JP2003304862A - ポリリン酸を蓄積する変異株の取得方法、及び、取得した変異株の利用 - Google Patents

ポリリン酸を蓄積する変異株の取得方法、及び、取得した変異株の利用

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JP2003304862A
JP2003304862A JP2002111281A JP2002111281A JP2003304862A JP 2003304862 A JP2003304862 A JP 2003304862A JP 2002111281 A JP2002111281 A JP 2002111281A JP 2002111281 A JP2002111281 A JP 2002111281A JP 2003304862 A JP2003304862 A JP 2003304862A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 微生物に対して、変異処理により遺伝学的な
改良を施して、ポリリン酸を体内に多量に蓄積すること
ができる微生物の変異株を簡単に選択して取得する方法
を提供する。さらに、この取得方法によって得られる、
リン濃縮能力やリン除去能力、土壌中の不溶性リン金属
塩の溶解能に優れた微生物の変異株を提供する。 【解決手段】 微生物に変異処理を施した後に、X−リ
ン酸を含む培地にて培養し、青色を呈するコロニーを選
択する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリリン酸を多量
に蓄積することができる微生物の変異株を取得する取得
方法に関し、さらに、該取得方法によって得られた変異
株及びその利用に関する。
【0002】
【従来の技術】リン(P)は、農業用肥料として使用さ
れることにより、農産物の生産量を飛躍的に増大させる
ので、食料生産に必須の元素となっている。リンはリン
鉱石として産出され、世界のリン鉱石の埋蔵量は、19
90年代後半の試算にて約140億トンと見積もられて
いる。現在、リン鉱石の採掘量は、年間約1億4000
万トンであるため、今後100年、あるいは、世界の人
口増加率を考慮すると今後数十年にて、リンが枯渇して
しまうことが懸念されている。このような限りあるリン
資源を有効利用するための技術開発が求められている。
【0003】ところで、農業生産時に肥料として使用さ
れたリンの約80%は、土壌中に存在している鉄やアル
ミニウム等と結合し、植物が利用することができない不
溶性リン金属塩として固定化されてしまっている。従っ
て、土壌に固定化された不溶性リン金属塩中のリンを植
物が利用できるようになれば、使用される肥料の量を低
減し、さらには、リン資源を節約することが可能になる
と考えられる。
【0004】土壌中には、この不溶性リン金属塩を可溶
化できる微生物が存在することが知られている(S.Meth
a,C.S.Nautiyal,Current Microbiology,43,p.51-56(200
1))。この微生物によって不溶性リン金属塩が溶解され
ると、微生物は、この不溶性リン金属塩中のリンをポリ
リン酸として体内に蓄積する。植物は、この微生物の死
滅後、放出されるリン酸を吸収して利用することができ
る。従って、微生物が有する不溶性リン金属塩の可溶化
能を利用することによって、肥料等に用いられるリン資
源を有効利用することが可能になると考えられる。
【0005】また、上記土壌中の微生物を用いる以外
に、活性汚泥と称される微生物を利用して、河川や湖等
に含まれるリンの除去や回収を行う手法や、微生物が有
するリン酸のポリマー(ポリリン酸)を合成する能力を
利用する手法もある。これらの手法は、下水中に排出さ
れ、その結果、河川や湖等の水圏に含まれることになっ
たリンを除去したり、回収するために行われている。具
体的には、前者の手法では、活性汚泥と称される微生物
の集団に、下水に含まれる有機物を分解させるととも
に、この微生物のリン吸収能力を利用する。後者の手法
では、好気槽や嫌気槽を設けて、各槽にて微生物を繁殖
させ、微生物体内にポリリン酸を蓄積させる。
【0006】これらの手法によれば、微生物を用いて下
水中に含まれるリンを除去することができるので、リン
を含む下水が河川や湖等の閉鎖性水域に流入して引き起
こされる富栄養化現象を防止することができる。これに
より、水圏での赤潮やアオコの大量発生を防ぎ、環境保
全に役立てることができる。
【0007】このように、微生物を利用して、土壌中に
固定化されている不溶性リン金属塩の可溶化や、水圏に
存在するリンの除去及び回収を行うことができれば、環
境保全とともに、リンをリサイクルする循環型社会を構
築することができるので、リンの有効利用にもつなが
る。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記微
生物は、浸透圧のために多量のリン酸を体内に吸収して
蓄積することができないという問題を有している。つま
り、上記微生物は、体内に蓄積できるリン酸量に限度が
あり、所定量以上のリン酸を微生物の体内に取り込むこ
とができない。特に、土壌中に存在し、不溶性リン金属
塩を溶解する能力を有する微生物では、一定以上の不溶
性リン金属塩を溶解しないように遺伝的に制御されてい
たり、細胞内へのリン酸の取り込み量が制限されてい
る。従って、たとえ、不溶性リン金属塩を多量に溶解す
ることが可能であったとしても、微生物の体内へ取り込
まれなかったリン酸は、再び不溶性リン金属塩に戻って
しまう。
【0009】このような浸透圧の問題は、微生物のポリ
リン酸合成能力を利用する手法を用いれば回避すること
ができるが、微生物のポリリン酸蓄積量の検定には、多
大な時間や労力が必要となるという新たな問題が生じ
る。すなわち、ポリリン酸を多量に蓄積することができ
る微生物を簡単に取得する手法や、微生物が有するポリ
リン酸の蓄積能をさらに向上させる手法の開発が期待さ
れている。
【0010】本発明は、上記従来の問題点を解決するた
めになされたものであって、その目的は、ポリリン酸を
体内に多量に蓄積することができる微生物の変異株を簡
単に取得し得る方法、及び該取得方法によって、リン濃
縮能力及びリン除去能力に優れた微生物の変異株を提供
することにある。また、不溶性リン金属塩を可溶化でき
る微生物の変異株に対して、ポリリン酸を多量に蓄積す
ることができるように遺伝的改変を加えることによっ
て、不溶性金属塩の可溶化能をさらに向上させ、かつ、
ポリリン酸蓄積能にも優れた微生物の変異株を提供す
る。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討
を行った結果、微生物のリン代謝に関する遺伝子群であ
るリン酸レギュロンによって、微生物のリン代謝が制御
されていることに着目し、微生物に変異処理を施した
後、リン酸レギュロンによる制御をアルカリホスファタ
ーゼ活性によって確認することによって、リン酸レギュ
ロンによるリン代謝の制御に異常を有し、ポリリン酸を
多量に蓄積することができる微生物の変異株が得られる
ことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】すなわち、本発明のポリリン酸を蓄積する
微生物の変異株の取得方法は、微生物に変異処理を施
し、アルカリホスファターゼ活性の検出が可能である培
地にて、ポリリン酸を蓄積する変異株を選択して取得す
る方法である。
【0013】上記変異処理とは、後述するphoU遺伝
子等のリン酸レギュロンに属する遺伝子に変異を施すこ
とができる手法であれば特に限定されない。具体的に
は、紫外線照射による変異処理や、N−メチル−N’−
ニトロ−N−ニトロソグアニジン(以下、NTGと記載
する)を含む培地中にて微生物を培養する変異処理(以
下、NTG変異処理と記載する)等を挙げることができ
る。
【0014】また、上記アルカリホスファターゼの検出
が可能である培地とは、アルカリホスファターゼ活性を
検出することができる試薬等が含まれている培地であ
る。このような試薬としては、特に限定されるものでは
ないが、例えば、5−ブロモー4−クロロ−3−インド
リルリン酸(5-bromo-4-chloro-3-indolyl phosphate;
X−リン酸)を挙げることができる。このX−リン酸
は、アルカリホスファターゼによって分解され、青色の
色素を遊離する。
【0015】さらに、上記ポリリン酸は、リン酸が縮合
したものであれば特に限定されるものではなく、例え
ば、ピロリン酸、トリポリリン酸、トリメタリン酸、テ
トラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、数十〜数百のリン
酸の縮合体、それらの混合物、及び、それらの塩(ナト
リウム塩およびカリウム塩など)又はそれらの塩の混合
物、等を指す。
【0016】上記したように、微生物のリン代謝は、リ
ン酸レギュロンによって制御されている。つまり、リン
酸レギュロンに属する遺伝子には、微生物のポリリン酸
の蓄積に関する遺伝子や、アルカリホスファターゼの合
成に関する遺伝子が含まれ、これらの遺伝子の少なくと
も一つによって、通常、微生物のリン代謝が負に制御さ
れていると考えられている。これに対し、リン酸レギュ
ロンに異常や変異等が生じて、リン酸レギュロンによる
負の制御が行われなくなると、微生物のポリリン酸を蓄
積する能力が高まり、アルカリホスファターゼが生産さ
れるようになる。
【0017】従って、ポリリン酸蓄積能を有する微生物
に対して変異処理を施した後、アルカリホスファターゼ
を検出することによって、多量のポリリン酸を蓄積する
ことができる変異株を効率よく、且つ多量に取得するこ
とが可能になる。これにより、微生物のポリリン酸蓄積
量を一つ一つ検定することなく、ポリリン酸を多量に蓄
積する変異株を容易に選択することが可能になる。
【0018】具体的には、上記したX−リン酸を含む培
地中では、アルカリホスファターゼによってX−リン酸
が分解され、この分解によって青色の色素を遊離する。
つまり、ポリリン酸を蓄積する変異株のコロニーは、培
地中に添加されたX−リン酸が指示薬となって青色を呈
する。それゆえ、青色コロニーを取得すれば、ポリリン
酸を蓄積する変異株を簡単に取得することができる。
【0019】上記取得方法に用いられる微生物は、種々
の環境に存在する微生物であって、特に限定されるもの
ではないが、土壌中から分離され、不溶性リン金属塩を
溶解する微生物であることが好ましい。
【0020】上記の方法を土壌中に存在する微生物に対
して応用すると、不溶性リン金属塩を溶解する能力や、
ポリリン酸を蓄積する能力がさらに向上した微生物を取
得することができる。これにより、土壌中にて、植物が
利用できない不溶性リン金属塩として固定化されてしま
っているリンを有効に利用することが可能になる。
【0021】また、本発明には、上記いずれかの取得方
法によって取得された微生物が含まれる。
【0022】土壌中から分離され、不溶性リン金属塩を
溶解する微生物として、例えば、Pseudomonas sp.、Pse
udomonas sp. NZ096、Pseudomonas sp. WBC−
3、Arthrobacter nicotianae、Brevibacterium liquef
aciens、Pseudomonas putida、Pseudomonas monteili
i、Bacillus megaterium、Paenibacillus chibensis等
を得ることができる。これらの微生物に対して、変異処
理を施すことにより、さらにポリリン酸蓄積能を向上す
るとともに、不溶性リン金属塩の溶解能も向上すること
ができる。このうち、Pseudomonas sp.、Pseudomonas s
p. NZ096、Pseudomonas sp. WBC−3、Pseudom
onas putida、Pseudomonas monteilii、Paenibacillus
chibensisに対して変異処理を施すことにより、ポリリ
ン酸蓄積能や不溶性リン金属塩の可溶化能が大幅に向上
される。
【0023】また、上記微生物の変異株を用いることに
より、農業生産時に肥料として用いられたために土壌中
に残留するリンや、下水に排出された結果、河川や湖に
含まれることになるリンを除去するとともに、回収する
ことができる。特に、土壌中の微生物の変異株は、不溶
性リン金属塩を可溶化して、ポリリン酸として体内に蓄
積することができる。植物は、微生物が蓄積している上
記ポリリン酸を利用することができるので、植物による
土壌中のリン利用効率を向上することができる。
【0024】これにより、土壌中にて固定化されてしま
ったリンを回収して再利用することができ、また、河川
や湖での富栄養化を防止することができるので、環境保
全にもつなげることができる。このように、本願発明
は、排水処理等の環境技術、リン資源のリサイクル技術
に応用することが可能である。
【0025】
【発明の実施の形態】本発明の実施の一形態について説
明すれば、以下の通りである。
【0026】微生物では、リン代謝に関係する遺伝子群
は、リン酸レギュロンと称され、このリン酸レギュロン
の働きによってリン代謝が制御されている。本発明者ら
は、土壌に存在する微生物(以下、土壌細菌と記載す
る)のリン代謝が、リン酸レギュロンによって制御され
ていることに着目し、ポリリン酸を多量に蓄積すること
ができる微生物の取得を試みた。
【0027】リン酸レギュロンに属する遺伝子の一つと
して、大腸菌(Esherichia coli)に関する研究から、
phoU遺伝子が知られている(文献:M.Amemura,K.Ma
kino,H.Shinagawa,A.Kobayashi,A.Nakata,J.Mol.Biol.,
20,p.241-250(1985)、B.L.Wanner,J.Cell.Biochem,51,
p.47-54,(1993))。
【0028】大腸菌では、上記phoU遺伝子等の発現
により、リン酸化を触媒するキナーゼの働きが制御さ
れ、細胞内へのリン酸の取り込みが負に制御されると考
えられ、微生物のリン代謝が負に制御されていると推定
されている。つまり、上記phoU遺伝子等を含むリン
酸レギュロンの発現により、細胞外のリン酸濃度が所定
値以上である場合にキナーゼの働きが抑制され、リン酸
濃度が所定値よりも低下したリン酸飢餓状態では、キナ
ーゼの働きが脱抑制されるように働く。それゆえ、リン
酸飢餓状態では、この脱抑制により、リン酸が微生物の
細胞内に取り込まれてポリリン酸が形成されて蓄積され
る。
【0029】これに対し、リン酸レギュロンに属するp
hoU遺伝子等に異常が生じた場合、細胞外のリン酸濃
度に関らず、リン酸化が生じ、細胞内に過剰にリン酸が
取り込まれることがある。細胞内に流れ込んだリン酸
は、キナーゼの働きにより、通常、数十〜数千のリン酸
が直鎖状に結合したポリリン酸を形成し、微生物の細胞
内にてポリリン酸として蓄積される。それゆえ、リン酸
レギュロンに異常を有する微生物の変異株を得ることに
より、体内にポリリン酸を多量に蓄積し、排水や土壌に
含まれるリンを回収することが可能になると考えられ
る。特に、土壌中では、農業生産時に肥料として使用さ
れたリンが多量に存在するため、土壌中のリンを可溶化
して植物が利用可能な形態に変える手法として、微生物
の変異株を利用することは、非常に有用である。
【0030】ところで、微生物のリン代謝では、キナー
ゼによるリン酸化が生じると、このリン酸化に依存し
て、リン酸レギュロンに属する遺伝子であって、アルカ
リホスファターゼをコードする遺伝子が発現することが
知られている。そのため、微生物がアルカリホスファタ
ーゼ活性を示す場合、リン酸レギュロンによる負の制御
が行われていないことを意味していると考えることがで
きる。通常、細胞外のリン酸濃度が十分に満たされた状
態では、リン酸レギュロンが負に制御されている。しか
しながら、リン酸濃度が十分に満たされた状態において
も、微生物がアルカリホスファターゼ活性を有する場
合、リン酸レギュロンに属するその他の遺伝子(アルカ
リホスファターゼをコードする遺伝子以外の遺伝子であ
って、ポリリン酸の蓄積に関係する遺伝子)も同時に発
現していることが示唆される。それゆえ、リン酸濃度が
十分に満たされた状態にて、アルカリホスファターゼ活
性を確認することができれば、ポリリン酸蓄積能に優れ
た微生物の変異株を取得することができると考えられ
る。
【0031】上記アルカリホスファターゼは、前述した
ように、X−リン酸を指示薬として用いることによっ
て、簡単に検出することができる。それゆえ、アルカリ
ホスファターゼ活性を指標とし、X−リン酸を用いてア
ルカリホスファターゼ活性を容易に認識することによ
り、ポリリン酸を多量に蓄積することができる変異株を
容易に取得することができる。
【0032】そこで、本発明者らは、(1)農業用地か
ら土壌を採取し、不溶性リン金属塩を唯一のリン源とし
た培地にて、上記土壌中の微生物を培養することによ
り、不溶性リン金属塩を可溶化している土壌細菌を取得
して、この土壌細菌のポリリン酸蓄積量の測定、及び、
菌の同定を行い、(2)同定した土壌細菌が、リン酸レ
ギュロンにてリン代謝が調節されていることを確認し、
(3)同定した土壌細菌に対して変異処理を施した後、
(4)X−リン酸を含む培地にて培養して、青色のコロ
ニーを取得することにより、リン酸レギュロンに変異を
有し、ポリリン酸を多量に蓄積することができるポリリ
ン酸蓄積能に優れた変異株を取得した。
【0033】以下、上記(1)〜(4)の各研究分析結
果について説明する。なお、実験方法等の詳細は、後の
実施例において説明する。
【0034】(1)土壌細菌のポリリン酸蓄積量の測
定、及び、土壌細菌の同定 土壌から土壌細菌の取得は、農業用地等から採取した土
壌を滅菌水に懸濁させ、不溶性リン金属塩の粉末を唯一
のリン源とした培地に植菌して培養し、増殖した土壌細
菌を取得すればよい。
【0035】上記不溶性リン金属塩は、鉄、アルミニウ
ム、カルシウム等の金属とリンとが結合したものであ
り、例えば、土壌中等にて植物が利用できない不溶性リ
ン金属塩として固定化されているものを挙げることがで
きる。具体的には、リン酸アルミニウム、リン酸カルシ
ウム、リン酸鉄等を挙げることができる。また、複数種
類のリン金属塩の混合物であってもよい。
【0036】上記培地は、上記不溶性リン金属塩が含ま
れ、培養する土壌細菌が生育可能なものであれば特に限
定されない。寒天やゼラチン等で固化された固形培地、
凝固成分をわずかに含む半固形培地、凝固成分を含まな
い液体培地等、限定されるものではない。
【0037】培地に含まれる成分は、通常、培地として
使用される場合に含まれる基本成分に、X−リン酸を含
んでいればよい。土壌細菌を培養する場合の基本成分と
しては、具体的には、Na、K、Ca、Mg、P、Cl
等の基本無機成分に、炭素源、窒素源、アミノ酸、ビタ
ミン、ホルモン等の基本有機成分を加えたものであれば
よい。
【0038】培養条件は、培養する菌の性質に応じて適
宜設定すればよい。例えば、大腸菌の場合には、培養温
度は、20℃〜38℃が好ましく、30℃〜37℃が特
に好ましい。培養時間は、2時間〜24時間が好まし
く、12時間が特に好ましい。また、培養pHは、pH
6〜pH8であることが好ましく、pH7が特に好まし
い。また、一般的な土壌細菌では、培養温度は10℃〜
20℃が好ましく、培養時間は1日〜2日が好ましく、
培養pHは6〜8が好ましい。
【0039】上記の培地及び培養条件にて取得した土壌
細菌について、ポリリン酸の抽出及び定量を行った結果
を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】ポリリン酸の抽出及び定量は、例えば、文
献(D.Ault-Riche,C.D.Fraley,C.M.Tzeng,A.Kornberg,
J.Bacteriol.,180,p.1841-1847(1998))に従って行えば
よい。具体的には、ポリリン酸量の定量にあたっては、
上記土壌細菌から抽出したポリリン酸をポリリン酸キナ
ーゼによってATP(アデノシン三リン酸)に変換し、
そのATPをルシフェラーゼ(ATP Bopluminesecence A
ssay Kit CLS II、BOEHRINGER MANNHEIM社)を用いて定
量する。そして、あらかじめ作製しておいたATP希釈
系列から、ポリリン酸量を定量すればよい。
【0042】また、表1では、定量したポリリン酸量
は、細胞中に含まれるタンパク質量を基準として表して
いる。土壌細菌のタンパク質量は、タンパク質定量試薬
を利用して吸光度を測定し、この吸光度を標準タンパク
質系列によって換算することによって決定することがで
きる。
【0043】なお、表1には、比較のために、大腸菌
(Esherichia coli)の野生株のポリリン酸量も併せて
記載している(文献:A.Kuroda,H.Murphy,M.Cashel,A.K
ornberg,J.Biol.Chem.,272,p.21240-21243(1997))。
【0044】表1に示すように、不溶性リン金属塩を含
む培地にて培養した土壌細菌の菌株は、大腸菌が含んで
いる以上のポリリン酸を含んでいる。具体的には、表1
に示す土壌細菌は、大腸菌の1倍〜290倍のポリリン
酸を蓄積している。つまり、表1の土壌細菌は、ポリリ
ン酸を蓄積する能力が高い微生物を含んでいることがわ
かる。
【0045】また、表1に示す土壌細菌の菌株は、培地
中の不溶性リン金属塩を溶解している。このことから、
上記菌株は、培地中の不溶性リン金属塩を溶解してリン
酸を生成し、このリン酸からポリリン酸を合成して菌体
内にポリリン酸を蓄積していると考えることができる。
【0046】さらに、上記土壌細菌は、表1に示すよう
に、各菌株に対して、高い相同性を有している。具体的
には、上記土壌細菌の染色体DNAを抽出して、相同性
検索を行った結果、それぞれの菌株に対して、表1に示
すように、高い相同性を有している。なお、この相同性
検索は、DDBJ(日本DNAデータバンク)のFAS
TA解析システムを用いて行い、土壌細菌の染色体上の
16srRNAをPCR(Polymerase Chain Reactio
n)により増幅して決定した塩基配列に対して行ったも
のである。
【0047】従って、土壌細菌として得られたPseudomo
nas sp.、Pseudomonas sp. NZ096、Pseudomonas s
p. WBC−3、Arthrobacter nicotianae、Brevibacte
rium liquefaciens、Pseudomonas putida、Pseudomonas
monteilii、Bacillus megaterium、Pseudomonas chibe
nsisは、大腸菌と同程度、もしくは、それ以上のポリリ
ン酸蓄積能を有していることがわかる。このうち、特に
優れたポリリン酸蓄積能を有しているのは、Pseudomona
s sp.、Pseudomonas sp. NZ096、Pseudomonas sp.
WBC−3、Pseudomonas putida、Pseudomonas monte
ilii、Pseudomonas chibensisであり、大腸菌の約40
倍〜約290倍程度のポリリン酸蓄積能を有している。
【0048】(2)リン代謝がリン酸レギュロンにて制
御されていることの確認 上記したように、リン酸レギュロンの発現により、細胞
外のリン酸濃度が所定値以上である場合にキナーゼの働
きが抑制され、リン酸濃度が所定値よりも低下したリン
酸飢餓状態では、キナーゼの働きが脱抑制される。ま
た、リン酸レギュロンは、アルカリホスファターゼの活
性を調節しており、キナーゼによるリン酸化が生じる
と、アルカリホスファターゼを活性化する。そのため、
X−リン酸を指示薬として添加しておけば、アルカリホ
スファターゼによりX−リン酸が分解され、青色色素を
遊離するので、このX−リン酸を指標として、アルカリ
ホスファターゼ活性を確認するとともに、リン酸レギュ
ロンによるリン代謝の制御が行われていることを確認す
ることができる。
【0049】そこで、X−リン酸を添加した2種類のリ
ン酸濃度の培地にて、表1の土壌細菌を培養すると、リ
ン酸濃度の高い培地では白いコロニーを確認することが
でき、リン酸濃度の低い培地では青いコロニーを確認す
ることができる。具体的には、X−リン酸50μg/m
Lを含むリン酸濃度2mMのMOPS培地(文献:F.C.
Neidhardt,P.L.Bloch,D.F.Smith,J.Bacteriol.,119,p.7
36-747(1974))では、白いコロニーが見られ、同培地に
てリン酸のみを除去したMOPS培地では、青色のコロ
ニーが見られる。
【0050】これにより、表1に示す各土壌細菌は、培
地のリン酸濃度に応じてアルカリホスファターゼ活性を
示しているので、リン代謝がリン酸レギュロンによって
制御されていることがわかる。
【0051】(3)リン酸レギュロンに対する変異処理 微生物では、リン酸レギュロンを制御する遺伝子に異常
が生じると、リン酸レギュロンが正常に機能せず、ポリ
リン酸を多量に蓄積するようになる。
【0052】そこで、N−メチル−N’−ニトロ−N−
ニトロソグアニジン(以下、NTGと記載する)によっ
て、上記土壌細菌に対して変異処理を施し、リン酸レギ
ュロンに異常を有する変異株を構築する。本発明者ら
は、細胞外にリン酸が十分な濃度で存在しても、アルカ
リホスファターゼ活性を示す変異大腸菌は、リン酸レギ
ュロンのphoU遺伝子に異常を生じていることを確認
している。
【0053】具体的には、NTG処理を施した大腸菌に
見られたリン酸レギュロンの制御異常が、正常なpho
U遺伝子を形質導入する相補性検定を行うことによって
見られなくなることを確認している。この相補性検定の
結果は、NTG処理によってphoU遺伝子が変異する
ことを示している。また、NTG処理を施した大腸菌の
phoU遺伝子の塩基配列に変異が生じていることを確
認するために、シークエンス解析により塩基配列を決定
した結果、phoU遺伝子に点変異が見られることを確
認している。
【0054】それゆえ、このNTG変異処理を行い、か
つX−リン酸を含む培地から、青色を呈するコロニーを
選択することは、ポリリン酸を多量に蓄積する変異株を
得るために有効な処理方法であり、土壌細菌に対してN
TG変異処理を施すことによっても、土壌細菌のpho
U遺伝子等に異常を生じ、リン酸レギュロンに異常を有
する変異株を構築することができると考えられる。
【0055】上記NTG処理は、NTG溶液を添加した
バッファ中にて行えばよい(文献:J.Sambrook,E.F.Fri
tsch,T.Maniatis,“Molecular cloning: a laboratory
manual,2nd ed.”,Cold Spring Harbor Laboratory Pre
ss,NY(1989)参照)。バッファとしては、特に限定され
ないが、例えば、リン酸バッファ、Trisバッファ、MO
PSバッファ等を挙げることができる。
【0056】また、バッファ中のNTG濃度は、変異処
理を施す微生物によって適宜選択すればよいが、10m
g/L〜1000mg/Lが好ましく、特に50mg/
L〜200mg/Lが好ましい。また、NTGを含むバ
ッファ中での変異処理時間は、変異処理を施す微生物に
よって適宜選択すればよいが、5分間〜60分間が好ま
しく、特に15分間〜30分間が好ましく、変異処理温
度は、10℃〜40℃が好ましく、特に30℃〜37℃
が好ましい。さらに、振とう培養を行いながら変異処理
を行うことが好ましい。
【0057】(4)リン酸レギュロンに異常を有する微
生物の取得 上記(3)にて、NTG処理を施した土壌細菌を、X−
リン酸を含む培地にて培養することにより、phoU遺
伝子に変異を有する微生物のスクリーニングを行うこと
ができる。
【0058】具体的には、上記したように、NTG変異
処理を施した土壌細菌(以下、土壌細菌の変異株と記載
する)を、X−リン酸を含む培地に植菌し培養する。リ
ン酸レギュロンに異常を有する場合、アルカリホスファ
ターゼ活性を示してX−リン酸が分解され、培地中にて
青色を呈するコロニーを得ることができる。この青色コ
ロニーを採取することにより、ポリリン酸を多量に蓄積
する土壌細菌の変異株を取得することができる。
【0059】上記土壌細菌の変異株は、不溶性リン金属
塩を含む培地中にて培養されると、NTG変異処理を施
していない土壌細菌の10倍〜20倍程度のポリリン酸
を蓄積することができる。また、土壌細菌の変異株は、
NTG変異処理を施していない土壌細菌に比べて、培地
中の不溶性リン金属塩をより多く溶解することができ
る。このことは、上記土壌細菌の変異株は、NTG変異
処理を施すことにより、不溶性リン金属塩の可溶化能を
高めることができるとともに、可溶化されて得られたリ
ン酸をポリリン酸として合成し、菌体内に多量のポリリ
ン酸を蓄積することが可能であることを示している。
【0060】なお、培地に混合するX−リン酸量は、変
異を有するリン酸レギュロンの発現によって生成するア
ルカリホスファターゼが、X−リン酸を分解したときに
遊離する青色色素を確認できる程度であれば特に限定さ
れない。好ましくは、培地に対して、10mg/L〜1
00mg/Lとなるように添加するのがよく、さらに好
ましくは、培地に対して、20mg/L〜50mg/L
がよい。また、X−リン酸はアルカリホスファターゼの
働きによって分解されるので、培養pHは、pH6以上
であることが好ましく、pH7が特に好ましい。
【0061】また、上記培地は、培養する菌が生育可能
な成分に、X−リン酸を添加したものであれば特に限定
されない。培地の形態、培地に含まれる成分、各成分の
含有量、培養条件等は、上記(1)と同様であるので、
詳細な説明は省略する。
【0062】上記(1)〜(4)に基づいて説明したよ
うに、土壌細菌の中から、ポリリン酸を多量に蓄積する
変異株を取得することができるが、本発明は、上記
(1)〜(4)に限定されるものではない。すなわち、
不溶性リン金属塩を含む培地にて増殖した土壌細菌にN
TG変異処理を施すのではなく、土壌から採取された全
ての土壌細菌に対してNTG変異処理を施した後、
(1)又は(4)の手法によって、ポリリン酸蓄積能に
優れた変異株を取得してもよい。
【0063】また、土壌細菌から取得されたポリリン酸
蓄積能に優れた変異株は、加熱することによって、変異
株体内のポリリン酸顆粒を簡単に溶出させることができ
る。このポリリン酸顆粒は、少量のカルシウムを添加す
ることによって、容易に回収することができる。つま
り、本発明のポリリン酸を蓄積する変異株は、土壌や活
性汚泥に含まれるリンをポリリン酸として菌体内に蓄積
することができ、さらに上記の回収方法を用いることに
よって簡単に回収することができる。
【0064】これにより、微生物を用いたバイオリン鉱
石を生産することができ、リンをリサイクルすることが
可能になる。また、河川や湖での富栄養化による環境破
壊の防止にも役立てることができる。
【0065】さらに、上記土壌細菌から取得されたポリ
リン酸蓄積能に優れた変異株は、この不溶性リン金属塩
を溶解することができる。従って、この変異株を用いる
ことにより、農業生産時に肥料として使用され、土壌中
の鉄やアルミニウム等の金属と結合して植物が利用でき
ない不溶性リン金属塩として固定されてしまったリンを
植物が利用できる形態へ変化させることができる。特
に、土壌細菌内に蓄積されたリン酸は、効率よく植物へ
移行することが知られており(文献:河野憲治、『日本
土壌肥料科学雑誌』、67巻、p.716-725(1996))、本
発明の変異株を用いた不溶性リン金属塩の可溶化方法
は、不溶性リン金属塩の有効利用に大いに役立つと考え
られる。
【0066】
【実施例】〔MOPS培地〕リン酸濃度がXmMである
MOPS培地をMOPS(X)培地として記載する。各
成分は、以下のとおりである。
【0067】MOPS(X)培地は、成分A(200mM MO
PS-KOH,20mM Tricin,50mM NaCl2,7.6mM NH4Cl4 2.615mM
MgCl2:pH7.4)200mL、成分B(250μM CaCl2,1.5μM
(NH4)6Mo7O24,200μM H3BO3,15μM CoCl2,5μM CuSO4,4
0μM MnCl2,5μM ZnSO4,5mMFeSO4)2mL、0.276M K2SO4
1mL、20mM thiamine 1mL、1M glucoseに、目的のリン酸
濃度が得られるように、56mM K2HPO4 を加え、最終的な
MOPS(X)培地が1.0Lになるように滅菌水を加
えた。
【0068】〔YG培地〕YG培地は、glucose 1g、
酵母抽出物1g、K2HPO4 0.3g、KH2PO4 0.2g、
MgSO4・7H2O 0.2g、寒天15gを混合し、最終的な
YG培地が1.0Lになるように滅菌水を加えた。
【0069】〔土壌細菌のスクリーニング〕農業用地か
ら土を採取し、滅菌水中にて10〜106倍に希釈して
懸濁液とした。次いで、不溶性のリン酸アルミニウムの
粉末を唯一のリン酸源とし、リン酸アルミニウム1g/
L添加した上記MOPS培地にて、この懸濁液を植菌し
て培養し、コロニーを形成させ、このコロニーの菌株を
取得した。取得した各コロニーの菌株が有するポリリン
酸蓄積量を文献(D.Ault-Riche,C.D.Fraley,C.M.Tzeng,
A.Kornberg,J.Bacteriol.,180,p.1841-1847(1998))に
従って、決定した。その結果を表1に示す。
【0070】表1に示すように、菌株No.1〜5、8
〜11、13、14は、大腸菌(Esherichia coli)が
有するポリリン酸量の20〜290倍のポリリン酸を蓄
積しており、ポリリン酸を蓄積することができる微生物
であることがわかる。
【0071】〔土壌細菌の相同性検索〕上記スクリーニ
ングによって得られた菌株を、文献(J.R.Marchesi,et
al.,Applied and Environmental Microbiology,64,p.79
5-799(1998))に従って、染色体DNAを抽出、染色体
上の16sRNAを増幅した。
【0072】具体的には、16srRNAをPCRによ
り増幅し、PCRには、プライマーとして、5’−CA
GGCCTAACACATGCAAGTC−3’、及
び、5’−GGGCGGWGTGTACAAGGC−
3’を用いた。なお、Wは、A又はTを表す。PCRの
反応条件は、まず、72℃にて5分間反応させた後、9
5℃にて1分間のステップ、55℃にて1分間のステッ
プ、72℃にて1.5分間のステップからなる3つのス
テップを1サイクルとして30サイクル行って、16s
rRNAを増幅した。得られた増幅断片について、シー
クエンス(DYEnamicET Terminator、アプライドバイオ
システムズ社製)を行うことにより、塩基配列を決定し
た。
【0073】その後、DDBJ(日本DNAデータバン
ク)のFASTA解析システムにて相同性検索を行うこ
とにより、得られた菌株を同定した。その結果を表1に
示す。このうち、増殖がよく、ポリリン酸としてリン酸
を多量に蓄積しているPseudomonas putida近種(菌株N
o.11)をP.putida MY11株と命名した。
【0074】〔P.putida MY11株を用いた解析〕 (a)アルカリホスファターゼ活性の確認 MOPS(2)培地及びMOPS(0)培地のそれぞれ
に、X−リン酸(5-bromo-4-chloro-3-indolyl phospha
te;ナカライテスク社製)を50mg/Lを加えた培地
を用意し、上記にて得られたP.putida MY11株を、28
℃にて20時間培養した。
【0075】その結果、MOPS(2)培地では白色の
コロニーを確認し、MOPS(0)培地では青色のコロ
ニーを確認した。このことから、P.putida MY11株は、
アルカリホスファターゼ活性を有し、リン代謝がリン酸
レギュロンによって制御されていることがわかった。
【0076】(b)NTG変異処理 上記P.putida MY11株をYG培地にて培養した。また、
NTG処理を行う30分前までに、NTG(N−メチル
−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン;ナカライテ
スク社製)溶液1g/Lを調製した。次いで、YG培地
にて培養されたP.putida MY11株をアシストチューブに
集菌し、0.1mMリン酸バッファ(ナカライテスク社
製)にて洗浄し、0.1mMリン酸バッファ約5mLに
懸濁し、懸濁液から2mLを別のアシストチューブに移
した。その後、上記にて調製したNTG溶液を200μ
L添加して、室温にて60分間振とう培養した。続い
て、得られた菌をリン酸バッファにて2回洗浄し、YG
培地を2mL加えて、28℃にて2時間振とう培養し
た。
【0077】(c)青色コロニーの形成 上記(b)にて得られた培養液を10〜107に希釈
し、X−リン酸を50mg/L添加したMOPS(0.
2)培地に、希釈液200μLをプレーティングし、2
8℃にて20時間培養した。
【0078】その結果、青色を呈するコロニーを確認す
ることができた。
【0079】(d)不溶性リン金属塩の可溶化能の比較 MOPS(2)培地に、リン酸アルミニウムを1g/L
となるように添加し、P.putida MY11株を28℃にて2
0時間培養した。その結果、図1に示すようにコロニー
が形成され、コロニーを洗い流すと、リン酸アルミニウ
ムが溶解したHaloを確認することができた。
【0080】そこで、P.putida MY11株と、(b)にて
得られたNTG変異処理を施したP.putida MY11株との
不溶性リン金属塩の可溶化能の比較を行うために、不溶
性リン金属塩としてリン酸カルシウムを用い、検定用プ
レート(10g/L glucose、0.373g/L NH4NO3、0.41g/L Mg
SO4、0.295g/L KCl、0.2g/L NaCl、3mg/L FeCl3、0.7g/
L Ca3HPO4)に、P.putida MY11株及び(b)にて得られ
たNTG変異処理を施したP.putida MY11株をプレーテ
ィングし、28℃にて20時間培養した。その結果を図
2に示す。
【0081】図2に示すように、形成されたHaloは、N
TG変異処理を施したP.putida MY11株(図中、P.putid
a MY11 mutant)が、16mmであり、P.putida MY11株
(図中、P.putida MY11)が13mmであった。このこ
とより、NTG変異処理を施したP.putida MY11株がよ
り多くの不溶性リン金属塩を溶解する能力があることが
わかった。
【0082】また、得られたコロニー内の菌を集菌し、
ポリリン酸を定量した結果を図3に示す。図中、mutant
は、NTG変異処理を施した変異株であることを示す。
図3に示すように、NTG変異処理を施すことにより、
ポリリン酸蓄積量が飛躍的に増大していることがわか
る。
【0083】さらに、NTG変異処理を施したP.putida
MY11株のポリリン酸量を、乾燥菌体重量に対して決定
するために、培養20時間後の培地を、0.45μmの
ポアサイズを有するメンブレンフィルター(ADVANTEC、
Toyo Roshi Kaisya)を用いて吸引した。その後、メン
ブレンフィルター上に残った菌体を100℃の乾熱器に
て一晩乾燥させ、菌体の重量を測定した結果、乾燥菌体
重量の約30%のポリリン酸(リン酸として換算)を蓄
積していることがわかった。大腸菌のポリリン酸蓄積量
は、乾燥菌体重量の約3〜5%程度であるので、NTG
変異処理を施したP.putida MY11株は、菌体内に多量の
ポリリン酸を蓄積する能力を有していることがわかる。
【0084】以上より、NTG変異処理を施されたP.pu
tida MY11株は、不溶性リン金属塩であるリン酸カルシ
ウムを溶解してリン酸を生成し、このリン酸をポリリン
酸として菌体内に蓄積していることがわかる。
【0085】
【発明の効果】本発明のポリリン酸を蓄積する微生物の
変異株は、以上のように、リン酸が培地中に多量に存在
しても、アルカリホスファターゼを高発現する。アルカ
リホスファターゼは、ポリリン酸を検出する手法に比べ
ると、非常に簡単に検出することができる。
【0086】それゆえ、培地中のアルカリホスファター
ゼを検出することにより、ポリリン酸を多量に蓄積する
変異株を、容易に選択して取得することができるという
効果を奏する。
【0087】また、上記の取得方法によって得られた微
生物の変異株を用いることにより、土壌中にて固定化さ
れてしまった不溶性リン金属塩を、微生物の体内にてポ
リリン酸として蓄積させて植物が利用可能な形態に変え
ることができるという効果を奏する。また、汚水や排水
処理にて、上記微生物の変異株を利用すれば、リンによ
る富栄養化を防止することができるので、環境保全につ
なげることができるという効果を奏する。さらに、排水
中に含まれるリンの回収やリサイクルにも利用すること
ができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明におけるポリリン酸蓄積能に優れた微生
物が形成したコロニーを示す写真である。
【図2】P.putida MY11株と、NTG変異処理を施した
P.putida MY11株とが形成するHaloを示す写真である。
【図3】P.putida MY11株及び、NTG変異処理を施し
たP.putida MY11株のポリリン酸蓄積量を示すグラフで
ある。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き Fターム(参考) 4B024 AA03 CA02 CA04 DA05 GA25 4B065 AA44X AB01 AC16 BA16 BB02 CA55 4D004 AA41 AB05 AC07 BA04 CA18 CA41 CC07

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】微生物に変異処理を施し、アルカリホスフ
    ァターゼの検出が可能である培地にて、ポリリン酸を蓄
    積する変異株を選択して取得する取得方法。
  2. 【請求項2】上記微生物は、土壌中から分離され、不溶
    性リン金属塩を溶解するものである請求項1記載の取得
    方法。
  3. 【請求項3】請求項1又は2記載の取得方法によって得
    られるポリリン酸を蓄積する変異株。
  4. 【請求項4】請求項3記載の変異株を用いて、リンを回
    収する回収方法。
  5. 【請求項5】請求項2記載の取得方法によって得られる
    ポリリン酸を蓄積する変異株を用いて、土壌中の不溶性
    リン金属塩を溶解させる方法。
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