JP2004073401A - 多孔質体、それを用いた生体材料、及び多孔質体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】生体細胞との親和性に優れた多孔質体、それを用いた生体材料、及び多孔質体の製造方法を提供する。
【解決手段】リン酸カルシウム粉末を圧粉成形し、次いで水蒸気処理して針状の六方晶のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体とし、その結果としてa面である(300)面のピーク強度と(211)面のピーク強度との比:(300)/(211)を高め、すなわち多孔質体表面に露出するa面の密度を高めて、骨生成、骨吸収に関わるタンパク質などの吸着性に優れた多孔質体とする。
【選択図】 図1
【解決手段】リン酸カルシウム粉末を圧粉成形し、次いで水蒸気処理して針状の六方晶のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体とし、その結果としてa面である(300)面のピーク強度と(211)面のピーク強度との比:(300)/(211)を高め、すなわち多孔質体表面に露出するa面の密度を高めて、骨生成、骨吸収に関わるタンパク質などの吸着性に優れた多孔質体とする。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体材料、特に人工骨に用いる生体材料として使用する多孔質体、その多孔質体用いた生体材料、及びその多孔質体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ハイドロキシアパタイトは、タンパク質などの生体組織との親和性が良好であるため、人工骨や骨欠損部の再生用の足場材(スキャホールド)としての適用が試みられている。このうち、骨再生の足場材として適用する場合、ハイドロキシアパタイトからなる多孔質体に骨細胞が増殖をしやすくする処理を施し、これに患者の生体から得た骨髄細胞や骨芽細胞などを吸着させ、培養して骨細胞が形成された人工骨とし、患者に移植して骨の欠損部分を補填することが行われる。そのため、ハイドロキシアパタイトからなる多孔質体には、生体細胞との親和性、すなわち、骨生成、骨吸収に関わるタンパク質などの吸着性、数十から数百μmの径の連通する貫通孔を有すること、10〜90%の空隙率、強度などの特性が必要とされるが、従来のハイドロキシアパタイト多孔質体においては骨生成、骨吸収に関わるタンパク質などの吸着性が十分ではなく、骨髄細胞や骨芽細胞などの十分な培養速度が得られなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、生体細胞との親和性に優れた多孔質体、それを用いた生体材料、及び多孔質体の製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1)六方晶のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体であって、多孔質体の表面をX線回折した際の(300)面のピーク強度と(211)面のピーク強度との比:(300)/(211)が0.6〜1.3であることを特徴とする多孔質体。
(2)ハイドロキシアパタイト結晶がアスペクト比5〜50の針状の結晶である前記(1)に記載の多孔質体。
【0005】
(3)多孔質体が10〜500μmの径の貫通孔を有し、空隙率が10〜90%である前記(1)又は(2)に記載の多孔質体。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の多孔質体を用いてなる生体材料。
(5)生体材料が、骨細胞を培養させる人工骨の足場材である前記(4)に記載の生体材料。
【0006】
(6)リン酸カルシウム粉末を含む粉末を圧粉成形し、次いで水蒸気処理することを特徴とする多孔質体の製造方法。
(7)リン酸カルシウム粉末と水溶性の物質からなる粉末とを混合し、混合粉を圧粉成形し、次いで水蒸気処理することにより、水溶性の物質を除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
(8)リン酸カルシウム粉末と熱分解性の物質又は高温で溶解する物質からなる粉末とを混合し、混合粉を圧粉成形し、次いで水蒸気処理した後、熱分解性の物質又は高温で溶解する物質の分解又は溶解温度以上に加熱することにより、熱分解性の物質又は高温で溶解する物質を除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
【0007】
(9)ウレタンフォーム(ポリウレタン製の多孔質体)にリン酸カルシウム粉末を含有するスラリーを接触させ乾燥し、ウレタンフォームの空隙部分の表面にリン酸カルシウムを付着させた後、水蒸気処理を施し、次いで600℃以上に加熱してウレタンフォームを構成するポリウレタンを加熱分解して除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
(10)リン酸カルシウム粉末と熱分解性の短繊維とを混合し、混合物をプレス成形し、次いで水蒸気処理した後、前記短繊維の分解温度以上の温度で処理して前記短繊維を除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
【0008】
(11)リン酸カルシウム粉末と熱分解性の短繊維との混合物を溶媒に懸濁させて、得られた懸濁液に、ウレタンフォームを含浸し、溶媒を除去しながら前記懸濁液を追加することで、ウレタンフォーム中に原料のリン酸カルシウムと前記短繊維が混合した状態の固形物を作製し、得られた固形物を乾燥し、水蒸気処理した後、前記短繊維及びウレタンフォームの分解温度以上の温度で処理して前記短繊維及びウレタンフォームを除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
(12)リン酸カルシウムが第三リン酸カルシウム、非晶質リン酸カルシウム、リン酸八カルシウム及びリン酸四カルシウムから選ばれる少なくとも1種である前記(6)〜(11)のいずれかに記載の多孔質体の製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
ハイドロキシアパタイトは六方晶の結晶からなり、タンパク質の吸着性を有しており、特に六方晶のa面において優れた吸着性を示すことが知られている。本発明においては、リン酸カルシウム粉末を含む粉末を圧粉成形し、次いで水蒸気処理することにより針状の六方晶のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体が得られ、多孔質体の表面をX線回折した際の、a面である(300)面のピーク強度とハイドロキシアパタイト結晶をX線回折した際に特徴的に出現する(211)面のピーク強度との比:(300)/(211)が高まり、すなわち多孔質体表面に露出するa面の密度が高まることにより、骨生成、骨吸収に関わるタンパク質などの吸着性に優れた多孔質体とすることが可能であることを見出した。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体の作製に際しては、出発原料として、リン酸カルシウムを用いる。本発明において、リン酸カルシウムは、第三リン酸カルシウムを意味する狭義の概念ではなく、「カルシウム、リン及び酸素の3元素、又は更に水素を含む4元素からなる化合物」という広義の意味を有し、例えば第三リン酸カルシウム(α−Ca3(PO4)2(α−TCP)、β−Ca3(PO4)2(β−TCP))、非晶質リン酸カルシウム(ACP)、リン酸八カルシウム(Ca8H2(PO4)6・5H2O(OCP))、リン酸四カルシウム(Ca4(PO4)2O(TTCP))、リン酸一水素カルシウム(CaHPO4・2H2O(DCPD))、リン酸一水素カルシウム(無水)(CaHPO4(DCPA))、リン酸二水素カルシウム(Ca(H2PO4)2・H2O(MCPM))が挙げられ、特に第三リン酸カルシウム(α−TCP)、非晶質リン酸カルシウム(ACP)、リン酸八カルシウム(OCP)、リン酸四カルシウム(TTCP)のいずれかの1種又は2種以上の粉末を用いることが好ましい。原料粉末は、リン酸カルシウム粉末のみでもよく、必要に応じて、空隙率を高めるための成分であって処理工程で除去される成分、更には、アルミナ粉、ジルコニア粉などのセラミックス、チタン粉などの金属など生体許容性のある物質や、又は塩化ナトリウムなどの塩など体内に存在するものを含んでいてもよい。
【0011】
リン酸カルシウム粉末の粒径は1〜60μmであることが好ましい。これらのリン酸カルシウム粉末を含む粉末を通常3〜20MPaの加圧力を負荷して加圧成形した後、成形体を通常100〜180℃の水蒸気中で通常1〜50時間処理することにより、連通した貫通孔を有する、針状のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体が得られる。また、前記の空隙率を高めるための成分の粒径は10〜500μmであることが好ましい。
【0012】
また、多孔質体の空隙率を高めるために、以下のような手段を取ることもできる。すなわち、前記のリン酸カルシウム粉末に塩化ナトリウムやグリシンなどの水溶性の物質からなる粉末を加えて混合し、この混合粉を前記と同様にして加圧成形した後、水蒸気処理する。水蒸気処理中に水溶性の物質は溶解除去され、その部分が空隙として残存する。水溶性の物質は必ずしも完全に溶解除去する必要はないが、水蒸気処理後に純水や超音波洗浄法などを用いて多孔質体を洗浄することにより、水溶性の物質を可能な限り溶解除去することが好ましい。
【0013】
多孔質体の空隙率の向上は、前記のリン酸カルシウム粉末にパラフィン粉末、ポリエチレン粉末、ナイロン粉末などの有機樹脂粉末、又は炭酸水素ナトリウムなどの無機粉末などの熱分解性物質又は高温溶解性物質の粉末を加えて混合し、この混合粉を前記と同様にして加圧成形した後、水蒸気処理し、次いで前記の有機樹脂粉末や無機粉末の分解又は溶解温度以上に加熱して除去することによっても達成することができる。
【0014】
更に、空隙率を向上させた多孔質体を得るために、次のような手段を取ることもできる。すなわち、前記のリン酸カルシウム粉末にポリエチレンオキサイドなどの分散剤を添加して水やメタノール又はエタノールなどの有機溶媒に分散させてスラリーとし、このスラリー中に連通した貫通孔を有するポリウレタン製の多孔質体であるウレタンフォームを浸漬するなどにより、ウレタンフォームの空隙部分の表面にスラリーを付着させ、次いで乾燥する。このスラリーを付着させたウレタンフォームを水蒸気処理した後、ウレタンフォームを構成しているポリウレタンの分解温度である600℃以上に加熱してウレタンフォームを除去する。この場合、前記スラリーの分散溶媒として水溶性の物質を溶解しない溶媒を用いてスラリー中に前記の水溶性物質を添加したり、アルコール又は水を分散溶媒として前記の熱分解性の物質又は高温で溶解する物質を添加してスラリーを作製し、このスラリーを用いて前記のようにして多孔質体を作製することにより、更に空隙率を向上させることができる。
【0015】
前記ウレタンフォームとしては、貫通孔を有するものであれば、軟質ウレタンフォーム、硬質ウレタンフォームのいずれでもよいが、作製時の取扱い上、軟質ウレタンフォームが好ましい。
【0016】
また、空隙率を高めるための成分として、熱分解性の短繊維、例えばポリビニルアルコール、ナイロン系樹脂、ポリエチレン系樹脂などの短繊維を用いることもできる。
【0017】
例えば、熱分解性の短繊維(例えば、ポリビニルアルコール)のモノフィラメント短繊維(繊維径50〜500μm、長さ0.5〜10mm)を原料のリン酸カルシウム粉末と混合する。熱分解性の短繊維とリン酸カルシウム粉末との配合比(重量比)は、通常1〜9:9〜1である。得られたリン酸カルシウム粉末と前記短繊維の混合物をプレス成形(通常3〜20MPa)で成形したものを水蒸気処理(100〜180℃、1〜50時間)し、前記短繊維の分解温度以上(例えば600℃以上)の温度で処理して前記短繊維を除去する。
また、空隙率を高めるための成分として、前記熱分解性の短繊維とウレタンフォームを組み合わせることもできる。
【0018】
例えば、熱分解性の短繊維(例えば、ポリビニルアルコール)のモノフィラメント短繊維(繊維径50〜500μm、長さ0.5〜10mm)を原料のリン酸カルシウム粉末と混合する。熱分解性の短繊維とリン酸カルシウム粉末との配合比(重量比)は、通常1〜9:9〜1である。得られたリン酸カルシウム粉末と前記短繊維の混合物に、溶媒(例えば、エタノール、メタノールなどの有機溶媒)を加えて懸濁液を作製する。懸濁液に、前記熱分解性の短繊維が入り込めるだけの孔径を有するウレタンフォーム(空隙率90%以上)を含浸し、乾燥又は濾過によって溶媒を除去しながら懸濁液を追加することで、ウレタンフォーム中に原料のリン酸カルシウムと前記短繊維が混合した状態の固形物を作製する。得られた固形物を乾燥(80〜100℃、1時間)し、水蒸気処理(100〜180℃、1〜50時間)した後、前記短繊維及びウレタンフォームの分解温度以上(例えば600℃以上)の温度で処理して前記短繊維及びウレタンフォームを除去する。
【0019】
このようにして得られる本発明の多孔質体は、図1に示すような針状のハイドロキシアパタイト結晶から構成されるが、針状の結晶はアスペクト比が5〜50であることが好ましく、また、長さが1〜15μm、幅が0.3〜5μmであることが好ましい。アスペクト比が5未満では後記する(300)面のピーク強度と(211)面のピーク強度の比:(300)/(211)が好適範囲とならず、一方、50を超えるアスペクト比の針状結晶を有する多孔質体を得ることは困難である。また多孔質体の空隙率は、10〜90%であることが好ましい。空隙率が10%未満であると空隙の連通性に乏しくなるため、多孔質体の表面に骨髄細胞や骨芽細胞などを吸着させて培養成長させる際に三次元的な成長に乏しくなり、骨細胞が十分に培養された人工骨となりにくい。一方、90%を超える空隙率を達成することは極めて困難であり、また多孔質体の強度が低下し、ハンドリングの際に破損しやすくなる。また、生成する連通した貫通孔の径は10〜500μmであることが好ましい。10μm未満であると、骨髄細胞や骨芽細胞などを吸着させて培養成長させる際に、細胞が多孔体内部まで完全に浸透しないため、三次元的な成長に乏しくなり、骨細胞が十分に培養された人工骨となりにくい。一方、500μmを超える場合は、骨細胞が成長して空隙を完全に充填するのが困難になり、やはり強度的に不十分な人工骨となってしまう。
【0020】
また、前記のようにして得られる本発明の多孔質体は針状の六方晶のハイドロキシアパタイトから構成されるが、多孔質体の表面をX線回折した際に得られる(300)面のピーク強度と(211)面のピーク強度の比:(300)/(211)が0.6〜1.3であることが好ましい。前記したように、ハイドロキシアパタイトは、六方晶の結晶からなり、タンパク質の吸着性を有しており、特に六方晶のa面において優れた吸着性を示すことが知られている。本発明においては、リン酸カルシウム粉末を含む粉末を圧粉成形し、次いで水蒸気処理することにより針状の六方晶のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体とすることにより、多孔質体の表面をX線回折した際に、a面である(300)面の密度が高まる。すなわち(300)面のピーク強度と、ハイドロキシアパタイト結晶をX線回折した際に特徴的に出現する(211)面とのピーク強度の比:(300)/(211)が高まり、そのためタンパク質に対する優れた吸着性を示すa面が多孔質体表面に露出する度合が多くなり、結果として、多孔質体は骨生成、骨吸収に関わるタンパク質などの吸着性を示すようになる。図2にハイドロキシアパタイト粉末を加圧成形し、次いで加熱焼結してなる、従来の多孔質体のX線回折パターンの一例、図3に本発明の多孔質体のX線回折パターンの一例を示す。本発明の多孔質体のX線回折パターンにおいては、従来の多孔質体のX線回折パターンに比べて(300)面のピーク強度が高く(002)面のピーク強度が低く、多孔質体表面における(300)面の露出密度が高いことを示している。
【0021】
本発明の多孔質体のX線回折パターンにおけるピーク強度の比:(300)/(211)は0.6〜1.3であることが好ましい。ピーク強度の比が0.6未満では従来材と比較して生体物質との親和性の向上が認められない。一方、1.3を超えるピーク強度を示す多孔質体を得ることは極めて困難である。
【0022】
このように、本発明の多孔質体は生体物質との親和性が優れているので、生体材料、特に患者の生体から得た骨髄細胞や骨芽細胞などを吸着し、培養して骨細胞が十分に形成された人工骨とし、患者に移植して骨の欠損部分を補填するために用いられる骨再生の足場材として好適に適用することができる。
【0023】
【実施例】
次に、実施例にて本発明を更に詳細に説明する。
(実施例1:供試材の作製1)
表1に示すリン酸カルシウム粉末、及び表1に示す水溶性物質(塩化ナトリウム、グリシン)又は熱分解性物質もしくは高温溶解性物質(パラフィン、ナイロン、ポリエチレン、炭酸水素ナトリウム)の粉末を混合してなる混合粉を油圧プレスを用い、5MPaの圧力を負荷して30mm×10mm×10mmの形状の成形体に成形した。次いで、表1に示す条件で水蒸気処理を施した。水溶性物質を混合したものについては、水蒸気処理後に純水中で超音波洗浄を施し、熱分解性物質又は高温溶解性物質を混合したものについては水蒸気処理後に表1に示す条件で加熱処理を施した。このようにして、試料番号1〜16の供試材を作製した。
【0024】
【表1】
【0025】
(実施例2:供試材の作製2)
表2に示すリン酸カルシウム粉末に分散剤としてポリエチレンオキサイドを0.5%添加し、エタノールを分散溶媒としてスラリーを作製した。このスラリー中に表2に示す孔径の連通した貫通孔を有するウレタンフォーム(30mm×10mm×10mm)を浸漬し、ウレタンフォームの空隙部分にスラリーを含浸さた後、スラリー中から引き上げ、50℃で1時間加熱乾燥してリン酸カルシウム粉末をウレタンフォームの空隙部分に付着させた。次いで、表2に示す条件で水蒸気処理を施した後、700℃で2時間加熱してウレタンフォームを分解除去した。このようにして、試料番号17〜19の供試材を作製した。
【0026】
【表2】
【0027】
(実施例3:比較材の作製)
平均粒径3μmのほぼ等軸粒のハイドロキシアパタイト粉末を油圧プレスを用い、5MPaの圧力を負荷して30mm×10mm×10mmの形状の成形体に成形した。次いで、成形体を1100℃に加熱し1時間保持した後、炉冷し、比較材(試料番号20)とした。
【0028】
(実施例4:供試材の作製3)
表3に示す熱分解性の短繊維(ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロン、ポリエチレン)のモノフィラメント短繊維を表3に示すリン酸カルシウム粉末と混合した。得られたリン酸カルシウム粉末と前記短繊維の混合物をプレス成形(5MPa)で成形したものを、表3に示す条件で水蒸気処理し、700℃で2時間加熱して前記熱分解性の短繊維を分解除去した。このようにして、試料番号21〜23の供試材を作製した。
【0029】
【表3】
【0030】
(実施例5:供試材の作製4)
表4に示す熱分解性の短繊維(ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロン、ポリエチレン)のモノフィラメント短繊維を表4に示すリン酸カルシウム粉末と混合した。得られたリン酸カルシウム粉末と前記短繊維の混合物に、溶媒としてエタノール又はメタノールを加えて懸濁液を作製した。懸濁液にウレタンフォーム(空隙率90%以上)を含浸し、乾燥又は濾過によって溶媒を除去しながら懸濁液を追加することで、ウレタンフォーム中に原料のリン酸カルシウムと前記短繊維が混合した状態の固形物を作製した。得られた固形物を乾燥(80〜100℃、1時間)し、表4に示す条件で水蒸気処理した後、700℃で2時間加熱して前記熱分解性の短繊維及びウレタンフォームを分解除去した。このようにして、試料番号24〜26の供試材を作製した。
【0031】
【表4】
【0032】
(特性評価)
[X線回折]
各供試材を下記の条件にてX線回折し、(300)面のピーク強度と(211)面のピーク強度との比:(300)/(211)を求めた。結果を表5及び6に示す。
【0033】
[アスペクト比]
各供試材のSEM像(倍率1500倍)をそれぞれ5視野撮影し、それぞれの視野について代表的な結晶粒子を10個選択して粒径を測定してアスペクト比を算定し、その平均値を表5及び6にアスペクト比として記載した。
【0034】
[空隙率]
各供試材のそれぞれの重量(g)を供試材の体積(30mm×10mm×10mm)で除した見かけ密度(X)、及びハイドロキシアパタイトの理論密度(3.16g/cm3)(Y)を用い、以下の式に従って空隙率を求めた。
空隙率(%)=[(Y−X)/Y]×100
【0035】
[孔径]
各供試材のSEM像(倍率1500倍)をそれぞれ5視野撮影し、それぞれの視野について代表的な結晶粒子を10個選択して孔径を測定し、その平均値を表5及び6に孔径として記載した。
【0036】
[ハンドリング性]
各供試材のハンドリング性を下記の評価基準で評価した。
○:搬送のため手で把持したり、搬送後卓上に置いたりする際に破壊しない程度のハンドリング強度を有している。
×:搬送のため手で把持したり、搬送後卓上に置いたりする際に破壊する。
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
表5及び6に示すように、本発明の多孔質体は針状のハイドロキシアパタイト結晶からなり、連通した貫通孔を有しており、空隙率が高い。また従来の多孔質体に相当する比較材と比べてa面の露出密度を表すピーク強度比:(300)/(211)が高い。
【0040】
【発明の効果】
本発明の多孔質体は、六方晶のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体であり、多孔質体の表面をX線回折した際の、a面である(300)面のピーク強度とハイドロキシアパタイト結晶をX線回折した際に特徴的に出現する(211)面のピーク強度との比:(300)/(211)が高い、すなわち多孔質体表面に露出するa面の密度が高いために、タンパク質、すなわち生体物質との親和性に優れ、培養骨用の足場材として好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多孔質体の一例のSEM像である。
【図2】従来の多孔質体の一例のX線回折パターンである。
【図3】本発明の多孔質体の一例のX線回折パターンである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体材料、特に人工骨に用いる生体材料として使用する多孔質体、その多孔質体用いた生体材料、及びその多孔質体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ハイドロキシアパタイトは、タンパク質などの生体組織との親和性が良好であるため、人工骨や骨欠損部の再生用の足場材(スキャホールド)としての適用が試みられている。このうち、骨再生の足場材として適用する場合、ハイドロキシアパタイトからなる多孔質体に骨細胞が増殖をしやすくする処理を施し、これに患者の生体から得た骨髄細胞や骨芽細胞などを吸着させ、培養して骨細胞が形成された人工骨とし、患者に移植して骨の欠損部分を補填することが行われる。そのため、ハイドロキシアパタイトからなる多孔質体には、生体細胞との親和性、すなわち、骨生成、骨吸収に関わるタンパク質などの吸着性、数十から数百μmの径の連通する貫通孔を有すること、10〜90%の空隙率、強度などの特性が必要とされるが、従来のハイドロキシアパタイト多孔質体においては骨生成、骨吸収に関わるタンパク質などの吸着性が十分ではなく、骨髄細胞や骨芽細胞などの十分な培養速度が得られなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、生体細胞との親和性に優れた多孔質体、それを用いた生体材料、及び多孔質体の製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1)六方晶のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体であって、多孔質体の表面をX線回折した際の(300)面のピーク強度と(211)面のピーク強度との比:(300)/(211)が0.6〜1.3であることを特徴とする多孔質体。
(2)ハイドロキシアパタイト結晶がアスペクト比5〜50の針状の結晶である前記(1)に記載の多孔質体。
【0005】
(3)多孔質体が10〜500μmの径の貫通孔を有し、空隙率が10〜90%である前記(1)又は(2)に記載の多孔質体。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の多孔質体を用いてなる生体材料。
(5)生体材料が、骨細胞を培養させる人工骨の足場材である前記(4)に記載の生体材料。
【0006】
(6)リン酸カルシウム粉末を含む粉末を圧粉成形し、次いで水蒸気処理することを特徴とする多孔質体の製造方法。
(7)リン酸カルシウム粉末と水溶性の物質からなる粉末とを混合し、混合粉を圧粉成形し、次いで水蒸気処理することにより、水溶性の物質を除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
(8)リン酸カルシウム粉末と熱分解性の物質又は高温で溶解する物質からなる粉末とを混合し、混合粉を圧粉成形し、次いで水蒸気処理した後、熱分解性の物質又は高温で溶解する物質の分解又は溶解温度以上に加熱することにより、熱分解性の物質又は高温で溶解する物質を除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
【0007】
(9)ウレタンフォーム(ポリウレタン製の多孔質体)にリン酸カルシウム粉末を含有するスラリーを接触させ乾燥し、ウレタンフォームの空隙部分の表面にリン酸カルシウムを付着させた後、水蒸気処理を施し、次いで600℃以上に加熱してウレタンフォームを構成するポリウレタンを加熱分解して除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
(10)リン酸カルシウム粉末と熱分解性の短繊維とを混合し、混合物をプレス成形し、次いで水蒸気処理した後、前記短繊維の分解温度以上の温度で処理して前記短繊維を除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
【0008】
(11)リン酸カルシウム粉末と熱分解性の短繊維との混合物を溶媒に懸濁させて、得られた懸濁液に、ウレタンフォームを含浸し、溶媒を除去しながら前記懸濁液を追加することで、ウレタンフォーム中に原料のリン酸カルシウムと前記短繊維が混合した状態の固形物を作製し、得られた固形物を乾燥し、水蒸気処理した後、前記短繊維及びウレタンフォームの分解温度以上の温度で処理して前記短繊維及びウレタンフォームを除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
(12)リン酸カルシウムが第三リン酸カルシウム、非晶質リン酸カルシウム、リン酸八カルシウム及びリン酸四カルシウムから選ばれる少なくとも1種である前記(6)〜(11)のいずれかに記載の多孔質体の製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
ハイドロキシアパタイトは六方晶の結晶からなり、タンパク質の吸着性を有しており、特に六方晶のa面において優れた吸着性を示すことが知られている。本発明においては、リン酸カルシウム粉末を含む粉末を圧粉成形し、次いで水蒸気処理することにより針状の六方晶のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体が得られ、多孔質体の表面をX線回折した際の、a面である(300)面のピーク強度とハイドロキシアパタイト結晶をX線回折した際に特徴的に出現する(211)面のピーク強度との比:(300)/(211)が高まり、すなわち多孔質体表面に露出するa面の密度が高まることにより、骨生成、骨吸収に関わるタンパク質などの吸着性に優れた多孔質体とすることが可能であることを見出した。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体の作製に際しては、出発原料として、リン酸カルシウムを用いる。本発明において、リン酸カルシウムは、第三リン酸カルシウムを意味する狭義の概念ではなく、「カルシウム、リン及び酸素の3元素、又は更に水素を含む4元素からなる化合物」という広義の意味を有し、例えば第三リン酸カルシウム(α−Ca3(PO4)2(α−TCP)、β−Ca3(PO4)2(β−TCP))、非晶質リン酸カルシウム(ACP)、リン酸八カルシウム(Ca8H2(PO4)6・5H2O(OCP))、リン酸四カルシウム(Ca4(PO4)2O(TTCP))、リン酸一水素カルシウム(CaHPO4・2H2O(DCPD))、リン酸一水素カルシウム(無水)(CaHPO4(DCPA))、リン酸二水素カルシウム(Ca(H2PO4)2・H2O(MCPM))が挙げられ、特に第三リン酸カルシウム(α−TCP)、非晶質リン酸カルシウム(ACP)、リン酸八カルシウム(OCP)、リン酸四カルシウム(TTCP)のいずれかの1種又は2種以上の粉末を用いることが好ましい。原料粉末は、リン酸カルシウム粉末のみでもよく、必要に応じて、空隙率を高めるための成分であって処理工程で除去される成分、更には、アルミナ粉、ジルコニア粉などのセラミックス、チタン粉などの金属など生体許容性のある物質や、又は塩化ナトリウムなどの塩など体内に存在するものを含んでいてもよい。
【0011】
リン酸カルシウム粉末の粒径は1〜60μmであることが好ましい。これらのリン酸カルシウム粉末を含む粉末を通常3〜20MPaの加圧力を負荷して加圧成形した後、成形体を通常100〜180℃の水蒸気中で通常1〜50時間処理することにより、連通した貫通孔を有する、針状のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体が得られる。また、前記の空隙率を高めるための成分の粒径は10〜500μmであることが好ましい。
【0012】
また、多孔質体の空隙率を高めるために、以下のような手段を取ることもできる。すなわち、前記のリン酸カルシウム粉末に塩化ナトリウムやグリシンなどの水溶性の物質からなる粉末を加えて混合し、この混合粉を前記と同様にして加圧成形した後、水蒸気処理する。水蒸気処理中に水溶性の物質は溶解除去され、その部分が空隙として残存する。水溶性の物質は必ずしも完全に溶解除去する必要はないが、水蒸気処理後に純水や超音波洗浄法などを用いて多孔質体を洗浄することにより、水溶性の物質を可能な限り溶解除去することが好ましい。
【0013】
多孔質体の空隙率の向上は、前記のリン酸カルシウム粉末にパラフィン粉末、ポリエチレン粉末、ナイロン粉末などの有機樹脂粉末、又は炭酸水素ナトリウムなどの無機粉末などの熱分解性物質又は高温溶解性物質の粉末を加えて混合し、この混合粉を前記と同様にして加圧成形した後、水蒸気処理し、次いで前記の有機樹脂粉末や無機粉末の分解又は溶解温度以上に加熱して除去することによっても達成することができる。
【0014】
更に、空隙率を向上させた多孔質体を得るために、次のような手段を取ることもできる。すなわち、前記のリン酸カルシウム粉末にポリエチレンオキサイドなどの分散剤を添加して水やメタノール又はエタノールなどの有機溶媒に分散させてスラリーとし、このスラリー中に連通した貫通孔を有するポリウレタン製の多孔質体であるウレタンフォームを浸漬するなどにより、ウレタンフォームの空隙部分の表面にスラリーを付着させ、次いで乾燥する。このスラリーを付着させたウレタンフォームを水蒸気処理した後、ウレタンフォームを構成しているポリウレタンの分解温度である600℃以上に加熱してウレタンフォームを除去する。この場合、前記スラリーの分散溶媒として水溶性の物質を溶解しない溶媒を用いてスラリー中に前記の水溶性物質を添加したり、アルコール又は水を分散溶媒として前記の熱分解性の物質又は高温で溶解する物質を添加してスラリーを作製し、このスラリーを用いて前記のようにして多孔質体を作製することにより、更に空隙率を向上させることができる。
【0015】
前記ウレタンフォームとしては、貫通孔を有するものであれば、軟質ウレタンフォーム、硬質ウレタンフォームのいずれでもよいが、作製時の取扱い上、軟質ウレタンフォームが好ましい。
【0016】
また、空隙率を高めるための成分として、熱分解性の短繊維、例えばポリビニルアルコール、ナイロン系樹脂、ポリエチレン系樹脂などの短繊維を用いることもできる。
【0017】
例えば、熱分解性の短繊維(例えば、ポリビニルアルコール)のモノフィラメント短繊維(繊維径50〜500μm、長さ0.5〜10mm)を原料のリン酸カルシウム粉末と混合する。熱分解性の短繊維とリン酸カルシウム粉末との配合比(重量比)は、通常1〜9:9〜1である。得られたリン酸カルシウム粉末と前記短繊維の混合物をプレス成形(通常3〜20MPa)で成形したものを水蒸気処理(100〜180℃、1〜50時間)し、前記短繊維の分解温度以上(例えば600℃以上)の温度で処理して前記短繊維を除去する。
また、空隙率を高めるための成分として、前記熱分解性の短繊維とウレタンフォームを組み合わせることもできる。
【0018】
例えば、熱分解性の短繊維(例えば、ポリビニルアルコール)のモノフィラメント短繊維(繊維径50〜500μm、長さ0.5〜10mm)を原料のリン酸カルシウム粉末と混合する。熱分解性の短繊維とリン酸カルシウム粉末との配合比(重量比)は、通常1〜9:9〜1である。得られたリン酸カルシウム粉末と前記短繊維の混合物に、溶媒(例えば、エタノール、メタノールなどの有機溶媒)を加えて懸濁液を作製する。懸濁液に、前記熱分解性の短繊維が入り込めるだけの孔径を有するウレタンフォーム(空隙率90%以上)を含浸し、乾燥又は濾過によって溶媒を除去しながら懸濁液を追加することで、ウレタンフォーム中に原料のリン酸カルシウムと前記短繊維が混合した状態の固形物を作製する。得られた固形物を乾燥(80〜100℃、1時間)し、水蒸気処理(100〜180℃、1〜50時間)した後、前記短繊維及びウレタンフォームの分解温度以上(例えば600℃以上)の温度で処理して前記短繊維及びウレタンフォームを除去する。
【0019】
このようにして得られる本発明の多孔質体は、図1に示すような針状のハイドロキシアパタイト結晶から構成されるが、針状の結晶はアスペクト比が5〜50であることが好ましく、また、長さが1〜15μm、幅が0.3〜5μmであることが好ましい。アスペクト比が5未満では後記する(300)面のピーク強度と(211)面のピーク強度の比:(300)/(211)が好適範囲とならず、一方、50を超えるアスペクト比の針状結晶を有する多孔質体を得ることは困難である。また多孔質体の空隙率は、10〜90%であることが好ましい。空隙率が10%未満であると空隙の連通性に乏しくなるため、多孔質体の表面に骨髄細胞や骨芽細胞などを吸着させて培養成長させる際に三次元的な成長に乏しくなり、骨細胞が十分に培養された人工骨となりにくい。一方、90%を超える空隙率を達成することは極めて困難であり、また多孔質体の強度が低下し、ハンドリングの際に破損しやすくなる。また、生成する連通した貫通孔の径は10〜500μmであることが好ましい。10μm未満であると、骨髄細胞や骨芽細胞などを吸着させて培養成長させる際に、細胞が多孔体内部まで完全に浸透しないため、三次元的な成長に乏しくなり、骨細胞が十分に培養された人工骨となりにくい。一方、500μmを超える場合は、骨細胞が成長して空隙を完全に充填するのが困難になり、やはり強度的に不十分な人工骨となってしまう。
【0020】
また、前記のようにして得られる本発明の多孔質体は針状の六方晶のハイドロキシアパタイトから構成されるが、多孔質体の表面をX線回折した際に得られる(300)面のピーク強度と(211)面のピーク強度の比:(300)/(211)が0.6〜1.3であることが好ましい。前記したように、ハイドロキシアパタイトは、六方晶の結晶からなり、タンパク質の吸着性を有しており、特に六方晶のa面において優れた吸着性を示すことが知られている。本発明においては、リン酸カルシウム粉末を含む粉末を圧粉成形し、次いで水蒸気処理することにより針状の六方晶のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体とすることにより、多孔質体の表面をX線回折した際に、a面である(300)面の密度が高まる。すなわち(300)面のピーク強度と、ハイドロキシアパタイト結晶をX線回折した際に特徴的に出現する(211)面とのピーク強度の比:(300)/(211)が高まり、そのためタンパク質に対する優れた吸着性を示すa面が多孔質体表面に露出する度合が多くなり、結果として、多孔質体は骨生成、骨吸収に関わるタンパク質などの吸着性を示すようになる。図2にハイドロキシアパタイト粉末を加圧成形し、次いで加熱焼結してなる、従来の多孔質体のX線回折パターンの一例、図3に本発明の多孔質体のX線回折パターンの一例を示す。本発明の多孔質体のX線回折パターンにおいては、従来の多孔質体のX線回折パターンに比べて(300)面のピーク強度が高く(002)面のピーク強度が低く、多孔質体表面における(300)面の露出密度が高いことを示している。
【0021】
本発明の多孔質体のX線回折パターンにおけるピーク強度の比:(300)/(211)は0.6〜1.3であることが好ましい。ピーク強度の比が0.6未満では従来材と比較して生体物質との親和性の向上が認められない。一方、1.3を超えるピーク強度を示す多孔質体を得ることは極めて困難である。
【0022】
このように、本発明の多孔質体は生体物質との親和性が優れているので、生体材料、特に患者の生体から得た骨髄細胞や骨芽細胞などを吸着し、培養して骨細胞が十分に形成された人工骨とし、患者に移植して骨の欠損部分を補填するために用いられる骨再生の足場材として好適に適用することができる。
【0023】
【実施例】
次に、実施例にて本発明を更に詳細に説明する。
(実施例1:供試材の作製1)
表1に示すリン酸カルシウム粉末、及び表1に示す水溶性物質(塩化ナトリウム、グリシン)又は熱分解性物質もしくは高温溶解性物質(パラフィン、ナイロン、ポリエチレン、炭酸水素ナトリウム)の粉末を混合してなる混合粉を油圧プレスを用い、5MPaの圧力を負荷して30mm×10mm×10mmの形状の成形体に成形した。次いで、表1に示す条件で水蒸気処理を施した。水溶性物質を混合したものについては、水蒸気処理後に純水中で超音波洗浄を施し、熱分解性物質又は高温溶解性物質を混合したものについては水蒸気処理後に表1に示す条件で加熱処理を施した。このようにして、試料番号1〜16の供試材を作製した。
【0024】
【表1】
【0025】
(実施例2:供試材の作製2)
表2に示すリン酸カルシウム粉末に分散剤としてポリエチレンオキサイドを0.5%添加し、エタノールを分散溶媒としてスラリーを作製した。このスラリー中に表2に示す孔径の連通した貫通孔を有するウレタンフォーム(30mm×10mm×10mm)を浸漬し、ウレタンフォームの空隙部分にスラリーを含浸さた後、スラリー中から引き上げ、50℃で1時間加熱乾燥してリン酸カルシウム粉末をウレタンフォームの空隙部分に付着させた。次いで、表2に示す条件で水蒸気処理を施した後、700℃で2時間加熱してウレタンフォームを分解除去した。このようにして、試料番号17〜19の供試材を作製した。
【0026】
【表2】
【0027】
(実施例3:比較材の作製)
平均粒径3μmのほぼ等軸粒のハイドロキシアパタイト粉末を油圧プレスを用い、5MPaの圧力を負荷して30mm×10mm×10mmの形状の成形体に成形した。次いで、成形体を1100℃に加熱し1時間保持した後、炉冷し、比較材(試料番号20)とした。
【0028】
(実施例4:供試材の作製3)
表3に示す熱分解性の短繊維(ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロン、ポリエチレン)のモノフィラメント短繊維を表3に示すリン酸カルシウム粉末と混合した。得られたリン酸カルシウム粉末と前記短繊維の混合物をプレス成形(5MPa)で成形したものを、表3に示す条件で水蒸気処理し、700℃で2時間加熱して前記熱分解性の短繊維を分解除去した。このようにして、試料番号21〜23の供試材を作製した。
【0029】
【表3】
【0030】
(実施例5:供試材の作製4)
表4に示す熱分解性の短繊維(ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロン、ポリエチレン)のモノフィラメント短繊維を表4に示すリン酸カルシウム粉末と混合した。得られたリン酸カルシウム粉末と前記短繊維の混合物に、溶媒としてエタノール又はメタノールを加えて懸濁液を作製した。懸濁液にウレタンフォーム(空隙率90%以上)を含浸し、乾燥又は濾過によって溶媒を除去しながら懸濁液を追加することで、ウレタンフォーム中に原料のリン酸カルシウムと前記短繊維が混合した状態の固形物を作製した。得られた固形物を乾燥(80〜100℃、1時間)し、表4に示す条件で水蒸気処理した後、700℃で2時間加熱して前記熱分解性の短繊維及びウレタンフォームを分解除去した。このようにして、試料番号24〜26の供試材を作製した。
【0031】
【表4】
【0032】
(特性評価)
[X線回折]
各供試材を下記の条件にてX線回折し、(300)面のピーク強度と(211)面のピーク強度との比:(300)/(211)を求めた。結果を表5及び6に示す。
【0033】
[アスペクト比]
各供試材のSEM像(倍率1500倍)をそれぞれ5視野撮影し、それぞれの視野について代表的な結晶粒子を10個選択して粒径を測定してアスペクト比を算定し、その平均値を表5及び6にアスペクト比として記載した。
【0034】
[空隙率]
各供試材のそれぞれの重量(g)を供試材の体積(30mm×10mm×10mm)で除した見かけ密度(X)、及びハイドロキシアパタイトの理論密度(3.16g/cm3)(Y)を用い、以下の式に従って空隙率を求めた。
空隙率(%)=[(Y−X)/Y]×100
【0035】
[孔径]
各供試材のSEM像(倍率1500倍)をそれぞれ5視野撮影し、それぞれの視野について代表的な結晶粒子を10個選択して孔径を測定し、その平均値を表5及び6に孔径として記載した。
【0036】
[ハンドリング性]
各供試材のハンドリング性を下記の評価基準で評価した。
○:搬送のため手で把持したり、搬送後卓上に置いたりする際に破壊しない程度のハンドリング強度を有している。
×:搬送のため手で把持したり、搬送後卓上に置いたりする際に破壊する。
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
表5及び6に示すように、本発明の多孔質体は針状のハイドロキシアパタイト結晶からなり、連通した貫通孔を有しており、空隙率が高い。また従来の多孔質体に相当する比較材と比べてa面の露出密度を表すピーク強度比:(300)/(211)が高い。
【0040】
【発明の効果】
本発明の多孔質体は、六方晶のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体であり、多孔質体の表面をX線回折した際の、a面である(300)面のピーク強度とハイドロキシアパタイト結晶をX線回折した際に特徴的に出現する(211)面のピーク強度との比:(300)/(211)が高い、すなわち多孔質体表面に露出するa面の密度が高いために、タンパク質、すなわち生体物質との親和性に優れ、培養骨用の足場材として好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多孔質体の一例のSEM像である。
【図2】従来の多孔質体の一例のX線回折パターンである。
【図3】本発明の多孔質体の一例のX線回折パターンである。
Claims (12)
- 六方晶のハイドロキシアパタイト結晶からなる多孔質体であって、多孔質体の表面をX線回折した際の(300)面のピーク強度と(211)面のピーク強度との比:(300)/(211)が0.6〜1.3であることを特徴とする多孔質体。
- ハイドロキシアパタイト結晶がアスペクト比5〜50の針状の結晶である請求項1に記載の多孔質体。
- 多孔質体が10〜500μmの径の貫通孔を有し、空隙率が10〜90%である請求項1又は2に記載の多孔質体。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質体を用いてなる生体材料。
- 生体材料が、骨細胞を培養させる人工骨の足場材である請求項4に記載の生体材料。
- リン酸カルシウム粉末を含む粉末を圧粉成形し、次いで水蒸気処理することを特徴とする多孔質体の製造方法。
- リン酸カルシウム粉末と水溶性の物質からなる粉末とを混合し、混合粉を圧粉成形し、次いで水蒸気処理することにより、水溶性の物質を除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
- リン酸カルシウム粉末と熱分解性の物質又は高温で溶解する物質からなる粉末とを混合し、混合粉を圧粉成形し、次いで水蒸気処理した後、熱分解性の物質又は高温で溶解する物質の分解又は溶解温度以上に加熱することにより、熱分解性の物質又は高温で溶解する物質を除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
- ウレタンフォームにリン酸カルシウム粉末を含有するスラリーを接触させ乾燥し、ウレタンフォームの空隙部分の表面にリン酸カルシウムを付着させた後、水蒸気処理を施し、次いで600℃以上に加熱してウレタンフォームを構成するポリウレタンを加熱分解して除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
- リン酸カルシウム粉末と熱分解性の短繊維とを混合し、混合物をプレス成形し、次いで水蒸気処理した後、前記短繊維の分解温度以上の温度で処理して前記短繊維を除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
- リン酸カルシウム粉末と熱分解性の短繊維との混合物を溶媒に懸濁させて、得られた懸濁液に、ウレタンフォームを含浸し、溶媒を除去しながら前記懸濁液を追加することで、ウレタンフォーム中に原料のリン酸カルシウムと前記短繊維が混合した状態の固形物を作製し、得られた固形物を乾燥し、水蒸気処理した後、前記短繊維及びウレタンフォームの分解温度以上の温度で処理して前記短繊維及びウレタンフォームを除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
- リン酸カルシウムが第三リン酸カルシウム、非晶質リン酸カルシウム、リン酸八カルシウム及びリン酸四カルシウムから選ばれる少なくとも1種である請求項6〜11のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
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JP2008194175A (ja) * | 2007-02-09 | 2008-08-28 | Tama Tlo Kk | ハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜及びその形成方法 |
JP2013507184A (ja) * | 2009-10-07 | 2013-03-04 | バイオ2 テクノロジーズ,インク. | 生体組織エンジニアリングのためのデバイスおよび方法 |
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2002
- 2002-08-14 JP JP2002236425A patent/JP2004073401A/ja active Pending
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