JP2004101219A - レーザーを利用した放射線発生装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】コンパクトな構造かつ安価な装置により、放射線治療に利用可能な高エネルギーの放射線、特に中性子を発生させる。
【解決手段】超短パルス高出力レーザー発生装置2で発生した超短パルス高出力レーザー15を集光し、真空室4に噴出したガスジェット13に照射し、ガスジェット13を励起し、超短パルス高出力レーザー15の進行方向と同じ方向に向かう高速電子17を発生させ、この高速電子17の進行方向の延長線上に設けた放射線変換物質板7に衝突させて高速電子の進行方向と同じ方向に向かう指向性を有する放射線を発生させる。
【選択図】 図1
【解決手段】超短パルス高出力レーザー発生装置2で発生した超短パルス高出力レーザー15を集光し、真空室4に噴出したガスジェット13に照射し、ガスジェット13を励起し、超短パルス高出力レーザー15の進行方向と同じ方向に向かう高速電子17を発生させ、この高速電子17の進行方向の延長線上に設けた放射線変換物質板7に衝突させて高速電子の進行方向と同じ方向に向かう指向性を有する放射線を発生させる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザー励起放射線発生装置に関し、特に癌治療用の放射線源等の利用に適した中性子を含む放射線をコンパクトな装置で発生可能なレーザー励起放射線発生装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、癌の放射線治療等に利用される高エネルギーの放射線は、大型の荷電粒子加速器や核反応炉の施設を利用して作り出していた。しかしながら、このような施設は、大規模でその建設費も高額となり、しかも、高エネルギーの放射線を利用する施設では、放射線防護の観点からも、十分な防護壁等の構造が必要であり、ごく一部の医療施設でしか保有することができないのが現実である。
【0003】
ところで、近年、高集積度化された半導体メモリー等の製造において、X線リソグラフィー露光光源として利用するX線を、高出力のレーザパルスを固体照射しプラズマを作りだし、ここから発生するX線を利用するという研究が進められている。
【0004】
例えば、真空室内に設置した固体ターゲットの表面に、テラワット級のレーザーパルスをミクロンサイズになるように集光すれば、レーザ電磁場と固体密度プラズマの相互作用は相対論的となりブルネル加速のようなメカニズムにより、MeVの高速電子が発生する。しかしながら、強力なレーザーで照射された固体ターゲットから高い運動エネルギーを持ったデブリー(欠片)が発生し、レーザーの集光光学系やX線光学系に大きなダメージを与えるために実用化と言う点では問題となっていた。
【0005】
そこで、本件本発明者である近藤公伯らは、デブリーフリーで高輝度軟X線源を作り出すことを目的として、パルスガスジェット装置で、高真空チャンバーに希ガスを噴出することによって希ガスクラスターを発生させ、高出力レーザー装置で希ガスクラスターに超短パルス高出力レーザーを集光して照射し、軟X線を発生するという、X線変換効率がすぐれた構造が簡単、小型で低コストのレーザー励起X線発生装置及び方法についてすでに提案している(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−68296号公報(段落0017〜0043、図1)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の通り、放射線治療等に利用される高エネルギーの放射線を、従来のような大規模な施設を建設することなくコンパクトな装置で得られることを目的とするものである。
【0008】
ところで、上記の通り、本件本発明者である近藤公伯らは、デブリーフリーで高輝度軟X線源を作り出すレーザー励起X線発生装置の研究を進めていたところ、後述するように、ガスのクラスターに超短パルス高出力レーザーを集光して照射し、発生した高速電子が珪素入りのガラス板(マコールガラス)に当たると、中性子が発生するという新規なる知見を得た。
【0009】
そこで、本発明者らは、この中性子を含む放射線を積極的に利用することを課題として、特に、中性子を含む放射線がコンスタントに発生し、しかも指向性を有する放射線を発生するための装置を得ることを課題として、その研究開発を鋭意進めた。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するために、真空中にガスを噴出し、該ガスに超短パルス高出力レーザーを集光して上記ガスに照射し、上記超短パルス高出力レーザーの進行方向と同じ方向に向かう高速電子線を発生し、該高速電子線を放射線変換物質に投射して、上記高速電子線の進行方向と同じ方向に向かう放射線を発生させることを特徴とするレーザーを利用した放射線発生装置を提供する。
【0011】
本発明は上記課題を解決するために、超短パルス高出力レーザーを発生するための超短パルス高出力レーザー発生装置と、真空室と、上記真空室に上記ガスを噴出することによってガスを発生させるガス噴射装置と、放射線変換物質とを備えたレーザーを利用した放射線発生装置であって、上記超短パルス高出力レーザー発生装置で発生した上記超短パルス高出力レーザーは、集光して上記ガスに照射されて上記ガスを励起し、該超短パルス高出力レーザーの進行方向と同じ方向に向かう高速電子を発生させ、上記放射線変換物質は、上記高速電子の進行方向の延長線上であり真空室の内部又は外部に設けられており、上記高速電子が投射されて上記高速電子の進行方向と同じ方向に向かう指向性を有する放射線が発生することを特徴とするレーザーを利用した放射線発生装置を提供する。
【0012】
上記超短パルス高出力レーザー発生装置と上記真空室の間には、超短パルス高出力レーザーを導入するための真空の導入路が設けられている。
【0013】
上記放射線変換物質は、Be、Si、U、W、Pb、Ta、Au、Ba、Ag、Cu、Fe、Ni、Al又はCの元素を含む。
【0014】
上記放射線は、中性子を有する放射線であることを特徴とする。
【0015】
上記放射線は、医療用に使用される放射線であることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置の実施の形態を実施例に基づいて図面を参照して、以下に説明する。
【0017】
本発明者らは、TW級(テラワット級)レーザー装置によって発生させた超短パルス高出力レーザーを、一方向からアルゴンガスのジェットに集光して照射したところ、超短パルス高出力レーザーの進行方向と同じ方向に向かう大量の高速電子が発生することを知見し、しかも、この高速電子の進行方向に設けたガラス板に高速電子が当たると、ガラス板が放射線変換物質となって、中性子を含む放射線が発生し、これが超短パルス高出力レーザー乃至高速電子の進行方向と同じ方向に向かう指向性を有するという知見を得た。
【0018】
本発明者らは、このような知見に基づいて、超短パルス高出力レーザーを、ガスに集光して照射し、超短パルス高出力レーザーと同じ進行方向に向かう高速電子を発生させて、これをガラス板等の放射線変換物質に当てて、中性子を含む指向性を有する放射線を発生させるという本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置を想到するに至ったものである。
【0019】
(実施例)
図1は、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置の実施例の全体構成を説明する図である。このレーザーを利用した放射線発生装置1は、TW級(テラワット級)の超短パルス高出力レーザー装置2、レーザー導入路3、真空室4、ガス噴射装置5、集光用ミラー6及び放射線変換物質から成る板(以下、「放射線変換物質板」という。)7を備えている。
【0020】
超短パルス高出力レーザー発生装置2は、尖頭出力がテラワットを越す高出力のレーザー装置を使用する。この実施例では具体的には、チタンサファイアレーザー装置を使用し、10TW/40fs、10Hzの超短パルス高出力レーザーを発生させる。
【0021】
レーザー導入路3は、超短パルス高出力レーザー発生装置2で発生した超短パルス高出力レーザーを超短パルス高出力レーザー発生装置2から真空室4に導入する通路として機能するものである。レーザー導入路3は、真空室4と連通しており、後述する真空ポンプ8で真空引きされており、真空室4と同様に真空状態に保たれている。
【0022】
真空室4は、導入路3から導入され集光用ミラー6で反射されて進行する超短パルス高出力レーザーの進行方向に長い筒状の室であり、この実施例では、その形状はほぼ円筒状をしている。そして、この真空室4は、真空ポンプ8で真空引きされて真空状態が保たれている。
【0023】
ガス噴射装置5は、ガス噴射用ノズル9、ガス用ポンプ10及びガス循環路11を有している。ガス噴射用ノズル9は、真空室4の側壁12から、真空室4の長手方向に垂直な断面の中心部に向けて(真空室4の長手方向に延びるほぼ中心となる長手軸に向けて)アルゴンガスをガスジェット13として噴出するものである。なお、使用するガスは、アルゴンガスの他にヘリウムガス等の不活性ガスがよい。
【0024】
そして、ガス用ポンプ10は、真空室4の基端部(図1中の左端の部分)と連通するように設置されており、ガスジェット13を噴射後、真空室4内に残存しているアルゴンガスを回収し、ガス循環路11を通して、ガス噴射用ノズル9から真空室4内に噴射させるものである。
【0025】
ガス循環路11は、ガス用ポンプ10から回収したアルゴンガスをガス噴射用ノズル9に送る通路として機能するものであるが、必要に応じて外部からアルゴンガスを補給できるようにガス補給栓14が設けられている。
【0026】
集光用ミラー6は、真空室4内の基端側において導入路3の延長線上の位置に設けられており、超短パルス高出力レーザー発生装置2で発生され導入路3から真空室4内に導入された超短パルス高出力レーザー15を、真空室4の長手方向に延びる中心軸に沿って反射し、ガスジェット13に向けて集光するものである。
【0027】
放射線変換物質板7は、集光用ミラー6で反射される超短パルス高出力レーザー15乃至後述する高速電子の進行方向(真空室4の長手方向の軸)の適所に配置される。この実施例では、真空室4の先端壁16に取り付けられている。
【0028】
放射線変換物質板7の材料としては、いろいろな放射線変換物質が利用できるが、この実施例では珪素入りのガラスを利用している。その他、放射線変換物質としては、Be、U、W、Pb、Ta、Au、Ba、Ag、Cu、Fe、Ni、Al、C等の元素を含む各種の材料が利用できる。
【0029】
なお、後述するが、本発明によれば、放射線変換物質板7から、真空室4の長手方向に中性子を含む放射線が発生するので、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置1の実際の利用機器(例.放射線照射癌治療装置)では、放射線防護及び放射線を照射部に安全に導くという観点から、真空室4の長手方向の延長部であって放射線が発生して進行する領域の周囲には、放射線防護兼案内用の防護案内壁を設ける等の構造が必要である。
【0030】
(作用)
レーザー導入路3及び真空室4は、真空ポンプにより真空引きされて真空状態に保たれている。そして、ガス用ポンプ10により、アルゴンガスをガス噴射ノズル9から真空室4内に噴射しクラスタ状のガスジェット13を形成するとともに、真空室4から残存するアルゴンガスを回収してガス循環路11を通して循環させている。
【0031】
そして、超短パルス高出力レーザー発生装置2により、尖頭出力10TWの超短パルス高出力レーザー15を発生させる。そして、この超短パルス高出力レーザー15を、真空状態に維持されたレーザー導入路3を通して真空室4内に導入し、集光用ミラー6で真空室4の長手方向の先端側に向けて反射する。超短パルス高出力レーザー15は、集光用ミラー6で反射されて、真空室4の長手方向に向かう中心軸に沿って進行し、アルゴンガスのガスジェット13に集光し、照射する。
【0032】
すると、超短パルス高出力レーザー15がガスジェット13に集光し、照射すると、超短パルス高出力レーザー15の進行方向に向かう高速電子(プラズマ)17が発生する。この高速電子17が、真空室4の先端壁16に設けた珪素入りのガラスから成る放射線変換物質板7に衝突する。
【0033】
この衝突により、この放射線変換物質板7から、超短パルス高出力レーザー15乃至高速電子17の進行方向かう中性子を含む高エネルギーの放射線18が発生する。この放射線18は、超短パルス高出力レーザー15乃至高速電子17の進行方向と同じ方向に向かうという指向性を有する。
【0034】
なお、高速電子17が放射線変換物質板7に衝突すると中性子が発生するが、その発生のメカニズムは、現在のところ明確ではないが、後述する実験例で示す通り中性子が発生することは明らかである。
【0035】
このように、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置1は、TW級の超短パルス高出力レーザー発生装置2、真空室4及びガス噴射装置5を備えたコンパクトな装置でもって、高エネルギーの放射線18を得ることができ、特に、多量の中性子を発生させる中性子発生源ともなる。
【0036】
特に、中性子の癌治療へのに応用は着目すべきである。具体的には、脳腫瘍の場合、ホウ素化合物は脳腫瘍細胞にのみ取り込まれるという点が知られている。しかもホウ素は、中性子を取り込む性質があるので、これを利用し、正常細胞には影響を与えない低エネルギーに減速した中性子を脳腫瘍細胞に照射することにより取り込まれ、脳腫瘍細胞を破壊することができる。
【0037】
このように本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置1は、高エネルギーの放射線源となり、特に中性子源ともなるから、これで得られる放射線18を癌治療に応用すれば、従来のように、放射線源発生装置として大型の施設(例.陽子線照射治療に用いられるベビーサイクロトロン等)を建設する必要もなく、コンパクトでより安価な放射線治療装置を設置することが可能となる。
【0038】
従って、現在、きわめて少数の医療施設にしか設置されていない放射線治療装置も、すでに普及しているMRI装置と同じ程度に、中小の医療施設において導入することも可能となり、多くの人がこの治療を受けることが可能となる。
【0039】
特に、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置1は、中性子を簡単に発生させることができるから、従来は、原子炉等きわめて特別の施設からしか入手できず、現実には利用不可能であった中性子を民生機器、特に効果的な癌の放射線治療装置へも展開ができる。
【0040】
しかも、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置の大きな特徴は、指向性を有する放射線が得られるから、放射線治療等において癌組織への照射等の操作(ハンドリング)が容易であり、特に、脳腫瘍等の脳の深部にある外科的治療が困難な小さな癌組織にもターゲットを定めて、照射することができるから、効果的な治療が可能となる。
【0041】
さらに、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置1では、指向性のない放射線に較べて、放射線防護のための構造がきわめて簡単となるから装置全体がコンパクトとなり、又人体に対してきわめて危険とされている中性子の取り扱いも容易であり、現実的な利用価値がきわめて高い。
【0042】
(実験例1)
本発明者らは、図1に示す本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置を使用して、放射線の発生状況を確認する実験を行った。使用したレーザーは、6TWの超短パルスレーザーであり、これを真空室4に噴射したアルゴンガスのクラスタ状のガスジェットに照射した。レーザーエネルギー240mJ/10Hz(2.4W)に対し、中性子発生数の最大値は1.8×104個/sであった。この計測は、中性子サーベイメータを用い、中性子サーベイメータのキャリブレーションは、中性子発生源241Am−Beを用いて行った。
【0043】
(実験例2)
さらに本発明者らは、図1に示す本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置において、放射線の発生源を確認する実験を行った。この結果、図2(a)、(b)に示す通りの、中性子の線量と中性子発生位置からのその線量測定位置までの距離との関係が得られた。
【0044】
図2(a)は、中性子のカウント数と中性子の発生位置からの距離との関係をプロットしたグラフである。カウント数は中性子サーベメータで検出した中性子による1分当たりの信号回数である。発生位置からの距離は、具体的には、放射線変換物質板7であるガラス板と、中性子サーベメータの中性子を具体的に検出するBF3管ディテクタの間の距離である。
【0045】
図2(a)の○印は、実際の測定値をプロットした点を示しており、これは近似式y=29000x−2 の線上ある。一方、実線による曲線は、中性子の発生源からの距離による減衰の特徴を示す周知の式1/r2 を示す曲線である。このグラフから、実際に検出されるカウント数のガラス板からの距離による減衰は、放射線変換物質板(ガラス板)7を発生源とする中性子の特徴的な減衰曲線にほぼ一致しており、これから中性子の発生源は放射線変換物質板7であると特定できる。
【0046】
図2(b)は、中性子の実効線量と中性子の発生位置からの距離との関係をプロットしたグラフである。
【0047】
●印は、実際の測定値をプロットした点を示している。◇は、一連の●印のデータを取った後で、レーザーを調整した後に実際に測定した結果得られた値であり、レーザーを適宜調整することにより、倍以上の中性子が発生することが判明した。このことにより、中性子の線量は、レーザーの条件をより最適化すれば、得られたデータよりも多くすることができることが分かる。
【0048】
(利用例)
なお、発明者らは、癌治療に必要な超短パルス高出力レーザーの出力等について具体的に検討したので、これを説明する。通常、放射線による癌治療では放射線を1分間に数Gy(1Gy=質量1kgあたり1Jのエネルギーが吸収されること。)を照射することは知られている。例えば10kgの癌であれば1Gyは10Jなので10J/分、すなわち170mWの放射線源があればよい。
【0049】
本発明者らが研究に使用しているMeV電子源はレーザーエネルギーから電子へのエネルギー変換効率は中性子発生数から逆算して1.8mWと考えられる(原子核の巨大共鳴による高速電子ビームから中性子への変換効率がおよそ1010個/s/kWとした場合)。
【0050】
従って、現在の100倍、即ち平均出力400Wの超短パルス高出力レーザーを開発すれば発生電子ビームによる癌治療が可能となる。レーザーエネルギーから高速電子へのエネルギー変換効率が5%であるとした場合には、現在の超短パルス高出力レーザー発生装置2で利用可能となる。
【0051】
以上、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置の実施の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明は、上記実施例の構成に限定されることがなく、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内であればいろいろな具体的な構成があることは言うまでもない。
【0052】
【発明の効果】
本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置は、上記のような構成であるから、次のような効果が生じる。
【0053】
(1)本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置は、コンパクトな構造かつ安価な装置により、高エネルギーの放射線、特に中性子を発生させることができ、そのエネルギー強度も簡単に調整できるから、これで得られる放射線を癌治療に応用すれば、従来のように、大型の放射線発生施設(例.陽子線照射治療に用いられるベビーサイクロトロン等)を建設する必要もな、多くの医療施設への導入が可能となり、多くの人がこの治療を受けることが可能となる。
【0054】
(2)本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置は、指向性を有する中性子を含む放射線が得られるから、放射線治療等において癌組織への照射等の操作(ハンドリング)が容易となり、特に、脳腫瘍等の深部にある小さな癌組織にもターゲットを定めて、照射することができるから、効果的な治療が可能となる。
【0055】
(3)本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置では、指向性を有する放射線が得られるから、指向性のない状態で発生する放射線に較べて、放射線防護のための構造が簡単となり、この点で装置全体でコンパクトとなり、又人体に対してきわめて危険とされている中性子の取り扱いも容易であり、現実的な利用価値がきわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置の実施例の全体構成を示す図である。
【図2】本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置の実験例の結果を説明するグラフである。
【符号の説明】
1 レーザーを利用した放射線発生装置
2 超短パルス高出力レーザー装置
3 レーザー導入路
4 真空室
5 ガス噴射装置
6 集光用ミラー
7 放射線変換物質板
8 真空ポンプ
9 ガス噴射用ノズル
10 ガス用ポンプ
11 ガス循環路
12 真空室の側壁
13 ガスジェット
14 ガス補給栓
15 超短パルス高出力レーザー
16 真空室の先端壁
17 高速電子
18 放射線
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザー励起放射線発生装置に関し、特に癌治療用の放射線源等の利用に適した中性子を含む放射線をコンパクトな装置で発生可能なレーザー励起放射線発生装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、癌の放射線治療等に利用される高エネルギーの放射線は、大型の荷電粒子加速器や核反応炉の施設を利用して作り出していた。しかしながら、このような施設は、大規模でその建設費も高額となり、しかも、高エネルギーの放射線を利用する施設では、放射線防護の観点からも、十分な防護壁等の構造が必要であり、ごく一部の医療施設でしか保有することができないのが現実である。
【0003】
ところで、近年、高集積度化された半導体メモリー等の製造において、X線リソグラフィー露光光源として利用するX線を、高出力のレーザパルスを固体照射しプラズマを作りだし、ここから発生するX線を利用するという研究が進められている。
【0004】
例えば、真空室内に設置した固体ターゲットの表面に、テラワット級のレーザーパルスをミクロンサイズになるように集光すれば、レーザ電磁場と固体密度プラズマの相互作用は相対論的となりブルネル加速のようなメカニズムにより、MeVの高速電子が発生する。しかしながら、強力なレーザーで照射された固体ターゲットから高い運動エネルギーを持ったデブリー(欠片)が発生し、レーザーの集光光学系やX線光学系に大きなダメージを与えるために実用化と言う点では問題となっていた。
【0005】
そこで、本件本発明者である近藤公伯らは、デブリーフリーで高輝度軟X線源を作り出すことを目的として、パルスガスジェット装置で、高真空チャンバーに希ガスを噴出することによって希ガスクラスターを発生させ、高出力レーザー装置で希ガスクラスターに超短パルス高出力レーザーを集光して照射し、軟X線を発生するという、X線変換効率がすぐれた構造が簡単、小型で低コストのレーザー励起X線発生装置及び方法についてすでに提案している(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−68296号公報(段落0017〜0043、図1)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の通り、放射線治療等に利用される高エネルギーの放射線を、従来のような大規模な施設を建設することなくコンパクトな装置で得られることを目的とするものである。
【0008】
ところで、上記の通り、本件本発明者である近藤公伯らは、デブリーフリーで高輝度軟X線源を作り出すレーザー励起X線発生装置の研究を進めていたところ、後述するように、ガスのクラスターに超短パルス高出力レーザーを集光して照射し、発生した高速電子が珪素入りのガラス板(マコールガラス)に当たると、中性子が発生するという新規なる知見を得た。
【0009】
そこで、本発明者らは、この中性子を含む放射線を積極的に利用することを課題として、特に、中性子を含む放射線がコンスタントに発生し、しかも指向性を有する放射線を発生するための装置を得ることを課題として、その研究開発を鋭意進めた。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するために、真空中にガスを噴出し、該ガスに超短パルス高出力レーザーを集光して上記ガスに照射し、上記超短パルス高出力レーザーの進行方向と同じ方向に向かう高速電子線を発生し、該高速電子線を放射線変換物質に投射して、上記高速電子線の進行方向と同じ方向に向かう放射線を発生させることを特徴とするレーザーを利用した放射線発生装置を提供する。
【0011】
本発明は上記課題を解決するために、超短パルス高出力レーザーを発生するための超短パルス高出力レーザー発生装置と、真空室と、上記真空室に上記ガスを噴出することによってガスを発生させるガス噴射装置と、放射線変換物質とを備えたレーザーを利用した放射線発生装置であって、上記超短パルス高出力レーザー発生装置で発生した上記超短パルス高出力レーザーは、集光して上記ガスに照射されて上記ガスを励起し、該超短パルス高出力レーザーの進行方向と同じ方向に向かう高速電子を発生させ、上記放射線変換物質は、上記高速電子の進行方向の延長線上であり真空室の内部又は外部に設けられており、上記高速電子が投射されて上記高速電子の進行方向と同じ方向に向かう指向性を有する放射線が発生することを特徴とするレーザーを利用した放射線発生装置を提供する。
【0012】
上記超短パルス高出力レーザー発生装置と上記真空室の間には、超短パルス高出力レーザーを導入するための真空の導入路が設けられている。
【0013】
上記放射線変換物質は、Be、Si、U、W、Pb、Ta、Au、Ba、Ag、Cu、Fe、Ni、Al又はCの元素を含む。
【0014】
上記放射線は、中性子を有する放射線であることを特徴とする。
【0015】
上記放射線は、医療用に使用される放射線であることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置の実施の形態を実施例に基づいて図面を参照して、以下に説明する。
【0017】
本発明者らは、TW級(テラワット級)レーザー装置によって発生させた超短パルス高出力レーザーを、一方向からアルゴンガスのジェットに集光して照射したところ、超短パルス高出力レーザーの進行方向と同じ方向に向かう大量の高速電子が発生することを知見し、しかも、この高速電子の進行方向に設けたガラス板に高速電子が当たると、ガラス板が放射線変換物質となって、中性子を含む放射線が発生し、これが超短パルス高出力レーザー乃至高速電子の進行方向と同じ方向に向かう指向性を有するという知見を得た。
【0018】
本発明者らは、このような知見に基づいて、超短パルス高出力レーザーを、ガスに集光して照射し、超短パルス高出力レーザーと同じ進行方向に向かう高速電子を発生させて、これをガラス板等の放射線変換物質に当てて、中性子を含む指向性を有する放射線を発生させるという本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置を想到するに至ったものである。
【0019】
(実施例)
図1は、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置の実施例の全体構成を説明する図である。このレーザーを利用した放射線発生装置1は、TW級(テラワット級)の超短パルス高出力レーザー装置2、レーザー導入路3、真空室4、ガス噴射装置5、集光用ミラー6及び放射線変換物質から成る板(以下、「放射線変換物質板」という。)7を備えている。
【0020】
超短パルス高出力レーザー発生装置2は、尖頭出力がテラワットを越す高出力のレーザー装置を使用する。この実施例では具体的には、チタンサファイアレーザー装置を使用し、10TW/40fs、10Hzの超短パルス高出力レーザーを発生させる。
【0021】
レーザー導入路3は、超短パルス高出力レーザー発生装置2で発生した超短パルス高出力レーザーを超短パルス高出力レーザー発生装置2から真空室4に導入する通路として機能するものである。レーザー導入路3は、真空室4と連通しており、後述する真空ポンプ8で真空引きされており、真空室4と同様に真空状態に保たれている。
【0022】
真空室4は、導入路3から導入され集光用ミラー6で反射されて進行する超短パルス高出力レーザーの進行方向に長い筒状の室であり、この実施例では、その形状はほぼ円筒状をしている。そして、この真空室4は、真空ポンプ8で真空引きされて真空状態が保たれている。
【0023】
ガス噴射装置5は、ガス噴射用ノズル9、ガス用ポンプ10及びガス循環路11を有している。ガス噴射用ノズル9は、真空室4の側壁12から、真空室4の長手方向に垂直な断面の中心部に向けて(真空室4の長手方向に延びるほぼ中心となる長手軸に向けて)アルゴンガスをガスジェット13として噴出するものである。なお、使用するガスは、アルゴンガスの他にヘリウムガス等の不活性ガスがよい。
【0024】
そして、ガス用ポンプ10は、真空室4の基端部(図1中の左端の部分)と連通するように設置されており、ガスジェット13を噴射後、真空室4内に残存しているアルゴンガスを回収し、ガス循環路11を通して、ガス噴射用ノズル9から真空室4内に噴射させるものである。
【0025】
ガス循環路11は、ガス用ポンプ10から回収したアルゴンガスをガス噴射用ノズル9に送る通路として機能するものであるが、必要に応じて外部からアルゴンガスを補給できるようにガス補給栓14が設けられている。
【0026】
集光用ミラー6は、真空室4内の基端側において導入路3の延長線上の位置に設けられており、超短パルス高出力レーザー発生装置2で発生され導入路3から真空室4内に導入された超短パルス高出力レーザー15を、真空室4の長手方向に延びる中心軸に沿って反射し、ガスジェット13に向けて集光するものである。
【0027】
放射線変換物質板7は、集光用ミラー6で反射される超短パルス高出力レーザー15乃至後述する高速電子の進行方向(真空室4の長手方向の軸)の適所に配置される。この実施例では、真空室4の先端壁16に取り付けられている。
【0028】
放射線変換物質板7の材料としては、いろいろな放射線変換物質が利用できるが、この実施例では珪素入りのガラスを利用している。その他、放射線変換物質としては、Be、U、W、Pb、Ta、Au、Ba、Ag、Cu、Fe、Ni、Al、C等の元素を含む各種の材料が利用できる。
【0029】
なお、後述するが、本発明によれば、放射線変換物質板7から、真空室4の長手方向に中性子を含む放射線が発生するので、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置1の実際の利用機器(例.放射線照射癌治療装置)では、放射線防護及び放射線を照射部に安全に導くという観点から、真空室4の長手方向の延長部であって放射線が発生して進行する領域の周囲には、放射線防護兼案内用の防護案内壁を設ける等の構造が必要である。
【0030】
(作用)
レーザー導入路3及び真空室4は、真空ポンプにより真空引きされて真空状態に保たれている。そして、ガス用ポンプ10により、アルゴンガスをガス噴射ノズル9から真空室4内に噴射しクラスタ状のガスジェット13を形成するとともに、真空室4から残存するアルゴンガスを回収してガス循環路11を通して循環させている。
【0031】
そして、超短パルス高出力レーザー発生装置2により、尖頭出力10TWの超短パルス高出力レーザー15を発生させる。そして、この超短パルス高出力レーザー15を、真空状態に維持されたレーザー導入路3を通して真空室4内に導入し、集光用ミラー6で真空室4の長手方向の先端側に向けて反射する。超短パルス高出力レーザー15は、集光用ミラー6で反射されて、真空室4の長手方向に向かう中心軸に沿って進行し、アルゴンガスのガスジェット13に集光し、照射する。
【0032】
すると、超短パルス高出力レーザー15がガスジェット13に集光し、照射すると、超短パルス高出力レーザー15の進行方向に向かう高速電子(プラズマ)17が発生する。この高速電子17が、真空室4の先端壁16に設けた珪素入りのガラスから成る放射線変換物質板7に衝突する。
【0033】
この衝突により、この放射線変換物質板7から、超短パルス高出力レーザー15乃至高速電子17の進行方向かう中性子を含む高エネルギーの放射線18が発生する。この放射線18は、超短パルス高出力レーザー15乃至高速電子17の進行方向と同じ方向に向かうという指向性を有する。
【0034】
なお、高速電子17が放射線変換物質板7に衝突すると中性子が発生するが、その発生のメカニズムは、現在のところ明確ではないが、後述する実験例で示す通り中性子が発生することは明らかである。
【0035】
このように、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置1は、TW級の超短パルス高出力レーザー発生装置2、真空室4及びガス噴射装置5を備えたコンパクトな装置でもって、高エネルギーの放射線18を得ることができ、特に、多量の中性子を発生させる中性子発生源ともなる。
【0036】
特に、中性子の癌治療へのに応用は着目すべきである。具体的には、脳腫瘍の場合、ホウ素化合物は脳腫瘍細胞にのみ取り込まれるという点が知られている。しかもホウ素は、中性子を取り込む性質があるので、これを利用し、正常細胞には影響を与えない低エネルギーに減速した中性子を脳腫瘍細胞に照射することにより取り込まれ、脳腫瘍細胞を破壊することができる。
【0037】
このように本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置1は、高エネルギーの放射線源となり、特に中性子源ともなるから、これで得られる放射線18を癌治療に応用すれば、従来のように、放射線源発生装置として大型の施設(例.陽子線照射治療に用いられるベビーサイクロトロン等)を建設する必要もなく、コンパクトでより安価な放射線治療装置を設置することが可能となる。
【0038】
従って、現在、きわめて少数の医療施設にしか設置されていない放射線治療装置も、すでに普及しているMRI装置と同じ程度に、中小の医療施設において導入することも可能となり、多くの人がこの治療を受けることが可能となる。
【0039】
特に、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置1は、中性子を簡単に発生させることができるから、従来は、原子炉等きわめて特別の施設からしか入手できず、現実には利用不可能であった中性子を民生機器、特に効果的な癌の放射線治療装置へも展開ができる。
【0040】
しかも、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置の大きな特徴は、指向性を有する放射線が得られるから、放射線治療等において癌組織への照射等の操作(ハンドリング)が容易であり、特に、脳腫瘍等の脳の深部にある外科的治療が困難な小さな癌組織にもターゲットを定めて、照射することができるから、効果的な治療が可能となる。
【0041】
さらに、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置1では、指向性のない放射線に較べて、放射線防護のための構造がきわめて簡単となるから装置全体がコンパクトとなり、又人体に対してきわめて危険とされている中性子の取り扱いも容易であり、現実的な利用価値がきわめて高い。
【0042】
(実験例1)
本発明者らは、図1に示す本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置を使用して、放射線の発生状況を確認する実験を行った。使用したレーザーは、6TWの超短パルスレーザーであり、これを真空室4に噴射したアルゴンガスのクラスタ状のガスジェットに照射した。レーザーエネルギー240mJ/10Hz(2.4W)に対し、中性子発生数の最大値は1.8×104個/sであった。この計測は、中性子サーベイメータを用い、中性子サーベイメータのキャリブレーションは、中性子発生源241Am−Beを用いて行った。
【0043】
(実験例2)
さらに本発明者らは、図1に示す本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置において、放射線の発生源を確認する実験を行った。この結果、図2(a)、(b)に示す通りの、中性子の線量と中性子発生位置からのその線量測定位置までの距離との関係が得られた。
【0044】
図2(a)は、中性子のカウント数と中性子の発生位置からの距離との関係をプロットしたグラフである。カウント数は中性子サーベメータで検出した中性子による1分当たりの信号回数である。発生位置からの距離は、具体的には、放射線変換物質板7であるガラス板と、中性子サーベメータの中性子を具体的に検出するBF3管ディテクタの間の距離である。
【0045】
図2(a)の○印は、実際の測定値をプロットした点を示しており、これは近似式y=29000x−2 の線上ある。一方、実線による曲線は、中性子の発生源からの距離による減衰の特徴を示す周知の式1/r2 を示す曲線である。このグラフから、実際に検出されるカウント数のガラス板からの距離による減衰は、放射線変換物質板(ガラス板)7を発生源とする中性子の特徴的な減衰曲線にほぼ一致しており、これから中性子の発生源は放射線変換物質板7であると特定できる。
【0046】
図2(b)は、中性子の実効線量と中性子の発生位置からの距離との関係をプロットしたグラフである。
【0047】
●印は、実際の測定値をプロットした点を示している。◇は、一連の●印のデータを取った後で、レーザーを調整した後に実際に測定した結果得られた値であり、レーザーを適宜調整することにより、倍以上の中性子が発生することが判明した。このことにより、中性子の線量は、レーザーの条件をより最適化すれば、得られたデータよりも多くすることができることが分かる。
【0048】
(利用例)
なお、発明者らは、癌治療に必要な超短パルス高出力レーザーの出力等について具体的に検討したので、これを説明する。通常、放射線による癌治療では放射線を1分間に数Gy(1Gy=質量1kgあたり1Jのエネルギーが吸収されること。)を照射することは知られている。例えば10kgの癌であれば1Gyは10Jなので10J/分、すなわち170mWの放射線源があればよい。
【0049】
本発明者らが研究に使用しているMeV電子源はレーザーエネルギーから電子へのエネルギー変換効率は中性子発生数から逆算して1.8mWと考えられる(原子核の巨大共鳴による高速電子ビームから中性子への変換効率がおよそ1010個/s/kWとした場合)。
【0050】
従って、現在の100倍、即ち平均出力400Wの超短パルス高出力レーザーを開発すれば発生電子ビームによる癌治療が可能となる。レーザーエネルギーから高速電子へのエネルギー変換効率が5%であるとした場合には、現在の超短パルス高出力レーザー発生装置2で利用可能となる。
【0051】
以上、本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置の実施の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明は、上記実施例の構成に限定されることがなく、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内であればいろいろな具体的な構成があることは言うまでもない。
【0052】
【発明の効果】
本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置は、上記のような構成であるから、次のような効果が生じる。
【0053】
(1)本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置は、コンパクトな構造かつ安価な装置により、高エネルギーの放射線、特に中性子を発生させることができ、そのエネルギー強度も簡単に調整できるから、これで得られる放射線を癌治療に応用すれば、従来のように、大型の放射線発生施設(例.陽子線照射治療に用いられるベビーサイクロトロン等)を建設する必要もな、多くの医療施設への導入が可能となり、多くの人がこの治療を受けることが可能となる。
【0054】
(2)本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置は、指向性を有する中性子を含む放射線が得られるから、放射線治療等において癌組織への照射等の操作(ハンドリング)が容易となり、特に、脳腫瘍等の深部にある小さな癌組織にもターゲットを定めて、照射することができるから、効果的な治療が可能となる。
【0055】
(3)本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置では、指向性を有する放射線が得られるから、指向性のない状態で発生する放射線に較べて、放射線防護のための構造が簡単となり、この点で装置全体でコンパクトとなり、又人体に対してきわめて危険とされている中性子の取り扱いも容易であり、現実的な利用価値がきわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置の実施例の全体構成を示す図である。
【図2】本発明に係るレーザーを利用した放射線発生装置の実験例の結果を説明するグラフである。
【符号の説明】
1 レーザーを利用した放射線発生装置
2 超短パルス高出力レーザー装置
3 レーザー導入路
4 真空室
5 ガス噴射装置
6 集光用ミラー
7 放射線変換物質板
8 真空ポンプ
9 ガス噴射用ノズル
10 ガス用ポンプ
11 ガス循環路
12 真空室の側壁
13 ガスジェット
14 ガス補給栓
15 超短パルス高出力レーザー
16 真空室の先端壁
17 高速電子
18 放射線
Claims (6)
- 真空中にガスを噴出し、該ガスに超短パルス高出力レーザーを集光して上記ガスに照射し、上記超短パルス高出力レーザーの進行方向と同じ方向に向かう高速電子線を発生し、該高速電子線を放射線変換物質に投射して、上記高速電子線の進行方向と同じ方向に向かう放射線を発生させることを特徴とするレーザーを利用した放射線発生装置。
- 超短パルス高出力レーザーを発生するための超短パルス高出力レーザー発生装置と、真空室と、上記真空室に上記ガスを噴出することによってガスを発生させるガス噴射装置と、放射線変換物質とを備えたレーザーを利用した放射線発生装置であって、
上記超短パルス高出力レーザー発生装置で発生した上記超短パルス高出力レーザーは、集光して上記ガスに照射されて上記ガスを励起し、該超短パルス高出力レーザーの進行方向と同じ方向に向かう高速電子を発生させ、
上記放射線変換物質は、上記高速電子の進行方向の延長線上であり真空室の内部又は外部に設けられており、上記高速電子が投射されて上記高速電子の進行方向と同じ方向に向かう指向性を有する放射線が発生することを特徴とするレーザーを利用した放射線発生装置。 - 上記超短パルス高出力レーザー発生装置と上記真空室の間には、超短パルス高出力レーザーを導入するための真空の導入路が設けられていることを特徴とする請求項2記載のレーザーを利用した放射線発生装置。
- 上記放射線変換物質は、Be、Si、U、W、Pb、Ta、Au、Ba、Ag、Cu、Fe、Ni、Al又はCの元素を含むことを特徴とする請求項1、2又は3記載のレーザーを利用した放射線発生装置。
- 上記放射線は、中性子を有する放射線であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のレーザーを利用した放射線発生装置。
- 上記放射線は、医療用に使用される放射線であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載のレーザーを利用した放射線発生装置。
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