが、光電気化学及びエレクトロクロミックデバイスへの応用の可能性が秘められているとの報告もある。
【0005】
このように、結晶体の酸化タングステンは、非晶質に劣らず有用で、注目される物質である。
【0006】
一次元のタングステン酸化物ナノ構造物の合成については幾つかの報告がなされている。ナノロッド、すなわち、ナノメートルサイズのロッド状物(非特許文献1)又はマイクロチューブ(非特許文献2)から構成された樹状酸化タングステン(W1849)ナノ構造物が、W/SiO2又はWS2/O2の高温反応により合成されている。また、陽極アルミナテンプレート技術と組み合わせたゾル−ゲルプロセスが、酸化タングステン(WO3)ナノファイバーを製造するために用いられている(非特許文献3)
【0007】
【非特許文献1】
Y. Q. Zhu,外8名,ケミカル・フィジックス・レターズ(Chem. Phys.Lett.),1999年,第309巻,p.309
【非特許文献2】
W. B. Hu,外9名,アプライド・フィジックスA(Appl. Phys. A),2000年,第70巻,p.231
【非特許文献3】
B. B. Lakshmi,外2名,ケミカル・マテリアルズ(Chem. Mater),1997年,第9巻,p.857
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、酸化タングステン(WO3)のナノロッド及びナノベルト(ナノメートルサイズのベルト状物)の合成についての報告はあまりなく、酸化タングステンナノ構造物の潜在力を発揮させるためには、大面積を有する酸化タングステンのナノロッド及びナノベルトの実現が望まれる。
【0009】
この出願の発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、広範な応用の可能性を持ち、大面積を有するナノメートルサイズのロッド状物若しくはベルト状物である酸化タングステンナノ構造物とその複合物ならびにそれらの製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、酸化タングステン単結晶のナノメートルサイズのロッド状物若しくはベルト状物であり、長さが2μm以下で、ロッド状物は、幅が20nm〜100nmの範囲にある多角形状の横断面を有し、ベルト状物は、横断面の幅が200nm〜500nmの範囲で、厚みが30nm〜80nmの範囲にあることを特徴とする酸化タングステンナノ構造物(請求項1)を提供する。
【0011】
また、この出願の発明は、請求項1記載のロッド状物及びベルト状物が混在し、シリコン基板上に配向して成長してフィルム状物となっていることを特徴とする酸化タングステンナノ構造物(請求項2)を提供する。
【0012】
さらに、この出願の発明は、請求項2記載のフィルム状物がシリコン基板と一体となっていることを特徴とする酸化タングステンナノ構造物の複合体(請求項3)を提供する。
【0013】
さらにまた、この出願の発明は、反応炉中に、ターゲットとしてのタングステンフィラメントをタンタル容器により支持された鉄製の金網上に配置し、鏡面研磨されたシリコンウエハーを基板として前記金網の下に一定間隔を保って配置し、空気雰囲気下でタングステンフィラメントを950℃〜1100℃の温度域に1時間以上加熱し、請求項1若しくは2記載の酸化タングステンナノ構造物又は請求項3記載の酸化タングステンナノ構造物の複合体を製造する酸化タングステン構造物又は酸化タングステン構造物の複合体の製造方法(請求項4)を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
この出願の発明の酸化タングステンナノ構造物とその複合物は、以下のとおりにして製造することができる。
【0015】
すなわち、反応炉中に、ターゲットとしてのタングステンフィラメントをタンタル容器により支持された鉄製の金網上に配置し、鏡面研磨されたシリコンウエハーを基板として前記金網の下に一定間隔を保って配置し、空気雰囲気下でタングステンフィラメントを950℃〜1100℃の温度域に1時間以上加熱する。これにより、シリコン基板上に酸化タングステンナノ構造物が形成し、また、シリコン基板と一体となった複合体が形成する。
【0016】
タングステンフィラメントの加熱において、950℃未満では蒸発速度が遅くなり、所望の堆積量を得るのに時間がかかる。一方、1100℃を超えると、速く蒸発しすぎてシリコン基板への堆積量が十分とはならなくなる。また、1時間未満では十分な堆積量が得られない。
【0017】
反応炉には種々のものが適用可能であり、たとえば赤外線照射加熱炉を用いることができる。基板となるシリコンウエハーは、10mm〜30mm×10mm〜30mm程度の大きさの正方形、円形等の形状とすることができる。このようなシリコンウエハーと鉄製の金網との間隔は、たとえば1mm〜5mm程度とすることができ、好ましくは2mm程度である。
【0018】
以下、実施例を示しつつ、この出願の発明の酸化タングステンナノ構造物とその複合物ならびにそれらの製造方法についてさらに詳しく説明する。
【0019】
【実施例】
赤外線照射加熱炉中で実施した。らせん状に屈曲したタングステンフィラメントをターゲットとして用い、このタングステンフィラメントを鉄製の金網の上に配置した。鉄製の金網は、タンタル容器に支持されている。鏡面研磨されたシリコンウエハー(10mm×10mm)を金網の下2mmのところに配置し、基板として使用した。加熱は空気中で行った。上部から加熱し、タングステンフィラメントを950℃〜1000℃に加熱した。このとき、シリコン基板は約600℃となった。この加熱プロセスを1時間続けた。
【0020】
室温に冷却後、シリコン基板の上部表面には一面に半透明なフィルム状物が形成されていた。
【0021】
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて形成されたフィルム状物の形態を観察した。その結果が図1(a)(b)の顕微鏡像である。一次元のナノ構造物がよく分散している。ナノ構造物は均一な長さを有し、2μm以下である。また、ナノ構造物は形態に基づいてロッド状物(ナノロッド)及びベルト状物(ナノベルト)の2つに分類することができる。図1(b)に示したように、ナノロッドは、幅が20nm〜100nmの範囲にある多角形状の横断面を有している。一方、ナノベルトは、横断面の幅が200nm〜500nmの範囲で、厚みが30nm〜80nmの範囲にある。
【0022】
図2(a)(b)は、それぞれ、以上のナノロッドとナノベルトを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した顕微鏡像である。図2(a)はナノロッドの顕微鏡像であり、図2(b)はナノベルトの顕微鏡像である。これらの顕微鏡像の比較から、ナノベルトの幅とナノロッドの幅の比はおおよそ5〜10の範囲にあることが確認される。図2(c)は、電子エネルギー損失スペクトロメーター(EDS)で測定したスペクトルである。ナノロッド、ナノベルトともに、タングステン(W)と酸素(O)の原子比が1:3で構成されている純粋な酸化タングステン(WO3)であることが確認される。なお、スペクトルに現れている銅(Cu)のピークは、顕微鏡観察における銅製支持ミクロ格子から発生したものである。
【0023】
図3(a)(b)は、それぞれ、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)による顕微鏡像と電子回折(ED)パターン(図中の差し込み図)である。
【0024】
図3(a)に示したように、ナノロッドは、3.84Åと3.65Åの互いに直交した隣接空間を持つ平行する光線縞の二組を示し、単斜晶系の酸化タングステンの(200)結晶面と(002)結晶面とにそれぞれ対応している。電子回折(ED)パターンから単結晶構造物であることが確認される。
【0025】
図3(b)に示したように、ナノベルトは、厚み方向は[001]方向に沿っていて、幅方向は六方晶酸化タングステンの[010]方向に沿っている。電子回折パターンの縞状の線の存在は(110)結晶面上に形成された充填欠陥である。
【0026】
得られたフィルム状物では、以上のナノロッドとナノベルトが混在し、シリコン基板上に配向して成長している。また、ナノロッドの方が多く存在している。このようなフィルム状物はシリコン基板と複合体を形成していて、熱や外力を加えても容易に剥離しない。
【0027】
もちろん、この出願の発明は、以上の実施形態及び実施例によって限定されるものではない。細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【0028】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、大面積を有するナノロッド若しくはナノベルトである酸化タングステンナノ構造物が提供され、スケールアップが容易に可能となるため、酸化タングステンナノ構造物を安定して大量に供給することができ、安価となる。実際の応用がより現実的となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)(b)は、それぞれ、実施例で得られたフィルム状物の走査型電子顕微鏡像である。
【図2】(a)(b)(c)は、それぞれ、実施例で得られたナノロッドの透過型電子顕微鏡像、ナノベルトの透過型電子顕微鏡像、ナノロッド及びナノベルトの電子エネルギー損失スペクトルである。
【図3】(a)(b)は、それぞれ、実施例で得られたナノロッドとナノベルトの高分解能透過型電子顕微鏡像と電子線回折パターンである。

Claims (4)

  1. 酸化タングステン単結晶のナノメートルサイズのロッド状物若しくはベルト状物であり、長さが2μm以下で、ロッド状物は、幅が20nm〜100nmの範囲にある多角形状の横断面を有し、ベルト状物は、横断面の幅が200nm〜500nmの範囲で、厚みが30nm〜80nmの範囲にあることを特徴とする酸化タングステンナノ構造物。
  2. 請求項1記載のロッド状物及びベルト状物が混在し、シリコン基板上に配向して成長してフィルム状物となっていることを特徴とする酸化タングステンナノ構造物。
  3. 請求項2記載のフィルム状物がシリコン基板と一体となっていることを特徴とする酸化タングステンナノ構造物の複合体。
  4. 反応炉中に、ターゲットとしてのタングステンフィラメントをタンタル容器により支持された鉄製の金網上に配置し、鏡面研磨されたシリコンウエハーを基板として前記金網の下に一定間隔を保って配置し、空気雰囲気下でタングステンフィラメントを950℃〜1100℃の温度域に1時間以上加熱し、請求項1若しくは2記載の酸化タングステンナノ構造物又は請求項3記載の酸化タングステンナノ構造物の複合体を製造する酸化タングステン構造物又は酸化タングステン構造物の複合体の製造方法。
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