JP2004000045A - 前立腺特異的膜抗原に対する抗体 - Google Patents
前立腺特異的膜抗原に対する抗体 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】新規なV領域アミノ酸配列を有する前立腺特異的膜抗原(PSMA)に特異的に反応するヒト化抗体、抗体断片および融合抗体、および該ヒト化抗体、抗体断片または融合抗体を用いた癌の診断薬および治療薬を提供する。
【解決手段】本発明により、PSMAに特異的に反応し、特定のアミノ酸配列を含むH鎖V領域とヒト抗体のH鎖C領域とからなるH鎖および特定のアミノ酸配列を含むL鎖V領域とヒト抗体のL鎖C領域とからなるL鎖からなるヒト型キメラ抗体、その抗体断片、該キメラ抗体とインターロイキン2または抗癌剤アドリアマイシンとの融合抗体、該キメラ抗体またはその抗体断片を含む癌の診断薬、および該抗体、その抗体断片または該融合抗体を含む癌の治療薬が提供される。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明により、PSMAに特異的に反応し、特定のアミノ酸配列を含むH鎖V領域とヒト抗体のH鎖C領域とからなるH鎖および特定のアミノ酸配列を含むL鎖V領域とヒト抗体のL鎖C領域とからなるL鎖からなるヒト型キメラ抗体、その抗体断片、該キメラ抗体とインターロイキン2または抗癌剤アドリアマイシンとの融合抗体、該キメラ抗体またはその抗体断片を含む癌の診断薬、および該抗体、その抗体断片または該融合抗体を含む癌の治療薬が提供される。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)に特異的に反応するヒト化抗体(以下、抗PSMAヒト化抗体と表記する)およびその抗体断片に関する。本発明はさらに、該抗体および抗体断片に由来する融合抗体に関する。本発明はさらに、該抗体、抗体断片および融合抗体をコードするDNAに関する。本発明は、該DNAを含んでなる組換えベクター、および該組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株に関する。本発明はさらに、該形質転換株を用いた該抗体、抗体断片および融合抗体の製造方法、ならびに該抗体、抗体断片および融合抗体を有効成分として含有する癌の治療薬および癌の診断薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
前立腺癌は、米国において男性の癌死亡原因の第2位を占める癌であり、その効率的な診断法、効果的な治療法が求められている。
PSMAは、マウス抗体7E11.C5が認識する抗原として、ヒト前立腺癌細胞株LNCaPより、その遺伝子がクローニングされた蛋白質であり、750アミノ酸から成る分子量約110kDaのII型膜糖蛋白質であることが明らかとなっている(Anticancer Res., 7, 927, 1987; CancerRes., 53, 227, 1993)。PSMAをコードする遺伝子は、ヒト染色体11p11−p12に位置しており、また、PSMAと非常に相同性の高い遺伝子が染色体11q14に存在している(Genomics, 30, 105, 1995; Br. J. Cancer,72, 583, 1995; Biochim. Biophys. Acta., 1443, 113, 1998)。PSMAの発現は、前立腺上皮細胞に非常に限局しており、また、前立腺癌、特にホルモン不応答性増殖に伴う発現上昇が報告されている(J. Urol., 153, 382A, 1995; Urology, 48, 326, 1996; Cancer Res., 57, 2321, 1997)。前立腺以外でのPSMAの発現に関しては、脳、顎下腺、小腸などで認められているが、そのレベルは低い(Clin. Cancer Res., 3, 81, 1997; Cancer Res., 54, 1807, 1994; Int. J. Cancer, 62, 552, 1995)。一方、最近では腫瘍新生血管におけるPSMAの発現も報告されている(Cancer Res., 57, 3629, 1997; Cancer Res., 59, 3192, 1999)。このようなPSMAの発現特性から、PSMAは前立腺癌を始めとする癌の診断および治療のための有用な標的抗原と考えられている。PSMAの機能に関しては、これまでの研究から、2つの酵素活性を有していることが明らかとなっている。1つは、葉酸加水分解酵素活性(Clin. Cancer Res., 2, 1445, 1996)であり、もう1つは、カルボキシペプチダーゼ活性(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 93, 749, 1996; J. Pharmacol. Exp. Ther., 286, 1020, 1998)である。しかし、これらの酵素活性の前立腺における機能や前立腺癌における役割については未だ不明な点が多い。
【0003】
PSMAに対する抗体(以下、抗PSMA抗体と表記する)しては、上記の7E11.C5を含めていくつかの報告がある。7E11.C5は、PSMAの細胞内ドメインのN末端から6残基を認識することが明らかとなっており(Urol. Oncol., 1, 29, 1995)、このため、生細胞との反応性が認められない(Cancer Res., 57, 3629, 1997)。その後、PSMAの細胞外領域に特異的に反応する抗体が作製され、生細胞との反応性も確認されている(Prostate, 28, 266, 1996; Cancer Res., 57, 3629, 1997; Cancer Res., 58, 4787, 1998; J. Urol., 160, 2396, 1998)。PSMAの細胞外領域に反応する最初の抗体としては、マウス抗体3F5.4G6が作製された(Prostate, 28, 266, 1996)。さらに、J591、J533、J415、E99もPSMAの細胞外領域の異なるエピトープを認識することが報告されている(Cancer Res., 57, 3629, 1997)。PEQ226.5もPSMAの細胞外領域に対する抗体である(Cancer Res., 58, 4787, 1998)。さらに、3E11、3C2、4E10−1.14、3C9、1G3もPSMAの細胞外領域に対する反応が確認されている(J. Urol., 160, 2396, 1998)。これらの細胞外領域に対する抗体は、いずれも連続するアミノ酸の一次配列(以下、リニアエピトープと表記する)を認識する抗体である。一般に、リニアエピトープを認識する抗体は、フローサイトメトリー解析の結果、生細胞に対するよりも死細胞により強く反応する傾向が認められている。一方、1G9、3C6、4D4は、PSMAの細胞外領域の立体構造を認識する抗体である(Hybridoma, 19, 249, 2000)。これらの抗体は、フローサイトメトリー解析の結果、生細胞と死細胞に対する同等の強い反応性が認められている。さらに、ヒト抗体産生マウスを用いることにより、PSMAの細胞外領域の立体構造を認識する5種類のヒト抗体も作製された(Exp. Opin.Invest. Drugs, 10, 511, 2001)。
【0004】
抗PSMA抗体の臨床応用に関しては、111I標識の7E11.C5が再発性および転移性の前立腺癌の診断で用いられているが、上記のように7E11.C5は、死細胞あるいはアポトーシスを起こした細胞にしか反応しないため、その感度には限界があった(Prostate, 37, 261, 1998; Clin. Nucl. Med., 23, 672, 1998; J. Urol., 159, 2041, 1998)。この欠点を補うため、現在では、PSMAの細胞外領域を認識する抗体の臨床応用が検討されており、マウス抗体J591では、優れた前立腺癌特異的集積性が報告されている(Proc. Amer. Soc. Clin. Oncol., 19, 477a, 2000)。また、J591に関しては、その治療効果を高める目的で、一本鎖抗体の作製やヒト型CDR移植抗体の作製も報告されている(Neoplasia, 1, 123, 1999; Proc. Amer. Soc. Clin. Oncol., 19, 477a, 2000)。さらに、PSMAの細胞外領域を認識する抗体は、生細胞に結合した後、細胞内に取込まれることが示されている(Cancer Res., 58, 4055, 1998)。US6107090、WO99/47554には、薬剤、毒素、放射同位元素と結合させたPSMAの細胞外領域を認識する抗体が記載されている。
【0005】
マウスモノクローナル抗体2C9はヒト前立腺癌細胞株LNCaPを免疫原として得られたヒト前立腺癌に特異的に反応するモノクローナル抗体である(J. Aichi Med. Univ. Assoc., 23, 609, 1995)。2C9は、免疫組織染色の結果、前立腺の腺細胞の腺腔側および腺腔内の分泌物と特異的に反応すること、また、前立腺癌のマーカーである前立腺特異抗原(PSA)に対する抗体では反応しない未分化癌組織にも反応することから、PSAとは異なる前立腺特異抗原を認識することが示唆されていた(J. Aichi Med. Univ. Assoc., 23, 609, 1995)。最近、ヒト前立腺由来のmRNAを用いた発現クローニング法による抗原遺伝子のクローニングおよび2C9固定化カラムを用いたヒト前立腺癌細胞株ライセートからの抗原蛋白質の精製を行った結果、2C9の認識抗原はPSMAであることが報告された(第90回日本泌尿器科学会総会、2002年)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、新規なV領域アミノ酸配列を有するPSMAと特異的に反応するヒト化抗体、抗体断片および融合抗体を提供することを目的とする。さらに、該抗体、抗体断片および融合抗体を用いて癌などの疾患の診断薬、予防薬および治療薬として提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の(1)〜(32)を提供する。
(1)前立腺特異的膜抗原(PSMA)に特異的に反応し、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む抗体重鎖(H鎖)可変領域(V領域)(VH)とヒト抗体のH鎖定常領域(C領域)(CH)とからなるH鎖および配列番号6で示されるアミノ酸配列を含む抗体軽鎖(L鎖)V領域(VL)とヒト抗体のL鎖C領域(CL)とからなるL鎖からなるヒト型キメラ抗体またはその抗体断片。
(2)ヒト抗体のCHがIgG1クラスのCHであり、かつヒト抗体のCLがκクラスのCLである(1)に記載のヒト型キメラ抗体またはその抗体断片。
(3)ヒト型キメラ抗体が、形質転換株KM2777(FERM BP−7969)が生産するヒト型キメラ抗体である、(2)に記載のヒト型キメラ抗体またはその抗体断片。
【0008】
(4)PSMAに特異的に反応し、それぞれ配列番号7、8および9で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2およびCDR3を含むVHとヒト抗体のCHとからなるH鎖およびそれぞれ配列番号10、11および12で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2およびCDR3を含むVLとヒト抗体のCLとからなるL鎖からなるヒト型CDR移植抗体またはその抗体断片。
(5)VHが、それぞれ配列番号7、8および9で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2およびCDR3とヒト抗体のVHのフレームワーク領域(FR)からなり、VLが、それぞれ配列番号10、11および12で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2およびCDR3とヒト抗体のVLのFRからなる、ヒト型CDR移植抗体またはその抗体断片。
(6)ヒト抗体のCHがIgG1クラスのCHであり、かつヒト抗体のCLがκクラスのCLである(4)または(5)に記載のヒト型CDR移植抗体またはその抗体断片。
(7)抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、一本鎖抗体(scFv)、二量体化V領域(Diabody)、ジスルフィド安定化V領域(dsFv)およびCDRを含むペプチドから選ばれる抗体断片である(1)〜(6)のいずれか1項に記載の抗体断片。
【0009】
(8)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片をコードするDNA。
(9)(8)に記載のDNAを含有する組換えベクター。
(10)(9)に記載の組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
(11)形質転換株がKM2777(FERM BP−7969)である(10)に記載の形質転換株。
(12)(10)または(11)に記載の形質転換株を培地に培養し、培養物中に(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片を生成蓄積させ、培養物から該抗体またはその抗体断片を採取することを特徴とする該抗体またはその抗体断片の製造方法。
【0010】
(13)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片に、薬剤高分子化合物、放射性同位元素および蛋白質からなる群から選ばれる少なくとも1つの物質が結合した融合抗体。
(14)抗体またはその抗体断片に結合した薬剤が抗癌剤または抗炎症剤である(13)に記載の融合抗体。
(15)抗体またはその抗体断片に結合した蛋白質がサイトカインおよび毒素からなる群から選ばれる少なくとも1つの蛋白質である(13)に記載の融合抗体。
(16)物質が抗体またはその抗体断片のH鎖に結合している(13)〜(15)のいずれか1項に記載の融合抗体。
(17)物質が抗体またはその抗体断片のL鎖に結合している(13)〜(15)のいずれか1項に記載の融合抗体。
(18)物質が抗体またはその抗体断片のH鎖およびL鎖に結合している(13)〜(15)のいずれか1項に記載の融合抗体。
(19)蛋白質がヒトインターロイキン2(hIL−2)である(13)および(15)〜(18)のいずれか1項に記載の融合抗体。
(20)融合抗体が、形質転換株KM2777(FERM BP−7969)が生産するヒト型キメラ抗体とhIL−2とからなる融合抗体である(19)に記載の融合抗体。
(21)融合抗体が、形質転換株KM2812(FERM BP−7970)が生産する融合抗体である(19)に記載の融合抗体。
【0011】
(22)抗体またはその抗体断片に結合した物質が蛋白質である(13)および(15)〜(21)のいずれか1項に記載の融合抗体をコードするDNA。
(23)(22)に記載のDNAを含有する組換えベクター。
(24)(23)に記載の組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
(25)形質転換株がKM2812(FERM BP−7970)である(24)に記載の形質転換株。
(26)(24)または(25)に記載の形質転換株を培地に培養し、培養物中に、抗体またはその抗体断片に結合した物質が蛋白質である(13)および(15)〜(21)のいずれか1項に融合抗体を生成蓄積させ、培養物から該融合抗体を採取することを特徴とする該融合抗体の製造方法。
【0012】
(27)抗癌剤がアドリアマイシンである、(14)および(16)〜(18)のいずれか1項に記載の融合抗体。
(28)アドリアマイシンが結合している抗体が、形質転換株KM2777(FERM BP−7969)が生産するヒト型キメラ抗体である(27)に記載の融合抗体。
(29)融合抗体が、形質転換株KM2777(FERM BP−7969)が生産するヒト型キメラ抗体のアミノ基に、下記式(I)で表されるアドリアマイシンを含む基が結合した融合抗体である(28)に記載の融合抗体。
【化2】
(式中nは40〜50の整数を表す。)
(30)アドリアマイシンのアミノ基と、末端の水酸基をカルボキシ基に変換したポリエチレングリコールとをジペプチドを介して結合させたアドリアマイシン結合リンカーを合成し、該リンカーの末端のカルボキシ基を活性エステル化し、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片のアミノ基と反応させる工程を含む、(27)〜(29)のいずれか1項に記載の融合抗体の製造方法。
【0013】
(31)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片およびおよび(13)〜(21)および(27)〜(29)のいずれか1項に記載の融合抗体からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する癌の治療薬。
(32)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片を有効成分として含有する癌の診断薬。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明のPSMAに特異的に反応する抗体(以下、抗PSMA抗体ともいう)としては、、PSMAに特異的に反応するヒト化抗体を包含する。ヒト化抗体としては、ヒト型キメラ抗体およびヒト型CDR移植抗体等があげられる。本発明の抗PSMAキメラ抗体としては、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むVHとヒト抗体のCHとからなるH鎖、および配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むVLとヒト抗体のCLとからなるL鎖からなるヒト型キメラ抗体等があげられる。本発明の抗PSMAヒト型CDR移植抗体としては、それぞれ配列番号7、8、9で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2、CDR3を含むVHとヒト抗体のCHとからなるH鎖およびそれぞれ配列番号10、11、12で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2、CDR3を含むVLとヒト抗体のCLとからなるL鎖からなるヒト型CDR移植抗体等があげられる。
【0015】
ヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLとヒト抗体のCHおよびCLとからなる抗体を意味する。本発明のヒト型キメラ抗体は、PSMAに特異的に反応するマウス抗体2C9を産生するハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0016】
ヒト型キメラ抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリン(以下、hIgと表記する)に属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型キメラ抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
【0017】
本発明のPSMAに特異的に反応するヒト型キメラ抗体の具体例としては、抗体のVHが配列番号4記載のアミノ酸配列、ヒト抗体のCHがhIgG1サブクラスのアミノ酸配列から成り、抗体のVLが配列番号6記載のアミノ酸配列、ヒト抗体のCLがκクラスのアミノ酸配列からなる抗体KM2777があげられる。
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列をヒト抗体のVHおよびVLの適切な位置に移植した抗体を意味する。
【0018】
本発明のヒト型CDR移植抗体は、PSMAに特異的に反応するマウス抗体2C9のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を任意のヒト抗体のVHおよびVLのFRに移植したV領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0019】
ヒト型CDR移植抗体のCHとしては、hIgに属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型CDR移植抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
【0020】
本発明の抗体断片は、本発明の抗体の抗体断片であれば、いかなるものでも良い。
本発明の抗体断片としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、diabody、dsFvおよびCDRを含むペプチドなどがあげられる。
Fabは、IgGを蛋白質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち(H鎖の224番目のアミノ酸残基で切断される)、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体がジスルフィド結合で結合した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0021】
本発明のFabは、本発明の抗PSMA抗体を蛋白質分解酵素パパインで処理して得ることができる。または、該抗体のFabをコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、Fabを製造することができる。
F(ab’)2は、IgGを蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち(H鎖の234番目のアミノ酸残基で切断される)、Fabがヒンジ領域のジスルフィド結合を介して結合されたものよりやや大きい、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0022】
本発明のF(ab’)2は、本発明の抗PSMA抗体を蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。または、下記のFab’をチオエーテル結合あるいはジスルフィド結合させ、作製することができる。
Fab’は、上記F(ab’)2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0023】
本発明のFab’は、上記のF(ab’)2を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。または、該抗体のFab’断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、Fab’を製造することができる。
scFvは、1本のVHと1本のVLとを適当なペプチドリンカー(以下、Pと表記する)を用いて連結した、VH−P−VLないしはVL−P−VHポリペプチドで、抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0024】
本発明のscFvは、本発明の抗PSMA抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、scFvを製造することができる。
diabodyは、scFvが二量体化した抗体断片で、二価の抗原結合活性を有する抗体断片である。二価の抗原結合活性は、同一であることもできるし、一方を異なる抗原結合活性とすることもできる。
【0025】
本発明のdiabodyは、本発明の抗PSMA抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAをPのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、diabodyを製造することができる。
【0026】
dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを該システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させたものをいう。システイン残基に置換するアミノ酸残基はReiterらにより示された方法(Protein Engineering, 7,697, 1994)に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。
本発明のdsFvは、本発明の抗PSMA抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、dsFvを製造することができる。
【0027】
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。
本発明のCDRを含むペプチドは、本発明の抗PSMA抗体のVHおよびVLのCDRをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、CDRを含むペプチドを製造することができる。
また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によって製造することもできる。
【0028】
本発明の融合抗体は、本発明の抗PSMA抗体およびその抗体断片に放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子化合物、蛋白質などを化学的あるいは遺伝子工学的に結合させた融合抗体を包含する。
本発明の融合抗体は、本発明の抗PSMA抗体およびその抗体断片のH鎖あるいはL鎖のN末端側あるいはC末端側、抗体および抗体断片中の適当な置換基あるいは側鎖、さらには抗体および抗体断片中の糖鎖などに放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子化合物、蛋白質などを化学的手法(抗体工学入門、金光修著、地人書館、1994)により結合させることにより製造することができる。
【0029】
また、本発明の抗PSMA抗体およびその抗体断片をコードするDNAと、結合させたい蛋白質をコードするDNAを連結させて発現用ベクターに挿入し、該発現ベクターを適当な宿主細胞へ導入し、発現させることにより製造することができる。放射性同位元素としては、131I、125Iなどがあげられ、例えば、クロラミンT法などにより抗体に結合させることができる。
【0030】
低分子の薬剤としては、ナイトロジェン・マスタード、サイクロフォスファミドなどのアルキル化剤、5−フルオロウラシル、メソトレキセートなどの代謝拮抗剤、ダウノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、ダウノルビシン、ドキソルビシンなどの抗生物質、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシンのような植物アルカロイド、タモキシフェン、デキサメタソンなどのホルモン剤などの抗癌剤(臨床腫瘍学、日本臨床腫瘍研究会編、癌と化学療法社、1996)、またはハイドロコーチゾン、プレドニゾンなどのステロイド剤、アスピリン、インドメタシンなどの非ステロイド剤、金チオマレート、ペニシラミンなどの免疫調節剤、サイクロフォスファミド、アザチオプリンなどの免疫抑制剤、マレイン酸クロルフェニラミン、クレマシチンのような抗ヒスタミン剤などの抗炎症剤(炎症と抗炎症療法、医歯薬出版株式会社、1982)などがあげられる。例えば、ダウノマイシンと抗体を結合させる方法としては、グルタールアルデヒドを介してダウノマイシンと抗体のアミノ基間を結合させる方法、水溶性カルボジイミドを介してダウノマイシンのアミノ基と抗体のカルボキシル基を結合させる方法などがあげられる。
【0031】
高分子化合物としては、ポリエチレングリコール(以下、PEGと表記する)、アルブミン、デキストラン、ポリオキシエチレン、スチレンマレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリルアミドなどがあげられる。これらの高分子化合物を抗体および抗体断片に結合させることにより、(1)化学的、物理的あるいは生物的な種々の因子に対する安定性の向上、(2)血中半減期の顕著な延長、(3)免疫原性の消失、抗体産生の抑制、などの効果が期待される(バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店、1993)。高分子化合物、例えばPEGと抗体を結合させる方法としては、PEG化修飾試薬と反応させる方法などがあげられる(バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店、1993)。PEG化修飾試薬としては、リジンのε−アミノ基の修飾剤(特昭61−178926)、アスパラギン酸およびグルタミン酸のカルボキシル基の修飾剤(特昭56−23587)、アルギニンのグアニジノ基の修飾剤(特開平2−117920)などがあげられる。
【0032】
蛋白質としては、免疫担当細胞を活性化するサイトカイン、例えば、ヒトインターロイキン2(以下、hIL−2と表記する)、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(以下、hGM−CSFと表記する)、ヒトマクロファージコロニー刺激因子(以下、hM−CSFと表記する)、ヒトインターロイキン12(以下、hIL−12と表記する)などがあげられる。また、癌細胞を直接障害する活性を有するリシンやジフテリア毒素などの毒素を用いることができる。蛋白質との融合抗体については、抗体および抗体断片をコードするcDNAに蛋白質をコードするcDNAを連結させ、融合抗体をコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物あるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、融合抗体を製造することができる。
【0033】
本発明の抗PSMA抗体およびそれらの抗体断片は、ELISA(Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Chapter 14, 1988;Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press Limited, 1996)およびフローサイトメトリー解析などにより、in vitroでのPSMAに対する結合活性を評価することができる。
【0034】
以下に、本発明の抗PSMA抗体およびその抗体断片の作製方法および活性評価について説明する。
1.マウス抗体2C9の作製と2C9が認識する抗原の同定
(1)マウス抗体2C9の作製
マウスモノクローナル抗体2C9は、ヒト前立腺癌細胞株LNCaPをBALB/Cマウスに免疫後、ハイブリドーマを作製し、培養上清中の抗体、あるいは、腹水より精製した抗体のヒト前立腺組織および前立腺癌に対する特異的な反応を確認し、確立した(J. Aichi Med. Univ.Assoc., 23, 609, 1995)。
【0035】
(2)マウス抗体2C9が認識する抗原の同定
マウス抗体2C9が認識する抗原は、以下のようにして同定することができる。例えば、抗原が蛋白質の場合は、2C9が反応する組織あるいは細胞、例えばヒト前立腺組織または前立腺癌から作製したcDNA発現ライブラリーを適当な細胞に導入し、cDNA発現細胞ライブラリーを作製する。次いで、cDNA発現細胞ライブラリーから、2C9との反応性を指標に抗原発現細胞を単離し、細胞からcDNAを回収してその塩基配列を解析することで、抗原の同定を行うことができる。
また、適当な樹脂担体に2C9を固定化したカラムを用い、2C9が反応する組織あるいは細胞、例えばヒト前立腺組織または前立腺癌から調製したライセートから抗原を精製し、その構造解析を行うことによっても抗原の同定を行うことができる。
【0036】
2.ヒト化抗体の作製
(1)ヒト化抗体発現用ベクターの構築
ヒト化抗体発現用ベクターとは、ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子が組み込まれた動物細胞用発現ベクターであり、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子をそれぞれクローニングすることにより構築することができる。
【0037】
ヒト抗体のC領域は任意のヒト抗体のCHおよびCLであることができ、例えば、ヒト抗体のH鎖のIgG1サブクラスのC領域(以下、hCγ1と表記する)およびヒト抗体のL鎖のκクラスのC領域(以下、hCκと表記する)などがあげられる。ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子としてはエキソンとイントロンからなる染色体DNAを用いることができ、また、cDNAを用いることもできる。
【0038】
動物細胞用発現ベクターとしては、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組込み発現できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、pAGE107(Cytotechnology, 3, 133, 1990)、pAGE103(J. Biochem., 101, 1307, 1987)、pHSG274(Gene, 27, 223, 1984)、pKCR(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 78, 1527, 1981)、pSG1βd2−4(Cytotechnology, 4, 173, 1990)などがあげられる。動物細胞用発現ベクターに用いるプロモーターとエンハンサーとしては、SV40の初期プロモーターとエンハンサー(J. Biochem., 101, 1307, 1987)、モロニーマウス白血病ウイルスのLTRプロモーターとエンハンサー(Biochem. Biophys. Res. Commun., 149, 960, 1987)、イムノグロブリンH鎖のプロモーター(Cell, 41, 479, 1985)とエンハンサー(Cell, 33, 717, 1983)などがあげられる。
【0039】
ヒト化抗体発現用ベクターは、抗体H鎖およびL鎖が別々のベクター上に存在するタイプあるいは同一のベクター上に存在するタイプ(以下、タンデム型と表記する)のどちらでも用いることができるが、ヒト化抗体発現ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、動物細胞内での抗体H鎖およびL鎖の発現量のバランスが均衡するなどの点からタンデム型のヒト化抗体発現用ベクターの方が好ましい(J. Immunol. Methods, 167, 271, 1994)。タンデム型のヒト化抗体発現用ベクターとしては、pKANTEX93(WO97/10354)、pEE18(Hybridoma, 17, 559, 1998)などがあげられる。
構築したヒト化抗体発現用ベクターは、ヒト型キメラ抗体およびヒト型CDR移植抗体の動物細胞での発現に使用できる。
【0040】
(2)マウス抗体2C9のV領域をコードするcDNAの取得およびアミノ酸配列の解析
マウス抗体2C9のVHおよびVLをコードするcDNAは以下のようにして取得する。
マウス抗体2C9を産生するハイブリドーマよりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。合成したcDNAをファージあるいはプラスミドなどのベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーについて、マウスIgのH鎖、CHまたはVHをコードするDNAおよびマウスIgのL鎖、CHまたはCLをコードするDNAをプローブとして用いたハイブリダイゼーションを行ない、マウス抗体2C9のVHをコードするcDNAを有する組換えファージあるいは組換えプラスミド、およびマウス抗体2C9のVLをコードするcDNAを有する組換えファージあるいは組換えプラスミドをそれぞれ単離する。組換えファージあるいは組換えプラスミド上の目的とするマウス抗体のVHおよびVLの全塩基配列を決定し、塩基配列よりVHおよびVLの全アミノ酸配列を推定する。
【0041】
ハイブリドーマから全RNAを調製する方法としては、チオシアン酸グアニジン−トリフルオロ酢酸セシウム法(Methods in Enzymol., 154, 3, 1987)、また全RNAからmRNAを調製する方法としては、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Lab. Press New York, 1989)などがあげられる。また、ハイブリドーマからmRNAを調製するキットとしては、Fast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社製)、Quick Prep mRNA Purification Kit(Pharmacia社製)などがあげられる。
【0042】
cDNAの合成およびcDNAライブラリー作製法としては、常法(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Lab. Press New York, 1989; Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1−34)、あるいは市販のキット、例えば、Super ScriptTM Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(GIBCO BRL社製)やZAP−cDNA Synthesis Kit(Stratagene社製)を用いる方法などがあげられる。
【0043】
cDNAライブラリーの作製の際、ハイブリドーマから抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターは、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。例えば、ZAP Express(Strategies, 5, 58, 1992)、pBluescript II SK(+)(Nucleic Acids Res。, 17, 9494, 1989)、λzap II(Stratagene社製)、λgt10、λgt11(DNA Cloning: A Practical Approach, I, 49, 1985)、Lambda BlueMid(Clontech社製)、λExCell、pT7T3 18U(Pharmacia社製)、pcD2(Mol. Cell. Biol., 3, 280,1983)およびpUC18(Gene, 33, 103, 1985)などのファージあるいはプラスミドベクターが用いられる。
【0044】
ファージあるいはプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌としては該cDNAライブラリーを導入、発現および維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL1−Blue MRF’(J. Biotech., 23, 271, 1992)、C600(Genetics, 59, 177, 1968)、Y1088、Y1090(Science, 222, 778, 1983)、NM522(J. Mol. Biol., 166, 1, 1983)、K802(J. Mol. Biol., 16, 118, 1966)およびJM105(Gene,38, 275, 1985)などが用いられる。
【0045】
cDNAライブラリーからのマウス抗体2C9のVHおよびVLをコードするcDNAクローンの選択法としては、放射性同位元素あるいは蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法あるいはプラーク・ハイブリダイゼーション法(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)により選択することができる。
【0046】
上記方法により選択されたcDNAを、適当な制限酵素などで切断後、pBluescript SK(−)(Stratagene社製)などのプラスミドベクターにクローニングし、ABI PRISM 377(アプライドバイオシステムズ社製)等のDNAシークエンサーを用いて解析することにより該cDNAの塩基配列を決定することができる。
適当なプライマーを調製し、mRNAから合成したcDNAあるいはcDNAライブラリーを鋳型として、Polymerase Chain Reaction(以下、PCR法と表記する;Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, 1987−2001)によりVHおよびVLをコードするcDNAを調製することもできる。
【0047】
決定した塩基配列からVHおよびVLの全アミノ酸配列を推定し、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services, 1991)と比較することにより、取得したcDNAが分泌シグナル配列を含む抗体のVHおよびVLの完全なアミノ酸配列をコードしているかを確認することができる。分泌シグナル配列を含む抗体のVHおよびVLの完全なアミノ酸配列に関しては、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health andHuman Services, 1991)と比較することにより、分泌シグナル配列の長さおよびN末端アミノ酸配列を推定でき、さらにはそれらが属するサブグループを知ることができる。また、VHおよびVLの各CDRのアミノ酸配列についても、既知の抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services, 1991)と比較することによって見出すことができる。
さらに、VHおよびVLの完全なアミノ酸配列を用いて任意のデータベース、例えば、SWISS−PROTやPIR−Proteinなどに対してBLAST法(J. Mol. Biol., 215, 403,1990)などの配列の相同性検索を行い、配列の新規性を検討することができる。
【0048】
(3)ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築
上記2(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流に、マウス抗体2C9のVHおよびVLをコードするcDNAをクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。例えば、マウス抗体2C9ののVHおよびVLをコードするcDNAをそれぞれ、マウス抗体2C9のVHの3’末端側の塩基配列とヒト抗体のCHの5’末端側の塩基配列とから成り、かつ適当な制限酵素の認識配列を両端に有する合成DNA、マウス抗体2C9のVLの3’末端側の塩基配列とヒト抗体のCLの5’末端側の塩基配列とから成り、かつ適当な制限酵素の認識配列を両端に有する合成DNAとそれぞれ連結し、それぞれを上記2(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。また、マウス抗体2C9のVHおよびVLをコードするcDNAを含むプラスミドを鋳型として、5’末端に適当な制限酵素の認識配列を有するプライマーを用いてPCR法によりVHおよびVLをコードするcDNAを増幅し、それぞれを上記2(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。
【0049】
(4)ヒト型CDR移植抗体のV領域をコードするcDNAの構築
ヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLをコードするcDNAは、以下のようにして構築することができる。まず、目的のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を移植するヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列を選択する。ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列としては、ヒト抗体由来のものであれば、いかなるものでも用いることができる。例えば、Protein Data Bankなどのデータベースに登録されているヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列、ヒト抗体のVHおよびVLのFRの各サブグループの共通アミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services, 1991)などがあげられるが、その中でも、十分な活性を有するヒト型CDR移植抗体を作製するためには、マウス抗体2C9のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列とできるだけ高い相同性(少なくとも60%以上)を有するアミノ酸配列を選択することが望ましい。
【0050】
次に、選択したヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列にマウス抗体2C9のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を移植し、ヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列を設計する。設計したアミノ酸配列を抗体の遺伝子の塩基配列に見られるコドンの使用頻度(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services, 1991)を考慮して塩基配列に変換し、ヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列をコードする塩基配列を設計する。設計した塩基配列に基づき、100塩基前後の長さからなる数本の合成DNAを合成し、それらを用いてPCR法を行う。この場合、PCRでの反応効率および合成可能なDNAの長さから、VH、VLとも6本の合成DNAを設計することが好ましい。
【0051】
また、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、上記2(1)で構築したヒト化抗体発現用ベクターに容易にクローニングすることができる。PCR反応後、増幅産物をpBluescript SK(−)(Stratagene社製)などのプラスミドにクローニングし、上記2(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、所望のヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するプラスミドを取得する。
【0052】
(5)ヒト型CDR移植抗体のV領域のアミノ酸配列の改変
ヒト型CDR移植抗体は、目的のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのみをヒト抗体のVHおよびVLのFRに移植しただけでは、その抗原結合活性は元のヒト以外の動物の抗体に比べて低下してしまうことが知られている(BIO/TECHNOLOGY, 9, 266, 1991)。この原因としては、元のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLでは、CDRのみならず、FRのいくつかのアミノ酸残基が直接的あるいは間接的に抗原結合活性に関与しており、それらアミノ酸残基がCDRの移植に伴い、ヒト抗体のVHおよびVLのFRの異なるアミノ酸残基へと変化してしまうことが考えられている。この問題を解決するため、ヒト型CDR移植抗体では、ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列の中で、直接抗原との結合に関与しているアミノ酸残基やCDRのアミノ酸残基と相互作用したり、抗体の立体構造を維持し、間接的に抗原との結合に関与しているアミノ酸残基を同定し、それらを元のヒト以外の動物の抗体に見出されるアミノ酸残基に改変し、低下した抗原結合活性を上昇させることが行われている(BIO/TECHNOLOGY, 9, 266, 1991)。ヒト型CDR移植抗体の作製においては、それら抗原結合活性に関わるFRのアミノ酸残基を如何に効率よく同定するかが、最も重要な点であり、そのためにX線結晶解析(J. Mol. Biol., 112, 535, 1977)あるいはコンピューターモデリング(Protein Engineering, 7, 1501, 1994)などによる抗体の立体構造の構築および解析が行われている。これら抗体の立体構造の情報は、ヒト型CDR移植抗体の作製に多くの有益な情報をもたらして来たが、その一方、あらゆる抗体に適応可能なヒト型CDR移植抗体の作製法は未だ確立されておらず、現状ではそれぞれの抗体について数種の改変体を作製し、それぞれの抗原結合活性との相関を検討するなどの種々の試行錯誤が必要である。
【0053】
ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸残基の改変は、改変用合成DNAを用いて上記2(4)に記載のPCR法を行うことにより、達成できる。PCR後の増幅産物について上記2(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的の改変が施されたことを確認する。
【0054】
(6)ヒト型CDR移植抗体発現ベクターの構築
上記2(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流に、上記2(4)および2(5)で構築したヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLをコードするcDNAをクローニングし、ヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築することができる。
例えば、上記2(4)および2(5)でヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLを構築する際に用いる合成DNAのうち、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、上記2(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングすることができる。
【0055】
(7)ヒト化抗体の一過性発現
作製した多種類のヒト化抗体の抗原結合活性を効率的に評価するために、上記2(3)および2(6)に記載のヒト化抗体発現ベクター、あるいはそれらを改変した発現ベクターを用いてヒト化抗体の一過性発現を行うことができる。発現ベクターを導入する宿主細胞としては、ヒト化抗体を発現できる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができるが、その発現量の高さから、COS−7細胞(ATCC CRL1651)が一般に用いられる(Methods in Nucleic Acids Research, CRC press, 283, 1991)。COS−7細胞への発現ベクターの導入法としては、DEAE−デキストラン法(Methods in Nucleic Acids Research, CRC press, 283, 1991)、リポフェクション法(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 84, 7413, 1987)などがあげられる。
【0056】
発現ベクターの導入後、培養上清中のヒト化抗体の発現量及び抗原結合活性はELISA(Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Chapter 14, 1988; Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press Limited, 1996)などにより測定できる。
【0057】
(8)ヒト化抗体の安定発現
上記2(3)および2(6)に記載のヒト化抗体発現ベクターを適当な宿主細胞に導入することによりヒト化抗体を安定に発現する形質転換細胞を得ることができる。
宿主細胞への発現ベクターの導入法としては、エレクトロポレーション法(Cytotechnology, 3, 133, 1990)などがあげられる。
ヒト化抗体発現ベクターを導入する宿主細胞としては、ヒト化抗体を発現させることができる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。例えば、マウスSP2/0−Ag14細胞(ATCC CRL1581)、マウスP3X63−Ag8.653細胞(ATCC CRL1580)、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと表記する)遺伝子が欠損したCHO細胞(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 77, 4216, 1980)、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC CRL1662、以下、YB2/0細胞と表記する)などがあげられる。
【0058】
発現ベクターの導入後、ヒト化抗体を安定に発現する形質転換体は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、G418 sulfate(以下、G418と表記する)などの薬剤を含む動物細胞培養用培地で培養することにより選択できる。動物細胞培養用培地としては、RPMI1640培地(日水製薬社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX−CELL302培地(JRH社製)、IMDM(GIBCO BRL社製)、Hybridoma−SFM(GIBCO BRL社製)、またはこれら培地にFBSなどの各種添加物を添加した培地などを用いることができる。得られた形質転換細胞を培地中で培養することで培養上清中にヒト化抗体を発現蓄積させることができる。培養上清中のヒト化抗体の発現量および抗原結合活性は、ELISAにより測定できる。また、形質転換細胞は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、dhfr増幅系などを利用してヒト化抗体の発現量を上昇させることができる。
【0059】
ヒト化抗体は、形質転換細胞の培養上清よりプロテインAカラムを用いて精製することができる(Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Chapter8, 1988; Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press Limited, 1996)。また、その他に通常、蛋白質の精製で用いられる精製方法を使用することができる。例えば、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーおよび限外濾過などを組合わせて行い、精製することができる。精製したヒト化抗体のH鎖、L鎖あるいは抗体分子全体の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下、PAGEと表記する:Nature, 227, 680, 1970)やウエスタンブロッティング法(Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Chapter 12, 1988; Monoclonal Antibodies: Principles andPractice, Academic Press Limited, 1996)などで測定することができる。
【0060】
(9)ヒト化抗体の活性評価
培養上清中あるいは精製した抗PSMAヒト化抗体のPSMAに対する結合活性は、ELISA法およびフローサイトメトリー解析などにより測定することができる。また、PSMA陽性培養癌細胞株に対する細胞障害活性は、補体依存性細胞障害活性(以下、CDC活性と表記する)、抗体依存性細胞障害活性(以下、ADCC活性と表記する)などを測定し、評価することができる。さらに、PSMA陽性癌細胞株のマウスなどの動物への移植系を用いて抗体の癌細胞への集積性、抗腫瘍活性などを評価することができる。
【0061】
3.抗体断片の作製
本発明の抗体断片は、上記2に記載の抗PSMAヒト化抗体を元に遺伝子工学的手法あるいは蛋白質化学的手法により、作製することができる。該抗体断片としては、Fab、F(ab’)2、Fab’、scFv、diabody、dsFv、CDRを含むペプチドなどがあげられる。
【0062】
(1)Fabの作製
Fabは、蛋白質化学的にはIgGを蛋白質分解酵素パパインで処理することにより、作製することができる。パパインの処理後は、元の抗体がプロテインA結合性を有するIgGサブクラスであれば、プロテインAカラムに通すことで、IgG分子やFc断片と分離し、均一なFabとして回収することができる(Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, thirdedition, 1995)。プロテインA結合性を持たないIgGサブクラスの抗体の場合は、イオン交換クロマトグラフィーにより、Fabは低塩濃度で溶出される画分中に回収することができる(Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, third edition, 1995)。
【0063】
また、Fabは遺伝子工学的には、多くは大腸菌を用いて作製することができる。例えば、上記2(2)、2(4)および2(5)に記載の抗体のV領域をコードするDNAを、Fab発現用ベクターにクローニングし、Fab発現ベクターを作製することができる。Fab発現用ベクターとしては、抗体のV領域をコードするDNAを組み込むことにより該V領域を含むFabを発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pIT106(Science, 240,1041, 1988)などがあげられる。Fab発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズマ層にFabを生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるFabとすることができ、また、ペリプラズマ層に発現させた場合は、培養上清中に活性を持ったFabが漏出する。リフォールディング後あるいは培養上清からは、抗原を結合させたカラムを用いることにより、均一なFabを精製することができる(Antibody Engineering, A Practical Guide, W. H. Freeman and Company, 1992)。
【0064】
(2)F(ab’)2の作製
F(ab’)2は、蛋白質化学的にはIgGを蛋白質分解酵素ペプシンで処理することにより、作製することができる。ペプシンの処理後は、Fabと同様の精製操作により、均一なF(ab’)2として回収することができる(Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, thirdedition, Academic Press, 1995)。また、下記3(3)に記載のFab’をo−PDMやビスマレイミドヘキサンなどのようなマレイミドで処理し、チオエーテル結合させる方法や、DTNBで処理し、S−S結合させる方法によっても作製することができる(Antibody Engineering, A Practical Approach, IRL PRESS, 1996)。
【0065】
(3)Fab’の作製
Fab’は、上記3(2)に記載のF(ab’)2をジチオスレイトールなどの還元剤で処理して得ることができる。また、Fab’は遺伝子工学的には、多くは大腸菌を用いて作製することができる。例えば、上記2(2)、2(4)および2(5)に記載の抗体のV領域をコードするDNAを、Fab’発現用ベクターにクローニングし、Fab’発現ベクターを作製することができる。Fab’発現用ベクターとしては、抗体のV領域をコードするDNAを組み込むことにより該V領域を含むFab’を発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pAK19(BIO/TECHNOLOGY, 10,163, 1992)などがあげられる。Fab’発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズマ層にFab’を生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるFab’とすることができ、また、ペリプラズマ層に発現させた場合は、リゾチームによる部分消化、浸透圧ショック、ソニケーションなどの処理により菌を破砕し、菌体外へ回収させることができる。リフォールディング後あるいは菌の破砕液からは、プロテインGカラムなどを用いることにより、均一なFab’を精製することができる(Antibody Engineering, A Practical Approach, IRL PRESS, 1996)。
【0066】
(4)scFvの作製
scFvは遺伝子工学的には、ファージまたは大腸菌を用いて作製することができる。例えば、上記2(2)、2(4)および2(5)に記載の抗体のV領域をコードするDNAを、scFv発現用ベクターにクローニングし、scFv発現ベクターを作製することができる。scFv発現用ベクターとしては、抗体のV領域をコードするDNAを組み込むことにより該V領域を含むScFvを発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pCANTAB5E(Pharmacia社製)、pHFA(Human Antibodies Hybridomas, 5, 48, 1994)などがあげられる。scFv発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、ヘルパーファージを感染させることで、ファージ表面にscFvがファージ表面蛋白質と融合した形で発現するファージを得ることができる。また、scFv発現ベクターを導入した大腸菌の封入体あるいはペリプラズマ層にscFvを生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるscFvとすることができ、また、ペリプラズマ層に発現させた場合は、リゾチームによる部分消化、浸透圧ショック、ソニケーションなどの処理により菌を破砕し、菌体外へ回収することができる。リフォールディング後あるいは菌の破砕液からは、陽イオン交換クロマトグラフィーなどを用いることにより、均一なscFvを精製することができる(Antibody Engineering, A Practical Approach, IRL PRESS, 1996)。
【0067】
(5)diabodyの作製
diabodyは遺伝子工学的には、多くは大腸菌を用いて作製することができる。例えば、上記2(2)、2(4)および2(5)に記載の抗体のVHとVLをリンカーがコードするアミノ酸残基が8残基以下となるように連結したDNAを作製し、diabody発現用ベクターにクローニングし、diabody発現ベクターを作製することができる。
【0068】
diabody発現用ベクターとしては、diabodyのDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pCANTAB5E(Pharmacia社製)、pHFA(Human Antibodies Hybridomas, 5, 48, 1994)などがあげられる。diabody発現ベクターを導入した大腸菌の封入体あるいはペリプラズマ層にdiabodyを生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるdiabodyとすることができ、また、ペリプラズマ層に発現させた場合は、リゾチームによる部分消化、浸透圧ショック、ソニケーションなどの処理により菌を破砕し、菌体外へ回収することができる。リフォールディング後あるいは菌の破砕液からは、陽イオン交換クロマトグラフィーなどを用いることにより、均一なscFvを精製することができる(Antibody Engineering, A Practical Approach, IRL PRESS, 1996)。
【0069】
(6)dsFvの作製
dsFvは遺伝子工学的には、多くは大腸菌を用いて作製することができる。まず、上記2(2)、2(4)および2(5)に記載の抗体のVHおよびVLをコードするDNAの適当な位置に変異を導入し、コードするアミノ酸残基がシステインに置換されたDNAを作製する。作製した各DNAをdsFv発現用ベクターにクローニングし、VHおよびVLの発現ベクターを作製することができる。dsFv発現用ベクターとしては、システイン置換変異を導入したVHおよびVLをコードするDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pULI9(Protein Engineering, 7, 697, 1994)などがあげられる。VHおよびVLの発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズマ層にを生成蓄積させることができる。封入体あるいはペリプラズマ層からVHおよびVLを得、混合し、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるdsFvとすることができる。リフォールディング後は、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過などにより、さらに精製することができる(Protein Engineering, 7, 697, 1994)。
【0070】
(7)CDRペプチドの作製
CDRを含むペプチドは、Fmoc法あるいはtBoc法などの化学合成法によって作製することができる。また、CDRを含むペプチドをコードするDNAを作製し、作製したDNAを適当な発現用ベクターにクローニングし、CDRペプチド発現ベクターを作製することができる。発現用ベクターとしては、CDRペプチドをコードするDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pLEX(Invitrogen社製)、pAX4a+(Invitrogen社製)などがあげられる。発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズマ層にを生成蓄積させることができる。封入体あるいはペリプラズマ層からCDRペプチドを得、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過などにより、精製することができる(Protein Engineering, 7, 697, 1994)。
【0071】
(8)抗体断片の活性評価
精製した抗体断片のPSMAに対する結合活性は、ELISA法およびフローサイトメトリー解析などにより測定することができる。さらに、PSMA陽性の癌細胞株のマウスなどの動物への移植系を用いて抗体断片の癌細胞への集積性、抗腫瘍活性などを評価することができる。
【0072】
4.抗体および抗体断片とサイトカインとの融合抗体の作製
(1)抗体および抗体断片とサイトカインとの融合抗体をコードする遺伝子の構築
サイトカインをコードする遺伝子を適当な合成DNAを介して、抗体または抗体断片のH鎖あるいはL鎖をコードする遺伝子の5’末端あるいは3’末端に連結することにより、抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体をコードする遺伝子を構築することができる。また、サイトカインをコードする遺伝子をPCR法で増幅する際に、増幅用プライマーの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入し、抗体または抗体断片のH鎖あるいはL鎖をコードする遺伝子の5’末端あるいは3’末端に連結することにより、抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体をコードする遺伝子を構築することができる。サイトカインをコードする遺伝子は、染色体DNA、cDNAのいずれも用いることができる。構築した抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体をコードする遺伝子については、上記2(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的の配列であることを確認する。
【0073】
(2)抗体および抗体断片とサイトカインとの融合抗体の発現ベクターの構築
上記2(3)、2(6)および3に記載の抗体または抗体断片発現ベクター上の抗体または抗体断片のH鎖あるいはL鎖をコードする遺伝子の一部またはすべてを、上記4(1)に記載の抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体をコードする遺伝子と置換することによって、抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体の発現ベクターを構築することができる。例えば、ヒト型キメラ抗体のH鎖のC末端にサイトカインが融合した融合抗体を作製する場合は、上記4(1)において、ヒト型キメラ抗体のH鎖C領域をコードする遺伝子の3’末端にサイトカインをコードする遺伝子を連結してヒト型キメラ抗体のH鎖C領域とサイトカインとの融合抗体をコードする遺伝子を構築し、該遺伝子と上記2(3)に記載のヒト型キメラ抗体発現ベクター上のヒト型キメラ抗体のH鎖C領域をコードする遺伝子を置換することにより、発現ベクターを作製することができる。
【0074】
(3)抗体および抗体断片とサイトカインとの融合抗体の安定発現
上記4(2)に記載の抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体の発現ベクターを用いて上記2(8)に記載した方法に従い、抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体の安定発現を行うことにより、抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体を安定に発現する形質転換株を得、その培養上清から抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体を精製し、その分子量などを解析することができる。
【0075】
(4)抗体および抗体断片とサイトカインとの融合抗体の活性評価
精製した抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体の活性のうち、抗体または抗体断片部分の活性、すなわち抗原との結合活性、培養癌細胞株に対する結合活性はELISA法およびフローサイトメトリー解析などにより測定できる。また、抗原陽性培養癌細胞株に対する細胞障害活性は、CDC活性、ADCC活性などを測定し、評価することができる。一方、サイトカイン部分の活性は、例えば、該サイトカインに対して濃度依存的な増殖を示す培養細胞株の増殖を指標に評価することができる(Proc. Natl.Acad. Sci. U.S.A., 91, 9626, 1994)。
【0076】
抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体は、例えば、PSMAを発現している培養ヒト癌細胞株を移植したマウスに投与することで、その抗腫瘍効果を評価することができ、また、抗体または抗体断片単独、サイトカイン単独あるいは抗体または抗体断片とサイトカインの同時投与と比較することにより、生体内におけるより強い抗腫瘍効果を評価することができる(Cancer Immunol., Immunother., 42, 88, 1996)。
【0077】
5.抗体および抗体断片と抗癌剤との融合抗体の作製
(1)抗体および抗体断片と抗癌剤との融合抗体の作製
抗体および抗体断片と抗癌剤との融合抗体は、抗癌剤を共有結合などを介して化学的に結合させ、作製することができる。例えば、抗癌剤をPEGとジペプチドよりなるリンカーと結合させた後にN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル化し、抗体または抗体断片のアミノ基と反応させ、融合抗体を作製することができる(J. Controlled Release, 69, 27, 2000)。
【0078】
(2)抗体および抗体断片と抗癌剤との融合抗体の活性評価
作製した抗体または抗体断片と抗癌剤との融合抗体の活性のうち、抗体または抗体断片部分の活性、すなわち抗原との結合活性、培養癌細胞株に対する結合活性はELISA法およびフローサイトメトリー解析などにより測定できる。また、抗原陽性培養癌細胞株に対する細胞障害活性は、CDC活性、ADCC活性などを測定し、評価することができる。一方、抗癌剤の活性は、培養癌細胞株の増殖抑制活性を指標に評価することができる(J. Controlled Release, 69, 27, 2000)。
【0079】
抗体または抗体断片と抗癌剤との融合抗体は、例えば、PSMAを発現している培養ヒト癌細胞株を移植したマウスに投与することで、その抗腫瘍効果を評価することができ、また、抗体または抗体断片単独、抗癌剤単独あるいは抗体または抗体断片と抗癌剤の同時投与と比較することにより、生体内におけるより強い抗腫瘍効果を評価することができる(Science, 261, 212, 1993)。
【0080】
6.本発明の抗体を用いたPSMAの検出および定量法
本発明のヒト化抗体、抗体断片および融合抗体を用いて、PSMAを免疫学的に検出および定量する方法としては、蛍光抗体法、ELISA、放射性物質標識免疫法(以下、RIAと表記する)、免疫組織染色法、免疫細胞染色法などの免疫組織化学染色法(ABC法、CSA法など)、サンドイッチELISA(単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック、1987;続生化学実験講座5、免疫生化学研究法、東京化学同人、1986)などがあげられる。
【0081】
蛍光抗体法とは、分離した細胞あるいは組織などに、本発明の抗体あるいはその抗体断片を反応させ、さらにフルオレセインイソチオシアネート(以下、FITCと表記する)などの蛍光物質で標識した抗Ig抗体あるいは抗体断片を反応させた後、蛍光色素をフローサイトメーターで測定する方法である。
RIAとは、分離した細胞あるいは組織のライセート、細胞培養上清、血清、胸水、腹水、眼液などに、本発明の抗体あるいはその抗体断片を反応させ、さらに放射線標識を施した抗Ig抗体あるいは抗体断片を反応させた後、シンチレーションカウンターなどで測定する方法である。
【0082】
免疫組織染色法、免疫細胞染色法とは、分離した細胞あるいは組織などに、本発明の抗体あるいはその抗体断片を反応させ、さらにFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼ、ビオチンなどの酵素標識を施した抗Ig抗体あるいは抗体断片を反応させた後、顕微鏡を用いて観察する方法である。
サンドイッチELISAとは、本発明の抗体あるいはその抗体断片で、抗原認識部位の異なる2種類の抗体あるいはその抗体断片のうち、あらかじめ一方の抗体あるいはその抗体断片はELISAプレートに吸着させ、もう一方の抗体あるいはその抗体断片はFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼ、ビオチンなどの酵素で標識しておき、抗体あるいはその抗体断片吸着プレートに、分離した細胞あるいは組織のライセート、細胞培養上清、血清、胸水、腹水、眼液などを反応させた後、標識した抗体あるいはその抗体断片を反応させ、標識物質に応じた反応を行う方法である。
【0083】
7.本発明の抗体を用いたPSMA陽性の癌の診断および治療
PSMAの発現は、前立腺上皮細胞に限局しており、また、前立腺癌、特にホルモン不応答性増殖に伴う発現上昇が報告されている。本発明の抗PSMAヒト化抗体およびその抗体断片は、PSMAと特異的に結合するため、前立腺癌等のPSMA陽性の癌の診断に有用である。
【0084】
PSMA陽性の癌の診断方法としては、本発明の抗PSMAヒト化抗体およびその抗体断片を用いて、被験者の細胞、組織あるいは血清中に存在するPSMAを上記6に記載した方法で免疫学的に検出および定量する方法があげられる。複数の健常人の細胞、組織あるいは血清中のPSMAを同様にして測定し、健常人の検体のPSMAの量の範囲と比較して被験者の検体のPSMAの量が増加している場合には、PSMA陽性の癌であると診断できる。
【0085】
本発明の抗PSMAヒト化抗体、その抗体断片、および融合抗体は、PSMAと特異的に結合し、かつADCC活性などの細胞障害活性を示すため、PSMA陽性の癌の治療に有用である。また、ヒト以外の動物の抗体に比べ、ヒト抗体のアミノ酸配列に由来する部分がほとんどであるため、ヒト体内において強い抗腫瘍効果を示し、かつ免疫原性を示さず、反復投与が可能であり、その効果が長期間にわたり持続することが期待されるので、治療薬としてヒトに投与するのに適している。
【0086】
さらに、本発明の抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体は、融合させたサイトカイン部分の活性により、癌の近傍で免疫担当細胞を活性化できることから、抗体または抗体断片単独、サイトカイン単独あるいは抗体または抗体断片とサイトカインの同時投与などに比べ、より強い抗腫瘍効果が期待され、また、サイトカインの全身投与に比べ、副作用の低減が期待される。
【0087】
同様に、本発明の抗体または抗体断片と抗癌剤との融合抗体は、融合させた抗癌剤の活性により、癌細胞特異的な増殖抑制を発揮できることから、抗体または抗体断片単独、抗癌剤単独あるいは抗体または抗体断片と抗癌剤の同時投与などに比べ、より強い抗腫瘍効果が期待され、また、抗癌剤の全身投与に比べ、副作用の低減が期待される。
【0088】
本発明の抗PSMAヒト化抗体、その抗体断片、および融合抗体は、単独で投与することも可能ではあるが、通常は薬理学的に許容される1つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内などの非経口投与をあげることができ、望ましくは静脈内投与をあげることができる。
【0089】
投与形態としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤などがあげられる。
経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などがあげられる。
乳剤およびシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖などの糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造できる。
【0090】
カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトールなどの賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造できる。
【0091】
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤などがあげられる。注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液あるいは両者の混合物からなる担体などを用いて調製される。座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸などの担体を用いて調製される。また、噴霧剤は該抗体、抗体断片、および融合抗体そのもの、ないしは受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ該抗体、抗体断片、および融合抗体を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体などを用いて調製される。
【0092】
担体として具体的には乳糖、グリセリンなどが例示される。該抗体、抗体断片、、および融合抗体、さらには用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダーなどの製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重などにより異なるが、通常成人1日当たり10μg/kg〜20mg/kgである。
【0093】
以下に、本発明の実施例を示すが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【0094】
【実施例】
実施例1 抗PSMAマウス抗体2C9の認識抗原の同定
(1)発現クローニング法による抗原の同定
(1−1)ヒト前立腺由来cDNAライブラリーの作製
ヒト前立腺由来mRNA(Clontech社製)の4μgより、Superscript Plasmid System(GibcoBRL社製)を用いて両端に制限酵素Sfi Iリンカー配列を有するcDNAを合成した。合成したcDNAをアガロースゲル電気泳動にて分画し、第1表に示したように6種類のサイズに分けてQIAEX II Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いてゲルから回収した。
【0095】
【表1】
【0096】
Fraction No. 2から6の各cDNA断片を制限酵素Sfi Iで処理したプラスミドpAMo(J. Biol. Chem., 268, 22782, 1993)の0.5μgと連結後、ウルトラフリー−MC(UFC3 LTK00、Millipore社製)を用いて濃縮し、大腸菌MC1061Aにエレクトロポレーション法により導入した。形質転換大腸菌を回収し、50μg/mLのアンピシリンを含むLB培地450mLで培養後、EndoFree Plasmid Maxi Kit(QIAGEN社製)を用いて大腸菌よりプラスミドを回収し、cDNAライブラリーとした。
【0097】
(1−2)動物細胞を用いた発現クローニング
実施例1(1−1)で作製したcDNAライブラリーのうち、Fraction No.2、3、4の各cDNA断片から作製したもの、および5と6の各cDNA断片から作製したものを混合したものの計4種類について、DNA濃度が1μg/μLとなるように希釈し、その各16μLをエレクトロポレーション用の0.4cm幅キュベットに分注した。K−PBS(5.1g KCl, 0.08g NaCl, 0.575g Na2HPO4,0.405g MgCl2/500mL H2O)を用いて8.0×106細胞/mLとなるように懸濁したNamalwa KJM−1細胞(Cytotechnology, 1, 151, 1988)の0.8mLを各キュベットに加え、混合後、0.3kV、500μFの条件でGenePulser装置(BIO−RAD社製)を用いてプラスミドの導入を行った。室温で30分間放置した後、キュベットより細胞を回収し、40mLのRPMI1640(IPTSG)培地(Cytotechnology, 5, S17, 1991)を分注した細胞培養フラスコに懸濁し、37℃、5%CO2インキュベーター内で培養した。24時間後、1mg/mLのG418を含む40mLのRPMI1640(IPTSG)培地を添加し、薬剤耐性株の増殖を誘導した。
【0098】
各cDNAライブラリーの導入により得られた薬剤耐性細胞の1.0〜2.0×107細胞を回収し、3%ウシ血清(以下、FBSと表記する)を含むPBS(以下、3%FBS−PBSと表記する)で2回洗浄した後、10μg/mLのマウス抗体2C9を含む3%FBS−PBSの100μLで懸濁し、氷中で30〜60分間反応させた。反応後、3%FBS−PBSで3回洗浄し、1mLの3%FBS−PBSで懸濁した抗マウスIgG1抗体を固定化したマグネティックビーズ(Dynal社製)を加え、10分毎に攪拌しながら、30〜60分間反応させた。反応後、Dynal MPC−1磁石(Dynal社製)を用いてビーズの付着した細胞を回収し、3%FBS−PBSで3回洗浄した。その結果、Fraction No.2のcDNAライブラリーを導入した場合にのみ、ビーズの付着した細胞が回収された。
【0099】
回収された細胞の2.0×106細胞よりHirt法(Mol. Cell. Biol., 8, 2837, 1988)によりプラスミドを調製し、大腸菌JM109(宝酒造社製)にエレクトロポレーション法により導入した。得られた複数の形質転換大腸菌のシングルコロニーより各プラスミドを調製し、含まれるcDNAの塩基配列をBigDye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE Biosystems社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、反応を行い、塩基配列自動分析装置ABI PRISM 377(PE Biosystems社製)を用いて決定した。
【0100】
その結果、4kbの大きさの同一のcDNAを含むプラスミドが得られた。そのうちの1つのプラスミドpAMofa2−1−2に含まれていたcDNAの塩基配列をクエリーとしてデータベースの検索を行った結果、得られたcDNAは、ヒトPSMAをコードするcDNAとマウスNPDC−1のヒト相同物をコードするcDNAが繋がったものであることが明らかとなった。マウスNPDC−1は、神経細胞特異的な発現が報告されており(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, 92, 1560, 1995)、一方、ヒトPSMAは、正常前立腺および前立腺癌組織での発現が報告されている(Cancer Res., 54, 1807, 1994)ことから、マウス抗体2C9の認識抗原は、PSMAであることが示唆された。
【0101】
そこで、得られたヒトPSMAをコードするcDNAのみをプラスミドpAMoにクローニングし、プラスミドpAMoPSMAを構築し、Namalwa KJM−1細胞に導入してG418耐性細胞を得た。薬剤耐性細胞の5.0×105細胞を回収し、4%健常人ヒト血清を含むPBSと反応させた後に、10μg/mLのマウス抗体2C9あるいはヒト血管内皮増殖因子(VEGF)に対するマウス抗体KM1548(特開2000−835956)と氷中で30分間反応させた。反応後、1%牛血清アルブミン(以下、BSAと表記する)を含むPBS(以下、BSA−PBSと表記する)で3回洗浄し、1500倍希釈したR−フィコエリスリン(RPE)標識抗マウスIg抗体(DAKO社製)と氷中で30分間反応させた。反応後、PBSで3回洗浄し、フローサイトメトリー解析を行った。その結果、図1に示すように、マウス抗体2C9との特異的な反応性が確認された。以上の結果より、マウス抗体2C9の認識抗原はヒトPSMAであり、また、マウス抗体2C9はPSMAの細胞外領域と反応することが明らかとなった。
【0102】
(2)ヒト前立腺癌細胞株LNCaPライセートからの抗原の精製とその解析
マウス抗体2C9あるいは陰性対照としてヒトCCケモカイン受容体5に対するマウス抗体KM2090の各8mgを用いて、ImmunoPure Protein G IgG Orientation Kit(PIERCE社製)の使用説明書に従い、抗体固定化カラムを作製した。ヒト前立腺癌細胞株LNCaPの5×107細胞を2mLのPBSにて懸濁し、凍結およびソニケーションによる融解を3回繰り返した後、15000rpmで5分間遠心分離し、上清を回収した。上清に2mLの10mmol/L Tris−HCl(pH7.5)を添加した後、全量をKM2090固定化カラムに通した。非吸着画分を回収し、さらに、マウス抗体2C9固定化カラムに通し、カラムの5倍量の10mmol/L Tris−HCl(pH7.5)で洗浄後、8mLの100mmol/Lグリシン(pH2.8)で溶出を行い、1mLずつ分取した(Fraction No.1〜8)。
【0103】
次に、各画分のSDS−PAGE解析を行った。図2には、Fraction No.2〜5の20μLの非還元条件下での電気泳動結果を示した。その結果、Fraction No.3および4において約140kDaと約90kDaのバンドが検出された。約140kDaのバンドは、抗体由来と考えられたため、約90kDaのバンドが目的抗原であると推察し、約90kDaの蛋白質のN末端アミノ酸配列の解析をプロテインシークエンサーProcise 492cLC(PE Biosystems社製)を用いて行った。その結果、配列番号1および2で示したアミノ酸配列が得られ、データベースSwiss−Prot検索を行った結果、PSMAのアミノ酸配列(Accession No.Q04609)の一部と完全に一致することが明らかとなった。以上の結果から、マウス抗体2C9が認識する抗原は、PSMAであることが示唆された。本結果は、上記実施例1(1)の発現クローニング法による抗原の同定によって得られた結果と一致した。
【0104】
実施例2 PSMA発現ヒト前立腺癌細胞株の作製
PSMA陰性のヒト前立腺癌細胞株PC−3(ATCC No. CRL−1435)を用いて、PSMAを細胞膜上に発現する形質転換細胞株を以下のようにして作製した。
【0105】
(1)PSMA発現ベクターの構築
上記実施例1(1−2)で得られたプラスミドpAMofa2−1−2の3μgを制限酵素HindIII(宝酒造社製)およびSspI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、PSMAをコードするcDNAを含む約2.6kbのHindIII−SspI断片を約0.5μg回収した。
【0106】
次に、プラスミドpBluescript SK(−)(Stratagene社製)の3μgを制限酵素Hin dIII(宝酒造社製)およびHincII(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約2.95kbのHindIII−HincII断片を約2.1μg回収した。
次に、上記で得られたPSMAをコードするcDNAを含む約2.6kbのHindIII−SspI断片0.1μgとプラスミドpBluescript SK(−)のHindIII−HincII断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。このようにして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌JM109株(宝酒造社製)を形質転換した。形質転換株のクローンよりプラスミドDNAを調製し、PSMAをコードするcDNAを有するプラスミドpBSPSMAを得た。
【0107】
次に、上記で得られたプラスミドpBSPSMAの3μgを制限酵素SmaI(宝酒造社製)およびKpnI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、PSMAをコードするcDNAを含む約2.6kbのSmaI−KpnI断片を約1.0μg回収した。
次に、発現ベクターpKANTEX93(WO97/10354)の3μgを制限酵素EcoRI(宝酒造社製)で処理し、TaKaRa DNA Blunting Kit(宝酒造社製)を用いて平滑末端化処理を行い、さらに、制限酵素KpnI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約9.3kbの平滑末端−KpnI断片を約2.0μg回収した。
【0108】
次に、上記で得られたPSMAをコードするcDNAを含む約2.6kbのSmaI−KpnI断片0.1μgとプラスミドpKANTEX93の平滑末端−KpnI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。このようにして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌JM109株(宝酒造社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製した結果、図3に示したPSMA発現ベクターpKANTEXPSMA12を得た。
【0109】
(2)PSMA発現ヒト前立腺癌細胞株の作製
上記実施例2(1)で得られたPSMA発現ベクターpKANTEXPSMA12を制限酵素AatII(東洋紡績社製)で処理して直鎖状化した後、10μgを4×106細胞のヒト前立腺癌細胞株PC−3(ATCCCRL−1435)へエレクトロポレーション法(Cytotechnology,3, 133, 1990)により導入後、40mLのRPMI(10)培地〔FBSを10%含むRPMI1640(Gibco BRL社製)〕に懸濁し、96ウェル培養プレート(住友ベークライト社製)に200μL/ウェルずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃、6日間培養した後、G418を0.2mg/mLになるように添加して1〜2週間培養した。
【0110】
G418耐性を示す形質転換株のコロニーが出現し、コンフルエントになったウェルより細胞を回収し、PSMAの発現を実施例2(3)に示す抗PSMAマウス抗体2C9およびネガティブコントロールであるVEGF受容体Flt−1に対するマウス抗体KM1750(WO99/60025)を用いたフローサイトメトリーにより解析し、マウス抗体2C9と特異的に反応する細胞をPSMA発現形質転換株として選択した。その結果、PSMA発現形質転換株として960−7を得た。図4には、マウス抗体2C9ならびにKM1750の960−7に対する反応性をフローサイトメトリーにより解析した結果を示した。960−7については、2回の限界希釈法による単一細胞化(以下、クローン化と表記する)を行い、最終的にPSMA発現PC−3細胞クローンとして9−7−11を得た。
【0111】
(3)PSMA発現細胞のフローサイトメトリー解析
各細胞の2〜5×105細胞を、10μg/mLのマウス抗体2C9またはネガティブコントロールである抗Flt−1抗体KM1750を含む50μLのBSA−PBSに懸濁し、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、FITCで標識された抗マウスIgG(H+L)抗体(KPL社製)をBSA−PBSで30倍希釈した溶液を50μL添加して懸濁後、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、1mLのPBSに懸濁し、フローサイトメーターEPICS Elite(Coulter社製)を用いて解析を行った。
【0112】
実施例3 ヒト型キメラ抗体の作製
(1)マウス抗体2C9のV領域をコードするcDNAの単離と解析
(1−1)マウス抗体2C9産生ハイブリドーマからのmRNAの調製
マウス抗体2C9産生ハイブリドーマの5×107細胞より、mRNAの調製キットであるFast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、mRNAを調製した。
【0113】
(1−2)マウス抗体2C9のH鎖およびL鎖cDNAライブラリーの作製
上記実施例3(1−1)で取得したmRNAの5μgから、TimeSaver cDNA Synthesis Kit(Pharmacia社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、両端にEcoRI−NotIアダプター配列を有するcDNAを合成した。合成したcDNAの全量を20μLの滅菌水に溶解後、アガロースゲル電気泳動にて分画し、IgGクラス抗体のH鎖をコードするcDNAの長さに対応する約1.5kbのcDNA断片とκクラスのL鎖をコードするcDNAの長さに対応する約1.0kbのcDNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いてそれぞれ約1.0μg回収した。
【0114】
次に、λZAPII Predigested EcoRI/CIAP−Treated Vector Kit(Stratagene社製)を用いて、各々の約1.5kbのcDNA断片0.1μgおよび約1.0kbのcDNA断片0.1μgと、キットに添付されている制限酵素EcoRIで消化後、Calf Intestine Alkaline Phosphataseで末端を脱リン酸化したλZAPIIベクターの1μgを、添付の使用説明書に従い、連結した。連結後の各々の反応液のうち2.5μLをGigapack III Gold Packaging Extracts(Stratagene社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、λファージにパッケージングし、ライブラリーを作製した。マウス抗体2C9のH鎖cDNAライブラリー(約1.5kbのcDNA断片をベクターに連結したライブラリー)として1.25×106個、L鎖cDNAライブラリー(約1.0kbのcDNA断片を連結したベクターに連結したライブラリー)として3.5×105個のファージクローンを取得した。
【0115】
次に、各々のファージを常法(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)に従い、ナイロンメンブレンフィルターHybondN+(Amersham Pharmacia Biotech社製)上に固定した。
(1−3)マウス抗体2C9のH鎖およびL鎖のcDNAのクローニング
上記実施例3(1−2)で作製したH鎖cDNAライブラリー、L鎖cDNAライブリーを固定したナイロンメンブレンフィルターを、H鎖cDNAライブラリーはマウスCγ1をコードするcDNAの断片(J. Immunol., 146, 2010 1991)、L鎖cDNAライブラリーはマウスCκをコードするcDNAの断片(Cell, 22, 197, 1980)をプローブとしてハイブリダイゼーションを行ない、プローブに強く結合したファージクローンをH鎖cDNAライブラリー、L鎖cDNAライブラリーから各10クローンずつ取得した。プローブの標識、ハイブリダイゼーションおよびクローンの検出はECL Direct Nucleic Acid Labelling and Detection Systems(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、添付の使用説明書に従って行なった。
【0116】
次に、λZAPII Predigested EcoRI/CIAP−Treated Vector Kit(Stratagene社製)の使用説明書に従い、in vivo excision法により各ファージクローンをプラスミドに変換した。こうして得られた各プラスミドに含まれるcDNAの塩基配列をBigDye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE Biosystems社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、反応を行い、塩基配列自動分析装置ABI PRISM 377(PE Biosystems社製)を用いて決定した。その結果、cDNAの5’末端に開始コドンと推定されるATG配列が存在する完全長の機能的なH鎖のcDNAを含むプラスミドp2C9H1およびL鎖のcDNAを含むプラスミドp2C9L13を得た。
【0117】
(1−4)マウス抗体2C9のV領域のアミノ酸配列の解析
得られたマウス抗体2C9のH鎖およびL鎖のcDNAの塩基配列がコードするアミノ酸配列を既知の抗体の配列データ(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept.Health and Human Services, 1991)との比較および精製したマウス抗体2C9のVHおよびVLのN末端アミノ酸配列をプロテインシーケンサーPPSQ−10(Shimadzu社製)を用いて解析した結果との比較から、単離した各々のcDNAは分泌シグナル配列を含むマウス抗体2C9のH鎖およびL鎖をコードする完全長cDNAであり、H鎖については、cDNAの開始コドンから54塩基がコードする18アミノ酸が、L鎖についてはcDNAの開始コドンから66塩基がコードする22アミノ酸が分泌シグナル配列であることが明らかとなった。
【0118】
プラスミドp2C9H1に含まれていたH鎖cDNAのうち分泌シグナル配列およびVHをコードする領域の全塩基配列を配列番号3に、それから推定されたマウス抗体2C9のVHのアミノ酸配列を配列番号4に、プラスミドp2C9L13に含まれていたL鎖cDNAのうち分泌シグナル配列およびVLをコードする領域の全塩基配列を配列番号5に、それから推定されたマウス抗体2C9のVLのアミノ酸配列を配列番号6に示した。なお、配列番号4および6に記載したアミノ酸配列にそれぞれ対応する塩基配列は、配列番号3および5に記載したもの以外に無数に存在するが、それらはすべてマウス抗体2C9のVHおよびVLをそれぞれコードするDNAに包含される。
【0119】
次に、マウス抗体2C9のVHおよびVLのアミノ酸配列の新規性について検討した。配列解析システムとしてGCG Package(version 10.0、Genetics Computer Group社製)を用い、既存の蛋白質のアミノ酸配列データベース[SWISS−PROT (Release 39.0)、PIR−Protein (Release 65.0)]をBLAST法(Journal of Molecular Biology, 215, 403, 1990)により検索した。その結果、VHおよびVLともに完全に一致する配列は認められず、マウス抗体2C9のVHおよびVLは新規なアミノ酸配列を有することが確認された。
【0120】
また、マウス抗体2C9のVHおよびVLのCDRを、既知の抗体のアミノ酸配列と比較することにより同定した。VHのCDR1、2および3のアミノ酸配列を配列番号7、8および9に、VLのCDR1、2および3のアミノ酸配列を配列番号10、11および12にそれぞれ示した。
【0121】
(2)抗PSMAヒト型キメラ抗体の動物細胞を用いた安定発現
(2−1)ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築
ヒト抗体のIgG1クラスのCHおよびヒト抗体のκクラスのCLを有するヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93(WO97/10354)と実施例3(1−3)で得られたマウス抗体2C9のH鎖およびL鎖cDNAを含むプラスミドを用いて抗PSMAヒト型キメラ抗体(以下、抗PSMAキメラ抗体と表記する)発現ベクターを以下のようにして構築した。
【0122】
まず、マウス抗体2C9の分泌シグナル配列およびVH、分泌シグナル配列およびVLをコードするDNAを、分泌シグナル配列、VHおよびVLのアミノ酸配列を変化させずに発現ベクターpKANTEX93に挿入するため、PCRによって再構築した。プライマーとして、分泌シグナル配列およびVHをコードするDNA用に配列番号13と14の塩基配列を有する合成DNAを、分泌シグナル配列およびVLをコードするDNA用に配列番号15と16の塩基配列を有する合成DNAを設計した。それぞれの合成DNAは5’末端にpKANTEX93へクローニングするための制限酵素認識配列を含んでいる。実際には、実施例3(1−3)で得られたプラスミドp2C9H1の40ngを50μLのKOD DNA Polymerase添付PCR Buffer No.1(東洋紡績社製)、0.2mmol/L dNTPs、1mmol/L塩化マグネシウム、2.5単位のKOD DNA Polymerase(東洋紡績社製)、0.5μmol/Lの配列番号13と14に示した塩基配列を有する合成DNAを含む緩衝液に添加し、DNAサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9600(PERKIN ELMER社製)を用いて、94℃にて30秒間、58℃にて30秒間、74℃にて60秒間のサイクルを25サイクル、その後、72℃にて10分間反応させた。同様に、実施例3(1−3)で得られたプラスミドp2C9L13の45ngを50μLのKOD DNA Polymerase添付PCR Buffer No.1(東洋紡績社製)、0.2mmol/L dNTPs、1mmol/L塩化マグネシウム、2.5単位のKOD DNA Polymerase(東洋紡績社製)、0.5μmol/Lの配列番号15と16に示した塩基配列を有する合成DNAを含む緩衝液に添加し、上記と同様の方法でPCRを行なった。
【0123】
それぞれの反応液45μLをQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて添付の使用説明書に従い、精製後、分泌シグナル配列およびVHをコードするDNAについては、制限酵素NotI(宝酒造社製)およびApaI(宝酒造社製)で処理し、分泌シグナル配列およびVLをコードするDNAについては、制限酵素EcoRI(宝酒造社製)およびBsiWI(New England Biolabs社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約0.5kbの分泌シグナル配列およびVHをコードするDNAを含むNotI−ApaI断片、約0.45kbの分泌シグナル配列およびVLをコードするDNAを含むEcoRI−BsiWI断片をそれぞれ約0.2μg回収した。
【0124】
次に、プラスミドpBluescript SK(−)(Stratagene社製)の3μgを制限酵素NotI(宝酒造社製)およびApaI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約2.95kbのNotI−ApaI断片を約2.1μg回収した。また、特開平10−257893に記載のプラスミドpBSL3の3μgを制限酵素EcoRI(宝酒造社製)およびBsiWI(New England Biolabs社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約2.95kbのEcoRI−BsiWI断片を約2.1μg回収した。
【0125】
次に、上記PCRにより得られたマウス抗体2C9の分泌シグナル配列およびVHをコードするDNAを含むNotI−ApaI断片0.1μgとプラスミドpBluescript SK(−)のNotI−ApaI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。また、PCRにより得られたマウス抗体2C9の分泌シグナル配列およびVLをコードするDNAを含むEcoRI−BsiWI断片0.1μgとプラスミドpBSL3のEcoRI−BsiWI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。このようにして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌XL1−Blue株(東洋紡績社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従い、反応を行い、塩基配列自動分析装置ABI PRISM377(PE Biosystems社製)を用いて塩基配列を決定した。こうして目的の塩基配列を有する図5に示したプラスミドp2C9VHおよびp2C9VLを得た。
【0126】
次に、上記で得られたプラスミドp2C9VLの3μgを制限酵素EcoRI(宝酒造社製)およびBsiWI(New England Biolabs社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約0.45kbのEcoRI−BsiWI断片を約0.3μg回収した。
次に、ヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93の3μgを制限酵素EcoRI(宝酒造社製)およびBsiWI(New England Biolabs社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約12.75kbのEcoRI−BsiWI断片を約2.0μg回収した。
【0127】
次に、上記で得られたプラスミドp2C9VLのマウス抗体2C9の分泌シグナル配列およびVLをコードするDNAを含むEcoRI−BsiWI断片0.1μgとプラスミドpKANTEX93のEcoRI−BsiWI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。このようにして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌XL1−Blue株(東洋紡績社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従い、反応を行い、塩基配列自動分析装置ABI PRISM 377(PE Biosystems社製)を用いて塩基配列を決定した。その結果、図6に示したプラスミドpKANTEX2C9Lを得た。
【0128】
次に、上記で得られたプラスミドp2C9VHの3μgを制限酵素NotI(宝酒造社製)およびApaI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約0.5kbのNotI−ApaI断片を約0.3μg回収した。
次に、上記で得られたプラスミドpKANTEX2C9Lの3μgを制限酵素NotI(宝酒造社製)およびApaI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約13.20kbのNotI−ApaI断片を約2.0μg回収した。
【0129】
次に、上記で得られたプラスミドp2C9VHのマウス抗体2C9の分泌シグナル配列およびVHをコードするDNAを含むNotI−ApaI断片0.1μgとプラスミドpKANTEX2C9LのNotI−ApaI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。このようにして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌XL1−Blue株(東洋紡績社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従い、反応を行い、塩基配列自動分析装置ABI PRISM 377(PE Biosystems社製)を用いて塩基配列を決定した。その結果、図6に示したプラスミドpKANTEX2C9を得た。
【0130】
(2−2)抗PSMAキメラ抗体の動物細胞を用いた安定発現
実施例3(2−1)で得られた抗PSMAキメラ抗体発現ベクターpKANTEX2C9を用いて抗PSMAキメラ抗体の動物細胞での発現を以下のようにして行った。
【0131】
プラスミドpKANTEX2C9を制限酵素AatII(東洋紡績社製)で処理して直鎖状化した後、10μgを4×106細胞のラットハイブリドーマ細胞株YB2/0細胞(ATCC CRL1581)へエレクトロポレーション法(Cytotechnology, 3, 133, 1990)により導入後、40mLのH−SFM(GF5)[ダイゴGF21(日本製薬社製)を5%含むH−SFM(Gibco BRL社製)]に懸濁し、96ウェル培養プレート(住友ベークライト社製)に200μL/ウェルずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃、24時間培養した後、G418を1.0mg/mLになるように添加して1〜2週間培養した。G418耐性を示す形質転換株のコロニーが出現し、コンフルエントになったウェルより培養上清を回収し、上清中の抗PSMAキメラ抗体の濃度を実施例3(2−3)に示す定量ELISAにより測定した。
【0132】
培養上清中に抗PSMAキメラ抗体の発現が認められたウェルの形質転換株については、dhfr遺伝子増幅系を利用して抗体発現量を増加させる目的で、G418を1.0mg/mL、dhfrの阻害剤であるメソトレキセート(以下、MTXと表記する;SIGMA社製)を50nmol/L含むH−SFM(GF5)に1〜2×105細胞/mLになるように懸濁し、24ウェル培養プレート(Greiner社製)に1mLずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃で1〜2週間培養して、50nmol/L MTX耐性を示す形質転換株を誘導した。
【0133】
形質転換株がウェルにコンフルエントになった時点で培養上清中の抗PSMAキメラ抗体の濃度を実施例3(2−3)に示す定量ELISAにより測定した。培養上清中に抗PSMAキメラ抗体の発現が認められたウェルの形質転換株については、上記と同様の方法により、MTX濃度を100nmol/L、200nmol/Lと順次上昇させ、最終的にG418を1.0mg/mL、MTXを200nmol/Lの濃度で含むH−SFM(GF5)で増殖可能かつ、抗PSMAキメラ抗体を高発現する形質転換株を得た。得られた形質転換株については、2回の限界希釈法によるクローン化を行い、抗PSMAキメラ抗体の発現の最も高い形質転換細胞クローンKM2777を得た。なお、KM2777は平成14年3月19日付で、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番1号 中央第6)にFERM−BP7969として寄託されている。
【0134】
(2−3)抗PSMAキメラ抗体の定量(定量ELISA)
抗ヒトIgκ鎖抗体(ZYMED社製)をPBSにて200倍希釈し、96ウェルのELISAプレート(Greiner社製)の各ウェルに50μLずつ分注し、4℃で12時間反応させた。反応後、溶液を捨て、BSA−PBSを100μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させて残存する活性基をブロックした。BSA−PBSを捨て、形質転換株の培養上清、精製したキメラ抗体の各種希釈溶液を50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、各ウェルを0.05%Tween20を含むPBS(以下、Tween−PBSと表記する)で洗浄後、BSA−PBSで3000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgG(H+L)抗体溶液(American Qualex社製)を二次抗体溶液として、50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液〔2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウムの0.55gを1Lの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)に溶解し、使用直前に30%過酸化水素溶液を1μL/mLの割合で添加した溶液〕を50μL/ウェルで加えて発色させ、415nmの吸光度(以下、OD415と表記する)を測定した。
【0135】
(2−4)抗PSMAキメラ抗体の培養上清からの精製
実施例3(2−2)で得られた抗PSMAキメラ抗体を発現する形質転換細胞クローンKM2777をH−SFM(GF5)に1〜2×105細胞/mLとなるように懸濁し、175cm2フラスコ(Greiner社製)に100mLずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃で5〜7日間培養し、コンフルエントになった時点で培養上清を回収した。培養上清約3LよりProsep−A(Bioprocessing社製)カラムを用いて、添付の説明書に従い、抗PSMAキメラ抗体KM2777を精製し、約25mgの精製蛋白質を取得した。得られた抗PSMAキメラ抗体KM2777の約4μgを、公知の方法(Nature, 227, 680, 1970)に従って電気泳動し、分子量および精製度を調べた。その結果を図7に示した。
【0136】
図7に示したように、精製した抗PSMAキメラ抗体KM2777は、非還元条件下では分子量が約150キロダルトン(以下、Kdと表記する)のバンドが、還元条件下では約50Kdと約25Kdのバンドが認められた。これらの分子量は、IgGクラスの抗体は、非還元条件下では分子量は約150Kdであり、還元条件下では分子内のS−S結合が切断され、約50Kdの分子量を持つH鎖と約25Kdの分子量を持つL鎖に分解されるという報告(Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Chapter 14, 1988; Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press Limited, 1996)と一致し、抗PSMAキメラ抗体KM2777が正しい構造の抗体分子として発現されていることが確認された。また、精製した抗PSMAキメラ抗体KM2777のH鎖およびL鎖のN末端アミノ酸配列をプロテインシーケンサーPPSQ−10(島津製作所社製)を用いて解析した結果、マウス抗体2C9のH鎖およびL鎖のN末端アミノ酸配列と一致することを確認した。
【0137】
実施例4 抗PSMAキメラ抗体KM2777の活性評価
(1)ヒト前立腺癌細胞株の膜成分に対する結合活性
(1−1)ヒト前立腺癌細胞株の膜成分の単離
PSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)の3×108細胞を回収し、7mLの溶解緩衝液(20mmol/L HEPES、1mmol/L EDTA、0.5mmol/L PMSF、250mmol/LSucrose、pH7.4)を加え、ホモゲナイザーを用いて細胞を破砕し、氷上で5分間放置した。10,000gで30分間遠心分離し、上清を回収し、さらに、100,000gで1時間遠心分離した。沈殿画分を回収し、0.7mLの溶解緩衝液を添加して良く懸濁し、膜成分とした。単離した膜成分については、その一部を1% Triton X−100を加えて可溶化し、BCA Protein Assay Kit(PIERCE社製)を用いて蛋白質濃度の定量を行った結果、4.1mg/mLであった。
【0138】
(1−2)ヒト前立腺癌細胞株の膜成分に対する結合活性の測定
上記実施例4(1−1)で単離した膜成分をPBSを用いて蛋白質濃度として10μg/mLとなるように希釈し、96ウェルのELISAプレート(Greiner社製)の各ウェルに50μLずつ分注し、4℃で12時間反応させた。反応後、溶液を捨て、BSA−PBSを100μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させて残存する活性基をブロックした。BSA−PBSを捨て、精製抗体〔抗PSMAマウス抗体2C9および抗PSMAキメラ抗体KM2777、陰性対照として抗Flt−1マウス抗体KM1750(WO99/60025)および抗Flt−1ヒト型キメラ抗体KM2550(WO99/60025)〕の各種希釈溶液を50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、マウス抗体の場合には、BSA−PBSで1000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG1抗体溶液(Zymed社製)を、キメラ抗体の場合には、3000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgG(H+L)抗体溶液(American Qualex社製)を二次抗体溶液として、50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液を50μL/ウェルで加えて発色させ、OD415を測定した。図8には、抗PSMAマウス抗体2C9、抗PSMAキメラ抗体KM2777、抗Flt−1マウス抗体KM1750および抗Flt−1ヒト型キメラ抗体KM2550の膜成分に対する結合活性を測定した結果を示した。その結果、抗PSMAマウス抗体2C9および抗PSMAキメラ抗体KM2777は、PSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株LNCaPの膜成分に特異的に反応し、その活性は、検出のための二次抗体が異なるため、直接比較することはできないが、ほぼ同等であることが示唆された。
【0139】
(2)ヒト前立腺癌細胞株との反応性
(2−1)抗体のビオチン標識
抗PSMAマウス抗体2C9および抗PSMAキメラ抗体KM2777、陰性対照として抗Flt−1抗体KM1750(WO99/60025)および抗Flt−1ヒト型キメラ抗体KM2550(WO99/60025)のビオチン標識は、以下のようにして行った。
【0140】
1mg/mLの抗体溶液の1mLに0.25mLの0.5M炭酸緩衝液(pH9.2)および0.25mLの1mg/mLのNHS−LC−Biotin溶液(PIERCE社製)を加え、緩やかに攪拌しながら、室温にて3時間反応させた。反応後、150mmol/L NaClを含む10mmol/Lクエン酸緩衝液(pH6.0)を用いて透析を行った。
【0141】
(2−2)ヒト前立腺癌細胞株との反応性の測定
ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)およびPC−3(ATCC CRL−1435)の2×105細胞を、上記実施例4(2−1)で作製した各種ビオチン標識抗体をBSA−PBSにて10μg/mLに希釈した溶液の50μLで懸濁し、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、FITC標識ストレプトアビジン(Gibco BRL社製)をBSA−PBSで10倍希釈した溶液を50μL添加して懸濁後、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、1mLのPBSに懸濁し、フローサイトメーターEPICS Elite(Coulter社製)を用いて解析を行った。その結果を図9に示した。図9に示したように、ビオチン標識マウス抗体2C9およびキメラ抗体KM2777は、PSMA陽性LNCaP細胞に特異的に反応し、一方、PSMA陰性PC−3細胞には反応せず、PSMA特異的な反応が確認された。また、その反応性は、マウス抗体とキメラ抗体でほとんど同等であったことから、キメラ抗体KM2777はマウス抗体2C9の結合活性および結合特異性を保持していることが明らかとなった。
【0142】
さらに、実施例2(2)で作製したPSMA発現PC−3細胞9−7−11の2×105細胞を、抗Flt−1キメラ抗体KM2550あるいは抗PSMAキメラ抗体KM2777をBSA−PBSにて10μg/mLに希釈した溶液の100μLで懸濁し、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、FITC標識ヒトIgG(H+L)(和光純薬社製)をBSA−PBSで20倍希釈した溶液を50μL添加して懸濁後、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、1mLのPBSに懸濁し、フローサイトメーターEPICS Elite(Coulter社製)を用いて解析を行った。その結果を図10に示した。図10に示したように、抗PSMAキメラ抗体KM2777は、PSMA発現PC−3細胞9−7−11と特異的な反応を示した。
【0143】
(3)ヒト前立腺癌細胞株に対するin vitro細胞障害活性(ADCC活性)
ヒト前立腺癌細胞株に対する各種抗体のin vitro細胞障害活性としてのADCC活性は、以下のようにして測定した。
【0144】
(3−1)標的細胞溶液の調製
ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)、PC−3(ATCC CRL−1435)あるいは実施例2(2)で作製したPSMA発現PC−3細胞9−7−11の1×106細胞を調製し、放射性物質であるNa2 51CrO4を3.7MBq加えて、37℃で1時間反応させ、細胞を放射標識した。反応後、RPMI(10)培地を用いて懸濁および遠心分離操作を3回行い、洗浄し、RPMI(10)培地に再懸濁して4℃で30分間氷上に放置して放射性物質を自然解離させた。遠心分離後、RPMI(10)培地を5mL加え、2×105細胞/mLに調製し、標的細胞溶液とした。
【0145】
(3−2)ヒトエフェクター細胞溶液の調製
健常人静脈血50mLを採取し、ヘパリンナトリウム(清水製薬社製)0.5mLを加え穏やかに混ぜた。これをLymphoprep(AXIS SHIELD社製)を用いて使用説明書に従い、遠心分離(800g、20分間)して単核球層を分離した。RPMI(10)培地で3回遠心分離して洗浄後、RPMI(10)培地を用いて2×106細胞/mLの濃度で再懸濁し、エフェクター細胞溶液とした。
【0146】
(3−3)ADCC活性の測定
96ウェルU字底プレート(Falcon社製)の各ウェルに上記実施例4(3−1)で調製した標的細胞溶液の50μL(1×104細胞/ウェル)を分注した。次いで上記実施例4(3−2)で調製したヒトエフェクター細胞溶液を100μL(2×105細胞/ウェル、エフェクター細胞と標的細胞の比は20:1となる)添加した。さらに、各種抗体の培地による希釈溶液を加えて全量を200μLとし、37℃で4時間反応させた。反応後、プレートを遠心分離し、上清中の51Cr量をγ−カウンターにて測定した。自然解離51Cr量は、ヒトエフェクター細胞溶液、抗体溶液の代わりに培地のみを用いて上記と同様の操作を行い、上清中の51Cr量を測定することにより求めた。全解離51Cr量は、抗体溶液の代わりに培地のみを、ヒトエフェクター細胞溶液の代わりに1mol/L塩酸を添加し、上記と同様の操作を行い、上清中の51Cr量を測定することにより求めた。ADCC活性は次式により求めた。
ADCC活性(%)=[(検体上清中の51Cr量−自然解離51Cr量)/(全解離51Cr量−自然解離51Cr量)]×100
【0147】
図11には、各種抗体のADCC活性測定結果を示した。その結果、抗PSMAキメラ抗体KM2777は、PSMA陽性ヒト前立腺細胞株に特異的に高いADCC活性を示すこと、マウス抗体2C9ではほとんどADCC活性が認められなかったことから、キメラ抗体化によりヒトエフェクター細胞を介したADCC活性の増強が達成されたことが確認された。
【0148】
実施例5 hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の作製
抗PSMAキメラ抗体とサイトカインとの融合抗体の具体例として、抗PSMAキメラ抗体KM2777とhIL−2の融合抗体であるKM2777−hIL−2を以下のようにして作製した。
【0149】
(1)hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の動物細胞を用いた安定発現
(1−1)hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体発現ベクターの構築
上記実施例3(2−1)で得られた抗PSMAキメラ抗体発現ベクターpKANTEX2C9の3μgを制限酵素ApaI(宝酒造社製)およびNruI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約12.7kbのApaI−NruI断片を約2.0μg回収した。次にプラスミドpKANTEX871−hIL2(WO01/23432)の3μgを制限酵素ApaI(宝酒造社製)およびNruI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約1.45kbのApaI−NruI断片を約0.3μg回収した。
【0150】
次に、上記で得られたプラスミドpKANTEX93のApaI−NruI断片0.1μgとプラスミドpKANTEX871−hIL2のApaI−NruI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。このようにして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌XL1−Blue株(東洋紡績社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製した結果、図12に示したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体発現ベクターpKANTEX2C9−hIL2を得た。
【0151】
(1−2)hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の動物細胞を用いた安定発現
実施例5(1−1)で得られたhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体発現ベクターpKANTEX2C9−hIL2を用いてhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の動物細胞での発現を以下のようにして行った。
【0152】
プラスミドpKANTEX2C9−hIL2を制限酵素AatII(東洋紡績社製)で処理して直鎖状化した後、10μgを4×106細胞のラットハイブリドーマ細胞株YB2/0細胞(ATCCCRL1581)へエレクトロポレーション法(Cytotechnology, 3, 133, 1990)により導入後、40mLのH−SFM(GF5)に懸濁し、96ウェル培養プレート(住友ベークライト社製)に200μL/ウェルずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃、24時間培養した後、G418を1.0mg/mLになるように添加して1〜2週間培養した。G418耐性を示す形質転換株のコロニーが出現し、コンフルエントになったウェルより培養上清を回収し、上清中のhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の濃度を実施例3(2−3)に示す定量ELISAにより測定した。
【0153】
培養上清中にhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の発現が認められたウェルの形質転換株については、dhfr遺伝子増幅系を利用して抗体発現量を増加させる目的で、G418を1.0mg/mL、dhfrの阻害剤であるMTX(SIGMA社製)を50nmol/L含むH−SFM(GF5)に1〜2×105細胞/mLになるように懸濁し、24ウェル培養プレート(Greiner社製)に1mLずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃で1〜2週間培養して、50nmol/L MTX耐性を示す形質転換株を誘導した。形質転換株がウェルにコンフルエントになった時点で培養上清中のhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の濃度を実施例3(2−3)に示す定量ELISAにより測定した。培養上清中にhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の発現が認められたウェルの形質転換株については、上記と同様の方法により、MTX濃度を100nmol/L、200nmol/Lと順次上昇させ、最終的にG418を1.0mg/mL、MTXを200nmol/Lの濃度で含むH−SFM(GF5)で増殖可能かつ、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体を高発現する形質転換株を得た。得られた形質転換株については、2回の限界希釈法によるクローン化を行い、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の発現の最も高い形質転換細胞クローンKM2812を得た。なお、KM2812は平成14年3月19日付で、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番1号 中央第6)にFERM−BP7970として寄託されている。
【0154】
(1−3)hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の培養上清からの精製
実施例5(1−2)で得られたhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体を発現する形質転換細胞クローンKM2812をH−SFM(GF5)に1〜2×105細胞/mLとなるように懸濁し、1000mLのSiCulture CELL BAG(AVECOR社製)に800mL播種した。5%CO2インキュベーター内で37℃で6日間培養し、コンフルエントになった時点で培養上清を回収した。培養上清約800mLよりProsep−A(Bioprocessing社製)カラムを用いて、添付の説明書に従い、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812を精製し、約20mgの精製蛋白質を取得した。
【0155】
得られたhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812および抗PSMAキメラ抗体KM2777の約4μgを、公知の方法(Nature, 227, 680, 1970)に従って電気泳動し、分子量および精製度を調べた。その結果を図13に示した。図13に示したように、精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812は、非還元条件下では分子量は約180Kdであり、還元条件下では約65Kdと約25Kdの2本バンドが認められた。これらの分子量は、抗体H鎖とhIL−2およびL鎖のcDNAの塩基配列から推定される分子量(64Kdと24Kd、分子全体:176Kd)とほぼ一致し、抗体分子へのhIL−2の融合が確認された。
【0156】
実施例6 hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812の活性評価
(1)ヒト前立腺癌細胞株の膜成分に対する結合活性
上記実施例4(1−1)で単離した膜成分をPBSを用いて蛋白質濃度として10μg/mLとなるように希釈し、96ウェルのELISAプレート(Greiner社製)の各ウェルに50μLずつ分注し、4℃で12時間反応させた。反応後、溶液を捨て、BSA−PBSを100μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させて残存する活性基をブロックした。BSA−PBSを捨て、精製抗体(抗PSMAキメラ抗体KM2777およびhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812)の各種希釈溶液を50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、BSA−PBSで3000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgG(H+L)抗体溶液(American Qualex社製)を二次抗体溶液として、50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液を50μL/ウェルで加えて発色させ、OD415を測定した。図14には、抗PSMAキメラ抗体KM2777およびhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812の膜成分に対する結合活性を測定した結果を示した。その結果、抗PSMAキメラ抗体KM2777およびhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812は、PSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株LNCaPの膜成分に特異的に反応し、その活性はほぼ同等であることが確認された。
【0157】
(2)ヒト前立腺癌細胞株との反応性
ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)およびPC−3(ATCC CRL−1435)の2×105細胞を、抗PSMAキメラ抗体KM2777およびhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812をBSA−PBSにて10μg/mLに希釈した溶液の50μLで懸濁し、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、FITC標識ヒトIgG(H+L)(和光純薬社製)をBSA−PBSで20倍希釈した溶液を50μL添加して懸濁後、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、1mLのPBSに懸濁し、フローサイトメーターEPICS Elite(Coulter社製)を用いて解析を行った。その結果を図15に示した。図15に示したように、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812は、抗PSMAキメラ抗体KM2777と同様に、PSMA陽性LNCaP細胞と特異的な反応を示し、一方、PSMA陰性PC−3細胞とは反応しなかった。
【0158】
(3)hIL−2活性の評価
hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812のhIL−2としての活性を以下に示す方法に従い、測定した。hIL−2に対して濃度依存的な増殖を示すマウスT細胞株CTLL−2(ATCC TIB214)を2×105細胞/mLの濃度でRPMI(10)培地に懸濁し、96ウェルマイクロタイタープレート(住友ベークライト社製)に50μLずつ分注した。各ウェルにhIL−2(PEPRO TECH社製)あるいはhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812をRPMI(10)培地で各種濃度に希釈した溶液の50μLを加え、5%CO2インキュベーター内で37℃で27時間培養した。培養後、細胞増殖試薬WST−1(RocheDiagnostics社製)を10μLずつ分注し、5%CO2インキュベーター内で37℃で3時間培養後にOD450を測定し、生細胞数を測定した。その結果を図16に示した。図16に示したように、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812は、hIL−2と同程度のCTLL−2細胞の増殖支持活性を示した。以上の結果は、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812のhIL−2としての活性は、抗体との融合後も保持されていることを示している。
【0159】
(4)ヒト前立腺癌細胞株に対するin vitro細胞障害活性
hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812のhIL−2によるヒトリンパ球の活性化とそれに伴う細胞障害活性の増強をin vitroで評価するため、ヒト前立腺癌細胞株に対する細胞障害活性を以下のようにして測定した。
【0160】
(4−1)標的細胞溶液の調製
実施例4(3−1)に記載の方法に従い、ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)を放射性物質であるNa2 51CrO4で放射標識し、2×105細胞/mLに調製し、標的細胞溶液とした。
【0161】
(4−2)ヒトエフェクター細胞溶液の調製
実施例4(3−2)に記載の方法に従い、健常人静脈血50mLより単核球画分を分離し、1×106細胞/mLの濃度で再懸濁し、エフェクター細胞溶液とした。
【0162】
(4−3)ヒトエフェクター細胞の活性化
96ウェルU字底プレート(Falcon社製)の各ウェルに上記実施例6(4−2)で調製したヒトエフェクター細胞溶液を50μL(5×104細胞/ウェル)添加した。さらに、各種抗体の培地による希釈溶液を加えて全量を100μLとし、5%CO2インキュベーター内で37℃、72時間静置した。
【0163】
(4−4)細胞障害活性の測定
72時間後のプレートの各ウェルに上記実施例6(4−1)で調製した標的細胞溶液の50μL(1×104細胞/ウェル)を添加した(エフェクター細胞と標的細胞の比は5:1となる)。さらに、各種抗体の培地による希釈溶液を抗体濃度を保つように50μLずつ添加して37℃で4時間反応させた。反応後、プレートを遠心分離し、上清中の51Cr量をγ−カウンターにて測定した。自然解離51Cr量は、ヒトエフェクター細胞溶液、抗体溶液の代わりに培地のみを用いて上記と同様の操作を行い、上清中の51Cr量を測定することにより求めた。全解離51Cr量は、抗体溶液の代わりに培地のみを、ヒトエフェクター細胞溶液の代わりに1mol/L塩酸を添加し、上記と同様の操作を行い、上清中の51Cr量を測定することにより求めた。細胞障害活性は次式により求めた。
細胞障害活性(%)=[(検体上清中の51Cr量−自然解離51Cr量)/(全解離51Cr量−自然解離51Cr量)]×100
【0164】
図17には、各種抗体の細胞障害活性の測定結果を示した。その結果、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812は、抗PSMAキメラ抗体KM2777に比べ、高い細胞障害活性を示すことが明らかとなった。この結果は、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812は、hIL−2によりヒトリンパ球を活性化でき、それにより細胞障害活性が増強されていることを示している。
【0165】
実施例7 アドリアマイシン結合抗PSMAキメラ抗体の調製
参考例1で作製したアドリアマイシン(以下、ADMと表記する)結合リンカー20mg(6.7μmol)を塩化メチレン1mLに溶解し、N−ヒドロキシスクシンイミド1.9mg(16μmol)およびN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド3.4mg(16μmol)を含有する塩化メチレン溶液0.2mLを添加し、氷冷下30分間、室温1.5時間攪拌した。反応液をろ過後、得られた濾液を濃縮乾燥、ジエチルエーテルを用いたトリチレーションを行い、活性化ADM結合リンカーを13.7mg(収率66%)取得した。得られた活性化ADM結合リンカーのNMRスペクトルは以下の通りであった。
1H−NMR(CDCl3, 300MHz)δ ppm : 0.80−0.92 (m, 4H), 1.23−1.35 (m, 2H), 1.29(d, J =6.9 Hz, 3H), 1.93−2.20 (m, 3H), 2.55 (dd, J = 5.9, 5.9 Hz, 2H),2.82−2.96 (m, 4H), 2.84 (br s, 2H), 2.91 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 3.00−3.10(m, 1H), 3.39−3.90 (m, 4nH), 3.86 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 4.01−4.13 (m, 3H), 4.10 (s, 3H), 4.45 (m, 1H), 4.69−4.80 (m, 2H), 5.31 (br s, 1H), 5.51(m, 1H), 7.41 (d, J =8.5 Hz, 1H), 7.79(t, J = 8.1 Hz, 1H), 8.06 (d, J =7.7 Hz, 1H), 13.29 (s, 1H), 13.97 (s, 1H)
【0166】
次に、PBSに溶解した抗PSMAキメラ抗体KM2777(1.0mg/mL、1.6mL)に上記で得られた活性化ADM結合リンカーを抗体1分子当たり7.5当量添加し、4℃で20時間攪拌した。反応液を20mmol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)で5倍希釈した。SP Sepharose Fast Flow(Amersham−Pharmacia Biotech社製)2mLのカラムを用い、0、0.5および1.0mol/L塩化ナトリウムのステップワイズ溶出で精製した。ADM結合リンカーの結合したKM2777を含む画分(0.8mL、濃度346μg/mL)を回収し、280μg(収率17%)のアドリアマイシン結合抗PSMAキメラ抗体(以下、ADM−KM2777と表記する)を取得した。得られたADM−KM2777の抗体1分子当たりに結合したADM量をGreenfieldらの方法(Cancer Res., 50, 6600, 1990)に準じて測定した。その結果、抗体1分子あたりのADM量は平均2.5分子であった。
【0167】
実施例8 ADM−KM2777の活性評価
(1)ヒト前立腺癌細胞株との反応性
ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)およびPC−3(ATCC CRL−1435)の2×105細胞を、ADM−KM2777および抗PSMAキメラ抗体KM2777をそれぞれBSA−PBSにて10μg/mLに希釈した溶液の50μLで懸濁し、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、FITC標識ヒトIgG(H+L)(和光純薬社製)をBSA−PBSで20倍希釈した溶液を50μL添加して懸濁後、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、1mLのPBSに懸濁し、フローサイトメーターEPICS Elite(Coulter社製)を用いて解析を行った。その結果を図18に示した。図18に示したように、ADM−KM2777は、抗PSMAキメラ抗体KM2777と同様に、PSMA陽性LNCaP細胞と特異的な反応を示し、一方、PSMA陰性PC−3細胞とは反応しなかった。また、反応性の強さも同等であったことから、ADM−KM2777は、ADMの結合後もKM2777と同等の結合活性を保持していることが明らかとなった。
【0168】
(2)細胞増殖阻害活性の評価
ADM−KM2777のヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)およびPC−3(ATCC CRL−1435)に対する細胞増殖阻害活性は以下のようにして測定した。各細胞をRPMI(10)培地で1×105細胞/mLに調製し、96ウェル培養用プレートに50μL/ウェルで分注した。さらに、RPMI(10)培地で各種濃度に希釈した抗体溶液を50μL/ウェルで添加し、37℃、5%CO2インキュベーター内で96時間培養した。培養後、細胞増殖試薬WST−1(Roche Diagnostics社製)を10μL/ウェルで分注し、さらに、37℃、5%CO2インキュベーター内で4時間培養した後に、OD450をプレートリーダーEmax(Molecular Devices社製)を用いて測定した。
【0169】
図19Aには、LNCaP細胞を用いた結果を、図19Bには、PC−3細胞を用いた結果を示した。その結果、ADM−KM2777は、細胞増殖阻害活性を示し、その活性は、PSMA陽性癌細胞であるLNCaPの方がPSMA陰性細胞より強いものであった。以上の結果は、ADM−KM2777がPSMA陽性癌細胞に対し、抗原依存的な細胞増殖阻害活性の増強作用を有することを示している。
【0170】
実施例9 hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812のin vivo抗腫瘍効果
(1)PSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株移植SCIDマウス(進行期モデル)での評価
5週齢の雄性SCIDマウス(Fox CHASE C.B−17/Icr−scid Jcl、日本クレア社製)40匹の腹腔内に抗アシアロGM1抗血清(和光純薬社製)を50μL/匹で投与した。2日後、PSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)の1×107細胞を、RPMI(10)培地とマトリジェル(BD MATRIGELTM MATRIX、BD Biosciences社製)の等量混合液200μLに懸濁し、マウスの右側腹側部皮下に移植した。移植19日後、腫瘍体積が177〜178mm3のマウスを選択し、各群5匹で2群に分類した。腫瘍体積は腫瘍の短径と長径をmm単位でノギスを用いて測定し、下式にて算出した。
腫瘍体積(mm3)=(短径)2×長径×0.5
2群に対し、それぞれコントロールの生理食塩水またはKM2812を尾静脈より投与した。KM2812の投与量は84μg(467nmol)/日とした。
【0171】
KM2812は生理食塩水で200μLに希釈し、移植20日後より5日間連続で投与した。抗腫瘍効果の判定は各群の腫瘍体積、および腫瘍移植後56日目の評価終了時における腫瘍の完全退縮が見られたマウスの割合で判定した。図20には、経日的に腫瘍体積を測定した結果を示した。図20に示したように、KM2812にはコントロール群と比較して腫瘍増殖抑制効果が認められた。また腫瘍移植後56日目における腫瘍の完全退縮が見られたマウスの割合を第2表に示す。
【0172】
【表2】
【0173】
第2表に示したように、KM2812はコントロール群と比較して腫瘍の完全退縮に至ったマウスの割合が高かった。以上より、KM2812は本マウス坦癌モデルにおいて、抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。
【0174】
(2)PSMA発現ヒト前立腺癌細胞株9−7−11移植ヌードマウス(初期モデル)での評価
6週齢の雄性ヌードマウス(日本クレア社製)の22匹の右側腹側部皮下に、実施例2(2)で得られたPSMA発現PC−3細胞9−7−11の5×106細胞をRPMI(10)培地の200μLに懸濁し、移植した。第3表に示す2群を設定し、移植当日よりコントロールのヒトIgG(ウェルファイド社製)またはKM2812を生理食塩水で200μLに希釈し、1日1回、5日間連続で尾静脈より投与した。
【0175】
抗腫瘍効果は各群の腫瘍体積、および移植25日目と評価終了時の49日目における腫瘍の完全退縮(20mm3未満の痕跡を含む)が見られたマウスの割合で判定した。腫瘍体積は腫瘍の短径と長径をmm単位でノギスを用いて測定し、下式にて算出した。
腫瘍体積(mm3)=(短径)2×長径×0.5
図21には、経日的に腫瘍体積を測定した結果を示した。図21に示したように、KM2812はコントロール群と比較して腫瘍増殖抑制効果が認められた。また腫瘍移植後25、49日目における腫瘍の完全退縮が見られたマウスの割合を第3表に示した。
【0176】
【表3】
【0177】
第3表に示したように、KM2812はコントロール群と比較して腫瘍の完全退縮に至ったマウスの割合が高かった。以上より、KM2812は本マウス坦癌モデルにおいて、抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。
【0178】
参考例1 アドリアマイシン結合リンカーの調製
WO96/35451に記載の方法に準じてPEGにジペプチドが結合したリンカーを調製し、アドリアマイシンと縮合させた。この際、PEG(平均分子量約:2,000、日本油脂株式会社製)は、特開2000−204153に記載の方法に準じて末端の水酸基をカルボキシル基に変換して使用した。また、ジペプチドにはグリシル−プロリン(Gly−Pro)を用いた。作製したADM結合リンカーの構造を図22に示す。
【0179】
【発明の効果】
本発明により、ヒト前立腺癌に特異的に反応する抗体、その抗体断片、および融合抗体が提供される。本発明の抗体は、酵素免疫抗体法および免疫組織染色におけるPSMAの定量、検出に有効である。本発明の抗体は、前立腺癌などのPSMA陽性の癌および血中PSMA濃度の上昇を伴う疾患の診断および治療に有用である。
【0180】
「配列表フリーテキスト」
配列番号1:あらゆるアミノ酸
配列番号2:あらゆるアミノ酸
配列番号13:合成DNA
配列番号14:合成DNA
配列番号15:合成DNA
配列番号16:合成DNA
【0181】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、抗PSMAマウス抗体2C9および抗VEGFマウス抗体KM1548の、プラスミドpAMoPSMAを導入したNamalwa KJM−1細胞との反応性を、フローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。横軸が蛍光強度、縦軸が細胞数を示す。
【図2】図2はマウス抗体2C9カラムにより精製された蛋白質の非還元条件下でのSDS−PAGE(4〜15%グラジエントゲルを使用)の電気泳動パターンを示した図である。レーンM1が高分子量マーカー、M2が低分子量マーカー、レーン1がFraction No.2、レーン2がFraction No.3、レーン3がFraction No.4、レーン4がFraction No.5の各20μLの泳動パターンをそれぞれ示す。矢印が目的抗原と考えられる蛋白質を示す。
【図3】図3はプラスミドpKANTEXPSMA12の造成工程を示した図である。
【図4】図4は、抗PSMAマウス抗体2C9および抗Flt−1マウス抗体KM1750の、PSMA発現PC−3細胞株960−7との反応性をフローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。実線が2C9、点線がKM1750の結果を示す。横軸が蛍光強度、縦軸が細胞数を示す。
【図5】図5はプラスミドp2C9VHおよびp2C9VLの造成工程を示した図である。
【図6】図6はプラスミドpKANTEX2C9の造成工程を示した図である。
【図7】図7は精製した抗PSMAキメラ抗体KM2777のSDS−PAGE(4〜15%グラジエントゲルを使用)の電気泳動パターンを示した図である。左側が非還元条件、右側が還元条件でそれぞれ電気泳動を行った図である。レーンM1が高分子量マーカー、レーンM2が低分子量マーカー、レーン1がKM2777の泳動パターンをそれぞれ示す。
【図8】図8は精製した抗PSMAマウス抗体2C9および抗PSMAキメラ抗体KM2777のヒト前立腺癌細胞株LNCaPの膜成分に対する結合活性を測定した図である。横軸が抗体濃度(μg/mL)、縦軸が結合活性(OD415)を示す。○がマウス抗体2C9、●がキメラ抗体KM2777、□がコントロールマウス抗体KM1750、黒い四角がコントロールキメラ抗体KM2550の反応性をそれぞれ示す。
【図9】図9はビオチン標識した抗PSMAマウス抗体2C9、抗PSMAキメラ抗体KM2777、抗Flt−1マウス抗体KM1750および抗Flt−1キメラ抗体KM2550のヒト前立腺癌細胞株との反応性をフローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。横軸が蛍光強度、縦軸が細胞数を示す。Aがヒト前立腺癌細胞株LNCaP、Bがヒト前立腺癌細胞株PC−3の結果を示す。
【図10】図10は抗PSMAキメラ抗体KM2777および抗Flt−1キメラ抗体KM2550のPSMA発現PC−3細胞9−7−11との反応性をフローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。実線がKM2777、点線がKM2550の結果を示す。横軸が蛍光強度、縦軸が細胞数を示す。
【図11】図11は精製した抗PSMAマウス抗体2C9および抗PSMAキメラ抗体KM2777のヒト前立腺癌細胞株に対するADCC活性を測定した図である。横軸が抗体濃度(μg/mL)、縦軸が細胞障害活性(%)を示す。斜線を引いたバーがマウス抗体2C9、黒いバーがキメラ抗体KM2777、白いバーがコントロールキメラ抗体KM2550の活性をそれぞれ示す。Aがヒト前立腺癌細胞株LNCaP、Bがヒト前立腺癌細胞株PC−3、CがPSMA発現PC−3細胞9−7−11の結果を示す。
【図12】図12はプラスミドpKANTEX2C9−hIL2の造成工程を示した図である。
【図13】図13は精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812のSDS−PAGE(4〜15%グラジエントゲルを使用)の電気泳動パターンを示した図である。左側が非還元条件、右側が還元条件でそれぞれ電気泳動を行った図である。レーンM1が高分子量マーカー、レーンM2が低分子量マーカー、レーン1がhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812、レーン2が抗PSMAキメラ抗体KM2777の泳動パターンをそれぞれ示す。
【図14】図14は精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812および抗PSMAキメラ抗体KM2777のヒト前立腺癌細胞株LNCaPの膜成分に対する結合活性を測定した図である。横軸が抗体濃度(μg/mL)、縦軸が結合活性(OD415)を示す。●がhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812、○がキメラ抗体KM2777の反応性をそれぞれ示す。
【図15】図15は抗PSMAキメラ抗体KM2777、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812、および抗Flt−1キメラ抗体KM2550のヒト前立腺癌細胞株との反応性をフローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。実線がKM2777、粗い点線がKM2812、細かい点線がKM2550の結果を示す。横軸が蛍光強度、縦軸が細胞数を示す。Aがヒト前立腺癌細胞株LNCaP、Bがヒト前立腺癌細胞株PC−3の結果を示す。
【図16】図16は精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812およびhIL−2のhIL−2依存性細胞CTLL−2に対する増殖支持活性を各蛋白質濃度を変化させて測定した図である。横軸がhIL−2換算濃度(pM)、縦軸が細胞増殖(OD450)を示す。●がhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812、○がhIL−2の活性をそれぞれ示す。
【図17】図17は精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812および抗PSMAキメラ抗体KM2777のヒトエフェクター細胞の活性化とそれに伴う細胞障害活性を測定した図である。横軸が抗体濃度(nmol/L)、縦軸が細胞障害活性(%)を示す。黒いバーがhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812、白いバーが抗PSMAキメラ抗体KM2777、斜線を引いたバーがコントロールキメラ抗体KM2550の活性をそれぞれ示す。
【図18】図18は抗PSMAキメラ抗体KM2777、アドリアマイシン結合抗PSMAキメラ抗体ADM−KM2777および抗Flt−1キメラ抗体KM2550のヒト前立腺癌細胞株との反応性をフローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。実線がKM2777、粗い点線がADM−KM2777、細かい点線がKM2550の結果を示す。横軸が蛍光強度、縦軸が細胞数を示す。Aがヒト前立腺癌細胞株LNCaP、Bがヒト前立腺癌細胞株PC−3の結果を示す。
【図19】図19は精製したADM−KM2777のヒト前立腺癌細胞株に対する細胞増殖阻害活性を測定した図である。横軸がADM−KM2777の濃度(μmol/L)、縦軸が細胞増殖(OD450)を示す。点線はADM−KM2777非添加時の細胞増殖(OD450)を示す。AがPSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株LNCaP、BがPSMA陰性ヒト前立腺癌細胞株PC−3の結果を示す。
【図20】図20はPSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株LNCaPを移植したSCIDマウスに対する精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812の抗腫瘍効果を測定した図である。横軸が腫瘍移植後の経過日数、縦軸が腫瘍体積(mm3)を示す。黒い四角がコントロール(生理食塩水)、○がhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812の投与の結果をそれぞれ示す。
【図21】図21はPSMA発現ヒト前立腺癌細胞株9−7−11を移植したヌードマウスに対する精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812の抗腫瘍効果を測定した図である。横軸が腫瘍移植後の経過日数、縦軸が腫瘍体積(mm3)を示す。黒い四角がコントロール(ヒトIgG)、○がhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812の投与の結果をそれぞれ示す。
【図22】図22はADMリンカーの構造を示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)に特異的に反応するヒト化抗体(以下、抗PSMAヒト化抗体と表記する)およびその抗体断片に関する。本発明はさらに、該抗体および抗体断片に由来する融合抗体に関する。本発明はさらに、該抗体、抗体断片および融合抗体をコードするDNAに関する。本発明は、該DNAを含んでなる組換えベクター、および該組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株に関する。本発明はさらに、該形質転換株を用いた該抗体、抗体断片および融合抗体の製造方法、ならびに該抗体、抗体断片および融合抗体を有効成分として含有する癌の治療薬および癌の診断薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
前立腺癌は、米国において男性の癌死亡原因の第2位を占める癌であり、その効率的な診断法、効果的な治療法が求められている。
PSMAは、マウス抗体7E11.C5が認識する抗原として、ヒト前立腺癌細胞株LNCaPより、その遺伝子がクローニングされた蛋白質であり、750アミノ酸から成る分子量約110kDaのII型膜糖蛋白質であることが明らかとなっている(Anticancer Res., 7, 927, 1987; CancerRes., 53, 227, 1993)。PSMAをコードする遺伝子は、ヒト染色体11p11−p12に位置しており、また、PSMAと非常に相同性の高い遺伝子が染色体11q14に存在している(Genomics, 30, 105, 1995; Br. J. Cancer,72, 583, 1995; Biochim. Biophys. Acta., 1443, 113, 1998)。PSMAの発現は、前立腺上皮細胞に非常に限局しており、また、前立腺癌、特にホルモン不応答性増殖に伴う発現上昇が報告されている(J. Urol., 153, 382A, 1995; Urology, 48, 326, 1996; Cancer Res., 57, 2321, 1997)。前立腺以外でのPSMAの発現に関しては、脳、顎下腺、小腸などで認められているが、そのレベルは低い(Clin. Cancer Res., 3, 81, 1997; Cancer Res., 54, 1807, 1994; Int. J. Cancer, 62, 552, 1995)。一方、最近では腫瘍新生血管におけるPSMAの発現も報告されている(Cancer Res., 57, 3629, 1997; Cancer Res., 59, 3192, 1999)。このようなPSMAの発現特性から、PSMAは前立腺癌を始めとする癌の診断および治療のための有用な標的抗原と考えられている。PSMAの機能に関しては、これまでの研究から、2つの酵素活性を有していることが明らかとなっている。1つは、葉酸加水分解酵素活性(Clin. Cancer Res., 2, 1445, 1996)であり、もう1つは、カルボキシペプチダーゼ活性(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 93, 749, 1996; J. Pharmacol. Exp. Ther., 286, 1020, 1998)である。しかし、これらの酵素活性の前立腺における機能や前立腺癌における役割については未だ不明な点が多い。
【0003】
PSMAに対する抗体(以下、抗PSMA抗体と表記する)しては、上記の7E11.C5を含めていくつかの報告がある。7E11.C5は、PSMAの細胞内ドメインのN末端から6残基を認識することが明らかとなっており(Urol. Oncol., 1, 29, 1995)、このため、生細胞との反応性が認められない(Cancer Res., 57, 3629, 1997)。その後、PSMAの細胞外領域に特異的に反応する抗体が作製され、生細胞との反応性も確認されている(Prostate, 28, 266, 1996; Cancer Res., 57, 3629, 1997; Cancer Res., 58, 4787, 1998; J. Urol., 160, 2396, 1998)。PSMAの細胞外領域に反応する最初の抗体としては、マウス抗体3F5.4G6が作製された(Prostate, 28, 266, 1996)。さらに、J591、J533、J415、E99もPSMAの細胞外領域の異なるエピトープを認識することが報告されている(Cancer Res., 57, 3629, 1997)。PEQ226.5もPSMAの細胞外領域に対する抗体である(Cancer Res., 58, 4787, 1998)。さらに、3E11、3C2、4E10−1.14、3C9、1G3もPSMAの細胞外領域に対する反応が確認されている(J. Urol., 160, 2396, 1998)。これらの細胞外領域に対する抗体は、いずれも連続するアミノ酸の一次配列(以下、リニアエピトープと表記する)を認識する抗体である。一般に、リニアエピトープを認識する抗体は、フローサイトメトリー解析の結果、生細胞に対するよりも死細胞により強く反応する傾向が認められている。一方、1G9、3C6、4D4は、PSMAの細胞外領域の立体構造を認識する抗体である(Hybridoma, 19, 249, 2000)。これらの抗体は、フローサイトメトリー解析の結果、生細胞と死細胞に対する同等の強い反応性が認められている。さらに、ヒト抗体産生マウスを用いることにより、PSMAの細胞外領域の立体構造を認識する5種類のヒト抗体も作製された(Exp. Opin.Invest. Drugs, 10, 511, 2001)。
【0004】
抗PSMA抗体の臨床応用に関しては、111I標識の7E11.C5が再発性および転移性の前立腺癌の診断で用いられているが、上記のように7E11.C5は、死細胞あるいはアポトーシスを起こした細胞にしか反応しないため、その感度には限界があった(Prostate, 37, 261, 1998; Clin. Nucl. Med., 23, 672, 1998; J. Urol., 159, 2041, 1998)。この欠点を補うため、現在では、PSMAの細胞外領域を認識する抗体の臨床応用が検討されており、マウス抗体J591では、優れた前立腺癌特異的集積性が報告されている(Proc. Amer. Soc. Clin. Oncol., 19, 477a, 2000)。また、J591に関しては、その治療効果を高める目的で、一本鎖抗体の作製やヒト型CDR移植抗体の作製も報告されている(Neoplasia, 1, 123, 1999; Proc. Amer. Soc. Clin. Oncol., 19, 477a, 2000)。さらに、PSMAの細胞外領域を認識する抗体は、生細胞に結合した後、細胞内に取込まれることが示されている(Cancer Res., 58, 4055, 1998)。US6107090、WO99/47554には、薬剤、毒素、放射同位元素と結合させたPSMAの細胞外領域を認識する抗体が記載されている。
【0005】
マウスモノクローナル抗体2C9はヒト前立腺癌細胞株LNCaPを免疫原として得られたヒト前立腺癌に特異的に反応するモノクローナル抗体である(J. Aichi Med. Univ. Assoc., 23, 609, 1995)。2C9は、免疫組織染色の結果、前立腺の腺細胞の腺腔側および腺腔内の分泌物と特異的に反応すること、また、前立腺癌のマーカーである前立腺特異抗原(PSA)に対する抗体では反応しない未分化癌組織にも反応することから、PSAとは異なる前立腺特異抗原を認識することが示唆されていた(J. Aichi Med. Univ. Assoc., 23, 609, 1995)。最近、ヒト前立腺由来のmRNAを用いた発現クローニング法による抗原遺伝子のクローニングおよび2C9固定化カラムを用いたヒト前立腺癌細胞株ライセートからの抗原蛋白質の精製を行った結果、2C9の認識抗原はPSMAであることが報告された(第90回日本泌尿器科学会総会、2002年)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、新規なV領域アミノ酸配列を有するPSMAと特異的に反応するヒト化抗体、抗体断片および融合抗体を提供することを目的とする。さらに、該抗体、抗体断片および融合抗体を用いて癌などの疾患の診断薬、予防薬および治療薬として提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の(1)〜(32)を提供する。
(1)前立腺特異的膜抗原(PSMA)に特異的に反応し、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む抗体重鎖(H鎖)可変領域(V領域)(VH)とヒト抗体のH鎖定常領域(C領域)(CH)とからなるH鎖および配列番号6で示されるアミノ酸配列を含む抗体軽鎖(L鎖)V領域(VL)とヒト抗体のL鎖C領域(CL)とからなるL鎖からなるヒト型キメラ抗体またはその抗体断片。
(2)ヒト抗体のCHがIgG1クラスのCHであり、かつヒト抗体のCLがκクラスのCLである(1)に記載のヒト型キメラ抗体またはその抗体断片。
(3)ヒト型キメラ抗体が、形質転換株KM2777(FERM BP−7969)が生産するヒト型キメラ抗体である、(2)に記載のヒト型キメラ抗体またはその抗体断片。
【0008】
(4)PSMAに特異的に反応し、それぞれ配列番号7、8および9で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2およびCDR3を含むVHとヒト抗体のCHとからなるH鎖およびそれぞれ配列番号10、11および12で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2およびCDR3を含むVLとヒト抗体のCLとからなるL鎖からなるヒト型CDR移植抗体またはその抗体断片。
(5)VHが、それぞれ配列番号7、8および9で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2およびCDR3とヒト抗体のVHのフレームワーク領域(FR)からなり、VLが、それぞれ配列番号10、11および12で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2およびCDR3とヒト抗体のVLのFRからなる、ヒト型CDR移植抗体またはその抗体断片。
(6)ヒト抗体のCHがIgG1クラスのCHであり、かつヒト抗体のCLがκクラスのCLである(4)または(5)に記載のヒト型CDR移植抗体またはその抗体断片。
(7)抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、一本鎖抗体(scFv)、二量体化V領域(Diabody)、ジスルフィド安定化V領域(dsFv)およびCDRを含むペプチドから選ばれる抗体断片である(1)〜(6)のいずれか1項に記載の抗体断片。
【0009】
(8)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片をコードするDNA。
(9)(8)に記載のDNAを含有する組換えベクター。
(10)(9)に記載の組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
(11)形質転換株がKM2777(FERM BP−7969)である(10)に記載の形質転換株。
(12)(10)または(11)に記載の形質転換株を培地に培養し、培養物中に(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片を生成蓄積させ、培養物から該抗体またはその抗体断片を採取することを特徴とする該抗体またはその抗体断片の製造方法。
【0010】
(13)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片に、薬剤高分子化合物、放射性同位元素および蛋白質からなる群から選ばれる少なくとも1つの物質が結合した融合抗体。
(14)抗体またはその抗体断片に結合した薬剤が抗癌剤または抗炎症剤である(13)に記載の融合抗体。
(15)抗体またはその抗体断片に結合した蛋白質がサイトカインおよび毒素からなる群から選ばれる少なくとも1つの蛋白質である(13)に記載の融合抗体。
(16)物質が抗体またはその抗体断片のH鎖に結合している(13)〜(15)のいずれか1項に記載の融合抗体。
(17)物質が抗体またはその抗体断片のL鎖に結合している(13)〜(15)のいずれか1項に記載の融合抗体。
(18)物質が抗体またはその抗体断片のH鎖およびL鎖に結合している(13)〜(15)のいずれか1項に記載の融合抗体。
(19)蛋白質がヒトインターロイキン2(hIL−2)である(13)および(15)〜(18)のいずれか1項に記載の融合抗体。
(20)融合抗体が、形質転換株KM2777(FERM BP−7969)が生産するヒト型キメラ抗体とhIL−2とからなる融合抗体である(19)に記載の融合抗体。
(21)融合抗体が、形質転換株KM2812(FERM BP−7970)が生産する融合抗体である(19)に記載の融合抗体。
【0011】
(22)抗体またはその抗体断片に結合した物質が蛋白質である(13)および(15)〜(21)のいずれか1項に記載の融合抗体をコードするDNA。
(23)(22)に記載のDNAを含有する組換えベクター。
(24)(23)に記載の組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
(25)形質転換株がKM2812(FERM BP−7970)である(24)に記載の形質転換株。
(26)(24)または(25)に記載の形質転換株を培地に培養し、培養物中に、抗体またはその抗体断片に結合した物質が蛋白質である(13)および(15)〜(21)のいずれか1項に融合抗体を生成蓄積させ、培養物から該融合抗体を採取することを特徴とする該融合抗体の製造方法。
【0012】
(27)抗癌剤がアドリアマイシンである、(14)および(16)〜(18)のいずれか1項に記載の融合抗体。
(28)アドリアマイシンが結合している抗体が、形質転換株KM2777(FERM BP−7969)が生産するヒト型キメラ抗体である(27)に記載の融合抗体。
(29)融合抗体が、形質転換株KM2777(FERM BP−7969)が生産するヒト型キメラ抗体のアミノ基に、下記式(I)で表されるアドリアマイシンを含む基が結合した融合抗体である(28)に記載の融合抗体。
【化2】
(式中nは40〜50の整数を表す。)
(30)アドリアマイシンのアミノ基と、末端の水酸基をカルボキシ基に変換したポリエチレングリコールとをジペプチドを介して結合させたアドリアマイシン結合リンカーを合成し、該リンカーの末端のカルボキシ基を活性エステル化し、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片のアミノ基と反応させる工程を含む、(27)〜(29)のいずれか1項に記載の融合抗体の製造方法。
【0013】
(31)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片およびおよび(13)〜(21)および(27)〜(29)のいずれか1項に記載の融合抗体からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する癌の治療薬。
(32)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片を有効成分として含有する癌の診断薬。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明のPSMAに特異的に反応する抗体(以下、抗PSMA抗体ともいう)としては、、PSMAに特異的に反応するヒト化抗体を包含する。ヒト化抗体としては、ヒト型キメラ抗体およびヒト型CDR移植抗体等があげられる。本発明の抗PSMAキメラ抗体としては、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むVHとヒト抗体のCHとからなるH鎖、および配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むVLとヒト抗体のCLとからなるL鎖からなるヒト型キメラ抗体等があげられる。本発明の抗PSMAヒト型CDR移植抗体としては、それぞれ配列番号7、8、9で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2、CDR3を含むVHとヒト抗体のCHとからなるH鎖およびそれぞれ配列番号10、11、12で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2、CDR3を含むVLとヒト抗体のCLとからなるL鎖からなるヒト型CDR移植抗体等があげられる。
【0015】
ヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLとヒト抗体のCHおよびCLとからなる抗体を意味する。本発明のヒト型キメラ抗体は、PSMAに特異的に反応するマウス抗体2C9を産生するハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0016】
ヒト型キメラ抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリン(以下、hIgと表記する)に属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型キメラ抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
【0017】
本発明のPSMAに特異的に反応するヒト型キメラ抗体の具体例としては、抗体のVHが配列番号4記載のアミノ酸配列、ヒト抗体のCHがhIgG1サブクラスのアミノ酸配列から成り、抗体のVLが配列番号6記載のアミノ酸配列、ヒト抗体のCLがκクラスのアミノ酸配列からなる抗体KM2777があげられる。
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列をヒト抗体のVHおよびVLの適切な位置に移植した抗体を意味する。
【0018】
本発明のヒト型CDR移植抗体は、PSMAに特異的に反応するマウス抗体2C9のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を任意のヒト抗体のVHおよびVLのFRに移植したV領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0019】
ヒト型CDR移植抗体のCHとしては、hIgに属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型CDR移植抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
【0020】
本発明の抗体断片は、本発明の抗体の抗体断片であれば、いかなるものでも良い。
本発明の抗体断片としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、diabody、dsFvおよびCDRを含むペプチドなどがあげられる。
Fabは、IgGを蛋白質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち(H鎖の224番目のアミノ酸残基で切断される)、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体がジスルフィド結合で結合した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0021】
本発明のFabは、本発明の抗PSMA抗体を蛋白質分解酵素パパインで処理して得ることができる。または、該抗体のFabをコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、Fabを製造することができる。
F(ab’)2は、IgGを蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち(H鎖の234番目のアミノ酸残基で切断される)、Fabがヒンジ領域のジスルフィド結合を介して結合されたものよりやや大きい、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0022】
本発明のF(ab’)2は、本発明の抗PSMA抗体を蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。または、下記のFab’をチオエーテル結合あるいはジスルフィド結合させ、作製することができる。
Fab’は、上記F(ab’)2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0023】
本発明のFab’は、上記のF(ab’)2を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。または、該抗体のFab’断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、Fab’を製造することができる。
scFvは、1本のVHと1本のVLとを適当なペプチドリンカー(以下、Pと表記する)を用いて連結した、VH−P−VLないしはVL−P−VHポリペプチドで、抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0024】
本発明のscFvは、本発明の抗PSMA抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、scFvを製造することができる。
diabodyは、scFvが二量体化した抗体断片で、二価の抗原結合活性を有する抗体断片である。二価の抗原結合活性は、同一であることもできるし、一方を異なる抗原結合活性とすることもできる。
【0025】
本発明のdiabodyは、本発明の抗PSMA抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAをPのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、diabodyを製造することができる。
【0026】
dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを該システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させたものをいう。システイン残基に置換するアミノ酸残基はReiterらにより示された方法(Protein Engineering, 7,697, 1994)に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。
本発明のdsFvは、本発明の抗PSMA抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、dsFvを製造することができる。
【0027】
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。
本発明のCDRを含むペプチドは、本発明の抗PSMA抗体のVHおよびVLのCDRをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、CDRを含むペプチドを製造することができる。
また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によって製造することもできる。
【0028】
本発明の融合抗体は、本発明の抗PSMA抗体およびその抗体断片に放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子化合物、蛋白質などを化学的あるいは遺伝子工学的に結合させた融合抗体を包含する。
本発明の融合抗体は、本発明の抗PSMA抗体およびその抗体断片のH鎖あるいはL鎖のN末端側あるいはC末端側、抗体および抗体断片中の適当な置換基あるいは側鎖、さらには抗体および抗体断片中の糖鎖などに放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子化合物、蛋白質などを化学的手法(抗体工学入門、金光修著、地人書館、1994)により結合させることにより製造することができる。
【0029】
また、本発明の抗PSMA抗体およびその抗体断片をコードするDNAと、結合させたい蛋白質をコードするDNAを連結させて発現用ベクターに挿入し、該発現ベクターを適当な宿主細胞へ導入し、発現させることにより製造することができる。放射性同位元素としては、131I、125Iなどがあげられ、例えば、クロラミンT法などにより抗体に結合させることができる。
【0030】
低分子の薬剤としては、ナイトロジェン・マスタード、サイクロフォスファミドなどのアルキル化剤、5−フルオロウラシル、メソトレキセートなどの代謝拮抗剤、ダウノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、ダウノルビシン、ドキソルビシンなどの抗生物質、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシンのような植物アルカロイド、タモキシフェン、デキサメタソンなどのホルモン剤などの抗癌剤(臨床腫瘍学、日本臨床腫瘍研究会編、癌と化学療法社、1996)、またはハイドロコーチゾン、プレドニゾンなどのステロイド剤、アスピリン、インドメタシンなどの非ステロイド剤、金チオマレート、ペニシラミンなどの免疫調節剤、サイクロフォスファミド、アザチオプリンなどの免疫抑制剤、マレイン酸クロルフェニラミン、クレマシチンのような抗ヒスタミン剤などの抗炎症剤(炎症と抗炎症療法、医歯薬出版株式会社、1982)などがあげられる。例えば、ダウノマイシンと抗体を結合させる方法としては、グルタールアルデヒドを介してダウノマイシンと抗体のアミノ基間を結合させる方法、水溶性カルボジイミドを介してダウノマイシンのアミノ基と抗体のカルボキシル基を結合させる方法などがあげられる。
【0031】
高分子化合物としては、ポリエチレングリコール(以下、PEGと表記する)、アルブミン、デキストラン、ポリオキシエチレン、スチレンマレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリルアミドなどがあげられる。これらの高分子化合物を抗体および抗体断片に結合させることにより、(1)化学的、物理的あるいは生物的な種々の因子に対する安定性の向上、(2)血中半減期の顕著な延長、(3)免疫原性の消失、抗体産生の抑制、などの効果が期待される(バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店、1993)。高分子化合物、例えばPEGと抗体を結合させる方法としては、PEG化修飾試薬と反応させる方法などがあげられる(バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店、1993)。PEG化修飾試薬としては、リジンのε−アミノ基の修飾剤(特昭61−178926)、アスパラギン酸およびグルタミン酸のカルボキシル基の修飾剤(特昭56−23587)、アルギニンのグアニジノ基の修飾剤(特開平2−117920)などがあげられる。
【0032】
蛋白質としては、免疫担当細胞を活性化するサイトカイン、例えば、ヒトインターロイキン2(以下、hIL−2と表記する)、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(以下、hGM−CSFと表記する)、ヒトマクロファージコロニー刺激因子(以下、hM−CSFと表記する)、ヒトインターロイキン12(以下、hIL−12と表記する)などがあげられる。また、癌細胞を直接障害する活性を有するリシンやジフテリア毒素などの毒素を用いることができる。蛋白質との融合抗体については、抗体および抗体断片をコードするcDNAに蛋白質をコードするcDNAを連結させ、融合抗体をコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物あるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、融合抗体を製造することができる。
【0033】
本発明の抗PSMA抗体およびそれらの抗体断片は、ELISA(Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Chapter 14, 1988;Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press Limited, 1996)およびフローサイトメトリー解析などにより、in vitroでのPSMAに対する結合活性を評価することができる。
【0034】
以下に、本発明の抗PSMA抗体およびその抗体断片の作製方法および活性評価について説明する。
1.マウス抗体2C9の作製と2C9が認識する抗原の同定
(1)マウス抗体2C9の作製
マウスモノクローナル抗体2C9は、ヒト前立腺癌細胞株LNCaPをBALB/Cマウスに免疫後、ハイブリドーマを作製し、培養上清中の抗体、あるいは、腹水より精製した抗体のヒト前立腺組織および前立腺癌に対する特異的な反応を確認し、確立した(J. Aichi Med. Univ.Assoc., 23, 609, 1995)。
【0035】
(2)マウス抗体2C9が認識する抗原の同定
マウス抗体2C9が認識する抗原は、以下のようにして同定することができる。例えば、抗原が蛋白質の場合は、2C9が反応する組織あるいは細胞、例えばヒト前立腺組織または前立腺癌から作製したcDNA発現ライブラリーを適当な細胞に導入し、cDNA発現細胞ライブラリーを作製する。次いで、cDNA発現細胞ライブラリーから、2C9との反応性を指標に抗原発現細胞を単離し、細胞からcDNAを回収してその塩基配列を解析することで、抗原の同定を行うことができる。
また、適当な樹脂担体に2C9を固定化したカラムを用い、2C9が反応する組織あるいは細胞、例えばヒト前立腺組織または前立腺癌から調製したライセートから抗原を精製し、その構造解析を行うことによっても抗原の同定を行うことができる。
【0036】
2.ヒト化抗体の作製
(1)ヒト化抗体発現用ベクターの構築
ヒト化抗体発現用ベクターとは、ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子が組み込まれた動物細胞用発現ベクターであり、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子をそれぞれクローニングすることにより構築することができる。
【0037】
ヒト抗体のC領域は任意のヒト抗体のCHおよびCLであることができ、例えば、ヒト抗体のH鎖のIgG1サブクラスのC領域(以下、hCγ1と表記する)およびヒト抗体のL鎖のκクラスのC領域(以下、hCκと表記する)などがあげられる。ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子としてはエキソンとイントロンからなる染色体DNAを用いることができ、また、cDNAを用いることもできる。
【0038】
動物細胞用発現ベクターとしては、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組込み発現できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、pAGE107(Cytotechnology, 3, 133, 1990)、pAGE103(J. Biochem., 101, 1307, 1987)、pHSG274(Gene, 27, 223, 1984)、pKCR(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 78, 1527, 1981)、pSG1βd2−4(Cytotechnology, 4, 173, 1990)などがあげられる。動物細胞用発現ベクターに用いるプロモーターとエンハンサーとしては、SV40の初期プロモーターとエンハンサー(J. Biochem., 101, 1307, 1987)、モロニーマウス白血病ウイルスのLTRプロモーターとエンハンサー(Biochem. Biophys. Res. Commun., 149, 960, 1987)、イムノグロブリンH鎖のプロモーター(Cell, 41, 479, 1985)とエンハンサー(Cell, 33, 717, 1983)などがあげられる。
【0039】
ヒト化抗体発現用ベクターは、抗体H鎖およびL鎖が別々のベクター上に存在するタイプあるいは同一のベクター上に存在するタイプ(以下、タンデム型と表記する)のどちらでも用いることができるが、ヒト化抗体発現ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、動物細胞内での抗体H鎖およびL鎖の発現量のバランスが均衡するなどの点からタンデム型のヒト化抗体発現用ベクターの方が好ましい(J. Immunol. Methods, 167, 271, 1994)。タンデム型のヒト化抗体発現用ベクターとしては、pKANTEX93(WO97/10354)、pEE18(Hybridoma, 17, 559, 1998)などがあげられる。
構築したヒト化抗体発現用ベクターは、ヒト型キメラ抗体およびヒト型CDR移植抗体の動物細胞での発現に使用できる。
【0040】
(2)マウス抗体2C9のV領域をコードするcDNAの取得およびアミノ酸配列の解析
マウス抗体2C9のVHおよびVLをコードするcDNAは以下のようにして取得する。
マウス抗体2C9を産生するハイブリドーマよりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。合成したcDNAをファージあるいはプラスミドなどのベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーについて、マウスIgのH鎖、CHまたはVHをコードするDNAおよびマウスIgのL鎖、CHまたはCLをコードするDNAをプローブとして用いたハイブリダイゼーションを行ない、マウス抗体2C9のVHをコードするcDNAを有する組換えファージあるいは組換えプラスミド、およびマウス抗体2C9のVLをコードするcDNAを有する組換えファージあるいは組換えプラスミドをそれぞれ単離する。組換えファージあるいは組換えプラスミド上の目的とするマウス抗体のVHおよびVLの全塩基配列を決定し、塩基配列よりVHおよびVLの全アミノ酸配列を推定する。
【0041】
ハイブリドーマから全RNAを調製する方法としては、チオシアン酸グアニジン−トリフルオロ酢酸セシウム法(Methods in Enzymol., 154, 3, 1987)、また全RNAからmRNAを調製する方法としては、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Lab. Press New York, 1989)などがあげられる。また、ハイブリドーマからmRNAを調製するキットとしては、Fast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社製)、Quick Prep mRNA Purification Kit(Pharmacia社製)などがあげられる。
【0042】
cDNAの合成およびcDNAライブラリー作製法としては、常法(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Lab. Press New York, 1989; Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1−34)、あるいは市販のキット、例えば、Super ScriptTM Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(GIBCO BRL社製)やZAP−cDNA Synthesis Kit(Stratagene社製)を用いる方法などがあげられる。
【0043】
cDNAライブラリーの作製の際、ハイブリドーマから抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターは、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。例えば、ZAP Express(Strategies, 5, 58, 1992)、pBluescript II SK(+)(Nucleic Acids Res。, 17, 9494, 1989)、λzap II(Stratagene社製)、λgt10、λgt11(DNA Cloning: A Practical Approach, I, 49, 1985)、Lambda BlueMid(Clontech社製)、λExCell、pT7T3 18U(Pharmacia社製)、pcD2(Mol. Cell. Biol., 3, 280,1983)およびpUC18(Gene, 33, 103, 1985)などのファージあるいはプラスミドベクターが用いられる。
【0044】
ファージあるいはプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌としては該cDNAライブラリーを導入、発現および維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL1−Blue MRF’(J. Biotech., 23, 271, 1992)、C600(Genetics, 59, 177, 1968)、Y1088、Y1090(Science, 222, 778, 1983)、NM522(J. Mol. Biol., 166, 1, 1983)、K802(J. Mol. Biol., 16, 118, 1966)およびJM105(Gene,38, 275, 1985)などが用いられる。
【0045】
cDNAライブラリーからのマウス抗体2C9のVHおよびVLをコードするcDNAクローンの選択法としては、放射性同位元素あるいは蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法あるいはプラーク・ハイブリダイゼーション法(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)により選択することができる。
【0046】
上記方法により選択されたcDNAを、適当な制限酵素などで切断後、pBluescript SK(−)(Stratagene社製)などのプラスミドベクターにクローニングし、ABI PRISM 377(アプライドバイオシステムズ社製)等のDNAシークエンサーを用いて解析することにより該cDNAの塩基配列を決定することができる。
適当なプライマーを調製し、mRNAから合成したcDNAあるいはcDNAライブラリーを鋳型として、Polymerase Chain Reaction(以下、PCR法と表記する;Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, 1987−2001)によりVHおよびVLをコードするcDNAを調製することもできる。
【0047】
決定した塩基配列からVHおよびVLの全アミノ酸配列を推定し、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services, 1991)と比較することにより、取得したcDNAが分泌シグナル配列を含む抗体のVHおよびVLの完全なアミノ酸配列をコードしているかを確認することができる。分泌シグナル配列を含む抗体のVHおよびVLの完全なアミノ酸配列に関しては、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health andHuman Services, 1991)と比較することにより、分泌シグナル配列の長さおよびN末端アミノ酸配列を推定でき、さらにはそれらが属するサブグループを知ることができる。また、VHおよびVLの各CDRのアミノ酸配列についても、既知の抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services, 1991)と比較することによって見出すことができる。
さらに、VHおよびVLの完全なアミノ酸配列を用いて任意のデータベース、例えば、SWISS−PROTやPIR−Proteinなどに対してBLAST法(J. Mol. Biol., 215, 403,1990)などの配列の相同性検索を行い、配列の新規性を検討することができる。
【0048】
(3)ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築
上記2(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流に、マウス抗体2C9のVHおよびVLをコードするcDNAをクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。例えば、マウス抗体2C9ののVHおよびVLをコードするcDNAをそれぞれ、マウス抗体2C9のVHの3’末端側の塩基配列とヒト抗体のCHの5’末端側の塩基配列とから成り、かつ適当な制限酵素の認識配列を両端に有する合成DNA、マウス抗体2C9のVLの3’末端側の塩基配列とヒト抗体のCLの5’末端側の塩基配列とから成り、かつ適当な制限酵素の認識配列を両端に有する合成DNAとそれぞれ連結し、それぞれを上記2(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。また、マウス抗体2C9のVHおよびVLをコードするcDNAを含むプラスミドを鋳型として、5’末端に適当な制限酵素の認識配列を有するプライマーを用いてPCR法によりVHおよびVLをコードするcDNAを増幅し、それぞれを上記2(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。
【0049】
(4)ヒト型CDR移植抗体のV領域をコードするcDNAの構築
ヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLをコードするcDNAは、以下のようにして構築することができる。まず、目的のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を移植するヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列を選択する。ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列としては、ヒト抗体由来のものであれば、いかなるものでも用いることができる。例えば、Protein Data Bankなどのデータベースに登録されているヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列、ヒト抗体のVHおよびVLのFRの各サブグループの共通アミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services, 1991)などがあげられるが、その中でも、十分な活性を有するヒト型CDR移植抗体を作製するためには、マウス抗体2C9のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列とできるだけ高い相同性(少なくとも60%以上)を有するアミノ酸配列を選択することが望ましい。
【0050】
次に、選択したヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列にマウス抗体2C9のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を移植し、ヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列を設計する。設計したアミノ酸配列を抗体の遺伝子の塩基配列に見られるコドンの使用頻度(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services, 1991)を考慮して塩基配列に変換し、ヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列をコードする塩基配列を設計する。設計した塩基配列に基づき、100塩基前後の長さからなる数本の合成DNAを合成し、それらを用いてPCR法を行う。この場合、PCRでの反応効率および合成可能なDNAの長さから、VH、VLとも6本の合成DNAを設計することが好ましい。
【0051】
また、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、上記2(1)で構築したヒト化抗体発現用ベクターに容易にクローニングすることができる。PCR反応後、増幅産物をpBluescript SK(−)(Stratagene社製)などのプラスミドにクローニングし、上記2(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、所望のヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するプラスミドを取得する。
【0052】
(5)ヒト型CDR移植抗体のV領域のアミノ酸配列の改変
ヒト型CDR移植抗体は、目的のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのみをヒト抗体のVHおよびVLのFRに移植しただけでは、その抗原結合活性は元のヒト以外の動物の抗体に比べて低下してしまうことが知られている(BIO/TECHNOLOGY, 9, 266, 1991)。この原因としては、元のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLでは、CDRのみならず、FRのいくつかのアミノ酸残基が直接的あるいは間接的に抗原結合活性に関与しており、それらアミノ酸残基がCDRの移植に伴い、ヒト抗体のVHおよびVLのFRの異なるアミノ酸残基へと変化してしまうことが考えられている。この問題を解決するため、ヒト型CDR移植抗体では、ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列の中で、直接抗原との結合に関与しているアミノ酸残基やCDRのアミノ酸残基と相互作用したり、抗体の立体構造を維持し、間接的に抗原との結合に関与しているアミノ酸残基を同定し、それらを元のヒト以外の動物の抗体に見出されるアミノ酸残基に改変し、低下した抗原結合活性を上昇させることが行われている(BIO/TECHNOLOGY, 9, 266, 1991)。ヒト型CDR移植抗体の作製においては、それら抗原結合活性に関わるFRのアミノ酸残基を如何に効率よく同定するかが、最も重要な点であり、そのためにX線結晶解析(J. Mol. Biol., 112, 535, 1977)あるいはコンピューターモデリング(Protein Engineering, 7, 1501, 1994)などによる抗体の立体構造の構築および解析が行われている。これら抗体の立体構造の情報は、ヒト型CDR移植抗体の作製に多くの有益な情報をもたらして来たが、その一方、あらゆる抗体に適応可能なヒト型CDR移植抗体の作製法は未だ確立されておらず、現状ではそれぞれの抗体について数種の改変体を作製し、それぞれの抗原結合活性との相関を検討するなどの種々の試行錯誤が必要である。
【0053】
ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸残基の改変は、改変用合成DNAを用いて上記2(4)に記載のPCR法を行うことにより、達成できる。PCR後の増幅産物について上記2(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的の改変が施されたことを確認する。
【0054】
(6)ヒト型CDR移植抗体発現ベクターの構築
上記2(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流に、上記2(4)および2(5)で構築したヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLをコードするcDNAをクローニングし、ヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築することができる。
例えば、上記2(4)および2(5)でヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLを構築する際に用いる合成DNAのうち、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、上記2(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングすることができる。
【0055】
(7)ヒト化抗体の一過性発現
作製した多種類のヒト化抗体の抗原結合活性を効率的に評価するために、上記2(3)および2(6)に記載のヒト化抗体発現ベクター、あるいはそれらを改変した発現ベクターを用いてヒト化抗体の一過性発現を行うことができる。発現ベクターを導入する宿主細胞としては、ヒト化抗体を発現できる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができるが、その発現量の高さから、COS−7細胞(ATCC CRL1651)が一般に用いられる(Methods in Nucleic Acids Research, CRC press, 283, 1991)。COS−7細胞への発現ベクターの導入法としては、DEAE−デキストラン法(Methods in Nucleic Acids Research, CRC press, 283, 1991)、リポフェクション法(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 84, 7413, 1987)などがあげられる。
【0056】
発現ベクターの導入後、培養上清中のヒト化抗体の発現量及び抗原結合活性はELISA(Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Chapter 14, 1988; Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press Limited, 1996)などにより測定できる。
【0057】
(8)ヒト化抗体の安定発現
上記2(3)および2(6)に記載のヒト化抗体発現ベクターを適当な宿主細胞に導入することによりヒト化抗体を安定に発現する形質転換細胞を得ることができる。
宿主細胞への発現ベクターの導入法としては、エレクトロポレーション法(Cytotechnology, 3, 133, 1990)などがあげられる。
ヒト化抗体発現ベクターを導入する宿主細胞としては、ヒト化抗体を発現させることができる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。例えば、マウスSP2/0−Ag14細胞(ATCC CRL1581)、マウスP3X63−Ag8.653細胞(ATCC CRL1580)、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと表記する)遺伝子が欠損したCHO細胞(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 77, 4216, 1980)、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC CRL1662、以下、YB2/0細胞と表記する)などがあげられる。
【0058】
発現ベクターの導入後、ヒト化抗体を安定に発現する形質転換体は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、G418 sulfate(以下、G418と表記する)などの薬剤を含む動物細胞培養用培地で培養することにより選択できる。動物細胞培養用培地としては、RPMI1640培地(日水製薬社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX−CELL302培地(JRH社製)、IMDM(GIBCO BRL社製)、Hybridoma−SFM(GIBCO BRL社製)、またはこれら培地にFBSなどの各種添加物を添加した培地などを用いることができる。得られた形質転換細胞を培地中で培養することで培養上清中にヒト化抗体を発現蓄積させることができる。培養上清中のヒト化抗体の発現量および抗原結合活性は、ELISAにより測定できる。また、形質転換細胞は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、dhfr増幅系などを利用してヒト化抗体の発現量を上昇させることができる。
【0059】
ヒト化抗体は、形質転換細胞の培養上清よりプロテインAカラムを用いて精製することができる(Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Chapter8, 1988; Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press Limited, 1996)。また、その他に通常、蛋白質の精製で用いられる精製方法を使用することができる。例えば、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーおよび限外濾過などを組合わせて行い、精製することができる。精製したヒト化抗体のH鎖、L鎖あるいは抗体分子全体の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下、PAGEと表記する:Nature, 227, 680, 1970)やウエスタンブロッティング法(Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Chapter 12, 1988; Monoclonal Antibodies: Principles andPractice, Academic Press Limited, 1996)などで測定することができる。
【0060】
(9)ヒト化抗体の活性評価
培養上清中あるいは精製した抗PSMAヒト化抗体のPSMAに対する結合活性は、ELISA法およびフローサイトメトリー解析などにより測定することができる。また、PSMA陽性培養癌細胞株に対する細胞障害活性は、補体依存性細胞障害活性(以下、CDC活性と表記する)、抗体依存性細胞障害活性(以下、ADCC活性と表記する)などを測定し、評価することができる。さらに、PSMA陽性癌細胞株のマウスなどの動物への移植系を用いて抗体の癌細胞への集積性、抗腫瘍活性などを評価することができる。
【0061】
3.抗体断片の作製
本発明の抗体断片は、上記2に記載の抗PSMAヒト化抗体を元に遺伝子工学的手法あるいは蛋白質化学的手法により、作製することができる。該抗体断片としては、Fab、F(ab’)2、Fab’、scFv、diabody、dsFv、CDRを含むペプチドなどがあげられる。
【0062】
(1)Fabの作製
Fabは、蛋白質化学的にはIgGを蛋白質分解酵素パパインで処理することにより、作製することができる。パパインの処理後は、元の抗体がプロテインA結合性を有するIgGサブクラスであれば、プロテインAカラムに通すことで、IgG分子やFc断片と分離し、均一なFabとして回収することができる(Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, thirdedition, 1995)。プロテインA結合性を持たないIgGサブクラスの抗体の場合は、イオン交換クロマトグラフィーにより、Fabは低塩濃度で溶出される画分中に回収することができる(Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, third edition, 1995)。
【0063】
また、Fabは遺伝子工学的には、多くは大腸菌を用いて作製することができる。例えば、上記2(2)、2(4)および2(5)に記載の抗体のV領域をコードするDNAを、Fab発現用ベクターにクローニングし、Fab発現ベクターを作製することができる。Fab発現用ベクターとしては、抗体のV領域をコードするDNAを組み込むことにより該V領域を含むFabを発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pIT106(Science, 240,1041, 1988)などがあげられる。Fab発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズマ層にFabを生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるFabとすることができ、また、ペリプラズマ層に発現させた場合は、培養上清中に活性を持ったFabが漏出する。リフォールディング後あるいは培養上清からは、抗原を結合させたカラムを用いることにより、均一なFabを精製することができる(Antibody Engineering, A Practical Guide, W. H. Freeman and Company, 1992)。
【0064】
(2)F(ab’)2の作製
F(ab’)2は、蛋白質化学的にはIgGを蛋白質分解酵素ペプシンで処理することにより、作製することができる。ペプシンの処理後は、Fabと同様の精製操作により、均一なF(ab’)2として回収することができる(Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, thirdedition, Academic Press, 1995)。また、下記3(3)に記載のFab’をo−PDMやビスマレイミドヘキサンなどのようなマレイミドで処理し、チオエーテル結合させる方法や、DTNBで処理し、S−S結合させる方法によっても作製することができる(Antibody Engineering, A Practical Approach, IRL PRESS, 1996)。
【0065】
(3)Fab’の作製
Fab’は、上記3(2)に記載のF(ab’)2をジチオスレイトールなどの還元剤で処理して得ることができる。また、Fab’は遺伝子工学的には、多くは大腸菌を用いて作製することができる。例えば、上記2(2)、2(4)および2(5)に記載の抗体のV領域をコードするDNAを、Fab’発現用ベクターにクローニングし、Fab’発現ベクターを作製することができる。Fab’発現用ベクターとしては、抗体のV領域をコードするDNAを組み込むことにより該V領域を含むFab’を発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pAK19(BIO/TECHNOLOGY, 10,163, 1992)などがあげられる。Fab’発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズマ層にFab’を生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるFab’とすることができ、また、ペリプラズマ層に発現させた場合は、リゾチームによる部分消化、浸透圧ショック、ソニケーションなどの処理により菌を破砕し、菌体外へ回収させることができる。リフォールディング後あるいは菌の破砕液からは、プロテインGカラムなどを用いることにより、均一なFab’を精製することができる(Antibody Engineering, A Practical Approach, IRL PRESS, 1996)。
【0066】
(4)scFvの作製
scFvは遺伝子工学的には、ファージまたは大腸菌を用いて作製することができる。例えば、上記2(2)、2(4)および2(5)に記載の抗体のV領域をコードするDNAを、scFv発現用ベクターにクローニングし、scFv発現ベクターを作製することができる。scFv発現用ベクターとしては、抗体のV領域をコードするDNAを組み込むことにより該V領域を含むScFvを発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pCANTAB5E(Pharmacia社製)、pHFA(Human Antibodies Hybridomas, 5, 48, 1994)などがあげられる。scFv発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、ヘルパーファージを感染させることで、ファージ表面にscFvがファージ表面蛋白質と融合した形で発現するファージを得ることができる。また、scFv発現ベクターを導入した大腸菌の封入体あるいはペリプラズマ層にscFvを生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるscFvとすることができ、また、ペリプラズマ層に発現させた場合は、リゾチームによる部分消化、浸透圧ショック、ソニケーションなどの処理により菌を破砕し、菌体外へ回収することができる。リフォールディング後あるいは菌の破砕液からは、陽イオン交換クロマトグラフィーなどを用いることにより、均一なscFvを精製することができる(Antibody Engineering, A Practical Approach, IRL PRESS, 1996)。
【0067】
(5)diabodyの作製
diabodyは遺伝子工学的には、多くは大腸菌を用いて作製することができる。例えば、上記2(2)、2(4)および2(5)に記載の抗体のVHとVLをリンカーがコードするアミノ酸残基が8残基以下となるように連結したDNAを作製し、diabody発現用ベクターにクローニングし、diabody発現ベクターを作製することができる。
【0068】
diabody発現用ベクターとしては、diabodyのDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pCANTAB5E(Pharmacia社製)、pHFA(Human Antibodies Hybridomas, 5, 48, 1994)などがあげられる。diabody発現ベクターを導入した大腸菌の封入体あるいはペリプラズマ層にdiabodyを生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるdiabodyとすることができ、また、ペリプラズマ層に発現させた場合は、リゾチームによる部分消化、浸透圧ショック、ソニケーションなどの処理により菌を破砕し、菌体外へ回収することができる。リフォールディング後あるいは菌の破砕液からは、陽イオン交換クロマトグラフィーなどを用いることにより、均一なscFvを精製することができる(Antibody Engineering, A Practical Approach, IRL PRESS, 1996)。
【0069】
(6)dsFvの作製
dsFvは遺伝子工学的には、多くは大腸菌を用いて作製することができる。まず、上記2(2)、2(4)および2(5)に記載の抗体のVHおよびVLをコードするDNAの適当な位置に変異を導入し、コードするアミノ酸残基がシステインに置換されたDNAを作製する。作製した各DNAをdsFv発現用ベクターにクローニングし、VHおよびVLの発現ベクターを作製することができる。dsFv発現用ベクターとしては、システイン置換変異を導入したVHおよびVLをコードするDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pULI9(Protein Engineering, 7, 697, 1994)などがあげられる。VHおよびVLの発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズマ層にを生成蓄積させることができる。封入体あるいはペリプラズマ層からVHおよびVLを得、混合し、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるdsFvとすることができる。リフォールディング後は、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過などにより、さらに精製することができる(Protein Engineering, 7, 697, 1994)。
【0070】
(7)CDRペプチドの作製
CDRを含むペプチドは、Fmoc法あるいはtBoc法などの化学合成法によって作製することができる。また、CDRを含むペプチドをコードするDNAを作製し、作製したDNAを適当な発現用ベクターにクローニングし、CDRペプチド発現ベクターを作製することができる。発現用ベクターとしては、CDRペプチドをコードするDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pLEX(Invitrogen社製)、pAX4a+(Invitrogen社製)などがあげられる。発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズマ層にを生成蓄積させることができる。封入体あるいはペリプラズマ層からCDRペプチドを得、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過などにより、精製することができる(Protein Engineering, 7, 697, 1994)。
【0071】
(8)抗体断片の活性評価
精製した抗体断片のPSMAに対する結合活性は、ELISA法およびフローサイトメトリー解析などにより測定することができる。さらに、PSMA陽性の癌細胞株のマウスなどの動物への移植系を用いて抗体断片の癌細胞への集積性、抗腫瘍活性などを評価することができる。
【0072】
4.抗体および抗体断片とサイトカインとの融合抗体の作製
(1)抗体および抗体断片とサイトカインとの融合抗体をコードする遺伝子の構築
サイトカインをコードする遺伝子を適当な合成DNAを介して、抗体または抗体断片のH鎖あるいはL鎖をコードする遺伝子の5’末端あるいは3’末端に連結することにより、抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体をコードする遺伝子を構築することができる。また、サイトカインをコードする遺伝子をPCR法で増幅する際に、増幅用プライマーの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入し、抗体または抗体断片のH鎖あるいはL鎖をコードする遺伝子の5’末端あるいは3’末端に連結することにより、抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体をコードする遺伝子を構築することができる。サイトカインをコードする遺伝子は、染色体DNA、cDNAのいずれも用いることができる。構築した抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体をコードする遺伝子については、上記2(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的の配列であることを確認する。
【0073】
(2)抗体および抗体断片とサイトカインとの融合抗体の発現ベクターの構築
上記2(3)、2(6)および3に記載の抗体または抗体断片発現ベクター上の抗体または抗体断片のH鎖あるいはL鎖をコードする遺伝子の一部またはすべてを、上記4(1)に記載の抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体をコードする遺伝子と置換することによって、抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体の発現ベクターを構築することができる。例えば、ヒト型キメラ抗体のH鎖のC末端にサイトカインが融合した融合抗体を作製する場合は、上記4(1)において、ヒト型キメラ抗体のH鎖C領域をコードする遺伝子の3’末端にサイトカインをコードする遺伝子を連結してヒト型キメラ抗体のH鎖C領域とサイトカインとの融合抗体をコードする遺伝子を構築し、該遺伝子と上記2(3)に記載のヒト型キメラ抗体発現ベクター上のヒト型キメラ抗体のH鎖C領域をコードする遺伝子を置換することにより、発現ベクターを作製することができる。
【0074】
(3)抗体および抗体断片とサイトカインとの融合抗体の安定発現
上記4(2)に記載の抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体の発現ベクターを用いて上記2(8)に記載した方法に従い、抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体の安定発現を行うことにより、抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体を安定に発現する形質転換株を得、その培養上清から抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体を精製し、その分子量などを解析することができる。
【0075】
(4)抗体および抗体断片とサイトカインとの融合抗体の活性評価
精製した抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体の活性のうち、抗体または抗体断片部分の活性、すなわち抗原との結合活性、培養癌細胞株に対する結合活性はELISA法およびフローサイトメトリー解析などにより測定できる。また、抗原陽性培養癌細胞株に対する細胞障害活性は、CDC活性、ADCC活性などを測定し、評価することができる。一方、サイトカイン部分の活性は、例えば、該サイトカインに対して濃度依存的な増殖を示す培養細胞株の増殖を指標に評価することができる(Proc. Natl.Acad. Sci. U.S.A., 91, 9626, 1994)。
【0076】
抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体は、例えば、PSMAを発現している培養ヒト癌細胞株を移植したマウスに投与することで、その抗腫瘍効果を評価することができ、また、抗体または抗体断片単独、サイトカイン単独あるいは抗体または抗体断片とサイトカインの同時投与と比較することにより、生体内におけるより強い抗腫瘍効果を評価することができる(Cancer Immunol., Immunother., 42, 88, 1996)。
【0077】
5.抗体および抗体断片と抗癌剤との融合抗体の作製
(1)抗体および抗体断片と抗癌剤との融合抗体の作製
抗体および抗体断片と抗癌剤との融合抗体は、抗癌剤を共有結合などを介して化学的に結合させ、作製することができる。例えば、抗癌剤をPEGとジペプチドよりなるリンカーと結合させた後にN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル化し、抗体または抗体断片のアミノ基と反応させ、融合抗体を作製することができる(J. Controlled Release, 69, 27, 2000)。
【0078】
(2)抗体および抗体断片と抗癌剤との融合抗体の活性評価
作製した抗体または抗体断片と抗癌剤との融合抗体の活性のうち、抗体または抗体断片部分の活性、すなわち抗原との結合活性、培養癌細胞株に対する結合活性はELISA法およびフローサイトメトリー解析などにより測定できる。また、抗原陽性培養癌細胞株に対する細胞障害活性は、CDC活性、ADCC活性などを測定し、評価することができる。一方、抗癌剤の活性は、培養癌細胞株の増殖抑制活性を指標に評価することができる(J. Controlled Release, 69, 27, 2000)。
【0079】
抗体または抗体断片と抗癌剤との融合抗体は、例えば、PSMAを発現している培養ヒト癌細胞株を移植したマウスに投与することで、その抗腫瘍効果を評価することができ、また、抗体または抗体断片単独、抗癌剤単独あるいは抗体または抗体断片と抗癌剤の同時投与と比較することにより、生体内におけるより強い抗腫瘍効果を評価することができる(Science, 261, 212, 1993)。
【0080】
6.本発明の抗体を用いたPSMAの検出および定量法
本発明のヒト化抗体、抗体断片および融合抗体を用いて、PSMAを免疫学的に検出および定量する方法としては、蛍光抗体法、ELISA、放射性物質標識免疫法(以下、RIAと表記する)、免疫組織染色法、免疫細胞染色法などの免疫組織化学染色法(ABC法、CSA法など)、サンドイッチELISA(単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック、1987;続生化学実験講座5、免疫生化学研究法、東京化学同人、1986)などがあげられる。
【0081】
蛍光抗体法とは、分離した細胞あるいは組織などに、本発明の抗体あるいはその抗体断片を反応させ、さらにフルオレセインイソチオシアネート(以下、FITCと表記する)などの蛍光物質で標識した抗Ig抗体あるいは抗体断片を反応させた後、蛍光色素をフローサイトメーターで測定する方法である。
RIAとは、分離した細胞あるいは組織のライセート、細胞培養上清、血清、胸水、腹水、眼液などに、本発明の抗体あるいはその抗体断片を反応させ、さらに放射線標識を施した抗Ig抗体あるいは抗体断片を反応させた後、シンチレーションカウンターなどで測定する方法である。
【0082】
免疫組織染色法、免疫細胞染色法とは、分離した細胞あるいは組織などに、本発明の抗体あるいはその抗体断片を反応させ、さらにFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼ、ビオチンなどの酵素標識を施した抗Ig抗体あるいは抗体断片を反応させた後、顕微鏡を用いて観察する方法である。
サンドイッチELISAとは、本発明の抗体あるいはその抗体断片で、抗原認識部位の異なる2種類の抗体あるいはその抗体断片のうち、あらかじめ一方の抗体あるいはその抗体断片はELISAプレートに吸着させ、もう一方の抗体あるいはその抗体断片はFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼ、ビオチンなどの酵素で標識しておき、抗体あるいはその抗体断片吸着プレートに、分離した細胞あるいは組織のライセート、細胞培養上清、血清、胸水、腹水、眼液などを反応させた後、標識した抗体あるいはその抗体断片を反応させ、標識物質に応じた反応を行う方法である。
【0083】
7.本発明の抗体を用いたPSMA陽性の癌の診断および治療
PSMAの発現は、前立腺上皮細胞に限局しており、また、前立腺癌、特にホルモン不応答性増殖に伴う発現上昇が報告されている。本発明の抗PSMAヒト化抗体およびその抗体断片は、PSMAと特異的に結合するため、前立腺癌等のPSMA陽性の癌の診断に有用である。
【0084】
PSMA陽性の癌の診断方法としては、本発明の抗PSMAヒト化抗体およびその抗体断片を用いて、被験者の細胞、組織あるいは血清中に存在するPSMAを上記6に記載した方法で免疫学的に検出および定量する方法があげられる。複数の健常人の細胞、組織あるいは血清中のPSMAを同様にして測定し、健常人の検体のPSMAの量の範囲と比較して被験者の検体のPSMAの量が増加している場合には、PSMA陽性の癌であると診断できる。
【0085】
本発明の抗PSMAヒト化抗体、その抗体断片、および融合抗体は、PSMAと特異的に結合し、かつADCC活性などの細胞障害活性を示すため、PSMA陽性の癌の治療に有用である。また、ヒト以外の動物の抗体に比べ、ヒト抗体のアミノ酸配列に由来する部分がほとんどであるため、ヒト体内において強い抗腫瘍効果を示し、かつ免疫原性を示さず、反復投与が可能であり、その効果が長期間にわたり持続することが期待されるので、治療薬としてヒトに投与するのに適している。
【0086】
さらに、本発明の抗体または抗体断片とサイトカインとの融合抗体は、融合させたサイトカイン部分の活性により、癌の近傍で免疫担当細胞を活性化できることから、抗体または抗体断片単独、サイトカイン単独あるいは抗体または抗体断片とサイトカインの同時投与などに比べ、より強い抗腫瘍効果が期待され、また、サイトカインの全身投与に比べ、副作用の低減が期待される。
【0087】
同様に、本発明の抗体または抗体断片と抗癌剤との融合抗体は、融合させた抗癌剤の活性により、癌細胞特異的な増殖抑制を発揮できることから、抗体または抗体断片単独、抗癌剤単独あるいは抗体または抗体断片と抗癌剤の同時投与などに比べ、より強い抗腫瘍効果が期待され、また、抗癌剤の全身投与に比べ、副作用の低減が期待される。
【0088】
本発明の抗PSMAヒト化抗体、その抗体断片、および融合抗体は、単独で投与することも可能ではあるが、通常は薬理学的に許容される1つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内などの非経口投与をあげることができ、望ましくは静脈内投与をあげることができる。
【0089】
投与形態としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤などがあげられる。
経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などがあげられる。
乳剤およびシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖などの糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造できる。
【0090】
カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトールなどの賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造できる。
【0091】
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤などがあげられる。注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液あるいは両者の混合物からなる担体などを用いて調製される。座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸などの担体を用いて調製される。また、噴霧剤は該抗体、抗体断片、および融合抗体そのもの、ないしは受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ該抗体、抗体断片、および融合抗体を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体などを用いて調製される。
【0092】
担体として具体的には乳糖、グリセリンなどが例示される。該抗体、抗体断片、、および融合抗体、さらには用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダーなどの製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重などにより異なるが、通常成人1日当たり10μg/kg〜20mg/kgである。
【0093】
以下に、本発明の実施例を示すが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【0094】
【実施例】
実施例1 抗PSMAマウス抗体2C9の認識抗原の同定
(1)発現クローニング法による抗原の同定
(1−1)ヒト前立腺由来cDNAライブラリーの作製
ヒト前立腺由来mRNA(Clontech社製)の4μgより、Superscript Plasmid System(GibcoBRL社製)を用いて両端に制限酵素Sfi Iリンカー配列を有するcDNAを合成した。合成したcDNAをアガロースゲル電気泳動にて分画し、第1表に示したように6種類のサイズに分けてQIAEX II Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いてゲルから回収した。
【0095】
【表1】
【0096】
Fraction No. 2から6の各cDNA断片を制限酵素Sfi Iで処理したプラスミドpAMo(J. Biol. Chem., 268, 22782, 1993)の0.5μgと連結後、ウルトラフリー−MC(UFC3 LTK00、Millipore社製)を用いて濃縮し、大腸菌MC1061Aにエレクトロポレーション法により導入した。形質転換大腸菌を回収し、50μg/mLのアンピシリンを含むLB培地450mLで培養後、EndoFree Plasmid Maxi Kit(QIAGEN社製)を用いて大腸菌よりプラスミドを回収し、cDNAライブラリーとした。
【0097】
(1−2)動物細胞を用いた発現クローニング
実施例1(1−1)で作製したcDNAライブラリーのうち、Fraction No.2、3、4の各cDNA断片から作製したもの、および5と6の各cDNA断片から作製したものを混合したものの計4種類について、DNA濃度が1μg/μLとなるように希釈し、その各16μLをエレクトロポレーション用の0.4cm幅キュベットに分注した。K−PBS(5.1g KCl, 0.08g NaCl, 0.575g Na2HPO4,0.405g MgCl2/500mL H2O)を用いて8.0×106細胞/mLとなるように懸濁したNamalwa KJM−1細胞(Cytotechnology, 1, 151, 1988)の0.8mLを各キュベットに加え、混合後、0.3kV、500μFの条件でGenePulser装置(BIO−RAD社製)を用いてプラスミドの導入を行った。室温で30分間放置した後、キュベットより細胞を回収し、40mLのRPMI1640(IPTSG)培地(Cytotechnology, 5, S17, 1991)を分注した細胞培養フラスコに懸濁し、37℃、5%CO2インキュベーター内で培養した。24時間後、1mg/mLのG418を含む40mLのRPMI1640(IPTSG)培地を添加し、薬剤耐性株の増殖を誘導した。
【0098】
各cDNAライブラリーの導入により得られた薬剤耐性細胞の1.0〜2.0×107細胞を回収し、3%ウシ血清(以下、FBSと表記する)を含むPBS(以下、3%FBS−PBSと表記する)で2回洗浄した後、10μg/mLのマウス抗体2C9を含む3%FBS−PBSの100μLで懸濁し、氷中で30〜60分間反応させた。反応後、3%FBS−PBSで3回洗浄し、1mLの3%FBS−PBSで懸濁した抗マウスIgG1抗体を固定化したマグネティックビーズ(Dynal社製)を加え、10分毎に攪拌しながら、30〜60分間反応させた。反応後、Dynal MPC−1磁石(Dynal社製)を用いてビーズの付着した細胞を回収し、3%FBS−PBSで3回洗浄した。その結果、Fraction No.2のcDNAライブラリーを導入した場合にのみ、ビーズの付着した細胞が回収された。
【0099】
回収された細胞の2.0×106細胞よりHirt法(Mol. Cell. Biol., 8, 2837, 1988)によりプラスミドを調製し、大腸菌JM109(宝酒造社製)にエレクトロポレーション法により導入した。得られた複数の形質転換大腸菌のシングルコロニーより各プラスミドを調製し、含まれるcDNAの塩基配列をBigDye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE Biosystems社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、反応を行い、塩基配列自動分析装置ABI PRISM 377(PE Biosystems社製)を用いて決定した。
【0100】
その結果、4kbの大きさの同一のcDNAを含むプラスミドが得られた。そのうちの1つのプラスミドpAMofa2−1−2に含まれていたcDNAの塩基配列をクエリーとしてデータベースの検索を行った結果、得られたcDNAは、ヒトPSMAをコードするcDNAとマウスNPDC−1のヒト相同物をコードするcDNAが繋がったものであることが明らかとなった。マウスNPDC−1は、神経細胞特異的な発現が報告されており(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, 92, 1560, 1995)、一方、ヒトPSMAは、正常前立腺および前立腺癌組織での発現が報告されている(Cancer Res., 54, 1807, 1994)ことから、マウス抗体2C9の認識抗原は、PSMAであることが示唆された。
【0101】
そこで、得られたヒトPSMAをコードするcDNAのみをプラスミドpAMoにクローニングし、プラスミドpAMoPSMAを構築し、Namalwa KJM−1細胞に導入してG418耐性細胞を得た。薬剤耐性細胞の5.0×105細胞を回収し、4%健常人ヒト血清を含むPBSと反応させた後に、10μg/mLのマウス抗体2C9あるいはヒト血管内皮増殖因子(VEGF)に対するマウス抗体KM1548(特開2000−835956)と氷中で30分間反応させた。反応後、1%牛血清アルブミン(以下、BSAと表記する)を含むPBS(以下、BSA−PBSと表記する)で3回洗浄し、1500倍希釈したR−フィコエリスリン(RPE)標識抗マウスIg抗体(DAKO社製)と氷中で30分間反応させた。反応後、PBSで3回洗浄し、フローサイトメトリー解析を行った。その結果、図1に示すように、マウス抗体2C9との特異的な反応性が確認された。以上の結果より、マウス抗体2C9の認識抗原はヒトPSMAであり、また、マウス抗体2C9はPSMAの細胞外領域と反応することが明らかとなった。
【0102】
(2)ヒト前立腺癌細胞株LNCaPライセートからの抗原の精製とその解析
マウス抗体2C9あるいは陰性対照としてヒトCCケモカイン受容体5に対するマウス抗体KM2090の各8mgを用いて、ImmunoPure Protein G IgG Orientation Kit(PIERCE社製)の使用説明書に従い、抗体固定化カラムを作製した。ヒト前立腺癌細胞株LNCaPの5×107細胞を2mLのPBSにて懸濁し、凍結およびソニケーションによる融解を3回繰り返した後、15000rpmで5分間遠心分離し、上清を回収した。上清に2mLの10mmol/L Tris−HCl(pH7.5)を添加した後、全量をKM2090固定化カラムに通した。非吸着画分を回収し、さらに、マウス抗体2C9固定化カラムに通し、カラムの5倍量の10mmol/L Tris−HCl(pH7.5)で洗浄後、8mLの100mmol/Lグリシン(pH2.8)で溶出を行い、1mLずつ分取した(Fraction No.1〜8)。
【0103】
次に、各画分のSDS−PAGE解析を行った。図2には、Fraction No.2〜5の20μLの非還元条件下での電気泳動結果を示した。その結果、Fraction No.3および4において約140kDaと約90kDaのバンドが検出された。約140kDaのバンドは、抗体由来と考えられたため、約90kDaのバンドが目的抗原であると推察し、約90kDaの蛋白質のN末端アミノ酸配列の解析をプロテインシークエンサーProcise 492cLC(PE Biosystems社製)を用いて行った。その結果、配列番号1および2で示したアミノ酸配列が得られ、データベースSwiss−Prot検索を行った結果、PSMAのアミノ酸配列(Accession No.Q04609)の一部と完全に一致することが明らかとなった。以上の結果から、マウス抗体2C9が認識する抗原は、PSMAであることが示唆された。本結果は、上記実施例1(1)の発現クローニング法による抗原の同定によって得られた結果と一致した。
【0104】
実施例2 PSMA発現ヒト前立腺癌細胞株の作製
PSMA陰性のヒト前立腺癌細胞株PC−3(ATCC No. CRL−1435)を用いて、PSMAを細胞膜上に発現する形質転換細胞株を以下のようにして作製した。
【0105】
(1)PSMA発現ベクターの構築
上記実施例1(1−2)で得られたプラスミドpAMofa2−1−2の3μgを制限酵素HindIII(宝酒造社製)およびSspI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、PSMAをコードするcDNAを含む約2.6kbのHindIII−SspI断片を約0.5μg回収した。
【0106】
次に、プラスミドpBluescript SK(−)(Stratagene社製)の3μgを制限酵素Hin dIII(宝酒造社製)およびHincII(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約2.95kbのHindIII−HincII断片を約2.1μg回収した。
次に、上記で得られたPSMAをコードするcDNAを含む約2.6kbのHindIII−SspI断片0.1μgとプラスミドpBluescript SK(−)のHindIII−HincII断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。このようにして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌JM109株(宝酒造社製)を形質転換した。形質転換株のクローンよりプラスミドDNAを調製し、PSMAをコードするcDNAを有するプラスミドpBSPSMAを得た。
【0107】
次に、上記で得られたプラスミドpBSPSMAの3μgを制限酵素SmaI(宝酒造社製)およびKpnI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、PSMAをコードするcDNAを含む約2.6kbのSmaI−KpnI断片を約1.0μg回収した。
次に、発現ベクターpKANTEX93(WO97/10354)の3μgを制限酵素EcoRI(宝酒造社製)で処理し、TaKaRa DNA Blunting Kit(宝酒造社製)を用いて平滑末端化処理を行い、さらに、制限酵素KpnI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約9.3kbの平滑末端−KpnI断片を約2.0μg回収した。
【0108】
次に、上記で得られたPSMAをコードするcDNAを含む約2.6kbのSmaI−KpnI断片0.1μgとプラスミドpKANTEX93の平滑末端−KpnI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。このようにして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌JM109株(宝酒造社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製した結果、図3に示したPSMA発現ベクターpKANTEXPSMA12を得た。
【0109】
(2)PSMA発現ヒト前立腺癌細胞株の作製
上記実施例2(1)で得られたPSMA発現ベクターpKANTEXPSMA12を制限酵素AatII(東洋紡績社製)で処理して直鎖状化した後、10μgを4×106細胞のヒト前立腺癌細胞株PC−3(ATCCCRL−1435)へエレクトロポレーション法(Cytotechnology,3, 133, 1990)により導入後、40mLのRPMI(10)培地〔FBSを10%含むRPMI1640(Gibco BRL社製)〕に懸濁し、96ウェル培養プレート(住友ベークライト社製)に200μL/ウェルずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃、6日間培養した後、G418を0.2mg/mLになるように添加して1〜2週間培養した。
【0110】
G418耐性を示す形質転換株のコロニーが出現し、コンフルエントになったウェルより細胞を回収し、PSMAの発現を実施例2(3)に示す抗PSMAマウス抗体2C9およびネガティブコントロールであるVEGF受容体Flt−1に対するマウス抗体KM1750(WO99/60025)を用いたフローサイトメトリーにより解析し、マウス抗体2C9と特異的に反応する細胞をPSMA発現形質転換株として選択した。その結果、PSMA発現形質転換株として960−7を得た。図4には、マウス抗体2C9ならびにKM1750の960−7に対する反応性をフローサイトメトリーにより解析した結果を示した。960−7については、2回の限界希釈法による単一細胞化(以下、クローン化と表記する)を行い、最終的にPSMA発現PC−3細胞クローンとして9−7−11を得た。
【0111】
(3)PSMA発現細胞のフローサイトメトリー解析
各細胞の2〜5×105細胞を、10μg/mLのマウス抗体2C9またはネガティブコントロールである抗Flt−1抗体KM1750を含む50μLのBSA−PBSに懸濁し、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、FITCで標識された抗マウスIgG(H+L)抗体(KPL社製)をBSA−PBSで30倍希釈した溶液を50μL添加して懸濁後、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、1mLのPBSに懸濁し、フローサイトメーターEPICS Elite(Coulter社製)を用いて解析を行った。
【0112】
実施例3 ヒト型キメラ抗体の作製
(1)マウス抗体2C9のV領域をコードするcDNAの単離と解析
(1−1)マウス抗体2C9産生ハイブリドーマからのmRNAの調製
マウス抗体2C9産生ハイブリドーマの5×107細胞より、mRNAの調製キットであるFast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、mRNAを調製した。
【0113】
(1−2)マウス抗体2C9のH鎖およびL鎖cDNAライブラリーの作製
上記実施例3(1−1)で取得したmRNAの5μgから、TimeSaver cDNA Synthesis Kit(Pharmacia社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、両端にEcoRI−NotIアダプター配列を有するcDNAを合成した。合成したcDNAの全量を20μLの滅菌水に溶解後、アガロースゲル電気泳動にて分画し、IgGクラス抗体のH鎖をコードするcDNAの長さに対応する約1.5kbのcDNA断片とκクラスのL鎖をコードするcDNAの長さに対応する約1.0kbのcDNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いてそれぞれ約1.0μg回収した。
【0114】
次に、λZAPII Predigested EcoRI/CIAP−Treated Vector Kit(Stratagene社製)を用いて、各々の約1.5kbのcDNA断片0.1μgおよび約1.0kbのcDNA断片0.1μgと、キットに添付されている制限酵素EcoRIで消化後、Calf Intestine Alkaline Phosphataseで末端を脱リン酸化したλZAPIIベクターの1μgを、添付の使用説明書に従い、連結した。連結後の各々の反応液のうち2.5μLをGigapack III Gold Packaging Extracts(Stratagene社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、λファージにパッケージングし、ライブラリーを作製した。マウス抗体2C9のH鎖cDNAライブラリー(約1.5kbのcDNA断片をベクターに連結したライブラリー)として1.25×106個、L鎖cDNAライブラリー(約1.0kbのcDNA断片を連結したベクターに連結したライブラリー)として3.5×105個のファージクローンを取得した。
【0115】
次に、各々のファージを常法(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)に従い、ナイロンメンブレンフィルターHybondN+(Amersham Pharmacia Biotech社製)上に固定した。
(1−3)マウス抗体2C9のH鎖およびL鎖のcDNAのクローニング
上記実施例3(1−2)で作製したH鎖cDNAライブラリー、L鎖cDNAライブリーを固定したナイロンメンブレンフィルターを、H鎖cDNAライブラリーはマウスCγ1をコードするcDNAの断片(J. Immunol., 146, 2010 1991)、L鎖cDNAライブラリーはマウスCκをコードするcDNAの断片(Cell, 22, 197, 1980)をプローブとしてハイブリダイゼーションを行ない、プローブに強く結合したファージクローンをH鎖cDNAライブラリー、L鎖cDNAライブラリーから各10クローンずつ取得した。プローブの標識、ハイブリダイゼーションおよびクローンの検出はECL Direct Nucleic Acid Labelling and Detection Systems(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、添付の使用説明書に従って行なった。
【0116】
次に、λZAPII Predigested EcoRI/CIAP−Treated Vector Kit(Stratagene社製)の使用説明書に従い、in vivo excision法により各ファージクローンをプラスミドに変換した。こうして得られた各プラスミドに含まれるcDNAの塩基配列をBigDye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE Biosystems社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、反応を行い、塩基配列自動分析装置ABI PRISM 377(PE Biosystems社製)を用いて決定した。その結果、cDNAの5’末端に開始コドンと推定されるATG配列が存在する完全長の機能的なH鎖のcDNAを含むプラスミドp2C9H1およびL鎖のcDNAを含むプラスミドp2C9L13を得た。
【0117】
(1−4)マウス抗体2C9のV領域のアミノ酸配列の解析
得られたマウス抗体2C9のH鎖およびL鎖のcDNAの塩基配列がコードするアミノ酸配列を既知の抗体の配列データ(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept.Health and Human Services, 1991)との比較および精製したマウス抗体2C9のVHおよびVLのN末端アミノ酸配列をプロテインシーケンサーPPSQ−10(Shimadzu社製)を用いて解析した結果との比較から、単離した各々のcDNAは分泌シグナル配列を含むマウス抗体2C9のH鎖およびL鎖をコードする完全長cDNAであり、H鎖については、cDNAの開始コドンから54塩基がコードする18アミノ酸が、L鎖についてはcDNAの開始コドンから66塩基がコードする22アミノ酸が分泌シグナル配列であることが明らかとなった。
【0118】
プラスミドp2C9H1に含まれていたH鎖cDNAのうち分泌シグナル配列およびVHをコードする領域の全塩基配列を配列番号3に、それから推定されたマウス抗体2C9のVHのアミノ酸配列を配列番号4に、プラスミドp2C9L13に含まれていたL鎖cDNAのうち分泌シグナル配列およびVLをコードする領域の全塩基配列を配列番号5に、それから推定されたマウス抗体2C9のVLのアミノ酸配列を配列番号6に示した。なお、配列番号4および6に記載したアミノ酸配列にそれぞれ対応する塩基配列は、配列番号3および5に記載したもの以外に無数に存在するが、それらはすべてマウス抗体2C9のVHおよびVLをそれぞれコードするDNAに包含される。
【0119】
次に、マウス抗体2C9のVHおよびVLのアミノ酸配列の新規性について検討した。配列解析システムとしてGCG Package(version 10.0、Genetics Computer Group社製)を用い、既存の蛋白質のアミノ酸配列データベース[SWISS−PROT (Release 39.0)、PIR−Protein (Release 65.0)]をBLAST法(Journal of Molecular Biology, 215, 403, 1990)により検索した。その結果、VHおよびVLともに完全に一致する配列は認められず、マウス抗体2C9のVHおよびVLは新規なアミノ酸配列を有することが確認された。
【0120】
また、マウス抗体2C9のVHおよびVLのCDRを、既知の抗体のアミノ酸配列と比較することにより同定した。VHのCDR1、2および3のアミノ酸配列を配列番号7、8および9に、VLのCDR1、2および3のアミノ酸配列を配列番号10、11および12にそれぞれ示した。
【0121】
(2)抗PSMAヒト型キメラ抗体の動物細胞を用いた安定発現
(2−1)ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築
ヒト抗体のIgG1クラスのCHおよびヒト抗体のκクラスのCLを有するヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93(WO97/10354)と実施例3(1−3)で得られたマウス抗体2C9のH鎖およびL鎖cDNAを含むプラスミドを用いて抗PSMAヒト型キメラ抗体(以下、抗PSMAキメラ抗体と表記する)発現ベクターを以下のようにして構築した。
【0122】
まず、マウス抗体2C9の分泌シグナル配列およびVH、分泌シグナル配列およびVLをコードするDNAを、分泌シグナル配列、VHおよびVLのアミノ酸配列を変化させずに発現ベクターpKANTEX93に挿入するため、PCRによって再構築した。プライマーとして、分泌シグナル配列およびVHをコードするDNA用に配列番号13と14の塩基配列を有する合成DNAを、分泌シグナル配列およびVLをコードするDNA用に配列番号15と16の塩基配列を有する合成DNAを設計した。それぞれの合成DNAは5’末端にpKANTEX93へクローニングするための制限酵素認識配列を含んでいる。実際には、実施例3(1−3)で得られたプラスミドp2C9H1の40ngを50μLのKOD DNA Polymerase添付PCR Buffer No.1(東洋紡績社製)、0.2mmol/L dNTPs、1mmol/L塩化マグネシウム、2.5単位のKOD DNA Polymerase(東洋紡績社製)、0.5μmol/Lの配列番号13と14に示した塩基配列を有する合成DNAを含む緩衝液に添加し、DNAサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9600(PERKIN ELMER社製)を用いて、94℃にて30秒間、58℃にて30秒間、74℃にて60秒間のサイクルを25サイクル、その後、72℃にて10分間反応させた。同様に、実施例3(1−3)で得られたプラスミドp2C9L13の45ngを50μLのKOD DNA Polymerase添付PCR Buffer No.1(東洋紡績社製)、0.2mmol/L dNTPs、1mmol/L塩化マグネシウム、2.5単位のKOD DNA Polymerase(東洋紡績社製)、0.5μmol/Lの配列番号15と16に示した塩基配列を有する合成DNAを含む緩衝液に添加し、上記と同様の方法でPCRを行なった。
【0123】
それぞれの反応液45μLをQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて添付の使用説明書に従い、精製後、分泌シグナル配列およびVHをコードするDNAについては、制限酵素NotI(宝酒造社製)およびApaI(宝酒造社製)で処理し、分泌シグナル配列およびVLをコードするDNAについては、制限酵素EcoRI(宝酒造社製)およびBsiWI(New England Biolabs社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約0.5kbの分泌シグナル配列およびVHをコードするDNAを含むNotI−ApaI断片、約0.45kbの分泌シグナル配列およびVLをコードするDNAを含むEcoRI−BsiWI断片をそれぞれ約0.2μg回収した。
【0124】
次に、プラスミドpBluescript SK(−)(Stratagene社製)の3μgを制限酵素NotI(宝酒造社製)およびApaI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約2.95kbのNotI−ApaI断片を約2.1μg回収した。また、特開平10−257893に記載のプラスミドpBSL3の3μgを制限酵素EcoRI(宝酒造社製)およびBsiWI(New England Biolabs社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約2.95kbのEcoRI−BsiWI断片を約2.1μg回収した。
【0125】
次に、上記PCRにより得られたマウス抗体2C9の分泌シグナル配列およびVHをコードするDNAを含むNotI−ApaI断片0.1μgとプラスミドpBluescript SK(−)のNotI−ApaI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。また、PCRにより得られたマウス抗体2C9の分泌シグナル配列およびVLをコードするDNAを含むEcoRI−BsiWI断片0.1μgとプラスミドpBSL3のEcoRI−BsiWI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。このようにして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌XL1−Blue株(東洋紡績社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従い、反応を行い、塩基配列自動分析装置ABI PRISM377(PE Biosystems社製)を用いて塩基配列を決定した。こうして目的の塩基配列を有する図5に示したプラスミドp2C9VHおよびp2C9VLを得た。
【0126】
次に、上記で得られたプラスミドp2C9VLの3μgを制限酵素EcoRI(宝酒造社製)およびBsiWI(New England Biolabs社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約0.45kbのEcoRI−BsiWI断片を約0.3μg回収した。
次に、ヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93の3μgを制限酵素EcoRI(宝酒造社製)およびBsiWI(New England Biolabs社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約12.75kbのEcoRI−BsiWI断片を約2.0μg回収した。
【0127】
次に、上記で得られたプラスミドp2C9VLのマウス抗体2C9の分泌シグナル配列およびVLをコードするDNAを含むEcoRI−BsiWI断片0.1μgとプラスミドpKANTEX93のEcoRI−BsiWI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。このようにして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌XL1−Blue株(東洋紡績社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従い、反応を行い、塩基配列自動分析装置ABI PRISM 377(PE Biosystems社製)を用いて塩基配列を決定した。その結果、図6に示したプラスミドpKANTEX2C9Lを得た。
【0128】
次に、上記で得られたプラスミドp2C9VHの3μgを制限酵素NotI(宝酒造社製)およびApaI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約0.5kbのNotI−ApaI断片を約0.3μg回収した。
次に、上記で得られたプラスミドpKANTEX2C9Lの3μgを制限酵素NotI(宝酒造社製)およびApaI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約13.20kbのNotI−ApaI断片を約2.0μg回収した。
【0129】
次に、上記で得られたプラスミドp2C9VHのマウス抗体2C9の分泌シグナル配列およびVHをコードするDNAを含むNotI−ApaI断片0.1μgとプラスミドpKANTEX2C9LのNotI−ApaI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。このようにして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌XL1−Blue株(東洋紡績社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従い、反応を行い、塩基配列自動分析装置ABI PRISM 377(PE Biosystems社製)を用いて塩基配列を決定した。その結果、図6に示したプラスミドpKANTEX2C9を得た。
【0130】
(2−2)抗PSMAキメラ抗体の動物細胞を用いた安定発現
実施例3(2−1)で得られた抗PSMAキメラ抗体発現ベクターpKANTEX2C9を用いて抗PSMAキメラ抗体の動物細胞での発現を以下のようにして行った。
【0131】
プラスミドpKANTEX2C9を制限酵素AatII(東洋紡績社製)で処理して直鎖状化した後、10μgを4×106細胞のラットハイブリドーマ細胞株YB2/0細胞(ATCC CRL1581)へエレクトロポレーション法(Cytotechnology, 3, 133, 1990)により導入後、40mLのH−SFM(GF5)[ダイゴGF21(日本製薬社製)を5%含むH−SFM(Gibco BRL社製)]に懸濁し、96ウェル培養プレート(住友ベークライト社製)に200μL/ウェルずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃、24時間培養した後、G418を1.0mg/mLになるように添加して1〜2週間培養した。G418耐性を示す形質転換株のコロニーが出現し、コンフルエントになったウェルより培養上清を回収し、上清中の抗PSMAキメラ抗体の濃度を実施例3(2−3)に示す定量ELISAにより測定した。
【0132】
培養上清中に抗PSMAキメラ抗体の発現が認められたウェルの形質転換株については、dhfr遺伝子増幅系を利用して抗体発現量を増加させる目的で、G418を1.0mg/mL、dhfrの阻害剤であるメソトレキセート(以下、MTXと表記する;SIGMA社製)を50nmol/L含むH−SFM(GF5)に1〜2×105細胞/mLになるように懸濁し、24ウェル培養プレート(Greiner社製)に1mLずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃で1〜2週間培養して、50nmol/L MTX耐性を示す形質転換株を誘導した。
【0133】
形質転換株がウェルにコンフルエントになった時点で培養上清中の抗PSMAキメラ抗体の濃度を実施例3(2−3)に示す定量ELISAにより測定した。培養上清中に抗PSMAキメラ抗体の発現が認められたウェルの形質転換株については、上記と同様の方法により、MTX濃度を100nmol/L、200nmol/Lと順次上昇させ、最終的にG418を1.0mg/mL、MTXを200nmol/Lの濃度で含むH−SFM(GF5)で増殖可能かつ、抗PSMAキメラ抗体を高発現する形質転換株を得た。得られた形質転換株については、2回の限界希釈法によるクローン化を行い、抗PSMAキメラ抗体の発現の最も高い形質転換細胞クローンKM2777を得た。なお、KM2777は平成14年3月19日付で、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番1号 中央第6)にFERM−BP7969として寄託されている。
【0134】
(2−3)抗PSMAキメラ抗体の定量(定量ELISA)
抗ヒトIgκ鎖抗体(ZYMED社製)をPBSにて200倍希釈し、96ウェルのELISAプレート(Greiner社製)の各ウェルに50μLずつ分注し、4℃で12時間反応させた。反応後、溶液を捨て、BSA−PBSを100μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させて残存する活性基をブロックした。BSA−PBSを捨て、形質転換株の培養上清、精製したキメラ抗体の各種希釈溶液を50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、各ウェルを0.05%Tween20を含むPBS(以下、Tween−PBSと表記する)で洗浄後、BSA−PBSで3000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgG(H+L)抗体溶液(American Qualex社製)を二次抗体溶液として、50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液〔2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウムの0.55gを1Lの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)に溶解し、使用直前に30%過酸化水素溶液を1μL/mLの割合で添加した溶液〕を50μL/ウェルで加えて発色させ、415nmの吸光度(以下、OD415と表記する)を測定した。
【0135】
(2−4)抗PSMAキメラ抗体の培養上清からの精製
実施例3(2−2)で得られた抗PSMAキメラ抗体を発現する形質転換細胞クローンKM2777をH−SFM(GF5)に1〜2×105細胞/mLとなるように懸濁し、175cm2フラスコ(Greiner社製)に100mLずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃で5〜7日間培養し、コンフルエントになった時点で培養上清を回収した。培養上清約3LよりProsep−A(Bioprocessing社製)カラムを用いて、添付の説明書に従い、抗PSMAキメラ抗体KM2777を精製し、約25mgの精製蛋白質を取得した。得られた抗PSMAキメラ抗体KM2777の約4μgを、公知の方法(Nature, 227, 680, 1970)に従って電気泳動し、分子量および精製度を調べた。その結果を図7に示した。
【0136】
図7に示したように、精製した抗PSMAキメラ抗体KM2777は、非還元条件下では分子量が約150キロダルトン(以下、Kdと表記する)のバンドが、還元条件下では約50Kdと約25Kdのバンドが認められた。これらの分子量は、IgGクラスの抗体は、非還元条件下では分子量は約150Kdであり、還元条件下では分子内のS−S結合が切断され、約50Kdの分子量を持つH鎖と約25Kdの分子量を持つL鎖に分解されるという報告(Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Chapter 14, 1988; Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press Limited, 1996)と一致し、抗PSMAキメラ抗体KM2777が正しい構造の抗体分子として発現されていることが確認された。また、精製した抗PSMAキメラ抗体KM2777のH鎖およびL鎖のN末端アミノ酸配列をプロテインシーケンサーPPSQ−10(島津製作所社製)を用いて解析した結果、マウス抗体2C9のH鎖およびL鎖のN末端アミノ酸配列と一致することを確認した。
【0137】
実施例4 抗PSMAキメラ抗体KM2777の活性評価
(1)ヒト前立腺癌細胞株の膜成分に対する結合活性
(1−1)ヒト前立腺癌細胞株の膜成分の単離
PSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)の3×108細胞を回収し、7mLの溶解緩衝液(20mmol/L HEPES、1mmol/L EDTA、0.5mmol/L PMSF、250mmol/LSucrose、pH7.4)を加え、ホモゲナイザーを用いて細胞を破砕し、氷上で5分間放置した。10,000gで30分間遠心分離し、上清を回収し、さらに、100,000gで1時間遠心分離した。沈殿画分を回収し、0.7mLの溶解緩衝液を添加して良く懸濁し、膜成分とした。単離した膜成分については、その一部を1% Triton X−100を加えて可溶化し、BCA Protein Assay Kit(PIERCE社製)を用いて蛋白質濃度の定量を行った結果、4.1mg/mLであった。
【0138】
(1−2)ヒト前立腺癌細胞株の膜成分に対する結合活性の測定
上記実施例4(1−1)で単離した膜成分をPBSを用いて蛋白質濃度として10μg/mLとなるように希釈し、96ウェルのELISAプレート(Greiner社製)の各ウェルに50μLずつ分注し、4℃で12時間反応させた。反応後、溶液を捨て、BSA−PBSを100μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させて残存する活性基をブロックした。BSA−PBSを捨て、精製抗体〔抗PSMAマウス抗体2C9および抗PSMAキメラ抗体KM2777、陰性対照として抗Flt−1マウス抗体KM1750(WO99/60025)および抗Flt−1ヒト型キメラ抗体KM2550(WO99/60025)〕の各種希釈溶液を50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、マウス抗体の場合には、BSA−PBSで1000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG1抗体溶液(Zymed社製)を、キメラ抗体の場合には、3000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgG(H+L)抗体溶液(American Qualex社製)を二次抗体溶液として、50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液を50μL/ウェルで加えて発色させ、OD415を測定した。図8には、抗PSMAマウス抗体2C9、抗PSMAキメラ抗体KM2777、抗Flt−1マウス抗体KM1750および抗Flt−1ヒト型キメラ抗体KM2550の膜成分に対する結合活性を測定した結果を示した。その結果、抗PSMAマウス抗体2C9および抗PSMAキメラ抗体KM2777は、PSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株LNCaPの膜成分に特異的に反応し、その活性は、検出のための二次抗体が異なるため、直接比較することはできないが、ほぼ同等であることが示唆された。
【0139】
(2)ヒト前立腺癌細胞株との反応性
(2−1)抗体のビオチン標識
抗PSMAマウス抗体2C9および抗PSMAキメラ抗体KM2777、陰性対照として抗Flt−1抗体KM1750(WO99/60025)および抗Flt−1ヒト型キメラ抗体KM2550(WO99/60025)のビオチン標識は、以下のようにして行った。
【0140】
1mg/mLの抗体溶液の1mLに0.25mLの0.5M炭酸緩衝液(pH9.2)および0.25mLの1mg/mLのNHS−LC−Biotin溶液(PIERCE社製)を加え、緩やかに攪拌しながら、室温にて3時間反応させた。反応後、150mmol/L NaClを含む10mmol/Lクエン酸緩衝液(pH6.0)を用いて透析を行った。
【0141】
(2−2)ヒト前立腺癌細胞株との反応性の測定
ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)およびPC−3(ATCC CRL−1435)の2×105細胞を、上記実施例4(2−1)で作製した各種ビオチン標識抗体をBSA−PBSにて10μg/mLに希釈した溶液の50μLで懸濁し、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、FITC標識ストレプトアビジン(Gibco BRL社製)をBSA−PBSで10倍希釈した溶液を50μL添加して懸濁後、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、1mLのPBSに懸濁し、フローサイトメーターEPICS Elite(Coulter社製)を用いて解析を行った。その結果を図9に示した。図9に示したように、ビオチン標識マウス抗体2C9およびキメラ抗体KM2777は、PSMA陽性LNCaP細胞に特異的に反応し、一方、PSMA陰性PC−3細胞には反応せず、PSMA特異的な反応が確認された。また、その反応性は、マウス抗体とキメラ抗体でほとんど同等であったことから、キメラ抗体KM2777はマウス抗体2C9の結合活性および結合特異性を保持していることが明らかとなった。
【0142】
さらに、実施例2(2)で作製したPSMA発現PC−3細胞9−7−11の2×105細胞を、抗Flt−1キメラ抗体KM2550あるいは抗PSMAキメラ抗体KM2777をBSA−PBSにて10μg/mLに希釈した溶液の100μLで懸濁し、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、FITC標識ヒトIgG(H+L)(和光純薬社製)をBSA−PBSで20倍希釈した溶液を50μL添加して懸濁後、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、1mLのPBSに懸濁し、フローサイトメーターEPICS Elite(Coulter社製)を用いて解析を行った。その結果を図10に示した。図10に示したように、抗PSMAキメラ抗体KM2777は、PSMA発現PC−3細胞9−7−11と特異的な反応を示した。
【0143】
(3)ヒト前立腺癌細胞株に対するin vitro細胞障害活性(ADCC活性)
ヒト前立腺癌細胞株に対する各種抗体のin vitro細胞障害活性としてのADCC活性は、以下のようにして測定した。
【0144】
(3−1)標的細胞溶液の調製
ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)、PC−3(ATCC CRL−1435)あるいは実施例2(2)で作製したPSMA発現PC−3細胞9−7−11の1×106細胞を調製し、放射性物質であるNa2 51CrO4を3.7MBq加えて、37℃で1時間反応させ、細胞を放射標識した。反応後、RPMI(10)培地を用いて懸濁および遠心分離操作を3回行い、洗浄し、RPMI(10)培地に再懸濁して4℃で30分間氷上に放置して放射性物質を自然解離させた。遠心分離後、RPMI(10)培地を5mL加え、2×105細胞/mLに調製し、標的細胞溶液とした。
【0145】
(3−2)ヒトエフェクター細胞溶液の調製
健常人静脈血50mLを採取し、ヘパリンナトリウム(清水製薬社製)0.5mLを加え穏やかに混ぜた。これをLymphoprep(AXIS SHIELD社製)を用いて使用説明書に従い、遠心分離(800g、20分間)して単核球層を分離した。RPMI(10)培地で3回遠心分離して洗浄後、RPMI(10)培地を用いて2×106細胞/mLの濃度で再懸濁し、エフェクター細胞溶液とした。
【0146】
(3−3)ADCC活性の測定
96ウェルU字底プレート(Falcon社製)の各ウェルに上記実施例4(3−1)で調製した標的細胞溶液の50μL(1×104細胞/ウェル)を分注した。次いで上記実施例4(3−2)で調製したヒトエフェクター細胞溶液を100μL(2×105細胞/ウェル、エフェクター細胞と標的細胞の比は20:1となる)添加した。さらに、各種抗体の培地による希釈溶液を加えて全量を200μLとし、37℃で4時間反応させた。反応後、プレートを遠心分離し、上清中の51Cr量をγ−カウンターにて測定した。自然解離51Cr量は、ヒトエフェクター細胞溶液、抗体溶液の代わりに培地のみを用いて上記と同様の操作を行い、上清中の51Cr量を測定することにより求めた。全解離51Cr量は、抗体溶液の代わりに培地のみを、ヒトエフェクター細胞溶液の代わりに1mol/L塩酸を添加し、上記と同様の操作を行い、上清中の51Cr量を測定することにより求めた。ADCC活性は次式により求めた。
ADCC活性(%)=[(検体上清中の51Cr量−自然解離51Cr量)/(全解離51Cr量−自然解離51Cr量)]×100
【0147】
図11には、各種抗体のADCC活性測定結果を示した。その結果、抗PSMAキメラ抗体KM2777は、PSMA陽性ヒト前立腺細胞株に特異的に高いADCC活性を示すこと、マウス抗体2C9ではほとんどADCC活性が認められなかったことから、キメラ抗体化によりヒトエフェクター細胞を介したADCC活性の増強が達成されたことが確認された。
【0148】
実施例5 hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の作製
抗PSMAキメラ抗体とサイトカインとの融合抗体の具体例として、抗PSMAキメラ抗体KM2777とhIL−2の融合抗体であるKM2777−hIL−2を以下のようにして作製した。
【0149】
(1)hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の動物細胞を用いた安定発現
(1−1)hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体発現ベクターの構築
上記実施例3(2−1)で得られた抗PSMAキメラ抗体発現ベクターpKANTEX2C9の3μgを制限酵素ApaI(宝酒造社製)およびNruI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約12.7kbのApaI−NruI断片を約2.0μg回収した。次にプラスミドpKANTEX871−hIL2(WO01/23432)の3μgを制限酵素ApaI(宝酒造社製)およびNruI(宝酒造社製)で処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、約1.45kbのApaI−NruI断片を約0.3μg回収した。
【0150】
次に、上記で得られたプラスミドpKANTEX93のApaI−NruI断片0.1μgとプラスミドpKANTEX871−hIL2のApaI−NruI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2のsolution I(宝酒造社製)を用いて連結した。このようにして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌XL1−Blue株(東洋紡績社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製した結果、図12に示したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体発現ベクターpKANTEX2C9−hIL2を得た。
【0151】
(1−2)hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の動物細胞を用いた安定発現
実施例5(1−1)で得られたhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体発現ベクターpKANTEX2C9−hIL2を用いてhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の動物細胞での発現を以下のようにして行った。
【0152】
プラスミドpKANTEX2C9−hIL2を制限酵素AatII(東洋紡績社製)で処理して直鎖状化した後、10μgを4×106細胞のラットハイブリドーマ細胞株YB2/0細胞(ATCCCRL1581)へエレクトロポレーション法(Cytotechnology, 3, 133, 1990)により導入後、40mLのH−SFM(GF5)に懸濁し、96ウェル培養プレート(住友ベークライト社製)に200μL/ウェルずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃、24時間培養した後、G418を1.0mg/mLになるように添加して1〜2週間培養した。G418耐性を示す形質転換株のコロニーが出現し、コンフルエントになったウェルより培養上清を回収し、上清中のhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の濃度を実施例3(2−3)に示す定量ELISAにより測定した。
【0153】
培養上清中にhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の発現が認められたウェルの形質転換株については、dhfr遺伝子増幅系を利用して抗体発現量を増加させる目的で、G418を1.0mg/mL、dhfrの阻害剤であるMTX(SIGMA社製)を50nmol/L含むH−SFM(GF5)に1〜2×105細胞/mLになるように懸濁し、24ウェル培養プレート(Greiner社製)に1mLずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃で1〜2週間培養して、50nmol/L MTX耐性を示す形質転換株を誘導した。形質転換株がウェルにコンフルエントになった時点で培養上清中のhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の濃度を実施例3(2−3)に示す定量ELISAにより測定した。培養上清中にhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の発現が認められたウェルの形質転換株については、上記と同様の方法により、MTX濃度を100nmol/L、200nmol/Lと順次上昇させ、最終的にG418を1.0mg/mL、MTXを200nmol/Lの濃度で含むH−SFM(GF5)で増殖可能かつ、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体を高発現する形質転換株を得た。得られた形質転換株については、2回の限界希釈法によるクローン化を行い、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の発現の最も高い形質転換細胞クローンKM2812を得た。なお、KM2812は平成14年3月19日付で、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番1号 中央第6)にFERM−BP7970として寄託されている。
【0154】
(1−3)hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体の培養上清からの精製
実施例5(1−2)で得られたhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体を発現する形質転換細胞クローンKM2812をH−SFM(GF5)に1〜2×105細胞/mLとなるように懸濁し、1000mLのSiCulture CELL BAG(AVECOR社製)に800mL播種した。5%CO2インキュベーター内で37℃で6日間培養し、コンフルエントになった時点で培養上清を回収した。培養上清約800mLよりProsep−A(Bioprocessing社製)カラムを用いて、添付の説明書に従い、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812を精製し、約20mgの精製蛋白質を取得した。
【0155】
得られたhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812および抗PSMAキメラ抗体KM2777の約4μgを、公知の方法(Nature, 227, 680, 1970)に従って電気泳動し、分子量および精製度を調べた。その結果を図13に示した。図13に示したように、精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812は、非還元条件下では分子量は約180Kdであり、還元条件下では約65Kdと約25Kdの2本バンドが認められた。これらの分子量は、抗体H鎖とhIL−2およびL鎖のcDNAの塩基配列から推定される分子量(64Kdと24Kd、分子全体:176Kd)とほぼ一致し、抗体分子へのhIL−2の融合が確認された。
【0156】
実施例6 hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812の活性評価
(1)ヒト前立腺癌細胞株の膜成分に対する結合活性
上記実施例4(1−1)で単離した膜成分をPBSを用いて蛋白質濃度として10μg/mLとなるように希釈し、96ウェルのELISAプレート(Greiner社製)の各ウェルに50μLずつ分注し、4℃で12時間反応させた。反応後、溶液を捨て、BSA−PBSを100μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させて残存する活性基をブロックした。BSA−PBSを捨て、精製抗体(抗PSMAキメラ抗体KM2777およびhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812)の各種希釈溶液を50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、BSA−PBSで3000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgG(H+L)抗体溶液(American Qualex社製)を二次抗体溶液として、50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液を50μL/ウェルで加えて発色させ、OD415を測定した。図14には、抗PSMAキメラ抗体KM2777およびhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812の膜成分に対する結合活性を測定した結果を示した。その結果、抗PSMAキメラ抗体KM2777およびhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812は、PSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株LNCaPの膜成分に特異的に反応し、その活性はほぼ同等であることが確認された。
【0157】
(2)ヒト前立腺癌細胞株との反応性
ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)およびPC−3(ATCC CRL−1435)の2×105細胞を、抗PSMAキメラ抗体KM2777およびhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812をBSA−PBSにて10μg/mLに希釈した溶液の50μLで懸濁し、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、FITC標識ヒトIgG(H+L)(和光純薬社製)をBSA−PBSで20倍希釈した溶液を50μL添加して懸濁後、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、1mLのPBSに懸濁し、フローサイトメーターEPICS Elite(Coulter社製)を用いて解析を行った。その結果を図15に示した。図15に示したように、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812は、抗PSMAキメラ抗体KM2777と同様に、PSMA陽性LNCaP細胞と特異的な反応を示し、一方、PSMA陰性PC−3細胞とは反応しなかった。
【0158】
(3)hIL−2活性の評価
hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812のhIL−2としての活性を以下に示す方法に従い、測定した。hIL−2に対して濃度依存的な増殖を示すマウスT細胞株CTLL−2(ATCC TIB214)を2×105細胞/mLの濃度でRPMI(10)培地に懸濁し、96ウェルマイクロタイタープレート(住友ベークライト社製)に50μLずつ分注した。各ウェルにhIL−2(PEPRO TECH社製)あるいはhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812をRPMI(10)培地で各種濃度に希釈した溶液の50μLを加え、5%CO2インキュベーター内で37℃で27時間培養した。培養後、細胞増殖試薬WST−1(RocheDiagnostics社製)を10μLずつ分注し、5%CO2インキュベーター内で37℃で3時間培養後にOD450を測定し、生細胞数を測定した。その結果を図16に示した。図16に示したように、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812は、hIL−2と同程度のCTLL−2細胞の増殖支持活性を示した。以上の結果は、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812のhIL−2としての活性は、抗体との融合後も保持されていることを示している。
【0159】
(4)ヒト前立腺癌細胞株に対するin vitro細胞障害活性
hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812のhIL−2によるヒトリンパ球の活性化とそれに伴う細胞障害活性の増強をin vitroで評価するため、ヒト前立腺癌細胞株に対する細胞障害活性を以下のようにして測定した。
【0160】
(4−1)標的細胞溶液の調製
実施例4(3−1)に記載の方法に従い、ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)を放射性物質であるNa2 51CrO4で放射標識し、2×105細胞/mLに調製し、標的細胞溶液とした。
【0161】
(4−2)ヒトエフェクター細胞溶液の調製
実施例4(3−2)に記載の方法に従い、健常人静脈血50mLより単核球画分を分離し、1×106細胞/mLの濃度で再懸濁し、エフェクター細胞溶液とした。
【0162】
(4−3)ヒトエフェクター細胞の活性化
96ウェルU字底プレート(Falcon社製)の各ウェルに上記実施例6(4−2)で調製したヒトエフェクター細胞溶液を50μL(5×104細胞/ウェル)添加した。さらに、各種抗体の培地による希釈溶液を加えて全量を100μLとし、5%CO2インキュベーター内で37℃、72時間静置した。
【0163】
(4−4)細胞障害活性の測定
72時間後のプレートの各ウェルに上記実施例6(4−1)で調製した標的細胞溶液の50μL(1×104細胞/ウェル)を添加した(エフェクター細胞と標的細胞の比は5:1となる)。さらに、各種抗体の培地による希釈溶液を抗体濃度を保つように50μLずつ添加して37℃で4時間反応させた。反応後、プレートを遠心分離し、上清中の51Cr量をγ−カウンターにて測定した。自然解離51Cr量は、ヒトエフェクター細胞溶液、抗体溶液の代わりに培地のみを用いて上記と同様の操作を行い、上清中の51Cr量を測定することにより求めた。全解離51Cr量は、抗体溶液の代わりに培地のみを、ヒトエフェクター細胞溶液の代わりに1mol/L塩酸を添加し、上記と同様の操作を行い、上清中の51Cr量を測定することにより求めた。細胞障害活性は次式により求めた。
細胞障害活性(%)=[(検体上清中の51Cr量−自然解離51Cr量)/(全解離51Cr量−自然解離51Cr量)]×100
【0164】
図17には、各種抗体の細胞障害活性の測定結果を示した。その結果、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812は、抗PSMAキメラ抗体KM2777に比べ、高い細胞障害活性を示すことが明らかとなった。この結果は、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812は、hIL−2によりヒトリンパ球を活性化でき、それにより細胞障害活性が増強されていることを示している。
【0165】
実施例7 アドリアマイシン結合抗PSMAキメラ抗体の調製
参考例1で作製したアドリアマイシン(以下、ADMと表記する)結合リンカー20mg(6.7μmol)を塩化メチレン1mLに溶解し、N−ヒドロキシスクシンイミド1.9mg(16μmol)およびN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド3.4mg(16μmol)を含有する塩化メチレン溶液0.2mLを添加し、氷冷下30分間、室温1.5時間攪拌した。反応液をろ過後、得られた濾液を濃縮乾燥、ジエチルエーテルを用いたトリチレーションを行い、活性化ADM結合リンカーを13.7mg(収率66%)取得した。得られた活性化ADM結合リンカーのNMRスペクトルは以下の通りであった。
1H−NMR(CDCl3, 300MHz)δ ppm : 0.80−0.92 (m, 4H), 1.23−1.35 (m, 2H), 1.29(d, J =6.9 Hz, 3H), 1.93−2.20 (m, 3H), 2.55 (dd, J = 5.9, 5.9 Hz, 2H),2.82−2.96 (m, 4H), 2.84 (br s, 2H), 2.91 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 3.00−3.10(m, 1H), 3.39−3.90 (m, 4nH), 3.86 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 4.01−4.13 (m, 3H), 4.10 (s, 3H), 4.45 (m, 1H), 4.69−4.80 (m, 2H), 5.31 (br s, 1H), 5.51(m, 1H), 7.41 (d, J =8.5 Hz, 1H), 7.79(t, J = 8.1 Hz, 1H), 8.06 (d, J =7.7 Hz, 1H), 13.29 (s, 1H), 13.97 (s, 1H)
【0166】
次に、PBSに溶解した抗PSMAキメラ抗体KM2777(1.0mg/mL、1.6mL)に上記で得られた活性化ADM結合リンカーを抗体1分子当たり7.5当量添加し、4℃で20時間攪拌した。反応液を20mmol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)で5倍希釈した。SP Sepharose Fast Flow(Amersham−Pharmacia Biotech社製)2mLのカラムを用い、0、0.5および1.0mol/L塩化ナトリウムのステップワイズ溶出で精製した。ADM結合リンカーの結合したKM2777を含む画分(0.8mL、濃度346μg/mL)を回収し、280μg(収率17%)のアドリアマイシン結合抗PSMAキメラ抗体(以下、ADM−KM2777と表記する)を取得した。得られたADM−KM2777の抗体1分子当たりに結合したADM量をGreenfieldらの方法(Cancer Res., 50, 6600, 1990)に準じて測定した。その結果、抗体1分子あたりのADM量は平均2.5分子であった。
【0167】
実施例8 ADM−KM2777の活性評価
(1)ヒト前立腺癌細胞株との反応性
ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)およびPC−3(ATCC CRL−1435)の2×105細胞を、ADM−KM2777および抗PSMAキメラ抗体KM2777をそれぞれBSA−PBSにて10μg/mLに希釈した溶液の50μLで懸濁し、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、FITC標識ヒトIgG(H+L)(和光純薬社製)をBSA−PBSで20倍希釈した溶液を50μL添加して懸濁後、4℃で30分間反応させた。反応後、PBSを用いて3回遠心分離して洗浄した後、1mLのPBSに懸濁し、フローサイトメーターEPICS Elite(Coulter社製)を用いて解析を行った。その結果を図18に示した。図18に示したように、ADM−KM2777は、抗PSMAキメラ抗体KM2777と同様に、PSMA陽性LNCaP細胞と特異的な反応を示し、一方、PSMA陰性PC−3細胞とは反応しなかった。また、反応性の強さも同等であったことから、ADM−KM2777は、ADMの結合後もKM2777と同等の結合活性を保持していることが明らかとなった。
【0168】
(2)細胞増殖阻害活性の評価
ADM−KM2777のヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)およびPC−3(ATCC CRL−1435)に対する細胞増殖阻害活性は以下のようにして測定した。各細胞をRPMI(10)培地で1×105細胞/mLに調製し、96ウェル培養用プレートに50μL/ウェルで分注した。さらに、RPMI(10)培地で各種濃度に希釈した抗体溶液を50μL/ウェルで添加し、37℃、5%CO2インキュベーター内で96時間培養した。培養後、細胞増殖試薬WST−1(Roche Diagnostics社製)を10μL/ウェルで分注し、さらに、37℃、5%CO2インキュベーター内で4時間培養した後に、OD450をプレートリーダーEmax(Molecular Devices社製)を用いて測定した。
【0169】
図19Aには、LNCaP細胞を用いた結果を、図19Bには、PC−3細胞を用いた結果を示した。その結果、ADM−KM2777は、細胞増殖阻害活性を示し、その活性は、PSMA陽性癌細胞であるLNCaPの方がPSMA陰性細胞より強いものであった。以上の結果は、ADM−KM2777がPSMA陽性癌細胞に対し、抗原依存的な細胞増殖阻害活性の増強作用を有することを示している。
【0170】
実施例9 hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812のin vivo抗腫瘍効果
(1)PSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株移植SCIDマウス(進行期モデル)での評価
5週齢の雄性SCIDマウス(Fox CHASE C.B−17/Icr−scid Jcl、日本クレア社製)40匹の腹腔内に抗アシアロGM1抗血清(和光純薬社製)を50μL/匹で投与した。2日後、PSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(ATCC CRL−1740)の1×107細胞を、RPMI(10)培地とマトリジェル(BD MATRIGELTM MATRIX、BD Biosciences社製)の等量混合液200μLに懸濁し、マウスの右側腹側部皮下に移植した。移植19日後、腫瘍体積が177〜178mm3のマウスを選択し、各群5匹で2群に分類した。腫瘍体積は腫瘍の短径と長径をmm単位でノギスを用いて測定し、下式にて算出した。
腫瘍体積(mm3)=(短径)2×長径×0.5
2群に対し、それぞれコントロールの生理食塩水またはKM2812を尾静脈より投与した。KM2812の投与量は84μg(467nmol)/日とした。
【0171】
KM2812は生理食塩水で200μLに希釈し、移植20日後より5日間連続で投与した。抗腫瘍効果の判定は各群の腫瘍体積、および腫瘍移植後56日目の評価終了時における腫瘍の完全退縮が見られたマウスの割合で判定した。図20には、経日的に腫瘍体積を測定した結果を示した。図20に示したように、KM2812にはコントロール群と比較して腫瘍増殖抑制効果が認められた。また腫瘍移植後56日目における腫瘍の完全退縮が見られたマウスの割合を第2表に示す。
【0172】
【表2】
【0173】
第2表に示したように、KM2812はコントロール群と比較して腫瘍の完全退縮に至ったマウスの割合が高かった。以上より、KM2812は本マウス坦癌モデルにおいて、抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。
【0174】
(2)PSMA発現ヒト前立腺癌細胞株9−7−11移植ヌードマウス(初期モデル)での評価
6週齢の雄性ヌードマウス(日本クレア社製)の22匹の右側腹側部皮下に、実施例2(2)で得られたPSMA発現PC−3細胞9−7−11の5×106細胞をRPMI(10)培地の200μLに懸濁し、移植した。第3表に示す2群を設定し、移植当日よりコントロールのヒトIgG(ウェルファイド社製)またはKM2812を生理食塩水で200μLに希釈し、1日1回、5日間連続で尾静脈より投与した。
【0175】
抗腫瘍効果は各群の腫瘍体積、および移植25日目と評価終了時の49日目における腫瘍の完全退縮(20mm3未満の痕跡を含む)が見られたマウスの割合で判定した。腫瘍体積は腫瘍の短径と長径をmm単位でノギスを用いて測定し、下式にて算出した。
腫瘍体積(mm3)=(短径)2×長径×0.5
図21には、経日的に腫瘍体積を測定した結果を示した。図21に示したように、KM2812はコントロール群と比較して腫瘍増殖抑制効果が認められた。また腫瘍移植後25、49日目における腫瘍の完全退縮が見られたマウスの割合を第3表に示した。
【0176】
【表3】
【0177】
第3表に示したように、KM2812はコントロール群と比較して腫瘍の完全退縮に至ったマウスの割合が高かった。以上より、KM2812は本マウス坦癌モデルにおいて、抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。
【0178】
参考例1 アドリアマイシン結合リンカーの調製
WO96/35451に記載の方法に準じてPEGにジペプチドが結合したリンカーを調製し、アドリアマイシンと縮合させた。この際、PEG(平均分子量約:2,000、日本油脂株式会社製)は、特開2000−204153に記載の方法に準じて末端の水酸基をカルボキシル基に変換して使用した。また、ジペプチドにはグリシル−プロリン(Gly−Pro)を用いた。作製したADM結合リンカーの構造を図22に示す。
【0179】
【発明の効果】
本発明により、ヒト前立腺癌に特異的に反応する抗体、その抗体断片、および融合抗体が提供される。本発明の抗体は、酵素免疫抗体法および免疫組織染色におけるPSMAの定量、検出に有効である。本発明の抗体は、前立腺癌などのPSMA陽性の癌および血中PSMA濃度の上昇を伴う疾患の診断および治療に有用である。
【0180】
「配列表フリーテキスト」
配列番号1:あらゆるアミノ酸
配列番号2:あらゆるアミノ酸
配列番号13:合成DNA
配列番号14:合成DNA
配列番号15:合成DNA
配列番号16:合成DNA
【0181】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、抗PSMAマウス抗体2C9および抗VEGFマウス抗体KM1548の、プラスミドpAMoPSMAを導入したNamalwa KJM−1細胞との反応性を、フローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。横軸が蛍光強度、縦軸が細胞数を示す。
【図2】図2はマウス抗体2C9カラムにより精製された蛋白質の非還元条件下でのSDS−PAGE(4〜15%グラジエントゲルを使用)の電気泳動パターンを示した図である。レーンM1が高分子量マーカー、M2が低分子量マーカー、レーン1がFraction No.2、レーン2がFraction No.3、レーン3がFraction No.4、レーン4がFraction No.5の各20μLの泳動パターンをそれぞれ示す。矢印が目的抗原と考えられる蛋白質を示す。
【図3】図3はプラスミドpKANTEXPSMA12の造成工程を示した図である。
【図4】図4は、抗PSMAマウス抗体2C9および抗Flt−1マウス抗体KM1750の、PSMA発現PC−3細胞株960−7との反応性をフローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。実線が2C9、点線がKM1750の結果を示す。横軸が蛍光強度、縦軸が細胞数を示す。
【図5】図5はプラスミドp2C9VHおよびp2C9VLの造成工程を示した図である。
【図6】図6はプラスミドpKANTEX2C9の造成工程を示した図である。
【図7】図7は精製した抗PSMAキメラ抗体KM2777のSDS−PAGE(4〜15%グラジエントゲルを使用)の電気泳動パターンを示した図である。左側が非還元条件、右側が還元条件でそれぞれ電気泳動を行った図である。レーンM1が高分子量マーカー、レーンM2が低分子量マーカー、レーン1がKM2777の泳動パターンをそれぞれ示す。
【図8】図8は精製した抗PSMAマウス抗体2C9および抗PSMAキメラ抗体KM2777のヒト前立腺癌細胞株LNCaPの膜成分に対する結合活性を測定した図である。横軸が抗体濃度(μg/mL)、縦軸が結合活性(OD415)を示す。○がマウス抗体2C9、●がキメラ抗体KM2777、□がコントロールマウス抗体KM1750、黒い四角がコントロールキメラ抗体KM2550の反応性をそれぞれ示す。
【図9】図9はビオチン標識した抗PSMAマウス抗体2C9、抗PSMAキメラ抗体KM2777、抗Flt−1マウス抗体KM1750および抗Flt−1キメラ抗体KM2550のヒト前立腺癌細胞株との反応性をフローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。横軸が蛍光強度、縦軸が細胞数を示す。Aがヒト前立腺癌細胞株LNCaP、Bがヒト前立腺癌細胞株PC−3の結果を示す。
【図10】図10は抗PSMAキメラ抗体KM2777および抗Flt−1キメラ抗体KM2550のPSMA発現PC−3細胞9−7−11との反応性をフローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。実線がKM2777、点線がKM2550の結果を示す。横軸が蛍光強度、縦軸が細胞数を示す。
【図11】図11は精製した抗PSMAマウス抗体2C9および抗PSMAキメラ抗体KM2777のヒト前立腺癌細胞株に対するADCC活性を測定した図である。横軸が抗体濃度(μg/mL)、縦軸が細胞障害活性(%)を示す。斜線を引いたバーがマウス抗体2C9、黒いバーがキメラ抗体KM2777、白いバーがコントロールキメラ抗体KM2550の活性をそれぞれ示す。Aがヒト前立腺癌細胞株LNCaP、Bがヒト前立腺癌細胞株PC−3、CがPSMA発現PC−3細胞9−7−11の結果を示す。
【図12】図12はプラスミドpKANTEX2C9−hIL2の造成工程を示した図である。
【図13】図13は精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812のSDS−PAGE(4〜15%グラジエントゲルを使用)の電気泳動パターンを示した図である。左側が非還元条件、右側が還元条件でそれぞれ電気泳動を行った図である。レーンM1が高分子量マーカー、レーンM2が低分子量マーカー、レーン1がhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812、レーン2が抗PSMAキメラ抗体KM2777の泳動パターンをそれぞれ示す。
【図14】図14は精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812および抗PSMAキメラ抗体KM2777のヒト前立腺癌細胞株LNCaPの膜成分に対する結合活性を測定した図である。横軸が抗体濃度(μg/mL)、縦軸が結合活性(OD415)を示す。●がhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812、○がキメラ抗体KM2777の反応性をそれぞれ示す。
【図15】図15は抗PSMAキメラ抗体KM2777、hIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812、および抗Flt−1キメラ抗体KM2550のヒト前立腺癌細胞株との反応性をフローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。実線がKM2777、粗い点線がKM2812、細かい点線がKM2550の結果を示す。横軸が蛍光強度、縦軸が細胞数を示す。Aがヒト前立腺癌細胞株LNCaP、Bがヒト前立腺癌細胞株PC−3の結果を示す。
【図16】図16は精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812およびhIL−2のhIL−2依存性細胞CTLL−2に対する増殖支持活性を各蛋白質濃度を変化させて測定した図である。横軸がhIL−2換算濃度(pM)、縦軸が細胞増殖(OD450)を示す。●がhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812、○がhIL−2の活性をそれぞれ示す。
【図17】図17は精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812および抗PSMAキメラ抗体KM2777のヒトエフェクター細胞の活性化とそれに伴う細胞障害活性を測定した図である。横軸が抗体濃度(nmol/L)、縦軸が細胞障害活性(%)を示す。黒いバーがhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812、白いバーが抗PSMAキメラ抗体KM2777、斜線を引いたバーがコントロールキメラ抗体KM2550の活性をそれぞれ示す。
【図18】図18は抗PSMAキメラ抗体KM2777、アドリアマイシン結合抗PSMAキメラ抗体ADM−KM2777および抗Flt−1キメラ抗体KM2550のヒト前立腺癌細胞株との反応性をフローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。実線がKM2777、粗い点線がADM−KM2777、細かい点線がKM2550の結果を示す。横軸が蛍光強度、縦軸が細胞数を示す。Aがヒト前立腺癌細胞株LNCaP、Bがヒト前立腺癌細胞株PC−3の結果を示す。
【図19】図19は精製したADM−KM2777のヒト前立腺癌細胞株に対する細胞増殖阻害活性を測定した図である。横軸がADM−KM2777の濃度(μmol/L)、縦軸が細胞増殖(OD450)を示す。点線はADM−KM2777非添加時の細胞増殖(OD450)を示す。AがPSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株LNCaP、BがPSMA陰性ヒト前立腺癌細胞株PC−3の結果を示す。
【図20】図20はPSMA陽性ヒト前立腺癌細胞株LNCaPを移植したSCIDマウスに対する精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812の抗腫瘍効果を測定した図である。横軸が腫瘍移植後の経過日数、縦軸が腫瘍体積(mm3)を示す。黒い四角がコントロール(生理食塩水)、○がhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812の投与の結果をそれぞれ示す。
【図21】図21はPSMA発現ヒト前立腺癌細胞株9−7−11を移植したヌードマウスに対する精製したhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812の抗腫瘍効果を測定した図である。横軸が腫瘍移植後の経過日数、縦軸が腫瘍体積(mm3)を示す。黒い四角がコントロール(ヒトIgG)、○がhIL−2融合抗PSMAキメラ抗体KM2812の投与の結果をそれぞれ示す。
【図22】図22はADMリンカーの構造を示す。
Claims (32)
- 前立腺特異的膜抗原(PSMA)に特異的に反応し、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む抗体重鎖(H鎖)可変領域(V領域)(VH)とヒト抗体のH鎖定常領域(C領域)(CH)とからなるH鎖および配列番号6で示されるアミノ酸配列を含む抗体軽鎖(L鎖)V領域(VL)とヒト抗体のL鎖C領域(CL)とからなるL鎖からなるヒト型キメラ抗体またはその抗体断片。
- ヒト抗体のCHがIgG1クラスのCHであり、かつヒト抗体のCLがκクラスのCLである請求項1に記載のヒト型キメラ抗体またはその抗体断片。
- ヒト型キメラ抗体が、形質転換株KM2777(FERM BP−7969)が生産するヒト型キメラ抗体である、請求項2に記載のヒト型キメラ抗体またはその抗体断片。
- PSMAに特異的に反応し、それぞれ配列番号7、8および9で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2およびCDR3を含むVHとヒト抗体のCHとからなるH鎖およびそれぞれ配列番号10、11および12で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2およびCDR3を含むVLとヒト抗体のCLとからなるL鎖からなるヒト型CDR移植抗体またはその抗体断片。
- VHが、それぞれ配列番号7、8および9で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2およびCDR3とヒト抗体のVHのフレームワーク領域(FR)とからなり、VLが、それぞれ配列番号10、11および12で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2およびCDR3とヒト抗体のVLのFRとからなる、ヒト型CDR移植抗体またはその抗体断片。
- ヒト抗体のCHがIgG1クラスのCHであり、かつヒト抗体のCLがκクラスのCLである請求項4または5に記載のヒト型CDR移植抗体またはその抗体断片。
- 抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、一本鎖抗体(scFv)、二量体化V領域(Diabody)、ジスルフィド安定化V領域(dsFv)およびCDRを含むペプチドから選ばれる抗体断片である請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗体断片。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片をコードするDNA。
- 請求項8に記載のDNAを含有する組換えベクター。
- 請求項9に記載の組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
- 形質転換株がKM2777(FERM BP−7969)である請求項10に記載の形質転換株。
- 請求項10または11に記載の形質転換株を培地に培養し、培養物中に請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片を生成蓄積させ、培養物から該抗体またはその抗体断片を採取することを特徴とする該抗体またはその抗体断片の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片に、薬剤、高分子化合物、放射性同位元素および蛋白質からなる群から選ばれる少なくとも1つの物質が結合した融合抗体。
- 抗体またはその抗体断片に結合した薬剤が抗癌剤または抗炎症剤である請求項13に記載の融合抗体。
- 抗体またはその抗体断片に結合した蛋白質がサイトカインおよび毒素からなる群から選ばれる少なくとも1つの蛋白質である請求項13に記載の融合抗体。
- 物質が抗体またはその抗体断片のH鎖に結合している請求項13〜15のいずれか1項に記載の融合抗体。
- 物質が抗体またはその抗体断片のL鎖に結合している請求項13〜15のいずれか1項に記載の融合抗体。
- 物質が抗体またはその抗体断片のH鎖およびL鎖に結合している請求項13〜15のいずれか1項に記載の融合抗体。
- 蛋白質がヒトインターロイキン2(hIL−2)である請求項13および15〜18のいずれか1項に記載の融合抗体。
- 融合抗体が、形質転換株KM2777(FERM BP−7969)が生産するヒト型キメラ抗体とhIL−2とからなる融合抗体である請求項19に記載の融合抗体。
- 融合抗体が、形質転換株KM2812(FERM BP−7970)が生産する融合抗体である請求項19に記載の融合抗体。
- 抗体またはその抗体断片に結合した物質が蛋白質である請求項13および15〜21のいずれか1項に記載の融合抗体をコードするDNA。
- 請求項22に記載のDNAを含有する組換えベクター。
- 請求項23に記載の組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
- 形質転換株がKM2812(FERM BP−7970)である請求項24に記載の形質転換株。
- 請求項24または25に記載の形質転換株を培地に培養し、培養物中に、抗体またはその抗体断片に結合した物質が蛋白質である請求項13および15〜21のいずれか1項に融合抗体を生成蓄積させ、培養物から該融合抗体を採取することを特徴とする該融合抗体の製造方法。
- 抗癌剤がアドリアマイシンである、請求項14および16〜18のいずれか1項に記載の融合抗体。
- アドリアマイシンが結合している抗体が、形質転換株KM2777(FERM BP−7969)が生産するヒト型キメラ抗体である請求項27に記載の融合抗体。
- アドリアマイシンのアミノ基と、末端の水酸基をカルボキシ基に変換したポリエチレングリコールとをジペプチドを介して結合させたアドリアマイシン結合リンカーを合成し、該リンカーの末端のカルボキシ基を活性エステル化し、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片のアミノ基と反応させる工程を含む、請求項27〜29のいずれか1項に記載の融合抗体の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片および請求項13〜21および27〜29のいずれか1項に記載の融合抗体からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する癌の治療薬。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体断片を有効成分として含有する癌の診断薬。
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