JP2012012383A - 複合粒子、光音響イメージング用造影剤、および前記複合粒子の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】粒子と、前記粒子に結合した抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなる一本鎖抗体と、前記一本鎖抗体に結合した有機色素と、を有する複合粒子であって、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、前記チオール基と、前記粒子の有する官能基とが結合している複合粒子。更に本発明に係る複合粒子は、前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、前記有機色素の有する官能基とが結合している。
【選択図】なし
Description
また、本発明によれば、一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、このチオール基と粒子が有する官能基が結合しているので、粒子が一本鎖抗体に結合することによる一本鎖抗体の抗原に対する結合力の低下を抑制することができる。
本実施形態に係る複合粒子は、粒子と、前記粒子に結合した、抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなる一本鎖抗体と、前記一本鎖抗体に結合した有機色素とを有する。そして、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、前記チオール基と、前記粒子の有する官能基とが結合していることを特徴とする。また、本実施形態に係る複合粒子は、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、このチオール基と前記粒子が有する官能基が結合しているので、前記粒子が前記一本鎖抗体に結合することによる、前記一本鎖抗体の抗原に対する結合力の低下を抑制することができる。
前述したように、本実施形態に係る複合粒子は、一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、前記チオール基と、粒子の有する官能基とが結合している。前記チオール基と、粒子の有する官能基との結合としては、チオエステル結合、チオノエステル結合、チオエーテル結合、または以下の化学式で表されるチオール−マレイミドカップリングなどを挙げることができる。特に、チオール−マレイミドカップリング、すなわち、チオール基とマレイミド基との結合は、中性のpH領域において効率的かつ選択的に反応を行えるため好ましい。
本実施形態に係る複合粒子に用いられる粒子とは、光を吸収して音響波を発するものであれば特に限定されない。ここで、光とは、紫外光(10nm乃至400nmの波長を有する電磁波)、可視光(400nm乃至600nmの波長を有する電磁波)または近赤外光(600乃至1300nmの波長を有する電磁波)などである。本実施形態における粒子としては、近赤外光を吸収して音響波を発するものであることが好ましい。
本実施形態に係る複合粒子における一本鎖抗体は抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなり、抗原認識部以外の部位がチオール基を有する。
ここで、一本鎖抗体とは、抗体の、重鎖可変領域(VHドメイン)と軽鎖可変領域(VLドメイン)とをペプチドリンカーで連結したポリペプチドである。一本鎖抗体上記のペプチドリンカーは例えば15個のアミノ酸からなる。一本鎖抗体の抗原認識部は重鎖可変領域及び軽鎖可変領域であり、相補性決定領域(以下、CDRと略す)及びフレームワーク領域を含んだ配列から構成される。CDRは標的分子との結合界面近傍に存在し、標的分子との特異的な結合に直接的に関与する。一方、フレームワーク領域は、CDRに結合可能な構造を作り出すことで結合に間接的に関与する。このようにCDRおよびフレームワークが相互に作用し合い、一本鎖抗体の機能を発現する。そして、抗原認識部以外の部位はそれ以外の部位である。本実施形態において一本鎖抗体は、ヒト化一本鎖抗体であることが好ましい。
MDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSSAAALEHHHHHHGGC(配列番号1)
本実施形態における複合粒子は、腫瘍のような病的組織の診断における光音響イメージングに用いられることが特に好ましく、本実施形態に係る複合粒子は標的分子を認識し、あるいは標的分子に結合することが望ましい。「標的分子」とは、生物由来の検体分子であれば特に制限されず、好ましくは、病変部位で特異的に発現している検体分子、特に腫瘍部位に特異的に発現している検体分子を意味する。例えば腫瘍抗原、受容体、細胞表面の膜タンパク質、タンパク質分解酵素、サイトカイン等が挙げられ、本発明にとっての標的分子は腫瘍抗原であることが好ましい。
本実施形態に係る複合粒子の有機色素としては、特に限定されず、光を吸収して音響波を発するものであれば特に限定されない。ここで、光とは、紫外光(10nm乃至400nmの波長を有する電磁波)、可視光(400nm乃至600nmの波長を有する電磁波)または近赤外光(600乃至1300nmの波長を有する電磁波)などである。本実施形態における有機色素としては、近赤外光を吸収して音響波を発するものであることが好ましい。
本実施形態に係る複合粒子は一本鎖抗体と粒子と有機色素からなる複合粒子であって、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位のチオール基を介して一本鎖抗体と粒子とが結合していることを特徴とする。
本実施形態に係る複合粒子は、一本鎖抗体のアミノ基を介して一本鎖抗体と有機色素が結合していることが好ましい。
本実施形態に係る複合粒子の一本鎖抗体、粒子、及び有機色素については、上記の説明の通りである。
本実施形態では、光音響イメージング用造影剤について説明する。
(光音響イメージング用造影剤)
本実施形態に係る光音響イメージング用造影剤は、上記の複合粒子と分散媒とを有することを特徴とする。
(分散媒)
上記の分散媒は、本実施形態に係る複合粒子を分散させるための液状の物質であり、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline、PBS)、生理食塩水、注射用蒸留水などが挙げられる。本実施形態に係る造影剤は、上記本実施形態に係る複合粒子をこの分散媒に予め分散させておいてもよいし、本実施形態に係る複合粒子と分散媒とをキットにしておき、生体内に投与する前に複合粒子を分散媒に分散させて使用してもよい。
本実施形態では、複合粒子の製造方法について説明する。
(複合粒子の製造方法)
本実施形態に係る複合粒子の製造方法は、抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなる一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位の有するチオール基と、粒子の有する官能基を結合させる工程と、前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、有機色素の有する官能基を結合させる工程を有することを特徴とする。
本実施形態において、粒子と一本鎖抗体は、一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位のチオール基を介して結合する。粒子とチオール基の結合としては、チオエステル結合、チオノエステル結合、チオエーテル結合、チオール−マレイミドカップリングなどを挙げることができる。特にチオール−マレイミドカップリング、すなわち、チオール基とマレイミド基との結合は、中性のpH領域において効率的かつ選択的に反応を行えるため好ましい。前記反応により一本鎖抗体と結合した粒子は、限外濾過法、サイズ排除カラムクロマトグラフィー法により洗浄、精製することができる。
本実施形態では、光音響イメージング法について説明する。(光音響イメージング法)
本実施形態に係る複合粒子は、光音響イメージング法に用いることができる。本実施形態に係る複合粒子を用いた光音響イメージング法は、本実施形態に係る複合粒子を検体もしくは前記検体から得られる試料に投与する工程と、前記検体もしくは前記検体から得られる試料にパルス光を照射する工程と、前記検体内もしくは前記検体から得られる試料内に存在する前記複合粒子由来の光音響信号を測定する工程と、を少なくとも有することを特徴とする。
本実施形態に係る光音響イメージング法において、照射される光の波長は使用するレーザ光源により選択することが可能である。本実施形態に係る光音響イメージング法においては、効率良く音響信号を取得するために、生体内における光の吸収、拡散の影響が少ない「生体の窓」と呼ばれる600nmから1300nmの、近赤外光領域の波長の光を照射することが好ましい。
以下の実施例で述べる光音響信号の強度の測定は、以下の装置構成、条件で行った。
光源として、型式 チタンサファイアレーザ(Lotis Tii社製)を用いて、波長750nm、エネルギー密度:21.8mJ/cm2、パルス幅:20ナノ秒、パルス繰返し:10Hz の条件で測定を行った。
超音波トランスデューサとしては、型式 V303(Panametrics−NDT製)を用いて、中心帯域:1MHz、エレメントサイズ:φ0.5、測定距離:33mm(Non−focus)、アンプ:+20dB(超音波プリアンプ Model 5682 オリンパス社製)の条件で測定を行った。
測定容器としては、光路長0.1cmのポリスチレンキュベットを用いた。計測器としてはDPO3034(Tektronix社製)を用いて、光音響光をフォトダイオードでの検出をトリガーとして、32回(32パルス)の測定平均値でデータ収集(Dataacquisition)し計測を行った。
(一本鎖抗体の合成)
始めに、HER2へ結合するイムノグロブリンG(IgG)の可変領域の遺伝子配列を基に、一本鎖抗体の遺伝子断片を作製した。作製した遺伝子の3’末端には、精製のためにヒスチジンが6残基連続したHis6tagおよび、システイン残基をコードする遺伝子配列を配置した。この遺伝子断片を挿入したプラスミドpET−22b(+)(メルク社(Novagen))を用いて大腸菌(BL21株)を形質転換し、発現用菌株を得た。得られた菌株をLB−Amp培地4mLで一晩前培養した後、全量を、250mLの2×YT−Amp培地に添加し、28℃、120rpmで8時間振とう培養した。その後終濃度1mMとなるようにイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、28℃で約20時間培養を続けた。IPTG誘導した大腸菌を8000×g、30分、4℃で遠心分離することで集菌し、上清の培養液を回収した。得られた培養液に80%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、塩析によりタンパク質を沈殿させた。塩析操作した溶液を12時間4℃で静置した後、8000×g、30分、4℃で遠心分離することで沈殿物を回収した。得られた沈殿物を20mMTris・HCl/500mMNaCl緩衝液20mLで溶解し、1Lの同緩衝液へ3回透析した。透析後のタンパク質溶液を、His・Bind(メルク社(Novagen)登録商標) Resinを充填したカラムへ添加し、Niイオンを介した金属キレートアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。
MDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSSAAALEHHHHHHGGC(配列番号1)
次に、この抗原認識部以外の部位のチオール基を介して酸化鉄粒子を結合させる方法について説明する。
粒子としてmicromod Partikel−technolgie社製のマレイミド基を有する酸化鉄粒子を含有するデキストラン粒子(粒子径:20nm)(以下、IO20と呼ぶ)を用いた。IO20と、IO20に対する物質量比が100倍量の、前記還元処理した一本鎖抗体を酸化鉄粒子(1)と混合して、25℃で4時間穏やかに攪拌後、終濃度1mMとなるようにL−システイン(キシダ化学社製)の溶液を加えた。続いてリン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製した後、0.05M炭酸バッファー(pH=9.6)へとバッファー交換した。
上記サイズ排除カラムから溶出した未反応の一本鎖抗体量を定量することで、IO20、1つあたりに結合した一本鎖抗体の量を算出した結果、約11であった。
ここで、マレイミド基はチオール基と強固に結合するため、チオール−マレイミドカップリングで、一本鎖抗体とIO20とが結合していると考えられる。すなわち、一本鎖抗体にIO20が結合してなる複合体(以下、一本鎖抗体−IO20複合体、と呼ぶ)が得られたと考えられる。以下では、一本鎖抗体と粒子の結合体を複合体、複合体と有機色素との結合体を複合粒子と呼ぶ。
式(1)で表される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素(Invitrogen社)のジメチルスルホキシド溶液を、上記一本鎖抗体−IO20複合体に、この複合体1個あたり20倍量、100倍量、500倍量、1000倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに攪拌した。攪拌後、リン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したPD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による精製を行うことにより、4種類の、有機色素であるサクシニミジルエステル反応性色素が結合した複合粒子(以下、色素結合IO20粒子と呼ぶ)が得られた。ここで、上記の本実施例で作製した一本鎖抗体の配列中にはリジン(K)残基が存在する。このリジン残基は、側鎖に求核性基である第1級アミノ基を有するため、上記の本実施例で用いたサクシニミジルエステル反応性色素と混合することでアミノ基とカルボキシル基の結合(アミド結合)が形成され、上記有機色素と上記一本鎖抗体とが結合したと考えられる。
作製した色素結合IO20粒子に結合している有機色素の数、及び式(1)で表される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素の最大吸収波長である750nmにおけるモル吸光係数を、UV−VIS−NIR(紫外可視近赤外)測定により算出した。反応時に加えた有機色素の量が増えると、色素結合IO20粒子1個あたりに結合している有機色素の数が増加する傾向があるという結果が得られた。更に、色素結合IO20粒子に結合している有機色素の数が増加すると、750nmにおけるモル吸光係数が上昇する傾向が確認された。上記で得られた4種類の色素結合IO20粒子において、色素結合IO20粒子に結合している有機色素数が少ないものから、複合粒子A、B、C、Dと呼ぶ。複合粒子A、B、C、Dについて、反応時に加えた有機色素の量、複合粒子1個に結合している色素の数、750nmの波長におけるモル吸光係数を、表1にまとめた。
ここでは、IO20を粒子Eと呼ぶ。
複合粒子A、B、C、D、及び粒子Eについて光音響信号強度の測定を行った。ただし、粒子Eは、複合粒子A、B、C、Dと同じ鉄濃度となるように溶液を調製した上で測定を行った。粒子Eの光音響信号の強度を1としたときの、各複合粒子の光音響信号の強度をまとめたものが図2である。
一本鎖抗体を介して有機色素を結合させた複合粒子A、B、C、Dは、有機色素及び一本鎖抗体が結合していない粒子Eよりも、大きな信号強度を示した。また、結合している有機色素量が多い複合粒子の方が、少ない複合粒子に比べて大きな信号強度を示した。
(一本鎖抗体−IO20複合体とICG色素との結合)
実施例1で作製した一本鎖抗体−IO20複合体に、有機色素であるICG−Sulfo−OSu(同仁化学研究所社製)の、ジメチルスルホキシド溶液をこの複合体に対して20倍量、100倍量、400倍量、1000倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに撹拌した。ここで、ICG−Sulfo−OSu(同仁化学研究所社製)の構造は上記の式(2)で示されるように、ICGの誘導体であり、以下では、単にICG色素と呼ぶ。
撹拌後、リン酸バッファー(pH7.4)で平衡化したPD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による精製を行うことにより、4種類の、ICG色素が結合した複合粒子(以下、ICG色素結合IO20粒子と呼ぶ)が得られた。ここで、上記で作製した抗体の配列中にはリジン(K)残基が存在する。このリジン残基は、側鎖に求核性基である第1級アミノ基を有するため、ICG色素と混合することで、アミノ基とカルボキシル基の結合(アミド結合)が形成され、上記有機色素と上記一本鎖抗体とが結合したと考えられる。
作製したICG色素結合IO20粒子に結合しているICG色素の数、及びICG色素の最大吸収波長である780nmにおけるモル吸光係数を、UV−VIS−NIR(紫外可視近赤外)測定により算出した。反応時に加えた色素量が増えると、ICG色素結合IO20粒子1個あたりに結合しているICG色素の数が増加する傾向があるという結果が得られた。更に、ICG色素結合IO20粒子に結合しているICG色素数が増加すると、780nmにおけるモル吸光係数が上昇する傾向が確認された。
上記で得られた4種類のICG色素結合IO20粒子において、ICG色素結合IO20粒子に結合しているICG色素数が少ないものから、複合粒子F、G、H、Iと呼ぶ。
複合粒子F、G、H、Iについて、反応時に加えた有機色素の量、複合粒子1個に結合している色素の数、780nmの波長におけるモル吸光係数を、表2にまとめた。
ここでは、一本鎖抗体−IO20複合体を複合体Jと呼ぶ。
複合粒子F、G、H、I、及び複合体Jについて光音響信号強度の測定を行った。複合体Jの光音響信号の強度を1としたときの、各複合粒子の光音響信号の強度をまとめたものが図3である。
一本鎖抗体を介して有機色素を結合させた複合粒子F、G、H、Iは、有機色素が結合していない複合体Jよりも、大きな信号強度を示した。また、結合している有機色素量が多い複合粒子の方が、少ない複合粒子に比べて大きな信号強度を示した。
(ポリマーナノ粒子の合成)
ICG(日本公定書協会製)4.4mgをメタノール(キシダ化学社製)1mLに溶解し、ICGメタノール溶液を調製した。ここで用いたICGは上記の式(3)で示される構造である。Distearoylphosphatidylcholine(以下、DSPCと呼ぶ、日油社製)9mgをクロロホルム(キシダ化学社製)1mLに溶解し、DSPCクロロホルム溶液を調製した。ICGメタノール溶液1mLと、DSPCクロロホルム溶液1mLを混合し、5分間撹拌した後、減圧下40℃で溶媒を留去した。蒸発乾固したICG・DSPCをクロロホルム1.6mLに完全に溶解させて、クロロホルムに溶解したICG組成物を調製した。これに、組成比50:50、平均分子量20000のポリ乳酸・グリコール酸共重合体(以下、PLGAと呼ぶ、和光純薬工業社製)20mgを溶解させて、PLGAクロロホルム溶液を調製した。
次に、Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate(以下、Tween20と呼ぶ、東京化成工業社製)60mg、および末端にメトキシ基を有するポリエチレングリコール化リン脂質である、N−(Carbonyl−methoxypolyethyleneglycol 2000)−1,2−distearoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine,sodium salt(以下、DSPE−020CNと呼ぶ、日油社製)7.3mg、並びに、末端に1級アミノ基を有するポリエチレングリコール化リン脂質である、N−(aminopropylpolyethyleneglycol 2000)carbamyl−distearoylphosphatidyl−ethanolamine(以下、DSPE−020PAと呼ぶ、日油社製)0.7mgを溶解させた水溶液20mLに前記PLGAクロロホルム溶液を加えて混合液とし、この混合液を室温で3分、撹拌した。その後、超音波分散機で90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。次に前記エマルジョンを、ロータリーエバポレーターを用いて40℃で2時間減圧し、エマルジョン溶液からクロロホルムを除去した。その後、水に対して十分透析を行い、フィルターろ過(ポアサイズ0.2μm、日本ミリポア社製)することで、ICGを含有するポリマーナノ粒子の水溶液を得た。得られた粒子は以下ではICG−PNPと呼ぶ。
ICG−PNPの水中における平均粒径とゼータ電位を、ゼータサイザーナノ(MALVERN社製)を用いて測定した。ICG−PNPの平均粒径は105nm(キュムラント)、ゼータ電位は−31mVであった。
ICG−PNPの有する1級アミノ基を介して、一本鎖抗体の修飾を行った。この1級アミノ基は、DSPE−020PAが有するものである。初めに、succinimidyl−[(N−maleimidopropionamido)−diethyleneglycol] ester (以下、SM(PEG)2と呼ぶ、サーモサイエンティフィック社製)0.1mg(233nmol)をICG−PNPの水分散液(ICG−PNP濃度:4.8×1012個/mL)2.9mLに溶解させた。次に、0.33mLのほう酸バッファー(pH8.5)を加えた。この粒子懸濁液を室温で2時間撹拌した後、PD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて、マレイミド基を導入したICG−PNP(以下、マレイミド化ICG−PNPと呼ぶ)と未反応のSM(PEG)2を、水を展開溶媒として分離し、マレイミド化ICG−PNPの水溶液およそ6mLを得た。この水溶液に1Mの2−[4−(2−Hydroxyethyl)−1−piperazinyl]ethanesulfonic acid (以下、HEPESと呼ぶ、和光純薬工業社製)溶液を120μL加えることで、マレイミド化ICG−PNPのHEPES溶液を得た。
前記還元処理した一本鎖抗体を、前記のマレイミド化ICG−PNPのHEPES溶液に対して、物質量比で720倍量となるように添加し、4℃で15時間以上反応させた。反応後、この溶液に、末端チオール基を有するポリエチレングリコール(分子量1000、PLS−606、Creative PEGWorks社製)16.8nmolを加え、室温で30分撹拌した。次いで、この溶液をフィルターろ過(ポアサイズ1.2μm)した後、100kDaのポアサイズのアミコンウルトラー4(日本ミリポア社製)を用いた限外ろ過によりマレイミド化ICG−PNPへ結合しなかった一本鎖抗体を除去して、一本鎖抗体とICG−PNPとが結合した複合体(以下、一本鎖抗体−ICG−PNP複合体、と呼ぶ)を得た。ここで、マレイミド基はチオール基と強固に結合するため、チオール−マレイミドカップリングで、一本鎖抗体と、マレイミド化ICG−PNPとが結合していると考えられる。
BCA法を用いて、ICG−PNPへの一本鎖抗体の結合量を算出した結果、ICG−PNPあたり491個の一本鎖抗体が結合していることがわかった。一本鎖抗体−ICG−PNP複合体の水中における平均粒径とゼータ電位を、ゼータサイザーナノ(MALVERN社製)を用いて測定した結果、それぞれ109nm(キュムラント)、−40mVであった。
式(1)で示される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素(Invitrogen社)のジメチルスルホキシド溶液を、上記一本鎖抗体−ICG−PNP複合体に、複合体1個あたり3600倍量、18000倍量、36000倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに攪拌した。攪拌後、リン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したPD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による精製を行うことにより、3種類の、有機色素が結合した一本鎖抗体−ICG−PNP複合体(以下、色素結合PNPと呼ぶ)を得た。ここで、上記の本実施例で作製した一本鎖抗体の配列中にはリジン(K)残基が存在する。このリジン残基は、側鎖に求核性基である第1級アミノ基を有するため、上記の本実施例で用いたサクシニミジルエステル反応性色素と混合することでアミノ基とカルボキシル基の結合(アミド結合)が形成され、上記有機色素と上記一本鎖抗体とが結合したと考えられる。
作製した色素結合PNPに結合している色素の数、及び式(1)で表される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素の最大吸収波長である750nmにおけるモル吸光係数を、UV−VIS−NIR(紫外可視近赤外)測定により算出した。反応時に加えた色素量が増えると、色素結合PNP1個あたりに結合している有機色素の数が増加する傾向があるという結果が得られた。更に、色素結合PNPに結合している有機色素の数が増加すると、750nmにおけるモル吸光係数がわずかに上昇する傾向が確認された。
上記で得られた3種類の色素結合PNPにおいて、色素結合PNPに結合している有機色素数が少ないものから、複合粒子K、L、Mと呼ぶ。複合粒子K、L、Mについて、反応時に加えた有機色素の量、複合粒子1個に結合している色素の数、750nmの波長におけるモル吸光係数を、表3にまとめた。
ここでは、一本鎖抗体−ICG−PNP複合体を複合体Nと呼ぶ。
複合粒子K、L、M、及び複合体Nについて光音響信号の強度の測定を行った。複合体Nの光音響信号の強度を1としたときの、各複合粒子の光音響信号の強度をまとめたものが図4である。
一本鎖抗体を介して有機色素を結合させた複合粒子K、L、Mは、有機色素が結合していない複合体Nよりも、大きな信号強度を示した。また、結合している有機色素量が多い複合粒子の方が、少ない複合粒子に比べて大きな信号強度を示した。
一本鎖抗体を介して蛍光色素を結合させた複合粒子K、L、Mは、蛍光色素が結合していない複合粒子Nよりも、大きい信号強度を示した。また、結合している蛍光色素量が多い複合粒子のほうが、少ない複合粒子に比べて大きな信号強度を示した。
(粒径の大きな酸化鉄粒子と一本鎖抗体との結合)
粒径の大きな酸化鉄粒子としてmicromod Partikel−technolgie社製のマレイミド基を有する酸化鉄含有デキストラン粒子(粒子径:50nm、100nm)(以下、それぞれIO50、IO100と呼ぶ)を用いた。前記還元処理した一本鎖抗体をIO50またはIO100に対して、物質量比でそれぞれ600倍量、2500倍量となるように混合した。その後、25℃で4時間穏やかに攪拌後、終濃度1mMとなるようにL−システイン(キシダ化学社製)溶液を加えた。続いてリン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製した後、0.05M炭酸バッファー(pH=9.6)へとバッファー交換し、一本鎖抗体−IO50複合体、および一本鎖抗体−IO100複合体を得た。上記サイズ排除カラムから溶出した未反応の一本鎖抗体量を定量することで、複合体一つあたりに結合した一本鎖抗体の量を算出した結果、一本鎖抗体−IO50では約110、一本鎖抗体−IO100では約410個であった。
ここで、マレイミド基はチオール基と強固に結合するため、チオール−マレイミドカップリングで、一本鎖抗体とIO50またはIO100が結合していると考えられる。
式(1)で示される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素(Invitrogen社)のジメチルスルホキシド溶液を、上記一本鎖抗体−IO50複合体に、この複合体1個あたり1100倍量、2750倍量、11000倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに攪拌した。また、上記一本鎖抗体−IO100複合体に、この複合体1個あたり4100倍量、10250倍量、41000倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに攪拌した。
攪拌後、リン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したPD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による精製を行うことにより、有機色素が結合した複合粒子(以下、色素結合IO50粒子および色素結合IO100粒子と呼ぶ)を得た。色素結合IO50粒子は3種類、色素結合IO100粒子は3種類得られた。
ここで、上記の本実施例で作製した一本鎖抗体の配列中にはリジン(K)残基が存在する。このリジン残基は、側鎖に求核性基である第1級アミノ基を有するため、上記の本実施例で用いたサクシニミジルエステル反応性色素と混合することでアミノ基とカルボキシル基の結合(アミド結合)が形成され、上記色素と上記一本鎖抗体とが結合したと考えられる。
作製した3種類の、色素結合IO50粒子および、3種類の、色素結合IO100粒子、に結合している有機色素の数、及び式(1)で表される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素の最大吸収波長である750nmにおけるモル吸光係数を、UV−VIS−NIR(紫外可視近赤外)測定により算出した。反応時に加えた色素量が増えると、色素結合IO50粒子、または、色素結合IO100粒子1個あたりに結合している有機色素数が増加する傾向があることがわかった。更に、色素結合IO50粒子または色素結合IO100に結合している有機色素の数が増加すると、750nmにおけるモル吸光係数が上昇する傾向が確認された。
上記で得られた3種類の色素結合IO50粒子において、色素結合IO50粒子に結合している有機色素数が少ないものから、複合粒子O、P、Qと呼ぶ。また、上記で得られた3種類の色素結合IO100粒子において、色素結合IO100粒子に結合している有機色素数が少ないものから、複合粒子S、T、Uと呼ぶ。複合粒子O、P、Q、S、T、Uについて、反応時に加えた有機色素の量、複合粒子1個に結合している色素の数、750nmの波長におけるモル吸光係数を、表4にまとめた。
ここでは、一本鎖抗体−IO50複合体を複合体Rと呼ぶ。また、一本鎖抗体−IO100複合体を複合体Vと呼ぶ。
複合粒子O、P、Q及び複合体Rについて光音響信号強度の測定を行った。複合体Rの光音響信号の強度を1としたときの、各複合粒子の光音響信号の強度をまとめたものが図5(a)である。一本鎖抗体を介して有機色素を結合させた複合粒子O、P、Qは、有機色素が結合していない複合体Rよりも、大きな信号強度を示した。また、結合している有機色素量が多い複合粒子の方が、少ない複合粒子に比べて大きな信号強度を示した。
複合粒子S、T、U及び複合体Vについて光音響信号強度の測定を行った。複合体Vの光音響信号の強度を1としたときの、各複合粒子の光音響信号の強度をまとめたものが図5(b)である。一本鎖抗体を介して有機色素を結合させた複合粒子S、T、Uは、有機色素が結合していない複合体Vよりも、大きな信号強度を示した。また、結合している有機色素量が多い複合粒子の方が、少ない複合粒子に比べて大きな信号強度を示した。
色素結合IO50粒子および色素結合IO100粒子について表面プラズモン共鳴法(SPR)によって、抗体の抗原(HER2)に対する結合機能を評価した。
SPRはBiacoreX(GEヘルスケアジャパン社製)を用いて測定した。Recombinant Human ErbB2/Fc Chimera(R&D Systems社製)を酢酸バッファー(pH5.0)に溶解させ、CM−5チップ表面のカルボキシメチルデキストラン鎖へのアミンカップリングにより第1フローセルに固定化した。固定化量は、約1000RU(Resonance Unit)であった。一方、第2フローセル表面は活性化後、注入を行う際のリファレンスとして用いる為に非活性化した。
次に、上記複合粒子O〜Vを0.005%のTween20を含むリン酸バッファー(pH7.4)へバッファー置換した後、粒子濃度が等しくなるように調製し、流速20μL/分で両フローセルへ注入した。測定時間は、注入時間(結合)120秒、注入停止後経過時間(解離)120秒であり、フローセル表面の洗浄は1サンプル測定毎に50mM水酸化ナトリウム水溶液を用いてセンサーグラムがベースラインに戻るまで適量注入した。図6(a)に複合粒子O、P、Q、及び複合体Rの結果を、図6(b)に複合粒子S、T、U、及び複合体Vの結果を示した。図6(a)では、太実線が複合粒子O、細実線が複合粒子P、太点線が複合粒子Q、細点線が複合体Rの結果を表す。図6(b)では、太実線が複合粒子S、細実線が複合粒子T、太点線が複合粒子U、細点線が複合体Vの結果をそれぞれ表す。この結果から、有機色素を結合させた各々の複合粒子は、有機色素を結合させても、一本鎖抗体の抗原に対する結合能力があることがわかった。また、結合している色素量が多い複合粒子のほうが、蛍光色素が結合していない複合粒子よりも、HER2への結合に伴うRU値の上昇が少なく、結合機能が低下していることが示唆された。
式(1)で示される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素(Invitrogen社)のジメチルスルホキシド溶液を、上記一本鎖抗体−IO100複合体に、複合体あたり410倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに攪拌した。攪拌後、リン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したPD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による精製を行うことにより、色素結合IO100粒子(以下、複合粒子Wと呼ぶ)を得た。ここで、上記の本実施例で作製した一本鎖抗体の配列中にはリジン(K)残基が存在する。このリジン残基は、側鎖に求核性基である第1級アミノ基を有するため、上記の本実施例で用いたサクシニミジルエステル反応性色素と混合することでアミノ基とカルボキシル基の結合(アミド結合)が形成され、上記色素と上記一本鎖抗体とが結合したと考えられる。
作製した複合粒子Wに結合している色素の数、及び750nmにおけるモル吸光係数を、UV−VIS−NIR(紫外可視近赤外)測定により算出した結果、複合粒子W1個あたり250個の有機色素が結合しており、モル吸光係数は2.3×108[1/cm/M]であった。
次に、上記複合粒子Wについて、小動物におけるイメージング機能について評価した。小動物としては、雌の非近交系BALB/c Slc−nu/nuマウス(購入時6週齢)(日本エスエルシー社製)を用いた。前記マウスは、癌細胞を移植させる前の1週間、標準的な食餌、寝床を用い、自由に食餌および飲料水を摂取できる環境下でマウスを順応させた。イメージング実験の約2週間前に、2×106個のN87と腫瘍形成マトリックスであるGeltrex(インビトロジェン社製)を、混合した後、マウスの左肩に皮下注射した。実験時までに腫瘍は全て定着しており、腫瘍径は約5mm、マウスの体重は17〜22gであった。上記N87を移植したマウスに、PBSに分散させた複合粒子Wを、6.6×10−13mol/匹となるように投与し、3日後のマウス全身蛍光イメージング画像を取得した(図8)。イメージング画像は、IVIS200(Xenogen社製)システムを用いて撮像した。図8では、TはN87腫瘍部、Lは肝臓部をそれぞれ表す。イメージング画像から、複合粒子Wが腫瘍部に集積していることが確認された。また、複合粒子Wは腫瘍部以外に肝臓にも集積していることが確認された。更に、複合粒子Wを投与して3日後のマウスから筋肉および、N87腫瘍を摘出し、それぞれ蛍光強度測定を行った。摘出した組織について、重量あたりの蛍光強度を比較したところ、筋肉に比べてN87腫瘍のほうが2倍以上大きく、HER2結合機能を持った複合粒子Wが選択的にN87へ集積していることが確認された。したがって、本実施例において作製した複合粒子は、腫瘍の光音響イメージングをするための造影剤として適していると考えられる。
(カルボキシル基を有する酸化鉄粒子と一本鎖抗体との結合)
粒子としてmicromod Partikel−technolgie社製のカルボキシル基を有する酸化鉄含有デキストラン粒子(粒子径:20nm)(以下、IOC20と呼ぶ」)を用いた。なお、IOC20は、マレイミド基を有さない。
終濃度4mg/mLの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)、及び終濃度5mg/mLのN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含む、終濃度0.1MのMESバッファー(pH=6.3)とIOC20を混合し、25℃で1時間穏やかに攪拌した。続いてリン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化した脱塩カラムクロマトグラフィーによって精製した。上記精製後のIOC20に対して、前述の金属キレートアフィニティークロマトグラフィー精製後の一本鎖抗体が、物質量比で30倍量となるように混合し、25℃で3時間穏やかに攪拌後、終濃度1mMとなるようにL−グリジン溶液を加えた。続いてリン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製した後、0.05M炭酸バッファー(pH=9.6)へとバッファー交換し、一本鎖抗体にIOC20が結合してなる複合体(以下、一本鎖抗体−IOC20複合体、と呼ぶ)を得た。上記サイズ排除カラムから溶出した未反応の一本鎖抗体の量を定量することで、IOC20、1つあたりに結合した一本鎖抗体の量を算出した結果、約19であった。
ここで、IOC20はマレイミド基を有さないため、一本鎖抗体の有するチオール基とは反応しにくい。したがって、一本鎖抗体の配列中のリジン(K)残基の側鎖に存在する求核性基である第1級アミノ基と、IOC20の有するカルボキシル基とが結合したものが、一本鎖抗体−IOC20複合体であると考えられる。
上記の式(1)で示される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素(Invitrogen社)のジメチルスルホキシド溶液を、上記一本鎖抗体−IOC20複合体に、この複合体あたり300倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに攪拌した。攪拌後、リン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したPD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による精製を行うことにより、一本鎖抗体にIOC20が結合してなる複合体(以下、複合粒子X、と呼ぶ)を得た。
複合粒子Xに結合している有機色素の数、及び式(1)で表される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素の最大吸収波長である750nmにおけるモル吸光係数を、UV−VIS−NIR(紫外可視近赤外)測定により測定した。複合粒子B、Xについて、反応時に加えた有機色素の量、複合粒子1個に結合している色素の数、750nmの波長におけるモル吸光係数を、表5にまとめた。複合粒子Xは複合粒子Bに比べて、反応時に、より多くの有機色素を加えているにも関わらず、複合粒子1個あたりに結合した有機色素の数は少なく、モル吸光係数も低かった。これは、複合粒子Xにおいて、上記で作製した一本鎖抗体の配列中に存在するリジン(K)残基の側鎖の第1級アミノ基の多くが、IOC−20との結合に使用されており、上記のサクシニミジルエステル反応性色素と結合できる第1級アミノ基がわずかしか存在しなかったため、粒子1個に結合した有機色素が少なかったと考えられる。
光音響特性は前述した方法と同じ方法で評価した。
以下では、一本鎖抗体−IOC20複合体を、複合体Yと呼ぶ。複合体Yの光音響信号強度を1とし、複合粒子BおよびXについて、光音響信号特性評価を行い、複合体Yに光音響信号強度に対する信号強度の比として示したものが図9である。酸化鉄粒子のマレイミド基と一本鎖抗体のチオール基、一本鎖抗体のアミノ基と有機色素のカルボキシル基とがそれぞれ結合した複合粒子Bは、複合体Yに比べ大きな信号強度を示した。一方で、酸化鉄粒子のカルボキシル基と一本鎖抗体のアミノ基、一本鎖抗体のアミノ基と有機色素のカルボキシル基とがそれぞれ結合した複合粒子Xは、複合体Yより光音響信号の強度わずかに大きかった。
複合粒子Xについて表面プラズモン共鳴法(Surface Plasmon Resonance、以下、SPRと略す)によって、複合粒子の有する一本鎖抗体の抗原(HER2)に対する結合機能を評価した。SPRは前述した方法と同じ方法で評価した。複合粒子XおよびYを0.005%のTween20を含むリン酸バッファー(pH7.4)へバッファー置換した後、粒子濃度が等しくなるように調製し、流速20μL/分で両フローセルへ注入した。測定時間は、注入時間(結合)120秒、注入停止後経過時間(解離)120秒であり、フローセル表面の洗浄は1サンプル測定毎に50mM水酸化ナトリウム水溶液を用いてセンサーグラムがベースラインに戻るまで適量注入した。図10に得られたセンサーグラムを示した。図10では、太線が複合粒子X、点線が複合粒子Yをそれぞれ表す。この結果から、有機色素を結合させた複合粒子Xは、有機色素を結合させても、一本鎖抗体の抗原に対する結合能力があることがわかった。また、有機色素を結合させていない複合粒子Yに比べて、有機色素を結合させた複合粒子Xの方が、HER2への結合に伴うRU値の上昇が少なく、結合機能が低下していることが示唆された。
Claims (8)
- 粒子と、抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなり前記粒子に結合している一本鎖抗体と、前記一本鎖抗体に結合した有機色素と、を有する複合粒子であって、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、前記チオール基と前記粒子の有する官能基とが結合していることを特徴とする複合粒子。
- 前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、前記有機色素の有する官能基とが結合していることを特徴とする請求項1に記載の複合粒子。
- 前記粒子が酸化鉄粒子あるいはインドシアニングリーンのうち少なくともいずれか一方を有することを特徴とする請求項1または2に記載の複合粒子。
- 前記一本鎖抗体が、配列番号1のアミノ酸配列である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の複合粒子。
MDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSSAAALEHHHHHHGGC(配列番号1) - 請求項1乃至4のいずれか一項に記載の複合粒子と分散媒とを有することを特徴とする光音響イメージング用造影剤。
- 粒子と、抗原認識部と抗原認識部以外からなり前記粒子に結合している一本鎖抗体と、前記一本鎖抗体に結合した有機色素と、からなる複合粒子であって、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位のチオール基を介して、前記一本鎖抗体と前記粒子とが結合していることを特徴とする複合粒子。
- 前記一本鎖抗体のアミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基のうち少なくともいずれか一種を介して前記一本鎖抗体と前記有機色素が結合していることを特徴とする請求項6に記載の複合粒子。
- 抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなる一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位が有するチオール基と、粒子の有する官能基と、を結合させる工程と、前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、有機色素の有する官能基と、を結合させる工程を有することを特徴とする複合粒子の製造方法。
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