ところで、エンジンの始動条件としては、例えば運転者がアクセル操作等をすることにより成立する、車両の発進要求を伴った始動条件と、例えばバッテリの充電状態(SOC:State Of Charge)が低下したり、空調装置のコンプレッサの作動が必要になった等の、車両の発進要求はないものの車両側の要求によって成立する、車両の発進要求を伴わない始動条件と、の大別して2種類が存在する。
この内、車両の発進要求を伴った始動条件が成立した場合は、エンジンの始動を短時間で完了させることは勿論のこと、その始動完了後、即座に車両の発進及び加速を行わなければならないが、その際の発進加速性能を高める観点からはディーゼルエンジンの燃焼性を高めることが望ましい。
一方で、前述したようなアイドルストップシステムでは、エンジンの停止及び始動が頻繁に繰り返されることから、前記特許文献1に記載されているように、ディーゼルエンジンの始動毎にグロープラグを作動させていたのでは、バッテリ電圧の点で極めて不利になると共に、グロープラグの寿命の点でも不利になり得る。従って、ディーゼルエンジンの始動条件によっては、例えば発進条件を伴わない始動条件の成立時には、グロープラグの作動を控えることも考えられる。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ディーゼルエンジンの始動制御に関し、始動条件の成立時に、発進要求の有無に応じて始動制御を最適化することにある。
ここに開示する技術は、グロープラグと、吸排気弁の作動制御を通じて内部EGRガス量を調整する制御機構とを備えたディーゼルエンジンを前提として、発進要求を伴う始動条件成立時と、発進要求を伴わない始動条件成立時とで、グロープラグの作動制御と内部EGRガスの制御との組み合わせ態様を、異ならせることにした。
つまり、車両の発進要求を伴う始動条件が成立したときには、エンジンの燃焼性を向上させて発進加速性能を向上させる観点から、グロープラグの作動制御と内部EGRガス量の抑制制御とを組み合わせて、燃焼室内の温度上昇と十分な新気量の確保とを図る。このことで燃焼期間を短縮させて、始動完了後に即座に行われる発進加速の際のディーゼルエンジンの燃焼性を高める。
一方、発進要求を伴わない始動条件が成立したときには、エンジンの始動完了後、即座に発進加速を行うことにはならないから、グロープラグの作動を抑制乃至禁止してバッテリ電圧の低下及びグロープラグの寿命低下の抑制を図る一方で、グロープラグの作動を抑制乃至禁止する分を補って、燃焼室内の温度を高めるべく内部EGRガス量の増量制御を行う。
具体的に、ここに開示するディーゼルエンジンの制御装置は、車両に搭載されたディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンの吸気弁及び排気弁の内の少なくとも一方の作動を制御することによって、前記ディーゼルエンジンの燃焼室内の内部EGRガス量を調整する内部EGR制御機構と、前記燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記燃焼室内に臨んで配置されるグロープラグと、所定の停止条件が成立したときに前記ディーゼルエンジンを停止すると共に、所定の始動条件が成立したときには、前記燃料噴射弁を通じて前記燃焼室内に供給した燃料を着火燃焼させる所定の始動制御を実行して前記ディーゼルエンジンを始動させる始動制御手段と、を備える。
そして、前記始動制御手段は、前記車両の発進要求を伴う始動条件が成立したときには、前記グロープラグを所定通電量以上で作動させる一方で、前記内部EGR制御機構を通じて内部EGRガス量を所定量以下にする第1制御を実行する一方、前記車両の発進要求を伴わない始動条件が成立したときには、前記グロープラグを前記所定通電量未満で作動させる又は無通電として非作動にする一方で、前記内部EGR制御機構を通じて内部EGRガス量を前記所定量よりも多くする第2制御を実行する。
この構成によると、車両の発進要求を伴った始動条件の成立時には、エンジンの気筒内に燃料を供給しかつ着火燃焼させることでディーゼルエンジンを始動させる始動制御を実行する。そして、この始動制御に際して、グロープラグを所定通電量以上で作動させる一方で、内部EGR制御機構を通じて内部EGRガス量を所定量以下にする第1制御を実行する。つまり、グロープラグを十分に作動させて燃焼室内の温度上昇を図る一方で、内部EGRガス量を低減することによって、十分な新気量を確保する。尚、「内部EGRガス量を所定量以下にする」ことには、内部EGRガス量を0(ゼロ)にする、換言すれば内部EGR制御を禁止することも含む。このように、グロープラグの十分な作動に伴う燃焼室内の温度上昇と、内部EGRガス量の低減に伴う新気量の確保とを組み合わせることにより、ディーゼルエンジンの燃焼性が向上し、未燃焼分の減少及び燃焼期間の短縮化が図られる。このことは、ディーゼルエンジンの始動完了後、即座に発進加速を行うときにトルクを良好に増大させて、その発進加速性を高める上で有利になる。
一方、車両の発進要求を伴わない始動条件の成立時には、グロープラグを所定通電量未満で作動させる又は無通電として非作動にする一方で、内部EGR制御機構を通じて内部EGRガス量を所定量よりも多くする第2制御を実行する。つまり、エンジンの始動完了後、即座の発進加速が要求されていないことからグロープラグの作動を抑制(例えば、いわゆるアフターグロー程度の状態を含み得る)又は作動を禁止することによって、バッテリ電圧の低下を抑制すると同時に、グロープラグの寿命の点で有利になり得る。一方、エンジンの始動に際し(尚、ここでいうエンジンの始動には、エンジンの始動制御の開始から始動完了までに限定されず、始動完了後の期間も含む場合がある)、主に燃焼室内の温度を所定以上に確保してエンジンの失火等の燃焼性の悪化を回避する観点から、内部EGRガス量を増加させる。ここで、内部EGR制御機構は、吸気弁及び排気弁の少なくとも一方の作動制御によって内部EGRガス量を増加させることから、ポンピングロスの低減においても有利になる。
前記始動制御手段は、前記内部EGR制御機構を通じた内部EGRガスの制御を、前記ディーゼルエンジンの始動が完了した後に開始する、としてもよい。
つまり、始動制御の開始から、エンジンの始動が完了するまでの始動制御の実行中には、内部EGRガス制御を行わず、内部EGRガス量を0にする。このことにより、始動制御の実行中には十分な新気量が確保され、ディーゼルエンジンの始動性が向上する。
前記内部EGR制御機構は、エンジン駆動の油圧ポンプから供給される油圧によって駆動されるように構成されている、としてもよい。
前述したように、内部EGRガス制御は、エンジンの始動制御中は行わず、その始動完了後において開始することが、ディーゼルエンジンの始動性の点からは好ましいが、内部EGR制御機構を、エンジン駆動の油圧ポンプからの油圧によって駆動する構成とすることで、エンジンの始動完了後に、応答遅れを生じることなく内部EGR制御機構を作動させて内部EGRガス制御を開始することが可能になる。
前記始動制御手段は、前記グロープラグの作動を、前記始動条件の成立後、前記ディーゼルエンジンの始動が完了するまでの期間内で開始する、としてもよい。
グロープラグの作動開始から、燃焼室内の温度が実際に上昇するまでにはタイムラグが生じるが、グロープラグの作動を、始動条件の成立後、エンジンの始動が完了するまでの期間内で開始しておくことによって、エンジンの始動完了後の発進加速時には、燃焼室内を十分に昇温することが可能になり、前述したように、発進加速性を高める上で有利になる。
前記始動制御手段は、前記第1制御を、外気温が所定温度以下の低温時に実行する、としてもよい。
つまり、所定の停止条件の成立でエンジンを停止するアイドルストップ制御はそもそも、エンジンの始動性を考慮して、エンジンの冷却水温度が所定温度以上であるような温間時に実行される制御であり、そのエンジンの始動時には、グロープラグを作動させなくても十分な始動性や、発進加速性が得られる。一方、外気温が所定温度以下の、低温時乃至極低温時には、エンジンの始動の際に燃焼室内に導入される新気の温度が低く、それに伴い圧縮端温度が低下してしまって、エンジンの停止条件が成立する状況であってもエンジンの始動性乃至発進加速性が低下する虞がある。
そこで、グロープラグの所定通電量以上の作動を伴う第1制御は、外気温が所定温度以下のときにのみ実行し、それ以外では実行しないことで、グロープラグの使用頻度が低下してグロープラグの寿命の向上の点で有利になる一方で、外気温が所定温度以下のときには、前述した第1制御の実行により、エンジンの始動完了後、即座に発進加速を行うときに、その発進加速性の向上が図られる。
以上説明したように、前記のディーゼルエンジンの始動制御装置によると、車両の発進要求を伴った始動条件の成立時には、エンジンの始動制御と共に、グロープラグを所定通電量以上で作動させる一方で、内部EGRガス量を所定量以下にする第1制御を実行することで、ディーゼルエンジンの始動完了後の発進加速時に、その燃焼性を向上させて発進加速性を向上し得る。一方、車両の発進要求を伴わない始動条件の成立時には、グロープラグを所定通電量未満で作動させる又は無通電として非作動にする一方で、内部EGR制御機構を通じて内部EGRガス量を所定量よりも多くする第2制御を実行することで、バッテリ電圧の低下を抑制すると共に、グロープラグの作動頻度の低減による寿命の向上を図りつつ、ディーゼルエンジンの失火等を回避して、所望の燃焼性を確保し得る。
以下、ディーゼルエンジンの始動制御装置を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1,2は、実施形態に係る制御装置を採用したエンジン1の概略構成を示す。このエンジン1は、車両に搭載されたディーゼルエンジンであって、複数の気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。このエンジン1の各気筒11a内には、ピストン14が往復動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン14の頂面には深皿形燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。このピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されている。シリンダブロック11には、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW1が配設されている。
前記シリンダヘッド12には、各気筒11a毎に吸気ポート16及び排気ポート17が形成されているとともに、これら吸気ポート16及び排気ポート17の燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。これら吸排気弁21,22をそれぞれ駆動する動弁系において、排気弁側には、当該排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える油圧作動式の可変機構(図2参照。以下、VVM(Variable Valve Motion)と称する)が設けられている。このVVM71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カム山を1つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁に伝達するロストモーション機構を含んで構成されており、第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。VVM71の通常モードと特殊モードとの切り替えは、エンジン駆動の油圧ポンプ(図示省略)から供給される油圧によって行われ、特殊モードは、後述するように、内部EGRに係る制御の際に利用され得る(内部EGR制御機構)。尚、こうした通常モードと特殊モードとの切り替えを可能にする上で、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。
また、前記シリンダヘッド12には、燃料を噴射するインジェクタ18と、エンジン1の冷間時に吸入空気を暖めて燃料の着火性を高めるためのグロープラグ19とが設けられている。前記インジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室14aの天井面から該燃焼室14aに臨むように配設されていて、圧縮行程上死点付近で燃焼室14aに燃料を直接噴射供給するようになっている。
前記エンジン1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、前記エンジン1の他側面には、各気筒11aの燃焼室14aからの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。これら吸気通路30及び排気通路40には、吸入空気の過給を行う大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62とが配設されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒11a毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。また、サージタンク33には、燃焼室14aに供給される空気の圧力を検出する過給圧センサSW2が配設されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、上流側から順に、吸入空気の温度を検出する吸気温度センサSW3と、詳しくは後述する大型及び小型ターボ過給機61,62のコンプレッサ61a,62aと、該コンプレッサ61a,62aにより圧縮された空気の温度を検出する過給空気温度センサSW4と、該コンプレッサ61a,62aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ35と、前記各気筒11aの燃焼室14aへの吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。このスロットル弁36は、基本的には全開状態とされるが、エンジン1の停止時には、ショックが生じないように全閉状態とされる。
前記排気通路40の上流側の部分は、各気筒11a毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、小型ターボ過給機62のタービン62b、大型ターボ過給機61のタービン61bと、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、サイレンサ42とが配設されている。
この排気浄化装置41は、酸化触媒41aと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、フィルタという)41bとを有しており、上流側から、この順に並んでいる。酸化触媒41a及びフィルタ41bは1つのケース内に収容されている。前記酸化触媒41aは、白金又は白金にパラジウムを加えたもの等を担持した酸化触媒を有していて、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO2及びH2Oが生成する反応を促すものである。この酸化触媒41aが触媒を構成する。また、前記フィルタ41bは、エンジン1の排気ガス中に含まれる煤等の微粒子を捕集するものである。尚、フィルタ41bに酸化触媒をコーティングしてもよい。また、酸化触媒41aとフィルタ41bの間には、酸化触媒41aを通過した排気ガスの温度を検出する排気温センサSW5が配設されている。
前記吸気通路30における前記サージタンク33とスロットル弁36との間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型コンプレッサ62aよりも下流側部分)と、前記排気通路40における前記排気マニホールドと小型ターボ過給機62の小型タービン62bとの間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりも上流側部分)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための排気ガス還流通路50によって接続されている。この排気ガス還流通路50は、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための排気ガス還流弁51a及び排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52とが配設された主通路51と、EGRクーラ52をバイパスするためのクーラバイパス通路53と、を含んで構成されている。このクーラバイパス通路53には、クーラバイパス通路53を流通する排気ガスの流量を調整するためのクーラバイパス弁53aが配設されている。
さらに、図2に示すように、エンジン1には、クランクシャフト15の回転角を検出する2つのクランク角センサSW6,SW7が設けられている。一方のクランク角センサSW6から出力される検出信号に基づいてエンジン回転数(回転速度)が検出されると共に、両クランク角センサSW6,SW7から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランク角位置が検出されるようになっている。また、エンジン1には、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW8と、車両のブレーキペダル(図示省略)の操作を検出するブレーキペダルセンサSW9と、車両のクラッチペダル(図示省略)の操作を検出するクラッチペダルセンサSW10及び車両のシフトレバー(図示省略)の操作を検出するシフトレバーセンサSW11(手動変速機の場合)と、車両の速度を検出する車速センサSW12とが設けられている。
ここで、大型ターボ過給機61及び小型ターボ過給機62の構成について詳しく説明する。
大型ターボ過給機61は、吸気通路30に配設された大型コンプレッサ61aと、排気通路40に配設された大型タービン61bとを有している。大型コンプレッサ61aは、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ35との間(詳しくは、吸気温度センサSW3と過給空気温度センサSW4との間)に配設されている。一方、大型タービン61bは、排気通路40における排気マニホールドと酸化触媒41aとの間に配設されている。
小型ターボ過給機62は、吸気通路30に配設された小型コンプレッサ62aと、排気通路40に配設された小型タービン62bとを有している。小型コンプレッサ62aは、吸気通路30における大型コンプレッサ61aの下流側に配設されている。一方、小型タービン62bは、排気通路40における大型タービン61bの上流側に配設されている。
すなわち、吸気通路30においては、上流側から順に大型コンプレッサ61aと小型コンプレッサ62aとが直列に配設され、排気通路40においては、上流側から順に小型タービン62bと大型タービン61bとが直列に配設されている。これら大型及び小型タービン61b,62bが排気ガス流により回転し、これら大型及び小型タービン61b,62bの回転により、該大型及び小型タービン61b,62bとそれぞれ連結された前記大型及び小型コンプレッサ61a,62aがそれぞれ作動する。尚、吸気通路30における大型コンプレッサ61aと小型コンプレッサ62aとの間には、大型コンプレッサ61aで過給された吸気の圧力を検出する中間圧センサSW13が設けられている。
小型ターボ過給機62は、相対的に小型のものであり、大型ターボ過給機61は、相対的に大型のものである。すなわち、大型ターボ過給機61の大型タービン61bの方が小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりもイナーシャが大きい。
そして、吸気通路30には、小型コンプレッサ62aをバイパスする小型吸気バイパス通路63が接続されている。この小型吸気バイパス通路63には、該小型吸気バイパス通路63へ流れる空気量を調整するための小型吸気バイパス弁63aが配設されている。この小型吸気バイパス弁63aは、無通電時には全閉状態(ノーマルクローズ)となるように構成されている。
一方、排気通路40には、小型タービン62bをバイパスする小型排気バイパス通路64と、大型タービン61bをバイパスする大型排気バイパス通路65とが接続されている。小型排気バイパス通路64には、該小型排気バイパス通路64へ流れる排気量を調整するためのレギュレートバルブ64aが配設され、大型排気バイパス通路65には、該大型排気バイパス通路65へ流れる排気量を調整するためのウエストゲートバルブ65aが配設されている。レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aは共に、無通電時には全開状態(ノーマルオープン)となるように構成されている。
これら大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62は、それらが配設された吸気通路30及び排気通路40の部分も含めて、一体的にユニット化されて、過給機ユニット60を構成している。この過給機ユニット60は、エンジン1に取り付けられている。そして、過給機ユニット60の吸気通路30の出口は、インタークーラ35の上流端と、ゴムホース30aを介して接続されている。つまり、インタークーラ35は、車体に取り付けられており、エンジン1に取り付けられた過給機ユニット60とは異なる振動が生じる。そこで、過給機ユニット60とインタークーラ35との異なる振動が互いに影響し合わないように、それぞれの振動をゴムホース30aで吸収するようにしている。同様の理由から、インタークーラ35の下流端と、吸気通路30のスロットル弁36の上流部分とも、ゴムホース30bを介して接続されている。
このように構成されたターボ過給機付きのエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御装置を構成する。PCM10は、図2に示すように、前記センサSW1〜SW13の検出信号が入力され、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ18、動弁系のVVM71、各種の弁のアクチュエータへ制御信号を出力する。また、PCM10は、エンジン1の始動時に、インジェクタ18やスタータモータ72へ制御信号を出力すると共に、必要に応じてグロープラグ19へも制御信号を出力する。さらに、PCM10は、タイミングベルト等によりクランクシャフト15に連結されたオルタネータに内蔵されたレギュレータ回路73に制御信号を出力することによって、車両の電気負荷及び車両バッテリの電圧等に対応した発電量の制御を実行する。
また、PCM10は、エンジンの運転状態において大型及び小型ターボ過給機61,62の動作を制御している。具体的には、PCM10は、小型吸気バイパス弁63a、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aの各開度をエンジン1の運転状態に応じて設定した開度にそれぞれ制御する。
詳しくは、PCM10は、図3に示す、エンジン回転数とエンジン負荷とをパラメータとするマップにおける低負荷かつ低回転側の領域A(エンジン負荷が所定負荷(エンジン回転数が大きいほど小さくなる)以下の領域)では、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開以外の開度とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態とすることによって、大型及び小型ターボ過給機61,62の両方を作動させる。一方、高負荷かつ高回転側の領域B(エンジン負荷が前記所定負荷よりも大きい領域)では、小型ターボ過給機62が排気抵抗になるため、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開状態とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態に近い開度にすることによって、小型ターボ過給機62をバイパスさせて大型ターボ過給機61のみを作動させる。尚、ウエストゲートバルブ65a、過回転を防止するために少し開き気味に設定している。
本実施形態では、PCM10は、燃費の低減やCO2の排出抑制等を目的として、所定の自動停止条件が成立したときにエンジン1を自動停止させると共に、その後、所定の再始動条件が成立したときにエンジン1を再始動させるように、いわゆるアイドルストップ制御を行う。
具体的には、PCM10は、自動停止条件が成立すると、インジェクタ18による燃料の噴射を停止させる。例えば、水温センサSW1によって検出されるエンジン冷却水の温度が所定温度以上でありかつ、ブレーキペダルセンサSW9の検出信号に基づいて判定されるブレーキペダルの踏み込み操作が所定時間継続すると共に、車速センサSW12の検出信号に基づいて判定される車速が予め設定した微低速(例えば、時速2〜5km)以下となって車両が実質、停止していることを、自動停止条件とすることができる。この自動停止の際には、スロットル弁36の開閉制御、及び、レギュレータ回路73を通じたオルタネータ制御を併せて行うことにより、エンジン1の再始動に適したピストン位置でエンジン1を停止させるようにする。
その後、再始動条件が成立すると、PCM10は、各気筒11aへの燃料供給を開始すると共に、スタータモータ72の駆動によりエンジン1にアシストトルクを付与して、前記燃焼によりエンジン1を再始動させる(始動制御手段)。このように、このエンジン1は、アシストトルクを付与するものの、基本的には燃焼によって再始動を行うため再始動時間が極めて短いという特徴がある。例えば、車両バッテリの残容量が少なくなって充電が必要になったこと、空調装置のコンプレッサの作動が必要になったこと、又はアクセル開度センサSW8若しくはクラッチペダルセンサSW10からの検出信号に基づいて乗員によるアクセル操作若しくはクラッチ操作が検出されたこと等を、再始動条件とすることができる。この内、車両バッテリの残容量が少なくなって充電が必要になったことや、空調装置のコンプレッサの作動が必要になったことは、発進要求を伴わない始動条件ということができ、逆に、アクセル操作若しくはクラッチ操作が検出されたことは、発進要求を伴う始動条件ということができる。
このエンジン1の再始動に際し、PCM10は、発進要求を伴う始動条件の成立時と、発進要求を伴わない始動条件の成立時とで、前述したグロープラグ19の作動制御及びVVM71による内部EGR制御の組み合わせ態様を異ならせている。以下に、PCM10による、エンジン1の再始動に係る制御について、図4のフローチャート及び図5のタイムチャートを参照しながら説明する。ここで、図4のフロー中の各ステップの順番は、説明の便宜上のものであり、その順番を適宜入れ替えたり、また、各ステップの実行を時間的に並列に行ったりすることは勿論可能である。
まず、図4のフローのステップST1において、エンジン1の再始動条件が成立したか否かを判定する。再始動条件としては、前述したように、発進要求を伴う再始動条件と、発進要求を伴わない再始動条件と、が含まれる。ステップST1で再始動条件が成立していないとき(NOのとき)には、このステップST1を繰り返し、再始動条件が成立したとき(YESのとき)には、ステップST2に移行する。
ステップST2では、再始動制御の実行を開始する。つまり、各気筒11aへの燃料供給を開始する。この燃焼始動によって、図5(B)に示すように、エンジン回転数は、変動しながら次第に高まることになる。続くステップST3では、外気温度が所定温度以下であるか否かを判定する。このステップST3では、エンジン1の再始動の際に、圧縮端温度として所定温度以上を確保し得るか否かを判定している。つまり、前述したように、エンジン1の停止条件には、エンジン1の冷却水温度が所定温度以上であること、換言すればエンジン1が温間状態であることが含まれており、この停止条件を満たした上でエンジン1は停止されるのであるから、通常であればエンジン1の再始動時にグロープラグ19の作動は不要である。しかしながら、外気温度が所定温度以下の低温乃至極低温時には、燃焼室14a内に導入される新気の温度が低いことで、圧縮端温度が所望の温度以下になる虞がある。特にこのエンジン1はスタータモータ72によってアシストトルクを付与するものの、基本的には燃焼によってエンジン1を始動するように構成されていることから、圧縮端温度の低下はエンジン1の始動性の点で不利になると共に、後述するように、エンジン1の始動完了後、即座に発進加速が行われるときには、発進加速性の点でも不利になり得る。そこで、ステップST3では外気温度が所定温度以下であるか否かを判定し、所定温度以下であるときには、後述するように、圧縮端温度を高めるべく、グロープラグ19の作動制御又は内部EGR制御を行うようにする。尚、ここでは外気温度のみに基づいて判定を行っているが、前述したように圧縮端温度に基づく判定を行ってもよく、例えば外気温度、気圧、エンジン1の冷却水温度、及び、エンジン1の停止からの経過時間等の各種のパラメータを総合的に考慮して、圧縮端温度に基づく判定を行うようにしてもよい。
そうして、ステップST3でYESのときにはステップST4に移行する一方、NOのときにはそのまま通常制御に移行する。つまり、外気温度が所定温度よりも高く、グロープラグ19の作動が不要なときには、グロープラグ19の作動制御や内部EGR制御を行わずに、エンジン1の始動制御を行ってディーゼルエンジン1を始動させる通常の制御へと移行する。
一方、ステップST4では、発進要求が有るか否かを判定し、発進要求が有るとき(YESのとき)にはステップST5に移行する一方、発進要求がないとき(NOのとき)にはステップST8に移行する。ここで、図5(A)に実線で示すように、発進要求が有るときには発進要求再始動実行フラグがONになる。
発進要求が有るときのステップST5では、グロープラグ19に対する通電を開始する(図5(D)の図の実線も参照)。従って、グロープラグ19に対する通電は、燃焼室14a内が実際に昇温されるまでのタイムラグを考慮して、エンジン1の始動条件が成立しかつエンジン1の始動制御が開始するタイミングで開始されることになる。ここで、グロープラグ19の通電量は所定通電量以上とされる。つまり、グロープラグ19の作動によって燃焼室14a内の温度を十分に昇温し得るようにする。このことにより、ディーゼルエンジン1の始動制御が開始されかつエンジン1の始動が完了した後に、車両が発進及び加速をすることになるが、グロープラグ19の通電により燃焼室14a内の温度は十分に昇温されるから、前述したように、外気温度が低温乃至極低温のときでも、十分な圧縮端温度が確保される。また、このときには内部EGR制御を行わないことで、十分な新気量を確保し得るから、エンジン1の燃焼性が向上して、その燃焼期間が短縮し得る。その結果、ディーゼルエンジン1の始動完了後、即座に発進加速を行うときにトルクを良好に増大させて、その発進加速性が高まり得る(第1制御)。
続くステップST6では、アクセル開度が減少したか否かを判定する。これはグロープラグ19の通電の終了タイミングを判定するためのステップであり、ディーゼルエンジン1の始動制御の開始から、エンジン1の始動が完了し、車両が発進及び加速をしている途中でアクセル開度が減少し、運転者の加速要求が終了したときには、ステップST7に移行をしてグロープラグ19の通電を終了する。尚、グロープラグ19通電の終了タイミングは、ステップST6の条件成立に限定されるものではなく、適宜の条件を設定すればよい。
一方、発進要求がないとして移行したステップST8では、エンジン1の再始動が完了したか(換言すれば完爆したか)否かが判定される。完爆判定は、例えばエンジン回転数に基づいて行ってもよく、エンジン1の完爆後は、完爆フラグがONになる(図5(C)参照)一方、発進要求再始動フラグがOFFになる(図5(A)参照)。完爆が完了したときにはステップST9に移行をして、VVM71の制御を通じて、内部EGRガス量を増大させる。つまり、VVM71の作動モードを特殊モードに切り替えることによって、排気弁22を、排気行程中において開弁させると共に、吸気行程中においても開弁させる排気の二度開きを行う。このことにより、吸気行程時に排気通路40側から、排気ガスが燃焼室14a内に導入されて内部EGRガス量が増加する。外気温度が所定温度以下で圧縮端温度が低くなりやすい状況下では、エンジン1の失火等の虞があるところ、内部EGRガス量の増加により、グロープラグ19を作動させなくても燃焼室14a内温度が高まり、失火等を回避してディーゼルエンジン1の燃焼性を高め得る(第2制御)。尚、例えば図5(F)に示すように、燃焼室14a内の酸素濃度は、内部EGR量の増加により、前記の内部EGR制御を行わない場合(実線)と比較して、低下することになる(同図の破線参照)。ここで、内部EGR制御は、前述したように、エンジン1の完爆後に開始させるため、エンジン1の始動制御の最中には、十分な新気量が確保される。このことは、エンジン1の始動性に悪影響を与えることを回避する上で有利であると共に、前述の通りVVM71がエンジン駆動の油圧ポンプからの油圧によって駆動されることにも都合がよい。
そうして続くステップST10で、エンジン負荷が中負荷以上になったか否かが判定される。例えばエンジン1の始動が完了した後、運転者の発進要求がなされて車両が発進加速し、エンジン負荷が中負荷以上になったようなときには、ステップST11に移行をして内部EGR制御を終了し、その後は、通常制御に移行する。尚、内部EGR制御の終了条件も、ステップST10の条件成立に限定されるものではなく、適宜の条件を設定すればよい。
このように前記の構成では、発進要求を伴うエンジン1の始動条件が成立したときには、グロープラグ19を作動させる一方で、内部EGR制御を行わない。このことは、燃焼室14aの昇温と、十分な新気量の確保との双方を実現するから、エンジン1の燃焼性が向上し、エンジン1の始動完了後、即座に発進加速を行うときの発進加速性能を高め得る。
また、そのグロープラグ19の作動に際しては、エンジン1の始動条件が成立して始動制御の開始と共に開始することによって、エンジン1の始動完了後、発進加速を行うときには、グロープラグ19によって燃焼室内を十分に昇温し得るようになる。つまり、グロープラグ19による昇温遅れを補償し得る。
一方、発進要求を伴わないエンジン1の始動条件が成立したときには、エンジン1の始動完了後、即座の発進加速要求がないことから、グロープラグ19の作動を禁止することでバッテリ電圧の低下が抑制されると共に、グロープラグ19の作動頻度を減らしてグロープラグ19の寿命の点で有利になる。そしてそのようにグロープラグ19の作動を禁止する一方で、VVM71の作動を通じて内部EGRガス量を増加させることにより、圧縮端温度を高めてディーゼルエンジン1の燃焼性が高まり、エンジン1の始動完了後においても、失火等を回避する上で有利になる。
しかも、前記のグロープラグ19の制御と内部EGR制御との協調制御は、外気温度が所定温度以下のときのみ実行するため、グロープラグ19の作動頻度は、さらに少なくなる。このことは、バッテリ電圧の観点及びグロープラグ19の寿命の観点の双方において、有利である。
尚、前記のグロープラグ19の制御に関して、発進要求を伴わない始動条件が成立したときに、前記の構成ではグロープラグ19の作動を禁止しているが、グロープラグ19を所定通電量未満で作動させる(例えば、失火防止のための、いわゆるアフターグロー程度の作動)ようにしてもよい。一方、内部EGR制御に関して、発進要求を伴う始動条件が成立したときに、前記の構成では内部EGR制御を行っていないが、内部EGRガス量を適宜調整可能な構成であれば、発進要求を伴う始動条件が成立したときにも、少量の内部EGRガスを燃焼室14a内に導入してもよい。
また、前記の構成では、内部EGR制御を、排気弁22を2回開く、排気の二度開きによって実現しているが、例えば吸気弁21を2回開く、吸気の二度開きによって内部EGR制御を行ってもよいし、排気行程乃至吸気行程において吸気弁21及び排気弁22の双方を閉じるネガティブオーバーラップ期間を設けて既燃ガスを残留させる内部EGR制御を行ってもよい。