JP2004051654A - 処理槽の設計方法及びその処理槽並びに処理槽を用いた重合樹脂粒子の製造方法及びその重合樹脂粒子 - Google Patents
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Abstract
【課題】液体媒質中に分散した液滴の径を維持して貯蔵、各種処理を行なう処理槽の設計方法及びその処理槽並びにその処理槽を用いた重合樹脂粒子の製造方法及びその重合樹脂粒子を提供する。
【解決手段】連続相を形成する液体媒質中に液体媒質とは相溶性のない液体の液滴が1種類以上分散した液滴分散型多相液の貯蔵及び処理のいずれか一方を行う処理槽18には、液滴分散型多相液を撹拌して液滴の液体媒質中での均一分散を維持する撹拌翼17が設けられ、しかも、撹拌翼17の形状と回転数の設計は、処理槽18内での液滴分散型多相液の流動解析により得られる乱流パラメータと液滴の流動挙動予測を設計基準として行う。
【選択図】 図3
【解決手段】連続相を形成する液体媒質中に液体媒質とは相溶性のない液体の液滴が1種類以上分散した液滴分散型多相液の貯蔵及び処理のいずれか一方を行う処理槽18には、液滴分散型多相液を撹拌して液滴の液体媒質中での均一分散を維持する撹拌翼17が設けられ、しかも、撹拌翼17の形状と回転数の設計は、処理槽18内での液滴分散型多相液の流動解析により得られる乱流パラメータと液滴の流動挙動予測を設計基準として行う。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、連続相を形成した液体媒質中に分散した液滴の径を維持して貯蔵や各種処理を行なう処理槽の設計方法及びその処理槽並びに処理槽を用いた重合樹脂粒子の製造方法及びその重合樹脂粒子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、粒状樹脂を製造する場合、例えば、イオン交換樹脂の母体ビーズとして古くから使用されているスチレン−ジビニルベンゼン共重合体の粒子を製造する場合は、通常、水性媒質中に疎水性のモノマー含有液を分散させて重合する懸濁重合法が用いられている。この方法では、得られる重合体粒子の粒径は、水性媒質中の疎水性液滴の粒径に依存するが、通常の方法により水中に分散させたモノマー含有液滴の粒径にはバラツキが生じているため、重合により得られる重合体粒子の粒径にもバラツキが生じるという問題がある。そこで、重合に先立って、別装置で均一粒径のモノマー含有液滴が分散している水中油型分散液を製造し、この分散液を重合容器中に仕込んで重合する方法が提案されている。
均一粒径の水中油型分散液を製造する方法としては、水を充満した容器の下部に上向きに形成された噴出孔を備えたノズルを設けて、この噴出孔を通してモノマー含有液を水中に供給することにより、モノマー含有液滴を水中に分散する方法(特開昭49−55782号公報)や、モノマー含有液を噴出させる際に機械的振動を加える方法(特公平1−28761、特公昭62−191033)等が存在する。しかし、均一な粒子のモノマー含有液滴を形成しても、通常、モノマー含有液滴には貯蔵や反応等の後処理が必要であり、この後処理中にモノマー含有液滴の合一や破壊が生じる可能性が高く、結果として得られる粒状樹脂の粒径が不均一になるという問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
モノマー含有液滴に合一や破壊が生じるのは、モノマー含有液滴を分散媒中に均一に分散させておくために行う撹拌操作が原因とされ、その際に生じるモノマー含有液滴の合一や破壊の程度は、媒質とモノマー含有液滴との比重差、モノマー含有液滴の径、形状保持能力(粘度、界面張力)に依存していると考えられる。例えば、モノマー含有液滴の比重が媒質よりも小さければ浮上し、大きければ沈降して、このような浮上や沈降が著しい場合、モノマー含有液滴同士の付着によりモノマー含有液滴の径が大きくなる。更に、モノマー含有液滴同士が反応性粒子であれば、付着により異常反応が発生し、局部加熱などが生じて、災害につながる可能性もある。そこで、モノマー含有液滴の浮上や沈降を抑制するために撹拌操作を強化すれば、モノマー含有液滴の破壊が発生してしまい、モノマー含有液滴の径を均一に維持できないという問題が生じる。
モノマー含有液滴の浮上や沈降は、本質的には媒質とモノマー含有液滴との比重差により生じるものであるが、モノマー含有液滴の径が大きくなるほど浮上や沈降を起し易くなる。更に、モノマー含有液滴の径が大きくなると、撹拌を強化した場合にモノマー含有液滴が壊れやすくなり、所望の液滴径を保つことが非常に難しくなる。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、連続相を形成した液体媒質中に分散した液滴の径を維持して貯蔵や各種処理を行なう処理槽の設計方法及びその処理槽並びに処理槽を用いた重合樹脂粒子の製造方法及びその重合樹脂粒子を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
前記目的に沿う第1の発明に係る処理槽の設計方法は、連続相を形成する液体媒質中に該液体媒質とは相溶性のない液体の液滴が1種類以上分散した液滴分散型多相液の貯蔵及び処理のいずれか一方を行う処理槽の設計方法であって、前記処理槽には前記液滴分散型多相液を撹拌して前記液滴の前記液体媒質中での均一分散を維持する撹拌翼が設けられ、しかも、前記撹拌翼の形状と回転数の設計は、前記処理槽内での前記液滴分散型多相液の流動解析により得られる乱流パラメータと前記液滴の流動挙動予測を用いて行なう。
【0005】
液滴分散型多相液を処理槽内で静置しておくと、時間の経過と共に形成した液滴は液体媒質との比重差により浮上、あるいは沈降して液体媒質から分離し、処理槽内で集合する。このため、処理槽に撹拌翼を設けて、液滴分散型多相液を撹拌する必要が生じる。その際、撹拌力が強過ぎると液滴が細分化され液滴の粒径を維持することができない。そこで、液滴分散型多相液の撹拌状態を流動解析により求めて、乱流パラメータから液滴の撹拌力に対する安定性、液滴の流動挙動予測から液滴の均一分散性が満たされる条件をそれぞれ求めることができる。その結果、撹拌時の液滴の安定性条件と、液滴の均一分散性条件が共に満足される条件を求めることができ、この条件が満足できるように撹拌翼の形状とその撹拌翼の回転数を決定すれば、液滴を破壊せずに、液体媒質中に均一分散させることが可能となる。
【0006】
流動解析と呼ばれる手法は流体力学を基にして近年のコンピュータの発達に伴い発展してきた手法で、ある系の流体挙動を知る上で用いられる有効な方法として知られている。具体的には、(2)式に示す質量保存の式(連続の式とも呼ばれる)、及び(3)式に示すナビエ・ストークスの方程式の2つの微分方程式に初期条件や境界条件を与えて積分し解くことで、流れの様子を把握する。ここで、ρは流体の粘度、uは流速、pは圧力、μは粘度であり、流体は非圧縮性で外力を受けていないものとする。
【0007】
【数2】
【0008】
【数3】
【0009】
乱流を取り扱う方法の1つとして、(4)式に示すように、流速uを平均流速Uと変動成分u′に分け、これを連続の式及びナビエ・ストークスの方程式に代入し、時間で平均化する手法が知られている。時間で平均化する方法としては、(5)式で示されるk、及び(6)式で示されるεを用いる、いわゆるk−ε乱流モデルが知られている。ここでui はxi 方向の流速成分を示し、kは乱流エネルギーと呼ばれ、乱れの強さを表す。またεは乱流エネルギー散逸率と呼ばれ、単位時間に単位質量当たりに粘性の影響で失われるkの割合を表す。撹拌槽内の流れは通常乱流となるので、これらの値を求めることで乱流の程度を知ることができる。
【0010】
【数4】
【0011】
【数5】
【0012】
【数6】
【0013】
また、相溶性のない2流体が存在し、一方が連続相を形成し他方が分散相を形成するような系の挙動を知るためには、流体kの体積分率をαk とした(7)式に示す連続の式、及び(8)式に示す運動量保存の式を同様に解けば良いことが知られている。ここで、ρk 、Uk 、τk 、τk t 、Mk はそれぞれ流体kの密度、平均流速、層流応力、乱流応力、単位体積あたりの異相間の運動量輸送量である。この2つの微分方程式を解くことで、連続相及び分散相の挙動が把握できる。
【0014】
【数7】
【0015】
【数8】
【0016】
しかし、これらの微分方程式は通常解析的に解くことができない。したがって、計算対象となる系を有限個の小さな体積要素に分割し、微分方程式を線形代数方程式に変換して(離散化という)得られる連立方程式をコンピュータを用いて解を得るのが一般的である。なお、離散化の方法としては、差分法、有限要素法、境界要素法、有限体積法などが知られている。
【0017】
第1の発明に係る処理槽の設計方法において、前記撹拌翼の形状と回転数は、前記乱流パラメータに乱流エネルギー散逸率を用い、該乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )と前記液滴の平均粒径dave (μm)が(1)式の関係を満たすように設計することが好ましい。
【0018】
【数1】
【0019】
懸濁重合においては、撹拌により液滴を形成するが、形成される液滴径は、撹拌強度と密接な関係がある。撹拌強度は、単位体積当りの撹拌動力で表すことができるが、その撹拌動力値が大きいほど平均液滴径は小さくなる。ここで、撹拌翼を備えた処理槽で形成した液滴を別の処理槽に移して撹拌する場合、このときの液滴の径が、同じ撹拌条件で懸濁重合をした場合に生成される液滴の平均液滴径より小さければ、撹拌により液滴が破壊されないことが、実験から確認できている。しかし、撹拌機形状が異なると撹拌動力値と平均液滴径の相関関係が変わるため、一つの処理槽で得られた撹拌動力値と平均液滴径の相関関係を新しい撹拌翼の設計や、撹拌翼の形状変更の検討に使用することができない。また、液滴の浮上、沈降もこの方法では予測できない。
【0020】
前述したように、乱流エネルギー散逸率εは、乱れの散逸の時間的、空間的な大きさを表すものである。そのため、流体中に別の物質がある場合、乱流エネルギー散逸率はその別の物質に与えられるエネルギーの大きさを表すものとも考えることができる。例えば、液滴を含む液体を撹拌する場合、液体を介して液滴にはエネルギーが与えられることから、乱流エネルギー散逸率の大きさが液滴の破壊に直接相関することが理論から推定できる。また、解析結果と撹拌動力値の比較では、処理槽内の乱流エネルギー散逸率の平均値よりも、乱流エネルギー散逸率の最大値が良好な相関関係を示すことが見出された。このことは、長時間の撹拌(通常、数時間程度の長さ)の間に、液滴は処理槽内の各所を通過するが、そのうち最も乱流エネルギー散逸率の大きい部位を通過した際に液滴が破壊されることに関係していると考えられる。言い換えれば、液滴が乱流エネルギー散逸率の最も大きい箇所を通過しても破壊されなければ、その液滴は処理槽内で破壊されることはないと考えることができる。
【0021】
そこで、流動解析の結果得られる各種パラメータ値と懸濁重合実験との相関を比較したところ、k−ε乱流モデルによる解析で得た乱流エネルギー散逸率の最大値εmax と、液−液系撹拌によりできる液滴の平均粒径dave との間に1対1の相関があることが確認できた。撹拌動力を小さくすると乱流エネルギー散逸率の最大値εmax は小さくなることから、前記(1)式の関係を満たすときに液滴が破壊しないことが判明した。そして、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax は撹拌翼の形状を含む処理槽の諸元を含まないパラメータであるので、処理槽を変えた場合でも同じ相関関係が成立する。なお、(1)式では液体や液滴の物性が考慮されていない。しかしShinnar によると、液−液系撹拌による液滴生成において滴の粘度が小さい場合、最大安定滴径dmax は(9)式で与えられることが示されている。ここで、Lは撹拌翼径、Weはウェーバー数、αは数値係数であり、最大安定滴径dmax は界面張力の関数となっている。従って、(9)式も物性値の影響による補正が必要である可能性がある。
【0022】
【数9】
【0023】
第1の発明に係る処理槽の設計方法において、前記撹拌翼の形状と回転数は、前記液滴の流動挙動予測から求まる前記液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計することが好ましい。
液滴を破壊しないためには、(1)式を満たすよう撹拌強度を押さえる必要がある。しかし、液滴の破壊を抑制するために撹拌強度を弱めると、液滴の沈降や浮上の可能性が強くなる。特に、液滴径が大きくなると浮上や沈降しやすくなるため、撹拌強度を強める必要が出てくるが、逆に液滴径が大きくなると液滴は破壊されやすくなるという二律背反の現象が生じ、撹拌翼の形状や、回転数の設計にはより精度が要求される。
液滴の浮上や沈降については、実験により容易に傾向を知ることができ、実機へのスケールアップ方法もいくつか提案されている。しかし、これらの手法では、液滴同士の衝突、干渉を考慮することが困難なことから、液滴同士の衝突、干渉を考慮せずに解析を行っている。このため、これらの手法は、液滴同士の衝突、干渉の効果が無視できる液滴濃度範囲、すなわち、液滴濃度が20〜30%程度までしか適用することができない。そこで、液滴同士の衝突、干渉を考慮した多相流解析(流動解析)を行うことにより、液滴濃度が5〜80%の範囲において、撹拌時の液滴の挙動予測を行なうことが可能になった。
その結果、液滴分散型多相液を撹拌した際の液滴の液滴濃度分布を把握することができ、液滴濃度分布が実質的に一定となる、すなわち、液滴の浮上や沈降が生じない撹拌強度を決定することが可能となる。従って、この撹拌強度が満足されるように撹拌翼の形状と回転数の設計を行なうと、処理槽内での液滴の浮上や沈降を防止できる。
【0024】
第1の発明に係る処理槽の設計方法において、前記液体媒質を水性媒質とし、前記相溶性のない液体を重合性モノマー含有液とすることができる。
液体媒質として水性媒質の物性値を、相溶性のない液体として重合性モノマー含有液の物性値を用いて流動解析を行なうことにより、水性媒体中で液滴を保存したり、各種処理を行なうことが可能な処理槽の設計を行なうことができる。
【0025】
前記目的に沿う第2の発明に係る処理槽は、連続相を形成する液体媒質中に該液体媒質とは相溶性のない液体の液滴が1種類以上分散した液滴分散型多相液の貯蔵及び処理のいずれか一方を行う処理槽であって、前記処理槽には前記液滴分散型多相液を撹拌して前記液滴の前記液体媒質中での均一分散を維持する撹拌翼が設けられ、しかも、前記撹拌翼の形状と回転数は、前記液滴分散型多相液を撹拌した際に発生する乱流の乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )と前記液滴の平均粒径dave (μm)が(1)式の関係を満たすように設計されている。
【0026】
【数1】
【0027】
液滴分散型多相液の貯蔵や処理において、このようにして製造された処理槽を使用することにより、液滴の破壊を防止することができる。
【0028】
第2の発明に係る処理槽において、前記撹拌翼の形状と回転数は、更に前記液滴分散型多相液を撹拌した際の前記液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計されていることが好ましい。
液滴分散型多相液の貯蔵や処理において、このようにして製造された処理槽を使用することにより、液滴の浮上や沈降を防止して液滴の均一分散を維持することができる。
【0029】
第2の発明に係る処理槽において、前記撹拌翼は、翼端部丸型撹拌翼及び翼端部後退型撹拌翼のいずれか一方であることが好ましい。
撹拌翼の翼端部を丸型撹拌翼又は後退型撹拌翼とすることにより、翼端部と接触する液滴の破壊を更に発生しにくくすることができる。
【0030】
第2の発明に係る処理槽において、前記液体媒質を水性媒質とし、前記相溶性のない液体を重合性モノマー含有液とすることができる。
液体媒質として水性媒質の物性値を、相溶性のない液体として重合性モノマー含有液の物性値を用いて流動解析を行なうことにより、水性媒体中で液滴を保存したり、各種処理を行なうことが可能な処理槽を作製することができる。
【0031】
前記目的に沿う第3の発明に係る重合樹脂粒子の製造方法は、連続相を形成する液体媒質中に該液体媒質とは相溶性のない液体の液滴が1種類以上分散した液滴分散型多相液を処理槽内で重合させて重合樹脂粒子を製造する方法であって、前記液滴の重合は、前記液滴分散型多相液を撹拌した際に発生する乱流の乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )と前記液滴の平均粒径dave (μm)が(1)式の関係を満たすように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行う。
【0032】
【数1】
【0033】
液滴分散型多相液をこの処理槽内に入れて撹拌することにより、液滴分散型多相液の貯蔵や処理において、液滴の破壊を防止することができる。その結果、重合樹脂粒子の粒径を均一化することができる。
【0034】
第3の発明に係る重合樹脂粒子の製造方法において、前記液滴の重合は、更に前記液滴分散型多相液を撹拌した際の前記液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行うことが好ましい。
液滴分散型多相液をこの処理槽内に入れて撹拌することにより、液滴分散型多相液の貯蔵や処理において、液滴の浮上や沈降を防止して液滴の均一分散を維持することができる。
【0035】
第3の発明に係る重合樹脂粒子の製造方法において、前記液体媒質が水性媒質であり、前記相溶性のない液体を重合性モノマー含有液とすることができる。
水性媒質としては、通常、水を使用することができるが、必要に応じて、無機酸塩や水溶性重合体等の水溶性化合物からなる各種添加剤を含有させてもよい。一方、相溶性のない液体としては、水性媒質との相溶性がなく、水性媒質中で液滴を形成することができる液体(疎水性液体)であることが必要である。これらの成分は、その目的に応じて適宜選択することができる。例えば、粒状樹脂を製造するための懸濁重合に使用する液滴分散型多相液を製造する場合は、疎水性液体として重合性モノマーを単独で、あるいは重合性モノマーを水と不混和性を有する溶剤に溶解させて溶液状としたものを使用できる。なお、重合性モノマーがビニルモノマーの場合は、ビニルモノマーに重合開始剤を含有させる必要がある。製造する液滴の大きさはその目的により適宜調整することができ、通常、5〜1000μmの粒径を有する液滴の製造に好ましく適用できる。このため、本重合樹脂粒子の製造方法で得られる重合樹脂粒子の径は5〜950μmとなる。
【0036】
前記目的に沿う第4の発明に係る重合樹脂粒子は、連続相を形成する水性媒質中に、該水性媒質とは相溶性のない重合性モノマー含有液から形成され平均粒径dave (μm)の液滴が1種類以上分散した液滴分散型多相液を撹拌しながら重合して製造した重合樹脂粒子であって、前記液滴分散型多相液の撹拌は、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )が(1)式の関係を満たし、かつ、前記液滴の液滴濃度分布を実質的に一定に保つように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行なう。
【0037】
【数1】
【0038】
このような撹拌翼を備えた処理槽を上記の回転数で回転させることにより処理槽内で液滴分散型多相液を撹拌すると、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )が(1)式の関係を満たすので、重合性モノマー含有液の液滴の破壊を防止して撹拌を行なうことができる。更に、重合性モノマー含有液の液滴の液滴濃度分布を実質的に一定に保つ、すなわち、液滴の浮上や沈降を抑えて、液滴の合一を防止することができる。
【0039】
【発明の実施の形態】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここに、図1はポリマービーズの平均粒径と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を求める懸濁重合実験に使用した重合装置の説明図、図2は懸濁重合実験から得られたポリマービーズの平均粒径と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を示すグラフ、図3は重合実験に使用した撹拌翼を備えた処理槽の説明図、図4は重合実験の2相流解析により得られた撹拌翼の回転数と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を示すグラフ、図5は重合実験の2相流解析により得られた液滴の分散状態を示すグラフである。
【0040】
本発明の一実施の形態に係る処理槽の設計方法について詳細に説明する。
例えば、イオン交換樹脂の母体ビーズや合成吸着剤となるスチレン−ジビニルベンゼン共重合体の重合樹脂粒子を製造する重合用の処理槽を備えた製造装置を設計するには、先ず、連続相を形成する液体媒質の一例である水、又は水と可溶な界面活性剤等の添加物を加えた水溶液(水性媒質)と、相溶性のない液体である重合性モノマー含有液の一例であるスチレンとジビニルベンゼンとの混合物を用い、任意の撹拌機を用いて懸濁重合実験を実施する。そして懸濁重合実験から、形成される液滴の平均粒径dave と、そのときの撹拌回転数の関係を求める。次いで、使用した液体媒質と重合性モノマーの各物性値を用いて、懸濁重合実験を行なった際の各撹拌回転数に対しての2相流解析(流動解析)を行ない、解析結果から乱流エネルギー散逸率の最大値εmax を求める。
従って、各撹拌回転数のときに得られた液滴の平均粒径dave (μm)と、そのときの乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )の関係から、(1)式の関係が得られる。
【0041】
次に、懸濁重合実験に使用した、すなわち、実際の製造に使用しようとする液体媒質と重合性モノマーの各物性値、及び目標とする液滴の平均粒径dave を用いて、設計しようとする処理槽での2相流解析を実施する。この流動解析により求まる乱流エネルギー散逸率(乱流パラメータ)の最大値εmax が、懸濁重合実験の条件で2相流解析から求めた乱流エネルギー散逸率の最大値εmax より大きくなった場合は、撹拌回転数が大きすぎて目標とする粒径の液滴が破壊することが推定できる。従って、この場合は、撹拌翼の形状変更、あるいは回転数を小さくして再度解析を行う。このように乱流エネルギー散逸率の最大値εmax を指標にして液滴の破壊を考慮しながら、同時に液滴の処理槽槽内での液滴濃度分布状態より、液滴の浮上、沈降の挙動を調べる。液滴濃度の分布が一定でなく偏りが激しい場合は、液滴の浮上や沈降が激しい可能性が高いと判断する。そして、このような場合は、液滴間の衝突や干渉が増加して、液滴の合一の可能性が高くなるため、撹拌翼の形状の変更、あるいは回転数を大きくして再度検討を行なう。なお、上記の解析を非定常解析で行うことで、液滴の流動挙動を予測しながら、液滴の破壊の予測を同時に行うことが可能となり、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax 、及び液滴濃度分布の両方が条件を満たすまでこれらの検討を繰り返すことで、所望の液滴粒径を維持して重合を行なうことができる処理槽の大きさ、撹拌翼の形状、及び撹拌翼の回転数を決定できる。
【0042】
以上のことから、製造に使用する液体媒質と重合性モノマーを用いて平均粒径dave の液滴を得る際の、処理槽の大きさ、撹拌翼の形状、撹拌翼の回転数から構成される各設計値が決定される。従って、これらの各設計値に基づいて処理槽の作製を行なうと、得られる処理槽では、平均粒径dave の液滴に対して、(1)式の関係が成立するので、撹拌しても平均粒径dave の液滴は安定して処理槽内に存在する。更に、処理槽内での液滴の液滴濃度分布は実質的に一定となるので、液滴の合一は生じない。なお、撹拌翼の形状は2相流解析から基本的に決定できるが、この際、撹拌翼の翼端部の形状を丸型撹拌翼、あるいは後退型撹拌翼とすることにより、発生する乱流エネルギー散逸率の大きさを小さくすることができ、それに伴い撹拌回転数を大きくすることが可能となって、処理槽内での液滴の液滴濃度分布を実質的に一定とすることが容易となる。
【0043】
従って、上記の設計方法で設計された処理槽を作製して、設計で採用した液体媒質に重合性モノマー含有液の液滴が分散した液滴分散型多相液を用いて、設計した撹拌回転数で撹拌を行なうと、平均粒径dave の液滴の破壊と合一を防止して、処理槽内にこの液滴を安定して存在させることができる。その結果、処理槽内で撹拌を行なうことにより、平均粒径dave の液滴を重合樹脂粒子に変えることが可能となる。このため、得られる重合樹脂粒子の粒径は均一化し、粒度分布の狭い重合樹脂粒子が得られる。
【0044】
【実施例】
図1に示すように、重合槽11を備えた重合装置10を使用して、懸濁重合を行った。ここで、重合装置10の重合槽11は、容積が50リットルで、内径0.4m、高さ0.6m、撹拌翼12の直径は0.2mである。液体媒質として、ポリビニルアルコールを0.05重量%含有する水溶液を用い、重合性モノマー含有液としてはスチレン及びジビニルベンゼンの混合溶液を使用し、更に、ラジカル重合開始剤を添加した。重合性モノマー含有液が28.33体積%となるように重合槽11内に満たし、重合槽11の側壁内面側に設けられた加熱ジャケット14で液体媒質の温度を約80℃に調整し、撹拌翼12を回転軸13を介して様々な回転数で回転させて懸濁重合を行なった。なお、符号15は、重合槽11に設けられた蓋である。
また、懸濁重合実験と同様の条件で2相流解析を行ない、そのときの乱流エネルギー散逸率の最大値εmax を求めた。そして、懸濁重合実験の結果と2相流解析の結果から、製造したポリマービーズ(重合樹脂粒子)の平均粒径と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を求めた。得られた関係を図2に示す。これより、300μmの粒径を有する液滴は、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax が0.1以下であれば破壊されないことが判る。
【0045】
以上の結果から、300μmの均一粒径を有する重合性モノマー含有液からなる液滴を重合してポリマービーズを製造する容積2.5m3 の処理槽を有する重合装置16を設計する。設計する処理槽は、図3に示すような撹拌翼17(直径1.5m)を備えた処理槽18を想定し、この処理槽18に対して、上記と同様の水性媒質及び重合性モノマー含有液の液滴の各物性値を用いて2相流解析を行なった。なお、符号19は処理槽18の側壁内面側に設けられた加熱ジャケット、符号20は処理槽18に設けられた蓋、符号21は撹拌翼17に回転駆動力を伝達する回転軸であり、撹拌翼17の翼端部の形状は、丸形撹拌翼とした。2相流解析から得られる撹拌翼17の回転数と、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を図4に示す。図4より、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax が0.1となるのは、撹拌翼17の回転数が毎分20回転のときであることが判る。従って、毎分20回転以下の回転数であれば、平均粒径300μmの重合性モノマー含有液を破壊することなく重合してポリマービーズとすることができる。またこのときの液滴の分散状態を示す液滴濃度分布を求めると、図5に示すようになる。図5から液滴濃度分布は層状となって液滴の分散状態が向上していることが確認でき、液滴が浮上することによる液滴の合一の可能性は低いと判断することができる。以上の結果から、ポリマービーズを製造する容積2.5m3 の処理槽として、図3に示す処理槽18を採用し、撹拌翼17の回転数を毎分20回転とした。
【0046】
上記の処理槽18の設計から決定された設計値を用いて、重合装置16を作製した。そして、液体媒質として、ポリビニルアルコールを0.05重量%含有する水溶液を用い、重合性モノマー含有液としては、ラジカル重合開始剤を添加したスチレン及びジビニルベンゼンの混合溶液を使用した。重合性モノマー含有液が28.33体積%となるように処理槽18内に満たし、処理槽18の側壁内面側に設けられた加熱ジャケット19でスチレン及びジビニルベンゼンの混合溶液の温度を約80℃に調整し、撹拌翼17を回転軸21を介して毎分20回転で回転させて懸濁重合を行なった。
得られたポリマービーズの平均粒径は280μmとなり、平均粒径±10%の範囲中に95体積%が含まれる粒度分布となり、均一な粒径分布を有するポリマービーズが得られた。
一方、従来の重合装置を使用して製造して得られたポリマービーズの平均粒径は280μmとなり、平均粒径±10%の範囲中に70体積%が含まれる粒度分布となった。従って、本実施例により設計した重合装置16を用いた製造では粒径の均一性が優れたポリマービーズが得られることが判った。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の処理槽の設計方法及びその処理槽並びに処理槽を用いた重合樹脂粒子の製造方法及びその重合樹脂粒子を構成する場合にも本発明は適用される。例えば、連続相を形成する液体媒質を水溶性とし、液滴を疎水性としたが、相溶性のない2種類以上の液体のいずれか一方が連続相を形成する媒質で、他方が液滴として分散相を形成していればよい。また、撹拌翼の翼端部を丸形撹拌翼としたが、後退型撹拌翼としてもよい。
【0048】
【発明の効果】
請求項1〜4記載の処理槽の設計方法においては、処理槽には液滴分散型多相液を撹拌して液滴の液体媒質中での均一分散を維持する撹拌翼が設けられ、しかも、撹拌翼の形状と回転数の設計は、処理槽内での液滴分散型多相液の流動解析により得られる乱流パラメータと液滴の流動挙動予測を用いて行なうので、実機での運転テストを経ずに、液滴の破壊、合一のない撹拌翼の形状と、回転数を決定することが可能となる。また、液滴の貯蔵、処理においては、液滴の合一が異常反応、局部過熱に結びつくことが多いため、実機でのテストも安全上の問題から不可能な場合があり、そのようなケースではこれまで検討さえも不可能であったスケールアップや新規撹拌翼の設計が、本発明の処理槽の設計方法で可能になる。更に、実機テストでは、液滴に破壊等が起きるとそれに対する対応が必要となって、コストも余分に発生する。従って、このようなケースへの適用を行なうことにより、設計のコストダウンや検討期間の短縮化が可能となる。
【0049】
特に、請求項2記載の処理槽の設計方法においては、撹拌翼の形状と回転数は、乱流パラメータに乱流エネルギー散逸率を用い、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )と液滴の平均粒径dave (μm)が(1)式の関係を満たすように設計するので、液滴の破壊しない処理槽としての汎用条件を簡便に素早く決定することが可能となる。
【0050】
請求項3記載の処理槽の設計方法においては、撹拌翼の形状と回転数は、液滴の流動挙動予測から求まる液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計するので、液滴の浮上や沈降を防止できる処理槽としての汎用条件を簡便に素早く決定することが可能となる。
【0051】
請求項4記載の処理槽の設計方法においては、液体媒質が水性媒質であり、相溶性のない液体が重合性モノマー含有液であるので、液滴分散型多相液として最も一般的な系について、液滴の破壊、及び液滴の浮上や沈降を防止することができる処理槽の設計を、簡便に素早く行なうことが可能となる。
【0052】
請求項5〜8記載の処理槽においては、処理槽には液滴分散型多相液を撹拌して液滴の液体媒質中での均一分散を維持する撹拌翼が設けられ、しかも、撹拌翼の形状と回転数は、液滴分散型多相液を撹拌した際に発生する乱流の乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )と液滴の平均粒径dave (μm)が(1)式の関係を満たすように設計されているので、液滴を破壊しない条件での液滴の貯蔵や処理が可能となる。
【0053】
特に、請求項6記載の処理槽においては、撹拌翼の形状と回転数は、更に液滴分散型多相液を撹拌した際の液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計されているので、液滴の浮上や沈降を防止した条件での液滴の貯蔵や処理が可能となる。
【0054】
請求項7記載の処理槽においては、撹拌翼は、翼端部丸型撹拌翼及び翼端部後退型撹拌翼のいずれか一方であるので、翼端部と接触する液滴の破壊を更に発生しにくくすることができ、液滴の貯蔵や処理が可能となる。
【0055】
請求項8記載の処理槽において、液体媒質が水性媒質であり、相溶性のない液体が重合性モノマー含有液であるので、液滴分散型多相液として最も一般的な系について、液滴の破壊、及び液滴の浮上や沈降を防止して、液滴の貯蔵や処理を行なうことが可能となる。
【0056】
請求項9〜11記載の重合樹脂粒子の製造方法においては、液滴の重合は、液滴分散型多相液を撹拌した際に発生する乱流の乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )と液滴の平均粒径dave (μm)が(1)式の関係を満たすように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行うので、液滴の貯蔵や処理において液滴の破壊を防止することが可能となる。
【0057】
特に、請求項10記載の重合樹脂粒子の製造方法においては、液滴の重合は、更に液滴分散型多相液を撹拌した際の液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行うので、液滴の貯蔵や処理において、更に、液滴の浮上や沈降を防止が可能となる。
【0058】
請求項11記載の重合樹脂粒子の製造方法において、液体媒質が水性媒質であり、相溶性のない液体が重合性モノマー含有液であるので、液滴の貯蔵や処理において、液滴分散型多相液として最も一般的な系について、液滴の破壊、及び液滴の浮上や沈降を防止することが可能となる。
【0059】
請求項12記載の重合樹脂粒子においては、液滴分散型多相液の撹拌は、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )が(1)式の関係を満たし、かつ、液滴の液滴濃度分布を実質的に一定に保つように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行なうので、貯蔵や処理を行なうに際し液滴の合一と破壊を防止することができ、重合樹脂粒子の粒径を均一化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ポリマービーズの平均粒径と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を求める懸濁重合実験に使用した重合装置の説明図である。
【図2】懸濁重合実験から得られたポリマービーズの平均粒径と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を示すグラフである。
【図3】重合実験に使用した撹拌翼を備えた処理槽の説明図である。
【図4】重合実験の2相流解析により得られた撹拌翼の回転数と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を示すグラフである。
【図5】重合実験の2相流解析により得られた液滴の分散状態を示すグラフである。
【符号の説明】
10:重合装置、11:重合槽、12:撹拌翼、13:回転軸、14:加熱ジャケット、15:蓋、16:重合装置、17:撹拌翼、18:処理槽、19:加熱ジャケット、20:蓋、21:回転軸
【発明の属する技術分野】
本発明は、連続相を形成した液体媒質中に分散した液滴の径を維持して貯蔵や各種処理を行なう処理槽の設計方法及びその処理槽並びに処理槽を用いた重合樹脂粒子の製造方法及びその重合樹脂粒子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、粒状樹脂を製造する場合、例えば、イオン交換樹脂の母体ビーズとして古くから使用されているスチレン−ジビニルベンゼン共重合体の粒子を製造する場合は、通常、水性媒質中に疎水性のモノマー含有液を分散させて重合する懸濁重合法が用いられている。この方法では、得られる重合体粒子の粒径は、水性媒質中の疎水性液滴の粒径に依存するが、通常の方法により水中に分散させたモノマー含有液滴の粒径にはバラツキが生じているため、重合により得られる重合体粒子の粒径にもバラツキが生じるという問題がある。そこで、重合に先立って、別装置で均一粒径のモノマー含有液滴が分散している水中油型分散液を製造し、この分散液を重合容器中に仕込んで重合する方法が提案されている。
均一粒径の水中油型分散液を製造する方法としては、水を充満した容器の下部に上向きに形成された噴出孔を備えたノズルを設けて、この噴出孔を通してモノマー含有液を水中に供給することにより、モノマー含有液滴を水中に分散する方法(特開昭49−55782号公報)や、モノマー含有液を噴出させる際に機械的振動を加える方法(特公平1−28761、特公昭62−191033)等が存在する。しかし、均一な粒子のモノマー含有液滴を形成しても、通常、モノマー含有液滴には貯蔵や反応等の後処理が必要であり、この後処理中にモノマー含有液滴の合一や破壊が生じる可能性が高く、結果として得られる粒状樹脂の粒径が不均一になるという問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
モノマー含有液滴に合一や破壊が生じるのは、モノマー含有液滴を分散媒中に均一に分散させておくために行う撹拌操作が原因とされ、その際に生じるモノマー含有液滴の合一や破壊の程度は、媒質とモノマー含有液滴との比重差、モノマー含有液滴の径、形状保持能力(粘度、界面張力)に依存していると考えられる。例えば、モノマー含有液滴の比重が媒質よりも小さければ浮上し、大きければ沈降して、このような浮上や沈降が著しい場合、モノマー含有液滴同士の付着によりモノマー含有液滴の径が大きくなる。更に、モノマー含有液滴同士が反応性粒子であれば、付着により異常反応が発生し、局部加熱などが生じて、災害につながる可能性もある。そこで、モノマー含有液滴の浮上や沈降を抑制するために撹拌操作を強化すれば、モノマー含有液滴の破壊が発生してしまい、モノマー含有液滴の径を均一に維持できないという問題が生じる。
モノマー含有液滴の浮上や沈降は、本質的には媒質とモノマー含有液滴との比重差により生じるものであるが、モノマー含有液滴の径が大きくなるほど浮上や沈降を起し易くなる。更に、モノマー含有液滴の径が大きくなると、撹拌を強化した場合にモノマー含有液滴が壊れやすくなり、所望の液滴径を保つことが非常に難しくなる。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、連続相を形成した液体媒質中に分散した液滴の径を維持して貯蔵や各種処理を行なう処理槽の設計方法及びその処理槽並びに処理槽を用いた重合樹脂粒子の製造方法及びその重合樹脂粒子を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
前記目的に沿う第1の発明に係る処理槽の設計方法は、連続相を形成する液体媒質中に該液体媒質とは相溶性のない液体の液滴が1種類以上分散した液滴分散型多相液の貯蔵及び処理のいずれか一方を行う処理槽の設計方法であって、前記処理槽には前記液滴分散型多相液を撹拌して前記液滴の前記液体媒質中での均一分散を維持する撹拌翼が設けられ、しかも、前記撹拌翼の形状と回転数の設計は、前記処理槽内での前記液滴分散型多相液の流動解析により得られる乱流パラメータと前記液滴の流動挙動予測を用いて行なう。
【0005】
液滴分散型多相液を処理槽内で静置しておくと、時間の経過と共に形成した液滴は液体媒質との比重差により浮上、あるいは沈降して液体媒質から分離し、処理槽内で集合する。このため、処理槽に撹拌翼を設けて、液滴分散型多相液を撹拌する必要が生じる。その際、撹拌力が強過ぎると液滴が細分化され液滴の粒径を維持することができない。そこで、液滴分散型多相液の撹拌状態を流動解析により求めて、乱流パラメータから液滴の撹拌力に対する安定性、液滴の流動挙動予測から液滴の均一分散性が満たされる条件をそれぞれ求めることができる。その結果、撹拌時の液滴の安定性条件と、液滴の均一分散性条件が共に満足される条件を求めることができ、この条件が満足できるように撹拌翼の形状とその撹拌翼の回転数を決定すれば、液滴を破壊せずに、液体媒質中に均一分散させることが可能となる。
【0006】
流動解析と呼ばれる手法は流体力学を基にして近年のコンピュータの発達に伴い発展してきた手法で、ある系の流体挙動を知る上で用いられる有効な方法として知られている。具体的には、(2)式に示す質量保存の式(連続の式とも呼ばれる)、及び(3)式に示すナビエ・ストークスの方程式の2つの微分方程式に初期条件や境界条件を与えて積分し解くことで、流れの様子を把握する。ここで、ρは流体の粘度、uは流速、pは圧力、μは粘度であり、流体は非圧縮性で外力を受けていないものとする。
【0007】
【数2】
【0008】
【数3】
【0009】
乱流を取り扱う方法の1つとして、(4)式に示すように、流速uを平均流速Uと変動成分u′に分け、これを連続の式及びナビエ・ストークスの方程式に代入し、時間で平均化する手法が知られている。時間で平均化する方法としては、(5)式で示されるk、及び(6)式で示されるεを用いる、いわゆるk−ε乱流モデルが知られている。ここでui はxi 方向の流速成分を示し、kは乱流エネルギーと呼ばれ、乱れの強さを表す。またεは乱流エネルギー散逸率と呼ばれ、単位時間に単位質量当たりに粘性の影響で失われるkの割合を表す。撹拌槽内の流れは通常乱流となるので、これらの値を求めることで乱流の程度を知ることができる。
【0010】
【数4】
【0011】
【数5】
【0012】
【数6】
【0013】
また、相溶性のない2流体が存在し、一方が連続相を形成し他方が分散相を形成するような系の挙動を知るためには、流体kの体積分率をαk とした(7)式に示す連続の式、及び(8)式に示す運動量保存の式を同様に解けば良いことが知られている。ここで、ρk 、Uk 、τk 、τk t 、Mk はそれぞれ流体kの密度、平均流速、層流応力、乱流応力、単位体積あたりの異相間の運動量輸送量である。この2つの微分方程式を解くことで、連続相及び分散相の挙動が把握できる。
【0014】
【数7】
【0015】
【数8】
【0016】
しかし、これらの微分方程式は通常解析的に解くことができない。したがって、計算対象となる系を有限個の小さな体積要素に分割し、微分方程式を線形代数方程式に変換して(離散化という)得られる連立方程式をコンピュータを用いて解を得るのが一般的である。なお、離散化の方法としては、差分法、有限要素法、境界要素法、有限体積法などが知られている。
【0017】
第1の発明に係る処理槽の設計方法において、前記撹拌翼の形状と回転数は、前記乱流パラメータに乱流エネルギー散逸率を用い、該乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )と前記液滴の平均粒径dave (μm)が(1)式の関係を満たすように設計することが好ましい。
【0018】
【数1】
【0019】
懸濁重合においては、撹拌により液滴を形成するが、形成される液滴径は、撹拌強度と密接な関係がある。撹拌強度は、単位体積当りの撹拌動力で表すことができるが、その撹拌動力値が大きいほど平均液滴径は小さくなる。ここで、撹拌翼を備えた処理槽で形成した液滴を別の処理槽に移して撹拌する場合、このときの液滴の径が、同じ撹拌条件で懸濁重合をした場合に生成される液滴の平均液滴径より小さければ、撹拌により液滴が破壊されないことが、実験から確認できている。しかし、撹拌機形状が異なると撹拌動力値と平均液滴径の相関関係が変わるため、一つの処理槽で得られた撹拌動力値と平均液滴径の相関関係を新しい撹拌翼の設計や、撹拌翼の形状変更の検討に使用することができない。また、液滴の浮上、沈降もこの方法では予測できない。
【0020】
前述したように、乱流エネルギー散逸率εは、乱れの散逸の時間的、空間的な大きさを表すものである。そのため、流体中に別の物質がある場合、乱流エネルギー散逸率はその別の物質に与えられるエネルギーの大きさを表すものとも考えることができる。例えば、液滴を含む液体を撹拌する場合、液体を介して液滴にはエネルギーが与えられることから、乱流エネルギー散逸率の大きさが液滴の破壊に直接相関することが理論から推定できる。また、解析結果と撹拌動力値の比較では、処理槽内の乱流エネルギー散逸率の平均値よりも、乱流エネルギー散逸率の最大値が良好な相関関係を示すことが見出された。このことは、長時間の撹拌(通常、数時間程度の長さ)の間に、液滴は処理槽内の各所を通過するが、そのうち最も乱流エネルギー散逸率の大きい部位を通過した際に液滴が破壊されることに関係していると考えられる。言い換えれば、液滴が乱流エネルギー散逸率の最も大きい箇所を通過しても破壊されなければ、その液滴は処理槽内で破壊されることはないと考えることができる。
【0021】
そこで、流動解析の結果得られる各種パラメータ値と懸濁重合実験との相関を比較したところ、k−ε乱流モデルによる解析で得た乱流エネルギー散逸率の最大値εmax と、液−液系撹拌によりできる液滴の平均粒径dave との間に1対1の相関があることが確認できた。撹拌動力を小さくすると乱流エネルギー散逸率の最大値εmax は小さくなることから、前記(1)式の関係を満たすときに液滴が破壊しないことが判明した。そして、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax は撹拌翼の形状を含む処理槽の諸元を含まないパラメータであるので、処理槽を変えた場合でも同じ相関関係が成立する。なお、(1)式では液体や液滴の物性が考慮されていない。しかしShinnar によると、液−液系撹拌による液滴生成において滴の粘度が小さい場合、最大安定滴径dmax は(9)式で与えられることが示されている。ここで、Lは撹拌翼径、Weはウェーバー数、αは数値係数であり、最大安定滴径dmax は界面張力の関数となっている。従って、(9)式も物性値の影響による補正が必要である可能性がある。
【0022】
【数9】
【0023】
第1の発明に係る処理槽の設計方法において、前記撹拌翼の形状と回転数は、前記液滴の流動挙動予測から求まる前記液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計することが好ましい。
液滴を破壊しないためには、(1)式を満たすよう撹拌強度を押さえる必要がある。しかし、液滴の破壊を抑制するために撹拌強度を弱めると、液滴の沈降や浮上の可能性が強くなる。特に、液滴径が大きくなると浮上や沈降しやすくなるため、撹拌強度を強める必要が出てくるが、逆に液滴径が大きくなると液滴は破壊されやすくなるという二律背反の現象が生じ、撹拌翼の形状や、回転数の設計にはより精度が要求される。
液滴の浮上や沈降については、実験により容易に傾向を知ることができ、実機へのスケールアップ方法もいくつか提案されている。しかし、これらの手法では、液滴同士の衝突、干渉を考慮することが困難なことから、液滴同士の衝突、干渉を考慮せずに解析を行っている。このため、これらの手法は、液滴同士の衝突、干渉の効果が無視できる液滴濃度範囲、すなわち、液滴濃度が20〜30%程度までしか適用することができない。そこで、液滴同士の衝突、干渉を考慮した多相流解析(流動解析)を行うことにより、液滴濃度が5〜80%の範囲において、撹拌時の液滴の挙動予測を行なうことが可能になった。
その結果、液滴分散型多相液を撹拌した際の液滴の液滴濃度分布を把握することができ、液滴濃度分布が実質的に一定となる、すなわち、液滴の浮上や沈降が生じない撹拌強度を決定することが可能となる。従って、この撹拌強度が満足されるように撹拌翼の形状と回転数の設計を行なうと、処理槽内での液滴の浮上や沈降を防止できる。
【0024】
第1の発明に係る処理槽の設計方法において、前記液体媒質を水性媒質とし、前記相溶性のない液体を重合性モノマー含有液とすることができる。
液体媒質として水性媒質の物性値を、相溶性のない液体として重合性モノマー含有液の物性値を用いて流動解析を行なうことにより、水性媒体中で液滴を保存したり、各種処理を行なうことが可能な処理槽の設計を行なうことができる。
【0025】
前記目的に沿う第2の発明に係る処理槽は、連続相を形成する液体媒質中に該液体媒質とは相溶性のない液体の液滴が1種類以上分散した液滴分散型多相液の貯蔵及び処理のいずれか一方を行う処理槽であって、前記処理槽には前記液滴分散型多相液を撹拌して前記液滴の前記液体媒質中での均一分散を維持する撹拌翼が設けられ、しかも、前記撹拌翼の形状と回転数は、前記液滴分散型多相液を撹拌した際に発生する乱流の乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )と前記液滴の平均粒径dave (μm)が(1)式の関係を満たすように設計されている。
【0026】
【数1】
【0027】
液滴分散型多相液の貯蔵や処理において、このようにして製造された処理槽を使用することにより、液滴の破壊を防止することができる。
【0028】
第2の発明に係る処理槽において、前記撹拌翼の形状と回転数は、更に前記液滴分散型多相液を撹拌した際の前記液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計されていることが好ましい。
液滴分散型多相液の貯蔵や処理において、このようにして製造された処理槽を使用することにより、液滴の浮上や沈降を防止して液滴の均一分散を維持することができる。
【0029】
第2の発明に係る処理槽において、前記撹拌翼は、翼端部丸型撹拌翼及び翼端部後退型撹拌翼のいずれか一方であることが好ましい。
撹拌翼の翼端部を丸型撹拌翼又は後退型撹拌翼とすることにより、翼端部と接触する液滴の破壊を更に発生しにくくすることができる。
【0030】
第2の発明に係る処理槽において、前記液体媒質を水性媒質とし、前記相溶性のない液体を重合性モノマー含有液とすることができる。
液体媒質として水性媒質の物性値を、相溶性のない液体として重合性モノマー含有液の物性値を用いて流動解析を行なうことにより、水性媒体中で液滴を保存したり、各種処理を行なうことが可能な処理槽を作製することができる。
【0031】
前記目的に沿う第3の発明に係る重合樹脂粒子の製造方法は、連続相を形成する液体媒質中に該液体媒質とは相溶性のない液体の液滴が1種類以上分散した液滴分散型多相液を処理槽内で重合させて重合樹脂粒子を製造する方法であって、前記液滴の重合は、前記液滴分散型多相液を撹拌した際に発生する乱流の乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )と前記液滴の平均粒径dave (μm)が(1)式の関係を満たすように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行う。
【0032】
【数1】
【0033】
液滴分散型多相液をこの処理槽内に入れて撹拌することにより、液滴分散型多相液の貯蔵や処理において、液滴の破壊を防止することができる。その結果、重合樹脂粒子の粒径を均一化することができる。
【0034】
第3の発明に係る重合樹脂粒子の製造方法において、前記液滴の重合は、更に前記液滴分散型多相液を撹拌した際の前記液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行うことが好ましい。
液滴分散型多相液をこの処理槽内に入れて撹拌することにより、液滴分散型多相液の貯蔵や処理において、液滴の浮上や沈降を防止して液滴の均一分散を維持することができる。
【0035】
第3の発明に係る重合樹脂粒子の製造方法において、前記液体媒質が水性媒質であり、前記相溶性のない液体を重合性モノマー含有液とすることができる。
水性媒質としては、通常、水を使用することができるが、必要に応じて、無機酸塩や水溶性重合体等の水溶性化合物からなる各種添加剤を含有させてもよい。一方、相溶性のない液体としては、水性媒質との相溶性がなく、水性媒質中で液滴を形成することができる液体(疎水性液体)であることが必要である。これらの成分は、その目的に応じて適宜選択することができる。例えば、粒状樹脂を製造するための懸濁重合に使用する液滴分散型多相液を製造する場合は、疎水性液体として重合性モノマーを単独で、あるいは重合性モノマーを水と不混和性を有する溶剤に溶解させて溶液状としたものを使用できる。なお、重合性モノマーがビニルモノマーの場合は、ビニルモノマーに重合開始剤を含有させる必要がある。製造する液滴の大きさはその目的により適宜調整することができ、通常、5〜1000μmの粒径を有する液滴の製造に好ましく適用できる。このため、本重合樹脂粒子の製造方法で得られる重合樹脂粒子の径は5〜950μmとなる。
【0036】
前記目的に沿う第4の発明に係る重合樹脂粒子は、連続相を形成する水性媒質中に、該水性媒質とは相溶性のない重合性モノマー含有液から形成され平均粒径dave (μm)の液滴が1種類以上分散した液滴分散型多相液を撹拌しながら重合して製造した重合樹脂粒子であって、前記液滴分散型多相液の撹拌は、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )が(1)式の関係を満たし、かつ、前記液滴の液滴濃度分布を実質的に一定に保つように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行なう。
【0037】
【数1】
【0038】
このような撹拌翼を備えた処理槽を上記の回転数で回転させることにより処理槽内で液滴分散型多相液を撹拌すると、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )が(1)式の関係を満たすので、重合性モノマー含有液の液滴の破壊を防止して撹拌を行なうことができる。更に、重合性モノマー含有液の液滴の液滴濃度分布を実質的に一定に保つ、すなわち、液滴の浮上や沈降を抑えて、液滴の合一を防止することができる。
【0039】
【発明の実施の形態】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここに、図1はポリマービーズの平均粒径と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を求める懸濁重合実験に使用した重合装置の説明図、図2は懸濁重合実験から得られたポリマービーズの平均粒径と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を示すグラフ、図3は重合実験に使用した撹拌翼を備えた処理槽の説明図、図4は重合実験の2相流解析により得られた撹拌翼の回転数と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を示すグラフ、図5は重合実験の2相流解析により得られた液滴の分散状態を示すグラフである。
【0040】
本発明の一実施の形態に係る処理槽の設計方法について詳細に説明する。
例えば、イオン交換樹脂の母体ビーズや合成吸着剤となるスチレン−ジビニルベンゼン共重合体の重合樹脂粒子を製造する重合用の処理槽を備えた製造装置を設計するには、先ず、連続相を形成する液体媒質の一例である水、又は水と可溶な界面活性剤等の添加物を加えた水溶液(水性媒質)と、相溶性のない液体である重合性モノマー含有液の一例であるスチレンとジビニルベンゼンとの混合物を用い、任意の撹拌機を用いて懸濁重合実験を実施する。そして懸濁重合実験から、形成される液滴の平均粒径dave と、そのときの撹拌回転数の関係を求める。次いで、使用した液体媒質と重合性モノマーの各物性値を用いて、懸濁重合実験を行なった際の各撹拌回転数に対しての2相流解析(流動解析)を行ない、解析結果から乱流エネルギー散逸率の最大値εmax を求める。
従って、各撹拌回転数のときに得られた液滴の平均粒径dave (μm)と、そのときの乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )の関係から、(1)式の関係が得られる。
【0041】
次に、懸濁重合実験に使用した、すなわち、実際の製造に使用しようとする液体媒質と重合性モノマーの各物性値、及び目標とする液滴の平均粒径dave を用いて、設計しようとする処理槽での2相流解析を実施する。この流動解析により求まる乱流エネルギー散逸率(乱流パラメータ)の最大値εmax が、懸濁重合実験の条件で2相流解析から求めた乱流エネルギー散逸率の最大値εmax より大きくなった場合は、撹拌回転数が大きすぎて目標とする粒径の液滴が破壊することが推定できる。従って、この場合は、撹拌翼の形状変更、あるいは回転数を小さくして再度解析を行う。このように乱流エネルギー散逸率の最大値εmax を指標にして液滴の破壊を考慮しながら、同時に液滴の処理槽槽内での液滴濃度分布状態より、液滴の浮上、沈降の挙動を調べる。液滴濃度の分布が一定でなく偏りが激しい場合は、液滴の浮上や沈降が激しい可能性が高いと判断する。そして、このような場合は、液滴間の衝突や干渉が増加して、液滴の合一の可能性が高くなるため、撹拌翼の形状の変更、あるいは回転数を大きくして再度検討を行なう。なお、上記の解析を非定常解析で行うことで、液滴の流動挙動を予測しながら、液滴の破壊の予測を同時に行うことが可能となり、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax 、及び液滴濃度分布の両方が条件を満たすまでこれらの検討を繰り返すことで、所望の液滴粒径を維持して重合を行なうことができる処理槽の大きさ、撹拌翼の形状、及び撹拌翼の回転数を決定できる。
【0042】
以上のことから、製造に使用する液体媒質と重合性モノマーを用いて平均粒径dave の液滴を得る際の、処理槽の大きさ、撹拌翼の形状、撹拌翼の回転数から構成される各設計値が決定される。従って、これらの各設計値に基づいて処理槽の作製を行なうと、得られる処理槽では、平均粒径dave の液滴に対して、(1)式の関係が成立するので、撹拌しても平均粒径dave の液滴は安定して処理槽内に存在する。更に、処理槽内での液滴の液滴濃度分布は実質的に一定となるので、液滴の合一は生じない。なお、撹拌翼の形状は2相流解析から基本的に決定できるが、この際、撹拌翼の翼端部の形状を丸型撹拌翼、あるいは後退型撹拌翼とすることにより、発生する乱流エネルギー散逸率の大きさを小さくすることができ、それに伴い撹拌回転数を大きくすることが可能となって、処理槽内での液滴の液滴濃度分布を実質的に一定とすることが容易となる。
【0043】
従って、上記の設計方法で設計された処理槽を作製して、設計で採用した液体媒質に重合性モノマー含有液の液滴が分散した液滴分散型多相液を用いて、設計した撹拌回転数で撹拌を行なうと、平均粒径dave の液滴の破壊と合一を防止して、処理槽内にこの液滴を安定して存在させることができる。その結果、処理槽内で撹拌を行なうことにより、平均粒径dave の液滴を重合樹脂粒子に変えることが可能となる。このため、得られる重合樹脂粒子の粒径は均一化し、粒度分布の狭い重合樹脂粒子が得られる。
【0044】
【実施例】
図1に示すように、重合槽11を備えた重合装置10を使用して、懸濁重合を行った。ここで、重合装置10の重合槽11は、容積が50リットルで、内径0.4m、高さ0.6m、撹拌翼12の直径は0.2mである。液体媒質として、ポリビニルアルコールを0.05重量%含有する水溶液を用い、重合性モノマー含有液としてはスチレン及びジビニルベンゼンの混合溶液を使用し、更に、ラジカル重合開始剤を添加した。重合性モノマー含有液が28.33体積%となるように重合槽11内に満たし、重合槽11の側壁内面側に設けられた加熱ジャケット14で液体媒質の温度を約80℃に調整し、撹拌翼12を回転軸13を介して様々な回転数で回転させて懸濁重合を行なった。なお、符号15は、重合槽11に設けられた蓋である。
また、懸濁重合実験と同様の条件で2相流解析を行ない、そのときの乱流エネルギー散逸率の最大値εmax を求めた。そして、懸濁重合実験の結果と2相流解析の結果から、製造したポリマービーズ(重合樹脂粒子)の平均粒径と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を求めた。得られた関係を図2に示す。これより、300μmの粒径を有する液滴は、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax が0.1以下であれば破壊されないことが判る。
【0045】
以上の結果から、300μmの均一粒径を有する重合性モノマー含有液からなる液滴を重合してポリマービーズを製造する容積2.5m3 の処理槽を有する重合装置16を設計する。設計する処理槽は、図3に示すような撹拌翼17(直径1.5m)を備えた処理槽18を想定し、この処理槽18に対して、上記と同様の水性媒質及び重合性モノマー含有液の液滴の各物性値を用いて2相流解析を行なった。なお、符号19は処理槽18の側壁内面側に設けられた加熱ジャケット、符号20は処理槽18に設けられた蓋、符号21は撹拌翼17に回転駆動力を伝達する回転軸であり、撹拌翼17の翼端部の形状は、丸形撹拌翼とした。2相流解析から得られる撹拌翼17の回転数と、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を図4に示す。図4より、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax が0.1となるのは、撹拌翼17の回転数が毎分20回転のときであることが判る。従って、毎分20回転以下の回転数であれば、平均粒径300μmの重合性モノマー含有液を破壊することなく重合してポリマービーズとすることができる。またこのときの液滴の分散状態を示す液滴濃度分布を求めると、図5に示すようになる。図5から液滴濃度分布は層状となって液滴の分散状態が向上していることが確認でき、液滴が浮上することによる液滴の合一の可能性は低いと判断することができる。以上の結果から、ポリマービーズを製造する容積2.5m3 の処理槽として、図3に示す処理槽18を採用し、撹拌翼17の回転数を毎分20回転とした。
【0046】
上記の処理槽18の設計から決定された設計値を用いて、重合装置16を作製した。そして、液体媒質として、ポリビニルアルコールを0.05重量%含有する水溶液を用い、重合性モノマー含有液としては、ラジカル重合開始剤を添加したスチレン及びジビニルベンゼンの混合溶液を使用した。重合性モノマー含有液が28.33体積%となるように処理槽18内に満たし、処理槽18の側壁内面側に設けられた加熱ジャケット19でスチレン及びジビニルベンゼンの混合溶液の温度を約80℃に調整し、撹拌翼17を回転軸21を介して毎分20回転で回転させて懸濁重合を行なった。
得られたポリマービーズの平均粒径は280μmとなり、平均粒径±10%の範囲中に95体積%が含まれる粒度分布となり、均一な粒径分布を有するポリマービーズが得られた。
一方、従来の重合装置を使用して製造して得られたポリマービーズの平均粒径は280μmとなり、平均粒径±10%の範囲中に70体積%が含まれる粒度分布となった。従って、本実施例により設計した重合装置16を用いた製造では粒径の均一性が優れたポリマービーズが得られることが判った。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の処理槽の設計方法及びその処理槽並びに処理槽を用いた重合樹脂粒子の製造方法及びその重合樹脂粒子を構成する場合にも本発明は適用される。例えば、連続相を形成する液体媒質を水溶性とし、液滴を疎水性としたが、相溶性のない2種類以上の液体のいずれか一方が連続相を形成する媒質で、他方が液滴として分散相を形成していればよい。また、撹拌翼の翼端部を丸形撹拌翼としたが、後退型撹拌翼としてもよい。
【0048】
【発明の効果】
請求項1〜4記載の処理槽の設計方法においては、処理槽には液滴分散型多相液を撹拌して液滴の液体媒質中での均一分散を維持する撹拌翼が設けられ、しかも、撹拌翼の形状と回転数の設計は、処理槽内での液滴分散型多相液の流動解析により得られる乱流パラメータと液滴の流動挙動予測を用いて行なうので、実機での運転テストを経ずに、液滴の破壊、合一のない撹拌翼の形状と、回転数を決定することが可能となる。また、液滴の貯蔵、処理においては、液滴の合一が異常反応、局部過熱に結びつくことが多いため、実機でのテストも安全上の問題から不可能な場合があり、そのようなケースではこれまで検討さえも不可能であったスケールアップや新規撹拌翼の設計が、本発明の処理槽の設計方法で可能になる。更に、実機テストでは、液滴に破壊等が起きるとそれに対する対応が必要となって、コストも余分に発生する。従って、このようなケースへの適用を行なうことにより、設計のコストダウンや検討期間の短縮化が可能となる。
【0049】
特に、請求項2記載の処理槽の設計方法においては、撹拌翼の形状と回転数は、乱流パラメータに乱流エネルギー散逸率を用い、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )と液滴の平均粒径dave (μm)が(1)式の関係を満たすように設計するので、液滴の破壊しない処理槽としての汎用条件を簡便に素早く決定することが可能となる。
【0050】
請求項3記載の処理槽の設計方法においては、撹拌翼の形状と回転数は、液滴の流動挙動予測から求まる液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計するので、液滴の浮上や沈降を防止できる処理槽としての汎用条件を簡便に素早く決定することが可能となる。
【0051】
請求項4記載の処理槽の設計方法においては、液体媒質が水性媒質であり、相溶性のない液体が重合性モノマー含有液であるので、液滴分散型多相液として最も一般的な系について、液滴の破壊、及び液滴の浮上や沈降を防止することができる処理槽の設計を、簡便に素早く行なうことが可能となる。
【0052】
請求項5〜8記載の処理槽においては、処理槽には液滴分散型多相液を撹拌して液滴の液体媒質中での均一分散を維持する撹拌翼が設けられ、しかも、撹拌翼の形状と回転数は、液滴分散型多相液を撹拌した際に発生する乱流の乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )と液滴の平均粒径dave (μm)が(1)式の関係を満たすように設計されているので、液滴を破壊しない条件での液滴の貯蔵や処理が可能となる。
【0053】
特に、請求項6記載の処理槽においては、撹拌翼の形状と回転数は、更に液滴分散型多相液を撹拌した際の液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計されているので、液滴の浮上や沈降を防止した条件での液滴の貯蔵や処理が可能となる。
【0054】
請求項7記載の処理槽においては、撹拌翼は、翼端部丸型撹拌翼及び翼端部後退型撹拌翼のいずれか一方であるので、翼端部と接触する液滴の破壊を更に発生しにくくすることができ、液滴の貯蔵や処理が可能となる。
【0055】
請求項8記載の処理槽において、液体媒質が水性媒質であり、相溶性のない液体が重合性モノマー含有液であるので、液滴分散型多相液として最も一般的な系について、液滴の破壊、及び液滴の浮上や沈降を防止して、液滴の貯蔵や処理を行なうことが可能となる。
【0056】
請求項9〜11記載の重合樹脂粒子の製造方法においては、液滴の重合は、液滴分散型多相液を撹拌した際に発生する乱流の乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )と液滴の平均粒径dave (μm)が(1)式の関係を満たすように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行うので、液滴の貯蔵や処理において液滴の破壊を防止することが可能となる。
【0057】
特に、請求項10記載の重合樹脂粒子の製造方法においては、液滴の重合は、更に液滴分散型多相液を撹拌した際の液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行うので、液滴の貯蔵や処理において、更に、液滴の浮上や沈降を防止が可能となる。
【0058】
請求項11記載の重合樹脂粒子の製造方法において、液体媒質が水性媒質であり、相溶性のない液体が重合性モノマー含有液であるので、液滴の貯蔵や処理において、液滴分散型多相液として最も一般的な系について、液滴の破壊、及び液滴の浮上や沈降を防止することが可能となる。
【0059】
請求項12記載の重合樹脂粒子においては、液滴分散型多相液の撹拌は、乱流エネルギー散逸率の最大値εmax (m2 /s3 )が(1)式の関係を満たし、かつ、液滴の液滴濃度分布を実質的に一定に保つように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行なうので、貯蔵や処理を行なうに際し液滴の合一と破壊を防止することができ、重合樹脂粒子の粒径を均一化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ポリマービーズの平均粒径と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を求める懸濁重合実験に使用した重合装置の説明図である。
【図2】懸濁重合実験から得られたポリマービーズの平均粒径と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を示すグラフである。
【図3】重合実験に使用した撹拌翼を備えた処理槽の説明図である。
【図4】重合実験の2相流解析により得られた撹拌翼の回転数と乱流エネルギー散逸率の最大値εmax の関係を示すグラフである。
【図5】重合実験の2相流解析により得られた液滴の分散状態を示すグラフである。
【符号の説明】
10:重合装置、11:重合槽、12:撹拌翼、13:回転軸、14:加熱ジャケット、15:蓋、16:重合装置、17:撹拌翼、18:処理槽、19:加熱ジャケット、20:蓋、21:回転軸
Claims (12)
- 連続相を形成する液体媒質中に該液体媒質とは相溶性のない液体の液滴が1種類以上分散した液滴分散型多相液の貯蔵及び処理のいずれか一方を行う処理槽の設計方法であって、
前記処理槽には前記液滴分散型多相液を撹拌して前記液滴の前記液体媒質中での均一分散を維持する撹拌翼が設けられ、しかも、前記撹拌翼の形状と回転数の設計は、前記処理槽内での前記液滴分散型多相液の流動解析により得られる乱流パラメータと前記液滴の流動挙動予測を用いて行なうことを特徴とする処理槽の設計方法。 - 請求項1及び2のいずれか1項に記載の処理槽の設計方法において、前記撹拌翼の形状と回転数は、前記液滴の流動挙動予測から求まる前記液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計することを特徴とする処理槽の設計方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の処理槽の設計方法において、前記液体媒質が水性媒質であり、前記相溶性のない液体が重合性モノマー含有液であることを特徴とする処理槽の設計方法。
- 請求項5記載の処理槽において、前記撹拌翼の形状と回転数は、更に前記液滴分散型多相液を撹拌した際の前記液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計されていることを特徴とする処理槽。
- 請求項5及び6のいずれか1項に記載の処理槽において、前記撹拌翼は、翼端部丸型撹拌翼及び翼端部後退型撹拌翼のいずれか一方であることを特徴とする処理槽。
- 請求項5〜7のいずれか1項に記載の処理槽において、前記液体媒質が水性媒質であり、前記相溶性のない液体が重合性モノマー含有液であることを特徴とする処理槽。
- 請求項9記載の重合樹脂粒子の製造方法において、前記液滴の重合は、更に前記液滴分散型多相液を撹拌した際の前記液滴の液滴濃度分布が実質的に一定となるように設計された形状及び回転数を有する撹拌翼を用いて行うことを特徴とする重合樹脂粒子の製造方法。
- 請求項9及び10のいずれか1項に記載の重合樹脂粒子の製造方法において、前記液体媒質が水性媒質であり、前記相溶性のない液体が重合性モノマー含有液であることを特徴とする重合樹脂粒子の製造方法。
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JP2008529757A (ja) * | 2005-01-14 | 2008-08-07 | アルファ・ラヴァル・ヴィカール | 開放プレート型反応器における化学反応の最適化 |
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-
2002
- 2002-07-16 JP JP2002206944A patent/JP2004051654A/ja active Pending
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