【発明の詳細な説明】
IVF の成果についての予測アッセイ
本発明は、雌における妊娠(または不妊症)の可能性を評価するのに使用可能
なアッセイに関し、特に、哺乳動物(ヒトを含む)における体外受精(in vitro
fertilisation;IVF)の成果を予測するものである。特に、本発明は、発生途
中の(または発生した)卵母細胞の周囲から採取した組織または体液中の11β-
ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(11β-HSD)のモジュレーター(例えば
、阻害剤)についてのアッセイに関する。
IVFの技術は、1978年以来、不妊の問題があるヒト患者において用いられてき
た。広範な研究にもかかわらず、それは依然として困難な手法であり、最良のIV
Fの病院においてさえ、たった30%の成功率が一般に達成されているにすぎない
IVFは、費用のかかる手法であり、患者にとって心的外傷となり得る。女性か
らIVFのための卵子を採取するために外科的手法が必要とされ、受精の後、受精
卵を子宮に移植するためにさらなる外科手術が必要である。その後、レシピエン
トは、妊娠が成功したか否かが判定できるようになるまである一定期間待たなけ
ればならない。ある場合には、繰り返して試みたにもかかわらず妊娠が達成され
ない可能性があり、これらの場合には、金銭的および人的の両面で、患者および
社会に対して相当な犠牲となり得る。
したがって、IVFの成功率が改善できるまでは、処置を行う前に、成功する見
込みのないレシピエントを同定できることが望ましいことであり、その結果、そ
のような患者は、上記のIVF法の費用および損傷を回避可能となる。
副腎ステロイドホルモンであるコルチゾールは、培養下での雌の生殖細胞(卵
母細胞)の成熟および卵巣細胞の発生に影響を及ぼすと考えられる22,23。近年
、卵胞液中のコルチゾールの濃度と卵母細胞の成熟度との間には関連性があるこ
とが報告されている7。
酵素11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(11β-HSD、EC1.1.1.146)
は、コルチゾールおよびコルチコステロンをそれらの不活性な形態であるコルチ
ゾンおよび11-デヒドロコルチコステロンにそれぞれ変換する3,5,16。該酵
素は、ラット卵母細胞中に存在し3、卵巣の機能を調節すると考えられる12。肝
臓型および腎臓型の11β-HSDの2つのイソ型が特性付けられている。両方のイソ
型は卵巣組織内で発現される。本明細書では、11β-HSDの意昧は、(文脈がそれ
以外の意味を要求しない限り)両方(肝臓型および腎臓型)のイソ型を含む。
従来の研究は、卵母細胞の成熟度またはホルモンレベルと体外受精の成功率と
の関係に注目する傾向があった。しかし、驚くべきことに、一旦受精が達成され
、IVF法の第2部(つまり、移植)が行われると、卵母細胞の採取時と続いて妊
娠が確立した時点とでの卵母細胞の周囲における11β-HSDのレベルには強い逆の
相関性があることがわかった。この相関性は、卵母細胞の成熟度または受精に影
響を及ぼす可能性のある他の要因とは無関係に存在する13,15,37。このことから
、まず最初に雌性患者から採取した生物学的サンプル中の11β-HSDのレベルを測
定することと、次に、この11β-HSDの測定レベルから、IVFによる該患者の妊娠
の確立の可能性を予測することとを含むIVFの成果の予測方法が導かれた37。次
に、女性患者を、IVFプログラムに参加する適性についてスクリーニングできる
であろう。
今回、11β-HSD活性が同じ個体から採取した卵胞間で広範に変動し得ることが
見出された。(同じ個体からの)異なる卵胞からの細胞のプールについて測定し
た活性は、個々の卵胞における活性を正確に反映しているとは限らず、このこと
は、1個以上の卵胞が、該プール全体の結果に影響を及ぼす11β-HSDモジュレー
ターを有していることを示唆していた。したがって、IVFの成果は、これらのモ
ジュレーターに基づいて(それらの存在および/または活性により)予測可能で
あると思われる。
したがって、本発明は、妊娠(または、さらに正確には、着床成功)の可能性
の評価、特に雌性個体におけるIVFの成果の予測に使用可能なアッセイ方法およ
びアッセイ用キットに関する。さらに本発明は、IVFの成果または雌性個体のIVF
処置に対する適性を決定するための診断方法において使用するためのそのような
方法およびキットに関する。本発明はヒト女性についての研究から開発されたも
のであるが、あらゆる哺乳動物の雌に適用可能であり、例えば、絶滅の危機に瀕
している種のIVFによる捕獲繁殖(captive breeding)プログラムまたは牛や
ウマなどの家畜の商業的繁殖の成功率を増大させるのに使用可能である。
したがって、本発明の第1の態様は、IVFの成果を予測するか、もしくはIVFの
成功の可能性を評価する方法であって、
(a)雌性個体からの1つ以上の生物学的サンプルにおける酵素11β-ヒ
ドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(11β-HSD)のモジュレーターのレベルを
測定する工程、そして
(b)測定したモジュレーターのレベルから、IVFによる該個体における
妊娠確立の見込みまたは可能性を予測する工程
を含んでなる上記方法を包含する。
上記(または各)サンプルは、例えば卵母細胞の周囲からの体液または組織を
含み得る。これは、例えば体外受精および胚移植のために卵母細胞の採取を受け
ている女性の卵胞から回収した顆粒膜黄体細胞または卵胞細胞ならびに他の卵巣
細胞を含み得る。あるいは、該(または各)サンプルは、例えばIVFプログラム
に入る前の外来患者から得た卵胞吸引液を含み得る。該サンプルは、卵母細胞の
周囲から得た保存(通常は凍結した)細胞も含み得る。他のサンプルとしては、
尿または血漿を含み得る。特に好適なサンプルは卵胞液を含む。
したがって、上記第1の態様はさらに、上記工程(a)に先立って、上記雌か
ら1以上の生物学的サンプルを採取する工程を含み得る。
上記サンプルは、上記工程(a)での測定を行う前に処理(例えば、保存、凍
結、洗浄、培養、媒体への添加など)することが可能である。
11β-HSDの「モジュレーター」とは、11β-HSD活性に影響を及ぼす(天然に存
在する、もしくは存在しない)物質を意昧する。好ましくは、該モジュレーター
は内因性である。これは、11β-HSD活性を増大させること(アゴニストまたは補
因子)または活性を低下させること(阻害剤)、ならびに酵素の特異性または生
理的特性を改変することを意味する。
好適な11β-HSD阻害剤としては、グリシルリジン酸、グリシルリジン酸様因子
(GALF)、ゴッシポールおよび天然フラボノイド類、ならびにグルココルチコイド
ホルモンまたはそれらの類似体(11β-HSDに対してコルチゾールと競合可能であ
るもの)が含まれる。11β-HSD活性を調節する他の化合物には、胆汁酸塩、
コレステロールおよびステロイドホルモン(プレグネノロン(pregnenolone)およ
びプロゲステロンの両方が阻害するもの)が含まれる。予備的研究から、ある場
合には、エストラジオールが阻害剤として作用する可能性があることが示唆され
る。
阻害活性および作用部位は変動しうる。例えば、いくつかの研究から、プレグ
ネノロンおよびプロゲステロンは共に腎臓および卵巣の11β-HSD活性を強く阻害
することが示されている。また、エストラジオールはin vivoで肝臓の11β-HSD
活性を阻害すると思われるが、in vitroでは卵巣11β-HSD活性に対して強い効果
を持たないようである。
11β-HSDモジュレーターのレベルは、直接的に(例えば、該モジュレーターの
量または濃度を測定することにより)、または間接的に(例えば、該モジュレー
ターにより影響を受けることが多い11β-HSD活性のレベルにより)測定可能であ
る。
したがって、直接的方法としてはクロマトグラフィー(TLCまたはHPLC)を挙
げることができ、一方、間接的方法としては、サンプル中の任意のモジュレータ
ーの効果を、例えば11β-HSDおよび該酵素の基質(例えば3H-コルチゾール)を
添加し、該酵素の活性に及ぼす影響(もしそのような影響がある場合には)を調
べることによって測定することを挙げることができる。別法として、もしくはさ
らに、該サンプル(例えば、卵胞液)を、別の体液、培養細胞(例えば、ヒト顆
粒膜黄体細胞)または他の身体由来の物質[例えば、動物(例えばラット)のホ
モジナイズした器官、例えば腎臓]中に存在する11β-HSDと接触させることも可
能である。並行して行われる対照アッセイを行って、該サンプル中に既に(およ
び天然に)存在するあらゆる11β-HSDを見込んでおくことも必要であろう。本ア
ッセイで用いられる11β-HSDは、単離された(または精製された)供給源からの
ものであっても、別の(ヒトまたは動物の)身体または身体由来の体液中に存在
していてもよい。後者としては、例えば、(例えばヒトの)顆粒膜黄体細胞およ
び器官(例えば腎臓)のホモジネートが含まれる。本アッセイで用いられる11β
-HSDは必ずしもヒト由来のものでなくてもよく、例えば、齧歯類(例えばラット
)のような動物種由来のものであり得る。このことにより、
アッセイが、比較的安価で入手可能な形態(例えば、ラット腎臓ホモジネート)
の11β-HSDを用いて行えるようになる。
別のアッセイにおいて、アッセイされるサンプル(例えば、卵胞液)は、11β
-HSD供給源(例えば、顆粒膜黄体細胞)と共に採取することができる。次いでそ
れらを分離し、例えば、対照として該細胞を体液の不在下で数日間培養し、次い
で該体液と接触(再合体)させる。その後で、11β-HSDレベルに対する効果がア
ッセイできる。このタイプのアッセイは局所体液/細胞を用いるもので、サンプ
ル(卵胞液)中のモジュレーターの存在を試験するのに使用できる。11β-HSDモ
ジュレーターのレベルを測定するにあたって、該方法は、
(i)同一の雌性個体から採取した複数のサンプルの各々、および
(ii)それらのサンプルの少なくとも2つの混合物(またはプール)
について上記(a)における測定を繰り返すことを含み得る。次いで(i)と(ii)
とにおいて見出されるレベル間での比較を行うことができる。統計学的な(また
は有意な)差がある場合には、(i)の中の1つのサンプルが、サンプルのプール(
ii)について見出された結果に影響を及ぼすモジュレーターを含むことが示唆さ
れる。したがって、(ii)で見出されたレベルが(i)で測定された個々のサンプル
の平均より低い場合には、これは該サンプルの1つに11β-HSD阻害剤が存在する
ことを示す。したがって、この差は、サンプル中のモジュレーターのレベルの測
定値として使用可能であり、方程式:
[式中、Axは、n個のサンプルについて(i)で測定した、サンプルxのモジュレ
ーターの量(11β-HSD活性により直接的または間接的に測定したもの)であり、
Amは、(ii)で測定した(2〜n個の)サンプルの混合物(またはプール)中の
モジュレーターのレベルである。]
から容易に算出される。この場合、各サンプルは、好ましくは異なる卵胞(もし
くは卵母細胞の周囲)から採取し、卵胞液および/または顆粒膜細胞を含み得る
。
したがって、明らかに、Δの正の値は(サンプルの1つに11β-HSDの)阻害剤
が存在することを示し、逆に、負の値であれはアゴニストの存在が示唆される。
つまり、Δの大きさは、モジュレーターの存在量についての指標を付与し、実際
に、該モジュレーターの濃度に正比例するであろう。このように、Δの正の値は
、妊娠の大きな可能性を示す。したがって、本発明が、(例えば、妊娠の達成の
見込みまたは可能性の予測において)11β-HSDモジュレーターの測定レベルにつ
いて言及する場合には、Δを算出すること、およびその値を予測または臨床的評
価の基準として用いることを包含する。
さらに、上記(a)における測定は、(例えば、制御された卵巣の過刺激サイ
クルの)異なる時期に採取して、何らかの差が認められた2つ以上の生物学的サ
ンプルについて行うことが可能である。さらに、該生物学的サンプルは、異なる
サイクルの同じ(または同じような)時期に個体から採取することも可能である
。注目すべきことは、卵母細胞採取のための準備を受ける女性には月経も排卵も
ないので、本明細書では、制御された卵巣の過刺激サイクル(controlled ovaria
n hyberstimulation cycle)について言及されていることである。
したがって、Δの増加(または減少)はモジュレーターの量(または効果)の
漸進的な変化を示し、IVFがうまくいくか否かについての指標を付与し得る。例
えば、サンプルは毎日連続して採取することが可能であり、11β-HSD活性が次第
に減少することは、(変化なし、または上昇とは反対に)妊娠のチャンスが高い
ことを示す。
次に、11β-HSD活性のレベルはまた、直接的または間接的に測定可能である。
すなわち、11β-HSDのレベルは、(タンパク質の)量として、もしくはその活性
に換算して測定され得る。直接的な方法としては、11β-HSD活性のレベルを測定
するための酵素アッセィが含まれる。該酵素アッセイは、サンプルを基質(例え
ば、3H-コルチゾール)と接触させ、酵素による該基質の(3H-コルチゾンへの
)変換率を測定することを含む。3H-コルチゾールと3H-コルチゾンとは、薄層
クロマトグラフィーにより分離し、次いで定量することができる。これにより、
酵素活性の直接的測定値が得られ、この理由によりこのアッセイは好ましい。典
型的なアッセイにおいて、約100nMの濃度の3H-コルチゾールが使用されるが、1
0nM〜1000nMまたはそれ以上の濃度範囲が使用可能である。
11β-HSD活性測定の間接的な方法には、サンプル中のコルチゾールおよびコ
ルチゾンのレベルを測定し、酵素(またはモジュレーター)活性の間接的測定値
としてそれら2つの間の比率を求めることが含まれる。そのような場合、コルチ
ゾールに対してコルチゾンのレベルが高くなる程、該酵素の活性も高くなる(も
しくは、阻害剤のレベルが低くなる)。コルチゾールおよびコルチゾンのレベル
は、それら自体を公知の方法(例えば、TLC/HPLCによりコルチゾールおよびコ
ルチゾンが分離されているイムノアッセイ法)により測定することができる。コ
ルチゾールのアッセイのためのキットは市販されている34。
別法として、11β-HSDレベルは、イムノアッセイ、もしくは類似の(例えば競
合的)リガンド結合法により測定できる。これは酵素の量の指標をもたらし、そ
の指標は酵素活性と(そして、そこからモジュレーター活性と)相関する。例え
ば、該酵素に対する結合能を有するリガンド(または抗体)は、RIAやELISAのよ
うなイムノアッセイ法において使用可能であろう。特定のアナライトに高い親和
性で結合するリガンドを決定および取得するための方法も当業界において利用可
能である35。さらに、11β-HSDタンパク質またはそのmRNAのレベルはモジュ
レーター活性の尺度として使用できる。その理由は、幾つかのモジュレーター(
例えば、エストラジオール)が、mRNA転写または翻訳のレベルにおいてそれ
らの効果を発揮するからである。
11β-HSD酵素の発現は、モノクローナル抗体を用いた免疫細胞化学によっても
測定できる。そのような技術からは11β-HSDの存在量の測定値が得られ、その値
は酵素活性と相関し得る。
11β-HSD(およびそのモジュレーター)のレベルの測定については本明細書中
で言及されているが、上記から、これも上記の間接的測定方法を含むことが理解
されよう。
モジュレーター(または11β-HSDの活性)のレベルが測定されたら、その結果
を用いて、IVF処置を受ける女性患者における妊娠の成功の達成の可能性を予測
または評価することができる。サンプル中の11β-HSD活性のレベルは、該モジュ
レーターにより直接影響を受ける。したがって、11β-HSD活性は、アゴニスト(
またはアンタゴニスト/阻害剤)のレベルに比例(または反比例)し、かくして
該モジュレーターのレベルの測定値は11β-HSD活性のレベルと再度相関
し得る(つまり、該レベルの指標を与え得る)。従来の研究では、11β-HSD活性
レベルは、4時間当たリタンパク質1mgにつきコルチゾンに変換されたコルチゾ
ールの量により測定されており、酵素活性の直接的な測定値を得ていた。約10pm
ol/mg/4時間未満の酵素活性を有する被験体は、胚の移植後65%を上回る妊娠率
を有していた。これに対して、15〜111pmol/mg/4時間の範囲の酵素活性を有す
る被験体は、彼らの卵母細胞の受精が明らかにうまくいったとしても、妊娠しな
かった37。したがって、(11β-HSD)モジュレーターのレベルは、妊娠のチャン
ス(特に、IVFの際の妊娠の可能性)を予測するのに用いることができる。
最近の研究では、11β-HSD活性の「カットオフ(cut-off)」レベル(このカッ
トオフレベルより高いレベルでは、患者は妊娠せず、これより低いレベルでは、
患者は著しく向上した妊娠成功の可能性を有する)が測定されたが、その値は統
計学的指標であり、他の測定値および閾値が使用可能であることは、当業者であ
れば理解されよう。したがって、対応する11β-HSDモジュレーターの閾値レベル
も、その同じ目的を達成し、同じ目的のために用い得る。本発明の実施において
、アッセイの一致性を達成することが最も重要であり、そのため、個々の医師(
またはIVFチーム)はそれぞれ、独自のアッセイ法を確立し、独自の「カットオ
フ」レベルを決定することができる。これは、まず最初に、先の患者から得られ
たサンプルに対して歴史的実験を行うことによって確立できるだろう。
したがって、10pmol/mg/4時間の11β-HSD活性のレベル(上記のようにして測
定)は、過去において適切な限界として用いられてきた尺度を表し、医師が適切
であると確認した場合には、本発明の実施における閾値としても使用可能である
。しかし、11β-HSD活性(またはモジュレーター)のレベルを、上記の他の方法
のいずれかで測定した場合には、その結果と他の方法の結果との関係を決定する
ために、そして直接比較するために、通常の方法を用いて、本アッセイ法を用い
た対照(control)を実施することが望ましい。
モジュレーター(11β-HSD活性)のレベルが測定されたら、該レベルを用いて
、患者におけるIVFによる妊娠の成功の可能性を評価することができる。例えば
、本発明は、既に卵母細胞が採取され、体外受精され、移植されている患者から
のサンプルに対して使用することが可能である。一般に、妊娠の達成に失敗し
た場合には、受精した卵子をさらに移植することができるように多数の卵子が採
取され受精される。本発明の方法を行うことにより、妊娠が達成されるか否か、
さらなる保存(受精)卵母細胞の移植が有効である可能性があるのか否か、を予
測することが可能となる。そのような患者におけるモジュレーター(または11β
-HSD活性)のレベルが、妊娠が成功する場合のレベルを著しく上回っている場合
には、先に移植して、そのモジュレーター(または11β-HSD活性)のデータが利
用できる卵母細胞と同時に採取および受精した保存卵母細胞の移植をさらに試み
ないですみ、時間や費用の節約になり、また個体のストレスを低減させるだろう
。
本発明の方法は、採取した卵母細胞の移植の前、受精の前、もしくはそのよう
な卵母細胞の採取前でも行うことが可能である。そのような場合、上記の方法の
結果により、医師(またはIVFクリニック)は最初の移植を試みるか否かを決定
できる。
したがって、本発明の第2の態様は、雌性個体におけるIVFの成果を予測する
方法であって、
(a)該個体から1つ以上の生物学的サンプルを採取もしくは取得する工程、
(b)該サンプル中の11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(11β-HS
D)のモジュレーターのレベルを測定する工程、そして
(c)測定した11β-HSDモジュレーターのレベルから、該個体のIVFによる妊
娠の達成の見込みまたは可能性を予測する工程
を含んでなる上記方法を提供する。
好適な生物学的サンプルとしては、上記第1の態様において記載したものが含
まれる。上記で述べたように、2つ以上のサンプル(必ずしも同じタイプのもの
でなくてもよいが、通常は同じタイプのものである)を採取することができる。
次いで、各サンプルおよびサンプルの混合物(またはプール)について上記(b
)の測定を行う。各サンプルは、好ましくは同一の雌に存在する異なる卵胞から
採取する。
本発明のこの実施形態は、IVFプログラムの恩恵を受けそうな個体を選別する
のに使用できる。一旦個体を選択したら、IVF法の初期の間に11β-HSDモジュ
レーターについてのアッセイを繰り返すことにより、IVF法の際の該個体の適性
を確認することが望ましい。
したがって、第3の態様において、本発明は、個体におけるIVF処置の成功の
可能性を確立するための方法であって、
(a1)雌性個体から生物学的サンプルと共に1つ以上の卵母細胞を取り
出す工程、
(a2)in vitroにて卵母細胞を受精させる工程、
(b)該サンプル中の11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(11
β-HSD)のモジュレーターのレベルを測定する工程、そして
(c)測定した11β-HSDモジュレーターのレベルから、該個体におけるIV
Fによる妊娠を達成する見込みまたは可能性を予測する工程
を含んでなる上記方法を包含する。
第4の態様において、本発明は、
(a)雌性個体から生物学的サンプルと共に1つ以上の卵母細胞を取り出
す工程、
(b)該サンプル中の11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(11
β-HSD)モジュレーターのレベルを測定する工程、
(c1)測定した11β-HSDのレベルから、該個体におけるIVFによる妊娠
を達成する見込みまたは可能性を予測する工程、そして
(c2)11β-HSDモジュレーターレベルが予め決定した閾値よりも高いか
または低い個体からの卵母細胞を受精させる工程
を含んでなる方法に関する。
場合により、本発明のこれらの実施態様は、さらに、
(d)該雌性個体に受精卵を移植する工程
を含む。
好ましい生物学的サンプルは、顆粒膜黄体細胞および/または卵胞液を含む。
これらの実施態様は共に、適切なレベルの11β-HSDを卵母細胞採取に先立って
既にアッセイされた個体に対して実施することが望ましいが、それらは、そのよ
うな最初のスクリーニングを受けていない患者に対して実施することも可能で
ある。
本発明は、IVFクリニックに通わされている、またはIVFクリニックに通院して
いる潜在的IVFレシピエントの大規模なスクリーニングプログラムで使用される
。この(第5の)態様において、本発明は、
(a)IVFによる不妊治療を必要とする雌性個体の集団を、11β-HSDのモ
ジュレーターのレベルについてスクリーニングする工程、そして
(b)該集団から、IVF処置のために予め決定した閾値よりも高いまたは
低い11β-HSDモジュレーターレベルを有する個体を選択する工程
を含んでなる。
特に、卵巣の周囲、特に顆粒膜黄体細胞におけるモジュレーターレベルが予め
決定した閾値よりも高い(該モジュレーターが阻害剤である場合)または低い(
該モジュレーターがアゴニストである場合)患者が、IVF処置のレシピエントと
して好ましい。このことは、下記表1から確認できる。
したがって、モジュレーターのタイプならびにその量および/または効果は、
妊娠の可能性の予測値(predictors)として用いることができ、例えば、低い11β
-HSD活性を有する雌における阻害剤の存在は、IVF成功の高いチャンスを示唆す
る。モジュレーターのレベルが1サイクルだけで測定される場合、選択(または
予測成果)は、そのサイクルの結果に基づいて可能であるに過ぎない。しかし、
数サイクルにわたる測定からは、IVFの成果のさらに総合的な指標が得られる。
本発明を用いることにより、IVFクリニックがレシピエント源をより効率的に
割り当てることができるようになり、かくして、回収した卵母細胞の周囲に高レ
ベルの11β-HSD阻害剤(または低レベルのアゴニスト)を有している患者(した
がって、IVF処置により妊娠する可能性のない患者)は処置されない。
雌性個体における11β-HSDモジュレーターのレベルを一定期間にわたってモ
ニターして、IVFの成功に好適な変化が起こるか否かを確立することが可能であ
る。個々の患者における卵巣11β-HSDのレベルは、連続的な制御された卵巣の過
刺激サイクルの間(ならびに、同じサイクルにおける卵胞間)で変動する可能性
がある。したがって、雌を本発明にしたがってモニターし、好適な(すなわち、
低い)レベルの11β-HSD(例えば、高レベルの11β-HSD阻害剤または低レベルの
アゴニスト)を含む環境に由来する卵母細胞を得ることができる。
高レベルの11β-HSD阻害剤(または低レベルのアゴニスト)が妊娠のチャンス
を増加させ得ることは明らかなので、移植の成功の可能性を向上させるために、
11β-HSDのレベルに影響を与えるような試みを行ってもよい。
これを達成するために、本発明は、第6の態様において、
(a)雌性個体から、1つ以上の生物学的サンプルを得るか採取する工程
、そして
(b)該サンプル中の11β-HSD(存在するならば)のモジュレーターの正
体(identity)を決定する工程
を含んでなる同定方法を提供する。
同定には、TLC、HPLC、NMR、IR、質量分析法などの当業界で周知の1つ以上の
技術またはそれらの組合せが使用可能である。
さらに、第7の態様において、本発明は、妊娠の可能性を高める方法であって
、
(a)雌性個体から得られた1つ以上の生物学的サンプル中の11β-HSDの
阻害剤またはアゴニストの正体を決定する工程、そして
(b)該個体に、ある量の該阻害剤、またはある量の、該アゴニストの活
性を妨害、抑制または阻害する化合物(妊娠促進性化合物)を投与する工程を含
んでなる上記方法に関する。これにより、該量は、11β-HSDの活性のレベルを低
減しうる。
逆に、本発明の第8の態様において、本発明は、避妊(または妊娠の可能性を
低減する)方法であって、
(a)雌性個体から得られた1つ以上のサンプル中の11β-HSDの阻害剤ま
たはアゴニストの正体を決定する工程、そして
(b)該個体に、ある量のアゴニスト、またはある量の、該阻害剤の活性
を妨害、抑制または阻害する化合物(避妊化合物)を投与する工程
を含んでなる上記方法に関する。該量は、11β-HSD活性のレベルが総合的に増加
するような量である。
上記(b)において投与される阻害剤またはアゴニストは、上記(a)におい
て同定された(単離および/または精製後の)阻害剤またはアゴニスト、もしく
は別の供給源からである以外はそれらに同一の物質のいずれかであり得る。該阻
害剤または該アゴニストは、無菌状態で、および/または他の物質(例えば賦形
剤)と共に投与されるので、後者の物質が好ましい。好ましくは、投与する阻害
剤は、市販の供給源(例えば、Sigma-Aldrich,Poole,Dorset,UK)から採取さ
れたものである。
したがって、本発明の第9の態様は、IVFにおける妊娠の可能性を高めるため
の薬剤を製造するための11β-HSD阻害剤または妊娠促進化合物の使用に関する。
該阻害剤がプロゲステロンである場合、(この薬剤は避妊薬として経口投与され
るので)プロゲステロンの生理学的レベルと同じまたはそれより低い用量で与え
るべきである。
本発明の第10の態様は、避妊薬の製造のための11β-HSDアゴニストまたは(上
記第8の態様で定義した)避妊化合物の使用に関する。
本発明の第11の態様は、可能性のある候補治療物質のスクリーニング法に関す
る。該方法は、妊娠促進化合物または避妊薬の同定を含み、
(a)ある量の11β-HSDと候補物質とを接触させる工程、そして
(b)11β-HSD活性の調節に及ぼす該物質の効果(あるとしたら)を測定
する工程
を含んでなり、活性の阻害(または低下)は妊娠促進特性の可能性を示し、一方
、活性の上昇は避妊活性の可能性を示す。
以下で述べるように、可能性のある11β-HSD阻害剤としては、11β-HSDに特
異的である(そのため、免疫中和により活性を低下させ得る)抗体(またはそれ
らの断片)を含む。
したがって、雌は、卵母細胞を採取する前に、in vivoにて11β-HSD活性を
調節またはブロックするように処置することが可能である。例えば、11β-HSDに
対する抗体または阻害剤は、酵素活性を阻害する目的で、個体に投与または導入
することが可能であろう。これは、抗体療法を用いた腫瘍または他の症状の治療
方法に類似している。本発明の目的では、「抗体」なる用語は、そうでないと特
定しない以外は、腫瘍標的抗原に対する結合活性を保持する全抗体の断片を含む
。そのような断片には、Fv、F(ab')およびF(ab')2断片、ならびに一本鎖の
抗体が含まれる。さらに、該抗体およびそれらの断片は、当業界で公知のような
ヒト化抗体であり得る36。
本発明で用いるための11β-HSDに対する抗体は、モノクローナルまたはポリク
ローナル抗体であり得る。モノクローナル抗体は、慣用のハイブリドーマ法によ
り、免疫原として該タンパク質またはそれらのペプチド断片を用いて調製可能で
ある。ポリクローナル抗体も慣用の手段により調製可能であり、そのような手段
は、宿主動物(例えば、ラットまたはウサギ)に本発明のペプチドを接種し、免
疫血清を回収することを含む。
11β-HSDに対してコルチゾールと競合する他の糖質コルチコイドホルモンまた
はその類似体を用いて11β-HSDの活性を阻害することも可能である。11β-HSDの
好適な阻害剤は既に述べてある(4頁参照)。そのようなホルモンまたはそれら
の類似体はスクリーニング法によって同定可能であり、該スクリーニング法では
、候補のホルモンまたはその類似体をアッセイして、それらが11β-HSDに対して3
H-コルチゾールと競合し、そのために該酵素の活性を阻害し得るか否かを決定
する。次いで、候補のホルモンまたはそれらの類似体は、有効量のホルモンまた
はその類似体を、IVF処置を受けることになっている、IVF-ETの後に妊娠を達成
するのに好ましくない11β-HSDレベルを有することが判明している雌被験体に投
与することにより、(例えば、in vivoでの効率について)スクリーニングして
もよい。投与すべき阻害剤(ホルモンまたはその類似体)の量は、その活性およ
び患者の症状を考慮しながら、医師により決定される必要があるだろう。これは
、ホルモンについては何の困難もなく達成できる。何故ならば、そのようなホル
モンは、受胎に関わるクリニックにおける臨床的プラクティスにおいてしばしば
用いられているからである。実際、投与される阻害剤は、おそらく
は天然に存在するものであり、レシピエントの雌に既に存在している可能性があ
る。その阻害剤は、任意の適切な経路で(例えば、経口で、または注射により)
投与される。投与に際して、該阻害剤は、製剤学上許容可能な担体または希釈剤
を用いて製剤化できる。
そのようにして、医師(またはIVFチーム)自身は、IVFを受けることを希望す
る個体において、IVFが成功するチャンスを高めるように11β-HSD活性のレベル
を調節することが可能となる。
11β-HSD阻害剤の使用により、採取した卵母細胞を受精させる前に酵素活性を
低下させるように該卵母細胞をin vitroにて処置することも可能になる。これは
、有効量のそのような阻害剤(例えば、上記のようなホルモンまたはその類似体
)を、卵母細胞およびそれを取り巻く組織(例えば、顆粒膜黄体細胞)を含有す
るサンプルと接触させて、該サンプル中の11β-HSDの活性を阻害することにより
達成し得る。該サンプルと該阻害剤とは、IVFのために典型的に用いられるよう
な無菌的条件下で接触させることも可能である。
11β-HSD阻害剤の使用により、採取した卵母細胞を受精させる前に酵素活性を
低下させるように該卵母細胞をin vitroにて処置することも可能になる。これは
、有効量のそのような阻害剤(例えば、上記のようなホルモンまたはその類似体
)を、卵母細胞およびそれを取り巻く組織(例えば、顆粒膜黄体細胞)を含有す
るサンプルと接触させて、該サンプル中の11β-HSDの活性を阻害することにより
達成し得る。該サンプルと該阻害剤とは、IVFのために典型的に用いられるよう
な無菌的条件下で接触させることも可能である。
本発明の第12の態様において、妊娠の見込みまたは可能性を高める方法であっ
て、
(a)場合により、卵母細胞を雌性個体から採取する工程、そして
(b)採取した卵母細胞を11β-HSDの阻害剤または妊娠促進化合物を用い
て処理する工程
を含んでなる上記方法が提供される。
好ましくは、該方法は、さらに
(c)上記(b)での処理の前または後で、該卵母細胞を受精させる工程
、
そして
(d)受精した卵母細胞を雌性個体に移植する工程
を含む。
本発明は、さらに、本発明のアッセイを行うためのキットを提供する。その
ようなキットは、11β-HSD活性のモジュレーターを検出するのに有用な少なくと
も1つの試薬を含む。(モジュレーター濃度の直接的検出または間接的検出のた
めの)好適な試薬には、場合により標識と結合させた11β-HSDモジュレーターに
対する抗体、または他の適切なリガンド結合性試薬が含まれる。典型的な標識は
イムノアッセイ法で一般に用いられるものであり、例えば、西洋ワサビペルオキ
シダーゼが挙げられる。あるいは、該キットは、コルチゾールおよび/またはコ
ルチゾンに対する抗体、または他の適切なリガンド結合性試薬を含有し得る。こ
のキットは、コルチゾール/コルチゾンの比率または[3H]-コルチゾールから
[3H]-コルチゾンへの放射分析による変換率の測定のような(11β-HSD活性の
レベルを測定するための)間接的アッセイに好適であり得る。該キットは、さら
に標準物質(例えば、予め決定した量のコルチゾン、コルチゾールおよび/また
は11β-HSD)を含むことが可能であり、それらのいずれかまたは全部は検出可能
な標識で標識化し得る。該キットは、さらに酵素補因子を含有することが可能で
あり、そのようなものとしては、例えば、NADHまたはNADPHにそれぞれ転換され
るNADまたはNADPが挙げられる。
該キットは、還元型NAD(P)Hの再酸化のための比色物質として役立つ酸化テト
ラゾリウム塩のような薬剤を含有し得る。指示物質の塩の(その還元型にとって
)適切な波長における光学密度の変化は、NAD(P)+の補因子の還元速度に正比例
し、ひいては、11β-HSD活性に正比例し、したがって、例えばサンプル中の11β
-HSD阻害剤の濃度に反比例するであろう。
あるいは、もしくはさらに、該キットは、比較のための標準物質として11β-H
SDモジュレーター(例えば、グリシルレチン酸のような阻害剤)を含有し得る。
これは、1つの既知の濃度(または量)で、もしくは幾つかの濃度(または量)
で存在させて、比較のための検量曲線を誘導してもよい。
本発明はさらに、雌性個体の診断、予測および/またはIVF処置の方法で用
いるための(例えばサンプル中の)11β-HSDのモジュレーターの同定または該モ
ジュレーターのレベルの測定のためのキットを提供する。
本発明はさらに、IVFの処置またはIVFに対する適性の診断において使用するた
めの診断キットの製造のための、上記の抗体、その断片および変異体、ならびに
他の好適なリガンド結合性試薬の使用を包含するものであり、これらは場合によ
り検出可能な標識で標識化されていてもよい。
11β-HSD活性のレベルも、得られたサンプル中に存在する11β-HSD mRNA
のレベルを分析することにより、アッセイ可能である。これを達成するために、
11β-HSD cDNA30またはその断片をプローブとして用いて、卵母細胞の周辺
での11β-HSDのレベルを測定することが可能である。そのようなプローブも、上
記抗体について記載したのと類似する様式で上記キットに組み込みことが可能で
あり、対照の核酸を含み得る。11β-HSD遺伝子用のプローブは、例えば核酸増幅
アッセイで使用するためのプローブとして使用するために設計してもよい。
本発明のある態様の好ましい特性は、必要な変更を加えれば他の態様にも適用
可能である。
本発明を説明し添付の図面について言及するために、以下の(非限定的な)実
施例を提供する。
図1は、12人の異なる個体からの個々の卵胞における11β-HSD活性の変化を示
す、患者番号に対する11β-HSD活性のグラフである。星印(*)は、所与の患者
での卵胞間での有意な変化(p<0.05、ANOVAによる)を示す。(4時間当たり
のタンパク質1mgにつき生成されたコルチゾン10pmolにおける点線は、非特異的
アッセイ検出限界を示す。)
図2は、個々の卵胞における卵巣11β-HSD活性と卵母細胞成熟度との関係を示
す、卵母細胞の成熟度に対する11β-HSD活性のグラフである。(このデータは、
9人の異なる個体からの34の卵胞に関するものである。10pmol形成コルチゾン/
mgタンパク質・4時間における点線は、非特異的アッセイ検出限界を示す。)
図3は、細胞の多卵胞プールの11β-HSD活性(影を付けた垂直の棒)と、構成
的(constituent)な個々の卵胞の11β-HSD活性(白丸)および3人の異なる
個体からの後者の個々の値の相加平均(水平な線)との関係を示す、11β-HSD活
性の棒グラフである(*多卵胞プール値対個々の卵胞についての対応する相加平
均についてはp<0.05である;対応のない(unpaired)t-検定。10pmol形成コルチ
ゾン/mgタンパク質・4時間における点線は、非特異的アッセイ検出限界を示す
。)実施例1
全ての吸引された卵胞からそれぞれの患者についてプールされた、ヒト顆粒膜
黄体細胞中の11β-HSDによるコルチゾールからコリチゾンへの検出可能な代謝は
、体外受精および胚移植により受胎することができないことと関連することが既
に示されている13。ここに詳述される実験の目的は、(1)個々の卵胞から得ら
れた顆粒膜黄体細胞の11β-HSD活性の変化、(2)プールされた顆粒膜黄体細胞
の11β-HSD活性が所定の患者について個々の卵胞の11β-HSD活性を反映するか否
かを評価することであった。
更に詳しくは、卵巣11β-HSD活性とIVF-ETによる受胎の可能性との間の既知の
逆の関係13に鑑みて、一つの目的は所定の患者の異なる個々の卵胞からの顆粒膜
黄体細胞間の11β-HSD活性の変化を評価し、そして卵胞11β-HSD活性と卵母細胞
成熟度スコアーとの間の関係を評価することであった。加えて、細胞の多卵胞プ
ールの11β-HSD活性が、そのプールが由来する個々の卵胞中の活性の相加平均に
等しいか否かを評価した。また、数人の患者から合わされた顆粒膜黄体細胞のプ
ールの11β-HSD活性がそれぞれ個々の患者からの多卵胞プール中の活性の平均と
は有意に異なるか否かを測定した。
ヒト顆粒膜黄体細胞の調製および培養
顆粒膜細胞を既に記載されたような制御された卵巣過刺激8後のIVF-ETによる
補助受胎を受けている患者から得た。卵胞吸引液を貯蔵し(3日間まで)、4℃
で輸送し、細胞を調製した。顆粒膜細胞を60%(v/v)Percoll(Sigma Chemical Co
.,Poole,Dorset,UK)で卵胞吸引液から分離し、ダルベッコ改良リン酸緩衝溶
液33(Life Technologies Ltd.,Paisley,Scotland,UK)中で繰り返して洗浄し
た。細胞を血球計数器によりカウントし、生存率を0.4%(v/v)トリパンブルー色
素の排除により評価した。
最初の一連の実験(n=12患者)では、異なる個々の卵胞からの細胞を別々のPerc
oll調製物で分離し、10%(v/v)仔ウシ胎児血清、2ミリmol/l L-グルタミン、87
000IU/lペニシリン、および87mg/lストレプトマイシン(Life Technologies Ltd.
,UK)を補給した混合培地(1:1のダルベッコ改良イーグル培地:Ham's F-12、Lif
e Technologies Ltd.,UK)中で50,000生存細胞/mlの密度に希釈し
た。次に3種の1ml容積を24ウェル培養プレートに接種して、それぞれ個々の卵
胞中の11β-HSD活性について三重反復アッセイに供した。これらの12人の患者の
うちの3人の場合、それぞれの卵胞11β-HSD活性の三重反復アッセイについて≧
150,000生存細胞を配分した後、過剰の顆粒膜細胞が残った。これらの三つの場
合では、それぞれ個々の卵胞からの等しい数の細胞を合わせると細胞の多卵胞プ
ールを生じ、そのプールは50,000生存細胞/mlの密度で≧150,000生存細胞を含ん
でいた。次にこれらのプールされた細胞を、その多卵胞プール細胞の11β-HSD活
性に関する三重反復アッセイの24ウェルプレートに、3種の各々について1ml容
積ずつプレーティングした。
実施例2
第二の一連の実験では、所定の患者から(すなわち、数種の異なる卵胞から)
吸引した全ての卵胞細胞を、単一Percoll調製物での顆粒膜細胞の分離の前に合
わせた以外は、実施例1の操作に従った。その患者から得られた顆粒膜細胞の合
計数をカウントし、150,000生存細胞をその多卵胞プール中の11β-HSD活性の三
重反復アッセイについて配分した。次に残っている細胞を異なる患者の多卵胞プ
ールからの細胞と合わせて単一多患者細胞プールを形成した(この場合、多患者
プールは、50,000生存細胞/mlの密度で合計150,000を越える生存細胞に等しい数
のそれぞれの患者からの細胞を含んでいた)。
全ての実験では、細胞を空気中5%(v/v)CO2の雰囲気で37℃で3日間培養し、
培養の2日目に培地を1回交換した。
11β-HSD活性のラジオメトリック変換アッセイ
血清補給培養液中で3日間の前培養を行った後に、11β-HSD活性を既に記載さ
れたようなラジオメトリックによる変換アッセイ12,13,15,37により測定した。
簡単に言えば、細胞を培養の4日目に4時間にわたって100n mol/l[1,2,6,7-3H
]‐コルチゾール(比活性=10μCi/n mol)(Amersham International plc,Ayle
sbury,Bucks.,UK)を含む無血清培地中でインキュベートし、その後ステロイド
をクロロホルムで抽出し、薄層クロマトグラフィー(TLC)により分割した。
11β-HSD活性を、基質の比活性、ウェル当たりの細胞タンパク質の量および[3H
]‐コルチゾンの非特異的生成速度について修正した[3H]‐コルチゾールから
[3H]‐コルチゾンへの変換の速度として計算した(液体シンチレーション計測
により定量化された)。このアッセイは100μgのウシ血清アルブミン(BSA)(Si
gma,UK)の存在下のコルチゾールの酸化の速度に等しい4時間当たりの生成され
た10p molのコルチゾン/mgタンパク質の有限検出限界を有することがわかった。
11β-HSD活性の全ての測定(すなわち、個々の卵胞およびプールされた細胞の両
方についての測定)について、三重反復測定に関するアッセイ内の変動係数(CV)
は10.87%(36の独立した評価の平均)で、アッセイ間CVは12.11%(n=12)
であった。
これらの条件下で、このラジオメトリック変換アッセイは、卵胞液中で典型的
に測定された濃度(すなわち、200nM)に近似することが知られている濃度(100nM)
のコルチゾールの存在下で培養した無傷の顆粒膜黄体細胞による[3H]‐コルチ
ゾールから[3H]‐コルチゾンへの正味の変換の測定値を与える。6,7このアッ
セイは11β-HSD酵素のイソ型のデヒドロゲナーゼ活性を区別するように設計され
なかったし、またそれはコルチゾンへのコルチゾール酸化の総速度を測定しない
。何となれば、生化学的反応の場合と同様、酵素触媒反応の真の速度は、相反す
る反応、すなわち、一種以上の11β-HSDイソ型に起因する11-ケトステロイド還
元酵素(11KSR)活性により触媒されるコルチゾンからコルチゾールへの還元によ
り低下するからである(結論を参照のこと)。
卵母細胞成熟度の評価
卵母細胞成熟度を、既に記載されたような解剖立体顕微鏡を使って採取時点で
卵母細胞の観察により評価した8。卵母細胞を以下のように成熟度についてスコ
アーをつけた。
1.0=未熟卵母細胞(すなわち、卵核胞崩壊(GVBD)の証拠のない濃密/緊密卵
丘塊);
2.0〜2.5=部分成熟卵母細胞(すなわち、GVBDの証拠のある部分膨張した卵丘
塊);
3.0=排卵前の卵母細胞(すなわち、冠のサンバースト外観およびGVBDの証拠
のある膨張した卵丘塊);および
3.5〜4.0=後成熟/黄体化卵母細胞(すなわち、拡散/分散した卵丘細胞およ
び卵母細胞退化の証拠)
データの統計学的分析
それぞれ三重反復でアッセイした異なる卵胞の11β-HSD活性を分散の一方向分
析(ANOVA)にかけ、これらの値と卵母細胞成熟度の相当するスコアーの比較をS
pearmanのランク相関関係分析により行った。3人の別々の患者について、細胞
の多卵胞プールの11β-HSD活性を、相当する構成性の個々の卵胞の活性の相加平
均と、対応のないt−検定により比較した。同様に、細胞の2つの多患者プール
の11β-HSD活性を、構成性の多卵胞プールの活性のそれぞれの相加平均と、t−
検定により比較した。
個々の卵胞および多患者プールに関するデータはそれぞれの場合に正規分布に
一致しなかったが、多卵胞プールおよび多患者プールの測定値をそれぞれ適当な
個々の卵胞/患者値と比較しようとする決定は、それぞれの卵胞/患者からの等
しい数の細胞がそれぞれの場合にプールされた細胞を誘導するために使用された
ことに基いて正当化された。それ故、多卵胞/多患者のプールされた細胞に関す
る予想11β-HSD活性を計算したところ、後者のデータの頻度分布とは無関係な、
適当な個々の値の単純な相加平均であった。全ての場合に、三重反復測定に関す
る変動係数(C.V.)はプールされた細胞アッセイおよび個々の卵胞/患者測定値
の間で有意に異ならなかった(ANOVA、P>0.05)。更に、卵胞間および患者間の両
方の11β-HSD活性の変動は相当するプールされた細胞に関する三重反復測定の変
動よりも有意に大きいことが確認された(ANOVA、P<0.01)。全ての場合に、両側
検定における5%未満のP値を統計上有意と認めた。
結果
体外受精および胚移植(IVF-ET)の補助受胎プロトコルのために卵母細胞回収を
受けている女性の卵胞吸引液から回収した培養ヒト顆粒膜黄体細胞中の11β-HSD
の活性を測定した。このような細胞中では、11β-HSD活性はコルチゾールの抗性
腺刺激作用に対する感受性をモジュレートする12。11β-HSD活性を、その患者か
ら吸引された卵胞の全てから誘導された顆粒膜細胞のプール中でそれぞれの患者
について測定した。このような多卵胞プール中では、11β-HSD活性は異なる患者
間で著しく変化することがわかり、実際には試験した患者の約40%について11β
-HSDアッセイの検出限界を下回った12,13,15。続いて、顆粒膜黄体細胞が検出可
能な11β-HSD活性を発現する全ての患者は、IVF-ETにより受胎することができな
いことがわかったが、一方、「11β-HSD陰性」顆粒膜黄体細胞を有する患者に関
する臨床妊娠率は63%であった13,15。
個々の卵胞中の11β-HSD活性
所定の患者からの異なる個々の卵胞(患者当たりn=3-16卵胞)の11β-HSD活性
は試験した12人の患者のそれぞれについて有意に変化することがわかった(P<0.
05、ANOVA)(図1)。しかしながら、卵母細胞成熟度スコアーが照合された9人
の患者のそれぞれでは、個々の卵胞の11β-HSD活性は閉鎖された卵母細胞の成熟
度と相関関係がなかったし、また9人の患者からの合計34の卵胞について卵胞11
β-HSD活性と卵母細胞成熟度スコアーの間に有意な関係がなかった(Spearmanの
ランク相関関係:r=-0.178、P>0.05;図2)。
個々の卵胞中の11β-HSD活性と顆粒膜黄体細胞の多卵胞プールの11β-HSD活性
との比較
細胞数に関する制限のために、この第二の実験デザインは3人の異なる患者か
らの細胞(患者当たりn=8〜9卵胞)について実施することができた。それぞれの
場合に、細胞の多卵胞プールの11β-HSD活性は、適当な個々の卵胞中のその活性
の相当する相加平均よりも有意に低いことがわかった(図3)。実際に、これら
の三つの実験のうちの二つでは、細胞の多卵胞プールの活性は、別々にアッセイ
された場合に高い11β-HSD活性を有することがわかった個々の卵胞からの細胞の
寄与にもかかわらず、11β-HSDアッセイの検出限界よりも下であった(図3)。
細胞の個々の多卵胞プール中の11β-HSD活性と顆粒膜黄体細胞の多患者プール
の11β-HSD活性との比較
二つの独立した実験では、顆粒膜黄体細胞の多患者プールの11β-HSD活性はそ
れぞれの患者からの細胞の適当な多卵胞プール中の活性の相当する相加平均より
も有意に低かった(表2)。
表2は二つの独立した実験における各患者からの細胞の構成的多卵胞プールの
11β-HSD活性に対する細胞の多患者プールの11β-HSD活性(p molのコルチゾン
/mgタンパク質、4時間)の関係を示す(*多患者プール値vs個々の患者の多卵
胞プールに関する相当する相加平均についてP<0.05;t−検定)。
表2 結論
IVF用の卵母細胞の選択に関する主パラメーターは、卵丘−卵母細胞複合体(CO
C)の形態学的外観に基くスコアリング系により評価したときのそれらの成熟度
であった。卵巣11β-HSD活性の測定は所定の患者のIVF-ETの成果を評価するのに
更に客観的なパラメーターを与え得ることが最近提案された13,15。これらの実
施例では、顆粒膜黄体細胞の11β-HSD活性が所定の患者からの異なる卵胞中で著
しく変化し(検出不能から4時間当たり500p mol/mgタンパク質を越えるまで)
、11β-HSD活性はそれぞれの卵胞内に含まれる卵母細胞の成熟度とは無関係であ
った。
従来、卵巣11β-HSD活性は数種の異なる卵胞から吸引された顆粒膜黄体細胞の
全てから誘導された細胞のプール中でそれぞれの患者について測定されていた。
検出可能な卵巣11β-HSD活性による101サイクルのいずれもが臨床妊娠と関連し
なかったが、「11β-HSD陰性」細胞による71サイクルに関する臨床妊娠率は63%
であった13,15。ここに提示された知見は、プールされた顆粒膜黄体細胞の卵巣1
1β-HSD活性が個々の卵巣卵胞中の11β-HSD活性の単なる反映ではないことを示
す。プールされた細胞の酵素活性は個々の卵胞で測定された11β-HSD活性の平均
よりも一貫して低かった。実際に、3人の患者のうちの2人では、プールされた
細胞の活性は、高い酵素活性を有する個々の卵胞からの細胞の包含にもかかわら
ず、ラジオメトリック変換アッセイの検出限界以下に抑制された。それ故、ヒト
顆粒膜黄体細胞のプールは、構成的卵胞の全てが「11β-HSD陽性」である場合に
高い11β-HSD活性を発現することが提案される。逆に、一つ以上の卵胞が低い11
β-HSD活性を有する顆粒膜黄体細胞に寄与する場合、細胞の多卵胞プールの活性
はその他の構成的卵胞中の酵素活性に関係なく、低い/検出不能であろう。
低い11β-HSD活性を有する細胞の同時培養が異なる卵胞/患者からの細胞の高
い酵素活性を抑制するのに必要であるか否か、または低い11β-HSD活性を有する
細胞が近隣細胞の酵素活性を抑制することができる拡散可能な物質を有する、ま
たは生産し得るか否かは未だ確かめることができない。これらの知見は、低い11
β-HSD活性を有するヒト顆粒膜黄体細胞が、さもなくば適度〜高い11β-HSD活性
を示す細胞において糖質コルチコイド代謝を抑制するパラクリン作用をin vitro
で発揮することを単に示唆する。
腎臓の11β-HSD活性の調節の研究では、肝臓11β-HSDおよび5β−還元酵素の
両方の活性を抑制することができる化合物が尿中で同定されていた20。これらの
酵素の抑制はグリシレチン酸(それ自体でカンゾウの活性成分であるグリシルリ
ジン酸の主代謝産物17)の特徴であるので、この尿化合物は「グリシレチン酸様
活性」を有すると言われていた。これらの抑制特性の原因の一種以上の正確な尿
化合物を精製し、同定する試みにもかかわらず、この物質の正体は知られていな
いままであり、その化合物はグリシレチン酸様因子(GALF)と称され続けている。
GALFの分子の正体はわかりにくいと判明したが、GALFの排泄は妊娠で増加するこ
とが知られており20、これは妊娠関連高血圧の寄与原因であり得る26。
GALFの他に、胆汁酸塩4,25、コレステロール4、ラノステロール4および幾つか
のステロイドホルモン10,24が肝臓(低親和性、NADP+依存性、1型11β-HSD活性
)、遠位ネフロンおよび胎盤(高親和性、NAD+依存性、2型11β-HSD活性)の両
方で11β-HSD活性を調節することが示されていた。それ故、卵巣11β-HSD活性の
低レベルはin vitroでのヒト顆粒膜黄体細胞による性ステロイド(例えば、プロ
ゲステロンおよびエストラジオール)の増大された生産と関連している可能性が
あり、かつこの関係がここで報告された観察により示された卵巣11β-HSD活性の
パラクリン抑制の基礎を形成する可能性がある。実際に、培養されたヒト顆粒膜
黄体細胞中で、プレグネノロンおよびプロゲステロン(エストロンまたはエスト
ラジオールではない)が11β-HSD活性を抑制することができることが実証されて
いる31。
卵巣11β-HSDが少なくともin vitroでパラクリン(そしておそらく自己分泌)
抑制を受け易いかもしれないという徴候に鑑みて、ここに提示された知見は、IV
F-ETによる受胎の増大された可能性が卵巣11β-HSD活性の低レベルと関連するだ
けでなく、それぞれの患者について分析されたヒト顆粒膜黄体細胞の多卵胞プー
ル中の11β-HSD活性を抑制することができる一種以上の化合物の増大された生成
と関連するという可能性を提案する。この別の仮説は妊娠中の尿GALFの増大され
た排泄20と確かに一致するであろう。
現在まで、11β-HSDの2種のイソ型が同定されており、そのうちの最も特性決
定されたものは肝臓イソ型、11β-HSD1であり、これは補因子としてNADP(H)を優
先的に利用し、その11β-デヒドロゲナーゼ活性について超生理学的(supraphysi
ological)Kmを有し(コルチゾールに関するKm=17μM;コルチコステロ
ンに関するKm=約2μM)、その代わりに生理的濃度のコルチゾンをコルチゾー
ルに変換する11-ケトステロイド還元酵素(11KSR)として主として作用する(コル
チゾンに関するKm=140-272nM)9,17,19。対照的に、遠位ネフロンでは、糖質コ
ルチコイドがコルチゾールおよびコルチコステロンに対してかなり高い親和性(
それぞれ、Km=40nMおよび26nM)を有する11β-HSDの異なる腎臓イソ型により代
謝される。11β-HSD2と称される、このイソ型は高親和性11β-デヒドロゲナーゼ
として主として作用し、補因子としてNAD+に対する絶対的要求を示す24,21,11,3 2,28
。加えて、11β-HSD2は合成糖質コルチコイド、デキサメタゾンを代謝する
ことができ2,29、グリシレチン酸の誘導体によるだけでなく、11β-デヒドロゲ
ナーゼ作用の最終生成物(即ち、コルチゾンおよび11-デヒドロコルチコステロ
ン)による抑制を受け易い2,28。11β-HSD2は最近クローン化され、配列決定さ
れ1,2、ヒト卵巣を含む、腎臓以外の組織中で発現されることが示された。
ヒト顆粒膜黄体細胞中で発現された11β-HSDのこれらのイソ型を特性決定する
初期の試みでは、11β-HSDの少なくとも2種の異なるイソ型の同時発現を示唆す
る生化学的証拠が得られ、そのうちの一種は11β-HSD2について報告された親和
性14と同様のコルチゾールに対する高い親和性を有する。加えて、予備ノーザン
ブロットはヒト顆粒膜黄体細胞培養物中の11β-HSD1 mRNAの発現を実証し14
、ヒト顆粒膜黄体細胞中で作用する11β-HSDの一種より多いイソ型があるかもし
れないという考えを支持する。それ故、これら中の11β-HSD活性のアッセイに使
用される条件が卵胞液中で測定された濃度の典型的なコルチゾールの濃度(100nM
)で無傷細胞によるコルチゾールからコルチゾンの不活化の正味の速度を測定す
るように選択されたことを知ることが重要である6,7。コルチゾール代謝のこの
正味の速度は、11β-HSDのどのイソ型が所定の培養物中で優勢であるのか、およ
び11β-デヒドロゲナーゼと所定の培養物中で発現された11β-HSDのこれらのイ
ソ型の11KSR活性の間の相対的バランスに明らかに依存するであろう。実際に、
所定の卵胞または顆粒膜細胞のプール中の低い「11β-HSD活性」は、一種以上の
11β-HSDイソ型の11KSR活性が、11β-デヒドロゲナーゼ活性により生成されるコ
ルチゾンが直ちにコルチゾールに逆に還元されるような程度に、優勢である細胞
の存在を反映することができた。
要するに、これらの実験は、個々の卵巣卵胞の11β-HSD活性が著しく変動する
ことができ(卵母細胞の成熟度にかかわらず)、ヒト顆粒膜黄体細胞中の卵巣11
β-HSD活性のパラクリン抑制にかかわっていることを証明する。
実施例3
IVFに関する卵母細胞回収を受けている婦人の卵巣卵胞から吸引された卵胞液
は、in vitroで培養されたヒト顆粒膜黄体細胞に添加された時に、11β-HSD活性
を抑制することができる少なくとも一種の化合物を含むことがわかった(表3)
。卵胞液中に11β-HSD阻害剤が存在するか否かを試験するために、女性からのサ
ンプルの採取後に、卵胞液を顆粒膜黄体細胞から分離し、これを別々に培養し(7
2時間)、その後卵胞液にもどして接触させた。低い卵巣11β-HSD活性を有する患
者から分離された卵胞液は高い卵巣11β-HSD活性を有する患者から得られた卵胞
液よりも大きな程度にコルチゾールのヒト顆粒膜細胞酸化を抑制することがわか
った(また、表3を参照のこと)。これらのデータは、ヒト卵巣卵胞液が卵巣11
β-HSD活性の一種以上の内在性阻害剤を含み、かつこのような化合物の含量がこ
れらの液体サンプルが得られた患者中の卵巣11β-HSD活性とは逆の相関関係にあ
ることが明らかである(すなわち、低い卵巣11β-HSD活性と関連する卵胞液は更
に大きい内在性11β-HSD抑制活性を含むことが明らかである)という仮説と一致
する。低い卵巣11β-HSD活性はIVF-ETによる受胎の高い可能性と関連し得るので
、卵巣中の11β-HSD活性の高濃度の一種以上の内在性阻害剤は同様に受胎を予測
できるかもしれない。
実施例4
卵巣卵胞液中に見られる実施例3に記載の化合物はまた、ホモジナイズされた
ラット腎臓の激しい(30分間)インキュベーションに添加された時、腎臓11β-H
SD活性を抑制することができ(表4)、かつ抑制の程度が低い卵巣11β-HSD活性
と関連する卵胞液中で大きいことが確認された。
こうして、この実験はラット腎臓のホモジネートを使用して生物学的液体、
(例えば、卵巣卵胞液)中の11β-HSDの内在性モジュレーターについてアッセイ
することの実施可能性を実証する。表3
無傷の顆粒膜細胞中の11β-HSDに対する10%卵胞液の効果
表4
腎臓11β-HSDに対する10%卵胞液の効果
表3および4の脚注
卵胞液が回収された特定のIVFサイクルで低いまたは高い卵巣11β-HSDを有す
ると既に確認された患者からプールされた10%(v/v)卵胞液(FF)サンプルでin
vitroで処置された(a)培養されたヒト顆粒膜黄体細胞(表3)および(b)ラット
腎臓ホモジネート(表4)に関する11β-HSD活性(それぞれ4時間および30分間
にわたるコルチゾン[E]へのコルチゾール酸化の速度)。
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(72)発明者 マイケル,アンソニー
イギリス国 エヌダブリュ3 2ピーエフ
ロンドン,ローランド ヒル ストリー
ト(番地なし)ユニバーシティー オブ
ロンドン,ロイヤル フリー ホスピタル
スクール オブ メディシン