JP2004188662A - マイクロリアクター用樹脂基板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】安価かつ効率的な、極めて高い精度の溝や孔が形成されたマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂を射出成形法又は転写成形法により成形するマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法であって、少なくとも、樹脂に常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解する工程1と前記常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解した樹脂を金型キャビティ内に充填する工程2と、前記常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解した樹脂に金型キャビティ内の金型面形状を表面転写する工程3とを有するマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】樹脂を射出成形法又は転写成形法により成形するマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法であって、少なくとも、樹脂に常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解する工程1と前記常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解した樹脂を金型キャビティ内に充填する工程2と、前記常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解した樹脂に金型キャビティ内の金型面形状を表面転写する工程3とを有するマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、安価かつ効率的な、極めて高い精度の溝や孔が形成されたマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、微小領域において検体の分離・濃縮、化学反応及び分析を行う研究が盛んに行われている。検体の分離・濃縮や化学反応を微小領域にて行えば、反応器との熱交換効率を大幅に向上し、大幅にエネルギーコストを節約することが可能となる。また、多種類の反応工程を微小領域に集積化することができれば、コンビナトリアル合成を容易に実現することができる。更に、分析システムを微小化することにより、分析時間を大幅に短縮し、試料量・廃棄量を大幅に低減することができる等、非常に多くの利点を有している。
【0003】
近年の社会情勢変化の中にあって、医療診断を患者近傍で行うベッドサイド診断、大気・水・土壌中の環境汚染物質のモニタリング、食品の安全性の検査等、安価でかつ短時間に行う必要のある診断/分析技術に関するニーズは、益々高まっている。例えば、高齢者の増加の著しい近年にあって、患者近傍にて患者家族が診断した健康指標数値が在宅管理され、更には採取データを病院に定期的に送信することができれば、在宅医療環境を更に高めることが可能となる。また、例えば、重金属やダイオキシン、環境ホルモン等の環境汚染物質を、高価かつ大掛かりな装置を使用せずに簡易測定することができれば、よりきめの細かい安全環境を供出することが可能となる。水、大気、土壌における膨大量の汚染の生態系への危険が明らかにされてきた昨今において、一つ一つの汚染要因を安価かつ簡便に知ることは、極めて重要な事柄である。このような簡易測定の概念は、「Point Of Care(POC)」と呼ばれ、今後の社会において非常に重要な概念である。
【0004】
このような測定を簡易に行うためには、微量の試料を用いて測定を行えることが必要であるが、微量試料の分析・検出には、高い感度が求められる。従来、微量・高感度にて分析できる方法としては、キャピラリーガスクロマトグラフィー(CGC)、キャピラリー液体クロマトグラフィー(CLC)等で分離し、質量分析計(MS)で検出するGC−MS、LC−MS等が広く用いられてきた。しかし、高価で大掛かりなGC−MS、LC−MSを簡単に持ち運ぶことはできないという問題があった。従って、測定が必要な現場で簡易に分析することができる、「オンサイト分析」に対応した、分析・検出手法の開発ニーズは極めて高い。
【0005】
これに対して、数cm〜10cm角程度以下のチップの表面に溝や孔を刻んで、その溝や孔における分離、濃縮又は反応等を利用して、微小領域中で微量試料の分析をおこなう手法が提案されている。この手法は、μTAS(micro又はminiaturized total analysis system)又はマイクロリアクターと総称されている。このようなマイクロリアクターについては、1990年には非特許文献1に既に概念が紹介されている。
【0006】
マイクロリアクターに用いるチップの基板には、その加工性や精度の点から、主としてガラスや石英、シリコン等の無機材料が用いられてきた。例えば、半導体微細加工技術において広く用いられている光リソグラフィー技術を利用すれば、ガラス基板やシリコン基板上にミクロンオーダーの溝を自在に形成することができる。しかしながら、膨大な汚染サイトに関する分析を行うに際しては、測定チップを大量に生産し、簡単・安価に廃棄できることが重要であり、ガラスやシリコンは高価であるという問題があった。また、医療の現場においても、ガラス基板を使う場合には、廃棄の際に適切な処理費用を支払うことが義務付けられている。
【0007】
そこで、樹脂からなるマイクロリアクター用基板が検討されている。マイクロリアクター用樹脂基板は、コスト、廃棄物としての処理等の点でガラス等よりも優れていることに加え、軽い、割れない等の特徴を備えている。更に、転写金型を利用した射出成形やホットプレス成形を行うことにより、非常に高い生産性にて表面に溝や孔を形成することが可能である。
しかし、マイクロリアクター用樹脂基板の表面の溝や孔には、分析に用いる検体や流体が詰まったり漏れたりすることがないよう、極めて高い精度が要求される。射出成形によりマイクロリアクター用樹脂基板の表面に溝や孔を転写する場合においては、射出金型キャビティに樹脂を充填する工程中に金型面形状が充分に樹脂表面に転写されているかどうかに配慮する必要がある。
【0008】
特許文献1には、(1)樹脂の金型キャビティへの充填工程中に、金型に接する樹脂表面の固化温度を低下させつつ成形する方法、(2)断熱層被覆金型を用いる方法、(3)射出直前に高周波誘導加熱で金型表面を加熱して成形する方法、(4)射出直前に輻射加熱で金型表面を加熱して成形する方法、(5)樹脂を振動させつつ射出して成形する方法、(6)金型を振動させつつ射出する方法、(7)金型キャビティに二酸化炭素を10MPa以下の圧力で満たしておいて射出する方法が開示されている。しかしながら、(1)〜(6)の方法は、いずれも金型そのものに加工を施すことが必要であり設備コストの点で問題があった。また、(7)の方法は、二酸化炭素が金型表面付近で断熱圧縮されることにより、得られる成形品の表面が焼けてしまうことがあるという問題があった。
マイクロリアクター用樹脂基板の種々の特徴を活かすためには、安価で効率的な型面転写を可能にする成形技術の開発が必要不可欠であった。
【0009】
【非特許文献1】
A.Manz,N.Graber,H.M.Widmer:Sens.Actuators,B,1,244(1990)
【特許文献1】
特開平11−245270号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、安価かつ効率的な、極めて高い精度の溝や孔が形成されたマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、樹脂を射出成形法又は転写成形法により成形するマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法であって、少なくとも、樹脂に常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解する工程1と前記常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解した樹脂を金型キャビティ内に充填する工程2と、前記常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解した樹脂に金型キャビティ内の金型面形状を表面転写する工程3とを有するマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法である。
【0012】
なお、本明細書においてマイクロリアクター用樹脂基板とは、主として、1)樹脂基板表面に流動可能な微量試料が流動するための微細な溝を有し、微量検体が樹脂基板上で反応することにより検体中の目的物質を検出する構造を有するもの、2)微細孔を有する樹脂基板であり、微量検体が孔中で反応することにより検体中の目的物質を検出する構造を有するもの、3)樹脂基板表面に流動可能な微量試料が流動するための微細な溝を有し、微量試料が樹脂基板上で反応することにより目的物質を合成・製造する構造を有するもの、4)樹脂基板表面に流動可能な微量試料が流動するための微細な溝を有し、微量試料が樹脂基板上で吸着・脱着工程を経ることにより、目的物質を精製又は抽出する構造を有するものを意味する。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法は、樹脂を射出成形法又は転写成形法により成形する方法である。
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、まず、樹脂に常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解する工程1を行う。
【0014】
上記常温常圧でガス状の物質(以下、ガス化物質ともいう)としては、常温・常圧で気体状態の有機化合物又は無機化合物であれば特に限定されず、例えば、二酸化炭素ガス(炭酸ガス)、窒素ガス、フロンガス、アルゴンガス、低分子量の炭化水素等の有機ガス等が挙げられる。なかでも、ガスの回収が不要で取り扱いが安全な二酸化炭素ガスが好適である。
上記ガス化物質は、圧力を10kg/cm2以上、好ましくは100kg/cm2以上とすることにより、樹脂に溶解することができる。
【0015】
上記超臨界状態の物質(以下、超臨界流体ともいう)としては特に限定されないが、比較的低温低圧でも超臨界化する物質が好ましい。例えば、二酸化炭素は、60℃、60気圧で臨界流体となるため好適に用いられる。
なお、超臨界状態は、以下のように定義される。即ち、気相と液相の相変化を示す蒸気圧曲線は臨界点で終わりこれより高い温度では、気体と液体の区別がない状態となる。このような状態を超臨界状態と呼び、超臨界状態にあるものを超臨界流体と呼ぶ。超臨界流体は、気体と液体の中間的な性質を持ち、熱伝導が良く、拡散が早く、粘性が小さいという性質を持っている。このため、超臨界流体は、樹脂に容易に溶解することができる。
【0016】
上記ガス化物質又は超臨界流体を樹脂に溶解させる温度としては、樹脂が劣化しない温度であれば特に限定されないが、温度が高いほど樹脂に対するガス化物質又は超臨界流体の溶解量を増やすことができる。
【0017】
上記ガス化物質又は超臨界流体を樹脂に溶解させる量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.00002mol−gas/cm3−polm、好ましい上限は0.0016mol−gas/cm3−polmである。0.00002mol−gas/cm3−polm未満であると、樹脂の粘度を低減化する効果が得られないことがあり、0.0016mol−gas/cm3−polmを超えると得られるマイクロリアクター用樹脂基板に気泡が生じたり、強度が不足したりすることがある。より好ましい下限は0.00004mol−gas/cm3−polm、より好ましい上限は0.0008mol−gas/cm3−polmである。
【0018】
工程1において、上記ガス化物質又は超臨界流体を樹脂に溶解する方法としては、例えば、樹脂をペレット投入用のホッパーに投入し、ホッパー中に高圧にした上記ガス化物質又は超臨界流体を導入する方法が挙げられる。この方法は、静的状態で効率的にガス化物質又は超臨界流体を樹脂に溶解できることから、工業化に適した方法である。
また、樹脂を溶融押出機に投入し、シリンダの途中から高圧にしたガス化物質又は超臨界流体をシリンダ部分に導入する方法も好適である。この場合、溶融状態の樹脂により圧力シールがなされることから溶解速度が極めて速くなることから、工業化に適した方法である。
更に、樹脂を溶融押出機に投入し、スクリュー部に高圧にしたガス化物質又は超臨界流体を導入してスクリュー部の途中からシリンダ部分にガス化物質を導入する方法も好適である。一般の射出成形では、シリンダの内容積は射出サイクル中に変動するため、変動によりガス化物質又は超臨界流体の溶解状態の差異を生じる場合がある。スクリュー部にガス化物質又は超臨界流体を導入する方法は、均一にガス化物質又は超臨界流体を樹脂に溶解することできることから、工業化に適した方法である。
【0019】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、次いで、ガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂を金型キャビティ内に充填する工程2を行う。
工程2は、射出成形機中の射出シリンダを金型方向に駆動させることにより、ガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂を金型キャビティ内に吐出することにより行う。
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、次いで、ガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂に金型キャビティ内の金型面形状を表面転写する工程3を行う。
工程3は、射出成形機中の射出シリンダの駆動限界まで金型方向に駆動させ、ガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂を金型キャビティ内に充填することにより行う。金型キャビティの片面は、所望の突起形状を施した金型からなり、ガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂を充分に充填することにより、金型に施された突起形状がガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂の表面に転写される。また、ガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂を充填する前後に、油圧シリンダを下方に駆動することにより、移動型を駆動し、キャビティ内の樹脂に圧縮力を印加することも、金型に施された突起形状を樹脂に転写するための有効な手段である。
【0020】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法により製造されるマイクロリアクター用樹脂基板の溝の断面形状としては特に限定されず、三角形、正方形、長方形等の多角形の形状;半円形、半楕円形等の円形形状が挙げられる。また、異なった形状の溝を組み合わせたものであってもよい。
上記溝の幅の好ましい下限は1μm、好ましい上限は3000μmであり、深さの好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は2000μmであり、断面積の好ましい下限は0.1μm2、好ましい上限は600万μm2である。溝が小さいと、検体中の侠雑物によりキャピラリーが詰まる原因となったり、流れが乱されたりする。溝が大きいと、必要な試料量が多くなる。
【0021】
また、上記溝の精度としては、少なくとも光学顕微鏡観察下において観察したときにばらつきが確認できない程度であることが好ましい。
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法により製造されたマイクロリアクター用樹脂基板を用いてなるμTAS又はマイクロリアクターでは、10pL〜100μL程度の微量の試料を用いる。このような極微量成分の分析や定量分析等を行う上では、形成した溝の上をより均一に流れることが必要であり、その点で溝の寸法精度が優れていることが求められる。一般に、μTAS又はマイクロリアクターを用いて微量成分の分析を行う場合には、溝体積の大きさは目的化学物質の検出量に比例する。更に、溝体積のばらつきは、溝中に流れる流体の流れ均一性を乱すため、目的化学物質の検出量のばらつきを更に増大する。一般に、目的化学物質の定量分析を行う場合には、たとえ簡易的な分析であっても、5%以内の分析精度であることが要求される。従って、意味のある検出結果を得るためには、少なくとも、溝を光学顕微鏡観察下において観察したときにばらつきが確認できない程度であることが求められる。
【0022】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、樹脂にガス化物質又は超臨界流体を溶解することにより、樹脂の粘度を著しく低下することができる。一般に樹脂に溶解されるガス化物質又は超臨界流体は、樹脂の分子鎖間に侵入することにより分子鎖間の相互作用を低減し、樹脂の粘度を低減する。
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、ガス化物質又は超臨界流体を溶解することにより低粘度化した樹脂を金型キャビティ内に充填することにより、金型キャビティの微細な溝又は微細な孔用の金型形状を正確に転写することができ、極めて高い精度の溝や孔が形成されたマイクロリアクター用樹脂基板を製造することができる。
【0023】
マイクロリアクター用樹脂基板では、酵素や抗体といった熱分解しやすい物質を、形成した直後に載せる場合が多い。例えば、血糖値(グルコース)分析用のグルコースオキシターゼをチップ上に固定した樹脂チップでは、グルコースオキシターゼを、グルコースオキシターゼが分解しない温度範囲にて、マイクロリアクター用樹脂基板上に固定化することが必要である。一般に酵素は100℃付近が瞬間的な接触においても限界温度であり、マイクロリアクター用樹脂基板の表面温度が100℃以下であることは、極めて重要である。
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、樹脂にガス化物質又は超臨界流体を溶解することにより樹脂の粘度を著しく低下することができることから、従来の樹脂基板の製造方法に比較して著しく低い温度で成形を行うことが可能となり、冷却工程を省略して酵素を固定化するための工程を著しく早めることができる。その他にも、成形温度を低く設定できることにより、後工程である表面処理や、センサーの搭載の際に、接合面に歪を生じにくく、剥がれや不均質化を防止できる。
【0024】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、金型そのものに加工を施す必要がないことから、極めて安価である。また樹脂にガス化物質又は超臨界流体を溶解する工程1は、金型キャビティの外で行うことから、得られる成形品の表面が焼けるといった問題を生じることもない。
【0025】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法に用いる樹脂としては特に限定されないが、安価なマイクロリアクター用樹脂基板を提供するという目的に鑑みれば、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等の安価な樹脂が好適である。
マイクロリアクター用樹脂基板を化学分析用途に用いる場合には、吸光光度測定や蛍光分析等、光学的に目的物質を検出することが多いことから、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の光透過性に優れた樹脂が好適である。
また、マイクロリアクター用樹脂基板を化学分析用途に用いる場合には、目的物質を検出するための反応物質として酸性物質やアルカリ性物質を用いることが多いことから、例えば、ポリオレフィン系樹脂等の耐酸・耐アルカリ性に優れる樹脂が好適である。ポリオレフィン系樹脂は、蛍光をほとんど発しないという点でも化学分析用途に適している。
【0026】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法に用いる樹脂としては、結晶性樹脂が好適である。溶解したガス化物質又は超臨界流体が気化して樹脂から抜ける際には気化潜熱を奪うことから、成形品の表面は優先的に冷却、結晶化されやすい。従って、結晶性樹脂を用いれば、金型転写面の微細形状が結晶化により早期に保持され、より精密に形状転写を行うことができる。また稀ではあるが、超臨界流体中で結晶性高分子が液晶状態を示す場合があり、このような場合には液晶−結晶転移の収縮率が非常に小さいため、更に精密に形状転写を行うことができる。
【0027】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法に用いる樹脂としては、MFR値が10.0以下であることが好ましい。MFR値は樹脂の分子量を反映する指標であり、一般にMFR値が小さいことは分子量が大きいことを意味する。MFR値が10.0以下である樹脂を用いれば、基板の耐薬品性、耐溶剤性、耐衝撃性と、種々の高性能化、高強度化を期待することができる。
従来、金型形状の精密な転写を行うためには、転写時の樹脂粘度を低くする必要があることから、このような高分子量の樹脂を用いることはできなかったが、本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、上述のようにガス化物質又は超臨界流体を溶解させることにより低粘度化を実現しているので、高分子量の樹脂を用いることができる。
【0028】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法に用いる樹脂は、層状珪酸塩を含有することが好ましい。層状珪酸塩を含有することにより、微細形状の転写性を更に向上することができる。
上記層状珪酸塩とは、層間に交換性陽イオンを有する珪酸塩鉱物を意味し、通常、厚さが約1nm、平均アスペクト比が約20〜200程度の微細な薄片状結晶がイオン結合により凝集してなるものをいう。
【0029】
上記層状珪酸塩としては特に限定されず、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等のスメクタイト系粘土鉱物、バーミキュライト、ハロイサイト等の天然雲母、膨潤性雲母(膨潤性マイカ)等の合成雲母等が挙げられ、天然のものでも合成されたものでも用いることができる。なかでも、膨潤性スメクタイト系粘度鉱物及び/又は膨潤性雲母が好適である。
【0030】
上記層状珪酸塩は、結晶表面(B)上のナトリウムやカルシウム等のイオンがカチオン性界面活性剤とイオン交換されたものであることが好ましい。これにより、層状結晶表面(B)は非極性化され、非極性樹脂中における層状珪酸塩の分散性が向上する。
【0031】
一般に、層状珪酸塩の結晶薄片は、例えば、図1に示したモンモリロナイトのように、珪素等のイオンの回りに4つの酸素イオンが配位した4面体、アルミニウム等のイオンの回りに6つの酸素イオンが配位した8面体、及び、OH基から構成され、各々の結晶薄片は、結晶表面(B)上にナトリウムやカルシウム等のカチオンが配列することによりイオン結合力により結びつけられている。結晶薄片を、樹脂中に微細に分散することができれば、結晶薄片と樹脂との比界面積は飛躍的に増大し、結晶薄片と樹脂との間に生じる相互摩擦力により、寸法安定性に優れたマイクロリアクター用樹脂基板を提供することができる。
【0032】
上記層状珪酸塩は、X線回折測定により検出される層状珪酸塩の平均層間距離が6nm以上あるように樹脂中に分散していることが好ましい。層状珪酸塩による樹脂の強化は、樹脂と層状珪酸塩との界面の面積が大きいほど効果的である。従って、層状珪酸塩がイオン結合力により互いに凝集した状態、即ち層間距離が6nm未満であると、層状珪酸塩の添加による改質効果は非常に小さいものとなる。
なお、上記層状珪酸塩の平均層間距離とは、層状珪酸塩の薄片状結晶の001面間の距離、即ち図1における2枚の薄片状結晶の中心間距離をいうものとする。図2に、平均層間距離が6nm以上の場合のX線回折プロファイルを、図3に、平均層間距離が6nm未満の場合のX線回折プロファイルを示した。図2では、層間距離2nmの位置に小さな回折ピークが現れるものの6nm以上のブロードな回折線により、層間距離の大部分が6nm以上であることがわかる。
【0033】
上記層状珪酸塩の配合量の好ましい下限は熱可塑性樹脂100重量部に対して0.01重量部、好ましい上限は150重量部である。0.01重量部未満であると、寸法安定性に対する効果を充分に発揮できないことがあり、150重量部を超えると、得られるマイクロリアクター用樹脂基板の透明性が失われることがある。より好ましい下限は1重量部、より好ましい上限は20重量部である。
【0034】
樹脂中に層状珪酸塩を分散させる方法としては特に限定されず、混練機等により混練する方法等の従来公知の方法を用いることができる。
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、樹脂に上記ガス化物質又は超臨界流体を溶解させることから、ガス化物質又は超臨界流体を層状珪酸塩の層間にも侵入せしめ、結晶表面(B)の層間可塑剤として作用させることにより、より層間を薄離しやすい状態にすることができる。
【0035】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板により作製したマイクロリアクター用樹脂基板は、表面に流動可能な微量試料が流動する微細な溝を有する基板、又は、所定の目的物質を検出するための微細反応孔を有する基板として好適に使用することができる。マイクロリアクター用樹脂基板の溝に、液体試料のサンプリング部、成分の異なる液体の合流部、希釈部、濃縮部、反応部、分離部、検出部を適宜設計・配置し、適当な素材にて蓋又はシールをして液漏れを防ぐことにより、マイクロリアクター又はμTASチップとすることができる。
【0036】
更に、液体を送液する手段として、例えば、ポンプ送液や電気浸透流による送液手段を付加することができる。上記電気浸透流を送液手段として用いる場合には、電気泳動分離を主な目的とした流路部分を作ることもできる。ポンプ送液や電気浸透流等のいずれの送液手段で送液する場合にも、1つの流路部分が複数の目的を兼ね備えていても良い。また、マイクロリアクター用樹脂基板は、流路が、1つの操作を主な目的とした流路部分のみからなっていてもよいが、複数の各々異なった操作を主な目的とした流路部分を組み合わせた流路となっていることにより、単なる定性分析ではなく、定量分析や反応等を伴うような高度な分析が可能な装置とする事ができる。
【0037】
一方、マイクロリアクター又はμTASチップの生産性の観点からは、少なくとも一方の板状部材は表面に液体が流れる溝を有する平板であって、この平板と他方の板又はフィルム状部材を、該平板の溝を内側にして張り合わせて作製されるキャピラリー構造をとることが好ましい。また、弾性フィルムを樹脂基板の上に貼ることにより、キャピラリーを形成する構造をとることも可能である。また、表面に液体が流れる溝を有する平板(板状部材)のみからなり、溝の上面が開放されたままの構造をとることも可能である。
【0038】
得られたマイクロリアクター又はμTASチップは、医療現場でのベッドサイド診断や環境汚染物質のオンサイト分析等に使用することができる。上記ベッドサイド診断としては、例えば、血液成分等の検査結果を外来患者が受診当日にその日の検査結果を知らさせ、その結果に基づく治療薬や治療方法の選択が行えるといったこと等が挙げられる。また、環境汚染物質のオンサイト分析としては、例えば、河川の汚濁、廃棄物中の有害物質の定量定性分析等が挙げられる。この利点として、従来には持ち帰ってGC−MS等の大掛かりな測定機器を用いることが必要であった分析を、持ち帰らずに汚染現場で行えるといったことが挙げられる。
【0039】
マイクロリアクター又はμTASチップの検出対象物質としては特に限定されないが、例えば、環境ホルモン物質、VOC、重金属、ダイオキシン等の環境汚染化学物質;血液、髄液、唾液、尿中等に含まれる生体成分;臓器、組織、粘膜由来の生体成分;感染源となる菌やウィルス等のタンパク質;DNA、RNA等の核酸;アレルゲン、種々の抗原等が挙げられる。
【0040】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
図4〜9に示した装置を用いてマイクロリアクター用樹脂基板を製造した。
図4において、1は射出成形装置、11は射出成形機1の射出シリンダ、12は耐圧ホッパー、13は耐圧ホッパー12の上に設けられたホッパー、14は発泡剤として使用する二酸化炭素のボンベ、15は加圧ポンプ、16はボンベ温調用ヒータ、141は圧力調整バルブ、121、122、123、124はバルブを表す。また、2は射出成形用金型であり、21は固定型、22は可動型である。
【0042】
図5、6において221は移動型、222はクサビであり、クサビ222は油圧装置224と接続される油圧シリンダ223の動作により昇降されるようになっており、図5に示すように油圧シリンダ223の作動によりクサビ222が降下したときはキャビティ3が縮小され、図6に示すように油圧シリンダ223の作動によりクサビ222が上昇するときはキャビティ3が拡大されるようになっている。このような移動機構は、キャビティ3に充填した樹脂に圧縮を掛けながら固化せしめる場合、もしくは、キャビティ3に充填した樹脂を意図的に発泡させたい場合に使用することができる。
【0043】
また、図5、6において、225は移動型とともに移動する転写金型であり、図5(b)に示すように50mm角の正方形状である。金型225がキャビティ3と接する面の上に、幅50μm、高さ50μmの突起が形成されている。凸形状の詳細を図7(平面図)、図8(断面図)にそれぞれ示した。図8は、図7におけるA−B間の断面図である。
【0044】
樹脂として、ポリメチルメタクリレート樹脂(住友化学工業社製、グレード:LG、MFR=10)を用い、これに以下に示す手順で、CO2(二酸化炭素)ガスを加えた。
まず、ポリメチルメタクリレート樹脂をホッパー13に投入し、耐圧ホッパー12内において、CO2ガスをポリメチルメタクリレート樹脂に、適当なガス圧により溶解させた。このとき、溶解するガス量が0.0001及び0.0003(mol−gas/cm3−polm.)となるようにガスの圧力を0.1〜5MPaに調整した。
【0045】
このCO2が溶解されたポリメチルメタクリレート樹脂を高圧ホッパー12からバルブ124を経て、180℃に設定された可塑化混練装置のシリンダ11内に供給し、可塑化混練装置の計量部に、図5(a)に示すキャビティ3(厚み2mm)の容量の分だけ溜めた。キャビティ3の形状は図5(b)に示すように、50mm角の正方形状である。次に、CO2溶解量においてパージを行い、フラッシュフローが生じるかどうか観察した。その後、ノズルタッチをし、CO2が添加されたポリメチルメタクリレート樹脂を、厚みを2mm、温度を23℃に調節したキャビティ3内に充填し、次いで30秒間冷却し金型2を開き、表面に溝形状が転写された樹脂基板を取り出した。
【0046】
(実施例2)
ポリメチルメタクリレート樹脂を、厚みを2mm、温度を23℃に調節したキャビティ3内に充填した後、図6に示す油圧シリンダ223の作動によりクサビ222を降下した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0047】
(実施例3)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリプロピレン樹脂(グレード:EA9、MFR=0.5)を用いた以外は実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0048】
(実施例4)
ポリメチルメタクリレート樹脂(グレード:MM、MFR=0.6)を用いる代わりに高分子量ポリメチルメタクリレート樹脂(住友化学工業社製、グレード:LG21)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0049】
(実施例5)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリスチレン樹脂(旭化成社製、グレード:G8259、MFR=1.0)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0050】
(実施例6)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリエチレン樹脂(日本ポリケム社製、グレード:SF520、MFR=0.8)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0051】
(実施例7)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、グレード:L−1225L、MFR=11.0)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0052】
(実施例8)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、グレード:L−1250Y、MFR=8)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0053】
(実施例9)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、グレード:L−1300Y、MFR=3)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0054】
(実施例10)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリプロピレン樹脂−膨潤性スメクタイト系粘度鉱物複合体を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
ポリプロピレン樹脂−膨潤性スメクタイト系粘度鉱物複合体は、日本製鋼所製小型押出機TEX30中に、ポリプロピレン樹脂(日本ポリケム製、グレード:EA9、MFR=0.5)、無水マレイン酸変性ポリプロピレンオリゴマー(三洋化成製 グレード;ユーメックス1001)、有機変性膨潤性スメクタイト系粘度鉱物(コープケミカル製、グレード:SAN)が、重量比率で84.6/7.7/7.7となるようにフィードし、設定温度200℃にて溶融混練し、押し出されたストランドをペレタイザーにてペレット化することにより得た。
得られたポリプロピレン樹脂−膨潤性スメクタイト系粘度鉱物複合体のMFRは1.3であった。
【0055】
(実施例11)
有機変性膨潤性スメクタイト系粘度鉱物(コープケミカル社製、グレード:SAN)の代わりに有機変性膨潤性雲母(コープケミカル社製、グレード:MAE)を用いて、実施例10と同様の方法によりポリプロピレン樹脂−膨潤性スメクタイト系粘度鉱物複合体を調製した。得られたポリプロピレン樹脂−膨潤性スメクタイト系粘度鉱物複合体のMFRは1.4であった。
このポリプロピレン樹脂−膨潤性スメクタイト系粘度鉱物複合体を用いた以外は、実施例10と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0056】
(実施例12)
可塑化混練装置のシリンダ11の温度を180℃とする代わりに120℃とした以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0057】
(実施例13)
CO2ガスをホッパー部に導入する代わりにシリンダ部に導入した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0058】
(実施例14)
CO2ガスをホッパー部に導入する代わりにスクリュー部に導入した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0059】
(実施例15)
CO2ガスを使用する代わりに超臨界状態のCO2流体を使用し、ホッパー部を50℃に温調し、10MPaの圧力により超臨界状態のCO2流体をホッパー部に導入した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
なお、CO2ガスは、50℃において8MPa以上の圧力を加えることにより超臨界状態に達する。
【0060】
(実施例16)
CO2ガスを使用する代わりにN2ガスを用いたそれ以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0061】
(実施例17)
CO2ガスを使用する代わりに空気を用いたそれ以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0062】
(比較例1)
CO2ガスを溶解する工程を省略した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0063】
(比較例2)
CO2ガスを溶解する工程を省略した以外は、実施例2と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0064】
(比較例3)
ポリメチルメタクリレート樹脂(グレード:MM、MFR=0.6)を用いる代わりにポリメチルメタクリレート(住友化学社製、グレード:LG2、MFR=15)を用い、また、CO2ガスを溶解する工程を省略した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0065】
(比較例4)
CO2ガスを溶解する工程を省略した以外は、実施例4と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0066】
(比較例5)
ポリメチルメタクリレート樹脂(グレード:MM、MFR=0.6)を用いる代わりにポリメチルメタクリレート(住友化学社製、グレード:MM、MFR=0.5)を用い、また、CO2ガスを溶解する工程を省略した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0067】
実施例1〜17及び比較例1〜5で作製した樹脂基板について、以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0068】
(転写性評価)
樹脂基板を、図9に示した1、2及び3の部分で切断し、溝の11、12、13、14、21、22、31、32部の断面形状をキーエンス社製光学顕微鏡(VHP40)にて観測し、金型表面の凸形状を忠実に転写しているかどうかを以下の基準により評価した。
◎:特に忠実に転写したもの
〇:目的物質の分析に問題の無い範囲で忠実に転写したもの
×:目的物質の分析に明らかに問題があるもの
【0069】
(透明性評価)
波長範囲400〜800nmの可視光の光線透過率を日立社製可視光スペクトロフォトメーター(U−3500)にて測定を行い、以下の基準により評価した。
◎:全光線透過率が90%以上だったもの
〇:全光線透過率が50以上90%未満だったもの
×:全光線透過率が50%未満であったもの
【0070】
(耐酸・耐アルカリ性評価)
樹脂基板の38%濃度の塩酸に3時間浸した後、目視にて以下の基準により評価した。
◎:マイクロリアクターとして使用するに際し、全く又はほとんど影響がない
○:マイクロリアクターとして使用するに際し、若干の影響はあるが使用に耐える
×:マイクロリアクターとして使えない
【0071】
【表1】
【0072】
表1から、実施例1〜17で作製した樹脂基板は、いずれも金型表面の凸形状を忠実に転写しているのに対し、比較例1〜5で作製した樹脂基板は、目的物質の分析に明らかに問題があった。
また、ポリメチルメタクリレート又はポリカーボネートを用いた場合には、全て90%以上の全光線透過率が得られ、またポリプロピレン樹脂やポリプロピレン樹脂−層状珪酸塩複合体、ポリスチレン樹脂を用いた場合には50%〜90%の全光線透過率が得られた。これに対し、比較例4のポリプロピレンを用いても、CO2ガスを用いない場合には、充分な光線透過率が得られなかった。これは、CO2ガスが存在することにより、結晶核生成がより頻繁に生じ、透明性が向上することに由来すると考えられる。透明性を有することは、マイクロリアクターにおいて必須ではないが、これを光学検出用途に用いる場合には、極めて重要な特性である。
【0073】
更に、MFRが10.0以上である樹脂を用いた場合には、所望の耐酸・耐アルカリ性を獲得できなかったのに対し、MFR値が10.0以下のものは全て所望の耐酸・耐アルカリ性を獲得することができた。特に、ポリカーネートやポリメチルメタクリレート樹脂を用いた場合には、ポリプロピレンやポリエチレンを用いた場合に比べて耐酸・耐アルカリ性が悪いため、よりMFR値の高い樹脂を用いて、耐酸・耐アルカリ性を改善する必要性が高い。本発明の方法を用いることにより、低MFR、即ち高分子量樹脂を用いても、マイクロリアクターに必要な精密転写性を得ることが可能であり、これはマリクロリアクター樹脂基板を作製する上で、極めて重要な特性である。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、安価かつ効率的な、極めて高い精度の溝や孔が形成されたマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】層状珪酸塩の結晶薄片の状態を説明するための模式図である。
【図2】層状珪酸塩の結晶薄片の平均層間距離が6nm以上の場合のX線回折プロファイルである。
【図3】層状珪酸塩の結晶薄片の平均層間距離が6nm未満の場合のX線回折プロファイルである。
【図4】実施例で用いた樹脂基板を製造する装置を示す模式図である。
【図5】実施例で用いた樹脂基板を製造する装置射出成形用金型を示す模式図である。
【図6】実施例で用いた樹脂基板を製造する装置射出成形用金型を示す模式図である。
【図7】実施例で作製した樹脂基板の凸形状を示す平面図である。
【図8】実施例で作製した樹脂基板の凸形状を示すA−B間の断面図である。
【図9】実施例の転写性評価において樹脂基板の切断方法を示す模式図である。
【符号の説明】
1 射出成形装置
11 射出成形機1の射出シリンダ
12 耐圧ホッパー
13 耐圧ホッパー12の上に設けられたホッパー
14 発泡剤として使用する二酸化炭素のボンベ
15 加圧ポンプ
16 ボンベ温調用ヒータ
141 圧力調整バルブ
121 バルブ
122 バルブ
123 バルブ
124 バルブ
2 射出成形用金型
21 固定型射出成形用金型
22 可動型射出成形用金型
221 移動型
222 クサビ
223 油圧シリンダ
224 油圧装置
3 キャビティ
【発明の属する技術分野】
本発明は、安価かつ効率的な、極めて高い精度の溝や孔が形成されたマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、微小領域において検体の分離・濃縮、化学反応及び分析を行う研究が盛んに行われている。検体の分離・濃縮や化学反応を微小領域にて行えば、反応器との熱交換効率を大幅に向上し、大幅にエネルギーコストを節約することが可能となる。また、多種類の反応工程を微小領域に集積化することができれば、コンビナトリアル合成を容易に実現することができる。更に、分析システムを微小化することにより、分析時間を大幅に短縮し、試料量・廃棄量を大幅に低減することができる等、非常に多くの利点を有している。
【0003】
近年の社会情勢変化の中にあって、医療診断を患者近傍で行うベッドサイド診断、大気・水・土壌中の環境汚染物質のモニタリング、食品の安全性の検査等、安価でかつ短時間に行う必要のある診断/分析技術に関するニーズは、益々高まっている。例えば、高齢者の増加の著しい近年にあって、患者近傍にて患者家族が診断した健康指標数値が在宅管理され、更には採取データを病院に定期的に送信することができれば、在宅医療環境を更に高めることが可能となる。また、例えば、重金属やダイオキシン、環境ホルモン等の環境汚染物質を、高価かつ大掛かりな装置を使用せずに簡易測定することができれば、よりきめの細かい安全環境を供出することが可能となる。水、大気、土壌における膨大量の汚染の生態系への危険が明らかにされてきた昨今において、一つ一つの汚染要因を安価かつ簡便に知ることは、極めて重要な事柄である。このような簡易測定の概念は、「Point Of Care(POC)」と呼ばれ、今後の社会において非常に重要な概念である。
【0004】
このような測定を簡易に行うためには、微量の試料を用いて測定を行えることが必要であるが、微量試料の分析・検出には、高い感度が求められる。従来、微量・高感度にて分析できる方法としては、キャピラリーガスクロマトグラフィー(CGC)、キャピラリー液体クロマトグラフィー(CLC)等で分離し、質量分析計(MS)で検出するGC−MS、LC−MS等が広く用いられてきた。しかし、高価で大掛かりなGC−MS、LC−MSを簡単に持ち運ぶことはできないという問題があった。従って、測定が必要な現場で簡易に分析することができる、「オンサイト分析」に対応した、分析・検出手法の開発ニーズは極めて高い。
【0005】
これに対して、数cm〜10cm角程度以下のチップの表面に溝や孔を刻んで、その溝や孔における分離、濃縮又は反応等を利用して、微小領域中で微量試料の分析をおこなう手法が提案されている。この手法は、μTAS(micro又はminiaturized total analysis system)又はマイクロリアクターと総称されている。このようなマイクロリアクターについては、1990年には非特許文献1に既に概念が紹介されている。
【0006】
マイクロリアクターに用いるチップの基板には、その加工性や精度の点から、主としてガラスや石英、シリコン等の無機材料が用いられてきた。例えば、半導体微細加工技術において広く用いられている光リソグラフィー技術を利用すれば、ガラス基板やシリコン基板上にミクロンオーダーの溝を自在に形成することができる。しかしながら、膨大な汚染サイトに関する分析を行うに際しては、測定チップを大量に生産し、簡単・安価に廃棄できることが重要であり、ガラスやシリコンは高価であるという問題があった。また、医療の現場においても、ガラス基板を使う場合には、廃棄の際に適切な処理費用を支払うことが義務付けられている。
【0007】
そこで、樹脂からなるマイクロリアクター用基板が検討されている。マイクロリアクター用樹脂基板は、コスト、廃棄物としての処理等の点でガラス等よりも優れていることに加え、軽い、割れない等の特徴を備えている。更に、転写金型を利用した射出成形やホットプレス成形を行うことにより、非常に高い生産性にて表面に溝や孔を形成することが可能である。
しかし、マイクロリアクター用樹脂基板の表面の溝や孔には、分析に用いる検体や流体が詰まったり漏れたりすることがないよう、極めて高い精度が要求される。射出成形によりマイクロリアクター用樹脂基板の表面に溝や孔を転写する場合においては、射出金型キャビティに樹脂を充填する工程中に金型面形状が充分に樹脂表面に転写されているかどうかに配慮する必要がある。
【0008】
特許文献1には、(1)樹脂の金型キャビティへの充填工程中に、金型に接する樹脂表面の固化温度を低下させつつ成形する方法、(2)断熱層被覆金型を用いる方法、(3)射出直前に高周波誘導加熱で金型表面を加熱して成形する方法、(4)射出直前に輻射加熱で金型表面を加熱して成形する方法、(5)樹脂を振動させつつ射出して成形する方法、(6)金型を振動させつつ射出する方法、(7)金型キャビティに二酸化炭素を10MPa以下の圧力で満たしておいて射出する方法が開示されている。しかしながら、(1)〜(6)の方法は、いずれも金型そのものに加工を施すことが必要であり設備コストの点で問題があった。また、(7)の方法は、二酸化炭素が金型表面付近で断熱圧縮されることにより、得られる成形品の表面が焼けてしまうことがあるという問題があった。
マイクロリアクター用樹脂基板の種々の特徴を活かすためには、安価で効率的な型面転写を可能にする成形技術の開発が必要不可欠であった。
【0009】
【非特許文献1】
A.Manz,N.Graber,H.M.Widmer:Sens.Actuators,B,1,244(1990)
【特許文献1】
特開平11−245270号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、安価かつ効率的な、極めて高い精度の溝や孔が形成されたマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、樹脂を射出成形法又は転写成形法により成形するマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法であって、少なくとも、樹脂に常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解する工程1と前記常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解した樹脂を金型キャビティ内に充填する工程2と、前記常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解した樹脂に金型キャビティ内の金型面形状を表面転写する工程3とを有するマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法である。
【0012】
なお、本明細書においてマイクロリアクター用樹脂基板とは、主として、1)樹脂基板表面に流動可能な微量試料が流動するための微細な溝を有し、微量検体が樹脂基板上で反応することにより検体中の目的物質を検出する構造を有するもの、2)微細孔を有する樹脂基板であり、微量検体が孔中で反応することにより検体中の目的物質を検出する構造を有するもの、3)樹脂基板表面に流動可能な微量試料が流動するための微細な溝を有し、微量試料が樹脂基板上で反応することにより目的物質を合成・製造する構造を有するもの、4)樹脂基板表面に流動可能な微量試料が流動するための微細な溝を有し、微量試料が樹脂基板上で吸着・脱着工程を経ることにより、目的物質を精製又は抽出する構造を有するものを意味する。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法は、樹脂を射出成形法又は転写成形法により成形する方法である。
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、まず、樹脂に常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解する工程1を行う。
【0014】
上記常温常圧でガス状の物質(以下、ガス化物質ともいう)としては、常温・常圧で気体状態の有機化合物又は無機化合物であれば特に限定されず、例えば、二酸化炭素ガス(炭酸ガス)、窒素ガス、フロンガス、アルゴンガス、低分子量の炭化水素等の有機ガス等が挙げられる。なかでも、ガスの回収が不要で取り扱いが安全な二酸化炭素ガスが好適である。
上記ガス化物質は、圧力を10kg/cm2以上、好ましくは100kg/cm2以上とすることにより、樹脂に溶解することができる。
【0015】
上記超臨界状態の物質(以下、超臨界流体ともいう)としては特に限定されないが、比較的低温低圧でも超臨界化する物質が好ましい。例えば、二酸化炭素は、60℃、60気圧で臨界流体となるため好適に用いられる。
なお、超臨界状態は、以下のように定義される。即ち、気相と液相の相変化を示す蒸気圧曲線は臨界点で終わりこれより高い温度では、気体と液体の区別がない状態となる。このような状態を超臨界状態と呼び、超臨界状態にあるものを超臨界流体と呼ぶ。超臨界流体は、気体と液体の中間的な性質を持ち、熱伝導が良く、拡散が早く、粘性が小さいという性質を持っている。このため、超臨界流体は、樹脂に容易に溶解することができる。
【0016】
上記ガス化物質又は超臨界流体を樹脂に溶解させる温度としては、樹脂が劣化しない温度であれば特に限定されないが、温度が高いほど樹脂に対するガス化物質又は超臨界流体の溶解量を増やすことができる。
【0017】
上記ガス化物質又は超臨界流体を樹脂に溶解させる量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.00002mol−gas/cm3−polm、好ましい上限は0.0016mol−gas/cm3−polmである。0.00002mol−gas/cm3−polm未満であると、樹脂の粘度を低減化する効果が得られないことがあり、0.0016mol−gas/cm3−polmを超えると得られるマイクロリアクター用樹脂基板に気泡が生じたり、強度が不足したりすることがある。より好ましい下限は0.00004mol−gas/cm3−polm、より好ましい上限は0.0008mol−gas/cm3−polmである。
【0018】
工程1において、上記ガス化物質又は超臨界流体を樹脂に溶解する方法としては、例えば、樹脂をペレット投入用のホッパーに投入し、ホッパー中に高圧にした上記ガス化物質又は超臨界流体を導入する方法が挙げられる。この方法は、静的状態で効率的にガス化物質又は超臨界流体を樹脂に溶解できることから、工業化に適した方法である。
また、樹脂を溶融押出機に投入し、シリンダの途中から高圧にしたガス化物質又は超臨界流体をシリンダ部分に導入する方法も好適である。この場合、溶融状態の樹脂により圧力シールがなされることから溶解速度が極めて速くなることから、工業化に適した方法である。
更に、樹脂を溶融押出機に投入し、スクリュー部に高圧にしたガス化物質又は超臨界流体を導入してスクリュー部の途中からシリンダ部分にガス化物質を導入する方法も好適である。一般の射出成形では、シリンダの内容積は射出サイクル中に変動するため、変動によりガス化物質又は超臨界流体の溶解状態の差異を生じる場合がある。スクリュー部にガス化物質又は超臨界流体を導入する方法は、均一にガス化物質又は超臨界流体を樹脂に溶解することできることから、工業化に適した方法である。
【0019】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、次いで、ガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂を金型キャビティ内に充填する工程2を行う。
工程2は、射出成形機中の射出シリンダを金型方向に駆動させることにより、ガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂を金型キャビティ内に吐出することにより行う。
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、次いで、ガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂に金型キャビティ内の金型面形状を表面転写する工程3を行う。
工程3は、射出成形機中の射出シリンダの駆動限界まで金型方向に駆動させ、ガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂を金型キャビティ内に充填することにより行う。金型キャビティの片面は、所望の突起形状を施した金型からなり、ガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂を充分に充填することにより、金型に施された突起形状がガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂の表面に転写される。また、ガス化物質又は超臨界流体を溶解した樹脂を充填する前後に、油圧シリンダを下方に駆動することにより、移動型を駆動し、キャビティ内の樹脂に圧縮力を印加することも、金型に施された突起形状を樹脂に転写するための有効な手段である。
【0020】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法により製造されるマイクロリアクター用樹脂基板の溝の断面形状としては特に限定されず、三角形、正方形、長方形等の多角形の形状;半円形、半楕円形等の円形形状が挙げられる。また、異なった形状の溝を組み合わせたものであってもよい。
上記溝の幅の好ましい下限は1μm、好ましい上限は3000μmであり、深さの好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は2000μmであり、断面積の好ましい下限は0.1μm2、好ましい上限は600万μm2である。溝が小さいと、検体中の侠雑物によりキャピラリーが詰まる原因となったり、流れが乱されたりする。溝が大きいと、必要な試料量が多くなる。
【0021】
また、上記溝の精度としては、少なくとも光学顕微鏡観察下において観察したときにばらつきが確認できない程度であることが好ましい。
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法により製造されたマイクロリアクター用樹脂基板を用いてなるμTAS又はマイクロリアクターでは、10pL〜100μL程度の微量の試料を用いる。このような極微量成分の分析や定量分析等を行う上では、形成した溝の上をより均一に流れることが必要であり、その点で溝の寸法精度が優れていることが求められる。一般に、μTAS又はマイクロリアクターを用いて微量成分の分析を行う場合には、溝体積の大きさは目的化学物質の検出量に比例する。更に、溝体積のばらつきは、溝中に流れる流体の流れ均一性を乱すため、目的化学物質の検出量のばらつきを更に増大する。一般に、目的化学物質の定量分析を行う場合には、たとえ簡易的な分析であっても、5%以内の分析精度であることが要求される。従って、意味のある検出結果を得るためには、少なくとも、溝を光学顕微鏡観察下において観察したときにばらつきが確認できない程度であることが求められる。
【0022】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、樹脂にガス化物質又は超臨界流体を溶解することにより、樹脂の粘度を著しく低下することができる。一般に樹脂に溶解されるガス化物質又は超臨界流体は、樹脂の分子鎖間に侵入することにより分子鎖間の相互作用を低減し、樹脂の粘度を低減する。
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、ガス化物質又は超臨界流体を溶解することにより低粘度化した樹脂を金型キャビティ内に充填することにより、金型キャビティの微細な溝又は微細な孔用の金型形状を正確に転写することができ、極めて高い精度の溝や孔が形成されたマイクロリアクター用樹脂基板を製造することができる。
【0023】
マイクロリアクター用樹脂基板では、酵素や抗体といった熱分解しやすい物質を、形成した直後に載せる場合が多い。例えば、血糖値(グルコース)分析用のグルコースオキシターゼをチップ上に固定した樹脂チップでは、グルコースオキシターゼを、グルコースオキシターゼが分解しない温度範囲にて、マイクロリアクター用樹脂基板上に固定化することが必要である。一般に酵素は100℃付近が瞬間的な接触においても限界温度であり、マイクロリアクター用樹脂基板の表面温度が100℃以下であることは、極めて重要である。
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、樹脂にガス化物質又は超臨界流体を溶解することにより樹脂の粘度を著しく低下することができることから、従来の樹脂基板の製造方法に比較して著しく低い温度で成形を行うことが可能となり、冷却工程を省略して酵素を固定化するための工程を著しく早めることができる。その他にも、成形温度を低く設定できることにより、後工程である表面処理や、センサーの搭載の際に、接合面に歪を生じにくく、剥がれや不均質化を防止できる。
【0024】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、金型そのものに加工を施す必要がないことから、極めて安価である。また樹脂にガス化物質又は超臨界流体を溶解する工程1は、金型キャビティの外で行うことから、得られる成形品の表面が焼けるといった問題を生じることもない。
【0025】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法に用いる樹脂としては特に限定されないが、安価なマイクロリアクター用樹脂基板を提供するという目的に鑑みれば、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等の安価な樹脂が好適である。
マイクロリアクター用樹脂基板を化学分析用途に用いる場合には、吸光光度測定や蛍光分析等、光学的に目的物質を検出することが多いことから、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の光透過性に優れた樹脂が好適である。
また、マイクロリアクター用樹脂基板を化学分析用途に用いる場合には、目的物質を検出するための反応物質として酸性物質やアルカリ性物質を用いることが多いことから、例えば、ポリオレフィン系樹脂等の耐酸・耐アルカリ性に優れる樹脂が好適である。ポリオレフィン系樹脂は、蛍光をほとんど発しないという点でも化学分析用途に適している。
【0026】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法に用いる樹脂としては、結晶性樹脂が好適である。溶解したガス化物質又は超臨界流体が気化して樹脂から抜ける際には気化潜熱を奪うことから、成形品の表面は優先的に冷却、結晶化されやすい。従って、結晶性樹脂を用いれば、金型転写面の微細形状が結晶化により早期に保持され、より精密に形状転写を行うことができる。また稀ではあるが、超臨界流体中で結晶性高分子が液晶状態を示す場合があり、このような場合には液晶−結晶転移の収縮率が非常に小さいため、更に精密に形状転写を行うことができる。
【0027】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法に用いる樹脂としては、MFR値が10.0以下であることが好ましい。MFR値は樹脂の分子量を反映する指標であり、一般にMFR値が小さいことは分子量が大きいことを意味する。MFR値が10.0以下である樹脂を用いれば、基板の耐薬品性、耐溶剤性、耐衝撃性と、種々の高性能化、高強度化を期待することができる。
従来、金型形状の精密な転写を行うためには、転写時の樹脂粘度を低くする必要があることから、このような高分子量の樹脂を用いることはできなかったが、本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、上述のようにガス化物質又は超臨界流体を溶解させることにより低粘度化を実現しているので、高分子量の樹脂を用いることができる。
【0028】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法に用いる樹脂は、層状珪酸塩を含有することが好ましい。層状珪酸塩を含有することにより、微細形状の転写性を更に向上することができる。
上記層状珪酸塩とは、層間に交換性陽イオンを有する珪酸塩鉱物を意味し、通常、厚さが約1nm、平均アスペクト比が約20〜200程度の微細な薄片状結晶がイオン結合により凝集してなるものをいう。
【0029】
上記層状珪酸塩としては特に限定されず、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等のスメクタイト系粘土鉱物、バーミキュライト、ハロイサイト等の天然雲母、膨潤性雲母(膨潤性マイカ)等の合成雲母等が挙げられ、天然のものでも合成されたものでも用いることができる。なかでも、膨潤性スメクタイト系粘度鉱物及び/又は膨潤性雲母が好適である。
【0030】
上記層状珪酸塩は、結晶表面(B)上のナトリウムやカルシウム等のイオンがカチオン性界面活性剤とイオン交換されたものであることが好ましい。これにより、層状結晶表面(B)は非極性化され、非極性樹脂中における層状珪酸塩の分散性が向上する。
【0031】
一般に、層状珪酸塩の結晶薄片は、例えば、図1に示したモンモリロナイトのように、珪素等のイオンの回りに4つの酸素イオンが配位した4面体、アルミニウム等のイオンの回りに6つの酸素イオンが配位した8面体、及び、OH基から構成され、各々の結晶薄片は、結晶表面(B)上にナトリウムやカルシウム等のカチオンが配列することによりイオン結合力により結びつけられている。結晶薄片を、樹脂中に微細に分散することができれば、結晶薄片と樹脂との比界面積は飛躍的に増大し、結晶薄片と樹脂との間に生じる相互摩擦力により、寸法安定性に優れたマイクロリアクター用樹脂基板を提供することができる。
【0032】
上記層状珪酸塩は、X線回折測定により検出される層状珪酸塩の平均層間距離が6nm以上あるように樹脂中に分散していることが好ましい。層状珪酸塩による樹脂の強化は、樹脂と層状珪酸塩との界面の面積が大きいほど効果的である。従って、層状珪酸塩がイオン結合力により互いに凝集した状態、即ち層間距離が6nm未満であると、層状珪酸塩の添加による改質効果は非常に小さいものとなる。
なお、上記層状珪酸塩の平均層間距離とは、層状珪酸塩の薄片状結晶の001面間の距離、即ち図1における2枚の薄片状結晶の中心間距離をいうものとする。図2に、平均層間距離が6nm以上の場合のX線回折プロファイルを、図3に、平均層間距離が6nm未満の場合のX線回折プロファイルを示した。図2では、層間距離2nmの位置に小さな回折ピークが現れるものの6nm以上のブロードな回折線により、層間距離の大部分が6nm以上であることがわかる。
【0033】
上記層状珪酸塩の配合量の好ましい下限は熱可塑性樹脂100重量部に対して0.01重量部、好ましい上限は150重量部である。0.01重量部未満であると、寸法安定性に対する効果を充分に発揮できないことがあり、150重量部を超えると、得られるマイクロリアクター用樹脂基板の透明性が失われることがある。より好ましい下限は1重量部、より好ましい上限は20重量部である。
【0034】
樹脂中に層状珪酸塩を分散させる方法としては特に限定されず、混練機等により混練する方法等の従来公知の方法を用いることができる。
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法では、樹脂に上記ガス化物質又は超臨界流体を溶解させることから、ガス化物質又は超臨界流体を層状珪酸塩の層間にも侵入せしめ、結晶表面(B)の層間可塑剤として作用させることにより、より層間を薄離しやすい状態にすることができる。
【0035】
本発明のマイクロリアクター用樹脂基板により作製したマイクロリアクター用樹脂基板は、表面に流動可能な微量試料が流動する微細な溝を有する基板、又は、所定の目的物質を検出するための微細反応孔を有する基板として好適に使用することができる。マイクロリアクター用樹脂基板の溝に、液体試料のサンプリング部、成分の異なる液体の合流部、希釈部、濃縮部、反応部、分離部、検出部を適宜設計・配置し、適当な素材にて蓋又はシールをして液漏れを防ぐことにより、マイクロリアクター又はμTASチップとすることができる。
【0036】
更に、液体を送液する手段として、例えば、ポンプ送液や電気浸透流による送液手段を付加することができる。上記電気浸透流を送液手段として用いる場合には、電気泳動分離を主な目的とした流路部分を作ることもできる。ポンプ送液や電気浸透流等のいずれの送液手段で送液する場合にも、1つの流路部分が複数の目的を兼ね備えていても良い。また、マイクロリアクター用樹脂基板は、流路が、1つの操作を主な目的とした流路部分のみからなっていてもよいが、複数の各々異なった操作を主な目的とした流路部分を組み合わせた流路となっていることにより、単なる定性分析ではなく、定量分析や反応等を伴うような高度な分析が可能な装置とする事ができる。
【0037】
一方、マイクロリアクター又はμTASチップの生産性の観点からは、少なくとも一方の板状部材は表面に液体が流れる溝を有する平板であって、この平板と他方の板又はフィルム状部材を、該平板の溝を内側にして張り合わせて作製されるキャピラリー構造をとることが好ましい。また、弾性フィルムを樹脂基板の上に貼ることにより、キャピラリーを形成する構造をとることも可能である。また、表面に液体が流れる溝を有する平板(板状部材)のみからなり、溝の上面が開放されたままの構造をとることも可能である。
【0038】
得られたマイクロリアクター又はμTASチップは、医療現場でのベッドサイド診断や環境汚染物質のオンサイト分析等に使用することができる。上記ベッドサイド診断としては、例えば、血液成分等の検査結果を外来患者が受診当日にその日の検査結果を知らさせ、その結果に基づく治療薬や治療方法の選択が行えるといったこと等が挙げられる。また、環境汚染物質のオンサイト分析としては、例えば、河川の汚濁、廃棄物中の有害物質の定量定性分析等が挙げられる。この利点として、従来には持ち帰ってGC−MS等の大掛かりな測定機器を用いることが必要であった分析を、持ち帰らずに汚染現場で行えるといったことが挙げられる。
【0039】
マイクロリアクター又はμTASチップの検出対象物質としては特に限定されないが、例えば、環境ホルモン物質、VOC、重金属、ダイオキシン等の環境汚染化学物質;血液、髄液、唾液、尿中等に含まれる生体成分;臓器、組織、粘膜由来の生体成分;感染源となる菌やウィルス等のタンパク質;DNA、RNA等の核酸;アレルゲン、種々の抗原等が挙げられる。
【0040】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
図4〜9に示した装置を用いてマイクロリアクター用樹脂基板を製造した。
図4において、1は射出成形装置、11は射出成形機1の射出シリンダ、12は耐圧ホッパー、13は耐圧ホッパー12の上に設けられたホッパー、14は発泡剤として使用する二酸化炭素のボンベ、15は加圧ポンプ、16はボンベ温調用ヒータ、141は圧力調整バルブ、121、122、123、124はバルブを表す。また、2は射出成形用金型であり、21は固定型、22は可動型である。
【0042】
図5、6において221は移動型、222はクサビであり、クサビ222は油圧装置224と接続される油圧シリンダ223の動作により昇降されるようになっており、図5に示すように油圧シリンダ223の作動によりクサビ222が降下したときはキャビティ3が縮小され、図6に示すように油圧シリンダ223の作動によりクサビ222が上昇するときはキャビティ3が拡大されるようになっている。このような移動機構は、キャビティ3に充填した樹脂に圧縮を掛けながら固化せしめる場合、もしくは、キャビティ3に充填した樹脂を意図的に発泡させたい場合に使用することができる。
【0043】
また、図5、6において、225は移動型とともに移動する転写金型であり、図5(b)に示すように50mm角の正方形状である。金型225がキャビティ3と接する面の上に、幅50μm、高さ50μmの突起が形成されている。凸形状の詳細を図7(平面図)、図8(断面図)にそれぞれ示した。図8は、図7におけるA−B間の断面図である。
【0044】
樹脂として、ポリメチルメタクリレート樹脂(住友化学工業社製、グレード:LG、MFR=10)を用い、これに以下に示す手順で、CO2(二酸化炭素)ガスを加えた。
まず、ポリメチルメタクリレート樹脂をホッパー13に投入し、耐圧ホッパー12内において、CO2ガスをポリメチルメタクリレート樹脂に、適当なガス圧により溶解させた。このとき、溶解するガス量が0.0001及び0.0003(mol−gas/cm3−polm.)となるようにガスの圧力を0.1〜5MPaに調整した。
【0045】
このCO2が溶解されたポリメチルメタクリレート樹脂を高圧ホッパー12からバルブ124を経て、180℃に設定された可塑化混練装置のシリンダ11内に供給し、可塑化混練装置の計量部に、図5(a)に示すキャビティ3(厚み2mm)の容量の分だけ溜めた。キャビティ3の形状は図5(b)に示すように、50mm角の正方形状である。次に、CO2溶解量においてパージを行い、フラッシュフローが生じるかどうか観察した。その後、ノズルタッチをし、CO2が添加されたポリメチルメタクリレート樹脂を、厚みを2mm、温度を23℃に調節したキャビティ3内に充填し、次いで30秒間冷却し金型2を開き、表面に溝形状が転写された樹脂基板を取り出した。
【0046】
(実施例2)
ポリメチルメタクリレート樹脂を、厚みを2mm、温度を23℃に調節したキャビティ3内に充填した後、図6に示す油圧シリンダ223の作動によりクサビ222を降下した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0047】
(実施例3)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリプロピレン樹脂(グレード:EA9、MFR=0.5)を用いた以外は実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0048】
(実施例4)
ポリメチルメタクリレート樹脂(グレード:MM、MFR=0.6)を用いる代わりに高分子量ポリメチルメタクリレート樹脂(住友化学工業社製、グレード:LG21)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0049】
(実施例5)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリスチレン樹脂(旭化成社製、グレード:G8259、MFR=1.0)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0050】
(実施例6)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリエチレン樹脂(日本ポリケム社製、グレード:SF520、MFR=0.8)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0051】
(実施例7)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、グレード:L−1225L、MFR=11.0)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0052】
(実施例8)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、グレード:L−1250Y、MFR=8)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0053】
(実施例9)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、グレード:L−1300Y、MFR=3)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0054】
(実施例10)
ポリメチルメタクリレート樹脂を用いる代わりにポリプロピレン樹脂−膨潤性スメクタイト系粘度鉱物複合体を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
ポリプロピレン樹脂−膨潤性スメクタイト系粘度鉱物複合体は、日本製鋼所製小型押出機TEX30中に、ポリプロピレン樹脂(日本ポリケム製、グレード:EA9、MFR=0.5)、無水マレイン酸変性ポリプロピレンオリゴマー(三洋化成製 グレード;ユーメックス1001)、有機変性膨潤性スメクタイト系粘度鉱物(コープケミカル製、グレード:SAN)が、重量比率で84.6/7.7/7.7となるようにフィードし、設定温度200℃にて溶融混練し、押し出されたストランドをペレタイザーにてペレット化することにより得た。
得られたポリプロピレン樹脂−膨潤性スメクタイト系粘度鉱物複合体のMFRは1.3であった。
【0055】
(実施例11)
有機変性膨潤性スメクタイト系粘度鉱物(コープケミカル社製、グレード:SAN)の代わりに有機変性膨潤性雲母(コープケミカル社製、グレード:MAE)を用いて、実施例10と同様の方法によりポリプロピレン樹脂−膨潤性スメクタイト系粘度鉱物複合体を調製した。得られたポリプロピレン樹脂−膨潤性スメクタイト系粘度鉱物複合体のMFRは1.4であった。
このポリプロピレン樹脂−膨潤性スメクタイト系粘度鉱物複合体を用いた以外は、実施例10と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0056】
(実施例12)
可塑化混練装置のシリンダ11の温度を180℃とする代わりに120℃とした以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0057】
(実施例13)
CO2ガスをホッパー部に導入する代わりにシリンダ部に導入した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0058】
(実施例14)
CO2ガスをホッパー部に導入する代わりにスクリュー部に導入した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0059】
(実施例15)
CO2ガスを使用する代わりに超臨界状態のCO2流体を使用し、ホッパー部を50℃に温調し、10MPaの圧力により超臨界状態のCO2流体をホッパー部に導入した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
なお、CO2ガスは、50℃において8MPa以上の圧力を加えることにより超臨界状態に達する。
【0060】
(実施例16)
CO2ガスを使用する代わりにN2ガスを用いたそれ以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0061】
(実施例17)
CO2ガスを使用する代わりに空気を用いたそれ以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0062】
(比較例1)
CO2ガスを溶解する工程を省略した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0063】
(比較例2)
CO2ガスを溶解する工程を省略した以外は、実施例2と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0064】
(比較例3)
ポリメチルメタクリレート樹脂(グレード:MM、MFR=0.6)を用いる代わりにポリメチルメタクリレート(住友化学社製、グレード:LG2、MFR=15)を用い、また、CO2ガスを溶解する工程を省略した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0065】
(比較例4)
CO2ガスを溶解する工程を省略した以外は、実施例4と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0066】
(比較例5)
ポリメチルメタクリレート樹脂(グレード:MM、MFR=0.6)を用いる代わりにポリメチルメタクリレート(住友化学社製、グレード:MM、MFR=0.5)を用い、また、CO2ガスを溶解する工程を省略した以外は、実施例1と同様の方法にて、表面に溝形状が転写された樹脂基板を作製した。
【0067】
実施例1〜17及び比較例1〜5で作製した樹脂基板について、以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0068】
(転写性評価)
樹脂基板を、図9に示した1、2及び3の部分で切断し、溝の11、12、13、14、21、22、31、32部の断面形状をキーエンス社製光学顕微鏡(VHP40)にて観測し、金型表面の凸形状を忠実に転写しているかどうかを以下の基準により評価した。
◎:特に忠実に転写したもの
〇:目的物質の分析に問題の無い範囲で忠実に転写したもの
×:目的物質の分析に明らかに問題があるもの
【0069】
(透明性評価)
波長範囲400〜800nmの可視光の光線透過率を日立社製可視光スペクトロフォトメーター(U−3500)にて測定を行い、以下の基準により評価した。
◎:全光線透過率が90%以上だったもの
〇:全光線透過率が50以上90%未満だったもの
×:全光線透過率が50%未満であったもの
【0070】
(耐酸・耐アルカリ性評価)
樹脂基板の38%濃度の塩酸に3時間浸した後、目視にて以下の基準により評価した。
◎:マイクロリアクターとして使用するに際し、全く又はほとんど影響がない
○:マイクロリアクターとして使用するに際し、若干の影響はあるが使用に耐える
×:マイクロリアクターとして使えない
【0071】
【表1】
【0072】
表1から、実施例1〜17で作製した樹脂基板は、いずれも金型表面の凸形状を忠実に転写しているのに対し、比較例1〜5で作製した樹脂基板は、目的物質の分析に明らかに問題があった。
また、ポリメチルメタクリレート又はポリカーボネートを用いた場合には、全て90%以上の全光線透過率が得られ、またポリプロピレン樹脂やポリプロピレン樹脂−層状珪酸塩複合体、ポリスチレン樹脂を用いた場合には50%〜90%の全光線透過率が得られた。これに対し、比較例4のポリプロピレンを用いても、CO2ガスを用いない場合には、充分な光線透過率が得られなかった。これは、CO2ガスが存在することにより、結晶核生成がより頻繁に生じ、透明性が向上することに由来すると考えられる。透明性を有することは、マイクロリアクターにおいて必須ではないが、これを光学検出用途に用いる場合には、極めて重要な特性である。
【0073】
更に、MFRが10.0以上である樹脂を用いた場合には、所望の耐酸・耐アルカリ性を獲得できなかったのに対し、MFR値が10.0以下のものは全て所望の耐酸・耐アルカリ性を獲得することができた。特に、ポリカーネートやポリメチルメタクリレート樹脂を用いた場合には、ポリプロピレンやポリエチレンを用いた場合に比べて耐酸・耐アルカリ性が悪いため、よりMFR値の高い樹脂を用いて、耐酸・耐アルカリ性を改善する必要性が高い。本発明の方法を用いることにより、低MFR、即ち高分子量樹脂を用いても、マイクロリアクターに必要な精密転写性を得ることが可能であり、これはマリクロリアクター樹脂基板を作製する上で、極めて重要な特性である。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、安価かつ効率的な、極めて高い精度の溝や孔が形成されたマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】層状珪酸塩の結晶薄片の状態を説明するための模式図である。
【図2】層状珪酸塩の結晶薄片の平均層間距離が6nm以上の場合のX線回折プロファイルである。
【図3】層状珪酸塩の結晶薄片の平均層間距離が6nm未満の場合のX線回折プロファイルである。
【図4】実施例で用いた樹脂基板を製造する装置を示す模式図である。
【図5】実施例で用いた樹脂基板を製造する装置射出成形用金型を示す模式図である。
【図6】実施例で用いた樹脂基板を製造する装置射出成形用金型を示す模式図である。
【図7】実施例で作製した樹脂基板の凸形状を示す平面図である。
【図8】実施例で作製した樹脂基板の凸形状を示すA−B間の断面図である。
【図9】実施例の転写性評価において樹脂基板の切断方法を示す模式図である。
【符号の説明】
1 射出成形装置
11 射出成形機1の射出シリンダ
12 耐圧ホッパー
13 耐圧ホッパー12の上に設けられたホッパー
14 発泡剤として使用する二酸化炭素のボンベ
15 加圧ポンプ
16 ボンベ温調用ヒータ
141 圧力調整バルブ
121 バルブ
122 バルブ
123 バルブ
124 バルブ
2 射出成形用金型
21 固定型射出成形用金型
22 可動型射出成形用金型
221 移動型
222 クサビ
223 油圧シリンダ
224 油圧装置
3 キャビティ
Claims (8)
- 樹脂を射出成形法又は転写成形法により成形するマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法であって、少なくとも、
樹脂に常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解する工程1と
前記常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解した樹脂を金型キャビティ内に充填する工程2と、
前記常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質を溶解した樹脂に金型キャビティ内の金型面形状を表面転写する工程3とを有する
ことを特徴とするマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法。 - 常温常圧でガス状の物質又は超臨界状態の物質は、二酸化炭素ガス又は二酸化炭素超臨界流体であることを特徴とする請求項1記載のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法。
- 樹脂は、結晶性樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法。
- 樹脂のMFR値が10.0以下であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法。
- 樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法。
- 樹脂は、樹脂100重量部に対して層状珪酸塩を0.01〜150重量部含んでいることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法。
- 層状珪酸塩は、膨潤性スメクタイト系粘度鉱物及び/又は膨潤性雲母であることを特徴とする請求項6記載のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法。
- 層状珪酸塩は、X線回折測定により検出される層状珪酸塩の平均層間距離が6nm以上あるように樹脂中に分散していることを特徴とする請求項6又は7記載のマイクロリアクター用樹脂基板の製造方法。
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JP2009102689A (ja) * | 2007-10-23 | 2009-05-14 | Panasonic Corp | 粉体成形方法とそれに用いる粉体成形用金型 |
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2002
- 2002-12-09 JP JP2002356920A patent/JP2004188662A/ja active Pending
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2009102689A (ja) * | 2007-10-23 | 2009-05-14 | Panasonic Corp | 粉体成形方法とそれに用いる粉体成形用金型 |
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