JP2004002240A - ホルモン依存性癌の治療剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】ホルモン系薬剤の癌治療効果の持続と増強。
【解決手段】ホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなるホルモン依存性癌の治療剤および/またはホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延剤の提供。
【選択図】 なし
【解決手段】ホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなるホルモン依存性癌の治療剤および/またはホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延剤の提供。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、ホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなるホルモン依存性癌の治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、ホルモン系薬剤による薬物的去勢が広く癌治療に使用されているが、ホルモン系薬剤に反応しない癌(ホルモン非依存性癌)もあり、またホルモン療法に効果を示すホルモン依存性癌においても、治療を続けていると、ホルモン非依存性癌へ変化することが知られている(ラボラトリー・インベスチゲーション(Laboratory Investigation)67, 540, 1992年)。
従って、ホルモン依存性癌に対する治療では、ホルモン療法に反応する癌およびホルモン療法に不応の癌のいずれのタイプに対しても効果を示す治療法が理想的であるが、これまでに両方のタイプの癌を効果的に治療する方法は知られていなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、ホルモン療法がもたらす、癌細胞における増殖経路の変化を研究した過程において、ホルモン系薬剤の使用により、結果としてホルモン非依存性癌細胞の増殖が引き起こされるため、ホルモン系薬剤の癌治療効果が持続しないという新たな課題を発見した。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、ホルモン依存性癌の治療において、ホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなる剤を用いることによって、ホルモン系薬剤の優れた治療効果を増強、維持・持続させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
(1)ホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなるホルモン依存性癌の治療剤、
(2)ホルモン系薬剤がLH−RH誘導体である上記(1)記載の剤、
(3)LH−RH誘導体がLH−RHアゴニストである上記(2)記載の剤、
(4)LH−RH誘導体が式
5−oxo−Pro−His−Trp−Ser−Tyr−Y−Leu−Arg−Pro−Z
[式中、YはDLeu、DAla、DTrp、DSer(tBu)、D2NalおよびDHis(ImBzl)から選ばれる残基を、ZはNH−C2H5またはGly−NH2をそれぞれ示す]で表わされるペプチドまたはその塩である上記(3)記載の剤、
(5)LH−RH誘導体が5−oxo−Pro−His−Trp−Ser−Tyr−DLeu−Leu−Arg−Pro−NH−C2H5またはその酢酸塩である上記(3)記載の剤、
(6)分化誘導剤が脂溶性ビタミン類、核内受容体リガンド(PPARsリガンドなど)、ヒストンアセチル化調節薬、DNAメチル化調節薬または細胞情報伝達調節薬である上記(1)記載の剤、
(7)分化誘導剤が脂溶性ビタミン類である上記(1)記載の剤、
(8)ホルモン系薬剤と分化誘導剤の他に分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)を含有する上記(1)記載の剤、
(9)前立腺癌、卵巣癌、子宮癌または乳癌の予防治療剤である上記(1)記載の剤、
(10)ホルモン依存性癌の予防・治療のためのホルモン系薬剤と分化誘導剤の使用、
(11)ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させるための分化誘導剤の使用、
(12)ホルモン依存性癌の予防・治療のためのホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなる医薬を製造するためのホルモン系薬剤または/および分化誘導剤の使用、
(13)ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させるためのホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなる医薬を製造するためのホルモン系薬剤または/および分化誘導剤の使用、
(14)ホルモン系薬剤と分化誘導剤をホルモン依存性癌を持つ哺乳動物に投与することを特徴とする該哺乳動物においてホルモン依存性癌を治療する方法、
(15)ホルモン系薬剤と分化誘導剤をホルモン依存性癌を持つ哺乳動物に投与することを特徴とする該哺乳動物においてホルモン非依存性癌への変化を遅延させる方法、
などを提供する。
【0006】
さらに、本発明は、
(16)ホルモン系薬剤と分化誘導剤を用いることを特徴とするホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延方法、
(17)ホルモン系薬剤、分化誘導剤および分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)を用いることを特徴とするホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延方法、
(18)ホルモン系薬剤と分化誘導剤を用いてホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることを特徴とする癌の治療・予防方法、
(19)ホルモン系薬剤、分化誘導剤および分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)を用いてホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることを特徴とする癌の治療・予防方法、
(20)ホルモン系薬剤と分化誘導剤を用いてホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることを特徴とする癌転移・再発抑制方法、
(21)ホルモン系薬剤、分化誘導剤および分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)を用いてホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることを特徴とする癌転移・再発抑制方法、
(22)ホルモン系薬剤がLH−RH誘導体である上記(14)、(15)、(16)、(17)、(18)、(19)、(20)または(21)記載の方法、
(23)LH−RH誘導体が5−oxo−Pro−His−Trp−Ser−Tyr−DLeu−Leu−Arg−Pro−NH−C2H5またはその酢酸塩である上記(22)記載の方法、
(24)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)が▲1▼EGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質、▲2▼インシュリンまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質または▲3▼FGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(17)、(19)または(21)記載の方法、
(25)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)がEGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(8)記載の剤、
(26)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)がインシュリンまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(8)記載の剤、
(27)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)がFGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(8)記載の剤、
(28)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)がEGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(24)記載の方法、
(29)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)がインシュリンまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(25)記載の方法、
(30)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)がFGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(25)記載の方法、
(31)EGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質が、EGFまたはハレグリン(HER2リガンド)を阻害する物質である上記(8)または(25)記載の剤、
(32)インシュリンまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質が、インシュリン、IGF−1またはIGF−2を阻害する物質である上記(8)または(25)記載の剤、
(33)FGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質が、aFGF、bFGF、KGF、HGFまたはFGF−10を阻害する物質である上記(8)または(25)記載の剤、
(34)EGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質が、EGFまたはハレグリン(HER2リガンド)を阻害する物質である上記(24)または(28)記載の剤、
(35)インシュリンまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質が、インシュリン、IGF−1またはIGF−2を阻害する物質である上記(24)または(29)記載の剤、
(36)FGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質が、aFGF、bFGF、KGF、HGFまたはFGF−10を阻害する物質である上記(24)または(30)記載の剤、
(37)受容体がEGF受容体、ハレグリン受容体(HER2)、インシュリン受容体−1、インシュリン受容体−2、 IGF受容体、FGF受容体−1またはFGF受容体−2である上記(8)記載の剤、
(38)受容体がEGF受容体、ハレグリン受容体(HER2)、インシュリン受容体−1、インシュリン受容体−2、 IGF受容体、FGF受容体−1またはFGF受容体−2である上記(17)、(19)または(21)記載の方法、
(39)受容体がチロシンキナーゼ活性を有する上記(8)記載の剤、
(40)受容体がチロシンキナーゼ活性を有する上記(17)、(19)または(21)記載の方法、および
(41)癌が前立腺癌、卵巣癌、子宮頚癌または乳癌である上記(9)、(13)、(14)、(16)、(17)、(18)、(19)、(20)または(21)記載の方法などを提供する。
【0007】
ホルモン系薬剤としては、薬理学的に有用なホルモン系薬剤であれば特に限定を受けないが、例えば、分子量約300〜約40,000、好ましくは約400〜約30,000、さらに好ましくは約500〜約20,000のホルモン系薬剤などが好適である。
具体的には、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RH)、エストロゲン製剤、エストロゲン拮抗製剤(タモキシフェンなど)、アンドロゲン製剤、アンドロゲン拮抗製剤(フルタミド、シプロテロン酢酸塩(Cyproterone acetate))、アロマターゼ阻害薬、5α−リダクターゼ阻害薬、リアーゼ阻害薬、インスリン、ソマトスタチン、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン(GH−RH)、男性ホルモン低下剤、女性ホルモン低下剤、プロラクチン、エリスロポイエチン、副腎皮質ホルモン、メラノサイト刺激ホルモン、甲状腺ホルモン放出ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、黄体ホルモン、卵胞刺激ホルモン、バソプレシン、オキシトシン、カルシトニン、ガストリン、セクレチン、パンクレオザイミン、コレシストキニン、アンジオテンシン、ヒト胎盤ラクトーゲン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、エンケファリン、エンドルフィン、キョウトルフィン、タフトシン、サイモポイエチン、サイモシン、サイモチムリン、胸腺液性因子、血中胸腺因子、腫瘍壊死因子、コロニー誘導因子、モチリン、デイノルフィン、ボンベシン、ニューロテンシン、セルレイン、ブラジキニン、心房性ナトリウム排泄増加因子、神経成長因子、神経栄養因子、エンドセリン拮抗作用を有するペプチド類など、およびこれらの誘導体(例、アゴニスト、アンタゴニストなど)、さらにはこれらのフラグメントまたはフラグメントの誘導体などがあげられる。
該ホルモン系薬剤は薬理学的に許容される塩であってもよい。このような塩としては、該ホルモン系薬剤がアミノ基等の塩基性基を有する場合、無機酸(例、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等)、有機酸(例、炭酸、重炭酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等)などとの塩があげられる。
該ホルモン系薬剤がカルボキシル基等の酸性基を有する場合、無機塩基(例、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属など)や有機塩基(例、トリエチルアミン等の有機アミン類、アルギニン等の塩基性アミノ酸類等)などとの塩があげられる。また、該ホルモン系薬剤は金属錯体化合物(例、銅錯体、亜鉛錯体等)を形成していてもよい。
上記したホルモン系薬剤の好ましい例としては、細胞増殖因子受容体が発現している癌種に対して有効なものが好ましく、具体的には、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌等の性ホルモン依存性の癌に有効なLH−RH誘導体が好適である。
【0008】
LH−RH誘導体の具体例としては、例えば、トリートメント ウイズ GnRH アナログ:コントラバーシス アンド パースペクテイブ(Treatment with GnRH analogs: Controversies and perspectives)〔パルテノン バブリッシング グループ(株)(The Parthenon Publishing Group Ltd.)発行1996年〕、特許第936349号、特表平3−503165号公報、特開平3−101695号、同7−97334号および同8−259460号公報などに記載されているペプチド類があげられる。
該LH−RH誘導体は薬理学的に許容される塩であっていてもよく、このような塩としては、上記のホルモン系薬剤の薬理学的に許容される塩などがあげられる。
【0009】
LH−RH誘導体としては、LH−RHアゴニストまたはLH−RHアンタゴニストがあげられるが、LH−RHアンタゴニストとしては、例えば、一般式〔I〕
X−D2Nal−D4ClPhe−D3Pal−Ser−A−B−Leu−C−Pro−DAla−NH2
〔式中、XはN(4H2−furoyl)GlyまたはNAcを、AはNMeTyr、Tyr、Aph(Atz)、NMeAph(Atz)から選ばれる残基を、BはDLys(Nic)、DCit、DLys(AzaglyNic)、DLys(AzaglyFur)、DhArg(Et2)、DAph(Atz)およびDhCiから選ばれる残基を、CはLys(Nisp)、ArgまたはhArg(Et2)をそれぞれ示す〕で表わされるペプチドまたはその塩などが用いられる。
LH−RHアゴニストとしては、例えば、一般式〔II〕
5−oxo−Pro−His−Trp−Ser−Tyr−Y−Leu−Arg−Pro−Z
〔式中、YはDLeu、DAla、DTrp、DSer(tBu)、D2NalおよびDHis(ImBzl)から選ばれる残基を、ZはNH−C2H5またはGly−NH2をそれぞれ示す〕で表わされるペプチドまたはその塩などが用いられる。特に、YがDLeuで、ZがNH−C2H5であるペプチド(リュープロレリン)またはその塩(例、酢酸塩など)(5−oxo−Pro−His−Trp−Ser−Tyr−DLeu−Leu−Arg−Pro−NH−C2H5またはその酢酸塩)が好適である。これらのペプチドは、前記文献あるいは公報記載の方法あるいはこれに準じる方法で製造することができる。
さらに、ホルモン系薬剤としては、エストロゲン製剤、エストロゲン拮抗製剤(タモキシフェンなど)、アンドロゲン製剤、アンドロゲン拮抗製剤(フルタミド、シプロテロン酢酸塩(Cyproterone acetate)など)、アロマターゼ阻害薬、5α−リダクターゼ阻害薬、男性ホルモン低下剤、女性ホルモン低下剤、黄体ホルモンなどが好適である。
分化誘導剤としては、脂溶性ビタミン類、核内受容体リガンド(PPARsリガンドなど)、ヒストンアセチル化調節薬、DNAメチル化調節薬、細胞情報伝達調節薬など分化誘導作用を有するものであればいずれでもよい。
分化誘導剤として具体的には例えば、脂溶性ビタミンであるビタミンA類およびその誘導体(イソトレチノイン、フェンレチナイド、トレチノイン、ベクサロテン、アリトレチノイン、)、ビタミンD類およびその誘導体、PPARsアゴニストなどが挙げられ、特に活性型ビタミンDおよびその誘導体であるカルシトリオール、カルシポトリル、セオカルシトールなどが好ましく挙げられる。
【0010】
ホルモン依存性癌としては、前立腺癌等のホルモン依存性の癌のことを意味し、本発明の剤を投与するにあたり、好ましい対象としては、前立腺癌、卵巣癌、子宮癌、乳癌等の性ホルモン依存性の癌などがあげられる。
ホルモン非依存性癌とは、ホルモン系薬剤に反応しない癌(例えば、前立腺癌、卵巣癌、子宮頚癌、乳癌等(特に、一部の前立腺癌、乳癌等))、および上記のホルモン依存性癌において、ホルモン療法を施行した結果、ホルモン系薬剤に反応しなくなった癌のことをいう。
用語「ホルモン依存性癌」および「ホルモン非依存性癌」中の「癌」とは個々の癌細胞を意味するのではなく、癌組織全体を意味する。
「ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延(変化を遅延させる)」とは、上記のホルモン依存性癌にホルモン療法を用いる場合、ホルモン系薬剤の長期投与の結果生じるホルモン療法に反応しない癌(ホルモン非依存性癌)の出現を抑制する、または増殖を抑制、もしくは遅延させることによって、ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることをいう。
具体的には、
(1)上記の分化誘導剤を用いる場合には、その投与量、投与時期、投与頻度、投与間隔などの組み合わせの最適化を図ることによって、ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることができ、
(2)上記分化誘導剤をホルモン系薬剤または分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)と併用し(上記分化誘導剤を分子標的癌治療薬と併用する場合がより好ましい)、必要に応じて、それぞれの投与量、投与時期、投与頻度、投与間隔などの組み合わせの最適化を図ることによって、ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることができる。
ホルモン系薬剤、分化誘導剤および分子標的癌治療薬の内、複数を併用して投与する場合には、必要に応じて個々選択し、それぞれ別々に製剤化し、同時にまた時間差をおいて経口または非経口的に投与することができる。
【0011】
分子標的癌治療薬としては、細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤などが挙げられる。
細胞増殖因子(growth factors)とは、細胞の増殖を促進する物質であればどのようなものでもよいが、通常、分子量が20,000以下の低分子ペプチドで、受容体との結合により、低濃度で作用が発揮される。
細胞増殖因子としては、
▲1▼EGF(epidermal growth factor)またはそれと実質的に同一の活性を有する物質(例えば、EGF、ハレグリン(HER2リガンド)など)、
▲2▼インシュリンまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質(例えば、インシュリン、IGF(insulin−like growth factor)−1、IGF−2など)、
▲3▼FGF(fibroblast growth factor)またはそれと実質的に同一の活性を有する物質(例えば、aFGF、bFGF、KGF(Keratindcyte Growth Factor)、HGF(Hepatocyte Growth Factor)、FGF−10など)、
▲4▼その他の細胞増殖因子(例えば、CSF(colony stimulating factor)、EPO(erythropoietin)、IL−2(interleukin−2)、NGF(nerve growth factor)、PDGF(platelet−derived growth factor)、TGFβ(transforming growth factorβ)、などがあげられる。
該細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤は薬理学的に許容される塩であってもよい。このような塩としては、該細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤がアミノ基等の塩基性基を有する場合、無機酸(例、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等)、有機酸(例、炭酸、重炭酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等)などとの塩があげられる。
該細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤がカルボキシル基等の酸性基を有する場合、無機塩基(例、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属など)や有機塩基(例、トリエチルアミン等の有機アミン類、アルギニン等の塩基性アミノ酸類等)などとの塩があげられる。また、該細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤は金属錯体化合物(例、銅錯体、亜鉛錯体等)を形成していてもよい。
【0012】
細胞増殖因子の受容体としては、上記の細胞増殖因子と結合能を有する受容体であれば、いかなるものであってもよいが、具体的には、EGF受容体、ハレグリン受容体(HER2)、インシュリン受容体−1、インシュリン受容体−2、IGF受容体、FGF受容体−1またはFGF受容体−2などがあげられる。
細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤としては、例えば、ハービマイシン、PD153035(Science 265 (5175) p1093, (1994))などがあげられる。
また、細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤としてHER2阻害剤もあげられる。HER2阻害剤としては、HER2の活性(例、リン酸化活性)を阻害する物質であれば、抗体、低分子化合物(合成化合物、天然物)、アンチセンス、HER2リガンド、ハレグリンまたはこれらの構造を一部修飾、改変したものの何れであってもよい。また、HER2レセプター抗体のようにHER2レセプターを阻害することによって、間接的にHER2活性を阻害する物質であってもよい。
HER2阻害作用を有する低分子化合物としては、例えば、WO98/03505号やWO01/77107号に記載の化合物、具体的には、1−[3−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]プロピル]−1,2,4−トリアゾールなどが用いられる。
細胞情報伝達を阻害する薬剤としては、例えばファルネシル基転移酵素阻害薬、PKB、PKCなどのセリン・スレオニンリン酸化酵素阻害薬、細胞周期調節因子阻害薬、ホスホリパーゼA、Cなどの阻害薬、GTP結合蛋白質阻害薬などが挙げられる。
【0013】
ホルモン系薬剤を分化誘導剤と併用する場合には、それぞれの薬剤の投与量、投与時期、投与頻度、投与間隔などは一般的な範囲であれば、特に最適化を図らなくても、十分にホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延効果を得ることができる。
特に、本発明における分化誘導剤は、ホルモン系薬剤の投与後であって、例えば、ホルモン系薬剤の有効血中濃度が約50%以下に減少した時点、あるいはホルモン系薬剤の投与により(例えば前立腺癌における血中PSA値の増加などにより示される)癌の増殖が再開し始めた頃に投与するのが好ましい。
また、必要に応じて、投与開始時期を早めることによってホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延効果がより強く発揮される。
ホルモン系薬剤と分化誘導剤を他のホルモン系薬剤または細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤と併用する場合には、それぞれの薬剤の投与量、投与時期、投与頻度、投与間隔などは一般的な範囲であれば、特に最適化を図らなくても、十分にホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延効果を得ることができる。
特に、本発明の細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤は、ホルモン系薬剤の投与後であって、例えば、ホルモン系薬剤の有効血中濃度が約50%以下に減少した時点、あるいはホルモン系薬剤の投与により細胞増殖因子の受容体が発現し始めた頃に投与するのが好ましい。
また、必要に応じて、投与開始時期を早めることによってホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延効果がより強く発揮される。
【0014】
本明細書中で使用される略号の意味は次のとおりである。
略号 名称
5−oxo−Pro: ピログルタミン酸残基
His: ヒスチジン残基
Trp: トリプトファン残基
Ser: セリン残基
Tyr: チロシン残基
Leu: ロイシン残基
Arg: アルギニン残基
Pro: プロリン残基
DLeu: D−ロイシン残基
DAla: D−アラニン残基
DTrp: D−トリプトファン残基
N(4H2−furoyl)Gly:N−テトラヒドロフロイルグリシン残基
NAc: N−アセチル基
D2Nal: D−3−(2−ナフチル)アラニン残基
D4ClPhe: D−3−(4−クロロ)フェニルアラニン残基
D3Pal: D−3−(3−ピリジル)アラニン残基
NMeTyr: N−メチルチロシン残基
Aph(Atz): N−[5’−(3’−アミノ−1’H−1’,2’,4’−トリアゾリル)] フェニルアラニン残基
NMeAph(Atz): N−メチル−[5’−(3’−アミノ−1’H−1’,2’,4’−トリアゾ リル)]フェニルアラニン残基
DLys(Nic): D−(e−N−ニコチノイル)リジン残基
Dcit: D−シトルリン残基
DLys(AzaglyNic): D−(アザグリシルニコチノイル)リシン残基
DLys(AzaglyFur): D−(アザグリシルフラニル)リシン残基
DhArg(Et2): D−(N,N’−ジエチル)ホモアルギニン残基
DAph(Atz): D−N−[5’−(3’−アミノ−1’H−1’,2’,4’−トリアゾリル)] フェニルアラニン残基
DhCi: D−ホモシトルリン残基
Lys(Nisp): (e−N−イソプロピル)リシン残基
hArg(Et2): (N,N’−ジエチル)ホモアルギニン残基
DSer(tBu): D−O−(t−ブチル)セリン残基
DHis(ImBzl): Nt−ブチルヒスチジン残基
【0015】
その他アミノ酸に関し、略号で表示する場合、IUPAC−IUBコミッション・オブ・バイオケミカル・ノーメンクレーチュアー(Commission on Biochemical Nomenclature)(ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Europian Journal of Biochemistry)第138巻、9〜37頁(1984年))による略号または該当分野における慣用略号に基づくものとし、また、アミノ酸に関して光学異性体がありうる場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
【0016】
本発明の併用剤は、毒性が低く、そのまま医薬として、もしくは自体公知の薬学的に許容しうる担体などと混合して人を含む哺乳動物(例えば、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウサギ、ブタ、サルなど)に対して医薬組成物として用いることができる。
本発明の剤は、ホルモン系薬剤および分化誘導剤、さらに必要により分子標的癌治療薬に薬学的に許容される担体を配合し、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、顆粒剤、散剤、坐剤などの固形製剤;またはシロップ剤、注射剤などの液状製剤として経口または非経口的に投与することができる。また、ホルモン系薬剤と分化誘導剤、さらに必要により分子標的癌治療薬とをそれぞれ別々に製剤化し、同時にまた時間差をおいて経口または非経口的に投与することもできる。
ホルモン系薬剤、分化誘導剤および分子標的癌治療薬の内、複数を併用して投与する場合には、必要に応じて個々選択し、それぞれ別々に製剤化し、同時にまた時間差をおいて経口または非経口的に投与することができる。
薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用されている各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
【0017】
賦形剤の好適な例としては、例えば、乳糖、白糖、D−マンニトール、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸などがあげられる。
滑沢剤の好適な例としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどがあげられる。
結合剤の好適な例としては、例えば、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどがあげられる。
崩壊剤の好適な例としては、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどがあげられる。
溶剤の好適な例としては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油などがあげられる。
溶解補助剤の好適な例としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどがあげられる。
懸濁化剤の好適な例としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子などがあげられる。
等張化剤の好適な例としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトールなどがあげられる。
緩衝剤の好適な例としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などがあげられる。
無痛化剤の好適な例としては、例えば、ベンジルアルコールなどがあげられる。
防腐剤の好適な例としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などがあげられる。
抗酸化剤の好適な例としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸などがあげられる。
【0018】
本発明の剤におけるホルモン系薬剤の含有量は、剤型、投与方法、担体等により異なるが、製剤全量に対して通常約0.1〜30%(w/w)、好ましくは約1〜20%(w/w)、より好ましくは約5〜10%(w/w)である。
本発明の剤における分化誘導剤の含有量は剤型投与方法、担体等により異なるが、製剤全量に対して通常約5〜99%(w/w)である。
本発明の剤における分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)(特に低分子化合物の場合)の含有量は剤型投与方法、担体等により異なるが、製剤全量に対して通常約0.1〜90%(w/w)である。
各種製剤添加剤の含有量は、製剤全量に対して通常約0.1〜99.9%(w/w)、好ましくは約10〜99.9%(w/w)、より好ましくは約20〜90%(w/w)である。
本発明の剤の投与量は、ホルモン系薬剤の種類、分化誘導剤の種類、細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤の種類、投与ルート、症状等によって異なるが、例えば、乳癌や前立腺癌を持つ患者(体重40ないし80kg)に抗癌剤としてLH−RH誘導体を皮下投与している場合、細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤が低分子化合物である時は、化合物として、好ましくは1日に約1.0〜100mg/kg体重、より好ましくは約5.0〜50mg/kg体重である。この量を1日1回または2〜3回に分けて投与することができる。また、LHRH誘導体については、例えば、乳癌や前立腺癌を持つ患者(体重40ないし80kg)に化合物として、好ましくは1日に約1.0〜100mg/kg体重、より好ましくは約1.0〜50mg/kg体重である。また、分化誘導剤については、例えば、乳癌や前立腺癌を持つ患者(体重40ないし80kg)に化合物として、好ましくは1日に約0.1〜10mcg/kg体重、より好ましくは約0.5〜2.0mcg/kg体重である。また、分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)が抗体である時は、通常約1〜2,000mg/kg/週、好ましくは約5〜1,000mg/kg/週の用量を連日または間欠的に、静脈、皮下、腫瘍局所などに投与することができる。
【0019】
本発明の剤は、ホルモン系薬剤の薬効持続時間を通常約1.5倍以上、より具体的には約1.5〜3倍維持・持続させることができる。
さらに、本発明の剤は、その他の活性成分、例えば、化学療法剤または免疫療法剤を配合することもできる。
化学療法剤としては、例えば、アルキル化剤(例えばサイクロフォスファミド、イフォスファミド)、代謝拮抗剤(例えば、メソトレキセート、5−フルオロウラシル)、抗癌性抗生物質(例えばマイトマイシン、アドリアマイシン)、植物由来抗癌剤(例えば、ビンクリスチン、ビンデシン、タキソール)、シスプラチン、カルボプラチン、エトポキシドなどが用いられる。
免疫療法剤としては、例えば、微生物または菌体成分(例えば、ムラミルジペプチド誘導体、ピシバニール)、免疫増強活性のある多糖類(例えば、レンチナン、シゾフィラン、クレスチン)、遺伝子工学的手法で得られるサイトカイン(例えば、インターフェロン、インターロイキン)などが用いられる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に実施例、参考例および実験例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0021】
【実施例】
参考例1
水素化リチウムアルミニウム(350mg)のジエチルエーテル(10ml)懸濁液に、エチル 4−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]ブチレート(3.00g)のジエチルエーテル(10ml)−テトラヒドロフラン(10ml)溶液を0℃で滴下した。0℃で1時間、さらに室温で1時間かきまぜた後、水を加え、2N塩酸で酸性化し、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を水洗、乾燥(MgSO4)後、溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル−ヘキサン(1:1,v/v)溶出部から4−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]ブタノール(2.00g,74%)を得た。酢酸エチル−ヘキサンから再結晶。無色針状晶。融点90〜91℃。
【0022】
参考例2
参考例1と同様にして、エチル 3−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]プロピオネートを還元して、3−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]プロパノールを得た。収率94%。酢酸エチル−ヘキサンから再結晶。無色針状晶。融点95〜96℃。
【0023】
参考例3
参考例2で得られた3−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]プロパノール(760mg)、トリブチルホスフィン(1.01g)および1,2,4−トリアゾール(280mg)のテトラヒドロフラン(15ml)溶液に、ジエチル アゾジカルボキシレート(700mg)を0℃で滴下した。1時間加熱還流後、反応混合物を水に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を水洗、乾燥(MgSO4)後、溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル−ヘキサン(2:1,v/v)溶出部から得られる結晶を酢酸エチル−ヘキサンから再結晶して、1−[3−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]プロピル]−1,2,4−トリアゾール(540mg,70%)を得た。
無色プリズム晶。融点108〜109℃。
【0024】
参考例4
(1)参考例3の化合物 10.0mg
(2)乳糖 60.0mg
(3)コーンスターチ 35.0mg
(4)ゼラチン 3.0mg
(5)ステアリン酸マグネシウム 2.0mg
以上を混合して、錠剤とする。
【0025】
実施例1
参考例4で得た錠剤と以下に記載の方法によって得られる徐放性製剤を併用剤として使用する。
酢酸リュープロレリン(武田薬品工業(株)社製)400mgを0.5mlの蒸留水に溶解し水相液とし、ポリ−DL−乳酸[Lot.870818;重量平均分子量18000(マイクロカプセルLot.244、245)およびLot.880622;重量平均分子量18200、分散度1.76(マイクロカプセルLot.248)]4gをジクロロメタン7.5mlに溶解した液に加え、小型ホモジナイザー(ポリトロンキネマチカ社製、スイス)で約60秒間乳化し、W/O型エマルジョンを得る。このエマルジョンを15℃に冷却して、あらかじめ15℃に冷却した0.25%ポリビニルアルコール水溶液1000ml中に注入し、小型ホモジナイザーを使用して、W/O/W型エマルジョンとする。この後、W/O/W型エマルジョンを攪拌しながらジクロロメタンの揮散によって内部のW/O型エマルジョンを固化された後、遠心分離機で捕集する。
これを再び蒸留水に分散し、さらに遠心分離を行い遊離した薬物および分散剤などを洗浄する。
捕収されたマイクロカプセルは凍結乾燥によって脱溶媒および脱水をより完全とした後、粉末として得られる。
【0026】
実験例1
5mlのヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC(American Type Culture Collection)カタログNo.CRL1740、J.S.Horoszewicz, Cancer Res. 43: 1809−1818(1983))の細胞浮遊液(2 x 105個/ml)を60mmの培養皿に分注し,37℃,5% CO2下で一夜培養した。培地を所定の濃度のcyproterone acetate(Sigma;Cat.No.C−3412)を含む培地に交換し,3日間37℃,5% CO2下で培養を続けた。培地を除去した後,酸性グアニジンイソシアネート/フェノール/クロロホルム法により各培養皿からRNAを抽出した。これらを鋳型にoligo−dT adaptor primer(宝酒造)をプライマーとして相補DNAを合成し,PCR反応の鋳型とした。受容体型チロシンキナーゼ群の特異的プライマーは,キナーゼ領域に共通する配列HisArgAspLeuAlaAlaとSerAspValTrpSer(Hanksら1988)をもとに合成した。具体的には,EGF受容体様キナーゼに対し5’−CA(C/T)(C/A)GGGA(C/T)(C/T)TGGC (A/T/C)GC(sense primer)と5’−A(A/G)CTCCA(A/C)AC(A/G)TC(A/G)CT(antisense primer)を,insulin受容体様キナーゼに対し5’−CA(C/T)(C/A)G(G/A)GAC(C/T)T(G/T)GC(A/T)GC(sense primer)と5’−A(A/G)CTCCA(A/C)ACGTC(A/C)GA(antisense primer)を,またPDGF受容体様キナーゼおよびFGF受容体様キナーゼに対し5’−CA(C/T)(C/A)G(G/A)GAC(C/T)TGGC(A/G)GC(sense primer)と5’−A(A/G)GACCA(G/C)AC(A/G)TC(A/G)CT(antisense primer)を合成した。増幅サイクルは95℃,1 min(変性),40℃,1 min(アニーリング),72℃,1 min(合成)とし,35サイクルの増幅反応を行った。各受容体キナーゼ群の発現量は, PCR反応物をアガロースゲル電気泳動(4%)後に臭化エチジウム染色した画像を解析して定量した(図1)。それぞれの発現量は標準化のために同一検体のβ−actin発現量との比で求め,図1中の数値はcyproterone acetate無添加時の発現量を1とした時の各点の発現量を表している。
なお,β−actinはプライマーに5’−ATCTGGCACCACACCTTCTACAATGAGCTGCG(sense)と5’−CGTCATACTCCTGCTTGCTGATCCACATCTGC(antisense)を用い,25回の増幅サイクル(95℃,0.5 min,60℃,1 min,72℃,0.5 min)で増幅した。
【0027】
実験例2
継代培養しているヒト前立腺癌細胞株LNCaP細胞をトリプシン処理し,10%牛胎児血清(BioWhittaker)を含むRPMI1640培地(GibcoBRL)に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度をコールターカウンターで測定し,上述の培地を用いて細胞密度を2 x 104細胞/mlに調製した。これを24 wellマルチウェル培養プレート(Becton Dickinson)の各wellに0.5 mlづつ分注し,37℃,5% CO2下で一夜培養した。これにcyproterone acetate(Sigma;Cat.No.C−3412)、2 x 10−9〜2 x 10−6Mを所定の濃度含む培地またはcyproterone acetateとPD153035(Science 265(5175) p1093 (1994);日本農芸化学会1996年度大会抄録番号21a14(1996年3月30日京都))10 mMを所定の濃度含む培地を0.5 ml加えた。37℃,5% CO2下で4日間培養後に各wellの細胞数をコールターカウンターで測定した(図2)。
【0028】
【発明の効果】
本発明のホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなるホルモン依存性癌の治療剤は、より高い抗腫瘍効果を発揮することができる。また、本発明のホルモン非依存性癌への変化遅延剤は、ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延効果を効果的に発揮することができる。
【0029】
【図面の簡単な説明】
【図1】アンドロゲン拮抗薬のヒト前立腺癌細胞株の受容体型チロシンキナーゼ群遺伝子の発現に及ぼす影響を示す図を示す。
【図2】ヒト前立腺癌細胞の増殖に対するアンドロゲン拮抗薬およびチロシンキナーゼ阻害薬の影響を示す図を示す。
【発明が属する技術分野】
本発明は、ホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなるホルモン依存性癌の治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、ホルモン系薬剤による薬物的去勢が広く癌治療に使用されているが、ホルモン系薬剤に反応しない癌(ホルモン非依存性癌)もあり、またホルモン療法に効果を示すホルモン依存性癌においても、治療を続けていると、ホルモン非依存性癌へ変化することが知られている(ラボラトリー・インベスチゲーション(Laboratory Investigation)67, 540, 1992年)。
従って、ホルモン依存性癌に対する治療では、ホルモン療法に反応する癌およびホルモン療法に不応の癌のいずれのタイプに対しても効果を示す治療法が理想的であるが、これまでに両方のタイプの癌を効果的に治療する方法は知られていなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、ホルモン療法がもたらす、癌細胞における増殖経路の変化を研究した過程において、ホルモン系薬剤の使用により、結果としてホルモン非依存性癌細胞の増殖が引き起こされるため、ホルモン系薬剤の癌治療効果が持続しないという新たな課題を発見した。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、ホルモン依存性癌の治療において、ホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなる剤を用いることによって、ホルモン系薬剤の優れた治療効果を増強、維持・持続させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
(1)ホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなるホルモン依存性癌の治療剤、
(2)ホルモン系薬剤がLH−RH誘導体である上記(1)記載の剤、
(3)LH−RH誘導体がLH−RHアゴニストである上記(2)記載の剤、
(4)LH−RH誘導体が式
5−oxo−Pro−His−Trp−Ser−Tyr−Y−Leu−Arg−Pro−Z
[式中、YはDLeu、DAla、DTrp、DSer(tBu)、D2NalおよびDHis(ImBzl)から選ばれる残基を、ZはNH−C2H5またはGly−NH2をそれぞれ示す]で表わされるペプチドまたはその塩である上記(3)記載の剤、
(5)LH−RH誘導体が5−oxo−Pro−His−Trp−Ser−Tyr−DLeu−Leu−Arg−Pro−NH−C2H5またはその酢酸塩である上記(3)記載の剤、
(6)分化誘導剤が脂溶性ビタミン類、核内受容体リガンド(PPARsリガンドなど)、ヒストンアセチル化調節薬、DNAメチル化調節薬または細胞情報伝達調節薬である上記(1)記載の剤、
(7)分化誘導剤が脂溶性ビタミン類である上記(1)記載の剤、
(8)ホルモン系薬剤と分化誘導剤の他に分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)を含有する上記(1)記載の剤、
(9)前立腺癌、卵巣癌、子宮癌または乳癌の予防治療剤である上記(1)記載の剤、
(10)ホルモン依存性癌の予防・治療のためのホルモン系薬剤と分化誘導剤の使用、
(11)ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させるための分化誘導剤の使用、
(12)ホルモン依存性癌の予防・治療のためのホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなる医薬を製造するためのホルモン系薬剤または/および分化誘導剤の使用、
(13)ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させるためのホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなる医薬を製造するためのホルモン系薬剤または/および分化誘導剤の使用、
(14)ホルモン系薬剤と分化誘導剤をホルモン依存性癌を持つ哺乳動物に投与することを特徴とする該哺乳動物においてホルモン依存性癌を治療する方法、
(15)ホルモン系薬剤と分化誘導剤をホルモン依存性癌を持つ哺乳動物に投与することを特徴とする該哺乳動物においてホルモン非依存性癌への変化を遅延させる方法、
などを提供する。
【0006】
さらに、本発明は、
(16)ホルモン系薬剤と分化誘導剤を用いることを特徴とするホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延方法、
(17)ホルモン系薬剤、分化誘導剤および分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)を用いることを特徴とするホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延方法、
(18)ホルモン系薬剤と分化誘導剤を用いてホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることを特徴とする癌の治療・予防方法、
(19)ホルモン系薬剤、分化誘導剤および分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)を用いてホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることを特徴とする癌の治療・予防方法、
(20)ホルモン系薬剤と分化誘導剤を用いてホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることを特徴とする癌転移・再発抑制方法、
(21)ホルモン系薬剤、分化誘導剤および分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)を用いてホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることを特徴とする癌転移・再発抑制方法、
(22)ホルモン系薬剤がLH−RH誘導体である上記(14)、(15)、(16)、(17)、(18)、(19)、(20)または(21)記載の方法、
(23)LH−RH誘導体が5−oxo−Pro−His−Trp−Ser−Tyr−DLeu−Leu−Arg−Pro−NH−C2H5またはその酢酸塩である上記(22)記載の方法、
(24)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)が▲1▼EGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質、▲2▼インシュリンまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質または▲3▼FGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(17)、(19)または(21)記載の方法、
(25)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)がEGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(8)記載の剤、
(26)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)がインシュリンまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(8)記載の剤、
(27)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)がFGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(8)記載の剤、
(28)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)がEGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(24)記載の方法、
(29)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)がインシュリンまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(25)記載の方法、
(30)分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)がFGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質を阻害する物質である上記(25)記載の方法、
(31)EGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質が、EGFまたはハレグリン(HER2リガンド)を阻害する物質である上記(8)または(25)記載の剤、
(32)インシュリンまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質が、インシュリン、IGF−1またはIGF−2を阻害する物質である上記(8)または(25)記載の剤、
(33)FGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質が、aFGF、bFGF、KGF、HGFまたはFGF−10を阻害する物質である上記(8)または(25)記載の剤、
(34)EGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質が、EGFまたはハレグリン(HER2リガンド)を阻害する物質である上記(24)または(28)記載の剤、
(35)インシュリンまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質が、インシュリン、IGF−1またはIGF−2を阻害する物質である上記(24)または(29)記載の剤、
(36)FGFまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質が、aFGF、bFGF、KGF、HGFまたはFGF−10を阻害する物質である上記(24)または(30)記載の剤、
(37)受容体がEGF受容体、ハレグリン受容体(HER2)、インシュリン受容体−1、インシュリン受容体−2、 IGF受容体、FGF受容体−1またはFGF受容体−2である上記(8)記載の剤、
(38)受容体がEGF受容体、ハレグリン受容体(HER2)、インシュリン受容体−1、インシュリン受容体−2、 IGF受容体、FGF受容体−1またはFGF受容体−2である上記(17)、(19)または(21)記載の方法、
(39)受容体がチロシンキナーゼ活性を有する上記(8)記載の剤、
(40)受容体がチロシンキナーゼ活性を有する上記(17)、(19)または(21)記載の方法、および
(41)癌が前立腺癌、卵巣癌、子宮頚癌または乳癌である上記(9)、(13)、(14)、(16)、(17)、(18)、(19)、(20)または(21)記載の方法などを提供する。
【0007】
ホルモン系薬剤としては、薬理学的に有用なホルモン系薬剤であれば特に限定を受けないが、例えば、分子量約300〜約40,000、好ましくは約400〜約30,000、さらに好ましくは約500〜約20,000のホルモン系薬剤などが好適である。
具体的には、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RH)、エストロゲン製剤、エストロゲン拮抗製剤(タモキシフェンなど)、アンドロゲン製剤、アンドロゲン拮抗製剤(フルタミド、シプロテロン酢酸塩(Cyproterone acetate))、アロマターゼ阻害薬、5α−リダクターゼ阻害薬、リアーゼ阻害薬、インスリン、ソマトスタチン、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン(GH−RH)、男性ホルモン低下剤、女性ホルモン低下剤、プロラクチン、エリスロポイエチン、副腎皮質ホルモン、メラノサイト刺激ホルモン、甲状腺ホルモン放出ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、黄体ホルモン、卵胞刺激ホルモン、バソプレシン、オキシトシン、カルシトニン、ガストリン、セクレチン、パンクレオザイミン、コレシストキニン、アンジオテンシン、ヒト胎盤ラクトーゲン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、エンケファリン、エンドルフィン、キョウトルフィン、タフトシン、サイモポイエチン、サイモシン、サイモチムリン、胸腺液性因子、血中胸腺因子、腫瘍壊死因子、コロニー誘導因子、モチリン、デイノルフィン、ボンベシン、ニューロテンシン、セルレイン、ブラジキニン、心房性ナトリウム排泄増加因子、神経成長因子、神経栄養因子、エンドセリン拮抗作用を有するペプチド類など、およびこれらの誘導体(例、アゴニスト、アンタゴニストなど)、さらにはこれらのフラグメントまたはフラグメントの誘導体などがあげられる。
該ホルモン系薬剤は薬理学的に許容される塩であってもよい。このような塩としては、該ホルモン系薬剤がアミノ基等の塩基性基を有する場合、無機酸(例、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等)、有機酸(例、炭酸、重炭酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等)などとの塩があげられる。
該ホルモン系薬剤がカルボキシル基等の酸性基を有する場合、無機塩基(例、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属など)や有機塩基(例、トリエチルアミン等の有機アミン類、アルギニン等の塩基性アミノ酸類等)などとの塩があげられる。また、該ホルモン系薬剤は金属錯体化合物(例、銅錯体、亜鉛錯体等)を形成していてもよい。
上記したホルモン系薬剤の好ましい例としては、細胞増殖因子受容体が発現している癌種に対して有効なものが好ましく、具体的には、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌等の性ホルモン依存性の癌に有効なLH−RH誘導体が好適である。
【0008】
LH−RH誘導体の具体例としては、例えば、トリートメント ウイズ GnRH アナログ:コントラバーシス アンド パースペクテイブ(Treatment with GnRH analogs: Controversies and perspectives)〔パルテノン バブリッシング グループ(株)(The Parthenon Publishing Group Ltd.)発行1996年〕、特許第936349号、特表平3−503165号公報、特開平3−101695号、同7−97334号および同8−259460号公報などに記載されているペプチド類があげられる。
該LH−RH誘導体は薬理学的に許容される塩であっていてもよく、このような塩としては、上記のホルモン系薬剤の薬理学的に許容される塩などがあげられる。
【0009】
LH−RH誘導体としては、LH−RHアゴニストまたはLH−RHアンタゴニストがあげられるが、LH−RHアンタゴニストとしては、例えば、一般式〔I〕
X−D2Nal−D4ClPhe−D3Pal−Ser−A−B−Leu−C−Pro−DAla−NH2
〔式中、XはN(4H2−furoyl)GlyまたはNAcを、AはNMeTyr、Tyr、Aph(Atz)、NMeAph(Atz)から選ばれる残基を、BはDLys(Nic)、DCit、DLys(AzaglyNic)、DLys(AzaglyFur)、DhArg(Et2)、DAph(Atz)およびDhCiから選ばれる残基を、CはLys(Nisp)、ArgまたはhArg(Et2)をそれぞれ示す〕で表わされるペプチドまたはその塩などが用いられる。
LH−RHアゴニストとしては、例えば、一般式〔II〕
5−oxo−Pro−His−Trp−Ser−Tyr−Y−Leu−Arg−Pro−Z
〔式中、YはDLeu、DAla、DTrp、DSer(tBu)、D2NalおよびDHis(ImBzl)から選ばれる残基を、ZはNH−C2H5またはGly−NH2をそれぞれ示す〕で表わされるペプチドまたはその塩などが用いられる。特に、YがDLeuで、ZがNH−C2H5であるペプチド(リュープロレリン)またはその塩(例、酢酸塩など)(5−oxo−Pro−His−Trp−Ser−Tyr−DLeu−Leu−Arg−Pro−NH−C2H5またはその酢酸塩)が好適である。これらのペプチドは、前記文献あるいは公報記載の方法あるいはこれに準じる方法で製造することができる。
さらに、ホルモン系薬剤としては、エストロゲン製剤、エストロゲン拮抗製剤(タモキシフェンなど)、アンドロゲン製剤、アンドロゲン拮抗製剤(フルタミド、シプロテロン酢酸塩(Cyproterone acetate)など)、アロマターゼ阻害薬、5α−リダクターゼ阻害薬、男性ホルモン低下剤、女性ホルモン低下剤、黄体ホルモンなどが好適である。
分化誘導剤としては、脂溶性ビタミン類、核内受容体リガンド(PPARsリガンドなど)、ヒストンアセチル化調節薬、DNAメチル化調節薬、細胞情報伝達調節薬など分化誘導作用を有するものであればいずれでもよい。
分化誘導剤として具体的には例えば、脂溶性ビタミンであるビタミンA類およびその誘導体(イソトレチノイン、フェンレチナイド、トレチノイン、ベクサロテン、アリトレチノイン、)、ビタミンD類およびその誘導体、PPARsアゴニストなどが挙げられ、特に活性型ビタミンDおよびその誘導体であるカルシトリオール、カルシポトリル、セオカルシトールなどが好ましく挙げられる。
【0010】
ホルモン依存性癌としては、前立腺癌等のホルモン依存性の癌のことを意味し、本発明の剤を投与するにあたり、好ましい対象としては、前立腺癌、卵巣癌、子宮癌、乳癌等の性ホルモン依存性の癌などがあげられる。
ホルモン非依存性癌とは、ホルモン系薬剤に反応しない癌(例えば、前立腺癌、卵巣癌、子宮頚癌、乳癌等(特に、一部の前立腺癌、乳癌等))、および上記のホルモン依存性癌において、ホルモン療法を施行した結果、ホルモン系薬剤に反応しなくなった癌のことをいう。
用語「ホルモン依存性癌」および「ホルモン非依存性癌」中の「癌」とは個々の癌細胞を意味するのではなく、癌組織全体を意味する。
「ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延(変化を遅延させる)」とは、上記のホルモン依存性癌にホルモン療法を用いる場合、ホルモン系薬剤の長期投与の結果生じるホルモン療法に反応しない癌(ホルモン非依存性癌)の出現を抑制する、または増殖を抑制、もしくは遅延させることによって、ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることをいう。
具体的には、
(1)上記の分化誘導剤を用いる場合には、その投与量、投与時期、投与頻度、投与間隔などの組み合わせの最適化を図ることによって、ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることができ、
(2)上記分化誘導剤をホルモン系薬剤または分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)と併用し(上記分化誘導剤を分子標的癌治療薬と併用する場合がより好ましい)、必要に応じて、それぞれの投与量、投与時期、投与頻度、投与間隔などの組み合わせの最適化を図ることによって、ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させることができる。
ホルモン系薬剤、分化誘導剤および分子標的癌治療薬の内、複数を併用して投与する場合には、必要に応じて個々選択し、それぞれ別々に製剤化し、同時にまた時間差をおいて経口または非経口的に投与することができる。
【0011】
分子標的癌治療薬としては、細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤などが挙げられる。
細胞増殖因子(growth factors)とは、細胞の増殖を促進する物質であればどのようなものでもよいが、通常、分子量が20,000以下の低分子ペプチドで、受容体との結合により、低濃度で作用が発揮される。
細胞増殖因子としては、
▲1▼EGF(epidermal growth factor)またはそれと実質的に同一の活性を有する物質(例えば、EGF、ハレグリン(HER2リガンド)など)、
▲2▼インシュリンまたはそれと実質的に同一の活性を有する物質(例えば、インシュリン、IGF(insulin−like growth factor)−1、IGF−2など)、
▲3▼FGF(fibroblast growth factor)またはそれと実質的に同一の活性を有する物質(例えば、aFGF、bFGF、KGF(Keratindcyte Growth Factor)、HGF(Hepatocyte Growth Factor)、FGF−10など)、
▲4▼その他の細胞増殖因子(例えば、CSF(colony stimulating factor)、EPO(erythropoietin)、IL−2(interleukin−2)、NGF(nerve growth factor)、PDGF(platelet−derived growth factor)、TGFβ(transforming growth factorβ)、などがあげられる。
該細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤は薬理学的に許容される塩であってもよい。このような塩としては、該細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤がアミノ基等の塩基性基を有する場合、無機酸(例、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等)、有機酸(例、炭酸、重炭酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等)などとの塩があげられる。
該細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤がカルボキシル基等の酸性基を有する場合、無機塩基(例、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属など)や有機塩基(例、トリエチルアミン等の有機アミン類、アルギニン等の塩基性アミノ酸類等)などとの塩があげられる。また、該細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤は金属錯体化合物(例、銅錯体、亜鉛錯体等)を形成していてもよい。
【0012】
細胞増殖因子の受容体としては、上記の細胞増殖因子と結合能を有する受容体であれば、いかなるものであってもよいが、具体的には、EGF受容体、ハレグリン受容体(HER2)、インシュリン受容体−1、インシュリン受容体−2、IGF受容体、FGF受容体−1またはFGF受容体−2などがあげられる。
細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤としては、例えば、ハービマイシン、PD153035(Science 265 (5175) p1093, (1994))などがあげられる。
また、細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤としてHER2阻害剤もあげられる。HER2阻害剤としては、HER2の活性(例、リン酸化活性)を阻害する物質であれば、抗体、低分子化合物(合成化合物、天然物)、アンチセンス、HER2リガンド、ハレグリンまたはこれらの構造を一部修飾、改変したものの何れであってもよい。また、HER2レセプター抗体のようにHER2レセプターを阻害することによって、間接的にHER2活性を阻害する物質であってもよい。
HER2阻害作用を有する低分子化合物としては、例えば、WO98/03505号やWO01/77107号に記載の化合物、具体的には、1−[3−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]プロピル]−1,2,4−トリアゾールなどが用いられる。
細胞情報伝達を阻害する薬剤としては、例えばファルネシル基転移酵素阻害薬、PKB、PKCなどのセリン・スレオニンリン酸化酵素阻害薬、細胞周期調節因子阻害薬、ホスホリパーゼA、Cなどの阻害薬、GTP結合蛋白質阻害薬などが挙げられる。
【0013】
ホルモン系薬剤を分化誘導剤と併用する場合には、それぞれの薬剤の投与量、投与時期、投与頻度、投与間隔などは一般的な範囲であれば、特に最適化を図らなくても、十分にホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延効果を得ることができる。
特に、本発明における分化誘導剤は、ホルモン系薬剤の投与後であって、例えば、ホルモン系薬剤の有効血中濃度が約50%以下に減少した時点、あるいはホルモン系薬剤の投与により(例えば前立腺癌における血中PSA値の増加などにより示される)癌の増殖が再開し始めた頃に投与するのが好ましい。
また、必要に応じて、投与開始時期を早めることによってホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延効果がより強く発揮される。
ホルモン系薬剤と分化誘導剤を他のホルモン系薬剤または細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤と併用する場合には、それぞれの薬剤の投与量、投与時期、投与頻度、投与間隔などは一般的な範囲であれば、特に最適化を図らなくても、十分にホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延効果を得ることができる。
特に、本発明の細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤は、ホルモン系薬剤の投与後であって、例えば、ホルモン系薬剤の有効血中濃度が約50%以下に減少した時点、あるいはホルモン系薬剤の投与により細胞増殖因子の受容体が発現し始めた頃に投与するのが好ましい。
また、必要に応じて、投与開始時期を早めることによってホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延効果がより強く発揮される。
【0014】
本明細書中で使用される略号の意味は次のとおりである。
略号 名称
5−oxo−Pro: ピログルタミン酸残基
His: ヒスチジン残基
Trp: トリプトファン残基
Ser: セリン残基
Tyr: チロシン残基
Leu: ロイシン残基
Arg: アルギニン残基
Pro: プロリン残基
DLeu: D−ロイシン残基
DAla: D−アラニン残基
DTrp: D−トリプトファン残基
N(4H2−furoyl)Gly:N−テトラヒドロフロイルグリシン残基
NAc: N−アセチル基
D2Nal: D−3−(2−ナフチル)アラニン残基
D4ClPhe: D−3−(4−クロロ)フェニルアラニン残基
D3Pal: D−3−(3−ピリジル)アラニン残基
NMeTyr: N−メチルチロシン残基
Aph(Atz): N−[5’−(3’−アミノ−1’H−1’,2’,4’−トリアゾリル)] フェニルアラニン残基
NMeAph(Atz): N−メチル−[5’−(3’−アミノ−1’H−1’,2’,4’−トリアゾ リル)]フェニルアラニン残基
DLys(Nic): D−(e−N−ニコチノイル)リジン残基
Dcit: D−シトルリン残基
DLys(AzaglyNic): D−(アザグリシルニコチノイル)リシン残基
DLys(AzaglyFur): D−(アザグリシルフラニル)リシン残基
DhArg(Et2): D−(N,N’−ジエチル)ホモアルギニン残基
DAph(Atz): D−N−[5’−(3’−アミノ−1’H−1’,2’,4’−トリアゾリル)] フェニルアラニン残基
DhCi: D−ホモシトルリン残基
Lys(Nisp): (e−N−イソプロピル)リシン残基
hArg(Et2): (N,N’−ジエチル)ホモアルギニン残基
DSer(tBu): D−O−(t−ブチル)セリン残基
DHis(ImBzl): Nt−ブチルヒスチジン残基
【0015】
その他アミノ酸に関し、略号で表示する場合、IUPAC−IUBコミッション・オブ・バイオケミカル・ノーメンクレーチュアー(Commission on Biochemical Nomenclature)(ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Europian Journal of Biochemistry)第138巻、9〜37頁(1984年))による略号または該当分野における慣用略号に基づくものとし、また、アミノ酸に関して光学異性体がありうる場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
【0016】
本発明の併用剤は、毒性が低く、そのまま医薬として、もしくは自体公知の薬学的に許容しうる担体などと混合して人を含む哺乳動物(例えば、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウサギ、ブタ、サルなど)に対して医薬組成物として用いることができる。
本発明の剤は、ホルモン系薬剤および分化誘導剤、さらに必要により分子標的癌治療薬に薬学的に許容される担体を配合し、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、顆粒剤、散剤、坐剤などの固形製剤;またはシロップ剤、注射剤などの液状製剤として経口または非経口的に投与することができる。また、ホルモン系薬剤と分化誘導剤、さらに必要により分子標的癌治療薬とをそれぞれ別々に製剤化し、同時にまた時間差をおいて経口または非経口的に投与することもできる。
ホルモン系薬剤、分化誘導剤および分子標的癌治療薬の内、複数を併用して投与する場合には、必要に応じて個々選択し、それぞれ別々に製剤化し、同時にまた時間差をおいて経口または非経口的に投与することができる。
薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用されている各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
【0017】
賦形剤の好適な例としては、例えば、乳糖、白糖、D−マンニトール、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸などがあげられる。
滑沢剤の好適な例としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどがあげられる。
結合剤の好適な例としては、例えば、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどがあげられる。
崩壊剤の好適な例としては、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどがあげられる。
溶剤の好適な例としては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油などがあげられる。
溶解補助剤の好適な例としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどがあげられる。
懸濁化剤の好適な例としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子などがあげられる。
等張化剤の好適な例としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトールなどがあげられる。
緩衝剤の好適な例としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などがあげられる。
無痛化剤の好適な例としては、例えば、ベンジルアルコールなどがあげられる。
防腐剤の好適な例としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などがあげられる。
抗酸化剤の好適な例としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸などがあげられる。
【0018】
本発明の剤におけるホルモン系薬剤の含有量は、剤型、投与方法、担体等により異なるが、製剤全量に対して通常約0.1〜30%(w/w)、好ましくは約1〜20%(w/w)、より好ましくは約5〜10%(w/w)である。
本発明の剤における分化誘導剤の含有量は剤型投与方法、担体等により異なるが、製剤全量に対して通常約5〜99%(w/w)である。
本発明の剤における分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)(特に低分子化合物の場合)の含有量は剤型投与方法、担体等により異なるが、製剤全量に対して通常約0.1〜90%(w/w)である。
各種製剤添加剤の含有量は、製剤全量に対して通常約0.1〜99.9%(w/w)、好ましくは約10〜99.9%(w/w)、より好ましくは約20〜90%(w/w)である。
本発明の剤の投与量は、ホルモン系薬剤の種類、分化誘導剤の種類、細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤の種類、投与ルート、症状等によって異なるが、例えば、乳癌や前立腺癌を持つ患者(体重40ないし80kg)に抗癌剤としてLH−RH誘導体を皮下投与している場合、細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤が低分子化合物である時は、化合物として、好ましくは1日に約1.0〜100mg/kg体重、より好ましくは約5.0〜50mg/kg体重である。この量を1日1回または2〜3回に分けて投与することができる。また、LHRH誘導体については、例えば、乳癌や前立腺癌を持つ患者(体重40ないし80kg)に化合物として、好ましくは1日に約1.0〜100mg/kg体重、より好ましくは約1.0〜50mg/kg体重である。また、分化誘導剤については、例えば、乳癌や前立腺癌を持つ患者(体重40ないし80kg)に化合物として、好ましくは1日に約0.1〜10mcg/kg体重、より好ましくは約0.5〜2.0mcg/kg体重である。また、分子標的癌治療薬(細胞増殖因子またはその受容体の作用を阻害する薬剤、細胞情報伝達を阻害する薬剤など)が抗体である時は、通常約1〜2,000mg/kg/週、好ましくは約5〜1,000mg/kg/週の用量を連日または間欠的に、静脈、皮下、腫瘍局所などに投与することができる。
【0019】
本発明の剤は、ホルモン系薬剤の薬効持続時間を通常約1.5倍以上、より具体的には約1.5〜3倍維持・持続させることができる。
さらに、本発明の剤は、その他の活性成分、例えば、化学療法剤または免疫療法剤を配合することもできる。
化学療法剤としては、例えば、アルキル化剤(例えばサイクロフォスファミド、イフォスファミド)、代謝拮抗剤(例えば、メソトレキセート、5−フルオロウラシル)、抗癌性抗生物質(例えばマイトマイシン、アドリアマイシン)、植物由来抗癌剤(例えば、ビンクリスチン、ビンデシン、タキソール)、シスプラチン、カルボプラチン、エトポキシドなどが用いられる。
免疫療法剤としては、例えば、微生物または菌体成分(例えば、ムラミルジペプチド誘導体、ピシバニール)、免疫増強活性のある多糖類(例えば、レンチナン、シゾフィラン、クレスチン)、遺伝子工学的手法で得られるサイトカイン(例えば、インターフェロン、インターロイキン)などが用いられる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に実施例、参考例および実験例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0021】
【実施例】
参考例1
水素化リチウムアルミニウム(350mg)のジエチルエーテル(10ml)懸濁液に、エチル 4−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]ブチレート(3.00g)のジエチルエーテル(10ml)−テトラヒドロフラン(10ml)溶液を0℃で滴下した。0℃で1時間、さらに室温で1時間かきまぜた後、水を加え、2N塩酸で酸性化し、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を水洗、乾燥(MgSO4)後、溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル−ヘキサン(1:1,v/v)溶出部から4−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]ブタノール(2.00g,74%)を得た。酢酸エチル−ヘキサンから再結晶。無色針状晶。融点90〜91℃。
【0022】
参考例2
参考例1と同様にして、エチル 3−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]プロピオネートを還元して、3−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]プロパノールを得た。収率94%。酢酸エチル−ヘキサンから再結晶。無色針状晶。融点95〜96℃。
【0023】
参考例3
参考例2で得られた3−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]プロパノール(760mg)、トリブチルホスフィン(1.01g)および1,2,4−トリアゾール(280mg)のテトラヒドロフラン(15ml)溶液に、ジエチル アゾジカルボキシレート(700mg)を0℃で滴下した。1時間加熱還流後、反応混合物を水に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を水洗、乾燥(MgSO4)後、溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル−ヘキサン(2:1,v/v)溶出部から得られる結晶を酢酸エチル−ヘキサンから再結晶して、1−[3−[4−[2−[(E)−2−フェニルエテニル]−4−オキサゾリルメトキシ]フェニル]プロピル]−1,2,4−トリアゾール(540mg,70%)を得た。
無色プリズム晶。融点108〜109℃。
【0024】
参考例4
(1)参考例3の化合物 10.0mg
(2)乳糖 60.0mg
(3)コーンスターチ 35.0mg
(4)ゼラチン 3.0mg
(5)ステアリン酸マグネシウム 2.0mg
以上を混合して、錠剤とする。
【0025】
実施例1
参考例4で得た錠剤と以下に記載の方法によって得られる徐放性製剤を併用剤として使用する。
酢酸リュープロレリン(武田薬品工業(株)社製)400mgを0.5mlの蒸留水に溶解し水相液とし、ポリ−DL−乳酸[Lot.870818;重量平均分子量18000(マイクロカプセルLot.244、245)およびLot.880622;重量平均分子量18200、分散度1.76(マイクロカプセルLot.248)]4gをジクロロメタン7.5mlに溶解した液に加え、小型ホモジナイザー(ポリトロンキネマチカ社製、スイス)で約60秒間乳化し、W/O型エマルジョンを得る。このエマルジョンを15℃に冷却して、あらかじめ15℃に冷却した0.25%ポリビニルアルコール水溶液1000ml中に注入し、小型ホモジナイザーを使用して、W/O/W型エマルジョンとする。この後、W/O/W型エマルジョンを攪拌しながらジクロロメタンの揮散によって内部のW/O型エマルジョンを固化された後、遠心分離機で捕集する。
これを再び蒸留水に分散し、さらに遠心分離を行い遊離した薬物および分散剤などを洗浄する。
捕収されたマイクロカプセルは凍結乾燥によって脱溶媒および脱水をより完全とした後、粉末として得られる。
【0026】
実験例1
5mlのヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC(American Type Culture Collection)カタログNo.CRL1740、J.S.Horoszewicz, Cancer Res. 43: 1809−1818(1983))の細胞浮遊液(2 x 105個/ml)を60mmの培養皿に分注し,37℃,5% CO2下で一夜培養した。培地を所定の濃度のcyproterone acetate(Sigma;Cat.No.C−3412)を含む培地に交換し,3日間37℃,5% CO2下で培養を続けた。培地を除去した後,酸性グアニジンイソシアネート/フェノール/クロロホルム法により各培養皿からRNAを抽出した。これらを鋳型にoligo−dT adaptor primer(宝酒造)をプライマーとして相補DNAを合成し,PCR反応の鋳型とした。受容体型チロシンキナーゼ群の特異的プライマーは,キナーゼ領域に共通する配列HisArgAspLeuAlaAlaとSerAspValTrpSer(Hanksら1988)をもとに合成した。具体的には,EGF受容体様キナーゼに対し5’−CA(C/T)(C/A)GGGA(C/T)(C/T)TGGC (A/T/C)GC(sense primer)と5’−A(A/G)CTCCA(A/C)AC(A/G)TC(A/G)CT(antisense primer)を,insulin受容体様キナーゼに対し5’−CA(C/T)(C/A)G(G/A)GAC(C/T)T(G/T)GC(A/T)GC(sense primer)と5’−A(A/G)CTCCA(A/C)ACGTC(A/C)GA(antisense primer)を,またPDGF受容体様キナーゼおよびFGF受容体様キナーゼに対し5’−CA(C/T)(C/A)G(G/A)GAC(C/T)TGGC(A/G)GC(sense primer)と5’−A(A/G)GACCA(G/C)AC(A/G)TC(A/G)CT(antisense primer)を合成した。増幅サイクルは95℃,1 min(変性),40℃,1 min(アニーリング),72℃,1 min(合成)とし,35サイクルの増幅反応を行った。各受容体キナーゼ群の発現量は, PCR反応物をアガロースゲル電気泳動(4%)後に臭化エチジウム染色した画像を解析して定量した(図1)。それぞれの発現量は標準化のために同一検体のβ−actin発現量との比で求め,図1中の数値はcyproterone acetate無添加時の発現量を1とした時の各点の発現量を表している。
なお,β−actinはプライマーに5’−ATCTGGCACCACACCTTCTACAATGAGCTGCG(sense)と5’−CGTCATACTCCTGCTTGCTGATCCACATCTGC(antisense)を用い,25回の増幅サイクル(95℃,0.5 min,60℃,1 min,72℃,0.5 min)で増幅した。
【0027】
実験例2
継代培養しているヒト前立腺癌細胞株LNCaP細胞をトリプシン処理し,10%牛胎児血清(BioWhittaker)を含むRPMI1640培地(GibcoBRL)に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度をコールターカウンターで測定し,上述の培地を用いて細胞密度を2 x 104細胞/mlに調製した。これを24 wellマルチウェル培養プレート(Becton Dickinson)の各wellに0.5 mlづつ分注し,37℃,5% CO2下で一夜培養した。これにcyproterone acetate(Sigma;Cat.No.C−3412)、2 x 10−9〜2 x 10−6Mを所定の濃度含む培地またはcyproterone acetateとPD153035(Science 265(5175) p1093 (1994);日本農芸化学会1996年度大会抄録番号21a14(1996年3月30日京都))10 mMを所定の濃度含む培地を0.5 ml加えた。37℃,5% CO2下で4日間培養後に各wellの細胞数をコールターカウンターで測定した(図2)。
【0028】
【発明の効果】
本発明のホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなるホルモン依存性癌の治療剤は、より高い抗腫瘍効果を発揮することができる。また、本発明のホルモン非依存性癌への変化遅延剤は、ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化遅延効果を効果的に発揮することができる。
【0029】
【図面の簡単な説明】
【図1】アンドロゲン拮抗薬のヒト前立腺癌細胞株の受容体型チロシンキナーゼ群遺伝子の発現に及ぼす影響を示す図を示す。
【図2】ヒト前立腺癌細胞の増殖に対するアンドロゲン拮抗薬およびチロシンキナーゼ阻害薬の影響を示す図を示す。
Claims (15)
- ホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなるホルモン依存性癌の治療剤。
- ホルモン系薬剤がLH−RH誘導体である請求項1記載の剤。
- LH−RH誘導体がLH−RHアゴニストである請求項2記載の剤。
- LH−RH誘導体が式
5−oxo−Pro−His−Trp−Ser−Tyr−Y−Leu−Arg−Pro−Z
[式中、YはDLeu、DAla、DTrp、DSer(tBu)、D2NalおよびDHis(ImBzl)から選ばれる残基を、ZはNH−C2H5またはGly−NH2をそれぞれ示す]で表わされるペプチドまたはその塩である請求項3記載の剤。 - LH−RH誘導体が5−oxo−Pro−His−Trp−Ser−Tyr−DLeu−Leu−Arg−Pro−NH−C2H5またはその酢酸塩である請求項3記載の剤。
- 分化誘導剤が脂溶性ビタミン類、核内受容体リガンド、ヒストンアセチル化調節薬、DNAメチル化調節薬または細胞情報伝達調節薬である請求項1記載の剤。
- 分化誘導剤が脂溶性ビタミン類である請求項1記載の剤。
- ホルモン系薬剤と分化誘導剤の他に分子標的癌治療薬を含有する請求項1記載の剤。
- 前立腺癌、卵巣癌、子宮癌または乳癌の予防治療剤である請求項1記載の剤。
- ホルモン依存性癌の予防・治療のためのホルモン系薬剤と分化誘導剤の使用。
- ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させるための分化誘導剤の使用。
- ホルモン依存性癌の予防・治療のためのホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなる医薬を製造するためのホルモン系薬剤または/および分化誘導剤の使用。
- ホルモン依存性癌のホルモン非依存性癌への変化を遅延させるためのホルモン系薬剤と分化誘導剤を含有してなる医薬を製造するためのホルモン系薬剤または/および分化誘導剤の使用。
- ホルモン系薬剤と分化誘導剤をホルモン依存性癌を持つ哺乳動物に投与することを特徴とする該哺乳動物においてホルモン依存性癌を治療する方法。
- ホルモン系薬剤と分化誘導剤をホルモン依存性癌を持つ哺乳動物に投与することを特徴とする該哺乳動物においてホルモン非依存性癌への変化を遅延させる方法。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2009537626A (ja) * | 2006-05-22 | 2009-10-29 | ビオアリアンス ファルマ | 9−ヒドロキシエリプチシン誘導体による悪性表現型の復帰変異 |
-
2002
- 2002-05-31 JP JP2002160837A patent/JP2004002240A/ja not_active Withdrawn
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