JP2004021705A - 分子計算装置、分子計算計画設計装置、分子計算方法、分子計算プログラム及び分子計算結果解析プログラム - Google Patents
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Abstract
【課題】従来の電子コンピュータよりも高速に計算を実行する。
【解決手段】電子計算部21と分子計算部22とを具備する分子計算装置であって、電子計算部21は通常の計算処理に加えて、実質的に分子計算部22の機能を制御し、その制御の下で分子による演算が実施される。
【選択図】 図1
【解決手段】電子計算部21と分子計算部22とを具備する分子計算装置であって、電子計算部21は通常の計算処理に加えて、実質的に分子計算部22の機能を制御し、その制御の下で分子による演算が実施される。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、核酸分子を使用する新規な分子計算装置、分子計算計画設計装置、分子計算方法、分子計算プログラム及び分子計算結果解析プログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体シリコンを用いた計算機はその誕生以来大きく性能を伸ばし、安価に複雑な計算をこなして人類に貢献してきた。これら半導体シリコンを用いた計算機は主に0と1の2値で計算を進めるノイマン型計算機である。
【0003】
コンピュータ科学の分野において研究対象として有名な問題の中にNP完全問題という問題がある。このようなNP完全問題の例は巡回サラリーマン問題、蛋白質の3次元構造の予想などである。このような問題を完全に解く従来の方法として代表的な2つが挙げられる。1つは、全ての可能な解を問題に当てはめて、その問題が解けるか否かを検証していく方法である。他の一つは、近似解を求めることによって問題を解く方法である。
【0004】
前者の方法では、解答を得るために要求される計算時間は、問題の規模に比例して指数関数的に増加していく。また、後者の方法は、このような計算を高速に行うために提案されたものである。近似解を求めるためのアルゴリズムがいくつか提案されてきた。これらのアルゴリズムでは厳密解が求まるとは限らず、解を見落とす可能性がある。
【0005】
前者の方法によって、全ての解を高速に求めるためには、現在の技術では並列化した多数の電子計算機を並行して計算することが考えられる。ところが計算機数が増加すれば消費電力が増え、より広い設置場所も要求される。また計算機を並列化するには計算機同士の通信をどのようにするか、どんな接続法を採用するかなどの技術的課題も多い。
【0006】
一方、ノイマン型計算機で解くのが難しい問題を解くために、1994年にエイデルマン(Adleman)によってDNAコンピューティング(DNA computing)と称される新たな計算機パラダイムが提案された(Science,266,1021−4)。
【0007】
エイデルマンの思想は、DNA分子を、情報を記録したテープと見なし、情報処理の主体として酵素を用いることによって、チューリング機械の計算過程をDNA分子を用いて実行するというものである。即ち、エイデルマンは小規模なハミルトン経路問題を解くために、DNAを用いて経路に対応するDNAを形成させる。そして、そのDNAの中から解のDNAを選択する方法を用いた。また、DNA分子で加算を行うというグアニエリ(Guanieri)らによる報告もある(Science,273,220−3)。このように分子による演算の可能性についての探索が行われてきた。
【0008】
DNAを演算に用いると次のような点で有利であることが明らかになっている。例えば、数十塩基程度の短いDNA分子の1pmol(=10−12mol)は、100μLの緩衝溶液に容易に溶解する。その上、溶解液中の分子数は約6×1011個にものぼる。従って、この膨大な数の分子が相互作用により解を表す分子を形成するならば、従来のコンピュータを用いて行う並列計算するよりも遙かに大きな並列数で解を求めることができる。また、1mLにも満たない溶液中でもこの反応は行えるため、その溶液の加温冷却を行ってもエネルギーはほとんど消費されない。これらのDNAを使った計算機は、多変数の大きな問題に適用したときにノイマン型計算機の処理速度を凌駕すると予測される。しかしながら、現在のところ、実用化に耐えることができ、且つ、効果的にDNA分子により分子計算を行える装置は開発されていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような状況に鑑み、本発明の目的は、分子演算の並列性を利用して従来の電子コンピュータよりも高速に計算を実行する好適な適用例を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の課題は、例えば以下の手段により実現される。即ち、
分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応により分子計算を実行する分子計算装置であって、
分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応の反応制御を行う反応制御部を備えた分子計算部と、
分子を核酸配列に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義された変数及び定数と、前記符号分子の演算反応に対応付けて定義された関数により記述されたプログラムを、前記符号分子の演算反応に対応する分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応の反応制御を行う前記反応制御部を駆動させるための制御命令に変換して前記制御命令の手順を生成する制御命令生成部と、
前記制御命令の手順を出力する出力部とを有する電子計算部
を備える分子計算装置である。
【0011】
ここで、反応制御には、反応を生じさせる操作(PCR反応等)の制御と、反応を生じさせる付随的な操作(混合等)の制御を含む。この方法により、従来の電子コンピュータよりも高速に並列計算処理することが可能である。
【0012】
また、このような装置によって、例えば、遺伝子型や遺伝子の発現の状態を決定すること等も可能である。
【0013】
このような装置は、NP完全問題等の困難な数学的問題を解くために有利な、超並列計算を高速に行う分子計算装置として有用である。もちろん、遺伝子解析にも利用可能である。
【0014】
また、上述の装置は、その装置により実現される方法、その装置を実現する電子計算部で利用可能なプログラムや、記録媒体のみならず、分子計算の実行計画を作成する実行計画設定手法としても成立する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の1の側面において、核酸を用いた情報処理方法を実行するための計算機が開示される。
【0016】
ここで使用する「核酸」とは、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、mRNA、全RNA、hnRNAおよび合成RNAを含む全てのDNAおよびRNA、並びに、ペプチド核酸、モルホリノ核酸、メチルフォスフォネート核酸およびS−オリゴ核酸などの人工合成核酸を含む。また、ここにおいて「核酸」、「核酸分子」および「分子」とは交換可能に使用され得る。
【0017】
以下、例を用いて本発明を説明する。
【0018】
I.分子計算装置
1.概要
本発明の好ましい態様に従うと、核酸を用いた情報処理方法を実施するための計算装置が提供される。そのような計算装置は、電子計算部と分子計算部とを具備する分子計算装置であって、前記電子計算部が、実質的に分子計算部の機能を制御し、その制御の基で分子による演算が実施される分子計算装置である。分子計算部とは、分子の化学反応を実行することにより実質的に計算を実行する部分である。
【0019】
本発明の計算装置において基礎となる計算法は、上述したような分子演算の並列性を利用して分子計算部が演算を行い、得られたデータを基に、電子計算部が演算結果を表示する方法である。本発明は、核酸分子を用いて計算を実施することによって、データの並列処理や遺伝子解析を効率的に実行する計算装置を開示する。また、核酸分子によりデータやプログラムを表現し、そのプログラムで定義された演算を分子反応に置き換えて反応を実行することにより、従来の電子コンピュータに比べて桁違いに大きなメモリ容量と高い並列処理能力を実現する。
【0020】
本計算装置を開発するに当たり、まず最初に、本発明者らは、分子計算機を用いて演算を実行するときの計算プログラムの内容を、分子計算部で認識し且つ実行可能なデータ形式に変更するのが好ましいことに注目した。具体的には、分子計算部で計算を実施する前に、予め分子を特定の符号に結びつけた符号分子に変換する。そして、その変換規則を用いて計算プログラム中の変数および定数などのデータを自動的に符号分子に変換しておく。更に、このような変換操作を電子計算部において行うことが計算装置全体の計算速度の向上のために好ましいことを見出した。
【0021】
言い換えれば、本発明の分子計算装置は、分子計算部と電子計算部とが互いに補完的に機能を分担する計算装置である。従って、使い勝手がよく、その上、速い速度でNP完全問題を解くことや、核酸分子等の生体分子の情報解析を直接行うことが可能である。即ち、本発明の計算装置は、文字の入力や表示、単純な四則計算が遅いというような分子計算部の欠点を、電子計算部を用いてカバーする。これにより、計算装置全体としての計算速度向上を可能にした。従って、本発明の分子計算装置は、電子計算機が高速に実現できる機能は電子計算部が担当し、それ以外の部分を分子計算部が担当するハイブリッド分子計算装置である。
【0022】
本発明の基本となる計算装置を図1に示す。本発明の計算装置は、電子計算部21及び分子計算部22に大別される。また、電子計算部21には、データを入力する入力部11及びデータを出力する出力部20が接続されている。また、分子計算部22には、データを入力する入力部18及び出力部19が接続されている。
【0023】
電子計算部21は一般的な電子コンピュータにより実現される。具体的には、演算部14、記憶部13、入出力制御部12及び通信部23を具備する。演算部14に記憶部13、入出力制御部12及び通信部23が接続されている。また、入出力制御部12は入力部11及び出力部20に接続されている。更に、その他の一般的な電子コンピュータの構成要素を具備してもよい。演算部14は、例えばCPUなどにより実現される。記憶部13は半導体メモリなどにより実現される。
【0024】
分子計算部22は、演算部15、記憶部16、入出力制御部17及び通信部24を具備する。演算部15と記憶部16、入出力制御部17、入力部18及び出力部19は分子や容器、ピペッタなどの反応機器により実現される。すなわち、分子の化学反応を実行するための装置により実現されるものであり、演算部15、記憶部16、入出力制御部17などに装置構成が1:1に対応するものではない。演算部15、記憶部16、入出力制御部17などの構成は、分子計算部22の分子や容器、ピペッタなどの反応機器を電子計算部21と同じ概念として捉えた場合の構成の一例を示している。演算部15,記憶部16及び入出力制御部17は通信部24に接続されている。また、入出力制御部17は入力部18及び出力部19に接続される。これら分子や反応機器により、演算とデータの記憶と分子データの入出力制御とを同時に実現している。
【0025】
本発明の計算装置では、電子計算部21が分子計算部22を制御する。電子計算部21に所望するプログラムが入力されると、入力された情報を基に、分子計算部22において実行する分子計算の計画が生成される。また、目的とする分子計算に必要な分子の設計が行われ、それにより得られた情報を分子計算部22に伝える。分子計算部22は、得られた情報に基づき分子計算を行う。例えば、当該分子計算の計画は、記憶部13に記憶された入力情報と設計される分子計算が対応づけられたテーブルを演算部14が検索し、対応する計算を選択することによりなされてもよい。また、分子の設計は、記憶部13に記憶された入力情報と設計される分子が対応づけられたテーブルを演算部14が検索し、対応する分子を選択することによりなさてもよい。
【0026】
電子計算部21側の入力部11は、例えば、キーボードおよびマウス等の一般的に人が情報を入力することが可能な入力手段の何れかを使用することが可能である。また、電子計算部21側の出力部20は、ディスプレイおよびプリンタ等の一般的に情報を出力することが可能な出力手段の何れかを使用することが可能である。
【0027】
これら計算装置の動作を実現するため、演算部14は、例えば翻訳・計算計画立案・実行部14a、核酸配列計算部14b、結果解析部14cなどとして機能する。これら各手段14a〜14cは、例えば記憶部13から翻訳・計算計画立案・実行プログラム、核酸配列計算プログラム、検出結果解析プログラムが読み出されることにより実行される。また、演算部14で各種機能を実行させるためのプログラムは、記録媒体に記録されたプログラムプロダクトとして存在し、図示しない記録媒体読取装置により読み取られ、記憶部13に格納された上で演算部14で実行されてもよい。また、演算部14は、これら各手段14a〜14cとして機能する以外にも、通常の電子計算機が実行する手段としても機能する。
【0028】
更に、分子計算部22において得られた計算結果の出力は、通信部24,23を介して電子計算部21に送信され、演算部14などにより所望のデータ処理が施されてもよい。例えば、それらの計算結果は、予め記憶部13に記憶しておいた処理形式に応じた形式で集計および演算処理される。その演算処理結果は、最終的には出力部19または出力部20に所望する形態で出力される。これらの処理の間、分子計算部22の演算部15や記憶部16の状態は、電子計算部21において通信部23、24を介して受信される情報として間接的に把握されている。
【0029】
一方、分子計算部22は、実験的に核酸分子を合成したり、合成済みの核酸分子を用いて所望する演算反応を行うことにより分子計算を実行する部分である。分子計算部22において行われる分子計算の例は後述する。
【0030】
電子計算部21の演算部14は、通常の電子計算機の演算部が行う処理に加えて、入力部11から入力された初期値を符号分子表現に変換すること、計算プログラムの手続または関数を対応する符号分子の演算反応に変換すること、および記憶された計算プログラムから演算反応の実行手順を作成すること等を行う。また、電子計算部21にて行われることは、例えば、分子の変数への割り当て、試薬などの反応用溶液収容容器の割り当て、分子計算中の反応機器(例えば、ピペットチップなど)や反応用溶液の配置の割り当て、コンテナやピペッタなどの反応機器の移動や操作の割り当て、サーマルサイクラの温度制御の設定、並びに計算の実行シーケンスの決定などである。
【0031】
基本的な計算装置の処理を図4の処理フローに従って説明する。
【0032】
なお、以下の(S1)〜(S9)のうち、(S1)、(S2)、(S3)、(S5)、(S8)、(S9)の工程は電子計算部21で実行される。(S4)は核酸合成装置30で実行される。(S6)及び(S7)は分子計算部22で実行される。
【0033】
(S1)所望する計算プログラム(原始プログラム)は、電子計算部21の入力部11から入力され、入力された計算プログラム、計算プログラムの定数および変数等の情報は記憶部13に記憶される。
【0034】
(S2)プログラムの翻訳処理であり、(S2a)〜(S2c)からなる。S1で記憶された原始プログラムはまず順次プログラムに変換される(S2a)。そして、この順次プログラムに含まれるデータ(変数、定数)は、演算部14により記憶部13に予め記憶された対応データに従って、符号分子表現に変換される。一方、順次プログラムに含まれる手続または関数は、対応する符号分子の演算反応に変換される(S2b)。この(S2b)により、演算反応により処理手順を表現した演算手順テーブルが生成される。次に、演算手順が実行手順に変換されて、実行手順テーブルが生成される(S2c)。(S2)のプログラムの翻訳は、「計算反応手順の作成」とも称す。
【0035】
(S3)核酸配列の計算処理である。この計算処理は、具体的には、(S2b)で得られた演算手順テーブルに含まれる符号分子のうち、新たに生成が必要な分子を得るためのシミュレーションである。この処理は、予め設計しておいた核酸配列を用いるならば行わなくてもよい。
【0036】
(S4)核酸合成処理である。(S3)で得られた計算結果は核酸合成装置30に送られ、(S3)において設計された各配列を有した核酸である符号分子が合成される。予め設計し合成しておいた核酸を用いるならばこの合成は必要ない。合成が行われない場合、入力部18から合成済みの核酸を入力する。
【0037】
(S5)実行手順テーブルの実行手順を、分子計算部22に命令を与えるための制御命令に変換し、制御命令手順テーブルが生成される。この制御命令手順テーブルは分子計算部22に出力される。
【0038】
(S6)分子計算部22は、(S5)で入力された制御命令手順に従って、S4において準備された演算分子を用いて、プログラムの演算反応に相当する分子の化学反応を実行する。これにより、分子を用いた自動計算が行われる。
【0039】
(S7)(S6)において行われた化学反応により生じた反応産物の検出および同定を行う。
【0040】
(S8)(S7)で得られた検出結果の解析を行う。
【0041】
(S9)予め記憶部13に記憶しておいた出力形式に合わせるように、S7において算出された最終データが処理され、出力部20から出力される。この出力結果により、プログラムの計算結果を確認することができる。
【0042】
このような工程は、所望に応じてループ処理を形成することも可能である。例えば、各工程により得られた結果を、記憶部13に予め記憶された条件等と比較し、その比較結果によってはそれ以前の何れかの工程を単独で、または複数の工程を組み合わせて実施することを、繰り返して行うように設定することも可能である。
【0043】
ループ処理を形成する場合の処理フローの一例を図5に示す。図5に示すように、解析結果に基づき分岐処理の判定を実行する。この判定により分岐処理後の処理すべきプログラムが決定される。そして、(S2a)に戻り、この決定されたプログラムは順次処理への変換などを経て再び分子計算部による自動実行(S6)がなされる。
【0044】
図5の場合、分岐処理毎に原始プログラムのレベルから制御命令手順テーブルの生成が必要となる。これに代えて、図6に示す処理フローとすることもできる。
【0045】
図6は、予め原始プログラムにおける分岐処理、分岐処理後のすべての制御命令手順が生成されている場合である。この場合、分岐処理の判定結果さえ(S10)で得られれば、(S12)に進み、予め(S6)で生成された制御命令手順テーブルにおける次の制御命令手順を決定するのみでよい。これにより、分岐処理の度にプログラムを翻訳する処理が不要となる。
【0046】
なお、これら図5及び図6に示したような処理フローの適用は、分岐処理の場合に限られない。処理において、一旦分子計算部22での計算結果を電子計算部21にフィードバックさせ、その計算結果に基づき手順が変更する場合のすべての処理に適用可能である。
【0047】
また、自動化が難しい工程がある場合や、自動化すると装置が大がかりになる場合、例えば、クローニングにおける培養やコロニーピッキングなど人力で行うことが好ましい実験操作を行うときには、一度出力部19に核酸を出力し、出力部20に行うべき実験操作を表示する。この後、マニュアルによる分子計算部22内の反応機器の操作を行ってから再び入力部18に核酸を入力し、入力部11から再起動を入力してもよいし、または入力を自動的に検出することで計算を再び始めてもよい。このように、処理の一部を人間が実行するように人間と計算機の処理分担を変えることもできる。
【0048】
また、この工程において計算プログラムが所望の分子を得ることを目的とし、計算結果を表示する必要がない場合、(S6)で得られた所望の分子(反応産物)を最終出力としてもよい。この場合、図4のフローでは、(S7)以降のステップは省略される。例えば、特定の遺伝子を特異的に検出するオリゴDNAを選択する計算を実行した場合などである。この場合、分子計算部22における検出が行われた結果として得られる分子をそのまま出力部19より出力して得る。
【0049】
また、原始プログラムの記述レベルまで計算結果を変換せず、反応産物の検出を分子計算部22で行った後、(S8)を実行せずに(S9)で計算の終了を出力部20に出力してもよい。この場合、図7のようなフローとなる。
【0050】
(S2)の工程における符号分子への変換は、予め、記憶手段に記録しておいた分子変換テーブルを読み出し、そこに含まれるデータを検索して対応するデータを読み出すことにより行うことが可能である。分子変換テーブルは、例えば分子計算に使用する符号分子と電子計算部21に入力する情報とを対応付けたものでよい。
【0051】
また、(S2)の工程における計算プログラムの手続または関数の演算反応への変換は、予め、記憶手段に記録しておいた手順変換テーブルを読み出し、そのテーブルを参照して対応するデータを読み出すことにより行うことが可能である。手順変換テーブルは、例えば実際に行われる分子計算の工程、それを実施する順序および繰り返し回数等と、電子計算部21に入力する情報とを対応付けたものでよい。
【0052】
また、以上の各工程で得られた情報は、工程毎に全て記憶部13に記憶されても、少なくとも一部分の工程で記憶されるものでもよい。
【0053】
上述の手順では、分子計算部22に設けられた演算部15において、核酸分子の合成を行うように記載したが、この演算部15に加えて分子計算部22に分子合成部を配置して核酸分子の合成を行ってもよい。この場合、分子合成部は分子計算部22および電子計算部21に含まれず、しかし電子計算部21と分子計算部22とに連結配置される。また、前述した通り、分子計算を行うために必要なすべての符号分子が分子計算部22で既に準備されている場合は、核酸配列計算(S3)及び核酸合成(S4)は不要である。この場合のフローを図8に示す。
【0054】
また、分子計算部22における演算部15は、核酸分子を用いた演算反応を行うために必要な以下のような各部分を具備する。
【0055】
そこにおいて各種反応を行うための反応部、反応に必要な核酸を保持するための核酸保持部、反応に必要な試薬および緩衝液等を保持するための試薬保持部、反応に必要な酵素を保持するための酵素保持部、各部分を所望に応じて加熱するための加熱手段、各部分を所望に応じて冷却するための冷却手段、分注用ピペット等の分注手段、ピペットや反応容器等を洗浄するための洗浄手段、並びに各種操作を制御するための制御手段を全て、またはその中の幾つかを組み合わせて具備することが可能である。
【0056】
また、演算部15は、目的の演算反応により生じる反応産物を検出および同定するための検出部を具備してもよい。しかしながら、検出部は、演算部15に必ずしも包含される必要はない。検出部は使用する検出手段によっては非常に大がかりな装置になる場合もあるからである。検出部は、電子計算部21および分子計算部22に内包されずに、電子計算部21と分子計算部22とに連結して存在するように配置することも可能である。
【0057】
例えば、本装置における検出は、演算反応により生じた反応産物の電気泳動により行ってもよい。この場合、電気泳動により得られるピークの位置を検出することによって核酸分子の長さを判定して実施する。または、反応産物をDNAシーケンサに供し、そこから出てくるデータを基に配列を検出して実験最初に割り当てていた符号化核酸の何れであるのかを判断してもよい。或いは、DNAマイクロアレイとスキャナを装備することにより、符号化核酸の配列をハイブリダイゼーション法により読み取ることにより実施してもよい。
【0058】
(S6)における制御命令に基づく分子計算部22の自動制御をマニュアルで行うことも可能である。この場合のフローを図9に示す。図9に示すように、(S6)の代わりに(S61)を設けてある。この(S61)では、(S5)で生成され、予めプリンタなどで制御命令手順テーブルを印刷した制御命令手順表を参照し、オペレータがマニュアルで分子計算部22の各装置を操作する。このように、オペレータがマニュアルで操作する場合であっても、分子計算部22における制御手順が明確に示されているため、従来の分子計算部22を用いた場合に比べ格段に効率的な計算処理が可能となる。
【0059】
分子計算部22の反応結果を検出部で検出することなく、出力を反応結果自体、すなわち核酸により得ることも可能である。この場合、図9の(S61)以下のステップは省略される。
【0060】
電子計算部21において、一連の計算手順、即ち、計算を実行するシーケンスを作成するためには、入力されたプログラムと問題とその初期値とから、一意に計算のための実行シーケンスが定まるのが好ましい。例えば、3SATのプログラムの場合では、プログラムのループを展開し、条件分岐については問題を参照して予め判断しておく。これにより、翻訳・計算計画立案・実行部14aによる計算計画を定めることができる。従って、プログラムの計算が始まる時点で全ての計算計画を定めることができる。ただし、プログラムによってはループの途中に配列検出操作を入れて配列を確認してから条件分岐を行わなくてはならない場合もある。その場合、検出操作を行ってからその結果に応じて次の段階の計算計画を立てるように実行すればよい。
【0061】
また、本発明の計算装置では、例えば、cDNAの合成などを関数化し、計算のための分子計算部22での操作と関連づけて電子計算部21の記憶部13に記憶させておくことが可能である。これにより自動的な手順の計画が可能となる。また、自動的に符号化反応を行うことにより、それぞれの処理、例えば、論理演算および/または配列検索を自動的に並列的に行うことができる。
【0062】
本発明によれば、従来の実験用、臨床用および製造用等の種々の作業用ロボットシステムを分子計算部22に適用できる。この場合、事前に準備された電子計算部側のプログラムに制約されることなく、目的を最優先とした作業計画に対応するように動作させることが可能となる。
【0063】
本発明における符号化配列として、例えば、ヒトの遺伝子を変換する場合には、ウイルスなど、異種で塩基配列のホモロジーが低い生物の部分配列を用いることが好ましい。また、単に3SATなどの非生物的な問題を解く場合には、クロスハイブリダイゼーションしないように、且つTmがほぼ等しいような配列を任意に設計し、符号化配列として使用することも可能である。また、数が多く必要であれば、電子計算部21において所望の条件を満たすように計算で求めた正規直交化配列を用いる。
【0064】
また、分子計算部22における分子を直接的な入力とした化学反応により、電子計算部21が所望する演算が可能になる。従って、例えば、遺伝子解析に本発明を利用した場合には、実験誤差を最小に抑えることが可能である。即ち、核酸を符号化核酸に対応付けて装置内で分子の状態のまま計算処理するので実験誤差が抑えられる。また、本発明の分子計算装置の使用により計算時間およびランニングコストが削減できる。
【0065】
更に、遺伝子解析をプログラムにより表現することで、実験を自動的に計算して実行することもできる。また、例えば発現遺伝子を符号化OLA(Oligonucleotide Ligation Assay)を行うことにより符号化核酸に変換する。そして、符号化核酸の3’と5’末端にある共通配列によりPCR増幅すれば、正確にそれらの発現比を検出してもよい。符号化OLAについての詳細は後述する。なお、符号化核酸への変換は、符号化OLA以外でも実現可能である。
【0066】
2.詳細な説明
(1)分子計算装置の具体例
以下に更に詳細に本発明を説明する。本発明の計算装置の具体例を図3に示す。図3に示した計算装置は、電子計算部21と分子計算部22と核酸合成装置30からなる。電子計算部21は通信部23を、分子計算部22は通信部24を備える。これら通信部23及び通信部24の間でデータの送受信を行うことにより、電子計算部21と分子計算部22との間の情報通信が可能となる。図1の例では、核酸合成装置は分子計算部22内に組み込まれる場合を示したが、図3では、分子計算部22とは別個に設けられている。
【0067】
電子計算部21の通信部23は核酸合成装置30に電気的に接続され、通信部23から送信された核酸合成命令に基づき核酸合成装置30が核酸合成を実行できるように構成されている。核酸合成装置30は例えば通信部23からの命令に基づき核酸容器や核酸分子を制御する制御部を備える。そして、制御部の制御に基づき合成された核酸は、核酸容器に収容されたまま容器ごと分子計算部22に搬送される。なお、核酸合成装置30を分子計算部22に設けることもできる。この場合、核酸合成装置30から分子計算部22に搬送させる搬送系を分子計算部22とは別個に設ける必要が無い。核酸容器の搬送は搬送機構により行っても、マニュアルで行ってもよい。
【0068】
なお、核酸合成装置30は電子計算部21と接続しなくてもよい。この場合、電子計算部21で核酸合成に必要なデータを出力し、その出力結果に基づきマニュアルで核酸合成を行えばよい。
【0069】
電子計算部21は、図1の演算部14に相当する構成として翻訳・計算計画立案・実行部14a、核酸配列計算部14b、検出結果解析部14cを備える。記憶部13から所定のプログラムが読み出されることにより演算部14がこれら各部分14a〜14cとして機能する。また、これら各部分14a〜14cなどと入出力制御部12を介して入力部11、図1の出力部20としての表示部20a及びプリンタ20bが接続される。
【0070】
分子計算部22は、図1の演算部15、記憶部16、入出力制御部17、入力部18、出力部19として機能する自動制御部151,XYZ制御ピペッタ152,サーマルサイクラ反応容器153、ビーズ容器154、酵素容器155、緩衝液容器156、核酸容器157、検出部158、温度制御手段159、搬送機構160を有する。
【0071】
分子計算部22は、通信部24に接続された自動制御部151を備える。この自動制御部151は、XYZ制御ピペッタ152と、核酸の反応を実行するサーマルサイクラ反応容器153と、ビーズを保持するビーズ容器154と、酵素を保持する酵素容器155と、緩衝液を保持する緩衝液容器156と、核酸を保持する核酸容器157、温度制御手段159、搬送機構160を自動制御するため、これら各構成(152〜157、159、160)に駆動信号を出力する。これら各構成(152〜157、159、160)は、この駆動信号を受けて駆動することにより、分子の反応や反応条件を制御する。従って、これら各構成(152〜157、159、160)は、全体として反応制御部として機能し、それぞれは反応制御要素として機能する。
【0072】
自動制御部151による制御は、通信部24を介して電子計算部21から送信された制御命令に基づき実行される。反応容器153〜157は、ビーカー、試験管若しくはマイクロチューブ等、核酸などを含む溶液を収容する容器であれば何でもよい。
【0073】
サーマルサイクラ反応容器153は、温度調節の可能な反応容器でよい。例えば、一般的に使用されているサーマルサイクラと組み合わせることにより実現可能である。また、この例では、担体としてビーズを用いた場合の例を示したが、他の担体を用いることも可能である。その場合、ビーズ容器154に代えてまたはビーズ容器に加えて、適切な構成要素を具備することが可能である。酵素容器155は、酵素を失活から守るためにクーラー等の温度制御手段159と共に具備されてもよい。必要であれば、他の保持手段にもクーラーまたはヒーター等の温度制御手段159を配置してもよい。
【0074】
サーマルサイクラ反応容器153における反応は、制御命令に沿って実行される。例えば、各種容器154〜157などから所望する容量の内容物をXYZ制御ピペッタ152により分取した後、所望する温度等の条件に従って反応が実施される。各部分における動きは、分子計算部内の自動制御部151により制御される。XYZ制御ピペッタ152は、自動制御部151により制御されて、所望に応じてXYZ方向および/または上下に移動するピペッタである。
【0075】
搬送機構160は、自動制御部151からの制御命令に基づき、例えば各容器153〜157を他の図示しない容器収容手段との間で、あるいは検出部158との間で搬送する。
【0076】
反応終了後、検出部158において反応産物の検出および同定が実施される。検出部158は、電気泳動装置、シークエンサー、化学発光測光器および蛍光光度計等の一般的に核酸分子を検出および解析するために使用される何れの検出手段または解析手段により実現されてもよい。
【0077】
電子計算部21で生成された制御命令は通信部23に出力される。通信部23は、これら制御命令を通信部24を介して分子計算部22に送信する。分子計算部22は、受信した制御命令に基づき各構成を制御することにより、分子計算を実行させる。計算結果は通信部24により、通信部23を介して電子計算部21に送信される。
【0078】
通信部23,24は、ケーブル等の有線の通信手段により実現されるものでも、また、電波等の無線の通信手段によって実現されるものでもよい。
【0079】
電子計算部21で生成された核酸合成命令は通信部23に出力される。通信部23は、これら核酸合成命令を核酸合成装置30に出力する。核酸合成装置30は、受信した核酸合成命令に基づき各構成を制御することにより、核酸合成を実行させる。合成の結果物としての核酸分子を収容した核酸容器は分子計算部22に搬送される。もちろん、核酸容器中の核酸分子のみを分子計算部22の核酸容器中に運ぶようにしてもよい。
【0080】
電子計算部21の演算部14の機能の一例を図10のフロー図に沿って以下説明する。
【0081】
(翻訳・計算計画立案・実行部14a)
翻訳・計算計画立案・実行部14aは、入力部11から入力された初期値を含む原始プログラムを翻訳して実行手順テーブルを生成する翻訳処理((S2a)〜(S2c))、実行手順テーブルを計算計画のレベル(制御命令)に変換して制御命令手順テーブルを生成する制御命令生成処理(S5)、生成された計算計画に基づき計算計画を分子計算部22に実行させる計算計画実行処理の3つの処理を実行する。
【0082】
翻訳処理は、第1の変換処理〜第3の変換処理からなる。
【0083】
第1の変換処理(S2a)は、例えば分岐処理やループ処理などのアルゴリズムを含む原始プログラムを制御命令に変換可能な順次処理アルゴリズムを主体とした順次処理プログラムに変換する処理である。
【0084】
第2の変換処理(S2b)は、この順次処理プログラムの各命令を符号分子及び符号分子の演算反応を用いた化学反応レベルの表現に変換して演算反応手順テーブルを生成する処理である。
【0085】
第3の変換処理(S2c)は、演算反応手順テーブルを分子計算部22の各構成の動作レベル表現の駆動動作表現に変換して実行手順テーブルを生成する処理である。
【0086】
第1の変換処理を経由せずに第2,第3の変換処理を先に実行した後、第1の変換処理を実行するようにしてもよい。
【0087】
第2の変換処理は、原始プログラムで定義される定数や変数などのデータを符号分子に対応付けるとともに、原始プログラムで定義される手続または関数を演算反応に対応付ける。データと符号分子の対応付けは、予め記憶部13に格納された符号分子参照テーブルを、手続または関数と演算反応の対応付けは手続または関数−演算反応対応データテーブルを用いる。
【0088】
符号分子参照テーブルは、ある符号分子と他の符号分子の相関関係が定義されている。例えばある符号分子をプログラム中のある変数に対応付けることを第2の変換処理で決定した場合、他の変数と符号分子との対応付けは、符号分子参照テーブルを参照し、最初に定義された符号分子との相関関係に基づき、適切な符号分子に決定することにより実行される。相関関係とは、例えばある符号分子と他の符号分子との相補性などである。また、各符号分子は塩基配列のレベルまで特定されている。
【0089】
手続または関数−演算反応対応データテーブルは、手続に対して複数の制御命令が対応付けられたテーブルである。図11は手続または関数−演算反応変換データテーブルの一例を示す図である。この図11では、演算反応を文章で表したが、実際に電子計算部21上でデータテーブルとして格納するデータ形式としては、動作、器具、配列、符号分子などの要素毎に区分けしてそれぞれを識別可能に表現しておく。
【0090】
順次処理プログラムは、データと手続または関数の組み合わせにより定義されている。従って、手続または関数を演算反応に置換した手順における要素の一つである符号分子に、符号分子を割り当てることにより、演算反応手順テーブルが生成される。また、符号分子の割り当てのみならず、器具や配列の割り当てを符号分子の割り当てと同様に行ってもよい。
【0091】
生成された演算反応手順テーブルの一例を図12に示す。図12に示されるように、各演算手順毎に演算反応とその演算反応を特定する変数や定数が示されている。また、この演算手順では、分子計算部22の各器具との対応付け(例えば試験管Tは5つある核酸容器157のうちの2番目など)はなされていない。また、演算反応を実行するための動作(例えば取り出すなど)は特定されるが、その動作の表現形式では未だ分子計算部22の自動制御部151が各構成を制御する命令として認識できるレベルではない。
【0092】
なお、この第2の変換処理では、符号分子参照テーブルを用いてデータ(変数、定数)と符号分子の割り当てを実行したが、符号分子参照テーブルには、実際に分子計算部22内で既に試薬として準備されている符号分子以外は登録されていない。従って、登録されていない符号分子については、必要とする符号分子を得るための核酸合成を行う必要がある。従って、翻訳・計算計画立案・実行部14aは、登録されていない符号分子の核酸配列取得命令を核酸配列計算部14bに行う。核酸配列計算部14bの詳細な機能は後述する。
【0093】
第3の変換処理は、演算反応−実行動作変換テーブルを用いて演算反応手順テーブルを分子計算部22の各構成の動作レベル表現の実行動作に変換して実行手順テーブルを生成する。演算反応−実行動作変換テーブルでは、通常1つの演算反応に対して複数の実行動作が対応付けられている。通常、ある演算反応を実行するには、分子計算部22の構成を制御する動作が複数必要だからである。もちろん、1つの演算反応に対して1つの実行動作が対応付けられていてもよい。
【0094】
この演算反応−実行動作変換テーブルを用いて変換された実行手順テーブルの一例を図13に示す。図13に示すように、ある演算手順が複数の実行動作に対応付けられている。また、手順の内容は分子計算部22の自動制御部151が各構成を制御する命令として認識可能なレベルであるが、未だ分子計算部22の実際の構成との対応付け(例えば試験管Tは5つある核酸容器157のうちの2番目など)はなされていない。
【0095】
計算計画生成処理は、翻訳処理で得られた実行手順テーブルに基づき制御命令手順テーブルを生成する。制御命令手順テーブルの生成には、装置データ及び装置制約条件データが用いられる。
【0096】
計算計画生成処理では、まず装置データを参照し、実行手順テーブルの各実行手順を制御命令に変換する。制御命令とは、自動制御部151に与えられる命令である。この制御命令を受けて、自動制御部151は分子計算部22の各装置(図3にいうピペッタ152、容器153〜157、搬送機構160など)を制御する。
【0097】
より具体的には、制御命令に変換するため、各実行手順の装置を装置データに基づき実際の装置構成への割り当てを行う。この割り当てにより、各実行動作は分子計算部22の実際の装置を特定し、その装置に対して制御を行うことのできる命令のレベルとなる。実行動作テーブルの実行動作では、自動制御部151は物理的な構成を認識できない。従って、例えば2つのピペッタ152が分子計算部22内に設けられていた場合には、いずれのピペッタ152を動作させるものかは分からない。これに対して制御命令は、2つのピペッタ152a,152bのうちのピペット152aを動作させるというレベルまで特定されている。
【0098】
また、実行動作を制御命令に変換する毎に、装置制約条件データを参照し、装置制約条件に基づく追加制御命令を付加する。装置制約条件データは、例えば反応容器などの各容器153〜157の数及び容量、XYZ制御ピペッタ152の数及び抽出量、試薬の数や配置、温度制御手段159による温度制御速度、搬送機構160の搬送速度、各構成間の距離などである。実行動作の制御命令への変換の際には装置資源が無限であるという前提でなされている。しかし、実行動作を1:1で制御命令に変換すると、分子計算部22の装置の制約により、続行が不可能な処理が生じる場合がある。例えば、反応容器の数は2つであるため、3つの反応容器を同時に用いる処理を続行できないなどである。この場合、そのような装置制約条件を予め記憶部13に登録しておき、これを参照することにより、続行できなくなる場合の処置を設定することができる。処置の例としては、例えば図示しないアラームなどの報知手段によりオペレータに対して反応容器の追加を要求する警告を発する制御命令の追加、反応容器が追加されたか否かを図示しない検知器で検知する制御命令などである。この装置制約条件に基づく追加制御命令毎に制御命令番号を付加する。なお、制御命令番号には、演算手順番号、実行手順番号などを関連づけておくのが好ましい。また、得られた制御命令は、分子計算部22における制御対象が明確になっているため、制御対象を関連づけておく。
【0099】
このようにして得られた制御命令手順テーブルの一例を図14に示す。図14に示すように、制御対象が明確になり、かつ装置制約条件を考慮したシーケンスとなっている。
【0100】
なお、XYZ制御ピペッタにより核酸溶液を吸引する制御命令と、反応容器に移送する制御命令のように、一連の制御命令として定型化されるものがあれば、手続を制御命令セットに変換し、この制御命令セットを分子計算部22に送信してもよい。特に、1つの演算反応から生じる複数の制御命令は、定型化が容易である。この場合、自動制御部151には制御命令セットと制御命令を対応付けたデータテーブルを有し、このデータテーブルに基づき制御命令セットを制御命令に変換し、各構成を制御するのが好ましい。また、自動制御部151がこのようなデータテーブルを持たず、各装置(例えばXYZ制御ピペッタ152,搬送機構160など)が制御命令セットを自動実行するようにしてもよい。
【0101】
計算計画実行処理では、計算計画生成処理で得られた制御命令手順テーブルに基づき、制御命令を制御命令番号順に自動制御部151に出力する。これにより、自動制御部151は自動で分子計算に必要な各装置の制御を実行することができる。もちろん、装置の制約に基づき人手が介在する必要がある場合には、そのような制御も装置に対して行う。例えば、反応容器を指定位置に補充する警告がアラームされれば、オペレータは指定された反応容器を指定位置に補充する。これにより、オペレータは分子計算部22の計算の進捗状況を常に監視する必要が無くなる。
【0102】
以上の処理例では、制御命令生成処理で装置制約条件データに基づき装置制約を考慮した制御命令を生成する場合を示したが、装置資源が充分にある場合にはこの処理は無くてもよい。
【0103】
また、予め制御命令手順テーブルを生成し、制御対象を特定した後で分子計算を実行する場合を示したが、これに限定されない。例えば、各制御命令を実行する都度装置資源の利用の有無をチェックする利用有無チェックセンサを各装置(XYZ制御ピペッタ152,容器153〜157など)に設け、そのセンサの検出データに基づき自動制御部151が自動で制御対象を割り当てていく方式でもよい。
【0104】
また、装置データは、図3のような構成に限られることなく、利用する分子計算機の装置構成に応じて種々変更可能である。利用する分子計算機の装置構成と、その装置における実行動作と演算反応との対応付け(演算反応−実行動作変換テーブル)さえ装置データとして登録しておけば、いかなる装置構成の分子計算機であっても本発明の分子計算の対象とすることができる。すなわち、異なる分子計算部毎に装置データ、装置制約条件データ、演算反応−実行動作変換テーブルを登録すれば、電子計算部の他の構成を変えることなく容易に異なる装置構成からなる分子計算部に分子計算を実行させることができる。
【0105】
また、第1変換処理〜第3変換処理は、必ずしもすべて電子計算部21でなされる必要は無い。分子計算部22の自動制御部151を電子計算部21の演算部14と同様に機能させることにより、自動制御部151側で実行してもよい。
【0106】
また、以上に示された翻訳・計算計画立案・実行部14aは、プログラムを順次処理形式に変換して制御命令手順を作成する場合を示したが、これに限定されるものではない。例えば、ある計算結果に基づく条件分岐処理などがある場合には、その計算結果(検出結果)を一旦検出部158から翻訳・計算計画立案・実行部14aが受信する。そして、その計算結果に基づき条件分岐処理を行い、分岐した後の制御命令手順を新たに分子計算部22に与える。これにより、条件分岐した場合でも自動で分子計算が続行できる。その他、制御命令手順がすべて終了する前に一旦検出結果を電子計算部21が検出部158から受け取り、その検出結果を反映させた分子計算を続行することにより、自動計算が実行できる。
【0107】
また、第2変換処理におけるデータ−符号分子対応付け処理は符号分子参照テーブルを参照して翻訳・計算計画立案・実行部14aが自動で実行する場合を示したが、これに限定されるものではない。変数や定数と符号分子をマニュアルで行ってもよい。
【0108】
(核酸配列計算部14b)
核酸配列計算部14bは、翻訳・計算計画立案・実行部14aにおける翻訳処理のうち、データ−符号分子対応付け処理で与えられた符号分子に対応する核酸配列を計算する。データ−符号分子対応付け処理で与えられた符号分子は、数多く与えられる。また、符号分子参照テーブルに登録されている符号分子は数に限りがある。従って、足りない符号分子の塩基配列は、核酸配列計算部にて計算を行い配列を設計する。具体的には、既に符号分子参照テーブルに登録されている符号分子とクロスハイブリダイゼーションを起こさないような、最適な二重鎖の融解温度(Tm)と、大きい2次構造の自由エネルギー値を持つ塩基配列を設計する。クロスハイブリダイゼーションは、符号分子参照テーブルに既にある配列とハイブリダイゼーションのシミュレーションを行いチェックする。融解温度や自由エネルギー値は配列から容易に計算できる。従って、適切な融解温度や自由エネルギー値の配列を選別する。これらの計算により、合成すべき核酸の配列が決定される。
【0109】
核酸配列計算部14bは、得られた核酸配列計算結果を核酸配列合成装置30に通信部23を介して送信する。核酸配列合成装置30は、与えられた核酸配列計算結果に基づき、自動あるいはマニュアルで核酸を合成し、得られた核酸溶液を核酸容器に収容して分子計算部22に自動あるいはマニュアルで搬送する。核酸配列合成装置30は、合成された核酸溶液が収容された核酸容器を識別する核酸容器識別情報を翻訳・計算計画立案・実行部14aに送信する。翻訳・計算計画立案・実行部14aは、受信した核酸容器識別情報に基づき、制御命令生成処理において制御命令手順テーブルを生成する。これにより、装置データとして登録されていない計算用機材が分子計算部22に導入される場合であっても自動の分子計算に組み込むことができる。
【0110】
なお、この核酸配列計算部14bは、別の装置で核酸溶液を準備するものであれば電子計算部21で実行する必要は無い。また、必要とする塩基配列を有する核酸溶液がすべて登録されている場合には、この核酸配列計算及び核酸合成は省略可能である。
【0111】
(検出結果解析部14c)
検出結果解析部14cは、分子計算部22の検出部158で得られた検出結果を通信部24,23を介して受信し、表示部20aやプリンタ20aで出力する。また、検出結果のみならず、例えば検出結果を解析し、その解析結果を出力するのが好ましい。また、翻訳・計算計画立案・実行部14a及び核酸配列計算部14bなどで計算された結果を適宜出力してもよい。
【0112】
検出部158からの検出結果は、DNAの反応結果そのものであり、利用者が希望する情報では無いことが多い。従って、反応結果を利用者に分かる情報に変換する作業が必要になる。この変換作業は、検出結果解析部14cにより自動で実行することができる。なぜなら、この変換作業は、利用者に分かる情報としての原始プログラムから、分子計算部22が認識可能な制御命令手順テーブルへの変換作業の逆変換を行えばよいからである。
【0113】
具体的には、検出結果の解析は、例えば記憶部13から制御命令手順テーブル、装置データ、実行手順テーブル、演算反応手順テーブル、符号分子参照テーブル、手続または関数−演算反応変換テーブルなどを参照することにより実行することができる。
【0114】
ある反応結果から原始プログラムの解のレベルへ変換を行う解析処理を行う場合を考える。反応結果は、化学反応であり、その検出結果が検出部158で得られる。この検出部158の検出結果のそれぞれのデータがどの制御命令、実行手順、演算反応、符号分子に対応しているかは、制御命令手順テーブル、実行手順テーブル、演算反応手順テーブル、符号分子参照テーブル、手続または関数−演算反応変換テーブルなどを参照することにより可能である。この解析処理により、反応結果は利用者に利用可能な情報に変換される。従って、利用者は何ら電子計算部22における操作内容などを意識することなく計算結果を理解することが可能となる。
【0115】
なお、この解析処理は必須では無い。例えば、反応結果がそのまま利用者の必要とする情報である場合である。この場合、検出部158からの検出結果を全く変換せず、あるいは実行手順のレベル、制御命令のレベル、演算反応のレベル、符号分子のレベルなど、種々のデータ表現形式に解析することにより、利用者の必要とする情報が得られる。特に、遺伝子情報解析の場合には、遺伝子情報のレベルまで解析処理を行えばよい。
【0116】
電子計算部における処理手順の例を説明する。
【0117】
まず、入力部11から入力された初期値を含む原始プログラムは入出力制御部12により内部コードに変換されたのち記憶部13に記憶される。内部コードとは、電子計算部21の演算部14が電気学的に認識可能であってデータ処理可能なコードをいう。次に、この内部コードに変換された原始プログラムが翻訳・実験計画立案・実行部14aにおいて、符号分子および符号分子の演算反応手順テーブルに変換され、且つ演算反応の実行手順テーブルが生成される。続いて記憶部13に記憶される。また、必要に応じて、核酸配列計算部14bは、演算反応手順テーブルを基に符号分子を計算する。この計算結果は核酸合成装置30に送られる。核酸合成装置30は、得られた計算結果に基づき核酸を合成し、得られた結果物を分子計算部22に搬送する。また、核酸合成装置30は、得られた結果物を自動計算に組み込むため、得られた核酸溶液を装置として識別する情報を電子計算部21に送信する。
【0118】
これらの工程において扱われる情報は、常に結果解析部14cを経て表示部に表示されてもよい。或いは、所望する情報のみを随時表示されるように設定されてもよい。必要に応じてプリントアウトされてもよい。
【0119】
本発明において、分子計算部22は、ハイブリダイゼーション反応、酵素反応、抗原抗体反応のような生物学的特異反応の開始から終了までに関わる工程または手段を少なくとも含んでいるものとする。ここで、反応の開始時点は、早ければ反応対が有意に選択性を示すと認められる段階を少なくとも含み、遅くとも検出、分離等の目的が達成できる直前の時点を含んでいる。また、反応の終了時点は、早ければ検出、分離等の目的が達成できた最も早い時点を少なくとも含み、遅ければ検出、分離等の目的が充分に達成できる経過時間よりも長い時点を含むことができる。
【0120】
図2に、本発明の分子計算部22のより詳細な配置例を示す。例えば、分子計算部には、8本取りチップラック31、1本取りチップラック0番32、1本取りチップラック1番33、96穴マルチタイタープレート(以下、MTPと称す)2番34、96穴MTP0番35、1.5mLチューブラック36、96穴MTP1番37、サーマルサイクラー96穴MTP38およびチップ廃棄口39を配置することが可能である。しかしながら、これにより何ら制限されるものであり所望に応じて各種変更が可能である。
【0121】
(2)分子計算部における分子計算
(a)3SATへの適用
以下に説明する、本発明の1態様に従う分子計算装置における分子計算は、上述した項目Iに記載した本発明の各態様であってよい。
【0122】
以下では、代表的なNP完全問題である三和積形命題論理式の充足可能性判定問題(3SAT)を解くための計算を本発明の分子計算装置を適用して実行する例を説明する。
【0123】
最初に従来のエーデルマン−リプトンパラダイムに基付くDNA計算の問題点を説明する。エーデルマン−リプトンパラダイムに基付くDNA計算の場合、最初に全ての解の候補を表現するDNA分子のプールを生成する必要があることが問題である。NP完全問題の解の候補数は変数の数に対して指数関数的に増大するものである。従って、問題のサイズが大きくなると、超大容量メモリを備えたDNAコンピュータでも全ての解の候補を含む完全なプールを生成できない危険性が生じる。これが、エーデルマン−リプトンパラダイムが内包する深刻なスケール問題である。
【0124】
エーデルマン−リプトンパラダイムを上述の3SATに適用する場合を考える。論理変数の数を100とすると、解の候補は2100=1.3×1030にもなる。1変数を15塩基対のDNA分子で表現すると、完全なプローブを生成するためには少なくとも200万トンという非現実的な量のDNA分子が必要になる。1分子で一つの解の候補を表現したのでは計算反応の途中で失われてしまう危険性が高い。従って、実際にはより大量のDNA分子が必要である。変数の数が200になると、少なくとも地球の質量の約40兆倍ものDNA分子が必要となる。これでは実際に問題を解くことは不可能であると言わざるを得ない。
【0125】
そのような状況において、発明者らは、ダイナミック・プログラミングに基付いたアルゴリズムを分子計算装置(DNAコンピュータとも称することができる)で実行することによりNP完全問題を解くことを考えた。即ち、エーデルマン−リプトンパラダイムのように最初から全ての解の候補を生成するのではなく、部分の問題の解の候補を生成してその中から解を選択抽出する。この操作を部分問題のサイズを逐次的に大きくしながら繰り返し、最終的に本来の問題の解を得るのである。このようにすれば、生成される解の候補の数を大幅に減らすことができる。
【0126】
ここで、後述する(1.1)準備の項目おいて記載する分子の設計は、まず原始プログラムから、電子計算部の翻訳・実験計画立案・実行部において必要な情報に変換される。その後、核酸配列計算部において所望する条件に適切な核酸配列が設計される。また、前記の工程は、電子計算部の演算部において行うことも可能である。電子計算部において得られた情報に基付いて核酸が合成され、分子計算部において分子計算が実行される。
【0127】
(b)3SATのプログラム
NP完全問題の代表例である3SATは、例えば、次のようなプログラムに従ってDNA計算を実行することにより、ダイナミックプログラミングのアルゴリズムに基付いて解くことができる。
【0128】
【数1】
ここで、記号の「∧」は論理積、「∨」は論理和、「¬」は否定を表す。
【0129】
【数2】
【0130】
本装置を用いて4変数10節の3SAT問題を解いた。問題を数式1に、問題の解を数式2に示す。数式1の問題の論理式はx1、x2、x3、x4の4つの変数からなり、3ラテラルの節が10個、論理積で結合されている。この式を満たす変数の値の組、すなわち解が有るかどうか、有るならばその変数の値の組を求めるのが目的である。
【0131】
【数3】
【0132】
この問題を解くために数式3に示すプログラムを本装置で実行する。記述法はパスカルに準じている。具体的には、数式3に示すプログラム(dna3sat)を原始プログラムとして図1の入力部11で入力する。入力された原始プログラムは、翻訳などを経て制御命令手順テーブルが生成され、分子計算部22で分子計算が実行される。そして、(s2)〜(s8)のステップを経て数式3に示す計算結果が得られる。
【0133】
関数dna3satが、問題を与えたときに解が存在した場合に解を出力するメイン関数である。この関数dna3sat中には関数getuvsatが組み込まれている。これら関数dna3satと関数getuvsatはget、amplify、append、merge、detectの5つの基本関数で構成されている。基本関数のうちget、amplify、appendは、原始プログラムの手続または関数として図15から図18に示す化学反応により実行される。
【0134】
次に各基本関数に対応付けられた化学反応、化学反応に付随する操作を説明する。最初に、図15に従ってget(T,+s)、get(T,−s)関数について述べる。
【0135】
関数getは、オリゴヌクレオチドの混合溶液T(tube)から、sなる配列を含む1本鎖のオリゴヌクレオチドまたは該配列を含まないオリゴヌクレオチドを取得する反応操作を符号分子の演算反応として定義した関数である。ここで、sとは数塩基または数十塩基の特定の配列を示している。get(T,+s)はs配列を含むオリゴヌクレオチドを、get(T,−s)はsを含まないものを取得する。T,+s,−sは、分子を核酸配列に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義される変数である。
【0136】
まず、sに相補的な配列を持ち5’端ビオチンを標識したオリゴヌクレオチドをTに入れ、s配列を備えたオリゴヌクレオチドとアニーリングさせる。
【0137】
このアニーリングでできたハイブリッドを、例えば、ストレプトアビジンを表面に結合した磁気ビーズで捕獲する。このあとs配列に相補的なオリゴヌクレオチドのなすハイブリッドが解離しない温度で磁気ビーズの緩衝溶液で洗浄する(即ち、コールドウォッシュする)。これにより、s配列を持たないオリゴヌクレオチドを緩衝液から取得でき、get(T,−s)が実行できる。
【0138】
また、関数get(T,+s)の実行は、コールドウォッシュが終わってから、ハイブリッドが解離するような比較的高温の緩衝溶液で磁気ビーズを洗えばよい。これにより、その緩衝溶液からs配列を持つオリゴヌクレオチドを取得できる。即ち、1つの操作で2つの関数が実行できる。
【0139】
次に、図16に従って関数append(T,s,e)の反応について述べる。eは、分子を核酸配列に基づき符号化した符号化分子に対応付けて定義される変数である。
【0140】
この関数は、オリゴヌクレオチドの混合液Tの中でe配列をその3’端に備えた1本鎖DNAの3’端に、sなる配列を備えたオリゴヌクレオチドをライゲーションにより連結し、そのs配列が連結された1本鎖のオリゴヌクレオチドを取得する反応操作を符号分子の演算反応として定義した関数である。ここで、s、eとは先に述べたのと同様に数塩基若しくは数十塩基の特定の配列を指す。
【0141】
この関数append(T,s,e)の反応では、次のオリゴヌクレオチドを用いる。
【0142】
s配列のオリゴヌクレオチドは、この5’端がリン酸化されている。また、連結オリゴヌクレオチドは、5’端にビオチン標識されており、5’端側のsに相補的な配列と3’端側のeに相補的な配列とを隣接して含有する。これらをチューブTに入れて反応を始めると連結オリゴヌクレオチドは、T中の標的オリゴヌクレオチド配列eとs配列オリゴヌクレオチドとでハイブリッドを形成する。このハイブリダイゼーション反応は、ミスマッチのハイブリッドが形成されないように比較的高温で行い、Taqライゲースなど高温で活性の高い酵素を用いて連結される。このあとストレプトアビジン磁気ビーズなどによりハイブリッドを捕獲し、ハイブリッドが解離するような高温で洗えば(即ち、ホットウォッシュ)、3’末端にs配列が連結されたオリゴヌクレオチドを回収することができる。
【0143】
次に図17に従って、amplify(T、T1、....Tn)関数の反応について述べる。このamplify(T、T1、....Tn)関数の反応は、反応溶液Tに含まれるオリゴヌクレオチドをPCR反応により増幅し、増幅され二本鎖になったオリゴヌクレオチドを1本鎖に変えてから、T1、...Tnなるn個の反応溶液に分割する反応である。本実施例ではTに含まれるオリゴヌクレオチドの両端には共通な増幅用の配列が具備され、1組のプライマーにより全てのT中のオリゴヌクレオチドを増幅できるようにしている。プライマーのうち、増幅対象のオリゴヌクレオチドの3’端に相補的な配列をもつものの5’端にはビオチン標識が施されている。Tのオリゴヌクレオチドをこの共通プライマーにより増幅し、ストレプトアビジン磁気ビーズにより捕獲する。これを94℃などの高温で全ての2本鎖が解離するように洗浄すれば、もともとTに含まれていた側の鎖が緩衝溶液中に抽出できる。この抽出溶液を均等にT1、...Tnのn個の反応溶液に分割すればよい。
【0144】
関数mergeは、引数の複数の溶液を1つの溶液に纏める反応操作を符号分子の演算反応として定義した関数である。
【0145】
最後に関数detectを図18に従って説明する。検出は、手動による反応で実施することも可能である。関数detectを本装置により行う方法の例を以下に示す。ここではgraduated PCRなる、エーデルマンの論文(Science, 266, 1021−4)において開示された検出手段を用いて行う例を示す。
【0146】
図18において、本装置で生成される解を示す核酸分子は、5’端から順に4つの変数が真(即ち、T、true)または偽(即ち、F、false)を表す配列が連結した配列を有す。この解の配列は、同じく図18に示す全ての可能な解を検出できるようなプライマーにより個別にPCR増幅する。図中、配列名の上に引いた横線は、相補配列を示す。仮に、図18の最初に示すような配列の解が得られていると、図18の最後に示すプライマーの組で、且つ図示した長さのPCR産物が得られる。これら産物の存在と長さをゲル電気泳動にて確認すれば、PCR産物の得られたプライマーから解の配列が明らかになる。なお、関数detectは、DNAチップによる出力も含まれる。
【0147】
以上の関数を表1に纏めた。
【0148】
【表1】
【0149】
上述の数式3に示すプログラムの主たる関数はdna3satである。その中に先に述べた基本関数と、基本関数からなる関数getuvsatが組み込まれている。このように、基本関数を組み合わせて新たに手続または関数を定義し、この手続または関数を用いたプログラムを作成することが可能である。最初にプログラム上の変数名の説明を行う。
【0150】
Tとはチューブ(tube)の略であり、T2とはx1、x2の2変数の取りうる全ての真偽の組4つを表すオリゴヌクレオチドを含む溶液である。X1 Tとは、変数x1の値が真であることを示すオリゴヌクレオチドで長さは22塩基である。X2 Fとは、変数x2の値が偽であることを示すオリゴヌクレオチドであり、長さは同じく22塩基である。よってT2に含まれるオリゴヌクレオチドの1つ、X1 TX2 Fは44塩基の長さの、x1=1、x2=0なる割り当てを表す1本鎖のオリゴヌクレオチドである。j、kはループの進行状態を表す整数で、jは問題の論理式の何節目を計算しているかを示し、kは何番目の変数を計算しているかを表す。u、v、wは問題の論理式の各節内のひとつひとつのリテラルを示す。各リテラルは、数式1の問題であれば、u1=x1、v2=x2、w1=¬x3となる。配列名Xの上にあるバーは相補配列を意味する。また、Xの右肩のT/FはTおよびFを指し、XTとXFを意味する。
【0151】
以下、数式3のプログラムを図20のフローチャートに沿って順を追って説明する。実際にはプログラム解釈部がこのプログラムの関数および条件分岐、forループを一連の実験操作に展開して実験計画を立てる。最初に問題の理論式はプログラムでの処理を容易にするために、各節で変数の添え字の昇順にリテラルを並べ替えておく。また、2変数x1、x2に可能な割り当てを全て行った溶液T2を準備しておく。
【0152】
関数dna3satにおいて、最初のforループのk=3、即ち、x3に割り当てる値を決定するループについて説明する。最初にamplify関数でT2を増幅する。この場合、増幅後、T2と同じオリゴヌクレオチドを持つTw T、Tw Fに分注し、計3本の溶液チューブを得る。次にkのループ内のjのforループに入る。ここでは、論理式の第j番目の節の充足性を評価する。第1の条件分岐で、j=1では第1節の第3リテラルw1がx3と等しいかを調べる。これは、電子計算部21で予め論理式を調べ、then以降を実行するかどうかを判断し、実験計画に入れるかを決定しておく。ループ内第2の条件分岐で第1節の第3リテラルw1が¬x3であるのでthen以降を実行する。
【0153】
関数getuvsatは下段に別に定義されており、それぞれの引数、Tに対しては最初にamplifyで生成したTw Tチューブ(内容および濃度はT2と同じ)、uに対してはu1(=x1)、vに対してはv1(=x2)を入力する。最初のTu TはTw Tの中からX1 Tを含むオリゴヌクレオチドを抽出して溶液を生成する。これにより、Tu Tは{X1 TX2 T、X1 TX2 F}という内容になる。次にT’u FはTw Tの中からX1 Tを含まないオリゴヌクレオチドを抽出して溶液を生成する。これによりT’u Fは{X1 FX2 T、X1 FX2 F}という内容になる。3つ目にTu Fは、T’u Fの中からX1 Fを含むオリゴヌクレオチドを抽出して溶液を生成する。これによりTu F={X1 FX2 T、X1 FX2 F}という内容になる。ここでのこの行は無視可能というコメントがあるが、生成される溶液の内容を見れば明白である。実験上エラーが生じることのないように加えた行であるので、念のための実行する。無視した場合は、前行のT’u FをTu Fと読み替える。4番目のTv TはTu Fの中からX2 Tを含むオリゴヌクレオチドを抽出して溶液を生成する。これにより、Tv T={X1 FX2 T}という内容になる。最後に関数mergeにより、Tu TとTv Tが混合されてTTが生成され、returnにより出力される。TTは{X1 TX2 T、X1 TX2 F、X1 FX2 T}となりもとのdna3sat関数では溶液Tw Tと名を代えて扱うことになる。TTの内容は第1節の第1、第2のリテラルがx1∨x2なる形であるので、第2リテラル¬x3がいかなる値であろうとも第1節の第1節が真であるx1、x2への値の割り当ての組を示している。以上により、関数getuvsatは既に2つのリテラルに値が割り当てられている節について、3つ目のリテラルの変数に何を割り当ててもその節が真であるような割り当てを表すオリゴヌクレオチドを選別する関数である。
【0154】
次に、再びdna3sat内のk=3ループでjを1つ増加させ、j=2で、第2節の計算に移る。この節では第3リテラルは第1節と同様に¬x3なので条件分岐に効いてくるのは下段のif文である。第1節と同様にgetuvsatを実行する。注意すべきは先に行ったj=1でTw Tを生成していることである。また、v2はv2=¬x2なる否定が入ったリテラルなので、getuvsat関数のTv Tを求める式においてXv Tは、X2 Fと読み替えて関数getを実行する。こうすれば、j=2で新たに得られるTw Tは、{X1 TX2 T、X1 TX2 F}となる。
【0155】
以降、順にj=10まで実行する。途中、例えば、5節目以降のように3番目のリテラルがk=4である場合は、jの値をインクリメントし、ループの次の処理を行う。k=3で10節分のループが終了すれば、Tw Tの中の3’末端がX2のオリゴヌクレオチドに真を表すX3 Tをappendする。また、Tw F中の3’末端がX2のオリゴヌクレオチドに偽を表すX3 Fをappendする。このあとappend後の溶液をmergeし、k=4のループに移る。k=4のループが終了すれば、最終的にループを脱し、T4チューブを関数detectで処理する。
【0156】
以上のように計算を実行するので、変数の数をn、節の数をmとすると各基本コマンドの実行回数は、
(n−2)×(amplify+2×append+merge)+m×(3×get+merge)
である。即ち、変数の数と節の数にほぼ比例した時間で3SAT問題を解くことができる。
【0157】
また、本発明において、detect部分は、必ずしも反応結果を測定することを意味せず、反応結果が電子計算部へ利用可能に情報伝達されるか、或いは利用者が利用できる形態に変化または抽出された状態に特徴化されていればよい。また、detect部分は測定可能な状態に特徴化されていればよく、測定を人が行ってもよい。従って、本発明において、分子計算部は、反応が終了すると共に利用者が利用できるような生成物または成果物を提供するところまでを実施すればよい。利用者は、本発明の装置により提供された生成物または成果物を種々の目的、例えば、診断、治療、創薬、学術的研究、生物学的データベースの構築、生物学的情報の解読等へと最も効率よく利用することができる。
【0158】
【実施例】
分子計算
上述で説明した数4のプログラムを本発明の分子計算装置を用いて実行した。装置の構成を以下に記す。該プログラムを実行した装置の構成を示す。本装置はプレシジョン・システム・サイエンス(PSS)社の核酸自動抽出装置SX8Gを改造して製作した。本装置は、制御のためのインテル社製PentiumIIICPU(登録商標)を搭載した、OSがWindows98(登録商標)のコンピュータ(電子計算部21に対応)と、演算反応を実際に行うための試薬槽と反応槽、XYZの位置制御のできるピペッタと、予備のピペッタ用チップ、温度をコンピュータで制御できるサーマルサイクラ(MJ Research社製のPTC−200)からなる反応ロボット(分子計算部22に対応)からなる。分子計算部22の上から見た反応用部材の配置を図2に示す。
【0159】
これらの反応容器の間で溶液の受け渡しが行われる。ストレプトアビジン磁気ビーズによるオリゴヌクレオチドの抽出は、ピペッタの特殊チップとチップに近づけたり離したりできる永久磁石により行う。ただし、以上のシステムでは実行できなかった2つの操作、即ち1μL程度の微量の酵素分注は人力で行い、関数detectでのキャピラリゲル電気泳動は、ベックマン・コールター社製P/ACE−5510キャピラリ電気泳動システムにより実行した。
【0160】
試薬類とその初期配置を述べる。リガーゼ酵素は先に述べたようにマニュアルで分注するので装置外で保持した。分注はギルソン社製のピペットマン2μLのピペッタを用いた。
【0161】
Xで表される各変数の値を示すオリゴヌクレオチドの長さは22塩基である。また、ここでX1 TX2 Fと記した場合5’端側から順にX1が真であることを表すオリゴヌクレオチド、X2が偽であることを示すオリゴヌクレオチドの配列をもつ1本鎖オリゴヌクレオチドであることを示す。また、ここで、配列名が「[]」に挟まれている場合は元の配列に相補的な配列を意味する。このため、例えば[X1 TX2 F]ならばX1 TX2 Fに相補的なので、実際の配列は5端側からX2 Fに相補的な配列、X1 Tに相補的な配列の順になっている。
【0162】
T2溶液(X1 TX2 T、X1 FX2 T、X1 TX2 F、X1 FX2 Fそれぞれ5pmolをライゲーション用緩衝溶液20μLに溶解した)をMTP35(即ち、マルチタイタープレート35)に保持した。ライゲーション反応用緩衝溶液、ストレプトアビジン磁気ビーズ、B&W溶液(TE溶液にNaClを加えて、NaCIが1Mなる濃度にした溶液を以降このように呼ぶ。この液はストレプトアビジン磁気ビーズにビオチン化オリゴヌクレオチドを捕獲したり、ハイブリダイゼーション反応を行うときに用いる)は図2のMTP37に保持した。
【0163】
また、5’端がビオチン標識されているビオチン化オリゴヌクレオチド[bX1 T]、[bX2 T]、[bX3 T]、[bX4 T]、[bX1 F]、[bX2 F]、[bX3 F]、[bX4 F]をぞれぞれ10pmoLずつB&W溶液20μLに溶解したもの、5’端がリン酸化されているappendオリゴヌクレオチドpX3、pX3 T、pX3 F、pX4 F、pX4 T、それぞれ10pmoLをライゲーション緩衝溶液20μLに溶解したもの、5’端にビオチン標識した連結オリゴヌクレオチド、[bX2 TX3 T]、[bX2 FX3 T]、[bX2 TX3 F]、[bX2 FX3 F]、[bX3 TX4 T]、[bX3 FX4 T]、[bX3 TX4 F]、[bX3 FX4 F]それぞれ10pmolをライゲーション緩衝溶液20μLに溶解したものをMTP35に配置する。これらのオリゴヌクレオチド溶液および緩衝溶液などは分子計算機動作中は室温で保持した。リガーゼ、関数detectで用いるPCR用ポリメラーゼは装置の外で氷中で、PCR反応用緩衝溶液は室温で維持した。
【0164】
それぞれの関数に対応する反応での装置の動作を順を追って説明する。
【0165】
(a)関数amplify
関数amplifyは、左端の引数の溶液をテンプレートとし、PCR増幅して元の溶液の濃度に維持して複数の溶液に分割する反応操作を符号分子の演算反応として定義した関数である。厳密にはもとの溶液のオリゴヌクレオチド濃度を測定してからでなければ増幅できないが、実際には最初のT2で各オリゴヌクレオチドが5pmolで20μLの溶液に溶解しているので、20μLの溶液に各オリゴヌクレオチドが数pmo1溶解しているようにする。即ち、1溶液1オリゴヌクレオチドあたり2pmolとするならば、PCR反応液の組成は次の通りである。
【0166】
ポリメレース酵素(宝酒造)0.5μL(2.5U)
増幅DNAの溶液 1fmol程度の各々のオリゴヌクレオチドを含む
dNTP混合溶液 8μL(2.5mM、付属品)
反応バッファ 10μL(10倍希釈で使用、付属品)
プライマー 各オリゴヌクレオチドにforward、reverse側とも5pmolずつ準備
滅菌蒸留水 全液量が100μLになるように加えた
増幅には宝酒造のPyrobestTM DNA PolymeraseのPCR増幅キットを用いた。反応温度条件は、以下の通りである。
【0167】
即ち、
1. 95℃ 30秒
2. 50℃ 30秒
3. 72℃ 60秒 1〜3を30サイクル
である。
【0168】
PCR反応液の量は分割する溶液の数に応じて変えた。PCRの後、反応液からPCR産物をストレプトアビジン磁気ビーズ(ロシュダイアグノスティクス)で捕獲する。磁気ビーズ原液50μL(0.5mg)をとり、ここから磁石により磁気ビーズのみを抽出して液をB&W溶液50μLに置換する。この磁気ビーズ液とPCR反応液50μLとを混ぜてPCR産物を捕獲する。捕獲した後、溶液をB&W溶液50μLに置換し、88℃まで昇温して1本鎖オリゴヌクレオチドを解離させて抽出した。
【0169】
(b)関数get
get(T,+S)とget(T,−S)は一連の操作で同時に行う。
【0170】
(1)抽出する溶液Tを50μL準備しサーマルサイクラ38に吐出した。
【0171】
(2)Tに捕獲する配列の相補鎖をビオチン化したオリゴヌクレオチドを20pmolを含むB&W溶液50μLをさらに加えて最初のハイブリダイゼーション反応を行った(下記反応温度条件の1,2)。
【0172】
ピペッタは各MTPから液をとり反応を進める。反応温度条件は以下の通りである。即ち、
1. 95℃ 1分
2. 25℃ 10分(1から2までは10℃/分で温度を下げる)
3. 56℃ 3分(2から3までは10℃/分で温度を上げる)
4. 75℃ 3分(3から4までは10℃/分で温度を上げる)
であり、ピペッティングの作業時間を確保しながらサーマルサイクラを制御した。
【0173】
(3)2の温度の途中で磁気ビーズ原液50μL分を分散したB&W溶液50μLを混合し、磁気ビーズにビオチン化オリゴヌクレオチドのハイブリッドを捕獲した。磁気ビーズは再びサーマルサイクラー96穴MTP38に保持した。
【0174】
磁気ビーズ液は装置のピペッタに一度吸い込まれた後、ピペットのチップの中の空洞に保持される。このとき液を保持したチップにピペッタに取り付けた移動可能な永久磁石を接近させてビーズを集める。この間にピペットから排液して新たな溶液を吸引すれば溶液の置換や、2本鎖核酸の相補鎖の分離を行うことができる。磁気ビーズを溶液に分散するためには永久磁石を離して数回ピペッティングを行えば十分に撹拌されて磁気ビーズは溶液に分散する。
【0175】
(4)次に3の温度条件に進む。ここではハイブリダイゼーションしなかったオリゴヌクレオチドを集めるコールドウォッシュ工程を行う。56℃にてB&W溶液50μLにオリゴヌクレオチドを抽出しMTP35に出力した。これがget(T,−S)の出力オリゴヌクレオチド溶液である。
【0176】
(5)温度条件4のホットウォッシュ工程では4のようにさらに温度を上げて、磁気ビーズに捕獲されているオリゴヌクレオチドをコールドウォッシュと同様50μLのB&W溶液に抽出してMTP35に出力した。これがget(T,+s)の出力オリゴヌクレオチド溶液である。
【0177】
(c)関数merge
ごく簡単なピペッティング操作で実行した。ピペッタで混合する溶液をそれぞれ吸引し、全て1箇所のMTPのウェルに集めて混ぜることで実現した。
【0178】
(d)関数append
図16に示す反応である。appendするオリゴヌクレオチドが異なれば、別々の反応チューブで反応して同時に行った。
【0179】
(1)append反応する溶液を20μL、MTP35よりピペッタで吸引し、サーマルサイクラ38に吐出する。そのほか、append反応に必要な下記の溶液を反応用ウェル38まで運搬した。
【0180】
append反応には、New England Bio Labs社のTaqリガーゼとその専用緩衝溶液とを用いた。
【0181】
反応溶液は以下の通りである。
【0182】
Taqリガーゼ(NEB) 0.5μL(20U)
反応DNAの溶液 原液20μl
反応バッファ 12μL(10倍希釈で使用、付属品)
連結オリゴヌクレオチド 各10pmol
appendオリゴヌクレオチド 各10pmol
滅菌蒸留水 全液量が120μLになるように加えた。
【0183】
(2)ライゲーション反応を行った。サーマルサイクラの制御は下のように行った。ライゲーション反応を行ったのは温度条件2の時である。反応温度条件は以下の通りである。即ち、
1. 95℃ 1分
2. 58℃ 15分(1から2までは10℃/分で温度を下げる)
3. 25℃ 10分(2から3までは10℃/分で温度を下げる)
4. 70℃ 3分(3から4までは10℃/分で温度を上げる)
5. 74℃ 3分(4から5までは10℃/分で温度を上げる)
6. 88℃ 3分(5から6までは10℃/分で温度を上げる)
とした。
【0184】
(3)反応温度条件3の25℃に下がってから磁気ビーズによる捕獲を行った。このとき、磁気ビーズを分散している溶液は捨て、ビーズをチップ内に保持したままサーマルサイクラ38からライゲーション緩衝溶液を直接ピペッタで吸引した。すなわちライゲーション緩衝溶液中で捕獲反応を行った。緩衝溶液が捕獲のための液でないため念のため60回吸引吐出を行い十分な量を捕獲できるようにした。磁気ビーズはサーマルサイクラ38に保持した。
【0185】
(4)続いて1回目のコールドウォッシュを行った。核酸ハイブリッドの長さと溶液の塩濃度から70℃が適温である。4の70℃まで昇温したらサーマルサイクラ38から磁気ビーズ液を吸引し、永久磁石でビーズを集め、溶液のみをMTP35に吐出した。この溶液は廃液である。
【0186】
(5)そのまま、ピペッタでMTP37のB&W溶液50μLを吸引し、永久磁石を離して磁気ビーズを分散させてサーマルサイクラ38に戻した。サーマルサイクラ38では反応温度5にし、2回目のコールドウォッシュを実行した。ここでは(4)と同様に適温になったらサーマルサイクラ38から吸引し、永久磁石でビーズを集めてB&W溶液のみをMTP35に吐出した。この溶液も廃液である。
【0187】
(6)このあと、さらに再びピペッタでMTP37のB&W溶液50μLを吸引し、永久磁石を離して磁気ビーズを分散させてサーマルサイクラ38に戻した。サーマルサイクラ38で反応温度6になったとき、溶液中にappend反応の済んだ1本鎖オリゴヌクレオチドが解離してくるのでこれをサーマルサイクラ38から吸引し、永久磁石でビーズを集め、溶液のみをMTP25に吐出し保持した。
【0188】
(e)関数detect
図18に示す反応と、キャピラリゲル電気泳動による検出でおこなった。最終的に得られた解を表すオリゴヌクレオチドを含むであろう溶液をテンプレートとし、graduated PCRを行った。PCRはプライマーの組ごとに反応液を分けて行い、それぞれのPCR産物の有無および長さを検出することで解の配列を調べた。
【0189】
(1)解を含むと考えられるオリゴヌクレオチド溶液をテンプレートとする。プログラム中でamplifyによりオリゴヌクレオチドの濃度は維持されているので、それからテンプレート濃度を推定し液量を定める。
【0190】
PCR反応液の組成は、
ポリメラーゼ酵素(宝酒造) 0.5μL(2.5U)
増幅するDNAの溶液 1fmol程度の各々のオリゴヌクレオチドを含むだけの量
dNTP混合溶液 8μL(2.5mM、付属品)
反応バッファ 10μL(10倍希釈で使用、付属品)
プライマー 各オリゴヌクレオチドにforward,reverse側とも5pmolずつ準備
滅菌蒸留水 全液量が100μLになるように加えた
とした。
【0191】
増幅には宝酒造のPyrobest DNA Polymerase PCR増幅キットを用いた。反応温度条件は、
1. 95℃ 30秒
2. 50℃ 30秒
3. 72℃ 60秒 1〜3を30サイクルであった。
【0192】
本実験で用いたプライマーは次の12組である。
【0193】
(X1 T,[X2 T])、(X1 T,[X2 F])、(X1 T,[X3 T])、(X1 T,[X3 F])、(X1 T,[X4 T])、(X1 T,[X4 F])、(X1 F,[X2 T])、(X1 F,[X2 F])、(X1 F,[X3 T])、(X1 F,[X3 F])、(X1 F,[X4 T])、(X1 F,[X4 F])。
【0194】
これらをMTP35の異なるウェルに保持しておく。PCR反応時にプライマー溶液はピペッタで吸引してサーマルサイクラ38の異なるウェルに吐出し、反応に必要な溶液を加えてサーマルサイクラ38を設定通りに動作させれば反応は完了する。この作業は容易に自動化できる。この後のキャピラリゲル電気泳動装置での試料のキャピラリヘの導入も自動化できる。キャピラリゲル電気泳動ではペックマン・コールター社のds1000ゲルキットを使用した。プライマーX1 TにはFITCが標識されているため泳動像が観察された。今回の実施例では以上のdetectの作業はキャピラリゲル電気泳動も自動では行わず、マニュアルで行った。以上の方法でプログラムの各関数を実行して得られた結果を図21に示した。例えば関数detectに対応する配列の同定方法としては、図19に示すような手法がある。
【0195】
分子計算装置によるゲノム情報解析という計算パラダイムの有効性を示すために、実際に遺伝子の発現情報解析を行うDNA計算の実験を行った。計算はダイナミックプログラミングで3SATの問題を解くときに使用するget、append、amplify、mergeおよびdetectの基本命令を用いて実行することができる。最初の計算反応はエンコード反応である。単一試験管内で行える計算反応で、遺伝子の転写産物の情報がappend命令によりDCNに変換される。変換テーブルは、アダプター分子Aiで表現され、2桁n進数のDCNへ1:1で変換される。200種のDCNは、2桁100進数のDCNとして利用することにより、最大10,000種類の遺伝子をエンコードすることができる。その後、amplify命令により増幅とn本の試験管への分注反応が行われる。最後にn本の試験管に対してappendとget命令によりDCNをデコードする計算反応が行われる。デコード反応はn本の試験に対して並列に行うことができる。移植断片対宿主病関連の転写産物に特異的な配列を有するDNAオリゴヌクレオチドを入力データとして実験を行ったところ、計算反応が特異的且つ定量的に進むことが確認された。
【0196】
DCNに対するDNA計算により、遺伝子の発現情報解析を行う方法は、DNAチップで直接に転写産物分子を解析する方法に比べて優れた点をいくつか有している。性質が一様なDCNに変換してから増幅するので、もとの頻度分布を崩さずに増幅して解析することが可能である。また、DCNデコードで「get」命令を並列に行うためのDNAチップは、同じDCNの体系である限り同じものを使用することができる。その上、DNAプローブの数も大幅に少ない。DNAチップを作製する手間とコストが大幅に軽減される。更に、正規直交化されたプローブのハイブリダイゼーション反応は最適化されており、正確な計算処理を行うことが可能である。また、転写産物分子をラベルする必要はなく、その効率のばらつきによる誤差も生じない。これらの利点に加えて単なる発現プロファイルの計測にとどまらず、プロファイルに関する様々な情報解析をDCNに対するDNA計算で行うことが可能である。
【0197】
なお、以上は5つの基本関数(関数amplify、関数get、関数merge、関数append、関数detect)を例に挙げたが、これらに限定されるものではない。例えば、関数encode、関数decode、関数cleaveなども、分子計算機における計算を定義するのに有効である。
【0198】
関数encodeとは、分子の入った試験管Tに特定の配列siを含む分子が存在したときに、それに1:1に対応した配列ciを出力する関数であり、例えばencode(T,s1,s2,…,sn,c1,c2,…,cn)などで表現される。
【0199】
関数decodeとは、分子の入った試験管Tに特定の配列siを含む分子が存在したときに、siに隣接する配列ciの相補配列を含む分子を出力する関数であり、例えばdecode(T,si)などで表現される。
【0200】
関数cleaveとは、分子の入った試験管Tの中の特定の配列sを含む分子を切断する関数であり、例えばcleave(T,s)などで表現される。この関数cleaveは2通り存在する。第1は、試験管Tの中の分子を特定の配列sで切断する関数、第2は、分子の入った試験管Tの中の特定の配列から特定数の塩基だけ離れた配列を切断する関数である。この関数cleaveは、分子計算部22では、制限酵素の切断として定義される。
【0201】
もちろん、この3つの基本関数を含めた8つの基本関数のみで表現する必要は無く、他の基本関数を設定することも可能である。
【0202】
以下の表2に、基本関数と、電子計算部21における処理体系としての表現、分子計算部22における処理体系としての表現を示す。なお、分子計算部22における処理体系は、表2に示したものに限定されるものではなく、あくまで電子計算部21における処理体系を表現する一態様である。
【0203】
表2に示すように、基本関数(手続または関数)は、符号分子の演算反応に対応付けて定義され、変数及び定数は、分子を核酸配列に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義されている。
【0204】
【表2】
【0205】
このような本発明の態様によれば、上述したような分子計算機の高い並列計算性を活かし、しかも分子計算機だけでは実現することが難しい機能を電子計算機により補完することにより、操作する者が分子計算のための反応操作手順や符号化分子の割り当て等を行う必要はなくなる。
【0206】
また、本計算装置を用いて遺伝子解析を行った場合、特定の配列を有する核酸を標的としてそれらの存在または不存在を評価することや、またそれによって、例えば、遺伝子型や遺伝子の発現の状態を決定することが、小さい実験誤差で、低コストで、且つ簡便に行うことが可能である。
【0207】
更にまた、本発明は、上述の記載に基づいて以下の方法および分子計算用ソフトウェアも提供する。即ち、電子計算部と分子計算部とを、電気学的プログラムが認識可能に表現された分子情報に基づいて一体的に機能させることを特徴とする分子計算方法を提供するものである。
【0208】
また、電子計算部と分子計算部とを具備する分子計算装置に適用するためのソフトウェアであって、前記電子計算部および/または前記分子計算部に適用され、前記電子計算部による計算作業と前記分子計算部による計算作業とを、各計算部で電気学的に認識可能な情報形式で機能させることを特徴とする分子計算用ソフトウェア、詳しくは、分子計算部により計算した情報を、電子計算部の電気学的プログラムに適合するような情報形式に変換する機能を有することを特徴とする分子計算用ソフトウエア、更に詳しくは、電子計算部により計算した情報を、分子計算部の計算作業に適合するような情報形式に変換する機能を有する分子計算用ソフトウエアを提供することである。
【0209】
本発明の分子計算ソフトウェアを用いることにより、上述の本発明の計算装置の実行を容易に行うことが可能である。また、当該分子計算ソフトウェアは、本発明の計算装置を総括して管理しても、またその構成要素の一部分を独立して管理しても、または構成要素の幾つかの部分を組み合わせて連動して管理してもよい。
【0210】
II.遺伝子解析の適用例
1.概要
本発明者らは、遺伝子の解析を、核酸分子を入力データとして用いる計算として捉えるというオリジナルなアイデアを着想した。この着想は、Iで示した分子計算装置を用いて実現可能である。例えば、発現mRNAおよびゲノム上の遺伝子を符号核酸のデータに変換し、それらデータの論理和、論理積、否定を計算することで、遺伝子型判定や特定の疾患での遺伝子の発現条件を求めることができる。
【0211】
以下に示す2.〜4.の第1の例〜第3の例は、Iに示した分子計算装置を適用して実現される。
【0212】
2.分子計算装置を遺伝子解析に適用する第1の例
本発明の1態様に従う分子計算装置に適した問題の例は、NP完全問題や3SAT等の純粋に数学的問題、ゲノム情報解析のように入力データが核酸分子で与えれられるような問題、機能性分子の設計、および機能の評価を電子コンピュータで行うことが困難な問題等である。
【0213】
以下に、分子計算装置により行う更なるゲノム情報解析の例を示す。まず、ゲノム情報を正規直交化DNA塩基配列で表現した数字である体系に変換する。その後、そのDCNに対するDNA計算を純粋に数学的問題を解くときのように行い、その計算結果からものゲノム情報を解析する。
【0214】
この方法では、以下に示すような2種類の核酸プローブ、即ち、プローブAおよびプローブBが使用される(図22(a))。
【0215】
プローブAは、標的核酸の一部の領域の塩基配列Fに相補的な配列F’と、これに結合した結合分子からなる。
【0216】
ここで、結合分子は、互いに特異的に高親和性を有する2つの物質の内の何れか一方の物質である。例えば、ビオチンまたはアビジン若しくはストレプトアビジン等である。また、結合分子は、直接に配列F’に結合しても、或いは任意の配列を解して間接的に配列F’に結合してもよい。間接的に結合する場合の任意の配列は、如何なる塩基配列であっても、如何なる塩基数であってもよい。好ましくは、標的核酸上の塩基配列に非相補的な配列である。
【0217】
プローブBは、標的核酸の一部の領域の塩基配列Sに相補的な配列S’とフラッグとからなる。本例におけるフラッグは二本鎖からなる。前記二本鎖は、複数のユニットからなる任意の配列を有す。また、フラッグは、これ自身が標的核酸と結合はせず、また、これらは互いに如何なる相互作用も示さないことが必要である。
【0218】
本方法に使用される配列F’および配列S’は、1以上の塩基数を有し、より好ましくは15以上の塩基数を有する。
【0219】
ユニットの設計例を図23(a)に示す。フラッグFLの複数のユニットの各1ユニットは、10塩基数以上としてよく、より好ましくは約15塩基数である。フラッグFLのユニット数は、何れでもよいが、解析の容易さから4ユニットが好ましい。しかし、これに限られるものではない。
【0220】
複数の標的核酸を同時に検出する場合には、多種類のユニットを組み合わせてフラッグFLを構築する。たとえば、SD、D0、D1、EDの4ユニットからなるフラッグFLを設計する場合を例とすると、先ず、22種類のユニットを設計し、その中から2種類を選択してプライマーとなるSDユニットと、もう1つのプライマーであるEDユニットとする。残りの20種類のユニットを用いて、各標的核酸の種類毎に、選択する2つのユニットの種類を変えることによりD0、D1を設計すると、100種類の異なる核酸配列を検出することが可能である(図23(a))。
【0221】
22種類のユニットは、正規直交化された塩基配列により設計することが好ましい。正規直交化された塩基配列はTm値が揃っており、相補配列以外とは安定したハイブリッドは形成しない。また、相補配列とのハイブリッド形成を阻害するような安定した2次構造は形成しない。これにより、最終的な検出時のミスハイブリを少なくし、ハイブリの形成速度を上げることが可能になる。したがって、検出精度を向上すること、および検出時間を短縮することが可能になる。また、ユニット数を増すことや、ユニットの種類を増すことにより、10000種類の異なる核酸配列をも検出することが可能である。
【0222】
図22(a)〜図22(i)を用いて、本例の方法を更に説明する。図22(a)に、4ユニットからなるフラッグFLの例を示した。該4ユニットは、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction;以後、PCR増幅またはPCR反応と称す)においてプライマーとなるSDユニットと、標的核酸の種類を認識するための認識用ユニット、即ち、D0ユニットおよびD1ユニットと、およびもう1つのプライマー配列であるEDユニットとからなる。これらの各ユニットは、後の工程においては、夫々が読み取り枠となる。
【0223】
検出は、まず上記のプローブAとプローブBを、標的核酸と混合する(図22(a))ことにより行う。このとき、試料に含まれる標的核酸は、複数の異なる核酸分子群であってもよい。例えば、検出されるべき標的核酸の種類が100種類以下であるならば、D0ユニットは、D0−1からD0−10の10種類の中から選択され、且つD1ユニットは、D1−1からD1−10の10種類の中から選択される(図23(a))。
【0224】
次に、プローブA、プローブB、および標的核酸をハイブリダイゼーションに適した条件で一定時間インキュベーションし、ハイブリダイゼーションを行なう(図22(b))。ハイブリダイゼーションの条件は、例1に示す通りでよい。
【0225】
かかるハイブリダイゼーションにより、プローブAおよびプローブBの両方が同一の標的核酸上に結合する(図22(b))。
【0226】
次に、標的核酸にハイブリダイズしたプローブAおよびプローブBを連結する(図22(c))。連結の条件は、例1に示す通りでよい。
【0227】
また、フラッグFLのTm値は、配列F’およびS’より高い温度に設計することが好ましい。これにより本検出方法におけるハイブリダイゼーション、ライゲーションおよび変性等の操作の加熱または冷却の際に、検出感度の低下をもたらすフラッグの変性を防ぐことが可能である。
【0228】
次に、得られたフラッグFLの情報をB/F分離する(図22(d))。具体的には、プローブ(A+B)に具備される結合分子を、その対となるべき結合分子を介して固相担体に補足する(図22(e))。
【0229】
前記固相担体は、基板、ビーズ等の粒子、容器、繊維、管、フィルター、アフィニティ・カラム、電極等を用いることが可能であるが、好ましくはビーズである。
【0230】
次に、結合分子に捕捉された状態で、プローブ(A+B)のフラッグFLを変性し一本鎖にする(図22(f))。得られた液相中の一本鎖配列FL’に対してPCR増幅を行なう(図22(g))。上述したように、予めフラッグFLには、2つのプライマー配列SDおよびEDが配置してある。従って、このプライマー配列を利用してPCR反応が容易に行ない得る。また、このとき、PCRに使用する2つのプライマーの一方、たとえばSD配列に、ビオチン等の結合分子を結合しておくことが好ましい。このときのPCRの詳細な条件は、設計したフラッグFLに依存する。
【0231】
続いて、該PCR反応の終了後、結合分子を固相した固相担体に結合することによって、PCR産物である二本鎖配列を回収する(図22(h))。ここで、固相化された担体は、前記結合分子と対になる結合対のもう一方の物質である。さらに、変性により配列FL’を除き、一本鎖配列FLのみを固相担体上で回収する(図22(i))。
【0232】
続いて、固相上の一本鎖フラッグ配列FLの解析を行なう。まず、一本鎖フラッグ配列FLが結合した前記固相担体を10等分する(D1ユニットがD1−1からD1−D10の場合)。各々に、標識分子と結合したD1−1’からD1−10’配列の一つおよび全てのD0’配列(D0−1’からD0−10’)を加え、フラッグ配列FLにハイブリダイズする。
【0233】
続いて、ハイブリダイズした2つの核酸分子をライゲーションにより連結する。ここで、ライゲーションの条件および標識物質に関する定義は上述した通りである。その後、変性により連結された分子を液相に回収する。
【0234】
得られた標識された核酸分子の解析は、予めD0−1からD0−10の核酸分子を固相化したDNAチップまたはDNAキャピラリ等に対して、ハイブリダイズすることにより行うことができる。特に、DNAキャピラリは、D0−1からD0−10で10等分に分けられたものを同時に処理できるので、これにより分析は容易になるであろう。
【0235】
例えば、各10種類のD0−1からD0−10と、D1−0からD1−10の配列を用いてフラッグFLを設計した場合、図23(a)の1の位置にはD0−1に相当する配列が固定され、標識されたD1−1’分子と連結された拡散分子63にハイブリダイズされる。同様に、他の位置には列により相当するD0配列が固定され、行により相当するD1’分子と連結された拡散分子にハイブリダイズされる。このような行列の配置を、後述するDNAキャピラリに対して用いる(図23(b))と解析が容易に行える。
【0236】
ここでは、10種類のユニットを用いた例を挙げたが、ユニットの種類は10種類に限られるものではなく、それ以下でも、それ以上でもよい。
【0237】
ここで使用する「DNAキャピラリ」とは、標的核酸を検出するための装置であり、その内側に該標的核酸に対する相補的配列が結合されており、該相補的配列に標的核酸を結合することにより、該標的分子を検出する装置をいう。図23(b)に示す通り、多数のDNAキャピラリを同時に使用し、且つ斜線で示した部分に、互いに異なるプローブを配置することにより、同時に多くの標的核酸を検出することが可能である。
【0238】
また、本方法では、フラッグ配列FLの各ユニットには正規直交化配列が使用されているので、実施されるハイブリダイズの反応温度等の条件を均一化することが可能である。これにより、ミスハイブリを防止でき、高い精度が得られる。また、同一条件の下で一度に多くの解析を行なうことが可能であるため、検出時間の短縮化を達成することが可能である。また、本方法により複雑なゲノム情報をDNAの塩基配列で表現した数値に変換することも可能となり、DNA分子反応を利用した計算を行うことにより、多種類の情報や、互いに連鎖した複雑な遺伝子情報を容易に解析することが可能になる。また、コード化したのちに容易にコード化核酸を増幅できるので、少ないコピー数の標的配列であっても正確に且つ定量的に検出することが可能である。また、コード化することにより、多くの情報を圧縮することが可能である。従ってDNAチップまたはキャピラリーアレイ等の検出手段の所要数を節約することが可能である。
【0239】
ここで使用する「エンコード反応」とは、ある塩基配列を、正規直交化塩基配列で表現されるコードに変換することをいう。上述の図22(a)〜図22(f)の工程がこれに相当する。
【0240】
また、ここで使用する「デコード反応」とは、前記で変換されたコードの読み取りを行ない、それにより元の情報を復元することをいう。上述の図22(a)〜図22(i)の工程がこれに相当する。
【0241】
この方法では、上述したような1種類の標的核酸を検出するのみに留まらず、複数種類のフラッグ配列を設計すれば、同様な工程を経ることにより複数種類の標的核酸を同時に検出することも可能である。
【0242】
3.分子計算装置を遺伝子解析に適用する第2の例
本発明の更なる1側面では、上述のような分子計算装置を用いて、ゲノム情報解析を行う一般的な計算方法論が提案される。特に、該ゲノム情報解析方法では、以下のような利点が得られる。即ち、そのような方法では、先ず、特定の遺伝子の塩基配列に対して、任意に設計した所望配列を任意に割り当てる。そして、その割り当てに従って、該特定の遺伝子の塩基配列を設計された配列に変換し、変換後に得られた安定性の高い配列を演算に使用することが可能である。従って、反応の設計における自由度が高くなり、且つ正確な反応を実施することが可能になる。
【0243】
(a)第1の実施の形態
(1)概要
遺伝子解析に適用する本発明の第1の実施の形態について述べる。第1の実施の形態は、核酸分子による演算によって、遺伝子の有無を判定する遺伝子解析の例を示す。
【0244】
その概要は以下の通りである。まず、細胞で発現された遺伝子群を基にcDNA群を作製する。得られたcDNA群に含まれる発現遺伝子と、含まれない非発現遺伝子に関する情報、即ち、標的遺伝子の有無に関する情報を、人工的に設計した配列をもつDNA分子の形態に変換し、表現様式を変更する。この変換によって得られたDNA分子を、演算用核酸に対してハイブリダイゼーションする。以上の過程が演算解析の過程である。ここで、前記DNA分子は、特定の標的遺伝子が存在しているか否かの情報を担う一種の信号として機能する。
【0245】
例えば、ある標的遺伝子が存在することを確認することによって、当該遺伝子が発現遺伝子であることが判定できる。或いは、その標的遺伝子が存在しないことを確認することによって、当該遺伝子が非発現遺伝子であることが判定できる。従って、本解析方法では、サンプル中に含まれる標的分子を検出することが可能であるばかりではなく、同時に、サンプル中に含まれない標的分子に関しては、それが存在しないとい情報を得ることが可能である。
【0246】
(1.1)準備
本発明の1態様である計算方法には以下のような分子が必要である。実質的な計算に先駆けて、以下の分子を調製することが必要である。当該調製はそれ自身公知の方法により行うことが可能である。
【0247】
溶液に含まれるcDNAを検出するために図24に示す2つのプローブ、即ち、点線で囲まれたaiとAiを準備する。aiは、標的のcDNAの一部の配列に相補的な配列を含み且つ5’端にビオチンを標識したオリゴヌクレオチドである。Aiなるオリゴヌクレオチドは部分的にハイブリダイゼーションにより2本鎖になったオリゴヌクレオチドである。Aiを構成する2本鎖のうちの一方のオリゴヌクレオチドは、人工的に設計されたSD、DCNiおよびEDなる塩基配列を3’端側に有し、標的のcDNAの一部分の配列に相補的であり且つai分子の標的に相補的な配列に隣接するような配列を5’端側に有する。また、前記人工的に設計した塩基配列は、当該相補的な配列よりも3’末端側に配置される。また、Aiの標的cDNAに相補的な配列の5’端はリン酸化されている。2本鎖Aiを構成するもう1方の鎖はSD、DCNiおよびEDの配列に相補的な配列をもつオリゴヌクレオチドである。aiおよびAiは、検出したい標的遺伝子毎に任意に設計する。ここでいう「標的遺伝子」とは、溶液中に存在するまたは存在しないことを検出したい遺伝子である。またこのとき、DCNiの配列は標的ごとに異なる配列になるように設計し、SDおよびEDはすべてのAiで共通する配列になるように設計する。これらの人工的な配列は、任意に設計可能であるので、所望するTm値を設定することが可能である。従って、安定に且つミスハイブリダイゼーションの少ない反応を行うことが可能である。
【0248】
更に、図28に示すような5’端にビオチン標識をしたSD配列と同じ配列を有するプライマー1と、ED配列に相補的な配列を有するプライマー2が必要である(図28)。
【0249】
また更に、図31に示すような「標的が存在すること」を示すDCNiに相補的な配列を有する存在オリゴヌクレオチド3(図31)と、「標的が存在しないこと」を示すDCNi *に相補的な配列を有する不存在オリゴヌクレオチド6(図35)が必要である。
【0250】
また、図32に示すような反転オリゴヌクレオチド4が必要である。これは、DCNiに対応するように人工的に設計され且つDCNiとは異なる配列を有した塩基配列であるDCNi *を5’端側に具備し、その3’端側にはDCNi配列を具備するオリゴヌクレオチド(図32)である。
【0251】
(1.2)存在分子と不存在分子への変換
本発明の方法では、まず、サンプル中に、特定の標的分子が存在しているという情報を「存在分子」に変換し、特定の標的分子がある系に存在していないという情報を「不存在分子」に変換する。ここで使用する「存在分子」と「存在オリゴヌクレオチド」の語は互いに交換可能に使用される。また「不存在分子」と「不存在オリゴヌクレオチド」も同様に交換可能に使用される。
【0252】
このような分子の存在、不存在を分子形態表現に変換する方法について図24から図35を用いて説明する。図24から図45は、それぞれの工程における系に存在する分子を模式的に示したものである。
【0253】
図中、DNAを矢印により示し、矢印の元部をDNAの5’端とし先端を3’端とする。矢印の途中に入る該矢印への短い垂線は、塩基配列の区切りを示す部分である。また、図中の矢印の近くに示す、「a」、「A」および「DCN」等のアルファベットは配列の名前を示す。また、「a」、「A」および「DCN」等のアルファベットに付された添え字「i」および「k」は整数であり、それぞれの配列が、どの遺伝子に対応するかを表示するために付されたものである。ここでは「i」および「k」により任意の配列が示される。また、ここでは便宜的に「i」は発現遺伝子を、「k」は非発現遺伝子を示す。また、図中、配列名の上に線が引かれている場合は、相補的な配列を示す。図中の斜線のある円はビオチン分子を示し、白い大きい円は磁気ビーズを現す。磁気ビーズから右横に伸びる黒い十字は、該磁気ビーズに固定されたビオチン分子と特異的に結合するストレプトアビジン分子を模式的に示している。
【0254】
a.「標的が存在する」という情報の「存在分子」への変換
標的が存在する場合の存在分子への変換は図24から図42に示す工程を逐次的に行うことにより実施される。
【0255】
まず、図24を参照されたい。上述の通り合成したaiおよびAiを、Taqライゲースのような高温で活性の高い酵素の反応バッファ中でcDNAと反応させる。但し、このライゲーション反応の温度はAiオリゴヌクレオチドの2本鎖部分が解離しない温度とする。この反応の結果、標的が存在した場合は、図25のようにライゲースによりaiとAiは連結される。次に、この反応溶液から図26に示すようにストレプトアビジンを表面に結合した磁気ビーズにて前記連結オリゴヌクレオチドを抽出する。このとき、未反応のai分子もビーズに捕獲されるが、以後の反応には関係しない。
【0256】
続いて、熱をかけることで、磁気ビーズで捕獲したAiとaiの連結分子からAi部分の相補鎖を分離抽出する(図27)。この操作によって、最初の溶液にcDNAが存在していれば、それに対応するDCNi配列に相補的な配列を含んだオリゴヌクレオチドが抽出される(図27)。この抽出オリゴヌクレオチドをテンプレートとして、5’端にビオチン標識をしたSD配列と同じプライマーと、ED配列に相補的なプライマーにて図28のようにPCR増幅反応を行う(図28)。これにより存在していると判明した遺伝子を検出するDCNi配列が増幅される。
【0257】
このPCR増幅による2本鎖の産物を、図29に示すようにストレプトアビジン結合磁気ビーズにより捕獲する(図29)。捕獲した2本鎖のPCR産物を捕獲したままで熱をかけて1本鎖にし、解離させた相補鎖を緩衝液交換により除去する(図30)。続いて図31のように、DCNiに相補的な配列をもつ存在オリゴヌクレオチドを、ビーズに捕獲されたPCR産物にハイブリダイズする(図31)。このハイブリダイゼーションの後、過剰な存在オリゴヌクレオチドを除去し、続いて、改めて熱をかけることによってビーズに捕獲されているDCNiの相補鎖(即ち、存在オリゴヌクレオチド3)をバッファ中に抽出する。ここで抽出されたDCNiに相補的な塩基配列を有する存在オリゴヌクレオチド3が、もとのcDNA溶液中に標的遺伝子が存在することを示す存在分子である。
【0258】
b.「標的が存在しない」という情報の「不存在分子」への変換
上述の工程により、存在した標的遺伝子を、それが存在するという情報を示す存在分子(即ち、存在オリゴヌクレオチド)に変換した後で、存在しないという情報をこれを示す分子(即ち、不存在オリゴヌクレオチド)に変換する。標的が存在しない場合には、存在しなかったことを示す不存在オリゴヌクレオチドが抽出される。この抽出は以下の通りに実施される。
【0259】
予め、図32にあるような反転オリゴヌクレオチドを全ての検出対象の遺伝子のDCNについて準備する。上述した通り、反転オリゴヌクレオチドは、DCNiに対応するように人工的に設計され、且つDCNiとは異なる配列を有した塩基配列DCNi *を5’端側に具備し且つ3’端側に隣接してDCNi配列を具えたオリゴヌクレオチドである。このような反転オリゴヌクレオチドと存在分子とのハイブリダイゼーション反応を利用することにより、「存在しない標的」を検出可能な「不在分子」に変換することが可能である。
【0260】
まず、図32に示す工程において、反転オリゴヌクレオチド4に対して、図31の過程で抽出した発現遺伝子に対応するDCNiの存在オリゴヌクレオチド33をハイブリダイズし、ポリメラーゼにより伸長反応を行う(図32)。その結果、発現遺伝子のDCNiは伸長し、DCNi *の配列の部分まで相補鎖が合成される(図32)。一方、図33の通り、標的分子が非発現遺伝子(ここではDCNkと示す)であった場合、DCNkに相補的なオリゴヌクレオチドは反応液中に存在しないため、反転オリゴヌクレオチド5は1本鎖のままで存在する(図33)。これら2本鎖と1本鎖の混合物は、ヒドロキシアパタイトを含むカラムに通すことで1本鎖の反転オリゴヌクレオチド5のみを抽出することができる(図34)。
【0261】
このように抽出した非発現遺伝子に対応するDCNkをもつ反転オリゴヌクレオチド5を、ストレプトアビジンを結合した磁気ビーズに捕獲する(図35)。次に、上述した存在オリゴヌクレオチド3のみの抽出と同様に、DCNk *に相補的なオリゴヌクレオチド6をハイブリダイゼーションし、過剰なオリゴヌクレオチドを除去して非発現遺伝子を示すDCNk *にハイブリダイゼーションした不存在オリゴヌクレオチド6のみを抽出することができる(図35)。
【0262】
不存在オリゴヌクレオチド6を得るための工程は以下のようにも実施できる。即ち、DCNiオリゴヌクレオチドの5’端にFITCなどの蛍光分子を標識しておき、DCNiに相補的な配列を有するプローブを含むDNAマイクロアレイにおいてハイブリダイゼーション反応を行う。これをスキャナなどで読み取り、どのDCNiが存在するかを検出する。このとき同時に、これにより存在していないDCNkもわかる。従って、これらのデータから、次の演算のためにDCNk *なる不存在オリゴヌクレオチド6を準備する。以上により存在しない核酸をその核酸に対応する不存在を示す核酸に変換することが達成される。これにより演算用核酸上での論理演算が可能になる。
【0263】
また、この不存在オリゴヌクレオチド6を作る工程において、1本鎖の反転オリゴヌクレオチド5を鋳型として不存在オリゴヌクレオチド6を増幅してもよい。増幅は、例えば、図40から図45に示される各工程を経て実施することが可能である。ここで、図40から図45は、それぞれの工程を示すものであり、且つ各系に存在する分子を模式的に示したものである。各図中に示される記号等の詳細は上述した通りである。まず、図34の工程に従って、抽出された1本鎖のままの反転オリゴヌクレオチド5を得る(図34)。この反転オリゴヌクレオチド5に対して、図40に示すような、3’端側でSDに相補的な配列と、且つ5’端側でED配列に相補的な配列と結合したDCNk *に相補的な配列を有したオリゴヌクレオチド7をハイブリダイゼーションすることで不存在オリゴヌクレオチド6を抽出する。続いて、FIG.36から22に示すような工程により、存在オリゴヌクレオチド3と同様に増幅したDCNk *を得ることができる。即ち、図41に示す工程で、図40の工程において得たオリゴヌクレオチド7に対してビオチン標識したSD配列を有するプライマー1と、ED配列に相補的な配列を有するプライマー2を用いてPCR増幅する(図41)。次に、PCR産物をビオチンをストレプトアビジン分子に結合することにより回収する(図42)。続いて、熱変性により、PCR産物を1本鎖にする(図43)。続いて、DCNk *に相補的な配列をもつ不存在オリゴヌクレオチドを、ビーズに捕獲されたPCR産物にハイブリダイズする(図44)。このハイブリダイゼーションの後、過剰な存在オリゴヌクレオチドを除去し、続いて、改めて熱をかけることによってビーズに捕獲されているDCNk *の相補鎖(即ち、不存在オリゴヌクレオチド6)をバッファ中に抽出する。ここで抽出されたDCNk *に相補的な塩基配列を有する不存在オリゴヌクレオチド6が、即ち、もとのcDNA溶液中に標的遺伝子が存在しないことを示す不存在分子である。
【0264】
(1.3)演算工程
演算工程では、上述で得られた存在分子および不存在分子と、以下に説明する演算用核酸とのハイブリダイゼーションおよび相補鎖合成とを行い、それによって、所望する条件を現す演算式を解き、該条件を満たす解を求める並列計算を行う。
【0265】
演算の例として演算式として数式4を用いる。ある特定の配列DCN1、DCN2、DCN3およびDCN4を標的配列とし、その有無の条件について論理式として示した数式4を、演算用核酸と存在分子および不存在分子とのハイブリダイゼーション反応と伸長によって、演算し、値を評価する。数式4は、DCN1、DCN2、DCN3およびDCN4についての所望する有無についての組合せを所望の条件として示している。即ち、本例では数式4の解を求めるということは、あるサンプル中における複数の標的配列の有無を同時に評価することである。
【0266】
【数4】
式中、「¬」は「否定」、「∧」は「論理積」、「∨」は「論理和」を表す記号である。
【0267】
演算用核酸に設定した条件を満たす場合は、当該式の値は「1」、即ち「真」となる。また、演算用核酸に設定した条件が満たされない場合は、当該式の値は「0」、即ち「偽」となる。また本発明は、基本的な排他的論理和を達成している。従って、この組合せを用いればブール代数の全ての論理演算を実現できる。
【0268】
図36に示すのが演算用核酸8の配列構造である。演算用核酸は1本鎖のオリゴヌクレオチドであり、図では矢印で示している。矢印の向きは5’端から3’端に向かっている。5’端にはビオチン分子が付いている。演算用核酸は複数のユニットを含む。その塩基配列は、5’端から順に、マーカー分子が結合するM1、DCN1が存在しないときに得られるオリゴヌクレオチドを検出する配列DCN1 *、DCN2、ポリメラーゼによる相補鎖伸長が止まるような配列を具えたストッパ配列S、2つ目のマーカーが付くM2、DCN3、DCN4 *である。この演算用核酸の配列は、論理式の各項の並びにほぼ対応する。論理式の「否定」もそのままの配列となる。例えば、「DCN4」配列の存在が「否定」される場合には、「DCN4 *」の配列を用いる。ここで、DCN4 *は上述した通りのDCN4の対応するように設計された人工的な配列である。また、「論理和」記号はS配列に置き換えればよい。「論理積」は演算用核酸上の配列として置き換える必要はない。式1のための演算用核酸の演算は、表3の各条件を満たすときに、その値が1になる。表3中「―」はどのような状態でもよいことを示す。
【0269】
【表3】
【0270】
以下、論理式を評価する核酸反応について、その工程を説明する。演算工程は図37から図39の工程を含み、演算反応は次の手順で行う。先に述べた論理式の演算を行うときには、図36に挙げた配列を具備した演算用核酸を準備する。1つのチューブに対して1種類の演算用核酸を入れ、それに先の工程で得た存在オリゴヌクレオチドと不存在オリゴヌクレオチドを含む溶液を入れ、ハイブリダイゼーション反応を行う(図37)。ここで、仮に、DCN1、DCN3、DCN4が存在し、DCN2が不存在であるならば、演算用核酸にハイブリダイゼーションするのはDCN3のみである(図37)。また、ハイブリダイゼーション反応後、Taqポリメラーゼなど高温でも活性のある酵素により、ミスハイブリダイゼーションがおきない条件下で伸長反応を行うと、図38のようにM2配列部分は2本鎖となりS配列で伸長が止まる(図38)。
【0271】
次に、ストレプトアビジン磁気ビーズにより反応が終了した演算用核酸を捕獲する(図39)。最後に、検出反応としてマーカーオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション反応を行う(図39)。図39では、担体上に固定された演算用核酸を示しており、その5’端のビオチン分子は担体上にあるストレプトアビジン分子に結合している。さらにマーカー検出配列に相補的な配列をもつマーカーオリゴヌクレオチドM1、M2を準備する。これらマーカーオリゴヌクレオチドの5’端には蛍光を発する分子が付いている。この例では、演算用核酸のM1配列は2本鎖化されていないので、当該マーカーは演算用核酸に結合することが可能である(図39)。このあと、結合していないマーカーを除去してビーズを蛍光観察すれば、マーカーオリゴヌクレオチドM1がハイブリダイゼーションして蛍光を発するため演算結果得られる論理式の値は「1」であることが分かる。
【0272】
上述では、S配列をストッパーとして使用したが、S配列を必ずしも配置する必要はない。その代わりとしてS配列をなくし、相補鎖が形成されないように人工的な塩基を具えたヌクレオチドを含ませてもよい。このとき、演算用核酸をS配列の両側に配置すればよい。例えば、S配列は、他の配列部分にシトシン塩基が含まれないように設計し、S配列の塩基配列にシトシン塩基が含まれるように設計してもよい。この場合、図38に示す演算用核酸上での伸長反応の際にモノマーとしてdGTPを別途加えなければ伸長反応はS配列上で停止する。また或いは、ポリメラーゼが伸長反応を停止し易いグアニンやシトシンの連続した塩基配列としてもストッパーとしての目的を達成できる。或いは、S配列に相補的なPNAを演算用核酸にハイブリダイゼーションさせておいてもよい。この場合、DNAとDNAのハイブリッドよりも、DNAとPNAのハイブリッドは安定であるため、5’エクソヌクレアーゼ活性のあるポリメラーゼであっても除去することなできない。従って、S配列がストッパーとして機能する。
【0273】
また、マーカーオリゴヌクレオチドの蛍光標識の種類を増やしてもよい。現在は、数多くの蛍光色素が開発されており異なる核酸に異なる蛍光色素を標識することが可能である。そのようにすれば、同時に多くの演算用核酸を標識することができる。例えば、この実施の形態において、M1マーカーオリゴヌクレオチドとM2マーカーオリゴヌクレオチドとの間で蛍光分子を変えれば、検出した際に論理式の括弧で囲まれたどちらの条件が充足されたのかが判明する。また、演算用核酸毎にマーカー配列を変え、マーカーオリゴヌクレオチドに標識する蛍光分子も変えれば、1つのチューブに複数種類の演算用核酸を入れて同時に演算反応をすることもできる。更にまた、蛍光強度は演算核酸の表現する論理式の充足度に比例するので、その大きさを知ることも可能である。
【0274】
また、演算結果を得るに当たって、次のようなこともできる。即ち、この実施の形態における存在オリゴヌクレオチドと不存在オリゴヌクレオチドを増幅する工程において、PCR反応を増幅が飽和するように十分なサイクル数行えば、「存在」を「1」、「不存在」を「0」とする2値の論理演算が可能である。一方、PCR反応を増幅を飽和させず、元のcDNAの存在量に比例した量だけ得られるようにサイクル数を抑えれば、論理式を区間[0,1]で確率的に評価することができる。例えば、発現遺伝子の場合は発現量に応じた結果が得られ、ゲノム配列であれば、ヘテロ接合かホモ接合かの違いを演算結果で知ることができる。
【0275】
さらに演算用核酸をDNAマイクロアレイのように、基板上に微小スポット状に固定し、その場所と演算用核酸の論理式が対応するようにアドレシングしておいてもよい。このようにしたときはマーカーオリゴヌクレオチドには蛍光標識をしておくのが好ましい。先に述べた演算反応をマイクロアレイ上の演算用核酸で行うと、DNAマイクロアレイの読みとり用スキャナで演算結果を読みとることができる。
【0276】
また、このマーカーオリゴヌクレオチドにビオチン分子を標識していてもよい。このとき、演算用核酸の5’端にはビオチンを付けず、3’端、5’端にクローニングのための制限酵素認識配列を含むものにする。さらに反応においては図39に示すような演算用核酸をストレプトアビジン磁気ビーズにより捕獲する工程を行わない。この場合の検出反応はマーカーオリゴヌクレオチドをハイブリダイゼーション反応した後で、ストレプトアビジン磁気ビーズによって演算用核酸をハイブリダイズしたマーカーオリゴヌクレオチドもそうでないものも両方とも捕獲し、捕獲された演算用核酸をクローニングし、シーケンサーで塩基配列を読み取る。それにより演算結果が「1」となる演算用核酸を確認することができる。このようにすれば1つのチューブに複数種の演算用核酸を入れて反応を行うことができる。
【0277】
ここでは、4つの標的配列を用いた例を用いたが、更に多くの標的配列を対象とすることも可能である。また、ここでは、ビオチンとストレプトアビジンを回収を行うためのタグとして使用したが、これに限られるものではなく、タグとこれに対して高親和性を有するものであればどのような物質を使用してもよい。
【0278】
(b)第2の実施の形態
本発明の好ましい態様に従うと、上述した方法において、DCN配列として正規直交化配列を用いてもよい。「正規直交化配列」とは人工的に設計した塩基配列であって、「正規」とは融解温度(Tm)が揃っていることを示し、「直交化」とはミスハイブリダイゼーションが起きず、自己分子内で安定な構造をとらないということを意味する。
【0279】
例えば、15塩基の正規直交化配列を求めるには、任意の5塩基をランダムに生成する。これら短い塩基配列を「タプル」と呼ぶことにする。5塩基長のタプルは45=1024種類ある。これらタプルの中から3つを選んで連結し15塩基を構成する。この連結に用いたタプルに相補的なタプルは以降の連結には用いない。ここで、これらを連結した15塩基の配列のTmが±3℃以内に揃うような15塩基のセットを作る。また、自己分子内で安定な構造を取るかどうかも計算し、安定な構造をなすならばそのような15塩基は排除する。
【0280】
最後に全ての配列同士で互いに安定な2本鎖を形成しないかを検証する。以上の方法で生成した15塩基の配列は反応温度を適切に選べば互いにハイブリッドを形成せず、混在しても独立したハイブリダイゼーション反応をするのでより好ましい。これら正規直交化配列を特定の遺伝子塩基配列と対応関係を持つように核酸aiとAiの配列を選び第1の実施の形態に従って反応を行えば、反応条件がより簡単になり、しかもより正確な演算反応を行うことが可能である。
【0281】
(c)第3の実施の形態
続いて、本発明の好ましい態様に従うと、複数の遺伝子座にそれぞれ特定の塩基配列が存在することで決まるような遺伝子型を判定するためにも使用できる。ここでは、そのような遺伝子型を判定する方法の例を示す。
【0282】
遺伝子型に対応する論理式を設定し、その論理式に基づき演算用核酸を設計する。それにより、電子計算機や判定表を用いずに遺伝子型を判定することができる。具体的には、例えば遺伝子座1で塩基A、遺伝子座2で塩基T、遺伝子座3で塩基Gであるとき遺伝子型Aと判定でき、また、遺伝子座1で塩基A、遺伝子座2で塩基C、遺伝子座3で塩基Tであるとき遺伝子型Bであり、また、遺伝子座1で塩基A、遺伝子座2で塩基C、遺伝子座3で配列Gであるとき遺伝子型Cと判定できるならば、それぞれを満たす論理式は表4の右端欄に示す通りになる。
【0283】
【表4】
【0284】
遺伝子型判定はそれぞれの論理式と対応する演算用核酸により演算反応を行う。先ず、式の各要素について遺伝子座に特定の配列が存在する場合の値を1とし不存在の時を0とし、最終的に式全体の値が1となる式があるならば、その式に対応する遺伝子型が判定結果となる。このような核酸を用いた演算いる本発明の方法により、遺伝子座が多くあり且つ遺伝子型は極少ないような遺伝子の型判定が、複雑な表や電子計算機を必要としない簡便なものとなる。
【0285】
(d)第4の実施の形態
更に、本発明の好ましい態様に従うと、上述の方法は、癌細胞の遺伝子発現において各種遺伝子がどのような発現、非発現の条件(即ち、状態)下にあるかのを調べることにも利用できる。上述した第1の実施の形態に対すると、第3の実施の形態は、所謂「逆問題」とも呼ぶことも可能である。
【0286】
予め、様々な論理式を表す演算用核酸を準備する。この演算用核酸は、5’端をリン酸化した各種の論理式要素、すなわちDCNi、DCNi *、S、M等からなる配列を有する。これらに加えて、例えば、図45に示すような論理式要素を連結するための連結用相補核酸9を準備する。連結用相補核酸9の配列は、連結を所望する仕切部分に隣接して存在する2つの部分の配列に相補的な配列を有すればよい。
【0287】
これら核酸をハイブリダイゼーションし、ライゲースで連結反応すれば任意に論理式要素が結合された演算用核酸が得られる。連結用相補核酸の配列を十分考慮して設計することで論理式として不適当なものが生成されないようにできる。
【0288】
この演算用核酸を用いて逆問題を解くには、癌細胞から取得したcDNAを第1の実施の形態にしたがって、論理式要素の配列に変換し、あらかじめ準備しておいた様々な論理式を表す演算用核酸により論理演算を行う。最後にこれら演算用核酸が表現する論理式のうち、満たされるものがあるかどうかを検出する。このうち、論理式の値が1となった演算用核酸の意味する内容を解釈することによって、どのような遺伝子の発現、非発現状態が満たされる条件にあるのかを解明することが可能である。或いは少なくともその部分条件を解明することが可能である。
【0289】
任意に作製した演算用核酸の配列を同定するには、先ず、1つの容器において反応する。次に、第1の実施の形態のビオチン分子を結合したマーカーオリゴヌクレオチドにてストレプトアビジン磁気ビーズに演算用核酸を回収する。続いて、シーケンシングを行い、演算分子の内容を読みとる方法で論理式を読み取ることが好ましい。また、任意に演算用核酸を作製せずとも、論理式を決めて連結により演算用核酸を合成する方法でおこなってもよい。この場合には、それら論理式をDNAマイクロアレイにアドレシングして固定し、検出時に論理式を確認してもよい。または、1つの容器に1種類の演算用核酸を入れて反応を行っても良い。
【0290】
これらの結果を正常細胞と比較すれば、未知のゲノム塩基配列の組み合わせにより生ずる遺伝病や、未知の遺伝子発現の組み合わせによって生ずる遺伝子異常による癌などの疾病の原因遺伝子を容易に特定することができる。
【0291】
(e)考察
従来の技術には、特定の核酸が存在しないことを核酸表現に変換できる技術はなく、また、そのような思想すらない。例えば、mRNAの発現状態を検出するにはDNAマイクロアレイがよく用いられている。このマイクロアレイには既知の遺伝子塩基配列をもとに設計したオリゴDNA、またはあらかじめ取得したcDNAをプローブとしてスライドガラス上にアレイ状に固定している。
【0292】
このマイクロアレイで発現を検出するには、mRNAから蛍光標識したcDNAを作製し、マイクロアレイのプローブと該cDNAとをハイブリダイゼーション反応をさせ、特定の配列のプローブを固定した場所に特定の標識したcDNAが結合して光ることで検出する。ところが、発現していないmRNAからは標識cDNAが作製できないので、遺伝子が発現していないことを検出できない。すなわち、実験中にmRNAが失われたり、遺伝子が発現しているにもかかわらず生成される蛍光標識cDNAが少ないために不存在であると判定されることがある。このような従来の方法とは異なり、本発明の1態様に従うと、不在の核酸の情報を可視化することが可能である。
【0293】
また、遺伝子核酸を反応させるとき、数多くの遺伝子が混在した状態では思わぬ核酸同士がハイブリッドを形成して反応することがある。また、塩基配列に含まれるグアニンやシトシンなどの塩基の数は2本鎖核酸の構造を安定化する。このような塩基が、取り扱う遺伝子核酸毎にまちまちであれば、ハイブリッドを形成する最適な温度が異なる。そのため、全ての核酸がミスマッチのない、適切なハイブリッドを形成できるとは限らない。また、自己分子内で構造をとり、標的配列との反応性が低くなるような塩基配列をもつ核酸が混在している場合には、理論的に予想される反応が進まないこともあり得る。このような従来の方法に比較して、本発明の態様に従う方法では、情報を、好ましい条件で設計した核酸分子に、置き換えてから、反応に使用するので、安定した反応を行うことが可能である。
【0294】
また、化学発光など酵素を用いた検出法は高感度であるが、検出のための処理が面倒で時間がかかる。更に、1チューブ内で複数の種類の化学発光を行うことは難しい。また、演算用核酸を用いて演算した場合、その結果を見るのに単一の発色もしくは発光反応では1チューブで1種類の演算用核酸しか反応できない。これに対して、本発明の態様に従えば、感度よく、多数の標的核酸を同時に感度よく検出することが可能である。
【0295】
また、従来の方法では、核酸の存在条件のみに基づいて作った論理式が演算用核酸に書き換えられている。ところがおよそ世の中に存在する問題は所謂「逆問題」である。例えば遺伝病における各遺伝子の発現状態について調べたとき、どのような遺伝子核酸の存在、不存在の条件が満たされれば病気になるのかが問題である。従って、遺伝子核酸の存在および不存在の論理式を求めることこそが問題なのである。従来では、このような問題は、DNAマイクロアレイのデータを大型計算機によりクラスタ解析して解いていた。従って、非常に多くの時間と費用とが必要とされていた。本発明の態様に従うと、短時間に、且つ経済的にそのような問題を解くことが可能である。
【0296】
ここでは、遺伝子解析のための方法についても示したが、これに限定されず、本発明の範囲を超えることなく種々の並列計算による情報処理を行うことが可能である。即ち、遺伝子解析以外の情報の、例えば、数学的な問題を並列処理を行って解く場合においても、優れた利点を得られる当業者には容易に理解されるであろう。
【0297】
III.その他の適用例
(1)上述したように本発明の1態様は、
分子の化学反応により分子計算を実行する分子計算方法であって、
分子を核酸配列に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義された変数及び定数と、前記符号分子の演算反応に対応付けて定義された関数により記述されたプログラムを、前記符号分子の演算反応に対応する分子の化学反応の反応制御を行う反応制御部を駆動させるための制御命令に変換して前記制御命令の手順を生成し、
前記制御命令の手順を前記反応制御部に出力し、
前記制御命令の手順に基づき分子の化学反応の反応制御を行う
方法を提供する。
【0298】
また、この態様では、分子の化学反応のうち、核酸配列の反応の規則性に着目し、その規則性を演算反応に対応付けた。核酸配列の反応の規則性のみならず、分子の他の生物学的及び生化学的な規則性に基づき生じる化学反応を演算反応に対応付けることにより、同様の分子計算が可能となる。
【0299】
例えば、本発明の核酸配列以外の生物学的および生化学的物質、例えば、ペプチド、オリゴペプチドおよびポリペプチド、蛋白質、並びに抗原および抗体などの生物学的および生化学的な要素を用いることができる。この場合、これら要素を核酸配列に替えて符号化し、符号化されたこれら各要素に対して対応付けて定義された変数および定数と、符号化された要素の演算反応に対応付けて定義された関数により記述されたプログラムにより原始プログラムを作成すればよい。
【0300】
この明細書には、以下の発明が含まれることを確認する。
【0301】
分子の化学反応により分子計算を実行する分子計算の計画を設定する分子計算計画設計装置であって、
分子を該分子の生物学的性質又は生化学的性質に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義された変数及び定数と、前記符号分子の演算反応に対応付けて定義された関数により記述されたプログラムを、前記符号分子の演算反応に対応する分子の化学反応の反応制御を行う反応制御部を駆動させるための制御命令に変換して前記制御命令の手順を生成する制御命令生成部と、
前記制御命令の手順を出力する出力部。
【0302】
(2)さらなる適用例を以下の(2a)〜(2c)に示す。
【0303】
(2a)この実施形態は、異なる反応原理が、同一の分子に対する生物学的処理工程を段階的に分割した複数の単位処理工程に相当し、少なくとも対象となる分子の前処理反応、主反応とを単位処理工程として含む場合の分子計算に関する。より具体的には、前処理反応が核酸抽出のための反応工程を含むとともに、主反応が標的核酸に対する特異的な核酸ハイブリダイゼーションのための反応工程を含んでいる。
【0304】
(2b)この実施形態は、異なる反応原理が、それぞれ異なる生物学的活性に基づく反応を有するものであって、好適には生物学的活性が、免疫学的活性、生化学的活性、遺伝学的活性、生理学的活性の群から選ばれる異なる活性の任意の組合せからなる。従って、例えば抗原抗体反応、核酸のハイブリッド形成など、情報を担う分子の種類がアミノ酸、タンパク質、核酸などの複数種類にわたって処理される反応を含む。ここで、異なる反応原理にそれぞれ適用される符号分子が、異なる反応原理に対応する複数の化学反応の各々について共通の符号化形式により符号化された部分を少なくとも含むことによって、生物学的活性の種類に関係無く、一括して分子計算することが可能となる。共通の符号分子として好ましいのは、正規直交化配列である。
【0305】
(2c)この実施形態は、異なる反応原理が、同一の生物学的活性に対して異なるアルゴリズムを経て計算結果を出力するような分子計算に適用するものである。異なるアルゴリズムを実行するための技術要素としては、同一の生物学的活性に対して互いに異なる機器を適用する場合が例示される。ここで、異なる機器は、反応容器、液体分注手段、測定手段、温調手段の群から選ばれる。
【0306】
反応容器において異なる機器というのは、形状、寸法あるいは材質が異なるような化学反応用の任意の種類の反応容器(ウェル、フィルタ、キャピラリ、平板、棒体等)が挙げられる。また、液体分注手段において異なる機器というのは、分注する液体の種類、量あるいは組成が異なるような化学反応用の任意の工程に使用される液体分注手段である。ここで、分注する液体は、異なる種類の試薬を含んでいたり、1個以上の微粒子を含んでいてもよい。また、測定手段において異なる機器というのは、測定原理(光測定、電気化学測定、電磁測定、イオン測定、分子運動測定、振動測定、画像測定等)又は測定機構(共焦点光学系、散乱光学系、センサ、流路系、スキャニング系等)が異なるような化学反応用の任意の種類の測定手段が挙げられる。また、温調手段において異なる機器というのは、反応のための温度、恒温時間、保温構造、あるいは温調タイミングが異なるような化学反応用の任意の種類の温調手段が挙げられる。
【0307】
好ましくは、異なる反応原理のそれぞれに適用される符号分子が、異なる反応原理に対応する複数の化学反応の各々について共通の符号化形式により符号化された部分を少なくとも含むことによって、必要とするアルゴリズム、ひいては実行用機器の種類に関係無く、一括して分子計算することが可能となる。共通の符号分子として好ましいのは、正規直交化配列である。
【0308】
これら(2a)〜(2c)に示した実施形態は、前述の実施形態の分子計算部と電子計算部からなる分子計算装置において、分子計算部や電子計算部の周辺装置を含んだ、システムとしての分子計算装置を想定している。
【0309】
周辺装置としては、例えば細胞からRNAを抽出する検体前処理装置、DNAマイクロアレイの蛍光をスキャニングし読み取るマイクロアレイスキャナ、出力されたデータをプリントアウトする装置、そのデータをデータベースに登録する装置などが該当する。
【0310】
これら周辺装置により、分子計算装置による処理の前後や、核酸による分子計算の途中の処理に割込をかけて分子計算装置の中核部分以外で処理を行う部分を包括したシステムとしても本発明が成立することが確認される。
【0311】
(2a)〜(2c)において、反応原理とは、例えば核酸が相補的に結合するハイブリダイゼーションの原理、制限酵素により認識切断される原理、抗体が抗原に結合する原理、RNAが特殊処理したカラムで抽出される原理などを含む。「反応原理が異なる」場合とは、対象物質や対象物質同士の反応方法、反応量等の分子計算内容が異なる場合を指す。
【0312】
(2a)において、「同一分子」とは、例えば核酸が対象物質であればその核酸のことを指す。従って、「同一の分子に対する生物学的処理工程」とは、例えば同一の核酸に対するAmplifyやEncodeなどの異なる関数による反応原理などが含まれる。また、前処理には、例えば細胞からの遺伝子DNAの抽出や、抽出したRNAからのDNAへの逆転写などが含まれ、主反応とは、これらDNA抽出や逆転写などとは対照的に分子計算装置本体で行われる反応を指す。生物学的処理工程とは、分子計算部で行われる実験の各ステップに対応する。このように、生物学的処理工程のそれぞれで、計算における情報を担う物質が順次処理されていく。
【0313】
なお、上述の(2a)〜(2c)に示した内容により、以下のような種々の作用効果が達成される。
【0314】
(イ)本装置の計算反応計画機能は、分子計算装置だけの計算反応計画立案のみならず、本発明の説明に述べていない異なる反応原理を用いて反応装置、検出装置、核酸抽出装置、細胞培養装置などと組み合わせたシステムに対しても適用できる。これは、例えば抗原抗体反応、高速液体クロマトグラフィーによる検出などの装置と組み合わせた分子計算システムについて、それら装置の入出力、処理や計測の時間を考慮して適切な計算反応計画を立案できるということである。
【0315】
従って、本発明は、分子計算装置と組み合わせた反応装置、検出装置、検体前処理装置、細胞培養装置を含めた計算反応を立案する分子計算システムとしても成立する。
【0316】
(ロ)核酸タグ(標識)を用いた検出方法と組み合わせた分子計算装置としても成立する。例えば、抗体に正規直交化配列のタグ核酸を標識し、その抗体を用いて抗原抗体反応を行い、その正規直交化配列のタグ核酸を検出する方法を用いた場合でも計算反応を行うことができる。これは、遺伝子検出に限った用途ではなく、例えばタンパク質の相互作用を利用すると、その親和度に応じて結合した結合量を読み取るような計算にも適用できる。
【0317】
(ハ)遺伝子検出をこの分子計算装置により行うと、遺伝子配列は正規直交化配列に変換されて反応処理される。従って、従来の技術では困難であった類似した遺伝子配列の識別が容易にでき、また論理演算など計算反応を行うことができる。このことで、従来検出結果が出てからコンピュータで計算処理をしていた手順を省くとともに、直接DNAを計算対象にすることで処理結果がより正確になる。故に高機能で正確かつ高速な遺伝子検査診断システムが構成できる。
【0318】
(ニ)遺伝子検査診断システムの分子計算装置の検出部において、マイクロアレイを用いると一度に数多くの正規直交化配列を検出することができる。
【0319】
(ホ)キャピラリアレイを用いると同時に多種類の異なる検体に対して、それぞれ多くの正規直交化配列を検出することができる。
【0320】
(ヘ)遺伝子検査診断システムの分子計算装置の検出部において、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy : FCS)を用いると、少量の試料溶液で特定の正規直交化配列が試料中に存在することを高感度に検出することができ、反応液量が少ない高感度で正確で高速な遺伝子検査診断システムが構成できる。
【0321】
なお、この(2a)〜(2c)で示した実施形態は、本発明の属する技術分野の通常の知識を有する者であれば、他の実施形態の記載と組み合わせて分子計算装置や分子計算プログラムを設計し、分子計算方法を実行することができることは容易に理解できるであろう。
【0322】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、分子計算機の高い並列計算性を活かし、しかも分子計算機だけでは実現することが難しい機能を電子計算機により補完することにより、従来の電子コンピュータよりも高速に計算を実行することが可能となる。特に、本発明では、異なる反応原理に対応する複数種類の反応を、分子演算の並列性を利用して総括的に分子計算するようにしたので、分子計算機の機能を最大限に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の分子計算装置を示すブロック図。
【図2】本発明の分子計算装置の各部の配置を示す模式図。
【図3】本発明の分子計算装置を示すブロック図。
【図4】本発明の分子計算方法の処理のフローチャート。
【図5】分子計算方法の処理の変形例を示すフローチャート。
【図6】分子計算方法の処理の変形例を示すフローチャート。
【図7】分子計算方法の処理の変形例を示すフローチャート。
【図8】分子計算方法の処理の変形例を示すフローチャート。
【図9】分子計算方法の処理の変形例を示すフローチャート。
【図10】分子計算方法のデータフロー図。
【図11】手続または関数−演算反応変換データテーブルの一例を示す図。
【図12】演算反応手順テーブルの一例を示す図。
【図13】実行手順テーブルの一例を示す図。
【図14】制御命令手順テーブルの一例を示す図。
【図15】コマンドの処理の概要を示すフローチャート。
【図16】コマンドの処理の概要を示すフローチャート。
【図17】コマンドの処理の概要を示すフローチャート。
【図18】コマンドの処理の概要を示すフローチャート。
【図19】配列の同定方法の例を示す概念図。
【図20】プログラムの流れを示すフローチャート。
【図21】配列同定の結果を示すチャート。
【図22】遺伝子解析のためのエンコード反応とデコード反応とを示すフローチャート。
【図23】遺伝子解析のための分子設計例を示す図。
【図24】遺伝子検出反応工程における各分子の状態を示す模式図。
【図25】標的が存在した場合の反応系における各分子の状態を示す模式図。
【図26】ストレプトアビジン磁気ビーズによる捕獲工程における各分子の状態を示す模式図。
【図27】DCNiの抽出工程における各分子の状態を示す模式図。
【図28】抽出工程で得られたDCNiに相補的な配列の増幅の模式図。
【図29】図28の増幅により得られた増幅産物を捕獲する工程における各分子の状態を示す模式図。
【図30】熱変性により一本鎖化する工程における各分子の状態を示す模式図。
【図31】発現遺伝子の情報を存在分子に変換する工程における各分子の挙動を示す模式図。
【図32】非発現遺伝子を検出し、不存在分子に変換するための最初の工程における反転オリゴヌクレオチドと存在分子の反応を示す模式図。
【図33】ある非発現遺伝子のための反転オリゴヌクレオチドの状態を示す模式図。
【図34】反転オリゴヌクレオチドの抽出工程における分子の状態を示す模式図。
【図35】ストレプトアビジンを固定した磁気ビーズによるDCNk*の捕捉とハイブリダイゼーションによる抽出工程における各分子の状態を示す模式図。
【図36】演算用核酸を示す模式図。
【図37】演算用核酸と存在分子および不存在分子とのハイブリダイゼーション工程における各分子の状態を示す模式図。
【図38】図37の工程の後に演算用核酸にハイブリッドした前記分子を伸長する工程における各分子の状態を示す模式図。
【図39】マーカーオリゴヌクレオチドM1およびM2による計算結果の検出工程における各分子の状態を示す模式図。
【図40】不存在分子の増幅のために不存在分子を抽出回収する工程における各分子の状態を示す模式図。
【図41】不存在分子の増幅のためのPCR工程における各分子の状態を示す模式図。
【図42】図41の工程により生じた増幅産物を捕獲する工程における各分子の状態を示す模式図。
【図43】図42の工程で回収された増幅産物を1本鎖にする工程における各分子の状態を示す模式図。
【図44】図43の工程の1本鎖に対する不存在分子のハイブリダイゼーションを行う工程における各分子の状態を示す模式図。
【図45】演算用核酸のランダムライブラリの作成方法において使用する連結用相補核酸と、連結対象となる演算用核酸の一部分を示す模式図。
【符号の説明】
11…入力部
12…入出力制御部
13…記憶部
14…演算部
14a…翻訳・計算計画立案・実行部
14b…核酸配列計算部
14c…結果解析部
15…演算部
16…記憶部
17…入出力制御部
18…入力部
19…出力部
20…出力部
21…電子計算部
22…分子計算部
23,24…通信部
30…核酸合成装置
151…自動制御部
152…XYZ制御ピペッタ
153…サーマルサイクラ反応容器
154…ビーズ容器
155…酵素容器
156…緩衝液容器
157…核酸容器
158…検出部
159…温度制御手段
160…搬送機構
【発明の属する技術分野】
本発明は、核酸分子を使用する新規な分子計算装置、分子計算計画設計装置、分子計算方法、分子計算プログラム及び分子計算結果解析プログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体シリコンを用いた計算機はその誕生以来大きく性能を伸ばし、安価に複雑な計算をこなして人類に貢献してきた。これら半導体シリコンを用いた計算機は主に0と1の2値で計算を進めるノイマン型計算機である。
【0003】
コンピュータ科学の分野において研究対象として有名な問題の中にNP完全問題という問題がある。このようなNP完全問題の例は巡回サラリーマン問題、蛋白質の3次元構造の予想などである。このような問題を完全に解く従来の方法として代表的な2つが挙げられる。1つは、全ての可能な解を問題に当てはめて、その問題が解けるか否かを検証していく方法である。他の一つは、近似解を求めることによって問題を解く方法である。
【0004】
前者の方法では、解答を得るために要求される計算時間は、問題の規模に比例して指数関数的に増加していく。また、後者の方法は、このような計算を高速に行うために提案されたものである。近似解を求めるためのアルゴリズムがいくつか提案されてきた。これらのアルゴリズムでは厳密解が求まるとは限らず、解を見落とす可能性がある。
【0005】
前者の方法によって、全ての解を高速に求めるためには、現在の技術では並列化した多数の電子計算機を並行して計算することが考えられる。ところが計算機数が増加すれば消費電力が増え、より広い設置場所も要求される。また計算機を並列化するには計算機同士の通信をどのようにするか、どんな接続法を採用するかなどの技術的課題も多い。
【0006】
一方、ノイマン型計算機で解くのが難しい問題を解くために、1994年にエイデルマン(Adleman)によってDNAコンピューティング(DNA computing)と称される新たな計算機パラダイムが提案された(Science,266,1021−4)。
【0007】
エイデルマンの思想は、DNA分子を、情報を記録したテープと見なし、情報処理の主体として酵素を用いることによって、チューリング機械の計算過程をDNA分子を用いて実行するというものである。即ち、エイデルマンは小規模なハミルトン経路問題を解くために、DNAを用いて経路に対応するDNAを形成させる。そして、そのDNAの中から解のDNAを選択する方法を用いた。また、DNA分子で加算を行うというグアニエリ(Guanieri)らによる報告もある(Science,273,220−3)。このように分子による演算の可能性についての探索が行われてきた。
【0008】
DNAを演算に用いると次のような点で有利であることが明らかになっている。例えば、数十塩基程度の短いDNA分子の1pmol(=10−12mol)は、100μLの緩衝溶液に容易に溶解する。その上、溶解液中の分子数は約6×1011個にものぼる。従って、この膨大な数の分子が相互作用により解を表す分子を形成するならば、従来のコンピュータを用いて行う並列計算するよりも遙かに大きな並列数で解を求めることができる。また、1mLにも満たない溶液中でもこの反応は行えるため、その溶液の加温冷却を行ってもエネルギーはほとんど消費されない。これらのDNAを使った計算機は、多変数の大きな問題に適用したときにノイマン型計算機の処理速度を凌駕すると予測される。しかしながら、現在のところ、実用化に耐えることができ、且つ、効果的にDNA分子により分子計算を行える装置は開発されていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような状況に鑑み、本発明の目的は、分子演算の並列性を利用して従来の電子コンピュータよりも高速に計算を実行する好適な適用例を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の課題は、例えば以下の手段により実現される。即ち、
分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応により分子計算を実行する分子計算装置であって、
分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応の反応制御を行う反応制御部を備えた分子計算部と、
分子を核酸配列に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義された変数及び定数と、前記符号分子の演算反応に対応付けて定義された関数により記述されたプログラムを、前記符号分子の演算反応に対応する分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応の反応制御を行う前記反応制御部を駆動させるための制御命令に変換して前記制御命令の手順を生成する制御命令生成部と、
前記制御命令の手順を出力する出力部とを有する電子計算部
を備える分子計算装置である。
【0011】
ここで、反応制御には、反応を生じさせる操作(PCR反応等)の制御と、反応を生じさせる付随的な操作(混合等)の制御を含む。この方法により、従来の電子コンピュータよりも高速に並列計算処理することが可能である。
【0012】
また、このような装置によって、例えば、遺伝子型や遺伝子の発現の状態を決定すること等も可能である。
【0013】
このような装置は、NP完全問題等の困難な数学的問題を解くために有利な、超並列計算を高速に行う分子計算装置として有用である。もちろん、遺伝子解析にも利用可能である。
【0014】
また、上述の装置は、その装置により実現される方法、その装置を実現する電子計算部で利用可能なプログラムや、記録媒体のみならず、分子計算の実行計画を作成する実行計画設定手法としても成立する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の1の側面において、核酸を用いた情報処理方法を実行するための計算機が開示される。
【0016】
ここで使用する「核酸」とは、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、mRNA、全RNA、hnRNAおよび合成RNAを含む全てのDNAおよびRNA、並びに、ペプチド核酸、モルホリノ核酸、メチルフォスフォネート核酸およびS−オリゴ核酸などの人工合成核酸を含む。また、ここにおいて「核酸」、「核酸分子」および「分子」とは交換可能に使用され得る。
【0017】
以下、例を用いて本発明を説明する。
【0018】
I.分子計算装置
1.概要
本発明の好ましい態様に従うと、核酸を用いた情報処理方法を実施するための計算装置が提供される。そのような計算装置は、電子計算部と分子計算部とを具備する分子計算装置であって、前記電子計算部が、実質的に分子計算部の機能を制御し、その制御の基で分子による演算が実施される分子計算装置である。分子計算部とは、分子の化学反応を実行することにより実質的に計算を実行する部分である。
【0019】
本発明の計算装置において基礎となる計算法は、上述したような分子演算の並列性を利用して分子計算部が演算を行い、得られたデータを基に、電子計算部が演算結果を表示する方法である。本発明は、核酸分子を用いて計算を実施することによって、データの並列処理や遺伝子解析を効率的に実行する計算装置を開示する。また、核酸分子によりデータやプログラムを表現し、そのプログラムで定義された演算を分子反応に置き換えて反応を実行することにより、従来の電子コンピュータに比べて桁違いに大きなメモリ容量と高い並列処理能力を実現する。
【0020】
本計算装置を開発するに当たり、まず最初に、本発明者らは、分子計算機を用いて演算を実行するときの計算プログラムの内容を、分子計算部で認識し且つ実行可能なデータ形式に変更するのが好ましいことに注目した。具体的には、分子計算部で計算を実施する前に、予め分子を特定の符号に結びつけた符号分子に変換する。そして、その変換規則を用いて計算プログラム中の変数および定数などのデータを自動的に符号分子に変換しておく。更に、このような変換操作を電子計算部において行うことが計算装置全体の計算速度の向上のために好ましいことを見出した。
【0021】
言い換えれば、本発明の分子計算装置は、分子計算部と電子計算部とが互いに補完的に機能を分担する計算装置である。従って、使い勝手がよく、その上、速い速度でNP完全問題を解くことや、核酸分子等の生体分子の情報解析を直接行うことが可能である。即ち、本発明の計算装置は、文字の入力や表示、単純な四則計算が遅いというような分子計算部の欠点を、電子計算部を用いてカバーする。これにより、計算装置全体としての計算速度向上を可能にした。従って、本発明の分子計算装置は、電子計算機が高速に実現できる機能は電子計算部が担当し、それ以外の部分を分子計算部が担当するハイブリッド分子計算装置である。
【0022】
本発明の基本となる計算装置を図1に示す。本発明の計算装置は、電子計算部21及び分子計算部22に大別される。また、電子計算部21には、データを入力する入力部11及びデータを出力する出力部20が接続されている。また、分子計算部22には、データを入力する入力部18及び出力部19が接続されている。
【0023】
電子計算部21は一般的な電子コンピュータにより実現される。具体的には、演算部14、記憶部13、入出力制御部12及び通信部23を具備する。演算部14に記憶部13、入出力制御部12及び通信部23が接続されている。また、入出力制御部12は入力部11及び出力部20に接続されている。更に、その他の一般的な電子コンピュータの構成要素を具備してもよい。演算部14は、例えばCPUなどにより実現される。記憶部13は半導体メモリなどにより実現される。
【0024】
分子計算部22は、演算部15、記憶部16、入出力制御部17及び通信部24を具備する。演算部15と記憶部16、入出力制御部17、入力部18及び出力部19は分子や容器、ピペッタなどの反応機器により実現される。すなわち、分子の化学反応を実行するための装置により実現されるものであり、演算部15、記憶部16、入出力制御部17などに装置構成が1:1に対応するものではない。演算部15、記憶部16、入出力制御部17などの構成は、分子計算部22の分子や容器、ピペッタなどの反応機器を電子計算部21と同じ概念として捉えた場合の構成の一例を示している。演算部15,記憶部16及び入出力制御部17は通信部24に接続されている。また、入出力制御部17は入力部18及び出力部19に接続される。これら分子や反応機器により、演算とデータの記憶と分子データの入出力制御とを同時に実現している。
【0025】
本発明の計算装置では、電子計算部21が分子計算部22を制御する。電子計算部21に所望するプログラムが入力されると、入力された情報を基に、分子計算部22において実行する分子計算の計画が生成される。また、目的とする分子計算に必要な分子の設計が行われ、それにより得られた情報を分子計算部22に伝える。分子計算部22は、得られた情報に基づき分子計算を行う。例えば、当該分子計算の計画は、記憶部13に記憶された入力情報と設計される分子計算が対応づけられたテーブルを演算部14が検索し、対応する計算を選択することによりなされてもよい。また、分子の設計は、記憶部13に記憶された入力情報と設計される分子が対応づけられたテーブルを演算部14が検索し、対応する分子を選択することによりなさてもよい。
【0026】
電子計算部21側の入力部11は、例えば、キーボードおよびマウス等の一般的に人が情報を入力することが可能な入力手段の何れかを使用することが可能である。また、電子計算部21側の出力部20は、ディスプレイおよびプリンタ等の一般的に情報を出力することが可能な出力手段の何れかを使用することが可能である。
【0027】
これら計算装置の動作を実現するため、演算部14は、例えば翻訳・計算計画立案・実行部14a、核酸配列計算部14b、結果解析部14cなどとして機能する。これら各手段14a〜14cは、例えば記憶部13から翻訳・計算計画立案・実行プログラム、核酸配列計算プログラム、検出結果解析プログラムが読み出されることにより実行される。また、演算部14で各種機能を実行させるためのプログラムは、記録媒体に記録されたプログラムプロダクトとして存在し、図示しない記録媒体読取装置により読み取られ、記憶部13に格納された上で演算部14で実行されてもよい。また、演算部14は、これら各手段14a〜14cとして機能する以外にも、通常の電子計算機が実行する手段としても機能する。
【0028】
更に、分子計算部22において得られた計算結果の出力は、通信部24,23を介して電子計算部21に送信され、演算部14などにより所望のデータ処理が施されてもよい。例えば、それらの計算結果は、予め記憶部13に記憶しておいた処理形式に応じた形式で集計および演算処理される。その演算処理結果は、最終的には出力部19または出力部20に所望する形態で出力される。これらの処理の間、分子計算部22の演算部15や記憶部16の状態は、電子計算部21において通信部23、24を介して受信される情報として間接的に把握されている。
【0029】
一方、分子計算部22は、実験的に核酸分子を合成したり、合成済みの核酸分子を用いて所望する演算反応を行うことにより分子計算を実行する部分である。分子計算部22において行われる分子計算の例は後述する。
【0030】
電子計算部21の演算部14は、通常の電子計算機の演算部が行う処理に加えて、入力部11から入力された初期値を符号分子表現に変換すること、計算プログラムの手続または関数を対応する符号分子の演算反応に変換すること、および記憶された計算プログラムから演算反応の実行手順を作成すること等を行う。また、電子計算部21にて行われることは、例えば、分子の変数への割り当て、試薬などの反応用溶液収容容器の割り当て、分子計算中の反応機器(例えば、ピペットチップなど)や反応用溶液の配置の割り当て、コンテナやピペッタなどの反応機器の移動や操作の割り当て、サーマルサイクラの温度制御の設定、並びに計算の実行シーケンスの決定などである。
【0031】
基本的な計算装置の処理を図4の処理フローに従って説明する。
【0032】
なお、以下の(S1)〜(S9)のうち、(S1)、(S2)、(S3)、(S5)、(S8)、(S9)の工程は電子計算部21で実行される。(S4)は核酸合成装置30で実行される。(S6)及び(S7)は分子計算部22で実行される。
【0033】
(S1)所望する計算プログラム(原始プログラム)は、電子計算部21の入力部11から入力され、入力された計算プログラム、計算プログラムの定数および変数等の情報は記憶部13に記憶される。
【0034】
(S2)プログラムの翻訳処理であり、(S2a)〜(S2c)からなる。S1で記憶された原始プログラムはまず順次プログラムに変換される(S2a)。そして、この順次プログラムに含まれるデータ(変数、定数)は、演算部14により記憶部13に予め記憶された対応データに従って、符号分子表現に変換される。一方、順次プログラムに含まれる手続または関数は、対応する符号分子の演算反応に変換される(S2b)。この(S2b)により、演算反応により処理手順を表現した演算手順テーブルが生成される。次に、演算手順が実行手順に変換されて、実行手順テーブルが生成される(S2c)。(S2)のプログラムの翻訳は、「計算反応手順の作成」とも称す。
【0035】
(S3)核酸配列の計算処理である。この計算処理は、具体的には、(S2b)で得られた演算手順テーブルに含まれる符号分子のうち、新たに生成が必要な分子を得るためのシミュレーションである。この処理は、予め設計しておいた核酸配列を用いるならば行わなくてもよい。
【0036】
(S4)核酸合成処理である。(S3)で得られた計算結果は核酸合成装置30に送られ、(S3)において設計された各配列を有した核酸である符号分子が合成される。予め設計し合成しておいた核酸を用いるならばこの合成は必要ない。合成が行われない場合、入力部18から合成済みの核酸を入力する。
【0037】
(S5)実行手順テーブルの実行手順を、分子計算部22に命令を与えるための制御命令に変換し、制御命令手順テーブルが生成される。この制御命令手順テーブルは分子計算部22に出力される。
【0038】
(S6)分子計算部22は、(S5)で入力された制御命令手順に従って、S4において準備された演算分子を用いて、プログラムの演算反応に相当する分子の化学反応を実行する。これにより、分子を用いた自動計算が行われる。
【0039】
(S7)(S6)において行われた化学反応により生じた反応産物の検出および同定を行う。
【0040】
(S8)(S7)で得られた検出結果の解析を行う。
【0041】
(S9)予め記憶部13に記憶しておいた出力形式に合わせるように、S7において算出された最終データが処理され、出力部20から出力される。この出力結果により、プログラムの計算結果を確認することができる。
【0042】
このような工程は、所望に応じてループ処理を形成することも可能である。例えば、各工程により得られた結果を、記憶部13に予め記憶された条件等と比較し、その比較結果によってはそれ以前の何れかの工程を単独で、または複数の工程を組み合わせて実施することを、繰り返して行うように設定することも可能である。
【0043】
ループ処理を形成する場合の処理フローの一例を図5に示す。図5に示すように、解析結果に基づき分岐処理の判定を実行する。この判定により分岐処理後の処理すべきプログラムが決定される。そして、(S2a)に戻り、この決定されたプログラムは順次処理への変換などを経て再び分子計算部による自動実行(S6)がなされる。
【0044】
図5の場合、分岐処理毎に原始プログラムのレベルから制御命令手順テーブルの生成が必要となる。これに代えて、図6に示す処理フローとすることもできる。
【0045】
図6は、予め原始プログラムにおける分岐処理、分岐処理後のすべての制御命令手順が生成されている場合である。この場合、分岐処理の判定結果さえ(S10)で得られれば、(S12)に進み、予め(S6)で生成された制御命令手順テーブルにおける次の制御命令手順を決定するのみでよい。これにより、分岐処理の度にプログラムを翻訳する処理が不要となる。
【0046】
なお、これら図5及び図6に示したような処理フローの適用は、分岐処理の場合に限られない。処理において、一旦分子計算部22での計算結果を電子計算部21にフィードバックさせ、その計算結果に基づき手順が変更する場合のすべての処理に適用可能である。
【0047】
また、自動化が難しい工程がある場合や、自動化すると装置が大がかりになる場合、例えば、クローニングにおける培養やコロニーピッキングなど人力で行うことが好ましい実験操作を行うときには、一度出力部19に核酸を出力し、出力部20に行うべき実験操作を表示する。この後、マニュアルによる分子計算部22内の反応機器の操作を行ってから再び入力部18に核酸を入力し、入力部11から再起動を入力してもよいし、または入力を自動的に検出することで計算を再び始めてもよい。このように、処理の一部を人間が実行するように人間と計算機の処理分担を変えることもできる。
【0048】
また、この工程において計算プログラムが所望の分子を得ることを目的とし、計算結果を表示する必要がない場合、(S6)で得られた所望の分子(反応産物)を最終出力としてもよい。この場合、図4のフローでは、(S7)以降のステップは省略される。例えば、特定の遺伝子を特異的に検出するオリゴDNAを選択する計算を実行した場合などである。この場合、分子計算部22における検出が行われた結果として得られる分子をそのまま出力部19より出力して得る。
【0049】
また、原始プログラムの記述レベルまで計算結果を変換せず、反応産物の検出を分子計算部22で行った後、(S8)を実行せずに(S9)で計算の終了を出力部20に出力してもよい。この場合、図7のようなフローとなる。
【0050】
(S2)の工程における符号分子への変換は、予め、記憶手段に記録しておいた分子変換テーブルを読み出し、そこに含まれるデータを検索して対応するデータを読み出すことにより行うことが可能である。分子変換テーブルは、例えば分子計算に使用する符号分子と電子計算部21に入力する情報とを対応付けたものでよい。
【0051】
また、(S2)の工程における計算プログラムの手続または関数の演算反応への変換は、予め、記憶手段に記録しておいた手順変換テーブルを読み出し、そのテーブルを参照して対応するデータを読み出すことにより行うことが可能である。手順変換テーブルは、例えば実際に行われる分子計算の工程、それを実施する順序および繰り返し回数等と、電子計算部21に入力する情報とを対応付けたものでよい。
【0052】
また、以上の各工程で得られた情報は、工程毎に全て記憶部13に記憶されても、少なくとも一部分の工程で記憶されるものでもよい。
【0053】
上述の手順では、分子計算部22に設けられた演算部15において、核酸分子の合成を行うように記載したが、この演算部15に加えて分子計算部22に分子合成部を配置して核酸分子の合成を行ってもよい。この場合、分子合成部は分子計算部22および電子計算部21に含まれず、しかし電子計算部21と分子計算部22とに連結配置される。また、前述した通り、分子計算を行うために必要なすべての符号分子が分子計算部22で既に準備されている場合は、核酸配列計算(S3)及び核酸合成(S4)は不要である。この場合のフローを図8に示す。
【0054】
また、分子計算部22における演算部15は、核酸分子を用いた演算反応を行うために必要な以下のような各部分を具備する。
【0055】
そこにおいて各種反応を行うための反応部、反応に必要な核酸を保持するための核酸保持部、反応に必要な試薬および緩衝液等を保持するための試薬保持部、反応に必要な酵素を保持するための酵素保持部、各部分を所望に応じて加熱するための加熱手段、各部分を所望に応じて冷却するための冷却手段、分注用ピペット等の分注手段、ピペットや反応容器等を洗浄するための洗浄手段、並びに各種操作を制御するための制御手段を全て、またはその中の幾つかを組み合わせて具備することが可能である。
【0056】
また、演算部15は、目的の演算反応により生じる反応産物を検出および同定するための検出部を具備してもよい。しかしながら、検出部は、演算部15に必ずしも包含される必要はない。検出部は使用する検出手段によっては非常に大がかりな装置になる場合もあるからである。検出部は、電子計算部21および分子計算部22に内包されずに、電子計算部21と分子計算部22とに連結して存在するように配置することも可能である。
【0057】
例えば、本装置における検出は、演算反応により生じた反応産物の電気泳動により行ってもよい。この場合、電気泳動により得られるピークの位置を検出することによって核酸分子の長さを判定して実施する。または、反応産物をDNAシーケンサに供し、そこから出てくるデータを基に配列を検出して実験最初に割り当てていた符号化核酸の何れであるのかを判断してもよい。或いは、DNAマイクロアレイとスキャナを装備することにより、符号化核酸の配列をハイブリダイゼーション法により読み取ることにより実施してもよい。
【0058】
(S6)における制御命令に基づく分子計算部22の自動制御をマニュアルで行うことも可能である。この場合のフローを図9に示す。図9に示すように、(S6)の代わりに(S61)を設けてある。この(S61)では、(S5)で生成され、予めプリンタなどで制御命令手順テーブルを印刷した制御命令手順表を参照し、オペレータがマニュアルで分子計算部22の各装置を操作する。このように、オペレータがマニュアルで操作する場合であっても、分子計算部22における制御手順が明確に示されているため、従来の分子計算部22を用いた場合に比べ格段に効率的な計算処理が可能となる。
【0059】
分子計算部22の反応結果を検出部で検出することなく、出力を反応結果自体、すなわち核酸により得ることも可能である。この場合、図9の(S61)以下のステップは省略される。
【0060】
電子計算部21において、一連の計算手順、即ち、計算を実行するシーケンスを作成するためには、入力されたプログラムと問題とその初期値とから、一意に計算のための実行シーケンスが定まるのが好ましい。例えば、3SATのプログラムの場合では、プログラムのループを展開し、条件分岐については問題を参照して予め判断しておく。これにより、翻訳・計算計画立案・実行部14aによる計算計画を定めることができる。従って、プログラムの計算が始まる時点で全ての計算計画を定めることができる。ただし、プログラムによってはループの途中に配列検出操作を入れて配列を確認してから条件分岐を行わなくてはならない場合もある。その場合、検出操作を行ってからその結果に応じて次の段階の計算計画を立てるように実行すればよい。
【0061】
また、本発明の計算装置では、例えば、cDNAの合成などを関数化し、計算のための分子計算部22での操作と関連づけて電子計算部21の記憶部13に記憶させておくことが可能である。これにより自動的な手順の計画が可能となる。また、自動的に符号化反応を行うことにより、それぞれの処理、例えば、論理演算および/または配列検索を自動的に並列的に行うことができる。
【0062】
本発明によれば、従来の実験用、臨床用および製造用等の種々の作業用ロボットシステムを分子計算部22に適用できる。この場合、事前に準備された電子計算部側のプログラムに制約されることなく、目的を最優先とした作業計画に対応するように動作させることが可能となる。
【0063】
本発明における符号化配列として、例えば、ヒトの遺伝子を変換する場合には、ウイルスなど、異種で塩基配列のホモロジーが低い生物の部分配列を用いることが好ましい。また、単に3SATなどの非生物的な問題を解く場合には、クロスハイブリダイゼーションしないように、且つTmがほぼ等しいような配列を任意に設計し、符号化配列として使用することも可能である。また、数が多く必要であれば、電子計算部21において所望の条件を満たすように計算で求めた正規直交化配列を用いる。
【0064】
また、分子計算部22における分子を直接的な入力とした化学反応により、電子計算部21が所望する演算が可能になる。従って、例えば、遺伝子解析に本発明を利用した場合には、実験誤差を最小に抑えることが可能である。即ち、核酸を符号化核酸に対応付けて装置内で分子の状態のまま計算処理するので実験誤差が抑えられる。また、本発明の分子計算装置の使用により計算時間およびランニングコストが削減できる。
【0065】
更に、遺伝子解析をプログラムにより表現することで、実験を自動的に計算して実行することもできる。また、例えば発現遺伝子を符号化OLA(Oligonucleotide Ligation Assay)を行うことにより符号化核酸に変換する。そして、符号化核酸の3’と5’末端にある共通配列によりPCR増幅すれば、正確にそれらの発現比を検出してもよい。符号化OLAについての詳細は後述する。なお、符号化核酸への変換は、符号化OLA以外でも実現可能である。
【0066】
2.詳細な説明
(1)分子計算装置の具体例
以下に更に詳細に本発明を説明する。本発明の計算装置の具体例を図3に示す。図3に示した計算装置は、電子計算部21と分子計算部22と核酸合成装置30からなる。電子計算部21は通信部23を、分子計算部22は通信部24を備える。これら通信部23及び通信部24の間でデータの送受信を行うことにより、電子計算部21と分子計算部22との間の情報通信が可能となる。図1の例では、核酸合成装置は分子計算部22内に組み込まれる場合を示したが、図3では、分子計算部22とは別個に設けられている。
【0067】
電子計算部21の通信部23は核酸合成装置30に電気的に接続され、通信部23から送信された核酸合成命令に基づき核酸合成装置30が核酸合成を実行できるように構成されている。核酸合成装置30は例えば通信部23からの命令に基づき核酸容器や核酸分子を制御する制御部を備える。そして、制御部の制御に基づき合成された核酸は、核酸容器に収容されたまま容器ごと分子計算部22に搬送される。なお、核酸合成装置30を分子計算部22に設けることもできる。この場合、核酸合成装置30から分子計算部22に搬送させる搬送系を分子計算部22とは別個に設ける必要が無い。核酸容器の搬送は搬送機構により行っても、マニュアルで行ってもよい。
【0068】
なお、核酸合成装置30は電子計算部21と接続しなくてもよい。この場合、電子計算部21で核酸合成に必要なデータを出力し、その出力結果に基づきマニュアルで核酸合成を行えばよい。
【0069】
電子計算部21は、図1の演算部14に相当する構成として翻訳・計算計画立案・実行部14a、核酸配列計算部14b、検出結果解析部14cを備える。記憶部13から所定のプログラムが読み出されることにより演算部14がこれら各部分14a〜14cとして機能する。また、これら各部分14a〜14cなどと入出力制御部12を介して入力部11、図1の出力部20としての表示部20a及びプリンタ20bが接続される。
【0070】
分子計算部22は、図1の演算部15、記憶部16、入出力制御部17、入力部18、出力部19として機能する自動制御部151,XYZ制御ピペッタ152,サーマルサイクラ反応容器153、ビーズ容器154、酵素容器155、緩衝液容器156、核酸容器157、検出部158、温度制御手段159、搬送機構160を有する。
【0071】
分子計算部22は、通信部24に接続された自動制御部151を備える。この自動制御部151は、XYZ制御ピペッタ152と、核酸の反応を実行するサーマルサイクラ反応容器153と、ビーズを保持するビーズ容器154と、酵素を保持する酵素容器155と、緩衝液を保持する緩衝液容器156と、核酸を保持する核酸容器157、温度制御手段159、搬送機構160を自動制御するため、これら各構成(152〜157、159、160)に駆動信号を出力する。これら各構成(152〜157、159、160)は、この駆動信号を受けて駆動することにより、分子の反応や反応条件を制御する。従って、これら各構成(152〜157、159、160)は、全体として反応制御部として機能し、それぞれは反応制御要素として機能する。
【0072】
自動制御部151による制御は、通信部24を介して電子計算部21から送信された制御命令に基づき実行される。反応容器153〜157は、ビーカー、試験管若しくはマイクロチューブ等、核酸などを含む溶液を収容する容器であれば何でもよい。
【0073】
サーマルサイクラ反応容器153は、温度調節の可能な反応容器でよい。例えば、一般的に使用されているサーマルサイクラと組み合わせることにより実現可能である。また、この例では、担体としてビーズを用いた場合の例を示したが、他の担体を用いることも可能である。その場合、ビーズ容器154に代えてまたはビーズ容器に加えて、適切な構成要素を具備することが可能である。酵素容器155は、酵素を失活から守るためにクーラー等の温度制御手段159と共に具備されてもよい。必要であれば、他の保持手段にもクーラーまたはヒーター等の温度制御手段159を配置してもよい。
【0074】
サーマルサイクラ反応容器153における反応は、制御命令に沿って実行される。例えば、各種容器154〜157などから所望する容量の内容物をXYZ制御ピペッタ152により分取した後、所望する温度等の条件に従って反応が実施される。各部分における動きは、分子計算部内の自動制御部151により制御される。XYZ制御ピペッタ152は、自動制御部151により制御されて、所望に応じてXYZ方向および/または上下に移動するピペッタである。
【0075】
搬送機構160は、自動制御部151からの制御命令に基づき、例えば各容器153〜157を他の図示しない容器収容手段との間で、あるいは検出部158との間で搬送する。
【0076】
反応終了後、検出部158において反応産物の検出および同定が実施される。検出部158は、電気泳動装置、シークエンサー、化学発光測光器および蛍光光度計等の一般的に核酸分子を検出および解析するために使用される何れの検出手段または解析手段により実現されてもよい。
【0077】
電子計算部21で生成された制御命令は通信部23に出力される。通信部23は、これら制御命令を通信部24を介して分子計算部22に送信する。分子計算部22は、受信した制御命令に基づき各構成を制御することにより、分子計算を実行させる。計算結果は通信部24により、通信部23を介して電子計算部21に送信される。
【0078】
通信部23,24は、ケーブル等の有線の通信手段により実現されるものでも、また、電波等の無線の通信手段によって実現されるものでもよい。
【0079】
電子計算部21で生成された核酸合成命令は通信部23に出力される。通信部23は、これら核酸合成命令を核酸合成装置30に出力する。核酸合成装置30は、受信した核酸合成命令に基づき各構成を制御することにより、核酸合成を実行させる。合成の結果物としての核酸分子を収容した核酸容器は分子計算部22に搬送される。もちろん、核酸容器中の核酸分子のみを分子計算部22の核酸容器中に運ぶようにしてもよい。
【0080】
電子計算部21の演算部14の機能の一例を図10のフロー図に沿って以下説明する。
【0081】
(翻訳・計算計画立案・実行部14a)
翻訳・計算計画立案・実行部14aは、入力部11から入力された初期値を含む原始プログラムを翻訳して実行手順テーブルを生成する翻訳処理((S2a)〜(S2c))、実行手順テーブルを計算計画のレベル(制御命令)に変換して制御命令手順テーブルを生成する制御命令生成処理(S5)、生成された計算計画に基づき計算計画を分子計算部22に実行させる計算計画実行処理の3つの処理を実行する。
【0082】
翻訳処理は、第1の変換処理〜第3の変換処理からなる。
【0083】
第1の変換処理(S2a)は、例えば分岐処理やループ処理などのアルゴリズムを含む原始プログラムを制御命令に変換可能な順次処理アルゴリズムを主体とした順次処理プログラムに変換する処理である。
【0084】
第2の変換処理(S2b)は、この順次処理プログラムの各命令を符号分子及び符号分子の演算反応を用いた化学反応レベルの表現に変換して演算反応手順テーブルを生成する処理である。
【0085】
第3の変換処理(S2c)は、演算反応手順テーブルを分子計算部22の各構成の動作レベル表現の駆動動作表現に変換して実行手順テーブルを生成する処理である。
【0086】
第1の変換処理を経由せずに第2,第3の変換処理を先に実行した後、第1の変換処理を実行するようにしてもよい。
【0087】
第2の変換処理は、原始プログラムで定義される定数や変数などのデータを符号分子に対応付けるとともに、原始プログラムで定義される手続または関数を演算反応に対応付ける。データと符号分子の対応付けは、予め記憶部13に格納された符号分子参照テーブルを、手続または関数と演算反応の対応付けは手続または関数−演算反応対応データテーブルを用いる。
【0088】
符号分子参照テーブルは、ある符号分子と他の符号分子の相関関係が定義されている。例えばある符号分子をプログラム中のある変数に対応付けることを第2の変換処理で決定した場合、他の変数と符号分子との対応付けは、符号分子参照テーブルを参照し、最初に定義された符号分子との相関関係に基づき、適切な符号分子に決定することにより実行される。相関関係とは、例えばある符号分子と他の符号分子との相補性などである。また、各符号分子は塩基配列のレベルまで特定されている。
【0089】
手続または関数−演算反応対応データテーブルは、手続に対して複数の制御命令が対応付けられたテーブルである。図11は手続または関数−演算反応変換データテーブルの一例を示す図である。この図11では、演算反応を文章で表したが、実際に電子計算部21上でデータテーブルとして格納するデータ形式としては、動作、器具、配列、符号分子などの要素毎に区分けしてそれぞれを識別可能に表現しておく。
【0090】
順次処理プログラムは、データと手続または関数の組み合わせにより定義されている。従って、手続または関数を演算反応に置換した手順における要素の一つである符号分子に、符号分子を割り当てることにより、演算反応手順テーブルが生成される。また、符号分子の割り当てのみならず、器具や配列の割り当てを符号分子の割り当てと同様に行ってもよい。
【0091】
生成された演算反応手順テーブルの一例を図12に示す。図12に示されるように、各演算手順毎に演算反応とその演算反応を特定する変数や定数が示されている。また、この演算手順では、分子計算部22の各器具との対応付け(例えば試験管Tは5つある核酸容器157のうちの2番目など)はなされていない。また、演算反応を実行するための動作(例えば取り出すなど)は特定されるが、その動作の表現形式では未だ分子計算部22の自動制御部151が各構成を制御する命令として認識できるレベルではない。
【0092】
なお、この第2の変換処理では、符号分子参照テーブルを用いてデータ(変数、定数)と符号分子の割り当てを実行したが、符号分子参照テーブルには、実際に分子計算部22内で既に試薬として準備されている符号分子以外は登録されていない。従って、登録されていない符号分子については、必要とする符号分子を得るための核酸合成を行う必要がある。従って、翻訳・計算計画立案・実行部14aは、登録されていない符号分子の核酸配列取得命令を核酸配列計算部14bに行う。核酸配列計算部14bの詳細な機能は後述する。
【0093】
第3の変換処理は、演算反応−実行動作変換テーブルを用いて演算反応手順テーブルを分子計算部22の各構成の動作レベル表現の実行動作に変換して実行手順テーブルを生成する。演算反応−実行動作変換テーブルでは、通常1つの演算反応に対して複数の実行動作が対応付けられている。通常、ある演算反応を実行するには、分子計算部22の構成を制御する動作が複数必要だからである。もちろん、1つの演算反応に対して1つの実行動作が対応付けられていてもよい。
【0094】
この演算反応−実行動作変換テーブルを用いて変換された実行手順テーブルの一例を図13に示す。図13に示すように、ある演算手順が複数の実行動作に対応付けられている。また、手順の内容は分子計算部22の自動制御部151が各構成を制御する命令として認識可能なレベルであるが、未だ分子計算部22の実際の構成との対応付け(例えば試験管Tは5つある核酸容器157のうちの2番目など)はなされていない。
【0095】
計算計画生成処理は、翻訳処理で得られた実行手順テーブルに基づき制御命令手順テーブルを生成する。制御命令手順テーブルの生成には、装置データ及び装置制約条件データが用いられる。
【0096】
計算計画生成処理では、まず装置データを参照し、実行手順テーブルの各実行手順を制御命令に変換する。制御命令とは、自動制御部151に与えられる命令である。この制御命令を受けて、自動制御部151は分子計算部22の各装置(図3にいうピペッタ152、容器153〜157、搬送機構160など)を制御する。
【0097】
より具体的には、制御命令に変換するため、各実行手順の装置を装置データに基づき実際の装置構成への割り当てを行う。この割り当てにより、各実行動作は分子計算部22の実際の装置を特定し、その装置に対して制御を行うことのできる命令のレベルとなる。実行動作テーブルの実行動作では、自動制御部151は物理的な構成を認識できない。従って、例えば2つのピペッタ152が分子計算部22内に設けられていた場合には、いずれのピペッタ152を動作させるものかは分からない。これに対して制御命令は、2つのピペッタ152a,152bのうちのピペット152aを動作させるというレベルまで特定されている。
【0098】
また、実行動作を制御命令に変換する毎に、装置制約条件データを参照し、装置制約条件に基づく追加制御命令を付加する。装置制約条件データは、例えば反応容器などの各容器153〜157の数及び容量、XYZ制御ピペッタ152の数及び抽出量、試薬の数や配置、温度制御手段159による温度制御速度、搬送機構160の搬送速度、各構成間の距離などである。実行動作の制御命令への変換の際には装置資源が無限であるという前提でなされている。しかし、実行動作を1:1で制御命令に変換すると、分子計算部22の装置の制約により、続行が不可能な処理が生じる場合がある。例えば、反応容器の数は2つであるため、3つの反応容器を同時に用いる処理を続行できないなどである。この場合、そのような装置制約条件を予め記憶部13に登録しておき、これを参照することにより、続行できなくなる場合の処置を設定することができる。処置の例としては、例えば図示しないアラームなどの報知手段によりオペレータに対して反応容器の追加を要求する警告を発する制御命令の追加、反応容器が追加されたか否かを図示しない検知器で検知する制御命令などである。この装置制約条件に基づく追加制御命令毎に制御命令番号を付加する。なお、制御命令番号には、演算手順番号、実行手順番号などを関連づけておくのが好ましい。また、得られた制御命令は、分子計算部22における制御対象が明確になっているため、制御対象を関連づけておく。
【0099】
このようにして得られた制御命令手順テーブルの一例を図14に示す。図14に示すように、制御対象が明確になり、かつ装置制約条件を考慮したシーケンスとなっている。
【0100】
なお、XYZ制御ピペッタにより核酸溶液を吸引する制御命令と、反応容器に移送する制御命令のように、一連の制御命令として定型化されるものがあれば、手続を制御命令セットに変換し、この制御命令セットを分子計算部22に送信してもよい。特に、1つの演算反応から生じる複数の制御命令は、定型化が容易である。この場合、自動制御部151には制御命令セットと制御命令を対応付けたデータテーブルを有し、このデータテーブルに基づき制御命令セットを制御命令に変換し、各構成を制御するのが好ましい。また、自動制御部151がこのようなデータテーブルを持たず、各装置(例えばXYZ制御ピペッタ152,搬送機構160など)が制御命令セットを自動実行するようにしてもよい。
【0101】
計算計画実行処理では、計算計画生成処理で得られた制御命令手順テーブルに基づき、制御命令を制御命令番号順に自動制御部151に出力する。これにより、自動制御部151は自動で分子計算に必要な各装置の制御を実行することができる。もちろん、装置の制約に基づき人手が介在する必要がある場合には、そのような制御も装置に対して行う。例えば、反応容器を指定位置に補充する警告がアラームされれば、オペレータは指定された反応容器を指定位置に補充する。これにより、オペレータは分子計算部22の計算の進捗状況を常に監視する必要が無くなる。
【0102】
以上の処理例では、制御命令生成処理で装置制約条件データに基づき装置制約を考慮した制御命令を生成する場合を示したが、装置資源が充分にある場合にはこの処理は無くてもよい。
【0103】
また、予め制御命令手順テーブルを生成し、制御対象を特定した後で分子計算を実行する場合を示したが、これに限定されない。例えば、各制御命令を実行する都度装置資源の利用の有無をチェックする利用有無チェックセンサを各装置(XYZ制御ピペッタ152,容器153〜157など)に設け、そのセンサの検出データに基づき自動制御部151が自動で制御対象を割り当てていく方式でもよい。
【0104】
また、装置データは、図3のような構成に限られることなく、利用する分子計算機の装置構成に応じて種々変更可能である。利用する分子計算機の装置構成と、その装置における実行動作と演算反応との対応付け(演算反応−実行動作変換テーブル)さえ装置データとして登録しておけば、いかなる装置構成の分子計算機であっても本発明の分子計算の対象とすることができる。すなわち、異なる分子計算部毎に装置データ、装置制約条件データ、演算反応−実行動作変換テーブルを登録すれば、電子計算部の他の構成を変えることなく容易に異なる装置構成からなる分子計算部に分子計算を実行させることができる。
【0105】
また、第1変換処理〜第3変換処理は、必ずしもすべて電子計算部21でなされる必要は無い。分子計算部22の自動制御部151を電子計算部21の演算部14と同様に機能させることにより、自動制御部151側で実行してもよい。
【0106】
また、以上に示された翻訳・計算計画立案・実行部14aは、プログラムを順次処理形式に変換して制御命令手順を作成する場合を示したが、これに限定されるものではない。例えば、ある計算結果に基づく条件分岐処理などがある場合には、その計算結果(検出結果)を一旦検出部158から翻訳・計算計画立案・実行部14aが受信する。そして、その計算結果に基づき条件分岐処理を行い、分岐した後の制御命令手順を新たに分子計算部22に与える。これにより、条件分岐した場合でも自動で分子計算が続行できる。その他、制御命令手順がすべて終了する前に一旦検出結果を電子計算部21が検出部158から受け取り、その検出結果を反映させた分子計算を続行することにより、自動計算が実行できる。
【0107】
また、第2変換処理におけるデータ−符号分子対応付け処理は符号分子参照テーブルを参照して翻訳・計算計画立案・実行部14aが自動で実行する場合を示したが、これに限定されるものではない。変数や定数と符号分子をマニュアルで行ってもよい。
【0108】
(核酸配列計算部14b)
核酸配列計算部14bは、翻訳・計算計画立案・実行部14aにおける翻訳処理のうち、データ−符号分子対応付け処理で与えられた符号分子に対応する核酸配列を計算する。データ−符号分子対応付け処理で与えられた符号分子は、数多く与えられる。また、符号分子参照テーブルに登録されている符号分子は数に限りがある。従って、足りない符号分子の塩基配列は、核酸配列計算部にて計算を行い配列を設計する。具体的には、既に符号分子参照テーブルに登録されている符号分子とクロスハイブリダイゼーションを起こさないような、最適な二重鎖の融解温度(Tm)と、大きい2次構造の自由エネルギー値を持つ塩基配列を設計する。クロスハイブリダイゼーションは、符号分子参照テーブルに既にある配列とハイブリダイゼーションのシミュレーションを行いチェックする。融解温度や自由エネルギー値は配列から容易に計算できる。従って、適切な融解温度や自由エネルギー値の配列を選別する。これらの計算により、合成すべき核酸の配列が決定される。
【0109】
核酸配列計算部14bは、得られた核酸配列計算結果を核酸配列合成装置30に通信部23を介して送信する。核酸配列合成装置30は、与えられた核酸配列計算結果に基づき、自動あるいはマニュアルで核酸を合成し、得られた核酸溶液を核酸容器に収容して分子計算部22に自動あるいはマニュアルで搬送する。核酸配列合成装置30は、合成された核酸溶液が収容された核酸容器を識別する核酸容器識別情報を翻訳・計算計画立案・実行部14aに送信する。翻訳・計算計画立案・実行部14aは、受信した核酸容器識別情報に基づき、制御命令生成処理において制御命令手順テーブルを生成する。これにより、装置データとして登録されていない計算用機材が分子計算部22に導入される場合であっても自動の分子計算に組み込むことができる。
【0110】
なお、この核酸配列計算部14bは、別の装置で核酸溶液を準備するものであれば電子計算部21で実行する必要は無い。また、必要とする塩基配列を有する核酸溶液がすべて登録されている場合には、この核酸配列計算及び核酸合成は省略可能である。
【0111】
(検出結果解析部14c)
検出結果解析部14cは、分子計算部22の検出部158で得られた検出結果を通信部24,23を介して受信し、表示部20aやプリンタ20aで出力する。また、検出結果のみならず、例えば検出結果を解析し、その解析結果を出力するのが好ましい。また、翻訳・計算計画立案・実行部14a及び核酸配列計算部14bなどで計算された結果を適宜出力してもよい。
【0112】
検出部158からの検出結果は、DNAの反応結果そのものであり、利用者が希望する情報では無いことが多い。従って、反応結果を利用者に分かる情報に変換する作業が必要になる。この変換作業は、検出結果解析部14cにより自動で実行することができる。なぜなら、この変換作業は、利用者に分かる情報としての原始プログラムから、分子計算部22が認識可能な制御命令手順テーブルへの変換作業の逆変換を行えばよいからである。
【0113】
具体的には、検出結果の解析は、例えば記憶部13から制御命令手順テーブル、装置データ、実行手順テーブル、演算反応手順テーブル、符号分子参照テーブル、手続または関数−演算反応変換テーブルなどを参照することにより実行することができる。
【0114】
ある反応結果から原始プログラムの解のレベルへ変換を行う解析処理を行う場合を考える。反応結果は、化学反応であり、その検出結果が検出部158で得られる。この検出部158の検出結果のそれぞれのデータがどの制御命令、実行手順、演算反応、符号分子に対応しているかは、制御命令手順テーブル、実行手順テーブル、演算反応手順テーブル、符号分子参照テーブル、手続または関数−演算反応変換テーブルなどを参照することにより可能である。この解析処理により、反応結果は利用者に利用可能な情報に変換される。従って、利用者は何ら電子計算部22における操作内容などを意識することなく計算結果を理解することが可能となる。
【0115】
なお、この解析処理は必須では無い。例えば、反応結果がそのまま利用者の必要とする情報である場合である。この場合、検出部158からの検出結果を全く変換せず、あるいは実行手順のレベル、制御命令のレベル、演算反応のレベル、符号分子のレベルなど、種々のデータ表現形式に解析することにより、利用者の必要とする情報が得られる。特に、遺伝子情報解析の場合には、遺伝子情報のレベルまで解析処理を行えばよい。
【0116】
電子計算部における処理手順の例を説明する。
【0117】
まず、入力部11から入力された初期値を含む原始プログラムは入出力制御部12により内部コードに変換されたのち記憶部13に記憶される。内部コードとは、電子計算部21の演算部14が電気学的に認識可能であってデータ処理可能なコードをいう。次に、この内部コードに変換された原始プログラムが翻訳・実験計画立案・実行部14aにおいて、符号分子および符号分子の演算反応手順テーブルに変換され、且つ演算反応の実行手順テーブルが生成される。続いて記憶部13に記憶される。また、必要に応じて、核酸配列計算部14bは、演算反応手順テーブルを基に符号分子を計算する。この計算結果は核酸合成装置30に送られる。核酸合成装置30は、得られた計算結果に基づき核酸を合成し、得られた結果物を分子計算部22に搬送する。また、核酸合成装置30は、得られた結果物を自動計算に組み込むため、得られた核酸溶液を装置として識別する情報を電子計算部21に送信する。
【0118】
これらの工程において扱われる情報は、常に結果解析部14cを経て表示部に表示されてもよい。或いは、所望する情報のみを随時表示されるように設定されてもよい。必要に応じてプリントアウトされてもよい。
【0119】
本発明において、分子計算部22は、ハイブリダイゼーション反応、酵素反応、抗原抗体反応のような生物学的特異反応の開始から終了までに関わる工程または手段を少なくとも含んでいるものとする。ここで、反応の開始時点は、早ければ反応対が有意に選択性を示すと認められる段階を少なくとも含み、遅くとも検出、分離等の目的が達成できる直前の時点を含んでいる。また、反応の終了時点は、早ければ検出、分離等の目的が達成できた最も早い時点を少なくとも含み、遅ければ検出、分離等の目的が充分に達成できる経過時間よりも長い時点を含むことができる。
【0120】
図2に、本発明の分子計算部22のより詳細な配置例を示す。例えば、分子計算部には、8本取りチップラック31、1本取りチップラック0番32、1本取りチップラック1番33、96穴マルチタイタープレート(以下、MTPと称す)2番34、96穴MTP0番35、1.5mLチューブラック36、96穴MTP1番37、サーマルサイクラー96穴MTP38およびチップ廃棄口39を配置することが可能である。しかしながら、これにより何ら制限されるものであり所望に応じて各種変更が可能である。
【0121】
(2)分子計算部における分子計算
(a)3SATへの適用
以下に説明する、本発明の1態様に従う分子計算装置における分子計算は、上述した項目Iに記載した本発明の各態様であってよい。
【0122】
以下では、代表的なNP完全問題である三和積形命題論理式の充足可能性判定問題(3SAT)を解くための計算を本発明の分子計算装置を適用して実行する例を説明する。
【0123】
最初に従来のエーデルマン−リプトンパラダイムに基付くDNA計算の問題点を説明する。エーデルマン−リプトンパラダイムに基付くDNA計算の場合、最初に全ての解の候補を表現するDNA分子のプールを生成する必要があることが問題である。NP完全問題の解の候補数は変数の数に対して指数関数的に増大するものである。従って、問題のサイズが大きくなると、超大容量メモリを備えたDNAコンピュータでも全ての解の候補を含む完全なプールを生成できない危険性が生じる。これが、エーデルマン−リプトンパラダイムが内包する深刻なスケール問題である。
【0124】
エーデルマン−リプトンパラダイムを上述の3SATに適用する場合を考える。論理変数の数を100とすると、解の候補は2100=1.3×1030にもなる。1変数を15塩基対のDNA分子で表現すると、完全なプローブを生成するためには少なくとも200万トンという非現実的な量のDNA分子が必要になる。1分子で一つの解の候補を表現したのでは計算反応の途中で失われてしまう危険性が高い。従って、実際にはより大量のDNA分子が必要である。変数の数が200になると、少なくとも地球の質量の約40兆倍ものDNA分子が必要となる。これでは実際に問題を解くことは不可能であると言わざるを得ない。
【0125】
そのような状況において、発明者らは、ダイナミック・プログラミングに基付いたアルゴリズムを分子計算装置(DNAコンピュータとも称することができる)で実行することによりNP完全問題を解くことを考えた。即ち、エーデルマン−リプトンパラダイムのように最初から全ての解の候補を生成するのではなく、部分の問題の解の候補を生成してその中から解を選択抽出する。この操作を部分問題のサイズを逐次的に大きくしながら繰り返し、最終的に本来の問題の解を得るのである。このようにすれば、生成される解の候補の数を大幅に減らすことができる。
【0126】
ここで、後述する(1.1)準備の項目おいて記載する分子の設計は、まず原始プログラムから、電子計算部の翻訳・実験計画立案・実行部において必要な情報に変換される。その後、核酸配列計算部において所望する条件に適切な核酸配列が設計される。また、前記の工程は、電子計算部の演算部において行うことも可能である。電子計算部において得られた情報に基付いて核酸が合成され、分子計算部において分子計算が実行される。
【0127】
(b)3SATのプログラム
NP完全問題の代表例である3SATは、例えば、次のようなプログラムに従ってDNA計算を実行することにより、ダイナミックプログラミングのアルゴリズムに基付いて解くことができる。
【0128】
【数1】
ここで、記号の「∧」は論理積、「∨」は論理和、「¬」は否定を表す。
【0129】
【数2】
【0130】
本装置を用いて4変数10節の3SAT問題を解いた。問題を数式1に、問題の解を数式2に示す。数式1の問題の論理式はx1、x2、x3、x4の4つの変数からなり、3ラテラルの節が10個、論理積で結合されている。この式を満たす変数の値の組、すなわち解が有るかどうか、有るならばその変数の値の組を求めるのが目的である。
【0131】
【数3】
【0132】
この問題を解くために数式3に示すプログラムを本装置で実行する。記述法はパスカルに準じている。具体的には、数式3に示すプログラム(dna3sat)を原始プログラムとして図1の入力部11で入力する。入力された原始プログラムは、翻訳などを経て制御命令手順テーブルが生成され、分子計算部22で分子計算が実行される。そして、(s2)〜(s8)のステップを経て数式3に示す計算結果が得られる。
【0133】
関数dna3satが、問題を与えたときに解が存在した場合に解を出力するメイン関数である。この関数dna3sat中には関数getuvsatが組み込まれている。これら関数dna3satと関数getuvsatはget、amplify、append、merge、detectの5つの基本関数で構成されている。基本関数のうちget、amplify、appendは、原始プログラムの手続または関数として図15から図18に示す化学反応により実行される。
【0134】
次に各基本関数に対応付けられた化学反応、化学反応に付随する操作を説明する。最初に、図15に従ってget(T,+s)、get(T,−s)関数について述べる。
【0135】
関数getは、オリゴヌクレオチドの混合溶液T(tube)から、sなる配列を含む1本鎖のオリゴヌクレオチドまたは該配列を含まないオリゴヌクレオチドを取得する反応操作を符号分子の演算反応として定義した関数である。ここで、sとは数塩基または数十塩基の特定の配列を示している。get(T,+s)はs配列を含むオリゴヌクレオチドを、get(T,−s)はsを含まないものを取得する。T,+s,−sは、分子を核酸配列に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義される変数である。
【0136】
まず、sに相補的な配列を持ち5’端ビオチンを標識したオリゴヌクレオチドをTに入れ、s配列を備えたオリゴヌクレオチドとアニーリングさせる。
【0137】
このアニーリングでできたハイブリッドを、例えば、ストレプトアビジンを表面に結合した磁気ビーズで捕獲する。このあとs配列に相補的なオリゴヌクレオチドのなすハイブリッドが解離しない温度で磁気ビーズの緩衝溶液で洗浄する(即ち、コールドウォッシュする)。これにより、s配列を持たないオリゴヌクレオチドを緩衝液から取得でき、get(T,−s)が実行できる。
【0138】
また、関数get(T,+s)の実行は、コールドウォッシュが終わってから、ハイブリッドが解離するような比較的高温の緩衝溶液で磁気ビーズを洗えばよい。これにより、その緩衝溶液からs配列を持つオリゴヌクレオチドを取得できる。即ち、1つの操作で2つの関数が実行できる。
【0139】
次に、図16に従って関数append(T,s,e)の反応について述べる。eは、分子を核酸配列に基づき符号化した符号化分子に対応付けて定義される変数である。
【0140】
この関数は、オリゴヌクレオチドの混合液Tの中でe配列をその3’端に備えた1本鎖DNAの3’端に、sなる配列を備えたオリゴヌクレオチドをライゲーションにより連結し、そのs配列が連結された1本鎖のオリゴヌクレオチドを取得する反応操作を符号分子の演算反応として定義した関数である。ここで、s、eとは先に述べたのと同様に数塩基若しくは数十塩基の特定の配列を指す。
【0141】
この関数append(T,s,e)の反応では、次のオリゴヌクレオチドを用いる。
【0142】
s配列のオリゴヌクレオチドは、この5’端がリン酸化されている。また、連結オリゴヌクレオチドは、5’端にビオチン標識されており、5’端側のsに相補的な配列と3’端側のeに相補的な配列とを隣接して含有する。これらをチューブTに入れて反応を始めると連結オリゴヌクレオチドは、T中の標的オリゴヌクレオチド配列eとs配列オリゴヌクレオチドとでハイブリッドを形成する。このハイブリダイゼーション反応は、ミスマッチのハイブリッドが形成されないように比較的高温で行い、Taqライゲースなど高温で活性の高い酵素を用いて連結される。このあとストレプトアビジン磁気ビーズなどによりハイブリッドを捕獲し、ハイブリッドが解離するような高温で洗えば(即ち、ホットウォッシュ)、3’末端にs配列が連結されたオリゴヌクレオチドを回収することができる。
【0143】
次に図17に従って、amplify(T、T1、....Tn)関数の反応について述べる。このamplify(T、T1、....Tn)関数の反応は、反応溶液Tに含まれるオリゴヌクレオチドをPCR反応により増幅し、増幅され二本鎖になったオリゴヌクレオチドを1本鎖に変えてから、T1、...Tnなるn個の反応溶液に分割する反応である。本実施例ではTに含まれるオリゴヌクレオチドの両端には共通な増幅用の配列が具備され、1組のプライマーにより全てのT中のオリゴヌクレオチドを増幅できるようにしている。プライマーのうち、増幅対象のオリゴヌクレオチドの3’端に相補的な配列をもつものの5’端にはビオチン標識が施されている。Tのオリゴヌクレオチドをこの共通プライマーにより増幅し、ストレプトアビジン磁気ビーズにより捕獲する。これを94℃などの高温で全ての2本鎖が解離するように洗浄すれば、もともとTに含まれていた側の鎖が緩衝溶液中に抽出できる。この抽出溶液を均等にT1、...Tnのn個の反応溶液に分割すればよい。
【0144】
関数mergeは、引数の複数の溶液を1つの溶液に纏める反応操作を符号分子の演算反応として定義した関数である。
【0145】
最後に関数detectを図18に従って説明する。検出は、手動による反応で実施することも可能である。関数detectを本装置により行う方法の例を以下に示す。ここではgraduated PCRなる、エーデルマンの論文(Science, 266, 1021−4)において開示された検出手段を用いて行う例を示す。
【0146】
図18において、本装置で生成される解を示す核酸分子は、5’端から順に4つの変数が真(即ち、T、true)または偽(即ち、F、false)を表す配列が連結した配列を有す。この解の配列は、同じく図18に示す全ての可能な解を検出できるようなプライマーにより個別にPCR増幅する。図中、配列名の上に引いた横線は、相補配列を示す。仮に、図18の最初に示すような配列の解が得られていると、図18の最後に示すプライマーの組で、且つ図示した長さのPCR産物が得られる。これら産物の存在と長さをゲル電気泳動にて確認すれば、PCR産物の得られたプライマーから解の配列が明らかになる。なお、関数detectは、DNAチップによる出力も含まれる。
【0147】
以上の関数を表1に纏めた。
【0148】
【表1】
【0149】
上述の数式3に示すプログラムの主たる関数はdna3satである。その中に先に述べた基本関数と、基本関数からなる関数getuvsatが組み込まれている。このように、基本関数を組み合わせて新たに手続または関数を定義し、この手続または関数を用いたプログラムを作成することが可能である。最初にプログラム上の変数名の説明を行う。
【0150】
Tとはチューブ(tube)の略であり、T2とはx1、x2の2変数の取りうる全ての真偽の組4つを表すオリゴヌクレオチドを含む溶液である。X1 Tとは、変数x1の値が真であることを示すオリゴヌクレオチドで長さは22塩基である。X2 Fとは、変数x2の値が偽であることを示すオリゴヌクレオチドであり、長さは同じく22塩基である。よってT2に含まれるオリゴヌクレオチドの1つ、X1 TX2 Fは44塩基の長さの、x1=1、x2=0なる割り当てを表す1本鎖のオリゴヌクレオチドである。j、kはループの進行状態を表す整数で、jは問題の論理式の何節目を計算しているかを示し、kは何番目の変数を計算しているかを表す。u、v、wは問題の論理式の各節内のひとつひとつのリテラルを示す。各リテラルは、数式1の問題であれば、u1=x1、v2=x2、w1=¬x3となる。配列名Xの上にあるバーは相補配列を意味する。また、Xの右肩のT/FはTおよびFを指し、XTとXFを意味する。
【0151】
以下、数式3のプログラムを図20のフローチャートに沿って順を追って説明する。実際にはプログラム解釈部がこのプログラムの関数および条件分岐、forループを一連の実験操作に展開して実験計画を立てる。最初に問題の理論式はプログラムでの処理を容易にするために、各節で変数の添え字の昇順にリテラルを並べ替えておく。また、2変数x1、x2に可能な割り当てを全て行った溶液T2を準備しておく。
【0152】
関数dna3satにおいて、最初のforループのk=3、即ち、x3に割り当てる値を決定するループについて説明する。最初にamplify関数でT2を増幅する。この場合、増幅後、T2と同じオリゴヌクレオチドを持つTw T、Tw Fに分注し、計3本の溶液チューブを得る。次にkのループ内のjのforループに入る。ここでは、論理式の第j番目の節の充足性を評価する。第1の条件分岐で、j=1では第1節の第3リテラルw1がx3と等しいかを調べる。これは、電子計算部21で予め論理式を調べ、then以降を実行するかどうかを判断し、実験計画に入れるかを決定しておく。ループ内第2の条件分岐で第1節の第3リテラルw1が¬x3であるのでthen以降を実行する。
【0153】
関数getuvsatは下段に別に定義されており、それぞれの引数、Tに対しては最初にamplifyで生成したTw Tチューブ(内容および濃度はT2と同じ)、uに対してはu1(=x1)、vに対してはv1(=x2)を入力する。最初のTu TはTw Tの中からX1 Tを含むオリゴヌクレオチドを抽出して溶液を生成する。これにより、Tu Tは{X1 TX2 T、X1 TX2 F}という内容になる。次にT’u FはTw Tの中からX1 Tを含まないオリゴヌクレオチドを抽出して溶液を生成する。これによりT’u Fは{X1 FX2 T、X1 FX2 F}という内容になる。3つ目にTu Fは、T’u Fの中からX1 Fを含むオリゴヌクレオチドを抽出して溶液を生成する。これによりTu F={X1 FX2 T、X1 FX2 F}という内容になる。ここでのこの行は無視可能というコメントがあるが、生成される溶液の内容を見れば明白である。実験上エラーが生じることのないように加えた行であるので、念のための実行する。無視した場合は、前行のT’u FをTu Fと読み替える。4番目のTv TはTu Fの中からX2 Tを含むオリゴヌクレオチドを抽出して溶液を生成する。これにより、Tv T={X1 FX2 T}という内容になる。最後に関数mergeにより、Tu TとTv Tが混合されてTTが生成され、returnにより出力される。TTは{X1 TX2 T、X1 TX2 F、X1 FX2 T}となりもとのdna3sat関数では溶液Tw Tと名を代えて扱うことになる。TTの内容は第1節の第1、第2のリテラルがx1∨x2なる形であるので、第2リテラル¬x3がいかなる値であろうとも第1節の第1節が真であるx1、x2への値の割り当ての組を示している。以上により、関数getuvsatは既に2つのリテラルに値が割り当てられている節について、3つ目のリテラルの変数に何を割り当ててもその節が真であるような割り当てを表すオリゴヌクレオチドを選別する関数である。
【0154】
次に、再びdna3sat内のk=3ループでjを1つ増加させ、j=2で、第2節の計算に移る。この節では第3リテラルは第1節と同様に¬x3なので条件分岐に効いてくるのは下段のif文である。第1節と同様にgetuvsatを実行する。注意すべきは先に行ったj=1でTw Tを生成していることである。また、v2はv2=¬x2なる否定が入ったリテラルなので、getuvsat関数のTv Tを求める式においてXv Tは、X2 Fと読み替えて関数getを実行する。こうすれば、j=2で新たに得られるTw Tは、{X1 TX2 T、X1 TX2 F}となる。
【0155】
以降、順にj=10まで実行する。途中、例えば、5節目以降のように3番目のリテラルがk=4である場合は、jの値をインクリメントし、ループの次の処理を行う。k=3で10節分のループが終了すれば、Tw Tの中の3’末端がX2のオリゴヌクレオチドに真を表すX3 Tをappendする。また、Tw F中の3’末端がX2のオリゴヌクレオチドに偽を表すX3 Fをappendする。このあとappend後の溶液をmergeし、k=4のループに移る。k=4のループが終了すれば、最終的にループを脱し、T4チューブを関数detectで処理する。
【0156】
以上のように計算を実行するので、変数の数をn、節の数をmとすると各基本コマンドの実行回数は、
(n−2)×(amplify+2×append+merge)+m×(3×get+merge)
である。即ち、変数の数と節の数にほぼ比例した時間で3SAT問題を解くことができる。
【0157】
また、本発明において、detect部分は、必ずしも反応結果を測定することを意味せず、反応結果が電子計算部へ利用可能に情報伝達されるか、或いは利用者が利用できる形態に変化または抽出された状態に特徴化されていればよい。また、detect部分は測定可能な状態に特徴化されていればよく、測定を人が行ってもよい。従って、本発明において、分子計算部は、反応が終了すると共に利用者が利用できるような生成物または成果物を提供するところまでを実施すればよい。利用者は、本発明の装置により提供された生成物または成果物を種々の目的、例えば、診断、治療、創薬、学術的研究、生物学的データベースの構築、生物学的情報の解読等へと最も効率よく利用することができる。
【0158】
【実施例】
分子計算
上述で説明した数4のプログラムを本発明の分子計算装置を用いて実行した。装置の構成を以下に記す。該プログラムを実行した装置の構成を示す。本装置はプレシジョン・システム・サイエンス(PSS)社の核酸自動抽出装置SX8Gを改造して製作した。本装置は、制御のためのインテル社製PentiumIIICPU(登録商標)を搭載した、OSがWindows98(登録商標)のコンピュータ(電子計算部21に対応)と、演算反応を実際に行うための試薬槽と反応槽、XYZの位置制御のできるピペッタと、予備のピペッタ用チップ、温度をコンピュータで制御できるサーマルサイクラ(MJ Research社製のPTC−200)からなる反応ロボット(分子計算部22に対応)からなる。分子計算部22の上から見た反応用部材の配置を図2に示す。
【0159】
これらの反応容器の間で溶液の受け渡しが行われる。ストレプトアビジン磁気ビーズによるオリゴヌクレオチドの抽出は、ピペッタの特殊チップとチップに近づけたり離したりできる永久磁石により行う。ただし、以上のシステムでは実行できなかった2つの操作、即ち1μL程度の微量の酵素分注は人力で行い、関数detectでのキャピラリゲル電気泳動は、ベックマン・コールター社製P/ACE−5510キャピラリ電気泳動システムにより実行した。
【0160】
試薬類とその初期配置を述べる。リガーゼ酵素は先に述べたようにマニュアルで分注するので装置外で保持した。分注はギルソン社製のピペットマン2μLのピペッタを用いた。
【0161】
Xで表される各変数の値を示すオリゴヌクレオチドの長さは22塩基である。また、ここでX1 TX2 Fと記した場合5’端側から順にX1が真であることを表すオリゴヌクレオチド、X2が偽であることを示すオリゴヌクレオチドの配列をもつ1本鎖オリゴヌクレオチドであることを示す。また、ここで、配列名が「[]」に挟まれている場合は元の配列に相補的な配列を意味する。このため、例えば[X1 TX2 F]ならばX1 TX2 Fに相補的なので、実際の配列は5端側からX2 Fに相補的な配列、X1 Tに相補的な配列の順になっている。
【0162】
T2溶液(X1 TX2 T、X1 FX2 T、X1 TX2 F、X1 FX2 Fそれぞれ5pmolをライゲーション用緩衝溶液20μLに溶解した)をMTP35(即ち、マルチタイタープレート35)に保持した。ライゲーション反応用緩衝溶液、ストレプトアビジン磁気ビーズ、B&W溶液(TE溶液にNaClを加えて、NaCIが1Mなる濃度にした溶液を以降このように呼ぶ。この液はストレプトアビジン磁気ビーズにビオチン化オリゴヌクレオチドを捕獲したり、ハイブリダイゼーション反応を行うときに用いる)は図2のMTP37に保持した。
【0163】
また、5’端がビオチン標識されているビオチン化オリゴヌクレオチド[bX1 T]、[bX2 T]、[bX3 T]、[bX4 T]、[bX1 F]、[bX2 F]、[bX3 F]、[bX4 F]をぞれぞれ10pmoLずつB&W溶液20μLに溶解したもの、5’端がリン酸化されているappendオリゴヌクレオチドpX3、pX3 T、pX3 F、pX4 F、pX4 T、それぞれ10pmoLをライゲーション緩衝溶液20μLに溶解したもの、5’端にビオチン標識した連結オリゴヌクレオチド、[bX2 TX3 T]、[bX2 FX3 T]、[bX2 TX3 F]、[bX2 FX3 F]、[bX3 TX4 T]、[bX3 FX4 T]、[bX3 TX4 F]、[bX3 FX4 F]それぞれ10pmolをライゲーション緩衝溶液20μLに溶解したものをMTP35に配置する。これらのオリゴヌクレオチド溶液および緩衝溶液などは分子計算機動作中は室温で保持した。リガーゼ、関数detectで用いるPCR用ポリメラーゼは装置の外で氷中で、PCR反応用緩衝溶液は室温で維持した。
【0164】
それぞれの関数に対応する反応での装置の動作を順を追って説明する。
【0165】
(a)関数amplify
関数amplifyは、左端の引数の溶液をテンプレートとし、PCR増幅して元の溶液の濃度に維持して複数の溶液に分割する反応操作を符号分子の演算反応として定義した関数である。厳密にはもとの溶液のオリゴヌクレオチド濃度を測定してからでなければ増幅できないが、実際には最初のT2で各オリゴヌクレオチドが5pmolで20μLの溶液に溶解しているので、20μLの溶液に各オリゴヌクレオチドが数pmo1溶解しているようにする。即ち、1溶液1オリゴヌクレオチドあたり2pmolとするならば、PCR反応液の組成は次の通りである。
【0166】
ポリメレース酵素(宝酒造)0.5μL(2.5U)
増幅DNAの溶液 1fmol程度の各々のオリゴヌクレオチドを含む
dNTP混合溶液 8μL(2.5mM、付属品)
反応バッファ 10μL(10倍希釈で使用、付属品)
プライマー 各オリゴヌクレオチドにforward、reverse側とも5pmolずつ準備
滅菌蒸留水 全液量が100μLになるように加えた
増幅には宝酒造のPyrobestTM DNA PolymeraseのPCR増幅キットを用いた。反応温度条件は、以下の通りである。
【0167】
即ち、
1. 95℃ 30秒
2. 50℃ 30秒
3. 72℃ 60秒 1〜3を30サイクル
である。
【0168】
PCR反応液の量は分割する溶液の数に応じて変えた。PCRの後、反応液からPCR産物をストレプトアビジン磁気ビーズ(ロシュダイアグノスティクス)で捕獲する。磁気ビーズ原液50μL(0.5mg)をとり、ここから磁石により磁気ビーズのみを抽出して液をB&W溶液50μLに置換する。この磁気ビーズ液とPCR反応液50μLとを混ぜてPCR産物を捕獲する。捕獲した後、溶液をB&W溶液50μLに置換し、88℃まで昇温して1本鎖オリゴヌクレオチドを解離させて抽出した。
【0169】
(b)関数get
get(T,+S)とget(T,−S)は一連の操作で同時に行う。
【0170】
(1)抽出する溶液Tを50μL準備しサーマルサイクラ38に吐出した。
【0171】
(2)Tに捕獲する配列の相補鎖をビオチン化したオリゴヌクレオチドを20pmolを含むB&W溶液50μLをさらに加えて最初のハイブリダイゼーション反応を行った(下記反応温度条件の1,2)。
【0172】
ピペッタは各MTPから液をとり反応を進める。反応温度条件は以下の通りである。即ち、
1. 95℃ 1分
2. 25℃ 10分(1から2までは10℃/分で温度を下げる)
3. 56℃ 3分(2から3までは10℃/分で温度を上げる)
4. 75℃ 3分(3から4までは10℃/分で温度を上げる)
であり、ピペッティングの作業時間を確保しながらサーマルサイクラを制御した。
【0173】
(3)2の温度の途中で磁気ビーズ原液50μL分を分散したB&W溶液50μLを混合し、磁気ビーズにビオチン化オリゴヌクレオチドのハイブリッドを捕獲した。磁気ビーズは再びサーマルサイクラー96穴MTP38に保持した。
【0174】
磁気ビーズ液は装置のピペッタに一度吸い込まれた後、ピペットのチップの中の空洞に保持される。このとき液を保持したチップにピペッタに取り付けた移動可能な永久磁石を接近させてビーズを集める。この間にピペットから排液して新たな溶液を吸引すれば溶液の置換や、2本鎖核酸の相補鎖の分離を行うことができる。磁気ビーズを溶液に分散するためには永久磁石を離して数回ピペッティングを行えば十分に撹拌されて磁気ビーズは溶液に分散する。
【0175】
(4)次に3の温度条件に進む。ここではハイブリダイゼーションしなかったオリゴヌクレオチドを集めるコールドウォッシュ工程を行う。56℃にてB&W溶液50μLにオリゴヌクレオチドを抽出しMTP35に出力した。これがget(T,−S)の出力オリゴヌクレオチド溶液である。
【0176】
(5)温度条件4のホットウォッシュ工程では4のようにさらに温度を上げて、磁気ビーズに捕獲されているオリゴヌクレオチドをコールドウォッシュと同様50μLのB&W溶液に抽出してMTP35に出力した。これがget(T,+s)の出力オリゴヌクレオチド溶液である。
【0177】
(c)関数merge
ごく簡単なピペッティング操作で実行した。ピペッタで混合する溶液をそれぞれ吸引し、全て1箇所のMTPのウェルに集めて混ぜることで実現した。
【0178】
(d)関数append
図16に示す反応である。appendするオリゴヌクレオチドが異なれば、別々の反応チューブで反応して同時に行った。
【0179】
(1)append反応する溶液を20μL、MTP35よりピペッタで吸引し、サーマルサイクラ38に吐出する。そのほか、append反応に必要な下記の溶液を反応用ウェル38まで運搬した。
【0180】
append反応には、New England Bio Labs社のTaqリガーゼとその専用緩衝溶液とを用いた。
【0181】
反応溶液は以下の通りである。
【0182】
Taqリガーゼ(NEB) 0.5μL(20U)
反応DNAの溶液 原液20μl
反応バッファ 12μL(10倍希釈で使用、付属品)
連結オリゴヌクレオチド 各10pmol
appendオリゴヌクレオチド 各10pmol
滅菌蒸留水 全液量が120μLになるように加えた。
【0183】
(2)ライゲーション反応を行った。サーマルサイクラの制御は下のように行った。ライゲーション反応を行ったのは温度条件2の時である。反応温度条件は以下の通りである。即ち、
1. 95℃ 1分
2. 58℃ 15分(1から2までは10℃/分で温度を下げる)
3. 25℃ 10分(2から3までは10℃/分で温度を下げる)
4. 70℃ 3分(3から4までは10℃/分で温度を上げる)
5. 74℃ 3分(4から5までは10℃/分で温度を上げる)
6. 88℃ 3分(5から6までは10℃/分で温度を上げる)
とした。
【0184】
(3)反応温度条件3の25℃に下がってから磁気ビーズによる捕獲を行った。このとき、磁気ビーズを分散している溶液は捨て、ビーズをチップ内に保持したままサーマルサイクラ38からライゲーション緩衝溶液を直接ピペッタで吸引した。すなわちライゲーション緩衝溶液中で捕獲反応を行った。緩衝溶液が捕獲のための液でないため念のため60回吸引吐出を行い十分な量を捕獲できるようにした。磁気ビーズはサーマルサイクラ38に保持した。
【0185】
(4)続いて1回目のコールドウォッシュを行った。核酸ハイブリッドの長さと溶液の塩濃度から70℃が適温である。4の70℃まで昇温したらサーマルサイクラ38から磁気ビーズ液を吸引し、永久磁石でビーズを集め、溶液のみをMTP35に吐出した。この溶液は廃液である。
【0186】
(5)そのまま、ピペッタでMTP37のB&W溶液50μLを吸引し、永久磁石を離して磁気ビーズを分散させてサーマルサイクラ38に戻した。サーマルサイクラ38では反応温度5にし、2回目のコールドウォッシュを実行した。ここでは(4)と同様に適温になったらサーマルサイクラ38から吸引し、永久磁石でビーズを集めてB&W溶液のみをMTP35に吐出した。この溶液も廃液である。
【0187】
(6)このあと、さらに再びピペッタでMTP37のB&W溶液50μLを吸引し、永久磁石を離して磁気ビーズを分散させてサーマルサイクラ38に戻した。サーマルサイクラ38で反応温度6になったとき、溶液中にappend反応の済んだ1本鎖オリゴヌクレオチドが解離してくるのでこれをサーマルサイクラ38から吸引し、永久磁石でビーズを集め、溶液のみをMTP25に吐出し保持した。
【0188】
(e)関数detect
図18に示す反応と、キャピラリゲル電気泳動による検出でおこなった。最終的に得られた解を表すオリゴヌクレオチドを含むであろう溶液をテンプレートとし、graduated PCRを行った。PCRはプライマーの組ごとに反応液を分けて行い、それぞれのPCR産物の有無および長さを検出することで解の配列を調べた。
【0189】
(1)解を含むと考えられるオリゴヌクレオチド溶液をテンプレートとする。プログラム中でamplifyによりオリゴヌクレオチドの濃度は維持されているので、それからテンプレート濃度を推定し液量を定める。
【0190】
PCR反応液の組成は、
ポリメラーゼ酵素(宝酒造) 0.5μL(2.5U)
増幅するDNAの溶液 1fmol程度の各々のオリゴヌクレオチドを含むだけの量
dNTP混合溶液 8μL(2.5mM、付属品)
反応バッファ 10μL(10倍希釈で使用、付属品)
プライマー 各オリゴヌクレオチドにforward,reverse側とも5pmolずつ準備
滅菌蒸留水 全液量が100μLになるように加えた
とした。
【0191】
増幅には宝酒造のPyrobest DNA Polymerase PCR増幅キットを用いた。反応温度条件は、
1. 95℃ 30秒
2. 50℃ 30秒
3. 72℃ 60秒 1〜3を30サイクルであった。
【0192】
本実験で用いたプライマーは次の12組である。
【0193】
(X1 T,[X2 T])、(X1 T,[X2 F])、(X1 T,[X3 T])、(X1 T,[X3 F])、(X1 T,[X4 T])、(X1 T,[X4 F])、(X1 F,[X2 T])、(X1 F,[X2 F])、(X1 F,[X3 T])、(X1 F,[X3 F])、(X1 F,[X4 T])、(X1 F,[X4 F])。
【0194】
これらをMTP35の異なるウェルに保持しておく。PCR反応時にプライマー溶液はピペッタで吸引してサーマルサイクラ38の異なるウェルに吐出し、反応に必要な溶液を加えてサーマルサイクラ38を設定通りに動作させれば反応は完了する。この作業は容易に自動化できる。この後のキャピラリゲル電気泳動装置での試料のキャピラリヘの導入も自動化できる。キャピラリゲル電気泳動ではペックマン・コールター社のds1000ゲルキットを使用した。プライマーX1 TにはFITCが標識されているため泳動像が観察された。今回の実施例では以上のdetectの作業はキャピラリゲル電気泳動も自動では行わず、マニュアルで行った。以上の方法でプログラムの各関数を実行して得られた結果を図21に示した。例えば関数detectに対応する配列の同定方法としては、図19に示すような手法がある。
【0195】
分子計算装置によるゲノム情報解析という計算パラダイムの有効性を示すために、実際に遺伝子の発現情報解析を行うDNA計算の実験を行った。計算はダイナミックプログラミングで3SATの問題を解くときに使用するget、append、amplify、mergeおよびdetectの基本命令を用いて実行することができる。最初の計算反応はエンコード反応である。単一試験管内で行える計算反応で、遺伝子の転写産物の情報がappend命令によりDCNに変換される。変換テーブルは、アダプター分子Aiで表現され、2桁n進数のDCNへ1:1で変換される。200種のDCNは、2桁100進数のDCNとして利用することにより、最大10,000種類の遺伝子をエンコードすることができる。その後、amplify命令により増幅とn本の試験管への分注反応が行われる。最後にn本の試験管に対してappendとget命令によりDCNをデコードする計算反応が行われる。デコード反応はn本の試験に対して並列に行うことができる。移植断片対宿主病関連の転写産物に特異的な配列を有するDNAオリゴヌクレオチドを入力データとして実験を行ったところ、計算反応が特異的且つ定量的に進むことが確認された。
【0196】
DCNに対するDNA計算により、遺伝子の発現情報解析を行う方法は、DNAチップで直接に転写産物分子を解析する方法に比べて優れた点をいくつか有している。性質が一様なDCNに変換してから増幅するので、もとの頻度分布を崩さずに増幅して解析することが可能である。また、DCNデコードで「get」命令を並列に行うためのDNAチップは、同じDCNの体系である限り同じものを使用することができる。その上、DNAプローブの数も大幅に少ない。DNAチップを作製する手間とコストが大幅に軽減される。更に、正規直交化されたプローブのハイブリダイゼーション反応は最適化されており、正確な計算処理を行うことが可能である。また、転写産物分子をラベルする必要はなく、その効率のばらつきによる誤差も生じない。これらの利点に加えて単なる発現プロファイルの計測にとどまらず、プロファイルに関する様々な情報解析をDCNに対するDNA計算で行うことが可能である。
【0197】
なお、以上は5つの基本関数(関数amplify、関数get、関数merge、関数append、関数detect)を例に挙げたが、これらに限定されるものではない。例えば、関数encode、関数decode、関数cleaveなども、分子計算機における計算を定義するのに有効である。
【0198】
関数encodeとは、分子の入った試験管Tに特定の配列siを含む分子が存在したときに、それに1:1に対応した配列ciを出力する関数であり、例えばencode(T,s1,s2,…,sn,c1,c2,…,cn)などで表現される。
【0199】
関数decodeとは、分子の入った試験管Tに特定の配列siを含む分子が存在したときに、siに隣接する配列ciの相補配列を含む分子を出力する関数であり、例えばdecode(T,si)などで表現される。
【0200】
関数cleaveとは、分子の入った試験管Tの中の特定の配列sを含む分子を切断する関数であり、例えばcleave(T,s)などで表現される。この関数cleaveは2通り存在する。第1は、試験管Tの中の分子を特定の配列sで切断する関数、第2は、分子の入った試験管Tの中の特定の配列から特定数の塩基だけ離れた配列を切断する関数である。この関数cleaveは、分子計算部22では、制限酵素の切断として定義される。
【0201】
もちろん、この3つの基本関数を含めた8つの基本関数のみで表現する必要は無く、他の基本関数を設定することも可能である。
【0202】
以下の表2に、基本関数と、電子計算部21における処理体系としての表現、分子計算部22における処理体系としての表現を示す。なお、分子計算部22における処理体系は、表2に示したものに限定されるものではなく、あくまで電子計算部21における処理体系を表現する一態様である。
【0203】
表2に示すように、基本関数(手続または関数)は、符号分子の演算反応に対応付けて定義され、変数及び定数は、分子を核酸配列に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義されている。
【0204】
【表2】
【0205】
このような本発明の態様によれば、上述したような分子計算機の高い並列計算性を活かし、しかも分子計算機だけでは実現することが難しい機能を電子計算機により補完することにより、操作する者が分子計算のための反応操作手順や符号化分子の割り当て等を行う必要はなくなる。
【0206】
また、本計算装置を用いて遺伝子解析を行った場合、特定の配列を有する核酸を標的としてそれらの存在または不存在を評価することや、またそれによって、例えば、遺伝子型や遺伝子の発現の状態を決定することが、小さい実験誤差で、低コストで、且つ簡便に行うことが可能である。
【0207】
更にまた、本発明は、上述の記載に基づいて以下の方法および分子計算用ソフトウェアも提供する。即ち、電子計算部と分子計算部とを、電気学的プログラムが認識可能に表現された分子情報に基づいて一体的に機能させることを特徴とする分子計算方法を提供するものである。
【0208】
また、電子計算部と分子計算部とを具備する分子計算装置に適用するためのソフトウェアであって、前記電子計算部および/または前記分子計算部に適用され、前記電子計算部による計算作業と前記分子計算部による計算作業とを、各計算部で電気学的に認識可能な情報形式で機能させることを特徴とする分子計算用ソフトウェア、詳しくは、分子計算部により計算した情報を、電子計算部の電気学的プログラムに適合するような情報形式に変換する機能を有することを特徴とする分子計算用ソフトウエア、更に詳しくは、電子計算部により計算した情報を、分子計算部の計算作業に適合するような情報形式に変換する機能を有する分子計算用ソフトウエアを提供することである。
【0209】
本発明の分子計算ソフトウェアを用いることにより、上述の本発明の計算装置の実行を容易に行うことが可能である。また、当該分子計算ソフトウェアは、本発明の計算装置を総括して管理しても、またその構成要素の一部分を独立して管理しても、または構成要素の幾つかの部分を組み合わせて連動して管理してもよい。
【0210】
II.遺伝子解析の適用例
1.概要
本発明者らは、遺伝子の解析を、核酸分子を入力データとして用いる計算として捉えるというオリジナルなアイデアを着想した。この着想は、Iで示した分子計算装置を用いて実現可能である。例えば、発現mRNAおよびゲノム上の遺伝子を符号核酸のデータに変換し、それらデータの論理和、論理積、否定を計算することで、遺伝子型判定や特定の疾患での遺伝子の発現条件を求めることができる。
【0211】
以下に示す2.〜4.の第1の例〜第3の例は、Iに示した分子計算装置を適用して実現される。
【0212】
2.分子計算装置を遺伝子解析に適用する第1の例
本発明の1態様に従う分子計算装置に適した問題の例は、NP完全問題や3SAT等の純粋に数学的問題、ゲノム情報解析のように入力データが核酸分子で与えれられるような問題、機能性分子の設計、および機能の評価を電子コンピュータで行うことが困難な問題等である。
【0213】
以下に、分子計算装置により行う更なるゲノム情報解析の例を示す。まず、ゲノム情報を正規直交化DNA塩基配列で表現した数字である体系に変換する。その後、そのDCNに対するDNA計算を純粋に数学的問題を解くときのように行い、その計算結果からものゲノム情報を解析する。
【0214】
この方法では、以下に示すような2種類の核酸プローブ、即ち、プローブAおよびプローブBが使用される(図22(a))。
【0215】
プローブAは、標的核酸の一部の領域の塩基配列Fに相補的な配列F’と、これに結合した結合分子からなる。
【0216】
ここで、結合分子は、互いに特異的に高親和性を有する2つの物質の内の何れか一方の物質である。例えば、ビオチンまたはアビジン若しくはストレプトアビジン等である。また、結合分子は、直接に配列F’に結合しても、或いは任意の配列を解して間接的に配列F’に結合してもよい。間接的に結合する場合の任意の配列は、如何なる塩基配列であっても、如何なる塩基数であってもよい。好ましくは、標的核酸上の塩基配列に非相補的な配列である。
【0217】
プローブBは、標的核酸の一部の領域の塩基配列Sに相補的な配列S’とフラッグとからなる。本例におけるフラッグは二本鎖からなる。前記二本鎖は、複数のユニットからなる任意の配列を有す。また、フラッグは、これ自身が標的核酸と結合はせず、また、これらは互いに如何なる相互作用も示さないことが必要である。
【0218】
本方法に使用される配列F’および配列S’は、1以上の塩基数を有し、より好ましくは15以上の塩基数を有する。
【0219】
ユニットの設計例を図23(a)に示す。フラッグFLの複数のユニットの各1ユニットは、10塩基数以上としてよく、より好ましくは約15塩基数である。フラッグFLのユニット数は、何れでもよいが、解析の容易さから4ユニットが好ましい。しかし、これに限られるものではない。
【0220】
複数の標的核酸を同時に検出する場合には、多種類のユニットを組み合わせてフラッグFLを構築する。たとえば、SD、D0、D1、EDの4ユニットからなるフラッグFLを設計する場合を例とすると、先ず、22種類のユニットを設計し、その中から2種類を選択してプライマーとなるSDユニットと、もう1つのプライマーであるEDユニットとする。残りの20種類のユニットを用いて、各標的核酸の種類毎に、選択する2つのユニットの種類を変えることによりD0、D1を設計すると、100種類の異なる核酸配列を検出することが可能である(図23(a))。
【0221】
22種類のユニットは、正規直交化された塩基配列により設計することが好ましい。正規直交化された塩基配列はTm値が揃っており、相補配列以外とは安定したハイブリッドは形成しない。また、相補配列とのハイブリッド形成を阻害するような安定した2次構造は形成しない。これにより、最終的な検出時のミスハイブリを少なくし、ハイブリの形成速度を上げることが可能になる。したがって、検出精度を向上すること、および検出時間を短縮することが可能になる。また、ユニット数を増すことや、ユニットの種類を増すことにより、10000種類の異なる核酸配列をも検出することが可能である。
【0222】
図22(a)〜図22(i)を用いて、本例の方法を更に説明する。図22(a)に、4ユニットからなるフラッグFLの例を示した。該4ユニットは、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction;以後、PCR増幅またはPCR反応と称す)においてプライマーとなるSDユニットと、標的核酸の種類を認識するための認識用ユニット、即ち、D0ユニットおよびD1ユニットと、およびもう1つのプライマー配列であるEDユニットとからなる。これらの各ユニットは、後の工程においては、夫々が読み取り枠となる。
【0223】
検出は、まず上記のプローブAとプローブBを、標的核酸と混合する(図22(a))ことにより行う。このとき、試料に含まれる標的核酸は、複数の異なる核酸分子群であってもよい。例えば、検出されるべき標的核酸の種類が100種類以下であるならば、D0ユニットは、D0−1からD0−10の10種類の中から選択され、且つD1ユニットは、D1−1からD1−10の10種類の中から選択される(図23(a))。
【0224】
次に、プローブA、プローブB、および標的核酸をハイブリダイゼーションに適した条件で一定時間インキュベーションし、ハイブリダイゼーションを行なう(図22(b))。ハイブリダイゼーションの条件は、例1に示す通りでよい。
【0225】
かかるハイブリダイゼーションにより、プローブAおよびプローブBの両方が同一の標的核酸上に結合する(図22(b))。
【0226】
次に、標的核酸にハイブリダイズしたプローブAおよびプローブBを連結する(図22(c))。連結の条件は、例1に示す通りでよい。
【0227】
また、フラッグFLのTm値は、配列F’およびS’より高い温度に設計することが好ましい。これにより本検出方法におけるハイブリダイゼーション、ライゲーションおよび変性等の操作の加熱または冷却の際に、検出感度の低下をもたらすフラッグの変性を防ぐことが可能である。
【0228】
次に、得られたフラッグFLの情報をB/F分離する(図22(d))。具体的には、プローブ(A+B)に具備される結合分子を、その対となるべき結合分子を介して固相担体に補足する(図22(e))。
【0229】
前記固相担体は、基板、ビーズ等の粒子、容器、繊維、管、フィルター、アフィニティ・カラム、電極等を用いることが可能であるが、好ましくはビーズである。
【0230】
次に、結合分子に捕捉された状態で、プローブ(A+B)のフラッグFLを変性し一本鎖にする(図22(f))。得られた液相中の一本鎖配列FL’に対してPCR増幅を行なう(図22(g))。上述したように、予めフラッグFLには、2つのプライマー配列SDおよびEDが配置してある。従って、このプライマー配列を利用してPCR反応が容易に行ない得る。また、このとき、PCRに使用する2つのプライマーの一方、たとえばSD配列に、ビオチン等の結合分子を結合しておくことが好ましい。このときのPCRの詳細な条件は、設計したフラッグFLに依存する。
【0231】
続いて、該PCR反応の終了後、結合分子を固相した固相担体に結合することによって、PCR産物である二本鎖配列を回収する(図22(h))。ここで、固相化された担体は、前記結合分子と対になる結合対のもう一方の物質である。さらに、変性により配列FL’を除き、一本鎖配列FLのみを固相担体上で回収する(図22(i))。
【0232】
続いて、固相上の一本鎖フラッグ配列FLの解析を行なう。まず、一本鎖フラッグ配列FLが結合した前記固相担体を10等分する(D1ユニットがD1−1からD1−D10の場合)。各々に、標識分子と結合したD1−1’からD1−10’配列の一つおよび全てのD0’配列(D0−1’からD0−10’)を加え、フラッグ配列FLにハイブリダイズする。
【0233】
続いて、ハイブリダイズした2つの核酸分子をライゲーションにより連結する。ここで、ライゲーションの条件および標識物質に関する定義は上述した通りである。その後、変性により連結された分子を液相に回収する。
【0234】
得られた標識された核酸分子の解析は、予めD0−1からD0−10の核酸分子を固相化したDNAチップまたはDNAキャピラリ等に対して、ハイブリダイズすることにより行うことができる。特に、DNAキャピラリは、D0−1からD0−10で10等分に分けられたものを同時に処理できるので、これにより分析は容易になるであろう。
【0235】
例えば、各10種類のD0−1からD0−10と、D1−0からD1−10の配列を用いてフラッグFLを設計した場合、図23(a)の1の位置にはD0−1に相当する配列が固定され、標識されたD1−1’分子と連結された拡散分子63にハイブリダイズされる。同様に、他の位置には列により相当するD0配列が固定され、行により相当するD1’分子と連結された拡散分子にハイブリダイズされる。このような行列の配置を、後述するDNAキャピラリに対して用いる(図23(b))と解析が容易に行える。
【0236】
ここでは、10種類のユニットを用いた例を挙げたが、ユニットの種類は10種類に限られるものではなく、それ以下でも、それ以上でもよい。
【0237】
ここで使用する「DNAキャピラリ」とは、標的核酸を検出するための装置であり、その内側に該標的核酸に対する相補的配列が結合されており、該相補的配列に標的核酸を結合することにより、該標的分子を検出する装置をいう。図23(b)に示す通り、多数のDNAキャピラリを同時に使用し、且つ斜線で示した部分に、互いに異なるプローブを配置することにより、同時に多くの標的核酸を検出することが可能である。
【0238】
また、本方法では、フラッグ配列FLの各ユニットには正規直交化配列が使用されているので、実施されるハイブリダイズの反応温度等の条件を均一化することが可能である。これにより、ミスハイブリを防止でき、高い精度が得られる。また、同一条件の下で一度に多くの解析を行なうことが可能であるため、検出時間の短縮化を達成することが可能である。また、本方法により複雑なゲノム情報をDNAの塩基配列で表現した数値に変換することも可能となり、DNA分子反応を利用した計算を行うことにより、多種類の情報や、互いに連鎖した複雑な遺伝子情報を容易に解析することが可能になる。また、コード化したのちに容易にコード化核酸を増幅できるので、少ないコピー数の標的配列であっても正確に且つ定量的に検出することが可能である。また、コード化することにより、多くの情報を圧縮することが可能である。従ってDNAチップまたはキャピラリーアレイ等の検出手段の所要数を節約することが可能である。
【0239】
ここで使用する「エンコード反応」とは、ある塩基配列を、正規直交化塩基配列で表現されるコードに変換することをいう。上述の図22(a)〜図22(f)の工程がこれに相当する。
【0240】
また、ここで使用する「デコード反応」とは、前記で変換されたコードの読み取りを行ない、それにより元の情報を復元することをいう。上述の図22(a)〜図22(i)の工程がこれに相当する。
【0241】
この方法では、上述したような1種類の標的核酸を検出するのみに留まらず、複数種類のフラッグ配列を設計すれば、同様な工程を経ることにより複数種類の標的核酸を同時に検出することも可能である。
【0242】
3.分子計算装置を遺伝子解析に適用する第2の例
本発明の更なる1側面では、上述のような分子計算装置を用いて、ゲノム情報解析を行う一般的な計算方法論が提案される。特に、該ゲノム情報解析方法では、以下のような利点が得られる。即ち、そのような方法では、先ず、特定の遺伝子の塩基配列に対して、任意に設計した所望配列を任意に割り当てる。そして、その割り当てに従って、該特定の遺伝子の塩基配列を設計された配列に変換し、変換後に得られた安定性の高い配列を演算に使用することが可能である。従って、反応の設計における自由度が高くなり、且つ正確な反応を実施することが可能になる。
【0243】
(a)第1の実施の形態
(1)概要
遺伝子解析に適用する本発明の第1の実施の形態について述べる。第1の実施の形態は、核酸分子による演算によって、遺伝子の有無を判定する遺伝子解析の例を示す。
【0244】
その概要は以下の通りである。まず、細胞で発現された遺伝子群を基にcDNA群を作製する。得られたcDNA群に含まれる発現遺伝子と、含まれない非発現遺伝子に関する情報、即ち、標的遺伝子の有無に関する情報を、人工的に設計した配列をもつDNA分子の形態に変換し、表現様式を変更する。この変換によって得られたDNA分子を、演算用核酸に対してハイブリダイゼーションする。以上の過程が演算解析の過程である。ここで、前記DNA分子は、特定の標的遺伝子が存在しているか否かの情報を担う一種の信号として機能する。
【0245】
例えば、ある標的遺伝子が存在することを確認することによって、当該遺伝子が発現遺伝子であることが判定できる。或いは、その標的遺伝子が存在しないことを確認することによって、当該遺伝子が非発現遺伝子であることが判定できる。従って、本解析方法では、サンプル中に含まれる標的分子を検出することが可能であるばかりではなく、同時に、サンプル中に含まれない標的分子に関しては、それが存在しないとい情報を得ることが可能である。
【0246】
(1.1)準備
本発明の1態様である計算方法には以下のような分子が必要である。実質的な計算に先駆けて、以下の分子を調製することが必要である。当該調製はそれ自身公知の方法により行うことが可能である。
【0247】
溶液に含まれるcDNAを検出するために図24に示す2つのプローブ、即ち、点線で囲まれたaiとAiを準備する。aiは、標的のcDNAの一部の配列に相補的な配列を含み且つ5’端にビオチンを標識したオリゴヌクレオチドである。Aiなるオリゴヌクレオチドは部分的にハイブリダイゼーションにより2本鎖になったオリゴヌクレオチドである。Aiを構成する2本鎖のうちの一方のオリゴヌクレオチドは、人工的に設計されたSD、DCNiおよびEDなる塩基配列を3’端側に有し、標的のcDNAの一部分の配列に相補的であり且つai分子の標的に相補的な配列に隣接するような配列を5’端側に有する。また、前記人工的に設計した塩基配列は、当該相補的な配列よりも3’末端側に配置される。また、Aiの標的cDNAに相補的な配列の5’端はリン酸化されている。2本鎖Aiを構成するもう1方の鎖はSD、DCNiおよびEDの配列に相補的な配列をもつオリゴヌクレオチドである。aiおよびAiは、検出したい標的遺伝子毎に任意に設計する。ここでいう「標的遺伝子」とは、溶液中に存在するまたは存在しないことを検出したい遺伝子である。またこのとき、DCNiの配列は標的ごとに異なる配列になるように設計し、SDおよびEDはすべてのAiで共通する配列になるように設計する。これらの人工的な配列は、任意に設計可能であるので、所望するTm値を設定することが可能である。従って、安定に且つミスハイブリダイゼーションの少ない反応を行うことが可能である。
【0248】
更に、図28に示すような5’端にビオチン標識をしたSD配列と同じ配列を有するプライマー1と、ED配列に相補的な配列を有するプライマー2が必要である(図28)。
【0249】
また更に、図31に示すような「標的が存在すること」を示すDCNiに相補的な配列を有する存在オリゴヌクレオチド3(図31)と、「標的が存在しないこと」を示すDCNi *に相補的な配列を有する不存在オリゴヌクレオチド6(図35)が必要である。
【0250】
また、図32に示すような反転オリゴヌクレオチド4が必要である。これは、DCNiに対応するように人工的に設計され且つDCNiとは異なる配列を有した塩基配列であるDCNi *を5’端側に具備し、その3’端側にはDCNi配列を具備するオリゴヌクレオチド(図32)である。
【0251】
(1.2)存在分子と不存在分子への変換
本発明の方法では、まず、サンプル中に、特定の標的分子が存在しているという情報を「存在分子」に変換し、特定の標的分子がある系に存在していないという情報を「不存在分子」に変換する。ここで使用する「存在分子」と「存在オリゴヌクレオチド」の語は互いに交換可能に使用される。また「不存在分子」と「不存在オリゴヌクレオチド」も同様に交換可能に使用される。
【0252】
このような分子の存在、不存在を分子形態表現に変換する方法について図24から図35を用いて説明する。図24から図45は、それぞれの工程における系に存在する分子を模式的に示したものである。
【0253】
図中、DNAを矢印により示し、矢印の元部をDNAの5’端とし先端を3’端とする。矢印の途中に入る該矢印への短い垂線は、塩基配列の区切りを示す部分である。また、図中の矢印の近くに示す、「a」、「A」および「DCN」等のアルファベットは配列の名前を示す。また、「a」、「A」および「DCN」等のアルファベットに付された添え字「i」および「k」は整数であり、それぞれの配列が、どの遺伝子に対応するかを表示するために付されたものである。ここでは「i」および「k」により任意の配列が示される。また、ここでは便宜的に「i」は発現遺伝子を、「k」は非発現遺伝子を示す。また、図中、配列名の上に線が引かれている場合は、相補的な配列を示す。図中の斜線のある円はビオチン分子を示し、白い大きい円は磁気ビーズを現す。磁気ビーズから右横に伸びる黒い十字は、該磁気ビーズに固定されたビオチン分子と特異的に結合するストレプトアビジン分子を模式的に示している。
【0254】
a.「標的が存在する」という情報の「存在分子」への変換
標的が存在する場合の存在分子への変換は図24から図42に示す工程を逐次的に行うことにより実施される。
【0255】
まず、図24を参照されたい。上述の通り合成したaiおよびAiを、Taqライゲースのような高温で活性の高い酵素の反応バッファ中でcDNAと反応させる。但し、このライゲーション反応の温度はAiオリゴヌクレオチドの2本鎖部分が解離しない温度とする。この反応の結果、標的が存在した場合は、図25のようにライゲースによりaiとAiは連結される。次に、この反応溶液から図26に示すようにストレプトアビジンを表面に結合した磁気ビーズにて前記連結オリゴヌクレオチドを抽出する。このとき、未反応のai分子もビーズに捕獲されるが、以後の反応には関係しない。
【0256】
続いて、熱をかけることで、磁気ビーズで捕獲したAiとaiの連結分子からAi部分の相補鎖を分離抽出する(図27)。この操作によって、最初の溶液にcDNAが存在していれば、それに対応するDCNi配列に相補的な配列を含んだオリゴヌクレオチドが抽出される(図27)。この抽出オリゴヌクレオチドをテンプレートとして、5’端にビオチン標識をしたSD配列と同じプライマーと、ED配列に相補的なプライマーにて図28のようにPCR増幅反応を行う(図28)。これにより存在していると判明した遺伝子を検出するDCNi配列が増幅される。
【0257】
このPCR増幅による2本鎖の産物を、図29に示すようにストレプトアビジン結合磁気ビーズにより捕獲する(図29)。捕獲した2本鎖のPCR産物を捕獲したままで熱をかけて1本鎖にし、解離させた相補鎖を緩衝液交換により除去する(図30)。続いて図31のように、DCNiに相補的な配列をもつ存在オリゴヌクレオチドを、ビーズに捕獲されたPCR産物にハイブリダイズする(図31)。このハイブリダイゼーションの後、過剰な存在オリゴヌクレオチドを除去し、続いて、改めて熱をかけることによってビーズに捕獲されているDCNiの相補鎖(即ち、存在オリゴヌクレオチド3)をバッファ中に抽出する。ここで抽出されたDCNiに相補的な塩基配列を有する存在オリゴヌクレオチド3が、もとのcDNA溶液中に標的遺伝子が存在することを示す存在分子である。
【0258】
b.「標的が存在しない」という情報の「不存在分子」への変換
上述の工程により、存在した標的遺伝子を、それが存在するという情報を示す存在分子(即ち、存在オリゴヌクレオチド)に変換した後で、存在しないという情報をこれを示す分子(即ち、不存在オリゴヌクレオチド)に変換する。標的が存在しない場合には、存在しなかったことを示す不存在オリゴヌクレオチドが抽出される。この抽出は以下の通りに実施される。
【0259】
予め、図32にあるような反転オリゴヌクレオチドを全ての検出対象の遺伝子のDCNについて準備する。上述した通り、反転オリゴヌクレオチドは、DCNiに対応するように人工的に設計され、且つDCNiとは異なる配列を有した塩基配列DCNi *を5’端側に具備し且つ3’端側に隣接してDCNi配列を具えたオリゴヌクレオチドである。このような反転オリゴヌクレオチドと存在分子とのハイブリダイゼーション反応を利用することにより、「存在しない標的」を検出可能な「不在分子」に変換することが可能である。
【0260】
まず、図32に示す工程において、反転オリゴヌクレオチド4に対して、図31の過程で抽出した発現遺伝子に対応するDCNiの存在オリゴヌクレオチド33をハイブリダイズし、ポリメラーゼにより伸長反応を行う(図32)。その結果、発現遺伝子のDCNiは伸長し、DCNi *の配列の部分まで相補鎖が合成される(図32)。一方、図33の通り、標的分子が非発現遺伝子(ここではDCNkと示す)であった場合、DCNkに相補的なオリゴヌクレオチドは反応液中に存在しないため、反転オリゴヌクレオチド5は1本鎖のままで存在する(図33)。これら2本鎖と1本鎖の混合物は、ヒドロキシアパタイトを含むカラムに通すことで1本鎖の反転オリゴヌクレオチド5のみを抽出することができる(図34)。
【0261】
このように抽出した非発現遺伝子に対応するDCNkをもつ反転オリゴヌクレオチド5を、ストレプトアビジンを結合した磁気ビーズに捕獲する(図35)。次に、上述した存在オリゴヌクレオチド3のみの抽出と同様に、DCNk *に相補的なオリゴヌクレオチド6をハイブリダイゼーションし、過剰なオリゴヌクレオチドを除去して非発現遺伝子を示すDCNk *にハイブリダイゼーションした不存在オリゴヌクレオチド6のみを抽出することができる(図35)。
【0262】
不存在オリゴヌクレオチド6を得るための工程は以下のようにも実施できる。即ち、DCNiオリゴヌクレオチドの5’端にFITCなどの蛍光分子を標識しておき、DCNiに相補的な配列を有するプローブを含むDNAマイクロアレイにおいてハイブリダイゼーション反応を行う。これをスキャナなどで読み取り、どのDCNiが存在するかを検出する。このとき同時に、これにより存在していないDCNkもわかる。従って、これらのデータから、次の演算のためにDCNk *なる不存在オリゴヌクレオチド6を準備する。以上により存在しない核酸をその核酸に対応する不存在を示す核酸に変換することが達成される。これにより演算用核酸上での論理演算が可能になる。
【0263】
また、この不存在オリゴヌクレオチド6を作る工程において、1本鎖の反転オリゴヌクレオチド5を鋳型として不存在オリゴヌクレオチド6を増幅してもよい。増幅は、例えば、図40から図45に示される各工程を経て実施することが可能である。ここで、図40から図45は、それぞれの工程を示すものであり、且つ各系に存在する分子を模式的に示したものである。各図中に示される記号等の詳細は上述した通りである。まず、図34の工程に従って、抽出された1本鎖のままの反転オリゴヌクレオチド5を得る(図34)。この反転オリゴヌクレオチド5に対して、図40に示すような、3’端側でSDに相補的な配列と、且つ5’端側でED配列に相補的な配列と結合したDCNk *に相補的な配列を有したオリゴヌクレオチド7をハイブリダイゼーションすることで不存在オリゴヌクレオチド6を抽出する。続いて、FIG.36から22に示すような工程により、存在オリゴヌクレオチド3と同様に増幅したDCNk *を得ることができる。即ち、図41に示す工程で、図40の工程において得たオリゴヌクレオチド7に対してビオチン標識したSD配列を有するプライマー1と、ED配列に相補的な配列を有するプライマー2を用いてPCR増幅する(図41)。次に、PCR産物をビオチンをストレプトアビジン分子に結合することにより回収する(図42)。続いて、熱変性により、PCR産物を1本鎖にする(図43)。続いて、DCNk *に相補的な配列をもつ不存在オリゴヌクレオチドを、ビーズに捕獲されたPCR産物にハイブリダイズする(図44)。このハイブリダイゼーションの後、過剰な存在オリゴヌクレオチドを除去し、続いて、改めて熱をかけることによってビーズに捕獲されているDCNk *の相補鎖(即ち、不存在オリゴヌクレオチド6)をバッファ中に抽出する。ここで抽出されたDCNk *に相補的な塩基配列を有する不存在オリゴヌクレオチド6が、即ち、もとのcDNA溶液中に標的遺伝子が存在しないことを示す不存在分子である。
【0264】
(1.3)演算工程
演算工程では、上述で得られた存在分子および不存在分子と、以下に説明する演算用核酸とのハイブリダイゼーションおよび相補鎖合成とを行い、それによって、所望する条件を現す演算式を解き、該条件を満たす解を求める並列計算を行う。
【0265】
演算の例として演算式として数式4を用いる。ある特定の配列DCN1、DCN2、DCN3およびDCN4を標的配列とし、その有無の条件について論理式として示した数式4を、演算用核酸と存在分子および不存在分子とのハイブリダイゼーション反応と伸長によって、演算し、値を評価する。数式4は、DCN1、DCN2、DCN3およびDCN4についての所望する有無についての組合せを所望の条件として示している。即ち、本例では数式4の解を求めるということは、あるサンプル中における複数の標的配列の有無を同時に評価することである。
【0266】
【数4】
式中、「¬」は「否定」、「∧」は「論理積」、「∨」は「論理和」を表す記号である。
【0267】
演算用核酸に設定した条件を満たす場合は、当該式の値は「1」、即ち「真」となる。また、演算用核酸に設定した条件が満たされない場合は、当該式の値は「0」、即ち「偽」となる。また本発明は、基本的な排他的論理和を達成している。従って、この組合せを用いればブール代数の全ての論理演算を実現できる。
【0268】
図36に示すのが演算用核酸8の配列構造である。演算用核酸は1本鎖のオリゴヌクレオチドであり、図では矢印で示している。矢印の向きは5’端から3’端に向かっている。5’端にはビオチン分子が付いている。演算用核酸は複数のユニットを含む。その塩基配列は、5’端から順に、マーカー分子が結合するM1、DCN1が存在しないときに得られるオリゴヌクレオチドを検出する配列DCN1 *、DCN2、ポリメラーゼによる相補鎖伸長が止まるような配列を具えたストッパ配列S、2つ目のマーカーが付くM2、DCN3、DCN4 *である。この演算用核酸の配列は、論理式の各項の並びにほぼ対応する。論理式の「否定」もそのままの配列となる。例えば、「DCN4」配列の存在が「否定」される場合には、「DCN4 *」の配列を用いる。ここで、DCN4 *は上述した通りのDCN4の対応するように設計された人工的な配列である。また、「論理和」記号はS配列に置き換えればよい。「論理積」は演算用核酸上の配列として置き換える必要はない。式1のための演算用核酸の演算は、表3の各条件を満たすときに、その値が1になる。表3中「―」はどのような状態でもよいことを示す。
【0269】
【表3】
【0270】
以下、論理式を評価する核酸反応について、その工程を説明する。演算工程は図37から図39の工程を含み、演算反応は次の手順で行う。先に述べた論理式の演算を行うときには、図36に挙げた配列を具備した演算用核酸を準備する。1つのチューブに対して1種類の演算用核酸を入れ、それに先の工程で得た存在オリゴヌクレオチドと不存在オリゴヌクレオチドを含む溶液を入れ、ハイブリダイゼーション反応を行う(図37)。ここで、仮に、DCN1、DCN3、DCN4が存在し、DCN2が不存在であるならば、演算用核酸にハイブリダイゼーションするのはDCN3のみである(図37)。また、ハイブリダイゼーション反応後、Taqポリメラーゼなど高温でも活性のある酵素により、ミスハイブリダイゼーションがおきない条件下で伸長反応を行うと、図38のようにM2配列部分は2本鎖となりS配列で伸長が止まる(図38)。
【0271】
次に、ストレプトアビジン磁気ビーズにより反応が終了した演算用核酸を捕獲する(図39)。最後に、検出反応としてマーカーオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション反応を行う(図39)。図39では、担体上に固定された演算用核酸を示しており、その5’端のビオチン分子は担体上にあるストレプトアビジン分子に結合している。さらにマーカー検出配列に相補的な配列をもつマーカーオリゴヌクレオチドM1、M2を準備する。これらマーカーオリゴヌクレオチドの5’端には蛍光を発する分子が付いている。この例では、演算用核酸のM1配列は2本鎖化されていないので、当該マーカーは演算用核酸に結合することが可能である(図39)。このあと、結合していないマーカーを除去してビーズを蛍光観察すれば、マーカーオリゴヌクレオチドM1がハイブリダイゼーションして蛍光を発するため演算結果得られる論理式の値は「1」であることが分かる。
【0272】
上述では、S配列をストッパーとして使用したが、S配列を必ずしも配置する必要はない。その代わりとしてS配列をなくし、相補鎖が形成されないように人工的な塩基を具えたヌクレオチドを含ませてもよい。このとき、演算用核酸をS配列の両側に配置すればよい。例えば、S配列は、他の配列部分にシトシン塩基が含まれないように設計し、S配列の塩基配列にシトシン塩基が含まれるように設計してもよい。この場合、図38に示す演算用核酸上での伸長反応の際にモノマーとしてdGTPを別途加えなければ伸長反応はS配列上で停止する。また或いは、ポリメラーゼが伸長反応を停止し易いグアニンやシトシンの連続した塩基配列としてもストッパーとしての目的を達成できる。或いは、S配列に相補的なPNAを演算用核酸にハイブリダイゼーションさせておいてもよい。この場合、DNAとDNAのハイブリッドよりも、DNAとPNAのハイブリッドは安定であるため、5’エクソヌクレアーゼ活性のあるポリメラーゼであっても除去することなできない。従って、S配列がストッパーとして機能する。
【0273】
また、マーカーオリゴヌクレオチドの蛍光標識の種類を増やしてもよい。現在は、数多くの蛍光色素が開発されており異なる核酸に異なる蛍光色素を標識することが可能である。そのようにすれば、同時に多くの演算用核酸を標識することができる。例えば、この実施の形態において、M1マーカーオリゴヌクレオチドとM2マーカーオリゴヌクレオチドとの間で蛍光分子を変えれば、検出した際に論理式の括弧で囲まれたどちらの条件が充足されたのかが判明する。また、演算用核酸毎にマーカー配列を変え、マーカーオリゴヌクレオチドに標識する蛍光分子も変えれば、1つのチューブに複数種類の演算用核酸を入れて同時に演算反応をすることもできる。更にまた、蛍光強度は演算核酸の表現する論理式の充足度に比例するので、その大きさを知ることも可能である。
【0274】
また、演算結果を得るに当たって、次のようなこともできる。即ち、この実施の形態における存在オリゴヌクレオチドと不存在オリゴヌクレオチドを増幅する工程において、PCR反応を増幅が飽和するように十分なサイクル数行えば、「存在」を「1」、「不存在」を「0」とする2値の論理演算が可能である。一方、PCR反応を増幅を飽和させず、元のcDNAの存在量に比例した量だけ得られるようにサイクル数を抑えれば、論理式を区間[0,1]で確率的に評価することができる。例えば、発現遺伝子の場合は発現量に応じた結果が得られ、ゲノム配列であれば、ヘテロ接合かホモ接合かの違いを演算結果で知ることができる。
【0275】
さらに演算用核酸をDNAマイクロアレイのように、基板上に微小スポット状に固定し、その場所と演算用核酸の論理式が対応するようにアドレシングしておいてもよい。このようにしたときはマーカーオリゴヌクレオチドには蛍光標識をしておくのが好ましい。先に述べた演算反応をマイクロアレイ上の演算用核酸で行うと、DNAマイクロアレイの読みとり用スキャナで演算結果を読みとることができる。
【0276】
また、このマーカーオリゴヌクレオチドにビオチン分子を標識していてもよい。このとき、演算用核酸の5’端にはビオチンを付けず、3’端、5’端にクローニングのための制限酵素認識配列を含むものにする。さらに反応においては図39に示すような演算用核酸をストレプトアビジン磁気ビーズにより捕獲する工程を行わない。この場合の検出反応はマーカーオリゴヌクレオチドをハイブリダイゼーション反応した後で、ストレプトアビジン磁気ビーズによって演算用核酸をハイブリダイズしたマーカーオリゴヌクレオチドもそうでないものも両方とも捕獲し、捕獲された演算用核酸をクローニングし、シーケンサーで塩基配列を読み取る。それにより演算結果が「1」となる演算用核酸を確認することができる。このようにすれば1つのチューブに複数種の演算用核酸を入れて反応を行うことができる。
【0277】
ここでは、4つの標的配列を用いた例を用いたが、更に多くの標的配列を対象とすることも可能である。また、ここでは、ビオチンとストレプトアビジンを回収を行うためのタグとして使用したが、これに限られるものではなく、タグとこれに対して高親和性を有するものであればどのような物質を使用してもよい。
【0278】
(b)第2の実施の形態
本発明の好ましい態様に従うと、上述した方法において、DCN配列として正規直交化配列を用いてもよい。「正規直交化配列」とは人工的に設計した塩基配列であって、「正規」とは融解温度(Tm)が揃っていることを示し、「直交化」とはミスハイブリダイゼーションが起きず、自己分子内で安定な構造をとらないということを意味する。
【0279】
例えば、15塩基の正規直交化配列を求めるには、任意の5塩基をランダムに生成する。これら短い塩基配列を「タプル」と呼ぶことにする。5塩基長のタプルは45=1024種類ある。これらタプルの中から3つを選んで連結し15塩基を構成する。この連結に用いたタプルに相補的なタプルは以降の連結には用いない。ここで、これらを連結した15塩基の配列のTmが±3℃以内に揃うような15塩基のセットを作る。また、自己分子内で安定な構造を取るかどうかも計算し、安定な構造をなすならばそのような15塩基は排除する。
【0280】
最後に全ての配列同士で互いに安定な2本鎖を形成しないかを検証する。以上の方法で生成した15塩基の配列は反応温度を適切に選べば互いにハイブリッドを形成せず、混在しても独立したハイブリダイゼーション反応をするのでより好ましい。これら正規直交化配列を特定の遺伝子塩基配列と対応関係を持つように核酸aiとAiの配列を選び第1の実施の形態に従って反応を行えば、反応条件がより簡単になり、しかもより正確な演算反応を行うことが可能である。
【0281】
(c)第3の実施の形態
続いて、本発明の好ましい態様に従うと、複数の遺伝子座にそれぞれ特定の塩基配列が存在することで決まるような遺伝子型を判定するためにも使用できる。ここでは、そのような遺伝子型を判定する方法の例を示す。
【0282】
遺伝子型に対応する論理式を設定し、その論理式に基づき演算用核酸を設計する。それにより、電子計算機や判定表を用いずに遺伝子型を判定することができる。具体的には、例えば遺伝子座1で塩基A、遺伝子座2で塩基T、遺伝子座3で塩基Gであるとき遺伝子型Aと判定でき、また、遺伝子座1で塩基A、遺伝子座2で塩基C、遺伝子座3で塩基Tであるとき遺伝子型Bであり、また、遺伝子座1で塩基A、遺伝子座2で塩基C、遺伝子座3で配列Gであるとき遺伝子型Cと判定できるならば、それぞれを満たす論理式は表4の右端欄に示す通りになる。
【0283】
【表4】
【0284】
遺伝子型判定はそれぞれの論理式と対応する演算用核酸により演算反応を行う。先ず、式の各要素について遺伝子座に特定の配列が存在する場合の値を1とし不存在の時を0とし、最終的に式全体の値が1となる式があるならば、その式に対応する遺伝子型が判定結果となる。このような核酸を用いた演算いる本発明の方法により、遺伝子座が多くあり且つ遺伝子型は極少ないような遺伝子の型判定が、複雑な表や電子計算機を必要としない簡便なものとなる。
【0285】
(d)第4の実施の形態
更に、本発明の好ましい態様に従うと、上述の方法は、癌細胞の遺伝子発現において各種遺伝子がどのような発現、非発現の条件(即ち、状態)下にあるかのを調べることにも利用できる。上述した第1の実施の形態に対すると、第3の実施の形態は、所謂「逆問題」とも呼ぶことも可能である。
【0286】
予め、様々な論理式を表す演算用核酸を準備する。この演算用核酸は、5’端をリン酸化した各種の論理式要素、すなわちDCNi、DCNi *、S、M等からなる配列を有する。これらに加えて、例えば、図45に示すような論理式要素を連結するための連結用相補核酸9を準備する。連結用相補核酸9の配列は、連結を所望する仕切部分に隣接して存在する2つの部分の配列に相補的な配列を有すればよい。
【0287】
これら核酸をハイブリダイゼーションし、ライゲースで連結反応すれば任意に論理式要素が結合された演算用核酸が得られる。連結用相補核酸の配列を十分考慮して設計することで論理式として不適当なものが生成されないようにできる。
【0288】
この演算用核酸を用いて逆問題を解くには、癌細胞から取得したcDNAを第1の実施の形態にしたがって、論理式要素の配列に変換し、あらかじめ準備しておいた様々な論理式を表す演算用核酸により論理演算を行う。最後にこれら演算用核酸が表現する論理式のうち、満たされるものがあるかどうかを検出する。このうち、論理式の値が1となった演算用核酸の意味する内容を解釈することによって、どのような遺伝子の発現、非発現状態が満たされる条件にあるのかを解明することが可能である。或いは少なくともその部分条件を解明することが可能である。
【0289】
任意に作製した演算用核酸の配列を同定するには、先ず、1つの容器において反応する。次に、第1の実施の形態のビオチン分子を結合したマーカーオリゴヌクレオチドにてストレプトアビジン磁気ビーズに演算用核酸を回収する。続いて、シーケンシングを行い、演算分子の内容を読みとる方法で論理式を読み取ることが好ましい。また、任意に演算用核酸を作製せずとも、論理式を決めて連結により演算用核酸を合成する方法でおこなってもよい。この場合には、それら論理式をDNAマイクロアレイにアドレシングして固定し、検出時に論理式を確認してもよい。または、1つの容器に1種類の演算用核酸を入れて反応を行っても良い。
【0290】
これらの結果を正常細胞と比較すれば、未知のゲノム塩基配列の組み合わせにより生ずる遺伝病や、未知の遺伝子発現の組み合わせによって生ずる遺伝子異常による癌などの疾病の原因遺伝子を容易に特定することができる。
【0291】
(e)考察
従来の技術には、特定の核酸が存在しないことを核酸表現に変換できる技術はなく、また、そのような思想すらない。例えば、mRNAの発現状態を検出するにはDNAマイクロアレイがよく用いられている。このマイクロアレイには既知の遺伝子塩基配列をもとに設計したオリゴDNA、またはあらかじめ取得したcDNAをプローブとしてスライドガラス上にアレイ状に固定している。
【0292】
このマイクロアレイで発現を検出するには、mRNAから蛍光標識したcDNAを作製し、マイクロアレイのプローブと該cDNAとをハイブリダイゼーション反応をさせ、特定の配列のプローブを固定した場所に特定の標識したcDNAが結合して光ることで検出する。ところが、発現していないmRNAからは標識cDNAが作製できないので、遺伝子が発現していないことを検出できない。すなわち、実験中にmRNAが失われたり、遺伝子が発現しているにもかかわらず生成される蛍光標識cDNAが少ないために不存在であると判定されることがある。このような従来の方法とは異なり、本発明の1態様に従うと、不在の核酸の情報を可視化することが可能である。
【0293】
また、遺伝子核酸を反応させるとき、数多くの遺伝子が混在した状態では思わぬ核酸同士がハイブリッドを形成して反応することがある。また、塩基配列に含まれるグアニンやシトシンなどの塩基の数は2本鎖核酸の構造を安定化する。このような塩基が、取り扱う遺伝子核酸毎にまちまちであれば、ハイブリッドを形成する最適な温度が異なる。そのため、全ての核酸がミスマッチのない、適切なハイブリッドを形成できるとは限らない。また、自己分子内で構造をとり、標的配列との反応性が低くなるような塩基配列をもつ核酸が混在している場合には、理論的に予想される反応が進まないこともあり得る。このような従来の方法に比較して、本発明の態様に従う方法では、情報を、好ましい条件で設計した核酸分子に、置き換えてから、反応に使用するので、安定した反応を行うことが可能である。
【0294】
また、化学発光など酵素を用いた検出法は高感度であるが、検出のための処理が面倒で時間がかかる。更に、1チューブ内で複数の種類の化学発光を行うことは難しい。また、演算用核酸を用いて演算した場合、その結果を見るのに単一の発色もしくは発光反応では1チューブで1種類の演算用核酸しか反応できない。これに対して、本発明の態様に従えば、感度よく、多数の標的核酸を同時に感度よく検出することが可能である。
【0295】
また、従来の方法では、核酸の存在条件のみに基づいて作った論理式が演算用核酸に書き換えられている。ところがおよそ世の中に存在する問題は所謂「逆問題」である。例えば遺伝病における各遺伝子の発現状態について調べたとき、どのような遺伝子核酸の存在、不存在の条件が満たされれば病気になるのかが問題である。従って、遺伝子核酸の存在および不存在の論理式を求めることこそが問題なのである。従来では、このような問題は、DNAマイクロアレイのデータを大型計算機によりクラスタ解析して解いていた。従って、非常に多くの時間と費用とが必要とされていた。本発明の態様に従うと、短時間に、且つ経済的にそのような問題を解くことが可能である。
【0296】
ここでは、遺伝子解析のための方法についても示したが、これに限定されず、本発明の範囲を超えることなく種々の並列計算による情報処理を行うことが可能である。即ち、遺伝子解析以外の情報の、例えば、数学的な問題を並列処理を行って解く場合においても、優れた利点を得られる当業者には容易に理解されるであろう。
【0297】
III.その他の適用例
(1)上述したように本発明の1態様は、
分子の化学反応により分子計算を実行する分子計算方法であって、
分子を核酸配列に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義された変数及び定数と、前記符号分子の演算反応に対応付けて定義された関数により記述されたプログラムを、前記符号分子の演算反応に対応する分子の化学反応の反応制御を行う反応制御部を駆動させるための制御命令に変換して前記制御命令の手順を生成し、
前記制御命令の手順を前記反応制御部に出力し、
前記制御命令の手順に基づき分子の化学反応の反応制御を行う
方法を提供する。
【0298】
また、この態様では、分子の化学反応のうち、核酸配列の反応の規則性に着目し、その規則性を演算反応に対応付けた。核酸配列の反応の規則性のみならず、分子の他の生物学的及び生化学的な規則性に基づき生じる化学反応を演算反応に対応付けることにより、同様の分子計算が可能となる。
【0299】
例えば、本発明の核酸配列以外の生物学的および生化学的物質、例えば、ペプチド、オリゴペプチドおよびポリペプチド、蛋白質、並びに抗原および抗体などの生物学的および生化学的な要素を用いることができる。この場合、これら要素を核酸配列に替えて符号化し、符号化されたこれら各要素に対して対応付けて定義された変数および定数と、符号化された要素の演算反応に対応付けて定義された関数により記述されたプログラムにより原始プログラムを作成すればよい。
【0300】
この明細書には、以下の発明が含まれることを確認する。
【0301】
分子の化学反応により分子計算を実行する分子計算の計画を設定する分子計算計画設計装置であって、
分子を該分子の生物学的性質又は生化学的性質に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義された変数及び定数と、前記符号分子の演算反応に対応付けて定義された関数により記述されたプログラムを、前記符号分子の演算反応に対応する分子の化学反応の反応制御を行う反応制御部を駆動させるための制御命令に変換して前記制御命令の手順を生成する制御命令生成部と、
前記制御命令の手順を出力する出力部。
【0302】
(2)さらなる適用例を以下の(2a)〜(2c)に示す。
【0303】
(2a)この実施形態は、異なる反応原理が、同一の分子に対する生物学的処理工程を段階的に分割した複数の単位処理工程に相当し、少なくとも対象となる分子の前処理反応、主反応とを単位処理工程として含む場合の分子計算に関する。より具体的には、前処理反応が核酸抽出のための反応工程を含むとともに、主反応が標的核酸に対する特異的な核酸ハイブリダイゼーションのための反応工程を含んでいる。
【0304】
(2b)この実施形態は、異なる反応原理が、それぞれ異なる生物学的活性に基づく反応を有するものであって、好適には生物学的活性が、免疫学的活性、生化学的活性、遺伝学的活性、生理学的活性の群から選ばれる異なる活性の任意の組合せからなる。従って、例えば抗原抗体反応、核酸のハイブリッド形成など、情報を担う分子の種類がアミノ酸、タンパク質、核酸などの複数種類にわたって処理される反応を含む。ここで、異なる反応原理にそれぞれ適用される符号分子が、異なる反応原理に対応する複数の化学反応の各々について共通の符号化形式により符号化された部分を少なくとも含むことによって、生物学的活性の種類に関係無く、一括して分子計算することが可能となる。共通の符号分子として好ましいのは、正規直交化配列である。
【0305】
(2c)この実施形態は、異なる反応原理が、同一の生物学的活性に対して異なるアルゴリズムを経て計算結果を出力するような分子計算に適用するものである。異なるアルゴリズムを実行するための技術要素としては、同一の生物学的活性に対して互いに異なる機器を適用する場合が例示される。ここで、異なる機器は、反応容器、液体分注手段、測定手段、温調手段の群から選ばれる。
【0306】
反応容器において異なる機器というのは、形状、寸法あるいは材質が異なるような化学反応用の任意の種類の反応容器(ウェル、フィルタ、キャピラリ、平板、棒体等)が挙げられる。また、液体分注手段において異なる機器というのは、分注する液体の種類、量あるいは組成が異なるような化学反応用の任意の工程に使用される液体分注手段である。ここで、分注する液体は、異なる種類の試薬を含んでいたり、1個以上の微粒子を含んでいてもよい。また、測定手段において異なる機器というのは、測定原理(光測定、電気化学測定、電磁測定、イオン測定、分子運動測定、振動測定、画像測定等)又は測定機構(共焦点光学系、散乱光学系、センサ、流路系、スキャニング系等)が異なるような化学反応用の任意の種類の測定手段が挙げられる。また、温調手段において異なる機器というのは、反応のための温度、恒温時間、保温構造、あるいは温調タイミングが異なるような化学反応用の任意の種類の温調手段が挙げられる。
【0307】
好ましくは、異なる反応原理のそれぞれに適用される符号分子が、異なる反応原理に対応する複数の化学反応の各々について共通の符号化形式により符号化された部分を少なくとも含むことによって、必要とするアルゴリズム、ひいては実行用機器の種類に関係無く、一括して分子計算することが可能となる。共通の符号分子として好ましいのは、正規直交化配列である。
【0308】
これら(2a)〜(2c)に示した実施形態は、前述の実施形態の分子計算部と電子計算部からなる分子計算装置において、分子計算部や電子計算部の周辺装置を含んだ、システムとしての分子計算装置を想定している。
【0309】
周辺装置としては、例えば細胞からRNAを抽出する検体前処理装置、DNAマイクロアレイの蛍光をスキャニングし読み取るマイクロアレイスキャナ、出力されたデータをプリントアウトする装置、そのデータをデータベースに登録する装置などが該当する。
【0310】
これら周辺装置により、分子計算装置による処理の前後や、核酸による分子計算の途中の処理に割込をかけて分子計算装置の中核部分以外で処理を行う部分を包括したシステムとしても本発明が成立することが確認される。
【0311】
(2a)〜(2c)において、反応原理とは、例えば核酸が相補的に結合するハイブリダイゼーションの原理、制限酵素により認識切断される原理、抗体が抗原に結合する原理、RNAが特殊処理したカラムで抽出される原理などを含む。「反応原理が異なる」場合とは、対象物質や対象物質同士の反応方法、反応量等の分子計算内容が異なる場合を指す。
【0312】
(2a)において、「同一分子」とは、例えば核酸が対象物質であればその核酸のことを指す。従って、「同一の分子に対する生物学的処理工程」とは、例えば同一の核酸に対するAmplifyやEncodeなどの異なる関数による反応原理などが含まれる。また、前処理には、例えば細胞からの遺伝子DNAの抽出や、抽出したRNAからのDNAへの逆転写などが含まれ、主反応とは、これらDNA抽出や逆転写などとは対照的に分子計算装置本体で行われる反応を指す。生物学的処理工程とは、分子計算部で行われる実験の各ステップに対応する。このように、生物学的処理工程のそれぞれで、計算における情報を担う物質が順次処理されていく。
【0313】
なお、上述の(2a)〜(2c)に示した内容により、以下のような種々の作用効果が達成される。
【0314】
(イ)本装置の計算反応計画機能は、分子計算装置だけの計算反応計画立案のみならず、本発明の説明に述べていない異なる反応原理を用いて反応装置、検出装置、核酸抽出装置、細胞培養装置などと組み合わせたシステムに対しても適用できる。これは、例えば抗原抗体反応、高速液体クロマトグラフィーによる検出などの装置と組み合わせた分子計算システムについて、それら装置の入出力、処理や計測の時間を考慮して適切な計算反応計画を立案できるということである。
【0315】
従って、本発明は、分子計算装置と組み合わせた反応装置、検出装置、検体前処理装置、細胞培養装置を含めた計算反応を立案する分子計算システムとしても成立する。
【0316】
(ロ)核酸タグ(標識)を用いた検出方法と組み合わせた分子計算装置としても成立する。例えば、抗体に正規直交化配列のタグ核酸を標識し、その抗体を用いて抗原抗体反応を行い、その正規直交化配列のタグ核酸を検出する方法を用いた場合でも計算反応を行うことができる。これは、遺伝子検出に限った用途ではなく、例えばタンパク質の相互作用を利用すると、その親和度に応じて結合した結合量を読み取るような計算にも適用できる。
【0317】
(ハ)遺伝子検出をこの分子計算装置により行うと、遺伝子配列は正規直交化配列に変換されて反応処理される。従って、従来の技術では困難であった類似した遺伝子配列の識別が容易にでき、また論理演算など計算反応を行うことができる。このことで、従来検出結果が出てからコンピュータで計算処理をしていた手順を省くとともに、直接DNAを計算対象にすることで処理結果がより正確になる。故に高機能で正確かつ高速な遺伝子検査診断システムが構成できる。
【0318】
(ニ)遺伝子検査診断システムの分子計算装置の検出部において、マイクロアレイを用いると一度に数多くの正規直交化配列を検出することができる。
【0319】
(ホ)キャピラリアレイを用いると同時に多種類の異なる検体に対して、それぞれ多くの正規直交化配列を検出することができる。
【0320】
(ヘ)遺伝子検査診断システムの分子計算装置の検出部において、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy : FCS)を用いると、少量の試料溶液で特定の正規直交化配列が試料中に存在することを高感度に検出することができ、反応液量が少ない高感度で正確で高速な遺伝子検査診断システムが構成できる。
【0321】
なお、この(2a)〜(2c)で示した実施形態は、本発明の属する技術分野の通常の知識を有する者であれば、他の実施形態の記載と組み合わせて分子計算装置や分子計算プログラムを設計し、分子計算方法を実行することができることは容易に理解できるであろう。
【0322】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、分子計算機の高い並列計算性を活かし、しかも分子計算機だけでは実現することが難しい機能を電子計算機により補完することにより、従来の電子コンピュータよりも高速に計算を実行することが可能となる。特に、本発明では、異なる反応原理に対応する複数種類の反応を、分子演算の並列性を利用して総括的に分子計算するようにしたので、分子計算機の機能を最大限に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の分子計算装置を示すブロック図。
【図2】本発明の分子計算装置の各部の配置を示す模式図。
【図3】本発明の分子計算装置を示すブロック図。
【図4】本発明の分子計算方法の処理のフローチャート。
【図5】分子計算方法の処理の変形例を示すフローチャート。
【図6】分子計算方法の処理の変形例を示すフローチャート。
【図7】分子計算方法の処理の変形例を示すフローチャート。
【図8】分子計算方法の処理の変形例を示すフローチャート。
【図9】分子計算方法の処理の変形例を示すフローチャート。
【図10】分子計算方法のデータフロー図。
【図11】手続または関数−演算反応変換データテーブルの一例を示す図。
【図12】演算反応手順テーブルの一例を示す図。
【図13】実行手順テーブルの一例を示す図。
【図14】制御命令手順テーブルの一例を示す図。
【図15】コマンドの処理の概要を示すフローチャート。
【図16】コマンドの処理の概要を示すフローチャート。
【図17】コマンドの処理の概要を示すフローチャート。
【図18】コマンドの処理の概要を示すフローチャート。
【図19】配列の同定方法の例を示す概念図。
【図20】プログラムの流れを示すフローチャート。
【図21】配列同定の結果を示すチャート。
【図22】遺伝子解析のためのエンコード反応とデコード反応とを示すフローチャート。
【図23】遺伝子解析のための分子設計例を示す図。
【図24】遺伝子検出反応工程における各分子の状態を示す模式図。
【図25】標的が存在した場合の反応系における各分子の状態を示す模式図。
【図26】ストレプトアビジン磁気ビーズによる捕獲工程における各分子の状態を示す模式図。
【図27】DCNiの抽出工程における各分子の状態を示す模式図。
【図28】抽出工程で得られたDCNiに相補的な配列の増幅の模式図。
【図29】図28の増幅により得られた増幅産物を捕獲する工程における各分子の状態を示す模式図。
【図30】熱変性により一本鎖化する工程における各分子の状態を示す模式図。
【図31】発現遺伝子の情報を存在分子に変換する工程における各分子の挙動を示す模式図。
【図32】非発現遺伝子を検出し、不存在分子に変換するための最初の工程における反転オリゴヌクレオチドと存在分子の反応を示す模式図。
【図33】ある非発現遺伝子のための反転オリゴヌクレオチドの状態を示す模式図。
【図34】反転オリゴヌクレオチドの抽出工程における分子の状態を示す模式図。
【図35】ストレプトアビジンを固定した磁気ビーズによるDCNk*の捕捉とハイブリダイゼーションによる抽出工程における各分子の状態を示す模式図。
【図36】演算用核酸を示す模式図。
【図37】演算用核酸と存在分子および不存在分子とのハイブリダイゼーション工程における各分子の状態を示す模式図。
【図38】図37の工程の後に演算用核酸にハイブリッドした前記分子を伸長する工程における各分子の状態を示す模式図。
【図39】マーカーオリゴヌクレオチドM1およびM2による計算結果の検出工程における各分子の状態を示す模式図。
【図40】不存在分子の増幅のために不存在分子を抽出回収する工程における各分子の状態を示す模式図。
【図41】不存在分子の増幅のためのPCR工程における各分子の状態を示す模式図。
【図42】図41の工程により生じた増幅産物を捕獲する工程における各分子の状態を示す模式図。
【図43】図42の工程で回収された増幅産物を1本鎖にする工程における各分子の状態を示す模式図。
【図44】図43の工程の1本鎖に対する不存在分子のハイブリダイゼーションを行う工程における各分子の状態を示す模式図。
【図45】演算用核酸のランダムライブラリの作成方法において使用する連結用相補核酸と、連結対象となる演算用核酸の一部分を示す模式図。
【符号の説明】
11…入力部
12…入出力制御部
13…記憶部
14…演算部
14a…翻訳・計算計画立案・実行部
14b…核酸配列計算部
14c…結果解析部
15…演算部
16…記憶部
17…入出力制御部
18…入力部
19…出力部
20…出力部
21…電子計算部
22…分子計算部
23,24…通信部
30…核酸合成装置
151…自動制御部
152…XYZ制御ピペッタ
153…サーマルサイクラ反応容器
154…ビーズ容器
155…酵素容器
156…緩衝液容器
157…核酸容器
158…検出部
159…温度制御手段
160…搬送機構
Claims (14)
- 分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応により分子計算を実行する分子計算装置であって、
分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応の反応制御を行う反応制御部を備えた分子計算部と、
分子を核酸配列に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義された変数及び定数と、前記符号分子の演算反応に対応付けて定義された関数により記述されたプログラムを、前記符号分子の演算反応に対応する分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応の反応制御を行う前記反応制御部を駆動させるための制御命令に変換して前記制御命令の手順を生成する制御命令生成部と、
前記制御命令の手順を出力する出力部とを有する電子計算部
を備える分子計算装置。 - 分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応により分子計算を実行する分子計算の計画を設定する分子計算計画設計装置であって、
分子を核酸配列に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義された変数及び定数と、前記符号分子の演算反応に対応付けて定義された関数により記述されたプログラムを、前記符号分子の演算反応に対応する分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応の反応制御を行う反応制御部を駆動させるための制御命令に変換して前記制御命令の手順を生成する制御命令生成部と、
前記制御命令の手順を出力する出力部からなる分子計算計画設計装置。 - 分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応により分子計算を実行する分子計算方法であって、
分子を核酸配列に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義された変数及び定数と、前記符号分子の演算反応に対応付けて定義された関数により記述されたプログラムを、前記符号分子の演算反応に対応する分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応の反応制御を行う反応制御部を駆動させるための制御命令に変換して前記制御命令の手順を生成し、
前記制御命令の手順を前記反応制御部に出力し、
前記制御命令の手順に基づき分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応の反応制御を行う
分子計算方法。 - コンピュータシステムに、分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応による分子計算の実行を制御させる分子計算プログラムであって、この分子計算プログラムは、前記コンピュータシステムを、
分子を核酸配列に基づき符号化した符号分子に対応付けて定義された変数及び定数と、前記符号分子の演算反応に対応付けて定義された関数により記述されたプログラムを、前記符号分子の演算反応に対応する分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応の反応制御を行う反応制御部を駆動させるための制御命令に変換して前記制御命令の手順を生成する指令を前記コンピュータシステムに与える第1の手段と、
前記記録媒体に記録され、前記制御命令の手順を出力する指令を前記コンピュータシステムに与える第2の手段と、
前記記録媒体に記録され、前記反応制御部による反応制御により実行された分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応の検出結果を受信し、前記プログラムの記述形式に変換して前記プログラムの計算結果を導出する指令を前記コンピュータシステムに与える第3の手段
として機能させる分子計算プログラム。 - 分子計算部に分子の化学反応であって且つ複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応による分子計算の実行をさせる指令を与える電子計算部に対して指令を与える分子計算結果解析プログラムであって、この分子計算結果解析プログラムは、前記電子計算部を、
前記分子計算部により計算した情報を、前記電子計算部の電気学的プログラムに適合する情報形式に変換する指令を前記電子計算部に与える手段
として機能させる分子計算結果解析プログラム。 - 前記異なる反応原理の各々が、同一の分子に対する生物学的処理工程を段階的に分割した複数の単位処理工程の各々に相当し、少なくとも対象となる分子の前処理反応及び主反応とを単位処理工程として含む請求項1に記載の分子計算装置。
- 前記前処理反応が核酸抽出のための反応工程を含むとともに、前記主反応が標的核酸に対する特異的な核酸ハイブリダイゼーション反応を含む請求項6に記載の分子計算装置。
- 前記異なる反応原理の各々が、分子の異なる生物学的活性に基づく複数種類の生物学的反応工程の各々に相当する請求項1に記載の分子計算装置。
- 前記生物学的活性が、免疫学的活性、生化学的活性、遺伝学的活性、生理学的活性の群から選ばれる請求項8に記載の分子計算装置。
- 前記異なる反応原理に対応する複数の化学反応の各々が、同一の生物学的活性に対して異なるアルゴリズムを経て実行される請求項1に記載の分子計算装置。
- 前記異なる反応原理に対応する複数の化学反応の各々が、同一の生物学的活性に対して異なる機器を適用して実行される請求項1に記載の分子計算装置。
- 前記異なる機器が、反応容器、液体分注手段、測定手段、温調手段の群から選ばれる請求項11に記載の分子計算装置。
- 前記符号分子が、複数の異なる反応原理に対応する複数の化学反応の各々について共通の符号化形式により符号化された部分を少なくとも含む請求項1に記載の分子計算装置。
- 前記符号分子が、正規直交化配列を有している請求項13に記載の分子計算装置。
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