JP5949669B2 - 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置 - Google Patents
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Description
前記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、気筒内に噴射された燃料の複数の反応の状態に基づいて理想熱発生率波形を作成する際に、それら複数の反応のうち低温酸化反応および熱分解反応の少なくとも一方については、筒内温度の上昇に伴い反応量が低下するものとしたことである。
具体的に、本発明は、燃料噴射弁から気筒内に噴射された燃料の燃焼を行う内燃機関における前記燃焼の熱発生率波形を作成する装置を対象とする。そして、この熱発生率波形作成装置を、前記燃料の燃焼が、少なくとも低温酸化反応、熱分解反応、および高温酸化反応を含む複数の反応によって規定され、それら各反応のそれぞれの反応状態に基づいて理想熱発生率波形が作成される構成として、その際に前記低温酸化反応および熱分解反応の少なくとも一方については、筒内温度が高いほど反応量が低下するものとしている。
、異常であると診断された反応形態に対して改善策(例えば内燃機関の制御パラメータの補正)を講じることにより、異常であると診断された反応形態に適した制御パラメータを選択し、その制御パラメータを補正することができる。このため、内燃機関の制御性を大幅に改善することができる。
図1は、本実施形態に係るディーゼルエンジン1(以下、単にエンジンという)およびその制御系統の概略構成図である。
エンジン1の各部位には各種センサが取り付けられている。例えば、前記エアフローメータ43は吸入空気量に応じた検出信号を出力する。レール圧センサ41はコモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。スロットル開度センサ42は吸気絞り弁62の開度に応じた検出信号を出力する。吸気圧センサ48は吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。吸気温センサ49は吸入空気の温度に応じた検出信号を出力する。
ECU100は、図示しないCPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータと入出力回路とを備えている。図3に示すように、ECU100の入力回路には、クランクポジションセンサ40、前記レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44a,44b、排気温センサ45a,45b、水温センサ46、アクセル開度センサ47、吸気圧センサ48、吸気温センサ49、筒内圧センサ4Aなどが接続されている。
次に、本実施形態のエンジン1における燃焼形態の概略について説明する。具体的な燃料噴射形態の一例として以下では、ピストン13が圧縮上死点に達する前に燃料噴射が実行される場合について説明する。こうして噴射された燃料が自己着火によって燃焼し、膨張行程時においてピストン13を下死点に向かって押し下げるとともに、燃焼室3内の温度を上昇させるようになる。
以下では、本実施形態の特徴である理想熱発生率波形の作成、および、この作成された理想熱発生率波形を利用した燃焼状態診断(気筒内での燃料の各反応形態の診断)の結果に基づいて実行される制御パラメータの補正について詳細に説明する。
前記理想熱発生率波形の作成について説明する。まず、理想熱発生率波形の作成の概略について説明する。
なお、前記理想熱発生率波形モデルの作成の詳細については後述する。
次に、前記理想熱発生率波形の作成の第1手順である燃料の反応形態の分離について説明する。
気化反応は、前記インジェクタ23から噴射された燃料が気筒内の熱を受けて気化するものである。この反応は、一般的には筒内ガス温度が500K以上となっている環境下に燃料が晒された状態で、燃料噴霧の拡散がある程度進んだ際に開始する噴霧律速の反応となっている。
なお、この気化反応は吸熱反応であるため、この反応量(発生熱量)としては負の値となる。
低温酸化反応は、ディーゼルエンジン1の燃料である軽油中に含まれる低温酸化反応成分(n−セタン(C16H34)等の直鎖単結合組成の燃料等)が燃焼する反応である。この低温酸化反応成分は、筒内温度が比較的低い場合であっても着火が可能な成分であって、このn−セタン等の量が多いほど(高セタン燃料であるほど)気筒内での低温酸化反応が進み易く着火遅れが抑制されることになる。具体的に、n−セタン等の低温酸化反応成分は、筒内温度が約750Kに達した時点で燃焼(低温酸化反応)を開始する。なお、n−セタン等以外の燃料成分(高温酸化反応成分)は筒内温度が約900Kに達するまで燃焼(高温酸化反応)を開始しない。
熱分解反応は、燃料成分の熱分解を行う反応であって、その反応開始温度は例えば約800Kとなっている。
予混合燃焼による高温酸化反応の反応温度は例えば約900Kとなっている。つまり、筒内温度が900Kに達したことで燃焼を開始する反応が、この予混合燃焼による高温酸化反応である。
拡散燃焼による高温酸化反応の反応温度は例えば約1000Kとなっている。つまり、筒内温度が1000K以上となっている筒内に向けて噴射された燃料が、噴射後、直ちに燃焼を開始する反応が、この拡散燃焼による高温酸化反応である。
Grd=GrdB×(基準エンジン回転速度/実エンジン回転速度)2
×(d/基準d)×(N/基準N) …(4)
GrdB:基準反応速度、Grd:反応速度、d:インジェクタ23の噴孔径、N:インジェクタ23の噴孔数、A,B:実験等により求められた定数
なお、前記式(6)は、インジェクタ23の基準噴孔径に対する実噴孔径の比、および、インジェクタ23の基準噴孔数に対する実噴孔数の比が乗算されていることにより、一般化された式となっている。また、この式(6)は、回転速度補正係数が乗算されていることで、エンジン回転速度に応じて補正された反応速度が求められるものとなっている。
ここで、本実施形態の特徴として、前記した低温酸化反応および熱分解反応の反応量に対する筒内温度の影響について説明する。まず、上述したように燃料である軽油の理論上の発熱量(35.8J/mm3)から、理想的な燃焼場の環境(例えば温度や酸素密度、燃料密度等)において、燃焼効率が十分に高い場合は高温酸化反応における基準反応量効率は筒内温度によらず一定(単位燃料当たり例えば30J/mm3)とみなすことができる。
基準反応量効率=−0.04×Tact+40 …(6)
同様に熱分解反応については図9に一例を示すように、その基準反応量効率は反応開始温度である800Kから900Kくらいまでは一定値(図の例では−2.0[J/mm3])となり、拡散燃焼の反応開始温度である1000Kを越えて1100Kくらいまでは温度上昇に伴い徐々に絶対値が低下している。同図に示す例では、熱分解反応の基準反応量効率を以下の式(7)および式(8)により近似している。
基準反応量効率=−2.0×Exp(−8.06・X3.54) …(8)
なお、Tinjは、燃料噴射時の筒内ガス温度であり、Xは、900〜1100Kの温度変化巾(200K)を基準として、燃料噴射時の温度変化の割合を表した無次元化量である。
次に、前記のように分離された各反応形態それぞれに対する理想熱発生率波形モデルの作成について説明する。
反応速度は、前記基準反応速度効率に基づいて設定され、理想熱発生率波形モデルを二等辺三角形に近似させた場合、熱発生率が上昇する期間での上昇勾配と、熱発生率が下降する期間での下降勾配とでは、それらの絶対値は一致している。
各反応における発熱(または吸熱)量の効率[J/mm3]については、例えば高温酸化反応については燃焼期間を適正化すれば、前記したように定数(例えば30J/mm3)とみなすことができる。また、低温酸化反応および熱分解については高温酸化反応との和で完結し、それぞれ温度上昇に伴い低下するものとみなしている。そして、発生熱量は、その発熱(または吸熱)量の効率に燃料噴射量(前記有効噴射量)を乗算したものとなる。
以上の三角形の勾配(反応速度)および三角形の面積(発生熱量)から三角形の底辺の長さに相当する燃焼期間が求められる。
これより、B=A/αとなる。
よって、A=SQRT[2S/{(1+1/α)G}]となる。
L=A+B=A(1+1/α)
=(1+1/α)×SQRT[2S/{(1+1/α)G}]
理想熱発生率波形モデルが二等辺三角形の場合にはα=1であり、
L=2×SQRT(S/G)=2×SQRT(30×Fq/G)となる。
このようにして、噴射量(噴射量指令値:発生熱量に相関のある値)と勾配(反応速度)が与えられれば燃焼期間が確定されることになる。
(1−C)理想熱発生率波形モデルのフィルタリングによる理想熱発生率波形の作成
以上のようにして理想熱発生率波形モデルを作成した後、この理想熱発生率波形モデルを周知のフィルタ処理(例えばWiebeフィルタによる処理)によって円滑化することにより、理想熱発生率波形を作成する。以下、Wiebeフィルタによる処理を行った場合について具体的に説明する。
X=θ/θp
ここで、Fは反応期間における反応量、θは反応開始後の経過クランク角度、θpは反応期間に対応するクランク角度期間で、Xは、反応期間に対応するクランク角度期間を基準として、経過クランク角度の割合を表した無次元化量である。また、a,mは関数パラメータである。パラメータaは、反応の期間を規定するものであり、パラメータmは、「燃焼特性指数」と呼ばれたり「形状パラメータ」と呼ばれたりするものであって、熱発生率波形の重心となる時期を規定するものである。
前記理想熱発生率波形と比較される実熱発生率波形は、筒内圧センサ4Aによって検出される筒内圧力の変化に応じて作成される。つまり、気筒内での熱発生率と筒内圧力との間には相関がある(熱発生率が高いほど筒内圧力は高くなる)ので、この筒内圧センサ4Aによって検出される筒内圧力から実熱発生率波形を作成することができる。この検出した筒内圧力から実熱発生率波形を作成する処理については公知であるため、ここでの説明は省略する。
燃焼状態の診断(反応形態の診断)としては、前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離の大きさに基づいて行われる。例えば、その乖離が予め設定された閾値(本発明でいう異常判定乖離量)以上となっている反応形態が存在している場合には、その反応形態に異常が生じていると診断することになる。例えば熱発生率の偏差が10[J/°CA]以上となっている反応形態が存在する場合や、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形のクランク角度側への偏差(進角側または遅角側の偏差)が3°CA以上となっている反応形態が存在する場合には、その反応形態に異常が生じていると診断する。これら値はこれに限定されるものではなく、実験やシミュレーションによって適宜設定される。
前記理想熱発生率波形と実熱発生率波形との比較による燃焼状態の診断において、上述した如く理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が予め設定された閾値を超える反応形態が存在する場合、その反応形態に異常が生じていると診断され、この乖離を小さくするようにエンジン1の制御パラメータが補正されることになる。
以上、説明した実施形態では、自動車に搭載される直列4気筒ディーゼルエンジン1に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン、水平対向型エンジン等の別)についても特に限定されることはない。
12 シリンダボア(気筒)
23 インジェクタ(燃料噴射弁)
3 気筒内燃焼室
4A 筒内圧センサ
100 ECU
I 気化反応の理想熱発生率波形モデル
II 低温酸化反応の理想熱発生率波形モデル
III 熱分解反応の理想熱発生率波形モデル
IV 予混合燃焼による高温酸化反応の理想熱発生率波形モデル
V 拡散燃焼による高温酸化反応の理想熱発生率波形モデル
Claims (11)
- 燃料噴射弁から気筒内に噴射された燃料の燃焼を行う内燃機関における前記燃焼の熱発生率波形を作成する装置であって、
前記燃料の燃焼が、少なくとも低温酸化反応、熱分解反応、および高温酸化反応を含む複数の反応によって規定され、それら各反応のそれぞれの反応状態に基づいて理想熱発生率波形が作成される構成となっており、
前記低温酸化反応および熱分解反応の少なくとも一方については、筒内温度が高いほど反応量が低下するものとして、前記理想熱発生率波形が作成されることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。 - 請求項1に記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
前記低温酸化反応および熱分解反応の両方について、それぞれの反応量が筒内温度の上昇に応じて低下し、所定温度以上では零になるものとすることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。 - 請求項2に記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
前記高温酸化反応については反応量が筒内温度によらず一定とされ、
前記の所定温度は、前記高温酸化反応の開始温度以上に設定されていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。 - 請求項1〜3のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
前記燃料の各反応それぞれの反応起点として反応開始温度を設定しておき、気筒内の温度がその反応開始温度に達した時点を反応の開始時期とすることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。 - 請求項1〜4のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
前記燃料の各反応それぞれの開始時期を基点として、反応速度を斜辺の勾配、反応量を面積、反応期間を底辺の長さとする三角形で成る理想熱発生率波形モデルを作成し、当該各反応の理想熱発生率波形モデルをフィルタ処理によって円滑化することで、前記理想熱発生率波形が作成されることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。 - 請求項5記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
前記反応速度は、前記反応の開始時期における反応開始温度に対応した基準反応速度効率と燃料量とから算出され、
前記反応量は、前記反応開始温度に対応した基準反応量効率と燃料量とから算出されるとともに、前記低温酸化反応および熱分解反応の少なくとも一方については、前記基準反応量効率の絶対値が筒内温度の上昇に対応して減少するように設定され、
前記反応期間は、前記反応速度および反応量から算出されるよう構成されていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。 - 請求項1〜6のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置によって作成された理想熱発生率波形と、気筒内で実際に燃料が反応した際の実熱発生率波形とを比較し、前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定量以上となっている場合には、燃料の反応において異常が生じていると診断する構成となっていることを特徴とする内燃機関の燃焼状態診断装置。
- 請求項7記載の内燃機関の燃焼状態診断装置において、
前記実熱発生率波形は、筒内圧センサによって検出される気筒内圧力に基づいて得られたものであることを特徴とする内燃機関の燃焼状態診断装置。 - 請求項7または8の何れかに記載の内燃機関の燃焼状態診断装置において、
前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定の異常判定乖離量以上となっている反応が存在しており、その反応に異常が生じていると診断された際において、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定の補正可能乖離量以下である場合には、内燃機関の制御パラメータの補正を行って前記乖離を前記異常判定乖離量未満にする制御を行う一方、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が前記補正可能乖離量を超えている場合には、内燃機関に故障が生じていると診断することを特徴とする内燃機関の燃焼状態診断装置。 - 請求項1〜6のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
車両に実装または実験装置に搭載されていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。 - 請求項7〜9のうち何れか一つに記載の内燃機関の燃焼状態診断装置において、
車両に実装または実験装置に搭載されていることを特徴とする内燃機関の燃焼状態診断装置。
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