本発明の一実施形態に係る剥離用組成物及び剥離方法は、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤を剥離するために用いることができる。例えば、限定されないが、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤によって形成された接着層を介して、基板と支持体とが貼り付けられた積層体から、上記支持体を剥離する用途に用いることができる。より具体的には、例えば、ウエハハンドリングシステムにおいて、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤によってウエハ(基板)に一時的に貼着したサポートプレート(支持体)を当該ウエハから取り除く用途に用いることができる。
<剥離用組成物>
以下、本発明の一実施形態に係る剥離用組成物について詳細に説明する。
本実施形態に係る剥離用組成物は、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤を剥離するための剥離用組成物であり、テルペン系溶剤と、ノニオン系界面活性剤及びシリコン系界面活性剤のうち少なくとも一つとからなる。
本実施形態に係る剥離用組成物には、テルペン系溶剤を用いているため、ノニオン系界面活性剤及びシリコン系界面活性剤を好適に溶解することができる。このため、水添スチレン系エラストマーをテルペン系溶剤によって好適に溶解することができ、ノニオン系界面活性剤及びシリコン系界面活性剤によって、水添スチレン系エラストマーに由来する残渣を好適に除去することができる。このため、基板に水添スチレン系エラストマーに由来する残渣が発生することを防止することができる。
〔テルペン系溶剤〕
剥離用組成物に用いるテルペン系溶剤には、例えば、p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン、ジフェニルメンタン、1,4−テルピン、1,8−テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、テルピネン−1−オール、テルピネン−4−オール、ジヒドロターピニルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、ツヨン、カンファー、d−リモネン、l−リモネン、ジペンテン等を挙げることができる。
これらの中でも、テルペン系溶剤は、p−メンタン、リモネン、ジペンテン及びピナンであることがより好ましく、p−メンタンであることが最も好ましい。テルペン系溶剤として、p−メンタン、リモネン、ジペンテン及びピナンを用いれば、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤を迅速に溶解することができる剥離用組成物を得ることができる。また、テルペン系溶剤として、p−メンタンを用いれば、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤をより迅速に溶解することができる剥離用組成物を得ることができる。
テルペン系溶剤として、p−メンタンを用いる場合、p−メンタンのシス体及びトランス体の比率を調整してもよい。これによって、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤の溶解速度を調節することができる。例えば、p−メンタンのトランス体の比率をシス体の比率より高くすることにより、p−メンタンによる水添スチレン系エラストマーを含む接着剤の溶解速度をより速くすることができる。従って、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤に対するp−メンタンによる洗浄性をより高くすることができる。
また、テルペン系溶剤は、例えば、蒸留等によってテルペン系溶剤の沸点よりもさらに沸点の高い不純物を除去することが好ましい。これにより、接着剤を洗浄により除去したときに、テルペン系溶剤が含んでいる高沸点の不純物が基板に残渣として残ることを防止することができる。
〔界面活性剤〕
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤及びシリコン系界面活性剤を好適に用いることができる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。中でも、アセチレングリコール系界面活性剤及びポリオキシエチレンアルキルエーテルがより好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品として入手可能であり、例えば、エアープロダクツアンドケミカルズ社(米国)製のサーフィノールシリーズが挙げられる。具体的には、サーフィノール104E、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノール465、サーフィノール485等が挙げられる。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、市販品として入手可能であり、例えば、第一工業製薬株式会社製のノイゲンシリーズ、株式会社日本触媒製のソフタノールシリーズ、及び青木油脂工業株式会社製のファインサーフシリーズ等が挙げられる。具体的には、ノイゲンXL−40、ノイゲンXL−80、ノイゲンTDS−50、ノイゲンTDS−70、ソフタノール30、ソフタノール50、ソフタノール70、ソフタノール90、ファインサーフTD−70、ファインサーフTD−75、ファインサーフTD−80等が挙げられる。
シリコン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、及びアラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン等を挙げることができる。
シリコン系界面活性剤は、市販品として入手可能であり、例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK−331、BYK−310、及びBYK−322等を挙げることができる。
界面活性剤がテルペン系溶剤に完全に溶解していなくても剥離用組成物として用いることはできるものの、界面活性剤がテルペン系溶剤に完全に溶解していることが好ましい。このような観点から、剥離用組成物用溶剤としてテルペン系溶剤を用いる場合には、界面活性剤のHLB(Hydrophile−lypophile−balance)は、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。なお、本明細書においてHLBは、「((親水性部分の分子量/全体の分子量)×100)/5」によって得られる数値であり、数値が小さいほど、親油性であることを示す。
剥離用組成物に含まれるノニオン系界面活性剤及びシリコン系界面活性剤の合計の割合は、0.1重量%以上、10重量%以下の範囲内で添加されていることが好ましく、0.1重量%以上、5重量%以下の範囲内で添加されていることが特に好ましい。界面活性剤の添加量が0.1重量%以上、10重量%以下の範囲内であれば、テルペン系溶剤に界面活性剤を好適に溶解させておくことができる。このため、界面活性剤を過剰に用いることなく、水添スチレン系エラストマーの残渣を好適に除去することができる剥離用組成物を得ることができる。
<別の実施形態に係る剥離用組成物>
なお、本発明に係る剥離用組成物は、上記の実施形態に限定されない。一実施形態に係る剥離用組成物では、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、混和性のあるその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、2−ヘプタノン、酢酸ブチル、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン、デカン等を挙げることができる。
<剥離方法>
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る剥離方法について詳細に説明する。
図1の(a)に示すように、本実施形態に係る剥離方法に用いられる積層体10は、水添スチレン系エラストマーを含む接着層3を介して基板1とサポートプレート(支持体)2とを接着してなる。ここで、積層体10の接着層3は、水添スチレン系エラストマーを含んだ接着剤を用いることによって形成されている。
また、図1の(b)に示すように、積層体10のサポートプレート2は光を透過する材料からなり、積層体10には基板1とサポートプレート2との間に光を照射することによって変質する分離層4が設けられている。
本実施形態に係る剥離方法は、積層体10における基板1とサポートプレート2とを分離する分離工程(図1の(b)〜(d))と、接着層3を溶解させる溶解工程とを包含している(図1の(e)及び(f))。
〔分離工程〕
図1の(b)に示すように、分離工程では、サポートプレート2を介して分離層4に光を照射する。これによって、積層体10の分離層4を変質させる(図1の(c))。
本明細書において、分離層が「変質する」とは、分離層をわずかな外力を受けて破壊され得る状態、又は分離層と接する層との接着力が低下した状態にさせる現象を意味する。また、分離層の変質は、吸収した光のエネルギーによる(発熱性又は非発熱性の)分解、架橋、立体配置の変化又は官能基の解離(そして、これらにともなう分離層の硬化、脱ガス、収縮又は膨張)等であり得る。
このように、分離層4を変質させることによって、分離層4の接着力を低下させることができる(図1の(c))。従って、積層体10にわずかな力を加えることで、基板1からサポートプレート2を分離することが可能になる(図1の(d))。
このため、基板1とサポートプレート2とを分離した後、溶解工程において、基板1における接着層3の残渣に好適に剥離用組成物を接触させることが可能になる。
分離工程における、レーザ光照射条件は、分離層の種類によって適宜調整すればよく、限定されないが、レーザ光の平均出力値は、1.0W以上、5.0W以下の範囲であることが好ましく、3.0W以上、4.0W以下の範囲であることがより好ましい。また、レーザ光の繰り返し周波数は、20kHz以上、60kHz以下の範囲であることが好ましく、30kHz以上、50kHz以下の範囲であることがより好ましい。また、レーザ光の波長は、300nm以上、700nm以下であることが好ましく、450nm以上、650nm以下の範囲であることがより好ましい。このような条件によれば、分離層4に照射するパルス光のエネルギーを、分離層4を変質させるための適切な条件にすることができる。このため、基板1がレーザ光によってダメージを受けることを防止することができる。
また、パルス光のビームスポット径及びパルス光の照射ピッチは、隣接するビームスポットが重ならず、かつ分離層4を変質させることが可能なピッチであればよい。
〔溶解工程〕
図1の(e)及び(f)に示すように、溶解工程では、本発明の一実施形態に係る剥離用組成物を、接着層3に接触させて、当該接着層3を溶解させる。
溶解工程では、一実施形態に係る剥離用組成物を用いるため、水添スチレン系エラストマーを含む接着層3を迅速に溶解することができる。また、溶解工程において、剥離用組成物の洗浄性によって水添スチレン系エラストマーに由来する残渣を好適に除去することができ、基板に水添スチレン系エラストマーに由来する残渣が発生することを防止することができる。
また、図1の(e)に示すように、本実施形態に係る剥離方法では、溶解工程において、スプレー20によって一実施形態に係る剥離用組成物を噴霧することで接着層3に接触させる。剥離用組成物をスプレー20によって噴霧することで、接着層3に剥離用組成物を押し当てることができる。これにより、基板1における接着層3の残渣を押し流すことができ、より好適に基板1を洗浄することができる(図1の(f))。
また、溶解工程では、分離工程によってサポートプレート2が分離された基板1における接着層3に剥離用組成物を接触させる。このため、基板1における接着層3の残渣を除去しつつ、連続的に、基板1の洗浄まで行なうことができる。
なお、剥離用組成物を噴霧するために用いるスプレーとして、典型的には2流体スプレーノズルを挙げることができる。
〔積層体10〕
次に、図1の(a)に示す積層体10の各構成についてより詳細に説明する。
〔基板1〕
基板1は、分離層4が設けられたサポートプレート2に接着層3を介して貼り付けられる。その後、基板1は、サポートプレート2に支持された状態で、薄化、実装等のプロセスに供され得る。基板1としては、シリコンウエハ基板に限定されず、セラミックス基板、薄いフィルム基板、フレキシブル基板等の任意の基板を使用することができる。
〔サポートプレート2〕
サポートプレート(支持体)2は、基板1を支持する支持体であり、接着層3を介して、基板1に貼り付けられる。そのため、サポートプレート2としては、基板1の薄化、搬送、実装等のプロセス時に、基板1の破損又は変形を防ぐために必要な強度を有していればよい。また、分離層を変質させるための光を透過させるものであればよい。以上の観点から、サポートプレート2としては、ガラス、シリコン、アクリル系樹脂からなるもの等が挙げられる。
〔接着層3〕
接着層3は、基板1と分離層4が設けられたサポートプレート2とを接着固定するために用いられるものであり、水添スチレン系エラストマーを含む。
接着層3を形成する方法としては、基板1に接着剤を塗布してもよいし、基板1に接着剤が両面に塗布された接着テープを貼り付けてもよい。接着剤の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、ディッピング法、ローラーブレード法、ドクターブレード法、スプレー法、スリットノズル法による塗布法等が挙げられる。又、接着剤を塗布した後、加熱により乾燥させてもよい。
接着層3の厚さは、貼り付けの対象となる基板1及びサポートプレート2の種類、貼り付け後の基板1に施される処理等に応じて適宜設定すればよいが、10〜150μmの範囲内であることが好ましく、15〜100μmの範囲内であることがより好ましい。
接着層3を形成するための接着剤には、水添スチレン系エラストマーを含む。また、水添スチレン系エラストマー以外に、例えば、炭化水素樹脂及びアクリル−スチレン系樹脂等の添加樹脂、並びに離型剤を含んでいてもよい。また、その他の成分として、可塑剤、熱重合禁止剤等を含んでもよい。
(水添スチレン系エラストマー)
接着剤に含まれる水添スチレン系エラストマーとは、スチレン及び共役ジエンのブロックコポリマーの水添物である。
水添スチレン系エラストマーは、分解や重合等により変質を起こし難くい。このため、水添スチレン系エラストマーを用いることによって接着層3の熱に対する安定性を向上させることができる。また、水添スチレン系エラストマーを用いることによって接着層3の耐熱性をより高くすることができ、接着層3のレジスト溶剤への耐性を高めることができる。
水添スチレン系エラストマーとしては、エラストマーブロックの片末端がスチレンブロックに重合したジブロック重合体と、エラストマーブロックの両端がスチレンブロックに重合したトリブロック重合体とを用いることができる。また、トリブロック重合体である水添スチレン系エラストマーを用いれば、接着層3により高い耐熱性をもたらすことができる。
水添スチレン系エラストマーには、例えば、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックコポリマー(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SBBS)、及び、これらの水添物、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー)(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SEEPS)の水添物を挙げることができる。
水添スチレン系エラストマーとして用いられ得る市販品としては、例えば、株式会社クラレ製「セプトン(商品名)」、株式会社クラレ製「ハイブラー(商品名)」、旭化成株式会社製「タフテック(商品名)」、JSR株式会社製「ダイナロン(商品名)」等が挙げられる。
より具体的には、例えば、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SEEPS)として、Septon4033(株式会社クラレ製)及びSepton4044(株式会社クラレ製)、並びに、反応性のポリスチレン系ハードブロックを有する、反応架橋型のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマーとして、SeptonV9827(株式会社クラレ製)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレンブロックコポリマー(SEEPS−OH:末端水酸基変性)として、SeptonHG252(株式会社クラレ製)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックコポリマー(SEP)として、Septon2004(株式会社クラレ製)、及び、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンのトリブロック共重合体(SEBS)として、タフテックH1051(旭化成ケミカルズ株式会社製)等を挙げることができる。
なお、水添スチレン系エラストマーには、(メタ)アクリル酸エステルをさらに混合してもよい。
水添スチレン系エラストマーは、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含んでおり、当該「スチレン単位」は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜5のアルコキシアルキル基、アセトキシ基、カルボキシル基等が挙げられる。
水添スチレン系エラストマーは、スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内であることがより好ましく、17重量%以上、40重量%以下の範囲内であることがより好ましい。さらに、水添スチレン系エラストマーは、重量平均分子量が40,000以上、200,000以下の範囲内であることが好ましい。
また、水添スチレン系エラストマーは、複数の種類を混合して用いてもよい。この場合、複数の種類の水添スチレン系エラストマーのうち少なくとも一つが、スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内である、又は、重量平均分子量が40,000以上、200,000以下の範囲内であることがより好ましい。
例えば、接着層3を構成する接着剤において、複数の種類の水添スチレン系エラストマーを含む場合、例えば、スチレン単位の含有量が30重量%である株式会社クラレ製のセプトン(商品名)のSepton4033と、スチレン単位の含有量が13重量%であるセプトン(商品名)のSepton2063とを重量比1対1で混合すると、接着剤に含まれるエラストマー全体に対するスチレン含有量は21〜22重量%となり、従って14重量%以上となる。また、例えば、スチレン単位が10重量%のものと60重量%のものとを重量比1対1で混合すると35重量%となり、スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内となる。接着剤はこのような形態でもよい。また、接着層3を構成する接着剤に含まれる複数の種類の水添スチレン系エラストマーは、全て上記の範囲内でスチレン単位を含み、且つ、上記の範囲内の重量平均分子量であることが最も好ましい。
このように、水添スチレン系エラストマーのスチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内であり、水添スチレン系エラストマーの重量平均分子量が40,000以上、200,000以下の範囲内であれば、本発明の一実施形態に係る剥離用組成物及び本発明の一実施形態に係る剥離方法によって、水添スチレン系エラストマーに由来する残渣を基板1から好適に除去することができ、基板1に水添スチレン系エラストマーに由来する残渣が発生することを防止することができる。また、スチレン単位の含有量及び重量平均分子量が上記の範囲内であることにより、ウエハがレジストリソグラフィー工程に供されるときに曝されるレジスト溶剤(例えばPGMEA、PGME等)、酸(フッ化水素酸等)、アルカリ(TMAH等)に対して優れた耐性を発揮することができる。つまり、レジスト溶剤への耐性及び耐熱性を高めた接着剤であり、一実施形態に係る剥離方法によって水添スチレン系エラストマーに由来する残渣を好適に除去することができる接着剤を得ることができる。
接着層3を構成する接着剤に含まれる水添スチレン系エラストマーの含有量としては、例えば、水添スチレン系エラストマー及び添加樹脂の全量を100重量部として、50重量部以上、99重量部以下の範囲内が好ましく、60重量部以上、99重量部以下の範囲内がより好ましく、70重量部以上、95重量部以下の範囲内が最も好ましい。これら範囲内にすることにより、耐熱性を維持しつつ、ウエハと支持体とを好適に貼り合わせることができる。
〔添加樹脂〕
接着層3を形成するための接着剤には、炭化水素樹脂、アクリル−スチレン系樹脂又はマレイミド系樹脂のうちの少なくとも一つを添加樹脂として含んでもよい。これによって、接着層3の接着性を調整してもよい。
(炭化水素樹脂)
接着層3を形成するための接着剤には、添加樹脂として炭化水素樹脂を含んでもよい。
炭化水素樹脂は、炭化水素骨格を有し、単量体組成物を重合してなる樹脂である。炭化水素樹脂として、シクロオレフィン系ポリマー(以下、「樹脂(A)」ということがある)、並びに、テルペン樹脂、ロジン系樹脂及び石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(以下、「樹脂(B)」ということがある)等が挙げられるが、これに限定されない。
樹脂(A)としては、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を重合してなる樹脂であってもよい。具体的には、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分の開環(共)重合体、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を付加(共)重合させた樹脂等が挙げられる。
樹脂(A)を構成する単量体成分に含まれる前記シクロオレフィン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエン等の三環体、テトラシクロドデセン等の四環体、シクロペンタジエン三量体等の五環体、テトラシクロペンタジエン等の七環体、又はこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル等)置換体、アルケニル(ビニル等)置換体、アルキリデン(エチリデン等)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチル等)置換体等が挙げられる。これらの中でも特に、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、又はこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーが好ましい。
樹脂(A)を構成する単量体成分は、上述したシクロオレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよく、例えば、アルケンモノマーを含有することが好ましい。アルケンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン、α−オレフィン等が挙げられる。アルケンモノマーは、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
また、樹脂(A)を構成する単量体成分として、シクロオレフィンモノマーを含有することが、高耐熱性(低い熱分解、熱重量減少性)の観点から好ましい。樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましい。また、樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、特に限定されないが、溶解性及び溶液での経時安定性の観点からは80モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましい。
また、樹脂(A)を構成する単量体成分として、直鎖状又は分岐鎖状のアルケンモノマーを含有してもよい。樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するアルケンモノマーの割合は、溶解性及び柔軟性の観点からは10〜90モル%であることが好ましく、20〜85モル%であることがより好ましく、30〜80モル%であることがさらに好ましい。
なお、樹脂(A)は、例えば、シクロオレフィン系モノマーとアルケンモノマーとからなる単量体成分を重合させてなる樹脂のように、極性基を有していない樹脂であることが、高温下でのガスの発生を抑制する上で好ましい。
単量体成分を重合するときの重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜設定すればよい。
樹脂(A)として用いることのできる市販品としては、例えば、ポリプラスチックス株式会社製の「TOPAS」、三井化学株式会社製の「APEL」、日本ゼオン株式会社製の「ZEONOR」及び「ZEONEX」、JSR株式会社製の「ARTON」等が挙げられる。
例えば、下記化学式(1)で表される繰り返し単位及び下記化学式(2)で表される繰り返し単位の共重合体であるシクロオレフィンコポリマーを接着剤の添加樹脂として用いることができる。
(化学式(2)中、nは0又は1〜3の整数である。)
このようなシクロオレフィンコポリマーとしては、APL 8008T、APL 8009T、及びAPL 6013T(全て三井化学株式会社製)等を使用することができる。
樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることが特に好ましい。樹脂(A)のガラス転移温度が60℃以上であると、積層体が高温環境に曝されたときに接着層3の軟化をさらに抑制することができる。
樹脂(B)は、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂及び石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である。具体的には、テルペン系樹脂としては、例えば、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、水添テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。ロジン系樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステル、変性ロジン等が挙げられる。石油樹脂としては、例えば、脂肪族又は芳香族石油樹脂、水添石油樹脂、変性石油樹脂、脂環族石油樹脂、クマロン・インデン石油樹脂等が挙げられる。これらの中でも、水添テルペン樹脂、水添石油樹脂がより好ましい。
樹脂(B)の軟化点は特に限定されないが、80〜160℃であることが好ましい。樹脂(B)の軟化点が80℃以上であると、積層体が高温環境に曝されたときに軟化することを抑制することができ、接着不良を生じない。一方、樹脂(B)の軟化点が160℃以下であると、積層体を剥離するときの剥離速度が良好なものとなる。
樹脂(B)の重量平均分子量は特に限定されないが、300〜3,000であることが好ましい。樹脂(B)の重量平均分子量が300以上であると、耐熱性が十分なものとなり、高温環境下において脱ガス量が少なくなる。一方、樹脂(B)の重量平均分子量が3,000以下であると、積層体を剥離するときの剥離速度が良好なものとなる。なお、本実施形態における樹脂(B)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の分子量を意味するものである。
なお、樹脂として、樹脂(A)と樹脂(B)とを混合したものを用いてもよい。混合することにより、耐熱性及び剥離速度が良好なものとなる。例えば、樹脂(A)と樹脂(B)との混合割合としては、(A):(B)=80:20〜55:45(質量比)であることが、剥離速度、高温環境時の熱耐性、及び柔軟性に優れるので好ましい。
(アクリル−スチレン系樹脂)
添加樹脂としては、アクリル−スチレン系樹脂を用いてもよい。アクリル−スチレン系樹脂としては、例えば、スチレン又はスチレンの誘導体と、(メタ)アクリル酸エステル等とを単量体として用いて重合した樹脂が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル、脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数15〜20のアルキル基を有するアクリル系長鎖アルキルエステル、炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステル等が挙げられる。アクリル系長鎖アルキルエステルとしては、アルキル基がn−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基等であるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なお、当該アルキル基は、分岐鎖状であってもよい。
炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステルとしては、既存のアクリル系接着剤に用いられている公知のアクリル系アルキルエステルが挙げられる。例えば、アルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、ドデシル基、ラウリル基、トリデシル基等からなるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。
脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、イソボルニルメタアクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートがより好ましい。
芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、芳香族環としては、例えばフェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基等が挙げられる。また、芳香族環は、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有していてもよい。具体的には、フェノキシエチルアクリレートが好ましい。
(マレイミド系樹脂)
添加樹脂としては、マレイミド系樹脂を用いてもよい。マレイミド系樹脂としては、例えば、単量体として、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−sec−ブチルマレイミド、N−tert−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−へプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ステアリルマレイミド等のアルキル基を有するマレイミド、N−シクロプロピルマレイミド、N−シクロブチルマレイミド、N−シクロペンチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−シクロヘプチルマレイミド、N−シクロオクチルマレイミド等の脂肪族炭化水素基を有するマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−m−メチルフェニルマレイミド、N−o−メチルフェニルマレイミド、N−p−メチルフェニルマレイミド等のアリール基を有する芳香族マレイミド等を重合して得られた樹脂が挙げられる。
(離型剤)
接着剤は、水添スチレン系エラストマーに離型剤を含んでもよい。これによって、接着層3の基板1及びサポートプレート2に対する接着性を調整してもよい。
(その他の成分)
接着剤には、熱可塑性樹脂及び離型剤の他に、本質的な特性を損なわない範囲において、混和性のある他の物質をさらに含んでいてもよい。例えば、可塑剤、接着補助剤、安定剤、着色剤、熱重合禁止剤及び界面活性剤等、慣用されている各種添加剤をさらに用いることができる。また、接着剤は、希釈溶剤を含んでいてもよい。
(希釈溶剤)
希釈溶剤は、接着剤を希釈するために用いられる。これにより、塗布するための条件に適した粘度に接着剤を調整することができる。
希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、メチルオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の直鎖状の炭化水素、炭素数4から15の分岐鎖状の炭化水素、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ナフタレン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン等の環状炭化水素、p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン、ジフェニルメンタン、1,4−テルピン、1,8−テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、テルピネン−1−オール、テルピネン−4−オール、ジヒドロターピニルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、ツヨン、カンファー、d−リモネン、l−リモネン、ジペンテン等のテルペン系溶剤;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン(CH)、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類又は前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル又はモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体(これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい);ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル等の芳香族系有機溶剤等を挙げることができる。
〔分離層4〕
分離層4とは、サポートプレート2を介して照射される光を吸収することによって変質する材料から形成されている層である。
分離層4に照射する光を発射するレーザは、分離層4を構成している材料に応じて適宜選択することが可能であり、分離層4を構成する材料を変質させ得る波長の光を照射するレーザを選択すればよい。
分離層4は、サポートプレート2における、接着層3を介して基板1が貼り合わされる側の表面に設けられる。
分離層4の厚さは、例えば、0.05μm以上、50μm以下の範囲内であることがより好ましく、0.3μm以上、1μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。分離層4の厚さが0.05μm以上、50μm以下の範囲に収まっていれば、短時間の光の照射及び低エネルギーの光の照射によって、分離層4に所望の変質を生じさせることができる。また、分離層4の厚さは、生産性の観点から1μm以下の範囲に収まっていることが特に好ましい。
なお、積層体10において、分離層4とサポートプレート2との間に他の層がさらに形成されていてもよい。この場合、他の層は光を透過する材料から構成されていればよい。これによって、分離層4への光の入射を妨げることなく、積層体10に好ましい性質等を付与する層を、適宜追加することができる。分離層4を構成している材料の種類によって、用い得る光の波長が異なる。よって、他の層を構成する材料は、すべての光を透過させる必要はなく、分離層4を構成する材料を変質させ得る波長の光を透過させることができる材料から適宜選択し得る。
また、分離層4は、光を吸収する構造を有する材料のみから形成されていることが好ましいが、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、光を吸収する構造を有していない材料を添加して、分離層4を形成してもよい。また、分離層4における接着層3に対向する側の面が平坦である(凹凸が形成されていない)ことが好ましく、これにより、分離層4の形成が容易に行なえ、且つ貼り付けにおいても均一に貼り付けることが可能となる。
(フルオロカーボン)
分離層4は、フルオロカーボンからなっていてもよい。分離層4は、フルオロカーボンによって構成されることにより、光を吸収することによって変質するようになっており、その結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。よって、わずかな外力を加える(例えば、サポートプレート2を持ち上げる等)ことによって、分離層4が破壊されて、サポートプレート2と基板1とを分離し易くすることができる。分離層4を構成するフルオロカーボンは、プラズマCVD(化学気相堆積)法によって好適に成膜することができる。
フルオロカーボンは、その種類によって固有の範囲の波長を有する光を吸収する。分離層4に用いたフルオロカーボンが吸収する範囲の波長の光を分離層に照射することにより、フルオロカーボンを好適に変質させ得る。なお、分離層4における光の吸収率は80%以上であることが好ましい。
分離層4に照射する光としては、フルオロカーボンが吸収可能な波長に応じて、例えば、YAGレーザ、ルビーレーザ、ガラスレーザ、YVO4レーザ、LDレーザ、ファイバーレーザ等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、CO2レーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He−Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、又は、非レーザ光を適宜用いればよい。フルオロカーボンを変質させ得る波長としては、これに限定されるものではないが、例えば、600nm以下の範囲のものを用いることができる。
(光吸収性を有している構造をその繰り返し単位に含んでいる重合体)
分離層4は、光吸収性を有している構造をその繰り返し単位に含んでいる重合体を含有していてもよい。該重合体は、光の照射を受けて変質する。該重合体の変質は、上記構造が照射された光を吸収することによって生じる。分離層4は、重合体の変質の結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失っている。よって、わずかな外力を加える(例えば、サポートプレート2を持ち上げる等)ことによって、分離層4が破壊されて、サポートプレート2と基板1とを分離し易くすることができる。
光吸収性を有している上記構造は、光を吸収して、繰り返し単位として該構造を含んでいる重合体を変質させる化学構造である。該構造は、例えば、置換若しくは非置換のベンゼン環、縮合環又は複素環からなる共役π電子系を含んでいる原子団である。より詳細には、該構造は、カルド構造、又は上記重合体の側鎖に存在するベンゾフェノン構造、ジフェニルスルフォキシド構造、ジフェニルスルホン構造(ビスフェニルスルホン構造)、ジフェニル構造若しくはジフェニルアミン構造であり得る。
上記構造が上記重合体の側鎖に存在する場合、該構造は以下の式によって表され得る。
(式中、Rはそれぞれ独立して、アルキル基、アリール基、ハロゲン、水酸基、ケトン基、スルホキシド基、スルホン基又はN(R1)(R2)であり(ここで、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である)、Zは、存在しないか、又は−CO−、−SO2−、−SO−若しくは−NH−であり、nは0又は1〜5の整数である。)
また、上記重合体は、例えば、以下の式のうち、(a)〜(d)の何れかによって表される繰り返し単位を含んでいるか、(e)によって表されるか、又は(f)の構造をその主鎖に含んでいる。
(式中、lは1以上の整数であり、mは0又は1〜2の整数であり、Xは、(a)〜(e)において上記の“化2”に示した式のいずれかであり、(f)において上記の“化2”に示した式のいずれかであるか、又は存在せず、Y1及びY2はそれぞれ独立して、−CO−又はSO2−である。lは好ましくは10以下の整数である。)
上記の“化2”に示されるベンゼン環、縮合環及び複素環の例としては、フェニル、置換フェニル、ベンジル、置換ベンジル、ナフタレン、置換ナフタレン、アントラセン、置換アントラセン、アントラキノン、置換アントラキノン、アクリジン、置換アクリジン、アゾベンゼン、置換アゾベンゼン、フルオリム、置換フルオリム、フルオリモン、置換フルオリモン、カルバゾール、置換カルバゾール、N−アルキルカルバゾール、ジベンゾフラン、置換ジベンゾフラン、フェナンスレン、置換フェナンスレン、ピレン及び置換ピレンが挙げられる。例示した置換基がさらに置換基を有している場合、その置換基は、例えば、アルキル、アリール、ハロゲン原子、アルコキシ、ニトロ、アルデヒド、シアノ、アミド、ジアルキルアミノ、スルホンアミド、イミド、カルボン酸、カルボン酸エステル、スルホン酸、スルホン酸エステル、アルキルアミノ及びアリールアミノから選択される。
上記の“化2”に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している5番目の置換基であって、Zが−SO2−である場合の例としては、ビス(2,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,6‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3‐ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(2‐ヒドロキシフェニル)スルホン、及びビス(3,5‐ジメチル‐4‐ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。
上記の“化2”に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している5番目の置換基であって、Zが−SO−である場合の例としては、ビス(2,3‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2,3‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4‐ジヒドロキシ‐6‐メチルフェニル)スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,5‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3,5‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,3,4‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,3,4‐トリヒドロキシ‐6‐メチルフェニル)‐スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2,3,4‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4,6‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2,4,6‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。
上記の“化2”に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している5番目の置換基であって、Zが−C(=O)−である場合の例としては、2,4‐ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4‐トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’‐テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,5,6’‐テトラヒドロキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐オクトキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’‐ジヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2,6‐ジヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2,2’‐ジヒドロキシ‐4,4’‐ジメトキシベンゾフェノン、4‐アミノ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジメチルアミノ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジエチルアミノ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジメチルアミノ‐4’‐メトキシ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジメチルアミノ‐2’,4’‐ジヒドロキシベンゾフェノン、及び4‐ジメチルアミノ‐3’,4’‐ジヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられる。
上記構造が上記重合体の側鎖に存在している場合、上記構造を含んでいる繰り返し単位の、上記重合体に占める割合は、分離層4の光の透過率が0.001%以上、10%以下になる範囲内にある。該割合がこのような範囲に収まるように重合体が調製されていれば、分離層4が十分に光を吸収して、確実かつ迅速に変質し得る。すなわち、積層体10からのサポートプレート2の除去が容易であり、該除去に必要な光の照射時間を短縮させることができる。
上記構造は、その種類の選択によって、所望の範囲の波長を有している光を吸収することができる。例えば、上記構造が吸収可能な光の波長は、100nm以上、2,000nm以下の範囲内であることがより好ましい。この範囲内のうち、上記構造が吸収可能な光の波長は、より短波長側であり、例えば、100nm以上、500nm以下の範囲内である。例えば、上記構造は、好ましくはおよそ300nm以上、370nm以下の範囲内の波長を有している紫外光を吸収することによって、該構造を含んでいる重合体を変質させ得る。
上記構造が吸収可能な光は、例えば、高圧水銀ランプ(波長:254nm以上、436nm以下)、KrFエキシマレーザ(波長:248nm)、ArFエキシマレーザ(波長:193nm)、F2エキシマレーザ(波長:157nm)、XeClレーザ(波長:308nm)、XeFレーザ(波長:351nm)若しくは固体UVレーザ(波長:355nm)から発せられる光、又はg線(波長:436nm)、h線(波長:405nm)若しくはi線(波長:365nm)等である。
上述した分離層4は、繰り返し単位として上記構造を含んでいる重合体を含有しているが、分離層4はさらに、上記重合体以外の成分を含み得る。該成分としては、フィラー、可塑剤、及びサポートプレート2の剥離性を向上し得る成分等が挙げられる。これらの成分は、上記構造による光の吸収、及び重合体の変質を妨げないか、又は促進する、従来公知の物質又は材料から適宜選択される。
(無機物)
分離層4は、無機物からなっていてもよい。分離層4は、無機物によって構成されることにより、光を吸収することによって変質するようになっており、その結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。よって、わずかな外力を加える(例えば、サポートプレート2を持ち上げる等)ことによって、分離層4が破壊されて、サポートプレート2と基板1とを分離し易くすることができる。
上記無機物は、光を吸収することによって変質する構成であればよく、例えば、金属、金属化合物及びカーボンからなる群より選択される1種類以上の無機物を好適に用いることができる。金属化合物とは、金属原子を含む化合物を指し、例えば、金属酸化物、金属窒化物であり得る。このような無機物の例示としては、これに限定されるものではないが、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、チタン、クロム、SiO2、SiN、Si3N4、TiN、及びカーボンからなる群より選ばれる1種類以上の無機物が挙げられる。なお、カーボンとは炭素の同素体も含まれ得る概念であり、例えば、ダイヤモンド、フラーレン、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンナノチューブ等であり得る。
上記無機物は、その種類によって固有の範囲の波長を有する光を吸収する。分離層4に用いた無機物が吸収する範囲の波長の光を分離層に照射することにより、上記無機物を好適に変質させ得る。
無機物からなる分離層4に照射する光としては、上記無機物が吸収可能な波長に応じて、例えば、YAGレーザ、ルビーレーザ、ガラスレーザ、YVO4レーザ、LDレーザ、ファイバーレーザ等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、CO2レーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He−Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、又は、非レーザ光を適宜用いればよい。
無機物からなる分離層4は、例えばスパッタ、化学蒸着(CVD)、メッキ、プラズマCVD、スピンコート等の公知の技術により、サポートプレート2上に形成され得る。無機物からなる分離層4の厚さは特に限定されず、使用する光を十分に吸収し得る膜厚であればよいが、例えば、0.05μm以上、10μm以下の範囲内の膜厚とすることがより好ましい。また、分離層4を構成する無機物からなる無機膜(例えば、金属膜)の両面又は片面に予め接着剤を塗布し、サポートプレート2及び基板1に貼り付けてもよい。
なお、分離層4として金属膜を使用する場合には、分離層4の膜質、レーザ光源の種類、レーザ出力等の条件によっては、レーザの反射や膜への帯電等が起こり得る。そのため、反射防止膜や帯電防止膜を分離層4の上下又はどちらか一方に設けることで、それらの対策を図ることが好ましい。
(赤外線吸収性の構造を有する化合物)
分離層4は、赤外線吸収性の構造を有する化合物によって形成されていてもよい。該化合物は、赤外線を吸収することにより変質する。分離層4は、化合物の変質の結果として、赤外線の照射を受ける前の強度又は接着性を失っている。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体を持ち上げる等)ことによって、分離層4が破壊されて、サポートプレート2と基板1とを分離し易くすることができる。
赤外線吸収性を有している構造、又は赤外線吸収性を有している構造を含む化合物としては、例えば、アルカン、アルケン(ビニル、トランス、シス、ビニリデン、三置換、四置換、共役、クムレン、環式)、アルキン(一置換、二置換)、単環式芳香族(ベンゼン、一置換、二置換、三置換)、アルコール及びフェノール類(自由OH、分子内水素結合、分子間水素結合、飽和第二級、飽和第三級、不飽和第二級、不飽和第三級)、アセタール、ケタール、脂肪族エーテル、芳香族エーテル、ビニルエーテル、オキシラン環エーテル、過酸化物エーテル、ケトン、ジアルキルカルボニル、芳香族カルボニル、1,3−ジケトンのエノール、o−ヒドロキシアリールケトン、ジアルキルアルデヒド、芳香族アルデヒド、カルボン酸(二量体、カルボン酸アニオン)、ギ酸エステル、酢酸エステル、共役エステル、非共役エステル、芳香族エステル、ラクトン(β−、γ−、δ−)、脂肪族酸塩化物、芳香族酸塩化物、酸無水物(共役、非共役、環式、非環式)、第一級アミド、第二級アミド、ラクタム、第一級アミン(脂肪族、芳香族)、第二級アミン(脂肪族、芳香族)、第三級アミン(脂肪族、芳香族)、第一級アミン塩、第二級アミン塩、第三級アミン塩、アンモニウムイオン、脂肪族ニトリル、芳香族ニトリル、カルボジイミド、脂肪族イソニトリル、芳香族イソニトリル、イソシアン酸エステル、チオシアン酸エステル、脂肪族イソチオシアン酸エステル、芳香族イソチオシアン酸エステル、脂肪族ニトロ化合物、芳香族ニトロ化合物、ニトロアミン、ニトロソアミン、硝酸エステル、亜硝酸エステル、ニトロソ結合(脂肪族、芳香族、単量体、二量体)、メルカプタン及びチオフェノール及びチオール酸等の硫黄化合物、チオカルボニル基、スルホキシド、スルホン、塩化スルホニル、第一級スルホンアミド、第二級スルホンアミド、硫酸エステル、炭素−ハロゲン結合、Si−A1結合(A1は、H、C、O又はハロゲン)、P−A2結合(A2は、H、C又はO)、又はTi−O結合であり得る。
上記炭素−ハロゲン結合を含む構造としては、例えば、−CH2Cl、−CH2Br、−CH2I、−CF2−、−CF3、−CH=CF2、−CF=CF2、フッ化アリール、及び塩化アリール等が挙げられる。
上記Si−A1結合を含む構造としては、SiH、SiH2、SiH3、Si−CH3、Si−CH2−、Si−C6H5、SiO−脂肪族、Si−OCH3、Si−OCH2CH3、Si−OC6H5、Si−O−Si、Si−OH、SiF、SiF2、及びSiF3等が挙げられる。Si−A1結合を含む構造としては、特に、シロキサン骨格及びシルセスキオキサン骨格を形成していることが好ましい。
上記P−A2結合を含む構造としては、PH、PH2、P−CH3、P−CH2−、P−C6H5、A3 3−P−O(A3は脂肪族又は芳香族)、(A4O)3−P−O(A4はアルキル)、P−OCH3、P−OCH2CH3、P−OC6H5、P−O−P、P−OH、及びO=P−OH等が挙げられる。
上記構造は、その種類の選択によって、所望の範囲の波長を有している赤外線を吸収することができる。具体的には、上記構造が吸収可能な赤外線の波長は、例えば1μm以上、20μm以下の範囲内であり、2μm以上、15μm以下の範囲内をより好適に吸収することができる。さらに、上記構造がSi−O結合、Si−C結合及びTi−O結合である場合には、9μm以上、11μm以下の範囲内であり得る。なお、各構造が吸収できる赤外線の波長は当業者であれば容易に理解することができる。例えば、各構造における吸収帯として、非特許文献:SILVERSTEIN・BASSLER・MORRILL著「有機化合物のスペクトルによる同定法(第5版)−MS、IR、NMR、UVの併用−」(1992年発行)第146頁〜第151頁の記載を参照することができる。
分離層4の形成に用いられる、赤外線吸収性の構造を有する化合物としては、上述のような構造を有している化合物のうち、塗布のために溶媒に溶解させることができ、固化されて固層を形成することができるものであれば、特に限定されるものではない。しかしながら、分離層4における化合物を効果的に変質させ、サポートプレート2と基板1との分離を容易にするには、分離層4における赤外線の吸収が大きいこと、すなわち、分離層4に赤外線を照射したときの赤外線の透過率が低いことが好ましい。具体的には、分離層4における赤外線の透過率が90%より低いことが好ましく、赤外線の透過率が80%より低いことがより好ましい。
一例を挙げて説明すれば、シロキサン骨格を有する化合物としては、例えば、下記化学式(3)で表される繰り返し単位及び下記化学式(4)で表される繰り返し単位の共重合体である樹脂、あるいは下記化学式(3)で表される繰り返し単位及びアクリル系化合物由来の繰り返し単位の共重合体である樹脂を用いることができる。
(化学式(4)中、R3は、水素、炭素数10以下のアルキル基、又は炭素数10以下のアルコキシ基である。)
中でも、シロキサン骨格を有する化合物としては、上記化学式(3)で表される繰り返し単位及び下記化学式(5)で表される繰り返し単位の共重合体であるt−ブチルスチレン(TBST)−ジメチルシロキサン共重合体がより好ましく、上記式(3)で表される繰り返し単位及び下記化学式(5)で表される繰り返し単位を1:1で含む、TBST−ジメチルシロキサン共重合体がさらに好ましい。
また、シルセスキオキサン骨格を有する化合物としては、例えば、下記化学式(6)で表される繰り返し単位及び下記化学式(7)で表される繰り返し単位の共重合体である樹脂を用いることができる。
(化学式(6)中、R4は、水素又は炭素数1以上、10以下のアルキル基であり、化学式(7)中、R5は、炭素数1以上、10以下のアルキル基、又はフェニル基である。)
シルセスキオキサン骨格を有する化合物としては、このほかにも、特開2007−258663号公報(2007年10月4日公開)、特開2010−120901号公報(2010年6月3日公開)、特開2009−263316号公報(2009年11月12日公開)及び特開2009−263596号公報(2009年11月12日公開)において開示されている各シルセスキオキサン樹脂を好適に利用することができる。
中でも、シルセスキオキサン骨格を有する化合物としては、下記化学式(8)で表される繰り返し単位及び下記化学式(9)で表される繰り返し単位の共重合体がより好ましく、下記化学式(8)で表される繰り返し単位及び下記化学式(9)で表される繰り返し単位を7:3で含む共重合体がさらに好ましい。
シルセスキオキサン骨格を有する重合体としては、ランダム構造、ラダー構造、及び籠型構造があり得るが、何れの構造であってもよい。
また、Ti−O結合を含む化合物としては、例えば、(i)テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、及びチタニウム−i−プロポキシオクチレングリコレート等のアルコキシチタン;(ii)ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、及びプロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)等のキレートチタン;(iii)i−C3H7O−[−Ti(O−i−C3H7)2−O−]n−i−C3H7、及びn−C4H9O−[−Ti(O−n−C4H9)2−O−]n−n−C4H9等のチタンポリマー;(iv)トリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、チタニウムステアレート、ジ−i−プロポキシチタンジイソステアレート、及び(2−n−ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン等のアシレートチタン;(v)ジ−n−ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン等の水溶性チタン化合物等が挙げられる。
中でも、Ti−O結合を含む化合物としては、ジ−n−ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン(Ti(OC4H9)2[OC2H4N(C2H4OH)2]2)が好ましい。
上述した分離層4は、赤外線吸収性の構造を有する化合物を含有しているが、分離層4はさらに、上記化合物以外の成分を含み得る。該成分としては、フィラー、可塑剤、及びサポートプレート2の剥離性を向上し得る成分等が挙げられる。これらの成分は、上記構造による赤外線の吸収、及び化合物の変質を妨げないか、又は促進する、従来公知の物質又は材料から適宜選択される。
(赤外線吸収物質)
分離層4は、赤外線吸収物質を含有していてもよい。分離層4は、赤外線吸収物質を含有して構成されることにより、光を吸収することによって変質するようになっており、その結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。よって、わずかな外力を加える(例えば、サポートプレート2を持ち上げる等)ことによって、分離層4が破壊されて、サポートプレート2と基板1とを分離し易くすることができる。
赤外線吸収物質は、赤外線を吸収することによって変質する構成であればよく、例えば、カーボンブラック、鉄粒子、又はアルミニウム粒子を好適に用いることができる。赤外線吸収物質は、その種類によって固有の範囲の波長を有する光を吸収する。分離層4に用いた赤外線吸収物質が吸収する範囲の波長の光を分離層4に照射することにより、赤外線吸収物質を好適に変質させ得る。
<別の実施形態に係る剥離方法>
本発明に係る剥離方法は、上記の実施形態に限定されない。別の実施形態に係る剥離方法では、基板とサポートプレートとの間に光を照射することによって変質する分離層を形成していない積層体を用いて、溶解工程を行なう。
溶解工程では、一実施形態に係る剥離用組成物を水添スチレン系エラストマーに接触させ溶解させる。これによって、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤を用いて形成された接着層を好適に溶解させることができ、水添スチレン系エラストマーに由来する残渣を好適に除去することができる。従って、積層体のサポートプレートに分離層を形成していない構成であっても、溶解工程を行なうことによって基板から水添スチレン系エラストマーに由来する残渣を除去することができる。
本実施形態に係る剥離方法では、例えば、水添スチレン系エラストマーを含む接着剤を介して、厚さ方向に貫通した複数の貫通孔が設けられているサポートプレートと基板とを接着してなる積層体を用いてもよい。
本実施形態に係る剥離方法では、例えば、サポートプレートに設けられた複数の貫通孔を介して、積層体の接着層に本発明の一実施形態に係る剥離用組成物を接触させることで、接着層を溶解させ、積層体における基板からサポートプレートを剥離するとよい。その後、接着層に一実施形態に係る剥離用組成物を接触させ、接着層を溶解することで、基板から水添スチレン系エラストマーに由来する残渣を除去することができる。
さらに別の実施形態に係る剥離方法では、例えば、積層体における接着層の外周部分の一部をブレード等によって除去し、次に、ブレードによって接着層3を除去した部分にエタノール等の有機溶媒を供給する。その後、例えば、積層体における基板を固定し、サポートプレートをクランプ等の把持手段によって把持して積層体に力を加えることで、基板からサポートプレートを剥離する。
本実施形態に係る剥離方法では、ブレードによって接着層を除去した部分にエタノール等の有機溶媒を供給しているため、積層体における接着層の一部が除去された部分の接着性を低下させることができる。このため、当該接着層の一部が除去された部分に力を好適に集中させることができる。また、本実施形態に係る剥離方法に用いる積層体の接着層は離型剤を含ませることによって接着性を調整するとよい。これによって、積層体に過度に力を加えなくても、基板からサポートプレートを好適に剥離することができる。
その後、接触工程を行なうことにより、接着層3に一実施形態に係る剥離用組成物を接触させ、接着層3を溶解することで、基板から水添スチレン系エラストマーに由来する残渣を除去することができる。
このように、本発明の一実施形態に係る剥離方法は、溶解工程において、積層体における接着層に一実施形態に係る剥離用組成物を接触させることができれば、基板からサポートプレートを分離する方法は、分離層を変質させる方法に限定されない。
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔接着剤の調製〕
まず、剥離用組成物の洗浄性を評価にするために用いる接着剤組成物A〜Cを、表1に示す組成及び配合量に従い調製した。
まず、90重量部のSepton(商品名)HG252及び10重量部のアクリル樹脂A1を混合することで樹脂組成物を得た。続いて、デカヒドロナフタレン80重量部と酢酸ブチル20重量部の混合溶剤に、濃度が25重量%となるように当該樹脂組成物を溶解した。続いて、樹脂混合物100重量部に対して、1重量部のIRGANOX(商品名)1010(BASF社製)を添加し、樹脂混合物を溶解したデカヒドロナフタレン80重量部に対して、20重量部の酢酸ブチルを配合することによって接着剤組成物Aを得た。
続いて、表1に示す組成及び配合量に従い、接着剤組成物Aと同様の手順によって、接着剤組成物B及びCを調製した。
なお、表1に示す通り、接着剤組成物には、水添スチレン系エラストマーとして、Septon HG252(株式会社クラレ製、SEEPS−OH;ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン 末端水酸基変性)、タフテックH1051(旭化成ケミカルズ株式会社製、SEBS;スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンのトリブロック共重合体)及びSepton2004(株式会社クラレ製、SEP;ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックコポリマー)を用いた。
また、添加樹脂として、TOPAS−TM(ポリプラスチック株式会社製、シクロオレフィンコポリマー;エチレン−ノルボルネンのコポリマー、Mw=10,000、Mw/Mn=2.08、ノルボルネン:エチレン=50:50(重量比))及びアクリル樹脂A1(Mw=10,000)を用いた。A1は、下記の構造を有するランダム重合体である(式中、l/m/n=60/20/20)。
〔試験片の作製〕
洗浄性評価のための試験片を作製するために、接着剤組成物A〜Cを用いて積層体を形成し、積層体を処理した後にウエハ基板からガラス支持体を分離した。これによって、試験片として、分離層及び接着層の残渣が残るウエハ基板を作製した。
まず、半導体ウエハ基板(12インチシリコン)上に接着剤組成物Aをスピン塗布し、100℃、160℃及び220℃のそれぞれにおいて3分ずつベークして接着層を形成した(膜厚50μm)。
次に、サポートプレートとして、ベアガラス支持体(12インチ、厚さ700μm)を用い、当該サポートプレートの上にフルオロカーボンを用いたプラズマCVD法により分離層を形成した。反応ガスとしてC4F8を使用し、流量400sccm、圧力700mTorr、高周波電力2500W及び成膜温度240℃の条件下においてCVD法を行なうことで分離層であるフルオロカーボン膜(厚さ1μm)をサポートプレート上に形成した。
その後、ガラス支持体、分離層、接着層、及びウエハ基板がこの順になるように重ね合わせ、215℃、真空下、4000kgfの貼付圧力で押圧することで積層体を作製した。
続いて、積層体への処理として、DISCO社製バックグラインド装置にて厚さ50μmになるまでウエハ基板を薄化した後、220℃においてN2によるプラズマCVD処理を行なった。
その後、波長532nmのレーザ光を照射してウエハ基板からガラス支持体を分離し、接着剤組成物Aを用いて形成した接着層の残渣が残るウエハ基板を試験片Aとして得た。また、接着剤組成物Aを用いた場合と同様の手順に従って、接着剤B及びCについても試験片B及びCを作製した。
〔剥離用組成物の調製〕
表2に示す組成及び界面活性剤の添加量に従って、実施例1〜12及剥離用組成物を調製した。
まず、p−メンタン(ヤスハラケミカル株式会社製、ウッディリバー#10(商品名)、純度96.0%)に界面活性剤としてノイゲンXL−40(第一工業製薬株式会社製、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル)を1%添加することによって実施例1の剥離用組成物を調製した。また、実施例1の剥離用組成物と同様の手順に従って、実施例2〜12の剥離用組成物を調製した。
実施例2〜12に用いた界面活性剤の種類は表2に示す通りである。表2に示す、XL−80はポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル(第一工業製薬株式会社製)であり、ソフタノール30及びソフタノール120は高級アルコールエトキシレート(株式会社日本触媒製)であり、サーフィノール440はアセチレングリコール(日信化学工業株式会社製)であり、BYK−331は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、BYK−310は、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、BYK−322は、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン(ビックケミー・ジャパン株式会社製)である。また、d−リモネンには、ウッディリバー#8(商品名、ヤスハラケミカル株式会社製、純度98.5%)を用い、ジペンテンには、ジペンテンT(商品名、日本テルペン化学株式会社製)を用いた。
〔洗浄性の評価〕
接着剤組成物A〜Cを用いて作製した試験片A〜Cに、実施例1〜12の剥離用組成物を用いてスプレー洗浄し、洗浄性の評価を行なった。
洗浄性の評価では、洗浄後の半導体ウエハ表面における残渣の有無を顕微鏡により確認した。なお、半導体ウエハ基板の上に水添スチレン系エラストマーに由来する残渣が存在すると、顕微鏡から出る高輝度の光により残渣部分が乱反射して白く見える。
この白色の残渣が認められなければ、洗浄性を「○」と評価し、白色の残渣が認められれば、洗浄性を「×」と評価した。以下、実施例1〜12の評価結果を表2に示す。
表2に示されるように、テルペン系溶剤にノニオン系界面活性剤又はシリコン系界面活性剤を添加した剥離用組成物で、半導体ウエハ基板上の水添スチレン系エラストマーを含む接着層を溶解し、半導体ウエハ基板を洗浄した場合、水添スチレン系エラストマーに由来する白色の残渣が生じていないことを確認した。また、顕微鏡でさらに光量を上げて白色残渣の有無を観察したが、光をあてた部分はシリコン基板と同等の残渣がない結果であった。
〔比較例〕
次に、表3に示す組成及び界面活性剤の添加量に従い、比較例1〜3の剥離用組成物を調製した。まず、10重量%のパイオニンA−76のイソプロパノール溶液を調製し、次いで、パイオニンA−76が1重量%の濃度になるように、p−メンタン(ウッディリバー#10)にパイオニンA−76のイソプロパノール溶液を配合することによって比較例2の剥離用組成物を得た。また、比較例3ついても比較例2と同様の手順に従って調製した。なお、表3に示す、パイオニンA−76は、アニオン系界面活性剤(竹本油脂株式会社製、リン酸エステル型)であり、パイオニンB−811−Nは、カチオン系界面活性剤(竹本油脂株式会社製、第4級アンモニウム塩型)である。
続いて、比較例1〜3の剥離用組成物による洗浄性を、実施例1〜12と同様の方法によって評価した。比較例1〜3における洗浄性の評価結果は、以下の表3に示す通りである。
表3に示されるように、比較例1〜3の剥離用組成物を用いて、試験片A〜Cの水添スチレン系エラストマーを含む接着層を溶解し、半導体ウエハ基板を洗浄した場合、試験片A〜Cのいずれにおいても白色残渣が生じていることを確認した「×」。
上記の実施例1〜12及び比較例1〜3の結果から、テルペン系溶剤にノニオン系界面活性剤及びシリコン系界面活性剤の少なくとも一つを添加することによって、水添スチレン系エラストマーを含む接着層をウエハ基板から好適に除去することができることが確認された。