【発明の詳細な説明】
C70からダイヤモンドを成長させる方法
発明の分野
本発明は、ダイヤモンド種粒子の存在下でC70バックミンスターフラーレン(Bu
ckminster fullerene)を還元することによりダイヤモンドを成長させる方法に関
する。
発明の背景
既知物質の中で最も硬いダイヤモンドは、商業的および科学的価値が大きい。
ダイヤモンドは、化学腐食に対して安定であり、圧縮力および放射線に耐えるこ
とができる。ダイヤモンドは、極めて大きい電気抵抗を有する電気絶縁体である
が、ほとんどの他の電気絶縁体よりもよく熱を伝導する優れた熱伝導体である。
ダイヤモンドは、構造的にはシリコンと類似しているが、バンドギャップの大き
い半導体(5eV)であるため、UV-可視光や多くの赤外スペクトル域の光が透過す
る。ダイヤモンドは、異常に高い降伏電圧および低い誘電率を有する。これらの
性質が最近の進歩と相まって、ダイヤモンドは、高速電子デバイスや高温で作動
させるべく設計されたデバイスに広範に利用できる可能性があると考えられるよ
うになってきた。うまくドーピングできれば、ダイヤモンドは、新しいまたは代
替のデバイスに適用しうる重要な半導体材料になる可能性がある。シリコンチッ
プは300℃までの温度に耐えることができるが、ダイヤモンドデバイスはそれよ
りも相当高い温度に耐えることができるであろうと推定される。ダイヤモンド膜
は、既に、硬質保護コーティングとして利用されている。
こうした有用な性質があるため、合成ダイヤモンドは、研究および商業用途に
おける利用可能性が高い。合成ダイヤモンドは、現在、2つの既知の方法:すな
わち、高圧アンビルを用いて炭素質材料を圧縮することによりダイヤモンドに変
換する高圧方法と、炭素含有気体前駆物質を分解することにより適切な基板上に
ダイヤモンド膜を堆積させる化学蒸着(CVD)というより最近の技術とによっ
て製造されている。
最近特に科学的な興味の対象となっているのは、一緒になって閉じたほぼ球状
の構造を形成する整数個の炭素原子で構成されたバックミンスターフラーレンと
呼ばれる炭素構造のクラスである。2つの主要なフラーレンはC60およびC70であ
り、これらはそれぞれ60個および70個の炭素原子を含む球状構造である。高圧下
でC60およびC70からダイヤモンドへの変換に成功した例が、Manuel Nunez Regue
iro,Pierre Monceau,Jean-Louis Hodeau,Nature,355,237-239(1992)およびManue
l Nunez Regueiro,L.Abello,G.Lucazeau,J.L.Hodeau,Phys.Rev.B,46,9903-9905(
1992)に開示されている。また、C60からダイヤモンドへの変換についての研究が
、Hisako Hirai,Ken-ichi Kondo and Takeshi Ohwada,Carbon,31,1095-1098(199
3)に報告されている。このほか、R.J.Meilunas,R.P.H.Chang,S.Liu,M.M.Kappes,Appl.Phys.Lett.
,59,3461-3463(1991)およびR.J.Meilunas,R.P.H.Chang,S.Liu,M
.M.Kappes,Nature,354,271(1991)に開示されているように、CVDを使用して金属
面上におけるダイヤモンド薄膜を形成するときの核生成がC70によって促進され
ることが知られている。
水素を含むまたは含まないアルゴンマイクロ波プラズマ中においてフラーレン
前駆物質を使用して速い成長速度で得られるダイヤモンド膜が、D.M.Gruen,S.Li
u,A.R.Krauss and X.Pan,J.Appl.Phys.,75,1758-1763(1994)およびD.M.Gruen,S.
Liu,A.R.Krauss,J.Luo and X.Pan,Appl.Phys.Lett.,64,1502-1504(1994)に報告
されている。
Vladimir Kuznetsov,A.L.Chuvilin,E.M.Moroz,V.N.Kolomiichuk,Sh.K.Shaikhu
tdinov,Yu.V.Butenko,Carbon,32,873-882(1994)およびVladimir L.Kuznetsov,An
drey L.Chuvilin,Yuri V.Butenko,Igor Yu.Malkov,Vladimir M.Titov,Chem.Phys .Lett
.,222,343-348(1994)に開示されているように、最近、フラーレンに富んだ
煤中に直径が20〜150Åの範囲にある分散ダイヤモンド粒子が観測された。
Gruenに付与された米国特許第5,370,855号、同第5,462,776号、同第5,328,676
号、および同第5,209,916号には、フラーレンをダイヤモンドに変換する方法が
開示されている。この方法には、高周波プラズマ放電、電子ビーム、強
力レーザビームなどの高エネルギー環境にフラーレンを暴露することによりカリ
ウム改質フラーレンを分解することが含まれる。米国特許第5,462,776号には、1
000〜1200℃に加熱されたダイヤモンド種晶基板上でのダイヤモンドの成長が開
示されている。これらのフラーレン変換法のいずれにも見られる欠点は、このよ
うな高温ではダイヤモンド構造が黒鉛構造に変化し易いという点である。もう1
つの欠点は、レーザ、RF発生器などの高エネルギー供給デバイスが高価なことで
ある。
大きな資本が必要となる装置を使用しない環境において比較的低い温度でかな
り大きな粒子サイズを有する単結晶ダイヤモンド粒子を成長させることができれ
ば、非常に有利であり、商業価値が著しく高くなる可能性がある。
発明の概要
本発明の目的は、高温も高圧も必要としない経済的な単結晶ダイヤモンドの成
長方法を提供することである。
本発明は、およそ1.5×10-6mの平均直径を有するダイヤモンド粉末核生成種晶
から成長させて4.0×10-4mを超える平均直径を有するダイヤモンド粒子を形成す
る方法を提供する。中程度の温度および圧力においてセレンまたはリンのような
還元剤の存在下でC70を還元する。
本発明のもう1つの態様では、セレンおよびリンからなる群より選ばれる元素
の存在下かつ少なくとも550℃の温度においてダイヤモンド種粒子を蒸気相C70に
暴露することによりダイヤモンド種粒子の少なくとも一部分を成長させることを
含むダイヤモンドの成長方法が提供される。
本発明のもう1つの態様では、ダイヤモンドの成長方法が提供される。この方
法には、複数のダイヤモンド種粒子を提供し、該ダイヤモンド種粒子と流動連通
(flow communication)した状態で所定量のC70粉末とセレンおよびリンからなる
群より選ばれる元素とを提供し、該C70粉末を加熱してC70粉末の蒸気相を形成し
、少なくとも500℃の温度で18日間〜60日間にわたり該元素および該ダイヤモン
ド種粒子を加熱して該ダイヤモンド種粒子の少なくとも一部分を成長させること
が含まれる。
本発明のもう1つの態様では、ダイヤモンドの成長方法が提供される。この方
法には、所定の平均直径を有する複数のダイヤモンド種粒子を提供し、所定量の
C70粉末と還元剤とを提供することが含まれる。該C70粉末および該還元剤は、該
ダイヤモンド種粒子と流動連通した状態にある。この方法には、該C70粉末を加
熱して蒸気相のC70を形成し、減圧下かつ約500℃〜約600℃の温度で約18日間〜
約60日間にわたり該還元剤および該ダイヤモンド種粒子を加熱して該蒸気相のC7 0
の一部分を該還元剤により還元し、少なくとも1個の該ダイヤモンド種粒子上に
堆積させてその平均直径を増大させることが含まれる。
本発明はまた、気相金属カルボニルの存在下かつ所定の有効温度でダイヤモン
ド種粒子を蒸気相C70に暴露して該ダイヤモンド種粒子の少なくとも一部分を成
長させることを含むダイヤモンドの成長方法を提供する。該気相金属カルボニル
は、好ましくは鉄カルボニルの1種であり、最も好ましくは鉄ペンタ-カルボニル
である。
本発明はまた、少なくともCO成分を含有する気相触媒の存在下かつ所定の有効
温度でダイヤモンド種粒子を蒸気相C70に暴露して該ダイヤモンド種粒子の少な
くとも一部分を成長させることを含むダイヤモンドの成長方法を提供する。該触
媒は、好ましくはFe(CO)5である。
もう1つの態様において、本発明は、気相鉄カルボニルの存在下かつ約570℃〜
約600℃の範囲の温度でダイヤモンド種粒子を蒸気相C70に暴露して該ダイヤモン
ド種粒子の少なくとも一部分を成長させることを含むダイヤモンドの成長方法を
提供する。該鉄カルボニルは、好ましくはFe(CO)5である。
図面の簡単な説明
次に、C70からダイヤモンドを成長させて目的の発明品を形成する方法につい
て説明する。ここで参照すべき添付の図面は以下の通りである。
図1は、本発明に従ってダイヤモンド種晶からダイヤモンドを成長させるため
に使用される装置を示している。
図2は、本発明の方法で使用されるC70多結晶質粉末の走査電子顕微鏡写真(SE
M)である。
図3は、本発明の方法で使用されるダイヤモンド種晶のサンプル(平均サイズ
約1.5μm)のSEMである。
図4は、セレンの存在下において20日間にわたリアセンブリを550℃で加熱した
後、図1に示されているキャピラリーの下側部分で見いだされたいくつかのダイ
ヤモンド粒子のSEMである。
図5は、図2のC70多結晶質粉末の典型的なレーザマイクロラマンスペクトルを
示している。
図6は、図4に示されている粒子の1つのレーザマイクロラマンスペクトルを100
0〜約1700cm-1の波長域で示している。
図7は、図4に示されている粒子の1つのレーザマイクロラマンスペクトルを500
〜約1700cm-1の波長域で示している。
図8は、図4に示されている成長したダイヤモンド粒子の1つのX線回折を示し
ている。
図9は、本発明の方法に従って成長させたダイヤモンド粒子の構造を図8のX線
回折パターンから計算したものである。
図10は、C70の構造を示している。
図11は、C60の構造を示している。
発明の詳細な説明
図1について説明する。約18〜20mgのC70(98%)と、約11mgの元素のセレン粉
末(99.5%、粒子サイズ-325メッシュ、Alfa)または赤リン粉末(99%、粒子サ
イズ-100メッシュ、Alfa)と、微量のダイヤモンド種粉末(平均直径1.5×10-6
m)とを、直径1cm×長さ10cmのパイレックスチューブ12中の10の付近に配置し
た。14の付近に示されている微量(<1mg)のダイヤモンド粉末を小さなパイレ
ックスキャピラリー(1.0mm×50mm)16中に充填し、次いで、このキャピラリー
を、図1に示されている、より大きなパイレックスチューブ12中に配置した。こ
のチューブアセンブリ全体を排気して、約2.66×10-2パスカル(約2×10-5torr
)の減圧下でシールした。温度調節機能を備えたチューブオーブン(図示せず)
中でチューブアセンブリを約550℃の温度で20〜30日間加熱し
た後、レーザマイクロラマン分光法および走査電子顕微鏡法(SEM)を用いて、
生成物の色々な部分を調べた。
走査電子顕微鏡(HITACHI model S-570、日本)を用いて、ダイヤモンド種晶
および反応生成物の微結晶サイズおよび形状を調べた。レーザマイクロラマン分
光法を用いて、この微結晶がダイヤモンドであることを確認した。マイクロラマ
ン分光法の重要な利点は、高倍率の電荷結合素子(CCD)カメラにより、サンプ
ル微結晶の位置決めができることである。このため、微結晶のサイズ測定とその
同定の両方を同時に行うことができる。530.87nmに調整されたKrイオンレーザを
励起光源として使用した。約2mWビームを直径3マイクロメートルのスポットに
集束させた。顕微鏡(Micromate model 1482D)および液体窒素冷却CCD検出器(
Princeton Instruments Inc.Model LN/CCD)を備えたTriplemate分光計(SPEX I
ndustries Inc.model 1877D)を使用して、後方散乱形態でラマンスペクトルを
測定した。
上記の実験で使用したC70粉末のSEM画像を図2に示す。ダイヤモンド微結晶と
の比較を目的として平板状微結晶が示されている。図3は、種晶ダイヤモンドと
して使用したダイヤモンド粉末のサンプルのSEM画像を示している。こうしたサ
ンプルのいくつかを調べた結果、粒子の直径が2×10-6mを超えるものは極めて少
なく、直径が3×10-6mを超える粒子は観測されないことが分かった。これとは対
照的に、図4は、小さなダイヤモンド粒子を種粒子としたフラーレンと還元剤ま
たは反応剤として使用したセレンとを550℃で20日間加熱した後で得られた反応
生成物の中に見いだされた平均直径約400μmの4個の微結晶を示している。この
程度まで増大されたダイヤモンド種晶は約1%にすぎないことが分かった。しか
しながら、体積を基準にすれば、個々の種晶の全体の増大はかなり大きかった。
これらの微結晶の1つのマイクロラマンスペクトルを1000〜約1700cm-1の範囲
の波長域で図6に示す。約1328cm-1の特徴的な単一ピークは、この粒子がダイヤ
モンドであるという疑う余地のない証拠である。図7に示されているマイクロラ
マンスペクトルは、図6のスペクトルと類似しているが、その波長域は500〜約17
00cm-1であった。比較のために、この実験で使用したC70のラマンスペクト
ルを図5に示す。1328cm-1にはこのようなピークは存在しない。図5のスペクトル
から得られた26個の比較的強い振動モードの周波数は、R.A.Jishi,M.S.Dresselh
aus,G.Dresselhaus,Kai-An Wang,Ping Zhou,A.M.Rao and P.C.Eklund,Chem.Phys .Lett.
,206,187(1993)に既に開示されている値と良好な一致が見られる。これら
の振動モードの周波数はまた、群論解析と良好な一致が見られる。これについて
は、M.S.Dresselhaus,G.Dresselhaus and R.Saito,Phys.Rev.B,45,6234(1992)を
参照されたい。C70は全体で53個のラマン活性モードを有する。
図4の成長ダイヤモンド粒子の1つに対するX線回折パターンが図8に示されて
いるが、この図8はダイヤモンドの単結晶の立方構造をはっきりと示しており、
このことは、図8のX線回折パターンから計算された図9記載の結晶構造によリ確
認される。
生成した、より大きなダイヤモンド粒子のほとんどは、種晶ダイヤモンドを堆
積させたキャピラリー16(図1)中に見いだされた。このことは、気相C70が種晶
ダイヤモンドの成長に寄与したことを強く示唆する。C70は、550℃においてかな
りの蒸気圧を有する。20日後に、大きい方のチューブの底部10に残存した物質の
ラマンスペクトルは、未反応C70のものと一致した。
このほか、C70の代わりにC60を用いて類似の実験を行った。C60を用いたこれ
らの実験では、C70のときと温度、圧力、および時間が本質的に同じ条件下にお
いてダイヤモンド種粒子をC60に長時間暴露する前および後で撮影したSEMを比較
したところ、ダイヤモンド種粒子のサイズの増大は測定されたなかった。
セレンおよびリン以外の他の元素還元剤、例えば、ナトリウム、カリウム、お
よびイオウもまた、500〜600℃の範囲よりも高い温度においてC70を還元するの
に有効であると本発明者らは考えている。
本発明者らが提案する、可能性のある成長機構は、以下の通りである。この機
構は推測されたものであり、従って、以下に記載の説明によって制限されるもの
ではないことは分かるであろう。C70の構造は図10の40に略図で示されており、
この構造は、図11の70に示されているC60の構造と比較することができる。C70を
構成する炭素原子42は、sp2(黒鉛の場合)とsp3(ダイヤモンド中の炭素の混
成)との中間の混成である。フラーレン中で結合の1つが開裂した場合、この開
裂結合に関与する2個の炭素原子は、開裂結合位置で反応する反応相手の性質に
応じてsp2混成をとるかsp3混成をとる。図11を参照すると、C60は、2つのタイプ
のC-C結合:すなわち、五角形の面と六角形の面との間の稜に位置するいわゆる
「単結合」44と、2つの六角形の面の間の稜に位置する「二重結合」46とを有す
る。しかしながら、炭素原子はいずれも、六角形の面と五角形の面の両方の頂点
である。図10を参照すると、C70は、このほかに、2つの六角形の面を分離する稜
であるC-C結合50を有すると同時に六角形の面だけの頂点を有する。本発明者ら
は、開裂してダイヤモンドの成長を開始させるのはC70中にあるこうした追加の
炭素−炭素結合50であると考えている。
ダイヤモンド種晶は鋳型として作用し、その表面のダングリングボンドのおか
げで、C70分子の新しい開裂C-C結合の炭素原子は、ダイヤモンドの成長を継続さ
せるのに必要なsp3混成をとることができると考えられる。最終的には、C70分子
のすべての炭素原子をダイヤモンド中に導入できるであろう。
また、金属カルボニルは、C70から単結晶ダイヤモンドを生成させるための触
媒としての効力を発揮する。1つの試験において、エーテル、アセトン、メタノ
ール、アセトニトリル、トルエン、アセトン、水、硝酸、HCl、および水で予め
洗浄した、平均直径1〜3μmを有する少量のダイヤモンド粉末と共に、110mgのC7 0
をガラスキャピラリーチューブ中に入れた。チューブを排気し、蒸留した鉄カ
ルボニル(Fe(CO)5)を室温蒸気圧のレベルまで導入した。チューブをシールし
、580℃で150日間焼成した。それぞれ0.1mmを超える平均直径を有する12個のダ
イヤモンド粒子がセルから回収された。ラマン分光法およびX線結晶解析により
、これらの粒子がダイヤモンドであることを確認した。また、鉄ペンタ-カルボ
ニル以外の鉄カルボニルならびに鉄カルボニル以外の金属カルボニルも、C70か
らのダイヤモンドの成長に対して触媒特性を呈する。本発明者らによれば、金属
カルボニルはCOの供給源として機能し、このCOはまたダイヤモンドの成長を触媒
しうると考えるのが妥当である。
本発明の方法を用いれば、低圧で、しかも例えば約400℃〜約700℃の範囲の低
温で、ジェムダイヤモンド(gem diamond)を成長させることが可能である
ため、非常に有利である。先に述べたように、ダイヤモンドを成長させるための
従来技術による方法では、多種多様なエネルギー環境を発生させるために、非常
に高い圧力および温度、または高価な装置が使用される。本発明の方法は、ダイ
ヤモンドを成長させる非常に経済的な方法を提供する。
本発明の方法は比較的低い温度および圧力で行われるが、この方法は、C70分
子を発生させるために使用される炭素アークの非常に高い温度において生成時に
C70分子中に蓄えられた自由エネルギーを使用する。この自由エネルギーの増加
(アークの電極の形態の黒鉛前駆物質の自由エネルギーを超える)は、フラーレ
ンの中間的な混成特性となって現れる。最近の理論による予測によれば、1個のs
p3混成炭素と1個のsp混成炭素とを含む非平面状中間体が関与する。これについ
ては、Robert L.Murray,Douglas L.Strout,Gregory K.Odom and Gustavo E.Scus
eria,Nature,366,665-667(1993)を参照されたい。
この自由エネルギーをダイヤモンドの生成に振り向けるために、C70中のいく
つかのC-C結合の開裂を誘発しなければならない。このことは、セレン、リン、
およびCO含有カルボニル触媒のように、C70に電子を供与することにより結合開
裂を促進する物質を存在させることによって実施される。
本発明は、有利には、C70を用いて種晶ダイヤモンド粒子からダイヤモンドを
成長させる経済的な方法を提供する。この方法は、公知方法とは異なり高圧も高
温も必要としない。還元剤の存在下でC70は容易に還元できるがC60は容易に還元
できないという結果は、まったく予想外であった。
本発明の好ましい実施形態についての以上の説明は、本発明の原理を示すため
に記載したものであり、本発明は、ここに示されている特定の実施形態に限定さ
れるものではない。本発明の範囲は、次の請求の範囲およびその等価物に包含さ
れるすべての実施形態により規定されるものとする。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【提出日】平成11年2月1日(1999.2.1)
【補正内容】
フラーレンを分解することが含まれる。米国特許第5,462,776号には、1000〜120
0℃に加熱されたダイヤモンド種晶基板上でのダイヤモンドの成長が開示されて
いる。これらのフラーレン変換法のいずれにも見られる欠点は、このような高温
ではダイヤモンド構造が黒鉛構造に変化し易いという点である。もう1つの欠点
は、レーザ、RF発生器などの高エネルギー供給デバイスが高価なことである。
大きな資本が必要となる装置を使用しない環境において比較的低い温度でかな
り大きな粒子サイズを有する単結晶ダイヤモンド粒子を成長させることができれ
ば、非常に有利であり、商業価値が著しく高くなる可能性がある。
発明の概要
本発明の目的は、高温も高圧も必要としない経済的な単結晶ダイヤモンドの成
長方法を提供することである。
本発明は、気相金属カルボニルの存在下かつ所定の温度でダイヤモンド種粒子
を蒸気相C70に暴露して該ダイヤモンド種粒子の少なくとも一部分を成長させる
ことを含むダイヤモンドの成長方法を提供する。該気相金属カルボニルは、好ま
しくは鉄カルボニルの1種であり、最も好ましくは鉄ペンタ-カルボニルである。
本発明はまた、少なくともCO成分を含有する気相触媒の存在下かつ所定の温度
でダイヤモンド種粒子を蒸気相C70に暴露して該ダイヤモンド種粒子の少なくと
も一部分を成長させることを含むダイヤモンドの成長方法を提供する。該触媒は
、好ましくはFe(CO)5である。
もう1つの態様において、本発明は、気相鉄カルボニルの存在下かつ約570℃〜
約600℃の範囲の温度でダイヤモンド種粒子を蒸気相C70に暴露して該ダイヤモン
ド種粒子の少なくとも一部分を成長させることを含むダイヤモンドの成長方法を
提供する。該鉄カルボニルは、好ましくはFe(CO)5である。
図面の簡単な説明
次に、C70からダイヤモンドを成長させて目的の発明品を形成する方法につい
て説明する。ここで参照すべき添付の図面は以下の通りである。
図1は、本発明に従ってダイヤモンド種晶からダイヤモンドを成長させるため
に使用される装置を示している。
図2は、本発明の方法で使用されるC70多結晶質粉末の走査電子顕微鏡写真(SE
M)である。
図3は、本発明の方法で使用されるダイヤモンド種晶のサンプル(平均サイズ
約1.5μm)のSEMである。
図4は、セレンの存在下において20日間にわたリアセンブリを550℃で加熱した
後、図1に示されているキャピラリーの下側部分で見いだされたいくつかのダイ
ヤモンド粒子のSEMである。
図5は、図2のC70多結晶質粉末の典型的なレーザマイクロラマンスペクトルを
示している。
図6は、図4に示されている粒子の1つのレーザマイクロラマンスペクトルを100
0〜約1700cm-1の波長域で示している。
図7は、図4に示されている粒子の1つのレーザマイクロラマンスペクトルを500
〜約1700cm-1の波長域で示している。
図8は、図4に示されている成長したダイヤモンド粒子の1つのX線回折を示し
ている。
図9は、本発明の方法に従って成長させたダイヤモンド粒子の構造を図8のX線
回折パターンから計算したものである。
図10は、C70の構造を示している。
図11は、C60の構造を示している。
(アークの電極の形態の黒鉛前駆物質の自由エネルギーを超える)は、フラーレ
ンの中間的な混成特性となって現れる。最近の理論による予測によれば、1個のs
p3混成炭素と1個のsp混成炭素とを含む非平面状中間体が関与する。これについ
ては、Robert L.Murray,Douglas L.Strout,Gregory K.Odom and Gustavo E.Scus
eria,Nature,366,665-667(1993)を参照されたい。
この自由エネルギーをダイヤモンドの生成に振り向けるために、C70中のいく
つかのC-C結合の開裂を誘発しなければならない。このことは、セレン、リン、
およびCO含有カルボニル触媒のように、C70に電子を供与することにより結合開
裂を促進する物質を存在させることによって実施される。
本発明は、有利には、C70を用いて種晶ダイヤモンド粒子からダイヤモンドを
成長させる経済的な方法を提供する。この方法は、公知方法とは異なり高圧も高
温も必要としない。還元剤の存在下でC70は容易に還元できるがC60は容易に還元
できないという結果は、まったく予想外であった。
請求の範囲
1.気相金属カルボニルの存在下かつ所定の温度でダイヤモンド種粒子を蒸気相
C70に暴露して該ダイヤモンド種粒子の少なくとも一部分を成長させること
を含むダイヤモンドの成長方法。
2.前記気相金属カルボニルが、鉄カルボニルからなる群より選ばれる、請求項
1に記載の方法。
3.前記鉄カルボニルが鉄ペンタ-カルボニルである、請求項2に記載の方法。
4.前記金属カルボニルが鉄ペンタ-カルボニルである、請求項1に記載の方法
。
5.前記温度が400℃〜700℃の範囲にある、請求項1〜4のいずれか1項に記載
の方法。
6.前記有効温度が560℃〜600℃の範囲にある、請求項5に記載の方法。
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