明 細 書
動物由来蛋白なしで培養可能な猫の細胞、これを用いたウィルスの生産 方法、及びワクチンの生産方法
技術分野
[0001] 本発明は、動物由来蛋白なしで培養可能な猫の細胞株及びその作出方法に関す る。また、本発明は、この細胞株を用いたウィルスの生産方法、診断用抗原の製造方 法、ワクチンの製造方法、診断用試験法に関する。さらに、本発明は、この細胞株の 培養に用いる培地に関する。
背景技術
[0002] 動物などの細胞を試験管内で培養する技術は創成されてから半世紀以上経過し、 科学技術の進歩に相まって格段の進展をみて 、る。
[0003] 一般に、生きている動物を直接試験した場合は結果の理解は容易であるが、技 術的にも経済的にも多くの問題点がある。そこで、動物の一部を取り出し、シャーレ や試験管などの人工環境内で細胞が増殖されるようになった。これは、組織培養法 又は細胞培養法と呼ばれている。そのような技術は難しくないために、この方法により 、医薬品、ワクチン及び診断用抗原などを作成することが可能となった。しかし、動物 細胞を生体外で培養するためには、元の生体の環境となるべく同じ条件で培養する ことが求められる。例えば、無菌状態、温度環境を生体と同じ温度にする等の条件で ある。
[0004] さらに、上記の条件を満たしても、細胞の分裂増殖のためには、栄養源として、「細 胞成長因子: cell growth factor」を追加供給する必要があった。細胞成長因子として は、例えば、各種ホルモン、インスリン、プトレシン、線維芽細胞増殖因子が挙げられ る。しかし、細胞成長因子は全ての細胞種で解明されたわけではない。
[0005] そこで、細胞成長因子の代わりに、その効果が非特異的に期待でき、多くの「unkno wn」な成分を含む動物血清が用いられる。動物血清の中でも、個体数が多ぐ安定 的に供給可能であるということから牛血清が選択される。さらに、毒性のある蛋白質が 少ない胎仔の血清が、頻繁に使われるようになった。科学的研究の場合には、牛が
目的外の動物種であっても、牛に由来する蛋白を試験研究材料中に含むことが許さ れる場合がある。しかし、牛由来の蛋白を、医薬品として人及び他の動物種に対して 用いると、問題が起こる場合がある。
[0006] 第 1の問題はアレルギーに関する。ゥシ血清が入っているワクチンや薬剤を、牛以 外の人や動物に非経口的に注射した場合、初回では多くは問題にはならない。しか しながら、 2回目の注射以降にはアレルギー反応として問題ィ匕する場合がある。これ は免疫学的に説明される。即ち、動物は初めて暴露した高分子物質 (例えば分子量 が 10,000ドルトン以上の蛋白質)には低い反応し力示さず、投与された物質は体内で 分解処理されてしまう。しかし、免疫系組織には暴露の記憶が残される。そのため、 同じ物質 (抗原)の次回以降の暴露時には初回時の記憶免疫細胞が直接反応し、短 時間内に初回より強く生体反応が起きてくる。人や動物の個体によっては、これら外 力 暴露された抗原に対して望ましくない反応をする場合がある。それが典型的には アレルギー反応と呼ばれる。アレルギー反応により、注射局所の発熱や腫脹、ひどい 場合は気管閉塞による呼吸困難、虚脱などのために死亡する。
[0007] 第 2番目の問題は、牛血清中に含まれる病原体又は牛血清抗体の混入に関する。
例えば、牛に感染するぺスチウィルス、レトロウイルス、あるいはマイコプラズマなどの 汚染が有名である。最近は、牛海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy: BSE )、 、わゆる「狂牛病」の病原体であるプリオンの混入が問題となって!/、る。
[0008] 上記の通り、牛血清の使用には問題点があるのにもかかわらず、特に動物を対象と する獣医療領域で用いられるワクチンの製造には牛血清が世界中で習慣的に使わ れてきている。
[0009] しかし、最近になって、牛血清を細胞培養法に用いな 、試み (無血清培地: SFMお よび無血清細胞培養法)や、それを用いて牛用の試作ワクチンを作成したと 、う報告 力 S出てさた (Makoschey et al., Serum-free produced bovine herpesvirus type 1 and b ovine parainfluenza type 3 virus vaccines are efficacious and safe. Cytotechnology, 3 9: 139-145, 2002) oまた、細胞培養液から血清成分を取り除く代わりに、既存の培地 や新しく考案した培地に、各種ホルモンや細胞増殖因子らを添加して細胞を増殖さ せることは、以下の文献に開示されている。
[0010] (Froud, S. J. The development, benefits and disadvantages of serum-free media. B rown, F., Cartwright, Τ·, Horaud, F., Spieser, J. M. (eds): Animal sera, animal sera derivatives and substitutes used in the manufacture of pharmaceuticals: Viral safety and regulatory aspects. Dev. Biol. Stand., Basel, Karger, 1999, vol.99, pp 157—166.
Merten,〇·— W. Safety issues of animal products used in serum-free media. Brown, F., Cartwright, Τ·, Horaud, F., Spieser, J. M. (eds): Animal sera, animal sera deriva tives and substitutes used in the manufacture of pharmaceuticals: Viral safety and re gulatory aspects. Dev. Biol. Stand., Basel, Karger, 1999, vol.99, pp 167—180.
Merten,〇·— W. Development of serum-free media for cell growth and production of viruses/viral vaccines― Safety issues of animal products used in serum-free med ia. Brown, F., Hendriksen, C., Sesardic, D., Cussler, K. (eds): Advancing science a nd elimination of the use or laboratory animals for development and control of vaccin es and hormones. Dev. Biol. Stand., Basel, Karger, 2002, vol.111, pp 233-257.) さらに、植物由来成分を培地添加物として用いることについては、以下の文献に開 示されている。
[0011] Noe et al" Fed-batch strategies for mammalian cell cultures. In, Spier, R.E., urifti ths, J.B., Berthold, W. (eds): Animal Cell Technology: products of Today, prospects for tomorrow, Oxford, Butterworth— Heinemann, 1994, pp 413—418.
渋谷 和史ら、動物細胞培養用無血清培地、公表特許公報 (A)、特許出願公表番 号 P2002-520014A (公表日 2002年 7月 9日)。この文献には、独自に調整した培地に 、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物を添加し、あるいはさらにコムギ蛋白質 加水分解物を加えてチャイニーズノ、ムスター卵巣細胞を培養することが開示されて いる。また、ダイズ蛋白質加水分解物としては、各種、例えば、消化酵素による部分 的水解による可溶性ポリペプチドが開示されている。
[0012] Kwon, ¾.M. et al. Use of plant-derived protein hydrolysates ror enhancing growth of Bombyx mori (silkworm) insect cells in suspension culture. Biotechnol. Appl. Bioc hem., 42: 1-7, 2005。この文献には、カイコに由来する昆虫細胞の培養に従来の牛 血清の代替品として植物由来蛋白加水分解物(商品名 HyPep 1510; Difco Co., Detr
oit, MI, USA)が使用できることが開示されている力 培地の組成については開示さ れていない。
[0013] Chun, B.-H. et ai. Use of plant hydrolysates for varicella virus production in seru m- free medium. Biotechnol. Letters 27: 243-248, 2005。この文献には、人胎子肺細 胞 (MRC— 5)を Dulbecco' s modified Eagle medium: DMEMと Nutrient mixture(Ham' s F-12)の 2 : 1混合液に牛血清を加えずに大豆蛋白加水分解物等を加えて培養し、 その細胞培養系で水痘ウィルスを培養することが開示されている。しかし、用いられ ている培地中には組換えヒトインスリン、組換えヒト上皮細胞増殖因子、および組換え ヒト線維芽細胞増殖因子が添加されており、動物蛋白を含んでいる。
[0014] バクスタ一'インターナショナル'インコーポレイテッド、細胞を培養するための動物 性タンパク質非含有培地、特許出願公表番号 P2005-532057A。この文献には、大豆 加水分解物と酵母加水分解物に由来する非動物由来ペプチドを用 Vヽる細胞培養法 、及び細胞として猫由来の CRFK細胞が開示されている。しかしながら、培地の組成 につ!、て開示されて!ヽな ヽ。
[0015] 上記の通り、従来は、動物由来蛋白を用いずに作出された猫由来細胞株、この培 養に用いる培地、猫用ワクチンに用いるウィルスの増殖法は開示されていな力つた。 また、猫に感染するウィルスは例外なく他の動物種由来の細胞ではほとんど増殖しな いため、他の動物に由来する細胞を動物由来蛋白なしで培養できたとしても、猫由 来細胞に応用できない。
[0016] したがって、動物由来蛋白を含まない培地で培養される猫由来細胞、これを培養 する動物由来の蛋白を含まない培地、及び猫用の安全なワクチン及び検査試薬等 が望まれていた。
発明の開示
[0017] 本発明の一態様は、猫全胎子由来細胞である fcwf-4細胞力 誘導した細胞株であ つて、動物由来の蛋白なしで培養可能である細胞株に関する。この細胞株は国際寄 託された細胞株又はこの細胞株と同等の生物学的性質を有する細胞株であってもよ い。
[0018] また、本発明の一態様は、 fcwf-4細胞を、血清及び細胞増殖因子を含む培養液に
川頁ィ匕させる工程と、 Dulbecco' s modified Eagle mediumと Nutrient mixture (Ham' s F— 12)の 1:1の混合液に複数種の大豆由来ペプトンを含有する培地であって、動物由来 の蛋白を含まない培地を用いて培養し、動物由来蛋白なしで培養可能である細胞株 を作出する工程とを含む細胞株の作出方法に関する。大豆由来ペプトンは、 Peptone from soybean(enzymatic digest, Fluka社製、 Catalogue No.87972)と、ポリペプトン S ( POLYPEPTON- S、カタログ番号 No.391- 00125、 日本製薬株式会社製)との組み合 わせが好ましい。
[0019] さらに、本発明の一態様は、細胞株にウィルスを感染させる工程と、感染した細胞 株を培養してウィルスを増殖させる工程とを含むウィルスの生産方法に関する。この 感染した細胞株を培養する際の培地は、 Dulbecco' s modified Eagle medium及び Nut rient mixture(Ham' s F-12)の 1:1の混合液に複数種の大豆由来ペプトンを含有する 培地であって、動物由来の蛋白を含まない培地であってもよい。大豆由来ペプトンは 、 Peptone from soybean (.enzymatic digest、 Fluka社 Catalogue No.87972)と、ポリ ペプトン S (POLYPEPTON- S、カタログ番号 No.391- 00125、 日本製薬株式会社製)と の組み合わせが好ま 、。感染した細胞株を培養する際に浮遊培養法を用いてもよ い。ウィルスは、コロナウィルス科、力リシウィルス科、ヘルぺスウィルス科、パルボウイ ルス科からなるウィルス群力も選ばれるウィルスであってもよい。また、ウィルスは、猫 力リシウィルス、猫へルぺスウィルス 1 (猫伝染性鼻気管炎ウィルス)、猫パルボウィル ス、猫汎白血球減少症ウィルス、 2型犬パルボウイルス、猫コロナウィルス、猫腸内コ ロナウィルス、猫伝染性腹膜炎ウィルス、犬コロナウィルス、犬呼吸器コロナウィルス 、豚伝染性胃腸炎ウィルス、豚流行性下痢症ウィルス、牛コロナウィルスカゝら選ばれ るゥイノレスであってもよ!/ヽ。
[0020] さらに、本発明の一態様は、上記の方法により生産されたウィルスを用いた診断用 抗原の製造方法に関する。
[0021] さらに、本発明の一態様は、上記の方法により生産されたウィルスを用いたワクチン の製造方法に関する。
[0022] さらに、本発明の一態様は、上記の方法により生産されたウィルスまたはウィルス抗 原を含有する診断用試験法に関する。
[0023] さらに、本発明の一態様は、動物由来の蛋白を含まず、 Dulbecco' s modified Eagle mediumと Nutrient mixture (Ham' s F- 12)の 1:1の混合液に、複数種の大豆由来ぺプ トンを含有する培地に関する。大豆由来ペプトンは、 Peptone from soybean(enzymati c digest, Fluka、 Catalogue No.87972)と、ポリペプトン S (POLYPEPTON- S、カタログ 番号 No.391-00125、日本製薬株式会社製)との組み合わせが好まし!/、。
[0024] 本発明の一態様によると、 fcwf-4細胞力 誘導した細胞株は動物由来の蛋白なし で培養されるため、これを用いて生産したウィルスを、ワクチン及び検査試薬とした場 合には、安全なワクチン及び検査試薬を提供することが可能である。
[0025] また、本発明の一態様によると、安価な市販の培地を用いてウィルスを増殖すること ができるため、これを用いて生産したウィルスをワクチンおよび検査試薬とした場合に は、安価なワクチンおよび検査試薬を提供することが可能である。
[0026] さらに、本発明の一態様によると、培地は動物由来の蛋白を含まないため、ウィル スを感染させた細胞をこの培地を用いて培養した場合に、安全なワクチン及び検査 試薬を提供することが可能である。
[0027] なお、本明細書において、「動物由来の蛋白を含まない」及び「動物由来の蛋白な し」とは、特に、アレルギーの原因になり得るような動物由来の蛋白成分を含まないこ とをいう。アレルギーの原因になり得る動物由来の蛋白としては、例えば、動物由来 の血清やその一部である血清アルブミン、細胞増殖因子等の動物性蛋白、及び動 物に由来する各種添カ卩物(Bacto Peptone, Tryptose Phosphate Broth等)が挙げら れる。
図面の簡単な説明
[0028] [図 1]図 1は、 fcwf-SF細胞、 30代目の培養 4日目 (培養開始後 3日目に培地交換した 翌日)の細胞の写真である。
[図 2]図 2は、 DFSP培地で継代 34代目の fcwf-SF細胞の増殖曲線の図である。
[図 3]図 3は、 7.5% MEM (7.5%牛胎子血清を添カ卩した Eagle' s MEM培地)で培養した 親細胞 fcwf-4細胞と、 DFSP培地で培養した fcwf-SF細胞での猫へルぺスウィルス 1型 C7301株の増殖曲線の図である。
[図 4]図 4は、 7.5% MEMで培養した親細胞 fcwf-4細胞と、 DFSP培地で培養した fcwf-S
F細胞での猫力リシウィルス F9株の増殖曲線の図である。
[図 5]図 5は、 fcwf-SF細胞における 1型猫コロナウィルスである猫伝染性腹膜炎ウィル ス Yayoi株増殖に伴って発現した CPEの図である。
[図 6]図 6は、 fcwf-SF細胞における 2型猫コロナウィルスである猫伝染性腹膜炎ウィル ス M91-267株の増殖に伴って発現した CPEの図である。 1型猫コロナウィルスと同じ ような細胞溶解性の CPEで、多核巨細胞の形成は顕著でなかった。
[図 7]図 7は、 fcwf-4細胞における 2型猫コロナウィルスである猫伝染性腹膜炎ウィルス M91-267株の増殖に伴って発現した CPEの図である。多核巨細胞形成を特徴とする
[図 8]図 8は、 7.5% MEMで培養した親細胞である fcwf-4細胞と、 DFSP培地で培養した fcwf-SF細胞での猫伝染性腹膜炎ウィルス M91-267株のウィルス増殖曲線の図であ る。
[図 9]図 9は、 7.5% MEMで培養した親細胞である fcwf-4細胞と、 DFSP培地で培養した fcwf-SF細胞での猫汎白血球減少症ウィルス TU-1株のウィルス増殖曲線の図である 発明を実施するための最良の形態
[0029] 猫に用いることのできる、安全かつ有効なワクチンの開発をするため、よりウィルス 感染スペクトルの広 ヽ猫全胎子由来細胞である fcwf-4細胞を選択した。 fcwf-4細胞 は、カリフォルニア大学獣医学部の Niels C. Pedersenが 1979年に作出した細胞系で 、猫胎子に由来する「マクロファージ」系の細胞である(Pedersen, N.C., J.F. Boyle, a nd K. Floyd. 1981. Infection studies in kittens, using feline infectious peritonitis viru s propagated in cell culture. Am. J. Vet. Res. 42: 363-367)。 fcwf- 4細胞は、作出者 自身によって ATCCに登録されて!、る (no.CRL-2787)。
[0030] fcwf-4細胞は、動物由来の蛋白を含まない市販の基礎培地、例えば、 Eagle' s ME M、 RPMI 1640 Medium^ McCoy' s 5A Medium^ Leiovitz' s L- 15 Medium^ Dulbecco' s modified Eagle medium (DMEM)、 Nutrient mixture(Ham, s F- 12)では牛血清を添 カロしないと増殖しない。そのため、 fcwf-4細胞を、段階的に順化継代する。
[0031] fcwf-4細胞の順ィ匕は、まず、牛胎子血清を含有する培地で、徐々に牛胎子血清の
濃度を下げながら培養することができる。培地としては、市販培地を利用してもよぐ 以下の例には限定されないが、例えば、組換え上皮細胞増殖因子を 10 ng/ml含む 商品名「VP- SFM」(Invitrogen社製、 Catalogue No.11681- 020)培地が挙げられる。 牛胎子血清の濃度は、 0.25%から 0.1%さらに 0.05%に変化させても良い。
[0032] 次に、無血清培地に大豆由来ペプトンを加えた培地で順ィ匕させることができる。無 血清培地としては、市販の培地を利用しても良ぐ以下の例には限定されないが、例 えば、 DMEM培地(Invitrogen社製、 Catalogue No.11885-084)と Nutrient mixture(Ha m' s F- 12、 Invitrogen社製、 Catalogue No.11765- 054)との混合培地が挙げられる。 大豆由来ペプトンとしては、以下の例には限定されないが、例えば、大豆ペプトン (P eptone from soybean^ enzymatic digest ^ Fluka社製、し ataiogue No.87972) 挙 tナゝら れる。培地として DMEM培地と Ham' s F-12培地に大豆ペプトンをカ卩えた混合培地(D F培地)を用いる場合は、各培地の混合重量比は 3:1〜1:3が好ましぐ 1: 1がより好ま しい。培地中の大豆ペプトンの最終濃度は、 250 μ g/ml〜3,000 μ g/mlが好ましぐよ り好ましくは 750 g/ml程度である。
[0033] 次に、無血清培地である Dulbecco' s modified Eagle medium (DMEM培地)と Nutrie nt mixture(Ham' s F-12)の混合液に、複数種の大豆由来ペプトンを加えた培地(以 下、 DFSP培地とする。)を用いて順化させる。 DMEM培地と Ham' s F-12の混合重量 比は 3:1〜1:3が好ましい。大豆由来ペプトンは複数種用いる。大豆由来ペプトンとし ては、以下の例には限定されないが、例えば、 Peptone from soybean (enzymatic dig est, Fluka社製、 Catalogue No.87972)や、ポリペプトン S (POLYPEPTON- S、カタ口 グ番号 No.391- 00125、日本製薬株式会社製)、 Pepton Hy-Soy (商標、 T, Sigma社製 、 Product No. P6463- 250G)ゝ Phytone (BBL社製)、 Soytone (Difco社製)が挙げられ る。これらの中でも、 Peptone from soybeanとポリペプトン Sとの組み合わせが好ましい 。大豆ペプトンの合計の添加量は、培地中 250 μ g/ml〜3,000 μ g/mlが好ましぐ 1,50 0 /z g/ml程度がより好ましい。
[0034] 培地には、動物由来の蛋白を含まない限りにおいて、抗生物質等の添加物を含ん でいてもよい。
[0035] 以下に、 DFSP培地の組成の一例を示す力 これに限定されるものではない。
[0036] (DFSP培地の作成の一例)
1) Dulbecco' s Modified Eagle Medium (DMEM、 Invitrogen社製、 Catalogue No. 11885)を準備する。
[0037] 2) F-12 Nutrient Mixture (Ham' s F— 12、 Invitrogen社製、 Catalogue No.11765) を準備する。
[0038] 3) DMEMと Ham' s F- 12の等量混合液を作成する。
[0039] 4)大 ϋペプトン (Peptone from soybean^ enzymatic digest、 Fluka社製、 Catalogu e No.87972) 15グラムを 1,000 ml滅菌蒸留水に溶解し、 220 nmフィルターで濾過後 、 3)の培地 100 ml当たり 5 mlを添加する(最終濃度 g/ml)。
[0040] 5)大豆ペプトン(日本製薬株式会社、ポリペプトン S: POLYPEPTON- S、カタログ 番号 No.391-00125、和光純薬工業株式会社販売) 15グラムを 1,000 ml滅菌蒸留水 に溶解し、 220 nmフィルターで濾過後、 3)の培地 100 ml当たり 5 mlになるよう、添カロ する (最終濃度 750 §/½1)。
[0041] 6) DMEMと Ham, s F- 12培地中に L-グルタミンが含まれて!/、な!/、場合は、 L-グル タミンを 300 mg/Lとなるよう添加する(最終濃度 300 μ g/ml)。
[0042] 7)抗生物質として、ペニシリン Gカリウムを 100 U/ml、硫酸ストレプトマイシンを 10 0 μ g/ml、アンフォテリシン Bを 2.5 μ g/mlとなるよう添加する( 、ずれも最終濃度)。
[0043] 動物由来蛋白なしで培養可能な猫の細胞は、次のようにして得ることができる。まず 、 fcwf-4細胞を、牛胎子血清濃度が 0.25%である VP-SFM培地で 5代継代し、さら〖こ、 牛胎子血清の濃度を 0.1%である VP-SFM培地で 5代継代し、さらに、牛胎子血清の 濃度が 0.05%である VP-SFM培地で 9代継代する。次に、 DMEM培地と Ham' s F-12 培地の混合比が 1:1であり大豆ペプトンを 750 g/ml含む DF培地で 21代継代する。 次に、 DMEM培地と Ham' s F-12培地の混合比力 1:1である大豆ペプトン 750 g/ml 及びポリペプトン S 750 g/mlを含む DFSP培地で継代すると、 DFSP培地に順化し、 新たに誘導された細胞株が得られる。本願出願人は、さらに DFSP培地で 25代まで継 代した細胞株を、 fcwf-SF株として、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物 寄託センター(茨城県つくば巿東 1-1-1)に受領番号 FERM ABP-10594 (原寄託日 20 06年 3月 31日)として国際寄託した。
[0044] fcwf-SF細胞株に、 fcwf-4細胞株に対して感受性のあるウィルスを感染させ、感染し た細胞株を培養して増殖させることにより、ウィルスを生産することができる。ウィルス を培養する際の培地は、動物由来の蛋白を含まない培地が好ましぐ上記の DFSP培 地がより好ましい。
[0045] 培養の際の培養器は、プラスチック製容器でもガラス製の容器の 、ずれでもよ 、。
例えば、 25 cm2Tフラスコ、 6 cm直径プラスチックシャーレなどの非ガラス製の容器と それに該当する再生可能なガラス製の容器が挙げられる。なかでも、培養条件を一 定にすることが容易なデイスポーザルのプラスチック製培養器が好ましい。
[0046] 感染した細胞株の培養に、公知の方法を用いることができる。公知の方法としては 、例えば、単層培養法および浮遊培養法が挙げられる。
[0047] 単層培養法としては、例えば、容器内面に単層培養させた細胞に、 目的とするウイ ルスを感染させ、静置培養あるいは回転培養することで培養上清中にウィルスを調 製することができる。容器としては、例えば、平板培養容器や回転培養瓶が挙げられ 、具体的には、例えば、シャーレ、 Tフラスコが挙げられる。この際の容器の基質は、 非ガラスが好ましぐプラスチックがより好ま 、。
[0048] 浮遊培養法としては、例えば、マイクロキャリアビーズを用いたマイクロキャリア法が 挙げられる。マイクロキャリア法としては、例えば、バイオリアクター (培養タンク)内で 微小球形粒子 (マイクロキャリアビーズ)の表面に細胞を単層に増殖させ、次 、で増 殖したマイクロキャリアビーズ上の細胞にウィルスを感染させた後、攪拌しながら培養 することでその培養液中に目的とするウィルスを調製することができる。マイクロキヤリ ァビーズの材質としては、例えば、セラミックス、デキストラン、ガラス、シリコン、プラス チックおよびポリアクリルアミド製等が挙げられる。市販のビーズとしては、例えば、 A mersham Bioscience社製の Cytodex (商標) 1が挙げられる。
[0049] fcwf-4細胞に感受性のあるウィルスとしては、以下の例には限定されないが、多くの 猫(Felis catus)や猫科動物に感染するパルボウイルス科のウィルスである猫汎白血 球減少症ウィルス (Feline panleukopenia virus)、ヘルぺスウィルス科のウィルスであ る猫へルぺスウィルス 1 (Feline herpesvirus- 1;別名、猫伝染性鼻気管炎ウィルス)、
広くコロナウィルス科の各種ウィルスが挙げられる。特にグループ 1コロナウィルスに 属する猫コロナウィルスである猫腸内コロナウィルス(Feline enteric coronavirus)と猫 伝染'性腹膜炎ウイノレス(Feline infectious peritonitis virus)、犬コロナウイノレス(Canine coronavirus)、 ¾ 1zs染'性胃月昜炎ウイノレス (Transmissible gastroenteritis virus)、膝流 行'性下痢ウイノレス(Porcine epidemic diarrhea virus)、あるいはグノレープ 2コロナウイ ノレスに属する牛コロナウイノレス (Bovine coronavirus)などのコロナウイノレスにも高!ヽ感 受性を示す。
[0050] 本発明の方法により生産されたウィルスを回収、精製して、ワクチンや診断薬用の 抗原物質として使用することができる。ウィルスの回収、精製には、公知の方法を用 いることができ、例えば、細胞を凍結溶解することにより細胞を破壊し、融解液を遠心 分離して細胞や細胞破壊物を取り除き、上澄液をウィルス液として回収してもよ ヽ。
[0051] ワクチンとする場合には、不活ィ匕ワクチンとしても、生ワクチンとしてもょ 、。不活ィ匕 ワクチンとする場合は、回収、精製したウィルスをホルマリンなどにより不活ィ匕し、不活 化したウィルスにアジュバントを添加して製造してもよい。また、生ワクチンの場合は、 弱毒化したウィルスを、生産した後、回収 '精製し、これにアジュバントを添加して製 造してもよい。ワクチン中のウィルスの量は、ワクチンを接種する猫に対して、標的と するウィルスの感染を阻止できる程度の免疫を付与するに十分な量である。一般に は、 1 X 103 5TCID /ml〜l X 105 °TCID /ml以上のウィルス量である。使用できるアジ
50 50
ュバントは、ワクチンを接種する猫に、全身性感染防御免疫や局所感染防御免疫を 付与できるアジュバントが挙げられる。
[0052] 感染診断薬とこれを用いた診断用試験法とする場合には、上記の様に不活ィ匕した ウィルスを抗原とする力、もしくはウィルスから単離した抗原を ELISAプレートや-トロ セルロース膜などの支持体に固定することにより調整することができる。感染診断薬 は猫の血清中に存在する抗体と結合させた後、西洋ヮサビパーォキシダーゼやアル カリ性フォスファターゼなどを結合させた二次抗体との反応及びそれに続く呈色反応 などの公知の反応を実施することにより視覚化することができ、各種ウィルスに感染し た猫の血中抗体の有無、すなわち感染の有無を検出 ·確認することができる。
[0053] 細胞を低温保存する場合には、本発明による DFSP培地にジメチルスルホキシド (Di
methyl sulfoxide : DMSO)をカ卩えた培地を用いることができる。 DMSOとしては、例えば 、 Wako Pure Chemical Industries, Ltd.製、 Catalogue No.043- 07216が入手可能で ある。 DMSOの濃度は、 DFSP培地中で 7.5%〜20%が好ましぐ 10%程度がより好まし い。
[0054] 以下の実施例により、本願発明は、さらに詳細に説明されるが、これら実施例に限 定されるものではない。なお、本明細書において「%」は、特に断りのない限り、「重量% 」の意味である。
[0055] (実施例 1 DFSP培地を用いた fcwf-SF株の作出)
まず、 fcwf-4細胞の順化は、牛胎子血清を含有する市販培地で、徐々に牛胎子血 清の濃度を下げながら培養した。つまり、組換え上皮細胞増殖因子を 10 ng/ml含む 巿販無血清培地(商品名「VP- SFM」(Invitrogen社製、 Catalogue No.11681- 020) ) に牛胎子血清 0.25%を含有した培地で fcwf-4細胞を 5代継代し、その後、牛胎子血清 濃度を 0.1%含有した培地でさらに 5代、さらに 0.05%含有した培地で 9代継代した。な お、 VP-SFM培地の血清を完全に無添カ卩にすると継代培養ができなカゝつた。
[0056] 本実施例で用いた fcwf-4細胞は、 1990年代に鹿児島大学農学部獣医学科家畜微 生物学講座で本願出願人が研究用に使っていたもので、カリフォルニア大学獣医学 部内科学教室の Niels C. Pedersen教授の許可のもと、既に同細胞を取得していた北 里大学獣医畜産学部獣医伝染病学教室の小山弘之教授から分与された。その後、 同細胞は、共立製薬株式会社臨床微生物研究所へと受け継がれてきた。臨床微生 物研究所では 1995年 4月より、 Eagle' s MEM基礎培地(日水製薬株式会社製、ィー グル MEM培地「-ッスィ」(1))に、牛胎子血清を 7.5%、 Tryptose Phosphate Brothを 10 %、および L-グルタミン(0.292g/L)を含み、細菌増殖抑止を目的にペニシリン(100 U /ml)、ストレプトマイシン(100 μ g/ml)、アンフォテリシン Β (0.25〜0.5 μ g/ml)を添カロ した培地(7.5% MEM)で継代培養してきた。
[0057] なお、本実施例にお!、て、親細胞も、またそれから誘導した無血清培地順化 fcwf-S F細胞も、継代をする場合には、 0.25%トリプシン +0.02%EDTA (エチレンジァミン四酢 酸)溶液にて細胞面を 2回洗浄後、 37°Cのインキュベーターに静置し、細胞を分散さ せた。用いたトリプシンは豚脾臓由来の DIFCO TRYPSIN 250 (Difco社製)で、滅菌 P
BSに溶解後、 220 nmフィルター濾過滅菌した。
[0058] 次に、 0.05%に牛胎子血清を含む VP-SFMに順化した fcwf-4細胞を、市販の基礎培 地への順化に直接用いた。つまり、 DMEM培地(Invitrogen社製、 Catalogue No.1188 5-084)と Nutrient mixture(Ham' s F— 12、 Invitrogen社製、 Catalogue No.11765-054) との混合培地に、大豆ペプトン (Peptone from soybean^ enzymatic digest、 Fluka社製 、 Catalogue No.87972)を加えた培地(以下、 DF培地とする)で fcwf- 4細胞を 21代継 代した。 DMEM培地と Ham' s F-12培地の重量比は、 1: 1で行った。大豆ペプトンの培 地中の最終濃度は 750 g/mlとした。
[0059] 21代継代する間、基本的には親細胞と同じ継代条件で細胞を取り扱った。即ち、約 4〜5日間隔で、元細胞を 3〜4倍に拡大継代した。しかし、細胞順ィ匕の過程でしばし ばみられるように、時に細胞の増殖が遅延したために、その間、 1〜2回、培地を新し いものと交換したり、継代倍数を 2〜3倍に減弱させたりして、細胞が途切れないように した。
[0060] なお、市販の Eagle' s MEM, RPMI 1640 Medium, McCoy' s 5A Medium, Leiovitz' s L- 15 Medium^ Dulbecco' s modified Eagle medium (DMEM)、 Nutrient mixture(Ha m' s F-12)は、いずれも単独では fcwf-4細胞の増殖を十分に促すことはできず、 2〜3 代の継代後に増殖を停止した。
[0061] また、 DMEM培地と Ham' s F-12培地との重量比は、 1:3〜3: 1に変化させても fcwf-4 細胞は同様に増殖した。
[0062] 次に、 DF培地に順化した fcwf-4細胞を、 DF培地にさらに大豆ペプトン(ポリペプトン S : POLYPEPTON- S、カタログ番号 No.391- 00125、日本製薬株式会社製)を加えた 培地 (DFSP培地)で 9代継代した。ポリペプトン Sは脱脂大豆を酵素分解後精製し乾 燥した粉末である。ポリペプトン Sは培地中の最終濃度が 750 g/mlになるように加え た。用 、た DFSP培地の組成を表 1に示す。
[表 1]
表 1 DFSP培地の組成の一具体例
1 ) Dulbecco's Modified Eagle Medium (DMEM, Invitrogen社製、 Catalogue No.11885)
2) F-12 Nutrient Mixture (Ham's F-12、 Invitrogen社製、 Catalogue No.11765)
3) DMEMと Ham's F-12の等量混合液を作成
4) 大豆ペプトン (Peptone from soybean > enzymatic digest, Fluka社製、 Catalogue No.87972) 15グラムを 1 ,000 ml滅菌蒸留水に溶解し、 220 nmフィルターで濾過後、 3) の培地 100 ml当たり 5 mlを添加 (最終濃度 750 x g/ml)
5) 大豆ペプトン (日本製薬株式会社、 ポリペプトン S: POLYPEPTON-S、 カタログ番号 Νο.391 -00125) 15グラムを 1 ,000 ml滅菌蒸留水に溶解し、 220 nmフィルターで濾過 後、 3 ) の培地 100 ml当たり 5 mlを添加 (最終濃度 750 g/ml)
6) DMEMと Ham's F-12培地中にしグルタミンが含まれていない場合は、しグルタミンを
300 mg/しになるように添加 (最終濃度 300 ^ g/ml)
7) 抗生物質として、 ペニシリン Gカリウムを 100 U/mに 硫酸ストレプトマイシンを 100 g/mk アンフォテリシン Bを 2.5 q/mlになるように添加 (いずれも最終濃度)
[0063] DFSP培地で 9代継代した時点(血清非含有の状態で計 30代)で、明らかに DFSP培 地に対して順ィ匕が進み、細胞の増殖が安定してきたことが確認された。即ち、過去数 代に渡って、細胞シートの形成に要する時間と継代間隔が一定になり、 5〜7日間隔 で 3〜4倍に継代されるようになった。培養開始 2〜3日後に一度培地を新しいものに 交換し、さらに 2〜3日培養後、継代できるようになった。この時点で無血清培地であ る DFSP培地に順ィ匕し、新たに誘導された細胞株であるとして「fcwf-SF株」と命名した
[0064] 31代目力 の細胞を用いてその特性を調べた。図 1には fcwf-SF細胞、 30代目の培 養 4日目 (培養開始後 3日目に培地交換した翌日)の細胞シートを示した。無固定'無 染色で、倒立顕微鏡下で撮影した。牛胎子血清を添加した 7.5% MEM培地で培養し た親細胞に比べて、 ATCCに登録されているように、よりオリジナルの細胞の形態的 特徴、「紡錘形から星状」に近かった。
[0065] 図 2には 34代目の fcwf-SF細胞の増殖様相を示した。 4.5 x 105/mlの細胞濃度に調 整した細胞浮遊液を 25 cm2 Tフラスコに入れ開放系で静置培養し、 24時間毎に細胞 数を計測した。図 2に示したように 6日後には、 fcwf-SF細胞は約 4倍に増加した。
[0066] その他の fcwf-SF細胞とその培養系の性状について、以下に記す。
[0067] 本実施例においては、培養条件を一定にすることが容易なデイスポーザルのプラス チック製培養器を用いた。
[0068] 培養は閉鎖系でも開放形 (5% CO炭酸ガス培養器内)でも行えるが、 DF培地による
2
培養には閉鎖系で、 DFSP培地では培地の pHコントロールが容易な開放形でデータ を収集した。
[0069] なお、 DFSP培地中の大豆ペプトンを除くと細胞は増殖しなかった。
[0070] また、 DFSP培地中の大豆由来ペプトンの量を 2種類とも 2倍(1.5 mg/ml)に変更して も細胞増殖性に変化はな力つた。
[0071] さらに、 DMEMと Ham' s F- 12の混合培地の代わりに RPMI 1640 Mediumに 2種類の 大豆由来ペプトンをカ卩えた培地では、十分に増殖しな力つた。
[0072] さらに、大豆加水分解物(Sigma- Aldrich、 P6463 Peptone Hy-Soy T)あるいは麦芽 抽出物 (Becton, Dickinson and Company^ Bacto (商標) Malt Extract ^ Catalogue No .218630)を DFSP培地にさらに添カ卩しても特に変化がなかった。
[0073] さらに、酵母抽出物(Becton, Dickinson and Company, Bacto (商標) Yeast Extract 、 Catalogue No.212750)および小麦抽出物(Sigma- Aldrich、 HyPep 4601 (商標) Pro tein Hydrolyasate from wheat gluten)を DFSP培地にさらに添カ卩しても細胞の増殖や 形態に良い効果をもたらさな力つた。添加は細胞の増殖速度や形態維持にむしろ悪 作用を及ぼしているようであった。
[0074] 本願出願人は、当該 fcwf-SF株細胞(DF培地で 21代、 DFSP培地で 25代、総計 46代 継代細胞)を独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター (茨城県 つくば巿東 1-1-1)に受領番号 FERM ABP-10594 (原寄託日 2006年 3月 31日)として 国際寄託している。
[0075] (実施例 2 fcwf-SF細胞の低温保存)
DFSP培地に DMSO (Wako Pure Chemical Industries, Ltd.製 Catalogue No.043— 07 216)を 10%含む細胞凍結用培地を調整した。この培地に、 fcwf-SF細胞を 106/ml以上 になるように浮遊し、凍結保存用バイアルに 1.8 mlずつ分注、その後、本バイアルを 冷蔵しておいた簡易細胞凍結器「BICELL (商標)」(Nihon Freezer Co., Ltd.製)に入 れ、 -80°Cフリーザーで一晩かけて凍結、その後、液体窒素 (液相)に移管することで
低温保存が可能であった。
[0076] 凍結保存状況の確認のために、 48時間後、定法通り、液体窒素より取り出し、 40°C 程度の温湯中で一気に溶解、 DFSP培地 10mlに希釈浮遊させ、低速遠心で細胞を 回収した。細胞ペレットを 7.5 mlの DFSP培地に再浮遊し、 25 cm2の Tフラスコに入れ、 37°Cで培養を開始した。
[0077] 培養 3日目には細胞シートを形成したので、 5日目に 4倍量の新 、培地に継代し た。継代培養した細胞はやはり 3日目に細胞シートを形成し、少なくても顕微鏡下で 観察した分には本凍結法による悪影響は認められな力つた。以後、非凍結の細胞と 同じように継代が可能であった。このことから、本発明の fcwf-SP細胞の凍結に 10% D MSO添加 DFSP培地を用いることが有効であることが確認された。
[0078] (実施例 3 無血清シードウィルス液の作成)
現在広ぐ世界中の飼!、猫の予防接種に用いられて 、るコアワクチンを構成して ヽ るウィルスは、猫へルぺスウィルス 1、猫力リシウィルスと、猫汎白血球減少症ウィルス の 3種である。猫コロナウィルスで猫に感染して致死性の猫伝染性腹膜炎を起こす 2 型猫伝染性腹膜炎ウィルスのワクチンもある。しカゝしこれらのウィルス液のストックはこ れまで牛胎子血清や Tryptose Phosphate Brothを添カ卩した細胞培養内で増殖させて いる、例えば、 Eagle' s MEM培地等である。そのため、無血清培地による細胞培養内 でウィルスを増殖させるためにはこれらの牛血清成分などの動物蛋白質を取り除く必 要がある。そこで以下のようにして、無血清シードウィルス液を作成した。表 2には上 記のウィルス種のうち、実際に用いたウィルス株名と、それらを用いて作出したシード ウィルス液のウィルス力価を示した。
[表 2]
シードウィルス液のウィルスと感染価
感染価 (TCID5。/0.1 ml) ウィルス 株名 7.5% MEM培地 DFSP培地 猫へルぺスウィルス 1 C7301 105 0 107.5 猫力リシウィルス F9 106 0 io8-7 猫汎白血球減少症ウィルス TU-1 105·7 (256)* 104.5 (32)* 猫伝染性腹膜炎ウィルス (2型) M91-267 io7-5 io4-5
* ()内は血球凝集価
[0079] 猫へルぺスウィルス 1、猫力リシウィルス、猫伝染性腹膜炎ウィルスの実施に使用し た最初のウィルス液は、ウィルス接種後、親細胞の fcwf-4細胞を牛胎子血清が 2%及 び Tryptose Phosphate Brothが 10%添カ卩された培地でウィルス増殖を促している。そ のため、その上清中には牛血清が 2%、 Tryptose Phosphate Brothが 10%含まれること から、それらの成分の影響をなくす処置を試みた。閉鎖系フラスコ内で培養され、細 胞シートを形成して ヽる fcwf-SF細胞に各ウィルス液を接種し、 1時間のウィルス吸着 後、ウィルス液を吸引除去し、さらに DFSP培地で 2回細胞表面を洗浄した。その後、 DFSP培地をカ卩え、 37°Cのインキュベーター内で静置培養し、ウィルスの増殖を図つ た。猫汎白血球減少症ウィルスについては、細胞が培地に浮遊された時点でウィル ス接種を行った。そのために、最初のウィルス液には牛胎子血清が 7.5%含有されて おり、他のウィルス液よりも牛血清の影響が大きい。そこで fcwf-SF細胞を DFSP培地 に浮遊させた時点で、培養液の約 5%量のウィルス液を加え、 37°Cのインキュベーター 内で静置培養し、細胞が壁面に接着後の 24時間後に、培養液を吸引除去、細胞面 を DFSP培地で一度洗浄後、新しい DFSP培地を加えウィルスの増殖を図った。ウィル スが十分に増殖した、数日力 7日後、一度、フラスコごと凍結融解し、融解液は低速 遠心により細胞や細胞破砕物を取り除き、上清を第二代ウィルス液とした。この操作 を合計 2回繰り返して動物由来蛋白を減少させ、 3代目の培養上清をストックウィルス 液として- 80°Cフリーザー内に分注保存した。
[0080] これと比較するために、 DFSP培地の代わりに 7.5%牛胎子血清を含む MEM培地を 用い、また、 fcwf-SF細胞の代わりに fcwf-4細胞を用いて、同様にウィルスストック液を
作成、保存した。
[0081] それぞれの感染価を表 2に示す。作出した DFSP培地で培養した fcwf-SF細胞にお けるそれぞれのウィルス種の感染価は、猫汎白血球減少症ウィルス及び猫伝染性腹 膜炎ウィルスでは、親細胞である fcwf-4細胞で増殖させた場合と同様に優れた感染 価を示し、特に、猫へルぺスウィルス 1と猫力リシウィルスでは fcwf-SF細胞で作成した ウィルス液の方力 ¾00倍から 5,000倍高かった。
[0082] (実施例 4 猫へルぺスウィルス 1型)
1) 25 cm2Tフラスコに親細胞である fcwf-4細胞を 7.5% MEM培地で(比較例)、及び few f-SF細胞を DFSP培地で (実施例)、それぞれ 5% CO炭酸ガス培養器内で培養開始
2
し、シートを形成した培養 5日後に細胞数を計測した。
[0083] 2)表 2に示したストックウィルス液の中の、猫へルぺスウィルス 1型 C7301株を、それ ぞれ同じ m.o.i. (multiplicity of infection;感染の多重性、既知の数の培養細胞に加え た感染性ウィルス粒子数の比率)の 0.01〖こなるようにウィルスを希釈後、接種した。
[0084] 3) 37°C、 1時間のウィルス吸着の後、未吸着ウィルスを吸引除去し、 7.5% MEMあるい は DFSP培地を加え、静置培養した。
[0085] 4)その後 24時間間隔で接種後、 1 , 2, 3, 4,及び 6日目にフラスコごと- 80°Cフリーザ 一に凍結保存した。
[0086] 5)ウィルス感染力価測定に先立ち、凍結しておいたフラスコを室温で融解し、 2,500 rpm、 10分間の遠心で細胞成分を除去した上清を感染価測定に用いた。
[0087] 6)感染価の測定は 96穴マイクロプレートを用いた Micro- titration法にて行った。即ち 、 5)で得たウィルス液を 7.5% MEM培地で 10倍階段希釈し、各希釈につき 4穴に 100 μ 1づっ加え、さらに総ての穴に 100 1細胞浮遊液をカ卩え、軽く混合し、 37°Cの 5%炭 酸ガスインキュベーター内で静置培養した。
[0088] 7)細胞浮遊液は、 7.5% MEM培地に 1 x 105/mlになるように fcwf-4細胞を調整して用 いた。
[0089] 8)ウィルス接種 7日後にウィルス変性効果 (CPE)の有無によって感染価の終末点を 算出した。
[0090] 図 3には 7.5% MEM培地で培養した親細胞 fcwf-4細胞と、動物由来蛋白不含 DFSP
培地で培養した fcwf-SF細胞での猫へルぺスウィルス 1型 C7301株の増殖曲線を示し た。ウィルス接種後翌日より、親細胞 fcwf-4細胞と fcwf-SF細胞、いずれでもウィルス 産生が開始され、以後増加していった。総てのタイムポイントで fcwf-SF細胞の方が 25 倍〜 100倍高 ヽウィルス感染価を示した。
[0091] (実施例 5 猫力リシウィルス)
実施例 4と同じ方法に感染価を調べた力 相異するのは、
1)ウィルス株力 猫力リシウィルスの F9株であること、
である。
[0092] 図 4はその結果を示す。いずれの培養細胞においても、ほとんど同じように増殖し、 牛血清を添加したこれまでのウィルス培養法同等にすぐれた感染価を示した。詳細 には、 fcwf-SF細胞での最高ウィルス到達時間が 1日遅ぐそのウィルス価は若干(10Q •4)ではあるが高力つた。
[0093] (実施例 6 猫伝染性腹膜炎ウィルス)
実施例 4と同じ方法で実施したが、相違するのは、
1) ウィルス増殖曲線作成に用いたウィルス株力 ¾型猫コロナウィルスである猫伝染 性腹膜炎ウィルス M91- 267株であること、
2)ウィルス接種後速やかに CPEを起こして培養器壁より細胞が離脱したため、接種 後、 1、 2、 3、及び 4日目にフラスコごと- 80°Cフリーザーに凍結保存したこと、及び
3) fcwf-SF細胞のウィルス感受性検査には 1型猫コロナウィルスで、猫伝染性腹膜炎 ウィルスである Yayoi株も用いたこと、である。
[0094] 図 5は fcwf-SF細胞における 1型猫コロナウィルスである猫伝染性腹膜炎ウィルス Yay oi株増殖に伴って発現した CPE、図 6は 2型猫コロナウィルスである猫伝染性腹膜炎 ウィルス M91-267株の増殖に伴つて発現した CPEを示す。
[0095] 1型猫コロナウィルスは細胞培養で増殖しにくいことを特徴とする力 Yayoi株は DFS P培地で培養の fcwf-SF細胞で図に示したような CPEを発現して増殖した。増殖の程 度を数値ィ匕しな力つたが、その程度は親細胞である fcwf-4細胞とほぼ同じ程度であつ た。
[0096] 一方、 2型猫コロナウィルスの増殖性は一般に fcwf-4細胞でも良いことが周知されて
おり、図 6に示すように fcwf-SF細胞でも CPEを伴って増殖した。し力し、 fcwf-4細胞培 養での CPEは多核巨細胞形成を特徴としたのに対し(図 7)、 fcwf-SF細胞培養での C PEは 1型猫コロナウィルスと同じような細胞溶解性の CPEで、多核巨細胞の形成は顕 著でなかった。
[0097] 図 8〖こは 2型猫コロナウィルスである猫伝染性腹膜炎ウィルス M91-267株の、親細胞 である fcwf-4と、新しく発明した動物由来蛋白不含 DFSP培地で培養の fcwf-SF細胞 培養でのウィルス増殖様相を示した。ともに接種後 2日目にはウィルス力価がピーク に達し、以後減衰した。 fcwf-SF細胞培養においても十分なウィルス増殖を示した。
[0098] (実施例 7 猫汎白血球減少症ウィルス)
実施例 4と同じ方法で実施したが、相違するのは、
1.用いたウィルス株は猫汎白血球減少症ウィルスの TU-1株であること、
2.細胞が培地に浮遊された時点で、静置培養開始前にウィルス接種を行ったこと、
3.その後、 37°Cのインキュベーター内で静置培養し、細胞が壁面に接着後の 24時 間後に、培養液を吸引除去、細胞面をそれぞれの新しい培地で一度洗浄後、再び 新しい培地を加えて、残余する接種ウィルスの影響を低減させ、この時点を 0日とし たこと、
4.感染価測定の Micro-titration法で用いた、感染価終末点の確定には、各希釈穴 の上清中に産生されている血球凝集素の有無で行った。即ち、各穴から 50 1の上 清を取り出し、別に用意した血球凝集反応用マイクロプレートに移し、総ての穴に等 量の pH 6.8のリン酸緩衝食塩水(PBS)とやはり等量のァカゲザル血球浮遊液をカロえ た。ァカゲザル血球浮遊液は同じ PBSに 0.75%の割合で赤血球を浮遊し調整した。よ く攪拌後、 4°Cに静置し、凝集の有無にて感染価を算出した。
[0099] 以上の 4点である。
[0100] 図 9にその結果を示す。猫汎白血球減少症ウィルス TU-1株は親細胞である fcwf-4 細胞でも、動物由来蛋白不含 DFSP培地で培養した fcwf-SF細胞でも同じように優れ た増殖様相を示した。
産業上の利用の可能性
[0101] 本発明の fcwf-SF細胞は、その増殖に牛胎子血清やその他の動物に由来する各種
蛋白添加物を必要とせず、入手に制限のな!、安価で既存の基礎培地(Dulbecco, s modified Eagle medium (DMEM)と Nutrient mixture(Ham, s F— 12))と 物由来蛋白賓 の分解産物(大豆ペプトン)を混合するだけの簡単な DFSP培地で増殖する。植物由 来蛋白質分解産物をも除去する必要がある場合は、ウィルスを接種した細胞培養の 培養液をそれらが含まないものに置換すればよい。そのために、ワクチン用ウィルス や各種試験に用いるウィルス蛋白抗原を、安価に、かつ安全に製造することを可能と するものである。特に、仔猫は、母猫力もの移行抗体をいまだ保有しているために、 ワクチンによって十分な免疫を付与するためには、短期間に頻回接種しなければい けない。例えば、次のような状況下である。猫のコアウィルスである猫へルぺスウィル ス 1型、猫力リシウィルス、および猫汎白血球減少症ウィルスに対する初回予防接種 処置や、感染ノ、ィリスクの猫の毎年の追カ卩の予防接種処置が挙げられる。ワクチンは 、ワクチン成分以外の蛋白質成分の混入は極力避けなければその安全性は確保で きない。さらに近年問題となったプリオンに原因する、いわゆる「狂牛病」などの未知 の病原体のワクチンや医薬品への混入は極めて憂慮される問題である。特に猫は狂 牛病プリオンに高感受性である。本発明の動物由来蛋白不含培養液 DFSP培地によ る fcwf-SF細胞株の榭立は、これらの培養細胞を用いた製剤の開発や製造に極めて 有効な手段を提供する。