JP2004135520A - 挿し木用穂木、根付き穂木、並びにそれを用いた緑化方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】始めからかなり太い生木を挿し木又は移植して、法面等の樹林復元及び緑化を可能とする。
【解決手段】比較的太い軸径D(3〜12[cm])なる丸太様の常緑広葉樹の生木1からなり、下端を軸径断面積に対して150〜1000[%]の面切り2すると共にオーキシン処理し、かつ上端切断面に蒸散防止材3を塗布する。該穂木1を法面等に直接挿し木するか、苗圃にて挿し木・活着して根付き穂木とし後、法面等に移植して、緑化を図る。
【選択図】 図1
【解決手段】比較的太い軸径D(3〜12[cm])なる丸太様の常緑広葉樹の生木1からなり、下端を軸径断面積に対して150〜1000[%]の面切り2すると共にオーキシン処理し、かつ上端切断面に蒸散防止材3を塗布する。該穂木1を法面等に直接挿し木するか、苗圃にて挿し木・活着して根付き穂木とし後、法面等に移植して、緑化を図る。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、造成現場での緑化、住宅の生垣、鉢植え等のあらゆる分野の植栽に適用可能であるが、特に道路開発や宅地開発等の造成工事により生じた法面の緑化に適用して好適である。
【0002】
【従来の技術】
山地が国土の約8割を占め、しかも地形が急峻で複雑に入り組む我が国では、道路の開設や宅地開発等の事業に伴い長大な法面が発生しやすい。住宅開発により新都市を形成する際には、法面が開発面積の10%以上出現するとも言われている。法面は土壌浸食防止や斜面崩壊防止等の防災面だけでなく、立面として広い範囲から眺望され、視界を占めるため実際の面積以上に目に付きやすく、景観面でも影響が大きく修景緑化が必要である。しかし、法面は植栽のための土壌改良が困難な斜面地であることから、従来は専らヨーロッパ産牧草種による吹付けが行われる程度で、そのまま放置したり、コンクリート等により舗装されることも少なくなかった。戦後の経済成長の過程で全国各地で行われた開発事業地の多くにおいて、今なお負の遺産としての殺風景な法面が地域の景観を貧化させている。
【0003】
近年、景観保全や生態系保全の観点から緑化や自然復元に対する関心が高まり、法面緑化等においても単なる当面の緑化修景だけでなく、周囲の景観や環境との繋がりを考えた植生計画、さらに種の多様性保全や野生生物の移動に配慮した植生が求められるようになってきている。これに伴って、今後は種々の在来種を用いた、四季の景観性や多様性に富んだ緑化が必要になると考えられる。現在、法面や造成裸地における樹林化の手法として成木の移植やポット苗による植栽がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述した法面又は造成裸地での樹林化は、急傾斜な法面では施工が困難であったり、活着までに潅水管理や下草刈を要する人手がかかり、経済的な負担も大きい。成木にあっては、重量があり、法面への運搬や移植作業が面倒であり、かつ移植に際して根まわし等の前処理をしているため、風等により倒れる虞れもある。また、ポット苗は幹が細いため、下草刈りの際に刈り取られたり、傷害をうけやすいという問題もある。
【0005】
さらに、上記前処理された成木や苗圃でミスト育成されたポット苗は、法面等の厳しい環境条件に適応が困難な傾向にあり、順調な根系の発達が進まないために、盛り土法面では斜面崩壊を招く可能性があるなど未だ課題が多い。一方、成木やポット苗は在来種であっても、その種子や系統、生産地等が遠隔の地から取り寄せられることも多く、このことが地域遺伝子の撹乱を招く危険性もはらんでいる。
【0006】
一方、公園の植栽、並木等では、かなり大きな成木を移植することになるが、これでは同様に、成木の運搬作業、移植前の根まわし等の前処理に多大な手間を必要とし、大きなコストを必要とする面倒な作業になっている。また、住宅の生垣は、一般に稚苗を移植して、竹等の支柱により支える必要があり、植木業者等の専門職の仕事となり、また生垣になるまで長い年月が必要であった。
【0007】
そこで、本発明は、幹等の初めからかなり太い生木による挿し木又は該挿し木による根付き穂木を用いて、法面等の樹林復元及び緑化を可能とするものであり、上述した地盤保全性、維持管理性、景観性、種多様性等の課題を解決した挿し木用穂木、根付き穂木、並びにそれを用いた緑化方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る本発明は(例えば図1参照)、軸径(D)が略々3〜12[cm]で、長さ(L)が略々30〜160[cm]の常緑広葉樹の生木(1)からなり、
下端が、軸径断面積に対して150〜1000[%]の面積を有するように面切りされると共に、該面切り部(2)に高濃度のオーキシン剤を10[秒]以内の短時間で浸すオーキシン処理が施され、
上端切断面に蒸散防止材(3)が塗布されてなる、
ことを特徴とする挿し木用穂木にある。
【0009】
請求項2に係る本発明は、前記生木の中間部分に、前記オーキシン処理を施した、樹皮(1a)を幅略々0.5〜5[cm]で環状に剥した剥皮部(4)を有する、
請求項1記載の挿し木用穂木にある。
【0010】
請求項3に係る本発明は(例えば図2参照)、請求項1又は2記載の挿し木用穂木(1)を、該穂木の育成に適した苗圃(H;図7参照)に挿し付けして、
前記面切り部(2)及び/又は前記剥皮部(4)から発根(6)すると共に、挿し木した地上部から適当数の枝葉(7)が萌芽した後、移植用として上記苗圃から抜き上げてなる、
ことを特徴とする根付き穂木(9)にある。
【0011】
請求項4に係る本発明は(例えば図3,図4参照)、幹径が3〜12[cm]の原木を採取する採取行程(P1)と、
上記原木の幹部又は太枝部を所定長さに切断する玉切り行程(P2)と、
上記切断した穂木の下端を、軸径断面積に対して150〜1000[%]の面積を有するように面切りする面切り行程(P3)と、
上記面切りした部分をオーキシン剤に浸すオーキシン処理行程(P5)と、
上記穂木の上端切断面に蒸散防止材を塗布する蒸散防止行程(P6)と、
上記穂木(1)を、開発等により生じた法面(N)に比較的深く挿し付け、該穂木が杭様に自立して土留め機能をなす挿し木行程(P7)と、
上記穂木が発根、萌芽して活着し、樹木として育成して土留め機能をなす活着・育成行程(P8)と、
を備えたことを特徴とする緑化方法にある。
【0012】
請求項5に係る本発明は(例えば図3,図5参照)、幹径が3〜12[cm]の原木を採取する採取行程(P1)と、
上記原木の幹部又は太枝部を所定長さに切断する玉切り行程(P2)と、
上記切断した穂木の下端を、軸径断面積に対して150〜1000[%]の面積を有するように面切りする面切り行程(P3)と、
上記面切りした部分をオーキシン剤に浸すオーキシン処理行程(P5)と、
上記穂木の上端切断面に蒸散防止材を塗布する蒸散防止行程(P6)と、
開発等により生じた法面に略々鉛直方向に縦穴(10)を掘り、また該縦穴の底部(10a)に連通するように略々水平方向に横穴(11)を掘って、該横穴を水抜き穴となし、上記縦穴に通気性・透水性の高い土(12)を客土すると共に上記穂木(1)を挿し付ける挿し木行程(P7)と、
上記穂木が発根、萌芽して活着し、樹木として育成する活着・育成行程(P8)と、
を備えたことを特徴とする緑化方法にある。
【0013】
請求項6に係る本発明は(例えば図6,図7参照)、幹径が3〜12[cm]の原木を採取する採取行程(P1)と、
上記原木の幹部又は太枝部を所定長さに切断する玉切り行程(P2)と、
上記切断した穂木の下端を、軸径断面積に対して150〜1000[%]の面積を有するように面切りする面切り行程(P3)と、
上記面切りした部分をオーキシン剤に浸すオーキシン処理行程(P5)と、
上記穂木の上端切断面に蒸散防止材を塗布する蒸散防止行程(P6)と、
上記穂木(1)を、該穂木の育成に適した苗圃(H)に挿し付け、発根すると共に適当数の枝葉を萌芽する活着行程(P10)と、
上記活着行程により発根・萌芽した根付き穂木を前記苗圃から抜き上げ、所定の場所に自立した状態で移植する移植行程(P11)と、
該移植した根付き穂木を上記所定の場所で樹木として育成する育成行程(P12)と、
を備えたことを特徴とする緑化方法にある。
【0014】
請求項7に係る本発明は(例えば図9参照)、前記移植行程は、開発等により生じる法面(N)に行われ、
該法面に、略々鉛直方向に縦穴(10)を掘ると共に、該縦穴の底部(10a)に連通するように略々水平方向に横穴(11)を掘り、
上記縦穴に、樹木の育成に適した土(12)と共に前記根付き穂木(9)を移植し、かつ前記横穴(11)を水抜き穴としてなる、
請求項6記載の緑化方法にある。
【0015】
請求項8に係る本発明は、前記穂木を挿し付ける前に、該挿し付けた状態の穂木における地表面から比較的近い地中部分に相当する部分の樹皮を環状に剥す環状剥皮行程(P4)を行うと共に、該環状剥皮部分に前記オーキシン処理を行う、
請求項4ないし7のいずれか記載の緑化方法にある。
【0016】
請求項9に係る本発明は、前記採取行程(P1)により採取した原木を、該採取地と略々同一地域にて前記樹木に生育する、
請求項4ないし8のいずれか記載の緑化方法にある。
【0017】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより各請求項の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【0018】
【発明の効果】
請求項1に係る本発明によると、比較的太い軸径からなる、丸太様の生木を挿し木として用いるので、支柱等の必要がなく、かつ刈払い機等による草刈りに対して抵抗性があり、更にある程度の高さから枝葉を発達させるため、雑草による遮光の影響に対しても抵抗性を有し、また成木の移植に比して、軽量かつコンパクトなため、運搬や挿し付け作業が簡便であり、樹木の活着・育成作業が容易となる。
【0019】
更に、幼苗の植付けではなく、始めから所定太さ及び長さの生木を挿し木するので、緑化、生け垣等としての所期目的を早期に達成することができる。そして、アラカシ、ヤブツバキ等の常緑広葉樹を用い、かつ軸径に対する切り面の面積、該切り面のオーキシン処理、及び上端切断面への蒸散防止材の塗布が相俟って、樹木としての活性力(エネルギ)、土中からの水分の吸い上げ、空気中への水分の蒸散がバランスして、発根、萌芽して活着する率を向上することができる。
【0020】
請求項2に係る本発明によると、生木の中間部分に環状剥皮部を設けたので、該環状剥皮部から発根することにより、穂木を深く挿し木することが可能となり、法面等において該穂木自体を杭として土留めする効果を向上し、または土壌水分含有量の低い所での活着率を高めることができる。
【0021】
請求項3に係る本発明によると、挿し木において最も困難な時期を、穂木の育成に適した苗圃に挿し木して活着するので、土壌条件が適当ではなく、直接挿し木する場合の活着率が低い状態にあっても、上記困難な時期を乗り切った根付き穂木を移植することにより、比較的太い軸径からなる丸太様の穂木を高い確率で育成することができる。また、該根付き穂木も、成木に比して軽量かつコンパクトであるため、運搬や移植作業も容易となり、かつ上述と同様に、草刈りや遮光に対して抵抗性を備え、育成作業も容易である。
【0022】
請求項4に係る本発明によると、上述した挿し木用穂木を、道路開発や宅地開発等の造成工事により生じた法面に、例えば50[cm]以上等の比較的深く挿し木し、該丸太様の穂木自体を杭様に自立して土留め機能を持たせ、該挿し木直後において、雨等により法面の土が流れたり、崩れたりすることの一応の防止を図る。そして、この状態で、上記穂木は、発根、萌芽して、根が張ることにより、また枝葉及び比較的太い幹が水分を蓄える等により、法面の土留め機能を保持しつつ樹木として育成し、該樹木の生長に伴って更に確実な土留め機能を発揮すると共に、法面の緑化を図ることができる。
【0023】
また、法面は、切り土等に形成され、一般に土壌条件は悪いが、挿し木となる生木が比較的太い幹等からなり、生木自体に充分な保水力を有すると共に、比較的深い挿し木により毛管水に達し、かつ該切り土等の法面では、腐朽菌が存在しないか又は存在していても少なく、高い活着率にて育成することができる。
【0024】
請求項5に係る本発明によると、法面に縦穴を掘ると共に該縦穴の底部に連通する横穴を掘り、縦穴に活着・育成に適した土と共に穂木を挿し付け、かつ上記横穴は水抜き穴とするので、良好な土壌条件でない法面にあっても、上記水はけのよい縦穴への客土により、挿し木の活着率を向上することができる。また、法面は、傾斜地である由に充分な土壌改良が困難な場合が多いが、上記縦穴への限られた客土は比較的容易に行うことができ、これにより高い活着率で発根し、その後の周囲や深部への根系の発達が進みにくいが、根茎の発達程度に対応して株立ち状の低木林になるため、高木に育つことによる強風時の根返りを防ぐことができ、かえって法面の緑化法として合致している。
【0025】
請求項6に係る本発明によると、穂木の育成に適した苗圃に挿し付けして、発根・萌芽して活着した後、該根付き穂木を抜き上げて、開発により生じた法面、公園、道路、又は生け垣等の所定の場所に自立して移植するので、比較的条件の悪い土壌において高い活着率にて樹木として育成することが可能となる。
【0026】
請求項7に係る本発明によると、良好な土壌条件でない法面にあっても、水抜き穴により水はけのよい縦穴に客土した土に根付き穂木を移植するので、高い活着率で活着して育成して、法面の緑化を図ることができる。
【0027】
請求項8に係る本発明によると、オーキシン処理した環状剥皮を有するので、穂木を比較的深く挿し付けても、挿木下端の面切り部から水分を吸い上げると共に、地表近くの環状剥皮部分から発根して、上述した杭様に自立した土留めの機能の効果を高めると共に、上記環状剥皮部分からの発根による土留め機能も向上、また水分の少ない土壌条件であっても、挿し木の活着率を向上することができる。
【0028】
請求項9に係る本発明によると、緑化する対象地域と同一地域にて原木を採取するので、開発事業対象地や地域の里山等に生育する既存木の幹や枝を活用するものであって、景観的にも生態的にも整合性があり、かつ地域の気候条件等にも適応性が高く、更に地域遺伝子の撹乱等の虞れもなく、自然に適合した緑化を図ることができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。まず、宅地造成、道路開発が計画されている対象地又は該対象地近くの旧薪炭林等里山林から、所定太さのヤブツバキ、アラカシ、イヌツゲ、サカキ、ネズミモチ等の常緑広葉樹を根本近くの略々通直になった部位で伐採し、直ちに枝下しを行う(図3及び図6の採取行程P1)。この際、樹木の軸径が適当で、活力及び樹勢が比較的良好なものを選定し、幹量に対して枝葉量の少ない被圧木等は除外する。なお、伐採した生木は、冷蔵庫等で保管すれば長期保存も可能であるが、伐採地付近の日影で保存する場合、アラカシで2週間、ヤブツバキで2ヵ月以内に挿し木することが好ましく、できればなるべく早期に挿し木として使用する方が良好な結果が得られる。従って、開発対象地から原木を採取する場合、挿し木時期に合せて、対象地の一部を現状保存する等の開発計画が必要となる。
【0030】
開発対象地からの原木採取は、工事により失われる自然資源の有効利用の効果があり、かつ該対象地付近の里山林から採取も含めて、緑化復元された樹林が周囲の地域景観に馴染み、更に地域遺伝子の撹乱防止等の問題を生じないことからも好都合である。なお、上記開発対象地からの原木採取は、上述した理由で好ましいが、必ずしもこれに限定するものではなく、広域流域からの採取、又はやむを得ない場合は、遠隔地から採取してもよい。
【0031】
ついで、上記伐採した樹木は、幹及び太枝を30〜160[cm]、好ましくは50〜100[cm]の長さに切断(玉切り)する(図3及び図6の玉切り行程P2)。該玉切り長さは、樹種によって、また挿し付けや移植地の条件、目的によって設定される。該玉切りされた幹(以下、太枝も含み穂木という)は、上述したようになるべく早期(2〜3日中)に、後述する前処理を行うが、その前に該穂木の基部を、流水又はタンク等の容器中の水に12時間前後浸漬する。
【0032】
上記前処理として、図3又は図6に示すように、面切り行程P3、環状剥皮行程P4、オーキシン処理行程P5及び蒸散防止行程P6がある。面切り行程P3は、切断面から土壌水分を吸収するため、上記玉切りした基部を斜めに切断する作業であり、該面切りは、2面切り又は1面切りがあるが、いずれの場合でも切断面2(玉切り面;図1参照)の面積は、軸径断面積に対して150〜1000[%]、好ましくは150〜700[%]の範囲内に設定される。即ち、1面切りの場合、150〜500[%]、好ましくは150〜350[%]であり、2面切りの場合、300〜1000[%]、好ましくは300〜700[%]であり、該切断面積、即ち切断長さは、穂木の長さ及び地中部への挿し付け深さにより調整される。なお、鋸やチェンソー等で切断した場合、表面がささくれて細胞の壊死等が生ずるため、鋭利な刃物により切り返す作業を必要とする。
【0033】
環状剥皮行程P4は、幅0.5〜5[cm]、好ましくは1〜2[cm]の幅Eで樹皮1a(図1参照)を環状に切取り・剥す作業であり、該剥皮部4は、地中の深い場所よりも通気性が良好で、かつ加湿の影響も比較的少ない、地表面から10〜15[cm]の部位からの発根を促進するためのものである。なお、該環状剥皮行程P4は、地中への挿し付け深さが30[cm]程度以下の比較的浅い場合は必要ではなく、また環状剥皮の代わりに、当該部位のところどころにナイフや彫刻刀等の刃物で、樹皮を剥ぎ取ってもよい。
【0034】
オーキシン処理行程P5は、β−3−インドール酪酸(IBA)等のオーキシン剤に上記面切り部2及び環状剥皮部4を浸す作業であり、上記IBA溶液は、2000[PPM]等の比較的濃度の高いものを用意し、該溶液中に10[秒]以下、好ましくは3[秒]程度の短時間浸漬する。そして、該オーキシン溶液に浸漬された穂木は、該浸漬された部分が地面等に触れないようにして、30[分]程度風乾する。一般に、オーキシン剤は、細胞分裂の促進、発根作用等の効果を有し、上記2000[PPM]のように高濃度では逆に阻害的に働くが上記瞬間浸漬処理することにより、地中部での発根を促すと共に、枝葉の萌芽を相対的に抑制することが本発明者等により発見された。なお、オーキシン剤は、上記IBAに限らず、α−ナフタレン酢酸(NAA)等の他のものでもよい。
【0035】
蒸散防止行程P6は、穂木の上部切断面及び枝下しした切断面に、接蝋等の蒸散防止材3を塗布する作業であり、挿し付けした後、大気中にある上記切断面から穂木の水分が蒸散することを防止するためのものである。なお、該蒸散防止行程は、原木採取後、1日程度以内の早期に挿し付ける場合は、挿し付け後に行ってもよいが、一応、この場合も前処理とする。
【0036】
以上各行程P1〜P6により、挿し木(以下、太枝も含んで幹挿し木という)用の穂木が作られる。該穂木1は、図1に示すように、幹径Dが3〜12[cm]、好ましくは4〜10[cm]、6〜7[cm]が最適であり、長さLが30〜160[cm]、好ましくは50〜100[cm]である。幹径が3[cm]以下では、穂木としての貯水容量及び草刈り等に対する抵抗性が充分でなく、かつ法面に杭様に自立して土留め機能を奏するのに充分でなく、12[cm]以上では、細胞の成熟化による分化力(再生エネルギ)に乏しく、また運搬等の作業にも労力を要する。また長さが30[cm]以下では、土中への挿し付け量が不足すると共に、雑草による被圧の影響があり、160[cm]以上では、運搬、挿し付け又は移植作業、特に法面での作業が面倒となる。
【0037】
更に、面切り部2が、軸径断面積に対して150〜1000[%]、好ましくは300〜700[%]であり、かつ面切り部2(及び環状剥皮部4)にオーキシン処理が施されると共に、上端切断面に蒸散防止材3が塗布されている。これらが相俟って、土壌中からの水分の吸上げ、及び大気中への水分の蒸散をバランスよく保ち、活着率を向上する結果となっている。
【0038】
本発明者らは、上述した穂木による幹挿し木は、穂木の幹内に少なからぬ養水分を保有し、乾燥条件の抵抗力のあること、また比較的高い位置から萌芽するため、雑草による被圧の影響が少なく、かつ比較的深く挿し付けることが可能となって、支柱の必要性がなく、乾燥土壌の方がむしろ腐朽菌の蔓延を防止できる利点があることを、実験により確認した。
【0039】
また、アラカシ、ヤブツバキ等の常緑広葉樹と、クヌギ、アベマキ、コナラ等の落葉広葉樹とで、上記幹挿し木による実験を行った。その結果、落葉広葉樹種は、早期に萌芽が認められ、枝葉の発達も、旺盛であるのに比較して、常緑広葉樹種は、萌芽が遅いが、夏期に入ると、落葉広葉樹種は、枝葉の枯れ込みが目立つようになり、落葉広葉樹種について、葉からの蒸散防止を目的に枝葉の切除を行ったが、更に枯れ込みが進行し、夏期の間に大部分が枯れてしまった。一方、落葉広葉樹の発根は、一部に僅かな形成がみられるが、常緑広葉樹種は、多くの樹種に充分な発根が得られた。
【0040】
この結果、落葉広葉樹種は、クヌギ、アベマキ、コナラで一部活着したが、活着率が70[%]以上の実用範囲に至らず、常緑広葉樹種は、特にアラカシ、ヤブツバキ、イヌツゲ、サカキ及びネズミモチが上記実用範囲の良好な成果が得られた。これは、落葉樹種が、発根が進む前に多く着葉することにより、過度の蒸散によって個体内の水分バランスが崩れた結果と推定され、上述した面切り、オーキシン処理、蒸散防止処理による幹挿し木では、落葉広葉樹種では、実用範囲での適用が困難であり、常緑広葉樹種のみが適用対象となった。
【0041】
オーキシン処理を行わない無処理区分と、β−3−インドール酪酸(IBA)の2000[PPM]溶液の瞬間浸漬による区分と、α−ナフタレン酢酸(NAA)の2000[PPM]溶液の瞬間浸漬による区分と、による実験を行った結果、オーキシン無処理区分では、全般に葉数は多いが発根は低い傾向が見られ、オーキシン処理区分では、枝葉の発達が相対的に抑制され、カルス形成や発根が得られる結果を得た。なお、上記IBAとNAAとの成績は殆ど差がないが、僅かにIBAが勝った。
【0042】
蒸散防止処理は、面切り部2から吸上げられた水分が上端切断面から蒸散することを防止するためのものであり、蒸散防止材3がない場合、面切り部2から吸上げられた水分が上端切断面から蒸散し、枝葉が萌芽することなく枯れ死してしまう。
【0043】
そして、面切り部2の面積Aが軸径断面積の150[%]以下であると(A<1.5[πD/2]2 )、軸径に対して面切り部面積が小さ過ぎ、充分な水分の吸上げができないと共に、発根面積が不足し、活着率が大幅に低下する。また、面切り部面積Aが軸径断面積の1000[%]以上であると(10[πD/2]2 <A)、面切り部先端Pが突尖過ぎる形状となり、挿し付ける際、特にカケヤ等の道具を用いて直接地面に打込む場合、面切り部2が先端部分から割れて、そこから腐朽菌が侵入する虞れが大きくなる。なお、穂木1は、原木の幹又は太枝からなるため、なるべく上下で太さの少ないものを選定するが、基部と先端では軸径が異なるのが一般的である。上記面切り部面積の基となる軸径Dは、基部の軸径を基準とする。
【0044】
環状剥皮部4は、穂木の地表下10[cm]程度の部位に施され、通気性に恵まれた地表近くの発根を促進するためのものである。面切り部2から吸上げられた水分(無気着分)が、穂木内部の道管を通って葉に導かれ、該葉にて光合成により生成される糖分(有機物)が樹皮1aを通って根に導かれる。該糖分の通り道である樹皮1aに上記環状剥皮部4があると、該剥皮部からの発根が促される。従って、該剥皮部の幅Eが0.5[cm]以下であると、充分な発根機能を発揮することができず、上記幅Eが5[cm]以上あると、発根面積として大き過ぎ、かえってそこから腐朽菌が侵入して細胞を壊死する虞れが大きくなる。なお、該剥皮部4は、深く挿し付けする場合に有効であり、土壌の通気・透水性が良い場合、又は30[cm]程度以内の挿し付けには、必ずしも必要としない。
【0045】
上記穂木は、後述するように、開発により生じた法面の緑化に用いて好適であるが、これに限らず、公園や並木、又は生垣等の機能植栽に用いてもよい。
【0046】
ついで、以下のような、上記穂木1を育成現場である地中に挿し付ける挿し木行程P7(図3参照)が行われる。
【0047】
直接挿し付け法は、緑化工等を実施する造成法面N等の土壌が、比較的、膨軟で通気性・透水性・保水性等の物理性も良好な場合に好適な方法である。幹挿し穂木1の長さを規定の長さより20〜60[cm]程度長めにとり、図4(a)に示すように、現場に直接カケヤ等の道具20を用いて、20〜60[cm]の深さまで打ち込む。この場合、カケヤ20と幹挿し穂木1の間に5[cm]前後の角材等を緩衝材21として挟んで行うとよい。このようにしても、幹挿し穂木1の上端部がひび割れ等の傷害をうけるので、打ち込み終了後に規定の長さに鋸またはチェンソーで切り戻す。その後、切断面からの水分蒸散防止のため、蒸散防止材を塗布する。
【0048】
土壌硬度が高い場合や、通気性・透水性・保水性等の物理性に問題がある場合、穿孔挿し付け法が用いられる。該方法は、穿孔機で造成法面N等の緑化対象地に、直径15〜25[cm]程度、深さ30〜70[cm]程度までの土を掘り抜く。次いで、幹挿し穂木1の下部を20〜60[cm]の深さまで穴の中に入れ、周囲の隙間から予め用意した、物理性・化学性とも良好な客土を埋め込んでいく。埋め戻しが地表面まで5[cm]程度までになったら、いったん埋め戻しを中断し、地上面のレベルになるまで水を注入する。しばらく時間をおき、注入した水が土中に染み込んだ後に、再度、客土を踏み固めながら、地表面の高さまで埋め戻す。
【0049】
図4に示すように、上記穂木1を法面Nに挿し付けする場合、該穂木は、比較的深く(例えば30[cm]以上、好ましくは50[cm]以上)挿し込まれる。該穂木1は、法面Nに杭様に自立して土留めの機能を有する。即ち、該穂木1は、法面のすべての面に対して例えば50〜150[cm]間隔にて多数挿し付けられる。そして、地滑りの切っ掛けとなる部分にも、上記穂木1が所定深さに多数挿し付けられており、上記地滑り開始部分での法面のせん断抵抗力を増して、地滑りの発生を抑制する。
【0050】
更に、図4(b)に示すように、挿し付けに際して、刈取られた笹や粗朶等を束ねて、流下阻止部材22を構成し、該流下防止部材22を、その長手方向が法面の傾斜方向に直交する方向に連続して延びるように敷くと共に、上記杭様に自立して挿し込まれた穂木1にて押える。従って、流下阻止部材22が、杭様の幹挿し穂木1により傾斜直交方向に連続して固定された状態となる。これにより、法面が雨滴や表面流水により浸食されることが防止され、高い土留め機能を発揮する。
【0051】
そして、上記挿し付けられた挿木は、図4(b)に示すように、面切り部2及び環状剥皮部4から発根し、上部から枝葉7が萌芽する(図3の活着・育成工程P8)。上記発根した根6a,6bは、法面の土壌中に延び、育成した樹木としての土留め機能を有する。面切り部2から発根した根6aは、土壌中に深く伸びて、穂木1の自立を確実なものとし、また環状剥皮部4から発根した根6bは、土壌表面に拡がり、法面の表面流水等による浸食を確実に防止する。
【0052】
図5は、上述した穿孔挿し付け法を法面Nに適用するに好適な実施の形態を示す。まず、法面Nに略々鉛直方向に縦穴10を掘り、更に該縦穴の底部10aに連通するように下方から略々水平方向に横穴11を掘る。該横穴11には、原木の採取工程P1等により得られる粗朶13を詰め、該横穴11を水抜き穴とする。そして、上述穿孔挿し付け法にて述べたように、穂木1を縦穴10の中に入れて、活着・育成に適した客土12にて該縦穴10を埋め戻す。本幹挿し用穂木1は、丸太様の所定径及び長さを有するので、大きな貯水容量を備えており、夏期の日照りや乾燥に対して比較的強い耐性を有しており、むしろ通気性や透水性不足による腐朽菌の蔓延に対して注意を払う必要がある。
【0053】
従って、上述したように、物理性及び化学性とも良好な客土12を縦穴に埋め戻すと共に、水抜き穴11により、上記客土の滞水や過湿を防止し、良好な通気条件を保持することにより、施工対象地の土質条件が悪くとも、法面Nへの幹挿し木の活着率を大幅に向上することができる。
【0054】
なお、上記水抜き穴11には、粗朶13を詰めており、これにより客土の流出を防止すると共に水抜きを確実にし、また横穴11部分の圧潰による法面の崩れを防止し、かつ法面Nから突出している粗朶部分13aにて流水等による土壌の浸食防止作用も奏しているが、上記水抜き穴の詰め物は、粗朶13に限らず、透水性の高い他のものでもよい。この際、粗朶等の現場付近で採取可能で、時間と共に土に返る自然物が好ましい。
【0055】
ついで、図2及び図6に沿って、本発明による根付き挿し木について説明する。図6において、採取行程P1、玉切り行程P2、面切り行程P3、環状剥皮行程P4、オーキシン処理行程P5及び蒸散防止行程P6は、先の実施の形態と同じである。従って、環状剥皮行程P4は、省くことができ、また蒸散防止行程P6は、次の活着行程P10の後に行なってもよい。
【0056】
該活着行程P10は、図7に示すように、穂木の育成に適した苗圃H、例えば耕盤K上に、適当な通気性、透水性及び保水性を有する土壌12からなり、かつ畝立て31した苗圃Hに、上述した各行程での処理を施した幹挿し用穂木1を挿し付ける。穂木を直接現場の土壌に挿し付ける上述した方法は、土壌条件のよい場合、充分な活着率を得られるが、過湿土壌等の条件の悪い場合、腐朽菌の蔓延等により活着しない率が高くなる。そこで、最も困難な時期である活着期を、上記活着に適した苗圃Hに挿し付けすることにより、面切り部(及び環状剥皮部4)から発根すると共に挿し木地上部から適当数の枝葉が萌芽するまで育てる。
【0057】
該活着行程の期間は、樹種によっても異なるが、略々6ヵ月〜14ヵ月が適当であり、好ましくは8ヵ月〜12ヵ月であり、6(又は8)ヵ月以下では、根の生長が充分でなく、穂木1が活着しない虞れがあり、12(又は14)ヵ月以上では、根及び枝葉が張り過ぎで、移植作業が不便になってしまうと共に、圃場の長期使用等が相俟ってコスト的にも不利になってしまう。該活着期間を過ぎた後、穂木は、苗圃Hから引き抜かれ、根付き穂木となる。
【0058】
該根付き穂木9は、図2に示すように、穂木体1の下端面切り部2に発根した根6(6a)があり、上部分に適当数の枝葉7がある。なお、該図2に示すものは、環状剥皮部及びそこからの根6b(図8参照)がないが、図9に示すように、環状剥皮部4及び根6bがあってもよい。そして、該根付き穂木9は、住宅等の生垣用、庭木用及び鉢植え用として、注文に応じて出荷するように流通してもよく、また造成現場での緑化(樹林復元)用等として、現場近くの苗圃で作ってもよい。
【0059】
上記根付き穂木9は、開発現場の法面又は住宅等の平地面等の所定場所に自立した状態で移植される(図6の移植行程P11)。該根付き穂木9は、図8に示すように、平地面G又は法面(例えば図9のN参照)において、前述した穿孔法により移植される。即ち、穿孔機又は手により略々鉛直方向に30〜70[cm]の縦穴10が掘られ、上記根付き穂木9の下部を20〜60[cm]の深さに上記縦穴10の中に入れて、周囲の隙間から予め用意した、物理性及び化学性とも良好な客土12を埋め込んでいく。埋め戻しが地表面まで5[cm]程度までになったら、いったん埋め戻しを中断し、地上面のレベルになるまで水を注入する。しばらく時間をおき、注入した水が土に染み込んだ後に、再度、客土を踏み固めながら、地表面の高さまで埋め戻す。
【0060】
図9に示すように、開発等により生じた法面Nにあっては、本穿孔移植法にあっても、前述した図5に示すものと同様な方法が好適である。即ち、法面Nに略々鉛直方向に縦穴10を掘り、更に該縦穴の底部10aに連通するように下方から略々水平方向に横穴11を掘り、該横穴11に、粗朶等の透水性の高い材料13を詰め込んで水抜き穴とする。そして、上記穿孔移植法と同様に、上記縦穴10に、根付き穂木9を入れて、物理性及び化学性の良好な、特に通気性、透水性及び保水性の良好な客土12により埋め戻す。これにより、客土中での滞水や過湿を防止し、良好な通気条件を保持して、腐朽菌による細胞の壊死を防止して活着率を大幅に向上する。なお、法面にあっては、比較的深く移植することが好ましく、従って環状剥皮部4及びそこからの根6bがある方が好ましい。
【0061】
図10は、図5に示す法面への挿し付け、及び図9に示す法面への移植を一部変更した実施の形態を示す図である。図10(a)において、縦穴10及び客土12、並びにそこに挿し付けされる穂木1は、図5に示すものと同様であるが、横穴11は、プラスチックパイプ25により補強されており、かつ該パイプは、粗朶等の詰め物がない状態で法面Nの外部に連通して水抜き穴を構成している。同様に、図10(b)において、縦穴10及び客土12、並びにそこに移植される根付き穂木9は、図9に示すものと同様であるが、横穴11がプラスチックパイプ25により補強されている水抜き穴である点で相違している。なお、上記パイプ25を形成するプラスチックは、石油原料から作られたものではなく、穀物等の天然材料から作られたものが好ましく、穂木1,9が生長した際、朽ちて土に返るものが望ましい。
【0062】
図11は、上記プラスチックパイプ25による排水を平地に適用した実施の形態を示すものであり、穿孔法により平地Gに穿設された縦穴10内に、客土12と共に幹挿し用穂木1又は根付き穂木9が、挿し付け又は移植されている。上記縦穴10の底部10aに連通するように、プラスチックパイプ25が埋設され、該パイプ25の他端は、排水パイプ26に連通している。従って、上記パイプ25が、客土12により埋め戻された縦穴10の水抜き穴11を形成する。
【0063】
上述した幹挿し用穂木1の現場で挿し付け(直接挿し付け法及び穿孔挿し付け法)及び根付き穂木9の移植(穿孔移植法)において、土壌の毛管切断含水量以上の深さに挿し付け又は移植すれば、露天であっても、土壌の通気性と透水性を確保することにより、潅水管理しなくとも高い活着率で穂木が生育することを実験により確認した。従って、毛管切断含水量部位が深い位置にある場合、挿し付け深さ又は移植深さは、60[cm]以上になる場合もある。なお、苗圃H(図7)に挿し付けして根付き穂木として育てる場合、潅水管理をしてもよい。
【0064】
また、原木から、玉切りして何本も穂木を取っても、少なくとも3[m]程度の高さの範囲内であれば、部位による活着率に大きな差がないことも、実験により確認した。また、穂木の採取と挿し付けは、2月中旬から4月上旬まで行うことが好ましく、また根付き穂木の移植は、3月上旬から4月下旬までが好ましい。しかし、挿し木及び移植の時期は、自然環境に従うものであるが、場所、樹種等により、上記期間に限るものではなく、ある程度の調整が可能であり、特に移植時期については、冷環境保管等により調整可能である。
【0065】
以上の直接挿し付け法、並びに穿孔挿し付け及び穿孔移植法のいずれにおいても、挿し付けの間隔、または、移植の間隔は50〜150[cm]間隔とする。この間隔は、用いる樹種の勢力(枝張りの発達度)や、早期の幹挿し木の枝葉の発達による被覆に対する要求度等によって加減する。
【0066】
また、種の多様性を高める場合は、多種な樹種を穂木として用い、混交させて挿し付け、または移植するのが望ましいが、この場合、結果的に勢力の強い樹種のみが優占成長し、弱い樹種は被圧・消滅してしまうことを避けるために、留意する必要がある。
【0067】
更に、種の多様性を高めることを考慮した場合、いくつかの樹種を穂木として組合わせて用いても、多様性に限度があるため、施工後の風や野鳥等による多様な種の自然伝播を活用する必要がある。それには、穂木の高密度な挿し付けにより、挿し付け後に2〜3ヶ月で発達してくる枝葉によって法面等が鬱閉されるのを避ける必要がある。一方、挿し付けや移植の間隔を広くした場合は、法面全体が植物で被覆されるまでに時間を要するため、土壌浸食の防止が必要となる。この場合、外来牧草等による吹付けは、使用種の優占繁茂による在来種の伝播阻害や、幹挿し木の枝葉への遮光阻害等の観点から、避けるようにする。在来種の播種、または、在来草本種の刈り草(種子の供給と、雨滴・表面流水による浸食防止、ならびに生物的分解による有機養分供給の効果が得られる)の敷き延べにより、五月雨や梅雨の降雨期までに在来草本種による保護対策が完了しているようにすることが好ましい。
【0068】
また、挿し付けの際、または移植の際の注水を除き、その後の潅水等は土壌の過湿や腐朽菌による阻害を防止するため、原則として行わない。一方、雑草防除は種の多様性や法面保護等の観点から基本的には行わないが、高茎草本植物やツル植物の繁茂が顕著で、放置すると幹挿し木、または、根付き穂木から発達した枝葉に対し、遮光阻害を及ぼす恐れがある場合に限り、刈り取る。この場合、除草剤は種多様性を阻害するため、使用しないようにする。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る(幹挿し用)穂木を示す正面図。
【図2】本発明に係る根付き穂木を示す正面図。
【図3】本発明に係る幹挿し用穂木による緑化方法の各行程を示す図。
【図4】幹挿し用穂木を直接挿し付け法により法面に挿し付ける状態を示す図で、(a)(b)は異なる状況を示す。
【図5】幹挿し用穂木を穿孔挿し付け法により法面に挿し付ける状態を示す図で、(a)(b)は異なる状況を示す。
【図6】本発明に係る根付き穂木による緑化方法の各行程を示す図。
【図7】苗圃での活着行程を示す図。
【図8】平地での移植行程を示す図。
【図9】法面での移植行程を示す図。
【図10】法面での一部変更した実施の形態を示す図で、(a)は幹挿し木、(b)は根付き穂木を示す。
【図11】平地での一部変更した実施の形態を示す図。
【符号の説明】
1 生木(幹挿し用穂木)
2 面切り部
3 蒸散防止材
4 環状剥皮部
6(6a,6b) 根
7 枝葉
9 根付き穂木
10 縦穴
11 横穴(水抜き穴)
12 客土
13 粗朶
N 法面
H 苗圃
【発明の属する技術分野】
本発明は、造成現場での緑化、住宅の生垣、鉢植え等のあらゆる分野の植栽に適用可能であるが、特に道路開発や宅地開発等の造成工事により生じた法面の緑化に適用して好適である。
【0002】
【従来の技術】
山地が国土の約8割を占め、しかも地形が急峻で複雑に入り組む我が国では、道路の開設や宅地開発等の事業に伴い長大な法面が発生しやすい。住宅開発により新都市を形成する際には、法面が開発面積の10%以上出現するとも言われている。法面は土壌浸食防止や斜面崩壊防止等の防災面だけでなく、立面として広い範囲から眺望され、視界を占めるため実際の面積以上に目に付きやすく、景観面でも影響が大きく修景緑化が必要である。しかし、法面は植栽のための土壌改良が困難な斜面地であることから、従来は専らヨーロッパ産牧草種による吹付けが行われる程度で、そのまま放置したり、コンクリート等により舗装されることも少なくなかった。戦後の経済成長の過程で全国各地で行われた開発事業地の多くにおいて、今なお負の遺産としての殺風景な法面が地域の景観を貧化させている。
【0003】
近年、景観保全や生態系保全の観点から緑化や自然復元に対する関心が高まり、法面緑化等においても単なる当面の緑化修景だけでなく、周囲の景観や環境との繋がりを考えた植生計画、さらに種の多様性保全や野生生物の移動に配慮した植生が求められるようになってきている。これに伴って、今後は種々の在来種を用いた、四季の景観性や多様性に富んだ緑化が必要になると考えられる。現在、法面や造成裸地における樹林化の手法として成木の移植やポット苗による植栽がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述した法面又は造成裸地での樹林化は、急傾斜な法面では施工が困難であったり、活着までに潅水管理や下草刈を要する人手がかかり、経済的な負担も大きい。成木にあっては、重量があり、法面への運搬や移植作業が面倒であり、かつ移植に際して根まわし等の前処理をしているため、風等により倒れる虞れもある。また、ポット苗は幹が細いため、下草刈りの際に刈り取られたり、傷害をうけやすいという問題もある。
【0005】
さらに、上記前処理された成木や苗圃でミスト育成されたポット苗は、法面等の厳しい環境条件に適応が困難な傾向にあり、順調な根系の発達が進まないために、盛り土法面では斜面崩壊を招く可能性があるなど未だ課題が多い。一方、成木やポット苗は在来種であっても、その種子や系統、生産地等が遠隔の地から取り寄せられることも多く、このことが地域遺伝子の撹乱を招く危険性もはらんでいる。
【0006】
一方、公園の植栽、並木等では、かなり大きな成木を移植することになるが、これでは同様に、成木の運搬作業、移植前の根まわし等の前処理に多大な手間を必要とし、大きなコストを必要とする面倒な作業になっている。また、住宅の生垣は、一般に稚苗を移植して、竹等の支柱により支える必要があり、植木業者等の専門職の仕事となり、また生垣になるまで長い年月が必要であった。
【0007】
そこで、本発明は、幹等の初めからかなり太い生木による挿し木又は該挿し木による根付き穂木を用いて、法面等の樹林復元及び緑化を可能とするものであり、上述した地盤保全性、維持管理性、景観性、種多様性等の課題を解決した挿し木用穂木、根付き穂木、並びにそれを用いた緑化方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る本発明は(例えば図1参照)、軸径(D)が略々3〜12[cm]で、長さ(L)が略々30〜160[cm]の常緑広葉樹の生木(1)からなり、
下端が、軸径断面積に対して150〜1000[%]の面積を有するように面切りされると共に、該面切り部(2)に高濃度のオーキシン剤を10[秒]以内の短時間で浸すオーキシン処理が施され、
上端切断面に蒸散防止材(3)が塗布されてなる、
ことを特徴とする挿し木用穂木にある。
【0009】
請求項2に係る本発明は、前記生木の中間部分に、前記オーキシン処理を施した、樹皮(1a)を幅略々0.5〜5[cm]で環状に剥した剥皮部(4)を有する、
請求項1記載の挿し木用穂木にある。
【0010】
請求項3に係る本発明は(例えば図2参照)、請求項1又は2記載の挿し木用穂木(1)を、該穂木の育成に適した苗圃(H;図7参照)に挿し付けして、
前記面切り部(2)及び/又は前記剥皮部(4)から発根(6)すると共に、挿し木した地上部から適当数の枝葉(7)が萌芽した後、移植用として上記苗圃から抜き上げてなる、
ことを特徴とする根付き穂木(9)にある。
【0011】
請求項4に係る本発明は(例えば図3,図4参照)、幹径が3〜12[cm]の原木を採取する採取行程(P1)と、
上記原木の幹部又は太枝部を所定長さに切断する玉切り行程(P2)と、
上記切断した穂木の下端を、軸径断面積に対して150〜1000[%]の面積を有するように面切りする面切り行程(P3)と、
上記面切りした部分をオーキシン剤に浸すオーキシン処理行程(P5)と、
上記穂木の上端切断面に蒸散防止材を塗布する蒸散防止行程(P6)と、
上記穂木(1)を、開発等により生じた法面(N)に比較的深く挿し付け、該穂木が杭様に自立して土留め機能をなす挿し木行程(P7)と、
上記穂木が発根、萌芽して活着し、樹木として育成して土留め機能をなす活着・育成行程(P8)と、
を備えたことを特徴とする緑化方法にある。
【0012】
請求項5に係る本発明は(例えば図3,図5参照)、幹径が3〜12[cm]の原木を採取する採取行程(P1)と、
上記原木の幹部又は太枝部を所定長さに切断する玉切り行程(P2)と、
上記切断した穂木の下端を、軸径断面積に対して150〜1000[%]の面積を有するように面切りする面切り行程(P3)と、
上記面切りした部分をオーキシン剤に浸すオーキシン処理行程(P5)と、
上記穂木の上端切断面に蒸散防止材を塗布する蒸散防止行程(P6)と、
開発等により生じた法面に略々鉛直方向に縦穴(10)を掘り、また該縦穴の底部(10a)に連通するように略々水平方向に横穴(11)を掘って、該横穴を水抜き穴となし、上記縦穴に通気性・透水性の高い土(12)を客土すると共に上記穂木(1)を挿し付ける挿し木行程(P7)と、
上記穂木が発根、萌芽して活着し、樹木として育成する活着・育成行程(P8)と、
を備えたことを特徴とする緑化方法にある。
【0013】
請求項6に係る本発明は(例えば図6,図7参照)、幹径が3〜12[cm]の原木を採取する採取行程(P1)と、
上記原木の幹部又は太枝部を所定長さに切断する玉切り行程(P2)と、
上記切断した穂木の下端を、軸径断面積に対して150〜1000[%]の面積を有するように面切りする面切り行程(P3)と、
上記面切りした部分をオーキシン剤に浸すオーキシン処理行程(P5)と、
上記穂木の上端切断面に蒸散防止材を塗布する蒸散防止行程(P6)と、
上記穂木(1)を、該穂木の育成に適した苗圃(H)に挿し付け、発根すると共に適当数の枝葉を萌芽する活着行程(P10)と、
上記活着行程により発根・萌芽した根付き穂木を前記苗圃から抜き上げ、所定の場所に自立した状態で移植する移植行程(P11)と、
該移植した根付き穂木を上記所定の場所で樹木として育成する育成行程(P12)と、
を備えたことを特徴とする緑化方法にある。
【0014】
請求項7に係る本発明は(例えば図9参照)、前記移植行程は、開発等により生じる法面(N)に行われ、
該法面に、略々鉛直方向に縦穴(10)を掘ると共に、該縦穴の底部(10a)に連通するように略々水平方向に横穴(11)を掘り、
上記縦穴に、樹木の育成に適した土(12)と共に前記根付き穂木(9)を移植し、かつ前記横穴(11)を水抜き穴としてなる、
請求項6記載の緑化方法にある。
【0015】
請求項8に係る本発明は、前記穂木を挿し付ける前に、該挿し付けた状態の穂木における地表面から比較的近い地中部分に相当する部分の樹皮を環状に剥す環状剥皮行程(P4)を行うと共に、該環状剥皮部分に前記オーキシン処理を行う、
請求項4ないし7のいずれか記載の緑化方法にある。
【0016】
請求項9に係る本発明は、前記採取行程(P1)により採取した原木を、該採取地と略々同一地域にて前記樹木に生育する、
請求項4ないし8のいずれか記載の緑化方法にある。
【0017】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより各請求項の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【0018】
【発明の効果】
請求項1に係る本発明によると、比較的太い軸径からなる、丸太様の生木を挿し木として用いるので、支柱等の必要がなく、かつ刈払い機等による草刈りに対して抵抗性があり、更にある程度の高さから枝葉を発達させるため、雑草による遮光の影響に対しても抵抗性を有し、また成木の移植に比して、軽量かつコンパクトなため、運搬や挿し付け作業が簡便であり、樹木の活着・育成作業が容易となる。
【0019】
更に、幼苗の植付けではなく、始めから所定太さ及び長さの生木を挿し木するので、緑化、生け垣等としての所期目的を早期に達成することができる。そして、アラカシ、ヤブツバキ等の常緑広葉樹を用い、かつ軸径に対する切り面の面積、該切り面のオーキシン処理、及び上端切断面への蒸散防止材の塗布が相俟って、樹木としての活性力(エネルギ)、土中からの水分の吸い上げ、空気中への水分の蒸散がバランスして、発根、萌芽して活着する率を向上することができる。
【0020】
請求項2に係る本発明によると、生木の中間部分に環状剥皮部を設けたので、該環状剥皮部から発根することにより、穂木を深く挿し木することが可能となり、法面等において該穂木自体を杭として土留めする効果を向上し、または土壌水分含有量の低い所での活着率を高めることができる。
【0021】
請求項3に係る本発明によると、挿し木において最も困難な時期を、穂木の育成に適した苗圃に挿し木して活着するので、土壌条件が適当ではなく、直接挿し木する場合の活着率が低い状態にあっても、上記困難な時期を乗り切った根付き穂木を移植することにより、比較的太い軸径からなる丸太様の穂木を高い確率で育成することができる。また、該根付き穂木も、成木に比して軽量かつコンパクトであるため、運搬や移植作業も容易となり、かつ上述と同様に、草刈りや遮光に対して抵抗性を備え、育成作業も容易である。
【0022】
請求項4に係る本発明によると、上述した挿し木用穂木を、道路開発や宅地開発等の造成工事により生じた法面に、例えば50[cm]以上等の比較的深く挿し木し、該丸太様の穂木自体を杭様に自立して土留め機能を持たせ、該挿し木直後において、雨等により法面の土が流れたり、崩れたりすることの一応の防止を図る。そして、この状態で、上記穂木は、発根、萌芽して、根が張ることにより、また枝葉及び比較的太い幹が水分を蓄える等により、法面の土留め機能を保持しつつ樹木として育成し、該樹木の生長に伴って更に確実な土留め機能を発揮すると共に、法面の緑化を図ることができる。
【0023】
また、法面は、切り土等に形成され、一般に土壌条件は悪いが、挿し木となる生木が比較的太い幹等からなり、生木自体に充分な保水力を有すると共に、比較的深い挿し木により毛管水に達し、かつ該切り土等の法面では、腐朽菌が存在しないか又は存在していても少なく、高い活着率にて育成することができる。
【0024】
請求項5に係る本発明によると、法面に縦穴を掘ると共に該縦穴の底部に連通する横穴を掘り、縦穴に活着・育成に適した土と共に穂木を挿し付け、かつ上記横穴は水抜き穴とするので、良好な土壌条件でない法面にあっても、上記水はけのよい縦穴への客土により、挿し木の活着率を向上することができる。また、法面は、傾斜地である由に充分な土壌改良が困難な場合が多いが、上記縦穴への限られた客土は比較的容易に行うことができ、これにより高い活着率で発根し、その後の周囲や深部への根系の発達が進みにくいが、根茎の発達程度に対応して株立ち状の低木林になるため、高木に育つことによる強風時の根返りを防ぐことができ、かえって法面の緑化法として合致している。
【0025】
請求項6に係る本発明によると、穂木の育成に適した苗圃に挿し付けして、発根・萌芽して活着した後、該根付き穂木を抜き上げて、開発により生じた法面、公園、道路、又は生け垣等の所定の場所に自立して移植するので、比較的条件の悪い土壌において高い活着率にて樹木として育成することが可能となる。
【0026】
請求項7に係る本発明によると、良好な土壌条件でない法面にあっても、水抜き穴により水はけのよい縦穴に客土した土に根付き穂木を移植するので、高い活着率で活着して育成して、法面の緑化を図ることができる。
【0027】
請求項8に係る本発明によると、オーキシン処理した環状剥皮を有するので、穂木を比較的深く挿し付けても、挿木下端の面切り部から水分を吸い上げると共に、地表近くの環状剥皮部分から発根して、上述した杭様に自立した土留めの機能の効果を高めると共に、上記環状剥皮部分からの発根による土留め機能も向上、また水分の少ない土壌条件であっても、挿し木の活着率を向上することができる。
【0028】
請求項9に係る本発明によると、緑化する対象地域と同一地域にて原木を採取するので、開発事業対象地や地域の里山等に生育する既存木の幹や枝を活用するものであって、景観的にも生態的にも整合性があり、かつ地域の気候条件等にも適応性が高く、更に地域遺伝子の撹乱等の虞れもなく、自然に適合した緑化を図ることができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。まず、宅地造成、道路開発が計画されている対象地又は該対象地近くの旧薪炭林等里山林から、所定太さのヤブツバキ、アラカシ、イヌツゲ、サカキ、ネズミモチ等の常緑広葉樹を根本近くの略々通直になった部位で伐採し、直ちに枝下しを行う(図3及び図6の採取行程P1)。この際、樹木の軸径が適当で、活力及び樹勢が比較的良好なものを選定し、幹量に対して枝葉量の少ない被圧木等は除外する。なお、伐採した生木は、冷蔵庫等で保管すれば長期保存も可能であるが、伐採地付近の日影で保存する場合、アラカシで2週間、ヤブツバキで2ヵ月以内に挿し木することが好ましく、できればなるべく早期に挿し木として使用する方が良好な結果が得られる。従って、開発対象地から原木を採取する場合、挿し木時期に合せて、対象地の一部を現状保存する等の開発計画が必要となる。
【0030】
開発対象地からの原木採取は、工事により失われる自然資源の有効利用の効果があり、かつ該対象地付近の里山林から採取も含めて、緑化復元された樹林が周囲の地域景観に馴染み、更に地域遺伝子の撹乱防止等の問題を生じないことからも好都合である。なお、上記開発対象地からの原木採取は、上述した理由で好ましいが、必ずしもこれに限定するものではなく、広域流域からの採取、又はやむを得ない場合は、遠隔地から採取してもよい。
【0031】
ついで、上記伐採した樹木は、幹及び太枝を30〜160[cm]、好ましくは50〜100[cm]の長さに切断(玉切り)する(図3及び図6の玉切り行程P2)。該玉切り長さは、樹種によって、また挿し付けや移植地の条件、目的によって設定される。該玉切りされた幹(以下、太枝も含み穂木という)は、上述したようになるべく早期(2〜3日中)に、後述する前処理を行うが、その前に該穂木の基部を、流水又はタンク等の容器中の水に12時間前後浸漬する。
【0032】
上記前処理として、図3又は図6に示すように、面切り行程P3、環状剥皮行程P4、オーキシン処理行程P5及び蒸散防止行程P6がある。面切り行程P3は、切断面から土壌水分を吸収するため、上記玉切りした基部を斜めに切断する作業であり、該面切りは、2面切り又は1面切りがあるが、いずれの場合でも切断面2(玉切り面;図1参照)の面積は、軸径断面積に対して150〜1000[%]、好ましくは150〜700[%]の範囲内に設定される。即ち、1面切りの場合、150〜500[%]、好ましくは150〜350[%]であり、2面切りの場合、300〜1000[%]、好ましくは300〜700[%]であり、該切断面積、即ち切断長さは、穂木の長さ及び地中部への挿し付け深さにより調整される。なお、鋸やチェンソー等で切断した場合、表面がささくれて細胞の壊死等が生ずるため、鋭利な刃物により切り返す作業を必要とする。
【0033】
環状剥皮行程P4は、幅0.5〜5[cm]、好ましくは1〜2[cm]の幅Eで樹皮1a(図1参照)を環状に切取り・剥す作業であり、該剥皮部4は、地中の深い場所よりも通気性が良好で、かつ加湿の影響も比較的少ない、地表面から10〜15[cm]の部位からの発根を促進するためのものである。なお、該環状剥皮行程P4は、地中への挿し付け深さが30[cm]程度以下の比較的浅い場合は必要ではなく、また環状剥皮の代わりに、当該部位のところどころにナイフや彫刻刀等の刃物で、樹皮を剥ぎ取ってもよい。
【0034】
オーキシン処理行程P5は、β−3−インドール酪酸(IBA)等のオーキシン剤に上記面切り部2及び環状剥皮部4を浸す作業であり、上記IBA溶液は、2000[PPM]等の比較的濃度の高いものを用意し、該溶液中に10[秒]以下、好ましくは3[秒]程度の短時間浸漬する。そして、該オーキシン溶液に浸漬された穂木は、該浸漬された部分が地面等に触れないようにして、30[分]程度風乾する。一般に、オーキシン剤は、細胞分裂の促進、発根作用等の効果を有し、上記2000[PPM]のように高濃度では逆に阻害的に働くが上記瞬間浸漬処理することにより、地中部での発根を促すと共に、枝葉の萌芽を相対的に抑制することが本発明者等により発見された。なお、オーキシン剤は、上記IBAに限らず、α−ナフタレン酢酸(NAA)等の他のものでもよい。
【0035】
蒸散防止行程P6は、穂木の上部切断面及び枝下しした切断面に、接蝋等の蒸散防止材3を塗布する作業であり、挿し付けした後、大気中にある上記切断面から穂木の水分が蒸散することを防止するためのものである。なお、該蒸散防止行程は、原木採取後、1日程度以内の早期に挿し付ける場合は、挿し付け後に行ってもよいが、一応、この場合も前処理とする。
【0036】
以上各行程P1〜P6により、挿し木(以下、太枝も含んで幹挿し木という)用の穂木が作られる。該穂木1は、図1に示すように、幹径Dが3〜12[cm]、好ましくは4〜10[cm]、6〜7[cm]が最適であり、長さLが30〜160[cm]、好ましくは50〜100[cm]である。幹径が3[cm]以下では、穂木としての貯水容量及び草刈り等に対する抵抗性が充分でなく、かつ法面に杭様に自立して土留め機能を奏するのに充分でなく、12[cm]以上では、細胞の成熟化による分化力(再生エネルギ)に乏しく、また運搬等の作業にも労力を要する。また長さが30[cm]以下では、土中への挿し付け量が不足すると共に、雑草による被圧の影響があり、160[cm]以上では、運搬、挿し付け又は移植作業、特に法面での作業が面倒となる。
【0037】
更に、面切り部2が、軸径断面積に対して150〜1000[%]、好ましくは300〜700[%]であり、かつ面切り部2(及び環状剥皮部4)にオーキシン処理が施されると共に、上端切断面に蒸散防止材3が塗布されている。これらが相俟って、土壌中からの水分の吸上げ、及び大気中への水分の蒸散をバランスよく保ち、活着率を向上する結果となっている。
【0038】
本発明者らは、上述した穂木による幹挿し木は、穂木の幹内に少なからぬ養水分を保有し、乾燥条件の抵抗力のあること、また比較的高い位置から萌芽するため、雑草による被圧の影響が少なく、かつ比較的深く挿し付けることが可能となって、支柱の必要性がなく、乾燥土壌の方がむしろ腐朽菌の蔓延を防止できる利点があることを、実験により確認した。
【0039】
また、アラカシ、ヤブツバキ等の常緑広葉樹と、クヌギ、アベマキ、コナラ等の落葉広葉樹とで、上記幹挿し木による実験を行った。その結果、落葉広葉樹種は、早期に萌芽が認められ、枝葉の発達も、旺盛であるのに比較して、常緑広葉樹種は、萌芽が遅いが、夏期に入ると、落葉広葉樹種は、枝葉の枯れ込みが目立つようになり、落葉広葉樹種について、葉からの蒸散防止を目的に枝葉の切除を行ったが、更に枯れ込みが進行し、夏期の間に大部分が枯れてしまった。一方、落葉広葉樹の発根は、一部に僅かな形成がみられるが、常緑広葉樹種は、多くの樹種に充分な発根が得られた。
【0040】
この結果、落葉広葉樹種は、クヌギ、アベマキ、コナラで一部活着したが、活着率が70[%]以上の実用範囲に至らず、常緑広葉樹種は、特にアラカシ、ヤブツバキ、イヌツゲ、サカキ及びネズミモチが上記実用範囲の良好な成果が得られた。これは、落葉樹種が、発根が進む前に多く着葉することにより、過度の蒸散によって個体内の水分バランスが崩れた結果と推定され、上述した面切り、オーキシン処理、蒸散防止処理による幹挿し木では、落葉広葉樹種では、実用範囲での適用が困難であり、常緑広葉樹種のみが適用対象となった。
【0041】
オーキシン処理を行わない無処理区分と、β−3−インドール酪酸(IBA)の2000[PPM]溶液の瞬間浸漬による区分と、α−ナフタレン酢酸(NAA)の2000[PPM]溶液の瞬間浸漬による区分と、による実験を行った結果、オーキシン無処理区分では、全般に葉数は多いが発根は低い傾向が見られ、オーキシン処理区分では、枝葉の発達が相対的に抑制され、カルス形成や発根が得られる結果を得た。なお、上記IBAとNAAとの成績は殆ど差がないが、僅かにIBAが勝った。
【0042】
蒸散防止処理は、面切り部2から吸上げられた水分が上端切断面から蒸散することを防止するためのものであり、蒸散防止材3がない場合、面切り部2から吸上げられた水分が上端切断面から蒸散し、枝葉が萌芽することなく枯れ死してしまう。
【0043】
そして、面切り部2の面積Aが軸径断面積の150[%]以下であると(A<1.5[πD/2]2 )、軸径に対して面切り部面積が小さ過ぎ、充分な水分の吸上げができないと共に、発根面積が不足し、活着率が大幅に低下する。また、面切り部面積Aが軸径断面積の1000[%]以上であると(10[πD/2]2 <A)、面切り部先端Pが突尖過ぎる形状となり、挿し付ける際、特にカケヤ等の道具を用いて直接地面に打込む場合、面切り部2が先端部分から割れて、そこから腐朽菌が侵入する虞れが大きくなる。なお、穂木1は、原木の幹又は太枝からなるため、なるべく上下で太さの少ないものを選定するが、基部と先端では軸径が異なるのが一般的である。上記面切り部面積の基となる軸径Dは、基部の軸径を基準とする。
【0044】
環状剥皮部4は、穂木の地表下10[cm]程度の部位に施され、通気性に恵まれた地表近くの発根を促進するためのものである。面切り部2から吸上げられた水分(無気着分)が、穂木内部の道管を通って葉に導かれ、該葉にて光合成により生成される糖分(有機物)が樹皮1aを通って根に導かれる。該糖分の通り道である樹皮1aに上記環状剥皮部4があると、該剥皮部からの発根が促される。従って、該剥皮部の幅Eが0.5[cm]以下であると、充分な発根機能を発揮することができず、上記幅Eが5[cm]以上あると、発根面積として大き過ぎ、かえってそこから腐朽菌が侵入して細胞を壊死する虞れが大きくなる。なお、該剥皮部4は、深く挿し付けする場合に有効であり、土壌の通気・透水性が良い場合、又は30[cm]程度以内の挿し付けには、必ずしも必要としない。
【0045】
上記穂木は、後述するように、開発により生じた法面の緑化に用いて好適であるが、これに限らず、公園や並木、又は生垣等の機能植栽に用いてもよい。
【0046】
ついで、以下のような、上記穂木1を育成現場である地中に挿し付ける挿し木行程P7(図3参照)が行われる。
【0047】
直接挿し付け法は、緑化工等を実施する造成法面N等の土壌が、比較的、膨軟で通気性・透水性・保水性等の物理性も良好な場合に好適な方法である。幹挿し穂木1の長さを規定の長さより20〜60[cm]程度長めにとり、図4(a)に示すように、現場に直接カケヤ等の道具20を用いて、20〜60[cm]の深さまで打ち込む。この場合、カケヤ20と幹挿し穂木1の間に5[cm]前後の角材等を緩衝材21として挟んで行うとよい。このようにしても、幹挿し穂木1の上端部がひび割れ等の傷害をうけるので、打ち込み終了後に規定の長さに鋸またはチェンソーで切り戻す。その後、切断面からの水分蒸散防止のため、蒸散防止材を塗布する。
【0048】
土壌硬度が高い場合や、通気性・透水性・保水性等の物理性に問題がある場合、穿孔挿し付け法が用いられる。該方法は、穿孔機で造成法面N等の緑化対象地に、直径15〜25[cm]程度、深さ30〜70[cm]程度までの土を掘り抜く。次いで、幹挿し穂木1の下部を20〜60[cm]の深さまで穴の中に入れ、周囲の隙間から予め用意した、物理性・化学性とも良好な客土を埋め込んでいく。埋め戻しが地表面まで5[cm]程度までになったら、いったん埋め戻しを中断し、地上面のレベルになるまで水を注入する。しばらく時間をおき、注入した水が土中に染み込んだ後に、再度、客土を踏み固めながら、地表面の高さまで埋め戻す。
【0049】
図4に示すように、上記穂木1を法面Nに挿し付けする場合、該穂木は、比較的深く(例えば30[cm]以上、好ましくは50[cm]以上)挿し込まれる。該穂木1は、法面Nに杭様に自立して土留めの機能を有する。即ち、該穂木1は、法面のすべての面に対して例えば50〜150[cm]間隔にて多数挿し付けられる。そして、地滑りの切っ掛けとなる部分にも、上記穂木1が所定深さに多数挿し付けられており、上記地滑り開始部分での法面のせん断抵抗力を増して、地滑りの発生を抑制する。
【0050】
更に、図4(b)に示すように、挿し付けに際して、刈取られた笹や粗朶等を束ねて、流下阻止部材22を構成し、該流下防止部材22を、その長手方向が法面の傾斜方向に直交する方向に連続して延びるように敷くと共に、上記杭様に自立して挿し込まれた穂木1にて押える。従って、流下阻止部材22が、杭様の幹挿し穂木1により傾斜直交方向に連続して固定された状態となる。これにより、法面が雨滴や表面流水により浸食されることが防止され、高い土留め機能を発揮する。
【0051】
そして、上記挿し付けられた挿木は、図4(b)に示すように、面切り部2及び環状剥皮部4から発根し、上部から枝葉7が萌芽する(図3の活着・育成工程P8)。上記発根した根6a,6bは、法面の土壌中に延び、育成した樹木としての土留め機能を有する。面切り部2から発根した根6aは、土壌中に深く伸びて、穂木1の自立を確実なものとし、また環状剥皮部4から発根した根6bは、土壌表面に拡がり、法面の表面流水等による浸食を確実に防止する。
【0052】
図5は、上述した穿孔挿し付け法を法面Nに適用するに好適な実施の形態を示す。まず、法面Nに略々鉛直方向に縦穴10を掘り、更に該縦穴の底部10aに連通するように下方から略々水平方向に横穴11を掘る。該横穴11には、原木の採取工程P1等により得られる粗朶13を詰め、該横穴11を水抜き穴とする。そして、上述穿孔挿し付け法にて述べたように、穂木1を縦穴10の中に入れて、活着・育成に適した客土12にて該縦穴10を埋め戻す。本幹挿し用穂木1は、丸太様の所定径及び長さを有するので、大きな貯水容量を備えており、夏期の日照りや乾燥に対して比較的強い耐性を有しており、むしろ通気性や透水性不足による腐朽菌の蔓延に対して注意を払う必要がある。
【0053】
従って、上述したように、物理性及び化学性とも良好な客土12を縦穴に埋め戻すと共に、水抜き穴11により、上記客土の滞水や過湿を防止し、良好な通気条件を保持することにより、施工対象地の土質条件が悪くとも、法面Nへの幹挿し木の活着率を大幅に向上することができる。
【0054】
なお、上記水抜き穴11には、粗朶13を詰めており、これにより客土の流出を防止すると共に水抜きを確実にし、また横穴11部分の圧潰による法面の崩れを防止し、かつ法面Nから突出している粗朶部分13aにて流水等による土壌の浸食防止作用も奏しているが、上記水抜き穴の詰め物は、粗朶13に限らず、透水性の高い他のものでもよい。この際、粗朶等の現場付近で採取可能で、時間と共に土に返る自然物が好ましい。
【0055】
ついで、図2及び図6に沿って、本発明による根付き挿し木について説明する。図6において、採取行程P1、玉切り行程P2、面切り行程P3、環状剥皮行程P4、オーキシン処理行程P5及び蒸散防止行程P6は、先の実施の形態と同じである。従って、環状剥皮行程P4は、省くことができ、また蒸散防止行程P6は、次の活着行程P10の後に行なってもよい。
【0056】
該活着行程P10は、図7に示すように、穂木の育成に適した苗圃H、例えば耕盤K上に、適当な通気性、透水性及び保水性を有する土壌12からなり、かつ畝立て31した苗圃Hに、上述した各行程での処理を施した幹挿し用穂木1を挿し付ける。穂木を直接現場の土壌に挿し付ける上述した方法は、土壌条件のよい場合、充分な活着率を得られるが、過湿土壌等の条件の悪い場合、腐朽菌の蔓延等により活着しない率が高くなる。そこで、最も困難な時期である活着期を、上記活着に適した苗圃Hに挿し付けすることにより、面切り部(及び環状剥皮部4)から発根すると共に挿し木地上部から適当数の枝葉が萌芽するまで育てる。
【0057】
該活着行程の期間は、樹種によっても異なるが、略々6ヵ月〜14ヵ月が適当であり、好ましくは8ヵ月〜12ヵ月であり、6(又は8)ヵ月以下では、根の生長が充分でなく、穂木1が活着しない虞れがあり、12(又は14)ヵ月以上では、根及び枝葉が張り過ぎで、移植作業が不便になってしまうと共に、圃場の長期使用等が相俟ってコスト的にも不利になってしまう。該活着期間を過ぎた後、穂木は、苗圃Hから引き抜かれ、根付き穂木となる。
【0058】
該根付き穂木9は、図2に示すように、穂木体1の下端面切り部2に発根した根6(6a)があり、上部分に適当数の枝葉7がある。なお、該図2に示すものは、環状剥皮部及びそこからの根6b(図8参照)がないが、図9に示すように、環状剥皮部4及び根6bがあってもよい。そして、該根付き穂木9は、住宅等の生垣用、庭木用及び鉢植え用として、注文に応じて出荷するように流通してもよく、また造成現場での緑化(樹林復元)用等として、現場近くの苗圃で作ってもよい。
【0059】
上記根付き穂木9は、開発現場の法面又は住宅等の平地面等の所定場所に自立した状態で移植される(図6の移植行程P11)。該根付き穂木9は、図8に示すように、平地面G又は法面(例えば図9のN参照)において、前述した穿孔法により移植される。即ち、穿孔機又は手により略々鉛直方向に30〜70[cm]の縦穴10が掘られ、上記根付き穂木9の下部を20〜60[cm]の深さに上記縦穴10の中に入れて、周囲の隙間から予め用意した、物理性及び化学性とも良好な客土12を埋め込んでいく。埋め戻しが地表面まで5[cm]程度までになったら、いったん埋め戻しを中断し、地上面のレベルになるまで水を注入する。しばらく時間をおき、注入した水が土に染み込んだ後に、再度、客土を踏み固めながら、地表面の高さまで埋め戻す。
【0060】
図9に示すように、開発等により生じた法面Nにあっては、本穿孔移植法にあっても、前述した図5に示すものと同様な方法が好適である。即ち、法面Nに略々鉛直方向に縦穴10を掘り、更に該縦穴の底部10aに連通するように下方から略々水平方向に横穴11を掘り、該横穴11に、粗朶等の透水性の高い材料13を詰め込んで水抜き穴とする。そして、上記穿孔移植法と同様に、上記縦穴10に、根付き穂木9を入れて、物理性及び化学性の良好な、特に通気性、透水性及び保水性の良好な客土12により埋め戻す。これにより、客土中での滞水や過湿を防止し、良好な通気条件を保持して、腐朽菌による細胞の壊死を防止して活着率を大幅に向上する。なお、法面にあっては、比較的深く移植することが好ましく、従って環状剥皮部4及びそこからの根6bがある方が好ましい。
【0061】
図10は、図5に示す法面への挿し付け、及び図9に示す法面への移植を一部変更した実施の形態を示す図である。図10(a)において、縦穴10及び客土12、並びにそこに挿し付けされる穂木1は、図5に示すものと同様であるが、横穴11は、プラスチックパイプ25により補強されており、かつ該パイプは、粗朶等の詰め物がない状態で法面Nの外部に連通して水抜き穴を構成している。同様に、図10(b)において、縦穴10及び客土12、並びにそこに移植される根付き穂木9は、図9に示すものと同様であるが、横穴11がプラスチックパイプ25により補強されている水抜き穴である点で相違している。なお、上記パイプ25を形成するプラスチックは、石油原料から作られたものではなく、穀物等の天然材料から作られたものが好ましく、穂木1,9が生長した際、朽ちて土に返るものが望ましい。
【0062】
図11は、上記プラスチックパイプ25による排水を平地に適用した実施の形態を示すものであり、穿孔法により平地Gに穿設された縦穴10内に、客土12と共に幹挿し用穂木1又は根付き穂木9が、挿し付け又は移植されている。上記縦穴10の底部10aに連通するように、プラスチックパイプ25が埋設され、該パイプ25の他端は、排水パイプ26に連通している。従って、上記パイプ25が、客土12により埋め戻された縦穴10の水抜き穴11を形成する。
【0063】
上述した幹挿し用穂木1の現場で挿し付け(直接挿し付け法及び穿孔挿し付け法)及び根付き穂木9の移植(穿孔移植法)において、土壌の毛管切断含水量以上の深さに挿し付け又は移植すれば、露天であっても、土壌の通気性と透水性を確保することにより、潅水管理しなくとも高い活着率で穂木が生育することを実験により確認した。従って、毛管切断含水量部位が深い位置にある場合、挿し付け深さ又は移植深さは、60[cm]以上になる場合もある。なお、苗圃H(図7)に挿し付けして根付き穂木として育てる場合、潅水管理をしてもよい。
【0064】
また、原木から、玉切りして何本も穂木を取っても、少なくとも3[m]程度の高さの範囲内であれば、部位による活着率に大きな差がないことも、実験により確認した。また、穂木の採取と挿し付けは、2月中旬から4月上旬まで行うことが好ましく、また根付き穂木の移植は、3月上旬から4月下旬までが好ましい。しかし、挿し木及び移植の時期は、自然環境に従うものであるが、場所、樹種等により、上記期間に限るものではなく、ある程度の調整が可能であり、特に移植時期については、冷環境保管等により調整可能である。
【0065】
以上の直接挿し付け法、並びに穿孔挿し付け及び穿孔移植法のいずれにおいても、挿し付けの間隔、または、移植の間隔は50〜150[cm]間隔とする。この間隔は、用いる樹種の勢力(枝張りの発達度)や、早期の幹挿し木の枝葉の発達による被覆に対する要求度等によって加減する。
【0066】
また、種の多様性を高める場合は、多種な樹種を穂木として用い、混交させて挿し付け、または移植するのが望ましいが、この場合、結果的に勢力の強い樹種のみが優占成長し、弱い樹種は被圧・消滅してしまうことを避けるために、留意する必要がある。
【0067】
更に、種の多様性を高めることを考慮した場合、いくつかの樹種を穂木として組合わせて用いても、多様性に限度があるため、施工後の風や野鳥等による多様な種の自然伝播を活用する必要がある。それには、穂木の高密度な挿し付けにより、挿し付け後に2〜3ヶ月で発達してくる枝葉によって法面等が鬱閉されるのを避ける必要がある。一方、挿し付けや移植の間隔を広くした場合は、法面全体が植物で被覆されるまでに時間を要するため、土壌浸食の防止が必要となる。この場合、外来牧草等による吹付けは、使用種の優占繁茂による在来種の伝播阻害や、幹挿し木の枝葉への遮光阻害等の観点から、避けるようにする。在来種の播種、または、在来草本種の刈り草(種子の供給と、雨滴・表面流水による浸食防止、ならびに生物的分解による有機養分供給の効果が得られる)の敷き延べにより、五月雨や梅雨の降雨期までに在来草本種による保護対策が完了しているようにすることが好ましい。
【0068】
また、挿し付けの際、または移植の際の注水を除き、その後の潅水等は土壌の過湿や腐朽菌による阻害を防止するため、原則として行わない。一方、雑草防除は種の多様性や法面保護等の観点から基本的には行わないが、高茎草本植物やツル植物の繁茂が顕著で、放置すると幹挿し木、または、根付き穂木から発達した枝葉に対し、遮光阻害を及ぼす恐れがある場合に限り、刈り取る。この場合、除草剤は種多様性を阻害するため、使用しないようにする。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る(幹挿し用)穂木を示す正面図。
【図2】本発明に係る根付き穂木を示す正面図。
【図3】本発明に係る幹挿し用穂木による緑化方法の各行程を示す図。
【図4】幹挿し用穂木を直接挿し付け法により法面に挿し付ける状態を示す図で、(a)(b)は異なる状況を示す。
【図5】幹挿し用穂木を穿孔挿し付け法により法面に挿し付ける状態を示す図で、(a)(b)は異なる状況を示す。
【図6】本発明に係る根付き穂木による緑化方法の各行程を示す図。
【図7】苗圃での活着行程を示す図。
【図8】平地での移植行程を示す図。
【図9】法面での移植行程を示す図。
【図10】法面での一部変更した実施の形態を示す図で、(a)は幹挿し木、(b)は根付き穂木を示す。
【図11】平地での一部変更した実施の形態を示す図。
【符号の説明】
1 生木(幹挿し用穂木)
2 面切り部
3 蒸散防止材
4 環状剥皮部
6(6a,6b) 根
7 枝葉
9 根付き穂木
10 縦穴
11 横穴(水抜き穴)
12 客土
13 粗朶
N 法面
H 苗圃
Claims (9)
- 軸径が略々3〜12[cm]で、長さが略々30〜160[cm]の常緑広葉樹の生木からなり、
下端が、軸径断面積に対して150〜1000[%]の面積を有するように面切りされると共に、該面切り部に高濃度のオーキシン剤を10[秒]以内の短時間で浸すオーキシン処理が施され、
上端切断面に蒸散防止材が塗布されてなる、
ことを特徴とする挿し木用穂木。 - 前記生木の中間部分に、前記オーキシン処理を施した、樹皮を幅略々0.5〜5[cm]で環状に剥した剥皮部を有する、
請求項1記載の挿し木用穂木。 - 請求項1又は2記載の挿し木用穂木を、該穂木の育成に適した苗圃に挿し付けして、
前記面切り部及び/又は前記剥皮部から発根すると共に、挿し木した地上部から適当数の枝葉が萌芽した後、移植用として上記苗圃から抜き上げてなる、
ことを特徴とする根付き穂木。 - 幹径が3〜12[cm]の原木を採取する採取行程と、
上記原木の幹部又は太枝部を所定長さに切断する玉切り行程と、
上記切断した穂木の下端を、軸径断面積に対して150〜1000[%]の面積を有するように面切りする面切り行程と、
上記面切りした部分をオーキシン剤に浸すオーキシン処理行程と、
上記穂木の上端切断面に蒸散防止材を塗布する蒸散防止行程と、
上記穂木を、開発等により生じた法面に比較的深く挿し付け、該穂木が杭様に自立して土留め機能をなす挿し木行程と、
上記穂木が発根、萌芽して活着し、樹木として育成して土留め機能をなす活着・育成行程と、
を備えたことを特徴とする緑化方法。 - 幹径が3〜12[cm]の原木を採取する採取行程と、
上記原木の幹部又は太枝部を所定長さに切断する玉切り行程と、
上記切断した穂木の下端を、軸径断面積に対して150〜1000[%]の面積を有するように面切りする面切り行程と、
上記面切りした部分をオーキシン剤に浸すオーキシン処理行程と、
上記穂木の上端切断面に蒸散防止材を塗布する蒸散防止行程と、
開発等により生じた法面に略々鉛直方向に縦穴を掘り、また該縦穴の底部に連通するように略々水平方向に横穴を掘って、該横穴を水抜き穴となし、上記縦穴に通気性・透水性の高い土を客土すると共に上記穂木を挿し付ける挿し木行程と、
上記穂木が発根、萌芽して活着し、樹木として育成する活着・育成行程と、
を備えたことを特徴とする緑化方法。 - 幹径が3〜12[cm]の原木を採取する採取行程と、
上記原木の幹部又は太枝部を所定長さに切断する玉切り行程と、
上記切断した穂木の下端を、軸径断面積に対して150〜1000[%]の面積を有するように面切りする面切り行程と、
上記面切りした部分をオーキシン剤に浸すオーキシン処理行程と、
上記穂木の上端切断面に蒸散防止材を塗布する蒸散防止行程と、
上記穂木を、該穂木の育成に適した苗圃に挿し付け、発根すると共に適当数の枝葉を萌芽する活着行程と、
上記活着行程により発根・萌芽した根付き穂木を前記苗圃から抜き上げ、所定の場所に自立した状態で移植する移植行程と、
該移植した根付き穂木を上記所定の場所で樹木として育成する育成行程と、
を備えたことを特徴とする緑化方法。 - 前記移植行程は、開発等により生じる法面に行われ、
該法面に、略々鉛直方向に縦穴を掘ると共に、該縦穴の底部に連通するように略々水平方向に横穴を掘り、
上記縦穴に、樹木の育成に適した土と共に前記根付き穂木を移植し、かつ前記横穴を水抜き穴としてなる、
請求項6記載の緑化方法。 - 前記穂木を挿し付ける前に、該挿し付けた状態の穂木における地表面から比較的近い地中部分に相当する部分の樹皮を環状に剥す環状剥皮行程を行うと共に、該環状剥皮部分に前記オーキシン処理を行う、
請求項4ないし7のいずれか記載の緑化方法。 - 前記採取行程により採取した原木を、該採取地と略々同一地域にて前記樹木に生育する、
請求項4ないし8のいずれか記載の緑化方法。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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-
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- 2002-10-15 JP JP2002301146A patent/JP2004135520A/ja active Pending
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