JP5949669B2 - 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置 - Google Patents

内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置 Download PDF

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Description

本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関の熱発生率波形を作成する装置、および、その作成された熱発生率波形を利用して燃料の燃焼状態を診断する装置に関する。
従来から周知のように、自動車用エンジン等として使用されるディーゼルエンジン(以下、単にエンジンと呼ぶ場合もある)にあっては、その運転状態に応じて燃料の噴射量や噴射時期等、各種制御パラメータを補正する場合に、気筒内における燃料の反応状態(例えば燃料の着火時期や燃焼速度等)を認識し、それに応じて、所望の反応状態が得られるように制御パラメータを補正することが望ましい。
このように気筒内における燃料の反応状態に応じて各制御パラメータを補正する手段の一つとして、燃焼時における熱発生率波形を求め、その熱発生率波形が理想的な波形となるように各制御パラメータを補正することが知られている。そして、この燃焼時における熱発生率波形を求めるための手段として下記の特許文献1や特許文献2に開示されているようにWiebe関数を利用することも知られている。
特許第4577211号公報 特開2011−106334号公報
ところで、ディーゼルエンジンのような圧縮自着火式の内燃機関においては、圧縮行程における筒内温度の上昇に応じて燃料が気化した後に、低温酸化反応および熱分解反応を経て高温酸化反応、即ちいわゆる燃焼状態に移行することが知られている。ディーゼルエンジンの燃料である軽油の場合、その単位体積当たりの発熱量は理論上、35.8J/mm3であり、燃焼に寄与しない燃料の未燃分を考慮すれば、理想的な高温酸化反応によって発生する熱量は単位燃料当たり概ね30J/mm3くらいとみなしてよい。
これに対し、低温酸化反応や熱分解反応による発熱(または吸熱)量は筒内温度による影響を受けるものと考えられるが、その影響の度合いは十分に解明されていない。このため、筒内温度の影響を理想熱発生率波形に精度良く織り込むことができず、作成した理想熱発生率波形を利用して燃焼状態の診断等を行う場合に十分な信頼性が得られなかった。
本発明の発明者は、低温酸化反応や熱分解反応による発熱(または吸熱)量が筒内温度によってどのように変化するのか考察した。そして、比較的低温の気筒内においては、温度上昇に伴い気化、低温酸化、熱分解および高温酸化の順に複数の反応が現れるが、高温になると噴射された燃料が直ちに高温酸化反応を開始するようになり、低温酸化や熱分解等の反応が熱収支上、消失することに着目した。
すなわち、例えば約750K以上の温度場で低温酸化反応が始まり、約800K以上では熱分解反応も始まって、熱収支上は低温酸化反応と相殺し合うようになる。また、900K以上では予混合燃焼(高温酸化反応)が始まり、これに低温酸化反応が取り込まれ、熱分解反応は縮退する。そして、1000K以上の高温場では、拡散燃焼(高温酸化反応)の反応熱が大きいことから、熱収支上は低温酸化反応および熱分解反応のみならず予混合燃焼も消失する。
このような知見に基づいてなされた本発明の目的は、低温酸化反応や熱分解反応について筒内温度による影響を織り込み、高い精度で理想熱発生率波形を作成することが可能な内燃機関の熱発生率波形作成装置、および、その熱発生率波形を利用した燃焼状態診断装置を提供することである。
−発明の解決原理−
前記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、気筒内に噴射された燃料の複数の反応の状態に基づいて理想熱発生率波形を作成する際に、それら複数の反応のうち低温酸化反応および熱分解反応の少なくとも一方については、筒内温度の上昇に伴い反応量が低下するものとしたことである。
−解決手段−
具体的に、本発明は、燃料噴射弁から気筒内に噴射された燃料の燃焼を行う内燃機関における前記燃焼の熱発生率波形を作成する装置を対象とする。そして、この熱発生率波形作成装置を、前記燃料の燃焼が、少なくとも低温酸化反応、熱分解反応、および高温酸化反応を含む複数の反応によって規定され、それら各反応のそれぞれの反応状態に基づいて理想熱発生率波形が作成される構成として、その際に前記低温酸化反応および熱分解反応の少なくとも一方については、筒内温度が高いほど反応量が低下するものとしている。
なお、ここでいう「理想熱発生率波形」とは、指令噴射量に応じた燃料噴射量、指令噴射圧力に応じた燃料噴射圧力、指令噴射期間に応じた燃料噴射期間が確保された状態で、燃焼効率が十分に高い場合を想定した理論上得られるべき熱発生率波形をいう。このような理想熱発生率波形を、例えば燃焼場の環境(例えば温度や酸素密度、燃料密度等)から燃料の反応状態を求めて、作成する。
前記の特定事項により、まず、前記燃料の燃焼を、少なくとも低温酸化反応、熱分解反応および高温酸化反応を含む複数の反応によって規定し、それら各反応のそれぞれによる発熱(または吸熱)量に基づいて、理想熱発生率波形を高い精度で作成することが可能になる。その際、前記低温酸化反応および熱分解反応の少なくとも一方について、筒内温度が高いほど反応量が低下するものとしているので、例えば高温酸化反応の開始するような高温場で熱収支上、反応が縮退し消失するという事象との整合が図られる。
つまり、低温酸化反応や熱分解反応について筒内温度による影響を織り込み、高い精度で理想熱発生率波形を作成することが可能になる。この理想熱発生率波形を利用すれば、燃焼状態の診断等を行う場合に十分な信頼性を得ることができる。
好ましくは低温酸化反応および熱分解反応の両方について、それぞれの反応量が筒内温度の上昇に応じて低下し、所定温度(例えば高温酸化反応が行われる900〜1000K)以上では零になるものとすればよい。この場合、高温酸化反応についてはその反応量が筒内温度によらず一定になるものとすればよい。また、「反応量が筒内温度によらず一定」というのは、筒内温度の変化によっては反応量が変化しないという意味であり、温度以外の筒内環境の変化に応じて反応量が変化してもよい。
より具体的に、例えばディーゼルエンジンの場合は、前記燃料の複数の反応として気化反応、低温酸化反応、熱分解反応、予混合燃焼による高温酸化反応、拡散燃焼による高温酸化反応、および後燃え反応が挙げられる。これら各反応それぞれを個別に規定すれば、より高い精度で理想熱発生率波形を作成することができ、例えば後述する燃焼状態の診断に利用する場合は、この理想熱発生率波形と実熱発生率波形とを比較することにより、何れの反応において異常が生じているかを判別することが可能になる。
特に、気化反応や熱分解反応は吸熱反応であるが(熱分解反応が発熱反応である場合もある)、この吸熱反応に対しても、その反応速度、反応量、反応期間に異常が生じていないか否かを診断することが可能になるので、診断精度の向上が図られる。なお、前記のように求められた理想熱発生率波形の利用形態としては、燃焼状態の診断だけでなく、内燃機関の設計や制御パラメータの適合値の取得等も挙げられる。
また、前記理想熱発生率波形を求めるための反応速度、反応量、反応期間の算出手法として具体的には以下のものが挙げられる。まず、前記燃料の各反応それぞれの反応起点として反応開始温度を設定しておき、気筒内の温度がその反応開始温度に達した時点を、その反応の開始時期として設定する。
これにより、各反応期間の開始時期の設定が容易になると共に、この開始時期が理想とする反応開始時期から大幅にずれてしまうことも防止でき、理想熱発生率波形を適切に作成することができる。
また、前記理想熱発生率波形の作成手順としては、前記燃料の各反応それぞれの開始時期を基点として、反応速度を斜辺の勾配、反応量を面積、反応期間を底辺の長さとする三角形で成る理想熱発生率波形モデルを作成し、各反応の理想熱発生率波形モデルをフィルタ処理によって円滑化することで作成すればよい。
このように三角形に近似させた熱発生率波形モデルを作成し、この熱発生率波形モデルを利用して理想熱発生率波形を作成することにより、その作成のための演算処理の簡素化を図ることができ、ECU等の演算手段への負荷の軽減を図ることができる。なお、フィルタ処理の具体例としては周知のWiebe関数等を利用することが可能である。
さらに、前記理想熱発生率波形モデルを作成するに際し、前記反応速度は、前記反応の開始時期における反応開始温度に対応した基準反応速度効率と燃料量とから算出すればよい。この基準反応速度効率というのは、単位燃料(燃料の単位体積または単位質量)当たりに発生する熱量の速度勾配に相当する。例えば反応速度効率に燃料量(反応に利用される有効燃料量)を乗算することによって反応速度が算出される。
また、前記反応量は、前記反応開始温度に対応した基準反応量効率と燃料量とから算出し、前記反応期間は、前記反応速度および反応量から算出すればよい。前記基準反応量効率は単位燃料当たりに発生する熱量に相当し、この基準反応量効率に燃料量(反応に利用される有効燃料量)を乗算することによって、反応量、即ち反応による発熱(または吸熱)量が算出される。
そして、前記反応量の算出の精度を高めるために、前記のように低温酸化反応および熱分解反応の少なくとも一方については、前記基準反応量効率の絶対値を筒内温度の上昇に伴い減少するように設定し、これにより、筒内温度の上昇に応じて反応量が低下するようにすればよい。
なお、燃料の反応状態を決定する条件の優先順位としては、制御自由度が低いほど高く設定するようにしてもよい。この優先順位としては、筒内温度、気筒内の酸素量、気筒内の燃料量の順である。例えば、筒内温度は、反応開始温度、圧縮ガス温度(吸気温度に応じて変動する)、予熱量(燃料噴射量等に応じて変動する)により左右される。また、気筒内の酸素量は、吸気の過給率やEGR率により左右される。
前述の如き熱発生率波形作成装置によって作成された各基準反応期間それぞれにおける理想熱発生率波形を利用して、燃料の燃焼状態を診断する装置として、具体的には以下の構成が挙げられる。つまり、前記熱発生率波形作成装置によって作成された理想熱発生率波形と、気筒内で実際に燃料が反応した際の実熱発生率波形とを比較し、前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定量以上となっている場合には、燃料の反応に異常が生じていると診断する構成としている。
なお、ここでいう「反応の異常」とは、内燃機関の運転に支障を来す程度の反応異常(機器の故障など)に限らず、内燃機関の制御パラメータの補正(または学習)が可能な(例えば排気エミッションや燃焼音を規制の範囲内に抑えるための補正が可能である)程度に、熱発生率波形に乖離が生じている場合も含むものである。
実熱発生率波形が理想熱発生率波形から所定量以上乖離している場合には、反応に異常が生じていると診断することになる。つまり、燃料の各反応それぞれは、特性(反応開始温度や反応速度等)が互いに異なっているため、それぞれの理想的な特性と、実際に得られた(実測された)実熱発生率波形の特性とを比較することにより、異常が生じている反応の特定を高い精度で行うことができ、診断精度の向上を図ることができる。そして
、異常であると診断された反応形態に対して改善策(例えば内燃機関の制御パラメータの補正)を講じることにより、異常であると診断された反応形態に適した制御パラメータを選択し、その制御パラメータを補正することができる。このため、内燃機関の制御性を大幅に改善することができる。
また、前記実熱発生率波形は、筒内圧センサによって検出される気筒内圧力に基づいて得られたものである。
前記反応に異常が生じていると診断された場合の具体的な動作としては以下のものが挙げられる。つまり、前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定の異常判定乖離量以上となっている反応が存在しており、その反応に異常が生じていると診断された際において、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定の補正可能乖離量以下である場合には、内燃機関の制御パラメータの補正を行って前記乖離を前記異常判定乖離量未満にする制御を行う一方、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が前記補正可能乖離量を超えている場合には、内燃機関に故障が生じていると診断する構成となっている。
このように、反応に異常が生じていると診断された場合において、その異常が解消可能であるか否かを、前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離量に基づいて判別するようにしている。このため、制御パラメータの補正によって正常な反応状態が得られる状態と、部品交換などのメンテナンスが必要な状態とを正確に判別することが可能となる。
なお、内燃機関の制御パラメータの補正を行って前記乖離を前記異常判定乖離量未満にする制御を行う場合の制御パラメータとしては、気筒内の酸素量や燃料量が挙げられる。気筒内の酸素量は酸素密度によって決定され、EGR率や吸気の過給率等によって調整が可能である。また、気筒内の燃料量は燃料密度によって決定され、燃料噴射時期や燃料噴射圧力や燃料噴射量によって調整が可能である。一方、内燃機関に故障が生じていると診断する場合の一例としては、実熱発生率波形の乖離が補正可能乖離量を超えている場合であり、この場合には、内燃機関の制御パラメータの補正量が所定のガード値を超えることになるので、これによって内燃機関に故障が生じていると診断することが可能である。具体的には、筒内温度、酸素密度、燃料密度それぞれに下限値を予め設定しておき、これら筒内温度、酸素密度、燃料密度の何れかがその下限値を下回っている場合には、内燃機関の制御パラメータの補正量が所定のガード値を超えるとして、内燃機関に故障が生じていると診断することになる。
前記内燃機関の熱発生率波形作成装置の使用形態として具体的には、車両への実装または実験装置への搭載が挙げられる。
また、前記内燃機関の燃焼状態診断装置の使用形態としても、車両への実装または実験装置への搭載が挙げられる。
本発明では、例えばディーゼルエンジン等の内燃機関において、気筒内に噴射された燃料の複数の反応の状態に基づいて理想熱発生率波形を作成する際に、それら複数の反応のうち低温酸化反応および熱分解反応の少なくとも一方については、筒内温度の上昇に伴い反応量が低下するものとしたことで、筒内温度の影響を織り込んで高い精度で理想熱発生率波形を作成することができる。そして、この作成された熱発生率波形を利用して燃焼状態の診断等を行う場合に十分な信頼性が得られるようになる。
実施形態に係るエンジンおよびその制御系統の概略構成を示す図である。 ディーゼルエンジンの燃焼室およびその周辺部を示す断面図である。 ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。 理想的な熱発生率(クランク軸の単位回転角度当たりの熱発生量)と、それに対応する燃料噴射率(クランク軸の単位回転角度当たりの燃料噴射量)との一例をそれぞれ示す波形図である。 理想熱発生率波形の作成および制御パラメータの補正の手順を示すフローチャート図である。 筒内温度の変化による理想熱発生率波形の変化を示す波形図である。 酸素密度等の変化による理想熱発生率波形の変化を示す波形図である。 反応開始時の筒内ガス温度の変化に対する低温酸化反応の基準反応量効率の変化を示す図である。 燃料噴射時の筒内ガス温度の変化に対する熱分解反応の基準反応量効率の変化を示す図である。 理想熱発生率波形モデルを示し、図10(a)は単一反応期間を対象とした理想熱発生率波形モデルを、図10(b)は複合反応期間を対象とした理想熱発生率波形モデルをそれぞれ示す図である。 図11(a)は、インジェクタから燃料噴射が行われた場合における経過時間と気筒内への燃料供給量との関係を示し、図11(b)は、各噴射期間で噴射された燃料の反応量を示す図である。 1回の燃料噴射が行われた場合の各反応形態における理想熱発生率波形モデルの一例を示す図である。 図12の理想熱発生率波形モデルに対応する理想熱発生率波形を示す図である。 2回のパイロット噴射、1回のメイン噴射、1回のアフタ噴射が行われた場合の理想熱発生率波形モデル、および、燃料噴射率波形の一例を示す図である。 図14の理想熱発生率波形モデルに対応する理想熱発生率波形を示す図である。 1回の燃料噴射が行われた場合の理想熱発生率波形(実線)および実熱発生率波形(破線および一点鎖線)の一例を示す図である。 2回のパイロット噴射、1回のメイン噴射、1回のアフタ噴射が行われた場合の理想熱発生率波形(実線)および実熱発生率波形(破線)の一例を示す図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、自動車に搭載(車両に実装)されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジン(内燃機関)に、本発明に係る熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置を搭載した場合について説明する。
−エンジンの構成−
図1は、本実施形態に係るディーゼルエンジン1(以下、単にエンジンという)およびその制御系統の概略構成図である。
この図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を主要部とするディーゼルエンジンシステムとして構成されている。
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、インジェクタ(燃料噴射弁)23、機関燃料通路27等を備えている。
前記サプライポンプ21は、燃料タンクから汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路27を介してコモンレール22に供給する。コモンレール22は、高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23,23,…に分配する。インジェクタ23は、内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備えたピエゾインジェクタである。
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63に吸気管64が接続されている。また、この吸気系6には、上流側から順にエアクリーナ65、エアフローメータ43、吸気絞り弁(ディーゼルスロットル)62が配設されている。
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に対して、排気管73が接続されている。また、この排気系7には排気浄化ユニット77が配設されている。この排気浄化ユニット77には、NOx吸蔵還元型触媒としてのNSR(NOx Storage Reduction)触媒75およびDPF(Diesel Paticulate Filter)76が備えられている。
図2に示すように、シリンダブロック11には、各気筒(4気筒)毎にシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部にはピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
ピストン13の頂面13aの上側には前記燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部に取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとにより区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ(凹陥部)13bが凹設されており、このキャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
このキャビティ13bの形状としては、その中央部分(シリンダ中心線P上)では凹陥寸法が小さく、外周側に向かうに従って凹陥寸法が大きくなっている。
前記ピストン13は、コネクティングロッド18によってエンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。
前記シリンダヘッド15には、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16および排気ポート71を開閉する排気バルブ17が配設されている。
さらに、図1に示す如く、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト51を介して連結されたタービンホイール52およびコンプレッサホイール53を備えている。本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール52側に可変ノズルベーン機構(図示省略)が設けられている。
前記吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ61が設けられている。
また、エンジン1には、排気の一部を吸気系6に適宜還流させる排気還流通路(EGR通路)8が設けられている。また、このEGR通路8にはEGRバルブ81とEGRクーラ82とが設けられている。
−センサ類−
エンジン1の各部位には各種センサが取り付けられている。例えば、前記エアフローメータ43は吸入空気量に応じた検出信号を出力する。レール圧センサ41はコモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。スロットル開度センサ42は吸気絞り弁62の開度に応じた検出信号を出力する。吸気圧センサ48は吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。吸気温センサ49は吸入空気の温度に応じた検出信号を出力する。
−ECU−
ECU100は、図示しないCPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータと入出力回路とを備えている。図3に示すように、ECU100の入力回路には、クランクポジションセンサ40、前記レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44a,44b、排気温センサ45a,45b、水温センサ46、アクセル開度センサ47、吸気圧センサ48、吸気温センサ49、筒内圧センサ4Aなどが接続されている。
一方、ECU100の出力回路には、前記サプライポンプ21、インジェクタ23、吸気絞り弁62、EGRバルブ81、および、前記ターボチャージャ5の可変ノズルベーン機構54などが接続されている。
そして、ECU100は、前記した各種センサからの出力、その出力値を利用する演算式により求められた演算値、または、前記ROMに記憶された各種マップに基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。
例えば、ECU100は、インジェクタ23の燃料噴射制御として、パイロット噴射(副噴射)とメイン噴射(主噴射)とを実行する。これらパイロット噴射およびメイン噴射の機能は周知であるため、ここでの説明は省略する。
燃料噴射を実行する際の燃料噴射圧は、コモンレール22の内圧により決定される。このコモンレール内圧として、一般に、コモンレール22からインジェクタ23へ供給される燃料圧力の目標値、即ち目標レール圧は、エンジン負荷(機関負荷)が高くなるほど、および、エンジン回転速度(機関回転速度)が高くなるほど高いものとされる。
なお、上述したパイロット噴射およびメイン噴射の他に、アフタ噴射やポスト噴射が必要に応じて行われる。これら噴射の機能も周知であるため、ここでの説明は省略する。
また、ECU100は、エンジン1の運転状態に応じてEGRバルブ81の開度を制御し、吸気マニホールド63に向けての排気還流量(EGR量)を調整する。このEGR量は、予め実験やシミュレーション等によって作成されて前記ROMに記憶されたEGRマップに従って設定される。このEGRマップは、エンジン回転速度およびエンジン負荷をパラメータとしてEGR量(EGR率)を決定するためのマップである。
−燃焼形態の概略説明−
次に、本実施形態のエンジン1における燃焼形態の概略について説明する。具体的な燃料噴射形態の一例として以下では、ピストン13が圧縮上死点に達する前に燃料噴射が実行される場合について説明する。こうして噴射された燃料が自己着火によって燃焼し、膨張行程時においてピストン13を下死点に向かって押し下げるとともに、燃焼室3内の温度を上昇させるようになる。
図4には、燃料噴射時期と発生熱量との関係の一例を示している。図4の上段に示す波形は、横軸をクランク角度、縦軸を熱発生率(クランク軸の単位回転角度当たりの熱発生量)とし、噴射された燃料の燃焼に係る理想的な熱発生率波形の一例である(この理想的な熱発生率波形を作成する手法や、この理想的な熱発生率波形を利用した燃料反応形態の診断(燃焼状態診断)については後述する)。一方、図4の下段に示す波形は、インジェクタ23から噴射される燃料の噴射率(クランク軸の単位回転角度当たりの燃料噴射量)の波形である。
前記図4に示すように、気筒の圧縮行程で噴射された燃料が蒸発(気化)すると熱発生率は一旦、負の値を示し、その後、低温酸化反応によって正の値になる。そして、熱分解反応の開始に伴い熱発生率は一旦、低下するが、高温酸化反応(いわゆる燃焼)が始まると急峻に立ち上がる。こうして立ち上がった熱発生率のピークは、図の例ではピストン13の圧縮上死点後の所定位置(例えばATDC10°CAくらい)になり、さらに、圧縮上死点後の所定位置(例えばATDC25°CAくらい)で燃焼が終了する。
このような熱発生率の変化状態で混合気の燃焼を行わせるようにすれば、例えば圧縮上死点後の所定のクランク角位置(この例ではATDC10°CA)で気筒内の混合気のうちの50%が燃焼を完了した状況となる。言い換えると、その所定クランク角位置が燃焼重心となって、膨張行程における総熱発生量の約50%が当該所定クランク角位置までに発生し、高い熱効率でエンジン1を運転させることが可能となる。
−理想熱発生率波形の作成、燃焼状態診断および制御パラメータの補正−
以下では、本実施形態の特徴である理想熱発生率波形の作成、および、この作成された理想熱発生率波形を利用した燃焼状態診断(気筒内での燃料の各反応形態の診断)の結果に基づいて実行される制御パラメータの補正について詳細に説明する。
この理想熱発生率波形の作成および制御パラメータの補正では、図5に示すように、まず、(1)理想熱発生率波形の作成が行われる。そして、(2)実熱発生率波形の作成が行われた後、(3)理想熱発生率波形と実熱発生率波形との比較による燃焼状態診断が行われる。そして、(4)この燃焼状態診断の結果に応じたエンジン1の制御パラメータの補正が行われることになる。
また、前記理想熱発生率波形の作成にあっては、(1−A)燃料の反応形態の分離、(1−B)分離された各反応形態それぞれに対する理想熱発生率波形モデルの作成、(1−C)理想熱発生率波形モデルのフィルタリング(フィルタ処理)による理想熱発生率波形の作成が順に行われる。
以下、各動作について具体的に説明する。
(1)理想熱発生率波形の作成
前記理想熱発生率波形の作成について説明する。まず、理想熱発生率波形の作成の概略について説明する。
前記インジェクタ23から気筒内に噴射された燃料の反応(化学反応等)の律速条件としては、筒内温度、気筒内の酸素量、気筒内の燃料量(噴霧量)、気筒内での燃料の分布が挙げられる。これらのうち、制御自由度の低い順としては、筒内温度、気筒内の酸素量、気筒内の燃料量、気筒内での燃料の分布の順である。
つまり、筒内温度は、燃料が反応する前段階にあっては、吸入空気温度とエンジン1の圧縮比とによって略決定されることになり、制御の自由度は最も低い。また、この筒内温度は、先行して燃料噴射が行われた場合にその燃料の燃焼による予熱量によっても変動する。また、気筒内の酸素量は、前記吸気絞り弁62の開度や、前記EGRバルブ81の開度によって調整できるため、筒内温度に比べて制御自由度は高い。また、この気筒内の酸素量は、ターボチャージャ5による過給率によっても変動する。さらに、気筒内の燃料量は、前記サプライポンプ21による燃料噴射圧力(コモンレール圧力)の制御や前記インジェクタ23からの燃料の多段噴射それぞれの噴射期間の制御によって調整できるため、気筒内の酸素量に比べて制御自由度は高い。また、気筒内での燃料の分布も、前記燃料噴射圧力の制御や前記燃料の多段噴射それぞれの噴射期間の制御によって調整が可能であることから制御自由度は高いものである。
そして、本実施形態では、エンジン1の暖機運転が完了しており、且つ外気温度が所定温度(例えば0℃)以上であることを条件として、前記制御自由度の低い順に、燃料の反応状態を決定する条件の優先順位を高く設定している。なお、ここでは、筒内温度、気筒内の酸素量および気筒内の燃料量の量的条件を、気筒内での燃料の分布よりも優先順位の高いものとしている。つまり、筒内温度を機軸として燃料の各反応の開始タイミング(反応開始時期)を決定するものとしている。即ち、筒内ガス温度(圧縮ガス温度)から基準温度到達角度(各反応形態それぞれの反応開始タイミングにおけるクランク角度位置)を確定する。
そして、この反応開始時期を基点として、反応速度、反応量、反応期間をそれぞれ求める。この反応速度、反応量、反応期間を求めるにあたっては、後述する各反応形態毎の理想熱発生率波形モデル(三角形モデル)を利用する。つまり、気筒内に噴射された燃料の複数の反応形態それぞれの反応速度、反応量、反応期間を、気筒内環境(反応開始時期を決定する筒内ガス温度等)および燃料組成(反応に寄与する燃料量および燃料密度を含む)に応じて作成される理想熱発生率波形モデルを利用して算出するようにしている。
具体的には、前記反応開始時期における筒内ガス温度(基準温度)および燃料組成等に対応した基準反応速度効率[J/CA2/mm]と、基準反応量効率[J/mm3]とを各反応形態毎に確定し、燃焼場に対する酸素供給能力(酸素密度)から前記基準反応速度効率および基準反応量効率を修正し、これら修正された効率(基準反応速度効率、基準反応量効率)と燃料量とから反応速度および反応量を確定する。また、反応速度に対しては、後述するエンジン回転速度に応じた補正を行う。
そして、前記反応開始時期、反応速度および反応量から反応期間を確定する。この反応期間としては以下の式(1)により求められる。
反応期間=2×(反応量/反応速度)1/2 …(1)
なお、前記理想熱発生率波形モデルの作成の詳細については後述する。
(1−A)燃料の反応形態の分離
次に、前記理想熱発生率波形の作成の第1手順である燃料の反応形態の分離について説明する。
前記インジェクタ23から燃料噴射が行われた場合、気筒内においては、気化反応、低温酸化反応、熱分解反応、高温酸化反応、後燃え反応が筒内環境に応じて行われる。さらに、高温酸化反応としては、予混合燃焼による高温酸化反応および拡散燃焼による高温酸化反応とに分離できる。以下、各反応形態について説明する。
(a)気化反応
気化反応は、前記インジェクタ23から噴射された燃料が気筒内の熱を受けて気化するものである。この反応は、一般的には筒内ガス温度が500K以上となっている環境下に燃料が晒された状態で、燃料噴霧の拡散がある程度進んだ際に開始する噴霧律速の反応となっている。
ディーゼルエンジン1で使用されている軽油の沸点は、一般には453K〜623Kであって、気筒内に燃料噴射が行われる実用域(例えば前記パイロット噴射が行われる時期)はBTDC(圧縮上死点前)40°CAである。このタイミングにおける筒内ガス温度は一般には550K〜600K程度まで上昇しているため(寒冷地以外)、この気化反応においては、温度律速条件を考慮する必要はない。
そして、この気化反応における前記基準反応量効率としては、例えば−1.14[J/mm3]となっている。
また、この気化反応における有効噴射量(気化反応に寄与する燃料量)としては、燃料噴射量から壁面付着量(シリンダボア12の壁面に付着した燃料量)を減算した量である。この壁面付着量は、噴射量(燃料の貫徹力に相関がある)と噴射時期(気筒内圧力に相関がある)に応じて実験的に求めることが可能である。
このため、この気化反応における反応量としては、以下の式(2)により求められる。
気化反応における反応量=−1.14×有効噴射量 …(2)
なお、この気化反応は吸熱反応であるため、この反応量(発生熱量)としては負の値となる。
(b)低温酸化反応
低温酸化反応は、ディーゼルエンジン1の燃料である軽油中に含まれる低温酸化反応成分(n−セタン(C1634)等の直鎖単結合組成の燃料等)が燃焼する反応である。この低温酸化反応成分は、筒内温度が比較的低い場合であっても着火が可能な成分であって、このn−セタン等の量が多いほど(高セタン燃料であるほど)気筒内での低温酸化反応が進み易く着火遅れが抑制されることになる。具体的に、n−セタン等の低温酸化反応成分は、筒内温度が約750Kに達した時点で燃焼(低温酸化反応)を開始する。なお、n−セタン等以外の燃料成分(高温酸化反応成分)は筒内温度が約900Kに達するまで燃焼(高温酸化反応)を開始しない。
また、この低温酸化反応における前記基準反応速度効率としては、例えば4.0[J/CA2/mm3]となっている。一方、基準反応量効率については、本実施形態では例えば0〜6.0[J/mm3]の範囲で筒内温度(例えば反応開始時における筒内ガス温度)が高いほど、基準反応量効率は低下するようになっている。この点について詳しくは後述する。
そして、低温酸化反応の反応速度および反応量は、前記基準反応速度効率および基準反応量効率に基づいて算出される(例えば有効噴射量を乗算することで算出される)。さらに、前記低温酸化反応の反応速度を算出するに当たっては、前記基準反応速度効率に有効噴射量を乗算した値(基準反応速度)に対してエンジン回転速度に応じた係数(回転速度補正係数=(基準回転速度/実回転速度)2)が乗算される。これにより、ガス組成等が変化しても反応速度を時間に依存した値として求めることができる。回転速度補正係数を求めるための基準回転速度としては任意の回転速度が設定可能であり、エンジン1の使用頻度が最も高い回転速度域に設定することが好ましい。
なお、この低温酸化反応は発熱反応であるため、この反応量(発生熱量)としては正の値となる。
(c)熱分解反応
熱分解反応は、燃料成分の熱分解を行う反応であって、その反応開始温度は例えば約800Kとなっている。
また、この熱分解反応における前記基準反応速度効率としては、例えば−0.2[J/CA2/mm3]となっている。一方、基準反応量効率については、前記低温酸化反応と同様に例えば0〜2.0[J/mm3]の範囲で筒内温度(例えば燃料噴射時における筒内ガス温度)が高いほど基準反応量効率(絶対値)が低下するようになっている。この点についても詳しくは後述する。
そして、この熱分解反応の反応速度および反応量も、前記基準反応速度効率および基準反応量効率に基づいて算出される(例えば有効噴射量を乗算することで算出される)。さらに、前記熱分解反応の反応速度を算出するに当たっても、前記基準反応速度効率に有効噴射量を乗算した値(基準反応速度)に対してエンジン回転速度に応じた前記回転速度補正係数が乗算される。
なお、本実施形態では、この熱分解反応を吸熱反応として扱うものとする。つまり、反応量(発生熱量)が負の値であるものとする。
(d)予混合燃焼による高温酸化反応
予混合燃焼による高温酸化反応の反応温度は例えば約900Kとなっている。つまり、筒内温度が900Kに達したことで燃焼を開始する反応が、この予混合燃焼による高温酸化反応である。
また、この予混合燃焼による高温酸化反応における前記基準反応速度効率としては、例えば4.3[J/CA2/mm3]となっている。また、基準反応量効率としては例えば30.0[J/mm3]となっている。すなわち、ディーゼルエンジンの燃料である軽油の単位体積当たりの発熱量が理論上、35.8J/mm3であることを考慮して、理想的な予混合燃焼による発熱量を筒内温度によらず概ね一定とみなしている。
そして、予混合燃焼による高温酸化反応の反応速度および反応量も、前記基準反応速度効率および基準反応量効率に基づいて算出される(例えば有効噴射量を乗算することで算出される)。さらに、前記予混合燃焼による高温酸化反応の反応速度を算出するに当たっても、前記基準反応速度効率に有効噴射量を乗算した値(基準反応速度)に対してエンジン回転速度に応じた前記回転速度補正係数が乗算される。
なお、この予混合燃焼による高温酸化反応は発熱反応であるため、この反応量(発生熱量)としては正の値となる。
(e)拡散燃焼による高温酸化反応
拡散燃焼による高温酸化反応の反応温度は例えば約1000Kとなっている。つまり、筒内温度が1000K以上となっている筒内に向けて噴射された燃料が、噴射後、直ちに燃焼を開始する反応が、この拡散燃焼による高温酸化反応である。
また、この拡散燃焼による高温酸化反応における反応速度は、コモンレール圧力および燃料噴射量に応じて変化し、以下の式(3)および式(4)から求められる。
GrdB=A×コモンレール圧力+B …(3)
Grd=GrdB×(基準エンジン回転速度/実エンジン回転速度)2
×(d/基準d)×(N/基準N) …(4)
GrdB:基準反応速度、Grd:反応速度、d:インジェクタ23の噴孔径、N:インジェクタ23の噴孔数、A,B:実験等により求められた定数
なお、前記式(6)は、インジェクタ23の基準噴孔径に対する実噴孔径の比、および、インジェクタ23の基準噴孔数に対する実噴孔数の比が乗算されていることにより、一般化された式となっている。また、この式(6)は、回転速度補正係数が乗算されていることで、エンジン回転速度に応じて補正された反応速度が求められるものとなっている。
また、この拡散燃焼による高温酸化反応における基準反応量効率としては、前記予混合燃焼の場合と同様に軽油の単位体積当たりの発熱量に基づいて、例えば30.0[J/mm3]となっている。この拡散燃焼による高温酸化反応の反応量も、前記基準反応量効率に基づいて算出される(例えば有効噴射量を乗算することで算出される)。
なお、この拡散燃焼による高温酸化反応も発熱反応であるため、この反応量(発生熱量)としては正の値となる。
以上のようにして燃料の反応形態を分離することができる。
(f)低温酸化反応および熱分解反応への筒内温度の影響
ここで、本実施形態の特徴として、前記した低温酸化反応および熱分解反応の反応量に対する筒内温度の影響について説明する。まず、上述したように燃料である軽油の理論上の発熱量(35.8J/mm3)から、理想的な燃焼場の環境(例えば温度や酸素密度、燃料密度等)において、燃焼効率が十分に高い場合は高温酸化反応における基準反応量効率は筒内温度によらず一定(単位燃料当たり例えば30J/mm3)とみなすことができる。
一方、低温酸化反応や熱分解反応については筒内温度による影響を受けると考えられる。本発明の発明者は、低温酸化反応や熱分解反応による発熱(または吸熱)量が筒内温度によってどのように変化するのか考察し、比較的低温の燃焼場においては温度上昇に伴い気化、低温酸化、熱分解および高温酸化の順に複数の反応が発生する一方、例えば1000K以上の気筒内に燃料が噴射されると直ちに拡散燃焼(高温酸化反応)が始まり、低温酸化や熱分解等の反応は熱収支上、消失することに着目した。
詳しくは、比較的低温の環境下に燃料が噴射された場合、噴霧が拡散しながら500K以上の温度場に暫く晒された状態で気化反応が開始し、図6に実線で示すように負の熱発生率となる。そして、約750K以上では低温酸化反応が始まって熱発生率が上昇するが、その後、熱分解反応も始まると一旦、低下して、予混合燃焼が始まると熱発生率が急峻に立ち上がる。つまり、筒内温度が比較的低い場合は各反応の開始時期がずれて、図6に実線で示すように気化、低温酸化、熱分解および高温酸化の各反応が順次、現れるようになる。
これに対し筒内温度が高い場合には、図6に破線で示すように低温酸化反応と熱分解反応とが重畳して、熱収支上は相殺し合うようになり、さらに温度が高くなると図6に一点鎖線で示すように、予混合燃焼(高温酸化反応)に低温酸化反応が取り込まれ、熱分解反応は縮退するようになる。つまり、低温酸化反応および熱分解反応が熱収支上は消失することになる。なお、筒内温度が1000K以上になると、拡散燃焼の反応熱が大きいことから、熱収支上は予混合燃焼も消失する。
このように、理想的な燃焼場で燃焼効率が十分に高い場合は、高温場において低温酸化反応や熱分解反応が熱収支上、消失することになるが、本発明者は、例えば酸素密度や燃料密度など、筒内温度以外の環境条件を変更した場合に、高温の燃焼場においても低温酸化反応や熱分解反応が顕在化することに気づいた。
すなわち、前記の図6に一点鎖線で示したように、低温酸化反応および熱分解反応が熱収支上、消失するような高温場であっても、これは、図7(a)に破線や仮想線でそれぞれ示すように低温酸化反応および熱分解反応に高温酸化反応が重畳して見えなくなっているだけであり、筒内温度が同じであっても例えば酸素密度が低くなると、図7(b)に示すように高温酸化反応の開始が遅れて、取り込まれていた低温酸化反応が顕在化するようになるのである。
このことから本発明者は、熱収支上は低温酸化反応や熱分解反応が消失するような高温場においても反応自体は行われていると考えた。そして、前述したように高温酸化反応における基準反応量効率が筒内温度によらず一定であることとの整合を図るために、低温酸化反応および熱分解反応の基準反応量効率が温度上昇に伴い徐々に低下してゆき、拡散燃焼の開始するような高温場では実質、零になるものとした。
具体的には低温酸化反応について図8に一例を示すように、その基準反応量効率は反応開始温度である750Kで最大値(図の例では6.0[J/mm3])となり、拡散燃焼の反応開始温度である1000Kまで、温度上昇に伴い徐々に低下している。同図に示す例では、低温酸化反応の基準反応量効率は、750〜950Kでは6.0〜2.0[J/mm3]まで一定の勾配で低下し、950〜1000Kまではやや勾配が急になって低下して1000Kで零、即ち0[J/mm3]になっている。
換言すれば、本実施形態では低温酸化反応における基準反応量効率は、反応開始時の筒内ガス温度Tactが750〜950Kであれば以下の式(5)により求められ、950〜1000Kであれば以下の式(6)により求められる。
基準反応量効率=−0.02×Tact+21 …(5)
基準反応量効率=−0.04×Tact+40 …(6)
同様に熱分解反応については図9に一例を示すように、その基準反応量効率は反応開始温度である800Kから900Kくらいまでは一定値(図の例では−2.0[J/mm3])となり、拡散燃焼の反応開始温度である1000Kを越えて1100Kくらいまでは温度上昇に伴い徐々に絶対値が低下している。同図に示す例では、熱分解反応の基準反応量効率を以下の式(7)および式(8)により近似している。
X=(Tinj−900)/200 …(7)
基準反応量効率=−2.0×Exp(−8.06・X3.54) …(8)
なお、Tinjは、燃料噴射時の筒内ガス温度であり、Xは、900〜1100Kの温度変化巾(200K)を基準として、燃料噴射時の温度変化の割合を表した無次元化量である。
このようにして低温酸化反応および熱分解反応についてそれぞれ、筒内ガス温度(筒内温度)が高いほど基準反応量効率が低下し、高温酸化反応が開始するような高温場(本実施形態では一例として1000K、1100K)では零になるものとしている。これにより、それらの反応が部分的に重畳したり高温酸化反応に取り込まれたりして、熱収支上は反応が縮退(或いは消失)するという現象を織り込んで、高い精度で理想熱発生率波形を作成することが可能になる。
(1−B)分離された各反応形態それぞれに対する理想熱発生率波形モデルの作成
次に、前記のように分離された各反応形態それぞれに対する理想熱発生率波形モデルの作成について説明する。
上述の如く反応形態を分離したことにより、それぞれの反応形態における理想熱発生率波形モデルが作成可能となる。つまり、気化反応、低温酸化反応、熱分解反応、予混合燃焼による高温酸化反応および拡散燃焼による高温酸化反応それぞれに対して、理想熱発生率波形モデルが作成可能となる。
本実施形態では、各反応それぞれに対し、理想熱発生率波形モデルを二等辺三角形に近似させるものとしている。つまり、上述した反応開始温度を基点として、反応速度を二等辺三角形の斜辺の勾配とし、反応量を二等辺三角形の面積とし、反応期間を二等辺三角形の底辺の長さとする理想熱発生率波形モデルを作成する。前記反応開始温度としては、上述したように、気化反応では約500K、低温酸化反応では約750K、熱分解反応では約800K、予混合燃焼による高温酸化反応では約900K、拡散燃焼による高温酸化反応および後燃え反応では約1000Kとなっている。以下の理想熱発生率波形モデルの作成は、上述した各反応形態それぞれに対して適用される。以下、具体的に説明する。
(a)反応速度(勾配)
反応速度は、前記基準反応速度効率に基づいて設定され、理想熱発生率波形モデルを二等辺三角形に近似させた場合、熱発生率が上昇する期間での上昇勾配と、熱発生率が下降する期間での下降勾配とでは、それらの絶対値は一致している。
なお、前記熱発生率が上昇する期間での反応速度に対して、熱発生率が下降する期間での反応速度が低い場合(理想熱発生率波形モデルが不等辺三角形である場合)には、前記上昇勾配に所定値α(<1)を乗算することで下降勾配が求められることになる。
前記拡散燃焼による高温酸化反応での理想熱発生率波形モデルにあっては、反応速度は噴射率波形勾配に比例し、他の反応での理想熱発生率波形モデルにあっては、反応速度は燃料噴射量に比例することになる。
(b)発生熱量(面積)
各反応における発熱(または吸熱)量の効率[J/mm3]については、例えば高温酸化反応については燃焼期間を適正化すれば、前記したように定数(例えば30J/mm3)とみなすことができる。また、低温酸化反応および熱分解については高温酸化反応との和で完結し、それぞれ温度上昇に伴い低下するものとみなしている。そして、発生熱量は、その発熱(または吸熱)量の効率に燃料噴射量(前記有効噴射量)を乗算したものとなる。
このようにして求められた発生熱量が理想熱発生率波形モデルである三角形の面積に相当することになる。
(c)燃焼期間(底辺)
以上の三角形の勾配(反応速度)および三角形の面積(発生熱量)から三角形の底辺の長さに相当する燃焼期間が求められる。
図10に示すように、三角形の面積(発生熱量に相当)をS、底辺の長さ(燃焼期間に相当)をL、高さ(熱発生率ピーク時点での熱発生率に相当)をH、燃焼開始時点から熱発生率ピーク時点までの期間をA、熱発生率ピーク時点から燃焼終了時点までの期間をB(理想熱発生率波形モデルが二等辺三角形の場合にはB=A)、上昇勾配(熱発生率が上昇する期間での反応速度に相当)をG、この上昇勾配に対する下降勾配(熱発生率が下降する期間での反応速度に相当)の比をα(≦1)とした場合、以下の関係が成り立つ。なお、図10(a)は理想熱発生率波形モデルが二等辺三角形の場合を、図10(b)は理想熱発生率波形モデルが不等辺三角形の場合をそれぞれ示している。なお、この図10(b)に示す理想熱発生率波形モデルは、上述した如く反応期間中に複数の反応が同時進行された場合(素反応が組み合わされた場合)が想定される。例えば、前記拡散燃焼による高温酸化反応と後燃え反応とが並行した場合に、これら各反応の理想熱発生率波形モデルは二等辺三角形であるものの、これらが合成されることによって、図10(b)に示すように理想熱発生率波形モデルが不等辺三角形として表されることになる。
H=A×G=B×α×G
これより、B=A/αとなる。
S=A2×G/2+A×G×B/2=(1+1/α)×A2×G/2
よって、A=SQRT[2S/{(1+1/α)G}]となる。
従って、底辺の長さLは、
L=A+B=A(1+1/α)
=(1+1/α)×SQRT[2S/{(1+1/α)G}]
理想熱発生率波形モデルが二等辺三角形の場合にはα=1であり、
L=2×SQRT(S/G)=2×SQRT(30×Fq/G)となる。
(Fqは燃料噴射量(有効噴射量)であり、上述した如く燃料1mm3当たりの発生熱量を30Jとした場合には「30×Fq」が三角形の面積Sとなる)
このようにして、噴射量(噴射量指令値:発生熱量に相関のある値)と勾配(反応速度)が与えられれば燃焼期間が確定されることになる。
以下、理想熱発生率波形モデルを三角形(特に二等辺三角形)に近似できる理由について説明する。図11(a)は、インジェクタ23から燃料噴射が行われた場合における経過時間と1つの反応形態における気筒内への燃料供給量(その反応形態で使用される燃料の量)との関係を示している。また、この図11(a)では、その燃料供給量が得られる燃料噴射期間を10個の期間に区分している。つまり、その燃料噴射期間を、互いに燃料供給量が等しい10個の期間に区分しており、それぞれに第1期間から第10期間の期間番号を付している。つまり、第1期間での燃料噴射が終了した後、燃料噴射が途切れることなく第2期間での燃料噴射が開始され、第2期間での燃料噴射が終了した後、燃料噴射が途切れることなく第3期間での燃料噴射が開始されるといった噴射形態で第10期間の終了時点まで燃料噴射が継続されることになる。
また、図11(b)は前記各期間で噴射された燃料の反応量(この図11(b)に示すものは発熱反応における発熱量)を示している。この図11(b)に示すように、第1期間での燃料噴射が開始され、第2期間での燃料噴射が開始されるまでの間(図11(b)における期間t1)は、第1期間で噴射された燃料の反応のみが行われている。そして、第2期間での燃料噴射が開始され、第3期間での燃料噴射が開始されるまでの間(図11(b)における期間t2)は、第1期間で噴射された燃料の反応および第2期間で噴射された燃料の反応が共に行われている。このようにして、新たな噴射期間を迎える度に、燃料の総反応量としては次第に増加していく(新たに噴射が開始された期間の燃料分だけ総反応量が増加していく)。この増加期間が、前記理想熱発生率波形モデルの正側の勾配の期間(反応のピーク位置よりも進角側の期間)に相当する。
その後、第1期間で噴射された燃料の反応が終了する。この時点(図11(b)におけるタイミングT1)では、第2期間以降で噴射された燃料の反応は終了しておらず、第2期間から第10期間で噴射された燃料の反応が継続している。そして、第2期間で噴射された燃料の反応が終了すると(図11(b)におけるタイミングT2)、第3期間以降で噴射された燃料の反応は終了していないため、第3期間から第10期間で噴射された燃料の反応が継続することになる。このようにして、各期間で噴射された燃料の反応が順次終了していくことにより、燃料の総反応量としては次第に減少していく(反応が終了した燃料分だけ総反応量が減少していく)。この減少期間(図11(b)において反応量を破線で示している期間)が、前記理想熱発生率波形モデルの負側の勾配の期間(反応のピーク位置よりも遅角側の期間)に相当する。
以上のような形態で燃料の反応が行われるため、理想熱発生率波形モデルは三角形(二等辺三角形)として近似することができる。
以上のようにして燃料の各反応形態に対する理想熱発生率波形モデルが作成され、これに基づいて各反応形態それぞれにおける反応開始時期、反応量、反応期間が算出される。
(1−C)理想熱発生率波形モデルのフィルタリングによる理想熱発生率波形の作成
以上のようにして理想熱発生率波形モデルを作成した後、この理想熱発生率波形モデルを周知のフィルタ処理(例えばWiebeフィルタによる処理)によって円滑化することにより、理想熱発生率波形を作成する。以下、Wiebeフィルタによる処理を行った場合について具体的に説明する。
一般に、Wiebe関数は、以下の式(9)によって表される。
F=1−exp(−a・Xm+1) …(9)
X=θ/θp
ここで、Fは反応期間における反応量、θは反応開始後の経過クランク角度、θpは反応期間に対応するクランク角度期間で、Xは、反応期間に対応するクランク角度期間を基準として、経過クランク角度の割合を表した無次元化量である。また、a,mは関数パラメータである。パラメータaは、反応の期間を規定するものであり、パラメータmは、「燃焼特性指数」と呼ばれたり「形状パラメータ」と呼ばれたりするものであって、熱発生率波形の重心となる時期を規定するものである。
本実施形態では、燃料の反応形態の全てを素反応(吸気、低温酸化、熱分解など個々の反応)に分離した場合には、Wiebe関数の各パラメータa,mは固定値として予め設定されている。こうして各パラメータa,mが設定されたWiebe関数を利用し、前記理想熱発生率波形モデルを利用して算出された反応開始時期、反応期間、反応量を満たすようにフィルタ処理が行われて理想熱発生率波形が作成される。
図12は、1回の燃料噴射が行われた場合の理想熱発生率波形モデル(各反応に対応した二等辺三角形)を示している。この図12では、本発明の理解を容易にするために、1回の燃料噴射によって気化反応、低温酸化反応、熱分解反応、各高温酸化反応、後燃え反応が行われた場合の理想熱発生率波形モデル(各反応に対応した二等辺三角形)を示している。具体的に、図中のIは気化反応の理想熱発生率波形モデル、IIは低温酸化反応の理想熱発生率波形モデル、IIIは熱分解反応(吸熱となる熱分解反応)の理想熱発生率波形モデル、IVは予混合燃焼による高温酸化反応の理想熱発生率波形モデル、Vは拡散燃焼による高温酸化反応の理想熱発生率波形モデル、VIは後燃え反応の理想熱発生率波形モデルである。
また、図13は、各理想熱発生率波形モデルに対し前記Wiebe関数によるフィルタ処理を行うことによって円滑化された理想熱発生率波形を合成して得られた燃焼期間全体の理想熱発生率波形を示している。このように、複数の反応(気化反応、低温酸化反応、熱分解反応、各高温酸化反応)それぞれに応じた理想熱発生率波形モデル(二等辺三角形)がフィルタ処理によって円滑化されて合成されることで、理想熱発生率波形が作成されることになる。
なお、実際のエンジン1では、メイン噴射以外にパイロット噴射やアフタ噴射等が行われる。図14は、2回のパイロット噴射、1回のメイン噴射、1回のアフタ噴射が行われた場合の理想熱発生率波形モデル(上段の波形図)、および、燃料噴射率波形(下段の波形図)を示している。また、図15は、各理想熱発生率波形モデル(図14の上段)を前記Wiebe関数によるフィルタ処理を行うことによって作成された燃焼期間全体の理想熱発生率波形を示している。
(2)実熱発生率波形の作成
前記理想熱発生率波形と比較される実熱発生率波形は、筒内圧センサ4Aによって検出される筒内圧力の変化に応じて作成される。つまり、気筒内での熱発生率と筒内圧力との間には相関がある(熱発生率が高いほど筒内圧力は高くなる)ので、この筒内圧センサ4Aによって検出される筒内圧力から実熱発生率波形を作成することができる。この検出した筒内圧力から実熱発生率波形を作成する処理については公知であるため、ここでの説明は省略する。
(3)理想熱発生率波形と実熱発生率波形との比較による燃焼状態の診断
燃焼状態の診断(反応形態の診断)としては、前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離の大きさに基づいて行われる。例えば、その乖離が予め設定された閾値(本発明でいう異常判定乖離量)以上となっている反応形態が存在している場合には、その反応形態に異常が生じていると診断することになる。例えば熱発生率の偏差が10[J/°CA]以上となっている反応形態が存在する場合や、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形のクランク角度側への偏差(進角側または遅角側の偏差)が3°CA以上となっている反応形態が存在する場合には、その反応形態に異常が生じていると診断する。これら値はこれに限定されるものではなく、実験やシミュレーションによって適宜設定される。
例えば、図16に破線で示す実熱発生率波形のように、実線で示した理想熱発生率波形(図13で示したものと同一の波形)に対して各高温酸化反応(予混合燃焼による高温酸化反応および拡散燃焼による高温酸化反応)における実熱発生率波形が遅角側にずれており、その偏差が閾値を超えている場合には、各高温酸化反応に異常が生じている、つまり、各高温酸化反応の反応開始時期に異常が生じていると診断することになる。
また、図16に一点鎖線で示す実熱発生率波形のように、実線で示した理想熱発生率波形に対して各高温酸化反応における熱発生率波形のピーク値が高く、その偏差が閾値を超えている場合には、各高温酸化反応に異常が生じている、つまり、各高温酸化反応での反応量に異常が生じていると診断することになる。また、このような診断は、高温酸化反応に限らず、前記気化反応、低温酸化反応、熱分解反応それぞれに対しても同様に行われる。
なお、前記反応形態に異常が生じているか否かを診断するためのパラメータとしては、上述した反応時期の偏差(着火遅れ等)や、熱発生率波形のピーク値の偏差に限らず、反応速度の偏差、反応期間の偏差、ピーク位相(重心の偏差)等も挙げられる。
なお、図17は、前記図15で示した理想熱発生率波形(図17において実線で示す波形)と実熱発生率波形(図17において破線で示す波形)の一例とを示している。この場合にも理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が大きく、その乖離が予め設定された閾値(異常判定乖離量)を超える場合には、燃料反応に異常が生じていると診断することになる。
(4)診断結果に応じたエンジン1の制御パラメータの補正
前記理想熱発生率波形と実熱発生率波形との比較による燃焼状態の診断において、上述した如く理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が予め設定された閾値を超える反応形態が存在する場合、その反応形態に異常が生じていると診断され、この乖離を小さくするようにエンジン1の制御パラメータが補正されることになる。
例えば、実熱発生率波形が、図16に破線で示したものである場合には、燃料の着火遅れが生じており、酸素不足であると判断して、前記インタークーラ61による吸気の冷却能力を高めるようにしたり、EGRバルブ81の開度を小さくしてEGRガス量を減量したり、吸気の過給率を上昇させたりすることで酸素不足を解消する。
また、実熱発生率波形が、図16に一点鎖線で示したものである場合には、燃料の反応量が大きすぎると判断して、燃料噴射量の減量補正や、EGRガスの増量補正等を行う。
また、実熱発生率波形が、図17に破線で示したものである場合には、筒内温度の不足または酸素不足が生じているとして、吸気の過給率を上昇させたり、予熱に寄与する燃料の噴射量の増量補正を行う。
また、実熱発生率波形を理想熱発生率波形に近付けるための制御パラメータとしては、上述したもの以外に、燃料噴射時期、気筒内のガス組成、吸入空気量(ガス量)、各種の学習値(燃料噴射量や燃料噴射時期の学習値など)であってもよい。
このような制御パラメータの補正は、この補正によって実熱発生率波形を理想熱発生率波形に略一致させることが可能な場合に実行される。具体的には、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離量が所定の補正可能乖離量以下である場合に実行される。この補正可能乖離量としては、実験またはシミュレーションによって予め設定されている。そして、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離量が前記補正可能乖離量を超えている場合には、制御パラメータの補正量が所定のガード値を超えることになるので、これによってエンジン1を構成している機器の一部に故障が生じていると診断する。具体的には、筒内温度、酸素密度、燃料密度それぞれの下限値を予め設定しておき、これら筒内温度、酸素密度、燃料密度の何れかがその下限値を下回っている場合には、エンジン1の制御パラメータの補正量が所定のガード値を超えるとして、エンジン1に故障が生じていると診断することになる。
この場合、前記制御パラメータの補正を行うことなく、例えば、車室内のメータパネル上のMIL(警告灯)を点灯させて運転者に警告を促すと共に、前記ECU100に備えられたダイアグノーシスに異常情報が書き込まれることになる。
以上、説明したように本実施形態では、ディーゼルエンジン1の気筒内に噴射された燃料の気化、低温酸化、熱分解等、複数の反応それぞれの状態を表す理想熱発生率波形モデルを作成し、これらを合成した上でフィルタ処理によって円滑化することによって理想熱発生率波形を作成する。その際、低温酸化および熱分解反応について、筒内温度の上昇に伴い反応量が低下し、所定以上の高温場では反応量が零になるものとすることによって、筒内温度の影響を織り込んで高い精度で理想熱発生率波形を作成することができる。
よって、その理想熱発生率波形を利用して燃焼状態の診断等を行う場合に十分な信頼性が得られるようになる。つまり、エンジン1の気筒内での燃料の燃焼状態を高い精度で規定することが可能な熱発生率波形作成装置、および、その作成された熱発生率波形を利用した燃焼状態診断装置を提供することができる。
また、本実施形態では、燃料の複数の反応形態それぞれに対し、実熱発生率波形が理想熱発生率波形から所定量以上乖離している場合には、その反応形態に異常が生じていると診断することができる。つまり、各反応形態を個別に扱い、それぞれについて異常の有無を診断することができる。このため、異常が生じている反応形態の特定を高い精度で行うことができ、診断精度の向上を図ることができる。
そして、異常であると診断された反応形態に対して改善策(制御パラメータの補正)を講じることで(乖離が所定の補正可能乖離量以下である場合)、その反応形態の反応状態を適正化するための最適な制御パラメータを補正することが可能になり、効果的な補正動作が行える。これにより、燃料の各反応全体を理想的な反応に近付ける(各反応の実熱発生率波形を理想熱発生率波形に近付ける)ことが可能になって、エンジン1の制御性を大幅に改善することができる。
−他の実施形態−
以上、説明した実施形態では、自動車に搭載される直列4気筒ディーゼルエンジン1に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン、水平対向型エンジン等の別)についても特に限定されることはない。
また、前記実施形態では、本発明に係る熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置を車載のECU100のROMに格納(車両に実装)して燃焼状態の診断を行うようにしていた。本発明はこれに限らず、実験装置(エンジンベンチ試験器)に前記熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置を備えさせ、エンジン1の設計段階において、この実験装置上でエンジン1を試験運転させる際に理想熱発生率波形を作成し、これを利用して燃焼状態の診断を行いながら、制御パラメータの適正値を取得するといった使用形態に適用することも可能である。また、熱発生率波形作成装置によって作成された理想熱発生率波形の利用形態としては、前記燃焼状態の診断に限られるものではない。
本発明は、自動車に搭載されるディーゼルエンジン等の内燃機関において熱発生率波形に基づく燃焼状態の診断に適用可能である。
1 エンジン(内燃機関)
12 シリンダボア(気筒)
23 インジェクタ(燃料噴射弁)
3 気筒内燃焼室
4A 筒内圧センサ
100 ECU
I 気化反応の理想熱発生率波形モデル
II 低温酸化反応の理想熱発生率波形モデル
III 熱分解反応の理想熱発生率波形モデル
IV 予混合燃焼による高温酸化反応の理想熱発生率波形モデル
V 拡散燃焼による高温酸化反応の理想熱発生率波形モデル

Claims (11)

  1. 燃料噴射弁から気筒内に噴射された燃料の燃焼を行う内燃機関における前記燃焼の熱発生率波形を作成する装置であって、
    前記燃料の燃焼が、少なくとも低温酸化反応、熱分解反応、および高温酸化反応を含む複数の反応によって規定され、それら各反応のそれぞれの反応状態に基づいて理想熱発生率波形が作成される構成となっており、
    前記低温酸化反応および熱分解反応の少なくとも一方については、筒内温度が高いほど反応量が低下するものとして、前記理想熱発生率波形が作成されることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  2. 請求項1に記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    前記低温酸化反応および熱分解反応の両方について、それぞれの反応量が筒内温度の上昇に応じて低下し、所定温度以上では零になるものとすることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  3. 請求項2に記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    前記高温酸化反応については反応量が筒内温度によらず一定とされ、
    前記の所定温度は、前記高温酸化反応の開始温度以上に設定されていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  4. 請求項1〜3のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    前記燃料の各反応それぞれの反応起点として反応開始温度を設定しておき、気筒内の温度がその反応開始温度に達した時点を反応の開始時期とすることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  5. 請求項1〜4のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    前記燃料の各反応それぞれの開始時期を基点として、反応速度を斜辺の勾配、反応量を面積、反応期間を底辺の長さとする三角形で成る理想熱発生率波形モデルを作成し、当該各反応の理想熱発生率波形モデルをフィルタ処理によって円滑化することで、前記理想熱発生率波形が作成されることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  6. 請求項5記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    前記反応速度は、前記反応の開始時期における反応開始温度に対応した基準反応速度効率と燃料量とから算出され、
    前記反応量は、前記反応開始温度に対応した基準反応量効率と燃料量とから算出されるとともに、前記低温酸化反応および熱分解反応の少なくとも一方については、前記基準反応量効率の絶対値が筒内温度の上昇に対応して減少するように設定され、
    前記反応期間は、前記反応速度および反応量から算出されるよう構成されていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  7. 請求項1〜6のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置によって作成された理想熱発生率波形と、気筒内で実際に燃料が反応した際の実熱発生率波形とを比較し、前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定量以上となっている場合には、燃料の反応において異常が生じていると診断する構成となっていることを特徴とする内燃機関の燃焼状態診断装置。
  8. 請求項7記載の内燃機関の燃焼状態診断装置において、
    前記実熱発生率波形は、筒内圧センサによって検出される気筒内圧力に基づいて得られたものであることを特徴とする内燃機関の燃焼状態診断装置。
  9. 請求項7または8の何れかに記載の内燃機関の燃焼状態診断装置において、
    前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定の異常判定乖離量以上となっている反応が存在しており、その反応に異常が生じていると診断された際において、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定の補正可能乖離量以下である場合には、内燃機関の制御パラメータの補正を行って前記乖離を前記異常判定乖離量未満にする制御を行う一方、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が前記補正可能乖離量を超えている場合には、内燃機関に故障が生じていると診断することを特徴とする内燃機関の燃焼状態診断装置。
  10. 請求項1〜6のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    車両に実装または実験装置に搭載されていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  11. 請求項7〜9のうち何れか一つに記載の内燃機関の燃焼状態診断装置において、
    車両に実装または実験装置に搭載されていることを特徴とする内燃機関の燃焼状態診断装置。
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