JP2004095337A - 防食電線 - Google Patents
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Abstract
【課題】腐食性の極めて高い環境下に置かれても腐食の恐れのない防食電線を得る。
【解決手段】防食電線1に塗布および/または充填するグリース4として、フィルムとしたときの水分透過性が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下の合成油を基油としたグリースを用いる。これにより、グリース4中の水分の透過を抑制し、塩分や酸性物質などの腐食性物質の浸透を防ぐことができる。従って、防食電線1の防食性能を格段に向上することができる。
【選択図】 図1
【解決手段】防食電線1に塗布および/または充填するグリース4として、フィルムとしたときの水分透過性が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下の合成油を基油としたグリースを用いる。これにより、グリース4中の水分の透過を抑制し、塩分や酸性物質などの腐食性物質の浸透を防ぐことができる。従って、防食電線1の防食性能を格段に向上することができる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、架空送電線、架空地線、光ファイバ複合架空地線等の電線に関し、特に、その耐食性を向上させた防食電線に関する。
【0002】
【従来の技術】
図1に示すように、この種の架空電線1には、テンションメンバとなる亜鉛メッキ鋼線やアルミニウム覆鋼線2(以下、「亜鉛メッキ鋼線等」ということがある)の単線あるいは撚線を中心として、これの周囲に良導体である多数の硬アルミニウム線またはアルミニウム合金線3(以下、単に「アルミニウム線」ということがある)を1層または複数層、同心円状に撚り合わせた複合撚線(ACSR)が使用されている。
このようなACSRタイプの架空送電線の場合、強い日差しや風雪雨などの自然環境下に曝されても、中心線材部分が防食処理された亜鉛メッキ鋼線やアルミニウム被覆鋼線であって、また、この中心線材の周囲に撚り合わされる線材も耐食性の高いアルミニウム線やその合金線であるため、通常の環境下では、十分な耐食性を呈する。
【0003】
しかし、海洋に近い地域、工業地帯などの大気汚染のひどい地域等では、塩分や酸性物質等の腐食性物質が大気中に多く存在し、それが電線を腐食するので、電線の寿命が著しく短くなることが知られている。このため、このような腐食性の高い環境下で使用される架空電線では、その表面に防食電線用グリース4(以下、単にグリースという)を塗布または充填して電線の表面を被覆し、外気から遮断することが行われている。
一般に、グリース4を塗布または充填した電線は、防食電線と呼ばれている。防食電線の種類としては、グリース4を充填する範囲により、亜鉛メッキ鋼線等2の周囲のみにグリース4を充填する軽防食電線、アルミニウム線3の一部の層にもグリース4を充填する中防食電線、さらに、アルミニウム線3の全層に亘ってグリース4を充填する重防食電線とする分類が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような防食電線であっても、腐食性の極めて高い環境下に置かれた場合、長期間に亘る使用の間に、塩分や酸性物質が長期間の接触により徐々にグリースに浸透し、電線を腐食することがあった。
【0005】
よって、本発明における課題は、腐食性の極めて高い環境下に置かれても腐食の恐れのない防食電線を得ることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる課題は、防食電線に塗布および/または充填されるグリースの基油として、該基油と対応するポリマーをフィルムとしたときの水分透過率が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下であるものを用いることにより解決される。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態に基づいて、本発明を詳しく説明する。
従来、防食電線1は、電線にグリース4を塗布または充填することにより製造されている。一般に、グリース4は長期間放置されると、少しずつ水分を吸収することにより、長い年月の間に酸や塩分などの腐食性物質がグリース4を浸透し、電線の表面まで到達して電線を腐食させることがある。
特に、従来、防食電線に使用されていた鉱油系のグリースでは、不純物などにより腐食性物質の浸透が起こりやすいため、過酷な環境条件に安定して耐えるものが得難かった。
【0008】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、グリース4の基油の水分透過性に着目し、基油の水分透過性が低いグリース4を用いることにより、腐食性物質の浸透を抑制して、防食電線の防食性能の向上を図るものである。ところで、従来、水分透過性を測定するためには、試料を薄膜状とし、その膜を、液体の水分またはガス状の水蒸気が浸透する量を測定する必要がある。ポリマーのフィルムでは、その水分透過性の意義および測定方法が確立されているが、基油のような油状物では、試料を薄膜状とすることが極めて困難である。しかも、油状物は流動性が高いので、これを薄膜状としたとしても、流動に伴う水分の移動により、水分透過性の測定値が容易に変動するものと考えられ、充分な精度および信頼性を得ることができない。
【0009】
一般に、グリースの基油としては、鉱油または合成油が用いられている。このうち合成油は、所定のモノマーの低重合により得られるオリゴマー(ポリマーのうち重合度が低いもの)である。ポリマーの性質を決定する因子として、化学構造が極めて重要であることから、本発明においては、基油に対応するポリマー、すなわち、モノマーが基油と共通するポリマーをフィルム状としたときの水分透過性に基づいて、グリースの基油を選択する。
具体的には、基油に対応するポリマーをフィルムとしたときの水分透過性が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下である基油をグリースの基油として用いる。これにより、グリース4中の水分の透過を抑制し、塩分や酸性物質などの腐食性物質が電線の表面に到達することを防ぐことができる。
水分透過性は、より好ましくは、1×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下とするのが好ましい。
【0010】
本発明において、水分透過性(Permeability)とは、膜状物質を透過する水分(水蒸気)の量であり(例えば、「ポリマーハンドブック」第2版、J. Brandrupら編集、JOHN WiLEY & SONS発行、VI巻543頁以下を参照)、ポリマーフィルムの水分透過性Pは、該フィルムを所定の温度にて所定の時間放置したとき、このフィルムを透過した水分透過量(273.15K、1.013×105Paにおける気体としての体積)から、以下の式(1)により、求めることができる。
【0011】
【数1】
【0012】
水分透過性が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下であるフィルムに、モノマーが対応する基油としては、例えば、ポリブテンが挙げられる。ポリブテンは、ブテン類(イソブチレン、1−ブテン等)の重合によって得られる液状の低重合体であり、炭化水素の主鎖からなるため、化学的安定性が高く、優れた電気絶縁性を示す。また、熱や光に対しても安定であり、耐水性、撥水性、耐候性、耐老化性等に優れている。
このようなポリブテンとしては、市販のものから適宜選択して用いることができ、例えば、新日本石油化学株式会社の日石ポリブテンシリーズ(商品名:HV−35、HV−54、HV−110、HV−300等)、出光石油化学株式会社の出光ポリブテンシリーズ(商品名:100H、300H、2000H、35R、100R、300R等)、日本油脂株式会社のニッサンポリブテンシリーズ(商品名:3N、5N、10N等)などを好適に使用することができる。
【0013】
増ちょう剤としては、グリース4の耐熱性、耐垂れ落ち性などの観点から、滴点が220℃以上となるものが好ましい。このような増ちょう剤としては、複合せっけん、有機化ベントナイトやシリカゲルなどの無機系増ちょう剤、ポリウレアなどのウレア化合物、ポリテトラフルオロエチレンなどの高分子系増ちょう剤などのうちの1種または2種以上の混合物が挙げられる。
【0014】
有機化ベントナイトとしては、例えば、モンモリロナイト等の粘土鉱物を主成分とするベントナイト系粘土の表面に、四級アンモニウム塩を吸着させて疎水化したものが好適に使用できる。すなわち、四級アンモニウムカチオンが粘土鉱物の層状ケイ酸塩構造の間に侵入して形成される層間化合物であり、有機溶剤に対して優れた分散性を示し、基油との混和により膨潤して、増粘性、チキソトロピー性を呈する。
ベントナイトの表面処理剤として、アニオン系ポリマーやシラン系処理剤を用いた場合、ベントナイトの疎水化が十分に行われず、親水性が高くなるので、増ちょう剤として不適である。但し、四級アンモニウムカチオンなどを吸着させて疎水化したのち、シラン系処理剤を用いることは好ましい。
【0015】
金属複合せっけんは、長鎖脂肪酸の金属塩に、酢酸、乳酸、アジピン酸、ジアルキルリン酸などの他の酸の金属塩を複合させたものである。金属としては、リチウム、アルミニウム、カルシウム、バリウムなどが例示できる。
これらの複合せっけんに用いる長鎖脂肪酸としては、特に、12−ヒドロキシステアリン酸など、分子内に水酸基を有するものを用いると、ロール掛けによってグリースのチキソトロピー性を大きくすることができるので、特に好ましい。
【0016】
上述の増ちょう剤は、いずれも、耐熱性、耐水性に優れるとともに、増粘性が高いので、チクソトロピー(揺変性)の高いグリース4を得ることができる。このため、電線への塗布性に優れるとともに、架設後の垂れ落ちや、通電時の発熱による熱劣化を効果的に抑制することができ、防食電線用グリース4として優れた性質を発揮する。
特に、有機化ベントナイトは、イオン交換作用を有するので、金属イオンなどを吸着することができ、また、酸などの腐食性物質と反応せず、変質や軟化を起こしにくいことから、特に好ましい。
【0017】
基油と増ちょう剤との配合比は、得られるグリース4のちょう度が180〜340になるように調整するのが好ましい。ちょう度が180未満の場合、得られるグリースが非常に硬くなり、電線に塗布する作業性が低下するので好ましくない。また、ちょう度が340を超えると、得られるグリース4の流動性が高すぎ、電線に充填する際、垂れ落ちやすくなるので好ましくない。
【0018】
上述の基油および増ちょう剤を配合して、均一な組成物とすることにより、グリース4を得ることができる。このグリース4には、必要に応じて、酸化防止剤や金属不活性剤などを適当量添加してもよい。また、耐酸性を向上させるため、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の受酸剤を適当量添加してもよい。
特に、酸化防止剤は、高温熱酸化によるグリース4の変質を抑制するため、基油100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲内で添加することが好ましい。酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系、リン系などのものを用いることができるが、特に、フェノール系、アミン系のものが好ましい。
【0019】
グリース4の製造は、原料に応じて選択されるけん化法、混合法などの適切な方法により行うことができる。
例えば、金属複合石けんを増ちょう剤とするグリース4では、基油中、常圧または加圧下にて油脂類と金属塩基類を加熱してけん化させ、冷却後、各種添加剤などを添加し、必要に応じて加熱した後、混合し、ミーリングによって均一化して、ろ過、脱泡を行うことにより、グリース4を製造することができる。
また、有機化ベントナイトを増ちょう剤とするグリース4では、基油と有機化ベントナイトを混合釜に入れ、メタノールなどの膨潤剤を添加して有機化ベントナイトを膨潤させたのち混合し、各種添加剤などを添加し、必要に応じて加熱した後、混合し、ミーリングによって均一化して、ろ過、脱泡を行うことにより、グリース4を製造することができる。
【0020】
グリース4の電線(撚線)への充填は、複数の素線2、3を撚り合わせて電線を製造する際に、各素線2、3間にグリース4を詰め込みながら撚り合わせることにより、行うことができる。また、グリース4の塗布は、該電線の外周表面に対して、適宜の塗布手段によって行われる。グリース4の塗布厚は、電線が露出しない程度とすればよい。
防食性の観点から、グリース4を電線の内部(素線間の間隙)に充填するとともに、外周に塗布することが好ましいが、環境条件によっては、内部への充填のみを行ってもよい。電線が単線または撚りが緻密な撚線である場合には、塗布のみを行う。
このようにして製造された防食電線1は、架空送電線、架空地線などの架空電線のほか、ジャンパ線や変電所内の母線などにも適用可能である。
【0021】
以下、具体例を示す。表1および表2に示す組成の防食電線用グリース4を調製した。
【0022】
用いた基油の性質は、以下のとおりである。
ポリブテン:対応するフィルムの水分透過率は、0.825×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1。
ポリαオレフィン:対応するフィルムの水分透過率は、1.57×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1。
シリコーン油(ジメチルシリコーン):対応するフィルムの水分透過率は、322×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1。
【0023】
次いで、得られた各防食電線用グリース4について、以下に示す方法により、防食性能試験を行った。
厚さ1mmのアルミニウム板の表面に、グリースを0.08mmの厚さにて塗布して試料を作製し、この試料を濃度が6Mの塩酸を入れたデシケータ内に30日間放置した。デシケータから試料を取り出し、グリースを除去したのち、アルミニウム板の孔食深さを測定した。この孔食深さとしては、5μm未満であることが好ましい。
以上の試験の結果を表1に示す。ただし、試験番号8は、グリースを塗布せずにアルミニウム板を塩酸にさらした場合の孔食深さを示す。
【0024】
【表1】
【0025】
以上の結果から明らかなように、基油として、フィルムとしたときの水分透過性が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下である合成油を用いたグリースを塗布した場合、孔食はほとんど認められず、極めて高い防食性能を有することが分かった。前記水分透過性が1×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下である場合、さらに防食性能は優れたものとなった。
これに対して、フィルムとしたときの水分透過性が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1を超えると、かなりの孔食が観察され、防食性能に劣っていた。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の防食電線は、グリースの基油として、フィルムにしたときの水分透過性が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下のもの合成油を用いたグリースを塗布および/または充填したものであるので、グリース中の水分の透過を抑制し、塩分や酸性物質などの腐食性物質の浸透を防ぐことができる。従って、防食電線の防食性能を格段に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】防食電線の概略断面図である。
【符号の説明】
1…防食電線、4…グリース。
【発明の属する技術分野】
本発明は、架空送電線、架空地線、光ファイバ複合架空地線等の電線に関し、特に、その耐食性を向上させた防食電線に関する。
【0002】
【従来の技術】
図1に示すように、この種の架空電線1には、テンションメンバとなる亜鉛メッキ鋼線やアルミニウム覆鋼線2(以下、「亜鉛メッキ鋼線等」ということがある)の単線あるいは撚線を中心として、これの周囲に良導体である多数の硬アルミニウム線またはアルミニウム合金線3(以下、単に「アルミニウム線」ということがある)を1層または複数層、同心円状に撚り合わせた複合撚線(ACSR)が使用されている。
このようなACSRタイプの架空送電線の場合、強い日差しや風雪雨などの自然環境下に曝されても、中心線材部分が防食処理された亜鉛メッキ鋼線やアルミニウム被覆鋼線であって、また、この中心線材の周囲に撚り合わされる線材も耐食性の高いアルミニウム線やその合金線であるため、通常の環境下では、十分な耐食性を呈する。
【0003】
しかし、海洋に近い地域、工業地帯などの大気汚染のひどい地域等では、塩分や酸性物質等の腐食性物質が大気中に多く存在し、それが電線を腐食するので、電線の寿命が著しく短くなることが知られている。このため、このような腐食性の高い環境下で使用される架空電線では、その表面に防食電線用グリース4(以下、単にグリースという)を塗布または充填して電線の表面を被覆し、外気から遮断することが行われている。
一般に、グリース4を塗布または充填した電線は、防食電線と呼ばれている。防食電線の種類としては、グリース4を充填する範囲により、亜鉛メッキ鋼線等2の周囲のみにグリース4を充填する軽防食電線、アルミニウム線3の一部の層にもグリース4を充填する中防食電線、さらに、アルミニウム線3の全層に亘ってグリース4を充填する重防食電線とする分類が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような防食電線であっても、腐食性の極めて高い環境下に置かれた場合、長期間に亘る使用の間に、塩分や酸性物質が長期間の接触により徐々にグリースに浸透し、電線を腐食することがあった。
【0005】
よって、本発明における課題は、腐食性の極めて高い環境下に置かれても腐食の恐れのない防食電線を得ることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる課題は、防食電線に塗布および/または充填されるグリースの基油として、該基油と対応するポリマーをフィルムとしたときの水分透過率が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下であるものを用いることにより解決される。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態に基づいて、本発明を詳しく説明する。
従来、防食電線1は、電線にグリース4を塗布または充填することにより製造されている。一般に、グリース4は長期間放置されると、少しずつ水分を吸収することにより、長い年月の間に酸や塩分などの腐食性物質がグリース4を浸透し、電線の表面まで到達して電線を腐食させることがある。
特に、従来、防食電線に使用されていた鉱油系のグリースでは、不純物などにより腐食性物質の浸透が起こりやすいため、過酷な環境条件に安定して耐えるものが得難かった。
【0008】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、グリース4の基油の水分透過性に着目し、基油の水分透過性が低いグリース4を用いることにより、腐食性物質の浸透を抑制して、防食電線の防食性能の向上を図るものである。ところで、従来、水分透過性を測定するためには、試料を薄膜状とし、その膜を、液体の水分またはガス状の水蒸気が浸透する量を測定する必要がある。ポリマーのフィルムでは、その水分透過性の意義および測定方法が確立されているが、基油のような油状物では、試料を薄膜状とすることが極めて困難である。しかも、油状物は流動性が高いので、これを薄膜状としたとしても、流動に伴う水分の移動により、水分透過性の測定値が容易に変動するものと考えられ、充分な精度および信頼性を得ることができない。
【0009】
一般に、グリースの基油としては、鉱油または合成油が用いられている。このうち合成油は、所定のモノマーの低重合により得られるオリゴマー(ポリマーのうち重合度が低いもの)である。ポリマーの性質を決定する因子として、化学構造が極めて重要であることから、本発明においては、基油に対応するポリマー、すなわち、モノマーが基油と共通するポリマーをフィルム状としたときの水分透過性に基づいて、グリースの基油を選択する。
具体的には、基油に対応するポリマーをフィルムとしたときの水分透過性が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下である基油をグリースの基油として用いる。これにより、グリース4中の水分の透過を抑制し、塩分や酸性物質などの腐食性物質が電線の表面に到達することを防ぐことができる。
水分透過性は、より好ましくは、1×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下とするのが好ましい。
【0010】
本発明において、水分透過性(Permeability)とは、膜状物質を透過する水分(水蒸気)の量であり(例えば、「ポリマーハンドブック」第2版、J. Brandrupら編集、JOHN WiLEY & SONS発行、VI巻543頁以下を参照)、ポリマーフィルムの水分透過性Pは、該フィルムを所定の温度にて所定の時間放置したとき、このフィルムを透過した水分透過量(273.15K、1.013×105Paにおける気体としての体積)から、以下の式(1)により、求めることができる。
【0011】
【数1】
【0012】
水分透過性が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下であるフィルムに、モノマーが対応する基油としては、例えば、ポリブテンが挙げられる。ポリブテンは、ブテン類(イソブチレン、1−ブテン等)の重合によって得られる液状の低重合体であり、炭化水素の主鎖からなるため、化学的安定性が高く、優れた電気絶縁性を示す。また、熱や光に対しても安定であり、耐水性、撥水性、耐候性、耐老化性等に優れている。
このようなポリブテンとしては、市販のものから適宜選択して用いることができ、例えば、新日本石油化学株式会社の日石ポリブテンシリーズ(商品名:HV−35、HV−54、HV−110、HV−300等)、出光石油化学株式会社の出光ポリブテンシリーズ(商品名:100H、300H、2000H、35R、100R、300R等)、日本油脂株式会社のニッサンポリブテンシリーズ(商品名:3N、5N、10N等)などを好適に使用することができる。
【0013】
増ちょう剤としては、グリース4の耐熱性、耐垂れ落ち性などの観点から、滴点が220℃以上となるものが好ましい。このような増ちょう剤としては、複合せっけん、有機化ベントナイトやシリカゲルなどの無機系増ちょう剤、ポリウレアなどのウレア化合物、ポリテトラフルオロエチレンなどの高分子系増ちょう剤などのうちの1種または2種以上の混合物が挙げられる。
【0014】
有機化ベントナイトとしては、例えば、モンモリロナイト等の粘土鉱物を主成分とするベントナイト系粘土の表面に、四級アンモニウム塩を吸着させて疎水化したものが好適に使用できる。すなわち、四級アンモニウムカチオンが粘土鉱物の層状ケイ酸塩構造の間に侵入して形成される層間化合物であり、有機溶剤に対して優れた分散性を示し、基油との混和により膨潤して、増粘性、チキソトロピー性を呈する。
ベントナイトの表面処理剤として、アニオン系ポリマーやシラン系処理剤を用いた場合、ベントナイトの疎水化が十分に行われず、親水性が高くなるので、増ちょう剤として不適である。但し、四級アンモニウムカチオンなどを吸着させて疎水化したのち、シラン系処理剤を用いることは好ましい。
【0015】
金属複合せっけんは、長鎖脂肪酸の金属塩に、酢酸、乳酸、アジピン酸、ジアルキルリン酸などの他の酸の金属塩を複合させたものである。金属としては、リチウム、アルミニウム、カルシウム、バリウムなどが例示できる。
これらの複合せっけんに用いる長鎖脂肪酸としては、特に、12−ヒドロキシステアリン酸など、分子内に水酸基を有するものを用いると、ロール掛けによってグリースのチキソトロピー性を大きくすることができるので、特に好ましい。
【0016】
上述の増ちょう剤は、いずれも、耐熱性、耐水性に優れるとともに、増粘性が高いので、チクソトロピー(揺変性)の高いグリース4を得ることができる。このため、電線への塗布性に優れるとともに、架設後の垂れ落ちや、通電時の発熱による熱劣化を効果的に抑制することができ、防食電線用グリース4として優れた性質を発揮する。
特に、有機化ベントナイトは、イオン交換作用を有するので、金属イオンなどを吸着することができ、また、酸などの腐食性物質と反応せず、変質や軟化を起こしにくいことから、特に好ましい。
【0017】
基油と増ちょう剤との配合比は、得られるグリース4のちょう度が180〜340になるように調整するのが好ましい。ちょう度が180未満の場合、得られるグリースが非常に硬くなり、電線に塗布する作業性が低下するので好ましくない。また、ちょう度が340を超えると、得られるグリース4の流動性が高すぎ、電線に充填する際、垂れ落ちやすくなるので好ましくない。
【0018】
上述の基油および増ちょう剤を配合して、均一な組成物とすることにより、グリース4を得ることができる。このグリース4には、必要に応じて、酸化防止剤や金属不活性剤などを適当量添加してもよい。また、耐酸性を向上させるため、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の受酸剤を適当量添加してもよい。
特に、酸化防止剤は、高温熱酸化によるグリース4の変質を抑制するため、基油100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲内で添加することが好ましい。酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系、リン系などのものを用いることができるが、特に、フェノール系、アミン系のものが好ましい。
【0019】
グリース4の製造は、原料に応じて選択されるけん化法、混合法などの適切な方法により行うことができる。
例えば、金属複合石けんを増ちょう剤とするグリース4では、基油中、常圧または加圧下にて油脂類と金属塩基類を加熱してけん化させ、冷却後、各種添加剤などを添加し、必要に応じて加熱した後、混合し、ミーリングによって均一化して、ろ過、脱泡を行うことにより、グリース4を製造することができる。
また、有機化ベントナイトを増ちょう剤とするグリース4では、基油と有機化ベントナイトを混合釜に入れ、メタノールなどの膨潤剤を添加して有機化ベントナイトを膨潤させたのち混合し、各種添加剤などを添加し、必要に応じて加熱した後、混合し、ミーリングによって均一化して、ろ過、脱泡を行うことにより、グリース4を製造することができる。
【0020】
グリース4の電線(撚線)への充填は、複数の素線2、3を撚り合わせて電線を製造する際に、各素線2、3間にグリース4を詰め込みながら撚り合わせることにより、行うことができる。また、グリース4の塗布は、該電線の外周表面に対して、適宜の塗布手段によって行われる。グリース4の塗布厚は、電線が露出しない程度とすればよい。
防食性の観点から、グリース4を電線の内部(素線間の間隙)に充填するとともに、外周に塗布することが好ましいが、環境条件によっては、内部への充填のみを行ってもよい。電線が単線または撚りが緻密な撚線である場合には、塗布のみを行う。
このようにして製造された防食電線1は、架空送電線、架空地線などの架空電線のほか、ジャンパ線や変電所内の母線などにも適用可能である。
【0021】
以下、具体例を示す。表1および表2に示す組成の防食電線用グリース4を調製した。
【0022】
用いた基油の性質は、以下のとおりである。
ポリブテン:対応するフィルムの水分透過率は、0.825×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1。
ポリαオレフィン:対応するフィルムの水分透過率は、1.57×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1。
シリコーン油(ジメチルシリコーン):対応するフィルムの水分透過率は、322×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1。
【0023】
次いで、得られた各防食電線用グリース4について、以下に示す方法により、防食性能試験を行った。
厚さ1mmのアルミニウム板の表面に、グリースを0.08mmの厚さにて塗布して試料を作製し、この試料を濃度が6Mの塩酸を入れたデシケータ内に30日間放置した。デシケータから試料を取り出し、グリースを除去したのち、アルミニウム板の孔食深さを測定した。この孔食深さとしては、5μm未満であることが好ましい。
以上の試験の結果を表1に示す。ただし、試験番号8は、グリースを塗布せずにアルミニウム板を塩酸にさらした場合の孔食深さを示す。
【0024】
【表1】
【0025】
以上の結果から明らかなように、基油として、フィルムとしたときの水分透過性が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下である合成油を用いたグリースを塗布した場合、孔食はほとんど認められず、極めて高い防食性能を有することが分かった。前記水分透過性が1×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下である場合、さらに防食性能は優れたものとなった。
これに対して、フィルムとしたときの水分透過性が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1を超えると、かなりの孔食が観察され、防食性能に劣っていた。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の防食電線は、グリースの基油として、フィルムにしたときの水分透過性が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下のもの合成油を用いたグリースを塗布および/または充填したものであるので、グリース中の水分の透過を抑制し、塩分や酸性物質などの腐食性物質の浸透を防ぐことができる。従って、防食電線の防食性能を格段に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】防食電線の概略断面図である。
【符号の説明】
1…防食電線、4…グリース。
Claims (1)
- グリースを塗布および/または充填した防食電線であって、前記グリースの基油は、該基油と対応するポリマーをフィルムとしたときの水分透過率が5×10−11cm3・cm・cm−2・s−1・Pa−1以下のものであることを特徴とする防食電線。
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-
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