本発明は、複数の平面アンテナを使用した多入力多出力(MIMO)通信方式による信号を同時に送受信するアンテナ装置、無線通信装置、その制御方法、プログラム及び記録媒体に関する。詳しくは、アンテナ装置に関して、平面アンテナ本体部と偏波制御用の導電性の小片部との間に接続されたスイッチ素子を備え、このスイッチ素子をオン/オフ制御して平面アンテナ本体部の放射偏波を切り替え、平面アンテナ本体部と小片部との組み合わせによって、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の3種類のアンテナ体を構成できるようにすると共に、最適な状態に設定された平面アンテナを利用して、電波環境に適した多入力多出力通信を実現できるようにしたものである。
近年、パーソナルコンピュータ等の情報処理機器及び携帯電話機や、PDA(Personal Digital Assistance)等の通信端末機器だけでなく、各種の民生用電子機器、例えば、オーディオ製品、ビデオ機器、カメラ機器、プリンタ又はエンタテイメントロボット等にも無線通信機能を搭載される場合が多くなっている。さらに、無線通信機能は、電子機器だけでなく、例えば無線LAN(Local Area Network)用のアクセスポイント、PCMCIA(Personal Computer Memory Card International Association)仕様のカード、コンパクトフラッシュ(登録商標)カード、ミニPCI(Peripheral Component Interconnection)カード等のいわゆる小型のアクセサリカードにも搭載される場合が多くなってきた。このようなストレージ機能と無線通信機能とを備えた無線カードモジュールが構成されている。
現在、家庭用の無線LANには、主に、5.2GHz帯のキャリア周波数を用いるIEEE802.11a方式や、2.4GHz帯のキャリア周波数を用いるIEEE802.11b/g方式が使用されている。これらIEEE802.11aやIEEE802.11gは、データの伝送速度が54Mbpsとされているが、最近では、取り扱われるデータ(情報)量の増加に伴い、さらに早い伝送速度を実現するための無線方式の研究・開発が盛んに行われている。
そのような高速伝送を可能とする方式として注目されているものの一つに、MIMO( Multi Input Multi Output)通信方式が挙げられる。MIMO通信方式とは、複数のアンテナを用いて、空間の複数の伝搬チャネルを媒体として通信を行う方式である。現在、無線LANで使用されているIEEE802.11aやIEEE802.11gは、変調方式にOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)が用いられている。このOFDMの採用により、各サブキャリアでの伝送は、ほぼフラットフェージングであるとみなすことができる。そのため、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11aやIEEE802.11gのような比較的広帯域な通信方式においても、MIMO伝搬路をある程度簡易なモデルで表現することができ、実際の無線機器での実現が可能になってきている。
この種のMIMO通信方式のアンテナに関しては、特許文献1に無線通信装置が開示されている。この無線通信装置によれば、n個のアンテナから成るアンテナクラスタが設けられる。アンテナは、信号相互間の相関が比較的低い信号の送信及び受信が可能で、1個の信号処理デバイスに接続された多数個のアンテナポートを備えている。アンテナは、一対のアンテナポートの最大直線寸法がλ/3以下の空間容積以内で動作するようになされる。このようにアンテナを構成すると、携帯無線端末装置に適用可能なMIMO通信方式において、非相関信号を同時に送信及び受信できるアンテナクラスタを提供できるというものである。
また、特許文献2には、アンテナアレイが開示されている。このアンテナアレイによれば、2対のアンテナを有するアンテナグループを備え、各々のアンテナ対が直交偏波アンテナを有している。アンテナグループには、アンテナ回路が接続され、ビームフォーミング/ステアリングモード、MIMOモード及びダイバシティモードに基づいてアンテナアレイを動作させるようになされる。このようにアンテナアレイを構成すると、ビームフォーミング/ステアリング、MIMO及びダイバーシティ動作が、追加のアンテナを使用すること無しに、送信及び受信される信号において実行可能なアンテナアレイを提供できるというものである。
更に、特許文献3には、ダイバーシティ・システム、基地局装置及びダイバーシティ制御方法が開示されている。このシステムによれば、複数のアンテナ素子を備え、これらのアンテナ素子から得られる受信信号に基づいて多重到来波を角度毎に複数のパスに分離し、分離されたパス同士の相互関係を測定し、測定された相互関係に基づいて送信ダイバーシティ用の複数の送信方向を決定し、決定された送信方向に送信するアンテナ素子の送信ウエイトを算出するようになされる。このようにシステムを構成すると、フェージングを抑制して受信信号の減衰を改善できると共に、信号間干渉を抑圧できるというものである。
図24は、従来例に係るMIMO通信方式による信号伝搬時の構成例を示す図である。図24に示すMIMO通信方式によれば、送信端末装置2に送信システム2aが設けられ、この送信システム2aにはm本(mは整数)の送信アンテナが備えられる。受信端末装置4には受信ユニット4aが設けられ、受信ユニット4aにはn本(nは整数)の受信アンテナが備えられる。送信端末装置2と受信端末装置4との間では、複数の電波伝搬チャンネル3を媒体として通信するようになされる。
例えば、送信ユニット2aに入力された送信信号は空間多重符号化処理されて変調され、変調後の送信電波はm本のアンテナから電波伝搬チャンネル3へ放射(輻射)される。受信端末装置4では、電波伝搬チャンネル3を介して到来する受信電波をn本のアンテナで受信する。受信ユニット4aでは受信電波が時空間復号化処理され、受信信号が復調されて出力される。
なお、MIMOにおける復調の方式としては、ゼロフォーシング(Zero Forcing)、V−BLAST(Vertical Bell Labs Layered Space-Time)といった方式のように、送信側ではチャネル情報が未知で受信側のみの線形演算で復調する方式、MLD(Maximum Likelihood Detection:最尤推定法)と呼ばれる非線形演算で復調する方式、STBC(Space Time Block Coding)で送信信号の2系統に直交性を持たせた方式、そして、送信側でもあらかじめチャネル情報を取得して、それに応じた適正な電力配分及び位相のベクトル合成を行って送受信する固有モード(Eigen-mode)MIMOなどの各種方式が提案されている。
このMIMO通信方式では、原理的には、アンテナの本数に対して伝送レートが線形的に増大する。MIMO通信方式は、複数の電波伝搬チャンネル3において、送受信されるそれぞれの信号の電波伝搬環境、即ち、反射、散乱、回折、遮蔽が混在するマルチパス環境を利用した通信手法である。これに伴う空間相関特性が情報伝送能力に大きな影響を及ぼすので、MIMO通信方式においては、従来から、信号間の干渉をできるだけ低減するような方法が考えられている。この信号間干渉低減方法に関しては、例えば、非特許文献1に「マルチパス環境における直交三偏波利用MIMO伝送実験」が見られる。
図25は、MIMO通信方式における直線偏波用のアンテナ取付け例を示す斜視図である。図25に示す直線偏波用のアンテナ取付け例によれば、非特許文献1に見られるように、垂直偏波アンテナ5a及び水平偏波アンテナ5bの2つがセットボックス5等に取付けられる。例えば、水平偏波アンテナ5bと垂直偏波アンテナ5aとが直交するように配置される。
図26は、MIMO通信方式における円偏波用のアンテナ取付け例を示す斜視図である。図26に示す円偏波用のアンテナ取付け例によれば、非特許文献1に見られるように、右旋偏波アンテナ6a及び左旋偏波アンテナ6bの2つがセットボックス5等に取付けられる。例えば、右旋偏波アンテナ6aと左旋偏波アンテナ6bとが直交するように配置される。このように、直線偏波及び円偏波用のアンテナ装置において、それぞれの偏波を直交させるようにすることにより、MIMO伝送の品質が向上するようになされる。
特開2002−280826号公報(第5頁 図5)
特開2002−290148号公報(第4頁 図1)
特開2003−204295号公報(第3頁 図2)
ダス・ニルモル・クマル他「マルチパス環境における直交三偏波利用MIMO伝送実験」、電子情報通信学会総合大会、SB−1−7、2004年
しかしながら、特許文献1〜3や非特許文献1に見られるようなMIMO通信方式において、各偏波を常に直交させることは必ずしも容易ではない。これは屋内で使用される無線LANにおいても、屋外で使用される移動体通信においても、電波が見通し状態(LOS:Line of Sight)で送受信されるケースはむしろ稀であり、大抵、反射波を含むマルチパスリッチな環境(NLOS:Non Line of Sight)で送受信が行われる場合が多いためである。このようなマルチパス環境を利用して通信を行うMIMO通信方式によれば、反射体(物)の影響により、当初直交させようとした偏波同士が干渉を起こすおそれが生じ得る。
図27は、送信端末装置=右旋・右旋偏波設定時の受信端末装置4における受信例を示す概念図である。図27に示す送信端末装置2によれば、2つのアンテナが備えられ、その両方共に右旋偏波に設定されている場合であって、片方のアンテナからの放射電波が反射体に1回反射した場合の受信端末装置4における受信例である。反射体に1回反射した場合、その偏波は逆旋波になるため、受信端末装置4では、左旋偏波が受信される。このように、送信端末装置2の両方のアンテナから同旋偏波で放射させたとしても、片方側に反射体があって、その反射を受けた場合、その偏波は逆旋偏波になるため、受信端末装置4で干渉を起こさなくなることがある。
図28は、送信端末装置=右旋・左旋偏波設定時の受信端末装置4における受信例を示す概念図である。図28に示す送信端末装置2に備えられた2つのアンテナは、片方が右旋偏波に設定され、もう片方が左旋偏波に設定されている場合であって、片方のアンテナからの放射電波が反射体に1回反射した場合の受信端末装置4における受信例である。反射体に1回反射した場合、その偏波は逆旋波になるため、受信端末装置4では、右旋偏波が受信される。このように、送信端末装置2の両方のアンテナから右旋・左旋偏波を区別して放射させたにも係わらず、片方側に反射体があって、その反射を受けた場合、その偏波は逆旋波になるため、受信端末装置4で干渉を起こすようになる。
このように、マルチパスリッチな環境では偏波が様々に変化しており、放射させる時点で直交性を持たせたとしても、電波環境によってはそれが通信特性にとって必ずしも優位な結果とはならないおそれがある。これに対処すべく、直線偏波用及び右旋・左旋偏波用のアンテナを具備して、これらの複数のアンテナを切換制御して使用するようにすると、MIMO通信方式では、それでなくても多くのアンテナが必要となるのに、アンテナの装備点数が益々多くなり、コストアップにつながったり、セットボックス5に対するアンテナの取付けスペースを多く占有するという問題がある。
そこで、この発明は、このような従来の課題を解決したものであって、アンテナ部材の組み合わせを選択できるようにして、直線偏波用、右旋偏波用及び左旋偏波用の3種類のアンテナを1つの構造体で構成できるようにすると共に、最適な状態に設定されたアンテナを利用して、電波環境に適したMIMO通信を実現できるようにしたアンテナ装置、無線通信装置、その制御方法、コンピュータ処理可能なプログラム及びその記録媒体を提供することを目的とする。
上述した課題は、所定形状を有して絶縁性の基板上に配置された導電性の平面アンテナ本体部と、平面アンテナ本体部の対角線方向に絶縁領域を挟んで配置された偏波制御用の導電性の小片部と、平面アンテナ本体部と小片部との間に接続されたスイッチ素子とを備え、スイッチ素子をオン/オフ制御して平面アンテナの放射偏波を切り換えることを特徴とするアンテナ装置によって解決される。
本発明に係るアンテナ装置によれば、絶縁性の基板上には、所定形状を有した導電性の平面アンテナ本体部が配置され、この平面アンテナ本体部の対角線方向には、絶縁領域を挟んで偏波制御用の導電性の小片部が配置される。この平面アンテナ本体部と小片部との間にはスイッチ素子が接続されている。このスイッチ素子をオン/オフ制御することで、平面アンテナの放射偏波を切り換えるようになる。
例えば、平面アンテナ本体部で2つの対角線方向の四隅にスイッチ素子が各々配置され、一方の対角線方向の2つのスイッチ素子をオンし、他方の対角線方向の2つのスイッチ素子をオフする。このようにスイッチ素子をオン/オフ制御すると、平面アンテナ本体部と、一方の対角線方向の小片部とが電気的に接続され、他方の対角線方向の小片部は、絶縁された状態となるので、右旋偏波又は左旋偏波の特性を示す円偏波のアンテナ体を構成することができる。また、2つの対角線方向の四隅のスイッチ素子を全てオンすると、水平偏波及び垂直偏波が直交する直線偏波のアンテナ体を構成することができる。
このように、スイッチ素子のオン/オフ制御によって、平面アンテナ本体部と小片部との組み合わせることができ、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の3種類のアンテナを1つの構造体で構成できるようになる。
本発明に係る無線通信装置は、二以上のアンテナ装置と、このアンテナ装置の各々に接続され、多入力多出力通信方式により信号を送受信する送受信回路が二以上と、アンテナ装置及び送受信回路を制御する通信制御ユニットとを備え、アンテナ装置の各々は、所定形状を有して絶縁性の基板上に配置された導電性の平面アンテナ本体部と、平面アンテナ本体部の対角線方向に絶縁領域を挟んで配置された偏波制御用の導電性の小片部と、平面アンテナ本体部と小片部との間に接続されたスイッチ素子とを有し、通信制御ユニットは、スイッチ素子をオン・オフ制御して平面アンテナの放射偏波を切り換えることを特徴とするものである。
本発明に係る無線通信装置によれば、本発明に係るアンテナ装置が応用され、平面アンテナ本体部と小片部との間に接続されたスイッチ素子をオン/オフ制御することにより、平面アンテナ本体部の放射偏波を切り換えるようになされる。
例えば、平面アンテナ本体部で2つの対角線方向の四隅にスイッチ素子が各々配置され、一方の対角線方向の2つのスイッチ素子をオンし、他方の対角線方向の2つのスイッチ素子をオフする。このようにスイッチ素子をオン/オフ制御すると、平面アンテナ本体部と、一方の対角線方向の小片部とが電気的に接続され、他方の対角線方向の小片部は、絶縁された状態となるので、右旋偏波又は左旋偏波の特性を示す円偏波のアンテナ体を構成することができる。また、2つの対角線方向の四隅のスイッチ素子を全てオンすると、直線偏波のアンテナ体を構成することができる。
従って、平面アンテナ本体部と小片部との組み合わせによって構成される3種類のアンテナ体を選択して、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の信号を送受信することができる。これにより、電波環境に適した多入力多出力通信を実現できるようになる。
本発明に係る無線通信装置の制御方法は、所定形状を有して絶縁性の基板上に配置された導電性の平面アンテナ本体部と当該平面アンテナ本体部の対角線方向に絶縁領域を挟んで配置された偏波制御用の導電性の小片部との間に接続されたスイッチ素子をオン/オフ制御して平面アンテナの放射偏波を切り換えるアンテナ装置を有して多入力多出力通信方式による信号を送受信する無線通信装置の制御方法であって、アンテナ装置のスイッチ素子のオン/オフを設定するステップと、設定されたスイッチ素子のオン/オフによって構成される平面アンテナの通信品質を検出するステップと、検出された平面アンテナの通信品質に基づいてスイッチ素子の設定を保持するステップと、保持されたスイッチ素子の設定によって通信を実行するステップとを有することを特徴とするものである。
本発明に係る無線通信装置の制御方法によれば、本発明に係るアンテナ装置が応用され、平面アンテナ本体部と小片部との間に接続されたスイッチ素子をオン/オフ制御することにより、平面アンテナ本体部の放射偏波を切り換えるようになされる。
例えば、スイッチ素子の設定を保持する際に、当該スイッチ素子のオン/オフを設定し、ここに設定されたスイッチ素子のオン/オフによって構成される平面アンテナの通信品質を検出し、ここに検出された平面アンテナの通信品質が最適であるか否かを判別し、最適であると判別されたスイッチの設定を更新保持するようになされる。
従って、平面アンテナ本体部と小片部との組み合わせによって構成される3種類のアンテナ体から選択された、しかも、最適な状態に設定された平面アンテナを利用して、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の信号を送受信することができる。これにより、電波環境に適した多入力多出力通信を実現できるようになる。
本発明に係るコンピュータ処理可能なプログラムは、所定形状を有して絶縁性の基板上に配置された導電性の平面アンテナ本体部と当該平面アンテナ本体部の対角線方向に絶縁領域を挟んで配置された偏波制御用の導電性の小片部との間に接続されたスイッチ素子をオン/オフ制御して平面アンテナの放射偏波を切り換えるアンテナ装置を有して多入力多出力通信方式による信号を送受信する無線通信装置用の制御プログラムであって、アンテナ装置のスイッチ素子のオン/オフを設定するステップと、設定されたスイッチ素子のオン/オフによって構成される平面アンテナの通信品質を検出するステップと、検出された平面アンテナの通信品質に基づいてスイッチ素子の設定を保持するステップと、保持されたスイッチ素子の設定によって通信を実行するステップとを有することを特徴とするものである。
本発明に係るコンピュータ処理可能なプログラムの記録媒体は、所定形状を有して絶縁性の基板上に配置された導電性の平面アンテナ本体部と当該平面アンテナ本体部の対角線方向に絶縁領域を挟んで配置された偏波制御用の導電性の小片部との間に接続されたスイッチ素子をオン/オフ制御して平面アンテナの放射偏波を切り換えるアンテナ装置を有して多入力多出力通信方式による信号を送受信する無線通信装置用の制御プログラムを記述した記録媒体であって、請求項12又は/及び13に記載のプログラムを記述して構成されることを特徴とするものである。
本発明に係るコンピュータ処理可能なプログラム及びその記録媒体によれば、例えば、マイコン、CPU、信号処理LSI等で実行可能なプログラムであって、平面アンテナ本体部と小片部との組み合わせによって構成される3種類のアンテナ体から選択された、しかも、最適な状態に設定された平面アンテナを利用して、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の信号を送受信することができる。
本発明に係るアンテナ装置によれば、導電性の平面アンテナ本体部と小片部との間に接続されたスイッチ素子を備え、スイッチ素子をオン/オフ制御して平面アンテナ本体部の放射偏波を切り換えるものである。
この構成によって、平面アンテナ本体部と小片部との組み合わせによって、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の3種類のアンテナを1つの構造体で構成することができる。従って、放射偏波切替機能付きのアンテナ装置を電波環境に適した多入力多出力通信システムに十分応用することができる。
本発明に係る無線通信装置及びその制御方法によれば、本発明に係るアンテナ装置が応用され、導電性の平面アンテナ本体部と小片部との間に接続されたスイッチ素子をオン/オフ制御することにより、平面アンテナ本体部の放射偏波を切り換えるようになされる。
この構成によって、平面アンテナ本体部と小片部との組み合わせによって構成される3種類のアンテナ体から選択された、しかも、最適な状態に設定された平面アンテナを利用して、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の信号を送受信することができる。従って、電波環境に適した多入力多出力通信を実現できるようになる。
本発明に係るコンピュータ処理可能なプログラム及びその記録媒体によれば、平面アンテナ本体部と小片部との組み合わせによって構成される3種類のアンテナ体から選択された、しかも、最適な状態に設定された平面アンテナを利用して、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の信号を送受信することができる。
続いて、この発明に係るアンテナ装置、無線通信装置、その制御方法、コンピュータ処理可能なプログラム及びその記録媒体の一実施例について、図面を参照しながら説明をする。
図1は本発明に係る第1の実施例としてのアンテナ装置100の構成例を示す図である。
図1に示すアンテナ装置100は、複数の平面アンテナを使用した多入力多出力(Multi Input Multi Output:以下MIMOという)通信方式による信号を同時に送受信するアンテナやそれを応用した無線通信装置に適用して好適である。アンテナ装置100は、平面アンテナ本体部の一例となる導電性の主励振素子11が絶縁性の基板19上に配置されて構成される。主励振素子11は、例えば、四隅が切り落とされた八角形の方形パッチパターン形状を有している。基板19は長さがLで幅がWである。主励振素子11は長さがL’(L’<L)で幅がW’(W’<W)である。主励振素子11には、厚みtの銅や、白銅、燐青銅、黄銅、SUS、金等の金属材料が使用され、主励振素子11は、銅箔基板のエッチング法や、樹脂への金属メッキ法、金属箔の貼り付け技術等により形成される。
主励振素子11の対角線方向には、絶縁領域を挟んで小片部の一例となる偏波制御用の三角形状の副励振素子(縮退分離素子又は摂動素子:切り欠き部)が配置されている。副励振素子12a〜12dは主励振素子11と同様な金属材料から構成される。副励振素子12a〜12dは、例えば、正方形状の主励振素子11の四隅を切り欠いて、下部の絶縁性の基板19が露出するように素子分離することにより作成される。切り欠きはエッチングでもグラインダにより溝を切る方法でも何でもよい。
この例では、主励振素子11と各々の四隅の副励振素子12a〜12dとの間にはスイッチSW1〜SW4が実装(接続)され、当該スイッチSW1〜SW4をオン/オフ制御して平面アンテナ(以下方形パッチアンテナという)の放射偏波を切り換えるようになされる。スイッチSW1〜SW4は半導体能動素子から構成される。半導体能動素子には、p型又はn型の電界効果型のトランジスタや、npn型又はpnp型のバイポーラトランジスタが使用される。スイッチSW1〜SW4には半導体能動素子の他に、機械的な駆動機構を有するスイッチ、例えば、マイクロ電子(機械)システム(MEMS:Micro Electromechanical System)スイッチであってもよい。
スイッチSW1〜SW4に電界効果型のトランジスタを使用する場合は、例えば、ソースが主励振素子11に接続され、ドレインが副励振素子12a等に接続される。ソース・ドレインの接続方法は反対でもよい。オン/オフ制御は、ゲート電圧を制御することで実行される。スイッチSW1〜SW4にバイポーラトランジスタを使用する場合は、例えば、コレクタが主励振素子11に接続され、エミッタが副励振素子12a等に接続される。コレクタ・エミッタの接続方法は反対でもよい。オン/オフ制御は、ベース電流を制御することで実行される。
基板19には4個の制御端子13a〜13dが設けられる。制御端子13aはスイッチSW1の制御電極(ゲート又はベース)にチョークコイル14aを介して接続される。制御電極と、図示しない接地(GND)パターンとの間には、バイパスコンデンサ15aが接続される。チョークコイル14a及びバイパスコンデンサ(パスコン)15a等は、高周波電流の周り込みを防ぐためのフィルタを構成し、必要に応じて直流系線路に接続され、フィルタは適当な位置にレイアウト(配置)される。
接地パターンは、基板裏面側に設けられる。バイパスコンデンサ15aはスルーホールを介して接地パターンに接続される。他の制御端子13b〜13dについても、同様にしてスイッチSW2〜SW4の制御電極に各々チョークコイル14b,14c,14d等を介して接続される。バイパスコンデンサ15b,15c,15dも同様にして接続される。上述のスイッチSW1〜SW4と、方形パッチアンテナの主励振素子11や、副励振素子12a〜12d、直流系線路、接地パターン等の各制御端子13a〜13dは、ワイヤボンディングによるフェースアップ実装又はバンプによるフェースダウン実装法等により接続される。
スイッチSW1〜SW4を駆動する直流電圧(以下スイッチ駆動電圧又はスイッチ制御信号S11〜S14、S21〜S24という)は、制御電極と接地パターンとの間に供給される。制御端子13a〜13d及び接地パターンには図示しない制御ユニット(スイッチコントローラ)が接続され、スイッチSW1〜SW4に関して、対角線方向のスイッチSW1と、SW3、SW2とSW4毎等のようにペアにスイッチ駆動電圧を供給するようになされる。この方形パッチアンテナは、例えば、新井宏之著、「新アンテナ工学」、総合電子出版(1996)に示されるような右旋・左旋偏波等の円偏波放射や直線偏波放射等をするようになされる。
図2A及びBは、アンテナ装置100の構造例を示す上面図及びそのX1−X1矢視断面図である。図3A〜Cは、アンテナ装置100の積層構造例を示す分解上面図である。
図2Aにおいて、アンテナ装置100は、スイッチSW1〜SW4、正方形状の絶縁性の基板19、八角形状の主励振素子11及び三角形状の副励振素子12a〜12dを有している。図2Bにおいて、スイッチSW1〜SW4は、主励振素子11及び副励振素子12a〜12dの間の絶縁領域を橋架するように配置される。
図3Aに示すアンテナ装置100は三層構造を有しており、その第1層目は、絶縁性の基板19、導電性の主励振素子11、副励振素子12a〜12d及びスイッチSW1〜SW4を有している。第1層目の絶縁性の基板19a上には主励振素子11及び副励振素子12a〜12dが配置され、主励振素子11と各々の副励振素子12a〜12dの間にはスイッチSW1〜SW4が接続されて構成される。主励振素子11の下方にはRF給電点(スルーホール16e)が設けられる。
図3Bに示す第2層目には、絶縁性の基板19b及びマイクロストリップライン18が設けられ、第1層目の絶縁性の基板19aに設けられたスルーホール16eを介して主励振素子11に接続される。マイクロストリップライン18は、50Ωの特性インピーダンスを有しており、第1層目及び第2層目の絶縁性の基板19a,19bに挟まれる状態で配置される。マイクロストリップライン18には給電端子(給電回路)が設けられ、無線通信装置の高周波回路等に接続され、送信信号を給電又は受信信号を引き込むようになされる。図3Cに示す第3層目は、第2層目の絶縁性の基板19bの裏面全面に設けられた接地パターン17(GND層)から構成される。これにより、三層構造のアンテナ装置100を構成するようになる。
ここで、三層構造のアンテナ装置100の製造方法について説明をする。まず、絶縁性の基板の一方の面に銅箔を有した正方形状の片面銅箔基板を準備し、この銅箔上に主励振素子用として八角形状に、及び、副励振素子用として三角形状にレジストを塗布してパターンニングする。主励振素子11及び副励振素子12a〜12d等の間に絶縁領域を確保するために、レジストを塗布しないようになされる。これらのレジストをマスクにして余分な銅箔を所定のエッチング液により除去する。これにより、片面銅箔基板を八角形状の主励振素子11と三角形状の副励振素子12a〜12dとに素子分離することができる。
次に、主励振素子11に至る所定の口径のスルーホールを形成する。スルーホールはドリル等により開口する。スルーホール16eの口径は、導電部材を形成できる程度を確保できればよい。これにより、一方の面に主励振素子11及び副励振素子12a〜12dを有し、かつ、主励振素子11から裏面へ至る所定の口径のスルーホール16eを有した第1の基板19aを形成することができる。
次に、絶縁性の基板の両面に銅箔を有した正方形状の両面銅箔基板を準備し、一方の面の銅箔上にマイクロストリップライン用として所定形状のレジストを塗布してパターンニングする。レジストは上述のスルーホール16eと位置合わせして塗布する。他方の面の銅箔は全面にレジストを塗布して置く。これらのレジストをマスクにして余分な銅箔を所定のエッチング液により除去する。これにより、一方の面にマイクロストリップライン18を有し、他方の面に接地パターン17を有した第2の基板19bを形成することができる。もちろん、これに限られることはなく、片面銅箔基板の銅箔非形成面にマイクロストリップライン相当の銅箔等を貼り付けて形成してもよい。
その後、主励振素子11、副励振素子12a〜12d及びスルーホール16eを有した第1の基板19aと、マイクロストリップライン18及び接地パターン17を有した第2の基板19bとを所定の接着剤を使用して張合わせる。接合面は、第1の基板19aで主励振素子11及び副励振素子12a〜12dを有していない面と、第2の基板19bでマイクロストリップライン18を有した面とする。更に、スルーホール内に導電部材を充填又はメッキ法により施して、主励振素子11とマイクロストリップライン18とを電気的に接続する。
次に、主励振素子11と副励振素子12a〜12dとの間にスイッチSW1〜SW4を接続する。スイッチSW1〜SW4にはp型又はn型の電界効果型のトランジスタや、npn型又はpnp型のバイポーラトランジスタ等の半導体能動素子が使用される。スイッチSW1〜SW4には、半導体能動素子に限られることはなく、機械的な駆動機構を有するスイッチを用いて構成してもよい(実施例2を参照)。これらの素子間は、ワイヤボンディングによるフェースアップ実装又はバンプによるフェースダウン実装法等により接続する。これにより、三層構造のアンテナ装置100を製造することができる。
このように、第1の実施例として三層構造のアンテナ装置100によれば、主励振素子11で2つの対角線方向のそれぞれの隅にスイッチSW1、SW2,SW3,SW4が配置され、一方の対角線方向の2つのスイッチSW1及びSW3をオンし、他方の対角線方向の2つのスイッチSW2及びSW4をオフする。このようにスイッチSW1〜SW4をオン/オフ制御すると、主励振素子11と、一方の対角線方向の副励振素子12a、12cとが電気的に接続され、他方の対角線方向の副励振素子12b、12dは、絶縁された状態となるので、右旋偏波又は左旋偏波の特性を示す円偏波のアンテナ体を構成することができる。
また、対角線方向の四隅のスイッチSW1〜SW4を全てオンすると、水平偏波及び垂直偏波が直交する直線偏波のアンテナ体を構成することができる。このようなスイッチSW1〜SW4のオン/オフ制御によって、主励振素子11と副励振素子12a〜12dとの組み合わせることができ、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の3種類のアンテナを1つの構造体で構成できるようになる。これにより、放射偏波切替機能付きのアンテナ装置10を電波環境に適したMIMO通信システムに十分応用できるようになる。
図4は、第2の実施例としてのアンテナ装置200の構成例を示す上面図である。図4に示すアンテナ装置200は、主励振素子11と副励振素子12a〜12dとの間にスイッチ素子として、MEMS(Micro Electromechanical Systems)スイッチSW1’〜SW4’が実装(接続)され、当該MEMSスイッチSW1’〜SW4’をオン/オフ制御して方形パッチアンテナの放射偏波を切り換えるようになされる。なお、第1の実施例と同じ名称及び符号のものは同じ機能を有するためその説明を省略する。
図5A〜Cは、MEMSスイッチSW1’等の構成例及びその動作例を示す上面図及び断面図である。
図5Aに示すMEMSスイッチSW1’は、主励振素子11と各々の副励振素子12a〜12dとの間の絶縁領域に設けられる。例えば、MEMSスイッチSW1’は、シリコン(Si)基板21、可動部22、電圧印加電極23、接点24a及び24bを有して構成される。可動部22はその一端側がSi基板21に取付けられ、例えば、その一端を支点にして上下に可動可能なダイヤフラム構造を有している。可動部22の他端側には接点24aが設けられ、この接点24aは副励振素子12a等に電気的に接続される。Si基板側にも接点24bが設けられ、この接点24bは主励振素子11に電気的に接続される。Si基板側の接点24bは、可動部側の接点24aと対峙する位置に設けられる。
Si基板21上には電圧印加電極(制御電極)23が設けられ、この電圧印加電極23にはスイッチ駆動電圧が印加される。電圧印加電極23に所定のスイッチ駆動電圧を印加すると、可動部22がクーロン力によって電圧印加電極側に引き込まれる。この結果、可動部側の接点24aと、Si基板側の接点24bとが接触し、主励振素子11と副励振素子12a等とが電気的に接続するようになされる。
このように第2の実施例としてのアンテナ装置200によれば、MEMSスイッチSW1’を主励振素子11とその四隅の各々の副励振素子12a〜12dとの間に接続される。これにより、第1の実施例と同様にして、右旋・左旋偏波等の円偏波及び直線偏波放射をするアンテナ装置を構成できるようなる。
図6は、第3の実施例としてのアンテナ装置300の構成例を示す図である。図6に示すアンテナ装置300は、複数の平面アンテナを使用したMIMO通信方式による信号を同時に送受信するアンテナやそれを応用した無線通信装置に適用して好適である。アンテナ装置300は、導電性の主励振素子31が絶縁性の基板19上に配置されて構成される。主励振素子31は円形状を有している。基板19は長さがLで幅がWである。主励振素子31の直径はDφ(Dφ<L,W)である。主励振素子31の素材及びその製造方法は、第1の実施例で説明した通りである。
絶縁性の基板19の対角線方向であって、円形状の主励振素子31の中心に原点を規定したとき、その原点を基準にして、対角線方向に沿うように、90°毎の円周上(所定の位置)において、絶縁領域を挟んで小片部の一例となる偏波制御用の方形形状の副励振素子12a〜12d(又は摂動素子:切り欠き部)が配置されている。副励振素子12a〜12dは主励振素子31と同様な金属材料から構成される。副励振素子12a〜12dの作成方法は、例えば、円形状の主励振素子31の所定の位置をコ字状に切り欠いて、下部の絶縁性の基板19が露出するように素子分離することにより行われる。切り欠きはエッチングでもグラインダにより溝を切る方法でも何でもよい。
この例では、主励振素子31と円周上の各々の位置の副励振素子12a〜12dとの間にはスイッチSW1〜SW4が実装(接続)され、当該スイッチSW1〜SW4をオン/オフ制御して平面アンテナ(以下円形パッチアンテナという)の放射偏波を切り換えるようになされる。スイッチSW1〜SW4は第1の実施例と同様にして、半導体能動素子から構成される。半導体能動素子には、p型又はn型の電界効果型のトランジスタや、npn型又はpnp型のバイポーラトランジスタが使用される。もちろん、スイッチSW1〜SW4には半導体能動素子の他に、機械的な駆動機構を有するスイッチ又は第2の実施例で説明したMEMSスイッチSW1’であってもよい。
絶縁性の基板19には第1の実施例と同様にして、4個の制御端子13a〜13dが設けられる。制御端子13aはスイッチSW1の制御電極(ゲート又はベース)にチョークコイル14aを介して接続される。制御電極と、図示しない接地パターン17との間には、バイパスコンデンサ15aが接続される。チョークコイル14a及びバイパスコンデンサ15a等は、高周波電流の周り込みを防ぐためのフィルタを構成し、必要に応じて直流系線路に接続され、フィルタは適当な位置にレイアウトされる。
接地パターン17は、第1の実施例と同様にして基板裏面側に設けられる。バイパスコンデンサ14aはスルーホール16aを介して接地パターン17に接続される。他の制御端子13b〜13dについても、同様にしてスイッチSW2〜SW4の制御電極に各々チョークコイル14b、14c,14dを介して接続される。バイパスコンデンサ15b、15c,15dも同様にして接続される。上述のスイッチSW1〜SW4と、方形パッチアンテナの主励振素子31や、副励振素子12a〜12d、直流系線路、接地パターン17等の各制御端子13a〜13dは、ワイヤボンディングによるフェースアップ実装又はバンプによるフェースダウン実装法等により接続される。
スイッチSW1〜SW4を駆動する直流電圧(以下スイッチ駆動電圧又はスイッチ制御信号という)は、制御電極と接地パターン17との間に供給される。制御端子13a〜13d及び接地パターン17には図示しないスイッチ制御ユニット(スイッチコントローラ)が接続され、スイッチSW1〜SW4に関して、対角線方向のスイッチSW1と、SW3、SW2とSW4毎等のようにペアにスイッチ駆動電圧を供給するようになされる。この円形パッチアンテナも第1の実施例で説明したように右旋・左旋偏波等の円偏波放射や直線偏波放射等をするようになされる。
このように、第3の実施例に係る主励振素子31が円形パッチパターンから構成されるので、第1の実施例で説明した方形パッチアンテナに限られることはなく、本発明のコンセプトに基づいて、円形パッチアンテナを有したアンテナ装置300を基本とする様々な形式の無線通信装置に応用することが可能である。
図7は、アンテナ装置100を応用した第4の実施例としての無線通信装置400の構成例を示すブロック図である。
この実施例では、N個(Nは2以上の整数)のアンテナ装置及び送受信回路を応用して、当該アンテナ装置の放射偏波を適宜制御して、使用環境に適したMIMO通信(伝送)方式を実現するようになされる。この例で、アンテナANT1及びANT2の各々には、第1の実施例で説明したアンテナ装置100が使用される。
図7に示す無線通信装置400は、5.2GHz帯のキャリア周波数を用いるIEEE802.11a方式や、2.4GHz帯のキャリア周波数を用いるIEEE802.11b/g方式等の家庭用の無線LANに適用して好適である。無線通信装置400は、通信制御ユニット40、高周波ユニット43、メモリ部48、2個(=N)のアンテナANT1、ANT2及び2個の送受切換スイッチ41,42を備えて、MIMO通信方式を実現するものである。高周波ユニット43は、2個の受信回路44a,44b及び2個の送信回路45a,45bを有して構成される。
アンテナANT1には送受切換スイッチ41,42が接続される。送受切換スイッチ41,42は、高周波ユニット43内の受信回路44a、44b又は送信回路45a、45bのいずれか一方をアンテナANT1の給電端子(スルーホール16e)に接続するようになされる。給電端子は、マイクロストリップライン18を通してアンテナANT1の主励振素子11に接続され、送信信号を給電し、又は、受信信号を受電する(引き込む)ようになされる。
受信回路44a及び送信回路45aは、第1のアンテナANT1を利用したMIMO通信方式により信号を送受信するための送受信回路を構成する。受信回路44aは、送受切換スイッチ41を介してアンテナANT1に接続され、当該アンテナANT1から送受切換スイッチ41を介して受信信号を取り込んでMIMO通信方式により受信処理する。
送信回路45aは、送受切換スイッチ41を介してアンテナANT1に接続され、MIMO通信方式により送信信号を処理し、送受切換スイッチ41を介して送信信号をアンテナANT1に給電するようになされる。
アンテナANT2には送受切換スイッチ42が接続される。送受切換スイッチ42は、受信回路44b又は送信回路45bのいずれか一方をアンテナANT2の給電端子(スルーホール16e)に接続するようになされる。給電端子は、マイクロストリップライン18を通してアンテナANT2の主励振素子11に接続され、送信信号を給電し、又は、受信信号を受電する(引き込む)ようになされる。
受信回路44b及び送信回路45bは、第2のアンテナANT2を利用したMIMO通信方式により信号を送受信するための送受信回路を構成する。受信回路44bは、送受切換スイッチ42を介してアンテナANT2に接続され、当該アンテナANT2から送受切換スイッチ42を介して受信信号を取り込んでMIMO通信方式により受信処理する。
送信回路45bは、送受切換スイッチ42を介してアンテナANT2に接続され、MIMO通信方式により送信信号を処理し、送受切換スイッチ42を介して送信信号をアンテナANT2に給電するようになされる。
上述のアンテナANT1、ANT2及び高周波ユニット43には、通信制御ユニット40が接続され、受信回路44aにより受信された信号の品質に応じてアンテナANT1のスイッチSW1〜SW4をオン・オフ制御すると共に、受信回路44bにより受信された信号の品質に応じてアンテナANT2のスイッチSW1〜SW4をオン・オフ制御するようになされる。
通信制御ユニット40は、制御装置46及びスイッチ制御回路47を有して構成される。アンテナANT1,ANT2には、スイッチ制御回路47が接続される。スイッチ制御回路47は制御装置46に接続される。制御装置46には図示しないCPU(中央処理ユニット)やMPU(マイクロ処理ユニット)、A/D変換器、D/A変換器、変調/復調(BB)回路、MAC回路、ユーザインターフェース等が使用される。
制御装置46は、高周波ユニット43及びスイッチ制御回路47を通してアンテナANT1,ANT2を制御する。例えば、送受切換スイッチ41にスイッチ切換信号SS1を出力してアンテナANT1の送受信機能を切り換えたり、送受切換スイッチ42にスイッチ切換信号SS2を出力してアンテナANT2の送受信機能を切り換えるようになされる。
また、制御装置46は、受信回路44a,44bにより受信された受信信号の品質に応じて主励振素子11と4つの副励振素子12a〜12dとの間に接続されたスイッチSW1〜SW4のON/OFFを制御するものである。例えば、受信回路44a及び44bは受信感度(受信した電波の信号強度;Received Signal Strength Indicator;以下RSSIという)を測定する。IEEE802.11a方式の場合、受信感度は、直交検波前のAGC(自動ゲインコントロール)信号をモニタ等することで得られる。もちろん、これに限られることはなく、受信感度は復号データ検出等により得てもよい。
制御装置46では、RSSIが一定の範囲内に入っているか否かを判別する。RSSIが一定の範囲内に入っていない場合、例えば、下限閾値よりもRSSIが低い場合や、RSSIが上限閾値を越える場合に、制御装置46は、スイッチ制御回路47へ偏波切換えを指示制御するスイッチ制御データD11を出力する。これにより、スイッチ制御回路47でアンテナANT1,ANT2の放射偏波を制御できるようになる(偏波ダイバーシティ)。
制御装置46は、受信回路44a,44bにより受信された受信信号の品質に応じて送信回路45a、45bからアンテナANT1,ANT2へ給電(送信)される送信信号のサブキャリア変調方式を制御するようになされる。このサブキャリア変調方式の制御を通じて、使用環境に適したMIMO通信(伝送)方式を実現できるようになる。
制御装置46には、記録媒体の一例となるメモリ部48が接続される。メモリ部48には、読み出し専用メモリ(ROM)、情報の随時書き込み及び読み出し可能なメモリ(RAM)、情報の電気的な消去及び書き込み可能な読み出しメモリ(EEPROM)又はハードディスク装置(HDD)が使用される。メモリ部48には、MIMO通信方式による信号を送受信する無線通信装置用の制御プログラムが記憶される。
この制御プログラムには、アンテナANT1,ANT2の各々のスイッチSW1〜SW4のオン/オフを設定するステップと、ここに設定されたスイッチSW1〜SW4のオン/オフによって構成される方形パッチアンテナの通信品質を検出するステップと、ここに検出された方形パッチアンテナの通信品質に基づいてスイッチSW1〜SW4の設定を保持するステップと、ここに保持されたスイッチSW1〜SW4の設定によって通信を実行するステップとが含まれるものである。
このメモリ部48に格納された制御プログラムを利用することで、主励振素子11、副励振素子12a〜12dとの組み合わせによって構成される3種類の方形パッチアンテナから選択され、しかも、最適な状態に設定された方形パッチアンテナを利用して、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の信号を送受信できるようになる。
上述のスイッチ制御回路47は、制御装置46からスイッチ制御データD11を入力し、スイッチ制御データD11に基づいてスイッチ選択信号S11〜S14及びS21〜S24を発生し、アンテナANT1に関して、スイッチ選択信号S11をスイッチSW1に供給し、スイッチ選択信号S12をスイッチSW2に供給する。また、そのスイッチ選択信号S13をスイッチSW3に供給し、スイッチ選択信号S14をスイッチSW4に供給する。これらのスイッチ選択信号S11〜S14に基づいて、アンテナANT1のスイッチSW1〜SW4をON/OFF制御することができる。
スイッチ制御回路47は制御装置46からスイッチ制御データD11を入力し、アンテナANT2に関して、スイッチ選択信号S21をスイッチSW1に供給し、スイッチ選択信号S22をスイッチSW2に供給する。また、そのスイッチ選択信号S23をスイッチSW3に供給し、スイッチ選択信号S24をスイッチSW4に供給する。これらのスイッチ選択信号S21〜S24に基づいて、アンテナANT2のスイッチSW1〜SW4をON/OFF制御することができる。
この例で、主励振素子11で2つの対角線方向のそれぞれの隅に時計回りにスイッチSW1、SW2、SW3、SW4が配置され、一方の対角線方向の2つのスイッチSW1及びSW3をオンし、他方の対角線方向の2つのスイッチSW2及びSW4をオフする。二つの対角線方向において、一方の対角線上の2つのスイッチSW2及びSW4をONし、他方の2つのスイッチSW1及びSW3をOFFにすることにより、円偏波の右旋・左旋を選択することができる。主励振素子11で2つの対角線方向のそれぞれの隅に配置された全てのスイッチSW1〜SW4をオンすることにより、直線偏波を選択することができる。
表1は、4個のスイッチSW1〜SW4の組み合わせと、そのアンテナ装置の動作例を示している。表1によれば、アンテナANT1による方形パッチアンテナのスイッチSW1及びSW3がONで、ANT1のスイッチSW2及びSW4がOFFである場合は、ANT1が右旋偏波(RHCP)となる。アンテナANT2による方形パッチアンテナ(以下ANT2という)のスイッチSW1及びSW3がOFFで、ANT2のスイッチSW2及びSW4がONである場合は、ANT2が左旋偏波(LHCP)となる。
また、ANT1のスイッチSW1及びSW3がOFFで、ANT1のスイッチSW2及びSW4がONの場合に、ANT1が左旋偏波(LHCP)である。ANT2のスイッチSW1及びSW3がONで、ANT2のスイッチSW2及びSW4がOFFの場合に、ANT2が右旋偏波(RHCP)である。
更に、ANT1のスイッチSW1〜SW4がいずれもONである場合は、ANT1は直線偏波(LINEAR)である。ANT2のスイッチSW1〜SW4がいずれもONである場合は、ANT2は直線偏波(LINEAR)である。上述の”ON”である場合とは、アンテナANT1やANT2等の主励振素子11と、副励振素子12a〜12dとの間が電気的に接続された状態である。幾何学等価パターンで示すと、主励振素子11と副励振素子12a〜12dとが同一平面上で一体化した状態である。反対に、”OFF”の場合とは、その逆の状態とする。等価パターンで示すと、主励振素子11の隅が欠けて、副励振素子12a〜12dが同一平面上には電気的に見えない状態である。
このように、4個のスイッチSW1〜SW4を全て”ON”にすれば、円偏波ではなくなって、直線偏波となる。即ち、アンテナANT1,ANT2による方形パッチアンテナでは、右旋偏波・左旋偏波・直線偏波の3種類を選択することが可能である。この3つの放射偏波を通信状態がベストとなるように選択してやれば、ユーザの使用する伝搬環境に最も適した伝送をすることができる。
続いて、本発明に係る無線通信装置の制御方法について説明する。図8は、アンテナ装置100を応用した無線通信装置400の制御例を示すフローチャートである。
この実施例では、八角形状を有して絶縁性の基板19上に配置された導電性の主励振素子11と当該主励振素子11の対角線方向に絶縁領域を挟んで配置された偏波制御用の副励振素子12a〜12dとの間に接続されたスイッチSW1〜SW4をオン/オフ制御して方形パッチアンテナの放射偏波を切り換えるアンテナANT1,ANT2を有してMIMO通信方式による信号を送受信する場合を前提とする。
この例のMIMO通信方式によれば、スイッチ切換えの組み合わせをN(i=1〜N)通りに変化させて、伝送速度が最大となる設定を抽出する(見出す)。更に、サブキャリア変調をM(j=1〜M)通り、例えば、64QAM→16QAM→8PSK→QPSKというようにサブキャリアを変化させて伝送速度が最大となるアンテナの状態を設定して、相手方の無線通信装置と送受信処理を実行するようになされる。
このような動作設定条件を前提にして、図8に示すフローチャートのステップA1でサブキャリアをj=1に設定する。例えば、サブキャリアを64QAMに設定する。その後、ステップA2で各々のアンテナANT1及びANT2のスイッチSW1〜SW4の組み合わせをi=1に設定する。これらの設定j=1及びi=1における伝送速度をステップA3で測定する。例えば、受信回路44a及び44bは受信感度(受信強度RSSI等)を測定する。
その後、ステップA4に移行して、伝送速度が最大となったか否かを判別(検出)する。このとき、伝送速度の最大値検出を実行し、伝送速度の最大値を検出した場合は、ステップA5に移行して各々のANT1及びANT2のスイッチSW1〜SW4の組み合わせの設定を記憶(登録)する。
その後、ステップA6に移行して、スイッチ切換えの組み合わせ番号を1つインクリメント(i=i+1)としてステップA7に移行する。ステップA7では、N通りのスイッチ切換えの組み合わせを終了したかを判別する。N通りのスイッチ切換えを実行していない、すなわち、i<Nの場合は、ステップA3に戻って伝送速度を測定する。その後、ステップA4〜A6の判別、記録及びインクリメントを繰り返すようになされる。
そして、ステップA6でスイッチ切換えの組み合わせがi=Nとなった場合は、ステップA8に移行してサブキャリアの可変ステップをj=j+1(インクリメント)する。例えば、サブキャリアを64QAMから16QAMに切換える。
その後、ステップA9に移行して、M通りの可変ステップを実行していない、すなわち、j<Mの場合には、ステップA2に戻る。ステップA2で各々のアンテナANT1及びANT2のスイッチSW1〜SW4の組み合わせをi=1に設定する。これらの設定j=2及びi=1における伝送速度をステップA3で測定する。
その後、ステップA4に移行して、方形パッチアンテナの通信品質が最適であるか否かを判別するために、伝送速度が最大か否かを検出する。伝送速度が最大である場合は、ステップA5に移行して、先に検出された通信品質の最適な各々のアンテナANT1及びANT2のスイッチSW1〜SW4の組み合わせの設定を保持(抽出)する。その後、ステップA6に移行する。このように最適であると判別されたスイッチSW1〜SW4の設定を更新保持するステップA2〜A7を順次繰り返すようになされる。
そして、ステップA7でスイッチ切換えの組み合わせがi=Nとなった場合であって、ステップA8に移行してサブキャリアの可変ステップでj=j+1して、ステップA9でj<Mの場合は、ステップA2に戻って上述した処理を繰り返す。そして、ステップA9でj=Mに到達した場合は、ステップA10に移行して設定を固定するようになされる。これにより、最適な通信品質が検出されたスイッチSW1〜SW4の設定によって通信を実行でき、その際の偏波方式を使用することにより、使用環境に適したMIMO通信方式よる無線通信処理を実現できるようになる。
図9A及びBは、MIMO通信方式における無線通信装置401、402間の非反射時の送受信例を示す図である。
この実施例では、データの送信および受信処理において、2本のアンテナANT1,ANT2を使用してMIMO通信方式を実現する場合であって、マルチパス環境を利用して通信処理を実行する場合を前提とする。例えば、図9Aに示す無線通信装置401には図7に示した無線通信装置400が応用され、第1、第2又は第3の実施例で説明したアンテナ装置100、200又は300を応用した2本の方形パッチアンテナANT1及びANT2が配置される。
この例で、無線通信装置401のアンテナANT1は、スイッチSW1及びSW3がONされ、他のスイッチSW2及びSW4がOFFされ、右旋偏波に設定されている。幾何学等価パターンで示すと、アンテナANT1の右上と左下が欠けた方形パッチパターンとなる。アンテナANT1は右旋偏波のデータDaを輻射(放射)する場合である。
また、そのアンテナANT2は、スイッチSW2及びSW4がONされ、他のスイッチSW1及びSW3がOFFされ、左旋偏波に設定されている。幾何学等価パターンで示すと、アンテナANT2の左上と右下が欠けた方形パッチパターンとなる。アンテナANT2は左旋偏波のデータDbを輻射する場合である。
図9Bに示す無線通信装置402にも、図7に示した無線通信装置400が応用され、第1、第2又は第3の実施例で説明したアンテナ装置100、200又は300を応用した2本の方形パッチアンテナANT1及びANT2が配置される。この例で、無線通信装置402のアンテナANT1は、スイッチSW1及びSW3がONされ、他のスイッチSW2及びSW4がOFFされ、右旋偏波に設定されている。幾何学等価パターンで示すと、アンテナANT1の右上と左下が欠けた方形パッチパターンとなる。アンテナANT1は右旋偏波のデータDaを輻射(放射)する場合である。
また、そのアンテナANT2は、スイッチSW2及びSW4がONされ、他のスイッチSW1及びSW3がOFFされ、左旋偏波に設定されている。幾何学等価パターンで示すと、アンテナANT2の左上と右下が欠けた方形パッチパターンとなる。アンテナANT2は左旋偏波のデータDbを輻射する場合である。
このように偏波が設定されたMIMO通信システムにおいて、マルチパス環境下に反射物等が無い場合は、無線通信装置401のアンテナANT1は右旋偏波のデータDaを無線通信装置402で右旋偏波受信に設定されたアンテナANT1によってデータDaが受信され処理される。同様にして、無線通信装置401のアンテナANT2は左旋偏波のデータDbを無線通信装置402で左旋偏波受信に設定されたアンテナANT2によってデータDbが受信され処理される。
図10A及びBは、MIMO通信方式における無線通信装置401、202間に反射物403が存在する場合の送受信例を示す図である。
この実施例でMIMO通信方式によれば、マルチパス環境下の反射物403による反射の影響により、当初直交させようとした偏波同士が干渉を起こす場合がある。図9A及びBに示した例を採ると、片方のアンテナANT1からの放射電波が1回反射を受けた場合、その偏波は逆旋波になるため、アンテナANT1及びANT2からの放射時には、右旋偏波と左旋偏波を区別していたにもかかわらず、結局は同旋波となって干渉を起こしてしまうことになる。一方、両方のアンテナANT1及びANT2から同旋波で放射させたとしても、片方側に反射物403があって、反射の影響を受けたにも係わらず、その偏波は逆旋波になるため、干渉を起こさなくなることがある。
このように、マルチパスリッチな環境では偏波が様々に変化しており、放射させる時点で直交性を持たせたとしても、電波環境によってはそれが通信特性にとって必ずしも優位な結果とはならない場合がある。例えば、図10Aに示す無線通信装置401のアンテナANT2から輻射された左旋偏波のデータDbは、図10Bに示す無線通信装置402に対して直接波となって受信される。無線通信装置401のアンテナANT1から輻射された右旋偏波のデータDaは、図9Bに示す無線通信装置402に対して反射波となって受信される。
このような場合に、受信信号の品質を向上させる方法として、次の二つが考えられる。第1の方法は、受信感度(受信強度RSSI等)を検出して送信側にフィードバックを行い、送信側の無線通信装置401のアンテナANT2の設定はそのままにして、アンテナANT1のみを右旋から左旋偏波に切換えて使用する。すなわち、無線通信装置401のアンテナANT1のスイッチSW1、SW3=ONからOFFに切換え、更に、そのスイッチSW2、SW4=OFFからONに切換え、あえて送信時には同旋の偏波で両方のアンテナから送信し、受信側では結果的に反射によって逆旋波となり干渉を起こさなくなるというものである。第1の方法によれば、受信側での復調に必要な信号レベルが得られない場合に、あえて干渉は覚悟してでも受信レベルを上げようとするものである。
第2の方法は、受信側の無線通信装置402のアンテナANT2の設定はそのままにして、アンテナANT1のみを、受信感度(受信強度RSSI等)に応じて、右旋から左旋偏波に切換えて使用する、ないし切り換えずにそのまま使用する、ということを選択するというものである。第2の方法によれば、受信側での復調に必要な信号レベルは得られており、むしろあえて受信感度を低下させることによって干渉信号のレベルも低下させて信号品質を向上させようと図るものである。
この例では、受信感度(受信強度RSSI等)を検出して、このRSSIに応じて適宜、受信側の無線通信装置402で容易に右旋から左旋又は左旋から右旋へ偏波を切換えるようになされる。以下で、このRSSI検出に関する実施例を説明する。
図11は、スイッチ(偏波)切換制御時の閾値設定例を示すRSSIの検出レベル図である。図12は、受信側の無線通信装置402における偏波切換時の制御例を示すフローチャートである。
この例でRSSIに応じて、受信側の無線通信装置402等で、右旋から左旋又は左旋から右旋へ偏波を切換える場合に、図11に示すように、RSSIの検出レベルに対して下限閾値Lth1及び上限閾値Lth2(Lth1<Lth2)が設定され、この下限及び上限閾値Lth1、Lth2に基づいて、右旋・左旋偏波を切換える場合を前提とする。
この例では、RSSIと、上限閾値Lth2との関係がRSSI>Lth2となった場合及び、そのRSSIと下限閾値Lth1との関係がそのRSSI<Lth1となった場合に、スイッチSW1〜SW4を切換えて偏波切換設定を実行する。なお、当該RSSIと下限及び上限閾値Lth1、Lth2との関係がLth1≦RSSI<Lth2となる場合には、偏波切換えを行わずに、現状の受信状態を維持する場合を例に挙げる。
これらをスイッチ(偏波)切換条件にして、図12に示すフローチャートのステップB1でRSSIを検出する。RSSIは受信回路44aや44b等が検出してRSSI検出データを制御装置46に出力する。次に、ステップB2で制御装置46は、RSSI検出データに基づいてRSSIと上限閾値Lth2とを比較してRSSI>Lth2か否かを判別する。RSSI>Lth2の場合は、ステップB3に移行してスイッチSW1〜SW4を切換えて偏波切換設定を実行する(図10A,B参照)。
その後、ステップB4に移行して制御装置46は、下限及び上限閾値Lth1、Lth2との関係がLth1≦RSSI<Lth2であるか否かを判別する。RSSI、下限及び上限閾値Lth1、Lth2との関係がLth1≦RSSI<Lth2となる場合は、現状の受信状態を維持する。
上述のステップB2でRSSI>Lth2ではない場合、すなわち、RSSIがLth2以下の場合は、ステップB6に移行する。また、ステップB4でRSSI、下限及び上限閾値Lth1、Lth2との関係がLth1≦RSSI<Lth2でない場合は、ステップB5に移行して、スイッチ切換え設定を元に戻した後に、ステップB6に移行する。ステップB6で制御装置46は、RSSIと下限閾値Lth1とを比較してRSSI≦Lth1か否かを判別する。
RSSI≦がLth1の場合は、ステップB8に移行して制御装置46は、スイッチSW1〜SW4を切換えて偏波切換設定を実行する。その後、ステップB9に移行して制御装置46は、RSSI、下限及び上限閾値Lth1、Lth2との関係がLth1≦RSSI<Lth2であるか否かを判別する。Lth1≦RSSI<Lth2の場合は、現状の受信状態を維持する。
また、ステップB9でRSSI、下限及び上限閾値Lth1、Lth2との関係がLth1≦RSSI<Lth2でない場合は、ステップB10に移行して、スイッチ切換え設定を元に戻すと共に、ステップB11に移行してサブキャリアを変更する。その後、ステップB1に戻って上述した処理を繰り返すようになされる。
このように、第4の実施例としての無線通信装置及びその制御方法によれば、本発明に係る方形パッチアンテナANT1及びANT2が応用され、主励振素子11と副励振素子12a〜12dとの間に接続されたスイッチSW1〜SW4をオン/オフ制御することにより、主励振素子11の放射偏波を切り換えるようになされる。
この例で、スイッチSW1〜SW4をオン/オフ制御すると、主励振素子11と、一方の対角線方向の副励振素子12a〜12dとが電気的に接続され、他方の対角線方向の副励振素子12a〜12dは、絶縁された状態となるので、右旋偏波又は左旋偏波の特性を示す円偏波のアンテナ体を構成することができる。また、2つの対角線方向の四隅のスイッチSW1〜SW4を全てオンすると、直線偏波のアンテナ体を構成することができる。
従って、主励振素子11と副励振素子12a〜12dとの組み合わせによって構成される3種類のアンテナ体を選択して、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の信号を送受信することができる。これにより、電波環境に適したMIMO通信方式により無線通信処理を実行できるようになる。
また、コスト削減等の目的で、例えば、主励振素子11と副励振素子12a〜12dとの間、ならびにスイッチSW1〜SW4を、対角線上の四隅すべてに設けず、一方の対角線上のみの2箇所だけに設け、もう一方の対角線上の角は切り欠きをしないでおく。そして、これらのスイッチSW1〜SW4のON/OFFを切り換えることにより、円偏波(右旋ないし左旋)と直線偏波の切り換えを行って、最適な通信品質が検出する、といったことも可能となる。
この実施例では、第1の実施例で説明した方形パッチアンテナANT1及びANT2を応用する場合について説明したが、これに限られることはなく、第2の実施例で説明したMEMSスイッチSW1’を利用したアンテナ装置200や、第3の実施例で説明した円形パッチパターンを有したアンテナ装置300を複数本実装した無線通信装置400を構成してもよい。第4の実施例と同様な効果が得られる。
図13は、第5の実施例としてのアンテナ装置500の構成例を示す図である。図13に示すアンテナ装置500は、複数の平面アンテナを使用した多入力多出力(Multi Input Multi Output:以下MIMOという)通信方式による信号を同時に送受信するアンテナやそれを応用した無線通信装置に適用して好適である。アンテナ装置500は、平面アンテナ本体部の一例となる導電性の主励振素子51が誘電性の基板29上に配置されて構成される。主励振素子51は、例えば、四隅が切り落とされた八角形の方形パッチパターン形状を有している。基板29は長さがLで幅がWである。主励振素子51は長さがL’(L’<L)で幅がW’(W’<W)である。主励振素子51には、厚みtの銅や、白銅、燐青銅、黄銅、SUS、金等の金属材料が使用され、主励振素子51は、銅箔基板のエッチング法や、樹脂への金属メッキ法、金属箔の貼り付け技術等により形成される。
主励振素子51の対角線方向には、小片部の一例となる偏波制御用の三角形状の副励振素子(縮退分離素子又は摂動素子)が配置されている。副励振素子P1〜P4は主励振素子51と異なり半導電性の樹脂材料から構成される。例えば、副励振素子P1〜P4には、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール又はポリアズレンのいずれかの導電性のプラスティックから構成される。
副励振素子P1〜P4は、例えば、八角形状の主励振素子51の四隅に連続して、下部の誘電性の基板29上に、三角形状の導電性(半導電性)のプラスティックを接合することにより作成される。接続部分には、所定の接着剤が使用される。この例で、副励振素子P1〜P4を含めて主励振素子51の仕上がり形状は四角形状を有している。
副励振素子P1には金属で形成された制御電極52aが設けられ、直流バイアス電圧を供給するようになされる。他の副励振素子P2〜P4においても同様にして制御電極52b,52c,52dが設けれ、直流バイアス電圧を各々供給するようになされる。この例では、当該制御電極52a、52b,52c,52dに供給する直流バイアス電圧を制御して方形パッチアンテナの放射偏波を切り換えるようになされる。
上述の誘電性の基板29には、シリコンゲル、アクリロニトリルゲル又は多糖類高分子ポリマーのいずれかの固体電解質部材が使用される。基板29には4個の制御端子13a〜13dが設けられる。制御端子13aは副励振素子P1の制御電極52aにチョークコイル14aを介して接続される。制御電極52aと、図示しない接地(GND)パターンとの間には、バイパスコンデンサ15aが接続される。チョークコイル14a及びバイパスコンデンサ(パスコン)15a等は、高周波電流の周り込みを防ぐためのフィルタを構成し、必要に応じて直流系線路に接続され、フィルタは適当な位置にレイアウト(配置)される。
接地パターン17は、基板裏面側に設けられる。バイパスコンデンサ15aはスルーホールを介して接地パターン17に接続される。他の制御端子13b〜13dについても、同様にして副励振素子P2〜P4の制御電極52b,52c、52dに各々チョークコイル14b,14c,14d等を介して接続される。バイパスコンデンサ15b,15c,15dも同様にして接続される。
副励振素子P1〜P4の導電性又は絶縁性の機能を選択する直流バイアス電圧(以下で機能制御信号S31〜S14、S21〜S24ともいう)は、制御電極52a,52b,52c、52dと接地パターン17との間に供給される。制御端子13a〜13d及び接地パターン17には図示しない通信制御ユニット(機能制御回路等)が接続され、副励振素子P1〜P4に関して、対角線方向の副励振素子P1と、P3、P2とP4毎等のようにペアに直流バイアス電圧を供給するようになされる。この方形パッチアンテナは、例えば、新井宏之著、「新アンテナ工学」、総合電子出版(1996)に示されるような右旋・左旋偏波等の円偏波放射や直線偏波放射等をするようになされる。
図14A及びBは、アンテナ装置500の構造例を示す上面図及びそのX1−X1矢視断面図である。図15A〜Cは、アンテナ装置500の積層構造例を示す分解上面図である。
図14Aにおいて、アンテナ装置500は、副励振素子P1〜P4、正方形状の誘電性の基板29、八角形状の主励振素子51及び三角形状の副励振素子P1〜P4を有している。図14Bにおいて、副励振素子P1〜P4は、主励振素子51の四隅から連続して、当該副励振素子P1〜P4を含めて主励振素子51の仕上がり形状が四角形状になるように構成される。
図15A〜Cは、アンテナ装置500の積層構造例を示す分解上面図である。図15Aに示すアンテナ装置500は三層構造を有しており、その第1層目は、誘電性の基板29、主励振素子51及び副励振素子P1〜P4を有している。第1層目の誘電性の基板29a上には主励振素子51及び副励振素子P1〜P4が配置されて構成される。主励振素子51の下方にはRF給電点(スルーホール16e)が設けられる。
図15Bに示す第2層目には、誘電性の基板29b及びマイクロストリップライン18が設けられ、第1層目の誘電性の基板29aに設けられたスルーホール16eを介して主励振素子51に接続される。マイクロストリップライン18は、50Ωの特性インピーダンスを有しており、第1層目及び第2層目の誘電性の基板29a,19bに挟まれる状態で配置される。マイクロストリップライン18には給電端子(給電回路)が設けられ、無線通信装置の高周波回路等に接続され、送信信号を給電又は受信信号を引き込むようになされる。図15Cに示す第3層目は、第2層目の誘電性の基板29bの裏面全面に設けられた接地パターン17(GND層)から構成される。これにより、三層構造のアンテナ装置500を構成するようになる。
ここで、三層構造のアンテナ装置500の製造方法について説明をする。まず、誘電性の基板の一方の面に銅箔を有した正方形状の片面銅箔基板を準備し、この銅箔上に主励振素子用として八角形状にレジストを塗布してパターンニングする。このレジストをマスクにして余分な銅箔を所定のエッチング液により除去する。これにより、片面銅箔基板を八角形状の主励振素子51を形成することができる。その後、八角形状の主励振素子51の四隅に連続して、下部の誘電性の基板29上に、三角形状の半導電性のプラスティック部材を接合する。これにより、副励振素子P1〜P4を形成することができる。基板29上へのプラスティック部材の接合には所定の接着剤を使用する。なお、副励振素子P1〜P4を含めて主励振素子51の仕上がり形状が四角形状になるように、導電性のプラスティックを三角形状に成形して接合される。
次に、主励振素子51に至る所定の口径のスルーホールを形成する。スルーホールはドリル等により開口する。スルーホール16eの口径は、導電部材を形成できる程度を確保できればよい。これにより、一方の面に主励振素子51及び副励振素子P1〜P4を有し、かつ、主励振素子51から裏面へ至る所定の口径のスルーホール16eを有した第1の基板29aを形成することができる。
次に、誘電性の基板の両面に銅箔を有した正方形状の両面銅箔基板を準備し、一方の面の銅箔上にマイクロストリップライン用として所定形状のレジストを塗布してパターンニングする。レジストは上述のスルーホール16eと位置合わせして塗布する。他方の面の銅箔は全面にレジストを塗布して置く。これらのレジストをマスクにして余分な銅箔を所定のエッチング液により除去する。これにより、一方の面にマイクロストリップライン18を有し、他方の面に接地パターン17を有した第2の基板29bを形成することができる。もちろん、これに限られることはなく、片面銅箔基板の銅箔非形成面にマイクロストリップライン相当の銅箔等を貼り付けて形成してもよい。
その後、主励振素子51、副励振素子P1〜P4及びスルーホール16eを有した第1の基板29aと、マイクロストリップライン18及び接地パターン17を有した第2の基板29bとを所定の接着剤を使用して張合わせる。接合面は、第1の基板29aで主励振素子51及び副励振素子P1〜P4を有していない面と、第2の基板29bでマイクロストリップライン18を有した面とする。更に、スルーホール内に導電部材を充填又はメッキ法により施して、主励振素子51とマイクロストリップライン18とを電気的に接続する。
図16A及びBは、副励振素子P1等を導電性又は絶縁性にする制御例を示す断面図である。
図16Aに示す接合構造は、図13に示した誘電性の基板29上の副励振素子P1の一部分を抽出したものである。誘電性の基板29には、シリコンゲルや、アクリロニトリルゲル、多糖類高分子ポリマー等から構成される固体電解質部材が使用される。この固体電解質部材は、マイナス(陰)イオンを誘導し易い部材である。副励振素子P1は半導電性の樹脂材料、例えば、ポリアセチレンや、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアズレン等の導電性のプラスティックが使用される。
図16Aに示す接合構造で、副励振素子P1の制御電極52aと、基板裏面の接地パターン17との間に順方向のバイアス電圧を供給する。このようなバイアス電圧を供給すると、陰イオン(電子)が、副励振素子P1等が固体電解質である誘電性の基板29から半導電性のプラスティックの副励振素子へ注入(ドーピング)されるので、副励振素子P1が導電性に変化し、金属のように電気を良く通す性質に変わる。
反対に、図16Bに示す接合構造で、副励振素子P1の制御電極52aと、基板裏面の接地パターン17との間に逆方向のバイアス電圧を供給すると、陰イオンが、半導電性のプラスティックの副励振素子P1等から誘電性の基板29へ引き抜かれる(脱ドーピング)されるので、副励振素子P1は絶縁性に変化し、絶縁体のように電気を良し難くなる性質に変わる。
この例では、固体電解質と半導電性のプラスティックとの接合構造において、上述の直流バイアス電圧の印加方向によって、ドーピング/脱ドーピングにより導電性又は絶縁性に変化する性質を偏波制御用の副励振素子P1等に応用するようになされる。
このように、第5の実施例として三層構造のアンテナ装置500によれば、主励振素子51で2つの対角線方向のそれぞれの隅に副励振素子P1,P2,P3,P4が配置され、一方の対角線方向の2つの副励振素子P1及びP3を導電性にし、他方の対角線方向の2つの副励振素子P2及びP4を絶縁性にする。このように副励振素子P1〜P4を導電性又は絶縁性に機能制御すると、主励振素子51と、一方の対角線方向の副励振素子P1、P3とが電気的に接続され、他方の対角線方向の副励振素子P2、P4は、絶縁された状態となるので、右旋偏波又は左旋偏波の特性を示す円偏波のアンテナ体を構成することができる。
また、対角線方向の四隅の副励振素子P1〜P4を全て導電性にすると、直線偏波のアンテナ体を構成することができる。このような副励振素子P1〜P4を導電性又は絶縁性に機能制御することによって、主励振素子51と副励振素子P1〜P4とを組み合わせることができ、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の3種類のアンテナを1つの構造体で構成できるようになる。これにより、放射偏波切替機能付きのアンテナ装置500を電波環境に適したMIMO通信システムに十分応用できるようになる。
図17は、第6の実施例としてのアンテナ装置600の構成例を示す図である。図17に示すアンテナ装置600は、複数の平面アンテナを使用したMIMO通信方式による信号を同時に送受信するアンテナやそれを応用した無線通信装置に適用して好適である。アンテナ装置600は、導電性の主励振素子61が誘電性の基板29上に配置されて構成される。主励振素子61は円形状を有している。基板29は長さがLで幅がWである。主励振素子61の直径はDφ(Dφ<L,W)である。主励振素子61の素材及びその製造方法は、第5の実施例で説明した通りである。
誘電性の基板29の対角線方向であって、円形状の主励振素子61の中心に原点を規定したとき、その原点を基準にして、対角線方向に沿うように、90°毎の円周上(所定の位置)において、小片部の一例となる偏波制御用の方形形状の副励振素子P1’〜P4’(縮退分離素子又は摂動素子)が配置されている。副励振素子P1’〜P4’は主励振素子61と異なり半導電性のプラスティック部材から構成される。副励振素子P1’〜P4’は、例えば、円形状の主励振素子61の所定の位置をコ字状に切り欠いて、下部の誘電性の基板29が露出するように素子分離し、そのコ字状の切り欠き部を充填するように半導電性のプラスティック部材を接合することで形成される。
この例では、主励振素子61と円周上の各々の位置に、副励振素子P1’〜P4’が実装(接合)され、当該副励振素子P1〜P4を導電性/絶縁性に制御して平面アンテナ(以下円形パッチアンテナという)の放射偏波を切り換えるようになされる。
誘電性の基板29には第5の実施例と同様にして、4個の制御端子13a〜13dが設けられる。制御端子13aは副励振素子P1の制御電極62aにチョークコイル14aを介して接続される。制御電極62aと、図示しない接地パターン17との間には、バイパスコンデンサ15aが接続される。チョークコイル14a及びバイパスコンデンサ15a等は、高周波電流の周り込みを防ぐためのフィルタを構成し、必要に応じて直流系線路に接続され、フィルタは適当な位置にレイアウトされる。
接地パターン17は、第5の実施例と同様にして基板裏面側に設けられる。バイパスコンデンサ14aはスルーホール16aを介して接地パターン17に接続される。他の制御端子13b〜13dについても、同様にして副励振素子P2’〜P4’の制御電極62b,62c,62dに各々チョークコイル14b,14c,14dを介して接続される。バイパスコンデンサ15b,15c,15dも同様にして接続される。
副励振素子P1’〜P4’の機能を選択する直流バイアス電圧(機能制御信号)は、制御電極62a,62b,62c、62dと接地パターン17との間に供給される。制御端子13a〜13d及び接地パターン17には図示しない機能制御ユニット(機能コントローラ)が接続され、副励振素子P1’〜P4’に関して、対角線方向の副励振素子P1’と、P3’、P2’とP4’毎等のようにペアに直流バイアス電圧を供給するようになされる。この円形パッチアンテナも第5の実施例で説明したように右旋・左旋偏波等の円偏波放射や直線偏波放射等をするようになされる。
このように、第6の実施例に係る主励振素子61が円形パッチパターンから構成されるので、第5の実施例で説明した方形パッチアンテナに限られることはなく、本発明のコンセプトに基づいて、円形パッチアンテナを有したアンテナ装置600を基本とする様々な形式の無線通信装置に応用することが可能である。
図18は、アンテナ装置500を応用した第7の実施例としての無線通信装置700の構成例を示すブロック図である。
この実施例では、N個(Nは2以上の整数)のアンテナ装置及び送受信回路を応用して、当該アンテナ装置の放射偏波を適宜制御して、使用環境に適したMIMO通信(伝送)方式を実現するようになされる。この例で、アンテナANT1’及びANT2’の各々には、第5の実施例で説明したアンテナ装置500が使用される。
図18に示す無線通信装置700は、通信制御ユニット40’、高周波ユニット43、メモリ部48、2個(=N)のアンテナANT1’、ANT2’及び2個の送受切換スイッチ41,42を備えて、MIMO通信方式を実現するものである。高周波ユニット43は、2個の受信回路44a,44b及び2個の送信回路45a,45bを有して構成される。
アンテナANT1’には送受切換スイッチ41が接続される。送受切換スイッチ41は、高周波ユニット43内の受信回路44a又は送信回路45aのいずれか一方をアンテナANT1’の給電端子(スルーホール16e)に接続するようになされる。給電端子は、マイクロストリップライン18を通してアンテナANT1’の主励振素子51に接続され、送信信号を給電し、又は、受信信号を受電する(引き込む)ようになされる。
受信回路44a及び送信回路45aは、第1のアンテナANT1’を利用したMIMO通信方式により信号を送受信するための送受信回路を構成する。受信回路44aは、送受切換スイッチ41を介してアンテナANT1’に接続され、当該アンテナANT1’から送受切換スイッチ41を介して受信信号を取り込んでMIMO通信方式により受信処理する。
送信回路45aは、送受切換スイッチ41を介してアンテナANT1’に接続され、MIMO通信方式により送信信号を処理し、送受切換スイッチ41を介して送信信号をアンテナANT1’に給電するようになされる。
アンテナANT2’には送受切換スイッチ42が接続される。送受切換スイッチ42は、受信回路44b又は送信回路45bのいずれか一方をアンテナANT2’の給電端子(スルーホール16e)に接続するようになされる。給電端子は、マイクロストリップライン18を通してアンテナANT2’の主励振素子51に接続され、送信信号を給電し、又は、受信信号を受電する(引き込む)ようになされる。
受信回路44b及び送信回路45bは、第2のアンテナANT2’を利用したMIMO通信方式により信号を送受信するための送受信回路を構成する。受信回路44bは、送受切換スイッチ42を介してアンテナANT2’に接続され、当該アンテナANT2’から送受切換スイッチ42を介して受信信号を取り込んでMIMO通信方式により受信処理する。
送信回路45bは、送受切換スイッチ42を介してアンテナANT2’に接続され、MIMO通信方式により送信信号を処理し、送受切換スイッチ42を介して送信信号をアンテナANT2’に給電するようになされる。
上述のアンテナANT1’、ANT2’及び高周波ユニット43には、通信制御ユニット40’が接続され、通信制御ユニット40’は、受信回路44a,44bにより受信された信号の品質に応じてアンテナANT1及びANT2の各々の制御電極52a,52b,52c、52dへの直流バイアス電圧を制御する。例えば、受信回路44aにより受信された信号の品質に応じてアンテナANT1’の副励振素子P1〜P4を導電性又は絶縁性に制御すると共に、受信回路44bにより受信された信号の品質に応じてアンテナANT2’の副励振素子P1〜P4を導電性又は絶縁性に制御するようになされる。
通信制御ユニット40’は、制御装置46及び副励振素子用の機能制御回路57を有して構成される。アンテナANT1’,ANT2’には、機能制御回路57が接続される。機能制御回路57は制御装置46に接続される。制御装置46には図示しないCPU(中央処理ユニット)やMPU(マイクロ処理ユニット)、A/D変換器、D/A変換器、BB回路、MAC回路、ユーザインターフェース等が使用される。
制御装置46は、高周波ユニット43及び機能制御回路57を通してアンテナANT1’,ANT2’を制御する。例えば、送受切換スイッチ41に機能切換信号SS1を出力してアンテナANT1’の送受信機能を切り換えたり、送受切換スイッチ42に機能切換信号SS2を出力してアンテナANT2’の送受信機能を切り換えるようになされる。
また、制御装置46は、受信回路44a,44bにより受信された受信信号の品質に応じて主励振素子51に連続して設けられた4つの副励振素子P1〜P4の導電性又は絶縁性を制御するものである。受信信号の品質は、IEEE802.11a方式の場合、直交検波前のAGC(自動ゲインコントロール)信号をモニタ等することで得られる。もちろん、これに限られることはなく、受信信号の品質は復号データ検出等により判別してもよい。
例えば、制御装置46では、RSSIが一定の範囲内に入っているか否かを判別する。RSSIが一定の範囲内に入っていない場合、例えば、下限閾値よりもRSSIが低い場合や、RSSIが上限閾値を越える場合に、制御装置46は、機能制御回路57へ偏波切換えを指示制御する機能制御データD21を出力する。これにより、アンテナANT1’,ANT2’の放射偏波を制御できるようになる(偏波ダイバーシティ)。
制御装置46は、第4の実施例と同様にして、受信回路44a,44bにより受信された受信信号の品質に応じて送信回路45a、45bからアンテナANT1’,ANT2’へ給電(送信)される送信信号のサブキャリア変調方式を制御するようになされる。このサブキャリア変調方式の制御を通じて、使用環境に適したMIMO通信(伝送)方式を実現できるようになる。
制御装置46には、記録媒体の一例となるメモリ部48が接続され、MIMO通信方式による信号を送受信する無線通信装置用の制御プログラムが記憶される。メモリ部48には、読み出し専用メモリ(ROM)、情報の随時書き込み及び読み出し可能なメモリ(RAM)、情報の電気的な消去及び書き込み可能な読み出しメモリ(EEPROM)又はハードディスク装置(HDD)が使用される。
この制御プログラムには、アンテナANT1’及びANT2’の制御電極52a,52b,52c,52dへの直流バイアス電圧を設定するステップと、ここに設定された制御電極52a,52b,52c、52dへの直流バイアス電圧によって構成される方形パッチアンテナの通信品質を検出するステップと、ここに検出された方形パッチアンテナの通信品質に基づいて制御電極52a,52b,52c、52dへの直流バイアス電圧の設定を保持するステップと、ここに保持された制御電極52a,52b,52c、52dへの直流バイアス電圧の設定によって通信を実行するステップとが含まれるものである。
このメモリ部48に格納された制御プログラムを利用することで、主励振素子51、副励振素子P1〜P4との組み合わせによって構成される3種類の方形パッチアンテナから選択され、しかも、最適な状態に設定された方形パッチアンテナを利用して、直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の信号を送受信できるようになる。
上述の機能制御回路57は、制御装置46から機能制御データD21を入力し、機能制御データD21に基づいて機能選択信号(直流バイアス電圧)S31〜S34及びS41〜S44を発生し、アンテナANT1’に関して、機能選択信号S31を副励振素子P1に供給し、機能選択信号S32を副励振素子P2に供給する。また、その機能選択信号S33を副励振素子P3に供給し、機能選択信号S34を副励振素子P4に供給する。これらの機能選択信号S31〜S34に基づいて、アンテナANT1’の副励振素子P1〜P4を導電性又は絶縁性に制御することができる。
機能制御回路57は制御装置46から機能制御データD21を入力し、アンテナANT2’に関して、機能選択信号S41を副励振素子P1に供給し、機能選択信号S42を副励振素子P2に供給する。また、その機能選択信号S43を副励振素子P3に供給し、機能選択信号S44を副励振素子P4に供給する。これらの機能選択信号S41〜S44に基づいて、アンテナANT2’の副励振素子P1〜P4を導電性/絶縁性に制御することができる。
この例で、主励振素子51で2つの対角線方向のそれぞれの隅に時計回りに、制御電極52a,52b,52c,52dを有した副励振素子P1〜P4が各々配置され、一方の対角線方向の2つの副励振素子P1,P3の制御電極52a,52cへ順方向バイアス電圧を供給し、他方の対角線方向の2つの副励振素子P2,P4の制御電極52b,52dへ逆方向バイアス電圧を供給する。このようなバイアス電圧を供給すると、一方の2つの副励振素子P1及びP3は導電性(ドーピング)に変化し、他方の2つの副励振素子P2及びP4は絶縁性(脱ドーピング)に変化する。
反対に、制御電極52a,52cへ逆方向バイアス電圧を供給し、制御電極52b,52dへ順方向バイアス電圧を供給する。この結果、副励振素子P1及びP3が絶縁性になり、副励振素子P2及びP4が導電性になる。これにより、副励振素子P1〜P4の導電性又は絶縁性により、円偏波の右旋・左旋を選択することができる。全ての制御電極52a,52b,52c、52dへ順方向バイアス電圧を供給することで、全ての副励振素子P1〜P4を導電性にすることができ、直線偏波を選択することができる。
表2は、4個の副励振素子P1〜P4の組み合わせと、そのアンテナ装置500の動作例を示している。表2によれば、アンテナANT1’による方形パッチアンテナの副励振素子P1及びP3が導電性で、ANT1’の副励振素子P2及びP4が絶縁性である場合は、ANT1’が右旋偏波(RHCP)となる。アンテナANT2’による方形パッチアンテナ(以下ANT2’という)の副励振素子P1及びP3が絶縁性で、ANT2’の副励振素子P2及びP4が導電性である場合は、ANT2’が左旋偏波(LHCP)となる。
また、ANT1’の副励振素子P1及びP3が絶縁性で、ANT1’の副励振素子P2及びP4が導電性の場合に、ANT1’が左旋偏波(LHCP)である。ANT2’の副励振素子P1及びP3が導電性で、ANT2’の副励振素子P2及びP4が絶縁性の場合に、ANT2’が右旋偏波(RHCP)である。
更に、ANT1’の副励振素子P1〜P4がいずれも導電性である場合は、ANT1’は直線偏波(LINEAR)である。ANT2’の副励振素子P1〜P4がいずれも導電性である場合は、ANT2’は直線偏波(LINEAR)である。上述の”導電性”である場合とは、アンテナANT1’やANT2’等の主励振素子51と、副励振素子P1〜P4とが電気的に接続された状態である。幾何学等価パターンで示すと、主励振素子51と副励振素子P1〜P4とが同一平面上で一体化した状態である。反対に、”絶縁性”の場合とは、その逆の状態とする。等価パターンで示すと、主励振素子51の隅が欠けて、副励振素子P1〜P4が同一平面上には電気的に見えない状態である。
このように、4個の副励振素子P1〜P4を全て”導電性”にすれば、円偏波ではなくなって、直線偏波となる。即ち、アンテナANT1’,ANT2’による方形パッチアンテナでは、右旋偏波・左旋偏波・直線偏波の3種類を選択することが可能である。この3つの放射偏波を通信状態がベストとなるように選択してやれば、ユーザの使用する伝搬環境に最も適した伝送をすることができる。
続いて、本発明に係る無線通信装置の制御方法について説明する。図19は、アンテナ装置500を応用した無線通信装置700の制御例を示すフローチャートである。
この実施例では、八角形状を有して誘電性の基板29上に配置された導電性の主励振素子51と当該主励振素子51の対角線方向に偏波制御用の副励振素子P1〜P4とを備え、その制御電極52a,52b,52c,52dに供給する直流バイアス電圧を制御することにより、その導電性又は絶縁性を利用した方形パッチアンテナの放射偏波を切り換えるアンテナANT1’,ANT2’を有してMIMO通信方式による信号を送受信する場合を前提とする。
この例のMIMO通信方式によれば、副励振素子P1〜P4の導電性又は絶縁性の組み合わせをN(i=1〜N)通りに変化させて、第4の実施例と同様にして、伝送速度が最大となる設定を抽出する(見出す)。更に、サブキャリア変調をM(j=1〜M)通り、例えば、64QAM→16QAM→8PSK→QPSKというようにサブキャリアを変化させて伝送速度が最大となるアンテナの状態を設定して、相手方の無線通信装置と送受信処理を実行するようになされる。
このような動作設定条件を前提にして、図19に示すフローチャートのステップC1でサブキャリアをj=1に設定する。例えば、サブキャリアを64QAMに設定する。その後、ステップC2で各々のアンテナANT1’及びANT2’の副励振素子P1〜P4の導電性/絶縁性の組み合わせをi=1に設定する。このとき、アンテナANT1’及びANT2’の制御電極52a,52b,52c,52dへの直流バイアス電圧を設定する。これらの設定j=1及びi=1における伝送速度をステップC3で測定する。例えば、受信感度(受信強度RSSI)を測定する。これは、設定された制御電極52a,52b,52c、52dへの直流バイアス電圧によって構成される方形パッチアンテナの通信品質を検出するためである。
その後、ステップC4に移行して、伝送速度が最大となったか否かを判別(検出)する。伝送速度が最大となった場合は、ステップC5に移行して各々のアンテナANT1’及びANT2’の副励振素子P1〜P4の導電性又は絶縁性の組み合わせの設定を記録(登録)する。このとき、先に出された方形パッチアンテナの通信品質に基づく制御電極52a,52b,52c,52dへの直流バイアス電圧の設定が保持される。
その後、ステップC6に移行して、副励振素子P1〜P4の導電性又は絶縁性の組み合わせ番号を1つインクリメント(i=i+1)とする。その後、ステップC7に移行して、N通りの副励振素子P1〜P4の導電性又は絶縁性の組み合わせを実行したかを判別する。その組み合わせがi<Nの場合は、ステップC3に戻って伝送速度を測定する。その後、ステップC4の最大値判別を繰り返すようになされる。
そして、ステップC7で副励振素子P1〜P4の導電性又は絶縁性の組み合わせがi=Nとなった場合は、ステップC8に移行してサブキャリアの可変ステップをj=j+1(インクリメント)する。例えば、サブキャリアを64QAMから16QAMに切換えて、ステップC2に戻る。
ステップC2で各々のアンテナANT1’及びANT2’の副励振素子P1〜P4の導電性又は絶縁性の組み合わせをi=1に設定する。これらの設定j=2及びi=1における伝送速度をステップC3で測定する。その後、ステップC4に移行して、方形パッチアンテナの通信品質が最適であるか否かを判別するために、伝送速度が最大となったか否かを検出する。伝送速度が最大となった場合は、ステップC5に移行して、先に検出された通信品質の最適な各々のアンテナANT1及びANT2の導電性又は絶縁性の組み合わせの設定を記録(登録)する。その後、ステップC6に移行する。このように最適であると判別された副励振素子P1〜P4の設定を更新保持するステップC2〜B7を順次繰り返すようになされる。
そして、ステップC7で副励振素子P1〜P4の導電性又は絶縁性の組み合わせがi=Nとなった場合であって、ステップC8に移行してサブキャリアの可変ステップでj=j+1して、ステップC9でj<Mの場合は、ステップC2に戻って上述した処理を繰り返す。そして、ステップC9でj=Mに到達した場合は、ステップC10に移行して設定を固定するようになされる。これにより、最適な通信品質が検出された副励振素子P1〜P4への直流バイアス電圧の設定によって組み合わされたアンテナANT1’又はANT2’を用いて通信を実行でき、その際の偏波方式を使用することにより、使用環境に適したMIMO通信方式よる無線通信処理を実現できるようになる。
図20A及びBは、MIMO通信方式における無線通信装置701、702間の非反射時の送受信例を示す図である。
この実施例では、データの送信および受信処理において、2本のアンテナANT1’,ANT2’を使用してMIMO通信方式を実現する場合であって、マルチパス環境を利用して通信処理を実行する場合を前提とする。例えば、図20Aに示す無線通信装置701には図18に示した無線通信装置700が応用され、第5又は第6の実施例で説明したアンテナ装置500又は600を応用した2本の方形パッチアンテナANT1’及びANT2’が配置される。
この例で、無線通信装置701のアンテナANT1’は、副励振素子P1及びP3が導電性になされ、他の副励振素子P2及びP4が絶縁性になされ、右旋偏波に設定されている。幾何学等価パターンで示すと、アンテナANT1’の右上と左下が欠けた方形パッチパターンとなる。アンテナANT1’は右旋偏波のデータDaを輻射(放射)する場合である。
また、そのアンテナANT2’は、副励振素子P2及びP4が導電性になされ、他の副励振素子P1及びP3が絶縁性になされ、左旋偏波に設定されている。幾何学等価パターンで示すと、アンテナANT2’の左上と右下が欠けた方形パッチパターンとなる。アンテナANT2’は左旋偏波のデータDbを輻射する場合である。
図20Bに示す無線通信装置702にも、図18に示した無線通信装置700が応用され、第5又は第6の実施例で説明したアンテナ装置500又は600を応用した2本の方形パッチアンテナANT1’及びANT2’が配置される。この例で、無線通信装置702のアンテナANT1’は、副励振素子P1及びP3が導電性になされ、他の副励振素子P2及びP4が絶縁性になされ、右旋偏波に設定されている。幾何学等価パターンで示すと、アンテナANT1’の右上と左下が欠けた方形パッチパターンとなる。アンテナANT1’は右旋偏波のデータDaを輻射(放射)する場合である。
また、そのアンテナANT2’は、副励振素子P2及びP4が導電性になされ、他の副励振素子P1及びP3が絶縁性になされ、左旋偏波に設定されている。幾何学等価パターンで示すと、アンテナANT2’の左上と右下が欠けた方形パッチパターンとなる。アンテナANT2’は左旋偏波のデータDbを輻射する場合である。
このように偏波が設定されたMIMO通信システムにおいて、マルチパス環境下に反射物等が無い場合は、無線通信装置701のアンテナANT1’は右旋偏波のデータDaを無線通信装置702で右旋偏波受信に設定されたアンテナANT1’によってデータDaが受信され処理される。同様にして、無線通信装置701のアンテナANT2’は左旋偏波のデータDbを無線通信装置702で左旋偏波受信に設定されたアンテナANT2’によってデータDaが受信され処理される。
図21A及びBは、MIMO通信方式における無線通信装置701、702間に反射物403が存在する場合の送受信例を示す図である。
この実施例でMIMO通信方式によれば、マルチパス環境下の反射物403による反射の影響により、当初直交させようとした偏波同士が干渉を起こす場合がある。図20A及びBに示した例を採ると、片方のアンテナANT1’からの放射電波が1回反射を受けた場合、その偏波は逆旋波になるため、アンテナANT1’及びANT2’からの放射時には、右旋偏波と左旋偏波を区別していたにもかかわらず、結局は同旋波となって干渉を起こしてしまうことになる。一方、両方のアンテナANT1’及びANT2’から同旋波で放射させたとしても、片方側に反射物403があって、反射の影響を受けたにも係わらず、その偏波は逆旋波になるため、干渉を起こさなくなることがある。
このように、マルチパスリッチな環境では偏波が様々に変化しており、放射させる時点で直交性を持たせたとしても、電波環境によってはそれが通信特性にとって必ずしも優位な結果とはならない場合がある。例えば、図21Aに示す無線通信装置701のアンテナANT2’から輻射された左旋偏波のデータDbは、図21Bに示す無線通信装置702に対して直接波となって受信される。無線通信装置701のアンテナANT1’から輻射された右旋偏波のデータDaは、図20Bに示す無線通信装置702に対して反射波となって受信される。
このような場合に、受信側の無線通信装置702のアンテナANT2’の設定は、そのままにして、アンテナANT1’のみを右旋から左旋偏波に切換えて使用する。すなわち、無線通信装置702のアンテナANT1’の副励振素子P1、P3=導電性から絶縁性に切換え、更に、その副励振素子P2、P4=絶縁性から導電性に切換えることで、却って、干渉を起こさなくなることがある。この例では、受信感度(受信強度RSSI等)を検出して、このRSSIに応じて適宜、受信側の無線通信装置702で容易に右旋から左旋又は左旋から右旋へ偏波を切換えるようになされる。
図22は、直流バイアス電圧(偏波)切換制御時の閾値設定例を示すRSSIの検出レベル図である。図23は、受信側の無線通信装置702における偏波切換時の制御例を示すフローチャートである。
この例でRSSIに応じて、受信側の無線通信装置702等で、右旋から左旋又は左旋から右旋へ偏波を切換える場合に、第4の実施例と同様にして、図22に示すように、RSSIの検出レベルに対して下限閾値Lth1及び上限閾値Lth2(Lth1<Lth2)が設定され、この下限及び上限閾値Lth1、Lth2に基づいて、右旋・左旋偏波を切換える場合を前提とする。
この例では、RSSIと、上限閾値Lth2との関係がRSSI>Lth2となった場合及び、そのRSSIと下限閾値Lth1との関係がそのRSSI<Lth1となった場合に、副励振素子P1〜P4の制御電極52a〜52dへの直流バイアス電圧を切換えて偏波切換設定を実行する。なお、当該RSSIと下限及び上限閾値Lth1、Lth2との関係がLth1≦RSSI<Lth2となる場合には、偏波切換えを行わずに、現状の受信状態を維持する場合を例に挙げる。
これらを直流バイアス電圧(偏波)切換条件にして、図23に示すフローチャートのステップE1でRSSIを検出する。RSSIは無線通信装置702の受信回路44aや44b等が検出してRSSI検出データを制御装置46に出力する。次に、ステップE2で制御装置46は、RSSI検出データに基づいてRSSIと上限閾値Lth2とを比較してRSSI>Lth2か否かを判別する。RSSI>Lth2の場合は、ステップE3に移行して副励振素子P1〜P4の制御電極52a〜52dへの直流バイアス電圧を切換えて偏波切換設定を実行する(図21A,B参照)。
その後、ステップE4に移行して制御装置46は、下限及び上限閾値Lth1、Lth2との関係がLth1≦RSSI<Lth2であるか否かを判別する。RSSI、下限及び上限閾値Lth1、Lth2との関係がLth1≦RSSI<Lth2となる場合は、現状の受信状態を維持する。
上述のステップE2でRSSI>Lth2ではない場合、すなわち、RSSIがLth2以下の場合は、ステップE6に移行する。また、ステップE4でRSSI、下限及び上限閾値Lth1、Lth2との関係がLth1≦RSSI<Lth2でない場合は、ステップE5に移行して、直流バイアス電圧の切換え設定を元に戻した後に、ステップE6に移行する。ステップE6で制御装置46は、RSSIと下限閾値Lth1とを比較してRSSI≦Lth1か否かを判別する。
RSSI≦がLth1の場合は、ステップE8に移行して制御装置46は、直流バイアス電圧の切換えて偏波切換設定を実行する。その後、ステップE9に移行して制御装置46は、RSSI、下限及び上限閾値Lth1、Lth2との関係がLth1≦RSSI<Lth2であるか否かを判別する。Lth1≦RSSI<Lth2の場合は、現状の受信状態を維持する。
また、ステップE9でRSSI、下限及び上限閾値Lth1、Lth2との関係がLth1≦RSSI<Lth2でない場合は、ステップE10に移行して、直流バイアス電圧の切換え設定を元に戻すと共に、ステップE11に移行してサブキャリアを変更する。その後、ステップE1に戻って上述した処理を繰り返すようになされる。
このように、第7の実施例としての無線通信装置及びその制御方法によれば、本発明に係るアンテナANT1’及びANT2’が応用され、誘電性の基板29上には、八角形状を有した導電性の主励振素子51が配置され、この主励振素子51の対角線方向には、偏波制御用の半導電性の副励振素子P1〜P4が配置される。この副励振素子P1〜P4には制御電極52a,52b,52c、52dが設けられ、この制御電極52a,52b,52c、52dに供給する直流バイアス電圧を制御するようになされる。
上述した例では、一方の対角線方向の2つの副励振素子P1,P3の制御電極52a,52cへ順方向バイアス電圧を供給し、他方の対角線方向の2つの副励振素子P2,P4の制御電極52b,52dへ逆方向バイアス電圧を供給すると、主励振素子51と副励振素子P1、P3とが電気的に接続され、他方の対角線方向の副励振素子P2,P4は、絶縁された状態となるので、右旋偏波の特性を示す円偏波のアンテナ体を構成することができる。
また、副励振素子P1,P3の制御電極52a,52cへ逆方向バイアス電圧を供給し、副励振素子P2,P4の制御電極52b,52dへ順方向バイアス電圧を供給すると、主励振素子51と副励振素子P2、P4とが電気的に接続され、他方の対角線方向の副励振素子P1,P3は、絶縁された状態となるので、左旋偏波の特性を示す円偏波のアンテナ体を構成することができる。
更に、2つの対角線方向の四隅の制御電極52a,52b,52c,52dに全て順方向バイアス電圧を供給すると、直線偏波のアンテナ体を構成することができる。このように、制御電極52a,52b,52c、52dへの直流バイアス電圧の制御によって、副励振素子P1〜P4の導電性又は絶縁性を切り分け制御ができるので、主励振素子51と副励振素子P1〜P4と導電性又は絶縁性の組み合わせを選択できるようになる。従って、方形パッチアンテナの放射偏波を切り換えることができ、第4の実施例と同様にして直線偏波、右旋偏波及び左旋偏波の3種類のアンテナを1つの構造体で構成できるようになる。
また、コスト削減等の目的で、例えば、主励振素子51とこれに連続する4個の副励振素子P1〜P4を、対角線上の四隅すべてに設けず、一方の対角線上のみの2箇所だけに設け、もう一方の対角線上には、切り欠きをしないで主励振素子51の角を残しておく。そして、これらの2カ所の副励振素子P1,P3の導電性又は絶縁性を切り換えることにより、円偏波(右旋ないし左旋)と直線偏波の切り換えを行って、最適な通信品質が検出する、といったことも可能となる。
この実施例では、第5の実施例で説明した方形パッチアンテナANT1’及びANT2’を応用する場合について説明したが、これに限られることはなく、第6の実施例で説明した円形パッチパターンを有したアンテナ装置600を複数本実装した無線通信装置700を構成してもよい。第7の実施例と同様な効果が得られる。
この発明は、複数の方形パッチアンテナを使用して信号を同時に送受信するMIMO通信システムに適用して極めて好適である。
本発明に係る第1の実施例としてのアンテナ装置100の構成例を示す図である。
(A)及び(B)は、アンテナ装置100の構造例を示す上面図及びそのX1−X1矢視断面図である。
(A)〜(C)は、アンテナ装置100の積層構造例を示す分解上面図である。
第2の実施例としてのアンテナ装置200の構成例を示す上面図である。
(A)〜(C)は、MEMSスイッチSW1’等の構成例及びその動作例を示す上面図及び断面図である。
第3の実施例としてのアンテナ装置300の構成例を示す図である。
アンテナ装置100を応用した第4の実施例としての無線通信装置400の構成例を示すブロック図である。
アンテナ装置100を応用した無線通信装置400の制御例を示すフローチャートである。
(A)及び(B)は、MIMO通信方式における無線通信装置401、402間の非反射時の送受信例を示す図である。
(A)及び(B)は、MIMO通信方式における無線通信装置401、202間に反射物403が存在する場合の送受信例を示す図である。
スイッチ(偏波)切換制御時の閾値設定例を示すRSSIの検出レベル図である。
受信側の無線通信装置402における偏波切換時の制御例を示すフローチャートである。
第5の実施例としてのアンテナ装置500の構成例を示す図である。
(A)及び(B)は、アンテナ装置500の構造例を示す上面図及びそのX1−X1矢視断面図である。
(A)〜(C)は、アンテナ装置500の積層構造例を示す分解上面図である。
(A)及び(B)は、副励振素子P1等を導電性又は絶縁性にする制御例を示す断面図である。
第6の実施例としてのアンテナ装置600の構成例を示す図である。
アンテナ装置500を応用した第7の実施例としての無線通信装置700の構成例を示すブロック図である。
アンテナ装置500を応用した無線通信装置700の制御例を示すフローチャートである。
(A)及び(B)は、MIMO通信方式における無線通信装置701、702間の非反射時の送受信例を示す図である。
(A)及び(B)は、MIMO通信方式における無線通信装置701、702間に反射物403が存在する場合の送受信例を示す図である。
直流バイアス電圧(偏波)切換制御時の閾値設定例を示すRSSIの検出レベル図である。
受信側の無線通信装置702における偏波切換時の制御例を示すフローチャートである。
従来例に係るMIMO通信方式による信号伝搬時の構成例を示す図である。
MIMO通信方式における直線偏波用のアンテナ取付け例を示す斜視図である。
MIMO通信方式における円偏波用のアンテナ取付け例を示す正面図である。
送信端末装置=右旋・右旋偏波設定時の受信端末装置における受信例を示す概念図である。
送信端末装置=右旋・左旋偏波設定時の受信端末装置における受信例を示す概念図である。
符号の説明
11,31,51,61・・・主励振素子、12a〜12d,P1〜P4・・・副励振素子、13a〜13d・・・制御端子、17・・・接地パターン17、18・・・ストリップライン、19・・・絶縁性の基板、29・・・誘電性の基板、40,40’・・・通信制御ユニット、41,42・・・送受切換スイッチ、44a,44b・・・受信回路、45a,45b・・・送信回路、46・・・制御装置、47・・・スイッチ制御回路、52a〜52d・・・制御電極、57・・・機能制御回路、100,200,300,500,600・・・アンテナ装置、400,401,402,700,701,702・・・無線通信装置