JP2004108863A - 検体セルおよび電気化学的分析装置及び電気化学的分析方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】透視可能な材料から成り略平板状に成形された多検体セル11の一端面側に対して、検体を配置し培養するための略逆錐形状のウェル11aを1個または複数個形成すると共に、前記ウェル11aの周囲に壁部11bを立設する。前記壁部11b内には、ウェル11aの周囲を覆うように計測溶液を充填し、電気化学顕微鏡計測装置を用い、計測溶液内で移動自在に作用電極を配置すると共に、前記計測溶液内でウェル11aから所定距離を隔てた位置に参照電極/対電極を配置して電気化学的分析装置を構成する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、哺乳動物胚等の生体試料を配置する検体セル、及びこの検体セルを用いて生体試料の評価等を行う電気化学的分析装置と電気化学的分析方法に関するものであり、例えば生体試料として培養されたプロトプラストやウシ胚等の代謝活性量や形態変化等を分析する際に用いて好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、家畜繁殖および体外培養技術の進歩により、牛などの家畜における体内および体外受精卵移植を行う研究機関や普及実施機関が増加し、市場に出回る受精卵移植家畜の生産頭数は増加の一途にある。一方、受胎卵移植による受胎率は、人工受精に比べてまだ十分とはいえず、移植や凍結保存に適した受精卵や核移植されたクローン胚の選択において、信頼性の高い品質分析方法および装置の確立が要望されている。
【0003】
体外培養された哺乳動物受精卵の発生が正常に進行していることを判断する方法は、主に形態観察に依存しているのが現状である。実際に、形態観察に基づく受精卵の品質ランク判定は広く適用され、ルーチン化されている。
【0004】
しかし、形態的判定により低品質と評価された受精卵が受胎したり、高品質と判定された受精卵が受胎しない事例が報告されている。また、判定者の主観により判定結果が一致しない恐れがある問題も指摘されている。
【0005】
このような状況を踏まえて、試料溶液中に含まれる検体(分析対象物質)の濃度を自動的・連続的に定量するために適用されているマルチタイタープレートを備えた装置(以下、マルチ式分析装置と称する)を用い、前記のマルチタイタープレートに形成された複数個のウェル内に哺乳動物胚等の検体をそれぞれ配置し、その各検体において代謝活性量(例えば、溶存酸素量)等を電気化学的分析する方法(Electrochemistry,67−5479−483,1999)が検討されている。広く市販されているマルチ式分析装置は、吸光,蛍光,発光計測を検出原理とし、例えば容積が100μl〜3mlのマイクロウェルが12〜96個形成される。
【0006】
このマルチ式分析装置による検体の電気化学的分析は、図5(ウェル51の拡大図)に示すように、外壁51aで隔離された各ウェル51内に対し、作用電極52a,参照電極52b,対電極52cを印刷等により形成し、各電極を内壁53によって隔離して形成したマルチタイタープレート50を、計測溶液(生体試料等の検体の生命を維持できる培養液等;図示省略)に浸し(各ウェル51の各電極を計測溶液に浸し)、各ウェル51の作用電極52a上に検体をそれぞれ培養して、その培養された検体の経時的変化を電流変化として検出することにより行われる。なお、分析精度の観点から、前記各ウェル51内における計測溶液の濃度分布はそれぞれ均一にする必要がある。
【0007】
しかしながら、前記のマルチ式分析装置により電気化学的分析する場合、マルチタイタープレート50の各ウェル51に対して作用電極52a,参照電極52b,対電極52cをそれぞれ形成する必要があるため、分析装置の構成が複雑になってしまう。また、前記の各ウェル51内における検体の経時的変化を電流変化として検出する場合、作用電極52a表面では計測溶液の濃度分布が不均一になってしまうが、作用電極52aの周囲の濃度においては均一に保つ必要がある。さらに、前記の各ウェル51の形状は極めて微小であるため、それら各ウェル51に対して検体を配置する際にはマニピュレータ,マイクロインジェクタ,実体顕微鏡等を必要とし手間がかかってしまう。
【0008】
そこで最近では、特開2002−122568号公報(哺乳動物胚の無侵襲的品質評価方法及びその装置)として、走査型電気化学顕微鏡(電気化学顕微鏡)を用いることにより、個々のウシ胚における形態を観察したり酸素消費量を基準に胚の正常性を判定する方法および装置(以下、電気化学的分析装置と称する)による品質評価方法が提案されている。
【0009】
この電気化学的分析装置は、単一哺乳動物胚の形態観察を行うための(倒立)顕微鏡と、単一哺乳動物胚の酸素消費量の計測を行う電気化学顕微鏡計測装置と、培養液に準ずる計測溶液とを用いて単一胚近傍の酸素濃度変化を高空間分解能で定量する手段と、あらかじめ作出した哺乳動物胚の大きさと酸素消費量の関係および哺乳動物胚のその後の発生結果を集計する手段と、両手段による結果に基づいて哺乳動物胚の正常性を判定する手段とを具備して構成されている。
【0010】
この電気化学的分析装置において、電気化学顕微鏡計測装置は図6に示すように、顕微鏡ステージ69b上に設置した微小電極(作用電極61a,参照電極/対電極61b)、電極位置決め装置64a、微小電流計測装置(ポテンショスタット)64c、及びこれらの制御等を行うコンピュータ64bと、恒温循環槽等から成る温度制御装置66、ガス(酸素、二酸化炭素)ボンベ67a,バブラー67b等を有する培養気相条件制御装置、倒立顕微鏡69a等から構成され、顕微鏡ステージ69b上に配置されるディッシュ型セル(平底容器)62b内の培地/計測溶液62aに、試料保持装置(キャピラリーガラス65a,シリコンチューブ65b,マイクロインジェクタ65c)65によって保持された検体(例えば、胚試料)63の分析・評価等を行うものである。なお、68はグローブボックスである。
【0011】
このように構成された電気化学的分析装置において、試料保持装置65を操作し検体63をディッシュ型セル62b内における顕微鏡(倒立顕微鏡69a)視野の中心に配置し、作用電極62を検体63の周囲を走査し電流変化を検出することにより、前記検体63の形態および酸素消費量等の分析が行われる。
【0012】
【非特許文献1】
新井潤一郎,加藤英夫著「酸素電極法による微生物の呼吸測定を指標とした薬剤スクリーニング」The Electrochemical Society出版、1999年、67−5のp.479−483。
【0013】
【特許文献1】
特開2002−122568号公報(段落[0035]〜[0039],図1)。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の電気化学的分析装置の場合は、検体63を試料保持装置65で操作しながら分析する必要があるため、分析工程が煩雑になってしまうこと、その分析に要する時間は装置の使用者の修練度によって大きく左右されてしまうこと、また検体1個を分析する毎に一つの試料保持装置65を必要とするため、複数個の検体を分析する装置としては不適格であること、さらには試料の保持をガラスキャピラリー65aおよびマイクロインジェクタ65cによって構成される前記試料保持装置65により行っているため、検体に損傷等のダメージを与えてしまう危険性があること、そして前述の各問題点の影響等により分析精度が低下することも考えられる。
【0015】
本発明は前記課題に基づいてなされたものであり、検体に損傷を与えることなく保持できる検体セルを提供すると共に、既存の電気化学的分析装置(無侵襲的分析装置)において、1個又は複数個の検体を簡便な方法および高精度で連続的に分析することを可能にした電気化学的分析装置を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記課題の解決を図るために、請求項1の発明においては検体セルを、平板状部材の一面側に検体である生体試料を配置するための逆錐形状のウェルを1個または複数個形成するとともに、前記平板上に前記ウェルの周囲を囲む壁部を立設して液槽を形成したことを特徴とする。ここで、逆錐形状とは、略逆円錐形状の他、例えば略逆三角錐形状,逆四角錐形状等を示す。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1の発明におけるウェルを、ウェル内周面の傾斜が垂直方向に対して30°〜60°となるよう形成したことを特徴とする。ウェルの内周面を垂直方向に対して45°、即ち断面が90°になるように形成すると、ウェルの深さと開口半径とを同じにバランス良く確保できる。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明におけるウェルが、底部に微小平面部を有することを特徴とする。
【0019】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れかの発明における検体セルを、透明な材料により形成したことを特徴とする。ここで透明な材料とはアクリルやポリスチレン等の透視可能な材料をいう。
【0020】
請求項5の発明は、電気化学的測定装置を、電気化学顕微鏡計測装置と、電気化学顕微鏡計測装置により分析する検体である生体試料を配置するセルとして請求項1乃至4の何れかに記載の検体セルを用い、この検体セルの液槽内に計測溶液を充填した状態で、前記電気化学顕微鏡計測装置の作用電極を計測溶液内で移動自在且つウェル内に侵入可能に構成すると共に、前記計測溶液内でウェルから所定距離を隔てた位置に参照電極/対極を配置して構成したことを特徴とする。
【0021】
なお、ここで電気化学顕微鏡計測装置とは、顕微鏡ステージ上に設置した微小電極(作用電極,参照電極/対電極)、電極位置決め装置、微小電流計測装置(ポテンショスタット)、及びこれらの制御等を行うコンピュータと、恒温循環槽等から成る温度制御装置、ガス(酸素、二酸化炭素)ボンベ,バブラー等を有する培養気相条件制御装置、及び倒立顕微鏡69a等から構成されている。
【0022】
請求項6の発明は、請求項5に記載の電気化学的分析装置を用い、計測溶液が充填された検体セル上方から検体である生体試料を投入してウェル内に静止させ、ウェル内において作用電極が検体周囲を移動して走査することにより、前記検体周囲の電流変化を検出し、この検出結果に基づいて検体の分析,評価等をすることを特徴とする。
【0023】
請求項7の発明は、請求項5に記載の電気化学的分析装置を用いると共に、分析する検体である生体試料が配置される検体セルとして複数個のウェルが形成された多検体セルを用い、計測溶液が充填された多検体セル上方から検体である生体試料を投入して各ウェル内に各々静止させ、作用電極かウェル内において検体周囲を移動して走査する工程を各ウェル毎に順次自動的に行って、各検体周囲の電流変化を各々検出し、各検出結果に基づいて各検体を各々自動的に分析,評価することを特徴とする。
【0024】
【発明の実施の形態】
本実施の形態は、複数個の生体試料などの検体を保持することが可能な検体セル(以下、多検体セルと称する)と、この多検体セルを用いた電気化学的分析装置を開発し、各検体に損傷を与えることなく保持し、代謝活性量や形態等を分析すると共に、各検体を簡便な方法および高精度で連続的に分析することを検討したものである。
【0025】
以下、本発明の実施の形態における多検体セル、及び電気化学分析装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1A(概略図),B(断面図),C(ウェルの拡大図)は、本発明の実施の形態に係る多検体セルの概略説明図を示すものである。図1A〜Cにおいて、多検体セル11はアクリルやポリスチレン等の透視可能(例えば、後述するウェル内に配置された検体を他端面側から透視可能)な材料を射出成形することで、基板の一端面側に検体を配置するためのウェル(逆円錐形状の穴)11aが複数個それぞれ所定距離を隔てて形成すると共に、各ウェル11aの周囲には各ウェル11a周囲を囲む壁部11bが立設されており、これにより基板上には各ウェル11aを含めた壁部11b内が試料溶液で満たされる液槽を形成して構成したものである。
【0027】
本実施形態においては、長さ60mm,幅30mm,厚さ3mmのアクリル製基板に、開口半径2mm,深さ2mmの逆円錐形状のウェル11aを2mm間隔で6個形成され、基板上縁部にはこれら各ウェル11aを囲むようにアクリルから成る厚さ5mm,高さ5mmの壁部11bが立設され、壁部11b内には長さ50mm、幅20mm、深さ5mmの液槽が形成されている。なお、ウェル11aの底部には、図1(C)に示すように必要に応じて微小平面部11cを形成しても良く、この実施形態においては直径0.05mmの微小平面部11cが形成されている。
【0028】
以上のように構成した多検体セル11に、検体である生体試料として細胞や胚などの検体を配置する場合には、ウェル11aを目印に、その上方より単に簡易なインジェクター等による滴下等で検体を落とし込むことで、検体を適切な位置、即ちウェル11a内に容易に納めることができるので、検体にダメージを与える恐れは無い。
【0029】
この時、ウェル11a開口範囲内であれば微小のズレがあったとしても、検体はウェル11aの傾斜により案内され、速やかにウェル11aの頂部に納まって静止するので、厳密な(例えば、マニピュレータ,マイクロインジェクタ,実態顕微鏡等を用いた)位置調整等を行う必要もない。
【0030】
そして、検体がウェル11a内に納まった状態においては、多検体セル11に多少の振動が加えられても、検体が所定の位置から移動するようなことはない。
【0031】
なお、本実施形態においては、ウェル11aの底部に微小平面部11cを形成していることにより、検体の下面側がこの微小平面部11cによって支持されるため、検体をより安定して支持することが可能であるが、この微小平面部11cは必要に応じて形成すれば良いものである。
【0032】
また、多検体セル11は、滑らかな表面となるように射出成型等により形成することが好ましいが、他の既知の方法によって形成しても良く、また射出成形により形成するにあたっては、壁部11aも含めて一体的に形成しても良い。
【0033】
更に、各ウェル11aの形状,大きさ,数等は、前記の寸法等に限ることなく、検体の形状,大きさ,数等に応じて任意に形成すれば良く、例えばウェル11aの形状も、ウェル11a内に検体を投入した際に検体が速やかにウェル11a内に納まるよう、略逆錐形状とすることが好ましく、例えば、前述の略逆円錐形状に限らず例えば略逆三角錐形状,逆四角錐形状等であっても良い。この時、ウェル11aの内周面を図1(C)に示すように垂直方向に対して45°、即ち図1(C)中の断面が90°になるように形成すると、ウェル11aの深さと開口半径とを同じにバランス良く確保できるため、種々の形状,大きさの検体に対する汎用性の面で好ましいと思われるが、用途に応じて例えば垂直方向に対して30°〜60°の範囲で任意の傾斜を選択することができる。
【0034】
以上の説明は全て、多数の検体を対象とする多検体セルについて説明しているが、単一の検体用として、ウェル11aを1個だけ有する検体セルとしても良いことは勿論である。
【0035】
なお、この検体ウェルは、前述のように射出成型により製造することで、同一の形状でばらつきなく生産できるので、大量生産に好適である。
【0036】
次に、本実施の形態に係る電気化学分析装置について説明する。本実施の形態に係る電気化学的分析装置は、図6に示す従来の電気化学顕微鏡計測装置において、ディッシュ型セル62bに代えて前記の検体セル(特に本実施の形態においては多数のウェル11を有する多検体セル11)を用いたものであるため、電気化学顕微鏡計測装置についての説明は省略する。
【0037】
図2は、図6のディッシュ型セル62bに代えて設置された多検体セル11を用いて行う検体の分析等について説明するための概略説明図である。なお、図1に示すものと同様なものには同一符号を用いて、その詳細な説明を省略する。
【0038】
多検体セル11の壁部11b内に計測溶液(例えば、無血清培養液)21が充填され、各ウェル11a内には検体22がそれぞれ投入されており、必要に応じて培養が行われる。23は作用電極(図6においては符号61a)であり、各ウェル11内を含む計測溶液21内に対して電極位置決め装置(図6においては符号64a)により移動自在に配置されている。24は、計測溶液21内で各ウェル11aから所定距離を隔てた任意の位置に配置された参照電極/対電極(図6においては61b)である。なお、前記の検体22と一対の作用電極23および参照電極/対電極24とは、計測溶液21を介して電気的に接続される。
【0039】
そして、図2に示すように各ウェル11内における検体22の上方(検体22から所定距離を隔てた上方の位置)に作用電極23を移動させ、ウェル11a内にて作用電極23を走査させて電流変化をそれぞれ検出して分析が行われる。この分析工程は、各ウェル11a内の各検体22に対して順次行われる。
【0040】
この時、本実施の形態においては、ディッシュ型セルに代えてウェル11aを有する多検体セル11を用いたことで、試料保持装置等は用いることなく前述通りに検体22を容易に所定の位置に保持することができ、また検体22が事前に位置確認のできるウェル11の頂部位置(決まった位置)に保持されることから、作用電極23の位置制御,走査等の各種操作はウェル11の頂部位置を目標に行えば良いので、使用者の修練度等に左右されることなく、誰もが短時間で容易に分析を行うことができる。
【0041】
なお、前記の作用電極23,参照電極/対電極24には、検体や電気化学的装置の大きさに応じて例えば微小電流計測用のものを用いることが好ましい。
【0042】
次に、以下に示す方法により検体として藻類ハネモのプロトプラスト,ウシ胚を各々作成し、電気化学的分析装置としてディッシュ型セル62bを用いた場合(従来の電気化学顕微鏡計測装置)と、多検体セル11を用いた場合(本実施の形態に係る電気化学的分析装置)とで、各々前記検体の酸素消費量の指標となる酸素濃度差(μMレベル)等を検出し、両者の比較を行った。
【0043】
なお、本実施例では、作用電極61aとして電極半径1μmの白金ディスク電極を用い、参照電極/対電極61bにはAg/AgCl電極を用いた。
【0044】
(プロトプラストの作成)
検体として用いるプロトプラストの作成について説明する。まず人工海水(1リットル当たりの成分;NaCl…23.90g,NaHCO3…0.195g,CaCl2…1.234g,MgCl2…4.989g)が充填されたシャーレ(例えば、キムワイプ(登録商標)上に載置されたシャーレ)を用意し、海水中でハネモの先端部を切断して採取し前記シャーレ内に移す。次に、前記シャーレ内にてハネモの先端部をピンセットで保持しながら、他のピンセットにより前記ハネモ内のプロトプラストを搾り出す。そして、前記シャーレ内を倒立顕微鏡で観察しながら光を約30分間照射し、球状(半径150μm程度の球状)になったものを検体(以下、プラスト検体と称する)として用いた。
【0045】
(ウシ胚の作成)
次に、検体として用いるウシ胚は、体外受精させたウシ胚を無血清培養液(IVD101;機能性ペプチド研究所製)中に浸し、低酸素雰囲気(O2…5%,CO2…5%,N2…90%、湿度100%、温度38.5℃)下にて発生培養させて、これを検体(以下、ウシ検体と称する)として用いた。
【0046】
(従来の無侵襲的試験装置による分析)
まず、検体(プラスト検体またはウシ検体)を計測溶液(人口海水または無血清培養液)と共にディッシュ型セル62bに移し電気化学顕微鏡計測装置の所定位置(図6のディッシュ型セルの位置)に配置する。そして、前記の検体を試料保持装置65により固定し参照電極/対電極61bに対する作用電極61aの電位を−0.6Vに設定すると共に、前記の検体表面および検体表面から所定距離隔てた領域(10μm〜170μm)において前記作用電極61aを走査速度14.7μm/秒で走査し電流変化を検出することにより、前記検体表面と検体表面から所定距離隔てた領域との酸素濃度差ΔC(ディッシュ型セルを用いた場合はΔCSとする)をそれぞれ求めた。
【0047】
前記のように酸素濃度差ΔCを求めることにより、下記の計算式によって酸素消費速度Fを算出することができる。なお、下記(1)式のDは酸素拡散係数(2.1×105cm2/mol)、rSは検体(透明体を含む検体)の半径を示すものとする。
【0048】
F=4π・D・rS・ΔC …… (1)
そして前記(1)式より明らかなように、ΔCは酸素消費速度Fの定量化、すなわち酸素消費量の指標となることが判る。
【0049】
(本実施の形態に係る電気化学的分析装置による分析)
次に、検体(プラスト検体またはウシ検体)を、前述の方法により多検体セル11のウェル11a(複数個のウェルのうち何れか一つ)内に配置し、前記ディッシュ62bを用いた場合と同様の方法で作用電極61a(図2中の作用電極23)を走査し電流変化を検出することにより、前記検体表面と検体表面から所定距離隔てた領域との酸素濃度差ΔC(多検体セルを用いた場合はΔCPとする)をそれぞれ求めた。
【0050】
前記のようにディッシュ,多検体セルを用いて得られた各々の酸素濃度差の結果を、図3(プラスト検体),図4(ウシ検体)の酸素濃度差ΔCSとΔCPとの相関特性図に示した。
【0051】
図3,4に示す結果から、検体の種類,大きさに関係なく、下記の関係式が成り立つことが読み取れる。
ΔCP=2・ΔCS …… (2)
すなわち、本実施の形態のように多検体セルを用いることにより、従来のディッシュ型セルおよび試料保持装置を用いた場合と比較して、検体の酸素濃度差を2倍程度増幅させて分析でき、例えば細胞の呼吸に由来する検体周辺の酸素濃度変化を効率的に捕捉できることが判った。
【0052】
なお、本実施の形態の検体セル(又は多検体セル)は、アクリル,ポリスチレン等の透視可能な材料により形成されていることにより、従来の無侵襲的試験装置と同様に、倒立顕微鏡(図6中の69a)により、下方より検体の形態観察を行うことができる。
【0053】
そして、本実施の形態に係る電気化学的分析装置においても、顕微鏡観察により検体の大きさを計測し形態的評価を行うと共に、検体の酸素消費量の計測を行い、予め記録した検体の大きさと酸素消費量の関係や、検体のその後の成長過程等を基に設定した判定基準を参照することで、検体の品質を判定することができることは、従来の無侵襲的試験装置と同様である。
【0054】
また、本実施の形態の電気化学分析装置において多検体セルを用いる場合、各検体が事前に位置確認のできる決まった位置(ウェルの頂部位置)に保持され、作用電極の位置制御,走査等の各種操作を決まった位置を目標に行うことができるので、各検体位置における走査等の分析のための操作等を自動的に行ようコンピュータ(例えば図6中のコンピュータ64d)にプログラムしておくことで、多検体セルに保持された複数の検体の分析を順次自動的に行う自動化が可能である。
【0055】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0056】
【発明の効果】
以上示したように本発明の検体セルによれば、検体にダメージを与える恐れも無く、マニピュレーター,マイクロインジェクタ等の特殊な試料保持装置を用いることなく、例えば簡易なインジェクター等により、検体を適切な位置(ウェル内)に容易に納め保持することができる。
【0057】
そして、検体がウェル内に納まった状態においては、検体セルに多少の振動が加えられても、検体が所定の位置から移動するようなことはない。
【0058】
更に、ウェルの底部に微小平面部を形成することにより、検体の下面側がこの微小平面部によって支持され、検体をより安定して支持することが可能である。
【0059】
なお、検体セルは透視可能な材料により形成されているので、倒立顕微鏡等による検体の形態観察を行うこともできる。
【0060】
また、本発明の電気化学的分析装置によれば、セルに多検体セルを用いたことで、試料保持装置等は用いることなく前述通りに検体を容易に所定の位置に保持することができるので、装置としての小型化が図れ、検体が事前に位置確認のできるウェルの頂部位置(決まった位置)に保持されることから、作用電極の位置制御,走査等の各種操作はウェルの頂部位置を目標に行えば良いので、使用者の修練度等に左右されることなく、誰もが短時間で容易に分析,評価等を行うことができる。
【0061】
そして、従来法と比較して検出電流を略2倍の増幅して計測できることより、検体のの呼吸に由来する検体周辺の酸素濃度変化を効率的捕捉でき、ウシ胚等の検体における酸素消費量を基準にした正常性等の評価,判定する際、より確度が高い情報を得ることができる。
【0062】
更に、多検体セルを用いた場合には、生体試料である検体を複数同時に保持できるので、その都度検体の保持作業を行うことなく、保持した検体を短時間で順次連続して分析,評価することが可能である。
【0063】
更にまた、多検体セルを用いる場合、各検体が事前に位置確認のできる決まった位置(ウェルの頂部位置)に保持され、作用電極の位置制御,走査等の各種操作を決まった位置を目標に行うことができるので、各検体位置における走査等の分析のための操作等を自動的に行ようコンピュータにプログラムしておくことで、多検体セルに保持された複数の検体の分析を順次自動的に行う自動化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態における検体セルの概略説明図。
【図2】本実施の形態の概略説明図
【図3】プラスト検体における酸素濃度差ΔCSとΔCPとの相関特性図。
【図4】ウシ検体における酸素濃度差ΔCSとΔCPとの相関特性図。
【図5】マルチ式分析装置の概略説明図。
【図6】従来の電気化学的分析装置の概略説明図。
【符号の説明】
11…多検体セル
11a…ウェル
11b…壁部
11c…微小平面部
21…計測溶液
22…検体
23…作用電極
24…参照電極/対電極
Claims (7)
- 平板状部材の一面側に検体である生体試料を配置するための逆錐形状のウェルを1個または複数個形成するとともに、前記平板上に前記ウェルの周囲を囲む壁部を立設して液槽を形成したことを特徴とする検体セル。
- 前記ウェルを、ウェル内周面の傾斜が垂直方向に対して30°〜60°となるよう形成したことを特徴とする請求項1に記載の検体セル。
- 前記ウェルが、底部に微小平面部を有することを特徴とする請求項1または2の何れかに記載の検体セル。
- 請求項1乃至3の何れかに記載の検体セルは、透明な材料により形成されていることを特徴とする検体セル。
- 電気化学顕微鏡計測装置と、電気化学顕微鏡計測装置により分析する検体である生体試料を配置するセルとして請求項1乃至4の何れかに記載の検体セルを用い、この検体セルの液槽内に計測溶液を充填した状態で、前記電気化学顕微鏡計測装置の作用電極を計測溶液内で移動自在且つウェル内に侵入可能に構成すると共に、前記計測溶液内でウェルから所定距離を隔てた位置に参照電極/対極を配置して構成したことを特徴とする電気化学的分析装置。
- 請求項5に記載の電気化学的分析装置を用い、計測溶液が充填された検体セル上方から検体である生体試料を投入してウェル内に静止させ、ウェル内において作用電極が検体周囲を移動して走査することにより、前記検体周囲の電流変化を検出し、この検出結果に基づいて検体を分析,評価することを特徴とする電気化学的分析方法。
- 請求項5に記載の電気化学的分析装置を用いると共に、分析する検体が配置される検体セルとして複数個のウェルが形成された多検体セルを用い、計測溶液が充填された多検体セル上方から検体である生体試料を投入して各ウェル内に各々静止させ、作用電極かウェル内において検体周囲を移動して走査する工程を各ウェル毎に順次自動的に行って各検体周囲の電流変化を各々検出し、各検出結果に基づいて各検体を各々自動的に分析,評価することを特徴とする電気化学的分析方法。
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