JP2004038632A - 医療機関による医療機能のシミュレーション方法、シミュレーション装置、シミュレーション・プログラム及びシミュレーション・プログラムを記録した記録媒体 - Google Patents

医療機関による医療機能のシミュレーション方法、シミュレーション装置、シミュレーション・プログラム及びシミュレーション・プログラムを記録した記録媒体 Download PDF

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Abstract

【課題】医療機関による医療機能をシミュレートして医療機能の客観的な評価基準を与え、医療機関の機能評価を行うことを可能にする。
【解決手段】震災時に医療機能を果たし得る病院が構築する医療協力ネットワークを震災時の医療機関とし、その医療機能をモデル化してシミュレートする。医療機能モデルは、個々の病院における医療活動経過をシミュレートする医療活動経過モデルを構成単位とし、医療活動経過モデルは、“来院患者”、“容態別診療窓口への選別”、“待ち患者”、“診療窓口での診療”及び“診療後の取扱い”によって構成する。この医療活動経過モデルに基づき、各容態の患者毎に各病院での医療活動経過を並列的にシミュレートし、各病院での各容態の患者に係る来院患者数、待ち患者数及び診療済み患者数等の情報を得、それらの情報を評価基準として医療機関(医療協力ネットワーク)による医療機能を評価する。
【選択図】   図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、種々の状況での医療機関による医療機能をシミュレートして医療機関の機能評価等を行うためのシミュレーション技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
自然災害や人為災害に対する防災計画が重要であることについては多言を要しないところであり、1995年の兵庫県南部地震を経て東海地震や南海道地震等の発生が懸念されている現在においては、特に、広域に亘って多くの破壊をもたらす震災に対する都市の防災計画が各方面で検討されている。発生が懸念されている地震については、想定されるシナリオ地震によって各地域の地震ハザードを評価することが行われており、評価した地震ハザードから都市構造物の物理的な被害を推定したり(例えば、建築構造物、土木構造物及び各種ライフラインの損傷並びに地震火災等を推定したり)震災による損害額を推定したりする試みがなされている。現在の震災に対する都市の防災計画では、その試みによって推定される被害等に基づいて都市構造物の耐震補強を図ることが主要な課題として検討されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、実際の都市というものは、人間が生活をする場として機能している領域であり、建築構造物、土木構造物及び各種ライフライン等の様々な都市構造物で構成されるシステムを包摂し、そのシステムが提供する様々な機能と各機能が互いに共働する相互作用とによって活性化されている。すなわち、防災計画の対象とすべき実際の都市は、単なる都市構造物の集合体ではなく、物流、輸送、情報通信、エネルギーの供給及び消費、医療、行政、金融並びに教育等の様々な機能が共働している場であり、それぞれの都市構造物はそれらの機能を支える工学的ないし社会学的なシステムの一構成要素に過ぎない。したがって、震災に対する実情に即した都市の防災計画を策定するに当たっては、震災による都市構造物の総合的な被害状況に対して都市の機能がどうなるのかを評価し、その評価結果に基づいて震災時に必要な都市の機能を確保するための危機管理を検討することが必要である。
【0004】
これに対し、現在の震災に対する都市の防災計画では、上述したように都市構造物の耐震補強を図ることが主な検討課題とされており、震災時における都市の機能という観点を主眼とした検討はなされていない。都市構造物の耐震補強を図ることは、都市の防災計画において重要なことではあるが、一般に個々の都市構造物毎に検討される個別的な防災対策に止まり、システムとして機能する都市構造物全体に係る総合的な防災計画ではないので、それによって震災時に必要な都市の機能が必ずしも確保できるとは限らない。また、都市構造物の耐震補強を図るだけでは、防災計画をより有効なものに改善していくような更なる検討にはつながらず、そこまでで防災計画が滞ってしまう。
【0005】
一方、数ある都市の機能のうち、震災が発生した場合に重要となるものとしては、医療機関による医療機能を挙げることができる。医療機能を実現する上では物流、輸送、情報通信等の他の機能も重要であるが、震災が発生した場合には、罹災者の救助活動が最優先事項となるので、他の機能の状態は医療機能を実現する上での諸条件として位置付けられ、必要な都市の機能は医療機能に集約されるということもできる。したがって、震災に対する都市の防災計画においては、医療機関による医療機能を評価し、その評価結果に基づく検討をすることが極めて重要である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、震災時を始めとする災害時等の種々の状況に対し、医療機関による医療機能をシミュレートして医療機能の客観的な評価基準を与え、医療機関の機能評価を行うことを可能にして医療機関の構築を支援し、ひいては震災等の災害に対する都市の防災計画の策定や改善等にも寄与し得る技術を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するため、本発明に係る医療機関による医療機能のシミュレーション方法は、時間の経過に伴って医療機関に順次到来する患者の発生をシミュレートする患者発生シミュレート過程と、各患者が当該各患者の診療時間の間一つの診療窓口を専有し、当該各患者の診療時間が経過したときに当該各患者が割り当てられた診療窓口を他の患者に割当可能にするものとして、前記医療機関について予め設定した診療窓口に対し、前記患者発生シミュレート過程により発生した患者を順次割り当てて、前記医療機関における医療の実施をシミュレートする医療実施シミュレート過程とを有し、発生時に割り当てる診療窓口がない患者を当該発生時から当該患者が診療窓口に割り当てられるまで待ち患者として計数する。
【0008】
ここで、診療窓口に割り当てられて診療時間が経過した患者は、診療済み患者として計数することにしてもよい。また、前記患者発生シミュレート過程により発生した患者を計数し、前記医療機関に到来した患者の数を把握するようにしてもよい。
【0009】
さらに、前記患者発生シミュレート過程では、予め設定した確率分布に従う時間間隔で患者を発生させて前記患者の発生をシミュレートすることにしてもよい。前記医療実施シミュレート過程では、予め設定した確率分布に従う診療時間を各患者の診療時間としてシミュレートすることにしたり、予め設定した一定の診療時間を各患者の診療時間とすることにしたりしてもよい。
【0010】
そして、本発明に係る医療機関による医療機能のシミュレーション方法においては、前記医療機関が複数の病院を含むものとし、前記患者発生シミュレート過程が前記医療機関内の各病院に順次来院する来院患者の発生をシミュレートする過程であるものとしてもよく、これに対する前記医療実施シミュレート過程では、前記医療機関内の各病院について予め設定した窓口数の診療窓口に対し、各病院の来院患者の発生時に当該各病院で患者に割当可能な診療窓口がある場合には、当該来院患者を当該診療窓口に割り当て、前記発生時に当該各病院で患者に割当可能な診療窓口がない場合には、当該来院患者を前記医療機関内の他の病院へ転送するか否かを判断して、転送しないものと判断したときに当該来院患者を前記発生時に割り当てる診療窓口がない患者とする。また、前記医療実施シミュレート過程により当該来院患者を転送するものと判断されたときには、当該来院患者を転送患者として計数する。このような形態では、前記医療実施シミュレート過程により当該来院患者を転送するものと判断されたときに、転送先となる前記医療機関内の他の病院における当該来院患者に対しての医療の実施をシミュレートすることにしてもよい。
【0011】
以上のような医療機関による医療機能のシミュレーション方法においては、予め設定した容態の患者毎に前記患者発生シミュレート過程及び前記医療実施シミュレート過程を実行するものとしてもよい。
【0012】
一方、本発明に係る医療機関による医療機能のシミュレーション装置は、時間の経過に伴って医療機関に順次到来する患者の発生をシミュレートする患者発生シミュレート処理手段と、各患者が当該各患者の診療時間の間一つの診療窓口を専有し、当該各患者の診療時間が経過したときに当該各患者が割り当てられた診療窓口を他の患者に割当可能にするものとして、前記医療機関について予め設定した診療窓口に対し、前記患者発生シミュレート過程により発生した患者を順次割り当てて、前記医療機関における医療の実施をシミュレートする医療実施シミュレート処理手段とを有し、発生時に割り当てる診療窓口がない患者を当該発生時から当該患者が診療窓口に割り当てられるまで待ち患者として計数する。
【0013】
本発明に係る医療機関による医療機能のシミュレーション・プログラムは、時間の経過に伴って医療機関に順次到来する患者の発生をシミュレートする患者発生シミュレート処理手段、各患者が当該各患者の診療時間の間一つの診療窓口を専有し、当該各患者の診療時間が経過したときに当該各患者が割り当てられた診療窓口を他の患者に割当可能にするものとして、前記医療機関について予め設定した診療窓口に対し、前記患者発生シミュレート過程により発生した患者を順次割り当てて、前記医療機関における医療の実施をシミュレートする医療実施シミュレート処理手段、及び発生時に割り当てる診療窓口がない患者を当該発生時から当該患者が診療窓口に割り当てられるまで待ち患者として計数する手段として、コンピュータを機能させる。
【0014】
本発明に係る医療機関による医療機能のシミュレーション・プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体は、時間の経過に伴って医療機関に順次到来する患者の発生をシミュレートする患者発生シミュレート処理手段、各患者が当該各患者の診療時間の間一つの診療窓口を専有し、当該各患者の診療時間が経過したときに当該各患者が割り当てられた診療窓口を他の患者に割当可能にするものとして、前記医療機関について予め設定した診療窓口に対し、前記患者発生シミュレート過程により発生した患者を順次割り当てて、前記医療機関における医療の実施をシミュレートする医療実施シミュレート処理手段、及び発生時に割り当てる診療窓口がない患者を当該発生時から当該患者が診療窓口に割り当てられるまで待ち患者として計数する手段として、コンピュータを機能させるためのプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体である。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本実施形態においては、医療機関による医療機能のシミュレーション例として、大規模な震災の発生により多くの罹災者が出たという状況に対してのシミュレーションを行うことにする。かかるシミュレーションを実行するため、本実施形態では、震災時における医療機関の状態等を考察して医療機能をモデル化し、それによって得られる医療機能モデルを基本的な概念として具体的なシミュレーションの過程を決定する。そこで、以下においては、始めに基本となる医療機能のモデル化について説明し、その後で医療機能モデルに基づく具体的な医療機能のシミュレーションを説明していくことにする。
【0016】
<医療機能のモデル化>
1.震災時における医療機関の状態
平常時であれば、個々の病院がそれぞれ医療機関として医療機能を果たしている。しかし、震災のような広域に亘って多くの破壊をもたらす大災害が発生した場合には、被災地域内の病院で医療施設が損壊するだけでなく、各種ライフラインの損傷によって電力や水道水の供給に支障が生じ、被災地域内外で多くの病院が正常な医療機能を果たせなくなる。医療施設が損壊した病院にあっては、震災発生以降の医療機能が停止し、医療施設が無事でも電力又は水道水の供給が停止した病院にあっては、その復旧まで重傷患者の治療、手術、人工透析等といった人命に直接関わる医療活動が実施できなくなり、罹災した重傷患者等に対しての医療機能が停止する。
【0017】
図1は、震災による医療施設の損壊、電力の供給停止及び水道水の供給停止という3つの事象A、B及びCの相互関係を示したベン図である。この図に示したように、震災による医療施設の損壊、電力の供給停止及び水道水の供給停止は、いずれかが単独で発生することもあれば2つ以上が同時に発生することもあり、これらの事象のうちのいずれかが一つでも発生した病院では、上述したように正常な医療機能が停止することになる。すなわち、震災時においては、それぞれの病院について
医療機能の停止=A∪B∪C
という関係が成立し、基本的には、これに当てはまる病院は医療機関たり得ないものとなり、これに当てはまらない病院によって医療機関が構成される。そして、震災発生時に医療機能が停止した病院のうち、医療施設が無事であった病院は、停止した電力ないし水道水の供給が震災発生以降に復旧すれば医療機能も復旧し、その復旧以後に医療機関を構成することになる。ただし、電力ないし水道水の供給が復旧する前であっても、医療施設が無事であった病院については、平常時の一部の医療活動が実施可能な状態(例えば、重傷患者の治療や手術はできないが軽傷患者の治療はできるような状態等)になっている場合もあり、かかる場合には、その状態に応じた制約を伴いつつ震災発生以降も医療機関を構成することになる。
【0018】
このように、震災時における医療機関の状態を考えるためには、個々の病院について医療施設の損壊、電力の供給停止及び水道水の供給停止のそれぞれが発生するかどうか(医療機能を果たし得るかどうか)を考慮しなければならず、電力ないし水道水の供給が停止した病院による医療機能の復旧等も考慮しなければならない。また、個々の病院においては、開設している診療窓口の診療科目(担当医科等)、医師や看護婦の人数、医療用設備の有無等によって平常時から実施可能な医療活動が決まっているので、それぞれの病院が果たせる医療機能には本来的に制約があり、その制約も当然考慮しなければならない。これらのことから、震災時における医療機能をモデル化するに当たっては、想定される様々な被害状況に応じて医療機能を果たし得る病院を任意に選定し、選定した病院で実施可能な医療活動を任意に設定できるようにする必要がある。
【0019】
2.震災時に求められる医療機関
さらに、震災時においては、上述したような医療機関の状態に対し、多くの罹災者がそれぞれの病院に患者として来院することになるので、平常時には医療機能を果たす個々の病院がそれぞれ医療機関を構成している体制のままでは、罹災者の救命等に係る医療活動を遂行するのが極めて困難な状況になる。このようなことは、1995年の兵庫県南部地震による阪神淡路大震災のときにも大きな問題となり、震災時に多くの罹災者に対する医療機能を確保することの重要性が痛感されたところである。かかる状況において罹災者に対する医療機能を確保するためには、被災地域内外の各病院間で必要に応じて患者(罹災者)を転送することとし、被災地域内外での医療協力によって医療活動を実施することが必要となる。したがって、震災時の医療機関としては、被災地域内外で医療機能を果たし得る各病院を患者の転送や情報通信等によって結び付け、それらの病院、患者の転送手段及び情報通信手段等による医療協力ネットワークを構築することが求められる。
【0020】
震災時の医療機関として求められる医療協力ネットワークは、それぞれの地域毎に構築されるものであり、それぞれの地域での震災時に想定される罹災者の発生状況に対し、それらの罹災者を含む患者の容態選別(該当する診療科ないし医科への振分け)、診療(診察、治療、手術等の医療行為)及び必要に応じた転送等の各病院で行われる医療活動の経過を把握することにより、医療協力ネットワーク全体がどのように機能するかを評価することができる。すなわち、医療協力ネットワークを構築する個々の病院について、患者の容態選別、診療及び転送等の医療活動経過を把握できれば、その医療協力ネットワークによる医療機能が全体としてどの程度実現されるかを評価することができ、それによって最適な医療協力ネットワークを吟味することが可能になる。
【0021】
また、医療協力ネットワークを構築するに当たっては、上述したような医療機関の状態や罹災者の発生状況等の想定される被害状況に対し、医療機能を果たし得る病院の数、それらの各病院間の地理的関係、それらの各病院における診療科毎の診療窓口数等を考慮する必要もあり、罹災者の救命や医療協力ネットワーク運営の費用対効果等といった危機管理の観点からの評価基準に合致した最適な医療協力ネットワークの構築を検討する必要もある。したがって、医療協力ネットワークの構築を適切に支援するためには、震災時に想定される被害状況に応じて医療機能を果たし得る病院の数や各病院間の地理的関係等を設定し、それらの病院における患者の容態選別、診療及び転送等を把握して危機管理の観点からの評価を可能にする客観的な情報が得られるようにする必要がある。
【0022】
3.医療機能モデル
(1)全体構成
以上のことから、本実施形態における医療機能モデルは、適宜選定した被災地域内外の病院で医療協力ネットワークを構築し、各病院間の地理的関係や各病院で実施可能な医療活動等を設定して各病院での医療活動経過をシミュレートするものとする。すなわち、本実施形態においては、被災地域内外で医療機能を果たし得る病院を任意に選定し、それらの選定した病院による医療協力ネットワークが震災時の医療機関として構築されるものとする。そして、医療協力ネットワーク内の個々の病院における医療活動経過をシミュレートするモデル(以下「医療活動経過モデル」という。)を与えることにより、医療協力ネットワーク全体の医療機能をモデル化する。
【0023】
医療活動経過モデルでは、各病院で実施可能な医療活動の内容(例えば、診療可能な患者の容態、診療窓口数、診療に要する時間等)を適宜設定し、震災時に想定される来院患者に対しての医療活動経過(例えば、患者の容態選別、診療、必要に応じた転送等)をシミュレートする。また、患者の転送に関する医療活動経過も取り入れることができるようにし、患者の診療に要する時間や各病院間の地理的関係等から患者を転送する場合の条件を適宜設定して患者の転送をシミュレートする。震災時の医療機関とされる医療協力ネットワーク全体の医療機能モデルは、選定したそれぞれの病院に係る医療活動経過モデルを構成単位とし、それらの医療活動経過モデルの集合によって構成される。
【0024】
(2)医療活動経過モデル
図2は、かかる医療機能モデルの構成単位である医療活動経過モデルの例を示した図である。本医療活動経過モデルの構成は、図示のように“来院患者”、“容態別診療窓口への選別”、“待ち患者”、“診療窓口での診療”及び“診療後の取扱い”に大別される。
【0025】
・“来院患者”
震災時においては、多種多様な容態に至った不特定多数の罹災者が出る。そして、それらの罹災者を含む患者が各病院に来院する状況(各病院に何時如何なる容態の患者が来院するか)については、各病院周辺の被災地域における被害状況等に応じて様々な状況が想定される。したがって、個々の病院での医療活動経過をシミュレートするためには、そのような各病院での様々な状況を患者の来院状況として設定できるようにしておく必要がある。
【0026】
そこで、本医療活動経過モデルにおいては、来院する患者の容態を予めいくつか設定し、それぞれの容態毎に独立した確率モデルによって時間の経過に伴うランダムな患者の発生をシミュレートすることとし、それによって順次発生させたそれぞれの容態の患者を病院に来院する“来院患者”とする。図2中の“来院患者”にある○、△、×、□、■の記号は、予め設定した各容態の患者を示しており、それらの記号の配列によって各容態の患者がランダムに来院する様子を表している(それぞれの記号が示す患者については、便宜上後述の“容態別診療窓口への選別”で説明する。)。なお、この“来院患者”には、行くはずだった病院の医療機能が震災により停止したために医療協力ネットワーク内の他の病院に来院することになった患者も含まれるものと考えてもよい。
【0027】
ランダムな患者の発生をシミュレートするための確率モデルとしては、指数分布、正規分布、対数正規分布等の確率密度関数に従う乱数によるモデルを利用することができる。すなわち、患者の来院時間間隔(一人の患者が来院してから次の患者が来院するまでの時間)の確率分布が指数分布、正規分布又は対数正規分布等の予め定めた確率密度関数によって与えられるものとし、その確率密度関数に従った乱数を順次発生させる。そして、それらの乱数が示す来院時間間隔で患者が順次発生する(順次来院する)ものとすることにより、ランダムな患者の発生をシミュレートすることができる。この場合の乱数は、与えられた確率密度関数に従って乱数を発生するプログラム等を利用してコンピュータでの演算処理により発生させることができ、その際に与える確率密度関数を適宜選定することによって各容態の患者に係る確率モデルを設定することができる。
【0028】
例えば、患者の来院時間間隔の確率分布が指数分布によって与えられるものとする場合には、来院時間間隔をTtiとすると、来院時間間隔Ttiの確率分布(来院時間間隔Ttiが各時間値となる確率の確率分布)を与える確率密度関数fti(Tti)は、
【数1】
Figure 2004038632
と表される。式(1)中のμtiは、患者の平均来院時間間隔(来院時間間隔Ttiの平均値)であり、これが小さいと患者の発生頻度は高く、逆にこれが大きいと患者の発生頻度は低いことになる。したがって、この平均来院時間間隔μtiをそれぞれの容態の患者毎に適宜設定して確率密度関数fti(Tti)に従う乱数を発生させることにより、それぞれの容態毎に独立した確率モデルで患者の発生をシミュレートすることができる。ただし、来院時間間隔Ttiは、負の時間値になったり無制限の長時間になったりすることはないので、必要に応じて適宜上限値や下限値を設定するようにする。
【0029】
なお、ここで挙げた確率モデルは、個々の病院へランダムに来院する患者をシミュレートするために設定するモデルの一例であり、必要に応じて他の確率モデル等を設定することにしてもよい。また、場合によっては、一定の時間間隔で患者が来院するものとし、適宜設定した一定の時間間隔で患者が発生するモデルを用いることにしてもよい。
【0030】
本医療活動経過モデルにおいては、このようにして“来院患者”を発生させるが、震災のような広域に亘る大災害が発生した場合には、震災発生からの時間経過に伴って来院する患者数が変化していく。図3は、横軸を日数単位の時間、縦軸を人数単位の来院患者数として、震災発生前後における来院患者数の変化を例示したグラフであり、破線の一定来院患者数が平常時の平均来院患者数を表している。この図に示した例では、震災発生日に来院患者数が急増し、震災発生後の二日目以降で来院患者数が徐々に減少している。すなわち、来院患者数は、震災発生の直後から多くの罹災者が来院することにより平常時の来院患者数に比べて著しく増加し、その後で時間の経過と共に来院する罹災者が減少していくことにより徐々に減少し、最終的には平常時の来院患者数に戻っていく(平常時の来院患者数に戻るまでの時間は震災の規模等に依存する。)。震災が発生した場合、このように来院患者数が変化することは、先の兵庫県南部地震による阪神淡路大震災からも明らかになっている。
【0031】
したがって、震災発生からある程度の期間(例えば数日間)に亘る医療活動経過をシミュレートするに当たっては、かかる時間の経過に伴った来院患者数の変化を患者の来院状況に反映させる必要がある。本医療活動経過モデルでは、それぞれの容態の患者に係る上述の確率モデルにおいて患者の来院時間間隔の確率分布を経過時間に応じて変えることにより、時間の経過に伴う来院患者数の変化を反映した“来院患者”を発生させることができる。
【0032】
例えば、患者の来院時間間隔の確率分布を上記式(1)の確率密度関数fti(Tti)によって与える場合には、震災発生日、震災発生後二日目及び震災発生後三日目のそれぞれについて異なる平均来院時間間隔μtiを設定し、その設定に従って確率密度関数fti(Tti)中の平均来院時間間隔μtiを切り替えつつ、時系列的に患者の発生をシミュレートする。すなわち、震災発生日の平均来院時間間隔μtiを含む確率密度関数fti(Tti)に従った乱数発生により震災発生日の“来院患者”をシミュレートし、経過時間(シミュレーション上のカウント時間)が24時間を越えた時から震災発生後二日目の平均来院時間間隔μtiを含む確率密度関数fti(Tti)に従った乱数発生により震災発生後二日目の“来院患者”をシミュレートし、経過時間が48時間を越えた時から震災発生後三日目の平均来院時間間隔μtiを含む確率密度関数fti(Tti)に従った乱数発生により震災発生後三日目の“来院患者”をシミュレートする。これにより、震災発生時以降の“来院患者”を順次発生させ、時間の経過に伴う来院患者数の変化を患者の来院状況に反映させる。
【0033】
なお、平均来院時間間隔μtiを切り替える経過時間の間隔は、このような日数単位に限らず、任意の時間間隔に設定することができる。また、切り替えていく平均来院時間間隔μtiのそれぞれの具体的な値については、阪神淡路大震災等の過去の震災で被災地域周辺の病院に来院した患者の来院時間間隔分布等を参考にして設定することにしてもよい。
【0034】
・“容態別診療窓口への選別”
以上のように発生させた“来院患者”は、“容態別診療窓口への選別”によりそれぞれの容態別の診療窓口へと選別される。実際の医療活動においては、病院に到着した各患者(各罹災者)の容態を医師が選別し、その容態に応じた診療科の診療窓口に各患者を向かわせる。これは、阪神淡路大震災で各病院に罹災者が到着した際にも最初に行われた医療活動である。本医療活動経過モデルにおいては、“来院患者”を“容態別診療窓口への選別”で容態毎に選別し、それぞれの容態毎に該当する診療科の診療窓口に振り分けるものとして、かかる医療活動をモデル化する。
【0035】
“来院患者”の容態としては、上述したように来院する患者の容態を予めいくつか設定するが、それらの設定する容態は、それぞれ一定の診療科に対応するもの(一定の診療科内にある診療窓口で診療を受けるもの)とする。本医療活動経過モデルでは、5つの診療科に対応する5つの容態を設定してあり、それぞれの容態の患者が一つの診療科内にある診療窓口で診療を受けるものとして選別される。すなわち、“来院患者”を
▲1▼重傷患者(手術不要)…重傷だが手術は必要でない容態の患者
▲2▼重傷患者(手術要)…重傷で手術が必要な容態の患者
▲3▼透析対象患者…人工透析による治療が必要な容態の患者
▲4▼重症患者…重症である容態の患者
▲5▼軽傷患者…軽傷である容態の患者
という5つの容態の患者に選別することとし、その選別を“容態別診療窓口への選別”で行い、各容態の患者を当該各容態に対応する診療科の診療窓口に振り分ける。図2においては、これらの▲1▼重傷患者(手術不要)、▲2▼重傷患者(手術要)、▲3▼透析対象患者、▲4▼重症患者、▲5▼軽傷患者をそれぞれ×、△、■、□、○の記号で示し、ランダムに来院した“来院患者”が容態毎に各診療科の診療窓口に振り分けられる様子を“容態別診療窓口への選別”に表してある。
【0036】
なお、このような容態の設定と選別は、医療活動において患者を分類する形態の一例に過ぎず、必要に応じて容態の分類数を任意に選定したり、選別される容態として他の容態を設定したりすることもできる(採用する容態の分類形態は必要に応じて適宜選定する。)。例えば、既存の病院については、その病院で診療可能な容態を設定することにしてもよく、シミュレーション上の仮定した病院については、震災時に想定される来院患者の容態を過去の震災等から推定して設定することにしてもよい。
【0037】
また、震災時の医療協力ネットワークにおいては、病院間で必要に応じて患者を転送するので、いずれかの病院に一度来院した患者については、その来院した病院、来院時刻、容態等の情報を確保しておき、それぞれの患者を医療協力ネットワーク内で識別して管理するのが適切である。このため、実際の医療活動では、医療協力ネットワーク内の病院に到着した各患者に対し、その到着した病院の病院名、到着時刻及び容態等が一人一人の患者について分かるようにした識別札を付与すると共に、それらの病院名、到着時刻及び容態等の情報を各患者の識別情報としてコンピュータ内に登録しておくとよい。ただし、各患者についての識別札の付与と識別情報の登録は、原則として各患者が最初に到着した病院で行うこととし、登録した各患者の識別情報は、それぞれの病院のコンピュータで管理し、あるいは、それらのコンピュータを通信可能に接続して共有し(情報通信ネットワークを構築して一元管理し)、必要に応じて照会できるようにしておく必要がある。
【0038】
本医療活動経過モデルにおいては、それぞれの“来院患者”に対し、その病院、来院時刻及び容態等を含む患者の識別情報(以下「患者識別情報」という。)を割り当てることにより、このような識別札の付与と識別情報の登録をシミュレートすることができる。すなわち、各患者についての識別札の付与と識別情報の登録をシミュレートする場合には、上述した確率モデルによって順次発生させた“来院患者”に対し、それぞれの発生時間を患者識別情報の来院時刻とすると共に、それぞれの“容態別診療窓口への選別”による選別後の容態を患者識別情報の容態とする。そして、それらの来院時刻と容態を個々の病院毎に順次記憶手段に格納し、必要に応じて適宜参照する。
【0039】
・“待ち患者”
“容態別診療窓口への選別”で各診療科の診療窓口に振り分けられた患者は、その診療科のいずれかの診療窓口が空いていて診療可能な状態であれば、すぐに診療を受ける(後述する“診療窓口での診療”に移る)。しかし、その診療科にあるすべての診療窓口が他の患者の診療中である場合には、診療を受けることができる時間まで待つことになる。震災時の医療協力ネットワークにおいては、このように診療を待つ患者を必要に応じて他の病院へ転送し、転送しない患者を待ち患者として診療窓口が空くまで待たせる。
【0040】
本医療活動経過モデルにおける“待ち患者”は、かかる転送しない待ち患者をモデル化したものであり、容態毎の“待ち患者”を発生した順に配列するものとなっている。このため、すべての診療窓口が他の患者の診療中であるときに“容態別診療窓口への選別”を経てきた患者については、医療協力ネットワーク内の他の病院への転送をするかどうかの判断を行い、その判断の結果によって他の病院に転送するか“待ち患者”とするかを決める。そして、“待ち患者”とした患者を来院時刻(発生時間)の早い者から順に配列し、来院時刻の早い待ち患者から順に空いた診療窓口で診療を受けるものとすることにより、診療窓口が空くまで待たされる待ち患者をシミュレートする。
【0041】
ここで、転送をするかどうかの判断に当たっては、上述したように患者の診療に要する時間や各病院間の地理的関係等から患者を転送する場合の条件を適宜設定し、その条件を判断基準として患者を転送するか否かを判断する。例えば、患者の容態、各病院における診療窓口の空き状況、転送しない場合の待ち時間、転送に要する時間、転送先の病院での待ち時間、転送経路となる道路の状態(被害状況)、再転送の禁止等に関する条件を予め判断基準として設定し、設定した判断基準に基づいて患者を転送するか否かを判断する。なお、上述の“容態別診療窓口への選別”で割り当てた患者識別情報は、その設定した判断基準に応じて患者の容態や待ち時間等を特定するために適宜利用してもよい。
【0042】
また、転送する患者については、転送先の病院で受け入れて診療をすることになるので、その転送先の病院での受入れをシミュレートする必要がある。この転送する患者の受入れは、別個にモデル化して本医療活動経過モデルに追加してもよいが、例えば、転送する患者を転送先の病院に係る本医療活動経過モデル中の“来院患者”又は“待ち患者”に組み入れることによってもモデル化することができ、様々な形態でシミュレートすることができる。
【0043】
患者の転送に関しては、このように種々の判断基準に基づく様々な判断形態と種々の取扱いによる様々な受入シミュレート形態があるので、詳細は後述する具体的な医療機能のシミュレーションで明らかにする。
【0044】
・“診療窓口での診療”
“診療窓口での診療”は、それぞれの診療科に開設された診療窓口での患者の診療をモデル化したものであり、それぞれの診療科で診療を受ける容態の患者が“容態別診療窓口への選別”を経て送られてくる。本医療活動経過モデルにおける“診療窓口での診療”では、送られてきた各患者が一つの診療窓口を専有し、それぞれ診療時間経過後に診療窓口を出て行く(後述の“診療後の取扱い”に移る)ものとして、順次なされていく各患者の診療をシミュレートする。このため、“診療窓口での診療”に関しては、それぞれの診療科における診療窓口数と患者の診療時間を特定するための設定を行う。
【0045】
i.診療窓口数
診療窓口数は、それぞれの病院のそれぞれの診療科毎に、任意に設定できるものとする。すなわち、それぞれの病院のそれぞれの診療科について診療窓口数を任意に設定し、設定した診療窓口数分の診療窓口でそれぞれ患者の診療がなされるものとする。それぞれの診療窓口は、一人の患者によって専有されるが、その患者の診療時間が経過すれば再び患者を受け入れられる空き状態となり、次いで送られてきた患者の診療を行い、以後も同様にして順次送られてくる患者を一人ずつ診療する。図2においては、一例として各診療科の診療窓口数を2に設定した“診療窓口での診療”を示してあり、それぞれの矩形部分が診療窓口を表し、それらの矩形部分中にある各記号が各診療窓口内で診療中の患者を表している。
【0046】
ここで、診療窓口数をいくつに設定するかということは、本医療機能モデルに基づく医療機能のシミュレーションを様々な条件下で行うことによって最適化が図られる問題でもある。例えば、震災時に発生することが想定される各容態の罹災者数やそれらの罹災者の来院状況(上記“来院患者”)に対し、“診療窓口での診療”に設定する各診療科の診療窓口数を変えながらシミュレーションを繰り返し行うことにより、想定される罹災者の救命等に係る医療活動には診療窓口がいくつ必要か、という問題に対しての答えを出すことができる。あるいは、現在の既設の病院で現に開設されている診療窓口数を“診療窓口での診療”に設定してシミュレーションを行うことにより、その診療窓口数が震災時に想定される罹災者の診療をする上で十分かどうかを評価することができ、さらには、診療窓口数が不十分である場合に他のどのような病院と医療協力ネットワークを構築して罹災者の救命等を図るべきか、という問題に対しての答えを出すこともできる。
【0047】
ii.診療時間
一方、それぞれの診療科における患者の診療時間は、それぞれの診療科が診療対象とする患者の容態によって異なり、さらに、その容態の程度(個々の患者の具体的な怪我や症状の程度)によっても異なるのが通例である。特に、本医療活動経過モデルにおける▲1▼重傷患者(手術不要)、▲2▼重傷患者(手術要)、▲4▼重症患者及び▲5▼軽傷患者については、それぞれの平均的な診療時間に差がある上に、個々の患者の診療時間にばらつきがある。このような患者の診療時間は、それぞれの容態毎に(換言すれば、それぞれの診療科毎に)、それぞれの患者一人一人について、個別的に特定されるように設定する必要がある。
【0048】
そこで、本医療活動経過モデルにおいては、▲1▼重傷患者(手術不要)、▲2▼重傷患者(手術要)、▲4▼重症患者及び▲5▼軽傷患者について、それぞれの容態(診療科)のそれぞれの患者毎に診療時間が確率的に与えられる形態を採用する。すなわち、▲1▼重傷患者(手術不要)、▲2▼重傷患者(手術要)、▲4▼重症患者及び▲5▼軽傷患者については、それぞれ患者の診療時間を与える確率モデルを設定し、各診療科の診療窓口に順次送られてくる各容態の患者の診療時間をそれぞれ当該各容態の患者について設定した確率モデルによって順次シミュレートする。
【0049】
患者の診療時間を与える確率モデルとしては、正規分布、対数正規分布、指数分布等の確率密度関数に従う乱数によるモデルを利用することができる。具体的には、診療時間の確率分布(患者の診療時間が各時間値となる確率の確率分布)が正規分布、対数正規分布又は指数分布等の予め定めた確率密度関数によって与えられるものとし、その確率密度関数に従った乱数を診療窓口に順次送られてくる各患者に対して発生させる。そして、各患者に対して発生させた乱数が示す時間値を当該各患者の診療時間とすることにより、それぞれの患者毎に異なる診療時間をシミュレートすることができる。この場合の乱数は、与えられた確率密度関数に従って乱数を発生するプログラム等を利用してコンピュータでの演算処理により発生させることができ、その際に与える確率密度関数を適宜選定することによってそれぞれの容態毎の診療時間に係る確率モデルを設定することができる。例えば、患者一人当たりの診療時間をTctとし、診療時間Tctの確率分布を正規分布、対数正規分布及び指数分布とする場合については、次のような確率モデルを設定して診療時間をシミュレートすることができる。
【0050】
(a)正規分布による確率モデル
診療時間Tctの確率分布を正規分布とする場合、その確率分布を与える確率密度関数fctn(Tct)は、
【数2】
Figure 2004038632
と表される。式(2)中、μctnは平均診療時間(診療時間Tctの平均値)であり、σは診療時間Tctの標準偏差である。これらの平均診療時間μctn及び標準偏差σをそれぞれの容態毎に適宜設定して確率密度関数fctn(Tct)に従う乱数を発生させることにより、それぞれの容態毎に正規分布による確率モデルを設定して個々の患者の診療時間をシミュレートすることができる。ただし、診療時間Tctは、負の時間値になったり無制限の長時間になったりすることはないので、必要に応じて適宜上限値や下限値を設定するようにする(このことは、以下の確率モデルにおいても同様である。)。
【0051】
(b)対数正規分布による確率モデル
診療時間Tctの確率分布を対数正規分布とする場合、その確率分布を与える確率密度関数fctl(Tct)は、
【数3】
Figure 2004038632
と表される。式(3)中、λは自然対数表記による平均診療時間(診療時間Tctの自然対数(lnTct)の平均値)であり、ζは診療時間Tctの自然対数の標準偏差である。これらの平均診療時間λ及び標準偏差ζをそれぞれの容態毎に適宜設定して確率密度関数fctl(Tct)に従う乱数を発生させることにより、それぞれの容態毎に対数正規分布による確率モデルを設定して個々の患者の診療時間をシミュレートすることができる。
【0052】
ここで、式(3)中の平均診療時間λは、診療時間Tctの自然対数の期待値E(lnTct)に当たる。すなわち、
【数4】
Figure 2004038632
である。また、式(3)中の標準偏差ζは、診療時間Tctの自然対数の分散Var(lnTct)により
【数5】
Figure 2004038632
と表すことができる。したがって、これらの期待値E(lnTct)や分散Var(lnTct)をそれぞれの容態毎に適宜設定することにしてもよく、それによっても上記同様に確率モデルを設定して個々の患者の診療時間をシミュレートすることができる。なお、式(4)及び式(5)における診療時間Tctは、診療時間Tctを要素とする他の確率変数に置き換えて取り扱うことにしてもよい。
【0053】
(c)指数分布による確率モデル
診療時間Tctの確率分布を指数分布とする場合、その確率分布を与える確率密度関数fcte(Tct)は、
【数6】
Figure 2004038632
と表される。式(6)中のμcteは、平均診療時間(診療時間Tctの平均値)である。この平均診療時間μcteをそれぞれの容態毎に適宜設定して確率密度関数fcte(Tct)に従う乱数を発生させることにより、それぞれの容態毎に指数分布による確率モデルを設定して個々の患者の診療時間をシミュレートすることができる。
【0054】
以上の(a)、(b)、(c)の確率モデルにおいては、それぞれ、平均診療時間μctn、平均診療時間λないし期待値E(lnTct)、平均診療時間μcteが小さいと概して患者の診療時間は短く、逆に大きいと概して患者の診療時間は長いということになる。また、(a)、(b)の確率モデルにおいては、それぞれ、標準偏差σ、標準偏差ζないし分散Var(lnTct)が小さいと患者の診療時間にばらつきが少なく、逆に大きいと患者の診療時間にばらつきが多いということになる。これらの平均診療時間、期待値、標準偏差ないし分散を設定するに当たっては、実際の救急病院等における診療時間の統計量を参考にすることもできる。例えば、実際の具体的な地域について医療機能をモデル化する場合には、その地域の救急病院における各診療科について診療時間の統計量(平均診療時間や診療時間の分散等)を測定し、測定した統計量に基づいて前記平均診療時間等を設定することにより、各診療科での診療時間を与える確率モデルを作成することにしてもよい。
【0055】
本医療活動経過モデルでは、上述したように▲1▼重傷患者(手術不要)、▲2▼重傷患者(手術要)、▲4▼重症患者及び▲5▼軽傷患者について(a)ないし(c)のような確率モデルを設定し、個々の患者毎に異なる診療時間を確率的に与える。これに対し、▲3▼透析対象患者については、人工透析による治療時間を一定とみなし、診療時間を一定としてよい場合も想定されるので、必ずしも診療時間を確率的に与えることまでは必要でない。すなわち、容態(診療科)によっては、一定の診療時間を適宜設定して各患者の診療時間とする形態を採用してもよい場合があり、その場合に該当する一例として▲3▼透析対象患者の診療時間を取り扱うこともできる。
【0056】
そこで、本医療活動経過モデルにおける▲3▼透析対象患者については、次のモデルによって診療時間をシミュレートすることにする。
(d)診療時間一定のモデル
▲3▼透析対象患者の診療時間として一定の診療時間を予め設定する。そして、▲3▼透析対象患者として診療窓口に順次送られてくる各患者に対し、設定した一定の診療時間を割り当て、すべての患者の診療時間を一定とする。この場合に設定する一定の診療時間については、例えば、実際の病院で人工透析による治療を行う場合の一般的な所要時間(実際の病院における平均的な診療時間)等を参考にして選定することもできる。
【0057】
・“診療後の取扱い”
それぞれの患者は、診療時間が経過すると診療窓口を出るが、診療窓口を出た患者に対しては、それぞれの容態に応じた診療後の取扱いがなされ、例えば、ある患者は入院することになり、ある患者は帰宅することになる。“診療後の取扱い”は、かかる診療窓口を出た診療後の患者の取扱いをモデル化したものであり、時間の経過に伴って累積的に増加する診療後の患者を予め設定した取扱いによって処理する。
【0058】
本医療活動経過モデルにおける“診療後の取扱い”では、図2中に示したように、▲1▼重傷患者(手術不要)の診療後を入院、▲2▼重傷患者(手術要)の診療後を入院、▲3▼透析対象患者の診療後を入院又は帰宅、▲4▼重症患者の診療後を入院、▲5▼軽傷患者の診療後を帰宅として、それぞれの容態の患者に対する診療後の取扱いを設定してある。これにより、例えば、本医療活動経過モデルに基づいて医療協力ネットワーク内のそれぞれの病院における医療活動経過をシミュレートし、それぞれの病院で診療後に入院する患者の数を時系列的に累積加算して入院患者数を算定すれば、震災時に想定される“来院患者”に対してそれぞれの病院に必要なベッド数が算定され、震災時に必要となるベッド数ないし病室数等(入院患者の収容に必要な設備)を推定することができる。
【0059】
なお、図2中に示した“診療後の取扱い”の設定は一例であり、診療後の患者の取扱いは、それぞれの容態毎に必要に応じて適宜設定することにしてよい。また、図示の▲3▼透析対象患者のように、診療後の取扱いを入院又は帰宅とする場合には、順次診療を終える各患者に対し、入院か帰宅のいずれかを割り当てていく割当パターンを予め設定したり、入院又は帰宅を割り当てる比率を予め設定したり、あるいは、入院又は帰宅をランダムに割り当てたりすることにより、各患者の診療後の取扱いを決定することにしてもよい。
【0060】
<医療機能のシミュレーション>
1.シミュレーションの過程
(1)全体構成
震災時の医療機能モデルは、医療協力ネットワーク内のそれぞれの病院に係る上述の医療活動経過モデルの集合によって構成される。そして、それぞれの病院に係る医療活動経過モデルにおいては、上述したように“容態別診療窓口への選別”以降の医療活動がそれぞれの容態の患者毎に並列的に行われることになっている(実際の医療活動においてもそれぞれの容態の患者がそれぞれの担当診療科で並列的に診療される。)。
【0061】
また、上述の医療活動経過モデルは、ランダムに発生する“来院患者”を“容態別診療窓口への選別”で容態毎に選別する構成になっている。この構成は、来院する患者を容態毎に選別する実際の医療活動をモデル化したものであるが、それぞれの容態の患者は、それぞれ独立した確率モデルを設定して発生させることとしているので、各容態毎の患者に係る確率モデルによって発生させる患者がそのまま当該各容態毎に選別される患者となる。したがって、シミュレーション上では、確率モデルによる各容態の患者の発生を当該各容態の担当診療科にある診療窓口へ患者が送られることと等価であるとみなしてもよい。すなわち、確率モデルによって発生させた容態毎の患者は、シミュレーション上では図2の“容態別診療窓口への選別”を経た容態毎の患者として取り扱うことができる。
【0062】
これらのことから、医療機能のシミュレーションの全体的な構成としては、各病院で患者の発生から始まる一連の医療活動経過をそれぞれの容態の患者毎にシミュレートすることにより、震災時の医療機関である医療協力ネットワーク全体による医療機能をシミュレートできることになる。それぞれの容態の患者毎に行う医療活動経過のシミュレーション(以下「容態別医療活動経過シミュレーション」という。)は、すべての容態の患者について並列的に行うこととしてもよく、それぞれの容態の患者毎に行っていくこととしてもよい。ただし、一定の容態の患者に係る容態別医療活動経過シミュレーションでは、病院間での患者の転送を考慮するため、医療協力ネットワーク内のすべての病院における医療活動経過を並列的に(同時進行で)シミュレートする必要がある。
【0063】
医療協力ネットワークによる医療機能のシミュレーションは、このようにして行う容態別医療活動経過シミュレーションの全体(▲1▼重傷患者(手術不要)、▲2▼重傷患者(手術要)、▲3▼透析対象患者、▲4▼重症患者及び▲5▼軽傷患者について行う5つの容態別医療活動経過シミュレーション)によって構成される。
【0064】
(2)容態別医療活動経過シミュレーション
図4は、個々の病院における一定の容態の来院患者に対する医療活動経過のシミュレーション手順を示したフローチャートである。このフローチャートのシミュレーション手順は、上述の医療活動経過モデルに基づいて個々の病院での医療活動経過をシミュレートする(一定の容態の“来院患者”についてシミュレートする)手順の一例であり、来院患者が発生した時に当該来院患者が担当診療科の診療窓口に送られるものとみなして医療活動が進行するものとしている。
【0065】
容態別医療活動経過シミュレーションでは、各病院間での患者の転送に関する処理を行いつつ、すべての病院における医療活動経過を並列的にシミュレートする。これに対し、図4のシミュレーション手順は、確率モデルによる個々の病院への来院患者に対する医療活動経過をシミュレートするものとなっており、他の病院へ来院患者を転送する処理は含んでいるが、他の病院から転送されてくる患者の処理は含んでいない。したがって、容態別医療活動経過シミュレーションは、それぞれの病院について図4のシミュレーション手順による処理を並列的に実行することを基本とし、それらの処理に対して各病院に転送されてくる患者の処理を加えたものとなる。
【0066】
そこで、以下においては、まず、基本となる図4のシミュレーション手順による処理(個々の病院における一定の容態の来院患者に対する医療活動経過をシミュレートする処理。以下「個々の病院に係る容態別来院患者の医療活動経過シミュレーション」ということがある。)を説明し、その後で、各病院に転送されてくる患者の処理を説明することにする。
【0067】
なお、以下に説明する処理は、種々の演算処理を司る演算手段、ROM等の不揮発性メモリや更新可能に情報を記憶するRAM等の半導体メモリで構成された記憶手段、外部から情報を入力するためのキーボードやマウス等の入力手段、入力された情報や演算処理に係る情報を外部へ出力する表示装置やプリンタ等の出力手段、及び各種動作を制御する制御手段等を有するコンピュータによって実行され、以下に述べる定数ないし変数等は、その記憶手段への書込や演算手段での演算処理等に適宜供される。例えば、以下に述べる処理を規定したプログラムをコンピュータ読取可能な記録媒体に記録し、その記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータに読み込ませて実行する。この場合、同プログラムは、本実施形態による医療機能のシミュレーション・プログラムに当たり、同記録媒体は、同プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体に当たり、同プログラムを読み込ませたコンピュータは、本実施形態による医療機能のシミュレーション装置に当たるものとなる。
【0068】
i.個々の病院に係る容態別来院患者の医療活動経過シミュレーション
個々の病院における一定の容態の来院患者に対する医療活動経過をシミュレートするに当たっては、そのシミュレーションの実行に必要ないくつかの定数、変数及び上述の確率モデル等を導入し、始めに、それらの定数、変数及び確率モデル等についての初期設定を行う(ステップS1)。ここで初期設定する定数、変数及び確率モデル等の内容と具体的な初期設定形態は次の通りである。
【0069】
・シミュレーション期間T1
医療活動経過をシミュレートする期間。通常は震災発生から数日間等の期間を想定して設定する。入力手段による初期設定は日数単位等で行うことにしてもよいが、シミュレーション上では分単位に換算して設定する。分単位への換算は、シミュレーションの処理を0分目から開始するので「設定する日数×24[時間]×60[分]−1[分]」とする。例えば、震災発生から1日なら“T1=1439[分]”、2日なら“T1=2879[分]”、3日なら“T1=4319[分]”に設定する。
【0070】
・来院患者発生モデル
上述したランダムな患者の発生をシミュレートする確率モデル。患者の来院時間間隔は分単位で表すものとする。当該容態の来院患者について、来院時間間隔の確率分布を与える確率密度関数を選定し、その確率密度関数に従った乱数により来院時間間隔を与える上述の確率モデルを来院患者発生モデルとして設定する。例えば、与えられた確率密度関数に従って乱数(来院時間間隔)を発生するプログラムを利用し、そのプログラムに与える確率密度関数を上記式(1)の確率密度関数fti(Tti)に設定する(上記式(1)中の平均来院時間間隔μtiを設定して特定の指数分布による確率モデルを設定する)。
【0071】
・診療時間モデル
当該容態の患者の診療時間をシミュレートするモデル。診療時間は分単位で表すものとする。当該容態の患者が▲1▼重傷患者(手術不要)、▲2▼重傷患者(手術要)、▲4▼重症患者又は▲5▼軽傷患者である場合には、当該容態について、診療時間の確率分布を与える確率密度関数を選定し、その確率密度関数に従った乱数により診療時間を与える上述の確率モデルを診療時間モデルとして設定する。例えば、与えられた確率密度関数に従って乱数(診療時間)を発生するプログラムを利用し、そのプログラムに与える確率密度関数を上記式(2)の確率密度関数fctn(Tct)、上記式(3)の確率密度関数fctl(Tct)、又は上記式(6)の確率密度関数fcte(Tct)に設定する。すなわち、式(2)中の平均診療時間μctn及び標準偏差σを設定して特定の正規分布による上記(a)の確率モデルを設定し、式(3)中の平均診療時間λ及び標準偏差ζを設定して特定の対数正規分布による上記(b)の確率モデルを設定し、あるいは、式(6)中の平均診療時間μcteを設定して特定の指数分布による上記(c)の確率モデルを設定する。なお、式(3)中の平均診療時間λや標準偏差ζは、上記式(4)の期待値E(lnTct)や上記式(5)の分散Var(lnTct)によって設定することにしてもよい。当該容態の患者が▲3▼透析対象患者である場合には、その一定の診療時間を設定して上記(d)のモデルを診療時間モデルとして設定する。
【0072】
・診療窓口数
当該容態の来院患者(医療活動経過をシミュレートする前記一定の容態の来院患者)が診療を受ける診療科の診療窓口の数。医療活動経過をシミュレートする病院における当該診療科の診療窓口数を設定する。例えば、その病院に現にある診療窓口数やその病院にあるものとシミュレーション上仮定する診療窓口数等を設定する。
【0073】
・患者の転送条件
医療協力ネットワーク内の他の病院へ来院患者を転送する場合の条件。患者を転送するか否かの上述した判断基準に当たり、例えば、患者の容態、各病院における診療窓口の空き状況、転送しない場合の待ち時間、転送に要する時間、転送先の病院での待ち時間、転送経路となる道路の状態(被害状況)、再転送の禁止等に関する条件を設定する。この患者の転送条件については、いくつかの条件を初期設定以前の段階(例えば、以下の処理を規定するプログラムのプログラミング段階等)で予め設定しておくことにしてもよいが、具体的には転送の判断形態や転送患者の受入れ等と併せてさらに後述する。
【0074】
・震災発生からの経過時間t1
震災発生からの経過時間を分単位で計時するシミュレーション上のカウント時間。初期設定で“t1=0[分]”(震災発生時)に初期化する。
【0075】
・患者来院後の経過時間t2
一人の来院患者が発生してからの経過時間を分単位で計時するシミュレーション上のカウント時間。式(1)中の確率変数である来院時間間隔Ttiに対応する。初期設定で“t2=0[分]”に初期化し、初期設定直後に限り震災発生からの経過時間を計時するものとする。
【0076】
・来院患者数
発生した来院患者の人数。初期設定で“来院患者数=0[人]”に初期化する。後述の処理により発生した来院患者が累積的に加算され、最終的にはシミュレーション期間T1の間に発生した来院患者の総人数となる。
【0077】
・各病院への転送患者数
他の各病院へ転送した患者の人数。各病院へ転送した患者の人数を要素とする配列等によって表し、転送した患者を転送先の病院毎に計数する。初期設定で各病院への転送患者数を0人に初期化する。後述の処理により各病院へ転送した患者が累積的に加算され、最終的にはシミュレーション期間T1の間に各病院へ転送した患者の総人数となる。
【0078】
・待ち患者情報
シミュレーション中の各時点で待ち患者となっている患者の情報。待ち患者となっている患者の有無、待ち患者数(各時点で待ち患者となっている患者の人数)、各待ち患者が来院患者として発生した発生時間等を表す情報によって構成し、初期設定で“待ち患者無し”を表す状態に初期化する。例えば、発生する来院患者に上述の患者識別情報を割り当て、待ち患者となった来院患者の患者識別情報を所定の配列や構造体等による待ち患者情報として記憶手段に格納するものとし、その配列や構造体等の形式だけを初期設定で定義しておくことにしてもよい。また、シミュレーション中に待ち患者となった患者の人数を累積的に加算して最終的にシミュレーション期間T1の間に発生した待ち患者の総人数を示す情報等を含めることにしてもよい。
【0079】
・診療済み患者数
“診療窓口での診療”を終えて“診療後の取扱い”に至った診療済み患者の人数。初期設定で“診療済み患者数=0[人]”に初期化する。後述の処理により診療済み患者が累積的に加算され、最終的にはシミュレーション期間T1の間に診療済みとなった患者の総人数となる。
【0080】
・診療窓口の状態
新たに患者を受け入れて診療をすることが可能な“空き”状態又は既に患者を診療中で新たに患者を受け入れることができない“診療中”状態のいずれかで表される診療窓口の状態。初期設定では、上記診療窓口数分の各診療窓口の状態を“空き”状態に初期化する。
【0081】
・診療窓口の残り診療時間
“診療中”状態の診療窓口で患者の診療が終わるまでの残り時間。分単位で計時する。初期設定では、上記診療窓口数分の各診療窓口について“残り診療時間=0[分]”とする初期化をする。
【0082】
これらの定数、変数及び確率モデル等についての初期設定は、医療活動経過をシミュレートするそれぞれの病院について行うが、経過時間t1に関しては、それぞれの病院におけるシミュレーション上の時間経過を同期させるため、すべての病院について兼用してよい。なお、時間ないし期間等を分単位とするのは一例であり、必要に応じて他の時間単位を採用することにしてもよい。また、診療窓口の状態と残り診療時間については、“空き”状態が“残り診療時間=0[分]”の状態と等価であり、“診療中”状態が“残り診療時間>0[分]”の状態と等価であるので、上記診療窓口の状態を導入しない形態(残り診療時間を診療窓口の状態と兼用する形態)を採用することも可能である。
【0083】
以上の初期設定(ステップS1)を行った後に、それぞれの病院について以下に述べる処理を並列的に行う(経過時間t1により計時される1分間毎の処理をすべての病院について同時進行させつつ行う)。
【0084】
まず、経過時間t2における来院患者の発生を来院患者発生モデルによってシミュレートする(ステップS2)。すなわち、来院患者発生モデルは、設定された確率密度関数に従う乱数を発生させて患者の来院時間間隔を与えるので、その来院時間間隔と経過時間t2が等しいときには来院患者が発生するものとし、その来院時間間隔と経過時間t2が等しくないときには来院患者が発生しないものとする。この来院患者の発生をシミュレートした結果により、現時点での経過時間t2において来院患者がいるか否かを判断する(ステップS3)。
【0085】
ここで、患者の来院時間間隔がある程度の時間となるように上記平均来院時間間隔μti等の設定をすると、経過時間t2がある程度の時間にならなければ来院患者が発生する可能性は低い。したがって、初期設定直後の“t2=0[分]”である現時点においては、通常は来院患者が発生せず、来院患者はいないものと判断され(ステップS3での判断結果が“NO”となり)、来院患者に係る処理(ステップS4〜ステップS6。詳細は後述。)を行わずに、前回の経過時間t1の時点で“診療中”状態であった診療窓口があるか否かを判断する(ステップS7)。
【0086】
この判断(ステップS7)は、診療窓口の残り診療時間や待ち患者等に係る処理(ステップS8〜ステップS13。詳細は後述。)を行うために、新たに発生した来院患者を割り当てた診療窓口以外で既に“診療中”状態となっている診療窓口があるか否かを判断する処理である。現時点においては、上述の初期設定で各診療窓口の状態を“空き”状態にしたところなので、“診療中”状態であった診療窓口はないものと判断され(ステップS7での判断結果が“NO”となり)、診療窓口の残り診療時間や待ち患者等に係る処理(ステップS8〜ステップS13)を行わずに、経過時間t1がシミュレーション期間T1になったか否かを判断する(ステップS14)。
【0087】
経過時間t1は、上述の初期設定で0分に初期化してあるため、当然シミュレーション期間T1にはなっていないものと判断される(ステップS14での判断結果は“NO”となる)。その後、経過時間t1及び経過時間t2をそれぞれインクリメントし(1分進め)、来院患者の発生をシミュレートする前述の処理に戻る(ステップS15を経てステップS2に戻る)。以後、来院患者が発生するまで、ステップS2、ステップS3、ステップS7、ステップS14及びステップS15の処理を上記同様に繰り返す。なお、シミュレーション期間T1としては、上述したように震災発生から数日間等の期間を設定するので、1分ずつインクリメントする経過時間t1が来院患者の発生前にシミュレーション期間T1に至ることはない(通常は来院患者の発生前にステップS14での判断結果が“YES”になることはない)。
【0088】
これにより、来院患者の発生をシミュレートする処理(ステップS2)が経過時間t2をインクリメントしつつ繰り返される。すると、いずれかの時点における経過時間t2で来院患者が発生し、その時点において来院患者がいるものと判断されて来院患者に係る処理へと進む(ステップS3での判断結果が“YES”になってステップS4に進む)。
【0089】
来院患者に係る処理では、まず、来院患者数をインクリメントし(1人加算し)、経過時間t2を0分にクリアする(ステップS4)。経過時間t2をクリアするのは、この時点の経過時間t2が来院患者発生モデルによりシミュレートされた患者の来院時間間隔に当たるので、再び経過時間t2を0分からインクリメントして(0分から1分ずつ進めて)来院患者発生モデルによる次の来院患者の発生をシミュレートするためである。次に、各診療窓口の状態から“空き”状態の診療窓口があるか否かを判断し(ステップS5)、“空き”状態の診療窓口があれば(ステップS5での判断結果が“YES”であれば)、来院患者を“空き”状態の一つの診療窓口に割り当てる(ステップS6)。すなわち、当該一つの診療窓口の状態を“診療中”状態に設定し、かつ、来院患者の診療時間を診療時間モデルによりシミュレートして当該一つの診療窓口の残り診療時間をシミュレートした診療時間に設定する。
【0090】
今、各診療窓口の状態を上述の初期設定で“空き”状態にしてあるので、来院患者数がインクリメントされて経過時間t2がクリアされた後に(ステップS4)、“空き”状態の診療窓口があるものと判断される(ステップS5での判断結果が“YES”となる)。これにより、最初に発生した前記来院患者は、“空き”状態の一つの診療窓口に割り当てられる(ステップS6)。
【0091】
その結果、一つの診療窓口が“診療中”状態になるが、前回の経過時間t1の時点で“診療中”状態であった診療窓口がないことに変わりはないので(ステップS7での判断結果は依然として“NO”なので)、続くステップS7、ステップS14、ステップS15、ステップS2及びステップS3の処理は上記同様に行われる。しかし、ステップS3から再びステップS7の処理に至った時には、前回の経過時間t1の時点で“診療中”状態に設定した診療窓口があるので、この時に前回の経過時間t1の時点で“診療中”状態であった診療窓口があるものと判断され、診療窓口の残り診療時間や待ち患者等に係る処理へと進む(ステップS7での判断結果が“YES”になってステップS8に進む)。
【0092】
診療窓口の残り診療時間や待ち患者等に係る処理では、まず、前回の経過時間t1の時点で“診療中”状態であった診療窓口の残り診療時間をディクレメントする(ステップS8)。ここで残り診療時間をディクレメントする(1分減らす)処理は、以前から既に“診療中”状態となっている診療窓口の診療時間が1分経過したことにする(診療が1分間行われたものとする)ための処理である。次に、“残り診療時間=0[分]”になった診療窓口があるか否かを判断する(ステップS9)。残り診療時間が0分になったということは、その診療窓口において割り当てられていた患者の診療が終了したことを意味する。そこで、“残り診療時間=0[分]”になった診療窓口がある場合(ステップS9での判断結果が“YES”の場合)には、診療済み患者数をインクリメントすると共に、当該診療窓口の状態を“空き”状態に設定する(ステップS10)。この場合、続いて待ち患者情報から待ち患者がいるか否かを判断し(ステップS11)、待ち患者がいれば(ステップS11での判断結果が“YES”であれば)、“空き”状態に設定した当該診療窓口に待ち患者を割り当てる(ステップS12)。すなわち、当該診療窓口の状態を再び“診療中”状態に設定し、かつ、待ち患者の診療時間を診療時間モデルによりシミュレートして当該診療窓口の残り診療時間をシミュレートした診療時間に設定する。またこのとき、当該診療窓口への割当によって待ち患者が減るので、割り当てた待ち患者に係る情報を待ち患者情報中からクリア(消去)すると共に、待ち患者情報の待ち患者数をディクレメントする(ステップS13)。なお、同時に複数の診療窓口が“残り診療時間=0[分]”になった場合には、その分診療済み患者数をインクリメントすると共に、それらの診療窓口の状態をそれぞれ“空き”状態に設定し、複数の待ち患者がいれば“空き”状態に設定した各診療窓口に待ち患者を割り当て、それらの割り当てた待ち患者に係る情報を待ち患者情報中からクリアし、その分待ち患者数をディクレメントする。
【0093】
今、“診療中”状態の診療窓口は、前回の経過時間t1の時点で“診療中”状態に設定したばかりなので、その診療窓口の残り診療時間がディクレメントされた後に(ステップS8)、“残り診療時間=0[分]”になった診療窓口はないものと判断される(ステップS9での判断結果が“NO”となる)。“残り診療時間=0[分]”になった診療窓口がない場合(ステップS9での判断結果が“NO”の場合)には、それ以降の診療窓口の残り診療時間や待ち患者等に係る処理(ステップS10〜ステップS13)は行わずに、ステップS14の処理へと進む。したがって、現時点ではステップS9からステップS14の処理へと進み、ステップS14及びステップS15の処理を経て再びステップS2の処理へと戻り、以後、設定した残り診療時間が0分になるまでステップS2、ステップS3、ステップS7、ステップS8、ステップS9、ステップS14及びステップS15の処理を同様に繰り返す。
【0094】
これにより、最初に発生した前記来院患者を割り当てた診療窓口については、残り診療時間が次第に少なくなり、やがて“残り診療時間=0[分]”になる。すると、その時点で“残り診療時間=0[分]”になった診療窓口があるものと判断され(ステップS9での判断結果が“YES”になり)、診療済み患者数がインクリメントされて前記来院患者が診療済み患者として計数されると共に、前記来院患者を割り当てていた診療窓口の状態が再び“空き”状態とされる(ステップS10)。
【0095】
最初に発生した前記来院患者に係る処理はこれを以て終了し、次いで待ち患者情報から待ち患者がいるか否かを判断する(ステップS11)。この時、待ち患者がいなければ(ステップS11での判断結果が“NO”であれば)ステップS14の処理へと進む。待ち患者情報は、ステップS5の処理で“空き”状態の診療窓口がないものと判断される場合に変更され得るが(詳細は後述。)、かかるステップS5での判断が未だなされておらず、上述の初期設定で初期化した“待ち患者無し”を表す状態が変更されていなければ、待ち患者はいないものと判断されて(ステップS11での判断結果が“NO”となって)ステップS14の処理へと進み、ステップS14及びステップS15の処理を経て再びステップS2の処理へと戻る。
【0096】
一方、最初に発生した前記来院患者に係る処理を行っている間にもステップS2の処理は繰り返し行われているので、新たに来院患者が発生した時点で来院患者に係る処理(ステップS4〜ステップS6)を上記同様に行い、それによって“診療中”状態に設定した診療窓口についても同様に次回のステップS8から残り診療時間をディクレメントしていく。また、ステップS2以下の処理は、最初に発生した前記来院患者に係る処理の終了後も繰り返し、新たに来院患者が発生した場合には上記同様に来院患者に係る処理(ステップS4〜ステップS6)を行って“診療中”状態に設定した診療窓口の診療時間を次回のステップS8からディクレメントしていく。
【0097】
このようにして順次来院患者が発生して診療窓口に割り当てられ、それぞれの来院患者を割り当てた診療窓口の残り診療時間がディクレメントされて次第に少なくなっていく。そして、来院患者を割り当てた各診療窓口が“残り診療時間=0[分]”となった各時点において、上記同様に診療済み患者数がインクリメントされて当該各診療窓口の状態が再び“空き”状態とされる(ステップS9及びステップS10)。これらの時点においても、待ち患者情報が“待ち患者無し”を表す状態のままであれば、続くステップS11での判断結果が“NO”となり、上記同様にステップS14及びステップS15の処理を経てステップS2以下の処理が繰り返される。
【0098】
設定した診療窓口数分の各診療窓口の状態は上述の初期設定で“空き”状態に初期化するので、繰り返し行われるステップS2の処理で発生した来院患者の人数が設定した診療窓口数以下である間は、ステップS5の処理で“空き”状態の診療窓口がないものと判断されることはない。したがって、“待ち患者無し”を表す状態に初期化した待ち患者情報が変更されることはなく、上述した処理によって医療活動経過がシミュレートされていく。また、発生した来院患者の人数が設定した診療窓口数を越えた場合であっても、その診療窓口数を越えた来院患者の発生時点で再び“空き”状態とされている診療窓口があれば、やはりステップS5の処理で“空き”状態の診療窓口がないものと判断されることはない。したがって、かかる場合にも“待ち患者無し”を表す状態に初期化した待ち患者情報が変更されることはなく、同様に上述した処理によって医療活動経過がシミュレートされていく。
【0099】
しかし、すべての診療窓口が“診療中”状態となっている時にステップS2の処理で新たに来院患者が発生すると、その後に続くステップS5の処理では“空き”状態の診療窓口がないものと判断される。この判断がなされたときには、発生した来院患者を他の病院へ転送するか否かを判断する処理へと進む(ステップS5での判断結果が“NO”となってステップS16へと進む)。
【0100】
来院患者を他の病院へ転送するか否かの判断(ステップS16)は、上述の初期設定(ステップS1)等による患者の転送条件に基づいて行う。ここで行う転送の判断の具体例としては、次のような判断形態によるものが挙げられる。
【0101】
・判断形態#1
他の病院の診療窓口(他の病院において同じ容態の患者を担当する診療科の診療窓口。以下の判断形態の説明において同じ。)に“空き”状態の診療窓口がある場合には、その病院へ来院患者を転送するものと判断する。すなわち、容態別医療活動経過シミュレーションにおいては、各病院について図4のシミュレーション手順による処理を並列的に(同時進行で)行うので、各病院の各診療窓口の状態を参照することによって他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口があるか否かを判断することができる。そこで、ステップS5の処理で“空き”状態の診療窓口がないものと判断されたときには、まず、他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口があるか否かを判断し、その判断の結果により、他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口があれば当該他の病院へ来院患者を転送するものと判断し、他の病院の診療窓口にも“空き”状態の診療窓口がなければ来院患者を転送しないものと判断する。
【0102】
ここで、他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口があるか否かは、各病院の各診療窓口の状態を一定時間間隔で監視する(どの病院で診療窓口が空いていて患者の受入れが可能な状態にあるかを定期的に探査する)ことによって判断するものとしてもよい。この場合、診療窓口の状態監視(患者の受入れが可能な状態にあるかの定期的な探査)を行う時間間隔は、上述の初期設定等で任意に設定することができ、例えば、シミュレーション上の時間経過を分単位で計時する上述の処理においては、診療窓口の状態監視を1分おきに行うことにしてもよく、数分おきに行うことにしてもよい。
【0103】
また、複数の他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口がある場合には、それらの病院のうちで患者の転送時間(それらの病院へ患者を搬送するのに要する時間)が最も短い病院へ来院患者を転送するものと判断する。
【0104】
以上の判断形態#1にあっては、“他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口があること”、各病院間での患者の転送時間(各病院間で患者を搬送するのに要する時間)及び“最も転送時間が短い病院へ来院患者を転送すること”を患者の転送条件として設定しておく。例えば、“他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口があること”と“最も転送時間が短い病院へ来院患者を転送すること”についてはプログラミング段階等で予め設定しておき、各病院間での患者の転送時間を初期設定(ステップS1)で設定することにしてもよい。
【0105】
なお、患者の転送時間は、各病院間の転送経路となる道路の状態(被害状況)等に基づいて任意に設定することができる。例えば、実際の地域における医療協力ネットワークを対象とするときには、その地域の実情から設定することができ、その地域で設定された緊急道路等による転送時間を設定することもできる(これらのことは、以下の判断形態においても同様である。)。
【0106】
・判断形態#2
他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口があり、かつ、当該他の病院へ転送した方が来院患者を早く診療できる場合には、当該他の病院へ来院患者を転送するものと判断する。この判断形態#2では、まず、上記判断形態#1同様に各病院の各診療窓口の状態から他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口があるか否かを判断する。そして、他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口がない場合には転送しないものと判断し、他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口がある場合には、当該他の病院へ転送したときと転送しないときのいずれが来院患者を早く診療できるか判断する。具体的には、すべて“診療中”状態となっている各診療窓口(現にステップS16の処理に至っている転送元の病院における各診療窓口)の残り診療時間等から待ち時間を演算すると共に、その待ち時間と当該他の病院への患者の転送時間とを比較し、転送時間の方が短ければ当該他の病院へ来院患者を転送するものと判断する。
【0107】
ここで、待ち時間の演算においては、原則として各診療窓口の残り診療時間のうちで最小の残り診療時間を待ち時間とするものとする。ただし、既に他の待ち患者がいるときには、既にいる待ち患者を診療窓口に割り当てた後に最も早く“空き”状態となる診療窓口の残り診療時間を待ち時間とする(例えば、既に他の待ち患者が1人いるときには2番目に少ない残り診療時間を待ち時間とし、既に他の待ち患者が2人いるときには3番目に少ない残り診療時間を待ち時間とする)。さらに、既に診療窓口数分以上の待ち患者がいるときには、それらの待ち患者の診療時間を割当に先立ってシミュレートしたり平均診療時間とみなしたりして特定し、特定した各診療時間を各診療窓口の残り診療時間に加算して待ち時間を演算する。なお、既に待ち患者がいるかどうかは、その時点での待ち患者情報を参照することによって判断する。
【0108】
また、複数の他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口がある場合には、それらの病院のうちで患者の転送時間が最も短い病院を転送先の候補とし、その病院への転送時間を待ち時間と比較する。
【0109】
以上の判断形態#2にあっては、“他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口があること”、各病院間での患者の転送時間、待ち時間を演算する前述の演算形態、“最も短い転送時間を待ち時間との比較対象とすること”及び“他の病院へ転送した方が来院患者を早く診療できること”(換言すれば“待ち時間よりも転送時間の方が短いこと”)を患者の転送条件として設定しておく。例えば、“他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口があること”、待ち時間を演算する前述の演算形態、“最も短い転送時間を待ち時間との比較対象とすること”及び“他の病院へ転送した方が来院患者を早く診療できること”についてはプログラミング段階等で予め設定しておき、各病院間での患者の転送時間を初期設定(ステップS1)で設定することにしてもよい。
【0110】
・判断形態#3
他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口があるか否かに拘わらず、他の病院へ転送した方が来院患者を早く診療できる場合には、当該他の病院へ来院患者を転送するものと判断する。この判断形態#3は、他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口がある場合に限らず、来院患者を転送すれば結果的に待ち時間が少なくなる場合に他の病院へ来院患者を転送するものと判断する形態であり、例えば、他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口がなかったとしても、いずれかの病院で転送中に“空き”状態となる診療窓口があったり、あるいは、残り診療時間が僅かになる診療窓口があったりする場合には、他の病院へ来院患者を転送するものと判断する。
【0111】
具体的には、他の病院における待ち時間を上記判断形態#2で述べた待ち時間の演算形態によって演算する(ただし、“空き”状態の診療窓口がある病院については待ち時間を0分とする)と共に、演算した各病院における待ち時間から当該各病院への患者の転送時間を減算する。これにより、減算後の待ち時間は、来院患者を転送したときの各病院における待ち時間(来院患者が到着した後に診療を待つ時間)となるので、その減算後の待ち時間に基づいて来院患者を転送するか否かを判断する。なお、減算後の待ち時間が負である場合は、事実上は待ち時間が0分であることを意味するので、負の時間値を用いずに0分としてしまってもよい。
【0112】
例えば、他の病院でも待ち時間があるなら転送しないものと判断することにしてもよい。すなわち、いずれの病院でも上記減算後の待ち時間が0分を越えている場合には、転送先でも待ち時間があることになるので、来院患者を転送しないものと判断する。これに対し、いずれかの病院で上記減算後の待ち時間が0分以下である場合には、その病院に転送すれば待ち時間がないことになる(転送時間中にいずれかの診療窓口が“空き”状態になる)ので、その病院へ来院患者を転送するものと判断する。なお、上記減算後の待ち時間が0分以下である病院が複数ある場合には、患者の転送時間が最も短い病院に来院患者を転送するものと判断する。
【0113】
ただし、この判断によって転送するときには、結果として来院患者の待ち時間が転送時間に等しくなるので、転送しない場合の待ち時間(現にステップS16の処理に至っている転送元の病院での待ち時間)も演算し、演算した待ち時間が転送時間より短ければ来院患者を転送しないものと判断する必要がある。したがって、いずれかの病院で上記減算後の待ち時間が0分以下であり、かつ、その病院への転送時間よりも転送しない場合の待ち時間の方が長い場合に限り、来院患者を転送するものと判断する。
【0114】
あるいは、結果として来院患者の待ち時間が半分以下等の予め定めた一定基準以下になる場合に転送するものと判断することにしてもよい。すなわち、各病院について、上記減算後の待ち時間が0分を越えている場合には、その病院への転送時間に上記減算後の待ち時間を加算して結果的な待ち時間とすると共に、上記減算後の待ち時間が0分以下である場合には、その病院への転送時間を結果的な待ち時間とする。そして、転送しない場合の待ち時間を演算し、各病院についての結果的な待ち時間のうちに転送しない場合の待ち時間の一定基準以下(半分以下等)のものがあれば、その結果的な待ち時間が導出された病院へ来院患者を転送するものと判断し、かかる結果的な待ち時間がなければ来院患者を転送しないものと判断する。なお、かかる結果的な待ち時間が複数の病院について導出された場合には、結果的な待ち時間が最も短い病院に来院患者を転送するものと判断する。
【0115】
以上の判断形態#3にあっては、各病院間での患者の転送時間、待ち時間を演算する前述の演算形態、上記減算後の待ち時間ないし上記結果的な待ち時間を演算する前述の演算形態、演算した各待ち時間に基づく前述の判断形態及び待ち時間の上記一定基準を必要に応じて適宜患者の転送条件として設定しておく。例えば、待ち時間を演算する前述の演算形態、上記減算後の待ち時間を演算する前述の演算形態及び演算した各待ち時間に基づく前述の判断形態についてはプログラミング段階等で予め設定しておき、各病院間での患者の転送時間を初期設定(ステップS1)で設定することにしてもよい。あるいは、待ち時間を演算する前述の演算形態、上記結果的な待ち時間を演算する前述の演算形態及び演算した各待ち時間に基づく前述の判断形態についてはプログラミング段階等で予め設定しておき、各病院間での患者の転送時間と待ち時間の上記一定基準を初期設定(ステップS1)で設定することにしてもよい。
【0116】
・判断形態#4
患者の容態に応じて転送するか否かを判断する。例えば、▲1▼重傷患者(手術不要)、▲2▼重傷患者(手術要)、▲3▼透析対象患者及び▲4▼重症患者については、上記判断形態#1、判断形態#2又は判断形態#3等による転送の判断を行うこととし、▲5▼軽傷患者については、すべて転送しないものと判断する。
【0117】
ここで、▲5▼軽傷患者を転送しないものと判断する場合、▲5▼軽傷患者に係る医療活動経過シミュレーションにおいては、プログラミング段階等でステップS16及びステップS17の処理を削除し、ステップS5での判断結果が“NO”であれば常に後述のステップS18へ進むことにしてもよい。演算量の軽減ないし処理速度の向上の観点からすれば、このようにステップS16及びステップS17の処理を削除する方が有効であるが、それぞれの容態の患者を統一的な処理形態で取り扱うという観点からすれば、ステップS16での判断結果を常に“NO”とするように初期設定(ステップS1)等で手当することにしてもよい。
【0118】
・判断形態#5
上記判断形態#1、判断形態#2又は判断形態#3等による転送の判断において、来院患者を転送する他の病院として判断の対象にする病院を予め設定する。すなわち、初期設定(ステップS1)等で来院患者の転送先とすることができる病院を予め設定し、設定した病院だけについて診療窓口の状態や待ち時間等に基づく上述の判断を行う。あるいは、初期設定(ステップS1)等で来院患者の転送先としない病院を予め設定し、設定した病院については上述の判断を行わないことにする。
【0119】
例えば、小さな病院から大きな病院へは来院患者を転送するが、大きな病院から小さな病院へは来院患者を転送しないようにする。具体的には、小さな病院に係る医療活動経過シミュレーションにおいて、他の大きな病院を転送の判断の対象とする病院として転送時間等の設定を行い、上記判断形態#1、判断形態#2又は判断形態#3等での判断対象とする。これに対し、大きな病院に係る医療活動経過シミュレーションにおいては、他の小さな病院を転送の判断の対象とせず、それ以外の他の病院を転送の判断の対象とするように転送時間等の設定を行い、小さな病院は判断対象とせずに上記判断形態#1、判断形態#2又は判断形態#3等による転送の判断を行う。
【0120】
なお、ここにいう小さな病院ないし大きな病院としては、実際にある小さな病院ないし大きな病院を当てはめることにしてもよく、シミュレーション上で仮定する小さな病院ないし大きな病院を当てはめることにしてもよい。また、転送先とすることができる病院と転送先としない病院(転送先とすることができない病院)は、転送経路となる道路の状態(被害状況)等に基づいて適宜設定することにしてもよい。
【0121】
転送の判断の具体例としては、上述したような判断形態によるものが挙げられるが、必要に応じて適宜他の判断形態を採用することにしてもよい。ステップS16の処理では、設定された患者の転送条件に基づく以上のような判断形態によって来院患者を他の病院へ転送するか否かを判断する。
【0122】
これにより、今、来院患者を他の病院へ転送するものと判断されたとすると(ステップS16での判断結果が“YES”であったとすると)、その来院患者を他の病院へ転送する転送患者として転送患者数をインクリメントする(ステップS17)。転送患者数は、上述したように転送先の病院毎に計数するので、ここではステップS16の処理により転送先として判断された病院への転送患者数だけをインクリメント(1人加算)する。なお、これによって発生する転送患者は、転送先の病院で受け入れられることになるが、その受入れの処理は、図4のシミュレーション手順による処理に加える上述の各病院に転送されてくる患者の処理に当たるので、詳細は後述の「ii.各病院に転送されてくる患者の処理」で説明する。
【0123】
転送患者数をインクリメントした後はステップS8の処理へと進み、上記同様にステップS8以降の処理を行ってステップS2へと戻り、ステップS2以下の処理を繰り返す。そして、再びすべての診療窓口が“診療中”状態となっている時にステップS2の処理で新たな来院患者が発生すると、上記同様にステップS5の処理からステップS16の処理へと進むが、今度は来院患者を他の病院へ転送しないものと判断されたとすると(ステップS16での判断結果が“NO”であったとすると)、発生した前記新たな来院患者を待ち患者とする処理を行う(ステップS18)。すなわち、前記新たな来院患者の発生時間(前記新たな来院患者が発生した現時点での経過時間t1)等を待ち患者に係る情報として待ち患者情報中に書き込むと共に、待ち患者情報の待ち患者数をインクリメント(1人加算)する。これにより、前記新たな来院患者が最初の待ち患者として計数され、現時点で前記新たな来院患者が待ち患者となっていることを表す状態に待ち患者情報が変更される。
【0124】
上述の初期設定(ステップS1)で“待ち患者無し”を表す状態に初期化してある待ち患者情報は、この処理(ステップS18)によって“待ち患者有り”を表す状態に変更され、次いでステップS8の処理へと進んで上記同様に診療窓口の残り診療時間をディクレメントする。ここで、“残り診療時間=0[分]”となる診療窓口がなければ、上記同様にステップS9からステップS14及びステップS15の処理を経てステップS2以下の処理を繰り返す。しかし、このように待ち患者情報が“待ち患者有り”を表す状態になった後でいずれかの診療窓口が“残り診療時間=0[分]”になり、その診療窓口の状態が“空き”状態とされると(ステップS9及びステップS10)、続くステップS11の処理で待ち患者情報から待ち患者がいるものと判断される。
【0125】
すると、“空き”状態とされた診療窓口に対し、待ち患者情報中にある待ち患者(前記新たな来院患者)が割り当てられる(ステップS12)。そして、その待ち患者に係る情報が待ち患者情報中からクリアされ、待ち患者情報の待ち患者数がディクレメントされる(ステップS13)。
【0126】
一方、前記新たな来院患者の発生以降、再びすべての診療窓口が“診療中”状態となっている時にステップS2の処理で更なる来院患者が発生し、ステップS16の処理で来院患者を転送しないものと判断されると、発生した前記更なる来院患者も待ち患者とする処理が行われる(ステップS18)。ここで、待ち患者とされた前記新たな来院患者が診療窓口に割り当てられた後に前記更なる来院患者が発生した場合には、前記新たな来院患者が診療窓口に割り当てられた時点で待ち患者情報が再び“待ち患者無し”を表す状態に戻っているので、ステップS18の処理では上記同様に前記更なる来院患者を待ち患者とする処理を行う。すなわち、前記更なる来院患者の発生時間等を待ち患者情報中に書き込むと共に、待ち患者情報の待ち患者数をインクリメントし、前記更なる来院患者が待ち患者となっていることを表す状態に待ち患者情報を変更する。この場合、続くステップS8以降の処理は、前記新たな来院患者を待ち患者とした後と同様に行われる。
【0127】
これに対し、前記新たな来院患者が診療窓口に割り当てられる前に前記更なる来院患者が発生した場合、ステップS18の処理では、前記更なる来院患者の発生時間等を2人目の待ち患者に係る情報として待ち患者情報中に追加して書き込むと共に、待ち患者情報の待ち患者数をさらにインクリメントする。これにより、前記更なる来院患者が前記新たな来院患者に次ぐ2人目の待ち患者として計数され、前記新たな来院患者と前記更なる来院患者が待ち患者となっていることを表す状態に待ち患者情報が変更される。
【0128】
以後においても同様に、既に待ち患者がいる状態でさらに待ち患者とする来院患者が発生すると、そのさらに発生した来院患者が既にいる待ち患者に次ぐ待ち患者として待ち患者情報中に順次追加される(ステップS18)。そして、いずれかの診療窓口が“残り診療時間=0[分]”となって“空き”状態にされると(ステップS9及びステップS10)、ステップS11の処理で待ち患者がいるものと判断され、続くステップS12の処理では、来院患者として発生した発生時間が最も早い待ち患者が“空き”状態になった診療窓口へ割り当てられ、ステップS13の処理では、その発生時間が最も早い待ち患者に係る情報が待ち患者情報中からクリアされて待ち患者数がディクレメントされる。これにより、順次“空き”状態になる診療窓口に対し、待ち患者が発生時間の早い者から順次割り当てられ、待ち患者に係る情報が発生時間の早い待ち患者に係るものから順次クリアされていく。
【0129】
ステップS13の処理を行った後はステップS14の処理へと進み、上記同様にステップS14及びステップS15の処理を経てステップS2の処理へと戻り、ステップS2以下の処理を繰り返す。なお、図4のシミュレーション手順では、このように“空き”状態となった診療窓口に待ち患者を割り当てた後でステップS2の処理へ戻ることにしているので、“空き”状態となった診療窓口に対しては待ち患者の割当が優先され、待ち患者がいる状態で新たに発生した来院患者が先に診療窓口に割り当てられてしまうことはない。
【0130】
以上のようにして初期設定(ステップS1)後のステップS2以下の処理が繰り返され、やがて経過時間t1がシミュレーション期間T1に至ると、その時点でのステップS2以下の処理が行われた時に(ステップS14での判断結果が“YES”となって)図4のシミュレーション手順による処理は終了する。これにより、個々の病院における一定の容態の来院患者に対する医療活動経過がシミュレートされ、当該容態の来院患者について設定したシミュレーション期間T1、来院患者発生モデル、診療時間モデル、診療窓口数及び患者の転送条件に対し、個々の病院における来院患者数、各病院への転送患者数、待ち患者数及び診療済み患者数がどのように推移して最終的にどのようになるのかを示す情報が得られることになる。
【0131】
個々の病院に係る容態別来院患者の医療活動経過シミュレーションは、基本的には以上のような流れで行うが、次のような変形を加えることも可能である。
【0132】
・時間経過に伴う来院患者発生モデルの変更
震災発生からの経過時間t1に応じてステップS2の処理で用いる来院患者発生モデルを変更し、来院患者の発生状況を変化させる。これにより、震災が発生した場合の時間経過に伴う来院患者数の変化をシミュレーションに反映させることができる。
【0133】
例えば、患者の来院時間間隔の確率分布が上記式(1)の確率密度関数fti(Tti)で与えられる来院患者発生モデルを用いることとした場合において、シミュレーション期間T1を震災発生後の三日間(4319分)に設定し、震災発生日(0[分]≦t1<1440[分])、震災発生後二日目(1440[分]≦t1<2880[分])及び震災発生後三日目(2880[分]≦t1<4320[分])のそれぞれについて異なる平均来院時間間隔μtiを設定する。そして、シミュレーション開始当初は、震災発生日について設定した平均来院時間間隔μtiの確率密度関数fti(Tti)による来院患者発生モデルをステップS2の処理で用いると共に、ステップS15とステップS2の間で経過時間t1が震災発生後二日目に至ったか否か(t1=1440[分]となったか否か)を判断する。震災発生後二日目に至ったと判断された後は、震災発生後二日目について設定した平均来院時間間隔μtiの確率密度関数fti(Tti)による来院患者発生モデルをステップS2の処理で用いると共に、ステップS15とステップS2の間で経過時間t1が震災発生後三日目に至ったか否か(t1=2880[分]となったか否か)を判断する。震災発生後三日目に至ったと判断された後は、シミュレーション期間T1に至るまで、震災発生後三日目について設定した平均来院時間間隔μtiの確率密度関数fti(Tti)による来院患者発生モデルをステップS2の処理で用いる。これにより、震災発生後のそれぞれの日について来院患者の発生をシミュレートする来院患者発生モデルが変更され、設定した平均来院時間間隔μtiに応じて震災発生後の来院患者の発生状況が変化していく。
【0134】
・シミュレーション期間の期間限定
上述した図4の手順では、シミュレーション期間T1を震災発生からの期間としたが、これを震災発生後のある時点から開始してある時点で終了する期間として設定することにしてもよい。この場合には、ステップS1とステップS2の間に経過時間t1を1分ずつインクリメントしつつシミュレーション期間の開始時点に至ったか否かを判断する処理を追加し、経過時間t1がシミュレーション期間の開始時点に至った時からステップS2以下の処理を上記同様に行い、ステップS14では経過時間t1がシミュレーション期間の終了時点に至ったか否かを判断するようにする。例えば、医療機能がある時点から復旧するような病院に係る医療活動経過シミュレーションは、このように期間限定したシミュレーション期間の設定形態を採用することによって行うこともできる。
【0135】
・経過時間t2の初期設定
上述の経過時間t2は、0分に初期化して初期設定直後に限り震災発生時からの経過時間を計時するものとしたが、震災発生後に最初の来院患者が到着する時間を予測できる場合には、その予測に基づく初期値を設定することにしてもよい。例えば、最初の来院患者が到着するまでの予測時間が患者の平均来院時間間隔よりも長いときには、その長い分の負の時間値を経過時間t2の初期値として設定してもよい。あるいは、同予測時間が患者の平均来院時間間隔よりも短いときには、その短い分の正の時間値を経過時間t2の初期値として設定してもよい。
【0136】
ii.各病院に転送されてくる患者の処理
図4のシミュレーション手順においては、ステップS2の処理から始まってステップS14の処理に至るまでの間がシミュレーション上の1分間となっており、この1分間毎の処理をすべての病院について同時進行させつつ行う形態が容態別医療活動経過シミュレーションの基本となる。そして、容態別医療活動経過シミュレーションは、上述したように、かかる図4のシミュレーション手順による処理に対して各病院に転送されてくる患者の処理を加えたものとなる。
【0137】
各病院に転送されてくる患者は、当該各病院以外の病院に係る医療活動経過シミュレーションにおいて、上記ステップS16及びステップS17の処理で当該各病院へ転送するものとされた転送患者である。したがって、各病院に転送されてくる患者の処理は、それぞれの病院について行われる上記ステップS16の処理で転送先と判断された各病院での転送患者の受入れをシミュレートすることによって行う。転送患者の受入れをシミュレートする形態の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
【0138】
・転送患者の受入シミュレート形態#1
転送先病院(上記ステップS16の処理で来院患者の転送先と判断された病院。以下の転送患者の受入シミュレート形態の説明において同じ。)に“空き”状態の診療窓口があり、かつ、転送患者の診療を最優先する場合には、その“空き”状態の診療窓口に転送患者を割り当てることにより、転送先病院での転送患者の受入れをシミュレートする。
【0139】
この場合、転送先病院にある“空き”状態の診療窓口は、転送患者の発生時点(来院患者を転送先病院へ転送するものとした時点。以下の転送患者の受入シミュレート形態の説明において同じ。)で当該転送患者に割り当てるものとして確保する。例えば、転送患者の転送中は他の患者を受け入れないことにしておき、当該転送患者が転送先病院に到着した時点で“診療中”状態として当該転送患者を割り当てる。ただし、転送先病院で複数の診療窓口が“空き”状態になっているときは、転送患者を割り当てる“空き”状態の診療窓口を確保した上で他の“空き”状態の診療窓口に他の患者を割り当てることにしてよい。
【0140】
ここで、転送患者が転送先病院に到着する時点については、転送中の時間を計時するタイマ等の計時手段を適宜導入して判定すればよい。例えば、転送患者の発生時点で転送先病院への転送時間を設定する計時タイマを導入し、その計時タイマが示す時間を経過時間t1のインクリメントに伴ってディクレメントする。そして、計時タイマが0分を示すに至った時点で転送患者が転送先病院に到着したものとして診療窓口への割当を行う。診療窓口への転送患者の割当については、上述した来院患者や待ち患者の割当(上記ステップS6やステップS12の処理)と同様に行う。すなわち、当該診療窓口の状態を“診療中”状態に設定し、かつ、当該転送患者の診療時間を診療時間モデルによりシミュレートして当該診療窓口の残り診療時間をシミュレートした診療時間に設定する。ただし、その診療時間をシミュレートする診療時間モデルとしては、転送先病院について設定してあるものを用いる。
【0141】
あるいは、転送患者の発生時点で転送先病院にある“空き”状態の診療窓口を当該転送患者に割り当てることとしてもよい。すなわち、転送患者の発生時点で当該診療窓口の状態を“診療中”状態にすると共に、転送先病院について設定してある診療時間モデルにより当該転送患者の診療時間をシミュレートし、そのシミュレートした診療時間に転送先病院への転送時間を加えた時間を当該診療窓口の残り診療時間として設定する。このようにすると、実際には転送中である患者に診療窓口が割り当てられている時間帯が生じることになるが、転送患者の診療を最優先する場合であれば(単なるシミュレーション上の便法に過ぎないので)何等支障はない。
【0142】
なお、転送患者を割り当てた診療窓口についても、来院患者や待ち患者を割り当てた診療窓口同様、次回のステップS8(転送患者の割当をした時点後の上記ステップS2以下の処理におけるステップS8)から残り診療時間をディクレメントする。そして、“残り診療時間=0[分]”となった時点で当該診療窓口を再び“空き”状態とし、診療済み患者数をインクリメントする(ステップS9及びステップS10)。このことは、以下の受入シミュレート形態においても同様である。
【0143】
・転送患者の受入シミュレート形態#2
転送先病院に“空き”状態の診療窓口がある場合には、その“空き”状態の診療窓口に転送患者を割り当てることを原則として転送先病院での転送患者の受入れをシミュレートする。ただし、転送患者の転送中に転送先病院で新たに来院患者が発生したときには、その来院患者と転送患者のいずれを優先するかを判断した上で診療窓口への割当を行う。
【0144】
この受入シミュレート形態#2では、上述の計時タイマ等によって転送中の時間を計時し、転送中である転送患者は転送先病院の診療窓口に割り当てないことにする。そして、転送患者が転送先病院に到着した時点で“空き”状態の診療窓口に当該転送患者を割り当てることとするが、それ以前に転送先病院で新たに来院患者が発生したときには、その時点で発生した来院患者と転送患者のいずれを優先して“空き”状態の診療窓口に割り当てるか判断する。
【0145】
発生した来院患者と転送患者のいずれを優先するかについては、実際の医療活動では両患者の容態の程度を比較して判断するのが望ましい。しかし、実際の医療活動で転送先病院の医者が到着時間の異なる患者の容態の程度を比較することはできないので、かかる比較による判断をシミュレートすることはできない。したがって、発生した来院患者と転送患者のいずれを優先するかのシミュレーション上の判断形態を予め特定しておく必要がある。その判断形態を特定した受入シミュレート形態#2の例としては、次のものが挙げられる。
【0146】
(イ)新たに発生した来院患者を優先するものと判断する。すなわち、発生した来院患者を“空き”状態の診療窓口に割り当て、転送患者については、転送先病院に到着した時点で他の来院患者同様に待ち患者とする(上記ステップS18の処理を行う)。ただし、その到着時点で別の診療窓口が“空き”状態になっているときは、当該別の診療窓口に転送患者を割り当てることにしてよい。
【0147】
(ロ)新たに来院患者が発生した時点での残り転送時間によって判断する。ここにいう残り転送時間とは、転送中の転送患者が転送先病院に到着するまでに要する時間であり、例えば、新たに来院患者が発生した時点で上述の計時タイマが示している時間がこれに当たる(以下の転送患者の受入シミュレート形態の説明において同じ。)。新たに来院患者が発生した時点で未だ残り転送時間が多く、転送患者の到着までに長時間を要する場合には、発生した来院患者を優先するものと判断して“空き”状態の診療窓口に割り当て、転送患者は上記(イ)の形態と同様に取り扱う。これに対し、新たに来院患者が発生した時点で残り転送時間が少なく、じきに転送患者が到着するような場合には、転送患者を優先するものと判断して“空き”状態の診療窓口を確保しておき、発生した来院患者は“空き”状態の診療窓口がないときの処理(上記ステップS5での判断結果が“NO”であるときの処理)によって取り扱う。ただし、転送先病院で複数の診療窓口が“空き”状態になっているときは、転送患者を割り当てる“空き”状態の診療窓口を確保した上で他の“空き”状態の診療窓口に発生した来院患者を割り当てることにしてよい。なお、残り転送時間が多いか少ないかについては、例えば、その多少の基準とする残り転送時間の閾値を予め設定しておき、設定した閾値と新たに来院患者が発生した時点での残り転送時間とを比較することによって判定するものとしてもよい。
【0148】
・転送患者の受入シミュレート形態#3
転送患者が転送先病院に到着した時点で当該転送患者について上記ステップS5以下の処理を行うことにより、転送先病院での転送患者の受入れをシミュレートする。これにより、転送患者の到着時に“空き”状態の診療窓口がある場合には、その診療窓口に転送患者が割り当てられることになる。なお、転送先病院への転送患者の到着時点は、上述の計時タイマ等によって上記同様に判定する。
【0149】
ただし、転送患者の到着時に“空き”状態の診療窓口がない場合においては、転送されてきた患者をさらに他の病院へ転送することは好ましくないので、続くステップS16の処理で当該転送患者を転送するものと判断されないようにしておく方がよい。例えば、転送患者については再転送を禁止するフラグを立てることにし、そのフラグをステップS16の処理で参照することによって転送しないものとの判断がなされるようにする。このような再転送の禁止については、上述の初期設定(ステップS1)等により患者の転送条件の一つとして設定しておくものとしてもよい。
【0150】
・転送患者の受入シミュレート形態#4
転送先病院に“空き”状態の診療窓口がなく、かつ、転送患者の診療を最優先する場合には、転送患者を転送先病院の待ち患者として待ち患者情報中に書き込むことによって転送患者の受入れをシミュレートする。これにより、転送患者の発生時点で転送先病院に待ち患者がいなければ、転送先病院で最初に“空き”状態となった診療窓口に転送患者が割り当てられ、転送患者の発生時点で転送先病院に待ち患者がいれば、それらの待ち患者に次いで転送患者が“空き”状態となった診療窓口に割り当てられることになる。なお、転送先病院への転送患者の到着時点は、上述の計時タイマ等によって上記同様に判定する。
【0151】
ここで、待ち患者とした転送患者を割り当てる診療窓口が“空き”状態となる前に当該転送患者が転送先病院に到着していれば、当該転送患者は転送先病院における待ち患者と同様に処理される。しかし、当該診療窓口が“空き”状態となった時点で当該転送患者が転送先病院に到着していなければ、上記受入シミュレート形態#1同様に当該診療窓口を確保する必要がある。このため、例えば、当該転送患者の転送中は当該診療窓口に他の患者を受け入れないことにしておき、当該転送患者が転送先病院に到着した時点で当該診療窓口に当該転送患者を割り当てる。あるいは、当該診療窓口が“空き”状態となった時点で当該診療窓口を再び“診療中”状態とし、当該転送患者の診療時間(転送先病院について設定してある診療時間モデルによりシミュレートした診療時間)に残り転送時間を加えた時間を当該診療窓口の残り診療時間として設定する。このようにすれば、転送患者の転送中に転送先病院で新たに来院患者が発生したとしても、その来院患者より転送患者の方を優先して診療する医療活動経過をシミュレートすることができる。
【0152】
・転送患者の受入シミュレート形態#5
上記受入シミュレート形態#4において、必ずしも転送患者の診療を最優先するのではなく、転送患者を割り当てる診療窓口が“空き”状態となってから当該転送患者が到着するまでの間に転送先病院で新たに来院患者が発生した場合には、その来院患者と当該転送患者のいずれを優先するかを判断した上で診療窓口への割当を行う。この判断は、上記シミュレート形態#2で行う判断と同様の処理であるので、受入シミュレート形態#5は、かかる判断を行う場合に上記(イ)又は(ロ)と同様の形態となり、それ以外の場合は上記受入シミュレート形態#4と同様の形態となる。
【0153】
転送患者の受入シミュレート形態としては以上のようなものが挙げられるが、上述した転送患者の受入シミュレート形態を適宜組み合わせて採用することもできる。例えば、受入シミュレート形態#1と受入シミュレート形態#4を組み合わせると、転送先病院に“空き”状態の診療窓口があるかどうかに拘わらず、転送患者の診療が最優先される形態となる。一方、受入シミュレート形態#2と受入シミュレート形態#5を組み合わせると、転送先病院に“空き”状態の診療窓口があるかどうかに拘わらず、来院患者と転送患者のいずれを優先するかを判断した上で診療窓口への割当が行われる形態となる。
【0154】
さらに、上記ステップS16の処理における判断形態との関係では、例えば、上記判断形態#1や判断形態#2によってステップS16の処理を行う場合に受入シミュレート形態#1や受入シミュレート形態#2を採用するのが好適である。また、上記判断形態#3によってステップS16の処理を行う場合には、上述した受入シミュレート形態のうちの任意の形態を採用することができ、それらを適宜組み合わせた形態も採用することができる。
【0155】
各病院に転送されてくる患者の処理は、以上のような受入シミュレート形態によって行うが、各病院で受け入れた転送患者については、各病院毎に受入転送患者数として計数することとし、シミュレーション期間T1中にどの程度の転送患者を受け入れていったかが分かるようにする。すなわち、各病院に転送されてくる患者の処理を行うに当たっては、その処理の実行に必要な変数の一つとして、各病院で受け入れた転送患者の人数を示す各病院毎の受入転送患者数を導入する。そして、各病院毎の受入転送患者数は、上述の初期設定(ステップS1)の時点で0人に初期化すると共に、以後の処理の進行に伴って当該各病院に転送されてくる転送患者を累積的に加算していくものとし、最終的にはシミュレーション期間T1の間に当該各病院に転送されてきた転送患者の総人数を示すものとする。
【0156】
(3)まとめ
容態別医療活動経過シミュレーションは、以上のような図4のシミュレーション手順による処理と各病院に転送されてくる患者の処理によって行われる。すなわち、それぞれの病院について図4のシミュレーション手順による処理を並列的に実行すると共に、それらの処理と並行して上述の各病院に転送されてくる患者の処理を実行し、あるいは、それらの処理に対する割込処理の形で上述の各病院に転送されてくる患者の処理を実行することにより、一定の容態の来院患者を対象とする容態別医療活動経過シミュレーションが行われる。
【0157】
そして、かかる容態別医療活動経過シミュレーションをすべての容態の患者について並列的に行い、あるいは、それぞれの容態の患者毎に順次行うことにより、震災時の医療機関である医療協力ネットワーク全体による医療機能がシミュレートされる。
【0158】
2.シミュレーション例
次に、上述した医療機能のシミュレーション過程による具体的なシミュレーション例について説明する。本シミュレーション例は、次のような採用形態等による上述の処理を規定したプログラムをコンピュータ読取可能な記録媒体に記録し、その記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータに読み込ませて実行するものである。
【0159】
(1)採用形態等
本シミュレーション例では、転送の判断形態として、▲1▼重傷患者(手術不要)、▲2▼重傷患者(手術要)、▲3▼透析対象患者及び▲4▼重症患者については上記判断形態#2を採用することにし、▲5▼軽傷患者については上記判断形態#4により転送しないものとする形態を採用することにする。そして、判断形態#2における患者の転送条件のうち、“他の病院の診療窓口に“空き”状態の診療窓口があること”、上述の待ち時間を演算する演算形態、“最も短い転送時間を待ち時間との比較対象とすること”及び“他の病院へ転送した方が来院患者を早く診療できること”については、初期設定以前のプログラミング段階で予め設定しておくことにする。また、転送患者の受入シミュレート形態としては、上記受入シミュレート形態#1(転送先病院に“空き”状態の診療窓口があり、かつ、転送患者の診療を最優先する場合)を採用することにする。
【0160】
さらに、震災時における救急医療の機能を評価する上で重要な期間を震災発生からの三日間と考え、シミュレーション期間T1を予め設定しておく。すなわち、シミュレーション期間T1については、震災発生からの三日間(4319[分])に予め定め、初期設定時に“T1=4319[分]”とする設定が自動的になされるようにしておく(プログラミングしておく)。また、震災発生からの経過時間t1、患者来院後の経過時間t2、来院患者数、各病院への転送患者数、待ち患者情報、診療済み患者数、診療窓口の状態、診療窓口の残り診療時間及び受入転送患者数についての初期化は、デフォルト値(0)とする定型的な処理なので、これらも初期設定時に自動的になされるようにしておく。
【0161】
したがって、本シミュレーション例においては、医療協力ネットワークを構築する病院を選定し、初期設定(上記ステップS1)で各病院についての来院患者発生モデル、診療時間モデル及び診療窓口数並びに各病院間での患者の転送時間を指定する。すなわち、シミュレーション開始時の入力手段等による設定は、病院数、来院患者発生モデル、診療時間モデル、診療窓口数及び転送時間の4種のパラメータについて行うだけでよく、それらの設定に基づいて医療機能のシミュレーションが実行される。
【0162】
(2)設定
i.医療協力ネットワーク(病院数及び転送時間等)
本シミュレーション例では、図5に示したような地域で震災が発生した場合を想定し、その震災時に構築される医療協力ネットワークを対象として医療機能のシミュレーションを行う。
【0163】
図5において、縦横の実線は道路を表しており、四方の外周付近にある間隔の広い2本の実線が幹線道路を表し、それ以外の実線が他の主要道路を表している(各実線の太さないし各実線間の幅が道路の規模を表すものとなっている)。縦横の点線は、小規模な車道や徒歩道等の他の小規模道路を表し、併せて土地区画も表すものとなっている。また、この地域における各種ライフライン(電気、水道、ガス等)の設備は、これらの実線ないし点線で表した道路に沿って設けられている。
【0164】
H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8は、それぞれ病院を表している。これらの病院H1〜H8は、平常時にはそれぞれが医療機関として医療機能を果たしており、その状態で各病院が連携して救急医療を実施する場合には、患者の転送や情報通信等によって病院H1〜H8のそれぞれが互いに結び付けられ、図6中の左側に示したような救急医療病院ネットワークが構築される。
【0165】
このような地域において震災が発生した場合を想定する。図5においては、太い破線を境界としてV、VI及びVIIの記号により震災発生時の地震規模の分布を示してある。それぞれの記号が示す地震規模は次の通りである。
V  :震度5(強震)。壁に割れ目が入り、墓石、石灯籠が倒れたり、煙突、石垣などが破損したりする程度の地震。
VI :震度6(烈震)。家屋の倒壊は30%以下で、山崩れが起き、地割れを生じ、多くの人々が立っていることができない程度の地震。
VII:震度7(激震)。家屋の倒壊は30%以上に及び、山崩れ、地割れ、断層などを生ずる程度の地震。
【0166】
シミュレーションを行う上で考慮する被害状況として、病院H5、H6、H7及びH8は、医療施設が損壊して医療機能が停止したものと想定する。また、実線ないし点線で表した道路のうち、黒く塗りつぶしてある区間の道路は、震災による被害を受けて通行が不能になったものと想定する。そして、病院H2は、医療施設は無事であったが、前記区間における道路の被害によって電力ないし水道水の供給が停止し、震災発生後三日目に電力ないし水道水の供給が復旧することになったものと想定する。
【0167】
これらの想定した被害状況から、震災時に正常な医療機能を果たし得る病院としては病院H1、H3及びH4があり、医療機能が震災発生時に停止して震災発生後三日目に復旧する病院として病院H2があるものとする。そして、震災時の医療協力ネットワークとしては、救急医療病院ネットワーク中で震災時に医療機能を果たし得る前記4つの病院によりネットワークの再構築がなされ、図6中の右側に示したような医療協力ネットワークが構築されるものとする。すなわち、病院H1、H3及びH4が患者の転送や情報通信等により互いに結び付けられて医療協力ネットワークを構築し、その医療協力ネットワークに震災発生後三日目から病院H2が加わるものとする(図中の点線は病院H2が後から加わることを表している)。
【0168】
本シミュレーション例においては、この震災時の医療協力ネットワークによる医療機能をシミュレートするものとして初期設定を行う。具体的には、医療協力ネットワークを構築する病院数を4とし、4つの病院として選定した病院H1、H2、H3及びH4のそれぞれについて、来院患者発生モデル、診療時間モデル及び診療窓口数の設定を行う。また、医療協力ネットワーク内の各病院間で患者を転送するのに要する時間は、図6中にも示してあるように
・病院H1と病院H2の間の転送時間=30分
・病院H1と病院H3の間の転送時間=80分
・病院H1と病院H4の間の転送時間=60分
・病院H2と病院H3の間の転送時間=40分
・病院H2と病院H4の間の転送時間=70分
・病院H3と病院H4の間の転送時間=50分
であるものとし、これらを各病院間での患者の転送時間として設定する。
【0169】
・来院患者発生モデル、診療時間モデル及び診療窓口数
来院患者発生モデルについては、上記式(1)の確率密度関数fti(Tti)に従って乱数(来院時間間隔)を発生するプログラムを利用することにし、それぞれの容態の患者について式(1)中の平均来院時間間隔μtiを設定して特定の指数分布による確率モデルを設定する。ただし、震災発生日、震災発生後二日目及び震災発生後三日目のそれぞれについて異なる平均来院時間間隔μtiを設定し、震災発生後の時間経過に伴う来院患者数の変化をシミュレーションに反映させる。
【0170】
▲1▼重傷患者(手術不要)、▲2▼重傷患者(手術要)、▲4▼重症患者及び▲5▼軽傷患者の診療時間モデルについては、上記式(3)の確率密度関数fctl(Tct)従って乱数(診療時間)を発生するプログラムを利用することにし、それぞれの容態の患者について式(3)中の平均診療時間λ及び標準偏差ζを設定して特定の対数正規分布による上記(b)の確率モデルを設定する。▲3▼透析対象患者の診療時間モデルについては、一定診療時間を設定して上記(d)のモデルを設定する。
【0171】
診療窓口数については、それぞれの容態の患者に対して同じ数の診療窓口が開設されているものとして設定する。すなわち、診療窓口数は、すべての容態の患者に共通するものとし、設定する診療窓口数毎にシミュレーションを繰り返し実行する。例えば、すべての容態の患者に共通する診療窓口数を2、3、4、5又は10とする場合には、診療窓口数を2に設定したケース、3に設定したケース、4に設定したケース、5に設定したケース及び10に設定したケースのそれぞれについてシミュレーションを実行する。
【0172】
本シミュレーション例においては、▲1▼重傷患者(手術不要)、▲2▼重傷患者(手術要)、▲3▼透析対象患者、▲4▼重症患者及び▲5▼軽傷患者のそれぞれについて、平均来院時間間隔μti、平均診療時間λ及び標準偏差ζ若しくは一定診療時間並びに診療窓口数を以下の表に示す値に設定するものとする。
【0173】
【表1】
Figure 2004038632
ただし、表1中の平均診療時間は通常の時間値で表してあるので、平均診療時間λは表中の平均診療時間の自然対数となる。また、標準偏差ζは、その平均診療時間λに変動係数0.1を乗じた値となる。これらのことは、以下にある▲2▼重傷患者(手術要)、▲4▼重症患者及び▲5▼軽傷患者に係る表においても同様である。
【0174】
【表2】
Figure 2004038632
【0175】
【表3】
Figure 2004038632
【0176】
【表4】
Figure 2004038632
【0177】
【表5】
Figure 2004038632
【0178】
図5に示した地震規模の分布や道路の被害状況からすると、病院H1と病院H3は、震災による被害が大きい地域に近く、病院H4は、それよりも被害が小さい地域に近いものと想定される。このようなことから、上の各表においては、病院H1と病院H3について同じ平均来院時間間隔μtiを設定して来院患者を発生させることとし、病院H4については、それよりも長い平均来院時間間隔μtiを設定して来院患者を発生させるようにしている(すなわち、病院H4については、病院H1及びH3よりも発生する来院患者が少なくなるようにしてある。)。なお、病院H1と病院H3については、同じ平均来院時間間隔μtiを設定するが、それぞれの確率モデルが独立したものなので、来院患者の発生状況には多少の違いが生じることになる。
【0179】
(3)シミュレーション結果
以上のような設定の下で実行した医療機能のシミュレーション結果について、以下に説明する。
【0180】
・来院患者数
図7は、シミュレーションを実行して得られた来院患者数のグラフを示した図である。図7中の各グラフは、時間の経過(経過時間t1の進行)に伴って累積的に加算されていく来院患者数を示しており、各グラフの上に標記した各容態の患者と各病院は、当該各グラフの来院患者数が当該各容態の患者についての当該各病院に係る医療活動経過シミュレーションで得られた来院患者数であることを表している(例えば、“▲1▼重傷患者(手術不要)−病院H1”と標記したグラフは、▲1▼重傷患者(手術不要)についての病院H1に係る医療活動経過シミュレーションで得られた来院患者数を示し、“▲2▼重傷患者(手術要)−病院H2”と標記したグラフは、▲2▼重傷患者(手術要)についての病院H2に係る医療活動経過シミュレーションで得られた来院患者数を示す)。
【0181】
病院H4については、上述の設定が反映され、病院H1及びH3よりも発生する来院患者が少なくなっている(縦軸の来院患者数のスケールに留意されたい。)。病院H1と病院H3については、平均的に見ると来院患者数が似通っているが、各時点での来院患者の発生状況には多少の違いがある。病院H2については、震災発生後三日目から医療機能が復旧するものとしたので、来院患者が震災発生後三日目から(t1=2880[分]の時点以降から)発生している。
【0182】
・待ち患者数、転送患者数及び受入転送患者数
図8〜図12は、シミュレーションを実行して得られた待ち患者数のグラフを示した図である。待ち患者数は、上述したように、すべての診療窓口が“診療中”状態で来院患者を待ち患者としたときにインクリメントされ、“空き”状態となった診療窓口に待ち患者を割り当てたときにディクレメントされるので、時間の経過に伴って増加したり減少したりする。図8〜図12中の各グラフは、その増加したり減少したりする待ち患者数を示しており、各時点で待ち患者がどの程度いるかを表すものとなっている。図8〜図12中の各グラフの上に標記した各容態の患者と各病院は、上記来院患者数のグラフにおける標記形態同様、当該各グラフの待ち患者数が当該各容態の患者についての当該各病院に係る医療活動経過シミュレーションで得られた待ち患者数であることを表している。当該各容態の患者と当該各病院に併記した各診療窓口数は、当該各グラフの待ち患者数が得られたシミュレーションにおける設定診療窓口数であり、図8、図9、図10、図11、図12は、それぞれ診療窓口を2、3、4、5、10に設定したケースでの各容態の患者と各病院に係る待ち患者数のグラフとなっている。なお、これらの待ち患者数のグラフにおいては、待ち患者数が一旦増加してから減少するまでの時間間隔によって患者の待ち時間を把握することもできる。
【0183】
転送患者については、▲2▼重傷患者(手術要)の転送患者が診療窓口数を2に設定したケースと3に設定したケースで発生し、▲3▼透析対象患者の転送患者が設定した診療窓口数のすべてのケースで発生したが、他の容態の患者には転送患者は発生しなかった。発生した転送患者に係る転送患者数は次の通りである。
【0184】
▲2▼重傷患者(手術要)の転送患者数
・診療窓口数を2に設定したケース
病院H1から病院H2へ4人、院H3へ2人、病院H4へ8人。
病院H3から病院H2へ2人、病院H4へ4人。
・診療窓口数を3に設定したケース
病院H1から病院H4へ2人。
【0185】
▲3▼透析対象患者の転送患者数
・診療窓口数を2に設定したケース
病院H1から病院H2へ4人、院H3へ1人、病院H4へ5人。
病院H3から病院H2へ2人。
・診療窓口数を3に設定したケース
病院H1から病院H2へ4人、病院H3へ2人、病院H4へ15人。
病院H3から病院H2へ7人、病院H4へ10人。
病院H4から病院H1へ1人。
・診療窓口数を4に設定したケース
病院H1から病院H2へ3人、院H3へ5人、病院H4へ16人。
病院H2から病院H1へ3人、病院H3へ1人。
病院H3から病院H1へ2人、病院H2へ4人、病院H4へ16人。
病院H4から病院H1へ2人、病院H3へ1人。
・診療窓口数を5に設定したケース
病院H1から病院H2へ1人、院H3へ11人、病院H4へ17人。
病院H2から病院H1へ2人。
病院H3から病院H1へ11人、病院H2へ1人、病院H4へ14人。
病院H4から病院H1へ1人。
・診療窓口数を10に設定したケース
病院H1から病院H3へ1人、院H4へ1人。
病院H3から病院H1へ2人。
【0186】
図13は、これらの転送患者を受け入れた各病院における受入転送患者数のグラフを示した図である。図13中の各グラフの上に標記した各容態の患者と各病院は、上記同様の標記形態により、当該各グラフの受入転送患者数が当該各容態の患者についての当該各病院に転送されてくる患者の処理で得られた受入転送患者数であることを表している。当該各容態の患者と当該各病院に併記した各診療窓口数は、当該各グラフの受入転送患者数が得られたシミュレーションにおける設定診療窓口数である。
【0187】
病院H2については、震災発生後三日目から医療機能が復帰して医療活動(診療)を開始していることから、上記図7中にも示されているように来院患者数が少ない。このため、診療窓口数を2に設定したケースであっても、待ち患者数(図8)を見てみると、病院H2における▲1▼重傷患者(手術不要)、▲4▼重症患者及び▲5▼軽傷患者の待ち患者数は終始0人となっており、これらの患者を担当する診療窓口には待ち患者が発生していない。また、病院H2における▲2▼重傷患者(手術要)にあっては、震災発生からの経過時間t1が4000分(2.7日)辺りになった所で数回1人の待ち患者が発生しているが、短時間で待ち患者数が0人に戻っているので、それぞれの待ち患者の待ち時間は短い。
【0188】
一方、震災発生時から医療活動を実施している病院H1、H3及びH4については、診療窓口数を2に設定したケースでの待ち患者数(図8)を見てみると、頻繁に待ち患者が発生しており、その傾向は▲3▼透析対象患者に最も現れている。また、次いで▲2▼重傷患者(手術要)にも同様の傾向が現れており、▲1▼重傷患者(手術不要)にも同様の傾向がある程度現れている。
【0189】
▲3▼透析対象患者は、患者一人当たり3時間の一定診療時間を設定したので、診療時間が長いこともあって多くの待ち患者が発生したものと考えられる。▲3▼透析対象患者の転送患者は、上述したように設定診療窓口数のすべてのケースで発生したが、▲3▼透析対象患者の待ち患者数のグラフには、患者の転送をしない場合の待ち患者数のグラフ(図8〜図12中“転送なし”のグラフ)を併せて示してある。ここにいう患者の転送をしない場合とは、患者の転送に関する処理を行わないものとしてシミュレーションを実行した場合であり、その具体的な実行形態は後の<用途、変形等の例>で説明する。また、次いで多くの待ち患者が発生している▲2▼重傷患者(手術要)の転送患者は、上述したように設定診療窓口数を2にしたケースと3にしたケースで発生したが、それらのケースにおける▲2▼重傷患者(手術要)の待ち患者数のグラフにも同様に患者の転送をしない場合の待ち患者数のグラフ(図8及び図9中“転送なし”のグラフ)を併せて示してある。これらのグラフにより、患者の転送をする場合(上述の通り患者の転送に関する処理を行う場合)と患者の転送をしない場合とを比較すると、診療すべき患者の発生状況(来院患者の発生状況や転送患者の受入状況)によって待ち患者数が大きく異なってくることが分かる。なお、患者の転送をする場合としない場合とで特に差がないものについては、“転送なし”のグラフは示していない(このことは、後述する図15〜図19のグラフにおいても同様である。)。
【0190】
本シミュレーション例では、転送をしない場合よりも転送をする場合の方が概して待ち患者数が少ない結果となっている。しかし、診療窓口数を2に設定したケースにおいては、それでも▲3▼透析対象患者の待ち患者数がかなり多いため、それぞれの待ち患者が長時間待たされ、患者の救命に支障を来す虞がある。また、▲2▼重傷患者(手術要)や▲1▼重傷患者(手術不要)にも多くの待ち患者が発生しているので、同様に患者の救命に支障を来す虞がある。したがって、震災時に求められる医療機能の評価基準が患者(罹災者)の救命であるとすれば、▲1▼重傷患者(手術不要)、▲2▼重傷患者(手術要)及び▲3▼透析対象患者の診療窓口数を2とするケースは、本シミュレーション例における患者の来院状況に対して十分でない(容認できる医療体制でない)ということになる。
【0191】
このため、さらに診療窓口数を増やしたり、医療協力ネットワークを構築する病院の数を増やしたり、各病院の配置を再考したりすることにより、待ち患者の状況(待ち患者数や待ち時間等)が患者の救命を確保できる状況となるように検討をする必要がある。例えば、診療窓口数を増やすことを検討する場合、本シミュレーション例によれば、診療窓口数を3、4、5に設定したケースでの待ち患者数(図9、図10、図11)を見てみると、診療窓口数が多いほど待ち患者数が減って待ち時間も短くなることがシミュレーションの結果として現れている。そして、診療窓口数を10に設定したケースでの待ち患者数(図12)を見てみると、診療窓口数を10とすれば待ち患者がほぼ発生しない状況にまで医療機能が改善されることが分かる。なお、本シミュレーション例では、▲4▼重症患者の待ち患者数が比較的少なかったが、▲4▼重症患者も長く待たされれば命に関わるので、待ち患者数ないし待ち時間が多い場合には同様の検討が必要である。
【0192】
シミュレーションの結果として得られる待ち患者数によれば、このように患者の救命という観点から各診療科の診療窓口数、医療協力ネットワークを構築する病院の数、それらの病院の配置場所選定等についての適不適を判定することもできる。これにより、後述の「(4)シミュレーション結果の利用」でも述べるように適切な医療機関を構築するための検討ができることになる。
【0193】
・診療時間
図14は、診療時間モデルにより各診療時間をシミュレートされた患者の頻度(人数)のヒストグラムを示した図である。図14中の各ヒストグラムは、診療窓口数を2に設定したケースにおいて各診療時間の患者が何人いたかを表しており、各ヒストグラムの上に標記した各容態の患者と各病院は、上記同様の標記形態により、当該各ヒストグラムが当該各容態の患者についての当該各病院に係る医療活動経過シミュレーションで発生した各診療時間の患者の頻度分布であることを表している。他の診療窓口数を設定したケースについては、診療窓口への割当時点や転送患者数の異同等によって個々の患者の診療時間が若干異なってくるが、各診療時間の患者の頻度は図14に示したヒストグラムと同様に分布するものとなる。
【0194】
・診療済み患者数
図15〜図19は、シミュレーションを実行して得られた診療済み患者数のグラフを示した図である。図15〜図19中の各グラフは、時間の経過(経過時間t1の進行)に伴って累積的に加算されていく診療済み患者数を示しており、各グラフの上に標記した各容態の患者と各病院は、上記同様の標記形態により、当該各グラフの診療済み患者数が当該各容態の患者についての当該各病院に係る医療活動経過シミュレーションで得られた診療済み患者数であることを表している。当該各容態の患者と当該各病院に併記した各診療窓口数は、当該各グラフの診療済み患者数が得られたシミュレーションにおける設定診療窓口数であり、図15、図16、図17、図18、図19がそれぞれ診療窓口を2、3、4、5、10に設定したケースでの各容態の患者と各病院に係る診療済み患者数のグラフとなっている。なお、これらのグラフにおいても、上記待ち患者数のグラフ同様、患者の転送をしない場合の診療済み患者数のグラフ(図15〜図19中“転送なし”のグラフ)を併せて示してある。
【0195】
診療済み患者数は、患者の来院状況や診療窓口数に依存し、転送患者数ないし受入転送患者数によっても変動する。このことは、特に、診療窓口数を2、3、4、5、10に設定したケースでの▲3▼透析対象患者の診療済み患者数を見るとよく分かる。
【0196】
診療済み患者は、上述の医療活動経過モデルで“診療後の取扱い”として説明したように、その容態に応じて入院するか帰宅するかが判断される。したがって、入院するものとされる容態の患者について得られた診療済み患者数により、各病院に必要なベッド数を算定することができる。そして、その算定したベッド数等に基づき、震災時に備えて各病院に用意する必要のあるベッド数や病室数等を推定することもできる。
【0197】
(4)シミュレーション結果の利用
以上のようなシミュレーション結果により、待ち患者数、患者の待ち時間、診療済み患者数、入院する患者のベッド数等の情報が得られるので、それらの情報を震災時の医療機能を確保するための評価基準項目とし、それぞれの判断基準値等を予め定めておく。そして、実行したシミュレーション結果から得られる情報を当該判断基準値等と比較して容認できるシミュレーション結果か否かを判断し、容認できないシミュレーション結果であれば設定を変更して(医療協力ネットワークの構成を再考して)シミュレーションを繰り返すことにより、震災時の医療機能が確保される最適なシミュレーション結果が得られる設定を探索する。これにより、シミュレーション結果を利用して適切な医療協力ネットワークの構築を検討し、震災時に対応可能な救急医療対策を計画することができる。
【0198】
このように、本シミュレーション例によれば、医療機関の客観的な評価基準となる待ち患者数や診療済み患者数等の具体的な数値の情報が得られ、その情報に基づいて医療機関による医療機能を評価することができ、必要な医療機能を確保するための更なる検討をすることもできる。すなわち、本シミュレーション例によれば、具体的な数値によって示される情報がシミュレーション結果としてフィードバックされ、そのフィードバックされる具体的な情報が医療機能の客観的な評価基準として利用でき、危機管理の観点から更なる検討につながる有効な評価を具体的に行うことができるので、医療協力ネットワークを構築する病院の数、それらの病院の配置、診療窓口数等を逐次検討し、医療協力ネットワーク全体ないし各病院による患者処置能力等の医療機能に関する対策を具体的に計画することもできる。
【0199】
<用途、変形等の例>
(1)典型用途
上述した実施形態における医療機能のシミュレーションによれば、医療協力ネットワークを構築する病院(病院数及び各病院の配置場所等)、来院患者発生モデル、診療時間モデル、診療窓口数、患者の転送条件等を任意に設定して医療機能をシミュレートすることができるので、震災時に想定される様々な状況での医療機関による医療機能をシミュレートすることができる。したがって、実際の医療機関やシミュレーション上仮定した医療機関について種々の設定条件下でシミュレーションを行うことができ、それぞれの設定条件下でのシミュレーション結果から得られる情報が医療機関により果たされる医療機能の客観的な評価基準としてフィードバックされる。これにより、種々の設定条件下で得られた評価基準に基づいて逐次医療機関の構成を評価し検討していくこともでき、震災時に必要な医療機能を確保する医療機関の構築を支援することができる。
【0200】
昨今、東海地震、南海道地震、東南海地震等の発生が取りざたされているが、そのような巨大地震が発生した場合には多くの罹災者が広域に亘って発生することが予想され、かかる場合に対応するための広域医療協力体制の確立が強く望まれている。上述した実施形態における医療機能のシミュレーションは、その広域医療体制を確立するための政府、地方公共団体、消防庁ないし医療共済等の計画に対しても有用である。
【0201】
(2)他の状況への適用
i.災害一般
上述した実施形態では、大規模な震災の発生により多くの罹災者が出た状況を想定したが、上記<医療機能のモデル化>及び<医療機能のシミュレーション>は、震災以外の他の災害(例えば、火災、水災、戦災、兵災、風災、煙害、公害、鉱害、雪害等の自然災害ないし人為災害)が発生した場合にも適用することができ、発生した災害の状況に応じて患者の来院状況等を設定することにより、上記同様の処理手順で医療機能のシミュレーションを行うことができる。したがって、上記<医療機能のモデル化>及び<医療機能のシミュレーション>によれば、震災時を始めとする種々の災害時を想定し、想定した状況に対する救命医療の実施状況等を具体的な数値の情報として推定することができる。これにより、上記同様に客観的な評価基準に基づく災害時の医療機能の評価が可能となり、各種災害時の医療体制を確立するための支援をすることができ、例えば、具体的な数値の情報に基づく広域災害時の広域医療体制の計画立案等を行うこともできる。
【0202】
ii.平常時
さらに、上記<医療機能のモデル化>及び<医療機能のシミュレーション>は、平常時の医療機関による医療機能に対しても適用することができる。例えば、平常時に各病院へ来院する患者の統計資料(統計的な来院患者数、待ち患者数、待ち時間ないし診療時間等)や平常時の現に行われている医療活動等に基づいて平常時の患者の来院状況等を設定することにより、上記同様の処理手順で平常時の医療機能をシミュレートすることができる。これにより、平常時の救急医療病院ネットワークや各病院による医療機能を上記同様に客観的な評価基準に基づいて評価することが可能となり、平常時から機能させる病院のネットワークを構築したり個々の病院を構成したりするための支援をすることができ、日常の医療体制の合理的な設計にも有用である。
【0203】
iii.活用例
上記<医療機能のモデル化>及び<医療機能のシミュレーション>は、このように種々の状況に対して適用することができ、適用した状況に応じて医療機能の客観的な評価基準を得ることが可能であり、得られた評価基準に基づく評価によって様々な局面での医療機関の構築を支援できるものとなっている。したがって、例えば、次のような用途に活用することも可能である。
・広域救急救命医療活動計画立案と救急医療ネットワークの構築のための支援
・人口動態による病院規模の設計支援
・都市計画における医療施設の適正配置、規模の設計支援
・広域大災害時における病院ネットワーク規模と病院の地域的分布の適正化の設
計支援
・病院ネットワークを考慮した病院経営の効率化設計支援
・広域大災害時における地域救急医療機能のレベルの状態把握
【0204】
(3)患者の転送をしない場合についてのシミュレーション
医療協力ネットワークでは、上述したように必要に応じて患者を転送するが、上記<医療機能のモデル化>及び<医療機能のシミュレーション>によれば、その転送をしない場合の医療機能をシミュレートすることもできる。
【0205】
例えば、上記図4のシミュレーション手順において、すべての診療窓口が“診療中”状態となっているときに来院患者が発生した場合(ステップS5での判断結果が“NO”の場合)には、発生した来院患者を常に待ち患者とする(常にステップS18の処理を行う)ことにする。これにより、患者の転送に関する処理を行わないものとしてシミュレーションが実行され、すべての来院患者が最初に来院した病院で診療を受けるものとして医療機能がシミュレートされる。なお、患者の転送に関する処理を行わないものとするためには、プログラミング段階等でステップS16及びステップS17の処理を削除し、ステップS5での判断結果が“NO”であれば常にステップS18の処理へ進むようにしたり、あるいは、初期設定(ステップS1)等によってステップS16での判断結果が常に“NO”となるように患者の転送条件を定めたりすればよい。
【0206】
このように、上記<医療機能のモデル化>及び<医療機能のシミュレーション>によれば、患者の転送をしない場合についても医療機能のシミュレーションを行うことができ、かかる場合の待ち患者数や診療済み患者数等を上記同様に得ることができる。したがって、医療協力ネットワークや個々の病院で患者の転送をしない場合の医療機能を評価することができ、例えば、個々の病院が単独で果たす医療機能を評価して個々の病院に係る医療施設の設計や規模の決定等を支援することもできる。
【0207】
(4)患者の来院状況
上述した実施形態では、指数関数等による確率モデルを用いてランダムな患者の発生をシミュレートしたが、これは患者の来院状況をシミュレートする一例であり、必要に応じて他の確率モデルを用いたり一定の時間間隔で患者が来院するものとしたりしてもよいのは上述した通りである。
【0208】
各患者に対する医療活動は、各患者が病院に到着した時点から開始するので、病院側にとっては、各患者がどこからどのようにして来院したかは無関係である。これに対し、上述した実施形態では、確率モデルを用いてランダムな患者の発生をシミュレートしているので、各患者がどこからどのようにして来院するかとは無関係に来院患者が発生し、病院側にとっての実情に合致した医療活動経過がシミュレートされる。
【0209】
しかし、患者の来院状況については、特定の都市地域について、地域的に災害時の罹災者の発生を予測すると共に、罹災者の来院経路を適当に与え、それらに基づいて患者の来院分布(来院時間間隔の分布)を与えるという形態も考えられる。実際の都市地域を厳密に考慮するには複雑な設定が必要になるが、仮定による条件等を適宜導入したりすれば、かかる形態によって来院患者をモデル化することはできる。
【0210】
上述した実施形態における医療機能のシミュレーションは、かかる形態によってモデル化した来院患者を対象として行うこともできる。すなわち、かかる形態によってモデル化した来院患者についても、診療を受けたり待ち患者とされたりする医療活動上の取扱いは変わらないので、上述の医療活動経過モデル中に取り入れて上記同様に医療機能のシミュレーションを実行することができる。例えば、与えられた前記患者の来院分布を確率統計処理し、上記式(1)等の確率密度関数と同様の形式で表すことにより、前記患者の来院分布による来院患者も上述した実施形態における来院患者と同様のものとなるので、上記来院患者発生モデル等と同様の形態で設定を行って医療活動経過をシミュレートすることもできる。
【0211】
<応用例>
以上の<医療機能のモデル化>、<医療機能のシミュレーション>及び<用途、変形等の例>は、様々な形態で更なる用途に応用することもできる。いくつかの用途例を挙げるとすれば、以下の通りである。
【0212】
(1)広域大災害発生時の消防署の地域救命活動計画立案の支援。
【0213】
(2)新幹線等のような広域旅客運搬システムにおいて、走行中(運行中)に震災等の災害に遭遇した場合の被害者搬送計画立案の支援。すなわち、新幹線のような広域(多くの行政区域)を運行している交通機関が広域災害に遭遇した場合の救助体制の構築にも役立ち、かかる場合の罹災者をどの医療機関に搬送すべきかなど、現在の救急医療体制の盲点と思われるような事象についても、上述の医療機能モデルは対応可能である。
【0214】
(3)災害時に限らず、救急車がどこに患者を運ぶべきかを決定するシステムとして利用する。すなわち、上記医療活動経過モデルは、救急医療に関する基本的なビジネスモデルということもでき、救急センタ−救急車−病院といったITを使用したネットワークのもとで、病院の治療能力を瞬時に予測して、どこの病院に患者を搬送すべきか、という意思決定支援能力を、その基本モデルの応用の一つとして含める。この応用例を概説すると次の通りである。
【0215】
命題:罹災者、特に重傷患者を平常と同じように救命すること
状況に対する前提条件:
▲1▼病院の被災状況、ライフラインの途絶、スタッフの不足による被災地内医療機関の孤立、大混乱
望まれる対策:
▲1▼搬送手段、情報網の確保
▲2▼災害拠点病院(救命救急センタ)を中心とした広域搬送システムへの移行
▲3▼救急車による患者の適切な搬送先の決定支援システムの構築
具体的な検討用ツール、システムの構築:
▲1▼医療活動経過モデル
▲2▼医療活動経過モデルの瞬時予測機能を活用した「救急指令センタ−救急車−病院」患者搬送システムへの移行
【0216】
医療活動経過モデルを利用した救急患者搬送支援ビジネスモデル
図20は、IT技術を利用した双方向情報伝達機能を活用して、医療活動経過モデルの情報をもとに患者の搬送先を決定するシステムの概念図である。
内容:救急センタと救急病院、救急車とをIT技術(携帯電話等)を使用して双方向通信網を構成する。
医療活動経過モデルによって時々刻々、各病院での患者の来院状態、診療能力、患者の診療待ち状態等の情報を共有して、それに従って、患者をどの病院に搬送すべきかの決定を支援する。医療活動経過モデルによれば、その時点での情報から将来の各々の病院での患者の診療能力の状態を予測できるために、その予測結果をも考慮して患者の搬送先を決定できる。
【0217】
(4)災害避難拠点の設置、運用について、地震災害発生を想定した訓練に利用する、等の支援ツールとして利用する。すなわち、設定された非難場所に対して、住民の集まり具合を時系列で予測し、避難場所の収容人口に対する充足度や、其の人数に対する救援物資の配分・貯蔵、及び物資の配分手配計画、給水車配車計画の支援に利用する。また、ボランティアの配属の手配、更には、外部からの医者の応援の手配と配置先の決定等にも利用できる。なお、これは地震発生後にも同様に利用できる。さらに、台風等の自然災害時あるいは事故時を対象とした訓練や支援に適用することも可能である。
【0218】
(5)日常医療業務への適用
患者の到着分布を日常の来院分布でカウントし、日常の各々の容態の患者の診療時間や診療済み患者数をカウントして、それによる薬の使用量を日単位、週単位、月単位として整理し、予測することによって、どの薬をどの時点でどれだけ発注すればよいかという薬の在庫管理に応用できる。
また、インフルエンザの流行時や、その他の流行性感染病の患者数の予測と、それによる薬の生産量の計画の支援にも応用できる。
【0219】
(6)日常の救急車の搬送先決定や病院間の転送の再の支援に役立てる。最近は、救急車は、そこから最も近い病院を搬送先に選ぶのではなく、多少遠くても最も診療時間の短い病院を選ぶようになっているために、どの病院がその条件に当たるかを医療活動経過モデルで瞬時に決定できる。
【0220】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、震災時を始めとする災害時等の種々の状況に対し、医療機関による医療機能がシミュレートされ、医療機能の客観的な評価基準が与えられる。これにより、医療機関の機能評価を行うことが可能になり、医療機関の構築を支援することができ、ひいては震災等の災害に対する都市の防災計画の策定や改善等にも寄与し得るという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】震災により発生する3つの事象(医療施設の損壊A、電力の供給停止B及び水道水の供給停止C)の相互関係を示したベン図である。
【図2】本発明の一実施形態における医療機能モデルの構成単位である医療活動経過モデルの例を示した図である。
【図3】震災発生前後における来院患者数の変化を例示したグラフである。
【図4】個々の病院における一定の容態の来院患者に対する医療活動経過のシミュレーション手順を示したフローチャートである。
【図5】同実施形態におけるシミュレーション例で震災の発生を想定した地域を示した図である。
【図6】同地域において震災発生前と震災発生後に構築される病院のネットワークを示した図である。
【図7】同シミュレーション例において得られた来院患者数のグラフを示した図である。
【図8】同シミュレーション例において得られた診療窓口数を2に設定したケースでの待ち患者数のグラフを示した図である。
【図9】同シミュレーション例において得られた診療窓口数を3に設定したケースでの待ち患者数のグラフを示した図である。
【図10】同シミュレーション例において得られた診療窓口数を4に設定したケースでの待ち患者数のグラフを示した図である。
【図11】同シミュレーション例において得られた診療窓口数を5に設定したケースでの待ち患者数のグラフを示した図である。
【図12】同シミュレーション例において得られた診療窓口数を10に設定したケースでの待ち患者数のグラフを示した図である。
【図13】同シミュレーション例において転送患者を受け入れた各病院での受入転送患者数のグラフを示した図である。
【図14】同シミュレーション例において各診療時間をシミュレートされた患者の頻度(人数)のヒストグラムを示した図である。
【図15】同シミュレーション例において得られた診療窓口数を2に設定したケースでの診療済み患者数のグラフを示した図である。
【図16】同シミュレーション例において得られた診療窓口数を3に設定したケースでの診療済み患者数のグラフを示した図である。
【図17】同シミュレーション例において得られた診療窓口数を4に設定したケースでの診療済み患者数のグラフを示した図である。
【図18】同シミュレーション例において得られた診療窓口数を5に設定したケースでの診療済み患者数のグラフを示した図である。
【図19】同シミュレーション例において得られた診療窓口数を10に設定したケースでの診療済み患者数のグラフを示した図である。
【図20】IT技術を利用した双方向情報伝達機能を活用して、医療活動経過モデルの情報をもとに患者の搬送先を決定するシステムの概念図である。
【符号の説明】
H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8 病院

Claims (12)

  1. 時間の経過に伴って医療機関に順次到来する患者の発生をシミュレートする患者発生シミュレート過程と、
    各患者が当該各患者の診療時間の間一つの診療窓口を専有し、当該各患者の診療時間が経過したときに当該各患者が割り当てられた診療窓口を他の患者に割当可能にするものとして、前記医療機関について予め設定した診療窓口に対し、前記患者発生シミュレート過程により発生した患者を順次割り当てて、前記医療機関における医療の実施をシミュレートする医療実施シミュレート過程とを有し、発生時に割り当てる診療窓口がない患者を当該発生時から当該患者が診療窓口に割り当てられるまで待ち患者として計数する、医療機関による医療機能のシミュレーション方法。
  2. 診療窓口に割り当てられて診療時間が経過した患者を診療済み患者として計数する、請求項1記載の医療機関による医療機能のシミュレーション方法。
  3. 前記患者発生シミュレート過程により発生した患者を計数する、請求項1又は2記載の医療機関による医療機能のシミュレーション方法。
  4. 前記患者発生シミュレート過程は、予め設定した確率分布に従う時間間隔で患者を発生させて前記患者の発生をシミュレートする、請求項1ないし3のいずれかに記載の医療機関による医療機能のシミュレーション方法。
  5. 前記医療実施シミュレート過程は、予め設定した確率分布に従う診療時間を各患者の診療時間としてシミュレートする、請求項1ないし4のいずれかに記載の医療機関による医療機能のシミュレーション方法。
  6. 前記医療実施シミュレート過程は、予め設定した一定の診療時間を各患者の診療時間とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の医療機関による医療機能のシミュレーション方法。
  7. 請求項1ないし6のいずれかに記載の医療機関による医療機能のシミュレーション方法において、
    前記医療機関が複数の病院を含み、
    前記患者発生シミュレート過程は、前記医療機関内の各病院に順次来院する来院患者の発生をシミュレートする過程であり、
    前記医療実施シミュレート過程は、前記医療機関内の各病院について予め設定した窓口数の診療窓口に対し、各病院の来院患者の発生時に当該各病院で患者に割当可能な診療窓口がある場合には、当該来院患者を当該診療窓口に割り当て、前記発生時に当該各病院で患者に割当可能な診療窓口がない場合には、当該来院患者を前記医療機関内の他の病院へ転送するか否かを判断して、転送しないものと判断したときに当該来院患者を前記発生時に割り当てる診療窓口がない患者とし、
    前記医療実施シミュレート過程により当該来院患者を転送するものと判断されたときには当該来院患者を転送患者として計数する、医療機関による医療機能のシミュレーション方法。
  8. 前記医療実施シミュレート過程により当該来院患者を転送するものと判断されたときに、転送先となる前記医療機関内の他の病院における当該来院患者に対しての医療の実施をシミュレートする、請求項7記載の医療機関による医療機能のシミュレーション方法。
  9. 予め設定した容態の患者毎に前記患者発生シミュレート過程及び前記医療実施シミュレート過程を実行する、請求項1ないし7のいずれかに記載の医療機関による医療機能のシミュレーション方法。
  10. 時間の経過に伴って医療機関に順次到来する患者の発生をシミュレートする患者発生シミュレート処理手段と、
    各患者が当該各患者の診療時間の間一つの診療窓口を専有し、当該各患者の診療時間が経過したときに当該各患者が割り当てられた診療窓口を他の患者に割当可能にするものとして、前記医療機関について予め設定した診療窓口に対し、前記患者発生シミュレート過程により発生した患者を順次割り当てて、前記医療機関における医療の実施をシミュレートする医療実施シミュレート処理手段とを有し、
    発生時に割り当てる診療窓口がない患者を当該発生時から当該患者が診療窓口に割り当てられるまで待ち患者として計数する、医療機関による医療機能のシミュレーション装置。
  11. 時間の経過に伴って医療機関に順次到来する患者の発生をシミュレートする患者発生シミュレート処理手段、
    各患者が当該各患者の診療時間の間一つの診療窓口を専有し、当該各患者の診療時間が経過したときに当該各患者が割り当てられた診療窓口を他の患者に割当可能にするものとして、前記医療機関について予め設定した診療窓口に対し、前記患者発生シミュレート過程により発生した患者を順次割り当てて、前記医療機関における医療の実施をシミュレートする医療実施シミュレート処理手段、及び発生時に割り当てる診療窓口がない患者を当該発生時から当該患者が診療窓口に割り当てられるまで待ち患者として計数する手段
    としてコンピュータを機能させるための、医療機関による医療機能のシミュレーション・プログラム。
  12. 時間の経過に伴って医療機関に順次到来する患者の発生をシミュレートする患者発生シミュレート処理手段、
    各患者が当該各患者の診療時間の間一つの診療窓口を専有し、当該各患者の診療時間が経過したときに当該各患者が割り当てられた診療窓口を他の患者に割当可能にするものとして、前記医療機関について予め設定した診療窓口に対し、前記患者発生シミュレート過程により発生した患者を順次割り当てて、前記医療機関における医療の実施をシミュレートする医療実施シミュレート処理手段、及び発生時に割り当てる診療窓口がない患者を当該発生時から当該患者が診療窓口に割り当てられるまで待ち患者として計数する手段
    としてコンピュータを機能させるための、医療機関による医療機能のシミュレーション・プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体。
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