WO1999045766A1 - Procede de conservation d'animaux aquatiques - Google Patents

Description

明 細 書 水中動物の保存方法 技術分野

本発明は、 魚類、 海老や蟹などの甲殻類、 またはイカゃタコなどの頭 足類といった水中動物を、 主に食材の流通を目的として活きたまま運搬 するにあたり、 その鮮度を維持する技術として開発された水中動物の保 存方法に関するものである。 背景技術

水中動物を食材として扱う場合、 魚類、 海老や蟹などの甲殻類、 また はイカゃタコなどの頭足類などは、 これらを捕獲して活きたまま消費者 のもとまで届けることにより、 高い商品価値を生み出すことから様々な 努力がなされている。

魚類や頭足類などは生簀を備えた車両などにより運搬することが一 般的であり、 甲殻類は大鋸屑の中に入れて箱詰めして運搬する方法が多 く採用されている。

しかしながら、 もともと広い海中で生活している動物を限られた環境 下に押し込んで運搬すると、 それなりにその生体に悪影響を与えること は明らかである上、 その運搬にも自ずと限界があり、 運搬できる種類や 大きさまたはその数も制限される。 また、 生簀による運搬では、 特殊な 車両等を必要とするため費用がかかる。 さらに、 生簀内での衝突や傷つ け合いなどによる生体への損傷、 および悪条件下での弱体化など課題は 多く、消費者の元に届くまで多くのリスクを搔ぃ潜らなければならない。 また、 甲殻類の運搬においては、 大鋸屑の中などで生息はしているも のの、 大きな問題として活き痩せがあり、 ほんの短時間の運搬にのみ向 いている手段といえる。

したがって、 これらの方法により運搬できない動物、 または長時間の 輸送を必要とするものについては、 産地において冷凍や加工を施した上 で運搬せざるを得なかった。 そこで、 これらの輸送面における問題点を解決するべく種々研究がな されている。

魚類等を活きた状態で、 しかも運搬中における劣化を防ぎ、 比較的長 時間の運搬にも絶え、 さらに大量の運搬が可能な方法が望まれる。 すな わち、 活魚等の運動機能を何らかの方法により低下させ又は抑制して動 かないようにすると供に、 呼吸器官等の生命維持機能を十分に維持した 状態で、 狭い空間で保存することができればよい。

例えば、 特開平 7— 1 6 0 3 7号ゃ特開平 7— 5 0 9 5 6号の公開公 報に示されたもので、 活魚の脊髄や頭蓋周辺などを、 高温に加熱又は荷 電した道具により切断又は損傷させることにより、 運動機能を低下させ るものがある。

しかしながら、 脊髄は神経の大きな束のようなものであり、 脊椎動物 にとつて生命維持のために重要な役割を果たしており、 その損傷の状態 によっては短時間で死に至る危険をはらんでいる。 上記した従来技術で は、 止血や感染防止の観点から高温に加熱又は荷電した手術道具により 処理するものであるが、 これに上げられている火箸やのこぎりでは必要 最小限以上の損傷を与える危険があり、 適切な処置のためには熟練を要 するものと思われる。 特に、 活魚の脊髄の位置を魚体の表面から特定す ることは難しく、 このため処置する部位を誤り、 その結果何度も探った りすると、 魚は極端に弱くなり、 長時間の保存には耐えられなくなる。 また、 嫁などの小型魚には適用できないものがある。

さらに、 このような道具で魚の側部から処置したのでは外部に痕跡が 残り、活き作りなどにした場合の商品価値が著しく低下することになる。

この他に運動機能を操作する方法としては、 従来から低温にする方法、 電気的な刺激を与える方法などがあるものの、 いまだその流通に十分供 することができる方法は開発されていないのが現状である。 本発明者は、 これらの問題の主な原因は、 動物の生態と流通の実情の 双方を十分にかみ合わせた内容ではないためと考え、 鋭意研究の結果、 捕獲された水中動物の種類に応じて、 その生態にあった方法で運動機能 を抑制し、 その抑制された動物を十分輸送に耐える方法で保存すること ができる水中動物の保存方法を発明するに至った。 発明の開示

このため本発明では、 水中動物の運動機能を一次的または半永久的に 抑制する処置を施し、 該水中動物をその生存下限水温以下または無菌処 理された水中で保存するようにしたものである。 これにより、 たとえ狭 い容器内でも水中動物が動くことなく生息でき、 このような容器を トラ ック輸送に供することができるため、 安い輸送コス トで大量の水中動物 を活きの良い状態を維持して消費者の元まで届けることが可能となる。 また、 運動することがない上、 前記した従来技術のようにその処置に危 険を伴うこともないため、 生体の損傷ゃ活き痩せなどの問題をも一挙解 決することができる。 図面の簡単な説明

第 1図は実施例 1の処置部位を特定する一例を示す魚体の側面図であ り、 第 2図は魚体の骨格の概略を示す模式図であり、 第 3図は椎骨の一 つである腹椎骨を頭部方向から見た図であり、 第 4図は本発明の脊髄処 理の一例を示す説明図であり、 第 5図は魚類の生存可能温度の例を示す グラフであり、 第 6図は電気的処置装置の一例を示す斜視図であり、 第 7図は電極を魚体に突き刺す際の位置を示す図であり、 第 8図はイカに 対する処置方法を示す模式図であり、 第 9図はイセェビに対する処置方 法を示す模式図であり、第 1 0図は低周波電流の設定例を示す表であり、 第 1 1図は魚類等を収納する容器の一例を示す斜視図である。 発明を実施するための最良の形態

本発明においては、 水中動物の運動機能を一次的または半永久的に抑 制する処置を施すが、 これにより死に至らしめることが無い方法が用い られ、 安全確実に処置することができる。 さらに、 この処置を施した動 物について、 その生態に応じて生存下限水温があることに本発明者は着 目し、 処置を施された動物はこの下限水温より低い水温でも順化させる ことなく生存することを見出した。

安全確実な方法としては、 処置を施す動物の種類に応じてその方法を 選択して行うものである。 それぞれの処置の詳細については各実施例で 示すが、 ここではその概要を説明する。 魚類に限っては脊椎動物であるため脊髄の一部に障害を与えることに よりその運動機能を半永久的に抑制することができる。 脊髄に処置を施 す点のみを取ってみると従来技術と同様ではあるが、 その手法において 魚体に必要以上のダメージを与えない点が大きく異なる。 すなわち、 魚 種に応じてその脊髄の位置を確実に特定し、 先端が鋭く尖った道具を用 いて脊髄を刺突することにより、 刺突による魚体へのダメージを最小限 とすることができる。 このため、 確実に必要最小限の処置を施して生命 維持機能が損なわれない点、 反復性を持って容易に処置できる点、 処置 後においてその痕跡が残らない点など、 従来技術より安全 ·確実で、 し かも商品価値を落とすことなく、 誤処置により失う魚も極減でき、 非常 に実用的である。 また、 脊髄を持たない頭足類や甲殻類などにおいては電気的な処置を 施して運動機能を一時的に麻痺させ、 これをさらに生存下限水温より少 なく とも 5 °C低い水温の冷水で処置し、 電気的な麻痺が持続するように したものである。この方法は魚類にも同様に適用することが可能である。 さらに、 処置された水中動物を保存するにあたっては、 水中動物の種 類に応じてもっとも適切な環境を選択し、 これにより呼吸、 排泄といつ た自律機能を正常状態より低下させることにより、 酸素摂取量を減少さ せると供に排泄物による水質の低下を防ぐ。 これにより、 簡単な保存設 備による長時間の運搬を可能にするものである。

尚、 電気的な処置により運動機能を抑制した動物については、 少なく とも生存下限水温以下の水温で保存することにより麻痺状態から回復す ることが無いことを確認している。 また、 脊髄を処置された魚にあって は、 生存可能水温域であっても、 無菌処理された水中であれば、 生存下 限水温以下の水中と同程度の期間の保存は可能である。 これらの方法の共通した利点は、 上記したように処置を安全確実に施 すことができると同時に、 保存において生体の劣化、 すなわち損傷ゃ活 き痩せの問題がないことと、 酸素摂取量および排泄物が少ないため、 簡 単な設備でも運搬が可能な点にある。 以下、 動物の種類に応じた各実施例を図面に基づいて説明する。

実施例 1

本実施例 1は、 魚類について先端が鋭く尖った道具を用いてその脊髄 を刺突することにより、 その運動機能の一部を半永久的に喪失させる一 方、 呼吸などの生命維持機能は維持できるように処置するものである。 ここで簡単に脊髄について述べるなら、 第 2図に示すように、 魚類の 典型的骨格としては、 多数の骨の集合体である頭蓋骨部分 2と、 これの 後ろに伸び尾鰭 2 3に至る脊椎 3と、 各鰭とから構成されている。 この うち脊椎 3は多数の椎骨 3 1が連結して形成されたものであり、 その背 部にある神経弓門 3 1 a内に、 延髄 （図示せず） から延び尾鰭 2 3に至 る脊髄 1が通っている （第 3図参照）。 脊髄神経 （図示せず） はこの脊髄 1から上下対にのび末梢神経にいたり、魚体の運動をつかさどっている。 脊髄に刺突する位置としては、 確実に運動機能を抑制できるために延 髄に近い部位が望ましいが、 延髄を損傷して死亡してしまっては元も子 もないので、 容易にその部位を特定できることが重要になる。 具体的に は魚種によって異なるため、解剖や透視により一度部位を確定した後は、 鰓の形状と側線の位置により針を刺す位置を特定する。

一般的には第 1図に示すように、 多くの魚類には側線 2 2が魚体側面 の頭部 2 0から尾鰭 2 3に至る部分にあり、 周囲の水や生物などの動き を感知する機械的刺激受容器として働いている。 したがってその一端は 頭部 2 0にある中枢神経の近くに位置する。 鰓蓋 2 1は鰓 （図示せず） の外側を覆っている力 S、鰓は心臓から送られてきた静脈血を動脈血とし、 動脈血は脊椎 3下側 （腹部側） を通って魚体全体に至る。 そのため、 多 ^W° ^{99/45766 7} PC蘭画 34

くの魚類においてはこの鰓蓋 2 1の上端部は脊椎 3の付近に位置する。

したがって、 処置しょうとする脊髄 1は、 側線 2 2の頭部側端部および 鰓蓋 2 1の上端部に近い魚体内部にあることが予想される。

本発明者はこの点に着目し、 多くの魚体を解剖分析し、 同種の魚類で は同じ位置関係を持って脊髄と側線と鰓蓋が存在することを確認した。

すなわち、 明瞭な側線と鰓蓋を有する多くの魚種では、 この鰓蓋上部と 側線の位置を目安に道具を刺突することにより、 その先端が高確率で脊 髄に至ることを見出した。 脊髄を刺突するにあたっては、 処置する道具は先端が尖った細い道具 を使用するが、 この道具としては、 魚体の側部から刺して脊髄にその先 端が達するために、 皮、 肉、 脊椎を切り開くようにして貫通するもので あり、 しかも過度の損傷を与えないと同時に、 抜いた際に肉の弾力性で 傷口が塞がるものが望ましい。 したがって、 針状のものや平たい刃物が 望ましいが、 その身幅 （太さ） としては処置する魚種の脊髄の太さ程度 のものが適切である。

鰓蓋の内側から脊椎の上部を貫通し、 その先端が脊髄に至らしめるよ うにし、 脊椎を刺突してこの道具を抜き去ると、 肉の弾力性で傷口は塞 がる。 ちなみに、 魚類の主幹血管は、 動脈および静脈ともに脊髄と反対 側の脊椎下部に位置するため、 この脊髄刺突による出血はその付近の毛 細血管からであり、 その量はほんの僅かで、 しかもすぐに止血する。 し たがって、 本処置による魚体へのダメージは、 目的とする脊髄だけであ る。 尚、 この方法により脊髄を刺突するにあたっては、 この脊髄を目視ま たは透視して刺突するわけではないので、 道具によって脊髄がどのよう な状態になるかは特定できない。 したがって、 刺突された脊髄は、 切断、 損傷、 亀裂、 湾曲といったいずれかの状態になるものであろうと推察さ れ、 これらにより、 脊髄神経に機能障害をきたすものと思われる。

また、 マグロなどの大型魚などにおいては、 捕獲してすぐに上記した 処置を施すことは暴れるために困難である。 そこで、 強制的に運動をさ せない処置を取り、 その状態で上記した処置を施す。 すなわち、 電気的 な刺激などによりに一時的に魚を麻痺させたり、 エアバッグなどの機械 的手段により押さえつけたり して、 その状態で上記の処置を施す。

尚、 必ずしもすべての魚種において上記した脊髄と鰓蓋と側線との位 置関係を呈するわけではなく、 ましてや側線が不明瞭な魚種も少なくな いことから、 予め処理する魚種を解剖して、 脊髄の位置を特定すること' が望ましい。 一度、 この関係位置を確認した魚種については、 同種の魚 を処置する際の基準とできる。 保存方法としては、 下記実施例 2で詳述するが、 生命維持下限温度よ り低く、 望ましくは 5 °C程度低い温度で保存する。 この温度帯は上記処 置を行ったからこそ適用することができる温度である。 従来から提案さ れている 5〜0 °Cに近い温度帯では、 魚種によって低温過ぎて死亡した り、 正常な生存可能温度の適温範囲内であり、 上記した自律機能の低下 による効果を得られない場合もある。 尚、生存温度域例を第 5図に示す。 さらに具体的な作業手順と実験例を示す。

第 4図に示すように、 魚 1 0を水槽からタモ網ですくい出し、 濡れタ オルなどを敷いた作業台に横たえる。 作業者の体温で魚体をいためない ために濡れた手袋をすることが望ましい。 また、 水槽の水温は生存可能 温度域内の低い温度にしておく と魚 1 0の運動能力が低下し作業性がさ らに良くなる。

片手で魚 1 0を押さえ、 鰓蓋 2 1の内側から脊髄 1を道具 1 0 0によ り刺突する。 この際、 脊髄 1の位置の特定は上記で説明した方法により 行う力';、上記の方法によって部位を特定して道具を刺突した多くの場合、 比較的延髄 1 1に近い位置となり、 運動機能を低下させるのに非常に効 果的である。 しかしながら、 延髄 1 1そのものを損傷すると魚 1 0は完 全に死亡してしまうため、これを損傷しないように留意する必要がある。 この処理を施した魚 1 0は、 エアレ一ションした水槽内に孔のあいた 容器を沈め、 その中に還流させながら入れておけば、 長期間にわたり生 存し、 生きたままの鮮度を維持できる。 また、 運動しないため体力の消 耗も少なく、 呼吸周期も長くなることから消費酸素量も少なくなる。 し たがって、 従来の活魚の輸送に比べ、 高密度で収納できる一方、 従来と 同程度のエアレーシヨン装置でも維持管理が可能となる。 また、 生存可 能温度が同じ温度帯であれば、 異なる魚類を混在して収納しても何の問 題も生じない。

さらに、 計量や調理するにあたっても、 暴れることがないので非常に 扱いやすく、 鰭などでけがすることも少なくなる。 以下、本実施例 1の方法によりアジ、チダイおよびハマチを処理した。 実験例 1

本実験例ではアジに処理を施すにあたり、 予め同種のアジを解剖し、 鰓蓋とセィゴと脊髄との関係位置を確認した。

次に、 作業台に約 1 8 °Cの水槽温度と略同温の水でぬらしたタオルを 敷き、 作業者は同様に水で濡らした手袋をはめ、 解剖したのと同種の体 重約 3 0 0グラムのアジを水槽から捕獲して横たえた。 片手でアジの魚 体を押さえ、 直径 1 m mの針状の道具で鰓蓋の内側から脊髄を刺した。 この処理を行ったアジは手の平の上でもまったく動かず、 計量も容易で あった。 運動能力はほとんど喪失していたが、 鰓呼吸は続けており、 ェ ァレ一ションしている水槽内の還流可能な孔の開いた容器に収納して保 存した。 その結果、 1 0日間の生存を確認し、 その後餌付けしていた通 常の活魚と比較して刺身で食してみたが、食感'味ともに同じであった。 実験例 2

体重約 1 5 0グラムのチダイを上記実験例 1と同様に処置したが、 特 にチダイはその側線が鮮明であることから、 事前の解剖による分析をす ることなく、 側線の先端部分と鰓蓋の上端部が交わる部分を脊髄の位置 と推測し、 道具を刺突した。 このチダイは上記のアジと同様に鰓呼吸は 継続するもののほとんど動かなくなり、 上記のアジと同様に保存するこ とにより、 1 2日間の生存を確認した。 その後解剖した結果、 脊髄が刺 突された痕跡を確認できた。 実験例 3

体重約 2 . 5キログラムのハマチを上記実験例 2と同様に側線と鰓蓋 の形状を目安に道具を刺突して処置することにより、 鰓呼吸は継続する ものの無動化した状態となった。 これを同様に保存したが 3 0日間の生 存を確認した。 その後、 解剖して脊髄の刺突の痕跡を確認すると供に、 通常の活魚のハマチと比較しながら刺身で食してみたが、 食感 '味とも に同様であり、 特に脂のりが低下していないことを確認できた。 実験例 4

本実験例では、 2 K gの大型のプリの運動機能を抑制するにあたり、 捕獲したプリが暴れるのを一時的に押さえ、 その状態で脊髄に道具を刺 突する方法を用いた。

すなわち、 暴れるのを防止する手段として低周波電流を用い、 これに よりプリが痙攣状態となった間に、 脊髄を刺突した。

使用した電流は、 7 0 V、 1 0 0 H zの直流パルス電流であり、 電極 の一方を尾鰭付近にあて、 もう一方の電極を頭部付近に当てることによ り、 このプリは弓なりになって痙攣をはじめた。 この状態を数秒間継続 したのち、 電極を離してもプリは動かなくなつたため、 すばやく道具に より脊髄を刺突した。 これにより、上記各実施例と同様の状態を得られ、 水槽内で長期間保存可能であった。 実施例 2

次に、 本実施例 2では、 上記実施例 1の脊髄に処置する方法により運 動機能を抑制された魚について、 より長期間保存する保存方法について 比較例と対比して説明する。

魚類に限らず、 多くの生物は、 生存するための適温があり、 適温外で は何らかの障害が発生しやすく、 さらに生存上下限温度外では短時間で 死に至らしめてしまう。 魚類も同様で、 魚種により適温域と生存上下限 温度とがある。 しかしながら、 この温度環境の臨界点に一定時間置くこ とにより、 その温度耐性に変化を及ぼす、 いわゆる順化が起こることも 知られている。 これは、 例えば生存下限温度が 7 °Cであるマダイを 8 °C で慣らすことにより、 2 °C程度までその生存温度を広げることができる。 水温が低下するにつれ魚類の運動機能が低下し、 消費する栄養素と酸 素量が減少すると供に、 水槽内の雑菌活動も減少するため、 この低水温 による活魚の保存方法は様々研究されてきている。 しかしながら、 この 順化だけによる方法では、 順化させるための時間と設備とェネルギ一が 必要となり、 養魚業に適用するにはあまりにもコス ト高となる。 そこで、 本発明の方法により運動機能を抑制された魚について、 温度 耐性を実験した。

本実験では、 生存温度域が比較的狭く、 その下限が約 9 °Cとされるマ サバを 1 0匹捕獲し、 これに上記実施例 1の方法により処置して運動能 力をなく し、 1 0匹のうち 5匹を順化させることなく上記生存下限温度 より 5 °C低い、 4 °Cの水温で保存した。 一方、 残りの 5匹を最適温であ る 1 5 °Cで保存した。

これらをその生存時間で比較すると、 5 °Cの水温で保存した 5匹につ いては 2 0日以上の生存を確認できたが、 1 5 °Cの水温で保存した 5匹 については 1 0日を過ぎたころから呼吸に異常が生じはじめ、 1 3日目 で死亡するものが出始めたため実験を中止した。

また、 正常に生存していた期間の呼吸状態を比較観察すると、 鰓の動 きは明らかに 4 °Cの水温で保存したものが緩慢であることから、 その摂 取酸素が少ないことが予測される。

この生存時間に差が生じた理由としては、 上記したように適温である と同時に、 呼吸器系などの生命維持活動が活発であり、 それと同時に雑 菌の活動も活発となるため、 生命維持活動に伴う体力の消耗と、 雑菌等 の生命維持障害因子の増加によるものの相乗的作用によるものと推測さ れる。

—方、 生存下限温度以下で長期間生存し得た理由は、 本発明の処置を 施すことにより運動機能を喪失しており、 呼吸器系および循環器系の機 能は大きな障害を得ないため、 順化させることなく生存したものと思わ れる。 さらに、 低水温では溶水酸素量が増加する反面、 呼吸が緩慢であ るためその摂取も減少する。 その上、 生存に障害となる雑菌の繁殖も押 さえられるため、 その生存日数に大きな差が生じたものと推測される。 実施例 3

本実施例 3では、 電気的な処置により動物に一時的な運動機能の抑制 処置をする方法について示す。

まず便宜上、 本実施例の抑制方法を水中動物に施す際に使用する処置 装置の一例を説明する。

第 6図に示すように、 本実施例の処置装置は、 低周波電流発生器 5 4 を内部に収納した箱状の収納箱 5 3と、 その上に載置して固定された処 置台 5 0と、 低周波電流発生器 5 4に接続された第 1電極 5 1および第 2電極 5 2とから構成され、 各電極の先端は尖った針状であり、 処置台 5 0の上面に突出して取りつけられ、 その突出長さは調整可能に設けら れている。

第 1電極 5 1は上下の調整のみで水平位置を動かすことはできない。 一方、 第 2電極 5 2は水平なアーム部分 5 2 aと、 それから垂直に立ち 上がった先端部分 5 2 bとからなり、 アーム部分 5 2 aが処置台 5 0の 上を水平方向に回転することにより先端部分 5 2 bがその水平位置を変 えることができるように設けられている。 したがって、 それぞれの電極 の位置を動かして、処置をする動物の体形にあわせることができる。 尚、 この電極としてはパッ ドなどでもよいが、 動物の表皮に突き刺すことが できる先端が尖つた針状の電極を使用した理由は即効性があるためであ る。

この処置装置により動物を処置するにあたっては、 まず処置台 5 0を 開けて、 予め低周波電流発生器 5 4を起動させ、 処置台 5 0の裏側に設 けられた調整器具 （図示せず） により、 処置する種類に合わせて各電極 の位置を調整した後に、 処置台 5 0を閉じて準備完了となる。 次に、 実際の処置を施すにあたっては、 脳機能および内臓機能に影響 を与えないように、 例えば魚類においては、 延髄より後側の魚体に低周 波パルス電流を通電させるように各電極を配置する。 すなわち、 生簀か ら魚体を取りだし、 第 7図に示すように魚体 4の尾鰭側 4 2が第 1電極 5 1に刺さり、 鰓蓋 4 1よりやや後側が第 2電極 5 2の先端部分 5 2 b に刺さるように、 魚体 4を押さえこむ。 魚体 4が両方の電極に触れて通 電すると瞬時にして、 体は硬直し、 口と鰓蓋が開いたままになる。 この 状態を維持するように通電を 5〜 1 0秒程度持続させると、 徐々に体色 が変化してあせてくると供に、 鰓蓋 4 1 と口が閉じてくるが、 背鰭や腹 鰭は立った状態であるので硬直が継続していることがわかる。 口と鰓蓋 4 1が閉じ、 僅かに鰓蓋 4 1が開閉しているのを確認し、 持ち上げて各 電極から切り離す。 この間は約 1 0〜6 0秒程度であるが、 暴れること が無いので手を離しても良い。

上記した電気的処置により魚体 4は一時的に動かなくなり、 手で取り 上げても暴れることはないが、 鰓蓋 4 1は僅かに開閉しており、 呼吸し ていることは確認できる。

低周波電流の設定は、 動物の種類と大きさによって異なるが、 第 1 0 図を参考にすると良い さらに、 この状態の魚体等を適切に保存して、 長時間の運搬にも共せ るようにするために冷水の水槽に入れて、 冷水による麻痺を加えて、 復 活しにく くする。 その水温としては種類によって異なるが、 生存温度下 限より 5〜 1 0 °C程度低い方が望ましい。 この冷水にさらす時間として は、 1〜 5分程度が望ましく、 その間、 魚であれば腹を上にして僅かに 鰓蓋を開閉させているため、 冷水による急激な生命維持機能への障害は ないことが確認できる。 尚、 この時間が短すぎるとこの冷水の効果を得 られない。 この冷水にさらした魚体を一端取りだし、 別の水槽に用意した生存下 限温度より低いがこれに近い温度の低水温水槽に入れ替える。 この低水 温下で活魚等を保存すると、 魚にあっては腹ばいの状態のまま鰓呼吸は 続けるが、 泳ぎ回ることはなく、 しかも餌を与える必要もなく、 その上 排泄物もほとんどなく、 輸送のための水槽内はきれいな状態を維持でき る。 また、 運動をしないため酸素摂取量も少なくて済む。

また、 泳ぎ回らないため、 従来のような大型の生簀を備えた車両等は 必要なく、 処置されたものが入るだけの大きさの保温性容器に、 酸素供 給装置を取り付けるだけでよい。 したがって、 発泡スチロールの容器に 低温の海水を入れ、 これに電池式の酸素供給装置を装着して、 上記処置 をしたものを入れて密封し、 これを宅配運送により一般家庭などに直接 送ることも可能である。

輸送等の後、 この魚を元の状態へ復活させるためには、 生存適温の水 槽に入れるだけでよい。 低水温の水槽から移してすぐは、 水槽の底に横 たわった状態であるが、 数分すると動き始め、 一時間程度すると略正常 に泳ぎはじめ、 運動機能を回復したことがわかる。 これにより、 料亭の いけすなどにおいてのディスプレーとしても使用できる。 次に、 上記の処置装置を使用した電気処置およびの処置を施した動物 の保存の実験例ついて説明する。

実験例 5

2 5 0グラムのマアジを電気処置した。 尚、 電圧 7 0ボルト、 周波数 1 0 0 H zで行った。

約 6 0秒間の通電をすることにより、 マアジは僅かな鰓呼吸を除きほ とんど動かなくなつたので、 これを処置台から取り上げ、 水温 3 °Cの冷 温水槽に 6 0秒間入れた。 この間、 このマアジは仰向けで口を開けた状 態で僅かな鰓呼吸を続けていた。 冷温水槽からこのマアジを取り出し、 水温 1 0 °Cの低温水槽に入れ、 1 0時間保存した。 この間、 マアジは上 記した冷温水槽の中と同じ状態のままであった。

保存の後、 このマアジを水温 1 6 °Cの中温水槽に移したが、 移してす ぐは状態が変わらなかったが、 放置していると徐々に動き出し、 約 3 0 分後には通常の姿勢で元気良く泳ぎ出した。

これを刺身にして食してみたが、 活魚特有の歯ごたえがあった。 実験例 6

4 0 0グラムのィサキを前記実験例 5と同様に電気処置と冷水処理を 行い、 1 2時間低温水保存をした。 各諸元は次の通りである。

電圧 7 0ボルト、 周波数 1 0 0 H z、 電気処置時間 6 0秒、 冷水温度 3 °C、 保存低温水温度 1 0 °C

さらに、 これを 1 6 °Cの中温水槽で復活させたが、 約 1 0分で正常に 泳ぎだし、 その後の餌付けにおいても食欲が旺盛であった。 実験例 7

頭足類であるコゥイカについて同様の処置を行った。

まず、 コゥイカの場合、 第 8図に示すように、 電極を目 6 1 と足 6 2 の付け根との間の中間位置である側部位 6 0に当てた。 本実験例で使用 したコゥイカ 6は、 4 0 0グラムで、 電圧 7 0ボルト、 周波数 5 0 H z の電気処置を 6 0秒間施した。 開始直後、 コゥイカ 6は足を電極に向け て伸ばしてきたが、 徐々に動かなくなり、 体色があせてきた。 漏斗は正 常に吹いていたので、 呼吸するための鰓運動していることがわかった。 足の動きが止まって、 ほとんど動かなくなった時点で通電を止めた。 その後は、 手で持っても足は動かないが、 漏斗からの噴出しは起こつ た状態であり、 呼吸を確認できた。 これを魚と同様の 5 °Cの冷水で 1分 間冷水処置し、 その後 1 2 °Cの低温水槽で約 2 4時間保存した。 保存し ている間の状態は、 呼吸、 排泄、 漏斗が正常に動いており、 生存期間へ の影響がないと思われる。 また、 狭い容器に入れても、 他のイカをつか み、 かむことがなかったため、 体が傷つくこともなかった。

保存後、 刺身で食してみたがで、 身は非常に透き通つており、 食感 - 味ともに獲れたての状態と同じであった。 実験例 8

本実験例では甲殻類十脚目であるイセェビについて処置を施した。 活 きの良いイセェビは、 水槽から取り上げると激しく尾肢を伸縮して暴れ る。

第 9図に示すように、 イセェビ 7の神経系統 8は、 胸部 7 2に胸部神 経節 8 2があり、 脚 7 3の運動を司り、 尾肢 7 1には腹部神経節 8 1が あり、 尾肢 7 1の運動を司って泳ぐことができる。 このようなイセェビ 7に処置を施すにあたっては、 尾肢 7 1の上部内側の両側部を処置部位 7 0と定めて電極を当てる。 この部位 7 0はなるだけ皮の薄いところを 選び、 且つ胸部神経節 8 2に近い位置が効果的である。

本実験例では 2 0 0グラムのイセェビについて、 電圧 7 0ボルト、 周 波数 5 0ヘルツの電荷を与えた。 荷電すると尾肢 7 1をまるめて硬直し ていた。 5〜 1 0秒程度で尾肢 7が伸びてきたが、 脚 7 3は動いたまま であった。 約 6 0秒で電極を離したが、 脚 7 3が動いているだけで、 暴 れることはなかった。 これを水温 3 °Cの冷水に約 1分間入れ、 その後、 水温 1 0 °Cの低温水槽で約 2 4時間保存した。 保存している間は脚 7 3 を使って動く ものの、 尾肢 7 1を動かして泳ぐことはなかった。 P

尚、 上記各処置を施した動物を運送する際の状態によって、 魚同士の 衝突により損傷して商品価値が劣化する危険がある場合は、 動物を一匹 ずつ又は少数匹ずつ収納できる容器に入れて、 これを浸漬する方法を取 ることができる。

例えば、容器 9を保存する魚 1 0を一匹収納可能な大きさの箱状とし、 側面には複数の孔 9 1を穿設し、 前後の開放口には、 それぞれ蓋体 9 2 を着脱可能に係止して取りつけるようにする。

容器 9の使用方法としては、 本発明の方法により運動機能を抑制され た魚 1 0を収納し、 その前後を蓋体 9 2により閉じ、 これをエアレーシ ヨンしている水槽に沈める。 この容器 9は、 複数使用して多数の魚 1 0 を、 秩序良く水槽内に収納することが可能な上に、 魚 1 0の方向をエア レーシヨンの方向に適切に配置できる。 したがって、 十分な酸素供給下 で、 しかも運搬中における魚同士の衝突を防止し、 一度に大量の魚を輸 送できる。 このような容器は、 魚体損傷を最小限に抑えることができる ため、 特に一匹あたりの単価が高い高級魚に適用すると良い。 本発明は、 以上のように構成したので、 取れたての水中動物に反復性 を持って安全確実に処置をできるため下記の利点があり、 活魚の貯蔵、 流通、 販売に画期的革命を起こすことが予想される。

(1)魚の運動機能が抑制され動かない状態となるが、呼吸器や循環器とい つた生命維持機能は保たれるため、 活魚としての鮮度を維持できる。

(2)魚体は暴れることがないたいめ、計量や調理における取り扱いが非常 に容易であると供に、 狭い空間での大量輸送が可能である。

(3)生存可能下限温度以下の低温での保存が可能となり、 より長時間の保 存ができるため、 遠方からの輸送にも適用できる。

(4)動かないことと低温保存の相乗効果により、消費酸素と排泄物とを減 少させることができ、 保存設備を特別なものとしなく とも長時間輸送に 耐えることができる。 産業の利用可能性

以上のように、 本発明にかかる水中動物の保存方法は、 魚類、 海老や蟹 などの甲殻類、 またはイカゃタコなどの頭足類といった水中動物を捕獲 した後に、 その鮮度を維持して、 主に食材の流通を目的として活きたま ま運搬することに貢献できる。 特に、 従来は生簀が無いと活魚の運搬は できなかったものを、簡単な容器を用いてトラック輸送にも適用できる。

Claims

請 求 の 範 囲

1 . 水中動物の運動機能を一次的または半永久的に抑制する処置を施し、 該水中動物をその生存下限水温以下または無菌処理された水中で保存す ることを特徴とする水中動物の保存方法。

2 . 水中動物が魚類、頭足類および甲殻類からなる群から選ばれた類に 属する水中動物であることを特徴とする請求項 1記載の保存方法。

3 . 水中動物が魚類であり、 その運動機能を抑制する手段が、 先端の尖 つた道具により該魚類の脊髄を刺突することである請求項 2記載の水中 動物の保存方法。

4 . 魚類の脊髄を刺突するにあたり、 魚体の鰓蓋および/または側線に より刺突する部位を決めて前記刺突を行うことを特徴とする請求項 3記 載の水中動物の保存方法。

5 . 魚類の脊髄を刺突するにあたり、 魚体の鰓蓋および/または側線に より前記脊髄の位置を特定し、 前記鰓蓋の内側より前記刺突を行うこと 特徴とする請求項 3記載の水中動物の保存方法。

6 . 魚体の側線上またはその延長線上を刺突することを特徴とする請求 項 3記載の水中動物の運動機能の抑制方法。

7 . 活魚の脊髄の機能に損傷を与えるにあたり、 予め脊髄部分を解剖し て、 その魚種における前記脊髄と鰓蓋および/または側線との関係位置 を確認し、 それ以後の処置は得られた該関係位置により道具を刺突する 部位を特定することを特徴とする請求項 3記載の水中動物の運動機能の 抑制方法。

8 . 魚体の側線またはその延長線と、 鰓蓋の周縁部またはその背部側延 長線とが交わる部分を脊髄の位置として道具を刺突することを特徴とす る請求項 3記載の水中動物の運動機能の抑制方法。

9 . 水中動物の運動機能を抑制する手段が、 魚類等の神経に電流を流す ことにより該神経を麻痺させて、 該水中動物の運動機能の一部を一時的 に抑制する方法であって、 前記水中動物の脳直近以外の 2部位に前記電 流を流す電極を接触させることを特徴とする請求項 1記載の水中動物の 保存方法。

1 0 . 水中動物の神経に電流を流す時間が、 少なく とも該水中動物の呼 吸運動を確認することができ、 且つ電流による体の硬直がとけるまでで あることを特徴とする請求項 9記載の水中動物の保存方法。

1 1 . 水中動物に電流を流してその運動機能を抑制したのち、 該水中動 物の生存下限水温から少なく とも 5 °C低い水温の冷水に少なく とも 3 0 秒入れ、 その後に生存下限水温以下の水中で保存することを特徴とする 請求項 9記載の水中動物の保存方法。

1 2 . 冷水に浸漬する時間が 1〜 5分であることを特徴とする請求項 1 1記載の水中動物の保存方法。