JP2004024361A - 人工関節 - Google Patents

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Abstract

【課題】ZrO相転移をほとんど生じることなく、高い耐摩耗性を長期にわたり発揮する人工関節を提供する。
【解決手段】AlをAl換算で0.01〜3.0質量%含有し且つ主結晶相が正方晶のジルコニア基焼結体となるような造粒粉末を用意し、これを加圧成形後、焼成して焼結体を得る。一方、焼成後、AlがAl換算で92.0質量%以上であるアルミナ基焼結体となるような造粒粉末を用意し、上記と同様に焼結体を得る。また、得られたジルコニア基焼結体は臼蓋カップ11の摺動面111となるように用い、得られたアルミナ基焼結体は骨頭12の摺動面121となるように用いた人工関節1を人工股関節として用いることができる。
【選択図】    図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は人工関節に関する。更に詳しくは、生体各部の関節を代替でき、特に高い耐摩耗性を長期にわたり発揮する人工関節に関する。
本発明は、人やその他の動物に関する医療分野において、特に人の各部関節の代替品等として広く利用される。
【0002】
【従来の技術】
従来、人工関節の摺動面には金属、樹脂、及びセラミックス等が用いられ、各々の摺動面は、例えば、金属同士、樹脂同士、金属と樹脂、樹脂とセラミックス、セラミックス同士等のように組み合わせて用いられてきた。特に、人工股関節では、金属製の骨頭とポリエチレン製の臼蓋カップとの組合せ、又は、セラミックス製の骨頭とポリエチレン製の臼蓋カップとの組合せで、主に用いられている。人工関節等は、特開平04−303443号公報、特表平11−509762号公報(国際公開番号WO97/31592)、特開平11−267144号公報、特開2000−14685号公報、及び特開2000−225132号公報等に開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
人工関節等では、上記公報等にも述べられているように、摺動面の耐摩耗性を極力大きくすることが要求される。これは、摩耗により生じる摩耗粉の生体への影響が懸念されるためである。そこで、他の材料との組合せに比べて耐摩耗性に優れることから、両摺動面をセラミックスで構成することが考えられている。しかし、未だ耐摩耗性は十分とはいえず、更に優れた耐摩耗性が求められている。また、一般にセラミックスは金属等に比べて破損が危惧されるため、破損しない十分な強度特性も求められる。このため、セラミックスの中でも強度特性に優れる主結晶相が正方晶であるジルコニアが人工関節として多く用いられている。しかし、正方晶系ジルコニアは水系環境で相転移を生じるものもある。相転移すると強度特性が低下し、表面が荒れて摩耗量が多くなる等、人工関節としての機能が低下する場合がある。このため、破損しない十分な強度特性を備えると共に、水系環境である生体内においても相転移を抑制できることが求められている。
【0004】
更に、生体内の関節において、摺動面積が大きく且つ大きな負荷の掛かる関節として股関節が挙げられる。この股関節の機能を代替する人工股関節は、人工関節の中でも特に高い耐摩耗性及び優れた強度特性が要求される。特に、図1に示すように、先端に骨頭12を備えるステム13は、そのステムネック部131で臼蓋カップ11の外側端112と干渉するインピンジメントと称される現象を生じることがあるが、このインピンジメントによっても破損しない高い強度特性が要求される。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、生体内においてジルコニア基焼結体を構成するジルコニアが相転移をほとんど生じることなく、高い耐摩耗性を長期にわたり発揮できる人工関節を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の人工関節は、第1部材と第2部材とを備え、該第1部材と該第2部材とが相互に摺動する人工関節であって、該第1部材における少なくとも該第2部材と摺動する第1摺動面は、ZrOの主結晶相が正方晶であり且つAlをAl換算で0.01〜3.0質量%含有するジルコニア基焼結体からなり、該第2部材における少なくとも該第1部材と摺動する第2摺動面は、AlをAl換算で92.0質量%以上含有するアルミナ基焼結体からなることを特徴とする。
また、上記アルミナ基焼結体を構成する焼結体粒子の平均粒径は3.0μm以下にできる。更に、上記ジルコニア基焼結体を構成する焼結体粒子の平均粒径は0.7μm以下にできる。また、上記アルミナ基焼結体はYbをYb換算で8.0質量%以下含有できる。更に、上記第1部材及び上記第2部材のうちの一方は椀状部を備え、他方は該椀状部に対応する凸曲面部を備えることができる。また、上記第1部材は臼蓋カップであり、上記第2部材は骨頭であり、人工股関節として使用できる。
【0007】
【発明の効果】
本発明の人工関節は優れた耐摩耗性を長期にわたって発揮することができ、更には、優れた強度特性が保持される。
また、アルミナ基焼結体を構成する焼結体粒子の平均粒径が3.0μm以下である場合、及びジルコニア基焼結体を構成する焼結体粒子の平均粒径が0.7μm以下である場合、それぞれ特に高い耐摩耗性を発揮させることができる。
また、アルミナ基焼結体がYbをYb換算で8.0質量%以下含有する場合は、特に高い耐摩耗性を発揮させることができる。
更に、第1部材及び第2部材のうちの一方は椀状部を備え、他方は該椀状部に対応する凸曲面部を備える場合は、このような形状を備えるあらゆる関節に用いることができ、長期にわたって優れた耐摩耗性を発揮でき、更には、優れた強度特性が保持される。
また、第1部材を臼蓋カップとして用い、第2部材を骨頭として用い、人工股関節として用いた場合、長期にわたって優れた耐摩耗性を発揮でき、更には、優れた強度特性が保持され、特にインピンジメントによる破損が防止される。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳しく説明する。
上記「第1部材」は、後述する第1摺動面を備える部材である。また、上記「第2部材」は、後述する第2摺動面を備える部材である。これら第1部材及び第2部材は、各々人工関節を構成するものであり、関節部分において生体骨等の生体組織を除く、人工的に形成された部材である。これらの部材としては、例えば、人工骨頭、人工臼蓋カップ、人工骨頭部とこの人工骨頭部を生体骨に接合するステム部とを備える部材、人工臼蓋カップ部とこの人工臼蓋カップ部を生体骨に接合するボルト部等の接合用部を備える部材等を挙げることができる。
上記「第1摺動面」は、後述する第2摺動面と摺動する面である。第1部材のうちの少なくともこの第1摺動面は後述するジルコニア基焼結体からなる。また、上記「第2摺動面」は、第1摺動面と摺動する面である。第2部材のうちの少なくともこの第2摺動面は後述するアルミナ基焼結体からなる。
【0009】
上記「ジルコニア基焼結体」は、ZrOを主成分とする焼結体である。このジルコニア基焼結体は、通常、ZrをZrO換算で全体の93.0〜95.5質量%含有する。このZrは、ジルコニア基焼結体中においてどのような化合物として含有されていてもよい。この化合物としては、例えば、ZrOや、他の元素(Alや、その他ジルコニア基焼結体に含有される元素等)との複酸化物等が挙げられ、通常、ZrOとして含有される。また、含有されるZrOの主結晶相は正方晶であり、通常、正方晶率が94mol%以上(好ましくは97mol%以上、より好ましくは99mol%以上)である。正方晶ジルコニアは、高い靭性を発揮できるジルコニアの中でも、特に高靭性であり、併せて高強度も発揮することができる。但し、正方晶率T(mol%)は下記式(1)より算出される単斜晶率M(mol%)を用い、下記式(2)より算出される。
【0010】
【数1】
Figure 2004024361
【0011】
【数2】
Figure 2004024361
【0012】
上記式(1)及び上記式(2)における各項は以下のとおりである。
Im(xyz):ミラー指数(xyz)の単斜晶のX線回折ピークの積分強度
It(xyz):ミラー指数(xyz)の正方晶のX線回折ピークの積分強度
Ic(xyz):ミラー指数(xyz)の立方晶のX線回折ピークの積分強度
Itc(111):ミラー指数(111)の正方晶と立方晶のX線混合回折ピークの積分強度
【0013】
更に、このジルコニア基焼結体は、AlをAl換算で0.01〜3.0質量%(好ましくは0.01〜2.5質量%、より好ましくは0.01〜2.0質量%、更に好ましくは0.05〜2.0質量%、特に好ましくは0.05〜1.5質量%)含有する。このAlは、ジルコニア基焼結体中においてどのような化合物として含有されていてもよい。この化合物としては、例えば、Alや、他の元素(Zrや、その他ジルコニア基焼結体に含有される元素等)との複酸化物等が挙げられ、通常、Alとして含有される。このAlを含有することにより第2摺動面を構成するアルミナ基焼結体に対する耐摩耗性が効果的に向上すると共に、生体内において正方晶ジルコニアが単斜晶に相転移することを効果的に抑制できる。更に、機械的強度及び靭性を向上させることもできる。Alの含有量が0.01質量%未満であるとAlを含有する効果が発揮され難くなり、3.0質量%を超えて含有すると却ってアルミナ基焼結体に対する耐摩耗性が低下する。
【0014】
また、このジルコニア基焼結体を構成するZr及びAlを除く他の成分は特に限定されず、Y、Mg、Ca、Ce等の元素のうちの1種又は2種以上を含有することができる。これらの元素は例えば酸化物として含有され、ZrOの安定化剤として機能することができ、通常、これらのうち少なくともYが含有される。YはY換算でジルコニア基焼結体中に4.0質量%以上(より好ましくは4.5質量%以上、通常6.0質量%以下)含有されることが好ましい。このYは、ジルコニア基焼結体中においてどのような化合物として含有されていてもよい。この化合物としては、例えば、Yや、他の元素(Zr、Al、その他ジルコニア基焼結体に含有される元素等)との複酸化物等が挙げられ、通常、Yとして含有される。Yが含有されることによりZrOの相転移を抑制できる。特に4.5質量%以上含有されると、生体内の水系環境におけるZrOの相転移を効果的に抑制できる。一方、4.0質量%未満であるとZrOの相転移を抑制する効果が十分に得られ難くなる傾向にある。
【0015】
更に、ジルコニア基焼結体を構成する焼結体粒子の平均粒径は、特に限定されないが、通常、0.2〜0.9μm程度である。この平均粒径は0.7μm以下(より好ましくは0.68μm以下、更に好ましくは0.66μm以下、特に好ましくは0.65μm以下、通常0.2μm以上)であることが好ましい。0.9μm、特に0.7μmを超えて大きいとアルミナ基焼結体に対する十分な耐摩耗性を保持し難くなる傾向にある。尚、この平均粒径は後述するインターセプト法により測定した値である。
【0016】
上記「アルミナ基焼結体」は、AlをAl換算で92質量%以上含有する焼結体である(通常、Alが96質量%以上である)。Alの含有量が92質量%未満であると第1摺動面を構成するジルコニア基焼結体に対する耐摩耗性が低下し、また、強度特性も低下する場合がある。
このアルミナ基焼結体に含有されるAl以外の成分は特に限定されないが、3A族元素(Yb、Sc、Y、La、Dy及びLu等)、4A族元素(Zr等)、2A族元素(Mg及びCa等)などのうちの1種又は2種以上を含有することができる。これらのうちでもYbを含有することが好ましい。Ybを含有することによりジルコニア基焼結体に対する耐摩耗性が向上する。Ybは、Yb換算でアルミナ基焼結体中に8.0質量%以下(より好ましくは0.01〜7.9質量%、更に好ましくは0.01〜7.8質量%、特に好ましくは0.05〜7.7質量%、とりわけ好ましくは0.05〜7.6質量%)含有されることが好ましい。8.0質量%を超えて含有されるとジルコニア基焼結体に対する耐摩耗性が却って低下する傾向にある。また、0.01質量%以下ではYbが含有される効果が十分に発揮され難い傾向にある。
【0017】
また、アルミナ基焼結体を構成する焼結体粒子の平均粒径は、特に限定されないが、通常、0.5〜4.0μm程度である。この平均粒径は3.0μm以下(より好ましくは2.8μm以下、更に好ましくは2.6μm以下、通常0.5μm以上)であることが好ましい。3.0μm、特に4.0μmを超えて大きいとジルコニア基焼結体に対する十分な耐摩耗性を保持し難くなる傾向にある。尚、この平均粒径は後述するインターセプト法により測定した値である。
【0018】
本発明の人工関節を構成する第1部材は、少なくとも第1摺動面が前記ジルコニア基焼結体から形成されていればよい。従って、第1摺動面を含む第1部材の一部(例えば、第1部材の表面部)が前記ジルコニア基焼結体から形成されていてもよく、第1部材全体が前記ジルコニア基焼結体から形成されていてもよい。同様に、第2部材は、少なくとも第2摺動面が前記アルミナ基焼結体から形成されていればよい。従って、第2摺動面を含む第2部材の一部(例えば、第2部材の表面部)が前記アルミナ基焼結体から形成されていてもよく、第2部材全体が前記アルミナ基焼結体から形成されていてもよい。即ち、例えば、図1の人工関節(股関節)においては、ステム13及び骨頭12の両方の部材の全体がいずれかの焼結体から形成されてもよく、骨頭12のみの全体がいずれかの焼結体から形成されてもよく、更には、骨頭12の表面部のみがいずれかの焼結体から形成されてもよい。
【0019】
これらの焼結体から形成される部分が、人工関節を構成する部材の一部であって、摺動面を含む表面部である場合には、ジルコニア基焼結体又はアルミナ基焼結体から構成されるこの表面部は、摺動面から0.1mm以上(より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは1.0mm以上)の深さにわたることが好ましい。この深さが0.1mm未満であると十分な強度が得られ難い傾向にある。
【0020】
これらの焼結体からなる表面部は、人工関節を構成する金属製基体等の表面の所定箇所に、これらの焼結体からなる部材を覆い被せ、接合(例えば、接着剤等による)することにより形成することができる。また、これらの焼結体からなる粉末等をコーティング(例えば、溶射等)することにより形成することができる。更に、その他の方法で形成されたものであってもよい。更には、人工関節を構成する部材の内部側から傾斜的に組成が変化することにより表面部がこれらのジルコニア基焼結体又はアルミナ基焼結体から形成されていてもよい。
【0021】
本発明の人工関節を構成する第1部材及び第2部材の各々の形状及びその組合せは特に限定されない。例えば、(1)いずれか一方が椀状部を備え、他方が椀状部に対応する凸曲面部を備えるものであり、椀状部の凹曲面と凸曲面部の凸曲面とが摺動する組合せにできる(股関節、肩関節等)。また、(2)第1部材及び第2部材ともに凸曲面部を備え、この凸曲面部の凸曲面同士が摺動する組合せにできる(足関節等)。更に、(3)いずれか一方が凸曲面部を備え、他方が略平面部を備えるものであり、凸曲面部の凸曲面と略平面部の略平面とが摺動する組合せにできる(足関節等)。また、(4)いずれか一方が凹字型部を備え、他方が略平面部を備え、凹字型部と凹字型部の凹部を跨ぐように略平面状部とが摺動する組合せにできる(膝関節等)。更に、(5)いずれか一方が凹字型部を備え、他方が凹字型部に対応する凸字型部を備え、凹字型部の溝部に凸字型部の凸部がはまり込んで凹字型部の凹面と凸字型部の凸面とが摺動する組合せにできる(肘関節、手指関節等)。
【0022】
上記各形状の組合せのうち(1)では、第1部材と第2部材とのいずれか一方を臼蓋カップ(椀状部を備える)とし、他方を骨頭(凸曲面部を備える)として用いることで、特に人工股関節として用いることができる。臼蓋カップと骨頭とを備える場合、第1部材を臼蓋カップとして用い且つ第2部材を骨頭として用いてもよく、第1部材を骨頭として用い且つ第2部材を臼蓋カップとして用いてもよい。これらの組合せのうち前者が好ましい。即ち、前述のように、股関節は特に大きな負荷のかかる部分であり、また、インピンジメントを生じる場合がある。このため、股関節のうち特に臼蓋カップにはインピンジメントによっても破損しない特性が必要とされる。このため、アルミナ基焼結体に比べると更に高い機械的強度及び高い靭性を有するジルコニア基焼結体を臼蓋カップ側に用いることが好ましい。これにより、高い耐摩耗性を発揮すると共に、インピンジメントを生じる部分がこのジルコニア基焼結体から形成されることで破損を防止できる。一方、ステムネックは耐摩耗性を具備する必要がないことから、通常、金属等により形成される。
【0023】
本発明の人工関節を、人工股関節として用いる場合、例えば、図1においては、臼蓋カップ11の少なくとも臼蓋カップ摺動面111が上記ジルコニア基焼結体からなり(臼蓋カップ11全体であってもよい)、骨頭12の少なくとも骨頭摺動面121が上記アルミナ基焼結体からなる(骨頭12全体であってもよい)ものとすることができる。
また、例えば、臼蓋カップを骨盤側と摺動面側との2層構造とし、摺動面側の層をジルコニア基焼結体から形成し、骨盤側の層をこのジルコニア基焼結体と生体骨との間で緩衝作用を発揮できる材質{例えば、ポリエチレン及びポリアセタール等の有機材料、チタン、チタン合金、ステンレス合金及びコバルトクロム合金等の金属材料、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)及び水酸アパタイト(HAP)等のセラミック材料}などにより形成することができる。同様に、骨頭を外層と内層とから形成し、摺動面を構成する外層をアルミナ基焼結体から形成し、ステムと接触する内層を高靭性材料{例えば、チタン、チタン合金、ステンレス合金及びコバルトクロム合金等の金属材料、窒化珪素(Si)及び炭化珪素(SiC)等のセラミック材料}などにより形成することができる。
【0024】
臼蓋カップの形状は、通常、椀状部を備えるが、それ以外の形状は特に限定されず、配設する部分に応じた形状とすることが好ましい。また、臼蓋カップの大きさも特に限定されず、配設する部分に応じた大きさとすることが好ましい。但し、外径は、通常、34mm以上(通常、56mm以下)である。同様に、骨頭は、通常、凸曲面部を備えるが、それ以外の形状は特に限定されず、配設する部分に応じた形状とすることが好ましい。例えば、内部にステムが嵌合等されるように空洞を有していてもよい。また、骨頭の大きさも特に限定されず、配設する部分に応じた大きさとすることが好ましいが、通常、直径22mm以上(通常、直径32mm以下)である。
【0025】
本発明の人工関節によると、ISO6474に従うリングオンディスク試験により測定される摩耗体積を0.140mm以下(更には0.120mm以下、特に0.100mm以下、通常0.010mm以上)に抑えることができる。
また、アルミナ基焼結体の焼結体粒子の平均粒径が3.0μm以下であることにより、摩耗体積を0.110mm以下(更には0.100mm以下、特に0.090mm以下、通常0.010mm以上)に抑えることができる。
更に、ジルコニア基焼結体の焼結体粒子の平均粒径が0.7μm以下であることにより、摩耗体積を0.130mm以下(更には0.110mm以下、特に0.090mm以下、通常0.010mm以上)に抑えることができる。また、アルミナ基焼結体の焼結体粒子の平均粒径が3.0μm以下であり、且つ、ジルコニア基焼結体の平均粒径が0.7μm以下であることにより、摩耗体積を0.100mm以下(更には0.090mm以下、特に0.080mm以下、通常0.010mm以上)に抑えることができる。
更に、各々の焼結体の焼結体粒子の平均粒径が上記所定の範囲であり、且つ、ジルコニア基焼結体がAlをAl換算で0.06〜3.0質量%含有することにより、摩耗体積を0.085mm以下(更には0.080mm以下、特に0.070mm以下、通常0.010mm以上)に抑えることができる。
また、各々の焼結体の焼結体粒子の平均粒径が上記所定の範囲であり、且つ、ジルコニア基焼結体がAlをAl換算で0.06〜1.6質量%含有することにより、摩耗体積を0.080mm以下(更には0.075mm以下、特に0.070mm以下、通常0.010mm以上)に抑えることができる。
更に、各々の焼結体の焼結体粒子の平均粒径が上記所定の範囲であり、且つ、ジルコニア基焼結体がAlをAl換算で0.06〜3.0質量%含有し、且つ、アルミナ基焼結体がYbをYb換算で8.0質量%以下含有することにより、摩耗体積を0.070mm以下(更には0.065mm以下、特に0.060mm以下、通常0.010mm以上)に抑えることができる。
【0026】
本発明の人工関節の一方の摺動面を構成するジルコニア基焼結体では、後述する相転移加速試験後における単斜晶率を60mol%以下(更には40mol%以下、特に30mol%以下、通常10mol%以上)に抑えることができる。また、このジルコニア基焼結体の相転移加速試験後における単斜晶率は、Alを含有しない場合の相転移加速試験後における単斜晶率よりも20%以上(更には35%以上、特に50%以上)小さく抑えることができる。
【0027】
更に、このジルコニア基焼結体では、JIS R 1601に従う3点曲げ強さを1050MPa以上とすることができ、JIS R 1607に従う破壊靭性を4.0MPa・m1/2以上とすることができ、JIS R 1610に従うビッカース硬度は1200以上とすることができる。
一方、本発明の人工関節の他方の摺動面を構成するアルミナ基焼結体は、JIS R 1601に従う3点曲げ強さを425MPa以上とすることができ、JIS R 1607に従う破壊靭性を3.0MPa・m1/2以上とすることができ、JIS R 1610に従うビッカース硬度は1700以上とすることができる。
【0028】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に詳しく説明する。
[1]ジルコニア基焼結体及びアルミナ基焼結体の作製
表1に示す組成となるようにスプレードライ法により造粒した各原料粉末を用意した。次いで、49MPa(500kg/cm)で加圧した後、更に、147MPa(1500kg/cm)でCIP(冷間静水圧プレス)を施し、角柱状及び円柱状の未焼成成形体を得た。円柱状の未焼成成形体からは、旋盤加工によりリングオンディスク試験に供する試験体を切り出した。その後、得られた角柱状の未焼成成形体、リングオンディスク試験用の未焼成試験体の各々を、大気雰囲気下、1300〜1550℃で一次焼成した。次いで、アルゴンガス中(不活性雰囲気下)、101MPa(1000気圧)、1250〜1500℃でHIP(熱間静水圧プレス)処理を施し、各焼結体を得た。得られた各焼結体をダイヤモンドディスクを用いて一次研磨し、その後、更に平均粒径6μmのダイヤモンドパウダを用いて鏡面研磨し、実施例1〜7及び比較例1〜3のジルコニア基焼結体と、実施例8〜12及び比較例4、5のアルミナ基焼結体を得た。但し、リングオンディスク試験に供する試験体については、摺動面の表面粗さ(JIS
B 0601)Raを0.01〜0.04μmに加工した。
【0029】
【表1】
Figure 2004024361
【0030】
[2]各種特性の評価
(1)平均粒径の測定(インターセプト法による)
鏡面研磨した各焼結体をサーマルエッチングした後、この焼結体の表面の電子顕微鏡写真を複数倍率において撮影した。次いで、これらの写真の中から写真内に長さL(写真上における長さ)の線を引いた場合に、この線が横断又は接する粒子の数が約20〜30個となる倍率Tの写真を選んだ。その後、この写真上に更に同じ長さLの線を、任意に9本引き、合計10本とした。次いで、各線が横断又は接する粒子数N1を数えた。その後、長さLを焼結体上における長さに換算(長さL÷倍率T)した長さL2を、粒子数N1を除して仮平均粒子径D1を得た。次いで、10本の線の各々から算出された10個の仮平均粒子径D1の平均を算出し、平均粒子径とした。
【0031】
(2)曲げ強さ、ビッカース硬度及び破壊靭性の測定
下記▲1▼〜▲3▼により測定し、表1に結果を示した。
▲1▼曲げ強さ;JIS R 1601に従い、3点曲げ強さを測定した。但し、試験片は長さ38mm、厚さ3mm、幅4mmとし、クロスヘッドスピードは0.5mm/分とした。
▲2▼ビッカース硬度;JIS R 1610に従い、ビッカース硬度を測定した。但し、試験荷重は294N(30kgf)とした。
▲3▼破壊靭性;JIS R 1607に従い、圧子圧入法を用いて破壊靭性を測定した。但し、試験片厚さは3mmとし、圧痕は5mm間隔で各3点形成し、圧子押込み荷重は294N(30kgf)とした。
【0032】
(3)ジルコニア基焼結体の相転移加速試験
温度140℃、圧力365KPa(3.6atm)、相対湿度100%の雰囲気のオートクレーブ内に30時間静置した後、オートクレーブ内から取り出し、X線回折により焼結体を構成する各結晶相の回折ピークの積分強度を測定した。次いで、これらの各回折ピークの積分強度を用いて前記式(1)を用いて単斜晶率を求め、この結果を表1に併記した。尚、相転移加速試験前の各ジルコニア基焼結体の前記式(1)及び前記式(2)による正方晶率は100mol%であった。
【0033】
(4)耐摩耗性の評価
ISO 6474規格に記載のリングオンディスク試験方法に準じ、摩耗体積を測定した。但し、異なる材質からなる焼結体間での試験の際はディスク側に硬度のより小さい焼結体を配した。また、試験条件は以下の通り(ISO 6474規格通り)とし、n数は各1とした。
<試験条件>
リング側試験体の内径:14mm
リング側試験体の外径:20mm
ディスク側試験体の外径:30mm
回転角:±25゜
軸荷重:1500N
周波数:1Hz
試験時間:100時間
潤滑液:蒸留水
得られた結果を表2に示した。
【0034】
尚、実施例3のジルコニア基焼結体同士、実施例5のジルコニア基焼結体同士及び比較例2のジルコニア基焼結体同士を摺動させた際には、摺動面から異音が発生し、トルクが増大し、規定の測定時間である100時間の摺動を続けることができなかった。このため、表2には「測定不可」と示した。また、これら3つのジルコニア基焼結体同士の摩耗試験では、いずれも20時間摺動後における摩耗体積が0.2mm以上と大きかった。
【0035】
【表2】
Figure 2004024361
【0036】
(5)実施例の効果
表1の結果より、Alを含有しない比較例1〜3のジルコニア基焼結体の相転移加速試験後における単斜晶率は72〜75mol%といずれも大きい。これに対して、Alを含有する実施例1〜7のジルコニア基焼結体の相転移加速試験後における単斜晶率は15〜58mol%といずれも小さいことが分かる。特に実施例3では単斜晶率は17mol%、実施例6では単斜晶率は15mol%と極めて小さく抑えられている。即ち、ジルコニア基焼結体がAlを含有することにより、Alを含有しないジルコニア基焼結体に対して少なくとも19.4%以上、最も効果が大きいもので80%も単斜晶率が小さくなることになる。これらの結果から、Alを含有することによる耐相転移効果は明らかである。
【0037】
また、実施例1〜7のジルコニア基焼結体は、3点曲げ強さで1078〜1627MPaの高い機械的強度を備えることが分かる。更に、破壊靭性において4.2〜5.8MPa・m1/2の高い靭性を備えることが分かる。また、ビッカース硬度で1220〜1355の高い硬度を備えることが分かる。
【0038】
更に、実施例8〜12のアルミナ基焼結体は、3点曲げ強さで426〜860MPaの高い機械的強度を備えることが分かる。また、破壊靭性において3.0〜3.5MPa・m1/2の高い靭性を備えることが分かる。更に、ビッカース硬度で1704〜2170の高い硬度を備えることが分かる。特に、Ybを含有し且つその平均粒径が3.0μm以下である実施例9〜11のアルミナ基焼結体は、3点曲げ強さで633〜860MPaの特に高い機械的強度を備えることが分かる。また、ビッカース硬度で1925〜2170の特に高い硬度を備えることが分かる。
【0039】
表2の結果より、単独では非常に優れた強度特性を示すジルコニア基焼結体であっても、このジルコニア基焼結体同士を摺動させた場合(実施例3の焼結体同士、実施例5の焼結体同士)には20時間しか摺動させることができず、規定の測定を行うことができなかった。また、摩耗体積も0.2mm以上と大きかった。これは、加速試験中に相転移による劣化を生じ、摺動面にキズができたことが原因であると考えられる。これに対して、摺動させる相手として実施例8〜12のアルミナ基焼結体を選択することで極めて効果的に摩耗体積を抑えられることが分かる。
【0040】
また、Alを含有しない比較例1及び3のジルコニア基焼結体では、優れた摺動特性を発揮できるはずの実施例8〜12のアルミナ基焼結体を相手に選んでも、摩耗体積は0.93〜0.185mmと大きい傾向にあることが分かる。更に、実施例11のアルミナ基焼結体を選ぶことによって比較的摩耗体積を小さく(0.093〜0.120mm)はできるが、実施例1〜7のジルコニア基焼結体と実施例11のアルミナ基焼結体との組合せにおける摩耗体積(0.035〜0.077mm)には及ばないことが分かる。また、比較例2のジルコニア基焼結体は良好な耐摩耗性を発揮できるものの、前述のように相転移加速試験後における単斜晶率が72mol%と大きいために使用に適さないことが分かる。更に、Alの含有量が92質量%を下回る比較例4及び5のアルミナ基焼結体では、実施例1〜7の優れた摺動特性を発揮できるジルコニア基焼結体と組み合わせた場合であっても、0.148〜0.223mmと摩耗体積が大きいことが分かる。
【0041】
これに対して、Alを含有する実施例1〜7のジルコニア基焼結体では、実施例8〜12のアルミナ基焼結体を組み合わせることで、摩耗体積を0.035〜0.140mmに抑えられることが分かる。特に、焼結体粒子の平均粒径が3.0μm以下である実施例8、9、11及び12のアルミナ基焼結体を用いることにより、摩耗体積を0.035〜0.107mmに抑えられることが分かる。更に、焼結体粒子の平均粒径が3.0μm以下であって且つ焼結体粒子の平均粒径が0.7μm以下である実施例1〜3及び5〜7のジルコニア基焼結体を用いることにより、摩耗体積を0.035〜0.099mmに抑えられることが分かる。
【0042】
また、Alを含有しないジルコニア基焼結体である比較例2は、前述のように耐摩耗性に優れている(但し、相転移量は多い)。これはその平均粒径が0.32μmと小さいために得られている結果である。これに対して、Alを含有する実施例2の平均粒径は0.65μmであり、また、実施例5の平均粒径は0.55μmと比較例2に比べるとかなり平均粒径が大きい。それにも関わらず摩耗体積は比較例2よりも遙かに小さく、高い耐摩耗性を発揮できていることが分かる。平均粒径は焼成条件によって変化し、高温又は長時間の焼成により粒成長を生じ易いものである。また、製造時には他の特性を得るために焼成温度や焼成時間を平均粒径が小さくなる条件で選択することが困難な場合もある。しかし、Alを含有することによりある程度の粒成長は許容されるものとなり、焼成条件を幅広く選択することが可能となることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【図1】人工関節の模式的な説明図である。
【符号の説明】
1;人工関節、11;臼蓋カップ、111;臼蓋カップ摺動面、112;臼蓋カップの外側端、12;骨頭、121;骨頭摺動面、13;ステム、131;ステムネック部、2;骨盤、3;大腿骨。

Claims (6)

  1. 第1部材と第2部材とを備え、該第1部材と該第2部材とが相互に摺動する人工関節であって、該第1部材における少なくとも該第2部材と摺動する第1摺動面は、ZrOの主結晶相が正方晶であり且つAlをAl換算で0.01〜3.0質量%含有するジルコニア基焼結体からなり、該第2部材における少なくとも該第1部材と摺動する第2摺動面は、AlをAl換算で92.0質量%以上含有するアルミナ基焼結体からなることを特徴とする人工関節。
  2. 上記アルミナ基焼結体を構成する焼結体粒子の平均粒径は3.0μm以下である請求項1記載の人工関節。
  3. 上記ジルコニア基焼結体を構成する焼結体粒子の平均粒径は0.7μm以下である請求項1又は2に記載の人工関節。
  4. 上記アルミナ基焼結体はYbをYb換算で8.0質量%以下含有する請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の人工関節。
  5. 上記第1部材及び上記第2部材のうちの一方は椀状部を備え、他方は該椀状部に対応する凸曲面部を備える請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の人工関節。
  6. 上記第1部材は臼蓋カップであり、上記第2部材は骨頭であり、人工股関節として使用される請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の人工関節。
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JP2009504270A (ja) * 2005-08-12 2009-02-05 アメディカ コーポレイション モノブロックのセラミック寛骨臼カップを有する人工股関節
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