JP2004105059A - 植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナル - Google Patents
植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナル Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004105059A JP2004105059A JP2002270986A JP2002270986A JP2004105059A JP 2004105059 A JP2004105059 A JP 2004105059A JP 2002270986 A JP2002270986 A JP 2002270986A JP 2002270986 A JP2002270986 A JP 2002270986A JP 2004105059 A JP2004105059 A JP 2004105059A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- protein
- plant
- mitochondria
- rice
- rps10
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Images
Landscapes
- Breeding Of Plants And Reproduction By Means Of Culturing (AREA)
- Peptides Or Proteins (AREA)
Abstract
【課題】植物におけるミトコンドリアへのタンパク質ターゲティングシグナルを提供すること。
【解決手段】本発明のタンパク質輸送シグナルは、植物由来の特定なアミノ酸配列または他の特定なアミノ酸配列を含む。本発明によれば、所望のタンパク質をコードするDNA配列、およびその5’側に本発明のタンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列を有するプラスミドを作成する工程、および該プラスミドを植物細胞に導入する工程によって、植物において所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現させることができる。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明のタンパク質輸送シグナルは、植物由来の特定なアミノ酸配列または他の特定なアミノ酸配列を含む。本発明によれば、所望のタンパク質をコードするDNA配列、およびその5’側に本発明のタンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列を有するプラスミドを作成する工程、および該プラスミドを植物細胞に導入する工程によって、植物において所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現させることができる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物ミトコンドリアへタンパク質を特異的に輸送するためのシグナルに関する。
【0002】
【従来の技術】
真核生物において、ほとんどのミトコンドリアタンパク質は、核遺伝子によってコードされており、サイトゾルで合成され、そしてミトコンドリアに輸送される。これらの核遺伝子は、細胞進化の過程中にミトコンドリアから核に転移されたと考えられる(非特許文献1参照)。そのため、核がコードしているミトコンドリアタンパク質は、ミトコンドリアへ誘導されるためのターゲティングシグナルが必要である。このようなターゲティングシグナルは、N末端拡張領域においてプレ配列としてコードされ得ることが報告されている(非特許文献2参照)。これまでに、多くのミトコンドリア遺伝子が核ゲノムから単離されており、そして一般的に、プレ配列が次のような特徴を有することが認められている:種々のタンパク質の中で一次アミノ酸配列の類似性がないこと、塩基性残基が比較的豊富であるが酸性残基がまれであること、両親媒性のα−ヘリックス構造を形成し得ることなど(非特許文献1参照)。これらの特徴は、植物ミトコンドリアのプレ配列にも類推されるが(非特許文献3参照)、植物においていくつかの例外が知られている。例えば、プレ配列における顕著な相同性が、種々のミトコンドリア遺伝子間で見出されている(非特許文献4〜6参照)。同様の証拠が、葉緑体遺伝子のターゲティング配列において報告されている(非特許文献7参照)。
【0003】
発明者らは、これまでに、イネの核ゲノムからミトコンドリアリボソームタンパク質S10(RPS10)およびS14(RPS14)をコードする2つの遺伝子(rps10およびrps14)を単離している(非特許文献8および9参照)。これらのホモログは、他の植物種のミトコンドリアゲノムにおいて存在が認められているので、これらは、比較的最近になって核に転移されたと考えられる。これらの2つの遺伝子rps10およびrps14は、ミトコンドリアへ輸送されるためのターゲティングシグナルを有すると考えられる。一般的にターゲティングシグナルが存在すると考えられるN末端側については、rps10遺伝子は、明らかなN末端拡張配列を有さないが、rps14遺伝子は、ミトコンドリアゲノムでコードされた他の遺伝子と比較して長いN末端拡張配列を有する。しかし、タンパク質のどの部分が2つの遺伝子産物についてのミトコンドリアターゲティングに関連するかは全く不明である。
【0004】
インビボでタンパク質の細胞内局在を検討するために、グリーン蛍光タンパク質(GFP)が用いられている。GFPは、生存細胞において毒性がないことおよび特別なコファクターまたは基質を必要としないことなどの利点を有する。そのため、生存植物細胞においてタンパク質を可視化する目的で、増強されたGFP構築物を得るように遺伝子操作される(例えば、非特許文献10参照)。このシステムはまた、インビボで植物ミトコンドリアを可視化するために適用されている(非特許文献11および12参照)。これまで、植物ミトコンドリアタンパク質の局在を検討するために、ならびにインビボでGFPを用いることによって(例えば、非特許文献13参照)およびインビトロ実験で(例えば、非特許文献14参照)プレ配列の機能決定基を明らかにするために、いくつかの分析が行われてきた。しかし、GFPを用いた植物リボソームタンパク質の分析はまだ限られている(非特許文献15〜17参照)。特に、ミトコンドリアリボソームタンパク質のターゲティングに関連する配列決定基の同定についての分析は行われていない。
【0005】
【非特許文献1】
Gray,M.W.ら、Int.Rev.Cytol.,1992年,第141巻、p.233−357
【非特許文献2】
Tamm,L.K.ら、Biochim.Biophys.Acta,1991年,第1071巻,p.123−148
【非特許文献3】
Whelan,J.およびGlaser,E.、Plant Mol.Biol.,1997年,第33巻,p.771−789
【非特許文献4】
Kadowaki,K.ら、EMBO J.,1996年,第15巻,p.6652−6661
【非特許文献5】
Adams,K.L.ら、Nature,2000年,第405巻,p.354−357
【非特許文献6】
Adams,K.L.ら、Genetics,2001年,第158巻,p.1289−1300
【非特許文献7】
Arimura,S.およびTsutsumi,N.、FEBS Lett.,1999年,第450巻,p.231−234
【非特許文献8】
Kubo,N.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1999年,第96巻,p.9207−9211
【非特許文献9】
Kubo,N.ら、Mol.Gen.Genet.,2000年,第263巻,p.733−739
【非特許文献10】
Chiu,W.L.ら、Curr.Biol.,1996年,第6巻,p.325−330
【非特許文献11】
Kohler,R.ら、Plant J.,1997年,第11巻,p.613−621
【非特許文献12】
Niwaら、Plant J.,1999年,第18巻,p.455−463
【非特許文献13】
Duby,G.ら、Plant J.,2001年,第27巻,p.539−549
【非特許文献14】
Tanudji,M.ら、J.Biol.Chem.,1999年,第274巻,p.1286−1293
【非特許文献15】
Handa,H.ら、Mol.Gen.Genet.,2001年,第265巻,p.569−575
【非特許文献16】
Skinner,D.J.ら、Plant Cell,2001年,第13巻,p.2719−2730
【非特許文献17】
Mollier,p.ら、Curr.Genet.,2002年,第40巻,p.405−409
【非特許文献18】
Wischmann,C.およびSchuster,W.、FEBS
Lett.,1995年,第374巻,p.152−156
【非特許文献19】
Figueroa,P.ら、Plant J.,1999年,第18巻,p.601−609
【非特許文献20】
Figueroa,P.ら、Mol.Gen.Genet.,1999年,第262巻,p.139−44
【非特許文献21】
Zhang,X.P.ら、Plant J.,2001年,第27巻,p.427−438
【非特許文献22】
Oda,K.ら、J.Mol.Biol.,1992年,第223巻,p.1−7
【非特許文献23】
Knoop,V.ら、Curr.Genet.,1995年,第27巻,p.559−564
【非特許文献24】
Zanlungo,S.ら、Curr.Genet.,1995年,第27巻,p.565−571
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、植物におけるミトコンドリアへのタンパク質ターゲティングシグナルを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記のイネ核ゲノム由来の2種類の遺伝子を用い、ミトコンドリアの局在に必要な配列を絞り込み、二次構造予測から重要な配列を破壊することによって、ミトコンドリアへのタンパク質輸送機能が失われることを見出した。すなわち、イネにおいてミトコンドリアへの局在を支配する配列を明らかにし、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、配列表の配列番号1の1位から16位までのアミノ酸配列を含む、植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナルを提供する。
【0009】
好適な実施態様では、上記タンパク質輸送シグナルは、配列表の配列番号1の1位から56位までのアミノ酸配列を含む。
【0010】
本発明はまた、配列表の配列番号2の1位から9位までのアミノ酸配列を含む、植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナルを提供する。
【0011】
好適な実施態様では、上記タンパク質輸送シグナルは、配列表の配列番号2の1位から48位までのアミノ酸配列を含む。
【0012】
本発明はさらに、植物において所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現させる方法を提供し、該方法は、
該所望のタンパク質をコードするDNA配列、およびその5’側に上記のいずれかのタンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列を有するプラスミドを作成する工程、および
該プラスミドを植物細胞に導入する工程を含む。
【0013】
本発明はまた、所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現する植物の作成方法を提供し、該方法は、
該所望のタンパク質をコードするDNA配列、およびその5’側に上記のいずれかのタンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列を有するプラスミドを作成する工程、
該プラスミドを植物細胞に導入する工程、および
該植物細胞を培養して植物体を得る工程を含む。
【0014】
本発明はさらに、上記の作成方法によって得られた、所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現する植物を提供する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明において、「イネのミトコンドリアリボソームタンパク質S10(RPS10)」とは、配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質をいい、イネ核ゲノムのrps10遺伝子によってコードされている。このイネrps10遺伝子は、既に単離されており、公知の配列である(非特許文献8および9参照)。
【0016】
rps10遺伝子は、イネ以外のいくつかの高等植物の核ゲノムからも単離されている(非特許文献5、9、および18参照)。植物種間のrps10遺伝子構造を比較すると、それらのN末端拡張のサイズには大きな変動がある。例えば、Arabidopsisのrps10遺伝子は、5’部分に拡張されたリーディングフレームを有する(非特許文献18参照)。反対に、イネ、トウモロコシ、ホウレンソウ、およびカタバミ属の植物のrps10遺伝子は、ミトコンドリアターゲティングシグナルに関する明らかなN末端拡張を有さない(非特許文献5および9参照)。
【0017】
本発明において、「イネのミトコンドリアリボソームタンパク質S14(RPS14)」とは、配列表の配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質をいい、イネ核ゲノムのrps14遺伝子によってコードされている。イネrps14遺伝子は、既に単離されており、公知の配列である(非特許文献8および9参照)。
【0018】
イネおよびトウモロコシの核rps14遺伝子は、他の植物種のミトコンドリアゲノムにおいてコードされた対応する遺伝子と比較した場合、非常に長いN末端拡張配列を有する(それぞれ250および248アミノ酸長)(非特許文献8および19参照)。核rps14遺伝子の拡張配列は、49〜249位にコハク酸デヒドロゲナーゼサブユニットB(SDHB)のコード領域の一部と相同な配列を含むことを特徴とする。なお、例外として、Arabidopsisの核rps14遺伝子は、より短い遺伝子を有し、そしてその配列は、イネおよびトウモロコシの配列と全体的に異なることが報告されている(非特許文献20参照)。
【0019】
上記の知見から、植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナルは、進化の過程で生じたミトコンドリアから核への遺伝子転移事象の後に、植物種において独立して獲得されたN末端領域における迅速な配列改変によって生じた配列と考えられる。
【0020】
本発明の植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナルは、1つの実施態様において、少なくとも配列表の配列番号1の1位から16位までのアミノ酸配列を含み、そして植物ミトコンドリアにタンパク質を輸送する機能を有する。この1位から16位までのアミノ酸配列は、上記RPS10タンパク質のN末端側に存在し、α−ヘリックス構造を形成し得るアミノ酸配列である。この配列が、ミトコンドリアへの局在に関与し得ると考えられる。好ましくは、本発明のタンパク質輸送シグナルは、そのN末端部に配列番号1の1位から16位までのアミノ酸配列を有する。本発明のタンパク質輸送シグナルは、好ましくは16アミノ酸長より長く、60アミノ酸長以下、より好適には50アミノ酸長以下、さらに好ましくは30アミノ酸長以下の長さである。好適には、配列表の配列番号1の1位から56位までのアミノ酸配列であり、より好適には、配列表の配列番号1の1位から16位までのアミノ酸配列である。
【0021】
本発明の植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナルは、他の実施態様においては、少なくとも配列表の配列番号2の1位から9位までのアミノ酸配列を含み、そして植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送機能およびその後の輸送シグナルの切り離し機能を有する。この1位から9位までのアミノ酸配列は、上記RPS14タンパク質のN末端側に存在し、α−ヘリックス構造を形成し得るアミノ酸配列である。この配列が、ミトコンドリアへの局在に関与し得ると考えられる。好ましくは、本発明のタンパク質輸送シグナルは、そのN末端部に配列番号2の1位から9位までのアミノ酸配列を有する。本発明のタンパク質輸送シグナルは、好ましくは9アミノ酸長より長く、60アミノ酸長以下、より好適には50アミノ酸長以下、さらに好ましくは30アミノ酸長以下の長さである。好適には、配列表の配列番号2の1位から48位までのアミノ酸配列であり、より好適には、配列表の配列番号2の1位から9位までのアミノ酸配列である。
【0022】
本発明の植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナルは、上記のイネ核ゲノムのrps10遺伝子およびrps14遺伝子によってコードされるタンパク質RPS10およびRPS14の二次構造予測から推測することができる。二次構造予測は、どのような方法で行ってもよい。例えば、5つの異なるアルゴリズムの組み合わせによるNew Joint法(Nishikawa,K.およびNoguchi,T.、Methods Enzymol.,1991年,第202巻,p.31−44)で行うことが好適である。この方法による二次構造予測は、図1に示すとおりである。
【0023】
詳細には、イネRPS10のN末端領域(配列番号1の1〜16位)は、α−ヘリックス構造にフォールディングし得る。RPS10のC末端領域(配列番号1の51〜85位および89〜108位)には、他のα−ヘリックスストレッチがある。ヘリカルホイール投射分析では、イネRPS10のN末端の16アミノ酸が両親媒性α−ヘリックス構造を形成し、そこでは親水性および疎水性の残基がα−ヘリックスにおいて互いに反対側に位置する。イネRPS10の他の領域は、このような構造を示さない。
【0024】
一方、イネRPS14では、N末端領域(配列番号2の1〜9位)にα−ヘリックス構造があり、続いてN末端拡張領域に4つのα−ヘリックスクラスター(配列番号2の80〜88位、161〜167位、217〜223位、および226〜233位)がある。ヘリカルホイール投射分析では、イネRPS14は、上記のイネRPS10のN末端の16アミノ酸に見られるような特別な構造を示さない。
【0025】
本発明によれば、所望のタンパク質をコードするDNA配列、およびその5’側に上記のいずれかのタンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列を有するプラスミドを作成する工程、および該プラスミドを植物細胞に導入する工程によって、植物において所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現させることができる。すなわち、所望のタンパク質は、上記のタンパク質輸送シグナルとの融合タンパク質として発現することによって、発現後、ミトコンドリアに特異的に輸送される。
【0026】
本発明において用いられる植物細胞としては、特に限定されない。例えば、イネ、トウモロコシ、コムギ、ジャガイモ、サトウキビ、ダイズなどの植物細胞が挙げられる。特に、イネ、タバコ、トマト、ニンジン、サトウキビなどの細胞が好ましい。
【0027】
所望のタンパク質は、ミトコンドリアで発現させることを目的とする任意のタンパク質であり、どのようなタンパク質であってもよい。また、複数のタンパク質を含む融合タンパク質であってもよい。例えば、検出可能なタンパク質、ミトコンドリア酵素を活性化または阻害し得るタンパク質(酵素)などが挙げられる。検出可能なタンパク質としては、グリーン蛍光タンパク質(GFP)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼなどが挙げられる。ミトコンドリア酵素を活性化または阻害し得るタンパク質(酵素)としては、ミトコンドリア酵素のアナログなどが挙げられる。
【0028】
本発明において、所望のタンパク質をコードするDNA配列とタンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列とを有するプラスミドは、植物細胞に対して通常用いられるプラスミドを用いて作成される。例えば、各種アグロバクテリウム由来のTiプラスミドなどが挙げられる。タンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列は、イネゲノムライブラリーをスクリーニングすることによって得られ得る。また、所望のタンパク質をコードするDNA配列も、そのタンパク質の起源生物のゲノムライブラリーから得られ得る。あるいは、予め所望のタンパク質をコードするDNA配列を有する市販のプラスミドを用いてもよい。それぞれの配列を、タンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列が上流側に配置されるように、適切なベクターにサブクローニングする。得られたプラスミド構築物のヌクレオチド配列は、DNA配列決定によって確認し得る。
【0029】
得られたプラスミドは、植物細胞に対して通常用いられる種々の遺伝子導入方法によって、植物細胞に導入される。このような方法としては、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションなどが挙げられる。例えば、プラスミド構築物を含む金ビーズを作成し、このビーズを植物細胞に導入することによって、植物細胞をトランスフェクトできる。あるいは、プラスミド構築物を、例えば、エレクトロポレーション法によって、またはAgrobacterium tumefaciensのT−DNA由来ベクターを使用して、植物細胞に導入することもできる。
【0030】
プラスミドが導入された細胞は、適切な条件下で培養され、所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現する植物体が作成される。例えば、所望のタンパク質として検出可能なタンパク質を含む融合タンパク質が発現されていれば、このタンパク質がミトコンドリアに特異的に分布したことを容易に観察することができる。
【0031】
【実施例】
(実施例1:イネRPS10およびRPS14の二次構造の予測)
核ゲノムにコードされるミトコンドリアタンパク質のプレ配列部分は、両親媒性α−ヘリックス構造を形成し得るものが多いことから、イネRPS10およびRPS14の領域がこのような構造を形成し得るかを検討した。すなわち、イネ公知のイネrps10およびrps14から推定されるRPS10およびRPS14のアミノ酸配列の二次構造を、ウェブサイト(http://www.cbrc.jp/papia/howtouse/howtouse_ssp_seq.html)によるNew Joint法(Nishikawa,K.およびNoguchi,T.、1991年,前出)によって予測した。これは、以下の5つの異なるアルゴリズムの組み合わせを用いて行った:Nishikawa−Ooi(Nishikawa,K.およびOoi,T.、J.Theor.Biol.,1974年,第43巻,p.351−374)、Qian−Sejnowski(Qian,N.およびSejnowski,T.J.、J.Mol.Biol.,1988年,第202巻,p.865−884)、Ptitsyn−Finkelstein(Ptitsyn,O.B.およびFinkelstein,A.V.、Q.Rev.Biophysics,1981年,第13巻,p.339−386)、SSThread(Ito,M.ら、Comput.Appl.Biosci.,1997年,第13巻,p.415−424)、およびGibrat−Garnier−Robson(Gibrat,M.W.ら、J.Mol.Biol.,1987年,第198巻,p.425−442)。
【0032】
予測した結果を図1に示す。(A)はイネRPS10および(B)はRPS14についての予測結果である。一文字表記によるアミノ酸配列および5つのアルゴリズムの結果を、上から下へ示し、New Joint法での最終結果を最下列に示す。「H」、「E」、および「C」は、それぞれα−ヘリックス、β−シート、およびコイル構造を表す。塩基性残基を「+」で示す。アミノ酸残基の数を、括弧で示す。
【0033】
予測結果から、イネRPS10のN末端領域(配列番号1の1〜16位)は、New Joint法においてHで表されており、α−ヘリックス構造にフォールディングし得ることがわかった。さらに、RPS10のC末端領域(配列番号1の51〜85位および89〜108位)には、他のα−ヘリックスストレッチがあった。ヘリカルホイール投射分析では、イネRPS10のN末端の16アミノ酸が両親媒性α−ヘリックス構造を形成し、そこで親水性および疎水性の残基がα−ヘリックスにおいて互いに反対側に位置することを示した。イネRPS10の他の領域では、このような構造は見られなかった(データを示さず)。
【0034】
また、イネRPS14では、N末端部分(配列番号2の1〜9位)にα−ヘリックス構造があり、続いてN末端拡張領域(配列番号2の1〜250位)内に他に4つのα−ヘリックスクラスター(配列番号2の80〜88位、161〜167位、217〜223位、および226〜233位)があった。ヘリカルホイール投射分析では、イネRPS14のN末端は、イネRPS10のN末端の16アミノ酸で見られるような特別な構造を示さなかった(データを示さず)。
【0035】
一般的に、プレ配列は、ミトコンドリアへのターゲティング情報だけでなく、ミトコンドリアプロセシングペプチダーゼ(MPP)によるプロセシングのための情報も含む。植物のMPPプロセシング部位は、プロセシング部位の近傍の保存されたアルギニンの位置に関して3つのグループ:−2位のアルギニン残基、−3位のアルギニン残基、および保存されたアルギニンがない)に分類されることが知られている(非特許文献21参照)。プレ配列に相当すると考えられるイネRPS14のN末端拡張配列には、アミノ酸24〜28位にR−3開裂モチーフがあることが報告されている(非特許文献19参照)。しかし、イネRPS14ペプチドの成熟サイズは、タンパク質ブロット分析によって16.5kDaと推定され、これはrps14遺伝子全体から予測されるサイズより明らかに短かった(非特許文献8参照)。したがって、他の内部開裂部位が下流領域に存在すると考えられるが、実際のプロセシング部位は未だ明らかではない。一方、このような保存されたモチーフは、イネRPS10では見られなかった。また、これまでのタンパク質ブロット分析では、イネRPS10タンパク質のサイズは、そのcDNA配列から予測されたものと類似することが示されている(非特許文献9参照)。したがって、RPS10タンパク質は、ミトコンドリアへのタンパク質輸入後においても、長いペプチド配列のプロセシングが起こらないと考えられる。
【0036】
(実施例2:GFP融合タンパク質の構築および可視化)
RPS10およびRPS14タンパク質は、2つのタンパク質に対して惹起した特異的抗体でのタンパク質ブロット分析により、イネミトコンドリアに存在することが検出されている(非特許文献8および9参照)。イネRPS10およびRPS14タンパク質が、実際にミトコンドリアにソーティングされるかどうかを評価するために、タンパク質の細胞内局在を、GFPを用いることによってインビボで検討した。
【0037】
図2に示すように、RPS10のN末端領域をGFPの上流側に融合させたタンパク質RPS10N−GFP(C)、RPS10のN末端領域をGFPの下流側に融合させたタンパク質GFP−RPS10C(D)、およびRPS14のN末端領域をGFPの上流側に融合させたタンパク質RPS14N−GFP(E)を発現するように、プラスミドを構築した。図2において、35Sは、カリフラワーモザイクウイルス由来の構成的プロモーター;GFPは、合成sGFP(S65T)cDNAのORF;そしてNOS3’は、ノパリンシンターゼターミネーターを示す。(C)RPS10N−GFPおよび(D)GFP−RPS10C構築物において、RPS10コード領域を、「RPS10」と記載した灰色のボックスで示す。(E)において、SDHBを灰色のボックス、そしてミトコンドリアでコードされたRPS14に相同な領域を黒のボックスで示す。rps14においてSDHBよりも上流の領域を、タータンチェックのボックスで示す。PCR増幅に使用したプライマーを、矢印で示す。
【0038】
まず、イネrps10およびrps14遺伝子の一部を、イネゲノムから、プライマーとして、
P1:5’−aattcgggtcgacccccagtcc−3’(配列番号3)とP2:5’−cttgacattcatgaagaactgct−3’(配列番号4);
P3:5’−gggagcagttgtacatgcatgtca−3’(配列番号5)とP4:5’−gtgaatggcggccgctgaagtgc−3’(配列番号6);および
P7:5’−attcgggtcgacgaaaccccaaa−3’(配列番号9)とP8:5’−tcgagaacgccatggtgttcg−3’(配列番号10)
をそれぞれ用いて、PCRによって増幅した。増幅したDNAのそれぞれを、発現ベクターS65TGFP[CaMV35Spro::S65TGFP::NOSter](非特許文献10参照;Dr. Y. Niwaにより供与された)においてGFPとインフレームでライゲートした。得られたプラスミドのヌクレオチド配列は、DNA配列決定によって確認した。
【0039】
各10mgのプラスミドDNAを、1.0μmの球状の金ビーズ(Bio−Rad、USA)上に沈殿させ、そしてPDS−1000粒子送達システム(Bio−Rad)を用いることによって、ビーズを、懸濁培養したタバコBY−2細胞に粒子衝突によって導入した。この導入の後、試料を24℃にて暗所で24時間インキュベートした。GFP蛍光を、既述のように共焦点蛍光顕微鏡によって可視化した(Nakazono,M.ら、Plant Physiol.,2000年,第124巻,p.587−598;Arimura,S.およびTsutsumi,N.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2002年,第99巻,p.5727−5731参照)。また、培養した細胞のミトコンドリアを、500nMのミトコンドリア特異的染料Mito Tracker Red CMXRos(Molecular Probes、USA)で染色した。GFPおよびMito Tracker Redの蛍光を別々にスキャンし、次いでそれらのイメージを組み合わせた。ArabidopsisのATPaseδのミトコンドリアターゲティングシグナルがGFPの上流に融合されているプラスミドpWSを、ミトコンドリアターゲティングのポジティブコントロールに用いた(Dr. W. Sakamotoにより供与された;図2(B)参照)。また、ネガティブコントロールとして、ミトコンドリアへの輸送シグナル配列を有さないS65TGFPを用いた(図2(A)参照)。
【0040】
S65TGFP(A)およびpWS(B)のスキャン結果の顕微鏡写真を図3に示す。ポジティブコントロールのpWSプラスミドでは、GFPの蛍光は、約1μm直径の粒子内に局在した(図3B)。これらの粒子の位置は、ミトコンドリアの位置を示すMito Tracker Redの蛍光の位置と明らかに一致し、これは、ミトコンドリアへの特異的なタンパク質ターゲティングを示した(図3B)。S65TGFP構築物単独では、GFP蛍光は、Chiuら(非特許文献10参照)によって示されるように、核への局在の他に、細胞質全体への分散が見られた。また、GFP蛍光はミトコンドリアを示すMito Tracker Redの蛍光と重複しなかった(図3A)。
【0041】
イネRPS10のN末端部分(配列番号1の1〜56位)をGFPの上流に融合したRPS10N−GFP構築物の場合、GFP融合タンパク質の蛍光は、pWSプラスミドの場合と同様にミトコンドリアで特異的に観察された(図4C)。この結果は、ミトコンドリアへのGFPの良好な輸入および局在を示し、そしてイネrps10遺伝子のN末端部分がミトコンドリアへのタンパク質をターゲティングし得ることを示す。一方、RPS10のC末端部分(配列番号1の57〜112位)をGFPの下流に融合したRPS10C−GFP構築物の場合は、GFP融合タンパク質はサイトゾルに凝集し、そしてミトコンドリアと類似のサイズの粒子を形成した(図4D)。しかし、GFP蛍光の位置は、Mito TrackerRedの蛍光と一致しなかった。したがって、イネRPS10のC末端部分は、ミトコンドリアターゲティングのための情報を含まない。
【0042】
イネRPS14のN末端部分(配列番号2の1〜48位)をGFPの上流に融合したRPS14N−GFP構築物では、GFP融合タンパク質の蛍光は、明らかにミトコンドリアに局在していた(図4E)。この結果は、ターゲティング情報が、SDHB−相同配列の上流のN末端部分によりコードされていることを強く示唆する。これは、SDHB−相同配列とのGFP融合タンパク質が、ミトコンドリアへ局在しなかったという結果によっても支持される(データを示さず)。
【0043】
(実施例3:プレ配列における部位特異的変異誘発)
ミトコンドリアターゲティング情報がN末端領域で局在する場所を検討するために、部位特異的変異誘発(点変異)を、製造業者の指示書に従ってU.S.E. Mutagenesis Kit(Amersham Pharmacia Biotech、USA)を用いることによって、RPS10N−GFPおよびRPS14N−GFP構築物に導入した(図5参照)。すなわち、プライマーとしてP1の代わりにP5(配列番号7)またはP6(配列番号8)を用いて、変異を、RPS10N−GFP構築物のN末端部分に導入し(Ile7、Val8、およびMet9)、GlyまたはProのトリプル残基に変換した。プライマーとしてP7の代わりにP9(配列番号11)またはP10(配列番号12)を用いて、同様の変異をRPS14N−GFPにも導入した(Ala6、Leu7、およびLeu8)。なお、ターゲティング特異性の喪失が、推定α−ヘリックス構造の破壊(疎水性残基の改変)によるものかあるいは塩基性残基の改変によるものかどうかを明確にするために、点変異の位置は、疎水性残基を改変し、ミトコンドリアへのタンパク質局在に重要であると考えられる塩基性残基を改変しない位置を選択した。得られた構築物を、それぞれ、RPS10N[Gly]、RPS10N[Pro]、RPS14N[Gly]、およびRPS14N[Pro]と命名した(図5)。変異したプラスミドのヌクレオチド配列は、DNA配列決定によってモニターした。図5において、変異したアミノ酸残基および変異によって生じた二次構造の変化を、反転文字で示す。他のシンボルは、図1と同様である。
【0044】
図5に示すように、二次構造予測は、それらのN末端におけるα−ヘリックスストレッチが点変異によって切断されて、短縮または破壊されることを示した。
【0045】
次いで、これらの構築物を用いて、GFP融合タンパク質の局在を実施例2と同様に蛍光顕微鏡で観察した。結果を図6に示す。RPS10N[Gly]−GFPおよびRPS14N[Pro]−GFP構築物では、S65TGFP構築物単独と同様に、GFP蛍光を細胞質全体にわたる広範囲で観察した。RPS10N[Pro]−GFP構築物では、GFPタンパク質の局在は、GFP−RPS10C構築物と同様であった。RPS14N[Gly]−GFP構築物では、理由は不明であるが、蛍光は検出され得なかった(データを示さず)。このことから、特異的ミトコンドリアターゲティングは、イネRPS10およびRPS14のN末端領域における点変異によって破壊されたことが明らかである。上記の結果は、ミトコンドリアへのターゲティング情報が、2つのタンパク質のN末端部分によってコードされていることを強く支持し、さらに、α−ヘリックス構造が、ミトコンドリアへのタンパク質ターゲティングに役割を果たすことを示唆する。
【0046】
したがって、ターゲティング特異性の喪失が、タンパク質ターゲティングに重要な役割を果たす疎水性残基の改変によるものであることが明らかになった。これは、タバコATPaseβサブユニットについて報告されている結果と同様であった(非特許文献13参照)。
【0047】
上記のように、イネミトコンドリアリボソームタンパク質のN末端部分が、十分にミトコンドリアターゲティング機能を発揮し得ることを示し、実際に、植物ミトコンドリアにおいてリボソームタンパク質の局在に関連する決定基を明確にした。他の植物種のRPS10と比較して、イネRPS10のN末端領域にはいくつかの相違点があることは知られていた(非特許文献22〜24参照)。このことから、このような改変が、イネRPS10におけるタンパク質ターゲティングシグナルの生成に関連し得ると考えられる。イネRPS14は、SDHB−相同領域の一部とのキメラ配列であるが、ミトコンドリアターゲティングの特異性は、SDHB−相同領域ではなくN末端部分にあることも明らかとなった。N末端部分は両方とも、α−ヘリックス構造をとり得るが、RPS14は両親媒性を示さなかった。このように、N末端拡張の長さおよび進化における獲得メカニズムは2種のタンパク質間で大きく異なるにもかかわらず、2つのリボソームタンパク質におけるターゲティングシグナルの特徴が、他のミトコンドリアタンパク質で見られるものと同様であることは、興味深いことである。
【0048】
【発明の効果】
本発明のタンパク質輸送シグナルは、ミトコンドリアへ有用物質を輸送させる際のシグナル配列として利用できる。例えば、ミトコンドリアに医薬品を蓄積させることが可能である。あるいは正常酵素と拮抗する不活化酵素を導入し、ミトコンドリア機能を妨害する不稔植物を育成することもできる。
【0049】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】イネRPS10(A)およびRPS14(B)の二次構造の予測の結果を示す図である。
【図2】GFP構築物の概略図である。
【図3】GFP融合タンパク質の細胞内局在を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図4】GFP融合タンパク質の細胞内局在を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図5】イネRPS10およびRPS14におけるN末端領域の推定二次構造の結果を示す図である。
【図6】推定ミトコンドリアターゲティングシグナルの部位特異的自己誘発分析の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物ミトコンドリアへタンパク質を特異的に輸送するためのシグナルに関する。
【0002】
【従来の技術】
真核生物において、ほとんどのミトコンドリアタンパク質は、核遺伝子によってコードされており、サイトゾルで合成され、そしてミトコンドリアに輸送される。これらの核遺伝子は、細胞進化の過程中にミトコンドリアから核に転移されたと考えられる(非特許文献1参照)。そのため、核がコードしているミトコンドリアタンパク質は、ミトコンドリアへ誘導されるためのターゲティングシグナルが必要である。このようなターゲティングシグナルは、N末端拡張領域においてプレ配列としてコードされ得ることが報告されている(非特許文献2参照)。これまでに、多くのミトコンドリア遺伝子が核ゲノムから単離されており、そして一般的に、プレ配列が次のような特徴を有することが認められている:種々のタンパク質の中で一次アミノ酸配列の類似性がないこと、塩基性残基が比較的豊富であるが酸性残基がまれであること、両親媒性のα−ヘリックス構造を形成し得ることなど(非特許文献1参照)。これらの特徴は、植物ミトコンドリアのプレ配列にも類推されるが(非特許文献3参照)、植物においていくつかの例外が知られている。例えば、プレ配列における顕著な相同性が、種々のミトコンドリア遺伝子間で見出されている(非特許文献4〜6参照)。同様の証拠が、葉緑体遺伝子のターゲティング配列において報告されている(非特許文献7参照)。
【0003】
発明者らは、これまでに、イネの核ゲノムからミトコンドリアリボソームタンパク質S10(RPS10)およびS14(RPS14)をコードする2つの遺伝子(rps10およびrps14)を単離している(非特許文献8および9参照)。これらのホモログは、他の植物種のミトコンドリアゲノムにおいて存在が認められているので、これらは、比較的最近になって核に転移されたと考えられる。これらの2つの遺伝子rps10およびrps14は、ミトコンドリアへ輸送されるためのターゲティングシグナルを有すると考えられる。一般的にターゲティングシグナルが存在すると考えられるN末端側については、rps10遺伝子は、明らかなN末端拡張配列を有さないが、rps14遺伝子は、ミトコンドリアゲノムでコードされた他の遺伝子と比較して長いN末端拡張配列を有する。しかし、タンパク質のどの部分が2つの遺伝子産物についてのミトコンドリアターゲティングに関連するかは全く不明である。
【0004】
インビボでタンパク質の細胞内局在を検討するために、グリーン蛍光タンパク質(GFP)が用いられている。GFPは、生存細胞において毒性がないことおよび特別なコファクターまたは基質を必要としないことなどの利点を有する。そのため、生存植物細胞においてタンパク質を可視化する目的で、増強されたGFP構築物を得るように遺伝子操作される(例えば、非特許文献10参照)。このシステムはまた、インビボで植物ミトコンドリアを可視化するために適用されている(非特許文献11および12参照)。これまで、植物ミトコンドリアタンパク質の局在を検討するために、ならびにインビボでGFPを用いることによって(例えば、非特許文献13参照)およびインビトロ実験で(例えば、非特許文献14参照)プレ配列の機能決定基を明らかにするために、いくつかの分析が行われてきた。しかし、GFPを用いた植物リボソームタンパク質の分析はまだ限られている(非特許文献15〜17参照)。特に、ミトコンドリアリボソームタンパク質のターゲティングに関連する配列決定基の同定についての分析は行われていない。
【0005】
【非特許文献1】
Gray,M.W.ら、Int.Rev.Cytol.,1992年,第141巻、p.233−357
【非特許文献2】
Tamm,L.K.ら、Biochim.Biophys.Acta,1991年,第1071巻,p.123−148
【非特許文献3】
Whelan,J.およびGlaser,E.、Plant Mol.Biol.,1997年,第33巻,p.771−789
【非特許文献4】
Kadowaki,K.ら、EMBO J.,1996年,第15巻,p.6652−6661
【非特許文献5】
Adams,K.L.ら、Nature,2000年,第405巻,p.354−357
【非特許文献6】
Adams,K.L.ら、Genetics,2001年,第158巻,p.1289−1300
【非特許文献7】
Arimura,S.およびTsutsumi,N.、FEBS Lett.,1999年,第450巻,p.231−234
【非特許文献8】
Kubo,N.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1999年,第96巻,p.9207−9211
【非特許文献9】
Kubo,N.ら、Mol.Gen.Genet.,2000年,第263巻,p.733−739
【非特許文献10】
Chiu,W.L.ら、Curr.Biol.,1996年,第6巻,p.325−330
【非特許文献11】
Kohler,R.ら、Plant J.,1997年,第11巻,p.613−621
【非特許文献12】
Niwaら、Plant J.,1999年,第18巻,p.455−463
【非特許文献13】
Duby,G.ら、Plant J.,2001年,第27巻,p.539−549
【非特許文献14】
Tanudji,M.ら、J.Biol.Chem.,1999年,第274巻,p.1286−1293
【非特許文献15】
Handa,H.ら、Mol.Gen.Genet.,2001年,第265巻,p.569−575
【非特許文献16】
Skinner,D.J.ら、Plant Cell,2001年,第13巻,p.2719−2730
【非特許文献17】
Mollier,p.ら、Curr.Genet.,2002年,第40巻,p.405−409
【非特許文献18】
Wischmann,C.およびSchuster,W.、FEBS
Lett.,1995年,第374巻,p.152−156
【非特許文献19】
Figueroa,P.ら、Plant J.,1999年,第18巻,p.601−609
【非特許文献20】
Figueroa,P.ら、Mol.Gen.Genet.,1999年,第262巻,p.139−44
【非特許文献21】
Zhang,X.P.ら、Plant J.,2001年,第27巻,p.427−438
【非特許文献22】
Oda,K.ら、J.Mol.Biol.,1992年,第223巻,p.1−7
【非特許文献23】
Knoop,V.ら、Curr.Genet.,1995年,第27巻,p.559−564
【非特許文献24】
Zanlungo,S.ら、Curr.Genet.,1995年,第27巻,p.565−571
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、植物におけるミトコンドリアへのタンパク質ターゲティングシグナルを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記のイネ核ゲノム由来の2種類の遺伝子を用い、ミトコンドリアの局在に必要な配列を絞り込み、二次構造予測から重要な配列を破壊することによって、ミトコンドリアへのタンパク質輸送機能が失われることを見出した。すなわち、イネにおいてミトコンドリアへの局在を支配する配列を明らかにし、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、配列表の配列番号1の1位から16位までのアミノ酸配列を含む、植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナルを提供する。
【0009】
好適な実施態様では、上記タンパク質輸送シグナルは、配列表の配列番号1の1位から56位までのアミノ酸配列を含む。
【0010】
本発明はまた、配列表の配列番号2の1位から9位までのアミノ酸配列を含む、植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナルを提供する。
【0011】
好適な実施態様では、上記タンパク質輸送シグナルは、配列表の配列番号2の1位から48位までのアミノ酸配列を含む。
【0012】
本発明はさらに、植物において所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現させる方法を提供し、該方法は、
該所望のタンパク質をコードするDNA配列、およびその5’側に上記のいずれかのタンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列を有するプラスミドを作成する工程、および
該プラスミドを植物細胞に導入する工程を含む。
【0013】
本発明はまた、所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現する植物の作成方法を提供し、該方法は、
該所望のタンパク質をコードするDNA配列、およびその5’側に上記のいずれかのタンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列を有するプラスミドを作成する工程、
該プラスミドを植物細胞に導入する工程、および
該植物細胞を培養して植物体を得る工程を含む。
【0014】
本発明はさらに、上記の作成方法によって得られた、所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現する植物を提供する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明において、「イネのミトコンドリアリボソームタンパク質S10(RPS10)」とは、配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質をいい、イネ核ゲノムのrps10遺伝子によってコードされている。このイネrps10遺伝子は、既に単離されており、公知の配列である(非特許文献8および9参照)。
【0016】
rps10遺伝子は、イネ以外のいくつかの高等植物の核ゲノムからも単離されている(非特許文献5、9、および18参照)。植物種間のrps10遺伝子構造を比較すると、それらのN末端拡張のサイズには大きな変動がある。例えば、Arabidopsisのrps10遺伝子は、5’部分に拡張されたリーディングフレームを有する(非特許文献18参照)。反対に、イネ、トウモロコシ、ホウレンソウ、およびカタバミ属の植物のrps10遺伝子は、ミトコンドリアターゲティングシグナルに関する明らかなN末端拡張を有さない(非特許文献5および9参照)。
【0017】
本発明において、「イネのミトコンドリアリボソームタンパク質S14(RPS14)」とは、配列表の配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質をいい、イネ核ゲノムのrps14遺伝子によってコードされている。イネrps14遺伝子は、既に単離されており、公知の配列である(非特許文献8および9参照)。
【0018】
イネおよびトウモロコシの核rps14遺伝子は、他の植物種のミトコンドリアゲノムにおいてコードされた対応する遺伝子と比較した場合、非常に長いN末端拡張配列を有する(それぞれ250および248アミノ酸長)(非特許文献8および19参照)。核rps14遺伝子の拡張配列は、49〜249位にコハク酸デヒドロゲナーゼサブユニットB(SDHB)のコード領域の一部と相同な配列を含むことを特徴とする。なお、例外として、Arabidopsisの核rps14遺伝子は、より短い遺伝子を有し、そしてその配列は、イネおよびトウモロコシの配列と全体的に異なることが報告されている(非特許文献20参照)。
【0019】
上記の知見から、植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナルは、進化の過程で生じたミトコンドリアから核への遺伝子転移事象の後に、植物種において独立して獲得されたN末端領域における迅速な配列改変によって生じた配列と考えられる。
【0020】
本発明の植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナルは、1つの実施態様において、少なくとも配列表の配列番号1の1位から16位までのアミノ酸配列を含み、そして植物ミトコンドリアにタンパク質を輸送する機能を有する。この1位から16位までのアミノ酸配列は、上記RPS10タンパク質のN末端側に存在し、α−ヘリックス構造を形成し得るアミノ酸配列である。この配列が、ミトコンドリアへの局在に関与し得ると考えられる。好ましくは、本発明のタンパク質輸送シグナルは、そのN末端部に配列番号1の1位から16位までのアミノ酸配列を有する。本発明のタンパク質輸送シグナルは、好ましくは16アミノ酸長より長く、60アミノ酸長以下、より好適には50アミノ酸長以下、さらに好ましくは30アミノ酸長以下の長さである。好適には、配列表の配列番号1の1位から56位までのアミノ酸配列であり、より好適には、配列表の配列番号1の1位から16位までのアミノ酸配列である。
【0021】
本発明の植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナルは、他の実施態様においては、少なくとも配列表の配列番号2の1位から9位までのアミノ酸配列を含み、そして植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送機能およびその後の輸送シグナルの切り離し機能を有する。この1位から9位までのアミノ酸配列は、上記RPS14タンパク質のN末端側に存在し、α−ヘリックス構造を形成し得るアミノ酸配列である。この配列が、ミトコンドリアへの局在に関与し得ると考えられる。好ましくは、本発明のタンパク質輸送シグナルは、そのN末端部に配列番号2の1位から9位までのアミノ酸配列を有する。本発明のタンパク質輸送シグナルは、好ましくは9アミノ酸長より長く、60アミノ酸長以下、より好適には50アミノ酸長以下、さらに好ましくは30アミノ酸長以下の長さである。好適には、配列表の配列番号2の1位から48位までのアミノ酸配列であり、より好適には、配列表の配列番号2の1位から9位までのアミノ酸配列である。
【0022】
本発明の植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナルは、上記のイネ核ゲノムのrps10遺伝子およびrps14遺伝子によってコードされるタンパク質RPS10およびRPS14の二次構造予測から推測することができる。二次構造予測は、どのような方法で行ってもよい。例えば、5つの異なるアルゴリズムの組み合わせによるNew Joint法(Nishikawa,K.およびNoguchi,T.、Methods Enzymol.,1991年,第202巻,p.31−44)で行うことが好適である。この方法による二次構造予測は、図1に示すとおりである。
【0023】
詳細には、イネRPS10のN末端領域(配列番号1の1〜16位)は、α−ヘリックス構造にフォールディングし得る。RPS10のC末端領域(配列番号1の51〜85位および89〜108位)には、他のα−ヘリックスストレッチがある。ヘリカルホイール投射分析では、イネRPS10のN末端の16アミノ酸が両親媒性α−ヘリックス構造を形成し、そこでは親水性および疎水性の残基がα−ヘリックスにおいて互いに反対側に位置する。イネRPS10の他の領域は、このような構造を示さない。
【0024】
一方、イネRPS14では、N末端領域(配列番号2の1〜9位)にα−ヘリックス構造があり、続いてN末端拡張領域に4つのα−ヘリックスクラスター(配列番号2の80〜88位、161〜167位、217〜223位、および226〜233位)がある。ヘリカルホイール投射分析では、イネRPS14は、上記のイネRPS10のN末端の16アミノ酸に見られるような特別な構造を示さない。
【0025】
本発明によれば、所望のタンパク質をコードするDNA配列、およびその5’側に上記のいずれかのタンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列を有するプラスミドを作成する工程、および該プラスミドを植物細胞に導入する工程によって、植物において所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現させることができる。すなわち、所望のタンパク質は、上記のタンパク質輸送シグナルとの融合タンパク質として発現することによって、発現後、ミトコンドリアに特異的に輸送される。
【0026】
本発明において用いられる植物細胞としては、特に限定されない。例えば、イネ、トウモロコシ、コムギ、ジャガイモ、サトウキビ、ダイズなどの植物細胞が挙げられる。特に、イネ、タバコ、トマト、ニンジン、サトウキビなどの細胞が好ましい。
【0027】
所望のタンパク質は、ミトコンドリアで発現させることを目的とする任意のタンパク質であり、どのようなタンパク質であってもよい。また、複数のタンパク質を含む融合タンパク質であってもよい。例えば、検出可能なタンパク質、ミトコンドリア酵素を活性化または阻害し得るタンパク質(酵素)などが挙げられる。検出可能なタンパク質としては、グリーン蛍光タンパク質(GFP)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼなどが挙げられる。ミトコンドリア酵素を活性化または阻害し得るタンパク質(酵素)としては、ミトコンドリア酵素のアナログなどが挙げられる。
【0028】
本発明において、所望のタンパク質をコードするDNA配列とタンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列とを有するプラスミドは、植物細胞に対して通常用いられるプラスミドを用いて作成される。例えば、各種アグロバクテリウム由来のTiプラスミドなどが挙げられる。タンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列は、イネゲノムライブラリーをスクリーニングすることによって得られ得る。また、所望のタンパク質をコードするDNA配列も、そのタンパク質の起源生物のゲノムライブラリーから得られ得る。あるいは、予め所望のタンパク質をコードするDNA配列を有する市販のプラスミドを用いてもよい。それぞれの配列を、タンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列が上流側に配置されるように、適切なベクターにサブクローニングする。得られたプラスミド構築物のヌクレオチド配列は、DNA配列決定によって確認し得る。
【0029】
得られたプラスミドは、植物細胞に対して通常用いられる種々の遺伝子導入方法によって、植物細胞に導入される。このような方法としては、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションなどが挙げられる。例えば、プラスミド構築物を含む金ビーズを作成し、このビーズを植物細胞に導入することによって、植物細胞をトランスフェクトできる。あるいは、プラスミド構築物を、例えば、エレクトロポレーション法によって、またはAgrobacterium tumefaciensのT−DNA由来ベクターを使用して、植物細胞に導入することもできる。
【0030】
プラスミドが導入された細胞は、適切な条件下で培養され、所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現する植物体が作成される。例えば、所望のタンパク質として検出可能なタンパク質を含む融合タンパク質が発現されていれば、このタンパク質がミトコンドリアに特異的に分布したことを容易に観察することができる。
【0031】
【実施例】
(実施例1:イネRPS10およびRPS14の二次構造の予測)
核ゲノムにコードされるミトコンドリアタンパク質のプレ配列部分は、両親媒性α−ヘリックス構造を形成し得るものが多いことから、イネRPS10およびRPS14の領域がこのような構造を形成し得るかを検討した。すなわち、イネ公知のイネrps10およびrps14から推定されるRPS10およびRPS14のアミノ酸配列の二次構造を、ウェブサイト(http://www.cbrc.jp/papia/howtouse/howtouse_ssp_seq.html)によるNew Joint法(Nishikawa,K.およびNoguchi,T.、1991年,前出)によって予測した。これは、以下の5つの異なるアルゴリズムの組み合わせを用いて行った:Nishikawa−Ooi(Nishikawa,K.およびOoi,T.、J.Theor.Biol.,1974年,第43巻,p.351−374)、Qian−Sejnowski(Qian,N.およびSejnowski,T.J.、J.Mol.Biol.,1988年,第202巻,p.865−884)、Ptitsyn−Finkelstein(Ptitsyn,O.B.およびFinkelstein,A.V.、Q.Rev.Biophysics,1981年,第13巻,p.339−386)、SSThread(Ito,M.ら、Comput.Appl.Biosci.,1997年,第13巻,p.415−424)、およびGibrat−Garnier−Robson(Gibrat,M.W.ら、J.Mol.Biol.,1987年,第198巻,p.425−442)。
【0032】
予測した結果を図1に示す。(A)はイネRPS10および(B)はRPS14についての予測結果である。一文字表記によるアミノ酸配列および5つのアルゴリズムの結果を、上から下へ示し、New Joint法での最終結果を最下列に示す。「H」、「E」、および「C」は、それぞれα−ヘリックス、β−シート、およびコイル構造を表す。塩基性残基を「+」で示す。アミノ酸残基の数を、括弧で示す。
【0033】
予測結果から、イネRPS10のN末端領域(配列番号1の1〜16位)は、New Joint法においてHで表されており、α−ヘリックス構造にフォールディングし得ることがわかった。さらに、RPS10のC末端領域(配列番号1の51〜85位および89〜108位)には、他のα−ヘリックスストレッチがあった。ヘリカルホイール投射分析では、イネRPS10のN末端の16アミノ酸が両親媒性α−ヘリックス構造を形成し、そこで親水性および疎水性の残基がα−ヘリックスにおいて互いに反対側に位置することを示した。イネRPS10の他の領域では、このような構造は見られなかった(データを示さず)。
【0034】
また、イネRPS14では、N末端部分(配列番号2の1〜9位)にα−ヘリックス構造があり、続いてN末端拡張領域(配列番号2の1〜250位)内に他に4つのα−ヘリックスクラスター(配列番号2の80〜88位、161〜167位、217〜223位、および226〜233位)があった。ヘリカルホイール投射分析では、イネRPS14のN末端は、イネRPS10のN末端の16アミノ酸で見られるような特別な構造を示さなかった(データを示さず)。
【0035】
一般的に、プレ配列は、ミトコンドリアへのターゲティング情報だけでなく、ミトコンドリアプロセシングペプチダーゼ(MPP)によるプロセシングのための情報も含む。植物のMPPプロセシング部位は、プロセシング部位の近傍の保存されたアルギニンの位置に関して3つのグループ:−2位のアルギニン残基、−3位のアルギニン残基、および保存されたアルギニンがない)に分類されることが知られている(非特許文献21参照)。プレ配列に相当すると考えられるイネRPS14のN末端拡張配列には、アミノ酸24〜28位にR−3開裂モチーフがあることが報告されている(非特許文献19参照)。しかし、イネRPS14ペプチドの成熟サイズは、タンパク質ブロット分析によって16.5kDaと推定され、これはrps14遺伝子全体から予測されるサイズより明らかに短かった(非特許文献8参照)。したがって、他の内部開裂部位が下流領域に存在すると考えられるが、実際のプロセシング部位は未だ明らかではない。一方、このような保存されたモチーフは、イネRPS10では見られなかった。また、これまでのタンパク質ブロット分析では、イネRPS10タンパク質のサイズは、そのcDNA配列から予測されたものと類似することが示されている(非特許文献9参照)。したがって、RPS10タンパク質は、ミトコンドリアへのタンパク質輸入後においても、長いペプチド配列のプロセシングが起こらないと考えられる。
【0036】
(実施例2:GFP融合タンパク質の構築および可視化)
RPS10およびRPS14タンパク質は、2つのタンパク質に対して惹起した特異的抗体でのタンパク質ブロット分析により、イネミトコンドリアに存在することが検出されている(非特許文献8および9参照)。イネRPS10およびRPS14タンパク質が、実際にミトコンドリアにソーティングされるかどうかを評価するために、タンパク質の細胞内局在を、GFPを用いることによってインビボで検討した。
【0037】
図2に示すように、RPS10のN末端領域をGFPの上流側に融合させたタンパク質RPS10N−GFP(C)、RPS10のN末端領域をGFPの下流側に融合させたタンパク質GFP−RPS10C(D)、およびRPS14のN末端領域をGFPの上流側に融合させたタンパク質RPS14N−GFP(E)を発現するように、プラスミドを構築した。図2において、35Sは、カリフラワーモザイクウイルス由来の構成的プロモーター;GFPは、合成sGFP(S65T)cDNAのORF;そしてNOS3’は、ノパリンシンターゼターミネーターを示す。(C)RPS10N−GFPおよび(D)GFP−RPS10C構築物において、RPS10コード領域を、「RPS10」と記載した灰色のボックスで示す。(E)において、SDHBを灰色のボックス、そしてミトコンドリアでコードされたRPS14に相同な領域を黒のボックスで示す。rps14においてSDHBよりも上流の領域を、タータンチェックのボックスで示す。PCR増幅に使用したプライマーを、矢印で示す。
【0038】
まず、イネrps10およびrps14遺伝子の一部を、イネゲノムから、プライマーとして、
P1:5’−aattcgggtcgacccccagtcc−3’(配列番号3)とP2:5’−cttgacattcatgaagaactgct−3’(配列番号4);
P3:5’−gggagcagttgtacatgcatgtca−3’(配列番号5)とP4:5’−gtgaatggcggccgctgaagtgc−3’(配列番号6);および
P7:5’−attcgggtcgacgaaaccccaaa−3’(配列番号9)とP8:5’−tcgagaacgccatggtgttcg−3’(配列番号10)
をそれぞれ用いて、PCRによって増幅した。増幅したDNAのそれぞれを、発現ベクターS65TGFP[CaMV35Spro::S65TGFP::NOSter](非特許文献10参照;Dr. Y. Niwaにより供与された)においてGFPとインフレームでライゲートした。得られたプラスミドのヌクレオチド配列は、DNA配列決定によって確認した。
【0039】
各10mgのプラスミドDNAを、1.0μmの球状の金ビーズ(Bio−Rad、USA)上に沈殿させ、そしてPDS−1000粒子送達システム(Bio−Rad)を用いることによって、ビーズを、懸濁培養したタバコBY−2細胞に粒子衝突によって導入した。この導入の後、試料を24℃にて暗所で24時間インキュベートした。GFP蛍光を、既述のように共焦点蛍光顕微鏡によって可視化した(Nakazono,M.ら、Plant Physiol.,2000年,第124巻,p.587−598;Arimura,S.およびTsutsumi,N.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2002年,第99巻,p.5727−5731参照)。また、培養した細胞のミトコンドリアを、500nMのミトコンドリア特異的染料Mito Tracker Red CMXRos(Molecular Probes、USA)で染色した。GFPおよびMito Tracker Redの蛍光を別々にスキャンし、次いでそれらのイメージを組み合わせた。ArabidopsisのATPaseδのミトコンドリアターゲティングシグナルがGFPの上流に融合されているプラスミドpWSを、ミトコンドリアターゲティングのポジティブコントロールに用いた(Dr. W. Sakamotoにより供与された;図2(B)参照)。また、ネガティブコントロールとして、ミトコンドリアへの輸送シグナル配列を有さないS65TGFPを用いた(図2(A)参照)。
【0040】
S65TGFP(A)およびpWS(B)のスキャン結果の顕微鏡写真を図3に示す。ポジティブコントロールのpWSプラスミドでは、GFPの蛍光は、約1μm直径の粒子内に局在した(図3B)。これらの粒子の位置は、ミトコンドリアの位置を示すMito Tracker Redの蛍光の位置と明らかに一致し、これは、ミトコンドリアへの特異的なタンパク質ターゲティングを示した(図3B)。S65TGFP構築物単独では、GFP蛍光は、Chiuら(非特許文献10参照)によって示されるように、核への局在の他に、細胞質全体への分散が見られた。また、GFP蛍光はミトコンドリアを示すMito Tracker Redの蛍光と重複しなかった(図3A)。
【0041】
イネRPS10のN末端部分(配列番号1の1〜56位)をGFPの上流に融合したRPS10N−GFP構築物の場合、GFP融合タンパク質の蛍光は、pWSプラスミドの場合と同様にミトコンドリアで特異的に観察された(図4C)。この結果は、ミトコンドリアへのGFPの良好な輸入および局在を示し、そしてイネrps10遺伝子のN末端部分がミトコンドリアへのタンパク質をターゲティングし得ることを示す。一方、RPS10のC末端部分(配列番号1の57〜112位)をGFPの下流に融合したRPS10C−GFP構築物の場合は、GFP融合タンパク質はサイトゾルに凝集し、そしてミトコンドリアと類似のサイズの粒子を形成した(図4D)。しかし、GFP蛍光の位置は、Mito TrackerRedの蛍光と一致しなかった。したがって、イネRPS10のC末端部分は、ミトコンドリアターゲティングのための情報を含まない。
【0042】
イネRPS14のN末端部分(配列番号2の1〜48位)をGFPの上流に融合したRPS14N−GFP構築物では、GFP融合タンパク質の蛍光は、明らかにミトコンドリアに局在していた(図4E)。この結果は、ターゲティング情報が、SDHB−相同配列の上流のN末端部分によりコードされていることを強く示唆する。これは、SDHB−相同配列とのGFP融合タンパク質が、ミトコンドリアへ局在しなかったという結果によっても支持される(データを示さず)。
【0043】
(実施例3:プレ配列における部位特異的変異誘発)
ミトコンドリアターゲティング情報がN末端領域で局在する場所を検討するために、部位特異的変異誘発(点変異)を、製造業者の指示書に従ってU.S.E. Mutagenesis Kit(Amersham Pharmacia Biotech、USA)を用いることによって、RPS10N−GFPおよびRPS14N−GFP構築物に導入した(図5参照)。すなわち、プライマーとしてP1の代わりにP5(配列番号7)またはP6(配列番号8)を用いて、変異を、RPS10N−GFP構築物のN末端部分に導入し(Ile7、Val8、およびMet9)、GlyまたはProのトリプル残基に変換した。プライマーとしてP7の代わりにP9(配列番号11)またはP10(配列番号12)を用いて、同様の変異をRPS14N−GFPにも導入した(Ala6、Leu7、およびLeu8)。なお、ターゲティング特異性の喪失が、推定α−ヘリックス構造の破壊(疎水性残基の改変)によるものかあるいは塩基性残基の改変によるものかどうかを明確にするために、点変異の位置は、疎水性残基を改変し、ミトコンドリアへのタンパク質局在に重要であると考えられる塩基性残基を改変しない位置を選択した。得られた構築物を、それぞれ、RPS10N[Gly]、RPS10N[Pro]、RPS14N[Gly]、およびRPS14N[Pro]と命名した(図5)。変異したプラスミドのヌクレオチド配列は、DNA配列決定によってモニターした。図5において、変異したアミノ酸残基および変異によって生じた二次構造の変化を、反転文字で示す。他のシンボルは、図1と同様である。
【0044】
図5に示すように、二次構造予測は、それらのN末端におけるα−ヘリックスストレッチが点変異によって切断されて、短縮または破壊されることを示した。
【0045】
次いで、これらの構築物を用いて、GFP融合タンパク質の局在を実施例2と同様に蛍光顕微鏡で観察した。結果を図6に示す。RPS10N[Gly]−GFPおよびRPS14N[Pro]−GFP構築物では、S65TGFP構築物単独と同様に、GFP蛍光を細胞質全体にわたる広範囲で観察した。RPS10N[Pro]−GFP構築物では、GFPタンパク質の局在は、GFP−RPS10C構築物と同様であった。RPS14N[Gly]−GFP構築物では、理由は不明であるが、蛍光は検出され得なかった(データを示さず)。このことから、特異的ミトコンドリアターゲティングは、イネRPS10およびRPS14のN末端領域における点変異によって破壊されたことが明らかである。上記の結果は、ミトコンドリアへのターゲティング情報が、2つのタンパク質のN末端部分によってコードされていることを強く支持し、さらに、α−ヘリックス構造が、ミトコンドリアへのタンパク質ターゲティングに役割を果たすことを示唆する。
【0046】
したがって、ターゲティング特異性の喪失が、タンパク質ターゲティングに重要な役割を果たす疎水性残基の改変によるものであることが明らかになった。これは、タバコATPaseβサブユニットについて報告されている結果と同様であった(非特許文献13参照)。
【0047】
上記のように、イネミトコンドリアリボソームタンパク質のN末端部分が、十分にミトコンドリアターゲティング機能を発揮し得ることを示し、実際に、植物ミトコンドリアにおいてリボソームタンパク質の局在に関連する決定基を明確にした。他の植物種のRPS10と比較して、イネRPS10のN末端領域にはいくつかの相違点があることは知られていた(非特許文献22〜24参照)。このことから、このような改変が、イネRPS10におけるタンパク質ターゲティングシグナルの生成に関連し得ると考えられる。イネRPS14は、SDHB−相同領域の一部とのキメラ配列であるが、ミトコンドリアターゲティングの特異性は、SDHB−相同領域ではなくN末端部分にあることも明らかとなった。N末端部分は両方とも、α−ヘリックス構造をとり得るが、RPS14は両親媒性を示さなかった。このように、N末端拡張の長さおよび進化における獲得メカニズムは2種のタンパク質間で大きく異なるにもかかわらず、2つのリボソームタンパク質におけるターゲティングシグナルの特徴が、他のミトコンドリアタンパク質で見られるものと同様であることは、興味深いことである。
【0048】
【発明の効果】
本発明のタンパク質輸送シグナルは、ミトコンドリアへ有用物質を輸送させる際のシグナル配列として利用できる。例えば、ミトコンドリアに医薬品を蓄積させることが可能である。あるいは正常酵素と拮抗する不活化酵素を導入し、ミトコンドリア機能を妨害する不稔植物を育成することもできる。
【0049】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】イネRPS10(A)およびRPS14(B)の二次構造の予測の結果を示す図である。
【図2】GFP構築物の概略図である。
【図3】GFP融合タンパク質の細胞内局在を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図4】GFP融合タンパク質の細胞内局在を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図5】イネRPS10およびRPS14におけるN末端領域の推定二次構造の結果を示す図である。
【図6】推定ミトコンドリアターゲティングシグナルの部位特異的自己誘発分析の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
Claims (7)
- 配列表の配列番号1の1位から16位までのアミノ酸配列を含む、植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナル。
- 配列表の配列番号1の1位から56位までのアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のタンパク質輸送シグナル。
- 配列表の配列番号2の1位から9位までのアミノ酸配列を含む、植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナル。
- 配列表の配列番号2の1位から48位までのアミノ酸配列を含む、請求項3に記載のタンパク質輸送シグナル。
- 植物において所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現させる方法であって、
該所望のタンパク質をコードするDNA配列、およびその5’側に請求項1から4のいずれかに記載のタンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列を有するプラスミドを作成する工程、および
該プラスミドを植物細胞に導入する工程
を含む、方法。 - 所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現する植物の作成方法であって、
該所望のタンパク質をコードするDNA配列、およびその5’側に請求項1から4のいずれかに記載のタンパク質輸送シグナルをコードするDNA配列を有するプラスミドを作成する工程、
該プラスミドを植物細胞に導入する工程、および
該植物細胞を培養して植物体を得る工程
を含む、方法。 - 請求項6に記載の方法によって得られた、所望のタンパク質をミトコンドリアに特異的に発現する植物。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002270986A JP2004105059A (ja) | 2002-09-18 | 2002-09-18 | 植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナル |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002270986A JP2004105059A (ja) | 2002-09-18 | 2002-09-18 | 植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナル |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004105059A true JP2004105059A (ja) | 2004-04-08 |
Family
ID=32268430
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002270986A Pending JP2004105059A (ja) | 2002-09-18 | 2002-09-18 | 植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナル |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004105059A (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006212019A (ja) * | 2004-04-30 | 2006-08-17 | National Institute Of Agrobiological Sciences | 植物を用いたユビキノン−10の製造方法 |
JPWO2013077420A1 (ja) * | 2011-11-25 | 2015-04-27 | 独立行政法人農業生物資源研究所 | 植物の形質転換体、植物の形質転換方法、並びに該方法に用いられるベクター |
-
2002
- 2002-09-18 JP JP2002270986A patent/JP2004105059A/ja active Pending
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006212019A (ja) * | 2004-04-30 | 2006-08-17 | National Institute Of Agrobiological Sciences | 植物を用いたユビキノン−10の製造方法 |
JPWO2013077420A1 (ja) * | 2011-11-25 | 2015-04-27 | 独立行政法人農業生物資源研究所 | 植物の形質転換体、植物の形質転換方法、並びに該方法に用いられるベクター |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
Wang et al. | The VQ motif protein IKU1 regulates endosperm growth and seed size in Arabidopsis | |
Sun et al. | A zinc finger motif-containing protein is essential for chloroplast RNA editing | |
Lacroix et al. | The VirE3 protein of Agrobacterium mimics a host cell function required for plant genetic transformation | |
Zamyatnin Jr et al. | Assessment of the integral membrane protein topology in living cells | |
Longen et al. | Systematic analysis of the twin Cx9C protein family | |
Zaltsman et al. | Agrobacterium induces expression of a host F-box protein required for tumorigenicity | |
Van den Ackerveken et al. | Recognition of the bacterial avirulence protein AvrBs3 occurs inside the host plant cell | |
Ma et al. | Light control of Arabidopsis development entails coordinated regulation of genome expression and cellular pathways | |
Chew et al. | Characterization of the targeting signal of dual-targeted pea glutathione reductase | |
Batzenschlager et al. | The GIP gamma-tubulin complex-associated proteins are involved in nuclear architecture in Arabidopsis thaliana. | |
Englert et al. | Plant pre-tRNA splicing enzymes are targeted to multiple cellular compartments | |
KR20070083870A (ko) | 콜라겐 생산성 식물 및 그 생성 및 사용방법 | |
Sanchez et al. | Transfer of rps19 to the nucleus involves the gain of an RNP‐binding motif which may functionally replace RPS13 in Arabidopsis mitochondria. | |
US20150026840A1 (en) | Constructs and systems and methods for producing microcompartments | |
US11198880B2 (en) | Methods for producing microcompartments | |
CN106957355A (zh) | 一种与植物耐低光和耐低温相关的ppr蛋白及其编码基因和应用 | |
CN113564171A (zh) | 一种提高多肽可溶性表达产量的方法 | |
CN106978437A (zh) | 具有功能失调的t3ss蛋白的抗菌性转基因植物 | |
CN113061171B (zh) | 抗稻瘟病蛋白和基因、分离的核酸及其应用 | |
Berglund et al. | Defining the determinants for dual targeting of amino acyl-tRNA synthetases to mitochondria and chloroplasts | |
Wolterink-van Loo et al. | Interaction of the Agrobacterium tumefaciens virulence protein VirD2 with histones | |
WO2003052067A2 (en) | Vector mediated organelle transfection | |
CN109929019A (zh) | 一种与植物耐盐碱相关蛋白GsERF7及其编码基因与应用 | |
Feiguelman et al. | Microtubule-associated ROP interactors affect microtubule dynamics and modulate cell wall patterning and root hair growth | |
JP2004105059A (ja) | 植物ミトコンドリアへのタンパク質輸送シグナル |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20051220 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20060214 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821 Effective date: 20060215 |
|
A02 | Decision of refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20060411 |