【発明の詳細な説明】
虚血再灌流傷害の治療または予防の方法
発明の背景
虚血再灌流傷害は、身体のある領域への血流が一時的に停止され(虚血)、そ
して次に再確立される(再灌流)場合に頻繁に起こる。虚血再灌流傷害は、例え
ば大動脈瘤および器官移植のような特定の外科的手順の間に起こり得る。臨床的
には虚血再灌流傷害は、成人呼吸障害症候群を含む肺機能不全、腎機能不全、血
小板減少症、微小血管内でのフィブリンの析出および汎発性(disseminated)血
管内凝固障害を含む消耗性凝固障害、一過性または持続性脊髄障害、心不整脈(a
rrhythmias)、および急性虚血性事象、急性肝細胞性障害および壊死を含む肝機
能不全、出血および/または梗塞を含む胃腸障害、ならびに多系器官機能不全(M
SOD)または急性全身性炎症反応症候群(SIRS)のような合併症によって現され得る
。傷害は、血液供給が妨げられる体の部分で生じ得るか、または虚血の間に血液
が十分供給される部分で生じ得る。
国際特許公開番号WO 96/01318は、IL-10の特性に類似する1つ以上の特性を有
するとされている、インターロイキン10(IL-10)以外のポリペプチドに関する。
これらの非IL-10タンパク質により処置可能とされている疾患の長大なリストの
中で、「低酸素/虚血(梗塞:再灌流)」、「虚血」「再灌流傷害」、および「
再灌流症候群」の結果としての組織損傷である。しかし、この公開には、非IL-1
0タンパク質が、この長いリストにおいて全ての疾患の処置に実際に働くという
証拠は存在しない。発明の要旨
本発明は、虚血再灌流傷害の処置を必要とする患者の虚血再灌流傷害の処置の
方法を含む。この方法は、有効量のIL-10を投与する工程を含む。本発明の別の
局面は、虚血再灌流傷害に起因し得る手順を受けようとしている、または虚血再
灌流傷害がまだ生じていないそのような処置をすでに受けている患者における、
虚血再灌流傷害を予防するための方法を含む。この方法は、患者に有効量のIL-1
0を投与する工程を含む。
本発明の好ましい適用は、動脈瘤疾患による胸部大動脈または副腎性大動脈の
外科的修復を伴うIL-10の投与による虚血再灌流傷害の予防である。しかし、肝
動脈、腎動脈、および/もしくは腸動脈を介して供給する内臓血の一過的な閉塞
またはバイパスを誘導するかまたは必要とする主要な器官移植(肝臓、腎臓、小
腸、および膵臓を含む)、ならびに血液の内臓へ流入の一過的な減少または阻害
を生じる外科的処置(肝臓または胆管の外科的切除、全体または部分的膵臓切除
(ウィップル(Whipple)法)、全体または部分的胃切除、食道切除、結腸直腸手
術、腸管膜血管障害のための血管手術、あるいは腹腔鏡外科処置の間の腹部ガス
注入を含む)にもまた適用される。
さらなる適用は、内器官官への血液の流入の妨害を生じる鈍痛性または穿痛性
損傷を含む。これは、銃創、刺創に起因する腹部への貫通性の創傷、または減速
傷害(deacceleration injury)および/または自動車事故に続く腹部への鈍痛性
損傷から生じる損傷を含む。他の好ましい適用は、内器官官への血流の中断ある
いは減少のいずれかの全身性低血圧(血液減少による出血性ショック、心筋梗塞
もしくは心不全に起因する心臓性ショック、神経性ショックまたはアナフィラキ
シーを含む)に起因する疾患または手順を含む。
本発明の更なる適用は、胴体または上肢もしくは下肢への血液供給の一過的な
閉塞またはバイパスを誘導するかあるいは必要とする外科的手順とともに、IL-1
0を投与することによる、下胴(lower torso)または四肢の虚血再灌流傷害の予防
あるいは処置を含む。この適用は、特に、内臓、胴体、および四肢の虚血の制御
された期間、続く灌流を含む血管手術の実行に関連する。このような虚血再灌流
を含む処置は、腹部大動脈瘤、大腿動脈、跛行または肢節圧迫性(threatening)
虚血による膝窩もしくは脛骨のバイパス、膝窩もしくは大腿動脈瘤の修復、急性
肢節虚血のためのバイパス、血栓摘出術、または塞栓摘出術、あるいは血管損傷
の修復を含むが、これらに限定されない。IL-10の投与は、重大な胴体または四
肢の虚血の後の、肢節の救助および生存を改善し得る。
投与されるべきIL-10の量は、好ましくは、体重の0.1〜500μg/kgの間であり
、
より好ましくは1〜50μg/kgである。IL-10は、哺乳動物細胞性供給源から生物
学的に産生されるか、または組換えDNA技術による、ヒトまたはウイルス起源で
あり得る。投与は、好ましくは、静脈内、筋肉内または皮下注射により行う。IL
-10は、好ましくは、血流が再確立される1〜0時間前に投与される。
一時的または持続的な血流の中断の発生が予測されるこれらの外科的手順(例
えば、胸腹部もしくは上腹部動脈瘤疾患の外科的修復、または内臓血流における
一過的な減少を必然的に含む腹部への外科的手順、あるいは器官移植の前)にお
いて、IL-10は、好ましくは、虚血事象の1〜0時間前の1回の大量瞬時投与と
してか、または虚血事象の1〜0時間前に開始し、そして手術前後の間および継
続して少なくとも8時間にわたる内臓血流の回復後の連続的静脈内注射のいずれ
かとして与えられる。
中断される内臓血流がすでに起こっている個体(例えば、内器官官もしくはそ
の血液供給の損傷または損傷を有するこれらの個体において、またはショックに
起因する全身性低血圧の患者において)について、IL-10は、好ましくは、正常
な内臓血流の回復の前もしくは同時に1回の大量瞬時投与としてか、または正常
な内臓血流の回復の前もしくは同時、および内臓血流の回復後少なくとも8時間
継続される連続的静脈内注射のいずれかとして与えられる。
骨格血流の中断がすでに生じている個体(例えば、末梢血管の閉塞性もしくは
血栓閉塞性に起因する急性下肢虚血、または血管の損傷に起因する急性虚血を有
するこれらの個体において)について、IL-10は、好ましくは、正常な血流の回
復の前もしくは同時に1回の大量瞬時投与としてか、または正常な血流の回復の
前もしくは同時、および血流の回復後少なくとも8時間継続される連続的静脈内
注射のいずれかとして与えられる。
あるいは、IL-10は、リポソームおよび哺乳動物発現プラスミド、ウイルスト
ランスフェクションスキームの機械的送達系(遺伝子銃)のいずれかを使用する
(アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルスまたは単純ヘルペスウ
イルス構築物を含むが、これらに限定されない)遺伝子治療または転移によって
投与され得る。図面の簡単な説明
図1(a)、1(b)、および1(c)は、それぞれ、胸腹部および腎臓下大動脈瘤回
復に続く、血漿TNF-α、IL-1βおよびIL-8濃度を図解する。
図2(a)、2(b)、および2(c)は、それぞれ、胸腹部および腎臓下大動脈瘤回
復に続く、血漿IL-6、血漿p55濃度の変化、および血漿p75濃度の変化を図解する
。
図3は、マウスにおける上腹部大動脈のクロスクランプ、ならびにTNFおよびI
L-1のインヒビターによる処置に続く肺ミエロペルオキシダーゼレベル(好中球
浸潤)の変化を図解する。
図4は、マウスにおける上腹部大動脈のクロスクランプ、ならびにTNFおよびI
L-1のインヒビターによる処置に続く肺透過性(125I−アルブミン漏出)の変化
を図解する。
図5は、上腹部大動脈のクロスクランプ使用に続く循環系におけるIL-10の出
現を図解し、上腹部大動脈のクロスクランプおよび組換えヒトIL-10の処置に続
く、マウスにおける血漿IL-10濃度を示す。
図6は、上腹部大動脈のクロスクランプ、および組換えヒトIL-10の処置に続
く、マウスにおける肺ミエロペルオキシダーゼレベル(好中球の浸潤)の変化を
図解する。
発明の詳細な説明
本明細書中に援用した全参考文献は、その全体が参考として援用される。
本明細書で使用する「インターロイキン10」または「IL-10」は、(a)米国特許
第5,231,012号に開示される成熟IL-10のアミノ酸配列(例えば、分泌リーダー配
列を欠く)を有し、そして(b)天然のIL-10に共通する生物学的活性を有するタン
パク質として定義する。また、エプスタイン-バーウイルスタンパク質BCRF1(ウ
イルスIL-10)を含む変異タンパク質または他のアナログを含み、これはIL-10の
生物学的活性を保持している。
本発明における使用のために適切なIL-10は、タンパク質を分泌する活性化細
胞によって馴化された培養培地から得られ得、そして標準的な方法によって精製
され得る。さらに、IL-10またはその活性なフラグメントは、当該分野で公知の
標準的な方法を使用して化学的に合成し得る。Merrifield,Science 233:341(19
86)およびAthertonら、Solid Phase Peptide Synthesis:A Practical Approach
,1989,I.R.L.Press,Oxfordを参照のこと。米国特許第5,231,012号もまた
参照のこと。
好ましくは、タンパク質またはポリペプチドはIL-10ポリペプチドをコードす
る単離された核酸を使用して、組換え技術によって得られる。分子生物学の一般
的な方法は、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,
Cold Spring Harbor,NewYork,第2版、1989、およびAusubelら(編)、Current
Protocols inMolecularBiology,Green/Woley,New York(1987および定期刊行物
)によって記載されている。適切な配列は、ゲノムライブラリーまたはcDNAライ
ブラリーのいずれかから、標準的な技術を使用して得られ得る。ポリメラーゼ連
鎖反応(PCR)技術を使用し得る。例えば、PCR Protocols:A Gulde to Methods an
d Applications,1990,Innisら、(編)、Academic Press,New York,New York
を参照のこと。
ライブラリーは、適切な細胞から抽出した核酸から構築する。例えば、米国特
許第5,231,012号(IL-10を作製するための組換え法を開示する)を参照のこと。有
用な遺伝子配列は、例えば、種々の配列データベース(例えば、核酸についてはG
enBankおよびBMPLそしてタンパク質についてはPIRおよびSwiss-Prot.c/o Intell
igenetics,Mountain View,California、またはthe Genetics Computer Group,
University of Wisconsin Biotechnology Center,Madison,Wisconsin)に見出
され得る。
ヒトIL-10をコードする配列を含むクローンは、アメリカンタイプカルチャー
コレクション(ATCC)、Rockville,Marylandに、受託番号68191および68192で寄
託されている。IL-10をコードする配列を有する他のクローンの同定は、核酸ハ
イブリダイゼーション、または発現ベクターを使用する場合は、コードされるタ
ンパク質の免疫学的検出のいずれかによって行われる。米国特許第5,231,012号
に開示される寄託した配列に基づくオリゴヌクレオチドプローブが、特に有用で
ある。オリゴヌクレオチドプローブ配列はまた、他の種の関連する遺伝子の保存
された領域から調製され得る。あるいは、IL-10のアミノ酸配列に基づく縮重プ
ローブを使用し得る。
標準的な方法を使用して、大量のポリペプチドを発現する形質転換された原核
生物細胞株、哺乳動物細胞株、酵母細胞株、または昆虫細胞株を生成し得る。発
現およびクローニングの両方に適した例示的なE.coli株として、W3110(ATCC Bi
,27325)、X1776(ATCC番号31244)、X2282、およびRR1(ATCCMp/31343)が挙げられ
る。例示的な哺乳動物細胞株として、COS-7細胞、マウスL細胞、およびCHP細胞
が挙げられる。Sambrook(1989)、前出、およびAusubelら、1987、定期刊行物、
前出を参照のこと。
種々の発現ベクターを使用して、IL-10をコードするDNAを発現させ得る。原核
生物細胞または真核生物細胞内で組換えタンパク質の発現のために使用される従
来のベクターを使用し得る。好ましいベクターとして、Okayamaら、Mol.Cell.
Biol.3:280(1983);およびTakebeら、Mol.Cell.Biol.8:466(1988)に記載され
るpcDベクターが挙げられる。他のSV-40ベースの哺乳動物発現ベクターとして、
Kaufmanら、Mol.Cell.Biol.2:1304(1982)および米国特許第4,675,285号に開
示される発現ベクターが挙げられる。これらのSV-40ベースのベクターは、COS-7
サル細胞(ATCC番号CRL 1651)、ならびにマウスL細胞のような他の哺乳動物細胞
において特に有用である。Pouwelsら、(1989および定期刊行物)Cloning Vectors
:A LaboratoryManual,Elsevier,New Yorkもまた参照のこと。
IL-10は、形質転換されたまたはトランスフェクトされた、酵母細胞、昆虫細
胞、または哺乳動物細胞の分泌産物のような可溶性形態で産生され得る。次いで
、ペプチドを、当該分野に公知の標準的な手順によって精製し得る。例えば、精
製工程として、硫酸アンモニウム沈澱、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾
過、電気泳動、アフィニティークロマトグラフィーなどが挙げられる。Methods
in Enzymology Purification Principles and Practices(Springer-Verlag,New
York,1982)を参照のこと。
あるいは、IL-10は、凝集塊または封入体のような不溶性の形態で産生され得
る。このような形態のIL-10は、当該分野で周知の標準的な手順によって精製さ
れる。精製工程の例として、遠心分離によって破壊された宿主細胞から封入体を
分離する工程、次いでペプチドが生物学的に活性なコンフォメーションをとるよ
うにカオトロピック試薬および還元剤で封入体を可溶化する工程が挙げられる。
これらの手順の詳細については、例えば、Winklerら、Biochemistry 25:4041(19
86)、Winklerら、Bio/Technology 3:9923(1985); Kothsら、および米国特許第4,
569,790号を参照のこと。
宿主細胞をトランスフェクトするために使用するヌクレオチド配列を標準的な
技術を使用して改変して、種々の所望の特性を有するIL-10またはそのフラグメ
ントを作製し得る。このような改変されたIL-10は、例えば、アミノ酸の挿入、
置換、欠失、および融合によって、1次構造レベルで天然に存在する配列から変
化し得る。これらの改変を多数の組み合わせにおいて使用して、最終的な改変タ
ンパク質鎖を生成し得る。
アミノ酸配列変異体を、血清半減期を増加すること、精製または調製を容易に
すること、治療効力を改善すること、および治療的使用の間の副作用の重篤度ま
たは発生を減少させることを含む、種々の目的を念頭において調製し得る。アミ
ノ酸配列変異体は通常、天然には見出されない予め決定された変異体であるが、
他は、翻訳後変異体であり得る。このような変異体は、IL-10の生物学的活性を
保持している限りは本発明において使用され得る。
ポリペプチドをコードする配列の改変は、部位特異的変異誘発(Gillmanら、Ge
ne 8:81(1987))のような種々の技術によって容易に達成され得る。ほとんどの改
変は、所望の特性についての適切なアッセイにおける日常的なスクリーニングに
よって評価される。例えば、米国特許第5,231,012号は、IL-10活性を測定するた
めに適切な多数のインビトロアッセイを記載する。
好ましくは、ヒトIL-10をヒトの処置のために使用するが、ウイルスIL-10がお
そらく使用され得る。最も好ましくは、使用されるIL-10は組換えヒトIL-10であ
る。ヒトIL-10の調製は、米国特許第5,231,012号に記載されている。エプスタイ
ン-バーウイルス由来のウイルスIL-10(BCRF1タンパク質)のクローニングおよび
発現は、Mooreら、Science 248:1230(1990)に開示されている。
IL-10活性を決定するための手順およびアッセイの例については、米国特許第5
,231,012号を参照のこと。この特許はまた、IL-10活性を有するタンパク質、な
らびに組換え技術および合成技術を含むこのようなタンパク質の産生を提供する
。
本発明を実施するためのIL-10の薬学的組成物を調製するために、IL-10を、好
ましくは不活性な薬学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤と混合する。薬学的
キャリアは、ポリペプチドを患者に送達するのに適した、任意の適合性の毒性の
ない物質であり得る。このような薬学的組成物の調製は、当該分野に公知である
;例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences)およびU.S.Pharmacopeia:Na
tional Formulary,Mack Publishing Company,Easton,PA(1984)を参照のこと
。
組成物は、経口的に摂取されるかまたは体内に注射され得る。経口使用のため
の処方物は、胃腸管内で生じるプロテアーゼからポリペプチドを保護するための
化合物を含有する。注射は、通常筋肉内、皮下、皮内、または静脈内である。あ
るいは、動脈内注射または他の経路が適切な環境下において使用され得る。
非経口的に投与される場合、組成物は、単回容量の注射可能な形態(溶液、懸
濁液、乳濁液)で薬学的キャリアと組み合わせて処方され得る。例えば、IL-10は
、種々の添加物および/または希釈剤の存在または非存在下で、水、生理食塩水
、または緩衝化ビヒクルのような水溶性ビヒクルで投与され得る。適切なキャリ
アの例は、普通の生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、およびハンク
ス溶液である。不揮発性油およびオレイン酸エチルのような非水溶性キャリアも
また使用し得る。好ましいキャリアは、5%デキストロース/生理食塩水である
。キャリアは、少量の、等張性および化学的安定性を増大させる物質のような添
加剤(例えば、緩衝液および保存料)を含み得る。しかし、IL-10は、好ましくは
凝集塊および他のタンパク質を実質的に含まない精製された形態で処方される。
さらに、亜鉛懸濁液のような懸濁液がポリペプチドを含むように調製され得るこ
とが留意されるべきである。このような懸濁液は、皮下(SQ)または筋肉内(IM)注
射に有用であり得る。
虚血再灌流傷害は、少なくとも一部において、過剰量の炎症誘発性サイトカイ
ン(例えばTNF-α、IL-1、IL-6、およびIL-8)の放出により引き起こされると考
えられている。実施例1および2は、この理論および内臓虚血再灌流傷害に対し
てIL-10が有する効果の試験するために行われた。実施例3は、大動脈瘤修復を
受けているヒト患者に対する本発明の適用を示す。実施例4は、IL-10が、ラッ
トモデルにおいて、後肢虚血再灌流後の骨格筋および肺の障害を減弱することを
実証するために行われた。
実施例1
最初の研究は、ヒトにおける内臓虚血および再灌流後の炎症誘発性サイトカイ
ン応答と罹患率および死亡率との間の連合的(associative)関係を、胸腹部また
は腎臓下大動脈瘤の修復を受けている患者における炎症性サイトカインレベルを
測定することにより、そしてこれらの結果と手術後の器官の機能不全の発生率と
を比較することにより予測的に研究した。
胸腹部大動脈瘤の選択的修復を受けている16人のヒト患者および選択的な腎臓
下大動脈瘤修復を受けている9人の患者は、炎症性サイトカイン測定のための動
脈血サンプリングに同意した。各胸腹部大動脈瘤を、腹膜後アプローチを用いて
左脇腹切開を介して修復した。横隔膜は、円周状に分割され、下行(descending)
胸大動脈の露出が可能になる。クロスクランプする前に、各患者にマンニトール
(0.5gm/kg)およびソリュメドロール(solumedrol)(15mg/kg)を与えた。動脈瘤の
位置に依存して、内臓の動脈を、カレルパッチ(Carrel patch)として、または移
植片を十分に後方を細くして近位の吻合の一部として移植片上に縫いつけた。一
旦修復が完了すると、凝血産物(血小板および新鮮な凍結血漿)を、必要に応じ
て注入した。手術前に、カテーテルを腰椎脊柱(column)へ配置し、そして脳脊髄
液をくも膜下腔内圧を5〜10cm水に維持するために排液した(drained)。腎臓下
腹部大動脈瘤を、標準的な外科的手法を用いて腹腔を貫通して(transperitoneal
ly)修復し、そして大動脈を、大動脈分岐に対しては直線管移植片または、内/
外回腸動脈分岐に対しては2分枝化移植片のいずれかを用いて再構築した。
患者の両グループにおいて、動脈血サンプル(7ml)を、麻酔の誘導後、大動脈
クロスクランプ設置の直前、クランプ解放の直前、および再灌流後一定の時間間
隔(1、2、4、6から8、24時間および7日間毎日)で得た。臨床的および実
験室的データを、手術前の危険因子および手術後の器官の機能不全パターンを決
定するために全ての患者から予想的に収集した。収集したデータは、手術的パラ
メーター(全手術時間、大動脈クロスクランプ時間、失血見積もり、手術中の合
併症(complication)、手術後の経過(合併症、器官機能不全)および死亡の原因
を含む。実験室値を、手術後初めの7日間に、胸腹部および腎臓下大動脈瘤の修
復後、組織虚血再灌流に関連する傷害に焦点を当てて分析した。
手術後の肺機能不全は、7日間を越えて陽圧機械的呼吸補助(positive-pressu
re mechanical ventilatory assistance)が必要な場合として規定され、一方、
手術後の肝機能不全は、500U/Lを越える乳酸脱水素酵素(LDH)のピークレベル、
および200U/Lを越える血清トランスアミナーゼレベル(AST/ALT)または3mg/dlを
越える総ビリルビンレベルの増加のいずれかとして規定される。腎臓機能不全は
、手術前のベースラインをこえて2mg/dl以上の血清クレアチニンの増加として規
定し、一方、50,000/mm3未満の血小板数または4,500/mm3未満への白血球数の低
下は、造血性の機能不全の存在を示した。これらの判断基準を満たす2つ以上の
器官系を有する患者を、多系器官機能不全[MSOD]を有するとして示した。
新しく解凍された血清サンプルを、TNF-α、IL-1、IL-6、IL-8、ならびにTNF-
α可溶性(shed)レセプター(p55およびp75)についてELISAによりアッセイした。T
NF-α、IL-1、IL-6、IL-8、p55、およびp75アッセイの感度は、それぞれ、14、1
0、27、313、14、および17pg/mlである。
胸腹部大動脈瘤の修復を受けている16人の患者および腎臓下大動脈瘤の修復を
受けている9人の患者の死亡率および罹患率データを、表1において報告する。
表1
胸腹部および腎臓下大動脈瘤の修復後の、器官機能不全の発生。
示されるデータは、胸腹部大動脈瘤の修復後の肺機能不全およびMSODの頻度が
、腹部大動脈瘤の修復後より有意に高いことを示す。
胸腹部大動脈瘤 腎臓下大動脈瘤
(n=16) (n=9)
死亡率 19% 0%
肺機能不全 56%* 11%
気管開口術 25% 0%
腎機能不全 38%** 0%
透析 13% 0%
肝機能不全 31% 0%
造血機能不全 38%** 0%
白血球減少症 13% 0%
MSOD 44%* 0% *
p<0.05 フィッシャーの正確検定による**
p=0.057 フィッシャーの正確検定による
胸腹部大動脈瘤の修復後、3人の患者が(2人はMSODによりそして1人は心不
全により)死亡した。肺機能不全が9人の患者において起こり、そして最終的に
4人の患者において一時的な気管開口術の配置(placement)を必要とした。腎機
能不全が、6人の患者において発生し、そしてそれらの2人において血液透析を
必要とした。肝機能不全、血小板減少症、および白血球減少症が、胸腹部大動脈
瘤の修復後、それぞれ5、6、および2人の患者において発生し、そして脊髄傷
害による下肢機能不全が2人の患者において起こった。それに対し、腎臓下大動
脈瘤の修復後には手術的(operative)な死亡は無かった(表1)。肺機能不全が
わずか一人で発生し、そしていずれの患者においても腎臓、肝臓、造血性または
下肢機能不全の証拠はなかった。
患者の両グループにおける血漿サイトカイン応答のピークを、表2に報告する
。
表2
胸腹部または腎臓下大動脈瘤の修復後のピーク炎症誘発性サイトカイン濃度。
血漿サンプルは、胸腹部または腎臓下大動脈瘤の修復後、0、1、2、4、6
〜8、24、48、72時間および7日目まで毎日入手した。ピーク濃度を以下に報告
する。全ての炎症誘発性サイトカインのレベルは、腎臓下大動脈瘤より胸腹部大
動脈瘤の修復後の患者において、有意に高かった(p<0.05)。
胸腹部大脈瘤 腎臓下大動脈瘤
(n=16) (n=9) TNF- α pgs/ml 161±58 10±10
IL-lb pgs/ml 133±59 24±10
IL-6,pgs/ml 1,280±664 181±108
IL-8,pgs/ml 410±139 137±77
p55,ベースラインからの変化、pgs/ml 751±668 204±218
p75,ベースラインからの変化、pgs/ml 5,201±1,983 383±171C3a ,μg/ml 111±21 30±7
全ての値は、2元(two-way)ANOVAにより、2つのグループ間で有意に異なる。
p<0.05
血漿TNF-α、IL-1、IL-6およびIL-8濃度は、手術前には検出されなかった。胸
腹部大動脈瘤の外科的修復の後、単相性TNF-α応答を16人の患者の11人(69%)に
おいて検出した(図1(a)、1(b)、および1(c))。TNF-αレベルは、再灌流後
4時間でピークとなり、次いで、次の24時間にわたりベースラインに向かって徐
々に減少する。IL-6およびIL-8レベルもまた、それぞれ16人(100%)および11人(
70%)の患者において再灌流後4時間で再びピークレベルを生じる単相性パター
ンにおいて増加した;しかし、TNF-αで見られたパターンと異なり、循環してい
るIL-6およびIL-8レベルは8時間以内でベースラインまで減少した。IL-1もまた
、胸腹部大動脈瘤患者の50%において単相性パターンで検出されたが、そのピー
クレベルは再灌流後1時間で生じ、そしてIL-1レベルは再灌流後4〜6時間でベ
ースラインレベルまで戻った。可溶性TNF-αレセプターであるp55およびp75の血
漿濃度は、胸腹部大動脈瘤修復後、アッセイされた患者のそれぞれ12人(75%)
および16人(100%)において増加した(図2)。p55レセプター濃度は、24時間
で最高点に達し、数日間上昇したままであったが、一方、p75レセプター濃度は
、再灌流後最初の48時間にわたって増加し続けた。胸腹部大動脈瘤修復患者と対
照的に、TNF-α、IL-1、IL-6、IL-8、p55、およびp75のピーク血清レベルは、腎
臓下腹部大動脈瘤修復を受けている患者において3〜15倍低かった(表2および
図1(a)、1(b)、1(c)、ならびに2(a)、2(b)、および2(c))。
遡及的な分析を、患者の臨床的結果と種々の炎症誘発性サイトカイン濃度の
間の連合的関連を確立する努力の中で行った。TNF-αレベルのピークが150pg/ml
未満である胸腹部大動脈瘤修復を受けている患者は、単一または複数の器官機能
不全を経験しなかったが、一方、単一の器官機能不全およびMSODは、TNF-αレベ
ルのピークが150pg/mlを越える患者においては共通であった(表3)。
表3
手術後器官機能不全と循環するTNF-αのレベルのピークとの間の関係。
TNF- α<150pgs/ml TNF- α>150pgs/ml
死亡率 1人(心臓病で死亡) 2人(MSODで死亡)
肺機能不全 0% 57%**
腎機能不全 0% 71%*
透析 0% 29%
肝機能不全 0% 71%*
造血機能不全 0% 71%*
白血球減少症 0% 28%MSOD 0% 86%* *p<0.05 フィッシャーの正確検定による
**p=0.07 フィッシャーの正確検定による
さらに、胸腹部大動脈瘤修復後、MSODが発生した患者は、MSODを伴わない患者
と比較して、全てのアッセイされたサイトカインおよび可溶性TNF-αレセプター
(p55およびp75)のより高い循環レベルを有した(表4);しかし、TNF-αおよ
びp55レセプターのレベルのみが、統計学的に異なった(p<0.05)が、一方、MSO
Dを伴わない患者と比較して、MSODを発生した患者におけるIL-1、IL-6、IL-8、
およびp75レセプターのより高いレベルに対する傾向が存在した(表4)。
表4
多系器官機能不全(MSOD)の証拠を伴うおよび伴わない患者における血漿炎症誘
発性サイトカイン濃度。
TNF、IL-6、p55、およびp75の血漿濃度のピークは、MSODを伴わない胸腹部大
動脈瘤修復後の患者または腎臓下大動脈瘤修復後の患者のいずれよりも、MSODを
伴う胸腹部大動脈瘤修復後の患者の方が有意により高かった。
p55およびp75の値はベースラインからの変化である。全ての値は、pgs/mlにおい
てである。*
p<0.05 2元ANOVAによるMSODなしに対して
nr=報告なし
ここに示した結果は、内臓の虚血再灌流傷害を引き起こす胸腹部大動脈瘤の外
科的修復が、クロスクランプの解放後、早くも1〜4時間で血中のTNF-α、IL-1
、IL-6、およびIL-8の出現により特徴づけられる全身的炎症誘発性サイトカイン
応答を生じることを示す。さらに、この炎症誘発性サイトカイン応答の存在およ
び規模は、胸腹部大動脈瘤修復後の手術後器官機能不全の発生率と関連する。内
臓の虚血およびその後の再灌流傷害は、この全身的炎症誘発性サイトカイン応答
の誘導に重要であると思われる。なぜなら、炎症誘発性サイトカイン応答の規模
は、胸腹部大動脈修復後より、内臓性虚血再灌流が生じない腎臓下動脈の修復を
受けた患者において3〜15倍少ないからである。さらに、内臓性虚血が回避され
る腎
臓下大動脈瘤の修復を有する患者は、手術後の器官機能不全の有意に低い発生率
を有する。
この炎症誘発性サイトカイン応答および関連する器官機能不全の媒介における
急性内臓性虚血の直接の役割をさらに探索するために、さらなる8人の患者が、
選択的胸腹部大動脈瘤の修復後に研究された。しかし、この場合において、内臓
性虚血の持続時間は、左心房大腿動脈バイパス(LAFBP)および内臓性動脈の逆行
性灌流によって減少した。LAFBPは、胸腹部大動脈の修復中の末梢の血流を提供
し、そして内臓性虚血の時間を減少する。本発明者らは、胸腹部大動脈の修復を
受けている患者(n=8)についてのLAFBPの効果を予測的に検査し、そしてLAFBPの
恩恵を受けない標準的胸腹部大動脈瘤の修復を受けている患者(n=16)に対してサ
イトカイン応答、罹患率および死亡率を比較した。
サイトカインレベルの定刻の測定を、48時間の手術期間中で行い、そしてサイ
トカインレベルはELISAによって測定した。手術後の肺、肝臓、腎臓、および造
血性の機能不全に関する臨床的データもまた予測的に収集した。LAFBPによる胸
腹部大動脈瘤の修復を受けている患者は、コントロール群と比較した場合、より
短い内臓性虚血時間(18±5分対45±12分)、および循環しているTNF-α、IL-10、
およびp75レベルにおいて統計的に有意な減少(2元ANOVAによりp<0.05)を有した
(表5)。
表5
左心房大腿動脈バイパス(LAFB)を伴うかまたはLAFBを伴わない胸腹部大動脈瘤
を受けている患者における血漿炎症誘発性サイトカイン濃度。
TNF-α、IL-10、およびp75の血漿濃度のピークは、LAFBを伴う胸腹部大動脈瘤
の修復後の患者においてよりLAFBを伴わない胸腹部大動脈瘤の修復後の患者にお
いて有意に高かった。
*p<0.05
さらに、肺機能傷害、腎機能傷害、血小板減少症、多系器官機能不全の発生率
、および死亡率は、LAFBPを受けている患者において減少したが、個体数が少な
すぎるため、いかなる統計的相違も示し得ない。
これらの知見は、胸腹部大動脈瘤の修復に続発性の急性内臓性虚血再灌流傷害
が、罹患率および内臓性虚血を引き起こさない同様な外科的手順では見られない
多系器官機能不全の高い割合に関連することを示唆する。さらに、大動脈クロス
クランピング(左心房大腿動脈バイパス)間の虚血の持続時間を減少するための
技術はTNF-αおよびIL-1応答の規模を減少させるようである。
実施例2
マウスにおける実験を行った。これにより、急性の内蔵の虚血再灌流傷害の臨
床的関連モデルにおいて、組換えヒトIL-10での前処置が遠隔の器官傷害を減少
し得ることを実証された。これらの研究の最初の目標は、TNF-αレセプター構築
物またはIL-1I型(p80)レセプターに対するモノクローナル抗体のいずれかに
より阻害され得る内因性の炎症誘発性サイトカイン応答に依存性である器官傷害
の証拠を実証する、急性の虚血再灌流傷害の臨床的関連モデルを開発することで
あった(35F5,Hoffmann-LaRoche,Nutley,NJ)。
30匹のマウス(C57BL/6,約20gm)をペントバルビタールで麻酔した。これらの
動物の16匹において、上腹部大動脈を30分間クロスクランプした。6匹の動物に
腎臓下大動脈(infrarenal aorta)のクロスクランプを30分間行い、一方、別の
8匹の動物に大動脈クロスクランプをしないで麻酔、切開、および腸移動(mobi
lization)のみを行った。上腹部大動脈クロスクランプの2時間前に、16匹の動
物のうち8匹を10mg/kg BWのTNF-bp(ポリエチレングリコールに共有結合した2
つのp55 TNF-αレセプターの細胞外ドメインからなるTNF-α結合タンパク質)の
腹腔内注射で前処置した。大動脈クランプを除去しそして腹腔の創傷をふさいで
2時間後、動物を屠殺しそして肺の好中球浸潤をMPO含有量により評価した。結
果を図3に示す。上腹部大動脈クロスクランプは、2時間で肺の好中球浸潤にお
いて有意な増加を示し、これは腎臓下大動脈クロスクランプを有する動物には見
られなかった。TNF-bpで上腹部大動脈クロスクランプを行った前処置の動物は、
この増加を有意に減弱した。
肺毛細血管機能における内蔵の虚血再灌流の影響を測定するために、50匹のマ
ウスをペントバルビタールで麻酔し、そして34匹の動物について上腹部大動脈を
30分間クロスクランプした。これらの動物のうち11匹をTNF-bp(10mg/kg)で前
処置し、一方、9匹を150μgのマウスIL-11型(35F5)レセプターに対するモノ
クローナル抗体で前処置した。この抗体は、機能的なIL-11型レセプターへのIL-
1の結合を阻害し、IL-1媒介性炎症を減弱することが以前に報告されている。コ
ントロール群は、模擬操作群(n=10)および腎臓クロスクランプ群(n=6)から
なる。大動脈クロスクランプの除去および再灌流の開始の後、下大静脈を介して
1μCiのI125標識したアルブミンを静注で動物に注射した。4時間の再灌流の終
わりに動物を屠殺し、肺を1.75mlの通常の生理食塩水で気管支肺胞洗浄(BAL)
で処置した。肺の平均透過指数を、CPM/gm血液に対するCPM/gm BALの比として計
算した。結果を図4に示す。TNF-bpおよび35F5の両方による前処置は肺の毛細血
管傷害を減少し(p<0.05)、35F5はより明白な効果を有した。
従って、これらの所見は、マウスにおける上腹部クロスクランプに付随する肺
傷害がTNF-αまたはIL-1の内因的産生の結果であることを示す。TNF-αまたはI
L-11型レセプターのいずれかの新規なインビターによるこれらのサイトカインの
いずれかの阻害は、内蔵の虚血灌流傷害に付随する肺傷害を最小にし得る。
同様の効果が組換えヒトIL-10による迅速な前処置により得られ得ることを実
証するために、さらなる研究を上腹部大動脈クロスクランプにさらしたマウスに
ついて行った。内蔵の虚血を、25〜30分間の上腹部大動脈をクロスクランプする
ことにより90匹の雌のマウスC57BL/6(20-22gm)において誘導した。さらに38匹
のマウスに模擬操作を行った。血漿IL-10レベルを、再灌流後1、2、4、およ
び8時間にELISAにより測定し、以前の研究が最大の好中球浸潤は肺において、
2時間で起こることを明らかにしたので、肺の好中球浸潤を2時間でMPOアッセ
イにより測定した。内蔵の虚血再灌流を行った36匹のマウスを、組換えヒトIL-1
0の0.2μg(n=7)、2μg(n=13)、5μg(n=6)、または20μg(n=10)
で前処置した。
血漿IL-10の平均濃度は、25〜30分の上腹部大動脈クロスクランプの2時間後
に9,120pg/mlのピークを示した(図5)。内蔵の虚血再灌流傷害はまた、肺の好
中球浸潤において6倍の増加を示した(p<0.05)(図6)。マウスを外因性のI
L-10で前処置した場合、好中球浸潤は有意に減少した(全ての投与についてp<0
.05)。肺の好中球浸潤における最大の改善は、IL-10の5μg/マウス(250μg
/kg BW)で達成された。
上腹部大動脈クロスクランプに関連する内蔵の虚血再灌流傷害は、IL-10の放
出を促進するが、一方、大動脈クロスクランプの前の外因性IL-10の投与は急性
の内蔵の虚血再灌流傷害のこのモデルにおける肺傷害を制限する。従って、外因
性IL-10は、胸腹部大動脈動脈瘤修復および他の虚血再灌流傷害に関連した合症
を減少するための新規な治療的アプローチを提供し得る。
仮想の実施例3は、ヒトの処置について意図される本発明の好ましい適用を例
示する。
実施例3
断続的な鋭い上腹部および臍傍の腹痛を数カ月間訴えているがその他の有意な
症状を有さない、58才の白人男性が地域の大学病院の救急室にいる。その患者は
、アテローム硬化症の病歴以外何ら有意な医学的問題のある病歴を有さない。物
理的な調査において、その患者は、可聴雑音を有する、圧痛がない拍動性の中央
腹腔塊(pulsatile mid-abdominal mass)を有することが見出される。血液学的
検査、生化学的検査、肝機能検査、尿検査、およびアミラーゼを含む臨床検査は
全て正常な範囲内にある。水平腹部X線および垂直腹部X線、ならびに胸部X線
は注目に値しない。下胸部を通って切断する腹部CTスキャンにより、最大直径6.
5cmの、横隔膜裂孔のレベルから大動脈分岐に及ぶ大動脈瘤が示される。
インフォームドコンセントを得た後、患者に手術の準備をする。皮膚切開の1
時間前に、肘正中皮静脈内の留置カテーテルを通して10μg/kg体重の用量の組
換えヒトIL-10を、患者に単回ボーラス投与する。さらに、鞘内圧を5〜10cm水
圧に維持するために、胸脊髄液を排出するための腰部カテーテルを配置する。一
般的な吸入麻酔下で、左側腹切開を行い、腹膜後アプローチを介して大動脈ヘア
クセスする。横隔膜を環状的に分け、胸大動脈の露出を可能にする。患者に静脈
内投与量のマンニトール(0.5gm/kg)およびソルメドロール(15mg/kg)を投与
した後、外腸骨動脈に近位のレベルで動脈瘤の頭方向側に近位そして動脈分岐か
ら遠位の大動脈をクロスクランプする。次いで大動脈を、尾方胸大動脈のレベル
から外腸骨動脈への分岐移植片を利用して、両側に再構成する。次いで、胸部動
脈および上腸間膜動脈をCarrel斑として移植片に縫合する。クロスクランプ時間
および温暖内蔵虚血の時間は42分である。その後大動脈クロスクランプを除去し
、内蔵、骨盤、および下肢の灌流を復旧する。包装された3つの赤血球細胞およ
び2つの新鮮な凍結血漿を注入する。次いで切開口を閉じ、そして患者を挿管し
たまま外科の集中治療室に移し、そして患者は換気の補助を受けているが血行動
態的に安定である。何事もなく一晩が過ぎた後、患者を手術して1日後にチュー
ブを外す。手術して2日後、患者を集中治療室から外科病棟に移す。患者は、手
術して5日後に腸機能が回復し、そして手術して7日後に切開口はきれいに治り
、感染の形跡はなく、家に帰され、困難なく歩行し、規則的な食餌に耐える。
本発明の別の好ましい適用は、患者が主要な器官移植を受ける0〜1時間前に
、患者にIL-10を投与することである。本発明は、体の内蔵部分で起こる虚血再
灌流の処置に対して特に適応可能である。どの手順が虚血再灌流傷害を起こすか
または起こすと考えられるかに関係なく、虚血再灌流傷害の1つ以上の徴候また
は症状が軽減されまたは全く現れない場合、本発明の処置の方法は成功すると考
えられる。
実施例4
ラットにおける以下の実験は、外因性ヒトIL-10による前処置が、後肢の虚血
再灌流傷害の臨床的関連モデルにおける肺傷害およびヒラメ筋傷害を低減し得る
ことを実証する。
28匹の雄のSprague-Dawleyラット(Charles River Laboratories,Wilmington
,MA.,約350mg)を、ペントバルビタールで腹腔内に麻酔した(40mg/kg,Abbott
Laboratories,Chicago,IL)。このラットの20匹について、両下肢の上腿にゴ
ムバンド止血帯を配置することにより、左右の後肢に虚血を起こした。浅大腿動
脈におけるDopplerシグナルの欠失により、動脈血流の停止を確認した。残りの
8匹のラットに麻酔薬のみを与えた。
各群の半分の動物(虚血群の10匹および非虚血コントロールの4匹)を、10μ
gの組換えIL-10により前処置した。麻酔の誘導後、血液サンプリングおよび正
常生理食塩水の注入(1cc/時)のために、カテーテルを、外頚静脈を通して右
心房の中に配置した。組換えヒトIL-10(rhIL-10,10μg、約30μg/kg BW IV
)または匹敵量の通常の生理食塩水を、虚血を開始する20分前にまたは非虚血コ
ントロールについて匹敵する時間に投与した。
虚血の4時間後、止血帯を除去し、そして下肢を再灌流した。浅大腿動脈での
Dopplerシグナルの存在により、動脈血流の回復を確認した。中心静脈線(centr
al venous line)置換の時、再灌流時、再灌流の30分後、再灌流の60分後、およ
びその後1時間毎に血液をサンプリングした。非虚血コントロールについて匹敵
する時間で血液(0.5cc)をサンプリングした。
動物を、再灌流の4時間後または非虚血コントロールについては匹敵する時間
に安楽死させた(ペントバルビタール100mg/kg BW IV)。片方の後肢および片方
の肺からのヒラメ筋を好中球浸潤の評価のために分析した。ヒラメ筋および肺の
好中球隔離を、組織ミエロペルオキシダーゼ(MPO)レベルにより定量した(War
renら、1989,J.Clin.Invest.84:1873)。
残存するヒラメ筋および肺組織を、毛細血管傷害および/または細胞性傷害の
定量のために分析した。骨格筋および肺毛細血管内皮細胞傷害を、I125標識した
アルブミンの取り込みにより定量した(Welbournら、1991,J.Appl.Physiol.
70:2645)。骨格筋細胞性傷害を、Tc99標識したピロリン酸の取り込みにより定
量した(Blebeaら、1988,J.Vasc.Surg.8:117)。平均の毛細血管透過性指数
(CPI)および骨格筋傷害指数(SMII)を以下の式を使用して計算した。
CPI=(I125筋/筋質量)/(I125血液/血液量)
SMII=(Tc99筋/筋質量)/(Tc99血液/血液量)
生理活性のTNFの循環を、TNF感受性WEHIマウス線維肉腫細胞株を使用して測定
した(Van Zeedら、1992,PNAS 89:4845)。骨格筋傷害:
結果を表6に示す。後肢I/Rは、有意な骨格筋傷害を生じた。後肢I/Rの後のヒ
ラメ筋毛細血管透過性指数(MCPI)の平均値およびヒラメ骨格筋傷害指数(SMII
)の平均値は共に非虚血コントロールより有意に大きかった。後肢の虚血の前の
組換えヒトIL-10での動物の前処置は、有意に低い骨格筋毛細血管傷害を生じ、
これは非虚血コントロールと有意には異ならなかった。虚血の前のヒトIL-10で
の前処置も骨格筋細胞性傷害の減少を生じたが、その差異は有意ではなかった。
しかし、再度ヒト組換えIL-10で前処置した虚血動物における骨格筋細胞性傷害
は、非虚血コントロールと差異が無かった。骨格筋における好中球浸潤は、4つ
の処置群のいずれでもMPOアッセイにより検出されなかった。
表6 骨格筋損傷 *I/Rと有意に異なる(ANOVA,Duncanのマルチプルレンジテスト;P<.05)
肺傷害
結果を表7に示す。I125アルブミンの肺への漏出により測定した場合、後肢
の虚血再灌流もまた有意な肺血管傷害を生じた。後肢の虚血再灌流に供された動
物における肺毛細血管浸透性指数の平均値および肺好中球浸潤の平均値は共に、
非
虚血コントロールよりも有意に大きかった。ヒト組換えIL-10での前処置は、後
肢の虚血再灌流後、肺毛細血管傷害を有意に減少し、そして前処置した動物にお
けるPCPI値は、非虚血コントロールと差異が無かった。対照的に、ヒト組換えIL
-10での前処置は、後肢の虚血再灌流後、肺のミエロペルオキシダーゼ量に有意
な増加を生じた。この後者の所見の容易な説明はすぐには出来ず、そして本発明
にとって全く重要ではないが、IL-10が肺における好中球の活性化および脱顆粒
を妨げるようである。このモデルにおいて、IL-10は、肺への好中球の漸加を妨
げないかもしれないが、それらの毒素成分の脱顆粒を妨げ、従って、より高いMP
Oレベルおよび減少した内皮傷害の両方を説明する。ヒト組換えIL-10による非虚
血コントロールの処置はまた、肺好中球浸潤を増加したが、この差異は有意では
なかった。
表7 肺損傷 *I/Rと有意に異なる(ANOVA,Duncan;p<.05)
#I/R+IL-10と有意に異なる(ANOVA,Duncanのマルチプルレンジテスト;p<.05)
TNF アッセイ:血清を、虚血再灌流を行っている10匹のラットのうち6匹で循
環しているTNFについて評価し、TNFレベル≧50pg/mlを67%(4/6)において検出
した。対照的に、ヒト組換えIL-10で前処置した虚血性動物の30%(3/10)のみ
で有意な循環TNFレベルを見出した。≧50pg/mlの血清TNFレベルは、非虚血コン
トロール動物のいずれにも検出されなかった。
これらの所見は、抗炎症性サイトカインIL-10が、後肢の虚血再灌流から生じ
る局所器官傷害および遠隔器官傷害の両方を減弱することを実証する。それゆえ
、この所見は、関連した傷害は炎症誘発性のサイトカインにより部分的に媒介さ
れ、そしてIL-10に基づく処置の受け入れが可能であるという間接的な証拠を提
供する。
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(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
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U,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF
,CG,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,
SN,TD,TG),AP(GH,KE,LS,MW,S
D,SZ,UG),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ
,MD,RU,TJ,TM),AL,AM,AU,AZ
,BA,BB,BG,BR,BY,CA,CN,CZ,
EE,GE,HU,IL,IS,JP,KG,KR,K
Z,LC,LK,LR,LT,LV,MD,MG,MK
,MN,MX,NO,NZ,PL,RO,RU,SG,
SI,SK,TJ,TM,TR,TT,UA,UZ,V
N,YU
(72)発明者 ナルラ,サトワント ケイ.
アメリカ合衆国 ニュージャージー
07006,ウエスト カルドウェル,ナタリ
イ ドライブ 26
(72)発明者 モルダワー,ライル エル.
アメリカ合衆国 フロリダ 32605,ゲイ
ンズビル,エヌ.ダブリュー.14ティーエ
イチ プレイス 2357